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( ^ω^)と欠落の世界のようです
1
:
名も無きAAのようです
:2015/10/01(木) 23:47:35 ID:UKIagY/Q0
いつの日か、帰っておいで。
暖かく懐かしく、少し寂しい、霧の彼方の不思議な町へ。
13
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 00:01:40 ID:as08eihM0
ほかの皆と一緒。少女は確かにそう言った。
( ^ω^)「みんな、記憶を失くすのかお」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。ほとんどのこと、忘れちゃうみたい」
( ^ω^)「ほとんどってことは、少しは覚えてるのかお?」
僕は自分の名前も思い出せないのに。
ξ゚⊿゚)ξ「……ときどき、ふっと思い出す事があるの」
( ^ω^)「?」
ξ゚⊿゚)ξ「あとは、ええと、私が誰かだったっけ」
( ^ω^)「あ、でも、それは覚えてないんだおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「私は、今ここにいる私じゃないの?」
( ^ω^)
自分の名前も思い出せないのに。
それが何でもないように、彼女は言う。
14
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 00:02:24 ID:as08eihM0
ξ゚⊿゚)ξ「だから、まずは……そうね……」
( ^ω^)「……?」
ξ゚ー゚)ξ「うん。自己紹介します。私の名前は『ツン』。この町で小さなパン屋を営んでいます」
( ^ω^)「つん……さん」
ξ゚⊿゚)ξ「私には、あなたの名前を付ける義務があります。これは、この町のルールなんだけど」
ルール。その言葉を口にしたツンさんは、やや心配そうに僕の顔を覗いた。
彼女の方が、僕よりもずっと背が低い。自然と上目づかいになる。
ξ゚⊿゚)ξ「……ええと、嫌な名前だったら、言ってほしいんだけど……」
(;^ω^)「だ、大丈夫だお。信じてるお」
ξ*゚ー゚)ξ「そう。よかった。それじゃあ……」
こほん、小さな咳払い。
15
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 00:03:16 ID:as08eihM0
ξ*゚ー゚)ξ「『ブーン』。これからよろしくね」
16
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 00:04:39 ID:as08eihM0
こうして、僕は、欠落の町の住民となった。
迎えてくれた彼女の笑顔は、僕がこの町で得た最初の宝物だ。
願わくは彼女がくれた新しい名が、この町に迷い込んだ僕を導く標となりますように。
17
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 00:09:05 ID:as08eihM0
479 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 21:06:44 ID:b8sybK420
「何を今さら」もしくは「誰だお前」しか無いかと思いますが……
( ^ω^)と欠落の世界のようです
シベリアは序章祭に少しだけ顔を出させて頂いた作品です
もっとも、一から書き直させて頂いている為、当時とはまるで別物となってしまいました
ゆっくりのんびり穏やかに書いて参りますので、暖かく見て下さると幸いです
とき:九月を予定
ところ:未定 投下後に報告いたします
…
もたもたしてるうちに十月になってしまいました
予定通りゆっくりのんびり穏やかに書いて参りますので、和んで頂ければと思います
18
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 00:37:25 ID:xQJpLIrg0
和むよ
19
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 07:10:27 ID:.0/z0Xdo0
設定がすごくいい
めっちゃ期待してる
20
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 12:25:16 ID:Jdh50m3o0
最初怖い話かと思ったがいい雰囲気だなw
期待してます
21
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 16:55:57 ID:7B1tgYJg0
おもしろいな
和やかに進んでくのかわからんがたのしみ
22
:
名も無きAAのようです
:2015/10/02(金) 22:21:13 ID:UwcxrbJ.0
序章祭に投下された時も読んでたよ、投下来て嬉しい
23
:
u
:2015/10/02(金) 23:04:31 ID:iVcz78g20
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24
:
名も無きAAのようです
:2015/11/06(金) 23:01:27 ID:gajQcByA0
11月になった!
25
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:18:28 ID:V2I/C78o0
気付けばもう一面の雪模様ですね
うだる暑さの中で第一話を仕上げていたのが嘘のようです。
投下します。
26
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:19:09 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「『ブーン』……『ブーン』!」
ξ;゚ー゚)ξ「……」
( ^ω^)「……うん、気に入ったお! これから僕はブーンだお!」
ξ;゚⊿゚)ξ「よ、よかったぁ……」
ツンさんは安心したように溜息をつく。
おかしな名前なのか、そうでないのかは、僕にはわからなかった。
ただ、ツンさんが真剣に考えてくれたことだけは、彼女の顔を見ればわかる。
( ^ω^)「えーと……町長さんのところに行くんだおね? 近いのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「んー、少し歩くかな。着いて来て」
( ^ω^)「お」
27
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:19:49 ID:V2I/C78o0
石造りの家々の間を、ツンさんと並んで歩く。
周りをきょろきょろっと見渡しながら歩く僕のゆっくりとした足音に、彼女の足音が少しずれて重なる。
間もなく細い路地を抜け、僕とツンさんは大きめの通りに行きあたった。
二階建てか、あるいは三階建ての建物。
ガス灯。街路樹。二人分の足音。そして、霧。
ξ゚⊿゚)ξ
( ^ω^)”
ξ゚⊿゚)ξ「……? どしたの?」
(;^ω^)「お、いや……」
横顔を覗く僕の視線に気づき、ツンさんは小首を傾げる。
(;^ω^)「えーっと……そうだ、猫! あの白猫なんだけど……」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、しぃのことね」
28
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:20:30 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「お、しぃちゃんのことだお。ツンさんが飼ってるのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん、あの子はロマさん……時計塔に住んでる、時計技師のロマネスクさんのところの子」
( ^ω^)「時計塔?」
ツンさんは足を止め、真後ろを指差す。
通りの行き当たりに小さな広場が見えた。
目を引いたのは、広場を囲う中でも一際大きな塔と、文字盤に月と太陽をあしらった時計。
灰色にくすんだ町の中に、月の黄色と太陽の赤色が浮かび上がっているようだ。
ξ゚⊿゚)ξ「今は……ええと、四時過ぎってところかな」
29
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:21:17 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「町長さんのところって、こんな時間に行っていいのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「……たぶん大丈夫じゃない?」
(;^ω^)「えー……それは緊張するお」
ξ゚⊿゚)ξ「なんて言うか、そういう人なの。気にし過ぎなくても大丈夫」
(;^ω^)「それならいいけど……町のみんなって、ちゃんと寝てるんだおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「当然じゃない。あと二、三時間もしたらみんな起きてくると思うわ」
ツンさんは通りを逸れ大きめの路地に入ってゆく。
時計に見取れていた僕は、慌ててその隣に並んだ。
角度のついた、石畳の坂道。
( ^ω^)「町長さんってどんな人なんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「変わった人。でも、気さくで良い人よ。新入りさんのこと色々とお世話してくれて」
( ^ω^)「ツンさんも?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、あたしも助けてもらったわ」
30
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:22:20 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「お……そう言えば、ツンさんはいつからこの町に居るんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「あたし? ……うーん、二年くらい前かな」
( ^ω^)「それじゃ大先輩だおね」
ツンさんは困ったように顔を逸らした。
(;^ω^)「ええと、確かツンさん、パン屋さんなんだって言ってたおね? それも二年位前から?」
ξ゚-゚)ξ「……そうね、だいたいその頃からよ」
( ^ω^)「どうやって始めたんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね、パンの焼き方を調べたり……うん、色んな人に助けてもらったわ」
窯だとか、パンの知識だとか、小麦だとか、必要なものはたくさんあったから。
町長さんだけじゃなくて、クー、ハインとジョルジュ君、弟者君。それに、他にも……。
ツンさんは、少し照れくさそうに俯いた。やがて坂道が終わり、視界が開ける。
ξ゚⊿゚)ξ「ここよ、町長さんの屋敷」
31
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:23:00 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「大きいけど意外と普通」
ξ゚⊿゚)ξ「そりゃそうでしょ、変わってるのは人となりだけよ」
(;^ω^)「……ツンさんも結構、辛口だおね」
ツンさんは返事をせず、玄関前のベランダの階段を上った。
彼女はそのまま、僕が止める間もなく、両開きの玄関扉の、金属のノッカーを数度打ち鳴らす。
(;^ω^)「ちょ、おま、心の準備ってもんが!」
ξ゚⊿゚)ξ「うるさい」
(;^ω^)「えええ」
間もなく、扉が開いた。
32
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:24:52 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「……? 誰も居ない?」
ξ゚⊿゚)ξ「ううん。おはようございます、ショボンさん!」
無人の玄関ホールに気後れする僕、その僕を尻目に、ツンさんは屋敷に入ってゆく。
玄関を潜るとき、軽く会釈したツンさんにあわせて、僕は軽く頭を下げた。
僕が躊躇いがちにカーペットの上に一歩を踏み出すと、背後で扉が静かな音を立てて閉じた。
「ツンちゃんと、新入り君だね。ちょっと待っていてもらえるかい?」
( ^ω^)「!」
予想したより、ずっと若々しい声。
遅れて、ゆっくりと階段を下りて来る足音。
(´・ω・`)「ようこそ、『欠落の町』へ。町長のショボンだ。よろしく」
33
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:25:46 ID:V2I/C78o0
差し出された右手。
僕は少し躊躇いつつ、握り返した。
( ^ω^)「ブーンですお。よろしくお願いしますお」
(´・ω・`)「ブーン君か。いい名前だ。ツンちゃんが付けたんだね?」
ξ*゚⊿゚)ξ「はい」
( ^ω^)「……」
聞いている誰もを安心させるような、穏やかな声。
まるで自分が褒められたような気持になって、思わず口もとが緩んだ。
(´・ω・`)「この町のことは、少しは聞いているね?」
( ^ω^)「え? ええと、少しは」
(´・ω・`)「それじゃあ、残りの話をしようか。着いてきてくれ」
34
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:30:54 ID:V2I/C78o0
案内された応接間は、屋敷の広さに合わず、質素に纏まっていた。
木のテーブルを挟んで、僕とツンさんがショボンさんと向かいあう形。
促されたまま座ったカウチソファの、柔らかな布の触感が心地よい。
(´・ω・`)「最初から話していこうか。まず、君について」
( ^ω^)「僕について?」
僕について。
そう言われても、僕が覚えていることなんて、何も無いのだけれど。
困惑する僕に、ショボンさんは何でもないように微笑む。
(´・ω・`)「何も覚えていないのは知っているよ。皆がそうだから、安心して構わない」
( ^ω^)「お……?」
(´・ω・`)「君はここに居るツンちゃんに名前を貰った。これからは、新しい君として生きれば良い」
( ^ω^)「お……でも……ううん……」
(´・ω・`)「初めは困惑することも多いだろう。だが、じきに慣れる」
35
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:32:58 ID:V2I/C78o0
(´・ω・`)「それから、この町についてだが……」
ノックの音が四回。
ショボンさんは話を中断する。
応接間のドアが静かに開いた。
ティーセットを乗せた台車が、ゆっくりと入ってくる。
( ^ω^)「……?」
(´・ω・`)「その前に、紹介しておこう。使用人をしてもらっている、ビコーズ君だ」
(;^ω^)「誰も居ませんお……って」
三人分のティーカップ。ポットと砂糖、ミルク差し。
台車はテーブルの隣で止まり、その上に、小さな何かが飛び乗った。
36
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:37:40 ID:V2I/C78o0
( ∵)”っ旦
(( ^ω^)「あ、すいませんどうも……」
ξ゚⊿゚)ξ「ありがと」
小さな、西洋人形。
驚く僕を尻目に、彼はてきぱきと給仕をこなし、台車から飛び降りた。
軽くなった台車を全身で押して、役割を終えた彼は応接間を出ていく。
(;^ω^)「えー……」
(´・ω・`)っ「少しドジな所もあるが、良い子だよ。人間に対するのと同じように接してやってほしい」
ショボンさんの手元で、ポットの紅茶が音を立ててカップに落ちる。
白い湯気、紅い香り。暖かさ。
( ^ω^)「あ、ありがとうございますお」
(´・ω・`)「話を戻そうか。この町についてだったね」
37
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:38:59 ID:V2I/C78o0
(´・ω・`)「この町は『欠落の町』と呼ばれている。ここに来た人は皆、それまでの記憶を失ってしまうから」
( ^ω^)「……」
ショボンさんの言うとおり、僕もツンさんも、自分の名前を含むほぼ全ての記憶を失くしてしまった。
( ^ω^)「人々がどこから来るのかは、わからないんですかお?」
(´・ω・`)「残念ながら、わからないな。霧の向こうのことは、何もわからない」
( ^ω^)「霧」
町を包んでいた、あの霧のことだろうか。
僕がそう聞くと、ショボンさんは曖昧に肯定する。
(´・ω・`)「そうだね、同じものだよ。あの霧は、町の外から入ってくるんだ。」
( ^ω^)「……町の、外」
(´・ω・`)「昼夜を問わず、一寸先も見えない霧ばかりだけどね」
出て行って、戻ってきた人は居ないよ。
ショボンさんは軽い調子で言うのだけれど、それって、かなり重大なことなんじゃ。
38
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:39:45 ID:V2I/C78o0
(´・ω・`)「この町に居る限り、生活は保証するよ。ただ、その為にはいくつかルールがある」
( ^ω^)「ルール」
(´・ω・`)「そう、ルール」
ショボンさんは紅茶に手を伸ばす。
(´・ω・`)「この町の住民は、全員が何かしらの仕事をしている。例えば僕は町長だし、ビコ君は使用人」
( ^ω^)「……ツンさんはパン屋さんだおね」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ」
たくさんの事を調べたり、道具や設備を用意して、必死に生きている。
39
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:47:05 ID:V2I/C78o0
(´・ω・`)「難しく考える必要はないよ。したいことをすれば良い」
( ^ω^)「したいことって、例えば家事手伝いとか?」
(´・ω・`)「それが本当にしたいことなのかい?」
( ^ω^)「う」
聞き返されると、言葉に詰まってしまう。
( ^ω^)「おーん……じゃあ、ええと……」
(´・ω・`)「……まぁ、ゆっくり探せば良い。当分は……そうだね、町の人の手伝いをしてもらおうか」
あるいは、働かなくても良い。ショボンさんはそう付け加えた。
ただ、それは恐らく、この町から出て行かなければならないということだろう。
僕は黙って頷いた。ショボンさんはそれ以上、何も言わなかった。
仕事については、また後で詳しく決めよう。そう一言だけ告げて彼は言葉を切る。
40
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:55:06 ID:V2I/C78o0
僕は頂いた紅茶に手を伸ばした。
癖のない甘い苦みが、口の中いっぱいに広がる。
(´・ω・`)「住む家について決めておこう。空き家は沢山あるから好きな所に住めば良いけれど……」
( ^ω^)「いいんですかお、用意して貰っちゃっても……」
(´・ω・`)「構わないよ。君はもう、この町の一員なんだから」
ショボンさんは考え込むようにテーブルに視線を落とした。
古風な服装も相まって、その姿はまるで一枚の絵画のようだ。
(´・ω・`)「内装だとか、いろいろと揃える必要がある。しばらく、誰かの家に住み込むのが良いだろう」
(;^ω^)「誰かのって、それは、気が引けるんだけど……」
(´・ω・`)「仕方ないさ。住む家が無いんだから」
(;^ω^)「う、でも……初対面の人の家っていうのは流石に」
41
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 03:58:19 ID:V2I/C78o0
ξ゚⊿゚)ξ「あぁ、それなら私の家が一部屋空いてるから心配ないわ」
( ^ω^)「……」
( ゚ω゚)「……!?」
(´・ω・`)「そうだね。良いかい、ブーン君?」
( ゚ω゚)「え、いや、そりゃ僕はいいけど、いやいや」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、決まりね」
ベッドを誰に発注するには時間がどうとか、部屋の掃除の仕事は誰だとか。
あるいは、僕が食べ物を買う事もままならないだろうことだとか。
瞬く間に話がまとまってしまった。
僕はなにか言おうとして、結局なにも言えず、二人の顔を交互に眺めた。
42
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:00:03 ID:V2I/C78o0
(´・ω・`)「あとは、簡単に町の案内をしておこうか。ここまでで何か質問はあるかい?」
( ^ω^)「ええと……ええと……」
聞きたいことはいくつもあるはずなのに、一つとして上手くつかめない。
僕がまごついている間に、ショボンさんは振り返り、柱時計に目をやった。
黄色の月と、橙色の太陽があしらわれた時計。
( ^ω^)「……あ……それ、時計台の時計と、同じデザインですおね」
(´・ω・`)「ああ。よく見ているね」
( ^ω^)「それも……ええと、ロマネスクさんの作った時計ですかお?」
(´・ω・`)「そうだよ。無理を言って作ってもらった」
文字盤に数字は記されていない。
針の位置からすると、時間はもう既に五時を回ったところだ。
43
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:00:46 ID:V2I/C78o0
ξ゚⊿゚)ξ「鐘まで一時間も無いのね。」
( ^ω^)「鐘って、あの時計塔の?」
ξ゚⊿゚)ξ「そう。一日の区切りみたいなものよ。朝の六時と、夜の十時に鳴るの」
( ^ω^)「朝の六時と夜の十時? ずいぶん極端な時間だおね」
寝ている人も少なくないだろうに、苦情だとかは来ないんだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「そうね、朝の方なんて、起きてるのは私達以外だとヒートとシューさん位じゃないかな」
( ^ω^)「みんな、鐘の音で起きるんだおね」
ξ゚⊿゚)ξ「そういう訳でもないけど……まぁ、聞けばわかるわ」
( ^ω^)「お」
ξ゚⊿゚)ξ「今日は町を紹介して、あと、必要なものを揃えに行きます。良いですね、ショボンさん」
(´・ω・`)「ああ。よろしく頼むよ。後でビコーズ達に朝食を用意させよう」
朝食。
その言葉で、ふと聞きたかったことを思い出した。
44
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:01:34 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「あの、ショボンさん。この町の外には出られないんですおね」
(´・ω・`)「……出ていった人もいるよ。ただ、帰って来た人はいない」
( ^ω^)「それじゃあ、この紅茶とか、どうやって手に入れてるんですかお?」
(´・ω・`)「ああ、その説明もまだだったね」
他の人の手伝いをしていく上で、知ることになるんだけれど。
湯気の引いた紅茶の琥珀色の底には、陶磁器の白が薄く滲んでいる。
(´・ω・`)「専門に取り扱っているお店があるんだよ。住民の一人が営んでいる」
( ^ω^)「……? それじゃあ、そのお店の人はどうやって?」
(´・ω・`)「外の世界から仕入れてきているんだ」
45
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:02:14 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「外の世界から? でも、外の世界のことなんてわからないんじゃ」
(´・ω・`)「そう、よくわからない。この町で手に入らない、仕事に必要な物は、外の世界が運んで来てくれる」
( ^ω^)「? どういう……」
(´・ω・`)「じきに分かるさ。ツンちゃんのところは、今は交易はほとんど無いんだったね」
ξ゚⊿゚)ξ「そうですね。たまにお客さんが来るくらいで」
( ^ω^)「お客さん」
よくわからないのだけれど、どうやら、町民同士の間でやり取りをしているだけではないようだ。
……仕事をし始めれば、何かがわかるようになるのだろうか。
(´・ω・`)「午後からは、ツンちゃんの所で仕事の見学をするといい。分かることもあるはずだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「う、ちょっと緊張するなぁあ」
( ^ω^)「よろしくお願いしますお!」
ξ;-⊿)ξ「……お手柔らかに……」
46
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:03:35 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「それじゃあ、あとは……ええと、この町って、どれくらいの人が居るんですかお?」
(´・ω・`)「そうだね……だいたい三百人くらいだよ。出て行った人は数人しかいない」
( ^ω^)「僕みたいに来る人も多いんですかお?」
(´・ω・`)「そうでもないよ。君の前には、ドクオ君という少年が、二か月くらい前に来たのが最後だ」
( ^ω^)「へえ……そのドクオさんって人は、何の仕事をしてるんですかお?」
(´・ω・`)「一応、清掃人をしてもらっている……けどね。彼については、また別の機会にしよう」
聞かない方がいいのかもしれない。
僕は黙って頷き、紅茶に手を伸ばした。まだ、微かに暖かい。
ツンさんとショボンさんは、誰がどうしたと話を続けている。
僕は時々相槌を打ちながら、二人の話を聞いていた。
時計の針は、規則正しく歩みを進めている。
かち、こち。足音が、僕の眠気を誘う。
ξ゚⊿゚)ξ「……あら、もうこんな時間。ショボンさん、テラスに出ても良いですか?」
(´・ω・`)「ああ、構わないよ。僕はここに居るから、あれが終わったら戻っておいで」
47
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:04:16 ID:V2I/C78o0
ショボンさんに挨拶して、ツンさんは屋敷の奥、階段から二階へと上がった。
広い家なのに、人の気配はしない。
動く甲冑の一つくらい出るんじゃないかと、内心でびくびくしていた僕が馬鹿みたいだ。
( ^ω^)「さっき言ってた、六時の鐘かお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。この屋敷からは、時計塔がよく見えるの」
( ^ω^)「ほーん」
更に階段を上って三階、木製の扉の前で、ツンさんは立ち止まり、僕に道を譲った。
ξ゚⊿゚)ξ「特に、この屋上からはね」
( ^ω^)「お……」
僕はゆっくりと扉を押し開けた。
灰色の光が、扉を四角く縁取る。
48
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:07:17 ID:V2I/C78o0
風が吹く。
屋根付きの、屋上部分に設えられたテラスから、僕は眼下に広がる世界を眺めた。
灰色の霧のむこうに沈む屋根の赤、煉瓦のセピア。
明度を増しつつある風景が、まるで一枚の絵画のように僕を圧倒した。
ξ゚⊿゚)ξ「どう、ブーン……って」
(*^ω^)
ξ゚ー゚)ξ =3
ツンさんの声は、僕の耳には届かなかった。
手すりから身を乗り出し、霧に手を伸ばしていた。
もしかすると、その時僕は何か叫んでいたかもしれない。
広げた両手の間を、冷たい霧が通り抜けてゆく。
(*^ω^)「凄いお! 綺麗だおー!」
49
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:09:14 ID:V2I/C78o0
ξ-⊿-)ξ「……落ち着いた?」
( ^ω^)「落ち着きました」
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃ、町の説明ね。まず……」
ツンさんは遠くを指差す。
僕は、その指を見つめた。
ξ゚⊿゚)ξσ「指じゃないわよ。アレを見て」
( ^ω^)「お……あれは……壁?」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、壁。向こう側は見える?」
遠目に見える壁は、かなりの高さのようだった。
目を凝らしても、薄暗い白靄の他は何も見えない。
( ^ω^)「……霧しか見えないお」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、霧。町の外の霧は、昼でも消えないの」
50
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:10:14 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「ほーん、変な気候だおね。外にはどこから出るんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「向こうに、門は見える?」
( ^ω^)「見えるお。あれだけ?」
ξ゚⊿゚)ξ「あれだけ。行っちゃダメよ、帰ってこれなくなるから」
( ^ω^)「そういえば、帰って来た人は居ないんだったおね」
それじゃあ逆に、あの門から町に入ってくる人も居るの。
僕が質問をそのまま口にすると、ツンさんは軽く頷いた。
ξ゚⊿゚)ξ「さっきショボンさんが、ちょっとだけ交易の話をしてたでしょ。覚えてる?」
( ^ω^)「辛うじて」
51
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:11:21 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「えーと、ツンさんのお店は交易しないんだおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「なんだ、覚えてるじゃない。その交易商の人がときどき来るの」
( ^ω^)「それじゃあ、そのコウエキショーさんは町の外のことを知ってるんだおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「うーん、それは多分……いや、ちょっと分からないかな。なんて言うか、難しい人だから」
( ^ω^)「……?」
まだまだ知らないことだらけだ。
ツンさんは、今度会わせてあげる、そう言って話を切った。
ξ゚⊿゚)ξ「お茶屋さんだとか、町の人達はたいてい、その交易商さんから材料を買ったりしてるの」
( ^ω^)「あ、さっきのはそういう……」
ξ゚⊿゚)ξ「実際に会ったほうが早いんじゃないかしら。あと二、三日したら来るはずだから」
52
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:12:09 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「それじゃ、お金はどうするんだお? えーと、ガイカをカクトクしないとダメなんじゃないのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「……うん?」
(;^ω^)「その、なんというか、それじゃ町からお金が出て行くだけになるんじゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「ああ、そういう事。さっき、お客さんの話も少しだけしたわね?」
( ^ω^)「少しだけ」
本当に、少しだけ。ツンさんは言葉を選ぶように、小首を傾げる。
ξ゚⊿゚)ξ「私達は、そのお客さんからお代金を頂戴してるの。私の場合は、パンを売って」
( ^ω^)「あ、いや、そうじゃなくて、町の外からお金を貰う方法が無いと……って、もしかして」
ξ゚⊿゚)ξ「町の外からお客さんが来るのよ。……今日、仕事しながら教えてあげる」
(;^ω^)「おーん……分からない事が増えたおね」
ξ;-⊿-)ξ「……そうね。なんでも質問してくれてかまわないんだけど……」
説明がヘタで、ごめん。すまなそうにツンさんが言う。
53
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:13:01 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「それじゃもう一つ聞いても良いかお? ツンさんのお店は交易してないんだおね?」
ξ゚⊿゚)ξ「うん」
( ^ω^)「それじゃ、パンの材料はどこから仕入れてるんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「小麦とか? それなら、この町で収穫したものを譲ってもらってるの」
白い指が、つっと左に滑る。
( ^ω^)「耕作地」
ξ゚⊿゚)ξ「そう。去年から住んでる、シューさんって人の担当」
( ^ω^)「ほー……去年まではどうしてたんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「ほとんど交易品だったかな。今でも、お魚とか、町で手に入らないものはぜんぶ交易頼りね」
この不思議な町でも、物資はかなり町外に依存しているらしい。
それは当然といえば当然なんだけれど、どこか奇妙にも感じる。
54
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:14:36 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「本当に、不思議な町だおね」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなのかな。よく分からないけど……」
僕は壁と、その向こうの霧に目を向けた。
あの霧の向こうに、広がっている世界。
僕が生まれ、生きてきた世界も、あの霧の向こうにある。
気をやっていた僕は、「ねぇ」、小さく掛けられた声で慌てて我に返った。
ξ゚⊿゚)ξ「……やっぱり、帰りたい?」
どこか不安げに僕を見上げる彼女に、僕は何も答えられなかった。
白い肌。美しい、白い肌。
薄茶色の髪が、静かに揺れる。
ξ゚ー゚)ξ「なんて、聞くまでもないか」
55
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:16:17 ID:V2I/C78o0
ξ゚ー)ξ「今は帰りたいだろうけど、でも、きっといつか、この町が好きになるわ」
そんな事、わかっているお。
言いかけた僕を遮るように、彼女は人差し指を立て、そのまま時計台を指差した。
カラー・・・・・・ン・・・・・・
月と太陽の文字盤を二つに分ける、日本の針。
微かな震えが、灰色の朝の霧を裂いて、広がってゆく。
( ^ω^)「六時の、鐘」
ξ゚ー゚)ξ”
息を、吸い込む。
僕の身体に、冷たい霧が入り込む
カラーン・・・・・・カラーン・・・・・・
ξ*゚⊿゚)ξ「目を離さないで」
56
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:20:07 ID:V2I/C78o0
( ^ω^)「お……おお……!?」
鐘の音が、徐々に大きくなる。
引き裂かれた霧の隙間に、柔らかな光の色が広がる。
灰色の町に、彩りが散りばめられてゆく。
ガラーン・・・ガラーン…
ξ*゚ー゚)ξ
(*^ω^)「……ッ!」
家々の屋根がくすんだ色とりどりの赤茶色に輝く。
僕が見惚れるうちに、いつしか鐘は鳴りやんでいた。
57
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:21:14 ID:V2I/C78o0
きっといつか、この町が好きになる。
彼女の言ったとおりだった。
僕はきっともう既に、好きになっているんだ。
58
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 04:27:16 ID:V2I/C78o0
(´・ω・`)「この町で一番偉いのは・・・このショボン様さ!」
……
今日はここまでです。
覚えていて下さった方が多くて、実は少し驚いています。
今後もたまにふと思い出すことがあった際にでも覗いていただければと思います。
皆様も良いお年を。
59
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 18:47:33 ID:JlJ7AX9.0
乙
60
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 20:19:52 ID:leEVBYhk0
乙乙
61
:
名も無きAAのようです
:2015/12/26(土) 20:21:18 ID:JlJ7AX9.0
まだ分からないことだらけだな
62
:
名も無きAAのようです
:2015/12/28(月) 01:21:25 ID:p6vMnKhY0
( ^ω^)の様子見てると知識とかは残ってるんだね
学問とか専門技術も身に付いたままっぽいな
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