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( ^ω^)と欠落の世界のようです

1名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:47:35 ID:UKIagY/Q0
いつの日か、帰っておいで。
暖かく懐かしく、少し寂しい、霧の彼方の不思議な町へ。

2名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:48:33 ID:UKIagY/Q0
白猫が、僕を見上げていた。

ハ,,ハ
(*゚ー゚)

( ^ω^) お、どうしたお、チビすけ。腹でも減ってるのかお?

ハ,,ハ
(*゚ー゚)


小さな白い毛玉は鳴きもせず、逃げもせず、警戒した様子すらもなく、ただじっと僕を見上げている。

かなり人間慣れしているようだ。
病院から出てくる、僕のような人間を捕まえてご飯を貰っているのだろう。

ハ,,ハ
(*^ー^)

3名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:49:48 ID:UKIagY/Q0
( ^ω^) ちょっと待ってくれお、にゃんこが食べられるものなんて持ってたかおー……?


通学鞄の中には、学校で残さず食べてしまった弁当くらいしか入っていない。
普段買い食いしているお菓子の類は、猫にはとても食べられない。


( ^ω^) 仕方ないお。購買で何か買ってきてやるからちょっと待って……あっ!?


僕が取り出した財布を、白猫は素早くかっさらい、一目散に駆けて行った。
帰りの電車代も、学校までの定期券も、学生証も、全て入った財布をだ。


( ゚ω゚) ちょ、おま……待つお!


少し迷った末に、僕は通学鞄と、もう一つの鞄とをその場に残し、毛並みの良い白を追った。

中学まではサッカー小僧だったのだ。
長い距離でなければ、それなりに足には自信がある。

4名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:51:27 ID:UKIagY/Q0
(;゚ω゚) くんぬぬ、この、恩知らずめぇ……!

ハ,,ハ
(*;゚ぺ)

(;゚ω゚) ぐぬぬ……っ!


……それなりに自信はあったのだが、とても追い付けそうにない。
狭い路地にでも逃げ込まれたらどうしようも無かったが、幸いにも、そうはしないようだ。

鬼ごっこが終わりを迎えたのは、三つ目の角を曲がった時だった。


(;゚ω゚)「……あ、あれ? あのチビ、どこ行ったお?」


迷い込んだ路地に、猫の姿はなかった。

ぼんやりとかかった霧が、あざ笑うように流れる。

5名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:53:08 ID:UKIagY/Q0
(;^ω^)「お……困ったお。それにしても……」


西洋風の街並みに、石畳。
レトロな雰囲気のガス灯。

夕暮れの街には、うっすらと霧がかかっていた。


( ^ω^)「お見舞い以外でシベリアに来た事なんてなかったけど、こんな所もあったんだおね……あっ!」

ハ,,ハ て
(*;゚ー゚) そ

( ^ω^)「待てお! 今度こそ逃がさねーお!」


遠くに見えた斑猫に向かって、僕は走り出した。
幸いにも、膝の調子は悪くないらしい。今のところ痛みも無い。

白猫が細い路地に飛び込み、僕もすぐ後ろを追う。

もう少ない持久力も尽きかけているのだろうか、今度はそう離されることもなく付いていける。

いつしか、霧は深くなっていた。

6名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:54:46 ID:UKIagY/Q0
(;^ω^)「ふひぃ、待てお……!」

ハ,,ハ
(*;>ー<)


階段状の石畳をのぼり、植え込みを突っ切り、追いかけっこは続いた。

もう追いつける。スパートをかける僕を嘲うように、猫はすれすれのところを逃げてゆく。

路地を突っ切った猫は、僕の手が届くその寸前、全身のばねを生かし、アーチ型の張り出しに跳び乗った。

唖然とする僕を尻目に、泥棒猫はそのまま、石造りの家の、硝子窓の隙間に滑り込んでしまう。


(;^ω^)「あっ、くそ! もう一歩だったのに!」


僕はその場にへたり込んだ。
膝こそ無事だったものの、息は上がっているし成果もない。

悔しがる僕の頭上から、


「誰か居るの?」


鈴を鳴らすような、綺麗な声が下りてきた。

7名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:55:27 ID:UKIagY/Q0
(;^ω^)「お? ええと……」


窓が開いている、と言う事は、人が住んでいるのだ。僕は慌てて立ち上がった。

どう説明したら良いものか。考えが纏まる前に、声の主が顔を出した。


ξ゚⊿゚)ξ「ん……あなた、誰? しぃの知り合い?」


薄い茶色の髪、整った顔立ちの、同い年くらいの少女。
少し不機嫌そうな様子で、彼女は二階から僕を見下ろした。


( ^ω^)「お? しぃって……」

ξ゚⊿゚)ξハハ
(  っ(ー゚*)


(;^ω^)「お! そうだお、その猫に財布を取られたんだお! 返してくれお!」

8名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:56:42 ID:UKIagY/Q0
ξ゚⊿゚)ξ「ウチに来た時には何も持ってなかったわよ?」

(;^ω^)「そ、そんな……!」

ξ゚⊿゚)ξ「それより、あなた、新入りさんでしょ。ちょっと待ってて」


僕の返事も聞かず、彼女は家の中に引っ込んでしまった。
開けっぱなしの窓から白猫が逃げ出してしまわないか、僕はただそれだけが気がかりだった。

やがて、家の裏手から石畳を踏みしめる足音が聞こえる。


ξ゚⊿゚)ξ「お待たせ、新人さん。いろいろ説明したいんだけれど……」

(;^ω^)「ちょ、待ってくれお。さっきも言ってたけど、新入りさんって何だお?」

ξ゚⊿゚)ξ「この町に初めて来た人のこと。……あれ、もしかして、私の勘違いだった?」

(;^ω^)「来たことは無いけど……」

ξ゚ -゚)ξ「ほら、新入りさんじゃない。ううん、何から話そうかなぁ……」


少女は僕を置いて、勝手に盛り上がっている。
もしかすると、僕はどこか、来てはいけない場所に迷い込んでしまったのだろうか。

9名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:57:39 ID:UKIagY/Q0
ξ゚⊿゚)ξ「うん、それじゃあまず確認したいんだけど……名前、覚えてる?」


名前って、何のことだろう。


ξ゚⊿゚)ξ「あなたの名前よ」

( ^ω^)「え、そりゃあ……」

( ^ω^)「……」

(;^ω^)「……あれ?」


思い出せなかった。記憶にも霧がかかったようだ。

10名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:59:13 ID:UKIagY/Q0
ξ゚⊿゚)ξ「住んでた場所は?」

(;^ω^)「……お、お……」

ξ゚⊿゚)ξ「年齢」

(;^ω^)「ぐぬぬ……十、いや二十……?」

ξ゚⊿゚)ξ「そういう町なの。霧の中を通ってきたんでしょ」

(;^ω^)「き、君は、何者なんだお?」

ξ゚ー゚)ξ「住民よ。あなたと同じ」


初めて彼女の笑顔を見た。

息が詰まるような思いがした。


(;^ω^)「僕は住民じゃないお」

ξ゚⊿゚)ξ「これから住民になるの」

(;^ω^)「なるって、そんな無茶苦茶な」

11名も無きAAのようです:2015/10/01(木) 23:59:58 ID:UKIagY/Q0
ξ゚⊿゚)ξ「あら、簡単よ。いくつかルールがあるだけ。それとも、他に何かできる?」

( ^ω^)「……この町を出るお」

ξ゚⊿゚)ξ「出られたとして、どこに行くの?」

(;^ω^)「んぐっ」


言葉に詰まった僕に背を向け、少女は歩きだした。
黒っぽいコートの裾が、歩幅に合わせて揺れる。


ξ゚⊿゚)ξ「なにボーっとしてるの。着いて来る!」

( ^ω^)「ちょ、ちょっと待ってほしいお。どこに行くつもりだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「まずは町長さんのところ。あなたの家とか名前とかを決めなきゃ」

(;^ω^)「家? 名前?」

ξ゚⊿゚)ξ「無いでしょ?」


僕は言葉に詰まった。
そりゃあ確かに、どっちも無いけれど。

12名も無きAAのようです:2015/10/02(金) 00:00:55 ID:as08eihM0
(;^ω^)「でも、まだ全然、何もわかってないっていうか」

ξ゚⊿゚)ξ「何がわからないの?」


何もかもわからない。


(;^ω^)「この町は何なんだお? この霧は? 君は誰だお?」

ξ゚⊿゚)ξ「この町は『欠落の町』って呼ばれてます。記憶なくしたでしょ。霧はわかんない。朝靄みたいなもんだって」

( ^ω^)「朝?」

ξ゚⊿゚)ξ「早朝も良いとこよ。町の皆はたぶん、まだ寝てるわ」

( ^ω^)「皆って、他にも住民は居るのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「当たり前じゃない、周りの家が見えないの?」

( ^ω^)「お、後は……後は……」

ξ゚⊿゚)ξ「あたしは、さっきも言ったけど、この町の住民。ほかの皆と一緒で、記憶はほとんど無いわ」

13名も無きAAのようです:2015/10/02(金) 00:01:40 ID:as08eihM0
ほかの皆と一緒。少女は確かにそう言った。


( ^ω^)「みんな、記憶を失くすのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。ほとんどのこと、忘れちゃうみたい」

( ^ω^)「ほとんどってことは、少しは覚えてるのかお?」


僕は自分の名前も思い出せないのに。


ξ゚⊿゚)ξ「……ときどき、ふっと思い出す事があるの」

( ^ω^)「?」

ξ゚⊿゚)ξ「あとは、ええと、私が誰かだったっけ」

( ^ω^)「あ、でも、それは覚えてないんだおね?」

ξ゚⊿゚)ξ「私は、今ここにいる私じゃないの?」

( ^ω^)


自分の名前も思い出せないのに。
それが何でもないように、彼女は言う。

14名も無きAAのようです:2015/10/02(金) 00:02:24 ID:as08eihM0
ξ゚⊿゚)ξ「だから、まずは……そうね……」

( ^ω^)「……?」

ξ゚ー゚)ξ「うん。自己紹介します。私の名前は『ツン』。この町で小さなパン屋を営んでいます」

( ^ω^)「つん……さん」

ξ゚⊿゚)ξ「私には、あなたの名前を付ける義務があります。これは、この町のルールなんだけど」


ルール。その言葉を口にしたツンさんは、やや心配そうに僕の顔を覗いた。
彼女の方が、僕よりもずっと背が低い。自然と上目づかいになる。


ξ゚⊿゚)ξ「……ええと、嫌な名前だったら、言ってほしいんだけど……」

(;^ω^)「だ、大丈夫だお。信じてるお」

ξ*゚ー゚)ξ「そう。よかった。それじゃあ……」


こほん、小さな咳払い。

15名も無きAAのようです:2015/10/02(金) 00:03:16 ID:as08eihM0




ξ*゚ー゚)ξ「『ブーン』。これからよろしくね」

16名も無きAAのようです:2015/10/02(金) 00:04:39 ID:as08eihM0
こうして、僕は、欠落の町の住民となった。
迎えてくれた彼女の笑顔は、僕がこの町で得た最初の宝物だ。

願わくは彼女がくれた新しい名が、この町に迷い込んだ僕を導く標となりますように。

17名も無きAAのようです:2015/10/02(金) 00:09:05 ID:as08eihM0
479 :名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 21:06:44 ID:b8sybK420
「何を今さら」もしくは「誰だお前」しか無いかと思いますが……

( ^ω^)と欠落の世界のようです

シベリアは序章祭に少しだけ顔を出させて頂いた作品です
もっとも、一から書き直させて頂いている為、当時とはまるで別物となってしまいました

ゆっくりのんびり穏やかに書いて参りますので、暖かく見て下さると幸いです

とき:九月を予定
ところ:未定 投下後に報告いたします



もたもたしてるうちに十月になってしまいました
予定通りゆっくりのんびり穏やかに書いて参りますので、和んで頂ければと思います

18名も無きAAのようです:2015/10/02(金) 00:37:25 ID:xQJpLIrg0
和むよ


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