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(  `ハ´)『珀の心』のようです

1名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:00:04 ID:C9k.8stQ0
ひゃあ現行を放り投げて書く飯テロはたまんねえ。

2名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:03:34 ID:C9k.8stQ0
肌を刺すほど冷たい風が吹く金曜日の夜のアスファルトジャングル。

時刻は既に9時半時を周っている。

裏路地にはひっそりと佇む小さな中華小料理屋があった。


『琥珀』のマスターは閉店前に客を吐き出し切ってしまい中途半端な時間を持て余していた。

(  `ハ´)「ふう……ディナーもひと段落ついたアル。今日はなかなか忙しくて大変だたヨ。」

てきぱきと皿を洗いながら中華系の壮年の男性は呟いた。

普段ならこの店は7時頃をピークに閉店の10時頃までダラダラとそれなりにお客さんに囲まれ営業している。

稀に閉店時間を過ぎた後常連のお客さんと飲む事もある。

だが今日は普段とは違い7時頃から沢山のお客さんで溢れ、9時過ぎには店の中にマスターを残して誰もいなくなっていた。

忙しくて人と話す時間も無かったしお客さん達の笑顔を見る時間も無かった。

季節は年の暮れ。

日本は正月が近づいているので家族のもとに皆いそいそと帰っているのかもしれない。

3名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:06:00 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「アイヤー、今日はお客さんがドーンと来たからびくりして食材いぱい出しちゃたアル......今日は私の夕食がはかどちゃうネ」

ぽつりと取り残された店内にばしゃばしゃと水音だけが響く。

ガラガラガラ

聞きなれたドアを開く音が聞こえ、皿洗いをいそいそと中断した。

(  `ハ´)「いらっしゃいませアル。」

ぱさぱさとタオルで手を拭きながら出迎える。

( ´ω`)「こんばんはだお......まだやってるかお?」サムサム

しょぼくれた顔に中肉中背。元はそこそこ高級であっただろうスーツ。

ビジネスバックを力なくぶら下げて入店した男は30代くらいだろうか?疲れ果て、寒さで震えているせいかそれよりも老けて見える。

(  `ハ´)「今日は冷えるアルねー。皆帰ちゃて誰もいないけどまだやてるヨ。カウンター席へどうぞアル。」

すとんと椅子に座る。

( ´ω`)「ありがとうだお。申し訳ないけれど椅子もう一つ借りちゃって良いおね?地面に置いたりはしてないから綺麗だお。」

ビジネスバックを隣の椅子の背もたれに立て掛ける。

(  `ハ´)「人いないから気にしなくて良いアルよ。」

おお、こういうサラリーマンは久しぶりだ。しかしシナーは心の中はずきりと傷んだ。もちろん表情には出さない。

(  `ハ´)「......ずいぶんお疲れアルね。今誰もいないし多分アナタ最後のお客さんだから気合入れて作るからゆくりするヨロシ。」

湯呑を差し出し、ティーポットから温かみのある琥珀色を注ぐ。

十年近くやっているこの動作。

注ぎ終え、ぽとりと滴が零れる瞬間にすっとナプキンで滴を拭う。

わずか5秒にも満たない動作だが立ち上る湯気、満たされる湯呑、どこか気品のある壮年の男性。たかがお茶を注ぐ動作だが思わずお客は見とれていた。

4名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:07:10 ID:C9k.8stQ0
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( ´ω`)「毎日毎日残業残業で嫌になるお.....」

朝は企業さんが営業する前に出社し、夜は企業さんが退社した後に帰宅する。

毎朝早く起きなければいけないし残業なんて当たり前だ。

此処に務めて10年程度になるがこの生活リズムに慣れるのはまだ難しい。

大学に在学中、なかなか就職が決まらなかった末妥協してしまったこの会社。

なんだかんだ業績は悪くなかったが、この町の企業は大体回ってしまい新規開拓が難しくなってしまっていて、最近はだらだらとお得意様を回って過ごしてしている。

昔の様にモノが強い時代でもないので他の地区に範囲を広げるのも難しい。

( ´ω`)「はあ......」

友人関係は狭く彼女はいない。

満たされていない。

内藤 平地 35歳

彼は法人へ電化製品を売るサラリーマンである。

5名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:08:45 ID:C9k.8stQ0

夜の繁華街は多彩なネオンの縞が輝いて賑わっている。

( ´ω`)「お腹が.....空いたお。」

帰りの駅へ向かう途中、空腹に耐えきれずどこかへ入ろうと決めた。

何でもいいから美味しいものが食べたい。と漠然な願望を抱えうろうろと彷徨う。

なかなか良さそうな店が見当たらない。

( ´ω`)「おー......繁華街通り過ぎちゃったお。」

今更引き返すのも面倒なので普段は通らない裏路地に少し入ってみる。

人がおらず野生の猫が横切るほどの暗い都会の路地。

奥まったところに定番ともいえる中華式のロールケーキの様な瓦屋根のお店を見つけた。

壁は嫌味にならない程度に紅と金の装飾が施されている。

( ´ω`)「中華小料理屋『琥珀』....中華料理屋なんて王将くらいしか行ったこと無いお。」

小料理屋と言えば高いイメージ、お金には比較的余裕がある。さらに幸いなことに明日は休み。

今日はちまちま飲んで食べて明日はぐっすり寝て過ごそう。

暖簾を潜り戸を開けた。

6名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:09:33 ID:C9k.8stQ0

店内は綺麗な朱色の壁。壁には水墨画のような絵画や中国の陶磁器が並べられており、一見とても高級なレストランに見えた。

提灯の様な丸いランプが天井からぶら下がっており琥珀色の明りが店内を照らす。

カウンター形式のテーブルと広間にはナプキンが綺麗に立てられた机がいくつか置いてある。

カウンターの奥は厨房になっていて調理している様子を見ることができる。やはり厨房もとても清潔そうだ。

(  `ハ´)「いらっしゃいませアル。」

少し強面な中国人が手を拭きつつ出迎えた。


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7名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:12:18 ID:C9k.8stQ0

見惚れてしまってた。

( ´ω`)「お〜。綺麗な手際だお」

( *`ハ´)「もう10年くらいやてるから体に染みついてるアルよ〜。でも褒めてもらたのは初めてネ。おしぼりあげるアル。」


10年。


自分は一体この10年で何が身に付いたのだろうか。当り障りなく世の中を渡る方法?張り付けたような笑顔?お世辞?

手を拭きながら考えるが、気分が落ち込むので押し殺した。

(  `ハ´)「でも、おいちゃんもまだまだ若輩者ヨ。」

落ち込みの残骸を流し込むために目の前のお茶を火傷をしないように気を付けて口に含む。

思ったよりも熱くなく丁度いい温度の琥珀色が舌の上を流れる

( ´ω`)「お?なんだおこのお茶?爽やかで芳醇な花の香りが広がるお。美味しいお。」

(  `ハ´)「花茶(ホアチャ)アルよ。ニホンだとええと......ジャスミン茶ネ。」

ジャスミン茶。コンビニのペットボトルで飲んだことがあるが今飲んだものよりもはるかに薄く単調な味わいだった。

( ´ω`)「温まるお〜。こんなの飲んだこと無いのに懐かしい味がするお。」

(  `ハ´)「フフフ、おいちゃんの国だと花茶はニホンで言う麦茶みたいなもんネ。実家の味ネ。あと中国でもばあちゃんが大量に生産するネ。同じヨ」

( ´ω`)「お〜。」

(  `ハ´)「気にいたようだし、ポトに出しとくネ。」

彼女と来たら良い雰囲気になるであろう磁器製の王冠を思わせる真っ白のウォーマーの中央に火のついた蝋燭を置き、その上に真っ白いポットを置いた。

( ´ω`)「ありがとアル。」

(  `ハ´)「いえいえアル。」

8名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:15:41 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「お客さん今日は何食べるアル?中華料理なら大体あるアル。」

( ´ω`)「ええと、中華料理はよくわからないけれど、良い店みたいだし色んな種類を食べたいお。」

あるアルて.....。

(;`ハ´)「うーん?予算どれくらいあるアル?他のお店みたいにぼたくらないから安心するヨロシ。」

(  `ハ´)「まあ、大体の中国人こう言うけどネ」

(;´ω`)「これは酷い。」

(  `ハ´)「チャイニーズジョークアル。」

( ´ω`)「うーん?これくらい出したらどのくらい食べれる?」

(  `ハ´)「お酒どのくらい飲む?」

( ´ω`)「べろべろに酔うつもりはないけれどコップ5杯位飲みたいお。」

(  `ハ´)「よく食べるほうアルか?」

( ´ω`)「1人でちびちび酒を飲みながらだらだらおかずをつまむのが好きだお。だからそんな感じが良いお。」

(  `ハ´)「ほんほん。ちょっと待つヨロシ」

彼は厨房へゆったりとした動きで向かった。

バタンバタンと冷蔵庫を開け閉めしている。

9名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:17:31 ID:C9k.8stQ0

1分後。

スタスタと足音が大きくなる。

(  `ハ´)「お待たせアル。コース料理風で5品と中国のお酒2種類でどうアル?」

( ´ω`)「おお!それがいいお!それにしても中国でコース料理?」

(  `ハ´)「ニホンだとコース料理て言うとかこよくて人気アル。それにお客さんみたいにちまちま飲みたい人もいるヨ。まあお得な料理セットみたいに考えてくれていいアル。」

( ´ω`)「普段はどんな料理だしてるのかお?」

(  `ハ´)「小料理屋だからお客さんの出してほしい料理何でも作るアル。ランチで大盛り炒飯も作るしディナーのコースとかデザートとかも作るし満漢全席も任せるアル。」

( ´ω`)「それはすごい。」

(  `ハ´)「じゃあ早速料理作っちゃうから花茶飲んで大人しく待つヨロシ。」

( ´ω`)「お願いしますお。」ズズズ

10名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:19:17 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)(とは言たもののどうするアルかー。)

出す料理は大体決めているが出し方に悩んでいる。

相手の事を考えるんだ。

疲れ果てた身なりの良いサラリーマン。

大切そうにビジネスバッグを抱えている。

10年という言葉に反応していた。10年......10年?わからんアル。

こんな時間に一人で飲むということは明日は多分休み。

相手を笑顔に。元気を出してほしい。

『拍の心』を頭に置いて。

11名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:27:55 ID:C9k.8stQ0


うんうんと悩む事数十秒。


(  `ハ´)「......決またある。早速前菜作るね。」

たれに漬けこんだ肉塊を取り出す。10年間寄り添った中華包丁を振るいストンと肉を切る。

(  `ハ´)「おいちゃんのは四角いけれど〜♪上海の奴らのは三角なのネ〜♪おいちゃん魚そんな得意でないから持ってないアルよ〜♪」

不気味な歌を歌いながら2枚ほど切った物を皿に盛り付ける。

(  `ハ´)「メインはやぱりこれあるね。」

( ´ω`)(何の歌やねん......)

(  `ハ´)「もいちょお肉行くあるネ〜」


保温庫を開け良く焼けている肉塊を取り出す。


(  `ハ´)「アチョー!!!!!!!!」

(;´ω`)「!?」ビクゥ


パリっと子気味の良い音がして大きめに肉が切れる。


(;`ハ´)「ちょっと大きく切りすぎちゃたアル。」

(  `ハ´)「......」

(* `ハ´)「サービスサービスゥアル。」

( ´ω`)(吃驚したお。)

(  `ハ´)「次は野菜入れちゃうアル。」

12名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:28:35 ID:C9k.8stQ0

足元の冷蔵庫を空け良く冷えたボウルを取り出す。


(  `ハ´)「冬だけれどきゅうり美味しいネー。」

(  `ハ´)「完成アルかー?」

(  `ハ´)「......なんか味気ないアル。」

(`ハ´ )きょろきょろ

(  `ハ´)!

(  `ハ´)「なんだけこれ?まあいいや乗せちゃうネ。」

( ´ω`)(ええ.....)

(  `ハ´)「あとはちょっとソースと塩乗せとくアル」

13名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:29:56 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「出来たアル!!!」

( ´ω`)「あの.....。」

(  `ハ´)「なにアル?」

( ´ω`)「物凄く不安なんですが。」

(  `ハ´)「?わけわからん事言ってないで料理食べるネ。ちょとお酒取ってくるネ。」

目の前にことり、と丁寧に皿を置く。

悔しいがやはりどこか品があって美しい動作だった。

出された料理に目を向ける。

てらてらと輝く肉。ホカホカと湯気が出ている厚切りの焼き豚。きゅうりとなんかわからんもさもさした茶色いの。

大皿の上に乗せられた肉と野菜。一見雑に並べたように見えたが立体感が出ており見る者を楽しませた。

( ´ω`)「高級感が溢れてるお......」

(  `ハ´)「お待たせある。最初はビール飲むアル。」

水垢1つ無い綺麗なグラスに緑色の瓶から小麦色の液体が注がれる。

1度目はスーッと勢いよく。

少し間を置いてコップの9割くらいまで注ぐ。

3回目でうまく泡を浮かせる様に注ぐ。

目の前には綺麗な7:3の比率に加えふわふわときめの細かい泡のビールが出来ていた。

( ´ω`)「おお、上手いもんだお。......では早速。」

14名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:31:24 ID:C9k.8stQ0

ビールの一口目は最高である。

疲れていれば疲れているほど。

暑ければ暑いほど。

喉を流れる速度が早ければ早いほど。

15名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:32:49 ID:C9k.8stQ0

ごくり。

喉を大きく鳴らす。

( ゚ω゚)「っかああああああああああ!!!!」

(*^ω^)「美味しいおおおおお!!!何だおこのビール!いままで飲んだこと無いお!味もすっきりでまろやかで苦味がほとんど無いお!」

残念ながら今は冬でこのビールの美味しさは完全ではないが、彼の目に光を取り戻させるには十分だった。

(  `ハ´)「喜んでもらえて何よりアル。でもこれはただの青島(チンタオ)ビールネ。ただ美味しくなるようにおいちゃんが愛情込めて注いだから当たり前ネ。」

( ^ω^)「青島ビール!聞いたことがあるけれど初めて飲んだお。こんなに美味しいとは思わんかったお。」

(  `ハ´)「ちなみにお客さんなんでこれ青島ビールて言うか知てるアルか?」

( ^ω^)「お?知らないお?どういう意味なんだお?」

(  `ハ´)「中国の青島て島で産まれたビールだからアル。」

(#^ω^)「」ビキビキビキ

(  `ハ´)「正直すまんかった。」

(; `ハ´)「は、早く料理食べるアル。肉によく合うビールだからあったかいうちに食べないともたいないアルよ。」

16名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:36:29 ID:C9k.8stQ0

2枚の肉内の1つを口に運ぶ。綺麗な桃色の肉には照り焼きの様なたれがかかっている。

普通のチャーシューとどう違うのだろうか?

( ^ω^)「...............」


噛みしめる。


( ^ω^)「え......?」


瞬間。


既に口の中から肉が消えていた。


( ;ω;)「お......」

( ;ω;)「美味しいお......」


口に運んだ瞬間蕩ける様に溶け出す肉汁。

今まで食べたことのないような独特な味と濃厚過ぎるコク。

かかっている甘いたれが肉の旨みを一層引き立たせた。

(  `ハ´)「フフフこれが世界3大ハムの悪名をとどろかせる金華ハムで有名な金華豚のチャーシュー蜂蜜漬けアル。さ、早くビール飲んで口の中の油と蜂蜜を流し込むアル」

( ;ω;)「おおおお」ゴクリ

(*;ω;)「うまああああああああああい。」

(  `ハ´)「そらビールに肉が合わないわけがないアル。元気になってくれて嬉しいアルよ。」

17名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:40:39 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「隣のあたかい肉も冷めないうちに食べるアル。」

( ^ω^)「そうするお。これは何の肉だお?」

(  `ハ´)「こっちは普通の肉屋のバラ肉を塩漬けにしたやつネ。皮付きのまま素揚げした後焼いてあるネ。このままでも十分ハオチー(美味しい)ネ。だけど皿に乗ってるソースと砂糖を好みでつけて食べてもハオチーアル。」

( ^ω^)「おー、美味しそうだお。こっちのは普通の豚なのね。」

(  `ハ´)「次来る時もとお金払えば金華豚バージョン食わせてやるアル。」

( ^ω^)「ぐぬぬ。」


まずは何もつけずに緩んだ口に運ぶ。


パリッ

モグ......モグ......

(*^ω^)「お.....駄目だ......美味しすぎるお....触感が気持ちよすぎるお。しかも塩味の肉にカリカリのちょっと苦味のある皮が砕けてスパイス代わりに肉に絡みつくお......」


次は砂糖を付けて口へ運ぶ。


カリッ

(*^ω^)「ほふう......甘さが塩辛さを和らげ豚肉の濃縮された旨みが感じられるお。調理次第でこんなに上手い肉になってしまうのかお。溜息しかもれねえお。」


見慣れないソースを箸ですくって舐める。行儀が悪いのは分っているが舐めたくて仕方がなかったのだ。


( ^ω^)「おっ!これは甘い味噌みたいなものなんだおね。」

(  `ハ´)「甜麺醤(テンメンジャン)アル」


最後は甜麺醤を付けて口へ運ぶ


(*^ω^)「!?これは......暖かい物につけて食べると香りが強くなってる!?旨い!旨過ぎるお!一気に豚の角煮みたいになったお!」

( ^ω^)「お......?」



( ´ω`)「もうなくなっちゃったお......」

18名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:45:05 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「フフフ、まだ野菜残てるから食べるアルよこっちもハオチーネ。」

( ^ω^)「おっおっ!そうだおねきゅうり頂くお。肉を食べた後だからさっぱりしたものが食べたくなるお。」

分厚くカットされ皮が剥かれたつるつるのきゅうりを何かの調味料と和えたものをひょいっと口へ放り込む。





( ^ω^)「は......?」




安っぽいきゅうりを口に放り込んだ瞬間。

口の中に凝縮された魚介の旨み、山の幸をこれでもかと詰め込んだ贅沢さを感じた。

生まれて初めて味わう言いようのない深いハーモニーが彼を襲う。


( ^ω^)「なんだお.....これ......」


(*^ω^)「なんだおこれえええええええええええ!!きゅうりなのにっ......たかがきゅうりなのにっ......」


ヒョイパク


ヒョイパク


ヒョイパク


(*;ω;)「あああああああああああなくなっちゃったおおおおおおおおおおおおおお!」

19名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:45:46 ID:C9k.8stQ0


(  `ハ´)「うるせえ。黙って食え。」

20名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:46:29 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「これは自家製のXO醤(エックスオージャン)と和えたアルね。中華料理の中で最高にハオチーな調味料ネ。干しエビと干し貝柱とかニンニクとか生姜とか使うのが一般的アル。」

( ^ω^)「スーパーとかに売ってる?」

(  `ハ´)「ニホンでも売てるけど、安くするために材料費削って油沢山入れてるからゴミみたいなもんアル。」

( ^ω^)「んな、殺生な......作り方教えてくれお......」

(  `ハ´)「ぶち殺すアルよ?大体の中華料理人は門外不出のXO醤のレシピを持てるもんアル。だから内緒ネ。日本の焼き鳥屋の秘伝のたれみたいなものアル」(家のは金華ハムと日本の最高級ニンニクと最高級の竹の子を混ぜてるネ)

(  `ハ´)「ハオチーすぎて皿に残ったXO醤だけでビールが進むネ。」

( ^ω^)「ペロペロペロペロ.....んっ///ゴキュゴキュッ......ぷはっ......おいしっ♡」

(  `ハ´)「死ね。」

21名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:47:11 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「おら。真ん中のもさもさも食うアル。」

( ^ω^)「なんだおこの茶色いもさもさ。」

(  `ハ´)「名前思い出せねえアル。」

( ^ω^)「ふざけんな。パクッ。」もさもさ

( ^ω^)「うめえ。さっぱりしてくにくにしてぴりからでうめえ。」

(  `ハ´)「アル。」

( ^ω^)「.....本当になにこれ?」

(;`ハ´)「ええと......もさもさある。」

( ^ω^)「.....きくらげ?」

(  `ハ´)「ああ、それアル!きくらげネ。思い出したアル。」

甘辛く良い触感のもさもさは食欲を増進させた。

22名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:50:44 ID:C9k.8stQ0

まだ1切れ残っていた最後の金華チャーシューを口に入れ舌鼓を打つ。

やはり震えるほど旨く数秒間目を瞑って余韻を楽しんでしまう。

( ^ω^)「はっ!忘れてたお。ビールビール。」

くいっと残った青島ビールを最後の一滴まで飲み干す。

( ^ω^)「ふう.....油を流し切った後のこの余韻がたまらねえお。口の中が爽やかで気持ちが良いお。」

( ^ω^)「あ......」

( ´ω`)「ちびちびやるつもりが酒ももうなくなっちゃったお......」

(  `ハ´)「次スープ出すから、その後の料理と一緒で良いアルか?次どんなの飲みたいアル?」

( ^ω^)「ok。まだこれ飲みたいけれど他のお酒も試したいから料理に合うやつ頼むお。」

(  `ハ´)「分ったアル」

完食した前菜の皿の汚れを舐めとりたい衝動に駆られるがぐっと我慢する。

( ^ω^)「それにしてもこの青島ビール気に入ったお〜。」

23名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:53:06 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「気に入てくれて何よりアル。今お客さんは中国で一番ハオチーな豚を使たチャーシューと、中華料理最高の調味料を、中国で一番歴史が古いビールをお供に味わてるネ。」

(  `ハ´)「中華あんまり食べなそうだから中国4000年の歴史を感じる一皿を出して正解だったみたいアルね。あれ?5000年の歴史だたアルか?」

( ^ω^)「こんな美味しい中華料理初めて食べたお。後にまだ他の料理が控えてるってだけでドキがムネムネしちゃうお。」

チャイニーズジョークを聞き流す。

(  `ハ´)「フフフ、中華を堪能して美味しいって言ってもらえて嬉しいアル。中国の歴史と比べたらおいちゃんの10年なんてちっぽけな物だけれど続けて来てよかた思うネ。」

( ^ω^)「ちっぽけなもの....」

24名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:54:40 ID:C9k.8stQ0


年齢は違えど10年と言う共通点を持つ彼が、人をこれほどまで感動させられる技術を持っていることがとても眩しく感じられた。

自分が必死に頑張ってきた10年をこの美味しすぎる料理が全て否定している気がして。

嗚呼......こんな素晴らしい料理を前にして邪な感情なんて持ちたくないのに。

25名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 19:57:15 ID:C9k.8stQ0

( ;ω;)「うう......」

(;`ハ´)「お、お客さんどうしたアルか?」

( ;ω;)「おーん。な、何でもないお。ちょっと料理が美味しかっただけだから気にしないでほしいお」アセアセ

(  `ハ´)「......そういえばお客さんはどんなお仕事してるアル?」

( ;ω;)「お?僕はここらへんで電化製品の営業かけてるソウサク電化の社員だお。」

(  `ハ´)「アイヤー!ここらで一番大きな電化製品屋アル!立派なお仕事ネ!」

( ;ω;)「そんなこと無いお。今のところうまくいってるけれどこの10年間で身に付いたのはそこまで興味の無い電化製品の知識と張り付いたような笑顔と当り障りのない対応だけだお.....」

( ;ω;)「友達や彼女もいないし人との触れ合いなんて仕事以外でほとんどないお!毎日が......この毎日があと何十年も続いて行くって考えただけで途方もない虚無感に襲われるんだお......」

(;`ハ´)「.....」

( ;ω;)「あっ!?」

( ;ω;)「ご、ごめんお。何でも無いお。気にしないでくれお。」

(  -ハ-)「......お客さんは立派アルヨ。だからそんなに先の事考えなくて良いアルよ」

(  `ハ´)「10年務めてそんけぽちしか得られなかたなんて嘘アル。最初にお客さんが椅子に座った時においちゃんはこの人は立派な人と気が付いたアル。」

( ;ω;)「お?最初?立派?」

(  `ハ´)「そうアル。椅子に座る時、バッグを椅子に乗せたアルね。口ではなんと言おうとそれはお客さんが自分の仕事に誇りをもて大切に扱てるという証拠アル。年期は入ているけど綺麗なバッグを見て確信したアルよ。」

26名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:00:21 ID:C9k.8stQ0

そうだった。

いくら仕事に嫌気が差そうとも今まで自分は自分の仕事を雑に扱うことはしなかった。

普段から自分の身よりも仕事のバックを優先し、地面に置くことは無かった。

( ;ω;)「おーん。おーん。」

いつからか誇りを持って働くようになっていた。

長い歳月を経ったがその気持ちは隠れてしまっていただけで。

彼の根っこの部分は何一つ変わっていなかった。

(  `ハ´)「今の所うまくいてるらしいけれど、この時代に営業が上手く行き続けるのは難しいアル。張り付いた笑顔と当たり障りのない対応でやてけるほど甘くないアル。やぱりお客さんのお客さんが自信と誇りをもて働いていることを見抜いているから続いてるに決まってるネ。」

(  `ハ´)「それに友人関係がなければ作れば良いアル。おいちゃんなんて最初は一人でニホンに来て心細かたけど、仕事の中で色んな友達できたアルよ。」

(  `ハ´)「お客さん友達いないならまたこの店に来ておいちゃんとも仲良くしてほしいアル。そしたらおいちゃんの友達とも仲良くなれていせきにちょネ?」

( ;ω;)「うっぐ....ひっぐ......ありがとう。ありがとうだお......」

(  `ハ´)「シナーと呼んでくれアル。」

( ;ω;)「内藤ですお....」

27名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:02:34 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「さ、まだ前菜1品残ってるアルね。」

気が付いたら完食したはずの皿は既に片づけられ、いつのまにか小さな小皿に盛られた細長い野菜が出されていた。

( ;ω;)「シナーさん......」

まだ震える手で口へと運ぶ。

( ;ω;)「キュッキュッとした触感が楽しいお。それにこれはさっきのXO醤なのかお?さっきよりもマイルドで良く野菜と合うお?何かの豆かお?」

(  `ハ´)「これは金針菜(キンシンサイ)ネ。ニホンだとユリの花の蕾って言うネ。中国で昔から大事にされてて生で食べると一番体に良いネ。今回のXO醤は金針菜に合うように辛みを抜いて生姜とニホンのみょうがを混ぜたアル。内緒アルよ?」

( ;ω;)「素朴な味で美味しいおー。」

(  `ハ´)「精神安定作用がある薬膳だから滅茶苦茶ハオチーなわけでは無いネ。おいちゃんは好きだけれど。」

( ´ω`)「......僕のためを思ってくれてありがとうだお」

(*`ハ´)「フフフ、たまたまアルヨ」ススス

照れているのか厨房にいそいそと戻る。

(  `ハ´)「話し込んじゃってまだ準備できてないけれど、すぐ出来るからまててネー。」

待つことには慣れている。

元はと言えば自分が悪いんだし慣れるも何もないけれど。

さっきの前菜の余韻だけで10分は待てるさ。

( ^ω^)「本当に良いお店を見つけてしまったお......」

心からそう思った。

28名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:03:34 ID:C9k.8stQ0

厨房では楽しそうに大きな中華鍋を振るシナーと火柱が経つほどの大きな火が格闘している。

(  `ハ´)「スープを温めるアル〜♪はっ!ほっ!よっ!」

(  `ハ´)「野菜ちゃんをぶち込むアルヨー♪」

(  `ハ´)「アイヤー!!きのこどこ行ったネー♪」

( ^ω^)「それだけは何とかならないのかお?」

(  `ハ´)「ならないアル。生き甲斐アル。」

( ^ω^)「アイヤー......」

29名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:05:07 ID:C9k.8stQ0

3分とかからなかった。

シナーが湯気の立ち上る平皿を運んで来た。

( ^ω^)「おーやっぱり何でも美味しそうだお。これは......レタス?」

(  `ハ´)「レタスアル。中国じゃニホンみたいな生サラダじゃなくて炒めて使う事が多いネ。それと舞茸も一緒に入てるね。」

( ^ω^)「そうなのかお。」

ふむ。見る限りでは安っぽい素材だけれどどうせ一口食べると......

レンゲを使い白く濁ったとろりとしたスープをすする。






(*^ω^)「知ってたわああああああああああめちゃくちゃうめえおおおおおおおお!!!」






口に含むと上質でべた付かず澄んでいる油と、複雑な味わいのスープが丁度良い塩加減で整えられていた。

( ^ω^)「もしかして鳥ガラスープかお?」

(  `ハ´)「のんのん。これは上湯(シャンタン)スープネ。でも内藤さん鳥ガラてのは良い線行てるネ。」

(  `ハ´)「さっきの金華豚と鳥と豚肉をおいちゃんが7時間くらいかけてうとうとしながらゆっくり煮込んたスープね。ニホンの美味しい塩を使ったらとても良い味になったね。」

( ^ω^)「なんでこんな濃厚なのにあっさりした味で綺麗な色なんだお......」

(  `ハ´)「フフフ、これも企業秘密ね。こっちはラーメン屋の秘伝のスープみたいなもんアル。やっぱり上湯は中国でも最高級のスープって言われるくらいだから何入れても美味しいネ。」

( ^ω^)「やっぱりまた最高級かお。お店潰れたりしないのかお?」

(  `ハ´)「そんなに沢山出さず少しずつ皆に味わてもらてるから大したことないアル。もちろんいぱい食べたら高級品らしく高くつくネ」

(*`ハ´)「今度来た時に美味しい上湯スープが飲みたいて言てくれればもっと色んな具材入れて作てやるネ。」

(*^ω^)「おー。それは俄然楽しみだお。」

30名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:06:28 ID:C9k.8stQ0

次はスープに浸されたレタスを楽しむ。一度油を通してあるのか鮮やかな色合いで噛むたびにしゃきしゃきと良い触感を感じさせてくれる。

ひとしきりレタスの触感を楽しんだ後に舞茸を噛みしめる


じゅわあっ。


噛みしめた瞬間良くしみ込んだ上湯スープがきのこの独特な風味と共に湧き出る。

( ^ω^)「おお、きのこがスープを吸って美味しいお。実は舞茸がきのこの中で一番好きなんだお!食べることができてうれしいお!」

(  `ハ´)「ふふふ、それはよかたヨ。」


温かいスープとシナーの気遣いが冷え切った心と体を芯まで暖めてくれた。

31名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:08:25 ID:C9k.8stQ0


pipipipipipipipipipi


カウンターまでタイマーの音が響く。


(  `ハ´)「お、カオヤー焼けたネ」

( ^ω^)(かおやー?)

厨房へ引っ込む。

(  `ハ´)「ありゃ、まだもうちょいかかるアル。時間空いちゃうからこれ見るヨロシ」ドーン

丸裸になったアヒルを見せつける。

(  `ハ´)「これが有名な北京ダックの焼いてないやつネ」

( ^ω^)「おお!すごいお!良くテレビとかで見るお!」

(  `ハ´)「高い店だと1万5千くらいするけれどまるまる食べてくアルか?」

(;^ω^)「ご冗談を。」


残念そうな顔をしながら厨房へ引っ込む。本気かこの野郎!


(  `ハ´)「お酒とダックもてきたヨー」



( ^ω^)「えっ」



本気かこの野郎!


皿の上に乗ったこんがりと茶色く焼かれたアヒルがあった。

32名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:09:28 ID:C9k.8stQ0


が、先ほどのものとは違い足の付け根付近の部位だけだった。


( ^ω^)「吃驚したおー。」

(  `ハ´)「まるまるのが良かったアル?」

( ^ω^)「いらないアルよー。」


(  `ハ´)「無いアルってどっちやねん!」


( ^ω^)「wwwwwwww」


( ^ω^)「さっき言ってたかおやーってなんだお。」

(  `ハ´)「拷鴨(カオヤー)はアヒル。北京拷鴨(ペイジンカオヤー)で北京ダックね。」

( ^ω^)「なるほどだお。」

(  `ハ´)「早速皮剥ぐアル。」

33名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:11:10 ID:C9k.8stQ0

パチンと、ビニールの手袋を付け果物ナイフのような小さく鈍い包丁を手にアヒルを押さえる。

すすすっと切れ込みを入れ綺麗に皮をはがす。

ぺりっと綺麗に2枚ほど皮をはがし、ひっくり返しナイフの背を使い綺麗に脂身をそぎ取っていく。

(*^ω^)ゴクリ

綺麗にこんがりと茶色く焼けたアヒルの匂いが鼻腔をくすぐる。

(  `ハ´)「綺麗に取れたアル。」

てらてらと輝く皮を丸い生地の上に乗せる。

(  `ハ´)「甜麺醤ベースのたれをぬりぬりアルー♪」

(  `ハ´)「刻んだきゅうりを乗せて〜♪あ?ネギ食好きアル?」

( ^ω^)「大好き!」

(  `ハ´)「ネギをいっぱい乗せて〜♪揚げワンタンの皮の粉末をパラパラ〜♪」

(  `ハ´)「くるくる巻いて完成アル〜♪」

(  `ハ´)「もう一個あるからもう1曲行くアル」



( ^ω^)「止めろ下さい。」



丁寧に曲を止めてもらうこと1分。目の前に丸まった生地が2つ出された。

34名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:12:03 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「これグラスね。こちは手を洗うフィンガーボウルネ。飲んじゃダメアル。」

(  `ハ´)「これ紹興酒ネ。飲んだことないだろうし15年のちょと良い物選んじゃたアル。」

( ^ω^)「おー、紹興酒は聞いたことがあるお。飲んだことはもちろんないけれど。」

(  `ハ´)「ちなみになんで紹興酒って言うか知ってるアル?」

( ^ω^)「知るわけないお。教えてお!」

(  `ハ´)「紹興市で作られたからダオ!」

(#^ω^)「ビキビキ」

( ;`ハ´)「ア、アイヤー」

35名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:12:50 ID:C9k.8stQ0

紹興酒は初めて飲むがきっと美味しいのだろう。

陶器製の瓶からトットットと先のすぼまったグラスに、深いこげ茶色の液体が注がれる。

( ^ω^)「へんな形のグラスだお。」

(  `ハ´)「このグラスはくるくるまわすと匂いが籠るから良い紹興酒だと香りを十分に楽しめるアル」

シナーに従いくるくると回してみる。

( ^ω^)「おお、やや甘いような匂いがするお。」

シナーは満足そうに頷いた。

( ^ω^)「では頂くお。」

先ほどは余りのおいしさにすぐ飲み切ってしまったので今回はいつも通りちびちび行こう。

ちびっと飲むとたちまち少し甘くまろやかな味わいが広がり癖のない苦味が後を追う。

甘みと酸味と苦味が渾然一体となって何とも言えない深い旨みを生み出し、ふわっとした気持のよい余韻を残す。

( ^ω^)「おいしいお......それしか言葉が見つからないお。」

ちびちびやるのには最適かもしれない。

36名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:14:30 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「しかり味わってもらえるとおいちゃんもうれしいアル。これ気に入ったら徐々に若い年数の物も試すと良いアル。」

(  `ハ´)「ただし、何年って書いてあるのには偽りはないけれど大体国外へ輸出する酒には水混ぜてかさ増しするから買うときはおいちゃんに言うヨロシ。」

(;^ω^)「ええ......」

(  `ハ´)「中国も良くやるけれど輸入品のドイツのビールなんかも同じネ。だからよく騙された奴らが本場のドイツビールはウマイ!なんて喜ぶアル。あいつらアホアル。」

( ^ω^)「見も蓋もねえ.......」

(  `ハ´)「話し過ぎちゃたアル。さ、温かいうちに食べるヨロシ」

素手で持ち上げ一口齧る。

ぱりぱりっとした良い音ともちっとした生地の触感の後にしゃりしゃりとした揚げワンタンの粉末が病みつきになりそうだ。

こんがりと焼けたアヒルの皮はただの皮とは思えないほどの甘さと旨みが凝縮されていた。

たれと揚げワンタンの粉末のしょっぱさがその皮の旨みを何倍にも引上げ、それに加えてぴりりとしたネギのパンチが何ともいじらしい。

さらに噛むときゅうりのみずみずしさが油っぽさを感じさせない事に気づく。

完璧だ......

37名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:15:19 ID:C9k.8stQ0


(  `ハ´)「内藤さん?」

( ^ω^)「」

(;`ハ´)「し、死んでる......」



( ^ω^)「いやあ、川の向こうでばーちゃんが手を振ってたお。」



(  `ハ´)「アホな事言てないで酒飲むアル。」

38名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:16:31 ID:C9k.8stQ0

ちびりと紹興酒を飲む

先ほどのビールと違い、じわじわと油を溶かす様な感覚。

(*^ω^)「はう......最高だお......天国ってこんな近くにあったんだおね。」

目の前のシナーは北京ダックの後片付けをしている。

( ^ω^)「お?そういえば余った肉はどうするんだお?」

(  `ハ´)「おいちゃんの夕飯になるアル。」

( ^ω^)「......」ジーッ

(;`ハ´)「あんましハオチーないアルよこれ......」

( ^ω^)「......」ジーッ

(;`ハ´)「分ったアル。後で炒めて上げるヨ。でもアヒルは旨みを全部皮に移しちゃってるから本当にそこまでハオチー無いヨ。」

( ^ω^)「やったお〜。嬉しいお〜。」

39名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:17:24 ID:C9k.8stQ0

ちびりちびりと他愛のない雑談を楽しみながら食を進める。

こんなに笑顔で楽しく物を食べたのはいつぶりだろうか......

彼は次の料理を用意するため後ろに引っ込む

突如会話が無くなり、途端に物悲しくなる。

大学の頃の数少ない友人だったドクオは今何をしているんだろうか。

なんだかんだ楽しかった大学生活をぽつぽつと思い出しながら友人にメールを送る。

人を誘うなんて久しぶりだ。

40名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:18:27 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「蟹ちゃん来たアルヨー。熱いアルヨー」

( ^ω^)「上海蟹ちゃん!!!」

(  `ハ´)「まだ旬だからめちゃくちゃハオチーアル。」

( ^ω^)「でもめちゃくちゃ高くない?」

(  `ハ´)「ニホンだとキロ4000円とかするネ。おいちゃんは中国の友人から仕入れてるから投げ売り価格で仕入れてるネ。」

(;^ω^)「おいちゃんすげーお。」

(  `ハ´)「褒めても脱がないアルヨ」

( ^ω^)「......」

(  `ハ´)「酷いアル。所で上海蟹はなんで上海蟹って言うか知ってるアルか?」

( ^ω^)「もう騙されねーお。どうせ上海が有名な産地なんだおね?」

(  `ハ´)「違うアル。ニホンのやつらが勝手に上海蟹って呼んで定着しちゃただけある。本来は中華絨螯蟹て呼ぶネ。ハサミついた毛ガニって意味アル。」

( ^ω^)「......」

(#^ω^)「ふざけやがって。」

41名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:19:23 ID:C9k.8stQ0

シナーは普段良く見かけるカニフォークを使い器用に蟹の腹を開けた。

(  `ハ´)「これは雌蟹ね。卵あて雄よりハオチーね。雄は雄で白子がもーちもちで癖になるけど雌の卵のほうが人気ネ。」

( ^ω^)「今度来た時雄も食ってやるお、」

(  `ハ´)「パカー。へへ、嬢ちゃんたっぷりいやらしい卵が詰まってるじゃねえか。」

( ^ω^)「マジキチ。」

(  `ハ´)「カリカリカリ〜♪。あ、このぶよぶよしたのは食べられないからポイー♪」

はがした蟹の頭の殻をひっくり返しそこに味噌と卵を盛り付ける。

(  `ハ´)「1匹だとやっぱり量が少ないネー。」

蟹の足をはさみで切り落とし中身の肉を掻き出す。

(  `ハ´)「ついでに少ないけど肉も入れちゃうアル。」

(  `ハ´)「出来たアル〜♪」

皿の上に蟹の頭の殻。

その中に綺麗に収まったカニの中身がほわほわと湯気を上げている。

42名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:20:27 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「これにつけて食べるヨロシ。黒酢とか醤油とか生姜とかで作ったたれネ。」

スプーンですくい、たれのかかった味噌を口に含む。


もっちりとした味噌が口の中でほどける。


正に絶品。


とても濃厚でミルキーな蟹味噌の蕩けるような甘さが広がる。

ふつふつと卵を噛むと何とも言えないまろやかな磯の香りが広がる


( ^ω^)「中華料理。侮っていたお。」


( ^ω^)「こんなに美味しいものがこの世にあるとは。」

複雑に混ざり合った蟹の身は味の起伏が激しいがどの味が来ても美味しくてほっぺたが落ちそうになるのだ。

紹興酒を傾け磯臭さを飲み込むと。

身体が震えた。

比喩でも何でもなく急に寒くなったのだ。

43名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:22:14 ID:C9k.8stQ0

( ^ω^)「寒いお。」

(  `ハ´)「蟹ちゃん美味しいけれど食べると体冷えるアル。」

( ^ω^)「あり、ジャスミン茶飲み切っちゃったお。」

ポットを開けるが中は良い香りが広がるだけだ。

(  `ハ´)「代わりに生姜茶飲みながら食べるね。」

陶器製の小さなお猪口を差出し、なみなみと注ぐ。生姜のすっとする香りが辺りに広がる。

(  `ハ´)「普通の生姜を摺ったお茶だと大してあったまる効果は無いネ。一度干して乾燥させた物だけが体を芯からあっためるお茶になるネ。」

( ^ω^)「知らなかったお。頂くお。」


ツンと生姜の辛さが来るがすぐにお腹の底からぽかぽかと熱が上がってきた。


(*^ω^)「これでいくらでも行けるお。」


ちびちびと酒→蟹→酒→生姜茶のローテーションを繰り返す至福の時。

44名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:23:02 ID:C9k.8stQ0

再び雑談に花が咲き酒が底を着き始めた頃。

( ^ω^)「そういえば、聞きたかったんだけれど、シナーさん最初僕を励ましてくれたけれど、もしかして......」

(  `ハ´)「そうアル......おいちゃんも昔はビジネスマンだったアル。」

( ^ω^)「やっぱりそうかお......その時の話を聞きたいお。」

(  `ハ´)「長くなるけれどいいアルか......?」

( ^ω^)「おねがいするお」

(  `ハ´)「......じゃあそんなに面白い話じゃ無いけど聞いてくれアル。」

45名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:24:15 ID:C9k.8stQ0
おいちゃんは大学を卒業してから営業職に就いて毎日汗水たらして働いたアル。

内藤さんと同じように早起きして夜遅くまで働いてたネ。

でも辛くはなかたアル。

自分の仕事に誇りをもてたからネ。

だけど残念ながらおいちゃんにビジネスの才能は無かったヨ。

努力をして技術を身に着けたアル。

だけれど才能と技術は別だったネ。

3年を過ぎるころには業績がどんどん落ちて行っいったアル。

周りの社員にどんどん追い抜かれて積み上げた誇りはどんどんボロボロになったアル。

あの頃は切羽詰っておいちゃんの学んだ張り付いた笑顔は凍り付いて心の中では常にイライラしてたと思うアル。

そして最後には全部投げ出して逃げるように実家に帰ったアル。

46名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:26:26 ID:C9k.8stQ0

( ^ω^)「シナーさん......」

(  `ハ´)「今で言うニートをだらだらと続けた時に、ありがちだけれど良い食材を安く仕入れて料理する笑顔があふれる店に出会ったアル。」

(  `ハ´)「そこに感銘を受けて弟子入りしたネ。そして色々あて独り立ちして師匠から『珀の心』を学びニホンに来てお店やってるアル。」

(  `ハ´)「後悔は無いわけじゃないネ。でもこの仕事を始めて良かったと思うことの方が沢山あたネ。」


沈黙が続く。


(  `ハ´)「......だから、おいちゃんは内藤さんが立派だと言たアル。リップサービスでもなく紛れもない心から出た言葉アル。」

(  `ハ´)「自分が手にできなかた才能を持てるネ。羨ましいアル。」

(  ω )「ありがとうだお......」


自分はこの人の料理をみて少なからず憎しみを抱いてしまったことをひどく後悔した。


(  ω )「シナーさん......あの.....僕......実」

(  `ハ´)「はあああああああ。まーたしんみりしちゃったアル。普段おいちゃんこういうの苦手なのにモー。」

(  `ハ´)「最後に残ったお酒蟹の殻に入れてかき混ぜて飲むアル。」

言われたとおりに最後の1滴まで注ぎかき回す。

不思議なマーブル模様が浮かぶ。

(  `ハ´)「しんみりを飲み込むアル。料理は楽しく食べるのが良いネ」

少し苦く磯臭さのある。けれど不思議と調和がとれている液体を飲み下す。

47名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:30:17 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「まだお腹空いてるアルね?」

( ^ω^)「おっ!」

(  `ハ´)「ちょと時間かかるから漬物でも食べて待ってるネ」

角切りにされた大根が黄金色に漬かっており、積み上げられた様子はまるでピラミッドの様。

ほのかな甘みとしょっぱさが癖になり、ぽりぽりと齧る。


シナーさんの言葉を心の中で反芻する。


厨房では大きな火が上がり、下手糞で陽気な歌声だけが響いていた

48>>47 訂正:2015/07/19(日) 20:33:06 ID:C9k.8stQ0
(  `ハ´)「まだお腹空いてるアルね?」

( ^ω^)「おっ!」

(  `ハ´)「ちょと時間かかるから漬物でも食べて待ってるネ」

角切りにされた大根が黄金色に漬かっており、積み上げられた様子はまるでピラミッド。

ほのかな甘みとしょっぱさが癖になり、ぽりぽりと齧る。


シナーさんの言葉を心の中で反芻する。


厨房では大きな火が上がり、下手糞で陽気な歌声だけが響いていた 。

49名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:36:32 ID:C9k.8stQ0

没入しすぎてしまった。

目の前に2つの皿が出されるところだった。

炒飯特有のあのラードと醤油の良い香り。隣の皿はニンニクが効いているのか男性が大好きな良い香り。

(  `ハ´)「松の実入りの黒炒飯とさきのアヒルの肉と空芯菜のガーリック炒めネ。多分明日休みだろうしニンニク入れちゃったヨ。」

( ^ω^)「おお!ありがとうだお!嬉しいお!炒飯色が黒いお!」

(  `ハ´)「中国のたまり醤油使てるネ。」

レンゲを使い炒飯を食べる。

色を見るにしょっぱいのかと思っていたのだが以外にもあっさりとしていてくどくない。

ぱりぱりのレタスと豚の細切れがとても良いアクセントになっている。

たまに混じる松の実の上質なピーナッツを思わせる味はこの炒飯のためだけにあるのかもしれない。

それほどこの組み合わせは抜群だった。

50名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:37:25 ID:C9k.8stQ0

( ^ω^)「次は......空芯菜?」

(  `ハ´)「アル」

ニンニクの香りが食欲をそそる。

緑の細長く丸い茎が多めの野菜は噛みしめるたびにキュッキュっと良い音を立てる。

アヒルの肉はシナーさんの言った通り旨みが抜けきりササミの様な味になっていたが、

ガーリックと唐辛子の濃い味付けにマッチしていてとても美味しい。

ダメな食材も美味しく変えてしまうこの技術にはいくら拍手しても足りないだろう。

(*^ω^)「この葉っぱも美味しいお。美味しいお!」

(  `ハ´)「空芯菜は見て分かる通り真ん中の「芯」の部分が「空」だから空芯菜なのネ。ホウレンソウよりも栄養があて食べ応えがあて安くて美味しいアルね。」

(*^ω^)「この炒飯はお昼時に長靴一杯食べたいお......空芯菜の方もガーリックのエキスが空っぽの茎に染み込んで美味しかったお。」

(  `ハ´)「昼時に長靴はいて来てくれれば要望に応えるネ。ニンニクは食べると元気出るから疲れも吹き飛ぶネ。」

ある程度お腹はいっぱいになっていたはずなのにがつがつとがっついてしまう。

51名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:38:35 ID:C9k.8stQ0

全ての料理を平らげた後。

内藤の前にさりげなく出された花茶を飲み一息ついてからお礼を言う。

( ^ω^)「お腹も心も満足だお〜。今日はありがとうだお。本当に楽しい時間を過ごさせてもらったお。お会計を......」


(  `ハ´)「あ、ちょと待つね内藤サン。」


早歩きで厨房に戻る。

(  `ハ´)「確か時期が時期だし貰た奴があると思......あ、あたあたヨ。」

何かを袋にいれちょいちょいとラッピングをする。

綺麗なラッピングが施された袋に茶色い物が3つほど入っている。

52名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:39:57 ID:C9k.8stQ0

( ^ω^)「さーたーあんだーぎー?」

(  `ハ´)「フフフ、大体同じようなもんだけれどこちのが多分先よ。黒糖は使てないけどネ。これは『開口笑』言うネ。」

( ^ω^)「かいこうしょう?」

(  `ハ´)「中国で食べられる縁起の良いお菓子ネ。揚げてるときにぱかと割れて口が開いて笑てる様に見えるから開口笑ネ。お土産にサービスヨ。」

(*^ω^)「ありがとうだお!」

(  `ハ´)「ニホンの『笑う門にはグフ来る』て言う諺あるけどだいたい同じ意味が込められたお菓子ネ。お仕事大変だろうけれど笑顔でがんばてネ。」

(;^ω^)「グフ来たらやべえお.....でもありがとう。今日はこのお店を見つけられて良かったお!」

(  `ハ´)「じゃあお会計3000円ネ」

( ^ω^)「あれ?」

(;^ω^)「えっ......そんな格安だったっけ?」

53名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:41:02 ID:C9k.8stQ0

(  `ハ´)「最初に指定された金額の食材で作たアル。何あるか?ぼたくりあるか?戦争アルか?お?」

(;^ω^)「いやいやいや、安すぎませんかお?頼んだのは自分だけれどここまで満足できる量と質だったとは。」

(  `ハ´)「気にすんなアル......まあ確かに酒とお菓子はほぼサービスだけれどそれ以外は大体適性の値段ね。此処が安いんじゃなくてほかの店がぼったくてるだけアル。満足してくれたならまた来てくれるとありがたいネ」

( ^ω^)「当たり前だお!毎週来るお!」

(  `ハ´)「フフフ、それは嬉しいアル。次は会社の同僚や昔の友達と来ると良いアル。」

(;^ω^)「予定があれば.....あ、友達とはもしかしたらくるかもしれないお。」

お題を払い席から立ち上がる。

(  `ハ´)「最後にこれ持っていくといいアル。お店の会員カードみたいなもんね。まあおいちゃんの趣味だから持てこなくても良いけれど。」

54名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:41:46 ID:C9k.8stQ0



渡された淡い青の懐紙を開いてみると小さな琥珀の欠片があった。


.

55名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:42:53 ID:C9k.8stQ0

( ^ω^)「お、これは琥珀かお?お店の名前だからだおね!綺麗だお!ありがとうだお。大切にするお。」

(  `ハ´)「そんな高い物じゃないから気にしなくてヨロシ。師匠の教えネ。」

( ^ω^)「『拍の心』だっけ?気になるお〜。」

(  `ハ´)「企業秘密だけどいっぱい来てくれたら教えるかもアル。」

( ^ω^)「XO醤も?」

(  `ハ´)「ぶち殺すぞ。ジャパニーズ。」

(;^ω^)「すまんこ。」


ガラガラガラ


( ^ω^)ノシ「また来るおー」


(  `ハ´)ノシ「再見〜」

56名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:47:12 ID:C9k.8stQ0

時刻は既に10時半を回っている。

店に入る前より幾分か落ち着いた街並みを通り駅へ向かって歩いた。

気温は10度前後だろうか。周りの人達は自分の肩を抱き寄せて歩いている。

多少の寒さはあるかもしれないが『琥珀色の料理の数々』がくれた暖かさのおかげか特に気にならない。

勿論シナーさんの暖かい言葉も原因の一つだろう。

これからの仕事はなんだか楽しんで頑張れる気がした。

57名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:47:56 ID:C9k.8stQ0


ポケットの中で携帯が震える。


( ^ω^)「おっ?」

58名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:48:48 ID:C9k.8stQ0

----------------------------------------------------
差出人  :ドクオ 
タイトル :無題:re
----------------------------------------------------
久しぶりだな内藤!連絡くれてありがとう。
元気そうで安心したわ。
こっちも忙しいけれどぼちぼちやってるよ。
お互い就職してからめっきり会う機会が減っちまったな。
今度そっちに行くから美味しいお店でも予約しといてくれよ。

----------------------------------------------------


( ^ω^)「元気そうでよかったお。」メルメル

59名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:50:43 ID:C9k.8stQ0

冬の冷たい風に吹かれ週刊誌の切れ端が空に舞い彼の顔にへばりつく。

( ^ω^)「うわっち。」ばさばさ





彼はこの雑誌の切れ端を手に取り眺めたのか。


それとも眺めなかったのかは誰も知らない。


.

60名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:52:07 ID:C9k.8stQ0


今月のパワーストーンのコーナー\(^o^)/

『琥珀』

マイナスのエネルギーを吸収してプラスのエネルギーを注入してくれる石です。

・心身ともにデトックスしたい!

・忙しく、ストレスが抜けない!

・穏やかな人間関係を築きたい!

そんな方はぜひこの石を持ちましょう!

61名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:53:08 ID:C9k.8stQ0


(  `ハ´)『珀の心』のようです    〜おわり〜

.

62名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 20:55:32 ID:C9k.8stQ0
以上です。

これのおかげで1日作業が止まってしまった......

では現行に戻ります。

みなさん飯テロ祭楽しんで。

63しまった忘れてた。〜終わりの〜後に1行:2015/07/19(日) 20:57:03 ID:C9k.8stQ0



【琥珀を贈る事は相手に「幸福を贈る」事と同義也】
                    〜拍の心〜


.

64名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:17:32 ID:bkgKpQLo0
中華料理食いたくなった…

65名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 21:31:04 ID:dcvwUmgY0
本気で美味しそう
近々彼女と四川料理食べに行くんだけどスッゴい楽しみ

66名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 23:05:44 ID:1ETcmx3c0
正統派のグルメって感じで面白かった
おつおつ

67名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 23:22:37 ID:HjfTG34k0
面白かった。グルメ物としても面白いし、人情物としても楽しめた。いろんな人が来店してシナーが悩みを解決していくストーリーとしてやっていけそうだ。そしてそれが見たい。

68名も無きAAのようです:2015/07/19(日) 23:38:04 ID:PEXIRX4s0
おつおつ
くそう腹減ってきたじゃないか

69名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 00:40:41 ID:q7p9QY860
おつおつ!
シナー最高だった・・・!心温かくなった!

70名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 01:33:07 ID:2/XMdqgQ0
いいなあちゃんとした中華食べたくなった
おつおつ

71名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 04:28:58 ID:wLdbjDOk0
おつ

心があったかくなったよ( ´ ▽ ` )
続編書いて欲しいやつ

72名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 06:29:23 ID:/3FNNEPU0
乙!自分もくたびれたリーマンだから心にくる物があったよ。年甲斐もなく少し泣いてしまった。こんな店見つけたいなあ。

73名も無きAAのようです:2015/07/20(月) 17:15:53 ID:tqfEXKQg0
乙乙乙
これ絶対トソンの征服の人の作品でしょ
面白かった

74名も無きAAのようです:2015/07/21(火) 06:23:54 ID:.fWqpjfE0
たくさんの感想ありがとうございます。
都内に店を構える友人の中国人をモチーフに書きました。
皆も行きつけの良い店を見つけられると良いですね。
現行のトソンの常に征服も頑張ります。

75名も無きAAのようです:2015/07/22(水) 05:56:20 ID:bOqldd9.0

すごく良かった
友人の中国人の店知りたいわー

76名も無きAAのようです:2015/07/24(金) 14:59:52 ID:GbRp95Es0
すごくいい!出て来た料理どれもおいしそうだったし、シナーの話は心が温かくなった。
本当によかったよ。乙です!

77名も無きAAのようです:2015/07/25(土) 14:06:03 ID:j14sIVLw0
おつ
すごく良い人情話だったし出てくる料理出てくる料理どれも旨そうだった

78名も無きAAのようです:2015/08/03(月) 11:21:06 ID:0iBNmFYg0
良かった。良い話や

79名も無きAAのようです:2015/08/05(水) 21:14:50 ID:Nwhqvl1I0
中国人って小さい「つ」発音できないんだよね。
あと語尾が強いネ。流石にアルは言わないけれどw
上手く再現出来てるし話も面白いし感動したしお腹すいた。

80名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:15:39 ID:5vL5xMqw0
投下します。

二本立てだよ。

81名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:17:56 ID:5vL5xMqw0
百物語参加作品です。

82名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:23:08 ID:5vL5xMqw0

カッとした初夏の陽射し。

アスファルトジャングルにこれでもかと乱反射を繰り返し、そこに住む生き物達をじりじりと焦がした。

その陽ざしから逃げる様に駅前の暗い路地に入ると、ひっそりと営業する小料理屋『琥珀』を見つけることができるだろう。


熱さが和らぐ夕方頃。ひぐらしの声が暗い路地にまで響く。


(,, Д )「......ここだ。」

(* ー )「......」


キィ......キィ......シャラン......


揺れる彼女からは金属の軋む音と鈴を鳴らしたような澄んだ音が響く。


ガラガラガラ


ゆっくりと店内に入り見渡すと日本人から見ると少し不気味な真っ赤な蝋燭に照らされた3つの頭。

2つは驚き言葉を失い1つはニコニコとこちらを見る異様な光景があった

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83名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:24:37 ID:WE8z2WWY0
おお、これの続編が見られるのか。見たかったんだ。

84名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:25:05 ID:5vL5xMqw0

「そうだ、今度実家で子供たちと百物語って怪談会で話すんだけれどシナーさんは何か怖い話持ってないかお?」

『琥珀』での帰り際の何気ない会話。

それが先日。

その一言を聞くと彼は何やら長いこと考え「また来週来てほしいアル」とだけ告げた。


そして今日。


彼は真っ赤な蝋燭に火をつけ燭台に乗せると、ことり......とそれをカウンターに置いた。



(  `ハ´)「おいちゃんが小さい頃の話アル。」

85名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:26:26 ID:5vL5xMqw0
  .,、
 (i,)
  |_|


『恐怖の水餃子』




.

86名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:27:35 ID:5vL5xMqw0

おいちゃんの家族は水餃子を売て生計をたててたアル。

父が皮をこねて肉を詰め、母が時間を計り茹でる。昔ながらの手作業の水餃子屋さんネ。

当時は貧乏だたから貧乏な所にしか住めなくて、さらにそこで貧乏相手に水餃子を売るから全くお金が稼げなかたヨ。

でも近所ではうちの水餃子の肉は他の店よりも美味しいと評判だたネ。

儲けが殆どでないから良い材料を買える筈が無いのに、何故だか家の水餃子の肉は美味しいと評判......

違和感はあたけどおいちゃんはまだ小さかたからそんな矛盾に気付けなかたアル。

87名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:29:05 ID:5vL5xMqw0

貧乏だったから食事は朝と夜の2食だけ。


それでも毎日父と母とおいちゃんの3人で食卓を囲んで食べるのはとても楽しかったアル。


2人はとても優しくて貧乏なんて気にならかった。

一つだけ不満だったのは水餃子屋さんの子供なのにその水餃子を食べた事が無かった事。


いくら頼んでも両親は頑なに首を横に振り水餃子を食べさせてくれなかった。

88名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:30:02 ID:5vL5xMqw0


('A`)「既に不安しかないんだけど。」もそもそもそ

( ^ω^)「絶対あかん肉やそれ。」はむはふはふ

(  `ハ´)「あ、お酒切れたネ。新しいのもて来るネ。」


すたすたと厨房の奥に消える。


('A`)「この野菜炒め美味しすぎる。」もそもそ

( ^ω^)「この野菜何?滅茶苦茶うまいカイワレみたいなやつ。」

(  `ハ´)「豆苗とマコモダケの野菜炒めネ。」

奥から冷凍庫で冷やした青島ビールを2本持ち出し良く冷えたグラスに注ぎながら言う。

(  `ハ´)「カイワレみたいなのは豆苗て言う高級食材ネ。エンドウ豆の若い葉ぱね。マコモダケは......ってモー、料理の説明よりもおいちゃんの話を聞いて欲しいネ。」

( ^ω^)「美味しすぎるのが悪いんだお。」

('A`)「ごめんね。」


ごほんと1つ咳払いの後語りを続ける。

89名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:31:22 ID:5vL5xMqw0

おいちゃんが小学校に上がると年に数回お弁当を持参する日があたアル。

普段家で昼食は食べなかたからその日母は弁当を作るのを忘れてたネ。

おいちゃんが両親の水餃子を食べたいて事もあたけれど、何より学校の友達に美味しい水餃子を食べさせてあげたかたネ。


魔が差したアル。


アルミ製のおいちゃんのお弁当箱に10個。

配達に行てる母の目を盗んで店の厨房に忍び込み、出来立ての水餃子を入れたアル。

昼の時間を楽しみにしながら登校したネ。

90名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:33:22 ID:5vL5xMqw0

あまりにも楽しみすぎて全速力したら登校途中にド派手に転んだヨ。

膝をすりむいたけれどそれよりも水餃子の事が気になてお弁当を開けて確認したアル。


驚いたネ。


10個あた筈の餃子が8個になてたアル。

でもおいちゃん子供だたから深くは考えなかたネ。



ここで気付いていればあんな恐怖を味合わなかったのに。



.

91名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:34:38 ID:5vL5xMqw0

外国語を喋りすぎたのか息継ぎのために口に水を含む。


('A`)「......そういえば気になってたんだけれどなんで今日は蝋燭なんか立ててるの?」

( ;`ハ´)「今更アルか......あれから百物語について調べたらこうやて蝋燭を付けるて書いてあたネ。」

(;^ω^)「あ、忘れてたお......これ怖い話だたのか。邪魔してごめんだお。」

(  `ハ´)「和蝋燭なんて無かたからうちの国の赤いの使たネ。でもこの蝋燭て旧正月のイメージだからなんか変な感じアル。」

92名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:36:36 ID:5vL5xMqw0

学校に着くと早速友達に昼食で最高に美味しい水餃子を食べさせてあげると言いふらしたネ。

授業が始まても水餃子が気になて仕方がなかたアル。

まだ9時前なのにまだかまだかと弁当箱をちらちら見てたネ。

誰かに盗まれていないかと心配になて開けてみるとまた餃子が減ていたアル。

6個。

流石のおいちゃんも分かたネ。



何か恐ろしい事が起きている。

誰が盗んでるわけじゃないとしたら水餃子が勝手に動いているのだ。

93名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:37:32 ID:5vL5xMqw0

勝手に消える水餃子はとても怖かたネ。

机の中を探しても床に這いつくばて探しても見当たら無かたアル

見間違いじゃなかたヨ


確かめる様にもう一度開ける。


4個。


おいちゃんもうこの時点で泣きそうだたネ。

怖かたこともあるけど両親の水餃子が食べられなくなることが悲しかたネ。

94名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:38:26 ID:5vL5xMqw0


もうすぐ昼の時間。


休み時間はいつもなら外で遊ぶのに今日は教室の中で弁当箱を見つめていたネ。

仲の良い友達にあげる分と自分の食べる分くらいは残てて欲しかたヨ。


それは突然の出来事だったアル。


ぐちゃり.......


小さな音だったが確かに聞こえた。


肉が蠢くような音が。


驚き体が動かない。







子供特有の好奇心からかすぐに手を伸ばしてゆっくりと蓋を開ける。

95名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:39:29 ID:5vL5xMqw0



やっぱり無くなっている。



2個。



これ以上減らないようにすぐに蓋をしめた。

友達に上げる分すら無くなってしまった。

後で謝ろう。

次に餃子を食べることができるチャンスはいつだろうか。


1つだけでも食べたい。


1つだけ......


弁当箱の中で起こっている異変には気付けるはずもなかった。

96名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:40:53 ID:5vL5xMqw0


待ちに待った昼食の時間。


誰よりも早く弁当箱を開ける。





0個




酷く落胆した。


自分の食べる分さえ無くなっていた。

97名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:42:00 ID:5vL5xMqw0

次食べる機会が訪れるのは何時だろうか……

でもこれ以上恐怖は起こらない。どこか安堵感もあった。

うな垂れたまま弁当箱をしまうために蓋をして持ち上げる。



が気がついてしまった。

98名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:42:50 ID:5vL5xMqw0




重い。



.

99名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:43:33 ID:5vL5xMqw0


アルミの弁当箱にしては重すぎる。


中に何かがいる。


驚き床に落としそうになるが持ちこたえる。


そして未知のものに刺激を与えないようにゆっくりと机に置きなおした。


恐る恐る上蓋を持ち上げアルミの弁当箱の中を覗く


やはり何もいない。


弁当箱の中身は空。


何だ一体何が……


違和感を感じる。


弁当箱が重いわけではない。


蓋を開けた腕がとても重い


重いのは腕の先。

100名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:44:52 ID:QbRPzEA60
おいまさか・・・

101名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:44:58 ID:5vL5xMqw0




そう、上蓋が異様に重いのだ。





上蓋を恐る恐るひっくり返す。




心臓が止まりそうになった。

102名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:45:44 ID:5vL5xMqw0


そこには


蓋の裏に


びっしりと


張り付いた

103名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:46:26 ID:5vL5xMqw0





10個の水餃子があった......





.

104名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:47:12 ID:5vL5xMqw0

  (
   )
  i  フッ
  |_|

105名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:47:51 ID:WE8z2WWY0
フッ

じゃねえよwwwwwwギャグじゃねえかwwww

106名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:47:52 ID:mrEfIoJA0
なんだギャグか

107名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:48:31 ID:QbRPzEA60
何がフッだwwww

108名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:48:46 ID:cRcSEBvoO

おいオチ!!!って、リアルに叫んだわ

109名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:49:58 ID:5vL5xMqw0
1本目は以上です。

2本目はまじめにやるから許して。

訂正

>>91

×( ;`ハ´)「今更アルか......あれから百物語について調べたらこうやて蝋燭を付けるて書いてあたネ。」

○( ;`ハ´)「今更アルか......あれから百物語について調べたらこうやて蝋燭を点けるて書いてあたネ。」

110名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:50:49 ID:xsDjgfog0

くっそ、やられたww

111名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:52:05 ID:5vL5xMqw0
2本終わったら本スレにまとめて報告します。


以下幕間

112名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:52:54 ID:5vL5xMqw0


(  `ハ´)「終わりアル。」


( ^ω^)「......」

(゚A゚)「......」


( `ハ´)「......終わりアル。」

113名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:53:36 ID:5vL5xMqw0

(#^ω^)「ギャグじゃねえかああああああああ!!!」

(゚A゚)「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」プルプルプル

(#^ω^)「目を覚ませドクおおおおおおおお全く怖くねえおおおおおおお!!!」バシッバシッバシッ


(゚A゚)ガクガクガクガク


(  `ハ´)「でも水餃子......」

(#^ω^)「餃子はいらんおおおおおおおおお」


pipipipipipipipi


ブーンの叫びを裂くように厨房からアラームが鳴る。

114名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:55:02 ID:5vL5xMqw0


(  `ハ´)「餃子蒸しあがたアル。あ、内藤さん餃子はいらないネ......残念アル。」

(#^ω^)「すんませんでしたああああああああああ!!!!」

(゚A゚)「シナーさんの手こねの皮めちゃくちゃおいしいんですううううううう!!!」

(#^ω^)「小籠包もおいしいんですううううううううう!!!!」



小料理屋『琥珀』は今日も常連客と共に賑わう。

115名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:56:00 ID:5vL5xMqw0
1話、1本目終わり。

2本目行きます。

116名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:56:57 ID:5vL5xMqw0


恐怖?の水餃子を聞き終え、残りのコース料理を全て平らげた後。



( ´ω`)「は〜今日も美味しかったお。」

(  `ハ´)「ありがとアル。」

('A`)「お酒結構飲んだね。大丈夫?」

( ´ω`)「余裕余裕。そういえばシナーさんの国には幽霊とか妖怪とかいないのかお?」


(  `ハ´)「中国の幽霊は子どもを驚かせるための迷信みたいなもんアル。大人になてからは全く聞かないネ......」

('A`)「妖怪は?」

(  `ハ´)「基本的に中国には妖怪はいないアルね。」

('A`)「そうなの?日本みたいに沢山いるのかと思った。」

(  `ハ´)「龍とかの幻獣は聞くけれど妖怪とは違うネ。あ、妖怪はいないけどキョンシーは有名ネ。」

( ^ω^)「あれは......妖怪?ゾンビ?」

('A`)「人間が作ったから妖怪ではないのかな?」

(  `ハ´)「おいちゃんはそこらへんよーわからんネ。日本には幽霊も妖怪もいて想像力豊かな国ネ。」

(;^ω^)「神様も八百万柱いるからね......」

(  `ハ´)「おいちゃんの国はそんな幽霊とかよりも人間の方が怖いネ。」

117名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:58:52 ID:5vL5xMqw0

貧しい地区ご飯を食べられず餓死なんて当たり前。

生きるために必死に物を盗む子供もいる。

1日の食費を稼ぐために人を殺す人もいた。

と、顔に影を落とし続けた。


(  `ハ´)「ま、そんなこと言てもそん時おいちゃんは子供だたからネ。」

( ^ω^)「おうふ.......」

(  `ハ´)「それはそうともう一つとておきの怪談話があるネ。幽霊なんかは出ないけれどけこう怖いと思うアル。」

( ^ω^)「楽しみだおー。」

('A`)「今度はちゃんとしたやつか。」

(  `ハ´)「あれ、いつも間にか蝋燭消えちゃてるネ。風も無いのに不思議アル。」

118名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 00:59:39 ID:5vL5xMqw0



(  `ハ´)「おいちゃんの友人の話アル。」


雰囲気を出すために声色を低くし再び蝋燭に火を灯す。

119名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:01:17 ID:5vL5xMqw0

  .,、
 (i,)
  |_|

『達磨女』

120名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:02:07 ID:5vL5xMqw0


新婚の夫婦がいた。


女は整った顔立ちをしていた。物静で優雅な振る舞いが絵になっていた。

だが笑った時の人懐っこい笑顔はまるどあどけなさが残る子供のようだった。


彼女は優しい目をしていた中国人。



男は身長が高くがっちりとした筋肉質の体型。

現職の消防士であり日々の鍛錬は欠かさなかった。


彼は顔は強面だがとても心優しい日本人。

121名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:03:35 ID:5vL5xMqw0

2人の出会いは中国本土。

彼が旅行先で持ち前の経験を活かして彼女を村の火災から助け出したのが始まりだ。


それは彼の仕事が忙しく遅れてしまった新婚旅行で中国に行った時の話。




夏のむしむしした夕方の繁華街を彼女を前にして彼は歩く。


(*゚ー゚)「久しぶりの里帰りだけれど......故郷も家族も友達もいないから特に行きたい場所も無いわね。」

(,,゚Д゚)「まあまあ、俺が君の故郷をもっと知りたいって我儘に付き合ってくれ。」


むすっとする彼女の頭に手を置いてなだめる。


(,,゚Д゚)「あと中華料理なんて友人の店でしか食べたこと無いし是非本場の味を食べたいんだ。」

(*゚ー゚)「もう。貴方ったらそればっかりね。」


シャラン......


彼女が振り向くと耳につけた銀の多重リングのピアスが鈴のような澄んだ音を奏でた。

122名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:05:07 ID:5vL5xMqw0


たくさんの屋台を横目にどこか落ち着ける店を探す。


(,,゚Д゚)「何か食べたいものはあるか?」

(*゚ー゚)「ふふ、なんでもいいわよ。」

(,,゚Д゚)「うーむ.......」


ぶつぶつとああでもないこうでもないと一人唸る優柔不断を見かねた彼女が一言。


(*゚ー゚)「......甘いもの食べれるところが良いわ。」

(,,゚Д゚)「ずいぶんと可愛らしい要望だな。」

(#゚ー゚)「もう!あなたが決めるのが遅いからアドバイスしたのよ。」


彼女は怒って必死に手を伸ばすが、1歩離れるだけでそれは届かない。


ぷりぷりと怒る彼女に合わせシャランシャランとピアスが揺れる。


表情豊かな彼女にとても似合っているピアスだ。


プレゼントしてよかった。


なんとか許してもらい再び歩き出すと、急に後ろから日本語の女性の声が聞こえる。

123名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:06:20 ID:5vL5xMqw0



川д川「あなた。達磨好きか?」


.

124名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:07:13 ID:5vL5xMqw0


うつむいて表情が窺えない和服姿。


どこか浮世絵離れしている女性がいた。


一瞬訝しげに見たがうきうき気分の新婚旅行で深くは考えなかった。


(,,゚Д゚)「ん?だるま?」


少し下を向き言葉の意味を考える。


(,,゚Д゚)「だるま......ダルマ.......ああ、達磨か。好きだが......ん?」


目をこする。


(,,゚Д゚)「んんん?」


女性の姿は既に無かった。


(*゚ー゚)「どうしたの、あなた?」

(,,゚Д゚)「いや、すまない。腹減ったし早く店に入ろう。」


中国には変な人もいるんだな。



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125名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:09:09 ID:5vL5xMqw0

なかなか雰囲気の良い北京ダックの店を出て満足気に繁華街を歩く。


(,,゚Д゚)「本場の料理も美味しいが、やっぱり友人の店の方が美味しいしサービスも良いなあ。」


食後の杏仁豆腐には彼女も満足してくれたようだ。日本のコンビニに売っている物とは別物だった。


(*゚ー゚)「中国の人は冷たいと言うけれど確かに他人には冷たいわね。」

(,,゚Д゚)「ん?」

(*゚ー゚)「でも日本はサービスが仕事の一つだけれど本心で笑顔で他人にサービスしたいなんて人はいないでしょ。ましてや繁華街の安い賃金のアルバイトでね。」

(;゚Д゚)「あっ......」

(*゚ー゚)「中国にはサービスが給料に含まれて無いだけ。もちろん沢山給料が貰える高い店に行けば日本並みのサービスは受けられるわよ。」


どうやら何らかの地雷を踏み抜いてしまったらしい。


(*゚ー゚)「中国人は自国を含め国籍問わず初めて会う人には冷たいけれど、仲良くなるとガラリと変わって友達のために何でもするようになるほど深い関係築けるのよ。」


饒舌をふるう彼女だが何度か聞いたことある話なのでテキトーに相槌を打つ。


(*゚ー゚)「私達からしたら日本の『建前』って文化は信じられないわ。なんで知らない人に気を使わなきゃいけないのよ。だいたい日本の女性達の友情なんかは......」


彼女は彼の前にいるため話を全く聞いていない事には気が付かない。

126名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:10:03 ID:5vL5xMqw0


彼女は彼にまくしたてる様に散々喋った後。


「中国人は良くも悪くも正直なのよ?」


最後にそう締めくった。


(,,゚Д゚)「......さいですか。」

(*゚ー゚)「さいですわよ!」


何故かその小さな胸を張った。


(,,゚Д゚)「ジャパニーズタテマエね、確かに煩わしいと感じることが何度もあるな。でもあの店は本当に良い店だ。中国人のマスターも良い人だしな。」

(*゚ー゚)「あなたがそう言うなんてよっぽどなのね。」

(,,゚Д゚)「国に帰ったら連れて行く。」

127名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:10:44 ID:5vL5xMqw0


ぎゅるるるるる。


じわりじわりと嫌な汗が流れる。


(;゚Д゚)「うっ......」


先ほどの店で食べ過ぎたのか急に腹痛が起こる。


(;゚Д゚)「すまんちょっとそこの信号のところで待っててくれないか?」

(*゚ー゚)「えっ?」

(; Д )「......トイレ......すぐ戻るから。」

(*゚ー゚)「はいはい行ってらっしゃい。」

(; Д )「気を付けるんだぞ......知らない人についていっちゃ......」

(*゚ー゚)「はよいけ。」


よろよろとトイレへ行く彼を見送る。


(*゚ー゚)「はぁ......顔と性格が全く合ってないわね......」

128名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:11:47 ID:5vL5xMqw0


















.

129名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:12:34 ID:5vL5xMqw0
























川゚д川



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

130名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:13:33 ID:WE8z2WWY0
ヒェッ……

131名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:14:07 ID:5vL5xMqw0


(,,゚Д゚)「......」スッキリ


急ぎ足で戻る


(,,゚Д゚)「おーい!もどったぞー。どこだー。」


待ち合わせ場所には誰もいない。


(;゚Д゚)「あ......れ?」


先ほどとは違い今度は滝の様な汗がどっと流れる


(;゚Д゚)「ど......ど、ど、どどこだあああああああああああああああああああああ!!!!」


通路の人たちが驚き一斉にこちらを向く。


(;゚Д゚)「しいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


待ち合わせ場所の信号付近にいる人に片言の英語で話しかける。


(;゚Д゚)『あの、ここらへん、小さな女性、見ませんでしたか?』


特徴があってわかりやすい彼女だ。誰かしら見ているはずだ。


しかし


<丶;`∀´>「アイゴオオオオオオオオmkfdsafiaop@mg9io0^aamfopa!!!!!jgioas!!!」


話しかけた人全員が必死な形相の彼を怖がって逃げていく。

生まれて初めて強面に生まれた事を後悔した。

132名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:15:16 ID:5vL5xMqw0


恥を捨て大声で叫びながら彼女を探した。

この広い人混みの中で見失ったら再び見つけるのはとても困難だろう。

叫び続けるが暫く経つと周りの人の関心は薄れたようで、ちらちらと振り向く程度になった。

自分が繁華街の日常に飲み込まれていく感覚を覚えた。

彼女の言う通りやはり中国人は他人にはとても冷たいのだろう。


(; Д )「あ......ああ......」


だめだ。落ち着け俺......ツーリスト・ポリスは中国には無かったはず。まずは警察に走ろう。


息をつくことも忘れて走る。


転がるように警察署に飛び込むと幸い日本語がわかる警察官に出会えた。


藁にもすがる思いだった。


お役所仕事の様な雑な対応にイラッとしたがこれで一先ずは捜索願いは出せた。

133名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:16:26 ID:5vL5xMqw0


ふらふらとホテルに戻る。あたりはすっかりと暗くなっていてどう帰ったのかも覚えていない。


直ぐに自国の消防署に連絡し訳を話すと休みの延長を貰うことができた。


幸い普段の仕事ぶりを上司が知っていてくれてよかった。


それからの1週間はあっという間だった。


食べることも寝ることも最小限にし繁華街を歩き回りPCで誘拐記事を調べる毎日。


顔はやつれ無精ひげは生え放題。鏡を見ると一気に10歳は老けこんだのではないかと思う。


中国は何か月もビザなしで滞在できた筈だ。


しかし残念なが俺には生活がある。戻ってきたときに職が無いなんて聞いたら彼女が悲しむだろう。


次の週。歯を食いしばりながら帰国した。

134名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:18:02 ID:5vL5xMqw0

中国警察には大使館を通しすぐに連絡をしてもらうように言ってある。

帰国してからマスコミに質問責めにされる事態が起こったが報道してもらって目撃証言を集められるのは幸いだった。

世間ではちょっとした有名人だ。



1ヶ月後再び1週間の休みを取ることができた。

この1ヶ月は仕事が手に付かず気が気では無かった。

彼女には両親や友達はいない。故郷も既に焼き払われた。

いなくなっても心配するのは自分だけだ。


自分......1人だけ......


踏み出すのに時間がかかってしまった。

中国警察からの連絡は無し。

捜索してくれているのかも怪しい。

休めるのはこれが最後だろう。これ以上続けるとクビになってしまうかもしれない。

それでも構わない。彼女がいなければ仕事なんてする意味がない。

以前と同じホテルへチェックインし、中国語で書かれた捜索願いのビラを両手に繁華街へと繰り出した。

135名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:18:46 ID:5vL5xMqw0


受け取ってもらうのは簡単だった。そりゃ数年分の給料を報酬としてかけているんだから当たり前だ。


3日間繰り返すが全く情報は入って来なかった。


あの日待ち合わせた信号の前でうなだれる。


(; Д )「俺の......大切な人なんだ......頼む......無事でいてくれよ......」


どれくらいそうしていただろうか。

136名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:19:26 ID:5vL5xMqw0



川д川「あなた。達磨好きか?」



.

137名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:20:20 ID:5vL5xMqw0


突如声をかけられた。


見上げると浮世絵離れ離れした和服を着た髪の長い女性。


いや、声をかけられたと言うよりもただ目の前に立ち誰にでもなく話しかけている様に感じられた。


(;゚Д゚)「きっ、君は!あの時もいた......」


かすかな希望をもち立ち上がる。


川д川「......」

(;゚Д゚)「なあ!!!あの時もいた子だろう?」

川д川「......」

(;゚Д゚)「俺の彼女がここの信号の近くで誘拐されたんだ、何か知らないか?」

川д川「......」


無言。

138名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:21:05 ID:5vL5xMqw0

(;゚Д゚)「......聞いているのか?」

川д川「あなた。達磨好きか?」


うつむき表情は窺えない。


(;゚Д゚)「おい!聞いてくれよ。もう頼るあてが無いんだ!」

川д川「あなた。達磨好きか?」


俺を無視して淡々と呟く女性にイラつき声が大きくなる。


(#゚Д゚)「ああ、俺は達磨は好きだ!だから彼女に心当たりが無いか教えてくれ!見ればすぐに分かるはずだ。だって彼女は......」

139名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:22:06 ID:5vL5xMqw0




川゚д川「付いてきて......」




.

140名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:23:13 ID:5vL5xMqw0


急に踵を返し人ごみをすり抜けるようにスルスルと移動を始める。


(;゚Д゚)「お、おい!」


見失わない様に人にぶつかりながら追いかける。


いつの間にかいかにも治安が悪そうな暗い裏路地に差し掛かる。


(,,゚Д゚)「何処へ行ったんだ......」


見失ってしまった。


(#゚Д゚)「糞っっ!!!!」

裏路地の出口を探そうとあたりを見渡す。

途端、視界の端に奇妙な建物が映る。

141名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:24:09 ID:5vL5xMqw0


中華式のロールケーキの様な瓦屋根が錆びついていて汚らしい。


嫌味なほど紅と金の装飾が施されているぎらぎらとした館の様な建物。


『達磨館』


看板にはそう書いてあった。


気味が悪い。


率直な感想だった。

だが日本を感じられる建物に惹かれゆっくりと彼は吸い寄せられる。

何か手がかりがあるかも知れない。

まともに言葉が通じる人がいるかもしれない。


淡い希望を抱く。


暖簾をくぐると異質な光景が広がっていた。

142名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:25:21 ID:5vL5xMqw0


日本のものと思われる達磨がずらっと並べられており店員らしき人物はいない。


恐る恐る奥へ進むと達磨が敷き詰められた壁以外に幾つか檻がはめ込まれている。


「うう......」


「うぅ......ぐ」


中からは呻き声の様なものが聞こえる。


檻の中の一つを覗く。何も入っていないと思ったが部屋の隅に肌色の肉塊が転がっていた。


(;゚Д゚)「ッッッ!?!?!?!?!?」


焼けて爛れて赤黒くなった顔。目が開けないほと癒着しているのだろう。

手足は付いておらず腕と足の付け根には汚らしい包帯が雑に巻きつけられていた。

衣服は身につけておらず毛は伸び放題。

どのくらい此処にいるのだろう。

体つきからみて30代の男性だろうか。


(;゚Д゚)「見世物小屋......」


そんな言葉が頭自然と漏れる。


気持ち悪くなり目を反らす。


他の檻にも同じ様に小さな肉塊が閉じ込められているだろうか?

143名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:26:20 ID:5vL5xMqw0


くらっと目眩がし、隣の檻へ手をかけ倒れそうになるのを堪える。


顔をあげると先ほどよりも髪の長い肉塊が部屋の隅で震えているのか目に入った。


やはり同じ様に手足が根元から切り取られ包帯が巻かれていた。


まだ新しいのか巻きつけられている包帯はまだ綺麗だ。

これは女性だろうか。


「う......うぐぐ、ぐがだずげぐごでがが」


檻の中の女が口を開く。


見えてしまった。

144名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:27:06 ID:5vL5xMqw0


口の中にあるべきものがない。


舌と半分ほど切り取られているのかうまく喋れていないようだった。

歯もいくつか抜かれている。


ズル……ズル......と肉の擦れる音を立ててこちらに近づく。


(; Д )「惨すぎる......」


もう限界だ。

他の檻なんて見る気も起きない。

早くここを出て彼女を探しに戻ろう。

こんなものを見るために中国に来たんじゃない

俺は何も見なかった。

すぐにでも離れたかった。


振り向きふらふらと檻を後にする。

145名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:28:17 ID:5vL5xMqw0


どさっ......


後ろの肉塊が倒れたのであろうか。


そんな音を無視して振り向かずに離れようとした。

146名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:29:01 ID:5vL5xMqw0







倒れる音の後に今、この瞬間。



世界で1番聞きたくない音が聞こえてしまった。

147名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:29:42 ID:5vL5xMqw0




シャラン



.

148名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:30:32 ID:5vL5xMqw0


大好きな音が聞こえてしまった。


絶望に染まっていく顔で彼はゆっくりと振り向く。


心臓がうるさいほど激しく胸を内側から叩く。


焦点が定まらない。

149名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:31:13 ID:5vL5xMqw0


ズル......ズル......


シャラン


ゆっくりとこちらに近寄って来ている。

150名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:32:06 ID:5vL5xMqw0


「うぐ、うう......」


ズル……ズル……


シャラン


金縛りにあったかのように目が離せない。

151名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:33:40 ID:5vL5xMqw0


ズル......ズル......


シャラン


「うぐ、ぐぐ.......」


次第に音が大きくなる。

152名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:34:15 ID:mrEfIoJA0
うへぇ…

153名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:34:21 ID:5vL5xMqw0


ズル......ズル......


「......ど......ぐ」


シャラン


(; Д )「違う......」


死にかけの芋虫の様な動きが次第に早くなる

154名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:35:02 ID:5vL5xMqw0


ズル......ズル……


「や............うぐ」


シャラン


(; Д )「そんな訳は無い。」


あるはずが無い。

155名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:35:42 ID:5vL5xMqw0


ズル......ズル......


「やっど......」


シャラン



(; Д )「やめろ!こっちに来るな!」




お願いだ......やめてくれ......

156名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:36:22 ID:WE8z2WWY0
まじか、、、

157名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:36:41 ID:5vL5xMqw0





ガシャン!!!!!

158名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:37:32 ID:5vL5xMqw0


突然の大きな音に驚き現実に引き戻される。


目の前には檻に倒れかかった達磨の様な女性がいた。


目が......合ってしまった。

159名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:39:17 ID:5vL5xMqw0


女は整った顔立ちをしていた。物静で優雅な振る舞いが絵になっていた。

顔は傷だらけで見るに堪えない。ぱたぱたと感情に合わせて動く手足は既に切り取られ可愛らしい動きは二度とできない。


だが笑った時の人懐っこい笑顔はまるどあどけなさが残る子供のようだった。

彼女は笑っているがうまく笑う事が出来ないのかニタニタと気味悪く笑う。引き抜かれた下の歯の隙間からだらだらと子供の様にヨダレを垂らしている。


彼女は優しい目をしていた中国人。

その目の片方はくり抜かれ優しさなんて言葉とは遠い所にいる。まるで目を書き込む前の達磨の様だ。




「やっど......やっど......」

160名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:39:57 ID:5vL5xMqw0







(メ*”ー゚)「やっどむがえにぎでぐれたあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」





.

161名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:40:37 ID:5vL5xMqw0


ガシャンガシャンとぶつかり檻を揺らす。


檻に噛みつき嬉しそうに歪む。


(メ*”ー゚)「ああああああいだがっだああああああああああああああ!!!!」



嗚呼......夢なら覚めてくれ。



目が覚めたらきっとまた2人で......

162名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:41:42 ID:5vL5xMqw0





「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」





泣いている様な......喜んでいる様な......彼女の声が耳から離れなかった。

163名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:42:22 ID:5vL5xMqw0


その男性は壊れてしまった彼女を車椅子に乗せ一緒に今も裏路地を彷徨っていると聞く。


丁度この店の外の様な暗い路地を。


彼女を壊した犯人を見つけるために。

164名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:43:03 ID:5vL5xMqw0

  (
   )
  i  フッ
  |_|

165名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:45:03 ID:5vL5xMqw0
2本目は以上です。

申し訳ない......グロ注意って書くの忘れてしまった......

この後ちょっとエピローグがあって終わりです。

訂正

>>150


×ズル……ズル……


○ズル......ズル......

166名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:46:23 ID:WE8z2WWY0
一話目と二話目の格差にやられて心臓が死んだ。

167名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:47:35 ID:5vL5xMqw0

( ; ゚ω゚)「......」ガタガタガタガタ

(  `ハ´)「ふふふふふふ。」

(;^ω^)「あれ?ドクオ?」

('A‘)「」

(;^ω^)「し......死んでる!」

(  `ハ´)「ふふふふ、モデルはおいちゃんの友達だけど話は都市伝説をアレンジした作り話ヨ。どうだたアル?」

(;^ω^)「さ、酒が抜け切るほど怖かったお。作り話でよかった。」ブルルッ

(  `ハ´)「ふふふふふふ。こわかたアル?ねえこわかったアル?」

(;^ω^)「ええい、うっとおしいお。あとドクオいい加減起きろ。」パチコーン

('A`)「いてえ。」

(  `ハ´)「でも都市伝説ていうくらいだから何処かで起こてるのかもしれないネ。」

( ^ω^)「誘拐して達磨の様に手足を切り取る?恐ろしいお。」

168名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:48:51 ID:5vL5xMqw0

(  `ハ´)「これはおいちゃんの作り話だけれど、実は話の中に一つだけ本当の事がアルネ。」

(;^ω^)「なななんだお?怖いお?」

(  `ハ´)「ふふふ、内緒アル。今日は驚かせてごめんアルヨ。」

('A`)「最初の話があれだったせいで気軽に身構えてたから死にかけた。」

( ^ω^)「確かに。」

(  `ハ´)「お詫びにデザートつけちゃうから食べててね。」

(*^ω^)「おっおっお。今日はなんだお?」

(  `ハ´)「自家製の杏仁豆腐ネ。」

(*'A`)「おお、美味しそう!」

(  `ハ´)「本場中国の杏仁豆腐は日本のとは違って......」



----------------

--------------------------

-------------------------------------

------------------------------------------------------

-----------------------------------------------------------------

169名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:49:47 ID:5vL5xMqw0

( ^ω^)「美味しかったおー。」

('A`)「お腹いっぱいだ。」

(  `ハ´)「ふふふ、いつもありがとうね。美味しそうに食べてくれるとおいちゃんも嬉しいアル。」

( ^ω^)「シナーさんの料理ならいくらでも食べられるお。」

(*`ハ´)「褒めても今日はもう出せるサービスは無いネ。」


ガラガラガラ


(  `ハ´)「お、いらっしゃいませアル。」スタスタスタ




( ^ω^)「そういえば今日はお客さん僕らだけだったおね。」

('A`)「ね。」

170名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:50:46 ID:5vL5xMqw0


2人で話し始めた瞬間。


どこかで聞いたことがあるような鈴を鳴した様な音が店内に響く。


シャラン......シャラン......


( ^ω^)!?

('A`)!?


その男性は壊れてしまった彼女を車椅子に乗せ一緒に今も裏路地を彷徨っていると聞く。

171名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:51:46 ID:5vL5xMqw0


2人は振り向き直ぐに硬直した。


シャラン......シャラン......


丁度この店の外の様な暗い路地を。


( ; ゚ω゚)!?

(;゚A゚) !?


キィ......キィ.......


(,, Д )「......」

(* ー )「......」


シャラン......


車椅子を押す大きな強面の男性とそれに乗った小柄な女性。




彼女を壊した犯人を見つけるために。

172名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:53:53 ID:5vL5xMqw0


( ; ゚ω゚)「ぬおおおおおおおおおお!!!いやだおおおおおおお!!!!」


(;゚A゚) 「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!」


どたどたと腰を抜かしかけた情けない走りで2人は走り去った。


(;゚Д゚)「なっ、何だ何だ?」

(*゚ー゚)「あなたの顔が怖かったんじゃないの?」


彼女は振り向きその手で彼の頬を抓る。


( ;`ハ´)「アイヤー......」

(,,゚Д゚   )「ひょんなにこわかっひゃかおれのかお?」

(  `ハ´)「達磨女の話して怖がらせちゃったからアル。」

173名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:55:23 ID:5vL5xMqw0

(,,゚Д゚)「達磨女......ああ前話してくれたやつか.....でもそれ大の大人が逃げ出すほどの話じゃないだろう。」

(  `ハ´)「いやあ、まあ。登場人物が目の前にいる強面の男性じゃなきゃそうアルね。」

(,,゚Д゚)「......」

(*゚ー゚)「......」

(,,゚Д゚)「貴様......」

(  `ハ´)「?」

(#゚Д゚)「まああああたやりやがったなああああああああああああああああ!!!!」

(;`ハ´)「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!」

(*゚ー゚)「面白い人たちね。」


(  `ハ´)「おお、あなたがしぃさんネ。驚かせてごめんないネ。食後のデザートの杏仁豆腐サービスするから許してアル。」

(*゚ー゚)「まあ嬉しい。杏仁豆腐は大好物よ。」

(#゚Д゚)「俺の話を聞けえええええええええええええ!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

174名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:57:22 ID:5vL5xMqw0


コース料理と杏仁豆腐が終わりマスターとの雑談に花が咲く頃。


(,,-Д-)「ぬごー......すごー......」

(;゚ー゚)「あなた......お酒弱かったのね......」

(  `ハ´)「あら、寝ちゃったネ。ダメな人アル。」

(*゚ー゚)『ふふ、そんなことないわよ。こんなのでも悪しき風習から解き放ってくれた大切な人なんだから。』

聞きなれた母国語が聞こえる。

(  `ハ´)『彼から聞きましたがまだ残っていたんですね......』

(*゚ー゚)『ええ。でも今はこの人に出会えたからその風習があってよかったって思ってるのよ。』

(  `ハ´)『あなたは強い人ですね......』

(*゚ー゚)『そんなこと無いわよ。おかげでこうやって一緒にいてくれるんだからね。』


彼女は人間にしてはとてもちいさな足の先をぱたぱたと動かし照れるように笑った。


シャラン......

175名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:58:20 ID:5vL5xMqw0

(*゚ー゚)「ほらあなた。起きて。そろそろ帰るわよ。」

(,,-Д-)「うぐ......おう......」

(*゚ー゚)「もう、私を手放したら承知しないからね。」

(  `ハ´)「また来て欲しいアル。」

(*゚ー゚)「とても良い雰囲気だし料理も美味しかったから是非また来たいわ。」

(  `ハ´)「ありがとうアル。最後においちゃんの店の会員カード代わりの物を受け取って欲しいアル。」

(*゚ー゚)「何かしら......あっ!!」

渡された淡い青の懐紙を開いてみると小さな琥珀があった。

176名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 01:59:10 ID:5vL5xMqw0

(*゚ー゚)『あらあら、私は琥珀なんか無くても彼にたくさんの幸せをもらってるわよ。』

(  `ハ´)「失礼したネ。でも幸せなんていくらあっても損は無いネ。だからおいちゃんのお節介だと思って受け取って欲しいアル。」

(*゚ー゚)「ふふふ、それなら仕方ないわね。頂くわ。」

(,,-Д゚)「ん?今なんて言ったんだ?」

(*゚ー゚)「内緒よ。」

(  `ハ´)ノシ「再見」

(*゚ー゚)ノシ「再見」

(,,゚Д゚)「また来るよ。」




(  `ハ´)ノシ「......」ジー

(*゚ー゚)ノシ「......」ジー


(,,゚Д゚)ノシ「ざ、再見」


(*゚ー゚)「うむ。」


ガラガラガラ

177名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:00:10 ID:5vL5xMqw0



(  `ハ´)「......人間の考えることはどこまでも恐ろしい。でもそれを乗り越えた人たちは本当に強く輝いて見える......彼女に幸せが訪れますように......アル」



.

178名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:01:02 ID:5vL5xMqw0


(  `ハ´)『珀の心』のようです


百物語編 1話、2話。 〜おわり〜

179名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:06:09 ID:atEYZf3.0
纏足だっけ
慣習って側からみたらわけわからんこと多いよな

180名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:06:49 ID:atEYZf3.0
あ、乙!

181名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:11:57 ID:5vL5xMqw0
補足。

しぃの脚は中国の纏足*というとうの昔に風化したはずの風習によって小さく捩れています。
本当はこの後に

中国の山奥の村に訪れた女性を無差別に足先を削ぐ狂気の村。その村で産まれたしぃをギコが救い出す

という話があったのですが長くなってしまいしかもホラーじゃなくなったので没にしました。


それをあえてぼかすために達磨女の話しではしぃが車椅子に乗っていることはなるべく触れない感じに濁していました。

わかりにくくなってしまいすみません。

*幼児期より足に布を巻かせ、足が大きくならないようにするという、かつて中国で女性に対して行われていた風習。

182名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:13:45 ID:mrEfIoJA0


183名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:24:38 ID:WE8z2WWY0
お疲れ様。とても面白かった。
相変わらず綺麗に話をまとめるのが凄いなあ。


一つだけの真実って火災から助けたことであってる?

184名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 02:27:03 ID:5vL5xMqw0
>>180 
あ、補足に書き忘れました。

その通りです。そこから次の話に繋げるつもりでした。

185名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 03:56:26 ID:GLCDaCbo0
乙!面白かった

186名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 07:33:23 ID:QbRPzEA60
怖かったしきれいにまとめられてあるしでとても面白かった!乙!

187名も無きAAのようです:2015/08/09(日) 23:47:48 ID:BgezUn3I0
心温まるお話でホッコリすると思ったらくだらないギャグで笑かしてくれたり怖い話で怖がらしてくれたりでとても楽しめました!支援!
http://vippic.mine.nu/up/img/vp154416.jpg(擬人化注意)
( `ハ´)( ^ω^)('A`)(,,゚Д゚)(*゚ー゚)

188名も無きAAのようです:2015/08/10(月) 05:58:33 ID:adAT7R6M0
支援絵すげえ!
確かに餃子は途中から標準語に戻って急に怖くなってからのあれだからかなり笑った。
面白かった乙

189名も無きAAのようです:2015/08/10(月) 09:57:10 ID:rS/htwnM0
>>186
おいちゃんカッケーw

190名も無きAAのようです:2015/08/10(月) 13:30:51 ID:Pi4HNnG.0
水餃子で油断した…水餃子で油断したんだよ…
エピローグあってよかった!昼間に読んでよかったよおおお!
夜だったら確実に眠れなくなってたわ…


>>187 すげえ!!これは最高の支援絵だ

191名も無きAAのようです:2015/08/10(月) 15:22:41 ID:AuC15vVM0
餃子ネタGTOでも見たことあるけど、元ネタみたいなのあるの?

192名も無きAAのようです:2015/08/10(月) 20:00:03 ID:adAT7R6M0
皆さん感想ありがとうございます。

>>187
これは......こんなに素敵な支援絵を頂けて幸せです。
送れるなら琥珀を送りたい......


>>191
GTOにも同じようなネタがあるんですね。
恐怖の水餃子は(  `ハ´)の元になった友人から聞きました。
彼は10年前くらいに流行った中国の稲川淳二的なポジションのラジオDJから聞いた話が元ネタと言っていました。

193名も無きAAのようです:2015/08/10(月) 23:10:02 ID:6J8nJ5Vk0
中国にも妖怪って概念はあるよ

水を挿すようで申し訳ない。水餃子なだけに

194名も無きAAのようです:2015/08/10(月) 23:46:27 ID:g/OuP.dI0
ポケモン金にも似たようなネタあったし有名なテンプレートなんだろ

195名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 00:05:16 ID:hnRTXTW60
>>187こんなかっこいいシナーはじめてみた。

うーん屁理屈かもしれんが、厳密に日本みたいな妖怪って概念はないんじゃね?
あくまで化け物みたいな考えなんじゃわないかな。

196名も無きAAのようです:2015/08/11(火) 00:26:16 ID:t8vhxAHQ0
うちの留学生は妖怪も幽霊も居ないって言ってた。
化けキツネは聞いたことあるとも言ってたけれど大きな分類は無く化けキツネは化けキツネらしい。
まあ中国は広いし場所によって異なる伝承もあるってことで。
妖怪ってそこまでメジャーに表舞台に出てくるものじゃないらしいから知らない人も多いんだと。
1も友人から聞いたって言ってるんだしそういうことでしょ。

なんにせよ面白かった乙。あと支援絵綺麗。

197名も無きAAのようです:2015/09/03(木) 00:18:03 ID:KbiKJZUI0
今更ながら読んだ、乙
…恐怖の水餃子は初見じゃ絶対吹くwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

198名も無きAAのようです:2015/10/17(土) 02:13:26 ID:SM3GX2g20
良い作品だ


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