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61 ◆xh7i0CWaMo:2014/09/28(日) 23:44:01 ID:jDTTQVVk0
そして出産の当日、運良く有給を獲得した私は、妻のいる分娩室の前で、阿呆のように口を開けて座り込んでいた。

何も考えていなかった。
これから自分の子どもが生まれることも、妻がそのために命懸けで苦痛を堪えている事も全て忘れ、
ただひたすら空白のような時間に空白のような態度で対抗していた。

その時ですら、私には何だか、子どもというものが想像上の何かであると信じていたのかもしれない。
 
しかしやがて息子が誕生し、その顔を一目見ると、私の中で何やら奇妙なイメージが湧き上がった。
それは、あえて言語化するならば、薄氷のように脆弱なガラス玉が粉砕されるようだった。

次いで、私は何かとんでもないことをしでかしてしまったのかもしれない、という、
こちらは明確な文字情報が脳裏を走った。
初めてその矮躯を抱き上げてもなお、その構図が我ら『親子』であるとは想像しがたかった。
 
とはいえ、これは断言するが、私は決して息子を愛していなかったわけでは無い。
むしろ、息子のためにビデオカメラを購入して容量一杯に家族を記録したり、
休日は彼のご機嫌取りに終始したりするほどには子煩悩だったのだ。

私自身にいくら親の自覚が欠けていたり、或いは実感の湧かぬ家族関係であったとしても、
彼が愛らしく、また保護すべき対象として映っていたのは間違いない。


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