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Last Album

43 ◆xh7i0CWaMo:2014/09/28(日) 22:50:00 ID:jDTTQVVk0
何やら彼が重大な事実をさらりと言ったような気がした直後、紳士が「ここです」と立ち止まった。
当たり前だが、何の変哲も無い普通の扉がそこにはある。

私は何となく道徳を重んじ、口を噤む。紳士はポケットからマスターキーと思しき鍵束を取り出して扉を開錠した。
そして真っ先に室内へ入り、残った私たちに手招きをする。

若い風貌の白人は、天井に器用に引っかけたカーテンで首を吊り、窓の外を見ながら死んでいた。
垂れた舌が乾ききっているように見える。話に聞く汚物のようなものは見当たらず、安堵できた。

自殺した遺体に直面するのは初めてだったが、さほど衝撃的でもなかった。
目の前の死が現実離れしているように感じているのかもしれない。
そう思うと、男の遺体が何だか滑稽なものであるように見えてきた。

それは、先ほど円卓で大きな問題を取り扱っているときの心情に似ていた。
 
窓外は既に夜の景色だった。最低限の灯りが街路を照らしているのを眺望しながら、三人で遺体を下ろす。
魂のいなくなった彼の身体は外見よりも重く感じられた。まだ温かいような気もする。
ベッドに寝かせて布団を掛けてやると、神聖な匂いが漂ってくるようだった。

誰からともなくその姿に手を合わせる。しばしの沈黙、やがて紳士が顔を上げた。

(´・_ゝ・`)「さて、後は明朝ということになります。お疲れ様でした」
 
やけにあっさりとした流れ作業だった。死とはこの程度のものなのだろうか。
今まで私が立ち向かってきた死は、どれも丁重に扱われてきたものだった。
少なくともその瞬間、死に行く人は多くの人々にとって物語の主人公だった。
 
今、目の前の死にふさわしい尊厳は与えられているだろうか。
本来ならば彼を、親族の元にでも帰してやるべきなのかもしれない。
だが、互いの素性を理解していないこの場所で、その手続きは決して容易なものでないだろう。

当たり前の事だが、私たちは死すら事務的に考えなければならない……。


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