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◆xh7i0CWaMo
:2014/10/06(月) 21:34:23 ID:ok723CeU0
息子が残した別れの言葉が脳裏を反復する。
あの時、表面上の私は何と返事をしたのだろう。どうせまた、宇宙語で不快感をぶつけたに違いない……。
嗚呼、然し決して息子を責めてはならぬのだ。
ありふれた言葉で表すならば、物事には優先順位というものが付き物なのだから。
息子の嫁や、孫のことを差し置いて、私の世話をする義務など何処にあろう。
彼にとって肝要なのは彼自身を大黒柱とする唯一無二の家庭なのであり、
そしてそれを出来る限り存続させてゆくための人生なのだ。
出来ることなら私のような、重度の痴呆老人のために時間を割くべきではない。
だが、そんな主張を、私は思い通りに表現できぬままであった。
徐々に記憶力や、その他諸々の所謂『自我』が失われてゆく間、
私は幾度も幾度も彼らとの、誠実な意思疎通を試みた。
然し一切は無意味であった。無論、それが認知症の病理なのだから当然の話だ。
やがては全ての感覚器が麻痺し脳髄が退行してゆき、遂には試みることさえ不可能になってしまっていた。
私は、誰のものとも分からぬ意識を誰彼構わずにぶちまけて、そのくせ何の責任も取らなくなってしまっていた。
昔馴染みの友人知人も認知出来なくなってゆき、終いには息子のことさえ分からなかった。
……だが、この脳の奥底で、それらの記憶と、紐付けされた意識は確かに存在している。
寝たきりになり、己の生理現象にさえ対応できなくなってもなお、この脳味噌は思考をし、動作し続けている。
外部に向けて発信出来ぬが故、誰にも知覚されることはなかったが、
内部では今でもなお私は私の儘であり、私として生き続けている。
その事実は私にとっては僥倖であったが、その他殆どの人々を不幸に陥れてしまった。
私は息子の精神をいったいどれ程に蝕んでしまったろう。息子の嫁をいったいどれ程苛んでしまったろう。
外側の出来事が分からないから、私は彼らの真意を汲み取ることはおろか、予想することも出来ぬままだ。
人生の終端、アルツハイマーの果ての果てにこんな苦労が待ち受けていると、誰が分かっていただろう。
どこかの老人ホームに収容されている死んだ眼の老人に、
判然とした思考能力が備えられていると、誰が予測できただろう。
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