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◆xh7i0CWaMo
:2014/09/30(火) 20:43:51 ID:9BaR2n0c0
いずれ男は歩き出した。
駅の前は閑散としていて、温度も相まって寒々しい。
遠近感の定まらない目線を左右へ走らせると、駐輪場の姿が映った。
男は財布の中に入っている鍵がそこに置かれている自転車のものであるかもしれないと思い当たった。
駐められている自転車にはそれぞれ番号が割り振られている。
男は財布の中にあったメモ用紙と見比べて、それらしい、チェーンの錆びた自転車を引き出した。
乗ってみると、自重でやや自転車が沈むのを感じた。両輪の空気が十分ではないらしい。
パンクに気を付けなければならないと思いながら、男はやけに重たいペダルを勢いに任せて漕ぎ出した。
とは言え、男には自分の目的地が判然としていなかった。
真っ直ぐ進んでも、左右に曲がっても、それは自分にとって正しいようには思えない。
引き返すのも妥当ではないし、立ち止まるのも恐らく間違いだろう。
警察へ身元照会に伺うべきだろうか。何とも馬鹿馬鹿しい話だ。
午前五時の記憶喪失者に、およそ公安を手間取らせるだけの意味などあるのだろうか。
男は自転車を漕ぎ続けた。
凍えるような風がコートを通して身体の中へ病魔のように侵入する。
しかしその風は、唯一男に心地よさを与えるものだった。睡眠への欲求を、自らの不安を、吹き消すような風だった。
自転車はゆっくりと、しかし着実に進み続けた。
夜明けを迎えた空が明るくなり、大きな人間がその空を漂っている。
人間の影が、男を着実にとらえ続けている。男は自転車を漕ぐ。
やがてのぼり坂に突き当たる。
男は坂をのぼる。無心になってのぼる。坂を。
のぼる。
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