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( ^ω^)千年の夢のようです
-
9/24(水) 夕方より投下します
よろしくお願いします
前スレ
>( ^ω^)千年の夢のようです
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/13029/1401648478/
まとめサイト様(以下敬称略)
>ブンツンドー
http://buntsundo.web.fc2.com/long/sennen_yume/top.html
>グレーゾーン
http://boonzone.web.fc2.com/dream_of_1000_years.htm
作品フィールドマップ(簡易)
http://imefix.info/20140922/321215/rare.jpeg
http://imefix.info/20140922/321216/rare.jpeg
-
"生まれて" はじめて。
若き不死は、今から長い夢に入る。
その死体の傍らで、粉砕した幾ばくかのオーブの欠片を散らかしたまま。
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 夢うつつのかがみ -
-
从 ー∀从 (・ω・` )
気がつけばそこに在た。
…辺りの風景は先ほど感じていたものと変わりはない。
―― 闇。
かつては星のように形を遺していたのだろうか…。
黒に残留する白い粒子に囲まれたショボンの前には、
いつか見た、跳ねっ返りの髪を垂らす女性が立っている。
从 ー∀从 ″
从 ゚∀从 「……おっ」
从 ゚∀从 「おいでなすったか」
乱暴に後頭部をかきながら、
「お前が来るのは珍しい」と囁いた。
(´・ω・`) 「…ハイン、リッヒ?」
从; ゚∀从 「……あれっ?」
-
彼女は辺りを見回す。
地面も空も存在しない、頼りなき黒の空間にはショボンと二人だけだ。
从 ゚∀从 「なんで憶えてんだ??」
(´・ω・`) 「? …僕はそんなに記憶力に問題のあるタイプじゃないと思うけどね」
从 ゚∀从 「いや、そういうつもりじゃあないんだが……」
(´・ω・`) 「…常人からすれば随分と長い年月ではあるかもね。
あれは大陸戦争よりも前…ふたごじまのアサウルスを倒した後だったか」
こんなことを話すには意味がある。
ショボンは当たり前を口にするのがむしろ嫌いだった。
差し障りのない返答で間を繋ぎながら、ショボンはハインを観察する。
それは警戒心ではなく、目の前の彼女が表す戸惑いを受けてのものだ。
从∀゚ 从
ハインはやはり何かを否定するよう、ほんの少しだけ…かぶりを振った。
从 ゚∀从 「まあいいや。
せっかく来たんだ、ゆっくりしていけよ」
(´・ω・`) 「…そうだね」
答えながら――
ショボンの頭の中では一瞬だけ《パチリ》と音がした…気がした。
ゆっくりする……、休息をとる…?
(´・ω・`)
たしかになにもすることはない。
ここではなにもする必要がない…。
-
(´・ω・`)
思考に蓋をされている気分だった。
違和感。
なにかがおかしい。
(´・ω・`)
だが、その何かは思い出せない。
(´・ω・`)
なぜ、思い出せないのかも思い出せない……。
-
从 ゚∀从 「しばらくは俺と話でもするか?
いまなら俺も落ち着いて話していられる」
从 ゚∀从 「それとも一人、想い出にでも浸るか?
お前が望めば、いつもより多くの出来事を視ることも可能だろうな」
(´・ω・`)
(´-ω・`) 「そうだね、そうしよう」
ハインの提案に乗るようにショボンはわざとらしくニヒルに笑い、
その心では "思い出すという作業を棄てる" ことにした。
分からないことは仕方がない。
ならばそれはそれとして、確認できることがあるはずだ。
極めて単純な質疑であっても。
(´・ω・`) 「ここは、一体なんなんだ?
どうして君はここにいる?」
-
从 -∀从
从 ゚∀从 「ここは…俺にも正直わからねえんだよなあ」
先程とは異なり、間はあれど、淀みのない口調でハインは答えはじめる。
(´・ω・`) 「自分がいる場所もわからないのかい?」
从 ゚∀从 「自らすすんで来た場所ではあるが、望んで来た場所じゃあないんでね」
ハインはお手上げ…というように、両手を軽くあげておどけてみせた。
若干の嫌味を混ぜこんだつもりのショボンの言葉にも、彼女は動じない。
言葉遊び的な回答の真意は解らないが、特に深入りするつもりはショボンにもなかった。
どうでもいいのだ。 自分が作り出す目的以外は。
彼はいつも永い間、そうやって生きてきたつもりだ。
从 ゚∀从 「だが本来、ここはお前ら "不死者が死んだ" ときに来る場所だ」
从 ゚∀从 「イコール、お前は死んだからここにいる」
(´・ω・`) 「だから、死んだらなぜ僕らはここに来るのさ」
从 ゚∀从
――今度こそ。
ハインはその動きをはっきりと止める。
从 ゚∀从 「……この空間でその質問をしたのは、お前がはじめてだ」
どことなく…笑っている気がする。
まるで来る時がきたかのような、
待ちわびた者の笑み。
-
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(゚、゚トソン 「申し訳ありません、クー様。
此度は宮殿内にまで賊の侵入を許し、あまつさえ緊急用ドックの避難扉まで……」
川 ゚ -゚) 「いや、構わない。
私もちょうどそちらを壊してでも侵入するところだったからな」
('、`*;川 「面目も御座いません…、備えてあった【クーチラス】すら破壊され――」
川 ゚ -゚) 「お前も気にするな。
もはや年代遅れの自動戦車ごとき、また造ればいい」
水の都…
延々続くかのようなメインストリートを真っ直ぐ進むその奥に佇む、碧白き宮殿。
その内部。
川 ゚ -゚) 「死傷者は?」
('、`*;川 「はい!
衛兵からの報告では怪我人こそ多数出てしまいましたが、命に別状ある者はいなかったようです」
川 ゚ -゚) 「ここに運べ。 私が治療しよう」
【シールド】を施す紋章が刻まれた大扉
――横一文字に斬りつけられ、大破している――
の向こう側…。
両指を前に握りしめ、背筋を伸ばした女性が三人。
-
ドーム型をした天井は、骨を支えるため放射線状に壁中で柱を組む。
180°視界の開けたこの大広間は普段は開放されており、一般人も自由に出入りができた。
都中と同じく白を基調とし、
薄碧のレリーフが彫られた壁面は眼に優しく、
しかし滞在する人々の姿を浮き上がらせる。
衛兵と侍女が許す限りは、女王との謁見も比較的寛容だ。
…しかし、いまここには彼女たちしか居ない。
まるでその身分を示すように、
クーと呼ばれた女性だけが玉座を背に、他二人へと向き合っていた。
川 ゚ -゚) ( …あれだけ暴れて、誰一人として死なせず突破したか )
クー。
不死者であり、現在は水の都の女王。
川 ゚ -゚) 「都の中でその他の被害を確認しているなら報告してくれ。
些細なことでも構わない」
――同時に。
彼女が大陸戦争を引き起こした一国の主であったことは、都の誰も知る由はない。
-
(゚、゚トソン 「建築物、及び潜水艦などへの被害は微小。
数週間もあれば修復は可能との報告が上がってきています」
('、`*;川 「確認中のものとして、重要文化財にあたる物品の窃盗や破壊はいまのところ見られていません」
(゚、゚トソ 「以前、フォックス様より住民に配布されたオーブも、持ち運びされた様子はないと……」
川 ゚ -゚)
侍女らのいうオーブとは、
ワカッテマスの創り出した泥人形フォックスからの監視アイテム【ホークアイ】の亜種。
川 ゚ -゚) 「オーブとは?」
('、`*;川 「あっ! 失礼しました。
オーブについては女王不在時の処置として、賢者様から安全確保の名目により配布されておりまして――」
あえてクーは素知らぬ演技をした。
それはショボンからの願い事でもある。
-
(´・ω・`) 『君が都を大切にしたいなら、時には騙し合いもしなくちゃならないと思うよ』
(´・ω・`) 『騙される民ならとことん騙してやればいい。
君が感情に正直でいることと、他者がそれに従順でいることはイコールにはならないはずだ』
クーにとっては、いらぬ苦労をかけられている気がしてならないが仕方ない。
わざわざ単独での暴動を引き受け、あまつさえ
《内側からしか開けることの叶わない避難口まで侍女を誘導することにより、
唯一その道を知っていてもおかしくない女王と外側から合流させる》
という、遠回しな作戦を成し遂げた、
同じ不死の若造に払う敬意くらいは示さねばならない。
川 ゚ -゚) ( …ブーンやツンとはまるで逆なんだな )
侍女ペニサスの報告は続いているものの、その言葉はクーの耳に届かない。
その脳裏では、
自分以外の者が一時でも一つの国を統治、掌握したかもしれない未来が描かれていた。
摂理からすればそれもまた致し方ない。
本来ならば人の世において不死の存在がイレギュラー。
だが統治者が変わるときは、国も大きく形を変えなければならない。
更に言うならば、クーは自身を決してイレギュラーだとは考えていない。
産まれてきたのだから意味をもつのだ。
彼女もまた世界を構成する部品…卑下する要素など、何一つ在りはしない。
川 ゚ -゚) 「そうか…では、そちらにも私が処置を新たに施そう。
あとですべてのオーブを持ってきてくれ」
('、`*;川 「す、すべて…ですか?!」
川 ゚ -゚) 「すべてだ。
人も、オーブも、一つ残らず必ず頼むぞ」
…不死者は果たしてどこから来るものなのか。
ショボンよりも古い存在の彼女の記憶からは、失くなっている。
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-
从 ゚∀从 「―― こんな感じだ」
(´・ω・`) 「なかなか面白いものがあるね」
二人は顎を――ハインはショボンに比べるとより高く――上げ、
正面に浮かび陣取る空間へと目を向けていた。
彼ら以外に唯一、闇に浮かぶそれは薄紫のモヤに潜む円長形をしている。
ハインはそれを[かがみ]と呼んだ。
从 ゚∀从 「確証はないが、恐らくいまは現実の時間にリンクしてると思う」
(´・ω・`) 「…とは?」
从 ゚∀从 「仕組みは知らねえから答えられないぞ。
それと、俺単独ではクーの景色しか視れない」
(´・ω・`) 「僕にも視れるのかい?」
从 ゚∀从 「やってみな」
ハインの言葉のすぐあと、ショボンが[かがみ]に向かって一歩踏み出す。
視界一面は[かがみ]に埋め尽くされ、
替わりに下がったハインのことを思い出す前に、空間は歪み始める…。
从 ゚∀从 「…お前自身のことについてなら、過去が視れるだろう。
念じてみろ」
从 ゚∀从 「ただし強すぎる願いはやめとけ。
これはあくまで思い出を映
す
だ
け
の
[かがみ]
だ
か
ら
な」
-
-
風景が、
歪む。
-
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「―― の?」
「――軍師どの!」
気が付けば…次第に誰かを呼ぶ声が聴こえはじめ、その音量は時間と共に肥大していく。
声色はひとつではなく……重なり、やがて明瞭さをも欠きはじめた。
「…ショボンどの!」
そんななか最後の呼び掛けがハッキリと耳に届く。
同時――皮膚を焼く熱、バチバチと鼓膜を打つ気泡音も。
若干の不快感を抑えながら無表情に顔をあげた。
植物の画が施された黒い首輪を装着した男が、ショボンの顔を覗き込んでいる。
《くそっ一体だれが!》
「しっかり!! どうかご指示を。
森が…森が焼けているモナ!!」
(´・ω・`) 「…ああ、わかってる」
《だれが?!
呪術師どもに
決まってるだろ!》
-
……赤い森。
大陸戦争終盤に突如発覚した、
呪術師たちの反乱を発端とした――と、騙られる――ジェノサイドの舞台。
それがいま、空と大地を赤く染めていた。
(´・ω・`)つ 「森の住人を無理矢理にでも避難させろ!
こんなことは軍として望んではいない。
火の元を見掛け、もしそれが――」
時代は二つの大きな国が大陸を奪い合っていた。
ショボンは[空の軍]軍師として、部隊を率いてここにいる。
だが火の鳥游ぐ混乱の最中、瞬く間に発生した状況について誰一人として追い付くことが出来ていない。
「モナー! どうなってる!!
斥候隊に火炎ボトルや火炎放射銃でも配ったのか?!」
「入るたびに構造の変わるこの森は計り知れなかったから…
可燃障害物の除去用としてチームごとに配布はしたモナ」
「じゃあそれだな!
制御もできないようなとんだ不良品をつかませやがって!」
「そんな…、そんなことないはずモナ!
たとえ不具合が起きても、ここまで大規模に燃え広がるような武器なんて、モナは製造してないモナよ!」
モナーと呼ばれた男はヒステリックになる一歩前、心を沈めつつも激しく動揺する。
(´・ω・`) 「いちいち騒ぐんじゃない。
訓練を受けた国軍ならば、目の前のことに集中するんだ」
モナーの生業はアイテム調合…そして自動機械の製造。
しかし、決して人の命を殺めるための道具を造ったことはないと自負していた。
-
モナーが "マッシュルーム" と名付け製造した大型のオートマトンがある。
下腹部に用途ごとの異なるアタッチメントを装着することで、人間には不可能な作業を難なくこなす。
それか戦場に投入されたとの話を聞いたのは、
ショボンに呼ばれ、城下町を二人で歩いている時に聞こえた人の声からだった。
『あれがモナーかぁ。
細工師って聞いてたけど、厳つい人なんだな…まるでウドの大木だ』
『知らないのか?
マッシュルームもあの人が一人で造ったらしいぜ』
『マジかよ! この前の中央区での戦場じゃあ、ずいぶんと敵軍を蹴散らしたらしいじゃないか!』
『ああ…あれがいくつもあれば、それだけでも勲章ものだろうな』
『なるほどねえ〜。 それで軍は彼を召集したってワケだ』
…本来あれは可動式除障害機として造り上げたものだった。
それなのに、いまや[空の軍]が誇る落城用突撃兵器などと呼ばれていることに、モナーは酷く悲しんだ。
-
まだ若きモナーが開発したアイテムは、他にも数知れない。
単なる装飾品から…
素人にも扱え、かつ生活水準の向上をめざしての日常雑貨…
逆に専門性の高い、注文する当人以外にとってはなんの価値も見出だせない物すら造り上げた。
個人作業のため生産ペースに限界はあれど、依頼人たちは待ち続け、完成を喜んでくれた。
彼もそれで充分だと思っていた。
受け継いだ技術が他人に認められることは、
一族の生きた証明を認められることと同義だった。
『次戦に投入されるらしい新兵器は、半永久的に敵を燃やし尽くす火石だそうだ』
――だが大陸戦争は、そんな発明者の意に反し、彼と彼の発明品を利用していく。
交換不要なカンテラも、もはや悪魔の獄炎扱い。
今回使われた火炎ボトルもそうだ。
指向性をもたせ、日陰に強い木ばかりが育たぬように開発した森木の間引き用アイテム。
念入りに調整し、発火後の空気に触れれば約20秒以内に消化されるようにしていたはずだった。
【フレアラー】などの魔導力を意図的に加えでもしない限り、
いま森で起きているような大惨事にはなり得ない。
使い方次第でこんなにもなってしまうのかと…モナーは落胆している。
人殺しは、人が生み出す歪みの象徴。
戦争は……歪みの頂点なのかもしれない。
(´・ω・`) 「モナー、…モナー?」
「――あ、…」
(´・ω・`) 「落ち着け。 大丈夫か?」
ハッとして顔を上げた。
優しく声をかけてくれていたのは、祖父の故郷の恩人であるショボン。
――そう、ショボンだけは。
モナーにとって彼だけは、これまで信頼を裏切るような真似をしたことがなかった。
-
モナーは深く呼吸した。
一度、二度。
…心拍数が平常に戻るのを感じる。
身体の大きい彼は、深呼吸によって全身に久しく酸素を送り込んだ気がした。
視界が少しだけクリアに感じられるようになった。
すると、サルビアよりも真っ赤な大火に自分の身を晒していることに改めて気付かされる。
…なぜか?
日に日に依頼人から裏切られる思いの中で、
いまや彼のためにモナーはここいると言っても良い。
(´・ω・`) 「一番、二番隊は僕と奥に進む。
残りは全員武器を収め、救助活動に専念しろ」
-
指示を飛ばすショボンの背中を見つめながら、モナーだけが所在なさげに立ち尽くす。
心ない騎士の言葉が頭を反芻した。
「……」
( ´・ω) 「モナー、行こう。
誰も君を心から責めてなんていない…
あんなもの、単なる八つ当たりだ。 気にするなよ」
「…モナ」
彼らのルーツとなる孤島では独自の細工技術が培われていた。
ショボンが青年となり、身体的成長をピークに留める頃、
すでに当時の技術者が何人も大陸に遠征している。
ふたごじまという本来閉ざされた島…。
広く新しい繋がりを持たせることで、信仰とは異なる心の芯を創りだした一時代。
それは、
自身が背を丸め、何かに縋りつかずとも、
自信が背を押し、奮い起たせてくれる概念。
そんなショボンに付き添うモナーもその子孫の一人だ。
巡りめぐって軍師となったショボンの隣で、大陸戦争の一隅に加わっているのは稀なる偶然といえる。
「…ちっ、熱すぎる」
「おい離れるなよ」
額から…、首裏から…、
背中、腰に至り……。
篭る熱を冷却しようと、身体の中の水分がとめどなく絞り出される。
-
(( (;´・ω・) 「…」
「……汗が止まらないモナ」
「なあモナーさんよ。
アンタ、こう…身体を冷蔵するようなアイテムは持ってないのか?」
「この暑さじゃあ水なんてすぐに温まってしまうモナよ」
「じゃあ氷は? 小型の製氷機とか…」
「荷物がかさばりすぎる。
あれは水と風の魔導力を組み合わせて、波動を安定化させないといけないモナ。
持ち運べるサイズなんてとてもとても……」
ボソッ 「…役立たずだな」
「やめろ、モナーの言うことは確かだ。
魔法の使えないお前が知らないだけさ」
「…なんだと?」
「…… モナ」
(;´・ω・`) 「くだらない言い争いはやめろ。
…何が起こるか分からないんだ」
単体で氷の魔導力を発せられるのは、
大陸西に古来より鎮座し[氷河の牙]と呼ばれるアイスキャニオン…
そこから採れる "生きた氷塊" のみ。
歴史上、人間の魔導師が扱える魔導力は
炎… 水… 風… 土…
この4種に限られている。
その他の波動が発見できないのか、
それとも存在しないのかは定かではなかった。
ショボンも魔法を使えないため、詳しくはない。
なお獣の肉や根菜など、生活を送るために
食糧を冷凍保存する補助的アイテムの人工的な製造は出来るものの、
魔導力の循環を考慮するとどうしてもサイズが大きくなる。
-
「……持ってくればよかったですね」
(;´・ω・`) 「"生きた塊" を?
誰がこの現状を予測できたものか。
知ってたらそれこそ貨物車で運んできて、炎を消すために使うさ」
つまり…必要ならば直接採取に行くのだ。
すでにこの時代、商人たちのなかには傭兵を雇い、氷山と街を往復する者もいる。
幸い "生きた氷塊" は文字通り、
生命を感じさせるほどにしぶとく効果を発揮する。
誰もが同じく、手首に巻かれたリストバンドで汗をぬぐう。
しきりに辺りを見回しては目を凝らし、時には立ち止まった。
(( (;´・ω・)
唯一ショボンだけが休むことなく足を動かし続けた。
その歩みは普段に比べても遅い…しかし、騎士たちは追い付くのに必死だった。
流れ落ちるまえに蒸発する汗…。
しかし気に留める様子もなく滴らせている。
「…みんな、少しペースが乱れてるモナ?
状況が状況だから大変だろうけど、軍師どのに頑張って追い付いてくるモナよ」
「わかってるさ、…おい皆!」
明け空すら埋めようとする炎の森。
紅い顋が揺らめく。
長く続く大陸戦争……屍の上を進むこともある。
それと比較しても森の異質な光景に怯みつつ、騎士同士が引ける腰を叩きあった。
少し坂になった道のりが、ショボンの背中を頼もしく、そして大きく見せる。
-
(;´-ω-`)_з
――真剣に職務を全うしているだけならば、彼の後世への遺恨もなかっただろう。
モナーも、騎士たちも、そう思っていた。
この軍師はいま、戦争の勝利と人命救助を秤にかけているだけなのだと。
(……この焼けつく熱) (;´・ω・)
――いつかのアサウルスの咆哮にも似た肌の感触。
それをひとり思い出しているとは露知らず。
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〜now roading〜
(´・ω・`) ω・´)
HP / C
strength / C
vitality / B
agility / B
MP / C
magic power / A
magic speed / C
magic registence / B
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今日の投下はここまでです。
まとまった時間がどうしても取れないので、
今回のお話はローディング画面の区切りで日を跨ぎます
また明日か、出来なければ数日後に。
よろしくお願いします
-
乙
-
乙
相変わらず読み応えがあって面白い
続きも期待
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「ちくしょう、ひとっこ一人いやしねえ」
「広すぎるんだよ。 しかもこの炎…
こんなんじゃ当の村人らを捜すのも一苦労だ」
「状況次第では戦闘を避け、避難活動を優先するほうがいいのでは?」
「避難させるもなにも、ここはあの呪術師たちの住む森だぜ?!
俺たちがどうこうしなくたって、ただでさえこんな ――ああッくそ、熱ぃなぁ!」
森内のどこか。
周囲に気圧され悪態づく兵士たちの姿。
大陸戦争の後期ともなれば国軍の訓練も追い付かず、命令系統はやがて脆さを露呈する。
彼らは皆、前衛からも外された偵察隊の一ピースに過ぎなかった。
立ち振舞いに規律はなく、任務の遂行よりも無事この場をやり過ごすことを考えていた。
「死体の二、三でも見付かればそれを手土産にして引き揚げちまおう。
…なあに。
首を落として、顔を切り刻んじまえば陣営だの住人だのはわからねえさ」
薄汚い手の甲をボリボリとかきながら、名も知らぬだれかは言った。
群衆に指揮官らしい人物は見当たらない。
半数以上は傭兵で構成され、だからというわけではなかろうが動きは鈍重で粗悪だった。
しかし例外なく首には識別用のリングプレートをかけている。
くすんだ裏面には死亡時の墓標と化す名前の刻印。
胸元から取り出したそれを眺めていた兵士の一人が、思い出したように前方に向けて声をかける。
「…おい、あんまり列から離れるなよ。
どうせ何も見つからないさ」
-
ミ,,゚Д゚彡 「火の元も、人の姿も、ちゃんと調べないといけないから」
堕落しかけた群れのなか、異質を放つのは金色の髪を靡かせる青年。
身の丈を大きく上回る騎兵槍が、軽々と背負われる凛々しさを感じさせた。
炎すら彼を避けているかのように、その顔には一筋の汗もかいていない。
「真面目な野郎だな。
その槍といい…たしかお前も傭兵だったか」
ミ,,゚Д゚彡 「そう」
「……」
ナナシに話しかけた兵士は、
無骨な外見に憂いを帯びた瞳を揺らしながらリングプレートをインナーの奥へとしまいこむ。
過去の怪我であろう…右目だけ、不自然に細い。
その間、ちらりとナナシが兵士を見やった。
まくられた長袖の肘から手首にかけて、長く深い、ノコギリ刃でつけられたような斬り痕が目に入る。
「……いつの間にこんな傷…?」
兜の隙間から覗く顔の皺から、彼がナナシよりもだいぶ年上であることがわかる。
ナナシの視線に気付き、そう呟くと、兵士は腕を動かした。
腕を上げるその動きはぎこちなく、傷によって阻害されていることは明らかだ。
きっと最近できた怪我なのだろう。
兵士は苦笑いしつつ、諦めたように手を降ろした。
「ははっ……もう満足に自分の身も把握できてない奴が、偉そうに言っていい台詞じゃあなかったな」
ミ,,゚Д゚彡 「きっと、いまは興奮してるだけだから。
手当てしたほうがいいから」
「…」
ナナシは腰元からヒールポットを取り出し、兵士の傷口に振り掛けた。
夜でも灯る魔導の粒子が泡立ちはじめ、みるみると皮膚は再生する。
――そう、皮膚だけが。
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「……なにかが骨に挟まってるような」
ミ,,゚Д゚彡 「違和感がある?」
魔導力における回復魔法【ヒール】には、
肉体の再生促進はあっても後遺症の復帰には役立たない。
どうやら彼の腕はこれまでのように動くことはないのかもしれない。
戦仕事…とりわけ傭兵家業でもよく聞く話だ。
戦闘中は興奮状態によって認識していなくとも、一段落したとたんに負傷…
時には、糸が切れたように倒れ、息を引き取る者もいる。
「いや……きっと俺みたいな奴は潮時なんだろうな。
心も体も」
肉体が資本である彼らは、使える武器がなくなれば戦から身を引くしかない。
崇高な意識をもった兵士だろうと。
報酬にしか興味のない下衆な傭兵だろうと。
仕事の役に立てない者など、雇う側からみれば何もできない無垢な子供と同じ…穀潰しだ。
ミ,,゚Д゚彡
かける言葉は思いつかなかった。
兵士はその佇まいや年齢的にも、ナナシよりよほど長い時間を戦場で過ごしている。
ナナシが言えることなど、とうに自覚しているはずだ。
-
一人で懸命に探索を続けようとするナナシの背中で、
「……みんな、一旦止まってくれ」
と、手当てを受けた先の兵士の声がとんだ。
ナナシが再度振り向くと、他の兵士らも同様に顔をあげる。
「いま敵軍に襲われるような事態になっても、まともに戦える状態じゃない。
…森の民の捜索もそうだ。
ここは一度だけ気を引きしめて、短時間でさっさと終わらせないか?」
身の回りでパチパチと燃え盛る炎壁が彼らを照らし、じっとりと焦がしていく…。
齢を重ねた声が、緩んだ場を律した。
指揮の経験を思わせる一声。
――『早く終わらせる』という言葉に大きく同意したのかもしれない。
一部に不満げな態度は見せつつも、一同は汗を拭い、乱れた足並みを揃え始める。
声をあげた兵士はそんな反応を眺めると、ナナシに振り向き、言った。
「…道なき道は諦めろ。
ひとまず通り抜けられるところだけでも充分だろう?
全員がお前に付き合うこともできないからな」
ミ,,゚Д゚彡 「ありがとうだから」
「ふん…傭兵が真面目に仕事をこなす横で、
国軍の俺たちが堂々サボるわけにもいかないってだけだよ」
ミ,,゚Д゚彡 「……」
「[空の軍]も、この森にいるはずだからな」
そう言う兵士の背筋が伸びた。
ナナシも釣られて姿勢を直す。
「…その代わりと言ってはなんだが。
やつらと戦闘になったときは頼むぞ」
-
[空の軍]――。
長きにわたり、優秀な王が統べるという噂だけが先行するも、
何十年とその姿を見たものはいないという。
ナナシの雇い主は、それを相手取り戦争を引き起こした[都の軍]。
…その頂上には、美しき女王が君臨する。
「早く終わらせて、女王の声でも聴きながらうまい酒を飲みたいもんだ」
「だな。 こんなところで死ぬのはおれも御免だ」
先程よりも軽くなった行進。
しかしもはやこの場から心の離れてしまった兵士たちの言葉は、傭兵のナナシには解らない。
この兵士もまた国に属する以上、女王を崇めているのだろうか?
人間の上に存在する人間。
ナナシの住む村の長とはまた違う、絶対的信仰にも似た崇拝は、
戦場に向かう兵士たちにとって心の支えになっているのだろうか?
ミ,,゚Д゚彡
崇めるもののないナナシには解らない。
-
元来、赤い森には様々な仕掛けがあった。
一歩森に足を踏み入れれば、
色とりどりの花を咲かせた木々が無秩序に立ち並ぶ。
見上げて空の形が歪なのは、大地が隆起している証…それが虹色の起伏ともなる。
しかしそれらはすべて束の間を支配するのみで、時が経つごとにガラリと姿をまるで変えた。
二度と同じ表情を現すことのない森は、外部の人々をおおいに惑わせる。
…とはいえ確かに路は存在する。
脇を見やれば大小の岩々が常に草に寄り添う。
森の民だけに判る、呪術によってマーキングされた、極めて自然で不自然なオブジェ。
広大な自然物のなかに、呪術で反応する魔導感知機が備わったものが点在するのだ。
土を掘り起こせば、赤黒い魔導力によって動き、宙を舞う円盤も隠されている。
他に類を見ない魔導力…そしてテクノロジーが伝えられているのが、赤い森の特異性ともいえる。
それに目をつむっても。
鳥がさえずり、昆虫や、大人しい草食動物が自然の生態系を作り上げていた。
人間が空から見下ろせたなら…
この一帯は色彩鮮やかな密林として、
いつか人々の瞳を癒やす景勝地にも成り得たのだろう。
だが今やこの地は、地獄の焦土の口を開けている。
赤い森は紅く染まり
今日をもって消えるのだ。
-
------------
〜now roading〜
ミ,,゚Д゚彡
HP / A
strength / A
vitality / B
agility / D
MP / H
magic power / H
magic speed / E
magic registence / D
------------
-
異変は[都の軍]から始まった。
一人の兵士が、突如うずくまる。
「おい、大丈夫か?」
傍らにいた仲間への返事はなかった…。
兵士は自身の両肩を抱き、ガタガタと震えている。
「……おい?」
訝しげに覗きこむ顔。
邪にも思える覗かれた顔。
…まだ少し幼さを残す表情をした仲間は、たしかにそれを見た。
いまにも倒れ込むほどに膝をつく。
――口が裂け、だらしなく垂れ落ちる唾液を。
――薄く開いた瞼から射し込む、黄色の瞳を。
――肩に食い込ませた爪から滲み出る、赤いはずの黒い血液を。
《 ィ゙ ―― ォ 》
-
そしてあがる、濁音の悲鳴。
(・ω・` ) 「…いまの音…」
ショボンの元にも微かにそれは届いた。
様子が窺えないが、常時に響くべき音ではない。
「…見てくるモナ?」
( ´・ω・) 「…」
火の手がさらに伸びる。
ショボンは少しだけ顎をあげると、眉をひそめてこう言った。
(´・ω・`) 「……進軍は終わりだ。
全員この森から退避してくれ」
「モナっ?!」
(´・ω・`) 「来た道はできるだけ使うな。
戦闘も絶対にするな。
何が起きているのかも、確認する必要はなくなった」
モナーは汗をぬぐう。
素直には頷けず他の反応を窺うも、しかし騎士の半数は忠実に命令通り、素早く行動に移りだしていた。
とはいえ走り出してから…ショボンの言葉に首をかしげた者もいる。
まだ場に残る騎士たちに、ショボンは言葉を続けた。
-
(´・ω・`) 「残るならば、命の保証はできない。
僕の軍師としての役目は、この言葉で終わりとする」
それきり、ショボンは軍に背を向けて歩き出してしまった。
なにかが鳴いた方角へと。
「……な、なあ、どうする?」
「どうって…」
「おいおい! 自分だけさっさと逃げるのか?!」
慨嘆の声にも、ショボンは振り返らない。
「……」
「なんなんだよ、一体…」
間もなくショボンは去った。
――残された戸惑い。
人として、唐突なショボンの態度の変化に文句の一つでも言いたくなるのは当然だった。
「…モナ」
短すぎた一連のやり取りの間、モナーも動けなかった。
なぜショボンは急にそんなことを言い出したのだろうかと、その意味を探るが…
いまはただ、紅く染まる茂みの奥へと消えていった彼を見て、茫然とするしかない。
-
ショボンにとって…それはなんら進歩のない、いつかの行動と同じだった。
彼にしてみれば、ひとたび口にすれば己の義務は果たされ、後の判断責任は相手側にあるのだと未だに思っている。
「…やっぱり納得できないモナ」
「おっおい、モナーどこに行く!」
……言葉とは本来、受けとる側にも時間と理解が必要だ。
伝え、伝えられるために、人は常に心を労する。
その努力を怠る果ては、無差別な暴力と遜色ない。
待ち構えるは、ただただ心傷付く末路。
『ショボンか…。
思えば彼の未来観は、わしらとは違ったのかもしれないな』
『ふたごじまに住んでいたままであったなら決して知ることの無い知識や経験…わしらはそれを得た』
『新天地には未知があり、それを既知とするには自ら行動を起こさねばならない』
『待つだけでは駄目なのだ。
例えば信仰を棄て、代わりに何かを求めるように……
誰かに教えられずとも、わしらは手探りで生きてきた』
『辛いことも多かったが…楽しくもあった。
そしてショボンは今もずっと生きておる…』
『もし、お前が彼に出逢ったときはこう伝えておくれ…――』
モナーはそんな祖父の言葉を思い出しながら、ショボンを追い掛ける。
「軍師っ――いや、ショボンどの!
待つモナよーー!」
次いで消えたモナーの姿。
それを見送り、[空の軍]は撤退をはじめた。
……彼らにとっては幸か不幸か。
ショボンだけが感じ取ることのできた、
前方で産声をあげた脅威の片鱗に気付く能力は備わっていない。
-
(´-ω-`) 「小さな波動だったけど…間違いない」
(´・ω・`)「蟻は…すべて潰す――」
紅模様の空の上。
太陽に偽装した眼球が卑しく見下ろしていたのを、ショボンは見逃していなかった。
-
----------
「ゴルルゥゥ…ッ!」
ミ;,,゚Д゚彡 「待って!! 皆どうしちゃったから?!」
[都の軍]は、まさに混乱の渦中。
人あらざる咆哮が隊列を貫いたかと思えば、
あっという間に "それ" は感染し、
兵たちの共喰いが炎を背景として繰り広げられている。
咀嚼音が地鳴りのように響く。
喰われたものから、喰うものへと変貌しては他の獲物に身体を預ける。
食まれた肉は容易く千切れ、赤子の口許のように脂を塗った。
わずかな緑を残していたはずの土壌すら、飛び交う血涙に背景を同化させていく。
餓鬼の住まう地獄、
その切り取り絵図――。
ナナシは昔、孤児院で読み聞かされたお伽噺のなかに、こんな風景をみた気がした。
「…ガ アグルゥゥゥ……」
ミ;,,゚Д゚彡
「ナ……ナ゙シぃぃ…っ」
ミ;,,゚Д゚彡
迷い、どうすることもできないナナシの前にも "それ" は立ち塞がった。
――腕には皮膚を塞いだはずの、ノコギリ刃の斬り痕。
今では痕の闇が広がり、わさわさと黒い粒子が灰のように舞い流れている。
「ナ…na≠ィ……
逃げ っロぉ」
ミ;,,゚Д゚彡 「!!」
-
――気が付けば、ナナシは走っていた。
恐怖からではない。
正気にも聴こえた声に反応したのとも、また違う。
元は人であったはずの兵士達…
変貌し、怪物となった彼らであっても、
騎兵槍で根こそぎ薙ぎ倒す気にはなれなかった。
それだけならまだその場に留まり、呼び掛け、
事態の収拾に努められたかもしれない。
ハァッ
ハアッ
;,,゚Д゚
ハァッ
無数の朱一色の灯籠が残像となり、視界の外側へと融けていく。
それでも時々、振り向いてナナシは探した。
呪術師……そう呼ばれる森の民も護らなくてはならない。
[都の軍]としてここに来たのはそのためだったのだから。
だが、彼を突き動かした本当の理由は。
ミ゚Д゚,,;彡
ナナシが本能的に感じ取った、
『主の元に還らせてくれ』
という無味無臭の強烈なイメージ。
あの兵士の傷痕から湧き出る黒い粒子が放っていた、
この背中の騎兵槍へと向けられていた執着心。
-
支援
-
その後も彼の心を脅かす呻き声…それとも怨嗟の声だろうか。
数分、それとも数十分…。
ミ゚Д゚,,;彡
ミ;,,゚Д゚彡 ( …?! )
時間の経過が体感できなくなった頃、森に孤立したナナシの耳に轟きが飛び込んできた。
がむしゃらに走ったせいで、完全に方角を見失っている。
ただでさえ赤い森の構造は単純ではない。
土の起伏と、たびたび遮る樹木によって道が路を成していない。
ミ,,゚Д゚彡 「…!」
――突如としてふたたび動きだしたナナシの足。
彼の耳には、幻聴ではない誰かの声が聴こえた…。
爆炎。
ナナシの目の前で、ひときわ目立っていた巨木のひとつが頭から割れていく。
咆哮に混ざる聞き慣れた金属音が、
見えない腕としてナナシを引っぱるように連れていった。
ミ;,,>Д゚彡 「くッ…!」
周囲はますます紅く染まりつつある。
熱風はナナシの身体を締め付け、視界をぼやかす。
意思とは裏腹に揺らぐ脚をふんばり上げ、彼は走る。
枯れた葉が、頬を切り。
濡れた頬が…風を切り。
-
風が――視界を切り拓く。
-
( ω・` ) 「…」
血塗られた抜き身の得物を携えながら、
ショボンはその鈍色光る先端を見つめている。
軽く一振り…。
血糊が弾かれ、片刃の剣が露になった。
( ω・` ) 「実戦では初めてだったね、これを使うのは」
握るのは、"隕鉄" と呼ばれる鉱石から造られた刀。
時に山奥で… 時に砂浜で…
ショボンはひとつひとつ、小さな隕鉄をかき集め、
来たるべき戦いに備えていた。
細工をした職人が『天からの贈り物』とまで称した天然物質、隕鉄。
しかしその正体は、ショボンが三日月島でアサウルスと対峙したあの日、
ブーンを助けるために海の中で霧散した "蟻" やアサウルスそのものを原料としている。
(´・ω・`) 「剣としては最高の出来だ。
あの約束は面倒でも、モナーに苦労をかけた甲斐はあった…」
呟いて、辺りを見回す。
やがてその視線はある一点に注がれた。
(´・ω・`) 「蟻…、いや違う?」
-
アサウルスの波動は感じない。
ガサガサと仰々しく…茂みが音をたてた。
やがて立ち現れたのは、今しがた斬り伏せ終えた黄色目をした蟻の軍兵ではなく、
瞳の奥に確かな意志を持つ、金色髪の青年。
ミ,,゚Д゚彡 「!」
葉を掻き分けてナナシが見たものは――足元に転がる[都の軍]兵士の累死体。
無傷の生存者の手には、灰色を浮かべた剣。
その鋭さと色は周囲の風景からも浮き、得たいの知れない不気味さを窺わせた。
自然かつ素早く、ナナシは背中の騎兵槍に手をかける。
対峙するショボン。
しかし慌てることなく、ゆったりとした動作で正面に向き直して剣を収めた。
(´・ω・`) 「まて。 君はあっち側の兵か?」
ミ,,゚Д゚彡 「?!」
敵意を感じられず、慌ててナナシも踏みとどまる。
(´・ω・`) 「争うつもりはない。
僕はいま森の民と、この状況を作った原因を探しているところなんだ」
-
…金色の青年はナナシと名乗り、呼応してショボンも名を告げる。
慎重に言葉を選び、
[空の軍]につい先ほどまで所属していたこと…
事態を鑑みた上で立場を捨て、単身ここにいることを話した。
ミ,,゚Д゚彡
ナナシは硬直し、聞いているのかいないのか判別しかねる反応を示す。
――だがショボンが次いで状況を伝えようとした瞬間、
ひどく興奮した様子で駆け寄ってきた。
ナナシの手には騎兵槍。
切っ先はこちらに向いていない。
敵意は感じられずとも思わず怯み、手で制し、理由を訊く。
(´・ω・`;) 「まて! どうしたっていうんだ」
ミ,,゚Д゚彡 「やっと逢えた!」
ミ,,゚Д゚彡 「しぃが、貴方を捜してるから!!」
(´・ω・`;) 「――!」
(推奨BGM:A return indeed (piano ver.)
https://youtu.be/jPT4hh9BesE
-
しぃ。
……ショボンにとって、懐かしい名前だった。
当然、それほどの時間を置き去っていたわけではない。
(´・ω・`) 「……」
だが、彼女の元に戻るつもりは毛頭ない。
戻れない。
(´-ω-`) 「……」
(´・ω・`) 「…君は、しぃの何なんだい?」
ミ,,゚Д゚彡 「ナナシはしぃの幼馴染みだから!
しぃに頼まれて、ショボンを捜し回っていたから」
いまここに居るのも、ショボンを見つけるためだったと彼は言う。
しぃが無事でいること…
戦場外れの孤児院で子供を産んだこと…
その後は彼の故郷に住まいを移したこと…
嬉しそうに…ナナシの口から、伴侶のいまの姿が楽譜に並ぶ音のように流れてくる。
(´・ω・`) 「そうか…」
ショボンは思う。
子供の名前はどうしたのだろう?
これからしぃが立派に子を育て上げることが出来るならば、
不死である自分がいずれ出逢う時が来るかもしれない…。
ミ,,゚Д゚彡 「ショボン、二人で一緒に帰ろう!」
-
………しかしショボンは答えない。
最初の言葉以外には、何も質問もしなかった。
しぃの話を聞くにつれ、
アサウルスに縛られていた人生観…その胸中に差し色渦巻く感覚。
心地好くも浮き足立ち、落ち着けなくなる感情が、何処からともなく湧くのだ。
当時もいまと同じ思いに襲われていたことに、このとき気付かされる。
(´・ω・`) 「…僕には捜し物があってね。
過去の失態を取り戻している最中なのさ」
……しぃと繋がりをもったのも、
子を産んだ不死者の話を聞いて興味をもったからに過ぎない。
彼女とどこで出逢ったのかすら、思い出せない。
(´・ω・`) 「もしかすると、この森は当たりなんだ。
だから…僕がなんとかしなきゃ」
……しぃと共に過ごした時間を忘れたのではない。
記憶に薄いのだ。
とはいえ愛ではなく情くらいはあったのだろう。
彼女を選んだのは――縁、ただそれだけ。
そう、それだけのつもりだ。
-
(´・ω・`) 「すべてが終わったら帰ろうとは思っている。
…森を出たら、しぃにそう伝えてくれないかな?」
ミ,,゚Д゚彡 「家族を置いてまでやらなきゃいけないことが、この世にあるの?」
(´・ω・`)
それだけだと…
ひとり思い込んでいただけだった。
ミ,,゚Д゚彡
そして、ナナシは察している。
ショボンは戻らないのではないかと。
(´・ω・`)
ショボンが帰らなければ、しぃの子供は父親を得られない。
孤児であるナナシにとって――どこかに存在するはずの両親。
名も顔も知らぬ二人は、ナナシの深い深い記憶の底で、能面をかぶり眠っている。
何事もない日常… 戦場を駆ける瞬間…
それはまるで泡のように突如浮かんでは、残滓も残さず消えていくのだ。
だから、いつかはその面を外し、自分の本当の名前を呼んでくれるのではないかと…
ナナシは心のどこかで期待している。
子の傍に居られない親とは、果たしてどんな事情があるのか。
子を捨てる親とは、どんな気持ちなのか。
ミ,,゚Д゚彡 「しぃの子は、ショボンの子だよね?」
ミ,,゚Д゚彡 「なのに逢いたくない…から?」
-
ナナシも、しぃも、孤児院にいた他の子供も、皆一度は大人に尋ねたことがある。
『どうしてぼくにはママがいないの?』
『なんでパパはわたしに会いに来てくれないの?』
決まって、大人達は誰もが微笑み、
『パパやママはね、すこし忙しいだけなの。
居ないからって泣いていたら、心配しちゃうでしょう?
……だから、皆いい子で待っていようね』
と、言った。
(´・ω・`) 「だからだよ。
巻き込みたくないんだ、僕の過失に」
ミ,,゚Д゚彡 「…」
(´・ω・`) 「納得できない、か。
…君にも、なにか理由があるのかな?」
ナナシの顔は動かない。
周囲の炎がまた動き出す。
…まるで意志をもっているかのように。
( ´・ω・) ( 親、か… )
ショボンも実の親の顔を知らない。
シャキンとの命の譲り合いを経て、物心付く以前に衰弱して母は亡くなったらしい。
父に至っては後追い自死だったと、後に知った。
とはいえ兄者や弟者、ロマネスク爺、デレとミセリ……様々な大人が、彼には付いて回っていた。
ショボンにとってはそれで充分満たされていたのだ。
(´・ω・`) 「いいだろう。
望んで成った傭兵ならば、相応の覚悟も自然とできているんだろうしね」
ミ,,゚Д゚彡 「一緒に帰ってくれる?」
(´・ω・`) 「その前に聞いてくれ…この世界にはアサウルスという怪物がいる。
人の身も心も喰い尽くす蟻を従える……――
(BGMおわり)
-
その話は毎日の平和を享受し、
穏やかに生涯を終える者達には理解できないであろう、荒唐無稽な物語の一欠片。
だが現に、蟻による感染はナナシも先程まで目にした光景だ。
素直にショボンの言葉を信じることができる。
ミ;,,゚Д゚彡 「……いつかは大陸中にも?」
(´・ω・`) 「その可能性はすでに現実になってしまった。
この炎も強くなるにつれて、微かな波動を感じずにはいられない」
結果、どちらの陣営でも同じ状況が発生している。
ショボンとしては、森の民がもはや蟻なのか…
蟻が無差別に仕掛けたせいで、たまたまこの森が失われていくのかも確かめたい。
ミ,,゚Д゚彡 「どうすればいい?
肝心の森の民も見付かってないし…」
(´・ω・`) 「僕の通ったルートにも居なかった。
…ということは答えは単純」
(´・ω・`) 「まだ誰も通ってない場所にいる。 単純明快だ」
-
ショボンの所属する[空の軍]は、
大陸を迂回するように北から攻め込んできている。
対してナナシの所属する[都の軍]は南側から森に入った。
進軍ルートは南北に直進。
森内部の性質によって若干のブレを計算しても、
両軍とも大きく大陸外側へは外れないように指示されていることが、ナナシの話を加えて判明した。
ミ,,゚Д゚彡 「ということは、東寄りを捜せば――」
(´・ω・`) 「違う、恐らくは西寄りだ。
君らは名目上、森の民を守るためにここへ来たんだろう?」
(´・ω・`) 「だったら西寄りの方が可能性がある。
普通なら細かな進軍ルートを、内側だの外側だので現場にいない者が決めやしない」
ショボンは何度目かの空を見上げ、方角を確認する。
……一瞬だが、しかめ面を隠しきれなかったのを、ナナシは見ただろうか。
(´・ω・`) (知っていたんだ、"二人の女王" は。
森の民がいざとなればどこに逃げ隠れるのかを…)
-
----------
『 !!』
――遠くに聞こえる叫びの直後、
全ての酸素をマントルの下から引っこ抜くかのような大きく短い音が轟き、
なにかを引き裂くような赤い津波が天高く地走るのを、二人は見た。
炎の壁が天を貫き、逆流する橙が森を深紅に染める。
「あっちだ!」 三 ´・ω・)
三 ,,゚Д゚彡 「うん!」
日が暮れるにしたがい、明らかに変わる森の雰囲気。
ショボンの動きは速かった。
ナナシも決して鈍足ではないが、
この短時間で何度ショボンを見失いそうになったか分からない。
《大陸に――を呼ぶ―――族め!
我―が王と、――ショボンの名において
皆殺しに―――――!!》
分厚い炎と木々の向こう。
途切れ途切れの叫びが聴こえた。
地鳴り響く、違和感を残す "割れたような音" 。
三 ;,,゚Д゚彡 「……?? なんの音だから」
三 ´・ω・) 「擬態音だ。
こうして離れて聴くとよく判るな…」
三 `・ω・) 「…しかも好き勝手なことを言ってくれる」
-
アサウルスはもちろんのこと。
ショボンが探していた蟻も、蟻に感染し尖兵となった人間も、
本来まともに人語を喋ることは出来ない。
宿主の声帯と知識をほんの少し利用して、それらしく喋るのが関の山だ。
三 ;`・ω・) ( 擦り付ける気か?! 僕とクーに、この事件を… )
三 ;`・ω・) ( …いや、下手をすれば―― )
-
赤い森への侵略命令は、
――対外的には "王" であり、極一部の人間のみ知る事実としては "女王"――
から下されたもの。
森の民が利用するであろう隠れ場への誘導も、女王から下されたもの。
[空の軍]……クーの軍。
[都の軍]……敵対する女王の軍
`・ω・) ( 僕がここにいるのは、アサウルスの蟻を探してのことだ。
ハインの伝言以外、クーには話していない )
`・ω・) ( ならばクーは何故、森の民を狙った?
どうして…呪術師を巻き込んだんだ? )
思考の最中。
眼前に迫っていた焔の枝を、首を捻って躱す。
《ゥガァアーーッ!》
転がった丸太を飛び越えつつ、帯熱する岩を踏み台に跳躍すると
茂みの奥から、ショボンを追うように人の形をしたものが飛び出してきた。
黒い首輪、そして黄色の瞳を一瞥するなり腰元からの一閃。
牙剥き出しの口が限界以上に裂けると、蟻と化した騎士はその身から脳と眼球を切り離される。
;,,゚Д゚彡 「ショボン!」
`・ω・) 「分別している! 人なら殺さないさ」
心配とは別の答え。
判断の良さに驚いての咄嗟の呼び掛けではあったが、
それがむしろショボンに対する信用にも繋がろうとしている。
ナナシにとって、人を殺さない戦士が自分以外にもいるのだと。
…ショボンとしては、単にモナーとの約束を果たしているに過ぎないのだが。
-
――呪術師たちの死に場所――
二人が次に足を止めたのは、もはや人の立つ場ではなくなった惨状の跡…。
息を切らせた不死者と青年。
(;`・ω・´) 「…民すら標的か、アサウルス」
周囲を炎でぐるりと囲まれた広場には、紅と碧の和服に身を包んだ人々。
大人だけでなく、まだ幼い者もいた。
/,, ∀;;;)
翠色の礼服に身を包む父親らしき男の下敷きになった子供が、ナナシにもわずかに見えた。
血にまみれ、辛うじて原形を保ちつつも
その顔は獣に食むられ歪に欠けてしまっている。
誰も彼もが血の池に溺れ、例外なく身を千切られ…
噴血した赤水を啜る蟻だけが、ギラリとこちらを向いた。
三 ;`・ω・´) 「くそ!」
ミ#,,゚Д゚彡 「だあああっ!!」
得物を握り、地を蹴る二人。
神速を誇るショボンと、ナナシの騎兵槍の先端が同じ位置を陣取った時。
蟻が獲物から手を離し、新しくやって来たエサにその牙をカチカチ鳴らした時。
"彼女" は空から降ってきた。
-
------------
〜now roading〜
( ´∀`)
HP / B
strength / C
vitality / D
agility / E
MP / G
magic power / D
magic speed / D
magic registence / E
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-
本日はここまで。
投下中のご支援ありがとうございました、また後日に続きます
-
おつ!!
次も楽しみにしてるぜ
-
乙
盛り上がってる
-
乙 色々交差してるなー
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つい読み返したくなっちゃう
-
おつ
-
おつ!
先が気になるよー
-
こんな面白い現行があったなんて…!
一話から読んできたよ!
まだまだブーン系も捨てたもんじゃないな!乙です!
-
追いついた
乙
-
本日21時頃に投下を再開します
よろしくお願いします
-
代々の呪術師が踏み締め歩んだ大地に辿り沸き上がるは
森林を燃やす焔とは異なる、艶やかな丹赤。
「【フレアラー】!」
細く白い腕が鞭のようにしなやかに振られ、
魔導力の軌跡に沿った純紅の炎が扇状に撒き散らされる。
《ッゴアァ?!》
《ゲキャ――》
炎幕に晒された蟻の群れ。
歪んだその身を怯ませ、
ショボンらに向けて踏み込まんと差し出していた足が止まる。
-
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
ヽヽヽヽヽヽ\\ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
ヽヽヽヽヽヽ \\ ヽヽヽヽ ヽヽヽ ヽ
ヽヽヽヽヽヽヽ \\ ヽヽヽ ヽヽ
ヽヽヽ ヽヽ \\ ヽ ヽ
ヽヽ ヽ ヽ \\ ズアッ !!
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
「サポートか、有り難いね」
\\ ザシッ
 ̄ ̄ ̄`・ω・) \\
∪ \\,,'
↑ \
レ ,゛`
有無を言わせぬ追撃の【切断】。
一振りで幾重も対象を斬り刻むショボンの技は、蟻の命を容赦なく屠っていく。
――さらに瞬刻、ショボンの後頭部を逆撫でる重力が発生した。
ミ#,,゚Д゚彡 「ふんっ…!」
ナナシを中心にして荒れる一陣の大旋風。
ショボンは振り向かず、額を土に擦り付けるほど低く屈む。
…騎兵槍そのものは空を割くに留まった。
だがその膂力が生む衝撃によって、
炎の壁は煽られ揺らぎ、蟻の宿り主である騎士の身体が浮き上がる。
まだ終わらない。
更にナナシが身体を一回転させ――
ξ゚⊿゚)ξつ 「【グランダ】!」
――《ブシュッ》
間髪いれず降り注ぐ岩石群。
《ブシュッ》――、肉と骨の狭間から空気をひと欠残さず押し出したような《ブシュッ》音が残響する。
-
ミ;,,゚Д゚彡 「わっ…と!」
たたらを踏む。
力の矛先を失った騎兵槍が、周囲の熱によってとろけた土を抉った。
(`・ω・´) )) 「っと」
ショボンが一歩下がると同時、岩の墓標が音もなく突き刺さっていく。
地面を伝わる振動。
1つ…2つ……では足りない、場にいた全ての蟻の墓。
ξ゚⊿゚)ξ 「これなら生きていても、そうそうには動けないでしょう?」
…言って振り向いた姿は、この場に似つかわしくない華麗さを照らし魅せる。
一呼吸おき、表情を動かさずにツンは微笑んだ。
それはまるで西洋彫刻の像にも似て…。
ふたごじまで見たレリーフの女英雄が単身、
現実に脱け出してきたのではないかとショボンが思うほどだ。
―― ツン。
ブーンと行動を共にする不死者の女。
ショボンとはアサウルス絡みで、すでに面識がある。
ミ,,゚Д゚彡 「み、味方?」
(´・ω・`) 「敵ではないよ。 少なくとも、僕と君よりはね」
ξ゚⊿゚)ξ 「久し振りね、ショボン。
こんなところで逢うとは思ってもなかったけれど…」
二人の顔を交互に見るナナシを嘲るように、
再会を懐かしむ不死者の余韻を吹き飛ばすように。
…辺りは爆炎が一層盛り出した。
-
ミ;,,゚Д゚彡 「あっ!」
ξ;゚⊿゚)ξ 「……ふぅ」
(・ω・`;) 「…ゆっくり話す時間も無くて残念だ」
もはや森の大半は焼け落ちて原型をとどめていない。
ショボンらが通ったわずかな道も、ツンの通った空の道も塞がれる。
死屍の転がる広場は今、ひときわ分厚い炎の檻の中と化した。
ξ゚⊿゚)ξ 「ただの炎じゃないんだわ…
アサウ…いえ、蟻の性質が本体に近付いているみたいな…」
(´・ω・`) 「同意見だ。 奴も時を経て成長するのかもしれない」
――もしくは、アサウルス本体が降臨しているのか?
ショボンはそんな言葉をひとり呑み込んだ。
(´・ω・`) 「ブーンもここにいるのかい?」
ξ゚⊿゚)ξ 「別行動……よっ!」
-
発言が終わる前に、再び振るわれるツンの腕。
こんどは魔導力の軌跡が蒼く描かれ、淡い粒子を残したかと思えば…
水面に映る泡のように弾けて消えた。
だが、ツンの詠唱はそこで止まらない。
ミ,,゚Д゚彡 「…す、すごいから!」
感嘆の声。
入れ替わり発現したのは巨大な濁流の渦…
宙を起点に、竜巻を起こしながら巡る水槍だ。
(;´・ω・`) ( ここまでのものか、魔法とは )
ξ゚⊿゚)ξつ 「突き破るわよっ、【アクアデス】!!」
ズ ァ ァ
ァ ァ ァァァ
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
ァァァアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアア
ミ;,,゚Д⊂彡
「 「 …ぅおぉッ !?! 」 」
(;`・ω・⊂)
アアアアアアアアアアアア
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
【アクアデス】…死を冠する水の鉾。
焔を吸い込みながら術者の意思に従い突き進んでいく。
巨大な竜神が頭から檻を飛び出さんと暴れまわる。
着弾の余波が多量の蒸気となって破裂し続け、ショボンらの頬を焦がした。
「少し我慢してよね…!」
と、ツンの声が聴こえた気がした。
…蟻が産み出したであろう周囲の炎檻も、紅い毒を無遠慮に撒き散らす。
-
――だが。
ξ;゚⊿゚)ξつ 「…だめだわ! 他の炎とは厚みが違いすぎる!」
術者であるツンには手応えがあり、しかしいま一歩足りないのだと警告する。
「ならば…!」  ̄ ̄`・ω・)
ミ;,,゚Д゚彡 「ショボン!」
その呼応は素早かった。
止まぬ熱源に突入するショボン。
…しかしナナシが見たのは彼の背中だけではない。
炎との距離を詰めるほど、
無音の悲鳴をあげ、ばりばりとあからさまに捲れていくのは――ショボンの肉と皮膚だった。
-
「こんなもの―― (`・ω;;
アサウルス本体の咆哮に比べればまだマシだ』
…ショボンが思い浮かべた言葉はただそれだけ。
身体の信号が途切れ、脳が感触を見失い、
目が潰れて何も見えなくなろうかというところで居合いの一撃を見舞う。
「これでどう…だッ」 (;`・ω::
不死の身に宿す風の魔導力をもって、炎の壁を【切
断】。
-
ξ;゚⊿゚)ξつ 「―― 」
……ツンの言葉は炎熱にかき消え、聴こえなかった。
熔けゆく目蓋でショボンがかすかに見たものは、 なおも立ち塞がる炎壁。
(` ω;;
――まだ路は拓けていない。
こればかりはショボンにとっても想定外だ。
所詮は人の身。
【切断】のリーチが足りていない。
永年生きた驕りが彼の警戒を疎かにしたのか…
それほどに厚があり、圧を持った蟻の炎。
森中を焼く総てのフレアが今、この広場に集まっているとしか思えなかった。
アサウルスの咆哮と同性質を得た焔は、まだ幼いながらも不死者を苦しめる。
…だがあと一息のはずだ。
(` ω;; ( …もう一撃を)
力尽きる前に放たねばならない。
意識なき得物が推進する。
-
三三 ミ#,,゚Д つ
(; ω;; ( …あと一撃を )
-
求める一撃。
それを加えようと迫っていたのは、不死ではない青年だった。
この光景を黙って眺めていられるナナシではない。
魔導力のない彼は、己のちからのみを率いてショボンの真後ろを追ったのだ。
…そして目の前で膝から崩れるショボンの頭上を飛び越える。
ミ#,,゚Д
` ω;; その槍…
金色の髪に灯火、身に付けていたプレートアーマーも融けて剥がれていく…。
なのに、その騎兵槍は…――
#,,゚Д゚ 「ショボンは!
ショボンは、しぃの元へ帰すから!!」
-
《同胞の魔導力を感じる》
持ち主の意志に反して――
《喰わせろ… 還してくれ》
しかし呼応し――
《ぉお…力が…戻ってくる》
異なる目的を達成する――。
-
------------
〜now roading〜
( ∀ )
HP / B?
strength / C?
vitality / D?
agility / E?
MP / G?
magic power / D?
magic speed / D?
magic registence / E?
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(推奨BGM:The Wanderer of Darkness)
https://www.youtube.com/watch?v=t1bzIOvNVO4
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どれだけ歩いたことだろう。
草花や生木が燃えた匂いに混ざって、人体の焼けた臭いが辺りに蔓延している。
硝煙混じりの暗雲が、狙って顔の高さにまで降りてきたかのような悪視界。
行く先見えない森は、体力も時間も…そして気力も奪っていく。
「だれか、誰かいるモナかーー??!!」
軍ともショボンともはぐれたモナーは、鎮火しつつある灰土を一人進む。
過ぎる時間と共に、足取りもひどく重くなった。
延々とした地化粧の空が、彼を見下ろしている。
「…」
川の流れが止まったかのように静かな森の跡で、ときおり届くのは枯れ木の鳴る音だろうか…。
あれほど盛っていた炎の海も、もう蛍のように残骸を灯すだけだ。
道中、断片的に耳にした誰かの声も、もう聴こえない。
「…はぁ……」
腕も足も限界がきた……。
ついぞ、その場で立ち尽くす。
-
カサカサと、木っ端が主張するのは惨劇の残り火。
所属を示す黒い首輪が、煤だらけの軽鎧とよく似合った。
…まるで闇に紛れるように。
「なにをやってるモナ…自分は……」
赤い森はもはや荒野と化した。
鮮やかな彩りも、ひたすらな紅も、森の面影はなにもない。
何者にも邪魔されることなく、緩やかな風が吹いた。
「だれか…――
ショボンどのー!
――もう、だれでもいい!
居るなら返事をしてくれモナーー!」
-
虚しく天を抜けるモナーの野太い声。
星のない夜空を見上げれば闇の大地に成り変わり、
空転する意識はそのまま背中から倒れ込みかねない。
モナーの疲れはピークに達していた。
戦場における大声など、
敵に聴かれれば自軍の位置を知らせる愚行でしかないが、彼は叫び続けている。
その声が枯れるまで。
「だれかぁーーー!」
…モナーは名声など求めていなかった。
敵兵に見付かろうと、戦う意思も残っていない。
ショボンに追い付けさえすれば良い。
追い付いて、彼の態度に憤り、肩を掴み、
――『貴方は何を抱えているのか?』
そう問い質すつもりだった。
-
ふと気付いたことがある。
奇しくもそれは、祖父からの伝言と異口同音なのだ。
「はぁ……はあ…はァ………」
感謝を口にしていたはずの好好爺が、
礼ではなく、なぜそんなことを言いたかったのか…
いまのモナーになら判る。
言葉少なげな者が誰しも、心になにかを抱えているわけではない。
他者への気が回らない。
人目が怖い。
そもそも興味がない。
理由は様々あれど
育つ環境と、自身の思い込みによって形成された性格というものも多分にあるだろう。
しかし、ことショボンにおいてはいずれも当てはまらない。
彼は充分に気が回り、他人を恐れなかった。
堂々とした振る舞いで、効率的な物言いをする。
かと思えば…どこか人をくった涼しげな言葉すら操る男だ。
「……疲れたモナね…」
だからこそ何故、あの瞬間だけ…
泣き出しそうな、幼い顔を見せたのだろう?
-
まもなく夕焼けを喰らい尽くすであろう地平線。
沈む太陽にあやかり、その身を共に伏せてしまうほどに休息を欲した。
頬の触れた大地は、見た目より固く生ぬるい。
倒れ込んだ勢いから不意に口内を侵す泥を、唾液で濡らし乱暴に吐き出した。
何度も、何度も、異物感が拭えるまで。
「…」
脱力感。
モナーの両手両膝が深く土にめり込んでいく。
熱で熔けた土塊がその身を汚すのも厭わない。
横倒しの世界は、
モナーの意識に浮遊感をもたらす。
-
――コトン コトン。
工房の扉に取り付けたノックハンドルが、来訪者を告げる音。
『ごめんください、モナーさん』
(推奨BGM:Ruins of the east)
https://youtu.be/v9PRpIezoUY
-
……いつかの夕暮れ時だった。
単身、謝罪に現れた老婦人を思い出す。
声の主は、モナーにアイテム製造を依頼した者の代わりに。
のちのち戦争へと、身勝手かつ想定外に利用した立場の代理として。
『きつねどの?
今日はまだ納めの日ではなかったはずモナ』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『王の命とは別件で来たの。
…償い足らずとも、せめて私からだけでも、貴方に謝りたくて』
きつねと呼ばれた老婦人は一礼し、工房の扉を後ろ手に閉める。
一体何かあったものかと…モナーは室内への移動を促した。
彼女に対して警戒心など抱くこともない。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『作業中なのにごめんなさいね』
なぜなら…開店して一年ほどの細工工房に彼女が現れるのは、これが初めてではなかったからだ。
-
国からの依頼が徐々に増えたのは、大陸戦争のはじまる数ヵ月前。
…日に日に増える生産量。
出来上がり次第、納品しては入れかわり舞い込む依頼。
きつねは国からの使者として、モナーの元をたびたび訪ねていた。
普段ならお茶のひとつでも淹れるのだが、その日はきつねの方から謝辞された。
疑問符を浮かべるモナーにゆっくりと彼女は話し始める。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方が製造した品々が悪用されているの…。
それを伝えたくて』
-
『えっ…??』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『それとまもなく、城からの官がここを訪ねてくるでしょう』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方を、戦場へと連れに』
"悪用" …… "戦場" ……。
どちらもすぐには脳に染み込まない単語。
呆けるモナーを前にしたきつねはうつむき、少し咳き込んで、すぐに顔を上げた。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『見てしまったの。
貴方の製造品を手にした騎士たちが、魔導師の集う訓練所で実験していたところを……』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『でも、それは――』
魔導力を回復させるマナカプセル。
そして凡庸武器の依頼も含まれてはいたが、その程度の依頼ならば日常茶飯の範疇に過ぎない。
大陸には野生のモンスターが生息し、
その生活テリトリーを破る際には誰しも必要とするものだ。
問題は、他の品の扱い方なのだと彼女は言う。
彼女を通じて城から注文されたのは、
…容器内の水体積を減らすケロロンポーチ。
兵糧の一部を手軽に運ぶための生活雑貨。
…弱魔導力を乱反射するライトレンズ。
耐久性にまだまだ改良点はあるが、使い捨ての夜光補助アイテム。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『私も先日まで気付けなかった。
ひとえに王を信用していたから。
もし、アイテムをあのように扱うつもりであるなどと最初から知っていれば…』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方が庶民の生活に貢献してきたこと…しもじもの者たちほど、よく理解してる。
そして私もその一人でありながら、
故郷と家族かわいさに、上役に逆らうことができなかったの』
イ从,, ー ノi、 『……止められるかもしれない可能性を見捨てていたの』
-
重力に逆らわず、両手両膝…額まで床に擦り付ける彼女は、幾度も謝罪を口にした。
イ从,, ー ノi、 『ごめんね…モナーさん…。
本当に…面目ない……』
年老いた彼女にも家族があり生活があることくらい、独り身のモナーにも理解はできる。
…しかしなぜこの老女が謝らなければならないのだろう。
頭の片隅で違和感を覚えたが――すぐにかき消した。
よほど職務に忠実なのだと思うことにした。
彼女の態度から多大なる罪悪感が伝わってきたのだから。
そうとも。
きつねは右から左へと、言伝と製品を運んでいたに過ぎない。
職務上やるべきことをしただけだ。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『いいのよ。
しがない国の下僕とはいえ、私も無関係ではないから。
それに…この戦争はきっともっと大きくなるわ』
庇う言葉をかけるモナーにも、彼女は首をたてには振らなかった。
――それどころか前髪に隠れて伏し目がちな瞳が、まるで東方の刀のように鋭く映る。
緩やかに歪曲し、しかし美しさを兼ね備える刃。
しかしそれも一瞬のこと。
袖口からチラリと見えた数珠がカラ…と哭いた時、そこにはいつものきつねが映っていた。
-
きつねはモナーの知るどんな女性よりも不思議な人だった。
老女ではあるが、年月によって刻まれるべきシミやたるみはほとんど見当たらない。
首元のシワを見てはじめて、年齢を推測する材料のひとつに数えられる程に若々しい。
他の人々とは一線を画す雰囲気も特徴的だった。
老いて凛々しく柔らかなその物腰は、自然とモナーの口を緩ませる。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『孫は何人も…ええ、おかげさまで。
みんな良く出来た子達でねぇ、こんなお婆になっても元気を分けてもらえるんですから』
『孫かぁ…自分は子供すらできるかわからないモナ』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『子供を作るのは女の役目。
貴方みたいな人はどーんと構えて過ごしていればいいんですよ』
『でも…毎日仕事しているだけモナよ?』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『いいじゃないですか。
男なら人として、出来るだけ大きな証を遺してみせれば。
生来、女より出来ることがひとつ少ないのだからそれくらい頑張らないといけません』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『手の届くことだけでいい…
それだけで、自然と貴方の思い出は形を変えて、次の世代に必ず引き継がれるわ』
『だったらなるだけ長生きしないと。
モナには細工師の道を極める夢があるモナ!』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『そうね。
短く儚い命でも、たくさんの人たちに勇気を慈しみを与えたお話しだって世の中にはあるわ。
いつか死んでしまうからこそ、人は頑張れる。
それでいいの。 …それがいいのよ』
仕事中は誰とも時間を作らないモナーだが、彼女とならば不思議と世間話に花を咲かせた。
祖父母や両親が他界してからというもの、久しく無かった小言も心地好い。
だからこそ――何故、他人のために?
-
モナーの職人としての憤りは胸中に秘められつつ、確かに権力者へと向けられる。
すなわち己から汗をかかず、欲と利権のみを貪る肥えた豚。
心を痛めるのはいつも仕える者たち…利用される側だ。
イ从,,゚ ー゚ノi、 『私は戦争がはじまる前に里に戻るつもり。
…もはやあの王を止められる者は、この国にいないでしょうから』
イ从,,゚ ー゚ノi、 『だからせめて。
乱心の片棒を担いだ "責任" を、老いた私なりに取らせていただこうと思うの』
-
組織に属した者の世界は、ヒエラルキーによって支配される。
信仰だろうと、
職業だろうと、
血の繋がりであろうと。
たとえ偽りにまみれようと、
天から下される命令を民意と称され、否が応にも従わなければならない。
臆面なくマイノリティという黒羊の皮を被って、人々の心に忍び寄り添ってくる偽善。
気付けば無垢すら色に染まるだろう…背向くものには容赦なく、そして無寛容だ。
きつねをそうしたように。
『きつね? …申し訳ない。
私は本日付けで製品の受け渡しを担当することになった、フサグという者だ。
…まだこちらに来たばかりでね、前任のことは特に知らされていないんだ』
翌日から老女の代わりに来た男は若かった。
礼儀正しく、決められた時間もよく守る。
大陸東の出身で、故郷の山には色とりどりの花が咲き乱れるのが自慢らしい。
…だが彼を知るため交わした会話はそれだけ。
その後、ショボンがモナーを迎えにくるまで、フサグが無駄口を叩くことはなかった。
きつねのように、
フサグとモナーが笑いかけ合うこともなかった。
-
「……ぁ…」
遠ざかっていた意識を戻すと、もうすぐ夜が来ようとしている。
モナーはゆっくりと身体を起こし、大きなため息をついた。
大陸で生活を嗜み、感じてきたことを思い羅列する。
霊長類どころか、指先ほどの虫たちと変わりない管理社会。
共感を強いては個を認めない。
かと思えば一部の例外者の成功だけを模倣し、いつのまにやら我が物顔で共有を語りだす…。
もしも虫呼ばわりが無礼ならば。
獲物を無理矢理にでも地に組伏せるその様は、かの肉を喰い千切る獣と何が違うのだろうか。
『さようならモナーさん。 イ从,, ー ノi、
どうか貴方は自分に精一杯、忠実に生きて……』
……以来、きつねがモナーの元に現れることはなかったが、
彼女のことは今でも印象深く、モナーの確かな記憶に刻まれている。
だからこそ、あの日のきつねと先のショボンに、似た影が差していたことを気にかけた。
立ち上がり、乾きつつある泥も払わず、モナーはもう一度叫んだ。
「人がいるなら、早くこの森を出るモナよー!」
…喉の奥が痛んだ。
胸中は不自然なまでにざわついている。
「……誰か、誰でも、いい…。 もう、…」
-
それきり暫し動くこともできないまま、
改めて自分が今、なにをしていたのかを俯瞰し、とうとう自覚してしまう。
「……最低モナ」
モナーが本当に捜していたのはショボンではない。
―― "森の民を連れて帰る" 。
そんな大義名分だ。
このまま独りおめおめと戻れば、
混乱に乗じて軍を離れた臆病者の称号とともに、
戸の立てられぬ噂の的になるのではないか…。
軍師として大陸戦争に貢献していたショボンとは違い、たかだか一介の細工師。
戦闘の実績もなく、提供した製造品も己の意の通りに使われた試しがない。
頭のなかではシルエットの群れがモナーを囲み、こぞって指をさしていた。
「自分以外を利用して…」
身震いする。
かつてのきつねの言葉が心を苛んでいく。
記憶を写した羊皮紙が虫喰われ、不規則な穴をあけるように。
-
嘲笑は恐くない。
だが…祖父から受け継ぐ一族の信頼を、自分の代で失うことを彼は最も畏れた。
生きた証を遺すため、自身に忠実に行動した結果が "誰かを利用する" ことになろうとは。
……果たして、そんなモナーが遭遇する。
「だれか、いるの?」
「!! 子供の声…どこにいるモナか?!」
「……ここ」
跳び跳ねる心音を抑えつつ、消えそうな声を頼りに近寄るのは
焼け残った樹木、木炭、廃材の数々が崩れ重なったバリケードのような殻。
モナーには知り得ない、人為的に造られた天岩戸。
中からは出られないのだろうか。
モナーが瓦礫を取り崩す音だけが響く…軽く触れただけで、ガラガラと。
「あとすこし…っ、待ってるモナよ!」
(推奨BGMおわり)
-
廃瓦礫の隙間から姿を見せたのは、
軍員には含まれるはずもない、まだ小さな男の子だった。
「君は…ひょっとして森の子、モナね?」
「……」
子は答えなかった…しかしそうなのだろう。
怯えているのか、眼球が落ち着きなく揺れている。
モナーは膝を抱えて震える子の手をとり立たせると、
少しでも安心させるように目線を同じくした。
全身煤だらけではあるが、穏和そうな顔つきの男の子だ。
「怪我はしてないモナか? 痛いところとか…」
「……」
「大丈夫、なにもしないから。
とはいえ森はこんな状況モナ…」
「…」
「またなにが起こるか分からない。
次に炎に囲まれたら、モナーだって逃げられるか判らない…だから――」
「もう……いやだよぉ」
「…ぁ」
みるみる表情が崩れていたかと思うと、子は膝を折って座り込んでしまった。
隠しもしない嗚咽が、モナーの耳に嫌でもこびりつく。
「ぅわあぁぁああん……あぁぁん………」
「モナ…」
-
しばらく立ち尽くすも、泣き止まぬ幼な声は時間だけを食し続ける。
困り果てたモナーはやがて意を決するようにもう一度、子の腕を握りしめた。
「泣いてたって、なんにもならないモナよ」
「ぐすっ…ぐすん……」
「モナは人を追い掛けてたんだけど…
でももうここを出た方が絶対にいい。
君の親も、もしかしたら森の外で待ってるかもしれないモナよ?」
「……」
沈黙、
「 …嘘だ」
拒絶。
「モナ?」
「おとうさんも、おかあさんも……ぼくの目の前で殺された」
「――!!」
子の目付きが鋭くなる。
黒く、深く…。
まだ小さく未発達な瞳の奥で、
眉をひそめるモナーを映した瞳孔だけが明らかに大きくなった。
-
「……その首輪、おんなじだ。
おしさんたちが……お前たちが…!
お前たちが!! おとうさんとおかあさんを!!」
「…ちょっ…ちょっと落ち着くモナよ!
モナはただ――」
「ゆるさない…!」
立ち上がり、我を忘れ、怒りを "増幅" させられた、
生き残りである呪術師の子が右腕を大きく振りかぶる。
「 赦 さ な い ! 」
-
森に蔓延していたのは蟻の炎だけではない。
紅蓮を失してなお、この時点においては
"人の心を先走らせるなにか" が充満していた。
呪術師の子には "恐怖" と "恨み" 。
モナーには "焦燥" と "諦観" 。
「「 うわあああ!! 」」
重なる叫喚。
危害を加えるべく降ろされ、それを防ぐべく振り上げられた…大きさの異なる手と手の狭間。
赤子の頭を潰すかの如く、ひしゃげた人形が嗤い歪んだ。
それは呪術師が造りあげた、子供たちへの儀式のための人形。
泥を詰め、髪を添え、生まれた使命を果すために……
練り込められた魔導力――【ドレイン】。
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