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(‘_L’)は命令が欲しいようです
301
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:39:31 ID:PpHh.7g.0
関節さきの焼けた腕、肉と骨が切断され露出している。応急手当をしてからしばらく考えこんだ。
ジョルジュからの最後の命令。
それを考えることだけがフィレンクトのすべてだった。
爆発物を設置して。結果はどうだろうか。
上階の一部分を崩すだけでは足りないように思えた。彼はぜんぶと言った。
すべて。
この世のすべて。
フィレンクトは考える。何もかも終わったら自分の世界も終了してしまう予感に襲われた。
まだその時ではない。
恐ろしい予感を先送りにして、どのように箇所を決めるか悩んだ。
ジョルジュの希望を叶えようとすると、この階では不十分。必要な知識を探り出す。
見取り図、耐震設計、加重の要点。
軍にいたことはないから爆発作業は初めてだ。それでもこれは成功させなければいけない。何としても。
.
302
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:41:12 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「ねー、これからどうすんの」
不規則な動きで、跳ねてくる男がいる。
彼に殺意はないようだった。武器は携帯していないし、脳内のコントロールシステムもない。フィレンクトは振り向かなかった。
彼に構っているヒマはない。警戒だけとって、考えを実行に移そうと荷物を持って歩き出す。
( ´_ゝ`)「麻痺してんのかさせてんのか知らないけどさ、それ治療したら?」
そう言って携帯ボックスを投げられる。
なかには一揃い怪我に必要なものが詰められているものだ。即座に手当ができるように。
.
303
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:43:02 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは痛み止めと血止めだけを使った。縛っただけでは滴りを止められず、床にてんてんとしずくが落ちるのでそれは有り難かった。
( ´_ゝ`)「逃げたほうがいいぜ。もう用済みらしいし」
男は一定の距離をとってフィレンクトを追いかける。彼の目的が何か分からないが、警戒すべき相手でないのは確かだった。
今までもこれからも、彼は傍観しかしていない。
なぜここに居るのか。監視するにしてもフィレンクトが男を殺したとき何の手だても取らなかった。
だから危険はなさそうだと判断した。
事実、同じエレベーターに乗っても彼は行動を起こさず、鼻歌を歌ってフィレンクトを面白そうに見ているだけだ。
( ´_ゝ`)「?逃げないのか」
304
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:44:21 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトはある階層に止まり、その先へ進む。
やるべきことがあった。それが最優先。
逃亡は最後。
ペニサスにジョルジュのことを報告するという意志がなければ、その逃亡も考えなかった。
ガラスの壁からビルの側面を確認する。
ちょうど真正面、隣接するビルが建てられている。
.
305
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:45:43 ID:PpHh.7g.0
● ●
�������������� ●������ ●������ ●
● ●
フィレンクトたちが居るのは右上のビル。
306
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:47:17 ID:PpHh.7g.0
この一つでも巨大なビルが崩れれば足下にいる準国民たちが大勢死傷するだろう。
そのためにフィレンクトは重心の柱を選んだ。より多く、ではない。より広範囲に。
ジョルジュの望み通りに。
( ´_ゝ`)「貸せよ」
隣の男がいつのまにか下ろした荷を探っている。フィレンクトは無機質な視線でそれを眺めた。
.
307
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:47:59 ID:PpHh.7g.0
彼は楽しそうだが、また事務的でもあるという矛盾した様子だった。
にい、っと口のはしをあげる。
覚えてで、笑顔の練習でもしているような顔で言った。
( ´_ゝ`)「手伝ってやる」
.
308
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:48:49 ID:PpHh.7g.0
.
309
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:50:03 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「ねえ何か聞こえるだろ?こっちからよく見えるもん」
( ^ν^)「一定の騒音は遮断されている。こちらの硬質ガラスは外から何も影響は受けない」
( ´_ゝ`)「ふふ。知ってるさ」
( ^ν^)「……機嫌がよさそうだな」
( ´_ゝ`)「俺はじめてかもしんない。なんかスキップして外でちゃった。」
( ^ν^)「いまどこに居る」
( ´_ゝ`)「だからさ、外」
( ^ν^)「さっさと帰ってこい。破壊行為に及んだ場合巻き添えを食らうぞ。いま部隊を送ったからじきに」
310
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:51:02 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「もう遅いって」
( ´_ゝ`)「聞こえないの?あの音」
( ´_ゝ`)「便利さの弊害だね。一番上だから逃げるのもできないでしょ」
( ^ν^)「……さっきから何を言っている」
( ´_ゝ`)「ヘリポートは使えないよ。一番最初にやられる場所だし。観察が終わったから映像をまとめて切ったのも痛かった。
これから何をするにしても行動は予想してるんだっけ。でもさ、思想を制限されたわけでも、倫理感があるわけでもなくて」
( ´_ゝ`)「主人の為に120%の力を出すように育てた結果、その主人を無くしたらどうするのかを予想してなかったでしょ」
.
311
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:52:25 ID:PpHh.7g.0
( ^ν^)「最後の命令をやり遂げるだけだ。どうせそれを終えれば動かなくなる」
( ´_ゝ`)「効率だけ考えるとさ、発想がすごいんだよね。さすがナンバーズを殺しただけはある。
あいつにとってもう俺らは仲間じゃないし、所属じゃないんだ。アンタは主人でもない」
( ^ν^)「結論から言え。何が言いたい」
( ´_ゝ`)「だめだめ。俺は時間かせぎしてるんだから。どう頑張っても俺はアンタを殺せない。
でもアンタが望むのはそういうことなんだろ?じゃあ間接的にだけどそうであろうとしてるんだよ、だって」
( ´_ゝ`)「まさかドミノやろうだなんて、思いつくわけないじゃないか」
.
312
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:53:14 ID:PpHh.7g.0
一点の重心、加重のある側面を吹き飛ばす。傾いた上階はまるで折れたように寄りかかろうとするだろう。
隣のビルに。
本来なら複数にわけた爆発物をすべて同じ場所で爆破させる。それで支えていた柱を崩し、途方もない重さの壁とコンクリートが落ちる。長さがあるから、そのまま下に落下することはない。
ビルの先端、屋上付近から長さのある廊下のぶんだけ振り下ろす衝撃は強くなり、数万トンの拳が隣接するビルの側面に打ち下ろす。
外から眺めている人々にとっては衝撃の、中に居る者たちは阿鼻叫喚の一夜になった。
.
313
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:54:23 ID:PpHh.7g.0
勢いをつけて落ちてきたビルの上部分を、ほとんど真っ逆様に受け止められず隣のビルは強く揺れた。
このビルの上階に深く突き刺さり、これもまた側面から折れるようにして崩れた。
この時隣ではなく、落ちてきたビルの真後ろに倒れることになった。つまり中央の。
破片と黒い煙。火災が起きてケーブルが切れたために電気事故まで誘発する。
人々は逃げまどうしかできなかった。
.
314
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:55:51 ID:PpHh.7g.0
「見える?そっから一番いい景色だと思うけど」
彼はすぐさまウィンドウのカーテンをONにした。いつもなら夜景の眼にうるさすぎる光がわずらわしいのに、そのときガラスは闇一色だった。
静寂のなかに亀裂が入る音がして、グレネードを使われても割れないはずのガラスが白く線条に広がるのをみた。
巨大すぎて何が降ってきたのかさえ肉眼ではわからない。
ただ質量の途方もなく大きなものが、部屋ごと彼を押し潰そうとしていることだけを理解した。
.
315
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:56:45 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「バイバイ、父さん」
できることは何もなかった。
ただ本能に従い彼の身体は硬直する。
一瞬の間、耳にその声だけが入る。
何かを叫んだはずだが言葉にならなかった。
頂点にいるはずのナンバーひと桁。
栄華を極め、権力を手にして彼を脅かすものは何もないはずだった。
そんな彼は死を選択できることもなく、単純な肉塊に成り下がる。
.
316
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:57:39 ID:PpHh.7g.0
( ´_ゝ`)「絶景だなあ」
遠目から見ると感動すら覚える景色だった。折れた象徴のビル、まるで黙示録のようで。
.
317
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:58:46 ID:PpHh.7g.0
崩壊するビルは連鎖して崩れる。
ドミノのようにすべてが倒れるようにはいかなかったが、隣接している建物にそれなりに被害は与えている。
これから起きることを考えた。
耳元の無線は通信が切れて。
もう生きていないだろう。
結局あの男が求めていたのは何だったのだろうか。最後の瞬間、不明瞭なわめきしか聞こえなかった。
こうなる事を予想しなかったというのはじつに興味深い。
それを見通していた自分も。
( ´_ゝ`)「俺はアンタの求めるなにかになれたかな?」
まだ個々の意識はない。
兄者は希薄で、理解できないからそれを探そうとしていた。
.
318
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 04:59:53 ID:PpHh.7g.0
同時刻
.
319
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:00:35 ID:PpHh.7g.0
('、`*川
ペニサスは同じく屋上からそれを眺めていた。もう長い時間、通信が途切れていたから期待はしてない。ただその破壊の巨大さに驚いて笑う。
('、`*川「ずいぶんでっかい花火じゃない……」
どちらかは死んでいる。
その片方はジョルジュである可能性が高い。
彼が生きているなら、フィレンクトはそんな事をしなかったはずだ。
なぜならそれは自爆行為に似ているから。
被害が大きすぎて逃げるのも大変なはずだ。現在組織の一端は町を襲撃しているから、彼らも被害を被ったかもしれない。
どちらにせよジョルジュのやる事にしては、派手すぎる。
.
320
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:03:03 ID:PpHh.7g.0
「こうなるって、わかってたのか」
後ろに立たれて、息を飲んだ。
足音を消されるのはいい気分ではない。
ペニサスは自分のたち位置を知っているから余計に。
('、`*川「必ず成し遂げるって思ってたわ。まさかここまでとは思わなかったけど」
(´・_ゝ・`)「……三十人以上死んだ。まったく警戒してなかった所でだ」
('、`*川「は?ちょっとまってよ、場所は下町のとこでしょ。なんで上町で被害がでるのよ」
('、`*川「……勝手に行動範囲を広げたわね」
.
321
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:03:44 ID:PpHh.7g.0
(´・_ゝ・`)「チャンスだった。銀行も地下マーケットも手薄だ」
('、`*川「信じらんない。やっぱあんたに統率は無理よ。ジョルジュが帰ってきたらきつく処分するように云うから!」
(´・_ゝ・`)「帰ってくるのか」
雰囲気に気がつく。目線がゆらゆらと揺れて、落ち着きのない様子だった。
ペニサスはこの男と関係があまりよくない。
彼は自分を信用しておらず、自分は見下している。手を出されないのは強く能力のあるジョルジュが居るから。それでもこの時はまだ、彼を侮っていた。
ペニサス有能すぎた。
.
322
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:04:43 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「来るに決まってるでしょ。あいつは英雄よ。」
(´・_ゝ・`)「そうか……」
('、`*川「ちょっと、なにーー」
考えているのか。その問いは男の熱い息にかき消された。
.
323
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:05:29 ID:PpHh.7g.0
瓦礫が車も店も押しつぶす。
あとには騒乱と悲鳴と苦しみの死だけが残った。フィレンクトは片腕をかばいながら歩き続ける。
そのうち救援隊の一人から毛布をもらい、治療を固辞してそのまま去った。
汚れた煙、まだ黒煙は鎮火していない。
ざわついた人々の声であたりは騒がしい。
時期にここも崩れるだろう。フィレンクトは置いてきたジョルジュのことを考えた。
最後にみた彼は豪奢な部屋でひとり血に塗れていた。連れて帰ることは適わない。
あの死体は傾いたビルと共に落ちていっただろうか。まだ命令は遂行していない。
.
324
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:06:17 ID:PpHh.7g.0
ぜんぶ壊せと言った。だからフィレンクトは歩く。振り向きもせず、そのまま進む。
一度帰るつもりだ。それから健康状態を確認し、休眠をとって再び。
ーーーどこに帰ればいいのか。
そう思うと足は止まりそうになった。
とりあえずペニサスの顔を思い出す。
彼女の指示に従わなくてはいけない。
でなくば、ジョルジュの望みを遂行できない。
通りを進み、交通渋滞に巻き込まれながらなんとか電子車を確保した。
通路を通って隠れ家に急ぐ。
このとき外に居る見張りが異常に少ないことに気がついた。
.
325
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:07:19 ID:PpHh.7g.0
治安は安定していないとはいえ、ここらは縄張りごとにルールがある。ジョルジュがまとめ上げた男たちは、数ブロックごとに立っているはずだ。その兵隊たちがいない。
いつもと違うことは、フィレンクトの警戒を呼び覚ます。そういえばジョルジュが居ないのだ。
フィレンクトをもう仲間と認識するものはいないかもしれない。
心配は杞憂だった。建物内には人がいない。出払っているようだ。
恐らく混乱中の略奪に出かけたのだろう。
こんな時でないと、品物は手に入らない。
それでもこの少なさは異常だった。
留守を預かるのがひとりも居ないというのは。
フィレンクトはその時はじめてここに、何も変わらずに帰ることを想定していたのだと気づく。
隣にジョルジュを連れて、ペニサスが迎えてくれるような。
.
326
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:08:36 ID:PpHh.7g.0
内部はしんとしていて、静かな靴音だけが響く。誰も居ない、そのまま背を向けて探しに行こうかと考えたが、奥の部屋の扉がわずかに動いたのを視線にとらえた。
警戒しながら進んでいく、潜むような気配はなかった。
フィレンクトはドアをくぐる。
そこに彼女が居た。
327
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:10:35 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「……おかえり」
彼女はちらりとフィレンクトの失った腕を見る。
('、`*川「結構痛いことになってるのね。おいで、義手つけたげる」
歩きだす。
しかしその歩みはふらついている。
重心も定まっていない不安定な歩みだ。フィレンクトは何も言わず後ろをついていく。彼女を支えるのは義手を受け取ってからでもできる。
.
328
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:11:23 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「地雷とか、そういうので欠損するのも多いのよ。土地を取られたくないって地主が仕掛けてね。犠牲になる大半がその辺に住んでる人らなのに」
倉庫の鈍い明かりのなか、ペニサスはいくつかある腕のサイズを選んでフィレンクトの肘にあてる。
断面の手当はすませてある。
癒着させるにしても傷をカバーさせてからでないといけない。
('、`*川「これでいいわ。ぴったり」
ペニサスが選んだ義手は銀色の継ぎ目がないものだった。フィレンクトには違いが分からない。
どうせなら肌色のものがよかったのだが、ペニサスは穏やかに首を振った。
('、`*川「これはね、神経系を繋げて指先まで操作できるタイプなの。確かに肌の色に合わせるものもあるしその方が多いけど、それに比べて動作がなめらかなのよ。
つかむ、にぎる、広げる、つまむ、その他小さな可動も違和感なく行えるわ。見た目より性能がいいの」
.
329
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:12:05 ID:PpHh.7g.0
神経を繋げるときだけ痛みと震えがあった。まるで凹凸のようにへこんだ部位に義手がはめられる。
はめた直後から指までは動かなかったが、手首は動かせた。
手術で人工の手足がつけられるので、その場しのぎとしては優秀なものだ。
腕を上げ下げしてその具合を確かめる。
違和感はあるがその内慣れるだろう。
銃の扱いも可能かと指を動かす努力をしていると、ペニサスが壁にもたれかかる。
そのまま足下が力をなくして、崩れ落ちた。
330
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:13:10 ID:PpHh.7g.0
ようやくフィレンクトは彼女の状態に気がつく。
腹部の衣服を破ると包帯と医療用のテープで膿んだ傷口を巻いているのがわかる。
フィレンクトはキットを取りに行こうとした。義手のおかげで彼女を運べる。
感染症を抑えるために抗生物質を注射しすみやかに医療機関に運べば容態は安定するはずだ。
隠れ家に医療部屋はついているはずだが誰ひとり居ない状況であてにはできない。
フィレンクトは焦っていなかった。
だがなぜペニサスがこの事を隠すようにしていたのか検討をつけることもできなかった。
331
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:14:03 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「……要らない」
(‘_L’)「離してください」
('、`*川「そばに居て」
貴方を助けられない。
そう続けようとしたが、ペニサスの言葉で黙った。
彼女はいま不安になっている。抱えて移動しようと考えると、ペニサスが続けて言った。
('、`*川「もういいの。助けなくていいのよ」
フィレンクトは動きを止めた。
.
332
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:15:10 ID:PpHh.7g.0
再び分からなくなる。
常時であれば教わったマニュアルであれば緊急時の救急行動は当然のはずだ。
手を動かそうとした。
彼女を抱えて部屋を出る。
治療できる場所に。
だがその行為は彼女自身の手に押し止められた。
フィレンクトの戸惑いを理解するかのように柔らかく笑う。
これまでの挑発めいた、生き生きとしたものでない。その優しげがフィレンクトには恐ろしく思う。
変化はこれまでフィレンクトに多大な負荷しかかけなかった。
.
333
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:15:59 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ジョルジュになんて言われたの?」
(‘_L’)「壊せと」
ALL。すべてを壊せと。
フィレンクトはまだ一部しか達成していない。だからその後の指示を彼女から伺うつもりだった。
ペニサスならジョルジュの意見に賛同してくれるだろうと。
('、`*川「……そう」
予想とは反対に彼女は呟いただけだった。
334
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:16:49 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ねえ、聞いていい?」
彼女が手を握る力が強くなる。
ゆるめるとそのまま無くしてしまいそうな握力だった。
ペニサスが伺いをたてるなど珍しい。
どうぞ、と促す。
('、`*川「なんで最初っからアタシを警戒してたの?」
(‘_L’)
335
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:17:54 ID:PpHh.7g.0
ペニサスの顔を見たことがある。
化粧でいくらか違っているが整形をしたわけでもないので目鼻立ちは変わっていない。
どこかで知っている顔だった。
恐らく条件付け。無意識の行動をテストされるその場に彼女が居たのだろう。
断片であるが、白い壁紙と白衣をきた黒髪、赤い口紅は鮮烈に覚えている。
それは痛みと一緒になって片隅に残っている記憶だった。
336
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:18:51 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「そう……アタシは覚えてない。
あんたちは生産されるえんぴつみたいなものだったから。流れ作業よ。
いちいち把握してられないわ。」
('、`*川「……でもそっか。だから怯えてたのね。自業自得。これアタシが企業に居たこと知ってる奴にやられたの。
ジョルジュが居なくなれば暴走するだろうなって思ったけどいくらなんでも早すぎるわよ」
(‘_L’)
('、`*川「……やっぱりあんたは優秀なのね。きっと全部覚えてるんだわ。
だからって思い出すのは危ないからやめなさい。いまみたいに、ちょっと知ってるくらいでちょうどいいの」
まばたきしてほうっと息を吐く。
ペニサスはフィレンクトの無表情の頬を撫でた。
それからジョルジュに向けるのと同じ笑顔を向ける。
.
337
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:19:59 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ほかには、ジョルジュは何て?」
(‘_L’)「殺すまで死ぬなと」
難解な言葉だった。
ジョルジュの最後の命令で、フィレンクトを縛りつけるもの。
しかしその縛りが無ければ溶けてしまいそうなのも事実だ。
だから命令先をペニサスに向けたかったのに、彼女は満足そうに笑う。
.
338
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:21:13 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「あいつらしい。そうよ、ジョルジュに殺されるまでは生きなきゃ駄目よ。
仇なんだから」
フィレンクトの後ろ髪に指を通しながら楽しそうにそう言う。
ペニサスの状態は悪くないがけっして良いものでもない。
輸血をしてないだろうからそろそろ意識が混濁して気を失ってもおかしくないのだ。
だがフィレンクトが彼女を持ち上げようとするとそのたびに制止する。
.
339
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:22:25 ID:PpHh.7g.0
('、`*川「ねえ、優秀な殺し屋はキスで殺すのよ。知ってた?」
耳元でそう囁かれる。
フィレンクトは彼女の望みを理解した。
これほどまでに抵抗にあらがいたい命令はなかった。
ジョルジュが生存なら何が何でも拒否し、そのまま連れ去った。
ジョルジュが許すはずがないから。
だがもう彼は居ない。
ペニサスは生を望んでおらず、フィレンクトは彼女に従いにやってきた。
緩慢に彼女を引き寄せる。
.
340
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:23:40 ID:PpHh.7g.0
いままで数え切れないほど行ってきた行為だった。カフェで、バーで、パーティで。
もれなく相手は美女で、フィレンクトに抱きしめられることを望んでいる。
ペニサスもただそれを待っていた。
針は両袖に仕込んでいた。
シンプルな分何にでも使えるから。
フィレンクトはペニサスに顔を寄せ、そのまま口づける。
341
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:25:15 ID:PpHh.7g.0
彼女が息を飲んだ一瞬のあいだを狙って首の頸椎に突き刺した。
痛みは少しの間だけ、すぐに意識が飛んでまぶたが落ちる。
生理反応で身体がびくびくと痙攣する。
その反応を抱きしめていた。
彼女の体温が無くなるまで、ずっと。
.
342
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:26:15 ID:PpHh.7g.0
終章
そして 誰も いなくなった
.
343
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:27:26 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトはしばらくの間停止していた。
抱いている柔らかな身体がゆっくり冷たさを増していき、堅い肉に変わるまで。
思考も冷えたように固まった。
従うべき人間が欠如。
考える。
だが考えは堂々巡りになり、答えの出ない計算は苦痛しかなかった。
ジョルジュの不在。
順位は繰り下がりペニサスが準になるはずだった。
その彼女はフィレンクトの腕のなかで覚めない眠りにある。
.
344
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:28:38 ID:PpHh.7g.0
無意識に武器をさがした。
自分の頭を吹き飛ばしたときの、少しの間完全に己を消失していた。
その間記憶もなく、不安もなく、命令もなかった。
無いことが安心につながりそうだったが、ジョルジュの言葉を思い返す。
死ぬつもりはなかったが、自己で管理できない肉体の破損は死に直結する。
行動は起こせなかった。
.
345
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:29:59 ID:PpHh.7g.0
(‘_L’)
フィレンクトはペニサスをゆっくりと床に寝かせた。
それからぐるぐると動き回る。
考えるときはじっとしている方が効率的のはずだが、なぜか猛るような衝動でそれができなかった。
ジョルジュが居ない。
ペニサスも居ない。
ジョルジュの命令ーー壊すこと。死なないこと。
彼が殺しにくるまで。
第二の命令は実行不可だ。彼は死んだ。死人は行動できない。
それなのになぜ彼はあんなことを?錯乱にしては落ち着いていた。
落ち着いてフィレンクトに指示をした。
.
346
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:31:14 ID:PpHh.7g.0
ならば彼の命令だ。遂行しなければいけない。
だがもう彼がいない。
成果を報告できない。これからの命令をもらえない。
離れるだけならいくらでも待っていられるのに、帰還予定がないことはーーーとてもとても、困る。
思い返す。フォックスの時は彼が居た。
そしてあの瞬間に彼を選んだ。
選んだからには命令をそのまま実行しなければならない。ならない。
(‘_L’)
.
347
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:32:17 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは死んではいけない。
ジョルジュが殺しにくるまで。
フィレンクトは壊さなければいけない。
ジョルジュが望んだ通りに。
矛盾はない。
ただジョルジュの望みを叶えるためにはしばらく生き延びて、武器と情報を調達できるようにならなければいけない。
そのためには他の主人を見つけれることができない。命令は遂行中であるから。
フィレンクトは考える。
すべてを壊さなければいけない。
いまある命令をこなさなければ、この喪失した何かを埋めることができない。
だがそれはこなしただけで埋められるだろうか。
.
348
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:32:59 ID:PpHh.7g.0
恐ろしかった。
予感だけでフィレンクトは動けなくなる。
死を看取ってしまったから。
だがフィレンクトの足を動かすのも彼の命令だけだ。
立ち止まり、歩き、また立ち止まるを繰り返しているといつしか行動の予定を考えていた。
現在テロの収縮を計っているはずだがレジスタンスの抵抗で収まってはいない。
数時間後には制圧部隊が押し戻すがそれまではほぼ無法地帯だ。
片腕の市民は保護区に送られる。
それに紛れて一度土地を離れる。
早く逃げなければ手配される。
フィレンクトの行ったことよりも所属していた身分が明らかになるほうがまずい。
全力をあげて捜索されるだろう。
いまから逃げ出して間に合うかどうか。
計画をたてると恐ろしかった予感が一時的に薄らいだ。
やはり考えることはない。
ジョルジュの命令だけを覚えていけばいい。
(‘_L’)
.
349
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:34:11 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは気がつかない。
これは彼の希望で選んだ選択だった。
フィレンクトは認識していない。
だが初めてあげた産声だった。
ジョルジュへの、再認識、恐らく好意。
希望、彼の望み。
.
350
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:35:14 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトは
.
351
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:36:33 ID:PpHh.7g.0
������������
((‘_L’))
移送されるトラックのなか、太陽よけのローブをかぶって顔を隠す。
シティは黒い粉塵にまみれて、それでもきらびやかに輝いていた。
無くなった柱は三本。
すべてを倒すにはまだ足りない。何もかも。
道徳を学んでこなかった。
フィレンクトにとってはそれが正しく、なすことなので疑いようもない。
光に反射する銀の義手に表情のない顔がうつる。
唇がうごいて、誰かの名を発音した。
はじめて呼んだ、主人の名だった。
.
352
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:37:15 ID:PpHh.7g.0
フィレンクトの章
.
353
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 05:42:12 ID:PpHh.7g.0
いったん終わりです。
近日再開とかいっておきながらながくあけましたごめんなさい。
不謹慎な展開になっていきますがあくまでフィクションでお願いします。
いろいろ話を考えていたんですが、日本人人質事件とか思いっきり考えていたこれからの内容と被ったりするので、ブーン系といえどこれはいいのかな…と悩んでおりました。
まだこれから別のタイプで話を続けていくのでながい目でみてくださるとうれしいです。
支援絵、ありがとうございます。滅茶苦茶うれしいです。プロ並じゃないですか本当に。
354
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 12:45:53 ID:IHllkrdg0
乙、雰囲気大好きだ
凄く格好いい
続き何時までも待ってますぜ
フィレンクトは何処に向かうのか
355
:
名も無きAAのようです
:2015/02/24(火) 13:08:31 ID:SfCkuqGQ0
おつ!行く末が気になる〜
356
:
名も無きAAのようです
:2015/02/25(水) 00:23:06 ID:ErF7fB1.0
乙!!
ずっと息を詰めて読んでた、精緻を極める心情の描写がすごく好きだ。
次の章が待ち切れない
357
:
名も無きAAのようです
:2015/02/25(水) 17:01:23 ID:G70FSCNc0
これで完結でもいいくらい濃厚な章だった
続きもわくてか
358
:
名も無きAAのようです
:2015/02/25(水) 18:52:12 ID:pX.mBppY0
乙
マジかよまだ続くのか
すげぇボリューム
359
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:18:47 ID:r/TBeVGs0
残酷描写注意
三、四章でたぶん終わります
360
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:20:58 ID:r/TBeVGs0
彼女の章
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361
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:21:47 ID:r/TBeVGs0
男の子って何でできてる?
かえるとかたつむり、子犬のしっぽ!
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362
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:22:35 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)
マッチをすってたばこに火をつける。
この頃はレトロなものが流行っているらしい。火だねに香のようなものが混ざっているらしく、たばこと香木の匂いがまざる。
貰い物だけど、これはもう使わないな。
飲み込んで、肺に入れる。
それを鼻からだす。味わい深いが、味覚がおかしくなるし、鼻も聞かなくなるだろう。
もう戦闘に直接立つことはあまりないのだが、染み着いた習慣は疎かにはできない。
.
363
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:23:18 ID:r/TBeVGs0
普通の人間のように擬態していると兄者の耳に靴音がきこえる。
砕けたコンクリートが散らばる道路を歩くための、作業靴。
ひょいと顔を出した男は知っている顔。
数日まえに部下としてよこされた男だ。
( ^ν^)
これがいまの兄者の連絡係り、端的にいえば見張り役だ。
ただし末尾の者らしく、その価値は遺伝子情報にしかない。
.
364
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:24:06 ID:r/TBeVGs0
( ^ν^)「あのー兄者さま、突撃隊の責任者らしき者がぜひ会いたいと言っているんですが」
( ´_ゝ`)「何の用件?」
( ^ν^)「恐らく膠着状態を改善する案ではないかと。突入を抑える気配もありますし」
( ´_ゝ`)「?なんだってそんなことするんの」
( ^ν^)「いやー関係者の身内が人質になっているようです」
( ´_ゝ`)「はあ?嘘だろ。そんなことで計画変更できるもん?」
( ^ν^)「人情的にはだいぶアリです。むしろその案でいこうとしてます」
( ´_ゝ`)「……ばっかだねー。人質とられた時点で詰んでるし、むこうも殺す気ないんだから突入しかありえないのに」
.
365
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:24:48 ID:r/TBeVGs0
( ^ν^)「ないんですか?では何のための?」
( ´_ゝ`)「要求通すためだよ。いま撤退したら調子に乗ってどんどん侵攻してくるぞ。領土さえ占領すれば勝ってるって思うんだから」
( ´_ゝ`)「仕方ないなあ。みんなこんなにバカだと思わなかったよ」
移動用トラックと住居用トラックがいくつも並べられて、道路を占領している。
崩れたビルの破片はまだ撤去されていない。襲撃のさいにこれらが身を守るたてになるからだ。
.
366
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:25:34 ID:r/TBeVGs0
いまだ治安は安定していない。
むしろこれからが本番だった。本社からの増援は距離という問題で遅れていた。
敵はこのわずかな時間を狙って、土地と建物、貨幣価値のあるものを奪いにきている。もともと企業グループが町を安定させていたときは、整備されていない住民外に潜んでいたのだが。
多数のけが人と死者で警備が不十分なところを狙いにきていた。
.
367
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:26:17 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「あんたがリーダー?」
( ФωФ)「責任者か」
兄者住居トラックのひとつ、連隊の責任者らしきナンバーを見つけてなかにはいる。
彼らは傭兵団。
企業でなく、軍人でもない。どこにも属することなく雇われて働く。
その多数は地元民でなっている。
ただし一度外国に出たものや、教育を受けているものなどで、知性は高い。それに国派でもあった。企業の汚職やそれに癒着する政党とはまったく別物として活動している。
戦国時代なら彼らは優秀な家臣か、地方領主に収まっていただろう。
そして彼らの現在の不満はおそらくどこにでもある方針の違い。
.
368
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:27:03 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「えーと討論形式でいくね。しゃべるのは順番こ。矛盾がないように、興奮するのも感情的になるのもだめ。
個人的なことで隊を動かすのは許さないし、こちらの命令に従わなければ支援しません。わかった?」
( ФωФ)「いいだろう」
( ´_ゝ`)「まずなにを要求してるの?」
( ФωФ)「……そちらのきわめて非人道的な行為について、即刻中止願う。人質とテロリストを同じように射殺するなんて国連の倫理協定に違反する」
( ´_ゝ`)「バリケードを作って攻め入ろうとしてたやつらのこと?人質に銃もたせてたからあれはノーカン。間違えられても仕方ない。非人道行為を問いつめるならテロリストに直接いってくれ。こちらの対応は適切である」
( ФωФ)「では、少年少女隊をためらうことなく発砲したのはなんといいわけするつもりだ」
369
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:27:47 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「世界の半分は未成年の兵士で循環してるんだぜ。人類皆平等。命の尊さに区別なんてつけられないって。赤ん坊も子供も大人も老人も。
そもそも使うほうが悪い。正当防衛を行使できなけりゃこっちがやられる。アンタだって銃もってたらうつだろう?」
( ФωФ)「加減をするのがまっとうというものだろが!!やりたくてやってるわけではないのだぞ!!せめて投降を待つべきだった」
( ´_ゝ`)「無茶いうなよ。向かいあってる俺らと身内みたいなやつら、どっち信じるかなんて分かり切ってるだろうが。
むしろ未成年のほうが純粋なぶんタチ悪いんだぜ」
( ФωФ)「……このさき、人質を救出する気はないということか」
( ´_ゝ`)「特別な法案も先日通ったんでね。たとえば飛行機とか、ハイジャックされたら打ち落としていいってことになった。さらに被害を出すよりましだろう?そもそも人質だって同じ部族やつらが混じってるんだから逃げようと思えば逃げられたさ。」
.
370
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:28:30 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「それに人質が意味ないって早めにわからせておかないと、ずっとこの調子で脅迫に屈しちゃうの?そっちのほうが不毛じゃない?」
( ФωФ)「……貴様の言葉は机上の空論でしかない」
( ´_ゝ`)「でもあってるよ。長引けばひくほど状態は悪くなるし、というかこんな陽動につき合ってられないんだよ。全体グルだし。」
( ФωФ)「?なにを言っている」
( ´_ゝ`)「輸出と輸入の岐路を狙われてる。いま出国者が殺到してるから紛れるのは難しくない。ここがどれだけ豊富な土地か傭兵にはわかんない?冷戦だって支援者がいたから長続きしたんだぜ」
( ФωФ)「ここがただの囮だというのか」
.
371
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:29:14 ID:r/TBeVGs0
( ´_ゝ`)「そう。だから殺されないと踏んでいる。おまえらの中に協力者はたくさん混じってる。ちょっと銃の照準をずらせばいいだけ、見逃せばいいだけ。
突入はいつやるか教えない。アンタらは後方に回らせる。不審者がいてもどうせ見ないふりされるだけだから何もしなくてもいいよ」
( ФωФ)「……おれは」
( ´_ゝ`)「あー、いい。そういうのいいの。アンタはアンタの仕事してて。いまさら責任者変わりまくると面倒だし」
( ФωФ)「俺は無責任に役割を放ったりはしない!」
( ´_ゝ`)「ほら分かってない」
.
372
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:29:56 ID:r/TBeVGs0
背中撃たれるっていってんの。俺は
.
373
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:30:38 ID:r/TBeVGs0
.
374
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:31:24 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「アンタどういうつもり」
从'ー'从「……」
化粧が濃い。
手に入る物資が少ないから、薄化粧で街にたつ娼婦は多い。
だがワタナベと向かい合っている女はマスカラ、赤い口紅に、ファンデーション、頬紅まで塗っている。
もとの顔立ちをかくすように塗りたくった。そこまで厚いと化粧だけで美人の定義になってしまいそうだ。
.
375
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:32:08 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「無法地帯じゃないってことくらいわかるよね?ヒトの客に手ぇだしてどうなるかわかってんの?」
縄張り争いは各区域に住むすべての住民の義務だ。そこを追放されるとどこまでも下へ落ちる。
最下層は死。
そこまでいけばもう這い上がれない。
難癖をつける女はついこの間まで、区画ボスの身内だった。
ギャングが娼婦に生ませた子がまた同じ職業につく。
父親がそこまで上の立場じゃないので中層の階級、チンピラよりうえで、正市民より下。
テロがおき、戦争めいたことが町中で起きているなか、階級をあげようと抗争がはじまった。
.
376
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:32:53 ID:r/TBeVGs0
そのさなか、渡辺は女に目をつけられた。
彼女の親しくしていた男が一晩、渡辺を買ったからだ。
娼婦の財産は常連客。
下層にいる襲われて金も払われないような女でもないかぎり、一晩だけというのはめったにない。
買う客も、見知らぬ女に殺されたくはないからだ。
.
377
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:33:39 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「なんとか言えば?言ったって許さないけど」
普段なら、渡辺はふるえて許しを乞いた。
女の気のすむ態度をとり、土下座して頭を踏まれ、稼いだ金を渡せばよかった。
だが現在その必要はない。彼女は知らないが、彼女の後ろ盾の父親はすでに死んでいる。抗争中の出来事、報復の恐れはない。
だれもが上へと登りたいときに、他人のために動く義理はない。
.
378
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:34:26 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「うるせぇよ、メスブタ」
( ‘∀‘)「あ”?」
.
379
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:35:15 ID:r/TBeVGs0
渡辺は華奢だが力はある。
太くなりすぎない程度のはりのある筋肉を身体にまとっている。脂肪のやわらかさだけで客を取るただの娼婦ではない。
すじの通った弾力の肌は小金を持っている客に喜ばれた。稼いだ金を、己の美容に使う女はもうこのあたりにはいなかった。
高級娼婦は一等地区に集められた。
金と地位にあこがれた娼婦たちはそこに集結し、誰も帰ってこない。
渡辺は自分の趣味志向のためだけに生きているから、そこへの興味をもたず、結果まだ生きている。
.
380
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:35:59 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「てめぇがブスでデブだから乗り換えられんだろ。自分の×××の締まりの悪さ他人のせいにすんじゃねぇ」
( ‘∀‘)「はあ?」
女は刃向かった渡辺に一瞬本気で困惑し、ついで発言の意味を理解し、瞬時に沸騰した。
(#‘∀‘)「てっめぇ、ふざけんじゃねーぞゴラぁ!!」
.
381
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:37:00 ID:r/TBeVGs0
渡辺は手袋をしている。
タートルネックの上着、それから長く布の分厚いズボン。
露出しているのはほぼ顔だけ。娼婦としてはめずらしく、女を主張していない。
その拳を握る。
女が自分のハンドバッグから小型の銃を取り出すまえに、踏み込んだ足の重心をのせて顎をまっすぐと殴りつける。
( ‘∀‘)「ぶっ」
故郷で男たちが行っていた演舞のひとつ。
だが渡辺はこの方法しかしらない。避けられたらおしまいなので、絶対に避けられないほど近いところから繰り出す。
鉄板の入った手袋、女とはいえ鍛えた握力と振りかぶった力。
拳に柔らかい肉に包まれた固い骨が砕ける感触がダイレクトに伝わる。
電気信号のように、全身がしびれるような感覚。
.
382
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:37:53 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「あ、あっぐあ」
顎と歯が砕け。肉を切り裂いて出血する。
女があわてて口元をおさえるも、渡辺は待たなかった。ここで小競り合いなどない。
いちどやったら最後までやらなければ、逆襲される。
続けて顔面にたたきつける。今度はもっと柔らかく鼻の軟骨がぐにゃりと曲がる。
続けてたたきつける。
頬骨が砕ける。
叩きつける。目玉が飛び出す。
叩きつける。叩きつける。叩きつける。叩きつける。
.
383
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:38:38 ID:r/TBeVGs0
( ‘∀‘)「くひゅ」
ぴゅっと口だった場所から血しぶきがあがる。顔を完全に破壊されて女はそのまま壁にもたれ、地面におちていった。
最後のしあげに、手は痛いし疲れてもいたので、そこらに転がっていたブロック石を持ち上げ、女の頭に落とした。
頭蓋骨というのは案外しぶとく、きれいにつぶれなかったので足踏みして終わる。
女が完全な肉の塊になったのを確認して、渡辺は一息ついた。返り血が点々と、服にはねたのでずいぶん機嫌を悪くした。
血はなかなか落ちないうえに、ドブネズミのような女の体液だと思うと脱ぎたくなった。だが着替えはもっていない。
.
384
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:39:20 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「汚れちゃったじゃない」
女の持っていた所持品をバッグだけを残してすべて奪う。死人に持ち物は必要ない。
予想とおり、化粧品のたぐいが多く入っている。売ればそこそこ小遣いになるだろう。
女のリストが一番の収入だったが、このときはまだ渡辺はその価値をわかっていなかった。
.
385
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:40:04 ID:r/TBeVGs0
化粧品を売った金と、奪った金でブティックへ行った。
ガラスで閉じられている店で買い物をするのは始めてだ。
そこでかわらしく、予算を伝えて自分に似合う服を選んでもらう。
そこまで高級店ではなかったが、店員にとっても渡辺にとっても幸運なことに、あざ笑うことなく店員は仕事をしてくれた。
スラム住民をバカにして追い返すと、最近はどんな風に恨みをはらされるか分からない
.
386
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:40:49 ID:r/TBeVGs0
「この組み合わせなどいかがでしょう。
お客さまのお肌に似合うお色になっております」
从'ー'从
濃い青のブラウスと、グレイのスカート。紺の靴下に服にあわせた白い靴。
渡辺はほほえんで、ありがとう。とお礼を言った。
彼女の顔立ちは人種が混ざったクォーター。����
はっきりした二重と形のよい目は澄んだ灰色、闇に落ちるまえの空のうつくしさ。
来店した当初の服装と比べれば見かけは白鳥とアヒルほどに違う。
.
387
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:41:38 ID:r/TBeVGs0
服だって財産だ。そこらの死人からでも、はぎとられる。
ワタナベが買ったのは娼婦に似つかわしくない。
彼女が髪を整え、薄く化粧し、清楚に笑えばどこかの育ちのよいお嬢さんに見える。
しかしワタナベは高級の客を狙っているわけではなかった。
そういう好みもいるし、ワタナベは十分彼らの嗜好にあうのだろうが、ワタナベ本人がそれを嫌がる。
娼婦は彼女にとって生きていくうえでの職業だ。元から素材のよい彼女は、髪をみだし、体型をかくし、顔をうつむいていないと目をつけられる。
だから自分の身は自分で守るしかない。
.
388
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:42:21 ID:r/TBeVGs0
彼女にとって女は敵だ。男は餌。
子供はうるさい存在、老人は眼中にない。
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389
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:43:06 ID:r/TBeVGs0
ふわふわとした足取りで家に帰る。
こんな気分は今までにないかもしれない。
好物を目にまえにしたときのようなものとまったく違う。
着飾った姿を、他人に見せたいだなんて!
自分がまったく信じられない。
廃墟の建物、入り口を改造したドアをあける。なかは迷路のようになっていて、至るところに罠をしかけている。
道筋を間違えたらおしまい。
正しい道は彼女しか知らない。
いや、つい最近にひとりにだけ教えた。
ワタナベがこの世で唯一、恋をした相手。
.
390
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:43:48 ID:r/TBeVGs0
かたん、と扉をしめる。
「ぐぅぅぅ……」
すると音に反応して暗闇からうめき声がする。この建物は電気が通ってない。
近隣の大半はそうだ。
ワタナベは気分を害した。
どうして出るまえに片づけておかなかったんだろう。幸せな気分に、水を刺された。
相手の罪は重い。
.
391
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:44:33 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「もう。どうしておとなしくしてくれないの?」
荷物を慎重にベッドに置いて、椅子に座っている相手に近づく。
男を拘束などしていない。
ただ声を出せないように、喉を焼いた。
それから椅子ごと杭を指して、はりつけにしている。
腕は椅子の背中に回して、その上から釘を貫通させた。
出血多量で死んでいると思ったのに、まだまだしぶといようだ。男に対する興味はワタナベにもうない。
男は懇願するように首をふり、目でワタナベに救いをもとめている。
まだぐったりと何もしないほうがワタナベには好ましいのに。その媚びるような視線に腹がたった。
.
392
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:45:15 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「ねえ、あたしきれい?きれいだって言ったよね」
ワタナベはサイズの大きい服を、両腕を交差し肩をあげるようにして脱いだ。
かたちの崩れていない胸があらわれる。
下着はつけていない。
それは特別な日につけるものだ。
男の目が見開かれる。
こんな時でも本能が刺激するのか。
じっと視線をそらさない。
ワタナベは下も脱ごうかと思ったが、やめた。期待されると裏切りたくなる。
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393
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:45:59 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「あたしがきれいなのはね、理由があるのよ」
上半身はだかのまま、男のひざに乗り上げる。肩に腕をまわして、男の顔を眺めた。
どうして男ってみんな、同じ顔しかしないんだろう。
从'ー'从「あたしの遠い遠い、おばあちゃんがね」
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394
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:46:47 ID:r/TBeVGs0
从'ー'从「おまえらに犯されたからだよ」
ナタを男のすぐ隣の壁に立てかけていた。
この男がそれに気がついて、腕をちぎってでも手にとっていたら逃げられたかもしれない。
ワタナベは男の頭に振り下ろす。
錆びた鉄は切るというより、叩き割るようにして男の頭を二つに砕いた。
.
395
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:47:30 ID:r/TBeVGs0
ワタナベの生まれはもう名前がない。
地域は小さいながらも国だったはずなのに、いつのまにか都市になり、さらに区域のなかの一部になってしまったからだ。
大陸を侵略する最初の足がかりにちょうどよい場所だったため、まっさきに攻め込まれて蹂躙された。
たしか50ねん前だったと母がいっていた。そのころ周辺諸国が力のかぎりに暴れ回っていたころで、ワタナベたち先住民はそうそうに駆逐され出荷された。
奴隷制はいまは別のかたちで残っている。
登録された準市民以下の立場。
ながい名前だったので覚えていない。
スラムの大半がこれに分類されている。
.
396
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:48:19 ID:r/TBeVGs0
皮肉にも犯され、殺され、蹂躙されたあとのワタナベたち民族は血が混ざり合い、遺伝子情報が平均化された。
昔のように肌の白さや髪の美しさでなく、造形が美の基準となったので、美人の確率があがったともいえる。
それ以上に、不美人は用なしとして捨てられたはずだが。
ワタナベの生まれ育った地区はつい最近奴隷解放の地として、民族が戻ることを許された。許されただけで、土地に住めるわけではない。
莫大な使用料、公共料金、登録証明をしなければ市民にはなれないし、なれたとしても維持できる稼ぎがあるはずもない。
.
397
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:49:01 ID:r/TBeVGs0
ワタナベは男が嫌いだ。
偶然うつくしさのかけらを、幼児の頃に発揮できていたからこそワタナベは息をしている。間引きは当然の行為。
仕事をできない女が、生きていてもしょうがない。せいぜい爆弾をまいて特効するだけで。それも犬にも劣る。
かちゃ、っとふたたび扉がひらく音がした。
はっとワタナベは振り返る。
ここに迷わずたどりつけるのはひとりしか知らない。そんなひとにこんな血塗れな姿をみせるなんて!
乙女のように恥じらい、胸を隠した。
裸が恥ずかしいのではない。
行儀が悪いと思われるのが嫌だった。
398
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:49:44 ID:r/TBeVGs0
きい、っと静かに閉めて、長身の影が入ってくる。
影はすぐに足をとめて、ワタナベの所業を見下ろした。
ぱっくり割れた頭の死体。
すぐそばにうつむいた若い女。
(#゚;;-゚)「……この男は?」
从'ー'从「あの、えっとね、悪いやつだったの!ほんとよ」
(#゚;;-゚)「……どんな?」
从'ー'从「ええっとねーたしか、武器を売ってたの。ドジョウセイブンがなにかって奴。嫌われてるみたいだったから、いいかなって」
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399
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:50:35 ID:r/TBeVGs0
だめだったかな。
ワタナベは不安で心臓が痛くなった。
まともに法が整備されていないとはいえ、普通の人間なら嫌われる。
こんな時間に帰ってくるとは思わなかったのに、まずいところをみせてしまった。
(#゚;;-゚)「…………」
人を殺すのに抵抗はないし、仕事のひとつだと思ってる。誰だって金のために人を殺すくせに、ワタナベの殺しをみるとみな不快をしめすのだ。それが残念でならない。
あたしは無差別で殺してるわけじゃないのに。通り魔のほうが、よっぽどひどい。
その人が、ワタナベに近づく。
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400
:
名も無きAAのようです
:2015/02/27(金) 04:51:25 ID:r/TBeVGs0
すこしびくりとした。
何を言われるのだろう。表情が堅いから、こちらも緊張してしまう。
この人でなかったら、鼻で笑いかけるのに。
手をポケットに入れて、ハンカチをだした。
なにをしているのかとみれば、それは近づき、ワタナベの頬に触れる。
(#゚;;-゚)「あまりしないで。あなたが汚れる」
从'ー'从「あっ……」
顔があつくなる。頬に布と、その人の指がさわり、どうしようもなく、胸が高鳴った。
ワタナベは恋をしたことがない。
だから自分がどういう状態かわからなくて、変にふやけた顔のままうなずいた。
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