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crossing of blessing のようです
90
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:35:17 ID:n3xO70qA0
12.
( ^ω^)「ありがとうございますお」
繁華街のCDショップで、ブーンはお目当ての品を受け取った。
海外版のレアもののCDだ。このお店の人が仕入れてくれていたのを、この日に取りに来たのである。
店員に頭を下げて、お店を後にする。
道路には徐々に雪が積もり始めていた。
このCDを、この日妻と一緒に聴こうと決めていた。
BGMを流し、妻が作ってくれているはずのケーキに蝋燭を立てる。
そうしてクリスマスと、まだみぬ子どものことを祝う。
そこまで考えて、ブーンはまた温かい気持ちになる。
「すいません」
( ^ω^)「お?」
91
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:36:16 ID:n3xO70qA0
振返って、誰に声を掛けられたのかを見る。
('A`)
ほっそりとした青年だ。顔色が悪く見えるが、元々白いのだろうか。
なんにせよ、あんまり健康的なイメージのない人だった。
('A`)「すいません、○○CDショップってここでいいんですかね」
( ^ω^)「ああ、そうだお。始めてきたのかお?」
('A`)「ええ、なんか、さっき言った喫茶店で流れていた曲、いいなって思って。
それで帰り際に店長さんに聴いてみたら、このお店で買ったって言ってたんです」
( ^ω^)「……それ、もしかして川沿いの個人経営の喫茶店かお?」
('A`)「え? はい」
(*^ω^)「おー! 僕もあそこのお店いきつけなんだお!」
('A`)そ「あ、そうなんですか」
92
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:37:16 ID:n3xO70qA0
思わぬ繋がりがあると、不思議と嬉しくなるものだ。
ブーンはにっこりとして、青年に語りかけた。
(*^ω^)「あそこのCDの推薦もよくやっていたんだお。
もし気に行ったなら、これからもちょくちょくあそこに寄ってほしいお」
('A`)「はあ、まあ……考えてみます」
(;^ω^)「元気、あんまりない感じかお?」
('A`)そ「え? あ、いや」
あまりにも、反応が薄いので、ブーンは思わず聴いてしまった。
本当はあんまり聞いちゃいけないことかもしれない。そう思って、若干反省する。
( ^ω^)「あー、ごめんだお。話したくなかったら別に」
('A`)「いやいや、そんな深刻な話じゃないです。本当に。
ただの失恋というか、なんというか……」
93
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:38:18 ID:n3xO70qA0
( ^ω^)「oh...」
('A`)「でも、別にいいんです。なんか、向こうと一緒に居る人普通に良い人だったし。
一緒に喫茶店にいたんですけどね。みんな用事があるとかでばらばらになっちゃって」
(;'A`)「それで、寂しいかなーって思って、ここまでふらふら遊びに来ちゃって。
ははは、何やってんですかね。全くもう」
自分でも、何を言っているのかわからなくなっている様子だった。
正直なところ、ブーンは彼に何と声をかけてあげればいいかわからなかった。
疲れきっている人に、頑張れとか言っては可哀想だ。こういうときは静かにさせておくべきかもしれない。
( ^ω^)「たぶん……散歩するだけでも気持ちが変わるんじゃないかお」
そんな案を、思いついたまま言ってみた。
( ^ω^)「そうだ、イルミネーションも綺麗だお。ぜひ見に行ってみるといいお」
94
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:39:16 ID:n3xO70qA0
('A`)「はは、優しいんですね」
青年は頬を緩ませて、答えてくれる。
('A`)「ありがとうございます。もうすこしふらついたら、行ってみようかなと思います」
( ^ω^)「うん……また、いつか喫茶店にきてくれお」
('A`)「ええ、ぜひ」
そう言って、青年はCDショップへと歩んでいき、扉の奥へと入っていった。
上手く行く人ばかりがいるわけじゃない。こんな夜でも、そうなのだ。
せめて何か、いいことが、彼にも降りかかってくれればいい。
それを想いながら、ブーンは自分の帰路へと脚を進め始めた。
95
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:40:16 ID:n3xO70qA0
13.
/ ,' 3「よう、フォックスか」
スカルチノフは公園の、小屋の中にいた。
外は雪が降っているが、長年のホームレス生活により寒さを堪えることには慣れていたので、問題は無かった。
それに、あまり人に聞かれたい話でもない。だから敢えて人気のない、冬の夜中の公園で電話をかけた。
爪'ー`)「今度はお前か。さっきデミタスから連絡があったぞ。
折りたたみ傘が紛失したそうじゃないか。進展はあったのか?」
/ ,' 3「今捜索中での。なに、もう目途は立っておる」
爪'ー`)「なんだ、それなら早く計画を進めてくれ」
/ ,' 3「その前に、聞きたいことがあるんじゃ」
フォックスの言葉を遮って、スカルチノフは突き付けるような口調を繰り出した。
電話越しのフォックスからの反応は無い。しいていえば黙ってくれている。
スカルチノフは一人頷き、言葉をつなげることにした。
96
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:41:16 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「お前さんの目的は、あの繁華街に立てられておるクリスマスツリーを爆破することなんじゃろ?
あの爆弾をあのツリーの袂に置けと言っていたことから、なんとなく思っていたことなんじゃが」
爪'ー`)「……ああ、そうだ」
/ ,' 3「それじゃ、それさえ達成すれば問題は無いか?」
爪'ー`)「……どういう意味だ」
フォックスの慎重な声が伝わってくる。
スカルチノフは愉快そうに、顔を歪ませた。
/ ,' 3「爆弾が無くとも、わしがあのクリスマスツリーを倒せばお前さんは喜ぶ。
そういう認識でいいのかと聞いておるんじゃ」
息遣いで、フォックスの動揺が伝わってきた。
爪'ー`)「お、おいおい。どういうことだい、じいさん。
爆弾を持っている奴の目途はついていたんじゃねえのか?
それを取り返して、設置したほうがすぐに終わるし、あんたが苦労する必要もねえんじゃないか」
97
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:42:15 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「持っている人が問題での。一筋縄じゃいかなそうなんじゃ。
な、どうじゃろう。わしとしては最期に一暴れするのも一興じゃとわくわくしておるのじゃが」
爪;'ー`)「あんたいつそんなにアグレッシブになったんだよ」
/ ,' 3「ほっほ、クリスマスイブじゃ。神の御加護で、わしにやる気を湧かせてくれたのかもしれんのう。
この世から盛大におさらばするためのエネルギーをの」
公園の地面に、ちらほらと白い雪の塊が見受けられるようになっていた。
地面に雪が積もれば絨毯のようであり、外に置かれた木の机に積もればテーブルクロスのようであり
そしてついに自分はそんなもの家族めいた温もりとは無縁の人生だったと、無闇な感慨に耽る。
爪'ー`)「まあ、それでもいいだろう」
やがてフォックスが言ってくれ、スカルチノフはほっと一息ついた。
爪'ー`)「しかし、いったい誰なんだ。その爆弾を持っている奴は。
吹き飛んでもいいようなどうでもいいやつなんだろうな?」
98
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:43:16 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「……それは、お前さんで判断した方がいいじゃろう」
爪'ー`)「なに?」
スカルチノフの胸の高鳴りは、一時のピークを迎えた。
いつもいつも自分にお恵みを与えてくれる、ありがたいお方を確実に動揺させることになる。
そのささやかながら邪な愉悦を、スカルチノフはそれを思いついたときから楽しみにしていたのだ。
黄ばんだ歯をむき出しにしながら、スカルチノフは名前を続けた。
/ ,' 3「爆弾を持っているのは、ハインじゃよ。
フォックスさん、いつもお恵みのときによく写真を見せてくれた、あんたの娘さんじゃ」
99
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:44:16 ID:n3xO70qA0
14.
ワタナベは小さいころから、みんなと仲良くしようと考える女の子だった。
もしクラスの中でぽつんとしている子がいたら、話しかけてみたくなる。
そうして自分の周りに、寂しそうな人がいないようにしたい。
もちろん、そんな夢物語がいつでも成立するとは思っていない。
実際彼女もそのことについて苦労をした。理解を得られることも少なかった。
人間なんて所詮は孤独なものだ、そんな言葉を何度言われたことかわからない。
高校二年生のとき、彼女は大きな挫折を経験することになる。
一年生のときに知り合い、仲良くしていたと思っていた人が、学校に来なくなったのだ。
ワタナベは何度もその子の家を訪ね、説得を試みた。
このときのワタナベは、かつてないほどに熱心だった。
何よりも、一度仲良くなった子が、遠くへ行ってしまったのが残念でならなかった。
一度仲良くなっていたということは、その子を支えるチャンスがあったのだ。
それを、自分は気付いてやれなかったのだ。
そんな責任感が、彼女には芽生えていた。
女の子の名はハインと言った。
100
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:45:30 ID:n3xO70qA0
結局、同級生が卒業する時期になってもハインは学校に戻って来なかった。
つまりハインは卒業していない。ずっと引きこもっているという話だけワタナベに届いていた。
ワタナベは失意を胸に、だけどそれを友達には悟られないように努力して
やや遠い大学に下宿をして暮らすことに決めた。
( ・∀・)「ああ、その気持ち、わかるな」
大学で出会った男の人は、彼女の失意を理解してくれた。
从'ー'从「ほんと!?」
( ・∀・)「本当だとも。僕も、人助けはしたいといつも思っている。
そしてそれが実らない辛さも知っている。いろいろ経験してきたからね」
从'ー'从「わかってくれるんだ。今までそんな人、みたことなくて」
それから2人はお互いの過去や、思いを話し合った。
彼も彼で辛い過去を持ち、それをワタナベに明かしてくれた。
そんな語りあいに、ワタナベはこの上ない安心感を抱くようになった。
2人は大学のサークルで知り合ったのだが、いつしか2人きりで話をするようになり、気がつけば付き合っていた。
彼がたまたま同郷の人だったというのもあるのかもしれない。
隣町の人たちが、遠くで出会うなんて、奇跡のようだ。ワタナベはそれを子どものように喜んだ。
これが、クリスマスの夜にワタナベとモララーが出会うことになった経緯である。
101
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:46:16 ID:n3xO70qA0
ところが、彼女の奇跡はこれでは止まらなかった。
爆弾事件に巻き込まれるなんて思いもよらなかったし
その追跡の途中で、かつて自分が必死で構成させようとしていた女の子と出会うなんて、どんな確率なのだろう。
从#゚∀从「なんでこんなとこにいるんだよ、ワタナベよお!」
彼女は今、女性とは思えない図太い声でワタナベを罵っている。
扉は外側に開く構造となっている。
そのうち、扉の内側ではハインがいて、ドアノブを握りしめ、体重をかけて内側に引っ張っていた。
一方の外側では、ワタナベが、これまた体重をかけて扉を開こうと必死にもがいていた。
从#'ー'从「それはこっちのセリフなんですけど! ハイン! なんで、ショボンくんの家に、あなたがいるの!」
ショボンの家の扉のノブをつまみ、ワタナベが必死にそれを引いていたのは、先に記した事情があるからだ。
この機会を逃すわけにはいかない。やっと出会えた、かつての友人。
必ずこの場で構成させる、そう意気込んでいたからこその迫力だった。
102
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:47:43 ID:n3xO70qA0
从#゚∀从「あんたはいつもいつも、私の前に突然現れやがって。
目ざわりだって何度も言ってんだよ! ほっといてくれよ!」
ハインはハインで、わけがわかっていない様子だった。
とにかくワタナベからは逃げたいのだろう。必死さから、その事情が伝わってくる。
そのことが、ワタナベをますますヒートアップさせた。
从#'ー'从「突然ふらっといなくなったら、気になるに決まってるじゃん!
今まで友達だと思ってたのに、ねえどうしてなの!」
こうして、言い合いがもう何分にもわたり続いている。
その様子を、いまいち状況の掴めていないデミタスは、ワタナベの後方でぼんやりと状況を観察していた。
(´・_ゝ・`)「……修羅場だ」
103
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:49:58 ID:n3xO70qA0
从#'ー'从「デミタスさん! そんなところで眉を垂らしてないでこっち手伝って!」
(´・_ゝ・`)そ「え、眉はずっと垂れてるんだけど」
从#'ー'从「いいから!」
(´・_ゝ・`)「は、はあ」
デミタスが手をかけ、扉を引くと、バランスは簡単に崩れることになった。
从;゚∀从「う、うわ」
ハインが前のめりに倒れ込み、そのまま地面にたたきつけられる。
すぐさま起き上がると、服の前面を素早くさすって、汚れが無いか細かく確認していたが
ワタナベの視線に気づくと歯を剥き出しにして威嚇を始めた。対するワタナベも同様の態度を示す。
从ν'皿'从νキシャー キシャーν从皿゚ν从
104
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:50:51 ID:n3xO70qA0
(#´・_ゝ・`)「ああもう、猫じゃあるまいし。はやく中は入れ。寒い」
痺れを切らしたデミタスが、ワタナベとハインを無理やり家の中に押し込める。
玄関を通り抜けるとすぐにリビングに入ることになる。
暖房の温もりと、こたつの存在が、雪に冷やされた三人の身体を包んでいく。
ワタナベとハインは相変わらずぎくしゃくした視線を交わし合っていたが、
こたつの真向かいに座りこむことでようやく程ほどの距離を得た。
お互いに手が伸びても、すぐには相手に届かない距離だ。簡単には掴み合いに発展できない。
(´・_ゝ・`)「さてと」
二人を見える位置に、デミタスは座り、その場を仕切ろうとする。
(´・_ゝ・`)「まず、僕たちは折りたたみ傘を」
从'ー'从「デミタスさん、そんなことより、まずはこの人を更生させる方が先です」
(;´・_ゝ・`)「あ、そ、そう、なの?」
105
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:51:53 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「もう三年も、学校に通わずにいるんですよ?
明らかに普通じゃありません。私たちが助けてあげなければならないんです」
ワタナベの言葉は強固な精神に基づいていた。
デミタスの、ワタナベに向ける目が、驚きから、だんだん諦めに変わってくる。
(´・_ゝ・`)「はあ、君も人助けが好きなんだね。
あ、もしかしてだからモララーくんとも気が合うのかな」
从'ー'从「話を反らさないでください」
(;´・_ゝ・`)「す、すいません。ちょっとコーヒー入れてきます」
デミタスが席を立ってキッチンに向かうと、ハインはようやく口を開いてくれた。
从 ゚∀从「ふん、たった三年引きこもっていたくらいなんだっていうんだ。
むしゃくしゃしていたらそれくらいしたくなるときもあるさ」
ワタナベはハインに視線を向ける。
すると、ハインはばつの悪そうに顔を俯けた。
ワタナベはなるべく興奮しないように、深く溜息をついた。
思えば、ハインとこうしてまともに話し合えるのも三年ぶり。それを怒鳴り合いで終えてはもったいない。
そう思ったから、まずは静かに聴き返すことにした。
106
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:52:52 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「むしゃくしゃしていた、そうだったの」
从 ゚∀从「ああ。そうだ」
从'ー'从「…………」
ワタナベは口元に手のひらを当て、昔のことを思い出そうとした。
ハインが引きこもり始めた時期のこと、その頃に彼女に何があったのかを。
やがて、その想起が、一つの可能性を提示した。
从'ー'从「高校二年生のとき、確か、あなたのお母さんが亡くなったのよね」
発言に対し、ハインはわずかに眉を吊り上げて反応を示してくれた。
从 ゚∀从「へえ、よく覚えているな」
率直に驚いた、そんな顔だ。
ようやくとっかかりが見つかった。
ワタナベは若干ほっとして、話を続ける。
从'ー'从「ひょっとして、それに関係あるの?」
107
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:53:59 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「はは……」
ハインは鼻で笑いながらも、視線を下方させた。
次第次第に、その顔が真面目なものへと変化していった。
从'ー'从「やっぱり、そうなの?
そこで、何かあったの?」
从 ゚∀从「大したことじゃねえよ。ただ……」
ひとつ、大きな溜息をハインがついた。
その目が、ワタナベを捉える。
从'ー'从「ただ?」
ワタナベは力強い目で、ハインを見返した。
从 ゚∀从「…………」
ハインは複雑な顔をしていた。
怒りは薄れ、悲しみと呆れが混ざり合った顔をしている。
それは思い出に対する評価なのかもしれないし、
ワタナベに対する感情の表れなのかもしれなかった。
108
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:54:53 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「なあ、どうしてそんなにあたしに構うんだよ」
唇を尖らせて、そう言う。
从 ゚∀从「あたしがいつ、助けてくれーなんて言ったんだよ。
求められてもいないこと、どうしてするのさ。不思議だよ、あんた」
从'ー'从「そんなもの、友達だからよ」
从 ゚∀从「昔の話だろー」
从'ー'从「嫌いになってないなら、ずっと友達よ」
从;゚∀从「だから、あーもー、なんだよこいつ」
从'ー'从「んん〜? 何かな〜」
109
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:56:17 ID:n3xO70qA0
何かを言いたそうなハインの口が、数回ひくつく。
すると、急に彼女の口の端が角度を持ち始めた。
数回、息が小さく噴き出して、ハインの顔に明らかな笑いが生まれていった。
从;-∀从「もういいよ。なんかもう、諦めたわ」
从'ー'从「…………」
ワタナベが見守る手前、ハインは咳払いをすると、
のそのそと徐々に動いて居住まいを正していく。
从 -∀从「親父が葬式に来なかったんだ」
伏し目がちに、ハインが話し始めた。
110
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:57:52 ID:n3xO70qA0
从 -∀从「仕事が忙しいとか、いろいろぐだぐだ言っていて。
それで私がきれちまった。どうにかしてあの親父を困らせてやりたいと思ったのさ。
学校とか、他人とのつながりとか、そういうのを一切断ち切ってな」
从 -∀从「でも、親父も意地っ張りだから全然何も言ってくれねえの。
だから私も意地になって、部屋に籠り続けた。
そうしていつの間にか三年がたっちまった。それだけの話さ」
ハインの説明が終わっても、しばらく誰も口を開かずにいた。
静けさの中、暖房器具の忙しない振動音だけが空間を満たしていた。
从'ー'从「それで、ショボンくんの家にいる理由は?」
すると、ハインの目が急に輝き始める。
まるでショボンのことを話したがっていたかのように。
从 ゚∀从「ネットでの知り合いだよ。あいつも寂しい奴だって聞いて、親近感が湧いたんだ。
同じ町だし、話してみると面白くてさ、今時珍しいくらい真面目で、子どもで。
それで仲良くなって、こうして家に押し掛けるくらいの間柄になったんだ」
111
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:59:01 ID:n3xO70qA0
一気に、ハインが経緯を説明する。
ワタナベはそれを、やや驚きながらも、頷きながら聴き終えた。
从'ー'从「……すんなりと、答えてくれたね」
ぽんと出てきたのは、そんな感想だった。
張り詰めていたハインの顔が、一瞬呆然として、それから一気に眉が顰められる。
从;゚∀从「あんんたがしつこいからだろ!」
从'ー'从「え〜、そんなつもりはなかったけどな」
ワタナベは目線を上に向け、おどけた表情で答えてみせる。
ハインは「ったく」と呟くも、その顔はすでに硬いものではなくなっていた。
112
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 20:59:52 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「とぼけやがって」
从'ー'从「それで、お父さんと和解するつもりはないの」
いきなり話題を戻すと、ハインは面食らったようだ。
だけどすぐにその顔が、うざったそうな表情を作り出す。
从 ゚∀从「は! おいおい、そんなとこまで介入するつもりかよ」
手のひらを横に振り、首も同じ動きをさせる。
それに対して、ワタナベは「当然」と言ってのけた。
从'ー'从「だって今の話を聞いていると
そうしない限りあなたは更生しないってことなんでしょ?」
从 ゚∀从「お前なあ、人が三年かかっても無理だったことを、そう易々と」
从'ー'从「それは一人で考え込んでいたからよ。私に相談できたんだから、きっと状況は変わる」
113
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:00:50 ID:n3xO70qA0
从 ゚∀从「なんでそんなこと言えるんだよ」
从'ー'从「だって、協力できるからよ。もっと仲間を作ることができる。人ってそういうものでしょう?」
ハインの目が、咎めるように動いて、それから突然はっと見開かれる。
ワタナベには、ハインが何を感じたのかはわからなかった。
ただ、自分の言葉が相手に届いているという直感だけが芽生えていた。
ハインは突然肩の力を抜いて、言う。
从 ゚∀从「お前、似ているんだな」
从'ー'从「え?」
ハインが何を指して言っているのか、ワタナベに思い当るものはなかった。
ハインもそれはわかっていたようで、いたずらっぽい顔を向けてくる。
从 ゚∀从「こっちの話」
从'ー'从「ええ、何がなのよ〜」
(;´・_ゝ・`)「コーヒー持ってきまし、あ、あれ? 仲良くなってる?」
114
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:01:52 ID:n3xO70qA0
ハインもワタナベも、デミタスを一瞥し、それからお互いの顔を見つめ、意味ありげな笑みを交わしていた。
デミタスは肩をすくめるも、もう何を言うのも疲れた様子だった。
(´・_ゝ・`)「そうだ、ハインさん。僕はまた別件が」
そう切り出したデミタスの言葉は、突然のインターホンの音によって途切れた。
从'ー'从「ショボンくんかな?」
从 ゚∀从「かもしれないな。ちょっと見てくるわ」
口を開いたままのデミタスをよそに、ハインはするりとこたつを抜け出し、玄関へと向かっていった。
(;´・_ゝ・`)「まったくもう、なんだってこう邪魔が入るんだ」
115
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:02:53 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「まあまあ、まだ時間はあるんでしょう?」
なだめるように、ワタナベがデミタスに呼びかける。
(´・_ゝ・`)「うーん、今は、8時。あと2時間か。そりゃ、大丈夫だろうが、油断するのも」
デミタスの言葉は、再び途切れることとなった。
今度は玄関の方から聞えてきた、ハインの叫び声によって。
物音が重なり、何者かがリビングに入ってくる音がする。
「おい、やめろよ! なんだってあんたがこんなところに」
「ええい、うるさい! 探し物に来たんだ!」
言葉の掛け合いがはっきりし、ガラス張りの扉の向こうに人影が見えてくる。
デミタスとワタナベはそちらを向き、何事かと固唾をのんで見守った。
リビングの扉が開かれる。
(´・_ゝ・`)「……え?」
爪'ー`)「……あ」
こうして、依頼人と請負人は、今再び出会うことになった。
116
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:04:01 ID:n3xO70qA0
15.
繁華街から、ブーンの家は近い。
とはいえ、うるさすぎることはない。建物や木々のおかげで余計な音は遮断されている。
道を少し行けば街に行ける、そんな好立地が彼の家のある場所だった。
繁華街からの帰り道。鞄には買ったばかりのCDが入っている。
我が家が見えたとき、反対側からくる人影を見かけた。
繁華街へと向かうこの道を、ゆっくりと歩いている。
/ ,' 3
ホームレス風の老人だった。
異様に侘しそうな姿をしている。
その姿に、ブーンは言いようのしれない不安を感じた。
いったい彼のような人が繁華街へ赴いて、何をするというのだろう。
117
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:07:03 ID:n3xO70qA0
何より、男の表情は、繁華街で楽しむものとはかけ離れていた。
強いて言えば、何か重大なことを成し遂げに赴くような、思いつめた顔。
そのとき、ふと、その老人が教会に居たことを思い出した。
しかし、はたして教会にいたときもあんな顔だったのだろうか。
神に祈る理由は数あれど、あれではまるで、神に怒っているようではないか。
そんなことをつい考え、見てしまう。
しかし、ブーンと視線を交わすことは無かった。
老人はゆっくりとブーンの横を通り過ぎる。
気付いた時にはもう、すでに老人は背中しか見えなくなってしまっていた。
( ^ω^)「いかんいかん、失礼だお」
ブーンは首を横に振り、再び自宅へ向かい始めた。
118
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:09:12 ID:n3xO70qA0
玄関の前で、「よし」と一声気合を入れる。
他人のことは置いておこう。今は家族のことを考えよう。
そう心を切り替え、インターホンを押した。
音がひとつ、弾んで、ほどなくして玄関の扉が開く。
( ^ω^)「ただいま」
迎えてくれた彼女に言う。
川 ゚ -゚)「おかえり。あんまり遅いから心配だったよ」
(*^ω^)「雪が嬉しくて、ゆっくり歩いてきたんだお」
ブーンは上機嫌でクーに語りかけた。
雪もそうだが、妻の顔が見れたからこその上機嫌であった。
119
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:09:59 ID:n3xO70qA0
川 ゚ -゚)「まったく、いつまでも子どもっぽいんだから」
クーはそうぼやきながらも、口元を緩め、片手を室内の方へ伸ばした。
川 ゚ -゚)「さあ、早く入って。夜食も作ってあるから」
( ^ω^)「おっお、ありがとうだお。プレゼントも後で広げるお」
そういって、鞄を示す。
クーが微笑んだのを見てとると、ブーンもまた満足する。
そして、もう片方の手に握られた黒い小さな折りたたみ傘をとじ、家へと入っていった。
120
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:10:54 ID:n3xO70qA0
16.
富豪、フォックスは、昔から娘のことを妻に任せきりでいた。
仕事が忙しかったし、何より子どもというものが苦手だったからだ。
それでも家族を持ったのは、ひとえに自分を愛してくれた妻のためであったが
社会の中で常に上を向いて競争を繰り返していた彼にとって、
家庭、特に娘に対する責任はいつまでたっても実感の持てない空虚なものだった。
娘のハインが高校二年生になる頃に、フォックスの妻が病気で倒れた。
フォックスが後から聞いた話によると、ハインが方々の病院に連絡を取って手術をさせたらしい。
彼女なりに迅速に行動していたが、性質の悪い病気であったらしく、医者からすれば助ける見込みは最初からかなり薄かったようだ。
手術は八時間に及び、その間ハインは病院の中でひたすら祈りを捧げていた。
当然その連絡もフォックスに届いていたが、彼は折り悪く、重要な仕事の案件に取り掛かっていた。
結局、夜中に手術が終わっても、フォックスが病院に来ることは無かった。
フォックスの妻は昏睡状態になり、今もまだ入院を続けている。
121
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:11:53 ID:n3xO70qA0
翌日になって帰宅したフォックスのことを、ハインは責め立てた。
フォックスは、連絡を確認せずにいたこと、仕事の付き合いで帰宅が翌日になってしまったことをひたすらに詫びたが
ハインは全くその言いわけを聞きいれようとはしなかった。
その頑なな様子に、フォックスも苛立ちを感じ始めていた。
やがて出社の時間になり、立ち上がるフォックスに、ハインは飛びかかって暴れた。
从#゚∀从「なんで会いにきてやらなかったんだよ!」
もう何時間も叫び続けているその言葉を
フォックスは煩わしくなって、断ち切るように怒鳴りつけた。
爪#'ー`)「どうせ手術中も、今も眠ったままなんだ。
会いに行っても認識もできないなら、行く必要もないだろう」
踵を返して外に出ていったフォックスの後ろで、ハインがどんな顔をしていたのか、そのときのフォックスには気にかける余裕さえなかった。
その日からハインは部屋に籠るようになった。
学校にもいかず、父親とはドア越しで怒鳴り合って過ごす日々だ。
122
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:12:58 ID:n3xO70qA0
最初の内はフォックスも意地になって、ハインのことを放っておこうと思った。
でも、妻の入院生活の手続きをし、目を覚まさない妻の介抱を行ううちに、考えに変化が生まれた。
今ここで眠ってしまっている人は、フォックスが傍にいるということにも気づいていないし、もうずっと認識してくれないかもしれない。
それでも、そこにいるのは確かにフォックスの妻であり、他の何物でもなかった。
そんな考えだ。
そしてあの日の言動も思い返すようになった。
自分は会いに行く必要はないと行ってしまったが、それは行けなかった人の言いわけに過ぎない。
本心でいえば、連絡に気付いていたならば、きっと行きたいと思ったに違いないのだ。
フォックスは反省し、何度もドア越しにハインにわびを入れた。
食事に加え、彼女の欲しがるものはなんでもドアの前に置き、彼女と話せるときを待った。
だけど、ハインが自分から進んで、ドアを開くことは滅多になかったし、会ってもフォックスとは全く言葉を交わさなかった。
ドアに聴き耳を立てることもあった。
直接では話せなくても、気にはなったのだ。
聞えてくる声はほとんどがこの世に対する呪詛と、「死にたい」という後ろめたい願望だった。
123
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:13:52 ID:n3xO70qA0
フォックスから手を尽くすことはもう思いつかなかった。
娘のことは気になっても、仕事だってこなさなきゃならない。
むしろ仕事をすることで、崩壊した家庭に対する鬱屈した感情を発散することにした。
こうした日々が続いていた、今年のある日のこと、珍しくハインが家のリビングにいた。
フォックスは驚いて、それから期待を込めた声で彼女に挨拶をした。
从 ゚∀从「親父、私ここ出ていくから。仕事先ももう決めてある」
返ってきた唐突な言葉に、フォックスは困惑し、渋ってしまった。
その態度が気に入らなかったのだろう、ハインはここぞとばかりに父親を罵倒した。
从#゚∀从「ただ金のことしか頭にない、つまんねえ野郎だな!
一度くらいそんなの忘れて、街中がひっくりかえるような大騒ぎでも起こしてみろよ!」
去り際にハインが言い放ったこのフレーズが、取り残されたフォックスの心の中にいつまでも響いていた。
こうしてフォックスは大きな家に一人で暮らすこととなり、
仕事が終わって帰宅すると、自分を振り返って後悔するばかりの日々を送り続けた。
124
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:16:00 ID:n3xO70qA0
その後悔が溜まりにたまったある日、再度、ハインの言葉を思い返した。
街中がひっくりかえるような大騒ぎ。
爪'ー`)「……やってやろうじゃないか」
口元は異様に歪ませて、フォックスは計画を立て始めた。
知り合い筋を辿って協力者を探し、金を積み、材料をそろえ、街が一番浮かれる日に目途を立てた。
それがクリスマスイブの夜だった。
フォックスは以上の内容を長々と語り続け、その日ショボン宅にいたデミタス、ワタナベ、ハインの三人に話せて聞かせた。
話が終わり、フォックスが沈黙したことで、ようやくデミタスは話が終わったことを理解し、そして口を出した。
(;´・_ゝ・`)「……え、それが目的なの? そんなのに私を巻き込んだの? まじで?」
爪'ー`)「ああ、私も必死だったのだ。とれる手段はなんでもとろうと思った」
(;´・_ゝ・`)「いやいやいやいや、必死って、そんな理由でこんな犯罪に巻き込まれるなんてわけが」
125
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:16:59 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「よくわかりました、フォックスさん」
爪'ー`)「ん」
(;´・_ゝ・`)「え」
从'ー'从「あなたもあなたで辛かったのでしょう。どうしても、ハインの気が引きたくて」
爪'ー`)「……まあ、そういうことになるな」
(´;_ゝ;`)「……コーヒー淹れてきます」
デミタスがいそいそと炬燵から抜け出したあとも、ワタナベはフォックスを見つめ続けていた。
从'ー'从「フォックスさん、正直に言って、そんなことをしてもハインが振り向くとはまったく思いません」
爪'ー`)「……そうだろうな」
言いながら、フォックスはポケットを弄り、煙草の箱を取り出した。
慣れた手つきで火をつけ、口にはさみ込む。
爪'ー`)y‐「しかし、それでは私はどうすればよかったんだ。
ハインは、今でさえも、こうして口をきいてくれないじゃないか」
126
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:18:01 ID:n3xO70qA0
息を吐きざま、フォックスは顎でハインを指した。
当のハインはというと、こたつの一辺で、フォックスの方を見ないように首を曲げて丸くなっていた。
ワタナベはその姿を一瞥し、再びフォックスに視線を戻す。
从'ー'从「フォックスさん、本当にやれるだけのことはやったとお思いですか?」
爪'ー`)y‐「やったよ。妻の介抱だってしたし、ハインの生活も陰ながら支えていた。
私が手を出せると思ったことは全てやったんだ」
从'ー'从「いえ、私はそうは思いませんよ」
ワタナベの首が横に振られる。フォックスはその様子をじっと見て、言葉を待っていた。
从'ー'从「だって、あなた自身は今も変わらず、仕事を続けているじゃないですか」
何を言われたのか、すぐには理解できずに、フォックスは固まってしまっていた。
やがてワタナベの言わんとすることがわかり、フォックスは焦りの表情を浮かべた。
127
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:19:00 ID:n3xO70qA0
爪;'ー`)y‐「君はまさか、私が仕事をやめるべきだったとでもいうのか?」
从'ー'从「別にやめきらなくていいです。それでも、仕事の量を減らして、もっと家族に目を向ければよかったんです」
爪;'ー`)y‐「ふざけないでくれ、私が今の地位を築くまでにどれだけ努力してきたと思っているんだ。
だいたい仕事がなければ物も買えない、ハインだって養えない、それなのに、それを捨てるなんて」
从'ー'从「今のあなたほどお金を持っていなくても、普通の生活は送れます。
それにそんなのハインが気にするはずないじゃないですか。
ハインはずっと、仕事ばかりにご執心なあなたのことを嫌っていたんですから」
ワタナベの顔が、今度はハインに向けられ、ハインは思わず身構えた。
从'ー'从「そうでしょう、ハイン?」
从 ゚∀从「……まあ、な」
爪;'ー`)y‐「いい加減にしろ!」
ハインの返答を切り裂くように、フォックスが勢いよく立ちあがった。
128
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:20:01 ID:n3xO70qA0
爪;'ー`)y‐「私は今の地位を誇りに思っていたんだ。これのおかげで何不自由なく物をそろえることができる。
学校にも行っていないお前を養うことだってできる。それの何が悪いというんだ!」
从#゚∀从「だからその、全部自分の手でなんとかなるって思ってる態度が気に食わねえんだよ!
いい加減にするのはお前だろこのわからずやめ!」
興奮したハインは、立ち上がるとフォックスに飛びかかった。
爪#'ー`)y‐「お、おいやめろこのバカ」
从#゚∀从「うるせえ!」
从;'ー'从「ちょっと! 喧嘩はやめてって」
从#゚∀从「あんたもいちいちしつこいんだよやっぱり!」
从#'ー'从「は、はあ!?」
(;´・_ゝ・`)「コーヒーおまち……あ、あれ? みんなどうして暴れているの」
129
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:20:59 ID:n3xO70qA0
慌てたデミタスがおぼんをこたつの上に乗せ、取っ組み合いの仲裁に入ろうとした頃
ひっそりと、その家の玄関が開かれていた。
やがて物音が、急ぐ足音に代わり、リビングのドアが開かれるそのときになるまで
その場の人たちは全くその人物が入ってきたことに気付いていなかった。
(´・ω・`)「…………」
ドアの開く音に気付いて、取っ組みあっていた4人は動きを停止した。
そのまま、各々視線を、入室してきた彼に集中する。
ショボンはその異様な光景を前に思考が固まってしまっていた。
やがて、氷が解けるように、現実味と恐怖心と、何やらが混ざったものが彼の心に流れ込んでくる。
それが、喉元まで押し迫り、叫びとなって放出された。
(´;ω;`)「ここ僕の家なんですけどおおおおおおおおお」
130
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:23:00 ID:n3xO70qA0
泣き喚きながら、ショボンは片手に握られていた傘を振りかぶり、見知らぬ人たちに襲いかかってきた。
(;´・_ゝ・`)「おい待て! 君はあれか、ショボンくんか! これにはちょっと事情が」
(´;ω;`)「知るかぼけええええええええええ、でてけやおらあああああ」
(;´・_ゝ・`)「くそ、聞き耳もたねえな」
爪;'ー`)「お、おいデミタス、まさかあの傘」
(;´・_ゝ・`)「え? ……あ。ああああ!!」
从;'ー'从「まさかあれが爆弾!?」
爪;'ー`)「おい少年、それは危険だから振りまくるのをやめ」
(´;ω;`)「うっせー、ハインさんから離れろちくしょううううううう」
131
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:25:05 ID:n3xO70qA0
ショボンの腕の振りはますます激しくなり、傘にこびりついていた雪がはじけ飛んでいく。
事情を知っている人たちは恐怖し、一目散に玄関へと走っていった。
さっきまで喧嘩であわただしく賑わっていたリビングは、急に静かになった。
(´;ω;`)「やった、やったぞ。ハインさんを守ったんだ」
ショボンの目には、まさしくそう映っていた。
胸の奥では熱い心が滾り、呼吸も荒くその場に立ち尽くす。
やがて、傘を小さく畳み、ハインの方を振り向いた。
(´;ω;`)「ハインさん、お怪我は?」
从;゚∀从「…………」
唖然としていたハインは、ショボンに話しかけられたことでようやく我に返った。
132
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:26:22 ID:n3xO70qA0
それから、急にその肩が震え始める。
(´・ω・`)「え……え?」
ショボンが動揺しているのもつゆ知らず、ハインは力なく微笑んで
それから倒れ込むようにして、勢いよくショボンの身体に飛びついた。
从 ;∀从「わーーーー、ありがとうううううう」
(;´・ω・`)「ええええええええ、なんで泣いてるの!? なにがあったの!?」
ショボンの質問にも全く答えず、ハインの腕が一心不乱にショボンに絡みつく。
力強く抱きしめられたまま、ショボンは首をかしげつつも、ハインをどうにかしてなだめようと思案し続けていた。
133
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:28:31 ID:n3xO70qA0
17.
繁華街は、夜中だと言うのに煌びやかで、人々も活発に歩き回っている。
それでも、スカルチノフの周囲には妙に空間が生まれていた。
誰も、みすぼらしい老人に近寄ろうとは思わなかったのだろう。
それに、スカルチノフの姿は異様だった。
雪の中で傘もささず、目だけをぎらつかせ、その腕には、どこからか拾って来たのか、鉄の棒が握られている。
視線は、ただ、繁華街の中心に立てられた機械仕掛けのクリスマスツリーにのみ向けられていた。
電飾が明滅し、赤や黄色の暖色系のやかましい灯りを放っている。
スカルチノフの顔もまたそれに照らされた。近づくたびに、強く。
やがて、鉢を模した部分に辿りついた。
土は無く、電飾の電源が剥き出しの状態で置かれている。
134
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:29:15 ID:n3xO70qA0
このクリスマスツリーを設置しているのは繁華街の組合の人たちであり、数時間おきにこの電飾を調整しに来る予定になっていた。
もう少し夜更けになり、時刻が変わることになれば、灯りの強さを和らげに来る。そして深夜帯では消されてしまう。
今の時間帯ならば誰もいない。スカルチノフはそのことを知らなかったので、運よく都合のいい時間帯にこの場所にこれた。
これを破壊する。
今のスカルチノフには、それが人生最大の大仕事のように思われていた。
そのあとは、一人公園にでも座りこみ、凍死するのを待つ。そうしてこの空っぽの人生に幕を引く。
想像して、興奮した。
目的をもつというのは、こんなにも嬉しいことなのか。
死を前にしてスカルチノフはそんな感慨に耽っていた。
ふと、耳にざわめきが伝わってきた。
ひょっとしたら自分がここに立ち尽くしていることを怪しまれているのかもしれない。
ここで止められてしまっては全て水の泡だ。早いとこ仕事に取り掛かろう。
スカルチノフはそう思い至り、息をひゅっと噴き出して、それから鉄の棒を持ち上げようとした。
135
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:30:18 ID:n3xO70qA0
( ・∀・)「やっと、見つけましたよ」
声がして、動きを機と止める。
顔を無理やり後ろに向けると、端正な顔立ちの青年が立っていた。
( ・∀・)「お父さん」
彼の頭には、白地に青の帽子があった。
今の彼の頭にはサイズが合っておらず、クリスマスの仮装にある小さい帽子のように、頭の上にちょこんと乗せられた状態になっている。
その帽子と同じデザインの帽子を、今のスカルチノフもしっかりと被っていた。
もう何年も前からそうしてきていたのである。
/ ,' 3「お前は……」
スカルチノフが、一言、ぼやく。
その目は次第に大きく、見開かれていった。
136
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:31:01 ID:n3xO70qA0
18.
青年、モララーは驚きを隠せないでいた。
これほどの奇跡があるだろうか。もう何年も探し、諦めていた父が隣町に居て
しかもこんな夜に出会うことになるなんて。
モララーが一歩踏み出す。すると、スカルチノフは鉄棒をモララーに向けた。
/ ,' 3「来るな。来てもなにも、いいことなどない」
挑発が、大した意味を持っていないことはわかりきっていた。
体格も、体力も、モララーの方が圧倒的に上だ。攻め込めばモララーは勝てるだろう。
でも、実の父にそんなことをする気にはなれなかった。
なんとか説得で、彼の気を静めよう、そう心に決めていたのである。
137
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:31:59 ID:n3xO70qA0
口を開いたのは、スカルチノフだった。
/ ,' 3「その帽子をかぶっているということは、お前はわしの息子なのだろう」
モララーの心臓がどくんと鳴る。
この人が父親であることは正しいようだ。
話そうとしたが、その前にスカルチノフが口を出す。
/ ,' 3「だがしかし、どうしてお前がここにいるんだ」
( ・∀・)「たまたま、デミタスさんという探偵にあなたのことを教えてもらいましたから」
/ ,' 3「む、あいつと知り合いじゃったのか?」
(;・∀・)「知り合い……まあそんなものですかね」
/ ,' 3「ふむ、そんなことがあるとはのう」
スカルチノフはぼんやりそう言う。
偶然について何かしら言葉があるのかと思われたが、そうでもなく、老人はそれきりしゃべらなくなった。
モララーは肩を竦め、それから昔話を始めた。
138
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:32:59 ID:n3xO70qA0
( ・∀・)「僕の母親が、僕を連れて、あなたを捨てたのはもう15年も前のことでしたね。
当時、僕はわけもわからず、母親に腕を引かれてアパートを出た。
あなたは友人から押しつけられた膨大な借金を抱えたまま、アパートを出て、隣町であるここに流れ着いた」
( ・∀・)「そして今の今までホームレスとして暮らし続けていた。
そうなのでしょう?」
/ ,' 3「……そんなことまで、どうして知っているんじゃ」
( ・∀・)「そりゃ、今までも少しは調べましたから。
今日会えるだなんて思ってはいませんでしたけど」
/ ,' 3「不思議なことがあるものじゃのう」
( ・∀・)「本当に、そうですね」
モララーとスカルチノフには一定の距離が保たれていた。
お互いに、その距離を縮めようとも、伸ばそうともしない。
それが今の二人にとって、最適な距離と言えた。
モララーが父を探していたのは、自分にのしかかっている罪悪感からだった。
幼心にも、自分の母が父を見捨てたということは理解できた。
そしてその母についていった自分もまた、父を見捨てたのだと、ずっと思い続けていた。
139
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:34:00 ID:n3xO70qA0
( ・∀・)「お父さん、その鉄棒、どうするつもりなんですか」
/ ,' 3「……そんなこと聞いてどうする」
( ・∀・)「それを、そのクリスマスツリーに振りかざそうとしているように見えたものですから。
もしそうなら、僕はあなたを止めたい。そしてあなたを連れて帰りたい」
/ ,' 3「お前もまたおかしな奴だな。こんなホームレスを連れて帰りたいなどという奴、そうはいないぞ」
( ・∀・)「困っている人は助けたくなる性質なんです」
/ ,' 3「損な性格じゃ。わしもかつてそうだった」
かつてスカルチノフを破産させた、莫大な借金は、スカルチノフが友人を助けようとしたために引き起こされたものだった。
スカルチノフの指摘には、その思い出が含まれているのだろう。
しかし、モララーはどちらかというと、父と同じと言われたことにちょっとした嬉しさを感じていた。
スカルチノフが、微笑む。共感だろか、モララーにはその真意はわからなかった。
それでも二人を包み込む空気ごと柔らかくなったように思えたので、モララーは今一歩、父の下に近づこうと足を動かした。
140
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:34:59 ID:n3xO70qA0
ところが、スカルチノフはすぐに真顔に戻り、首を横に振る。
/ ,' 3「近づいたら、こいつをこのツリーに振る。
そうすればわしは捕まるじゃろう。お前と会うのはもっと長引くじゃろうな」
(;・∀・)そ
モララーは咄嗟に、腹から声を出す。
(;・∀・)「そんなことして、何になると言うんですか!
家に帰るなんて、普通のことでしょう。あなたの家族なんだから。
それを拒否する理由がどこにあると言うんですか」
/ ,' 3「わしがもう、自分から進んで死のうと思っていたからじゃ」
スカルチノフは愉快そうに、歯をむき出しにして述べた。
/ ,' 3「その前に、このツリーをド派手に破壊したい。その考えに強く魅了されたんじゃ。
何もない、空っぽの、薄っぺらな男がようやく手に入れた望みを、打ち消そうとしないでくれ」
141
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:35:59 ID:n3xO70qA0
老人の歪んだ顔についた二つの目が、狂気に満ちているのに気付き、モララーの背筋に悪寒が走った。
しかし、すぐに首を横に振り、それから足に力を込める。
(;・∀・)「そんなわからずやな言い分、通らせるもんか!」
モララーが飛びかかる。
そしてその動きが、スカルチノフを捕まえるのに十分ではない速さだということも理解できた。
だけど、止めたい。その思いだけはひたすらにまっすぐだった。
スカルチノフはクリスマスツリーを向き直る。
モララーが叫ぶ。とにかく、大きな声で。
寒空に音が響き渡った。
142
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:37:00 ID:n3xO70qA0
19.
从 ;∀从ヒック,ヒック
(´・ω・`)「…………そうか」
泣いているハインを説得して、ショボンはなんとか事情を知ることができた。
彼女の友人や、父親がやってきたこと。
友人は彼女を説得しに来て、父親にも説得を試みて、それで取っ組み合いになったこと。
(´・ω・`)「なんというか、親子そろって不器用ですね」
从 ;∀从「んなこと、わかってるよお」
鼻をすすりながら、ハインが言う。
从 ;∀从「わかってたって、できねえことはあんだよ。
許したくても許せねえんだ、そう思っちまうんだ。あいつと向き合うと」
(´・ω・`)「……」
143
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:37:59 ID:n3xO70qA0
泣いているハインは初めて見た。
いつもいつも、彼女は強気で、常に他の人を貶していた。
彼女は泣きたくなかったのだろうと、ショボンは思った。
泣きたくない、弱みを見せたくない、だから他者を貶し続ける。
それが、口の汚さとなって現れる。
だとしたら、自分に対して柔らかい物腰になったのは、心を開いてくれたからだろうか。
そんなことまで考え出して、ショボンの頬がまた熱くなる。
これではどうしようもないので、ショボンは軽く首を横に振って雑念を取り払った。
ハインの心にぽっかりと空いた穴、ここに来ると言ってくれたときに、ショボンが感じた穴は、きっとこの悲しみだったのだ。
そして自分はそれを埋めてやりたい。助けてやりたい。
自分の寂しさを紛らわせてくれたこの人に、何らかの恩を返したい。
そう考えた時、ショボンはようやく、まともにハインと向き合うことができるようになった。
(´・ω・`)「ハインさん。僕がいたら、お父さんと話せますか」
144
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:39:00 ID:n3xO70qA0
从 ;∀从?
ハインは不思議そうに首を傾げる。
すっかり元の面影はない。一人の女の子がそこにいた。
(´・ω・`)「僕が見ています。だから、お父さんとお話しして、許しあってください。
それがきっとあなたにとって一番いいことです」
从 ゚∀从「…………あ」
ハインの顔が、急に、普通の顔に戻る。
ショボンはきょとんとして、その様子を眺めていた。
(´・ω・`)「え?」
从 ゚∀从「いや、やっぱりそうだなって。やっぱり、似ているなって」
145
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:40:00 ID:n3xO70qA0
(´・ω・`)?
从 ゚∀从「いやいや、こっちの話だよ」
そう言いながら、ハインは殊更面白そうに顔をほころばせる。
(´・ω・`)「はあ、なんだかわかんないけど」
从 ゚∀从「それにしてもなー、ショボンちゃんに言われちゃうとなー」
えへへーと笑って、ハインがショボンに手を伸ばしてくる。
それが頭にかかる前に、ショボンはさっと身をひるがえす。
今頭をなでられたら間違いなく赤面する。
だから素早くそこから逃げた。
(;´・ω・`)「ぼ、僕みんなを呼んでくるね!」
ハインのぼやきが聞えるが、気にせず、玄関へと向かっていく。
客人たちが待っている外へ。
146
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:42:06 ID:n3xO70qA0
20.
爪'ー`)y‐「……なあ、探偵さん。あんた結婚とかしていないのかい」
(´・_ゝ・`)「独り身ですね」
爪'ー`)y‐「そうかい。あれはめんどくさいものだよ」
(´・_ゝ・`)「そのようですね」
爪'ー`)y‐「特に子どもまでいると……な」
(´・_ゝ・`)「身にしみました」
爪'ー`)y‐「……」
从'ー'从「お二人とも、傘要りますか」
(´・_ゝ・`)「いや、いいよ。三人でさすにはさすがに狭いし、ワタナベさんが持ってて」
爪'ー`)y‐「お嬢さん、いつ傘を持ったんだ」
从'ー'从「鞄持ったまま追い出されましたからね〜」
147
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:43:06 ID:n3xO70qA0
寒空の下で、三人は立ち尽くしていた。
ワタナベだけが傘をさし、男二人は震えながらも手ぶらのまま。
雪はますます多くなってきている。明日は相当積もるのではないだろうか。
(´・_ゝ・`)「……結婚さえしていない身で恐縮なんですけどね。
あなたがたの場合は正直どっちもどっちという印象がします」
爪'ー`)y‐「……聞かせてくれ」
すっかり丸くなったフォックスは、小さく、それでいて期待を求める声をデミタスに向けていた。
(´・_ゝ・`)「お互いがお互いに、自分のことを優先させていたから、反りが合わなくなったんじゃないでしょうか。
意地を張りすぎなんですよ。親子そろって」
依頼なんてもうないようなものだったので、デミタスはフォックスに謙る必要がなくなり、思ったことを率直に口にしていた。
爪'ー`)y‐「意地っ張りかね、私たちは」
(´・_ゝ・`)「外から見ていて、よく似ているなと思います」
爪'ー`)y‐「はは、まいったね。そりゃ。
余計なところばっかりあいつに引き継がせちまった。どうすりゃいいんだかね」
148
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:44:06 ID:n3xO70qA0
フォックスの呟きは、誰にも拾われることなく、宙をあてもなく漂っていた。
遠くから、鐘の音が聞えてきた。
あの街外れの教会から発せられているのだろう。
(´・_ゝ・`)「謝り続けるしかないんじゃないですか。罪を贖う、みたいな」
爪'ー`)y‐「……まるでキリストだな」
(´・_ゝ・`)「あの人は他人の分まで背負い込んでますけどね。変わりものですよ」
爪'ー`)y‐「……そしてもう、そんな変わりものはこの世にいない、か」
そう言って、フォックスは煙草を雪の上に落とし、足で潰した。
煙が細く棚引いて、すぐにかき消える。
キリストはもういない。
だから、自分の罪は自分で贖うしかない。
そんな事実が、フォックスの頭の中で、じわじわと深く刻み込まれつつあった。
149
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:45:05 ID:n3xO70qA0
从'ー'从「クリスマス、お祝いしましょうよ」
やや間を置いてから、ワタナベがそう話題を提供した。
从'ー'从「明日も教会はやってますし、私も行ってあげますから」
爪'ー`)「ハインと一緒に?」
その返しに、ワタナベはきょとんとして、それから顔を顰めた。
从'ー'从「あたりまえですよ! まったくもう」
それから、顰めた顔がゆるやかに、笑顔に変わり、笑い声があがった。
ショボンの家の扉が開かれたのは、そのすぐ後だった。
三人の視線がショボンに向かい、ショボンはまた萎縮した様子だったが、咳払いをして言葉を発した。
(´・ω・`)「中に入ってください。なんとか、ハインさんは説得しましたから」
150
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:46:05 ID:n3xO70qA0
21.
鉄棒が、スカルチノフの手から飛び出し、地面の上にカラカラと音を立てて叩きつけられた。
スカルチノフはわけがわからないまま、腕を抑えつけられてしまう。
老人を捉えたのは、一人の細身の青年であり、体力がありそうには見えなかったが
相手がスカルチノフだからこそ、押さえつけるのに上手くいっている、そんな印象だった。
('A`)「おお、上手くいった!」
青年、ドクオはスカルチノフの後ろに回ってそう一声、勝ち誇ったように言った。
未だに頭の中の整理がついていないが、妙に苛ついたので、スカルチノフは口を挟んだ。
151
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:47:09 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「なにがじゃい」
('A`)「震える手で持つ得物はたたき落としやすいとかなんとか、聞いたんすよね」
スカルチノフはすでに暴れることを諦めていた。
もとより敵うはずもないからだ。
/ ,' 3「誰がそんな、偉そうなことを」
('A`)「デミタスっていう探偵さんです」
/ ,' 3「またあいつか! おのれわしの邪魔ばかりしおって」
スカルチノフの捉えどころのない怒りは、ひとまず一人の男に向けられることで落ちついた。
('A`)「じいさん、誰だか知らねえけどさ。あんたの腕、遠目から見てもめちゃくちゃ震えていたぜ。
ちょっとつついただけで、簡単に鉄棒が飛んでいっちゃったしな」
152
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:48:07 ID:n3xO70qA0
そんな感想が、スカルチノフの耳に刺さってきた。
自分はそんなに、震えていたのか。恐れていたというのだろうか。
本当に捕まって、牢屋に入れられて、モララーと離れてしまうのを。
/ ,' 3「わしは、そんなに人間らしいことをする奴じゃったかな」
('A`)「何言ってんだい。どこからどう見ても人間じゃねえか」
ドクオの非常に軽い言葉が、今のスカルチノフには心地よかった。
そうしてやりとりしているうちにモララーが辿りつき、スカルチノフの前に立った。
(;・∀・)「ドクオさん、どうしてここに?」
('A`)「いや……ほとんど偶然みたいなもんだよ」
ドクオは頭をかいて、説明する。
153
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:49:06 ID:n3xO70qA0
('A`)「喫茶店出たら、なんとなく寂しくなってさ。
それで俺、繁華街の方散歩していたわけよ。テラスの件で疲れきってたからさ」
('A`)「そしたらあんたら見かけたから、
なんだろなって思って追いかけて。そしたらこんなことになっちゃってたわけよ」
( ・∀・)「……僕、事情とか話していたっけ」
('A`)「全然、知らん。でもまあ、危なそうな気はしたよ。見てて」
(;・∀・)「な、なるほど」
(;'A`)「あ、あとはその……さっき酷いことしちゃったから、その反省、みたいな」
( ・∀・)「……ありがとう」
('A`)「ああ、うん」
154
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:50:10 ID:n3xO70qA0
/ ,' 3「ふむ、ずいぶん交友が広いようじゃの。モララーや」
( ・∀・)「いや、この人一時間前にあったばっかりですよ」
('A`)「殺し損ねたんすよね、実は」
/ ,' 3「!?」
( ・∀・)「とにかく……」
モララーはそういうと、スカルチノフの腕を掴んだ。
/ ,' 3「な、なんじゃ今度は」
( ・∀・)「止められたんだから、もう思い残すことはないですよね?」
/ ,' 3「そりゃ……まあ、な」
155
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:51:04 ID:n3xO70qA0
スカルチノフはちらりとクリスマスツリーを見上げた。
何も起こらなかったので、変わらずそこに立ち、輝きを放っている。
それを壊したいという望みは、熱い狂気は、失敗したためにすっかり消え失せてしまっていた。
( ・∀・)「それじゃうちに帰りましょうよ!」
/ ,' 3「ま、待て待て!」
消えたとは言っても、すぐに気持ちが切り替わるわけではない。
モララーと一緒に帰るには、まだ心の準備ができておらず、すぐには肯定できなかった。
それを、訝しそうにモララーが見てくるので、スカルチノフはなんとか、まだ帰れない言いわけを考えようとした。
そして、ひとつ、思い浮かんだ。
/ ,' 3「ちょっとな、行く末の気になることがあるんじゃよ。その結果を知りたいんじゃ」
( ・∀・)「なんですか、それ」
/ ,' 3「今から場所を教える。ドクオくん、もう放してくれないか」
156
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:53:25 ID:n3xO70qA0
('A`)「暴れない?」
/ ,' 3「もうそんな体力は無い」
恐る恐る、ドクオはスカルチノフの腕を解放した。
スカルチノフは一旦腕をぐるりと回し、「ほっほ」と笑う。
/ ,' 3「それじゃ、ついてこい」
スカルチノフは、小さな歩幅でとぼとぼと歩いていく。
ドクオとモララーは一度、顔を合わせ、それからその小さな背中の後を追うことにした。
スカルチノフはすでに、別の興味に執心していた。すでに、死にたいという思いすら消えて。
頭の中に浮かんでいたのは、例の大金持ちで意地っ張りな男のすかした顔つきと、
話を聞く限りそれによく似ている生意気な娘の姿だった。
157
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:54:23 ID:n3xO70qA0
22.
少女、ハインは戦いていた。
この世の全てが彼女の存在を煙たがる、いつの頃からかそう感じるようになっていた。
その原因はもう三年も昔、今更蒸し返すなんて本当に、野暮な話だ。
フォックス含めた三人が入って来たとき、ハインはリビングで正座していた。
さっきまでの暴れていた姿とは、すっかり変わって、おとなしくなっている。
しかし、人々が入ってくるやいなや、その目線でフォックスを捉え、睨みつけてきていた。
爪'ー`)「……」
フォックスとて、良い思いはしていないのだろう。
ためらいがちな瞳が泳いでいる。
ハインだってそれはわかっていた。
(´・ω・`)「フォックスさん、ハインさんが、そこに座ってほしいとのことです」
ショボンが示したのは、ハインと相対する位置だった。
爪'ー`)「……わかったよ」
ぼそりと答え、フォックスがしずしずと移動する。
ハインと、他の三人の視線が彼に向く。
フォックスはハインを見下ろす形になり、それから片膝を床につける。
結びついた視線を、一時も緩めないまま、もう片方の膝も付け、その場に正座する形となった。
158
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:55:18 ID:n3xO70qA0
口を閉じて、向かい合う。
ハインとフォックス、お互いの気持ちはわからないまま。
いつかはこんな日がやってくるとハインは思っていた。
自分がやっていることが、どんなに馬鹿馬鹿しく、弱々しく、女々しいことなのか。
そんなこともわかっていた。だけど、やめることはできなかった。
自分はこの男に、自分の父親に知らしめてやらなきゃならない。
母を無碍にする父を見て、自分がどれほど傷ついたのか。
お金と地位ばかりを追い求めるとしてあなたを見て、蔑み妬んでいることを知ってほしかった。
目的はそうだったんだ。
でも、目的はいつまでも達成されず、その強い毒性だけを強めていった。
やがて、自分はその目的を果たすための行為をするだけで満足感を得るようになっていた。
ショボンと出会ったとき、自分はただ楽しむために交流を続けているのだと感じていた。
でも、今日、ワタナベと出会い、そしてその目を見たとき、改めて思ったことがある。
自分は止めてほしかったんだ。暴走する自分の話を真摯に聞き、止めてくれる聖者を求めていたんだ、と。
159
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:56:08 ID:n3xO70qA0
今なら言える。
ハインがずっと言いたくて、言えなかったこと。
目的のために封印してきた、一歩踏み出すための言葉。
気付けば、ハインの目は閉じられていた。
両の腕が開き、床に触れる。
それを支えにして、頭を一気に振り下ろした。
「「ごめんなさい」」
言ってのけてから、ハインは、奇妙な余韻に気付いた。
まったく同じ言葉が二つ重なって響くからこそ発生する響きだ。
160
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:57:07 ID:n3xO70qA0
目を開いて、顔を上げる。
フォックスの顔が、目の前にあって、きょとんとした表情を向けてきていた。
自分が全く同じ表情をしていることに、ハイン自身は気付いてはいなかった。
从;゚∀从「い、今なんて……」
爪;'ー`)「え! いや、お前こそ」
从 ゚∀从「私はいいんだよ、あんたなんて言ったんだよ」
爪'ー`)「いやいや、私こそいいんだ。それよりほら、さっき何か言ったろ」
从#゚∀从「なんだよてめえ、もう一度言うくらいいいだろこら」
爪#'ー`)「同じ言葉をそっくりそのまま返してやるよこのやろう」
从;'ー'从「ああ、また言いあってる」
(;´・_ゝ・`)「あれはもう放っておいた方がいいんじゃないかな」
161
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:58:09 ID:n3xO70qA0
それから、その場の緊張はいっきに解れた。
ハインも、フォックスも、もうお互いの目を、睨むこともなく見ることができた。
この三年間で一度も叶わなかったことが、ようやくできるようになったのである。
ただ、二人とも、それを表だって喜ぶような性格ではなかった。
それだけのことだった。
从 ゚∀从「ショボンくん! お菓子あんだろお菓子! 広げようよ!」
(;´・ω・`)「な、何をする気」
从 ゚∀从「パーティだよパーティ」
从'ー'从「クリスマスパーティだね!」
(´・_ゝ・`)「よし、コーヒーを用意しなきゃだな」
(´;ω;`)「……僕の家が、物が、うう」
爪'ー`)「……あれ、何か忘れてないか」
162
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 21:59:05 ID:n3xO70qA0
その声で、その場に静けさが舞い降り、
それを打ち破るかのように叫んだのは、デミタスだった。
(;´・_ゝ・`)「あああああああ!! 爆弾!」
デミタスはショボンを指さした。
(´・ω・`)「な、何?」
(;´・_ゝ・`)「傘だよ傘。お前の傘どこだ」
(´・ω・`)「え、確か振りまわしていたあと、そのへんに」
ショボンの視線は、床に転がった折りたたみ傘に向けられた。
見たところ黒く、小さく、あの例のものと同じように見える。
(´・_ゝ・`)「よっし、やっと見つけた!」
デミタスはすぐさまその傘を手に取り、観察し始める。
163
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:00:05 ID:n3xO70qA0
(´・ω・`)「あ、あの。それがいったいどうしたんですか」
(´・_ゝ・`)「俺の持っていた傘が、爆弾だったんだ」
(´・ω・`)「……は?」
(´・_ゝ・`)「それで、君の持っていた傘と入れ違っている可能性がある。
だから私はここまで来て、傘を取り戻しに来ていたのだ」
(´・ω・`)「いやいや、何バカなこと言ってるんですか」
爪'ー`)「残念ながら本当だ。私が彼に持たせたのだ」
(;´・ω・`)「ええ?」
ショボンの動揺は目に見えて明らかだったが、そんなものに構わず、傘を観察した。
そして、やがて驚くべきものを見つけた。
(;´・_ゝ・`)「…………」
それを見つめ、デミタスは言葉を失った。
値札である。
164
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:01:11 ID:n3xO70qA0
(´・ω・`)「何の事だか、よくはわかりませんけど。
あなたとの傘と、教会で入れ違ったというなら、その傘は違いますよ。
それ、来る途中で買ったものですから」
デミタスの震える手のひらの上で、傘から飛び出している値札がぽつんと佇んでいた。
(;´・_ゝ・`)「で、でも君は確かにあの教会で傘を持っていたはずじゃ」
(´・ω・`)「帰る途中、知り合いに出会ったんです。
それで、ちょうど別れるときに雪が降ってきて、僕は傘を持っていたけど、彼は持っていなくて。
それで僕が傘を貸してあげたんですよ。彼の方が家は遠かったし、僕は途中でコンビニに寄るからそのとき買えばよかったし」
(;´・_ゝ・`)「じゃ、じゃあその人のところに爆弾が……
その人の名前と、住んでいるところは?」
(´・ω・`)「名前はブーンですけど、住んでいるところは……ちょっと」
(;´゚_ゝ゚`)「なんでわからないんだよ!」
(;´゚ω゚`)「だ、だってそんな友達とかそういうのじゃなかったし。
ただバイト先のお客として知り合いなだけでしたし、それで」
(;´゚_ゝ゚`)「そ、そんな……」
165
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:03:05 ID:n3xO70qA0
こんなに間際になって、打つ手が無いなんて。
デミタスの思考が混乱する。
その時、時計がなり、9時になったことを告げた。
デミタスは必死に頭を巡らし、解決案を探したが、
あと1時間の今からこの街中を探し回り一人の男を見つけることが不可能なことなど明白だった。
(;´・ω・`)「あ、で、でも! バイト先の店長に電話すれば、もしかしたら電話が繋がるかも」
(;´・_ゝ・`)「ほ、本当か!」
(;´・ω・`)「たぶん、ですけど」
(;´・_ゝ・`)「とにかくやれることは全部やろう!」
从;'ー'从「はわわ、どうなるんだろ」
从 ゚∀从「親父、なんで爆弾なんか持ってるんだよ。おっかねえ奴だな」
爪'ー`)「……うん、そうだよね」
(´;_ゝ;`)「あああああ、捕まりたくないよおおおお」
こうして、傘を追う手立ては電話一本に託されたのであった。
166
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:04:06 ID:n3xO70qA0
23.
ブーンが傘を持って家に入ると、クーが不思議そうに顔を向けてきた。
川 ゚ -゚)「あれ、傘持っていたっけ」
( ^ω^)「ああ、これ、借りたんだお。知り合いから」
川 ゚ -゚)「へえ、優しい知り合いがいたんだな」
( ^ω^)「うん。近いうちに返すお」
川 ゚ -゚)「忘れないようにな。ブーンは結構そそっかしいから」
(;^ω^)「気をつけるお」
ブーンが苦笑いしながら、リビングの方へと進んでいった。
クーはその後を追おうとして、急に、言いようのしれない不安に襲われた。
虫の知らせだ。
その原因は何かと考え、やがて視線は、先程のブーンの折りたたみ傘に戻った。
167
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:05:06 ID:n3xO70qA0
川 ゚ -゚)「……」
顔を顰めつつ、クーはその傘を手に持つ。
そして、それからブーンに向かい、大きめの声で語りかけた。
川 ゚ -゚)「なあ、ブーン。先にお風呂に入っていてくれよ。
私は少し気になることがあるんだ。ひょっとしたら小一時間くらい、手間取るかもしれない」
( ^ω^)「おー、こんなときにかお? また何か、調べ物?」
川 ゚ -゚)「そんなものだな」
( ^ω^)「それじゃ、ケーキの準備して待っているお」
川 ゚ -゚)「ありがとさん」
小気味よく感謝を述べて、それから真顔になり、階段を上った。
自室の前へ辿りつき、扉を開ける。
部屋の中は独特の香りで満ちている。クーにとって、心が落ち着くものだった。
川 ゚ -゚)「よし」
扉を閉め、鍵をかける。
これでブーンに邪魔になることはないだろう。
168
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:06:05 ID:n3xO70qA0
クーは、相方である彼に対する配慮をいつの日も欠かすことはなかった。
彼が驚くべきほどに純粋なのは理解していたし、そんな彼を失望させるわけにもいかないと考えていたからだ。
これはちょうどいい機会だ、とクーは思った。
こんなものが目の前に現れたのは、まさに自分にとっての戒めに他ならない。
ここ数カ月、自分の中で溜まりにたまっていた蟠り。それを取り除く第一歩。
クーの部屋は、少し、普通ではなかった。
折りたたみ傘は、金属質の台座の上に置かれた。
これから作業が始まる。
棚からいくつかの工具を取り出し、台座の上に並べ、座って深呼吸をする。
クーは、散々の観察の末に、それが爆弾であることを見抜いていた。
それがあの玄関にいたときに感じた、不安の原因であった。
なぜそれがわかったかと言えば、彼女こそが、その物騒な発明品の生みの親だったからである。
169
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:08:23 ID:n3xO70qA0
爆弾作りは、クーの、人に言えない趣味だった。
といっても、彼女は別に何かを破壊したいと思っていたわけでもない。
爆弾がもつ、シンプルかつ機能的な構造、そして一瞬にして炸裂し空間を切り裂く破壊力。
それが生まれる前の静の段階こそが、彼女にとって、魅惑の塊だったのである。
しかし、世の中には爆弾を破裂させたいと常に願っている人たちがいる。
クーは趣味で爆弾を作るが、それを売ることを生業としている変わりものがいる。
クーがそんな人と知り合いになったのは大学の工学部に所属していたころであり、以来その人物と交流を重ねていた。
時刻はもうすぐ9時になろうとしていた。
川 ゚ -゚)「やれやれ、これで半分終わったかな」
解体作業は神経を研ぎ澄ませる必要がある。
連続して作業を続ければ、思わぬミスを犯し、誤爆を招く恐れがある。
今宵のクーは、このとき、一旦の休憩を入れることにした。
170
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:09:23 ID:n3xO70qA0
クーは台座を離れ、別の普通の机に向かい、普通の椅子に腰かけた。
そして携帯電話を取り出して、素早く目的の相手と連絡を取ろうとした。
lw´‐ _‐ノv「よう、メリークリスマス」
川 ゚ -゚)「まだイブだ」
lw´‐ _‐ノv「こまけえな」
軽妙に受け答えする、この人物こそ
クーの大学時代の友人、シュールだった。
怪しいブローカーとして、金持ち相手に商売している。
クーは彼女を通して、自らの傑作をいろんな人に売り渡していた。
もっとも、最近はほとんどその活動を停止していたのだが。
川 ゚ -゚)「そんなことより、言いたいことがあるんだよ。
あんたまた私の爆弾、人に売りつけたろ」
171
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:10:25 ID:n3xO70qA0
lw´‐ _‐ノv「……どれ」
川 ゚ -゚)「折りたたみ傘型の爆弾だよ」
lw´‐ _‐ノv「ああ、あれか。売った売った。めちゃくちゃ高く売れたぜ」
川 ゚ -゚)「困ったやつだなあ、本当に。私はもう関わりたくないって言っただろ」
lw´‐ _‐ノv「だって、高く売れたんだもん。それで、なに、売ったことを怒ってるの」
川 ゚ -゚)「んー、私もよくわからないんだけどさ。
その傘、巡り巡って、私のところに辿りついたぞ」
lw´‐ _‐ノv「……え、なんで?」
川 ゚ -゚)「こっちが聞きたいよ。びっくりしたわ。いったい誰に売ったんだよ」
lw´‐ _‐ノv「そいつはさすがに言えない。でも、そんなことになるなんてなあ」
172
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:11:22 ID:n3xO70qA0
惚けたような、シュールの声が、電話越しからゆったりと聞えてきた。
クーは重たい溜息をついて、流し眼で例の傘を見た。
細い柄が開かれて、内部構造が明らかになっている。
あれはあれで、かなりの精巧な技術が使われている、クーの自信作だった。
川 ゚ -゚)「あのさ、なんども言うけどさ。
私、もう結婚しているんだよ。今度子どもも産まれる」
lw´‐ _‐ノv「おめでとう」
川 ゚ -゚)「で、さ。そろそろこんな物騒な趣味とはお別れしたいの」
lw´‐ _‐ノv「……うん」
川 ゚ -゚)「お前とも、これっきり、縁を切る」
lw´‐ _‐ノv「…………」
173
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:12:22 ID:n3xO70qA0
クーは、その一言がなかなか言え出せずにいた。
シュールのことも爆弾のことも、嫌いと言うわけではなかったからだ。
自分から、そういう縁を切っていくというのは、辛いことだ。
でも、爆弾なんて作り出していたら、いつか酷い目に会うかもしれない。
最悪の場合、夫であるブーンにも、産まれてくる我が子にも、酷い仕打ちが待っているだろう。
人の命を奪える物を作ると言うのは、それだけ大きな責任が伴うことなのだ。
川 ゚ -゚)「もちろん、すでに広まってしまった爆弾を放っておくつもりもない。
私は自分の力で、なるべく多くの爆弾を探し、それを解体するつもりでいる。
それが、今まで道楽でわがままに過ごしてきた私の贖罪なんだ」
lw´‐ _‐ノv「……ずいぶんなことを言うな。聖書みたいだ」
川 ゚ -゚)「この時期はそんな気分になるのさ」
同じころ、この街の別の場所で、似たような会話が交わされていることを
そしてこの街の方々で、さまざまな人たちが、自らの贖罪のために走り回っていたことを
彼女たちは知る由もなかった。
174
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:13:23 ID:n3xO70qA0
lw´‐ _‐ノv「……あんたは、ずっとそのことを考えていたのか」
川 ゚ -゚)「ああ」
lw´‐ _‐ノv「……どうりで、最近元気が無いわけだよ」
川 ゚ -゚)「え?」
クーの疑問の声をよそに、鼻で笑う声が届いてくる。
lw´‐ _‐ノv「私は私なりに、あんたがどうして最近辛そうなのか、考えていたのさ。
まさか、その原因が私自身だったなんて、思いもしなかったけどね」
川 ゚ -゚)「おいまて、別にお前を責めているわけじゃ」
lw´‐ _‐ノv「それくらいわかるよ。あんたが何事もきっぱりさせたい性格だってこととも、な。
そしてこの件にきっぱりけりをつけるには、私と縁を切ることが必要。
筋は通っているし、私としてもあんたを傷つけたくはない。だから、これ以上何もいわないよ」
川 ゚ -゚)「…………」
175
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:14:22 ID:n3xO70qA0
クーは口を開いて、何事かを言おうとしたが、かける言葉が見つからなかった。
縁を切るとはっきりいったのは、本心だ。撤回するつもりはない。
だから、自分を擁護する言葉は思いつかない。
lw´‐ _‐ノv「私も、そうしようかな」
代わりに、シュールが口を開いた。
川 ゚ -゚)「え、取引、やめるのか?」
lw´‐ _‐ノv「最近しけてきているからな。
今一番好意にしているクライアントも、もうやめるとか言っていたし。
それに、多分、私もそろそろ祝福されたいのさ」
川 ゚ -゚)「祝福?」
lw´‐ _‐ノv「あんたが言ったことと同義だよ。クー。
キリスト教の教義じゃ、贖罪して、許しを得て、それでようやく祝福されるんだ。
あんたはきっと、心の中ではとっくに贖罪していたんだ。だからそうして結婚して、子どもも授かっているんだよ」
川 ゚ -゚)「それで、お前も贖罪から始める、と」
176
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:15:22 ID:n3xO70qA0
lw´‐ _‐ノv「あー、そうだよ。祝福くらいもらえりゃ、そろそろ独り身もやめられるだろうよ」
川 ゚ -゚)「なんだお前、結婚したかったのか」
lw´‐ _‐ノv「ああそうだよ。いまちょっと気になってる奴いるんだよ。待ってろよな」
川 ゚ -゚)「それはそれは、頑張ってくれ」
クーが言い終えた時、外から鐘の音が聞えてきた。
9時を伝える鐘の音だ。
lw´‐ _‐ノv「あ、そういえばその爆弾、今夜10時に爆発するぞ」
川;゚ -゚)「は!?」
lw´‐ _‐ノv「じゃ、頑張ってくれー」
そういって、素早くシュールとの通話は切れてしまう。
クーはわずかにかたまったが、呆然としたままでもいられないので、すぐさま作業を再開した。
解体作業をするクーの動きは軽く、悩みの消えた顔つきになっていた。
177
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:16:28 ID:n3xO70qA0
作業を終えたのは、それから20分ほど経ってからだった。
爆弾が無事、部品単位でばらばらになったのを確認すると、満足して部屋を後にした。
リビングにつくと、大きめのケーキが置かれていた。
夜中なのでそこまで食べたくはなかったが、ブーンは対照的によく食べる人だったから、その大きさでちょうど良かった。
その甘い味を想像するだけでも、クーは十分に幸せだった。
川 ゚ -゚)「てか、ブーン?」
リビングには見当たらなかったので、一旦外の廊下に出てブーンを探した。
彼は何かしらの電話をしているようだった。
(;^ω^)「はあ、傘ですか。ええ、ちょっと見てみます」
ブーンはそう言って、見えもしないのにぺこぺこと頭を下げた。
気になる単語があったので、通話が切れたのを見計らって、クーは話しかけた。
178
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:17:21 ID:n3xO70qA0
川 ゚ -゚)「なんだ、知り合いか?」
( ^ω^)「ああ、そうだお。高校生の知り合いなんだお」
川 ゚ -゚)「へえ、意外だな。ブーンにそんな知り合いが」
( ^ω^)「そういえばクー、君が勤めているVIP大学の工学科の、面接試験を受けるって言っていたお。だから見かけるかもしれないお」
川 ゚ -゚)「うーん、どうだろうな。で、そいつがどんな用だったんだ」
( ^ω^)「ああ、なんでも僕が持って帰った傘、その子から借りたものだったんだけど、危険かもしれないって」
クーは、「危険」という言葉に反応し、一瞬目を見張った。
川 ゚ -゚)「……どういうことだ、それは」
(;^ω^)「うーん、僕もよく意味がわかっていないんだお。
でもいたずら電話をするような子とも思えないし、本当のことなのかも」
179
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:18:22 ID:n3xO70qA0
クーの心臓が、強く脈を打ち始めた。
あの傘が爆弾だと言うことを見抜いた、そんな可能性はないだろうか。
もしそんなことができるとしたら、どれほど才能のある子なのだろう。
爆弾の構造に造詣の深い彼女にとっては、その閃きはただならないことであった。
(;^ω^)「それで、これからその傘を川に捨ててほしいと言っていたんだけど、どうしたらいいんだお」
ブーンは途方に暮れた様子で、クーを見つめてきた。
無理もない、ブーンにとっては心底意味のわからないことだろう。
そして、何事もない結婚生活を送るためには、彼がわからないままに、この件を闇に葬らなければならない。
川 ゚ -゚)「ああ、ブーン。頼みがあるんだ。
もう一度その高校生に電話をしてくれないかな。
その件はもう大丈夫だ、って」
( ^ω^)「え? 大丈夫なのかお?」
川 ゚ -゚)「そうだ。あと、あの傘、私が返しておくよ。
その少年と少し会って、話してみたいんだ」
180
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:19:26 ID:n3xO70qA0
( ^ω^)「そうなのかお。電話はしておくけど……
なんだかわざわざ申し訳ないお」
川 ゚ -゚)「平気だよ。どうせうちの大学とも縁があるかもしれない子なんだ。
早めに知り合っておくのもいいかもしれないだろ」
( ^ω^)「ふーん、それもそうだおね。それじゃあ、連絡しておくお!」
川 ゚ -゚)「ありがとう」
これでいい、これで、あの傘が爆弾であったことを広めないように告げ口しておけば何も問題ないだろう。
その少年が面接試験を受かるかはわからないが、もし聞かれたな何を言えば良い評価をもらえるかくらい、教えておいてやろう。
それらの事柄を思い浮かべながら、決して口にも、表情にも浮かべずに、クーはブーンに頭を下げてリビングへと戻っていった。
181
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:20:25 ID:n3xO70qA0
24.
ブーンがショボンに再度電話をし、クーが言っていた内容を伝え、リビングに戻ると
クーはすでにテーブルの前で座って待機していた。
川 ゚ -゚)「さ、はやくはやく」
( ^ω^)「おっ、ずいぶんと嬉しそうじゃないかお」
川 ゚ -゚)「当たり前だろ、クリスマスだぞ」
( ^ω^)「お……」
ブーンは、思わず目をぱちくりさせる。
果たして、クーは最近こんなに明るく楽しそうにふるまえていただろうか。
182
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:21:21 ID:n3xO70qA0
もしかしたら、彼女が最近抱いていた、よくわからない暗い気持ちは、
今日のいつの間にかに消えてくれたのかもしれない。
もしそうだとしたら、今日はとても素晴らしい日だ。
( ^ω^)「ちょっと待つお!蝋燭をセットしてくれお。僕は音楽をかけるから」
川 ゚ -゚)「おう」
元気よく返事をするクーを見て、また一段と強い安心を感じる。
それから、ブーンは部屋の隅のスピーカーを操作し、音楽を鳴らす準備を始めた。
お気に入りの、古いクリスマスソングだ。
( ^ω^)「それじゃ、電気を消すおー」
音楽を数秒後に流れるよう、セットして、部屋の電気のリモコンを持ち、クーの元に歩み寄る。
クーの方は、すでに蝋燭をケーキに刺し終えていた。
リモコンのスイッチを押し、電灯が消え、揺らめく小さないくつかの炎が目に移る。
10時の鐘が鳴る。いろいろあって、こんなに遅くになってしまった。
183
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:22:45 ID:n3xO70qA0
スピーカーからイントロが流れてくる。
いろんなことが起き、いろんな人が救われた。
その遠因が自分であることを、ブーンは当然、知る由もない。
とても静かで、平和で、穏やかな夜。
クーとブーンは身を寄せ合い、それから同時に蝋燭の火を吹き消した。
メリー・クリスマス
〜「crossing of blessing のようです」 おわり〜
184
:
名も無きAAのようです
:2013/12/23(月) 22:29:42 ID:CIV7CEVw0
おつ!
色んな人が少しずつ連鎖してく感じ凄く好きだわ
185
:
あとがき
◆MgfCBKfMmo
:2013/12/23(月) 22:30:03 ID:n3xO70qA0
久しぶりの地の文なので、好き勝手書きました。
これほどの大人数を書き表したのも初めてなので、ものすごく楽しかったです。
収まり切らず長くなってしまいました。まだまだです。
みなさん素敵なクリスマスをお過ごしください。
それでは、失礼いたします。
186
:
名も無きAAのようです
:2013/12/24(火) 08:34:07 ID:EjL7w.5o0
複雑なのに違和感のない展開ですごいなあ
良かったよ、乙
187
:
名も無きAAのようです
:2013/12/24(火) 12:18:08 ID:Y38iZVLs0
爆弾一つで、たくさんの出来事が解消されていって、おもしろかった!
乙!
188
:
名も無きAAのようです
:2013/12/28(土) 18:16:02 ID:2/6oQ5.U0
面白かった
ブーンたちがどうなるかハラハラしてたが最後にこんな形で絡んでくるとは
乙
189
:
名も無きAAのようです
:2013/12/30(月) 01:23:50 ID:v.7JTLrg0
途中ドキドキしちまったぜ
また頑張ってな
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