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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ

322 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:58:50 ID:LUlKybsE0
魔人をいっしょくたに考えていいのか、疑問はある。

でも、モララーについての恨みは確かにある。
胸の奥にひっそりとあって、沸きたつときを待っている。

今がそのときじゃないのか。

ブーンは自問した。

今、立ち向かわないでどうするというのだろう。
モララーという存在を奪われた悲しみを、いつ発揮すればいいのか。

そのきっかけになるのがこの入団じゃないのか。

数時間前にドクオが話してくれたこと。
人間の可能性の話。

自分は自分の可能性を潰しているのではないか。
今ここで決断してみるもの一計。

少し胸に痛いものがあるとしても
魔人にだっていろいろいて、それらを傷つけるのは気が引けるとしても
今ここで選択をすることが大事なのではないか。

323 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:59:51 ID:LUlKybsE0
結局は、やれるなら、やってみようか。

そう思い至ったとき、自然とブーンの首は縦に振られていた。

( ^ω^)「やってみたいですお」

声の震えはいつもより少ない気がする。
いつもいつも、こういうふうに発言を求められたときは震えていたというのに。
なんでだろう。

自分で決めたことだからか。

('A`)「そうか……じゃあ、やってくれるな」

( ^ω^)「はいですお!」

ブーンはいつになく、即答した。
疲れも引いていく。

( ^ω^)「とにかく今はヒートさんのこともっと教えてくださいお。
 どこに現れるのかとか……」

('A`)「ああ、いいだろう。まず、あいつは果物が好きなんだ……」

324 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:00:52 ID:LUlKybsE0
それから、ブーンとドクオは話しこんだ。
ジョルジュの準備が終わるときまで。

目を輝かせて、ブーンはヒートの習性を学んでいった。



     ☆     ☆     ☆

325 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:01:56 ID:LUlKybsE0
午後1時

ラスティア城



デレは自室でノートをかいていた。
かりかりと音を立てて。

扉の向こう側で人が走ってくる音がする。
すると、デレはすばやくノートを閉じる。
足元にある箱型の引き出しの、一番上の取っ手を握る。

流れるような手つきで鍵を開け、ノートを入れ、また閉める。
鍵はカーテンの留め具に掛けられる。
知らない人がどこから見ても、こんなところに鍵があるなんて気付かないだろう。

よく部屋を捜索しない限りは。

ここまでの動作は非常に洗練されており、幾度も同じことを繰り返してきたようでもあった。
何食わぬ顔で、デレは机の上に両肘をのせて外を眺める。
まるで前からここで眺めていたんだと主張するように。

扉をノックする音がする。

ζ(゚ー゚*ζ「どなた?」

326 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:02:52 ID:LUlKybsE0
扉の向こう側の相手は、ぜえぜえと息を吐いていた。
扉越しに聞えるなんて相当だ。
よほど必死に走ってきたのだろう。

誰だかはすぐわかる。

「ミセリです!」

それは、お城のメイドの中でも比較的若い女性の名前。
デレとも歳が近く、親近感はあった。

ただどうも慌て過ぎな性格であった。
別にそれが嫌だとは、デレも思っていなかったが。

ζ(゚ー゚*ζ「何か用?」

ミセ*゚ー゚)リ「お父様が帰ってきました!
 今鳥型魔人の引く飛行船に乗って、お城の東の高台にある停まり場に来ています」

外交から帰還したのだ。
デレは口の傍に手を添えた。

327 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:03:43 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「わかったわ! ありがとう! ああ、なんて嬉しいの」

できるだけ上品そうに、それでいて子どもらしさが残っているように
そう聞えるだけの口調を表現した。

ミセ*゚ー゚)リ「ぜひお会いしてください! 待ってます!」

たたた、と走る音。
ミセリが扉から離れていったのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「……待ってます、ね」

それ以上は口に出さない。

デレの目つきは鋭くなる。
とうとう戻ってきたか……とでも言うように、何かに臨む者の目つきになっていた。
むろん、誰もその姿を見ていない。

誰も。

328 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:04:51 ID:LUlKybsE0
高台はお城の敷地内にあった。
鳥型魔人の降りる場所。
飛行船はすでに着陸していた。

デレはドレスを着て父を迎えに来ていた。
今日は赤いドレス。
派手な色が好きな父が喜ぶように。

「おーい」

デレに呼びかける声。
国王は見つけ次第、デレを呼んだようだ。

デレもそちらに手を振る。

笑い声がする。
国王の声。

(´・ω・`)ノシ「会いたかったよーーーーー」

329 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:05:53 ID:LUlKybsE0
間の抜けた挨拶だ。
デレは顔が綻ぶ。

ドレスの裾を持ちあげて、走り出した。

ζ(゚ー゚*ζ「お父様!」

思いっきり、デレは国王の懐に飛び込んだ。
頬を擦り寄せる。

そんなデレの様子を見て、国王はやれやれと頭をかいた。

(´・ω・`)「まったく、いまだにこんなに飛びついてくるとは」

そんなことを言う。
幸せそうに顔を緩ませて。

(´・ω・`)「おいで、食事としよう。少し遅れちゃったかね」

330 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:06:46 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「いいんですよ! お父さん!」

デレは無邪気に答えた。
父の手を握って、大きく振る。
なんだか不自然なくらい、思いっきり。

(´・ω・`)「あれ、デレ。腕包帯はどうしたの?」

ζ(゚ー゚*ζ「え?」

ショボンが指さしたのは、デレの右手に巻かれている包帯。

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ……怪我しましたの」

(;´・ω・`)「ええ? 大丈夫かい?
 痛むようならお医者様に見せようか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、平気!
 ちょっと打っただけだから、すぐ引くから!」

(´・ω・`)「でも」

ζ(゚ー゚*ζ「行きましょう!」

(´・ω・`)「……ああ」

331 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:07:51 ID:LUlKybsE0
少しだけ間を置いてから、ショボンは答えた。
傍から見れば、それはどこからどうみても幸せな親子だった。
国王と王女という肩書きを抜きにして。

こうして、ラスティア国王、ショボンは帰還した。

彼がまっさきに取り組んだことは
延期されている新嘗祭の日取りを決めることであった。





     ☆     ☆     ☆

332 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:08:51 ID:LUlKybsE0
午後2時

空は快晴

体力の回復したブーンは外に出た。
秋の風が心地よい。

午前中にヒートは生鮮野菜市場で盗みを働いたらしい。
あまりにも素早くて、手口も見事で、
店主も時間が立たないと商品が異様に減っていることに気付かなかったそうだ。

( ^ω^)「一応聞くんですけど」

ブーンは玄関に立つドクオを振りむいた。

( ^ω^)「ヒートさんって人間ですおね?」

('A`)「ああ、それはもちろん。レジスタンスにいるくらいだしな。
 ただ、残念なことに俊敏さでは魔人と引けを取らん。
 下手したらあいつは魔人に勝てるだろうな、盗みという技術に関しては」

333 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:09:52 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「おい、ブーン。ひとつ言っておくぞ。
 先に捕まえるのは俺だ」

ジョルジュがいきり立つ。

('A`)「おい、ちゃんと協力しろよ」

ドクオが諌めるも、ジョルジュは鼻で笑って返した。、

( ゚∀゚)「ちゃんとやるさ。
 二手に分かれれば捕まえられるだろ。
 ブーンが繁華街の方、俺が青果商通りの方」

すでに打ち合わせはすんでいた。

( ゚∀゚)「だから、任せてくれって」

ジョルジュが右腕でガッツポーズをする。
その手には小さな武器が握られていた。

334 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:10:56 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「この特製クロスボウがあれば大丈夫さ。
 小型な上に、発射した途端敵を補足する網が飛び出す優れものだ。
 まるでリーダーを捕まえるために造られたかのようなものさ」

ジョルジュは自信たっぷりに言う。

('A`)「……ちゃんとやるんならな」

そういうドクオの表情には、既に諦めの色が浮かんでいた。
そうとは知らず、ジョルジュは「よし!」と気合を入れる。

( ゚∀゚)「じゃ、俺はいくぞ! ブーンも足を引っ張るなよな」

( ^ω^)「……おー」

さっきまでブーンに向けていた怒りはどこへやら
ジョルジュは楽しそうに走っていった。

目標があれば、ひとまずそれにひた走るタイプなのだろう。

どこまでも調子の良い奴だと、その背中を見つめながら思った。

('A`)「で、ブーンは……」

ドクオはブーンの右手に握られたものを指さした。

('A`)「それで大丈夫なんだろうな? 心変わりしないか?
 木刀とかもちゃんと在庫はあるんだが」

335 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:12:08 ID:LUlKybsE0
ドクオが確かめるのも無理はなかった。

武器は貸与された。
ヒートを捕まえるためならなんだって準備したという。

それでも、どうしても攻撃することが嫌だったブーンは
紹介された武器を全て無視して、酒場の隅に忘れ去られた客の持ち物を選んだ。

( ^ω^)「僕はこれで十分ですお。
 相手は女の子なんだし、木刀なんて物騒な物持ってられないですお」

そういって、ブーンは自分の得物を顎で指す。

それは、どこからどうみても平凡な虫取り網だった。

('A`)「……ある意味かなり失礼だと思うんだが」

(*^ω^)「虫取り得意ですお。
 網はちゃんと人が入れるくらいにしてあるし、強度も良いものですますお。
 なんだかんだで使い勝手いいと思いますお」

336 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:12:51 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「……なかなか彼女にはお似合いかもしれない」

( ^ω^)「え」

('A`)「さ、ほら早くいけ」

長くなりそうだったためか、ドクオはブーンを手で払う動作をした。

ブーンは渋々了解して、歩み始める。

こうして最後のテストが始まった。



     ☆     ☆     ☆

337 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:13:44 ID:LUlKybsE0
繁華街

赤い屋根が立ち並ぶこの場所は、見た目も派手だし、活気もあった。
道の脇に露天商が立ち並んでいる。祭りで蓄えていた商品を少しずつ発散しているようだ。
おかげで人ごみもできている。歩くのもままならない。

ブーンはその人ごみを見て、ジョルジュにはめられたことを悟った。
この場所じゃたとえヒートを見つけたとしても追いかけるのは難しい。

逆に青果商の方ならば、夕方の時間まで人は少なめだろう。
食事時は終わったばかりなのだから。

(;^ω^)「ぐぬぬ、これは知らなかったお」

ぼやきながら、ブーンはとりあえず道を進んでいった。

それにしても、こんなに人がいたんだなと純粋に驚いていた。
今までお城の敷地内で暮らしていたから、見えてこなかった。

先日シラヒーゲ政務官が言っていた言葉
町に出れば気持ちが紛れる
その意味がようやくわかった気がした。

338 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:14:50 ID:LUlKybsE0
でも今はやることがある。
そう思い直して、一層ブーンは気を引き締めた。

少しでも騒ぎがあれば、見逃してはならない。
そこにヒートがいる可能性が高い。

ヒートという女性の特徴もしっかり聞いていた。
華奢な浅黒い身体に、赤い短い肩までの長さの広がった髪。
盗みを働くときはいつも軽装で、ダボダボのシャツとホットパンツを着る。

頭の中でその姿をイメージする。

( ^ω^)「赤い髪、赤い髪」

ちょうど目の前に赤毛の人が向かい側から来てので、まずはその髪を参考にした。

それにしても都合よく赤い髪の人がいたなあと思い、何気なくその人を見た。

339 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:15:51 ID:LUlKybsE0
ノパ⊿゚)

その姿を逐一観察して、横に並び、そして通り過ぎたとき

ブーンは歩みを止めた。

気付いたからだ。

( ^ω^)「……本人じゃないかお?」

急いで振り返る。

しかし人ごみが邪魔をする。

340 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:16:45 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「おお、どこだ、どこだお!?」

焦りつつも、背伸びして確認する。

ブーンから見て右斜め前の方向に向かっていくのが見えた。
赤い髪はとらえやすい。

少しずつ、そちらへ近づいていく。

人には当たるが、前には進める。
流れに逆行するブーンを訝しげな眼で見る人もいる。
視線が痛い。謝りたいけど、今は我慢する。

人と人の間にヒートが入っていった。
ブーンも急いでそこに手を入れる。

(;^ω^)「あ、挟まった」

341 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:18:34 ID:LUlKybsE0
手を抜こうとばたばたする。
しかし手のひらの先で何かを掴んで、止まる。
丸みを帯びた何かだ。

( ^ω^)「あ」

ひょとして掴んだのかな。ヒートを。

(;^ω^)「ちょっと、離れてくださいお!」

腕を挟んでいた人たちを強引にどかそうとする。
睨まれもしたが、目をそむけてやり過ごす。

人ごみが少しだけ緩和され、腕の先が見えた。

その手に握られていたのは、熟れた洋梨だった。

これはこれは美味しそうな

「ない!」

鋭い声がする。

342 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:19:33 ID:LUlKybsE0
「ないわ! 私の洋梨!」

ブーンの後ろの方だ。
流れていく人ごみがどよめいている。

「ここにのせといたのに。
 きっと誰かに盗まれたんだわ」

ブーンは固まっていた。
伸ばした腕の先、洋梨を握る手がにじむ。

良く見れば洋梨には商品札がついていた。

「きっとまだこのあたりにいるわ。
 みなさん! どうか洋梨を持った人を捕まえて!」

343 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:20:34 ID:LUlKybsE0
視線が集まるのを感じる。

ブーンは勤めて静かに、腕を引っ込めた。
そのままそーっと、洋梨を下に置く。

道の上。
ぽつんと。

それを残して、足をゆっくりゆっくり、前へ。

目の方はせわしなく動かしてヒートを探す。

いない。

そんなばかな。

いくらちょっと見えを離したからって、消えるはずがあるか。
あんなに目立つ赤い髪が。

塗料専門店の露店の脇まできて、息を吐く。

344 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:21:28 ID:LUlKybsE0
とうとう見失ってしまったことを受け入れざるを得なくなった。

また探さなければ、と思ったとき、目の端で何かの影を見た気がした。
鳥だろうか。
嫌に身軽に、地面から飛んだように見える。

思わずそれを追いかけた。

大きな建物の窪んだ場所。
鳥でもなければそんなところにはいかないだろうなと思われる場所。

(;^ω^)「……は?」

赤い髪が棚引いている。
見間違いかと思った。

でも、瞬きしても消えない。

345 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:22:38 ID:LUlKybsE0
ノパー゚) ニイィ

ヒートがそこに座っていた。

上ったというのか。
建物の窪みを利用して。

その不敵な笑みから、ブーンは察する。
自分は気付かれている。
顔を覚えられている。

なんでだろう。

それを考えようとしたとき

「あいつさっき洋梨置いていったぞ!」

背後から声がした。
さっきの女性の叫びをきいて、洋梨を探し始めた誰かさんだ。

346 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:23:34 ID:LUlKybsE0
振りむいている暇はなかった。

路地裏へ逃げ込もうと走り出す。

「誰か捕まえてくれ!」

また別の人の声。
随分すぐに仲間を作ったみたいだ。

それと少し遅れて、露店の脇を抜けようとするときに
露天商は何かをブーンに投げつけてきた。

肩に当たる。

でも確認している場合じゃない。

347 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:24:31 ID:LUlKybsE0
そのまま路地裏に逃げ込む。
土地勘などないが、止まってはいられない。

その肩にかかったのが、赤い塗料と気付くのは、まだしばらく先の話だった。











     ☆     ☆     ☆

348 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:25:29 ID:LUlKybsE0
『三匹のカエル』店内

('A`)「ところでシュール、どうしてヒートが盗みを働くってわかったんだ?」

客席でだらっと座りながら、ドクオが質問した。

カウンターでコーヒーメーカーを弄っていたシュールが顔も上げずに口を開く。

lw´‐ _‐ノv「本人から聞いた」

('A`)「本人? 今朝会ったのか?」

lw´‐ _‐ノv「いや、さっき会った」

コーヒー豆を選びながら、シュールが素っ気なく答えた。

('A`)「さっきって、いつだよ」

lw´‐ _‐ノv「ちょうど、私がここに来る直前」

('A`)「はあ? じゃあここに入ってくる前までいたってのか」

349 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:26:36 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「いや」

('A`)「?」

lw´‐ _‐ノv「むしろ私が扉を開けたときまでいた」

('A`)「ええ!?」

lw´‐ _‐ノv「で、たぶん中も見た。
 ブーンとジョルジュが戦っているところ」

('A`)「……」

lw´‐ _‐ノv「で、扉を閉めるときにはいなくなってた。
 たぶんあれ以上いたら私に捕まると思ったんだろう」

('A`)「……みられていたのか」

lw´‐ _‐ノv「ああ」

350 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:27:48 ID:LUlKybsE0
('A`)「それじゃ、だいぶ難航するかもなあ。
 早めに捕まえておけばよかったのに」

lw´‐ _‐ノv「私は嫌だぞ。
 私は料理と道具作り専門だ。力仕事はお前らに任せる」

('A`)「道具ったって、武器は作れないんだろ?」

lw´‐ _‐ノv「模造品だけは極めた。
 ジョルジュがいいセンスのものを仕入れてくるからな。
 あとはほら、ヒートが履いている強力なバネつきの靴とか」

はあ、と溜息をついて、ドクオは頬杖をついた。

lw´‐ _‐ノv「豆って何がいいんだよ」

('A`)「味わかんないんだし、どれでもいいじゃないか」

lw´‐ _‐ノv「一理ある」



     ☆     ☆     ☆

351 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:28:38 ID:LUlKybsE0
午後2時半

ジョルジュは青果商の露店が眺められる位置に辿りついていた。

時計を確認して、そろそろヒートが来るかなと予測する。

こればっかりは経験のないブーンにはわからないだろう。

いくらヒートが果物好きといっても、食事したばかりじゃ盗もうとはしない。
食後は繁華街でぶらぶら、たまに好みのものを盗んで
それから昼下がり、今の時刻になってようやく果物を手に入れに動き出す。

そこまでの細かい動きを、既に知っていた。

とはいえ、最初に繁華街に送ったのだし、ブーンにはむしろチャンスを与えたと言える。

そのチャンスをものにできなかったとしたら、それはブーンの責任だ。

自分は悪くないさ。
ジョルジュはそう自分に言い聞かせた。

( ゚∀゚)「そろそろ歩くかな」

そう言って背伸びをして、青果店を眺めて歩いた。

352 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:29:27 ID:LUlKybsE0
季節は秋。
旬の果実が並ぶ。

魔人といえども植物の好みを変えることはできない。
だから、その時期相応の食べ物が並んでいる。

今はどうやら洋梨が盛況らしい。
ヒートの大好物だ。
これはきっと狙われるに違いない。

ふと、道に目をやったとき
赤い髪の女性が数十メートル先にいることに気付いた。

( ゚∀゚)「ラッキー……」

手に持つクロスボウを、胸元に寄せる。

足早に近づいていく。
繁華街と比べれば空いている道。
歩きやすい。

353 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:30:34 ID:LUlKybsE0
音をなるべく立てないように、進む。
ヒートの背後に迫っていく。

ヒートはお店の品定めをしている様子だった。
今は下見だろうか。
もう少し後になって、完全に盗みに入るのかもしれない。

だとしたら今はチャンスだ。
仕事していない今ならば、油断しているだろうから。

ヒートがとあるお店に近づいた。
老舗の果物屋らしい。
軒先から、フルーツの芳醇な香りが漂ってくる。

ヒートはしゃがみこんで、顔を寄せて、果物をひとつひとつ眺めている。

354 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:31:34 ID:LUlKybsE0

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「気にいったかい?」

ヒートに対して店主が声をかけていた。
やけにがたいのいい女性だ。

ヒートが顔をあげる。
ジョルジュからは背中しか見えない。

ノパ⊿゚)「ああ、いい色してるね」

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「採れたてだからね。
 在庫もあるし、今なら安くしておくよ」

ノパ⊿゚)「考えておくよ。そうだ、おばさん」

ヒートが立ち上がる。

355 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:32:28 ID:LUlKybsE0
店主も釣られて顔を上に上げる。
無意識に。

その一瞬の隙。

ジョルジュは見逃さなかった。
ヒートが立ち上がりざま、腕を素早く下に動かしたのを。
そしてそのまま洋梨を自分の手持ち鞄の中に入れたことを。

音も、振動も出していない。
おそらく店主も気付いていないだろう。

ジョルジュはクロスボウを構えた。
今がチャンス。
現行犯だ、逃しやしない。

網の入った矢。放たれた瞬間拡散して網となる。
それを思いっきり指で引いた。きりきりと軋む。

356 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:33:35 ID:LUlKybsE0
指を離す。
放たれ、広がる網。

まっすぐヒートの方へ向けて。

途端に、状況が一変した。

( ゚∀゚)「え?」

声はすぐにかき消されてしまった。

ヒートが確かに立っていたその場所で、轟音が響き、土煙が上がる。

理解が追いつかない。

ヒートの姿も、お店の姿も見えなくなる。

自分もまたそれに巻き込まれた。
露店の前だけが急に、煙に包まれたのだ。

357 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:34:36 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「え、煙幕か!?」

ジョルジュは腰を抜かしてわめいた。
不自然な土煙だ。

煙の奥に人影が見える。
それが一気に跳んだ。

なんとか目で追う。
煙を飛びだしたその影が露わになる。

赤い髪が見えた。

(;゚∀゚)「ああああああ、ちくしょう!! 逃げられた!」

そう言い切ると同時に、顔面に何かを投げつけられた。

( ×∀×)「のわああああ」

情けないくらいの叫び声をあげながらそれを確認する。
洋梨だ。
青果店から盗んだものの一つに違いない。

くそ、してやられた。

358 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:35:33 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは立ち上がろうとする。
びっくりしただけだ。こんなところで倒れている場合じゃない。

せっかくブーンを出しぬけると思ったのに。

頭の中で憤りが錯綜する。
悔しさで目の前が滲む。

俺は、あいつに負けたくなんかないのに。



     ☆     ☆     ☆

359 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:36:29 ID:LUlKybsE0
最初に会ったときから気に食わなかった。
あんなにやにやした、いかにも臆病そうな少年が、ジョルジュはどうも嫌だった。

それで、うっかりちょっかいを出したから
あれよと言う間に魔人を失うことになった。

悔しかった。

何かを奪われることの悔しさをそのときに知った。

そのあとで、あの地球儀の事件のときに見た格好いい人が、
ブーンとこっそり特訓をしていることをたまたま聞いた。

最初は無視しようと思った。
ブーンが何していようと俺には関係ないって。

でも、モララーが衛兵の中でもかなり優秀な人であると知って、気が変わった。

自分もモララーに近づきたいと思ったのだ。

だけど、もうそのときのジョルジュにはモララーに近づけるチャンスはなかった。
少なくとも、衛兵見習いとしての身分じゃだめだ。接点はない。

唯一の接点はあの地球儀の事件だけ。

360 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:37:33 ID:LUlKybsE0
それでもどうにかしてモララーに近づきたい。
せっかくあのとき近づけたのに
ブーンと自分とで、差ができてしまうことが嫌だった。

それはくだらない固執かもしれない。
純粋な、負けたくないという気持ち。
人はそれを笑うこともある。

でも、ジョルジュはどこまでもその気持ちを大切にした。

あるときのことである。
城下町を歩いていたときに、レジスタンスのパフォーマンスを目にした。

そしてそれの後処理をしている人の中にモララーを見つけた。
あの人がこんな仕事もするのか、という興味。
そこから、ついジョルジュはモララーの後をつけた。

レジスタンスの舞台裏に忍び込んだ。
そこで、モララーとレジスタンスの関係を知った。
モララーがレジスタンスと協力していること
彼らの悪事を小さく報告し、なるべく活動が継続できるように取り計らっていること。

ジョルジュはそのとき、しめたと思った。
これを使えばモララーと近づけるかもしれない。

361 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:38:34 ID:LUlKybsE0
レジスタンスの舞台裏で張り込んだ。
こそこそと、そこから出てくるモララーを見つけた。

そして

( ・∀・)「あ……」

モララーと再び出会った。

( ・∀・)「お前あのときの」

モララーはジョルジュのことを覚えていた。

だらだら話していたら不審に思われる。
そう感じたので、ジョルジュはすぐに頭を下げた。

( ゚∀゚)「俺を弟子にしてください!」

一気に言ってのけた。
いつでも、欲しいものがあれば率直にアプローチする。
それがジョルジュの信条だった。

(;・∀・)「ええ? ちょっと待って、ええ?」

狼狽するモララーを、ジョルジュはまっすぐに見つめていた。

362 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:39:32 ID:LUlKybsE0
(;・∀・)「それって、何? 俺、君の魔人帰らせたんだよ?」

( ゚∀゚)「あいつはもういいです。クビにしました」

(;・∀・)「ああそう。思いきったことするんだね」

( ゚∀゚)「今は人間として強くなりたくて、お願いしてます!」

(;・∀・)「……」

(;ー∀ー)ハア

モララーは目を閉じて、眉間を指でつまんでいた。
頭が痛いときの動作。

( ・∀・)「どうすりゃいいのよ。俺は。
 お前人間として強くなるって言ったって、それで何をしたいのさ」

( ゚∀゚)「何を……?」

( ・∀・)「それがわからなきゃ何も教えてやらね」

そう言って、モララーはその場をさっさと歩いて行ってしまった。

363 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:40:29 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは、やろうと思えばその歩みを止めることができた。
でもしなかった。

頭の中でモララーの言った言葉が響いていたからだ。

自分は何をしたいのか。

ジョルジュは純粋な男だった。

目の前の問題には真摯に立ち向かう。
精神誠意をこめてそれに対峙し、自分の欲しいものを獲得する。

それが信条。
一番大事なこと。

だからジョルジュは、その問いかけにも全力で取り組もうと思った。
余計なものや、煩わしいものを捨てて。

その一端として、ジョルジュは衛兵見習いをやめた。

寄宿舎に入ったことは、親の言いつけでしかなかったので
それを続けていてはいつまでたっても問題は解決しないと思ったのだ。

364 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:41:37 ID:LUlKybsE0
少しは大人らしくなるために、力をつけろと言われた。
いつまでも裕福な暮らししてちゃいけない。
他国にいい修行の場所がある。そこへいけ。
それで南西のテーベ国にある家を渋々出て、ラスティア国にきた。

でも、それは自分の意思じゃない。

じゃあ自分のしたいことは何なのか。
その問題に直面したのは初めてだった。

真剣に悩んだ。
城下町でその日暮らしを始めて、ひたすら自分をいじめ抜いて
世間のことも学んだ。

寄宿舎で閉じこもっていては得られないことだってたくさんあった。
それは今でも誇っている。

やがて、ジョルジュは自然とレジスタンスに辿りついた。
この町で一番まっすぐに生きている連中だと思ったからだ。

365 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:42:28 ID:LUlKybsE0
当時、レジスタンスはまだ盗賊団のメンバーで構成されていた。
それが次第に人数を減らしていった。
別にみんながレジスタンス活動をしたかったわけじゃないからだ。
その引き潮のときに、ジョルジュは入って、入団したいと答えた。

モララーと出会ってから1年が経過した、冬の話である。
そのとき、モララーはいなかった。
国王の外交に付き添っていたのである。

モララーの帰りを待って、ジョルジュは『三匹のカエル』に入り浸った。
やがてリーダーのヒートが面白がって彼にお酒を担当させてみた。
お酒も飲めない子どもなのに。

面白いことに、彼はカクテルの作り方を容易にマスターした。

モララーが帰還した夜
カウンターにいるジョルジュを見て、彼は愕然としていた。

(;・∀・)「……なんすかこれ」

( ゚∀゚)「マスターと呼んでください」

(#・∀・)「何しれっといるんだよてめえは」

そのまま、モララーは奥の部屋へとジョルジュを連行した。

366 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:43:37 ID:LUlKybsE0
現在の訓練部屋だ。
当時から、モララーとドクオが技術の鍛錬のために使っていた。

そこで、モララーはジョルジュを投げ捨てた。

( ×∀×)「ぬわあ」

( ・∀・)「なに情けない声だしてんだよ。
 俺は今むしゃくしゃしてるんだ。ほら、木刀手に取れ」

モララーは部屋の隅にあった木刀に手をかけ、一本をジョルジュに投げる。
そしてもう一本を自分の手に持った。

( ・∀・)「いいか、ジョルジュ。これは入団テストだ。
 この組織がレジスタンスとなって以来、初めてのな。
 俺相手に三本取ってみろ」

その日、訓練部屋の灯りが消えることはなかったという。

367 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:44:29 ID:LUlKybsE0
こうしてジョルジュはレジスタンスのメンバーとなった。

以降、誰もレジスタンスになろうとしていない。

いや、誰も来なかった。
現在
ブーンがその門戸を開くまでは。

なんでよりにもよって、一番気に食わない奴が来てしまったのだろう。
一番会いたくない奴が。

こんな不思議な縁、いらなかったのに。

くそ野郎。


     ☆     ☆     ☆

368 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:45:31 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「ジョルジュ! 大丈夫かお!?」

雑踏の中からもう一人の青年が飛び出してきた。
どういうわけかその肩は赤く染まっていた。

ぱっと見たら血にも見えたかもしれないが、ただの塗料だ。

ブーンはジョルジュの傍に駆け寄り、屈んだ。

ああ、またこいつは現れた。
ジョルジュは心の中で悪態をついた。

会いたくないって思ってるのに。
なんだってこいつはくるんだ。

しかも、思いっきり俺を心配する表情で。

こいつは馬鹿なんじゃないか。

俺はお前を苦しめたことがあるんだぞ。

なんで俺を心配するんだよ。

あのときだって、俺と一緒にいた魔人ですら、俺を気遣ってくれなかったのに。

369 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:46:29 ID:LUlKybsE0
そう悪態をつきながら、
ジョルジュは自分が笑いそうになっていることに気付いた。

それを隠すため、思わず叫んだ。

(;゚∀゚)「無事に見えるかばーか!
 逃げられちまったよ!」

やけくそ気味にジョルジュはブーンにつっかかった。

明らかに動揺しているブーン。
そりゃそうか、こんな風に叫ばれたら、こいつは驚いちゃうんだ。
小心者だから、ちょっと大声だしたくらいですぐ。

(;^ω^)「そんな……いつまでも尖がっている場合じゃないお」

そのくせこんなふうに反論してきやがる。

(#゚∀゚)「なんだとこのやろう!」

ジョルジュは立ち上がろうとして腕を下に降ろした。
しかし、その動きが途中で止まる。

ようやく晴れてきた煙。
果物屋の前に佇む人の姿が露わになる。

このお店の店主の姿。

370 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:47:34 ID:LUlKybsE0

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)

毅然と立ち尽くすその姿。
口を閉じ、腕を組んで
物も言わずに静かに二人の青年を見下ろしている。

二人の青年は店主の女性を見上げていた。
身体が固まっている。

やがて、女性はゆっくりと口を開いた。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「お勘定」

(;゚∀゚)「ああ……もうだめだ……」

ジョルジュは泣きごとを漏らした。

(;^ω^)「ジョルジュ! 諦めるなお!」

ブーンが必死に呼びかける。

なんだよ、急に男らしいこといいやがって。

371 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:48:31 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「なんだよ! じゃあどうすりゃいいって!」

(;^ω^)「協力するんだお! そうしなきゃあの人には勝てないお!」

喚いている間に、店主の身体がゆらりと傾き始める。
行動が始まるのは明らかだ。

(;^ω^)「あの人に立ち向かう策ならあるお! だから!」

ブーンは立ち上がり、手を伸ばす。
ジョルジュを引き上げるために。

ジョルジュはその手をぼんやり眺めていた。

得体のしれない男が、まっすぐに自分を助けようとしてきている。
意味がわから……いや
ジョルジュは自分の思考を上書きする。

ああ、そうか。

こいつは優しいんだな。

モララーは言っていた。
ブーンは俺たちにできないことができるって。

その言葉が本当かどうか確かめられるかもしれない。
モララーがどうしてブーンに入れ込んでいたのか。

自分がいつまでもいらだってしかたないこの男に何があるというのか、わかる。

372 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:51:24 ID:LUlKybsE0
心の奥がざわめいた。

それを見てみたいという意欲が湧いた。

ブーンに賭けてみたいという気持ち。

焦りの顔から、少しずつ、歪んでいく。
引きつった笑みが浮かんでくる。

(;゚∀゚)「ほんとうだろうな? 策があるって」

ジョルジュが震える声で問いかける。

ジョルジュにははっきりと、ブーンの目が見えていた。
まっすぐに人を信じ切っている目。
一緒に何かをしようという目。

こういう目は、嫌いじゃない。
むしろ、俺の信条通りだ。
俺が最も憧れる生き方。

ジョルジュの警戒心が解けていく。

373 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:52:23 ID:LUlKybsE0
そのとき、とうとう店主が足を青年たちに近づけた。
その手には大きな看板が握られている。

高く、看板が抱えあげられる。
そのまま振り下ろされれば、二人はひとたまりもない。

ブーンは一回だけ頷いた。
それだけで、ジョルジュは瞬時にブーンの手を握った。

(;゚∀゚)「じっくり教えろよな!」

叫ぶように答えながら、二人は走り出す。
同時に看板が空を切る。
さっきまで二人がいた場所へ。

こうして二人は、再び彼女を捕まえるために走り出した。

すでに数十メートル先を駆けている、あの赤毛の女性を捕まえるために。

374 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:53:24 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは純粋な男だった。
蟠りがあっても、目標があれば、それに一直線。
その方が、楽だし、うじうじするより性に合う。

ジョルジュは前を向いた。

あの洋梨好きな女め、絶対のしてやる。

俺たちで。



     ☆     ☆     ☆

375 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:54:23 ID:LUlKybsE0
午後3時

住宅街

柔らかそうな茅葺屋根の上で、ヒートは洋梨をかじっていた。
基本的には通りすがりの一般人から盗み集めたものだ。
店先で盗むことは、本当はリスキーなのだ。

ノパ⊿゚)「あの子らどこいったんかねえ」

はるか遠くの青果商通りの方を眺めつつ、呟く。

洋梨が一つ食べ終わる。
芯をぽいっと捨てる。

『三匹のカエル』であの子らを見かけてから、予感がした。

ドクオのことだから、すぐに自分を捕まえに来るかなとも思った。
だけど、繁華街であの見慣れぬ少年がきょろきょろしているのをみたとき
事情はなんとなく察した。

ああ、自分を捕まえに来ているんだなって。

376 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:55:20 ID:LUlKybsE0
だからわざと騒ぎが起こるようにしむけてみた。
群衆の中で洋梨がないと最初に叫んだ女性の声が、私の声だと、あの子は気付いただろうか。
あのあとは勝手に人々が騒ぎ始めただけ。

ノパ⊿゚)「きっと気付いていないだろうなあ」

そういって、また一つ芯を落とす。
こうしておけば見つけられるだろうとぼんやり考えながら。

「おーい」

足元で声がする。

首を傾げて、そちらを見る。

ノパ⊿゚)「ありゃ」

( ^ω^)「おー」

少年がいつの間にか、建物の入り口のところにまできていた。

ノパ⊿゚)「よくわかったねー」

( ^ω^)「芯が落ちてたお」

ノパ⊿゚)「お、鋭い。感心するね」

377 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:56:23 ID:LUlKybsE0
自分の出したヒントにちゃんと気付いてくれるのは、嬉しい。

( ^ω^)「ちょっと下で話がしたいお」

ノパ⊿゚)「なんだい? つかまってとかは聞かないよ?」

( ^ω^)「あ、事情知ってるんだおね?
 僕はブーンだお。これ、入団テストってことになっているお」

ノパ⊿゚)「ああ、どうせドクオが仕向けてきたんだろ。
 自分で捕まえるのは面倒、とか言っちゃってさ」

( ^ω^)「そうだおー、ひどいことするお」

ノパ⊿゚)「同情するわー。
 で、下降りたら何するの?」

( ^ω^)「テストだお」

テスト?

378 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:57:24 ID:LUlKybsE0
何だろう。
面白ければいいな。

ヒートはそう思って、飛び降りた。





     ☆     ☆     ☆

379 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:58:24 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「ヒートは、面白いことが好きなんだ」

( ^ω^)「面白いこと?」

( ゚∀゚)「ああ、だから、何か新しいものや、興味深いことがあると、まずは寄ってみたくなる。
 美味しそうなものも好きだな。で、そこに急いで寄って行っちゃう」

( ^ω^)「なるほど……使えるかもしれないお」

( ゚∀゚)「お前の策に?」

( ^ω^)「そうだお。隙を作る必要があるからだお」

( ゚∀゚)「なるほど……でも
 これえ気を引くとしたら、勝負は一瞬になるんじゃないか?」

( ^ω^)「それくらいギリギリの相手だお……」



     ☆     ☆     ☆

380 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 22:59:17 ID:LUlKybsE0
飛び降りたのは、ブーンの傍。
その隙に、ブーンは建物の屋根の下へと移動した。
上から覗いたときには見えなかった位置。

大きな網を備えた虫取り網があった。

ヒートは思わず笑ってしまった。

こんなもので自分を捕まえようとでもいうのだろうか。
振りかぶる動作さえあれば、自分にとって逃げるには十分なのに。

(#^ω^)「おおお!!」

ブーンが叫ぶ。
虫取り網が振りおろされる。

ヒートは一歩引いてそれを避けた。
道の真ん中へ。

網はかすりもしなかった。

381 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:00:17 ID:LUlKybsE0
そんなんじゃだめ、と言おうとした。

(#^ω^)「いまだお!」

ブーンが叫んで、背後の、茅葺屋根の上を見た。
さっきまでヒートのいたところ。

(#゚∀゚)「おお!」

ジョルジュがいた。
遠回りして、別の場所から屋根に上っていたのだろう。

そうか、芯を見つけたのは随分前だったんだな。
それで私がいるところがわかってから、計画を練ったのか。

ヒートは素直に感心した。

それから、批評した。

382 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:01:26 ID:LUlKybsE0
このブーンという少年は過ちを犯した。
見なければよかったのに。
ジョルジュの方を見なければ、私は彼に気付かなかったのに。

今、ジョルジュは上から私たちを見下ろしている。
圧倒的に優位な状況だ。
私が平面上でどこに逃げようとしても、簡単にあのクロスボウで狙って射止めることができる。

その優位な状況を破ってしまったのは、ブーン自身だ。

ヒートは足に力を込める。
くるっと後ろを振り向く。
ジョルジュが撃つ、その前に。

ヒートが今見ているのは、ジョルジュのいる家の向かい側の住宅。
幸いなことに、一つだけある窓枠の上に、出っ張った屋根がある。
私の脚力とバネの作用があれば、簡単にそこに乗り移ることができるだろう。

383 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:02:23 ID:LUlKybsE0
さよなら、見知らぬ少年よ。
私を捕まえるにはまだ早かったようだな。

心で別れを告げ、

地面を蹴る。

いつものように、空中へ。

「そうだお」

顔は見えなかった。

でも確かに、あの少年の声が聞えた。
後ろから。

( ^ω^)「そこにしか逃げ道はないんだお」

384 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:03:20 ID:LUlKybsE0
顔を向ける。
片目だけで、彼を見る。

彼はクロスボウを構えていた。

なんで、それがここにあるんだろう。
二つあったのか。
でも、だったらどうして初めから使わなかった。

ああ、私を油断させるためだったのか。

ジョルジュの方を見たのも、ブーンから注意をそむけさせるため。

ここに至るまでの何もかもが、私を驕らせるための布石。

385 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:04:30 ID:LUlKybsE0
その結論が導き出されたときには

すでに頭の上から足の先まで

大きな網が彼女を包み込んでいた。




     ☆     ☆     ☆

386 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:05:27 ID:LUlKybsE0
夕方

『三匹のカエル』

ノハ×⊿×) ムキュー

ブーンとジョルジュはヒートを抱えて連れてきた。
町中で大変な数の人々にみられたが、気にしている場合でもなかった。
むしろ積極的に、洋梨を販売していたお店や、盗まれたお客に声をかけた。

そうしてきっちり領収書をもらってきた。

('A`)「おおう、きっちり……きっちり……」

ドクオの顔は、明らかに、「こんなことまでしなくていいのに」と物語っていた。

( ゚∀゚)「お前らしいや」

ジョルジュがそう言ってのける。

387 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:06:23 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「お? そうかお?」

呑気に返すブーン。

ジョルジュはそれを鼻で笑った。

( ゚∀゚)「あほみたいに正直なんだな。
 そりゃ、モララーさんも構っちゃうよ。
 ほっといたら何するかわからんものな」

ブーンはむっとする。

(#^ω^)「なんだお、協力してやったのにその言い草は」

( ゚∀゚)「あー、はいはい。ありがとうさん」

(#^ω^)「ぐぬぬ……」

('A`)「さて、お金はなんとかしよう」

またもやドクオが口を挟んできた。

388 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:07:23 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「おい、模造品返せ」

シュールがブーンに声をかける。
ブーンは「ああ」と言って虫取り網の中からクロスボウの模造品を取りだした。

あのとき、ジョルジュと合流してから、一旦『三匹のカエル』へ赴いた。
そこで計画をしっかり練る中で、シュールの模造品の話を聞いた。

それが、ヒートを油断させるために使えるかもしれないとひらめき
ジョルジュに持たせて、ブーンはヒートの前に現れた。

( ^ω^)「うまくいきましたお。ありがとうですお」

lw´‐ _‐ノv「壊してないだろうな?」

(;^ω^)「た、たぶん。もし壊れていたらジョルジュのせいですお」

( ゚∀゚)「え?」

( ^ω^)「使ったのはお前だお!」

lw´‐ _‐ノv「ほう」

(;゚∀゚)「た、たぶん大丈夫です。はい」

389 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:08:23 ID:LUlKybsE0
('A`)「で、ヒート。何か言いたいことは」

ノパ⊿゚)「……縄をほどけ」

('A`)「嫌だ」

お店の一角にある柱に、ヒートは縛られていた。
盗みのあとで捕まったら、いつもこうして反省させているらしい。

ノパ⊿゚)「お前それがリーダーに対する態度か!?」

('A`)「もう何年も言ってるけどな、ここはもう盗賊団じゃないんだ。
 レジスタンスなんだよ。魔人と戦う勇者の集いだ」

( ^ω^)「勇者?」

唐突に聞えた奇妙な単語に、ブーンは反応する。

('A`)「カエルって、勇者っぽいだろ?」

( ^ω^)「ええ……ええ?」

この団体は勇者のパーティだったのか。

やたらと俊敏な泥棒と、青白い細身の衛兵と、掴みどころのない料理人と、調子のいい青年と
……自分。

なんだこれ。

390名も無きAAのようです:2013/08/29(木) 23:08:25 ID:atSXWnCM0
長丁場の投下ですな。本当に筆早くて羨ましいわ
しえんしえん

391 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:09:20 ID:LUlKybsE0
ノパ⊿゚)「はーなーせー」

('A`)「いーやーだー」

lw´‐ _‐ノv「おう、洋梨のタルトできたぞ」

( ゚∀゚)「凝ってんなー」

それからレジスタンスの方々は話しあって、今日はもう店は閉めようということになった。
どうせいつも大した客は来ない。
それに、なんだかみんな疲れている。

だけど、閉めた後で

それからすぐに、号令に合わせて
小気味良いグラスの音が響く。

飲み会となれば話は別。
それに、新しい入団者が来ているのだから。

その日はずっと、ブーンは『三匹のカエル』で過ごしていた。
寄宿舎のF棟の管理人には後で謝っておこう。

392 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:10:26 ID:LUlKybsE0
気分は晴れた。
言い切ってもいい。

いつまでも落ち込んでばかりじゃいられない。

今は新しくできた仲間と共に過ごそう。

そして、魔人に立ち向かおう。

ブーンの心は、ひとまず今、固まっていた。




     ☆     ☆     ☆

393 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:11:18 ID:LUlKybsE0
午後8時

寄宿舎G棟3階368号室

ツンの部屋

ξ゚⊿゚)ξ「……月が綺麗」

彼女は思わず呟いた。
窓の外から見える、下弦のそれが、あまりにも綺麗だったから。

ブーンのことを思った。

彼は元気にしているだろうか。
心配でもあった。
ひょっとしたらやけをおこしているんじゃないか。

394 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:12:23 ID:LUlKybsE0
それで、やけになって、危ないことにでも手を出していやしないか。

もしそんなことになれば、自分は……

逸る気持ちを抑える。

ξ゚⊿゚)ξ「……きっと平気よ。ブーンなら」

誰にも届かない言葉。

それだけを残して、夜は更けていく。

深く、深く。

395 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:13:17 ID:LUlKybsE0





―― 第三話 おわり ――




―― 第四話へ続く ――



.

396 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:14:17 ID:LUlKybsE0
―― コラム③ レジスタンス ――

lw´‐ _‐ノv「……中世、近世、ヨーロッパ、料理、で検索っと」

lw´‐ _‐ノv カタカタカタ……

lw´‐ _‐ノv「中世ばっかり出てくるな……」

lw´‐ _‐ノv「……犬のようにがっつくのは当たり前。口の中に食べ物をめいっぱい詰め込み、その状態でお喋りをする。
 食事中にゲップやオナラをして恥じ入ることがない。タンやツバをあちこちに吐き、
 汚れた口はテーブルクロスを持ち上げてその裾で拭い、さらには同じ場所で洟までかむ。
 皿以外に食器はなく、どんな料理も手づかみわしづかみ。汚れた指先は意地汚くしゃぶったり、あるいは洟をかんだテーブルクロスで拭う。
 酒に酔っては大声で歌い、喚き、罵りあう。そのうちに相手の胸ぐらをつかみ、喧嘩が始まる。皿が舞い、食器が飛ぶ。
 そのうちに武器を取り出す者が出てきて、刃傷沙汰へと発展する。悲鳴と怒号が響き、警備兵がすっ飛んできて、ますます辺りは喧噪に包まれる……」

lw´‐ _‐ノv「……彼らがこのように野放図な食事を繰り広げていた理由は、
 当時のヨーロッパが慢性的な飢えや病気に苦しみ、その上戦争ばかりしていたからです……」

lw´‐ _‐ノv「あー、前提が違うな。ふむ」

lw´‐ _‐ノv「……なんでもありにするか」

397 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:15:17 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「レジスタンスはいろんな町にいる魔人反対派組織。
 ラスティア城下町のように盗賊団がそのまま型となっていることもある。
 大体において反政府勢力がなっていることがおおい」

lw´‐ _‐ノv「その活動は魔人利用に対する抗議デモやパフォーマンス
 それと政府や衛兵が取り扱ってくれない魔人がらみの事件を解決していたりもする。
 そのためたまーにレジスタンスのファンもいたりする」

lw´‐ _‐ノv「とはいえ、政府に反対しているわけだから大概は良い顔されない。
 南の山での魔人の事件はイメージアップのいいチャンスだったんだけど、上手くはいかなかった。
 イメージダウンすれば活動の幅も狭まったりする。割と辛い立場だ」

lw´‐ _‐ノv「ラスティア城下町のレジスタンスはかなり緩い方で
 他の町や国にはもっと過激な団体さんもいる。
 場合によっては政界に進出したりなんか怖いところに手を出している団体もある」

398 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 23:16:26 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「まあ、そういうところはいろいろと役立つ面もある。
 純人間製の道具を作ったりだとか。ジョルジュが輸入していた武器もこれ。
 私も作っていたりする。こっそりと」
 
lw´‐ _‐ノv「大きな町のレジスタンスはときどき集まって会合を開いている。
 開催場所は内緒。そもそも開催の直前まで知らされない。
 物語の時期ではちょうど他国でそれが行われていて、別のメンバーが行ってる」

lw´‐ _‐ノv「……総括すれば
 政府とも魔人とも対立しているもう一つの派閥みたいなもの。
 純粋な人間の組織としてのね」

lw´‐ _‐ノv「今回はこれで終わり。そろそろもうわざわざコラム出して説明する項目もなくなってきたと思う」

lw´‐ _‐ノvノシ「それじゃあ」


―― コラム③ おわり ――

399名も無きAAのようです:2013/08/29(木) 23:34:32 ID:bYVcXlZI0
カエルと勇者って聞くとクロノトリガー思い出す

400名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 01:40:52 ID:PGCDrU5M0


401名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 04:54:15 ID:Wh.TUukAO
ω・)乙。面白いよ

402名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 08:10:24 ID:T/VQgDAk0


403名も無きAAのようです:2013/08/30(金) 21:49:47 ID:xAd0Vn.EO
2H以上もお疲れ乙でした、でももっと上はいるもんだ 
ミセ*゚ー゚)リ樹海は休憩入れながらだけど先日8H以上やってたんだぜ

404名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 00:15:45 ID:QGUK15KY0
作者それぞれのペースでいいじゃないか
読み手としてはそりゃ頻繁に来てくれたりいっぱい読ませてくれた方が嬉しいけどさ

405403:2013/08/31(土) 01:14:02 ID:S2dFR5J6O
>>404 
別に悪い意味合いで書いたんじゃないんだぜ 
純粋なねぎらいの気持ちで書いたんだよ、ミセ*゚ー゚)リ樹海に対しても

406 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:04:37 ID:t8lg.qj.0










―― 予告 ――









.

407 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:05:51 ID:t8lg.qj.0
「大丈夫ですかな」

声をかけられる。
落ち着いた、大人の声。

デレは反射的に顔を上げた。

( ФωФ)「私ですよ」

目の前にいたのは、衛兵隊長のロマネスク。
以前父に紹介されてから、知り合いだった。

ロマネスクはグラスを掲げ、猫のような目をデレに向ける。

( ФωФ)「楽しんでおられますかな」

デレは答えなかった。

その代わり、彼を睨み据える。

その表情を見てから、ロマネスクが「やれやれ」と残念そうな声を出した。

408 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:07:27 ID:t8lg.qj.0
( ФωФ)「おられないみたいですな」

ζ(゚ー゚*ζ「おかげさまで」

デレは短く畳みかけた。
鋭い睨みはそのままに、上半身を動かして、なおのこと勢いをつけていた。
ロマネスクは虚を突かれたようで、微かに肩を震わせている。

それから、彼は目を細めた。
猫が知らない人を見るとき、相手を品定めするように。

( ФωФ)「小娘め……」

他の人には伝わらないように、細心の注意を払って出した声だろう。
デレだけの耳に、それは届いた。

409 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:08:42 ID:t8lg.qj.0




―― 第四話 ――




―― 猜疑の瞳と月下の告白 ――




明日夜10時半から投下開始。

410名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 23:12:22 ID:m1INFahM0
明日夜か……
最近寒くなってきたし靴下だけは履いて待ってる

411名も無きAAのようです:2013/08/31(土) 23:25:07 ID:S2dFR5J6O
今日予告ということは1日でほぼ書き終わったということか 
ハイペースもいいけど無理するなよ

412 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/31(土) 23:39:10 ID:t8lg.qj.0
>>411
おっしゃるとおりです……
第四話でお話の前提がでそろうので、そこまでどうしても短期間で投下したかったんです。
そこからはもう少し余裕を持って臨もうと思います。腰も痛いし。
お楽しみに。

413名も無きAAのようです:2013/09/01(日) 03:32:49 ID:YE3GlqKM0
腰お大事に
ハイペースで嬉しいけど無理しないでね

414 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:28:37 ID:X94qherQ0
そろそろ投下を始めますね。

415 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:30:01 ID:X94qherQ0
ブーンはレジスタンスに加わった。

すでに彼はその活動に参加している。
暇をもらっているうちに、『三匹のカエル』に寄り、話し合う。
そして時折町で起きている魔人絡みのトラブルを解決していく。

解決と言っても、大それた事件があるわけではなく
お城によって揉み消されてしまいそうなものをしっかり成敗する、という役割だった。

情報を集めてくるのはシュール。
現場に赴くのはジョルジュやブーン。
もう少し大きな事件になればドクオやヒートも参加するそうだが、今のところその気配はなかった。

いずれにしろ、ブーンは新入りという立場上、比較的よく働かされている。

月は移った。
今は10月。

そろそろお休みの時期も終わりかな、これからは参加の間隔があいてしまうだろうな
そんなちょっとした不安をブーンが抱き始めていた頃。




     ☆     ☆     ☆

416 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:31:01 ID:X94qherQ0
ある日のお昼

(-@∀@)「号外だよー!!」

新聞屋が駆けまわっていた。
お城からスタートして、中央広場、商店街、住宅街
その背負った新聞を一枚一枚、道行く人々に配っている。

(-@∀@)「新嘗祭の日取りが決定したよー」

そのお触れが出されたのはつい先ほどのことだった。
政務官、貴族、町内会長、それに加えて国王が討議した結果だ。

(-@∀@)「ほら、お兄さんも」

('A`)「え? ああ、はい」

半ば押しつけられる形で、ドクオは新聞を手に入れた。
読もうとする間に新聞屋は走り去ってしまう。

('A`)「どれどれ……」

書かれている日付は、今日から3週間後。
もう秋が深まる時期になってようやく開催されるとのことだった。

417 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:32:01 ID:X94qherQ0
それじゃ新嘗祭の意味がないじゃないか。
そう突っ込みながらも、ドクオはそこに掲載された写真を見る。

満面の笑みを浮かべたショボンの写真。
よほど祭が行われることが楽しみなのだろう。
それにしても、相変わらず間抜けな顔をしている、とドクオは内心悪態をつく。

実際今のショボンはその人柄から、面白がられこそすれ、あまり尊敬されているとは言い難かった。

魔人をお城に入れなかった頃は、むしろ今とは逆に気の毒なほど暗くて棘のある人物だった。
その独特の雰囲気から、恐れられたり、時にはかっこいいと言われることもあったらしい。

しかし今のショボンは丸くなっていた。
人当たりが良くなったと言えば聞えもいいか。

こうして暢気に新嘗祭の日取りを決めているあたり、
親近感こそ湧くが、他もやることがあるんじゃないかなとも訝しんでしまう。

('A`)「あれ……」

そこで、ちょっとしたことにドクオは気付いた。

この写真はおそらく国王の部屋で撮られたものだ。
壁には数々の装飾品が飾られている。
その中には今時珍しい武器や防具なども見られた。インテリアとして飾られているのだろう。

418 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:33:02 ID:X94qherQ0
('A`)「これは、まさか」

ドクオが目を細める。
写真の中のそれが、自分の思い描いているものと同じか確認するために。

ドクオの気を引いた装飾品、それは壁に飾られた剣だった。
カラー写真なので、その色合いもよくわかる。

黄金色の柄に、赤い宝石がひとつ埋まっている。
大きなルビーの原石。

これと同じものを、ドクオは何度も目にしていた。



     ☆     ☆     ☆

419 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:34:01 ID:X94qherQ0









―― 第四話 猜疑の瞳と月下の告白 ――








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420 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:35:02 ID:X94qherQ0
翌日の朝。

リ´−´ル「ツンちゃん、ツンちゃん!」

彼女が声をかけられたのは、G棟寄宿舎の廊下だった。
ツンは自分の部屋から出てきたばかりである。

ややふくよかな体系の、優しそうな女性。
何度か見覚えがあった。

ξ゚⊿゚)ξ「あれ、F棟の管理人さんじゃないですか」

主にブーンの部屋に寄るときに会っていた。
従者見習いが衛兵見習いの寄宿舎に入るためには許可が必要になる。
だから管理人とも知り合いになっていったのだ。

リ´−´ル「ツンちゃん、よくブーンくんに会っていたんだよねえ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ、まあ。友達ですから」

リ´−´ル「実は、彼のことでちょっと困ってることがあって」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

寝耳に水だった。
ブーン、確かに最近彼に関して思うことはある。
でも決してネガティブなことじゃない。

421 ◆MgfCBKfMmo:2013/09/01(日) 22:36:01 ID:X94qherQ0
彼は最近妙に明るくなっていた。
モララーが亡くなったときはずっと悲しんでいたのに
それが、城下町に赴いた途端、変わっていったのだ。

何か町で楽しみでも見つけたのかな、とツンは思っていた。
それはそれで喜ばしいことだ。
そのためツンは特別彼に追求はしていない。

あの様子なら、きっと変なことには手出ししていないだろう。
そう思って、安心していたのに。

ξ゚⊿゚)ξ「……何があったんですか?」

やや慎重に、ツンは管理人の返事を待つ。
管理人は自分の口の傍に手を添える。

リ´−´ル「実はねえ、最近ブーンくんの帰りが遅いのよ」

発言をしっかり聞きいれて、ツンはわずかに安堵した。


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