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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ
1
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 12:08:05 ID:xaL22uFs0
―――― 予告 ――――
.
276
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:10:40 ID:LUlKybsE0
一人になるとつい考え事をしてしまう。
ワインセラーを眺め、切れそうなものはないか確認しながら
先日亡くなった知り合いのことを思い出していた。
衛兵のエリートとして躍進していたモララーのこと。
葬儀は衛兵隊の身内だけで行われたと聞く。
もちろんそれが当然であり、仕方のないことであった。
それにしても、あの人が死んでしまうとは、いまだに信じられない。
あの人に対する恩は、まだまだ返し切れていないというのに。
苛立ちはあった。
こっそり帰還したドクオから話も聞いていたので、事情は知っている。
南の山の麓で魔人に襲われたこと。
277
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:11:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「正直言って、よくわからない点は結構ある。
本当にあの人が死んだのか、それすらも疑問に思うことだってある」
帰還早々酒場に来たドクオがそう言っていた。
('A`)「俺だって実はなんであの任務に誘われたのかわかっちゃいない。
モララーにはモララーの考えがあったのだろうけど」
('A`)「あいつは、俺に何を見せようとしたんだろうな」
渋い顔をして、そう呟くドクオ。
そのときジョルジュは、ドクオの向かいに座っていた。
('A`)「そうそう、あのとき他にも別の奴がいたんだった。
ほら、お前もモララーさんからちょくちょく話をきいていただろ?」
もちろん、とそのときジョルジュは頷いていた。
何度も聞いた名前だ。
関わったのはもうずっと昔の話なのに、なぜか奴の名前は良く聞く。
278
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:12:41 ID:LUlKybsE0
彼がモララーと関わっている経緯も聞いていた。
皮肉にもそのきっかけは自分だったということも。
その点、嫌な気分もする。
自分はあんなに苦労したのに、あいつは何も悩まずにのうのうと衛兵を続けてやがる。
ジョルジュは彼が嫌いだった。
あのにやけた顔も、おどおどした態度も、人に頼ればなんとかなると思っていそうな全体像も。
だから、その少年の話はあまり聞きたくなくて、そのときのドクオの話も聞き流していた。
モララーと付き添って南の山に向かった少年、ブーンの話。
279
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:13:36 ID:LUlKybsE0
お店の玄関が開けられて、顔をはっと上げる。
('A`)「よう」
青白い顔が覗く。
すっかり足のけがも治ったようで。すたすたとカウンター席まで歩いてきた。
('A`)「ジョルジュ、今日はこのあとお客さんが来るんだ」
( ゚∀゚)「お客?」
('A`)「そう、でな。俺はそいつに入団テストをしたいと思っている」
いきなり本題を話してくるものだから、ジョルジュは面食らった。
( ゚∀゚)「テストって……まさかレジスタンスの?」
ここ、『三匹のカエル』はレジスタンスのアジトの役割も果たしている。
関係者以外立ち入り禁止の扉をくぐれば、そこには秘密の部屋が隠れている。
レジスタンスは活動する場合、その部屋に籠って作戦を練り、行動を起こしていた。
280
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:15:02 ID:LUlKybsE0
('A`)「そうだ」
( ゚∀゚)「おおお、まじか! 俺以来だな!」
嬉しそうにジョルジュが言う。
彼がレジスタンスに入団したのは去年の冬だった。
さらに言えば、レジスタンスで入団テストをしたのも彼が初めてであった。
( ゚∀゚)「なあなあ、入団テスト俺がやっていい?」
('A`)「いいぞ。見るからにやりたそうな顔をしているからなあ」
( ゚∀゚)「そりゃあだって、今まで俺しかやってもらえなかったんだもの。
しかも相手はあのモララーさんだったし、あれは酷い目にあった」
ジョルジュが思い浮かべたのは、雪の降るかつての日。
その日、一晩をかけてジョルジュは入団テストを受けた。
あのとき受けた辛さはなかなか忘れられるものではない。
あれを自分だけがくらっているというのは、悔しいものであった。
悔しいという気持ちが何よりも嫌いなジョルジュは、その気持ちを早々に払拭したかったのである。
281
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:15:42 ID:LUlKybsE0
だから、わくわくしてその客人を待った。
数分が経過し、「迷ってるかもなあ」とドクオが漏らした頃
ようやく扉が開いた。
はやる気持ちを抑え、ジョルジュが見つめる先に立っていた人物は
自分が最も見たくないと思っていた人間だった。
☆ ☆ ☆
282
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:16:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「あれ、まさか知り合いだったのか?」
ジョルジュとブーンを相互に見てから、ドクオがジョルジュに話しかけた。
('A`)「お前があの衛兵見習いの中にいたのはほんの少しの間って聞いていたが」
( ゚∀゚)「……その少しの間に会ったんだよ」
ジョルジュはきまり悪そうにそういうと、眉間に皺を寄せた。
( ゚∀゚)「むしろ、質問したいのはこっちなんだが。
どうしてこいつがここにいるんだ?」
ジョルジュの指がまっすぐ、ブーンに向けられる。
ブーンは再びジョルジュと向かい合う形となる。
( ^ω^)「ドクオさんが来いって」
('A`)「そうだ。俺が呼んだ。
俺が誘ったのはこいつだよ」
283
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:17:44 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「何勝手に決めてんすか! ドクオさん!」
ジョルジュが声を荒げ、テーブルを叩いた。
端のグラスがぐらぐらと揺れる。
(#゚∀゚)「ただでさえ、俺たちへの風当たりが強くなっているってのに。
……そうだ、この前のパフォーマンスだって、せっかくリーダーと一緒に考えて頑張ったのに
新嘗祭に影響したくらいで、すぐに町の連中冷めちまうし」
(#゚∀゚)「とにかく、今はレジスタンスの人口増やすよりも、今後の方針を立てるべきでしょう。
ひょっとしたらこいつだって、俺らの情報を漏らすために来たのかもしれないし」
('A`)「そんなことはないさ」
( ゚∀゚)「なんでですか」
('A`)「こいつは、モララーさんに認められた男だったからだよ。
あの人の最期のときもいたしな」
( ゚∀゚)「……」
284
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:18:40 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「えっと、ちょっといいですかお?」
ブーンがおずおずと手を挙げる。
('A`)「はいよ、どうぞ」
(;^ω^)「なんというか、状況がまったく飲み込めないんですお」
ブーンは正直に話した。
(;^ω^)「とりあえず、ドクオさんはレジスタンスなんですかお?
それで、僕をレジスタンスに誘っているってことですかお?」
('A`)「その通り」
あっさりとドクオは頷いた。
ジョルジュの舌打ちが聞こえたが、今は気にせず進める。
( ^ω^)「それで、モララーさんもレジスタンスだったんですかお?」
('A`)「いや……ちょっと違う。
モララーさんは俺たちに協力してくれていただけだ」
285
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:19:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「協力?」
('A`)「そうだな……まずレジスタンスについてはどんな印象を抱いている?」
( ^ω^)「そりゃあ、魔人が城下町に入ることを拒んでいた人たちですお。
それでときどき広場とか街頭でデモやパフォーマンスをしたり
時折過激な人たちが魔人相手に騒ぎを起こしたり」
('A`)「まあ、そういうことで衛兵の厄介になることもある。
そして俺とモララーは衛兵の立場から、こっそりレジスタンスが活動を続けられるようにはからっていたんだよ。
協力ってのはそういう陰ながらの強力な」
('A`)「モララーは立場上レジスタンスには入ってくれなかった。
もし入っていたら国王からも気にいられることはなかっただろうしな。
別に入団するしないは問題じゃない。あいつに助けられたことは大きい」
モララーは魔人を憎んでいた。
だからその魔人と敵対する人々と協力していた。
こっそりと、国王からも隠れて。
ブーンはドクオの説明を受けて、暗躍するモララーの姿を想像した。
( ^ω^)「……知らなかったですお」
('A`)「そうだな。結構あいつは隠しごとが多かった。嫌か?」
286
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:20:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「んー、でも魔人を嫌っていたのは本当ですお。
だから、まあそんな裏の一面があっても納得できるかなと」
人間一つか二つ、別の顔があるものだ。
ブーンはそのことに思い至った。
モララーにしたって、そんな別の顔があっても問題ではない。
むしろ、魔人と対峙するという点において一致しているあたり、芯が通っているとも思えた。
('A`)「そうか、良かった。
それで、モララーさんが良く話していたお前をここに連れてきたんだ」
( ^ω^)「良く話していたって、さっき言ってた『できないことができる』ってやつですかお?」
('A`)「ああ」
やはりあっさりと答えるドクオ。
でも、ブーンからしてみたら、やっぱり納得できない。
その点だけはどうしても。
(;^ω^)「申し訳ないんですが、やっぱり思い当らないですお。
自分に何かができるなんて」
287
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:21:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「どうかな。それを判断するのは俺たちだ」
ドクオは自分と、ジョルジュを順番に指さした。
ジョルジュは露骨に嫌そうな顔をする。
( ゚∀゚)「いくらこいつが役立ちそうでも、仲間になりたくないんですけど」
忌憚なくひどいことを言ってのける。
しかし彼の魔人がいなくなったのは自分と関わったせいだったはず。
だからそっけなくされてもしかたないかとブーンは思った。
( ^ω^)「あれ?」
そこで、違和感に気付いた。
( ^ω^)「それじゃ、ジョルジュもモララーさんと会っていたのかお?」
質問をすると、ジョルジュは流し目でブーンを見た。
( ゚∀゚)「ああ、たまーにな。
この酒場にもちょくちょく顔出してくれていたし」
( ^ω^)「じゃあ、モララーさんのこと憎んだりしてなかったのかお?」
( ゚∀゚)「え? ああ、だって」
288
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:22:42 ID:LUlKybsE0
そこで、ジョルジュは目を閉じた。
顔が妙に緩んでいる。
次に目を開けたとき、なぜだかその目は輝いていた。
(*゚∀゚)「かっこいいんだもん!」
ジョルジュが手をぱたぱたと動かして、感情をあらわにした。
(*゚∀゚)「初めてみたときからさ、魔人をこう、がーってやっつけてさ!
人間なのにこんなことできるやつすっげーって思ったら尊敬しちゃって」
(;^ω^)「……」
( ゚∀゚)「何か言いたそうだな」
(;^ω^)「え? あ、いえ」
白状すれば、呆気にとられていた。
あの2年前に会った少年が、こんなに楽しそうに話しだすとは思ってもみなかった。
どうにも印象が変わっている。彼もかなり変わった成長の仕方をしたのではないだろうか。
そして何よりも、彼が自分と同じ気持ちを抱いていることがわかり
ブーンはどこか嬉しいと思っていた。
(*^ω^)「なんでもないおー」
289
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:23:39 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「明らかに笑ってんだろてめえ!」
(*^ω^)「親近感だお親近感」
( ゚∀゚)「はあ?」
口が悪いのは変わっていないみたいだ。
( ^ω^)「ていうか、それで魔人と離れたことはもう良くなったんかお?」
( ゚∀゚)「ああ、俺もう魔人嫌いだ。
俺の家族もみんな魔人嫌いになっていったし、もううちは人間味溢れているぜ」
けろっとした表情で言う。
ひどく淡白な内容だが、2年もたてば人はそれくらい変わるのかもしれない。
( ^ω^)「じゃ、別に僕嫌われる必要無いんじゃ」
( ゚∀゚)「いや、お前は嫌だ」
290
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:24:41 ID:LUlKybsE0
びしっと指を指される。
ブーンはわけがわからず瞬きした。
(;^ω^)「は? なんでだお?」
こうもはっきり拒否されてしまうと、どうしようもない。
第一意味がわからない。
だから首を傾げて質問をした。
ジョルジュは目を細めて、ブーンを睨みつけてくる。
( ゚∀゚)「あのときみじめな思いをさせられた恨みがあるからな」
ブーンはぽかんとして口を開けていた。
何をいいだすんだろう、こいつは。
そんな小さな矜持のために、僕はこいつに恨まれているというのか。
なんという
なんという調子のいい奴だ。
ジョルジュに抱きかけていた親近感が、急速に遠ざかる。
呆れて物も言えない。
やがて、胸の奥からふつふつと別の感情が湧いてくる。
291
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:25:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「……あのときだってきっかけはジョルジュがちょっかいだしてきたからなのに。
人の地球儀を壊そうとまでしておいて、ただ食べ物吹き付けたくらいでそんな」
言葉を無理やりまとめていく。
言いたいことが多すぎて大変だった。
( ^ω^)「いまだに僕やツンには謝罪の一言もなしで
それでいてモララーさんとはすっかり仲良くなっていて
僕だけいまだに許せないなんて……」
久しく忘れていた感情だった。
人に嫌われることを恐れていたかつての自分は、持つことを許されなかった気持ち。
それが今、目の前のジョルジュに向かって発現しようとしていた。
あまりにも頭にきたから。
(#^ω^)「お前どんだけ身勝手なんだお!」
久しぶりの怒声は、店内に響いた。
ジョルジュにもちゃんと届いたようで、彼は一瞬身動ぎした。
292
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:26:35 ID:LUlKybsE0
だけど、すぐに体勢を戻して、ジョルジュはブーンを睨みつける。
( ゚∀゚)「だいたい、お前がモララーさんに気に入られていたってのも気に食わねえ!
お前のこと、覚えているぞ! 別に大して力も無くて喚いていたじゃねえか」
(#^ω^)「あれから僕だって特訓したんだお! モララーさんとともに!」
( ゚∀゚)「それなのに同期の順位じゃ下から数えた方がはやいのか?」
(;^ω^)「な、なんでそれを……」
( ゚∀゚)「モララーさんとか、他の衛兵の客とかが教えてくれたからな。
情けないなあ、教えてもらったこと全部耳から抜け落ちていたんじゃねえの?」
(;^ω^)「そ、それは……」
順位が下なのは事実だ。
それは変えようもない。
だから、突き付けられると反論のしようが無い。
293
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:27:41 ID:LUlKybsE0
ブーンはすでに、さっき怒鳴ったときの勢いを失っていた。
口をもごもごと動かすも、何も言えない。
言葉が上手くまとまらない。
せっかく言い返したかったのに。
ジョルジュの言葉が胸に突き刺さってくる。
言葉を胸の奥に押し込めてしまう。
沈黙が流れた。
ジョルジュはいまだにブーンを睨んでいる。
警戒心がありありと浮かんでいた。
きっとジョルジュは僕の入団を認めてくれないだろう。
僕だって突然連れてこられただけだ。絶対入団しなくちゃならないわけじゃない。
そうだ、自分はどうしてこんなところにいるんだろう。
ドクオさんが連れてきただけだ。
だいたいその理由だって、何かモララーさんに褒められていたからってだけ。
その何かもわからない。
発揮できるようなものでもないだろう、そんなもの。
294
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:28:40 ID:LUlKybsE0
気持ちがどんどん後ろ向きになっていった。
帰りたい。
もう帰ってもいいんじゃないかな。
また今日一日悶々と過ごして、少しずつ心を回復して
それでまた職場復帰すればいいじゃないか。
それが僕の人生だ。
そう、思って、目をジョルジュからそむけた。
ドクオの方を見ようとした。
もう帰ります、その一言を言うために。
だけど
('A`)「よし、挨拶はすんだな」
ドクオの言葉に遮られる。
彼は手をぱんっと打ち鳴らした。
295
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:29:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「ジョルジュ、ブーンが仲間に入るかどうかはお前がチェックしろ」
「は?」というジョルジュをよそに、ドクオが話を進めていく。
('A`)「入団テストだよ。
奥の訓練部屋があるだろ。そこでやるぞ。
お前が相手してやるんだ、ジョルジュ」
あっという間だった。
ブーンは文句も、批判も、泣き言もいう隙が無かった。
ドクオはそそくさと酒場の奥の扉を開けてしまう。
カウンターの端、『関係者以外立ち入り禁止』の文字。
本来なら店員しか入れないところ。
ドクオは半身だけそこにいれて、振り向いた。
ブーンを手招きする。
296
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:30:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「ほら、入れ。
木刀用意しといてやるから」
(;^ω^)「い、いやえっと、拒否権は?」
('A`)「まあまあ、ちょっと試すだけだから」
(;^ω^)「それ、宗教勧誘とかの文句じゃ」
('A`)「お前が逃げたくても、あいつは気に入らないみたいだぞ」
ドクオはそういうと、ジョルジュの方を指さした。
見るまでも無く、痛い視線が突き刺さってくる。
(;^ω^)「じゃ、じゃあちょっと試すだけだお?」
('A`)「よしよし、それでいい」
のせられている感じは拭いきれないが
のらないとジョルジュがここを出してくれそうにない。
297
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:31:43 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「覚悟しろよてめえ、泣かしてやるからな」
ほらみろ、明らかに苛だちを明らかにしている。
触れたくない。
そればっかり考えていた。
それでもブーンは奥の扉へ入ることにした。
レジスタンス用の訓練部屋へ。
☆ ☆ ☆
298
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:32:37 ID:LUlKybsE0
('A`)「……」
訓練場にて、既に戦いは開始されていた。
目の前では木刀が振られている。
順を追って説明する。
まず入ってきたときに、ブーンとジョルジュ両方に防具を装備させた。
そして両者に木刀を与え、舞台に立たせた。
試合は三本勝負。
お互いに相手を狙い、上半身の防具に当たれば一本。
この程度のことなら見習いでも訓練の一環で行っていた。
だから、ブーンにもできる。
実際に実力を見るには一番いい形式のはずだった。
それに
「おーい」
突然背後の扉の奥から声が聞えた。
('A`)「誰だ?」
299
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:33:34 ID:LUlKybsE0
「私だ」
ぶしつけな答え方だが、よく知っていたのでドクオは頷いた。
('A`)「入っていいぞ、シュール」
扉が開けられる。
lw´‐ _‐ノv「お店開けといて誰もいないんじゃ不親切だろう」
入ってきていきなりの女性は、もっともな指摘をしてきた。
('A`)「ああ、ごめんな。
すぐ終わると思ったんだが、意外と長引いちゃってさ」
そう言って舞台の方を指す。
相変わらず木刀が風を切る音がする。
呼吸だって乱れているのがわかる。
lw´‐ _‐ノv「……あれ?」
シュールがお店の側を覗いて呟いた。
('A`)「どうした?」
lw´‐ _‐ノv「いや……まあいいか。後で説明する」
300
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:34:41 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「しかし入団テストか。懐かしいな」
('A`)「シュールのときはしてないんだっけ?」
lw´‐ _‐ノv「私は前の組織のときからずっとリーダーに従っていたから」
('A`)「へー、意外」
lw´‐ _‐ノv「ところで……どれくらいやってるんだ?」
('A`)「んー、1時間ってところかな」
lw´‐ _‐ノv「そんなにか? もうお昼だぞ」
('A`)「いやあ、びっくりだよね。ランチタイムもやってられんわ」
lw´‐ _‐ノv「さすがに見る目がなさすぎやしないかい?」
('A`)「仕方ないだろ。衛兵指導者だってあいつのこと、下に評価していたんだから」
lw´‐ _‐ノv「あいつって、あの見慣れない小さい奴?」
シュールは小さな手で、舞台の片隅に走るブーンを指した。
今も必死に足を動かして、攻撃をかわしている。
301
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:35:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「そう」
lw´‐ _‐ノv「ふーん、で、お前の感想は?」
('A`)「何って、そりゃ、みたままだよ」
舞台全体を示すように、ドクオは両手を広げた。
木刀の空を切る音。
それだけしか、この1時間鳴っていなかった。
('A`)「昨今の指導者はまったく見る目がないってことさ」
ドクオはそう言って肩を竦めた。
顔には笑みがこぼれている。
目の前の光景にわくわくしていたから。
☆ ☆ ☆
302
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:36:41 ID:LUlKybsE0
ブーンは逃げた。
逃げ続けた。
1時間ぶっ通しで。
攻撃は、はっきり言ってしまえば、見えた。
ジョルジュの一挙手一投足が手に取るようにわかる。
彼の目の動き、足の動きを見て分析する。
癖もなんとなくわかる。すでに、身体の捻り方から呼吸のタイミングまで。
これだけ何度も攻撃を見させられれば、掌握するのは容易い。
(#゚∀゚)「このやろおおおおおおおおお!!」
叫び声とともに、ブーンから見て右下から左上への斜めの斬撃。
ブーンは身を左に反らした。
数センチ先で風が舞う。
髪が少しだけ刈られた。
303
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:37:35 ID:LUlKybsE0
二撃目が来るまでに、ブーンは右へ移動する。
敵の右手に握られた木刀の可動域から離れる。
ジョルジュの影へ。
再び体勢を立て直さなければ追撃はできないだろう。
作戦通り。
再び間合い。
木刀二本分以上。
また最初からやり直し。
(#゚∀゚)「なんで逃げてばっかなんだよてめええええええ!!!」
ジョルジュが悲痛な声を出す。
部屋全体に響き、軋んでいるようにも思えた。
ブーンは肩をびくつかせる。
(;^ω^)「だって、だって……」
木刀を握る手に力が入る。
この木刀をジョルジュの隙に打ち込めば、相手にダメージが入る。
そんなことはわかっている。
304
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:38:35 ID:LUlKybsE0
だけど、その姿を想像したとき
この木刀が相手にダメージを与えることを考えたとき
身体が萎縮してしまう。
たとえ相手が防具を装備していたとしても
ある種の恐怖がブーンを縛り付けるのだ。
攻撃したらきっと相手は痛がる。
そう思うと、腕が震える。
根本的に、攻撃するという動作がブーンには合わないのだ。
それが、衛兵の訓練でもなかなか後順位になれない理由だった。
ジョルジュが構えを緩め、足を止める。
木刀はいまだに握られているが、先程までのような気迫は無い。
一息ついている。
( ゚∀゚)「お前……まさか攻撃しないつもりか?」
ジョルジュが言う。
まっすぐな目でブーンに問いかけてくる。
そのあまりに純粋な瞳を前にして
ブーンはつられて頷いた。
305
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:39:36 ID:LUlKybsE0
途端に、ジョルジュの顔色が染まっていく。
赤く赤く。
(#゚∀゚)「こ……この……やろう」
内なる怒りが沸々と見え隠れしている。
横で誰かが噴き出した。
ブーンはさっとそちらを見る。
ドクオが片手で口元を押さえていた。
傍にセミロングの女性が立っている。
誰だろう。入ってきているのに気付かなかった。
('A`)「……ようやくモララーが言っていた意味がわかったよ」
笑いを堪える様子で、ドクオがブーンに言った。
ブーンは首を傾げるも、ジョルジュの殺気に気付いて身構える。
(#゚∀゚)「てめえ、どこまで俺をおちょくれば気が済むんだこらあああああ」
再び、ブーンに向けられる。
また斜め下からの切り込みだろうか。
ジョルジュは頭に血が上ると同じ形での攻撃しかしなくなるようだ。
306
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:40:34 ID:LUlKybsE0
ブーンは集中を始める。
相手の切っ先に目を。
向けられた刃の一番届かない場所へ行けばいい。
('A`)「ブーン、当てるのが嫌なら、つけるだけでいいよ」
ドクオの声が耳に届く。
つけるだけ?
ぶたなくてもいいということだろうか。
ジョルジュが距離を詰めてくる。
木刀を左脇に。
ブーンは木刀を左手に持ち替えた。
利き手にこだわる必要はない。
右足を下げ、ジョルジュが自分の懐に入ってくるのを許す。
(#゚∀゚)「だりゃあああああ!!」
307
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:41:32 ID:LUlKybsE0
ジョルジュの右腕が横へ。
木刀がブーンの胴目がけて振られる。
今まではそれを遠ざかって避けていた。
そして今は、足を屈めた。
( ゚∀゚)「!?」
疑問の音がする。
ジョルジュの顎が下から見える。
おそらくブーンの姿は見えていない。
足元にいるなんて。
308
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:44:53 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「ほいだお」
過ぎ去っていくジョルジュの身体の脇に、木刀の刀身を当てた。
本当に軽く、まるで木戸をノックするように。
こつんというこぎみ良い音がした。
('A`)「はい、おしまい」
ドクオが再び手を叩いた。
終わった……ブーンはようやく安堵する。
同時に疲れが襲ってきた。
集中していたがために、足を酷使していることに気づいていなかった。
(;^ω^)「おおっと……」
立ち上がろうとして、よろけ、転んでしまう。
('A`)「おいおい、疲れたのか?」
(;^ω^)「そうみたいですお……」
309
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:45:47 ID:LUlKybsE0
('A`)「無理もないか、1時間もやってたものな」
(;^ω^)「そうです……お? え、1時間?」
('A`)「気付いていなかったのか」
そういって、ドクオは再び引きつった笑みを浮かべてくれた。
( ゚∀゚)「おいおいおい、ちょっと待てよ!」
部屋の端から、ジョルジュが大声を出す。
( ゚∀゚)「俺は倒れていねえって!」
('A`)「だから、当てるだけでいいって言ったじゃん。
当てたくないみたいだし、それでいいよ」
(#゚∀゚)「はあ? そんなの認められるか!」
('A`)「強情だなあ……ん?」
310
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:46:50 ID:LUlKybsE0
ドクオが言葉を止める。
横にいた女性に脇をつつかれたからだ。
そのおとなしそうな女性は、ドクオを向いて口を開いた。
lw´‐ _‐ノv「あれあれ、さっき言った件」
('A`)「あ……あー、なるほど」
ドクオはそれで合点がついたようだ。
小さく頷いて、それからまたジョルジュを見る。
('A`)「ジョルジュ、納得いかないって言うなら、また別のテストをしよう」
それを聞くと、ジョルジュは「よっしゃ!」と嬉しそうに叫んだ。
一方、ブーンはあからさまに不満の声を出していた。
(;^ω^)「ま、まだ何かやるんですかお?」
正直もう動きたくない。
油断すれば足はがくがく震えだすだろう。
もう今日は休まなくては、明日は筋肉痛で大変なことに。
不満ばかりが頭に浮かぶ。
311
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:47:51 ID:LUlKybsE0
でも、ドクオはそんなブーンの内面はつゆ知らず、大きく一つだけ頷いた。
('A`)「レジスタンスにも大きく関わることだからなー」
そういって、ドクオは一旦咳払いした。
('A`)「リーダーがまた盗みを働きそうなんだ。
悪いが、二人で捕まえてくれ」
今度はジョルジュが「はあ!?」と大きく不満の声を漏らした。
(;゚∀゚)「じょ、冗談じゃねえよ……リーダーを止められるのはあんたとモララーさんくらいなもんだろ」
('A`)「そうだな。で、もうモララーはいない」
(;゚∀゚)「じゃああんたが捕まえろよ!」
('A`)「悪いが俺は負傷中だ。走るのは嫌だ」
(;゚∀゚)「お、嘘だろ……」
312
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:48:56 ID:LUlKybsE0
('A`)「はい、観念しろな。二人がかりならいけるだろ。
むしろ、捕まえられなかったらレジスタンスを出てもらおうか」
そう告げて、ドクオは一層顔を歪めた。
('A`)「どうせお前はただ昔の魔人への苛立ちからここに入り浸ってるだけだもんなあ。
モララーさんとも関わりがあったから普通にしているけど、技術もそこそこなんだし
ここらで役立ってもらわなきゃ、ただの酒場の店主だよなあ」
ブーンはジョルジュの方を見ていなかった。
それでも、彼が怒りで震えているのがわかる。伝わってくる。
( ゚∀゚)「……おーし、見てろよ。
この前輸入した道具使えば、あいつなんか……」
わなわなと言葉をもらしながら、ジョルジュは訓練部屋から、別の部屋へ移動していった。
どうもジョルジュの部屋らしい。看板がさがっている。
('A`)「さて、ブーンも用意してくれ」
(;^ω^)「よ、用意ったって、何も持ってきてないお?
ていうかちょっと試してみるだけじゃなかったのかお!? これじゃ性質の悪い勧誘だって」
313
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:49:53 ID:LUlKybsE0
('A`)「まあ、これから捕まえる人間がどんな奴か、そしてどうしてこんなテストをするのか教えるくらいさ。
それに、町の治安にも関わることだぞ? 衛兵見習いとしてやっておくべきだ」
そう言って、ドクオは手招きする。
釈然としない思いを抱きながらも
今度はお店の側へ、ブーンは連れて行かれた。
☆ ☆ ☆
314
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:50:48 ID:LUlKybsE0
('A`)「まずは確認したいことがある」
カウンターの内側。
椅子に座ってドクオとブーンが並んでいた。
シュールは厨房で食事を作ってくれている。
料理は彼女の担当らしい。
('A`)「3年前まで、この町に盗賊がいたことを知っているか?」
( ^ω^)「3年前……魔人がお城の仕事に正式に従事できるようになる前ですかお?
まあ……少しくらいなら。入ってきたときは知らなかったんですが
衛兵見習いをしているうちに話を聞きましたお」
3年前まで、お城を含めた町全体で盗賊被害が多発していた。
ところが3年前、お城は魔人をその中に取り込んだことにより、壁に不思議な力の防御を施すことに成功した。
その結果として盗賊の被害は減少した。簡単には入れなくなったからだ。
('A`)「その盗賊団の名前は『三匹のカエル』と言ったんだ」
( ^ω^)「え? それって……」
('A`)「そう、この酒場は元々その盗賊団のアジトだったのさ」
315
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:51:48 ID:LUlKybsE0
ドクオはそう言って、店内を見回した。
ブーンも釣られて首を動かしていく。
木造の簡単な室内。
掃除は行き届いているものの、そんなに歴史のあるお店だったとは。
lw´‐ _‐ノv「料理できましたぜー」
唐突にシュールがくるくる回りながら、厨房から出てきた。
無表情でそんなことするものだから、思わず顔が引きつる。
(;^ω^)「あ。ありがとうですお」
lw´‐ _‐ノv「おうよ」
ブーンの前に、とろとろのかぼちゃのポタージュと三斤のライ麦パンが置かれた。
暖かい湯気と甘い香りが鼻を刺激してくる。
('A`)「でな、話を続けるとだ」
同じ食事を口に運びながら、ドクオが言う。
316
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:52:54 ID:LUlKybsE0
('A`)「『三匹のカエル』の中には魔人の政務進出に反対する奴らがかなりいた。
そういった反対派が一旦『三匹のカエル』を解体して、再結成したのが今のレジスタンス。
つまり、『三匹のカエル』はレジスタンスの前身だったんだ」
('A`)「俺は2年前から、つまりレジスタンスになってからこの組織に加入している。
レジスタンス全体は大した人数じゃない。俺と、シュールと、ジョルジュと、リーダーと、
あとは今ちょうど他の町に行って交渉に参加している奴が少し」
('A`)「話を戻すと、反対派だった頃のリーダーが現レジスタンスのリーダー。
名前はヒートっていう。盗賊団の頃から、盗みの技術はすごかった。
で、今でもたまに盗みの血が騒ぐらしくて騒動を起こしてしまう」
('A`)「今までは俺やモララーがなんとかあいつの暴走を止めていたり、騒動を小さく見積もったりしていた。
でも、今モララーはいない。俺も動きたくない。だから少し良くないね。
ここでヒートがつかまりでもしたら、俺たちレジスタンスの評価は急降下さ。はは」
('A`)「というわけでお前の入団テストとして、あいつを捕まえてほしいんだ」
317
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:53:52 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「いやいやいやいや、おかしいですお!」
なかなか隙がつけなかったが、ようやくブーンは口を挟むことができた。
( ^ω^)「それあなたがたの問題ですおね?
僕まだレジスタンスじゃないし、そんなヒートさんがつかまるかどうかなんて知ったこっちゃないですお」
('A`)「何言ってる。町の治安は大事だろ」
( ^ω^)「いや、そんなの駐屯の衛兵に頼んでくださいお」
('A`)「テストも順調だし」
( ^ω^)「だからそれは、僕は流れで入団テストを受けただけですし。
ジョルジュがどうしても僕を倒したがっていたものですから……」
何度も同じ話をしているので、さすがにブーンは苛立ってきていた。
どうしてドクオはこんなにもレジスタンスに自分を入れたがるのだろう。
ドクオは少しだけ考えて、それから口を開いた。
('A`)「ほー、じゃあ魔人を倒したくはないんだな?」
318
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:54:51 ID:LUlKybsE0
新しい切り口。
そしてそれは確かに、ブーンの琴線に触れた。
( ^ω^)「魔人を倒す……」
('A`)「ああそうだ。
考えてもみろ。今この町で面と向かって魔人と対峙できるのはレジスタンスだけだ。
それ以外では建前上魔人と協力しなきゃならない」
('A`)「いつまでも、お前はモララーさんについての恨みを晴らしきれないままだぞ?」
( ^ω^)「……魔人全体が悪いってわけでもないですお。
僕の恨みはモララーさんという個人に起こった事件についてだけのものですし」
('A`)「でも、結果的にモララーの事件は事故として片付けられている。
野生の魔人がやったこととして」
( ^ω^)「それは、野生なんだししかたないんじゃないんですかお?」
('A`)「お前……あれが野生の魔人の仕業と本気で思っているのか?」
( ^ω^)「あ」
そういえば、あのとき。
ブーンは一気に思いだした。
319
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:55:45 ID:LUlKybsE0
あのとき南の山の麓で白い靄に包まれたこと。
あれは突然発生した自然現象。
でも、いきなりにしてはあまりに濃すぎるし、襲撃側にとって有利過ぎる。
あれは不思議な力のものなのか。
そうだとしたら、あれは野生の魔人のせいではない。
野生の魔人は不思議な力を使えない。
('A`)「それに、お前もあのとき王女を見たんだろ?」
( ^ω^)「…………」
はっきりした関係性はわからない。
でも、何か不穏な内容のことを話す彼女。
('A`)「あの事件、何があったのか知りたくはないか?
このままだと、野生の魔人のやったこととして処理されてしまう。
真相は闇の中だ。モララーはどうして死んだのか。誰の手によって殺されたのか」
('A`)「それを知りたいとは思わないのか?」
320
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:56:50 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「……それは」
確かに、とブーンは思った。
レジスタンスに入れば、最もやりやすい形で魔人に立ち向かうことができる。
魔人たちとずっと敵対してきた人たちなのだから。
('A`)「さっき人間が魔人に支配されている話をしたな。
この国にしたって同じだ。この国の住民は、町や城にいる魔人にフィルターがかかっている。
誰かが立ち向かわなきゃならないんだ。人間の尊厳のためにも」
ドクオが毅然と言い放つ。
( ^ω^)「……立ち向かうだけの基盤があるんですかお?」
321
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:58:01 ID:LUlKybsE0
('A`)「もちろんさ」
ドクオは胸を張った。
('A`)「この町が最近まで魔人を受け入れてこなかったから、小さな組織だけど
しっかり他の町のレジスタンスとも連絡を取っている。
だから魔人についての情報も溜まっているし、いざとなれば他の組織とも合流できる」
('A`)「純粋な人間の組織の一員だ。それだけの下地は確かにある」
( ^ω^)「……」
322
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:58:50 ID:LUlKybsE0
魔人をいっしょくたに考えていいのか、疑問はある。
でも、モララーについての恨みは確かにある。
胸の奥にひっそりとあって、沸きたつときを待っている。
今がそのときじゃないのか。
ブーンは自問した。
今、立ち向かわないでどうするというのだろう。
モララーという存在を奪われた悲しみを、いつ発揮すればいいのか。
そのきっかけになるのがこの入団じゃないのか。
数時間前にドクオが話してくれたこと。
人間の可能性の話。
自分は自分の可能性を潰しているのではないか。
今ここで決断してみるもの一計。
少し胸に痛いものがあるとしても
魔人にだっていろいろいて、それらを傷つけるのは気が引けるとしても
今ここで選択をすることが大事なのではないか。
323
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:59:51 ID:LUlKybsE0
結局は、やれるなら、やってみようか。
そう思い至ったとき、自然とブーンの首は縦に振られていた。
( ^ω^)「やってみたいですお」
声の震えはいつもより少ない気がする。
いつもいつも、こういうふうに発言を求められたときは震えていたというのに。
なんでだろう。
自分で決めたことだからか。
('A`)「そうか……じゃあ、やってくれるな」
( ^ω^)「はいですお!」
ブーンはいつになく、即答した。
疲れも引いていく。
( ^ω^)「とにかく今はヒートさんのこともっと教えてくださいお。
どこに現れるのかとか……」
('A`)「ああ、いいだろう。まず、あいつは果物が好きなんだ……」
324
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:00:52 ID:LUlKybsE0
それから、ブーンとドクオは話しこんだ。
ジョルジュの準備が終わるときまで。
目を輝かせて、ブーンはヒートの習性を学んでいった。
☆ ☆ ☆
325
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:01:56 ID:LUlKybsE0
午後1時
ラスティア城
デレは自室でノートをかいていた。
かりかりと音を立てて。
扉の向こう側で人が走ってくる音がする。
すると、デレはすばやくノートを閉じる。
足元にある箱型の引き出しの、一番上の取っ手を握る。
流れるような手つきで鍵を開け、ノートを入れ、また閉める。
鍵はカーテンの留め具に掛けられる。
知らない人がどこから見ても、こんなところに鍵があるなんて気付かないだろう。
よく部屋を捜索しない限りは。
ここまでの動作は非常に洗練されており、幾度も同じことを繰り返してきたようでもあった。
何食わぬ顔で、デレは机の上に両肘をのせて外を眺める。
まるで前からここで眺めていたんだと主張するように。
扉をノックする音がする。
ζ(゚ー゚*ζ「どなた?」
326
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:02:52 ID:LUlKybsE0
扉の向こう側の相手は、ぜえぜえと息を吐いていた。
扉越しに聞えるなんて相当だ。
よほど必死に走ってきたのだろう。
誰だかはすぐわかる。
「ミセリです!」
それは、お城のメイドの中でも比較的若い女性の名前。
デレとも歳が近く、親近感はあった。
ただどうも慌て過ぎな性格であった。
別にそれが嫌だとは、デレも思っていなかったが。
ζ(゚ー゚*ζ「何か用?」
ミセ*゚ー゚)リ「お父様が帰ってきました!
今鳥型魔人の引く飛行船に乗って、お城の東の高台にある停まり場に来ています」
外交から帰還したのだ。
デレは口の傍に手を添えた。
327
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:03:43 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「わかったわ! ありがとう! ああ、なんて嬉しいの」
できるだけ上品そうに、それでいて子どもらしさが残っているように
そう聞えるだけの口調を表現した。
ミセ*゚ー゚)リ「ぜひお会いしてください! 待ってます!」
たたた、と走る音。
ミセリが扉から離れていったのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「……待ってます、ね」
それ以上は口に出さない。
デレの目つきは鋭くなる。
とうとう戻ってきたか……とでも言うように、何かに臨む者の目つきになっていた。
むろん、誰もその姿を見ていない。
誰も。
328
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:04:51 ID:LUlKybsE0
高台はお城の敷地内にあった。
鳥型魔人の降りる場所。
飛行船はすでに着陸していた。
デレはドレスを着て父を迎えに来ていた。
今日は赤いドレス。
派手な色が好きな父が喜ぶように。
「おーい」
デレに呼びかける声。
国王は見つけ次第、デレを呼んだようだ。
デレもそちらに手を振る。
笑い声がする。
国王の声。
(´・ω・`)ノシ「会いたかったよーーーーー」
329
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:05:53 ID:LUlKybsE0
間の抜けた挨拶だ。
デレは顔が綻ぶ。
ドレスの裾を持ちあげて、走り出した。
ζ(゚ー゚*ζ「お父様!」
思いっきり、デレは国王の懐に飛び込んだ。
頬を擦り寄せる。
そんなデレの様子を見て、国王はやれやれと頭をかいた。
(´・ω・`)「まったく、いまだにこんなに飛びついてくるとは」
そんなことを言う。
幸せそうに顔を緩ませて。
(´・ω・`)「おいで、食事としよう。少し遅れちゃったかね」
330
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:06:46 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「いいんですよ! お父さん!」
デレは無邪気に答えた。
父の手を握って、大きく振る。
なんだか不自然なくらい、思いっきり。
(´・ω・`)「あれ、デレ。腕包帯はどうしたの?」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
ショボンが指さしたのは、デレの右手に巻かれている包帯。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ……怪我しましたの」
(;´・ω・`)「ええ? 大丈夫かい?
痛むようならお医者様に見せようか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、平気!
ちょっと打っただけだから、すぐ引くから!」
(´・ω・`)「でも」
ζ(゚ー゚*ζ「行きましょう!」
(´・ω・`)「……ああ」
331
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:07:51 ID:LUlKybsE0
少しだけ間を置いてから、ショボンは答えた。
傍から見れば、それはどこからどうみても幸せな親子だった。
国王と王女という肩書きを抜きにして。
こうして、ラスティア国王、ショボンは帰還した。
彼がまっさきに取り組んだことは
延期されている新嘗祭の日取りを決めることであった。
☆ ☆ ☆
332
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:08:51 ID:LUlKybsE0
午後2時
空は快晴
体力の回復したブーンは外に出た。
秋の風が心地よい。
午前中にヒートは生鮮野菜市場で盗みを働いたらしい。
あまりにも素早くて、手口も見事で、
店主も時間が立たないと商品が異様に減っていることに気付かなかったそうだ。
( ^ω^)「一応聞くんですけど」
ブーンは玄関に立つドクオを振りむいた。
( ^ω^)「ヒートさんって人間ですおね?」
('A`)「ああ、それはもちろん。レジスタンスにいるくらいだしな。
ただ、残念なことに俊敏さでは魔人と引けを取らん。
下手したらあいつは魔人に勝てるだろうな、盗みという技術に関しては」
333
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:09:52 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「おい、ブーン。ひとつ言っておくぞ。
先に捕まえるのは俺だ」
ジョルジュがいきり立つ。
('A`)「おい、ちゃんと協力しろよ」
ドクオが諌めるも、ジョルジュは鼻で笑って返した。、
( ゚∀゚)「ちゃんとやるさ。
二手に分かれれば捕まえられるだろ。
ブーンが繁華街の方、俺が青果商通りの方」
すでに打ち合わせはすんでいた。
( ゚∀゚)「だから、任せてくれって」
ジョルジュが右腕でガッツポーズをする。
その手には小さな武器が握られていた。
334
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:10:56 ID:LUlKybsE0
( ゚∀゚)「この特製クロスボウがあれば大丈夫さ。
小型な上に、発射した途端敵を補足する網が飛び出す優れものだ。
まるでリーダーを捕まえるために造られたかのようなものさ」
ジョルジュは自信たっぷりに言う。
('A`)「……ちゃんとやるんならな」
そういうドクオの表情には、既に諦めの色が浮かんでいた。
そうとは知らず、ジョルジュは「よし!」と気合を入れる。
( ゚∀゚)「じゃ、俺はいくぞ! ブーンも足を引っ張るなよな」
( ^ω^)「……おー」
さっきまでブーンに向けていた怒りはどこへやら
ジョルジュは楽しそうに走っていった。
目標があれば、ひとまずそれにひた走るタイプなのだろう。
どこまでも調子の良い奴だと、その背中を見つめながら思った。
('A`)「で、ブーンは……」
ドクオはブーンの右手に握られたものを指さした。
('A`)「それで大丈夫なんだろうな? 心変わりしないか?
木刀とかもちゃんと在庫はあるんだが」
335
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:12:08 ID:LUlKybsE0
ドクオが確かめるのも無理はなかった。
武器は貸与された。
ヒートを捕まえるためならなんだって準備したという。
それでも、どうしても攻撃することが嫌だったブーンは
紹介された武器を全て無視して、酒場の隅に忘れ去られた客の持ち物を選んだ。
( ^ω^)「僕はこれで十分ですお。
相手は女の子なんだし、木刀なんて物騒な物持ってられないですお」
そういって、ブーンは自分の得物を顎で指す。
それは、どこからどうみても平凡な虫取り網だった。
('A`)「……ある意味かなり失礼だと思うんだが」
(*^ω^)「虫取り得意ですお。
網はちゃんと人が入れるくらいにしてあるし、強度も良いものですますお。
なんだかんだで使い勝手いいと思いますお」
336
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:12:51 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「……なかなか彼女にはお似合いかもしれない」
( ^ω^)「え」
('A`)「さ、ほら早くいけ」
長くなりそうだったためか、ドクオはブーンを手で払う動作をした。
ブーンは渋々了解して、歩み始める。
こうして最後のテストが始まった。
☆ ☆ ☆
337
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:13:44 ID:LUlKybsE0
繁華街
赤い屋根が立ち並ぶこの場所は、見た目も派手だし、活気もあった。
道の脇に露天商が立ち並んでいる。祭りで蓄えていた商品を少しずつ発散しているようだ。
おかげで人ごみもできている。歩くのもままならない。
ブーンはその人ごみを見て、ジョルジュにはめられたことを悟った。
この場所じゃたとえヒートを見つけたとしても追いかけるのは難しい。
逆に青果商の方ならば、夕方の時間まで人は少なめだろう。
食事時は終わったばかりなのだから。
(;^ω^)「ぐぬぬ、これは知らなかったお」
ぼやきながら、ブーンはとりあえず道を進んでいった。
それにしても、こんなに人がいたんだなと純粋に驚いていた。
今までお城の敷地内で暮らしていたから、見えてこなかった。
先日シラヒーゲ政務官が言っていた言葉
町に出れば気持ちが紛れる
その意味がようやくわかった気がした。
338
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:14:50 ID:LUlKybsE0
でも今はやることがある。
そう思い直して、一層ブーンは気を引き締めた。
少しでも騒ぎがあれば、見逃してはならない。
そこにヒートがいる可能性が高い。
ヒートという女性の特徴もしっかり聞いていた。
華奢な浅黒い身体に、赤い短い肩までの長さの広がった髪。
盗みを働くときはいつも軽装で、ダボダボのシャツとホットパンツを着る。
頭の中でその姿をイメージする。
( ^ω^)「赤い髪、赤い髪」
ちょうど目の前に赤毛の人が向かい側から来てので、まずはその髪を参考にした。
それにしても都合よく赤い髪の人がいたなあと思い、何気なくその人を見た。
339
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:15:51 ID:LUlKybsE0
ノパ⊿゚)
その姿を逐一観察して、横に並び、そして通り過ぎたとき
ブーンは歩みを止めた。
気付いたからだ。
( ^ω^)「……本人じゃないかお?」
急いで振り返る。
しかし人ごみが邪魔をする。
340
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:16:45 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「おお、どこだ、どこだお!?」
焦りつつも、背伸びして確認する。
ブーンから見て右斜め前の方向に向かっていくのが見えた。
赤い髪はとらえやすい。
少しずつ、そちらへ近づいていく。
人には当たるが、前には進める。
流れに逆行するブーンを訝しげな眼で見る人もいる。
視線が痛い。謝りたいけど、今は我慢する。
人と人の間にヒートが入っていった。
ブーンも急いでそこに手を入れる。
(;^ω^)「あ、挟まった」
341
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:18:34 ID:LUlKybsE0
手を抜こうとばたばたする。
しかし手のひらの先で何かを掴んで、止まる。
丸みを帯びた何かだ。
( ^ω^)「あ」
ひょとして掴んだのかな。ヒートを。
(;^ω^)「ちょっと、離れてくださいお!」
腕を挟んでいた人たちを強引にどかそうとする。
睨まれもしたが、目をそむけてやり過ごす。
人ごみが少しだけ緩和され、腕の先が見えた。
その手に握られていたのは、熟れた洋梨だった。
これはこれは美味しそうな
「ない!」
鋭い声がする。
342
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:19:33 ID:LUlKybsE0
「ないわ! 私の洋梨!」
ブーンの後ろの方だ。
流れていく人ごみがどよめいている。
「ここにのせといたのに。
きっと誰かに盗まれたんだわ」
ブーンは固まっていた。
伸ばした腕の先、洋梨を握る手がにじむ。
良く見れば洋梨には商品札がついていた。
「きっとまだこのあたりにいるわ。
みなさん! どうか洋梨を持った人を捕まえて!」
343
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:20:34 ID:LUlKybsE0
視線が集まるのを感じる。
ブーンは勤めて静かに、腕を引っ込めた。
そのままそーっと、洋梨を下に置く。
道の上。
ぽつんと。
それを残して、足をゆっくりゆっくり、前へ。
目の方はせわしなく動かしてヒートを探す。
いない。
そんなばかな。
いくらちょっと見えを離したからって、消えるはずがあるか。
あんなに目立つ赤い髪が。
塗料専門店の露店の脇まできて、息を吐く。
344
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:21:28 ID:LUlKybsE0
とうとう見失ってしまったことを受け入れざるを得なくなった。
また探さなければ、と思ったとき、目の端で何かの影を見た気がした。
鳥だろうか。
嫌に身軽に、地面から飛んだように見える。
思わずそれを追いかけた。
大きな建物の窪んだ場所。
鳥でもなければそんなところにはいかないだろうなと思われる場所。
(;^ω^)「……は?」
赤い髪が棚引いている。
見間違いかと思った。
でも、瞬きしても消えない。
345
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:22:38 ID:LUlKybsE0
ノパー゚) ニイィ
ヒートがそこに座っていた。
上ったというのか。
建物の窪みを利用して。
その不敵な笑みから、ブーンは察する。
自分は気付かれている。
顔を覚えられている。
なんでだろう。
それを考えようとしたとき
「あいつさっき洋梨置いていったぞ!」
背後から声がした。
さっきの女性の叫びをきいて、洋梨を探し始めた誰かさんだ。
346
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:23:34 ID:LUlKybsE0
振りむいている暇はなかった。
路地裏へ逃げ込もうと走り出す。
「誰か捕まえてくれ!」
また別の人の声。
随分すぐに仲間を作ったみたいだ。
それと少し遅れて、露店の脇を抜けようとするときに
露天商は何かをブーンに投げつけてきた。
肩に当たる。
でも確認している場合じゃない。
347
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:24:31 ID:LUlKybsE0
そのまま路地裏に逃げ込む。
土地勘などないが、止まってはいられない。
その肩にかかったのが、赤い塗料と気付くのは、まだしばらく先の話だった。
☆ ☆ ☆
348
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:25:29 ID:LUlKybsE0
『三匹のカエル』店内
('A`)「ところでシュール、どうしてヒートが盗みを働くってわかったんだ?」
客席でだらっと座りながら、ドクオが質問した。
カウンターでコーヒーメーカーを弄っていたシュールが顔も上げずに口を開く。
lw´‐ _‐ノv「本人から聞いた」
('A`)「本人? 今朝会ったのか?」
lw´‐ _‐ノv「いや、さっき会った」
コーヒー豆を選びながら、シュールが素っ気なく答えた。
('A`)「さっきって、いつだよ」
lw´‐ _‐ノv「ちょうど、私がここに来る直前」
('A`)「はあ? じゃあここに入ってくる前までいたってのか」
349
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:26:36 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「いや」
('A`)「?」
lw´‐ _‐ノv「むしろ私が扉を開けたときまでいた」
('A`)「ええ!?」
lw´‐ _‐ノv「で、たぶん中も見た。
ブーンとジョルジュが戦っているところ」
('A`)「……」
lw´‐ _‐ノv「で、扉を閉めるときにはいなくなってた。
たぶんあれ以上いたら私に捕まると思ったんだろう」
('A`)「……みられていたのか」
lw´‐ _‐ノv「ああ」
350
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:27:48 ID:LUlKybsE0
('A`)「それじゃ、だいぶ難航するかもなあ。
早めに捕まえておけばよかったのに」
lw´‐ _‐ノv「私は嫌だぞ。
私は料理と道具作り専門だ。力仕事はお前らに任せる」
('A`)「道具ったって、武器は作れないんだろ?」
lw´‐ _‐ノv「模造品だけは極めた。
ジョルジュがいいセンスのものを仕入れてくるからな。
あとはほら、ヒートが履いている強力なバネつきの靴とか」
はあ、と溜息をついて、ドクオは頬杖をついた。
lw´‐ _‐ノv「豆って何がいいんだよ」
('A`)「味わかんないんだし、どれでもいいじゃないか」
lw´‐ _‐ノv「一理ある」
☆ ☆ ☆
351
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:28:38 ID:LUlKybsE0
午後2時半
ジョルジュは青果商の露店が眺められる位置に辿りついていた。
時計を確認して、そろそろヒートが来るかなと予測する。
こればっかりは経験のないブーンにはわからないだろう。
いくらヒートが果物好きといっても、食事したばかりじゃ盗もうとはしない。
食後は繁華街でぶらぶら、たまに好みのものを盗んで
それから昼下がり、今の時刻になってようやく果物を手に入れに動き出す。
そこまでの細かい動きを、既に知っていた。
とはいえ、最初に繁華街に送ったのだし、ブーンにはむしろチャンスを与えたと言える。
そのチャンスをものにできなかったとしたら、それはブーンの責任だ。
自分は悪くないさ。
ジョルジュはそう自分に言い聞かせた。
( ゚∀゚)「そろそろ歩くかな」
そう言って背伸びをして、青果店を眺めて歩いた。
352
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:29:27 ID:LUlKybsE0
季節は秋。
旬の果実が並ぶ。
魔人といえども植物の好みを変えることはできない。
だから、その時期相応の食べ物が並んでいる。
今はどうやら洋梨が盛況らしい。
ヒートの大好物だ。
これはきっと狙われるに違いない。
ふと、道に目をやったとき
赤い髪の女性が数十メートル先にいることに気付いた。
( ゚∀゚)「ラッキー……」
手に持つクロスボウを、胸元に寄せる。
足早に近づいていく。
繁華街と比べれば空いている道。
歩きやすい。
353
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:30:34 ID:LUlKybsE0
音をなるべく立てないように、進む。
ヒートの背後に迫っていく。
ヒートはお店の品定めをしている様子だった。
今は下見だろうか。
もう少し後になって、完全に盗みに入るのかもしれない。
だとしたら今はチャンスだ。
仕事していない今ならば、油断しているだろうから。
ヒートがとあるお店に近づいた。
老舗の果物屋らしい。
軒先から、フルーツの芳醇な香りが漂ってくる。
ヒートはしゃがみこんで、顔を寄せて、果物をひとつひとつ眺めている。
354
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:31:34 ID:LUlKybsE0
@@@
@#_、_@
( ノ`)「気にいったかい?」
ヒートに対して店主が声をかけていた。
やけにがたいのいい女性だ。
ヒートが顔をあげる。
ジョルジュからは背中しか見えない。
ノパ⊿゚)「ああ、いい色してるね」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「採れたてだからね。
在庫もあるし、今なら安くしておくよ」
ノパ⊿゚)「考えておくよ。そうだ、おばさん」
ヒートが立ち上がる。
355
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:32:28 ID:LUlKybsE0
店主も釣られて顔を上に上げる。
無意識に。
その一瞬の隙。
ジョルジュは見逃さなかった。
ヒートが立ち上がりざま、腕を素早く下に動かしたのを。
そしてそのまま洋梨を自分の手持ち鞄の中に入れたことを。
音も、振動も出していない。
おそらく店主も気付いていないだろう。
ジョルジュはクロスボウを構えた。
今がチャンス。
現行犯だ、逃しやしない。
網の入った矢。放たれた瞬間拡散して網となる。
それを思いっきり指で引いた。きりきりと軋む。
356
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:33:35 ID:LUlKybsE0
指を離す。
放たれ、広がる網。
まっすぐヒートの方へ向けて。
途端に、状況が一変した。
( ゚∀゚)「え?」
声はすぐにかき消されてしまった。
ヒートが確かに立っていたその場所で、轟音が響き、土煙が上がる。
理解が追いつかない。
ヒートの姿も、お店の姿も見えなくなる。
自分もまたそれに巻き込まれた。
露店の前だけが急に、煙に包まれたのだ。
357
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:34:36 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「え、煙幕か!?」
ジョルジュは腰を抜かしてわめいた。
不自然な土煙だ。
煙の奥に人影が見える。
それが一気に跳んだ。
なんとか目で追う。
煙を飛びだしたその影が露わになる。
赤い髪が見えた。
(;゚∀゚)「ああああああ、ちくしょう!! 逃げられた!」
そう言い切ると同時に、顔面に何かを投げつけられた。
( ×∀×)「のわああああ」
情けないくらいの叫び声をあげながらそれを確認する。
洋梨だ。
青果店から盗んだものの一つに違いない。
くそ、してやられた。
358
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:35:33 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは立ち上がろうとする。
びっくりしただけだ。こんなところで倒れている場合じゃない。
せっかくブーンを出しぬけると思ったのに。
頭の中で憤りが錯綜する。
悔しさで目の前が滲む。
俺は、あいつに負けたくなんかないのに。
☆ ☆ ☆
359
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:36:29 ID:LUlKybsE0
最初に会ったときから気に食わなかった。
あんなにやにやした、いかにも臆病そうな少年が、ジョルジュはどうも嫌だった。
それで、うっかりちょっかいを出したから
あれよと言う間に魔人を失うことになった。
悔しかった。
何かを奪われることの悔しさをそのときに知った。
そのあとで、あの地球儀の事件のときに見た格好いい人が、
ブーンとこっそり特訓をしていることをたまたま聞いた。
最初は無視しようと思った。
ブーンが何していようと俺には関係ないって。
でも、モララーが衛兵の中でもかなり優秀な人であると知って、気が変わった。
自分もモララーに近づきたいと思ったのだ。
だけど、もうそのときのジョルジュにはモララーに近づけるチャンスはなかった。
少なくとも、衛兵見習いとしての身分じゃだめだ。接点はない。
唯一の接点はあの地球儀の事件だけ。
360
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:37:33 ID:LUlKybsE0
それでもどうにかしてモララーに近づきたい。
せっかくあのとき近づけたのに
ブーンと自分とで、差ができてしまうことが嫌だった。
それはくだらない固執かもしれない。
純粋な、負けたくないという気持ち。
人はそれを笑うこともある。
でも、ジョルジュはどこまでもその気持ちを大切にした。
あるときのことである。
城下町を歩いていたときに、レジスタンスのパフォーマンスを目にした。
そしてそれの後処理をしている人の中にモララーを見つけた。
あの人がこんな仕事もするのか、という興味。
そこから、ついジョルジュはモララーの後をつけた。
レジスタンスの舞台裏に忍び込んだ。
そこで、モララーとレジスタンスの関係を知った。
モララーがレジスタンスと協力していること
彼らの悪事を小さく報告し、なるべく活動が継続できるように取り計らっていること。
ジョルジュはそのとき、しめたと思った。
これを使えばモララーと近づけるかもしれない。
361
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:38:34 ID:LUlKybsE0
レジスタンスの舞台裏で張り込んだ。
こそこそと、そこから出てくるモララーを見つけた。
そして
( ・∀・)「あ……」
モララーと再び出会った。
( ・∀・)「お前あのときの」
モララーはジョルジュのことを覚えていた。
だらだら話していたら不審に思われる。
そう感じたので、ジョルジュはすぐに頭を下げた。
( ゚∀゚)「俺を弟子にしてください!」
一気に言ってのけた。
いつでも、欲しいものがあれば率直にアプローチする。
それがジョルジュの信条だった。
(;・∀・)「ええ? ちょっと待って、ええ?」
狼狽するモララーを、ジョルジュはまっすぐに見つめていた。
362
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:39:32 ID:LUlKybsE0
(;・∀・)「それって、何? 俺、君の魔人帰らせたんだよ?」
( ゚∀゚)「あいつはもういいです。クビにしました」
(;・∀・)「ああそう。思いきったことするんだね」
( ゚∀゚)「今は人間として強くなりたくて、お願いしてます!」
(;・∀・)「……」
(;ー∀ー)ハア
モララーは目を閉じて、眉間を指でつまんでいた。
頭が痛いときの動作。
( ・∀・)「どうすりゃいいのよ。俺は。
お前人間として強くなるって言ったって、それで何をしたいのさ」
( ゚∀゚)「何を……?」
( ・∀・)「それがわからなきゃ何も教えてやらね」
そう言って、モララーはその場をさっさと歩いて行ってしまった。
363
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:40:29 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは、やろうと思えばその歩みを止めることができた。
でもしなかった。
頭の中でモララーの言った言葉が響いていたからだ。
自分は何をしたいのか。
ジョルジュは純粋な男だった。
目の前の問題には真摯に立ち向かう。
精神誠意をこめてそれに対峙し、自分の欲しいものを獲得する。
それが信条。
一番大事なこと。
だからジョルジュは、その問いかけにも全力で取り組もうと思った。
余計なものや、煩わしいものを捨てて。
その一端として、ジョルジュは衛兵見習いをやめた。
寄宿舎に入ったことは、親の言いつけでしかなかったので
それを続けていてはいつまでたっても問題は解決しないと思ったのだ。
364
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:41:37 ID:LUlKybsE0
少しは大人らしくなるために、力をつけろと言われた。
いつまでも裕福な暮らししてちゃいけない。
他国にいい修行の場所がある。そこへいけ。
それで南西のテーベ国にある家を渋々出て、ラスティア国にきた。
でも、それは自分の意思じゃない。
じゃあ自分のしたいことは何なのか。
その問題に直面したのは初めてだった。
真剣に悩んだ。
城下町でその日暮らしを始めて、ひたすら自分をいじめ抜いて
世間のことも学んだ。
寄宿舎で閉じこもっていては得られないことだってたくさんあった。
それは今でも誇っている。
やがて、ジョルジュは自然とレジスタンスに辿りついた。
この町で一番まっすぐに生きている連中だと思ったからだ。
365
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:42:28 ID:LUlKybsE0
当時、レジスタンスはまだ盗賊団のメンバーで構成されていた。
それが次第に人数を減らしていった。
別にみんながレジスタンス活動をしたかったわけじゃないからだ。
その引き潮のときに、ジョルジュは入って、入団したいと答えた。
モララーと出会ってから1年が経過した、冬の話である。
そのとき、モララーはいなかった。
国王の外交に付き添っていたのである。
モララーの帰りを待って、ジョルジュは『三匹のカエル』に入り浸った。
やがてリーダーのヒートが面白がって彼にお酒を担当させてみた。
お酒も飲めない子どもなのに。
面白いことに、彼はカクテルの作り方を容易にマスターした。
モララーが帰還した夜
カウンターにいるジョルジュを見て、彼は愕然としていた。
(;・∀・)「……なんすかこれ」
( ゚∀゚)「マスターと呼んでください」
(#・∀・)「何しれっといるんだよてめえは」
そのまま、モララーは奥の部屋へとジョルジュを連行した。
366
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:43:37 ID:LUlKybsE0
現在の訓練部屋だ。
当時から、モララーとドクオが技術の鍛錬のために使っていた。
そこで、モララーはジョルジュを投げ捨てた。
( ×∀×)「ぬわあ」
( ・∀・)「なに情けない声だしてんだよ。
俺は今むしゃくしゃしてるんだ。ほら、木刀手に取れ」
モララーは部屋の隅にあった木刀に手をかけ、一本をジョルジュに投げる。
そしてもう一本を自分の手に持った。
( ・∀・)「いいか、ジョルジュ。これは入団テストだ。
この組織がレジスタンスとなって以来、初めてのな。
俺相手に三本取ってみろ」
その日、訓練部屋の灯りが消えることはなかったという。
367
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:44:29 ID:LUlKybsE0
こうしてジョルジュはレジスタンスのメンバーとなった。
以降、誰もレジスタンスになろうとしていない。
いや、誰も来なかった。
現在
ブーンがその門戸を開くまでは。
なんでよりにもよって、一番気に食わない奴が来てしまったのだろう。
一番会いたくない奴が。
こんな不思議な縁、いらなかったのに。
くそ野郎。
☆ ☆ ☆
368
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:45:31 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「ジョルジュ! 大丈夫かお!?」
雑踏の中からもう一人の青年が飛び出してきた。
どういうわけかその肩は赤く染まっていた。
ぱっと見たら血にも見えたかもしれないが、ただの塗料だ。
ブーンはジョルジュの傍に駆け寄り、屈んだ。
ああ、またこいつは現れた。
ジョルジュは心の中で悪態をついた。
会いたくないって思ってるのに。
なんだってこいつはくるんだ。
しかも、思いっきり俺を心配する表情で。
こいつは馬鹿なんじゃないか。
俺はお前を苦しめたことがあるんだぞ。
なんで俺を心配するんだよ。
あのときだって、俺と一緒にいた魔人ですら、俺を気遣ってくれなかったのに。
369
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:46:29 ID:LUlKybsE0
そう悪態をつきながら、
ジョルジュは自分が笑いそうになっていることに気付いた。
それを隠すため、思わず叫んだ。
(;゚∀゚)「無事に見えるかばーか!
逃げられちまったよ!」
やけくそ気味にジョルジュはブーンにつっかかった。
明らかに動揺しているブーン。
そりゃそうか、こんな風に叫ばれたら、こいつは驚いちゃうんだ。
小心者だから、ちょっと大声だしたくらいですぐ。
(;^ω^)「そんな……いつまでも尖がっている場合じゃないお」
そのくせこんなふうに反論してきやがる。
(#゚∀゚)「なんだとこのやろう!」
ジョルジュは立ち上がろうとして腕を下に降ろした。
しかし、その動きが途中で止まる。
ようやく晴れてきた煙。
果物屋の前に佇む人の姿が露わになる。
このお店の店主の姿。
370
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:47:34 ID:LUlKybsE0
@@@
@#_、_@
( ノ`)
毅然と立ち尽くすその姿。
口を閉じ、腕を組んで
物も言わずに静かに二人の青年を見下ろしている。
二人の青年は店主の女性を見上げていた。
身体が固まっている。
やがて、女性はゆっくりと口を開いた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「お勘定」
(;゚∀゚)「ああ……もうだめだ……」
ジョルジュは泣きごとを漏らした。
(;^ω^)「ジョルジュ! 諦めるなお!」
ブーンが必死に呼びかける。
なんだよ、急に男らしいこといいやがって。
371
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:48:31 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「なんだよ! じゃあどうすりゃいいって!」
(;^ω^)「協力するんだお! そうしなきゃあの人には勝てないお!」
喚いている間に、店主の身体がゆらりと傾き始める。
行動が始まるのは明らかだ。
(;^ω^)「あの人に立ち向かう策ならあるお! だから!」
ブーンは立ち上がり、手を伸ばす。
ジョルジュを引き上げるために。
ジョルジュはその手をぼんやり眺めていた。
得体のしれない男が、まっすぐに自分を助けようとしてきている。
意味がわから……いや
ジョルジュは自分の思考を上書きする。
ああ、そうか。
こいつは優しいんだな。
モララーは言っていた。
ブーンは俺たちにできないことができるって。
その言葉が本当かどうか確かめられるかもしれない。
モララーがどうしてブーンに入れ込んでいたのか。
自分がいつまでもいらだってしかたないこの男に何があるというのか、わかる。
372
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:51:24 ID:LUlKybsE0
心の奥がざわめいた。
それを見てみたいという意欲が湧いた。
ブーンに賭けてみたいという気持ち。
焦りの顔から、少しずつ、歪んでいく。
引きつった笑みが浮かんでくる。
(;゚∀゚)「ほんとうだろうな? 策があるって」
ジョルジュが震える声で問いかける。
ジョルジュにははっきりと、ブーンの目が見えていた。
まっすぐに人を信じ切っている目。
一緒に何かをしようという目。
こういう目は、嫌いじゃない。
むしろ、俺の信条通りだ。
俺が最も憧れる生き方。
ジョルジュの警戒心が解けていく。
373
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:52:23 ID:LUlKybsE0
そのとき、とうとう店主が足を青年たちに近づけた。
その手には大きな看板が握られている。
高く、看板が抱えあげられる。
そのまま振り下ろされれば、二人はひとたまりもない。
ブーンは一回だけ頷いた。
それだけで、ジョルジュは瞬時にブーンの手を握った。
(;゚∀゚)「じっくり教えろよな!」
叫ぶように答えながら、二人は走り出す。
同時に看板が空を切る。
さっきまで二人がいた場所へ。
こうして二人は、再び彼女を捕まえるために走り出した。
すでに数十メートル先を駆けている、あの赤毛の女性を捕まえるために。
374
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:53:24 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは純粋な男だった。
蟠りがあっても、目標があれば、それに一直線。
その方が、楽だし、うじうじするより性に合う。
ジョルジュは前を向いた。
あの洋梨好きな女め、絶対のしてやる。
俺たちで。
☆ ☆ ☆
375
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:54:23 ID:LUlKybsE0
午後3時
住宅街
柔らかそうな茅葺屋根の上で、ヒートは洋梨をかじっていた。
基本的には通りすがりの一般人から盗み集めたものだ。
店先で盗むことは、本当はリスキーなのだ。
ノパ⊿゚)「あの子らどこいったんかねえ」
はるか遠くの青果商通りの方を眺めつつ、呟く。
洋梨が一つ食べ終わる。
芯をぽいっと捨てる。
『三匹のカエル』であの子らを見かけてから、予感がした。
ドクオのことだから、すぐに自分を捕まえに来るかなとも思った。
だけど、繁華街であの見慣れぬ少年がきょろきょろしているのをみたとき
事情はなんとなく察した。
ああ、自分を捕まえに来ているんだなって。
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