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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ
232
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:21:50 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「気持ちはわかる」
('A`)「俺も、なあ。どうしてもそういう気持ちになることはある」
('A`)「俺がこの鼻を抉られたときも」
ドクオはそういって、自分の鼻をかいた。
見た目ではそう不思議ではない。
ただ少しだけ浮き上がって見えるくらいの鼻。
('A`)「俺にはな、魔人の匂いがわかるんだ。
魔人に襲われたときに匂いを覚えたのか、不思議な力の影響なのかはわからなねえ。
とにかく、魔人が近くに居ればわかるし、やろうと思えば身を隠せる」
( ^ω^)「……だから逃げられたんですかお?」
そう聞くと、ドクオはふふっと笑った。
('A`)「そうだな、皮肉な話だ」
('A`)「俺はいまだに嫌な気持ちを抱いているってのに。
だからたとえあんな小さな魔人だとしても、見たときにはつい思い出しちまう」
233
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:22:53 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「魔人を憎む気持ちがですかお?」
言いながら、心の隅がちくりとする自分に気付いた。
まだ割り切れない自分がいるのかと腹が立った。
('A`)「そうだ。
今回だって、モララーに手を出したのは魔人。
結局はあの種族の存在が邪魔をしてきたといえる」
ブーンは何も言わずにいた。
矛盾する気持ち。
この世界に存在する違和感。
それらが混ざり、言葉にならずに溶け合う。
しばらく沈黙する二人。
町の賑わいが確かに目の前になる。
でもその音がひどく遠くから聞える。
ずっと遠くの映像としての喧騒。
ただ眺めるためだけのもの。
234
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:23:53 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「……なあ。ブーン」
ドクオは目を広場に向けて言う。
('A`)「お前は魔人のことをどう思う」
魔人、という言葉を、ブーンは頭の中で反芻した。
300年前に突然現れた、もう一つの人類。
( ^ω^)「……今の気持ちを度外視すれば、便利な存在だと思いますお」
ブーンは今まで魔人に取り憑かれたことはなかった。
それでも魔人によって利益を得ている人の話は聞いているし、
公共の交通機関、通信、インフラ、製品やサービス等で魔人の恩恵に与る機会はあった。
だから以前から単純に、人間の生活を豊かにする存在として認識してはいた。
おそらくこの世界の大半の人間が持っている共通認識だ。
235
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:25:08 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「それはつまり、人間が魔人を使う、という意味で?」
( ^ω^)「ええ……」
('A`)「……そうか」
ドクオは、ふっと息を吐いて、それから頬杖をついた。
('A`)「モララーは、そうは思っていなかったんだ」
( ^ω^)「……え?」
どういうことだろう。
ブーンの疑問の声を受けて、ドクオは話を続ける。
('A`)「魔人が現れてから100年経った頃までは、魔人の軍事利用が検討されていた。
魔人を使っての戦争だ。そのために人間はたくさん魔人と契約した。
いわば人間を使用者側としての最大の使い方だ。最悪な使い方でもあったけどな」
236
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:25:51 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「やがて、冷戦が100年目を迎えた時に人間は気付いた。
このままではいけない。魔人の力が暴走すれば何が起こるかわからない。
ひょっとしたらこの世が滅んでしまうかもしれない。魔人の不思議な力は得体がしれないんだから」
('A`)「その疑惑から、あっという間に民間人に反戦論が広まった。
そしてそんな奴らはすぐに軍隊の解体を目指し、あろうことか魔人にまでお願いをした。
お願いを聞きいれた魔人は、不思議な力が行使できるようになってしまった」
('A`)「結果として人間は強大な軍事力を持てなくなった。
あくまでも自衛のためのものしか、な。それ以上は他国の望みに反するから、魔人に壊されてしまう。
もっとも、その頃契約した魔人はすでにこの世にいないだろう」
('A`)「だから、今から軍事力を作ろうとすれば魔人に邪魔されずに作れるかもしれない。
でも、もう現代人にそれだけの気概は無い。
誰も戦争をしないし、魔人とだって争わない。平和に生きていければいい」
('A`)「そうして人間は魔人と共存を始めた。
だけど、それは決して対等ではない。
もちろん間抜けな人間はそれを見抜けず、自分たちが魔人を支配していると思い込んでいる」
('A`)「だけど、そうじゃない人もいる。
魔人と協力した結果として、俺たち人間は発展を放棄した。
人間が数百年かければ生まれたかもしれない便利さを、魔人によって叶えてしまったんだ」
('A`)「それは、果たして幸せなことなんだろうか。
俺たちは300年間、停まっている。魔人がいなければ何もできない生き物になってきている。
それは本当に自由か? 魔人を使っていると本当に言えるのか?」
237
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:26:53 ID:x6g1yXaQ0
そこから、ドクオは一段と声を大きくした。
この後続く言葉こそ、ドクオが一番言いたかったことなのだろうと思った。
ひいては、モララーの一番言いたかったことだ。
('A`)「俺たちはむしろ魔人によってその行動を制約されているんじゃないか?」
('A`)「人間にはもっと可能性がある。
魔人なんていなくても、それと同等のことはできたはずだ。
俺たちは魔人のせいでその可能性を潰してきてしまったんだ」
背筋がぞくっとした。
人間だけによる発展など今まで考えもしなかった。
('A`)「俺たちは便利な力も得られている。
一見すれば何にも縛られていない。幸せそのものだ。
籠の中の鳥と比べれば、俺たちは外に出て羽ばたいている自由な鳥だ」
('A`)「でもその鳥には制約がある。
結局は飼われている鳥さ、飼い主に同情されて籠からたまに出されるとしても、
その首には紐があって、一定の距離を飛んだらいずれ籠に戻されてしまう」
('A`)「それが、果たして自由かな」
238
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:28:07 ID:x6g1yXaQ0
鳥肌が立つのを感じた。
新しい何かを見つけたとき、人はそう反応する。
ドクオの言うことを、ブーンは頭の中で想像した。
人間の可能性について。
人間が魔人の力なしで何十キロも移動したり、空を飛んだり、海の中にもぐったり
そんなことができると言うのか。
だとしたらそれは、完全な自由だ。
('A`)「モララーの憤りはこれだった。
だからあいつは、人間を魔人から解放しようと企んでいた。
魔人を倒して、森にかえすことで」
('A`)「面白い奴じゃないか」
わずかながらに顔を歪ませて、ドクオが笑う。
すぐに真顔にもどり、ブーンの目を見つめてきた。
('A`)「なあ、ブーン。魔人についてどう思う?」
ドクオはさっきと同じ質問を投げかけてきた。
ブーンは答えに詰まる。
239
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:28:51 ID:x6g1yXaQ0
魔人が道具でもないとすれば、何だろう。
人類を損なわせるための生き物なのだろうか。
でも、だったらなんで人間を助けるのだろう。
('A`)「……難しいか」
(;^ω^)「……うまく言葉にまとまらないんですお。
その……すごいことだとは思うんですけども……」
ブーンは申し訳なくて、頭を下げる。
画期的な発想には思えた。
モララーの死に対する憤りを発散できそうにも。
だけど素直に答えられない。
今のところは。
この気持ちを整理するには時間がかかりそうに思えた。
だからブーンは答えられなかった。
すると、ドクオは何事かを考えるように口元を手で覆った。
('A`)「……実はな、モララーはお前が凄い奴だと評価していたんだ」
突然の言葉に、ブーンは首を傾げた。
240
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:29:54 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「へ? すごい?」
('A`)「ああ。
あいつはきっと、俺たちにできないことをやってくれるってな」
俺たちにできないこと?
モララーさんにできなくて、僕ができることなんてあるだろうか。
まったく心当たりが無い。
('A`)「あいつがどういう意味で言ったのかはわからない。
でも、そういう言葉がある以上は、お前を試す機会があると思った」
そういって、ドクオは言葉を切る。
胸ポケットに手を突っ込んで、平べったい黄金色のバッジを取りだした。
('A`)「もし興味があれば、ここに来てくれ」
ドクオがバッジを差し出す。
241
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:30:49 ID:x6g1yXaQ0
その横長のバッジに描かれていたのは
各々の剣を突き合わせたカエルたちの絵と、『三匹のカエル』という酒屋の名前
そして『レジスタンス会員証』という文字列だった。
☆ ☆ ☆
242
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:31:53 ID:x6g1yXaQ0
ドクオはその場をすぐに去った。
建前では行方不明だからだろう。
城下町を素早く、影の部分を選びながら駆けていき、人ごみに紛れていしまった。
ブーンは時間をおいてから歩きだした。
三匹のカエルは町の中にもいくつか看板を出していた。
ただ看板の矢印を完全に信じたがために、必要以上に大回りをしてしまった。
ようやく辿り憑いた時、その場所が広場からそう遠くはないことに気付いてブーンはがっかりした。
それでも気を取り直して、看板を確認する。
バッジと同じ絵。
剣を突き合わせた三匹のカエル。
城下町のレジスタンスのマークだ。
どうしてカエルなのかは知らない。
気分かもしれない。
243
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:32:51 ID:x6g1yXaQ0
そして衛兵の中にレジスタンスがいるという話も、ブーンは知らなかった。
お城に刃向う人々が、衛兵の中にいるなどなかなか考えられないことだ。
ドクオの話し方からして、彼はレジスタンスなのだろう。
一体どうしてなのだろう。
先程のモララーの話と関係があるのだろうか。
そういえばモララーも最後に言っていた。
三匹のカエルを覚えておけ。
それはこの酒場のことか。
だとしたら、モララーもまたレジスタンス?
ということは、どういう立場の人だったのか。
お城に味方しながら、お城の敵とも味方する。
なんでそんなことを。
244
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:33:53 ID:x6g1yXaQ0
その事情を知るにはもっと詳しい話を聞く必要がある。
だからブーンはこの場所に来た。
まだレジスタンスに協力するかは考えていない。
とにかく、今自分が知りたいのはモララー先輩のことだ。
ブーンはそう思って、お店の前で頷いた。
ドアノブに手を駆ける。
押すことで中が見えた。
ただ、光の加減で良く見えない。
「はい、いらっしゃい」
気のない声がする。
お店のマスターだろう。
思いのほか若い声だ。
マスターもまたレジスタンスなのだろうか。
このお店は全体としてレジスタンスの集会場となっているとも思える。
とにかく入ってからいろいろと聞きたい。
245
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:34:53 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは完全に扉を開けて、中に入り込んだ。
( ^ω^)「こんにちは、です……お」
声が尻すぼみになる。
目が慣れていったために、状況が次第に認識できたからだ。
お店にはお客は一人だけだった。
('A`)「よし、来たな」
ドクオはすでに到着していたのだ。
でも、それを目の端に捉えつつも、ブーンの目はマスターにくぎ付けだった。
(;^ω^)「……は?」
混乱が口を突いて出てくる。
およそ人に向けていい音ではないものが。
246
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:35:54 ID:x6g1yXaQ0
(;゚∀゚)「……は?」
まったく同じ意味合いの音が、ブーンに向けても発せられた。
その若いマスターはどこからどうみても、あのときの少年だ。
手作り地球儀を取りあった少年、ジョルジュ。
247
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:36:59 ID:x6g1yXaQ0
城下町の酒場、『三匹のカエル』にて
ブーンは初めて仲間に遭遇した。
心の隅の奇妙な痛みを今は無視して
ただモララーの後を追いかけていた。
248
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:37:54 ID:x6g1yXaQ0
―― 第二話 終わり ――
―― 第三話へ続く ――
.
249
:
名も無きAAのようです
:2013/08/26(月) 23:38:15 ID:N2LbX6EE0
しかしホントにペース早いな
支援
250
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:39:07 ID:x6g1yXaQ0
―― コラム② 魔人 ――
(,,゚Д゚)
グググ
(,,゚Д゚)
.∧∧ ピンッ
(,,゚Д゚)
.∧∧
(,,゚Д゚)「耳がめんどくさい」
251
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:39:54 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「コラムの表題にはなっているが、俺たちについてまだ話せないことは多い。
そもそも俺たち自身が自分たちの存在についてよくわかっていない。
300年前の世代はさすがにもうこの世にいないからな」
.∧∧
(,,゚Д゚)「まず、俺たちの身体には動物の一部がある。
普段は引っ込んでいて、仲間内や、力を使うとき、気分が昂ぶったときも出てきてしまう。
耳以外にもあるやつはいるし、爪とか牙とか、中には出し入れどころか骨格レベルで変わっちゃう奴もいる」
.∧∧
(,,゚Д゚)「俺たちは基本的に自然の中にいる。特に暮らしやすいから森が人気だ。野生でも変わったやつだけ町へ行く。
人間たちは俺たちに頼りたいときは森にやってくる。
それで手頃な力が使えそうな奴を選んで、お願い事をするんだ」
252
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:40:54 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「俺たちはそのお願い事が叶えられるように不思議な力を使って頑張る。
まあ簡単な力仕事くらいなら、力なんぞ使わなくても平気なんだがな。
それと、たまに自分の方からお願い事を聞きに行く積極的な奴もいるらしい」
.∧∧
(,,゚Д゚)「不思議な力は何でもありというわけでもない。
作中でも答えたが、大半は肉体強化だ。
そしてたまに自然現象を操ったり、超能力を操る奴が現れる」
.∧∧
(,,゚Д゚)「その力はあくまでも現実にあり得そうな限り発揮できるんだ。
何もないところからは何も生まれない。作中の靄だって、あまりにも空気が乾燥していたら出ない。
個体によってもその度合いは違う」
.∧∧
(,,゚Д゚)「人類は発展をやめたとドクオは言うが、不思議な力を使ってちょっとずつ良い製品が生まれたりしている。
作中では写真がその例だ。ただ、感光材とかは使わずに
紙やガラスに不思議な力によって正確な絵を表すことで写真としている」
.∧∧
(,,゚Д゚)「今後、うっかり18世紀後半になかったものが作中で現れても
きっとそれは不思議な力によるものだ。きっとそうだ。そうに違いない」
253
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:42:08 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「不思議な力はこのあたりにして、次の話にしよう。
俺たちの性質について。つまり、願いをかなえたくなるという性質だ」
.∧∧
(,,゚Д゚)「同胞を大別すれば二種類。契約済みか野生か、だ。
野生のは不思議な力を使えない。もし使っていたらそいつは本当は契約済みなんだろうな。
契約が破棄されれば不思議な力は使えなくなる」
.∧∧
(,,゚Д゚)「なんでこんな仕組みなのかと言われたら、そう言いつけられているからとしか言えない。
親の代からの命令なんだ。人間に協力してあげなさいってね。
もちろん心だってちゃんとあるし、普通の人間とほとんど変わりなく暮らしている奴もいる。幸せな奴さ」
254
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:42:51 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧ グググ
(,,゚Д゚)
ヒュン
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)「……あえて最後に言わせてもらうとすれば
俺たちのことを“魔人”と呼ぶのは人間だけだ。俺たちは俺たちのことを普通に人だと思っている」
(,,゚Д゚)ノシ「それではまた次回。さすがに今回より時間が空くだろうなあ」
―― コラム② おわり ――
255
:
名も無きAAのようです
:2013/08/26(月) 23:48:24 ID:uIIgNcxg0
乙
ギコの最後のセリフが物語の核になってそうな雰囲気だな
256
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 00:03:15 ID:P42nA1/g0
おつ!
257
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 00:52:25 ID:LDUumxIk0
面白い乙
ここからどう転んでいくのかね
258
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 02:14:40 ID:zgkxYIy20
乙
ここでまさかのジョルジュ…わくわくするぜ
259
:
名も無きAAのようです
:2013/08/27(火) 03:12:50 ID:KZYrO.ywO
読み終わった、予告から察すればここまでは書き終わってたのかな?
260
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:47:31 ID:DwMEyd4M0
―― 予告 ――
.
261
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:48:36 ID:DwMEyd4M0
('A`)「……ちゃんとやるんならな」
そういうドクオの表情には、既に諦めの色が浮かんでいた。
そうとは知らず、ジョルジュは「よし!」と気合を入れる。
( ゚∀゚)「じゃ、俺はいくぞ! ブーンも足を引っ張るなよな」
( ^ω^)「……おー」
さっきまでブーンに向けていた怒りはどこへやら
ジョルジュは楽しそうに走っていった。
目標があれば、ひとまずそれにひた走るタイプなのだろう。
どこまでも調子の良い奴だと、その背中を見つめながら思った。
('A`)「で、ブーンは……」
ドクオはブーンの右手に握られたものを指さした。
262
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:49:49 ID:DwMEyd4M0
('A`)「それで大丈夫なんだろうな? 心変わりしないか?
木刀とかもちゃんと在庫はあるんだが」
ドクオが確かめるのも無理はなかった。
武器は貸与された。
ヒートを捕まえるためならなんだって準備したという。
それでも、どうしても攻撃することが嫌だったブーンは
紹介された武器を全て無視して、酒場の隅に忘れ去られた客の持ち物を選んだ。
( ^ω^)「僕はこれで十分ですお。
相手は女の子なんだし、木刀なんて物騒な物持ってられないですお」
そういって、ブーンは自分の得物を顎で指す。
それは、どこからどうみても平凡な虫取り網だった。
263
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/28(水) 15:51:38 ID:DwMEyd4M0
―― 第三話 ――
―― 勝てない理由と追いかけっこ ――
明日午後9時から投下開始
……なんか、書けちゃいました。一晩で。
264
:
名も無きAAのようです
:2013/08/28(水) 17:35:24 ID:nlwjBo5MO
ほんと書くの早いな、一年以上息を潜めてたやつとは思えない
265
:
名も無きAAのようです
:2013/08/29(木) 00:13:06 ID:OMA7RlEQ0
楽しみ
266
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 20:59:19 ID:LUlKybsE0
投下を始めます。
267
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:00:22 ID:LUlKybsE0
昼下がり
城下町
露店の建ち並ぶ一角
今は実りの秋。
露店には様々な農作物が躍り出ていた。
瑞々しい野菜、採れたての果物、それを求めて道を行く人々
商売の場には常に賑わいが生まれる。
新嘗祭延期の話が出てから、気落ちしていた町の人々も
その賑わいを楽しみたいがゆえにこの道を通っていた面もある。
そんな賑やかな通りにて
突然轟音が響き渡った。
268
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:01:35 ID:LUlKybsE0
通りの人々は一斉に音のした方向を見た。
土煙が上がっている。
とある果物屋の前で騒動が起こっていた。
頭を短く刈り込んだ青年が、道にへたりこんでいる。
(;゚∀゚)「ああああああ、ちくしょう!! 逃げられた!」
青年、ジョルジュは上を向いて叫んだ。
と同時に、その顔面に物体が投げつけられる。
( ×∀×)「のわああああ」
ジョルジュが倒れる原因となったそれは、洋梨だった。
採れたてらしく、黄色い色合いが煙の中で映える。
人から投げつけられたように見えた。
でも、町の人々が何人かその投げた人のいるはずの方角を見ても
何者の姿も発見できなかったという。
いや、正確にいえば、速すぎて確認できなかったのだ。
269
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:02:32 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「ジョルジュ! 大丈夫かお!?」
雑踏の中からもう一人の青年が飛び出してきた。
どういうわけかその肩は赤く染まっていた。
ブーンはジョルジュの傍に駆け寄り、屈んだ。
(;゚∀゚)「無事に見えるかばーか!
逃げられちまったよ!」
やけくそ気味にジョルジュはブーンにつっかかった。
(;^ω^)「そんな、いつまでも尖がっている場合じゃないお」
(#゚∀゚)「なんだとこのやろう!」
270
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:03:27 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは立ち上がろうとして腕を下に降ろした。
しかし、その動きが途中で止まる。
ようやく晴れてきた煙。
果物屋の前に佇む人の姿が露わになる。
このお店の店主の姿。
@@@
@#_、_@
( ノ`)
毅然と立ち尽くすその姿。
口を閉じ、腕を組んで
物も言わずに静かに二人の青年を見下ろしている。
二人の青年は店主の女性を見上げていた。
身体が固まっている。
やがて、女性はゆっくりと口を開いた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「お勘定」
271
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:05:06 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「ああ……もうだめだ……」
すっかり圧倒されてしまったのか、ジョルジュは泣きごとを漏らした。
(;^ω^)「ジョルジュ! 諦めるなお!」
ブーンが必死に呼びかける。
(;゚∀゚)「なんだよ! じゃあどうすりゃいいって!」
(;^ω^)「協力するんだお! そうしなきゃあの人には勝てないお!」
喚いている間に、店主の身体がゆらりと傾き始める。
行動が始まるのは明らかだ。
(;^ω^)「あの人に立ち向かう策ならあるお! だから!」
ブーンは立ち上がり、手を伸ばす。
ジョルジュを引き上げるために。
その手をぼんやり眺めていたジョルジュ。
焦りの顔から、少しずつ、歪んでいく。
引きつった笑みが浮かんでくる。
272
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:06:35 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「ほんとうだろうな? 策があるって」
ジョルジュが震える声で問いかける。
そのとき、とうとう店主が足を青年たちに近づけた。
その手には大きな看板が握られている。
高く、看板が降りあげられる。
そのまま振り下ろされれば、二人はひとたまりもない。
ブーンは一回だけ頷いた。
それだけで、ジョルジュは瞬時にブーンの手を握った。
(;゚∀゚)「じっくり教えろよな!」
叫ぶように答えながら、二人は走り出す。
同時に看板が空を切る。
さっきまで二人がいた場所へ。
273
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:07:46 ID:LUlKybsE0
こうして二人は、再び彼女を捕まえるために走り出した。
すでに数十メートル先を駆けている、あの赤毛の女性を捕まえるために。
そんなことを知ってか知らずか
ノパ⊿゚)「洋梨うめえわ」
女性は今もまだ、洋梨の詰まった袋片手に、城下町の屋根の上をひた走っていた。
☆ ☆ ☆
274
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:08:52 ID:LUlKybsE0
―― 第三話 勝てない理由と追いかけっこ ――
.
275
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:09:37 ID:LUlKybsE0
時は数時間前に遡る
酒場、『三匹のカエル』
ジョルジュはいつものような朝を迎え、いつものように店の準備を始めた。
何も悪い予感など無かった。
たとえ道で黒猫に遮られても
靴ひもが突然切れても
お皿をうっかり割ってしまっても
いつもどおりにお店は開かなきゃならない。
11時からから15時までのランチタイム。
それまでに掃除をし、食器を洗って、食材の確認をする。
料理担当の奴はルーズだから、どうせぎりぎりまで来ない。
今のうちにチェックしておかなければ開店が遅れてしまう。
だから、一人でせっせと働いた。
276
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:10:40 ID:LUlKybsE0
一人になるとつい考え事をしてしまう。
ワインセラーを眺め、切れそうなものはないか確認しながら
先日亡くなった知り合いのことを思い出していた。
衛兵のエリートとして躍進していたモララーのこと。
葬儀は衛兵隊の身内だけで行われたと聞く。
もちろんそれが当然であり、仕方のないことであった。
それにしても、あの人が死んでしまうとは、いまだに信じられない。
あの人に対する恩は、まだまだ返し切れていないというのに。
苛立ちはあった。
こっそり帰還したドクオから話も聞いていたので、事情は知っている。
南の山の麓で魔人に襲われたこと。
277
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:11:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「正直言って、よくわからない点は結構ある。
本当にあの人が死んだのか、それすらも疑問に思うことだってある」
帰還早々酒場に来たドクオがそう言っていた。
('A`)「俺だって実はなんであの任務に誘われたのかわかっちゃいない。
モララーにはモララーの考えがあったのだろうけど」
('A`)「あいつは、俺に何を見せようとしたんだろうな」
渋い顔をして、そう呟くドクオ。
そのときジョルジュは、ドクオの向かいに座っていた。
('A`)「そうそう、あのとき他にも別の奴がいたんだった。
ほら、お前もモララーさんからちょくちょく話をきいていただろ?」
もちろん、とそのときジョルジュは頷いていた。
何度も聞いた名前だ。
関わったのはもうずっと昔の話なのに、なぜか奴の名前は良く聞く。
278
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:12:41 ID:LUlKybsE0
彼がモララーと関わっている経緯も聞いていた。
皮肉にもそのきっかけは自分だったということも。
その点、嫌な気分もする。
自分はあんなに苦労したのに、あいつは何も悩まずにのうのうと衛兵を続けてやがる。
ジョルジュは彼が嫌いだった。
あのにやけた顔も、おどおどした態度も、人に頼ればなんとかなると思っていそうな全体像も。
だから、その少年の話はあまり聞きたくなくて、そのときのドクオの話も聞き流していた。
モララーと付き添って南の山に向かった少年、ブーンの話。
279
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:13:36 ID:LUlKybsE0
お店の玄関が開けられて、顔をはっと上げる。
('A`)「よう」
青白い顔が覗く。
すっかり足のけがも治ったようで。すたすたとカウンター席まで歩いてきた。
('A`)「ジョルジュ、今日はこのあとお客さんが来るんだ」
( ゚∀゚)「お客?」
('A`)「そう、でな。俺はそいつに入団テストをしたいと思っている」
いきなり本題を話してくるものだから、ジョルジュは面食らった。
( ゚∀゚)「テストって……まさかレジスタンスの?」
ここ、『三匹のカエル』はレジスタンスのアジトの役割も果たしている。
関係者以外立ち入り禁止の扉をくぐれば、そこには秘密の部屋が隠れている。
レジスタンスは活動する場合、その部屋に籠って作戦を練り、行動を起こしていた。
280
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:15:02 ID:LUlKybsE0
('A`)「そうだ」
( ゚∀゚)「おおお、まじか! 俺以来だな!」
嬉しそうにジョルジュが言う。
彼がレジスタンスに入団したのは去年の冬だった。
さらに言えば、レジスタンスで入団テストをしたのも彼が初めてであった。
( ゚∀゚)「なあなあ、入団テスト俺がやっていい?」
('A`)「いいぞ。見るからにやりたそうな顔をしているからなあ」
( ゚∀゚)「そりゃあだって、今まで俺しかやってもらえなかったんだもの。
しかも相手はあのモララーさんだったし、あれは酷い目にあった」
ジョルジュが思い浮かべたのは、雪の降るかつての日。
その日、一晩をかけてジョルジュは入団テストを受けた。
あのとき受けた辛さはなかなか忘れられるものではない。
あれを自分だけがくらっているというのは、悔しいものであった。
悔しいという気持ちが何よりも嫌いなジョルジュは、その気持ちを早々に払拭したかったのである。
281
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:15:42 ID:LUlKybsE0
だから、わくわくしてその客人を待った。
数分が経過し、「迷ってるかもなあ」とドクオが漏らした頃
ようやく扉が開いた。
はやる気持ちを抑え、ジョルジュが見つめる先に立っていた人物は
自分が最も見たくないと思っていた人間だった。
☆ ☆ ☆
282
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:16:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「あれ、まさか知り合いだったのか?」
ジョルジュとブーンを相互に見てから、ドクオがジョルジュに話しかけた。
('A`)「お前があの衛兵見習いの中にいたのはほんの少しの間って聞いていたが」
( ゚∀゚)「……その少しの間に会ったんだよ」
ジョルジュはきまり悪そうにそういうと、眉間に皺を寄せた。
( ゚∀゚)「むしろ、質問したいのはこっちなんだが。
どうしてこいつがここにいるんだ?」
ジョルジュの指がまっすぐ、ブーンに向けられる。
ブーンは再びジョルジュと向かい合う形となる。
( ^ω^)「ドクオさんが来いって」
('A`)「そうだ。俺が呼んだ。
俺が誘ったのはこいつだよ」
283
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:17:44 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「何勝手に決めてんすか! ドクオさん!」
ジョルジュが声を荒げ、テーブルを叩いた。
端のグラスがぐらぐらと揺れる。
(#゚∀゚)「ただでさえ、俺たちへの風当たりが強くなっているってのに。
……そうだ、この前のパフォーマンスだって、せっかくリーダーと一緒に考えて頑張ったのに
新嘗祭に影響したくらいで、すぐに町の連中冷めちまうし」
(#゚∀゚)「とにかく、今はレジスタンスの人口増やすよりも、今後の方針を立てるべきでしょう。
ひょっとしたらこいつだって、俺らの情報を漏らすために来たのかもしれないし」
('A`)「そんなことはないさ」
( ゚∀゚)「なんでですか」
('A`)「こいつは、モララーさんに認められた男だったからだよ。
あの人の最期のときもいたしな」
( ゚∀゚)「……」
284
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:18:40 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「えっと、ちょっといいですかお?」
ブーンがおずおずと手を挙げる。
('A`)「はいよ、どうぞ」
(;^ω^)「なんというか、状況がまったく飲み込めないんですお」
ブーンは正直に話した。
(;^ω^)「とりあえず、ドクオさんはレジスタンスなんですかお?
それで、僕をレジスタンスに誘っているってことですかお?」
('A`)「その通り」
あっさりとドクオは頷いた。
ジョルジュの舌打ちが聞こえたが、今は気にせず進める。
( ^ω^)「それで、モララーさんもレジスタンスだったんですかお?」
('A`)「いや……ちょっと違う。
モララーさんは俺たちに協力してくれていただけだ」
285
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:19:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「協力?」
('A`)「そうだな……まずレジスタンスについてはどんな印象を抱いている?」
( ^ω^)「そりゃあ、魔人が城下町に入ることを拒んでいた人たちですお。
それでときどき広場とか街頭でデモやパフォーマンスをしたり
時折過激な人たちが魔人相手に騒ぎを起こしたり」
('A`)「まあ、そういうことで衛兵の厄介になることもある。
そして俺とモララーは衛兵の立場から、こっそりレジスタンスが活動を続けられるようにはからっていたんだよ。
協力ってのはそういう陰ながらの強力な」
('A`)「モララーは立場上レジスタンスには入ってくれなかった。
もし入っていたら国王からも気にいられることはなかっただろうしな。
別に入団するしないは問題じゃない。あいつに助けられたことは大きい」
モララーは魔人を憎んでいた。
だからその魔人と敵対する人々と協力していた。
こっそりと、国王からも隠れて。
ブーンはドクオの説明を受けて、暗躍するモララーの姿を想像した。
( ^ω^)「……知らなかったですお」
('A`)「そうだな。結構あいつは隠しごとが多かった。嫌か?」
286
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:20:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「んー、でも魔人を嫌っていたのは本当ですお。
だから、まあそんな裏の一面があっても納得できるかなと」
人間一つか二つ、別の顔があるものだ。
ブーンはそのことに思い至った。
モララーにしたって、そんな別の顔があっても問題ではない。
むしろ、魔人と対峙するという点において一致しているあたり、芯が通っているとも思えた。
('A`)「そうか、良かった。
それで、モララーさんが良く話していたお前をここに連れてきたんだ」
( ^ω^)「良く話していたって、さっき言ってた『できないことができる』ってやつですかお?」
('A`)「ああ」
やはりあっさりと答えるドクオ。
でも、ブーンからしてみたら、やっぱり納得できない。
その点だけはどうしても。
(;^ω^)「申し訳ないんですが、やっぱり思い当らないですお。
自分に何かができるなんて」
287
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:21:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「どうかな。それを判断するのは俺たちだ」
ドクオは自分と、ジョルジュを順番に指さした。
ジョルジュは露骨に嫌そうな顔をする。
( ゚∀゚)「いくらこいつが役立ちそうでも、仲間になりたくないんですけど」
忌憚なくひどいことを言ってのける。
しかし彼の魔人がいなくなったのは自分と関わったせいだったはず。
だからそっけなくされてもしかたないかとブーンは思った。
( ^ω^)「あれ?」
そこで、違和感に気付いた。
( ^ω^)「それじゃ、ジョルジュもモララーさんと会っていたのかお?」
質問をすると、ジョルジュは流し目でブーンを見た。
( ゚∀゚)「ああ、たまーにな。
この酒場にもちょくちょく顔出してくれていたし」
( ^ω^)「じゃあ、モララーさんのこと憎んだりしてなかったのかお?」
( ゚∀゚)「え? ああ、だって」
288
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:22:42 ID:LUlKybsE0
そこで、ジョルジュは目を閉じた。
顔が妙に緩んでいる。
次に目を開けたとき、なぜだかその目は輝いていた。
(*゚∀゚)「かっこいいんだもん!」
ジョルジュが手をぱたぱたと動かして、感情をあらわにした。
(*゚∀゚)「初めてみたときからさ、魔人をこう、がーってやっつけてさ!
人間なのにこんなことできるやつすっげーって思ったら尊敬しちゃって」
(;^ω^)「……」
( ゚∀゚)「何か言いたそうだな」
(;^ω^)「え? あ、いえ」
白状すれば、呆気にとられていた。
あの2年前に会った少年が、こんなに楽しそうに話しだすとは思ってもみなかった。
どうにも印象が変わっている。彼もかなり変わった成長の仕方をしたのではないだろうか。
そして何よりも、彼が自分と同じ気持ちを抱いていることがわかり
ブーンはどこか嬉しいと思っていた。
(*^ω^)「なんでもないおー」
289
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:23:39 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「明らかに笑ってんだろてめえ!」
(*^ω^)「親近感だお親近感」
( ゚∀゚)「はあ?」
口が悪いのは変わっていないみたいだ。
( ^ω^)「ていうか、それで魔人と離れたことはもう良くなったんかお?」
( ゚∀゚)「ああ、俺もう魔人嫌いだ。
俺の家族もみんな魔人嫌いになっていったし、もううちは人間味溢れているぜ」
けろっとした表情で言う。
ひどく淡白な内容だが、2年もたてば人はそれくらい変わるのかもしれない。
( ^ω^)「じゃ、別に僕嫌われる必要無いんじゃ」
( ゚∀゚)「いや、お前は嫌だ」
290
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:24:41 ID:LUlKybsE0
びしっと指を指される。
ブーンはわけがわからず瞬きした。
(;^ω^)「は? なんでだお?」
こうもはっきり拒否されてしまうと、どうしようもない。
第一意味がわからない。
だから首を傾げて質問をした。
ジョルジュは目を細めて、ブーンを睨みつけてくる。
( ゚∀゚)「あのときみじめな思いをさせられた恨みがあるからな」
ブーンはぽかんとして口を開けていた。
何をいいだすんだろう、こいつは。
そんな小さな矜持のために、僕はこいつに恨まれているというのか。
なんという
なんという調子のいい奴だ。
ジョルジュに抱きかけていた親近感が、急速に遠ざかる。
呆れて物も言えない。
やがて、胸の奥からふつふつと別の感情が湧いてくる。
291
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:25:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「……あのときだってきっかけはジョルジュがちょっかいだしてきたからなのに。
人の地球儀を壊そうとまでしておいて、ただ食べ物吹き付けたくらいでそんな」
言葉を無理やりまとめていく。
言いたいことが多すぎて大変だった。
( ^ω^)「いまだに僕やツンには謝罪の一言もなしで
それでいてモララーさんとはすっかり仲良くなっていて
僕だけいまだに許せないなんて……」
久しく忘れていた感情だった。
人に嫌われることを恐れていたかつての自分は、持つことを許されなかった気持ち。
それが今、目の前のジョルジュに向かって発現しようとしていた。
あまりにも頭にきたから。
(#^ω^)「お前どんだけ身勝手なんだお!」
久しぶりの怒声は、店内に響いた。
ジョルジュにもちゃんと届いたようで、彼は一瞬身動ぎした。
292
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:26:35 ID:LUlKybsE0
だけど、すぐに体勢を戻して、ジョルジュはブーンを睨みつける。
( ゚∀゚)「だいたい、お前がモララーさんに気に入られていたってのも気に食わねえ!
お前のこと、覚えているぞ! 別に大して力も無くて喚いていたじゃねえか」
(#^ω^)「あれから僕だって特訓したんだお! モララーさんとともに!」
( ゚∀゚)「それなのに同期の順位じゃ下から数えた方がはやいのか?」
(;^ω^)「な、なんでそれを……」
( ゚∀゚)「モララーさんとか、他の衛兵の客とかが教えてくれたからな。
情けないなあ、教えてもらったこと全部耳から抜け落ちていたんじゃねえの?」
(;^ω^)「そ、それは……」
順位が下なのは事実だ。
それは変えようもない。
だから、突き付けられると反論のしようが無い。
293
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:27:41 ID:LUlKybsE0
ブーンはすでに、さっき怒鳴ったときの勢いを失っていた。
口をもごもごと動かすも、何も言えない。
言葉が上手くまとまらない。
せっかく言い返したかったのに。
ジョルジュの言葉が胸に突き刺さってくる。
言葉を胸の奥に押し込めてしまう。
沈黙が流れた。
ジョルジュはいまだにブーンを睨んでいる。
警戒心がありありと浮かんでいた。
きっとジョルジュは僕の入団を認めてくれないだろう。
僕だって突然連れてこられただけだ。絶対入団しなくちゃならないわけじゃない。
そうだ、自分はどうしてこんなところにいるんだろう。
ドクオさんが連れてきただけだ。
だいたいその理由だって、何かモララーさんに褒められていたからってだけ。
その何かもわからない。
発揮できるようなものでもないだろう、そんなもの。
294
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:28:40 ID:LUlKybsE0
気持ちがどんどん後ろ向きになっていった。
帰りたい。
もう帰ってもいいんじゃないかな。
また今日一日悶々と過ごして、少しずつ心を回復して
それでまた職場復帰すればいいじゃないか。
それが僕の人生だ。
そう、思って、目をジョルジュからそむけた。
ドクオの方を見ようとした。
もう帰ります、その一言を言うために。
だけど
('A`)「よし、挨拶はすんだな」
ドクオの言葉に遮られる。
彼は手をぱんっと打ち鳴らした。
295
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:29:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「ジョルジュ、ブーンが仲間に入るかどうかはお前がチェックしろ」
「は?」というジョルジュをよそに、ドクオが話を進めていく。
('A`)「入団テストだよ。
奥の訓練部屋があるだろ。そこでやるぞ。
お前が相手してやるんだ、ジョルジュ」
あっという間だった。
ブーンは文句も、批判も、泣き言もいう隙が無かった。
ドクオはそそくさと酒場の奥の扉を開けてしまう。
カウンターの端、『関係者以外立ち入り禁止』の文字。
本来なら店員しか入れないところ。
ドクオは半身だけそこにいれて、振り向いた。
ブーンを手招きする。
296
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:30:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「ほら、入れ。
木刀用意しといてやるから」
(;^ω^)「い、いやえっと、拒否権は?」
('A`)「まあまあ、ちょっと試すだけだから」
(;^ω^)「それ、宗教勧誘とかの文句じゃ」
('A`)「お前が逃げたくても、あいつは気に入らないみたいだぞ」
ドクオはそういうと、ジョルジュの方を指さした。
見るまでも無く、痛い視線が突き刺さってくる。
(;^ω^)「じゃ、じゃあちょっと試すだけだお?」
('A`)「よしよし、それでいい」
のせられている感じは拭いきれないが
のらないとジョルジュがここを出してくれそうにない。
297
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:31:43 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「覚悟しろよてめえ、泣かしてやるからな」
ほらみろ、明らかに苛だちを明らかにしている。
触れたくない。
そればっかり考えていた。
それでもブーンは奥の扉へ入ることにした。
レジスタンス用の訓練部屋へ。
☆ ☆ ☆
298
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:32:37 ID:LUlKybsE0
('A`)「……」
訓練場にて、既に戦いは開始されていた。
目の前では木刀が振られている。
順を追って説明する。
まず入ってきたときに、ブーンとジョルジュ両方に防具を装備させた。
そして両者に木刀を与え、舞台に立たせた。
試合は三本勝負。
お互いに相手を狙い、上半身の防具に当たれば一本。
この程度のことなら見習いでも訓練の一環で行っていた。
だから、ブーンにもできる。
実際に実力を見るには一番いい形式のはずだった。
それに
「おーい」
突然背後の扉の奥から声が聞えた。
('A`)「誰だ?」
299
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:33:34 ID:LUlKybsE0
「私だ」
ぶしつけな答え方だが、よく知っていたのでドクオは頷いた。
('A`)「入っていいぞ、シュール」
扉が開けられる。
lw´‐ _‐ノv「お店開けといて誰もいないんじゃ不親切だろう」
入ってきていきなりの女性は、もっともな指摘をしてきた。
('A`)「ああ、ごめんな。
すぐ終わると思ったんだが、意外と長引いちゃってさ」
そう言って舞台の方を指す。
相変わらず木刀が風を切る音がする。
呼吸だって乱れているのがわかる。
lw´‐ _‐ノv「……あれ?」
シュールがお店の側を覗いて呟いた。
('A`)「どうした?」
lw´‐ _‐ノv「いや……まあいいか。後で説明する」
300
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:34:41 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「しかし入団テストか。懐かしいな」
('A`)「シュールのときはしてないんだっけ?」
lw´‐ _‐ノv「私は前の組織のときからずっとリーダーに従っていたから」
('A`)「へー、意外」
lw´‐ _‐ノv「ところで……どれくらいやってるんだ?」
('A`)「んー、1時間ってところかな」
lw´‐ _‐ノv「そんなにか? もうお昼だぞ」
('A`)「いやあ、びっくりだよね。ランチタイムもやってられんわ」
lw´‐ _‐ノv「さすがに見る目がなさすぎやしないかい?」
('A`)「仕方ないだろ。衛兵指導者だってあいつのこと、下に評価していたんだから」
lw´‐ _‐ノv「あいつって、あの見慣れない小さい奴?」
シュールは小さな手で、舞台の片隅に走るブーンを指した。
今も必死に足を動かして、攻撃をかわしている。
301
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:35:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「そう」
lw´‐ _‐ノv「ふーん、で、お前の感想は?」
('A`)「何って、そりゃ、みたままだよ」
舞台全体を示すように、ドクオは両手を広げた。
木刀の空を切る音。
それだけしか、この1時間鳴っていなかった。
('A`)「昨今の指導者はまったく見る目がないってことさ」
ドクオはそう言って肩を竦めた。
顔には笑みがこぼれている。
目の前の光景にわくわくしていたから。
☆ ☆ ☆
302
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:36:41 ID:LUlKybsE0
ブーンは逃げた。
逃げ続けた。
1時間ぶっ通しで。
攻撃は、はっきり言ってしまえば、見えた。
ジョルジュの一挙手一投足が手に取るようにわかる。
彼の目の動き、足の動きを見て分析する。
癖もなんとなくわかる。すでに、身体の捻り方から呼吸のタイミングまで。
これだけ何度も攻撃を見させられれば、掌握するのは容易い。
(#゚∀゚)「このやろおおおおおおおおお!!」
叫び声とともに、ブーンから見て右下から左上への斜めの斬撃。
ブーンは身を左に反らした。
数センチ先で風が舞う。
髪が少しだけ刈られた。
303
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:37:35 ID:LUlKybsE0
二撃目が来るまでに、ブーンは右へ移動する。
敵の右手に握られた木刀の可動域から離れる。
ジョルジュの影へ。
再び体勢を立て直さなければ追撃はできないだろう。
作戦通り。
再び間合い。
木刀二本分以上。
また最初からやり直し。
(#゚∀゚)「なんで逃げてばっかなんだよてめええええええ!!!」
ジョルジュが悲痛な声を出す。
部屋全体に響き、軋んでいるようにも思えた。
ブーンは肩をびくつかせる。
(;^ω^)「だって、だって……」
木刀を握る手に力が入る。
この木刀をジョルジュの隙に打ち込めば、相手にダメージが入る。
そんなことはわかっている。
304
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:38:35 ID:LUlKybsE0
だけど、その姿を想像したとき
この木刀が相手にダメージを与えることを考えたとき
身体が萎縮してしまう。
たとえ相手が防具を装備していたとしても
ある種の恐怖がブーンを縛り付けるのだ。
攻撃したらきっと相手は痛がる。
そう思うと、腕が震える。
根本的に、攻撃するという動作がブーンには合わないのだ。
それが、衛兵の訓練でもなかなか後順位になれない理由だった。
ジョルジュが構えを緩め、足を止める。
木刀はいまだに握られているが、先程までのような気迫は無い。
一息ついている。
( ゚∀゚)「お前……まさか攻撃しないつもりか?」
ジョルジュが言う。
まっすぐな目でブーンに問いかけてくる。
そのあまりに純粋な瞳を前にして
ブーンはつられて頷いた。
305
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:39:36 ID:LUlKybsE0
途端に、ジョルジュの顔色が染まっていく。
赤く赤く。
(#゚∀゚)「こ……この……やろう」
内なる怒りが沸々と見え隠れしている。
横で誰かが噴き出した。
ブーンはさっとそちらを見る。
ドクオが片手で口元を押さえていた。
傍にセミロングの女性が立っている。
誰だろう。入ってきているのに気付かなかった。
('A`)「……ようやくモララーが言っていた意味がわかったよ」
笑いを堪える様子で、ドクオがブーンに言った。
ブーンは首を傾げるも、ジョルジュの殺気に気付いて身構える。
(#゚∀゚)「てめえ、どこまで俺をおちょくれば気が済むんだこらあああああ」
再び、ブーンに向けられる。
また斜め下からの切り込みだろうか。
ジョルジュは頭に血が上ると同じ形での攻撃しかしなくなるようだ。
306
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:40:34 ID:LUlKybsE0
ブーンは集中を始める。
相手の切っ先に目を。
向けられた刃の一番届かない場所へ行けばいい。
('A`)「ブーン、当てるのが嫌なら、つけるだけでいいよ」
ドクオの声が耳に届く。
つけるだけ?
ぶたなくてもいいということだろうか。
ジョルジュが距離を詰めてくる。
木刀を左脇に。
ブーンは木刀を左手に持ち替えた。
利き手にこだわる必要はない。
右足を下げ、ジョルジュが自分の懐に入ってくるのを許す。
(#゚∀゚)「だりゃあああああ!!」
307
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:41:32 ID:LUlKybsE0
ジョルジュの右腕が横へ。
木刀がブーンの胴目がけて振られる。
今まではそれを遠ざかって避けていた。
そして今は、足を屈めた。
( ゚∀゚)「!?」
疑問の音がする。
ジョルジュの顎が下から見える。
おそらくブーンの姿は見えていない。
足元にいるなんて。
308
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:44:53 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「ほいだお」
過ぎ去っていくジョルジュの身体の脇に、木刀の刀身を当てた。
本当に軽く、まるで木戸をノックするように。
こつんというこぎみ良い音がした。
('A`)「はい、おしまい」
ドクオが再び手を叩いた。
終わった……ブーンはようやく安堵する。
同時に疲れが襲ってきた。
集中していたがために、足を酷使していることに気づいていなかった。
(;^ω^)「おおっと……」
立ち上がろうとして、よろけ、転んでしまう。
('A`)「おいおい、疲れたのか?」
(;^ω^)「そうみたいですお……」
309
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:45:47 ID:LUlKybsE0
('A`)「無理もないか、1時間もやってたものな」
(;^ω^)「そうです……お? え、1時間?」
('A`)「気付いていなかったのか」
そういって、ドクオは再び引きつった笑みを浮かべてくれた。
( ゚∀゚)「おいおいおい、ちょっと待てよ!」
部屋の端から、ジョルジュが大声を出す。
( ゚∀゚)「俺は倒れていねえって!」
('A`)「だから、当てるだけでいいって言ったじゃん。
当てたくないみたいだし、それでいいよ」
(#゚∀゚)「はあ? そんなの認められるか!」
('A`)「強情だなあ……ん?」
310
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:46:50 ID:LUlKybsE0
ドクオが言葉を止める。
横にいた女性に脇をつつかれたからだ。
そのおとなしそうな女性は、ドクオを向いて口を開いた。
lw´‐ _‐ノv「あれあれ、さっき言った件」
('A`)「あ……あー、なるほど」
ドクオはそれで合点がついたようだ。
小さく頷いて、それからまたジョルジュを見る。
('A`)「ジョルジュ、納得いかないって言うなら、また別のテストをしよう」
それを聞くと、ジョルジュは「よっしゃ!」と嬉しそうに叫んだ。
一方、ブーンはあからさまに不満の声を出していた。
(;^ω^)「ま、まだ何かやるんですかお?」
正直もう動きたくない。
油断すれば足はがくがく震えだすだろう。
もう今日は休まなくては、明日は筋肉痛で大変なことに。
不満ばかりが頭に浮かぶ。
311
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:47:51 ID:LUlKybsE0
でも、ドクオはそんなブーンの内面はつゆ知らず、大きく一つだけ頷いた。
('A`)「レジスタンスにも大きく関わることだからなー」
そういって、ドクオは一旦咳払いした。
('A`)「リーダーがまた盗みを働きそうなんだ。
悪いが、二人で捕まえてくれ」
今度はジョルジュが「はあ!?」と大きく不満の声を漏らした。
(;゚∀゚)「じょ、冗談じゃねえよ……リーダーを止められるのはあんたとモララーさんくらいなもんだろ」
('A`)「そうだな。で、もうモララーはいない」
(;゚∀゚)「じゃああんたが捕まえろよ!」
('A`)「悪いが俺は負傷中だ。走るのは嫌だ」
(;゚∀゚)「お、嘘だろ……」
312
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:48:56 ID:LUlKybsE0
('A`)「はい、観念しろな。二人がかりならいけるだろ。
むしろ、捕まえられなかったらレジスタンスを出てもらおうか」
そう告げて、ドクオは一層顔を歪めた。
('A`)「どうせお前はただ昔の魔人への苛立ちからここに入り浸ってるだけだもんなあ。
モララーさんとも関わりがあったから普通にしているけど、技術もそこそこなんだし
ここらで役立ってもらわなきゃ、ただの酒場の店主だよなあ」
ブーンはジョルジュの方を見ていなかった。
それでも、彼が怒りで震えているのがわかる。伝わってくる。
( ゚∀゚)「……おーし、見てろよ。
この前輸入した道具使えば、あいつなんか……」
わなわなと言葉をもらしながら、ジョルジュは訓練部屋から、別の部屋へ移動していった。
どうもジョルジュの部屋らしい。看板がさがっている。
('A`)「さて、ブーンも用意してくれ」
(;^ω^)「よ、用意ったって、何も持ってきてないお?
ていうかちょっと試してみるだけじゃなかったのかお!? これじゃ性質の悪い勧誘だって」
313
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:49:53 ID:LUlKybsE0
('A`)「まあ、これから捕まえる人間がどんな奴か、そしてどうしてこんなテストをするのか教えるくらいさ。
それに、町の治安にも関わることだぞ? 衛兵見習いとしてやっておくべきだ」
そう言って、ドクオは手招きする。
釈然としない思いを抱きながらも
今度はお店の側へ、ブーンは連れて行かれた。
☆ ☆ ☆
314
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:50:48 ID:LUlKybsE0
('A`)「まずは確認したいことがある」
カウンターの内側。
椅子に座ってドクオとブーンが並んでいた。
シュールは厨房で食事を作ってくれている。
料理は彼女の担当らしい。
('A`)「3年前まで、この町に盗賊がいたことを知っているか?」
( ^ω^)「3年前……魔人がお城の仕事に正式に従事できるようになる前ですかお?
まあ……少しくらいなら。入ってきたときは知らなかったんですが
衛兵見習いをしているうちに話を聞きましたお」
3年前まで、お城を含めた町全体で盗賊被害が多発していた。
ところが3年前、お城は魔人をその中に取り込んだことにより、壁に不思議な力の防御を施すことに成功した。
その結果として盗賊の被害は減少した。簡単には入れなくなったからだ。
('A`)「その盗賊団の名前は『三匹のカエル』と言ったんだ」
( ^ω^)「え? それって……」
('A`)「そう、この酒場は元々その盗賊団のアジトだったのさ」
315
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:51:48 ID:LUlKybsE0
ドクオはそう言って、店内を見回した。
ブーンも釣られて首を動かしていく。
木造の簡単な室内。
掃除は行き届いているものの、そんなに歴史のあるお店だったとは。
lw´‐ _‐ノv「料理できましたぜー」
唐突にシュールがくるくる回りながら、厨房から出てきた。
無表情でそんなことするものだから、思わず顔が引きつる。
(;^ω^)「あ。ありがとうですお」
lw´‐ _‐ノv「おうよ」
ブーンの前に、とろとろのかぼちゃのポタージュと三斤のライ麦パンが置かれた。
暖かい湯気と甘い香りが鼻を刺激してくる。
('A`)「でな、話を続けるとだ」
同じ食事を口に運びながら、ドクオが言う。
316
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:52:54 ID:LUlKybsE0
('A`)「『三匹のカエル』の中には魔人の政務進出に反対する奴らがかなりいた。
そういった反対派が一旦『三匹のカエル』を解体して、再結成したのが今のレジスタンス。
つまり、『三匹のカエル』はレジスタンスの前身だったんだ」
('A`)「俺は2年前から、つまりレジスタンスになってからこの組織に加入している。
レジスタンス全体は大した人数じゃない。俺と、シュールと、ジョルジュと、リーダーと、
あとは今ちょうど他の町に行って交渉に参加している奴が少し」
('A`)「話を戻すと、反対派だった頃のリーダーが現レジスタンスのリーダー。
名前はヒートっていう。盗賊団の頃から、盗みの技術はすごかった。
で、今でもたまに盗みの血が騒ぐらしくて騒動を起こしてしまう」
('A`)「今までは俺やモララーがなんとかあいつの暴走を止めていたり、騒動を小さく見積もったりしていた。
でも、今モララーはいない。俺も動きたくない。だから少し良くないね。
ここでヒートがつかまりでもしたら、俺たちレジスタンスの評価は急降下さ。はは」
('A`)「というわけでお前の入団テストとして、あいつを捕まえてほしいんだ」
317
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:53:52 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「いやいやいやいや、おかしいですお!」
なかなか隙がつけなかったが、ようやくブーンは口を挟むことができた。
( ^ω^)「それあなたがたの問題ですおね?
僕まだレジスタンスじゃないし、そんなヒートさんがつかまるかどうかなんて知ったこっちゃないですお」
('A`)「何言ってる。町の治安は大事だろ」
( ^ω^)「いや、そんなの駐屯の衛兵に頼んでくださいお」
('A`)「テストも順調だし」
( ^ω^)「だからそれは、僕は流れで入団テストを受けただけですし。
ジョルジュがどうしても僕を倒したがっていたものですから……」
何度も同じ話をしているので、さすがにブーンは苛立ってきていた。
どうしてドクオはこんなにもレジスタンスに自分を入れたがるのだろう。
ドクオは少しだけ考えて、それから口を開いた。
('A`)「ほー、じゃあ魔人を倒したくはないんだな?」
318
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:54:51 ID:LUlKybsE0
新しい切り口。
そしてそれは確かに、ブーンの琴線に触れた。
( ^ω^)「魔人を倒す……」
('A`)「ああそうだ。
考えてもみろ。今この町で面と向かって魔人と対峙できるのはレジスタンスだけだ。
それ以外では建前上魔人と協力しなきゃならない」
('A`)「いつまでも、お前はモララーさんについての恨みを晴らしきれないままだぞ?」
( ^ω^)「……魔人全体が悪いってわけでもないですお。
僕の恨みはモララーさんという個人に起こった事件についてだけのものですし」
('A`)「でも、結果的にモララーの事件は事故として片付けられている。
野生の魔人がやったこととして」
( ^ω^)「それは、野生なんだししかたないんじゃないんですかお?」
('A`)「お前……あれが野生の魔人の仕業と本気で思っているのか?」
( ^ω^)「あ」
そういえば、あのとき。
ブーンは一気に思いだした。
319
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:55:45 ID:LUlKybsE0
あのとき南の山の麓で白い靄に包まれたこと。
あれは突然発生した自然現象。
でも、いきなりにしてはあまりに濃すぎるし、襲撃側にとって有利過ぎる。
あれは不思議な力のものなのか。
そうだとしたら、あれは野生の魔人のせいではない。
野生の魔人は不思議な力を使えない。
('A`)「それに、お前もあのとき王女を見たんだろ?」
( ^ω^)「…………」
はっきりした関係性はわからない。
でも、何か不穏な内容のことを話す彼女。
('A`)「あの事件、何があったのか知りたくはないか?
このままだと、野生の魔人のやったこととして処理されてしまう。
真相は闇の中だ。モララーはどうして死んだのか。誰の手によって殺されたのか」
('A`)「それを知りたいとは思わないのか?」
320
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:56:50 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「……それは」
確かに、とブーンは思った。
レジスタンスに入れば、最もやりやすい形で魔人に立ち向かうことができる。
魔人たちとずっと敵対してきた人たちなのだから。
('A`)「さっき人間が魔人に支配されている話をしたな。
この国にしたって同じだ。この国の住民は、町や城にいる魔人にフィルターがかかっている。
誰かが立ち向かわなきゃならないんだ。人間の尊厳のためにも」
ドクオが毅然と言い放つ。
( ^ω^)「……立ち向かうだけの基盤があるんですかお?」
321
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:58:01 ID:LUlKybsE0
('A`)「もちろんさ」
ドクオは胸を張った。
('A`)「この町が最近まで魔人を受け入れてこなかったから、小さな組織だけど
しっかり他の町のレジスタンスとも連絡を取っている。
だから魔人についての情報も溜まっているし、いざとなれば他の組織とも合流できる」
('A`)「純粋な人間の組織の一員だ。それだけの下地は確かにある」
( ^ω^)「……」
322
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:58:50 ID:LUlKybsE0
魔人をいっしょくたに考えていいのか、疑問はある。
でも、モララーについての恨みは確かにある。
胸の奥にひっそりとあって、沸きたつときを待っている。
今がそのときじゃないのか。
ブーンは自問した。
今、立ち向かわないでどうするというのだろう。
モララーという存在を奪われた悲しみを、いつ発揮すればいいのか。
そのきっかけになるのがこの入団じゃないのか。
数時間前にドクオが話してくれたこと。
人間の可能性の話。
自分は自分の可能性を潰しているのではないか。
今ここで決断してみるもの一計。
少し胸に痛いものがあるとしても
魔人にだっていろいろいて、それらを傷つけるのは気が引けるとしても
今ここで選択をすることが大事なのではないか。
323
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 21:59:51 ID:LUlKybsE0
結局は、やれるなら、やってみようか。
そう思い至ったとき、自然とブーンの首は縦に振られていた。
( ^ω^)「やってみたいですお」
声の震えはいつもより少ない気がする。
いつもいつも、こういうふうに発言を求められたときは震えていたというのに。
なんでだろう。
自分で決めたことだからか。
('A`)「そうか……じゃあ、やってくれるな」
( ^ω^)「はいですお!」
ブーンはいつになく、即答した。
疲れも引いていく。
( ^ω^)「とにかく今はヒートさんのこともっと教えてくださいお。
どこに現れるのかとか……」
('A`)「ああ、いいだろう。まず、あいつは果物が好きなんだ……」
324
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:00:52 ID:LUlKybsE0
それから、ブーンとドクオは話しこんだ。
ジョルジュの準備が終わるときまで。
目を輝かせて、ブーンはヒートの習性を学んでいった。
☆ ☆ ☆
325
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:01:56 ID:LUlKybsE0
午後1時
ラスティア城
デレは自室でノートをかいていた。
かりかりと音を立てて。
扉の向こう側で人が走ってくる音がする。
すると、デレはすばやくノートを閉じる。
足元にある箱型の引き出しの、一番上の取っ手を握る。
流れるような手つきで鍵を開け、ノートを入れ、また閉める。
鍵はカーテンの留め具に掛けられる。
知らない人がどこから見ても、こんなところに鍵があるなんて気付かないだろう。
よく部屋を捜索しない限りは。
ここまでの動作は非常に洗練されており、幾度も同じことを繰り返してきたようでもあった。
何食わぬ顔で、デレは机の上に両肘をのせて外を眺める。
まるで前からここで眺めていたんだと主張するように。
扉をノックする音がする。
ζ(゚ー゚*ζ「どなた?」
326
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:02:52 ID:LUlKybsE0
扉の向こう側の相手は、ぜえぜえと息を吐いていた。
扉越しに聞えるなんて相当だ。
よほど必死に走ってきたのだろう。
誰だかはすぐわかる。
「ミセリです!」
それは、お城のメイドの中でも比較的若い女性の名前。
デレとも歳が近く、親近感はあった。
ただどうも慌て過ぎな性格であった。
別にそれが嫌だとは、デレも思っていなかったが。
ζ(゚ー゚*ζ「何か用?」
ミセ*゚ー゚)リ「お父様が帰ってきました!
今鳥型魔人の引く飛行船に乗って、お城の東の高台にある停まり場に来ています」
外交から帰還したのだ。
デレは口の傍に手を添えた。
327
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:03:43 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「わかったわ! ありがとう! ああ、なんて嬉しいの」
できるだけ上品そうに、それでいて子どもらしさが残っているように
そう聞えるだけの口調を表現した。
ミセ*゚ー゚)リ「ぜひお会いしてください! 待ってます!」
たたた、と走る音。
ミセリが扉から離れていったのだろう。
ζ(゚ー゚*ζ「……待ってます、ね」
それ以上は口に出さない。
デレの目つきは鋭くなる。
とうとう戻ってきたか……とでも言うように、何かに臨む者の目つきになっていた。
むろん、誰もその姿を見ていない。
誰も。
328
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:04:51 ID:LUlKybsE0
高台はお城の敷地内にあった。
鳥型魔人の降りる場所。
飛行船はすでに着陸していた。
デレはドレスを着て父を迎えに来ていた。
今日は赤いドレス。
派手な色が好きな父が喜ぶように。
「おーい」
デレに呼びかける声。
国王は見つけ次第、デレを呼んだようだ。
デレもそちらに手を振る。
笑い声がする。
国王の声。
(´・ω・`)ノシ「会いたかったよーーーーー」
329
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:05:53 ID:LUlKybsE0
間の抜けた挨拶だ。
デレは顔が綻ぶ。
ドレスの裾を持ちあげて、走り出した。
ζ(゚ー゚*ζ「お父様!」
思いっきり、デレは国王の懐に飛び込んだ。
頬を擦り寄せる。
そんなデレの様子を見て、国王はやれやれと頭をかいた。
(´・ω・`)「まったく、いまだにこんなに飛びついてくるとは」
そんなことを言う。
幸せそうに顔を緩ませて。
(´・ω・`)「おいで、食事としよう。少し遅れちゃったかね」
330
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:06:46 ID:LUlKybsE0
ζ(゚ー゚*ζ「いいんですよ! お父さん!」
デレは無邪気に答えた。
父の手を握って、大きく振る。
なんだか不自然なくらい、思いっきり。
(´・ω・`)「あれ、デレ。腕包帯はどうしたの?」
ζ(゚ー゚*ζ「え?」
ショボンが指さしたのは、デレの右手に巻かれている包帯。
ζ(゚ー゚*ζ「ちょっとだけ……怪我しましたの」
(;´・ω・`)「ええ? 大丈夫かい?
痛むようならお医者様に見せようか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ううん、平気!
ちょっと打っただけだから、すぐ引くから!」
(´・ω・`)「でも」
ζ(゚ー゚*ζ「行きましょう!」
(´・ω・`)「……ああ」
331
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/29(木) 22:07:51 ID:LUlKybsE0
少しだけ間を置いてから、ショボンは答えた。
傍から見れば、それはどこからどうみても幸せな親子だった。
国王と王女という肩書きを抜きにして。
こうして、ラスティア国王、ショボンは帰還した。
彼がまっさきに取り組んだことは
延期されている新嘗祭の日取りを決めることであった。
☆ ☆ ☆
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