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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ

1 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/21(水) 12:08:05 ID:xaL22uFs0














――――  予告  ――――









.

202 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:51:51 ID:x6g1yXaQ0
そう思って、ブーンは力なく笑う。

モララーさんは違う、と思った。
あの人は別に昇格にこだわったわけではないのだろう。
もし噂が正しいのならば、だけど。

たとえ王女を助ける機会があったとしても、それを昇格のチャンスとしては利用しなかっただろう。
あの人は魔人が大嫌いだった。
結局その理由についてブーンは知らないままだったが、嫌いという事実だけは知っていた。

そして、モララーがまったく昇格に興味を示していなかったことも知っていた。
そう言う人じゃないのだ。あの人にとって名誉など関係ない。
自分のしたいことをし、したいことをするために力を得る。

そういう人だったんだ。

だからきっとあの講堂での言葉は、ブーンを安心させるために言ったに違いない。
お前だってこれで昇格できるかもって。

湖でもそうだろう。
ドクオと話していたとき、モララーは突然ドクオを呼んだ。
それからドクオが行ってしまって、しばらくしたらデレが来た。

203 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:52:38 ID:x6g1yXaQ0
あれはモララーがデレと自分を近づかせたのだろう、とブーンは考え至っていた。

デレに自分を印象付けさせ、昇格しやすくするために。
あるいは単純に、自分がデレと知り合いになれるために。

自分がデレに好意を抱いていたのは明らかだったのだから。

あの人間に対する心配りばかりをして生きていたようなモララーがやりそうなことだ。
あんなに良い人は他に居ないだろう。

こんなとこで死んでいい人じゃなかったんだ。

ブーンはその言葉を何度も頭の中でもう一度繰り返した。

( ^ω^)「モララー先輩」

言葉は空中に佇む。
誰にも届かず。

ブーンは頭を抱えた。
顔を真下へ。
ベッドと自分の足、そして床だけが見える。

204 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:53:55 ID:x6g1yXaQ0
どうしてこうなったんだろう。
あの任務のせいか。

デレ王女の姿が浮かんだ。

彼女は裏切り者なのだろうか。

あのとき薄目で見た光景は、もはや魔女そのものだった。
普通に考えれば、彼女が魔人を使役してモララーを襲ったことになる。

一度彼女を救ったと言われている、モララーを。
そんなことができるほどに冷酷な女性なのか。

でも、ブーンには彼女を悪と断定できなかった。
いくら断定しようとしても、なぜかデレの表情が浮かんで邪魔をする。

湖で見せてくれた笑顔。

南の山の麓で見た無表情。

どうしてだろう、どうしてそんなものばかり思い浮かぶんだ。
確かにデレは綺麗だったけれども。

まさか綺麗な人だからって、モララーを殺されたのを許せるわけじゃない。
なのにどうして自分は答えを出せずにいるんだろう。

これは酷いことじゃないのか。

205 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:54:38 ID:x6g1yXaQ0
「ブーン?」

扉の向こう側から声がして、ブーンははっと現実に戻ってきた。

( ^ω^)「あ、ツンかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「そう」

2年間もききなれた声だ。
すぐにわかった。

ツンと出会ったきっかけが、モララーと初めてあったきっかけでもあった。

( ^ω^)「女性はここ、来ていいのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「許可ならもらったわよ」

( ^ω^)「……なんか、ずーっと昔もこんな会話した気がするお」

ξ゚⊿゚)ξ「そう? 確かに比較的よく入れるけど。
 F棟の管理人だけが異様に優しいのにね」

( ^ω^)「僕がG棟の方へいったらあっという間に捕まったお」

206 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:55:39 ID:x6g1yXaQ0
そういいながら、ブーンは自分の頬が緩んでくるのを感じた。
さっきまでほとんど動こうとしていなかったのに。

ひょっとしたら、ツンは今の僕の気持ちを和らげてくれるかもしれない。
辛い気持ちを無くしてしまえるかもしれない。

そう期待するのも無理はなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「入っていい?」

幸いなことに、誘いはツンの方からしてくれた。
向こうからまったく見えないのを承知で、ブーンは首を縦に振り落とす。

( ^ω^)「いいお。夜時間までなら」

言ってから、自分の声が震えていることに気付いた。

なんだっていうんだ、ちくしょう。
せっかく気持ちを紛らわそうっていうのに。

207 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:56:38 ID:x6g1yXaQ0
ツンもその震えに気付いたのか、遠慮がちにドアノブをまわした。
ゆっくりと扉が開かれる。

ξ゚⊿゚)ξ「……平気?」

恐る恐るといった表情で、ツンが顔を見せてくれた。
部屋に入って、扉を閉める。

ξ゚⊿゚)ξ「……平気じゃなさそうね」

ツンはブーンの顔を見て断言する。

( ^ω^)「は、はは。まいったお」

ブーンは頭をかいた。
身体が錆びている気分だった。

ξ゚⊿゚)ξ「座るわよ」

ブーンが許可を出す暇さえ与えずに、ツンはさっさとベッドの端に腰かけた。
ブーンとは反対側。
お互いの間は長い距離が空けられている。

208 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:57:53 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「モララーさん、あ、いや……」

出だしでブーンはびくっと反応してしまった。
だからか、ツンはすぐに言葉を訂正した。
ブーンの心の中で、申し訳ない気持ちが炸裂する。

ξ゚⊿゚)ξ「あの……あ、ほら、地球儀」

ツンが指しているのは、あの手作り地球儀のことだろう。
全てのきっかけの。

( ^ω^)「……壊しちゃってごめんだお」

ブーンは何か言わなければならないと思ってついそんなことを言った。
ツンは鼻を鳴らす。

ξ゚⊿゚)ξ「今更すぎて何も言えないわよ。
 それに、反省ならあのときさせたでしょ?」

(;^ω^)「……あまり思い出したくないお」

2年前のあの日。
あの後ブーンはモララーと一緒にツンに会った。
そして二人で頭を下げた。

209 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:58:42 ID:x6g1yXaQ0
それからブーンとツンは知り合いになった。
最初のうちは、地球儀を壊した反省として
ブーンはツンにこきつかわれる日々を過ごしていた。

それでも時間がたてば怒りも静まって
普通にツンと会話するようになっていった。

きっかけが悪くても、それは関係ができたということに変わり無くて
馬が合えば人は人と仲良くなれるものだった。

ξ゚⊿゚)ξ「実はね、ブーンに言っていなかったことがあるの」

その言葉を聞いて、ブーンは横を見る。

ξ゚⊿゚)ξ「あの、……モララーさんね、あのあと地球儀復元してくれたんだよ」

若干の言い淀みのあとで、続けた。
どうしてもモララーという単語からは避けられなかったのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「敗れた紙を貼り合わせて、丁寧に修復してくれたんだ。
 結構時間がかかってたけど、去年それを私にくれたの」

ツンはブーンの顔を見ていない。
細長い部屋の灰色の壁を見つめ、両手を動かして地球儀の大きさを表していた。
片手で持てるくらいの小さな手作りの地球儀。

210 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 22:59:36 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「めちゃくちゃにされちゃったけど、
 私はちゃんと形になって戻ってきたそれが嬉しかった」

ξ゚⊿゚)ξ「私はいつか世界を回りたかったから、それが小さいころからの夢だったから。
 この場所でちゃんと女性としての知識を身につけてからね」

ξ゚⊿゚)ξ「あの地球儀は近所の人と集まって作ったの。
 まだ文字を覚えきれていない頃から」

ツンの手が、次第にその動きを小さくしていく。
地球儀がしぼむ。
片手どころか、指でつまめるくらいに。

ξ゚⊿゚)ξ「……思い出はあった。でも壊れたらそれでいいかなって思ってた。
 だけど修復されたそれを見たとき、私つい泣いちゃってさ。
 どんなに気取っていても、やっぱり大切なものだった。
 だから泣いちゃったんだよね」

ξ゚⊿゚)ξ「どんなに忘れようとしても忘れられないものってあるのよ。
 私にとっては地球儀がそれだった。
 ずっと大切に育ててくれた人々の思い出が……」

ξ゚⊿゚)ξ「……変だな、こんな話しても仕方ないのに。
 こんなこと言いにきたわけじゃなかったのに。
 なんで自分の話なんか、ごめんね」

211 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:00:55 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ブーン?」

両手を膝の上にのせ、握る。
ツンはようやくブーンを向いた。

でもブーンからの返事はない。
実はもうすでにブーンの目線は、ツンを向いていなかった。

ただブーンは下を向いていた。
顔を手で押さえて、両肩を震わせて。

ξ゚⊿゚)ξ「……何よ、せっかく安心させようと思ったのに」

ξ;⊿;)ξ「そんなに思いっきり泣かれたら、
 私だって、つられちゃうじゃない……」

212 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:01:48 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは何も答えられなかった。
口を開けようとすれば、酷い声が出てしまうだろう。
言葉を話せず、嗚咽だけが漏れるだろう。

抑えきろうなんて、浅はかな考えだった。

そんなもの聞かせても何もならない。
ツンが悲しむだけだ。
だから何も言わない。

言えない。

ブーンは背中に暖かいものを感じた。
手のひらだ。

目を開ければツンがいるはず。
笑ってはいないだろう。
泣いているのかもしれない。

見れば済む話なのに、どうしてもそれができない。

なんでだろう。

なんで。

できないことばっかりだ。

213 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:02:56 ID:x6g1yXaQ0
疑問は解けず、その形すらも瓦解して


ぐるぐるとした混沌だけが頭の中にあった。



ツンに片手を添えられながら、ブーンは気の済むまでさめざめと泣いていた。




     ☆     ☆     ☆

214 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:03:52 ID:x6g1yXaQ0
その日の夜、葬儀が行われた。
ラスティア城の北にある、専用の葬儀場。

衛兵の仕事は、たとえ平和な時代といえどもたまに危険なものもある。
殉職してしまう衛兵も当然いた。
でもその衛兵の葬儀を民間で処理してしまったら、町の治安にもよくない。

それにひょっとしたらお城の機密事項も漏れてしまう可能性がある。
だから衛兵の死は慎重に扱わなければならない。

モララーの死も同様だった。

衛兵に通達を出し、来られる人だけが出棺に出席する。
ブーンは参加していた。
本当はあんまり見たくなかったのだけど。

( ^ω^)「……」

モララーは人気者だった。
通達は今朝出されたのに、数十人の人が集合している。
新規の衛兵が入ってくる忙しい時期なのに。

215 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:04:51 ID:x6g1yXaQ0
それは嬉しいことのようにも思えた。
でも素直にはなれない。
そんなことを口に出したら、モララーが死んだことを認めることになってしまう。

棺が台の上に置かれた。
もう顔は見えない。

台座の下に着火剤がある。
そこに、上位の衛兵が数人集まった。
やがて、火がつけられ、彼らは離れる。

燃えるのはあっという間だった。
その場に集まった人々の顔が、オレンジ色に照らされる。
ほとんど全ての人に沈痛な顔が浮かんでいた。

ブーンはそれらを眺め、それから別の方向に顔を向けた。
今まで意図的に避けていた方向へ。

そこには王女がいた。

彼女の顔も火によって明らかになっているはず。

216 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:05:54 ID:x6g1yXaQ0
ζ(   *ζ

しかし、顔は手で覆われていた。
やや俯き加減の姿勢のまま。

感情が読みとれない。

彼女は悲しんでいるんだろうか。
ほくそ笑んでいるんだろうか。

あの夜のことを思えば、後者の可能性もある。
そうなれば、酷く悲しい話だ。

でも、正直にいえばデレを疑いきれない自分がいた。
デレ王女の肩は震えているようにもブーンには見えた。
あるいは、そうであってほしかった。

あの夜の彼女の姿は本当なのだろうか。

こんなことを考えてしまう自分は、
優しいを通り越して、愚かなのではないか。

モララーがこのことを知ったら怒るかもしれない。

217 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:06:56 ID:x6g1yXaQ0
自分は優しすぎるらしい。
それは自分の足を引っ張っているんだろうか。

目の前で焔が踊る。
咎めるように。

人は優しいばかりじゃない。

もちろん知っている。

人は嘘もつくし、騙しもする。
人を傷つけ、殺すこともある。

モララーだって殺された。

それなのに、今もデレを疑いきれない。

「優しさだけじゃ生きていけない」

モララーにそう言われることが、ブーンには何度もあった。
懐かしい思い出だ。

218 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:07:54 ID:x6g1yXaQ0
大抵は、ブーンがドジを踏んで、それをモララーが窘める。

初めて会った日から何度も一緒に特訓をした。
ブーンにとってモララーは憧れの存在だったから。

モララーにいくら怒られても、呆れられても、ブーンにはそれが嬉しかった。
少しずつでもモララーに近づければいいと思った。

実技の成績は震わなくても
必死でその背中を追いかけた。

並行して座学の成績が良くなったのは、その向上心があったからかもしれない。

自分にできることを精一杯やってきた。

優しさだって、そのひとつだ。
誇らしくも思っている。

219 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:09:00 ID:x6g1yXaQ0
でも




「優しさだけじゃ生きていけない」




そして




それを言ってくれた人ももういない。

220 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:10:08 ID:x6g1yXaQ0
部屋でツンと会ったときに、涙は枯れたと思ったのに
目の前が霞む。

火が収まり、神父が現れて言葉を残す。
神の名が現れても、人間の情感を切に語っても
耳には何も残らなかった。

解散となる。
人々が帰る。

王女もまた、背中を向けた。

ブーンはその背中を見つめていた。
何も返って来ないことはわかっていながら。

そうして、葬儀は終わった。






     ☆     ☆     ☆

221 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:10:51 ID:x6g1yXaQ0
数日後、ブーンは城下町へ降りた。

お城の前にある中央広場で、噴水の傍のベンチに座り、人ごみを眺めていた。
町に出れば気がまぎれるとシラヒーゲ政務官は言っていた。
だけど、町にはほとんど知り合いはいない。

適当に歩けば気がまぎれるなんて、そんな都合のいい話はない。
心はただでさえすさんでいるのに、人と会えれば幸せなんて。
そんな愉快な思考ができるような状況ではなかった。

憤りがあっても、所詮何もできないのだけど。

町並みそのものもどことなく沈んでいる。
ブーンの気持ちが暗いからそう見えるだけではない。

新嘗祭が延期になったからだ。

順を追って説明すれば、まず王女による秘密の調査は王女への襲撃に名前を変えた。
また、襲ったのは“野生の”魔人であることが強調された。
人間と暮らしている契約済みの魔人とは別の存在だとも説明された。

だけど、それでも城下町に不安が残った。
レジスタンスのリーダーも顔を出して、ラスティア城政務部を非難するパフォーマンスをしていたそうだ。
最近ではすっかり影になりを潜めていた連中だったが、そのときばかりは喝采だったらしい。

222 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:12:08 ID:x6g1yXaQ0
だから、このまま祭など開いてもお城への非難が集中するだけだと思われた。
祭を機会として暴動が起きるかもしれない。
城下町でそんなことが起きれば、国王一族及び貴族のメンツに関わる。

だから新嘗祭は延期になった。
都合がつけば来月に取り行われる予定だ。
ほとぼりが冷めるのを待ってから。

この場合、町の人々はその悲しみをぶつける相手を見失っていた。
確かに魔人への不安はあるかもしれない。
でもそれを表明したがために新嘗祭が引き延ばされてしまった。

些細なことかもしれないが、新嘗祭だって楽しみのひとつだったのだ。
その楽しみが奪われれば良い気持ちはしない。
だからしょんぼりするしかない。

ここまで考えて、ブーンはこの顛末の示す可能性に気付いた。

この一連の祭延期騒動は全てラスティア城政務部の策略ではないか。

223 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:13:08 ID:x6g1yXaQ0
まずはきっかけとなった事件に対する印象を変える。
さらに祭の延期という別の事件を作り出して民を悲しませる。
こうして価値判断の基準が混じることにより、魔人を一方的には責めにくい状況が作り出される。

この結果何が起こるかと言えば、ほとぼりがとっとと冷めていくことだ。
これこそが魂胆に思える。

その裏にひとりの優秀な衛兵の死があったとしても
簡単に忘却の彼方へと向かってしまうのだ。

と、ここでまた、思考がモララーに戻ってしまった。

ブーンは頭を振る。
あの人のことを考えちゃだめだ。
出口のない迷路が始まってしまう。

町並みに目線を向けた。
無理やりにでも集中できるものを探そうとした。

224 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:14:08 ID:x6g1yXaQ0
やがて、一人の小さな女の子に目が向いた。




从´ヮ`; = ;´ヮ`从ト キョロキョロ




年齢は一桁じゃないだろうか。
足をせわしなく動かして、広場の中央にある噴水に向かっていった。

噴水の前でくるくる。
何をしているのか少し気になった。

周りを見回しても、その子の親らしき姿は見つからない。
もしかして迷子なのではないか、ブーンの頭に疑惑が生まれる。

だとしたら保護しなくちゃならない。
町の治安を守ったり、国民を救済することも衛兵の仕事なのだから。

225 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:14:54 ID:x6g1yXaQ0
だけど



     グググ
从´ヮ`从ト





(〆  ヽ) ポコンッ
从´ヮ`从ト



( ^ω^)「あ……」





その子の耳が生えてきて、思いとどまった。

226 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:15:53 ID:x6g1yXaQ0
魔人だ。
まるっこい小さな耳。
タヌキの耳があんな形だったと思った。

魔人が町にいることは珍しいわけではない。
何かに使役されているのだろうか。
でもあんなに小さい魔人がそうそう役に立つとは思えない。

闇市場では愛玩用の魔人が売買されているらしいが、
こちらはあまりに低俗だとして厳しく取り締まられている。
だいたいそれだったら町中を自由に歩き回っていたりはしないだろう。

だとすれば、あの女の子の魔人は
たまたま城下町に来てしまった、魔人の迷子だろう。

(〆  ヽ)
从´ヮ`从ト「こにしかめやも〜」

( ^ω^)「……」

227 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:16:55 ID:x6g1yXaQ0
魔人といえども困ってはいる。
本来なら助けるべきだ。

だけど、身体はそれを拒んだ。

いくら優しいといえども限度はある。

しかたないじゃないか。
モララー先輩はあいつらの仲間に殺されたんだ。
ためらうのは仕方ないだろう。

ブーンは自分に言い聞かせた。

一方で、胸の奥の別の部分が反抗していた。
優しくあろうとする元々の自分の性根が、だ。
魔人でも、ちゃんと頭を持って、感情を持って、生きているんだ。

わかってはいる。
もちろん命は尊い。
差別なんてするつもりは……

ないはずだったのに。

228 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:17:54 ID:x6g1yXaQ0
思考を逡巡させるのに疲れた。
酷い話だ。落ち着こうとしてこんなに気持ちが乱されるなんて。
思わず横を向く。現実から逃げるため。
魔人から目をそむけるため。

('A`)「よっ」

ベンチの横に、人がいるのにようやく気付いた。

( ^ω^)「え?」

(;^ω^)「え、ええええ!? ドクオさん!?」

いなくなっていると聞いたのは、あの政務室でのことだった。
そのドクオが今目の前にいる。

何かの間違いじゃないのかと、ブーンは目をこすった。
ゆっくりと目を開けても、まだドクオはいる。
幻覚じゃない。

( ^ω^)「……本人なんですかお?」

('A`)「あたりまえよ。
 なんならさわってみるか?」

( ^ω^)「いや……」

229 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:19:07 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは首を振り、ドクオに顔を向ける。

聞きたい話はまだまだある。

( ^ω^)「無事なのならどうしてここにいるんですかお?
 早くお城に帰還したことを伝えないと」

('A`)「いや、いいんだ。あそこにはもう戻らん」

ドクオは厳然とした口調で言う。

('A`)「モララーを殺した奴らのところにはな」

( ^ω^)「……見ていたのですかお」

('A`)「ああ。王女と、ロマネスクと、魔人との繋がりをな。
 あのとき俺は一足先に攻撃を食らって倒れていた。
 でもそのおかげであいつらに発見されずにすんだ」

( ^ω^)「けがとか大丈夫なんですかお?」

230 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:19:53 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「まだ痛むけど、そんなに深くはないさ。
 あいつらから逃げ切れたくらいだからな」

ドクオはそう言って、腕を組む。

('A`)「モララーの葬儀はあったか?」

( ^ω^)「……先日の晩に」

あの日の赤い炎が脳裏によみがえる。
モララーは確かに送られた。

ふと、デレの手で覆われた顔も思い浮かんだ。
こんなときに何を思い出しているんだと、自分を諌めた。

魔人のことは仕方ないと言って憎んでおきながら
王女は許せるなんて、そんなの都合よすぎる。

('A`)「そうか。それはちょっと行きたかったかな」

( ^ω^)「……僕はあんまり行きたくなかったですお。
 一応、顔は出したんですけど」

('A`)「……モララーの死を受け入れられないから?」

( ^ω^)「そういうことですお」

231 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:21:07 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「まあ、そうだな。
 あんなにあっさり死んじまうなんて、思いもよらないさ」

ドクオはそういって、肩をすくめる。

('A`)「ところで、どうして幼女をじっと見ていたんだ」

突然話が切り替わり、ブーンは焦った。

(;^ω^)「べ、別に幼女だから見ていたってわけじゃ!」

('A`)「じゃあなんでだ?
 あの女の子が魔人だったからか?」

( ^ω^)「それは……」

すぐには答えられなかった。
噴水に目を向ける。

あのタヌキ耳の女の子はすでにいなくなっていた。

自分はあの女の子をどんな目でみていたのだろう。
やっぱり敵としてだろうか。

232 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:21:50 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「気持ちはわかる」

('A`)「俺も、なあ。どうしてもそういう気持ちになることはある」

('A`)「俺がこの鼻を抉られたときも」

ドクオはそういって、自分の鼻をかいた。
見た目ではそう不思議ではない。
ただ少しだけ浮き上がって見えるくらいの鼻。

('A`)「俺にはな、魔人の匂いがわかるんだ。
 魔人に襲われたときに匂いを覚えたのか、不思議な力の影響なのかはわからなねえ。
 とにかく、魔人が近くに居ればわかるし、やろうと思えば身を隠せる」

( ^ω^)「……だから逃げられたんですかお?」

そう聞くと、ドクオはふふっと笑った。

('A`)「そうだな、皮肉な話だ」

('A`)「俺はいまだに嫌な気持ちを抱いているってのに。
 だからたとえあんな小さな魔人だとしても、見たときにはつい思い出しちまう」

233 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:22:53 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「魔人を憎む気持ちがですかお?」

言いながら、心の隅がちくりとする自分に気付いた。
まだ割り切れない自分がいるのかと腹が立った。

('A`)「そうだ。
 今回だって、モララーに手を出したのは魔人。
 結局はあの種族の存在が邪魔をしてきたといえる」

ブーンは何も言わずにいた。

矛盾する気持ち。
この世界に存在する違和感。
それらが混ざり、言葉にならずに溶け合う。

しばらく沈黙する二人。

町の賑わいが確かに目の前になる。
でもその音がひどく遠くから聞える。

ずっと遠くの映像としての喧騒。
ただ眺めるためだけのもの。

234 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:23:53 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「……なあ。ブーン」

ドクオは目を広場に向けて言う。

('A`)「お前は魔人のことをどう思う」

魔人、という言葉を、ブーンは頭の中で反芻した。
300年前に突然現れた、もう一つの人類。

( ^ω^)「……今の気持ちを度外視すれば、便利な存在だと思いますお」

ブーンは今まで魔人に取り憑かれたことはなかった。
それでも魔人によって利益を得ている人の話は聞いているし、
公共の交通機関、通信、インフラ、製品やサービス等で魔人の恩恵に与る機会はあった。

だから以前から単純に、人間の生活を豊かにする存在として認識してはいた。
おそらくこの世界の大半の人間が持っている共通認識だ。

235 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:25:08 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「それはつまり、人間が魔人を使う、という意味で?」

( ^ω^)「ええ……」

('A`)「……そうか」

ドクオは、ふっと息を吐いて、それから頬杖をついた。

('A`)「モララーは、そうは思っていなかったんだ」

( ^ω^)「……え?」

どういうことだろう。
ブーンの疑問の声を受けて、ドクオは話を続ける。

('A`)「魔人が現れてから100年経った頃までは、魔人の軍事利用が検討されていた。
 魔人を使っての戦争だ。そのために人間はたくさん魔人と契約した。
 いわば人間を使用者側としての最大の使い方だ。最悪な使い方でもあったけどな」

236 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:25:51 ID:x6g1yXaQ0
('A`)「やがて、冷戦が100年目を迎えた時に人間は気付いた。
 このままではいけない。魔人の力が暴走すれば何が起こるかわからない。
 ひょっとしたらこの世が滅んでしまうかもしれない。魔人の不思議な力は得体がしれないんだから」

('A`)「その疑惑から、あっという間に民間人に反戦論が広まった。
 そしてそんな奴らはすぐに軍隊の解体を目指し、あろうことか魔人にまでお願いをした。
 お願いを聞きいれた魔人は、不思議な力が行使できるようになってしまった」

('A`)「結果として人間は強大な軍事力を持てなくなった。
 あくまでも自衛のためのものしか、な。それ以上は他国の望みに反するから、魔人に壊されてしまう。
 もっとも、その頃契約した魔人はすでにこの世にいないだろう」

('A`)「だから、今から軍事力を作ろうとすれば魔人に邪魔されずに作れるかもしれない。
 でも、もう現代人にそれだけの気概は無い。
 誰も戦争をしないし、魔人とだって争わない。平和に生きていければいい」

('A`)「そうして人間は魔人と共存を始めた。
 だけど、それは決して対等ではない。
 もちろん間抜けな人間はそれを見抜けず、自分たちが魔人を支配していると思い込んでいる」

('A`)「だけど、そうじゃない人もいる。
 魔人と協力した結果として、俺たち人間は発展を放棄した。
 人間が数百年かければ生まれたかもしれない便利さを、魔人によって叶えてしまったんだ」

('A`)「それは、果たして幸せなことなんだろうか。
 俺たちは300年間、停まっている。魔人がいなければ何もできない生き物になってきている。
 それは本当に自由か? 魔人を使っていると本当に言えるのか?」

237 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:26:53 ID:x6g1yXaQ0
そこから、ドクオは一段と声を大きくした。
この後続く言葉こそ、ドクオが一番言いたかったことなのだろうと思った。
ひいては、モララーの一番言いたかったことだ。

('A`)「俺たちはむしろ魔人によってその行動を制約されているんじゃないか?」

('A`)「人間にはもっと可能性がある。
 魔人なんていなくても、それと同等のことはできたはずだ。
 俺たちは魔人のせいでその可能性を潰してきてしまったんだ」


背筋がぞくっとした。
人間だけによる発展など今まで考えもしなかった。


('A`)「俺たちは便利な力も得られている。
 一見すれば何にも縛られていない。幸せそのものだ。
 籠の中の鳥と比べれば、俺たちは外に出て羽ばたいている自由な鳥だ」

('A`)「でもその鳥には制約がある。
 結局は飼われている鳥さ、飼い主に同情されて籠からたまに出されるとしても、
 その首には紐があって、一定の距離を飛んだらいずれ籠に戻されてしまう」

('A`)「それが、果たして自由かな」

238 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:28:07 ID:x6g1yXaQ0
鳥肌が立つのを感じた。
新しい何かを見つけたとき、人はそう反応する。

ドクオの言うことを、ブーンは頭の中で想像した。

人間の可能性について。

人間が魔人の力なしで何十キロも移動したり、空を飛んだり、海の中にもぐったり
そんなことができると言うのか。

だとしたらそれは、完全な自由だ。

('A`)「モララーの憤りはこれだった。
 だからあいつは、人間を魔人から解放しようと企んでいた。
 魔人を倒して、森にかえすことで」

('A`)「面白い奴じゃないか」

わずかながらに顔を歪ませて、ドクオが笑う。
すぐに真顔にもどり、ブーンの目を見つめてきた。

('A`)「なあ、ブーン。魔人についてどう思う?」

ドクオはさっきと同じ質問を投げかけてきた。
ブーンは答えに詰まる。

239 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:28:51 ID:x6g1yXaQ0
魔人が道具でもないとすれば、何だろう。
人類を損なわせるための生き物なのだろうか。
でも、だったらなんで人間を助けるのだろう。

('A`)「……難しいか」

(;^ω^)「……うまく言葉にまとまらないんですお。
 その……すごいことだとは思うんですけども……」

ブーンは申し訳なくて、頭を下げる。
画期的な発想には思えた。
モララーの死に対する憤りを発散できそうにも。

だけど素直に答えられない。
今のところは。

この気持ちを整理するには時間がかかりそうに思えた。

だからブーンは答えられなかった。

すると、ドクオは何事かを考えるように口元を手で覆った。

('A`)「……実はな、モララーはお前が凄い奴だと評価していたんだ」

突然の言葉に、ブーンは首を傾げた。

240 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:29:54 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「へ? すごい?」

('A`)「ああ。
 あいつはきっと、俺たちにできないことをやってくれるってな」

俺たちにできないこと?

モララーさんにできなくて、僕ができることなんてあるだろうか。
まったく心当たりが無い。

('A`)「あいつがどういう意味で言ったのかはわからない。
 でも、そういう言葉がある以上は、お前を試す機会があると思った」

そういって、ドクオは言葉を切る。
胸ポケットに手を突っ込んで、平べったい黄金色のバッジを取りだした。

('A`)「もし興味があれば、ここに来てくれ」

ドクオがバッジを差し出す。

241 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:30:49 ID:x6g1yXaQ0
その横長のバッジに描かれていたのは

各々の剣を突き合わせたカエルたちの絵と、『三匹のカエル』という酒屋の名前

そして『レジスタンス会員証』という文字列だった。





     ☆     ☆     ☆

242 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:31:53 ID:x6g1yXaQ0
ドクオはその場をすぐに去った。
建前では行方不明だからだろう。
城下町を素早く、影の部分を選びながら駆けていき、人ごみに紛れていしまった。

ブーンは時間をおいてから歩きだした。

三匹のカエルは町の中にもいくつか看板を出していた。
ただ看板の矢印を完全に信じたがために、必要以上に大回りをしてしまった。

ようやく辿り憑いた時、その場所が広場からそう遠くはないことに気付いてブーンはがっかりした。

それでも気を取り直して、看板を確認する。

バッジと同じ絵。
剣を突き合わせた三匹のカエル。

城下町のレジスタンスのマークだ。

どうしてカエルなのかは知らない。
気分かもしれない。

243 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:32:51 ID:x6g1yXaQ0
そして衛兵の中にレジスタンスがいるという話も、ブーンは知らなかった。
お城に刃向う人々が、衛兵の中にいるなどなかなか考えられないことだ。

ドクオの話し方からして、彼はレジスタンスなのだろう。
一体どうしてなのだろう。
先程のモララーの話と関係があるのだろうか。

そういえばモララーも最後に言っていた。

三匹のカエルを覚えておけ。

それはこの酒場のことか。

だとしたら、モララーもまたレジスタンス?

ということは、どういう立場の人だったのか。

お城に味方しながら、お城の敵とも味方する。

なんでそんなことを。

244 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:33:53 ID:x6g1yXaQ0
その事情を知るにはもっと詳しい話を聞く必要がある。

だからブーンはこの場所に来た。
まだレジスタンスに協力するかは考えていない。

とにかく、今自分が知りたいのはモララー先輩のことだ。
ブーンはそう思って、お店の前で頷いた。

ドアノブに手を駆ける。
押すことで中が見えた。
ただ、光の加減で良く見えない。

「はい、いらっしゃい」

気のない声がする。
お店のマスターだろう。
思いのほか若い声だ。

マスターもまたレジスタンスなのだろうか。
このお店は全体としてレジスタンスの集会場となっているとも思える。
とにかく入ってからいろいろと聞きたい。

245 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:34:53 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは完全に扉を開けて、中に入り込んだ。

( ^ω^)「こんにちは、です……お」

声が尻すぼみになる。
目が慣れていったために、状況が次第に認識できたからだ。

お店にはお客は一人だけだった。

('A`)「よし、来たな」

ドクオはすでに到着していたのだ。

でも、それを目の端に捉えつつも、ブーンの目はマスターにくぎ付けだった。

(;^ω^)「……は?」

混乱が口を突いて出てくる。
およそ人に向けていい音ではないものが。

246 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:35:54 ID:x6g1yXaQ0











(;゚∀゚)「……は?」

まったく同じ意味合いの音が、ブーンに向けても発せられた。
その若いマスターはどこからどうみても、あのときの少年だ。

手作り地球儀を取りあった少年、ジョルジュ。

247 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:36:59 ID:x6g1yXaQ0
城下町の酒場、『三匹のカエル』にて





ブーンは初めて仲間に遭遇した。





心の隅の奇妙な痛みを今は無視して





ただモララーの後を追いかけていた。

248 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:37:54 ID:x6g1yXaQ0







――  第二話 終わり  ――






――  第三話へ続く  ――



.

249名も無きAAのようです:2013/08/26(月) 23:38:15 ID:N2LbX6EE0
しかしホントにペース早いな
支援

250 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:39:07 ID:x6g1yXaQ0
――  コラム② 魔人  ――


(,,゚Д゚)




    グググ
(,,゚Д゚)



.∧∧  ピンッ
(,,゚Д゚)


.∧∧  
(,,゚Д゚)「耳がめんどくさい」

251 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:39:54 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「コラムの表題にはなっているが、俺たちについてまだ話せないことは多い。
 そもそも俺たち自身が自分たちの存在についてよくわかっていない。
 300年前の世代はさすがにもうこの世にいないからな」

.∧∧
(,,゚Д゚)「まず、俺たちの身体には動物の一部がある。
 普段は引っ込んでいて、仲間内や、力を使うとき、気分が昂ぶったときも出てきてしまう。
 耳以外にもあるやつはいるし、爪とか牙とか、中には出し入れどころか骨格レベルで変わっちゃう奴もいる」

.∧∧
(,,゚Д゚)「俺たちは基本的に自然の中にいる。特に暮らしやすいから森が人気だ。野生でも変わったやつだけ町へ行く。
 人間たちは俺たちに頼りたいときは森にやってくる。
 それで手頃な力が使えそうな奴を選んで、お願い事をするんだ」

252 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:40:54 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「俺たちはそのお願い事が叶えられるように不思議な力を使って頑張る。
 まあ簡単な力仕事くらいなら、力なんぞ使わなくても平気なんだがな。
 それと、たまに自分の方からお願い事を聞きに行く積極的な奴もいるらしい」

.∧∧
(,,゚Д゚)「不思議な力は何でもありというわけでもない。
 作中でも答えたが、大半は肉体強化だ。
 そしてたまに自然現象を操ったり、超能力を操る奴が現れる」

.∧∧
(,,゚Д゚)「その力はあくまでも現実にあり得そうな限り発揮できるんだ。
 何もないところからは何も生まれない。作中の靄だって、あまりにも空気が乾燥していたら出ない。
 個体によってもその度合いは違う」

.∧∧
(,,゚Д゚)「人類は発展をやめたとドクオは言うが、不思議な力を使ってちょっとずつ良い製品が生まれたりしている。
 作中では写真がその例だ。ただ、感光材とかは使わずに
 紙やガラスに不思議な力によって正確な絵を表すことで写真としている」

.∧∧
(,,゚Д゚)「今後、うっかり18世紀後半になかったものが作中で現れても
 きっとそれは不思議な力によるものだ。きっとそうだ。そうに違いない」

253 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:42:08 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「不思議な力はこのあたりにして、次の話にしよう。
 俺たちの性質について。つまり、願いをかなえたくなるという性質だ」
 
.∧∧
(,,゚Д゚)「同胞を大別すれば二種類。契約済みか野生か、だ。
 野生のは不思議な力を使えない。もし使っていたらそいつは本当は契約済みなんだろうな。
 契約が破棄されれば不思議な力は使えなくなる」

.∧∧
(,,゚Д゚)「なんでこんな仕組みなのかと言われたら、そう言いつけられているからとしか言えない。
 親の代からの命令なんだ。人間に協力してあげなさいってね。
 もちろん心だってちゃんとあるし、普通の人間とほとんど変わりなく暮らしている奴もいる。幸せな奴さ」

254 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/26(月) 23:42:51 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧ グググ
(,,゚Д゚)


    ヒュン
(,,゚Д゚)




(,,゚Д゚)「……あえて最後に言わせてもらうとすれば
 俺たちのことを“魔人”と呼ぶのは人間だけだ。俺たちは俺たちのことを普通に人だと思っている」


(,,゚Д゚)ノシ「それではまた次回。さすがに今回より時間が空くだろうなあ」





――  コラム② おわり  ――

255名も無きAAのようです:2013/08/26(月) 23:48:24 ID:uIIgNcxg0

ギコの最後のセリフが物語の核になってそうな雰囲気だな

256名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 00:03:15 ID:P42nA1/g0
おつ!

257名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 00:52:25 ID:LDUumxIk0
面白い乙
ここからどう転んでいくのかね

258名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 02:14:40 ID:zgkxYIy20

ここでまさかのジョルジュ…わくわくするぜ

259名も無きAAのようです:2013/08/27(火) 03:12:50 ID:KZYrO.ywO
読み終わった、予告から察すればここまでは書き終わってたのかな?

260 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/28(水) 15:47:31 ID:DwMEyd4M0










―― 予告 ――









.

261 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/28(水) 15:48:36 ID:DwMEyd4M0
('A`)「……ちゃんとやるんならな」

そういうドクオの表情には、既に諦めの色が浮かんでいた。
そうとは知らず、ジョルジュは「よし!」と気合を入れる。

( ゚∀゚)「じゃ、俺はいくぞ! ブーンも足を引っ張るなよな」

( ^ω^)「……おー」

さっきまでブーンに向けていた怒りはどこへやら
ジョルジュは楽しそうに走っていった。

目標があれば、ひとまずそれにひた走るタイプなのだろう。

どこまでも調子の良い奴だと、その背中を見つめながら思った。

('A`)「で、ブーンは……」

ドクオはブーンの右手に握られたものを指さした。

262 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/28(水) 15:49:49 ID:DwMEyd4M0
('A`)「それで大丈夫なんだろうな? 心変わりしないか?
 木刀とかもちゃんと在庫はあるんだが」

ドクオが確かめるのも無理はなかった。

武器は貸与された。
ヒートを捕まえるためならなんだって準備したという。

それでも、どうしても攻撃することが嫌だったブーンは
紹介された武器を全て無視して、酒場の隅に忘れ去られた客の持ち物を選んだ。

( ^ω^)「僕はこれで十分ですお。
 相手は女の子なんだし、木刀なんて物騒な物持ってられないですお」

そういって、ブーンは自分の得物を顎で指す。

それは、どこからどうみても平凡な虫取り網だった。

263 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/28(水) 15:51:38 ID:DwMEyd4M0










―― 第三話 ――




―― 勝てない理由と追いかけっこ ――









明日午後9時から投下開始

……なんか、書けちゃいました。一晩で。

264名も無きAAのようです:2013/08/28(水) 17:35:24 ID:nlwjBo5MO
ほんと書くの早いな、一年以上息を潜めてたやつとは思えない

265名も無きAAのようです:2013/08/29(木) 00:13:06 ID:OMA7RlEQ0
楽しみ

266 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 20:59:19 ID:LUlKybsE0
投下を始めます。

267 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:00:22 ID:LUlKybsE0
昼下がり

城下町
露店の建ち並ぶ一角

今は実りの秋。
露店には様々な農作物が躍り出ていた。

瑞々しい野菜、採れたての果物、それを求めて道を行く人々
商売の場には常に賑わいが生まれる。

新嘗祭延期の話が出てから、気落ちしていた町の人々も
その賑わいを楽しみたいがゆえにこの道を通っていた面もある。

そんな賑やかな通りにて

突然轟音が響き渡った。

268 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:01:35 ID:LUlKybsE0
通りの人々は一斉に音のした方向を見た。
土煙が上がっている。
とある果物屋の前で騒動が起こっていた。

頭を短く刈り込んだ青年が、道にへたりこんでいる。

(;゚∀゚)「ああああああ、ちくしょう!! 逃げられた!」

青年、ジョルジュは上を向いて叫んだ。
と同時に、その顔面に物体が投げつけられる。

( ×∀×)「のわああああ」

ジョルジュが倒れる原因となったそれは、洋梨だった。
採れたてらしく、黄色い色合いが煙の中で映える。

人から投げつけられたように見えた。
でも、町の人々が何人かその投げた人のいるはずの方角を見ても
何者の姿も発見できなかったという。

いや、正確にいえば、速すぎて確認できなかったのだ。

269 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:02:32 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「ジョルジュ! 大丈夫かお!?」

雑踏の中からもう一人の青年が飛び出してきた。
どういうわけかその肩は赤く染まっていた。

ブーンはジョルジュの傍に駆け寄り、屈んだ。

(;゚∀゚)「無事に見えるかばーか!
 逃げられちまったよ!」

やけくそ気味にジョルジュはブーンにつっかかった。

(;^ω^)「そんな、いつまでも尖がっている場合じゃないお」

(#゚∀゚)「なんだとこのやろう!」

270 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:03:27 ID:LUlKybsE0
ジョルジュは立ち上がろうとして腕を下に降ろした。
しかし、その動きが途中で止まる。

ようやく晴れてきた煙。
果物屋の前に佇む人の姿が露わになる。

このお店の店主の姿。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)

毅然と立ち尽くすその姿。
口を閉じ、腕を組んで
物も言わずに静かに二人の青年を見下ろしている。

二人の青年は店主の女性を見上げていた。
身体が固まっている。

やがて、女性はゆっくりと口を開いた。

 @@@
@#_、_@
 (  ノ`)「お勘定」

271 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:05:06 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「ああ……もうだめだ……」

すっかり圧倒されてしまったのか、ジョルジュは泣きごとを漏らした。

(;^ω^)「ジョルジュ! 諦めるなお!」

ブーンが必死に呼びかける。

(;゚∀゚)「なんだよ! じゃあどうすりゃいいって!」

(;^ω^)「協力するんだお! そうしなきゃあの人には勝てないお!」

喚いている間に、店主の身体がゆらりと傾き始める。
行動が始まるのは明らかだ。

(;^ω^)「あの人に立ち向かう策ならあるお! だから!」

ブーンは立ち上がり、手を伸ばす。
ジョルジュを引き上げるために。

その手をぼんやり眺めていたジョルジュ。
焦りの顔から、少しずつ、歪んでいく。
引きつった笑みが浮かんでくる。

272 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:06:35 ID:LUlKybsE0
(;゚∀゚)「ほんとうだろうな? 策があるって」

ジョルジュが震える声で問いかける。

そのとき、とうとう店主が足を青年たちに近づけた。
その手には大きな看板が握られている。

高く、看板が降りあげられる。
そのまま振り下ろされれば、二人はひとたまりもない。

ブーンは一回だけ頷いた。
それだけで、ジョルジュは瞬時にブーンの手を握った。

(;゚∀゚)「じっくり教えろよな!」

叫ぶように答えながら、二人は走り出す。
同時に看板が空を切る。
さっきまで二人がいた場所へ。

273 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:07:46 ID:LUlKybsE0
こうして二人は、再び彼女を捕まえるために走り出した。



すでに数十メートル先を駆けている、あの赤毛の女性を捕まえるために。



そんなことを知ってか知らずか



ノパ⊿゚)「洋梨うめえわ」



女性は今もまだ、洋梨の詰まった袋片手に、城下町の屋根の上をひた走っていた。




     ☆     ☆     ☆

274 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:08:52 ID:LUlKybsE0










――  第三話 勝てない理由と追いかけっこ  ――









.

275 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:09:37 ID:LUlKybsE0
時は数時間前に遡る

酒場、『三匹のカエル』


ジョルジュはいつものような朝を迎え、いつものように店の準備を始めた。

何も悪い予感など無かった。

たとえ道で黒猫に遮られても
靴ひもが突然切れても
お皿をうっかり割ってしまっても

いつもどおりにお店は開かなきゃならない。

11時からから15時までのランチタイム。
それまでに掃除をし、食器を洗って、食材の確認をする。

料理担当の奴はルーズだから、どうせぎりぎりまで来ない。
今のうちにチェックしておかなければ開店が遅れてしまう。

だから、一人でせっせと働いた。

276 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:10:40 ID:LUlKybsE0
一人になるとつい考え事をしてしまう。
ワインセラーを眺め、切れそうなものはないか確認しながら
先日亡くなった知り合いのことを思い出していた。

衛兵のエリートとして躍進していたモララーのこと。

葬儀は衛兵隊の身内だけで行われたと聞く。
もちろんそれが当然であり、仕方のないことであった。

それにしても、あの人が死んでしまうとは、いまだに信じられない。
あの人に対する恩は、まだまだ返し切れていないというのに。

苛立ちはあった。

こっそり帰還したドクオから話も聞いていたので、事情は知っている。
南の山の麓で魔人に襲われたこと。

277 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:11:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「正直言って、よくわからない点は結構ある。
 本当にあの人が死んだのか、それすらも疑問に思うことだってある」

帰還早々酒場に来たドクオがそう言っていた。

('A`)「俺だって実はなんであの任務に誘われたのかわかっちゃいない。
 モララーにはモララーの考えがあったのだろうけど」

('A`)「あいつは、俺に何を見せようとしたんだろうな」

渋い顔をして、そう呟くドクオ。
そのときジョルジュは、ドクオの向かいに座っていた。

('A`)「そうそう、あのとき他にも別の奴がいたんだった。
 ほら、お前もモララーさんからちょくちょく話をきいていただろ?」

もちろん、とそのときジョルジュは頷いていた。
何度も聞いた名前だ。
関わったのはもうずっと昔の話なのに、なぜか奴の名前は良く聞く。

278 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:12:41 ID:LUlKybsE0
彼がモララーと関わっている経緯も聞いていた。
皮肉にもそのきっかけは自分だったということも。

その点、嫌な気分もする。
自分はあんなに苦労したのに、あいつは何も悩まずにのうのうと衛兵を続けてやがる。

ジョルジュは彼が嫌いだった。

あのにやけた顔も、おどおどした態度も、人に頼ればなんとかなると思っていそうな全体像も。

だから、その少年の話はあまり聞きたくなくて、そのときのドクオの話も聞き流していた。

モララーと付き添って南の山に向かった少年、ブーンの話。

279 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:13:36 ID:LUlKybsE0
お店の玄関が開けられて、顔をはっと上げる。

('A`)「よう」

青白い顔が覗く。
すっかり足のけがも治ったようで。すたすたとカウンター席まで歩いてきた。

('A`)「ジョルジュ、今日はこのあとお客さんが来るんだ」

( ゚∀゚)「お客?」

('A`)「そう、でな。俺はそいつに入団テストをしたいと思っている」

いきなり本題を話してくるものだから、ジョルジュは面食らった。

( ゚∀゚)「テストって……まさかレジスタンスの?」

ここ、『三匹のカエル』はレジスタンスのアジトの役割も果たしている。
関係者以外立ち入り禁止の扉をくぐれば、そこには秘密の部屋が隠れている。
レジスタンスは活動する場合、その部屋に籠って作戦を練り、行動を起こしていた。

280 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:15:02 ID:LUlKybsE0
('A`)「そうだ」

( ゚∀゚)「おおお、まじか! 俺以来だな!」

嬉しそうにジョルジュが言う。
彼がレジスタンスに入団したのは去年の冬だった。
さらに言えば、レジスタンスで入団テストをしたのも彼が初めてであった。

( ゚∀゚)「なあなあ、入団テスト俺がやっていい?」

('A`)「いいぞ。見るからにやりたそうな顔をしているからなあ」

( ゚∀゚)「そりゃあだって、今まで俺しかやってもらえなかったんだもの。
 しかも相手はあのモララーさんだったし、あれは酷い目にあった」

ジョルジュが思い浮かべたのは、雪の降るかつての日。
その日、一晩をかけてジョルジュは入団テストを受けた。
あのとき受けた辛さはなかなか忘れられるものではない。

あれを自分だけがくらっているというのは、悔しいものであった。
悔しいという気持ちが何よりも嫌いなジョルジュは、その気持ちを早々に払拭したかったのである。

281 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:15:42 ID:LUlKybsE0
だから、わくわくしてその客人を待った。

数分が経過し、「迷ってるかもなあ」とドクオが漏らした頃
ようやく扉が開いた。

はやる気持ちを抑え、ジョルジュが見つめる先に立っていた人物は
自分が最も見たくないと思っていた人間だった。




     ☆     ☆     ☆

282 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:16:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「あれ、まさか知り合いだったのか?」

ジョルジュとブーンを相互に見てから、ドクオがジョルジュに話しかけた。

('A`)「お前があの衛兵見習いの中にいたのはほんの少しの間って聞いていたが」

( ゚∀゚)「……その少しの間に会ったんだよ」

ジョルジュはきまり悪そうにそういうと、眉間に皺を寄せた。

( ゚∀゚)「むしろ、質問したいのはこっちなんだが。
 どうしてこいつがここにいるんだ?」

ジョルジュの指がまっすぐ、ブーンに向けられる。
ブーンは再びジョルジュと向かい合う形となる。

( ^ω^)「ドクオさんが来いって」

('A`)「そうだ。俺が呼んだ。
 俺が誘ったのはこいつだよ」

283 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:17:44 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「何勝手に決めてんすか! ドクオさん!」

ジョルジュが声を荒げ、テーブルを叩いた。
端のグラスがぐらぐらと揺れる。

(#゚∀゚)「ただでさえ、俺たちへの風当たりが強くなっているってのに。
 ……そうだ、この前のパフォーマンスだって、せっかくリーダーと一緒に考えて頑張ったのに
 新嘗祭に影響したくらいで、すぐに町の連中冷めちまうし」

(#゚∀゚)「とにかく、今はレジスタンスの人口増やすよりも、今後の方針を立てるべきでしょう。
 ひょっとしたらこいつだって、俺らの情報を漏らすために来たのかもしれないし」

('A`)「そんなことはないさ」

( ゚∀゚)「なんでですか」

('A`)「こいつは、モララーさんに認められた男だったからだよ。
 あの人の最期のときもいたしな」

( ゚∀゚)「……」

284 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:18:40 ID:LUlKybsE0
(;^ω^)「えっと、ちょっといいですかお?」

ブーンがおずおずと手を挙げる。

('A`)「はいよ、どうぞ」

(;^ω^)「なんというか、状況がまったく飲み込めないんですお」

ブーンは正直に話した。

(;^ω^)「とりあえず、ドクオさんはレジスタンスなんですかお?
 それで、僕をレジスタンスに誘っているってことですかお?」

('A`)「その通り」

あっさりとドクオは頷いた。
ジョルジュの舌打ちが聞こえたが、今は気にせず進める。

( ^ω^)「それで、モララーさんもレジスタンスだったんですかお?」

('A`)「いや……ちょっと違う。
 モララーさんは俺たちに協力してくれていただけだ」

285 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:19:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「協力?」

('A`)「そうだな……まずレジスタンスについてはどんな印象を抱いている?」

( ^ω^)「そりゃあ、魔人が城下町に入ることを拒んでいた人たちですお。
 それでときどき広場とか街頭でデモやパフォーマンスをしたり
 時折過激な人たちが魔人相手に騒ぎを起こしたり」

('A`)「まあ、そういうことで衛兵の厄介になることもある。
 そして俺とモララーは衛兵の立場から、こっそりレジスタンスが活動を続けられるようにはからっていたんだよ。
 協力ってのはそういう陰ながらの強力な」

('A`)「モララーは立場上レジスタンスには入ってくれなかった。
 もし入っていたら国王からも気にいられることはなかっただろうしな。
 別に入団するしないは問題じゃない。あいつに助けられたことは大きい」

モララーは魔人を憎んでいた。
だからその魔人と敵対する人々と協力していた。
こっそりと、国王からも隠れて。

ブーンはドクオの説明を受けて、暗躍するモララーの姿を想像した。

( ^ω^)「……知らなかったですお」

('A`)「そうだな。結構あいつは隠しごとが多かった。嫌か?」

286 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:20:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「んー、でも魔人を嫌っていたのは本当ですお。
 だから、まあそんな裏の一面があっても納得できるかなと」

人間一つか二つ、別の顔があるものだ。
ブーンはそのことに思い至った。
モララーにしたって、そんな別の顔があっても問題ではない。

むしろ、魔人と対峙するという点において一致しているあたり、芯が通っているとも思えた。

('A`)「そうか、良かった。
 それで、モララーさんが良く話していたお前をここに連れてきたんだ」

( ^ω^)「良く話していたって、さっき言ってた『できないことができる』ってやつですかお?」

('A`)「ああ」

やはりあっさりと答えるドクオ。

でも、ブーンからしてみたら、やっぱり納得できない。
その点だけはどうしても。

(;^ω^)「申し訳ないんですが、やっぱり思い当らないですお。
 自分に何かができるなんて」

287 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:21:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「どうかな。それを判断するのは俺たちだ」

ドクオは自分と、ジョルジュを順番に指さした。
ジョルジュは露骨に嫌そうな顔をする。

( ゚∀゚)「いくらこいつが役立ちそうでも、仲間になりたくないんですけど」

忌憚なくひどいことを言ってのける。
しかし彼の魔人がいなくなったのは自分と関わったせいだったはず。
だからそっけなくされてもしかたないかとブーンは思った。

( ^ω^)「あれ?」

そこで、違和感に気付いた。

( ^ω^)「それじゃ、ジョルジュもモララーさんと会っていたのかお?」

質問をすると、ジョルジュは流し目でブーンを見た。

( ゚∀゚)「ああ、たまーにな。
 この酒場にもちょくちょく顔出してくれていたし」

( ^ω^)「じゃあ、モララーさんのこと憎んだりしてなかったのかお?」

( ゚∀゚)「え? ああ、だって」

288 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:22:42 ID:LUlKybsE0
そこで、ジョルジュは目を閉じた。
顔が妙に緩んでいる。

次に目を開けたとき、なぜだかその目は輝いていた。

(*゚∀゚)「かっこいいんだもん!」

ジョルジュが手をぱたぱたと動かして、感情をあらわにした。

(*゚∀゚)「初めてみたときからさ、魔人をこう、がーってやっつけてさ!
 人間なのにこんなことできるやつすっげーって思ったら尊敬しちゃって」

(;^ω^)「……」

( ゚∀゚)「何か言いたそうだな」

(;^ω^)「え? あ、いえ」

白状すれば、呆気にとられていた。
あの2年前に会った少年が、こんなに楽しそうに話しだすとは思ってもみなかった。
どうにも印象が変わっている。彼もかなり変わった成長の仕方をしたのではないだろうか。

そして何よりも、彼が自分と同じ気持ちを抱いていることがわかり
ブーンはどこか嬉しいと思っていた。

(*^ω^)「なんでもないおー」

289 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:23:39 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「明らかに笑ってんだろてめえ!」

(*^ω^)「親近感だお親近感」

( ゚∀゚)「はあ?」

口が悪いのは変わっていないみたいだ。

( ^ω^)「ていうか、それで魔人と離れたことはもう良くなったんかお?」

( ゚∀゚)「ああ、俺もう魔人嫌いだ。
 俺の家族もみんな魔人嫌いになっていったし、もううちは人間味溢れているぜ」

けろっとした表情で言う。
ひどく淡白な内容だが、2年もたてば人はそれくらい変わるのかもしれない。

( ^ω^)「じゃ、別に僕嫌われる必要無いんじゃ」

( ゚∀゚)「いや、お前は嫌だ」

290 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:24:41 ID:LUlKybsE0
びしっと指を指される。

ブーンはわけがわからず瞬きした。

(;^ω^)「は? なんでだお?」

こうもはっきり拒否されてしまうと、どうしようもない。
第一意味がわからない。
だから首を傾げて質問をした。

ジョルジュは目を細めて、ブーンを睨みつけてくる。

( ゚∀゚)「あのときみじめな思いをさせられた恨みがあるからな」

ブーンはぽかんとして口を開けていた。
何をいいだすんだろう、こいつは。

そんな小さな矜持のために、僕はこいつに恨まれているというのか。

なんという

なんという調子のいい奴だ。

ジョルジュに抱きかけていた親近感が、急速に遠ざかる。
呆れて物も言えない。

やがて、胸の奥からふつふつと別の感情が湧いてくる。

291 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:25:35 ID:LUlKybsE0
( ^ω^)「……あのときだってきっかけはジョルジュがちょっかいだしてきたからなのに。
 人の地球儀を壊そうとまでしておいて、ただ食べ物吹き付けたくらいでそんな」

言葉を無理やりまとめていく。

言いたいことが多すぎて大変だった。

( ^ω^)「いまだに僕やツンには謝罪の一言もなしで
 それでいてモララーさんとはすっかり仲良くなっていて
 僕だけいまだに許せないなんて……」

久しく忘れていた感情だった。
人に嫌われることを恐れていたかつての自分は、持つことを許されなかった気持ち。

それが今、目の前のジョルジュに向かって発現しようとしていた。
あまりにも頭にきたから。

(#^ω^)「お前どんだけ身勝手なんだお!」

久しぶりの怒声は、店内に響いた。
ジョルジュにもちゃんと届いたようで、彼は一瞬身動ぎした。

292 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:26:35 ID:LUlKybsE0
だけど、すぐに体勢を戻して、ジョルジュはブーンを睨みつける。

( ゚∀゚)「だいたい、お前がモララーさんに気に入られていたってのも気に食わねえ!
 お前のこと、覚えているぞ! 別に大して力も無くて喚いていたじゃねえか」

(#^ω^)「あれから僕だって特訓したんだお! モララーさんとともに!」

( ゚∀゚)「それなのに同期の順位じゃ下から数えた方がはやいのか?」

(;^ω^)「な、なんでそれを……」

( ゚∀゚)「モララーさんとか、他の衛兵の客とかが教えてくれたからな。
 情けないなあ、教えてもらったこと全部耳から抜け落ちていたんじゃねえの?」

(;^ω^)「そ、それは……」

順位が下なのは事実だ。
それは変えようもない。
だから、突き付けられると反論のしようが無い。

293 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:27:41 ID:LUlKybsE0
ブーンはすでに、さっき怒鳴ったときの勢いを失っていた。
口をもごもごと動かすも、何も言えない。
言葉が上手くまとまらない。

せっかく言い返したかったのに。
ジョルジュの言葉が胸に突き刺さってくる。
言葉を胸の奥に押し込めてしまう。

沈黙が流れた。

ジョルジュはいまだにブーンを睨んでいる。
警戒心がありありと浮かんでいた。

きっとジョルジュは僕の入団を認めてくれないだろう。
僕だって突然連れてこられただけだ。絶対入団しなくちゃならないわけじゃない。

そうだ、自分はどうしてこんなところにいるんだろう。
ドクオさんが連れてきただけだ。

だいたいその理由だって、何かモララーさんに褒められていたからってだけ。
その何かもわからない。
発揮できるようなものでもないだろう、そんなもの。

294 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:28:40 ID:LUlKybsE0
気持ちがどんどん後ろ向きになっていった。

帰りたい。
もう帰ってもいいんじゃないかな。

また今日一日悶々と過ごして、少しずつ心を回復して
それでまた職場復帰すればいいじゃないか。
それが僕の人生だ。

そう、思って、目をジョルジュからそむけた。
ドクオの方を見ようとした。

もう帰ります、その一言を言うために。

だけど

('A`)「よし、挨拶はすんだな」

ドクオの言葉に遮られる。

彼は手をぱんっと打ち鳴らした。

295 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:29:39 ID:LUlKybsE0
('A`)「ジョルジュ、ブーンが仲間に入るかどうかはお前がチェックしろ」

「は?」というジョルジュをよそに、ドクオが話を進めていく。

('A`)「入団テストだよ。
 奥の訓練部屋があるだろ。そこでやるぞ。
 お前が相手してやるんだ、ジョルジュ」

あっという間だった。

ブーンは文句も、批判も、泣き言もいう隙が無かった。

ドクオはそそくさと酒場の奥の扉を開けてしまう。
カウンターの端、『関係者以外立ち入り禁止』の文字。
本来なら店員しか入れないところ。

ドクオは半身だけそこにいれて、振り向いた。
ブーンを手招きする。

296 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:30:35 ID:LUlKybsE0
('A`)「ほら、入れ。
 木刀用意しといてやるから」

(;^ω^)「い、いやえっと、拒否権は?」

('A`)「まあまあ、ちょっと試すだけだから」

(;^ω^)「それ、宗教勧誘とかの文句じゃ」

('A`)「お前が逃げたくても、あいつは気に入らないみたいだぞ」

ドクオはそういうと、ジョルジュの方を指さした。
見るまでも無く、痛い視線が突き刺さってくる。

(;^ω^)「じゃ、じゃあちょっと試すだけだお?」

('A`)「よしよし、それでいい」

のせられている感じは拭いきれないが
のらないとジョルジュがここを出してくれそうにない。

297 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:31:43 ID:LUlKybsE0
(#゚∀゚)「覚悟しろよてめえ、泣かしてやるからな」

ほらみろ、明らかに苛だちを明らかにしている。

触れたくない。
そればっかり考えていた。

それでもブーンは奥の扉へ入ることにした。

レジスタンス用の訓練部屋へ。





     ☆     ☆     ☆

298 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:32:37 ID:LUlKybsE0
('A`)「……」

訓練場にて、既に戦いは開始されていた。
目の前では木刀が振られている。

順を追って説明する。

まず入ってきたときに、ブーンとジョルジュ両方に防具を装備させた。
そして両者に木刀を与え、舞台に立たせた。

試合は三本勝負。
お互いに相手を狙い、上半身の防具に当たれば一本。
この程度のことなら見習いでも訓練の一環で行っていた。

だから、ブーンにもできる。
実際に実力を見るには一番いい形式のはずだった。

それに

「おーい」

突然背後の扉の奥から声が聞えた。

('A`)「誰だ?」

299 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:33:34 ID:LUlKybsE0
「私だ」

ぶしつけな答え方だが、よく知っていたのでドクオは頷いた。

('A`)「入っていいぞ、シュール」

扉が開けられる。

lw´‐ _‐ノv「お店開けといて誰もいないんじゃ不親切だろう」

入ってきていきなりの女性は、もっともな指摘をしてきた。

('A`)「ああ、ごめんな。
 すぐ終わると思ったんだが、意外と長引いちゃってさ」

そう言って舞台の方を指す。
相変わらず木刀が風を切る音がする。
呼吸だって乱れているのがわかる。

lw´‐ _‐ノv「……あれ?」

シュールがお店の側を覗いて呟いた。

('A`)「どうした?」

lw´‐ _‐ノv「いや……まあいいか。後で説明する」

300 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:34:41 ID:LUlKybsE0
lw´‐ _‐ノv「しかし入団テストか。懐かしいな」

('A`)「シュールのときはしてないんだっけ?」

lw´‐ _‐ノv「私は前の組織のときからずっとリーダーに従っていたから」

('A`)「へー、意外」

lw´‐ _‐ノv「ところで……どれくらいやってるんだ?」

('A`)「んー、1時間ってところかな」

lw´‐ _‐ノv「そんなにか? もうお昼だぞ」

('A`)「いやあ、びっくりだよね。ランチタイムもやってられんわ」

lw´‐ _‐ノv「さすがに見る目がなさすぎやしないかい?」

('A`)「仕方ないだろ。衛兵指導者だってあいつのこと、下に評価していたんだから」

lw´‐ _‐ノv「あいつって、あの見慣れない小さい奴?」

シュールは小さな手で、舞台の片隅に走るブーンを指した。
今も必死に足を動かして、攻撃をかわしている。

301 ◆MgfCBKfMmo:2013/08/29(木) 21:35:41 ID:LUlKybsE0
('A`)「そう」

lw´‐ _‐ノv「ふーん、で、お前の感想は?」

('A`)「何って、そりゃ、みたままだよ」

舞台全体を示すように、ドクオは両手を広げた。
木刀の空を切る音。

それだけしか、この1時間鳴っていなかった。

('A`)「昨今の指導者はまったく見る目がないってことさ」

ドクオはそう言って肩を竦めた。
顔には笑みがこぼれている。

目の前の光景にわくわくしていたから。






     ☆     ☆     ☆


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