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( ^ω^)優しい衛兵と冷たい王女のようですζ(゚ー゚*ζ
124
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/21(水) 23:54:59 ID:BuuB5olM0
( ゚д゚)「この設定は別に熟知しなくちゃ物語楽しめない、なんてことはないです」
( ゚д゚)「作中にも必要な説明は書いてありますし」
( ゚д゚)「面倒だったら、なんだかRPGのような世界がまかり通っていると理解すれば大丈夫です」
( ゚д゚)「ただ、スタート地点が魔王の城なだけなのです」
(゚д゚)ノシ まだまだ先は長いですが、できればせめて月一で書きたいなあと思います。
(| y | それではまた次回、お会いしましょう。
―― コラム① おわり ――
125
:
名も無きAAのようです
:2013/08/21(水) 23:57:56 ID:2s.aj1EQ0
乙
王女こええ…モララー(´;ω;`)
126
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 05:39:15 ID:mQ01Xi2Y0
乙
予想してた展開を大いに裏切られたお
127
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 10:09:22 ID:qDyc9qDE0
タイトル冷たい王女だったね…
王女こわい乙
128
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 14:59:38 ID:f3darNGg0
おお…ファンタジーだ
すげー期待してる乙
129
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 15:21:14 ID:41hr4lHsO
100レス超えとか長い一話だった、一気に読んじゃったけど
130
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 17:56:49 ID:6Mr8HB9A0
乙ー
魔人の力ってどの程度なの?
現れたのが18世紀末でなく21世紀の現代だったならやろうと思えば駆逐出来た感じ?
131
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 21:06:02 ID:Jc2XLkJY0
めちゃ続き楽しみ
132
:
名も無きAAのようです
:2013/08/22(木) 23:37:40 ID:Zs2.6sZc0
話も面白いし設定が俺得すぎる
期待しまくり
乙
133
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 00:36:16 ID:o1BK5jVMO
ω・)ブーン頑張れ
134
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/23(金) 00:44:32 ID:UHuBuTEc0
>>130
できる範囲で簡単に答えるとすれば、何もない素の状態では人間より防御力と攻撃力がちょっと優れている程度です。
18世紀末の人間でもやろうと思えばぶちのめせるし21世紀なら機械が発展しているからやっぱりぶちのめせます。
ただ不思議な力があるために本気で戦うと人間側が非常にしんどくなってしまうのと、争いしたら国家やばいという理由から仲良くしてます。
魔人は次回から本格的に登場しますので、そのときに説明があります。
135
:
名も無きAAのようです
:2013/08/23(金) 14:40:30 ID:izVHysBI0
第一話からして100レス越えとか気合が半端ないな。
これは期待、ゆっくり追わせてもらいます。
136
:
名も無きAAのようです
:2013/08/24(土) 01:16:51 ID:6kCH5sjI0
最後の「スタートが魔王の城」って説明にグッと惹かれた
超期待
137
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/25(日) 00:08:50 ID:Oz.RPzaI0
―― 予告 ――
.
138
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/25(日) 00:10:18 ID:Oz.RPzaI0
ツンの声だ。
彼女の声は今、抑揚が少ない。
感情を押し殺しているようにも思える。
通常、このような話し方をする人間はよほど感情表現が苦手なのではないかと心配になる。
でも、もちろんツンは違う。
今の彼女は感情をさらけ出すわけにはいかないのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「配達員の話によるとね、確かに部屋番号は同じだったって。
でも良く考えたら棟のアルファベットを見間違えていたらしいのよ」
頬を汗が伝うのを感じる。
お皿の上に、落下し、破裂した。
(゚A゚* )「へえ、それじゃ別の棟にいってたんだね。
どこかわかったの?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいえ、でももう検討はついているの。
だって、私のところに来ていた荷物は男物だったんですもの」
ミ*゚∀゚彡「なるほど! 男性用のAからFの棟のどこかってことね!」
(゚A゚* )「全部探すのに最大6往復か……もし手伝えそうなら手伝うよ!」
死刑台に送られる気分で、その会話を聞いていた。
今自分は13階段を上っているんだ。
139
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/25(日) 00:11:47 ID:Oz.RPzaI0
ミ*゚∀゚彡「3人で探せば2回で済むね!」
6から2
13階段が4.33段に
ξ゚⊿゚)ξ「あら……ありがとうみんな」
(゚A゚* )「これからずっと過ごすわけだし」
ミ*゚∀゚彡「これくらい協力してあげるって!」
ξ*゚⊿゚)ξ「それじゃ一番近いF棟から探してみましょ」
階段が爆発した。
140
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/25(日) 00:13:09 ID:Oz.RPzaI0
―― 第二話 手作り地球儀と三匹のカエル ――
次の月曜日の夜10時から投下開始。
141
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 00:22:23 ID:qFEqCjUg0
おお待ってる
142
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 00:53:17 ID:XlDu5Ers0
楽しみだよ
143
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 00:53:41 ID:vQPGbetIO
おい、3日で100レス書きあげたのかよ
期待して舞ってる、疲れたら休みながらだけど
144
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 01:46:09 ID:UprCnjmw0
ペース早すぎだぜ、無理すんねい!
145
:
名も無きAAのようです
:2013/08/25(日) 09:37:23 ID:mvDdyczk0
楽しみ楽しみ
146
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 21:55:13 ID:x6g1yXaQ0
そろそろ投下をはじめます。
147
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 21:56:17 ID:x6g1yXaQ0
2年前の9月
寄宿舎への入居が始まる月。
この日、ブーンはラスティア国の中央に位置するお城に到着した。
国王及び貴族が生活する城だ。
なぜなら、衛兵見習いとなるための申し出が受理されたからである。
南の南のそのまた南、鉱山と貿易の町から遙々、魔人に引かせた大型車でやってきた。
魔人の馬力は凄まじいが、それでも過重労働をしてしまうと体力がもたない。
ゆえに休みを挟みつつ、2日かけてたどり着いた。
それでも馬の倍以上の速さである。
寄宿舎F棟3階368号室
ブーンは自分の部屋番号を記したメモ書きを何度も確認した。
部屋を間違えるなんて面倒なことは起こしたくない。
入隊初日から他人に迷惑をかけて目をつけられるようなことはあってはいけない。
F棟の3階にたどり着き、ゆっくりと部屋番号を確認する。
300,310,320……
148
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 21:57:23 ID:x6g1yXaQ0
一つのブロックごとに10単位で扉の数字が増えていく。
扉の前に『入居予定』札が貼ってある部屋もみられる。
この寄宿舎に入居予定だが、いまだ入居者が来ていない部屋なのだろう。
それらの部屋の前にはたまに荷物が置かれていた。
先に荷物だけこちらに送っているということだ。
ブーンも同じこと立場であり、自分の部屋の前には荷物が積まれているはずであった。
340,350,360……
361,362,363……
ブーンは入隊についての合格発表を見ていたときを思い出していた。
あのときもこうして数字を一つ一つ見ていき、自分の数字を探したものだ。
何故かこんなときは異様に緊張してしまう。
たかが数字なのに。
もう入隊しているのだから心配はないのに。
365,366,367……
149
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 21:58:17 ID:x6g1yXaQ0
368
当然のことながら数字はあった。
ほっとして、扉の前の床を見る。
荷物があるはず。
荷物はあった。
綺麗に紐で縛られた赤い色の袋が1つ。
しかし、どうも小さい。
嫌な予感がした。
生活のための道具を母に頼んでいたはずだったのに、なんで小包1つで足りているのだろう。
独り暮らしはそんなに甘いものだろうか。
自分が難しいイメージを勝手に抱いていただけだろうか。
せめて母がどんな袋に包むかしっかり確認すればよかったと、ブーンは今更後悔した。
とにかく、袋を抱える。
中身は木箱だ。錠も何もない。
部屋の鍵はすでにあるのでいつでも入れるが、
この場でも木箱は簡単に開けられるように思えた。
150
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 21:59:21 ID:x6g1yXaQ0
赤い袋の結び目をほどく。袋はただの四角い布となる。
風流な色合いを浮かばせた木箱が露になる。
なかなか綺麗だが、はたしてこんな造詣が母にあったかなとわずかに疑問を覚えた。
木箱の蓋に手をかけ、はずす。
既にこのとき、この箱は自分のものではないのではという予想がブーンには立っていた。
それでも万が一ってこともあるから開ける。
もし見るからに自分のでなければ、事務所に持っていく。
それでいいと思っていた。
蓋の下に現れたのは、青い小さな地球儀だった。
ブーンは思わずその場で固まった。
まさかこんな箱の中から地球が出てくるとは。
それに、よくみればその地球儀は市販のものではないようであった。
材質は紙のようだが、弾力がある。
魔人の不思議な力によって強化されているのだろう。
この世界では良くあることだった。
その地球儀はかなり広範囲にまでペンでチェックが付されていた。
手書きでかかれた国名。
どうも二人か三人で書いたようだ。
達筆もあれば、稚拙な字もある。筆跡もばらばら。
151
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:00:19 ID:x6g1yXaQ0
これは自分のか、どうか、ブーンにはわかりかねた。
その所有者を現すサインが無かったからである。
もしかしたら母が、何らかの趣向でこの品を送りつけてくれたのかもしれない。
そうとなれば、手紙で確認する必要がある。
今時魔人を使えば、今から送っても明日には帰ってくるはずだ。
それから事務所に送っても問題はないように思えた。
何より、この地球儀には不思議な魅力があった。
製品では作り出せない親しみやすさ。
もう少し、この地球儀を眺めていたい。
そんな軽い気持ちだった。
だから、ブーンはその地球儀を抱えて、部屋に入っていったのだった。
152
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:01:20 ID:x6g1yXaQ0
―― 第二話 手作り地球儀と三匹のカエル ――
.
153
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:02:20 ID:x6g1yXaQ0
2年前の9月
寄宿舎G棟3階368号室
新設されたばかりのこの棟の一室の前。
「なによこれ!」
彼女は悲鳴に近い叫びをあげながら、その場に箱の中身をぶちまけていった。
周りからみれば、突然発狂したようにも見える。
だから、隣室にいる他の従者見習いの人々も、見てみぬふりをしていた。
彼女はそんな様子にも気づかなかった。
彼女はただ自宅に忘れた大切な思い出の品を届けさせただけだった。
今学期から入居し、従者見習いとして勤め始める彼女にとって、
その品は自分の心の支えとなるはずのものであった。
だからわくわくしてその到着する日を待っていたのである。
それなのに、今朝届けられたのは明らかに自分のものではなかった。
きっと事務職員が間違えたのだ。
こんなに怒れることがあろうか。
箱の中に手を伸ばし、萎びたストライプ柄のトランクスを手にしたとき
彼女はようやく手を止めた。
その代わりわなわなと震えはじめ、両手でトランクスを握り、くしゃくしゃと縮める。
無論、彼女はそんなもの履かなかった。
154
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:03:21 ID:x6g1yXaQ0
ξ#゚⊿゚)ξ「誰のだああああああああ!!」
雄叫びと共に、彼女改め、ツンが両腕を引き伸ばす。
トランクスは形を保てず、一瞬にして真っ二つになり、ただの布切れと化した。
事務職員め、自分に野郎の服飾なんぞ送りつけるとは。
たとえミスでも腹の虫がおさまらなかった。
一応その場に散乱した荷物を乱暴に箱に押し込める。
それを抱えて、事務室へ向かう。
こんなものなど突き返してくれる。すぐに自分の荷物にかえてもらおう。
誤配送ならば他の部屋にでも届けられているはず。
きっとその人だっておかしいと気づいて返しにくるはず。
トランクスの残骸をゴミ箱にぶちこみ、足音が聞こえるのではと思えるくらいの勢いで彼女は歩んでいった。
ツンは、よもや荷物が別の棟の全く同じ番号に送られているとは気づかなかった。
155
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:04:19 ID:x6g1yXaQ0
それが、ブーンとツン、そしてモララーの出会うきっかけとなった。
☆ ☆ ☆
156
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:05:19 ID:x6g1yXaQ0
お昼になり、ブーンは寄宿舎1階の大食堂へ赴いた。
自分の荷物については事務職員に相談を出しておいた。
ただ、今日は荷物が多かったらしく、誤配送のチェックは難航するらしい。
そこで可哀想ということで、食堂のタダ券をもらえた。
食事をして、ブーンが戻ってくるまでには見つけておいてあげるという意味合いだ。
荷物が無いことに対して一抹の不安はあったものの、ブーンはありがたくタダ券を頂戴した。
今はさっそくそのタダ券を片手に、どんな食事があるのか物色している最中であった。
食堂で一番大きな料理を手に抱え、長いテーブルの一席に腰を下ろす。
スプーンを手にとって、スープに手をつけた。
長旅の末の、ようやく摂取できた落ち着いた食事だったので、妙に身体に沁みた。
サラダを手前に持ってくる。
そのついでに周りをざっと見まわした。
まだそこまで席は埋まっていない。
入居者は一週間に渡って到着することになっていたし、まだ来ていない人はたくさんいた。
一週間後にはかなりにぎわってくるのではないか。
157
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:06:20 ID:x6g1yXaQ0
女性の姿がちらほら見受けられるのに気付き、
この寄宿舎が従者見習いとして女性の受入れを始めたことを思い出した。
以前の姿がどうだったのかは知らないが、すでに雰囲気が変わりつつあると先輩方がぼやいているのを耳にしていた。
今、ブーンが座っているテーブルより数個後ろのテーブルでも女性が固まっている。
今年入居したての人々なのだろう。まだこの場に慣れていないという様子だった。
何の気なしに、その女性たちの会話を耳にするブーン。
別に下心があったわけでもない。
気が付いたら意識が向いていた。
ミ*゚∀゚彡「でさー、そういえばあの子どうなったの?」
(゚A゚* )「あー、ひょっとして部屋の前で暴れていた子?」
ミ*゚∀゚彡「そうそう、なんか怖くて近寄れなかったからよくわからなくてさ。
あの子、なんで怒ってたの」
(゚A゚* )「なんかー」
158
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:07:19 ID:x6g1yXaQ0
ミ*゚∀゚彡
(゚A゚* )「荷物の地球儀が別のところへ行っちゃったみたいなの」 ブッ( ^ω^).:'.。゜
ミ*゚∀゚彡
( *゚A゚)ジー モグモグ(;^ω^)
ミ*゚∀゚彡「えー、それでどうするの?」
(゚A゚* )「事務所行っても見つからなかったらしくて、見つけ次第殺すって」 ゴッファァ( ゚ω゚).:'.。;'(。゚∀゚)
ミ*゚∀゚彡
( *゚A゚)ジー ゴメンナサイデスオ(;゚ω゚>⊂(゚∀゚#)オウコラテメエ、ドコノヘヤダヨ
159
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:08:22 ID:x6g1yXaQ0
初めて出会った少年に部屋を教えてなんとか晦ました。
土下座など容易いものであった。
そんなことは問題ではない。
今は女性たちの会話に集中するべきだ。
そう思い、ブーンはますます集中した。
その後の女性たちの会話を聞いてみても、よくわかった。
自分はとんでもない過ちを犯している。
まず、あの地球儀の元へ帰らなければならない。
はやくあれを無事にもち、そしてできる限り安全にもち運ぶ。
そして彼女の部屋へ……ん? まてよ、彼女って誰だ。
(゚A゚* )「あ、ツンちゃーん!!」
女性のうちの一人が、入口に向けて手を振った。
(゚A゚* )「今ちょうどツンちゃんのこと心配していたんだよー」
しめた。
その口ぶりからして先程の会話の内容を指していることは明らかだ。
ブーンはさりげなく、入口を見やる。
その女性が誰なのか、確認するために。
160
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:09:21 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚ ゚)ξ ゴゴゴゴゴゴゴゴ
目元を見た瞬間に、ブーンは顔を元に戻した。
細かい造形など見ている場合ではない。
あれは般若だ。数秒でも見つめればやられる。
そう思わせるだけの迫力が伴っていた。
(゚A゚*;)「だ、大丈夫? ツンちゃん」
ミ;*゚∀゚彡「顔色悪いよ」
161
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:10:20 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚ ゚)ξ「顔色?」
(゚A゚*;)「そう、なんかこう、表情がかたいというか」
ミ;*゚∀゚彡「いろいろあったからかしらね」
ξ゚ ゚)ξ「そう……煩わしいのが嫌だから」
ブーンは目の前の食器に目線を集中させていた。
もうお皿の上にはほとんど何も残っていない。
いつもなら残す菜っ葉の類でさえない。
こんなに健康的に食事をしたのは久しぶりだ。
食堂一の料理なのだし、タダ券でだし、客観的には申し分ない。
ただ残念なことに、味は全く覚えていなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「それより、興味深いことを聞いたのよ」
162
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:11:17 ID:x6g1yXaQ0
ツンの声だ。
彼女の声は今、抑揚が少ない。
感情を押し殺しているようにも思える。
通常、このような話し方をする人間はよほど感情表現が苦手なのではないかと心配になる。
でも、もちろんツンは違う。
今の彼女は感情をさらけ出すわけにいかないのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「配達員の話によるとね、確かに部屋番号は同じだったって。
でも良く考えたら棟のアルファベットを見間違えていたらしいのよ」
頬を汗が伝うのを感じる。
お皿の上に、落下し、破裂した。
(゚A゚* )「へえ、それじゃ別の棟にいってたんだね。
どこかわかったの?」
ξ゚⊿゚)ξ「いいえ、でももう検討はついているの。
だって、私のところに来ていた荷物は男物だったんですもの」
ミ*゚∀゚彡「なるほど! 男性用のAからFの棟のどこかってことね!」
(゚A゚* )「全部探すのに最大6往復か……もし手伝えそうなら手伝うよ!」
死刑台に送られる気分で、その会話を聞いていた。
今自分は13階段を上っているんだ。
163
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:12:18 ID:x6g1yXaQ0
ミ*゚∀゚彡「3人で探せば2回で済むね!」
6から2
13階段が4.33段に
ξ゚⊿゚)ξ「あら……ありがとうみんな」
(゚A゚* )「これからずっと過ごすわけだし」
ミ*゚∀゚彡「これくらい協力してあげるって!」
ξ*゚⊿゚)ξ「それじゃ一番近いF棟から探してみましょ」
階段が爆発した。
☆ ☆ ☆
164
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:13:17 ID:x6g1yXaQ0
(;゚ω゚)「はああ……うっ、うぉおあおああ……」
食堂を脱兎のごとく駆け出して、数分。
F棟の、自分の部屋。
廊下で膝を抑えて息を切らす。
呼吸がうまくまとまらない。
吐き気を堪えて顔を前に向けた。
様子がおかしい。
扉が開いている。
そういえば鍵を閉め忘れていた。
でも、どうして開いているんだろう。
不安を感じ、急いで中に入った。
そして、人影を見た。
(;^ω^)「だ、誰だお!!」
返事はない。
その人影は窓のサックに足をかけていた。
南に面した大きな窓。今は開いており、人一人くらい簡単に飛びだせる。
(;^ω^)「おい、ま」
165
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:14:36 ID:x6g1yXaQ0
言い切る前に、人影は身体を窓の外へ動かした。
サックにかけていた足がピンと伸ばされる。
窓の向こう側にある木の枝へ向けて。
ブーンは走って窓辺まで移動した。
そこから片手をサックにのせ、もう片方の手を前へ。
人影を追う。
だけど、その手は空を切る。
人影はさっさと枝を渡り、林の方へと進んで行ってしまった。
虚しく見送るブーンの目が、唯一捉えたのは
人影の脇に抱えられたあの手作りの地球儀だった。
目を白黒させて佇むブーン。
だけど、そうもしていられないことに気付く。
急がないと彼女たちが来てしまう。
166
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:15:32 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは我に返った。
ここにいては危ない。
そう思い、振り返ったとき。
ξ゚⊿゚)ξ
もっとも会いたくない顔が目に入った。
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとお伺いしたいことがあるんですけど」
167
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:16:17 ID:x6g1yXaQ0
ツンは異様に冷静な声で話をする。
(;^ω^)「じょ、女性は出入りできないはずじゃ」
ξ゚⊿゚)ξ「緊急時だと説明したら大丈夫でした」
(;^ω^)ボソ「ざるだお」
ξ゚⊿゚)ξ「何か言いました?」
( ^ω^)「い、いいえ」
ξ゚⊿゚)ξ「そう、で、いいでしょうか?」
威圧される。
ここは頷くしかない。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたはこの部屋の住人ですか?」
ブーンはその言葉の中に光を見つけた。
彼女は自分の姿を初めて見たはず。
だったらこの場を上手く切り抜ければ、まだ生存できるはず。
ツンはブーンに対して疑いをかけきれていないのだから。
168
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:17:19 ID:x6g1yXaQ0
咳払いして呼吸を整える。
( ^ω^)「いいえ、違いますお。
僕はただこの部屋の扉が開いていたのが気になって入っただけですお」
すると、ツンは素直に「そう……」と言った。
このまま乗り切れれば……
ξ゚⊿゚)ξ「……それで、何かありましたか?」
(;^ω^)「え、あ、ああ。
実は、窓に人影がいたんですお!
それでそいつを捕まえようとしたら、逃げられましたお」
ξ゚⊿゚)ξ「なんで捕まえようとしたの?」
(;^ω^)「そ、そりゃあ、人の部屋に勝手に入っている人なんか気持ち悪いですお」
ξ゚⊿゚)ξ「もしかしたらその人が住人かもしれないのに?」
(;^ω^)「住人だったら窓から出入りなんてしないお!」
169
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:18:19 ID:x6g1yXaQ0
ツンからの言い返しはない。
上手く対応できたのでは、とブーンは期待した。
ツンは何事かを考えあぐねている。
このまま付き合ってはいられない気がする。
そのうちぼろを出してしまう前に、逃げなくては。
(;^ω^)「僕はもう何も用が無いですし、帰りますお」
余計なことは言わない。
この場にたまたま居合わせたまったく関係ない人、それが自分。
ブーンはそう自分に言い聞かせた。
ツンの横を通り、外へ出る。
扉の周りにはほかの女性たちもいない。
今頃他の棟を探しているのだろう。
せいぜい頑張ればいいさ。
170
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:19:18 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「最後に一つ聞きたいことがあるんですけど」
ツンの声が背後からする。
答えが思いつけばすぐ切り替えそう。
思いつかなければ、観念しよう。
ξ゚⊿゚)ξ「荷物の中に写真がありましたよ? ブーンさん?」
考えるだけ徒労だった。
思いつく前に身体が動いていた。
ツンを背に、前へ、走り抜けていく。
背後から迫る声も、叫びも、怒鳴りも聞えない。
殺気だけ伝わってくるが、今は堪える。
逃げなくては。
ブーンの頭はその文字だけで埋まっていった。
171
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:20:18 ID:x6g1yXaQ0
足を止めないまま、外へ飛び出し、そして気付いた。
さっきツンは質問までに時間をかけた。
もし本当に写真を持っていたのならば、
最初に見た時点で自分がブーンだとわかったはず。
なのにそれを聞かなかった。
回りくどい質問を何度もかけてブーンの正体を詮索した。
そう考えると不自然だ。
ひょっとしたらあれはかまをかけたんじゃないか。
写真という言葉に反応すれば黒、無反応なら白。
少しでも身に覚えがあれば反応してしまう。
あれはその反応を調べるテストなのだ。
172
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:21:20 ID:x6g1yXaQ0
そして僕は今でこそ理屈で理解しているものの
あの瞬間、自分の臆病さゆえにびびり
今もまだ熱心に足を前へと運んでしまっているのである。
まことに残念なことであるが、後悔後に立たず。
ブーンはもはや歴然とした黒だ。
こうなれば、もう棟には戻れまい。
今のうちに地球儀を奪われた問題だけでも解決せねば。
必要以上にツンの怒りを買うのを避けるためにだ。
ブーンは頭の中で問題提起する。
あの人影は何者なのか。
173
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:22:21 ID:x6g1yXaQ0
人影は林に逃げた。
林の中に本拠地があるのか。
自分に関わりのある人物だろうか。
もしそうなら、自分は今ここに来たばかり。
誰かと知り合う機会なんて、何も。
( ^ω^)「あ」
そこで、思いついた。
先程見た顔。
( ゚∀゚)
そういえば彼には部屋番号を教えた。
確かに、ひょっとしたら後で部屋に乗り込まれるかもしれないとは思った。
だが、彼はもっとやっかいなことをしてくれたのではないか。
174
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:23:19 ID:x6g1yXaQ0
食べ物を吹き付けてしまった怒り。
その程度のことで因果は巡り、僕は命を狙われている。
いや、きっとあの快活そうな少年からしたら
腹癒せに僕の荷物を一つ盗んだというくらいなのだ。
たまたまその荷物と思ったものが、厄介な他人のものだっただけ。
( ^ω^)「!!」
林の中。
すでにかなり深くまで入り込んできていたとき。
ブーンは走りを止めて身をかがめた。
声がする。
( ゚∀゚)「おー、よーやってくれたわ」
あの少年の声だ。
まだ幼げのある声。たぶん自分と同期だろう。
背の低い木々の隙間から、ブーンは彼の顔を見る。
( ゚∀゚)「ん? これ良く見たら手作りじゃね?
売れそうにないなあ、飾っておくしかないか」
175
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:24:36 ID:x6g1yXaQ0
少年はしげしげと手作り地球儀を眺めていた。
(,,゚Д゚)「なんだジョルジュ、もっと別のを取ってくればよかったか?」
もう一人の男が言う。
体格がよく、厳めしい表情の少年だ。
へらへらしているジョルジュとは正反対。
歳はよくわからない。
(,,゚Д゚)「どんくさそうな奴だったし、奴のものならもう2、3個は取って来れそうだが」
( ゚∀゚)「いやいいよギコ。ちょっとムカついてやっちゃっただけだし」
ジョルジュがけらけらと笑う。
先程みた人影は、どうやらギコと呼ばれた男のほうらしい。
あの身のこなしから相当な筋力を持っていることが予想される。
176
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:25:20 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは頭を抱えた。
こんな奴らから地球儀を取りかえさなければならないのかと思うと気が滅入る。
接触したら絶対良いことにはならないだろう。
思えば今地球儀を手にしているのはこのジョルジュたちなのだ。
そのことを正直に話せば、しかるべき判断はツンがしてくれるだろう。
僕には平穏が訪れるはず。
そう思いついたので、ブーンは踵を変えた。
くるりと180度、再度寄宿舎の方角へ。
( ゚∀゚)「しかしほんと、字が汚いなあ」
ブーンはつい、足を動かすのをやめてしまった。
字が汚いのは確かだ。
あの字はきっとツンが幼いころに書いたものなのだろう。
地球儀は球体だし、ぶれて当然。読み取りにくくてもしかたないじゃないか。
そんな反論を心の中で言う。
だけど、それでも自分とは関係ない。
ブーンはもう一度考え直す。
安全に、平穏に、今の自分に一番大事なことを。
( ゚∀゚)「いいこと思いついた。
これ壊して返してあげようぜ」
177
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:26:17 ID:x6g1yXaQ0
(,,゚Д゚)「ん? いいのか?」
( ゚∀゚)「ああ、その方が面白そう。
どうせこんなの売れないし、きっと壊した方があいつもこたえるだろ」
(,,゚Д゚)「なんだかもったいないな」
( ゚∀゚)「そうか? じゃあお前がもらっておく?」
(,,゚Д゚)「いや、ジョルジュが望むならば」
ジョルジュの手から、ギコの手へ。
地球儀が渡っていく。
ギコがその地球儀を片手にのせる。
大きな手だ。
地球儀が包まれてしまっている。
それを、ブーンは見ていた。
目で。
なぜなら、身体が再度、180度回転していたから。
その回転の勢いのせいでもあるが
彼は立ちあがった。
178
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:27:20 ID:x6g1yXaQ0
(;゚∀゚)「……え?」
ジョルジュの顔が戸惑っているのがよくわかる。
一方のギコはとくに顔色を変えていない。
(;^ω^)「や、やめるんだお」
それが自分の言葉とは、ブーンにはにわかに信じ難かった。
自分のもつ臆病な気持ちはこの歳ですでに理解していた。
それが自分の性格だとも熟知していた。
でも、どうしてか、今はその臆病さを押し込めてしまっていた。
(;^ω^)「やめてくれお。その地球儀、別の人のなんだお」
震える声でブーンは訴えかけた。
一歩、ジョルジュの前に出る。
( ゚∀゚)「……お前の知り合い?」
ジョルジュが聞く。
ブーンは首を横に振った。
すると、ジョルジュは笑いだした。
( ゚∀゚)「じゃあなんで邪魔すんだよ」
179
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:28:34 ID:x6g1yXaQ0
そんなこと言われても、答えられない。
それが率直な感想だった。
邪魔したくなったのは、邪魔したくなったから。
それで納得するとは思えない。
( ゚∀゚)「……よし、わかった」
そう言うと、手を合わせてジョルジュはギコの方を向く。
( ゚∀゚)「壊すのはあいつ自身にしよう」
(,,゚Д゚)「いいのか? 人だぞ」
( ゚∀゚)「その手加減はまかせるよ。
ちょっと痛い目に合わせればいいだけだから。な?」
ジョルジュが手を合わせる。それに対し、ギコはやれやれといった風に息を吐いた。
(,,゚Д゚)「お前はいつも調子がいいな。
とはいえ、そうだな。聞き入れよう」
そういって、ギコはブーンに向かい合う。
180
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:29:38 ID:x6g1yXaQ0
ブーンはそれまでギコを誤解していた。
少しがたいのいい少年で、ジョルジュよりは冷静に見えたから
きっと大人びた少年なのだろうと思っていた。
本質では自分たちと変わらないと信じていた。
ギコが目を閉じて、力を込め始めている。
変化はすぐにわかった。
グググ
(,,゚Д゚)
その頭部が盛り上がる。
まるで植物が土の中から生えるように。
髪の中から、塊が浮き上がる。
ブーンは目を見張ってその様子を眺めていた。
実際に見たことはあるものの、このような場所で見かけるとは思いもよらなかった。
仮にもお城の敷地の中、しかも衛兵の寄宿舎の裏で。
.∧∧ ピンッ
(,,゚Д゚)
勢いよく、ピンと筋を張ったのは、耳だった。
魔人特有の獣の耳。
181
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:30:39 ID:x6g1yXaQ0
魔人とは、300年前に突然この世界に現れたもう一つの人種である。
彼らがどこから現れたのかは、少なくとも人間は誰も知らない。
初めてこの世に現れた魔人たちは、頑としてこの世界にきた経緯を語ろうとはしなかった。
.∧∧
(,,゚Д゚)「そろそろ動いていいかな」
ブーンはようやく、彼が大人びて見える理由がわかった。
ギコの身体が自分よりもはるかに発達していたからだ。
魔人は人間とほとんど変わらない(しかし同年代と比べれば発達した)身体と、獣の部位を持っていた。
個体によって違いがあり、多くの場合は獣の耳として現れている。
そしてそのことと関連してか、魔人の多くは人間よりも高い身体能力を有していた。
このことから人間の学者の間には、魔人を猿以外の哺乳類から進化した生物と捉える者もいた。
魔人が自分の話をしたがらない以上、それは憶測の域を出ない説でしかなかったが。
(;^ω^)「君は、ジョルジュと契約したのかお?」
.∧∧
(,,゚Д゚)「というよりは、こいつの家との契約だ。
俺は親の代からこいつの家に取り憑いているからな」
182
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:31:39 ID:x6g1yXaQ0
魔人は人間に取り憑く。
より詳しくいえば、彼らは人間と交わした約束は忠実に守り、目標の達成に協力する。
それが彼らの生業であるらしかった。
ときには家族そのものに取り憑いて、その下で働く魔人もいた。
便利な召使のようなものである。
町に現れる魔人のほとんどはこの性質から人に取り憑いた者であった。
現状は人間の方が数が多いため、魔人に取り憑かれていない人もいるが
魔人の人口のゆるやかな増加に伴って、
そのうち世界中の人間全てが魔人を使役する日が来るのではないかと言われている。
.∧∧
(,,゚Д゚)「ただ、俺は不思議な力を使うのは苦手なんだ。
あまりぱっとしたものじゃないんで、がっかりしないでくれよ」
そういって、ギコは両手を胸の前でクロスさせる。
息をゆっくりと吐きだしていく。気合を溜めているようである。
ブーンは身構えた。何か来る。
しっかりギコを見なければならない。
少しでも動きがあればすぐに横に逃げなければ。
183
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:32:39 ID:x6g1yXaQ0
ギコの足が、動く。
右足を軸にして、身体の左半身を前へ。
土が蹴られて跳ねる。
それしか見えなかった。
(;^ω^)「!!」
見ている暇も無かったのだ。
反射的に、ブーンは身体を左へと弾けさせた。
土煙を上げながら倒れ込む。
先程まで自分の身体があった位置に一陣の風が通り抜けた。
背後で衝突音がする。見れば、木に激突しているギコの姿があった。
みしみしと嫌な軋みが聞えてくる。
なにがぱっとしないだ、冗談じゃない。
人間を圧倒するには十分すぎる能力じゃないか。
傾きを増していく木を眺めながら、ブーンは悪態をついた。
184
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:33:38 ID:x6g1yXaQ0
願いをかなえるという場合において、魔人は不思議な力を発揮する。
人間の目標を達成するために、常識外れの現象を引き起こすのだ。
その能力は魔人によって違う。
ギコのように自分の身体能力を高めて限界を超えるだけの場合がほとんどだったが
稀に自然現象を引き起こす者、超能力を駆使する者などもいた。
木が倒れ込むのと同時に、ギコが立ちあがる。
.∧∧
(,,゚Д゚)「はずしたか……」
低く、だけど確かにブーンに届く声でギコが呟く。
こうしてはいられない。
止まっていたら今度こそやられる。
そう思い、ブーンも立ち上がる。
そして急いでジョルジュの元へ走った。
(;゚∀゚)「え? あ、おい!」
慌てふためくジョルジュを無視して、その右手に握られた地球儀を掴む。
自分はこれさえあればいいのだ。わざわざ魔人相手に戦闘する義理はない。
それにここにいれば、魔人は攻撃できないはず。
185
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:34:38 ID:x6g1yXaQ0
(;゚∀゚)「おい、やめろよ! ギコがお前に突進できないだろ!」
魔人は宿り主に不利益を引き起こせないからだ。
不可抗力や遠い因果関係による不運、価値観の変化などの不利益は避けられないが
目に見えての怪我や暴力を浴びせることはできない。
(;^ω^)「だから盾にするんだお!」
地球儀を掴みながらジョルジュの背後に回った。
このまま地球儀を抜き取れれば完璧なシナリオだ。
でも自分の非力という現実が突き付けられた。
いくら力を込めても、ジョルジュが離れてくれない。
それどころかお互いに力むために、地球儀の形がゆがみ始めていた。
もともと簡素な造りの地球儀なので、耐久力には期待できそうもない。
このままでは破けてしまうかもしれない。
186
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:35:53 ID:x6g1yXaQ0
(;^ω^)「いいかげんに諦めるお!」
(;゚∀゚)「はあ? やだよ、お前こそなんでそんなにむきになるんだよ。ただのおもちゃだろ!」
(;^ω^)「おもちゃじゃないお!」
(;゚∀゚)「は?」
(;^ω^)「とにかくそれが戻らないと僕は死ぬお!」
(;゚∀゚)「いや、わけわからんて」
ジョルジュの左足がブーンの顔に伸び、靴の裏が突き付けられる。
無理やりにでも地球儀から引き離そうというのだろう。
ブーンは歯軋りをして堪えた。
徐々に身体が押されていく。
やはり根本的に力が足りない。
足を踏ん張ろうにも、痛みが顔面に広がって集中が乱される。
(;゚∀゚)「ギコ! これくらい離れれば俺に当たらずこいつにぶつかれるだろ?」
187
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:36:47 ID:x6g1yXaQ0
.∧∧
(,,゚Д゚)「かするくらいならな」
(;゚∀゚)「こいつにはそれくらいでいいさ!」
二人が不穏な会話をしている。
あいにく今のブーンにはジョルジュの靴の裏と、その必死そうな顔しか見えなかった。
ジョルジュもむきになっているのだろう。
こんなに地球儀を欲しがるのは、別にそれが貴重だからじゃない。
ただブーンを困らせたいだけ。
呼吸音がする。
深い深い吐息。
ギコが先程のように集中を高めているのだろう。
.∧∧
(,,゚Д゚)「いくぞ」
最後の宣告。
次の瞬間、大きな雄叫びと共に
一陣の風を感じた。
188
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:37:41 ID:x6g1yXaQ0
(#・∀・)「おらあああああああああああああああ!!!」
それは知らない人の雄叫びだった。
ジョルジュの靴が緩んだので、顔を一気に捻ってギコを見る。
自分へ向かう一直線上の間で、上から降る何者かに襲われていた。
木刀を振りかざして何度もギコを殴りつけている。
(#・∀・)「魔人はここに入るなよ!!」
青年が攻撃を終える。
肩で息をする栗毛の青年と、地面に倒れ込むギコ。
(;゚∀゚)「ギコ!!」
ジョルジュが駆けよっていく。
その途中で、青年はジョルジュの襟首をつまんだ。
( ・∀・)「はい、お前」
(;゚∀゚)「はい?」
189
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:38:39 ID:x6g1yXaQ0
( ・∀・)「お前が宿り主なんだな?」
(;゚∀゚)「ま、まあそうですけど」
( ・∀・)「今すぐこいつを森へ返せ。衛兵には魔人は不要だ」
(;゚∀゚)「今すぐですか?」
( ・∀・)「契約破棄を唱えるんだ。面と向かってな。そうすりゃ魔人は返る」
(;゚∀゚)「でも……そいつうちに取り憑いているんで、父じゃないと……」
(#・∀・)「だったら家に帰すだけでもしろ!」
(;゚∀゚)「は、はいいいいいい」
190
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:39:38 ID:x6g1yXaQ0
魔人との契約は全て口頭で行われる。
機械的な処理ではなく、ちゃんと文脈を判断した上での正確な契約だ。
さらに、宿り主は自由に契約の更新と契約の破棄を行える。
契約の更新とは、本来の契約に上乗せして新たに契約を課すこと。
大きな契約に関連して、小さな仕事を任せる場合などで使われる。
魔人としては従事することそのものに意義があるらしく、仕事を面倒がらず、むしろ増えると喜んだりもする。
契約の破棄とは、文字通り契約の取り止めだ。
口頭で目を見て破棄を伝える。そうすれば契約は止まる。
魔人は不思議な力を出せなくなり、自然へと返っていく。
ギコはジョルジュに取り憑くというよりもジョルジュの世話を任されていたのだろう。
ジョルジュの言うことを聞くように、とでも。
ジョルジュはギコの傍に跪く。
(;゚∀゚)「……家に帰ってくれ」
.∧∧
(,メ,゚Д゚)「……」
シュンッ
(,メ,゚Д゚)「了解した。元気でな」
ギコはそういうと、その場で立ちあがる。
しかしダメージが溜まっていたのか、ふらついた。
191
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:40:43 ID:x6g1yXaQ0
(,メ,゚Д゚)「やれやれ、歩いて帰らなきゃか」
( ・∀・)「城下町を南へ出れば森がある。魔人がいくらかそこに住んでいるはずだ。
しばらくはその森で休養していればいいさ」
ぶっきらぼうな答え方だ。
この人は魔人が嫌いなのかな、とブーンは思った。
(,メ,゚Д゚)「そりゃどうも」
モララーの態度を察したからなのか
ギコもまた素っ気なく礼を言って、よろよろとその場を去った。
後に残ったのは、跪くジョルジュだけ。
ギコの背中を眺めながら、何か言おうとして、結局何も思いつかないままなようだ。
( ゚∀゚)「……やろう、俺に何も言わないでとっとと行きやがった」
( ・∀・)「お前、実は嫌われていたのかもな」
192
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:41:58 ID:x6g1yXaQ0
ふざけた調子で言う青年にたいして、ジョルジュは舌打ちで返した。
そのまますぐに立ちあがる。
(#゚∀゚)「何が嫌いだよ、魔人のくせに!
後で手紙で父に頼んでクビにしてやる」
(#゚∀゚)「お前らもきっとただじゃおかないからな!」
モララーとブーンに捨て台詞を吐いて、ジョルジュは寄宿舎の方へと歩んでいった。
ちなみに、彼が衛兵見習いをやめたという話をブーンが聞くのはまだ少し先のことだった。
モララーはふふんと楽しそうににやけている。
( ・∀・)「賭けてもいいけど、ただじゃ済まないのはあいつのほうだよ」
モララーがそう言ってブーンに顔を向けた。
咄嗟のことに、いや、実は先程からずっとブーンは放心していた。
モララーはそのブーンを見て、首を傾げる。
193
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:42:40 ID:x6g1yXaQ0
( ・∀・)「ああ、ひょっとして自己紹介がまだだったからかな?
俺のことはモララーって呼んでくれ。今期新衛兵のうちで首席だったんだ。
きっと君らの衛兵見習い歓迎式でもしゃべるよ。あの馬鹿の顔が楽しみだ。何してやろ」
モララーは寄宿舎の方を顎で指した。
それでもブーンの反応が鈍いので、再度ブーンに質問した。
( ・∀・)「どうした? まだ何かききたいか?」
( ^ω^)「いや……あの……」
胸の奥に熱いものがこみ上げて来ていた。
今しがたの光景、魔人を一瞬で片付けてしまった力。
ブーンはすっかり圧倒されてしまっていた。
だから、少年心ながらに、素直に感動していたのである。
(*^ω^)「かっこよかったですお……」
194
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:43:39 ID:x6g1yXaQ0
それから、ジョルジュに狙われたら危ないという名目で
ブーンとモララーの付き合いが始まった。
なお、このときまだブーンは、自分の足元に潰れた地球儀があることに気付いていなかった。
☆ ☆ ☆
195
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:44:39 ID:x6g1yXaQ0
現在、9月
午後2時
ラスティア城政務室
「入ってよい」
重々しい呼びかけによって、ブーンは立ちあがった。
いつものブーンなら、こんな場面に遭遇すれば緊張してしまっていただろう。
ただ、今はそんな緊張もあまりない。
その代わり気分が重すぎて、前に進むのも嫌だった。
「……まだか?」
静かな催促。
観念するしかない。
ブーンはゆっくりと一歩踏み出した。
ドアのノブに手を取り、回す。
なめらかな感触。手入れが行き届いている。
ブラウンの扉が奥へと押され、中の様子が見えた。
( ´W`)「事情を説明してくれるかな」
真っ白な髭を蓄えた政務官が待ち構えていた。
196
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:45:38 ID:x6g1yXaQ0
ブーンはありのままに話した。
あの秘密の任務で起きたことを、順を追って。
あれからすでに2日経っていた。
ブーンの傷も癒えた。元々そこまで大きな怪我はしていなかった。
だからこうして証言するだけの体力はあった。
白い靄に包まれた話をしたところで、一旦口が止まった。
( ´W`)「どうしたのです?」
政務官が急かす。
ブーンは迷っていた。
王女のことを話したらどうなるか。
良くないことになる予感がした。
あのロマネスクの話し方からして、王女はあのお戯れを何回かしていたのだろう。
そんなことを僕ら庶民は知らない。
たとえ知ったとして、どう考えても好意的には受け取れないだろう。
あれはお城の秘密なのだ。
では、今この場でその秘密に触れればどうなるか。
結果は明らかだ。
197
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:46:40 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「……靄につつまれて、魔人に襲われましたお。
それでモララーは……殺されましたお」
( ´W`)「その魔人、野生の魔人ですか?」
( ^ω^)「……はい」
( ´W`)「誰にも取り憑いていない?」
( ^ω^)「……たぶん」
そう言わざるを得ない。
自分は眠らされていたことになっていた。
その前の段階で、襲われて、自分は何も覚えていないことになっている。
なんで意識があったのかはわからない。比較的早く目覚めることができたのだろうか。
とにかくここで違うというわけにもいかないし、断言しても怪しまれる。
ぼかすしかない。
( ´W`)「なるほど、わかりました」
198
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:47:37 ID:x6g1yXaQ0
政務官が手持ちのメモ帳をチェックしながら言う。
あのメモ帳に書いてある内容にそぐわないことを言ったら僕は殺されるのではないか。
ブーンはそんな不安で心中が荒れに荒れていた。
( ´W`)「疲れたでしょう。しばらく休みなさい」
政務官は優しく言葉をかけてくれた。
ブーンは少しだけ緊張が解れ、息を吐く。
( ^ω^)「あ、ありがとうございますお」
( ´W`)「夜には寄宿舎に戻るように。あと、城下町から外へはでないでくださいね。
町でも歩いていれば気分は紛れるでしょう」
( ^ω^)「……はい」
果たしてそう簡単に紛れさせることはできるだろうか。
それはとても難しい命令のように思えた。
( ´W`)「そういえば、いなくなったドクオについて何か心当たりはありませんか?」
199
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:48:54 ID:x6g1yXaQ0
( ^ω^)「え、いなくなったんですかお?」
( ´W`)「現場には君しか倒れていなかったのです。
ドクオからも事情を伺いたいが、大したことは聞けそうにないですね」
政務官は唸ったが、それから仕方ないというふうに頭を振った。
( ´W`)「とりあえず今日のところはここまでです。
君に落ち度はありませんゆえ、安心してください。
また、ドクオが現れたら私たちのところへ連絡をください」
ブーンは政務官に頭を下げ、その場を後にした。
ただ、廊下を歩きながらも
頭の中ではドクオの行方がどこだろうかと考えていた。
☆ ☆ ☆
200
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:49:39 ID:x6g1yXaQ0
寄宿舎F棟368号室
もう住みなれた部屋だ。
無気力で歩いてきたのに、自然と足はここへ辿りついた。
部屋の様子はほとんど変わっていない。
衛兵の訓練は忙しく、町を散策する機会もあまりなかった。
だから無駄なものもあまり買わず、閑散とした室内になっていた。
本来ならこのたびの休暇はラッキーだった。
日ごろの訓練を正式にさぼれる。疲れないし、楽しい。
でも、今回はその代償は大きい。
むしろ、足らない。
休暇なんていくら積んでも足らない。
どうしてモララー先輩がいなくならなきゃならない。
部屋のベッドの上に腰掛けて
ブーンはあの人と会ってからの日々を思い返した。
201
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:51:01 ID:x6g1yXaQ0
寄宿舎の裏の林で魔人を撃退するモララーを見てから、付き合いが始まった。
まずはブーンの体力をつけるために
それから技術力を磨くために
ブーンはモララーの弟子として訓練を願ったのである。
モララーは衛兵になって、見習いよりもさらに忙しい身分となっていたが
ブーンというなかなか教えがいのある後輩に接することは楽しそうでもあった。
ブーンはといえば、必死になって憧れのモララーの姿に追いつこうとした。
ひと月もすれば、モララーの成績はすぐに見習い中に知れ渡っていた。
モララーの入隊した年の新衛兵ではトップ、その後も活躍を続けていた。
噂ではモララーはその見習い時代に王女を野生の魔人から助けたこともあったそうだ。
ただ、お城の中ではその話題は公にはもみ消されているし
モララーはそのことについてほとんど語ろうとはしなかったが。
ブーンは今更その噂話を思い出していた。
ひょっとしたら、あの講堂で話していた内容はその噂のことだったのかもしれない。
この任務をこなせば昇格間違いなしって。
202
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:51:51 ID:x6g1yXaQ0
そう思って、ブーンは力なく笑う。
モララーさんは違う、と思った。
あの人は別に昇格にこだわったわけではないのだろう。
もし噂が正しいのならば、だけど。
たとえ王女を助ける機会があったとしても、それを昇格のチャンスとしては利用しなかっただろう。
あの人は魔人が大嫌いだった。
結局その理由についてブーンは知らないままだったが、嫌いという事実だけは知っていた。
そして、モララーがまったく昇格に興味を示していなかったことも知っていた。
そう言う人じゃないのだ。あの人にとって名誉など関係ない。
自分のしたいことをし、したいことをするために力を得る。
そういう人だったんだ。
だからきっとあの講堂での言葉は、ブーンを安心させるために言ったに違いない。
お前だってこれで昇格できるかもって。
湖でもそうだろう。
ドクオと話していたとき、モララーは突然ドクオを呼んだ。
それからドクオが行ってしまって、しばらくしたらデレが来た。
203
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:52:38 ID:x6g1yXaQ0
あれはモララーがデレと自分を近づかせたのだろう、とブーンは考え至っていた。
デレに自分を印象付けさせ、昇格しやすくするために。
あるいは単純に、自分がデレと知り合いになれるために。
自分がデレに好意を抱いていたのは明らかだったのだから。
あの人間に対する心配りばかりをして生きていたようなモララーがやりそうなことだ。
あんなに良い人は他に居ないだろう。
こんなとこで死んでいい人じゃなかったんだ。
ブーンはその言葉を何度も頭の中でもう一度繰り返した。
( ^ω^)「モララー先輩」
言葉は空中に佇む。
誰にも届かず。
ブーンは頭を抱えた。
顔を真下へ。
ベッドと自分の足、そして床だけが見える。
204
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:53:55 ID:x6g1yXaQ0
どうしてこうなったんだろう。
あの任務のせいか。
デレ王女の姿が浮かんだ。
彼女は裏切り者なのだろうか。
あのとき薄目で見た光景は、もはや魔女そのものだった。
普通に考えれば、彼女が魔人を使役してモララーを襲ったことになる。
一度彼女を救ったと言われている、モララーを。
そんなことができるほどに冷酷な女性なのか。
でも、ブーンには彼女を悪と断定できなかった。
いくら断定しようとしても、なぜかデレの表情が浮かんで邪魔をする。
湖で見せてくれた笑顔。
南の山の麓で見た無表情。
どうしてだろう、どうしてそんなものばかり思い浮かぶんだ。
確かにデレは綺麗だったけれども。
まさか綺麗な人だからって、モララーを殺されたのを許せるわけじゃない。
なのにどうして自分は答えを出せずにいるんだろう。
これは酷いことじゃないのか。
205
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:54:38 ID:x6g1yXaQ0
「ブーン?」
扉の向こう側から声がして、ブーンははっと現実に戻ってきた。
( ^ω^)「あ、ツンかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「そう」
2年間もききなれた声だ。
すぐにわかった。
ツンと出会ったきっかけが、モララーと初めてあったきっかけでもあった。
( ^ω^)「女性はここ、来ていいのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「許可ならもらったわよ」
( ^ω^)「……なんか、ずーっと昔もこんな会話した気がするお」
ξ゚⊿゚)ξ「そう? 確かに比較的よく入れるけど。
F棟の管理人だけが異様に優しいのにね」
( ^ω^)「僕がG棟の方へいったらあっという間に捕まったお」
206
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:55:39 ID:x6g1yXaQ0
そういいながら、ブーンは自分の頬が緩んでくるのを感じた。
さっきまでほとんど動こうとしていなかったのに。
ひょっとしたら、ツンは今の僕の気持ちを和らげてくれるかもしれない。
辛い気持ちを無くしてしまえるかもしれない。
そう期待するのも無理はなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「入っていい?」
幸いなことに、誘いはツンの方からしてくれた。
向こうからまったく見えないのを承知で、ブーンは首を縦に振り落とす。
( ^ω^)「いいお。夜時間までなら」
言ってから、自分の声が震えていることに気付いた。
なんだっていうんだ、ちくしょう。
せっかく気持ちを紛らわそうっていうのに。
207
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:56:38 ID:x6g1yXaQ0
ツンもその震えに気付いたのか、遠慮がちにドアノブをまわした。
ゆっくりと扉が開かれる。
ξ゚⊿゚)ξ「……平気?」
恐る恐るといった表情で、ツンが顔を見せてくれた。
部屋に入って、扉を閉める。
ξ゚⊿゚)ξ「……平気じゃなさそうね」
ツンはブーンの顔を見て断言する。
( ^ω^)「は、はは。まいったお」
ブーンは頭をかいた。
身体が錆びている気分だった。
ξ゚⊿゚)ξ「座るわよ」
ブーンが許可を出す暇さえ与えずに、ツンはさっさとベッドの端に腰かけた。
ブーンとは反対側。
お互いの間は長い距離が空けられている。
208
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:57:53 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「モララーさん、あ、いや……」
出だしでブーンはびくっと反応してしまった。
だからか、ツンはすぐに言葉を訂正した。
ブーンの心の中で、申し訳ない気持ちが炸裂する。
ξ゚⊿゚)ξ「あの……あ、ほら、地球儀」
ツンが指しているのは、あの手作り地球儀のことだろう。
全てのきっかけの。
( ^ω^)「……壊しちゃってごめんだお」
ブーンは何か言わなければならないと思ってついそんなことを言った。
ツンは鼻を鳴らす。
ξ゚⊿゚)ξ「今更すぎて何も言えないわよ。
それに、反省ならあのときさせたでしょ?」
(;^ω^)「……あまり思い出したくないお」
2年前のあの日。
あの後ブーンはモララーと一緒にツンに会った。
そして二人で頭を下げた。
209
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:58:42 ID:x6g1yXaQ0
それからブーンとツンは知り合いになった。
最初のうちは、地球儀を壊した反省として
ブーンはツンにこきつかわれる日々を過ごしていた。
それでも時間がたてば怒りも静まって
普通にツンと会話するようになっていった。
きっかけが悪くても、それは関係ができたということに変わり無くて
馬が合えば人は人と仲良くなれるものだった。
ξ゚⊿゚)ξ「実はね、ブーンに言っていなかったことがあるの」
その言葉を聞いて、ブーンは横を見る。
ξ゚⊿゚)ξ「あの、……モララーさんね、あのあと地球儀復元してくれたんだよ」
若干の言い淀みのあとで、続けた。
どうしてもモララーという単語からは避けられなかったのだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「敗れた紙を貼り合わせて、丁寧に修復してくれたんだ。
結構時間がかかってたけど、去年それを私にくれたの」
ツンはブーンの顔を見ていない。
細長い部屋の灰色の壁を見つめ、両手を動かして地球儀の大きさを表していた。
片手で持てるくらいの小さな手作りの地球儀。
210
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 22:59:36 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「めちゃくちゃにされちゃったけど、
私はちゃんと形になって戻ってきたそれが嬉しかった」
ξ゚⊿゚)ξ「私はいつか世界を回りたかったから、それが小さいころからの夢だったから。
この場所でちゃんと女性としての知識を身につけてからね」
ξ゚⊿゚)ξ「あの地球儀は近所の人と集まって作ったの。
まだ文字を覚えきれていない頃から」
ツンの手が、次第にその動きを小さくしていく。
地球儀がしぼむ。
片手どころか、指でつまめるくらいに。
ξ゚⊿゚)ξ「……思い出はあった。でも壊れたらそれでいいかなって思ってた。
だけど修復されたそれを見たとき、私つい泣いちゃってさ。
どんなに気取っていても、やっぱり大切なものだった。
だから泣いちゃったんだよね」
ξ゚⊿゚)ξ「どんなに忘れようとしても忘れられないものってあるのよ。
私にとっては地球儀がそれだった。
ずっと大切に育ててくれた人々の思い出が……」
ξ゚⊿゚)ξ「……変だな、こんな話しても仕方ないのに。
こんなこと言いにきたわけじゃなかったのに。
なんで自分の話なんか、ごめんね」
211
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:00:55 ID:x6g1yXaQ0
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、ブーン?」
両手を膝の上にのせ、握る。
ツンはようやくブーンを向いた。
でもブーンからの返事はない。
実はもうすでにブーンの目線は、ツンを向いていなかった。
ただブーンは下を向いていた。
顔を手で押さえて、両肩を震わせて。
ξ゚⊿゚)ξ「……何よ、せっかく安心させようと思ったのに」
ξ;⊿;)ξ「そんなに思いっきり泣かれたら、
私だって、つられちゃうじゃない……」
212
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:01:48 ID:x6g1yXaQ0
ブーンは何も答えられなかった。
口を開けようとすれば、酷い声が出てしまうだろう。
言葉を話せず、嗚咽だけが漏れるだろう。
抑えきろうなんて、浅はかな考えだった。
そんなもの聞かせても何もならない。
ツンが悲しむだけだ。
だから何も言わない。
言えない。
ブーンは背中に暖かいものを感じた。
手のひらだ。
目を開ければツンがいるはず。
笑ってはいないだろう。
泣いているのかもしれない。
見れば済む話なのに、どうしてもそれができない。
なんでだろう。
なんで。
できないことばっかりだ。
213
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:02:56 ID:x6g1yXaQ0
疑問は解けず、その形すらも瓦解して
ぐるぐるとした混沌だけが頭の中にあった。
ツンに片手を添えられながら、ブーンは気の済むまでさめざめと泣いていた。
☆ ☆ ☆
214
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:03:52 ID:x6g1yXaQ0
その日の夜、葬儀が行われた。
ラスティア城の北にある、専用の葬儀場。
衛兵の仕事は、たとえ平和な時代といえどもたまに危険なものもある。
殉職してしまう衛兵も当然いた。
でもその衛兵の葬儀を民間で処理してしまったら、町の治安にもよくない。
それにひょっとしたらお城の機密事項も漏れてしまう可能性がある。
だから衛兵の死は慎重に扱わなければならない。
モララーの死も同様だった。
衛兵に通達を出し、来られる人だけが出棺に出席する。
ブーンは参加していた。
本当はあんまり見たくなかったのだけど。
( ^ω^)「……」
モララーは人気者だった。
通達は今朝出されたのに、数十人の人が集合している。
新規の衛兵が入ってくる忙しい時期なのに。
215
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:04:51 ID:x6g1yXaQ0
それは嬉しいことのようにも思えた。
でも素直にはなれない。
そんなことを口に出したら、モララーが死んだことを認めることになってしまう。
棺が台の上に置かれた。
もう顔は見えない。
台座の下に着火剤がある。
そこに、上位の衛兵が数人集まった。
やがて、火がつけられ、彼らは離れる。
燃えるのはあっという間だった。
その場に集まった人々の顔が、オレンジ色に照らされる。
ほとんど全ての人に沈痛な顔が浮かんでいた。
ブーンはそれらを眺め、それから別の方向に顔を向けた。
今まで意図的に避けていた方向へ。
そこには王女がいた。
彼女の顔も火によって明らかになっているはず。
216
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:05:54 ID:x6g1yXaQ0
ζ( *ζ
しかし、顔は手で覆われていた。
やや俯き加減の姿勢のまま。
感情が読みとれない。
彼女は悲しんでいるんだろうか。
ほくそ笑んでいるんだろうか。
あの夜のことを思えば、後者の可能性もある。
そうなれば、酷く悲しい話だ。
でも、正直にいえばデレを疑いきれない自分がいた。
デレ王女の肩は震えているようにもブーンには見えた。
あるいは、そうであってほしかった。
あの夜の彼女の姿は本当なのだろうか。
こんなことを考えてしまう自分は、
優しいを通り越して、愚かなのではないか。
モララーがこのことを知ったら怒るかもしれない。
217
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:06:56 ID:x6g1yXaQ0
自分は優しすぎるらしい。
それは自分の足を引っ張っているんだろうか。
目の前で焔が踊る。
咎めるように。
人は優しいばかりじゃない。
もちろん知っている。
人は嘘もつくし、騙しもする。
人を傷つけ、殺すこともある。
モララーだって殺された。
それなのに、今もデレを疑いきれない。
「優しさだけじゃ生きていけない」
モララーにそう言われることが、ブーンには何度もあった。
懐かしい思い出だ。
218
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:07:54 ID:x6g1yXaQ0
大抵は、ブーンがドジを踏んで、それをモララーが窘める。
初めて会った日から何度も一緒に特訓をした。
ブーンにとってモララーは憧れの存在だったから。
モララーにいくら怒られても、呆れられても、ブーンにはそれが嬉しかった。
少しずつでもモララーに近づければいいと思った。
実技の成績は震わなくても
必死でその背中を追いかけた。
並行して座学の成績が良くなったのは、その向上心があったからかもしれない。
自分にできることを精一杯やってきた。
優しさだって、そのひとつだ。
誇らしくも思っている。
219
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:09:00 ID:x6g1yXaQ0
でも
「優しさだけじゃ生きていけない」
そして
それを言ってくれた人ももういない。
220
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:10:08 ID:x6g1yXaQ0
部屋でツンと会ったときに、涙は枯れたと思ったのに
目の前が霞む。
火が収まり、神父が現れて言葉を残す。
神の名が現れても、人間の情感を切に語っても
耳には何も残らなかった。
解散となる。
人々が帰る。
王女もまた、背中を向けた。
ブーンはその背中を見つめていた。
何も返って来ないことはわかっていながら。
そうして、葬儀は終わった。
☆ ☆ ☆
221
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:10:51 ID:x6g1yXaQ0
数日後、ブーンは城下町へ降りた。
お城の前にある中央広場で、噴水の傍のベンチに座り、人ごみを眺めていた。
町に出れば気がまぎれるとシラヒーゲ政務官は言っていた。
だけど、町にはほとんど知り合いはいない。
適当に歩けば気がまぎれるなんて、そんな都合のいい話はない。
心はただでさえすさんでいるのに、人と会えれば幸せなんて。
そんな愉快な思考ができるような状況ではなかった。
憤りがあっても、所詮何もできないのだけど。
町並みそのものもどことなく沈んでいる。
ブーンの気持ちが暗いからそう見えるだけではない。
新嘗祭が延期になったからだ。
順を追って説明すれば、まず王女による秘密の調査は王女への襲撃に名前を変えた。
また、襲ったのは“野生の”魔人であることが強調された。
人間と暮らしている契約済みの魔人とは別の存在だとも説明された。
だけど、それでも城下町に不安が残った。
レジスタンスのリーダーも顔を出して、ラスティア城政務部を非難するパフォーマンスをしていたそうだ。
最近ではすっかり影になりを潜めていた連中だったが、そのときばかりは喝采だったらしい。
222
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:12:08 ID:x6g1yXaQ0
だから、このまま祭など開いてもお城への非難が集中するだけだと思われた。
祭を機会として暴動が起きるかもしれない。
城下町でそんなことが起きれば、国王一族及び貴族のメンツに関わる。
だから新嘗祭は延期になった。
都合がつけば来月に取り行われる予定だ。
ほとぼりが冷めるのを待ってから。
この場合、町の人々はその悲しみをぶつける相手を見失っていた。
確かに魔人への不安はあるかもしれない。
でもそれを表明したがために新嘗祭が引き延ばされてしまった。
些細なことかもしれないが、新嘗祭だって楽しみのひとつだったのだ。
その楽しみが奪われれば良い気持ちはしない。
だからしょんぼりするしかない。
ここまで考えて、ブーンはこの顛末の示す可能性に気付いた。
この一連の祭延期騒動は全てラスティア城政務部の策略ではないか。
223
:
◆MgfCBKfMmo
:2013/08/26(月) 23:13:08 ID:x6g1yXaQ0
まずはきっかけとなった事件に対する印象を変える。
さらに祭の延期という別の事件を作り出して民を悲しませる。
こうして価値判断の基準が混じることにより、魔人を一方的には責めにくい状況が作り出される。
この結果何が起こるかと言えば、ほとぼりがとっとと冷めていくことだ。
これこそが魂胆に思える。
その裏にひとりの優秀な衛兵の死があったとしても
簡単に忘却の彼方へと向かってしまうのだ。
と、ここでまた、思考がモララーに戻ってしまった。
ブーンは頭を振る。
あの人のことを考えちゃだめだ。
出口のない迷路が始まってしまう。
町並みに目線を向けた。
無理やりにでも集中できるものを探そうとした。
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