したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

('A`)百物語、のようです

432名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:10:10 ID:4Pykjo5k0


('A`)「宇宙人は……」



(;'A`)「……」



(;゚A゚)「う、宇宙人」




俺は口を開いた。



.

433名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:11:33 ID:4Pykjo5k0


(;'∀`)(やべぇ!! なんも思いつかねぇ!!!!)



口を開いてみたのはいいが、何にも言葉がでてこない。
脳内検索をしてみても、宇宙人の話なんてほとんど出てこない。
そもそも、宇宙人って、怖いんだっけ?


( ゚д゚ )「どうした?」


円盤。UFO。タコ型火星人。
両手を男に引っ張られる、グレイだっけ? なんか、アメリカの陰謀っぽいやつ。
それから、美少女とかロボとか宇宙戦艦の出て来るアニメがたくさん。あれに宇宙人はいたんだっけか?
織姫彦星は……流石に、宇宙人じゃないよな。宇宙っぽいけど。


(;'A`)「なんでもない」

(    )「……」

川   )「どんな話が来るのか、楽しみだな」

(;    )「ええと、ドクオ? 無理はしないでね……?」

(;゚A゚)「……」

434名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:12:28 ID:4Pykjo5k0


頭の中にある、宇宙っぽい知識をひっくり返してみる。
いくつか浮かんでくる単語はあるが、うさんくさかったり、そもそも宇宙人とそんなに関係ない言葉しか出てこない。
ホラー。ホラーで、宇宙人っぽいやつ。
なんかあるだろ。宇宙は広いんだ。宇宙人だって、いっぱいいるだろ!


(;゚A゚)「宇宙人っていっぱいいるよな?」

(    )「そうだおね! 僕、宇宙戦争っぽいの好きだお!
       いろんな宇宙人とかメカが出たり、ビームっぽいサーベルとかで戦うんだお!」

(;゚A゚)「そういうのも、……あるよな」


宇宙戦争。映画かなんかか?
あー、そんな話もあった気がする。
そういうワクワクするのもいいけど、今はなんかホラーでエグい感じで……エロとかグロとか。
……グロ?

なんか、映画であったような気がする。
宇宙からの侵略とか。そんな感じのやつ。

435名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:13:37 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「ええと、俺が話す宇宙人っていうのはな。いるんだ」

ξ   )ξ「でも、証明されてないわよね」

(;'A`)そ「そりゃあ、気づかれてないからだよ!
      宇宙人はたしかにいて、地球にも来ているんだ!」

ξ   )ξ「宇宙人が地球にいるっていうなら、なんで見つかってないのよ!」


さっき散々調子に乗ったせいか、ツンがやたらと食い下がってくる。
まだ考え中なんだから、黙ってろ! ……なんてことは、当然言えない。
俺は知っている話を語っているはずなんだから、ここでボロを出すのはマズイ。

ツンをごまかすためにも、何か話さなければいけない。
だけど、思いつく話はない。
……どうする?


(;'A`)「そりゃぁ……」

(    )「なに?」


……こうなったら、もう。
何か適当にでっち上げるしか、道はない。

436名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:15:10 ID:4Pykjo5k0


その場で話を考えて、作る。


宇宙人で、ホラーっぽくって、百物語っぽい話を今から考える。
大丈夫。一話だけだ。
百話あるんだ。一話くらい、俺が作った適当な話があってもバレはしない。
だから、がんばれ俺! なんかそれっぽい設定を、でっち上げるんだ。映画っぽい感じで。


(;'A`)「……人間を乗っ取ってるからに決まってるだろ?」


……言ってしまった。
言ってしまったからには、もう引き返せない。
ここから先は、俺が話を作るしかない。
話が行き詰まらないように、なんとか時間を稼ぎつつ頑張るしかない。

437名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:16:17 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「乗っ取る?」

(    )「へぇ」

('A`)「そう。そうなんだ!」


宇宙人の出てる映画で、人間を乗っ取ったり操ったりしているやつがあったはず。
そういう感じなら、宇宙人が地球にとけ込んでいても不思議じゃないだろう。


(-A-)「宇宙人は人間の体を乗っ取る。
    だから、人間を乗っ取る前の純粋な宇宙人は、ほとんど目撃されないんだ」


よし。これで、それっぽい。
あとは、この宇宙人が地球を侵略していることにでもすれば……

438名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:18:07 ID:4Pykjo5k0


(    )「その宇宙人、なんていうの?」

('A`)「ん?」

(    )「名前だよ。名前。わかってないなら、どういう宇宙人か分類が聞きたいな。
      タコ型? それとも、グレイ? 人間を操ったり寄生するタイプなら、そのどれとも違うのかな?」

(;'A`)「……」

(    )「僕、そっちはそんなに詳しくないんだけど。宇宙人って、ロマンがあるよね。
      それでドクオの話している宇宙人なんだけど……」

(;'A`)「……」


早口で話しかけられて、俺は黙り込む。
俺が黙っていても、声はひたすら宇宙人について語っている。
ツンみたいに疑われるのも嫌だが、こう喰い付かれても困るな。


(    )「僕は異型タイプの宇宙人だと思ってるんだけど」

439名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:19:40 ID:4Pykjo5k0

ξ   )ξ「ストップ。ドクオの話が止まっちゃってるでしょ」

(    )「ごめん。つい……」

(;'A`)「名前。名前かぁ。なんだったかなぁ……」


ツンの声が、いつまでも続きそうな宇宙人トークを遮る。
いつもならよくやったと言っているところだけど、今日に限っては余計なことをしやがってと思う。
何しろ話がぜんぜん思いつかないのだ。
静かになった声の主……たぶん、ショボンに向けて、俺は時間稼ぎの言葉をとりあえず放つ。

宇宙人。
宇宙人の話をやるなら、たしかにそれっぽい名称は必要だ。
そのへんの設定はここで考えておかないと、確かに困るな。


(;'A`)「うーん……」


火星人はメジャーすぎだから却下。
金星とかも、地球から近すぎる。ここでうっかり話に出して、ショボンにつっこまれたら大惨事だ。
どこか遠い星。というふわっとした感じにしておこう。

440名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:20:23 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「ここよりもずっと、遠くにある星から来た……」


なんかカタカナの名前。
すぐに覚えられて、間違えなさそうな簡単な名前で。既存のやつと被らないネーミング。
……無理だろ。これ。


(;'A`)「今思い出す……そう……」

ξ   )ξ「ねぇ、いるの? そんな宇宙人」

(#'A`)「ど忘れしただけだ! ええと、」


オリジナル。オリジナル……
……だめだ。肝心なところで出てこない。
仕方ない。とりあえず「星人」ってつけて宇宙っぽくするっきゃない。


(;'A`)「バルタンじゃなくて、ダダじゃなくて、キングギド、いや、キ……えーと……そう!」

441名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:21:23 ID:4Pykjo5k0





(;゚A゚)「き……キリン。麒麟っ! そう麒麟星人だ!!!」





.

442名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:22:11 ID:4Pykjo5k0

麒麟。
ビールとかについてる、なんかかっこいい神獣。
フェニックス星人とか、鳳凰星人とか、ヒュドラ星人とかのほうがかっこいいかもしれないが、とっさに考えたにしては上出来だ。


(*'A`)「そう。その宇宙人は麒麟星人って言ってな」


ξ   )ξ「きりん……」

川   )「ふむ。キリンか」

( ゚д゚ )「きりん、キリン、麒麟……キリンか?」


なかなかいい思いつきだと思ったんだが、周りの反応がなんか微妙だ。
驚いている……にしては、少し違う感じの声で、「きりん、きりん」と呟く声が聴こえる。
なんだ。なんか、マズイ言葉でも言った、か?


(    )「なんか、かわいい名前だお!!」

(    )「キリンって、動物園みたいじゃないか!」


(;'A`)「あ」

443名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:23:49 ID:4Pykjo5k0


のんびりとした声。それからその次に起こった爆笑に、俺の頭が一気に冷える。
心臓がバクバクして、頭がグラグラする。
そうだ。キリンと言ったら、動物園の人気者が出てくるほうが普通だ。

なんで、伝説の神獣・麒麟なんて思った!
黄色い体に長い首のキリンさんなんて、アホ丸出しじゃないか!


(    )「ふうん。キリン星人なのか。
      キリン座とかあったから、そっち系なのかな? それとも特殊ないわれがあったりとか?」

(;'∀`)「ええと、どうなんだろうな?」

( ゚д゚ )「ふむ。キリン星人という名称に意味が」

川   )「キリン星人。あなどれないな」


やべぇ。キリン星人という単語が思いの外馴染んでいる。
いまさら、やっぱ違いましたなんて言えない空気だ。
というか、キリン星人のインパクトが強すぎて、他の名前をつけてもキリン星人にすぐ戻ってしまいそうだ。

444名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:26:04 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「で、そのキリン星人がどうしたの? 話の続きは?」


下手なことを言ったら真っ先に否定しそうなツンまで、キリン星人をあっさりと受け入れている。
すげぇなキリン星人。
みんな最初の驚きどこにやったんだよ。
アホ丸出しとか思った、俺のほうがアホだった気さえしてくる。


(;'A`)「そ、そうだな。
    キリン星人は、人間を乗っ取って、その体に潜んでるんだ」

ξ   )ξ「潜んでるって、それどうしてわかるの?
       見た目は人間……なんでしょ? 宇宙人がいるってどうしてわかるのよ」

川   )「確かに見た目が人間なら、宇宙人の存在は他の者にはわからないな」


なんか正論が聞こえる。
そうだよなぁ、宇宙人が体を乗っ取るって言っても、乗っ取られたやつしかそんなことわかんねぇよな。
こういう時って、どういうパターンが王道なんだ?


(;'∀`)「普通に考えりゃあそうだよな」

445名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:26:56 ID:4Pykjo5k0


(    )「そこは何かあるんだよ! 映画とかだとこういう場合、ささいなきっかけで主人公が気づくんだ」

(    )「きっかけ、ねぇ? あるの? そんなの」


映画とか、雑誌ってこういう時どうだっけ?
そもそもこういう宇宙人系の映画って、しっかり見たことないんだよなぁ。
ええと。目がやばいとか、動きが変とか、頭がなんか受信しちゃってる感じだったり、わかりやすく体が変形してる……とかか?

……うーん。
一番わかりやすいのは、体が変形してるパターンだよな。
なんか生えてるとか、増えてるとか、見るからに変だって分かる感じの……。


(;'∀`)「キリン星人にのっとられたやつってのは、普通とは違うんだよ」

( ゚д゚ )「どこが違うんだ」

(;'∀`)「それはな……」


考えついたところまで話してみたが、その先が思いつかない。
キリン星人だろ。
キリン星人っぽい感じで、明らかに変だとわかると言ったら……。

446名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:27:40 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「もったいぶってないで、早く言いなさいよ」

(;'A`)「ひゃぃ!」

(    )「なんにも考えてないとか、言わないよな?」

川   )「ふむ。私も楽しみだ」


やべぇ。
まだ考え途中なのに、絶賛急かされている。
頼むから、もうちょっとだけ待ってくれ!!! 頭のなかで、そう叫んでみてもツンたちには当然届かない。


(    )「どうやって宇宙人の正体を明かすのかワクワクするよね」

(;゚A゚)「宇宙人。キリン星人にとりつかれた人間はだな」

(    )「ドクオ? 大丈夫かお?」

(;'∀`)「平気、へーき。
     えっと、キリン星人、キリン、キリン……キリンは……」


頭に浮かぶことをひたすらつぶやきながら、頭を回転させる。
気持ち悪いほど汗が流れているけど、ぬぐう余裕なんてない。
キリン星人。キリン。キリンと言ったら……

447名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:29:07 ID:4Pykjo5k0

動物園の人気者のキリンさんのことを考える。
あいつらは確か、黄色くて、茶色い模様があって、ツノがあって、それから。それから……


(;'∀`)「首が長い!」

川   )「たしかにキリンの首は長いな」

( ゚д゚ )「首が長いのは、高いところの葉を食べるためだったか?」

ξ   )ξ「それと宇宙人が、どう関係あるのよ」


思いついたと思ったのに、全然思いついていなかった。
一瞬。一瞬だけ、すげぇいい考えが浮かんだって思ったのに。それがこのざま。
だって、首だぜ。首。キリンっぽいし、何より見た目にインパクトがある。


(;゚A゚)そ「ぐっ!」

ξ   )ξ「ドクオ……アンタ、本当にちゃんとこの宇宙人の話知ってるの?」


今、思いっきり考えてます。
それが事実なんだが、――そんなこと今さら言えっこない。
それを言ったら、俺がツンに完全敗北したことを認めることになる。それだけはできない。

448名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:29:47 ID:4Pykjo5k0

ξ   )ξ「しっかり覚えてないなら、他の話にしたっていいのよ」

('A`)「それはできない。それだけはできない……」

ξ   )ξ「なによ」


ここからは、一世一代の大博打だ。
一度、口にしたら後は引き返すことが出来ない。それでも、男にはやらなければいけない時がある。


(;'A`)「なぜなら、俺は間違ったことを言っていないからだ!!!」

ξ   )ξ「……っ」


ツンが一瞬、怯んだ気がした。
その隙につけ込むように、俺は言い放った。


('A`)「キリン星人は普段はのっとられた当人も気づかないほど大人しい。
    だがな、ある条件が整ったその時だけ、」

ξ   )ξ「……」

449名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:30:48 ID:4Pykjo5k0



     . . . . .
(#'A`)「首が伸びるんだよ!!!」



言ってやった。
いや、言ってしまった。
ここから先は、完全に何も考えていない。
ツンがこれで納得してくれればいい。しかし、納得してくれなかったその時は、ここから先は地獄だ。


ξ   )ξ「……」


ツンは、何も言わなかった。
「はい」も「いいえ」も、俺の話を否定する言葉も口にしなかった。


(*'A`)(勝った)


勝った。
俺は勝った。ここから先、何を話せばいいかわからないが、とりあえず俺は勝ったのだ。
勝利の感触に酔いながら、汗を拭う。
せっかくだから、ここは酒でも飲みたい気分だった。……人の家だから買ってきてないけど。

450名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:31:35 ID:4Pykjo5k0


――しかし、勝利の瞬間とは長く続かないものである。
俺の感動と余裕は、たった一言によって打ち砕かれた。


(    )「なんで首がのびるんだお?」


よりにもよってブーンの一言でである。
当たり前と言えば、当たり前の一言。
俺だって、話を聞く側だったらそう思ったであろう言葉だった。

シンプルな言葉は、時によっては人を殺す。


(;'A`)「ええと、別に伸ばしたくて伸ばしてるわけじゃ……」

(    )「だよね。そんなことしたら目立つし……
      でも、伸びるんだよね、首」

(    )「のばしたくなくても、のびるんだ。首」


次々と言われる言葉に、頭が真っ白になる。
ツン言葉にカッとして答えただけだから、全然考えてない。
一つ考えたら、また一つボロが出てくるなんて本当に死にたい。

451名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:32:20 ID:4Pykjo5k0

まるで、レポートを書いているみたいだ。
穴埋めに書いた一文に、赤ペンで修正されたしょっぱい記憶がよみがえる。
レポートと違って文が消せないぶっつけ本番は、やばいと改めて思う。


(;'A`)(考えろ、俺!!)


宇宙人は人を乗っ取る。
だけど、そのままだと宇宙人が人を乗っ取っているかどうかわからないから、首が伸びることにした。
ここまでは、どうやっても動かせない。


とりあえず、首を伸ばす理由をなんとか考えて……考えて……考えろ。


乗っ取られた人間が死にそうだから、脱出?
うん。これは悪くない。悪くない路線だ……でも、乗っ取った人間ってそんなに簡単に死ぬか?
死因と言ったら、多いのが事故か病気?

病気で死んだ爺さん婆さんの首が伸びる……
……なんか。宇宙人っていうより、新手の妖怪っぽいなこれ。

うーん。
乗っ取る。宇宙人が人を乗っ取るっていうなら、目的は侵略っぽいやつだよなぁ。
映画だと大体そんな感じだろうし。
だったら、乗っ取った人間は利用したいよな。

452名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:33:52 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「……お前らは、なんで伸びるんだと思う?」


考える合間に、口を開く。
ちょっとでも時間を稼ぎたいのと、頼むから誰かヒントをくれという願いをかけて、俺は問いかける。
ミルナとかならなんか難しくてよさげなことを知ってるかもしれない。それか、オカルト詳しそうなショボン。
ツンは……、とりあえずこれ以上余計なことは言わないでほしい。


(;   )「え? はぇ? 急に聞かれても困るお」

(    )「ええと、ふつうに考えると……
      宇宙人が肉体を改造した……とか、かなぁ?」

川   )「宇宙人という異物に、人体が適応できなかったという線もありそうだな」

( ゚д゚ )「宇宙人については詳しくないが、動物と同じと考えるのなら……
     環境に適応するためか、生存に有利だからだと思うが」


ありがてぇ。ほんとにヒントが来た。
言ってみるもんだなぁと、慌てて脳内メモにヒントを書きつける。
宇宙人がやった。人間の体じゃ適応できなかった。環境に適応するため……

453名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:39:07 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「……アンタたち。よく、そんなに考えつくわね」

(    )「なー」

(    )「みんなすごいお。
      僕、宇宙人ってほんとはろくろっ首なんじゃないかって思ってたんだお」


ヒントにならなさそうな声も上るが、今は答えを考えることに集中する。
クーの、「人間の体じゃ適応できなかった」が一番使えそうな説だ。
あとは、……生存に有利?


('A`)(生存に有利……なんで、生存?)


妙に、ミルナ説が脳裏にひっかかる。
首が伸びて有利になることって、なんだろう。
ろくろっ首なら相手をびっくりさせることと、遠くが見えたりすることなんだろうが。
宇宙人だと、特に思いつかない。

454名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:43:40 ID:4Pykjo5k0

遠くが見えるのは、望遠鏡とかそっちを使ったほうがよっぽど早いので却下。
人間乗っ取ってるんだから、それくらいできるだろう。


('A`)(あとは、びっくり……びっくり?)


びっくりさせることのメリットは……ああ、相手から逃げるチャンスができるとかか。
でも、宇宙人に天敵なんているか?
それに人間をのっとってちゃんとカモフラージュできてるはずだから、わざわざ人間の体から逃げる必要なんてないよな。
せっかくのっとった大事な肉体。そいつを捨てるほどの理由なんて。


('A`)「!」


今、天才的なひらめきが走ったような気がする。


('A`)「キリン星人がとりついた人間の首が伸びる理由……」


大昔にテレビかなんかでみた、エイリアンの映像が脳裏によぎる。
人間の体を捨てて、そこから出てくる理由。


('A`)「それは……」


そう。それは……

455名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:44:20 ID:4Pykjo5k0


                    . . . .
(*'A`)「そこからキリン星人が、産まれるからだ!!」


人間の体を食い破って、誕生するエイリアンの姿。
弱そうな人間の体から、完全体に進化する。もうこれっきゃない!!


(;    )「あ。ああー!!」

川   )「なるほど。その手があったか」

ξ;  )ξ「……う」


聞こえてくる反応が、なんかいい感じの気がする。
この路線はなんかよさそうだ。
答えに詰まってたところが、なんかいい感じに話をタメてたっぽくなってて、さらにいい感じだ。

456名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:46:08 ID:4Pykjo5k0


ξ;  )ξ「うまれるって……? 体の中から、そんな変なものが出てくるっていうの?」

(    )「さっき、首の話をしてたし。出てくるなら首かな?」

川   )「首からメリメリばきばきぐにゃぐにゃ……ギャー。
     その結果、伸びる首か?」

ξ;  )ξ「ひ」


ツンの声が露骨に弱気になった。なかなか悪くない反応だ。
なんかいい感じに、話が盛り上がっているような気がする。
俺が考えた話で盛り上がるのは、悪くない気分だ。
これぞ、百物語の醍醐味ってやつだろう。


(    )「出てきたあとは、どうするんだお?」

(;'∀`)「ええと」


訂正。
まだ油断してはいけない。一つ話したら、一つなんかを直さなきゃならない。
宇宙人は人間の首から出てくる。めりめりバキバキぐにゃぐにゃで、ギャーはとりあえず採用しておこう。
そこから先。宇宙人がすることと言ったら、やっぱり定番は……

457名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:46:52 ID:4Pykjo5k0


(;'∀`)「地球侵略」

(    )「はぁ?」


とりあえず口にしてみたが、思いっきり冷たい声で返された。
言葉にするならば、「なにそれ、馬鹿なの?」というくらいの反応。
誰だよ、今の声。地球侵略っていったらオカルトやSFの王道だろ……多分。


(;'∀`)「侵略じゃなくて、でも侵略的な……侵略」


宇宙人の目的と言ったら、とりあえず侵略。
映画とかでよくある地球人とのファーストコンタクトは……、首から爆誕してる時点で無理だなこれ。
地球の調査、地球資源の確保。……この2つは、どっち選んでも地球侵略っぽいな。

ダメだ。頭が地球侵略モードから離れてくれない。
こうなったら、地球侵略はそのままにしとこう。
あと、考えなきゃいけないのは首から出てきた宇宙人がどうするかだっけか?


(;'A`)「そう」

458名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:48:58 ID:4Pykjo5k0


宇宙人。宇宙人……
こいつらが宇宙人じゃなくて、それこそキリンだったら。
そいつらがやることと言ったら。食って、寝て……あと、


('A`)「そう。キリン星人は……」


生き物の大原則。
生き物が生まれて、生きて、そしてやることと言ったら……もう、これっきゃない。


(*'A`)「子孫を残すんだ。それで増える!!!」



一瞬、部屋がしんとした。
聞こえるのは、じぃじぃという耳障りな虫の声。
それで、はじめて周りの物音が聞こえないくらいに、必死になっていたことに気づいた。
ブーンやツンたちの声以外に音がしていたなんて、全然わからなかった。

459名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:50:12 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「……」

( ゚д゚ )「……」


耳を澄ませて、返事を待つ。
普通なら相手の表情で反応がわかるのに、暗い部屋は人の顔なんて見せてくれない。
かろうじてミルナの顔が見えるが、いつもと変わらない表情に見える。


(;'A`)「人間の体を使って、子孫を残して。
    それで、また新たな子孫を残そうと……」


一秒、二秒……流れる時間が、絶望的なまでに遅い。

頼む。
誰か、何か言ってくれ。
俺はここから先、どうやって話を作ればいい?

460名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:51:19 ID:4Pykjo5k0

……そんな、じれったいほどに長い時間は何秒続いたのだろうか。


(;    )「うわ」

ξ;  )ξ「気持ち悪……」


小さな声が上る。
さっきみたいな冷たい声じゃない。たぶん、呆れているとかいう声でもない。
反応は……、どうなんだろうか。


( -д- )「生殖か」

(    )「ひそかに紛れ込んだ宇宙人が、人間の体を食い尽くして増殖していくのか」

川   )「ファンシーな名前なのに、凶暴だな」

(    )「キリン星人さんこわいお〜」


悪くは、ないような気がする。
怖くはないが、とりあえず気持ち悪いっぽい話にはできたっぽい。
ああ、なんだ。これで怖い話ができたんじゃないか。

461名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:52:05 ID:4Pykjo5k0


(*'∀`)


やればできるじゃないか、俺。
あとは、これまでの話してきたことをちゃんとした話っぽくまとめれば完璧だ。
二度とやりたくないが、ぶっつけ本番でもできるもんだな怖い話って。


(*'A`)「なんかごちゃごちゃしちまったから、まとめるな」


顔が自然とにやけてしまう。
さっきまではそれどころじゃなかったけど、冷静に考えてみればこれまでの話はいい感じだったと思う。
あとは「これは遠い国の話ではない」的な一言を加えれば話は完成だ。


息を吸って、目を閉じる。
俺は話を完成させるために、口を開いた。


.

462名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:53:01 ID:4Pykjo5k0

-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------



話の流れが無茶苦茶になっちまったから最初から話すな。


俺の話は宇宙人の話だ。


宇宙は広い。
それだけ広いんだから、地球以外にも生物がいるかもしれない。
その中には、知性を持つ生命――いわゆる宇宙人もいるかもしれない。

いろんな国の研究者たちがこぞって研究しているけど、まだその存在は確認されていない。
……って、世間では言われているよな。

.

463名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:53:41 ID:4Pykjo5k0


だが、それは間違っているんだ。
世間には公表されていないが、すでに宇宙人の存在は確認されている。
それどころか、やつらはすでに地球に来ているんだ。




宇宙人はいる。
そいつらを俺は、≪キリン星人≫と呼んでいる。



.

464名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:54:27 ID:4Pykjo5k0


キリン星人は地球の環境では長く生きていけない。
だから、キリン星人は人間に取り付くんだ。

キリン星人に取り付かれた人間は、外見からでは区別がつかない。
キリン星人が世間に知られていない、最大の理由がそれだ。

キリン星人は、めったなことがないかぎりは宿主に悪さをしない。
だから、宿主自身も自分が乗っ取られていることに気づきもしない。
ほとんどの宿主は、自分の体に宇宙人がいるってことに気づかないまま生きて、ふつうに寿命を迎える。



――だけど、特定の条件がそろったときにだけ、キリン星人はその牙をむく。
だからこそ、キリン星人の存在はこうやって、一部の人間に知られているんだ。

465名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:55:09 ID:4Pykjo5k0


みんなは、俺がキリン星人の名前を出したときに変な反応をしたよな。
「きりん、きりん」って、ひたすら言ってるやつもいたよな。
たしかに、俺もその名前をはじめて知ったとき、同じように思ったよ。


「なんで宇宙人にキリンかって?」
みんなも変だって思っただろう。それには理由がある。



……そう、さっきも話したよな。



キリン星人に乗っ取られた人間は、その首が伸びるんだ。
まるでキリンのように……だから、その宇宙人はわざわざ≪キリン星人≫なんて呼ばれているんだ。

466名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:55:51 ID:4Pykjo5k0


――とはいえ、いつも首が伸びるわけじゃない。
首の伸びた人間がそこらじゅうを歩いていたら、そりゃあもう目立つからな。
もうそこに宇宙人がいるってのがバレバレだろう。そうなったら、一気に駆除の対象だ。


でも、実際はキリン星人がいるって話も、駆除されたって話も聞かないだろう?


キリン星人はさっきも言ったみたいに、めったなことがないかぎり宿主に悪さをしない。
そして、宿主が死ぬと、宿主の体にいるキリン星人もそのまま生を終える。
普通なら、な。

――だけど、特定の条件がそろったときにだけ、キリン星人は宿主に牙をむくんだ。

467名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:57:10 ID:4Pykjo5k0


キリン星人は普通、1つの体に1体が取り付く。
だけど、ごくまれに1つの体に、2体以上のキリン星人が住み着くことがある。
そうなった時だけ、キリン星人の宿主の首は伸びるんだ。


その理由は、たったひとつ。

生き物の大原則。
生き物が産まれて、生きて、その中でやることと言ったらセッ……じゃなくて、そう生殖だ。
それは地球外生命体でも、変わらない。


キリン星人もその大原則からは逃れることが出来ないってこったな。


男と女が出会って、子どもが産まれるように……
宿主の体に2体以上のキリン星人が住み着いた時、やつらは生殖を行う。

そして、よろしくやったキリン星人たちは宿主の体の中に大量の卵を産み付ける。
その卵は宿主の体の中で成長し、――ある日一斉に孵化する。

.

468名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:57:51 ID:4Pykjo5k0

-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------



('A`)「――ある日一斉に孵化する。」


話は順調過ぎるほどに順調だった。
何しろさっき話したことを、もう一回話すだけ。
忘れかけてるところや、考えてなかったとこがあって焦ったが、なんとかそれっぽく話ができたはず。
ツンに怒られそうなセクハラ一歩手前のワードも、ミルナ大先生のおかげでなんとか回避できた。

この調子で行けば、俺の話は終われる。
……だからなのだろう。そこで、どうせならもうちょっと、という欲が出てきた。


.

469名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:58:40 ID:4Pykjo5k0


('A`)「そうやって孵化したキリン星人たちは、宿主の首から」


俺の口は、気づけば止まっていた。
孵化したキリン星人が、宿主を殺して出て来る。
映画とかならば、話のオチに当たる部分だ。

……だけど、なんとなく物足りない。
というか、ひっかかる。なんかこの部分の出来がイマイチのような気がする。
ツンが絶好調だったら、多分ツッコミが入ってるだろう。


('A`)(やっぱ、首が伸びるって無理あるよな)


キリン星人の被害者は、首が伸びる。
これは、いい。というか、調子に乗って作った前提条件だからもう動かせない。
宿主の体で孵化したキリン星人(子)が、宿主殺して首から出てくる。
これもいいと思う。話に無理はないし、首というワードは何とか出せている。

そこまで考えて、俺は致命的な事実に気づいてしまった。

.

470名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:59:46 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)(やべぇ。被害者の首、伸びてねぇじゃねぇか!!!)


考えてみればそうだ。
「首から出てくる=首が伸びる」にはならない。
さっきは勢いとか雰囲気で流されていたが、これはヤバい気がする。


(ii'A`)(どうする。このまま行くか? このまま行って、大丈夫なのか?!)


言葉が出てこない。
さっきは上手く話が進んだ。でも、次もそれでいけるかは……わからない。
途中でツッコミが入って、どうしようもなくなるくらいなら、いっそ――ここで話を盛るべきじゃないのか。

471名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:00:37 ID:4Pykjo5k0


(    )「ん、どうしたお。ドクオ?」

川   )「大便か?」

(    )「そうやって、ずばりと言われると……ちょっと恥ずかしいんだけど。
      せめて、お花をつみにいくとかそんな感じで……」

川   )「そう照れることはない。排泄は立派な生理現象だぞ」


周りから声が上がり始める。
このまま黙っているのはマズイ。


(;'A`)「なんか喉が痛くなって……」


咳を無理やり出して、言い訳をする。
「話しすぎか?」とか言いながら、何度か咳き込む。
もちろんその間も、頭はどうやって「首が伸びる」事件を解決するのか必死だ。


(;'A`)(なんかそれっぽいことないか。考えろー、思いつけー)

472名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:01:37 ID:4Pykjo5k0


宇宙人パワーで首が伸びると、ゴリ押しできる自信は俺にはない。
となると、それっぽい設定を追加するしかない。


(;'A`)(首が伸びる。首が伸びる。首、首……)


首が伸びた人間なんて見たことがない。それこそ、ろくろっ首とか妖怪だ。
死体だったとしても、聞いたことが無い。
不自然に首が伸びた死体がいくつも発見されたら、それこそネットやテレビで大騒ぎだ。

じゃあ、どんな状況なら自然なんだ?


('A`)(……首吊り死体とか? 本当に伸びるのかどうか知らないが)


首吊り。首吊りならまだ、マシなのかもしれない。
キリン星人は、人間を乗っ取ってる設定なんだから、宿主の行動も操れるだろう。
となると、首を吊らせること自体はセーフ、と。

473名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:02:19 ID:4Pykjo5k0

セーフなんだがなぁ……。
キリン星人が産まれるだけなら、別に首を伸ばす必要なんてないんだよなぁ。
そもそも、普通に宿主殺せばいいだけなんだし。


(>'A`)>(やべぇ! とりあえず首吊り、採用してそのまま突っ走るか?!)


とりあえず生まれたばかりのキリン星人は力が弱いから、自力では宿主から出れない。
親に当たるキリン星人は、宿主の体を操って首を吊らせるとか、そんな感じでごまかして……


(>'A`)>「……あ」


――そこで、ふと思いついてしまった。

これまでの話と合わせて考えてもぱっと見、矛盾はなさそうに思える。
我ながら恐ろしいことを、思いついてしまったかもしれない。
今日の俺はきっと、神がかっているんだろう。


.

474名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:03:04 ID:4Pykjo5k0


('A`)「すまん。心配をかけた。
    ……孵化したキリン星人たちの話だったよな」

( ゚д゚ )「そうだ」

('A`)「孵化したばかりのキリン星人たちは、まだ力が弱い。
    ……だから、その親は宿主を操って、首を吊らせるんだ」


一度口にしてしまえば、まるではじめからこうなることが決まっていたかのように話は続く。

まるで自分が、物語を作る機械になったようだ。
俺じゃない何かが、俺じゃないモノが語る、騙る。
深く考え込まなくても、口は勝手に物語を作り上げていく。


.

475名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:03:44 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------


孵化したばかりのキリン星人たちは、まだ力が弱い。
……だから、その親は宿主を操って、首を吊らせるんだ。
死んで抵抗力を無くした宿主の体を食い破って、宇宙人たちは外の世界に出ていくんだ。

孵化した宇宙人たちは、死体の体内を這いずり回り、口や首を食い破って出てくる。
そのせいで死体の首がキリンのように長くなるから――その宇宙人はキリン星人と呼ばれるようになったんだ。


……なんで首を吊るのか、って?


ああ、俺もずっと不思議だった。
宿主が死ぬなら、その殺し方はなんだっていい。それこそ飛び降りとか病死とかでもいい。
俺も、はじめそう思ったさ。
でも、違うんだ。


キリン星人が、宿主の首を吊らせるのにはちゃんと理由がある。


.

476名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:05:01 ID:4Pykjo5k0


首を吊らせる理由。それは、2つある。

そのうち1つは、単純に時間がかかるからだ。
孵化したばかりのキリン星人は、死んだ宿主の体から外に出るのに時間がかかる。
セミの幼虫だって、羽化には一晩くらいかかるだろう。そんな感じだ。
だが、そっちの理由はそんなに重要じゃない。


キリン星人が宿主に首を吊らせる最大の理由。


お前らは……首吊り死体を見つけたら、普通どうする?
警察を呼ぶ? 救急車……それもそうだな。
わかった。救急車か警察が来る。それから、その後は。

死体を、下ろすよな。
死体を下ろして、回収して……そいつが墓の下に行くまでに、何人もの人間が接触するよな。


……キリン星人はな、そうやって接触した人間の体に、取り付くんだ。

477名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:06:25 ID:4Pykjo5k0


そう。
キリン星人が、宿主に首を吊らせるのは、生まれた子に新たな宿主を与えるためだ。
宿主とともに親のキリン星人は死に、死んだ宿主を食い破って子供たちはこの世に生を受ける。
そして、自分が産まれた死体に接触してきたものを新たな宿主とする。

生まれたキリン星人はこうやって、宿主を見つけその体に住み着くんだ。
そして、宿主に気づかれないままひっそりと生きる。

そんなふうにして、キリン星人にとりつかれた人間はたくさんいる。
そして、そんな宿主の中のごく一部が、また別のキリン星人に接触し……次代を産むための犠牲者となる。


ああ、そうだ。
そいつは体内に無数の卵を産み付けられて、キリン星人の意思に命じられるまま首を吊るんだ。
そして、そこから新たなキリン星人たちが生まれる。


.

478名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:07:22 ID:4Pykjo5k0


……
まぁ、取り付くっていっても、全部が全部成功するわけじゃない。
中には場所やタイミングが悪くて、虫や動物に食われちまうやつも居るだろう。

そういった虫や動物は宿主にはなれない。
理由はわからないがたぶん、繁殖ができないんだろう。
だから、虫や動物にとりついたキリン星人は、なんとかして人間にたどり着かなければならない。


そいつらはどうするか、って?
食物連鎖ってのがあるだろ。


キリン星人がとりついた虫や動物は、当然、食ったり食われたりする。
自分のいる虫や動物の場合が死んでも、たいていの場合キリン星人は死なない。
……本来の宿主じゃないからな。


キリン星人は自分の仮の宿主を食ったものに、新たに移り住むんだ。
こうしてキリン星人は仮の宿主をどんどん変えていき、いつか人間にたどりつく。

まぁ、こっちはそんなに確率は高くないんだがな。
大半のキリン星人たちは人間にたどり着く前に、死ぬ。


だけど、そうやってのっとられた人間のうちの、何十人か何百人かに一人が……体の中に卵を宿して、その卵をかえすんだ。
自分がはじめて外の世界に出た、その場所にかえって。
そこで首を吊らせて、その伸びた首を食い破って。キリン星人はその数を増やすんだ。

.

479名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:08:11 ID:4Pykjo5k0


自殺の名所ってあるだろ。
なぜか、その場所でだけ自殺が続くっていうそんな場所。
首吊りが続く場所があったら、近づかないほうがいい。


首吊りの名所っていうのは、キリン星人たちの産卵場だ。


いや、孵化した宇宙人が誕生する場所……と言い換えたほうがいいか。
運の悪い宿主が死を迎えるその場所で、新たな生き物が生を受ける。
そして、そこにやってきたやつのうち何人かに一人が、また新たな苗床となり、そこで首を吊る。


なんども首吊りが起こる場所ってのは、そんな場所なんだよ。


よく言うだろ。自殺の名所なんかにうかつに近づくなって。
それは、そういうことなんだよ。




――人が近づいてはいけない場所には、ちゃんとした理由があるってことだ。



.

480名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:09:46 ID:4Pykjo5k0

-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------


息をついた瞬間、世界に音が戻ったような気がした。
夢から覚めたときのように、頭が少しぼんやりとしている。
汗をかいたのか、濡れたシャツはさらにベタベタになっていた。


(;'A`)「……ふぅ」


いまいち自覚がないが、俺の話はちゃんと終わったみたいだ。
話さなきゃならないことはまだあるかもしれないが、今は思いつかない。

部屋の中は静かだ。
目を凝らして、反応を探る。
とりあえず、一番文句を言いそうなツン。アイツの反応さえよければ俺の話は完全に終了できる。

481名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:10:46 ID:4Pykjo5k0


ξiii   )ξ「ムリ。なんかもうムリ。きもちわるい……
       うじゃうじゃしたのって、ほんとダメ」


しばらく耳をこらしていると、やっと女の声が聞こえた。
たぶん、ツンの声。
妙に大人しい感じだが、怒ってるわけではなさそうなので、ほっと息をつく。


川   )「そうか? 私は面白いと思うんだが。
     こういう奇妙な生態の生物の話を聞くと心が踊らないか? 虫とか動物とか微生物とか」

ξii ⊿ )ξ「あわわわわ、やめ、やめてぇ」

川* - )「ほれほれ、よいではないかよいではないか。
      個人的に寄生虫とか、すごぉく心が踊るぞ。あれも宿主を操るやつがいるとか」


いや、ちょっと待て。
なんか妙に楽しそうだ。クーの美しい声がツンをからかっている。

482名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:12:20 ID:4Pykjo5k0


ξii ⊿ )ξ「やめてぇぇぇ」

川* - )「体の中で増えて、卵がうじゃうじゃびちびち、うごうご、ぞわぞわ」

ξii ⊿ )ξ「ひぃぃぃ……」


2人のやりとりが、ものすごく気になる。
というか、この流れなら、ツンにこれまでの文句の仕返しができそうな気がする。
……だが、ここでツンを怒らせたら最後、困るのは俺だ。


('A`)(とりあえず、ツンは大丈夫っと)


とりあえず今は、キリン星人に対するクレームがなければそれでいい。
このまま話を聞いていると余計なことを言いそうなので、顔を別の方向に向ける。
ミルナと、あとはショボンとかそのあたりの反応はどうだろう。

483名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:13:04 ID:4Pykjo5k0


(    )「東某の佐久車緑地もかな?」

(    )「なんだお、それ?」


暗闇に目を向けると、全然関係のない話が始まっていた。
とうぼう? さくしゃりょくち?
……こいつらが何を言っているのか、全然わからない。
目を細めてみても、人影っぽいものが見えるだけで、その表情もよくわからなかった。


(    )「知らない? 佐久車緑地の首吊りの木って言ったら、そこそこ有名な怪談スポットだよ」

('A`)「なんだ。首吊りつながりだったのか。
    てっきり別の話がはじまったんだと」

(    )「ごめんごめん。首吊りで有名な場所って言ったら、思い浮かんでさ」


ショボンらしき声が、一人盛り上がっている。
その声を聞いた感じでは、こちらも俺の話に対する文句とかはなさそうだ。
できれば、キリン星人についての話が聞きたかったんだが、それは贅沢だろうか?

484名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:14:09 ID:4Pykjo5k0


(    )「トーボー?」

川   )「東某といえば、ショッピングモールで有名だったところか」

(    )「そうそう。ほら、僕たちが中学くらいのとき、結構テレビに出てた」

ξ   )ξ「今、どうなってるのかしら。あんまり聞かないわよね」


途中からツンたちの声も混じって、楽しそうに話が進む。
地元の話って盛り上がるよな……。俺も、普通に宇宙人じゃなくて怪談スポットの話をしておけばよかった。
そうだったら、あんな必死に考えなくても話がすんだろうに。


(    )「それは、あれじゃない?
      ……東某連続変死事件。相次ぐ謎の変死に陰謀だ殺人だなんて噂も。
      ちょうど首吊りの木のある辺りで起こったって、ネットではちょっとした騒ぎだったよ」

(    )「それ、キリン星人がやったのかお!?
      ほんとーにいたのかお、キリン星人!!」

ξ   )ξ「ううっ……もうその話やめて」

485名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:14:57 ID:4Pykjo5k0


自殺の名所に、変死事件。
事実って言うのは作り話よりも怖いもんだと思いながら、汗を拭う。
「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」――自然と口から出たあの言葉は、案外間違っていなかったのかもしれない。


川   )「あれは感染症だろう? 一時期は、なにかと騒ぎになったが」

( ゚д゚ )「数年前の話だな」

(    )「クーは夢がないねぇ。
      きっちゃん先輩とか、旭とかこういう話大好きだよ」

(    )「ニュースに白い服の人いっぱい出てたやつかお? あれ、こわかったおね〜」


ショボンたちの話は続いている。
キリン星人が本当にいたら、こんな感じで話題になったんだろうなと、ふと思った。

.

486名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:15:52 ID:4Pykjo5k0

-----------------------------------


東某市の佐久車緑地、建逃平和公園、没根多倉庫――。
自殺の名所の名前をいくつか上げて、ショボンたちの話は止まった。


('A`)「……蝋燭、5本くらい消してもいいんじゃね?」

(    )「ほら、話したのはドクオだけだし」

川   )「その後、ショボンがひたすら語り倒していたがな」

(    )「消すロウソクは1本だからな!」


ショボンの話はひたすらに豊富だった。
このあたりにこんなに自殺スポットがあるなんて知識、正直欲しくなった。
ついでにいうなら、その全部がいわくつきなんて話も知りたくなかった。

というか、いわくがありすぎて、本当にキリン星人っているんじゃねえか?
……なんて、一瞬思いかけた。
だが、今作ったばかりの宇宙人が存在するはずなんてないので、即座に脳内で却下する。

487名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:16:55 ID:4Pykjo5k0


とはいえ全部が全部、適当だった俺の話も、「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」の一点だけは本当にあっていたらしい。
それがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。
ただ自殺の名所にだけは今後絶対に行かないと、心に決めた。


(    )「僕、平和公園にもう行けないお……キリン星人が出るお」

ξ   )ξ「……うぅ。キリン星人はもうやめて……」

( ゚д゚ )「大丈夫か?」

ξ   )ξ「なんとか……」


まだ話している声は聞こえるが、このあたりで俺の番もようやく終了というとこだろう。
キリン星人の名前がまだ聞こえるのが、なんとなく嬉しい。苦労したかいがあるってもんだ。
……そう思いながら、俺は畳に手をつく。
ザラリとした感触を感じながら、腰を上げて立ち上がる。


('A`)「蝋燭消してくる。とりあえず、1本で」

(    )「あったりまえだろ!」

(    )「いってらっしゃいだお〜!」

488名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:17:47 ID:4Pykjo5k0


部屋を軽く見回す。
蝋燭は二間先。開けっ放しにしてある襖の向こうだ。


(;'A`)「よっ、と」


少しだけ明るい方向を目指し、おそるおそる足元を探る。
かろうじてぼんやりと見える形を避けつつ、なんとか転ばないように進む。
近くに何かがあるはずなのに、よく見えないというのは、怖いもんだと改めて思う。

1歩、2歩と進んで、腕を伸ばして襖を探る。
何度も通ったはずなのに歩きにくいのは、きっと最初よりも暗くなっているせいだろう。


川   )「やっぱり寄生虫か……」

( ゚д゚ )「土地の穢れ、呪いのあたりも近いと思うが」

(    )「僕はやっぱり、エイリアンを推したいなぁ」


クーたちの声を背に、襖を越えて次の部屋へと入る。

……あの話は、俺の話の続きだったんだろうか。
気にはなるが、これまで蝋燭を消しに行く途中で戻って来たやつはいない。
というか、やったら間違いなく弱虫認定される。いくらなんでもそれはゴメンだ。

後ろ髪を引かれる思いをぐっとこらえて、俺は足を進める。

489名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:19:18 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------


隣の和室は、四方を襖で区切られただだっ広い部屋だった。
そこには、家具どころか荷物1つ置いていない。
ついさっき入ってきた側の襖と、蝋燭が並べてある部屋へと続く襖だけが開け放たれている。


('A`)「……」


俺達がいた場所よりも、少しだけ明るい部屋。
そこには、当たり前だが誰も――いや、


いいや、――


.

490名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:20:30 ID:4Pykjo5k0


(=゚д゚)


そこに、動く気配があった。
蝋燭のある奥の部屋からぬっと現れた影は、俺よりも遥かに小さい。
というか、小さすぎた。人というよりは、もっと小さい。


(=゚д゚)

(;'A`)「ぬこ?!」


なぁお゙ぉう、と鳴く声が響く。
猫だ。たしかに、猫がいる。
模様まではわからないが、結構大きな猫のような気がする。
ミルナの爺さんの、猫なんだろうか?

.

491名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:22:02 ID:4Pykjo5k0


(=゚д゚)


その猫は俺の方へと寄ってくると、口から何か落とした。
何かを咥えていたのだろう。
プレゼントかなにかのつもりか? そう思って、視線を足元へ落とし――


(;゚A゚)「な、なぁぁっ!?」


――声を上げていた。
全力で叫んだつもりだったけど、出たのは間抜けな声だった。
ろくに言葉が出てこない。体は動かなくて、ただ馬鹿みたいにそれを見つめるだけ。

.

492名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:22:50 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「な、な、なん」


視線の先にあるのは、毛玉みたいな何かだった。
和室に転がっているにはあまりにも不自然なそれは、ピクリとも動かない。
黒くって、猫よりももっと小さくて――ヒモのようなもののついたそれは、なにかの生き物。


その、死体。らしき、もの。


.

493名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:24:21 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「しんで、る?」


たぶん、それはネズミなんだろう。
見慣れない毛玉のようにしか見えない、生き物だったもの。
猫よりも小さなその体が、頭の部分が不自然な角度で曲がっている。
曲がっている。いや、曲がっているというよりは――、首が、のびて、いるような。


(;゚A゚)「……あ」


同じだ。
あの宇宙人と同じだ。
ひとに取り付く宇宙人。俺が作った、キリン星人。


.

494名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:25:08 ID:4Pykjo5k0


キリン星人にとりつかれた、犠牲者の死体。
首の伸びたその死体に触れたものは、キリン星人に体をのっとられる。


だったら、あのネズミに触ったら俺も。キリン星人に乗っ取られる?


.

495名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:26:13 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「……ちがう」


大丈夫。大丈夫のはず、だ。
これが本当にキリン星人の仕業だとしても、動物に取りついているだけなら何の害もないはずだ。
その死体を食うなんて、馬鹿なことをしない限りは。


(;'A`)彡「大丈夫。こいつはただのネズミ。なんともない」


頭をおもいっきり、振る。
混乱しかけた頭は、その動きで少しだけ冷静さを取り戻す。

496名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:27:44 ID:4Pykjo5k0



俺は馬鹿か。
キリン星人なんてものいるはずがない。そんなの、話をでっち上げた俺が一番わかってるだろう。
それが実現するなんて――、


.

497名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:28:54 ID:4Pykjo5k0





生暖かい感触。



.

498名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:29:36 ID:4Pykjo5k0




生暖かい何かの感触が、俺の思考を完全に止めた。






                      それが、もう一度――。




(;゚A゚)「ひっ」




はっきりとした感触。
暖かい何かが確かに動いて――、


.

499名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:30:38 ID:4Pykjo5k0





――なぁお゙ぉう。



.

500名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:32:01 ID:4Pykjo5k0


弾かれたように、足元を見る。
俺の足。
ちょうど何かが当たって、動いたそのあたり――。


(=゚д゚)

(; A )


そこにはあの猫がいた。
ああ、そうだ。この部屋には猫がいた。そんなことも頭から消えていた。


(=゚д゚)


生暖かい体が、足に擦り付けられている。
褒めろというのか。それとも「どうだ。驚いたか」とでも言うように、金の目がこちらを見上げている。

.

501名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:33:17 ID:4Pykjo5k0


猫だ。なんてことはない、ただの猫。
宇宙人がとりついているわけでもない、ごく普通の。普通のはずの猫。


(;゚A゚)

(=゚д゚)


その体を振り払いたいのに、俺の体は指の一本も動かせない。
なぁお゙ぉう、とまた猫が鳴く。
俺は猫と、ネズミの姿を見下ろして――、



.

502名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:35:06 ID:4Pykjo5k0





( ゚д゚ )「ラギ。駄目だろう」



.

503名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:36:23 ID:4Pykjo5k0


静かな声がして、俺はようやく動きを取り戻した。


( ゚д゚ )「驚かせた」

(;'A`)「みる、な? なんで、」


和室の中に、見慣れた姿が立っている。
ほとんど表情の変わらない顔に、暗闇の中でも妙に目立つ白い肌。
――隣の部屋に居るはずのミルナが、いつの間にかそこに立っていた。


( ゚д゚ )「声が聞こえた」

(;'A`)「それで、か」


俺が毛玉に気を取られている間に、ミルナは隣の部屋から飛び出してきたのだろう。
考えてみれば、ここはミルナの爺さんの家だ。
ミルナが真っ先に動くのは、全然おかしなことじゃない。

504名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:38:08 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「すまなかったな。ラギはいつもこうなんだ」

('A`)「ラギって、」

( ゚д゚ )「こいつだ」


(=゚д゚)

( ゚д゚ )「獲物を取るたびに、ラギは見せに来るんだ」


白いミルナの手が猫を抱き上げ、そのついでのようにあのネズミのような毛玉を拾う。
そうするのが当然というような、仕草だった。
死体なのかもしれないのに、ためらう様子すらなかった。


――宿主の死体に接触したモノに、キリン星人は取り付く。

.

505名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:39:10 ID:4Pykjo5k0


さっきまで話していた宇宙人の姿が一瞬、浮かぶ。
それから、首の伸びたネズミと、猫を抱えたミルナが重なる。

あのネズミが、キリン星人に取り憑かれていたとしたら。
宇宙人は、あの猫にいるのだろうか。
それとも、素手で死体を触った……ミルナに?


違う。動物に取りついている宇宙人は無害だって、さっきも考えたはずだ。
たしか、その死体を食ったりしないかぎりは大丈夫。
ミルナは猫や蛇なんかじゃない。まっとうな人間なんだから、そのへんで死んでるネズミなんか食わない。

だから、大丈夫。
いや、……本当に?


('A`)(馬鹿馬鹿しい)

506名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:40:34 ID:4Pykjo5k0


あんなのは、俺が作った作り話だ。
キリン星人なんてものは、この世のどこにも存在しない。
そう頭では何度も否定しているのに、気づけば頭の片隅にはキリン星人のことが浮かんでいる。

もう忘れろ。
俺の順番は終わったんだから、今度こそ完全に忘れてしまえ。
俺には関係ない。

キリン星人も。東某の佐久車緑地も、建逃平和公園も、没根多倉庫も。
首吊りの木も、死が連続する土地も。
あの首が伸びたように見えたネズミだって、全部俺とは関係ない。


.

507名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:41:53 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「片付けてから戻る。
     悪いが、死骸の件はしばらく内密にしてほしい」


その声で、我に返った。
ミルナを意識から消すくらいに、俺は考え込んでいたらしい。


( ゚д゚ )「ドクオ?」


ミルナは今、死骸と言った。
死骸ということは、やっぱりさっきのネズミは死んでいたらしい。
それなのに、ミルナは顔色一つ変えもしないで、死体を握り続けている。……それを黙っていろと言うのだろうか。

宇宙人の存在を隠蔽。
一瞬浮かんだ言葉を、俺は即座に否定する。


('A`)「……あ、ああ」

508名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:43:42 ID:4Pykjo5k0


そうだ。考えてみれば、変な話じゃない。
百物語中に本当の死体なんて、宇宙人云々を差し引いても、洒落にならない。
猫がいるだけでも驚いたのに、そこにネズミの死体まであったなんて言ったら、この部屋を通るのも嫌になるだろう。
最悪ツンなんかは、百物語を中止にするなんて言い出してもおかしくない。


('A`)「わかった」


これまで散々、怖い話をしてきた。
人が死ぬ話はいくつもあった。
それでも、本物の死を見たのは、これがはじめてということに気づく。

作り話じゃない、本物の死。
その事実に、背筋がぞくりとする。
それが、ただのネズミであったとしても、ミルナのようにその死体に触れたくはなかった。


( ゚д゚ )「すまないな」


ミルナの表情は変わらない。
生きている猫と、死んだネズミを抱いて、その姿はいつも以上に普通だった。
そう。いつものミルナだ。

509名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:45:04 ID:4Pykjo5k0



いつものミルナのはずなのに、その瞳だけが猫の目のように光っている。



( ゚д゚ )


ゆっくりまばたきをして、目をこする。
止まりそうになる息で、無理矢理呼吸をする。
一回、二回。目を閉じて、息を吸って吐く。


( ゚д゚ )「ドクオは先に行ってくれ」


……もう一度見直したミルナの瞳は、もう光ってはいなかった。
なにもない。いつもと変わらない。
いつか見たような気がする、金に光る瞳も、白い鱗も――どこにもありはしない。

510名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:45:49 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「……あ、ああ」


死体を見て、混乱していたんだろう。

やっとそれだけ口にすると、足を動かしはじめた。
気のせいだ。気のせいに違いない。
そう言い聞かせたのに、ミルナの顔をもう一度みる勇気はない。


(;'A`)「……」


心臓の音が止まらない。
クーやツンのやつ。よくこんなとこを歩いたよな。なんて、どうでもいいことを考えて、なんとか気をそらす。


.

511名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:46:58 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------



そして、蝋燭はそこにあった。


部屋は、これまで通ったどの部屋よりも明るかった。
ゆらゆらと揺れる、橙色の列が火鉢の中に並んでいる。

かぎなれない匂いは、遠くにある婆ちゃんの家を思い出す。


('A`)「1本、消せばいいんだよな」


ぽつんと、一つ離れて残っている蝋燭を手に取る。
敷かれた灰色の粉に模様が残って、蝋燭はあっさりと持ち上がる。


.

512名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:47:47 ID:4Pykjo5k0


ゆらゆらと揺れる火に、青白い蝋燭。
下の方を持っているはずなのに、手が焼かれているように熱い。
ジジジ、と聞こえないはずの音が聞こえた気がする。


少し強く吹けば、火は歪み消える。
焦げたような。だけど、それとは少し違うような匂いが強くする。


('A`)「これで終わり、と」


役目を終えた蝋燭を、火鉢の中に放り込む。

ゆらめく蝋燭はたくさん残っている。
火の消えているもの、倒れているものもあったが、全体に比べればそう多くない。
百話はまだ遠い。
この蝋燭が全部消えるまでに、どれだけの時間がかかるんだろう。


.

513名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:49:12 ID:4Pykjo5k0


百物語をした。
蛇の話だった。たわいのないおまじないの話だった。
廃村へ行く話もあったし、たんなる偶然の話も、どこかわからない国の馬の話もあった。


蝋燭が、ゆらゆらゆれる。


暗い部屋の中で蝋燭だけが揺れる光景は、異世界のようだ。
テレビでも見たことのない、風景。

ここは……どこなんだろう。
ミルナの爺様の家なのは、わかっている。
そう。だけど、思ってしまうのだ。


――この家はおかしいんじゃないか。
さっきのネズミも、誰のものかわからないカップも、泣きたくなるほど悲しい誰かの声も、ミルナの肌に見えたウロコも。
全部、ビビりまくっている俺の気のせいじゃないとしたら……。



この暗闇の中にいるのは、誰なんだろう?


.

514名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:50:00 ID:4Pykjo5k0


蝋燭の部屋を抜け、猫とネズミがいた部屋を抜け、暗闇の中へと進む――。
闇が、一番深い部屋。
俺達がずっといる、百物語の会場。


(    )「ドクオ」


暗闇の中から、待っていたとでもいうように声が上がる。
ツンやクーじゃない。
ブーンじゃない。たぶん、ショボンでもない。


(    )

川   )

(    )

ξ   )ξ


暗い部屋の中には、誰がいるのかわからない。
相手が男なのか、女なのか。知っている相手なのか、知らない相手なのか。
ここにいるのは何人なんだろう。そもそも、ここにいるのは――

.

515名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:51:36 ID:4Pykjo5k0


(    )「続きをはじめよう」

(;'A`)「……」

(    )「嫌だなんて言わないよな。
      だって、ドクオは怖い話が大好きなんだから」


蝋燭はまだ大量に残っていた。
百物語は半分も超えていないし、きっとこれからも続く。
夜明けはきっと、まだ遠い。


ξ   )ξ「早く入ってきなさいよ」

(    )「おつかれさまだおー」

川   )「ミルナはまだなのか?」

(    )「どうする、続きはじめちゃう?」


.

516名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:52:41 ID:4Pykjo5k0



足を進めれば、進めるほど灯りは遠ざかっていく。
元の位置だと思うところに腰を下ろせば、相手のシルエットくらいしかわかるものがない。
そんななかで、声が聞こえる。


(    )「さあ、続きを始めようか――」


じぃじぃと、夜の虫の声が響く。
目の前の誰かの笑う顔が、見えたような気がした。


.

517名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:53:29 ID:4Pykjo5k0




              ('A`)百物語、のようです


               宇宙人あらわる!  了


                     (
                      )
                     i  フッ
                     |_|


.

518名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:57:21 ID:qtG6GbmA0
乙 待ってたぞ
相変わらず怖い

519名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 00:24:20 ID:ZnUlYM0o0
おつお
内側から侵されるってぞくぞくくるよね

520名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 00:24:23 ID:VGmiAEbc0
話もさることながら、この環境自体怖いよな…今更気付いてドクオと一緒にgkbr
今年もおつ

521名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 00:38:08 ID:HLc7xuJ60
乙 楽しみにしてた
今回もおもしろかった

522名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 02:31:29 ID:CL/iQY3I0
おつ
さて、夜明けがくる日は、百物語の蝋燭をすべて消す日はいつになるんだろうか
つづきを期待しながら最終話がちゃんと来るのを待つぜい

523名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 11:02:03 ID:KP8ji4xk0
おつおつ
ギャグで油断させてからのフルスイングやめてもらえませんかね

524名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 12:03:22 ID:TunmHqTk0
おつ!!!!
信じて待ってた!!
宇宙人なんてどうするのかと思ったら……
すごく良かった!!

蛇はどこで出るんだろうか

525名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 12:32:34 ID:PLpGmfvs0
蛇の話はこれだな
http://iroirotunpeni.blog11.fc2.com/blog-entry-655.html
('A`)百物語、のようです 蛇の話

526名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 21:12:49 ID:HdH.YXxE0
最終話見届けたいが、ずっとこの周期に密度だと仙人にならないと無理そう

527名も無きAAのようです:2017/09/25(月) 15:14:25 ID:MIEUGMsU0
もし百物語すべて話すならば1度に複数話を投下するしかないな……

528名も無きAAのようです:2017/09/27(水) 02:20:52 ID:fY0BfzJA0
>>525
ありがたや
早速読んでくる!

529名も無きAAのようです:2018/08/05(日) 01:43:20 ID:nzc6pSfw0
一年に一話なんだからもっと推敲しなよ…ひどすぎ

530名も無きAAのようです:2018/08/05(日) 13:20:12 ID:WFnAw5hU0
そろそろ百物語の季節 毎年楽しみにしてます

531名も無きAAのようです:2018/08/06(月) 09:20:52 ID:HuA8KXV20
酉なしですが報告
今年は時間がとれないため、延期or中止となります
楽しみにされてた方ごめんなさい


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板