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('A`)百物語、のようです

337名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 20:47:23 ID:alE8X3hE0

(#`v´)「おい、なんとかしろ!」

(●冊●;)「くっ」

£;°ゞ°)「ひっ」


馬の暴れ様は凄まじくて、積んだ荷物がかたっぱしから落ちるくらいだった。
だけど、不思議なことに強盗たちは馬から落ちはしなかったわ。
よほど必死でしがみついたのか、それとも馬が惜しかったのか……それは誰にもわからない。


(#゜v゜)「――ぐぅぅっ!!」


そして、馬はひときわ大きく声を上げると、強盗を乗せたまま走りだしたの――。


£°ゞ°)「……そんな、」


……あの馬も、強盗たちも夜の闇に消え。
そして、そこには縛り上げられたままのおじさんだけが残ったわ。

338名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 20:49:47 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------


おじさんたち家族が助けられたのは、夜が明けるよりも早かった。
なんだったかな……。理由は忘れちゃったんだけど、おじさんの家に用があった人がいたの。


゙゙( ゚━゚) 

从゚×ナ;从


で、その人が縛られたまま床に転がされている奥さんを見つけてびっくり仰天。
別の部屋にいたお婆ちゃんも救出されて。それから、馬小屋にいたおじさんも助けられたの。


゙゙(;゚━゚)

从゚×ナ;从


£;-ゞ-)

339名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 20:51:29 ID:alE8X3hE0

村はもう大騒ぎ。
大きな事件なんて、もう何年も起こっていない村だったから。それはもうすごかったらしいわ。
盗まれたのが、あの馬というのも騒ぎを大きくする一つの原因だったみたい。


(;"・」・")「それで、被害は? 馬以外はどうなってる」

£;°ゞ°)「私たちは、そう大きな怪我もなく。
        あとは、家の中が荒らされたのと、家具が壊されて……」

゙゙(;゚━゚)「無事でほんとうによかった」


おじさんたち家族は小さな怪我くらいで、みんな無事だった。
盗られたものも、馬が暴れた時に落ちたおかげでほとんどなかった。
荒らされた家だけはどうしようもなかったけど、それでもおじさんたちは喜んでいたわ。

340名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 20:53:55 ID:alE8X3hE0


だって強盗よ。
さっきのドクオの話じゃないけど、殺されたっておかしくはなかったんだもの。
それが、命が助かっただけじゃなくて、盗まれたものも返ってきた。これって奇蹟みたいなものじゃない?


£°ゞ°)「ああ、これもあの馬のおかげです」

("・」・")「被害がこの程度ですんで、本当によかった。
     何より、お前たちが無事なのが嬉しい」

゙゙( ゚━゚) 「あの馬は、神の使いにちげぇねぇ」


村の人たちも、これは奇蹟に違いないって思ったの。
自分たちがこうして助かったのは、日頃の信仰のおかげだろう。
村人たちのおこないを見た神が、村を守るためにあの馬をつかわしたのだろう、ってね。

341名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 20:55:51 ID:alE8X3hE0


村人たちはその後、恩人である馬の行き先を探したけれど……馬は、見つからなかった。
それらしい馬が売られたって話もなかったし、見た人もいなかったわ。


£°ゞ°)「ああ、あの馬は一体……」

从゚×ナ;从「……無事やと、ええんやけど」


せめて、持ち主にお礼を言おう。
そして、できれば代わりの馬を贈ろう、って探したけど。
あの馬の持ち主は見つからなかった。それどころか、それらしい噂さえもなかったの。
不思議な事に、おじさんたちを襲った強盗のその後の行方もわからなかったわ。

342名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 20:57:37 ID:alE8X3hE0





そう。――あの美しい馬は幻のように現れて。そして、姿を消してしまったの。






.

343名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 20:59:15 ID:alE8X3hE0
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----------------------
--------------



暗闇の中に静寂が落ちる。
聞こえるのは、じぃじぃという虫の声だけ。
いつの間にか、ツンの話は止まっていた。


ξ ⊿ )ξ「……」


何か言おうと口を開いて、そのまま息を飲み込む。
飲み込んだ空気は熱く、体温をあげていく。
拭ききれなかった汗が、首を流れていく。


('A`)「……」


体にまとわりつく、湿った生ぬるい空気。
それが、どうしようもなく気持ち悪い。

344名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:00:24 ID:SLGJOZkI0
おお!今年も来たか期待

345名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:01:10 ID:alE8X3hE0


……ツンの話で出た村はどうなのだろうかと、ふと思った。

あの美しい馬のいた村も、夏はこんな風に暑いのだろうか。
そこまで考えて、たぶん違うんだろうなと思った。

ツンの祖先が住むところは、海の向こうの遠い国なのだろう。
ツンと同じ金の髪の人々が暮らすその国は、きっと気候からして違う。
たとえ暑いとしても、この重く体にまとわりつくような暑苦しさじゃないのだろう。


('A`)(もっと、……涼しいんだろうな)


こことは全く違う、どこかの遠い国。
そんな国の人々が美しいと言うその馬は、一体どんな馬だったのだろう。
そして、どこへと消えてしまったのだろう。

謎めいた美しい生物。
その行き着く先が、野垂れ死になんてしょうもないものでなければいい、と思った。
幻の馬は、幻のまま。それがきっと、一番美しいのだろう。

346名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:03:26 ID:alE8X3hE0

川   )「不思議な話だな」

(    )「いいはなしだおー」

(    )「神がどうたらってのは、うさんくさいけどな」


……気づけば、話が盛り上がっていた。
さっきまではうるさいくらいに聞こえていた虫の声も、俺達の声にかき消されている。


(    )「僕は単に迷い馬だった説を推したいけど、無粋かな」

( ゚д゚ )「動物報恩譚……か。神仏援助のパターンのようでもあるが」

(;'A`)「頼むからミルナは、俺にもわかる言葉で喋ってくれ」


とりあえず話に混ざろう。
そう思って、一人真顔で難しそうな話をしているミルナに声をかける。
ミルナは俺の声に、パチパチとまばたきをすると、「ふむ」と口元に手を当てた。
周りはみんな適当に話しているのに、いちいち固っ苦しいやつである。

347名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:05:16 ID:alE8X3hE0

( ゚д゚ )「動物報恩譚は、ツルの恩返しとか、ぶんぶく茶釜のようなやつだ。
     神仏援助は……説話などによくある神様や仏様が助けてくれましたというやつか……?
     すまない。俺も専門ではないので、そう聞かれると上手く答えられない」

(;'A`)「お、おう……」


オマケに回答まで堅苦しいときた。
正直、そこまで詳しい説明を求めてなかったので、俺としても反応に困る。
何を言ってるか正直わからない所があったが、下手に聞いてまた説明されたら困る。
俺はちょっとした好奇心を満たすことよりも、いさぎよく黙る方を選択した。


川   )「馬の恩返しか、日頃の信仰のたまものというやつか」

(    )「どっちかというと、因果応報っぽい気がする……」

(    )「怪奇・消えた馬のミステリー、だと思うんだからな!」

(    )「きっと、神様の奇蹟だおー。ツンもそう言ってたし」


困る俺とは対照的に、クーたちはなにやら盛り上がっている。
同じ話を聞いていて、こうも意見が別れるもんなのか。
そう思うと楽しくて、俺もつい真剣に話を聞いていた。

348名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:07:08 ID:alE8X3hE0

ξ ⊿ )ξ「……奇蹟か」


盛り上がる俺たちの中で、一人黙っていたツンがぽつりと声を上げた。
奇蹟。そう話したのはツンのはずなのに、その言葉はどこか納得していないように聞こえた。


ξ ⊿ )ξ「あたしがこの話をしようって思ったのは、神様の奇蹟だからじゃないの」

川   )「……と、言うと?」


クーの問いかけに、少しの沈黙があった。
「えっと」とか、「あ」とかためらうような声が上がって、それからようやく決心したようにツンは声を話し始めた。


ξ゚⊿゚)ξ「ホントはね。この話、続きがあるの。
      こっちの話はあんまり好きじゃないから、話したくなかったんだけど……」


海の向こうの、幻の馬。
その話の続きが、ツンの口から語られようとしていた――。

349名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:09:11 ID:alE8X3hE0
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この話はおばあちゃんのご先祖様……おじいちゃんの話だって言ったでしょ。
おじいちゃんとお兄さんが、村に現れた馬に乗りたがっていたって話は、さっきしたわよね。


(*゚∀゚)「なー、乗せてくれよー」

£-ゞ-)「だめです」

(*゚∀゚)「けちー」

£;°ゞ°)「だめです」
  _
( ゚∀゚)「こっそり乗せるってのは、ダメなのか?」


どんなに頼んでもおじさんは、あの馬にだけは乗せてくれなかった。
それでもね。どうしても、おじいちゃんはあのキレイな馬に乗りたくてたまらなかったの。

350名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:11:20 ID:alE8X3hE0

  _
( ゚∀゚)「お前、今日も行くの?」

(*゚∀゚)「もっとお願いすれば、乗せてくれるかもしれないし!」
  _
( ゚∀゚)「そうかぁ?
     おじさんたちに頼んでもムダなんじゃねぇか?」

(#゚∀゚)「そんなことねーもん!」
  _
( -∀-)「あー、残念だなぁ。
      お前がそうやってノロノロしてるうちに、持ち主が来ちゃうんだろうなぁ」


だから、おじいちゃんは考えたらしいの。


(;゚∀゚)「え?」
  _
( ゚∀゚)「持ち主が来ちゃったら、もうあの馬を見ることもできなくなっちまうぞ」

(;゚〜゚)「……どうしたら、いいんだ?」

351名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:13:28 ID:alE8X3hE0

  _
( ゚∀゚)「なに、簡単なこった」


このまま、おじさんに頼んでもあの馬に乗ることはできない。
だったら、別の方法をとるしかない。
子どもだったおじいちゃんたちが思いつく方法なんて、そう大したことないわ。


  _
( ゚∀゚)「オレたちで、こっそり乗るんだ。あの馬に」


――おじいちゃんたちはね、自分たちだけであの馬に乗ることにしたの。
おじさんの家にこっそりと忍び込んでね。

352名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:15:14 ID:alE8X3hE0

……まぁ、普通に考えるとダメよね。

でも、幸か不幸か、おじいちゃんたちを止める人は誰もいなかった。
おじいちゃんは思い込んだら一直線なところもあったし、お兄さんも止めなかった。
本当はお兄さんのほうが馬に乗りたかったんじゃないかって、おばあちゃんは話してたけど、私もそう思うわ。


(*゚∀゚)「父ちゃんと、母ちゃんは……」
  _
( ゚∀゚)「寝てるぞ」

(;゚∀゚)「に、兄ちゃん!」
  _
( ゚∀゚)「じゃ、行くか」

(*゚∀゚)「うん!」


その日の夜、みんなが寝静まった時間。
おじいちゃんは、お兄さんといっしょに家を出たの。
家族にバレないように、こっそりとね。


(*゚∀゚)「うわー、楽しみ」
  _
( ゚∀゚)「デカイ声出すなよ。バレたら大変だからな」

353名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:17:15 ID:alE8X3hE0

子どもだけで夜の外出なんて、見つかったら怒られるどころじゃすまないわ。
だけど、おじいちゃんたちはそんなのへっちゃらだった。
それどころか、夜の冒険だーなんて気分で出かけたんだって。

  _
(* ゚∀゚)「ドキドキするな」

(*゚∀゚)「兄ちゃんも? オレもオレも!」


事件なんてもう何年も起こったことのないような平和なところだったし、危険な獣は人里には出てこない。
だから、おじいちゃんたちも特に心配することなく夜道を歩いていたわ。


外は静かで、月がとてもキレイだった。
……一体、どんな夜だったのかしらね。おばあちゃんは、この話をするたびにそう言ってた。
あたしもそう思うわ。もし、あたしがその場にいたなら、どんな気持ちになったのかしら。

わくわく、したのかな。
それとも、怖くって何度も後ろを振り返りながら歩いたのかしら。
おじいちゃんはひょっとしたら、お兄さんの手をつなぎながら歩いたのかもしれないわね。

354名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:19:29 ID:alE8X3hE0


……話がそれちゃったわね。


おじいちゃんとお兄さんは、あのキレイな馬を目指して歩いたわ。
おじさんの家は、村の外れにあるって言ったでしょ。
だから、家は少し遠かった。



強盗?

……

……そうね。二人は何事もなかったわ。
それこそ神様のおかげ、ってやつね。

355名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:21:55 ID:alE8X3hE0

えっと。とにかく、二人は夜道を歩いていたの。
途中からは民家もなくなり暗い道が続くだけだったから、二人は話しながら歩いていたみたい。


(*゚∀゚)「馬、起きてるかなぁ」
  _
(* ゚∀゚)「起きてなかったら、起こしてやろうぜ」


おじさんの家まであと少しというところだったわ。
大声が、二人の耳に聞こえたの。



    「あぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


切羽詰まったような、尋常じゃない声。
聞くだけでぞっとしてしまうような、そんな声だったそうよ。

356名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:23:30 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「に、にいちゃん!」
  _
(; ゚∀゚)「大丈夫だ! 兄ちゃんがいるから」


その声を聞いた時は、生きた気がしなかった。
おじいちゃんは死ぬまで、その時のことをこう話し続けたそうよ。
だからお前も、不用意に夜道を歩くんじゃないぞ、って。

……おばあちゃんも、何度もそう言い聞かされて育ったんだって。
だから、おばあちゃんは今でも夜道が少しだけ怖いそうよ。


あたしも、その場に居合わせたらそうだったかもね。
……まあ、ここで百物語なんてしてるあたしが言うのもなんだけど。

357名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:25:16 ID:alE8X3hE0

ぞっとするような声は、一瞬だけでは終わらなかった。
消えるどころか、どんどんひどくなっていくようだった。

はじめは何の声なのか理解できなかったおじいちゃんも、聞くうちにそれが男の悲鳴だって気づいたの。
低い男の声。
そして、それは一人だけの声じゃなかった。


(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
  _
(; ゚∀゚)「落ち着け、大丈夫だ!」


男の悲鳴が、少なくとも一人以上。
何かが起こっていることは、間違いなかった。

  _
(; ∀ )「……何なんだよぉ」

(;゚∀゚)「……ぅ」


その声がどこから響いてくるか、おじいちゃんたちははじめわからなかった。
でもそれが、道の先から聞こえることに気づいて、ぞっとしたそうよ。
夜道に何かよくわかないものがいる。

358名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:27:09 ID:alE8X3hE0

――そして、それはどんどんと、近づいてくるみたいだった。


    「           れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

    「    い!        !!!」



そして、おじいちゃんたちは気づいたの。
聞こえるのは男たちの声だけじゃない、って。
闇の向こうから聞こえる声。そこに、聞き慣れた音が混ざっていた。


聞こえるその声は、荒い息遣いと、いななき。
それから、それに紛れて聞こえてくるのは……何かが、走る音。



(*゚∀゚)「あ」



そして、おじいちゃんたちは見たの。

359名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:29:10 ID:alE8X3hE0


馬だった。


二人がこれまで見た中で。
いいえ、二人のそれから先の人生を含めても、最も美しい馬。


月の光をそのまま集めたような、黄金のたてがみ。
キラキラと輝く毛並みは、どんな布や毛皮よりもつややかで美しい銀の色。
吸い込まれそうな黒い大きな瞳には、星の光が散っていた……ようだったわ。


    ,ハiヽ..   
  ノ" ,,'' ヽミ
. (。,,/ )  ヽミ〜─〜⌒ヾミミミミ彡
     ノ             )
    ( 、 ..)___彡(  ,,.ノ
   //( ノ     ノ.ノ (
   //  \Yフ .. 〆 .い
  .(ノ      くノ   //
             くノ

360名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:31:23 ID:alE8X3hE0


おじいちゃんは、恐怖を一瞬忘れた。
お兄さんも信じられないって顔で、その現実とは思えないくらい美しい生き物を見たわ。


(* ∀ )「……すごい」


それは、おじいちゃんがどうしても乗りたいと思っていた、あの馬だったわ。

361名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:33:18 ID:alE8X3hE0


乗ってみたい。
何が何でも、あの美しい生き物に乗ってみたい。
たとえ、どんなことが起きても。



(* ∀ )「ああ、いいなぁ……」



おじいちゃんは。いいえ、おじいちゃんだけじゃなくて、お兄さんもそう思ったの。
さっき怖いって思ったのが嘘のように、その馬の方へ向かって走ろうとして……、


( `v´)「助けてくれぇぇぇぇぇ! おい、そこのガキッ!」



……聞こえてきた声が、おじいちゃんたちを現実に引き戻したの。

362名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:35:20 ID:alE8X3hE0

おじいちゃんたちは気づいていなかったけど、あの馬には人が乗っていたの。
見覚えのない男だった。
それが二人。遠くてはっきりとは見えなかったけど、それがよそ者だってことだけははっきりとわかった。


(●冊●)「ガキだ!」

( `v´)「おい、お前っ。お前らっ!!!」


  _
(; ∀ )「――っ」


得体のしれないよそ者が、あの馬に乗っている。
それもこんな時間に。
事情のわからないおじいちゃんたちにも、それが異常なことだってわかったわ。


(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
  _
(; ∀ )「お前は下がってろ!」


馬はこちらに、走ってくる。
それは全力に近いスピードだった。
なのに、その馬はおじいちゃんたちを見てもスピードを落とそうとしないの。
それどころか、かえって足を早めたようだった。

363名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:37:11 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「馬行っちゃうよ!」
  _
(# ゚∀゚)「いいからっ!!!」


お兄さんはおじいちゃんを掴むと、走りだしたわ。
思いっきり飛んで、それからの道の外の草むらに身を投げたの。


(#゚∀゚)「なんだよ、兄ちゃん!」
  _
(# ゚∀゚)「おとなしくしとけ!」


馬がその場を駆け抜けていったのは、ちょうどその時だったわ。
少しもスピードを落とさず。おじいちゃんたちがいた、その場所を走っていったの。
お兄さんが動いていなかったら。
いいえ、あと少しお兄さんの動きが遅かったら。

――おじいちゃんたちは、きっと大怪我か、下手をしたら死んでいたかもしれない。

364名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:39:38 ID:alE8X3hE0


(;゚∀゚)「……っ、なんで」


だけどね。
それよりも怖かったのは、馬に乗っている大人がそれを止めようともしなかったこと。

  _
(# ゚∀゚)「アブねぇぞ!!!」


……ううん。それも違うかもしれない。
本当は、馬に乗っている二人組も止めようとしていたのかもしれないわね。
でも、そうはしなかった。できなかったの。


(iii ゙v゙)「俺を助けろっ!」

(●冊●)「止めろ! 止めてくれっ!!」


大声が響いた。
その声は、おじいちゃんたちに言い続けていた。

365名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:41:43 ID:alE8X3hE0


「嫌だ」

「しにたくない!」

「たすけてくれ」


聞き取れたのはそれだけ。
あとは、馬の叫ぶような鳴き声と、意味をなさない声でかき消された。


……あっという間の出来事だった。


止めようって思うよりも早く、その馬は駆け抜けていったの。
信じられないくらいの速さだった。
あんなに速い馬は、後にも先にも見たことがなかったって。

366名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:43:25 ID:alE8X3hE0



(li ゚∀゚)「……なに?」
  _
(; ∀ )「暴れ馬だ」


それが暴れ馬だったんだって、気づいたのはそのすぐ後だった。
馬に乗っていたのが誰かはわからない。
だけど、ひょっとしたらあの馬の持ち主だったのかもしれない。
雰囲気が雰囲気だったし、何か事故が起こったんじゃないかって、二人は慌てたそうよ。


(;゚∀゚)「おいかけよう!」
  _
(; ゚∀゚)「……ああ」


何がなんだかわからないまま、二人は馬を追いかけることにしたわ。
馬は村ではなくて、森へと続く方向へ道を変えたから、二人は夢中で追いかけたわ。
道はどんどん、村から離れていく。
それにだんだん周りが暗くなっていくようで、二人は怖くなったわ。

  _
(; ゚∀゚)「クソッ。どこに行ったんだ!」

367名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:45:44 ID:alE8X3hE0

そして、馬の姿はとうとう見えなくなって。
――遠くで、ものすごい悲鳴が上がって。それっきり何も聞こえなくなった。

  _
(; ゚∀゚)「……っ」

(;゚∀゚)「兄ちゃん……」


おじいちゃんとお兄さんはそれでもなんとか、追いかけたの。
悪いことが起きたのは、間違いなかった。
もしかしたらそれは自分たちが止められなかったせいじゃないか。そう思うと、すごく怖かったんだって。

  _
(; ゚∀゚)「……こっちか?」


おじいちゃんたちは、追いかけて……。
だけど、湖に行き当たった辺りで完全に見失ってしまったの。

368名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:48:15 ID:alE8X3hE0


(*゚∀゚)「ここ」
  _
(; ゚∀゚)「湖、だな」


馬の鳴き声も、悲鳴ももう聞こえない。
月があると言っても、夜の暗さでほとんど見えない。
これ以上進むと先は森。


(;゚∀゚)「兄ちゃん」
  _
(; ゚∀゚)「……」


夜の森に入るのがどんなに危険なことかは、おじいちゃんたちもわかっていたわ。
おじさんの家にこっそりと遊びに行くのとは違う。
森には危険な獣もいる。死ぬことだって、あるかもしれない。

おじいちゃんたちはこれ以上、進めなくなって。ふと、そこで異変を感じたの。
……血、らしい匂い。
それが、どこからか漂ってくるの。

この場所で何かが起こった。それは確実だったわ。

369修正:2016/08/19(金) 21:50:04 ID:alE8X3hE0


(*゚∀゚)「ここ」
  _
(; ゚∀゚)「湖、だな」


馬の鳴き声も、悲鳴ももう聞こえない。
月があると言っても、夜の暗さでほとんど見えない。
これ以上進むと先は森。


(;゚∀゚)「兄ちゃん」
  _
(; ゚∀゚)「……」


夜の森に入るのがどんなに危険なことかは、おじいちゃんたちもわかっていたわ。
おじさんの家にこっそりと遊びに行くのとは違う。
森には危険な獣もいる。死ぬことだって、あるかもしれない。

おじいちゃんたちはこれ以上、進めなくなって。ふと、そこで異変を感じたの。
……血、らしい匂い。
それが、どこからか漂ってくるの。

この場所で何かが起こった。それだけは、確実だったわ。

370名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:50:53 ID:alE8X3hE0


悪いことが起こっている。


::(;゚∀゚)::「……あ、」
  _
( ゚∀゚)「戻るぞ。人を呼ぼう」

::(; ∀ )::「でも、怪我とかしてたら……」
  _
(# ゚∀゚)「俺たちじゃ何もできないだろ。
     それに、二人じゃどこにいるかも探せない」


だけど、二人だけじゃどうにもならないことは、おじいちゃんたちにもわかっていた。
それでもおじいちゃんたちは、辺りをもう少しだけ探したわ。
森へは入らず、湖の周りを二人は歩き回った。

  _
( ゚∀゚)「もう、終わりだ」

(* ∀ )「……うん」


それでも、馬も。馬に乗っていた人の姿も、どこにも見つけられなかった。
どこから血の匂いがしたのかもわからなかった。でも、それでよかったのかもしれないわね。
血にひきつけられた獣に鉢合わせる可能性もあったから。

二人は完全にどうしようもなくなって、村へと戻ることにしたの。

371名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:52:41 ID:alE8X3hE0


早く村へと帰って、誰かにこのことを伝えないと。
二人の頭はそのことでいっぱいだった。

だから、二人は慌てて村へと帰って――、

  _
(; ゚∀゚)「大変だ!」

£;°ゞ°)「ああ! 君たちは無事だったんですね」


――村が大変なことになっていたのを、知ったの。

372名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:55:28 ID:alE8X3hE0


原因は、強盗が現れたことだったわ。

村はずれにあるおじさんの家が強盗に襲われて、村で預かっていた馬と金品を奪ったの。
盗まれたものは幸い返ってきたけれど、馬だけは帰ってこなかった。
そう。さっき話した強盗騒ぎね。


£;°ゞ°)「……生きた心地がしませんでした」

从゚×ナ;从「大丈夫?」


おじさんたち一家が助けられたあと、村の大人が集まって大騒ぎになったの。
強盗たちは村にも来るんじゃないか。他にも、被害はあるんじゃないかって。
その中で、おじいちゃんたち兄弟がいないことがわかったの。

……子どもが襲われたかもしれない。
おじいちゃんの家族と、村の大人たちはもう心配どころの騒ぎじゃなかったわ。


(;゚∀゚)「え?」
  _
(; ゚∀゚)「オレたちは平気だけど」


大人たちの様子が変なことに、おじいちゃんたちもようやく気づいたの。
夜中に外を走っていたあの美しい馬。そして、そこに乗っていたよそ者。
賢かったあの馬が暴れていたのは何故なのか……。

373名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:56:27 ID:alE8X3hE0

自分たちが見かけたあの男たちが、強盗だったんじゃないか。
そう、答えが出るのはすぐだった。

゙゙(; ゚━゚)「怪しい男の二人連れを見なかったか?」


(;゚∀゚)「……兄ちゃん」


大人たちに聞かれて、おじいちゃんは怖くなったの。
話の中でしか聞いたことのない強盗がいたこと。その強盗に自分たちが会っていたこと。

一歩、間違ったら。自分たちは、殺されていた。
そのことが今更わかって、おじいちゃんの体はガクガク震えたわ。
だけど、おじいちゃんには、それよりももっと怖いことがあった。


゙゙(; ゚━゚)「上の坊主はどうだ?」
  _
(; ゚∀゚)「……」


その怖いはずの強盗は……もっと別のものを怖がっていた。

374名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 21:58:33 ID:alE8X3hE0


助けてくれ、と。
しにたくない、という声を聞いた。


あれから強盗たちの姿は消えてしまった。
最後に聞いた、悲鳴が耳を離れない。


  _
(; ゚∀゚)「知らない」

(;゚∀゚)「……」
  _
(; ∀ )「オレたちは何も見なかった」



……大怪我をしたか、獣に襲われたか。
ひょっとしたら、湖に落ちたのかもしれない。
そのどれだとしても。無事だとは思えなかった。


美しい馬。
狂ったように暴れまわった、あの姿。
あのとき嗅いだ、血の匂いがまだ残っている気がした。

375名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:00:25 ID:alE8X3hE0

£;-ゞ-)「よ、かった……」

从゚×ナ;从「てっきり、ウチに来たもんとばかり……」

£;°ゞ°)「こんなことになるのなら、君たちをあの馬に乗せてあげればよかった」


おじいちゃんたちは、その後ものすごく怒られた。
だけど、強盗にもあわず無事だったことには、泣いて喜ばれたって聞いたわ。
その優しい言葉と、それから自分が本当に危なかったんだという恐怖で、おじいちゃんたちは泣いて謝ったんだって。

  _
( ;∀;)「……ごめん。ごめんなさい」

(;゚∀゚)「う」


(*;∀;)「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

376名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:02:45 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------


それから、おじいちゃんたちは少しだけいい子になったみたい。
他から見ると全然いい子じゃなかったみたいなんだけどね。
おばあちゃんが聞いた話では、なんというか……、「とんでもない、じいさんだった」みたい。


それからのことを少し話すわね。


おじいちゃんたちは、あの夜見かけた馬のことだけは村の誰にも話さなかった。
というよりも、話せなかったのね。
強盗の姿は見ていないって言っちゃったし、村人たちはあの馬は神様の使いなんだって信じきっている。
それに、話さなかったことを怒られるのも怖かったみたい。

だけど、おじいちゃんたちが馬のことを話したくなかったのはね。
単純に、あの馬が怖かったからなんだって。

  _
( ゚∀゚)「あいつ、なんだったんだろう」

(*゚∀゚)「兄ちゃんでもわかんないの?」
  _
(; ゚∀゚)「バっ。オレみたいな大人でもわかんないことはあるっつーの」


おじいちゃんとお兄さんは、その後、こっそりと湖に見に行ったの。
ひょっとしたら、何かわかるんじゃないかって。

377名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:04:09 ID:alE8X3hE0

でもね、あの馬の痕跡はどこにもなかった。
強盗の姿も、血の跡さえも見つけられなかった。
それこそ幻のように……消えてしまったの。


(*゚∀゚)「なぁ、兄ちゃん」
  _
( ゚∀゚)「どうした?」

(*゚∀゚)「オレたちあの夜、もしもさ」


おじいちゃんは、それから何度も考えたんだって。
強盗たちに出会った、あの夜。
あのキレイな馬に乗ったのが自分たちだったら……、どうなっていただろう、って。
もしからしたら悲鳴を残して消えていたのは、自分たちのほうなんじゃないかって。

……もしもの話だから、正解なんてないんだけどね。

  _
( ゚∀゚)「そんなこと言うな。オレたちは何も見てないんだから」

(*゚∀゚)「……うん」
  _
( ゚∀゚)「でもさ。一つだけ、約束してくれないか?」

378名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:06:14 ID:alE8X3hE0


そうだわ、話の最後にもう一つだけ加えておくわね。


家には変わった家訓があるの。
これまでの話と関係があるから言うんだけど、その家訓って言うのは――


  _
( ゚∀゚)「もう一度あの馬に会っても、ぜったいに乗るなよ」


――どんなに立派だったとしても、飼い主のわからない馬は絶対に乗るな、よ。
神様のお使いならいいけど、そうじゃなかったら怖いものね。

379名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:08:21 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------


ツンの声が止まった。
しばらく待ってみたが、続きはないみたいだ。


ξ ⊿ )ξ「……」


どこかでじぃじぃと虫が鳴いている。
ミミズだったか、オケラだったか。たぶん、そんな感じの虫の声。
さわがしいその声は、聞いているだけで耳が痛くなる。


('A`)「お前んち、家訓なんてあるのか?」


思ったことを、そのまま口にしてみる。
内容に意味はない。ただ、虫の声を聞いていたくなかっただけ。
反応がなかったり怒られるようなら、別のことを聞くつもりだった。

380名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:10:15 ID:alE8X3hE0

ξ ⊿ )ξ「まぁ、ね」

川   )「言われてみれば珍しい気もするな」

(    )「おっおっ、僕んちはないおー」


一度、口を開いてしまえば、どんどん会話が盛り上がっていく。
結局のところ、みんな話す機会を探していたのだ。

それはそうだろう。こんな顔も見えない和室でそろって黙っているのは辛い。
なんていったって、俺達は怖い話をしているのだから……。
虫の声は止まらない。だけど、遠くなった気がするのは、会話が盛り上がっているからだろう。


('A`)「……ふぅ」


ブーンたちの会話を聞きながら、ツンの話していた村では、こんな虫は鳴かないんだろうなと考えてみる。
美しい灰色の馬のいるところ。
霧のかかる深い森の奥に、湖が広がっている。そんな光景が、頭に浮かんだ。
……うん、悪くない。人生一度くらいはそんな国にいってみたいもんだ。

381名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:12:16 ID:alE8X3hE0

('A`)「そういやぁ、さっきの話だけど」

ξ ⊿ )ξ「ストップ」

('A`;)「へ?」


金の髪と青い目の兄弟は、その後どうしたのだろうか?
そう思って、口にした言葉はツン本人によってあっさりと止められた。
なんでだ? さっきは普通に話してたのに、どうしてここで止められたのかわからない。


ξ ⊿ )ξ「その声、ドクオでしょ。これ以上は聞かないわよ。
      どうせまた人の話に文句言うんでしょ。知ってるんだからね」

('A`)「へ?」

ξ ⊿ )ξ「何だその話とか、ウサンクサイとか言う気でしょ。
      その手には乗らないんだから」


返ってきた言葉は理不尽の塊だった。
ツンの言葉に心当たりがないわけではない。ホラーじゃないとか、ついさっきも言った記憶があるし。
だからといって、この扱いは許されるものだろうか。いや、そうではないと言いたい。

382名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:14:28 ID:alE8X3hE0

(;'A`)「あのなぁ……」

川   )「ツンも、そう言ってやるな。怪談の後のやりとりは怖い話の定番だろ」

ξ; ⊿ )ξ「い、イヤよ!」

(    )「妙にゴネるな」

ξ; ⊿ )ξ「ここで話なんかして、怖くなっちゃったら……蝋燭消しに行けないじゃない!」


ツンの叫ぶような言葉に、部屋の空気が一気に変わった。
一言で言うのならば、こいつをどうやってからかってやろう。
ツンは必死なのか、自分が怖いのがイヤなんて弱点をさらけ出したのに気づいていない。


(    )「へぇぇぇぇ。こわいんだ。へぇぇぇぇ?」

ξ; ⊿ )ξ「な、なによ!」

川   ) 「ほう。ツンは怖い話は平気だと思ってたが」

ξ; ⊿ )ξ「へいき、……よ」

(    )「これまでわりと乗り気だったもんね」

川   ) 「しかし、一人になるのは怖いのか。そうかそうか」

383名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:16:26 ID:alE8X3hE0

さっそく3人くらいが、ツンをからかっている。
そういえば、最初の方も聞くのは平気だけど、話すのは苦手って感じのことを言ってた気がする。
気が強いように見えるが、自分が怖い目にあうのはダメだったのか。人間意外な弱点があるもんである。
怖いなら怖いで、素直に言えばいいのに。


ξ# ⊿ )ξ「行けるわよ! だって、怖くないもの!
       一人だって……一人だって平気だもん!」

('A`)「ついて行ってやろうか?」

ξ# ⊿ )ξ「見てなさいよ!」

(;'A`)「おい……いいのか?」


助け舟でも出してやろうと言った言葉は、あっさりと拒否されてしまった。
暗闇の中で、ツンの立ち上がる音がする。
そのままドスドスと足音を立てながら、ツンの姿が消える。
……大丈夫だろうな、あれ?

384名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:18:26 ID:alE8X3hE0

(;    )「行っちゃったお……」

川   )「あの様子だと、しばらくかかりそうだな」

(    )「あれ絶対に、びびってたよな? な?」


なんだかんだで盛り上がっていた部屋も、すぐに静かになる。
静かになってしまえば、あとは苦しくなるような闇。
じぃじぃ。じぃじぃ。じぃじぃ。
神経にさわる音は耳につき、湿った熱い空気は体を焼いていく。

熱い。
体の中から水という水が汗で流れて、からからに枯れていくみたいだ。


('A`)(……水)


飲み物を求めて、手を伸ばす。
これまで飲んでいたぬるいジュースの入ったペットボトルがあるが、全力で避ける。
こいつを飲んだところで、のどの渇きが増えるだけだ。せめて、冷たいものを……

暗闇の中を手探りで動かし、冷たい何かに触れる。
この冷たさは、きっと飲み物だ。俺は手を伸ばしてそれをつかむ。

385名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:21:21 ID:alE8X3hE0

川   )「そういえば、ドクオは何を話そうとしていたんだ?」

(;'A`)「は?」

( ゚д゚ )「そういえば。津出の話に何かあったのか?」


ようやく飲み物をつかんだ手が止まる。
慌てて顔をあげると、ミルナの白い顔がこっちをじっと見ていた。
あまりまばたきをしないミルナの目がこちらを向くと、妙に迫力がある。
こっち見るなと言いかけてから、自分が質問されていることにようやく気づいた。


(;'A`)「いや、単に何だったんだろうなって思っただけだ。
    強盗と、馬が消えたって言ってだろ。なんか、理由があるんじゃないかって」


あわてて出した返事に、ミルナが小さく頷く。
表情はちっとも変えないまま、ミルナは「ああ」と返事をした。


( ゚д゚ )「……もしかしたら、河童かもしれないな」

386名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:22:22 ID:alE8X3hE0


('A`)「……」


ミルナの口から、変な言葉が聞こえた。
冗談もろくに言えない固っ苦しいやつの口から。しかも、真顔で。


(;'A`)「もう一度、言ってくれ」

( ゚д゚ )「河童ではないかと、言った」

(;'A`)「カッパ」

( ゚д゚ )「そう。その河童だ」


カッパ。
妖怪の出てくるマンガやらなんやらで、真っ先に出てくる妖怪。
ヤツが出てくる子供向けの怖い本を、大昔に何冊も読んだことがある。


(    )「え? カッパってキュウリを食べるやつだおね。カッパ巻きとかの。
      あれって、安くてお腹たまっていいおね」

(    )「相撲とったりするやつだろ?」

387名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:24:11 ID:alE8X3hE0

やっぱり、聞き間違いじゃないよな。
川とか池とかにいる。頭に皿を乗っけた妖怪。
いかにも日本って感じのメジャー妖怪様だ。それが、なんでツンの話と関係あるんだ?


(;'A`)「いや、カッパが何かはわかるんだが……」

( ゚д゚ )「続きを聞いてみたところ、馬の恩返しでも神や仏の力でもなさそうなのでな。
     津出の話に合いそうなものを考えていたのだが……」

(    )「それが、どうして河童に……」

( ゚д゚ )「最後に、湖が出てきただろう?」

川   )「ああ、なるほど。それで河童か」


ミルナとクーだけはなにやら納得しているようだが、俺は話についていけない。
他の奴らはと見回してみるが、手にしたものもろくに見えない暗さの中では無意味だと気づく。


(    )「お……?」

(    )「ええと……」


ただ見えない代わりに、耳が戸惑うような声を拾う。
どうやら困っているのは、俺一人じゃないようだ。
それはそうだろう。そもそも、どういう理由で河童がでてきたのか、さっぱりわからない。

388名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:26:15 ID:alE8X3hE0


( ゚д゚ )「河童にまつわる伝承の一つに、馬を水中に引き込むというものがある。
     失敗したという話の方が多いのだがな」

(    )「そうなのかお?」

川   )「泳いでいる人を水中に引き込んで、溺れさせるっていうのもあるな。
     ヤツは人の尻子玉も食うしな。ゆるキャラっぽいわりに、凶暴なやつだ」

( ゚д゚ )「馬の妖怪の話は、あまり聞かない。ツンの話の条件に一致するものとなると尚更な。
     ならば、馬を襲う妖怪はなんだったかと考えてみた。
     それで、河童が一番条件に合うと思ったのだが……」


バケモノなのは馬でも強盗でもない、別のモノ。
なるほど。そういう話なら納得だ。
だけど、それが河童ということだけが納得できない。


('A`)「そこは普通に、馬がバケモノって話でいいんじゃねぇか?
    いや、他にバケモノがいるっつーならそれでもいいが、カッパとかじゃなくてもっとこう……」

389名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:28:50 ID:alE8X3hE0

遠い、海の向こうの国。
馬が当たり前に生活に溶け込む、平和な村。
そんな村で起きた謎めいた事件の原因が……なぜカッパ。
バケモノのせいだってのなら、まだいい。
でもそこは、妖精とかモンスターとか雰囲気にあったものがよかった。


(    )「馬。馬で湖なら……ケルピーとか、水の精っぽいものとか?」

('A`)「そう! それだよ!
    なんだよ、カッパって。なんで急にベタな昔話になってるんだよ」


ケルピー。
どこかのゲームで敵として出てきた、水の馬のモンスター。
ええと、馬の体に魚の尻尾がついてるやつ……だったか?
……でも、尻尾? 例の馬の尻尾って、ツンの話に出てきたっけ?


( ゚д゚ )「ケルピー?」

(    )「ええと、」

(    )「人を食うん……だっけ?」

390名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:30:11 ID:alE8X3hE0

(    )「見た目は普通の馬なんだけど、背に乗った人を水中に引きずり込んで、溺れ死にさせてから食べるんだよ。
      でも、内臓だけは食べないから水の上に浮かんでくるって話」

( ゚д゚ )「ふむ。はじめて聞くな。勉強不足を実感するばかりだ」


親切な誰かが、ケルピーについての説明をしてくれている。
俺の全然知らない話だけど、ゲームに出てくる奴とはやっぱり違うんだろうか。
それにしても。内臓とかいちいちグロいな。
まあ。それでも、さっきのカッパ説よりはよっぽどそれっぽい。


(    )「有名なのはケルピーだけど、似たような伝承はいろんなところにあるみたいだよ。
      水の精のネッキとか。こっちは馬だけじゃなくて、人間の姿にもなるみたいだけど」

川   )「オカ研の人間は言うことが違うな」

(    )「……オカ研じゃないんだけど。まぁ、いいや」


カッパよりも納得できる答えが出たことに安心して、俺は握ったままになっていた冷たいものを確かめる。
自販機でたまに見かける小さなパック。
さっき、ミルナとミルナの婆様が差し入れにと、持ってきてくれたジュースだろう。
握りつぶさないように気をつけながら、ついているストローの袋を外す。
見えないストローの差込口を指で探り、ストローを刺す。

391名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:32:51 ID:alE8X3hE0

(    )「僕はやっぱり、神様のおかげで。
      みんなどこかで平和に暮らしているのがいいお〜」

川   )「強盗が平和に暮らしましたはダメな気がするが」

(    )「えー。死んじゃうのはよくないお」

(    )「それなら、馬をめぐる醜い争いの末に殺し合いのほうが、怖くていいと思うんだからな」

( ゚д゚ )「まぁ、水妖のたぐいや事件より、事故の可能性の方が高いのだろうがな」

川   )「それを言い出したら、村人たちの調査不足もあるだろうな」

(    )「夢がないお〜」


気がついたら、最初の話が終わった時と同じように解釈や仮説が乱立している。
あの時も、馬の話か、神や仏の奇跡だか、強盗の因果応報な失敗談で話が別れたんだったか。
同じ話を聞いているはずなのに、そうだとは思えないくらい答えがバラバラだ。
ツンの話が下手だったというわけではないんだが、どうしてこうなったのだろう?

392名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:35:10 ID:alE8X3hE0


('A`)「そういえば、ミルナはなんで妖怪説なんて考えてたんだ?
    普通そこは、モンスターとかじゃねぇの? 外国なんだし」


ミルナが、目を少しだけ大きく見開く。
ほとんど表情を変えないミルナにしては珍しい変化だ。


( ゚д゚ )「日本の話じゃなかったのか? 江戸くらいの」


……ストローに口をつけようとした動きを、止めた。
ミルナが何を言ったのか、一瞬、理解できなかった。


('A`)「外国だろ……?」

(    )「あ、僕も西洋あたりだと思った」

川   )「私はどちらかというと、日本か。河童説はなかなか斬新だった」

(    )「僕はどっちでもいいお!」


話が合わない。
同じ話をしていたはずなのに、致命的にズレている。
話の結末も同じだ。
馬のせいなのか、それとも水に潜む何かのせいなのか。似たようでいながら、その答えは完全に違っている。

393名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:36:16 ID:alE8X3hE0

(;'A`)「え、でも。ツンのばーちゃんって」


金の髪のツン。
白い肌に、青い目をした、人形のような見た目の少女。
日本生まれで日本育ちの日本人で、気さくで、話しやすくて。たまに、めんどくさくなる普通の女子。
矛盾するようでいて、ちっとも矛盾しない不思議な友人。


川   )「母方の祖母はたしかに、海外に暮らしているらしい。
     だが、父方の祖母は日本人だな」

(    )「あれ。じゃあ、この話?」


どっちだ。
外国と日本。
同じ話でも、国が違うだけでその結末は完全に変わる。


(;'A`)「……」


わかったつもりになっていた話が、たったの一言で崩れていく。
今まで俺は、何をわかったつもりで聞いていたのだろう。
なぜ、なんの疑いもなく、外国の話なのだと思っていたのだろう。

394名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:38:09 ID:alE8X3hE0

(    )「不思議だおね〜」


心臓が、嫌に早くなっている。
気づけば、口の中がカラカラで痛いくらいだ。
そういえば、さっき俺は飲み物を口にしようとしていた。
飲んで一息つけば、このわけのわからない焦りも落ち着くだろう。


(    )「どっちにしろ、強盗は死んだんだと思うな。僕は」


その声が、なぜか耳に残った。
不思議と賛成する気にも、反対する気にもなれなかった。
なぜだろう? そう思いながら、指でストローを探り、口をつける。
パックの中から冷たい液体を吸い上げて……


(li A )「げっ……あ゙っ」


咳き込んだ。
溢れかえった液体が、口元を濡らしていく。
鼻や器官に水が入り込んで、一瞬、息ができなくなる。

395名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:40:11 ID:alE8X3hE0

( ゚д゚ )「おい、大丈夫か」

(li A )「ぐ、あ……」

(    )「ドクオ、どうしたお!?」


咳き込んで、鼻と器官に入り込んだ水を吐き出す。
息が苦しくて、涙が出る。
子どもの頃に、溺れたことを思い出す。
あの時感じたのと、同じ感じ。

……地上にいるのに、溺れている。そう錯覚してしまいそうな苦しさ。


(li A )「……お茶」

川   )「ああ、むせたのか。慌てて飲むからだぞ」


口の中にあふれる苦いそれは、水ではなくてお茶のはずだ。
……だけど、一瞬。
生臭い、味がしたのだ。
汚い川の水が口に入った時のような、藻のような嫌な味が。


(li A )「そうじゃなくて、これ……お茶だよな」

( ゚д゚ )「そのはずだが」

396名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:42:12 ID:alE8X3hE0

冷たいミルナの手が、俺の手からパックを取る。
それを顔に近づけて、パックの匂いを嗅いだようだった。


( ゚д゚ )「烏龍茶のようだな。
     ……すまない。賞味期限が近かったのかもしれない」

(    )「味はどうだった?」

(    )「サイナンだったおね」


息が苦しい。
首元を伝うのは、汗なのかお茶なのか……それとも、どこかの川の水なのかわからない。
じぃじぃと遠くから音が聞こえる。


(li'A`)「おぼれる、かと思っ、」

(    )「タオルは……あった。これ、使って」

(li'A`)「助かる」


タオルで口元と体を拭い、陸に上げられた魚のようにぜいぜいと息をする。
体の中でまだ水が暴れまわっているようだ。
溺れるのは苦しい。それで、死んだやつだっている。
……胸が痛い。

あの強盗たちはこんな風に、溺れて死んだのだろうか。
それとも、無事に生きていたのか。

397名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:44:04 ID:alE8X3hE0

――なんとなく、
彼らは死んでしまったのではないか、と思った。
こんなふうに溺れて、苦しんで死んだ。そう思った。



('A`)「……ふぅ」


なんとか呼吸を落ち着かせて、一息つく。

じとりとした熱い闇は、湿気を含んでいる。
まるでぬるい、水の中にいるようだ。
このままここにいれば、さっきのように溺れてしまいそうだった。
口の中にさっきの生臭い味が蘇ったような気がして、慌てて首を振った。

……こんなことを考えてしまうのも、さっきのお茶とツンの話のせいだ。


('A`)「……」


ツンの話の真相を、俺達は知らない。
幻のように謎めいた、美しい馬と、強盗と、少年たちの話。
遠い国のことなのか、それともこの国のことなのか……真相はきっとツンだけが知っている。
いや、ひょっとしたら。ツンも知らないのかもしれない。

確かめたい、と思った。
だけど、確かめたくない自分もそこにいた。

398名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:46:13 ID:alE8X3hE0


ξ ⊿ )ξ「……みんな。クー? いるわよ、ね」


ツンが戻ってきたのは、それからすぐ。
何か怖いことでもあったのか、その声はどことなく弱々しい。


(    )「おかえりだお、ツン。クーもみんなもここにいるお」

川   )「不幸な事故はあったけどな」

ξ; ⊿ )ξ「……じ、事故って何よ」

川   )「それはだな……」

ξ; ⊿ )ξ「イヤ! やっぱ、聞きたくない!」


物音がして、それからやっとツンが席につくのを感じる。
このまま問いかけたら、ツンはあの話の続きをしてくれるだろうか。
それとも、幻は幻のまま。その正体を知らないほうがいいのか。

俺は少しだけ悩んで、結局、口は開かなかった。

399名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:49:16 ID:alE8X3hE0


ξ ⊿ )ξ「さあ、続きをはじめましょ。質問タイムはナシで!」

(    )「えー」

ξ#   )ξ「いいの。ナシと言ったらナシなの!」


暗闇の中で、ツンの金の髪が揺れる。
今ははっきりとは見えないが、その目は青の色をしているのだろう。
暗い闇の中で、彼女の瞳を思う。

キラキラと光を返す、青い色。
それはまるで湖の色のようだ。
引きずり込まれたら、決して上がってこれない深い深い水の色。

鳥の声も無い、夜の森。その中にぽっかりと広がる霧に飲まれた、深い青の湖。
あるいは、じとりとした暑く湿った空気の。山の合間にひっそりとある、冷たい水の湧く場所。


(    )「――だって。次は誰が話す?」

400名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:51:36 ID:alE8X3hE0


溺れて死んだ男は、たぶんいたのだろう。
彼らが死んだ。その理由だけを、俺達は知らない。
単なる事故か。
それとも、人の知らない何かによるものか――。


人を食う水馬か、馬を水に引き込む妖か。



('A`)(それとも別の、何かか……)


あの一瞬味わった、生臭い水の味を思う。
溺れるような感覚。もう二度と戻ってくることができない、深い水の底。
男二人を引きずり込んだ何かが、本当にいるのなら……、

それは、きっと湖の中にいる。



河童、ケルピー、水精、水妖――、

401名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:53:08 ID:alE8X3hE0



言えるのは一つ。
水の中に潜むモノは、思った以上に多いようだ――。



.

402名も無きAAのようです:2016/08/19(金) 22:54:14 ID:alE8X3hE0




              ('A`)百物語、のようです


            幻の馬。あるいは、水妖の話  了


                     (
                      )
                     i  フッ
                     |_|


.

403名も無きAAのようです:2016/08/20(土) 00:33:19 ID:WsGDJtJs0


404名も無きAAのようです:2016/08/20(土) 01:11:16 ID:s5v5g1jc0
乙! 好きな種類だ、これ
不思議な話しいいね!

405名も無きAAのようです:2016/08/20(土) 10:05:29 ID:sMT2/AL20

ドクオの心情がひしひしと伝わってくるぜい

406名も無きAAのようです:2016/08/20(土) 13:52:12 ID:Ryf1BsJEO

毎年ドキドキさせてくれてありがとうございます

407名も無きAAのようです:2016/08/20(土) 15:06:37 ID:bqEWN/bo0
おつ
不思議な話とか昔話は、実体験より心穏やかに聞けるな

408名も無きAAのようです:2016/08/20(土) 15:15:25 ID:ETl0MMuQ0

今一気読みしたけど偶然の話がかなりゾクゾク来た

409名も無きAAのようです:2017/08/10(木) 00:52:03 ID:FUn1Nkn.0
今年ももうじきかな

410名も無きAAのようです:2017/08/29(火) 20:29:14 ID:SL4uijuI0
彼岸までにはなんとか…

411名も無きAAのようです:2017/08/29(火) 22:33:42 ID:rOX71Sds0
マジでか 待ってる

412名も無きAAのようです:2017/08/30(水) 01:34:03 ID:jb/bTvVw0
やったー!!
待ってる!!!!

413名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:35:39 ID:4Pykjo5k0
暑さ寒さも彼岸までというわけで、投下します

414名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:38:11 ID:4Pykjo5k0

濡れた服が、べたりと体に張りつく。
汗だか、さっきむせた飲み物だかで濡れたそれは、生ぬるくて気持ち悪い。
服を引っ張って体からはがしてみても、手を放すだけでぺたりとまた張り付いてくるから最悪だ。


(;'A`)「あつい」

(    )「だおねー」


つい口にした言葉に、返事の声が上がる。
相手の顔は――見えない。


ξ   )ξ「何度くらいあるのかしら?」

川   )「予報だと熱帯夜にはならないそうだが、あてが外れたようだな」


部屋の中からいくつも声がする。
だけど、その顔もやっぱり見えない。せいぜい、俺の正面に座るミルナの顔が見えるくらいだ。

415名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:38:52 ID:4Pykjo5k0


畳のにおいのする和室は、闇の中に沈んでいる。
それでもなんとなく輪郭が見えるのは、二間先にある蝋燭のおかげだろう。


( ゚д゚ )「冷房をかけるか?」

(    )「僕はもうちょっとつけずに粘りたいな。
      ……せっかくの、百物語だし」

(    )「冷房なんかつけたら、台無しなんだからな!」


広い和室の中は、じとりとした熱がこもっている。
昼間にくらべればはるかにましだが、暑いことには変わりない。
それでも、誰一人として冷房をつけろと言わないのは、俺たちが怖い話をしているからだろう。


――そう。俺たちは今、百物語をしている。


.

416名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:42:56 ID:4Pykjo5k0


百物語。

怪談話を百話して、蝋燭を一本ずつ消していくっていう夏の怪談の定番。

会場は、ミルナの爺さんの家を借りた。
新月の夜に、三間続きの和室。
一番奥の部屋には、百本の蝋燭を並べた大きな火鉢。


( ゚д゚ )「冷房はこのままにしておく。だが、水分だけは摂取してくれ。
     必要ならば取ってくる」

川   )「気を使わせてすまないな、ミルナ」

( ゚д゚ )「気にするな。俺もいい経験をさせてもらっている」


――とまあ、一見本格的なんだが実はそうでもない。
ミルナとミルナの婆様が差し入れてくれたり、コンビニで買い出しした食べ物や飲み物が、部屋には転がっている。
ブーンなんかは携帯で人を呼んでたし、途中参加も退出も自由という何でもありの仕様。
本格的な百物語とは、ほど遠い仕上がりだった。

.

417名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:43:46 ID:4Pykjo5k0


それでも、――思うのだ。


(;'A`)「……」

(    )「どうした、ドクオ?」

(;'A`)「なんだかんだ言って、雰囲気あるなって。
    なんかが出てきても、おかしくなさそうだ」

(    )「なに言ってるのさ」


相手の顔も見えない、暗い部屋。
冷房のかかっていない、知らない部屋にじっと座っていると、
ここは本当にミルナの爺さんの家で、すぐそばに座っているのが本当に知り合いなのかもわからなくなる。

418名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:47:30 ID:4Pykjo5k0


長く話しすぎたせいで、雰囲気に飲まれ過ぎている。
そうなのはわかっているんだが、不思議な何かの存在をつい信じてしまいそうになる。


(    )「そんなの、今にはじまったことじゃないだろ」

('A`)「そうなんだが……でも、」


声の聞こえてきた方に、顔を向ける。
そこにいる顔は、やっぱり見えない。
相手の顔が見えない。たったそれだけなのに、なんだか不安になるのは、俺がビビっているせいなんだろう。


(    )「……ドクオ?」

(;'A`)「お、おう?」

(    )「ぶつぶつ言ってないで、次の話をはじめよう?」

(;'A`)「あ、ああ。そうだな」

(    )「やーい、怒られてやんの」

419名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:48:20 ID:4Pykjo5k0


反対の方から聞こえる声の先には、誰かがいるらしき暗闇。
馬鹿にするような声の主も、当然ながら顔が見えない。男なのか女なのか、それさえもわからない。


川   )「主役が呆けていては話しにならないからな」

(    )「準備はできたかお?」


凛とした声。これは誰かわかる。ずっと聞いていたくなるような美しい、クーの声。
それから、特徴的な語尾はブーン。
でも、二人の姿は見えなくて――、


ξ   )ξ「次は、ドクオの番よ」

('A`)「え?」

ξ   )ξ「聞いてた? ドクオの順番だって、言ってるんだけど」


女の声が聴こえる。
姿の見えない影が、俺に順番と囁い――、じゅんばん?
今、順番って言ったか?

420名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:51:51 ID:4Pykjo5k0

順番
この状況で、順番って言ったら……何の順番だ?


('A`)「すまん。もう一度言ってくれ」

ξ   )ξ「はぁ!? アンタ、あたしに何回言わせる気よ。
      順番って、言ったら決まってるでしょ!」

(;'A`)「ええと、」

( ゚д゚ )「次に怪談を話すのはドクオだと、津出は言っている」


状況がわからない俺に、ミルナが説明をしてくれる。
怖い話をする順番。
百物語で、順番と言ったら確かにそうだ。

421名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:53:57 ID:4Pykjo5k0


だが、待ってくれ。
準備なんてぜんぜんできていない。

俺はさっきまで、全然別のことを考えていた。
部屋に雰囲気ありすぎて正直ビビる。
一言で言うとしょうもないことこの上ないが、そっちに夢中になりすぎて、次に何を話すかなんてまったく考えていない。
それなのに、急に順番を回されても困る。


川   )「ドクオはしばらく話をしていなかったし、ちょうどいいだろう」

ξ   )ξ「今さら、話せないなんて言わないわよね?」

(;゚A゚)「ぐぬっ」

422名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:56:45 ID:4Pykjo5k0



………

やべぇ。
なんっにも思いつかねぇ。
考えようとすればするほど、頭から消えていく。


(゚A゚)(考えろ。考えろ、俺!!!)


どうした、俺。
俺なら怖い話の1つや2つ余裕で思いつくだろう。
ネットで見たうさんくさい都市伝説を思い出せ、異次元に繋がった廃村とか……

……これ、ショボンが話したな。

なんか、あるだろう。
オバケ、オバケが出るやつ……この際、妖怪とかそんなんでいい。

423名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:57:51 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「つまんなかったら承知しないわよ」


推定ツンらしき女の、機嫌を悪くしたらしき声が聞こえる。
さっき順番の話を何度もさせたせいか。それとも、俺がなかなか怖い話をはじめないせいか……。
不機嫌の原因はなんとなく想像がつくが、今は正直それどころじゃない。


川   ) 「厳しいな」

ξ   )ξ「あたり前でしょ。あたしの番のときに、コイツ文句を言いまくったのよ」

(;'A`)「ゔっ!!」


なんか今、予想しなかった答えが聞こえた気がする。
確かに俺は、誰かが話すたびにツッコミをいれていた。
ホラーじゃないとか、怖い話じゃないとか……言ったか。言った気がするな。
だが、今ここでその話を出してこなくたっていいじゃないか!!


ξ   )ξ「謝るなら今のうちよ」

(;  ω )「あうあう」

(;    )「あー」

424名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 21:59:09 ID:4Pykjo5k0

ツンの声が上る。
カーチャンが説教をはじめる前みたいな声に、冷や汗しか出ない。
蝋燭を消しにいくのを怖がっていたときのかわいげは、どこに行ったんだ。


(;゚A゚)「あ、う、う、うー」


口を開いても、無意味な音しか出てこない。
あ、い、う――と声を出しながら、それっぽい単語を頭にひたすら浮かべる。


(;゚A゚)「あー」


アンデス。あんこう。アンタレス。
なんか、それっぽいが、怖い話っぽいワードがなんにも出てこない。


(;'A`)「い、いー、いー……じゃなかった」


イもだめ。
イカのおすしとかいう、わけのわからん単語しか出ない。
こうなった次、ウだ。ウに賭けるしかない。だめだったら、ア行のほかの言葉で……

425名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:00:43 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「う。うー、う、うちゅうじん」


それは、まさに天からのひらめきだった。
漫画なら電球がぱっと光りがつく感じ。神からの贈り物。むしろ、俺こそが神。
そう自慢したくなるくらい、その瞬間の俺は冴えまくっていた。


(    )「宇宙人?」

川   )「ほう?」


宇宙人。
とっさに、思いついたにしてはすばらしい言葉だった。
聞こえてくる声の反応は、そんなに悪くない。


(;'∀`)「宇宙人! そう、宇宙人だ!」


もう、こうなったらこのまま突っ走るしかない。
大丈夫。1話だけだ。
ちゃっちゃと適当に話して、次のヤツに順番を回せばいい。

息を吸って、吐く。
そして俺は、人影に向かって高らかに声を上げた。

.

426名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:02:37 ID:4Pykjo5k0




(;゚A゚)「宇宙人はな。いるんだよ!」




.

427名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:03:33 ID:4Pykjo5k0




              ('A`)百物語、のようです

                                           
                 宇宙人あらわる!


                      .,、
                     (i,)
                      |_|





.

428名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:04:46 ID:4Pykjo5k0


(    )「な、なんだって――!?」

ξ   )ξ「ねぇ、それってあり?
       ありなの? 百物語よこれ」


俺の会心の一言に、ざわざわとした声が上がる。
機嫌が悪かったツンでさえ、困るか慌てているらしかった。


('A`)b「ふっ。アリに決まってるだろ。
    宇宙の大いなる神秘。ロマンの塊。宇宙人! オカ研だって大好きだろ」

(    )「オカ研じゃなくて、元写真部だよ。
      まぁ、たしかに、好きそうなやつはいるけど……」

(*'A`)「よし聞いたかツン! 宇宙人はな……ありなんだよ」

ξ   )ξ「でも、宇宙人なんて……」


俺の主張にツンはぐうの音も出ないようだ。
あの圧倒的不利からの逆転勝利に、喜びと興奮が止まらない。
やるな俺。今なら、漫画やアニメみたいに高笑いができそうだ。

429名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:06:01 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「宇宙人なんて……話が思いつかないから、適当に言ったんでしょ!」

(    )「話が思いつかないからって、最悪なんだからな!」

(;'A`)「う……」


俺の喜びは一瞬で散った。
奇跡の逆転は、一言でまたひっくり返されてしまった。
たしかに。宇宙人はその場の思いつきだ、だからってその言い方はないだろ。


(    )「ドクオなら、もっと別の話をすると思ってたのにな」

(#'A`)「宇宙人なめんな! この俺がなんかスゲー感じの話をしてやるよ!」

ξ   )ξ「ふ、ふんっ! だったら、やってみなさいよ。
       宇宙人で、とびきりの怖い話をね!」


頭の中のどこかで、やめるなら今のうちだぞという声がする。
宇宙人でゴリ押しなんてできるはずがねぇ――なんていう、弱気な考えも浮かぶ。
だけど、俺は。そんな冷静な言葉に、納得できるほど大人じゃなかった。

430名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:07:22 ID:4Pykjo5k0


(#゚A゚)「上等だ、ゴルァァァァァ!!!」

ξ#   )ξ「言ったわね! 今さら、ナシなんて絶対に言わさないわよ!」


宇宙人上等。
俺は宇宙人で、ここにいる全員がビビる話をしてやる!
見てろよツン。それに、……ええと、まぁいいや。そこにいる誰か!


(    )「は、はわわわわだお!」

川   )「いいぞ。もっとやれ」

(;    )「いいのかなぁ、これ。ドクオ、大丈夫?」


息を吸って、吐く。
覚悟は決まった。正直、なんも思いつかんが、男にはやらなきゃならないときがある。


( ゚д゚ )「ドクオ。話してくれるか?」

('A`)「ああ」


――そして、俺は口を開いた。

.

431名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:08:10 ID:4Pykjo5k0

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('A`)「宇宙人ってのはな、本当にいるんだよ」




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432名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:10:10 ID:4Pykjo5k0


('A`)「宇宙人は……」



(;'A`)「……」



(;゚A゚)「う、宇宙人」




俺は口を開いた。



.

433名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:11:33 ID:4Pykjo5k0


(;'∀`)(やべぇ!! なんも思いつかねぇ!!!!)



口を開いてみたのはいいが、何にも言葉がでてこない。
脳内検索をしてみても、宇宙人の話なんてほとんど出てこない。
そもそも、宇宙人って、怖いんだっけ?


( ゚д゚ )「どうした?」


円盤。UFO。タコ型火星人。
両手を男に引っ張られる、グレイだっけ? なんか、アメリカの陰謀っぽいやつ。
それから、美少女とかロボとか宇宙戦艦の出て来るアニメがたくさん。あれに宇宙人はいたんだっけか?
織姫彦星は……流石に、宇宙人じゃないよな。宇宙っぽいけど。


(;'A`)「なんでもない」

(    )「……」

川   )「どんな話が来るのか、楽しみだな」

(;    )「ええと、ドクオ? 無理はしないでね……?」

(;゚A゚)「……」

434名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:12:28 ID:4Pykjo5k0


頭の中にある、宇宙っぽい知識をひっくり返してみる。
いくつか浮かんでくる単語はあるが、うさんくさかったり、そもそも宇宙人とそんなに関係ない言葉しか出てこない。
ホラー。ホラーで、宇宙人っぽいやつ。
なんかあるだろ。宇宙は広いんだ。宇宙人だって、いっぱいいるだろ!


(;゚A゚)「宇宙人っていっぱいいるよな?」

(    )「そうだおね! 僕、宇宙戦争っぽいの好きだお!
       いろんな宇宙人とかメカが出たり、ビームっぽいサーベルとかで戦うんだお!」

(;゚A゚)「そういうのも、……あるよな」


宇宙戦争。映画かなんかか?
あー、そんな話もあった気がする。
そういうワクワクするのもいいけど、今はなんかホラーでエグい感じで……エロとかグロとか。
……グロ?

なんか、映画であったような気がする。
宇宙からの侵略とか。そんな感じのやつ。

435名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:13:37 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「ええと、俺が話す宇宙人っていうのはな。いるんだ」

ξ   )ξ「でも、証明されてないわよね」

(;'A`)そ「そりゃあ、気づかれてないからだよ!
      宇宙人はたしかにいて、地球にも来ているんだ!」

ξ   )ξ「宇宙人が地球にいるっていうなら、なんで見つかってないのよ!」


さっき散々調子に乗ったせいか、ツンがやたらと食い下がってくる。
まだ考え中なんだから、黙ってろ! ……なんてことは、当然言えない。
俺は知っている話を語っているはずなんだから、ここでボロを出すのはマズイ。

ツンをごまかすためにも、何か話さなければいけない。
だけど、思いつく話はない。
……どうする?


(;'A`)「そりゃぁ……」

(    )「なに?」


……こうなったら、もう。
何か適当にでっち上げるしか、道はない。

436名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:15:10 ID:4Pykjo5k0


その場で話を考えて、作る。


宇宙人で、ホラーっぽくって、百物語っぽい話を今から考える。
大丈夫。一話だけだ。
百話あるんだ。一話くらい、俺が作った適当な話があってもバレはしない。
だから、がんばれ俺! なんかそれっぽい設定を、でっち上げるんだ。映画っぽい感じで。


(;'A`)「……人間を乗っ取ってるからに決まってるだろ?」


……言ってしまった。
言ってしまったからには、もう引き返せない。
ここから先は、俺が話を作るしかない。
話が行き詰まらないように、なんとか時間を稼ぎつつ頑張るしかない。

437名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:16:17 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「乗っ取る?」

(    )「へぇ」

('A`)「そう。そうなんだ!」


宇宙人の出てる映画で、人間を乗っ取ったり操ったりしているやつがあったはず。
そういう感じなら、宇宙人が地球にとけ込んでいても不思議じゃないだろう。


(-A-)「宇宙人は人間の体を乗っ取る。
    だから、人間を乗っ取る前の純粋な宇宙人は、ほとんど目撃されないんだ」


よし。これで、それっぽい。
あとは、この宇宙人が地球を侵略していることにでもすれば……

438名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:18:07 ID:4Pykjo5k0


(    )「その宇宙人、なんていうの?」

('A`)「ん?」

(    )「名前だよ。名前。わかってないなら、どういう宇宙人か分類が聞きたいな。
      タコ型? それとも、グレイ? 人間を操ったり寄生するタイプなら、そのどれとも違うのかな?」

(;'A`)「……」

(    )「僕、そっちはそんなに詳しくないんだけど。宇宙人って、ロマンがあるよね。
      それでドクオの話している宇宙人なんだけど……」

(;'A`)「……」


早口で話しかけられて、俺は黙り込む。
俺が黙っていても、声はひたすら宇宙人について語っている。
ツンみたいに疑われるのも嫌だが、こう喰い付かれても困るな。


(    )「僕は異型タイプの宇宙人だと思ってるんだけど」

439名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:19:40 ID:4Pykjo5k0

ξ   )ξ「ストップ。ドクオの話が止まっちゃってるでしょ」

(    )「ごめん。つい……」

(;'A`)「名前。名前かぁ。なんだったかなぁ……」


ツンの声が、いつまでも続きそうな宇宙人トークを遮る。
いつもならよくやったと言っているところだけど、今日に限っては余計なことをしやがってと思う。
何しろ話がぜんぜん思いつかないのだ。
静かになった声の主……たぶん、ショボンに向けて、俺は時間稼ぎの言葉をとりあえず放つ。

宇宙人。
宇宙人の話をやるなら、たしかにそれっぽい名称は必要だ。
そのへんの設定はここで考えておかないと、確かに困るな。


(;'A`)「うーん……」


火星人はメジャーすぎだから却下。
金星とかも、地球から近すぎる。ここでうっかり話に出して、ショボンにつっこまれたら大惨事だ。
どこか遠い星。というふわっとした感じにしておこう。

440名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:20:23 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「ここよりもずっと、遠くにある星から来た……」


なんかカタカナの名前。
すぐに覚えられて、間違えなさそうな簡単な名前で。既存のやつと被らないネーミング。
……無理だろ。これ。


(;'A`)「今思い出す……そう……」

ξ   )ξ「ねぇ、いるの? そんな宇宙人」

(#'A`)「ど忘れしただけだ! ええと、」


オリジナル。オリジナル……
……だめだ。肝心なところで出てこない。
仕方ない。とりあえず「星人」ってつけて宇宙っぽくするっきゃない。


(;'A`)「バルタンじゃなくて、ダダじゃなくて、キングギド、いや、キ……えーと……そう!」

441名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:21:23 ID:4Pykjo5k0





(;゚A゚)「き……キリン。麒麟っ! そう麒麟星人だ!!!」





.

442名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:22:11 ID:4Pykjo5k0

麒麟。
ビールとかについてる、なんかかっこいい神獣。
フェニックス星人とか、鳳凰星人とか、ヒュドラ星人とかのほうがかっこいいかもしれないが、とっさに考えたにしては上出来だ。


(*'A`)「そう。その宇宙人は麒麟星人って言ってな」


ξ   )ξ「きりん……」

川   )「ふむ。キリンか」

( ゚д゚ )「きりん、キリン、麒麟……キリンか?」


なかなかいい思いつきだと思ったんだが、周りの反応がなんか微妙だ。
驚いている……にしては、少し違う感じの声で、「きりん、きりん」と呟く声が聴こえる。
なんだ。なんか、マズイ言葉でも言った、か?


(    )「なんか、かわいい名前だお!!」

(    )「キリンって、動物園みたいじゃないか!」


(;'A`)「あ」

443名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:23:49 ID:4Pykjo5k0


のんびりとした声。それからその次に起こった爆笑に、俺の頭が一気に冷える。
心臓がバクバクして、頭がグラグラする。
そうだ。キリンと言ったら、動物園の人気者が出てくるほうが普通だ。

なんで、伝説の神獣・麒麟なんて思った!
黄色い体に長い首のキリンさんなんて、アホ丸出しじゃないか!


(    )「ふうん。キリン星人なのか。
      キリン座とかあったから、そっち系なのかな? それとも特殊ないわれがあったりとか?」

(;'∀`)「ええと、どうなんだろうな?」

( ゚д゚ )「ふむ。キリン星人という名称に意味が」

川   )「キリン星人。あなどれないな」


やべぇ。キリン星人という単語が思いの外馴染んでいる。
いまさら、やっぱ違いましたなんて言えない空気だ。
というか、キリン星人のインパクトが強すぎて、他の名前をつけてもキリン星人にすぐ戻ってしまいそうだ。

444名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:26:04 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「で、そのキリン星人がどうしたの? 話の続きは?」


下手なことを言ったら真っ先に否定しそうなツンまで、キリン星人をあっさりと受け入れている。
すげぇなキリン星人。
みんな最初の驚きどこにやったんだよ。
アホ丸出しとか思った、俺のほうがアホだった気さえしてくる。


(;'A`)「そ、そうだな。
    キリン星人は、人間を乗っ取って、その体に潜んでるんだ」

ξ   )ξ「潜んでるって、それどうしてわかるの?
       見た目は人間……なんでしょ? 宇宙人がいるってどうしてわかるのよ」

川   )「確かに見た目が人間なら、宇宙人の存在は他の者にはわからないな」


なんか正論が聞こえる。
そうだよなぁ、宇宙人が体を乗っ取るって言っても、乗っ取られたやつしかそんなことわかんねぇよな。
こういう時って、どういうパターンが王道なんだ?


(;'∀`)「普通に考えりゃあそうだよな」

445名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:26:56 ID:4Pykjo5k0


(    )「そこは何かあるんだよ! 映画とかだとこういう場合、ささいなきっかけで主人公が気づくんだ」

(    )「きっかけ、ねぇ? あるの? そんなの」


映画とか、雑誌ってこういう時どうだっけ?
そもそもこういう宇宙人系の映画って、しっかり見たことないんだよなぁ。
ええと。目がやばいとか、動きが変とか、頭がなんか受信しちゃってる感じだったり、わかりやすく体が変形してる……とかか?

……うーん。
一番わかりやすいのは、体が変形してるパターンだよな。
なんか生えてるとか、増えてるとか、見るからに変だって分かる感じの……。


(;'∀`)「キリン星人にのっとられたやつってのは、普通とは違うんだよ」

( ゚д゚ )「どこが違うんだ」

(;'∀`)「それはな……」


考えついたところまで話してみたが、その先が思いつかない。
キリン星人だろ。
キリン星人っぽい感じで、明らかに変だとわかると言ったら……。

446名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:27:40 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「もったいぶってないで、早く言いなさいよ」

(;'A`)「ひゃぃ!」

(    )「なんにも考えてないとか、言わないよな?」

川   )「ふむ。私も楽しみだ」


やべぇ。
まだ考え途中なのに、絶賛急かされている。
頼むから、もうちょっとだけ待ってくれ!!! 頭のなかで、そう叫んでみてもツンたちには当然届かない。


(    )「どうやって宇宙人の正体を明かすのかワクワクするよね」

(;゚A゚)「宇宙人。キリン星人にとりつかれた人間はだな」

(    )「ドクオ? 大丈夫かお?」

(;'∀`)「平気、へーき。
     えっと、キリン星人、キリン、キリン……キリンは……」


頭に浮かぶことをひたすらつぶやきながら、頭を回転させる。
気持ち悪いほど汗が流れているけど、ぬぐう余裕なんてない。
キリン星人。キリン。キリンと言ったら……

447名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:29:07 ID:4Pykjo5k0

動物園の人気者のキリンさんのことを考える。
あいつらは確か、黄色くて、茶色い模様があって、ツノがあって、それから。それから……


(;'∀`)「首が長い!」

川   )「たしかにキリンの首は長いな」

( ゚д゚ )「首が長いのは、高いところの葉を食べるためだったか?」

ξ   )ξ「それと宇宙人が、どう関係あるのよ」


思いついたと思ったのに、全然思いついていなかった。
一瞬。一瞬だけ、すげぇいい考えが浮かんだって思ったのに。それがこのざま。
だって、首だぜ。首。キリンっぽいし、何より見た目にインパクトがある。


(;゚A゚)そ「ぐっ!」

ξ   )ξ「ドクオ……アンタ、本当にちゃんとこの宇宙人の話知ってるの?」


今、思いっきり考えてます。
それが事実なんだが、――そんなこと今さら言えっこない。
それを言ったら、俺がツンに完全敗北したことを認めることになる。それだけはできない。

448名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:29:47 ID:4Pykjo5k0

ξ   )ξ「しっかり覚えてないなら、他の話にしたっていいのよ」

('A`)「それはできない。それだけはできない……」

ξ   )ξ「なによ」


ここからは、一世一代の大博打だ。
一度、口にしたら後は引き返すことが出来ない。それでも、男にはやらなければいけない時がある。


(;'A`)「なぜなら、俺は間違ったことを言っていないからだ!!!」

ξ   )ξ「……っ」


ツンが一瞬、怯んだ気がした。
その隙につけ込むように、俺は言い放った。


('A`)「キリン星人は普段はのっとられた当人も気づかないほど大人しい。
    だがな、ある条件が整ったその時だけ、」

ξ   )ξ「……」

449名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:30:48 ID:4Pykjo5k0



     . . . . .
(#'A`)「首が伸びるんだよ!!!」



言ってやった。
いや、言ってしまった。
ここから先は、完全に何も考えていない。
ツンがこれで納得してくれればいい。しかし、納得してくれなかったその時は、ここから先は地獄だ。


ξ   )ξ「……」


ツンは、何も言わなかった。
「はい」も「いいえ」も、俺の話を否定する言葉も口にしなかった。


(*'A`)(勝った)


勝った。
俺は勝った。ここから先、何を話せばいいかわからないが、とりあえず俺は勝ったのだ。
勝利の感触に酔いながら、汗を拭う。
せっかくだから、ここは酒でも飲みたい気分だった。……人の家だから買ってきてないけど。

450名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:31:35 ID:4Pykjo5k0


――しかし、勝利の瞬間とは長く続かないものである。
俺の感動と余裕は、たった一言によって打ち砕かれた。


(    )「なんで首がのびるんだお?」


よりにもよってブーンの一言でである。
当たり前と言えば、当たり前の一言。
俺だって、話を聞く側だったらそう思ったであろう言葉だった。

シンプルな言葉は、時によっては人を殺す。


(;'A`)「ええと、別に伸ばしたくて伸ばしてるわけじゃ……」

(    )「だよね。そんなことしたら目立つし……
      でも、伸びるんだよね、首」

(    )「のばしたくなくても、のびるんだ。首」


次々と言われる言葉に、頭が真っ白になる。
ツン言葉にカッとして答えただけだから、全然考えてない。
一つ考えたら、また一つボロが出てくるなんて本当に死にたい。

451名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:32:20 ID:4Pykjo5k0

まるで、レポートを書いているみたいだ。
穴埋めに書いた一文に、赤ペンで修正されたしょっぱい記憶がよみがえる。
レポートと違って文が消せないぶっつけ本番は、やばいと改めて思う。


(;'A`)(考えろ、俺!!)


宇宙人は人を乗っ取る。
だけど、そのままだと宇宙人が人を乗っ取っているかどうかわからないから、首が伸びることにした。
ここまでは、どうやっても動かせない。


とりあえず、首を伸ばす理由をなんとか考えて……考えて……考えろ。


乗っ取られた人間が死にそうだから、脱出?
うん。これは悪くない。悪くない路線だ……でも、乗っ取った人間ってそんなに簡単に死ぬか?
死因と言ったら、多いのが事故か病気?

病気で死んだ爺さん婆さんの首が伸びる……
……なんか。宇宙人っていうより、新手の妖怪っぽいなこれ。

うーん。
乗っ取る。宇宙人が人を乗っ取るっていうなら、目的は侵略っぽいやつだよなぁ。
映画だと大体そんな感じだろうし。
だったら、乗っ取った人間は利用したいよな。

452名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:33:52 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「……お前らは、なんで伸びるんだと思う?」


考える合間に、口を開く。
ちょっとでも時間を稼ぎたいのと、頼むから誰かヒントをくれという願いをかけて、俺は問いかける。
ミルナとかならなんか難しくてよさげなことを知ってるかもしれない。それか、オカルト詳しそうなショボン。
ツンは……、とりあえずこれ以上余計なことは言わないでほしい。


(;   )「え? はぇ? 急に聞かれても困るお」

(    )「ええと、ふつうに考えると……
      宇宙人が肉体を改造した……とか、かなぁ?」

川   )「宇宙人という異物に、人体が適応できなかったという線もありそうだな」

( ゚д゚ )「宇宙人については詳しくないが、動物と同じと考えるのなら……
     環境に適応するためか、生存に有利だからだと思うが」


ありがてぇ。ほんとにヒントが来た。
言ってみるもんだなぁと、慌てて脳内メモにヒントを書きつける。
宇宙人がやった。人間の体じゃ適応できなかった。環境に適応するため……

453名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:39:07 ID:4Pykjo5k0


ξ   )ξ「……アンタたち。よく、そんなに考えつくわね」

(    )「なー」

(    )「みんなすごいお。
      僕、宇宙人ってほんとはろくろっ首なんじゃないかって思ってたんだお」


ヒントにならなさそうな声も上るが、今は答えを考えることに集中する。
クーの、「人間の体じゃ適応できなかった」が一番使えそうな説だ。
あとは、……生存に有利?


('A`)(生存に有利……なんで、生存?)


妙に、ミルナ説が脳裏にひっかかる。
首が伸びて有利になることって、なんだろう。
ろくろっ首なら相手をびっくりさせることと、遠くが見えたりすることなんだろうが。
宇宙人だと、特に思いつかない。

454名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:43:40 ID:4Pykjo5k0

遠くが見えるのは、望遠鏡とかそっちを使ったほうがよっぽど早いので却下。
人間乗っ取ってるんだから、それくらいできるだろう。


('A`)(あとは、びっくり……びっくり?)


びっくりさせることのメリットは……ああ、相手から逃げるチャンスができるとかか。
でも、宇宙人に天敵なんているか?
それに人間をのっとってちゃんとカモフラージュできてるはずだから、わざわざ人間の体から逃げる必要なんてないよな。
せっかくのっとった大事な肉体。そいつを捨てるほどの理由なんて。


('A`)「!」


今、天才的なひらめきが走ったような気がする。


('A`)「キリン星人がとりついた人間の首が伸びる理由……」


大昔にテレビかなんかでみた、エイリアンの映像が脳裏によぎる。
人間の体を捨てて、そこから出てくる理由。


('A`)「それは……」


そう。それは……

455名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:44:20 ID:4Pykjo5k0


                    . . . .
(*'A`)「そこからキリン星人が、産まれるからだ!!」


人間の体を食い破って、誕生するエイリアンの姿。
弱そうな人間の体から、完全体に進化する。もうこれっきゃない!!


(;    )「あ。ああー!!」

川   )「なるほど。その手があったか」

ξ;  )ξ「……う」


聞こえてくる反応が、なんかいい感じの気がする。
この路線はなんかよさそうだ。
答えに詰まってたところが、なんかいい感じに話をタメてたっぽくなってて、さらにいい感じだ。

456名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:46:08 ID:4Pykjo5k0


ξ;  )ξ「うまれるって……? 体の中から、そんな変なものが出てくるっていうの?」

(    )「さっき、首の話をしてたし。出てくるなら首かな?」

川   )「首からメリメリばきばきぐにゃぐにゃ……ギャー。
     その結果、伸びる首か?」

ξ;  )ξ「ひ」


ツンの声が露骨に弱気になった。なかなか悪くない反応だ。
なんかいい感じに、話が盛り上がっているような気がする。
俺が考えた話で盛り上がるのは、悪くない気分だ。
これぞ、百物語の醍醐味ってやつだろう。


(    )「出てきたあとは、どうするんだお?」

(;'∀`)「ええと」


訂正。
まだ油断してはいけない。一つ話したら、一つなんかを直さなきゃならない。
宇宙人は人間の首から出てくる。めりめりバキバキぐにゃぐにゃで、ギャーはとりあえず採用しておこう。
そこから先。宇宙人がすることと言ったら、やっぱり定番は……

457名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:46:52 ID:4Pykjo5k0


(;'∀`)「地球侵略」

(    )「はぁ?」


とりあえず口にしてみたが、思いっきり冷たい声で返された。
言葉にするならば、「なにそれ、馬鹿なの?」というくらいの反応。
誰だよ、今の声。地球侵略っていったらオカルトやSFの王道だろ……多分。


(;'∀`)「侵略じゃなくて、でも侵略的な……侵略」


宇宙人の目的と言ったら、とりあえず侵略。
映画とかでよくある地球人とのファーストコンタクトは……、首から爆誕してる時点で無理だなこれ。
地球の調査、地球資源の確保。……この2つは、どっち選んでも地球侵略っぽいな。

ダメだ。頭が地球侵略モードから離れてくれない。
こうなったら、地球侵略はそのままにしとこう。
あと、考えなきゃいけないのは首から出てきた宇宙人がどうするかだっけか?


(;'A`)「そう」

458名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:48:58 ID:4Pykjo5k0


宇宙人。宇宙人……
こいつらが宇宙人じゃなくて、それこそキリンだったら。
そいつらがやることと言ったら。食って、寝て……あと、


('A`)「そう。キリン星人は……」


生き物の大原則。
生き物が生まれて、生きて、そしてやることと言ったら……もう、これっきゃない。


(*'A`)「子孫を残すんだ。それで増える!!!」



一瞬、部屋がしんとした。
聞こえるのは、じぃじぃという耳障りな虫の声。
それで、はじめて周りの物音が聞こえないくらいに、必死になっていたことに気づいた。
ブーンやツンたちの声以外に音がしていたなんて、全然わからなかった。

459名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:50:12 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)「……」

( ゚д゚ )「……」


耳を澄ませて、返事を待つ。
普通なら相手の表情で反応がわかるのに、暗い部屋は人の顔なんて見せてくれない。
かろうじてミルナの顔が見えるが、いつもと変わらない表情に見える。


(;'A`)「人間の体を使って、子孫を残して。
    それで、また新たな子孫を残そうと……」


一秒、二秒……流れる時間が、絶望的なまでに遅い。

頼む。
誰か、何か言ってくれ。
俺はここから先、どうやって話を作ればいい?

460名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:51:19 ID:4Pykjo5k0

……そんな、じれったいほどに長い時間は何秒続いたのだろうか。


(;    )「うわ」

ξ;  )ξ「気持ち悪……」


小さな声が上る。
さっきみたいな冷たい声じゃない。たぶん、呆れているとかいう声でもない。
反応は……、どうなんだろうか。


( -д- )「生殖か」

(    )「ひそかに紛れ込んだ宇宙人が、人間の体を食い尽くして増殖していくのか」

川   )「ファンシーな名前なのに、凶暴だな」

(    )「キリン星人さんこわいお〜」


悪くは、ないような気がする。
怖くはないが、とりあえず気持ち悪いっぽい話にはできたっぽい。
ああ、なんだ。これで怖い話ができたんじゃないか。

461名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:52:05 ID:4Pykjo5k0


(*'∀`)


やればできるじゃないか、俺。
あとは、これまでの話してきたことをちゃんとした話っぽくまとめれば完璧だ。
二度とやりたくないが、ぶっつけ本番でもできるもんだな怖い話って。


(*'A`)「なんかごちゃごちゃしちまったから、まとめるな」


顔が自然とにやけてしまう。
さっきまではそれどころじゃなかったけど、冷静に考えてみればこれまでの話はいい感じだったと思う。
あとは「これは遠い国の話ではない」的な一言を加えれば話は完成だ。


息を吸って、目を閉じる。
俺は話を完成させるために、口を開いた。


.

462名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:53:01 ID:4Pykjo5k0

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話の流れが無茶苦茶になっちまったから最初から話すな。


俺の話は宇宙人の話だ。


宇宙は広い。
それだけ広いんだから、地球以外にも生物がいるかもしれない。
その中には、知性を持つ生命――いわゆる宇宙人もいるかもしれない。

いろんな国の研究者たちがこぞって研究しているけど、まだその存在は確認されていない。
……って、世間では言われているよな。

.

463名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:53:41 ID:4Pykjo5k0


だが、それは間違っているんだ。
世間には公表されていないが、すでに宇宙人の存在は確認されている。
それどころか、やつらはすでに地球に来ているんだ。




宇宙人はいる。
そいつらを俺は、≪キリン星人≫と呼んでいる。



.

464名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:54:27 ID:4Pykjo5k0


キリン星人は地球の環境では長く生きていけない。
だから、キリン星人は人間に取り付くんだ。

キリン星人に取り付かれた人間は、外見からでは区別がつかない。
キリン星人が世間に知られていない、最大の理由がそれだ。

キリン星人は、めったなことがないかぎりは宿主に悪さをしない。
だから、宿主自身も自分が乗っ取られていることに気づきもしない。
ほとんどの宿主は、自分の体に宇宙人がいるってことに気づかないまま生きて、ふつうに寿命を迎える。



――だけど、特定の条件がそろったときにだけ、キリン星人はその牙をむく。
だからこそ、キリン星人の存在はこうやって、一部の人間に知られているんだ。

465名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:55:09 ID:4Pykjo5k0


みんなは、俺がキリン星人の名前を出したときに変な反応をしたよな。
「きりん、きりん」って、ひたすら言ってるやつもいたよな。
たしかに、俺もその名前をはじめて知ったとき、同じように思ったよ。


「なんで宇宙人にキリンかって?」
みんなも変だって思っただろう。それには理由がある。



……そう、さっきも話したよな。



キリン星人に乗っ取られた人間は、その首が伸びるんだ。
まるでキリンのように……だから、その宇宙人はわざわざ≪キリン星人≫なんて呼ばれているんだ。

466名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:55:51 ID:4Pykjo5k0


――とはいえ、いつも首が伸びるわけじゃない。
首の伸びた人間がそこらじゅうを歩いていたら、そりゃあもう目立つからな。
もうそこに宇宙人がいるってのがバレバレだろう。そうなったら、一気に駆除の対象だ。


でも、実際はキリン星人がいるって話も、駆除されたって話も聞かないだろう?


キリン星人はさっきも言ったみたいに、めったなことがないかぎり宿主に悪さをしない。
そして、宿主が死ぬと、宿主の体にいるキリン星人もそのまま生を終える。
普通なら、な。

――だけど、特定の条件がそろったときにだけ、キリン星人は宿主に牙をむくんだ。

467名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:57:10 ID:4Pykjo5k0


キリン星人は普通、1つの体に1体が取り付く。
だけど、ごくまれに1つの体に、2体以上のキリン星人が住み着くことがある。
そうなった時だけ、キリン星人の宿主の首は伸びるんだ。


その理由は、たったひとつ。

生き物の大原則。
生き物が産まれて、生きて、その中でやることと言ったらセッ……じゃなくて、そう生殖だ。
それは地球外生命体でも、変わらない。


キリン星人もその大原則からは逃れることが出来ないってこったな。


男と女が出会って、子どもが産まれるように……
宿主の体に2体以上のキリン星人が住み着いた時、やつらは生殖を行う。

そして、よろしくやったキリン星人たちは宿主の体の中に大量の卵を産み付ける。
その卵は宿主の体の中で成長し、――ある日一斉に孵化する。

.

468名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:57:51 ID:4Pykjo5k0

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('A`)「――ある日一斉に孵化する。」


話は順調過ぎるほどに順調だった。
何しろさっき話したことを、もう一回話すだけ。
忘れかけてるところや、考えてなかったとこがあって焦ったが、なんとかそれっぽく話ができたはず。
ツンに怒られそうなセクハラ一歩手前のワードも、ミルナ大先生のおかげでなんとか回避できた。

この調子で行けば、俺の話は終われる。
……だからなのだろう。そこで、どうせならもうちょっと、という欲が出てきた。


.

469名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:58:40 ID:4Pykjo5k0


('A`)「そうやって孵化したキリン星人たちは、宿主の首から」


俺の口は、気づけば止まっていた。
孵化したキリン星人が、宿主を殺して出て来る。
映画とかならば、話のオチに当たる部分だ。

……だけど、なんとなく物足りない。
というか、ひっかかる。なんかこの部分の出来がイマイチのような気がする。
ツンが絶好調だったら、多分ツッコミが入ってるだろう。


('A`)(やっぱ、首が伸びるって無理あるよな)


キリン星人の被害者は、首が伸びる。
これは、いい。というか、調子に乗って作った前提条件だからもう動かせない。
宿主の体で孵化したキリン星人(子)が、宿主殺して首から出てくる。
これもいいと思う。話に無理はないし、首というワードは何とか出せている。

そこまで考えて、俺は致命的な事実に気づいてしまった。

.

470名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 22:59:46 ID:4Pykjo5k0


(;'A`)(やべぇ。被害者の首、伸びてねぇじゃねぇか!!!)


考えてみればそうだ。
「首から出てくる=首が伸びる」にはならない。
さっきは勢いとか雰囲気で流されていたが、これはヤバい気がする。


(ii'A`)(どうする。このまま行くか? このまま行って、大丈夫なのか?!)


言葉が出てこない。
さっきは上手く話が進んだ。でも、次もそれでいけるかは……わからない。
途中でツッコミが入って、どうしようもなくなるくらいなら、いっそ――ここで話を盛るべきじゃないのか。

471名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:00:37 ID:4Pykjo5k0


(    )「ん、どうしたお。ドクオ?」

川   )「大便か?」

(    )「そうやって、ずばりと言われると……ちょっと恥ずかしいんだけど。
      せめて、お花をつみにいくとかそんな感じで……」

川   )「そう照れることはない。排泄は立派な生理現象だぞ」


周りから声が上がり始める。
このまま黙っているのはマズイ。


(;'A`)「なんか喉が痛くなって……」


咳を無理やり出して、言い訳をする。
「話しすぎか?」とか言いながら、何度か咳き込む。
もちろんその間も、頭はどうやって「首が伸びる」事件を解決するのか必死だ。


(;'A`)(なんかそれっぽいことないか。考えろー、思いつけー)

472名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:01:37 ID:4Pykjo5k0


宇宙人パワーで首が伸びると、ゴリ押しできる自信は俺にはない。
となると、それっぽい設定を追加するしかない。


(;'A`)(首が伸びる。首が伸びる。首、首……)


首が伸びた人間なんて見たことがない。それこそ、ろくろっ首とか妖怪だ。
死体だったとしても、聞いたことが無い。
不自然に首が伸びた死体がいくつも発見されたら、それこそネットやテレビで大騒ぎだ。

じゃあ、どんな状況なら自然なんだ?


('A`)(……首吊り死体とか? 本当に伸びるのかどうか知らないが)


首吊り。首吊りならまだ、マシなのかもしれない。
キリン星人は、人間を乗っ取ってる設定なんだから、宿主の行動も操れるだろう。
となると、首を吊らせること自体はセーフ、と。

473名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:02:19 ID:4Pykjo5k0

セーフなんだがなぁ……。
キリン星人が産まれるだけなら、別に首を伸ばす必要なんてないんだよなぁ。
そもそも、普通に宿主殺せばいいだけなんだし。


(>'A`)>(やべぇ! とりあえず首吊り、採用してそのまま突っ走るか?!)


とりあえず生まれたばかりのキリン星人は力が弱いから、自力では宿主から出れない。
親に当たるキリン星人は、宿主の体を操って首を吊らせるとか、そんな感じでごまかして……


(>'A`)>「……あ」


――そこで、ふと思いついてしまった。

これまでの話と合わせて考えてもぱっと見、矛盾はなさそうに思える。
我ながら恐ろしいことを、思いついてしまったかもしれない。
今日の俺はきっと、神がかっているんだろう。


.

474名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:03:04 ID:4Pykjo5k0


('A`)「すまん。心配をかけた。
    ……孵化したキリン星人たちの話だったよな」

( ゚д゚ )「そうだ」

('A`)「孵化したばかりのキリン星人たちは、まだ力が弱い。
    ……だから、その親は宿主を操って、首を吊らせるんだ」


一度口にしてしまえば、まるではじめからこうなることが決まっていたかのように話は続く。

まるで自分が、物語を作る機械になったようだ。
俺じゃない何かが、俺じゃないモノが語る、騙る。
深く考え込まなくても、口は勝手に物語を作り上げていく。


.

475名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:03:44 ID:4Pykjo5k0
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孵化したばかりのキリン星人たちは、まだ力が弱い。
……だから、その親は宿主を操って、首を吊らせるんだ。
死んで抵抗力を無くした宿主の体を食い破って、宇宙人たちは外の世界に出ていくんだ。

孵化した宇宙人たちは、死体の体内を這いずり回り、口や首を食い破って出てくる。
そのせいで死体の首がキリンのように長くなるから――その宇宙人はキリン星人と呼ばれるようになったんだ。


……なんで首を吊るのか、って?


ああ、俺もずっと不思議だった。
宿主が死ぬなら、その殺し方はなんだっていい。それこそ飛び降りとか病死とかでもいい。
俺も、はじめそう思ったさ。
でも、違うんだ。


キリン星人が、宿主の首を吊らせるのにはちゃんと理由がある。


.

476名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:05:01 ID:4Pykjo5k0


首を吊らせる理由。それは、2つある。

そのうち1つは、単純に時間がかかるからだ。
孵化したばかりのキリン星人は、死んだ宿主の体から外に出るのに時間がかかる。
セミの幼虫だって、羽化には一晩くらいかかるだろう。そんな感じだ。
だが、そっちの理由はそんなに重要じゃない。


キリン星人が宿主に首を吊らせる最大の理由。


お前らは……首吊り死体を見つけたら、普通どうする?
警察を呼ぶ? 救急車……それもそうだな。
わかった。救急車か警察が来る。それから、その後は。

死体を、下ろすよな。
死体を下ろして、回収して……そいつが墓の下に行くまでに、何人もの人間が接触するよな。


……キリン星人はな、そうやって接触した人間の体に、取り付くんだ。

477名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:06:25 ID:4Pykjo5k0


そう。
キリン星人が、宿主に首を吊らせるのは、生まれた子に新たな宿主を与えるためだ。
宿主とともに親のキリン星人は死に、死んだ宿主を食い破って子供たちはこの世に生を受ける。
そして、自分が産まれた死体に接触してきたものを新たな宿主とする。

生まれたキリン星人はこうやって、宿主を見つけその体に住み着くんだ。
そして、宿主に気づかれないままひっそりと生きる。

そんなふうにして、キリン星人にとりつかれた人間はたくさんいる。
そして、そんな宿主の中のごく一部が、また別のキリン星人に接触し……次代を産むための犠牲者となる。


ああ、そうだ。
そいつは体内に無数の卵を産み付けられて、キリン星人の意思に命じられるまま首を吊るんだ。
そして、そこから新たなキリン星人たちが生まれる。


.

478名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:07:22 ID:4Pykjo5k0


……
まぁ、取り付くっていっても、全部が全部成功するわけじゃない。
中には場所やタイミングが悪くて、虫や動物に食われちまうやつも居るだろう。

そういった虫や動物は宿主にはなれない。
理由はわからないがたぶん、繁殖ができないんだろう。
だから、虫や動物にとりついたキリン星人は、なんとかして人間にたどり着かなければならない。


そいつらはどうするか、って?
食物連鎖ってのがあるだろ。


キリン星人がとりついた虫や動物は、当然、食ったり食われたりする。
自分のいる虫や動物の場合が死んでも、たいていの場合キリン星人は死なない。
……本来の宿主じゃないからな。


キリン星人は自分の仮の宿主を食ったものに、新たに移り住むんだ。
こうしてキリン星人は仮の宿主をどんどん変えていき、いつか人間にたどりつく。

まぁ、こっちはそんなに確率は高くないんだがな。
大半のキリン星人たちは人間にたどり着く前に、死ぬ。


だけど、そうやってのっとられた人間のうちの、何十人か何百人かに一人が……体の中に卵を宿して、その卵をかえすんだ。
自分がはじめて外の世界に出た、その場所にかえって。
そこで首を吊らせて、その伸びた首を食い破って。キリン星人はその数を増やすんだ。

.

479名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:08:11 ID:4Pykjo5k0


自殺の名所ってあるだろ。
なぜか、その場所でだけ自殺が続くっていうそんな場所。
首吊りが続く場所があったら、近づかないほうがいい。


首吊りの名所っていうのは、キリン星人たちの産卵場だ。


いや、孵化した宇宙人が誕生する場所……と言い換えたほうがいいか。
運の悪い宿主が死を迎えるその場所で、新たな生き物が生を受ける。
そして、そこにやってきたやつのうち何人かに一人が、また新たな苗床となり、そこで首を吊る。


なんども首吊りが起こる場所ってのは、そんな場所なんだよ。


よく言うだろ。自殺の名所なんかにうかつに近づくなって。
それは、そういうことなんだよ。




――人が近づいてはいけない場所には、ちゃんとした理由があるってことだ。



.

480名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:09:46 ID:4Pykjo5k0

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息をついた瞬間、世界に音が戻ったような気がした。
夢から覚めたときのように、頭が少しぼんやりとしている。
汗をかいたのか、濡れたシャツはさらにベタベタになっていた。


(;'A`)「……ふぅ」


いまいち自覚がないが、俺の話はちゃんと終わったみたいだ。
話さなきゃならないことはまだあるかもしれないが、今は思いつかない。

部屋の中は静かだ。
目を凝らして、反応を探る。
とりあえず、一番文句を言いそうなツン。アイツの反応さえよければ俺の話は完全に終了できる。

481名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:10:46 ID:4Pykjo5k0


ξiii   )ξ「ムリ。なんかもうムリ。きもちわるい……
       うじゃうじゃしたのって、ほんとダメ」


しばらく耳をこらしていると、やっと女の声が聞こえた。
たぶん、ツンの声。
妙に大人しい感じだが、怒ってるわけではなさそうなので、ほっと息をつく。


川   )「そうか? 私は面白いと思うんだが。
     こういう奇妙な生態の生物の話を聞くと心が踊らないか? 虫とか動物とか微生物とか」

ξii ⊿ )ξ「あわわわわ、やめ、やめてぇ」

川* - )「ほれほれ、よいではないかよいではないか。
      個人的に寄生虫とか、すごぉく心が踊るぞ。あれも宿主を操るやつがいるとか」


いや、ちょっと待て。
なんか妙に楽しそうだ。クーの美しい声がツンをからかっている。

482名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:12:20 ID:4Pykjo5k0


ξii ⊿ )ξ「やめてぇぇぇ」

川* - )「体の中で増えて、卵がうじゃうじゃびちびち、うごうご、ぞわぞわ」

ξii ⊿ )ξ「ひぃぃぃ……」


2人のやりとりが、ものすごく気になる。
というか、この流れなら、ツンにこれまでの文句の仕返しができそうな気がする。
……だが、ここでツンを怒らせたら最後、困るのは俺だ。


('A`)(とりあえず、ツンは大丈夫っと)


とりあえず今は、キリン星人に対するクレームがなければそれでいい。
このまま話を聞いていると余計なことを言いそうなので、顔を別の方向に向ける。
ミルナと、あとはショボンとかそのあたりの反応はどうだろう。

483名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:13:04 ID:4Pykjo5k0


(    )「東某の佐久車緑地もかな?」

(    )「なんだお、それ?」


暗闇に目を向けると、全然関係のない話が始まっていた。
とうぼう? さくしゃりょくち?
……こいつらが何を言っているのか、全然わからない。
目を細めてみても、人影っぽいものが見えるだけで、その表情もよくわからなかった。


(    )「知らない? 佐久車緑地の首吊りの木って言ったら、そこそこ有名な怪談スポットだよ」

('A`)「なんだ。首吊りつながりだったのか。
    てっきり別の話がはじまったんだと」

(    )「ごめんごめん。首吊りで有名な場所って言ったら、思い浮かんでさ」


ショボンらしき声が、一人盛り上がっている。
その声を聞いた感じでは、こちらも俺の話に対する文句とかはなさそうだ。
できれば、キリン星人についての話が聞きたかったんだが、それは贅沢だろうか?

484名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:14:09 ID:4Pykjo5k0


(    )「トーボー?」

川   )「東某といえば、ショッピングモールで有名だったところか」

(    )「そうそう。ほら、僕たちが中学くらいのとき、結構テレビに出てた」

ξ   )ξ「今、どうなってるのかしら。あんまり聞かないわよね」


途中からツンたちの声も混じって、楽しそうに話が進む。
地元の話って盛り上がるよな……。俺も、普通に宇宙人じゃなくて怪談スポットの話をしておけばよかった。
そうだったら、あんな必死に考えなくても話がすんだろうに。


(    )「それは、あれじゃない?
      ……東某連続変死事件。相次ぐ謎の変死に陰謀だ殺人だなんて噂も。
      ちょうど首吊りの木のある辺りで起こったって、ネットではちょっとした騒ぎだったよ」

(    )「それ、キリン星人がやったのかお!?
      ほんとーにいたのかお、キリン星人!!」

ξ   )ξ「ううっ……もうその話やめて」

485名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:14:57 ID:4Pykjo5k0


自殺の名所に、変死事件。
事実って言うのは作り話よりも怖いもんだと思いながら、汗を拭う。
「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」――自然と口から出たあの言葉は、案外間違っていなかったのかもしれない。


川   )「あれは感染症だろう? 一時期は、なにかと騒ぎになったが」

( ゚д゚ )「数年前の話だな」

(    )「クーは夢がないねぇ。
      きっちゃん先輩とか、旭とかこういう話大好きだよ」

(    )「ニュースに白い服の人いっぱい出てたやつかお? あれ、こわかったおね〜」


ショボンたちの話は続いている。
キリン星人が本当にいたら、こんな感じで話題になったんだろうなと、ふと思った。

.

486名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:15:52 ID:4Pykjo5k0

-----------------------------------


東某市の佐久車緑地、建逃平和公園、没根多倉庫――。
自殺の名所の名前をいくつか上げて、ショボンたちの話は止まった。


('A`)「……蝋燭、5本くらい消してもいいんじゃね?」

(    )「ほら、話したのはドクオだけだし」

川   )「その後、ショボンがひたすら語り倒していたがな」

(    )「消すロウソクは1本だからな!」


ショボンの話はひたすらに豊富だった。
このあたりにこんなに自殺スポットがあるなんて知識、正直欲しくなった。
ついでにいうなら、その全部がいわくつきなんて話も知りたくなかった。

というか、いわくがありすぎて、本当にキリン星人っているんじゃねえか?
……なんて、一瞬思いかけた。
だが、今作ったばかりの宇宙人が存在するはずなんてないので、即座に脳内で却下する。

487名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:16:55 ID:4Pykjo5k0


とはいえ全部が全部、適当だった俺の話も、「自殺の名所なんかにうかつに近づくな」の一点だけは本当にあっていたらしい。
それがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。
ただ自殺の名所にだけは今後絶対に行かないと、心に決めた。


(    )「僕、平和公園にもう行けないお……キリン星人が出るお」

ξ   )ξ「……うぅ。キリン星人はもうやめて……」

( ゚д゚ )「大丈夫か?」

ξ   )ξ「なんとか……」


まだ話している声は聞こえるが、このあたりで俺の番もようやく終了というとこだろう。
キリン星人の名前がまだ聞こえるのが、なんとなく嬉しい。苦労したかいがあるってもんだ。
……そう思いながら、俺は畳に手をつく。
ザラリとした感触を感じながら、腰を上げて立ち上がる。


('A`)「蝋燭消してくる。とりあえず、1本で」

(    )「あったりまえだろ!」

(    )「いってらっしゃいだお〜!」

488名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:17:47 ID:4Pykjo5k0


部屋を軽く見回す。
蝋燭は二間先。開けっ放しにしてある襖の向こうだ。


(;'A`)「よっ、と」


少しだけ明るい方向を目指し、おそるおそる足元を探る。
かろうじてぼんやりと見える形を避けつつ、なんとか転ばないように進む。
近くに何かがあるはずなのに、よく見えないというのは、怖いもんだと改めて思う。

1歩、2歩と進んで、腕を伸ばして襖を探る。
何度も通ったはずなのに歩きにくいのは、きっと最初よりも暗くなっているせいだろう。


川   )「やっぱり寄生虫か……」

( ゚д゚ )「土地の穢れ、呪いのあたりも近いと思うが」

(    )「僕はやっぱり、エイリアンを推したいなぁ」


クーたちの声を背に、襖を越えて次の部屋へと入る。

……あの話は、俺の話の続きだったんだろうか。
気にはなるが、これまで蝋燭を消しに行く途中で戻って来たやつはいない。
というか、やったら間違いなく弱虫認定される。いくらなんでもそれはゴメンだ。

後ろ髪を引かれる思いをぐっとこらえて、俺は足を進める。

489名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:19:18 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------


隣の和室は、四方を襖で区切られただだっ広い部屋だった。
そこには、家具どころか荷物1つ置いていない。
ついさっき入ってきた側の襖と、蝋燭が並べてある部屋へと続く襖だけが開け放たれている。


('A`)「……」


俺達がいた場所よりも、少しだけ明るい部屋。
そこには、当たり前だが誰も――いや、


いいや、――


.

490名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:20:30 ID:4Pykjo5k0


(=゚д゚)


そこに、動く気配があった。
蝋燭のある奥の部屋からぬっと現れた影は、俺よりも遥かに小さい。
というか、小さすぎた。人というよりは、もっと小さい。


(=゚д゚)

(;'A`)「ぬこ?!」


なぁお゙ぉう、と鳴く声が響く。
猫だ。たしかに、猫がいる。
模様まではわからないが、結構大きな猫のような気がする。
ミルナの爺さんの、猫なんだろうか?

.

491名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:22:02 ID:4Pykjo5k0


(=゚д゚)


その猫は俺の方へと寄ってくると、口から何か落とした。
何かを咥えていたのだろう。
プレゼントかなにかのつもりか? そう思って、視線を足元へ落とし――


(;゚A゚)「な、なぁぁっ!?」


――声を上げていた。
全力で叫んだつもりだったけど、出たのは間抜けな声だった。
ろくに言葉が出てこない。体は動かなくて、ただ馬鹿みたいにそれを見つめるだけ。

.

492名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:22:50 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「な、な、なん」


視線の先にあるのは、毛玉みたいな何かだった。
和室に転がっているにはあまりにも不自然なそれは、ピクリとも動かない。
黒くって、猫よりももっと小さくて――ヒモのようなもののついたそれは、なにかの生き物。


その、死体。らしき、もの。


.

493名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:24:21 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「しんで、る?」


たぶん、それはネズミなんだろう。
見慣れない毛玉のようにしか見えない、生き物だったもの。
猫よりも小さなその体が、頭の部分が不自然な角度で曲がっている。
曲がっている。いや、曲がっているというよりは――、首が、のびて、いるような。


(;゚A゚)「……あ」


同じだ。
あの宇宙人と同じだ。
ひとに取り付く宇宙人。俺が作った、キリン星人。


.

494名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:25:08 ID:4Pykjo5k0


キリン星人にとりつかれた、犠牲者の死体。
首の伸びたその死体に触れたものは、キリン星人に体をのっとられる。


だったら、あのネズミに触ったら俺も。キリン星人に乗っ取られる?


.

495名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:26:13 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「……ちがう」


大丈夫。大丈夫のはず、だ。
これが本当にキリン星人の仕業だとしても、動物に取りついているだけなら何の害もないはずだ。
その死体を食うなんて、馬鹿なことをしない限りは。


(;'A`)彡「大丈夫。こいつはただのネズミ。なんともない」


頭をおもいっきり、振る。
混乱しかけた頭は、その動きで少しだけ冷静さを取り戻す。

496名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:27:44 ID:4Pykjo5k0



俺は馬鹿か。
キリン星人なんてものいるはずがない。そんなの、話をでっち上げた俺が一番わかってるだろう。
それが実現するなんて――、


.

497名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:28:54 ID:4Pykjo5k0





生暖かい感触。



.

498名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:29:36 ID:4Pykjo5k0




生暖かい何かの感触が、俺の思考を完全に止めた。






                      それが、もう一度――。




(;゚A゚)「ひっ」




はっきりとした感触。
暖かい何かが確かに動いて――、


.

499名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:30:38 ID:4Pykjo5k0





――なぁお゙ぉう。



.

500名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:32:01 ID:4Pykjo5k0


弾かれたように、足元を見る。
俺の足。
ちょうど何かが当たって、動いたそのあたり――。


(=゚д゚)

(; A )


そこにはあの猫がいた。
ああ、そうだ。この部屋には猫がいた。そんなことも頭から消えていた。


(=゚д゚)


生暖かい体が、足に擦り付けられている。
褒めろというのか。それとも「どうだ。驚いたか」とでも言うように、金の目がこちらを見上げている。

.

501名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:33:17 ID:4Pykjo5k0


猫だ。なんてことはない、ただの猫。
宇宙人がとりついているわけでもない、ごく普通の。普通のはずの猫。


(;゚A゚)

(=゚д゚)


その体を振り払いたいのに、俺の体は指の一本も動かせない。
なぁお゙ぉう、とまた猫が鳴く。
俺は猫と、ネズミの姿を見下ろして――、



.

502名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:35:06 ID:4Pykjo5k0





( ゚д゚ )「ラギ。駄目だろう」



.

503名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:36:23 ID:4Pykjo5k0


静かな声がして、俺はようやく動きを取り戻した。


( ゚д゚ )「驚かせた」

(;'A`)「みる、な? なんで、」


和室の中に、見慣れた姿が立っている。
ほとんど表情の変わらない顔に、暗闇の中でも妙に目立つ白い肌。
――隣の部屋に居るはずのミルナが、いつの間にかそこに立っていた。


( ゚д゚ )「声が聞こえた」

(;'A`)「それで、か」


俺が毛玉に気を取られている間に、ミルナは隣の部屋から飛び出してきたのだろう。
考えてみれば、ここはミルナの爺さんの家だ。
ミルナが真っ先に動くのは、全然おかしなことじゃない。

504名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:38:08 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「すまなかったな。ラギはいつもこうなんだ」

('A`)「ラギって、」

( ゚д゚ )「こいつだ」


(=゚д゚)

( ゚д゚ )「獲物を取るたびに、ラギは見せに来るんだ」


白いミルナの手が猫を抱き上げ、そのついでのようにあのネズミのような毛玉を拾う。
そうするのが当然というような、仕草だった。
死体なのかもしれないのに、ためらう様子すらなかった。


――宿主の死体に接触したモノに、キリン星人は取り付く。

.

505名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:39:10 ID:4Pykjo5k0


さっきまで話していた宇宙人の姿が一瞬、浮かぶ。
それから、首の伸びたネズミと、猫を抱えたミルナが重なる。

あのネズミが、キリン星人に取り憑かれていたとしたら。
宇宙人は、あの猫にいるのだろうか。
それとも、素手で死体を触った……ミルナに?


違う。動物に取りついている宇宙人は無害だって、さっきも考えたはずだ。
たしか、その死体を食ったりしないかぎりは大丈夫。
ミルナは猫や蛇なんかじゃない。まっとうな人間なんだから、そのへんで死んでるネズミなんか食わない。

だから、大丈夫。
いや、……本当に?


('A`)(馬鹿馬鹿しい)

506名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:40:34 ID:4Pykjo5k0


あんなのは、俺が作った作り話だ。
キリン星人なんてものは、この世のどこにも存在しない。
そう頭では何度も否定しているのに、気づけば頭の片隅にはキリン星人のことが浮かんでいる。

もう忘れろ。
俺の順番は終わったんだから、今度こそ完全に忘れてしまえ。
俺には関係ない。

キリン星人も。東某の佐久車緑地も、建逃平和公園も、没根多倉庫も。
首吊りの木も、死が連続する土地も。
あの首が伸びたように見えたネズミだって、全部俺とは関係ない。


.

507名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:41:53 ID:4Pykjo5k0


( ゚д゚ )「片付けてから戻る。
     悪いが、死骸の件はしばらく内密にしてほしい」


その声で、我に返った。
ミルナを意識から消すくらいに、俺は考え込んでいたらしい。


( ゚д゚ )「ドクオ?」


ミルナは今、死骸と言った。
死骸ということは、やっぱりさっきのネズミは死んでいたらしい。
それなのに、ミルナは顔色一つ変えもしないで、死体を握り続けている。……それを黙っていろと言うのだろうか。

宇宙人の存在を隠蔽。
一瞬浮かんだ言葉を、俺は即座に否定する。


('A`)「……あ、ああ」

508名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:43:42 ID:4Pykjo5k0


そうだ。考えてみれば、変な話じゃない。
百物語中に本当の死体なんて、宇宙人云々を差し引いても、洒落にならない。
猫がいるだけでも驚いたのに、そこにネズミの死体まであったなんて言ったら、この部屋を通るのも嫌になるだろう。
最悪ツンなんかは、百物語を中止にするなんて言い出してもおかしくない。


('A`)「わかった」


これまで散々、怖い話をしてきた。
人が死ぬ話はいくつもあった。
それでも、本物の死を見たのは、これがはじめてということに気づく。

作り話じゃない、本物の死。
その事実に、背筋がぞくりとする。
それが、ただのネズミであったとしても、ミルナのようにその死体に触れたくはなかった。


( ゚д゚ )「すまないな」


ミルナの表情は変わらない。
生きている猫と、死んだネズミを抱いて、その姿はいつも以上に普通だった。
そう。いつものミルナだ。

509名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:45:04 ID:4Pykjo5k0



いつものミルナのはずなのに、その瞳だけが猫の目のように光っている。



( ゚д゚ )


ゆっくりまばたきをして、目をこする。
止まりそうになる息で、無理矢理呼吸をする。
一回、二回。目を閉じて、息を吸って吐く。


( ゚д゚ )「ドクオは先に行ってくれ」


……もう一度見直したミルナの瞳は、もう光ってはいなかった。
なにもない。いつもと変わらない。
いつか見たような気がする、金に光る瞳も、白い鱗も――どこにもありはしない。

510名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:45:49 ID:4Pykjo5k0


(;゚A゚)「……あ、ああ」


死体を見て、混乱していたんだろう。

やっとそれだけ口にすると、足を動かしはじめた。
気のせいだ。気のせいに違いない。
そう言い聞かせたのに、ミルナの顔をもう一度みる勇気はない。


(;'A`)「……」


心臓の音が止まらない。
クーやツンのやつ。よくこんなとこを歩いたよな。なんて、どうでもいいことを考えて、なんとか気をそらす。


.

511名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:46:58 ID:4Pykjo5k0
-----------------------------------



そして、蝋燭はそこにあった。


部屋は、これまで通ったどの部屋よりも明るかった。
ゆらゆらと揺れる、橙色の列が火鉢の中に並んでいる。

かぎなれない匂いは、遠くにある婆ちゃんの家を思い出す。


('A`)「1本、消せばいいんだよな」


ぽつんと、一つ離れて残っている蝋燭を手に取る。
敷かれた灰色の粉に模様が残って、蝋燭はあっさりと持ち上がる。


.

512名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:47:47 ID:4Pykjo5k0


ゆらゆらと揺れる火に、青白い蝋燭。
下の方を持っているはずなのに、手が焼かれているように熱い。
ジジジ、と聞こえないはずの音が聞こえた気がする。


少し強く吹けば、火は歪み消える。
焦げたような。だけど、それとは少し違うような匂いが強くする。


('A`)「これで終わり、と」


役目を終えた蝋燭を、火鉢の中に放り込む。

ゆらめく蝋燭はたくさん残っている。
火の消えているもの、倒れているものもあったが、全体に比べればそう多くない。
百話はまだ遠い。
この蝋燭が全部消えるまでに、どれだけの時間がかかるんだろう。


.

513名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:49:12 ID:4Pykjo5k0


百物語をした。
蛇の話だった。たわいのないおまじないの話だった。
廃村へ行く話もあったし、たんなる偶然の話も、どこかわからない国の馬の話もあった。


蝋燭が、ゆらゆらゆれる。


暗い部屋の中で蝋燭だけが揺れる光景は、異世界のようだ。
テレビでも見たことのない、風景。

ここは……どこなんだろう。
ミルナの爺様の家なのは、わかっている。
そう。だけど、思ってしまうのだ。


――この家はおかしいんじゃないか。
さっきのネズミも、誰のものかわからないカップも、泣きたくなるほど悲しい誰かの声も、ミルナの肌に見えたウロコも。
全部、ビビりまくっている俺の気のせいじゃないとしたら……。



この暗闇の中にいるのは、誰なんだろう?


.

514名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:50:00 ID:4Pykjo5k0


蝋燭の部屋を抜け、猫とネズミがいた部屋を抜け、暗闇の中へと進む――。
闇が、一番深い部屋。
俺達がずっといる、百物語の会場。


(    )「ドクオ」


暗闇の中から、待っていたとでもいうように声が上がる。
ツンやクーじゃない。
ブーンじゃない。たぶん、ショボンでもない。


(    )

川   )

(    )

ξ   )ξ


暗い部屋の中には、誰がいるのかわからない。
相手が男なのか、女なのか。知っている相手なのか、知らない相手なのか。
ここにいるのは何人なんだろう。そもそも、ここにいるのは――

.

515名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:51:36 ID:4Pykjo5k0


(    )「続きをはじめよう」

(;'A`)「……」

(    )「嫌だなんて言わないよな。
      だって、ドクオは怖い話が大好きなんだから」


蝋燭はまだ大量に残っていた。
百物語は半分も超えていないし、きっとこれからも続く。
夜明けはきっと、まだ遠い。


ξ   )ξ「早く入ってきなさいよ」

(    )「おつかれさまだおー」

川   )「ミルナはまだなのか?」

(    )「どうする、続きはじめちゃう?」


.

516名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:52:41 ID:4Pykjo5k0



足を進めれば、進めるほど灯りは遠ざかっていく。
元の位置だと思うところに腰を下ろせば、相手のシルエットくらいしかわかるものがない。
そんななかで、声が聞こえる。


(    )「さあ、続きを始めようか――」


じぃじぃと、夜の虫の声が響く。
目の前の誰かの笑う顔が、見えたような気がした。


.

517名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:53:29 ID:4Pykjo5k0




              ('A`)百物語、のようです


               宇宙人あらわる!  了


                     (
                      )
                     i  フッ
                     |_|


.

518名も無きAAのようです:2017/09/23(土) 23:57:21 ID:qtG6GbmA0
乙 待ってたぞ
相変わらず怖い

519名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 00:24:20 ID:ZnUlYM0o0
おつお
内側から侵されるってぞくぞくくるよね

520名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 00:24:23 ID:VGmiAEbc0
話もさることながら、この環境自体怖いよな…今更気付いてドクオと一緒にgkbr
今年もおつ

521名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 00:38:08 ID:HLc7xuJ60
乙 楽しみにしてた
今回もおもしろかった

522名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 02:31:29 ID:CL/iQY3I0
おつ
さて、夜明けがくる日は、百物語の蝋燭をすべて消す日はいつになるんだろうか
つづきを期待しながら最終話がちゃんと来るのを待つぜい

523名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 11:02:03 ID:KP8ji4xk0
おつおつ
ギャグで油断させてからのフルスイングやめてもらえませんかね

524名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 12:03:22 ID:TunmHqTk0
おつ!!!!
信じて待ってた!!
宇宙人なんてどうするのかと思ったら……
すごく良かった!!

蛇はどこで出るんだろうか

525名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 12:32:34 ID:PLpGmfvs0
蛇の話はこれだな
http://iroirotunpeni.blog11.fc2.com/blog-entry-655.html
('A`)百物語、のようです 蛇の話

526名も無きAAのようです:2017/09/24(日) 21:12:49 ID:HdH.YXxE0
最終話見届けたいが、ずっとこの周期に密度だと仙人にならないと無理そう

527名も無きAAのようです:2017/09/25(月) 15:14:25 ID:MIEUGMsU0
もし百物語すべて話すならば1度に複数話を投下するしかないな……

528名も無きAAのようです:2017/09/27(水) 02:20:52 ID:fY0BfzJA0
>>525
ありがたや
早速読んでくる!

529名も無きAAのようです:2018/08/05(日) 01:43:20 ID:nzc6pSfw0
一年に一話なんだからもっと推敲しなよ…ひどすぎ

530名も無きAAのようです:2018/08/05(日) 13:20:12 ID:WFnAw5hU0
そろそろ百物語の季節 毎年楽しみにしてます

531名も無きAAのようです:2018/08/06(月) 09:20:52 ID:HuA8KXV20
酉なしですが報告
今年は時間がとれないため、延期or中止となります
楽しみにされてた方ごめんなさい

532名も無きAAのようです:2018/08/07(火) 06:54:35 ID:Bm5urXeo0
大丈夫さ、来年がある

533名も無きAAのようです:2018/08/22(水) 14:40:35 ID:C.Yt/qQI0
怪談夜話と同じぐらい新作を切望してる
来年楽しみにしてるよ!

534名も無きAAのようです:2019/07/24(水) 14:44:58 ID:/XZxB63c0
今年は来るのだろうか

535名も無きAAのようです:2019/08/12(月) 01:24:05 ID:s3gfhEJo0
お盆になりましたなぁ

536名も無きAAのようです:2019/08/24(土) 21:04:31 ID:BQr.Qnfg0
酉なしですいません
時間がとれないので今年も投下はありません
投下をするときはファイナル板の予告スレに書き込みをするので、そのときはよろしくお願いします

537名も無きAAのようです:2019/08/25(日) 01:43:13 ID:vnuvBoSA0
生存報告ありがとう
なに、ブーン系民にとって1年なんてあっという間だ

538名も無きAAのようです:2020/11/24(火) 02:24:54 ID:nNIoolY20
他所でも冬百物語が始まったようですね


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