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('A`)百物語、のようです
1
:
名も無きAAのようです
:2013/08/17(土) 00:13:40 ID:adaBwzoE0
最初に言い出したのは、誰だっただろうか?
――今となっては、もうはっきりと思い出せない。
でも、確かに誰かがそれを言い出して、俺たちはこうして集まっている。
.
262
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:52:04 ID:tdqDYF4E0
ああいうカップに入ってるやつって、オサレ〜って感じがして僕は買ったことないんだお。
どっちかというと僕、コーヒーよりも炭酸派だからNE。
もちろんオレンジとかリンゴのジュースも好きだお。甘いやつがいいおね。
……あ、言うお。
続きだおね、わかってるお。
せっかくのオサレ飲み物を残すだなんてひどいヤツがいるんだ――って、その時の僕は思ったんだお。
…
……
場所?
ええと、家から駅に行く途中だったと思うお。
たまに行くマンガ喫茶の近くだったかおね……。
一番おっきな道路を渡る手前くらいだったと思うお。
.
263
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:54:17 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
それから次は……えっと?
駐車場もったいないやつ事件からちょっとしてからだったと思うお。
事件じゃない?
食べ物は大切に派の僕からしたら、事件だったんだお。
食べ物は大切に。ゴミはゴミ箱にって、カーチャンいつも言ってるお。
( ^ω^)「あれ?」
僕が、大学まで自転車なのは知ってるおね?
……え? どうでもいい?
そんなこと言うのはドクオかお?
ふふーん、正解だお!
ドクオの言うとおり、自転車自体にそんなに意味はないんだお。
単に自転車に乗ってる時に気づいたってだけだから。
( ^ω^)「これは……」
大学のそばに、喫茶『ロマン』ってあるおね?
――あったんだお! あそこのモンブランがめっちゃ美味いんだお。
まさに栗っ、マロン! 店長は感動的なまでに栗のことわかってるお。
下手なケーキ屋さんより美味いから、今度いっしょに行くお。
264
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:56:17 ID:tdqDYF4E0
( ^ω^)「……ひどいやつもいるもんだお」
そこの駐車場の、ブロックのところにやつがいたんだお。
例のにっくきプラスチックのカップ!
それが堂々と放置してあるんだお。
しかも、中身が残ってるんだお。
信じられるかお? コーヒーが勝負の喫茶店に、お茶かコーヒーを放置だお!
しかもヨソの店のだお。ロマンはお持ち帰りセットがないんだから、確定だお。
(#^ω^)「こんなことをする馬鹿はどこのどいつだお!」
その時の僕はプンプンだったんだお。
お? プンプンはキモイ? ……そいつはすまんこ。
あ、そのお茶か、コーヒー?
近くのコンビニのゴミ箱にぶち込んであげましたお。
僕はこう見えても、『ロマン』を愛するロマニストなんだお!
えっへん。
あそこクリームソーダも美味しいからみんなで飲むお!
コーヒー? ごめん、飲んだことないお。
でも、コーヒーが自慢って、店長が言ってたからきっとおいしいお。
.
265
:
名も無きAAのようです
:2015/08/08(土) 23:58:32 ID:tdqDYF4E0
-----------------------------------
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----------------------
--------------
(* ω )「オレンジジュースや、レモンスカッシュも美味しいんだお。
店長がちゃんと果物をしぼって作ってるんだってお!」
川 )「ふむ。行ってみるか」
ブーンの話を聞き流しながら、手元を漁る。
コーヒーだかお茶だかの話を聞いていたせいか、飲み物が妙に恋しい。
さっきみたいないジュースじゃなくて、甘くないものが飲みたい。
(;'A`)(どこいったんだ、クソッ)
水とお茶のペットボトルを買ったのは確実だ。
なのに、暗くて手元がよく見えないせいで、さっきから菓子の袋ばかりとぶつかる。
266
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:00:33 ID:lvJC6wew0
( )「今のところはまだ、普通の感じだね」
ξ )ξ「おいしいお店情報が手に入ったくらいよね」
( ゚д゚ )「色々な店を知っているんだな」
話は順調に進んでいくが、求めるペットボトルは見つからない。
あきらめて、あのやたらめった甘いジュースのペットボトルを引き寄せる。
(* ω )「お店選びなら僕に任せるお!
おいしいお店と、温泉と銭湯なら僕ちょっと詳しいお」
蓋を開けて、口につける。
ごくり――と飲みこんだ味は、果物じゃなくて人口物の味がした。
('A`)(……どうせなら冷たいコーヒーが欲しかったな)
飲むなら、ブーンが話してるみたいなコンビニ売りのやつがいい。
ぬるいジュースを飲みながら、俺は切実に思った。
.
267
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:02:22 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
えーと、ここまでは僕も変だなぁなんて思ってなかったんだお。
もったいないことするやつもいるもんだって、怒ってただけで。
あと、あのプラカップのコーヒー流行ってるんだなぁくらいは考えたかもしれんね。
「今度、買ってみるかお。」
たしか、そう思った記憶はあるお。
ジッサイには買わなかったんだけど。
まぁ、それもすっかり忘れてたんだけど。
それからちょっとたった……最近のことだお。
――ほら、ショボンとドクオと焼き肉食べに行ったことあったおね?
あの日のことだお。
.
268
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:04:03 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
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----------------------
--------------
( )「焼き肉? ……いつのかな?」
聞こえてきた声に、俺は考えこむ。
これは……たぶん、ショボンの声だな。
……いつだ? ブーンとショボンで焼き肉、焼き肉……
焼き肉食べ放題ができたぞーって、何度か行ったことがあるから。
いつだ? 本気でわからん。
('A`)「俺とショボンとブーンでか?」
( ω )「ほら7月の……」
(; )「あ」
.
269
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:05:16 ID:lvJC6wew0
('A`)「7月ったら、考査の最終日か?
あの日は、そもそも焼き肉じゃなくて映画見に行ったんだろ」
どれだかわかった。忘れもしない前期最後の試験の日だ。
あの日の俺は、開放感でいっぱいだった。
何駅か先に、18歳未満はお断りなピンク色の映画をやる映画館がある。
そのことを唐突に思い出した俺は、行かなければならないという熱い使命感に駆られた。
テストとレポートと徹夜明けのテンションのせいもあるだろう。しかし、ダメ元で誘ったブーンとショボンはわりとノリノリであった。
……まぁ、現実は厳しかったわけだが。
小汚くて暗い映画館で、知らないおっちゃんたちと見るいかがわしい映画は最高に気まずかった。
しかも、隣は友人二人。これは死ねる。
(; )「ドクオ、ちょっと」
( ω )「そうだったお! 焼き肉のインパクトがでかくって、そっちは黒歴史になってたお」
('A`)「わざわざ遠征したんだよな。
あれは地獄だった……そもそも何で行こうと思ったんだか」
ξ )ξ「地獄って一体何を見たのよ」
(; )「あ」('A`;)
.
270
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:06:10 ID:lvJC6wew0
綺麗なお姉ちゃんにイケナイことを教える話です、もちろん性的な意味で。
――とは、とてもじゃないが言えない。
女子や堅物のミルナの前で口にできるタイトルではないことだけは確かだ。
( A )「黙秘を主張する」
(; )「たいしたタイトルじゃないよ、は、はは」
( )「ドクオのことだから、アニメじゃない?」
川 )「かわいらしい美少女が大活躍するようなやつだろう、おそらく」
( ゚д゚ )「なるほどな」
頼む、このまま映画について忘れてくれ。
ついでに俺の頭からもあの馬鹿な記憶を消し去ってくれ。あの時は若かったんだ俺も!
手にしたままのジュースを飲み込んで、嵐がすぎさるのを祈る。
暗くて助かった。
きっと明るかったら、今の俺は顔面蒼白なことだろう。
( ^ω^)「あ、映画の話かお?」
(;'A`)「いいから次! 次っ!!」
おいこら、ブーン!
余計なことを言うんじゃないっ!!!
.
271
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:10:32 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
映画でいろいろあって、あの時はすっごくおかしなテンションだったんだお。
それで、ヤケになって焼き肉食い放題するぞ、ってなんたんだお僕たち。
( ^ω^)「お?」
それで外に出たとき、映画館の外のところにあったんだお。
例のプラスチックのカップ。
透明なカップに黒いストロー、それでもって中身がまだ残ってるやつ。
_,
( ^ω^)(ゴミがいっぱいだお)
でも、その映画館ってそんなにキレイじゃなかったから、そんなに気にしなかったんだお。
ボンノウと焼き肉で、僕の頭マッハだったし。
もちろん、「もったいない」くらいは思ってたと思うお。
……そのことをはっきりと思い出したのは、後になってからだったけど。
.
272
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:12:18 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
('A`)「ふぃー、食った食った」
(´・ω・`)「今日は派手に散財しちゃったね」
(*^ω^)「お腹いっぱいだお〜」
それで、焼肉食べ放題で満足して、さあ帰るぞって時だお。
入り口のドアを開けた時。ショボン、止まったおね。
(*'A`)ノシ「どしたー、しょぼんくーん?」
(´・ω・`)「何かがひっかかったみたい。あ、開いた」
( ^ω^)「なにがあったのかおー」
ショボンとドクオは、もう忘れちゃってるかもしれないけど……
.
273
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:14:24 ID:lvJC6wew0
あの時、ドアにひっかかってたの。プラカップだったんだお。
中身が入った、黒いストローのやつ。
そいつが倒れて、ドアの向こうに転がってたんだお。
( ´ω`)「おー」
(*''A`)「どしたー、くらいぞー、ブーンちゃぁぁぁん!!」
( ´ω`)σ「そこにカップが……もったいないお」
まだ残ってるのにもったいないとか、世の中にはゴミを捨てる悪い人が増えたんだなー、って僕は悲しくなったんだだお。
それから、倒れたコーヒーだかお茶だかを避けて、外に出て。
それから、アレって思ったんだお。
――そういえば、あのカップみたいなやつ映画館でも見たなって。
.
274
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:15:14 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
('A`)「偶然だろ」
考えるよりも先に、そう言っていた。
だって、そこらで売っているカップだ。コンビニに行けばいくらでも買える。
というか、俺はそれよりも。焼き肉の時の俺がどれだけ醜態を晒していたのかのほうが気になる。
あの日は確か勢いのままに酒も飲んだから、後半の記憶は曖昧だ。
思いだせ、何かアホなことをやらかしてないか思い出すんだ俺。ついでに、例のカップも。
( ω )「僕もそう思ったお。
本当にあのカップのお茶流行ってるんだおって……そのときは、そんくらいだった」
.
275
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:16:22 ID:lvJC6wew0
( ゚д゚ )「そのときは?」
( ω )「ん」
ブーンが一瞬、口ごもる。
馬鹿みたいに明るいヤツにしては珍しい反応だ。
その珍しさに、俺は先日の記憶を掘り起こす作業を止めた。
(; )「あ」
ブーンに続き、ショボンらしい声も上がる。
こちらも一言だけ。
何かを思い出したのか……?
.
276
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:17:04 ID:xuMsv05k0
今年もきたな!
支援だぜ
277
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:18:27 ID:lvJC6wew0
('A`)(何か、あったか?)
記憶をたどる。
フワフワとして、踊りだしたくなるような気分だったのは覚えている。
食い過ぎた肉を胃に押し込めて。
ぬるい空気の中を走れば、空も飛べそうな気がして。
走りだそうとした足を、ショボンかブーンに無理やり抱えて止められて。それから……?
「ドクオ、やめるお!」
「ほら、飲めないからそれ。あとで自販機行こ」
暑苦しい野郎どもの腕の向こうに
――プラカップの姿を見た、ような、気が。
.
278
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:19:58 ID:lvJC6wew0
(;'A`)(あれ?)
おかしい。
妙な記憶がある。
いや待て、ブーンが例のプラカップを見たのは映画館と焼肉屋。
でも、そのどっちでもないこれは、何だ。
(;'A`)(飲めないってなんだ? )
ブーンと、それからショボンの方を見る。
あいつらならわかるだろうか。これが本当のことなのか、それとも俺の夢なのか。
.
279
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:22:07 ID:lvJC6wew0
(; ω )「その後、その……酔っ払ったドクオが、ね」
やっと続いたブーンの言葉は、歯切れが悪い。
頼むから、はっきりと言ってくれ。
心臓がドクン、ドクンと音を立てる。
額をたどっていく、汗が気持ち悪い。
(; ω )「プラカップを拾ったんだお。電車で」
( ゚д゚ )「それはどういう状況だ?」
(´ ω `)「電車の出入口の脇のところに、置いてあったんだよ。
たぶん、飲み残しの紅茶だと思うんだけど……」
(; ω )「そうだお。ドクオ、ノド乾いたーって、飲もうとしちゃって」
頭をガンッと殴られたような衝撃がした。
拾った? しかも電車? 俺が?
さっきの記憶は、実際にあったこと……なのか?
.
280
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:25:38 ID:lvJC6wew0
川 - )「それは、マズいんじゃないか?」
ξ ⊿ )ξ「なにしてんのアンタ?! 馬鹿なの?!」
(;'A`)「俺もどうしてそうなったのか聞きたいくらいだよ!!」
クーとツンらしき声に問い詰められるが、俺も正直いっぱいいっぱいだ。
正直、はっきりと覚えているわけじゃないし。なんでそんなことをしたのかもわからない。
それに、例のプラカップ……? なんでそいつがここで出てくる。
( )「飲んでたら面白かったのに」
(; A )「おい。今、飲んでたら面白いって言ったやつ誰だ!?」
俺の渾身の叫びに、返事は無かった。
動揺している俺に、ひどいことを言うやつもいたもんだ。絶対に後から殴る。
.
281
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:28:27 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
ドクオは力づくで止めたから大丈夫だったお。
ちゃんと例のブツは駅のゴミ箱にポイして、ドクオには水飲ませたから安心するおー。
あ、水代は今度ジュースでもおごってくれれば、オーケーですから。気にせんでいいお。
まあ、それはともかく。
( ^ω^)「……また、あのカップだったお」
さすがの僕も、ちょっとおかしいなぁと思ったわけだお。
これまで全然気にしてなかったけど、いくらなんでも見る回数が多すぎるお。
だって、一日に3回だお。
いくら流行ってるからっていっても、あんなにカップがあちこちに落ちてるっておかしすぎるお。
しかも、場所も時間もバラバラ。それもおんなじように中身が残ってるんだお。
( ^ω^)「ドクオ、飲んじゃうところだったし……」
まるで、僕の行くところに置いていってるみたいだって。
ちょっと怖かったお。
.
282
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:29:30 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
( ゚д゚ )「……流石にそれは」
川 )「どうということでなくても、こうも続くと気味が悪いな」
ブーンの話に、ミルナの息をのむ声が続く。
クーや他のやつらが何か言ってるようだが、俺の耳にはいまいち入ってこない。
(;'A`)「……」
さっきから、心臓の嫌な音が止まらない。
ブーンたちのお陰で中身は飲まなかったみたいだが、電車に乗ってたのが俺一人だったらと思うとぞっとする。
なんだよ、これ。ブーンの話を適当に聞いていたはずなのに、気づけば一番の当事者じゃねぇか。
何で飲んだんだよ、俺。……その時の俺をぶん殴りたい。
ξ )ξ「私はドクオの方が怖かったけどね。
そんなになるまで飲むんじゃないわよ、馬鹿」
まったくもってその通りだ。
こんな心臓に悪いだけの話、知りたくなかった。
.
283
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:32:43 ID:lvJC6wew0
-----------------------------------
( ω )「まぁ、ドクオはサイナンだったけど、それからはあんまり見なくなったんだお。
例のプラカップちゃん」
('A`)「そんなに転がっててたまるかよ」
(; )「だよね。さすがにあれは焦ったよ」
明るく戻ったブーンの声に、俺も慌てて言葉を返す。
もうこうなったらさっきまでのことは忘れてしまおう。
そうとなったら、ブーンの話はさっさと終了させて、次の話に移るに限る。
('A`)「お前の話はもう終わりか? だったら、次に」
( ω )「んー。そうだおね。
それからは2回くらいしかみてないから」
( )「へー、まだ見てるんだ」
どうやらブーンの話はまだ続くらしい。
俺の酔っ払い事件以上に、まだ話すことがあるのか?
というか、ブーンはどうやってこの話にオチをつけるつもりなんだろうか。
.
284
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:34:50 ID:lvJC6wew0
( )「2回って、まだあるの?」
ξ; )ξ「本当によく転がってるのね、そのコーヒー? アイスティー?」
( ω )「といっても、そんな怖い話はないお。
この前、自販機のとこのゴミ箱で見かけた時なんて、お久しぶりだったから嬉しくなっちゃったし」
('A`)「……何で嬉しくなってるんだよ。
さっきまでの空気返せよ。完全に俺の醜態のさらされ損じゃねーか」
ブーンの声に気が抜ける。
さっきまで、嫌な汗をかいていたのが嘘のように空気が軽い。
これ俺以外のやつにとっては、完全に笑い話なんじゃねーか?
(; ゚д゚ )「嬉しくなるもの、なのか?」
川 )「ふむ。ブーンにとっては、『すっごい“偶然”にあっちゃったお〜』という感じなのだろう。
……慣れとはおそろしいものだな」
(* ω )「そうだおそうだおー。いやぁ、ホントにこういう“偶然”ってあるんだおね」
(;'A`)「――っ、」
ξ )ξ「……アンタって、ほんとマイペースよね」
.
285
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:36:48 ID:lvJC6wew0
偶然。
確かに、ブーンの話はあくまでも偶然だ。
ブーンたちにとってそれが当たり前だし、俺だってそう思ってた。
(;'A`)「……」
だけど、違う。今は違う。
偶然だと言われてはじめて、気づいてしまった。
“たまたま”俺が酔っぱらってのどが乾いたところに、誰かが“都合よく”置いた中身の残ったカップがある。
そんな都合の良すぎる『偶然』あるわけない。
――というか、そんな不自然な現象をよくある偶然にされたらたまったもんじゃない。
('A`)「……もう1回見たって言ってただろ、そっちはどうなんだ?」
ためらいながらも、聞いてみる。
正直に言おう。俺は、最後の1回が偶然以外の何かであればいいと願っている。
あの奇妙な偶然は、偶然じゃないのだと――。
.
286
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:38:59 ID:lvJC6wew0
ブーンのいる方を見据える。
ニコニコと笑っていた顔は、暗闇に隠されてはっきりと見えない。
( ω )「ああ、それかお」
だけど、ブーンは言った。
( ω )「ニ週間くらい前に、すっごい暑い日があったおね。
あの日、公園のベンチで見つけちゃって、うっかり飲んじゃうところだったんだお。
僕もドクオのこと笑えないおねw」
なあ、ブーン。
お前、それが偶然って本当に思ってるのか?
(; A )「……公園だろ、自販機とか。
そうじゃなくても、水飲み場とかあるんじゃねえの?」
のどが乾く。
不自然に上ずりそうな声をそっと隠して、言う。
ブーン、答えろ。お前は冗談で言ってるのか? それともまた、偶然って言うのか?
_,
(; ω )「それが、僕お金持ってなかったんだおー。
水飲み場も壊れちゃってたし、ホント困ってたんだお〜」
.
287
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:40:39 ID:lvJC6wew0
で、ベンチに例のカップが置いてあるおね。
それがこれまでと違って氷が浮いてて、さっきまで誰かが飲んでましたよーって感じなんだお。
カップに水滴がついてて、いかにも冷えてますって感じで、めっちゃうまそうなんだんだお。
しかも、都合がいいことに周りに誰もいなくて、
あ。これ飲んじゃってもいいかも、って――
.
288
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:45:10 ID:lvJC6wew0
一瞬、頭が真っ白になった。
悪趣味みたいにひどい『偶然』だった。
(;゚A゚)「飲んだのか!?」
(; ω )「飲んだなんて言ってないおー。
いくら僕でも、流石に外に置きっぱなしのものは飲まないお。
ドクオじゃないんだから」
思わず、目の前の影に掴みかかる。
ブーンらしき体の肩をつかみ、揺さぶる。
ぷよぷよとした柔らかい体は、汗でじとりと湿っている。
(; ω ))「ゆれるおー、ドクオやめるおー」
(;゚A゚)「は、は。よかったー」
息をついて、ブーンをつかむ手を放す。
いつの間にか、俺の目には涙が浮かんでいて、笑いたい気分になった。
ξ )ξ「やめなさいよね、ドクオ。
それにしても、ブーンが怪しいもの飲んでなくてよかったわ」
.
289
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:49:01 ID:lvJC6wew0
川 )「いくら食い意地のはったブーンでも、腹を壊しただろうからな」
( )「食中毒とか、変なものが入ってたら怖いしね」
( ゚д゚ )「途中で持ち主が帰ってくる可能性もあるしな」
( )「知らない奴が自分の飲み物飲んでるとか、怖すぎだからな」
ほっとした空気が満ちる。
いくらブーンでも、放置されている怪しい飲み物を飲むほどアホじゃなかったらしい。
だけど、もしブーンが飲んでいたら――。
偶然以外の何かを望んでいたのは俺なのに、そうなっていたらと思うと心臓が止まった。
飲んでいたら、きっと……。それを考えるのが怖かった。
('A`)(……あ)
そして、ふと気づく。
ブーンは大人だったら飲まなかった。
当たり前だ。そんなもの飲む馬鹿はいない。
だけど――、もし
('A`)(見つけたのが子供だったら)
.
290
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:50:52 ID:lvJC6wew0
ニ週間くらい前。
セミが一斉に鳴き始めた、本格的な猛暑がはじまる頃。
壊れた水飲み場と、ベンチに置かれたプラカップ。
氷の浮いた、冷たそうな飲み物。
それを見つけたのが、もし子供だったのなら。
そして、“たまたま”水筒もお金も持っていなくて、のどが乾いていたのなら――
(* ∀ )゛ □
その子供はどうするだろうか?
.
291
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:51:54 ID:lvJC6wew0
(* ∀ )つ□
――飲むかもしれない。
そう思うのは、きっと俺だけではないだろう。
.
292
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:55:12 ID:lvJC6wew0
( ゚д゚ )「どうした、ドクオ?」
(;'A`)「別に」
はじめのカップは駐車場。
それから、映画館や店の入口ときて、電車。
一つ一つは別におかしい場所じゃない。
だけど、電車の出入口といえば目につく場所で。
自販機の横のゴミ箱となれば、飲み物を買おうとするやつならきっと見る場所で。
公園といったら人がよく来る。子供の多い場所で。
そのベンチとなれば当然、多くの人が休みに来る場所なわけで。
どんどん目立つ場所になっている。
……そう思うのは、おかしいだろうか?
(;'A`)(考え過ぎだ、それこそ『偶然』だ)
そこにもし、何かが入っていたら?
毒とまでは言わない。
だけど、中身が腐っていたら?
それとも、誰かが洗剤なんかを入れていたとしたら?
293
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:56:22 ID:lvJC6wew0
よくある、透明なプラスチックのカップ。
黒いストローのささった、コンビニか何かで売られているような平凡なそれ。
中身が少しだけ残ったそれが、
――誰かが悪意をもって残した贈り物じゃないと、誰が言えるだろうか。
.
294
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 00:59:46 ID:lvJC6wew0
('A`)「……」
……やっぱり偶然だ。
それでいい、そっちの方がよっぽど良い。
ξ )ξ「困ったもんよね。ゴミくらいゴミ箱に入れなさいよ」
川 )「まあ、確かに。店ならともかく、公園にならゴミ箱くらいあるだろうに」
聞こえる声は、いつもとそう変わらない。
少しだけ機嫌が悪そうな気がするが、俺が思ってるような悪意なんて感じている様子がない。
それに、わけもなくほっとした。
('A`)(落ち着けよ、俺。
そりゃあ、少しばかり妙だけど偶然なんだから)
ごくりと、ジュースを飲む。
ベタベタとしたぬるい味が、今は少しだけ心地よかった。
.
295
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:00:54 ID:lvJC6wew0
( ω )「みんなは飲み物をポイ捨てしちゃダメだおー。
お残しはもったいないし、僕やドクオみたいな不幸な犠牲者が生まれちゃうんだお」
( )「ブーンらしいまとめだね」
( )「この話ももう終わりかー。イマイチだったなぁ」
ワイワイとした声が、聞こえる。
その輪に加われる気分じゃないのが、少しだけ悔しかった。
(; ω )「あー、話したらノド乾いたお」
('A`)「……そりゃあ、この暑さだしな」
ホッとしたように声を上げるブーンに、言葉を返す。
今の俺は、ちゃんと自然な声になっているだろうか。
なっているといい。ブーンの話にはおかしな所なんてなかったんだから、それでいい。
( ω )「あ、これ飲んでもいいかお?
ずっと気になってたんだお、僕」
川 )「いいんじゃないか? 取られたくないものなら、自分の近くに置くだろう」
( ω )「じゃあいただくおー」
.
296
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:03:23 ID:lvJC6wew0
ブーンの動く物音がして、それからカタコトと水音がした。
カップに揺れる氷みたいなその音に、俺ののどが鳴る。
氷さえあればこのくそ甘いジュースも、いくらかマシになるだろうに。
ξ )ξ「それにしても暑いわね、こうも暑いと熱中症になりそう」
川 )「飲み物もすっかりぬるくなってしまったよ」
(; )「あ、僕も」
( ゚д゚ )「気が回らなくてすまなかった。冷えた茶を出そう」
お茶か。
探していたペットボトルは見つからなかったし、ちょうどいい。
……そういえばブーンが持ってるの、俺のペットボトルじゃねーよな?
暗くてよく見えないが、確認してみねぇと。
.
297
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:05:08 ID:lvJC6wew0
(*^ω^)「ぷはー、よく冷えてておいしいーお!
たまにはコーヒーもありかもしれんね」
闇が揺れて、ブーンの顔がぼんやりと浮かび上がる。
その手元に目をやって、俺は息を止めた。
顔をほころばせたブーンの手の中に、水滴が浮かんだカップがある。
うっすらと見えるその形は、ストローのささった、
――透明のプラカップ。
その奇妙な偶然に、吐き気がした。
頼むからブーンが気づきませんように、と願ってさえもいた。
.
298
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:06:25 ID:lvJC6wew0
( )「いいなぁ。それって誰が買ったの?」
ξ )ξ「おいしいのはいいけど、ちゃんとお礼言いなさいよね」
ツンの言葉に、ブーンがあたりを見回す。
その動きに合わせて、カタコトと氷が音をたてる。
水滴の浮かんだカップは、買ったやつなら絶対に飲みたいものだろう。
だけど、――
( ^ω^)「おっおっ。そういえば、誰のだお?」
.
299
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:07:07 ID:lvJC6wew0
ブーンの言葉に、返事はなかった。
.
300
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:07:55 ID:lvJC6wew0
('A`)百物語、のようです
奇妙な偶然 了
(
)
i フッ
|_|
.
301
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:10:37 ID:ThTwsCB60
不気味な話だ…
乙
302
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 01:14:21 ID:s8VzuaMQ0
ぞくっとした……
乙
303
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 18:26:05 ID:0JgPtMh.0
おお……乙
304
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 23:28:07 ID:LmqMBxJg0
今年も楽しみにしてた!おつ!
そんでもってこええよ・・・偶然じゃねえだろ・・・
305
:
名も無きAAのようです
:2015/08/09(日) 23:47:55 ID:SFES.vrA0
乙、よく見る様な光景も突き詰めれば恐怖の的になり得るんだな…
暫くコーヒー飲めないわ
306
:
名も無きAAのようです
:2015/08/24(月) 15:36:24 ID:YOjjMU3.0
今年も乙!
ところで昨日車で出掛けたんだけど、信号で停止したときにふと外に目をやったんだ
塀の上にはプラカップ
風があったんだけどね
あっ、と思ったら音を立てて落下
目の前に急に落ちてきたプラカップに通行人は驚いたろうな
『偶然』だね
http://i.imgur.com/A7QqTr2.jpg
307
:
名も無きAAのようです
:2015/08/25(火) 17:47:27 ID:iRu/JYhc0
偶然ってこわい
308
:
名も無きAAのようです
:2016/08/13(土) 02:25:14 ID:8us3OPsM0
今年も来るんだろうか
309
:
名も無きAAのようです
:2016/08/15(月) 19:56:53 ID:ShLUSYN6O
おひさしぶりです
特にトラブルがなければ、後半の日程で投下します
310
:
名も無きAAのようです
:2016/08/15(月) 19:57:56 ID:3aQz2FSg0
わくわくぞくぞく
311
:
名も無きAAのようです
:2016/08/15(月) 20:02:34 ID:IPFY3jXs0
すげー楽しみ
312
:
名も無きAAのようです
:2016/08/16(火) 00:52:37 ID:2XghcXQA0
そりゃ楽しみだ
最初から読み返しとこう
313
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:03:12 ID:alE8X3hE0
百物語だけど夏物語
投下します
314
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:04:13 ID:alE8X3hE0
――夏といえば怖い話だ。
そう言い出したのは誰だっただろうか。
畳のにおいのする和室のなかで、闇が揺らぐ。
二間先の蝋燭の明かりは、ぼんやりとしたかすかな光しか届けてくれない。
その闇の中に、何人かの人影がある。
百物語。
夏になるとよくその名前を聞く怪談会。
定番なのは、部屋に集まり怪談を九十九話語るというもの。
百話語ると恐ろしいモノが出てくるらしいが、大体はそこまで話す前に終了するのがほとんどだ。
315
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:05:41 ID:alE8X3hE0
('A`)「今、何話目だっけ?」
俺たちは今、ミルナの爺さんの家を借りて、その百物語を本格的にやっている。
新月の夜の、暗い和室。
三間続きの和室の、一番奥に当たる部屋には火鉢に並べられた蝋燭が百本。
相手の顔もわからない闇の中で、俺たちは怪談を語り続けている。
( ゚д゚ )「……しまったな。失念していた」
( )「ええと、どうだったかな。ブーンはわかる?」
( )「おー? 僕は電話かけに行ってたから、わかんないお」
( )「えー。つかえないんだからなー」
呟いた言葉に、幾つもの声が返ってくる。
正面に座るミルナと、個性丸出しなブーンの声だけははっきりとわかるが、それ以外は誰がいるのかもわからない。
316
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:07:25 ID:alE8X3hE0
('A`)「……」
すぐ近くにいて、こうして話もしている。
なのに、顔が見えないだけで、俺はそこにいるのが親しい相手なのかすらわからない。
百物語がはじまってかなりの時間が経つのに、俺は未だにこの暗闇に慣れていなかった。
ξ )ξ「え? それだとマズくない? 百個、話すのよね」
そんな中、女の声が響いた。
高くも低くもない、普通の声。
大勢の中に紛れてしまえば、俺はきっとその声を見つけることはできないだろう。
( )「大体でいいと思うお!」
ξ )ξ「アンタは、ホントいつもおおざっぱね」
川 )「残っている蝋燭で判断すれば、いいんじゃないか?
自然に消えたものは……まぁ、考えても仕方ないだろう」
( )「クーは、あったまいいおー」
ブーンと、さっきとは違う女の声が聞こえる。
この凛とした声はクーのものだろう。ブーンが名前を出してなくてもわかる、特徴的な美しい声。
だとすると、もう一人の女の声はツンなのだろう。
317
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:08:20 ID:alE8X3hE0
ξ )ξ「じゃあ、話の数はこれで解決ね」
クーと仲の良い女子。
それでもって、俺やブーンのようなリアルが充実していないやつにも普通に話しかけてくれる貴重な存在。
ぱっと見は少し話しかけにくいが、なんだかんだで気さくな彼女。
( ゚д゚ )「そうだな。異論はない」
( )「一瞬、どうしようかと思っちゃったよ」
( )「さっさと次の話しようぜー」
ξ )ξ「次の話か……」
ツンが、ためらうように口を開く。
そういえば、途中参加のツンの話はまだ聞いていなかったような気がする。
('A`)「お前は、なんかネタはないのか?」
ξ; ⊿ )ξ「んー、話すのは苦手なのよねー」
318
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:09:32 ID:alE8X3hE0
試しに聞いてみると、ツンが言葉を濁らせる。
怖い話を聞くのは好きだけど、話すのは苦手なタイプか。
そういうことなら、これまで話をしていないのも納得だ。
( ゚д゚ )「他にも話してないやつはいる。後にしてもいいが」
ξ; 〜 )ξ「これ以上プレッシャーがかかってもヤだし、話しちゃうわ」
津出 ツン。
俺たちと同じ大学に通う、日本生まれの日本育ちの日本人。
気さくだし、性格だってそんなに悪くない。
そんなツンが一見、話しかけにくい理由。
ξ ⊿ )ξ「怖くなくても、つまんないって言わないでよね」
目の端に明るい色がよぎる。
蝋燭のかすかな光に浮かび上がるのは、金の髪。
冗談のように白い肌と、色素の薄い瞳は、テレビの向こう側でしか見たことのない色だ。
――津出 ツンは、金の髪と青い瞳をしている。
319
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:11:01 ID:alE8X3hE0
染めたものとは違う、生まれつきのその色。
それは、初対面の人間を一瞬だけ、戸惑わせる。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、話すわよ」
明かりの加減で、ツンの顔がはっきりと見える。
いつもはくるくるよく変わる表情は、雰囲気に飲まれてかあまり感情が見えない。
暗い和室に佇む、金の髪の少女。
テレビや映画でも見ているような、現実感のない光景だった。
ξ゚⊿゚)ξ「これは、あたしのおばあちゃんから聞いた話なんだけどね……」
父方と母方、そのどちらにも異国の血が入っている、少女が語る。
――普段、見慣れたその顔は、不思議と美しく見えた。
320
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:12:12 ID:alE8X3hE0
('A`)百物語、のようです
幻の馬。
.,、
(i,)
|_|
.
321
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:13:59 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
これはおばあちゃんが小さい頃に、聞いた話なんだけど。
おばあちゃんのそのまたおじいちゃんの、おじいちゃんの……ええと、ご先祖様。
そのご先祖様……えっと、おじいちゃんでいいか。
そのおじいちゃんがね、
(*゚∀゚)
(*゚∀゚)「あ!」
まだ子どもの頃にね。キレイな馬を見たっていうの。
.
322
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:16:12 ID:alE8X3hE0
_
( ゚∀゚)「どうした?」
(*゚∀゚)「兄ちゃん、見てアレ!」
_
( ゚∀゚)「……すげぇなぁ」
おじいちゃんだけじゃないわ。
おじいちゃんのお兄さんも、おじいちゃんの村の人たちみんなも見たんだって。
(*゚∀゚)「なーなー、あれ乗っていい? 乗っていい?」
_
(; ゚∀゚)「お前一人じゃ、乗れねぇじゃねぇか」
(*゚ o゚)「兄ちゃんが手伝ってくれれば行けるし」
_
( ゚∀゚)「んじゃ、まずは兄ちゃんが乗ってやろう」
(*゚ 3゚)「兄ちゃんばっか、ずりぃー」
323
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:20:28 ID:alE8X3hE0
まだ若い、芦毛の馬。
見るからに手触りが良さそうな、輝く毛並み。金色に輝くたてがみはクシを入れたばかりのよう。
村にいるどの馬よりも。それどころか、村にいる人たちがこれまで見たどの馬よりも、その馬はキレイだった。
そんな馬が、おじいちゃんたちの前に現れたの。
美しくて立派な馬が一頭だけ。
しっかりと手入れがされているのに、どこにも飼い主らしい人はいない。
買おうと思ったら、いくら金があっても足りない。それくらい立派な馬だったんだって。
゙゙(; ゚━゚)「ここか!」
(*゚∀゚)「おっちゃん!」
あまりにも立派な馬だから、こんな馬が野生のはずがない。どこかから逃げてきたんじゃないか。
よほどの金持ちか偉い人の馬に違いない、って。
それほど大きくない村はすぐに、大騒ぎになったんだって。
£°ゞ°)「どうしますか?」
("・」・")「そのままには、しとけんだろうなぁ」
゙゙( ゚━゚)「じゃあ、預かるか?」
("-」-")「……それしかないだろうなぁ」
324
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:21:13 ID:alE8X3hE0
大人たちが集まって話し合って、結局、持ち主が見つかるまでは村で面倒をみようってことになったの。
村はずれに住んでいるおじさんがたくさん馬を飼っていたから、馬はそこで預かることになったわ。
£°ゞ°)「今日からキミは、しばらくウチの子ですよ」
(*゚∀゚)「いいないいなー」
その馬はとてもかしこい馬だったわ。
おじさんが持ってきた馬具をつけると、馬はおどろくほど素直に従ったわ。
暴れるんじゃないかって、おじさんは心配してたみたいだけど、そんな心配は全然なかった。
£°ゞ°)「キミの家じゃ馬の面倒は見れないでしょう?」
(*゚ぺ)「でもさー、でもー」
£°ゞ°)「しばらくは家にいるから、遊びに来てあげてください」
325
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:23:27 ID:alE8X3hE0
おじいちゃんは、その馬を一目見たときからものすごく気に入っていたの。
あの馬はすごかった。死ぬまでそれが、おじいちゃんの口癖だったそうよ。
だから、どうしても自分の家で預かりたかったんだけど、そればっかりはどうにもならなかったみたい。
£°ゞ°)「ほーら、良い子だ。おいで」
(*゚∀゚)「おっちゃん、おっちゃん。こいつに乗せてよ」
£°ゞ°)「ダメです」
_
(; ゚∀゚)「弟のヤツさっきから、ずっとこうなんだ。ちょっとくらい乗せてやってくれよ」
£-ゞ-)「大事な預かりものだからダメです。ウチの子ならいいけど、」
(*゚∀゚)「そいつらじゃヤダ!」
その馬を気に入っていたのは、おじいちゃんだけじゃなくてお兄さんもだったの。
だから、おじいちゃんはお兄さんと二人であの馬に乗せてください、って何度も頼んだの。
だけど、その馬にだけはどうしても乗せてもらえなかったわ。
……大切な預かりものだしね。
近所の子どもを乗せて遊ばせるなんて、おじさんもできなかったのね。
326
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:25:15 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
(*゚∀゚)「おっちゃーん、あの馬まだいるー?」
£°ゞ°)「おや、こんにちは」
_
( ゚∀゚)「こんにちはー」
おじいちゃんたちはそれでもあきらめずに、おじさんのところに通ったの。
おじさんも、二人が馬を見るぶんには怒らなかった。
おじいちゃんたちが気に入っていたその馬は、とても賢くておじさんの言うこともよく聞くいい子だった。
暴れないし、他の馬ともケンカもしない。環境の変化にとまどう様子もなかったみたい。
おじいちゃんたちが見に行くと、いつも近くによってきて懐いてくれたんだって。
_
( ゚∀゚)「あの馬は元気?」
£;-ゞ-)「それが……」
(;゚∀゚)「連れてかれちゃったの!?」
£;°ゞ°)「いえ、そうではなくてですね……」
だけどね、とても困ったことがあったの。
327
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:27:09 ID:alE8X3hE0
その子はね、どんなにおじさんが勧めてもエサだけは食べなかったの。
もちろんおじさんもいつも見ているわけじゃないけど、それでも飼い葉が減っている様子はなかった。
甘いものをあげてみても、外に出してみても草を食べないの。
無理やり食べさせても吐いてしまうって、おじさんは困っていたみたい。
_
(; ゚∀゚)「エサ食べないなんて、大丈夫なのか?」
£°ゞ°)「落ち着いているように見えても、やっぱり環境の変化には慣れないんでしょうねぇ。
調子を崩す前になんとか食べてもらいたいのですが……」
(;゚ぺ)「なんとかしてよ、おっちゃん!」
£;°ゞ°)「ええ、わかっていますよ」
それでも、その馬はエサを食べなかったわ。
水は飲むんだけど、おじさんが与えたエサだけはどうしても食べないの。エサのあげ方を変えてもダメだった。
みんな心配していたんだけど、その馬は弱る様子もなく元気だったんだって。
だから結局、おじさんが見ていない間に、草やほかの馬のエサを食べてるんじゃないかってことになったの。
まだ心配だけど、そういうことなら安心だ。って、みんなほっとしたわ。
328
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:29:49 ID:alE8X3hE0
困ったことは、他にもあったわ。
馬の持ち主がなかなか見つからなかったの。
あの馬は手入れしたばかりだったみたいにキレイだった。
ちゃんと人が世話をしている形跡はあったし、おじさんのいうこともちゃんと聞く賢い子だった。
捨てられたようにはとても思えない、とても立派な馬。
だから、おじさんや村の人達は、すぐに持ち主が見つかるだろうって思っていたの。
それなのに、持ち主は数日たっても現れなかった。
(*゚∀゚)「お前、ウチにこないか?」
_
( ゚∀゚)「ダメだって。親父も言ってただろ」
(*-∀-)「ちぇー」
£°ゞ°)「キミたちの家が、馬を飼えればよかったんですけどねぇ」
なかなかエサを食べない馬に、見つからない飼い主。
売るわけにもいかないし、下手な扱いもできない。
おじいちゃんたちは馬がいることに喜んでいたけど、おじさんはとても困っていたみたい。
329
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:31:59 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
そんな日々がしばらく続いた、ある日の晩。
――事件は起きたの。
£°ゞ°)「……っ」
( `v´)「大人しくしといたほうが、身のためだぜ」
まぁ、簡単に言っちゃうと……、
おじさんの家にね、強盗が現れたのよ。
.
330
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:33:25 ID:alE8X3hE0
おじさんの家に押しかけてきたのは、二人組の男だったわ。
彼らは武器をちらつかせ、おじさんが止めるより早く襲いかかってきたの。
( `v´)「そっちはどうだ?」
(●冊●)「婆さんとおばちゃんが一人ずつだ」
£;°ゞ°)「二人はっ!」
( `v´)「殺しちゃあいねぇだろうな」
(●冊●)「とりあえずは」
( `v´)「……だ、そうだ。どうすりゃぁいいかは、わかるだろ?」
それで、どうなったか、って?
ああ、安心して。
おじさんたちは、ちゃんと無事だったわ。
331
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:35:23 ID:alE8X3hE0
……そんなの、ホラーじゃない?
ドクオ。アンタねぇ、人の話をいちいち邪魔するのやめたほうがいいわよ。
感想とかならいいけど、怖いか怖くないかなんて人によって違うじゃない。
今度やったら、無視してやるから覚えときなさいよ。
大体、なんで百物語で、普通の犯罪の話なんてしなきゃいけないのよ。
これおばあちゃんに聞いたのよ。
孫に強盗殺人事件を語るおばあちゃんなんてイヤすぎるでしょ。
……
……ごめん。
あたしも、ちょっと言い過ぎたかも。
続きよね。ええと、……
332
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:37:25 ID:alE8X3hE0
£;°ゞ°)「……」
おじさんたちは命だけは無事だったわ。
だけど、抵抗できないように縛り上げられて、家中を荒らされたの。
( `v´)「随分と貯めこんでるようだが、これだけとは言わねぇよな。
こっちは人質が一人減ろうが、別にかまわないんだぜ?」
£;°ゞ°)「うっ」
男たちは暴れて、かたっぱしから金目の物を集めたわ。
それだけじゃ飽きたらずに、もっとよこせと言い出したの。
おじさんがどんなに抵抗してもムダだった。
333
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:39:44 ID:alE8X3hE0
£; ゞ )「……馬を、預かっています」
(#`v´)「馬だぁ?!」
£; ゞ )「……この村で今、一番価値があるのはあの馬です」
それでおじさんは、仕方なくあの馬のことを話したの。
あの馬ならまず間違いなく高値がつく。おじさんはそれを知っていたから、話すしかなかった。
……自分と家族の命がかかってるからね。あたしも、おじさんが悪いとは思わないわ。
£; ゞ )「……ここ、です」
( `v´)「こいつか」
(●冊●)「間違いないな」
(*`v´)「シケた村かと思ったら、とんだ儲けものじゃねぇか」
馬なんてと、はじめはバカにしていた強盗たちも、その馬を見るなり目の色を変えたわ。
堂々としたその姿は、他のどの馬と比べても圧倒的に美しかった。
この馬なら間違いなく金になると、強盗たちは大喜びだった。
334
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:41:44 ID:alE8X3hE0
(*`v´)「こいつを売りゃぁ、豪遊間違いなし、っときた」
(●冊●)「久しぶりの儲けだ」
(*`v´)「こんな場所さっさとおさらばして、一杯やろうぜ」
£;°ゞ°)「……っ」
強盗たちは馬を奪うと、盗んだものをありったけその馬に積んだわ。
そして、おじさんたちを縛り上げたまま残して、二人で馬に乗ったの。
£;°ゞ°)「――あぁ」
(*`v´)「じゃあな、おっさん!
運がよけりゃぁ、助けられるだろうさ!」
――そして、走りだそうとしたその時。
335
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:43:10 ID:alE8X3hE0
馬が、暴れだしたの。
.
336
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:45:55 ID:alE8X3hE0
それはすごい、暴れ様だった。
(●冊●;)「な」
(#`v´)「何やってんだ、このクズ!」
賢くて大人しかったのが嘘みたいに、馬は興奮していたわ。
体を何度も大きく上下に振って、激しく声を上げた。
目は血走り、口からヨダレをぼたぼたと垂らして、それはすさまじい形相だった。
自分に乗っているのが、悪党だって知っているみたいだった……後におじさんは、そう言ったそうよ。
337
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:47:23 ID:alE8X3hE0
(#`v´)「おい、なんとかしろ!」
(●冊●;)「くっ」
£;°ゞ°)「ひっ」
馬の暴れ様は凄まじくて、積んだ荷物がかたっぱしから落ちるくらいだった。
だけど、不思議なことに強盗たちは馬から落ちはしなかったわ。
よほど必死でしがみついたのか、それとも馬が惜しかったのか……それは誰にもわからない。
(#゜v゜)「――ぐぅぅっ!!」
そして、馬はひときわ大きく声を上げると、強盗を乗せたまま走りだしたの――。
£°ゞ°)「……そんな、」
……あの馬も、強盗たちも夜の闇に消え。
そして、そこには縛り上げられたままのおじさんだけが残ったわ。
338
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:49:47 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
おじさんたち家族が助けられたのは、夜が明けるよりも早かった。
なんだったかな……。理由は忘れちゃったんだけど、おじさんの家に用があった人がいたの。
゙゙( ゚━゚)
从゚×ナ;从
で、その人が縛られたまま床に転がされている奥さんを見つけてびっくり仰天。
別の部屋にいたお婆ちゃんも救出されて。それから、馬小屋にいたおじさんも助けられたの。
゙゙(;゚━゚)
从゚×ナ;从
£;-ゞ-)
339
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:51:29 ID:alE8X3hE0
村はもう大騒ぎ。
大きな事件なんて、もう何年も起こっていない村だったから。それはもうすごかったらしいわ。
盗まれたのが、あの馬というのも騒ぎを大きくする一つの原因だったみたい。
(;"・」・")「それで、被害は? 馬以外はどうなってる」
£;°ゞ°)「私たちは、そう大きな怪我もなく。
あとは、家の中が荒らされたのと、家具が壊されて……」
゙゙(;゚━゚)「無事でほんとうによかった」
おじさんたち家族は小さな怪我くらいで、みんな無事だった。
盗られたものも、馬が暴れた時に落ちたおかげでほとんどなかった。
荒らされた家だけはどうしようもなかったけど、それでもおじさんたちは喜んでいたわ。
340
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:53:55 ID:alE8X3hE0
だって強盗よ。
さっきのドクオの話じゃないけど、殺されたっておかしくはなかったんだもの。
それが、命が助かっただけじゃなくて、盗まれたものも返ってきた。これって奇蹟みたいなものじゃない?
£°ゞ°)「ああ、これもあの馬のおかげです」
("・」・")「被害がこの程度ですんで、本当によかった。
何より、お前たちが無事なのが嬉しい」
゙゙( ゚━゚) 「あの馬は、神の使いにちげぇねぇ」
村の人たちも、これは奇蹟に違いないって思ったの。
自分たちがこうして助かったのは、日頃の信仰のおかげだろう。
村人たちのおこないを見た神が、村を守るためにあの馬をつかわしたのだろう、ってね。
341
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:55:51 ID:alE8X3hE0
村人たちはその後、恩人である馬の行き先を探したけれど……馬は、見つからなかった。
それらしい馬が売られたって話もなかったし、見た人もいなかったわ。
£°ゞ°)「ああ、あの馬は一体……」
从゚×ナ;从「……無事やと、ええんやけど」
せめて、持ち主にお礼を言おう。
そして、できれば代わりの馬を贈ろう、って探したけど。
あの馬の持ち主は見つからなかった。それどころか、それらしい噂さえもなかったの。
不思議な事に、おじさんたちを襲った強盗のその後の行方もわからなかったわ。
342
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:57:37 ID:alE8X3hE0
そう。――あの美しい馬は幻のように現れて。そして、姿を消してしまったの。
.
343
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 20:59:15 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
暗闇の中に静寂が落ちる。
聞こえるのは、じぃじぃという虫の声だけ。
いつの間にか、ツンの話は止まっていた。
ξ ⊿ )ξ「……」
何か言おうと口を開いて、そのまま息を飲み込む。
飲み込んだ空気は熱く、体温をあげていく。
拭ききれなかった汗が、首を流れていく。
('A`)「……」
体にまとわりつく、湿った生ぬるい空気。
それが、どうしようもなく気持ち悪い。
344
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:00:24 ID:SLGJOZkI0
おお!今年も来たか期待
345
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:01:10 ID:alE8X3hE0
……ツンの話で出た村はどうなのだろうかと、ふと思った。
あの美しい馬のいた村も、夏はこんな風に暑いのだろうか。
そこまで考えて、たぶん違うんだろうなと思った。
ツンの祖先が住むところは、海の向こうの遠い国なのだろう。
ツンと同じ金の髪の人々が暮らすその国は、きっと気候からして違う。
たとえ暑いとしても、この重く体にまとわりつくような暑苦しさじゃないのだろう。
('A`)(もっと、……涼しいんだろうな)
こことは全く違う、どこかの遠い国。
そんな国の人々が美しいと言うその馬は、一体どんな馬だったのだろう。
そして、どこへと消えてしまったのだろう。
謎めいた美しい生物。
その行き着く先が、野垂れ死になんてしょうもないものでなければいい、と思った。
幻の馬は、幻のまま。それがきっと、一番美しいのだろう。
346
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:03:26 ID:alE8X3hE0
川 )「不思議な話だな」
( )「いいはなしだおー」
( )「神がどうたらってのは、うさんくさいけどな」
……気づけば、話が盛り上がっていた。
さっきまではうるさいくらいに聞こえていた虫の声も、俺達の声にかき消されている。
( )「僕は単に迷い馬だった説を推したいけど、無粋かな」
( ゚д゚ )「動物報恩譚……か。神仏援助のパターンのようでもあるが」
(;'A`)「頼むからミルナは、俺にもわかる言葉で喋ってくれ」
とりあえず話に混ざろう。
そう思って、一人真顔で難しそうな話をしているミルナに声をかける。
ミルナは俺の声に、パチパチとまばたきをすると、「ふむ」と口元に手を当てた。
周りはみんな適当に話しているのに、いちいち固っ苦しいやつである。
347
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:05:16 ID:alE8X3hE0
( ゚д゚ )「動物報恩譚は、ツルの恩返しとか、ぶんぶく茶釜のようなやつだ。
神仏援助は……説話などによくある神様や仏様が助けてくれましたというやつか……?
すまない。俺も専門ではないので、そう聞かれると上手く答えられない」
(;'A`)「お、おう……」
オマケに回答まで堅苦しいときた。
正直、そこまで詳しい説明を求めてなかったので、俺としても反応に困る。
何を言ってるか正直わからない所があったが、下手に聞いてまた説明されたら困る。
俺はちょっとした好奇心を満たすことよりも、いさぎよく黙る方を選択した。
川 )「馬の恩返しか、日頃の信仰のたまものというやつか」
( )「どっちかというと、因果応報っぽい気がする……」
( )「怪奇・消えた馬のミステリー、だと思うんだからな!」
( )「きっと、神様の奇蹟だおー。ツンもそう言ってたし」
困る俺とは対照的に、クーたちはなにやら盛り上がっている。
同じ話を聞いていて、こうも意見が別れるもんなのか。
そう思うと楽しくて、俺もつい真剣に話を聞いていた。
348
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:07:08 ID:alE8X3hE0
ξ ⊿ )ξ「……奇蹟か」
盛り上がる俺たちの中で、一人黙っていたツンがぽつりと声を上げた。
奇蹟。そう話したのはツンのはずなのに、その言葉はどこか納得していないように聞こえた。
ξ ⊿ )ξ「あたしがこの話をしようって思ったのは、神様の奇蹟だからじゃないの」
川 )「……と、言うと?」
クーの問いかけに、少しの沈黙があった。
「えっと」とか、「あ」とかためらうような声が上がって、それからようやく決心したようにツンは声を話し始めた。
ξ゚⊿゚)ξ「ホントはね。この話、続きがあるの。
こっちの話はあんまり好きじゃないから、話したくなかったんだけど……」
海の向こうの、幻の馬。
その話の続きが、ツンの口から語られようとしていた――。
349
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:09:11 ID:alE8X3hE0
-----------------------------------
----------------------------
----------------------
--------------
この話はおばあちゃんのご先祖様……おじいちゃんの話だって言ったでしょ。
おじいちゃんとお兄さんが、村に現れた馬に乗りたがっていたって話は、さっきしたわよね。
(*゚∀゚)「なー、乗せてくれよー」
£-ゞ-)「だめです」
(*゚∀゚)「けちー」
£;°ゞ°)「だめです」
_
( ゚∀゚)「こっそり乗せるってのは、ダメなのか?」
どんなに頼んでもおじさんは、あの馬にだけは乗せてくれなかった。
それでもね。どうしても、おじいちゃんはあのキレイな馬に乗りたくてたまらなかったの。
350
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:11:20 ID:alE8X3hE0
_
( ゚∀゚)「お前、今日も行くの?」
(*゚∀゚)「もっとお願いすれば、乗せてくれるかもしれないし!」
_
( ゚∀゚)「そうかぁ?
おじさんたちに頼んでもムダなんじゃねぇか?」
(#゚∀゚)「そんなことねーもん!」
_
( -∀-)「あー、残念だなぁ。
お前がそうやってノロノロしてるうちに、持ち主が来ちゃうんだろうなぁ」
だから、おじいちゃんは考えたらしいの。
(;゚∀゚)「え?」
_
( ゚∀゚)「持ち主が来ちゃったら、もうあの馬を見ることもできなくなっちまうぞ」
(;゚〜゚)「……どうしたら、いいんだ?」
351
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:13:28 ID:alE8X3hE0
_
( ゚∀゚)「なに、簡単なこった」
このまま、おじさんに頼んでもあの馬に乗ることはできない。
だったら、別の方法をとるしかない。
子どもだったおじいちゃんたちが思いつく方法なんて、そう大したことないわ。
_
( ゚∀゚)「オレたちで、こっそり乗るんだ。あの馬に」
――おじいちゃんたちはね、自分たちだけであの馬に乗ることにしたの。
おじさんの家にこっそりと忍び込んでね。
352
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:15:14 ID:alE8X3hE0
……まぁ、普通に考えるとダメよね。
でも、幸か不幸か、おじいちゃんたちを止める人は誰もいなかった。
おじいちゃんは思い込んだら一直線なところもあったし、お兄さんも止めなかった。
本当はお兄さんのほうが馬に乗りたかったんじゃないかって、おばあちゃんは話してたけど、私もそう思うわ。
(*゚∀゚)「父ちゃんと、母ちゃんは……」
_
( ゚∀゚)「寝てるぞ」
(;゚∀゚)「に、兄ちゃん!」
_
( ゚∀゚)「じゃ、行くか」
(*゚∀゚)「うん!」
その日の夜、みんなが寝静まった時間。
おじいちゃんは、お兄さんといっしょに家を出たの。
家族にバレないように、こっそりとね。
(*゚∀゚)「うわー、楽しみ」
_
( ゚∀゚)「デカイ声出すなよ。バレたら大変だからな」
353
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:17:15 ID:alE8X3hE0
子どもだけで夜の外出なんて、見つかったら怒られるどころじゃすまないわ。
だけど、おじいちゃんたちはそんなのへっちゃらだった。
それどころか、夜の冒険だーなんて気分で出かけたんだって。
_
(* ゚∀゚)「ドキドキするな」
(*゚∀゚)「兄ちゃんも? オレもオレも!」
事件なんてもう何年も起こったことのないような平和なところだったし、危険な獣は人里には出てこない。
だから、おじいちゃんたちも特に心配することなく夜道を歩いていたわ。
外は静かで、月がとてもキレイだった。
……一体、どんな夜だったのかしらね。おばあちゃんは、この話をするたびにそう言ってた。
あたしもそう思うわ。もし、あたしがその場にいたなら、どんな気持ちになったのかしら。
わくわく、したのかな。
それとも、怖くって何度も後ろを振り返りながら歩いたのかしら。
おじいちゃんはひょっとしたら、お兄さんの手をつなぎながら歩いたのかもしれないわね。
354
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:19:29 ID:alE8X3hE0
……話がそれちゃったわね。
おじいちゃんとお兄さんは、あのキレイな馬を目指して歩いたわ。
おじさんの家は、村の外れにあるって言ったでしょ。
だから、家は少し遠かった。
強盗?
……
……そうね。二人は何事もなかったわ。
それこそ神様のおかげ、ってやつね。
355
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:21:55 ID:alE8X3hE0
えっと。とにかく、二人は夜道を歩いていたの。
途中からは民家もなくなり暗い道が続くだけだったから、二人は話しながら歩いていたみたい。
(*゚∀゚)「馬、起きてるかなぁ」
_
(* ゚∀゚)「起きてなかったら、起こしてやろうぜ」
おじさんの家まであと少しというところだったわ。
大声が、二人の耳に聞こえたの。
「あぁああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
切羽詰まったような、尋常じゃない声。
聞くだけでぞっとしてしまうような、そんな声だったそうよ。
356
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:23:30 ID:alE8X3hE0
(;゚∀゚)「に、にいちゃん!」
_
(; ゚∀゚)「大丈夫だ! 兄ちゃんがいるから」
その声を聞いた時は、生きた気がしなかった。
おじいちゃんは死ぬまで、その時のことをこう話し続けたそうよ。
だからお前も、不用意に夜道を歩くんじゃないぞ、って。
……おばあちゃんも、何度もそう言い聞かされて育ったんだって。
だから、おばあちゃんは今でも夜道が少しだけ怖いそうよ。
あたしも、その場に居合わせたらそうだったかもね。
……まあ、ここで百物語なんてしてるあたしが言うのもなんだけど。
357
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:25:16 ID:alE8X3hE0
ぞっとするような声は、一瞬だけでは終わらなかった。
消えるどころか、どんどんひどくなっていくようだった。
はじめは何の声なのか理解できなかったおじいちゃんも、聞くうちにそれが男の悲鳴だって気づいたの。
低い男の声。
そして、それは一人だけの声じゃなかった。
(;゚∀゚)「兄ちゃん!」
_
(; ゚∀゚)「落ち着け、大丈夫だ!」
男の悲鳴が、少なくとも一人以上。
何かが起こっていることは、間違いなかった。
_
(; ∀ )「……何なんだよぉ」
(;゚∀゚)「……ぅ」
その声がどこから響いてくるか、おじいちゃんたちははじめわからなかった。
でもそれが、道の先から聞こえることに気づいて、ぞっとしたそうよ。
夜道に何かよくわかないものがいる。
358
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:27:09 ID:alE8X3hE0
――そして、それはどんどんと、近づいてくるみたいだった。
「 れぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「 い! !!!」
そして、おじいちゃんたちは気づいたの。
聞こえるのは男たちの声だけじゃない、って。
闇の向こうから聞こえる声。そこに、聞き慣れた音が混ざっていた。
聞こえるその声は、荒い息遣いと、いななき。
それから、それに紛れて聞こえてくるのは……何かが、走る音。
(*゚∀゚)「あ」
そして、おじいちゃんたちは見たの。
359
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:29:10 ID:alE8X3hE0
馬だった。
二人がこれまで見た中で。
いいえ、二人のそれから先の人生を含めても、最も美しい馬。
月の光をそのまま集めたような、黄金のたてがみ。
キラキラと輝く毛並みは、どんな布や毛皮よりもつややかで美しい銀の色。
吸い込まれそうな黒い大きな瞳には、星の光が散っていた……ようだったわ。
,ハiヽ..
ノ" ,,'' ヽミ
. (。,,/ ) ヽミ〜─〜⌒ヾミミミミ彡
ノ )
( 、 ..)___彡( ,,.ノ
//( ノ ノ.ノ (
// \Yフ .. 〆 .い
.(ノ くノ //
くノ
360
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:31:23 ID:alE8X3hE0
おじいちゃんは、恐怖を一瞬忘れた。
お兄さんも信じられないって顔で、その現実とは思えないくらい美しい生き物を見たわ。
(* ∀ )「……すごい」
それは、おじいちゃんがどうしても乗りたいと思っていた、あの馬だったわ。
361
:
名も無きAAのようです
:2016/08/19(金) 21:33:18 ID:alE8X3hE0
乗ってみたい。
何が何でも、あの美しい生き物に乗ってみたい。
たとえ、どんなことが起きても。
(* ∀ )「ああ、いいなぁ……」
おじいちゃんは。いいえ、おじいちゃんだけじゃなくて、お兄さんもそう思ったの。
さっき怖いって思ったのが嘘のように、その馬の方へ向かって走ろうとして……、
( `v´)「助けてくれぇぇぇぇぇ! おい、そこのガキッ!」
……聞こえてきた声が、おじいちゃんたちを現実に引き戻したの。
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