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( ^ν^)二日間のようです

1名も無きAAのようです:2012/11/20(火) 20:31:56 ID:tM5yJ2IIO


――プルルルル プルルルル


(#^ν^)


――プルルルル プルルルル


(#^ν^)「……うっせぇ」


――プルルルル プルルルル


(#^ν^)「チッ!」

盛大な舌打ちをして、やっと男は立ち上がった。

カーテンを締め切った暗い部屋、唯一の光源はパソコンのディスプレイだ。
何日も掃除していない部屋の衛生状態は悪い。
部屋の主である男の髪はボサボサで、服装はトレーナーにスウェット。
――彼の職業は一目見れば明らかである。

97名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:46:50 ID:GFlG7z5cO

( ^^ω)「今度はこっちから!」

右手を高く振り上げて、マルタスニムは走りだした。
真っ直ぐ呪術師の元へ向かって、振り下ろした。

川д川「甘い」

簡単に避ける呪術師。
マルタスニムは素早く左に構え、右に薙払う。
当たらない。
呪術師はマルタスニムの動きを完全に読んでいる。

川д川「しょぼぉいご主人様じゃ、こんなものよね」

呪術師が笑いながら右手を掲げる。

川д川「呪いの力、見せてあげる」

(;'A`)「くそ……」

マルタスニムは再び金棒を振り回すが当たらない。
俺も五行の力を持つ霊符で援護をする。
放った木の符の着地点から木の枝が伸びて呪術師を捕らえようとする。
しかし、呪いに弾き返されてしまった。

98名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:48:14 ID:GFlG7z5cO

さらに呪術師が使った呪い、狙いはおそらくブーンだ。
俺かマルタスニムが庇いに行く隙に、俺達邪魔者を片付ける算段なのだろう。
しかしそう予測出来てもブーンを庇わないわけにはいかない。

川д川「少し気絶してもらうわ」

(;'A`)「……!」

ダメだ、間に合わない。

( ^^ω)「ドクオさん!」

呪術師の右手には鎌の形の呪いの炎。
ブーンを狙うと思った。
しかし違った。

(;^ω^)「ドクオ!」

マルタスニムを容易くいなして、呪術師は俺に向かってきた。
後ろにはブーン、俺が避けたらブーンがやられる。

俺はブーンを守らなければならない、それが俺の仕事だ。
目をつむりダメージを軽減する為に九字を切る。

('A`)「臨兵闘者……」

川д川「……おしまいよ」

99名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:49:13 ID:GFlG7z5cO

呪術師の言葉とともに、俺の体は地面に打ち付けられた。

('A`)「!?」

( ^^ω)「よそ見してんじゃねえ!!」

川д川「……!」

隙をついたマルタスニムの攻撃を避けるために呪術師が俺から、俺達から距離を取る。

俺は無傷だった。
呪術師も驚いている。
俺だって声が出なかった。

(; ω )「く……っ……」

(;'A`)「ブーン!」

ブーンは俺を庇って倒れていた。
受けたのは実体を持つとはいえ呪いだ、外傷はない。

(;'A`)「おい、しっかりしろ! ……なんでこんなこと!」

(;^ω^)「僕の問題をドクオにばっかり、任せてられないお。
       ……それにね」

100名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:50:40 ID:GFlG7z5cO

マルタスニムと呪術師の武器がぶつかり合う音がする。
ブーンは痛みに顔をしかめながら、だけど、はっきり言った。

(;^ω^)「友達のピンチをほっとくなんて、出来ないお」

('A`)「とも、だち……」

『友達』。俺がずっと恋い焦がれていたもの。
ブーンは、友達。
こんな俺を、ブーンは友達と言ってくれるのか。

なら俺は、答えなきゃいけないじゃないか。
俺は、『鬱田ドクオ』は、ブーンを守る。

(#'A`)「……うおおおお! 俺が相手だッ!!」

ブーンをその場で休ませ、俺は霊符を構える。
父ちゃんがあらかじめ呪力を封じたそれらは、俺でも高い威力を出せるのだ。

川д川「……っ」

呪文を唱え、投げつける。
水を纏った霊符は呪術師の左手を捉えた。
それによって呪術師は僅かに怯む。

( ^^ω)「そこにすかさず一撃!!」

101名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:52:04 ID:GFlG7z5cO

マルタスニムが強力な打撃を仕掛ける。
それは簡単に躱されてしまったが、そのおかげで新たな隙が出来た。
今度は俺の番だ。

(#'A`)「くらえ!」

川д川「甘いわよ」

しかし俺の放った火の霊符は避けられる。
それでいい。
狙いは見事に決まった。

川д川「……っ!」

先程生えた木は、まだ呪術師の後ろに残っていた。
それに火が付き、よく燃えている。
赤い炎は女の髪を少しだけ燃やした。
その証拠に、何とも言えない嫌な匂いが鼻をついた。

川д川「この私に当てるなんて、やるわねぇ……。でも」

相手の反撃。

(;'A`)「……!」

102名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:54:01 ID:GFlG7z5cO

炎の玉が飛んできた。
俺は腕でそれを受ける。
父ちゃんが力を込めてくれた式服じゃなかったら怪我をしていたことは間違いない。
服も無傷で、俺は再び呪術師に目を向けようとした。

( ^^ω)「ドクオさん!」

川д川「残念」

(;'A`)「いつの間に……」

呪術師はマルタスニムを掻い潜って俺の前に立っていた。
そして俺の胸ぐらを掴み、冷たい声で言った。

川д川「邪魔者には罰が必要だわ。
    あなたは身体中を虫が這うような不快感を味わいながらのた打つのよぉ……!」

俺は目を閉じた。
避けられないならせめて、ダメージを軽減しなければならない。
だから空いた左手で九字を切ろうとした。

しかし、そこへ足音。

「ちょっと待ったぁ!」

川д川「……あら?」

103名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:55:15 ID:GFlG7z5cO

呪術師の動きを遮ったのは、高い女の声。
呪術師がそうしたように、俺とブーンも声の方へ顔を向けた。

ξ;゚⊿゚)ξ「貞子……あんた、何してんのよ!」

立っていたのは隣町の学校の制服を来た女だった。
走ってきたのだろう、肩で息をしている。
巻いた髪が風になびいていて、見ていて欝陶しい。

川д川「貴女の願いを邪魔する奴らの排除よぉ」

そう言いながら、呪術師はやっと俺を解放してくれた。

ξ゚⊿゚)ξ「私が許さないわ。貞子、今のあなたは私の指示どおりに動かなきゃならないはずよ」

(;'A`)「ど、どなたです……?」

( ^ω^)「ツン!」

俺が思わず洩らした疑問には何とか立ち上がったブーンが答えてくれた。
俺達の戦いに乱入してきたツンは呪術師に歩み寄る。
そして、ちらりと俺に目を向けた。

ξ゚⊿゚)ξ「あの人は?」

川д川「陰陽師。内藤君にかけてる呪いの邪魔をしてきたの」

104名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:56:26 ID:GFlG7z5cO

ξ゚⊿゚)ξ「そう。
      ……やっぱりね、こんなこと間違ってたのよ」

ツンは俺の方に歩いてくる。
ブーンの方をちら見して、それから俺の正面に立つ。

(;'A`)「あ、あの……」

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい。これは、本当は私が自力で解決すべき問題だった。
      あなたも危険な目にあったでしょう? 本当にごめんなさい」

('A`)「べ、別に気にしてねーよ……うん」

ツンがあまりに深く頭を下げるから、俺の方が申し訳ない気持ちになってしまう。
というより、俺は同年代の女の子と会話するのが苦手なのだ。
ついつい吃り気味になってしまう。
小さな子供やおばさんなら大丈夫なのだが。

俺に謝ったツンはブーンの前に立つ。
しかし目は合わせていない。

ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね、ブーン」

( ^ω^)「よく分からないけど、ツンが反省してるならいいお」

105名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:58:12 ID:GFlG7z5cO

ξ゚⊿゚)ξ「違う。全部私のせいなの。私が、もっと素直だったら……」

( ^ω^)「素直、だったら?」

ξ;*゚⊿゚)ξ「……! や、やっぱり何でもないわ!」

ツンは照れてブーンから顔を背けた。
なんとわかりやすい。
女の子とは全く縁のない俺にも、今のツンの気持ちははっきりわかる。

しかし、肝心のブーンは全くわかっていないようだ。

川д川「ツン」

ξ゚⊿゚)ξ「貞子。やっぱり契約は破棄するわ。人の心はね、そう簡単にどうにかしていいものじゃない。
      特に弱みに付け込んでなんて、まっとうな恋愛じゃないもの」

川д川「……そう。だけど途中までの報酬はよろしくお願いするわよ」

ξ゚⊿゚)ξ「ええ。バイト代が入ったらスイス銀行に振り込んでおくわ」

呪術師はツンとの会話を終え、歩きだした。

川д川「見習い陰陽師の君、いつか、またやり合うことがあったらよろしくね」

それだけ言って、貞子は俺に背を向けた。
長い髪を揺らしながら、黒い影は夕闇に紛れていった。

106名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 22:59:08 ID:GFlG7z5cO

('A`)「いったい何なんだ……」

今の俺に分かるのは、ツンが貞子に呪いを頼んだこと。
そして、ツンがブーンを好きらしいということ。

( ^^ω)「ニンゲンの考えなんて分からんホマ」

マルタスニムが器用に金棒を回転させながら言う。

同感だ。
好意と呪いがどう結び付くかなんて、本人にしか分からないだろう。
他人の考えなんて、考えても無駄なのだ。

それから俺は着替え、ブーンとツンは家が近いらしく一緒に帰っていった。
俺はそれを見送った。
隣で終始マルタスニムがニヤニヤしていたので一発殴っておいた。

107名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:00:20 ID:GFlG7z5cO



あの件から一週間後のテスト開け、俺は休日にもかかわらずブーンに呼び出されていた。
ちなみにテストの結果はまだ出ていないが、今までで最悪の出来であることは間違いないだろう。

( ^ω^)「ドクオ、こっちー」

会う場所はブーンの家だ。
生まれて初めてクラスメイトの家に行く俺は緊張していた。
コンビニで土産用の菓子を買ったが、こんな安物でいいのだろうか。

玄関の外で俺を待っていたブーンは、俺の姿を見付けて手を振ってきた。
すぐに俺を自分の部屋に通す。

しかし、そこにはなんと、先客がいた。

ξ゚⊿゚)ξ「こんにちは、ドクオ君」

ツンだ。なぜここに。
ブーンは何も言ってなかったはずだ。

( ^ω^)「ツンがドクオにちゃんと話をしたいって言うから呼んだんだお」

ブーンは三人分のオレンジジュースを用意しながら言った。
ところが、グラスの大きさが一つだけ違う。
少しなら気にしないが、一つだけ明らかにジョッキだ。

108名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:01:21 ID:GFlG7z5cO

ξ゚⊿゚)ξ「あ、ありがとう」

ツンが小さなグラスを受け取る。
俺もそれに倣った。
ブーンはジョッキを持ち上げ、一気に呷った。

ブーンの体形の理由が分かった気がする。

('A`)「で、その、話っていうのは……」

ξ゚⊿゚)ξ「私が貞子に呪いを頼んだ理由。
      あなたも関わったから、ちゃんと話しておくべきだと思ったの」

そしてツンは語り始めた。
まずは貞子との出会い。
ブーンはすでに聞いたのか、落ち着いた様子で俺の手土産のポテトチップスに手を付けている。

ξ゚⊿゚)ξ「ネット上のとあるサイトでしばらく恋愛相談して交流を深めてたら、あの人と会うことになったわ。
      そしてね、とんでもないことを言われたの」



川д川『なら心に隙間を作って、貴女がそれを埋めてあげればいい』

私の相談に彼女は言った。

109名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:02:23 ID:GFlG7z5cO

ξ゚⊿゚)ξ『どうやって』

川д川『簡単よ。相手を精神的に追い詰めるの、徹底的に。そこにすかさず、貴女が手を差し伸べればいい』

ξ;゚⊿゚)ξ『な……! そんな、ブーンを傷つけるようなこと……』

川д川『イヤなの? なら今のままうじうじと無駄な時を過ごせばいい。
    ……貴女は、本気で彼が好きだから私に相談したんじゃないの?』

ξ゚⊿゚)ξ『……』

私は小さな頃から口下手で、思ってもないことばかりが口から出てきてしまって。
好意というものを素直に伝えるのは苦手だった。
今も変わらず苦手なの。

だから、たいした努力さえせずに、私は呪術師の甘言に耳を貸してしまった。

困ったブーンに私が優しくすれば、ブーンが私を好きになってくれる。
ブーンが私に好きと言ってくれれば、あとは私が受け入れるだけ。
そう、簡単に上手くいくと思っていた。

だけど現実は違った。
そもそも私はブーンに会う機会があまりない。
だからブーンに手を差し伸べる機会なんてなかった。

メールや電話を使えばブーンの痛みが私のせいだってばれてしまう。
だから何も出来なかった。

110名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:03:39 ID:GFlG7z5cO



ξ゚⊿゚)ξ「そしてこの間、私は様子を見るためにブーンの家に向かったわ。
      そこに誰もいなかったから探してたら公園であなたたちを見つけた、ってわけ」

やっと繋がった。
好意が呪いになったのは、好意を得たかったからだったのだ。
まったく、女心とは面倒なものだ。

ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ君、陰陽師なんだっけ? ケガもさせちゃって……謝っても足りないわ。
      だからお詫びと言ってはなんだけど、何か困ったことがあったら私を頼ってね。力になるから」

('A`)「あ、はい。よろしくお願いします……」

ツンは本当に申し訳なさそうに言う。
俺はまだ緊張していた。
それもそうだ、ツンは。

(*'A`)(かわいい……)

生まれてこの方、女には一切縁がなかった。
それは家のせいでいじめられていたのもあるし、俺自身の外見がイマイチなのもある。

だから、俺は首を縦に振った。
ツンと縁が出来るのが嬉しかった。
あわよくば連絡先の交換くらいは出来るかもしれない。
ブーンが好きとか、俺には関係ない話だ。

111名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:04:31 ID:GFlG7z5cO

ξ゚⊿゚)ξ「それとね、あの件に関わったあなたには言っておこうと思うの」

('A`)「はい?」

ツンは急に声色を変えた。
真面目なものから、リラックスしたような話し方に。

(;^ω^)「え、言っちゃうの?」

ξ*゚⊿゚)ξ「だ、ダメ?」

(*^ω^)「照れちゃうお」

('A`)「なんだよ、もったいぶって……」

照れるブーンに若干腹が立つ。
ちくしょう、かわいい女の子と仲良く照れ合いやがって。

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、言うわ」

俺は姿勢を正した。
そうしなければいけない気がした。

112名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:05:28 ID:GFlG7z5cO

ξ*゚⊿゚)ξ「あ、あの事件がきっかけで、私とブーンは付き合うことになりました!」

('A`)

(*^ω^)「僕に彼女が出来ました!」

('A`)「……」

俺はうなだれた。
ツンかわいい、そう思った直後にこの仕打ち。
実に世知辛い世の中だ。
隣にマルタスニムがいたら笑われたに違いない。


( ^ω^)「ドクオ、また明日ー」

ξ゚⊿゚)ξ「さよなら」

ブーンとツンに見送られ、俺は帰路につく。
結局ツンとは連絡先を交換した。
最近、俺の携帯の電話帳が潤っている。

113名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:07:58 ID:GFlG7z5cO


ツンに話も聞き、今回は一件落着。
しかし不安がある。
あの貞子という呪術師、あいつにはまた会うような気がする。

デルタ、ビコーズ、ゼアフォー、そしてマルタスニム。
本来は優秀な式神達だ。
俺があいつらの力を引き出せないだけだ。

俺は、強くならなければいけない。
たとえ引かれたレールの上でも、人を乗せる列車はけして逸れてはいけない。
俺がそんな大層なものであるわけないが、これが俺の生きる道だ。
そう決めた。

優しいブーンに、かわいいツン。
俺が陰陽師だから出会えた二人。
俺は、守りたい。

たった二人の友達を守るために、俺は一人前の陰陽師を目指すんだ。
たとえこの先、どんな困難に阻まれようとも――



.

114名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:09:36 ID:GFlG7z5cO
以上です。

明日もう一つ投下予定です。

115名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:30:04 ID:h03QsBhk0
乙!
面白かったよ!

116名も無きAAのようです:2012/11/24(土) 23:51:33 ID:q16fh64Y0
おもすろすおつ

117名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 04:57:13 ID:vBjxy5CsO
おつ
楽しみだ

118名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 20:10:22 ID:3LEc4/iw0
遅くなりましたが絵を描いたものです
絵もタイトルも使っていただきありがとうございました!
山村家次期当主さんを置いていきます
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_327.jpg

119名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 20:17:09 ID:3LEc4/iw0
ごめんなさい大事なことを書き忘れました おつです!

120名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:52:17 ID:DWr2LJjUO
今から投下します。

>>118
やったああああ!美しい貞子をありがとうございます!
呪ってください!

121名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:54:44 ID:DWr2LJjUO


桜舞う大通り、刀を携えた少女が一人。
歳は数えで十五であるが、知る人の間では腕が立つと評判だ。
桃色の着物に赤い帯、艶のある黒髪をなびかせて、少女はとある飯屋の前で立ち止まった。

そして中に向かって呼び掛ける。
静かな店内に澄んだ声が響き渡る。

lw´‐ _‐ノv「旦那ー、握り飯を一つおくれー」

呼び掛けに応じて出て来たのは一人の男。
頭に手拭い、腰には前掛けをした若い男だ。

(´・ω・`)「シューちゃんかい。残念だが今日は握り飯は出せないんだ」

lw´‐ _‐ノv「どういうこと?」

シューは店の前の腰掛け椅子に座って尋ねる。
桜の花弁がひらり、シューの頭に乗った。

(´・ω・`)「実は米が急に値上がりしてね。僕達みたいな一般庶民や飯屋の店主は皆困っているんだよ」

lw´‐ _‐ノv「米が急に値上がり? 藩主様は一体何をしてらっしゃるんだ!」

シューは立ち上がり、刀を左手に持つ。

122名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:56:18 ID:DWr2LJjUO

lw´‐ _‐ノv「ちょっくら藩主様を懲らしめてくる」

(;´・ω・`)「ちょっと、シューちゃん落ち着いて! 悪いのは藩主様じゃないんだよ!」

lw´‐ _‐ノv「なら誰のせいだって言うんだい?」

シューは席に座り、店主を見上げた。
店主の頭に花弁三枚、妙に気になったが面白いので指摘はしない。

(´・ω・`)「豪商の杉浦さ。米の値段を釣り上げて、僕らから金を搾り取ろうとしているんだ」

lw´‐ _‐ノv「そうか、なら」

シューは再び立ち上がる。
来た方とは反対の道の先を見据えて言った。

lw´‐ _‐ノv「このシューが、その悪徳商人をとっちめてやろうじゃないか」

そのまま歩きだす。
心地よい風が頬を掠めてゆく、暖かい日差しが照らしてくれる。
ああ、今日は悪を懲らしめるには最高の日ではないか。

(;´・ω・`)「シューちゃん、待って!」

lw´‐ _‐ノv「ショボンの旦那、止めてくれるな。私にはどうしても取り戻したいものがあるんだ」

123名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:57:33 ID:DWr2LJjUO

(´・ω・`)「いや、そうじゃなくて」

lw´‐ _‐ノv「ん?」

シューは振り返る。
ショボンは元から垂れ下がった眉をいつも以上に下げて言った。

(´・ω・`)「杉浦の屋敷は逆方向だよ」

lw´‐ _‐ノv

lw´‐ _‐ノv「……そうかい」

シューは駆け足で元来た道を戻っていった。

.

124名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 22:59:08 ID:DWr2LJjUO




lw´‐ _‐ノv愛するものの為なら何だってするようです


ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/3.jpg



.

125名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:00:42 ID:DWr2LJjUO


食事も忘れてショボンの元を去ってしまったシューは後悔していた。
腹が減っていたのだ。

lw´‐ _‐ノv「杉浦め、今にみてろ……」

刀を無理矢理帯にねじ込み、両の手で腹を押さえながら市場へ向かう。
そこにはシューの馴染みの行商人がいるはずだ。

lw´‐ _‐ノv「……みっけ」

シューは手で腹を押さえるのをやめた。
その代わりに両手を前に突き出し、走る。

lw´‐ _‐ノv「どーん」

(;´_ゝ`)「おわっ!?」

思いっきり突き飛ばしたのは背の高い、青色の着物の男。
荷物整理をしていた彼は、盛大に転んだ。
しかしシューとしては別に恨みがあるわけでもない、ただ脅かしたかっただけの悪戯である。

126名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:02:55 ID:DWr2LJjUO

(;´_ゝ`)「あ、あぁ……シューね。何の用だ?」

男は立ち上がりながら言った。

lw´‐ _‐ノv「兄者は相変わらずドジだな。可愛くないぞ。
       あと米料理くれ」

( ´_ゝ`)「お前……人を突き飛ばしといて酷いな……。
       あと米料理は出せん。鯵の干物ならあるが」

lw´‐ _‐ノv「ならそれでいいや。寄越せ」

( ´_ゝ`)「態度でかいぞ……。
       弟者ー、鯵の干物くれー」

兄者は大声で少し離れたところにいる男を呼ぶ。
彼はすぐにやって来た。

(´<_` )「はいよー、鯵ねー……あれ、何でシューがいるんだ?」

兄者そっくりの顔に緑の着物の男は言った。
シューは男から素早く干物を掻っ払い、食べ始める。

127名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:04:28 ID:DWr2LJjUO

lw´‐ _‐ノv「いやね、ショボンの旦那のとこに食事に行ったんだけどさ」

骨も皮も関係ない、どんどん食べてゆく。

lw´‐ _‐ノv「今、豪商の杉浦のせいで米が高騰して皆困ってるみたいでさ、こりゃ私の出番じゃないかと」

(´<_` )「だから何でうちに来た」

lw´‐ _‐ノv「勢い良く飛び出した私は昼飯食いそびれちゃってね、たかりに来たのさ」

シューはとうとう干物を平らげた。
残ったのは頭と背骨だけである。

( ´_ゝ`)「まあシューには恩があるし、いいかと」

(´<_`;)「恩があるのは事実だ。妹者誘拐の件は感謝しているし、出来る限りの協力もするさ。
       しかし、しかしだな……シューはちょっと遠慮というものを知るべきじゃないか?」

lw´‐ _‐ノv「毎日ご馳走になってるもんね。今日もごちそうさまでした」

シューは手の甲で口元を拭った。

128名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:05:47 ID:DWr2LJjUO

( ´_ゝ`)「シュー、俺ら行商人の為にも頑張ってくれや」

lw´‐ _‐ノv「おうよ。晩飯は白米の炊き込みご飯な」

( ´_ゝ`)「それは無理」

(´<_` )「……うん、今更何言っても無駄だな」

人が良いのか馬鹿なのかよく分からない兄と傍若無人な恩人に呆れ果てる弟者。

129名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:06:50 ID:DWr2LJjUO

(´<_` )(杉浦……死ぬんじゃないか)

そう思って仕事を再開しようとしたところに、シューの声。

lw´‐ _‐ノv「杉浦のとこに乗り込む前に一つ譲って欲しいものがある」

( ´_ゝ`)「何だ?」

(´<_` )「金さえ払うなら何でも売るぞ」

lw´‐ _‐ノv「いやね、私が欲しいのは――」

シューが口にしたものの名前を聞いて弟者は悟った。

(´<_` )(あー、杉浦死ぬわ)

少しだけ腹を満たし、えげつないものを受け取ったシューは、意気揚々と目的地へ向かうのだった。

130名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:08:17 ID:DWr2LJjUO


立派な門、武家屋敷のような佇まいの邸宅。
そここそが杉浦の屋敷であった。

lw´‐ _‐ノv「たのもー、杉浦さんのお宅ですよねー」

がんがんと扉を叩く。
青空の下、周囲を気にせず騒音を発生させる少女。
通行人たちは奇異の目を向ける。

少しして、やっと門を開けたのは刀を持った男だった。

( ^Д^)「何だガキがこんな時間に」

シューを見下ろして男は言った。
だらしない着物、男は浪人らしい。

lw´‐ _‐ノv「お前んとこのご主人様に話がある。米の値段釣り上げんなって」

( ^Д^)「あー……杉浦さんなら今出払ってる。店の方だ」

lw´‐ _‐ノv「なんだと……」

( ^Д^)「待つなら茶ぐらい出すが、どうする」

131名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:09:24 ID:DWr2LJjUO

シューは考える。
さっさと杉浦を始末して美味い米を食いたい。
しかし店と言ったら人がいる、そんな場所で争うのは自分に不利であろう。

lw´‐ _‐ノv「菓子も付けてくれ」

(;^Д^)「図々しいな、お前」

プギャーと名乗った男はシューを屋敷に上げる。
途中ですれ違った侍やら女中やらにシューを客人と紹介し、客間に通した。

( ^Д^)「待ってろ。今女中に話してくる」

そう言って、プギャーは部屋から出ていった。

lw´‐ _‐ノv「広いな、さすが豪商」

客間は広かった。
綺麗な畳が敷かれていて、立派な掛け軸や生け花が部屋に彩りを与えている。

lw´‐ _‐ノv「……くさい、な」

132名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:11:14 ID:DWr2LJjUO

シューが言った瞬間、シューが座っていた座布団は真っ二つになっていた。

(;^Д^)「ちっ……」

一瞬で立ち上がりプギャーの攻撃を躱したシューは、ゆっくりと刀を抜いた。

lw´‐ _‐ノv「あのねぇ、そんな忍び足じゃあ私を出し抜けないよ?」

( ^Д^)「気付いてたのか」

lw´‐ _‐ノv「そりゃね。気配消せてないし」

一度部屋を退出したプギャーは、実はこっそりと部屋に戻って来ていたのだ。
理由はふいをついてシューを始末するため。
しかし言われるまで、シューには何故自分が狙われたのか分からなかった。

( ^Д^)「主人の不利益を全て排除するのが、俺ら雇われ武士の仕事なんでなぁ!」

プギャーは刀を振るう。
横薙ぎの、精確だが重い一撃。
シューはひらりとそれを回避し、プギャーの右手を狙った。

133名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:12:28 ID:DWr2LJjUO

lw´‐ _‐ノv「威力はなかなかだね。狙いもいい」

(;^Д^)「なっ!?」

今度はシューが刀を振るった。
両手でしっかり構えてプギャーの右手に叩きつけた。

lw´‐ _‐ノv「それ、いい刀だね。高かったでしょ?」

( ^Д^)「お前……何者だ……?」

痺れる右手を擦りながらプギャーが尋ねる。
シューはプギャーに叩きつけた刀の峰を撫でながら言った。

lw´‐ _‐ノv「ただの米を愛する侍だよ」

背を向けて立ち去るシュー。
しかしプギャーはそれを止めた。

134名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:13:27 ID:DWr2LJjUO

( ^Д^)「待て、外は敵でいっぱいだぞ。俺が召集をかけたからな」

lw´‐ _‐ノv「そうかい」

(;^Д^)「おいおい、命が惜しくないのか?」

lw´‐ _‐ノv「命は誰だって惜しいよ。だけどね、私は死なないよ」

( ^Д^)「……そうか」

プギャーの手の痺れは徐々に引いていた。
しかし、それでもシューにもう一度立ち向かおうという気にはならない。
本能がシューには絶対に勝てないと告げていた。
それに、あまりしつこくするのは彼なりの武士道にそぐわないのだ。

135名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:14:35 ID:DWr2LJjUO


lw´‐ _‐ノv「ほいやっ」

lw´‐ _‐ノv「そーいっ」

lw´‐ _‐ノv「うらぁっ」

lw´‐ _‐ノv「おりゃっ」


lw´‐ _‐ノv「……こんなもんか」

数刻の間、シューは屋敷内で戦闘を繰り広げていた。
されど敵は烏合の衆とも言えるもので、シューは峰打ちだけで向かう全てを葬っていた。

屋内も庭も、泣きながら謝る情けない男達や気絶した者、放心状態の奴らでいっぱいだ。
空も少しずつ赤が交じり始めている。
烏はもうお家に帰る時間だった。

lw´‐ _‐ノv「腹減ったのに……お出ましか」

136名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:15:49 ID:DWr2LJjUO

じゃりじゃりと砂を踏む音。
開きっぱなしの門からやって来たのは大男。
黒い羽織に目の傷、大きな威圧感を持った男だった。
こいつが杉浦だ、シューの直感が告げている。

( ФωФ)「これはこれは……君が一人でやったであるか?」

lw´‐ _‐ノv「うん」

( ФωФ)「そうであるか。……君の要求は?」

lw´‐ _‐ノv「米が庶民まで回るようにしろ」

( ФωФ)「それは出来ない相談であるな」

杉浦は小刀をシューに向ける。

( ФωФ)「我輩の邪魔をしようと言う君には、死んでもらおう」

一瞬で間合いを詰める。
しかし、シューは刀を抜かなかった。
鞘で小刀を受け止め、そのまま流す。

137名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:17:33 ID:DWr2LJjUO

lw´‐ _‐ノv「お前が杉浦なら話は早い。お前には死んでもらう」

シューは帯に挟んでいた印籠を取り出した。

lw´‐ _‐ノv「さあ要求を飲め。さもなければお前は苦しい思いをすることになるぞ」

( ФωФ)「それはなんであるか?」

lw´‐ _‐ノv「毒きのこから採取した猛毒だ。暗殺にも使われるような、ね」

( ФωФ)「それを聞いて、我輩が飲むとでも?」

杉浦は笑いを堪えながら言う。
馬鹿だ、目の前の小娘はただの大馬鹿者だ。
毒なら飲まなければいい、それだけのこと。

lw´‐ _‐ノv「……そうやって、油断しちゃうんだよなぁ」

( ФωФ)「……っ!?」

シューは足元にあった小石を蹴り上げた。
それは見事杉浦の顔に当たり、彼を怯ませる。

138名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:18:33 ID:DWr2LJjUO

lw´‐ _‐ノv「圧倒的な力があればね、食べ物に毒を仕込むなんて面倒なことをしなくていいんだよ」

背後に回ったシューは杉浦を蹴飛ばして膝を着かせる。
右手に持った刀の刃を杉浦の首に当て、左手の毒を杉浦の口に近付けた。

lw´‐ _‐ノv「だから私のお願い、聞いて」

(;ФωФ)

背後に立つ少女の恐ろしさに気付いた杉浦は、力なく首を縦に振った。

.

139名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:19:43 ID:DWr2LJjUO


人で賑わう大通り、その一角の飯屋の前の椅子。
頭に付いた花弁を払いながら鼻歌を歌うのは一人の少女。
草履を放って解放感に浸る。

lw´*‐ _‐ノv「ふんふーん、ふふんふー」

(´・ω・`)「ご機嫌だね」

ショボンは注文された握り飯をシューに差し出した。

lw´*‐ _‐ノv「だって久しぶりに旦那の握り飯を食えるんだもの。そりゃあ上機嫌になるさ!」

(*´・ω・`)「そこまで言われると照れるなぁ」

ショボンもつられて上機嫌になる。
そして、握り飯を頬張り始めたシューに聞いてみることにした。

(´・ω・`)「ところで、一体どうやって杉浦をとっちめたんだい?」

140名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:20:39 ID:DWr2LJjUO

lw´‐ _‐ノv「んー、私の自慢の剣技見せてやったら一瞬で降参したよ。その勢いで足まで舐めてくれたよ」

(;´・ω・`)「どこまでが本当でどこからが嘘なのかな……」

lw´‐ _‐ノv「全部本当ですー」

ショボンが得意とするのは塩握り。
有名な産地から安価で仕入れた塩を地元の米に適度に振ったものだ。
簡素な素材だからこそ、よりおいしく感じられるのだ。

lw´‐ _‐ノv「あ、兄者と弟者だ」

( ´_ゝ`)「よう、元気かー?」

(´<_` )「こんにちは」

(´・ω・`)「いらっしゃい。いつも塩をありがとね」

通りを歩いていた兄弟はシューの声を聞いて立ち止まる。
各地を回る彼らはまだしばらくは、この町にいるという。

141名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:21:40 ID:DWr2LJjUO

(´<_` )「そういや聞いたぞ。毒、結局使わなかったんだな」

lw´‐ _‐ノv「まぁね」

( ´_ゝ`)「じゃあ何で買った?」

lw´‐ _‐ノv「もしあいつが降参しなかったら口に直接突っ込んで毒殺しようと思ったから。
       この刀、あんまり切れ味良くないし」

シューは傍らの刀を撫でた。
父から譲り受けた刀はシューの宝物だ。

lw´‐ _‐ノv「二人も食べてく? 旦那の握り飯は町で一番だよ」

( ´_ゝ`)「それは嬉しいんだが、な」

(´<_` )「今から少し商談があるから、またの機会に」

兄弟は軽く挨拶をして、立ち去った。

142名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:23:04 ID:DWr2LJjUO

(´・ω・`)「シューちゃん、今日はこれからどうするんだい?」

lw´‐ _‐ノv「どうしようかな」

ショボンの問いに、シューは考える。

見上げた空はひたすら青い。
ひらりひらり、桜は舞う。
ぽかぽか暖かい、穏やかな春の日。

シューは春が大好きだ、暖かい日が大好きだ。
こんな日にすることといえば。

lw´‐ _‐ノv「今日は……花見と洒落込もうかね」

シューはにっこり微笑んで、食べ掛けの握り飯に口をつけた。




――ああ本当に、この味の為なら私は何だってするよ。



.

143名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:25:00 ID:DWr2LJjUO
以上です。


読んでくださった方、支援や感想くださった方、素晴らしい絵を描いてくださった絵師の方々、そして企画者さん、本当にありがとうございました!
どの絵も一目惚れだったので書いていてとても楽しかったです。
次回があったらまた参加したいです!

144名も無きAAのようです:2012/11/25(日) 23:46:23 ID:DV5XGGwc0
おっつおつ
ここまで米好きのシューは久々に見た気がするな

145名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 00:36:57 ID:pMt1lyFs0
ほかほかご飯の塩の効いたおにぎりが食べたくなった…乙…

146名も無きAAのようです:2012/11/26(月) 12:46:42 ID:5VLzMTco0
>>124
この絵を描いた者ですー!
シュー大好きなので
こんな素敵なお話を書いていただいて感謝感激です!

遅くなりましたが乙です!


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