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( ^ν^)二日間のようです
46
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:32:35 ID:tM5yJ2IIO
「こうして全て終わってみれば、あれは俺の人生において最も重要な二日間だったのかもな」
男は少女の手を取って、呟いた。
.
47
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:34:46 ID:tM5yJ2IIO
以上です。
期間中にもう一つここに投下するかもしれません。
48
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:35:55 ID:dtQYouiUO
乙乙
49
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:36:43 ID:HT9ODPIA0
乙!
面白かったわ
50
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:38:00 ID:fvDr.HqE0
面白かった!
やはりモララーはクズ役が似合うな
51
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:41:50 ID:fG7VYTq20
乙〜
次のも待ってるよ〜
52
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:49:18 ID:HCCqPRRs0
乙!俺はロリコンじゃないけどデレちゃんかわいい
53
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 21:55:52 ID:PWZpIGFM0
面白かった乙!
この絵の話読みたかったんだよ
54
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 22:03:33 ID:eSbIRWEU0
乙乙
俺ペドフィリアじゃないけど幼女達かわいい
55
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 22:03:35 ID:i4hJ2uRs0
乙!続きあるんですか!tktk
56
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 22:40:24 ID:RsCnxNFY0
大企業の娘婿に…?
57
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 22:49:51 ID:B5ReN3MU0
面白かった!
58
:
名も無きAAのようです
:2012/11/20(火) 23:56:50 ID:dyFbBbEY0
乙!
ニュッ君カッコイイ!でもデレといたらヒキニート!
59
:
名も無きAAのようです
:2012/11/21(水) 08:15:59 ID:nxOc.QHcO
期待しちゃうぜ
おつです
60
:
名も無きAAのようです
:2012/11/22(木) 11:21:03 ID:EBSmontU0
乙、奇妙な面白さ
61
:
名も無きAAのようです
:2012/11/22(木) 18:55:44 ID:uUGc7SeUO
乙乙!
ニュッが格好いいわ幼女可愛いわモララーがゲスいわで、面白かった
クーの可愛さが異常
自分の絵で、こんな面白い話を書いてもらえたのが嬉しかったので
他の方々に倣って感謝と喜びを絵に代えました
http://imepic.jp/20121122/671780
>>23
のところ 擬人化
本当に乙! ありがとう!
62
:
名も無きAAのようです
:2012/11/22(木) 19:44:49 ID:g.hjOCtM0
乙! 幼女かわいいニュッ君よくやった
>>61
すげえええうめえええ! デレおめめパッチリだな
63
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 07:51:57 ID:zWK4w0vw0
>>61
あーこれは大きくなったクーと結婚するしかないわー
64
:
名も無きAAのようです
:2012/11/23(金) 22:07:00 ID:sJjafaDEO
>>61
うわああああ!幼女コンビがすごく可愛い……!
素敵な漫画ありがとうございます。とても嬉しいです!
しっかり保存しました!
65
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:08:09 ID:GFlG7z5cO
俺は鬱田ドクオ。
どこにでもいる平凡な高校二年生。
ちょっと変わったことと言えば友達がいないことと――
J( 'ー`)し「ドクオ、お客さん」
(;'A`)「うへぇ……こんな時期にかよ……」
J( 'ー`)し「文句言わないの。だってあなたは――」
――陰陽師だということぐらいである。
('A`)陰陽師のようです
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/175.jpg
.
66
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:09:42 ID:GFlG7z5cO
定期テストまで一週間を切ったこの時期。
勉強が苦手、いや、得意でない俺は非常に忙しい。
それが客だなんて、サボりたい。
しかしサボった後には確実に母ちゃんの鉄拳が待っているからサボれない。
ジレンマだ。
俺は逃げられない。
母ちゃんからも、この七面倒臭い家業からも。
だから俺は運命という言葉が嫌いだ。
あらかじめ敷かれたレールの上を走るだけの人生なんてまっぴらごめん。
しかし悲しいかな、取り柄の一つも持たない今の俺はおとなしく母ちゃんの言う通りにするほか道はない。
嫌々向かった応接室には見知った顔があった。
('A`)「内藤?」
(;^ω^)「おお!? ここ、ドクオん家だったのかお……」
('A`)「鬱田なんて画数の多い苗字、俺くらいしかいないだろ」
( ^ω^)「それもそうかお」
67
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:10:40 ID:GFlG7z5cO
見知った顔というのは内藤ホライゾン、クラスメイトだ。
中学時代からの知り合いだが友人ではない。
俺と違って、ふくよかで朗らかな内藤はいつもクラスの中心にいるような男だ。
('A`)「で、何の用だ?」
俺は内藤の正面の席に腰を落ち着けて訊ねた。
俺の家系は平安時代から続く場末陰陽師の家系で、その血を継いだ爺ちゃんがこの稼業を始めた。
『鬱田陰陽研究所』
怪しい看板を掲げた家に来る客はやはり怪しい奴らばかり。
オカルト狂やらメンヘラやらヤのつくお仕事の奴らやらどっかの大金持ちやら。
だから内藤のような、一見普通の男子高校生が来るのは非常に珍しいことなのだ。
( ^ω^)「ドクオに話していいのかお?」
('A`)「ああ。父ちゃんがいない時は俺が対応することになってるから」
ちなみに父ちゃんは今、出張でどっかの山奥の村に行っている。
メールの添付写真を見た限りではミステリーに出てきそうな村だった。
実にヤバそうな案件だ。
68
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:11:45 ID:GFlG7z5cO
( ^ω^)「なら遠慮なく」
内藤は母ちゃんが出した麦茶を一気飲みし、コップを乱暴に置いて話し始めた。
( ^ω^)「実は二週間くらい前から、身体中が刺されてるみたいに痛くなることがあるんだお」
('A`)「病気とかじゃなくて?」
( ^ω^)「病院にも行ったお。一応頭の方にも。
でも何でもなかったから困り果てて、ネットで偶然ここを知って来てみたんだお」
('A`)「ん?」
はて、今、内藤は何て言った。
とんでもないことを言った気がする。
('A`)「ネット、とか言ったか?」
( ^ω^)「言ったお。
『家の近所に変な建物があるwww』とかいって、写真付きでさらされてたお」
誰だ、その不届き者は。
確かに家は無理に事務所と民家を一体化させたようなものだから、住宅街では異質かもしれない。
だが一番おかしいのは、あくまで研究所などという言葉の書かれている看板だ。
建物は常識の範囲内に収まっているはずだ。
たとえ壁どころか屋根まで真っ黄色だとしても、建物が変というのはやめろ。
69
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:12:51 ID:GFlG7z5cO
――おっと、そろそろ話を戻そう。
犯人が誰か分かったら呪ってやる。
('A`)「誰かに恨みを買った覚えは?」
身体中に痛みを感じるというなら呪いで間違いないだろう。
現に内藤からは嫌な雰囲気みたいなものを感じる。
ここで内藤がズバリ人物名を挙げてくれると後は楽勝なのだが。
(;^ω^)「うーん……ないお……」
('A`)「全く? お前、成績は?」
( ^ω^)「体育は得意だけど、それ以外は非常にヤバいお。一度くらい羨ましがられたいお」
('A`)「体育……。お前にスポーツで嫉妬しそうな奴は?」
( ^ω^)「部活も入ってないし、たぶんいないお」
これは困った。
呪い前提で考えるなら、内藤にこんな面倒な嫌がらせをする程の奴が一人くらい挙がってもいいはずだが。
しかし恨みを持つ理由で、俺は一つだけ挙げ忘れたものがあることに気付いた。
70
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:14:26 ID:GFlG7z5cO
('A`)「なら恋愛関係のトラブルは? 誰かふったとか、誰かの彼女に手を出したとか」
( ^ω^)「まさか! 今の今まで彼女どころか告白すらされたことない僕には関係ないお」
('A`)「それはまた……困った」
恋愛絡みでもないらしい。
相手の事情が分からなければ対応のしようもない。
呪いがかけられる理由が分かれば、それに合った呪いの剥ぎ取り方というものを使える。
しかし理由が分からない場合、呪いの根源を叩くしかないのだ。
そして呪いの根源を探し出すのには、それなりの時間が掛かることを覚悟してもらわなければならない。
('A`)「そうなると今の俺には手出し出来ない」
(;^ω^)「ええ!?」
( ;ω;)「ぼ、僕……これからもあの痛いのを我慢しなきゃならないのかお……?」
(;'A`)「泣くなよ……」
突然泣き始める内藤、どうしていいか分からない俺。
余程痛いのか、内藤は本当に辛そうに泣いている。
71
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:15:30 ID:GFlG7z5cO
しかし、そんな強力な呪いの心当たりが全くないというのは不自然だ。
以前俺が面倒な事件に巻き込まれた時も、呪いが強力で犯人候補がすぐに分かったから後は力比べだけだった。
今の状況よりはそっちの方がまだマシだ。
目の前で滝のように涙を流す内藤を憐れに思った俺は、面倒だが早く手を打つことにする。
('A`)「まあ内藤、泣き止め。やれるだけはやるから」
( ;ω;)「お?」
机の下に置いてあったティッシュを箱ごと渡す。
内藤は涙を拭いて鼻をかんでいる。
( ^ω^)「やれるだけって、どうするんだお?」
('A`)「まず俺の式神を貸してやる。あいつらは守りに長けてるからな」
(*^ω^)「式神!?」
内藤は顔を綻ばせて嬉しそうに言う。
今からお前の為に俺は身を削るというのに、なんて奴だ。
しかしそんなの内藤に分かるはずもないので黙っておく。
('A`)「ちょっと待ってろ……」
72
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:16:51 ID:GFlG7z5cO
俺は上着のポケットをあさる。
左側のポケットの奥深くに二枚、見付けた。
ぐちゃぐちゃになった人の形をした紙切れ二枚に、内藤は興奮しているようだった。
(*^ω^)「陰陽師って、やっぱりカッコいい式神を従えたりしてるんだおね! 早く見せてくれお!」
('A`)「はいはい、っと」
俺は二枚の人形を持ち、簡単な呪文を唱える。
紙切れは一瞬発光して形を変えた。
( ∵) ( ∴)
手のひらに乗るくらいの生き物が二体、机の上に着地する。
(;゚ω゚)「ま、マジかお!?」
内藤は目を見開いている。
そりゃあ普通の人間は驚くだろう。
現代科学を完全に無視した出来事が目の前で起きたのだから。
73
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:17:46 ID:GFlG7z5cO
('A`)「ビコーズとゼアフォー、こいつらが今からお前を守ってくれる」
( ∵) ( ∴)
ビコーズとゼアフォーは無言で内藤の肩に乗った。
俺から見て左にビコーズ、右にゼアフォー。
こうしてみると内藤の方が陰陽師みたいだ。
(;^ω^)「お、お持ち帰りしていいのかお?」
('A`)「もちろん。その為に呼び出したんだ」
ビコーズとゼアフォーも頷く。
それから俺は内藤に注意点とこれからのことを話した。
ビコーズとゼアフォーは内藤と俺以外の人間の前では姿を隠すこと。
あまりに強力な呪いはビコーズとゼアフォーにも防ぎきれないかもしれないこと。
後で呪術師の居場所を探ってみること。
そして、俺が陰陽師であることを他言しないこと。
74
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:18:43 ID:GFlG7z5cO
( ^ω^)「どうして?」
('A`)「言わせんな」
理由は言わずもがな。
小学生時代に俺がクラスのつま弾きになった理由が、まさにそれだからだ。
内藤は知らないかもしれないが。
( ^ω^)「そうだ、ドクオ」
('A`)「ん?」
そろそろ話を切り上げようとする俺に内藤が言った。
( ^ω^)「僕のことはブーンって呼んでくれると嬉しいお」
(;^ω^)「『内藤』って呼ばれると先生と話してるみたいでちょっとイヤなんだお」
('A`)「……分かった」
俺が誰かをあだ名で呼ぶなんて初めてだ。
なんだか気恥ずかしい。
75
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:18:55 ID:y72MjMr20
しえん
76
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:19:40 ID:GFlG7z5cO
('A`)「んー、ごほん」
(;'A`)「ぶ、ブーン……」
( ^ω^)「そうそう、その方が落ち着くお!」
最後に、いざという時の為という名目でメールアドレスの交換をした。
俺の携帯電話の、家族以外で初めての登録。
本当は可愛い女の子だったらなお良かったが、まあブーンでも嬉しいことに変わりはない。
( ^ω^)「んじゃ、また明日ー」
('A`)「あ、ああ。また明日!」
こんな挨拶も初めて。
自分の声が上ずっていて気持ち悪い。
( ∵) ( ∴)
ひとまずブーンのことは両肩の二体の式神に任せよう。
俺はブーンの見送りを終えるとすぐに自室に戻った。
77
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:20:40 ID:GFlG7z5cO
机の上には勉強道具が出しっぱなしだ。
本当なら今すぐそれらに手を付けるべきなのだが、急用が出来てしまった。
俺は机の一番下の引き出しにしまった木箱を取り出し、その中身を見る。
一枚の人形以外は元のようにしまい、先程とは違う呪文を唱える。
( "ゞ)「はいよ。何の御用だい?」
俺より背の高い影が光から現れた。
('A`)「探知だ。とある男に呪いをかけている奴を探しだしてほしい」
俺はブーンについて説明する。
聞き終わったデルタは面倒くさそうな様子だ。
( "ゞ)「毎晩泣くほど痛いのに心当たりがないとはまぁ……」
('A`)「これも仕事だ。頼むよ」
( "ゞ)「分かってるって。行ってくるよ」
デルタは空気に溶けるように姿を消した。
78
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:21:42 ID:GFlG7z5cO
ビコーズとゼアフォーは二体でセット、守りを得意とする。
地獄の番犬よろしく守護すべき対象の前方と背中を守る。
ただし非常に無口、というよりも俺は一度も声を聞いたことがないような奴らだ。
デルタはといえば、万能な奴だ。
器用ともいうが、何でもこなす。
そして、適度に喋る奴だ。
俺の話し相手として一番の適役なのだ。
しかし式神の実体化には術者の精神力と体力を消費する。
同時に三体の式神を何十時間も使役し続けるのは見習い陰陽師には荷が重い。
だから本来なら守りなんて気を使ってやる義理はなかったのだが、今回は特別だ。
(*'A`)「……」
クラスメイトに泣かれるのはなんとも言えない。
しかもアドレス交換なんかしてもらっちゃった。
デルタの追加は出血大サービスだ。
俺は新しく増えたメールアドレスと電話番号を見てニヤニヤする。
傍から見たら不審者だ。
そして、精神力と体力を大量消費している俺は今、猛烈に眠い。
テストの結果はもう分かり切っている。
俺は素直にこの眠気に身を委ねることにした。
79
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:22:59 ID:GFlG7z5cO
翌日、俺は目覚まし時計でも爽やかな鳥の声でも、ましてや母ちゃんの怒鳴り声でもないものによって目を覚ました。
( "ゞ)「ドクオ、起きろ」
('A`)「んあ?」
俺の頭のすぐ近く、デルタが立っていた。
('A`)「何だよ……?」
取り敢えず布団から起き上がる。
今日は月曜日だが、起きるにはまだ早い時間だ。
( "ゞ)「呪いの出所の探知が出来た。だが厄介なことになった」
('A`)「やけに仕事早いな。……で、厄介なことって?」
( "ゞ)「相手はプロの呪術師だった」
(;'A`)「な、なんだと!?」
80
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:23:57 ID:GFlG7z5cO
呪いの術者には二種類いる。
一つは素人。
恨みを持つ相手に自分なりの方法で呪いをかけることを選んだ人間だ。
恨みの力そのものは強いが普通はコントロールすらろくに出来ていないから、
鬼や妖の類いを呼び出さない限りは対処も難しくない。
二つ目は玄人。
一般人から依頼を請け負って呪いをかける、非常に迷惑な奴らだ。
奴らは呪術に関する知識に優れ、陰陽師、しかも見習いである俺が太刀打ち出来る相手ではない。
今回は二つ目、つまり、より厄介だということだ。
( "ゞ)「どうする?」
父ちゃんが帰ってくるのは今度の日曜日だ。
('A`)「ビコーズとゼアフォーでは……」
( "ゞ)「今のドクオでは三日と持たないだろうな」
('A`)「だよな……」
困った。非常に困ったことになった。
81
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:25:10 ID:GFlG7z5cO
( "ゞ)「ドクオの為を思うなら、俺はここでこの件に関わるのを止めるべきだ」
('A`)「……」
ブーンは、昨日も苦痛を味わった可能性がある。
いくらビコーズとゼアフォーが守りの得意な式神とはいえ、所詮術者は俺だ。
俺の力ではあいつらの力を完璧に引き出すことは出来ない。
しかし、だからといってブーンを放っておいていいのか。
もし俺が格好よくあいつのピンチを救ったら、もしかして。
('A`)「俺は、やる」
せっかく、人生で初めて巡ってきた友達作りのチャンスなんだ。
( "ゞ)「そうか、お前なら言うと思った」
デルタはいつもと同じような態度だ。
式神というのは表情を見ても気持ちが伝わってこない。
82
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:26:58 ID:GFlG7z5cO
( "ゞ)「いつやる?」
('A`)「出来れば今夜までに。ブーンに話してからだ」
( "ゞ)「分かった。俺は呪術師の見張りにつこう」
('A`)「ああ、よろしく頼む」
デルタは姿を消した。
呪術師のところに行ったようだ。
それにしても。
('A`)「デルタが慎重になる程優秀な呪術師が、どうして簡単に居場所をキャッチされてんだ?」
奴らご自慢の呪術を使えば居場所を隠すくらい簡単なはずだ。
しかし、それをしていない。
余程の馬鹿か、あるいは――
('A`)「……何か策を練らないとな」
とにもかくにも、俺は呪術師退治の算段を調えることにした。
83
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:28:06 ID:GFlG7z5cO
朝早く登校して、俺はブーンを待った。
( ^ω^)「それでね、犯人が最後に――」
やっと登校してきた。
しかし友人と一緒だ。
これは声をかけずらい。
ブーンが一人になる時を狙おう。
( ^ω^)「うんうん。やっぱり僕は犬派だお」
今は昼休み。
ブーンが一人になる機会は、今のところ一度もなかった。
トイレさえ連れションだった。
('A`)「これは……どうするか……」
ビコーズの方は今も近くにいるがゼアフォーは家に置いてきてるようだ。
しかしビコーズがあまりにブーンの近くにいるために、声の掛けようもない。
俺は窓際最後列という最高の席で一人飯を満喫しながら考える。
84
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:29:00 ID:GFlG7z5cO
そんなこんなで放課後になってしまった。
(;'A`)「くそぉ……どうしてあいつは一人にならないんだ……」
教室掃除をしながら俺は唸っていた。
とうとうブーンに話し掛ける機会はなかった。
ブーンは当番じゃないから、もう帰宅しただろう。
どうする、俺。
(;'A`)「あいつもぼっちだったら良かったのに……」
仕方ないので、おとなしく箒で床を掃く。
この教室はいつも汚い。
DQN連中がスナック菓子を食べ散らかすせいだ。
それなのに掃除するのは俺みたいな善良な生徒だから腹が立つったらありゃしない。
( ^ω^)「ドクオー、ちょっといいかおー?」
(;'A`)「えっ、俺?」
( ^ω^)「そうそう。話があるんだけど、掃除終わったらメールくれおー」
85
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:29:57 ID:GFlG7z5cO
教室の出入口に立ったブーンが言った。
俺とブーンの会話、というより俺が誰かと話しているのが珍しいからか、掃除当番の皆さんが俺を見ている。
しかしブーンがいなくなったらもう興味もないらしく、すくに掃除に戻った。
そして俺は、メールという便利ツールの存在をすっかり忘れていたことに気付いたのだった。
待ち合わせは教室だ。
掃除終了後、ドキドキしながらメールを送ると、一分後に返事が来た。
『すぐに行くお』と。
俺を待つために時間を潰していたというブーンは、しかし嫌な顔一つせず、すぐに教室に来てくれた。
( ^ω^)「ドクオ、ありがとう!」
('A`)「……はい?」
教室に入ってきたブーンはつかつかと俺に歩み寄り、言った。
(*^ω^)「ビコーズとゼアフォーだっけ? 昨日は式神さん達のおかげで久しぶりに熟睡出来たお」
ブーンは感謝の言葉を並べる。
どれもこれも心がこもっているようだった。
が、あまりこういう出来事に慣れていない俺は耳を塞ぎたくなるくらい恥ずかしかった。
('A`)「で、話って?」
86
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:31:59 ID:GFlG7z5cO
( ^ω^)「そうだお、僕に呪いをかけた犯人は見付かったのかお?」
('A`)「……ああ。居場所は掴んだ。しかし対抗策がない」
俺ははっきり言った。
俺ごときひよっこではブーンに呪いをかけている呪術師には適わない。
有効な策は未だない。
そもそも俺の専門は呪術じゃない、当然だ。
(;^ω^)「んー……じゃあ僕はどうすれば?」
('A`)「もうしばらくは今のまま、だな」
ビコーズとゼアフォーでは今後の守りが足りないかもしれないと言うのは黙っておく。
あまりこいつに不安感は与えない方がいい。
呪い耐性には精神的なものも影響するのだ。
( ´ω`)「そうかお…」
('A`)「……」
それでもブーンは不安そうだ。
しかし俺にはかけてやるべき言葉が見付からない、というより分からない。
俺が何か言おうとした時、窓際から声が聞こえた。
( "ゞ)「ドクオ、大変だ」
87
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:33:45 ID:GFlG7z5cO
('A`)「デルタ!」
( ∵) ( ∴)
ビコーズとゼアフォーも揃っている。
( ^ω^)「どちら様ですかお?」
('A`)「こいつはデルタ、式神だ。
……どうしたんだ?」
( "ゞ)「例の呪術師が動いた。依頼人宅に不法侵入しているぞ」
(;^ω^)「ぼ、僕ん家に?」
俺は前に出たブーンを制止する。
ひとまずデルタの話を聞くべきだ。
( "ゞ)「向こうがこちらの存在に気付いているようだ。ついさっき、あの女が出掛けたから追い掛けたら……」
デルタは呪術師に気配を悟られないよう慎重に行動したそうだ。
しかし呪術師の女はある家の前で立ち止まった。
『内藤』という表札のある一軒家、女は器用に針金を駆使して鍵を開けた。
88
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:34:41 ID:GFlG7z5cO
( "ゞ)「そこまでされたらまずいだろ。何とかするためにドクオに知らせに来たんだ。
ゼアフォーは女が家に入ると同時に逃げてきたみたいだ」
( ∵) ( ∴)
ビコーズとゼアフォーが頷いている。
('A`)「ブーン、ここから家まで、どのくらいだ?」
(;^ω^)「十分……くらい?」
('A`)「家に人は?」
(;^ω^)「父ちゃんは赴任中、母ちゃんは夜までパートだお」
('A`)「……よし。お前ん家まで案内してくれ」
俺は鞄を肩にかけた。
(;^ω^)「よ、よく分かんないけど、分かったお!」
ブーンが急いで教室を出る。
俺やデルタ達もそれに続いた。
89
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:35:38 ID:GFlG7z5cO
ブーンの家は、禍々しい空気に包まれていた。
普通呪術師というものは天敵から身を守るために気配を隠すものだが、そんな様子が一切ない。
やはり相手は凄腕の呪術師らしい。
緊張で冷や汗が出てくる。
( "ゞ)「まだ中にいるな」
('A`)「ああ。ブーン、お前は後ろにいてくれ。ビコーズとゼアフォーが何とかするから」
( ^ω^)「でも……」
('A`)「安心しろ、俺は陰陽師だ」
見習いだけど。
とにかくブーンを前に立たせたところで、どうにもならない。
俺が何とかしなきゃならないんだ。
ゆっくりとドアを開けて、中に入る。
ブーンの案内で彼の部屋を目指す。
呪術師が不法侵入なんて、十中八九呪い強化用のブーンの身体の一部を探すためだ。
髪の毛やら爪やらを拾っているに違いない。
90
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:36:46 ID:GFlG7z5cO
('A`)「……」
ブーンの部屋のドアを開けた。
瞬間、俺は廊下に『吹き飛ばされていた』。
(;'A`)「……っ!?」
(;^ω^)「ど、ドクオ!」
息が詰まる。
ブーンは慌てて俺に駆け寄ってきてくれた。
デルタ達は俺を守るように立っている。
「私の邪魔をするのは誰かと思ったら、まだ子供じゃない」
女は言う。
俺からは後ろ姿しか見えない。
しかし女は振り返る。
川д川「まさかこんな簡単に姿を現してくれるとは思わなかったわ。
だけど、私の仕事の邪魔しといて生きて帰れると思わないことね」
黒のタートルネック、黒のロングスカート、黒のストッキング、全身黒ずくめだ。
女は右手を前に出し、俺に向ける。
91
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:37:50 ID:GFlG7z5cO
川д川「山村家次期当主貞子に歯向かったこと、後悔なさい!」
(;'A`)「ビコーズ! ゼアフォー!」
( ∵) ( ∴)
ビコーズとゼアフォーが素早く結界を張った。
川д川「……やっぱり陰陽師か。こしゃくな!」
守りに特化した式神の張った結界は強力だ。
いくら俺が半人前とはいえ、呪術師が何の用意もなしにした攻撃で簡単に破れるものではない。
('A`)「ブーン、ひとまず逃げよう。この近くに空き地か何かはあるか?」
(;^ω^)「すぐ近くに公園があるお」
('A`)「なら連れてってくれ。このままじゃ家が壊れちまう」
( ^ω^)「分かったお!」
92
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:39:08 ID:GFlG7z5cO
ブーンに連れられて、俺は公園に到着していた。
この辺りでも広い公園のようで、辺りは野原になっている。
これは都合がいい。
後は迎え撃つ準備だ。
('A`)「そういや、トイレってあるか?」
( ^ω^)「もう少し行けばあるお」
('A`)「少し用がある。外で見張っててくれ」
( ^ω^)「え?」
ブーンは俺の言葉の意味が分かっていないようだ。
しかし詳しく説明するよりやらなきゃならないことがあるのだ。
困惑した様子のブーンはとりあえず放置して、俺は一番きれいな個室に入る。
鞄を開け、中身を取り出す。
俺の鞄には教科書なんて入っていない。
入っているのは、いざという時の為の一着の服だ。
俺にコスプレの趣味はない。
しかし俺があの呪術師に立ち向かうには、これを着ないと話にならない。
93
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:40:54 ID:GFlG7z5cO
手早く着替えを済ませた俺は、常に持ち歩いている人型の紙を取り出す。
他の式神を呼び出した時のように呪文を唱えると、紙が発光した。
こいつは苦手だから使いたくなかったのだが仕方ない。
( ^^ω)「お呼びホマ?」
デルタより立派な体格に頭に角を生やした姿が現れる。
('A`)「あぁ。やりあってほしい奴がいる」
( ^^ω)「了解! ところでドクオさん」
きた。俺はマルタスニムのこんなところが大嫌いなのだ。
( ^^ω)「いい加減、お友達の一人でも出来たホマ?」
こいつは平気で人の傷をグサグサ抉る。
俺にそういうのがいないのを知っていて、それなのにニヤニヤしながら聞いてくるのだ。
しかし俺が扱える式神の中では一番攻撃が得意だから、今みたいな場面では呼ぶしかない。
本当に腹立たしい。
俺が無視して要件を伝えようとした時、外から声が聞こえた。
「ヤバイ、ヤバイお、ドクオ!」
ブーンの声だ。
切羽詰まっているらしい。
ということは、あの呪術師が来たに違いない。
94
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:42:58 ID:GFlG7z5cO
(;'A`)「ブーン!」
( ^^ω)「ん? 一体全体どういうことホマ?」
('A`)「お前に相手にしてほしい奴がいると言ったな。奴は凄腕呪術師だ」
( ^^ω)「久しぶりに思いっきりやれるホマ?
そんならこのオレっちに任せてくれりゃあ、後はドクオさんは背後さえ気を付ければ十分ホマ!」
俺の隣を滑空するような奇妙な動きで移動するマルタスニムは、右手に金棒を持ちながら言った。
こいつの腕っぷしは信用に足る。
しかし一番の問題はそこじゃない。
術者たる俺の力が重要なのだ。
トイレを出てブーンの元へ向かう。
(;^ω^)「大変だお、デルタが!
って、あれ、その服どうしたお? その角の人は新しい式神さんかお?」
川д川「うふふ……さぁて、一丁前に式服なんか着ちゃって、見習い陰陽師さんはどう来るのかしら」
(;"ゞ)「ドクオ、すまない……」
地面にはぼろぼろのデルタ。
おそらく呪術師の攻撃をまともに食らったのだろう、もう戦える力はないように見える。
('A`)「すまん、デルタ。お前は戻ってくれ」
95
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:44:12 ID:GFlG7z5cO
俺が呪文を唱えるとデルタは姿を消した。
しばらくは体力を回復してもらわないとならない。
('A`)「ビコーズとゼアフォーは……」
ここにいない、ということはブーンの家だろうか。
しかし呪術師がここにいる。
つまり、あいつらは。
川д川「あのちっちゃい式神さん達ならのびてるわ。式神には呪いって効かないのねぇ」
呪術師が丁寧に答えてくれやがった。
俺はビコーズとゼアフォーを休ませる為に先程のように呪文を唱える。
マルタスニムと共にブーンを庇うように前へ出る。
ビコーズとゼアフォーを退けた相手、一筋縄にはいかない。
まずは相手の腹の内を探ってみるべきだろう。
('A`)「お前はどうして、こいつを呪う?」
川д川「依頼だから。私達山村家は代々呪術師でね。そういうお願いを叶えてやる代わりに報酬を貰って生活してきたわ」
('A`)「依頼主は誰だ」
川д川「答える義理はない。それに守秘義務があるの」
96
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:45:31 ID:GFlG7z5cO
やっぱり簡単には答えてくれない。
しかし、ブーンに恨みを持つ何者かの存在だけは分かった。
呪われる側には自覚がないのに、プロを雇う程の強い負の感情を持った奴がいる。
( ^ω^)「そんなに僕が嫌いな人って誰なんだお……」
ブーンも心当たりを必死に思い出そうとしているようだ。
俺がしつこく質問しようとした時、マルタスニムが前へ出た。
( ^^ω)「ちょっとドクオさん、油断が過ぎるホマ」
('A`)「え?」
マルタスニムは金棒を器用に体の前で回転させる。
そこに、青い炎が打ち込まれて、弾けた。
川д川「あらあらぁ……愚鈍な坊やには少し優秀過ぎる式神じゃない?」
呪術師はにやりと笑った。
俺達と距離を取り、様子を伺っているようだ。
あいつの言う通りだ。
一人前でない俺に、マルタスニムのような式神を扱うのは難しい。
ビコーズとゼアフォー、それにデルタを一時的に戻したが、それでも体が重い。
97
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:46:50 ID:GFlG7z5cO
( ^^ω)「今度はこっちから!」
右手を高く振り上げて、マルタスニムは走りだした。
真っ直ぐ呪術師の元へ向かって、振り下ろした。
川д川「甘い」
簡単に避ける呪術師。
マルタスニムは素早く左に構え、右に薙払う。
当たらない。
呪術師はマルタスニムの動きを完全に読んでいる。
川д川「しょぼぉいご主人様じゃ、こんなものよね」
呪術師が笑いながら右手を掲げる。
川д川「呪いの力、見せてあげる」
(;'A`)「くそ……」
マルタスニムは再び金棒を振り回すが当たらない。
俺も五行の力を持つ霊符で援護をする。
放った木の符の着地点から木の枝が伸びて呪術師を捕らえようとする。
しかし、呪いに弾き返されてしまった。
98
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:48:14 ID:GFlG7z5cO
さらに呪術師が使った呪い、狙いはおそらくブーンだ。
俺かマルタスニムが庇いに行く隙に、俺達邪魔者を片付ける算段なのだろう。
しかしそう予測出来てもブーンを庇わないわけにはいかない。
川д川「少し気絶してもらうわ」
(;'A`)「……!」
ダメだ、間に合わない。
( ^^ω)「ドクオさん!」
呪術師の右手には鎌の形の呪いの炎。
ブーンを狙うと思った。
しかし違った。
(;^ω^)「ドクオ!」
マルタスニムを容易くいなして、呪術師は俺に向かってきた。
後ろにはブーン、俺が避けたらブーンがやられる。
俺はブーンを守らなければならない、それが俺の仕事だ。
目をつむりダメージを軽減する為に九字を切る。
('A`)「臨兵闘者……」
川д川「……おしまいよ」
99
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:49:13 ID:GFlG7z5cO
呪術師の言葉とともに、俺の体は地面に打ち付けられた。
('A`)「!?」
( ^^ω)「よそ見してんじゃねえ!!」
川д川「……!」
隙をついたマルタスニムの攻撃を避けるために呪術師が俺から、俺達から距離を取る。
俺は無傷だった。
呪術師も驚いている。
俺だって声が出なかった。
(; ω )「く……っ……」
(;'A`)「ブーン!」
ブーンは俺を庇って倒れていた。
受けたのは実体を持つとはいえ呪いだ、外傷はない。
(;'A`)「おい、しっかりしろ! ……なんでこんなこと!」
(;^ω^)「僕の問題をドクオにばっかり、任せてられないお。
……それにね」
100
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:50:40 ID:GFlG7z5cO
マルタスニムと呪術師の武器がぶつかり合う音がする。
ブーンは痛みに顔をしかめながら、だけど、はっきり言った。
(;^ω^)「友達のピンチをほっとくなんて、出来ないお」
('A`)「とも、だち……」
『友達』。俺がずっと恋い焦がれていたもの。
ブーンは、友達。
こんな俺を、ブーンは友達と言ってくれるのか。
なら俺は、答えなきゃいけないじゃないか。
俺は、『鬱田ドクオ』は、ブーンを守る。
(#'A`)「……うおおおお! 俺が相手だッ!!」
ブーンをその場で休ませ、俺は霊符を構える。
父ちゃんがあらかじめ呪力を封じたそれらは、俺でも高い威力を出せるのだ。
川д川「……っ」
呪文を唱え、投げつける。
水を纏った霊符は呪術師の左手を捉えた。
それによって呪術師は僅かに怯む。
( ^^ω)「そこにすかさず一撃!!」
101
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:52:04 ID:GFlG7z5cO
マルタスニムが強力な打撃を仕掛ける。
それは簡単に躱されてしまったが、そのおかげで新たな隙が出来た。
今度は俺の番だ。
(#'A`)「くらえ!」
川д川「甘いわよ」
しかし俺の放った火の霊符は避けられる。
それでいい。
狙いは見事に決まった。
川д川「……っ!」
先程生えた木は、まだ呪術師の後ろに残っていた。
それに火が付き、よく燃えている。
赤い炎は女の髪を少しだけ燃やした。
その証拠に、何とも言えない嫌な匂いが鼻をついた。
川д川「この私に当てるなんて、やるわねぇ……。でも」
相手の反撃。
(;'A`)「……!」
102
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:54:01 ID:GFlG7z5cO
炎の玉が飛んできた。
俺は腕でそれを受ける。
父ちゃんが力を込めてくれた式服じゃなかったら怪我をしていたことは間違いない。
服も無傷で、俺は再び呪術師に目を向けようとした。
( ^^ω)「ドクオさん!」
川д川「残念」
(;'A`)「いつの間に……」
呪術師はマルタスニムを掻い潜って俺の前に立っていた。
そして俺の胸ぐらを掴み、冷たい声で言った。
川д川「邪魔者には罰が必要だわ。
あなたは身体中を虫が這うような不快感を味わいながらのた打つのよぉ……!」
俺は目を閉じた。
避けられないならせめて、ダメージを軽減しなければならない。
だから空いた左手で九字を切ろうとした。
しかし、そこへ足音。
「ちょっと待ったぁ!」
川д川「……あら?」
103
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:55:15 ID:GFlG7z5cO
呪術師の動きを遮ったのは、高い女の声。
呪術師がそうしたように、俺とブーンも声の方へ顔を向けた。
ξ;゚⊿゚)ξ「貞子……あんた、何してんのよ!」
立っていたのは隣町の学校の制服を来た女だった。
走ってきたのだろう、肩で息をしている。
巻いた髪が風になびいていて、見ていて欝陶しい。
川д川「貴女の願いを邪魔する奴らの排除よぉ」
そう言いながら、呪術師はやっと俺を解放してくれた。
ξ゚⊿゚)ξ「私が許さないわ。貞子、今のあなたは私の指示どおりに動かなきゃならないはずよ」
(;'A`)「ど、どなたです……?」
( ^ω^)「ツン!」
俺が思わず洩らした疑問には何とか立ち上がったブーンが答えてくれた。
俺達の戦いに乱入してきたツンは呪術師に歩み寄る。
そして、ちらりと俺に目を向けた。
ξ゚⊿゚)ξ「あの人は?」
川д川「陰陽師。内藤君にかけてる呪いの邪魔をしてきたの」
104
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:56:26 ID:GFlG7z5cO
ξ゚⊿゚)ξ「そう。
……やっぱりね、こんなこと間違ってたのよ」
ツンは俺の方に歩いてくる。
ブーンの方をちら見して、それから俺の正面に立つ。
(;'A`)「あ、あの……」
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんなさい。これは、本当は私が自力で解決すべき問題だった。
あなたも危険な目にあったでしょう? 本当にごめんなさい」
('A`)「べ、別に気にしてねーよ……うん」
ツンがあまりに深く頭を下げるから、俺の方が申し訳ない気持ちになってしまう。
というより、俺は同年代の女の子と会話するのが苦手なのだ。
ついつい吃り気味になってしまう。
小さな子供やおばさんなら大丈夫なのだが。
俺に謝ったツンはブーンの前に立つ。
しかし目は合わせていない。
ξ゚⊿゚)ξ「ごめんね、ブーン」
( ^ω^)「よく分からないけど、ツンが反省してるならいいお」
105
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:58:12 ID:GFlG7z5cO
ξ゚⊿゚)ξ「違う。全部私のせいなの。私が、もっと素直だったら……」
( ^ω^)「素直、だったら?」
ξ;*゚⊿゚)ξ「……! や、やっぱり何でもないわ!」
ツンは照れてブーンから顔を背けた。
なんとわかりやすい。
女の子とは全く縁のない俺にも、今のツンの気持ちははっきりわかる。
しかし、肝心のブーンは全くわかっていないようだ。
川д川「ツン」
ξ゚⊿゚)ξ「貞子。やっぱり契約は破棄するわ。人の心はね、そう簡単にどうにかしていいものじゃない。
特に弱みに付け込んでなんて、まっとうな恋愛じゃないもの」
川д川「……そう。だけど途中までの報酬はよろしくお願いするわよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ。バイト代が入ったらスイス銀行に振り込んでおくわ」
呪術師はツンとの会話を終え、歩きだした。
川д川「見習い陰陽師の君、いつか、またやり合うことがあったらよろしくね」
それだけ言って、貞子は俺に背を向けた。
長い髪を揺らしながら、黒い影は夕闇に紛れていった。
106
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 22:59:08 ID:GFlG7z5cO
('A`)「いったい何なんだ……」
今の俺に分かるのは、ツンが貞子に呪いを頼んだこと。
そして、ツンがブーンを好きらしいということ。
( ^^ω)「ニンゲンの考えなんて分からんホマ」
マルタスニムが器用に金棒を回転させながら言う。
同感だ。
好意と呪いがどう結び付くかなんて、本人にしか分からないだろう。
他人の考えなんて、考えても無駄なのだ。
それから俺は着替え、ブーンとツンは家が近いらしく一緒に帰っていった。
俺はそれを見送った。
隣で終始マルタスニムがニヤニヤしていたので一発殴っておいた。
107
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:00:20 ID:GFlG7z5cO
あの件から一週間後のテスト開け、俺は休日にもかかわらずブーンに呼び出されていた。
ちなみにテストの結果はまだ出ていないが、今までで最悪の出来であることは間違いないだろう。
( ^ω^)「ドクオ、こっちー」
会う場所はブーンの家だ。
生まれて初めてクラスメイトの家に行く俺は緊張していた。
コンビニで土産用の菓子を買ったが、こんな安物でいいのだろうか。
玄関の外で俺を待っていたブーンは、俺の姿を見付けて手を振ってきた。
すぐに俺を自分の部屋に通す。
しかし、そこにはなんと、先客がいた。
ξ゚⊿゚)ξ「こんにちは、ドクオ君」
ツンだ。なぜここに。
ブーンは何も言ってなかったはずだ。
( ^ω^)「ツンがドクオにちゃんと話をしたいって言うから呼んだんだお」
ブーンは三人分のオレンジジュースを用意しながら言った。
ところが、グラスの大きさが一つだけ違う。
少しなら気にしないが、一つだけ明らかにジョッキだ。
108
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:01:21 ID:GFlG7z5cO
ξ゚⊿゚)ξ「あ、ありがとう」
ツンが小さなグラスを受け取る。
俺もそれに倣った。
ブーンはジョッキを持ち上げ、一気に呷った。
ブーンの体形の理由が分かった気がする。
('A`)「で、その、話っていうのは……」
ξ゚⊿゚)ξ「私が貞子に呪いを頼んだ理由。
あなたも関わったから、ちゃんと話しておくべきだと思ったの」
そしてツンは語り始めた。
まずは貞子との出会い。
ブーンはすでに聞いたのか、落ち着いた様子で俺の手土産のポテトチップスに手を付けている。
ξ゚⊿゚)ξ「ネット上のとあるサイトでしばらく恋愛相談して交流を深めてたら、あの人と会うことになったわ。
そしてね、とんでもないことを言われたの」
川д川『なら心に隙間を作って、貴女がそれを埋めてあげればいい』
私の相談に彼女は言った。
109
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:02:23 ID:GFlG7z5cO
ξ゚⊿゚)ξ『どうやって』
川д川『簡単よ。相手を精神的に追い詰めるの、徹底的に。そこにすかさず、貴女が手を差し伸べればいい』
ξ;゚⊿゚)ξ『な……! そんな、ブーンを傷つけるようなこと……』
川д川『イヤなの? なら今のままうじうじと無駄な時を過ごせばいい。
……貴女は、本気で彼が好きだから私に相談したんじゃないの?』
ξ゚⊿゚)ξ『……』
私は小さな頃から口下手で、思ってもないことばかりが口から出てきてしまって。
好意というものを素直に伝えるのは苦手だった。
今も変わらず苦手なの。
だから、たいした努力さえせずに、私は呪術師の甘言に耳を貸してしまった。
困ったブーンに私が優しくすれば、ブーンが私を好きになってくれる。
ブーンが私に好きと言ってくれれば、あとは私が受け入れるだけ。
そう、簡単に上手くいくと思っていた。
だけど現実は違った。
そもそも私はブーンに会う機会があまりない。
だからブーンに手を差し伸べる機会なんてなかった。
メールや電話を使えばブーンの痛みが私のせいだってばれてしまう。
だから何も出来なかった。
110
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:03:39 ID:GFlG7z5cO
ξ゚⊿゚)ξ「そしてこの間、私は様子を見るためにブーンの家に向かったわ。
そこに誰もいなかったから探してたら公園であなたたちを見つけた、ってわけ」
やっと繋がった。
好意が呪いになったのは、好意を得たかったからだったのだ。
まったく、女心とは面倒なものだ。
ξ゚⊿゚)ξ「ドクオ君、陰陽師なんだっけ? ケガもさせちゃって……謝っても足りないわ。
だからお詫びと言ってはなんだけど、何か困ったことがあったら私を頼ってね。力になるから」
('A`)「あ、はい。よろしくお願いします……」
ツンは本当に申し訳なさそうに言う。
俺はまだ緊張していた。
それもそうだ、ツンは。
(*'A`)(かわいい……)
生まれてこの方、女には一切縁がなかった。
それは家のせいでいじめられていたのもあるし、俺自身の外見がイマイチなのもある。
だから、俺は首を縦に振った。
ツンと縁が出来るのが嬉しかった。
あわよくば連絡先の交換くらいは出来るかもしれない。
ブーンが好きとか、俺には関係ない話だ。
111
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:04:31 ID:GFlG7z5cO
ξ゚⊿゚)ξ「それとね、あの件に関わったあなたには言っておこうと思うの」
('A`)「はい?」
ツンは急に声色を変えた。
真面目なものから、リラックスしたような話し方に。
(;^ω^)「え、言っちゃうの?」
ξ*゚⊿゚)ξ「だ、ダメ?」
(*^ω^)「照れちゃうお」
('A`)「なんだよ、もったいぶって……」
照れるブーンに若干腹が立つ。
ちくしょう、かわいい女の子と仲良く照れ合いやがって。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、言うわ」
俺は姿勢を正した。
そうしなければいけない気がした。
112
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:05:28 ID:GFlG7z5cO
ξ*゚⊿゚)ξ「あ、あの事件がきっかけで、私とブーンは付き合うことになりました!」
('A`)
(*^ω^)「僕に彼女が出来ました!」
('A`)「……」
俺はうなだれた。
ツンかわいい、そう思った直後にこの仕打ち。
実に世知辛い世の中だ。
隣にマルタスニムがいたら笑われたに違いない。
( ^ω^)「ドクオ、また明日ー」
ξ゚⊿゚)ξ「さよなら」
ブーンとツンに見送られ、俺は帰路につく。
結局ツンとは連絡先を交換した。
最近、俺の携帯の電話帳が潤っている。
113
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:07:58 ID:GFlG7z5cO
ツンに話も聞き、今回は一件落着。
しかし不安がある。
あの貞子という呪術師、あいつにはまた会うような気がする。
デルタ、ビコーズ、ゼアフォー、そしてマルタスニム。
本来は優秀な式神達だ。
俺があいつらの力を引き出せないだけだ。
俺は、強くならなければいけない。
たとえ引かれたレールの上でも、人を乗せる列車はけして逸れてはいけない。
俺がそんな大層なものであるわけないが、これが俺の生きる道だ。
そう決めた。
優しいブーンに、かわいいツン。
俺が陰陽師だから出会えた二人。
俺は、守りたい。
たった二人の友達を守るために、俺は一人前の陰陽師を目指すんだ。
たとえこの先、どんな困難に阻まれようとも――
.
114
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:09:36 ID:GFlG7z5cO
以上です。
明日もう一つ投下予定です。
115
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:30:04 ID:h03QsBhk0
乙!
面白かったよ!
116
:
名も無きAAのようです
:2012/11/24(土) 23:51:33 ID:q16fh64Y0
おもすろすおつ
117
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 04:57:13 ID:vBjxy5CsO
おつ
楽しみだ
118
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 20:10:22 ID:3LEc4/iw0
遅くなりましたが絵を描いたものです
絵もタイトルも使っていただきありがとうございました!
山村家次期当主さんを置いていきます
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_327.jpg
119
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 20:17:09 ID:3LEc4/iw0
ごめんなさい大事なことを書き忘れました おつです!
120
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 22:52:17 ID:DWr2LJjUO
今から投下します。
>>118
やったああああ!美しい貞子をありがとうございます!
呪ってください!
121
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 22:54:44 ID:DWr2LJjUO
桜舞う大通り、刀を携えた少女が一人。
歳は数えで十五であるが、知る人の間では腕が立つと評判だ。
桃色の着物に赤い帯、艶のある黒髪をなびかせて、少女はとある飯屋の前で立ち止まった。
そして中に向かって呼び掛ける。
静かな店内に澄んだ声が響き渡る。
lw´‐ _‐ノv「旦那ー、握り飯を一つおくれー」
呼び掛けに応じて出て来たのは一人の男。
頭に手拭い、腰には前掛けをした若い男だ。
(´・ω・`)「シューちゃんかい。残念だが今日は握り飯は出せないんだ」
lw´‐ _‐ノv「どういうこと?」
シューは店の前の腰掛け椅子に座って尋ねる。
桜の花弁がひらり、シューの頭に乗った。
(´・ω・`)「実は米が急に値上がりしてね。僕達みたいな一般庶民や飯屋の店主は皆困っているんだよ」
lw´‐ _‐ノv「米が急に値上がり? 藩主様は一体何をしてらっしゃるんだ!」
シューは立ち上がり、刀を左手に持つ。
122
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 22:56:18 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv「ちょっくら藩主様を懲らしめてくる」
(;´・ω・`)「ちょっと、シューちゃん落ち着いて! 悪いのは藩主様じゃないんだよ!」
lw´‐ _‐ノv「なら誰のせいだって言うんだい?」
シューは席に座り、店主を見上げた。
店主の頭に花弁三枚、妙に気になったが面白いので指摘はしない。
(´・ω・`)「豪商の杉浦さ。米の値段を釣り上げて、僕らから金を搾り取ろうとしているんだ」
lw´‐ _‐ノv「そうか、なら」
シューは再び立ち上がる。
来た方とは反対の道の先を見据えて言った。
lw´‐ _‐ノv「このシューが、その悪徳商人をとっちめてやろうじゃないか」
そのまま歩きだす。
心地よい風が頬を掠めてゆく、暖かい日差しが照らしてくれる。
ああ、今日は悪を懲らしめるには最高の日ではないか。
(;´・ω・`)「シューちゃん、待って!」
lw´‐ _‐ノv「ショボンの旦那、止めてくれるな。私にはどうしても取り戻したいものがあるんだ」
123
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 22:57:33 ID:DWr2LJjUO
(´・ω・`)「いや、そうじゃなくて」
lw´‐ _‐ノv「ん?」
シューは振り返る。
ショボンは元から垂れ下がった眉をいつも以上に下げて言った。
(´・ω・`)「杉浦の屋敷は逆方向だよ」
lw´‐ _‐ノv
lw´‐ _‐ノv「……そうかい」
シューは駆け足で元来た道を戻っていった。
.
124
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 22:59:08 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv愛するものの為なら何だってするようです
ttp://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/3.jpg
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125
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:00:42 ID:DWr2LJjUO
食事も忘れてショボンの元を去ってしまったシューは後悔していた。
腹が減っていたのだ。
lw´‐ _‐ノv「杉浦め、今にみてろ……」
刀を無理矢理帯にねじ込み、両の手で腹を押さえながら市場へ向かう。
そこにはシューの馴染みの行商人がいるはずだ。
lw´‐ _‐ノv「……みっけ」
シューは手で腹を押さえるのをやめた。
その代わりに両手を前に突き出し、走る。
lw´‐ _‐ノv「どーん」
(;´_ゝ`)「おわっ!?」
思いっきり突き飛ばしたのは背の高い、青色の着物の男。
荷物整理をしていた彼は、盛大に転んだ。
しかしシューとしては別に恨みがあるわけでもない、ただ脅かしたかっただけの悪戯である。
126
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:02:55 ID:DWr2LJjUO
(;´_ゝ`)「あ、あぁ……シューね。何の用だ?」
男は立ち上がりながら言った。
lw´‐ _‐ノv「兄者は相変わらずドジだな。可愛くないぞ。
あと米料理くれ」
( ´_ゝ`)「お前……人を突き飛ばしといて酷いな……。
あと米料理は出せん。鯵の干物ならあるが」
lw´‐ _‐ノv「ならそれでいいや。寄越せ」
( ´_ゝ`)「態度でかいぞ……。
弟者ー、鯵の干物くれー」
兄者は大声で少し離れたところにいる男を呼ぶ。
彼はすぐにやって来た。
(´<_` )「はいよー、鯵ねー……あれ、何でシューがいるんだ?」
兄者そっくりの顔に緑の着物の男は言った。
シューは男から素早く干物を掻っ払い、食べ始める。
127
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:04:28 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv「いやね、ショボンの旦那のとこに食事に行ったんだけどさ」
骨も皮も関係ない、どんどん食べてゆく。
lw´‐ _‐ノv「今、豪商の杉浦のせいで米が高騰して皆困ってるみたいでさ、こりゃ私の出番じゃないかと」
(´<_` )「だから何でうちに来た」
lw´‐ _‐ノv「勢い良く飛び出した私は昼飯食いそびれちゃってね、たかりに来たのさ」
シューはとうとう干物を平らげた。
残ったのは頭と背骨だけである。
( ´_ゝ`)「まあシューには恩があるし、いいかと」
(´<_`;)「恩があるのは事実だ。妹者誘拐の件は感謝しているし、出来る限りの協力もするさ。
しかし、しかしだな……シューはちょっと遠慮というものを知るべきじゃないか?」
lw´‐ _‐ノv「毎日ご馳走になってるもんね。今日もごちそうさまでした」
シューは手の甲で口元を拭った。
128
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:05:47 ID:DWr2LJjUO
( ´_ゝ`)「シュー、俺ら行商人の為にも頑張ってくれや」
lw´‐ _‐ノv「おうよ。晩飯は白米の炊き込みご飯な」
( ´_ゝ`)「それは無理」
(´<_` )「……うん、今更何言っても無駄だな」
人が良いのか馬鹿なのかよく分からない兄と傍若無人な恩人に呆れ果てる弟者。
129
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:06:50 ID:DWr2LJjUO
(´<_` )(杉浦……死ぬんじゃないか)
そう思って仕事を再開しようとしたところに、シューの声。
lw´‐ _‐ノv「杉浦のとこに乗り込む前に一つ譲って欲しいものがある」
( ´_ゝ`)「何だ?」
(´<_` )「金さえ払うなら何でも売るぞ」
lw´‐ _‐ノv「いやね、私が欲しいのは――」
シューが口にしたものの名前を聞いて弟者は悟った。
(´<_` )(あー、杉浦死ぬわ)
少しだけ腹を満たし、えげつないものを受け取ったシューは、意気揚々と目的地へ向かうのだった。
130
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:08:17 ID:DWr2LJjUO
立派な門、武家屋敷のような佇まいの邸宅。
そここそが杉浦の屋敷であった。
lw´‐ _‐ノv「たのもー、杉浦さんのお宅ですよねー」
がんがんと扉を叩く。
青空の下、周囲を気にせず騒音を発生させる少女。
通行人たちは奇異の目を向ける。
少しして、やっと門を開けたのは刀を持った男だった。
( ^Д^)「何だガキがこんな時間に」
シューを見下ろして男は言った。
だらしない着物、男は浪人らしい。
lw´‐ _‐ノv「お前んとこのご主人様に話がある。米の値段釣り上げんなって」
( ^Д^)「あー……杉浦さんなら今出払ってる。店の方だ」
lw´‐ _‐ノv「なんだと……」
( ^Д^)「待つなら茶ぐらい出すが、どうする」
131
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:09:24 ID:DWr2LJjUO
シューは考える。
さっさと杉浦を始末して美味い米を食いたい。
しかし店と言ったら人がいる、そんな場所で争うのは自分に不利であろう。
lw´‐ _‐ノv「菓子も付けてくれ」
(;^Д^)「図々しいな、お前」
プギャーと名乗った男はシューを屋敷に上げる。
途中ですれ違った侍やら女中やらにシューを客人と紹介し、客間に通した。
( ^Д^)「待ってろ。今女中に話してくる」
そう言って、プギャーは部屋から出ていった。
lw´‐ _‐ノv「広いな、さすが豪商」
客間は広かった。
綺麗な畳が敷かれていて、立派な掛け軸や生け花が部屋に彩りを与えている。
lw´‐ _‐ノv「……くさい、な」
132
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:11:14 ID:DWr2LJjUO
シューが言った瞬間、シューが座っていた座布団は真っ二つになっていた。
(;^Д^)「ちっ……」
一瞬で立ち上がりプギャーの攻撃を躱したシューは、ゆっくりと刀を抜いた。
lw´‐ _‐ノv「あのねぇ、そんな忍び足じゃあ私を出し抜けないよ?」
( ^Д^)「気付いてたのか」
lw´‐ _‐ノv「そりゃね。気配消せてないし」
一度部屋を退出したプギャーは、実はこっそりと部屋に戻って来ていたのだ。
理由はふいをついてシューを始末するため。
しかし言われるまで、シューには何故自分が狙われたのか分からなかった。
( ^Д^)「主人の不利益を全て排除するのが、俺ら雇われ武士の仕事なんでなぁ!」
プギャーは刀を振るう。
横薙ぎの、精確だが重い一撃。
シューはひらりとそれを回避し、プギャーの右手を狙った。
133
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:12:28 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv「威力はなかなかだね。狙いもいい」
(;^Д^)「なっ!?」
今度はシューが刀を振るった。
両手でしっかり構えてプギャーの右手に叩きつけた。
lw´‐ _‐ノv「それ、いい刀だね。高かったでしょ?」
( ^Д^)「お前……何者だ……?」
痺れる右手を擦りながらプギャーが尋ねる。
シューはプギャーに叩きつけた刀の峰を撫でながら言った。
lw´‐ _‐ノv「ただの米を愛する侍だよ」
背を向けて立ち去るシュー。
しかしプギャーはそれを止めた。
134
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:13:27 ID:DWr2LJjUO
( ^Д^)「待て、外は敵でいっぱいだぞ。俺が召集をかけたからな」
lw´‐ _‐ノv「そうかい」
(;^Д^)「おいおい、命が惜しくないのか?」
lw´‐ _‐ノv「命は誰だって惜しいよ。だけどね、私は死なないよ」
( ^Д^)「……そうか」
プギャーの手の痺れは徐々に引いていた。
しかし、それでもシューにもう一度立ち向かおうという気にはならない。
本能がシューには絶対に勝てないと告げていた。
それに、あまりしつこくするのは彼なりの武士道にそぐわないのだ。
135
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:14:35 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv「ほいやっ」
lw´‐ _‐ノv「そーいっ」
lw´‐ _‐ノv「うらぁっ」
lw´‐ _‐ノv「おりゃっ」
lw´‐ _‐ノv「……こんなもんか」
数刻の間、シューは屋敷内で戦闘を繰り広げていた。
されど敵は烏合の衆とも言えるもので、シューは峰打ちだけで向かう全てを葬っていた。
屋内も庭も、泣きながら謝る情けない男達や気絶した者、放心状態の奴らでいっぱいだ。
空も少しずつ赤が交じり始めている。
烏はもうお家に帰る時間だった。
lw´‐ _‐ノv「腹減ったのに……お出ましか」
136
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:15:49 ID:DWr2LJjUO
じゃりじゃりと砂を踏む音。
開きっぱなしの門からやって来たのは大男。
黒い羽織に目の傷、大きな威圧感を持った男だった。
こいつが杉浦だ、シューの直感が告げている。
( ФωФ)「これはこれは……君が一人でやったであるか?」
lw´‐ _‐ノv「うん」
( ФωФ)「そうであるか。……君の要求は?」
lw´‐ _‐ノv「米が庶民まで回るようにしろ」
( ФωФ)「それは出来ない相談であるな」
杉浦は小刀をシューに向ける。
( ФωФ)「我輩の邪魔をしようと言う君には、死んでもらおう」
一瞬で間合いを詰める。
しかし、シューは刀を抜かなかった。
鞘で小刀を受け止め、そのまま流す。
137
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:17:33 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv「お前が杉浦なら話は早い。お前には死んでもらう」
シューは帯に挟んでいた印籠を取り出した。
lw´‐ _‐ノv「さあ要求を飲め。さもなければお前は苦しい思いをすることになるぞ」
( ФωФ)「それはなんであるか?」
lw´‐ _‐ノv「毒きのこから採取した猛毒だ。暗殺にも使われるような、ね」
( ФωФ)「それを聞いて、我輩が飲むとでも?」
杉浦は笑いを堪えながら言う。
馬鹿だ、目の前の小娘はただの大馬鹿者だ。
毒なら飲まなければいい、それだけのこと。
lw´‐ _‐ノv「……そうやって、油断しちゃうんだよなぁ」
( ФωФ)「……っ!?」
シューは足元にあった小石を蹴り上げた。
それは見事杉浦の顔に当たり、彼を怯ませる。
138
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:18:33 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv「圧倒的な力があればね、食べ物に毒を仕込むなんて面倒なことをしなくていいんだよ」
背後に回ったシューは杉浦を蹴飛ばして膝を着かせる。
右手に持った刀の刃を杉浦の首に当て、左手の毒を杉浦の口に近付けた。
lw´‐ _‐ノv「だから私のお願い、聞いて」
(;ФωФ)
背後に立つ少女の恐ろしさに気付いた杉浦は、力なく首を縦に振った。
.
139
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:19:43 ID:DWr2LJjUO
人で賑わう大通り、その一角の飯屋の前の椅子。
頭に付いた花弁を払いながら鼻歌を歌うのは一人の少女。
草履を放って解放感に浸る。
lw´*‐ _‐ノv「ふんふーん、ふふんふー」
(´・ω・`)「ご機嫌だね」
ショボンは注文された握り飯をシューに差し出した。
lw´*‐ _‐ノv「だって久しぶりに旦那の握り飯を食えるんだもの。そりゃあ上機嫌になるさ!」
(*´・ω・`)「そこまで言われると照れるなぁ」
ショボンもつられて上機嫌になる。
そして、握り飯を頬張り始めたシューに聞いてみることにした。
(´・ω・`)「ところで、一体どうやって杉浦をとっちめたんだい?」
140
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:20:39 ID:DWr2LJjUO
lw´‐ _‐ノv「んー、私の自慢の剣技見せてやったら一瞬で降参したよ。その勢いで足まで舐めてくれたよ」
(;´・ω・`)「どこまでが本当でどこからが嘘なのかな……」
lw´‐ _‐ノv「全部本当ですー」
ショボンが得意とするのは塩握り。
有名な産地から安価で仕入れた塩を地元の米に適度に振ったものだ。
簡素な素材だからこそ、よりおいしく感じられるのだ。
lw´‐ _‐ノv「あ、兄者と弟者だ」
( ´_ゝ`)「よう、元気かー?」
(´<_` )「こんにちは」
(´・ω・`)「いらっしゃい。いつも塩をありがとね」
通りを歩いていた兄弟はシューの声を聞いて立ち止まる。
各地を回る彼らはまだしばらくは、この町にいるという。
141
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:21:40 ID:DWr2LJjUO
(´<_` )「そういや聞いたぞ。毒、結局使わなかったんだな」
lw´‐ _‐ノv「まぁね」
( ´_ゝ`)「じゃあ何で買った?」
lw´‐ _‐ノv「もしあいつが降参しなかったら口に直接突っ込んで毒殺しようと思ったから。
この刀、あんまり切れ味良くないし」
シューは傍らの刀を撫でた。
父から譲り受けた刀はシューの宝物だ。
lw´‐ _‐ノv「二人も食べてく? 旦那の握り飯は町で一番だよ」
( ´_ゝ`)「それは嬉しいんだが、な」
(´<_` )「今から少し商談があるから、またの機会に」
兄弟は軽く挨拶をして、立ち去った。
142
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:23:04 ID:DWr2LJjUO
(´・ω・`)「シューちゃん、今日はこれからどうするんだい?」
lw´‐ _‐ノv「どうしようかな」
ショボンの問いに、シューは考える。
見上げた空はひたすら青い。
ひらりひらり、桜は舞う。
ぽかぽか暖かい、穏やかな春の日。
シューは春が大好きだ、暖かい日が大好きだ。
こんな日にすることといえば。
lw´‐ _‐ノv「今日は……花見と洒落込もうかね」
シューはにっこり微笑んで、食べ掛けの握り飯に口をつけた。
――ああ本当に、この味の為なら私は何だってするよ。
.
143
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:25:00 ID:DWr2LJjUO
以上です。
読んでくださった方、支援や感想くださった方、素晴らしい絵を描いてくださった絵師の方々、そして企画者さん、本当にありがとうございました!
どの絵も一目惚れだったので書いていてとても楽しかったです。
次回があったらまた参加したいです!
144
:
名も無きAAのようです
:2012/11/25(日) 23:46:23 ID:DV5XGGwc0
おっつおつ
ここまで米好きのシューは久々に見た気がするな
145
:
名も無きAAのようです
:2012/11/26(月) 00:36:57 ID:pMt1lyFs0
ほかほかご飯の塩の効いたおにぎりが食べたくなった…乙…
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