[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
(ヽ'ω`) ブーン系鬱祭りのようです
1
:
◆R6iwzrfs6k
:2012/11/06(火) 21:37:25 ID:8rmxfGKQO
場所:創作板の鬱祭スレ中心
VIP投下も可(後述)
時期:12月20日18時〜26日7時まで
投下作品:長編短編なんでもおk
イラスト(漫画含む)もぜひ投下してください
作品傾向:ファンタジー、学園物、セカイ系、ラブコメ、SF、童話、シリアスその他諸々…
バッドエンドに限らずハッピーエンドでも構いません
読者を鬱に引きずり込む要素があればなんでもおk!
まとめ先:行きずりトマトsocietyさん
http://letas.en-grey.com/
ルール
・創作板本スレでの投下は30レス以内(短編)まで
・以下の条件に当てはまる場合は本スレではなく、創作板かVIPに個別スレを立ててください
1.ながら投下
2.安価を指定して展開を進める作品
3.連作短編作品
4.30レス以内に収まらない作品
・なお、個別スレを立てた場合は本スレに報告をお願いします
報告がなかった場合まとめに乗らない可能性があります
・過度のエログロについては前書きを推奨します
218
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 21:59:34 ID:CybtGELY0
女はクーチュリエ(仕立て屋)だった。
クーチュリエと名乗ってはいるが、それは大層なものではない。
自室に少しだけ手を加えた、とても小さな店だった。
看板を掲げているわけではないので、依頼人の御婦人達は、
蔓草を模した門扉をくぐり抜け、石畳の敷き詰められた小さな庭を越えて、彼女の部屋の戸をそっと叩く。
クーチュリエが作る服はけして派手ではないのに、客の心を掴んで離さなかった。
よく肌に馴染み、身体をしっとりと包み込む。
まるでよく訓練された犬のような服を、彼女はたった一人で作り上げることができた。
ζ(゚ー゚*ζ「素晴らしい仕上がりね、クーチュリエ!
今度のパーティーに絶対に着ていくわ!」
川 ゚ -゚)「なんの、なんの。私も喜んで貰えて嬉しいです、マドモワゼル」
けして己の指先に自惚れることなく、控えめに微笑んで喜びを表した。
彼女は服を作るとき以外はとても内気な少女だった。
219
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:00:44 ID:CybtGELY0
川 ゚ -゚)プルメリアの恋のようです('A`)
220
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:01:40 ID:CybtGELY0
今日もお客様を出迎えるため、クーチュリエは念入りに部屋を磨き上げていた。
川 ゚ -゚)「ふぅ、完璧だ」
腰に手を当てて、満足げに頷く。
客がどんなドレスを欲しいのか想像を巡らせるとき、採寸のため巻き尺を腰にあてるとき、
常に快く過ごせるよう、彼女は細心の注意を払っていた。
床はオイルをかけたように艶やかに光り輝いている。
その中心には年代物の足踏みミシンが据え置かれていた。
辺りを見回して少し思案すると、おもむろに窓辺へ向かった。まだ完璧には少し足りない。
窓際には花瓶がひとつ。その中にはプルメリアの白い花がたわわに咲き誇っていた。
川 ゚ -゚)「あぶない、あぶない。これを忘れるところだった」
クーチュリエは花瓶を抱え、それを流しへ持っていく。
花は揺れるたびに甘い芳香を辺りに漂わせていた。
221
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:02:32 ID:CybtGELY0
彼女はこの花を何よりも好んだ。
つつましい生活を送るなかで唯一の贅沢は、
朝市で並ぶこの花を買い、毎朝窓辺へ生けることだった。
花が散ることのないよう慎重な手つきで花瓶を置くと、しばし花の香りを楽しんだ。
川 ゚ -゚)「うん、良い香りだ」
川 ゚ -゚)「あっ……」
窓の外はやわらかい木漏れ日が差し、斑尾模様の影を作っていた。
その隙間を縫って見えるのは、陰鬱な男の顔だった。
('A`)「……」
川 ゚ -゚)(また、悩んでる)
彼はちょうど通路を挟んだ真向かいの部屋に住んでいる、売れない小説家だった。
いつも眉を寄せ、ぼんやりと机に向かっていた。
着古したシルクのシャツに、緑のボウタイ姿。タイは皺だらけで、干からびたキュウリを思わせた。
タイと同様に本人も大変痩せこけていた。
頬は青白く、ひどく不健康そうだったし、落ち窪んだ眼窩は隅に覆われていた。
男は万年筆を手に取ると、苦しげな呻き声を洩らした。
222
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:04:27 ID:CybtGELY0
クーチュリエは男を売れない小説家だと思ったが、実際に何をやっているのかは欠片も知らなかった。
彼女が知り得ることは、この窓辺から垣間見える男の辛そうな様子だけだった。
ただ、彼は机に向かうときは常に塞ぎ込んでいて、窓も開けず一日中部屋に閉じこもっていた。
('A`)ハァ
川 ゚ -゚)(彼の力になりたいな……)
クーチュリエは毎日彼を見るたびに、少しずつ彼を好きになっていった。
しかし、声を掛ける意気地もなければ、温かい食事を用意することもできない。
彼女は服を縫うことは得意でも、他はてんでだめだった。
生地の上でするすると自在に動く指先は、鍋を持ったり包丁を握ると、
いやいやをするように不器用に凝り固まってしまうのだった。
川 ゚ -゚)(私は無力だ……)
川 - -)(……)
彼女にできること、それは窓辺にプルメリアの花を飾ることだった。
男が窓を締め切っていたって構わない。
窓枠の隙間からこの爽やかな香りが彼の許へ届くことを願って、クーチュリエは毎朝花を生けることを欠かさずにした。
223
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:05:29 ID:CybtGELY0
春を超え冬が来て、また再び春がやってきたころ、クーチュリエはあっけなくこの世を去った。
街に流行する熱病にかかったのだ。
何日も咳が続き、凍えるような寒気が体中を蝕んでいた。
川 ;゚ -゚)「ごほっ、ごほっ。早くドレスを仕上げなくちゃ……」
川 ;゚ -゚)(ドレスは後少しで完成する。
そしたら、寝台で身体を温かくしてたっぷりと休もう)
クーチュリエは事切れる寸前まで、ミシンを踏んでいた。
最後のひと縫を終えたとき、息を一つついて、彼女は身体をミシンにもたれかけた。
川 ;゚ -゚)(ごほっ、ごほ……。花、買いに行けなかったな……)
川 ゚ -゚)(何だかとても身体が重い……)
川 - -)(少しだけ……このまま……)
川 - -)(……)
224
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:06:22 ID:CybtGELY0
彼女は誰にも看取られることなく、ひっそりとその短い生涯を終えた。
翌日、クーチュリエの葬式がしめやかに行われた。
アパルトマンの住人、花屋、顧客は彼女の作った色とりどりのドレスを着て、葬儀に参列した。
誰しもが皆、クーチュリエを愛し、彼女の服を愛していた。
ζ(;、;*ζ「あぁクーチュリエ、こんなに若いのに。
神様はなんて不公平なの」
⌒*リ´・-・リ「きっとクーチュリエの指先が神様に愛されたのよ」
(*うー;)「そうね。彼女は多分天国で、天使達の衣を仕立てているに違いないわ」
***川 - -)***
レースの手袋をした喪服の婦人達は、彼女の棺いっぱいにプルメリアの花を手向けた。
プルメリアはたくさんの涙の粒を浴びて小さく震える。
芳醇で懐かしい香りが部屋中に広がると、
婦人達は身を捩って彼女の早すぎる旅立ちを悼んだ。
225
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:07:07 ID:CybtGELY0
とうとう、彼女の遺体が部屋から運び出されても、
向かい側にすむ男は彼女の部屋に訪れなかった。
では何をしていたのか?
男は一日中浴室にへばりついて、反吐を吐いていた。
(lll'A`)「うぇぇ、おぇ……」
景色は歪み、明滅を繰り返す。
男の頭はベルトで絞られたようにキリキリと悲鳴をあげていた。
周りの風景が滲んでぐねぐね動くたびに、胃は律儀に痙攣した。
(ヽ'A`)「うぅ……」
最後の胃液を吐ききると、男は冷たいタイルにぐったりと横たわって、そのまま昏倒してしまった。
彼はクーチュリエが死んだことなど少しも知らなかった。
アパルトマンの周りがざわざわと騒がしくても、窓をしっかりと施錠して、膝を抱えてうずくまっていた。
226
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:07:59 ID:CybtGELY0
クーチュリエがいなくなって、アパルトマンは驚くくらい様変わりした。
石壁はくすみ、門扉は錆びた音を立てた。
小さな庭は荒れ果て、草がぼうぼうと伸び、支離滅裂な印象を与えた。
ここを訪れる人はなく、アパルトマンはまた荒んだ寂しい建物に逆戻りしてしまった。
「よっこいっしょ!」
227
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:08:48 ID:CybtGELY0
誰かが、がたがたと乱暴な音を立てた。
アパルトマンの僅かな住人は、クーチュリエの死を悼み、部屋にひっそりと閉じこもっている。
不躾な音を立てたのは向かい側に住む、あの売れない小説家の男だった。
(*'A`)「んぐぐ……しばらく開けていないから、建て付けが益々悪くなってやがる……」
男は顔を赤くして、息んでいた。
細い腕でようやく窓をこじ開ける。
(;'A`)「はぁはぁ、やっと開いた」
額に滲む汗を拭うと、外の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
('A`)「うん、良い朝だ」
日差しに照らされた横顔は、以前と比べると随分ましになっていた。
青白かった頬には血色が戻り、ヨレヨレだったシャツは、糊のきいた真新しいものに着替えられていた。
ひどくせいせいとした顔をして、襟を整えると、ブルーのタイをきっちりと締めて居住まいを正した。
背筋はぴんと伸びて、もはやあの病的な面影はすっかりなりを潜めていた。
228
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:09:29 ID:CybtGELY0
男は、とある病を患っていた。
それはとてもやっかいで、解決する術のない病だった。
その病は神経からくるものらしく、発作が度々起きていた。
時には目が回るような感覚を覚え、またある時には耐え難い頭痛が彼を苛んだ。
男はうつ伏せになり背中を丸めて、苦痛が過ぎ去るのをじっと待つ。
いつ発作が起きるのかと、彼はびくびくしながら日々を過ごしていた。
229
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:10:11 ID:CybtGELY0
一つ、打ち明け話をしよう。
彼は向かいの少女が毎朝飾る白い花の芳香が大の苦手だった。
もはや憎んでいたと言っても差し支えないくらいに。
あれが窓の隙間から入り込み、強烈で無遠慮な匂いを漂わせるたびに、彼の発作はどんどんひどくなっていった。
それどころか、あの匂いをきっかけに発作が起こるようになってしまっていた。
やがて男は部屋を締め切って、窓の隙間に詰め物をし、一歩も部屋から出なくなった。
ものが書けなくなったので、その日の食べ物すら困窮する有り様だった。
230
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:11:25 ID:CybtGELY0
('A`)(それも今日で終わりだ……)
日差しの眩しさに目を細めて逃れる。
男の口許は自然と持ち上がり、笑みを形作った。
笑みをを浮かべたまま、意気揚々と机に向かう。
なぜあの花の香りがしなくなったのか、男は知る由もなかった。
ただ、いつもより空気が澄んでいて、身体がしゃっきりとしていた。
('∀`)φ「よーし、書くぞ」
男は病が改善したのだと一人合点して、うんうん頷いた。
その顔は、クーチュリエが見たこともない、生気に満ち溢れた清々しい表情をしていた。
231
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:12:20 ID:CybtGELY0
以上です
ありがとうごさいましたー
232
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:19:25 ID:W9iwjx9s0
なんだろう、二人に罪がないところもまた悲しいな
乙
233
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:28:57 ID:9B4lxqy2O
乙。好きな雰囲気だ
クーチュリエ報われないな…
投下します
閲覧注意
234
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:31:15 ID:9B4lxqy2O
('A`)「ブーン、今日は大事な話があるんだ」
( ^ω^)「なんだお?」
('A`)「俺な、ずっと言おうと思ってたんだ」
( ^ω^)「もったいぶるなお」
('A`)「俺、俺は……」
ツンのことが、好きなんだ。
いつかこの時が来ることを覚悟はしていた。
僕はツンが好きだ。
僕はドクオが好きだ。
だけど大切な幼なじみと自分の片想いを比べることは出来ない。
だから僕はこの気持ちに蓋をして、二人の幸せを願うことにしたんだ。
――それなのに、現実とは上手くいかないもので。
.
235
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:32:36 ID:9B4lxqy2O
( ^ω^)「ツン、これはどういうことなんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「だから何度も言ってるとおりよ。モララーが私の友達なのは知ってるでしょ?
今度ドクオの誕生日だから、プレゼント選びを手伝ってもらってたのよ」
ツンは僕が突き出した携帯電話を避けながら悪怯れることなく言った。
ツンは呆れ顔だ。
僕に嘘を吐いているのに。
( ^ω^)「それなら僕を誘えば良かったお。僕と一緒ならドクオに見付かったって勘違いされないお」
ξ゚⊿゚)ξ「勘違いも何も、私はやましいことなんかしてないじゃない。それに……」
( ^ω^)「それに?」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたじゃ、ダメなのよ……」
ツンはそれきり何も言わない。
どうして僕はダメなのか言わない。
僕じゃツンと釣り合わないとでも言うつもりだろうか。
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、もう、いいでしょ?
私は浮気なんかしない。私はドクオが好きだから告白を受けたの」
236
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:34:19 ID:9B4lxqy2O
( ^ω^)「本当に?」
ξ゚⊿゚)ξ「私、今まであなたに酷い嘘を吐いたことがあったかしら?」
( ^ω^)「それは……」
ツンは真面目な人だ。
だから僕はツンが好きだ。
そして、だからこそ僕は身を引いた。
ξ゚⊿゚)ξ「これからもね、ドクオとデートなの。ブーンは私達の仲を取り持ってくれたでしょ?」
ξ*゚⊿゚)ξ「だから私、幸せなのよ」
( ^ω^)「嘘を吐いてるのに? 二股が幸せなのかお?」
ξ゚⊿゚)ξ「だからその話はもう終わって……」
( ^ω^)「裏切ったお。ツンはドクオを裏切ったんだお」
ξ゚⊿゚)ξ「!!」
ツンは目を見開いて動きを止めた。
顔から血の気が引いている。
きれいな顔が真っ白になっている。
237
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:35:21 ID:9B4lxqy2O
ξ;゚⊿゚)ξ「ぶ……ん……」
ツンは膝をついた。
僕を見上げて苦しそうに息をする。
僕はツンが好きだった。
ξ; ⊿ )ξ「なん、で……包丁、な……て……」
( ^ω^)「ツンは裏切ったお。僕はツンとドクオが仲良くしていれば良かったのに、ツンは裏切ったお」
ξ; ⊿ )ξ「……っ」
( ^ω^)「僕、知ってるお。ツンはまだ僕らが小さかった頃、嘘を吐いたお」
僕達がまだ小学生だった頃の話。
ツンは僕の誘いを断って他の友達と遊んだ。
ξ; ⊿ )ξ「あ……」
( ^ω^)「先約があったから?
なら本当のことを言えば良かった。お母さんと買い物に行くなんて言わなければ良かったんだお」
ツンはついに床に倒れた。
うつ伏せでお腹を両手で押さえて苦しそうな呻き声を出している。
238
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:36:36 ID:9B4lxqy2O
( ^ω^)「信じていたお。二人なら幸せになってくれるって」
僕の携帯電話のディスプレイには抱き合うツンとモララーの姿。
ツンは車にひかれそうになった時に庇われたからと言っていた。
( ^ω^)「信じられないお」
不自然な体勢だ。
思えばツンは前々からやけにモララーと仲が良かった気がする。
モララーはモテたから、ツンもそういう雰囲気にあてられてしまったのだろうか。
しかしどっちにしろツンが戻ってくることはない。
いざという時の為に持ってきた包丁が役に立つとは思わなかったが、面倒なことになった。
( ^ω^)「ツンの家なのに……」
真っ赤になったカーペットをどうにかしないと。
ドクオに見つからないようにしないと。
こういう時の為にもっと勉強してくるべきだった。
どうしようか考えていると玄関のチャイムが鳴った。
誤魔化す為にも取り敢えず出た方がいいだろう。
( ^ω^)「はいはーい、どちら様ですかおー」
239
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:38:20 ID:9B4lxqy2O
手に付いた赤いものはカーペットで拭いておく。
ちゃんとは取れないけれど、手を握っておけばバレない。
上着のジッパーを上げて赤い汚れを隠す。
僕は万全の状態で玄関のドアを開けた。
( ^ω^)「……こんにちは、だお」
('A`)「よう。お前がツンのところにいるのは珍しいな」
( ^ω^)「今日はちょっとしたお話があって」
最悪だ。
ツンとドクオのデートは勝手に外で待ち合わせだと思っていたのに。
ツンは玄関からは死角だが、リビングに上げたら確実にばれる場所に放置してある。
('A`)「ふーん……。ツンは?」
( ^ω^)「近所のコンビニに買い出しに行ったお。お茶が切れたからって」
('A`)「なら帰ってくるまで待たせてもらうか」
詰みだ。
仮にもツンの恋人であるドクオを拒むことは出来ない。
僕にこれ以上打てる手は……いや、まだある。
ツンがいなくなったから、打てる一手が。
240
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:39:30 ID:9B4lxqy2O
('A`)「どうした?」
( ^ω^)「なんでもないお」
僕はドクオを先導する。
('A`)「……なんだ、この匂い」
( ^ω^)「……」
('A`)「……ツン?」
(;'A`)「ツン!」
ドクオの顔が真っ白になる。
さっきのツンみたいだ。
(;'A`)「ツン、ツン!」
ドクオは真っ赤なツンを乱暴に揺さ振る。
そのせいで止まりかけていた赤がどろりと広がる。
(;'A`)「ブーン、どういうことだよ!?」
( ^ω^)「……ドクオ、残念ながらツンは浮気をしていたお」
241
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:41:00 ID:9B4lxqy2O
僕は携帯電話のディスプレイをドクオに見せた。
('A`)「これは、どうせツンのことだから、車にひかれそうになった時に庇われたとか、そんなんだろ?」
(#'A`)「お前は、そんなことでツンを殺したのか!? そんなことで俺からツンを奪ったのか!?」
ドクオはツンの言い訳と同じことを言って僕に掴み掛かってきた。
そうかもしれない。
僕は本当は奪いたかっただけなのかもしれない。
だって今の僕は、こんなにも冷静なのだから。
( ^ω^)「ドクオ、大事な話があるんだお」
(#'A`)「言い訳なんか聞きたくねぇよ!」
僕はじりじりと壁際に追い詰められながら、今にも僕をツンと同じにしそうなドクオの手を掴む。
( ^ω^)「本当はもっと前に言うべきだったかもしれないお」
僕は、ドクオが好きなんだお。
( ^ω^)「僕、いつもドクオとツンに好きだって言ってきたお。
だけど、この好きは特別なんだお」
242
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:42:15 ID:9B4lxqy2O
僕の告白に気を取られたドクオの手を僕から離させる。
ドクオは僕をただ見ていた。
( ^ω^)「本当は僕が君の隣にいたかったお。
手を繋ぎたかった、キスをしたかった、君が望むならその先だって進みたかったんだお」
ドクオは完全に僕から手を離した。
僕もドクオの手を掴むのをやめた。
('A`)「そんな……ことで……」
( A )「俺は、ツンが好きだった。ずっと好きで……親友のお前が俺達のことを喜んでくれて嬉しかった」
('A`)「だけど、さ」
ドクオは足元に転がっていた真っ赤な包丁を手に取った。
(#'A`)「俺にとってはツンが全てだった!
俺はツンがいない世界なんかいらねぇんだよ!」
(; ゚ω゚)「ドクオ!」
僕は手を伸ばした。
届かなかった。
ドクオは包丁で、自分の喉を切り裂いた。
.
243
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:43:30 ID:9B4lxqy2O
僕は放心していた。
部屋はいつの間にか真っ暗になっていた。
そんな静かな部屋に響く聞き覚えのあるメロディはツンの携帯電話のものだ。
( ω )「……」
見なきゃ良かった。
くだらないメールだった。
244
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:45:01 ID:9B4lxqy2O
――――――――――――
From:モララー
Sub :誕生日プレゼント
――――――――
こんにちは(・∀・)ノ
この前一緒に選びに行った恋人の誕生日プレゼント、ちゃんと渡せた?
僕のセンスはあまり参考にならなかったみたいでゴメンね(笑)
そういえば車にひかれそうになった時、足捻ったりしてない?
あの時は僕も気が動転してて気が回らなかったんだけど、ヒールを履いてたから心配で。
痛かったらちゃんと病院に見せに行った方がいいよ。
今度僕にも彼氏を紹介してね。
ツンがどんな人と付き合ってるか興味がわいちゃったよ。
好物が野菜な人って珍しいね(笑)
また何か困ったことがあったら言ってね。
いつでも力になるから。
また明日、学校で(^_^)/~
――――――――――――
.
245
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:46:48 ID:9B4lxqy2O
僕はベランダに出た。
外は真っ暗だった。
下にあるはずの地面なんか、まったく見えない。
これが僕の行き先だ。
( ω )「ごめん。ツン、ドクオ」
でもこれだけは、本当に本当だったから。
「大好きだったお」
愛は時として愛する人さえ傷付ける凶器となりうる、ようです
.
246
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:48:09 ID:9B4lxqy2O
以上です。ありがとうございました
247
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:49:40 ID:s7pR4Mzs0
お、乙……
辛いし胸が痛い
ガチの誤解か……
248
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:50:49 ID:q43YO4Ow0
乙…
249
:
名も無きAAのようです
:2012/12/22(土) 22:51:04 ID:W9iwjx9s0
すれ違いって悲しいな
乙
関係ないけどドクオって鬱祭終了の翌日が誕生日なんだな
250
:
名も無きAAのようです
:2012/12/23(日) 23:59:55 ID:eLgLLv9.0
クリスマスイブですね
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_468.jpg
(*゚ー゚)(,,゚Д゚)( ・∀・)
251
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 00:04:45 ID:EHASGt7.0
>>250
見れぬよ?
252
:
◆R6iwzrfs6k
:2012/12/24(月) 01:27:16 ID:aHzgNXPE0
クリスマスイブなんか知ったこっちゃねーよ
それぞれの生き方、のようです投下します
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/lite/read.cgi/internet/13029/1356279939/l30
253
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:49:14 ID:XsWFxXvE0
投下します。
254
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:50:01 ID:XsWFxXvE0
むかしむかし
あるところに、びんぼうなきこりのかぞくがいました
( ^ω^)「こら! ツン! お兄ちゃんのパンかえすお!」
ξ゚⊿゚)ξ「やーだよー!」
( ФωФ)「楽しそうであるな」
ζ(゚ー゚*ζ「そうね」
びんぼうでも、かぞくぜんいんしあわせでした
しかし
( ФωФ)「……今年は冷夏で、畑の作物が全て枯れてしまった。このままでは、家族全員共倒れになってしまう」
( ФωФ)「もう、子どもたちを手放すしかないんだ……!」
ζ(゚―゚*ζ「わかってる。そんなこと、わかってるからっ!!」ダンッ!
( ФωФ)「……少し静かにしなさい。子どもたちに聞こえてしまう」
ζ(゚―゚*ζ「でも、そんなこと、私には決められない」
ζ(゚―゚*ζ「私は、あの子たちの母よ? あの子たちが死ぬような決断なんて、できないわ」
ζ(゚―゚*ζ「……あなたにまかせます。あなたが決めたことならば……ね」
255
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:51:06 ID:XsWFxXvE0
さて、このはなしをきいていたのは、おなかがすいてねむれないこどもたち
ξ;⊿;)ξ「どうしようお兄ちゃん! 私たち、捨てられるの? 死んじゃうの?」
( ^ω^)「……大丈夫だお。ツン。お兄ちゃんが、何とかしてあげるから」
( ^ω^)「いいことを思いついたから、ちょっと外へいってくるお」
そういうと、ブーンはまどからそとへでていきました
つぎのひ
ζ(゚―゚*ζ「今日は、森へ行くわよ」
( ФωФ)「お弁当として、パンをあげよう。大事に食べるのだぞ」
かぞくは、なかよくもりへいきました
そのとちゅう、こっそりブーンは、きのうのよるにひろったしろいこいしをいっこずつおとしていきます
そうして、かぞくはもくてきのばしょへつきました
( ФωФ)「お父さんとお母さんは木を切っているから、おまえたちはそこにいるんだぞ」
( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ「はーい」
ζ(゚―゚*ζ「じゃあ、いってくるわね」
256
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:52:00 ID:XsWFxXvE0
こどもたちはまちました
おひるになり、パンをたべました
よるになってもおとうさんとおかあさんはかえってきません
( ^ω^)「おとーさーん!」
ξ゚⊿゚)ξ「おかーさーん!」
しずかなもりに、ふたりのこえだけがひびきます
そして、もうおとうさんとおかあさんがかえってしまったことをしると、ついにツンはなきだしてしまいました
ξ;⊿;)ξ「やだよぅ……。おとぉさんおかぁさん……」
( ^ω^)「ツン、落ち着くお」
ξ;⊿;)ξ「やだやだぁ。おどうざんおがあざんおいでがないでえええええ!」
( ^ω^)「大丈夫だお。ちゃんと、家に帰れるお。お兄ちゃんを信じるお」
しばらくして、つきがでてきました
つきは、ブーンのおいたしろいこいしをてらします
( ^ω^)「こっちだお!」タッタッ
( ^ω^)「こっちこっち!」タッタッ
( ^ω^)「あしもとにきをつけるお! いえまでもうすぐだお!」タタタタッ
257
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:53:01 ID:XsWFxXvE0
( ^ω^)「ただいまだお!」ガチャ
( ФωФ)ζ(;―;*ζ「!」
( ФωФ)「すまなかった……!」
ζ(;―;*ζ「ブーン! ツン!」
おとうさんとおかあさんは、こどもたちをだきしめました
しかし、たべものがないことはかわらないのです
すうじつご
ζ(゚―゚*ζ「今日も、木を切りにいくわよ」
また、かぞくはもりへいきました
しかし
( ^ω^)(やばいお。小石なんて持ってないお)
こまったブーンは、かわりにとしろいパンをちぎっておいていきました
しかし、これはしっぱいでした
いざふたりがかえろうとしたとき、パンはもうひとかけらもなくなっていたのです
こどもたちはもりをさまよいました
しかし、もりからでるどころか、どんどんとおくのほうへとはいりこんでしまっていたのです
258
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:54:00 ID:XsWFxXvE0
ξ゚⊿゚)ξ「もう、あるけないよ……」
( ^ω^)「じゃあ、ツンはここで休んでてだお。ちょっと、家みたいなものがみえたから、見てくるお」
ξ゚⊿゚)ξ「! それ、ほんと? 私も行く!」
こどもたちはあるいていきました
そして、あったのは、たくさんのおかしでつくられた『ような』いえでした
――しかし
( ^ω^)「おかしの家だお!」
ξ゚⊿゚)ξ「このクッキー、おいしい!」
おなかがすきすぎて、もうこどもたちには、それはおかしのいえにしかみえませんでした
( ^ω^)「おいしいお!」
ξ゚⊿゚)ξ「おかしなんてひさしぶりー!」
ふたりはばりばりと、いえをたべていきます
それはおかしににた、ただのきだとはきづかずに
やがて、いえのぬしがきづきます
(‘A`)「おいッ! おまえら、なにくってんだよっ」
( ゚ω゚)ξ゚⊿゚)ξ「ぎゃー!
259
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:55:04 ID:XsWFxXvE0
ふたりはおどろいてにげだそうとします
(‘A`)「家なんか食うほどおなかすいてたのか……。捨てられたのか?」
こどもたちのかたがびくっとうごきます
(‘A`)「入れよ。あったかいご飯、食いたいだろ?」
こどもたちは、かおをみあわせると、いえのなかへとはいっていきました
(‘A`)「ほら、食えよ。いっぱいあるからな」
(‘A`)(やせて、かわいそうに……)
こどもたちはほんとうにやせていました
とくに、ブーンは、よくツンにごはんをあげていたため、ガリガリにやせこけていました。
( ^ω^)「おいしいおいしい!」パクパク
ξ゚⊿゚)ξ「おかわりもっと!」
260
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:56:10 ID:XsWFxXvE0
つぎのひ
(‘A`)「そろそろおきろよー」
( ^ω^)「……! あ、そうだったお……」
ξ゚⊿゚)ξ「おとうさんおかあさん……」
(‘A`)「……さて、今から料理をするんだが、誰か手伝ってくれないか?」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、手伝うー」
( ^ω^)「ブーンはちょっと料理はできないから……」
(‘A`)「そうか。じゃあ、ちょっとそこでまっていてくれるか? また、なんかてつだってもらうよ」
( ^ω^)「はーい」
(‘A`)「できたぞー!」
( ^ω^)「ありがとうだお」
(‘A`)「よし、じゃあたべるか。いただきまーす!」
そして、ドクオだけがしょくじをはじめます
こどもたちは、ドクオをじっとみつめていました
261
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 16:58:04 ID:XsWFxXvE0
(‘A`)「? どうしたんだ?」
じつは、こどもたちは、ドクオのことをこどもをたべるまほうつかいだとおもっています
それは、きのうのこんなかいわのせいです
( ^ω^)「えっと……」
(‘A`)「ドクオだ」
( ^ω^)「ドクオさんは、なんでこんなところに住んでるんだお?」
(‘A`)「人が苦手でな」
ξ゚⊿゚)ξ「なんでおかしの家にしたの?」
(‘A`)「ん? 夢があっていいだろ? ほら、おれ、魔法使いだしな」
( ^ω^)「……こどもたべるのかお?」
(‘A`)「さ〜な」
ドクオにとってはちょっとふざけただけでした
でも、それをこどもたちはまにうけてしまったのです
( ^ω^)『大丈夫みたいだお』
ξ゚⊿゚)ξ『じゃあ、食べようかお兄ちゃん』
262
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 17:00:03 ID:XsWFxXvE0
ひそひそとはなし、しょくじをはじめるふたり
ドクオは、そんなこどもたちをふしぎそうにみていました
それからとおかほどたったころ
(‘A`)「今日は、パンを焼こうと思う」
ドクオは、なかなかこどもたちとなかよくなれないと、こまっていました、
そこで、いっしょにパンをつくったらなかよくなれるのでは、とおもったのです
ドクオは、けいかいするこどもたちといっしょにパンのきじをつくりはじめました
(‘A`)「さあ、後は焼くだけだぞー」
( ^ω^)「…………」
ξ゚⊿゚)ξ「…………」
そして、ドクオがかまどにパンをいれようとしたとき
いましかない
こどもたちは、ドクオをうしろからおもいっきりつきとばしました。
(‘A`)「え?」
(‘A`)「うわああああああああああああああああああああ!」
263
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 17:01:06 ID:XsWFxXvE0
( ^ω^)「やったお! やったお! わるい魔法使いは倒したお!」
ξ゚⊿゚)ξ「やった! やった! やった!」
(‘A`)(ああ)
ドクオは、むかしからひとりぼっちでした
かぞくからもきらわれ、こんなもりのなかへおいやられてしまいました
ひさしぶりにあったこども
(‘A`)(ともだちに、なろうとしただけなのにな)
ないても、なみだはすぐにじょうはつしてしまいました
(‘A`)(やっぱり、むりなのかな。ああ、熱い――)
( ゙ω゙)「もえたもえたー」
ξ゙⊿゙)ξ「わるい魔法使いは燃え死んだー」
こどもたちのめには、ただ、わるいまほうつかいのしたいにしかみえていませんでした
こどくなおとこのなきがらになんて、まったくみえていません
くるくると、こどもたちはおどりはじめました
くるくる、くるくると
それはそれは、とてもたのしそうでした
264
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 17:02:02 ID:XsWFxXvE0
こどもたちは、いえにあるかねめのものをすべてうばっていきました
そして、なんにちもかかりながら、やっといえにたどりつきました
( ^ω^)「ただいまだお!」ガチャ
ξ゚⊿゚)ξ「やっとついたー」
おとうさんとおかあさんは、ふたりのもっているものをみてすべてをさっしました
もりのおくに、かねもちがすんでいるということはきいたことがありました
おとうさんとおかあさんは、なにもいわずにこどもたちをだきしめました
( ^ω^)「おとうさん! ブーン、わるい魔法使いをやっつけたんだお!」
ξ゚⊿゚)ξ「おかあさん! 私もお兄ちゃんと一緒にやっつけたの!」
こどもたちは、すこしおおげさに、じぶんのみたことをはなします。
そう、これが、あのどうわの、ヘンゼルとグレーテルです。
そのごきこりのかぞくは、おかしのいえからもってかえってきたたからものでしあわせにくらしましたとさ。
( ^ω^)とξ゚⊿゚)ξのようです
END
265
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 17:03:01 ID:XsWFxXvE0
以上です。
なんか、ドクオのAAちがうことに途中で気付きました。すみません。
元ネタは、皆さんの思っているとおりです。ヘンゼルとグレーテルです。
少々違うところもありますが、それは子どもたちが大げさに話したのだと解釈しておいてください。
皆さん、この話を読んで鬱になってくだされば幸いです。
ありがとうございました。
266
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 17:17:30 ID:jM5pj6360
祭りは明後日までか
267
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 17:29:49 ID:jM5pj6360
今読んできた
乙
268
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:03:02 ID:9.6muNsU0
うわあ……ドクオ…
乙
269
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:05:57 ID:Plfs1bkUO
よくある話だな乙
270
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:18:51 ID:hBoy/YlMO
そういや何で26日の7時までなんだ?
どうせなら26日いっぱいでやればいいのにもったいない。
271
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:20:26 ID:FwtSLtIE0
投下する
272
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:21:30 ID:FwtSLtIE0
('A`)は深海魚のようです
.
273
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:22:33 ID:FwtSLtIE0
夢の中で鳴っていたけたたましい音が、硬いものに触れた感触で掻き消えた。
瞼を開く。
視界は暗く、眠気もかすかに残っている。
無意識に伸びた手が目覚まし時計のボタンを押している事に、数秒の時間を要した。
遅れて夜の冷気を感じ、手を毛布の中に引っ込める。
昔感じた手の温もりを思い出して、少しだけ気分が沈んだ。
('A`)「……」
畳の上に座っているデジタル時計に目をやると、まだ午前二時前だった。
七時にセットした筈だったが、時間を間違えてしまったのか。
現在時刻の上に表示されているアラーム時刻は、
「01:58」という、中途半端な時間で止まっている。
恐らくセットしている途中で眠ってしまったのだろう。
状況を理解して行く内に、目と頭が醒めてきた。
かすかにぼやけていた部屋の畳も、輪郭がはっきりと見えてくる。
と同時に、喉がカラカラになっている事に気付く。
274
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:23:52 ID:FwtSLtIE0
('A`)(暖かいもん飲みたいな……)
布団から這い出て、ゆっくりと立ち上がり台所へ向かう。
靴下を履いている為か、さほど冷たさは感じない。
台所にある棚を開く。
が、望んでいたものは無い。
コーヒーのドリップパックは既に使い切られ、空袋だけがむなしく転がっていた。
('A`)(どうする? お湯でも飲むか?)
しかしそれでは味気ない。
他の何かを電子レンジで温めようとも思ったが、
冷蔵庫には生憎、飲み物は何一つ残っていない。
('A`)(自動販売機で買うか……)
アパート付近の大通りには自動販売機がある。
屋外は寒いだろうが、深夜の町を歩くのも悪くないかも知れない。
寝巻の上からジーパンを穿き、ジャンバーを羽織り、手袋をして外へ出る。
寒さに肌が粟立ち、思わず体が震える。風が吹いていないのが救いだ。
ひんやりとしているが、澄み切った空気の中を歩いて行くのは、どこか心地良い。
275
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:25:18 ID:FwtSLtIE0
歩みを進める。夜に閉ざされた大通りはひっそりと静まり返っていた。
薄く積もった雪、点滅する信号機、明かりを灯した街灯。
夕暮れ時は、ひっきりなしに車が往来していたというのに。
静寂を絵に描いたような深深とした景色に、「師走」という事を忘れそうになる。
それもそうか。
この街は都会と言うほど発展しておらず、田舎と言うほど住宅が疎ではない。
いくつかビルは並んでいるが、駅には新幹線など通っていないし、ましてや夜だ。
人の動きも活発ではない。ただ、他県に比べて消極的な人が多いというのは聞いた事がある。
自分もその中の一人だろう。
芯の部分は昔と殆ど変らない。
小さい頃は、大人になったら好きな人と結婚して、暖かい毎日を送るのが普通だと思っていた。
それが当然だと、盲目的に信じていた。
だが、実際はどうだ? そんな自分はどこにもいやしないじゃないか。
今だって、誰かと手を繋いでなどいない。
白い息を吐き、一人きりで雪道をざくざく歩いている。
276
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:26:50 ID:FwtSLtIE0
('A`)(ん)
頭に冷たさを感じ、空を見上げると、粉雪がぱらぱらと降り出していた。
俺は雪男だったのか? と、心の中で笑う。
さぞかし雲に覆われているだろうなと思っていた夜空には、瞬く星たちがいくつも見えた。
ときおり薄い雪雲が通り、光を遮る。月を探してみたが、どこにも見当たらない。雲に隠れているのだろう。
すぐ傍にある街灯が、満月のように思えてしまった。
('A`)「……」
ネオンを尻目に通りを一人で歩いていく。冬の寒々しさも相まって、普段より孤独感が湧いてくる。
寂しくはないが、自分は一人だという事を強く思い知らされる。
夜が支配する街。静けさが包む街。まるで、索莫とした海の底のよう。
だとしたら、自分は何だろう。
こんな街を歩いている自分は。
さながら、一人ぼっちで海底を泳ぐ深海魚だろうか。
.
277
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:28:23 ID:FwtSLtIE0
('A`)「!」
少しつんのめって立ち止まる。既に自動販売機は目と鼻の先にあった。
思索に耽っていると、つい目の前の事を忘れてしまう。
小銭入れから硬貨を出して、入れる。
缶コーヒーの下のボタンを押す。
反応がない。
('A`)「?」
もう一度押してみるが、変化なし。
訝しげに指を離すと、そこには「売り切れ」の文字があった。
コーヒーさえ俺を温めてくれないのか。
隣のお茶はまだ残っていたので、仕方なくそれを買う。
がこん、と聞き慣れた音の後、落ちてきたお茶を取り出す。
手袋越しに冷たさが伝わってきた。
ああ、「あったか〜い」と「つめた〜い」を間違えたのか。
とことん駄目だな。今はもう家に帰った方が良いのかも知れない。
278
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:29:52 ID:FwtSLtIE0
踵を返し、ゆっくりと帰路につく。
同じ道で帰ろうとしていたが、ふと思い立ち、寄り道をしてみる事にした。
橋を渡り、いつもなら真っすぐに行く所を右に曲がり、川沿いの路地に進む。
しばらく歩くと左手に公園が現れる。
ブランコが四つと、屋根つきのベンチが二つあるだけの、簡素な公園。
公園の敷地に入る。と、携帯が震えだした。
サブディスプレイに表示されているのは、「ジョルジュ」という名前。
('A`)「もしもし。久し振りだな、こんな夜中にどうした?」
『おおスマン。いや、ちょっと目が覚めちまって。ふとお前はどうしてるんかなーと思ってさ』
('A`)「奇遇だな。俺も今目が覚めてるところだよ。頭は冴えてないけどな」
『相変わらずだな』
('A`)「そうかねぇ……」
ベンチに座り、友人からの言葉に溜息まじりで返す。
ひゅう、と風が吹き抜け、身を切るような寒さに体を縮こまらせた。
279
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:31:16 ID:FwtSLtIE0
('A`)(風が出てきたか)
『調子は良いか?』
('A`)「まあまあかな。ジョルジュは?」
『クリスマスだってのに深夜に男と二人で話してる時点で、察してくれよwww』
向こう側からは笑い声が聞こえたが、どこか無理をしているように思えた。
以前はもっと覇気も威勢もあった筈だが。
『ま、今日も朝起きたらジョギングして、んで走り込みに行くかな。お前のアパートの前も通るかも知れんね』
('A`)「通ったら目覚ましに声でもかけてくれ」
『気が向いたらな。んじゃ、叶えるまで頑張るわ。じゃあな』
('A`)「おう。またな」
電話を切る。
丁度、雪垂りの音がした時だった。
('A`)(まだ目指してるのか……)
大学で知り合いになった時から今現在まで、
ジョルジュが目指しているものは全く変わっていなかった。
280
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:33:05 ID:FwtSLtIE0
小さい頃から走る事が好きで、オリンピックに出る事をいつも夢見ていたらしい。
必ず出てやる、絶対に叶えてやる、と息巻いて。
しかし当然の事ながら、現実は甘くはなかった。
中学時代はぐんぐん伸ばしていた記録も、高校、大学へと進むにつれ伸び悩み、
卒業して八年以上経った今もそこから抜け出せない、と聞いている。
だというのに、まだ夢を捨てていない。
何でだ?
何で、現実を知った今でも、上を向いて進んでいける?
あの時見えていた道は、幻だったんだよ。
前を向けよ。現実を受け入れろよ。もういいだろ。
もう、諦めろよ。
お前が見てる夢は、目を閉じてる時の夢だよ。
叶いやしないんだよ。
もう出来っこない。遅すぎるんだ。
大人になったのなら、現実を目の前から見据えて、受け入れて、前を向いて歩いて行かないといけないんだよ。
届かないものを目指す事ほど、意味のないものは無いのだから。
281
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:34:38 ID:FwtSLtIE0
でも。
そうなら。
もし、そうなのなら。
この、胸に何かが潜り込んでくるような気持ちは何だ?
鳩尾を突き刺すような感触は何だ?
目元に押し寄せてくる波は何だ?
何で、昔に抱いた願いが蘇ってくるんだ?
何で、俺は――
(;A;)
涙を、流しているんだ?
(;A;)「……」
小さい頃は。
大人になったら好きな人と結婚して、暖かい毎日を送るのが普通だと思っていた。
それが当然だと、盲目的に信じていた。
282
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:36:48 ID:FwtSLtIE0
だが、実際はどうだ? そんな自分はどこにもいやしないじゃないか。
今だって、傍には誰一人いない。
気力と希望をすり減らし、ただ時間だけを重ねた、萎んだ自分がいるだけ。
大学を卒業し、一人で暮らしていく事を決めた時に、不安は湧かなかった。
誰かと付き合いを重ねていき、深い所まで知り合う事の方が、
疑いを捨てて人を信じ切る事の方が、遥かに不安だった。
いつからだろう。差し伸べられた手を握るのが怖くなったのは。
いつからだろう。鏡を見る事が怖くなったのは。
いつからだろう。朝を迎えるのが怖くなったのは。
中学時代。小学校からの友人が他人と話している所に来た時、
俺が友人なのかと聞かれ、違う、と言われた時からだろうか。
高校の時のクリスマス。
クラスメートに手を繋がれて告白され、約束された場所に着いた時、
それが実は嘘だったと、嘲笑の声と共に理解した時からだろうか。
入学しろ、入学しろ、と耳にタコが出来るほど言われていた難関大学に受かる事が出来ず、
親が「産まなければ良かった」と愚痴っていたのを聞いた時からだろうか。
283
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:38:33 ID:FwtSLtIE0
分からない。分かりたくもない。
もしかしたら自分でどうにか出来たかもしれない。
でも、積み重なった悔いは、降り積もった過去は、雪のようには解けてくれなかった。
今はもう。
流氷が漂う、冷たい冷たい海の底から、星の粒を見上げる事しか出来ない。
既に、届かない所まで落ちてしまっている。
自分があの時信じていた温もりは――もう、掴めやしない。
夜空を見上げる。
瞬く光の粒。流れる雪雲。
昔に見た澄み切った空とは、似ても似つかない。
(うA;)「……」
284
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:39:47 ID:FwtSLtIE0
また一つ。
星が雲に隠れた。
雪は止み。
風は強さを増していく。
何一つ浚わずに。
何一つ殺さずに。
ただうなりを上げて。
ただ凍みだけを連れて。
夜の街を。
吹き抜けていく。
285
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:40:48 ID:FwtSLtIE0
('A`)は深海魚のようです
おわり
.
286
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:41:42 ID:FwtSLtIE0
終わり。
見てくれた人ありがとう、さよーならー。
287
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 18:51:32 ID:4ow1u0Zw0
つらすぎんだろ……
乙
288
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 20:55:43 ID:.DJCd4mQO
('A`)めげるな、頑張れよ
289
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 22:12:37 ID:cVsXFuLcO
投下しました。
( ^ω^)ホワイトクリスマスのようです
http://jbbs.m.livedoor.jp/b/i.cgi/internet/13029/1356265440/1-
290
:
名も無きAAのようです
:2012/12/24(月) 23:12:06 ID:Dxcjdsro0
今で何作くらいなんだろ
291
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:10:32 ID:YbiUUqLU0
クリ……なんですって?栗?
一レス投下します
292
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:12:05 ID:YbiUUqLU0
川 ゚ -゚)「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを、誓います」
川 ゚ー゚)「あいしてる、ドクオ。幸せになろうな」
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_471.jpg
すいそうの結婚式のようです
293
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:50:16 ID:wFlDFj320
('∀`)「クリスマスイヴの予定がいっぱいで忙しいwwwwwwwwwwwww」のようです
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1356308798/
の7から
書き忘れてたけど投下したよー
294
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 00:51:19 ID:wFlDFj320
>>292
これは......綺麗なのに鬱になる......
いや、綺麗だからなのか......
295
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 01:16:25 ID:5jwfPOqg0
('A`)掘り当てたのはゴミクズだったようです
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1356150049/
色々不手際があったせいで混乱させてしまいました
すみませんでした
296
:
◆R6iwzrfs6k
:2012/12/25(火) 01:55:40 ID:LcR0Iro20
クリスマスだからって容赦ないなお前ら…
でも盛り上がってて嬉しい
祭は26日朝7時まで、それまで目一杯落ち込んで
297
:
◆R6iwzrfs6k
:2012/12/25(火) 01:57:41 ID:LcR0Iro20
またコピペミスった…
目一杯落ち込んでクリスマスを乗りきっていこうじゃないか
このペースだと作品数は20前後になるんじゃないかと予想してみたり
もうしばしお付き合い願います
298
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 03:21:09 ID:oZ/r15Fs0
投下しました
お城のクリスマスパーティーのようです
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/13029/1356366947/
299
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 12:16:41 ID:Dinl0W1I0
どの作品も鬱でいいなあ
すばらしい盛り下がりだ
300
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 12:43:46 ID:UzcDrTIEO
弾数は少ないがそれぞれの質が高すぎてもうね
301
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 13:03:00 ID:SNYsXoXE0
一発で致命傷だからな
302
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 20:26:54 ID:T9qtaaBw0
それじゃ祭りじゃなくて葬式じゃないですかーやだー
303
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:18:59 ID:r6Zwjnl.0
投下しまっす
304
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:20:00 ID:r6Zwjnl.0
('A`)メリー・クリスマスのようです
12月25日。
クリスマスの朝を俺は特に変わったこともなく迎えた。
('A`)「あ、そういや性の六時間のことすっかり忘れてた」
性の六時間にはネットの掲示板で顔も知らない同類たちと傷を舐めあうつもりだったのに。
('A`)「昨日疲れててすぐ寝ちまったしなー……」
溜まった仕事を処理し、家に着いたのは昨夜11時ごろ。
疲れ果てて帰宅した俺はシャワーを浴びるとすぐに眠り込んでしまっていた。
('A`)「なんか最近学生時代に比べて無茶がきかなくなってきたな……」
こんな時、誰か労ってくれる彼女でも居てくれたなら――。
心に僅かに浮かんだその考えを、軽く頭を振って払いのけた。
305
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:21:44 ID:r6Zwjnl.0
スーツに着替えて外に目を向ければ、窓ガラスを猛烈な吹雪が叩いていた。
('A`)「うわ、すげー吹雪いてるし……めんどくせぇ」
『ホワイトクリスマス』という言葉が俺は何より大嫌いだ。
生まれてこのかた27年、ずっと国内でも屈指の豪雪地帯で過ごしてきた。
当然、雪の負の側面は嫌というほど知り尽くしてる。
『ホワイトクリスマス』? 「ロマンチック」だぁ?
テメェらこの辺の轟々と吹きすさぶ風と前が見えない程の降雪の中でもそんな寝言ほざけるのかコラ。
恋人とでも抱き合いながら吹雪のお外で最低でも二時間はたっぷりと雪のロマンチックさとやらを堪能してから出直してこいと言いたい。
(;'A`)「……って、もうこんな時間じゃねーか! 会社に遅れる!」
ふと壁の時計に目をやると、とっくに家を出てないといけない時刻になっていた。
マズい、誰に向けるでもない怒りなんか沸き上がらせてる場合じゃなかった。
置いてあった食パンを何も付けずに口の中にねじ込むと、表面が撥水加工されたコートを着込み、頼りない安物の傘を片手に急いで家を出た。
306
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:23:30 ID:r6Zwjnl.0
(;'A`)「くあー、寒ィ……」
吹き付ける風は重力を無視してみぞれを横合いから思い切り叩きつけてきた。
横から来るのではコートと傘でカバーし切れない部分も出てくる。スラックスはみるみるうちに氷雪に染まっていった。
会社までは徒歩約15分。
間違いなくこのスラックスはそれまでには使いものにならなくなるだろう。
まぁ社内の自分のロッカーに替えのスーツはあるから別にどうでもいいっちゃいいのだが……。
(;'A`)「やっぱ寒ィよ……」
そこにたどり着くまでの15分、濡れた衣服で寒風にさらされることに違いはない。
ギシギシと今にもヘシ折れんばかりにたわむ傘の柄を握りしめ、確実に体温を奪われながら一歩一歩猛吹雪の中を進んでいく。
(;'A`)「あー、やっと着いた……。結局20分もかかっちまった」
暖房のきいた社屋に入り、やっとひとごこちつく。
すぐにロッカー室で替えのスーツに着替え、今まで着ていたそれをビニール袋に適当に押しこむ。
水分を含んだ布の塊はけっこう重たかった。
('A`)「ま、ちょうどクリーニングどきだったしな。ちょうど良かった――と、考えよう」
適当に自分を慰め、今日も今日とてつまらない仕事を処理しにデスクへと向かった。
307
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:26:01 ID:r6Zwjnl.0
昼休み。
('A`)「お、この『サムゲたん風地中海サラダラーメン』、結構アタリだな」
俺は休憩室に備え付けのテレビを見つつ、すぐ向かいのコンビニで買ったカップ麺をすすっていた。
( ・∀・)「うーす。あれ、ドクオ一人?」
そう言って入ってきたのは同期のモララーだった。
('A`)「おーす。まーな、お局様をはじめ女子社員様達は今日はお休みだよ」
多趣味で社交的、顔も悪くない――まぁ、端的に言えば『リア充』に分類されるような奴だった。
かと言って俺みたいな非リアにも分け隔てなく接するあたり、俺よりもずっと人間が出来ている。
なんでまたコイツがクリスマスに出勤なんてしてるんだ。
( ・∀・)「今日は平日だ。社会人にクリスマスもクソもあっかよ」
('A`)「そりゃそーだ。つーか、むしろなんで女性陣がみんな休みなんだ」
( ・∀・)「なんか社長夫人の絵の展覧会だったか何かがあってそっちに行かされてるんだと」
('A`)「ふーん、流石よく知ってるねぇ」
( ・∀・)「女子社員の友達から聞いたんだよ」
('A`)「そりゃ女性社員と事務的会話以外したことのない俺へのあてつけか」
( ・∀・)「かもな」
308
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:27:28 ID:r6Zwjnl.0
('A`)「ケッ。どーせ俺は昨日も今日も予定なんてありゃしませんよーだ」
( ・∀・)「そいつぁお気の毒。彼女くらい作れよ」
('A`)「『よし、彼女作ろう!』で作れたら苦労してねーよ。お前には分からんかもしれないけどさ」
( ・∀・)「ま、精々頑張れよ。独りで過ごすクリスマスほどみじめなもんはないぜ?」
('A`)「余計なお世話だ馬鹿野郎」
へいへいサーセン、と言い残してモララーは休憩室から出ていった。
テレビでは女性アナウンサーがカップルだらけの通りで何かを喋っていた。
デートにオススメの名スポットか何かを紹介しているらしかった。
「恋人と過ごさなければ人にあらず」とでも言うかのような口ぶり。
画面の向こうの晴れた首都の風景が、余計に俺を苛立たせた。
('A`)「独りで過ごすクリスマスほどみじめなもんはない、か……」
モララーが去り際に吐いていった台詞が、やけに心に刺さった。
俺の小さなつぶやきは、窓を叩く風と雪の音に埋もれて消えていった。
309
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:29:28 ID:r6Zwjnl.0
昼下がり。
取引先との打ち合わせの為に、俺は街を走っていた。
と言っても今度は社用車での移動だから、風雨に苦しむことはない。
ゆるやかに流れていく街の景色。
朝よりはだいぶ風も雪も弱まっているらしい。
赤信号に捕まり、ゆっくりと車を止めた。
ふと道端に視線を移せば、合羽を着た小学校低学年くらいの子供が傘をさす母親に手をつながれて歩いていた。
子供がつないだ手とは逆の手で大事に抱えてる箱はケーキだろうか。
('A`)「クリスマスケーキ、か……もう何年も食ってねぇな」
そういえば実家にいた頃は毎年食べていたが、就職し一人暮らしを始めてからはとんとご無沙汰だ。
('A`)「と言ってもけっこう高いんだよな、ケーキって……。一人で食っても味気ないし」
('A`)「――恋人でもいりゃ、買ってたのかもな」
信号が青になる。
車を発進させながら、まだ点灯されていないイルミネーションで飾られた街路樹を眺める。
寒空に佇む木々は、何故だかやけに色がくすんで見えた。
310
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:31:29 ID:r6Zwjnl.0
午後五時。
会社に戻った俺は、残っていた仕事を片付けていた。
('A`)(けっこう良いペースだな。この分なら今日はそう残業しなくても良さそうだ)
久しぶりに早く帰れるかも、という期待がさらに手を早めた、そんな時。
(´・ω・`)「鬱田くん」
(;'A`)そ「はいっ! え、ショボン課長?」
声をかけてきたのはショボン課長だった。
(´・ω・`)「話がある。ちょっと一緒に会議室まで来てくれ」
(;'A`)「は、はい……」
ショボン課長の後ろを歩きながら、俺は必死で頭を巡らせる。
ショボン課長が声をかけてくる時は、大抵がお小言と相場は決まっている。
けど、ここ最近怒られるようなヘマをした覚えはない。
てことは、まさか……。
いやいやいや、待ってくれ。
この歳でハロワ通いなんて願い下げだ。
いやでも、もしそうだったらまずは失業保険の申請を――。
311
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:32:47 ID:r6Zwjnl.0
(´・ω・`)「鬱田くん」
(;'A`)そ「は、ひゃいっ!」
気が付いたら、俺と課長は会議室のパイプ椅子に腰掛けていた。
いつの間にやら目的地に着いていたらしい。
(´・ω・`)「じゃあ、早速だけど本題に入ろうか」
(;'A`)「はい」
ゴクリと生つばを飲み込む。
まさに固唾を呑んで見据える中、ショボン課長はゆっくりと唇を開いた。
(´・ω・`)「おめでとう。君の昇進が決まった」
(;'A`)「…………えっ?」
飛び出したのは、思ってもみなかった言葉だった。
312
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:34:03 ID:r6Zwjnl.0
(´・ω・`)「昇進だよ。ちょっと時期はずれだけどね」
('A`)「……昇進? 俺が、ですか?」
(´・ω・`)「ああ。年明けの初仕事付けで正式に昇進だ。来春からは部下も付く。勿論給料も上がるよ」
('A`)「は、その、……ありがとうございます」
(´・ω・`)「ああ、おめでとう。どうだ、この後お祝いに呑みに行かないか。勿論私の奢りだ」
('A`)「え、ええ。ありがとうございます」
(´・ω・`)「あ、でも今日はクリスマスだったな。もし予定があるなら……」
('A`)「いえ、大丈夫です。行かせて頂きます」
(´・ω・`)「そうか、なら仕事が片付き次第行こう。あとどれくらいで終わりそうかな?」
('A`)「多分、もう10分くらいで……。あ、でも行く前に一旦家に帰ってもいいですか? 途中でクリーニングも出さなきゃですんで」
(´・ω・`)「勿論構わない。では先に駅前のいつもの店で待ってるよ」
('A`)「ありがとうございます。では失礼します」
深々とお辞儀をして、俺は会議室を出た。
313
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:35:18 ID:r6Zwjnl.0
残っていた仕事は5分ほどで片付いた。
荷物を手早くカバンに詰め、ロッカーから濡れたスーツを押し込んだビニール袋を回収して会社を出る。
いつの間にか風と雪は止んでいた。
サクサクと雪の薄く積もった歩道を歩く。
足取りは軽い。
少しの間を置いて、ようやく喜びが胸の内からふつふつと湧き上がり始めていた。
.
314
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:37:04 ID:r6Zwjnl.0
そうだ、俺は何を悲観していたんだ。
クリスマスに恋人と過ごさなければいけないなんて、誰が言い出した?
クリスマスに一人の奴は良い事が起こらないなんて、誰が決めた?
クリスマスを恋人と過ごさない奴は楽しい気分でいてはならないなんて、誰が思い定めた?
辺りはすっかり暗くなっていたが、雲の切れた地平線近くの空はまだうっすらと紅さを湛えていた。
歩く大通りの街路樹はイルミネーションが輝き、きらびやかに街を飾っていた。
家に着いたら、前祝いにとっておきのワインを、一杯だけ呑もう。
つまみには、ちょっと前に貰った高級なナチュラルチーズがピッタリだろう。ワインとチーズのマリアージュだ。
気持ちはどんどん高揚していった。こんなに楽しい気分で帰宅するのは、どれくらいぶりだろうか。
.
315
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:38:45 ID:r6Zwjnl.0
.
なんのことはない。
結局、クリスマスをつまらなくしてたのは、他ならぬ自分自身だったのかもしれない。
だったら今、俺は心からこの言葉を言おう。
('∀`)「メリー・クリスマス」
.
316
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:39:59 ID:r6Zwjnl.0
.
世界が止まって見えるのは、僕らが心を止めたとき
僕らが心を動かせば、世界はいつでも踊りだす
('∀`)メリー・クリスマスのようです
終わり
.
317
:
名も無きAAのようです
:2012/12/25(火) 21:43:36 ID:r6Zwjnl.0
以上です
ありあとあしたー
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板