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人間の証明をするようです

192名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 13:57:34 ID:lTi9GWMM0
ロマの馬鹿さが好きだ!
次も楽しみ!

193名も無きAAのようです:2012/12/13(木) 20:20:19 ID:f/WO2KG.0
期待をキャッチだ とう

194<^ω^;削除>:<^ω^;削除>
<^ω^;削除>

195名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:52:05 ID:.cv7evh60
京極シリーズを全巻大人買いとかしていたらめっきり書くの忘れてました。
そんなわけで何ヶ月ぶりか知りませんがお久しぶりです投下していきたいと思います

196名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:52:54 ID:.cv7evh60




 清潔感のあるクリーム色の壁。天井にはやわらかい光を放つ電灯。
 壁には予防接種や健康管理を呼びかけるポスターが貼られ、受付のお姉さんはにこやかに対応する。
 傍から見ても開放感のある造りのそこは、初めてでも気後れしないようにと細心の注意の払われた造りをしていた。

 ギコとしぃが居るのは、


(´<_` )「えーじゃあギコくんね。本日はどうされましたかー」

(*゚ー゚)「えっとですねぇ、ちょっと喧嘩したみたいで。手に怪我しちゃってるんですけどー」


 動物病院だった。
















その四
『流石弟者は流石アニマルクリニックの院長を勤めてるらしいです』

197名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:54:19 ID:.cv7evh60

(´<_` )「ほーほーあーこりゃ酷いね。ナイフかなんかでざっくりやられちゃってるぞ」

(*゚ー゚)「わーやっぱり刃物ですか? 怖いなぁ」

(´<_` )「警察に届けた方がいいかもね。うーむ、血は止まってるしとりあえず骨の調子見たほうがいいかな」

(´<_` )「レントゲン撮るけど、補ていしてもらっていいですか?」

(*゚ー゚)「あ、押さえてればいいんですか?」

(´<_` )「うん。ギコくん大人しいみたいだけど知らない人に押さえられると動揺しちゃう子もいるからね」

(´<_` )「じゃあレントゲンあっちだから、連れて行ってもらえる?」

(*゚ー゚)「はーい、分かりました」

(*゚ー゚)「ほらギコ、行くよ」

(,,゚Д゚)「……えええ……」


 しぃにジャージの腹のところを掴まれ引っ張られるままに歩く。
 看護士さんに誘導されるままにレントゲン室に入り、指定の通りに台に手(もふもふ)を置いた。
 色々な思いをどうやって発散したものかと考えつつされるがままに座っているギコを、看護士さんがにっこりと微笑んで見る。


从'ー'从「賢い子ですねー」

(*゚ー゚)「いやー、ちょっと知らない人が一杯で緊張しちゃってるのかなー」

从'ー'从「あらら。大丈夫だよー怖いことしないよー」

从'ー'从「それにしても酷いですねぇこんな傷。最近物騒だし、可愛そうに……」


 気が狂ってやがる。

198名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:56:14 ID:.cv7evh60


(,,゚Д゚)「……」


 そんなことをギコが考えたかどうかについては言及を控えよう。

 ぱしゃーと撮られたレントゲンの現像を待つために別室に移される。
 筆者はペットを動物病院でレントゲンさせたことがないので描写が曖昧なことに謝罪しよう。
 並んでベンチに座ると、「あ」としぃがか細く声を上げた。


(*゚ー゚)「大きい動物連れてくるときは首輪つけないのやっぱり非常識だったかな」

(,,゚Д゚)「つけようとしたら俺もう死ぬわ」


 ギコにはそういう趣味は無い。
 彼は割に健全なる性的嗜好しか所持していないのである。
 死ぬんじゃしょうがないな、としぃは天井の模様を数えることに専念しだした。


(*゚ー゚)「……」

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「そういやさぁギコ、あの子帰しちゃって良かったの?」

(,,゚Д゚)「あの子?」

(*゚ー゚)「それ忘れられる辺りギコ凄いよね。ほらこの前のあの子」

199名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:57:49 ID:.cv7evh60

(,,゚Д゚)?

(,,゚Д゚)「あー……」


 ひらひらと風穴の開いている自分の手を電灯に透かしつつギコは首を傾ける。
 二人が動物病院に足を向けた原因であるギコの傷。それを作った張本人のパンキッシュガールの顔がぼんやり浮かぶ。
 無茶しやがって……と忙しげに通りすがった看護士が何故か呟いた。


(,,゚Д゚)「良かったのっつーか、あんなダイナミックに逃げられたら追いようなくね」






   〃∩ ∧_∧
   ⊂⌒(  ・ω・)     ←回想に入るよのAAを勤める佐々木カラマロス大佐
     `ヽ_っ⌒/⌒c       (時給不明)






 細い体に乗り上げたしぃが微笑んだ瞬間、ぎりっと少女の奥歯が噛み締められた。
 俯き、小刻みに震えだす。
 何処か可笑しいその様子にしぃが首をかしげると、――その宣言は唐突に上がった。

200名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 22:59:37 ID:.cv7evh60


(* ∀ )「覚えてろよ」

(*゚ー゚)「うん?」

(* ∀ )「覚えてろ、覚えてろ、覚えてろ覚えてろ覚えてろよ! お前らなんかに! お前らなんかにっ!」






(#*゚∀゚)「まほうつかいはまけないんだっ!!」






(*゚ー゚)「魔法使い?」


 しぃはかくんと首をもうワンランク傾けた。
 モララーはやっべぇ厨二病だ、という顔をした後、ブーメランしてきた何かを感じて崩れ落ちた。
 ギコは手(貫通ダメージ)が痛かった。

201名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:01:42 ID:.cv7evh60




(#*゚∀゚)「召喚っまほう!!!!」




 その声に、轟、と風が巻き上がる。
 少女を中心とするように、空気が渦を巻く。前髪が翻り、装飾過多な衣服のひらひらが翻り、思わず飛びのいたしぃのスカートの裾が翻る。
「残念だったな!」とプリントされたスパッツを惜しげもなく晒したしぃは、「うわあ」と間抜けな声を上げた。

 モララーとギコは友人の成人女性にあるまじき様相から全力で目を逸らしていた。


(#*゚∀゚)「『青い215キロ』っ!!」


 搾り出すように叫ばれたハスキーな声に呼ばれるようにして、空間が撓む。
 軋みを上げるように、本来ならばありえない「何か」を拒絶するようにぎちぎちと、ぎりぎりと耳障りな音が辺りに響いた。
 それは少女がギコたちに襲い掛かった時のものと同じ音だったが、今のそれは――更に鋭く。


( ・∀・)「しかしどこまで行ってもギリギリアウトだな」

(*゚ー゚)「そうだそうだーアウトだアウトだー」

(,,゚Д゚)「ところで手がすごい痛い」



(#* ∀ )「黙れよぉおおおおおおおおォッ!!!」

202名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:04:27 ID:.cv7evh60



 現れたのは、青い青い小型飛行機。
 小型とは言え、有り触れた公園ではもてあますほどに大きなそれが空間からずるりと抜け落ちるようにして少女の後ろに降り立つ。
 喉をはちきれさせんばかりのシャウトをした少女は、後ろ手に飛行機の翼に繋がるなんかパイプ的なものを引っつかみ、
軽業師もかくやという身のこなしで飛び上がった。がしゃん、とコックピットを覆っていた硝子カバーを厚底ブーツが蹴り砕く音。

 プロペラが回る。何処か懐かしさを感じる輪郭の金属ボディが軋みを上げる。
 先ほど少女が叫んだときよりもはるかに現実味のある危険に、
何とか心の中で暴れる中学二年生の彼と折り合いをつけたモララーがしぃとギコの二人の襟首を掴むようにして走り出した。


(; ・∀・)「ダッシュダッシュ! 逃げる逃げる! 流石の俺も飛行機は多分投げらんない!」

(,,゚Д゚)「誰が投げろっつったよ」

(*゚ー゚)「首絞まる首絞まる首絞まる」


 五十メートルほど四つの踵によるラインを引いたところで、青い機体が物理法則を無視して空へ飛び立った。
 助走も加速もつけずに、重力に逆らうように持ち上がる機械の塊。 
 プロペラ回ってたりしたのはなんやってんと問いたい。

 ヘリコプターのように数瞬滞空していたそれは、ほんの少しかたぶくと、猛烈な勢いで飛び去っていった。

 呆然とそれを見送った三人は、暫くして顔を見合わせる。


( ・∀・)「……逃げられたな」

(*゚ー゚)「逃げられたねぇ」

(,,゚Д゚)「めっちゃ手が痛い」

203名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:05:42 ID:.cv7evh60











   〃∩ ∧_∧
   ⊂⌒(  ・ω・)     ←回想が終わりましたよというAAでさえも務める佐々木カラマロス大佐
     `ヽ_っ⌒/⌒c        (時給はシークレット)








(,,゚Д゚)「まぁあのあとモララーが石投げてたから、無事では済んでないだろ」


                                           (# ・∀・)『そらっしょぉおおおおおおおおおおいっ!!』

(*゚ー゚)「えー、でも石だよ?」

(,,゚Д゚)「あいつが投げたのが届かないとかんな訳ねぇじゃん」

(*゚ー゚)「……石なのにね」

(,,゚Д゚)「石だけどな……」

(*゚ー゚)「モララーくんそろそろちょっと人じゃないよね」

(,,゚Д゚)「なんなんだろうなあいつ」

(*゚ー゚)「ギコも大概なんなのか私わかんないけどね」

(,,゚Д゚)もふもふ

204名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:06:52 ID:.cv7evh60


从'ー'从「ギコくーん、診察室にお入りくださーい」


 再び診察室に入ると、先ほどの医者がトレース台を壁に貼り付けたような機材にレントゲン写真を張り付けるところだった。
 ぼんやりとふさふさした手のフォルムに囲まれ人間の骨っぽい形が映り込んでいる。
 部屋の中央に置かれた診察台を指し示されるが、ギコは華麗にスルーしてその近くの椅子に座った。しぃも隣に座る。
 空の診察台を挟み、医者は二人に向き直った。


(´<_` )「ん、骨に異常はありませんね。傷もキレイなもんですし、安静にしておけば塞がるでしょう」

(´<_` )「元気そうなところみると感染症もしてないようです」

(*゚ー゚)「はい」

(´<_` )「塗り薬と、一応抵抗力上げる薬お出ししときますんで、毎日のご飯の時に食べさせてあげてください」

(´<_` )「無理に口に突っ込んだりすると嫌がっちゃうかもしれないから、そうだな、粉末にするんで、ウェットタイプのご飯に混ぜてあげて」

(´<_` )「ああ、あと汚れたりしたら不味いんで暫くお散歩はお預けかな」

(*゚ー゚)「だってさギコ」

(,,゚Д゚)「……」


 ギコは話しかけないで欲しかった。
 今更他人のフリをしようというのも無茶な話である。

205名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:07:04 ID:7qh2bnAg0
来てた!支援するぜー!

206名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:09:39 ID:.cv7evh60


(´<_` )「まぁ暫くは大人しくさせておいて、薬と、あと包帯とだけマメに替えてあげてください」

(*゚ー゚)「はーい」

(´<_` )「何か質問とかありますか? 何でもいいですよ?」

(*゚ー゚)「あー、そうですねぇ。とりあえずは無い、かな?」

(´<_` )「はい。じゃあまぁまた何か、容態が急に変わったとかあったら病院の方に電話していただければ」

(´<_` )「初診でしたよね。受付で診察券貰っといてください。電話は一応一日繋がるようにしてあるからね」

(*゚ー゚)「あ、はい分かりました」

(´<_` )「……ふーむ、こんなところかな」

(´<_` )「また来週辺り、経過を見せに来て下さい」

(*゚ー゚)「はーい、有難うございます」

(´<_` )「いえいえ」


 では、としぃが立ち上がり、それに続いて立ち上がろうとするギコを「あ、ちょっとごめん」と医者が呼び止める。
 完全に帰宅の心持になっていたしぃが慌てて座り直し、ギコはそのまま立って医者を見下ろした。

207名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:10:49 ID:.cv7evh60


(´<_` )「これは個人的な質問なんですが」

(*゚ー゚)「はい?」

(´<_` )「ギコくん、ほんとに猫なんですか?」

(,,゚Д゚)「猫だと思いますかこれ」

(´<_` )「いえあんまり」

(´<_` )「……」

(´<_` )「うわ喋ったねこじゃねぇ」

(,,゚Д゚)(*゚ー゚)「「ですよねー」」





 しぃが数年前から飼い出した猫が、家から帰ったら成人男子大になっていた。
 とりあえずこの状態で全裸で置いておくのはなんか目の毒だったので服を着せていつものように外に散歩をさせたら、手に怪我をして帰ってきた。
 よどみなくしぃが舌先三寸を翻して語ったのは大体そんな感じの嘘八百だった。

 この高校からの友人を信用するということを今後一切やめようとギコは心に誓った。


(´<_` )「つまり、ふと気がついたらギコくんはこんな姿になってしまっていたと」

(,,゚Д゚)「……」

208名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:12:10 ID:.cv7evh60


 次いでふむふむと興味深そうに頷く白衣を見て、医者というものを信頼するのもやめよう、と更にもう一つ誓いを立てた。
 どんどん信頼できるものが減っていく。
 世知辛い世の中である。


(*゚ー゚)「そうです、先々月まではあんなにちっちゃくてころころしててもふもふでふわっふわでにゃーにゃー言っていたのに!!」

(,,゚Д゚)「にゃーにゃー」

(´<_` )「でっかくてごりごりしててもふもふでふわっふわでにゃーにゃー言ってますね」

(*゚ー゚)「でっかくてごりごりしててもふもふでふわっふわでにゃーにゃー言うようになったんですよ……」


 ヨヨヨ、と昭和のかほりを漂わせて涙を拭うしぃを心底から信頼できない者を見る目で見つめるギコ。
 逆に白衣に聴診器を引っ掛けた絵に描いたような(どうぶつの)お医者さんはほうほうと細い目ででっかくてごりごりしてると評判の彼を見る。
 しぃはハンケチーフの下からこっそりとその医者を盗み見る。三竦みの様相となっていた。

 ええととギコは弁解を挟もうとするが、しぃにぎりりと握られた手(貫通ダメージつき)に言葉を飲み込む。
 あくまでこの青い成人男子大のもふもふ生物は猫というスタンスでゴリ押しする気らしい。何でそんなに頑張るのかさっぱり分からない。
 大きく取られた窓にかかったブラインドの隙間からさんさんと太陽の日差しが差し込んでいる。

 それを額に浴びた医者は、顎に手をやりぽつりと呟く。


(´<_` )「それは、『かみさまの奇跡』なのかもしれないね」

209名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:13:55 ID:.cv7evh60


 何言ってんだこいつ、とギコの冷たい視線は今度は医者へと注がれた。
 尤もらしい顔をした医者――流石、とプリントされたネームプレートを首から提げている。「りゅうせき」か「さすが」かのどちらだろうか――が、
いつのまにやら診察台に座らされたギコの尻尾をもふもふしつつ言う。
 どうでも良いが成人男子大の彼が動物用の診察台に載せられている様は非常に滑稽である。

 ローラーの付いた椅子をがらがらと鳴らして流石医師がデスクに向かう。金属の引き出しを開け、神経質そうな手付きで一枚の紙を引っ張り出した。
 図書館司書と在宅ワーカーの目には馴染みの無い、英文だか独文だかが連なった幾枚かの上質紙。
 クリップで留められた写真は、やたらと鮮烈な元・生物のものだ。浅黄色の布の上にドスい黒い赤い液体が飛び散っている。


(´<_` )「有名だし話くらいは聞いた事があるだろう、『神の君臨』」


 きしりとしぃの座る椅子が軋みをあげた。
『神の君臨』のニュースを、しぃとギコはモララーも加えた三人でオールナイトで
いつまで経ってもファイナルが来ないと専ら噂のファイナルなファンタジープレイをしているときに知った。
 概ね「この国頭可笑しいな」というモララーの一言で切って捨てられたそれを、二人はそこまで本気にしていなかったのだ。


(*゚ー゚)「ええ、まぁ」

210名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:15:29 ID:.cv7evh60


 眉を顰めてフレッシュミートな写真から目を逸らしたしぃがぎこちなく頷く。
 その不快そうな顔を見て初めて気づいたか、流石医師はああ、と顎を引いてそっとクリップごと写真を取り去った。
 すると、その下からは至って目に優しい狸の写真の印刷が現れる。

 男性だろうか、逞しい腕に大人しい様子で抱えられている。
 そう日常生活でなじみのある動物ではないが、何処か犬に似た様相と、それよりも表情の読めない黒い瞳は愛らしい。
 そのもっふもふでふわっふわな茶色の毛並みが、
先ほどの百グラム九十八円写真の端に映り込んでいたものと同色なのに気づき、ギコはもっふもふわっふわの顔をゆがめた。


(´<_` )「私も話半分なんだけどね、半月ほど前、こんな『奇跡の御技』が報告されたんだ」


 ぱらりと紙を捲ると、小さな子供と戯れる猫の画像が現れる。
 流石医師はそれを並べて診察台に広げる。
 青いもふもふの隣に二つの茶色のもふもふの画像。もっふもふやで。


(´<_` )「この猫」


 猫の画像を指差す。ブラウンタビーに華奢な尻尾。
 戯れる少女の顔はモザイクで隠されているが、にっかりと笑った口元だけでも満面の笑みが伺える。
 どうやら写真の舞台はどこかの家の中らしい。

211名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:15:31 ID:dx5lzWmE0
よし追い付いた
ギコしぃモララーの微妙に噛み合ってない会話が笑える

212名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:17:58 ID:.cv7evh60

 その切り取られた瞬間には、子供と猫の心温まる絆が伺えた。
 信頼できるものの少ないこの世間で、きっと少女にとって猫は心から身を預けることの出来る存在の一つだったに違いない。
 その茶色い毛の塊が鋭い爪を持つことも知らないように、目線に隠されたあどけない笑顔は輝いている。


(´<_` )「死んだんだけど」

(*゚ー゚)「はぁ」


 可愛らしい猫の突然の訃報にしぃが思わず軽くつんのめった。無類の猫好きなのである。
 ギコは何か喋れない空気でとても暇だなぁと自分の尻尾をもふもふ動かしていた。
 それに構わず流石医師は何ということも無い、明日の天気でも言うような様子で今度は狸の写真を指差した。


(´<_` )「生き返って、狸になったんだ」

(*゚ー゚)「……」

(,,゚Д゚)「……」


 流石医師の言葉に、かくん、と糸の切れたようにしぃの首が傾く。
 それに続いてギコの首もかくんと傾いた。
 釣られたのか流石医師も向かって同じ方向に首を傾ける。

213名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:19:27 ID:OeBxNJfk0
作者がもっふもふでふわっふわの生き物が好きらしいのはわかった

214名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:19:46 ID:.cv7evh60

 窓の外で鳴く鳥の声に乗って流れる沈黙に、ギコがもふもふの手指を握りこんで一本突き出した。
 全世界共通ワンモアチャンスプリーズのジェスチャーは高性能で、見た目異種族でもしっかり通じる。
 流石医師がゆっくりと頷き、几帳面な手付きで二枚の紙を二人に差し出した。

 今度は分かり易いように、しっかりはっきり、言葉を区切って明瞭に。


(´<_` )「猫が、死んで、狸になって、リボーン」


 頭がチョイ悪親父な要素が混ざっていた。


(*゚ー゚)「……」

(,,゚Д゚)「……」

Σ(*゚Д゚)「変態だ!」

Σ(,,゚Д゚)「変態だ!」


 同じネコ目だからといって奇跡の大変態だった。
 この変態というのは「変態性欲の持ち主」という意味ではない。
 決して猫(現職狸)が物凄い特殊な性癖を持っているということを主張したいのではなく、
この場合二人が叫んでいるのは動物が幼体から成体へと至るまでの経緯において大きな変成を経る様の方である。

 芋虫が蝶へと変わるあれです。生命の神秘ですね。

215名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:22:46 ID:.cv7evh60


(´<_` )「……」

(,,゚Д゚)「これあれだろ、理科で習った奴だろ!」

(*゚ー゚)「プルテウス幼生の奴だね!」

(,,゚Д゚)「変態だ……!」

(*゚ー゚)「変態だぁ……!」

(´<_` )「……」


 社会人の埃を被った乏しい理科知識たちを生暖かく見守っていた流石医師がさすがにこほんと一つ咳をする。
 りかとかせいぶつとかと離れて久しい文系たちははっとなって口をつぐんだ。


(´<_` )「確かに飼い主の目の前で車に轢かれて死んだ筈の猫が、その場で狸へと変わった」

(´<_` )「見た目が狸に変わった以外、それは確かにその猫だったんだと」

(´<_` )「いつもそうしていたように飼い主にじゃれつきさえしたらしい」

(´<_` )「しかし、解剖しても、何をしても、学術的にはそれは完璧な狸だった」

(´<_` )「変態、なんていうのじゃもう生易しい」

(´<_` )「それは、変身っていう風に学会じゃ言われた」

216名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:24:43 ID:JXmhXSUk0
この場合蛹にならないから不完全変態なのだろうか

217名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:25:21 ID:.cv7evh60


 きしりと流石医師の座る椅子が軋んだ。
 すっと長い指が伸ばされ、診察台に腰掛けるギコを指差す。
 どうでも良いがレス内に糸目が並んであまり目に宜しくない。


(´<_` )「ギコくんも、それと同じような『御業』を身に受けたんじゃないか?」


 切りそろえられた爪の先を見据え、ギコのもふもふの顎がぐっと引かれた。


(*゚ー゚)「……つまり、ギコは一度死んでいる、って」

(*゚ー゚)「そういう意味ですか?」


 真剣な顔をしたしぃが言葉を噛み締めるように言う。沈黙が診察室に横たわった。
 ギコはプルテウス幼生が先だったか、プリズム形幼生が先だったかと尻尾を揺らしながら考えていた。
 ちなみにウニの幼生はプリズム形幼生からプルテウス幼生へと成長します。


(´<_` )「まぁ、言ってしまうと言葉があまり良くないがね」


 流石医師は大きく息を吐いて、事務椅子の背もたれにもたれかかった。

218名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:26:46 ID:.cv7evh60

 例えばギコくんはいつものように散歩に出かけていたとする。
 その先で、車にはねられたでもいい。心無い犯罪者に殺されたでもいい。何ならそれまで保有していた未知のウイルスが発病したというのでもいい。
 この際の死因は何だって良いんだ。

 とにかく彼は一度死んでしまった。なすすべもなく、道端で、小さな体のまま。

 そこに神が現れる。慈悲深い神はそんなギコくんを哀れんだ。
 もし彼がそんな小さなひ弱い体躯でなかったなら。
 車にきちんと目視されるような大きさなら。心無い犯罪者に対抗できるような強さがあれば。ウイルスなど跳ね除ける抵抗力があれば。

 そうして『御業』をなされた。
 強く、大きく。人間というのはこれで実は非常に効率のいい体をしているんだ。
 その結果が、今のギコくんだと、したら。

 訥々と空気に並ぶ流石医師の言葉をなぞるようにしぃの目線が動く。
 ちょっと内容が把握しきれていない顔だった。


(´<_` )「可能性としては、無くは無い。むしろ、それくらいしか原因がこじつけられないんじゃないかな」


 もふもふと揺れるギコの尻尾を流石医師が掴む。
 たとえるならば毛の滑らかなキャッチダストといった具合にもふもふの尻尾をもふもふと掴んでは離しを繰り返す。
 しぃが無言でそれを奪い取るようにしてもふもふする。流石医師は大人なのでそれで諦めたらしい。もふもふ争奪戦はそれにて一端の終了を得た。

 もふもふされていた尻尾の持ち主は、頭に唐突に思い浮かんだ謎のワード「バソプレシン」の意味を思い出そうと必死だった。

219名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:27:37 ID:dx5lzWmE0
せっかく生き返ったのに解剖されちゃったんだな……

220名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:28:04 ID:.cv7evh60


(*゚ー゚)「……無いのですか」

(´<_` )「はい」

(*゚ー゚)「そうですか……」


 話が続かなかった。
 流石医師はもふもふを奪われて若干手持ち無沙汰っぽく右手を揺らしている。
 そもそもギコが元々猫だったというのはしぃによるエクストリーム嘘八百である。


(*゚ー゚)「えっと」

(´<_` )「はい」

(*゚ー゚)「……それでですね。ええっと、すみません、ちょっと言葉が汚いかもしれないんですが、」

(*゚ー゚)「だから何なんだよはっきり起承転結つけて話せよオチ何処だよ」

(*゚ー゚)「……だなんて、」

(´<_` )「……」

(´<_` )「ああ、まぁまだ神の『御業』については研究が進んでいない、というか。そもそも研究なんてしていいのかって感じでね」

(´<_` )「各方面では絶賛検体募集中なんだけど、」

(,,゚Д゚)「遠慮します」

221名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:29:57 ID:.cv7evh60


 ひらひらとフレッシュミートな方の写真と、
更に幾つかの瓶の映った写真――ホルマリンだろう――をを取り出しつつ流石医師が言うのを全力でさえぎる。
 流石にギコもフレッシュミートになるのは嫌だったし、勿論ホルマリンのマリネになるのも嫌だった。


(´<_` )「って言ってるけど」

(*゚ー゚)「あ、じゃあギコが言うなら」

(´<_` )「一応報酬……っていうかお礼金とかも出るよ? 暫く遊んで暮らせる位は」


 ごにょ、としぃの耳元に寄せて流石医師が呟く。


(;*゚ー゚)「えっ」

(,,゚Д゚)「おいなんで立った」

(;*゚ー゚)「………………………………………………………………………………………………」

(;*゚ー゚)「………………………………………………………………………………………………」

(;*゚ー゚)「………………………………………………いやっ、でも、と、友達は、う、う、売れない、……ですっ」

(,,゚Д゚)「めっちゃ悩んだなおい。おい」

(´<_` )「友達か」

(´<_` )「うん、そうだな。友達は売ったら駄目だよな」

(,,゚Д゚)「なぁ今の長考なんなんだよ。おい、どういうことなんだよ」

222名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:30:46 ID:.cv7evh60


 うんうんと頷く流石医師。もにょっとした啖呵を切ったしぃは、しかし微妙に目線が泳いでいる。
 きゅうけた……きゅうけた……という幽鬼のような呟きが聞こえてきた。
 社会にもまれる人、略して社会人は往々にしてマネーというものを弱点として生きている。世知辛いのだ。

 しかし幾ら「まほうのことば:きゅうけた」を発動されたからといって
しぃの懐のためにフレッシュミートからのホルムアルデヒド水溶液のプールへどぽんのコンボフィニッシュをされては堪らない。
 ギコはしぃのシャツを掴みゆする。しぃは尚も顎に手をやりぶつぶつと何事か呟いている。


(;*゚ー゚)「モララーにばれたら面倒くさいし、……いや、待てよ、モララーにはばれないように……」

(,,゚Д゚)そ「お前なんてもう友達じゃねぇ!!!!」


 もふもふ争奪戦の決着の直後、数年間の友情にもまた一旦の決着が見られた瞬間だった。


(;*゚ー゚)「うううううううううう嘘だってやだなぁギコったら。ジョーダンジョーダンマイケルマイケル」

(,,゚Д゚)「誰だマイケル」

223名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:32:55 ID:.cv7evh60


                     /j
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               | nヘヘ _      | |   l             パッ……ナイッシュー!!
               | l_| | | ゝ ̄`ヽ | |〈 ̄ノ
               ゝソノノ   `ー‐' l ! ¨/
            n/7./7 ∧        j/ /     iヽiヽn
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             i~| | | ,' '/:::::::::::ゝ、 l_こ./ヾ..     nl l .||/
             | | | | l {':j`i::::::::::::::::`ーr '         ||ー---{
              | '" ̄ ̄iノ .l::::::::::::::::::::::∧       | ゝ    ',
      , 一 r‐‐l   γ /、::::::::::::::::::::::::〉ー= ___  ヘ  ヽ   }
    / o  |!:::::}     / o` ー 、::::::::::::i o ,':::::::{`ヽ ヘ     ノ
   / o    ノ:::::∧   /ヽ  o  ヽ::::::::| o i::::::::ヽ、 /   /
   /    ノ::::::/    /::::::::ヽ  o  ヽ:::| o {::::::::::::::Υ   /



                                                (AAはマイケルジョーダンではありません)


 マイケル・ジェフリー・ジョーダン(Michael Jeffrey Jordan, 1963年2月17日 - )は、アメリカ合衆国の元バスケットボール選手、実業家。
NBAのシカゴ・ブルズ、ワシントン・ウィザーズでプレーした。その実績からバスケットボールの神様とも評される。
 15年間に渡る選手生活で得点王10回、年間最多得点11回、平均得点は30.12点でNBA歴代1位、通算得点は32,292点で歴代3位。
 1990年代にシカゴ・ブルズを6度の優勝に導き、5度の年間MVP、6度のNBAファイナルMVP受賞。
 また、1984年のロサンゼルス・オリンピックと、1992年のバルセロナ・オリンピックにおいてアメリカ代表の一員として二度にわたり金メダルを獲得した。
 現役時代の背番号23はシカゴ・ブルズ、マイアミ・ヒート、ノースカロライナ大学の永久欠番。
 1996年、NBA50周年を記念した50人の偉大な選手の一人に選出。2009年にはバスケットボール殿堂入りした。
 2010年にシャーロット・ボブキャッツを買収し、現在は同チームの筆頭オーナーである。

 以上、wikipediaより引用である。
 ところでマイケルジョーダンのAAを探したが見つからずに断念したので見つけた方がいらっしゃいましたら貼っておいていただけましたら幸甚です。

224名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:33:43 ID:.cv7evh60


 笑うしぃの視線はふらっふらっとギコと流石医師の間を泳いでいる。ギコは考えるのをやめた。
 もしやばそうになったら全力で逃げよう。あとモララーに言いつけよう。
 小学生の頃からの友人のアドレスが入ったポケットの携帯端末をそっと握り締めた。

 そんなギコとしぃのやり取りを見つめていた流石医師が、にっこりと微笑む。


(´<_` )「いや、良かった。しぃさんがギコくんを売るって言ってたらどうしようかと思った」

(*゚ー゚)「へ?」

(´<_` )「研究機関の強引な検体提供要請にはほとほと呆れててね。こちとら一介の動物医だ」


 その細い瞳が、一瞬だけ影を落とした、気がした。


(´<_` )「動物を守るためにこの仕事を始めたのに、むざむざ解剖させるために動物を引き渡すなんて、したくない」

(*゚ー゚)「はぁ」

(´<_` )「全力でサポートさせてもらうよ。ギコくんの身に危険が及ばないように」

(,,゚Д゚)「……はぁ」


 本日二度目の指差し確認の瞬間、ギコの脳内にバソプレシンの効果が飛来した。

225名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:35:22 ID:7qh2bnAg0
なぜそこまでマイケル・ジョーダンにこだわるんだよwww

226名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:35:24 ID:.cv7evh60
これにてその4終わり
なぜもっふもふが好きだと分かった。もっふもふやで
支援やレス有難う御座いました 次の話の書き溜めは現時点で7kbです
キャッチだ とう したのはもう一度投げ捨てろ 有難う御座いました

227名も無きAAのようです:2013/02/07(木) 23:40:19 ID:hKjzh5HQ0
乙乙!待ってたよ。
このどこか話がずれ続けていく雰囲気大好き。
ギコもっふもふしたい。

支援沢山あった方が心穏やかになるならこのスレなり予告スレなりで投下予告してみたらどうだい?

228名も無きAAのようです:2013/02/08(金) 02:57:16 ID:GUjRavpg0
乙!
モララーがなんか謎めいてるなー

229名も無きAAのようです:2013/02/09(土) 20:07:06 ID:H.xhFL1UO
おつおつ
霧中進行面白いよね

230名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 14:50:05 ID:gn0ER8WAO
ところで俺は>>1なんですが元々この話の杉浦パートは好きなサイトのweb漫画が完全に更新止まってて
続きが気になってしょうがないから自分で書こうみたいなかんじで書き始めたらなんか盛大にずれてったというものなんですが
改めて>>229に言われてぐぐってみたらめっちゃ続き更新されててまぁなんていうか>>229超有り難うございますこの作者面白いよね大好き抱いて欲しい
皆さんも読んでみて下さい俺はくっそ大好きです

あと予告スレとかこっちで予告をしてみたらどうかという提案を頂きましたので、
もしもそういう余裕ができたら予告してみようかなとも思います
が、正直支援を貰う心穏やかさとセルフ締め切り設定で削られる心穏やかじゃないさがどっこいどっこいな気がするので本当にするかどうかの期待は投げといて下さい 以上です

231名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 16:31:34 ID:SpIU/koQ0
書き溜め終わってから投下日予告すればいいんじゃない?

霧中進行ぐぐってみたらよくわかんないけど面白かった
作者と>>229ありがとう

232名も無きAAのようです:2013/02/10(日) 17:12:39 ID:CQIcTaq.0
うお、霧中進行まじだ。ありがてぇありがてぇ・・・!!!!
乙です。

233名も無きAAのようです:2013/02/22(金) 22:26:02 ID:TkzMhAP20
続きまだかなー

234名も無きAAのようです:2013/06/27(木) 01:35:38 ID:/1ZprHOc0
4ヶ月経ってるとは思わなかった

235名も無きAAのようです:2013/09/17(火) 01:12:17 ID:Ltvp3dRs0
そして更に3ヶ月…

236名も無きAAのようです:2013/09/17(火) 08:49:38 ID:iMzPzZvA0
半年以上も来ないとなると色々と絶望的ですよね
ところで実は俺は>>1なんですがベルセルク大人買いとかしてたら書き溜めするのが面倒臭くなりました
今書いてる続きが10kbなのと、スレを乗っ取ったら落とされたアレを同時進行してるという事実から空気を読んでいただくと、
あっちょっと逃亡っぽいと皆さんの心が輝き叫ぶと思うんで期待は投げ捨てろ 以上です

237名も無きAAのようです:2013/09/17(火) 12:16:22 ID:wrBkONTY0
投げ捨てるなんてそんなバカな

238名も無きAAのようです:2013/09/17(火) 13:35:58 ID:NK2TI0Pk0
創作板でこのスレを見た時どれだけ嬉しかったと思ってるんだこの野郎

241名も無きAAのようです:2013/10/30(水) 04:04:30 ID:5cjo/vXAO
age

242名も無きAAのようです:2015/04/29(水) 04:14:09 ID:icSsG3Ek0
面白かった。


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