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从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです Яeboot

1 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:30:51 ID:ytUFOiFEO

 

010100010110101010100100101110110101010001010101110

system setup

01010100100101101010010011000101010101001110010010101

server access

0100101101010010100010010111101011010010100100110

changed protocol

01010110101001010100011101010001110101101000101010101001

 

.

2 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:33:54 ID:ytUFOiFEO
0101011010010110101010010100101

「……これも因縁、かお」

0101001001001010010010001010010

「ヒトの驕りか…ならばこれは、バベルの塔だな」

0101001000100111010101010100101

「……オレ達は破壊と殺戮をバラまき、手前がこしらえた瓦礫の上にアグラをかいてる。その瓦礫の山を、振り返る事もなくな」

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「必ず殺してあげるから……」

01010110100101100010110100101010

「そうやって、忘れて行くんだ。何もかも、な」

01010101101010110110101101001010

「相変わらず吠える事だけは一人前ね。見苦しいったらないわ」

01010110110101101001011010010010110

「偽善者、いくじなし。私のことを救う覚悟もないくせに」

0101101001011001001001100010010110

3名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 05:36:30 ID:jEUte4TsO
えっマジで?

4 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:40:09 ID:ytUFOiFEO
0101010110100101101010010010

「ヘブンズゲート、一日限りの復活パレードだ」

01010010110110010011001010

「まったく…どいつもこいつも、死に急ぎやがって………」

010010011101100111001000111000110010

「ツンドラの地で磨かれた諸君らの氷の意志、黄色猿共に見せつけてやれ!」

01011001001100100011010101010100110110

「でもね、世の中には“楯突いちゃいけないもの”があるんだ」

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「オレ一人じゃ…何も出来ねぇのかよ……」
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「……だから、貴様には私が居なくとも立派に一人でやって行けるようになってもらわなければ…」

0101011010100101010010101010100111010

5 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:50:14 ID:ytUFOiFEO
01010100100110100101010100101001001

「……これは、私の罪だ」

010101010101010100100101101001010010

「君は、何処へ行こうとしてる?」

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「ジョーカーを…止めて欲しいんだお……」
010101000101001010

6 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:53:00 ID:ytUFOiFEO
0101011010010101001001100100100110

「それでも、可能な限りは貴様の側に居よう。動かなくなるまで。出来る限り」

0101010101101101001011010110100001101

「一部の、力を持った人たちだけが得をするなんて、こんなの絶対に間違ってる」

0101101001011010011010010010

「こんなの、絶対に許しちゃいけないんだよ」

01001011101001010010010110100110010

「――振リ返ルナ。タダ、嵐ノ夜ヲ往ケ」
0101010100101001001001001001001

7 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:57:04 ID:ytUFOiFEO
※※※※※※※※※※※※

commando prompt

 

C:\>

 

※※※※※※※※※※※※

8 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 05:58:55 ID:ytUFOiFEO

 

 

C:\>Reboot

 

 

.

9 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 06:03:44 ID:ytUFOiFEO
0101010100100100101001001010010

command accept

0100100100100110100100100010010

get lady

010101001001001001010010001001010

roboot reboot reboot

010101010110110010100100101100100

10名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 06:06:20 ID:ytUFOiFEO
※※※※※※※※※※※※

 

Hello, and welcome back

 

※※※※※※※※※※※※

11 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 06:08:29 ID:ytUFOiFEO

 

 

从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

      =Яeboot=

 

 

.

12名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 06:36:27 ID:C.I5fgP.O
えっ?




……えっ?

13名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 07:13:33 ID:QAEZfx4Q0
えっ?
マジで?

14名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 07:26:37 ID:bAtfHbz.0
うひぉおおお!

15名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 07:32:09 ID:Uo8tpxoMO
ふぉぉ!鳥肌たった!

16名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 07:44:43 ID:QzX5mkLkO
おかえり

何かタイミング良過ぎてスクォークの人と同一人物かとおもえる

17名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 07:51:16 ID:IwAzBS2MO
うおおおお!

おかえり!

18 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:16:46 ID:pisun.Qw0

 

0101010101101001010100100101101010
0101011011010100101011100100010011
0100100010111010101010011010010101
※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※Nowloading※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※
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0101010101101010010101011010010101

19 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:20:48 ID:pisun.Qw0

………

……



insert disc to 「The common case」

///hava a nice dive!///

20 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:25:26 ID:pisun.Qw0

 

Purple haze all around

Don’t know if I’m comin’ up or down

Am I happy or in misery?

Whatever it is, that girl put a spell on me

 

……Purple Haze/Jimi Hendrix

.

21 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:26:57 ID:pisun.Qw0

 

从 ゚∀从は鋼鉄の処女のようです

 =Яeboot=


「The, common case」

 

.

22 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:28:27 ID:pisun.Qw0


 
 
///disc.1///

 

.

23名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 08:28:47 ID:C.I5fgP.O
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
早起きしてよかったあああああああああああああああ

24 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:29:45 ID:pisun.Qw0

Prologue

 
――少年がそのショーウィンドウの前に立ち尽くしてから、もう三十分ばかりの時間が立っていた。
朝から振っていた雨が上がり、雲間からやっとこさ太陽が顔を覗かせた、それは日曜日の午後の事だった。

黄色いレインコートを着て、揃いの傘を小脇に抱えた少年は、小路を歩く人々の視線も意に介さず、小さなまなこをめいっぱいに大きく開いて、水垢のこびりついたガラスケースの中を睨みつけている。
うらぶれた通りの寂れた楽器屋。その展示ガラスの向うでは、年季の入ったテナーサックスが飾り台の上で鈍い光を放っていた。
金色の輝きを反射した少年の目が、ゼロの沢山ついた値札に注がれる。
レインコートのポケットからロケットのアップリケのついた財布を取り出すと、少年はその中身を覗きこんで溜息をつく。三十分ばかり前から数えて、これで七度目の溜息だった。

「おーい、お待たせー」

雨粒を跳ね上げて、もう一人の少年がそこにかけてくる。
青色のレインコートを着たその少年は、黄色いレインコートの少年よりも頭二つ分程背が高く、両の手にそれぞれアイスクリームを握っていた。

25 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:32:01 ID:pisun.Qw0
「はいこれ、お前の分」

息を切らせて走ってきた青色のレインコートの少年は、ショーウィンドウの前までやってくると、左手に握ったチョコミントフレーバーのアイスをもう一方の少年に差し出す。
黄色のレインコートを着た少年は、それを一瞥しただけで顔を戻すと、再びショーウィンドウの中へと目を向けた。
古ぼけた中古のテナーサックスは相変わらず鈍い光を放っており、値札に並んだゼロの数も変わることはなかった。

「欲しいのか?」

背中越しに掛けられた言葉に、黄色のレインコートの少年は返事を返さない。
ランドセルの中にしまったままの給食費袋の事を少年は思い出す。ここで「うん」と返事を返しただけで、どうにかなる様なものではないと知っていた。

「どうしても、欲しいのか?」

だんまりを決め込んだまま恨めしげにショーウィンドウをにらみ続ける弟に、青のレインコートを着た少年は微かに嘆息をつく。
彼の手に握られたチョコミントのアイスは、既に溶け始めていた。

「――あーあー。またバイト増やさないといけないなあ」

やぶからぼうのそのぼやきに、黄色のレインコートの少年ははっとして顔を上げる。
両手を頭の後ろに回した兄の視線は、明後日の方向を向いていた。

「今度は何にすっかなあ。やっぱ工事現場が一番稼ぎが良いかなあ」

わざとらしい口調でぼやきながら、青のレインコートの少年は罅の入った楽器店の自動ドアの方へ向かって歩いて行く。
自分よりも頭二つ分大きい兄の後を慌てて追うと、黄色のレインコートの少年はその背中に飛びついた。

26 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:33:12 ID:pisun.Qw0
「ホントに、ホントにいいの?」

「はあ?何のこと?」

必死な顔をして聞いてくる弟を振りかえってとぼけてみせると、青のレインコートの少年は両手のアイスを弟に渡し、楽器店のドアをくぐる。
カウンターでまどろんでいた店員を起こしてショーウィンドウの中のテナーサックスを指差す兄の様子を、黄色のレインコートの少年は先にショーウィンドウを見つめていた時よりも更に大きく開いた眼で見つめていた。

やがて会計を終えた兄は、黒いケースを手に下げ店から出てくると、弟の手に握られたチョコミントアイスを奪い取り、空いたその手に黒の楽器ケースを押しつけた。

「お前、荷物持ちな」

ぶっきらぼうに言い捨てる兄の言葉におざなりな頷きを返し、黄色のレインコートの少年は火がついたかのような動きでケースの留め金を外す。
年季の入ったテナーサックスが、雨上がりの陽光を反射して、金色に輝いた。
黄色のレインコートの少年は、兄の顔を見上げる。

「おい、ちゃんと閉まっとけ。落としたりしたら承知しないからな」

ばつの悪そうな顔で視線を逸らす兄に、頷きを返す少年の顔には、テナーサックス同様に光輝く、満面の笑みが浮かんでいた。

「ありがとう、兄ちゃん!」

ある、雨上がりの日曜日の午後の事だった。

27 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:34:39 ID:pisun.Qw0

#track-1

――四隅の両面テープ(あのホームセンターで売ってる特別強力なやつだ)を剥がしたところで、俺はそれをくるりとひっくり返すと、目線の高さに合わせて事務所の錆ついたドアに貼りつける。
黒塗りの真新しい表札の上には、流麗な筆記体で「D&H detective」の銀文字。
予想以上に様になっているじゃあないか。

('A`)「うむ、イッツ・ソゥ・オシャンティ。どこからどう見てもお洒落な喫茶店だ。
ブラックボードに本日のお勧めを書いてイーゼルに立てかけて置けば、女子大生の顧客獲得も容易いぜ」

努めて満足げな顔を作ると、一歩下がって新たな事務所の入り口を見上げる。
通りに面した木目調の壁には西洋風の窓が五つ等間隔で並び、その下で行儀よく整列した植え込みから見ても、かつてはここがバーか喫茶店かだった事を窺わせる。
正面から見て右側の端にある、こじんまりとしたポーチと青銅を模した色合いに塗られたドアなども、如何にもといった作りで、首を左右に振ったりしなければ、ウラバラ・ストリートの喫茶店と言っても差支えは無いだろう。

('A`)「――首を、左右に振らなければな」

現実から背けていた視線を無理矢理に戻して、ビルの両脇を見やる。
右側には「兎夢猫〜トム・キャット〜」のピンクの看板が下がったソープランド。左側には錆ついたシャッターが半開きになった違法バイオ端子屋(これは果たして営業しているのかどうかも怪しい)。
VIP特別指定政令都市、ニーソク区13番街。ここが、風俗街と非合法商店街の間に挟まれた胡乱な通りの中にあるという事実は、出来るのならば思い出したくはなかった。
最も、ウラバラ・ストリートそのものに事務所を構えるなんて、死んでも嫌ではあるが。

28 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:37:30 ID:pisun.Qw0
「おい、聞いてくれドクオ。私は今凄い事を発見したのだがな――」

背後から掛けられた声に振りかえる。

从 ゚∀从「貴様を貶める為に幾つもの悪罵のバリエーションを考え続けてきた私だったが、
このたび遂にこれ以上なんという呼び名で罵倒したらいいのか分らなくなった」

買い物袋を両腕にぶら下げた、馴染みの相棒の姿がそこにあった。

('A`)「いや、それは重畳。俺もここ最近は、君の罵倒に対してい
ちいち気のきいたジョークを返してやるのが億劫になってきててね。歳かね」

銀の髪に赤い瞳。何時も召しているゴシック・ロリータのワンピースは、夏に合わせてやや薄手のものになっている。
最も、彼女にとっては夏の暑さも冬の寒さもおよそ関係の無い事ではあるのだが。

('A`)「いい機会だし、これからは清純系女子っぽい口調になってもいいんじゃないかな」

从 ゚∀从「え〜?そうですか〜?そっちの方がいいですか〜?」

声音だけを妙に甲高く黄色に、相も変わらずの仏頂面で彼女はその色素の薄い唇を開く。
何時ものことながら、彼女は俺に「ある日突然、フードプロセッサーが女の子の声で喋ったらどういう気持ちになるか」というのを懇切丁寧に教えてくれる。
彼女の存在があるからこそ、俺は寂しい夜にセクサロイド専門の風俗店の自動ドアを潜る様な過ちを犯さないでここまでこれたと言っても、過言ではないだろう。無論、皮肉だ。

29名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 08:38:56 ID:bxItDSIMO
おおお!!おかえり!
待ってたよ!支援!

30名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 08:39:32 ID:QwE9i8sE0
今まで敬遠してたが鋼鉄の処女読んでくるわ

31 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:39:33 ID:pisun.Qw0
从 ゚∀从「で、それが新しい事務所の表札か?」

大きく膨れた買い物袋を提げたままの右手を上げて、相棒が俺の後ろを指差す。
彼女の視線は、俺が二時間をかけてやっとの思いで作り上げたあの表札を無感情な瞳で見つめていた。

('A`)「そ、ドクオ&ハイン、探偵事務所。だからD&H detective」

彼女の名前はハインリッヒ。特A級護衛専任ガイノイドに分類される、鋼鉄の処女、アイアンメイデン、所謂ロボット。
俺達は何でも屋。金さえ積まれれば、世の中の面倒事を一手に引き受ける、縁の下の力持ち。
飼い犬の散歩から庭の害虫駆除、護衛任務にトランスポート、相応のペイが望めるのなら、合法非合法は問わない。
真っ当な人間からしたら、言わばヤクザモノの商売だ。

从 ゚∀从「ドクオとハイン、というのでは少し語弊があるな。
     ドクオonハインでDoHか、もしくはハインwithドクオでHwDにすべきでは?」

('A`)「…まあ、お好きに」

从 ゚∀从「それと、detectiveというのもこのままでは表示詐称になる。実務内容から大きく逸脱しているからな」

('A`)「それじゃあ、キミの案は?」

从 ゚∀从「そうだな、分りやすさを追求して“生体廃棄物博物館”というのはどうだ?」

('A`)「いいね、的を射ている。これ以上ないくらいに的確だ」

从 ゚∀从「惜しむらくは展示品がドクオ一体のみな点だな」

32 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:41:15 ID:pisun.Qw0
('A`)「んで、言ってた通りの買い物は済ませたのか?」

日課の戯言に適当な返事をしてから、彼女の手にぶら下がった買い物袋を指差す。
帽子を被ったスカンクのマークがプリントされたホームセンターのビニール袋の口からは、食器やメタルラックなどがその顔を覗かせていた。

从 ゚∀从「買い物メモの象形文字を解読するのに手こずったが、他は滞りない」

右手の買い物袋を俺に押しつけながら彼女は憎まれ口「のような言葉」を使うが、彼女ほどの高性能な人工知能を有したアイアンメイデンが買い物メモを必要とするわけがない。
言わば、人間らしさの演出と俺の趣味を兼ねた手心というものだ。恐らく俺のこの行動は他人からは、理解しがたいフェティズムにも映るのだろう。

('A`)「よし、コーヒーもちゃんと買ってきてるな。オーケー、ここらで一つ一服をいれるか」

買い物袋の中を確認し、目当てのインスタントコーヒーの瓶を取り出すと、ハインに先じて新たな事務所の扉を開ける。
四十畳ほどの部屋は横に長く、奥にはバイオヒノキのバーカウンターと同じ素材の酒瓶棚、カウンターから見えるフロアには小さな木製テーブルが二席。
床の各所には未だに荷解きをしていないダンボールの山が転がって散らかっているとはいえ、かつてはバーか喫茶店が入っていたであろう、この新たな事務所の雰囲気を、俺はそこそこに気に入っていた。

从 ゚∀从「さて、今日ぐらいは私が茶の準備をしてやろう」

買い物袋をぶら下げたまま、バーカウンターの横合いから奥の厨房へと入っていこうとするハインに、俺は手にしたインスタントコーヒーの瓶を放り投げて、カウンターの隅に腰を下ろす。
既に自分の城であるとはいえ、真ん中に座るのは落ち着かないものなのだ。

33 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:42:56 ID:pisun.Qw0
「矢張り本格的な調理設備が整っているというのは良いものだな。腕がなる」

ビニール袋を漁る音と共に聞こえてくるハインリッヒの声に、「腕がなるのは関節の老朽化が原因じゃないのか」と胸中で呟く。
こないだの仕事が思ったよりも金になった為、戯れで準二級の調理プログラムの入った素子なるものを買い与えてみたが、果たしてこれは正解と言えるのだろうか。
一夜にして板前見習い程度の調理テクニックを身につけてからというもの、彼女は何かにつけて天然食材を買ってきては我が家の経済状況に小さくても決して無視できない打撃を与えるようになった。
その点の浪費については、しかし俺も常日頃から彼女に指摘され続けている為、真っ正面から抗弁する資格も無い。
何よりも以前よりも遥かに美味い飯が食えるようになったのは実際悪い事では無いとくれば、嬉しい悩みの部類に入るのだろう。

从 ゚∀从「お待たせしましたお客様、こちらモカ・ブレンドとレアチーズケーキになります」

わざとらしい口調で言いながらトレイの上にコーヒーとケーキを乗せてやってきたハインは、どういうわけかシックな給仕服に白いレースのエプロンを纏っている。

从 ゚∀从「昼は喫茶店、夜は何でも屋。そんな戯画的な雰囲気は嫌いか?」

なるほど。それもまた悪くない。

从 ゚∀从「貴様もどうせそのような雰囲気を期待してこの物件を選んだのだろう?」

('A`)「……分ってらっしゃるようで」

本場大英帝国も顔負けの動作でカウンターに置かれたコーヒーカップを、俺は左の手で包むようにして掴む。
感触を確かめながらゆっくりと持ち上げ、何とか口元まで運んだ所で、カップが粉々に砕けた。

34 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:44:39 ID:pisun.Qw0
从 ゚∀从「まだ、力加減が慣れないか?」

('A`)「ああ、そうみたいだ」

コールタールのように真っ黒なコーヒーで汚れたテーブルを、俺は右の手にダスターを握って拭いて行く。これで通算三度目の失敗だ。
生まれて初めてサイバネ義手なるものの世話になることとなってしまったが、矢張りこういうものに金を惜しんではいけないようだ。

从 ゚∀从「だからギーク12にしろと言ったのだ。いくらギュウキが
戦闘用の頑丈さを持っていようと、三世代も前のモデルでは日常生活に支障が出る」

('A`)「力加減は慣れればいいんだよ。頑丈なら、それでいいんだ」

俺の左手を覆う黒革の手袋の下には、クロームメタルの鉄板と配線が剥き出しになった武骨なフォルムが収まっている。
こんな商売をしているにも関わらず、今まではニューロジャック以外のインプラントの世話にならないで一生を終えるものだとばかり思い込んでいた。
ハインリッヒが何時も隣にいるからだろうか。実に、甘い認識だったと思う。
結果的に、サイバネ義肢をつけたことで、カスタムデザートイーグルの口径も義肢用に二周りほど大きくする事が出来たのは、怪我の功名という所か。

('A`)「大体、ここを借りるだけでも結構吹き飛んだんだ。その分、抑えるとこは抑えとかないとな」

从 ゚∀从「事務所と自分の左腕を同列で語るな。それだけ型が古いと、しょっちゅう整備しないとならないぞ。
      大体、貴様は金の使い所がおかしい。私に調理ソフトなどをインストールする余裕があるのなら……」

客観的な視点で実に的確なお説教が始まる。
最早日課になってしまいつつあることだが、自分自身も設定に関わっているAIに説教されるなんてのは、どうにもしまらないものである。進歩の無い所が、人間らしいとも言えようか。

35 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:46:17 ID:pisun.Qw0
('A`)「いっそ俺の頭の中身も定期的にアップデートされるようにならんもんかね……」

愚にもつかない戯言をぼやいた所で、懐が僅かに振動する。
よれによれたコートの内ポケットから携帯端末を取り出せば、そこには「非通知着信」の五文字。
傍らで小言の続きを垂れるハインに視線を送り、俺は受話ボタンを押した。

('A`)「はい、こちらD&H――」

「助けてくれ!追われている!」

思わず受話機から耳を離して顰め面を作る。
金切り声に近い叫びを上げる電話の向うの主。
それすらもかき消すかのように、ヘリのローター音じみた機銃の正射音が後に続いた。

('A`)「いや、いきなり助けてくれも何も先ずは――」

「何でも屋なんだろう!?金なら幾らでも払う!今すぐニーソク第五埠頭に来てくれ!大至急だ!」

銃声。続いて、爆発音。そして電話は切れた。

('A`)「……」

相棒を見る。

从 ゚∀从「却下だ。理由は言わずともわかるな」

('A`)「それも却下だ」

从 ゚∀从「理由は?」

俺は尻ポケットから財布を取り出してさかさまにする。
百円素子が三つ、新たな事務所の木の床を転がった。

36 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:47:34 ID:pisun.Qw0

#track-2

――黄色いドアを開いてドロイドタクシーの助手席に乗り込むと、ドライバーの中古ドロイドが骨格の剥き出しになった口から片言めいた日本語で警告音声を鳴らした。

〈-L-〉「お客様ノ座席は後部トナッテオリマス。恐縮デスが一度オノリカエノホドヲ――」

('A`)「やかましいんだよ、ポンコツ」

配線の剥き出しになった鉄板の顔面を、黒革の手袋に覆われた左手で殴りつけると、その首筋にジャックインケーブルを突き刺す。
視覚野に違法行為を示す「イリーガル」の赤い警告文が表示されるが無視。
“リッパー”を走らせてドライバードロイドの安いファイアーウォールをぶち抜くと、二秒のうちにドロイドの制御中枢を掌握した。

从 ゚∀从「ここまで行くとキセル乗車も堂々としたものだな。いっそ犯罪者に転向したらどうだ?」

('A`)「最初から似た様なものだろ」

从 ゚∀从「違いない」

軽口を叩く相棒が後部座席に乗ったのを確認して、俺はドロイドの脳核に行き先のデータを入力する。
ドライバードロイドがドラッグ漬けのロックミュージシャンめいてしわがれた電子音声を発した後、俺達を乗せたドロイドタクシーは、昼下がりのニーソクの交差点のど真ん中でUターンを決めると、猛スピードで発進した。

37 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:49:26 ID:pisun.Qw0
从 ゚∀从「しかし、名前も明かさぬ、予測される敵対勢力の情報も無い。
     これで幾らでも払うと言われて、はいそうですか、
     となる貴様の思考回路は雲一つない日本晴れのようだな」

('A`)「キミは学があるから諺にも詳しいだろ?いいか、溺れる者は――?」

从 ゚∀从「時々、何のために生きているか分からなくならないか?」

('A`)「言うな馬鹿。貧乏暇なし、下手の考え休むに似たり、考えるのはペイの支払いの時だけで十分だ」

後ろ腰のホルスターからカスタムデザートイーグルを取り出して、マガジンと薬室の弾丸、有線制御モジュールの正常動作を確認する。
バックミラー越しに見える相棒は、左腕のネイルガトリングの給弾ベルトを腕の中にしまって確認を終えた所だった。

最大効率を求めて即席でタイプされたプログラムに従い、ドロイドタクシーは制限速度を三十キロもオーバーした速度で公道を爆進する。
無茶な追い越しを繰り返す車体の窓越しに、煤けたネオン看板やサイバネ改造でごちゃごちゃしたパンクス達の頭が通り過ぎていく。
頽廃と享楽の街ニーソクは、ドロイドタクシーの暴走行為にも顔色一つ変える事無く、光化学スモッグの齎す淀みの底に沈んでいた。

('A`)「ここで一つ賭けをしようぜ。依頼人はどんな奴だと思う?」

从 ゚∀从「類は友を呼ぶ、と言う」

('A`)「交渉に失敗したヤクザか、預金残高の改竄に失敗したハッカーか」

从 ゚∀从「どちらにしろ、ボンクラだ。賭けにならない」

('A`)「ごもっとも、ってやつだ」

38 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:51:20 ID:pisun.Qw0
下らない毎日を構成するのには、碌でもない仕事と碌でもない依頼人、そして救いようのない俺。
何年続けても、これのうちどれか一つでも変わった試しが無い。
職業案内所へ行く気が起きないのもまた、それに拍車をかける。

('A`)「いっそ全てを投げ打って温泉旅行にでも行きたいと思わないか?」

从 ゚∀从「新しい事務所を借りる資金をそっちに回せばよかったじゃないか」

('A`)「その手があったか」

从 ゚∀从「たらればだが、もしそうしていたなら帰ってくる場所が無くなっていたがな」

('A`)「その時は旅先に骨を埋めるよ。キョート辺り、いいね」

从 ゚∀从「貴様との心中はご免被りたい。一人で涅槃でチークダンスでも踊っていろ」

機械との漫談も、慣れたものだ。
突き詰めていけば、全ては俺の独り言でしかないが、少なくとも孤独を誤魔化す程度には重宝している。
会話はこのとかく生きづらい世の中を渡る為の一種の精神安定剤だ。たとえそれが、機械とのものだとしても、だ。

下にもつかない“ひとり言”を繰り返しているうち、フロントガラスの向うに、コンテナや貸倉庫、無数の煙突やパイプを生やしたコンビナートの鉛色の威容が見えてくる。
石油資源の加工を目的とした施設が集中する、ニーソク区第五埠頭は昼夜を問わずに薄ら暗い。
光化学スモッグとそこから慢性的に降りしきる重金属酸性雨は、ここが出来てからというもの幾つもの公害問題の槍玉として挙げられてきたが、天下の渡辺グループ傘下の企業達がそれに対してまともに取り合う筈も無かった。
数年前まで盛んにデモ行進を行っていた労働組合も、今ではとんとその姿を見かける事も無くなって久しい。
“慰謝料”は幾ら程出たのだろうか?何処にでも転がっている、碌でもない話の典型だ。

39 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:53:10 ID:pisun.Qw0
('A`)「さて、クライアント殿はどちらに――」

ドライバードロイドに結線したまま首を巡らせていると、懐が再び振動。取り出して受話ボタンを押す。

「やっと来たか!遅いぞ!」

携帯端末を耳に当てると同時、今にも泣き出しそうな情けない声が飛び出してきた。

('A`)「これが最高速度でね、お客さん。既に棺桶に片足を突っ込んだ運転だったんだが、それについても別途の――」

「緑色のコンテナの下だ!早く!早くこっちに――」

銃声、銃声、後、爆発音。再び通話は切れる。
溜息をつきたくなるのを堪えて視線を巡らせれば、フロントガラスの向う、波打ち際にうずたかく積まれたコンテナの群れを背後に、二十人前後の人影とその間で閃く銃の火線が見えた。

('A`)「さて、久しぶりに荒い運転をするが、ジャイロの方は?」

从 ゚∀从「貴様の金銭感覚よりはバランスが取れている」

('A`)「オウケイ」

ドライバードロイドの操作をマニュアルコマンドに切り替え、オーディオのスイッチを入れる。
埃まみれのスピーカーから吐き出される、ノイズと区別のつかない野太いグロウル。
インディーズグラインドコアメタルバンド、「パペットマスター」のサードシングルのギターソロに合わせて、俺はニューロンの中でアクセルをめいっぱいに踏み込んだ。

40 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:54:43 ID:pisun.Qw0
唸りを上げて、ドロイドタクシーの黄色い車体が尻を振りながら走り出す。
向かう先は、コンテナの前に展開した鉄火場、そのど真ん中。
手に手にサブマシンガンやハンドガンを構えた黒服の集団が、招かれざる客である所の俺達を一斉に振り向いた。

('A`)「ヘイ、ヘイ、ヘイ、暴れ牛だ!マタドール気取りは止めとけよお!」

黄色の暴れ牛の突進に、黒服達の手のエモノが一斉に火を噴く。
乱れ飛ぶ銃弾の雨あられ。火花と共にボンネットがチーズめいて穴ぼこを晒し、フロントガラスに蜘蛛の巣が這う。
サイバネ義手の左でフロントガラスをぶち破って視界を確保した瞬間、右の頬を銃弾が掠めた。

「なんだこいつは!?」

「ざっけんな畜生め!撃て撃て!撃ちまくれ!」

車体を伝う肉の感触。鈍い衝突音の度に、ぶれる車体。
ごっ、ごっ、ごっ。三人引っかけた。後部座席のハインが、前のシートに頭をぶつける気配がする。

銃弾の猛攻は止まない。閃く火線にサイドミラーが千切れて吹き飛んだ。
横の窓を突き破って、銃弾が車内にまで飛び込んでくる。
頭を低くした瞬間、隣の運転席でドライバードロイドの不細工な頭が弾け飛んで、機械油の汚らしい茶色の飛沫が飛び散った。
有線結線の弊害で、フィードバックが俺の脳髄を駆け抜ける。
鼻の奥で熱い感触。ニューロンを丸ごと焼き切られなかっただけでも儲けものだ。

('A`)「ファックオフ!」

左の手の甲で鼻血を拭いながら、右の手でお留守になったハンドルを握る。
幸か不幸か、アクセルは全力で踏みぬかれたままだ。
舞飛ぶ怒号と銃弾の嵐の中を、スクラップ寸前の黄色い車体はコンテナ目掛けてフルスロットルで突っ込んでいく。
風通しのよくなったフロントガラスから、緑色のコンテナの山の下で頭を抱えて蹲る人影が見えた。

41 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:57:18 ID:pisun.Qw0

('A`)「ビンゴォ!」

右の足で無理矢理にブレーキを踏みつけながら、ハンドルを思い切り右に切る。
パンク寸前のタイヤがバンシーめいた金切声を上げて、車体がドリフト旋回。
ギリギリの所でコンテナにぶつからずに停止した。
止まない銃声の中で、ハインリッヒが後部座席のドアを開けて、よれよれのコートとハンチング帽を召したクライアントを片腕で車内に引きずり込む。
ドアが閉まった事も確認せずにブレーキを離し、俺は車体を急発進させた。

('A`)「待たせたね、お客さん。まだ脳核は無事かい?」

(;´_ゝ`)「ああ、お陰さまでご健在だよ畜生!地獄に仏とはこの事だ!」

再び黒服の集団へと突進を始めるタクシーの車内で、バックミラー越しにクライアントの姿を確認する。
茶色の薄汚れたトレンチコートと、同色のハンチング帽を被って大きな黒革のバッグを抱えた男は、齢にして三十代の半ば程だろうか。
煤と埃で汚れた顔には幾つもの皺が刻まれており、見ようによっては四十後半から五十代にさえも見える。
粗末な服装とも相まって、くたびれ切った雰囲気の拭いきれない所などは、如何にも与太者然としていた。
後生大事そうに抱えている手元の鞄には幾ら入っているのだろうか。
皮算用を始めそうになる自分を、俺は胸中で戒めた。

('A`)「安心するのはもうちょっと先にしてくれ。あと、頭を低くな」

再び黒服達へと突進を開始した車体を、銃弾の雨が叩く。
後部座席へとハンドシグナルでゴーサイン。
同時、水を得た魚のようにドアを蹴破り、一羽の隼めいてハインリッヒが車外に飛び出した。

42 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 08:59:03 ID:pisun.Qw0
(;´_ゝ`)「お、おい!あんな女の子一人置き去りにして、大丈夫なのか?」

('A`)「当然の反応、ドーモ。だがアイツに限ってはそんな心配はいらない。
少なくとも、そこらの戦車よりは丈夫に出来てるんでね」

銃弾に食いちぎられて殆んど原型を留めていないバックミラーの中では、アスファルトの上で転がった鋼鉄の処女が、今しも立ちあがって背中から長物を取り出そうとしている。

从 ゚∀从「やれ、残飯処理は何時も私と言うわけだ」

地上に顕現した死の天使のようなハインの姿に、泡を食いながらも小銃を構える黒服達。
黒銀の風となった鋼鉄の処女の、ダンス・マカブルが始まった。

(;´_ゝ`)「ジーザス…こいつは驚いた…こいつぁまるで――」

あっけにとられて溜息をこぼすクライアント。
血飛沫に真っ赤に染まったバックミラーから視線を前に戻して、俺はハンドルを左に切る。
猛牛の突進をかわして安心していた黒服の一人をバンパーで跳ね飛ばし、進路を埠頭の出口に向けた。

('A`)「それでだ、お客さん。あんたを三途の川のこちら側まで連れ戻す前に、運賃についての相談なんだが……」

( ´_ゝ`)「ああ、ああ、そいつについては安心してくれ。
今の俺はアラブの石油王みてえなもんだ。幾ら欲しい?吹っかけてくれても構わんぜ?」

('A`)「五、いや必要経費も含めて八って所か」

( ´_ゝ`)「お安い御用だ!もってけ泥棒!」

43 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 09:00:45 ID:pisun.Qw0
頭の横から生の札束が突き出される。
目の前に飛び出してきた黒服を跳ね飛ばし、札束をむしり取る。
数えるまでも無い厚みだ。

('A`)「ヘイ、桁が間違ってるぜ、お客さん。八十じゃない。八百だ」

( ´_ゝ`)「へへ、ジョークだよ、ジョーク。面白くなかったか?」

('A`)「ああ、悪いが笑えねえな」

( ´_ゝ`)「悪かったよ、ほら、そんなにかっかしなさんな」

黒革の鞄から更に札の束を引っ張り出すクライアントの手元を、バックミラー越しにそれとなく観察する。
生の札束の山と、色とりどりのキャッシュ素子の群れの中に、白い粉の袋が幾つか散見された。

( ´_ゝ`)「ほれ、小遣いだ!大事に使えよ!」

再び差し出される札束。今度のは厚みも十分にある。
俺は後ろ腰のカスタムデザートイーグルの安全装置を掛け直した。

从 ゚∀从『残飯処理が完了した。追跡の心配は、今のところは無い。合流地点は?』

('A`)『オーライ。取りあえずかぼちゃの馬車を処分する。五つ区画を離した埋立地で落ち合おう』

短く返事を返す相棒を確認し、脳核通信を終える。
ガタピシ唸るエンジン音に紛れて聞こえていた銃声も、確かに鳴りやんでいた。

俺達を乗せた元ドロイドタクシーは、工場区画の裏道を進んで行く。
鉄と鉄のぶつかり合いと、機械の駆動音の騒々しさに満たされた狭苦しい道に、人の姿は見られない。
どれだけオートメーション化が進んでいるのかは知らないが、ここいらの工場は規模の割には従業員数が少ないらしい。学歴の無い人間にはとかく生きづらい世の中だ。

44名も無きAAのようです:2012/07/26(木) 09:01:25 ID:1R/fa1ao0
おかえりいいいいいいいいいいいいい

45 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 09:02:45 ID:pisun.Qw0
('A`)「――で、だ。これからこのタクシーを処分するわけだが、お客さんはどちらまでの送迎をご希望で?」

後部座席でバッグの中の金勘定に夢中になっていたクライアント殿が、はっとしたように顔を上げる。

( ´_ゝ`)「何処までかって?ハッ!これだけありゃあ何処まで行ける?
     どこまでだって行けるだろうよ!キョート、カルイザワ、いや、なんならタヒチだっていい!」

('A`)「冗談は今は置いといてくれ。ビズの話だ。
   実際、あんたがそんな大金をどうやって手に入れたのかは知らんが、追手の事を考えたらそれなりに高跳びせにゃならんだろう?
   無論、その場合は別プランって事で別途料金の請求をさせてもらうがな」

( ´_ゝ`)「追手!ハッ!あいつらが!あのケチなヤクザ気取り共にそんなのを出す余力なんざ残ってないさ!
     ゆすり、ゆすり、集金のピンハネ、またゆすり!実際、それくらいしか手が出せねえのさ!
     デカイ後ろ盾があるわけじゃあねえ!ワンマン運営さまさまだな!」

鼻息も荒く一息にそこまでまくし立てると、男は鼻を鳴らして中身の飛び出したシートに深く身を沈める。
皺の寄った口が僅かに開き、そこから深いため息が漏れた。

( ´_ゝ`)「――下らない商売さ。何時までも続く訳がねえ。西村が仕切ってた頃とは違うんだ。
     大陸の奴らと張り合おうなんて、どだい無理な話さ。意地とか言ってても、馬鹿を見るだけだって気付きもしねえ。おめでたい連中さ」

46 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 09:04:23 ID:pisun.Qw0
男はトレンチコートの内ポケットから一箱180円の「綺羅星」を取り出すと、使い捨てライターで火を灯す。

('A`)「悪いがここは禁煙だ」

俺の言葉に構う事も無く、男は一口目を大きく吸い込むと、灰をバックシートに落とした。

( ´_ゝ`)y‐~「五年も前からとうに潮時だったのさ。さっさと切り上げるべきだった。
       この商売で一番大事なのは何か分るか?」

('A`)「さてね」

( ´_ゝ`)y-~「引き時だよ。そいつを見誤った奴から死んでいく。実際、あいつらは死んで、こうして俺は生きている。そうだろう?」

('A`)「かもな」

板金加工工場の角を左に曲がると、合流地点である所の埋め立て地の看板が見えてくる。
脳核通信で相棒に適当な連絡を送ると、俺は欠伸を噛み殺してオーディオのスイッチをまさぐる。
耳が寂しいと思っていたら、先の銃撃でカーステレオはダメになっていた。

( ´_ゝ`)y-~「長く続ける商売じゃあねえ。そこんところを弁えてンだ、俺ぁ。
       地獄のあいつらには悪いが、俺は一足先に上がらせてもらうってわけさ。
       退職金もたんまり貰った訳だし、ちまい喫茶店でも開いて隠居と洒落込ませてもらうさ」

顰め面で最後の一口を吸い終えると、男は風通しのよくなった窓枠に煙草を押しつける。
安い火の粉が僅かに舞い、光化学スモッグやその他諸々の汚染物質を含んだ潮風に嬲られ後ろに流れた。

( ´_ゝ`)「後ろ暗いだけで碌な事がねえ。あんたも、さっさとこんな商売にはケリをつけた方がいいぜ」

俺は適当に相槌を打つ。この男の戯言にはうんざりしていた。

47 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 09:06:07 ID:pisun.Qw0
('A`)「つまり、俺もあんたも尻拭いの手間を考えなくてもいいってことか?」

( ´_ゝ`)「ま、そう言う事だ。あの嬢ちゃんに撃ち漏らしが無けりゃな」

('A`)「それについては問題ないさ」

俺が言うのと同時、バックミラーにゴシック・ロリータ・ファッションの死神の影が映る。
返り血に汚れたそのワンピースのクリーニングの事を考えていると、オンボロの車体が強い衝撃に揺れ、ルーフがへこんだ。

(;´_ゝ`)「うおっ!?なんだ!?撃ち漏らしは無いんじゃなかったのか?」

('A`)「おい、ムービーホロじゃねえんだ。演出をサービスするこたあねえぞ」

从 ゚∀从「そうだったか?」

鋼鉄の処女が、運転席の窓から首だけを出して車内を覗く。
後部座席で目を丸くするクライアントにウィンクを投げかけると、ハインリッヒは運転席にへばりついたままのドライバードロイドの残骸を片腕で引きずり出し、そこに滑り込んだ。

('A`)「随分と遅かったじゃないか」

从 ゚∀从「新しい兵装の運用方針を試していた。多人数相手なら弾薬費と修理費を天秤にかけても使う価値があるな」

('A`)「そいつは良かった。最も、えり好みしてる余裕なんざ無いがね」

从 ゚∀从「それについては、彼次第という面もあるのでは?」

48 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 09:08:11 ID:pisun.Qw0
唐突に水を向けられた事で男は瞬きを繰り返していたが、直ぐに首を振った。

(;´_ゝ`)「ヘイ!ここまでの仕事の分はさっき渡したばっかだろ!?
      いくら退職祝いだからって、これ以上は出せねえぞ!俺の新生活の元手なんだ!」

从 ゚∀从「そうなのか?」

('A`)「ああ、ペイの支払いは済んでる」

从 ゚∀从「それを踏まえて、ということか?」

俺が無言を貫いた事で、男がにわかに慌てだす。

(;´_ゝ`)「おい、冗談じゃないぞ!まさかこれ以上俺から揺すろうって言うのか?
      俺が金を持ってるから、吹っかけようってタマか?ああん?」

('A`)「いや、別にそういう訳じゃないが……」

(;´_ゝ`)「止めろ!もういい!ここで下ろせ!冗談じゃないぜ!」

男のわめき声に合わせて、鋼鉄の処女がブレーキを踏みこむ。
フレームだけで走っていたような車体が、悲痛なうめき声をあげて急停車。
男は既に閉まらなくなったドアを蹴り開けると、黒煙を上げる工場の裏の路上に転がり出た。

(;´_ゝ`)「ガッデム!忌々しいチンピラ共が…ゴロツキを頼ると碌な事がねえ……」

黒革の鞄を両腕でかき抱きながら、男はおぼつかない足取りで路地の暗がりへと歩いて行く。
俺と相棒は、そのよれたトレンチコートに包まれた曲がった背中を、ボロボロのタクシーの中から見送った。

49 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 09:09:41 ID:pisun.Qw0
暫くの間、俺達は肩で息をするようなアイドリングの中で、おしのように黙っていた。
遠くで、パワーショベルがのそのそと動く音がしている。
やがて、口が寂しくなったので、懐からマルボロを取り出して火を点けた。

从 ゚∀从「――で、幾ら貰ったんだ?」

最初に口火を切ったのは鋼鉄の処女だった。

('A`)y-~「800」

从 ゚∀从「800!ハッ!」

鋼鉄の処女は器用に鼻で笑う。

('A`)y-~「組の金を横領しようなんて考えるヤツにしてはそこそこだと思わんか?」

从 ゚∀从「事務所の移転費の足しにもならない。ネイルガトリングを使わずにいて正解だったな」

('A`)y-~「キミのメンテナンスは……」

从 ゚∀从「誤魔化せるのは再来週までだろうな」

('A`)y-~「やれやれだな……」

溜息をつくと、ダッシュボードにマルボロを押しつけて発車を促す。
老人が堰きこむようにして走り出した車体から、ホイールが外れて乾いた音を立てた。
気のせいか、頭の奥が微かに痛む様な気がした。

50 ◆fkFC0hkKyQ:2012/07/26(木) 09:11:51 ID:pisun.Qw0

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――ドロリとした喉越しのそれは、酒と言うよりかはトマトジュースを飲んでいるような感覚に近い。
グラスの縁に塗られた湖沼の味が、ピリリとした後味を気持ちばかりに残すが、正直な感想を言わせてもらうのならば、あまり美味いとは思えなかった。

∬´_ゝ`)「――それでヨ?こっからが肝心なのヨ。ソイツ、なんテ言ったと思う?」

从 ゚∀从「……さてな」

∬´_ゝ`)「“妻とは別れる!これからは君一筋だ!この指輪に誓うよ!”」

从 ゚∀从「……ほう」

∬#´_ゝ`)「ジョーダンじゃないってんだワヨ!ソーイウことを言ってンじゃないってのヨ!
     妻が居るんだったら付き合う前から言いなさいッテことヨ!」

从 ゚∀从「……ああ、うむ」

∬´_ゝ`)「それをアータ……これじゃアタシが道化みたいじゃない?ネエ?アータもそう思わない?」

从 ゚∀从「それはご愁傷様だったな」

∬´_ゝ`)「ネッ!ネッ!アータもそう思うでショ?」


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