[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
801-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
ホテル・サイドニアのようです
1
:
名も無きAAのようです
:2011/09/12(月) 23:43:56 ID:v7OA74xM0
お邪魔しまーす
623
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:56:09 ID:KYRNhUOs0
兄者のとった行動は、刃が来る間際に横へ崩折れるというものだった。
身体がぐらりと傾いで、視界が90°変わっていく。
ひゅん、と風を切る音が兄者のすぐ傍で聞こえた。それは
無論のこと、空振りに終わったドクオの渾身の攻撃だった。
ドクオは、追撃するには時間を要した。全体重を込めた
突きの一撃、しかしその空振りによって、体勢が崩れてしまった。
それは倒れ込んだ兄者も同様だったが、すんでのところで回避したアドバンテージ、
若干の時間差優位に立っていた。倒れた衝撃を活かして身体を
一回転し、膝立ちをする。視界に映るのは、身体のバランスを
失った、無防備なドクオの横姿だった。
( ´_ゝ`)「(……今だ)」
(メ'A`)「!?」
反撃のチャンスはこの瞬間だと悟った。――いつものように、
素早く冷静に銃を構えると、ドクオの無防備な脇腹を撃った。
乾いた銃声が、二発、ふたたび響いた。
それに呼応してドクオの短い叫び声が、店内に響いた。……
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
624
:
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 21:58:24 ID:KYRNhUOs0
―― ハーモニー 大通り
(;`・ω・´)「………!?」
入り組んだ裏道を抜け、大通りを出てすこし歩いた先のことだった。
異様な光景――木箱やダンボールが滅茶苦茶に乱雑している――が
まず目に飛び込んできて、それから、見知った二人の顔を視認した。
(;`・ω・´)「阿部さん! エノーラ!」
いかにもそれはノーナンバーズの二人だった。生死不明で
ぐったりした状態の阿部を、エノーラが必死に呼びかけている
その光景に、シャキンはいち早く駆けつける。傍のヘルメットを
蹴り飛ばす勢いで、動かない阿部に抱きついて、
(;`・ω・´)「あ、阿部さんッ!!!!!!!!!」
返事はなかった。シャキンは唾を撒き散らしながら、
(;`・ω・´)「エノーラ!! どういうことだよ!?」
||‘‐‘;||レ「わからないよッ! 私が来たときには、もう……!」
シャキンは再び、阿部の容態を確認した。頑丈なはずの防護シャツ
を重ね着しているが、そのどれもが焦げて黒ずんでいる。更に
注意して見てみると、いたるところに銃痕と滲んだ血があった。
額が切れてい、流血した痕が残っている。脈は確認できるため、
死んでいはいないだろうが、重体には違いなかった。
625
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2012/12/14(金) 22:00:33 ID:KYRNhUOs0
(;`・ω・´)「これはひどい」
||‘‐‘;||レ「動かした方がいいのかな……ここにいたら危ないし」
(;`・ω・´)「……や、首が骨折してたら危ない……。ぼくが
……ここは……」
言葉はしかし、そこで途切れた。
砂を踏む、何者かの足音を聞いたからであった。
||‘‐‘;||レ「ひっ……」
エノーラが小さく怯えた。ゆっくりとシャキンは振り返る。
そこには、残党らしきハンターが一人、下卑た笑いを浮かべて立っていた。
||‘‐‘;||レ「……なにか、用ですか」
あまりに無意味な問いかけだった。当たり前のように
その襲来者は返答をせず、変わらず目の前の獲物を眺めている。
(;`・ω・´)「っ………」
いままでの経験上から断言できた。
このハンターの要求、望みなど聞かなくてもわかる。
「金を寄越せ」「そして死ね」だ。
.
626
:
名も無きAAのようです
:2012/12/14(金) 22:02:26 ID:KYRNhUOs0
今日はここまで。眠さが限界ですので。よい夜を。
627
:
名も無きAAのようです
:2012/12/14(金) 22:04:05 ID:k8K5I4t.0
おつー
ハラハラするぜ、また次を楽しみにしてる
628
:
名も無きAAのようです
:2012/12/14(金) 22:14:50 ID:sNISGESg0
おつ
629
:
名も無きAAのようです
:2012/12/15(土) 00:22:16 ID:xh61z38Y0
乙!しびれるぜ
630
:
名も無きAAのようです
:2012/12/15(土) 19:52:40 ID:gkOzk75s0
乙
631
:
名も無きAAのようです
:2012/12/15(土) 22:40:32 ID:S0gEu/gs0
おつ
632
:
名も無きAAのようです
:2012/12/31(月) 09:41:01 ID:Vu796Qi6O
脇役ハンターが輝いてるな
633
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:18:27 ID:j2823KTo0
―― ハーモニー 大通り
(;`・ω・´)「………!?」
入り組んだ裏道を抜け、大通りを出てすこし歩いた先のことだった。
異様な光景――木箱やダンボールが滅茶苦茶に乱雑している――が
まず目に飛び込んできて、それから、見知った二人の顔を視認した。
(;`・ω・´)「阿部さん! エノーラ!」
いかにもそれはノーナンバーズの二人だった。生死不明で
ぐったりした状態の阿部を、エノーラが必死に呼びかけている
その光景に、シャキンはいち早く駆けつける。傍のヘルメットを
蹴り飛ばす勢いで、動かない阿部に抱きついて、
(;`・ω・´)「あ、阿部さんッ!!!!!!!!!」
返事はなかった。シャキンは唾を撒き散らしながら、
(;`・ω・´)「エノーラ!! どういうことだよ!?」
||‘‐‘;||レ「わからないよッ! 私が来たときには、もう……!」
シャキンは再び、阿部の容態を確認した。頑丈なはずの防護シャツ
を重ね着しているが、そのどれもが焦げて黒ずんでいる。更に
注意して見てみると、いたるところに銃痕と滲んだ血があった。
額が切れてい、流血した痕が残っている。脈は確認できるため、
死んでいはいないだろうが、重体には違いなかった。
634
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:20:19 ID:j2823KTo0
(;`・ω・´)「これはひどい」
||‘‐‘;||レ「動かした方がいいのかな……ここにいたら危ないし」
(;`・ω・´)「……や、首が骨折してたら危ない……。ぼくが
……ここは……」
言葉はしかし、そこで途切れた。
砂を踏む、何者かの足音を聞いたからであった。
||‘‐‘;||レ「ひっ……」
エノーラが小さく怯えた。ゆっくりとシャキンは振り返る。
そこには、残党らしきハンターが一人、下卑た笑いを浮かべて立っていた。
||‘‐‘;||レ「……なにか、用ですか」
あまりに無意味な問いかけだった。当たり前のように
その襲来者は返答をせず、変わらず目の前の獲物を眺めている。
(;`・ω・´)「っ………」
このハンターの要求、望みなど聞かなくてもわかる。
「金を寄越せ」「そして死ね」だ。
.
635
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:22:19 ID:j2823KTo0
.
(;` ω ´)「………」
心の中で、シャキンはなんどもなんども毒づいた。
恩人の阿部が瀕死の状態で、友人の女性は怯えている。
この状況、覆しようのない絶体絶命。自分は何をすべきなのか。
戦闘の二文字が頭に過ぎっただけで、ふくらはぎの傷が
またも痛んで、心が竦んだ。しかしどうやって切り抜ければ、
自分がしないといけないのに、助けなくちゃいけない人が、いるのに。
(;` ω ´)「……なんで……」
ふと、目を地面に落とすと、その合間に武器を発見した。
それは紛れもない、兄者がエノーラに託したリボルバーだった。
エノーラの腰で頼りなく揺れるホルスターのなかで、ぎらりと黒光りした。
(;` ω ´)「............」
―― なんだよ、なんでなんだよ。絶対に来て欲しくない
タイミングでお前は来ちまうんだ。このときだけは、
阿部さんを安全な場所に移す、この時間だけは、邪魔されたくないのに。
.
636
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:27:16 ID:j2823KTo0
(;` ω ´)「――ふざ、けんなよ……」
シャキンはやおら立ち上がった。素早くエノーラの持つ
拳銃を抜き取ると、険しい表情に変化したそのハンターに向かって、
実弾を放った。それも、顧みない乱射をしながら、
( `;ω;´)「ふざけんなよッ! こっちは必死なんだよッ!!
阿部さんを助けなくちゃいけない!
ハーモニーを取り返さなくちゃいけない!!!」
その射撃に対応して撃ち返してくるハンター。
鉛玉がお互いの身体をえぐっていく。
||‘‐‘;||レ「シャキン!」
( `;ω;´)「必死なんだよッ!! 生きるのにも、
助けるにも必死で頑張ってるんだッ!!
それを、お前らがッ……へらへら笑って
いろいろ奪ってくお前らがっ……!!!
ふざけるなよ!! ふざけるなァアアッ!!!!!」
青年の慟哭は、相対したその男が絶命するまで続いた。
そしてそれでもなお、彼は涙をながし続けたのだった。……
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
.
637
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:30:53 ID:j2823KTo0
.
―― バイフック 戦場と化した酒場
火薬と血との臭いが、狭くも広くもない木造りの酒場を満たしている。
二人の男が相対し、相手の死角に隠れようとする靴の擦れる音、
それと荒い吐息が、狭くも広くもないバイフックで絶え間なく響いた。
( ´_ゝ`)
(メ'A`)
先程と違うのは、銃を多用しなくなったことであった。
この袋小路のようなバイフックでは、リロードの時間さえ惜しく、
時間がたつにつれて銃弾の重要性が増していった。
(;'A`)
( ´_ゝ`)
更に言えば、体力が残っていたドクオがダメージを負ったことにより、
動きの速さが互いに等しくなってしまったのである。
ドクオは兄者の姿を視認すると、素早く横倒れの丸テーブルの裏に身を隠す。
兄者はゆっくりと近づいて、そのドクオの隠れた壁を凝視する。
(;'A`)「(この状況はまずいぜ……)」
.
638
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:34:02 ID:j2823KTo0
兄者の立てる足音に耳をそばたてながら、
(;'A`)「(
俺が兄者に優っていた唯一の、決定的なアドバンテージ……
体力が削られていく、この状況は非常に不味い……。
兄者自身も確実に体力を消耗しているが、人間の体力は
ある程度下回ると反応速度やらが著しく下がる……。そこに、
同じ土俵に引き込まれたら、俺に勝ち目はないッ!!)」
息を整えようとするも、鼓動は早まるばかりだった。
(;'A`)「(時間を与えれば、兄者の体力もちょっぴりだが回復しちまう。
現に兄者はさっきより機敏になりつつある。……くそ、あの一撃を
ミスったのはキツすぎる。あそこからズルズルとこんな展開にさせられちまった)」
ドクオは汗塗れの掌を、壁にしている丸テーブルの支柱で拭いた。
(;'A`)「(だが、こっちにもまだナイフは残っている。……それに、
今ならまだ! 兄者のスピードを上回っているッ!!)」
( ´_ゝ`)
.
639
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:37:25 ID:j2823KTo0
.
( ´_ゝ`)「(流れはこっちに傾いている……)」
兄者は驚くほど落ち着いていた。流血も
止まり、傷跡から響く痛苦もゆるやかに収まってきている。
ドクオの隠れた丸テーブルを見やった。影から、ドクオの焦りが
吹き出ているのを感じる。だらしなく倒れたテーブルは、
ほんのすこしの衝撃でころころと独楽のように動きそうだった。
( ´_ゝ`)「ふっ」
ならば、その壁を撃ってやればいい。貫通はしないだろうが、
銃撃の弾みでテーブルの影からドクオの身体は剥き出すであろう。
ついでにリロードをしてから、兄者は実行するつもりだった。
しかし、弾を詰めようとしたその瞬間だった――
( ´_ゝ`)「ッ!?」
状況が変わった。そのテーブルの影から、たちまち殺気が漏れ始めた。
隙をついてやろうと油断した瞬間に、ドクオが反撃の意思を見せた。
――丸テーブルが浮上し始めた。ドクオが死角を維持しつつ、
いかにもそれを持ち上げたのだった。壁から盾に変わった瞬間だった。
640
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:44:08 ID:j2823KTo0
(#'A`)「(……ぅらぁあああ!!!)」
ドクオはテーブルの支柱を両手に持ちながら、兄者の
いる方向に向かって突撃をした。兄者がリロードをしだした
その間隙を突いた。装填状態から撃つことはできない――
(;´_ゝ`)「ちぃっ!」
兄者は反撃しようにも、両手が塞がっている。蹴りは
隙が大きいうえにその場凌ぎにしかならない。避けるしかない、
しかし、駆け出そうとしたその一刻に、
(;´_ゝ`)「ぐぉ!!」
物凄い勢いで丸テーブルの平面が、兄者の前身と衝突をした。
そのまま兄者の身体は壁に叩きつけられ、更にその状態で、
テーブルがふたたび圧迫を加えていった。
(#'A`)「おらあ!!」
(;´_ゝ`)「っ!!!」
激突のせいで、兄者の手元から銃弾がこぼれ落ちた。
.
641
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:47:51 ID:j2823KTo0
ぎり、ぎり、と音がする。
(;´_ゝ`)「っ………!」
(#'A`)「ッ………!!」
ドクオは圧迫の力を緩めず、体重を乗せてますます強めていく。
兄者は状態が状態だけに身動きも取れず、体力をじりじり奪われていく。
これでは落とした弾を拾うことも出来ない。それどころか、
圧迫されたせいで、塞がりかけた背中の傷が再び痛みはじめた。
ぎり、ぎり、ぎり、ぎり、、、
(;´_ゝ`)
(#'A`)
充分な力を加えてから、唐突にドクオはテーブルを引っ込めた。
兄者が、ほんのわずかに解放される。たまらずふらつく兄者だったが、
(;´_ゝ`)!
驚異は再びやってきた。ドクオは、今度はテーブルをさながら
野球のバットのように振り回してきたのだった。丸テーブルの側面が、
兄者に向かって、物凄いスピードで向かっていった。そして、
(; _ゝ )「――!!」
鈍い音がした。そのまま、兄者と激突し、兄者はもろに衝撃を受けた。
受身も取れないまま、兄者は倒れて床を転がった。
しかし拳銃だけはしっかりと握り締め、庇うように両手で守っていた。
.
642
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:51:25 ID:j2823KTo0
(メ'A`)「―――」
丸テーブルを放り投げ、ドクオは駆けた。駆けた先は
無論のこと兄者の元だった。ドクオの手元には再び、
怪しく光るキッチンナイフが握られていた。
そしてその刃先は、兄者の太腿に突き立てられようとした。
防弾加工されたジーンズに守られた太腿、それでも
戦闘で破れた箇所を狙って、鋭い刃が突っ込んでいく。
そして、
(;´_ゝ`)「っぐ!」
熱を帯びた激痛が、兄者の左太腿に走った。筋肉をずたずたに
引き裂いて、血管を貫いていくドクオのナイフ。
(;´_ゝ`)「くぅ……!」
だが、勢いをつけてナイフを突き付けたために、ドクオの
モーションはわずかに止まった。兄者はほんの少し体勢を変えると、
銃口をドクオに向けた。
(メ'A`)「!」
そして発射する。ドクオの胸元に鉛玉が乱暴にぶつかった。
643
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:53:41 ID:j2823KTo0
(;'A`)「ァアッ!」
衝撃で後ろへ倒れそうになった。肋骨にヒビのはいる感覚。
予想していなかった反撃故に、受けたダメージも大きかった。
しかし、すんでのところで体勢を立て直した。
それから素早く兄者を見やった。
兄者は起き上がろうとしている。が、
(;'A`)「………(これでいい)」
ドクオは後ろ足でスイングドアまで移動していった。
そうして、バイフックから立ち去ったのであった。
・・ ・・
・・ ・・・
.
644
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 18:58:56 ID:j2823KTo0
(;´_ゝ`)「……はぁ……はぁ……」
兄者の身体に異変が起きたのは、それから間もなくのことであった。
応急処置で左太腿を止血してから直ぐのことだった。
立ち上がることが困難になった。たとえそれに成功しても、
歩こうと足を踏み出せば、また転びそうになるのだ。
身体が妙に火照った。動悸が更に激しくなった。
頭痛が起きてきた。倦怠感と、気持ち悪さが身体を襲った。
(;´_ゝ`)「これは……アル、、、コールか……!」
床に転がったそのキッチンナイフから、血の臭いに混じって
きついアルコール臭がプンと漂った。蒸発しきっていない、その純粋な臭い。
(;´_ゝ`)「……ド、クオ、め……」
ドクオのナイフには、度数のきついスピリタスが塗られていた。
蒸発すれば、隙をついてふたたび垂らし、何度も何度も機会を伺った。
直接アルコールを注入してやるために、
一突きで兄者の身体を戦闘不能にするために。
.
645
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:03:30 ID:j2823KTo0
(;´_ゝ`)「うう……!」
よろけながらも、しかし兄者はドクオの後を追おうとした。
スイングドアに手をかけ、ふらふらのまま外に出た。
夕焼けに染まった廃墟のハーモニーが目に飛び込んできた。
ハットを被っていても分かる、強烈なその日光。
一歩進むだけでも苦痛だった。アルコールによる身体の不調が、
傷つけられた筋肉が、傷跡に響く痛みが、襲いかかってくる。
太腿につけられた深い傷は、兄者の歩行をさらに困難にさせた。
しかし、体力もとっくに限界を超えていた。ほんの
一秒でも休んでしまえば、兄者の身体は倒れ、そのまま動けなくなる。
絶対的な予感が兄者にはあり、またそれだけは避けようとしていた。
痛みの中、進んでいくしかなかった。
死が、着実と兄者に忍び寄っていく。
(#´_ゝ`)「(上等じゃねえかァっ……!
流れ星は、燃え尽きるまで進み続けるッ……)」
.
646
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:08:07 ID:j2823KTo0
真っ赤に染まったハーモニーでは、夕焼けが多くの影を伸ばしている。
ただでさえ朦朧としてきた兄者にとって、ドクオを捜すなど
無謀きわまりないものだった。
(;´_ゝ`)「……どこ、だ……ドクオ……どこに、いやがる……」
広場の中央で、ふらつきながらも兄者は動いていた。
ドクオを捜すために。人生に花添えるために、
ドクオとの死闘を望んでいた。
(;´_ゝ`)「で、出て……こいッ……」
(; _ゝ )「………俺と……戦えェ……!」
砂を擦る兄者の足からは、血が垂れていく。しかしその血がすぐに
見えなくなってしまうほど、太陽は真っ赤に広場を照らしている。……
.
647
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:11:50 ID:j2823KTo0
(メ'A`)「(……兄者が、来ている)」
建物の影に隠れながら、ドクオは広場で呻く兄者を観察していた。
やはり逆光のせいでよく見えないが、動きからして、
満身創痍なのは確かだった。今にも膝から崩れそうな様子だった。
(メ'A`)「(……堅実に行かせてもらうぜ、俺はよ)」
銃を構えながら、ドクオは息を潜めた。
兄者の声は届かない。射程距離に入ったら、攻撃を開始する――
(メ'A`)「!?」
――つもりだった。
しかし、いきなり予想外の展開が起こった。……
死角からの、狙撃。
.
648
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:14:23 ID:j2823KTo0
―― 裁判館 2F
(´<_` )「お、おい……!」
(´<_`;)「兄者ッ!!」
窓の外に広がる光景。紅く染まった大地に立ち尽くしていた
兄者が、突然、背後から何者かに狙撃されたらしく、ばたりと倒れた。
死角からの狙撃。弟者は冷や汗を垂らして驚いた。
ガラスに顔をつけながら、弟者は兄者の様子を伺った。
しかし兄者はひくひくと痙攣したまま、立ち上がろうとしない。
(´<_`;)「く……!」
兄者から目線を外し、狙撃犯を探す。すると、近くの建物の
バルコニーに居るのを容易に発見した。犯人は見知った部下の
一人だったが、彼はヘッドショットを食らったようで、既に事切れていた。
信じられないことだが、兄者は倒れる間際に反撃を完了していたらしい。
そんな実の兄を、弟者は再び注視しはじめた。
.
649
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:18:33 ID:j2823KTo0
.
(´<_`;)「………」
兄者は、必死に立ち上がろうとしている。
両手で砂を掴みながら、起きようとしている。
しかし、足に力が入らないようで、なかなか上手くいかないようだ。
遠くから観察しても、兄者が死に直面しているのは容易に察せられた。
弟者は、胸のうちでこみ上げてくる不思議な感情に動揺しつつも、
兄者が起き上がるのを必死に見守っていた。
(´<_`;)「……死ぬというのか、、、兄者よ……」
そう呟くと、たちまち脳裏に今までの思い出が蘇ってきた。
物心つかないうちから、生きるために互いを支え合っていた少年時代。
パイク・プレース・マーケットで、隠れながら共に食料を求め合ったときを。
マフィアの下っ端をしながら、経済状況を支えてくれた兄者。
大学に進学できないと涙を流したら、「俺がなんとかする」と言ってくれた兄者。
そうして必死にアルバイトをした兄者。それでも、入学費には届かず、
申し訳なさそうに項垂れてた兄者。悪の道に入ることに賛同してくれた兄者。
死に怯えることなく、最強の切り込み隊長として活躍した兄者。
そうして、人形のように振る舞いつつも、俺の手として護衛として徹した、おれの、あに。
(´<_` )「………」
.
650
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:20:40 ID:j2823KTo0
.
(´<_` )「くそ……!」
今すぐにでも駆け寄りたいが、それが出来ない自分が惨めだった。
この部屋から出ようとするだけで、恐怖で胸がいっぱいになる。
築き上げてきた権力の崩壊を、認めてしまうことになってしまう。
帰ってこい、兄者。
(´<_`;)「死なないでくれ………!」
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
.
651
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:25:27 ID:j2823KTo0
.
( _ゝ )
(メ'A`)「………」
ドクオもこの状況を、ただ見守ることしか出来なかった。
頭の中では、これが最高の攻撃の機会ということは理解できている。
しかしそれを、ドクオの矜持が否定をした。この機に乗じて
追撃することは、プライドが許さない。かといって、
救出も理の外にありすぎて、結局ドクオはアクションを起こせないでいた。
(メ'A`)「(倒れる間際にヘッドショットを成功させるなんて、あの男、
まじで常識外に生きてやがる……。奴に銃がある以上、
真正面から行くことも出来ねえが、どうするべきか)」
そのまま、何分か過ぎ去った。兄者は起き上がろう
としては失敗を繰り返し、戦闘態勢を取れないままであった。
目を背けたくなるほどの、哀れな様子で這っている。
(メ'A`)「(……これで、終わりなのか……?)」
客観的に
見ても、兄者の容態は戦闘不能扱いされるものであった。
多量の出血、疲労、無数の深い傷、身体を混乱させるアルコール。
だが――
.
652
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:27:17 ID:j2823KTo0
.
(; _ゝ )「くぅ……!」
広場の中央で、俯せに倒れている。
起きようと砂を掴んでも、筋肉が言うことをきかない。
すぐに力が抜けてしまい、また地面に衝突をする。
身体が、地面にへばりついているかのようだった。
血と砂に塗れた兄者の吐息には、時折、咳が混じった。
(; _ゝ )「………!」
―― ここで、死ぬっていうのか……?
あんな安っぽい弾を食らっただけで、
俺の命はここで尽きちまうってのか……?
(; _ゝ )「(命なんざ、惜しく ね ェ ……!)」
(; _ゝ )「(問題は、死に様って奴だ……!)」
.
653
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:30:34 ID:j2823KTo0
―― 自分の人生はどうしようもない糞なことなんて、ガキの頃から知っていた。
―― 明日も無けりゃ夢もねえ、希望なんてとうの昔に捨てちまった。
―― だからこそ、弟者の示したこの悪の道……覚悟と命だけの世界が、
―― 命を、魂を納得出来るほどに、散らしてくれる暴力の世界が、
―― とても、とても眩しくて……この世界で輝こうと誓った。
(; _ゝ )「(明日なんかいらねえッ……未来がどうなろうと知らん!
今、この一瞬だけだ……俺が望むのはこの一瞬だけ。
負け犬が唯一輝ける、流星のように燃え尽きる、
決闘が!! ドクオとの決着が!! 俺の望みッ!!!)」
再び、手に力を込めて、立ち上がろうとする。
.
654
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:35:14 ID:j2823KTo0
.
ありったけの力を込め、足に力を込め、身体を震わせ、
―― そうだ、俺は、俺は俺の魂を、
(; _ゝ )「――全うさせるためにぃいいッ!!!!」
(メ'A`)「!?」
兄者は立ち上がった。
そうして、慟哭のように、
(#´_ゝ`)「出てこいドクオォオオオオッ!!!」
喉が避けるほどに絶叫する。決闘だ、それだけが望み。
そのためなら銃など要らぬと、それを投げ捨てて、
(#´_ゝ`)「つまらねえじゃねえかよぉおおッッ!!!!」
.
655
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:40:39 ID:j2823KTo0
.
(メ'A`)「………!」
物陰から、叫んでいる兄者を眺めていた。
兄者は銃を捨ててまで、ドクオとの決着を望んでいる。
(メ'A`)「(正気じゃあないぜ、この男……! そこまでして、
戦いを望むっていうのか!?)」
ドクオの
足が一歩、前へ出る。
(;'A`)「(俺は戦闘狂でも何でもねえ、単なる学者だぜ!
夢のためなら命を賭けても、決闘のためには死ねねえ!
戦いに対する誇りなんざ、お前と違ってこれっぽっちも――!)」
そして、もう一歩、
.
656
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:45:46 ID:j2823KTo0
.
( ´_ゝ`)「………」
( ´_ゝ`)「ククク……」
(;'A`)「………!」
ドクオは更に二三歩動いて、兄者の眼前に、完全に姿を現した。
(メ'A`)「(だが、だが、この男は"納得ずく"で倒すしかねぇ……!)」
( ´_ゝ`)
(メ'A`)「(この俺がだ!!)」
.
657
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:48:13 ID:j2823KTo0
血と泥に塗れた兄者は、ほのかに笑顔を見せながら、
( ´_ゝ`)「おいでなすったかい」
(メ'A`)「……パスワードのためさ。わざわざ出てきてやったぜ。
理屈もいらねえ、理論も知らん。ただ、心の底から、
信念って奴で、お前を倒してやるよ……アレン・ジャーブロ!!」
ドクオも、ホルスターごと銃を投げ捨て、ゆっくり兄者に近づいた。
( ´_ゝ`)「………!」
( ´_ゝ`)「なら、決着のときだな……!」
.
658
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:49:58 ID:j2823KTo0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
(´<_` )「兄者……」
血と泥に塗れながらも、兄者は絶叫をしながら立ち上がった。
そうしてやって来たドクオ。一騎打ちは目前だった。
どうしてそこまで戦えるんだ。
そんな言葉は無粋もいいところなのだろう。
保身も未来も捨てた兄者の心意気は、情熱は、
もう弟者には眩しいものだった。懐かしささえ感じさせる、そんな。
.
659
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:53:09 ID:j2823KTo0
.
(´<_` )「………」
(´<_`;)「は、ははは……」
兄者を見続ける。
おれは決着がつくまで、ずっと見ることになるだろう。
兄の勇姿を、最後の晴れ舞台を。
(´<_` )
(´<_` )「流石だな、兄者……」
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
.
660
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/20(日) 19:54:35 ID:j2823KTo0
.
―― ハーモニー 中央広場
.
661
:
名も無きAAのようです
:2013/01/20(日) 20:00:56 ID:76bVaZkk0
乙!明日も投下とは!嬉しいでござんす!
662
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 00:08:58 ID:Eyy.D00g0
乙!熱いぜ!
兄者流石すぎる……!!
663
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 09:56:43 ID:N8QZpaZ20
おつ
なんかウルッときちゃったよ
664
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 16:35:20 ID:NUezLvvQ0
兄者マジで男前だわ…どうなるか楽しみ
乙乙!
665
:
名も無きAAのようです
:2013/01/21(月) 22:01:20 ID:Eyy.D00g0
ついに決着か……!?
666
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:42:06 ID:s37uEuCU0
.
. ―― ハーモニー 中央広場
.
667
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:44:02 ID:s37uEuCU0
.
その空間にて。ひと呼吸おいてから、
( ´_ゝ`)
(メ'A`)「――忠告だけしよう。これ以上、無理したら間違いなく死ぬぜ?」
ドクオは、諭すような口調で兄者に向かって、
( ´_ゝ`)「………」
(メ'A`)「多量の出血、極度の疲労、どうして今立ってんのか不思議なほどだ。
……それを"覚悟"というなら、俺はもう何も言わん。だが……」
血染めの兄者は、しかし愉快そうに、
( ´_ゝ`)「"明日どうなろうと、どうでもいい"……さ」
(メ'A`)「………?」
夕焼けのハーモニーで、二人の男が対峙している。
( ´_ゝ`)「俺にとっちゃあ、未来なんてとうに捨てたゴミに過ぎん。
今この一瞬だけを、死ぬ気で生き抜く。死に様が、そのまま生き様さ。
……あるいは、俺はシアトル時代の過去の亡霊なんだろう」
668
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:48:01 ID:s37uEuCU0
.
ドクオを見据えつつも、どこか遠くを眺める表情になって、
( ´_ゝ`)「あのときの情熱が忘れらんねえだけかも知れねぇ。
が、どっちにしろ、俺に明日なんざいらねえんだ」
(メ'A`)
兄者は、「お前もそうだろう」と呟いてから、息を整え、
( ´_ゝ`)「考古学なんて過去に生きてェやがる……そうさ、
過去に生きた者同士、明日を捨てた決闘を……
しようじゃ…… ね え か ァ ッ ! ! ! 」
(メ'A`)「!」
一瞬の躊躇いの後、ドクオが駆けだし、一気に距離を詰めた。
.
669
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:50:57 ID:s37uEuCU0
(メ'A`)
勢いをつけて、肉弾戦の射程に入ると、すぐさま
右拳を腰のあたりまで引いて、打撃の準備に入った。
いまだ兄者は動かない。間近で見るに、満身創痍だった。
( ´_ゝ`)
いける。ドクオはこの上ないタイミングで、まず
足払いを放った。ドクオの靴が、兄者の脛を横殴り、
態勢を崩させる算段だった、しかし、
( ´_ゝ`)
(メ'A`) !?
兄者は微動だにしなかった。意外な結果にドクオは
ほんの僅か――ほんの一瞬だけ、自身の勢いを殺してしまった。
それでもテンポの乱れた右拳を突こうとするそのとき、
(;'A`)「――ぐッ!?」
ドクオの首筋に鋭く、重い衝撃が走った。意識していない
左側を襲撃されたらしい。それも、左首筋から神経の集中する裏側に
かけて、猛烈な痛み、それに付随して圧迫感が追従してきた。
(;´_ゝ`)
兄者の反撃は単純で、右手でチョップを繰り出しただけであった。
しかし負傷しているその右手での一撃は、ドクオの予想していない
ものであった。兄者にも同様に、凄まじい痛覚が、電流のようにながれた。
670
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:52:43 ID:s37uEuCU0
(;'A`)
ドクオの右ストレートは、兄者の腹を撫でることさえできず、
虚空を揺蕩って仕舞いになった。加えて身体全体も、チョップの
衝撃そのままに、右側へ倒れ込もうとしていた。しかし、
兄者の左脚――ナイフの刺し傷の生々しいその脚――が、
受身の取れないドクオの身体に、膝蹴りを食らわせようと準備している。
そうして、
(;´_ゝ`)「ぉらああ!!」
(;゚A゚)「!!」
傷に無遠慮なまま、最大限の力を持って、ドクオの身体を蹴りつけた。
ドクオはされるがままに、後方へ飛ばされる。ただちに兄者の左太腿に、
引き裂かれるような痛覚が再来する。流石に追撃は不可能だった。
ドクオは砂地を転がり、脚に踏ん張りをつけて体勢を戻した。
チョップの影響か、脳震盪のような感覚があった。
だが目の前の戦闘に意識しなければならない。
(メ'A`)「くっ……」
すり足をし、少しずつ兄者と距離を取った。
兄者は身体を大きく揺らしながら、こちらへ寄ろうとしている。
671
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 15:55:33 ID:s37uEuCU0
(メ'A`)
(メ'A`)「………」
ドクオはその不屈の姿勢を眺め、自身の考えを改めていた。
(メ'A`)「(――俺は、心のどっかでこの男に哀れみを持ってた……)」
( ´_ゝ`)
(メ'A`)「(少なくとも、この状況ならまず負けはしねえだろうって、
哀れだからちょいと付きやってやるとか、そんな……そんな緩みが)」
(メ'A`)「(――だがそれは思い上がりもいいところだ!
あれだけ満身創痍のくせして、俺の体術を上回ろうとしてやがる!)」
(メ'A`)「(アドバンテージなど考えるな、俺。妙な計算なんかするな!)」
(メ'A`)「(……紛れなし。俺たちは、今、決闘をしているんだ……!)」
.
672
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:02:12 ID:s37uEuCU0
.
兄者が距離を詰めてくる。しきりに身体を傾いでいる。
(メ'A`)「(……ちくしょう、死ぬのは怖いぜ……だが、だが――)」
(#'A`)「――ぅおおおおおッ!!!」
( ´_ゝ`)「!?」
ドクオの瞳に激しい炎が宿った。ふたたび走り出し、兄者に
駆け寄る。兄者もまた、それに合わせてファイティングポーズを取る。
動作は同時。
ドクオはしかし、しかしドクオは兄者の射程範囲に
入る間際になって、右脚で、足元の砂を蹴り上げた。
ざっという小気味良い音と共に、両者の間に埃が立ち込める。
茶いろの煙幕が、とつぜん現れたのだった。
673
:
名も無きAAのようです
:2013/01/22(火) 16:03:00 ID:JAMlSzF60
兄者…
支援
674
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:05:41 ID:s37uEuCU0
.
兄者の殺気がほんのわずかに緩んだ。あらかじめドクオは目を閉じている。
砂に視界を奪われ怯むこともなく、先制した肉弾戦を試みた。
………だが、ふいにぞっとするような気配がドクオを襲った。
すかさず首元に強烈な圧力が掛けられ、四肢の全てが動きを止めてしまう。
呼吸がたちまち出来なくなった。口が酸素を求めてだらんと開く。
(;'A`)「……っぐぅ」
兄者の左手が喉輪を仕掛けたらしい。薄目に状況を観察すると、
晴れてきた砂埃の向こうで、兄者の血みどろの顔が浮かんできた。
それと、チョップの準備の整った、反った兄者の右腕までも。
( ´_ゝ`)
(;'A`)「………!」
.
675
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:06:47 ID:s37uEuCU0
(;'A`)「ぅおおおおおお!!!」
とっさの才覚で、両腕に力を込めた。それから自分の
首を絞めている兄者の左手――その腕の、それも肘のあたりを、
思い切り打ち付ける。両の拳骨が、兄者の伸ばしきった腕骨に打撃を与えた。
(;´_ゝ`)「っが――!!」
(メ'A`)「ふん!!」
拘束力は若干弱まった。
後ろに下がって無理やり引き剥がすと、
腰を落として右拳を固く握り締めた。
676
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:08:27 ID:s37uEuCU0
間髪いれず、ドクオは右ストレートを放った。視界に映る
兄者は、先の攻防をひきずったような体勢をしている。
(;´_ゝ`)「!?」
(メ'A`)「(いけ!)」
ドクオに慢心など無かった。ドクオの右ストレート
は、きわめて的確に兄者を狙った。拳骨から伝わる、
シャツ越しの兄者のアバラの固さ。瞬間、兄者が呻いた。
衝撃のままにぐらついたが、後ずさりをして
体勢を立て直す寸前になって、兄者に異変が起こった。
677
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:12:04 ID:s37uEuCU0
対峙するドクオさえ、硬直するような異変であった。
(;´_ゝ`)「………」
兄者の身体が、首から胴、胴から四肢にかけて、
ぴくぴくと人間らしからぬ痙攣をし始めたのだった。
息遣いも一層荒くなり、目も虚ろになりだした。
(;´_ゝ`)「く……!」
(;'A`)「!」
顔面を見れば、鼻血がどっと吹き出ている。
歯軋りのような音が口から溢れて聞こえ出してくる。
兄者は、混濁する意識を無理に押さえつけていた。
(; _ゝ )「ぅぅぅ……! ぅぅッ……!」
(メ'A`)「………」
(メ'A`)「兄者」
(#´_ゝ`)「まだだ……まだ、まだァッ……!」
ひゅう、ひゅうと吐息を漏らしながら、兄者は
ファイティングポーズをとった。それを見てから、
ドクオも構え、距離を取りはじめた。
678
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:14:19 ID:s37uEuCU0
.
(# _ゝ )「……来ないなッら、こっちからいくぞ……」
うわごとのように呟く。
ゆらゆらとドクオに近づいていく。
(メ'A`)
ドクオは、兄者を視界に収めながら、
(メ'A`)「終わらせてやる」
燃え立つ夕焼けに染まりきった大地を蹴って、距離をいっきに詰めた。
.
679
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:17:11 ID:s37uEuCU0
(#´_ゝ`)「おおおおお!!!」
兄者の右拳が大きく振りかぶった。上擦った体勢であった、
虚空をかきわけて、ドクオにいま、それは衝突しようとした、が、
(メ'A`)「(甘い!)」
しかしその速度は、ドクオに充分見切れるレベルに低下していた。
襲いかかる兄者の右腕の、その手首をドクオは左手で掴んだ。
( ´_ゝ`)「!?」
そうして直ちに、掴んだまま、左腕をおもむろにひいた。
兄者の身体も釣られて前のめりになり、腹部も無防備になった。
既にドクオは右ストレートを放つ体勢になっている。
隙だらけになった兄者に目掛けて、ありったけの力を込め、
(#'A`)「おらあ!」
(#´_ゝ`)「ぐゥ!!」
どん、と鈍い音が走った。兄者の顔が苦痛に歪んだ。
680
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:19:02 ID:s37uEuCU0
(; _ゝ )「……ァ、……ァァッ……!」
兄者の鳩尾に、ドクオの右拳がめり込んでいる。
ドクオは力を緩めない。兄者は反撃をすることが出来ず、
ちからの抜けた吐息をするばかりだった。
ドクオは考える。極めて短いその一瞬のなか、
(メ'A`)「(……明日を捨てる決闘。俺には出来ねえよ、兄者)」
(; _ゝ )「………!」
(メ'A`)「(だって俺は過去に生きてなんか居ねえ……!)」
(; _ゝ )「………」
兄者の身体から力が抜けていく。倒れる間際であった。
ドクオの右拳に身体を支えられている状態になる。
.
681
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:21:29 ID:s37uEuCU0
(メ'A`)「(明日も、ずっと、これからも、
(メ'A`)「(俺にはやらなきゃいけねえことがある。なぜなら――)」
すかさず、ドクオはめり込んだその右拳に再び力を込めた。
そしていっきに振り抜けた。兄者は糸の切れた人形のように
だらんと一瞬だけ傾いでから、ドクオの拳に推され――
.
682
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:23:23 ID:s37uEuCU0
.
ドクオは右拳に全力を込めて、叩きつける。
(#'A`)「―― 俺には夢があるッ!!!」
(;゚_ゝ゚)「っぐう!」
兄者の身体は地面に叩きつけられた。
四肢が遅れて音を立てる。
(; _ゝ )「う、うう……」
(#'A`)「明日が欲しいんだ、俺はァっ!!」
息を切らしながら、ドクオは叫んだ。
静寂のハーモニーに響き渡っていく。……
(;'A`)「はぁッ はぁッ………!」
荒々しい空気をよそに、一陣の風が、ひゅうっとふいた。
.
683
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:25:26 ID:s37uEuCU0
.
熱っぽい身体を冷やしたがるような、乾いた風が走り抜けていく。
――兄者は、動こうとしない。
(メ'A`)
ドクオは、その様子をただ見つめていた。
(; _ゝ )
.
684
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:28:57 ID:s37uEuCU0
.
仰向けになった兄者の眼前には、真っ赤な空が広がっている。
(; _ゝ )「う、うう……」
―――― だめだ、身体が動かねえ。まるで、そこが人形になっちまったかのように。
―――― 首から上だけが……今の俺は、首から上だけしか生きていない……。
―――― ああ、そうか、
( _ゝ )「(……燃え尽きた、んだな)」
―――― おれは、もう
.
685
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:30:23 ID:s37uEuCU0
.
(メ'A`)
( _ゝ )
それからまた、少し時間が経った。
そうして、兄者が軽く息を整えてから、
(; _ゝ )「俺の名前で……『jarbro-family』、だ……」
(メ'A`)「!」
( _ゝ )「それがパスワードだ、好きにするがいい……」
(;'A`)「………!」
すると、兄者は穏やかな表情になった。
紫の忍びはじめた黄昏空を見つめながら、ふっと笑う。
686
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:31:46 ID:s37uEuCU0
.
( ´_ゝ`)「――お前の勝ちだよ」
(メ'A`)
( ´_ゝ`)「流石だな、ドクオ……」
.
687
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/01/22(火) 16:33:48 ID:s37uEuCU0
今日はここまで。あと二回でハーモニー編完結です。
688
:
名も無きAAのようです
:2013/01/22(火) 16:45:54 ID:JAMlSzF60
乙
最後のセリフいいな
689
:
名も無きAAのようです
:2013/01/22(火) 20:19:32 ID:0V07AhME0
兄者もドクオもかっこよすぎんだよ!
乙乙!!!!!
次も楽しみにしてるからな!
690
:
名も無きAAのようです
:2013/01/23(水) 01:40:04 ID:BE6nDoiU0
乙!
691
:
名も無きAAのようです
:2013/01/23(水) 14:06:39 ID:TTx/Ogac0
来てたのか
乙乙
692
:
名も無きAAのようです
:2013/01/23(水) 14:43:38 ID:b3uREk.c0
一文一文読み進めていくごとの高揚と緊張感がたまらない
サイドニアの兄者好きだぜ!!!かっこよすぎる乙
693
:
名も無きAAのようです
:2013/01/28(月) 12:28:35 ID:GqrJtFEsO
ナナバツガイ、ログソクエビ、ショウセツナイトを発掘してここまで来た
今まで読んでなかったのが悔やまれるよ
694
:
名も無きAAのようです
:2013/02/18(月) 10:15:26 ID:0mDbMeUA0
久々に来たが戦闘描写が良いな
ドクオもアニジャもかっけーわ
695
:
名も無きAAのようです
:2013/03/02(土) 13:45:44 ID:RcBeEyY60
面白い
696
:
名も無きAAのようです
:2013/03/06(水) 18:16:04 ID:5PjNrPaMO
乙
待ってる
697
:
名も無きAAのようです
:2013/03/07(木) 09:09:20 ID:x0yVGf0M0
レスサンクスです。
燃え尽き症候群で全然書けてなかったですが、これからギア入れて頑張ります
698
:
名も無きAAのようです
:2013/03/07(木) 14:37:27 ID:TEo52VH20
ググったら燃え尽き症候群って誤用じゃまいか。
ともかく、頑張ります
699
:
名も無きAAのようです
:2013/03/07(木) 23:43:44 ID:ZOyN1NNc0
楽しみにしてる!!
700
:
名も無きAAのようです
:2013/03/10(日) 01:42:43 ID:etl8YZzQ0
薪入れろ!薪入れろ!
701
:
名も無きAAのようです
:2013/03/21(木) 00:58:58 ID:hrEri9gQ0
はよはよ
702
:
名も無きAAのようです
:2013/05/05(日) 00:52:18 ID:jfv4PVkA0
ドクオvs兄者を何回も読んでしまう
703
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:48:12 ID:pBPHgVk.0
ようやく時間が取れました
704
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:51:56 ID:pBPHgVk.0
.
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
( ´_ゝ`)「どうした、さっさと取りに行けよ」
(メ'A`)「……できねえよ」
ドクオは兄者の傍にどかりと座り込むと、苦々しい顔になって、
(メ'A`)「放置すりゃお前はまず死ぬ、だのに見捨てるような真似なんてよ」
( ´_ゝ`)「助けろとは死んでも言わんぞ」
(メ'A`)「分かってら、んなこと。だからってこのままじゃ後味悪くなるだろうが」
( ´_ゝ`)「………」
(メ'A`)「結論は、お前をこうして見守るってことだ」
兄者は一瞬うつろな目になったが、すぐに呆れた顔をし、
( ´_ゝ`)「知るか……お前の後味どうとかよ……」
(メ'A`)「フン!」
705
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:54:58 ID:pBPHgVk.0
( ´_ゝ`)「(弟者に殺される運命だろうに、呑気な奴だな)」
( ´_ゝ`)「(弟者は、どうしてるかな? 今頃ここを去って、クルマの中か)」
いまのドクオと兄者の間には、ただ、穏やかなときが流れている。
鼻につく火薬の臭いも、景観を損ねる黒煙も雲散しきっていた。
兄者は息を整えてから、ふいにこんな話をしだす。
( ´_ゝ`)「……地元に、パイク・プレース・マーケットって市場があってな」
(メ'A`)「?」
( ´_ゝ`)「そこのスターバックス1号店隣りにさ、ピロシキ屋があって……
……ガキの頃から好きだった、金もねえのに、兄弟ふたりとも」
(メ'A`)
( ´_ゝ`)「けどよ、午後から売り切れになるくらい、人気なとこでよ…
廃棄なんか滅多に貰えなかったんだ。ははは……」
兄者の笑い声は、風に乗って軽やかに廃墟に溶けていく。
706
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 16:56:40 ID:pBPHgVk.0
( ´_ゝ`)「俺ら兄弟は……惨めだなって、……表通りを遠目から……
ずっと見てた、そういうときはさ。……腐ったベリーをしゃぶって、
俺ら兄弟……ずっと、道行くひとを、華やかなとこ見てたんだ」
( ´_ゝ`)「ただ情けなくって……ひもじかったなァ……あの時は、
弟者もそう思ってたんだろうが……」
(メ'A`)「……そうか」
一息つくと、まばたきを何度もしてから、
( ´_ゝ`)「ギャングになって、ある朝……ピロシキ買いに
いったら……そこ、潰れてた。ふふ、弟者の差金さ」
それからドクオに視線を向け、力なく、
( ´_ゝ`)「弟者は冷酷な奴さ……お前、二度と安息なんかねえぜ……
お前はあいつを逃がしちまったんだからなァ……」
(メ'A`)「けっ……ますます、あの野郎がムカついてきたぜ」
( ´_ゝ`)「?」
(メ'A`)「俺も知ってるさ、そのピロシキ。おれ、バンクーバーだから
シアトル近ぇんだ。……あの野郎、あんな美味い店を……!」
( ´_ゝ`)
( ´_ゝ`)「……ふ、ふふ……」
.
707
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:00:36 ID:pBPHgVk.0
.
ドクオはこほんと一拍置いてから、
「さっきまで興味なかったが」と前置きをして、
(メ'A`)「なあ、お前ら兄弟は……何があって、あんな関係だったんだ?」
( ´_ゝ`)「何のことはないさ」
兄者はドクオから目を逸らし、薄紫の空を見やって、
( ´_ゝ`)「俺は、弟者のように変われなかった。
弟者は、俺のように立ち止まれなかった……
それだけ、そんだけさ」
(メ'A`)「………」
目に見えて兄者の生気が薄らいでいくのがわかった。
それに反して、兄者の表情にはゆとりのようなものが満ちていく。
失血で不気味なほどに青白い兄者の顔には、紛れもない笑顔があった。
(メ'A`)「、……そうだったのか」
( ´_ゝ`)「………」
708
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:10:28 ID:pBPHgVk.0
ドクオは何をするでもなく、兄者の傍に座って彼の状態を
見続けていた。しかし、表情や声の調子とは裏腹に、兄者の
身体はほぼ死にかけている。文字通り、これは彼の最期であった。
燃え尽きてからカーテンフォールに移る、その合間のような時間。
それからしばらく経った頃、大通りの方から女性の声が響いてきた。
「……誰か、誰かいませんかッ?! ――――」
「頑張って声を出してみてください――私は敵じゃありません――」
(メ'A`)「……あれは」
( ´_ゝ`)「(エノーラ……)」
たった一人の救助活動として、残された人が居ないか呼びかけをしている。
( ´_ゝ`)「………」
( ´_ゝ`)「
クックック」
(メ'A`)「?」
( ´_ゝ`)「おいドクオ。失せな」
.
709
:
修正
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:14:11 ID:pBPHgVk.0
ドクオは何をするでもなく、兄者の傍に座って彼の状態を
見続けていた。しかし、表情や声の調子とは裏腹に、兄者の
身体はほぼ死にかけている。文字通り、これは彼の最期であった。
燃え尽きてからカーテンフォールに移る、その合間のような時間。
それからしばらく経った頃、大通りの方から女性の声が響いてきた。
「……誰か、誰かいませんかッ?! ――――」
「頑張って声を出してみてください――私は敵じゃありません――」
(メ'A`)「……あれは」
( ´_ゝ`)「(エノーラ……)」
たった一人の救助活動として、残された人が居ないか呼びかけをしている。
( ´_ゝ`)「………」
( ´_ゝ`)「クックック」
(メ'A`)「?」
( ´_ゝ`)「おいドクオ。失せな」
710
:
修正
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:16:14 ID:pBPHgVk.0
(メ'A`)「は……?」
唐突に笑い出したかと思うと、今度はしかめっ面をみせる
兄者に若干戸惑ったが、兄者はそんなこと気にせぬとばかりに、
( ´_ゝ`)「俺はこれからあの娘に優しく抱かれ死んでく……。
さあ、空気を読んで退散しやがれ」
(メ;'A`)「あ……え、えーっと」
( ´_ゝ`)「死の寸前まで…てめえのツラ拝むなんざ、ごめんだ」
(メ;'A`)「わかったよ……」
渋々立ち上がった。エノーラの姿が視界に入らぬうちに
パスワードを入力しに走るつもりだった。そんなふうに背を向けながら、
(メ'A`)「……じゃあ、達者でな。アレン・ジャーブロ」
( ´_ゝ`)「………」
首も満足に動かせず、兄者は目線だけでドクオの背を見つめていた。
711
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:18:40 ID:pBPHgVk.0
それから、走り去ろうとする寸前のドクオに、兄者は声をかける。
( ´_ゝ`)「――おい、ドクオ!」
(メ'A`)「………?」
( ´_ゝ`)「夢があるだの……明日が欲しいだの……さんざ、宣いやがったな?」
(メ'A`)「………」
( ´_ゝ`)「ククク……なら、これから……せいぜい、もがきやがれ」
( ´_ゝ`)「せいぜい夢を追いかけやがれ……死ぬまで……!!」
(メ'A`)「……言われなくても、」
ドクオは振り返ることなく駆け出した。
(メ'A`)「そのつもりさッ!!!」
・・ ・・
・・ ・・・
( ´_ゝ`)「……いいねぇ」
.
712
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:23:14 ID:pBPHgVk.0
―― 裁判館 2F
(´<_`;)
弟者の視線の先には、ボロ雑巾のように朽ちた兄者の
姿が映っている。窓越しにも、この距離でさえ、
兄者が死に近づいていることがはっきり理解できた。
(´<_`;)「……もう、……だめだァ……」
威勢も張りようがなかった。弟者は賭けに敗れた。
一人で逃げることよりも兄者の生還に期待したが、
結果は、致命的な時間のロスを生むことになった。
(´<_`;)
兄者からいったん目線を外し、ハーモニーの状態を見渡した。
惨いものであった。自身の築いたはずの王国は廃墟に果てた。
ドクオの宣言通り、この張りぼてのハーモニーは”ぶっ潰され”てしまった。
あとに残ったのは兄弟ふたり。死にかけの兄と、無力な弟。
713
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:25:32 ID:pBPHgVk.0
(´<_`;)「………」
この始末を、ハンター組合がどうつけるかなど想像したくはない。
どう取り繕っても、自身の死を避けることが出来ないだろう。
地獄のど真ん中に突っ立ってる自分の状況を思い返すと、思わず身震いが走った。
(´<_`;)「に、逃げなきゃ……!」
慌てて外套をひっ被り、重要な書類と当面の資金を
アタッシュケースに詰め込んでいった。だが、ケースを閉めると
同時に、不可思議な音が一階から聞こえてきた。
乱暴なドアの開閉音。そして、その者たちのまっすぐこちらへ向かう足音。
(´<_`;)「………ッ!」
階段を駆け上がるその者たち、まっすぐ、
まっすぐに弟者の居る部屋へ向かっていく。
弟者は姿を見ずとも正体を確信していた。
ジョルジュと、リッチーであろう。
死神二人が、やってくる。
・・ ・・・
・・ ・・・・
・・ ・・・・・
714
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:29:09 ID:pBPHgVk.0
―― ハーモニー 中央広場
||‘‐‘||レ「……あれは、」
広場の隅で、多量出血している男が横たわっていた。
地に汚れ泥に汚れてはいるが、その姿は間違いなく、
(; _ゝ )
||‘‐‘;||レ「兄者さんッ!!」
さっと駆け寄ると、彼の状態を確認した。
大きく出血している部位をためつすがめつする。
既に死んでいると動揺しかけたが、脈を確めるとほんのわずかに
動いている。どす黒く固まった血で唇本来の色さえ判別できないが、
不自由ながらも呼吸はしているらしかった。まだ、生きてはいる。
しかし、
||‘‐‘;||レ「ひどい……こんな、こんなっ……!」
どんな名医でさえ助けられないだろう。阿部の容態が
可愛らしく思える惨状だった。目は虚ろで視線は宙を彷徨って
エノーラを視認していなかった。
(; _ゝ )「………ッグ」
ドクオが去るとたちまち、兄者に残された生気が立ち消えていたのだ。
独りになった途端、死が身体のあらゆる箇所を鷲掴みにしていった。
715
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:32:27 ID:pBPHgVk.0
||‘‐‘;||レ「………」
エノーラは死にゆく男をゆっくり抱きしめた。
生者特有のほのかな温かみも感じない。
だが、しかし兄者は抱えられると、ほんの少し反応を見せた。
目がわずかにエノーラに近づいて、はっきりと微笑んだ。
そして、小さい声だったが、
(;´_ゝ`)「エノーラ……!」
||;‐;||レ「アレンさん……!」
エノーラは気がついたら涙を流していたし、気がついたら
自身の気持ちを再確認していた。村を実行支配され、虐げられ、
全てに疑心暗鬼になっていた頃、この男はハンター側の人間にも
関わらず、無言のまま手助けをしてくれていた。
あの頃は、ハンターだからと気持ちにタガをつけていた。
しかしこんな状況になったからこそ、心の底から感謝の気持ちに溢れた。
ところが、エノーラが口火を切る前に、兄者が口を震わせながら、
(;´_ゝ`)「すまなかった……」
||‘‐‘;||レ「……え?」
(;´_ゝ`)「この……村のこと、、、謝っても、謝りきれること……じゃ……」
||‘‐‘;||レ「………」
716
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:34:02 ID:pBPHgVk.0
||‘‐‘;||レ「……アレンさん」
(;´_ゝ`)「っれ……ダけは、言いたかっ……」
(; _ゝ )「さいごに……謝りたくて……」
||‘‐‘;||レ「.........」
それから、兄者はまた口を閉じた。エノーラは言葉をぽつぽつ
と返し、しまいには涙をながし嗚咽するのだが、間近にいる
兄者は気がつかず、ただ目の前のぐるぐる回る景色に見とれていた。
―― ああ、これが走馬灯って奴か……。
.
717
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:38:06 ID:pBPHgVk.0
ぐにゃぐにゃと異様なカタチに蠢いていた視界はやがて、
兄者の故郷のシアトルへ変貌していった。小雨のけだるい
空の下、アメリカにしては妙に洗練されたオレンジ基調の往来が浮かんでいく。
やがて風景は夜に変わり、隣りには
弟者がボルサリーノを被りながら不敵に笑っている。
(´<_` )
その横にシーン、そしてヒールといった懐かしい面々が立っていた。
( ・−・ )
川*` ゥ´)
( ´_ゝ`)
.
718
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:40:49 ID:pBPHgVk.0
舞台はシアトルを、地球を離れて火星に切り替わっていく。
火星の無機質な赤い大地、そこに夕焼けが差したかと思うと、
流石ファミリーの懐かしい面々が、次次と血まみれになって倒れていった。
.
( ´_ゝ`)……すまなかったな、
( ´_ゝ`)今から、地獄の底まで突き落とされてやる……!
,
719
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:43:02 ID:pBPHgVk.0
―― ――― ――――
||‘‐‘;||レ「「アレン……アレンさん……」
(; _ゝ )「っぁ……ヒー……ル」
極めて小さな声で、唇と舌を無理やりに動かす兄者を、
エノーラは呆然としながら見つめている。目を離せば、
その隙に死んでしまいそうな、そんな姿であった。
エノーラの耳には届かない。
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
720
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:46:52 ID:pBPHgVk.0
.
……いやいや、違うんだよ、聞いてくれヒール……
……ああ、まあ、そうだな、ウン。
流星になるって言った割には、随分長く生き延びちまった……。
え? クサいか? ハハハ……ああ、うん。フフ……。
流れ星を追いかけてたら、迷子になっちまったのさ……。
フフフ……
ハハハッ……!
アッハハハハハァッ……!!!
.
721
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:48:38 ID:pBPHgVk.0
.
―― ―――
―― ――――
―― ―――――
―― ――――――
―― ―――――――
722
:
◆tOPTGOuTpU
:2013/05/29(水) 17:50:55 ID:pBPHgVk.0
―― 裁判館 2F
(´<_`;)「いッ……嫌だッ! 来るなァァァ……!」
( ゚∀゚)y-~「おいおい。上司に向かって酷いこと言うなって」
( ゚ 」゚)
弟者はそれでも落ち着こうとしない。腰を抜かしながら、
部屋の隅ににじり寄って、来訪者二人を見上げている。
歯はがちがち鳴り、目元には涙が浮かんでくる。
始末される。この二人に。
弟者は自身の運命を受け入れられない。
(´<_`;)「ど……どうかッ! 寛大な処置をお願いします……!
負債なら、この件に関しての負債はッ……一生!
(゚<_゚ ;)「一生かけてもっ! 返済しますから!」
( ゚∀゚)y-~「………」
( ゚∀゚)「はぁ?w」
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板