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ホテル・サイドニアのようです
1
:
名も無きAAのようです
:2011/09/12(月) 23:43:56 ID:v7OA74xM0
お邪魔しまーす
2
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/12(月) 23:54:32 ID:v7OA74xM0
まとめさん
ttp://nanabatu.web.fc2.com/boon/hotel_sidenia.html
ホーム
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/37256/1273675586/
こちらがいいらしいので移転するぜよ
投下します推敲しながら
新聞の深き谷にも光射すそれぞれの朝ホテルサイドニア
太陽の位置が少し遠ければ陽光もまた他人の優しさ
しみじみと酔えば恋しきわが故郷汚れ染めたるカード眺めつ
3
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 00:00:36 ID:xYq4DhQ.0
おっ
4
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:01:01 ID:tAQZJbO.0
「このトンネル完成の暁に、俺たち奴隷は口封じに殺される」
5
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 00:01:04 ID:ZXJ63.eA0
がんばれー支援
6
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:03:21 ID:tAQZJbO.0
<ヽ;´・ω・`>「……どうするダニ」
( `ハ´)「どうしようもないアル。なるようになるしかないアル」
<ヽ;´・ω・`>「……外の世界も見ないでカニ?」
監視の目の届かない作業場で、ふたりは手を休めずに、
<ヽ;´・ω・`>「ぼく、中華料理も食べてないダニ!」
( `ハ´)「ニボ……」
<ヽ;´・ω・`>「シナーが作るんダニ、それ……」
( `ハ´)「でも、料理なんて何もわからんアル……」
<ヽ´・ω・`>「外に出てから、勉強すればいいダニ!」
<ヽ´・ω・`>「シナーは悔しくないカニ!? どうして、どうして僕らだけ言いように
使われて、何にもできないんダニ!! それで……それで殺されるなんて……!」
<ヽ´;ω;`>「ぼくは悔しいダニよ……シナー」
7
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 00:04:03 ID:AU9D2S9IO
待ってましたっ!
8
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:06:52 ID:tAQZJbO.0
こうして、ニボーンの思いはシナーに伝わり、噂に怯えていた他の奴隷たちも味方につけた。
やれることはやろう。反抗できるところは、とことん反抗してやろうじゃないか、と。
シナーたちは考える。
生き残っている奴隷はおおよそ60人。
これらを外に出してから殺し、処理をするのは面倒なことに違いない。
それよりも、トンネルに最近作られた用途不明の巨大な穴、あそこで殺処分するだろう、と。
そして予想は日を追うごとに、確信を深めていく。
長老格の奴隷は、「おそらくガスで殺し、そのまま埋め立てるんだろう」と皆に話した。
<ヽ´・ω・`>「抜け穴を作ることは出来ないかに」
( `ハ´)「それは無理アル。監視だってバカじゃないアル」
それから何日、何週間、何ヶ月と過ぎていった。やがて、奴隷たちはあることに気がつき始めた。
もし長老の言うように、穴部屋をガス室のように使うのであれば、パイプやら機材やら、
なにかの道具や機能はそろそろ付けられてもいいはずだと。
しかし、穴部屋はぽっかりと空洞を作っているだけである。
今の技術なら兵器でガスを送り込めるだろう、と長老は言う。
しかし、シナーは違うだろうと薄々感じていた。
9
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:08:23 ID:tAQZJbO.0
発掘作業に使うダイナマイト、サンドクラウン(ミルククラウンのような現象を、地面に起こす道具)
の使用を許されるようになったこの頃、殺処分する手段はガスではないと思い始めたのである。
穴部屋の真上に、奴隷立ち入り禁止の簡易機材室が作られたという情報で、ついにシナーは確信した。
( `ハ´)「私達はきっと、生き埋めにされるアル。真上で爆発を起こし、そのままグチャグチャになるアル」
<ヽ´・ω・`>「……!」
しかしニボーンも、そうだろうと薄々は感じていた。
サンドクラウンをいくつか使うだけで、ことがすべて終わってしまうのだから。
なんとかしよう。
奴隷たちはそう決起したが、しかし実際には何も出来ずじまいだった。
ある日、シナーは気になる光景を目にした。とある現場で、監視が奴隷から物を奪っていたのだ。
10
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:11:17 ID:tAQZJbO.0
『そのエビをこっちに寄越せッ!!』
監視の下品な声とともに、奴隷が殴られて這い蹲った。
( `ハ´)「エビ……」
掘り進めるうちに稀に、奇妙な形をした、岩でも鉄でもないナニかが出土されることがある。
監視がそれをエビとよんで、ニヤニヤしながらポケットに入れていく光景を、何度か見てきた。
理由は謎だが、監視――いや、外を知る人間にとって、それは値千金のものらしかった。
( `ハ´)「(きっと私らの、ビスケットなんかよりよっぽど大切なものアル)」
その奇妙な形をした"エビ"を、小さいながらもシナーは一つだけ持っていた。
面白そうなものだと、10年以上も離さずに大事に取っておいた。これがエビで、監視の欲しいもの。
( `ハ´)「………」
・・
・・・
・・・・
その夜は奴隷たちにとって、絶望としかいえない闇が覆っていた。
11
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:14:08 ID:tAQZJbO.0
このトンネルに二十年近く付き合っていれば、もう肌で感じられる。
奴隷のする作業は今日をもって、全て終了したのだった。
今は監視や、監視以外の外の人間がトンネル内になにやら手を加えている。
「もう、終わりだ……」
タコ部屋で、ひとりの奴隷が泣きながらそういった。ニボーンも反論をしない。
ニボーンにとっても今日は最悪の一日だった。長老がついに倒れ、その息も絶え絶えの
彼を死骸置き場まで運ばねばならなかったのだから。
さらにはニボーンに八つ当たりをする者までいた。決起をするといって、この様はなんだ。
変に期待を持たせるな。お前が頑張ろうなんていうから、俺もその気になってしまった。……
ニボーンはその言葉の刃にはただ黙って耐え忍んで、
<ヽ´;ω;`>「……抜け穴も作れないダニ、監視は常にジュウを持って、もう……」
( `ハ´)「……ちょっと、監視に話つけてくるアル」
その発言に、たちまちどよめきが起こった。監視に交渉するなど、出来るわけがないだろう。
よもや脅しなんて効くはずもない。奴隷は一方的に射殺されるだけだ。
<ヽ´;ω;`>「シナー……?」
( `ハ´)「平気アルよニボ。お守りがついてるアル」
そういって、お守り――エビを、ニボーンに見せてシナーは部屋を出た。
12
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:15:35 ID:tAQZJbO.0
シナーは人通りの少ないトンネルを注意深く歩き続け、目的の監視と出会った。
その監視を選んだ理由は、監視たちの中でもっともエビに貪欲であったこと、そして権力者らしい装いだったからである。
( `ハ´)「私たち奴隷は大量にエビを隠し持っているアル。これとか、ほんの一部アル」
そういってシナーは監視の足元に、お守りを放り投げる。目の色を変える監視を睨みながら、
( `ハ´)「私たちがエビを隠し続けた場所はまだ教えられないアル。ひとつ条件が必要アル」
( `ハ´)「それは私たちを殺処分するとき、上の爆破を最大限に緩めることアル」
( `ハ´)「つまり、私たちを助けるアル。そうすれば外に出してくれたとき、教えるアル」
( `ハ´)「私たちを殺して探そうとしても無駄アル。エビのほんの一部は、あの穴の奥底に隠しているアル」
( `ハ´)「私達を秘密裏に逃がすよろし。私達は国に迷惑かけない。手段わからないアル」
( `ハ´)「明日、ダイナマイトのカヤク量を調節するだけでよろし。これだけ、これだけでお前は幸せアル」
13
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:18:53 ID:tAQZJbO.0
そして、翌日。
奴隷たちは予想通り、穴部屋へと連れていかれた。
ほとんどは諦めきった表情をしていたが、中にはその連行に抵抗するものも居た。
そんな奴隷は強引に別室に連れて行かれたが、まず射殺されたとみて間違いない。
「お前たちはここで待機していろ」
残った奴隷を全て穴部屋に押し込んだ後に、監視が無常な響きでそういった。
扉は閉められ、まったくの密室となったその中で、奴隷たちは己の死を悟った。
そんな中で、ニボーンは目に涙を浮かべていた。この未来を予測できたのに、
結局なにも出来なかった。外の世界も見れない、美味しい食べ物も食べられない。
<ヽ´;ω;`>
( `ハ´)
そして、頭上で、爆破音が轟いた。
14
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:22:35 ID:tAQZJbO.0
それと弾けるような悲鳴と叫び声が部屋中を覆った。
炸裂したさまざまな音に呼応するかのように、天井は重々しく揺れ、ぱらぱらと砂が振り出した。
(;`ハ´) !
さすがにシナーもこの時ばかりは肝を冷やした。交渉はうまくいったはずだ、
それに死ぬことも怖くない、そう考えていたのに、身がすくむ思いがした。
<;´-ω-`> !?
<;´-ω-`>
<;´-ω・`> チラッ
しかしこの部屋は崩れなかった。シナーの交渉が功を奏したわけのだった。
15
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:25:27 ID:tAQZJbO.0
<;´・ω・`>「助かっ……た……?」
(;`ハ´)「……アル」
他の奴隷達も顔を見合わせる。
しかし安心しきってはいなかった。
今の爆破が失敗しただけで、追撃が来るだろうと考えたからである。
だが、それから奴隷達は頭上を注視し続けたが、何も様子は変わらなかった。
何分、何時間と待っても、追撃する気配は見られないし、音も漏れ聞こえなかった。
不安と期待の入り混じった感情が、奴隷たちの脳内に満たされていく。
ニボーンや他の奴隷達は、シナーが何かを知っているのではと彼を問いただした。
しかし、シナーは何をたずねても、知らないと押し通し、昨夜の交渉の成果を隠し切った。
それから何十時間と経ったころだろうか。
扉が静かに開いて、例の強欲な監視が銃剣を背負った姿で現れた。
(;`ハ´)「………」
ついにきた。シナーは息を呑んだ。
16
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:28:18 ID:tAQZJbO.0
監視「両手を頭の上に乗せて整列をしろ。号令をしたら部屋を出ろ」
そういって、脇に連れた二人の部下とともに銃剣で奴隷達を威嚇した。
監視たちのその姿に、ふたたび奴隷は落胆したが、ただ一人シナーだけは希望を見出した。
なんとかなるかもしれない。シナーはニボーンの手を取って、列の真ん中に滑り込んだ。
そうして号令が響き、ざっざっざ……と規則正しい足音が鳴り響いた。
シナーが部屋を出る寸前に、監視は言葉を放った。いわく、
「ほんとうにあるんだろうな?」
(;`ハ´)「奥底を掘り進めれば分かるアル」
そう返すと、監視たちはたちまちバラけた。
部下一人が列を先導し、もうひとりの部下と監視は穴部屋に留まって採掘をし始めた。
しめた、とシナーは勝ち誇った。表情にそれを出さないよう、トンネルのなかを歩き続ける。
あとは時間の問題だ。シナーは不安そうなニボーンの手を握って安心させ、時が過ぎるのを待った。
監視の部下が大仰な扉をおもむろに開き、外の光が漏れてきた。
夕方独特の、目に刺すような紅い太陽光だった。
17
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:32:59 ID:tAQZJbO.0
(;`ハ´)「おお……」
<;´・ω・`>「………」
風が吹いた。レゴリスが空に舞い、真っ赤な地面にぱらぱらと落ちていった。
太陽が眩しくてよく見えないが、出た先は枯れた大地が
延々と拡がっていって、しかしその先には鉄柵が張られているらしかった。
もう一陣、風が吹いたとき、ニダーは心が浮き立つのを感じた。
( `ハ´)「(なんて気持ちいいアル……)」
風に自由を感じたシナーは、そのときに「いける」と確信した。
後ろの扉からは、いつしか監視たちが追いかけてくるはずだろう。
シナーはニボーンの手をふたたび握った。そして全ての奴隷たちに聞こえるよう、
( `ハ´)「走るアル!!」
その一声で、奴隷達は、弾けた。弾けるように、いっせいに彼方めがけて走り出したのだった。
18
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:39:04 ID:tAQZJbO.0
突然の怒涛の走りこみに、監視は戸惑ったが、すぐさま銃剣を構えて「とまれ!
とまらんと撃つぞ!」と威嚇をした。しかし、いったん自由を感じた彼らに
そんな牽制など無意味で、誰一人として怯える者はいなかった。
それからまもなく、ターン……ターン……と乾いた銃声が響いて、
その音ひとつひとつに呼応するように、どさどさと地面に崩れ落ちる肉塊の音が耳に届いた。
シナーはニボーンと中心を陣取っていたので、弾の標的にはならなかった。
後続の奴隷がひとりずつ確実に倒れていくたびにニボーンは恐怖の表情で振り返ったが、
( #`ハ´)「グズグズするなアル!」
シナーが一喝し、無理やりにでも走らせた。
<;´・ω・`>「あ……ああ……あああ…」
返事ともとれない返事をニボーンがする。シナーは無視し、とにかくひたすらに走った。
背後から感じる殺意は薄れなかった。監視が無線で応援を呼びかける声がかすかに聞こえる。
シナーはただひたすら走った。
仲間を肉壁として利用した罪悪感など、今は感じられなかった。
19
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:44:43 ID:tAQZJbO.0
監視の応援が駆けつけた頃には、もう奴隷たちはほとんど鉄柵の前に居た。
必死によじ登る先発組を背後からシナーは眺めた。拷問用に使う電流など
はないようだったが、油断は出来なかった。
内部と外部を隔てるその鉄柵の天辺には鋭利な刃がずらりと並んでいて、
よじのぼる奴隷は、慌てれば慌てるほどその切れ味の犠牲になった。
死には至らないものの、決して浅くない傷が身体の至るところにつけられていった。
鮮血は夕日に混じって見えにくいが、独特の生臭さが次第々々に強まっていく。
シナーは鉄柵の向こうを観察した。今まで走ってきたフィールドと違い、
たとえば植木や茂みなどの緑が散らばっていて、外界の無限の可能性を感じさせるものだった。
すぐ後ろから、シナーは怒涛の響きを聞いた。監視たちだ。振り返ったが
まだ姿は見えない。しかしここでグズグズしていては無残に撃ち殺されるだけだろう。
シナーはやはりニボーンの手を取って、それから奴隷たちを押しのけて
先に鉄柵をよじ登った。順番は守らないと、とごねるニボーンをシナーは無理にでも
押し上げた。嫌がっていたニボーンも、そうなれば登るしかなくなった。
それからすぐにシナーも続いた。刃に注意して身体を捻らす辺りで、
監視たちの「撃て!」という号令が届いてたちまちに虐殺が始まった。
とうぜんシナーも射程範囲に入ってい、右太ももが撃ち抜かれたがその衝撃で
鉄柵の向こう側に吹き飛ばされ、しかも運よく茂みのほうに落ちることが出来た。
20
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:53:20 ID:tAQZJbO.0
鋭く、そして重い苦痛が右脚全体に染み込んだ。流血の感触もする。
(;`ハ´)「(ぐぅ……! 走れないアル……立ち上がれも……)」
<;´・ω・`>「シナー! 立ち上がって! ほら!」
そうしたら、ニボーンが肩を貸してくれた。何をしているアルか、とシナーは慌てた。
鈍足のコンビなど、真っ先に銃弾の餌食になってしまう。シナーはあらん限りの力で怒鳴った。
( #`ハ´)「さっさと行けアル! お前も死にたいか!?」
<;´・ω・`>「生きたいダニ! でも……お前だけはおいてけないダニ!」
それでもシナーは手を振り解こうとしたが、ニボーンは構わず連れて行こうとする。
ぐずぐずしている暇はないのに。そう考えていたシナーだったが、しかし
不思議なことに、撃たれる気配がなかった。剣草の隙間から鉄柵の向こうを見ると、
監視たちは死んだ奴隷達を片付けていた。そうして、ニボーンの姿を横目に薄笑っていた。
(;`ハ´)「(なにアルか……不気味アル…)」
<;´・ω・`>「立ち……上がってよ、シナー!」
そうして、やむなくシナーもニボーンの肩を借りて進みだしたのだった。
21
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 00:58:50 ID:tAQZJbO.0
先発組の姿が見えなかった。血の跡は点々と残っていた。
しかし少し進んで、先発組の無残な姿を発見した。シナーたちは戦慄する。
皆が皆、下半身を失って朽ちていたのだった。なかには必死に腕だけで前進するものも居た。
が、ある地点に辿り着いたところで、いきなり地面が爆音を立て、
土やその者を空に舞い上がらせ、そして地面に叩きつけた。その奴隷は命を落とした。
<;´・ω・`>「……な、なにあれ……」
(;`ハ´)「………」
二人は立ち止まった。待ち構える得体の知れない兵器には、臆するしかなかった。
太陽は少しずつ地平線に沈んでいこうとしていた。シナーは焦った。
この光がなくなれば、本格的に自分たちは窮してしまうと察知した。
(;`ハ´)「……進むアル」
<;´・ω・`>「でも…」
(;`ハ´)「どの道、もう戻れないアルよ……このまま死ぬくらいなら、足動かすアル」
シナーはそう説得し、ニボーンを動かした。が、なにも無策でそう言ったわけではなかった。
先発組の一人が進んだ跡の、その上を慎重に歩いていったのだ。
ある場所を踏むと死んでしまう。地雷の特製を、シナーはなんとなしに理解していた。
22
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:07:19 ID:tAQZJbO.0
<;´・ω・`>「……ここまでだね」
ニボーンはそう呟いた。先発組の亡骸が眼前に横たわっていた。
<;´・ω・`>「こっから先は、もう……」
(;`ハ´)「……そいつを、死体を持つアル」
<;´・ω・`>「?」
(;`ハ´)「それを小刻みに…投げながら進むアル。そうすれば……」
ニボーンは返事をしないで、言われたとおりの方法で進んでいった。
<;´・ω・`>「シナーは……冷静だに」
(;`ハ´)「別に…」
<;´・ω・`>「僕たちに交渉のこと教えなかったのも、ほかのヤツらを
的にして進むためカニ?」
(;`ハ´)「……仕方なかったんアル」
23
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:14:56 ID:tAQZJbO.0
<;´・ω・`>「そうまで生きたいなら、僕も……もっと頑張らなくちゃいけないダニ。
でもやっぱり、なんだかんだいってシナーも外、出たかったんカニ」
(;`ハ´)「死にたくないだけアル……お前、私をひどいヤツと思ってるか?」
<;´・ω・`>「ぜんぜん。どうせ、僕らは死ぬ運命ダニ。それより、
シナーのおかげで僕もいま生きてるダニ。感謝してる」
(;`ハ´)「ふん……お前が一番…外に出たがってたから」
完全に夜の帳のおりた大地を、ふたりは少しずつ進んでいく。
<;´・ω・`>「僕は汚れてるダニ。……死んだ同胞のことで、悲しみがわかないダニ。
ただ……生きられてよかった、って」
(;`ハ´)「………」
(;`ハ´)「外にいったら、料理の勉強するアル……"チュウカリョウリ"、作るアル」
<;´・ω・`>「ふぅん…」
(;`ハ´)「お前が食べるアル。絶対アル」
<;´・ω・`>「へへ。やっとその気になったかに」
24
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:22:40 ID:tAQZJbO.0
シナーたちはそれまでに二回、地雷の被害を受けかけた。
先陣を切らせる同胞の亡骸も、とうの昔に腕だけしか残っていない。
それに、いくら身代わりを使っているといっても、爆風の被害を完全に防げるわけではない。
ふたりは確実に疲弊し、傷ついていた。
そしてその腕さえ爆風で飛ばされて消えたときには、
ニボーンもシナーと同じほどに動けなくなっていた。むしろ、止血の出来た分、
シナーのほうが体力を残していた。
<;´・ω・`>「……シナー……」
(;`ハ´)「なにアルか」
<;´・ω・`>「色々考えたんだけどさ。ぼく、外にいけないダニ」
(;`ハ´)「……?! なに言ってるアルか!」
<;´・ω・`>「もう身体もぼろぼろだし……それにさ、僕……外出ても
することがさ、ないんダニ。シナーの料理食べたいなんて夢はさ、
僕じゃなくても……ほかのヤツらが……
(;`ハ´)「ふざけるな! お前が生きるつもりだから、私も生きようとしたアル!
それを今さら……泣き言なんて許さんアル!
なんのために、なんのために同胞を犠牲にしたと思ってるアル!?
二人で行きたかったからだ! ふたりで外の世界を見たかったからアル!!」
<;´・ω・`>「シナー……」
25
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:29:26 ID:tAQZJbO.0
<;´-ω・`>「ありがとう、シナー……。シナーが同胞を犠牲にして、ぼくを助けて
くれたとき……ひどいとも思ったけど、それでも……やっぱり、嬉しかったに。
ぼくは汚れてるだに。ただ生きれればいいなんて、そんな……汚い、にんげんだに」
(;`ハ´)「生きたいと思うんは当然アル。私だって、この状況になって命が惜しいアル。
それに私は同胞を捨てたことを悪いとも思ってないネ!
生きるためなら、なんでもするアル! 汚かろうが、それで充分アル!」
<ヽ´-ω-`>「安心したダニ、シナー。…うん。君は僕がいなくても、やってけるダニ」
(;`ハ´)「おい……」
<ヽ´-ω-`>「外の世界はきみが見てくれ、シナー……。ぼくは、ここで終わりにするだに。
食べたかったダニ、きみの中華料理。……でも、でもやっぱり、
シナーがいなきゃ、ぼくの夢は叶わないから……!」
<ヽ´-ω-`>「僕を使って、外にいってくれ」
そういい残すと、シナーの制止を振り切ってニボーンは駆け出した。
最期の力を振り絞って、なるべく足跡が残るように、力強く大地を踏みしめていった。
(;`ハ´)「やめるアル!! ……とまれニボ…とまれェ!!!」
26
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 01:30:51 ID:xYq4DhQ.0
あああああああああああ
27
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:35:20 ID:tAQZJbO.0
<ヽ´-ω-`>「心が…軽いだに! ぼくは、いつまでも走れ……」
(;`ハ´)「ニボ!! ニボーン!!!」
そして、爆発した。闇夜が一瞬だけ明かりに照らされた。
爆風は遠くのシナーにも届いた。
そして、ニボーンの気配も消えた。
シナーは駆けた。ニボーンの残した足跡を頼りに、爆心地へと走った。
(;`ハ´)「ニボ……!!」
シナーは上半身だけになったニボーンを抱きかかえた。
身体が半分になった人間は、思いのほか軽かった。ニボーンが微笑む。
<ヽ´-,,,>「僕を使って、外に出てくれダニ……投げてくれ」
(;`ハ´)「そ、そんなこと……」
<ヽ´-,,,>「お前も僕のようになりたいかに!? さっさと、生きろ…生きるんだに」
それだけ言うと、ニボーンは息絶えた。最期まで微笑みを残し続けていた。
シナーは悲しみに暮れたが、しかし、
しばらくするとニボーンの言いつけどおりに、彼の身体を利用し、進みはじめた。
28
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:40:06 ID:tAQZJbO.0
そうしてシナーは、ニボーンの遺体が完全に消失した辺りになって、駐屯所に辿り着いた。
あくびをする夜警の背後に回って殴打すると、完全に意識がなくなるまでそれを痛め続けた。
シナーは夜警から衣服を剥ぎ取り、更に駐屯所から車を食料も奪い、
ようやく、この長き地獄から抜け出すことが出来たのだった。……
しかし外の世界に生き延びることが出来ても、不遇は変わらなかった。
たしかに外は凄まじいテクノロジーを有していたが、その反面、戸籍も過去もない
人間には大変厳しい。すぐさまシナーは裏の世界に身を隠すことになり、
中華料理を作るという夢は、まるで叶えることが出来ずにいた。
血の跡と臭いとが消えない世界。
ヴィップグラードの裏社会を、シナーは命だけは落とさまいと活躍し続けた。
ときには盃をわけた兄弟分を見捨てたし、裏切ったりもした。死んだニボーン以外に、
信じられるものなどいなかった。影で料理の勉強をし続け、しかし腕を披露することもできなかった。
転機が訪れたのは、その裏社会に「ハンター」なるものが台頭してきた頃である。
( ゚∀゚)『今日からお前らの頭になる、ジョルジュ長岡だ。
てめえらはたった今から! 俺たちハンター組合の手となり足となる。わかったな?』
29
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:46:50 ID:tAQZJbO.0
ねずみの横切る小汚い部屋で、
ハンター組合の長、ジョルジュ長岡は高らかに戦闘員を見下した。
シナーを含め、多くの元チンピラは唖然としたが、そのうちの一人がジョルジュに向かって、
( #'∀')「そりゃァねえんじゃねえのジョルジュとやらよお!
俺たちァ、地球の頃から代々名を馳せる"ヘキサファミリー"のモンだぜ!?
ハンター…だぁ? おめぇらみてぇな新参モンが……!」
( `ハ´)「………!」カチャ
( ゚∀゚)「ン?」
すぐさま、シナーはハンター達が動くより先に、やるべきことをした。
新たな長にたてつくガナーに向かって、銃弾を発したのだった。
サイレンサーのつけられた拳銃で、歯向かったガナーはなすすべもなく崩れ落ちた。
驚愕する周りをよそにシナーは膝をついて、
( `ハ´)「たいへん……失礼したアル、うちのバカが粗相して申し訳ないアルよ、ボス」
( #'∀')「て、ってめえ……シナァァ……!」
( ゚∀゚)「………ほう」
30
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:51:33 ID:tAQZJbO.0
( ゚ 」゚)「へへぇ。年寄りってのは変わり身遅いのが相場だと思ったんですがね」
( ゚∀゚)「いやいや、爺さんほど生き延びる術を知ってるってもんだぜぇ」
( `ハ´)「………」
( #'∀')「が……が……ッ」
吐血もし、痙攣しはじめるガナーをジョルジュ一瞥すると、立ちすくみ戸惑っている戦闘員に、
( ゚∀゚)「おい何突っ立ってる? さっさとこいつをバラしてここを掃除しろ!」
( `ハ´)「……それも私が」
( ゚∀゚)「いーねえきみぃ。んじゃ、とりあえずこの場は頼むわ。おまえ、なんて名前だ?」
( `ハ´)「シナーといいます」
( ゚∀゚)「よゥしシナー。この事務所はお前が取り仕切れ。当面は所長に任命してやる」
( `ハ´)「有難き幸せアル。……おい、さっさとこれを掃除するアルよお前ら!」
31
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:55:57 ID:tAQZJbO.0
それから巧い具合に新たなトップにゴマをすり、シナーは生き場所を獲得した。
周りの目など気になるはずもない。シナーはあの地獄を抜けたときから、
這い蹲ってでも生き延びてやると誓ったのだから。
しかしそんなシナーに、軽々とポストを与えてやるジョルジュ達でもなかった。
事務所長からは一向に地位は向上しない。会うたびにシナーに「いい子だなあ」と
言ってはいたが、それは裏を返せばプライドのない彼に対する嘲りだった。
そんな状況でも、シナーは必死に尽力した。その甲斐あってか、ハンター組合が
サービスエリアを設立するという話になって、そこをシナーに任せるという段取りになった。
( ゚∀゚)「発掘員の寄るような飲食店だ。店名は何でもいいが……カリヨンとでもしとくか。
そこをお前が一人で取り仕切るんだ。盗聴器と録音機材はもうセットしてある、
実のなりそうなタネをタレこめ。いいな? ついでにロイヤリティは80%だ」
( `ハ´)「承ったアル。……死ぬ気で奉公します…」
ついに、念願かなった飲食店を持つことが出来た。
上の支持と調達の関係で中華料理を提供することは無理だったが、それでもシナーはカリヨンをまわした。
想像以上につらい飲食の仕事と、客を裏切るような行為はたちまちシナーの表情から笑顔を落とした。
しかし。
32
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 01:59:36 ID:tAQZJbO.0
('∀`)「おやっさん! 今日も来たわ! グリーンカレーひとつね!」
33
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:01:26 ID:tAQZJbO.0
('A`*)「うんめぇええ!! ここのカレーはほんっとうめえよシナーさん!」
('A`*)ハムッハフハフ……ハフ!
('A`)「ごちそうさま! 頑張って発掘シテクル!」
(’e’)「ごっそさんでーす」
('A`)「また明日来ますわw」
( `ハ´)「………」
カランカラン
( `ハ´)「………ありがとー、ございました」
34
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:06:09 ID:tAQZJbO.0
閉店後に残された、録音機から目ぼしい話を客のステータスと合わせて組合へ送信する作業。
シナーはいつも、ドクオの情報だけはジョルジュ達に渡すことはせず握りつぶしていた。
それはドクオに好意を抱いていたのかは分からなかった。ただ、シャッターを閉めるとき、
シナーは晴れやかな気分になって、また明日も頑張ろうと思ったのだった。
カリヨンの経営や調理も板についてきた頃だった。
( ゚ 」゚)「シナー、あなたは何か隠し事をしてはいないですかね?」
( `ハ´)「……いいえ。包み隠さず情報は渡してますアル」
ジョルジュの片腕がいきなり視察をし、シナーを揺さぶりにかけた。
( ゚ 」゚)「真ですか? 発掘員のことはどんなことでも送信してますか? よく考えてこたえなさい」
( `ハ´)
( `ハ´)「はい」
( ゚ 」゚)「そうですか。それは失礼しましたねえ。それじゃ明日も元気にフライパンでも振るってください。
………それではよい夜を」
( `ハ´)「(……まずいアル。なにか、とんでもない間違いを……)」
35
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:10:37 ID:tAQZJbO.0
予感はすぐに的中した。その視察から一週間も経たぬうちに、
ジョルジュがカリヨンに現れそしてシナーに暴力を行使した。
その片腕は視察時に独自の盗聴器を取り付け、ドクオを隠したことがたちまちばれたのだった。
(;`ハ´)「ぐ……ぐぇ……かんべんしてくださいアル……」
( ゚∀゚)「おい、顔や腕は狙うな。みぞおち攻めろ! そうだッそこだー! もう一発ゥ!」
消灯したカリヨンで、血のない陰惨な暴力が振るわれた。
(; ハ )「……ゆ、許してください……アル……」
( ゚∀゚)「手間ー取らせやがって……おれはこう見えても激務なんだぜ? シナーさんよぉ」
部下に「もっとやれ」と手で指示し、
( ゚∀゚)「お前は従順だからここを任せてやったのに……おい、なんだよこの裏切りは! 裏切り!!」
36
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:15:51 ID:tAQZJbO.0
( ゚∀゚)「お前が握っパしたドクオってのぁ……なかなかの大物なんだよな。
まさに俺が求めてたエモノなんだよ。それをお前はよー……そらッ! スネいけ!」
部下がシナーに制裁を言われたとおりに加える。シナーが呻く。
( ゚∀゚)「こいつのネタでどうするつもりだったんだ? 成果の横取りか? 全部渡せや」
(; ハ )「ち、違います……マーパーツも、持ってないアルよ」
( ゚∀゚)「じゃあ何だ? いいお客さんだから庇ってやったとでも?
お前よー……この店は俺らのモンなんだ。
いくらてめえが店のオヤジ風吹かせてもよー……俺らが"絶対"なんだよ!」
(; ハ )「はい、それは……間違いありません」
( ゚∀゚)「てめえみたいな腹ん中で舌出すクソは今すぐにでも殺してぇが……チャンスやるよ、チャンス。
さいわいドクオのほうはお前を信頼してるようだしな。ドクオがなにかネタ吹いたら、
今度アタリをつけたら、無線でソッコー知らせろ。そうしたら許してやる」
(; ハ )「………」
( ゚∀゚)「シナー……お前たしかー、中華料理やりたいんだったなぁ?
やらしたるよシナー。俺は年上には優しいんだ……へへへ。
だから教えてくれるよな? シナーさん。なあー?」
(; ハ )「はい……教えるアル、包み隠さず教えます」
37
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:21:00 ID:tAQZJbO.0
そして、
( ハ )】「……ドクオと助手が、エデンで発掘するアル」
ハンター『よし分かった。すぐにポイントをつける。明日にゃァ、横取りしてやれる』
ガチャ
(; ハ )「………」
(; ハ )「(また、人を捨てたアル)」
(; ハ )「でも……これで、中華を……中華料理を」
.
38
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:23:10 ID:tAQZJbO.0
それから、シナーは逃げるように店を畳んで、言われたとおりにヴィップグラードの
賃貸で中華の店を持つことが許された。隣のハンターの事務所のために開かれたような店だった。
客もほとんどゴロツキかチンピラのような者しかいない。
トンネルから抜け出して20年余年。念願の中華店を、「弐帽」と名をつけて。
( `ハ´)「(マーボー、アオナ、炒飯、どれも作りたかった、他のも、フカも……)」
( `ハ´)「(でも……でも……)」
食わせてやりたいヤツは、もう居なかった。
ニボーンもドクオも、自分の料理を食べさせたかった男達は皆、切り捨ててしまった。
( `ハ´)「(……これじゃ、なんのために……)」
( ;ハ;)「なんのためにっ……! いままで……生きてきたアルか!」
.
39
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:26:04 ID:tAQZJbO.0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
( `ハ´)「……そして私は、…ふらりと、このホテルへ」
ストリッパーはその告解を、真剣な面持ちで聞き続けていた。
( ・U・ )「………」
( ・U・; )「(この懺悔は、きっちりした懺悔室で聞きたかったものだ。
……仕切り板もなしにこれは重い、こんな懺悔はされたこともないな……)」
( ・U・ )「…それでは、悔い改め、これまでの過ちを二度と犯さないため、共に祈りましょう」
( ・U・ )「(トカジトンネル……か。大韓中華大使館の傍だろうが、そんなシェルターが
あったこと自体は、もうあの国だ、何をしてようがそういうものだろうと呆れるしかない。
だが、ハンター組合。やはりあの組織は、火星にとっての癌といわざるをえんな)」
40
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:31:00 ID:tAQZJbO.0
( ・U・ )「祈りは無事に主のもとへ届きました。
あなたの罪は消えることはありません。しかし、あなたはそれでも
生き続けなければなりません。清く正しく心を持って、これからを真剣に生きるのです」
( `ハ´)「はい……」
( `ハ´)「牧師さん、もうひとつ祈ってほしいことがあるヨ」
( ・U・ )「なんでしょう」
( `ハ´)「あの悪魔に目をつけられた、ドクオ・ウツタールの無事を祈ってほしいアル。
ジョルジュはこれからドクオの成果を盗もうとするに違いないネ。
そして命も狙うかもしれないアル。だから、祈ってほしいアルよ」
そういうと、シナーはどっと疲れたように倒れこみ、そして土下座をした。
(;`ハ´)「絶対にっ! 助けてくれアルと!!!」
シナーの叫びは、チャペルの外にも漏れ届き、やがて夜の闇にまぎれていった。……
41
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:34:32 ID:tAQZJbO.0
.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.彡.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:ビュオオオオオオオ….:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:
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42
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:39:04 ID:tAQZJbO.0
・・ ・・
・・ ・・・
シナーの叫び声は聞こえなかった。チャペルとあなたのダブルルームは階層が違ったが、
たとえ同じだったとしてもあなたの耳には届かなかったことだろう。あなたはデレと行為を
すませ、しばらく余韻に浸ったのちの後処理をしていたのだから。
テッシュを何枚も取ってはデレの性器にあてて拭き取ってやり、
散らばるゴミはベッド脇のゴミ箱に放ってはまた、ティッシュを慣れた手つきで取り出す。
はじめは何枚か重ねたティッシュで「下拭き」と「荒拭き」。次にウェットタイプで
「本拭き」を施したのち、また普通のもので「ツヤ出し」と「総仕上げ」。
計五回のペーパー活用法をデレの下腹部に丹念に行った。
そんな本人はタオルで汗をぬぐっている。
ζ(゚ー゚*ζ「ふぅー……」
デレはうわの空のまま、タオルを動かしては身体から離したりする。
慣れたもので、あなたの涙ぐましい努力にはいちいち反応や声をあげたりもしない。
それどころかサイドテーブルに目を向けると、灰皿とタバコ、
それにライターを手元に寄せると、余韻を喫煙で味付けした。
~~-yζ(゚、゚*ζ
43
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:43:38 ID:tAQZJbO.0
あなたはそして現状に満足をする。後始末も任され、挙句に煙草まで吸われると、
被虐心があなたの心臓を刺激し、打ち震えるようなビートを贈ってくるからだ。
行為では自分がリードしていたのに、いざ終わってみればこの立場。
あなたはそんな現状に快感を覚えてしまう。
デレにはそんなフェチズムを打ち明けたことはないが、肌でなんとなしに感じ取っていることだろう。
~~−yζ(゚ー゚*ζ「今日ってそんな気分じゃなかったのに……」
いそいそと細かく動き回るあなた。
~~−yζ(゚ー゚*ζ「キスするともう止まんなくなっちゃうね」
そうしてやっと始末も終って、あなたはベッドに身を沈めた。
仕事が思うように見つからない。見つかったとしても続かない。
それで資産を持つデレに頼るような生活を送っている。
このホテルの宿泊費だって決して安くないのに、あなたはここで寝泊りを続けている。
そのまま、気だるく時間がたゆたった。ベッドルームは紫煙と物憂い空気とで満たされた。
やがて「どっちが先に行く?」と訊かれたので、デレが先に行っていいよと答える。
デレがシャワーに向かっていよいよ退屈になった。
なんとなしにラジオのチューニングを会わせると、軽快な古典ロックをBGMに男性の語りが流れてきた。
44
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:45:11 ID:tAQZJbO.0
『……から・・・出来ればイエローサブマリンくらいまでをお送り出来れば、と
思いますお! 懐かしさと禍々しさが同居してるアルバムだよなあ・・・・ ザザッ
このアルバム前後で、ロックの色彩ががらっと変わったな
66年くらいまでは、ファズやディストーションが効いたリフがサイケロックの特徴だったけど
この年からはエフェクターの多様化や、音響音楽化、いろいろな楽器が投入……』
「………」
運ばれる情報や音は耳に任せ、あなたは眠たげな目でビールを注いでそれを味わっていた。
サイケデリックなロックが流れ、やがて絵本を閉じるように曲は終わりを告げた。
ちょうど終わる頃に、デレが濡れた髪のまま戻ってきて、一緒にラジオに耳を傾けた。
ζ(゚ー゚*ζ「ビートルズ特集なんだぁ。へえ」
ζ(゚ー゚*ζ「ビートルズってもうクラシックだし、あんまり詳しくないんだけどさ……
ひとつだけ好きな逸話があってね、それがね……」
『このアルバムはあのビーチ・ボーイズの名盤 「ペットサウンズ」に影響を受けたものであります。
そしてこのペットサウンズ、ラバーソウルに衝撃を 受けて作られたものだとか・・・・・』
45
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:47:38 ID:tAQZJbO.0
ラジオDJの言葉に、デレは頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ「そう。それそれ。わたしね、それって凄い……すごく、大事で素晴らしいことだなって」
海を越えたイギリスのロックバンドとアメリカのロックバンド。
彼らはお互いに相手の奏でる音楽に衝撃を受け、負けるものかと自身の向上に努め、
歴史的な名盤を次々に発表していったのだった。
『……のアルバムをつくろうとして、精神を病んじまった・・・。
芸術の残酷さってやつかな。でもその成果は、凡人にはひたすら美しい。
ポールをして神曲と呼ばしめた曲、ブライアンのためにかけさせてくれ。 』
「God Only Knows」が流れる。
陶酔するようなフレンチホルンの音が印象的な崇高なイントロ、
悟ったようなやさしいリードボーカルがメロディーに甘く乗っている。
子守唄をきく幼児のような顔をするあなたに、デレは語りかけた。
ζ(゚ー゚*ζ「だから今のあなたにハリがないのも、相手が居ないから、じゃないのかなと思うの。
もちろん私は恋人だしいつも一緒にいるけど、対抗するような相手じゃないでしょぅ……
なにかライバルを……そうでなくても、目標とする人物をさ、探すとうまく行くんじゃない?」
46
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:49:43 ID:tAQZJbO.0
ζ(゚ー゚*ζ「男ってそういう生き物でしょ? 張り合いがないとうまく行かないっていう。
対抗心とか向上心がないと、流れなんて出来ないのよ……。
何からしたらいいか分からないなら、まずはいろんな人を知ってみたら、どう??」
そうだなあ、とあなたは答えた。デレからタオルを借りて、顔の汗をぬぐった。
ラジオはCMに突入した。そのうちにシャワーをさっさと済ませてしまおう。
あなたは浴室で温水を浴びながら、尊敬できる人物などを考え始めた。
そういえば、このホテルに寝泊りしているドクオ・ウツタールは成果を挙げているのだろうか。
ふいにそんなことが気になった。尊敬できるかはまだ分からないにしろ、
妙に気になる人物だと、あなたは常々思っているのだから。……
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・・
47
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:51:32 ID:tAQZJbO.0
翌朝。シナーも帰路にたった後で、ドクオは日の光を浴びながらホテルに戻ってきた。
('A`)「ふっ。この俺が朝帰りとはな」
むろん色気のある話でもなく、セントジョーンズと一緒に車の中で寝泊りし、
いい加減に勘弁ならんとひとりバイクを走らせてきただけであった。
遠くからはモノリスにしか映らないホテル・サイドニアも、
近くに寄れば品格のある空気が感じられる。いつもの駐輪場にバイクをとめ、
ふわふわのウシャン・メットをはずすと、その格式ある内部に入っていった。
ロビーで従業員たちがドクオへ挨拶をし、そのうちの一人であるコンシェールが、
(゚、゚トソン 「おはようございます。ドクオ様。ご朝食はいつものようにラウンジでございますか?」
('A`)「あ、はい」
('A`)キョロキョロ
(*'∀`)「(ヒーにゃん見っけ)」
48
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:53:02 ID:tAQZJbO.0
(゚、゚トソン 「うわ、なんだその笑顔……)」
(-、-トソン 「それではラウンジへどうぞ。朝の伴奏はこれから始まりますよ」
('A`)「あ、はい、あざっす」
(゚、゚トソン 「(お得意さんにこんなこと思うのもなんだけど、まさにもてない男って感じ…)」
(゚、゚トソン 「(考古学じゃ有名な人らしいし、クーさまがインタビューをしたがっていたから、
ちょっと警戒もしちゃったりしたけど……
(^、^トソン 「(あのひでールックスなら安心ね!!!)」
49
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 02:56:53 ID:tAQZJbO.0
ドクオが向かったと同時に、ラウンジのピアニストが演奏をはじめた。
今朝は「クープランの墓」のメヌエットらしく、流れるような鍵盤音が静かに響く。
('A`)「いいねえ」
ドクオはソファに腰掛け、テーブルに置かれた新聞を手に取る。
研究に関して役立つような記事は載っていなかったが、丹念に読んでいく。
('A`)「でっかい記事は地球関係ばっかしだな。……ふぅん、またクーデター。
大韓中華ももう終わりだな。ん? クー・スナオリャのコラムか。
どんだけ掛け持ちしてんだよこの人……」
内容はグルメの紹介で、今回のコラムでは「ズッパ・ディ・ベルドゥーラ」の特集だった。
イタリア人のお袋の味のようなものだというこのスープは、野菜の残り屑で作るようなお手軽なものだという。
材料は玉ねぎに人参、ジャガイモやセロリ。それにベーコンを賽の目に切って
炒めてからじっくり煮込んで塩胡椒の味付け、仕上げにパルメザンスープという具合らしかった。
他にもトマトを入れるタイプもあるらしいが、クーは素朴な味を大事にしたいと書き、それで文を締めている。
('A`)「なんだそりゃ……ルーの入れ忘れたカレーじゃねえのか!?」
ひとり驚愕しているうちに、朝食が銀盆に乗って運ばれてきた。
それも、大好きなヒートが笑顔で運んでくれている。
50
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 02:59:06 ID:xYq4DhQ.0
あぁ…
51
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/13(火) 03:03:09 ID:tAQZJbO.0
今日の投下は以上です。長丁場の投下は肩にくるな。
作中のラジオはムジカシベリアのサンプリングです。かえってきてほしー!
次回はいつになるか分かりませんが、長くなるかな。それではありがとうございました。
追伸。
凄くいい雰囲気のホテルカリフォルニアの動画を貼るぜ。名曲ですね。
http://www.youtube.com/watch?v=kv6Vy4Hr30s
それと、作中に出てきたGod Only Knows
http://www.youtube.com/watch?v=BC_UILNwWrc
52
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 03:04:07 ID:xYq4DhQ.0
お疲れ様ー 次回が楽しみだ
53
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 08:05:25 ID:V8WQUw6.O
あのひでールックスなら安心ね!!!
54
:
名も無きAAのようです
:2011/09/13(火) 18:58:35 ID:5r6dbl2k0
移住おっつおっつ
こっちでもよろしく
55
:
名も無きAAのようです
:2011/09/14(水) 03:20:44 ID:B3Z6zUeYO
投下乙!トソンひどすぎワラタ
56
:
名も無きAAのようです
:2011/09/14(水) 23:25:28 ID:PWV8YchMO
追いついた乙
こうみるとドクオって凄いのな、ひでー顔だけど
57
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/18(日) 17:51:52 ID:eFbNPWEw0
みんなよろしくな。で、近いうちに投下する。
あんま展開進んでないし箸休めみたいな感じになりそうだけどね。
ちなみにvip投下とか考え中。次の次くらいからしてみようかなあ。
とりあえず、次の投下は明日の夜くらいに出来ればいいかなー。
以下、個人的な今作のイメージ曲
http://www.youtube.com/watch?v=vEW_PJN2JZs
この小汚さと上品さが同居している感じがタマンネ
58
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/19(月) 23:40:36 ID:livsz/B20
ようし、さっそくだが投下する。相変わらずの推敲しながら
59
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/19(月) 23:41:25 ID:livsz/B20
http://nanabatu.web.fc2.com/boon/hotel_sidenia.html
まとめさん
60
:
名も無きAAのようです
:2011/09/19(月) 23:48:19 ID:HTdymsO.0
がんばれ支援
61
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/19(月) 23:48:44 ID:livsz/B20
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.''''、:::::::::::::::::::::::::::::::::
ヽ:::::::::::::::::::::::::::::: ..:: . ...
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...... .:::::::." . . ..
62
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/19(月) 23:50:12 ID:livsz/B20
翌朝。シナーも帰路にたった後で、ドクオは日の光を浴びながらホテルに戻ってきた。
('A`)「ふっ。この俺が朝帰りとはな」
むろん色気のある話でもなく、セントジョーンズと一緒に車の中で寝泊りし、
いい加減に勘弁ならんとひとりバイクを走らせてきただけのことであった。
遠くからはモノリスにしか映らないホテル・サイドニアも、
近くに寄れば品格のある空気が感じられる。いつもの駐輪場にバイクをとめ、
ふわふわのウシャン・メットを外して、その格式ある内部に入っていった。
ロビーで従業員たちがドクオへ挨拶をし、そのうちの一人であるコンシェールが、
(゚、゚トソン 「おはようございます。ドクオ様。ご朝食はいつものようにラウンジでございますか?」
('A`)「あ、はい」
('A`)キョロキョロ
(*'∀`)「(ヒーにゃん見っけ)」
63
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/19(月) 23:52:33 ID:livsz/B20
(゚、゚トソン 「(うわ、なんだその笑顔……)」
(-、-トソン 「それではラウンジへどうぞ。朝の伴奏はこれから始まりますよ」
('A`)「あ、はい、あざっす」
(゚、゚トソン 「(お得意さんにこんなこと思うのもなんだけど、まさにもてない男って感じ…)」
(゚、゚トソン 「(考古学じゃ有名な人らしいし、クーさまがインタビューをしたがっていたから、
ちょっと警戒もしちゃったりしたけど……
(^、^トソン 「(あのひでールックスなら安心ね!!!)」
.
64
:
リプライズ投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/19(月) 23:57:04 ID:livsz/B20
ドクオが向かったと同時に、ラウンジのピアニストは演奏をはじめたらしい。
今朝は「クープランの墓」のメヌエットらしく、流れるような鍵盤音が静かに響いてゆく。
('A`)「いいねえ」
ドクオはソファに腰掛け、テーブルに置かれた新聞を手に取った。
研究に関して役立つような記事は載っていなかったが、丹念に読んでいく。
('A`)「でっかい記事は地球関係ばっかしだな。……ふぅん、またクーデター。
大韓中華ももう終わりだな。……ん? クー・スナオリャのコラムか。
どんだけ掛け持ちしてんだよこの人……」
内容はグルメの紹介で、今回のコラムでは「ズッパ・ディ・ベルドゥーラ」の特集だった。
イタリア人のお袋の味のようなものだというこのスープは、野菜の残り屑で作るようなお手軽なものだという。
材料は玉ねぎに人参、ジャガイモやセロリ。それにベーコンを賽の目に切って
炒めてからじっくり煮込んで、塩胡椒の味付けを。仕上げにパルメザンスープという具合らしかった。
他にもトマトを入れるタイプもあるというが、クーは素朴な味を大事にしたいと書き、それで締めている。
('A`)「なんだそりゃ……ルーの入れ忘れたカレーじゃねえのか!?」
ひとり驚愕しているうちに、朝食が銀盆に乗って運ばれてきた。
大好きなヒートが笑顔で運んでくれていた。
65
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 00:02:30 ID:Fb3BboeE0
ノパ⊿゚)「ドクオさぁあん! 料理お持ちしましたよぉお!!!」
(*'∀`)「ォオン! ヒートちゅわぁん!!」
テンションも気持ち悪さもたちまちMAXになるドクオに
ヒートはさすが接客のプロというべきか、まるで顔色や態度を変えずに、
ノパ⊿゚)「今日はッ! ウェルシュラビットにベーコンエッグ・ソフト!
それにトマトフライとベイグド・ビーンズのスープ! 仕上げにドニアンティーでございッ!!」
(*'∀`)「ひゅううううぅうぅう! 今日は、ブリティッシュ・ブレックファストなんだね!!」
メヌエットの流れる優雅なひとときのロビーだが、その一角は妙な熱気の二人が叫ぶように会話している。
周りの客は迷惑に感じると思いきや、いつものことだと気にしなかったり、
大半はおかしな人間には触れない精神でスルーをしていたりする。
そもそもドクオはこのホテルでは、クールで理知的な立ち振る舞いを自負しているが、
ことヒートがやってきたときには何もかも忘れたように暴走をしてしまう。
その気味悪さに本人が気づかず、翌朝には静かに紅茶を傾けては新聞を読む佇まいなので、
ホテルの常連客にとっては、滑稽を通り越して奇怪な存在だったりする。
異様なテンションは進行し続け、料理の盆をテーブルに置くだけでも一大行事さながらだった。
66
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 00:09:03 ID:Fb3BboeE0
朝食の中からドクオは黄金いろに焦げたトーストを手に取った。
それはいかにもウェルシュ・ラビットで、ドクオの好物のひとつでもあった。
(*'∀`)「ウェルシュラビット!! うーんいい焼き加減じゃん!
もしかしてヒーちゃんの熱で焼いたんじゃないのォ!?」
ノパ⊿゚)「うっ……え、あー……はーいそうでぇす!!」
気色悪い言葉のアッパーがヒートの羞恥心を直撃する。
(*'∀`)「このベーコンエッグも! トマトフライも! もしやー……(おっとっと」
('A`)「(ちょっと…はしゃぎ過ぎたかな。こっからはクールにクールに。じっくり攻略しねぇとな)」
('A`)「ウェルシュ・ラビット……ウェールズの兎。イングランド人のジョークは面白いが、辛辣だね…」
ノハ;゚⊿゚)「(うわぁだから何じゃいその落差は! 悪い人じゃないだろうけど、この人はちょっと……)」
('A`) キリッ
ノパ⊿゚)「ですよねー!! ほんと辛辣!!」
ノパ⊿゚)「(でも……こんだけ気持ちわるいなら、いっそ悪い人であってほしかったあ!!)」
67
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 00:15:25 ID:Fb3BboeE0
困り果てるヒートをよそに、ドクオはそのウェルシュ・ラビットを頬張った。
味わうたび、焦げたトースト特有の香ばしい咀嚼音が鳴った。
ウェルシュ・ラビットとは、チェダーチーズをたっぷり乗せたチーズトーストなのだが、
味付けにはマスタードやウスターソース、はてはビールと意外にも刺激が詰まっている。
そして、名前とは裏腹にウサギ肉などまるで使われてはいない。
('A`)「これは……美味だねヒートちゃん」
ノパ⊿゚)「そうですね!! まずいって評判のイングランド料理ですけど、これは……!」
('A`)「いやこれはウェールズ料理だよ。イングランドよりはまだマシな味付けする国さ」
ノパ⊿゚)「あ……それは失礼しました!! でも、さっきイングランドって」
('A`)「イングランド人がこの料理をウェールズのウサギって名付けたんだよね。
イギリスじゃ貧しい人間はウサギ肉を食べてたんだけど、それさえ食べられない
極貧のウェールズ人は、このチーズトーストをウサギ肉と思い込んで食べてやがる……てね」
ノパ⊿゚)「へぇー……そうだったんだあ!!」
('A`)+「(キマったかな? ギャップからのトリビア戦略?)」
ノパ⊿゚)「(物知りなんだけぁ分かったけぇ、見つめんでほしい……)」
68
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 00:23:04 ID:Fb3BboeE0
ノパ⊿゚)「ってことはウェルシュラビットって悪口なんですかッ!!??」
('A`)「現地の人は別名で呼んでたらしいよ。ウェールズ語で"ローストしたチーズ"って意味でね。
まあ今はウェルシュラビットと、ふつうに言っているらしいけどね……」
と解説し終わって、そのチーズトーストを食べきったドクオは次に別の品へと移ろうとしていた。
ノパ⊿゚)「それでは! 私は仕事があるので行っきまぁああっす!!」
('A`)「いってらっしゃあああい!!」
('A`) モグモグ
('A`)「(ヒーちゃんの、俺の好感度どれくらいだろ……?)」モグモグ
('A`)「(あの子は他の女とは違う、から…俺のことキモがらないはず!! ……から、
……好感度…まあ、80%くらいか?)」モグモグ
('A`)「フヒヒ」
69
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 00:31:34 ID:Fb3BboeE0
('A`)「ん? メールがきた」
ポケットからクールホン(携帯電話)を取り出すと、さっそく新着内容を確認した。
それは研究所からの連絡で、提出したエビの検査結果だった。
('A`)「こんな時間に結果報告たぁ、ほんとこの研究所はブラックだぜふぅはははー」
('A`)「っ!?」
('A`)「つ、ついに……!」
内容はドクオの精神を駆り立てるものであった。
('A`)「(全てのエビから、加熱した形跡が発見……。焼痕も、特定部位に強く発現している……)」
('A`)「やはりあれは貝塚だったか……!」
ドクオはすぐさま立ち上がった。
70
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 00:43:40 ID:Fb3BboeE0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
(+e+)。「ぬわんですかぁドクオすわぁあん……」
急いで朝食を済ませると、ドクオはさっそく
バイクにまたがって車中泊しているセントジョーンズを叩き起こした。
寝ぼけ眼でまともな受け答えをできないセントジョーンズに、ドクオは饒舌になって、
('A`)「だ・か・ら! あのエビから加熱痕跡が見つかったんだよ。それも特に、強く
出ているのはどれも側面で、真っ平らな部分なんだ。……俺の言ってることがわかるかジョーンズ?
つまり古代人は、バーベキューみたいに"ナナバツガイ"を焼いて、それで食していたんだよ!」
(+e+)..。「ふーん……」
('A`)「だから、あのボイドの近くに加熱調理した跡があるかもしれねぇ、それで……ん?」
(+e+) zzz……
('A`)「……。ただでさえ駄目駄目なジョーンズが睡眠という翼を持ってうんたらかんたら」
71
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 00:52:41 ID:Fb3BboeE0
ドゴォッ!
グヘェ ∵.・(’e(○=('A`) 起きろー! 寝たら死ぬぞー! 主に俺が殴る意味で!
(’e(#)「起、起きましたぁあ」
('A`)「もう一度言うぞ。古代火星人が火を扱っていた可能性が出てきた。
場所は例のボイド近くに違いない。加熱調理した跡……以下カマドと呼ぶ、は
おそらく鉄板状の石器で、平べったい形をしている。わかったか?」
(’e(#)「り、了解でぇっす。……でも、加熱調理なら焚き火オンリーの可能性はあるんじゃないすかあ?」
('A`)「前半の話を聞いてなかったのか? 特定の面だけに加熱跡が出てたんだよ。
それに放射熱の跡は確認されていないしな。バーベキューのような感じで食べてたんだよ貝類を!」
(’e(#)「なぁるほど。……じゃあ、味付けなんかも分かっちゃったりしそうっすねぇ」
('A`)「ん……味付けか」
(’e(#)「判明してないんですかあ?」
('A`)「無茶言うなよ。いかに現代科学といえど、何十億年前の化石から調味料をほいほい検知できるか。
まあ、塩化ナトリウムくらいならごくわずかに反応も出そうだが、それはまだ報告されてない」
(’e(#)「ぼかぁガーリックバターで食いたいですけどね! うへへぇえ」
('A`)「もう一発殴ってやろうか? 次は右頬差し出してみろこのやろー」
72
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:04:13 ID:Fb3BboeE0
セントジョーンズはバギーから飛び出し、ドクオもそれを追い、ぶらぶら散歩がはじまった。
(’e’)「だいたいなんか、そんな俺を叩き起こして言うことっすかぁ〜?
ドクオさんなら分かりきってたことなんじゃいのぉ??」
('A`)「仮説が証明されたら嬉しいだろうがよ。これだけで定説をひっくり返せる世紀の論文が書ける」
(’e’)「だったら書けばぁー?」
('A`)「これだけじゃ無闇に乱獲を進めさすだけだっつってんだろ!!」
(’e’)「…まじだり〜起こすとかアリエネ…。騒ぎすぎだよこの魔法使い……(ボソ」
('A`)
('A`)「ジョーンズ。お前ちょっと……小遣いやるから、そこ、突っ立ってろ」
(’e’*)「まじっすか! 小遣いっすか!! 眠気もさめさめ! 立ちます立ちます!!」
ドクオは無言でバイクに跨り、遠くまで発進させる。
('A`)
ある程度の距離をとったところで停止し、セントジョーンズのほうを振り返った。
73
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:12:06 ID:Fb3BboeE0
('A`) ドルンドルルンドルン.....
(’e’)「ん?」
('A`) ブルンブブンブルルルルゥン!!!
(;’e’)「うわぁ〜〜〜〜〜〜 こ来ないでぇ〜〜〜〜!」
三(;’e’) サッ
(;’e’)「はぁ……はぁ……はぁ〜。マ、マジキチだよアイツ……ん?」
('A`) ドルンドルルンドルルン.....
(;’e’)「うわぁ〜〜〜〜〜〜」
('A`) ブォオオオオォオオオン!!!
74
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:14:41 ID:Fb3BboeE0
三(;’e’)ササッ!
……ォオン...
(;’e’)「(やべぇ……あの男、"ガチ"だ。マジで轢いちまっていいって感じだったッ!
ヤツの顔からッ! 『諸行無常』ってのを"見た"ぜッ!!)」
('A`) ドルドルドル.....
(;’e’)「(あるいはそう……『凄み』や『覚悟』があった……!
まじで"轢いちまったときの後処理"を覚悟してそうな! そんな凄みッ!!)」
(゚A゚)「突っ立ってろッつったろうがよぉおお!!」バルバルバルバルバラ!!!
(;’e’)「ごめ゙ーーん!! ドクオさぁ〜〜ん! ドクオさまぁ〜〜〜!!
もう悪口言わないから! 言いませんからぁ!! 許しでぇえ〜〜」
75
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:20:45 ID:Fb3BboeE0
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
こうして、ふたりはバギーにのって例の発掘場所――エデンへ向かうことになった。
ブルルル……
('A`)「魔法使いのなにがイケねぇんだ……なあ、ジョーンズ? 世間はおかしいぜ」
(’e’;)「あ、そ、そうっすね〜」
('A`)「世の中にゃあ事情で30路過ぎてもピュアでなくちゃいけねぇ人たちが多くいるんだぜ……
それも本人の事情さ。忙しさや、顔面、障害があってだなぁ…!」
(’e’;)「………!」
('A`)「世間がおかしいんだ! そしてバカにされ萎縮し、ますます魔法使いは……!」
(’e’;)「あ、あのードクオさぁん。今回のブツはどんなもんか検討つきますかぁ?」
セントジョーンズは運転しながら、とりあえず話題を逸らした。
('A`)「ん、そうだな。火星で適当な大きさに加工できる岩石っつうと、結構数を絞れる……」
76
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:26:21 ID:Fb3BboeE0
('A`)「まあ薪や火種はさすがに風化しちまってんだろうが、カマド自体はまだ埋まっているはずだ。
そこから放射熱の跡、さらにナナバツガイのDNAでも採取されりゃぁ完璧よ」
(’e’)「なるほど! さすがドクオさんっす!……ところで何で今日、オートバイクを積んだんです?」
このバギーの荷台には、ドクオのバイクが亀甲縛りでしっかりと固定されている。
セントジョーンズがドクオに命令され、ひぃひぃふぅふぅ言いながら乗せたものだった。
('A`)「んー? そりゃおめぇ、手近なもんで苦しみ与えるためよ」
(’e’)「(罰かよ!)」
('A`)「おれぁ寝るぜジョーンズ。着いたら起こしとくれや」
そう残すとドクオは座席を傾け、
ふわふわのウシャン・メットを取り出し顔に載せて寝息を立てだした。
(’e’)「……人には寝るなっつったくせに……まったく」
セントジョーンズはため息ついて、カーステレオを操作した。
といっても情報や音楽を聴くためではない。ただこのエンジン音とドクオの吐息に
聴覚が支配されるのがたまらなかっただけで、言ってみれば雑音目的のものだった。
それに、そのラジオ番組は案の定つまらないもので、セントジョーンズはすぐに
運転に集中してしまうのだった。……
77
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:27:53 ID:Fb3BboeE0
♪BGM「Carmina Burana ~ O Fortuna」
(^o^) さぁ〜! 今日も軽快なBGMと共にやってきました「ダレトク情報」!!
この番組はご存じの通り、「そんなもん知ってどうすんの?」という
まさに誰得な情報を垂れ流すだけの番組でございます!
(^o^) あまりの不人気っぷりにスポンサーは居ません!!
経費削減でスタッフがどんどんハンバーグ工場送りになっております!
アシスタントの娘もいつの間にか居なくなっていたという……これも誰得情報ですね!! ハイ!
(^o^) ちなみに進行役の私、名前はオワタ・ジンセーです。
これも誰得 情報ですね! いやー、ほんと誰得だなァ! 誰得だなあ! 誰もフォローしてくれないね!
\(^o^)/ そんなわけで、さっそく行ってみましょうダレトク情報!!!
.
78
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:34:17 ID:Fb3BboeE0
(^o^)b まずお送りするのは火星の基本的な内情についてです!
今さらも今さら! いやー、僕の誰得っぷりも磨きがかかってきてます!
(^o^) 火星は一応、全ての地域をもってひとつの国家として扱われています!
だから言語も通貨も法律も、ぜーんぶの地域で通用しちゃうわけですね。
一応、条例や独自通貨もあるんですが……ま、大丈夫でしょ!
(^o^) 通貨といえば、地球じゃ相変わらず為替チャートでバカやってる人多いですよねー!
僕の父もそう! 為替取引でヘマしすぎて俺らや家を売っ払ってもまた大損こいて!
最終的にロシアンルーレットに負けておっ死んだっていう……いやー、誰得誰得!
おっと、ちなみに火星の通貨「ヴィップ」は常に「円」と価値が同等になっています。
(^o^) では話を進めましょう! 火星では地球の国家はどう扱われるかといえば……
もちろん他国扱いです! そのため色んな国家の大使館、自治区があるんですが、
展開にはなんら影響しないので無視しちゃってください! だーれーとーくー!
(^o^) またまた余談! 火星で人が住める地域って実は結構少なくて、全土の三割ほどです!
もちろん開拓は常に行われているんですけど! やっぱり酸素が薄い場所とか
海川などがあるとねぇー。南半球は特に開拓が進んでいないです!
(^o^) 火星じゃ有名なオリンポス火山も一般人なんかは立ち寄れません!
アタシ〜オリンポスの頂上で星空みたーいとかいうバカ女は弾けて死にます! ざまあ
79
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:39:06 ID:Fb3BboeE0
(^o^) さぁ〜て、お次の誰得情報は「登場人物の簡単なプロフィール」です!!
(^o^) 何の、どの登場人物のプロフィールかって? そんなもの、私も知らんです!
人権侵害を犯してまでの、並々ならぬ執着でゲットした素晴らしい誰得情報をたっぷりとお楽しみください!
(^o^) つまり、選別理由は適当なので、あしからず!
――――――――――――――― ―――――――――――――――
('A`) ドクオ・ウツタール(31)
経歴 キモヤベイ工科大学付属高→キモヤベイ工科大学→タンポポ大学(編入)
+火星移住→タンポポ大学院→モテナイ大学院研究所所属特定発掘員
(’e’) セントジョーンズ・ワート(25)
経歴 エーフラック経済大学中退→火星移住→フリーター→フリー発掘員
川 ゚ -゚) クー・スナオリャ(27)
経歴 シガー・ロス音楽院→ソロのヴァイオリニスト→ライター業開始、
火星移住→c-wang所属ライター
( ゚∀゚) ジョルジュ・ナガオカ(32)
経歴 タンポポ大学→タンポポ大学院→フリー発掘員→ハンター組合結成、理事長
80
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:44:04 ID:Fb3BboeE0
(゚、゚トソン トソン・ミヤコスン(24)
経歴 リリー短期大学→火星移住→ヒマワリ就職学校受付→ホテル・サイドニア
ホテル・サイドニアのコンシェール。控えめな美人というルックスでホテルの顔になっているが、
本性は荒っぽいし陰険。ちなみにレズである。クーがすきな理由は見た目がストライクなのと、
火星に来てばかりで友達が居なかった頃、心の支えにしていたのがクーの記事だったため。
好物はオムライス。レトルトはNG。
ノパ⊿゚) ヒート・ヴォルケエノゥ・サカズキー(23)
経歴 ニューシベリア高校→ニューシベリア研究局→ホテル・サイドニア
ホテル・サイドニアのコンシェール。愛らしい見た目でファンが多く、ドクオもその一人である。
実はニューシベリア出身だが、キャラに合っていないとよく言われているため、あまり公言していない。
ミドルネームが漢臭すぎるのが悩みの種。喧嘩はホテルで一番強いともっぱらの評判。
好物はアザラシ丼。
( ゚д゚ ) ミルナルド・ジェームス・コットン(41)
経歴 カーレッジ大学→パチンコ屋警備員→火星移住+警備会社支部→ホテル・サイドニア
ホテル・サイドニアの夜警。のらりくらりと求人をあたっている内に、今の職に就いた。
なにごとも平穏無事であってほしいという博愛主義者。ギャンブル、酒、タバコが好き。
騒動の発端のクー・スナオリャに怒っている。
好物はサービスエリアのアメリカンドッグ。
( ´-ω-) ショボーンビッチ・サイハテリヤ(29)
経歴 シベリア中学→火星移住、ニューシベリア高校→ヲッカ販売所→飲食店「ヒマワリ」
→食事処「ニコライ」→BAR「ハラショー」
ホテル・サイドニア内のバー「ハラショー」の店主。沈痛な面持ちでシェイカーを振っているが、
それなりに収入は確保している。色んな場所で修行をしたため、料理の腕は確か。
生粋のシベリアンで、ヲッカを愛してやまない。いつかドクオと話したいと思っている。
得意料理は同志スターリン風サラダ。
81
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:45:37 ID:Fb3BboeE0
――――――――――――――― ―――――――――――――――
(^o^)
(^o^) ……というわけでね、まさに誰得な個人情報のオンパレードでした!
しかも法に触れてるけど、もう人生終わってんだ、どうでもいいぜ!
(^o^) 続報があれば随時追加するよ! その前に打ち切られてなきゃな!
(^o^) さて、そろそろ御開きの時間がやってまいりました。
今日も誰得情報をみんな、楽しんでいただけたかな!
(^o^) いつ打ち切りになるか分からないこの番組だけど、絶対また見てくれよな!
(^o^)/ バーイバーイ! (放送終了)
・・ ・・
・・ ・・・
・・ ・・・・
(’e’)「……ん? 放送終ってる」
セントジョーンズがその番組で感じたのは、雑音とその後の無音のみであった。
82
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:48:12 ID:Fb3BboeE0
そして、
(’e’)「着きましたよドクオさぁん」
―― エデン ――
背伸びをするドクオと、その後ろで機材をバギーから取り出しているセントジョーンズ。
セントジョーンズは息を荒げるが、ドクオは目的地を見上げては訝しい顔をした。
('A`)「また荒らされてなきゃあいいが……」
(’e’;)「んー? 権利思案ってどうなってんです?」
('A`)「まだ有効さ。でもゴロツキなんぞに権利を主張しても無駄だからな
('A`)「例の三人組とかまたヤンチャしてないかは……見てみねぇとわからねえ」
83
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:51:53 ID:Fb3BboeE0
だが、発掘現場はドクオの予想通り、めちゃくちゃに荒らされていた。
ただでさえ、無機対象ダイナマイトでクレーターめいた凹みになっているのに、
そこから更に、虫食いのような掘り跡が無数に出来ていた。
土砂の処理は行われていないようで、見た目は小汚いというしかなく、
ドクオの立てた「権利思案」の看板は、根元から倒された上に、汚れに汚れきっていた。
(’e’;)「ひっでぇ……!」
('A`)「チッ……くそったれが」
ドクオは仕方ないとかぶりを振ると、メッターを握って作動させた。
feet設定のボタン操作をするドクオだったが、セントジョーンズはその現場に足を踏み入れて、
(’e’#)「くそハンターどもがぁあああ!!!」
('A`)「……叫んだって何もならねえ。無駄な労力は使うなよジョーンズ」
(’e’#)「だって、これ……ほんとに、もう……!」
('A`)「気持ちはわかるが……落ち着け。まだブツがここに残ってんのを祈るだけだ」
ドクオは静かに現場に入り、メッターを頼りに発掘作業を開始した。……
84
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:54:56 ID:Fb3BboeE0
しかし、その祈りもむなしく、何も出てこない有様だった。
むしろ作業をすればするほど荒らされ具合の酷さがわかってくるだけだけで、
さすがのドクオも苦い顔をし続けてばかりいた。
セントジョーンズに至っては、砂を蹴飛ばしては文句ばかりだった。
(’e’;)「あーもう! 何にも出てこない」
('A`)「……まったくだ。エビは奪われちゃあいねえだろうが、肝心のカマドは……」
(’e’;)「こんな状況じゃ……正しいのか間違ってんのかもわかんないすね」
('A`)「そうだな」
セントジョーンズはキっとした顔で振り返った。
(’e’)「あのっ! ほんと! 悔しくないんすか!?」
('A`)「ん?」
(’e’)「ちょっとほんと……一大事なのに、淡白すぎやしないっすかね!?」
指を指されると、ドクオはやれやれと手を振って、そうして、
('A`)「何いってんだ……ブチ切れ寸前に決まってんだろ……!」
.
85
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 01:58:58 ID:Fb3BboeE0
('A`)「キレる対象がねえから……こうやって対策練って、んじゃねえかァ」
(’e’)「ヒュー♪ 対策っすか?」
('A`)「考えを取り直して、カマド場所は違ったと……物証や地形から納得させるか……
が、これはあんまり現実的じゃねえ。もうひとつは泣き寝入り。これは愚の骨頂。
最後の対策は、くそったれ共からカマドを取り返してやることだ」
(’e’)「んんー……ハンターとやりあいまくりっすか?」
('A`)「さぁな。だが、これをしでかした奴らの居場所を探るのは……俺のオハコだぜ?」
(’e’)「ほ、ほほー」
ハンターとの出入りを本格的に語るドクオとは対照的に、セントジョーンズはすこし弱気になっていった。
('A`)「……でな、タイヤ図鑑なんてのは古生物学者にとっちゃ………
―――――!?」
(’e’)「えっ? ………ええ!?」
そのときだった。耳を潜めてみると、現場の下の方――ちょうどバギーの停車位置の辺りで、
奇妙な物音がしているのが確認できたのだった。
(;'A`)「クソが! 今度はコソドロかよ!?」
86
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 02:02:46 ID:Fb3BboeE0
ふたりが急いで丘の下へ戻ろうとすると、今度はエンジン音が鳴り響いた。そして、
(;’e’)「ああ! バギーが……盗られてますっ!」
所有者の意思もむなしく発進するバギーと、荒土に捨て置かれたドクオのオートバイク、
そしてそのバギーと並列するように走るサイレントカーの姿、この三つが目に入った。
(;'A`)「くそっ……気づけなかった……バカか俺は!」
(;’e’)「とまれえええ!! うおおおおおっとまれええ!!」
しかしその叫びはこだまするばかりで、二台の車は、そのまま地平線の向こうへ走り去っていった。
(;’e’)「うわあああああああ〜〜〜!! ローンが〜〜〜〜!!!」
(;'A`)「ハンター村、ハーモニーの連中か」
(;’e’)「わ、わかるんですか?」
(;'A`)「見えたナンバーがちょうど、その辺りのモンなのさ。……こいつは困ったな」
87
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 02:09:33 ID:Fb3BboeE0
降り終えて近づくと、
ドクオはおもむろにオートバイクを起き上がらせた。
(;’e’)「す……すぐに追いかけましょう!!」
('A`)「……このバイクを置いていったのは何故だと思う?
俺らに追いかけさせるため……誘導させるためだろう」
ドクオはキーをまわし、ふわふわのウシャン・メットを被った。
(;’e’)「じゃあ……どうするんですか!?」
('A`)「とりあえず追うしかねぇ……が。
ハーモニーの連中ともなったら、それなりの覚悟を決めにゃあならんぜ」
後ろにセントジョーンズを乗せ、発進させるも、すぐにオートバイクの異変に気づいた。
('A`)「くそっ『スクエアーサイン』だ! 追い抜けやしねえぜ!」
スクエアーサインとは交通省からのお達しにより作られた、規制速度以上を
出すことを出来なくする端子ソフトである。ありがたいことに、刺されてから48時間は抜くことが出来ない。
88
:
ラスト投下
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 02:16:02 ID:Fb3BboeE0
(;’e’)「どうするんですかぁ〜〜!!?」
('A`)「ついてくしかねぇだろ、地を這うよう探偵のようによ!
……そこまでして、ほんとーに『ハーモニー』だったら……」
(’e’)「道場破りですか!?」
バイクに乗ったまま、ふたりは会話を続けた。ありがたいことに
スクエアーサインの示す速度制限のせいで、お互いの言葉は漏れなく聞くことが出来た。
('A`)「そうだな。これで立派な動機が出来たって考えるか……。
『流石兄弟』ってのが、ヤワなのを期待するのみだな」
(’e’)「さすが……きょうだい?」
('A`)「『ハーモニー』を牛耳っているのが、その二人組のハンターらしいぜ。
もしその二人が本気で俺たちを殺しにかかっていたら……まず、俺らは落とすぜ命を」
ドクオは前を追いながら、粘つくような嫌な感覚を払拭しようとした。
だが、それはうまくいかない。オートバイクが進めば進むだけ、死の香りは濃くなる一方であった。
[ Welcome To The HARMONY ]
あるであろう町看板の謳い文句が、ふと脳裏を過った。……
89
:
◆tOPTGOuTpU
:2011/09/20(火) 02:18:34 ID:Fb3BboeE0
以上投下終了。お疲れい! 寝るぜ
次回からはハンター村編です。
90
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名も無きAAのようです
:2011/09/20(火) 02:21:48 ID:Fb3BboeE0
酉けし。隠れてレモネードでも飲むか
91
:
名も無きAAのようです
:2011/09/20(火) 10:58:07 ID:Q3rZXgjUO
作者乙。
どっくんの変態と理知の緩急がたまらない。
原作(?)は知らないけど、楽しんで読めてるよ。
次の更新楽しみにしてる!
つ レモネード
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