[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
月刊少女ξ ^ω^)ξちょwwwのようです
3
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:03:42 ID:BmBpFPxg0
( ・∀・)恋実れ!のようです からいかせていただきます
4
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:05:08 ID:BmBpFPxg0
もしもこの手が届いたのなら
物語の結末は違ったのかもしれない
5
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:07:31 ID:BmBpFPxg0
Case 5: ―
6
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:10:08 ID:BmBpFPxg0
VIP高校 正午を僅かに回った頃の保健室へ
校内は授業中で静まり返っている
リズムよく鳴らされるチョークの音
教師の声
それだけが、廊下にいる俺の耳にも入ってくる
(・∀ ・;)(いてーwwww)
美術の授業でさっくり切ってしまった指にティッシュを押し付け、
芸術棟から第二校舎を抜けて 第一校舎の一番奥にある保健室へ向かっていく
誰もいない廊下を歩くのは新鮮だ
はははおまえら真面目に勉強したまえ
(・∀ ・;)(なんて余裕ねええええ!!!!!)
指ってなんでこんなに痛いんだろ
そんなことを考えながら保健室に飛び込んだ
(・∀ ・)「せんせ―――ぇ!!」
7
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:12:25 ID:BmBpFPxg0
ちきちきちきちき
目の前で軽い金属音 押し出される刃
白い夏服に反射した光が眩しくて
一瞬 彼女が輝いた
………『ちきちき』?
(・∀ ・;)「やめなさあぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
保健室のドアを開けた体制のまま絶叫した
真正面に 何故かカッターを握った女の子がいたから
8
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:14:40 ID:BmBpFPxg0
女の子はびくりと肩を跳ねさせてこっちを凝視して固まっている
右手のカッターは少し震えている
(・∀ ・;)「おおおおおおまえ!誰だよ!?いや誰でもいいんだけど!何やってんの!?」
女の子は何度か瞬きしたあと、正面に置いてあった消毒液を掴んで
一番奥 窓際のベッドに駆け込んでカーテンを引いてしまった
(・∀ ・;)「…………」
(・∀ ・;)「いやいやいやいやだからやめろってばあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
追ってカーテンを勢いよく引きあけた
白いカーテンの次に目に入ったのは、視界を覆う肌色
(・∀ ・;)「おおおおぉぉぉぉぉ!!!?」
(#゚;;-゚)つ#)・∀ ) ・ パーン
9
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:18:15 ID:BmBpFPxg0
メ…メ……(・∀ )っ〟 ・
(#゚;;-゚)「…………」
(・∀ と)〝 ヨット……
(・∀ ・#)「てめぇぇぇ!!」
(#゚;;-゚)そ「目の位置違う!!」
(・∀ と)〝 ……シツレイ
(・∀ ・#)「てんめえぇぇぇぇぇ!!!!」
(#゚;;-゚)(何この顔面奇形)
10
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:21:20 ID:BmBpFPxg0
(・∀ ・#)「何すんだ!?てか何しようとした!?俺の前で何しようとした!?
俺が人参と同じくらい嫌いな『痛いこと』しようとしてなかった!?」
そう
はたかれたのも痛かったが、まず言いたいのはそっちだ
痛いことはもちろん嫌いだし、誰かが痛い思いをするのも嫌いだ
彼女の左手は布団の中に隠れている
その隠れた細腕を掴んでひっぱり出した
(#゚;;-゚)「ちょっ」
見える高さまで持ち上げる前に、掴んだ手をはたき落とされる
その時に翻った彼女の腕には、小さな赤が見えた
(・∀ ・#)「それ!血!!」
その小さな赤を咎めようとした
その時に
11
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:23:48 ID:BmBpFPxg0
(#゚;;-゚)「あたしのじゃないし」
彼女は、左手首をずい と眼前に押し出してきた
そこには、血
傷一つない白い肌に、擦れた血が付いていた
(・∀ ・;)「ん?」
彼女は手首を見せたまま、左手で俺の手を摘まみ上げた
そこには血が擦れたあとのある 傷口がぱっくり開いた自分の人差し指
(・∀ ・)
( ・ ∀ ・ )
12
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:26:22 ID:BmBpFPxg0
***
ベッドの個室から出て、保健室の真ん中にあるテーブル
そこに座る 俺
さっきの彼女が、指の傷口に容赦なく消毒液をぶっかけた
(・∀ ・;)「い―――てえええぇぇぇぇぇ!!!!」
(#゚;;-゚)「煩い」
(・∀ ・;)「いやっ、おまっ、ちょっ……!!え!?なにそれピンセット!?何すんの!?おいちょっ、待て落着け早まっぎゃあああぁぁぁぁぁ!!!!」
彼女がまた 煩い と呟き
手当てが終わるまで、口にタオルを詰め込まれた
(#゚;;-゚)「はい、もういいよ」
そう言ってタオルを引き摺り出される頃には、指には絆創膏が張られていた
(;∀ ;)「ぱ…ぱしへろんだす……」
(#゚;;-゚)「あと20分ある。授業戻りな」
彼女は俺を無視し、また個室に帰ろうとした
なんとなく気になって、引き止めてしまった
13
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:30:59 ID:BmBpFPxg0
(・∀ ・)「お前、授業は?」
(#゚;;-゚)「……休み」
(・∀ ・)「具合悪いのかー?」
(#゚;;-゚)「……お前には関係ないだろ」
(・∀ ・)「……んじゃー俺もサボろーっと」
彼女が戻ろうとするベッドに座り込んで占領する
籠の中には鞄 机の上には教材と、さっきのカッターと消毒液が乗っていた
(#゚;;-゚)「保健医いないからって調子乗るなよ」
(・∀ ・)「俺様斉藤またんき 一年 お前は?」
(#゚;;-゚)「……なんで名乗らなきゃいけないの」
(・∀ ・)「名前くらいいいだろー あと20分、俺に付き合え」
(#゚;;-゚)「……でぃ」
14
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:33:43 ID:BmBpFPxg0
(・∀ ・)「先輩?」
(#゚;;-゚)「一年」
(・∀ ・)「見慣れねーな 隣のクラスか?」
(#゚;;-゚)「あんたがどこかは知らないけど、5組」
(・∀ ・;)「文理!?授業戻れよ!!」
5組 文理科 特進クラスともいう
だいたいどこの普通高校にもある進学専攻のクラスで、入学時成績の良かった生徒しか入れないクラスだ
教室も一階上にある 自分とは無縁のクラスだった
普通科最底辺のクラスに属している自分は、合同授業で顔を合わせることもない
(・∀ ・;)「文理って、授業一個でも受け損ねるともうついていけないんだろ!?早く行けって!!」
(;#゚;;-゚)「……下ではそんな噂が出回っているのか?言っておくが、そんなことは断じてないぞ」
下 階下 理数科と文理科以外、普通科 つまり1〜4組のことを指す
決して侮蔑ではなく、便宜上そう呼ばれている
15
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:37:28 ID:BmBpFPxg0
(#゚;;-゚)「受けなくていいんだ」
(・∀ ・)「単位的な意味でか?」
(#゚;;-゚)「どうでもいいだろ」
(・∀ ・)「やーだねー 気になるじゃん 単位の問題じゃないのか?成績が桁外れとか?」
(#゚;;-゚)「なんでもいいだろ」
((・A ・)))「きーにーなーるー」
(#゚;;-゚)「そろそろ保健医呼ぶぞ」
(・A ・)「やだー」
***
彼女は一人 闇の中に居た
能天気でまぬけな僕は、それに気付けなかった
16
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:40:16 ID:BmBpFPxg0
***
(;・∀・)「ぶはっ…!!」
冷たい肌触りに目を覚まし、意識が覚醒していく
辺りは闇 緩やかに波打つ闇
首まで浸かって足がつけない 質量のある闇
まるで夜の海のようだと思った
( ・∀・)「……ここは…」
ここは、知っている 知っているが、来たことはない
ついでに言ってしまうと、実在するかも曖昧な存在
図などで、水平に引かれた線に波状の線が描かれている
有名な心理学者が説く精神構造 『意識と無意識』 その狭間
( ・∀・)「僕の、中?」
首から下の感覚がないのは、波から下が『無意識』の世界だからだろう
ユングは、この無意識の海に放り込まれた状態を『夢を見ている状態』であると説いた
今の自分は、夢から覚めたものの『無意識』 つまり夢の世界から抜けられていない
ようは、寝ぼけている状態なのだろう
( ・∀・)「しっかし、また妙なとこに来たもんだ 夢と現の狭間?勘弁してくれよ」
17
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:44:10 ID:BmBpFPxg0
曲がりなりにも魔法使い
夢には、意味がある
こんな面倒な形で見たくはなかった
……ましてや、『収穫祭』が近い 気負いの元だった
( ・∀・)「……むしろ、それが気負いの原因になって、こんな夢を見ているのかもしれないな
……どっちにしろ、結論は変わらんか」
『収穫祭』に ……彼女に、関係しているのだろう
現に、覚醒する前は彼女の夢を見ていた
濃紅と淡紅の花に囲まれて背を向けている 和装姿の彼女
尼削ぎに整えられた 濡れているように艶やかな黒髪
耳の前の横髪だけは帯に届くほど長く、耳の前で小さな黄金色の鈴と一緒に赤い紐で括っていた
風に流され、花は舞い 鈴はちりりと鳴った
( ・∀・)「 ――――― 」
彼女に声をかけた
ころころと笑いながら振り返る ― 彼女の、左胸の穴
ここで目が覚めた
18
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:46:00 ID:BmBpFPxg0
( ・∀・)「まったく、冗談じゃない 悪い夢だ。気分が悪くなる
……っと そんなこと言ってないで、ここから抜け出さないと」
夢で見た『気分を害するもの』を無理矢理意識の外へ追い出し、現実へ戻る方法を模索し始めた
思考を切り替えた時、自分を中心に一際大きな波が生まれて 遠く 遠くの闇へ溶けていった
***
あれから数日
ある生徒が、何かしら理由を付けては保健室に通う日が増えた
19
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:46:43 ID:BmBpFPxg0
(・∀ ・)「せんせー 腹減ったから一時間休むー」
ξ゚⊿゚)ξ「もう少しまともな理由を考えてから来なさいよ」
(・∀ ・)「んじゃー、ねむたいー」
ξ゚⊿゚)ξ「……そう、じゃあ目を覚ますように一発おみまいしてあげるから教室戻りなさい」
(・∀ ・)「そしたら頬骨冷やすために休む―」
ξ゚⊿゚)ξ「ようしわかったわ 覚悟を決めて歯を食いしばりなさい」
(・∀ ・)「まじでか ちょっと待って先生 あそこの俺様のファンに無事な顔のまま挨拶させてー」
そう言って、その生徒 またんき君が振り返った
カーテン|#゚;;-゚)
カーテン|) 彡 ピャッ
(・∀ ・)「でぃだーwwwwおまっww照れんなよーwwww」
すっかりでぃの定位置になっている 窓側のベッド
そのカーテンの向こうに、なんの躊躇いもなく飛び込んでいく
20
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:47:45 ID:BmBpFPxg0
『ちょっ!入って来るなよ!!』
『照れんなってーwwwwこそこそしてないで俺様の胸に飛び込んで来ればいいのにー』
『死ね!!氏ねじゃなくて死ね!!くんなっ触んなっ!!!!』
『あっ、ちょっ、足蹴はやめて 顔が崩れる』
『とっくに歪んでるだろ だああ手ぇ伸ばすのやめなさい!!』
『あ、でもっ、ちょっとだけ快k』
『もう喋んな死ね』
『あ、ちらちら垣間見えるおパンツ……ぎゃあぁぁぁっ!!!!』
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「おともだち、できたのかしら」
21
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:48:40 ID:BmBpFPxg0
最近
同学年の男子が でぃの為に保健室に来る
最初は週に一度 次に、三日に一度
彼女が保健室登校しているのを知ってからは、毎日来るようになった
休み時間に 昼休みに そして、授業中に
一学期には見なかった顔……つまり、二学期が始まってから急に通い出した
でぃに彼氏が出来たのかと思ったが、そうではないらしい
でぃに友達が出来て、保健室通いから教室に戻れるなら それもいいと思った
しかし、こうして授業をさぼってまで来るのはよろしくない
保健室とは、基本的に体調の悪い生徒や、怪我をした生徒が来る場所だ
でぃの為 生徒の為と思いつつも、またんき君は他の生徒と同じように諌めなくてはならない
ξ゚⊿゚)ξ(……と、思ってはいるんだけど)
保健医という立場上、他の教諭よりも生徒とマンツーマンで対話をすることが多い
最近のでぃは顔色もよくなり、口調も少しずつやわらかくなり始めていた
規則だからと追い出すことが出来ないくらい、彼はでぃに良い影響を及ぼしていた
22
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:49:28 ID:BmBpFPxg0
***
(#)∀ ・)「顔が-」
(#゚;;-゚)「いっそ新しい顔を勧めるよ 今より酷くなることはないだろ」
(#)∀ ・)「全俺が泣いた」
(#゚;;-゚)「いいから離れろ 気持ち悪い」
(#)∀ ・)「言葉の暴力は時として物質的な暴力より痛いんだぜ」
(#゚;;-゚) 三⊃∩(#)∀ ・;)「だからってやめて!!」
(#゚;;-゚)「わかったから離れろ カーテンの向こうに消えろ 暑苦しい」
〝(∩∀ ・)「絶対恐怖領域wwATフィールドwwww」
(#゚;;-゚)「よくわかんないけど帰れ 教室に帰れ」
23
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:50:39 ID:BmBpFPxg0
(・∀ ・)「そういえばさー」
(#゚;;-゚)「スルーか てか治るの早いぞ」
(・∀ ・)「俺様無敵だから☆
……でさ、ちょっと思ったんだけど、お前暑いとか言うならカーディガン脱げよ」
(#゚;;-゚)「あたし一応女子高生なんだけど、ナチュラルに脱げとか言うなよ」
(・∀ ・)「俺とお前の仲じゃねーか」
(#゚;;-゚)「どんな仲だ 馴れ馴れしい」
(・∀ ・)「ひでーww だってさ、もう九月だけど、まだ暑いだろ」
(#゚;;-゚)「冷え症なんだ 黙れ」
24
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:52:08 ID:BmBpFPxg0
(・∀ ・)「冷え症かー」
(・∀ ・)「しゃーねーなーww俺が温めてやんy」
(#゚;;-゚)「近づくなよ顔面奇形」
(##)∀ ・)「終いにゃ泣くぞ」
***
( ・∀・)「実れ 実れ 『恋』実れ」
目の前には、自分が両腕を広げても抱えられないであろう 太い幹を持つ大木がある
花も葉もない、枯れてしまった大木だ
そして、自分の手にある如雨露には、きらきらとした水が湛えられていた
25
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:53:37 ID:BmBpFPxg0
水面が滑らかな水鏡をつくりだしている
そしてそこに映るのは、自分の顔ではない
゚+.+゚・ ミ,,゚Д゚彡 (゚∀゚*) ・゚+.*゚。
今月初めに恋を成就させた 根個フサと長岡ツーが写っている
それを確認して、目の前の枯れた木の根にその水をやった
( ・∀・)「実れ 実れ 『恋』実れ
君の為 僕の為 恋を育むキューピッ…魔法使い
彼らに祝福を 君に救いを
禁断の実は甘い誘惑 蕩ける果肉は溺れる快楽
真実(まみ)を映す幸せの雨 君の中に 染み渡れ」
如雨露から流れ出る滴に、虹色の橋がかかった
( ・∀・)「実れ 実れ 『実』実れ
君に会えるその日まで 僕は叶える 人の恋
籠目の中の 君の為 醒めぬままの 君の為」
26
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:55:01 ID:BmBpFPxg0
如雨露の水がなくなると、そっと木の幹を撫でた
( ・∀・)「今日は、君の夢を見たよ
君は、君好みの梅重ねの襲を着ていた 髪結いの紐も、君の髪に華を添えていた
幸せな夢だったよ」
( ・∀・)「幸せ……そう、幸せだった 君が還ってきたような気がしたから」
( ∀ )「だから……」
今は少し、寂しい
言葉は、枯草に鉄錆を混ぜたような 秋の臭いにさらわれた
彼岸が近いなと、頭の隅で考えていた
( ∀ )「……早く君に、会いたい」
27
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:56:36 ID:BmBpFPxg0
***
数十年前
モララーがまだ、人であった頃の話
***
晩秋のある日のこと
詰襟の黒い制服に身を包んだ学生 モララーは、教本を抱えたまま走っていた
(;・∀・)「まっ、待てっ……!!」
追いかけているのは、突風で飛んでしまった制帽だった
重たい校章が付いた黒い帽子は、地面を這うように ころころ ころころと逃げていた
強く冷たい秋風は、モララーの髪を乱し視界を奪う程だった
中腰の、まぬけな格好のまま、逃げる帽子を追った
そして視界の隅に映る紫の袴に帽子が当たったところで、モララーはやっと顔をあげた
28
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:57:29 ID:BmBpFPxg0
袴姿の少女 ―今風に言えば幼女だろうか― が、帽子に気付いて拾い上げてくれた
( ・∀・)「あ……」
「これは、貴方の物ですか?」
丁寧な言葉で、少女は話しかけてきた
( ・∀・)「はい 申し訳ない」
「いえ……綺麗な帽子ですね」
( ・∀・)「良呍嗣(らうんじ)大学のものです」
少女が、細い指で帽子の砂埃を払ってくれた
風にあおられ、耳の前に垂らされた横髪が舞った
括られた鈴が、ちりりと鳴る
「優秀な学生さんなのですね ……はい」
顔をあげた少女は、大きな瞳でモララーも見上げ、帽子を差し出した
帽子を受け取り、右手で胸に当てた
29
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 18:58:29 ID:BmBpFPxg0
( ・∀・)「ありがとうございます」
きちんとお辞儀をし、少女と別れた
モララーが少女と再会したのは、それから二週間ほど先のことだった
モララーは休日を使い 隣町の大きな図書館に来ていた
文学書を探して本棚を見上げていたとき、腰のあたりになにかがぶつかってきた
( ・∀・)「おっと」
「あっ…!す、すまないのじゃ!!」
咄嗟に手で支え、そちらを向く
触れた髪は上質の絹のようだった
30
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:00:04 ID:BmBpFPxg0
( ・∀・)「いえ……あれ?」
濃紫の矢羽をあしらった振袖に、緋袴を纏った少女
尼削ぎに整えられた後ろ髪 鈴と一緒に、長い横髪を赤と白で綾織の紐で括っている
見上げる瞳には、驚きがちりばめられていた
「あ、し、失礼……しました」
少女はモララーから離れ、両手で本を抱えなおした
( ・∀・)「お久しぶりですね 御嬢様」
膝をつき、少女の目線の高さに合わせた
モララーはこの時、彼女の素性を知っていた
( ・∀・)「先日はありがとうございました」
l从・∀・ノ!リ人「あ……先日の……」
31
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:03:51 ID:BmBpFPxg0
彼女 名を、流石妹者という
美府(びっぷ)町を含め、ここら一帯の大地主であり、
国の財政の一端を担う資産家 流石財閥の次女 つまりは御令嬢だ
この図書館も、その流石財閥が運営している
( ・∀・)「まさか、流石財閥の御令嬢にお世話になってしまっていたなんて」
l从・∀・ノ!リ人「そんな、私がここの者であることなんて関係ないのです」
妹者を連れて、近くの喫茶店に来ていた
あの時のお礼を と、ココアをご馳走する
一緒に頼んだ なんとかショコラとかいうパンケーキを、彼女はおいしそうにつついていた
l从・∀・ノ!リ人「そういえば……モララーさまは、今日は何故こんな方まで?」
( ・∀・)「大学の課題のためです。美府の図書館は多くの蔵書を抱えています。
良呍嗣なんかとは比べ物にならないのですよ」
l从・∀・ノ!リ人「モララーさまは、本がお好きなのですか?」
( ・∀・)「そうですね 個人的に楽しむなら、文学書にはよく手を出します」
l从・∀・ノ!リ人「では、またうちの図書館にも足を運んでいただけますか?」
( ・∀・)「ええ、是非」
こうしてモララーは 週末には美府の図書館を訪れるようになった
32
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:07:16 ID:BmBpFPxg0
三月ほど経った頃、それは唐突に終わりを告げてしまう
妹者の親が、快く思わなかったのだ
それも当然だった
流石財閥に男の世継ぎはいない
長女の姉者が婿を取り継ぐことになってはいるが、それでも妹者に残る資産は莫大である
姉者にはもう婚約相手がいる
流石財閥の資産を狙っている輩は、次に妹者を標的にしていた
そんな折現れた、素性の知れぬ男 それも、十は年の離れた男だ
妹者はそれに懐き、毎週図書館を抜け出しては、近所の喫茶店でその男と会っている
よからぬ噂も、次々と生まれては尾ひれを付けて、一人歩きしていた
当時の流石財閥当主 フーンは、妹者に外出禁止を言い渡した
それは図書館へ出向くことすらを禁止するという とても厳しいものだった
モララーはそれを知らず、毎週図書館に通っては 妹者を探し続けていた
33
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:12:07 ID:BmBpFPxg0
( ・∀・)「今日もお嬢様いなかったなぁ……」
図書館を出、一人で喫茶店に入る
カウンターで珈琲を注文して、袖から小さな包みを取り出した
溜息を吐いていると、珈琲が抽出されるのを眺めながら、マスターが声をかけてきた
(`・ω・´)「今日はお嬢ちゃんは一緒じゃないのかい?」
( ・∀・)「んー……最近、会えていないのですよ」
(`・ω・´)「……旦那が連れていたお嬢ちゃん、流石財閥の末娘なんだって?」
( ・∀・)「あれ、ご存知だったんですね」
(`・ω・´)「最近、噂が立っていたんだよ。旦那の耳には……入っていないんだろうな」
( ・∀・)「美府の者じゃないからかな」
(`・ω・´)「あえて、だと思うけどね。教えてあげよう」
マスターが声を潜めて顔を寄せてきた
( ・∀・)「?」
34
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:17:55 ID:BmBpFPxg0
(`・ω・´)「……最近、旦那がお嬢ちゃんを連れてよくここに来ることが、当主さまの耳に入ったんだ」
( ・∀・)「……あぁ、財閥当主のフーンさんですか?」
(`・ω・´)「お嬢ちゃんは流石財閥の第二子 長女が婿を取って、フーンさまにもしもがあれば
流石財閥の財産の一部は、お嬢ちゃんにも残されるんだ
可哀想にねぇ…… あんなに小さくても、「もしも」の時の為に逆玉を狙われているんだ」
( ・∀・)「……あぁ。 で、なんで僕が一緒に居るとまずいんだい?」
マスターは盛大に溜息を吐いて、背筋を正した
抽出された珈琲をカップに注ぎ、ソーサーにスプーンを添えてモララーの前に差し出した
モララーはクリームと砂糖をそっと入れ、スプーンでゆっくりとかき混ぜた
(`・ω・´)「旦那が、逆玉を狙ってるんじゃないかと噂になっているんだよ」
そろりと啜った珈琲を、盛大に噴き出した
35
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:24:22 ID:BmBpFPxg0
(;+∀+)「えふっ、ごほっ あっつ!!」
(;`・ω・)「丹精込めて淹れた珈琲を一口目から吹くんじゃないない ほら、ナプキン」
(;+∀+)「す、すみませっ……こほこほっ…」
(;+∀・)「え、な、なんでそんな噂になってるんですか 僕はお嬢様と本の話をしていただけで……」
(`・ω・´)「知っているよ。旦那は毎週ここでお嬢ちゃんとお話としているのを、私は見ているからね」
(`・ω・´)「けど、誰が見たんだろうね 手を繋いで図書館まで送っていくのを見た人がいたらしくてね」
(;+∀・)「確かに手は繋ぎましたよ?でもそれは迷子になっちゃいけないと思って……」
(`・ω・´)「…………旦那は、莫迦だったんだね」
(;・∀・)「えっ ひどい」
溢した珈琲を拭き終えたマスターは、新しい珈琲を淹れるため、背を向けた
36
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:29:05 ID:BmBpFPxg0
(`・ω・´)「……ところで旦那、その包みはなんですかい?」
モララーの隣に置かれた小さな包みを指していた
桜色の薄い和紙で包まれた包みは、中身の白い箱を透かしていた
( ・∀・)「……何でも、ないです」
仕送りを遣り繰りし、小遣い稼ぎに奔走し、やっと手に入れることが出来た品だった
もう会うことはないのだろうか
本のお礼に プレゼントしたかっただけなのに
その日の夜、モララーの下宿先の電話が鳴った
37
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:34:42 ID:BmBpFPxg0
大家から受話器を受け取り、礼を言って耳に当てた
( ・∀・)】「……はい」
『…………モララー、さま?』
電話口から聞こえた声は、もう何週間か聞いていない あの幼い少女の声だった
(;・∀・)】「!?」
『…………いつもの喫茶店で、お待ちしております』
(;・∀・)】「えっ!? ちょっ……」
か細い声はそれだけを言い残し、向こうからがちゃりと切れてしまった
モララーは急いで身支度を整え、下宿先から飛び出した
庭先の桃の樹から、硬い蕾が覗いていた
38
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:39:25 ID:BmBpFPxg0
からん
ドアベルが鳴る
とうに閉店時間を過ぎた喫茶店は、カウンター以外の照明は消されていた
カウンターの向こうには閉店準備をするマスター
席には 濃緋の外套を纏った少女が、両手で持ったカップを傾けていた
(;・∀・)「お嬢様!?」
l从・∀・ノ!リ人「…………モララーさま……」
(;・∀・)「外出を禁じられていると聞いたのですが」
l从・∀・ノ!リ人「私は……妹者は、あんな家には居とうないのじゃ」
妹者の口調が変わった
l从;∀・ノ!リ人「父は、妹者を閉じ込めた 妹者は、寂しいのは嫌いじゃ」
ぽろり、と 唐突に溢れ出す滴
39
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:44:49 ID:BmBpFPxg0
ぎょっとして、ポケットから出したハンカチでそれを拭いに行く
しかしハンカチが涙を吸い取る前に、その腕を小さな手で掴まれた
l从;∀;ノ!リ人「モララーさま 妹者を、あの家から連れ出してほしいのじゃ」
空気が、ぴりりと張り詰めた
(;・∀・)「…………えっ」
モララーは困惑する
向こうから頼まれているとはいえ、立派な人攫いだ
昼頃 マスターから聞いた『噂』も頭をよぎる
ここで感情に任せて彼女の手を取ってしまえば、もう後戻りはできなくなる
しかも相手は年頃の娘ではなく 自分とは確実に十は離れた少女だ
苦悩は時間を啄む
目の前には涙を抑えるように顔を歪めている少女
しかもただの少女ではなく、御令嬢
やはり、駄目だ 攫ってはいけない
40
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:48:38 ID:BmBpFPxg0
(;・∀・)「……いけません、お嬢様。 僕は本来であれば、こうしてお嬢様と同じ時を過ごすことすら許されない身分なのです
僕はしがない学徒 お嬢様は国の財政を担う流石財閥の御令嬢 ……身分が違うのです」
(;・∀・)「お嬢様をお攫いすることなんて、僕には……」
l从 ∀ ノ!リ人「……のか?」
( ・∀・)「え?」
L从・∀・ノ!リ人「『流石』の名のせいか? ……ならいらぬ こんな名など、妹者はいらぬ」
少女は硬い表情で、幼い声で言い放つと、懐から細長い布袋を取り出した
モララーから嫌な汗がどっと噴き出す
少女が袋から取り出したのは、黒くぬらりと輝く鞘を持った 護身用の短刀だった
l从・∀・ノ!リ人「こんなもの、いらぬ」
41
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 19:53:17 ID:BmBpFPxg0
抜き放たれた白銀の刃
滑らかな波紋
照明に照らされて煌めく刀身
ざくりと音を立てて切り取られる 右で結われた長い横髪
切り取られた髪を束ねていた血のように赤い結い紐が、するりと床へ落ちた
ちりん
床で跳ね返って哀しげに鳴る こがねいろの鈴
( ・∀・)「…………」
l从・∀・ノ!リ人「…………」
(`-ω-´)「…………」
広がる 静寂
42
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:00:09 ID:BmBpFPxg0
最初に動き出したのは妹者だった
そのまま何も言わず、左の横髪も削ぎ落とした
その髪も、打ち捨てるように床に撒く
ちりりん
二度目の鈴の音で、ようやくモララーは我に返った
(;・∀・)「お嬢様!!!!」
l从・∀・ノ!リ人「もう『お嬢様』ではない 妹者なのじゃ」
l从・∀・ノ!リ人「モララー 連れ出してほしいのじゃ」
(;・∀・)「っ……!」
モララーは助け舟を求めてマスターを見遣った
マスターは 背を向けていた
(;・∀・)「マスター!」
(`-ω-´)
(`・ω・´)「旦那 女の子が、髪を切ったんだぜ?」
マスターはそれだけを口にして、カウンターの奥へ消えてしまった
言葉の意味するところは、ひとつだった
43
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:03:05 ID:BmBpFPxg0
(;・∀・)「…………」
( ・∀・)
覚悟を、決めた
腹を括った
一度深呼吸をし、震える気を落ち着ける
心の中で、詫びを入れていく
( ・∀・)(父さん母さん、ごめんなさい 僕は、一時の感情に任せて道を踏み外します)
( ・∀・)(大家さん、ごめんなさい 礼も返さず、何も言わず何も片付けずに出ていきます)
( ・∀・)(ロマネスク教授、ワカッテマス教授、ごめんなさい たくさん目をかけていただいたのに、何も果たさず投げ出します)
( ・∀・)(ビロード、オサム、デルタ、ごめん 最後まで一緒に学べなくて)
( -∀-)(さようなら みなさん)
もう一度深呼吸すると、妹者の手を掴んで喫茶店を飛び出した
44
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:12:27 ID:BmBpFPxg0
***
( ∀ )
さらり、さらり
風が草花を呷っていく
遥か昔の記憶が、映画のフィルムのように 脳内をさらさらと流れていく
忘れもしない過去 忘れられない過ち
時に呑まれた セピア色の過去
如雨露を落とし、両手で顔を覆った
::( ∩∀∩)::「……僕は、莫迦だ…………」
桃の樹の根は、濡れてきらきらと輝いている
45
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:16:36 ID:BmBpFPxg0
***
ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ「……またんき君」
(・∀ ・)ノシ「せんせーwwwwおはよーございまっすwwww」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、おはよう」
(・∀ ・)「今日も四時間目にお腹痛くなる予定なんだけど、でぃいる?」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ「またんき君 でぃちゃんは、今日はお休みよ?」
(・∀ ・)「 え ――― 」
46
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:22:30 ID:BmBpFPxg0
***
『お嬢様!』
『妹者なのじゃ』
『鼻緒が……』
『……下駄なんて置いて行ってしまえ』
『ならせめてお乗りください』
『……すまん 迷惑ばかりかけているのじゃ』
『いいえ こうなる道を選んだのは僕です』
『近づいておる……父上、血迷ったか?』
『 え ? 』
『伏せるのじゃモララー!銃じゃ!!』
47
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:26:37 ID:BmBpFPxg0
***
ξ゚⊿゚)ξ「でぃちゃんの親御さんから電話があって、
でぃちゃん お部屋からでてこないんですって」
(・∀ ・)「ひきこもり?」
ξ゚⊿゚)ξ「わからないわ またんきくん、何か知らない?」
(・∀ ・)「…………」
『……でさ、ちょっと思ったんだけど、お前暑いとか言うならカーディガン脱げよ』
『あたし一応女子高生なんだけど、ナチュラルに脱げとか言うなよ』
(・∀ ・)「…………でぃ?」
48
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:28:40 ID:BmBpFPxg0
( ・∀・)恋実れ!のようです Case5: − 了
49
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:30:38 ID:BmBpFPxg0
( ・∀・)恋実れ!のようです
は以上です ありがとうございました
他の先生方が遅れるようなので、先に付録の方を投下してしまいたいと思います
50
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:36:10 ID:BmBpFPxg0
( <●><●>)「もうお盆も明けてしまいました」
( <●><●>)「如何お過ごしでしょうか」
( <●><●>)「週刊少女小説 ちょwwww から少し離れ、この付録でひんやりしていただけたらと思います」
( <●><●>)「…………顔が恐い?」
( <●><●>)「女の子になんてことを言うんですか
( <^><^>) ニコッ
( <●><●>)ワカッテマスの 『ほんとうにあったこわい話』のようです
51
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:40:41 ID:BmBpFPxg0
【夜釣り】
(‘A`)】「はぁ?」
(;^ω^)】『まじでごめんお!!ツンにバレたwwww』
(‘A`)】「あーあーさいですか リア充は彼女優先なんですおねわかります死ね」
(;^ω^)】『そうじゃないおっ!ただ今回は……あーもう!今度学食奢るお!』
(‘A`)】「三回分な んじゃまた明日」
(;^ω^)】『ちょっwwww』
一方的に電話を切った
今日はブーンと遊ぶ予定だったが、どうやらツンに捕まったらしい
寛大な心で許してやることにし、空いた暇で、最近見つけた秘密の釣り場で夜釣りを楽しむ事にした
52
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:45:54 ID:BmBpFPxg0
街から少し離れた所にある橋で、静かでよくつれる穴場
今日も大漁だった
('A`)「…………楽しいけど、やーっぱ寂しいなぁ……」
「あなたも釣りですか?」
独り言を呟いていると、後ろから声をかけられた
振り返るとそこには背の低いサラリーマン風の男性が立っていた
('A`)「えぇ、ここよく釣れるんです」
(-_-)「そうらしいですね」
('A`)「あなたも釣りですか?」
(-_-)「……まぁそうですね」
話していくうちに段々と俺は違和感を感じた
男性はどう見てもスーツ姿、とても釣りを楽しむ格好じゃない
('A`)(竿も持ってないし……こんな所でなにを?)
53
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:50:57 ID:BmBpFPxg0
(-_-)「あなた、つらないんですか…?」
('A`)「え?今釣って……」
男性の声……おかしい、明らかに上から聞こえてきた
(-_-)「つりましょうよ、あなたも・・・」
俺は恐怖に震えながらも上を見上げた
そこには、今話をしていた男性が首を吊っていた
その口元は、笑みの形に歪んでいる
(;'A`)「なっ……!?」
驚愕して腰を抜かす
男が言っていたのは「釣り」ではなく「吊り」だった
54
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 20:56:00 ID:BmBpFPxg0
気が付くと俺の目の前には無数の人影が蠢いていて、「吊ろう・・・一緒に吊ろう・・・」と俺に囁いている
(´・ω・`)「そこまでだ!!」
聞いたことのある声が聞こえた
同じ大学の同じ学部に所属している、寺生まれで霊感の強い津木ショボンさんだ
(;'A`)「ショボンさん!」
影によって今にも吊り上げられそうな俺の前に来ると、
自前の太くて長い竿を振り回し「破ぁ!!」と叫ぶ
すると竿の先が眩く光り、振り回して出てきた白い光が剣のように次々と影を引き裂いてゆく
ある程度影を振り払うと、Tさんの呪文によって周りには光が走り、アッと言う間に影は全滅した
(;'A`)「ショボンさんも夜釣りですか?」
そう尋ねるとショボンさんは立派な竿を俺に向け
(´・ω・`)「ちょっと、釣りたい魚を余所に取られそうになってたからね」
咄嗟に尻を隠した 全身の汗腺がぶわっと開くのを感じる
55
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:00:40 ID:BmBpFPxg0
(´・ω・`)「冗談さ さあ、帰ろう」
帰り道で聞いた話によるとあそこは自殺の名所で首吊りが首吊りを呼ぶ恐怖の橋らしい
(´・ω・`)「すっかり日も上がっちゃったな…… 街でノンケでも釣りに行くか」
そう言って車に飛び乗り爽やかに笑ってみせるショボンさんを見て
寺生まれはスゴイ、俺はいろんな意味で思った
56
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:05:28 ID:BmBpFPxg0
【初めての彼女】
(*'A`) 川д*川
俺にもやっと彼女が出来た
青ざめて「これはないわ……」と呟いたブーンはのしておいた
彼女は色白で背も低く病弱で、学校でもよく虐められていたそうだ
俺はそんな彼女の事を守ってあげたいと思い、告白し、付き合うことになった
付き合いだしてから1ヶ月後、彼女が初めて家に止まりに来た
川*д川「ドクオくんのお部屋って広い……」
('A`)「物がないだけだよ。座って ご飯にしよう」
川д川「あっ!私に作らせて」
('A`)「え?いいの?」
川д川「……料理、少しは出来るから」
(*'A`)「マジか じゃあよろしく頼む」
57
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:10:33 ID:BmBpFPxg0
幸せだった
だが童貞で奥手な俺は、彼女には手を出せないでいた
一緒に食事をし、「おいしいね」などといっぱしのリア充のふりを満喫し、その後二人で酒を飲むことにした
酒の力を借りても彼女にキスすることすら出来ず、それを隠すようにわざと騒ぎながら飲んだ
勿論制限することが出来ず、酷く酔ってそのままソファーで眠ってしまった
夜中に妙な音がしたので目が覚めた
誰かがブツブツ何か言っている
俺は彼女が電話しているのかと隣の部屋を覗き込んだ
するとそこには恐ろしい顔をした彼女が
川*д川「おうち、おうち、あたらしいおうち」
と呟きながら
自分の髪の毛を壁とタンスの隙間や戸棚の下に押し込んでいた
58
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:15:35 ID:BmBpFPxg0
俺はあまりの恐怖に言葉を出すことも出来ずそのまま朝を迎えた
何事も無かったかの様に隣で眠る彼女……俺はどうしていいのか分からず
寺生まれで霊感の強い先輩の津木ショボンさんに電話をし、ワケを話した
黙って俺の話を聞いたショボンさんは
(´・ω・`)「君が女の子を連れ込むからだよ 仕方ないなぁ……よし、待ってろ、すぐ行く」
と言ってくれた
俺は彼女に気付かれないようにこっそりショボンさんを上げる
彼女を見たショボンさんは「これは・・・」と呟き、眉間に皺を寄せた
(´・ω・`)「俺の後ろに下がってろ、絶対に前に来るな」
と言い残し、彼女の前に立った
ショボンさんは何か呪文のようなものを唱え
(´・ω・`)「破ぁ!!」
と叫んだ
59
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:21:04 ID:BmBpFPxg0
すると部屋中に仕組まれていたであろう髪の毛がいっせいに燃え上がり、女の髪の毛までもが燃え上がった
(´・ω・`)「大人しく姿を見せれば痛くはしない」
ショボンさんがそう言うや否や、
長かった彼女の髪の毛がバサリと抜け落ち、それは女の生首になった
(´・ω・`)「いたいけな女の子に取り付いて……この小悪魔め!!」
生首をガシリと掴むショボンさん
次の瞬間生首は断末魔をあげながら燃え上がり、灰になって消えた
しゃがみ込んだショボンさんは無残に抜け降ちた彼女の髪の毛に触れると
(´・ω・`)「お前たち、元の場所に帰りな・・・」
と優しく呟く
するとフワフワと浮かび上がった髪の毛は彼女の頭に生え移り、元どうりになった
(´>ω・`)「二人に『カミ』のご加護がありますように」
ショボンさんは笑いながらそう言って帰っていった
寺生まれってスゴイ、改めてそう思った
60
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:25:38 ID:BmBpFPxg0
【足長男】
当時俺はバイト先までは車で通ってた
家までの道にトンネルがあるんだけど、
いつものように深夜3時位にそのトンネルを通りがかった
するとトンネルのはじっこを男が歩いてる
('A`)「…………?」
歩行者用の道なんて無いから思いきり車道だし、時間も時間
少しだけ気になった
進行方向は同じだったから、始めはその人の後ろ姿を見ていた
だんだん近付くにつれて、異様な事に気付いた
時期は冬だし外は寒い なのにその人は半そで、短パン。別にランニングしてるようでもなかった
一番気になったのが、その人の足
モデルも真っ青の、明らかにおかしい長さ
61
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:30:39 ID:BmBpFPxg0
(;'A`)(うわー、気味悪い…)
俺はあまり見ないようにしてアクセルを踏み込んだ
で、通りすぎた後にチラっとバックミラー見た
ここからはお約束
( ゚д゚)
( ゚д゚ )
も の す ご い 勢 い で 走 っ て 追 い か け て き て た
62
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:36:04 ID:BmBpFPxg0
目は今にも飛び出すんじゃないかって位ひん剥いて、狂ったように腕を振っている
しかもバックミラーでカオが見えるくらいだから、すぐそこまで迫ってる
俺は気が動転して、めちゃめちゃなスピードで飛ばして逃げた
しばらく走るとどうやら振り切ったっぽい
家も近くなってきて、だんだん落ち着いてきた
疲れてたし見間違いだろうと
次の角を曲がると家…だったんだが
その角を曲がった瞬間信じられないものを見た
( ゚д゚)
門の前にあの男がいる
俺は車だし自分家に帰るには当然最短ルートを通ってる
俺より先に家に着くなんてありえない。第一なんで俺の家知ってるんだよこえーよ
怖くなった俺は朝まででコンビニに居ようと思った
でもUターンするには道も狭いし、逆に気付かれると思い
家を通り過ぎてコンビニに行こうとした
それがいけなかった
63
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:40:50 ID:BmBpFPxg0
ちょうど男の前(実際には足しか見えなかったが)
を通り過ぎようとした時だった
「みつけた」と言う声がした
( ゚д゚ )
フロントガラスには男のカオがあった
深夜で街灯の明かりだけなのに男のカオはハッキリ見えた
男はニヤリと笑い、再びこういった
( ゚д゚ )「みつけた」
男のカオはフロントガラスをすり抜けて俺に近づいてくる
(;'A`)「うわあっあああああああああっ!!」
64
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:46:22 ID:BmBpFPxg0
「そこまでだ」
聞いたことのある声、寺生まれで霊感の強い津木ショボンさんだ
ショボンさんは俺の車の助手席に乗り込むと、男のカオに両手を突き出し
(´・ω・`)「破ぁ!!」
と叫んだ
するとショボンさんの両手から青白い光弾が飛びだし、男を包み込んだ
男はみるみるやせ細り、やがて消えていった
(;'A`)「なんでここに?」
(´・ω・`)「コンビニ行くのにアシが必要でな、さあ頼む」
そう呟いて片手でタバコに火をつけるショボンさん
寺生まれってスゲェ……その時改めてそう思った
65
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:50:38 ID:BmBpFPxg0
【白い顔】
子どもの頃、僕は2階建ての借家にすんでいた
母親も仕事をしていたので、学校から帰っても自分一人のことが多かった
ある日、夕方遅く学校から帰ってくると、家の中が暗い
('A`)「カーチャン?」
呼びかけると、2階からか小さな声で「はあ〜い」と応える声がする
もういっかい呼ぶとまた「はあ〜い」
自分を呼んでいるような気がして、2階へあがる
階段をあがったところでまた母を呼ぶと、奥の部屋から
「はあ〜い」と声がする
奇妙な胸騒ぎと、一刻も母に会いたいのとで、奥の部屋へゆっくりと近づいていく
66
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 21:55:49 ID:BmBpFPxg0
そのとき、下で玄関を開ける音がする
J( 'ー`)し「ただいまー あーいっぱい買って疲れちゃったよ……」
(;'A`)「……えっ?」
母親があわただしく買い物袋をさげて帰ってきた
J( ‘-`)し「ドクオ、帰ってる?」
明るい声で僕を呼んでいる
僕はすっかり元気を取り戻して、階段を駆け下りていく
そのとき、ふと奥の部屋に目をやる
奥の部屋のドアがキキキとわずかに動いた
僕は一瞬、ドアのすきまに奇妙なものを見た
67
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 22:00:41 ID:BmBpFPxg0
ドア||゚д゚ )
こっちを見ている白い人間の顔だった
(;'A`)「ひっ」
「動くな!!!」
颯爽と謎の人物が白い人間と私の間に躍り出た
その人は何やらお経・・・もしくは呪文のようなものを唱え、最後に「破ぁ!!」と叫んだ
すると白い人間はドアもろとも粉々になって消滅した
(;'A`)「ドア!!」
僕は恐怖におののきながらもその砕けた様子が硝子細工のように感じられ、
子供心ながらにどきどきしたのであった
68
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 22:06:37 ID:BmBpFPxg0
(´・ω・`)「危なかったな……まさかこんな家に隠れていたとは」
その人は自分のことをショボンと名乗り、
寺育ちのせいで嫌々ながらもこのようなお払いじみたことをしているのだいう
寺生まれってスゴイ、そう思った
69
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 22:12:09 ID:BmBpFPxg0
( <●><●>)「すごいですね 寺生まれのショボンさん」
( <●><●>)「私も祓われてしまいそうです」
( <●><●>)「え?」
( <●><●>)「私は人間じゃなかったのかって?今更ですね」
( <●><●>)「早く気付いてくださいよ 私、ずっとあなたの後ろに立っているのに」
( <●><●>)ワカッテマスの 『ほんとうにあったこわい話』のようです 終
70
:
◆zynqho4iRI
:2011/08/27(土) 22:13:15 ID:BmBpFPxg0
付録は以上です
それでは次の先生 よろしくお願いします
71
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:19:20 ID:8W/SGDvkO
犯罪ですよモララーさん
しかしそれが良い
君とワルツをのようです投下します
72
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:21:01 ID:8W/SGDvkO
鏡の前で白粉を塗り、頬と唇に紅をひく。
結った髪とドレスを改めて直し、鏡の向こうへ笑顔を向ける。
ζ(゚ー゚*ζ「出番よ、デレ」
今夜も、彼だけの為に歌を。
君とワルツをのようです 後編
73
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:22:18 ID:8W/SGDvkO
小さな舞台の上に立ち、前を見れば直ぐに彼を見つける。
カウンター席の出口から一番近い場所。
そこが彼の定位置だ。
そっと膝を折り、笑顔と共に礼をする。
彼が見てくれている。
聴いてくれる。
それだけで胸が温かく満たされていく。
ζ(゚ー゚*ζ
_
( ゚∀゚) コク
目線をやるとジョルジュさんが頷いて一つ目の音をくれる。
連なる流れは心を澄ませる素敵な音。
ジョルジュさんのピアノはいつも、私から一番良い音を引っ張り出してくれる。
けれど、足りない。
ζ( − ;ζ
私が足りない。
もっと、もっと良い歌を。
綺麗な声で、耳から全身を染み渡る様に侵す歌を。
彼の為に私は歌いたい。
彼の心に留まれるなら、この身全て音になってしまえばいい。
74
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:23:27 ID:8W/SGDvkO
( "ゞ)
私が歌い終わると同時に、彼は残りのお酒を煽って席を立つ。
あの日の唯一の例外を除いて、いつもそう。
デルタさんには娼婦としての私はあまり見られたくなかったから、有り難かった。
彼の中でだけは歌手で居たかった。
二度目の舞台は真っ赤なドレスで。
男達の財布の紐を緩めさせる為、歌は二の次。
ただ淫らに身体を見せる。
(,,゚Д゚)「100」
( ´∀`)「145」
('A`)「150」
( ・∀・)「163」
目の前で私の値段を叫ぶ男達。
汚い生き物。
その汚い生き物に好きにされる汚い私。
75
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:24:09 ID:8W/SGDvkO
(* ゚ω゚)「でゅふ、でゅふふ、デレちゅ、デレちゃんかわいいおかわいいお」
店の裏にある小さな小屋。
足を開き、はしたなく声を上げる為にそこへ男と連れ添って行く。
この間デルタさんに着いていったのは財布ごとという代金の高さにだ。
いきなりの事に呆気に取られていたのもあるけれど、金額に見合った事はしなければという変な義務感もあった。
(* ゚ω゚)「ちゃあんと気持ち良くしてあげるお、ふひ」
太った男にのしかかられても笑う。
頬を唇を、体中あちこち探られて舐められても笑う。
娼婦だから。
76
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:24:55 ID:8W/SGDvkO
同じ事を何度も繰り返す日々。
生きている意味を見失いそうな毎日にデルタさんが意味をくれた。
幸せではないけれど、以前より不幸ではなくなった。
デルタさん。
私の恩人、大切な人。
デルタさんが居てくれるからまだ笑える。
デルタさんデルタさんデルタさん。
なのに
ζ(゚ー゚;ζ「え」
いつもの場所にデルタさんが居ない。
別の席かと見回してみてもやっぱり居ない。
77
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:26:01 ID:8W/SGDvkO
ζ(゚ー゚;ζ「(どうかしたのかな)」
風邪でもひいたのだろうか。
心配だが、歌わない訳にはいかない。
ピアニストの叩く鍵盤が私の声を要求する。
どうせ誰も本気で聞いてはいないのに。
ζ(- -*ζ「(でもきっと、明日は)」
そう思って歌う。
だからこれは明日の為の練習だと。
まさかその練習が、何日も、二週間も続くなんて思ってもいなかった。
78
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:26:57 ID:8W/SGDvkO
ζ( − ζ「……」
デルタさんが店を訪れなくなってから二週間。
ずっと、娼婦としてしか生きていない。
口を開いてお腹を使って息を吐き出せば音は出るけれど、そこには何も無い。
机を叩いて出す音と同じ、からっぽだ。
心の無い歌なんて死んでいるのと同じ。
ではそれを歌う私も死んでいる?
ζ( − ;ζ「っ」
ぬるぬると舌が首筋を這う。
何でもない事だと諦めをつけたはずなのに、最近また気持ち悪さを感じるようになった。
もうそれは堪え難い程に。
79
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:27:54 ID:8W/SGDvkO
ζ( − ;ζ「……だ」
(´・ω・`)「んん?」
ζ( − ;ζ「やだ、ぁ」
汚い。
のしかかる男の触れた所から体が腐敗していくようだった。
僅かな歌い手としての尊厳も根こそぎ腐らされていく。
それではデルタさんがまた来てくれた時に、私は彼の前で歌えなくなってしまう。
(´゚ω゚`)「ふざけるな」
頬をパン、と男がはたいた。
(´゚ω゚`)「俺は金払ってんだよ。だからてめーは股を開く、そうだろ?」
ζ(;−; ζ「う、うぅ」
もう私は、薄汚い娼婦としてしか彼に会えないのだろうか。
それとも、私はこんな薄汚い娼婦でしかないと彼は気付いたのだろうか。
だから、娼婦の歌になんて価値は無いと会いに来てくれないのだろうか。
そんなの、死んだ方がマシだ。
男が出て行った後、一人で汚れたシーツの上で泣いた。
80
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:29:04 ID:8W/SGDvkO
─────
デルタさんが来なくなって一年が経った。
ジョルジュさんに聞いてみても首を振るばかり。
ジョルジュさんも彼とは会っていないらしい、それどころか行方も知れず。
心配だけれどももう諦めてもいた。
私はもう見限られたんだ。
だからもうデルタさんは来ない。
来ない。
期待する事にも疲れてしまった。
_
( ゚∀゚)「デレちゃん……」
ジョルジュさんが私を心配そうな目で見ている。
81
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:31:02 ID:8W/SGDvkO
あれから私は歌う事を辞めてしまった。
今では閉店間際に一度、客を引く為に舞台に立つだけ。
歌うのを辞めると言った時ジョルジュさんは必死に止めてくれたけど、もう無理だった。
_
(; ゚∀゚)『歌を辞めるなんて勿体ないよ。デレちゃん本当に良い声してるんだから』
ジョルジュさんも、きっと私を歌い手として見てくれていたのだと思う。
それでも、それに気付く前に私は、デルタさんの為に歌うと決めてしまったから。
ζ( − ζ『ごめんなさい』
悲しそうに首を振るジョルジュさんに申し訳ないと思いながら、けれど貴方も私を買ったでしょうと思う。
デルタさんでなければ意味が無い。
82
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:32:07 ID:8W/SGDvkO
ζ( − ζ「行きましょう」
椅子から立ち上がり、緋色のドレスの裾をつまんで舞台に進み出る。
後から追ってきたジョルジュさんがピアノの前に座ったのを感じて礼をして。
顔を上げるとデルタさんが居た。
ζ(゚−゚;ζ「(えっ、えっ?)」
( "ゞ)
いつもの席でお酒を片手に私を見ている。
真っ直ぐな目で娼婦の私を見ている。
会えた事が嬉しくて、けれどこんな姿を見られたくはなくて、泣きたくて。
歌えない。
私はもう歌えないのに。
どうして今になって。
83
:
29日・30日「納涼夏祭り」
:2011/08/27(土) 22:32:47 ID:BmBpFPxg0
ショボンぇ……
84
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:34:58 ID:8W/SGDvkO
ζ(;−; ζ「うっ、うう……」
色んな事が頭を巡って気づけば私は涙を流していた。
デルタさんが目を見開いているのが見える。
店内はざわつき始めて、後ろからはジョルジュさんが椅子から立ち上がった音がする。
_
(; ゚∀゚)「デレちゃんどした? だいじょ……」
_
(# ゚∀゚)「ってこの馬鹿デルタぁっ!」
(; "ゞ)そ
デルタさんがびくりと跳ねる。
85
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:35:47 ID:8W/SGDvkO
_
(# ゚∀゚)「てめぇ今まで何処に居やがった! 俺とデレちゃんがどんだけ心配したと!」
(; "ゞ)「し、仕事でちょっと遠出を」
_
(# ゚∀゚)「なら何で手紙の一通も寄越さねぇんだ! 馬鹿か!」
(; "ゞ)「……思い付かなかった」
_
(# ゚∀゚)「死ね!」
ジョルジュさんが飛び掛かり二人で取っ組み合いの喧嘩が始まる。
それを合図に、呆気に取られていた客達が騒ぎはじめる。
(,,゚Д゚)「いけ! そこだジョルジュ!」
( ´_ゝ`)「俺あっちの細っこいのに一杯賭けるわ」
(´<_` )「大穴狙いかよ。俺はやっぱジョルジュかな」
(* ФωФ)「喧嘩は芸術家の華であるな。はっはっは」
マスターがやたらと楽しそうだ。
誰も止める気配が無い。
86
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:36:31 ID:8W/SGDvkO
ζ(゚ー゚;ζ「(どうしよう……)」
涙はもう引っ込んでしまった。
目の前の事を止めなければと思うのだけれど、どうすれば良いのか解らない。
ζ(゚ー゚;ζ「(どうしよう……)」
(´・ω・`)「デレちゃんデレちゃん」
ζ(゚ー゚;ζ「きゃっ」
気づけばいつかの客が手を掴んでいた。
(´^ω^`)「これ暫く終わらなさそうだし二人で良い事しよ? ね? お金もちゃんと出すからさ」
ζ(゚ー゚;ζ「や、やだ離して!」
(´^ω^`)「そんな連れない事言うなよ。この間も良くしてやっ(# "ゞ)「彼女に触るな!」痛っ」
デルタさんの投げた靴が当たって男の手が私から離れた。
男の怒りがデルタさんに向かう。
87
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:40:24 ID:8W/SGDvkO
(´゚ω゚`)「何しやがるこの野郎!」
(# "ゞ)「薄汚い手で彼女に触るな」
(´゚ω゚`)「何言ってやがる。この女は娼婦だぞ? こいつの方がよっぽど薄汚い」
(# "ゞ)「黙れ。彼女は娼婦なんかじゃない、歌手だ」
床から起き上がったデルタさんが男と私の間に立つ。
差し出された紙を受け取ると詩が書いてあった。
( "ゞ)「貴女に捧げる詩が、やっと出来たんです。貴女の歌に対する返歌で」
ζ(゚ー゚*ζ「私に」
88
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:41:26 ID:8W/SGDvkO
こころ酔わせる 天使よ
そばにおいで 恋をはじめよう
ζ(゚ー゚*ζ「これ……」
(//ゞ)「……」
デルタさんは顔を真っ赤にして逸らしている。
もしかして、そういう事なのだろうか。
(´゚ω゚`)「おいてめぇらふざけんな俺を無視してんじゃ( ФωФ)「おぬしは黙っとれ」ぐふっ」
身も心も きみにうばわれ
恋に燃える きみのそのくちびる
あおいひとみに やどるまごころ
抱きしめたい やさしいきみを
愛しあおう 燃え尽きるまで
見続けよう ふたりの恋の夢
89
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:43:19 ID:8W/SGDvkO
( "ゞ)「……少ないですが貴女が歌だけを歌っていけるだけの安定した収入と、幾らかの貯えは出来ました。一晩だけでなく貴女の一生を私にくれませんか」
( "ゞ)「勿論、貴女さえよければなんですが」
デルタさんがその言葉を言い終わる前に彼に抱き着いた。
勢い余って押し倒してしまったけど。
(; "ゞ)「ちょ、デ、デレさん!」
ζ( − *ζ「〜〜っ」
今度は嬉しくて涙が止まらない。
ただひたすらデルタさんにしがみついて、これは嘘じゃないんだと確かめたかった。
言いたい事が沢山あったはずなのに、溢れる言葉は一つだけで。
ζ(;−;*ζ「好っ、好き、ですデル、タさんがっ 好き、もう居なくならない、で、ふぇ」
(; "ゞ)「……」
ζ(;−;*ζ「デルタさん、デルタさんっ」
暫く固まっていたデルタさんも、そっと抱き返して背中を撫でてくれた。
地獄の様な日々から一気に天国へ上ってしまった。
ああ、なんて、なんて嘘みたいな幸せ。
90
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:45:23 ID:8W/SGDvkO
_
( ゚∀゚)「ふひー、やーっとどーにかなったか」
(* ФωФ)「ふっふっふ。これだから店をやめられんのだ。祝いに何か弾け、ジョルジュ」
_
( ゚∀゚)「あいよー」
( ;∀;)「俺だってデレちゃん狙ってたのに! 狙ってたのに!」
(,,゚Д゚)「諦めろ。奢ってやる」
( ´∀`)「詩家と歌手にして娼婦の恋。良いアイディアが浮かびそうモナ……」
喧騒の中抱き合う二人。
その側でスローワルツが流れはじめる。
始まりで終わりで、また始まるワルツ。
ゆったり流れる曲に任せて、柔らかく、甘く。
君と二人、いつまでもワルツを。
君とワルツをのようです 了
91
:
◆Pi48IiAbFc
:2011/08/27(土) 22:48:18 ID:8W/SGDvkO
投下終了です
次の先生wktk
92
:
29日・30日「納涼夏祭り」
:2011/08/27(土) 22:50:47 ID:BmBpFPxg0
乙です!
次の先生は……深夜でしょうか
93
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:52:03 ID:vDBxXU.kO
深夜……?
うふふ……川面に朝焼けが煌めいてる……うふふ……うふふ……眠いわ……ふふ……ふひひ……
長らくお待たせしました……花おまちゃんです。
相変わらず阿呆ほど長いです。さっさと終わらせます……そして仮眠取ってまた仕事や……ぐひひ……
退魔師稼業読みに行きたいです。元ネタ終わって寂しいです。
孔雀王に関する思い出は、一冊飛ばしたらあんなに綺麗な目をしていた黄さんがすっげえ顔色悪くなってふんぞり返ってて何事かと焦った事が、一番印象的です。
どうでもいいですね。
94
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:53:08 ID:vDBxXU.kO
前回までのおさらい
なんか不穏な空気
从 ゚∀从花盛りのおまいらへ、のようです
*第四話*
『好き? 嫌い? 一緒に居てよ、王子様!』
95
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:54:20 ID:vDBxXU.kO
从;゚∀从
ドクオが泣き叫びながら体育館に飛び込んできて十数分……未だに校長の話は続いている。
いやあたしが驚愕してんのは校長の話の長さにじゃねーよ?
ドクオのことさ。
あたしと別れてからの間に、いったい何があったのか……
長岡はちゃんと伝言を伝えてくれたのか……?
くそっ、考えてるだけじゃらちがあかねぇ。
集会が終わったらソッコーでドクオに話を……
( ´W`)「変質者には、十分注意するように。
……えー、はい、ではこれで、私の話、ひいては全校集会を終了します」
从 ゚∀从「!」
来た!
ヤットオワタ!! シメテ8ニンモノセイトガヒンケツデタオレタノハワカッテマス
λ...λλ... ゾロゾロ……
(;A`)「……」
从;゚∀从ノシ「おい! ドク……」
(,,゚Д゚)「教室に帰ったら第二次お友だち作成タイムでもやってろ。
鬱田はちょっと残れ」
从;゚∀从ノ「えっ……」
(;A`)「……はい」
96
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:55:20 ID:vDBxXU.kO
从;゚∀从
くそっギコ先生に捕まっちまったか……
仕方ねえ、先に長岡の奴に話を聞こう。
从 ゚∀从「長岡……長岡……」キョロキョロ
三三三三( ゚∀゚) ピュー
从 ゚∀从ノ「長岡! ちょっといいか」
( ゚∀゚)そ キキィ
( ゚∀゚)「わりぃな高岡、後にしてくれ!」
从;゚∀从そ 三三( ゚∀゚) ピュー
从;゚∀从「あっちょっ! そんな慌ててどうしたんだよ」
三三三三( ;゚∀゚)「うんこだよ! 漏れそうなんだッつの!! じゃあな!」ピュー
从;゚∀从「あ……それは失礼しました」
( <●><●>)「あの男……全校生徒の前で堂々と学校うんこをカミングアウトするとは……」
( ^ω^)「今年の一年は個性派揃いおね……大荒れの予感がするお」
97
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:56:15 ID:vDBxXU.kO
(,,゚Д゚)「鬱田、今朝はどうしたんだ」
('A`)「寝坊したんです。本当にすいませんでした……」
(,,゚Д゚)「そうじゃなくってなぁ、入ってきたときパニクッてたろ?
あれは何があったんだ」
('A`)「あ……その……えっと……誰もいなくて、探し回ってパニックに……なってたみたいで……」
(,,゚Д゚)「……俺黒板に移動先書いてなかったか?」
(;'A`)「えっ……? えっと……無かった、と……思います、けど、だけど、
その、俺が見てなかっただけ、かも、えっと、み、見つけられませんでした……」
(,,゚Д゚)「そうか。まあ俺が書いたと勘違いしてるだけかもしれんしな。
お互い、勘違いで失敗しないよう注意しような」
(;A`)「すいませんでした……」
(,,゚Д゚)「失敗は誰にでもあるからな。次からは、な」
(;A`)「はひ……」グスッ
98
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:57:00 ID:vDBxXU.kO
(,,゚Д゚)「……鬱田お前昨日寮でもトラブルになったんだって?」
(;A`) ビクッ
(,,゚Д゚)「入学初日で二回も事件起こす生徒なんて久しぶりだって職員室で話題になったよ。
先生たちの間じゃお前結構有名人だぞ」
(;A;)「(恥ずかしい、しにたい)」
(,,゚Д゚)「……ギコ先生は、お前は好き好んでトラブルを起こすような問題児じゃないと思ってるがな?
教師の中にはお前を愉快犯の不良だと思って問題視してる奴もいる。
今日の件といい、ちょっとやんちゃが過ぎるってな」
(;A;)「お、俺……すいませんでした。ほんと、すいません」
(,,゚Д゚)「わざとじゃないにしろ、当分は極力目立たないように慎重に行動しなさい。
困ったことがあったら、パニックになる前に俺を思い出せ。
休み時間はいつも職員室にいるからな」
(;A;)「ご迷惑をおかけします。すいません、ごめんなさい……気を付けます……」
99
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:57:45 ID:vDBxXU.kO
(,,゚Д゚)「友達もできたろ? 俺より友達の方が近いんだし、そいつらも頼れよ」
(;A;)「わかりました……ほんとすいませんでした」
(,,゚Д゚)「ん、もう行っていいぞ。
ああ、それと、教室にこれを持っていってくれ」
(,,゚Д゚)つ[黒板消し]
(;A;)「黒板消し……」
(,,゚Д゚)「あー、実は備品管理のミスで、うちのクラスの分だけ黒板消しが足りなくてな。
やっと補充できたのか、新しいのをさっき渡されたんだ。
昨日一日、初日なのに黒板使えなかったのは辛かったぞー……」
(;A;)「……」グスッ
(,,゚Д゚)「ホラシャキッとして早く行け。教室間違えたりするなよー?」
100
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:58:26 ID:vDBxXU.kO
(,,゚Д゚)「友達もできたろ? 俺より友達の方が近いんだし、そいつらも頼れよ」
(;A;)「わかりました……ほんとすいませんでした」
(,,゚Д゚)「ん、もう行っていいぞ。
ああ、それと、教室にこれを持っていってくれ」
(,,゚Д゚)つ[黒板消し]
(;A;)「黒板消し……」
(,,゚Д゚)「あー、実は備品管理のミスで、うちのクラスの分だけ黒板消しが足りなくてな。
やっと補充できたのか、新しいのをさっき渡されたんだ。
昨日一日、初日なのに黒板使えなかったのは辛かったぞー……」
(;A;)「……」グスッ
(,,゚Д゚)「ホラシャキッとして早く行け。教室間違えたりするなよー?」
101
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 07:59:11 ID:vDBxXU.kO
―――学校・廊下
(;A;)「ひっ……ぐすっ……うう……ううう……」ポロポロ
(;A;)「わた……し……問題ばっか……起こして……」ポロポロ
(;A;)「できそこない……普通にできることが出来ない……だめ人間……」ポロポロ
从#゚∀从「ギコ先にそんなこと言われたのか」
(;A;)そ「た、高岡、くん」
从#゚∀从「許せねえ、そんな人間性を根本から否定するようなクズ、許しがてえ
ちょっくら職員室に殴り込みに行ってくるわ」
(;;A;)「ち、ちがうちがうちがう! 今のは自虐だよ! ギコ先生はそんなこと言ってないよ!」
从 ゚∀从「(三つ目に見える)」
102
:
◆9KrP3RFuVo
:2011/08/28(日) 08:00:49 ID:vDBxXU.kO
从 ゚∀从「……なんだ自虐か。いや自虐か、じゃねえな。自虐なんてすんなよ。
もっと自分を愛そうぜ。レッツ覚醒ナルシズム。」
(;A`)「……ごめんね、鬱陶しいよね。もう言わない」
从 ゚∀从「鬱陶しいとかじゃないけど、ドクオがそんなことばっか言ってると悲しいんだぜ」
('A`)「優しいね高岡くん……ごめんね」
从 ゚∀从「ごめんしなーーい。で? どうしたんだよさっきは」
('A`)「実は……」カクカクシカジカ
从;゚∀从「はぁ!? じゃあ長岡の奴、ガン垂れてシカト決め込んでバックれたのかよ!? 意味わかんねえ!」
('A`)「(私は高岡くんの言ってる意味がわからないよ……)」
从#゚∀从「……のヤロー、信用したのが間違いだった。あとで締め上げてやる……」
(;'A`)「ぼ、暴力はだめだよ。それに、私にも何か悪いところがあったのかもしれないし……」
从 ゚∀从「ドクオが悪いことしてるわけねーじゃん。もっと胸張ろうぜ! 張るほど胸無いけど!!」
ウワアアアン
ポカポカ
(>*;A;)/从;×∀从「イテテ、暴力はだめだよ!」
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板