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19
:
チチウイッカプイ
:2017/06/23(金) 02:32:36
大佐は蒼白となり、声を失った。反対に、博士の顔は興奮を隠さず、みるみる紅潮していく。
「このことはまだ私と数名の側近しか知りません。これはチャンスですよ、大佐。ポプタコルパの体内から記念碑石を取り出し、我々の技術と融合させれば飛躍的な進歩が」
「ま、まて。閣下の訃報の次にいうことがそれなのか」
「あの族長は確かに善人でしたが、せっかく姿を現した賢者の石を、迷信に囚われて飲み込んでしまったのは唯一にして最大の悪事であったといえます」
「そうじゃない、まずもって、チチウイッカプイの人々にどうやって閣下の死を伝えればいいんだ。西方の最高の医療で治癒してみせるといって、妃や王子まで寝室から締め出したのはお前だぞ」
「え?そんなこと、腹をかっさばいて石を取り出した後に、アクチュエーターを詰め込んで生きているように操ればいいんですよ。人は他者に認識されてはじめて死ぬのですから、彼の生物学的な死を完全に隠蔽すれば問題ありません。それで、ポプタコルパ・死体サイボーグ化の事後承諾を戴きに参りました」
「なんてこった!」
ドアを叩く音がする。
「カール!お前起きて・・・」
「とーさん、こえが大きくて起きちゃった・・・あ、サッカーのおじちゃん、こんにちは」
「カールよ、一体どこから聞いていた?」
「なんてこったってとこ」
カールはチチウイッカプイの王族の子だった。4年前、生まれてすぐにポプタコルパによって殺害命令が出た時、ブラウン大佐が独断で匿ってから、養子のようになっていた。
「カール君、おじちゃんはサッカーじゃなくてサアカって言うんだ、そろそろ覚えようね」
「博士、帝国は斯くの如き形態での極東介入を希望しないだろう。子童の命運を遊戯の円盤に賭する魂胆か」
「大佐、故国の情勢は最早当地と無縁です。華胥の国に遊ぶ時節は終焉に着到したのです」
「またむずかしい話してる・・・」
「何も心配しなくていいんだよ。ほら、父さんと一緒に寝よう。博士、そちらはもう君の好きなようにしろ」
「ありがとうございます。それでは私も下がりますよ。戦争のために」
「戦争のために」
「せんそーのために!」
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