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ブバスティ首長国
:2016/06/03(金) 21:06:58
「本当にもの凄かったね、核戦争は。ルーンラント・サフラヴィー・首長国連合が絡み合えば、一歩も引かない核戦争になるだろうと予測していたけれど」
人語を解する猫が首相が読む新聞紙を眺めながらそうのたまう。
緑の宮殿の庭。エレオノーラ・カザンは新聞を丸テーブルに放り、遥か南方の砂漠の彼方を見やる。
プラガヴィア南東部で応酬された核兵器にて、熱線と放射線がなんの制限も無く地上に吹き荒れ、死と悲哀と絶望が支配する地獄絵図が広がっている。
ブバスティは戦災者救済の基金を設立したが、戦争は未だ断続的に続いており、事業の行く末は見えない。
今この瞬間にも犠牲者は天を仰ぎ、苦しみぬいてそして死んでいるのだ。空襲のサイレンを聞きながら。
「ヤーディシアでもルーンラントとリーゼンバウムで全面戦争が始まったね。流石ナイトメアだ。君がこの世界に来てから人類は破滅の道まっしぐらだよ!」
世界の守護者たる猫はご機嫌だ。
「まるで人事のようね。明日にでもヤーディシアからの核ミサイルがプラガヴィア全土に降り注ぐかもしれないのに」
「僕にとってはね。後はこの世界の人類の問題だ。スクリプトの運用データの収集は、おおむね達成できたしね」
「そう……」
首相が不機嫌そうに席を立つ。実は彼女もまた、目的を達成できていた。人間の絶望、後悔、悲哀のオーラを収集する。それが彼女たちの呪われた習性。
首相はおもむろに手を翳し、プレインズウォークの為に集中する。空間が歪み、そしてゲートを形作る。
「あ……お別れかい?」
「そうね……私の戦場はここじゃない」
もう会うことはないでしょうと彼女は言って、次の世界への一歩を踏み出す。
(にゃーん!)
猫の鳴き声に首相の足が止まる。
(にゃーん!)(にゃーん!)
振り向くと、多数の猫が彼女の足下に寄ってくる。
そうだ、猫の餌の時間だった。
(にゃーん!)(にゃーん!)(にゃーん!)
「……もうしばらくこの世界にいるわ」
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