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避難所

73???:2011/08/03(水) 23:42:35 ID:d.Sq2D9c
>>71
光球の光が消えそこから姿を現したのは、
全長15メートル胴囲1.5メートルほどの紅の鱗を持つ、巨大な大蛇であった。

「女性一人に寄ってたかってなんて、
 あまりにも品の無い教育をお受けになられていらっしゃったのねぇ」

その大蛇の後ろからあの女性の声がした。
先ほどの術は大蛇が防いだのか彼女は無傷で、顔には美貌と悪意のこもった笑みが。

「まあどちらにせよ。
 どこまでもあがいてくださいなぁ、私もそのほうがやりやすいですわぁ」

そして大蛇は突如高スピードで、目の前にいる寺院の守護者達の下へ突進した。
突進によって守護者達の陣形は乱され、大蛇のその牙によって、
大量の者達が切り裂かれ絶命する。

>>72
槍を突き刺し、守護妖怪はしたり顔になる。
しかしその顔も黒蔵が瘴気を出すまでであり、瞬く間にその顔に恐怖が差し込み、
絶望を感じたのか冷や汗を流した。

「おのれ妖怪瘴気なぞ!!
 ・・・?槍が・・・槍が抜けない!!

 ・・・あ、ぐあぁ・・・かはっ」

そしてその焦りのためか黒蔵の体から槍を抜くことができず、
ぐいぐいと何度も引っ張っている間に、その顔に瘴気がかかる。
妖怪は少し苦しそうな乾いた声を出した後、いきなり全身から力が消滅し、
その場で倒れこんだ。

その現場を見ていたほかの守護者達が憤慨し、
報復とばかりに手に槌や刀を持って、黒蔵を向け切りかかった。

74露希:2011/08/03(水) 23:54:37 ID:HbHPxpxY
>>72-73
「黒蔵君っ!!」

自分の後方では黒蔵が襲われていた。だが、前ではたくさんの人や妖怪が殺されていた。

黒蔵はなんとかなる、と信頼して女性に近寄る。

「止めてください、もう殺さないで!!」

75黒蔵→巴津火:2011/08/03(水) 23:59:41 ID:1gBuqmPQ
>>73-74
『何も見えないじゃないか、この役立たずの器めが』

悲鳴が止み、黒蔵を中心とした瘴気の広がりが止まった。

『このボクに妖怪呼ばわりだと?ふん、それは貴様の自己紹介ではないか』

舌打ちと共にばきりと折れる音がして、半獣妖の手の中の槍の重みが一気に軽くなる。
ゆるゆると瘴気は薄らいで行くのに、なぜかそこだけ暗くなったかのように感じられるほど
重苦しくどろりと濃い妖気が地を這った。

『うるさい小物ども。そんなにボクに祟られたいか』

巴津火は忌々しそうに、焼け焦げた左腕から折れた槍を抜くと、その血に濡れた穂先を一閃させた。
飛び散った血飛沫が切りかかる妖怪達にかかると、赤黒い蛇の紋様となって彼らの身体の表面を
ぬらぬらと這いまわり始めた。
その刺青にも似た蛇の紋様は苦痛を与えながら肌を這いまわり、生気や妖気を吸い取って育つ。

『絞め殺すのも面倒だ。そのまま大人しくしていろ。あとでゆっくり食ってやる』

血の蛇紋に、守護妖怪達を締め上げて縛って置くように命じた巴津火は、
辺りを見回すと女と紅色の蛇ににんまりと笑う。

『まさか寺に会いたい相手が居たとはな』

しかしその左腕から滴り落ちる血の量は、巴津火にもあまり時間が無い事を示していた。

76???:2011/08/04(木) 00:08:43 ID:d.Sq2D9c
>>74
目の前で紅の大蛇によって行われている殺戮を、
さもそれが喜劇であるかのように、くすくすと静かな音を立てて笑う女性。
すると、彼女の後方から聞こえてきた必死な訴え。

「止めてください、かしらぁ?
 それはわたくしにおっしゃるのではなく、
 今あそこでお戯れになっている、あの殿方たちに言っていただきたいですわぁ。
 だって、大人しくここにある物を破壊させてもらえれば、
 わたくしあんな木っ端になんて興味ありませんものぉ?」

ゆっくりと金の映える髪をなびかせ、振り向く。
しかし露希の答えに、否、と答えるような悪意のこもり切った笑みを浮かべ、
露希へと邪の妖気を放った。

>>75
勇ましく巴津火に襲い掛かったものの、
自力の違いによっていとも容易く彼の術を食らってしまった守護者達。

彼らはその場で倒れこみ、腹のそこからなんとかひねりだしたような、
乾いた呻きを上げ、もだえ苦しんでいた。

「あらぁ?
 貴方はもしかして、あの八岐大蛇かしらぁ?」

露希へと話しかけている間に巴津火の妖気を感じ、
くるっと体を向けて美しく微笑んだ。
それにともなって今まで暴れていた紅の大蛇も、
巴津火の方へ首だけをむき、舌を出して息を漏らすような音を立てている。

77露希:2011/08/04(木) 00:22:04 ID:HbHPxpxY
>>75-76
「・・・そう、貴女はそんな妖怪なんですね。解りました。」

腰に挿してある、白い剣を抜くと、一瞬にして邪の妖気を振り払った。

剣から滲み出るそれは、邪とは全く逆の質の妖気。

「・・・・・・巴津火君か。」

もしかしたら、巴津火がこの女性を止めてくれるかも知れない、と少し期待する。

78巴津火:2011/08/04(木) 00:26:48 ID:1gBuqmPQ
>>76-77
『あの八岐大蛇、がどの八岐大蛇かは知らないが、壊すものがあるならさっさと探せ。
 ボクもそいつが何なのか興味があるしな』

澪のことを思い浮かべつつ、巴津火は女にふてぶてしく笑う。どうやら露希の期待には応えそうもない。
その間にも、血の蛇紋は守護妖怪の生気や妖気を吸い取りながら育ち、頭の数を増やしつつあった。
祟られたものが強大なほどその蛇紋の育ちも早く、一番大きなものの頭と尾は既に三つに増えている。
その頭が八つになったとき、祟られた者は一体どうなるのだろうか。

『なんだ、ちっちゃくて可愛いなお前。それに、いい色だ』

そして紅色の蛇のほうに巴津火は無邪気に笑いかけた。折角目の前には美女がいるのに。
しかし当の巴津火も今はまだちっちゃく、露希に言わせれば多分、可愛い部類なのかもしれない。
……でも育ったらいずれは山八つ分サイズだけどなっ。

79???:2011/08/04(木) 00:40:08 ID:d.Sq2D9c
>>77
決断したように、するりと剣を引き抜いて対峙する露希。
邪を払った彼女に、まあ、と小さく感嘆の声を美麗な唇から漏らし、
にやりと嬉しそうに笑い唇をゆがめた。

「あらぁ貴女、このわたくしと一戦交えるおつもりで?
 お止めにられたほうが得策ですわよぉ?だって

 わたくしは貴女と刃を交えたら、貴女を消すまで止めませんわよぉ?」

そして、そこで思わず足を数歩後ろへ下げてしまうほど、
それほどに恐ろしい邪の妖気を放って露希を圧倒しようとする。

>>78
「ふふ、わたくし、貴方のような物分りのよろしい殿方、
 とても好きですわぁ」

巴津火のせかす言葉に、女性は艶かしく微笑んだ。
紅の大蛇のほうは、目の前にいる格上の存在に少し萎縮し、
先ほどまでの息を漏らす音が少し小さくなっている。

「では、お言葉にあまえさせていただきますわぁ」

その声に伴ってこの寺院の山の底から、
空も震えるかのような地響きが起こり始めた。

「わたくしが破壊するのは一つだけ、ただの仏像ですわぁ」

そして大きな地響きが急に止み、一瞬だけ世界が止まったかのように静かになった。
しかしその直ぐあとにそこらじゅうの地面が醜く隆起しだして、
その中でも特に高く隆起した数個の土の塊から、
先ほどの大蛇より二周りほど大きい大蛇が、15匹以上姿を現した。

80夷磨璃&露希:2011/08/04(木) 00:54:31 ID:HbHPxpxY
>>78-79
「うん、いいよ。貴女様のような邪の塊は、清く、美しくしなくちゃね。」

剣を構えた時だった。
階段を駆け登る音がした。だんだんと近づいて、もうすぐそこに・・・!

「これはなんでござるかっ?・・・蛇が・・・・・・っ!巴津火お兄ちゃんも、露希お姉ちゃんもっ。」

巴津火よりも小さな少年、夷磨璃だった。血を見るなり、嫌悪を示す表情になる。が、どこか嬉しそうな表情が混じっていた。

少年は空に手を挙げて、蒼い妖気を解き放つ。次第に、真っ黒な雲が、山の廻りへと集まってきた。
あろうことか、山周辺だけ気温が低下し、雪がちらついてきた。

蛇、それは変温動物。寒くなったとあらば・・・眠りにつく。夷磨璃は・・・これを狙ったのか?

「夷磨璃君、なんで雪を・・・」
『凍らせて動きを止めるでござる。』

81巴津火:2011/08/04(木) 01:06:44 ID:1gBuqmPQ
>>79-80
『なんだー、ただの仏像か。
 もっとカッコいいロボとか、宇宙戦艦とか、ひみつきちからばばーん!っとでてくるのかと思ったのに』

手振りを交えて描写した巴津火は、ただの仏像にちょっぴりがっかりしているようだ。
紅い蛇さんもそんなお子様邪神を、ちょっと吃驚したように見つめている気もする。
そっちと視線の会ったはつびー、紅蛇の鼻先をナデナデしながら「お前うちにこないかー?」とか
スカウトを始めてしまった。でもそれ喫茶店にも牛神神社にもエライ迷惑だよ!

『なんだこざるじゃないか、こっちの女とも知り合いか?』

露希と夷磨璃の関係は、巴津火は知らない。
そして、気温が下がってくるよりも前に、巴津火は失血で少し寒くなり始めていた。

『糞っ、まだ十分じゃないのに!』

まだ育ちきっていない血の蛇紋のうち一番大きなもの、それでも頭は6つになろうとしているそれを
巴津火は招く。
主の招きに応じて蛇紋は犠牲者からするりと抜け出し、影のように地を這って巴津火に届き、消えた。

『ふん、まずまずの力か。貴様、運がよかったな』

祟りから解放された守護妖怪に、その生気を我が物とした巴津火がにやりと笑う。
その左肘の傷からの出血は止まったが、失われた血液は戻らない。

『こざる、いい加減にしないとボクも怒るぞ』

既に巴津火は鉄火の温度を右手に備えつつある。
折れた槍の柄が燃え落ち、握られている穂先が赤く熱せられ始めた。
その熱で巴津火はもうしばらく寒さには耐えそうである。

82???:2011/08/04(木) 01:20:09 ID:d.Sq2D9c
>>80>>81
「うふふ、貴方にはまだそれの価値を理解するのはお早かったかしらぁ?」

巴津火のブーイングに静かに困ったように笑い、
くるっと寺院本殿へと向き直った女性。
そして彼女は、大きく深呼吸をし始める。するとそれにともなって、
女性の妖気はどんどん、どんどん莫大な物に上昇していく。

今まで彼女の体の奥底に隠されていた、
莫大過ぎる邪の妖気が間欠泉のように溢れ出し、あたりは闇に包まれた。
邪であり蛇の妖気の大洪水の水源である彼女の姿は、
もはや先ほどまで美麗を讃えていた面影は無くなっている。

「さあ、坊や達ぃ。
 あの仏に死の毒牙を食らわせておやりなさいぃ?」

巨大な蛇たちの鼻先を愛おしそうに撫でる彼女の姿、
白く真珠のようであった皮膚には、そこら中に醜く緑の鱗が生え、
その鱗に覆われた顔面に光る目は、鋭くつりあがった蛇のものへと変貌していた。

そして一番嫌がおうにも目を引いてしまうのは、
金の生糸のようであったその髪の一本一本が、威嚇する声を出す蛇へと変わっていることだ。

そう、彼女はかの有名な西洋妖怪メデゥーサ。
かつて神話の時代で英雄によって葬られた、蛇の大妖怪である。

しかしそれとほぼ同時刻に、夷磨璃の降雪だ。
それは絶大な効力をもたらし、
蛇の代表格なメデゥーサの出現によって四方八方からはせ参じた蛇たちは、
冷気によってたまらず冬眠を余儀なくされた。

彼女の呼び出した大蛇たちも動きが通常よりも鈍り、
悔しそうなうめき声をのどからならしている。

「なかなかのやり手ですわねぇ、そこの坊やぁ?」

しかしその頭領であるメデゥーサの目には、
逆に滾るような火炎の怒りが燃え上がった。鋭い眼光が夷磨璃へと向けられる。

「でも、よく貴方達もご存知のアレは今回はやりませんわぁ。
 もともとたいした状況ではありませんし、わたくしの前ではそのような術、
 正真正銘の戯れに過ぎませんしねぇ?」

また悪意の笑顔にもどった彼女は、
動きが鈍った大蛇たちを自分の下に近づけさせ、すべての蛇に妖気を注いだ。

すると今まで緩慢な動きであった大蛇たちが嘘のように、
地響きかと思うほどの声を上げ激しく興奮し始める。
活性された蛇たちの体は、異様な速さで脱皮を繰り返し、
最後にはすべてが全長20m超胴囲3メートル超にもなった。

もはや巨木ほどになった大蛇たちは、
いっせいにその毒牙を、仏像に突き立てるために強く突進する。

83夷磨璃&露希:2011/08/04(木) 01:33:19 ID:HbHPxpxY
>>81-82
「巴津火お兄ちゃん・・・わ、分かった・・・・・・。」

ぱちん、と手を鳴らすと雪は止む。雲は消え去り、と暖かい日差しが差し込んだ。

たくさんの蛇達は仏像へと攻撃を開始し、この場所もかなり危険な常態である。
「・・・たくさんの命・・・守れなかった・・・。」

メデューサに怯える夷磨璃の手を引き、その場から走って逃げた。
結局・・・邪の力を前に、露希は何も出来なかった。

//眠気がそろそろ限界なので、ここで落ちます。

/絡み乙&ありがとうございました!

84巴津火:2011/08/04(木) 01:40:08 ID:1gBuqmPQ
>>82-83
(ええいこざるの奴め、眠いじゃないか)

焼けた穂先程度の小さなものでは、十分に暖を取れない。
生あくびしながら辺りを見回した巴津火は、ずっと大きな金物に目を付けた。

(そうだ、あれを焼こう)

巴津火が向かった先はあの、ターゲットである仏像。
しかしあんなもの焼いて大丈夫なのか?
輻射熱で周囲の蛇さんが元気になるのか、こんがり焼けるか、それは判らない。
また、仏像そのものが溶けたりしたらこの美女の思う壺かもしれない。

しかし寒さで思考が鈍る以前に、そもそも自分勝手の権化である巴津火には
周囲を気遣う意識は欠片もないのだった。
単に、寒ければ暖をとろう、それだけである。

大蛇たちが脱皮を繰り返している間に、巴津火は仏像に右手を当てていた。
じわり、と金属が熱せられ輻射熱が巴津火を暖める。

(あの女、なんで護る者、の真名を持つくせにこれを破壊するつもりなのだろう?)

メドゥーサの名の意味は「守護するもの」、同じ輝く目の女神アテナに醜き姿にされる逸話を
擦り付けられ零落はしたが、その眼力は古くから悪を祓う御守りであり、
今もトルコなどでは御守りとしてその青い目を模したガラス玉が売られている。

しかしこの我侭な幼い邪神はメドゥーサの真名の意味をその本気の姿にうっすら感じたものの、
せいぜいそこまでであった。

(でも壊すなら焼いちゃっても文句ないよなこれ)

巴津火の手元から金属の表面が徐々に色を変えてゆく。
まだ赤くはならないが、フライパンの底程度には熱いだろう。

//露希さん、絡みありがとうございました。

85???:2011/08/04(木) 01:52:22 ID:d.Sq2D9c
>>83>>84
意識が破壊へとむかっている今の彼女では、
状況を少し悪くした元凶の夷磨璃であっても、その退却を気づくことはできない。
今はただひたすらに、破壊によって彼女が得る快感を全身で感じ、
口角を横に切り込まれたように上げていた。

「ふふ、弱すぎますわぁ貴方。
 そのような火ではこの特殊な仏像は、外見は変えられても、
 それの持つ効力までは失わせることはできなくてよぉ?」

するりと仏像に熱を加える巴津火の隣に歩み寄り、
耳元に近いところで艶やかに囁いた。

「これは、この子達の凶悪な毒牙で破壊させていただきますわぁ」

大蛇たちは一斉に、その恐ろしいほどの毒性を持った毒牙を、
守られる者をなくした仏像へと振り下ろした。
鋭い牙は仏像の体に次々に突き刺さり、刺さったところから邪のどこが流れ込む。
そしてその悪によって、ついに仏像の持つ正の決壊の力は消滅した。

86巴津火:2011/08/04(木) 02:00:16 ID:1gBuqmPQ
>>85
『あたり前じゃん。そもそも暖をとるためだけなんだぞ?』

この金物を溶かしてしまったら湯が跳ねて服がこげる、と巴津火は口を尖らせる。
もう十分にこの服はボロボロなのだ。これ以上見苦しくなるのは、巴津火にはちょっぴり我慢ならない。

『あれ、こざるはもう逃げちゃったのか?』

寺の外にひょいと飛び出すと、巴津火は祟られた妖怪たちから蛇紋を集めた。
その後にはその生死すらわからない、干からびた姿の彼らが転がっている。

たっぷりと生気と妖気を蓄えて、打身も焦げた腕も頤の傷もその痛みがだいぶ引いた巴津火は、
メドゥーサに声をかけた。

『あのさっきの赤い可愛いの、ボクにくれないか?』

どうやら巴津火はペットが欲しいようである。

87メデゥーサ:2011/08/04(木) 02:11:35 ID:d.Sq2D9c
>>86
そっけなく答えた巴津火と、
その返答に別段気にした様子の無いメデゥーサの目の前には、
無残にもばらばらに破壊され、なおかつ毒によって黒ずんだ仏像の変わり果てた姿があった。

「あの子はもともと、ここにそぐわない実力でしたわぁ。
 それに撤退と言ってあげたほうが、友人としてはよろしいのでなくて?」

会話し続ける間も力を集める巴津火にメデゥーサは、
その力にどこか物欲しそうな目つきをした気がした。

「あの子、かしらぁ?
 あれでもわたくしの眷属なのですから、わが子のようなものですわぁ
 なので簡単にお渡しできるようなことではありませんねぇ。

 そうですわぁ、でしたらその子と引き換えにやってほしいことがありますのぉ」

そこで人に戻ってもとの美貌を讃えるその顔を、
巴津火の顔近くにぐいっと寄せて言った。

「この言葉を吹聴していただきたいのぉ
 −穂産姉妹は、死によってその身に正義を点す−と」

88巴津火:2011/08/04(木) 02:19:14 ID:1gBuqmPQ
>>87
『赤いの、駄目なの?』

ちょっぴりがっかりする巴津火。しかし、続く台詞に思い直したようだ。

『そっか、お前の子供なのか。
 ううん、もうその赤いのは諦める。お母さんから離しちゃ可愛そうだろ?』

子供みたいなもの、という部分はすっぱりはしょって理解したようだ。
窮奇への思慕が残っている巴津火には、親子といわれてそれ以上無理を通すつもりはないらしく、
美しい顔に、にこにことそう答える巴津火。

『だから吹聴したとしても、あの赤いのは貰えないや』

こういう部分は真に子供らしい。

89メデゥーサ:2011/08/04(木) 02:28:17 ID:d.Sq2D9c
>>88
自身の起こした凄惨な光景。
その中でもむしろ笑ってさえいたこの子供が、
今はそんな比較してしまうとちっぽけに映るかもしれないことに、
これほど優しく微笑んで慮っている。

「ふふふ、貴方は家族思いですのねぇ」

その小さな体に秘めた矛盾を少しおかしく思い、
潤んだ唇に手を当てながら笑った。
こちらのその姿も、この光景の首謀者とは到底思えない物である。

「この子はもらわなくとも、そのことはしっかり吹聴してくださいなぁ?
 ではわたくし用はすんだので、もう逃走させていただきますわぁ

 ごきげんよう?貴方はとても面白い殿方でしたわぁ」

最後にそう言い残し、彼女はゆっくりと門へと向かって歩き始める。
かつかつかつ、とヒールの音を上品に立てながら、
振り向かずに堂々と石段を下って、去っていった。

/僕ももうこれで落ちにさせていただきます
/絡みありがとうございました!!

90巴津火:2011/08/04(木) 02:41:24 ID:1gBuqmPQ
>>89
『なんで逃げなくちゃいけないんだ?』

あの女は何で逃走していったのだろうと不思議に思ったため、
吹聴するべき言葉の意味はあまり良く覚えていない巴津火。
自分もポケットに手を突っ込んで石段を下ろうとして、小さな石英に気づく。

『なんだこれ?大分汚れてるな』

曇った水晶に水の浄化力を込めて、透き通ったものに変えられないか試してみたのだが。

『なんだ、皹はいってんじゃないか。こんなもの見つけてどうするつもりだったんだ?』

つまらなそうにぽい、っと寺の敷地に投げ捨てた水晶が、先ほど壊した仏像とまでは
行かないものの、それなりの正の力を周囲に及ぼしている事には全く無頓着である。
そして最初に瘴気を吸って倒れた半獣の妖怪と、最初に祟りから解放されたもっとも強大である
守護妖怪が倒れたものの中にいないことにも気を止めないまま、寺から出てゆく巴津火であった。

『えーと、穂産姉妹が点す…なんだっけ?』

巴津火はぶつぶつと呟きながら、石段を降りてゆく。
お子様に何か勉強させたら、しく覚えているか確認することも必要なのである。

//お二人とも、絡みどうもありがとうございましたー!

91巴津火:2011/08/04(木) 02:42:36 ID:1gBuqmPQ
//訂正一つ、 しく覚えている→正しく覚えている

92露希「」&零『』:2011/08/04(木) 23:07:25 ID:BQ990e1A
一人の少女が少年に肩を貸し、階段を昇っている。
ここは…袂山である。
前回は七生と会って以来、結構な月日が流れた。
だが、色々なことで来れなかったので、空いた時間を見つけて遊びに来たのだ。

「ほら、もうちょっとだから頑張って。」
『でもなんで急に袂山へ…?』
「七生ちゃんが遊びに来ていいって言ってくれたからね。」

93四十萬陀 七生:2011/08/04(木) 23:15:01 ID:Vd.IXEAk
>>92
二人の少年少女が階段を昇る姿を、遠くの茂みから一匹の犬が覗いていた。
深い蒼色の毛を持った、送り犬の翠狼は、音を立てずにその場から離れる。
それからしばらくもしない内に、階段の上方から少女が顔を出した。

「やっほーじゃん! 露希君、零君!」

揺れる黒髪に、眩しい笑顔が映える。
四十萬陀はその場でぴょん!と跳ねると、階段を十数段飛ばして、二人の元へ飛んだ。
ふわり、と着地する。まるで背中に翼があるようだ。

「お久しぶりじゃん! ……あれ、零君、大丈夫?」

少女に腕を預ける零に、心配げに尋ねる。

94露希「」&零『』:2011/08/04(木) 23:23:18 ID:BQ990e1A
「うん、久しぶりっ!元気そうで何よりだよ。」

そこに飛んできたのは、いつも元気な七生だった。
その笑顔に凄く安心する露希。
一方、兄の方は……

『久しぶりですね。私は大丈夫。』

はぁはぁ、と息を漏らしているがなんとか大丈夫そう。

「そっちは何か変わったこととかある?」

95四十萬陀 七生:2011/08/04(木) 23:31:07 ID:Vd.IXEAk
>>94
「立ち話もなんだし、座って話そうじゃん!
 向こうに良い場所があるじゃん♪」

息を切らしている零に向かって、にこりと微笑む。
階段から道を外れ、森の奥へ向かうようだ。
木々の間から差し込む太陽光は、幻想的な森を作り出していた。
葉を踏む音を立てながら歩いていく。

「えっと、変わったことだっけ?
 ん〜……、あ、犬御が森に戻ってきたことかな?
 しばらく病院お休みするらしいじゃん」

また何か隠してそうなんだよね、と首だけで振り向いて、難しそうな顔をする。

96露希「」&零『』:2011/08/04(木) 23:42:17 ID:BQ990e1A
>>95
「わぁ…袂山ってこんなに奇麗なの?すごーい!!」

自然と光の鮮やかなグラデーションに感動したの露希のテンションは上がっていた。
わくわくした気分で七生についていく。

「犬御君が病院を…。そ、そうなんだ。」
『……(十種神宝を狙いにはまだ来てないのか…。)あ。』どさっ

ずっと歩いてきたこともあり、汗ばんだ手が滑って地面に倒れた。

『柔らかい…』
「うん、分かったから早く行こ?」

と零に手を貸して、再び歩き続ける。

97四十萬陀 七生:2011/08/04(木) 23:52:57 ID:Vd.IXEAk
>>96
「にゃはは、きれいでしょー?」

自分の故郷を褒められて、嬉しそうに笑う。
なんたって、彼女のお気に入りの場所なのだから。
数多くある「お気に入り」の一つだが。

「おろ、大丈夫じゃん?」

どさりと零が地面に倒れた音を聞き、慌てて後ろに駆け寄る。

「露希君も疲れない? まだちょっと距離あるし……
 あ、そうだ。ちょっと待っててじゃん!」

思いついたように言うと、四十萬陀は上空を見上げた。
すうと息を取り入れ、「ピィー!」と高い鳥の声を響かせる。
木霊しながら、森全体に吸い込まれていく声。
するとどこからともなく、がさがさと音を立てて、

「呼んだかい? 七生」

灰色の毛を持った送り狼、和戌(わんこ)が現れた。
のそのそと三人に近付きながら、露希と零の方に視線を向けている。

「呼んだじゃん。えっとね、零君を向こうの切株の所まで運んでほしいんじゃん」
「雑用じゃないか。……まあ、暇だからいいけどね」

98露希「」&零『』:2011/08/05(金) 00:04:05 ID:BQ990e1A
>>97
「うん、ちょっと疲れた…かな?」

零にずっと肩を貸してたこともあり、ちょっぴり疲れが見える様子。
七生に言われた通り待っていると、見慣れぬ顔の送り狼が。

「えっと…初めましてかな?ボクは露希、七生ちゃんの友達だよ。」
『………助かります。(もふもふ…)』

露希は自己紹介と、軽く頭を下げて感謝している。
零に関しては変なことを考えているようだが、ばれないはず…。

99四十萬陀 七生:2011/08/05(金) 00:11:13 ID:Vd.IXEAk
>>98
「知ってるよ、七生から話はよく聞いてる。
 私は和戌。この山の送り狼さ」

和戌は挨拶すると、四十萬陀の方に視線を移した。

「適当に運んじゃっていいのかい?」
「うん、よろしくじゃん」

了解した、というように頷くと、和戌は突然に姿を変えた。
先程の狼の姿から、すっくと二本足で立ち上がる。
そこにはもふもふした毛はなく、胸にサラシを巻いた、橙色の短髪をした女の姿になった。
釣り上がった瞳で零の方を見ると、背中を向けてしゃがみこむ。

「ほら、乗りな坊主。
 ……それとも、この運び方は嫌かい?」

おんぶして運んでいくつもりらしい。
もふもふを期待していた零にとっては残念だろう。

100露希「」&零『』:2011/08/05(金) 00:20:32 ID:BQ990e1A
>>99
「和戌さん…ね、零をよろしくお願いします。」
『……いえ…ありがとうございます…。(…もふもふ……)』

もふもふが無くなったことで、少しテンションダウン。
さらにおんぶと言うこともあり、恥ずかしいのである。

「じゃあボクは七生ちゃんにおんぶして貰おうかなーなんてね♪」

背中からぐいっと抱きしめた ▼
どうやら 七生は 露希のスキンシップグループに 入れられたようだ ▼

101四十萬陀 七生:2011/08/05(金) 00:26:24 ID:Vd.IXEAk
>>100
「よっと」

零を背負って立ち上がる。
一端しょい直すように体を揺らすと、サラシを巻いているというのに胸が揺れた。
見る人が見れば福眼であろう。

「むむむ……」
「?」

格差社会だ、と四十萬陀は自身の微乳を呪いながら和戌を睨む。
彼女は何のことか分かっていない様子だ。
だが露希に背中から抱きしめられ、思わず前屈みになる。

「うにゃ!?」

態勢を立て直し、くすぐったそうに後ろを向く。
なんだか少し照れくさそうだ。

「もーいきなりすぎじゃん露希君ー」

102露希「」&零『』:2011/08/05(金) 00:36:19 ID:BQ990e1A
『あの…重くないですか?…//(胸…)』
「あはは…(胸なんて気にしたことないからなぁ。)
だって可愛いんだもん!」

女性におんぶされるのは初めてであり、
こんなに体を密着させるのも多分初めて。
やはり、零であっても赤面してしまう。

103四十萬陀 七生:2011/08/05(金) 00:39:07 ID:Vd.IXEAk
>>102
「あぁ

104四十萬陀 七生/和戌:2011/08/05(金) 00:44:19 ID:Vd.IXEAk
//>>103ミス

>>102
「あぁ? むしろ軽すぎるよ。もっと食いな坊主」

恐らく和戌なら、東雲でもおんぶできるだろう。
(絶対にしないし絶対にさせてくれないが)
彼女も東雲に続いて、戦闘力が上がってきているのだ。

「にゃはは、ありがとうじゃん。
 でも、露希君のほうが可愛いじゃん」

褒められて照れながら、よたよた歩いていく。
しばらく歩くと、前方に光のよく差し込む開けた所が見えてきた。
そこには切株や、座りやすそうに草の生えた場所がいくつか存在している。

「はい、到着! 袂山の妖怪の憩いの場所ってやつじゃん」

四十萬陀がそう言うと、「着いたよ」といって和戌は零を地面に降ろした。

105露希「」&零『』:2011/08/05(金) 00:52:19 ID:BQ990e1A
>>104
『食べる物はちゃんと食べてますけどね…』

最近はノワール内での生活な為、体はほとんど動かしてない。
和戌とは逆で戦闘力は下がりまくっている。

「暖かそうでいいね。じゃあ、ボクはこの草の上に座ろうかな。」
『和戌さん、ありがとうございました。(次は…もふもふしよう)』

露希は草の上に、零はちょうど良い切り株へと腰を掛けた。

106四十萬陀 七生/和戌:2011/08/05(金) 00:56:43 ID:Vd.IXEAk
>>105
「じゃあ、私は帰るよ」
「あ、待つじゃん和戌! せっかくだし一緒にのんびりするじゃん」
「……別にいいけど」

和戌はちらりと露希たちに目を遣る。
どうやら二人を気遣っているようだ。
仕方ないと溜め息をつくと、和戌はするすると元の姿に戻った。
四十萬陀は切株の上に腰掛けると、和戌はその隣に尻尾を丸めて座った。

「どう? ここ、気持ちいいじゃん?」

どこからか聞こえる鳥のさえずりと川の音。
太陽光も、木の葉が遮っていてちょうどいい暖かさだ。

107零なか:2011/08/05(金) 01:05:40 ID:BQ990e1A
>>106
「うん、凄く良い!!自然の贈り物ってやつかな?」

草の上に寝転んでみると、うとうとしてきてしまいそうなくらい気持ち良い。
こんな大自然の恵みを肌で感じられて満足な様子。

『……和戌さん、すこしだけ触ってもいいでしょうか?』

実はもふもふ大好きな零。
白龍にもふもふしていた回数は露希よりも零の方が多かったり。
すねこすりに出会った時も、もふりまくってたよ。

「送り妖怪って他にもいるんだよね?」

108四十萬陀 七生/和戌:2011/08/05(金) 01:14:43 ID:Vd.IXEAk
>>107
「? いいけど、何でだい?」

触っても楽しい事なんてないだろう、と奇妙そうに零を見る。
四十萬陀は素直に喜んでくれている露希を見て、同じくらい嬉しそうだ。

「うん、私たちの仲間はたくさんいるじゃん。
 犬御や和戌が送り狼で、私が送り雀、あ、夜雀は別名じゃん。
 あとは織理陽狐君が送り狐。多分露希君は会ったことあると思うんだけど、ぜよぜよいってる翠狼が送り犬じゃん」

これらの種類の仲間が他にも大勢いる。
けれど袂山は送り妖怪だけでなく、古くから他の獣妖怪も多数住んでいる場所だ。

「それと、黒龍君にあこがれてた狢奈は送り鼬じゃん」

にこーっと笑いながら四十萬陀がいう。
黒龍たちにあったことを、まだ彼女は知らないのだ。

109零なか:2011/08/05(金) 01:28:46 ID:BQ990e1A
>>108
『ありがとうございます…っ///
その…もふもふだから……////』

撫でてみると、柔らかくて、とても気持ちの良い感触が肌に伝わる。
その時の零は、とても気持ちのよさそうな顔だった。
もしも和戌が何もしなければ、次はふるもっふするかもしれない。

「会ったことあるよ、翠狼君。織理陽狐さんは…確かお願いを叶えてくれる方だよね。
へぇー、いっぱいいるんだね。」

七生の話を楽しそうに聞いていた。
この元気さの秘訣が仲間なのかなぁ、と思ったりもした。
ただ、多ければ多いほど、別れも多くなる。

「あ…うん、狢奈君って言うのか…。」

零には聞こえて無かったようだが、最近やっと落ち着き始めているのだ。
もしも零に<黒龍>の名前を出したらその時は泣き崩れてしまう。

110四十萬陀 七生/和戌:2011/08/05(金) 01:39:01 ID:/AfNAO.Q
>>109
「そうかい?」

自分の毛が柔らかであるため、柔らかだとかは特に感じたことのない和戌は、やはり不思議そうな顔をしていた。
頭や腹を撫でられると微妙そうな顔をしたが、他の部分は特に無抵抗のようだ。

「送り妖怪の絆は特別じゃん。
 血は繋がってなくても、皆家族より強い絆で繋がって繋がってる」

彼女の脳裏をかすめるのは、白い送り鼬の姿だった。
四十萬陀の明るい性格が仲間のおかげ、というのはあながち間違っていないだろう。
天多が死んでからしばらくは無理矢理明く振る舞っていたが、仲間たちが力となり、今となってはこれが四十萬陀の自然体だ。
それは逆にいえば、仲間たちに依存しているともいえるのだが。

「?」

露希の声のトーンが落ちたことに首を傾げる。
聡い彼女は、露希にだけ聞こえるよう声を潜めてそっと尋ねた。

「……何か、あったじゃん?」

111露希「」&零『』:2011/08/05(金) 01:48:08 ID:HbHPxpxY
>>110
『・・・気持ちいいです//』

相変わらずもふもふ中である。

「家族以上の絆、凄く心強いね。」

露希は、天多に会っている。そこまで詳しくは知らないものの、話を聞いた限りでは絆の強さが伺えた。

「・・・黒龍と白龍、死んだの。正式には・・・消えていなくなった。」

先程の笑みは全くなかった。辛さと悲しみの篭っている、無表情だった。

112四十萬陀 七生/和戌:2011/08/05(金) 01:55:55 ID:/AfNAO.Q
>>111
「……飽きないかい?」

ずっと毛ばかり触っていて飽きないのだろうか。
疑問に思った和戌は零に尋ねてみる。
そういえば自分の妹も同じような毛質だし、あまり激しく動き回らないから自分より毛が柔らかいんじゃないだろうか。

「……もう一人くらい、呼んでやろうか?」

和戌妹ならさっきまで一緒にいたし、場所はわかっている。
和戌姉が零に提案している一方、四十萬陀は初めて知った事実に目を見開いていた。

「そんな……」

無表情の露希を見て、胸に込み上げるものを感じる。
二匹と交流こそ多くはなかったものの、露希たちと深い絆を持っていることは知っているのだ。

「……そう、だったじゃん。ごめんじゃん、私……」

知らなかったとはいえ、思い出させるようなことをしてしまったことを謝罪する。

113露希「」&零『』:2011/08/05(金) 02:06:22 ID:HbHPxpxY
>>112
『・・・・・・』ZZZ

余程気持ちよかったのか、それとも単に疲れただけなのか、寝てしまっていた。
その寝顔からは涙が零れていた。

「七生ちゃん、気にしないで?・・・もう大丈夫だから。ボクも七生ちゃんから元気貰えたから。」

そう言うと、寝ている零に声をかける。

「そろそろ零も行かなきゃ。ノワールの皆様が心配するよ。」

『ん?・・・あ・・・和戌さん、ごめんなさい・・・』

114四十萬陀 七生/和戌:2011/08/05(金) 02:18:00 ID:/AfNAO.Q
>>113
「っと、寝てんじゃないか。……?」

すやすやと眠る零を見ていると、ふと目尻に涙が浮かぶのが見えた。
何か悪い夢を見ているのだろうか。
しかしうなされている訳ではないようだ。
きっと何かとても、悲しいことがあったのだろう。

「……」

「……」

大切な人が消えてしまう悲しいは、四十萬陀もよく知っている。
全身が引き裂かれるような胸の痛み。
きっと露希も、そうなのだろう。
彼女の無表情に、天多が死んだ時の自分を重ねていた。

「露希君……無理は、しちゃダメだよ」

四十萬陀は露希に呟いてから、「また遊びに来てじゃん」と淋しそうに微笑みながら、二人に手を振った。
和戌も「またね」と言って、二人を見遣る。

115露希「」&零『』:2011/08/05(金) 02:24:40 ID:HbHPxpxY
>>114
「二人とも、ありがとう。また来るよ。」

眠たそうな目をこすりながら、零はお辞儀した。

そして、来たときと同じように山を下って行った。

//ここで落ちます。
こんな遅くまでお付き合いありがとうございました!お疲れ様でした。

116四十萬陀 七生/和戌:2011/08/05(金) 02:33:04 ID:/AfNAO.Q
>>115
「七生、あの子ら、何かあったのかい?」
「……うん」

二人を見送りながら和戌が問うた言葉に、四十萬陀は頷いた。
今二人に必要なのは、仲間の存在だ。
その一部に、なってあげれたのならいいけれど。
四十萬陀は悲しそうに顔を歪めた。

//お疲れ様した!

117織理陽狐:2011/08/06(土) 23:43:44 ID:0rvvBuFg
ふわり、ふわり。
ぼんやりと優しい灯を燈した提灯が暗やみの中に揺れている。
片手にそれを携えるのは、白い着物に羽織袴を着た金髪の男、織理陽狐だ。
木下駄を鳴らしながら、石床を歩いていく。

「――この辺りかのう」

ふと足を止めると、提灯の灯がぼうっと大きく燃えた。
見る者を導く送り提灯は、彼の尋ね人のありかを示しだす。
自分と正反対だった彼女の記憶を受け継いだ、生まれたてのあの童に。

118出口町 入江 & 三連星:2011/08/06(土) 23:53:35 ID:???
>>117

 雨邑が三鳳と出会う3時間前。

 石畳の破壊された神社にて、噂から生まれた乙女と三兄妹が集まっている。
 最近、神社などのお堂を破壊する邪霊が多い。
 残された邪気に少し咽ながら、4人はその修復などを手伝っていた。

「安木ぃ! だからそれは違うって!!」
「なぬ! 宛誄、そなたが言ったのではないか!!」
「・・・」

 やんややんやと言い争う二人の少年と、ヤレヤレという風にそれを眺める少女。

「け、喧嘩しないで!!」

 それを止めようとする浴衣姿の入江。
 神社の復旧は一向に進まないのであった。

119織理陽狐:2011/08/07(日) 00:03:35 ID:0rvvBuFg
>>118
「お」

騒がしい声が聞こえた方に、送り提灯の灯が反応した。
神社の階段を昇るにつれて反応が大きくなっていく。
ついに昇りきると同時に、提灯の灯は消え、目の前に破壊された石畳とそれを修復する四人の姿が見えた。

「久し振りじゃのう、出口町」

浴衣姿の彼女に声を掛け、織理陽狐は愛しげに目を細めた。
「見ぬ間に大きくなったの」と親戚のおじさんのような発言をしてから、三人をそれぞれ眺める。

「この童らは――」

その後は何も言わなかったが、態々言葉に出さずとも理解したように、嬉しそうに口許を綻ばせる。
この子たちが、彼女が「幸せにしてみせる」といった子たちなのだ。
仲良さげにしている四人を見ると、無性にこみあげるものがあった。

120出口町 入江 & 三連星:2011/08/07(日) 00:21:41 ID:???
>>119

「あ・・・、あぁっ! おっ、お久しぶりです!!」

 急に声をかけられたこと、そして誰より自分たちが最も尊敬する人物の登場に。
 出口町は驚きながら、慌ててぎこちないお辞儀をした。

「むっ! そなたは確か!!」
「織理陽狐さん!!」
「! ・・・ほんとだ」

 その声に気づいた3人はわらわらと織理陽狐の前に湧いて出たのだ。
 窮奇の記憶を受け継ぐ、3人にとって。
 そして夜行神の中から見ていた中3人にとって。

 それぞれ特別な感情を抱いているようだった。
 まず飛び出したのは安木、昔の武将っぽく座り込んで頭を地面に擦り付ける。

「織理陽狐殿! あなたは尊敬に値する人物!!
 しかしながらお母さんの・・・母上の敵であることには変わりは無い!!」

 顔を上げる、暑苦しい幼い邪神。

「いずれ、越えて見せましょうぞ!!」
「やめろよ、安木・・・」

 おずおず、と宛誄は織理陽狐を見上げた。

「またお会いできて、光栄です」

 小さく頭を下げるが、どこか遠慮したような様子だった。
 その眼には羨望と少しの脅え。

「どうしてこちらまで」
「そこんところ私も聴きたい」

 にゅっ、と現れる雨邑。

121織理陽狐:2011/08/07(日) 00:39:16 ID:0rvvBuFg
>>120
壊れた石畳をひょいひょいと軽く乗り越えて、四人に近寄っていく。
出口町の目の前に行こうとすると、その前に三連星らが立ち塞がった。

「おっ、お?」

足を止めて目を丸くしていると、安木が飛び出してきた。
少年の言葉に織理陽狐が僅かに目を細める。

「……そうか。お主らは窮奇の記憶を受け継いでいたのじゃったな」

だがそれも一瞬、幼い邪神の視線に合わせるよう片膝を付き、ぽんぽんと頭を撫でる。
幼いながらもきりりとした顔に、織理陽狐はにっと少年のような笑みを浮かべた。

「それは楽しみじゃ。いつでも袂神社に遊びに来るといい」

言って立ち上がると、宛誄の方を見る。
控えめなその姿に、今度はどっしりと包み込むような、父親のそれにも似た微笑みを向けた。

「儂も、お主に会えて嬉しいぞ」

宛誄の頭を優しく撫でる。それは安木にしたのと同じようで、少し違った。
紅一点である雨邑に尋ねられ、織理陽狐は少女の方を見つめながら答える。

「久し振りに、どうしているか気になってのう。
 あの後……窮奇との一戦の後から、出口町とお主らには会えず終いじゃったからな」

彼にとって、それはとても気がかりな事だった。
しかし今はそれも晴れ、胸も清々しい。

「――元気そうで何よりじゃ」

嬉しそうに、とても嬉しそうに笑う。
見る度印象が違う狐だが、この笑顔だけはいつも同じだ。

122出口町 入江 & 三連星:2011/08/07(日) 00:56:29 ID:???
>>121

 ポンポン、と頭を撫でられ。
 三連星一暑苦しい男は恥ずかしさからか、にわかにいきり立つ。

「えぇい! 子供だと思って見誤っておるな!!
 舐めるなよ、我は一番人に近しい神となる男ぞ!!
 そちの神聖も! 力も! すぐにでも越えてくれようぞ!!」

 宛誄は頭を撫でられ、くすぐったいように目を細めながらも、
 僅かに抱いていた恐怖は解けていった。

「やはり、貴方は温かい方ですね。母が好きだっただけのことはありますよ」

 少し悪戯っぽく笑う、宛誄。

「ほーんと、なんで素直になれなかったんでしょうねぇ」

 雨邑は織理陽狐の話を聞いたか聞いていないのか、
 曖昧な相槌を打って入江の後ろへ引っ込んでしまった。

「あんまり一斉に話しかけないでね・・・」

 入江は3人を後ろへ押しやり、再び作業を始めるようにたしなめた。

「元気ですがね・・・」

 入江は寂しそうに微笑みかけ、小さく呟く。

「正直、途方に暮れているところもあります。
 姉さま・・・、窮奇が言っていた“幸せ”についても未だによくわからなくて・・・」

 瞳の奥から自由への不安が覗いていた。

「生き方って、まだよくわからないんですよね。
 私もあの3人も・・・本当に軽い気持ちで生み出されたモノなんですから。
 まだまだ生まれたばかりで、少し私には荷が重いです」

123織理陽狐:2011/08/07(日) 01:15:53 ID:0rvvBuFg
>>122
「おお、すまんすまん。
 ……その元気さがあれば、儂も本当に超えられてしまうかもしれんのう」

いきり立つ安木を見遣る。
全く将来が楽しみだ、と言わんばかりにくつくつと肩を揺らしながら。
三者三様に違う少年少女らを見ながら、織理陽狐はその胸に窮奇を想い、言いようのない幸せに駆られていた。

「?」

口許の笑みをそのままに、宛誄に向けて首を傾げる。
そのまま、三人は入江の言いつけで作業を再開した。
違いに向かい合うと、入江が音の沈んだ言葉を呟く。
その不安も当然だろう。
記憶だけ持って、生まれたてだというのに、三人を背負って生きているのだから。
不安げに声を揺らす入江に、織理陽狐はやはりはっきりとした言葉で答えた。

「そう深く考えるな。生き方など、生きればいずれ分かることじゃ」

生まれたての入江に、生き方を考えろという方が無理だろう。
今を生き、前へ進めばこそ、自分の生き方も見えてくるというものだ。

「それに……荷が重いなら、誰かを頼ればいいんじゃよ」

あっけらかんと、織理陽狐は笑う。

124出口町 入江 & 三連星:2011/08/07(日) 01:31:43 ID:???
>>123

「・・・はい!」

 少しだけ瞳を閉じ、元気よく声を上げる入江。
 姉さまは一体何を私に気づかせたかったんだろう?
 これから一体、何を目標にすれば良いのだろう?

 まだまだ問題も宿題も多い。
 でも・・・

「深く考えることは無い、なんとかなりますよね!」

 入江は久しぶりに、元の少女らしい笑顔を浮かべた。
 重かったらなんとかなる、重く感じる必要は無い。

 そんな風に思える。きっと、助けてくれる。
 それは織理陽狐も、これからできてくる繋がりでも、
 そしてどんどん力をつけるこの子達自身でもある。

「ありがとうございました!」
「入江姉さん、手伝ってー!! これでかくて運べない!!」
「え、あっ」

 宛誄は困窮し、入江の裾を引っ張っていってしまう。

125織理陽狐:2011/08/07(日) 01:40:46 ID:0rvvBuFg
>>124
「その顔じゃ」

あどけない笑顔を見せた入江に、織理陽狐も満足げに微笑んで答えた。
このまま、きっと入江たちなら前に進むことができる。
なにせ彼女の想いを受け継いだ子たちだ。
強かに、真っ直ぐに、そして幸せに。
この子たちがそうあれるなら、織理陽狐はきっとどんな労も惜しまないだろう。

「おっと、……大丈夫そうじゃのう」

宛誄に引きつられて行く入江を、目を細めて見つめる。

(願わくばお前と共に、この風景を見ていたかった)
(儂はずっと待っておるぞ……窮奇)

羽織り袴を揺らし、胸にそっと手を添える。
しばらくは遠くから、四人の姿を見守っていたかった。

126田中 夕:2011/08/08(月) 23:46:06 ID:c1.PBF/s
本スレ>>56

「俺の愛車!!スーパーライジング・ファルコン号4世です!!
………ハツビーに壊されちゃって……スーパーライジング・ファルコン号4せぇっ………」グスン
零にスーパーryを説明しながら、なんか思い出し泣いてる。
そんなに大事なのか?スーp(ryが

「はい!何かありましたら、またお願いします。今後、喫茶店《ノワール》に遊びに来て下さい」
ニコリとフォードに微笑む。

「大丈夫ですよ。零が言うならその人達は悪い人じゃないと思うし」
案内された部屋に入り、許可をだす。

「ところでその魂はどうやって呼ぶんですか?」



一方

近くの場所にてとある二人の魂が零を探していた。

『貴方も死んだのねぇ。私みたいに元から正気だったのに。貴方が七罪者を裏切るなんて…クスクス』
[うるさいのう…《アリサ》。それより探すの手伝ってくれてありがとうのう]
『クスクス……私も御礼が言いたいしね。彼ならきっと《アイツ》の野望を止めてくれるわぁ』

127セツコ中:2011/08/08(月) 23:47:59 ID:c1.PBF/s
>>126訂正

私みたいに→私と違って

128零「」&フォード『』:2011/08/09(火) 00:02:56 ID:BQ990e1A
>>126
「愛車……しかもなぜ巴津火に…。ま、まぁ直ったんだしさ、気にすること無いよ。」
『ノワール…ああ、澪のお嫁さんが働いてるところか。
近いうちに行くとしよう♪』

夷磨璃はノワールの常連なので、場所は直ぐに分かるだろう。

「正直言って、使い方は分からない…。
とりあえず、この玉が呼び寄せてくれるのを信じるよ。
じゃあ、フォードさん、お願いします。」

円の描いてある所へ、フォードと零が行く。
フォードは壁に掛けてある巨大な「斧」を掴むと、その円の中心へと振りおろした。

床の裂け目が広がると、そこだけ紺色の亜空間が現れた。
そこから作り出そうと言うのだ。

『零、今からその二人の体を思い出すんだ。出来るだけ正確に。』

そう言うと、フォードは右手で零の額に手を載せて、左手で亜空間に妖気を送り込む。
ぐちゃぐちゃと気味の悪い音を立てながら、それは少しづつ形を成していく。

そして…数分が経過したときには、アリサと暴食の完全な体が出来、亜空間は消えた。

『わしが手伝えるのはここまでだ、用が済み次第、大広間に来ると良い。』
「フォードさん、感謝します。(道返玉…二人の魂をここに呼び寄せて…)」

フォードは笑顔でそう言うと、この部屋から出て行った。
零は道返玉に祈り、二人の魂が戻ってくる事を待った。

129田中 夕&他色々:2011/08/09(火) 00:25:16 ID:c1.PBF/s
>>128

「乗ろうとしたら高さが合わなかったみたいで…ス(ryの下敷きになっちゃって…ハツビーがs(ryを………」グスン
涙をふきながら事の真相を話す。

「はい、ちょっと変わった姉ですけど自慢の姉です」
……ちょっと?
だが姉の事を話す田中くんは何処か誇らしかった。


そして田中くんは二人の身体が出来てるのを見て、凄い!と眼を輝かせながら見ている。

そして、零が道返玉に祈ると……

「うおっ!!!」
突然、田中くんの右手が強く輝き、それに呼応するように道返玉も輝き始める。

??「貴方の思いしかと届きました。
いいでしょう。本来なら偽の身体は禁止し、対価をいただきたいのですが…《八握剣》もいますし、貴方の《魂》の強さと思いに免じ、いいでしょう。
その身体も偽物ですがかぎりない本物に近い」
何処か芯がしっかりした女性の声が響き渡る。

夕?「感謝する。道返玉」
それに答えるように田中くんが声を出した。
………まるで別人のような気配だが…


圓坐「さて…早く零を……んっ?」
アリサ「あら?あらあらあら?ここは一体どこかしらぁ?」
すると二人の身体が眼を見開き辺りをみまわした。

状況がわかってないようだ。

130:2011/08/09(火) 00:33:37 ID:BQ990e1A
>>129
「…!!これは一体…?」

道返玉が急に話し始めた。どうやら女性のようだが。
それに反応するように、田中とは思えない田中が喋っていた。

「(まさか…十種神器は生きているのか…?)ありがとうございます…。
道返玉…。感謝します……!」

しかし、そんなこともすぐに擦れて行った。

「アリサさん…おじさん…よ…よかった……っ!」

あの時はあれほど争そっていたのに……
でも今は…違う。圓坐の元へと駆け寄った零は、笑顔を見せた。

131田中くん 圓坐 アリサ:2011/08/09(火) 00:48:15 ID:c1.PBF/s
>>130

道返玉「今回は特別です。しかし、次からは無しです。
我らを使うのは誰でもできる。善にも悪にもできる。
故に悪しきモノ達に利用されないよう…気をつけてください。正しきモノよ」
そう声が途切れると同時に道返玉の光は消えた。

夕「……………あれ?」ガクン
それと同時に田中くんの《右手》の光も消え、正気に戻った田中くんは力無く崩れた。


圓坐「主は………何故ここに?いや…何故ワシらの身体が?」
アリサ「魂……じゃないみたいねぇ。本物じゃない」
二人は戸惑っていたが、零が笑顔で近づき

圓坐「………零。ワシらは……」
アリサ「よくわからないけど、お兄さんが私達を蘇らせたのかしらぁ
……二回も貴方に救われるなんて、ありがとう」ペコッ
おじいちゃんは未だに戸惑うも
アリサはなんとなく理解し、少し涙腺がゆるみながらも深く零に頭を下げた。

132零なか:2011/08/09(火) 01:01:43 ID:BQ990e1A
>>131
「…分かりました。きっと貴方を守って、利用されないようにします…。」

消えて行く声にだけに語りかけるよう、零は言った。

「二人はまだ…やるべきことがあったでしょう?
おじさんは黒龍のことを助けてくれた代わりに死んじゃって…。
自分が何もできないって悔しくて悔しくて…。
でも、あの時譲り受けた物の力を借りれば二人を助けられるって聞いて…。

だから…新しい人生を楽しもう?二人とも。私たちはもう…仲間だからさ?」

「ううん、アリサさん。御礼は道返玉に言ってください。
もう…道を外さないでくださいね。」

二人に声を掛けると、崩れた田中君を起きあがらせて、フォードの待つ大広間へ案内した。
そこには暖かい紅茶やらお菓子やらが置いてあるだろう。

それは、生き返った二人を歓迎するかのように。

//そろそろ〆ますか?
それとも、もう少し続けますか?

133セツコ中:2011/08/09(火) 01:13:02 ID:c1.PBF/s
>>132

圓坐「御主……アリサはともかく…ワシを仲間と言うのか?…
ワシは正気の状態で沢山の命を奪い…御主らを…」
涙を流しながら、圓坐は零の優しさに感銘をうけた。

アリサ「……ありがとう。道返玉。
わかってるわぁ」
アリサはそう言い微笑んだ。

そして田中くんも起き上がらせ、彼らはフォードさんのいる所へ移動した。

そして二人はフォードさんに青行燈に二人が生き返ったのを隠す為にしばらくここに止めてくれるよう頼むだろう。

彼等が知ってる事を聞くのは…皆が集まった時にと言い。


/はい。ではこの辺りで
/絡みありがとうございます!
/お疲れ様でした

134零なか:2011/08/09(火) 01:16:07 ID:HbHPxpxY
>>133
/了解しました!
/絡みありがとうございました!

135???:2011/08/10(水) 23:19:40 ID:???

「ここか・・・」

 袂山の頂上付近の洞窟にて。
 立ち尽くす幼い影が一つあった。

「・・・」

 流れるような妖気の脈を辿り、袂山の頂上へとたどり着いた。
 おそらくここに・・・なにかある。

「・・・ケホッ」

 異臭にも似た瘴気に少し咽ながら、
 サンダルを履いた足は砂利を慣らしながら洞窟へと向かっていった。

136東雲 犬御:2011/08/10(水) 23:25:40 ID:0rvvBuFg
>>135
「待て」

ざり、と砂利を踏む音が、幼い影の後ろから洞窟内へ響いた。
振り向けば外からの光に当てられ、大きな影を作り出す大男が見えるだろう。

「見当違いだったぜ……まさかこっちに来るとはな」

足音が不気味に木霊する。
暗い洞窟内の中に、ぎらりと獲物を見付けた狼の瞳が光った。

「何しにきた? バレバレだぜ、侵入者」

袂山に足を踏み入れた時点で、獣妖怪や送り妖怪にその姿を目撃されている時点で、
その足取りの全ては筒抜けだった。

137雨邑:2011/08/10(水) 23:31:21 ID:???
>>136

 背後から掛けられた声にビクリと肩を浮かせ、
 恐る恐る背後を振り向いた。

 逆行を背にした大男がこちらを睨み、凄みを利かせている。

「・・・織理陽孤さんからの紹介、一番強い妖気を辿ってきたらここに出た」

 振り返ったその表情は薄いながらも、なにやら冷や汗を浮かべていた。
 単に好奇心でここに着たつもりが、とんでもない場所だったようだ。

 少し伏目がちになりながら、犬御に萎縮しジリジリと後ずさる。
 そう、洞窟の奥のほうへ奥のほうへ・・・

138東雲 犬御:2011/08/10(水) 23:41:30 ID:0rvvBuFg
>>137
「織理陽狐? ……あの狐か」

疑心を湛えた紅い瞳を細める。

(なら話を聞いていなくてもおかしくはねェ。だが)

かといって、はいそうですかと信じる訳にはいかない。
相手が十種神宝を狙う輩でないとしても、だ。
あの奥に何があるか東雲自身も知らないし、情報が間違っている可能性も0ではない。

雨邑の背後、洞窟の奥から漂う、強烈な……というより、鳥肌の立つような気持ちの悪い妖気。
それは発せられている、というより、べったりとそこに「残されている」と言ったほうが正しいように感じた。

「おいテメェ、止まれ。そこから、動くな」

低い、威圧するよう声を唸らせながら、一歩ずつ距離を詰めていこうとする。
しかしそのまま雨邑が後ろに後退したとすれば、
――十数m、ぽっかりと空いた大穴に、真っ逆さまに落下するだろう。

139雨邑:2011/08/10(水) 23:51:32 ID:???
>>138

「!」

 いきなり声を上げ、歩み寄ってきた犬御に恐怖し、
 雨邑は後ろへ駆け出してしまった。

「! う、うわっ!!」

 そのまま巨大な大穴へと吸い込まれるように落下してしまう。
 黒い岩肌に身体をぶつけ、擦り傷を作りながら・・・深い深い闇の中へと。

 しかしそれは永遠ではなく、やがて激しく身を殴打して“底”へとたどり着いた。
 あちらこちらに青痣を作り、肌が擦り切れ血が滲んでいる。

「っ、つつ・・・うっ!」

 どうにか身を起こしたとき、吐き気を覚えるような淀んだ妖気に痛みすら忘れた。
 下手に意識を手放せば、邪神として転生してしまうのではないかと思うくらい邪悪で穢れた気。

 しかし、なにより目を疑ったのは・・・。

「何・・・これ・・・?」

 暗闇では光ではなく、匂いと気配でモノを感じ取る蛇だからこそ。
 その洞窟の底で眠っていた“ソレ”にいち早く感づいてしまった。

140東雲 犬御:2011/08/11(木) 00:02:05 ID:0rvvBuFg
>>139
「おいっ!!!」

後ろへ駆けだした雨邑を止めようと、東雲も駆け出す。
だがしかし、遅かった。
突然、雨邑がそこから姿を消した。
だが実際消したわけではない。落ちたのだ。洞窟の「大穴」に。

「ちっ……!!」

苦々しく顔を歪め舌打ちすると、東雲は本来の姿である送り狼に戻った。
奥へ近づく度に濃くなる妖気。
そして同時に、この鼻が曲がりそうな臭い。

(これは、腐敗臭だ)

大穴に落ちる直前、東雲の脳裏にある光景がよぎった。
この大穴の底に何があるか――。

ガラガラッ!!

数十m先の底に着地する。
地面であるはずの底は、不安定な足場だった。
暗闇の中で目を見開いた東雲と、気配を感じ取る蛇が見たもの、それは。

「ンだ、こりゃ……」


――大量の、人の、骨。
穴の中に敷き詰められた、おびただしい数の人骨。
干からびた肉。巨大な穴の中に溜まっていた腐臭。
生きていた時に身に纏っていたであろう着物も、全て残されている。

そして、全身が震えるような妖気。
どんな妖怪であっても分かる。この妖気の主が、これをやったのだと。

141雨邑:2011/08/11(木) 00:07:11 ID:tElbSrz.
>>140

「っ・・・!」

 強大な妖気、無数の人骨。
 腹の底から善神としての怒りと猛気が溢れようとするが、
 慌ててその衝動を飲み下す。

 自分が敵う相手じゃない、戦って良い相手じゃない。

 雨邑は痛みを堪え、フラフラと犬御の影へと引っ込む。
 そして僅かに光差す出口を見上げ、大穴から這い出ようとする。

142東雲 犬御:2011/08/11(木) 00:16:49 ID:0rvvBuFg
>>141
(これが爺たちが隠したがってたモノだってか?)

吐き気や嫌悪感と同時に怒りがせり上げる。
どういうことだ。
確定的なのは、「これ」が行われたのが400年前、東雲らが生まれる以前の話であるということだけだ。
なんの目的で? なにがあって?
……見当もつかない。
「これ」をやったものが、生きているかどうかすらも。

「!!」

よろよろと出口へ這い出ようとする雨邑に、東雲が人骨を踏み鳴らしながら近付く。
そして、その服の裾を軽く噛んだ。

「待て。……その動揺っぷりを見ると、テメェも目的が外れたようだな」

そう言いながら、東雲も胸の奥の動揺を落ち着かせていた。
なにが十種新宝だ。とんだ見当違いもいいところだ。
東雲は再び人間の姿に戻ると、幼い影の首元を引っ張り上げようとする。

「掴まれ。テメェの体じゃここから登るのは無理だ」

143雨邑:2011/08/11(木) 00:24:05 ID:tElbSrz.
>>142

「・・・」

 コクリと頷き、東雲の背中に身を任せる。
 そしてもう一度、あの屍骸の山を見返し、吐きそうになって口元を押さえた。

「わ、私は・・・」

 小さく、途切れ途切れに言葉を発する。

「本当に、来ただけ。袂山に遊びにおいでって、織理陽狐さんが言ってたから」

 小さな手は犬御の首にすがる。

「だから・・・一番大きな、妖気の脈を辿ってたら、ここについたから・・・」

 この邪神の“流れ”を読み取る力が完全に裏目に出ていたらしい。
 普段の妖怪では気づけないような、この密閉された妖気の脈さえも嗅ぎ分けて辿ってしまったのだ。

144東雲 犬御:2011/08/11(木) 00:34:49 ID:0rvvBuFg
>>143
雨邑が背中に乗ったことを確認すると、東雲は爪に鎌鼬を纏わせた。
洞窟の固い壁に引っ掛け、確実に上へ登って行く。
彼の体格からするに、数分で上に着くだろう。

首に纏わる細い腕は、わずかに震えていた。
その姿に、無意識に幼い頃の四十萬陀を重ねてしまう。
東雲はぎりっと奥歯を噛みしめ、ゆるゆると溜め息をついた。

「……こっちにもテメェの言葉の鵜呑みにできねー理由があンだ」

あの場で雨邑の真意を確かめることはできなかった。
そう言い聞かせるも、どうにも腑に落ちない。
胸につっかえるような、それが「罪悪感」であることを、東雲は認めたくなかったのだが。

「いきなり追い詰めたのは、こっちに非がある。
 ……狐の所まで、送ってやる」

大穴の出口の光が大きくなる。もうすぐでこの洞窟から出られるだろう。

145雨邑:2011/08/11(木) 00:43:53 ID:tElbSrz.
>>144

「ん・・・」

 犬御の言葉に少し、たじろぎながらも。
 大きくなってくる外の光に、雨邑は目を細めた。

「・・・1つ、聞いて良い?」

 しかしフツリ、と沸いた疑問・・・というよりも違和感に。
 どうしても口走らずに入られなかった。

「貴方達は元々人を食べる妖怪だったはずなのに・・・どうしてそんな嫌な顔をする?」

 そこだけがどうにも腑に落ちなかった。
 というのも雨邑はあの穴を、袂山の食べカス捨て場かと思ったくらいなのだ。
 どこか苛立ったような犬御の言葉と態度は違和感があった。

 洞窟の大穴を登りきる。
 雨邑は小さく「ありがとう」と言うと、犬御の背から降りた。

146東雲 犬御:2011/08/11(木) 01:04:54 ID:/AfNAO.Q
>>145
「あ?」

尋ねられた疑問に、東雲は壁を伝えながらその答えを頭の中で言葉にしていた。
大穴を登りきり、洞窟の外へ出る。
たった数分中に居ただけだというのに、とんでもなく長い時間に感じていた。
少女を地面に降ろすと、東雲は疑問に対する答えを語り始めた。

「……確かに俺たちは人を喰らう妖怪だった。だがそれはあくまでも、生きるためだ。狩った人間だって全て、骨まで残さず喰らってた
 だがテメェも感じただろ。あの死体は全て――」


「手を付けられてなかった」


「つまり、恐らく何十人もの人間をあの穴の中に突っ込み、腐って干からびるまで、放置してたってことだ」

その異常さは、あえて語るまでもないだろう。
語る東雲の顔色も、わずかに青ざめていた。
そんな悪趣味なことを送り妖怪の仲間がするはずがない。いや、できるはずもないのだ。

「そして何より、あんな胸糞悪ィ妖気に当てられて、嫌な顔するなっつー方が無理だろうが」

粘っこい悪魔じみた妖気。
窮奇のそれと肩を並べる……いや、それ以上かもしれない。
善も悪も関係なく食らいつくしてしまいそうな。
まだその感覚が、悪寒が、体全身に残っていた。

147雨邑:2011/08/11(木) 01:11:11 ID:tElbSrz.
>>146

「なるほど・・・」

 ソレなのだ。
 あの時感じた違和感は。

 死んだ情景がまるで浮かばないような、
 累々と積み重なった不気味な無縁仏の数々。

「もう、ここでいい・・・今日は帰る」

 洞窟から出て行き、袂山の面々にぺこりと頭を下げると。
 そのまま逃げ出すように山から下りようとした。

148東雲 犬御:2011/08/11(木) 01:16:44 ID:/AfNAO.Q
>>147
「あッ、おい!」

突然山から降りていく後ろ姿に声を掛ける。
が、止まることなくそのまま姿は見えなくなった。

「……行っちまいやがった……」

まだ織理陽狐の所まで案内してもいないというのに。
一体何だったんだ、と思う反面、どこかで感じたことのある妖気だとも感じていた。
しかし、今はそれよりも。
背後の洞窟を振り替える。

(ここが何なのか……調べる必要があるな)

149ネロキナ:2011/08/11(木) 22:47:58 ID:tElbSrz.

 マンション○○階、零の自宅の戸棚にて。
 大事そうに飾られていた黒い刃毀れの包丁がコトリと動いた。

 それはカタカタと激しく振動したかと思えば、
 ズルズルとゼリーが毀れだすようにエクトプラズマーが噴き出し。
 やがてそれは人の形となって、少女の形となって。
 戸棚から、黒い衣服を纏った幽鬼がその存在を具現とする。

「・・・ふふふ」

 やがてそれは戸棚から包丁を持ち出し、虚ろな目に煌々とした光を燈していく。

「ロキ、復活ーーー☆ミ」

 先ほどまでのおぞましさはどこへやら。
 明るくそれだけ呟きピョコンと飛び跳ねる。

「さぁーて、ゼロは何処かなー?」

150:2011/08/11(木) 22:52:23 ID:HbHPxpxY
>>149
そのマンションの前を車椅子で通り過ぎて行く少年が一人。
ノワールに一人で居るのも暇なので、久しぶりにホストへと向かうところだった。

自分の部屋で何が起きたのかは全く知らず。零はマンションを通り過ぎようとした。

151ネロキナ:2011/08/11(木) 22:58:33 ID:tElbSrz.
>>150

 ピキーン、と直感のようなモノで窓の外をのぞいた。
 ストーカー暦300年超は伊達じゃねぇぜ!

「あぁっ、ゼロだぁー」

 窓をスルスルと開け、暗い翼をバサリと広げる。
 窓際からトッ、と足を離し、夜空へと飛び上がった。

「ゼローー!!」

 そのままグライダーのように滑空し、零に凄まじいタックル!
 車椅子にも容赦ねぇ!! 本人はただ抱きついてるつもりだけど!

152:2011/08/11(木) 23:04:01 ID:HbHPxpxY
>>151
「〜♪・・・っ?」ガシャアン!

車椅子、見事に吹っ飛んで行きました!そんな零は押し倒された形で抱き着かれることとなった。

何が起きたのか今だ理解せず、ぽけぇーっとネロキナを見つめていた。
しかし、その笑顔、容姿、声。それがネロキナの物と分かったとき、唖然とした。
「や・・・ネロキナ・・・なんで・・・」

153ネロキナ:2011/08/11(木) 23:09:43 ID:tElbSrz.
>>152

「あはははっ! あの程度で消えるようじゃ334年ストーカーやってないよー!」

 その声は明るく、今までのような狂気は感じられない。

「むっ、そういえばあのトカゲは!?」

 急にライバル心むき出しで辺りをキョロキョロと見始める。
 どうやら零が心寄せていることに直感的に気づいていたようで、
 嫉妬と対抗心メラメラなのだ。

154:2011/08/11(木) 23:16:01 ID:HbHPxpxY
>>153
「・・・ストーカー、私のね・・・」

恐怖感があまり無くなった為か、少しはまともに話せるようにはなったようだが。次のネロキナの言葉で零らキレた。

「お前、気安く黒龍の話題を出すな。次に言ったら・・・殺す。」

衿元を掴み、睨みつけた。だが、今の零ではネロキナに傷をつけることさえ難しい。

155ネロキナ:2011/08/11(木) 23:21:34 ID:tElbSrz.
>>154

「殺す・・・ね、“また”かな?」

 ネロキナの瞳が急に冷たくなった。
 しかし今回は零よりも若干余裕があるのか。
 目を閉じ、再び目を開く。

 そこには狂気も先ほど覗かせた冷たさもなかった。

「ゼロにとって、大事な人だったの? 私にとってのゼロと同じくらい」

156:2011/08/11(木) 23:29:40 ID:HbHPxpxY
>>155
「私は・・・殺してなんか・・・」
ネロキナは殺してない、と言いたいのだが、彼女が本物ならばそれは嘘になる。
だから、完全な否定は出来なかった。

「・・・私の家族で・・・友達で・・・恋人だった・・・。大切・・・なんかでは言い表せない存在だった・・・」

目を閉じ、俯く。

157ネロキナ:2011/08/11(木) 23:39:57 ID:tElbSrz.
>>156

「・・・そう、ゼロはあのトカゲが大好きだったんだね」

 そして薄々感づく。
 黒竜はもう帰って来ないのだと、もう零とは会えない存在になっているということを。
 ネロキナにとって、奪う相手が居なくなったという喜びよりも。
 そのことに対するどこか共感めいた感情の方が大きかった。

 好きな人に会えなかったけど、もう会うことができる自分。
 好きな人とずっと一緒に居たけど、もう会うことができない黒竜。

 いくらなんでもこの不公平に付け入るほど。
 心根は狂っては居ない。

「・・・今日のところは引っ込んどくよ。
 傷心に漬け込んで印象操作するほど余裕無いわけじゃないしね」

 説教をする気も、慰めや激励の言葉を送る気にはならない。
 もし自分だったら何を言われようが、絶対に納得できないから。

「また近いうちに化けて出るよ」

 ドロンと煙のように身体は散り、零の手元に黒い包丁が残った。

158零なか:2011/08/11(木) 23:48:21 ID:HbHPxpxY
>>157
「・・・・・・」

ネロキナの言葉を静かに聞き、顔を上げたときには彼女はいなかった。

そこにあったのは黒い包丁。

「・・・(一緒にいてあげるべきか・・・?)」

ネロキナが自分を好んでくれているのに、置いていく訳にもいかず。
胸元に包丁をしまうと、ホスト先へと向かった。

159叡肖:2011/08/12(金) 23:07:53 ID:1gBuqmPQ
「いい感じに繁盛してるね」

人の姿に化けた衣蛸は、患者のふりをして病院の待合室にこっそり潜り込んでいた。
「いやー手の骨に皹でも入ったらしいんですよー」等と、待合室の他の患者とお喋りをし、
自分の偽名『八崎 正午』の順番が来るのを待つ間も、可愛いナースのチェックは怠らない。
そうこうしているうちに、叡肖の順番になったことをスピーカーからの声が告げる。

『ヤツザキさん、ヤツザキショウゴさん、診察室4番へどうぞ』

待ってました、と浮き浮きしながら叡肖は診察室の扉を開く。

(さて、殿下が気に入ったという医者は、どんな相手かな)

書類鞄を片手に、スーツ姿の叡肖は軽く頭を下げながら中へ入っていった。

160小鳥遊 療介:2011/08/12(金) 23:19:01 ID:0rvvBuFg
>>159
叡肖が扉を開いたのに合わせて、小鳥遊は回転椅子をくるりと回して体を向けた。

「こんにちは、八崎さん」

人懐っこい笑顔を浮かべ、軽く会釈する。
一見は優しげな印象を与える、細見の人間だ。
「こちらにどうぞ」と正面の椅子に座るよう叡肖に勧め、片手の診療録に目を通す。

「手の骨に皹が入ったようということっすけど……どこかにぶつけたりしたんすか?」

前かがみに座り直すと、椅子がぎしりと鳴る。

161叡肖:2011/08/12(金) 23:32:09 ID:1gBuqmPQ
>>160
「よろしくお願いします、先生。
 実はちょっと手の焼ける子供が居まして、その子にね…。まずは、診ていただけますか?」

そう言いながら叡肖は右手を医師に差し出した。
診察室で待つ間、問診票に記入しておいた様に「骨折の疑い」であれば、まず触診が普通だろうとの行動である。
痛むのは本当に骨か、筋か、確かめようとする医師の手が触れるだろう。

その瞬間を狙って、叡肖は差し出した手を人のものから吸盤のついた蛸の腕へと変えるつもりである。
そして無論、骨なんて蛸には無いのだ。

(彼の第一印象はなかなか高感度高いね。これなら新規の患者も見込めそうだ)

早速腹のうちで算盤を弾き始めた計算高い蛸の目は、小鳥遊医師の人当たりのよさを認めた。

162小鳥遊 療介:2011/08/12(金) 23:48:49 ID:0rvvBuFg
>>161
「おや、お若いように見えるっすけどね」

おどけた風に笑いながら、椅子を叡肖のほうへ移動させる。

「では、失礼します。痛ければすぐに言ってくださいね」

差し出された右手を、あまり刺激を与えないようゆっくりと手に取る。
肌に腫れなどの異常は見られないことを確認すると、
「少し押しますね」と言って、片手で手の甲をやんわりと押した。
丁寧な動作と共に、患者への心遣いも伺える。
少なくとも気質、技術ともに悪い医者でないことは見て分かるだろう。

163叡肖:2011/08/12(金) 23:55:54 ID:1gBuqmPQ
>>161
そっと医師の手が触れたとき、叡肖の手は黒ずみ、弾力のあるぬるりと冷たい手触りのそれに変わる。

「改めましてこんにちは、先生。実は私、衣蛸の叡肖と申します」

吸盤のついた蛸の腕先が、きゅっと小鳥遊医師の右手に巻き付いて握手をする。
同時に人のままの左手は伊達眼鏡を外して、露になった歪な形の瞳孔が
小鳥遊医師ににっこりと笑いかけた。

「実は、巴津火殿下の指示でここへ来ましてね。
 先生のご希望する雇用条件、新しいクリニックの候補地について、詳細をすり合わせに来たんですよ」

鞄から取り出した書類や地図をさくさくとデスクに並べながら、衣蛸は小鳥遊医師に説明した。

164小鳥遊 療介:2011/08/13(土) 00:06:46 ID:0rvvBuFg
>>163
「!」

叡肖の右手が黒ずみはじめ、小鳥遊が驚いたように目を見開く。
それが触手に変わり、頭上で叡肖の言葉が聞こえると、小鳥遊はゆっくりと頭を持ち上げた。

「……なるほど」

再び叡肖とかち合ったのは、まるで先程とは別人のような貌をした、人ならぬ者だった。
右手に巻き付く触手を握り返す。

「こんにちは、叡肖さん」

あの優しい笑顔が演技なわけではない。
ただ、この狂気に満ちた顔も、彼のもう一つの面であるというだけの話だ。
小鳥遊は立ち上がると、診療室の扉に鍵を掛けた。万が一、ということなのだろう。
デスクに資料を並べる叡肖を振り返り、

「わざわざ出向いてもらってありがとうございます」

そう言って近づいていく。

165叡肖:2011/08/13(土) 00:18:24 ID:1gBuqmPQ
>>164
「いえ、これからは先生も共にあの殿下に仕える苦労を分かち合う、いわば同士なわけですから」

衣蛸は愛想良く、煮ても焼いても食えない笑みを、人ならぬ者へと返した。
とは言え、巴津火にこき使われる頻度は側近の叡肖のほうが多くはなるのだろう。

「私を見てもうお気づきかと思いますが、我々は水界の者でしてね。
 あの幼い殿下も、これからの水を治める方。
 なので、陸生まれの先生にこんなことをお願いするのは心苦しいのですが、先生のお仕事の半分は
 水界にてして頂く事になります」

ここで叡肖が地図を開く。
クリニックの候補地を赤の印で示したそれらは、川沿い、湖岸、運河の前、ベイエリアなどなど、
全てが水に近い場所であった。

「つかぬ事をお聞きしますが、先生は船舶免許をお持ちでしょうか?」

医師が船に乗れるなら診療用の船舶も用意しよう、との腹積もりである。

166小鳥遊 療介:2011/08/13(土) 00:33:21 ID:0rvvBuFg
>>165
一癖も二癖もありそうな男を前に、小鳥遊は楽しげに口端を上げた。
彼とは気が合いそうだ。
腹の底で何を考えているか分からないもの同士、といった所だろうか。

「治療すべき患者がいるなら、どんな場所でも構わないっすよ」

身を乗り出し、叡肖が開いた地図の全体を眺めた。
どんな場所でも、と言ってもやはり良し悪しはある。
彼が人間の世界において高い地位を保つためにも、これは必要なことだ。
考えを巡らせるように顎に手を当てる。

「いえ……しかし必要であれば取得しますよ」

その時間はいくらでもあるのだ。

167叡肖:2011/08/13(土) 00:42:22 ID:1gBuqmPQ
>>166
「そうおっしゃて頂けると心強い。
 もし免許をお持ちでなければ必要に応じて幽霊船を差し向けるつもりでしたが、取得して頂けるなら有難い。
 通常の船舶でなら、より人目に付かずに行き来できますからね」

取得に必要な費用はこちらが負担致します、と言って叡肖は頭を下げた。

「次に報酬についてですが、金銭以外のご希望はありますか?
 金額については10年ごとに見直してゆくことになります。人の世の物価は変動しますからね。
 今こちらが提示する額は、こんなものでどうでしょうかね」

もちろん人の貨幣でお支払いしますよ、と言いながら衣蛸が記した数字は、
今の医師の年収の数倍であった。
そして巴津火が医師の仕事に満足すれば、さらに増やせるのだと言う。

168小鳥遊 療介:2011/08/13(土) 01:04:54 ID:0rvvBuFg
>>167
「お心遣いはありがたいですが、費用は僕が個人で用意しますよ」

頭を下げる叡肖を片手で制し、にこりと微笑む。
十数万程度なら負担してもらうまでもない。
提示された金額を見て、小鳥遊は少しばかり驚いたように見えた。

「……十分過ぎる程です。報酬についての希望は特にありません」

妖怪である彼らがどうやってこれほどの人間の通貨を手に入れているのか、気になるところではあるが、
小鳥遊はそういってかぶりを振った。
それから、人差し指を立てる。

「ただ一つ、人員についての希望が」

小鳥遊の方からも優秀な人材を引き抜くつもりではいたが、叡肖達、つまり妖怪側の人材は彼では引き抜けない。
おそらくあちら側で用意されるのだろうが。

「出来る限り優秀な人材を用意してもらいたい。
 それと、一度その方々の資料――いえ、可能ならば一度顔合わせをしたいんす」

169叡肖:2011/08/13(土) 01:17:47 ID:1gBuqmPQ
>>168
「判りました。
 人員についてはまず書類で詳細をお渡しして、その後先生ご自身で面接するのが一番でしょうな」

その旨を手帳にメモしながら叡肖も頷いた。

「クリニックの場所と、広さ、設備についてですが、物件ごとの詳細資料をお渡ししておきます。
 後ほど人員候補の資料もお届けしますので、それぞれに目を通して、またお返事頂ければ
 その通りとりはからいますので」

分厚いファイルと共に自分の連絡先を医師に差し出して、今日衣蛸のすべき一通りの業務は
終了したようである。

170小鳥遊 療介:2011/08/13(土) 01:28:22 ID:0rvvBuFg
>>169
「隅々までありがとうございます」

差し出されたものを受け取り、診察台の引き出しへ仕舞い込む。
それから置きっぱなしにしていた診療録を手に取ると、

「手の甲の皹については適当に書いておきますが、
 …・…よろしければX線での診察でも受けていかれますか?」

妖怪をレントゲンするとどうなるのか、興味はある。
そんな含みを持たせて、小鳥遊が冗談めかしたように提案する。

171叡肖:2011/08/13(土) 01:36:48 ID:1gBuqmPQ
>>170
「そうですね、念のためにレントゲン撮影での診断をお願いします」

面白そうに頷き、レントゲン撮影室に向かった叡肖。

しばらく後に小鳥遊医師の手元に届いたその右手のX線写真は、通常の人間のそれと全く変わらないものであった。
それは医師をがっかりさせたかもしれないが、同時にそれは化けた状態でならば妖怪にも
人間の医療がそのまま応用できる可能性を示していた。

もちろんその骨に皹はなく、八崎正午の右手についてそのカルテには「捻挫」と記され、
その日の処方は痛み止めと湿布のみとなったのだった。

//こんな感じで、〆でいいでしょうか?

172小鳥遊 療介:2011/08/13(土) 01:55:44 ID:0rvvBuFg
>>171
(人に化けた状態ならば、骨格も変わらないのか……)

叡肖が病院から立ち去った後、シャウカステンに挟み込んだ右手のX線写真を眺めながら、小鳥遊は一人ごちていた。
妖怪の体に興味はあったが、なるほどこれなら治療法を応用することもできそうだ。
――だが、あそこまでいたれりつくせりとは。
半妖化という、言うなれば人間と妖怪の境を踏み躙る行為をしているにも関わらずにだ。
しかし、これを利用しない手はない。
二つの種族の医学を利用すれば――

小鳥遊がほくそえんでいると、ポケットにいれた携帯が震えた。
着信画面には自宅とある。ということは。
携帯を耳に当てると、低い男の声がした。
その後ろのほうから、幼い少女の声もする。

『小鳥遊先生、またいずみが駄々をこね始めたんだが……』
『やだやだやだいずみも外行きたいのーっ!!』
「仕方ないっすねぇ……帰りにお土産でも買っていくと伝えてください」
『だとよ、いずみ』
『……フン、超おいしーのじゃないと許さないから。ねぇ幽太郎、もう一回遊ぼ!』
『ハイハイ。じゃあな先生』
「ええ、それでは」

通話を終了し、携帯を元の場所へ戻す。
二つの種族の医学を利用すれば、生と死が思いのままになる日も近いだろう。
事実、電話越しの彼らは小鳥遊の手で蘇った存在だ。

(もうすぐだ……)

もうすぐ、僕の夢が達成される。
胸が躍るような興奮を抑え込み、小鳥遊は開いた診療室の扉に、人懐こい笑みを浮かべた。


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