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避難所

171叡肖:2011/08/13(土) 01:36:48 ID:1gBuqmPQ
>>170
「そうですね、念のためにレントゲン撮影での診断をお願いします」

面白そうに頷き、レントゲン撮影室に向かった叡肖。

しばらく後に小鳥遊医師の手元に届いたその右手のX線写真は、通常の人間のそれと全く変わらないものであった。
それは医師をがっかりさせたかもしれないが、同時にそれは化けた状態でならば妖怪にも
人間の医療がそのまま応用できる可能性を示していた。

もちろんその骨に皹はなく、八崎正午の右手についてそのカルテには「捻挫」と記され、
その日の処方は痛み止めと湿布のみとなったのだった。

//こんな感じで、〆でいいでしょうか?

172小鳥遊 療介:2011/08/13(土) 01:55:44 ID:0rvvBuFg
>>171
(人に化けた状態ならば、骨格も変わらないのか……)

叡肖が病院から立ち去った後、シャウカステンに挟み込んだ右手のX線写真を眺めながら、小鳥遊は一人ごちていた。
妖怪の体に興味はあったが、なるほどこれなら治療法を応用することもできそうだ。
――だが、あそこまでいたれりつくせりとは。
半妖化という、言うなれば人間と妖怪の境を踏み躙る行為をしているにも関わらずにだ。
しかし、これを利用しない手はない。
二つの種族の医学を利用すれば――

小鳥遊がほくそえんでいると、ポケットにいれた携帯が震えた。
着信画面には自宅とある。ということは。
携帯を耳に当てると、低い男の声がした。
その後ろのほうから、幼い少女の声もする。

『小鳥遊先生、またいずみが駄々をこね始めたんだが……』
『やだやだやだいずみも外行きたいのーっ!!』
「仕方ないっすねぇ……帰りにお土産でも買っていくと伝えてください」
『だとよ、いずみ』
『……フン、超おいしーのじゃないと許さないから。ねぇ幽太郎、もう一回遊ぼ!』
『ハイハイ。じゃあな先生』
「ええ、それでは」

通話を終了し、携帯を元の場所へ戻す。
二つの種族の医学を利用すれば、生と死が思いのままになる日も近いだろう。
事実、電話越しの彼らは小鳥遊の手で蘇った存在だ。

(もうすぐだ……)

もうすぐ、僕の夢が達成される。
胸が躍るような興奮を抑え込み、小鳥遊は開いた診療室の扉に、人懐こい笑みを浮かべた。

173宛誄&黄泉軍:2011/08/14(日) 22:31:26 ID:???

「さて、と」

 夜闇に紛れ、死臭と邪気を纏い袂山に現れる黒の軍勢。
 宛誄は黄泉軍の一部を率いて蜂の比礼と足玉の回収に赴いていた。

「足玉はもう奪われたとして、蜂の比礼は発見すらできなかった」

 どうしたものか、と思案を巡らせる。
 雨邑が袂山に迷い込んだ話は聞き、
 彼等は縄張り型の妖怪コミュニティーを持っていることは容易に想像できる。

「どうしたものですかね、レディース?」

 黄泉軍に振り返り、語りかける。
 黄泉醜女はただ青白い顔を傾げるばかりである。

「・・・さて、母上譲りのこの話術でどこまでできるかな?」

 宛誄は悪に煮えたぎる黒い腹をくくった。

174巴津火:2011/08/14(日) 22:38:30 ID:1gBuqmPQ
>>173
『袂山に黄泉軍が』

昨夜、喫茶店ノワールで食事中の巴津火の耳が拾ったのは、零や瞳たちと喫茶店メンバーの
その会話だった。
内心では話に首を突っ込みたくてわくわくしながら聞いていたものの、思うことを悟られないよう
何気ない表情を作ることも今の巴津火は覚えつつある。

そして今夜。
叡肖にもミナクチにも内緒で、こっそりと抜け出してきた巴津火が向かったのはもちろん袂山。
山道に入ってからの巴津火は気配を隠すそぶりも無い。

(遊び相手、今日もいるかな?)

先日遊んだあのピアスをつけた鬼は、今日来るのだろうか?
しかし巴津火の期待を裏切って、黄泉軍と一緒にいたのは別の人物だった。

「今日は《暴君》いないのか」

ちょっぴり残念そうな声音が、山道の下のほうから宛誄達に呼びかけた。

175東雲 犬御:2011/08/14(日) 22:45:18 ID:0rvvBuFg
>>173
例え闇夜に紛れたとしても、一歩袂山に踏み入って、そこを縄張りにする妖怪たちに発見されぬことは殆ど不可能だ。
周囲に死臭と邪気を漂わせているならばなおさらだ。
十種神宝が近くに存在すると知り、警戒を強めていた東雲は、口利きしておいた獣妖怪らから耳にした情報にいち早く反応した。
四十萬陀たちを巻き込まないためにも、侵入する敵には己だけでカタをつける。

(此間のガキは勘違いだったが……今度こそ間違いねェ)

近付くにつれて、鼻の曲がりそうな臭いが近くなってくる。
――敵だ、と本能が告げていた。

「!!」

大勢の暗影を見付けた東雲は、すぐさまその場の木の影に身を潜めた。
妖気を鎮め、敵を観察する。
一個体は弱そうだが、数が多い。性分には合わないが、奇襲を掛けようとした、その時だった。

>>174
(クソガキィ!?)

脳内で思ったと同時、否定した。
黒蔵じゃない。この喋り口は巴津火だ。
まさか現れるとは思っていなかった人物の登場に、想定が狂う。
東雲は苦々しく舌打ちすると、木の影から飛び降りた。

「おい……テメーら、ここで何やってる」

宛誄と黄泉軍を挟み込む位置へ着地する。

176宛誄&黄泉軍:2011/08/14(日) 22:49:24 ID:???
>>174

(巴津火!?)

 掛けられた声にビクリと振り返る。
 記憶の中でしか知らない“兄”とまさかの再開だった。

「・・・あの人、自分の利益にならないとなかなか動いてくれないんですよ。兄上」

 いや・・・このイレギュラーは好機!
 まともにやり合えば上級妖怪に及ばぬ自分にとっては、一方的に面識ある妖怪は有利な材料だ。
 しかし逆に自分が因縁深い紫狂の関係者だと自白するようなものか?

 まぁ『良い』、試しに揺さぶってみるのも一興だ。

「随分丸くなりましたね、母上が貴方に見限りをつけたのも納得ですよ」

>>175

 カサリ、という葉音にピクリと身構えるが。
 相手が奇襲や包囲ではなく堂々と前に出てきたことに腹の底から笑いそうになる。

(動いている・・・僕の有利な方向に!)

「兄弟の再会に水を差さないでくださいよ、
 何しに来たかなんて黄泉軍を見れば明らかでしょ?」

 その語り口は、笑みは・・・窮奇に似ていた。

177巴津火:2011/08/14(日) 23:01:36 ID:1gBuqmPQ
>>175-176
(兄?)

少しばかり訝しげな表情が、『母上』の語で得心したそれに変わる。

「ふふ、以前のボクは尖っていたと?会ったことも無い弟なぞにそれが判るものか。
 そんなことより、窮奇はどうした。お前と一緒じゃないのか?」

お前も捨てられたのではないのか、と紫濁の瞳は言外に問うていた。
しかし、その兄弟同士、紫狂同士の反目を中和する存在にはもっとそっけない態度である。

「兄弟、あるいは紫狂の再会、と言ったところだな。お前も参加して『良い』んだぞ?その資格はある」

喉で笑う巴津火は弟と同じく、犬御の反応を明らかに楽しんでいる。

178東雲 犬御:2011/08/14(日) 23:09:06 ID:0rvvBuFg
>>176
「……胸糞悪ィ顔を思い出させるんじゃねーよ、クソッタレ」

宛誄を憎々しげに睨みながら、東雲は悪態を付いた。

「兄弟だと?
 ……なるほどテメーが、あの狐の言っていた……」

これまでの発言で察したらしく、紅い瞳を細める。
雨邑が袂山に現れた後、織理陽狐に問い詰めたのだ。
結果分かったのは、窮奇がその最期に何をしたか。
だがそれを聞いたとして、東雲にとって窮奇が憎むべき相手なのは変わらない。
肺を抉られた波旬でさえ同じ顔をしていたのだから。
疑問なのは、彼の話だけを聞けば、彼らが十種神宝を狙う理由はないはずということ。

(ま、どーでもいいけどな)

袂山に危害を加える可能性があるのなら、追い返すだけの話だ。

>>177
「黙れ」

楽しげに言う巴津火に、殺意のこもった低い声を刺す。
冗談の通じる様子ではなさそうだ。

「再会を楽しみたいなら余所でやれ。
 テメーも十種神宝とかを狙ってるっつーなら、容赦しねェぞ」

179宛誄&黄泉軍:2011/08/14(日) 23:20:53 ID:???
>>177

「母上は消えました、願いをかなえる狐に負けてね。
 あれは力運ではなく完全に母上の敗北でした、直に見ていた僕達だからこそわかる」

 宛誄がニタリとほくそ笑む。
 やはり巴津火は親への情慕も邪神としての特性も消えては居ない・・・!

「いいえ、僕“達”は見捨てられていませんよ。
 むしろ母上から存在を譲っていただいたのです、『幸せにしてみせる』という言葉と共にね」

 自らの身体に僅かに残った逆心の名残を見せる。
 それは何の力も持たないが、紛れもなく窮奇の象徴だった。


 古今東西において、蛇は嫉妬や情慕に激しやすい生き物だといわれている。
 西洋においてのメデューサや嫉妬の蛇、そして橋姫や清姫のように。


(ここで巴津火の嫉妬心に火を着ければ、動かすのは容易い!)

>>178

「そこですよ」

 語りかける宛誄。
 先生・・・織理陽狐さんにバレるのは心苦しいが、仕方ない。
 仕方ないんだ。

「ねぇ、何も見なかったことにしませんか? お互いにね」

 悪意とほんの少しの望みが篭った言葉を投げかける。

「わかるでしょう、昨日袂山で何があったのか。
 考えても見てください、十種神宝・・・蜂の比礼が貴方方に何か恩恵を与えていますか?」

 蜂の比礼は痛みと虫害を防ぐ効能がある。
 しかし妖怪に何らかの恩恵があるとは思えない。

「七罪者の力は貴方方だってわかったはずだ、アレがある限り我々は何度でもここを襲いますよ?
 ならいっそ手放して・・・僕に譲ってはいただけませんか?」

 断るならば、と最後の最後に脅しを付け加える。

「貴方方の事は母上からよく聞いている。
 母上は何度も貴方の頭を覗き見たんですからね。
 この情報を僕達が“共有して”充分な準備の元、襲ってきたらどうしますか?」

 共有して、という言葉を強調したということはまだ教えていないということだ。
 そして仲間を危機にさらす、という一番避けたい事態を知っての脅し文句であった。

180巴津火:2011/08/14(日) 23:31:39 ID:1gBuqmPQ
>>178-179
「十種神宝などに興味は無い。ボクが欲しいのはもっと違うものだ」

犬御に答えながら、裂けた舌先が釣りあがった口の傍をぺろりと舐める。
巴津火の欲しいものは遊び相手と暴れる口実、そして、力をつけるための『喰いもの』なのだ。
それらが集まるからこそ、巴津火も十種神宝を追っている。

「ボクは十種神宝よりも、それに集る者どものほうに興味があるな」

そう笑いながらちらりと弟の方をみた巴津火の目つきは、妙に貪欲で熱っぽかった。
その余裕は宛誄が窮奇の力の片鱗をみせたとたん、一変する。
その笑みがすっと冷え、怒りを覚えた時の無表情さに切り替わった。
あまりにも一途な蛇の想い、それが宛誄によって御されたのだ。

「お前“達”に力を分けた、だと?」

しゅぅ、と息が鳴った。
あの窮奇の力、その片鱗、弟達が分け与えられて、なぜ自分には無いのか。
問い詰めたくとも窮奇は居ない。

(ボクはあれが欲しい。あれを手に入れる)

己が欲するものが弟達なのか、それとも彼らが宿す力なのか、或いは窮奇そのものなのか、
その区別すら無いままに、嫉妬にかられて巴津火は目の前の宛誄を的と決めた。

181東雲 犬御:2011/08/14(日) 23:42:29 ID:0rvvBuFg
>>179-180
「……」

宛誄らを睨み続ける東雲は、譲歩しているように見せかけた一方的な提案を聞き終えると、
その表情を苦々しいものに変えた。

「カッ、流石あのアマのガキって所かァ?」

唾を吐き捨て、腹立たしそうに地面をにじる。

「妙に理屈めいた言い方もそこに雑じってる悪意もそっくりだぜ。
 あァ……確かに、袂山に危害が加わるのは俺も避けたい」

東雲は一瞬、迷うような表情を見せ、顔を手のひらで覆った。
宛誄の提案に揺らぐ心。
十種神宝に興味がある訳ではない彼らにとって、危害が及ぶのを避けるためには受けるべきかもしれない。
少し間を置いて、東雲は重々しく口を開いた。


「――が、所詮ガキだな。あの女には程遠い」

窮奇のそれはもっと毒々しく、もっと直接心を揺さぶった。
その力に宛誄が届いているはとても思えない。
最初から、揺らいでなどいなかったのだ。

「悪いな、俺はテメーらが気に喰わねェ、よって譲る気もねェ。……届け先に心当たりがないこともないしな」

その腕に十種神宝を宿した少年を頭に思い浮かべる。
とどめを刺すように、東雲は宛誄に向けて中指を立てた。

「よく聞いてるなら、今更そんな脅しが通用しねェことくらいわかンだろ、ガキが」

182宛誄&黄泉軍:2011/08/14(日) 23:51:07 ID:???
>>180

 にわかに殺気だった巴津火を見て、
 黄泉軍は武器を構えるが宛誄は背負った大剣を差してそれを制する。

「そんな目をしないで、ちゃんと伝えますよ。母上から貴方への言葉」

 嘘なのか真なのかはわからない、証明もしない。
 しかしそれでも巴津火を制するには充分だと踏んだ言葉だった。

「『巴津火は紫狂で一緒に楽しくやろうとしていたけど、やっぱりやめにしたよぉ。
  だって彼は充分“幸せ者”だ。放って置いても、何のしがらみも恨まれることもなく。
  まともな妖怪として色んな『良い』友達と仲良くできる。だから巴津火は紫狂である必要は無いんだ。
  紫狂はしがらみだらけトラウマだらけ敵だらけの、どうにもならないどうしようもない奴等の集まりなんだから』」

 それは暗に、巴津火に選択を迫る言葉でもあった。
 生まれた意義を捨て“幸せ”に生きるか、生まれた意義のままに“真逆の幸せ”に生きるかを問う言葉だった。

>>181

「・・・」

 浮かべる笑みが苦々しいものに変わる。

 やはりダメか・・・、コイツは揺らがない。
 母への劣等感も合いまり、今度は宛誄の心が揺さぶられた。

(流石、というべきなのか・・・!)

 マズい、もう2の手の交渉材は無い。
 最後の望みは巴津火だった。

(考えろ! どうすればこの場で切り抜けられる・・・?)

「い、いや・・・そんな・・・貴方の一存で【良い】んですか?
 自分の味方を危険に晒すんですよ、百害しかないじゃないか!!」

 もはや余裕も無く破れかぶれだった。

183巴津火:2011/08/15(月) 00:05:51 ID:1gBuqmPQ
>>181
「うるさい黙れ」

巴津火は犬御に苛々していた。
窮奇を悪し様に言われたのにも腹が立ったが、なぜかこの初対面な弟を侮辱する言い方もまた気に食わなかったのだ。
短気で暴れん坊という部分がよく似ている様でいながら、その実、犬御と巴津火は反りが合わない。

(なぜだ?なぜボクはコイツに腹を立てている?)

どこか戸惑うように遠雷が響いた。いつもの巴津火ならもっとはっきりと怒りが雷雲に反映するのだが。
巴津火が手に入れたいと欲しているものを悪く言われたためなのか、それとも……。
しかしその理由を考え付くより前に、嫉妬心が煽られた。

>>182

弟が伝える窮奇の言葉、それが本当かどうか巴津火にも確かめる術のないその言葉は、
確かに窮奇の片鱗ではあった。
それは巴津火の嫉妬も戸惑いも全て、その心ごとざくりと抉る力があったのだ。

(ボクは捨てられた。弟達と違って)

雨が降り始めた。
次第に強くなる雨足の中、巴津火は涙を溜めて立ち尽くしていた。
苛立ちや嫉妬に心が波立っていなければ、後で冷静に振り返れば、
その言葉は巴津火に紫狂からの『巣立ち』を促す言葉でもあると知るかもしれない。

しかし今、宛誄に嫉妬心を煽られ一途な心を弄ばれている巴津火には、
心を打ち砕かれるのにも等しい一撃だった。

カッ、と一瞬だけ辺りを雷光が照らす。近くの木に雷が落ちたのだ。
その瞬間に、巴津火はその身を蛇体へと変えた。

(何故、弟達が選ばれた?幸せ?そんなものわからない!知らない!窮奇!)

184東雲 犬御:2011/08/15(月) 00:12:08 ID:0rvvBuFg
>>182-183
(……? 何苛々してンだ、このガキは)

その言い草が頭に来るが、まあいい。
関係ないとばかりに、東雲は巴津火から視線を外した。

「百害あったとしても」

ダンッ!! と地面を蹴りあげる。
巨体が宙に浮かび、暗闇の中に紅い狼の眼がぎらつく。

「百害蹴散らしゃいいだけの話だ」

そのまま、宛誄のほんの眼前に着地する。
少年の小さな体に対して、東雲の覆いかぶさるような巨躯はその凶悪な顔も相まって、圧倒的威圧感を植え付けた。
そのまま腕を伸ばし、宛誄の首根っこを掴み上げようとする。
――が、

「っ、ゲホッ! ケホッ…!!」

突然、東雲が激しく咳き込んだ。
思わず口に当てた手のひらを離すと、どろりとした血液が付着していた。
驚きに目を見開く。

「何、うっ、ゲホッ!! ……!!」

突如、落雷。
蛇に姿を変えた巴津火を振り向き、東雲が焦る。

(クソッ、何だってンだ……!!)

185宛誄&黄泉軍:2011/08/15(月) 00:26:18 ID:tElbSrz.
>>184

(ダメだコイツ頭『悪い』!!!)

 宛誄はガビーンという擬音が聞こえそうなほどにショックを受ける。
 しかし怯んでいたのも束の間で、今度はいきなり目の前に迫られ萎縮する。

「く、ぐ・・・ぐぎぎ・・・!」

 そんな宛誄の心が折れかけた瞬間、事態が一変した。

>>183

「!?」

 突如として落雷が樹木を裂き、巴津火がその身を大蛇へと変貌させたのだ。

 窮奇のあの言葉は、竜宮事変での巴津火の扱いとその後の彼の動きを知った真実の言葉だった。
 しかし幼い精神に告げるにはあまりに重く、幼い悪意が使用するにはあまりに鋭いことばだった。


 そんな急変と、犬御の吐血を何よりも彼が早く理解できたのは。
 まさしく偶然と運の産物だといえよう。そしてあまりにできた悪運だった。

「い、今だ! 黄泉軍A隊はコイツを押さえつけろ!
 B隊は僕と一緒に来い! 走るぞ!! A隊は180秒後、僕と合流しろ!!」

 10数体の黄泉醜女が犬御に掴みかかった。
 薬による衰弱と巴津火の激昂によって生まれた隙では犬御でもかわせまい。

(虫害を防ぐ・・・つまり僕が一番嫌な流れを感じる場所にそれはある!)

 宛誄はその弱さが完全に好転した邪気を手繰り、
 水しぶきを上げながら蜂比禮の元へと駆けて行く。

(この豪雨の中なら匂いを消す! 勝った、完全に!!)

186巴津火:2011/08/15(月) 00:35:28 ID:1gBuqmPQ
>>184-185
黒蔵の器に封じられて不完全な状態の巴津火は、蛇体となっても黒蔵と同じ一つ頭の黒い蛇である。

今、その大蛇は二つの目を赤く輝かせて宛誄だけをじっと見つめていた。
ゆっくりと鎌首が持ち上げられ、大蛇はゆるゆると宛誄を狙う。

(窮奇、なぜボクじゃない、なぜあの弟なの。
 ……欲しい、あれを。捕らえる、あの弟はボクのものだ)

しかし心が乱され、答えの無い疑問を抱えその動きはどこか無駄が多い。
時折その顎が宛誄を捕らえそうになるが、その度に空を噛む。
明らかに大蛇は悩んでいた。

そしてさっきよりはもっと大きな雷が別の木に落ち、轟音が森を揺らす。
裂けた木に炎が灯り、その明かりが樹下の小さな祠を照らした。
石造りのそれは傾いでいたが、ぴたりと扉を閉じ、全体を封じるかのようにつる草が絡み付いている。

巴津火はただ宛誄だけを追い、宛誄だけを見ている。先に祠に気づくのは、宛誄か、犬御か。

187東雲 犬御:2011/08/15(月) 00:38:37 ID:0rvvBuFg
>>185-186
「チッ……!!」

宛誄の指示が飛んだことに気付き、焦って振り返る。
しかしその時には、既に黄泉醜女が東雲に襲いかかってきている状態にあった。
一斉に群がる躯たちとその死臭に、一気に頭に血が上っていく。
その妖力が、一気に膨れ上がる。
纏めて吹き飛ばしてしまおうと、東雲は腕を伸ばした。

「邪魔だッ! ど、け……!?」

だが、風は数体の黄泉醜女を引き剥がしただけに終わった。
全身から力が抜ける感覚に苛まれ、そのまま押し潰されていく。

(クソッ、力が思うように入らねェ!? 一体どうなってやがる!)

それが小鳥遊により投与された薬の影響だということを、この時点で東雲が気付けるはずもない。

(奴らは……駄目だ、見えねェ。チクショウが……!!)

188宛誄&黄泉軍:2011/08/15(月) 00:52:09 ID:tElbSrz.
>>186

「ひぃ!!」

 巨大な口が何度も宛誄を狙い、掠め。
 その度に黄泉醜女が吹き飛ばされていく。

「く、くそっ! ・・・!?」

 降り立った落雷が一つの祠を照らした。
 底から感じる、紛れもなく自分を拒絶する聖なる力!
 だが不完全かつ、微弱なこの邪気なら絶えるのは容易い!!

「そんなに近くにあったのかぁッ!!」

 祠へ向けて駆け出そうとするが、鎌首を擡げて自分を狙う大蛇が居る。

「くらえっ・・・! “牛刀・手羽裂き”!!」

 背負っていた大鉈を振りかざし、微弱な邪気を乗せて掠めた鎌首に斬りかかる。
 それは数枚の鱗を剃り飛ばす程度の攻撃だったが、宛誄の“病”が込められていた。

(脚気の気を込めた・・・ほんの数秒程度、怯んでくれれば!!)

 その巨体にどれだけ効くだろうか?

>>187

 一瞬感じた膨れ上がる妖気に驚き、飛沫を振りまいて慌てて犬御の方を見るが。
 どうやらそれも一瞬で収まり、黄泉醜女達に押さえつけられている。

(な・・・何があったかわからないがこれは好機だ!!)

 小鳥遊の邪念がここに来て宛誄に味方した。
 宛誄は豪雨の中を駆け、祠に手をかける。


「く、くそ・・・邪魔だ、このっ!!」

 絡み付いた蔦を濡れた手で引き千切り、祠を開帳させようとする。
 果たして、それまで間に合うのか・・・!

189巴津火:2011/08/15(月) 00:58:15 ID:1gBuqmPQ
>>187-188
(逃がさない)

宛誄が祠に近づいた瞬間が、巴津火にとってのチャンスでもあった。
その蛇体は素早く祠ごと宛誄を抱き込み、捕らえようとする。

しかしおそらく、宛誄を捕らえたところで巴津火には次にとるべき手段が見つからない。
捕らえたとしても喰らう事も出来ず、絞め殺す事も出来ず、弟に成り代わる事も出来ず、
何をすべきか判らないままじっと動けないその時が、宛誄や黄泉軍にとってのチャンスなのだ。

そして宛誄に首の鱗をはがされた時から、じわじわと病が巴津火の身体を侵してゆく。
その力の弱まりを示すかのように、雨の勢いは弱まり始めたのだ。
やがて、巴津火や宛誄達黄泉軍の強い匂いが、雨に邪魔されずに犬御にも届くだろう。

190東雲 犬御:2011/08/15(月) 01:07:56 ID:0rvvBuFg
>>188
「ぐっ……クソ、クソがァッ……」

黄泉醜女たちに押しつぶされ、鼻の曲がるような臭いに囲まれ。
東雲の怒りはすでにはちきれんばかりに膨らんでいた。
そして、限界まで膨れ上がった風船が破けるのと同じように、
限界に達した怒りが、妖気という風船を破裂させた。

「――いい加減ッ、離しやがれェェッ!!」

宛誄らの背後で、凄まじい轟音が起こった。
振り向けば、宙を舞う何体もの黄泉醜女らが見えるだろう。
同時に、抉れた地面に片膝をつく東雲の姿も。

「くっ、はァ、はァッ……」

ぼたぼたと口端から漏れる血。
無理をした為だろうか。鉄の味のする唾を吐き捨て、よろよろと立ち上がる。

(間に合うか……!?)

宛誄らはもう大分先に行ってしまった。
この体では辿り付くまでにも時間が掛かるだろう。
それに臭いも消えてしまい、そもそも後を追うことも――。

「……!!」

その時、弱まった雨の中から漂う臭いを、東雲の鼻が捕えた。
これなら辿れる。今なら、まだ間に合う。

(……まだ終わっちゃいねェ!!)

東雲は狼の姿に戻ると、出来うる限りの力で宛誄らの元へ駆けた。

191宛誄&黄泉軍:2011/08/15(月) 01:25:22 ID:tElbSrz.
>>189

「この、このっ!」

 必死で草を引き剥がす宛誄は、
 異変に気づくのがあまりに遅かった・・・。

「・・・? う、うわあああああああああ!!」

 巨大な蛇体が祠ごと巻き込んで自らと黄泉軍を締め上げていく。
 強大な力に宛誄の骨がミシミシと音を立て、祠が音を立てて壊れた。

「ぐぅ・・・?」

 死を思ったその時、巴津火はなにやら思考するように絞める力を強めない。
 どういうわけかと思ったその時、病が巴津火の体を蝕んだ。

「い、今だっ!」

 手羽裂きが深々と蛇身に突き立てられる。
 込められた病はメルニエール病! 眩暈や立ちくらみを引き起こす病!!

 その絞撃から脱出し、露出した紅いスカーフのような蜂比禮を掴む。

「取ったぁ!!」

>>190

「!?」

 後ろを振り向けば、今度は犬御の妖気が駆け寄ってくる!
 慌てた宛誄だが、手に持つ十種神宝に気づく。

「これだ・・・!!」

 振りまくと、それは宛誄の周りから数多の虫が湧き出してくる。
 このただでさえ暑い夏の夜にその効果は絶大だった。

「熱病・マラリア・・・!」

 病原体を抱えた虫たちと、生き残った黄泉醜女達が犬御に襲い掛かってくる!
 せめて豪雨が降っていれば虫も飛べなかったのだろうが・・・。

「ははははは!」

 そのまま尾を引くような笑いを残し、宛誄は霧雨の中に消えていった。

192巴津火:2011/08/15(月) 01:35:24 ID:1gBuqmPQ
>>190-191
蛇体は宛誄を巻き込んだまま動きを止めた。

この弟を憎めば良いのか、抱きしめれば良いのか、巴津火には良く判らない。
嫉妬の裏側にはただの憎しみだけではないものがあった。
悔しくもあり恨めしくも想うのは窮奇への思慕があってこそであり、この小さな弟は確かに
巴津火と同じく窮奇に繋がった存在なのだ。

(…くそっ、なんでコイツは窮奇そっくりなんだよっ!)

どこか苦しそうに巴津火は目を瞑る。
それは宛誄が精神戦で巴津火に勝利を収めた瞬間でもあった。

(お前の、お前達の名は、何と言う)

弟にそう問おうとした瞬間、手羽裂きが深く蛇体に突き刺さった。
既に緩んでいた蛇体の中から宛誄が飛び出す。

弱まった雨の中を賭けてゆく小さな背中を見送り、がくりと大蛇の頭は地に落ちた。
やがてその蛇体は元の少年の姿へと変わる。
次第に上がってくる熱に濡れた身体を包まれながらも、どこかその表情は安堵していた。

193東雲 犬御:2011/08/15(月) 01:40:22 ID:0rvvBuFg
>>191
「!!」

東雲が辿り着いた先に見えたのは、紅いスカーフのようなものを掴み上げた宛誄の姿だった。
その手の中のものが十種神宝であることに気付くのに、そう時間は掛からない。

(遅かったか……!)
「クソッ!!」

だが、まだ宛誄はそこにいる。
地面を再び蹴り上げると、狼は宛誄に向かって飛び掛かった。
しかし――。

「!?」

蚊のような大量の虫たちと、腐臭を漂わせた黄泉醜女たちが襲いかかる。
先程の怒りを引き摺る東雲は、再び立ち塞がる敵たちにその妖気をぶつけた。

「邪魔だッ!!」

鋭い鎌鼬が、周囲の虫たちと黄泉醜女を殲滅させる。
しかしその攻撃を放った途端、全身から力が抜けた。
咳き込むとともに血を吐き出し、地面に倒れる。

「クッ、ソ、待ちやがれっ……」

霧雨の中に消えていく笑い声。
それを追い掛けることのできないまま、東雲はその場に臥しているしかなかった。

194夜行集団:2011/08/15(月) 22:46:27 ID:bJBnsqT6
繁華街の中央から外れたとあるホストクラブから、よく手入れされた蒼の髪をなびかせ、
とてつもないイケメンオーラーを発する男が扉を開けて出てきた。
お買い物が楽しみなのか、祭りが楽しみなのか、
片手にはエコバッグ、片手には買う品の書かれた紙切れを持って、
整って輝くようなその顔にやわらかな笑みを浮かべていた。

「え〜と、イチゴ、ブルーハワイ、メロン・・・宇治抹茶はいるかな?」

そして彼の馴染みの店にいく前に、立ち止まって紙の内容を確認する。

195黒蔵:2011/08/15(月) 22:51:45 ID:1gBuqmPQ
>>193
(できるだけ沢山、急いで稼がなくっちゃ)

わき腹にどうして出来たか不可解な刺し傷が出来た日から、巴津火が妙に大人しい。
宛誄に逢っての巴津火の塞ぎこみなのだが、黒蔵にはそれがチャンスだ。
今のうちに出来るだけ稼がなくてはならない。

(自分の借金も返して、狼の分もできれば支払って、そんであの医者から引き離す)

その想いも思惑も既に無駄なのではあるが、そんな事を知らない黒蔵は
今日もホストの服に身を包む。

「あれ?氷亜さんが買い物?お使いなら俺が行くよ?」

この店のNo.1ホストが自らエコバッグを提げて買い物に出ようというのは珍しい。
そんな雑用は黒蔵のような下っ端の仕事なのだ。

196黒蔵:2011/08/15(月) 22:53:11 ID:1gBuqmPQ
//安価ミス、>>194へでした。

197メリー:2011/08/15(月) 22:58:43 ID:c1.PBF/s
>>194>>195

「こんにちはだよー」
突然、現れる神出鬼没な幼女!!

何処から出て来たのかといえば黒蔵のケータイから?

「あれ?氷亜お兄ちゃんお買い物だよ?」
そう言いながらキョトンと氷亜を見る。

198氷亜:2011/08/15(月) 23:04:36 ID:bJBnsqT6
>>195
この紙にある物の他に何を買おうか、などと考えながら空を見上げいると、
傍らから後輩である彼の声がした。
うん?、と笑顔のままそちら顔を向けてカバンと紙を交互にあげる。

「そうだよお買い物だよ。
 それと黒蔵君、気持ちは凄く嬉しいんだけど断らしてもらおうかな。
 これから行くお店は、まあなんというか、偏屈な店主の店でね」

その店主を説明しようとしているのか、黙って言葉をしばらく捜すが、
それはあきらめたようで黒蔵のほうへニコッと笑ってカバンを上げた。

「まあ会えば分かる感じかな。黒蔵君も一緒に来てくれるかい?
 流石に帰りの荷物は重くてね」

>>197
そんな感じで話をしていた氷亜は、
突然その話し相手の携帯電話から飛び出しただれかに少し驚く。
目が丸くなったが、直ぐに彼の目はメリーだと視認することができた。

「やあ、こんにちはメリーちゃん。
 そ、僕だってお買い物に行くんだよ?メリーちゃんもついてくるかい?」

199黒蔵:2011/08/15(月) 23:11:02 ID:1gBuqmPQ
>>197-198
「ぬわぅ!」

メリーと判っていても、ケータイを伝ってくると理解していても、毎度この登場には馴染めない。

(一体いつ後ろに出てくるのかと)

東雲犬御と小鳥遊医師のことをまだ隠し続けている黒蔵は、メリーの神出鬼没っぷりには
内心、肝を冷やしているのだ。

「うん、判った。でも行く前に」

何時ものようにアニさんアネさんに、店の外へ出ると断りを入れなくちゃと一瞬思ったものの、
二人が今はどうなっているかをはっと思い出す。

「―-ううん、なんでもない。メリーも一緒に?」

その慌てて内心を取り繕うと、氷亜の後を大人しく付いてゆく。

200メリー:2011/08/15(月) 23:19:44 ID:c1.PBF/s
>>198>>199

「お買い物一緒に行っていいんだよ?
それならフラッシュグレネード用意しないとだよー。戦場なんだよ…」アセアセ
………メリーよ。お前はどんな買い物をしてきたんだ?
いや、多分田中母に半額セール(という名の戦場)に連れてかれた印象が強かったのだろう。

「どうしたんだよ?黒蔵?」キョトン
不思議そうに黒蔵を見ながら

201氷亜:2011/08/15(月) 23:29:34 ID:bJBnsqT6
>>199
少し小気味良いステップを彼の歩調に加え、
袋を軽く振ってまさにルンルン気分で黒蔵の前を歩いていた氷亜は、
彼の辛い物になってしまった習慣に気づかなかった。

>>200
「ははは、そんなカードは無いよメリーちゃん
 それにそのお店は絶対に戦争になんてならないし」

メリーが頭の中でどのような戦争を思い浮かべているかなんて知らずに、
前を向きながら笑ってつっこむ氷亜。

「?
 黒蔵君がどうしたの?」

メリーがおかしなことをしていない筈の黒蔵に気を使ったことに、
若干の不思議を感じて振り返ろうとする。
しかしそれは目の前の光景で不可能になった。それと同時に不思議感も忘れてしまった。

>>ALL
氷亜につられ彼らがたどり着いたのは、
喧騒漂うこの街の、その中でもされに騒がしく人通りの多い繁華街の中心であった。
そこにはさまざまなオフィスビル、そのほかにも大きな店が並び立ち、
地表近くは行きかう人々によって波が形成されていた。

「さあいくよ、はぐれないでね」

そして大きくため息をついたかと思うと、
二人の手をきっちりとつかんでから、えいや、と掛け声を上げてその人並みに突っ込んだ。

202黒蔵:2011/08/15(月) 23:33:52 ID:1gBuqmPQ
>>200-201
「いやなんでもないなんでもない、なんでもないからねホント」

慌ててメリーに首を振る。穂産姉妹の事も小鳥遊医師の事も、今は口にしてはならないのだ。
氷亜にばれていないか、ちらりと横目で見る。

(よかった、ばれてない)

ほっとしたその時、手をつかまれて物凄い人並みに引っ張り込まれた。
季節は夏、街中は暑く、人の流れの中はもっと暑苦しい。

「え?う?ぅふおおおおおおぉぉぉぉぉぉーーーー……」

いや、引きずり込まれる、というのが適切な表現かもしれない。

(どうみても人大杉)

しかし抵抗することは出来なかった。

203メリー:2011/08/15(月) 23:45:47 ID:c1.PBF/s
>>201>>202

「本当だよ?猪のように突進してくるおばちゃんや獣のような瞳をしたお姉ちゃんとかいないんだよ?」ガクガクブルブル
妖怪であるメリーでさえも主婦たちは凶悪な妖怪に見えてしまう程にその戦場は恐ろしかったのだろう……
本当に恐ろしいのは人のよくb(ry

「ん?気のせいだったかよ?
気のせいみたいだよー」
否定する黒蔵に対し首を傾げ、氷亜にそう返す。


「あ〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜だよー」
氷亜に手を掴まれ、人込みの中に黒蔵同様引きずりこまれる。

(やっぱりお買い物は戦場なんだよ〜〜)グルグル

204氷亜:2011/08/15(月) 23:56:30 ID:bJBnsqT6
>>202
手をつれて歩く三人組。
そのうち一人はとても秀麗な顔つきのホスト、一人はあきらかにアウトな年齢のホスト、
それらに連れられている幼女。
あきらかに浮きまくって違和感に溢れた彼らだというのに、
よほど忙しいのか道行くものたちは、目をそちらに向けはしても振り返らない。

「・・・っく、やはり中央は人がただの雪崩になるね。
 気を抜いたらどこに出るか分かったもんじゃないよ」

だから彼らの周りだけ人がよけるなんて事はなく、
残酷にも人の熱気と圧迫がメリーと黒蔵を襲うこととなる。

>>203
「まさに今そんな状態だから手を離さないでね」

手を強く握って行きかう者達を掻き分け進む氷亜。
その顔には少しの疲れが。歩くだけで疲れる街ってなんだ。

「そうか・・・!気のせいならいいんだ・・・!!」

途中で誰かしらのアタッシュケースが腿に入って、
あまりにもの激痛に顔をくしゃっと歪めながらも、メリーに後ろ手で反応する。

>>ALL
その尋常でない人口密度にしばらく耐え、氷亜の手に従って直進していくと、
突然、その地点の人の波の勢いが薄れて動きやすくなった。
ピークの地点は抜けたらしい。
しかしそれにしては、明らかに人の数が極端に減っている。

「二人ともよくがんばったね、さあ、ここが僕の馴染みのお店だよ」

それは、彼らの目の前にそびえるお店、そのお店の店主の結界によるものだった。
彼がなじみといったこの店の外装は、これといって変わったところはなく、
どちらかというのなら没個性、と言えてしまうような地味さである。
ただひとつ、−何でも屋、一見さんは死ぬ可能性があります−の看板以外は。

205黒蔵:2011/08/16(火) 00:03:24 ID:1gBuqmPQ
>>203-204
「猪?獣?おばちゃん?おねえちゃん?戦嬢?!」

メリーの言葉に黒蔵も青ざめる。
氷亜は一体どんな恐ろしいところに二人を連れてゆくつもりなのか。きっとホストクラブより恐ろしいところだ。
人波にもまれ、潰され、溺れ、どれほど時が経ったか感覚も狂ってきたとき、不意に息が楽になる。

「ここ?」

人が減り、氷亜の手が離れ、黒蔵は辺りをきょときょとと見回した。

「一見さんって、誰?」

死ぬ可能性のある一見さんは、看板の文字を見て氷亜にそう尋ねる。

206メリー:2011/08/16(火) 00:23:51 ID:c1.PBF/s
>>204>>205

「!?
メリーはまだ装備が充実してないんだよー!!!!!!!」
氷亜の言葉にガタガタと震えながら叫ぶ。

そして、人込みから出た時はタレ幼女が出来上がっていた。

力無き瞳でそのお店の看板を見て、色々沸き上がる不安と疑問。
こんなお店があるなら田中家が普通に見えて来てしまう。いや、あそこも充分普通じゃないが…

「………………………こんなのおかしいよ…だよ…」
メリーは考える事を放棄した

207氷亜:2011/08/16(火) 00:33:27 ID:bJBnsqT6
>>205
意気揚々と入店しようとした氷亜は足をぴたりと止め、
初めての場所の空間に興味を持った黒蔵のほうを振り返る。
そして、彼の言葉につられるように看板を見上げ、
ああ、と困ったように苦笑してほおをぽりぽりと掻いた。

「例えば君みたいな者のことだね」

氷亜は別段そこに感情をこめずに、さらっとした手つきで黒蔵を指差す。

「初めて入店する人、って言う意味だよ。
 これが黒蔵君たちにお使いを頼めない、最大の理由なのさ。僕しか行ったことないし」

とは言っているものの、目を輝かせて口元をにやつかせて、
彼のその子供のようなwktk感を見れば建前というのが分かる。
確かにこの店は一見お断りなのだが、それ以上に氷亜はこの店を、
お使いなどで仲間の誰かに教えるのがもったいないと考えているらしい。

>>206
メリーが横でお店に突っ込んでくれていた。
その様を見てまた彼は苦笑し、小さなため息をついてこの店を見る。

「・・・中の店長は、おかしいとかの類じゃないよ」

最後にそう小さく言い残して、
氷亜はお店の木でできた両扉を開けて店内へと消えていった。

>>ALL
店内の様子はまさに、と言い切れないほどにおかしな空間であった。
まず、ものが多すぎる。しかもその種類の多さが余計に奇妙だ。
どこの国の駄菓子やねん、というような食べ物があったかと思うと、
明らかに国宝に指定されていそうな古びた仏像、鈍く光るモデルガン(多分モデルガン)まであるほど。

「おーい、氷亜が来たよ〜」

まるでそんな珍妙な空間の中氷亜は、少年が駄菓子屋のおばあちゃんを呼ぶかのように、
のんきな声を上げてどこかにいる誰かに声をかけた。

すると、とあるものが詰まれまくった山の一つが、動いた気がした。

208黒蔵:2011/08/16(火) 00:37:25 ID:1gBuqmPQ
>>206-207
(装備)

こくり、と黒蔵が生唾を飲み込む。
ホストの仕事をするつもりだったから、黒蔵も双剣は持ってきていない。
しかし持って来るべきだったろうか。
氷亜が言うには、自分は死ぬ可能性があるらしい。

「俺、死ぬの?死ぬのか?」

こんな店に入って生きて帰れるのだろうか、という想いから一瞬来た方角を振り向くが、
直ぐにまた青ざめて店の方を見、氷亜を見、そしてメリーを見る。

(どうみても氷亜さん面白がってるし、頼りになりそうも無い)

なので黒蔵はメリーと手を繋ごうと差し出す。
氷亜が中に呼びかけ、ごちゃごちゃの物の山が動いた時、その掌には冷や汗が握られていた。

209メリー:2011/08/16(火) 00:43:51 ID:c1.PBF/s
>>207>>208

「コレでここの人が人間だったら、メリーは田中家を普通と認めるんだよ。この街の人間はこんなのが普通だって」ガクガクブルブル

震えながら黒蔵の手をギュッとにぎりしめる。

ビクッ!!!

物の山が動いた時、メリーは黒蔵に抱き着いた!

210氷亜:2011/08/16(火) 00:56:32 ID:bJBnsqT6
>>208
「・・・氷亜?」

若干の静寂の後、その山が喋った。
そこから聞こえてきた声は、どちらかというなら女性に近かった。

「そうだよ〜」

山から声がしたというのに、別段驚く様子の無い氷亜は、
のんきな声をその山へと向かって返事を返す。

また静寂。
しかしその直ぐ後の変化は、とてもとても早かった。
山が突然噴火したのだ。途端に山にうず高く詰まれた物品は四方八方に飛んで、
それにともなって何者かの人影がその手に、かなり大きなライフルを持った状態で飛び出した。

「嘘つけええええ!!!
 お前なんてどうせ氷亜の皮をかぶった狼なんだろ!!そうなんだろ!!」
「なんで狼なんだ」

出てきたのは女性。だがその顔は、アフリカ辺りの部族の仮面のようなもので隠されて、
端っこから金の髪がはみ出しているだけである。
下の服もミリタリー、確実的なまでに迷彩柄の軍服だった。
そんなおかしな女は、彼らへと大きなライフルの銃口を向けていた。

>>209
「あたしは人間だ。あ!お前田中家にいるっていう幼女じゃねえか!!
 変な人間はあたしの店に来るなああああ。
 お前アレだろ!!あたしの店をなんやかんやで爆発するつもりだろ!!」

メリーの言葉に激しく反応して、銃口をメリーへと向けた。

「いやいや、子供に銃口向けちゃいけないよ。
 ところで、僕らはお客としてきたんだ。いつもの夜店のための準備をね」

211黒蔵:2011/08/16(火) 01:09:49 ID:1gBuqmPQ
>>209-210
「うひぁ!」

飛びついてきたメリーを受け止めながら、思わず情けない声が漏れた。
物の山が動いたのは見えていたのだけれど、突発的に動いたメリーにさらに黒蔵は驚いたのだ。
しかしまだそんなのは序の口だった。さらに物の山が噴火した!

「のっひぇぇぇぇ!!」

飛び出してきた謎仮面に、ライフルを突きつけられた!

「ひぃぃぃぃっ!!!!」

火口噴出物の雨霰からメリーを庇おうとするが、色んなものが当たって痛い。
チェス盤が頭にあたった、駄菓子の飴が雨となって振ってきた、額縁の縁が頬を掠めた、
マネキンの首が髪を振り乱しながらごろりと足元に転がってきた。
そんな一連の物の雪崩が収まってほっとしたところで、ライフルがメリーに向く。

「あの、あのっ!」

止めさせようと立ち上がった黒蔵の背後の物の山に立てかけてあった戦斧が、
バランスを崩して倒れこんできた。
このままでは後頭部にざっくりコース、一見さんに死の運命。

212メリー:2011/08/16(火) 01:24:44 ID:c1.PBF/s
>>210>>211

「うなぁぁぁあ!!!だよ!!!!」
余りにも奇抜な格好と登場に叫びをあげ、咄嗟にデザートイーグルを向けた!!

「………メリーは田中家が普通だって事を理解したんだよ」
残念だがメリー…田中家もココも普通じゃないぞ?

「メリーはそんな物騒な事しないんだよ!というかココも田中家も代わらないんだよ!!!」
あっ…やっぱり普通じゃないって理解してる。

「まさか……ママさんの知り合い…だよ?」
もしこの人が裏稼業をしてる人なら田中母と面識があるかもしれないと思った。
25年くらい前まで田中母は裏稼業で《破壊人》という呼び名で色々していたから……


「って!黒蔵危ないんだよー!!!」
メリーは咄嗟に黒蔵に言うが…ライフルを向けられてる為に下手に動けない。

213氷亜:2011/08/16(火) 01:32:41 ID:bJBnsqT6
>>211
先ほどから落ち着かない様子の女は、黒蔵の声にビクッと大きく体を震わせて反応した。
どうやら雰囲気的に言うと彼女は怯えているようだ。

すると目の前で黒蔵に倒れてくる斧。
それは氷亜がひょいッと軽く支え持って、元の場所に立てかけた。

「もう、しっかり注意しとかないと危n」
「ほらあああ!!今さっきその小さい男子、斧を引き寄せてあたしの命を狙ってたあああ。
 やっぱりお前らは偽氷亜の連れてきた刺客だなっ。死んでしまえええ」
「ここの店長。もはや被害妄想レベルでネガティビストなんだ・・・」

だが氷亜の涼しげな反応とは対照的に、女のほうはお冠。
大きな声で威嚇したかと思うとその銃口は、黒蔵へと向けられる。再びピンチ。

>>212
だがふと女性はメリーのほうを見た。
その仮面から表情は分からないが、息がどんどん荒くなっているので、
もしかしたらまた焦っているのかもしれない。

「ひ、ひいいいいぃぃぃぃい!!」

やっぱり、とでもいうように銃口を向け返した女のライフルの、
先端の部分に氷で栓をして、氷亜は頭をゆっくりと撫でた。

「こらこら落ち着きなって。子供に銃向けてどうするんだ?」
「この氷・・・ああ、氷亜か・・・安心した」

すると女性も落ち着いたのか、その銃身を下げて、ゆっくりと地面に置いた。
まだ息は荒いが襲ってくる気配はなさそうだ。

「知り合いも糞もあの女、
 ちょくちょく調達のためにあたしの店に来るんだよ・・・」

だが今度は逆に激しく落ち込み、地面に両手両膝を突いて跪いた。
よっぽどママさんの来店は、女にとってのストレスなのだろう。

214黒蔵:2011/08/16(火) 01:38:52 ID:1gBuqmPQ
>>212-213
メリーの声に振り向いたとき、顔の前に戦斧の刃が迫っていた。

「うっ」

叫ぶ事も出来ずただ顔をそらし身をよじり、刃を避けようとする。
ぎりぎりのところで氷亜が受け止めなかったら、
振り向いた黒蔵の肩口にはざっくりと斧の刃が食い込んでいただろう。

「ねがてぃびすと?」

どういう経緯か再びライフルの銃口が自分を指したので、黒蔵はびくりと震える。
銃は嫌いだ。

「氷亜さんはなんでこんな店にわざわざ?」

黒蔵はもう一刻も早く帰りたい気分である。でないと命がない。

(ママさんも来るのか、こんなとこに)

氷亜もママさんもこの店主と同じくらい変態だ、と黒蔵は思った。

215メリー:2011/08/16(火) 01:52:42 ID:c1.PBF/s
>>213>>214

「……氷亜さんも苦労してるんだよ?」
なんか仲間を見るような目で氷亜を見るメリー。

そして女性が銃を下ろしたのを確認し、メリーも銃をしまう。

「調達って……まさかママさんのコレクション(銃や弾薬等)はここから?だよ?」
そう言いながら、女を見るとなんか落ち込んでる。

「け…けどママさんは優しいんだよ!なんか怖いけどルールは守ってるんだよ!けど銃撃ったり怖い人とO☆HA☆NA☆SIしたりするけど………うん!だよ……」
たしかにママさんは優しいが行動や見た目は普通じゃないからフォローができなかったメリーだった。寧ろ銃持ってる時点で社会のルールを守っていなかった……

ぶっちゃけママさん怖いから彼女の被害妄想を引き出しそうだ…

話せば以外に普通(?)だけど

216氷亜 女:2011/08/16(火) 02:01:07 ID:bJBnsqT6
>>214
「造語だよ、造語」

さらりと黒蔵に答える。
ちなみにネガティブ+〜イストでネガティビストという氷亜の作った言葉だ。
だがそんな言葉が、あの女にはちょうど似合うのであった。

「ここには色々な種類の肉まんがあるのさ♪
 イベリコを入れた超こだわりの品から、イチゴを入れた冒険の一品までね」

そう説明する彼の目はキラキラと輝いていた。

「他にもおいしい暖かい食べ物が・・・」「そうだ氷亜。新しい種類のなべを入荷したぞ」
「マジで!?」

女の新製品の誘惑で、氷亜はこの店に来た当初の目的を忘却している。
黒蔵かメリーが彼を止めなければ、数時間と帰ることができなくなるだろう。

>>215
「いやいや慣れたもんさ。
 と言っても、まだたまに予告なく打たれたりするけどね」

両肩をくいっとあげて、呆れのジェスチャーをする。
慣れたように女と接する彼でも、まだ彼女の突発的なネガティブには手を焼くらしい。

「買っていく・・・。それも今から戦争か?ってレベルで」

まだママさんの気疲れが抜けず、げっそりとした雰囲気を出している女は、
また思い出してしまったママさんの姿に怯え、
気付けの為に本当にどこの国のどんな効能かまったく分からないドリンクを飲んだ。

「ルール守るけど、ルール守るけど。
 あんな人、思慮深いあたしじゃなくても変な想像膨らんじゃうじゃないかあああ」

どうやらネガティビスト師範クラスの彼女くらいになると、
得体の知れないママさんは、圧倒的な天敵に当たるらしい。

217黒蔵:2011/08/16(火) 02:10:40 ID:1gBuqmPQ
>>215-216
「苦労?」

メリーとは違い、黒蔵には氷亜が苦労してるようになんて見えない。
相手が人間ならさっさと垂らしこんでしまったほうが楽なんじゃないか、とかちらりと思う。

「肉まん?今、夏だよ?」

肉まんのためにつれてこられたのか、と溜息をついた黒蔵には、
氷亜の本来の目的を思い出させるつもりはない。
なぜならば、氷亜単独でも黒蔵には十分地雷なのだ。触らぬ氷亜に祟りなし。

「メリー。氷亜さんの気がすむまで俺はここで待つよ」

店内に少し空間の余裕があるところを見つけると、手近なクッションと金属の籠を重ねて頭に被り、
何か物が降って来ても良いように備えて蹲った。
帰り道の荷物持ちとして必要とされるまで、黒蔵はじっと氷亜を待つだろう。


//すみませんがそろそろ眠気が限界なので、ここで落ちます。

218メリー:2011/08/16(火) 02:20:31 ID:c1.PBF/s
>>216>>217

「まあ…確かにだよ」
氷亜にそう言いながら女性に振り向き

「あ…なるほどだよ」
確かに田中家で見た事あるモノが置いてある。
確かにママさんは家族の為に色々吟味して買いそうだ。

むしろ田中姉も喫茶店《ノワール》の食材を買いにここに来てそうだ。

「……うん。そりゃあ納得だよー。私もママさんを最初見た時は思わず両手あげちゃったんだよ…」


「長くなるならメリーは色々見てるんだよー」
今度、田中母が行く時一緒に行こうと思いながらお店の商品を見てまわることにした。

メリーは氷亜の買い物が終わるまで色々見て回るだろう

/では私もこの辺りで
/絡みありがとうございます
/お疲れ様です

219氷亜 女:2011/08/16(火) 02:26:53 ID:bJBnsqT6
>>217>>218
女と話し込んでいた氷亜は、黒蔵の言葉に振り返る。
別段邪魔されたとかは思っていないようで、不快感は顔にはなく、
彼の質問に少し目を丸くしただけだった。

「でも僕からしたら夏って気温じゃないんだよ。
 雪男だし、万年寒いし」

唇をすねたようにとんがらせて、再び女のほうへ話を続けた。
だがその間彼が暇だろうと、適当においしそうなチキンを彼に渡している。

「なあ?あのお客さんはお得意さんでもヤダ」

そして女のほうはメリーが暇を理由に暴れることを恐れ、
どこからかだしたインドの言葉で書かれたお菓子をあげる。

それからの彼らのあたたか〜い食べ物談義は続き、
最終シロップやその他の大事な買い物を始めたのは、
彼らの試食が始まってから3時間後のことであった。

//了解です!こちらこそ絡みありがとうございました!!

220???:2011/08/18(木) 00:17:48 ID:/AfNAO.Q
「ああ……腹減ったなぁ……」

そうぼんやり呟き、星が瞬く夜空を見上げるのは、薄汚れたツナギを着た男であった。
空のスチール缶を片手に、人気のない公園の柵に腰を降ろしている。
顎にざらざらの髭を生やした、見た目三十歳は越えていそうなおっさんである。

「ん〜……、夜風は気持ちいいが、ちょいと暇だなぁ」

手で顎を擦り、体を掻く。
しかし一見普通の人間であるこの男もまた、人であり妖怪でもある存在。小鳥遊によってこの世に蘇った半妖だ。
その独特な気を放ちながら、男はアホ面で大欠伸をした。

221ペトラ:2011/08/18(木) 00:26:26 ID:???
>>220

「おじさん、何してるの?」

掛けた声はすこし、硬くなっていただろうか
"食事"ののちに帰ってきた公園に居たのは、不思議な気を放つ男だった

振り向けば、汚れた迷彩の繋ぎを着た、少年の姿が視認できるだろう。
髪は煤けたような灰色、鳶色の瞳は好奇と不安に揺れていた

そっと後ろに忍ばせた右手には、アイスクリーム(あたり付き)が、有った

222???:2011/08/18(木) 00:37:52 ID:/AfNAO.Q
>>221
「おぅわっ!?」

突然声を掛けられ、男はびくりと肩を跳ねさせた。
慌てて振り向くとそこには、迷彩柄のツナギを着た少年の姿が。

「びっ、びっくりしたぁ〜……何だ子供か! こんな時間に、坊主こそ何してんだ?」

ふぅっと溜め息を付き、首を傾げる。
しかし似たような格好に親近感を覚えたのか、にかっと歯を見せて笑った。

「おっ、おじさんとお揃いだなぁ! 似合ってるぞー」

ペトラの視線に合わせてしゃがみこむと、陽気に笑いながら、ぽんぽんと肩を叩く。
背後に忍ばせたアイスには気付いていないようだ。

223ペトラ:2011/08/18(木) 00:49:06 ID:???
>>222

予想外に、相手を驚かせてしまっていた
こんな夜に後ろから声を掛けたのは、失敗だったかもしれない

「僕はこれから、寝るところだよ」

そんな事を考えながら、放つ気とは裏腹に普通な反応を示す男に、安堵もあり
控えめな笑みを浮かべながら、何気ないといった風に答えた
指差したのは公園の奥、昔のアニメに出てきそうな土管である

「あはは、本当だ…おじさんにも、似合ってるよ!」

自分と同じ格好の人物とは、珍しい
好意的な男の笑みにからからと笑い声を響かせながら答えを返す
変な人ではなさそうだ、よかった。それどころか服装の所為だろうか、親近感すら湧いていた

「おじさんも寝るところ無いなら、僕と一緒に寝る?」

そんな提案をしながら、包み紙を解いてアイスクリームを舐め始めた
ちろちろと舌に当たるチョコレート味が心地良い

224???:2011/08/18(木) 01:09:00 ID:/AfNAO.Q
>>223
「おっ?」

指差された方向を振り向き、男は驚いたように目を丸くした。
(先客がいたのね)、と小さく一人ごちる。

「……坊主、あんな所で寝てんのか。いやー、おじさんには真似できねーな」

腰が痛くってね、と男は冗談めかして言った。
子供が土管で寝ていることに関して突っ込まないのは、既にペトラが「普通の子供」でないことに気付いているからだろう。

「ほんとか? そりゃ嬉しいな。おじさんいっつもこれしか来てないから」

汚れたぼろぼろのツナギは、大分使い込まれているように見えた。
いつもこの服を着て何かしているのだろう、ということを伺わせる格好だ。

「いや俺は……。………………………………………」

ペトラの提案に、男が首を振ろうとした瞬間。
その視界にアイスクリームが映った、瞬間。
突然男の雰囲気が変わった。
表情が強張り、まるで何かに耐えるように震えはじめる。
しばらくして、

「……なぁ、坊主、それ、一口くれねーか?」

男は目を伏せながら、少年に言った。

225ペトラ:2011/08/18(木) 01:23:23 ID:???
>>224
「うん、すめばみやこ、ってやつかなー…?」

現状、多少寂しくても耐えられない程ではなかった。
それもまた妖怪だからこそ、であろうし、その事は男もわかってくれているのだろう
男に合わせて笑い返しながら、頭を掻き掻き聞き齧りの諺など言ってみる

「そっかー…おじさん、仕事でもそれ使ってるの?」

汚れボロボロになったツナギを瞥見し、成る程と納得しながら
何かそんな風になるような事もやっているのだろうか、と
質問してみるのだった

「…いい、けど……、。」

突如、変貌した男の雰囲気
そのとっかかりが分からず、少年は唯戸惑った風に
震える男の肩に片手を起きながら、アイスクリームを男の口のまえへと持っていった
調子の悪そうな男に対する気遣いの積りなのだが、三十路の男にあーんをしろというのだろうか

226???:2011/08/18(木) 01:44:37 ID:/AfNAO.Q
>>225
感心したように「ほぉー、逞しいなぁ」と言って頷く。
服について尋ねられると、ツナギの袖を掴み「この服か?」と聞き返した。

「ああー……前に鳶やってたんだよ」

男は、どこか言葉を濁すように答える。
分かりやすく視線を泳がしている所を見ると、何か事情がありそうに見えるが。
しかしそこで、ペトラがアイスクリームを取り出した。
目の色を変えた男の視線は、真っ直ぐペトラの手元だけを見つめている。

「……あ、」

肩に片手を置かれ、目の前にアイスクリームが差し出される。
穴が開くほどそれを見つめる男。その瞳には、狂気的な感情が宿っているように見えた。
ぐぐぐ、とアイスクリームに近付き、ゆっくりと口を開く。

「―――――――ん」

その、大きな「一口」は。
ペトラの握っていたコーンの部分ごと、一気に食らってしまっていた。
顔が離れた時には、ペトラの手には小さなコーンの欠片しか残っていないだろう。
なにしろ、その手ごと食べてしまいそうな勢いだったのだから。

「あっ、わ、悪ぃ、坊主……!!」

我に返ったように、男が顔を離す。
だがその目には、まだ先程の狂気が宿ったままである。
男はペトラに詰め寄ると、その小さな両肩を掴んだ。

「なぁ、坊主……まだ何か持ってねぇよな? 食い物、あれで終わりか? 何かかくしてるんだろ? なぁ? 」

息を荒くする男の顔は、先程までの明るい表情から、恐ろしい形相に変わっていく。
その異常な反応に感じるのは、恐らく、恐怖だろう。

227ペトラ:2011/08/18(木) 02:06:51 ID:???
>>226
こくり、と頷いて
言葉の続きを待って見れば、どうやら鳶…身軽で凄いあの、職業に就いていた、らしい

訳があるのか濁った言葉尻、泳ぐ視線…と
好奇心と憧れで持って会話を続けようとするが併し、そうもいかなくなってしまった

「おじ、さん…?」

やはりというべきか、おじさんは、唯のおじさんでは無かった、のだろう
アイスクリームを見る男の視線は何処か異常に見え
少年は、軽い戦慄を覚えた

「ーーーっ!」

そして
手元に残ったのは、小さな欠片のみ、であった
それだけならば、笑って済ませる事も出来た
然しそれが出来ない、異様性が、男からは感じられ


「もう無いっ、あれでお終いだよっ!」

謝られた、そう思えば両肩を掴む男の腕があって
訳の分からない、どうしようも無い恐怖に駆られていた
力の抜けた指先から、コーンの切れ端が地面へと落ちていく
男に抵抗する少年の力は、微々たるものであった

228???:2011/08/18(木) 02:18:23 ID:/AfNAO.Q
>>227
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」

ぐい、と男が苦しそうに自分の胸を引っ掴んだ。
異常な「食欲」への衝動が、頭の中で暴れ回る。
欲しい、欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。

「欲しい……」

食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい食いたい、食いたい。
男は喘ぐように呟くと、口端から涎を垂らしながらペトラを見上げた。

「なら、『坊主』を食わせろよ……」

ぐぐっ、とおよそ人とは思えぬ強い力がペトラを引き寄せる。
もう、先程までの優しい男の面影はどこにもない。

229ペトラ:2011/08/18(木) 02:32:45 ID:???
>>228

あきらかに様子が、おかしい
それがなんのためなのか、未だにはっきりとは判っていなかったのだが
恐らく、と、思うところはあった。もっともそれを、今言っても仕方ないのだろうが。

「ひっ……!」

涎を垂らしながら見上げる、男の姿
怖い、怖い。妖怪でありながら、恐怖は拭い切れないものとなって声として洩れた

「……ッ…や、やだっ!!」

自分を、喰う
それがどういう事か、直ぐに理解出来て"しまった"
引き寄せる力は、とても少年に抗えるようなものではない。

ここで、死ぬのかーー…

突如
少年の上げる声とともに、男の眼前にバスケットボール大の風船が生まれた

其れ へと視線を向ければ、自分の夢を叶えている像が見え、
徐々に、眠くなっていく筈だ。
聞くかどうかも分からないそれが、少年の唯一の抵抗であった

230???:2011/08/18(木) 02:45:58 ID:/AfNAO.Q
>>229
欲しい、欲しい、欲しい欲しい食いたい食いたい食いたい……!!
引き寄せたペトラに大口を開け、噛り付く。
しかし僅かにそれは届かず、がちん! と歯がぶつかる音がなった。

「食わせろ!!」

怒鳴り声を上げて、男が再び口を大きく開く。
その歯がペトラに届く、その直前――。

「!?」

目の前に現れる、バスケットボール程の大きさの風船。
驚くのと同時、それに視線を向けると、風船の中に気味な像が見えた。
夢を叶える像。その風船の中には、ありったけの食材の山があった。

(ああ……あああ……)

じゅるり、と涎を垂らしながら、男はその場に倒れた。
……どうやら、眠ってしまったようである。

231ペトラ:2011/08/18(木) 02:54:11 ID:???
>>230
歯の重なる音、男の怒鳴り声
目を逸らしたくなるような光景を然し、少年は全て目に、耳に焼き付けてしまった
絶え間ない恐怖の間、突如召喚した風船は男の視線を捉えーー…


「はっ…は ……っ」

少年はその場にへたり込んで、荒々しく息を吐いた
目の前には、未だ男がいる。
どんな訳があったにせよ今は、この男の近くに居たくなかった
やがてよろよろと立ち上がると、どこかを目指して歩いていく
最後に一度、振り返って

/こんな感じで締めさせていただきます!絡みお疲れ様でした
/ありがとうございました!

232???:2011/08/18(木) 03:02:17 ID:/AfNAO.Q
>>231
「……」

ぐっすりと幸せそうな眠りにつく男は、しばらく公園に横たわっていた。
ペトラがその場から逃げ出した、それから数十分後。
公園に、一人の影が現れた。
すらりと細い影は、眠る男の枕元に立った。

「……はぁ、なんて所に寝ているのですか、日野山幽次郎」

それは、女性の声。
影はぬっと腕を出すと、男の首根っこを掴んだ。
そして体格のいい男を、意図も簡単に引き摺りはじめる。

「全く、行きますよ」
「……ZZZ……」

地面に引きずらたまま、男は公園からいなくなった。
後には、誰も残らない……。

//ありがとうございました!!

233黒蔵:2011/08/18(木) 23:40:44 ID:1gBuqmPQ
総合病院の緊急搬送車両の搬入口付近。

だぼだぼの作業服の袖をめくり上げ、夏の日を白く照り返す建物に目を細めながら、
脚立の上で精一杯腕を伸ばしガラス拭きをしている少年が居た。
そこへ飛来した足長蜂が一匹まとわりつく。

「うわ!」

蜂を追い払おうと脚立の上で雑巾をばたばた振り回すが、蜂は雑巾から容易く逃れて
しかし遠くへは行かない。

「あっちいけ!わぁ!」

その時、少年の乗る脚立がぐらりと傾いだ。
ガラスに突っ込むコースではないが、床に置いてあるバケツへ特攻くらいはしそうである。

234東雲 犬御:2011/08/18(木) 23:55:39 ID:/AfNAO.Q
>>233
黒蔵が、今にもバケツに特攻しようとしているその時、
傾く少年の世界に、突然、面倒くさそうな溜め息が聞こえた。

「……ったく、何遊んでんだ。このバカ」

倒れかけた脚立を片手で受け止め、バケツに突っ込みそうになっていた黒蔵の首根っこを掴み上げる。
どこからともなく現れたのは、白衣を着た人相の悪い大男だった。
偶然この場を通りかかり、角を曲がった所で、黒蔵が倒れそうになっているのを見かけたのだ。

「チッ」

乱暴に舌打ちすると、東雲は持ち上げた黒蔵を地面に放り投げた。(その後、脚立はきちんと立て直したが)
助けたのは助けたものの、やはり扱いは雑である。

235黒蔵:2011/08/19(金) 00:04:46 ID:1gBuqmPQ
>>234
「ごめん…あと、ありがと」

猫の子のように放り投げられたが怒る事もせず、蚊の鳴くような声でそう呟いた。
秘密が重過ぎて犬御の顔がまともに見られないのだ。
黒蔵は背中を丸めて取り落とした雑巾を拾い、バケツの水に放り込んだ。

しかし、こんな風に目を合わさないのも卑屈なのも、犬御の神経を逆撫でするのだ。

背中で犬御の苛立ちを感じながらも、別の雑巾を手に取ると
黒蔵はのろのろと脚立によじ登り始めた。

(怒ってる。多分また、怒られる)

この狼をのっぴきならぬ状況へ追いやった負い目が、黒蔵に卑屈な態度をとらせ続けていた。

236東雲 犬御:2011/08/19(金) 00:18:14 ID:/AfNAO.Q
>>235
「…………」

まともに目も合わせようとせず、卑屈な態度を取って、黒蔵は脚立に昇っていく。
それを無言で見つめる、というより睨む東雲の眉間には、深い皺が刻まれていた。
怒っている。苛立っている。それは黒蔵も、肌でピリピリと感じ取っているだろう。
だがその苛立ちには、黒蔵の態度とは、また別の理由も含まれていた。

「おい、クソガキ」

名前を呼んだ、途端。
東雲は唐突に脚立の脚を蹴った。
倒れるまではいかなかったが、不安定な脚立はぐらぐらと揺れる。
何事かと黒蔵が振り向けば、片足を脚立に乗り上げたまま、険しい表情でそちらを睨む東雲がわかるだろう。

「テメェ、俺に隠してることがあるだろ」

そしてその言葉に、首筋の痣を気にすれば分かるかもしれない。
それが、既に無くなっていることに。

237黒蔵:2011/08/19(金) 00:23:26 ID:1gBuqmPQ
>>236
脚立の上、そこは黒蔵が犬御を見下ろす高さになれる場所である。

「?!」

蹴り飛ばされ不安定に揺らいだその時、犬緒の首筋のあの赤い痣が消えているのに気がついた。
黒蔵は状況も忘れ思わず手を伸ばすと犬御の襟をひっぱり、その髪を分けて確認する。
二度見しても、犬御の喉がぎゅうぎゅうと絞まるほど服を引っ張って探しても、巴津火のつけた
あの痣は無かった。

「よかっ、た…」

どっと大きな安堵が押し寄せて来て、犬御にしがみ付いたまま黒蔵の身体からくたっと力が抜けた。
今度は誰にも支えられずに脚立は倒れ、黒蔵は犬御の首ったまにかじりついてぶら下がる。

犬御の拳が降って来ても、黒蔵は離れないだろう。
気が抜けた表情で、半泣きに成りながらも「ごめんなさい、でもよかった」と呟き続けている。

238東雲 犬御:2011/08/19(金) 00:43:21 ID:/AfNAO.Q
>>237
「っ!?」

いきなり襟を引っ張られ、突然の行動に動揺した東雲は、不覚にも固まってしまった。
襟足を掻き分けられ、終いには首まで絞められる始末。
本当に痣が無いのを確認した黒蔵が力を抜き、詰まる息が解放される。

「っぷはァ! はぁっ、はぁっ、……クソガキィ!! テメェいきなり何しやが――」

噛み付くような勢いで上げた怒鳴り声は、脚立が倒れた音に掻き消された。
その代わり、東雲の首を掻き抱くように、黒蔵がぶら下がる。

「……は、はァ!?」

東雲は目を丸くして、焦ったように行き場のない手を上下させた。
が、すぐに我に返り、黒蔵をはがそうとする。

「おいコラ離れろ! 離せって……!! チッ、この蛇ヤローが!!」
思いの外強い力で絡み付いくのは、やはり蛇だからだろうか。
何度か拳を放ってみたが、やはり効果がない。
息を荒くしていると、ふと黒蔵の呟きが、東雲の耳に届いた。

「……っ」

今となっては、事情を知ってしまった東雲は、言葉に詰まりざるをえなかった。
途方も無い借りを作ってしまったのだから。この少年に。

(……よかったじゃねェんだよ、全部一人で背負い込んでやがって、このクソガキが……)

東雲は深い溜め息をつくと、舌打ちをついてから、一度だけ黒蔵の頭をぽんと叩いた。

239黒蔵:2011/08/19(金) 00:52:59 ID:1gBuqmPQ
>>238
脚立の音が人目を引いたか、犬御と犬御にしがみ付いてぐしぐしとべそをかいている黒蔵とを
ちらちらと笑いを含んだ人の視線が探る。
しかし、黒蔵は気づいていないのか、なかなか離れようとしない。

「狼ごめん、ごめんね。俺のせいで…」

犬御がどこまで知っているのか、黒蔵は知らない。
犬御が人目に焦りはじめた頃、ようやく手を離した黒蔵は全部を話した。
自分のミスで小鳥遊医師に妖怪の事を知られ、さらに巴津火と医師の間に密約があったこと。
自分の口封じとして記憶の消された犬御は、人質として巴津火にその命が握られていた事。

「でももう、巴津火が祟る心配は無いんだ」

ただ、問題なのは小鳥遊である。

「狼、あの医者は危険だ。直ぐにでも離れてくれ。
 今なら織理陽狐さんに頼めば、きっと何とかしてくれる」

借金の返済は、犬御の分も黒蔵に肩代わりできるのだろうか。
犬御に申し出てもその答えは判っているので、そこに関しては医師に掛け合うことに決めた。

240東雲 犬御:2011/08/19(金) 01:12:26 ID:/AfNAO.Q
>>239
ぽん、と頭を叩いた後、狼の聴覚が周囲の音を捉えた。
人が集まってきていることに気付いた時にはもう遅い。
黒蔵がしがみついているせいで、逃げることもできない。

「〜〜っ」

しばらくすれば、ちらほらと現れた野次馬たちが、東雲らを見てクスクスと笑っているのも聞こえはじめた。
慌ててもう一度、黒蔵を引き剥がす作業に戻る。

「ええいっ、いいから離れろクソガキ!」

だが黒蔵の呟きに、再び言葉を詰まらせてしまう。

「っ、別にテメーのせいじゃねェだろーがよ……」

どこか歯痒そうにぐしゃりと頭を掻く。
むしろ東雲は、黒蔵に助けられたのだから。
少年が一人悩んでいる間、端で自分が全て忘れたいたという事実が、無性に悔しかった。

「…………」

小鳥遊からも聞かされたことを、黒蔵の口からもう一度聞かされる。
初めて聞いた時は激しく喚いた(薬のせいで暴れることはできなかったが)ものだが、そのおかげで心は落ち着いていた。
しかし、最後に黒蔵が言った言葉に、東雲は目を伏せた。

「……悪ィな、そりゃ無理だ」

低い声で呟き、かぶりを振る。

241黒蔵:2011/08/19(金) 01:21:50 ID:1gBuqmPQ
>>240
「どうしても、駄目なのか?」

食い下がっても、犬御の答えは変わらなかった。
ここまで追い込んだのは自分だ、と悔いても悔い足りない。

「…そうか。判った」

それなら黒蔵もここに居よう。
黒蔵の失態がこの状況の原因なのだから、一人で逃げ出す事は出来ない。
せめて犬御を護るくらいはしなくては、この悔いは埋まらない。

(この仕事を続ければ、二人を見張っていられる)

「俺は、俺に出来る事をするよ」

黒蔵は立ち上がって脚立を建て直し、バケツに屈みこんだ。
残りのガラスを拭き上げねばならないのだ。

242東雲 犬御:2011/08/19(金) 01:39:41 ID:/AfNAO.Q
>>241
「……」

再びガラスを拭き始めた黒蔵の背中を、ポケットに手を突っ込んで眺める。
細められた赤い瞳には、悔しさや歯痒さや、様々な感情が渦巻いていた。
奥歯を噛み締め、少年に背を向ける。

「……黒蔵」

初めて、その名前を呼んだ気がする。
足を進めながら東雲はぼんやりと思い、擦れた声を絞りだした。

「『ありがとな』」



(俺は、もう、戻れねェ)

少し離れた場所で、白い壁に背中を預けながら、視界を腕で覆う。

(クソガキが借金を返したら、病院を離れさせる……俺がいねー間)
(七生を、守れるのは)

243黒蔵:2011/08/19(金) 01:46:48 ID:1gBuqmPQ
>>242
脚立の上で、犬御へ背中を向けてはいても。

今磨いているガラスに映った犬御の表情は見て取れた。
それはほんの一瞬で、直ぐに後ろを向いて行ってしまったのだが、
初めて自分を名前で呼ばれたことで、それは気のせいではないことが確信できた。

(俺は何をしたら良いんだ。どうすればいい)

そしてその問いの答えとして思い浮かぶ、自分にできるたった一つのこと。
それがどうにも頭にこびりついて離れなかった。

244夜行集団:2011/08/19(金) 23:19:25 ID:bJBnsqT6
イベントスレ>>545
顔に喜びを浮かべる彼とは、あきらかに対照的な男が同じ街にいた。
銀髪の男からは、少しやつれたような疲労感を感じられて、
その通りに髪はあまりしっかりセットされていない。

「よお、零じゃねえかっていうwww
 紅茶なんて洒落たもん買おうとしやがってwwwミルクティーにしろっていうwww」

目の下には、化粧で隠したもののうっすらと黒いものが、
そんな顔つきなので話しかけるのは少し躊躇したようだが、
それでも無視よりかはいいと、疲労の雰囲気は感じさせない笑顔で彼に話しかける。

245:2011/08/19(金) 23:27:05 ID:HbHPxpxY
>>244
「あっ、虚冥さん!・・・牛乳奢りますか?」

話し掛けてきたのは、零も会いたかったホストだった。
だが、そんな虚冥もなぜか疲れているらしく、疑問に思った。

「貴方にしては珍しいですね、どうしました?」

246虚冥:2011/08/19(金) 23:34:49 ID:bJBnsqT6
>>245
笑いながら近づいて、
零との立ち位置がちょうど隣同士になった時虚冥は、
あまり強くはないが二度、彼の頭をぽんぽんと叩いた。

「気持ちは嬉しいがwww
 先輩としては奢られる訳にはいかんっていうwwwむしろ俺が奢ってやるwww」

これから牛乳を買いに行くのだろうか、
おそらく零と同じコンビニを目指しているのに、彼の手にはもうすでに牛乳パックが握られている。

「かなり面白な映画見つけてよwww
 はまりすぎたもんでシリーズ全部見てたらwwwオールしてたっていう」

そしてそれをストローで飲みながら、目を逸らして応える。
だから彼は、力をつけられる乳製品を求めコンビニへ、
ということなのだった。

247零なか:2011/08/19(金) 23:42:20 ID:HbHPxpxY
>>246
「じゃあお言葉に甘えて!」
と言って持ってきたのは、ごく普通の紙パックミルクティーである。

映画の見すぎと聞き、安心し、話すべき話をしようと話題を変えた。

「虚冥さん、私はこの通り歩けるようになりました。なので、虚冥さんが臨むなら、今まで通り夜行集団の手助けをさせて頂きたいのですが。」

まだ時々ふらつくこともあるが、大丈夫だろう。

248虚冥:2011/08/19(金) 23:50:28 ID:bJBnsqT6
>>247
零の持ってきた、紙パックのそれを見て無欲だなと一笑いして、
虚冥はその隣のコーナーにあった、中国四千年を感じさせる品、
〈ニーハオ!ウコンの活力牛乳〉という仕上がりの色々残念なパックを手に取った。

「歩けるようになったってwwwなにしたら治ったんだっていうwww
 小さな女の子に泣きもって罵られたかwww」

零の馬鹿!!知らない!!を、買うものをレジにおいて彼は想像する。
だがそんな言葉は吐いたが、
かなり真剣な目つきで彼の体中と、妖気を確認していた。

「まあともかくwwwお前が手伝ってくれるってんなら断る理由はねえよwww
 でもこれからは無理に情報をwww集めようとしなくてもいいからなっていうwww」

しかし全体を見て問題なかったのか、
笑顔で彼の肩をたたき、優しく声をかけた。

249:2011/08/20(土) 00:01:52 ID:HbHPxpxY
>>248
もっとまともな牛乳無かったの?と軽くツッコミを入れる。
活力とは言っても、怪しい物は飲みたくない。

「気づいたら歩いてました。って、なぜ女の子?それは虚冥パパですよねw?私は少なくとも無いです!」

凄く失礼なこと言ってる零。店員からは、虚冥と零が兄弟に見えるかも知れない。

「そうですね、これからはのんびりとやりたいと思います。
・・・あ、ありがとうございます//」

心配された事と、優しく肩を叩かれた事が嬉しかったのか、少し照れる。

250虚冥:2011/08/20(土) 00:09:22 ID:bJBnsqT6
>>249
味だけは仕上がり抜群なんだぜ?とお釣りを受け取りながら応える。
なにか、例えば本当にアルプスのアレみたいな劇的なことが、
彼に起こったのだと勝手に思っていた虚冥はその応えに、不思議に感じ首をかしげた、

「パパ言うなっていうwww
 この前そのせいでwwwあきらかに軍人よりもミリタリーしてる狩扶にあったっていうwww」

しかし店員は、兄弟とは思っていてもその話の内容が、
兄弟のするような雰囲気とは明らかに違うし、狩扶、の単語もあるしで人知れず首をかしげていた。
そんな店員の疑問も露知らず、
虚冥はその彼女を思い出して、遠い目をした。

251:2011/08/20(土) 00:20:28 ID:HbHPxpxY
>>250
残念ながら、零にはアルプス的なアレは起きていない。馬鹿とも言われなければ、立っても誰からも喜ばれなかった。

「軍人よりミリタリー?マフィアのボスとかですかね?いや、まさかないですよね。パパさん。」

いや、なんか当たってると言うか近いと言うか。
そんな人がいたら、妖怪もびっくりだ。

252虚冥:2011/08/20(土) 00:29:41 ID:bJBnsqT6
>>251
買うものは買ったので、
これ以上ここで談義する必要もなく、コンビニを後にした二人。

「・・・残念だがいるんだっていう。
 多分あれはソビエイトにもいた口だぜ・・・」

突っ込みとして牛乳パックの角を、
零の頭をこつん、と軽くぶつける彼の顔には冷や汗が。
そして、その頭の中では軍服を着て極寒の中、訓練を行う主婦が浮かんでいた。

「(思った以上に想像に易いなっていう・・・)
 そうだ、さっきはああ言ったが、少し調べてほしいことがある」

しばらく歩いてから、虚冥はあることを思い出した。
断られるかもしれないと、その態度はあまり真剣ではなかったが、
少しの期待が彼からは見て取れる。

「アネさんアニさんのことなんだがな。
 ここらでその妖気が集中しているような場所はあるか」

253:2011/08/20(土) 00:45:48 ID:HbHPxpxY
>>252
「・・・そんな主婦いたら怖いですよリアルに・・・。」

ミルクティーを受け取り、飲みながら歩いている。

すると突然、虚冥に調査のお願いをされ、少し慌てた。・・・が、彼に断る理由はない。

「分かりました!そのことでしたら、既にチェックを入れてる場所があります。
ですが、まだ詳細が詳しく分からないので、後に連絡します。」

笑顔でそう答えると、携帯を取り出して誰かと話し始めた。

「もしもし。・・・ホリフさんが殺された?詳しく、え?今行くから、場所は?

・・・虚冥さん、ちょっと不可解な事が起きまして、今からそこに行かなくては行けません。
ミルクティー、ありがとうございました。」

残りをちゅうっと吸うと、慌てて走り出した。

254虚冥:2011/08/20(土) 00:56:58 ID:bJBnsqT6
>>253
駄目もとだった分、零が快く引き受けてくれたことが有難く、
虚冥は嬉しそうに口角を上げてニヤッと笑った。

「おおwww話が早いなwww
 でもこの件は気をつけろよwww洒落にならねえやつらが相手だからなっていうwww」

首を少し突き出し彼の言う、めぼしいところを知ろうとしたが、
ちょうどその時零の携帯がなってしまったのでしぶしぶと、
虚冥は首を元に戻す。

「お前は色々と忙しいやつなんだなwww
 それもがんばってこいよwww」

走り去って行く彼に手を振りもってエールを送った。
どこかの曲がり角を曲がって見えなくなってから、
虚冥はすることもないので、この繁華街の馴染みの店などを梯子するらしい。

255水町さん:2011/08/21(日) 22:50:22 ID:tElbSrz.

 雨滴る森の奥にて。
 何かが草を踏む音だけが鳴っていた。

 しばししてその音はハタと止み、
 やがてその場に1mはあろうかというスッポンが徐々に姿を現していく。

「・・・微かに残った磯の香り、さては竜宮の者か」

 その目を細め、どこか思う所を秘めた心持で首を伸ばす。
 辺りには湿気のように、肌に纏わり付くような水気の篭った妖気が広がっていく。

 スッポンの居るその場所は、叡肖達が三鳳と対談したあの森だった。
 叡肖の強すぎる磯の妖気は、この水妖の鼻にはやけに強く残るのだ。

「結界消失の一件といい、最近やけに磯の香りがキナ臭い。
 ・・・よもや竜宮が一連の騒ぎに加わっているのでしょうか」

256叡肖:2011/08/21(日) 22:58:37 ID:1gBuqmPQ
>>255
「んむー、この辺に落っことしたかぁ?」

磯の香りの元凶が、今日またここへ戻ってきたのは落とした筆を探すため。

「ただの紛失なら良いが、あの悪戯殿下が拾ってたら厄介だもんなぁ」

ガシガシと頭を引っかきながら、人に化けた衣蛸は森のしたばえをかき分けつつ
落とした筆を捜し歩いていた。
しかしあの日は道なき道を歩いていたのだから、無くした筆がおいそれと見つかるとは限らないのだ。

そこでふと、水の気配を感じた。

(おや、この辺りの水妖が居るのかね?)

あからさまに場違いな山中の蛸は、この妖気の主に落し物について尋ねるべきか否かをしばし逡巡し、

「そちらに居るのはこの森の方かね?」

結局はそう尋ねてみることにしたのだった。

257水町さん:2011/08/21(日) 23:08:18 ID:tElbSrz.
>>256

(強い磯の香り・・・、この者か)

 最近、怪しい動きの影にはこの匂いが漂っている。
 何か関わりあることなのか、暗躍する者なのか。

 いずれにしろ、簡単には吐くまい。

「探し物はこれですかな?
 私は元は川の者です、強い磯の気を辿ってここまで流れ着きました次第」

 強い磯の香りがする筆に足を掛け、叡肖を睨むスッポン。
 聞きたいことは山ほどあるが、とにかくあの事だけは確実に聞いておかねばなるまい。

「最近、人の方で妙な動きがあるのが気になりまして。
 ・・・簡潔に問います、貴方方は人に何か不死の術を授けましたか?」

 おいそれ応えるわけはあるまい。
 こちらには何の交渉材料も持たぬのだ。

 ピリピリと威嚇するように湿り気のある妖気を放つ。


 だが、私はいざとなれば力ずくでも奪い取ってやれる。
 幸い相手は一人、私が悪者になる分には一向に構わない。

258叡肖:2011/08/21(日) 23:17:27 ID:1gBuqmPQ
>>257
「川の方でしたか。それを見つけてくださったこと、感謝します」

亀族は水界でも古くから力を有する一族、竜宮でもその一派の力は決して小さくは無い。
故に叡肖は丁寧に対応する事とした。なによりここは海ではないのだ。

「人に、不死の術?」

叡肖自身には心当たりが無い。しかしそうだ、巴津火はあの医者に封の肉を食わせたとか。

「我らが主が、封の肉を食わせて召抱えた医師が一人おりますが、
 はて、それが何かやりましたかな?
 申し送れましたが私の名は叡肖。竜宮の文官であり、今は陸住まいの主に使えております」

相手にぴりぴりとした緊張感を感じたからこそ、叡肖は逆に物柔らかな応答をする。
こういう時に感情的になっても、得るものは何もないからだ。
事情を知るには、感情は後回しにしなくてはならない。

259水町さん:2011/08/21(日) 23:39:16 ID:tElbSrz.
>>258

「・・・そうでしたか、私は水町。恥ずかしながらしがない水妖でございます」

 少し目を閉じて、こみ上げる激情をどうにか押さえつける。

(・・・以外にも素直に吐いたな。しかし封の肉とは、なんという残酷なことを)

 どうにか口調を穏やかに保ち、妖気を解く。
 焦ってはいけない、争わずに全てを知れるなら、それに越したことは無いのだから。

「書官とは丁度良かった、私の知り合いがふと気になる事件に遭遇しましてね。
 叡肖どのならきっと、きっと存じ上げることと思います。教えていただきたいのです」

 水町は霞を吐くように、言葉を漏らす。

「最後の、最後の問いです。今、私が知りたい一番の答えです。
 このことに納得の行く様応えていただければ、私はもう決して関わりません」

 細い目を見開く。
 サイを投げるか、それとも下ろすか。

「それは盟約という形だと存じます。その医師とは・・・封の肉が、妙薬ではなく。
 仙薬や霊薬の類だときちんと知らせてお与えになったのですか?
 その医師は人と妖の垣根をしっかり理解した上で、封の肉を喰らったのですか?」

 妙薬と仙薬には途方も無い違いがある。
 仙薬とは仙人になる為の薬・・・いわば“人”ではなくなってしまう薬だ。

 やがて人の食物も食うこともなく、人と子供を作ることもできず。
 魂は妖気に食い潰され。やがて人の形をした妖怪と成り果てる薬。

 もしただ生きることを延長させることだと思っていたのなら。
 もし“生きる”ということを勘違いさせたまま不死の薬を与えたなら。
 もしその医師が・・・まだ自分のことを人だと思っているのなら。

 水町は穏やかな仮面の下に、煮えたぎる心を抑え。
 それでも振り絞るように、穏やかなフリをして問いかけた。

260叡肖:2011/08/21(日) 23:48:22 ID:1gBuqmPQ
>>259
「私がその場に居合わせたわけではありませんが、
 医師は自身が化物と化すことを知らされても尚、自ら封の肉を喰らったという事です。
 そして私自身はその後に彼と会いましたが、後悔している節は全く見受けられませんでした」

叡肖自身はこの老水妖と違い、小鳥遊医師がどちらでも構わない。
生きることへの執念、それが既に小鳥遊という男を常人と区別するものになっていたのかもしれない。
肉体がまだ人であっても、心は既に鬼である、そんなことは良くあるものなのだから。

「もし宜しければ、貴方がご自分でその男に直接問うのも良いでしょう。
 我らが主は、妖でも自由にその医師の診療が受けられるようにするおつもりなのですから」

その為の新しい診療所の計画なのである。

261水町さん:2011/08/22(月) 00:00:57 ID:tElbSrz.
>>260

「・・・それでは、答えになっていません」

 爬虫類の冷たい血が頭から退いて行くのがわかった。


――なんて軽い

   途方も無く軽い、事務的な受け答え


 こちらの認識と向こうの認識の間に、あまりにも大きな落差を感じた。
 向こうのスタンスは把握した。
 その医師が何を起こそうと、仕掛けようと。
 こちらには非がないと言い切るつもりなのか。

 不老不死も、黄泉返りも。
 特にどうとも思わないということか。

「そうですね、ぜひご案内いただきたい。
 ・・・問いの答えは私自身で見極めようと思います」

 暗澹とした絶望に駆られ、水町は筆を咥えて叡肖の所へ歩み寄っていく。

(見極めてやろうではないか、竜宮・・・!)


 サイは投げられた。

262叡肖:2011/08/22(月) 00:10:58 ID:1gBuqmPQ
>>261
「では、ご案内いたしましょう」

叡肖は筆を受け取ろうと手を差し出した。
水町が筆を渡せば、そのまま小鳥遊医師の元へと案内するつもりである。

この老水妖が危惧している通り、あくまでも事務的にその役割を果たすのがこの文官の仕事である。
小鳥遊は不老不死にはなったが、単に老いもせず寿命も来ないというだけで、
何か新たな能力を獲得したわけでもなく、その姿形を変えたわけでもない。
殺しても死なないわけではなく、殺害されればその命は失われるのだ。

叡肖や巴津火にしてみれば、小鳥遊は人という存在から大きく変化したというわけでもない。
ただの人よりもほんのちょっと、妖怪と一緒に居る時間が長くなった、程度のものである。

//そろそろ〆でしょうか?

263名無しさん:2011/08/24(水) 23:57:52 ID:bJBnsqT6
街を、とてつもない規模で覆っていた結界が破壊されてから、
もう既に数日が経っていた。
だが、それでもその結界の力が強大であったのか、結界を支えていた各支柱の地点には、
まだ微かに神聖味を帯びた力が残留している。

「  」

その中の一つである、とある農夫によって跡形も無く破壊されたある祠の前に、
長くそして闇のように黒い髪を、後ろで束ねてポニーテールにした女性が立っていた。
彼女の服装は、その髪の色と同じように闇を表現しているようで、
黒のロングコートに黒のズボンと言う井出達であった。

彼女のその風貌もさることながら、この祠は普通、
だれも立ち寄ることの無い山奥に建てられたもので、一人で立ち尽くしている様はとても奇妙であった。

264水町さん:2011/08/25(木) 00:08:04 ID:tElbSrz.
>>263

「・・・いかがなさいましたか、このような場所で女性が一人」

 ス何も無い場所からあぶり出しのように現れる、一匹のスッポン。
 軟質な甲羅は露を滴らせ、小さな目には警戒の色が滲んでいる。

「いや、何を企んでいるといった方が適切でありましょうか」

 威嚇するように湿った妖気は緊張する。
 上下闇色の格好、そして滲み出す不吉な気。
 そして他の妖怪は気にも留めないような、
 この街に張られた結界の支柱の一つに寄ってくる、その動き。

「この前の結界消失の一件は貴女方の仕業ですか? 何が故に結界を壊し回るのです」

265名無しさん:2011/08/25(木) 00:21:35 ID:bJBnsqT6
>>264
まるで、そこに彼が現れるということを知っていたかのように彼女は、
突然の水町の登場にも驚かず、くるっと音も無く振り返る。
ポニーテルがそれに伴って大きく動くが、彼女の表情には動きが感じられない。

「企んでいる、という言葉はこの場合少しの語弊がある。
 なぜならここは、もはや用を果たした場所、企んでいた、
 という言葉を使ったほうが正しい」

まったくの感情を感じさせない、抑揚の無い冷淡な調子で、
女性はその場から動かずに水町に話しかける。

「その通りだ」

彼の踏み込んだ言葉にも、反応を示さず簡潔に答えた。
そしてその後に理由の言葉をつなげようとした女だが、
途中で口を止め、違う質問をすることにした。

「答えはある程度想像できて入るが、便宜上聞いておく。
 何故、水町はこれを貴女、ではなく貴女方、と聞いた?」

266水町さん:2011/08/25(木) 00:34:25 ID:tElbSrz.
>>265

「・・・匂い、というより気配と申しましょうか」

 突然、名を知られたことに驚きながらも。
 言葉を選びながら、語りかけていく。

「私が見て回った結界の支柱はここが最初ではありません。
 既に壊された他の場所に残こっていた匂いは一種類ではなく、
 また貴女の匂いとも異なっている所もある。
 第一このような大胆な動き、一人ではなく集団で行うのが道理でしょう」

 想像できている、名を知る・・・。
 となると心を読む類か、それとも予知の類か。
 おそらく前者。

「さて、なぜ貴女“方”は結界を壊して回っているのですか?」

 小さな目を細めて語りかける水町。

 この娘、随分と言葉が薄い。
 なにも感じておらんのか・・・。

267名無しさん:2011/08/25(木) 00:43:53 ID:bJBnsqT6
>>266
水町の答えに、彼女はなるほど、と短くだけ答えた。
しかしそれも言葉の割りに、驚きの感情に欠けており、
虚ろでも光が無いわけでもないが冷淡なその目は、ずっと彼を見つめている。

「鼻が利くというのは強みだ。
 だがそれ以上に水町の頭のキレは賞賛に値する。

 とは言え、水町は一つ、間違った答えを出している。
 心を読む力を持っているわけではない」

さらりと彼の心のうちの推察を、言葉に載せて返答して見せて、
それでも感情の起伏無く立ち尽くす女性。
女性の体でずっと立っているのは辛い筈だが、まったく気にするそぶりは無い。

「水町のその知能に敬意を表して、質問の答えをする。
 そちらにも真実を知るものがいないと、フェア、ではないからな。

 結界を破壊した理由。
 それは穂産姉妹を殺害できるようにし、とある子供を招くことだ」

268水町さん:2011/08/25(木) 00:54:42 ID:tElbSrz.
>>267

「・・・」

 少し考え込むように黙りこくる水町。
 しかしその後に出された言葉はあっけらかんなモノで。

「あの・・・、それはどなたですか?」

 いきなり面識の無い穂産姉妹の話を出されて困りだす爬虫類。
 しかし、まぁこんなことでうろたえていてもどうしようもない。

「はぁ、まぁそれはわかりました。
 そのお子さんとやらは結界が邪魔で入れない方で、
 その方に穂産姉妹とやらを殺害させる事が目的である・・・と言うのですね」

 正直、余計に頭が混乱してきた。
 日和見で常に碁ばかり打っていたためか・・・たまには外との交流も持たねば、
 と身をもって実感しているインドア老人。

「しかし・・・貴女はどうなのです?」

 霧中の中に目を凝らすように、疑問を漏らす水町老人。

「理由は存じませんが、子供に殺害などの重責を負わせるなどただ事ではない。
 貴女自身はそのことに対して、何の疑問もお持ちにならないのですか?」

269名無しさん:2011/08/25(木) 01:11:32 ID:bJBnsqT6
>>268
森は少し日が落ち始め、あたりは暗くなっていこうとする。
それにともなって彼女の服の黒はより闇を伴い、
まるで彼女自身が何か、闇と同化した存在のように思わせた。

「そうだったな。水町はあの姉妹のことは知らない。
 だが、彼女達の話を聞くことは簡単だ。
 例えばこの前水町が案内された診療所、そこにいる黒蔵、という名の妖怪に聞けば、
 彼女達のことは直ぐに全てわかるだろう。」

水町が漏らした疑問に口をゆっくり開く。
しかし、先ほどから見るとこの女性には、おおよそクセ、
と呼べるような動作が無いように思える。それはどうでもいいような気もするが、
併しそのクセを書いた彼女の様子は、どこかとらえどころがなく、奇妙であった。

「疑問は、まったく持ってない。
 おそらくそういった疑問を持っているのは、
 結界を破壊し続けている方ではなく、むしろそれを防ごうとした者たちだ。

 そうだ、これ以上話をややこしくしても仕方が無い。
 水町にはとある話を聞いてもらうことにする。この一連の出来事の根幹のことだ」

彼の疑問に、まっすぐ見据えて迷い無く答える。
説明を続けようとした彼女であったが、またその言葉を止め、
何かを思いついたように違う話を始めた。

その内容は穂産姉妹たちの神話、日本神話人世第34項だった。
穂産姉妹が妖怪と人の夫婦に嫉妬し、その子供を化け物に変え。
その復讐を、天が子供に命じる話。

270水町さん:2011/08/25(木) 01:38:34 ID:tElbSrz.
>>269

 瞳を閉じて、ただ話に聞き入る水町。
 僅かに見せた感情の片鱗を掬おうとしても、水のように流れ落ちる感触がした。

「・・・私は、天界もあの世も存じ上げません。
 誰も見たことの無いものは、信じられない性分でして」

 神格も妖怪としての存在軸も失った水町にとって、その話の真偽を確かめる術はない。
 だが噛み締めるように、呟くように・・・ただ鵜呑みに信じきった話に考えを呈する。

「・・・それはあまりに理不尽です、復讐とは感情の成すモノだ。
 その復讐を上が命じ、強制するなど。あまりに無理な話ではありませんか」

 水町の考えは人の物に至極近いものになっていた。
 とらえどころの無い女性、とらえどころの無い噺。

 だが、それは水町の考えからすれば。
 ただ反感的な、心のわだかまりを引き出すような話だった

「人と妖、理解できぬことも嫉妬することもありましょう。
 私とてその境界に窮し、過ちを侵し、神格を剥奪されたのだ、お気持ちは痛み入ります。
 されとてそれも子供に重責を負わせることには違いない」

 ポツリポツリと、ただ呟く。

「私ではいけませんか? もし私が彼女達を貴女方より先に殺めれば、その後はどういたしますか?」


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