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ソロール用スレ
1
:
名無しさん
:2011/01/06(木) 19:50:22 ID:tElbSrz.
ソロロール(一人ロールまたはSSなど)用のスレです。
人が居ないときの暇つぶしにもぜひご利用ください。
2
:
夜行集団
:2011/01/06(木) 19:54:25 ID:WgS9E4Rg
スレ立て乙です!
3
:
零の中の人
:2011/01/08(土) 12:14:08 ID:BQ990e1A
ある、学校の休みの昼間。家で料理を作ってる兄妹。
露希「こうやってチョコを溶かして…って、なんでそんな液体に!?」
零「普通にやったんだよ?」
露希「うわっ…動いてるし…。さすが、最終兵器と呼ばれただけのことはあるね」
零「ぐすん…」
どうやら、兄は不器用らしい。
/スレ建てお疲れ様です、そして使ってみます。
4
:
零の中の人
:2011/01/08(土) 12:25:08 ID:BQ990e1A
露希「あ、思い出した。零は今でも妖刀があるって信じる?」
不意に妹が言う。
零「妖刀?ああ、妖しい力を秘めた刀…って私たち持ってるじゃん。」
露希「これは剣ね。妖刀は日本の刀とか、中には槍とかもあるらしいよ(わくわく)」
零「(え!?剣と刀って似たようなものじゃ?ま、いいや。)
妖刀っていかにも危なそうな感じするよね。」
露希「うん、だからね、その辺の弱い妖怪達が手を出さないように集めない?」
零「集める…?ええっ?怖いのやだぁ。」
とまぁ、こんな感じに話は危ない方向へ進んでいくのであった。
(結局妖刀集めは放置)
5
:
零の中の人
:2011/01/09(日) 08:55:38 ID:BQ990e1A
〜零と露希の過去〜
二人は、元々人間だった。とても仲の良い兄弟で、零は露希を、露希は零を大切にしていた。
しかし、零が15歳、露希が14歳の時だった。露希はある人間に殺された。
そのある人間とは、当時指名手配されていた極悪犯。
後、露希の死を迎え入れることが出来ない零は精神が不安定になり、自殺。
…死の後、零の前に悪魔が現れる。その悪魔が言うには人間に復讐しないかと言うこと。
よって零は悪魔として蘇り、人を殺した→大量殺人事件
……それからいくらか時の経ったとき、零はある家で人を殺していた。
その家の中には兄と妹らしき姿。零の過去が蘇る―――
殺された露希、露希を殺した犯人……そして、無関係の人を殺してしまったこと。
零はこの時、命の大切さを知った。そして、人を殺めるのを止め罪を償うために地獄へ――
6
:
零の中の人
:2011/01/09(日) 09:07:12 ID:BQ990e1A
その零の姿…哀れに思ったかのか…神と呼ばれる者が零の前に現れる。
神「零、お前が自分の罪を反省し、これから人と妖怪を助けると言うならば…
露希を生き返らせてやる」
零「露……露希に会えるんですか…?私は…悪人ですよ…?ましてやそんなこと…」
神「人も妖怪も、変わろうとする心があれば、変われるものだ。
変わろうとするなら、それに答えるのが神の務めじゃないか?」
ここから、零は大きく変わっていく。
自分の罪滅ぼしに―――と、人の姿で多くの人を助け、時には妖怪の手助けもした。
気づいた時、零の周りには多くの妖怪や人が集まるように。
7
:
零の中の人
:2011/01/09(日) 09:11:39 ID:BQ990e1A
そんなある日のことだった。零は洞窟で、傷ついたつがいの龍を見つけた。
怪我をしているようで、しかも二匹は兄妹のように見えた。
8
:
零の中の人
:2011/01/09(日) 09:41:43 ID:BQ990e1A
怪我を必死になって治す零。龍は警戒しているようだったが少しずつ、心を開いていった。
その龍は人に殺されかけ、助けて欲しいと言ってきた。
だが、助けると言っても何をすればいいのか、分からなかった。
黒竜「僕たちが武器となります、そうすれば見つかることもないし、貴方の力になれます。」
零 「う…うん、分かった…」
黒竜「ならば…お願いがあります。僕はそこの白龍と兄妹で、兄です。
どうか、離れさせないでください……」
その気持ちは痛いほど分かった、黒竜の優しさを受け取る零。ふと露希のことを考える
―――――零 耳には懐かしい声が。その声は近づいてくる。
「零、会いたかった…。とてもとても…この龍達を助けよう。」
眼からは涙がこぼれおちる。ここでやっと会えた…もう二度と離れまいと心に誓う零。
それから、龍の剣は互いに持ち、昔のように零と露希、黒竜と白龍は暮らすのであった。
―――……
零「え?シスコン?いや、違うよ!!兄妹愛だよっ!」
/自分のセンスなしに死んだ…途中から何言ってるか分からなかった…
9
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 1/9 誕生
:2011/01/10(月) 13:45:10 ID:SmXQZqJk
瞳―彼女は、妖刀としてこの世に生を受けた。生を受けたと言っても、まだ彼女には人格というものはうっすらとしか宿っていなかった。
彼女の製作者が何を思って彼女を作ったのかはわからない。
なぜなら、彼女を製作した直後、死んでしまったからだ。死因は老衰。高齢だったのだ。瞳は、製作者の息子の手に渡ることとなる。
製作者の死。それにより、様々な噂が彼女につきまとう。
さらに、少しずつ芽生えていく人格。
いつしか、彼女は妖刀と恐れられていた。
そんな中、製作者の息子は彼女を気味悪がり、ある男に売ってしまう。
瞳の最初の使い手。人格が完全になっていた瞳は、これから自分がどうなるのか不安でいっぱいだった。
10
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 2/9 罪
:2011/01/10(月) 13:46:59 ID:SmXQZqJk
瞳(やめろ!やめてくれ!そんな事に私を使うな!)
瞳はまだ話すことも、人化もできない。
よって、彼女の悲しみに満ちた叫びは誰にも届かない。
男は、己の私利私欲のため、無関係の人をたくさん殺す。
瞳を使って――
男「ぐはははは!この刀さえあれば、俺は無敵だ!」
女、子供、老人、怪我人、戦えない相手にすら瞳を振るった。
瞳(くそっ…私はこんな事のために生まれてきたのか…)
彼女は刀、悔しくても、憎くても、でもどうすることもできない。
涙を流すことさえ。
そんな日々が続いた。彼女の精神は限界だった。
瞳(もう…やめてくれ!やめてくれっ!)
グサッ――
鈍い音がする。
男「…っ!?」
男の胸に妖刀が刺さった。男はすぐに死亡した。
瞳(これで…これでよかったんだ…)
瞳の罪、それは自らの持ち主を殺めたことだった。
11
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 3/9 妖刀
:2011/01/10(月) 13:48:14 ID:SmXQZqJk
持ち主を殺した事により、瞳はより妖刀として恐れられることになる。
男の胸に突き刺さっていた瞳。この事件は、当時大きな騒ぎになり、人々は持ち主の命を喰らう妖刀だと噂した。
この騒ぎを鎮めるべく、一人の僧により封印されることになる。
瞳(これでいい。私は人間なんか見たくはない…永久に封印されよう。)
瞳は、人間が嫌いになっていた。人間が信じられなかった。そう思っていた。
“あの人”に出会うまで――
12
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 4/9 “あの人”
:2011/01/11(火) 17:08:18 ID:SmXQZqJk
瞳の言う“あの人”――名は、風月といった。歳は、20くらいの男性。
風月は、妖怪の友人をもっていた。風月が怪我をした妖怪を助けて以来、二人は親しくなった。その妖怪は、秘密裏に風月と会っていた。妖怪の名は、春花。
春花「風月…会いたかった…」
風月「俺もだよ。さて、何か食べに行こう。団子なんてどうだ?甘いものは好きなんだ。」
春花は、山を抜け出し風月と過ごしていた。
春花「風月…私たち、分かり合えてるよね?妖怪と人間は、分かり合えるよね?」
風月「当たり前だろ?妖怪も人間も変わらないさ。きっと共存出来る。」
春花「良かった…」
団子を食べながら語る二人。とても幸せそうだ。
しかし、この幸せは長くは続かなかった。
風月「処刑!?春花が…なんでだよ!?」
突然の言葉。
山の妖怪達に春花が人間と会っていることがバレて、裏切り者として春花は処刑されることになった。
春花「やだよ…私、怖いよ…死にたくない…」
風月「俺が、俺が春花を守る!」
風月は春花の案内で山の妖怪達の元へ行く。
春花の処刑を取り消すために。
13
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 5/9 別れと出会い
:2011/01/11(火) 17:10:33 ID:SmXQZqJk
現実は、あまりに無情だった。
風月「やめてくれ!なぜ、春花が!人間と妖怪は共存出来るんだ!だから…」
必死の訴えも虚しく、風月の目の前で春花は殺された。
山の妖怪達は、話せば分かり合えると思っていた。そんな考えが愚かだったのだろうか。
風月「くそっ…くそっ…なんでだよ…なんでだ…」
傷だらけの見るも無惨な春花の亡骸。
それは、風月の目の前に転がっている。
悲しみに暮れる風月。復讐も考えたが、春花がそれを望むはずはない。
だから彼は、もう大切な者を失わないために――力を求めた。
風月「妖刀瞳よ。俺の命はどうなってもいい…だけど、俺は守りたいんだ。大切なものを…そして、つくりたいんだ――妖怪と人間が共に笑いあう、悲しみのない世界を!だから、力を貸してくれ!」
ゆっくりと瞳の封印を解く――
瞳の封印は外側からは、簡単に開けられた。誰も恐れて近寄らなかったから、封印じたいは甘かったのだろう。
14
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 6/9 仲間・絆
:2011/01/11(火) 17:12:14 ID:SmXQZqJk
瞳(人間か…人間との共存などできる筈がない…こいつも殺してやろう…)
風月は、静かに瞳を手にした。
風月「よろしくな、瞳。俺は、風月。」
風月は、瞳を仲間として扱った。
風月「ふう…今日の修行はここまで、さあ帰るぞ瞳!」
瞳(なぜこの人間は…)
瞳の中に心境の変化が見られた。
瞳(この人間は他とは違う…)
少しずつ、風月を信頼していく瞳
瞳(もしかしたら、本当に妖怪と人間は共存出来るのかもな…)
いつしか、瞳は風月のことを――
15
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 7/9 争い
:2011/01/12(水) 13:02:56 ID:SmXQZqJk
風月と瞳の間には、確かな絆ができていた。
そんな中、ある事件が発生する。
妖怪達が風月の住んでいる村へ襲撃。原因は、山で遊んでいた子供の妖怪を驚いた猟師が殺してしまった復讐だった。風月は、これを止めようとする。
風月「あれは事故だったんだ!だからやめてくれ!」
猟師はとうに妖怪達に殺されていた。しかし、争いは終わらない。
風月「やめてくれ!村人達に罪はない!殺すんだったら――俺を殺してくれ!」
瞳(な、正気か!?なぜ、あなたはそこまで…そんなことはさせない!)
瞳は自分の意志で動こうとした、しかし――
風月「瞳…お前は逃げろ…」
風月は瞳を遠くの民家へ投げ入れた
瞳(な、何故だ!?何故!?)
遠くで風月が斬られる。
16
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 8/9 悲しみ
:2011/01/12(水) 13:04:54 ID:SmXQZqJk
争いが止まった。
風月の死によって――
妖怪達は、風月を殺したことで帰っていった。
瞳「風月…」
初めて喋れた、ずっと風月と話したかった。だけど、少し遅かった。
何も言わない風月。
瞳「風月…私だ…瞳だ…話せるようになったんだ…」
動かぬ風月に向けて弱々しい微笑みを見せる。
瞳「風月…目を空けてくれ…私を見てくれ…」
人の姿――風月と話せる、触れ合える、そのはずだった。
瞳「風月ぅ…う…うう…どうして…」
涙が風月の頬を濡らす。
17
:
罪と悲しみを背負いし妖刀 9/9 夢
:2011/01/12(水) 13:06:52 ID:SmXQZqJk
瞳「風月…私はつくるよ…あなたがつくりたかった、妖怪と人間が共存する世界を…」
風月の墓の前で優しく微笑む瞳。
瞳「だから…安心して眠ってくれ…」
墓の前から去る――目に涙を浮かべながら。
風月は、大切なものを守れなかった自分を恨んでいたのかもしれない。だから、自分の命を賭けて村人達を守ったのかもしれない。
そして、己の夢を少女に託して――
18
:
火蜥蜴、天橋襲撃1時間前①
:2011/01/14(金) 22:34:07 ID:tElbSrz.
「灯灯・・・火火ッ、流石。惚れますね」
「ほほほ、お褒めに与り光栄Deathわ♪」
夕闇に染まる逢魔ヶ時の山の中。
ヨレヨレのコートを着こんだ中年の男が女性に向かっていた。
男の正体は妖怪・火蜥蜴。肉食性の『悪い』妖怪である。
火蜥蜴はクルクルと楽しそうに踊る女性を、引き攣るような表情で見つめる。
膝は細かく震え、今にも跪いてしまいそうだ。
「・・・しかし、やっぱり貴女は格が違いますね。
貴女なんかと並んでいたら、俺はあまりにちっぽけで顔から火が出ます」
「何を言っているのDeathか!!」
元気付けるように、女性は火蜥蜴の肩を叩く。
その際に彼女の翼から白い羽根が舞い散り、ひらひらと宙を漂う。
「火蜥蜴、立派な妖怪ではないDeathか!
貴様はもっと妖怪である自分に誇りを持ってもいいのDeath!!」
火蜥蜴は作り笑いを浮かべ、相槌を打つ。
内心では脅えている、今すぐにでもここから逃げ出したい。
しかし、それを許さぬ不気味な悪意がその女性からは溢れていた。
絡めるような、へばり付くような。
それでいて魂の奥底を痺れさせるような。
どす黒い悪意、渦巻く妖気。
そして自分達のような『悪い』妖怪を陶酔させる禍々しい思想。
一度知ったら離れることの叶わぬ魅力だと、火蜥蜴は悟る。
19
:
火蜥蜴、天橋襲撃1時間前①(訂正)
:2011/01/14(金) 22:44:25 ID:tElbSrz.
「灯灯・・・火火ッ、流石。惚れますね」
「ほほほ、ありがとう♪」
夕闇に染まる逢魔ヶ時の山の中。
ヨレヨレのコートを着こんだ中年の男が女性に向かっていた。
男の正体は妖怪・火蜥蜴。肉食性の『悪い』妖怪である。
火蜥蜴はクルクルと楽しそうに踊る女性を、引き攣るような表情で見つめる。
膝は細かく震え、今にも跪いてしまいそうだ。
「・・・しかし、やっぱり貴女は格が違いますね。
貴女なんかと並んでいたら、俺はあまりにちっぽけで顔から火が出ます」
「馬鹿なことを言ってはいけないよ」
元気付けるように、女性は火蜥蜴の肩を叩く。
その際に彼女の翼から白い羽根が舞い散り、ひらひらと宙を漂う。
「火蜥蜴、立派な妖怪じゃないか。
貴方はもっと妖怪である自分に誇りを持ってもいいんだよ」
火蜥蜴は作り笑いを浮かべ、相槌を打つ。
内心では脅えている、今すぐにでもここから逃げ出したい。
しかし、それを許さぬ不気味な悪意がその女性からは溢れていた。
絡めるような、へばり付くような。
それでいて魂の奥底を痺れさせるような。
どす黒い悪意、渦巻く妖気。
そして自分達のような『悪い』妖怪を陶酔させる禍々しい思想。
一度知ったら離れることの叶わぬ魅力だと、火蜥蜴は悟る。
20
:
火蜥蜴、天橋襲撃1時間前②
:2011/01/16(日) 23:39:39 ID:???
「火蜥蜴、私はね。今の状況をどうにかしたくて仕方が無いんだ」
女性は妖しく笑いかける。
火蜥蜴の心はそのおぞましくも美しい妖気に魅了される。
「人と一緒に暮らしたい妖怪。人との交流を怖れる旧神派の妖怪。
人と仲良しくするあまり、人に成りかけている妖怪。
そしてそいつらから迫害される『悪い』妖怪。
色んなヤツらが色んな考えの下に鍔迫り合いをしているのがこの街だ」
「馬鹿馬鹿しいと思わないかい?」
笑みを崩さない、心を捉えて離さない。
聞き入る火蜥蜴の精神はさらに深淵へと引きずり込まれていく。
「私はね、もっと大々的にやるべきだと思うんだ。
妖怪も人も神様も。みんな入り乱れてやりたい放題殺し合う。
そのためのお祭りだと思うんだよ。百鬼夜行決定戦っていうのは」
何を言っているのだろう、この女は。
道徳の無い火蜥蜴にすらわかる、明らかに歪んだ目的。
そんなことすれば、火蜥蜴のような人食い妖怪だって種の存続を危ぶまれる。
「迷うこと無いよ。どうせ昔のようなすばらしい世の中は戻ってこないんだ。
だったらさぁ、全部ぶち壊してやろうよ。
そうして秩序も何も無くなったカオスな世の中って、今よりずっと棲みやすいはずだよ」
・・・無茶苦茶だ、そんな道理があるわけが無い。だが――
21
:
火蜥蜴、天橋襲撃1時間前③
:2011/01/16(日) 23:40:24 ID:???
「駄目なのかい? 君ならわかってくれると思うんだけどなぁ・・・」
純白の翼が女性の背から生え、火蜥蜴を抱擁するように取り囲む。
放射能のように全身に浴びせられるプレッシャー。
・・・否、これは"死の恐怖"。
「その通りです、ね」
喰われる、こう答えなければ。肯定しなければ。
返事に満足し、女性は晴れやかな笑顔で翼を畳む。
「じゃ、行きなさい。次の標的はわかっているだろう?」
「・・・はい」
女性は晴れやな顔で火蜥蜴の背後に回り、背中を両手で押した。
「あと、たまには名前で呼んでくれよ。寂しいだろう? せっかく同志になったんだから」
「わかりました、『窮奇さま』」
「ちゃん付けでいいよ、年上だろう?」
火蜥蜴はあの美しく、おぞましい笑顔を背中の皮膚で感じていた。
22
:
火蜥蜴、天橋襲撃10分前
:2011/01/17(月) 00:00:01 ID:???
「・・・寿命が縮む思いだぜ」
火蜥蜴はすっかり夜の闇に包まれた公園に立ち寄った。
いつものベンチに崩れるように腰掛ける。
恐ろしかった。
たとえ背中から手を離されても、しっかりと離れた後も。
姿が見えなくなっても、彼女の領域から出ても。
生きた心地がしなかった。
街のど真ん中に入り、いくらかの人や車を見かけ。
なじみの公園に入ってようやく息をつけた。
震える手でタバコを探り、火をつける。
「ニコチン切れまで忘れるとはな・・・」
煙を吸い、再び吐く。
しばらくしてどこからかへたくそなわらべ歌が聞こえてくる。
「きぃざぁむぅ〜♪ ゲタゲタゲタ、ずいぶん絞られたねぇ火蜥蜴」
「お前だってビビリまくりだったじゃねぇか」
火蜥蜴の前に和服を来た少年が立っていた。
彼は"神隠し"。古から境界に潜む人食い妖怪。
「ん〜、今は違うよぉ? むしろキュウちゃんにエッチな悪戯したいくらいだぜぇ?」
「今度こそ殺されるぞ、お前・・・」
相変わらず頭が腐ったようなヤツだ。
厭らしい笑みを浮かべて神隠しは笑い続ける。
「あんたもさっさと仕事しろよぉ、俺のこと言えねぇだろぉ?」
「分かってる、一服させろ。あと火遊びも程々にしろよ」
「ゲタゲタゲタ!」
息を深く吸う。
そう、自分だって窮奇の思想に共感してないわけじゃない。
窮欝で、息苦しくて、迫害されるこんな世知辛い世の中。
さっさと焼ってしまおう、天橋とかいうふざけた妖怪を。
自分に何度も言い聞かせ、立ち上がる。
しかしさっきの窮奇の演説風景がどうしても頭をよぎる。
全身串刺しにされた山神の前で自分に語りかける、窮奇の表情が。
23
:
露希の思い
:2011/01/21(金) 16:37:04 ID:BQ990e1A
彼女は、昨日言われたことについて悩んでいた。
自分は「悪い妖怪」を倒す機関の者。しかし、自分の好きな人は「悪い妖怪」、現在も人を殺している。
そのことを見逃すと言うのは機関の裏切り者であり、逆に自ら好きな人を殺めることも出来ない。
彼女は殺された後、孤独に生きてきた。好きな人なんていなかったから、ただ誰かの役に立とうと機関に入った。
しかし、今はたくさんの人や妖怪に支えられている。そんな人達の役に立ちたい――――
露希「あの……機関を止めたいと思うのですが…。」
ボス「ええっ!?なんでよ?いい働きしてくれたじゃない。」
露希「理由は色々あります……ただ言えることは好きな人が出来て…」
ボス「はは〜ん、さてやその好きな人が悪い妖怪とか?」
露希「それは……」
ボス「行っておいで、好きな子の元へ。この機関から抜ければ、行動は自由になるからね☆
大好きな人に好かれるよう、頑張ってね!!それと、抜けると言っても、私たちとの関係はこのままだから、相談したかったら
戻っておいで。皆、待ってるよ!!」
24
:
露希の思い
:2011/01/21(金) 16:42:06 ID:BQ990e1A
こうして、露希は自由になった。
大きな壁もなくなった。
露希「目指すは氷亜さんや瞳さん!!(に認めて貰うこと)」
強く言い、心に誓う。彼女の物語は始まったばかりだ。
25
:
名無しさん
:2011/01/23(日) 22:26:24 ID:WgS9E4Rg
幸福の使途、桔梗姫と絶望の囚人、虚冥との出会い、
つまりこの集団の発足はもう93年も前の出来事である
今回はその出会いから少し遡り、その妖怪はどう生まれたか、それを皆様に
ご覧になっていただこうと思う
時は江戸時代末期
26
:
名無しさん
:2011/01/23(日) 22:36:01 ID:WgS9E4Rg
とある寺に一心不乱に経を唱え続ける坊主が一人。
彼の名は慈照、「人を慈しみ照らせ」と先代の住職より名を授かり、
その彼の遺言に従い今ここで経を唱えているのである。
山寺の坊主では幕末の攘夷志士達と幕府の手勢とのこの血みどろの戦いは止め
られぬ、経を唱え続けたところでこの世がどうなる訳ではない、慈照はそう思いながら
も、彼はその行為に一生懸命であった、一文字一文字に真心こめて
祈るしかなかった。
27
:
A happy and happy birthday
:2011/01/23(日) 22:43:44 ID:WgS9E4Rg
しかし、そんな彼の所詮人の子、2年と唱え続けたがなにが起こることもなく、
時間だけが虚しく流れ、日の元の地は血で湿っていた。
今日で読経も止めてしまおうと思ったその時、白昼夢、
彼の目の前の情景は一言で表すなら、桃源郷、の一言に尽きる。
澄んだ空気に清み渡った御池、そこには一面の蓮華が咲いていた。
この突然の極楽浄土に目を丸くしていると、どこからか聞こえてきた声
―こちらの方を向きなさい、慈照―
28
:
A happy and happy birthday
:2011/01/23(日) 22:52:46 ID:WgS9E4Rg
なんとも耳障りの良い声であろうか、
まるでたくさんの鈴を優しく鳴らしたような、朝の小鳥の囀りのような・・
ともかく、慈照はその美しい声色に舌鼓ならぬ耳鼓を打っていた
―・・あの・・こっち向いて・・?―
慈「ああ・・何と清らかな声でありましょうか・・」
―・・・・・、向けよっ!!―
痺れを切らしたその声の主が思わず大声を荒げた時、初めて慈照は自分の
空間から目を覚ました。慈「はっ! これは申し訳ない!!」
彼が振りかえった先にいたのはそれはそれは美しい、一体の菩薩が居た。
29
:
A happy and happy birthday
:2011/01/23(日) 23:07:34 ID:WgS9E4Rg
その菩薩の慈しみに満ちた瞳には、そのあまりにも神々しい見姿に目を
奪われている慈照が映っていた。
話す事の出来ないでいる慈照にふっと笑いかけその菩薩は話し始めた。
―私は、貴方達が千手観音菩薩または観音菩薩と呼んでいる存在です―
「は、はぁ・・」
字のみで見るとこのセリフ、どこかのエセ宗教団体の勧誘のようだが、
その菩薩の姿はその言葉を全面肯定できるほどの荘厳さがあった。
いや、信じる信じない以前に慈照の頭の中はすっからかんなのだが。
―私はあなたのその、平和を望む気持ちに呼ばれてきました―
「で、ではこの悲しい現実に救いをもたらしていただけるのですか!」
救いの菩薩の言葉に、全身で喜びを表現した慈照。
しかし菩薩のその表情には悲しみが浮かんでいた。そして慈照の心に
語りかけるようにゆっくりと話し始めた。
30
:
A happy and happy birthday
:2011/01/23(日) 23:16:31 ID:WgS9E4Rg
―この世界の歴史の転換には必ず血が流れます・・
それはとても悲しい事であり、回避すべきものとも私には思われます・・
しかし、それでは何も変化しないのです。歴史は血によって動き始める・・
それがこの世の定められた法則なのです・・私にはそれに干渉しその法則を
歪める事の叶う力は有りません・・―
「そんな・・」
菩薩の言葉に打ちひしがれる慈照。
唱え続けても何も変えられないと思っていた、しかしその経によって救世主様
が自分の目の前に来てくれたと思ったのだ。
しかしその救世主は「この現実は変える事は出来ない」と言い放ってしまった
慈照は泣き崩れた。目の前に敬わなくてはいけない相手が居る事も気にせず、
声を上げて泣いた。
31
:
A happy and happy birthday
:2011/01/23(日) 23:26:00 ID:WgS9E4Rg
―・・確かにこの世の法則は変えることはできません・・。
しかし、その歴史の転換が終了した後、つまりこの江戸幕府の幕末の争いに
終止符がうたれた時、そのときに人々の心に幸福を届ける事が出来るかもし
れません。―
「・・・というと?」
菩薩は静かに慈照に笑いかけ、光に包まれていった。
「千手観音菩薩様、いづこへ・・?」
―幸福を願い続ける者、そのためにひたすら努力する者、その者の傍らに、
いつも幸福は傍に立っています。
あきらめず、望み続けなさいあなたが目を覚ましたとき、
貴方の横にいるのが貴方の望みの形です―
32
:
A happy and happy birthday
:2011/01/23(日) 23:35:45 ID:WgS9E4Rg
慈照が目を覚ますとそこは、いつも自分が修行を励んできた山寺であった。
日はもうすっかり落ちていて、あたりは闇が支配していた。
不思議な夢を見たものだと思った慈照は深くため息をした。
ふーーぅ ふぅ
ふぅ?自分は一回だけしかため息はしていないはずだが・・気味が悪くなり
ゆっくりと息のした方に顔を向ける
そこには橙色の服をきた10歳ばかりの少女が寝息を立てていた。
―あきらめず、望み続けなさいあなたが目を覚ましたとき、
貴方の横にいるのが貴方の望みの形です―
千手観音のような慈愛に満ちた姿だと思っていたが
「・・そっち?」
そしてここに今の集団の棟梁、桔梗姫が誕生したのである。
A happy and happy birthday..
ちなみに言うと慈照はろりこんではない
33
:
弥城のその後 1/4
:2011/01/25(火) 18:01:39 ID:SmXQZqJk
――気がついたら、弥城は自室のベッドの上にいた
「俺の部屋…」
一瞬考えた
火蜥蜴と会ってから起こった出来事、その全てが夢だったんじゃないかと
しかし、自分の体中に巻かれた包帯、全身の皮膚に生々しく残る火傷、それらが夢ではないと語っていた
「夢…な訳ないか…そうだ…母さんに謝らないと…」
恐らくここまで運んでくれて治療もしてくれた母親のことを思い出し、ゆっくりと立ち上がる
動くと全身が痛む
その痛みに耐えながら、弥城は母親の部屋の前へたどり着く
「母さん…」
部屋の中から聞こえてきたのは、泣き声だった
34
:
弥城のその後 2/4
:2011/01/25(火) 18:04:20 ID:SmXQZqJk
天橋母「弥城…どうして…」
泣いていた母親
部屋の扉がゆっくり開く
弥城「母さん…ごめん…実は――」
弥城は話した、自分が妖怪仮面として勝手に善悪を決め戦っていたこと、今回の襲撃のこと
全てを話した
天橋母「弥城…ごめんなさい…私が間違っていたみたいね…
妖怪は人間と暮らすべきではなかったわ…あのね、弥城。あなたを人間の中で暮らさせたのは、人間と仲良くなってもらうためではないのよ…ただ、戦ってほしくなかった…あなたの父親のように、戦いによって死んでほしくなかった…それだけよ」
母親の口から、真実が語られる
35
:
弥城のその後 3/4
:2011/01/25(火) 18:07:15 ID:SmXQZqJk
弥城「母さん、謝らないでくれ…悪いのは俺だよ…母さんの気持ちも知らずに…俺…俺、どうすればいいんだ…」
涙を流す弥城
天橋母「…弥城、その火傷じゃもう人間たちと生活はできないわ…
酷な事を言うけど、妖怪としてひっそりと暮らすしかないわ…危険と隣合わせで…」
弥城の全身は、火傷だらけ。かつての面影が見られないくらいにボロボロだ
こんな姿では、人前にでれない
しかも、火傷によりもう二度と戦えない
弥城「そんな…」
守れない、友人も母親も
それどころか、危険を彼らに近づけてしまった
36
:
弥城のその後 4/4
:2011/01/25(火) 18:08:37 ID:SmXQZqJk
弥城はただただ泣いた
――自分の愚かさに
――自分の情けなさに
「くそっ…くそっ…俺は…俺は…」
そして、妖怪に戻るとき
彼と母親は、そっと家を出た
行き先は、二人しか知らない
――その日、学校から天橋弥城の名が消えた
37
:
窮奇、学校潜伏1時間後①
:2011/01/26(水) 10:02:30 ID:???
「ゲタゲタゲタゲタ! お疲れだねぇ」
「うん、まさかこの歳で学校に忍び込むことになるなんて思わなかったよ!」
街のとある一角にて、
黒髪と黒いジャンパーの女性と古めかしい服装の少年が談話していた。
その様子はいかにも楽しげだったが、辺りを包む雰囲気は異様そのものだった。
「そういえば火蜥蜴はどこだい?」
「あぁ、アイツはねぇ・・・」
笑いながら、少し眉を下げる少年。
否、少年に化けた妖怪・神隠し。
「退魔師に捕まってドカン、だよぉ。
かなり無理矢理変化してたみたいでねぇ、
おまけにまともに戦えないくらい空腹だったみたいだったなぁ」
「あぁ〜それはご愁傷だねぇ」
ニタリ、と笑いさも残念そうに語る。
「ほーんと、人食い妖怪って末路が悲惨だよねぇ」
(・・・よく言うぜ、この女)
神隠しは厭らしい笑みを浮かべたまま、心の中で毒づく。
「そういえばちょっとだけ見てたけど、
なんであそこで諦めちゃったんだよぉ? あの女を勧誘するの」
「・・・ふぅー、本当にデリカシーが無いねぇ。キミは」
「ゲタゲタゲタ」
さも呆れたように。
女性はヤレヤレ、という動作をする。
38
:
窮奇、学校潜伏1時間後②
:2011/01/26(水) 10:17:28 ID:???
「彼女の心の中はね・・・真っ暗だったんだよ。
コイツ目ぇ見えねぇんじゃねぇの? ってぐらい真っ暗だった」
今、親しげに話しかけている少年の心すらも。
深淵へ引きずり込もうとしていた。
「彼女・・・いや四十萬陀ちゃんだね。
四十萬陀ちゃんは心の底で常に脅えていたよ、『良い』妖怪や退魔師にね」
皮肉、なんと陰湿な喩え。
神代や天橋など、踏みにじった志をさも『悪い』ように語っていく。
「明るい性格やポップな口調はその裏返しだったんだろうねぇ、
きっと信用に足る妖怪や人間との絆を・・・無意識のうちに求めていたんじゃないかなぁ?」
「偉く主観的な考え方だよなぁ・・・」
「私の予想だからね、まぁしょうがないよ」
どす黒い笑みで笑いかける。
「私は友達に困ったことが無いからね、どうしても彼女の心は理解しきれないんだ」
「・・・ッ! ゲタゲタゲタ」
味方の心まで揺さぶりを掛ける女性、否。
邪悪そのものたる妖怪・窮奇。
「しかも大切な人が殺されかけてすごく焦っていたよ!
かわいそうだろ! そんな女の子に追い討ちをかけるなんて!!」
39
:
窮奇、学校潜伏1時間後③(終り)
:2011/01/26(水) 10:35:56 ID:???
白々しい!!
なんて白々しい。そもそも窮奇はその隙を狙っていたのだろうに!
心が鬱蒼と覆い隠されている神隠しすらも、この弁論には流石に頬が引き攣った。
「女の子、かよぉ。アンタよりだいぶ年上のはずなんだけどなぁ」
「女心はいつまでも子猫ちゃんなのさ!」
精一杯の皮肉はさらに強烈な皮肉で潰されてしまった。
「それにね、ダメなんだよ。
弱っている時に、追い詰められている時に "へし折る" だけじゃダメなんだ」
ようやく本音が毀れ出したのかと、神隠しは少し安堵する。
こんな風に振り回されてるから、窮奇の呪縛からは逃れられないのだろう。
「『良い』妖怪のまま潰れてしまう、天橋くんの時に私は学習したんだ」
「そうかよぉ・・・。じゃあ無駄骨だったなぁ」
「うん、まぁそうなるね。でもね神隠し、
私は全然不機嫌じゃないよ・・・すごく『良い』モノが見れたからね」
おぞましい悪意が、思想が。
窮奇の体から滲み出し、辺りの気を汚染していく。
「か弱い彼女を我が身の危険も省みずに守ろうとする、勇敢な騎士様が居たのさ。
『良い』男だよねぇ、彼。ほんとに惚れ惚れしてしまいそうだよ」
ニタニタと笑う、悪寒が蟲の様に背中で蠢く。
「決めたよ神隠し、彼。東雲くんを・・・紫狂に堕としてしまおうじゃないか」
歪みきった笑みで、窮奇は言い放った。
40
:
四十萬陀 その後①
:2011/01/27(木) 00:50:53 ID:???
山に戻ってきた四十萬陀が行ったのは、まず第一に犬御の治療だった。
全身を覆う火傷。それも、ただの火傷ではなく、退魔の術によってつけられた傷だ。このままでは、いくら頑丈な犬御でも死に至ってしまう。
治療の為に漆黒の毛を全て刈り上げて、剥き出しになった肌は痛々しい程赤黒くなっていた。多くの送り妖怪たちは、彼らの中で強い力を持っていた犬御の傷ついた姿に狼狽えたが――
「急いで! そこ、火傷に効く薬草をありったけもってくるじゃん!」
それを、四十萬陀が一纏めにした。
四方八方に適格な指示を出し、懸命に犬御を助けようとする四十萬陀の姿からは、取り乱した様子など一切見られない。どころか、感情的な部分など一切見せず、事務的にすべてを熟していた。
妖怪たちはそれに従い、ツタの葉が敷かれた柔らかい土の上に犬御を寝かせる。痛み止めに大麻草を磨り潰したものを舐めさせ、赤黒い肌に消炎効果のある蒲黄を塗りつける。一先ずの応急処置だ。
「あとはツワブキと……今の内に虎耳草を寝かしておくじゃん」
様々な鳴き声を上げて、それに応えた送り妖怪たちは、袂山中に薬草を探して散っていく。
その場には、四十萬陀と、ひゅうひゅうと薄く呼吸する犬御と、幼い送り鼬だけが残る形となった。
幼い送り鼬は、仲間に着いて薬草を探しにいこうか迷っているようだったが、意を決して後ろ脚で立ち上がると、心配そうな声色と共に、四十萬陀を覗き込んだ。
41
:
四十萬陀 その後②
:2011/01/27(木) 00:52:28 ID:???
「ねぇ、大丈夫?」
話しかけられると思っていなかった四十萬陀は、はっと意識を戻すと、慌てて返事を返した。
「ああ、うん。犬御は頑丈だし、皆一生懸命動いてくれてるから……」
「そうじゃなくて、七生は大丈夫なの?」
「――え?」
幼いがゆえ純粋で真っ直ぐな視線に、全て見抜かれた気がして、四十萬陀は一瞬たじろいだ。
彼女が心の奥底に自ら刻み付けた傷跡、痛みの証。それすら覗かれたような、そんな気分になる。
「七生、辛そうだよ。なにかあったの?」
「……っ」
ぐ、と言葉に詰まる。
――ああ、ダメだ。吐き出せない。吐き出せるわけない。こんな気持ち、こんな感情。こんなきれいな子の、前で。
焦燥、狼狽、焦慮、葛藤、恐怖、恐怖、恐怖。全てを刻み付けた四十萬陀は、もう後戻りできないのだ。
言葉の変わりに溢れてきたのは、大粒の涙で。
「あ……あれ? 何、で…………っ、」
頬を伝った涙が地面に吸い込まれた途端、栓を抜いたように四十萬陀は泣き崩れた。
42
:
四十萬陀 その後③
:2011/01/27(木) 01:00:15 ID:???
「――と、いうことで、私は犬御の看病するから、しばらく山に籠ることにしたじゃん」
「それはいいけど、食糧はどうするんだ?」
泣き腫らした目をこすって言う四十萬陀に、送り妖怪たちが不安げに尋ねた。
人間に変化できる妖怪として、特にその中心となってきた四十萬陀と犬御が、二人も抜けるとなると、人間狩りが非常に困難になってくる。
「しばらくは、今までの貯蔵を切り崩してほしいじゃん。……それと、これからは、人間を襲わないようにしようと思ってるじゃん」
『……えええぇぇ!!??』
送り妖怪たちが、数々に驚きの声と非難の声を上げた。
当然だ。これまで何百年何千年と人間を食事として生きてきたのに、突然そんなことを言われば、驚きもするだろうし、非難するのだって当たり前だろう。
しかし、四十萬陀が「聞いて!」と一喝すると、辺りはしんと静かになる。
「これは私の責任じゃん。犬御が傷ついたのも、人間を襲えなくなったのも……だから私がなんとかするじゃん。なんとか、人間を襲わなくても生きていける方法を考えてみせる。
犬御の命の恩人との約束を、簡単に破りたくないの。だから、勝手だけど、少しだけ我慢して……お願い」
頭を深々と下げて、頼み込む。こんな四十萬陀を、仲間たちは初めて見た。
その真摯な言葉に、送り妖怪たちは渋々ながら頷いた。
ただし、貯蓄された人間たちが三分の一以下になったら、人間狩りを開始する、という条件付きではあるが。
43
:
四十萬陀 その後④ 終
:2011/01/27(木) 01:01:22 ID:???
*
翌日、木々の間から見える空を見上げながら、四十萬陀は、小川で布切れを絞っていた。
早く戻って、犬御の体を拭いてあげなければいけない。冷たい指先を振り、適当に水を切る。
何度何度も絞って、擦り切れた布を握りしめ、犬御の元へ戻ろうとした四十萬陀は、ふと山を降る道を見た。
特に降りたいとは思わない――といえば、嘘になる。
ずっとずっと、会いたい人がいるのだ。一目会って、欲を言えば一言、言葉を交わせれば、それで満足だから。
――残った彼女の心の綱は、山にいる仲間たちと、そして……。
「会いたいじゃん、……黒蔵君」
44
:
変容 1/3
:2011/01/28(金) 21:56:55 ID:???
水を渡ってきた瞬間から、泉は酷く血生臭かった。
「黒蔵っ、生きていたら応えろ!」
血相を変えた蛇神が呼びかけると、ぶくりと泉が泡立ち、濁った目の大蛇が現れた。
「蛇神、遅いよぅ」
水から現れた大蛇の半身には酷い穴があいていた。
蛇神は癒そうとしたが、つい先ほど犬御の火傷を引き受けたばかりだ。
なにより今は、力の大半を失っている。
「全部は無理か……黒蔵、我慢できるな?」
血は止まり浅くはなったが、それでも傷はかなり惨たらしい。
「何があった?」
「窮奇って人に腹の呪いを解いてあげるって言われて、気付いたらこうなってた」
ヒダル神が目覚めた時を、眠っていた黒蔵は覚えていない。
「窮奇……」
その名を聞いて蛇神の顔が険しくなる。
次の瞬間、蛇神の小さな体が黒蔵に跳ね飛ばされて宙を舞った。
45
:
変容 2/3
:2011/01/28(金) 21:59:43 ID:1gBuqmPQ
(……今、一体俺は何をした?!)
黒蔵は愕然とした。
口の中に広がる、真新しい血の味。
今、己の顎がくしゃりと噛み潰したのは……何?
〔食べ損ねたわね〕
「……何だ?」
掠れた声で黒蔵はささやいた。
同時に、これが何だか自分は知っているような気もした。
〔忘れた?この味も、そして私も?
あの時一番最初に食べた、一番美味しかったものじゃないの〕
くすくすと楽しげに、ヒダル神は黒蔵の腹の中で笑っていた。
〔ねえ、兄様。私の肉、美味しかったでしょう?〕
黒蔵の、妹の顔と声音を使って。
「……緋桐っ!」
黒蔵は吐く様に呻いた。
ソウダ、アノ日喰ラッタ蛇ノ肉ハ、確カニ何ヨリモ美味カッタンダ。
埋め込まれた悪意と、目覚めた飢えの神と、罪の重みに雁字搦めにされて、
黒蔵はその体を簡単にヒダル神に奪われた。
「うわあああぁぁぁぁぁっ!!!!」
46
:
変容 3/3
:2011/01/28(金) 22:05:56 ID:1gBuqmPQ
片腕を食いちぎられ、地に叩きつけられ、蛇神はただ見ていることしかできない。
泣き叫ぶ黒蔵がずるりと剥ける。蛇から蛇が抜け出てくる。
その背には4枚の薄い羽。
「よりによって、鳴蛇とは……!」
悔しげに蛇神が呟いた。
呪い封じが解けただけと思っていたが、これは完全に窮奇にしてやられた。
水神にとって一番厄介な代物を持ち込まれてしまった。
事は一刻を争う。急がねば。
傷ついた体を引きずって、ぱしゃりと泉に倒れこんで蛇神は消えた。
この泉が干上がるまでに、何としてでも竜宮に着かねばならない。
〔……何?〕
戸惑ったのは、黒蔵の体を奪い変容したヒダル神もまた同じであった。
〔何なのよこの渇きは!〕
泉の水を飲もうとするも、口元で皆乾いて喉には一滴も落ちない。
水に踏み込むと、己の高熱に嫌な音を立てて水は乾いてゆく。
そこでようやく、窮奇のニヤニヤ笑いに思い当たった。
『あいつ!!』
念願の蛇の肉を、ようやく口にしたところだったのに!
もう少しで、あの蛇神めを食うことが出来たのに!
窮奇の逆性の力は確かに神格に作用していた。
ヒダル神の持つ他者を飢えさせる力を、己自身を渇かす力に転じたのである。
そこに黒蔵が作用して生じた結果が、この乾きの蛇、鳴蛇である。
この化物が現れると、その地域に雨は降らず日照りと乾燥が続く。
怒った鳴蛇は翼を広げ、体を冷やしてくれる広い水辺を探しに飛び去った。
後には大分小さくなった泉と黒蔵の抜け殻が残った。
その夜から空気は異常に乾燥し、雨や雪を降らせる雲は見当たらなくなり、
あちこちで火災が相次いだ。
47
:
最近の出来事を密着レポート
:2011/01/29(土) 09:38:48 ID:???
「えーと、こんにちは。最近、妖怪達の活動が活発になってきました。
そこで、分かりやすく解説したいと思います。」
カメラに向かい、喋る少年。近頃の出来事を不審に思い、密かに調査していた。
「まずは…窮奇と言う名の妖怪が現れたことからバランスが崩れたのかと…
その妖怪は、人の心を操り、困惑させ、利用する。最近では色々な妖怪との接触が多く、組織も作ったとか。
おかげで七生さんは恐怖を覚え黒蔵君は暴走。さらに、送り狼は機関に入るかも知れない…」
話し続ける零。その顔は不思議と、悪意の満ちた笑顔に変わっていた。
「他にも、窮奇の機関の妖怪と他の妖怪の接触があったらしい…くくく。
この窮奇達を放っておくと、恐怖で支配される妖怪が増えて、危なっかしくなります。
これを見た皆様、気をつけてください。」
ここでカメラの録音を切る。
48
:
最近の出来事を密着レポート2
:2011/01/29(土) 10:35:27 ID:???
「さてと…あの機関のとこに潜入しようかな…」
いつもの天然さの欠片は何処にもない。
それどころか、不気味に笑っている零。
これから、どうなっていくのであろうか。
49
:
黒狼と黒雀①
:2011/01/30(日) 01:45:58 ID:DZJMjpzY
繁華街で虚冥と露希に出会った、その後――。
雀の姿で山に戻ってきた四十萬陀は、偶然、山道をゆったりと登る闇色の狼、犬御の姿を目にした。
暗闇に溶けこんだその姿を、飛んでいる最中に捉えることができたのはまさしく偶然で、四十萬陀は犬御を見失わない内に、急いで山道に降り立った。
「犬御!」
呼びかけに気付いた狼は、赤い瞳を四十萬陀に向けた。
――が、目が合った瞬間、四十萬陀は思わず、驚いて体を後退させた。
何故か。四十萬陀は、見間違ったのだ。正しく言えば、それは勘違いだったのだが。
「……七生」
「あ、け、犬御」
その眼光の鋭さが、いつもの犬御とは、全然違っていて。
どれだけ乱暴な言葉遣いで、気が短くても、優しさを含んでいたのが彼の眼だったのに、先ほどの眼光は、酷く冷酷さを滲ませていたような気がしたのだ。
色で例えるならば、そう、濁った紫色のような。
けれど、「こんな時間に出歩くなよ」とぶっきらぼうに言う彼の姿は、いつもと変わらない。
(気のせい、か)
そう思う事にして、四十萬陀は翼を畳むと、いつものポジション――犬御の長毛の中に小さな体を埋めこませた。
こうしていると、寒い冬でも暖かい。(たまに呼吸が苦しくなるけれど)
「犬御の方こそ、こんな時間に何してたんじゃん? いつもなら、もう住処に戻ってる時間じゃん」
50
:
黒狼と黒雀②
:2011/01/30(日) 01:46:45 ID:DZJMjpzY
「……ちょっと、野暮用があったんだよ」
「野暮用?」
彼にしては珍しく、曖昧な答え方だ。
何かピンときたらしい四十萬陀は、ふぅん、と口元をニヤつかせると、くちばしで背中を突く。
「な〜に〜、もしかしてカノジョでもできたじゃん?」
「――はァ!?」
「連れないな〜。そういう事はすぐ幼馴染の私に報告するべきじゃん!」
「あのなあ……」
呆れたように溜め息を付く犬御に対して、四十萬陀は相当自信があったらしく、「あれ? 違うじゃん?」などと言って目を瞬かせていた。
――俺に女が出来たとして、それを「すぐ報告しろ」だなんて。
逆にショックだぞと、全く恋愛対象として扱われていないらしい犬御は再び息をつく。
「じゃあ、何してたの?」
「だから、野暮用っつてるだろ」
「……それじゃ分かんないじゃーん!」
四十萬陀は声を上げて、背中でむくれる。
だけど、言える訳がないのだ。野暮用――袂山にいる獣妖怪たち――送り妖怪と違い、コミュニティに属さず、単独で生活している――を、襲っているなんてこと。
犬御は実践していたのだ。窮奇に言われた、『強くなる方法』を、そのまま飲み込んで。
そもそも、最初に妖怪同士で争うのを禁止したのは四十萬陀だ。
私たちは弱い妖怪。だからこそ、強い力を持つものと進んで戦うようなことはしてはいけないと。
――俺の喧嘩も禁止させられて、その事で何度も叱られたが……俺が今生きてるのは、七生のおかげだ。
(俺は強くならなくちゃいけねェ。七生を、守る為に)
だからこそ、言う訳にもバレる訳にもいかない。これが知れたら、きっと四十萬陀は止めに入るだろうから。
51
:
黒狼と黒雀③ 終
:2011/01/30(日) 01:54:33 ID:DZJMjpzY
「犬御、私ね、強くならなくっちゃって思うんじゃん」
「!」
犬御は驚いて、背中に顔を向けた。
奇しくも、四十萬陀が思っていることと、自分の考えていることは、同じだったのだ。
「いつも、守ってもらったり、頼ってばっかりで・・…犬御にも甘えっぱなしだったじゃん。
だから私も、心くらい、強く持たなくちゃって思ったの」
窮奇の一件があってから、四十萬陀の心に変化が生まれてきていた。
いつまでも、怖がってばかりではいられない。向き合わなくちゃいけないんだ、と。
だから、四十萬陀は繰り返していた。大丈夫、大丈夫と、まるで自分に言い聞かせるように。
――自分の問題は、自分で解決すると、心に決めたから。
「……そうか」
「冗談じゃないから、笑っちゃダメだよ」
「笑わねェよ。……そうか、七生も強くなるのか」
お互いに、強くなる。
その強さのベクトルが、根本的に違っていたとしても、二人はそれに気付かない。
『善』と『悪』が結びつく事は、永遠にないのだけど。
「じゃあ、お前は自分の心をしっかり持て。――あとは、全部俺が守ってやるよ」
「……そ、そういうセリフは、もっと大事な時にとっておくべきだと思うじゃん」
「はァ?」
二人がそれに気付くまで、あと――……
52
:
狸噺 其の壱
:2011/01/30(日) 20:05:08 ID:TiFQT7YY
俺は生まれたときから一人ぼっちだった。どうやら力が群れの仲間達とは桁外れだったらしい。
ガキの癖にやたらに妖力が高く頭も回った俺は仲間から、親にすらも疎ましがられた。
親という信頼できるであろう存在にすら拒否されたら居場所なぞ出来るわけも無い。
俺は山を降り人里の近くの森に住み着いた。人の食物を掠め取って喰らい、
会話を盗み聞きしては知識を身に付ける。どんどん俺は成長し人の言葉も介せるようになった。
群れに居た頃に見た長老の変化の術も見よう見真似で身に付けれた。今思えば調子に乗っていたのだろう。
立派な化け狸に成長した俺は人を喰らう事を思いついたのだ。
方法はいたって簡単、人の言う別嬪さん又は色男に化け人里に潜り込み若い男や女を森に誘う。
後は狸の姿に戻って一言。いただきます。狸の体も人並みの大きさに成長していたのだ。
ただそれだけで済む話だった。この手口にも慣れ、人里にも人を喰らう化け物の噂が流れ始めた。
俺は人の恐怖する様を眺め慢心しきっていたんだろう。そんな時だった。
あの糞坊主<今では尊敬すらしているが当時に思っていた呼称を使おう>が俺の前に姿を現したのは。
―――よう、お前が人食い妖怪か。俺はこの近くにすむ和尚様だ。ちょっくら説教しに来てやった。―――
この身に起きたことが信じられなかった。
出会って数分の年寄りにたこ殴りにされ意識を飛ばされた後、力を封印されてしまったのだ。
俺は井の中の蛙だったことを思い知った。目が醒めるとそこはぼろいお堂。
慌てて身を確認すると背が普通の狸ほどに縮んでいる。それだけでなく極端に妖気も減っていた。
この量では人に化けることすら出来ないだろう。この身の不幸を嘆いていると糞坊主が姿を現した。
説明によると俺は人食い狸の子供という形で寺に保護されるらしい。
人を喰った俺は憎いだろう、何故殺さない。
と問うとさも当然のように殺されたから殺すでは胸糞悪いからと答えやがる。
悔い改めたりはしないぞ、生きる為の食事だったんだからなと挑発混じりに言うと先程と同じ調子でお前らも生き物だから飯ぐらい食うわなと妙に納得された。
53
:
狸噺 其の弐
:2011/01/30(日) 20:08:32 ID:TiFQT7YY
本当におかしな和尚だった。
俺に飯炊きはやらせるは寺の掃除をやらせるは酒を買いに行かせるは狸使いの荒い奴だった。
だが一ヶ月もしないうち慣れた。
あいつと食う飯は美味かったし寺に遊びに来るガキ達と掃除をほっぽり出して遊ぶのも楽しかった。
銭を持って酒屋まで行く途中、色んな人たちに声を掛けられ可愛がられたのも照れ臭かったが嬉しかった。
なによりあいつが俺の親になっているような感じが一番気に入ってたんだ。
ずっと一人だった俺が誰かと一緒に居る事の楽しさを覚えることが出来たのはあいつのおかげだった。
あいつは酒に酔うと俺に色んな事を話してくれた。
やれ仏様がどうだ、とかお前の行いの報いがどうちゃらとかやたら説法じみていたものだったが。
―――お前は妖に生まれ人であるこの俺が面倒みてやってるんだ。
人妖問わず優しくあろうとしろ。お前には出来るはずだ。―――
こんな事をずっと言われ続けた。
出来る訳ないだろうがと思い笑いながら聞いていたが何回も言われているとその気にもなってくる。
いつしか俺は全てを受け入れ全てに対し優しくあろうと志すようになってしまった。
簡単に言うと大衆を救うための他利行という思想だろう。
月日は流れる。
俺と出会った時から長生きな部類に入っていたあいつはここしばらくの間床に伏せるようになっていた。
俺は死期が近い事を悟り、なるべくあいつの近くに居れるようにした。
そんなある日、あいつは布団の傍に座る俺に近くに来るように言うと喋り始める。
もう旅立たねばならない時が来たと言う事、後始末は村の奴らに任せたという事、
自分が死んだら封印が解けて自由になる事。
54
:
狸噺 其の参
:2011/01/30(日) 20:16:24 ID:TiFQT7YY
―――そういえば、お前にまだ名前を付けてなかった。
この集落、平次【ひらつぎ】の名前からとって平次郎【へいじろう】と名づけよう。
どうだ?嬉しいか?そうかそうか。そりゃ良かった。これで俺が思い残すことは無いな。
それじゃこれが俺の最後の言葉だと思ってよく聞けよ。
お前の面倒を見ると決めてから退屈することは無かった。
照れ臭いが俺はお前を息子のように思ってたんだぞ。
……そうか、お前も俺のことを親父だと思ってくれていたのか……。嬉しいなぁ。
色んなことがあったが俺の持つ全てをお前に渡したつもりだ。これから生きるのに役立つだろう。
それと、何度も言ったが人妖問わず全てに優しくしろよ。お前なら出来る。
それじゃあなぁ、平次郎。今まで楽しかったぜ。―――
それだけ言うと、ぽっくり逝っちまいやがった。俺は泣いた。泣き続けた。
泣きながらも封印が解け力が戻ってくるのを感じる。
ここ数年の間で成長し続けていたのか濃密な妖気が体から溢れ出てる。晴れて俺は自由の身だ。
これからは何したって構わないはず。そう思うと少しは気が楽になった。それに伴い頭も冷静になる。
まずは村の奴らを呼んでこなければ。
子狸の姿のまま表に出て、めぼしい人間に当たりをつけると着物の袖を噛み寺の方に引っ張る。
なにか異常だと勘付いたのか途中からは自ら走って行ってくれた。これで安心だろう。
それでは俺は旅の準備を始めるとしよう。親父が俺に話してくれた色んな世界を見てみたい。まだ俺は未熟だ。
ここらの山と森と集落しか知らない。きっと世界にはまだ見ぬたくさんの面白いことがあるんだろう。
そう思うと旅に出ずには居られないのだった。持っていく物は…何がいいだろうか。
とりあえず親父の形見として袈裟だけでも持って行かせて貰おう。他には……いや、もういいか。
袈裟一つで十分だ。そうと決めたら後は行動。寺に帰り、数年ぶりの大狸の姿に戻った俺は袈裟を着込む。
これで俺は親父に少しでも似ることが出来ただろうか。そんな子供じみた思いに気付き自分で笑ってしまう。
誰かと共に居る喜びだけでなく誰かを失う悲しみも親父は教えてくれた。
そんな当たり前の事を教えてくれた親父に馬鹿にされないよう、俺は精一杯全てに優しくあろう。
寺の裏手から出ると既に人が集まりつつあることが分かった。親父は人に慕われる人だった。当たり前だろう。
そんなことを思いながら集落を出て森に向かう。
途中、俺は一度だけ人里の方に振り返り万感の思いを込め吼えた。
さらば、故郷。さらば、村のみんな。さらば、親父。
55
:
狸噺 其の終
:2011/01/30(日) 20:20:52 ID:TiFQT7YY
これより俺は各地を旅して回ることになる。
狸の愛称で呼ばれた天下の将軍を江戸に見に行った。
一人で百鬼夜行に喧嘩を吹っ掛けぼこぼこにされた。
霊山で天狗と共に苛烈な修行に励んだ。狐との化かしあいでは勝った負けたを繰り返した。
阿波の狸合戦にも顔を出し、場を引っ掻き回してきた。
自慢の怪力で鬼と力比べをして互角に渡り合った。その後の酒飲み勝負では負けたが……。
いつのまにやら相模で狸の頭領を名乗ることになった。
まぁ、とにかく色んな経験を積んだのだった。
しかし時が流れ人々に姿を現していた幻想もめっきり姿を見せなくなっていた。
人は知恵をつけ、文化を発展させ、科学を知るようになった。それからの躍進はめざましいものだった。
ふと気付くと人が溢れ返り、建物が乱立し住み難い世の中になってしまった。
まぁ、何事も勉強と思い、人の常識と教育を勉強してみた。人の職にも手をつけてみた。
案外楽しいものだった。
どうやら海の外の異国にも攻めるなんて話を聞いて屋島の禿狸と共に日清戦争・日露戦争にも出向いたりした。
住み難くなったと言えどやはり仲間と言える存在は少しは残っているのだった。
更に時は流れる。
テレビやインターネット等昔からしたらありえないような存在が人の世に溢れ出る頃、俺はある噂を聞く。
その町には未だ妖怪たちが集い、百鬼夜行の主を決める闘いが起きているらしい。
親父に教えてもらった志を忘れかけていた俺はきっと無意識に期待を寄せていたんだろう。
そこが俺の原点回帰の場所だと気付いて。そうと決まったら行くっきゃ無い。
俺はいつもの通り、袈裟一つだけを荷物として持ち歩き始めた。そこにきっとおもしろいものがあると信じて。
56
:
傷ついた狐・芽生える不安
:2011/02/04(金) 13:49:10 ID:SmXQZqJk
家の中、玄関でうろうろする十夜
十夜「七郎…遅いなぁ…」
七郎は散歩に出かけたまま、まだ戻ってきていない
十夜「まさか、何かあったんじゃ…」
そう言った瞬間、扉がゆっくり開く
七郎「そのまさかだよ…ま、命に別状はないがな…」
よろりと傷ついた七郎が帰ってくる
十夜「七郎!?どうしたの!?」
七郎「ちょっと厄介な奴に出会っちまってな。
けど大丈夫だ…これくらい…」
十夜「厄介な奴?」
七郎「ああ、奴は本能を剥き出しにし、妖怪を喰らっていた…相当ヤバい奴だ…」
思い出し戦慄する
強大な力、逃げるのがやっとだった
逃げられたのも、七郎一匹だったから、もしあの場に十夜がいたら逃げきれずに十夜・七郎共に喰われていたかもしれない
十夜「七郎…」
七郎「十夜も気をつけろ…奴は、妖怪を喰らっていたが、おそらく本来は人間を喰らう種だ。
とにかく、山には近づくなよ。」
十夜「わかったよ。僕も気をつける。」
七郎は不安そうな表情を見せる
それを見て、十夜にも不安が芽生えてきた
57
:
八岐大蛇 澪(れいん)
:2011/02/05(土) 11:05:47 ID:BQ990e1A
昔々の日本、まだ妖怪と人間が普通に接していた頃の話だ。
私は、山奥に住んでいた。木の実や小動物を食べて、のんびりと暮していた。
周りの妖怪達は皆優しく私に接してくれ、毎日が幸せだった。
そんなある日、人間が森へ迷い込んできた。名は確か欄丸とか言っていた。
私を見た欄丸は、驚いていたが怖がりはせずに話しかけてくれた。
道を教えると笑顔でお礼を言ってきた。嬉しかった…。
いつしか、彼とは心を通わすことが出来るくらい、仲が良くなったと思っていた。
まだ、この先に何があるのか分からないまま――
58
:
八岐大蛇 澪(れいん)2
:2011/02/05(土) 11:18:36 ID:BQ990e1A
ある真夜中、森の中で人間の話声が聞こえた。
欄丸と一人の男だった。声を掛けてみようとした―
欄丸「あの蛇を殺して売れば大金持ちになるぜ…」
男 「だったら、この刀を使うと良い。なんてったって、妖刀だからな。」
欄丸「妖刀か…あの蛇、俺を友達と思ってるからな、殺しやすい。」
自分の何かが、崩れた気がした。友達だと思っていた。分かりあえると思っていた。
それなのに……。
気づけば、私の前に欄丸がいた。私は必死に抵抗したが、妖刀の敵では無かった。
血しぶきが舞い、木々は赤黒く染まる。逃げようとするも、眼を潰され光を失う。
苦しくて苦しくて、気が狂いそうになる。もう、駄目だった。
とどめとばかりに、刀を振り、心臓を貫かれた。――私は死んだ。
59
:
八岐大蛇 澪(れいん)3
:2011/02/05(土) 11:25:48 ID:BQ990e1A
悔しさしか残らなかった。ただ、人を恨み殺したかった。
私は人を呪い、病にさせ、殺した。
そんなことを繰り返すうちに…そこには、自分の体があった。
意識も、体も、思いのままに。私は復讐を誓う。
自分を裏切った人間を殺そうと――
60
:
黒狼のゆめ
:2011/02/08(火) 22:04:22 ID:MyMAH3RI
草木も眠る丑三ツ時。静寂に包まれた袂山の茂みに、獲物を抱えた黒狼が飛び込んだ。
そのまま、雑木林に囲まれた、周囲から見え難い広がりに引き摺っていく。
跡を引くように赤黒い道がうまれるが、それを気にする様子はない。
鋭い片牙を抜くと、既に呼吸を止めた送り犬が地面へ沈んだ。
激しく上下する胸を鎮めながら、その動作とは裏腹に、犬御は目下の屍体を冷静に見据えていた。
口腔から牙の隙間を伝い、鮮血が滴り落ちる。
その血は自らのものでなく、他者の命を奪った結果。
――血腥い臭いが鼻を衝く。
息も整わない内に、何かに憑かれたように、衝動的に、犬御はゆるゆると血塗れた送り犬に喰らい付いた。
爪で引き裂き、牙で噛み砕き、肉片を咀嚼する。
何度も、何度も。緩慢な動作で。
ネチャネチャと不快な音が夜の闇に融ける。
粘っこい血を飲み込むたび訪れる、脳の芯が麻痺していくような刺激に酔っていた。
じわじわと、犬御の体に被食者の力が移っていくと同時に、
根っこから全ての悪感情に支配されていく。狂気、憎しみ、敵意――。
「……!!」
その時突然、目の奥に焦げ付いていた、ずっと『手に入れたかった』笑顔が浮かんできて、
「ハハッ、ハ、」
何故だか、笑えてきた。
61
:
ミナクチ@竜宮『』
:2011/02/11(金) 01:21:51 ID:1gBuqmPQ
鳴蛇の捕獲で、ようやく休む機会を得た蛇神。
腕は露希のお陰で取り戻せたが、犬御の火傷と黒蔵の傷の分は後回しだった。
竜宮の一室を借りて休養中の蛇神をたずねて来た者が居た。
???「蛇さんちーっす、お加減どうよ?」
ミナクチが露骨に嫌な顔をする相手は、竜宮の中でも彼くらいかもしれない。
???「あれー?酷いねー。折角お見舞いに来たのにねー」
『それなら、その手に持ってる菖蒲は何なんですか』
???「これー?もちろん、ちょっとした嫌がらせーw」
『……。ならもう気は済んだでしょう、帰ってください』
???「いやん、冷たいお言葉w」
『袂山の魚の件で、貴方のお爺様に口添えして下さったことは感謝してます。
四季の庭の菖蒲を刈る手伝いをして下さったことにも。
しかしだからといって、あなたに贄を譲るつもりはありませんし、譲る道理もありません』
???「やっぱりねー。そう言うと思った」
ヘラヘラとふざけた口調の客人が、ふと真剣になった。
???「今回の件な。流石に上の方でも色々取沙汰されてる。
あの無駄に高慢ちきな降水部の連中は激怒してるし、
蛇族全体をこれ幸いとばかりに叩く奴もでてる」
蛇神はぎりりと唇をかみ締めた。
???「竜の奴らな、自分とこのお姫さんのせいでお前が弱ったことは承知してる癖して、
お前が鳴蛇を抑えられなかったってことには我慢ならんのだとよ」
野良上がりの蛇神に、こういう政治的な駆け引きは厳しい。
損得勘定や面子への拘りを理解する感情を、生まれつき持っていた訳ではないからだ。
???「取った贄を喰らいもせずに放置して、その結果がこの不始末。
力の弱った今もまだ、その贄に手をつけない。
どうして早く喰ってしまわない、そうすれば力が付くだろうに、だとさ。
実は俺もそれを聞きたい。まさか情が移ったとかじゃないんだろ?」
蛇神は長いこと黙って、ようやく口を開いた。
『聞いてもあなたが納得するような理由ではありません』
???「やっぱりー?でも知らせたんだから、感謝くらいはして欲しいなー」
『知ったところで私がどうにもできないと判っていて、ですか』
???「あらー、ばれてた?恩を売れると思ったんだけどねー。
まー何時でも代わりに喰ってあげるからさ、気が向いたらあの贄頂戴ねー」
くすくすと笑いながら迷惑な客人が帰っていった後、蛇神は眠ることが出来ずただ炯炯と目を光らせて居た。
62
:
零『』&露希「」
:2011/02/11(金) 08:11:35 ID:BQ990e1A
先日、零はある少女を着けていた。
露希の親友【瞳】だった。すると、なぜ親友ともある瞳を着けたのか――
零は予測していたのかもしれない。瞳と窮奇が絡み、何かをすると。
案の定、当たってしまった。しかも、氷亜を狙うと言うことも。
とりあえず、家へと戻ると、家には何も知らない露希がいた。外は真っ暗だった。
露希にこれを話せば、崩れてしまう。自分を追い詰め、自殺してしまうかもしれない。
瞳や氷亜を助ける方法、それは―――
『露希、そろそろ封印を解いていいよ。』
「え、でもなんで急に?」
『氷亜さん達を助けるのにその力じゃ限界があるからね。白龍も本気を出しちゃっていいからね。』
「う…うん、分かった。」
そう、露希自身が守ればいいこと。そして、解決させる。
この先、どうなるか分からない。ただ零は必ず露希の味方だろう。
それはかつてのことを経験した彼だから出来ることだ。外の窓からは雪がちらほら降り始めていた。
63
:
三凰の父
:2011/02/11(金) 12:43:41 ID:SmXQZqJk
三凰の父親、名は二仙(にせん)といった。
三凰「はあっ…はあっ…」
二仙「今日の稽古はここまでだ。お前の体力が限界のようだからな。」
三凰は、毎日父親にレイピアの稽古をつけられている。それは、厳しい物だった。
三凰「僕はまだやれます。続けてください。」
二仙「駄目だ。己の体力もわからないのか?それでは、百鬼夜行の主など程遠いな。」
三凰「…すみません。父上の言うとおりです。」
父親は厳しい人だが、三凰に的確な修行をさせ、百鬼夜行の主になれるよう導いてきた。
二仙「三凰、焦っているな?負けたのか?」
三凰「な!別に焦ってなど…それにあれは、油断しただけで…」
二仙「言い訳するな。三凰よ、焦ることはない。自分の弱さと強さ、それを理解するのだ。」
三凰「……はい。父上。」
厳しいだけでなく、三凰をよく理解し、彼なりに支えてあげていた。
そんな父親を三凰は尊敬していた。
64
:
瞳の思い
:2011/02/14(月) 13:48:58 ID:SmXQZqJk
風月の墓前
瞳は、久しぶりの墓参りに来ていた。
「風月…本当にありがとう。あなたに会えて良かった。風月もそう思っているよな?不幸なんかじゃないよな?」
当然答えは返ってこない。だけど、瞳には答えがわかった。
「ふふ…馬鹿な質問をしたかな?」
少し恥ずかしそうに笑う。
そして、墓に手を掛け――
「風月!私はもう迷わない!親友を信じぬく!そして、この信念は曲げたりしない!」
強く、強く決意した。
「そうだ、今日はバレンタインデーだろ?それで、チョコを作ってきたんだ…
慣れないことをして大変だったが、頑張ったんだ。」
墓に向かって優しく微笑んだ後、そっと墓前にチョコを供える。
「それじゃあな…私、頑張るからな!」
最後にまた優しく微笑むと、墓の前から去っていった。
瞳は強くなった。
しかし――問題はまだある。
瞳の髪に付いた紫水晶。瞳はこれを外せなかった。
己の闇は振り払った筈なのに、心の奥底には悪意が根付いているのだろうか?
「後は、これを外さなくては…だが…」
外すのが怖かった。外すとせっかく修復された心が、再び壊れてしまうように感じた。
65
:
宝玉院家のバレンタイン 1/4
:2011/02/14(月) 13:51:45 ID:SmXQZqJk
宝玉院家では、たくさんの使用人が働いている。
その中には、女性も多くいた。
女性使用人「あの…三凰様…」
三凰に声をかけたエプロンドレス姿の女性使用人。
彼女の名は、夢無(むむ)と言い、三凰と近い種族の妖怪で、事故で両親を失い行く宛のなかったところを宝玉院家に拾われたのだった。以来、宝玉院家で使用人として働いている。
三凰「なんだ?僕は忙しいんだ。手短に済ませてくれ。」
夢無「本日はバレンタインなので、これを…」
丁寧にラッピングされたチョコを差し出す女性使用人。
それを不機嫌そうに見つめる三凰。
三凰「いらん。さっさと仕事に戻れ。」
冷たく言い放つ。
そして、そのまま去っていった。
夢無「そんな…」
取り残された女性使用人は、涙を流していた。
66
:
宝玉院家のバレンタイン 2/4
:2011/02/14(月) 13:53:27 ID:SmXQZqJk
二仙「三凰よ。」
不機嫌そうな表情で歩く三凰に、父親である二仙が話しかける。
二仙「なぜ、チョコを受け取らなかった?女性の好意は無駄にするものではない。」
三凰「見ていたのですか?…僕は、あんな物いりません。だから、受け取りませんでした。」
格下に見ている使用人から個人的な贈り物を受け取るなど、三凰のプライドが許さなかったのだ。
呆れたようにため息をつく二仙。
二仙「三凰よ。彼女の気持ちを考えろ。彼女はお前に救われたのだぞ?そう、彼女にとってお前は大切な存在なのだ。」
三凰「大切な存在?」
目の前の二仙を見つめる。三凰にとって大切な存在の二仙を――
三凰(僕が父上を大切に思うように…彼女も僕のことを…)
三凰の気持ちが変わっていく。
しばしの沈黙の後、三凰が口を開いた。
三凰「…父上。ありがとうございます。大切なことに気づきました。」
その場で礼を言い、小走りでどこかへ行く三凰。
二仙は黙ってその姿を見守っていた。
67
:
宝玉院家のバレンタイン 3/4
:2011/02/14(月) 13:54:50 ID:SmXQZqJk
夢無は、浮かない顔で庭掃除をしていた。
そこへ、小走りで三凰がやってくる。
夢無「あ…三凰様…」
三凰「おい。さっきの物を渡せ。」
不機嫌そうではあるが、先程とは違った。
夢無「え?で、でも…」
三凰「いいからよこせ!」
夢無「は、はい。…どうぞ。」
先程と同じように丁寧にラッピングされたチョコを差し出す。
今度はちゃんと受け取った。
三凰「礼は言わんぞ。むしろ、貴様が感謝するんだな。この僕が受け取ってやったことに。」
夢無「はい!ありがとうございます!」
嬉しそうに礼を言った女性使用人。
三凰「…フン」
三凰は礼を聞き終わると黙って去っていった。
68
:
宝玉院家のバレンタイン 4/4
:2011/02/14(月) 13:56:48 ID:SmXQZqJk
三凰「まったく…調子が狂うな…」
自室に戻った三凰。さっそくチョコを開けていた。
チョコを一つ口に運ぶ。
三凰「だがまぁ…なかなか美味いじゃないか…」
そう言う三凰の表情は、どことなく嬉しそうだった。
その頃、二仙の部屋では――
夢無「二仙様!二仙様にもこれを。」
先程の女性使用人。嬉しそうに二仙にチョコを差し出している。
二仙「私にもか…悪いな。ありがとう。」
礼を言い、チョコを受け取る二仙。
夢無「いえいえ!二仙様も三凰様も、私の大切な方ですから。」
こうして、宝玉院家のバレンタインは幕を閉じた。
69
:
バレンタインwith露希&白龍
:2011/02/14(月) 17:00:30 ID:BQ990e1A
白龍「露希、生クリーム出来たよ。」
露希「ありがとっ、じゃあそこのチョコプリンの上に……」
今日は年に一度の大切な行事。大切な人が出来たため、心を込めて料理♪
白龍「ねぇ、露希は誰にあげるのー?」
露希「えっと、瞳さんとミナクチさん、夜行集団の皆と零かな。」
白龍「本命は…あの雪の人だよね☆」
露希「…食べてくれるかな?」
温かい部屋で女の子同士の楽しい会話、こういうのもバレンタインの一つの楽しみだ。
白龍「露希が心を込めて作るんだから、あの人もきっと食べてくれるよ。」
露希「……////////」
70
:
バレンタインwith露希&白龍
:2011/02/14(月) 17:12:43 ID:BQ990e1A
目的のチョコレートはすべて完成し、一息ついた。
テーブルの上にはチョコプリンやホワイトチョコなど、様々な物がラッピングされていた。
白龍「後は、届けるだけだね。」
露希「うん、頑張ってみる。ボクはあの人に気持ちを伝えて…」
後にどうなるかは分からない。
露希のチョコと気持ちは、雪男に伝わるのであろうか?
71
:
水面下で 1/2
:2011/02/15(火) 22:44:37 ID:1gBuqmPQ
まったくもって癪に障る。
初めて見たときはなんでこんなガキが登用されているのか、と思った。
弱っちくてなよなよとして、ちょっとつついたら今にも泣き出しそうで
暇なときには苛めてやろうかと思っていたら、あれで神格持ちだという。
立場的に手が出せないことがさらに癪に障った。
それでもいつかは喉元掴んで岩に叩きつけ、首から下を八つに裂いて、
こちらの眷属に引きずり込んでやりたいと思ったから、
この自他共に認める遊び人の自分が、神格を願いこそしなかったものの
祖父も喜ぶ正式な竜宮仕えを希望した筈だったのだ。
しかしたった二百年の間にそのなよっちい奴は目覚しい勢いで育ち、
どういう経緯か角まで貰っている。今にも天に昇る勢いだ。
これでは自分も神格に登らねばならぬかと少しばかり焦ったが、
都合良く竜の姫のごたごたが持ち上がって、奴は力を削がれて左遷された。
お陰で少しばかり、自分にも時間の猶予が出来た。
自分も当初より少しばかり物事を見、賢くなって忍耐もついたと思う。
力押しではなく、搦め手で攻める駆け引きも面白くなってきた。
予定とはまた違った形であるが目的は果たせるかもしれない。
そんな所にまた鳴蛇の件が来た。
―――よし来た!これで勝つる!
そう思って気分良く過ごしていたのである。昨日までは。
先日は見舞いにかこつけて奴を面白くからかい、
昨日は人魚や共潜ぎ等の水妖の若い娘達から人界の祭りにかこつけて有り余る程の贈り物を貰い、
鼻の下を伸ばしていい気分で過ごしていたのに。
お喋り好きの小魚どもが、要らぬ噂を仕入れて来ていた。
「ミナクチ様がね、すごーく上物のお酒持って来たんだよ。しかも米のお酒。
振舞い酒だよ皆で飲もう、って言ってくれて私も一献頂いたの」
「いいなー、米の酒は力がつくよね」
「米の酒はいいね、やっぱ酒虫が水から醸すのとは違うやね」
「でもあの神様、供物が貰えるような宮には居ないでしょ?なのになんで米の酒?」
「それね、百足の姫様に貰ってるのを見たって川蛍が言ってた」
百足の姫だと?!
竜宮の大臣の一人を祖父に持ち、一族きっての遊び人のこの自分が、
まだ高貴な身分の女性との接触は出来かねているというのに、
穢れ食らいのあの野良蛇は既に2人の姫と関わっていると言う訳か。
―――許せん。
つまらんプライドと笑われてもいい、そこで自分が奴に負けるのは許せん。
腹の底にどす黒いものを感じた。
噴出しそうなそれをぐっと堪えると、ゆらりと長い衣を揺らして立ち上がった。
彼は衣蛸の叡肖。
蛸族の長の孫にして、一族きってのどら息子である。
72
:
水面下で 2/2 叡肖「」とミナクチ『』
:2011/02/15(火) 22:56:30 ID:1gBuqmPQ
目的の相手はやはり書物庫に居た。
記録閲覧の申請をしていたのは仕事柄知っていたので、
居るとすればその辺りだろうと見当をつけて衣蛸はそちらへ向かったのだ。
案の定、ミナクチはそこに居た。
というか、小さな体で巻物に埋もれてもがいていた。
『あ…叡肖さん。ありがとうございます』
ほっとした表情で言われて、衣蛸は悪意を隠してへらりと笑みを浮かべた。
別に助けたわけではない。
床に落ちていた巻物の山を拾い上げたら、奴がその下に居ただけのこと。
(今、知らぬ顔で踏み潰しても……いや、それはつまらないか)
そんな思いはおくびにも出さず、叡肖は手を貸してミナクチを書棚の上に乗せてやる。
「降水録?」
ふと、拾った巻物に目が行く。
『はい、私がここに来るよりも前の記録です。
私の記憶にあるだけじゃなくて、ちゃんと確かめたくて』
「ふーん、てこたぁ二百年以上前ってことね」
『大体三百年前くらいまで、遡って見てました』
「へーぇ、それで何か見つかったかい?」
この蛇が何を探していたのか少しばかり興味が沸いた。
『見つかったような、見つからないような、ですね。
だいぶ長期に寒さが続いたり、降雨もなかなか安定しなかったのは判りました。
でもなぜそうなったのか記録には無いんです』
(―――あー、そんな時期もあったねー)
『もし偶然にそうなっただけなら、神界も水界も早々に戻そうとする筈なんです。
そのままにしたら地上は飢えるのだし、供物だって減ります。
なのにこれほど天候不順や度々の飢饉が続いたのなら、
それは何らかの理由で戻せなかったのか、或いはそれも意図的なものだったのか…』
(―――ははーん、ちょっと見えてきたぞ)
叡肖はしめしめと思った。
どうやらコイツは、上の連中への疑問を抱いているらしい。
ここは上手く突付き上げて破滅を誘おうか。
「調べたいなら手伝ってやるよ、俺、文官だしー?」
『いえ、そちらの仕事に差し支えると困るでしょうし遠慮します』
(―――あら。お断りされちゃった。
こないだからかったせいかね?それとも警戒されたか?)
「別にこの事で贄よこせとは言わないからさー。
それに、仕事しながら恋文七通書ける技能持ちの俺様だよ?」
『なんで八倍速で仕事しないんですか…』
「だって俺、遊び人だし?
あんまり仕事頑張って、神格に登れとか言われたら嫌だもんねー」
『それ、お爺様が聞いたら泣きますよ』
あからさまに敵対する相手よりも味方のようなふりをして
親しく絡んでくる相手のほうが実は厄介だ、
と言うことをミナクチは叡肖から学んでいた。……しかし。
『では、その頃の気象に神界の意図がどう関わっていたか、
それだけ調べてもらえば十分です』
……しかし今は時間が無いのだ。この蛸の手も借りたいほどに。
73
:
狂気の骨、雪化粧の男
:2011/02/16(水) 01:31:00 ID:wOfQ6eDc
「おい、氷亜。話があるっていう」
「なんだ?お前がそのテンションなのは珍しいね。なにかあった?」
「この前、お前が凍ってた件なんだがな・・・」
「・・・。それは僕があまりにも寒かったからキレちゃったんだよ。
自分の体も顧みずにね。ホントに笑い話だ、でもみんな知ってるじゃん?」
「窮奇に合った」
「・・・。あらら〜バレちゃったか、ゴメンね黙ってて」
「俺が聞きたいのはそんな事じゃないっていう。あの時姫か露希ちゃんかを、
天秤に掛けた時お前、露希ちゃん選んだだろ。それがどういうことか分かってのかっていう?」
「・・・。ああ、そうだよ。僕は露希を選んだ、それは理解している。」
「もし、お前らが・・・」
「ああ、それも理解しているつもりさ。
それと、もし。僕らが姫と対立したとき、僕がどうなるかも」
「俺はお前を殺す」
「僕はお前を殺してでも生きてやる」
「「それでいい」っていう」
74
:
狂気の骨、天震わす狗
:2011/02/16(水) 02:14:53 ID:wOfQ6eDc
「不自然的だな、骨、常の悪戯も省略、神妙な顔で相談とは、何事じゃ?」
「あいも変わらず漢字が多いですね、あなたは。つかれないのですか?」
「日常的だ、疲れぬ・・・敬語も使用し、『鼻』の蔑称も不使用。通常の骨は如何した?」
「話をしっかりしておきたいので、あまり余計なことは避けさしていただきます」
「簡潔的に、か。」
「この集団のなかに、裏切り者がいるかもしれないと、ある妖怪から聞きました。
それの証拠に、まえに零が渡した紙をそのものが持っていました。」
「粗確定的に、何者かが漏洩した、と言うか。
然し、其の事実、他人である此の自分に打ち明けて良いのか?
不意打ち的に儂が裏切り者やも知れぬぞ?」
「あなたは、俺の次に裏切ることのない者だと俺は思っています。
だから、あなただけに相談したのです。どうか、一緒になかの捜査、していただけますか?」
「愚問的だ、此の集団の害は排除されて叱るべし。勿論強力な協力を約束する。
して、確認的に質問だが、若し裏切りが発見された時、骨は其の者を如何様に?」
「そんなこと聞くまでもないでしょう?」
「不快的。其の笑顔は余り見たく無い。」
「そういえば今年のバレンタイン、どれほど貰えました?俺はざっと60個です。」
「100。貢物も含めて。圧倒的だな骨、はっはっはっ!!」
「死ね!!」
「此の僕に対して無礼的だ!!貴様が死ね、骨!!」
「俺はもう死んで、グヒデブッ!!」
75
:
迷い狼
:2011/02/20(日) 13:06:16 ID:MyMAH3RI
――ヒダル神が新たな名と共に、黒蛇の体から抜けたのと、同刻。袂山の麓。
同情、敵意、憐み。
そんな『元』仲間からの視線を四方八方から受けながら、犬御は傷付いた体を引き摺っていた。
裏切り者として、山から追放されようとしている犬御を、送り妖怪たちは様々な感情を持って眺めているだけだった。
ではなぜ、手を出さないのか。
誰一人とどめを差そうとしないのか。
答えは簡単なものだ。四十萬陀が、それを止めていた。
「ねぇ、このまま逃がしちゃっていいのかな、お姉ちゃん……」
「私だって、逃がして良いなんて思っちゃいないよ」
臆病な送り狼が、遠巻きに犬御を見ながら言った言葉に、
強気な送り狼が、ゆるく首を振って返した。
「だけど、七生が信じているんだ。私たちも信じてやろうじゃないか
――東雲、余所でみすぼらしく死んだりしたら、絶対に許さないからね」
「はッ、……ぐ、あ」
醜態だと、そう酷く傷む頭で、自分自身を罵った。
あまりにも醜い。
戦って、負けて、逃げて、瀕死の体で這いずり回る。
その姿を、『元』仲間たちに傍観され、とどめも差されない。屈辱の極みだ。
けれどどうにも、いっそのこと、あの狸に殺されてしまえばよかったなどとは、犬御は思えないでいた。
どんなに無様な姿を晒してでも、生にすがりついている。
(喰らわなければ、)
この傷付いた体では、本能の欲求に応えることもできない。
目的を見失ってしまった。
壊すことしか出来なくなった狼は、雁字搦めの体で足掻くだけ。
(これから、どこへ往こうか)
――とにかく、傷を癒せる場所を見つけなくては。
血雑じりの唾を地面に吐き捨てると、犬御は山を降りた。
76
:
水神代行
:2011/02/21(月) 23:25:34 ID:1gBuqmPQ
久しぶりに戻ってきたら、公園の泉が予想外に小さくなっていて黒蔵は焦った。
蛇神に代役を申し付けられても、具体的に何をやればいいのかは何も指示されていない。
ただ、預かったこの泉を枯らしてはいけないだろうことは理解している。
というか、枯らしたら何か色々とヤバいんじゃないかという予感がする。
地下水は冬も温度が下がらない筈なのに、水脈が細り水量が減ったのか
明け方には泉が寒さで凍ってしまった。
次の一日は、水脈を太くしようと泉の底に頭を突っ込んで試してみたが駄目だった。
翡翠の輪になった蛇神が何も喋ってくれないのは、泉が凍るからなのだろうか。
きっと何もかも自分のせいなのだ。
ヒダル神は無事に冥府へ行ったが、自分の罪状は増えたに違いない。
黒蔵は眠れずに、雪を薄く被って、夜中ずっと岩に巻きついていた。
翌朝、朝日が翡翠の輪を照らしたとき。
翡翠の輪の黒い皹が、なんだか前より大きくなっているような気がして、
黒蔵は酷く不安になった。
そして次の朝にもう一度見直したとき、確かに皹は育っていた。
一体何をすればいいのか。黒い蛇は震えながら必死に頭を絞った。
泉も気がかりだが、まず竜宮には行かねばなるまい。
凍っていない水場を探して、黒蔵は走り出した。
77
:
大切な物の意味を探して
:2011/02/23(水) 16:41:55 ID:???
ここ数日間、露希と白龍は日本を離れ、異国の土地へ来ていた。
「白龍、ここが有名な修道院【モンサン・ミッシェル】だよ。」
そう、ここはフランス。この土地の人間や妖怪達は明るく、教会などと言ったものがたくさんある。
彼氏や親友が出来たのは良いことだが、本当の意味は知らない。
そこで、場所を離れ、他国の妖怪と交流を交わすことで何か掴めると思った。
早速、中に入ると色々な妖怪達が出迎えてくれた。
台の上には料理が置いてあり、皆で話せるようになっていた。
???「露希ちゃん、白龍ちゃん、こんばんは。」
露希「お招き、ありがとうございます。おじいさん。」
???「ところで、このモンサンミッシェルはね、【大天使ミカエルの丘】と呼ばれているんだ。
露希ちゃんも天使だからね、色々学んでいくと良いよ。」
その日からお祈りや決闘、様々なことをした。
日本では体験できないことをして、成長することが出来た。
そして…本来の目的も少し掴めた気がした。
78
:
続・迷い狼
:2011/02/23(水) 21:13:12 ID:ZNNODFSA
重い瞼を持ち上げると、真っ白い天井が視界いっぱいに広がった。
79
:
続・迷い狼
:2011/02/23(水) 21:13:42 ID:ZNNODFSA
>>78
すいません、ミスです;
80
:
続・迷い狼
:2011/02/23(水) 22:16:28 ID:ZNNODFSA
重い瞼を持ち上げると、真っ白い天井が視界いっぱいに広がった。
知らない場所。薬品臭いニオイ。
跳ねるようにして飛び起きれば、体全体がぎしぎしと痛み、犬御は思わず唇から呻きを漏らした。
左腕は固いギプスで固定され、体中に包帯が巻かれている。
「……ここは」
とにかく、白い。
何もかも黒かった自分とは、対照的なほど白い。
床も、天井も、窓を遮る布も、いつの間にか身に纏っていた薄い服も、全てが白い。
――何て場所だ、頭がくらくらする。
人の病院なんて初めて訪れた犬御は、自らの置かれた状況をすぐには理解することができなかった。
だが、ドア越しに感じた人の気配によって、犬御の意識は現実に引き戻された。
ガラガラ音を立てて、白い引き戸が開かれる。
「失礼」と部屋に足を踏み入れたのは、
これまた白い服を身に纏った、人間の男だった。
「おや、目が覚めたみたいすね。
東雲さん、でしたっけ。珍しいお名前すね」
男は目元をへにょりと垂らすと、犬御が寝ているベッドの、隣に置かれた椅子に腰かけた。
警戒する犬御をよそに、カルテを眺めながら話す男の口調は、ひどくマイペースなものだ。
「全身骨折だらけ。特に左腕は複雑骨折……。
あとは、内臓がだいぶん傷ついてるすね。喧嘩にしても、行き過ぎてませんか?」
ここまで来ると、さしもの犬御も、ここが病院であることは察しが付いた。
――あの女か。意識を失う直前まで一緒にいた、瞳のことを思い返す。
それに気付いたのか、偶然か、医師の男はやんわりとしたリズムで、
「あの、着物を着た女の人があなたを見付けなかったら、確実に死んでたすよ。
しかも治療代まで払うなんて、あ、もちろんもらってないすよ。(きっちりあなたに支払ってもらいますんで……)
あれから、警察の方に連れていかれたすけど――」
81
:
続・迷い狼 終
:2011/02/23(水) 22:18:06 ID:ZNNODFSA
「警察だと?」
「あー、事情聴取というやつすね」
ぽりぽり、と鉛筆で頭を掻きながら、医師が言う。
「それで、実際どうなんです?」と、更に重ねるようにして訪ねてきた。
「あの着物の女の人にやられたんすか?」
「……違ェよ」
「そうすか。
なら警察の方をお呼びいたしますんで、ちゃんと事情話して下さいね」
医師は人当りの良い笑顔を浮かべると、カルテを持ってさっさと出て行ってしまった。
(サツが来んのか……。面倒だな)
この隙に逃げてしまおうか。そうも考えたが、どうにも医師の言葉が脳裏を掠める。
『あの、着物を着た女の人があなたを見付けなかったら、確実に死んでたすよ』
(――チッ)
説明。弁解。あまりにも面倒だ。
面倒だが、このギプスを引っぺがして、回復もしていない体で、
昨晩のようなことを繰り返すことのほうが、よっぽど面倒だ。
犬御は悪態をついて、ごろりと柔らかいシーツに横たわった。
ふと、右腕を見ると、無意識に拳を握りしめていたことに気が付いた。
手を開くと、中から紫水晶の首飾りが顔を出す。
(……騙されている、か)
犬御の胸中で初めて、窮奇に対する疑問が芽生えた。
――確かめなければいけない。
ともかく、全てはこの傷を何とかしたあとだ。
そう決めて、瞼を閉じた。
82
:
お役所 1/4
:2011/02/24(木) 21:46:28 ID:1gBuqmPQ
今日はなんだか妙に騒がしい。
緊迫した気配で慌てて走り回る官吏達を見るに、面白そうな気配ではある。
誰かに呼ばれた衛士達が走ってゆく後をついて、一人暢気にゆらゆらと
衣蛸の叡肖は仕事をサボる口実を探しがてら野次馬に出た。
騒動の現場らしい一室の前には、既に人だかりが出来ていた。
そこの扉はもう扉ではなく、壁にぽっかり開いた大穴である。
中からは何かが壊れる音と共に、時折物が飛んでくる。
筆、本、水差しに衝立。不運な野次馬の一人が硯の直撃を受けて墨を被った。
別の一人は飛んできた文鎮に額を割られた。
物に当たらぬよう中を覗いた叡肖は、一瞬、巨大な百足が暴れているのかと思った。
しかしそれは鎌首を擡げた黒い大蛇に衛士の朱蟹がびっしりと集り、
鋏でぶら下がっていたことによる見間違いだった。
さてこの部屋の主はと見ると、大蛇のとぐろの中で半狂乱である。
衣服ははだけて太った腹が除き、冠のほうはどこかへすっ飛んでいる。
叡肖はそれを見て思わず喝采した。
「ひょーっ、海牛が面白いことになってらぁ!」
海牛と書いてうんむし、と呼ばれる牛鬼の一種である。
一部では祀られたりもするので神格の末端にいる妖怪なのだが、
今はその神が顔を真っ赤にして何やらモーモー喚いている。
(女子供で人間釣って喰うような奴が、鼻柱へし折られてやんのざまぁ)
とか思ったことは実際に口にしない叡肖。その代わりに、
「海牛さんよ、それを何とかしたら代わりにあんた何してくれる?」
朱蟹を数匹振り飛ばしまだ暴れる大蛇を指差すと、叡肖は尋ねた。
末端とはいえ神格相手に、面白がっている気配を隠そうともしない不遜さだ。
「貴様、ふざけている場合か!早く何とかせい!!」
「へーいへい、ちょいとお待ちを」
叡肖は小馬鹿にしたように手を振ると、わざとゆっくり菖蒲湯を取りに行った。
83
:
お役所 2/4
:2011/02/24(木) 21:47:35 ID:1gBuqmPQ
菖蒲湯を浴びせられた大蛇が大蟹の兵士に縛り上げられ、
すっかり大人しくなってから衣蛸が経緯を確認してみたところ。
大蛇の応対をした海牛は、翡翠の輪を受け取った途端に取り乱して
それを放り投げ、ひどく叱責したようだ。
「とんでもない穢れを持ち込みよって!この蛇めが!場を弁えろ!!」
その言葉と共に投げ返された翡翠の輪は、大蛇に直接ぶつかったために
割れるのだけは免れた。しかし当たり所が悪かった。
丁度喉の逆鱗に当たったため、仔細を説明するつもりだった大蛇の忍耐がぷつりと切れた。
もしかするとそれは、それまで内向きだった怒りや焦れが向きを変えた、
ただの自暴自棄だったかもしれない。
というのもこの大蛇の申し立てを信じるならば、鳴蛇としての罪の重さは
ここで暴れたことの罪の重さとは比較にならないからだ。
大蛇の語った仔細と、荒い息をつきつつ冠を拾い上げた海牛の言葉を総合して、
掌の翡翠の輪を叡肖はためすがめつ眺める。
「―――つまりこの皹は神格持ちにとって危険極まりないってことか」
神格持ちでなければ、特にこの皹に触っても問題ないようだ。
(しっかしこの蛇がアレとはねぇ。面白くなってきたじゃないか)
翡翠の輪がミナクチだと言うことにも、この大蛇が鳴蛇だったことにも、
そして海牛の災難にも、叡肖は笑いを隠せない。
「よし、こいつは俺が預かろう。
海牛のおっさん、あんたは上への取次ぎだけしてくれや」
叡肖の本心では手続きなんざ糞喰らえだが、正規の流れを無視すると色々煩いのが
お役所の常である。
いつもの仕事よりもずっと面白い筈と踏んで、叡肖はこの件に自ら首を突っ込むことにした。
84
:
お役所 3/4
:2011/02/24(木) 21:51:26 ID:1gBuqmPQ
黒蔵は当てが外れて酷く落ち込んだ。
きっと竜宮なら蛇神のために何かしてくれると思ったのに。
暴れたとき、朱蟹に付けられた傷がひりひりと痛む。
連れて行かれた先々で仔細を話し、言葉が足りないところは水鏡で映して補う。
しばらく待たされてまた、別の所で同じことを繰り返す。
「何でこう、何もかも一度に終わらないんだろう」
竜宮に来て唯一、傍で励ましてくれる長衣の優男に黒蔵はぼやいた。
「そりゃね。
とりあえず事情は聞いてみて、事が大きすぎるからこの部署で対処できない、
ならば一つ上へ申し送ろう、で済ませるのが役人根性って奴でさ。
皆、自分が判断を誤って責任を負わされるのが怖いんだよ。
お前のはまだ上へ上がってるだけマシなんだぜ。
下手すりゃ案件は上へ上がらずに下の部署でたらい回しだ」
明るく答える優男の台詞に、黒蔵は重くため息をついて首を振った。
「もっと早く来るべきだった。待つ間に蛇神が壊れたらどうしよう」
「へーぇ。焦ってんだ?
ま、俺の伝手を使えばさくっとに上まで行くっちゃ行くけどよ」
「えっ!」
叡肖が垂らしたあからさまな釣り餌に、獲物は直ぐ食いついた。
「ただ、ちょっとばかし高くつくぜ。お前が払えない程じゃ無いけどな」
しばし躊躇い、そして頷いた蛇に、衣蛸は腹の底でほくそえんだ。
良いように踊らせて、ほどほどに楽しんだ所でコイツを食ってやろう。
贄を横取りされたミナクチは後で怒るかもしれない。
だがそもそも、さっさとこの贄を食っちまわないアイツが悪い。
早く食っていればこんな翡翠の輪っかなぞにならずに済んだのだから。
さて、釣り上げたこの蛇をどう料理してくれようかと、衣蛸は思案し始めた。
85
:
お役所 4/4
:2011/02/24(木) 21:53:36 ID:1gBuqmPQ
衣蛸を通した途端に事はあっさり進んだ。
一枚の文書と一通の書状を書いただけで話は全て通ったらしい。
神格持ちが触れることの出来ない翡翠の輪は、一度は衣蛸の手で上の神格の元に運ばれたが、
直ぐ戻ってきて黒蔵の首に紐で下げられた。
「要はその皹の元になる術を使った奴を倒せばいいんだとさ。
ほれ、これが討伐許可状だ。頑張れよ、少年」
無責任に笑いながら黒蔵の肩をぽんぽんと叩く叡肖。
「これがあれば武具とか装備や薬は必要なだけ貰えるから、絶対無くすなよ。
何か必要になったら俺のとこ来な。俺は衣蛸の叡肖ってんだ。
ただし文官だから武具については範疇の外。
そっちに関しては武官を一人紹介してやるから、その先は一人でやれ」
衣蛸に紹介された武官が既に見知った顔だったのに驚くまで、
あまり急な展開に完全に取り残された黒蔵は、
何だかぼうっとして夢でも見ているような気分だった。
86
:
続々・迷い狼
:2011/03/06(日) 23:19:53 ID:/AfNAO.Q
「深夜に病院抜け出した上に、ぶっ倒れてまたここに搬送されるなんて、本当何考えてるんすか、あなたは。見付かったからいいものの、内臓損傷に衰弱、死にたいんすか? ドMなんすか?」
「悪かったって、さっきから言ってンだろ……。この程度、寝りゃあ治る」
「悪かった、で済まされることじゃあないんすよ。反省の色が見えないっすね」
――天逆毎との戦いの、翌朝。
再び入院先の病院に搬送された犬御は、枕元で医師の説教を長々と聴かされていた。
短気な彼が暴れることなく、大人しく説教を聞いていたのは、少なからず医師に心配を掛けたことに責任を感じたからだろう。
泣き腫らした目について何も尋ねられなかったのは、犬御にとってありがたかった。
ところで、カルテを机に置いた医師は、ぎしりと背もたれに体重を預けた。
その紙に書かれた自分の文字と、犬御を交互に眺めて溜め息を付く。
――昨晩は、あれだけ衰弱していたというのに……。
何があったかは知らないが、昨晩の彼はまるで、生命力を使い果たしたような顔をしていた。一晩で人間があそこまで衰弱するというのは、通常考えにくい。
逆に、彼は寝れば治るといったが、事実目覚めた彼はかなり体力を回復していた。……普通の人間ならば、まずありえない回復速度だ。
この男が一般人でないことは、最初に搬送されてきた時から分かっていたが――住所不定で保険証を持ってない時点で怪しすぎる――、どうやら身体(ナカミ)も常軌を逸しているらしい。
曲がらずとも医者である彼は、この(色々な意味で)面倒な患者に興味を抱いていた。
ひとまず、療養先として受け入れてもいいと思うくらいには。
それに犬御には、今回も含めて治療費を払ってもらう必要がある。とはいえ妖怪が保険に入っているわけもなく、その金額は莫大なわけだが――。
「ああ、そうだ。治療が終わったら、借金を返すかわりに、東雲さんにはこの病院に勤めてもらいます」
「ハァァ!? っなこと聞いてねぇぞ!!」
「言ってないっすから。それとも、お金返すアテでもあるんすか?」
「ぐ……」
恨めしそうに顔を歪める犬御とは反対に、ペンをくるくる回しながら、医者は人当たりの良い笑顔を返した。
「そんな顔しないで下さいよ。こんなご時世で、せっかく就職先が決まったんすから、もっと喜んだらどうっすか?
心配しなくても、医師免許も持ってない東雲さんに専門的なことはさせないっすよ」
医者は、「勤めるっていっても、小学校の保健委員の仕事みたいなもんっすから」と付け加えた。
――つまりは、雑用係である。
妖怪にとって聞き馴れない単語を、犬御は思わず聞き返した。
「ホケンイイン?」
「……」
……何はともあれ、本日付けで送り狼・東雲 犬御は、市立総合病院に(雑用係として)勤務することになった。
おかげで、掃除、買い出し、荷物運びに、果てには夜間警備まで任されるハメになるのを、今の犬御が知る由もなかったのだが。
*
――深夜。
犬御はさっそく医師の言い付けを破り、獣の姿となって、病床を抜け出していた。
しかしそれは、病院から逃げ出すためではない。
人目を避けながら、外庭まで出る。
息をすうと吸い込み、犬御は冬の遠い夜空に向けて、遠吠えを響かせた。
彼女を、一度は決別した夜雀を、――四十萬陀 七生を、招く呼び声を。
87
:
続々・迷い狼 完
:2011/03/06(日) 23:27:19 ID:/AfNAO.Q
ヒュウウ、と音を立てて、闇色の翼が冷たい風を切る。
小さな身体で目一杯の速度を出して、四十萬陀は、犬御の声が聞こえた方向へと飛んでいた。
――それは、突然のことだった。
袂山の麓にある神社で、近頃の習慣になりつつある考え事をしていたところ、
遠くの空から、悩みの主な原因でもある、犬御の呼び声が聞こえたのだ。
幻聴かと疑う間もなく、気付いた時には、四十萬陀は弾かれたように飛び出していた。
行かなくては、という思いだけが、四十萬陀の翼に風を切らせたのだ。
後方から、同じく犬御の声を聞いた仲間の中で、四十萬陀と同様の送り雀である五月と二葉も追ってきている。
真面目な五月は、正直言って、この呼び声が犬御の罠であることも懸念していた。
先ほどから「落ち着きなさいよ」と呼び掛けてはいるのだが。
しかし、四十萬陀の耳には全く届いていないようだった。
(犬御……)
急ぐ四十萬陀の胸に渦巻くのは、期待ももちろんだが、少なからず恐怖もあった。
あの時の、悪意に満ちたままの彼だったなら――。
再び、仲間たちを喰らうために、私を呼び出したのだとしたら――。
考えたくもない未来に、四十萬陀はかぶりを振る。
「……五月」
「えぇ、犬御のニオイだわ。あの病院みたいね」
二葉と五月の声に、四十萬陀は今度こそ耳を傾けた。
「都合のいい耳だこと」と、五月のぼやきに、「ごめんごめん」と四十萬陀が苦笑する。
目の前に現れた病院からは、確かに犬御の妖気を感じられた。
直接肌で感じるのが、久方ぶりのように思えるのは、今まで感じていなかった日がなかったからだろう。
翼を僅かに傾けて、風に乗り、病院の外庭に向かって滑空していく。
近付くにつれ濃くなっていくニオイと共に、四十萬陀たちの緊張も高まる。
周囲を囲う針葉樹の並木を抜けて、三匹の送り雀は、地面に降り立った。
*
(このニオイは、五月と、二葉と……七生か)
風に乗って、送り雀たちのニオイが漂ってくる。
遠吠えから十数分ともつかないのに、余程急いで飛んで来たのだろうか。
……一年だって経っていないのに、久しく会っていない気がする。
頭は妙に冴えていた。
追放された元・仲間たちに会うというのに、おかしな話だと、犬御が自嘲気味に口角を上げる。
その場に足を留めていると、しばらくしない内に、送り雀たちが降りてきた。
「……」
狼の紅い瞳て、夜雀の黒い瞳がかち合う。
五月には、心なしか、怯えているようにも見えた。
犬御も、四十萬陀も、だ。
どちらともなく、一言も発することなく、一歩一歩近付いていく。
先に口を開いたのは、犬御だった。
「――すまなかった」
言わなければいけないことが、たくさんある。
だけど、懺悔よりも慟哭よりも先に、犬御は頭を下げた。
その姿を見て、四十萬陀は言葉を詰まらせた。
言いたいことが、たくさんあったのに。
先に言われては、思いのままに責められないではないか。
――何をしていたのか。謝ってすむと思ってるのか。怪我はしていないのか。迷惑かけて、皆、皆心配していたのに。
そんな思いとは裏腹に、
口を付いたのは、今にも泣きそうに震えた、仲間を迎える声だった。
「……おかえり、犬御」
「……ただいま、七生」
――こうして再び、袂山に一匹の送り狼が、仲間として迎えられた。
迷い狼は、もういない。
あるべき場所に、彼は帰りつくことができたのだ。
88
:
傷ついた蝙蝠 1/2 怪我
:2011/03/20(日) 13:18:42 ID:SmXQZqJk
丑三との戦いで、額に怪我をおった三凰。当然、父の二仙にも見つかる。
二仙「三凰よ。その額の怪我はどうした。」
三凰「……人間と、人間と戦って負けた傷です…」
言いづらそうに、悔しそうに言った。
二仙「負けたのか…」
三凰「僕の油断が原因です…すみません…」
二仙「三凰よ。戦いにおいて大切なことをもう一度、教えなければならないな。」
三凰「はい。お願いします…父上。」
自分が相手を見くびっていたから、自分の実力を過信していたから負けた。三凰は、それをわかっていた。
89
:
傷ついた蝙蝠 2/2 礼
:2011/03/20(日) 13:19:48 ID:SmXQZqJk
二仙「ところで、手当ては誰にしてもらったのだ?」
三凰「たまたま、その場に居合わせた妖怪です。」
このことは、傷を負い意識が朦朧としていたのになぜか鮮明に思い出せる。
二仙「…礼は言ったのか?」
三凰「…言ってません。」
二仙「三凰よ。強い心を持つのは大切だが、強がるのはよくない。今度礼を言いなさい。」
三凰「はい…」
90
:
人間との共存
:2011/03/20(日) 14:23:56 ID:BQ990e1A
黒井たちと別れた後の山奥での出来事。辺りは静寂に包まれている。
青年は激しい頭痛と吐き気に襲われていた。
まるで、あの時味わった苦しみが蘇ってくるかのように。
そんな時にも関わらず、頭によぎる言葉。
――人間との共存――
まさかとは思っていた。一人の人間に少し心を許すくらいなら…
しかし、なぜ殺された自分が蘇ったのか、その間、どんなことを考えていのか。
今起きている現実と過去を照らし合わせてみる。
「人を殺すために作られた存在だったら……!」
吐き気が頂点に達し、異様な液体を吐きだした。
「人間との共存なんて無理だ…やはり、あの男の言ったことは間違っている…!
…そうだ、百鬼夜行だ…。主になれば人間を滅ぼせる。まずはあの蝙蝠ヲ。
滅ボシタラ…妖怪モ滅ボシテシマエバイイ、ハハハハハハハ!!!」
山奥には不気味な笑い声が響き渡る。
彼の餌食になるのは人間か、妖怪か、誰も知るよしはないだろう。
91
:
主を目指した理由1/4 語られし過去
:2011/03/21(月) 12:47:47 ID:SmXQZqJk
宝玉院家
三凰の怪我は、使用人たちの間でちょっとした騒ぎになっていた。
夢無「三凰様、お怪我なさってましたね。大丈夫でしょうか?」
老使用人「三凰坊ちゃまは、ああ見えて強いお方。大丈夫でしょう。」
この男性老使用人、名は飛葉(ひば)。
若かりし頃の二仙を支え、三凰を幼少時の頃から世話してきた使用人だ。
夢無「あの…三凰様は、百鬼夜行の主になれますよね?」
最近、負け続きの三凰に不安を隠せなかった。
飛葉「……正直に言いますと、今のままでは厳しいでしょうな。ですが、きっと三凰坊ちゃまは主になられますよ。」
夢無「そう…ですよね…
あの…ところで、三凰様はどうして百鬼夜行の主を目指すことにしたのですか?」
飛葉「それはですな。」
92
:
主を目指した理由2/4 父のように
:2011/03/21(月) 12:49:40 ID:SmXQZqJk
それは、三凰坊ちゃまが幼少時の頃。
三凰「父上…ころんじゃいました…いたい…」
三凰坊ちゃまは、よく転んで泣いておられました。
二仙「三凰よ。また、転んだのか…」
幼少時の三凰坊ちゃまは、泣き虫の弱い子だったのです。
何度も泣き、そのたび二仙様に慰められる。
三凰「助けて!父上!」
また、三凰坊ちゃまは他の妖怪に襲われることもしばしばありました。しかし、そのたびに
二仙「はあっ!」
二仙様が助けてくれた。そんな二仙様を尊敬し、憧れを抱くようになるのは、自然なことでしょう。
父のようになりたい。弱い自分は嫌だ。
そう思った、三凰坊ちゃまは努力しました。
三凰「ぼくは、強くなって…父上みたいに…」
そして、月日は流れ――
93
:
主を目指した理由3/4 僕の力で
:2011/03/21(月) 12:51:16 ID:SmXQZqJk
百鬼夜行の主を決める戦いが、開始されます。つい最近ですね。
ある日の夜、三凰坊ちゃまの部屋で私は聞きました。
三凰「じい、百鬼夜行の主を決める戦いが始まったのを知っているか?」
飛葉「はい。もちろんでございます。」
三凰「そうか。なら、話は早い。僕は、百鬼夜行の主を目指す。明日、父上に許可をもらうつもりだ。」
飛葉「なんと…三凰坊ちゃま…頑張ってください。私も協力しますぞ。」
三凰「じいの手は借りない。父上にも今まで通り稽古をつけてもらうだけだ。
百鬼夜行の主には、僕の力でなる。父上のようになるためにな。」
こうして、三凰坊ちゃまは百鬼夜行の主を目指すようになったのです。
94
:
主を目指した理由 4/4 夢
:2011/03/21(月) 12:53:53 ID:SmXQZqJk
飛葉「というわけなのです。」
夢無「そんなことが…私、全然知りませんでした。」
飛葉「三凰坊ちゃまは、まだ若い…これからですよ。
私たち使用人にできることは、見守り、支えること。さあ、これからも頑張りましょう。」
夢無「はい!私、これからも頑張ります!」
その夜
三凰「くっ…」
三凰は、額の怪我が痛み、目を覚ました。
三凰「そういえば、昔よく額を打って泣いていたな…
あの頃に比べたら、僕は強くなっただろうか…父上に近づけただろうか…」
ふと、窓から月を見て笑う。
三凰「フッ…考えるまでもなかったな。」
そして、再び眠りについた。
百鬼夜行の主を夢見て――
95
:
神隠しの山 1
:2011/03/23(水) 09:53:41 ID:???
本当に変な女だった。
アイツは山の化からも異端視されていた。
人にやたら肩を持つのもそうだが、妖怪としての名前ではなく『春花』という人間みたいな名前を名乗っていたからだ。
自分のことを人だと勘違いしている、山の奴等は皆そう言っていた。
普段から人間への変化をやめようとしない、山の奴等から嫌われようが傷つけられようが。
アイツはいつも人に近づくことやめようとしなかった。
だが俺が、妖怪神隠しが居るような。ただでさえ人と妖の境界が厳しい場所だ。
人は妖怪であるアイツを畏れていた。当然の如く、アイツは人からも妖怪からも孤立していた。
アイツも面倒くさくなってきたし、適当に食い殺そうと思っていた矢先。
俺は“界”の神格を持つ大妖怪に呼び出された。
大妖怪は人と妖怪の理を司る存在だったが、アイツがどこにも居られないことを苦々しく思っていた。
だから俺に“古の術を執り行う格”と“考えるだけの自我”を吹き込んだ。
人に成ろうとする妖怪は昔から居なかったわけではない、
妖怪に近づこうとする人も居なかったわけではない。
その理と境界を乗り越えるための試練は確かに存在するのだ。
人が陰の世界に取り入る為には死の淵に立つ、または命の脅威に晒されそこから這い上がることだと。
妖怪が人の理を得るには、最も近しい人の魂を得ることだと。
俺は早速、アイツに知らせてやったが、アイツは首を振った。
「私は人になりたいわけじゃない、妖怪として人と仲良くなりたいんだ」
と、弱々しい笑顔で言った。
腹立たしいから目でも抉ってやろうかと思ったが、引っ叩く程度でやめてやった。
季節は流れる、アイツは相変わらず人にも妖怪にも成ろうとしなかった。
大妖怪様もとうとう匙を投げ、変なことしたらアイツを食い殺せと言い出してくる始末だった。
「お前は何がしたいんだよぉ?」
アイツは初めて俺がまともに話しかけてきたことに驚きながら、おっかなびっくり口を開く。
「上手く言えないけれど・・・仲良くしたい。私は妖怪も人も好きだから。
妖怪と人、違うのはあたりまえ。同じ妖怪のあなたと私ですら違うから」
でもね、と笑いかける。
弱々しいくせに、譲らぬような表情だった。
「同じだからといって仲良くできるわけじゃないし、違うからといって仲良く出来ないわけでもないと思う。
・・・あなたが食べようとした女の子を逃がした時、ありがとうって言ってもらえて嬉しかった。
私は人とは違うとしても、私は人が好きだから。同じように考える人にも好きになって欲しい・・・から」
やっぱり訳のわからん答えが返ってきた。
96
:
神隠しの山 2
:2011/03/23(水) 09:55:15 ID:???
さらに時は流れ、とうとうアイツと同じ様な考えを持つ人の男が現れた。
『風月』、確かそんな名前だった気がする。
アイツは山を降り、風月と一緒に居た。
・・・楽しそうだった。
いつもの弱々しい笑みなんかじゃなかった。
無性に腹立たしかった。
アイツが人の里で楽しそうにしているのが憎かった。
人のクセに妖怪を畏れないのが無性に悔しかった。
今でも理由はよく分からないが、きっと俺が境界に息づく妖怪だからなんだろう。
男は言う。
「妖怪も人も変わらないさ。きっと共存できる」
あ、ダメだコイツ。
俺達のどこが人と同じだ。
人を食う妖怪を受け入れることが出来るのか?
人と同じ形をしてりゃ、話せば分かるとでも思ってんのか。
俺にとって、人の姿なんて人を食う為の疑似餌でしかねぇんだよ。
全てを報告した。争議は半刻も続かず、アイツの処刑は満場一致で可決だった。
前々からアイツは疎ましく思われていた故に、反対するものは誰も居なかった。
星の降る丘でアイツに教え込む。
「そ、そんな。人と・・・あの人と会っただけなのに・・・」
「ケタケタケタ・・・・テメェが今までやってきたこと、忘れたとは言わせねぇぞぉ?
人が迷い込んだら親切に搬送、格下の妖怪が人を襲えば迷わず妨害、俺の獲物逃がした時もあったよなぁ!?
逢引なんてただの口実さぁ。テメェの処刑なんて半年以上前から決定事項だったんだよぉ!」
呆然と、ただ立ちすくんでいる。
目は虚ろで何も見据えては居なかった。
「いつだったか教えたろ? 妖怪が人の理を得る術をよぉ・・・!
テメェの言うあの人の魂ならテメェは人の理を得られる。明日の夕刻までに奪い取って喰え。
中途半端はやめて人に成れ、それなら処刑じゃなくて追放になるまでは口利きしてやってもいい」
長い長い沈黙の後、コクリと頷く。アイツはかすかに震えていた。
――次の日の夕刻、アイツはあの男の目の前で殺された。
最後の最後で、アイツは弱々しく笑っていた。
97
:
神隠しの山 3
:2011/03/23(水) 09:57:08 ID:???
数十年後。
山の神性が弱まり始めていた故に、俺と大妖怪様は山を下った。
百鬼の主を決める争いに参加し、神性を取り戻すために。
しかし、その町は異様な光景だった。
カルチャーショックなどの生温いモノではなかった。
妖怪が平然と人に化け、人の中でいけしゃあしゃあと暮らしていた。
人の想いから生まれた妖怪ならまだ分かるが。
呪いから生まれた者、自然の権化、獣の妖怪・・・皆等しく人の姿をしていた。
人と妖怪の理や、陰と陽の境界など。気にする者は誰も居なかった。
当然の如く、大妖怪様は怒り狂って妖怪を粛清しようと試みた。
しかし・・・敗北した。
よりにもよってその人の真似事をする妖怪達に。
流石に気づいた、俺は気づいた。
あヽ、俺の方が間違えてたのか。
アイツや、あの人の方が正しかったのか・・・。
絶望、挫折、否定、劣等、そしてなにより・・・強い嫉妬。
理を失ったこの妖怪が“徹底した悪意”に漬け込まれるまで・・・そう時間はかからなかった。
98
:
神隠しの山 終
:2011/03/23(水) 09:59:34 ID:???
――紫狂・第1アジトにて
「キュウちゃん! 復かーーーーつ!! だよぉ」
ニタニタと相変わらず気色悪い笑みを浮かべる
黒いドレスを着た女性の姿をした妖怪が、俺に詰め寄ってくる。
コイツの名は窮奇。紫狂のリーダーであり、悪意垂れ流しの公害魔である。
「ゲタゲタゲタ、おめでとさんですねぇ!」
無駄だと分かりつつ、俺は恐怖を悟られないように声色を作って語りかける。
俺は使いっ走りにされ、徹底して悪用されていた。この紫狂という組織に。
この女は気に入らない。だけど他のヤツ等よりはずっとマシだから。
強くて、都合が良くて、善良で、人と仲良しこよしのほかのヤツ等より・・・ずっとマシだから。
「早速だけどさぁ、キミのライバルの瞳ちゃん! あの娘すんごく強くなってるよぉ!!」
目を閉じる。
あぁそうか、あいつは元々妖刀だったらしいな。
じゃあマズいなぁ。あの人の信念を受け継いでるあいつには絶対負けたくないのに。
気づいていた、いや気づかされた。
間違っているのは俺だと。強くて正しいのはアイツ等だったと。
人と妖怪は確かに仲良くできるかもしれない、俺から見ればこの街は十分すぎる程仲が良くて上手くいっている。
俺が持っていて、アイツが持っていなかった理なんて・・・実にくだらなくて無意味なものだった。
だけど認めたくない、気づいてはいるけど認めたくは無い。
記憶の中のアイツまで・・・あの人に奪われたくないから。
「そんなわけだからすごく『良い』話を持って来たよぉ!
パワーアップできる方法だぉ! 強さこそキミの信念の正しさも証明してくれるだろうねぇ!!」
金属の箱を取り出す。
強く? ・・・一体なんなのだろうか。どうせロクなことじゃない事だけは分かる。
「かの大妖怪“おそろし”の核だよぉ!! 金蔓キモ男が拾ってきたんだぁー♪」
99
:
ふり蛙 前
:2011/03/26(土) 22:13:45 ID:???
巨大な妖蛙であるわいらには、妖怪になる以前の記憶が無い。
蛙にはそんな脳が無いからなのか、はたまた初めから妖怪として生まれたからなのか。
わいらは山に対する人の畏れから妖怪となった。
登山者や山の麓の住人なら分かるであろう、あの雄大で広大などこまでも続く緑の山脈。
そしてあまりに圧倒的に大きい存在の中に立つ、飲み込まれるような怖ろしさ。
そしてそんな想いから生まれたこの妖蛙は。
大きな存在や、圧倒される恐怖心を現す『怖い』の字から。『(こ)わい(ら)』と呼ばれて、“土着”の神格を得ていた。
しかし、いつからか人はわいらを怖れなくなった。
ある人間がわいらの正体に気づいたからだ。
蛙という間抜けな正体からなのか、はたまた正体が知れたことで『怖さ』が無くなったからなのか。
怖くなくなったわいらを、人は這い回るその風貌から『這(は)いら』と呼んだ。
わいらは人から怖れられ、親しまれ、崇拝された。
わいらのあまりの大きさに、人はわいらの頭を大岩だと誤解してそこで釣りをしたこともあった。
面白半分で人に近づいては、人から鉄砲で撃たれたり油を盗まれたりしていた。
しかし、妖怪の時代は終わりに近づいていた。
科学が発展し、産業が発達した時代。人は強くなった。見えぬ、分からぬ神など怖くなくなっていた。
在来の樹は次々と刈られ、材木となる杉ばかり植えられるようになった。
時には山そのものが崩されようとした。
わいらは怒った。いや、怒りと言うのは少し大袈裟だ。
わいらは駄々っ子のように暴れた。人は退魔師などを呼び、古惚けた山神を退治しようと目論んだ。
しかしわいらは逃走と山中での不意打ちに優れた神格を持つ山神。
中途半端な退魔師などではまるで歯が立たなかった。
100
:
ふり蛙 後ろ
:2011/03/26(土) 22:14:48 ID:???
時代は進み、人は侵略すらもやめてしまった。
わいらはたとえ退魔師であっても、人を傷つけることをやめていた。
しかしわいらの山には退魔師はおろか、樹を刈る人すら入ることはなかった。
材木は輸入に依存し、住宅地の拡張を停滞。国内の自然をわざわざ開発しないという時代になっていた。
わいらを怖れた麓の集落は既に消失。かつて樹を刈った人、山を崩そうとした人すら・・・一人残らず他の仕事を始めている。
共に山に暮らしていた妖怪達は、役目を失い動物や木々や精霊に戻っていく。
力ある妖怪は人間に変化し、街へと降りていく。
残ったのは神格で土地に縛られたわいらと、伸びきった杉林だけだった。
――どうしてみんな、ここから去ってしまうのか?
自分の方が大きいはずだ、自分の方が強いはずだ なのになぜ みんなそんなに自由なのだ
――どうして誰も、ここへ来なくなってしまうのか?
前よりはずっと良い条件のはずなのに ずっと安全で、奪い取れるモノもずっと多いはずなのに
人は山から離れ、街で生きる。
眩暈苦しい忙しさに。怖い山神も、滑稽な妖怪もどんどん忘れ始めていく。
錆びる様に、砂の城が崩れるように。ごく自然に虚しく、儚く・・・
そんな孤独で純粋な剥き出しの弱み。
悪意に漬け込まれるのは・・・実に簡単なことだった。
「やあやあ、おはこんにちばんわぁー。『良い』話を持ってきたよぉ」
自らを山に縛り付ける神格を弄繰り回し、それでもなお力を酷使することは自壊を意味する。
しかしこの山神は崇高さと悠久の命を、あっさり悪意に引き渡してしまった。
以後、わいらは紫狂の使い走りにされてしまう。
ある時は乗り物扱い、ある時は強い力を持つ兵器として徹底的に悪用される。
しかし案外、わいらは満更でもなかった。
人に溶け込んでいる妖怪には嫉妬していたし、罪悪感など蛙の頭には理解できないのだから。
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