[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
スーパーロボット大戦SAGA@クライマックス
1
:
蒼ウサギ
:2008/10/04(土) 23:31:06 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
この作品は『スーパーロボット大戦SAGA-運命編-』『スーパーロボット大戦SAGA-神話編-』を一つにし
たアンソロジー形式の作品です。
現在公開中の本編の時間軸は関係なく、参加者の好きなシーンを参加者の皆さんが自由に書いていくものです。
なお、新たな参加者さんは受け付けておりませんので、そこはご了承してくださいm(_ _)m
書き方ですが、あくまで参考のものを載せておきます。
11
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:12:07 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
■神話編■
■パンドラの箱 3■
ピノッキは自分の精霊機兵・パンドラを飛行させながら、極東支部基地を目指していた。
ピノッキ「あいつら・・・殺す・・・絶対、絶対、絶対!」
ギリッと奥歯を鳴らして、ピノッキはさらにパンドラを加速させた。
§
=孤島の城=
マリア「“王子様”って・・・何なんですか?」
エマが口走ったことが気になったマリアが食いつくと、エマはイタズラ心に口を広げた。
エマ「知りたい? じゃあ、おねだりして?」
マリア「ふざけないでくださいっ!」
強い口調で咎めるマリアだが、エマはその迫力でさえ愛らしいと思えてしまう。
エマ「怒った顔も・・・素敵ね」
ツン、と、エマはマリアの額を指で突付くと、踵を返して部屋を出ようとする。
マリア「ま、待って!」
エマ「あら? 待って欲しいの? フフフ」
艶やかな笑みを浮かべる彼女に、マリアは言い知れぬ怖気を感じて、それ以上は何も言えなかった。
エマの目が名残惜しそうにマリアから食事テーブルに向けれられる。
エマ「少しは、食べられるようになったのね」
少し嬉しそうに言ってから部屋を出た。
緊張の糸が切れたのか、マリアはベッドへとうつ伏せに倒れた。
マリア(もう・・・・・・イヤ・・・・・!)
§
=極東支部基地=
レイド「たくよぉ、極東支部基地に来たら可愛いコいっぱいいるけど、み〜んな彼氏持ちじゃねぇか。
しっかも、ガード固いし・・・・・・お互い一人身は辛いよなぁ?」
シュン「いや、僕に振らないでください」
なつきとの訓練後、レイド・スタージェンの愛機・ブルーフェンリルの整備に付き合っていた
(といっても、話し相手だが)神崎シュンは、そのままの流れで基地内のラウンジで寛いでいた。
レイド「・・・・・・お前、正常? 俺がお前くらいの年には、常日頃、女のことしか頭になかったぜ?
どうやって口説こうか? いかにして今夜、あのコとベッドインしようかとか」
シュン「正常ですが、そんなことは考えません」
シュンはばっさり切り捨てると、自販機で買ったコーラを喉に流す。
レイド「ひょっとして、お前、彼女いるんじゃねーか?」
シュン「ぶっ!」
思いっきりコーラを噴出すシュン。
その反応を見て、レイドは彼に彼女はいないということを即座に把握した。
レイド「はぁ〜、この基地にフリーのコはいねぇのかね〜」
シュン「・・・・・・雪花霞なんかどうなんでしょう?」
レイド「あ〜、なつきちゃん?」
もう名前で呼んでんだ、というツッコミは一先ずシュンの中で置いておいた。
雪花霞なつき。
シュンにとっては、マリアを通じてなにかと縁がある人物だ。
殴り、殴られた関係ではあるが・・・・・。
レイド「あのコも中々いいよな〜〜」
ムフフと、思い出し笑いをしながら顎に手を当てるレイドは少し不気味だったが、
次の瞬間、その顔が真面目なものとなる。
レイド(けど・・・・・・・あのコの存在は・・・・・・)
シュン「レイドさん?」
えらく真面目な顔をしているレイドの顔を覗き込むシュン。それに気づくと、
レイドは途端にいつものお調子者の顔に戻った。
レイド「まぁ、あのコはちょっと気難しそうだし。うん、お前に譲ろう」
シュン「遠慮します」
即答するシュンに脱力するレイド。そんな二人の所に話していた彼女がやって来た。
12
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:12:52 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
なつき「・・・・・・・」
レイド(お、噂をすれば・・・・・・)
なつき「なにジロジロ見てんだ?」
シュン「な、なんでもないよ」
ついさっきまで君の事を話していたとは言えず、苦笑いで誤魔化すシュン。
不審に思いながらもなつきは自販機に向かい飲み物を選ぶ。
そこへ、思い出したかのようにシュンが尋ねる。
シュン「あ、あのコ・・・・・・マリアの友達はどうしてる?」
なつき「あ〜、紺野? 学校にも来てるし、部活も頑張ってるみたいだ・・・
けど・・・・・」
そこで言葉を区切ってから自販機のボタンを押す。
選択したのは、「おしるこドリンク」なるものだ。
なつき「いつもの元気はねぇな。それでも他の友達や部の後輩達には明るく振舞ってるけど
あれは、見ていて気持ちのいいもんじゃないぜ」
シュン「そうか・・・・・・」
シュンは一口コーラを飲んだ。
なつき「気になるのか?」
シュン「まぁね・・・・・・ひどいこと言っちゃったし」
マリアを助けたいと言った成美のことを、はっきりと無理だと告げてしまったのをシュンは気にしていた。
レイド「まぁ、危ないのは本当のことだしな・・・・・・」
なつき「そうなんだけどよ・・・」
なつきの顔が若干、俯き加減になる。上手く言えないもどかしさが苛立った。
そこへ。
???「でも、理屈じゃないんですよね」
という声が飛び込んできた。
一同がそこへ視線を向けると、神月裕樹と坂山 柳が並んで歩み寄ってくるのが見えた。
レイド「お、柳ちゃ〜ん♪」
にこやかに手を振るレイドに、柳は苦笑いで応えつつ、視線をなつきの方へと向ける。
柳「大切な人が危ない状況なら、例え力がなくても何とかしたいものなんですよね?」
優しく微笑む柳に、なつきは何だか心を見透かされた気分になって気恥ずかしくなり、頬をかいた。
シュン「そういうものなのか・・・・・・」
自分が同じような気持ちになれるのだろうか?
成美とは、マリアを助けたい気持ちで共通しているが、彼女が自分にとって“大切な人”であるかと
問われると、成美のそれとは、遥かに弱い気がする。
少なくとも、戦える力は持っていても、あの時点では気持ちの面で成美に遥か及ばなかった。
そういう意味ではあの時の自分の発言がいかに軽々しいものだったということが分かる。
シュン「なぁ、雪花霞・・・・・」
なつき「ん?」
シュン「今度、学校で会ったら・・・・・・僕が謝っていた、言っておいてくれないか?」
なつき「そういうことは、自分で言えよ。バカ」
そう言ってからなつきは居心地悪そうにその場から歩き去った。
シュンは、残ったコーラを飲み干して、一人呟く。
シュン「そう、だよね・・・・・・」
その表情には、微笑が宿っていた。
だが、次の瞬間!
シュン「!」
覚醒者独特の気配を感じ取ってか、表情が一変する。
レイド「ん? どうした? こえー顔して」
シュン「敵が来ます!」
言うや否や、シュンはラウンジを駆けた。
§
=孤島の城=
エマ「始まったわね」
玉座の席で読書に耽っていたエマは、遠くの方で感じ取った気配で全てを把握し、微笑む。
さて、ピノッキはどうするの?
連中は彼の能力にどう対処するのかしら?
ちょっとしたイベントにはもってこいね。
ううん、ひょっとしたら、もっともっと面白いことになるかも!
さぁ、マリア。あなたはこの気配を感じ取ってるかしら?
あなたならできるわよね?
フフフ、どっちに転んでも、面白いことになりそうだわ。
嗚呼、楽しみぃ。
エマ「さぁ、巫女様。しばしの喜劇をお楽しみください」
気配を感じながら、エマは再び読書に耽る。
まるで、戦っている気配を、BGMにするかのように・・・・・
13
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:13:31 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
マリア「!・・・・・・始まった!」
こんなに遠くでもはっきり分かる。
この場所に多くの覚醒者がいて、感応し合っているからだろうか?
いや、それよりもマリアが気になるのは。
マリア(この感じ・・・・・・シュンくんが戦ってる。あと、裕樹くんに柳ちゃん・・・・・・レイドさんに・・・
それから・・・・・・)
最後の気配に、マリアは思わず涙が零れた。
マリア「なつき・・・・・・さん」
§
=極東支部基地 周辺=
ピノッキ「いっくぞ〜〜〜!」
開始早々、空を覆わんばかりに増殖したパンドラが一斉に襲い掛かってくる。
一体一体は大した戦闘力はないが、シュンたちは完全に数の利に押されていた。
レイド「ウジャウジャと・・・・・・くらえよっ!!」
全身の至る箇所に火器が搭載されているブルーフェンリルは、ここぞとばかりにそれらを一斉正射する。
ミサイルや弾丸によって、矢継ぎ早にパンドラは落ちていくが、それも一部でしかない。
柳「ミリオンレイヤー!」
柳のイチイバルもそれに加勢するが、減ったパンドラは随時増殖されてしまう。
二体から、四体、四体から八体と、増殖体が増殖体を生むのを繰り返すためキリがないうえ、
本体というものが存在しない。
全てが本物であり、言うなれば全てが本体なのだ。
なつき「くそっ、こいつはゴキブリか!」
裕樹「確かにキリがないですが、前のように一撃でまとめて倒せれば!」
裕樹のナイトブレードが、いつぞやのように力を集中させた。
だが、その隙をピノッキが見逃すはずがない。
ピノッキ「させないし!」
あの時とは比べ物にならない数で増殖しているパンドラが集中しているナイトブレードを奇襲した。
玉砕覚悟の突撃。単純だが、もっとも効率がよく、効果的な妨害方だ。
かつ、パンドラの能力だからこそできる技である。
裕樹「ぐうぅぅ!」
まさかの突撃にナイトブレードが大きくよろめく。
柳「裕ちゃん!」
裕樹「大丈夫! 大したこと、ないさ!」
突撃してきたパンドラをすぐに斬り倒す。だが、これで前と同じ方法が使えないことが分かった。
シュン「大技しても強襲される!」
レイド「かといって、小技で攻めてもキリがねぇ・・・・・・おまけにオレの機体は弾数制限アリだ」
だが、レイドは密かにGGG等、他の味方勢力に救援要請をしていた。
それでも、無限に増殖する彼にどこまで対処できるかが問題だ。
§
=極東支部基地 格納庫=
REIは未だ修復し切れていない愛機・メシアを見上げていた。
REI(マリアの手掛かりがすぐ側にいるというのに・・・・・・)
ゴンと、メシアの装甲に拳を打ちつける。
REI「俺たちは・・・・・・無力だ」
まだ足の一本や二本なくても、腕が損壊していたとしても、頭部がなくても出撃できていたならば、
戦いに赴いていた。しかし、メシアは完全にその機能が停止した状態なのだ。
朱鷺との戦いの傷が完全に直っていないのだ。
機体も、それを操縦するパイロットも。
???「無力でも、信じることはできる」
背後より聞こえてきた声に、REIは振り返る。
シュウヤがそこにいた。
REI「・・・・・・・」
シュウヤ「“封印”を長時間解いたせいか、オレもしばらくメビウスを召喚できない」
REI「シュウヤ、オレはどうすればいい?」
シュウヤ「信じよう。オレ達の“想い”を繋いでくれる人達を」
14
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:14:11 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
=極東支部基地 周辺=
勝てる! 勝てる!
ピノッキは勝利を確信していた。
圧倒的数による戦力差。
これなら一人と言わず、全員の死体をマリアの部屋に並べられるかもしれない。
そう考えると、ピノッキは喜びに打ち震えた。
ピノッキ「ヒヒヒ、殺す・・・・・・みんな、殺す!」
思わずパンドラを操る手がガクガク震える。
不思議だ。何かに怯えているかのようだ。全然、恐れることはなにもないはずなのに。
ピノッキ「そうだ! 殺す、殺す! み〜んな、殺す!」
そうだ、きっと興奮しているんだ。
“なにせ、初めてなんだから。”
そう思い込むことで、ピノッキは一先ず己を納得させた。
考えている間も、倒された増殖体の補充は絶え間なく行っている。
落ち度はない。このまま奴らを追い込んで追い込んで、最後には・・・・・・
と、その瞬間、そのピノッキの思考が途切れた。
カズキ「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
疾風と共に現れたカズキのウインド・メガホーンがそのピノッキが搭乗しているパンドラを
拳で打ち貫いて、撃破したからだ。
マッチ「駆けつけると同時に一体撃破! やったね、カズキ!」
れお「おー、おー、はりきってるっすね〜」
遅れて極東支部基地に到着してきたカズキと、横須賀基地で救援要請を受けた
マッチとれおが応援に駆けつけたのだ。
しかし、パンドラはカズキたちの増援に合わせてさらに増殖する。
なつき「おい、風上! 一機やっただけで調子に乗るなよ! 敵はウジャウジャいるんだ!」
カズキ「わかってるっすよ! 雪花霞先輩! つーか、こいつら増えすぎ!?」
れお「ん〜、一匹みたら何とかどころじゃないっすね〜」
シュン「あ、それさっき雪花霞も似たようなことを・・・・・・」
なつき「無駄口言ってる場合か!」
なつきの言う通りだ。
一秒、一分の油断や遅れがさらなる増殖を許すことになる。
裕樹(まずいな・・・・・・でも、以前のように複数での襲撃じゃない。今のところ彼一人だけだ。
独断なのか? それとも罠?)
数を減らしながら、相手側の動きを読みつつ、隙があれば大技で大量に減らしていく。
その中で裕樹は敵のこの奇妙な行動に疑問を抱いていた。
その時。
カズキ「ぐあぁぁっ!!」
10体ものパンドラの一斉攻撃を受け、メガホーンが大地に落ちた。
マッチ「カズキ!?」
れお「マッチ! 余所見は禁物っすよ!」
れおのバースト・ワイバーンが、カズキに気をとられていて、危うく攻撃を受けそうになった
マッチのエステバリス・ムーンを援護した。攻撃したパンドラを炎の拳で焼き尽くす。
マッチ「れ、れお・・・あ、ありがとう」
れお「いえいえ〜。それにしても・・・・・・減らないっすね〜」
さすがのれおもパンドラの増殖能力に脅威を感じざるを得ない。
マッチ「うん・・・・・・こっちはエネルギーに限界があるっていうのに、向こうはそれがないって感じがする」
レイド「ちっ、他の応援はまだかよ!?」
もうほとんどの武装が弾切れしているブルーフェンリルのコクピットの中でレイドが苛立っていると、
それを聞いていたかのように極東支部基地から通信が入る。
現在、基地の長官代理を務めている秋原新一からだ。
新一『そのことだが、たった今、GGG側から連絡があった。
どうやら向こう側にも同一の精霊機兵が出現しているらしい』
レイド「なんだって!?」
裕樹「事前策を打たれていた・・・というわけか。どうやらカズキたちがいち早くきたから
向こうはこれ以上、こちらに応援がこさせないようにGGGや他の所にも増殖して・・・」
レイド「どんだけ増えるんだよ! あいつはぁ!」
改めて精霊機兵の非常識っぷりに戦慄するレイド。
応援が期待できない上、こちらはかなり消耗している。
このまま数に押されてしまうのだろうか、という嫌な予感がどうしても過ぎる。
マッチ「私・・・・・・もう、挫けそう」
マラソンのような戦いに、誰もが心折れそうになった。
15
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:14:56 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
だが、それでも。
諦めない者は確実にいた。
カズキ「うおっりゃあああああ!!」
カズキの雄叫びと共にメガホーンが「掌槍」で複数のパンドラを一斉に撃破する。
マッチ「カズキ?」
カズキ「マッチ! ここで負けちゃダメなんだ! オレ達が諦めたら平和を望んでいる人達が
戦争に巻き込まれて悲しい想いをしてしまう。だから諦めたらダメだ!
負けちゃダメなんだよ!」
マッチ「カズキ・・・・・・うん、私、諦めない!」
れお「お〜、熱血っすね! カズキ♪」
柳「カズキくんらしいな・・・・・・」
裕樹「でも・・・」
カズキに触発されるように、二人の闘志も増す。
イチイバルでパンドラの牽制をし、その間に力を集中させたナイトブレードが
大技を繰り出して、パンドラを大量に倒してく。
レイド「若いっていいねぇ〜。オレも踏ん張りどころだな!」
ブルーフェンリルの全武装を展開させる。
レイド「もう出し惜しみはしねぇ! 全弾持っていけぇぇぇええ!!」
フルオート正射。絶え間なく放たれる弾丸やミサイルの暴風はパンドラたちを次々に飲み込んでいく。
シュン「みんな・・・すごい」
なつき「ボケッとしてんな! 戦いの流れを読め!」
シュン「流れ?」
なつき「あぁ、戦いには流れがあるんだよ。その流れに乗ったものが・・・・・・・・・」
フェイスが手近なパンドラに文字を刻む。
その文字は「爆」。
そして、その文字を刻んだ、パンドラを蹴り飛ばして密集しているパンドラ群に突っ込ませる。
文字の効果が現れ、文字を刻まれたパンドラが爆ぜると、周囲のパンドラもそれに巻き込まれて爆発した。
なつき「勝つ!」
16
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:16:57 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!
僕が押されている? ありえない!?
数では圧倒的に僕が勝っているのに!
減った分は、増殖して確実に補充しているはずなのに!
ピノッキ「なんでアイツらは倒れないんだよぉぉぉ!」
パンドラの操縦空間の中で、ピノッキはこの上なく焦っていた。
敵が消耗しているのは明白なのに、勢いが衰えるどころか、増していく。
弾数制限のある機体も、それが尽きれば、白兵戦の武器で向かってきている。
ピノッキ「諦めろよぉ! いい加減死んでくれよぉぉぉ!」
涙混じりに避けんでも、彼らは一歩も退かない。
うんざりするほどのパンドラの数を目にしても、凄まじい気迫をもって倒していく。
その度にピノッキは慄然としてまった。
ピノッキ「お前らが死んでくれないと・・・・・・僕が、僕が・・・・・・」
ピノッキの脳裏に、エマの声がこだまする。
―――お仕置きの意味も込めて・・・・・・あの“サーカス”に戻してあげましょうかしら?
ピノッキ「嫌だ! 嫌だ! サーカスは嫌だ!」
敵に攻撃を繰り出しながら、うわ言のように「嫌だ」を連呼する。
パンドラを操縦する手がおぼつかない。
意識が、「増殖」から別のことに移っていく。
そう、消し去りたい悪夢のような実体験の過去の記憶を・・・・・・・・。
§
=孤島の城=
マリア(みんな・・・・・・)
一つしかない窓に向けて、マリアは祈る。
今はそれだけしかできない。
今は、戦っている皆を“想う”ことしかできないのだ。
例え、無駄だと分かっていても、そうせずにはいられなかったのだ。
しかし、そうしていると、背後より嫌な気配を感じ取ってしまった。
エマ「さすがは巫女様。いじらしいわね」
声が聞こえても、マリアは振り返ることをしなかった。
それでもエマは構わない。意識を集中して、仲間に自分の“想い”を届けているマリアの
背中を見ているのも乙なものだ。
そんなマリアだからこそ、イタズラのしがいがある。
エマ「ねぇ、これから独り言言うけど、気にしないでね」
そう前置きしてエマは語り始めた。
エマ「さっきピノッキに言った“サーカス”ってね、あのコが前いた場所なの。
そのままの意味よ。曲芸やったり、ピエロなんか出てくるサーカスね。
ピノッキもそこの団員の一人だったの。最年少ナイフ投げの達人で、
そのサーカス内では名物の一つだったのよ」
いくら意識を集中しても、エマの声が耳に纏わりついてくる。
マリアは、無視することを諦めた。
マリア「じゃあ、なんでそんなコがここに?」
エマが勝ち誇ったように薄ら笑みを浮かべる。
エマ「でも、そんな華やかな舞台は表向き・・・・・・裏ではそのサーカス、とんでもないトコロだったのよ」
瞬間、マリアが驚愕の顔で振り返った。そこに見えたのはサディスト的な笑みを浮かべたエマだった。
エマ「実態は人身売買や売春、密輸、麻薬密売など、おおよそ思いつく悪行をやっている
裏社会の組織。特にピノッキは主に売春の役目を担っていてね、連日、金持ちの変態相手に・・・」
マリア「やめてっ!」
呼吸荒く、マリアは叫んだ。
エマ「あら、マリアには刺激の強い話だったかしら? でも、これは事実なの」
マリア「・・・・・・な、なんで彼はそんなところに・・・・・・?」
エマ「さぁね? あのコの親が貧しさのあまり、そのサーカスに息子を売ったんじゃない?
なんにせよ、私はそんなのに興味はないわ」
マリアは奥歯をギリッと鳴らした。
胸が詰まって、膝に置いている拳が震える。
17
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:18:22 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
エマ「でもね、マリア。神様はあのコを見捨てなかったの。あのコを目覚めさせてくれたわ!」
まるで物語のクライマックスを語かのようにエマは歓喜に満ちた口調で言う。
マリアの震える拳に手を置いて、彼女の顔に自分の顔を近づける。
エマ「もう、わかるわよね?」
マリア「“覚醒者”に・・・・・・目覚めたんですね」
エマ「お利口さん」
エマは思わずキスしたくなったが、精一杯の理性で我慢した。
エマ「“覚醒者”に目覚めたピノッキは、“精霊機兵”を召喚した・・・・・・そして、復讐したのよ」
マリア「・・・・・・・・え?」
エマ「一夜にして一つの裏組織が壊滅したわ。
さぞかしあのコは阿鼻叫喚の叫びを聞いたでしょうね。クスクス・・・・・・
助けを求める声、逃げ惑う人々を見下ろして、精霊機兵という圧倒的な力で捻じ伏せる。
虐げられていたあのコにとっては、未知なる快感だったでしょうね」
――・・・怖い。
素直にマリアはそう思った。
ピノッキやそれを語るエマではなく、“精霊機兵”という力に。
エマ「私があのコを見つけたとき、あのコはいつも公演している円形劇場でナイフ投げの練習をしていたわ
「なにしてるの?」って訊いたら、「練習」ですって。理由を訊いたら、今日も公演するからって・・・
傑作よね、サーカスはもう二度と行われることはないのにね。自分自身で潰したはずなのにね」
マリア「じゃ、じゃあ・・・・・・なんで?」
マリアが尋ねると、エマは口端を上げた。
エマ「あのコ、事件当夜記憶を失ってたのよ。つまり、まだ組織は存在すると思い込んでいたの」
マリア「!?」
エマ「私はあのコに“覚醒者”と“精霊機兵”のことを教えてあげて、聖皇団に誘ったわ。
さすがにちょっと迷っていたみたいだけど、ついてきたわ。
でも、自分で組織を潰したことは教えなかった」
マリア「え・・・な、なんで!?」
エマ「その方があのコを扱いやすいからよ」
マリア「酷い・・・!」
マリアは思わず立ち上がり、その勢いでエマをベッドに押し倒して、上から睨みつける。
そんなマリアの反応を、エマは予想通りとばかりに笑った。
エマ「じゃあ、あなたは、あのコに教えるのかしら? 何十人も殺したという事実を・・・・・・」
マリア「っ!」
マリアは唇を噛み締めた。
それに返す答えは、思いつかなかった。
エマ「いいわ・・・その顔。答えが見つからなくて、もがいている。素敵よ」
もうマリアに、エマを押さえつける力はなかった。
悠々と、エマがベッドから起き上がる。
エマ「それじゃ、行く所あるから・・・・・・またね」
マリアの頭を名残惜しそうに二、三度撫でて、エマは部屋を退室した。
18
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:19:27 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
=極東支部基地 周辺=
シュン「!―――・・・アイツ、動揺してるのか?」
同じ覚醒者同士で感じるものがあるのだろう。
シュンは、敵覚醒者の心情を感じ取っていた。
なつき「どうした? ボーっとしている暇はないんだぞ!?」
フェイスから飛ぶなつきの怒声にシュンは、ハッとした。
シュン「悪い! でも相手、なんか動揺しているみたいだ」
なつき「え?」
シュン「一気に数を減らすなら、今かもしれない!」
シュンの目つきが変わる。
ヘラクレスをパンドラの密集群へと突入させる。
レイド「おい、無茶すんな!」
しかし、その声が届く前にパンドラの爆発にレイド達の視界が覆われ、ヘラクレスを見失う。
シュン「うぉぉぉぉっ!!」
四方八方から襲い掛かるパンドラを次々に斬り倒していくヘラクレス。
その勢いは、まさに一騎当千だが、あまりにも荒々しい。
その実、シュンは勝ちを急いでいた。
シュン(オレは誓ったんだ! 八神の大切な人達は、オレが守るって!)
その“想い”がヘラクレスに絶大な力を与えていた。
シュン「たりゃあ! せいっ!」
ヘラクレスのパワーで矢継ぎ早に襲い掛かるパンドラを悉く捻じ伏せていく。
暴虐的にも見えるそれは、ピノッキだけではなく、仲間の目から見ても畏怖を覚えるものだった。
ピノッキ「くそくそくそくそっ!! あいつめぇぇぇぇ!」
一機だけ突出して迫ってきたヘラクレスについにピノッキが狙いを定めた。
他の機体への相手を最低限に留め、可能な限りの数をヘラクレスに集中させる。
ヘラクレス一気に、何十というパンドラが一斉に襲い掛かった。
シュン「ちぃ!」
巨体であるヘラクレスが、その三分の一のほどしか大きさのパンドラに
あっという間に包み込まれてしまう。
振り解こうにも、腕一本動かすことすらままならない。
シュン「!?」
甘かった。
シュンは己の無謀な行動を後悔した。
いくらヘラクレスが強大な力があるとはいえ、それを操るシュンはまだ戦いの素人。
戦闘経験といえば、ほとんどヘラクレスの暴走する様子を“ただ見ていただけ”だ。
ピノッキ「ヒィィ、こいつ、弱いし!」
ヘラクレスに組み付いているピノッキが勝利を確信した。
それらのパンドラが一斉に口を開け、針を飛ばす。
シュン「ぐぅぅぅぅ!!」
装甲に突き刺さる針が激烈な痛みとなって、操者のシュンに伝わり、蝕む。
だが、それだけは終わらなかった。刺さった針が次の瞬間、電流を帯び出したのだ。
もはや、悲鳴が声にならない。
ピノッキ「ハハハハハハ!! 死ね! 死ね〜〜〜〜!!」
電流で明滅する操縦空間の中でピノッキは狂ったように笑う。
自らの武器の電流で機体が黒こげになろうと、増殖を続けているピノッキには関係がないのだ。
ようは、一人。
一人でも残っていればそこから増えることができるのだから。
ピノッキ「これでボクは“サーカス”に戻らなくていい! ずっと聖皇団にいられるんだぁぁ!」
息を荒げるピノッキの脳裏に、あの頃のエマの声がこだまする。
――ねぇ、あなた。聖皇団にこない?
――せいおうだん?
――そうねぇ、この世で一番希望があるところかな?
――・・・希望なんて、この世界にないよ
――えぇ、そうね。だってまだパンドラの箱は開いたばかりだもの。
これから沢山の災厄が降りかかるわ。・・・・・・けどね。
――?
――最後まで生き残っていれば、希望が拝めるかもね
ピノッキ「そうだ! ボクは聖皇団で最後まで生き残るんだ! 最後まで生き残って最後まで!
そしてそして! 幸せってやつに・・・・・・」
19
:
蒼ウサギ
:2008/11/06(木) 23:20:38 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
=孤島の城=
――・・・・・!!
マリア「!」
突然、マリアは全身に電流が駆け抜けたかのような感覚に見舞われた。
ピノッキの強き“想い”が離れたマリアの所まで届いたのだ。
痛みにも似た、その“想い”にマリアは思わずその場に蹲った。
マリア「なんて・・・・・・・強い“想い”なの・・・・・・・」
マリアがピノッキから感じたものは生への執着。
そして、その中にある「幸せ」の憧れだった。
先ほどエマから聞いてしまったピノッキの過去が思い出される。
マリア「私・・・・・・どうしたらいいの?」
ぎゅっ、とベッドのシーツを握る。
仲間を助けたいという“想い”はあるが、心のどこかでまだ幸せを味わったことのない
ピノッキを救ってやりたいという“想い”が芽生えていた。
マリア「・・・・・・・・・やるしかない!」
できるかどうかわからないけど。
ここから、できることを!
マリアは目を閉じて、意識を研ぎ澄ませた。
【つづく】
20
:
シシン
:2008/11/30(日) 15:25:56 HOST:p1244-ipad202okidate.aomori.ocn.ne.jp
■神話編■
■邂逅 3■
マリアは僕の背中に機械の翼が出現した事には動じていないむしろ強く真っ直ぐな目で見ている。
普通の人ならば≪化け物≫と呼ばれるのは慣れていた。
「二度目か」僕の事を驚かなかったのは・・・
マリア「貴方は・・・人間なの?」
ゼネラル「確かに半分はこのような力だが残りの半分は人間だよ。」
マリア「それで、私をどうするつもりなの?」
眼を静かに閉じて返答をした。
ゼネラル「・・・戦いを望む者たちに粛清するのを手伝って欲しい。
僕の姉さんの命を奪った者たちに報いを受けさせるために、
貴女には人間でありながら不思議な力を持っている。」
おそらく、精霊機兵の事を知っているのかもしれない。
この子のお姉さんが失った気持ちは解ってあげたい、だけど・・・
マリア「・・・確かにそれは悲しいことだけど、あなたはそれでいいの?」
ゼネラル「人を殺してそれで自分は報われるか?
姉さんの命を奪った報いを受けさせる為に怒りの刃を振るうまでだ。」
マリア「それであなたの気持ちは おさまるかもしれない。
けど、それは今度は君が憎しみの対象になっちゃうんだよ?」
ゼネラル「・・・貴方に何が解る?
両親を亡くし姉さんは僕を育てて一緒に暮らした。
幸せだった、とても幸せだった・・・
それが理不尽な戦争で焼き尽くさせれて、
この怒りをどうしろというんだ!!」
怒り交じりの声で言い放ち壁を叩く
マリア「・・・それでも、
誰かを犠牲にして晴らそうというあなたの気持ちには賛同できない」
ゼネラル「ならば君を敵として見なし・・・排除する」
左腕が機関銃へと変形し銃口をマリアへ向ける
マリア「・・・・・・いいよ。撃っても。
それで君が何かをわかってくれるなら」
彼は驚いていた。
普通ならば抵抗するか命乞いをするのに、
彼女は何も抵抗せず命も惜しまないと言うのか?
ゼネラル「・・・そうですか。」
しかし苦しい顔になり撃とうとはしない。
それどころか震えて狙いが定まらない。
まだ、人間としての心を持っているからか?
だから撃てないのか、それともあの人の言葉が正しいからか?
ゼネラル「っ・・・・!!」
左腕を元の人間の手に戻す
マリア「・・・どうしたの?」
ゼネラル「・・・死ぬ事は怖くないと言うのか?
どうして簡単にあんな事をいうんだ?」
マリア「・・・怖いよ。死ぬのは・・・・・
でも、誰かが犠牲になるのはもっと怖いから・・・」
この言葉も"あの子"が言っていた時と同じだっだ。
ずっと忘れていた"温かさ"と"強さ"。
でも、それでも・・・
ゼネラル「そうですか。一緒に来れば外の世界に出られたのに。」
マリア「私は信じているの。私を助けてくれる仲間を待っているから」
ニコッと笑顔で返す
ゼネラル「・・・忘れないでください。
今度、貴女と貴女の仲間が僕の目的を阻むのならば・・・
容赦はしません。」
窓から飛び出し機械の翼を羽ばたかせて暗い海と空へと飛び去っていたのである。
マリア「誰かを犠牲にするなら、私はあなたと戦う・・・・・」
悲しみと氷に閉ざされた心を持つ少年ゼネラル・ラグレスとの邂逅。
強さと決意を胸に秘めるのである。
■邂逅 完■
21
:
蒼ウサギ
:2008/12/04(木) 21:47:03 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
■パンドラの箱 4■
=極東支部基地 周辺=
遠ざかる意識。痛覚がすでに麻痺しているためか、
脳が痺れている感覚だけが全身を苛む中、シュンは己の愚かな行動を後悔した。
シュン(くそっ・・・なにが「八神の大切な人はオレが守る」・・・だよ
暴走していないヘラクレスじゃ、オレ、全然弱いじゃないか・・・・・・・)
こんな体たらくじゃ目の前の敵を倒せるのか? ましてやあの麻宮エマと名乗った聖皇団の団長は?
シュン(無理だ・・・・・・アイツの“想い”の力はデタラメ過ぎる・・・・・・! 今の僕じゃ・・・・・!)
もっと力が欲しい!
せめて、暴走していた時のヘラクレスならば!
いや、それはダメだ!
せっかく、八神が止めてくれたのだから!
そう、もっと力が、“想い”の力が欲しい!
オレに、もっと、もっと力をくれ! ヘラクレス!!
パンドラが一機、眼前に迫ってくるのがシュンの目に映った。
その時!
裕樹「てやぁっ!」
ナイトブレードから放たれた“光の刃”がそのパンドラを撃墜し、
続いてイチイバルの矢がヘラクレスに組み付いていたパンドラを撃ち落していった。
シュン「うっ・・・!」
パンドラの拘束力を失い、自由落下していくヘラクレス。そこへ――
柳「カズキ! マッチ!」
カズキ「わかってる!」
マッチ「間に合えーーーーっ!!」
ウインド・メガホーンとエステバリスムーンが猛スピードで追いかけ、
落下する前にヘラクレスを二機で受け止めた。
落下したときほどではないが、相当の衝撃が三人に圧し掛かる。
カズキ「っと、大丈夫っすか? 神崎さん」
シュン「あ、あぁ・・・・・」
マッチ「ふぅ、よかったです♪」
シュンは目を丸くした。
なんで自分なんか助けたのだろうと・・・。
足手纏いになった自分なんか・・・・・・。
その心中を察したかのようにナイトブレードとイチイバルがヘラクレスの側に駆けつけた。
裕樹「カズキ、神崎さんは?」
カズキ「あ、大丈夫みたい」
裕樹「よかった・・・・・・神崎さん、単機だけで無茶しないでください。
気負う気持ちはわかりますけど、一人でできることって、限られてますから」
シュン「・・・・・・!」
カズキ「そうっすよ! 八神先輩助けたいのは神崎さんだけじゃないんすから!
今は戦えない、八神先輩のお兄さんや、REIさんも同じなんす!
神崎さん一人だけが全てを背負うことなんて、ないんすよ!」
シュン「・・・・・・・・・」
二人の言葉に、シュンは身が軽くなるものを感じた。
マリアを連れ浚われた一番の原因の負い目をずっと感じていた。
だから、なんとしても連れ戻さなきゃと・・・そう、気負っていた。焦っていた。
一人で、何とかしなきゃと思っていた。
シュン「・・・・・・ゴメン、みんな・・・・・・・俺と一緒に戦ってくれるか?」
裕樹「それはこっちの台詞ですよ。俺たちと一緒に戦ってくれますか?」
カズキ「俺たちと一緒に、八神先輩、連れ戻してくれますか?」
シュン「・・・・・・・・あぁ!」
ヘラクレスの操縦空間内で、シュンの表情は輝いた。
そこへ
なつき「てめぇら! いつまでボサッとしてやがる! まだ戦いは終わってないんだぞ!」
レイド「ま、オレとしてはこのまま二人きりってのも悪くないけどね♪」
二機で一手にパンドラ群を相手にしていたなつきとレイドのうち、なつきの方が堪忍袋の緒が切れた。
カズキ「うぉ! す、すいません! 雪花霞先輩!!」
裕樹「すぐ行きます・・・・動けますか?」
シュン「あぁ、行こう!」
シュンの士気は、見るからに高まっている。
ヘラクレスの六翼からエネルギーフェザーが発生し、輝きを帯びているのがそれを証明してる。
なつき(アイツ・・・・・・フッ、これでもう、あんな無茶はしねーか)
22
:
蒼ウサギ
:2008/12/04(木) 21:49:43 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
↑に
■神話編■
を入れ忘れていました。ごめんなさい!
↓以下、続きです。
やめろ! やめろ! やめろ! やめろぉぉぉぉ!!
ピノッキのパンドラは、応戦、撃墜、増殖を繰り返しながら恐慌した。
流れが完全に変わってしまった。
なぜだ!?
理由は簡単だが、認めたくない。
ピノッキ「くそくそくそ! なんだよっ! アイツ、雑魚じゃなかったのかよ! ズルイズルイ!
くそ反則だ〜〜〜〜〜!」
そう叫んでいたピノッキのパンドラが直後、ヘラクレスの剣に一閃された。
それを見た別のピノッキが戦慄する。
ピノッキ「やばいやばい! こここここ、このままじゃ、ぼぼぼぼ、ボク、し、し、死ぬ・・・・・
そ、そうだ・・! こ、こうなったら!」
ピノッキは何を思ったか、一度全ての増殖を消した。
この場だけではなく、他の方面に足止めしている増殖体も含めてすべてだ。
レイド「なんだぁ? ギブか?」
レイドを始め、一同は呆然と佇むパンドラを怪訝な顔をで見つめる。
裕樹「いや、それにしてはなんか様子おかしいですよ?」
柳「何か・・・いやな予感がする」
なつき「おい、神崎! 覚醒者同士のお前なら、何かわかんないか?」
シュン「わかんないよ・・・・・・でも、何か気持ち悪い」
例えるなら熱くもなく、冷たくもないドロドロしたものが喉奥に渦巻いているようだ。
それでいて痛くも痒くも苦しくもない。まさに気持ち悪い。
シュンがそんなことを思ったときだ。
ピノッキ「・・・・・・・ヒヒヒ」
パンドラからピノッキの不気味な笑いが聞こえてきたかと思うと、それが突然としてヘラクレスに向かって
突撃してきた。
シュン「!?」
レイド「特攻か!?」
なつき「ちぃ!」
誰もが迎撃しようとしたが、パンドラはそれよりも早くヘラクレスへと突撃し、その勢いを殺すことなく、
その場から突き放していく。
シュン「ぐぅ、なんのつもりだ!」
ピノッキ「逃がさないからね!」
瞬間、ピノッキが再び増殖。ヘラクレスを一種の繭のように包み込んだ。
シュン「まさか!?」
瞬時にシュンにあの時の戦法が甦る。ピノッキはニヤリと笑った。
ピノッキ「わかったか? このままお前を感電死させてやるぅぅぅ!! 全機最大パワーでなぁぁぁあ!!」
シュン「! 全機最大パワー・・・・・待て! それは!」
ピノッキ「あははは! わかったか! さすがにこれだったらお前も終わりだぁぁぁぁ!」
シュン「違う! あの時――ぐぁぁぁ!!」
シュンの声は、パンドラの口から放たれた無数の針で遮られた。
ピノッキ「最大パワーーーーー! 放電んんんんん!!!」
ピノッキは一つミスを犯した。
先の場合、一機でも密着状態から離れていたためこのような自爆攻撃が可能だったのだ。
パンドラの特性である“増殖”は一機でも残っていればそこからまた何体でも増殖可能なのだから。
しかし、ピノッキは今、冷静さを完全に失っていた。
覚醒者とはいえ、まだ10と少しの子供だからというのもあるのかもしれない。
今、パンドラ全てがヘラクレスに密着状態なのだ。
つまり、ここで全機がヘラクレスにニードルブリッドを打ちこみ、
あまつさえ電流を最大パワーで発生させるとどうなるか?
当然、自爆攻撃のため高い確率で共倒れになるだろう。
相手の虚をつこうと、増殖体を全て消したのが最大のミスだ。
ピノッキ「死ねぇぇぇぇぇええええ!!」
電流が放たれようとするまさにその瞬間、ピノッキの脳裏に全く別の意識が介入し、
それが強制的にニードルブリッドの電流発生を止めた。
???(ダメェェェェェェェェェェェェ!!!)
ピノッキ「!? 誰だ!?」
シュン「!? この感じ・・・・・・まさか、八神?」
その通りだった。
23
:
蒼ウサギ
:2008/12/04(木) 21:51:33 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
マリア(や・・・・・・やっと・・・・・・・繋がった・・・・・・・・)
伝わってくる彼女の声は疲弊しているのが感じられる。
ピノッキ「邪魔するなぁぁぁぁぁ!」
ピノッキが追い出そうという“想い”を叩きつける。
マリア(うぅぅぅっ!! ダメ・・・・・ピノッキくん・・・・そのままじゃ、あなたまで・・・・・うっ)
ピノッキ「ボク・・・まで?」
そこでピノッキは、ようやく自分のミスに気づいた。
ピノッキ「う、うわああああぁぁぁっっ!!」
血の気のひいた顔になって慌ててヘラクレスから離れる。
いつの間にか増殖体は消えていた。
シュン「はぁ・・・はぁ・・・・・・こいつめ・・・!」
二振りの剣を身構え、シュンはパンドラへと斬りかかる。
だが、そこへ。
マリア(待って!)
シュンには、マリアが両手を広げてパンドラを庇うようにして立ちはだかるビジョンが確かに見えた。
シュン「なぜ庇う!?」
当然の疑問だ。
マリア(・・・・・・ごめんなさい。でも、この子をこれ以上、怖がらせないで!)
シュン「! そいつは敵だぞ! 君をさらった!」
マリア(でも・・・・・・・私、大丈夫だから・・・・・・・・ね? さらわれても、怪我とかしてないし
酷いこととか・・・・・・)
瞬間、マリアの脳裏にエマとのキスが蘇り、一瞬、言葉が詰まるが、笑顔を務める。
マリア(・・・・されてないからさ)
シュン「・・・・・・・・・・・そう、か」
シュンは、ヘラクレスの剣を降ろした。
一方のピノッキは過呼吸でも起こしたように目に涙を浮かべてしゃくりあげている。
そこへマリアの意識が流れてくる。
マリア(ピノッキくん・・・・・・あのね。シュンくん達の所に投降して全てを―――)
そこでマリアの意識がブツリと途切れた。
ピノッキ「え? え?」
シュン「! 八神の意識が消えた? なぜだ?」
ピノッキ「何で? どういうこと?・・・・・あの人もボクを見捨てるの?
パパや、ママと同じように? いや! いや! いやだぁぁぁぁぁぁ!!」
再び錯乱したピノッキは、そのままどこかへと飛び立ってしまった。
マリアの突然の音信不通、そしてダメージの大きさからシュンに追いかける気力はなかった。
24
:
蒼ウサギ
:2008/12/04(木) 21:52:13 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
聖皇団アジトがある名もなき島へと向かうパンドラ。
操者のピノッキは、ほとんど錯乱して、うわ言で「嫌だ、嫌だ」を連呼している。
その目にふと、見覚えのある巨人が映った。
100mを越えるそれは白き芸術とも呼べる美しい精霊機兵だった。
エマ「おかえり、ピノッキ」
その精霊機兵の操者である麻宮エマの声が冷たくピノッキの耳に響く。
背筋に冷たいものが走った。
ピノッキ「は、はあぁぁぁぁああああ!!」
エマ「あらぁ? お土産はぁ? まさか手ぶらぁ? そんなの、エマつまんなぁい」
この口振りは全てを知っている。
覚醒者同士並大抵なことでは嘘はつけない。ましてや、相手はピノッキよりも高レベルの覚醒者なのだ。
エマがピノッキに嘘はつけても、ピノッキがエマに対して嘘はつけない。
エマ「わかってるわよね?」
エマの口調が少し変わった。
それだけでピノッキの心臓が止まりそうになる。
ピノッキ「さ、サーカスは・・・・・・嫌だ・・・・・」
息も絶え絶えに懇願するピノッキに、エマはついに耐えかねて。
エマ「ぷっ・・・・・・・アハハハハッハハハハ! あ〜〜、おっかし〜、ホンッと忘れんのね〜」
ピノッキ「え?」
エマ「いいこと教えてあげるわ。“サーカス”なんてもうないのよ。あなたが自分で潰したのよ」
ピノッキ「・・・・・・・嘘だ」
エマ「ホントよ〜。大量殺人者さん♪ 今の今ままで幻の恐怖に怯えるあなたは傑作だったわ〜」
パンドラの操縦空間で、ピノッキは愕然とした表情をしていた。
現実を受け入れられないといった顔だ。
というより、嘘の話を聞かされている感じで、戸惑っているというのが一番近い。
エマ「まぁ、信じる信じないは勝手。どのみちあんたはここで消えちゃうんだから・・・・・・クスッ」
操縦空間でエマが笑った瞬間、戦慄が波動となってピノッキの全身を貫いた。
ピノッキ「うぅっ、あああっぁぁぁっ!!」
せめて抵抗をと増殖を試みるピノッキ。
エマは冷笑した。
エマ「馬鹿の一つ覚えねぇ。無駄よ・・・・・あなたの能力・・・・消しちゃったから♪」
ピノッキ「いぃいぃぃっ!?」
それまで息をするようにできてきた増殖が途端にできなくなっていたことに驚くピノッキ。
考えれるのは、先ほどの全身を貫いた戦慄だろうか?
何度試みるも、パンドラが増えることはなかった。
エマ「でもね、ピノッキ。あなたは二つ、この戦いで役に立ったわ」
エマの話にも耳を貸さず、ピノッキはパンドラの増殖を試みている。
エマは構わず話を進めた。テュフォンの指が一本立つ。
エマ「一つ、少々、曖昧だった“神崎シュンが覚醒者の王子である”ことを証明してくれたこと」
テュフォンの二つ目の指が立つ。
エマ「二つ、マリアの“覚醒者の巫女”としての覚醒・・・いえ、この場合、回帰覚醒・・・とでも言うべきかしら
ともかく、それを促がしてくれたことには感謝してあげるわ・・・。感応による、精霊機兵の干渉。
フフフ、あのコは気づいてないでしょうけど、普通じゃできないことなのよね。
まっ、まだ力に慣れてないせいで、途中で気絶しちゃったけど・・・・・・って、聞いてないわね。
まぁ、いいわ」
テュフォンの指が全て開き、腕がゆっくりと伸びる。
エマ「あなたの苦しみを消してあげる・・・・・・」
ピノッキ「ヒィィ!」
もはや命乞いや抵抗は無意味と、残酷なまでの死刑宣告がピノッキにつきつけられた。
それでもピノッキは、生にしがみ付いた。
ピノッキ「わああっぁぁぁぁっぁ!!」
テュフォンに背中を見せ、逃げ出すパンドラ。それをエマはクスクス笑う。
エマ「逃げなさい。今まで現実から逃げていたあなたなら逃げれるかもね?」
テュフォンの掌に、“消滅の光”が迸った。
25
:
蒼ウサギ
:2008/12/04(木) 21:53:47 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
なんで? なんで? なんで?
なんで団長はボクを消そうとするの?
ボクが失敗したから?
ボクが弱いから?
だからボクは幸せになっちゃダメなの?
ピノッキ「嫌だ! い、生きるんだ! 団長だって言ってたじゃないか!
最後まで生きていれば希望が・・・・・!」
だが、そんなピノッキの希望を打ち砕くような冷たい声がふいに聞こえてきた。
エマ(知ってる? ピノッキ。パンドラの箱の最後に残ったものの希望って、幸せなことは限らないのよ?)
ピノッキ「ヒィ!?」
脳内に響き渡る声。あたりを見回すも彼女の姿は見えない。
エマ(だって、神話のパンドラは箱の蓋を開けて、ありとあらゆる災厄や苦悩を解放しただけで、
すぐに蓋を閉めてしまったもの。最後に残ったものなんて、本当のところは誰もわからないわ)
それが言い終わると同時に、ピノッキの目の前に白き巨人が姿を現す。
消滅の光がパンドラの目の前に広がり、ピノッキの眼前を覆う。
エマ「バイバイ、ピノッキ。せめて来世で幸せになりなさい」
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・―――――
他に誰もいない空で、エマは一人ごちる。
エマ「まぁ・・・存在自体が消えた人に、来世があるかなんて知らないけどね」
魔性の笑みを浮かべて、エマのテュフォンはその場を飛び去った。
§
―――最後になりそうだから言っておくよ。僕は君が好きだった
―――王子・・・・・・・・
―――お互い、生きて帰ってきたら返事を聞かせてくれ
=孤島の城=
激しい精神的消耗に、マリアはベッドに横たわっていた。
最中に見ていた夢はなんだったんだろう?
ぼんやりした頭では答えがでるはずもない。
マリアは、重い瞼をゆっくりと開いた。
エマ「お目覚めね、マリア」
真っ先に視界に入ってきたのは、ベッドに腰をかけてこちらを見下ろしているエマの姿だった。
また勝手に入ってきて、と否が応でも不機嫌な顔になってしまう。
マリア「帰って・・・・・・きてたんですか?」
ゆっくりと上半身を起こそうとするマリアの肩を、エマは制して顔を近づけた。
エマ「ダメよぉ。今は体を休めなさい」
妖艶な微笑みを浮かべ、甘い声で囁く。マリアはすぐにでも振り解きたかったが、疲れが邪魔をしていた。
せめてもの抵抗で顔を背ける。
エマ「クスッ・・・・・・ねぇ、どう? 戦いを止めた気分は?」
マリア「!・・・・・・・・知っているんですね?」
顔を背けたまま、マリアは尋ねた。
26
:
蒼ウサギ
:2008/12/04(木) 21:54:21 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
エマ「私も覚醒者だからね・・・・・・でもね、マリア。あなたが戦いを止めたせいで・・・
私はピノッキを消さなきゃいけなくなったの」
マリア「!」
エマの発言に驚愕したマリアが振り返る。彼女は、変わらない妖艶な笑みを浮かべていた。
エマ「この意味がわかる?」
マリア「まさか・・・・・・あなたはピノッキくんを・・・・」
エマ「ん? 私は、彼をどうしたと思う? ん?」
イジワルな笑顔だった。マリアの口から言わせたいのだろうというエマの白々しい目論見が伝わってくる。
マリアは、唇を噛み締めた。
エマ「クスッ、言いたくないのね? 直接、手を下したのは私だけど、その原因となったのはあなただもん
それを認めたくないのよねぇ? 良い子でいたいものね、マリアは」
マリア「っ! なんで私が!」
エマ「分からない? 私はピノッキに「極東支部の誰か一人の死体をここへ持ってこい」って言ったのよ。
彼もそれを承諾して出撃した。でも、果たせなかった。あなたが介入したから」
マリア「! で、でも・・・・・・そうしなければ・・・・ピノッキくんは・・・・・」
エマ「そうね。バカなあのコはパニクって自爆しようとした。けど、もしかしたら助かっていたかもしれない。
分の悪い賭けだったとしてもね・・・・・・可能性はゼロじゃなかった」
マリア「ぅ・・・・・」
マリアの表情が一変する。
「もしかしたら助かっていたかもしれない」
その可能性をつきつけられて、マリアは愕然とした。
エマ「フフフ、素敵よマリア。その表情・・・・・・自分のやったことが信じられなくなってる」
マリア「・・・・・・・出てってください」
エマ「いやぁよぉ。私はまだまだ可愛いマリアを見つめていたい――」
パァン!
渇いた音が部屋に響き渡る。
赤くなったエマの頬、目に涙が溢れるマリア。
マリア「なんでそんなに笑っていられるんですか! 仲間が一人消えたんですよ!」
エマ「えぇ・・・・・あなたのせいでね」
マリア「っ!」
エマ「逃げちゃダメよ? これは紛れもない事実なんだから。
あなたが余計な介入をしなければピノッキは私に消されることはなかったかもしれない」
マリアの手がベッドに落ちる。自らの頬を叩いたその手をエマが拾い上げた。
エマ「いい? マリア。あなたはピノッキの命を助けたつもりでも、結果として彼は消されてしまった。
優しさは、時に残酷なのよ」
マリア「じゃあ・・・・・・私はどうすれば・・・・どうすればいいんですかっ!」
とめどなく溢れる涙を、マリアは抑えきれずことができず流してしまう。
エマ「安心してマリア・・・・」
エマがそんなマリアを自分の胸元に抱きしめる。
エマ「どんなマリアでも私が受け止めてあげる。マリアがどんなコになっても、私が全て受け入れてあげる」
マリア「うぅぅ・・・・・・・」
エマの両腕がマリアの背をそっと包み込む。
その中で、マリアは必死に声を押し殺して―――泣いた。
【パンドラの箱 完】
27
:
シシン
:2008/12/06(土) 11:20:54 HOST:p1110-ipad203okidate.aomori.ocn.ne.jp
■神話編■
■悲狂 1■
悲しい事があった・・・
仲間が一人、死んでしまった・・・
とてもとても悲しいけど仲間の為に頑張らないといけない、
だって、そうしなければ・・・
私は・・・
私は壊れてしまそうだから・・・
§
その日は雨だった。
今日はお外に行ってご飯を食べようとしたのに・・・
レナ「止まないかな…」
窓を見て恨めしそうにジッーと見る
勿論、そんな事では雨は止まない。
レナ「マリアさんの所にでも行きたいけど…」
ピノッキが死んでからの一件、マリアさんは落ち込んでいた。
勿論ピノッキとは話したことはなかったけど死んでしまった事は悲しい。
たぶん、一人で出撃したから捨て駒にしたという事は考えもつく
もしも、エマ様が私の事がいらなくなったら?
私は一人で・・・・死ぬ。
レナ「・・・嫌々嫌々嫌々!!」
頭を押さえて塞ぎこんでいる
今までは幸せな日々を過ごしていたのにどうして?どうして?
ドアを開ける音が聞こえて私は枕を掴んで投げた。
だけど、避ける事もなく当たった。優しい声が聞こえた
セラフ「・・・大丈夫か?」
私の事を理解してくれるセラフ・アバタールであった。
【続く】
28
:
シシン
:2008/12/06(土) 11:56:49 HOST:p1110-ipad203okidate.aomori.ocn.ne.jp
■神話編■
■悲狂 2■
レナ「セ、セラフ・・・」
セラフ「なにやら泣き叫ぶ声が聞こえたがどうかしたのか?」
レナ「あのね…セラフはセラフはレナの事を見捨てないよね?」
いつものレナにしてはしおらしい事を言う。
ピノッキが死んでからマリアもそうだがレナもおかしい。
セラフ「私がお前の事を見捨て・・「傍にいるから大丈夫だって言って!!」」
ギュッと私の服を掴む。そして、……涙が浮かんでいた。
いくら明るく振舞っても覚醒者でもレナは女の子だ。
それに…私が救えなかったのは≪あの子≫ためでもある。
セラフ「大丈夫だ。お前の事は決して見捨てない。」
抱きしめるようにレナを慰める。
レナはスンスンっと泣いているのである。
・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
セラフ「落ち着いたか?」
レナは黙って頷く。
セラフ「お前は休んでおけ
捜索は私とアレスがやっておく。
ジョーカー様からは俺が言っておく」
レナ「ううん・・・私も行く。一人は嫌。」
セラフ「・・・解った」
ドアを開けてレナの部屋を後にする。
そして、セラフは自分の部屋で例の二人の捜索した地図を広げ見るのである。
セラフ(エマ様はピノッキの死については何も動じていなかった。
少なくとも兵力に関しては大幅にダメージを受ける事になる。
ピノッキの精霊機兵能力は≪増殖≫。
これがあったからこそ何も問題はなかったが……
ピノッキが失った今、どうするというのだ?)
考える事をやめて例の二人が目撃した場所を検討するのである。
■悲狂 完■
29
:
シシン
:2008/12/10(水) 00:50:19 HOST:p11123-ipad01okidate.aomori.ocn.ne.jp
■神話編■
■心 1■
・
・
・
・
・
海が見れる丘でゼネラルは悩んでいた。
あの時、八神マリアの言葉から頭が離れなかった
―私は信じている。私を助けてくれる仲間を待っているから―
あの絶望しかない場所で仲間が助けに来るなんて考える馬鹿げている。
僕と一緒に来ればあの城から出させて自由を掴めるのに……
ゼネラル「……仲間、か」
そうゼネラルは呟いた。
人は平気で裏切り捨て駒にする。
だけど、八神マリアの瞳は"仲間を信じる"。
そういう眼をしていた。
ゼネラル「仲間がどれほどなのか…それを確かめるまで。」
機械の翼を広げそのまま空へと飛び立つのである
30
:
シシン
:2008/12/10(水) 15:18:16 HOST:p2253-ipad203okidate.aomori.ocn.ne.jp
(29に続くを入れるのを忘れてしまいました。ごめんなさい。)
■神話編■
■心 2■
=極東支部基地=
ピノッキの襲撃から数日。
戦闘で八神マリアの声が聞こえたのシュンは皆に話した。
解った事は酷い事もされていない事だったが途中で途切れてしまった。
なんとしてでもマリアを助けたいが場所も解らず敵の戦力だって未知数。
下手に動くこともできない。
シュン「・・・」
レイド「そんなに落ち込むなよ。
少なくともマリアちゃんの安否は解ったことだしよ。」
カズキ「だけど、八神先輩の場所は解らないまますね。」
れお「今は焦らず、チャンスを持つっす。
闇雲に探しても場所だって解らない。」
裕樹「それに敵の戦力も未知数。
返り討ちにあって全滅は間違いないな。」
とりあえず、八神マリアの安否は確認できたが敵の中。
取り返すためにはこちらも戦略を整えてからではないと動けないのである。
シュウヤ(だが、覚醒者同士の感応はそれほどの力が必要となるのに・・・
聖皇団はそれが目的でマリアを拉致をしたのか?)
その時、警報が鳴った。
柳「敵が来たの!?」
マッチ「また、覚醒者が!?」
なつき「それだったら同じ覚醒者の二人がいち早く感知できるはずだろ。」
確かにそうだ。
覚醒者同士ならば感知できるのだが今回は反応なし。
レイド「とりあえず、行くとするか!!」
シュン達は格納庫へと向かうのである。
=極東支部基地 周辺=
格納庫で格愛機で登場し敵を待つ。
REIとシュウヤはまだ本調子ではないので待機しているのである。
レイド「どうやら・・来たようだな」
数はたったの一人。
しかし、それは16歳ぐらいの銀色の髪少年であり背中には機械の翼を広げている。
ゼネラル「…そうか、お前たちが八神マリアの仲間か?」
シュン「!?お前は八神の事を知っているのか!?」
レイド「あんたも聖皇団の仲間なのか?」
ゼネラル「…違う。僕は君たちを試すために来た。
マリアがいう仲間という絆の力を試させてもらう!!」
右手を掲げ光の柱に飲まれ足元には魔法陣が描かれ純白の羽が舞っている。
そして、光の柱から現れたのは・・・
背中に三対の燃えるような天使の翼を持ち、
太陽の文様が刻まれている輝く光の鎧を纏っている。
ゼネラル「古の聖天と炎の天使王、ここにて降臨。
「神炎天使」ミカエル!!」
太陽をバックにしそう名乗る。
ゼネラル「光と太陽の天使が汝らを裁く」
■続く■
31
:
シシン
:2008/12/10(水) 21:51:17 HOST:p7152-ipad204okidate.aomori.ocn.ne.jp
■神話編■
■心 3■
裕樹「相手はどれほどの力なのかは解らない。
慎重に行くぞ!!」
柳「うんっ!!ミリオンレイヤー!!」
イチイバルから千もの光の矢を、敵目掛けて放つ。
ゼネラル「分析…ビーム・レーザー兵器。」
スッと右手を翳行動に入る
ゼネラル「セイント・フォース!!」
光のバリヤーがミリオンレイヤーを掻き消してしまったのである。
柳「そんなっ!?」
凱「ミリオンレイヤーが効かないのか!?」
ゼネラル「このような兵器、僕には相手に通用しない。」
両手から白熱の火炎が渦巻いている
ゼネラル「受けてみよ、トリスアギオン!!」
両手から白い炎が螺旋状に襲いかかる
なつき「どいてろ!!」
地面の下に「盾」と書く。
土でできた分厚い盾が出現し火炎の渦を防ぐ事はできた。
ゼネラル「面白い技を使う…では、これはどうかな!?」
両手を天にあげ翼を広げ神の代弁者の名前を叫んだ
ゼネラル「メタトロン!!」
両手から巨大な閃光の如くの光線を放ち、
土でできた盾を貫通し切断させたのである。
なつき「なんでもありだな・・・」
かろうじて皆は避けたのだが、ゼネラルの元に向かう二機の影があった。
ウィンド・メガホーンとヘラクレスだ。
旋風(かぜ)の如く走り懐に入る。
ヘラクレスは二つの大剣を構えジャンプしそのまま勢いよく振りかざす
カズキ・シュン「「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」」
拳と剣。一方の防御して防ぐことはできても、
もう一方の攻撃を受けることになる。
だが、ゼネラルはあまくはない。
片手でメガホーンの拳を受け止め、
翼でヘラクレスの大剣を受け止めたのである。
ゼネラル「機動性の俊足と瞬発力は認めよう・・・だが、まだまだ!!」
二機の攻撃を一気にはじき返す。
ゼネラル「ムンッ!!」
ウィンドメガホーンで水平チョップを加えて払い飛ばす
カズキ「ぐあぁぁっ!!」
マッチ「カズキ!!」
翼を広げそのままヘラクレスを追い、
踵落としで思いっきり蹴り落とし地面に叩きつける
シュン「うああぁっ!!」
蹴り落とす前に大剣で防御をしたかそれでも力が強すぎるのである。
ゼネラル「その程度か・・・?」
翼で羽ばたきゼネラルは皆を見下ろしているのである。
【続く】
32
:
シシン
:2008/12/11(木) 18:47:55 HOST:p4202-ipad204okidate.aomori.ocn.ne.jp
■神話編■
■心 4■
シュン「ぐっ・・・」
立ち上がろうとしたがゼネラルが踏みつける
ゼネラル「・・・そうか、お前か。
かつて街を壊していた精霊機兵というのは。
貴様が力を制御できたら、
八神マリアは敵に捕まることはなかった。」
ギリリッと更に強くする。
シュン「・・・確かに俺のせいで八神が連れて行かれた事は後悔している。
俺たちは皆八神を取り戻そうと必死に頑張っているんだ・・・」
ヘラクレスは立ち上がろうと力を込めミカエルを押し戻している。
シュン「だから、ここで倒れるわけにはいかないんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヘラクレスは立ち上がりミカエルを吹き飛ばし足を掴んで投げ飛ばした。
ゼネラル「うううっ!!!」
ヘラクレスの物凄い力によって吹き飛ばされたのである。
態勢を立て直すとゼネラルが視界に入ったのは、
背中から六枚の翼を形成したヘラクレスが仁王立ちをしていたのである。
33
:
シシン
:2008/12/11(木) 21:47:03 HOST:p2133-ipad01okidate.aomori.ocn.ne.jp
ゼネラル「それがお前の力か・・・!!」
シュン「八神はオレを助けてくれた。
だから・・・今度は俺が八神を助ける番だ!!
ここで立ち止まるわけにはいかない!!
諦めたらそこで終わりなんだ、オレは絶対に諦めない!!」
ゼネラル(なんという気迫。
僕をここまでに震わせるとは・・・)
溢れんばかりの"想い"をはなちその空気を感じ取るゼネラル。
"護るべき力"。
ゼネラル「いいだろう、僕も本気を出すとするよ。」
宙に飛び上がり両手をクロスさせて炎を集める。
シュン「だったら、オレだって・・・!!」
両手を左右下げ気味に開き、右手に太陽の力、左手に月の力を宿す。
ゼネラル「罪人を裁きの炎にて焼き尽くせ!!ピュリプレゲトン!!」
シュン「サンライト!!withムーンライト!!」
両者からの必殺技が放たれ激突する。
凄まじい閃光と火花が発生し拮抗する力は両者とも硬直を生んだ。
ミカエルの目の光が強くなる。
反応するかのように神炎の押しがドンドン強くなり、ヘラクレスを押す。
ゼネラル「どうした、それが貴様の"想い"か!?それが貴様の限界か!?」
シュンの顔は苦悶の表情を浮かべる。
全力を出しているはず、いや・・全力では勝てない。
限界を・・・限界を・・・超える!!!
シュン「うぅぅぅおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
シュンの"想い"に反応したかのようにヘラクレスの目が強く光り、
サンライトwithムーンライトが凄まじき勢いでピュリプレゲトンをかき消し、
ミカエルの右肩に直撃したのである。
ゼネラル「ぐううううっ!!!」
衝撃にバランスを崩したが宙で態勢を整えるが、
右肩の傷口を抑え膝を突くのである。
ゼネラル「見せてもらったよ…君の力を。」
そのまま、翼を広げ空へとはばたく。
ゼネラル「お前の名は・・・?」
シュン「・・・神崎シュン。」
ゼネラル「ゼネラル・ラグレスだ。
また、会おう。神崎シュン。」
翼を羽ばたかせてさのまま青空へと消え去った。
・
・
・
・
ゼネラル「ハアッ、ハァ、ハァ…!!」
孤島で体を休めるが先ほどの戦闘により右肩から血が流れていた。
ゼネラル「半分は人間だから傷つくことは当たり前か。」
応急処置をし出血を防ぐのである。
ゼネラル(・・・八神マリアに出会ってから心に迷いがある。
あの時、姉さんを失った日から人である僕は"死んだ"
生まれ変わったのは戦いに対抗できる力。
僕は戦いを望む者たちを根絶やしにするために今まで使ってきた。
でも、本当に・・・正しいのか?)
気がつけばオレンジ色の夕日が輝いていた。
まるでその輝きは今の心の迷いを表しているかのようだった・・・
【心 完】
34
:
璃九
:2008/12/17(水) 20:51:11 HOST:pc52184.ztv.ne.jp
■神話編■
■あらすじ■
極東支部基地にゼネラルの襲撃があったその翌日の早朝、れおはカズキとマッチを連れて、横須賀基地へとやって来る。
以前、ここで行った模擬戦データを基に、れおは二人を本格的に鍛えることにした。
LUSTのDRIVER、聖皇団の覚醒者、ゼネラルと名乗る少年・・・
これまでに対峙した敵に、実力で劣ることを思い知らされていた二人は、その特訓を受けることにする。
ところが、いざ特訓が始まったその時、カズキの体に異変が起きた―――
■壊れた銀の風■
はじめは『ぼく』ひとり。
そのつぎに、くろいふくをきたひとがひとり、ふたり、さんにん、よにん・・・
たくさんのくろいひとが、『ぼく』のおうちにはいってくる。
『ぼく』のおうちが、くろくなっていく。
みんなみんな、『ぼく』をみてなにかはなしている。
かなしそうなかおをしている。
こわいよ。さみしいよ。
『あのひと』をさがす。
だけど、おうちのどこにも『あのひと』はいない。
―――あなたの×××××は死んじゃったのよ。
くろいふくのおんなのひとが『ぼく』にいった。
―――『しぬ』ってなぁに?
『ぼく』はきいた。
―――かわいそうに。まだそんなことも理解出来ない子どもなのに・・・
くろいおんなのひとが、なきながら『ぼく』のかたにてをおく。
『ぼく』はもっとこわくなった。
―――もう×××××には会えないのよ。
―――あえない・・・
『しぬ』ってなんなのか、『ぼく』はまだわからなかった。
でも、あえないってことだけがわかって―――
『ぼく』はないた。
たくさんないた。
たくさんのくろいひとが『ぼく』をなぐさめてくれた。
だけど『ぼく』はなきつづけた。
だってだれも『あのひと』みたいに、ほんとうにやさしくしてくれないから―――
『ぼく』はわからなかった。
なにがただしいのか。なにがまちがっているのか。だれをしんじればいいのか。だれをじんじちゃいけないのか。
だから『ぼく』はきょぜつした。
めにみえるすべてを。であったすべてのひとたちを。このせかいを―――
■■ちゃんがないていた。
いつも『ぼく』をいじめる男の子が、■■ちゃんをいじめている。
■■ちゃんをたたいたり、けったりしている。
いつも『ぼく』にしているみたいに。
男の子がこっちを見る。
■■ちゃんもこっちを見る。
男の子がいやな顔でわらう。
■■ちゃんがくるしそうにないている。
『ぼく』は―――
『ぼく』は―――
―――ソノトキ、ナニカガコワレタ・・・
35
:
璃九
:2008/12/17(水) 20:52:18 HOST:pc52184.ztv.ne.jp
―――『おれ』はなにをしたんだろう。
男の子たちが『おれ』みたいに泣いている。
体中傷だらけで、顔が涙と泥と血でぐちゃぐちゃで。
『おれ』を見て泣いている。
『おれ』を見てこわがっている。
―――『おれ』はなにをしたんだろう。
ただ一つだけ覚えている―――
『おれ』は、ずっとそこでわらっていた―――
「―――がっ!」
だれかが『おれ』にさけんでる。
くらいへやで『おれ』にさけんでる。
「――――――、――――――、――――――!」
だれかが『おれ』にさけんでる。
だれかが『おれ』をけりとばす。
だれかが『おれ』をふみつける。
「お前は―――俺に―――お前が―――お前の―――俺が―――」
だれかが『おれ』にさけんでる。
だれかが『おれ』をつかむ、なぐる、けりとばす、ふみつける。
いたい
いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい
「やめ―――て―――」
お姉ちゃんが言う。
だれかがお姉ちゃんをにらみつける。
だれかが『おれ』をさらにけりとばす。
「もう―――やめて!」
お姉ちゃんが泣きさけんでる。
お兄ちゃんがわらってる。
楽しそうにわらってる。
「これ以上やったら―――そのコ―――本当に―――!」
お姉ちゃんが泣きさけぶ。
お兄ちゃんが楽しそうにわらってる。
■■ちゃんが泣きじゃくる。
お姉ちゃんにだきしめられながら―――
ふるえながら、■■ちゃんが泣きじゃくる。
「この―――『クズ』がッ!!」
頭にのこる、だれかの声。
わすれたくてもわすれられない。
頭からはなれようとしない。
『クズ』―――
なんどもなんども言われたことば。
『おれ』がクズ―――ちがう。
―――『クズ』がッ!!
ちがう―――ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがう!
『おれ』は―――
『おれ』は―――
36
:
璃九
:2008/12/17(水) 20:53:12 HOST:pc52184.ztv.ne.jp
=横須賀基地 医務室=
カズキ「ッ・・・!」
急な目覚めと同時に、カズキは勢い良く体を起こした。
カズキ「・・・夢・・・か・・・?」
意識は覚醒している。が、頭の中の光景が鮮明すぎて、すぐにそうだとは思えなかった。
カズキ「―――ぐっ・・・!?」
その時、カズキの胸の中で、心臓が激しく鼓動した。
思わず胸に手を当てる。
速い。痛い。
心臓が暴れ狂っている。
熱い。
身体中が熱い。
暴れ狂う心臓が、身体中の血液を沸騰させている。
全身から汗が噴き出てくる。
気持ち悪い。
頭が痛い。
―――『クズ』がッ!!
カズキ「――――――!」
ズキリ、と頭に大きな痛みが走ったのと同時に、誰かの声が響いた。
それは間違いなく、夢で聞いた―――頭に記憶として残っているだけの声だったが、
たった今、この場で、実際に耳元で叫ばれたかのように感じた。
全身の毛が逆立つ。不愉快だ。
カズキ「―――くそ・・・!」
無意識に拳を握り締めて振り上げる。
しかし、ここは周りをカーテンに囲まれたベッドの上。
振り下ろすべき場所があるはずもない。
やがて、カズキは自分を落ち着かせるように大きく息を吸い、そして吐き出しながら、ゆっくりと腕を下ろした。
「カズキ・・・?」
ふと、カーテンの向こうから声が聞こえてきた。
マッチだ。
マッチ「えっと・・・起きてる?入ってもいいかな?」
カズキ「・・・あぁ」
短く返事をすると、左側のカーテンが開けられ、この囲まれた空間にマッチが入ってくる。
心配そうな表情を浮かべていた彼女だったが、カズキを見た途端、目を丸くして彼の傍に近寄った。
マッチ「だ、大丈夫!?すごい汗だよ?顔色も良くないみたいだし、やっぱり、ちゃんと診てもらった方が良いんじゃ―――」
狼狽えながら彼女は言う。
カズキ「お、落ち着けって、マッチ!大丈夫!大丈夫だから!」
マッチ「でも・・・!」
カズキ「ちょっと悪い夢を見ただけだよ。心配しなくていい。体の調子も良くなってるからさ。」
マッチを落ち着かせるよう、優しく微笑みながら、カズキはそう言った。
早朝、カズキとマッチ、そしてれおの三人は、ここ「横須賀基地」に来ていた。
カズキもマッチも、れおの計画に基づいて、この基地で特訓することになったのだ。
そして、いよいよその特訓が始まった時、カズキは急に激しい眩暈に襲われた。
訓練はおろか、まともに立つことさえ出来ないほど、それは強烈だった。
カズキはすぐさま基地の医務室に運びこまれ、結果、訓練は早々に中止となってしまった。
現在―――
体の熱さだけはまだ残っているが、カズキの体調は完全に回復したと言っていい。
先ほどの頭痛もなく、心臓も落ち着きを取り戻している。
カズキ「それよりごめんな。せっかくこの基地に来たってのに、無駄になっちゃったな。」
マッチ「いいよ、そんなの。カズキが元気でいることが一番なんだから。
・・・お願いだから、無理だけはしないでね。」
不安そうな表情で、マッチはカズキの手を両手で握った。
カズキ「あぁ、マッチこそな。」
カズキもまた、彼女の手を握り返す。
彼女の不安を払おうと、優しく、そして力強く。
手を通して互いの温もりが伝わってくる。
その温かさが、互いの心を落ち着かせ、安堵させた。
―――けれども、先ほどの夢と、頭に響いたあの言葉だけは・・・
どれだけ心が落ち着こうと、カズキの頭から離れることはなかった。
37
:
璃九
:2008/12/17(水) 21:02:20 HOST:pc52184.ztv.ne.jp
↑の分に
■つづく■
をつけ忘れていました。すみません.
38
:
璃九
:2009/02/25(水) 11:12:23 HOST:dhcp144-152.ztv.ne.jp
■神話編■
■壊れた銀の風 2■
=極東支部 司令室=
れお「―――じゃ、そこそこ揃ったみたいっすし。そろそろ始めるっすね〜」
モニターに映る少女は、この司令室にいる全員を一通り見回してからそう言った。
極東支部にいる主要メンバーは、ほぼ全員、司令室に集められていた。
なんでも、横須賀基地に向かったれおから話があるらしい。
裕樹「その前に、ちょっといいかい?」
と、れおがまさに話を始めようとしたその時、柳と一緒にモニターの近くにいた裕樹が手を挙げた。
れお「どーしたっすか?」
裕樹「カズキたちはどうしたんだい?今日は一日中、君と訓練するって聞いてたんだけど・・・」
れお「カズキっちがぶっ倒れたんで、急遽、中止になったっす。
マッチはちょうど、カズキっちの様子を見に行ってるっすよ。」
さらりと、特に気にしている様子もなく、れおは言う。
対照的に裕樹やシュンらは心配そうな表情を見せた。
シュン「『ぶっ倒れた』って・・・大丈夫なのか?」
れお「大丈夫っすよ♪ ・・・・・・きっと」
口調はあくまで軽い。
が、目を逸らしながら、かつ小声で、最後に言葉が付け加えられたのを、シュンたちは聞き逃さなかった。
「本当に大丈夫だろうか」と、心の中で不安になる。
れお「それより、そろそろ本題に入るっすよ?」
しかし、ここでれおが真剣な表情になり、話を変えてきたので、
とりあえずカズキのことはれおの言葉を信じておくことにする。
新一「では、聞かせてもらいたい。君の話したいこととは何なのか。」
れお「了解っす。 ―――と、その前に・・・」
れおの視線が一同から離れると同時に、無機質な音が、モニターの向こうから聞こえ始めた。
キーボードを打つ音のようだ。
れおが何か操作しているらしい。
れお「よっと」
間もなく、彼女は操作を終える。
それと同時に、モニターの映像が切り替わった。
モニター映像が二つに分けられた。
左側の画面には先ほどのように、こちらに視線を向ける、れおの姿が。
そして右側の画面には―――
???「ホッホッホッ」
声を上げて笑っている―――老人の姿。
頭髪の無いスッキリとした頭、反対に顎に生えている白髭はかなり長い。
顔はシワだらけで、笑っていることもあってか、とにかく表情が緩い。
そしてかなり細身だ。
モニターに映っているのは老人の上半身のみであるが、それだけでも十分に分かる。
細身で―――軽く触れただけで全身が粉々になるのではないか、というくらい細々しくて―――
なんとも弱々しい。
だが、その弱々しい体と、緩々な表情をしている一方で、こちらを見るその視線は力強かった。
見覚えのないその老人に、司令室にいるメンバーのほとんどが顔をしかめる。
しかしそんな中、新一だけは、その老人を見てハッとする。
新一「あなたは・・・」
???「ふむ、突然すまんのぉ。長官代理どの。」
老人は新一に視線を向けてそう言った後、司令室のメンバーを一通り見渡して―――
???「他の諸君は初めましてじゃな。『ゲンゾウ・ゲンジ』じゃ。
DIMのリーダーをやっとるよ。ま、よろしくのぉ。」
そう、自己紹介したのだった。
39
:
璃九
:2009/02/25(水) 11:13:29 HOST:dhcp144-152.ztv.ne.jp
DIMという組織について、極東支部のメンバーは、全く聞き覚えがないわけではない。
モニターの左半分に映る少女―――『駒野れお』が所属する組織。
ここにいるメンバーは、彼女からその組織について、簡単に説明を受けている。
軍と繋がりを持ちつつ、独自に動く組織。
カズキやれおのようなDRIVERが数名所属しているとのことだ。
尤も、それ以上の詳細な情報は、ここにいるメンバーは知らない。
ただ二人の例外を除いては。
裕樹「DIMのリーダー・・・新一さん、あの人を知っているんですか?」
新一とゲンゾウの反応から、二人の間に面識があるだろうことは明白だった。
新一「あぁ。実はれお君がこの支部に来た直後に、ゲンゾウさんから僕に直接連絡があってね。
DIMのことと、彼女をこちらに預ける旨を、その時に聞いたんだ。」
「なるほど」と裕樹たちは納得する。
新一「本当なら、君達にその話もしておくべきだったんだが・・・ここのところ戦闘が続いていたし、
何よりDIMに所属しているれお君が、この支部に来てすぐにここから離れてしまったしね。
DIMに関する話は、彼女がいた方が円滑に進むと思っていたんだ。」
れお「いや〜、申し訳ないっす。同じDRIVERとしては、カズキっちの力がどーしても知りたかったっすから。」
苦笑しつつ、れおが言う。
れお「でもまぁ・・・今回はそーゆーことっすよ、長官代理さん。」
新一「え?」
れお「DIMの話―――れおれお達のことを、これから改めて説明しようと思ってるんすよ。
いい機会っすし、れおれお達のリーダーも交えてっす。」
そこでれおは、再び真剣な表情になり、司令室の全員を見渡した。
れお「ここで戦っている皆には、特に聞いて欲しいっす。」
これまで彼女が見せたことのない真摯な眼差しが、司令室のメンバーに向けられた。
レイド(DIMか・・・)
司令室の壁に背を預けるようにして立つレイドは、ゲンゾウがモニターに映ってから、終始探るような視線を向けていた。
無論、誰にも悟られることなく。
DIMの詳細な情報を知っている二人の人物。
それが新一と―――レイドだった。
レイド(こっちでもそれなりに情報は掴んでいるが・・・リーダーが直々に話してくれるってんなら、丁度良い。
情報の信憑性を確かめるって意味でも、大人しく聞いておくとするか。
それに―――他に聞いておきたいこともあるしな。)
そして間もなく、ゲンゾウは話を始めるべく、口を開いた。
ゲンゾウ「我々は表向きには戦災孤児の保護、及び彼らの教育と、養護施設への引き渡しを行っておる。
というよりのぉ、DIMは本来、このためにワシが結成した組織だったんじゃ。
十二年前―――ちょうど、あの戦争が勃発した直後にの。」
REI「十二年前の戦争・・・それは―――」
シュウヤ「『ガウルザガンタ戦争』―――のことですか?」
シュウヤの言葉に、ゲンゾウが頷く。
今から十二年前、現在は『ガウルザガンタ』と呼ばれる国で、戦争が勃発した。
かつて、それぞれ『ソニアス』と『ジャグヴィーン』という名で呼ばれていた二つの島国、
その両国の間で起こった戦争は、一年で終結したものの、互いに深刻な傷を残すことになった。
終結後、その二つの島国は、軍の介入により統合。
一つとなったその国は、『ガウルザガンタ』という新たな名前で呼ばれるようになった。
これが『ガウルザガンタ戦争』である。
ゲンゾウ「うむ。戦争勃発後も戦争終結後も、ワシらは変わらず、孤児たちを保護するために働いておった。
戦争に介入した連合軍も、その時からワシらに力を貸してくれてのぉ。
今、ワシらが軍と繋がっているのは、あの時のことがあるからじゃな。」
れお「ま、タダで力を貸してくれてるわけじゃないっすけどね。
連合への見返りに、こっちは情報屋としてあらゆる情報を収集し、連合に伝えてるわけっす。」
ゲンゾウ「その点に関しては、お前さんの情報収集能力に感謝しとるよ。ホッホッホ。」
緩い顔でゲンゾウが笑う。
しかし、そんな彼の表情は、すぐに真剣なものへと変わった。
ゲンゾウ「しかしじゃ・・・戦争終結後のある時期から、ワシらDIMは、別の目的のために動くことになった。」
シュン「別の目的・・・」
ゲンゾウ「そう、それが『GUARDIAN』。そして―――」
モニターに映るゲンゾウが、この時、一瞬だけ―――苦々しい表情を浮かべた。
ゲンゾウ「ワシらの敵、これまでに幾度か戦ってきた相手―――『LUST』じゃ。」
40
:
璃九
:2009/02/25(水) 11:14:28 HOST:dhcp144-152.ztv.ne.jp
LUST―――
その言葉を口にした瞬間のゲンゾウの表情からは、彼が『それ』に対して強い感情を抱いていることを安易に想像させた。
それも―――『負の感情』を。
なつき「『LUST』っつったら―――」
と、その言葉を確認するように、なつきが言う。
なつき「前に、風上達が戦ったって言う連中のことか。」
れお「そっすよ。」
そこで、カチカチとキーボードを打つ音が聞こえたかと思うと、
れおの映る左側の画面に、二つの写真が映し出された。
青い鎧を纏った機体と、奇妙で、まるで生物であるかのような機体―――
れお「『ウィンド・ジャベリン』と『シグマ・ヴォルト』。
LUSTの所属する二人の人物、アール、そしてバッシュ―――この二人のGUARDIANっす。」
シュン「この機体は・・・!?」
『それ』を初めて見るメンバーにとって、この写真は驚くべきものだった。
写真の片方―――青い鎧を纏ったGUARDIAN『ウィンド・ジャベリン』。
なにせそれは、若干の違いこそあれど、カズキの『ウィンド・メガホーン』そのものだったからだ。
れお「まぁ、れおれおも初めて見た時は驚いたっすけどねぇ。
似た形状の機体が、他にもいるだなんて思ってなかったっすから。」
なつき「でも、関係ないんだろ。」
と、なつきが口を開く。
なつき「似てようと何だろうと、そいつが敵であることに変わりはないんだろ?
だったら、それでいいじゃねーか。」
れお「そーゆーことっす。この機体が何だろうと、これの搭乗者が何者だろうと、
LUSTにいる以上、れおれお達の敵っす。れおれお達にとっては、戦うべき相手なんすよ。」
なつきの意見に、れおが同調した。
敵は敵―――そう、彼女は割り切っている。
そこに一瞬、冷たさのようなものを感じてしまうが―――戦う者にとっては必要なことなのだろう。
れお「でも・・・戦うべきは―――本当に戦うべき相手は、アールとバッシュじゃあないんすよ。」
再び短くキーボードを打つ音。
そしてモニターに映る二枚の写真が、次の瞬間には別の写真に変わっていた。
今度の写真は、GUARDIANではない。
人だ。二枚の写真に、それぞれ一人ずつ。
画像が荒くて、細部まではハッキリと見ることが出来ないが。
れお「この二人が・・・LUSTのトップ―――」
れおの声が震える。
写真に隠れて、表情は見えないが―――
先ほどのゲンゾウのように、彼女もまた、何らかの強い感情を抱いているのだろう。
写真に写る、この二人に―――
れお「ラヴァー、そしてティスっす。」
41
:
璃九
:2009/02/25(水) 11:15:25 HOST:dhcp144-152.ztv.ne.jp
写真に写る二人の人物は、共に黒いコートを身に纏っていた。
画像の荒さもあり、ハッキリとした体格は分からない。
加えて、片方の写真に写る人物は、フードを被っているいるため、顔つきすら分からない状態だ。
一方、もう片方の写真に写る人物は、フードに手をかけてはいるが、被ってはいない。
画像は荒いものの、何とか、その顔つきを見ることが出来る。
―――女性だ。
薄紫色の長髪に、深い青色の瞳。
写真の中で、冷たい微笑みを浮かべている。
れお「確認出来てるっすか?」
れおが一同に尋ねる。
れお「マトモな写真って言えば、これぐらいしかなくて・・・申し訳ないっすけど、我慢してくださいっす。」
モニターに映る写真の片方―――フードを被り、顔つきの分からない人物の写真が、モニターに大きく表示された。
れお「こっちがラヴァー。LUSTのリーダーっす。
・・・って言っても、これじゃ何にも分かんないっすね。」
と、モニターの向こうで、れおがため息をついた。
れお「でも残念ながら、顔が写ってる写真は一枚もないっすよ。
というか、ラヴァー達が写ってる写真自体、ほとんど無いっす。
・・・加えて言えば、れおれお達は一度として、彼女の素顔を見たことがないんすよ。」
シュウヤ「素顔を見たことが無い?君達は、何度か交戦しているんじゃないのか?」
れお「してるっすよ。してる、けど―――」
声音が低くなる。言葉が一瞬、途切れた。
まるで、何かを押さえつけるかのように。
れお「それでも、あのフードの下を見たことは、一度もないっす。
ラヴァー自身が、素顔を晒すことは無かったっすし、
正体を暴くために、れおれおが挑みかかったこともあったっすけど・・・
まるで相手にならなかったっす。」
声が今まで以上に震えていた。
悔しさが、彼女の声に溢れている。
そこからしばらくの間、れおは何も喋ろうとしなかった。
・・・が、短い沈黙の後、ふいに画面の写真が切り替わった。
ラヴァーではない、もう一人の人物が写る写真―――
れお「彼女がティスっす。」
元通りになったれおの声が、写真に写る女性を説明する。
れお「さっきLUSTのリーダーはラヴァーって言ったっすけど・・・
LUSTの実質的なリーダーは、おそらく彼女だと、れおれお達は考えてるっす。」
柳「実質的なリーダー・・・?」
れお「そうっす。どうやらLUSTの行動指針は、ほぼ彼女が一人で決めているみたいっすよ。
表はラヴァーに任せ、裏で色々と行動しているみたいっすね。
・・・だからって、決して弱いわけじゃない。彼女はDRIVERとしての能力も突出しているっす。
おそらく、それだけならラヴァーよりも上・・・」
それは、これまでに実際に戦ったことのある彼女だからこそ分かるのだろう。
れお「彼女についても、詳しい詳細は全く分かってないっす。
そういった面でも、全く侮れない―――何より警戒すべき相手だと言えるっす。」
そこで説明は終わったらしい。
画面からティスが写る写真が消え、モニターの左側には再び、れおの顔が映った。
42
:
璃九
:2009/02/25(水) 11:15:56 HOST:dhcp144-152.ztv.ne.jp
裕樹「あの・・・ゲンジさん。一つ、いいですか?」
と、ここで、モニター近くに立つ裕樹が、画面右側に映るゲンゾウに尋ねる。
ゲンゾウ「む、ゲンゾウでええよ。ゲンジじゃと、ちと固いからのぉ。
・・・それで、何かのぅ?」
裕樹「その・・・『LUST』の目的って、何なんでしょうか?」
それは、LUSTという言葉を聞いた時から―――
いや、実は以前から、気になっていたことだった。
裕樹「カズキの話によれば、カズキ達を狙っているみたいですし・・・
それ以前に一度、僕たちの戦いを観察していたこともあったようです。
それには、何か目的があるんですか?」
ゲンゾウ「あ〜・・・うむ。それなんじゃが―――」
困ったようにゲンゾウは顔をしかめた。
ゲンゾウ「実は全く分からんのじゃよ。何が目的で、何のために動いとるのか・・・」
裕樹「分からないって・・・」
ゲンゾウ「ワシが奴らの存在を知ったのは、十一年前―――要するに、ガウルザガンタ戦争が終結した直後のことじゃ。
その頃から何かを企んではいたみたいじゃが、あの時はLUSTと言ってもラヴァーとティスしかおらんかったみたいでの。
流石に、奴ら個人の能力がいくら高くとも、たった二人だけでは何も出来んかったんじゃろう。
奴らは別の組織に入り込み、構成員としてその組織の目的に協力しておったんじゃ。」
新一「LUSTとは違う組織、ですか?」
この情報は、どうやら新一も知らないらしい。
ゲンゾウの言葉に対し、彼は尋ねる。
ゲンゾウ「ま、その時はワシらが戦って、その組織を完全に潰したがね。
こう見えて、ワシも昔はDRIVERじゃったんじゃよ。
ラヴァーやティスとは、何度か交戦しておる。
完全に倒すまでには至らなかったがのぉ。」
「とにかく」、とゲンゾウは続ける。
ゲンゾウ「ワシらが組織を潰すと同時に、奴らは姿をくらませた。
結局、その時の戦いでは、ワシらは奴らから何も聞き出すことが出来なくての。
奴らが何かをしてくるであろうことは確かじゃったから、警戒しつつ、居場所をつきとめようと努力はしたんじゃが・・・
無駄じゃった。奴らが何処で何をしていたのか、全く分からんまま月日が流れ―――
そしてほんの二、三年前、れお達がDRIVERとして覚醒したのと同じ時期に、再び姿を現した。」
新一「そしてまた、何度か交戦し、現在に至るというわけですか。」
ゲンゾウ「うむ。その間も、奴らの目的が何であるのか、ハッキリとは分からなんだよ。
そもそも目的どころか、敵であるワシらをどう思っとるのかすら分からん。
何度か交戦したにも関わらず、本気で潰そうとまではして来なかったしのぉ。
かといって、全く捨て置く気もないみたいじゃし・・・
それに、奴らの内部事情もさっぱりじゃ。
誰が所属しておるのか、組織全体ではどれだけの力を持っておるのか・・・
いや、まったく―――申し訳ない。」
ゲンゾウは嘆息する。
本当に困っているようだ。頭を抱えている。
れお「ただ・・・一つだけ、分かっていることがあるっす。」
モニターの、ゲンゾウの隣に映るれおが、口を開いた。
れお「LUSTの活動は、最近になるにつれて活発になっているっす。
それは、奴らが目的のために、本格的に活動を始めたと考えて間違いないっす。
・・・きっと近い将来、れおれお達は奴らと本気で戦うことになる。
悔しいっすけど、今のれおれお達に、互角に渡り合える力は無い・・・だから―――!」
ただ真摯に、そして訴えるように、モニターに映る彼女は、司令室のメンバーに頭を下げた。
れお「どうか一緒に、戦って欲しいっす!
れおれお達も、出来る限り、皆の戦いに協力するっす!
身勝手なお願いかもしれないっすけど・・・でも―――!」
ゲンゾウ「ワシからも―――いや、本当はワシが最初に頼むべきことじゃ。
ワシらと共に戦ってほしい。諸君らが戦うべき敵が、他にも大勢おることは知っておる。
しかし、それでもワシらは、諸君らに頼るしかないんじゃ。
正しき『力』と『意志』を持つ諸君らに―――」
ゲンゾウもまた、れおと同じように頭を下げた。
切実な願い。それが聞き届けられるように―――
43
:
璃九
:2009/02/25(水) 11:16:35 HOST:dhcp144-152.ztv.ne.jp
新一「顔を上げてください。」
その言葉が発せられるまで、一時の間もなく、
そして新一は少しの迷いもなく、れおとゲンゾウに、言葉を返した。
新一「元より僕たちは、世界を守るために戦っています。
LUST―――彼らがその脅威になるというのなら、戦いを拒むつもりはありません。」
裕樹「それに―――」
新一の言葉に、裕樹が続く。
裕樹「カズキもマッチも―――そして君も、一緒に戦う仲間だ。
その仲間が狙われているのなら、黙って見過ごすわけにはいかない。」
裕樹の言葉に、他のメンバーも頷く。
『仲間』―――その言葉に胸が震える。
持つ能力(ちから)、戦う理由こそ違えど―――
彼らは仲間として、共に戦ってくれる。
なんと心強いことか。
れお「みんな―――」
頭を上げて、れおは司令室のメンバーを見渡す。
歓喜に溢れた表情を浮かべながら。
れお「ありがとうっす・・・!」
自然と、その言葉が発せられた。
ゲンゾウ「ありがたい。諸君らに頼んで正解じゃった。」
元の緩い表情でゲンゾウは笑う。
ゲンゾウ「無論、先ほどれおが言った通り、ワシらも出来うる限りの協力はさせてもらう。
必要なことがあれば、遠慮なく頼って欲しい。」
新一「それは―――こちらにとってもありがたい。今後とも、よろしくお願いします。」
新一の言葉に、ゲンゾウは満足気に頷きながら笑った。
そしてゲンゾウは、もう一度礼を言って、話を締めくくろうとする。
ゲンゾウ「さて、長話もここいらで終わりにしよう。最後に何か、聞きたいことはあるかね。」
一人一人を確認するように、ゲンゾウは司令室を見渡す。
が、何か発言しようとする者はいなさそうだ。
ゲンゾウ「ふむ。ならばお開きにしようかの。では、引き続き、れおのことを―――」
「おっと―――」
と、話の全てが終わろうとしたその時―――
司令室の端にいた『彼』が、手を挙げて口を開いた。
レイド「誰も聞くことがないってんなら・・・最後に、一ついいかい?」
―――レイドだ。
微笑を浮かべながら、モニターに映るゲンゾウを真っ直ぐに見据えている。
ゲンゾウ「ほ、もちろんじゃ。何かね?」
緩い表情を浮かべるゲンゾウに、レイドは尋ねる。
話の全てを聞いた上で―――
また、事前に得ていた情報をまとめた上で―――
彼が最も興味を抱いたことを。
レイド「『GUARDIAN』ってのは・・・一体、何なんだ?」
■つづく■
44
:
シシン
:2009/07/03(金) 00:12:20 HOST:p6062-ipad04okidate.aomori.ocn.ne.jp
=幻想編=
=あらすじ=
ソルグラヴィオンという新たなる力を手に入れグランナイツの絆も深まるのであった
ゼラバイアの戦闘が終わったとき、ゼネラルが現れた。
彼が現れた理由は「君達との最後の戦いをつける。砂漠の遺跡で待っている」
と言い残し飛び去るのである。
「砂漠の遺跡」という謎の言葉で悩んでいたがレイナはその場所を知っていた。
その場所とはゼネラルとレイナの故郷である・・・・
=過ちが許される時 1=
-極東支部基地-
ユウト「本当にその場所にゼネラルがいるというのか?」
レイナ「"砂漠の遺跡"。あの子がいるのは私の故郷以外にありえません。」
レイナはそう返答する。
シュン「でも、レイナさん達の故郷て森があるんだよね。
砂漠に遺跡なんてそんなのあったかな・・・」
シュンが疑問しているところレイナは説明する
レイナ「"砂漠の遺跡"というのは昔誰が造ったのかは解りませんが、
土で固められた建物があって触ってみたところ砂の様に軟らかいから、
私たちはそれを"砂漠の遺跡"と呼んでいるのです。」
エイジ「でも、なんだってゼネラルの奴はそんな場所を選んだんだ?」
エイジの言う事はもっともだ。
ゼネラルとレイナの故郷は戦争で焼け野原にされた、彼にとっては忘れたくもなく辛く悲しい場所。
それをなぜ、そこに選んだのか解らなかった。
だけど・・・これだけは解っている
サラサ「彼がその場所を選んだのは私たちに最後の決着をつけるため」
九郎「ああっ、駄々っ子にげんこつの一発や二発殴って目を覚まさせないとな」
マリア「これ以上、彼に苦しい思いをさせないためにも・・・」
皆はゼネラルを止める為、何よりもレイナを悲しい思いをさせない為にも
それぞれの思いを秘めてゼネラルとレイナの故郷・・"砂漠の遺跡"へと向かうのである。
≪続く≫
45
:
璃九
:2009/07/07(火) 22:31:28 HOST:pca205.ztv.ne.jp
■神話編■
■壊れた銀の風 3■
光り輝く銀色の風
騎士の姿となり、ただ何かを護るために存在する
あぁ―――
なんと美しいのだろう
なんと凛々しいのだろう
私の『それ』とは全然違う
眩しくて
愛おしくて
狂おしくて
たまらない
あの銀色の風を初めて見た時の胸の高鳴りを、私は忘れない
「同じなんだ―――」
同じ形状(かたち)、そして同じ能力(ちから)―――
多少の違いこそあれど、私の『それ』と全く同じだ
なんて偶然なんだろう
ありえることではないだろうに
―――だけども、あの銀色の風は、
あの場所に、あの姿で、確かに存在していた
「―――ふふ・・・」
自然に―――
本当に自然に、笑みがこぼれた
今すぐにでも、あの銀色の風の下に駆け出してしまいたい
けれども―――
今は抑えなくては
私にはやるべきことがある
全ては、それが終わってからだ
―――そして・・・
今日がその一歩目―――
必ず成し遂げなければならない
ただ、組織のために
そして私と―――
何より、あの銀色の風に乗る『彼』のために―――
46
:
シシン
:2009/07/29(水) 21:58:38 HOST:p4033-ipad202okidate.aomori.ocn.ne.jp
=幻想編=
=過ちが許される時 2=
昔、誰かが書いたのか解らない詩があった。
―笑い続けていれば、いつか幸せになれると信じてきた―
―誰かのことを思えば、相手も自分を思ってくれると信じてきた―
―悲しかった思い出を置き去りにして―
―明日(あす)を見つめようと前を向く―
―甘えず、頼らず、たった一人で未来を切り開くために―
―その先にあるものは幸せかそれとも絶望か―
もっと力があったら助けることができた。
自分の無力さを呪った。
平和を奪った者を恨んだ。
そして・・・力を得た。
戦争を止める為の力。絶望を希望に変える力。
これなら、未来を創ることができるのかもしれない・・・
でも・・・邪魔をする者がいる。
それがあの人たちであった。
僕の理があるならあの人たちにも理がある。
だけど、譲るわけにはいかない。
人には選択しなければ決断しなければいけない刻(とき)がある。
僕の理である「敵である者を滅ぼす」事か、あの人たちの理「平和を護る」事なのか・・・
今、雌雄決する時が迫ってきた・・・
≪続く≫
47
:
璃九
:2009/08/04(火) 22:14:03 HOST:pc9253.ztv.ne.jp
■神話編■
■壊れた銀の風 4■
=横須賀基地 食堂=
時刻は正午過ぎ。もう昼飯時だ。
正直な話、カズキにはあまり食欲がなかったのだが・・・
「食べれるなら、少しでも何か食べておいた方がいい」とマッチが言うので、結局、彼もいっしょに昼食を取ることにした。
尤も、体中の汗を流すため、シャワーを浴びてからだったが。
れお「お?やっと起きたっすか。」
シャワーを浴びたカズキが、マッチと一緒に食堂に到着した時には、れおは既に食事を終えていた。
空いた食器を片づけつつ、こちらに座るようにとカズキ達に促す。
カズキ「あぁ・・・その、悪かったな。急に倒れたりして・・・」
そう言いながら、カズキとマッチはれおの対面に座る。
れお「そんなこと謝られても困るんすけど・・・というか、調子悪いなら悪いって、出発前に言えば良かったっすよ。」
カズキ「いや、出発前は何ともなかったんだ。本当に、急に気分が悪くなったというか・・・」
れお「ほうほう。つまり、『急性訓練は嫌だ病』が発病した、と」
カズキ「や、嫌だなんて言ってないだろ。 ・・・つーか、何だ、その微妙なネーミングの病気は。」
そのまましばらく、れおがボケてカズキが突っ込むというやりとりが続くのだが―――
マッチ「そういえば、れおはさっきまで何をやってたの?」
適当なところで二人の間に入り込んできたマッチの言葉が、それを中断させた。
れお「れおれおっすか?ちょっと、極東支部のみんなに連絡を取ってたっす。」
カズキ「連絡?何のために?」
れお「カズキっちや、マッチだけじゃなくて、
みんなにも、説明しといた方が良いと思ったんすよ。
『DIM』のこと、そして『LUST』のことを。」
今朝、極東支部から、ここ横須賀基地に来るまでの、わずかな時間の間―――
カズキとマッチの二人は、『DIM』と『LUST』についての詳しい説明を、れおから聞いていた。
極東支部にいるメンバーが、れおやゲンゾウから聞いた話と同じ内容を。
そこには、『一緒に戦ってほしい』という、れおの頼みもあった。
カズキもマッチも、それを拒みはしなかった。
れおは―――あの時、自分達を助けてくれたのだ。
アールとバッシュ、そう、LUSTに所属しているというあの二人のDRIVERとの戦いで、
命の危機にあった自分達を、彼女は助けてくれた。
だから―――今度は、自分達がれおを助ける番だ。
それが、二人の間にあった、共通の気持ち―――
同じ思いだった。
れお「で、改めて協力も要請してきたっす。幸い、みんなオッケーしてくれて、ホッとしたっすよ〜」
胸の辺りを押さえながら、れおは大きく息を吐き、安堵を体で表現する。
ハッキリ言って大げさだ。
が、ホッとしたというのは、本当のことなのだろう。
LUSTを倒すために、仲間が必要―――
今朝、彼女はカズキ達に、そんなことも言った。
そう―――だからこそ、彼女はカズキ達の所に、極東支部に来たのだ。
「かなり悩んだっすけど・・・でも、こうするしかないんすよね。」
彼女の言葉が、頭の中で思い出される。
「LUSTのことは、本当なら、れおれお達だけで解決したかった・・・いや、するべきだったっす。
けど、今のれおれお達だけじゃあ、奴らに敵わない・・・
だから、カズキっちの―――そして、みんなの力を借りたいっす。」
真剣な彼女の表情を見たのは、この時が初めてだったかもしれない。
それだけ、協力を得たいという彼女の思いが、必死だったのだろう。
・・・だから彼女は、今、ここでこんなにも安堵しているのだ。
無事に協力を取り付けたのだから。
その気持ちは、分からないでもない。
けれども、カズキは今回のことを、特別心配してはいなかった。
みんなならば、必ずれおを助けてくれる。れおに協力してくれる。
そう信じていた。
これまで、彼らが仲間のために戦ったことは、少なくない。
仲間のためなら、彼らは戦える。
そんな彼らだから、れおの申し出を拒んだりはしないだろう。
カズキだけじゃない。
みんなだって、既にれおのことを仲間だと思っているはずだから。
48
:
璃九
:2009/08/04(火) 22:14:36 HOST:pc9253.ztv.ne.jp
「―――だって、そうだろう?」
カズキ「ッ・・・!?」
ふいに―――
それは、カズキの頭を襲った。
「―――俺たち、『仲間』なんだからさ・・・」
激しい痛みが頭に広がる
その痛みが―――
頭の中で、言葉に変化していく
「―――なぁ、そうだよな?」
誰かの声
聞いたことがある
誰の声か覚えている
だけど、どうして―――
思い出したくもないのに
どうして今、頭に響く
どうして今、『おれ』を苦しめる
「なぁ―――!?」
カズキ「黙れ・・・!」
マッチ「カズキ?」
その瞬間、頭に広がる声も痛みも、まるで初めから無かったかのように消え去っていた。
ハッとして隣を見れば、マッチが心配そうにこちらを見ている。
マッチ「どうしたの?何か言った?」
カズキ「あ、いや―――」
れお「まだ体調、良くないみたいっすね。」
対面に座るれおへと視線を移す。
顔をしかめながら、彼女はこちらを見ていた。
れお「もうちょっと休んでた方がいいんじゃないっすか?」
カズキ「だ、大丈夫!何でもないんだ!ホントに!」
二人に心配をかけぬようにと、カズキは無理やり、大げさに笑ってみせた。
それでもマッチは変わらず心配そうな表情を浮かべており、れおは目を細めてカズキを見ていたが―――
れお「・・・ま、そう言うんなら信じるっすけど、またぶっ倒れたりしないでくださいっすよ。」
「あぁ」と言って、カズキは頷く。
それを確認し、れおは今後の予定を話すことにした。
れお「とりあえず、今日はもう昼を回ってるっすから、訓練は明日にするとしましょうっす。
・・・で、これからなんすけど―――カズキっち」
一息間をおいて、れおは言葉を続けた。
れお「動けるってんなら、ちょいと街の方にでも行ってみたらどうっすか?」
カズキ「街・・・?」
れおの言う『街』とは、この基地の近くにある市街地のことだろう。
しかし、なぜそこに行くことを勧めているのか―――
れお「なに、気分転換っすよ。マッチも一緒に行って、二人でデートでも楽しんでくればいいっす。」
マッチ「で、デート?」
その妙な提案に、カズキとマッチは同じように戸惑い、少し顔を赤らめた。
そんな二人の様子を、れおはニヤニヤと見つめている。
れお「そ、デートっす。こんな時でもなければ、出来ないと思うっすから。」
カズキ「や、待て。わけが分からないぞ。そりゃあ・・・それは嬉しいし、
確かにこんな時じゃなきゃ出来ないだろうけど・・・
でも、なんで、いきなり、そんな・・・」
れお「だから言ったじゃないっすか。気分転換だって。」
続けて、れおはそれを提案した理由を言う。
れお「戦う者には休息が必要っすよ。でも、身体だけを休めればいいってもんじゃないっす。
何より大切なのは心。
いくら身体が丈夫だったとしても、『ここ』がボロボロなんじゃ、戦い続けることなんて不可能っす。」
片手で自身の胸を押さえつけながら、れおは言う。
心の休息。
確かに―――カズキとマッチ―――二人にとっては、互いに一緒にいる時間が、何より心が癒される時間だ。
どんな事をしていても、二人一緒にいれば―――それだけで心が満たされる。
そして、れおはそのことを分かっている。
それ故の提案だ。
49
:
璃九
:2009/08/04(火) 22:15:13 HOST:pc9253.ztv.ne.jp
れお「だからまぁ、休める時はゆっくり休むことにしましょうっす。
れおれおも、その間に調べておきたいことがあるっすから。」
カズキ「なんだよ、調べたいことって・・・?」
気になって、カズキは率直に尋ねる。
れお「ん〜・・・色々とあるっすけど・・・差し当たっては、戦うべき敵の情報っすね。
れおれおはこれまで、LUSTと戦うことだけを考えてきたっす。
・・・ハッキリ言って、LUST以外は二の次だったわけっすよ。でも―――」
そこで―――
れおの真っ直ぐな眼差しが、カズキとマッチに向けられた。
笑顔と調子の良い声こそ変わりはしないものの、
ただその眼差しだけは、真剣味を帯びていた。
れお「これからは、皆と一緒に行動するわけっすから。
れおれおは、自分の敵だけじゃない―――『皆の敵』とも戦わなければならない。
・・・だから、まずは知らないといけないんすよ。皆が戦う敵のことを。」
戦いにおいて、最も重要なこと―――
駒野れおにとって、それは『知る』ことに他ならない。
彼女にとって『戦い』とは『知る』ことであり、『知る』ことは『戦い』と同義である。
敵を、味方を、何より自分を知る者は、いかなる戦いであろうとも、負けることはない。
故に彼女は―――
戦いの前に
戦いの最中に
戦いの後に
見て、聞いて、感じて―――
あらゆる情報を知ろうとする。
そうやって、彼女はこれまで戦い抜いてきた。
―――いや・・・
そうしなければ、彼女は『戦えなかった』のだ―――
れお「とりあえず、れおれおは資料でも漁ってみるっすよん♪
・・・まぁ、前の戦闘で基地が半壊しちゃったっすから、どの程度調べられるか分からないっすけど。」
それだけが唯一、彼女の頭を抱えさせた。
この基地の特徴は、広大な模擬戦闘場のみではない。
様々な場所から集められた膨大な数の資料が、この基地のデータベースに、記録として残されているのである。
今回も、わざわざ修復中のこの基地を訓練場として選んだのは、この場所に記録された情報量ゆえである。
基地が半壊したとはいえ、幸い、記録されたデータは残っていると聞いた。
が、基地の設備が不完全である以上、どこまでデータを引き出せるか・・・
少々、骨の折れる作業になりそうである。
カズキ「俺に―――」
と、そんなれおの心中を察してか・・・
カズキ「俺達に手伝えることがあったら、何でも言ってくれ。」
マッチ「うん!私達にだって、無関係なことじゃないもの。
出来る限りの協力はするよ。」
手を貸すという、二人の言葉。
内心、それを嬉しく思いながらも、れおは遠慮する。
人数がいるからと言って、必ずしも作業がはかどるとは限らない。
それに・・・他にもう一つ、理由があった。
れお「大丈夫っす♪ れおれお一人で十分っすよ!
・・・大体、一緒にいられちゃあ、傍らでやるネタ探しの邪魔にな―――あいたぁっ!?」
頭の中で火花が弾けるような鋭い感覚―――
どうやら握りしめられた拳が、彼女の脳天に直撃したらしい。
いわゆる『ゲンコツ』というやつだ。
カズキ「―――お前なぁ・・・」
言うまでもなく、それはカズキの―――
ため息交じりの声で呟く、彼の拳だった。
初めてれおと出会って、まだ日も浅いカズキだが・・・
彼は知っている。
『駒野れお』という少女の、悪質と言ってもいい一面を。
50
:
璃九
:2009/08/04(火) 22:16:14 HOST:pc9253.ztv.ne.jp
れおは卓越した戦闘技術を持っている。
前回の訓練でカズキは感じた。
彼女の実力は、明らかにカズキ以上。
れお本人が言うには、昔、戦い方を無理やり体に叩き込まれたらしい。
・・・が、彼女は続けて、こうも言った。
「こんなもの、おまけみたいなもんっすけどねぇ〜」
曰く、彼女は本来、戦闘を主とする人間ではない。
彼女の本分は、諜報戦―――
平たく言えば、情報収集、なのだと言う。
ありとあらゆるものを駆使して、ありとあらゆる情報を集める。
それが彼女の専門。
その能力は、一見、頼もしく思えるのだが―――
時に、彼女はその情報収集能力を、悪い方向に使う。
要するに、他人の深い情報―――
プライバシーだの、何だのと言った、決して他人には知られたくないような情報まで、彼女は徹底的に調べ上げて、記録する。
主に彼女が『ネタ』と言っているものだ。
れおは、その『ネタ』を使って、
他人の驚く顔を見て楽しんだり、脅して言う事を聞かせたり―――
とにかく、普段からは想像出来ない、悪質なことをする。
実際、カズキもちょっとした『ネタ』を見せられて、当然の如く驚愕した反応を彼女に見せたのだが、
その反応がいたく彼女のお気に召したらしく、以来、彼女はカズキのことを色々と調べ回っているらしい。
だから阻止せねば。
多少、暴力に訴えることになるかもしれないが(というか、もうなってるが)、
相手のやろうとしていることを考えれば、多少は許されるだろう。
れお「ん〜も〜!女の子に手をあげるなんて最低っすよ!?」
頭を擦りながら、れおはカズキに抗議する。
カズキ「最低なことをしてるのはどっちだ!」
れお「最低じゃないっすよ〜!これは、れおれおにとっての『心の休息』っす!」
カズキ「・・・はい?」
れお「そう・・・ネタを集めてカズキっちをイジり倒すことが!れおれおにとっての何よりの癒し―――」
カズキ「ふっざけんなぁあああああああ!!」
叫びながら放たれた二発目のゲンコツが、先ほどと同じ個所に炸裂した。
れお「のぉぉぉぉぉぉぉ!」
両手で頭を押さえながら絶叫する。
お陰で食堂中の視線を一気に浴びることになり、何とも気まずい空気がその場に流れた。
「すいません、すいません」と、周囲に頭を下げつつ、カズキは呆れた表情で、れおに向き直った。
51
:
璃九
:2009/08/04(火) 22:16:50 HOST:pc9253.ztv.ne.jp
カズキ「ったく・・・大体、人のネタなんて探して楽しいのか?
面白いネタなんて、俺にはないっての。」
あくまで自分は普通である、と言うカズキ。
しかし、れおはのそれに反論する。
痛みを堪えて、涙目になっているまま。
れお「いやいや♪ 楽しいからやってるんじゃないっすか♪
それに、れおれおから見れば、カズキっちはネタの宝庫っすよ?」
カズキ「宝庫って、お前なぁ・・・」
れお「や〜、だって事実っすから♪ 観察してて飽きない人間なんて、初めてっすよ〜。毎日が驚きの連続っす♪」
悪戯そうな笑みで、れおはそんな事を言う。
れお「最近だって、カズキっちのお家のこと調べてて、凄く驚いたんすから♪
いや、面白い家っすねぇ。カズキっちのトコは。」
カズキ「何で家のことにまで調査が及んでんだよ!?
・・・って、待て。ウチは普通のマンションだ!面白いことなんて何もないはずだぞ?」
れお「なぁ〜に、ボケたこと言っちゃってるんすか。『家』違いっすよ。
れおれおが言ってるのは、カズキっちのご家族のことっす♪」
「あぁ」と、自分の勘違いに気づかされたカズキは―――
しかし間もなく、正常な思考を取り戻した。
だって、おかしいだろう。
『家族』?
・・・いや―――
家がマンションだってこととか・・・
家のマンションがどこに建ってるのか、とか・・・
そんな、誰でもちょっと調べれば分かるような内容じゃない。
れおが、どの程度知っているのかは分からないが―――
あの得意気な顔を見れば、なんとなく分かる。
カズキ個人のことだけじゃなくて、身内のことまで、
結構、深い所まで調べられているんじゃないだろうか。
カズキ「お、お前―――」
だから―――
「なに調べてんだ!?」とか、
「どこまで調べたんだ!?」とか、
そもそも「どーやって調べたんだ!?」とか、
とにかく、先ほど以上の勢いで、突っ込もうとした。
したの、だが・・・
―――『クズ』がッ!!
カズキ「―――ッ!」
頭が痛い。
痛みがまた、言葉に変わっていく。
さっきとは違う―――
でも、さっきからずっと忘れられない言葉。
ずっと―――
ずっと『おれ』が聞き続けてきた言葉―――
れお「そ〜っすねぇ。例えば―――」
れおが言葉を続ける。
ただ、これまで通り、少しからかうだけのつもりで。
いつものように、カズキの驚く反応を見るためだけのつもりで。
彼女は言葉を続ける。
他人が聞いたとしても、何でもない言葉を。
けれども、カズキにとっては―――
どうしようもなく大きくて―――
これまで以上の痛みを伴う言葉を。
れお「カズキっちの『お父さん』のこととかねぇ。」
52
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:30:51 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
■壊れた銀の風5■
仮に“それ”を聞いたのが今日でなければ、
カズキは多少の苦痛を感じるだけで済んだだろう。
この日
あの夢を見て
あの声を聞いて
あの日々を思い出した彼にとって―――
“その言葉”程、自分を苦しめるものはなかった。
§
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――」
はじめはノイズで、その次は砂嵐。
聴覚と視覚が狂いに狂う。
おそらくそれは身体が起こす拒絶反応。
意識を無理やり強制終了(フェードアウト)させようとする内側からの力。
れおの言葉がかすれていく。
れおの表情が歪んでいく。
彼女がそうなっているのではなくて
ただ『おれ』が『おれ』をそうさせているのだ。
もう
何を言っているのかも分からない
何をしているのかも分からない
聞くな
見るな
意識を閉じて楽になれ
さっきは悪夢だったけれど
次はきっと楽しい夢を見れるさ
だから
おやすみ
おやすみ
おやすみ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「カズキ―――」
「ッ!」
落ちる意識を留める声は
世界で一番愛しい少女のもの
あぁ、そうだ―――
これ以上心配をかけさせるわけにはいかない
約束したじゃないか
変わるんだって―――
俺は
変わったんじゃないのか
だから
もう大丈夫
もう大丈夫だろう
前を見ろ
声を聞け
意識を落とすな/逃げるな
意識を落とすな/逃げるな
れお「―――・・・って、聞いてるんすか、カズキっち?」
カズキ「・・・あ、わ、悪ぃ。あんまり聞いてなかった・・・」
れお「もう! ここから一応、真面目な話に戻るんすから。俯いて黙秘権を行使しようたって、そーはいかないっすよん!」
ビシッと指を立てて言うれお。
カズキは呆れたような笑いを返しながら、頭の方で整理を始める。
53
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:32:03 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
意識が離れ始めて、どれだけ時間が経ったか。
自分にとっては無限にも等しい時間だった。
されど、そんな時間が流れたはずがない。
れおの様子を見るに、それほど長く話を続けていたわけではなさそうだから、
数秒か、長くて十数秒。
おそらくその程度。
ふと、指を立てて得意げに話すれおから、視線を真横にずらす。
隣に座る少女―――マッチは、心配そうにカズキを見つめていた。
気づいている。
俺の異変に。
気づいているからこそ、マッチは俺の名前を呼んだんだ。
きっと、対面のれおにすら聞こえない程、小さな声だったのだろう。
それでも俺にとっては、この上ない救いの声だった。
「大丈夫」
囁く。
今度は俺が。
マッチは無言で頷いた。
それでも―――その心配気な視線は変わらないまま。
それもそうか。
だってマッチは知っている。
さっき、れおが言った何気ない言葉が、俺にとって何を意味するのか、
全部、知っているんだ。
カズキ「で、真面目な話ってのは何だよ?
人ん家のプライバシーを侵害しといて、真面目もなにもないと思うぞ。」
れお「何を仰るカズキっち!正義の行いの前には、プライバシーなどあってないようなものっす!」
カズキ「お前のどこに“正義”の要素がある!? それ以前に、正義って言えば何でも許されると思うなよ!」
れお「おぉ!突っ込みのキレが戻ってきたっすねぇ♪
ふむ・・・じゃあ、調子が良くなってるうちに、ちゃちゃっと続きを話すことにするっすけど―――」
―――何故だろう。
その時、少しだけ背筋が寒くなった。
れお「軍人なんすよね、カズキっちの“お父さん”は?」
ノイズと砂嵐
大丈夫
耐えられる
それより―――
れお「や、軍人なのは“お父さん”だけじゃあないんすよね。
―――軍人家系ってやつっすか。」
口調はいつも通り。
声音もいつもと変わらない。
けれども―――
れおの目つきが、心なしか鋭い。
54
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:32:38 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
れお「まぁ、それだけなら珍しいコトじゃあないっすけどねぇ。
DIMは軍と関わりがあるわけっすから、そーゆーの、何度か見たことがあるっすよ。
・・・で、本題はここからで―――」
一拍置いて。
れおが続ける。
れお「カズキっちのお父さん―――『風上 門鷹(かぜうえ かどたか)』さん、だったっすよね。
門鷹さんは、確かザフトにいるんだとか。」
カズキ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
れお「『何故ザフトにいるのか?』―――なんて疑問はあるっすけど、それをカズキっちに聞いても仕方ないわけで―――」
と、ここでれおは、ぐいと机に身を乗り出して、
顔を近付けてくる。
れお「だから、カズキっちに答えられる質問をしようかと。
・・・カズキっち―――カズキっちは『なんでここにいる』んすか?」
カズキ「は・・・?」
れお「『軍人家系』だっていうのなら、カズキっちもいずれ軍人さんになるんじゃないんすか?
そりゃ、今でこそ、こうして軍にいるわけっすけど・・・でも、カズキっちの扱いは、あくまで民間協力者っす。
そもそもカズキっちは『DRIVER』になるまで、軍と関わらない、普通の生活をしてたらしいじゃないっすか。
軍人家系だっていうなら、それこそ―――」
れおの視線が、隣のマッチに移る。
マッチ「・・・・・・」
れお「マッチのように、現役軍人の親御さんに付いて、勉強や訓練をするもんだと思うっす。
少なくとも、れおれおが見て来た『軍人家系』ってのは、そーゆーもんだったっすけど・・・」
カズキ「・・・あぁ、それなら問題ないよ。俺は軍人には“絶対”にならないから。」
自然と語気が強まる。
「ふむ」と頷きながら、れおは近付けていた顔を引っ込める。
れお「それは・・・“お兄さん”がいるから―――
“お兄さん”が『風上』の長男で、跡を継ぐことが決まっているから、
自分は軍人になる必要が無い、ってことっすか。」
ここで“お兄さん”ときたか。
れおはさっき「家族のことを調べた」と言っていたから、
兄が軍人であることを知っていても、おかしくはないか。
カズキ「・・・兄貴は関係ない。“絶対”にならないってのは、俺がなりたくないと思っているからだ。
家系だとか、跡を継ぐだとか、そんなのに興味ないし―――大体、俺はもう『何になりたいか』は決まっている。
それと―――」
れお「それと?」
カズキ「兄貴は軍人ではあるけど、家系の跡継ぎなんて絶対にしない人間だ。
昔から、何かに縛られ続けるのが嫌いな性分だから。
跡継ぎなんて責任の重いことを、家に縛られるようなことを、兄貴がするはずがない。」
それこそ、軍人をやっているのが不思議な程に。
れお「なら―――」
カズキ「だから、親父の傍らには“姉さん”がいるんだ。」
れおのことだ。
“姉さん”も軍人であることや、ザフトに所属していることも、とっくに調べているだろう。
だからもう、その前提で話を進めさせてもらおう。
カズキ「姉さんは、親父の眼の届く所で、軍人として務めている。
兄貴と違って、ちゃんと命令に従いながらな。
・・・跡を継ぐとしたら、それは俺の“姉さん”だよ。」
―――いや、正確には『跡を継がされるのは』、か。
れお「ふむぅ・・・なるほどねぇ〜」
感心したように、れおは言う。
いつの間にか手には『手帳』を持っており、そこにペンを走らせている。
カズキ「―――って、何で俺は、こんなことペラペラ喋ってるんだろうな・・・」
知らず、ため息が出た。
話している最中は『毒を食らわば皿まで』くらいの勢いで、話し続けたが、
こうして休止状態に入り、冷静に考えてみると―――どうも、自分のやったことに後悔しか残らない。
れお「いやいや〜、中々、中身の濃い会話だったっすよ〜
新たな収穫もありましたし♪」
カズキ「ひたすらプライバシーをもぎ取られていたわけだな、俺は・・・」
しかも、自分のことだけじゃない。
・・・まぁ、ペラペラ喋ってしまったのは自分自身なのだけれど。
こんな所、姉さんに見られでもしたら、蹴り殺されてもおかしくはなさそうだ。
れお「ふっふ〜ん♪ ・・・さて、カズキっち、最後にもう一つだけ聞かせて欲しいことがあるっす。」
手帳とペンを机に置いて、
れおは再び、真っ直ぐにこちらを見つめてくる向き直った。
55
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:33:51 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
れお「今、連合とザフトの関係が芳しくないことは、カズキっちも分かっていると思うっす。」
カズキ「あぁ・・・」
先のユニウスセブン落下事件。
これが引き金となり、現在、連合とザフトの関係は、二年前のユニウス条約締結以前のように―――
あるいはそれ以上に悪化している。
・・・無論、知っている。
そもそもユニウスセブンが落下したあの日、既に俺はDRIVERとして“ここ”にいたんだ。
れお「れおれおはDIMの一員として、連合に協力している身・・・
つまり、必要ならば、れおれお達は連合とザフトの戦いに参加しなければならないっす。
『連合側の人間として』ね。
そしてそれは―――」
れおの視線が、再びマッチに向けられる。
それだけでマッチは、れおの言わんとしていることを理解したようだ。
マッチ「・・・そうだね。私は正真正銘、連合軍に所属する兵士だもの。
有事の際には、連合軍の一兵士として、ザフトと戦います。」
ハッキリとそう言い切りながらも、マッチはどこか戸惑っていた。
それはきっと―――
隣の俺を気にしてのことだろう。
―――なるほど
そういうことか。
ここまでの質問と、マッチの態度で、理解した。
つまり、れおが俺に聞きたいことってのは―――
れお「―――カズキっちは・・・どうするっすか?」
カズキ「・・・・・・」
れお「もしこのままの状態が続けば、
カズキっちは―――“お父さん”たちと戦わなければならないんすよ?」
血の繋がった家族と敵対している
組織単位で見れば、俺と親父たちの関係はそうなるのだろう
それは―――
そうなることは―――
とっくに気づいていた
それでもこれまで、俺自身も触れずにおいてきた
俺の“事情”を知っているマッチだって
俺を気遣ってか、触れようとしなかった
気づいていたはずなのに
でも、だからこそだろうか
誰も触れなかったから
れおはここで、あえてそのことを聞いてきた。
LUSTと戦うことを決めた、この日だから
逃げ出さずに、戦うべき相手と戦おうと、俺が決めたこの日だから
きっと俺の覚悟を確認するために聞いてきたんだろう。
けれど―――
気遣いはいらない。
仮に俺がここで「戦えない」と言ったら、
あるいは「戦う」と言うことに戸惑いでもしようものなら、
きっとれおは、何らかのフォローを入れてくれるつもりだったんだろうけれど―――
“このこと”に関しては何も心配しなくていい
触れないでいたとはいえ
俺だって気づいていた
気づいていたからこそ―――
俺は“ここ”にいるんだ
56
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:34:23 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
カズキ「大丈夫だ」
大した時間も置かず
戸惑うこともなく
れおの問いかけにハッキリと答える。
カズキ「戦わなければならないなら、俺は戦う」
れお「・・・父親でも?」
カズキ「“父親だから”だ」
果たして、れおは首を傾げた。
言葉の意図を理解しかねているようだ。
でも、この場合はそれでいい。
理解してほしくもない。
「家族のことは家族で解決する」とか
「家族の間違いは家族で正す」とか
もし俺と同じ立場の人がいて
その人が家族思いの善い人ならば言いそうな、こんな理由―――
そんなんじゃない
そんなに綺麗な理由じゃない
ただ俺は親父を
『風上門鷹』を
そして
『風上朝治』を
「許せない」
たったそれだけの
それだけのくだらない理由なのだから―――
57
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:35:10 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
§
=横須賀基地 とある一室=
一時間ほど後―――
本来は兵士が寝泊まりするために用意されたはずの個室の一つを、れおは一人で占拠していた。
ここは、れおが基地の局員に頼んで(『ネタ』満載の手帳をチラつかせながら)用意してもらった、れお専用の部屋だ。
ベッド、机、クローゼットといった最低限の家具が揃っているだけで、かなり小ざっぱりしている。
が、今、部屋中には所狭しと、ファイリングされた様々な資料が並べられており、
まるでここが資料室なのではないかと、錯覚させられる程だ。
その中心で、れおは持参したノートパソコンを広げ始める。
―――調べなければならないことが増えた。
そのことに嘆息しながらも、一方で、今回のカズキとの会話で得た“情報”は大きいと、れおは感じていた。
パソコンが立ち上がると同時に、れおはケーブルを部屋の端末とパソコンに繋げる。
ここから基地のデータベースに直接侵入し、それを通して世界中の情報ネットワークに接続するつもりだ。
ケーブルが繋がると同時に、画面に現れる数字の羅列。
それが消えたかと思うと、画面がパスワードを要求してくる。
問題ない。既にパスワードは入手済みだ。
手動でそれを入力し、エンターキーを押すと、画面全体に「ACCESS」の文字が浮かび上がった。
―――さて、ここからだ。
軽やかにキーボードを叩いていく。
様々な情報源から集めたデータが、画面に文章や写真となって表示される。
それは、ここ数日の調査で、れおが得た情報に相違ない。
『風上一樹とその周囲に関するデータ』
しかし、やはりと言うべきか、
数日程度で得たこの情報は、大したものではなかったようだ。
先程のカズキとの会話で感じた、カズキの反応や言葉から察するに、
カズキ本人に開示した情報―――ここ数日の調査でれおが得たもの―――には不足、あるいは誤りがあったことは明白だった。
さらに調査を続け、正確な情報を得なければならない。
なぜならば―――
れお「風上一樹・・・GUARDIAN『ウィンド・メガホーン』・・・」
キーを打つ手を止める。
同時に、画面に二枚の写真が表示された。
一枚に写っているのは、巨大な白銀の騎士。
まぎれもなくカズキの『ウィンド・メガホーン』だ。
れお「そして―――」
もう一枚。
ウィンド・メガホーンの写真の隣には、
れお「GUARDIAN・・・名は―――」
写っているのは、れおが良く知る一体のGUARDIAN。
全身に黒い鎧を纏い、片手にひと振りの剣を持つ、そのGUARDIANは―――
『ウィンド・メガホーン』にあまりに酷似していた。
れお「『エンプレス』」
とはいえ、細かいフォルムや、色、
何よりその“GUARDIANが司る力”に違いがある。
けれど―――
同じだ
れお達がいつか打倒しなければならない敵と、
れお達がこれから共に戦っていく仲間の力(GUARDIAN)は、
きっと同じ系統のものだ。
それは本来ならばあり得ないことで、
驚くべきことで、
恐れるべきことで、
けれども、
現状を打破する手がかりになるはずのことだった。
ここにきて、辿りつかなければならなかった敵の正体に、辿りつける可能性が見えて来たのだ。
れお「なにも『ネタ』を探すためだけに情報収集してたわけじゃないんすよ、っと」
だから、風上一樹のことを
彼が関わったものを、調べ続ければ、何かが分かるかもしれない。
そのことに期待しながら、調査を始める。
今回は、初めに調べるべき“キーワード”が決まっていた。
58
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:36:16 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
§
「そういえば、カズキっち」
基地を出て近くの街に向かおうとしたカズキとマッチを見送りながら、
れおはふと、頭に浮かんだ疑問を訪ねる。
「お母さんの旧姓は何て言うんすか?」
名前だけならば、既に調査済みだ。
しかし、それ以外のことを、れおはほとんど調べていなかった。
調べても無意味だと判断したからだ。
なぜなら、彼の母親は、十二年前の“あの戦争”に、軍人として参加して、そのまま―――
だから今の質問は、本当に個人的な興味から出て来ただけの、
何の意図もない問いかけだった。
軍人家系に嫁いでくるくらいだから、
そもそも戦争に参加しているくらいだから、
“そちら”に関係した家柄だと思うが―――
「何だよ、唐突に・・・」
先程、散々家の事情を聞かれ、あるいは聞かされた後だからだろう。
カズキは、いつも以上に不審そうな表情を浮かべていた。
しかし―――
にも関わらず、大した抵抗も見せずに、それに答えようとしてくれた。
「あー・・・えっと、むぅ・・・」
「ん?どーしたっすか?」
「・・・いや、実はさ、今“向こう”の家とはほとんど関わりがなくって・・・
縁が切れてる、とまでは言わないけれど、それに近い状態なんだよ。」
「へぇ・・・」
「で、ここ数年、連絡なんて全然ないし・・・
結構、珍しい名字でさ。すぐには思い出せないんだよなぁ。」
そのまま思案すること、数十秒。
まさに基地の外に足を踏み出そうか、といったところで―――
「あぁ、そだ!思い出した。」
と、何気ない表情で、カズキは言葉を口にする。
「確か―――」
59
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:36:56 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
§
れお「・・・エラー?」
キーワードを入力し、検索をかけた段階で、
ディスプレイに表示されたのは、赤い「ERROR」の文字。
おかしい。
データベースへの接続も操作も、何も間違っていないはず。
しかし、何度繰り返しても、表示されるのは同じ文字だった。
れお「・・・・・・」
可能性として考えられるのは、
情報がデータベースに登録されていないか。
キーワードの文字自体が間違っているのか。
あるいは―――
れお「データが秘匿状態にある・・・?」
まさか。
確かに機関や組織といったものは、その存在が大きくなればなるほど、情報を秘匿したがるものだが。
そんなことをして何になる。
いや、そもそも連合のデータベースにそんなことが出来るのか。
れお「・・・きっと、範囲が狭かったからっすよね。」
この基地の膨大なデータベースを信頼して、
また、検索にかかる時間を最小限に抑えるため、
情報検索をかけたのはこの基地のデータのみに留まっていたが―――
よくよく考えれば、この基地は復旧状態だ。
とすれば、データが消失してしまったのかもしれない。
ならば多少時間はかかるが、検索範囲を広げるべきだ。
れお「大丈夫、時間はまだまだあるっすから。」
そう言って、れおはもう一度、キーワードの確認をするために、懐から手帳を取り出した。
びっしりと情報が書き込まれている手帳のページをめくり続け、
最後に書き込みをしたページに目を落とす。
白紙がまだ全体のほとんどを占めるページ。
ページには、大きく乱雑に書かれている文字(キーワード)が一つだけ。
―――では、再び情報収集といこう。
キーワードを入力してください:
【テンゼシ】
60
:
璃九
:2010/11/02(火) 22:37:36 HOST:27-54-124-54.flets.tribe.ne.jp
=???=
広大な草原。
背後には生い茂る木々。
前方を見渡せば、草原の向こうに砂浜―――そして無限に広がる海。
時折、柔らかい風が頬に触れる。
なんとも心地いい。
「いい天気ね」
雲一つない蒼々とした空を見上げて『彼女』はそう呟いた。
美しい自然に囲まれたこの無人島は『彼女』のお気に入りの場所だ。
暇を見つけては、よくこの場所に足を運んでいる。
今日もまた、彼女はいつもの場所に腰かけて、お気に入りの景色を眺めていた。
彼女の愛娘と一緒に―――
「ソラちゃん、見て。今日はまた、一段と海が綺麗よ」
優しい、澄んだ声音が響く。
それは『彼女』の愛娘に向けられた言葉。
「・・・ソラちゃん?」
されど、愛娘からの反応はない。
『彼女』は、自分の膝を枕にして、横になっている愛娘に問いかけた。
やはり反応はない。
そこで『彼女』は気づいた。
表情こそ見えないものの―――規則的に聞こえる呼吸音、体の揺れ・・・
「あらあら、眠っちゃったのね。」
でも、仕方ない。
こんなに心地いい場所なのだから。
―――と、彼女は心の中で思いながら微笑む。
調和された自然の世界。それがこの島。
この島において、人間という存在は、その調和を乱すだけのものかもしれない。
しかし―――少なくとも『彼女』という存在は、この島の自然を乱すどころか、
その調和に溶け込み、あまつさえ完全なものにしてさえいる。
それだけの気品が、優雅さが、清楚な気質が、彼女にはあった。
そんな『彼女』が―――『LUST』という組織のリーダーであり、その存在を危険視されている人物だとは、誰も思わないだろう。
―――ラヴァー
それが『彼女』。
黒いコートを纏った正体不明の人物。素顔を常にフードで隠し、決して晒そうとしない謎の女性。
しかし、今、この瞬間―――
この場所にいる彼女は、その素顔を白日の下に晒していた。
まず目を惹くのは、彼女の長髪。
腰まで伸びた髪の色は白。
しかし、そこからは決して老いを感じさせない。
『純白』とも言える混じり気のない白は、清らかでつやがあり、美しい。
対照的に、瞳の色は黒。
漆黒のように深く、しかし決して光を失わない瞳。
顔立ちも整っていて―――純粋な優しさを感じさせる。
黒いコートを着ているため、ハッキリとした体格までは分からないが・・・
顔つきだけで判断するならば、年齢は二十代半ば、といったところだ。
ただ、彼女が纏う雰囲気からは、見た目の年齢よりも随分と大人びいた印象を受ける。
「ふふ。今度は、アールたちも誘ってあげないとね。」
子どものような無邪気な微笑みを浮かべて、彼女は呟く。
ちょうど今頃、計画のために動き始めたであろう、愛しい仲間たちのことを思い浮かべながら―――
■つづく■
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板