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スーパーロボット大戦ロストセンチュリー 2nd〜折れた剣の先に〜
1
:
蒼ウサギ
:2007/08/01(水) 00:11:18 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
この作品は『スーパーロボット大戦ロストセンチュリー』の続きです。
『スーパーロボット大戦ロストセンチュリー序章編』『SRWロストセンチュリー・アナザー』
を経て作られているので、読む場合はまずはそちらからお願いします☆
これからも頑張っていきますので、協力してくれる方、読んでくださる方、どうぞよろしくお願いします!
728
:
藍三郎
:2013/10/05(土) 10:32:18 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ミステリオの仕込みビームサーベルをメーザーソードで受け、セレナはぼそりと呟く。
セレナ「……今回の一件の裏に、あんたみたいな元凶(ヤツ)がいる可能性は、
この世界に来る前に、大老師から聞いていたわ……
誰がそうなのかは、今の今まで分からなかったけどね……
でも、存在することは分かっていた。ならば万が一遭遇した時のため、対策を打っておく必要があった……
不滅の超常存在、それを殺し得る毒の刃を……」
ルシア「……?」
セレナ「その対策(やいば)も、ついこの間仕上がったばかりだけどね。
色々と偶然に助けられた感はあるけど……間に合って良かったわ」
スカーレットフィーニクスは、道を開けるように左へと流れる。
セレナ「……灯馬くん、私の“もう一つの依頼”……今こそ果たして頂戴」
その直後……赤い奔流が、空白部分を突き抜けた。
ルシア「!!」
ミステリオは、マントに風穴を開けられながらも、咄嗟に右に流れて回避する。
遅れて来た突風が、マントを揺らし、宙を舞う血の飛沫が機体に触れる。それだけで、コクピットにいる己の心臓が震える。
直感できた。アレは自分に、終わりをもたらすものであると。
破滅の使徒たる己と比べても、なお濃密なる狂気。
目の前にいたのは、人の形をした殺意そのものだった。
灯馬「君か? ボクに斬られたいって言うとんのは?」
刀と鞘、左右に広げた武器から、赤き濁流が迸る。
麟蛇皇・紅は二振りの血刀を掲げ、不滅の魔術師へと斬り込む。
729
:
蒼ウサギ
:2013/11/02(土) 22:03:09 HOST:i125-204-42-234.s10.a033.ap.plala.or.jp
ガロード「ティファ、もう少しここで我慢していてくれるか?」
その質問に、ティファは、コクンと頷いた。
ティファ「ガロードも戦うなら、私も一緒に」
ガロード「サテライトキャノンはもう撃てないかもしれないけど、オレ、加勢したいんだ!」
ティファ「大丈夫、ガロード。……月はいつもそこにあるから」
ティファが指差す方向には、確かに月が見えていた。
§
嵐で切り裂こうが、雷に焦がれようが、彼らの攻撃は留まる事を知らない。
ヴィナス(『窮鼠、猫を噛む』・・・といったところでしょうか・・・それにしても)
彼らの動きは、決して捨て身や自棄になったものには見えない。
むしろ、冴えわたっている。
ヴィナス「大した人ですよ、あなたは!」
斬りむすぶ悠騎のブレードゼファー・エクスに向かって言う。
悠騎「オレがか?」
ヴィナス「えぇ。あなたがやって来て、明確に士気が上がっています。
これも天性のカリスマって奴ですか?」
悠騎「けっ、そんな役回りが似合うのは、ウチの妹みたいなもんだぜ!」
ヴィナス「フッ、ご謙遜を」
確かに星倉由佳は、あの年齢にしてこの愚連隊のような組織を纏め上げている。
それは確かに指揮官としての実力以前に、彼女のカリスマ性によるものだろう。
しかし、悠騎はそれとは別のものをヴィナスは感じ取った。
ヴィナス「少々・・・いえ、かなり荒削りですが―――」
悠騎「バカにしてんのか!」
ヴィナス「失礼。……ですが、あなたには戦場でお仲間を鼓舞できるような、そんな不思議な要素がある。
世辞ではなく、これはカリスマ性のものですね」
悠騎「んなこと言っても、何も出ねぇぞ!」
再び、悠騎の一振りが障壁を突き抜け、ウラノスのボディを傷つける。
ヴィナス(しかし、彼のあの剣のみ、障壁を無視するかのように斬りつける……厄介ですね
ですが、まだ私の方に利がありますよ!)
障壁を突破されてもなお、ヴィナスには勝利の自信があった。
補って有り余るウラノスの性能。そしてそれを十分発揮できる操縦技術に人工改造した己の肉体。
その二つの要素を一つでも覆ることがない限り、自分への勝利は約束されている。
730
:
蒼ウサギ
:2013/11/02(土) 22:03:45 HOST:i125-204-42-234.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎(くっ、このままだとジリ貧だ!)
果敢に挑むも、その答えは誰もが出ている。
向こうは、時間が経ち、次元の壁さえ開けれれば、いつでもウラノスの能力で別の世界へ飛んでいける。
対し、こちらは弾丸やエネルギー。パイロットの体力さえも減るばかりだ。
―――現段階ではリミットⅡが限界よ。
レイリーの言葉が過ぎる。
リミットⅡの状態で決着を付けられるほど、悠騎は傲慢ではない。
悠騎(決めるなら今か!)
ヴィナス「!」
悠騎の何かしそうな気配を読み取ったのか、ヴィナスは一旦、距離をとる。
その瞬間、ブレードゼファー・エクスは急降下していた。
悠騎「悪いな、レイリー……」
ある程度降下したところで、静止。ゼファーブレードを高々に掲げる。
悠騎「リミットⅢ!」
瞬間、ゼファーブレードに搭載されているナックルゼファーとメテオゼファー、二つのDジェネレーターのフル稼働と共に、
ブレードゼファー・エクスそのもののDジェネレーターもフル稼働を始める。
悠騎「解放!」
機体そのものの装甲が嫌な音をたて始めながらも、
三つのジェネレーターが生み出す膨大なエネルギー量がゼファーブレードに集束してくる。
その圧倒的なエネルギー量に、機体が振り回されないよう、悠騎は制御に精一杯のようだ。
ヴィナス「っ! 何をするつもりかはわかりませんが、そう簡単にやらせはしませんよ!」
あの剣の脅威はもはや証明済み。
隙だらけの今が悠騎を倒すチャンスだと確信した。
キョウスケ「っ! やらせるか!」
キョウスケだけではなく、その場にいる全員が止めようと駆けだす。
しかし、その前に飛んできたものがあった。
ガロード「皆、どけぇぇぇ!」
友軍回線から聞こえてきた声の後、ツインサテライトキャノンの閃光が奔った。
この威力にはさすがのウラノスも思わず脚を止めてしまう。
悠騎「あいつに勝つために! いっけぇぇぇぇぇええええ!!」
雄叫びと共に、ゼファーブレードの極太の刀身が整っていき、ウラノスに向けて突き上げていった。
その剣先はどこまでも伸びていく。
ヴィナス「ぐぅぅぅぅ!!」
ウラノスは―――ヴィナスは、初めて防御を構えた。
ヴィナスの直感が思わず防御の姿勢をとったのだろう。
しかし、それでも凄まじい速度で伸びゆく剣の勢いは止まること知らない。
ヴィナス「おおぉぉぉぉぉっ!」
大気圏を抜ける寸前、二つのカラミティブレードでようやく捌いた。
ヴィナス「ハァハァ……」
戦闘で冷や汗をかいたのは、何時振りだろうか?
戦闘で畏怖を抱いたのは、何時振りだろうか?
ヴィナス「こ、これは……当て馬にしては、大きすぎますね…」
その一方で、悠騎の方はというと
悠騎「……ゼファーブレードにヒビか……マジでやるっていったら、あと一発ってところか」
ゼファーブレードの実剣部分の大きなヒビ。
今にも折れてしまいそうな愛剣に焦燥を隠せないものの、覚悟を決めつつあった。
731
:
藍三郎
:2013/11/15(金) 21:16:34 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
白豹「白家殺体功奧伝……身醒経!」
左右双方の爪に、陽の氣が凝縮される。
それを自身に、そしてゼドのヘラクレスパイソンへと突き刺し、氣を送り込む。
コクピットの中の白豹は、一切表情を崩さないが、これだけの奧伝の連続発動は、彼の気力を枯渇寸前まで消耗させていた。
ゼド「おおおおおおおおおおおっ!!!」
機体とパイロット、双方の力を限界まで酷使して、拳の連打を繰り出すゼド。
金色の弾幕が、ミステリオへと襲い掛かる。
しかし、演算者としての能力を持つルシアは、拳と拳の僅かな隙間を縫うようにして打撃をすり抜けて行く。
煌く一閃。裏から忍び寄るは必殺の爪。
ルシアは振り向くことなくビームサーベルを抜いた後のステッキを振り上げる。
黒点経の乗った爪は、五つに寸断されたステッキを黒く腐食させる。
だがそれも、ルシアの注意を僅かでも分散させるための布石。
ヘラクレスパイソンは、ミステリオの放った振り下ろしをあえて左肩で受ける。
左肩から先が切り落とされる間、カウンターとして渾身の右ストレートを撃ち込む。
ゼド「NEXUS・DRIVE オーバーフロウ!!」
腕に装備したヘッドパーツの先端が開き、光の奔流が噴出。
身醒経で引き出されたゼド自身の氣の力も上乗せされ、
機体の全高よりもさらに巨大な光の頭角を形成する。
ゼド「グローリークラッシャー!!」
ルシア「――――!!」
光輝く甲虫の角が、ガンダムミステリオの上半身を貫通、否、消し潰す。
直後、身醒経のバックファイアが全身を襲い、その場で膝をつくゼド。
奥義を連発した白豹も同じような状態だ。
ゼド「一体は仕留めました……後は……」
732
:
藍三郎
:2013/11/15(金) 21:29:57 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
灯馬「君、ボクに斬られたいん?」
ゆらめく殺意の陽炎を立ち上らせながら、灯馬は語りかけた。
ルシア「ええ、貴方にできるものならね。Mr.夜天蛾」
灯馬「ふぅん。けどな、ボクも単なる自殺志願者の手伝いしたかておもろないねん。君もそれでええんか?
どうせなら、君にできる最高の技で来てや。その方が、悔いなく成仏できるんとちゃうか?」
水平にした刀でミステリオを指し示す。
ルシア「ふ、ふふっ、いいでしょう。元より、貴方に殺してもらわずとも、Mr.ヴィナスが目的を果たせば私の望みも叶うのですが、死出の余興としては悪くない。
これから死ねると思えば、長い年月を共にし、私を縛って来た闘争の衝動もどこか愛おしい……」
灯馬「安心してええよ。君のことはきっちり殺したる。せやから、そのお駄賃がわりに、見せてや。君の、全身全霊を」
ルシア「全身全霊、ですか……」
ルシアは心の中で笑う。ルシア・レッドクラウドという人間としての全力は、ムスカと戦いで既に出したつもりだ。
だが、特異点としての機能は、まだ十全に発揮していない。彼の役割は闘争の拡大であって、彼自身が強くある必要は薄かった。
だが、今なら……己の意志で戦っている今ならば……
仕込み杖を納刀するミステリオ。それに合わせて、麟蛇皇・紅も刀を納め、抜刀術の構えを取る。
先に動いたのはミステリオの方だった。一足飛びで、灯馬の間合いへと侵入。ビームサーベルを抜き放つ。
無論、これだけで終わるはずがない。抜刀の刹那、ミステリオの姿が、テーブルの上でトランプの束を広げるように、
五十を越える数に増えていたのだ。自身が存在する確率を歪めれば、彼は理論上無限に増えることができる。
世界の修正力により、通常は二人が限界だ。
しかし、増殖のタイミングを攻撃の瞬間にのみ絞ることで、最大五十四体にまで増えることができる。
これが彼の能力を最大限に活かした技……
ルシア「五十四枚の切り札(フィフティフォー・ジョーカーズ)!!」
五十四の声が重なり、五十四の斬線が、麟蛇皇を襲う。
その刃の群れを、灯馬は……
納刀したまま、全てをその身に受けた。
血袋が爆裂したように、麟蛇皇を中心として、鮮血が周囲に飛ぶ。
返り血を浴びるミステリオ。その中のルシアはあまりに呆気ない決着に困惑していた。
当然と言えば当然。あの技をたった一人で凌ぎ切るなど、不可能のはず……
だが、同時にルシアは、彼が諦めたわけではないことも理解していた。あの紅の剣鬼から発せられる殺意は、些かも衰えてはいないのだから……
ルシア「……!」
突如、まるで自身の倍以上の重荷を乗せられたように、機体の動きが大きく鈍った。
見れば、ミステリオに付着した返り血が鎖のように繋がり、麟蛇皇まで続いているではないか。
データから、現在の夜天蛾灯馬は、血液に似た液体を操ると分かっている。
ルシア(まさか……)
血を全方位に拡散させるために、あえてこの身に刃を受けた?
どれだけ傷を負っても、抜刀術の構えが崩れることは無かった。
動きを封じたミステリオに向けて、灯馬の魔刀が放たれる。
灯馬「夜天蛾流抜刀術、絶刀・皇髏血(おろち)」
無尽に伸びる赤い刃が、周囲の空間全てを薙ぎ払い、五十四体のミステリオ全てを同時に両断する。
733
:
藍三郎
:2013/11/15(金) 21:35:38 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ルシア(見事……ですが……)
これでは意味がない。
己の体は、また特異点の導きにより、再構築される。所詮は余興に過ぎなかったか……
ルシア「……!」
その時彼は気付いた。機体だけではない。己の体にも、赤き血が纏わり付いていることに。
その血からは、先程と同じ、灯馬の殺意が感じられる。
ルシア(そうか、この血は、あの少年の殺意……いや、彼そのもの!)
蠢く血が、無数の赤い眼球に見える。今や灯馬は、血の一滴、赤血球の一つ一つにまで己の意識を行き渡らせるほど、夜天蛾の血に馴染んでいる。
ルシアは、観測されていない状態ならば、何度でも再生することができる。箱の中の猫の生死は、箱を開けるまで分からない。
その不確定の闇に存在するルシアは、生存する可能性がほんの僅か、ほぼ奇跡のような確率で存在すれば、
その結果を強引につかみ取り、世界に貼付けることで復活できる。
しかし、灯馬の血を浴びたルシアは、今や細胞レベルで、いや、魂ごと観測されている状態にある。これでは逃げ道は何処にもない。
ルシア(いや、これは呪い……いかな奇跡も幻想も許さず、斬った者に確実な死を与える、赤き呪縛……
彼の殺戮の渇望は、特異点の力さえ塗り潰すというのですか)
ルシアはふっと笑った。待ち望んだ死が、ようやくこの身に下ることを悟ったのだ。
ルシアとジェローム、二人分の声が重なる。
ルシア「――さて、詰まらぬ奇術ショウも、これにて閉幕(カーテンフォール)でございます。
本公演は、本日が最終日……御来場の皆様、最後まで御覧頂き、誠にありがとうございました」
ガンダムミステリオが、深く一礼すると同時に、その機体は跡形もなく爆砕した。
その後、彼が世界と言う舞台に立つことは……二度と無かった。
全身を切り刻まれた麟蛇皇は、糸の切れた操り人形のようにぐらりと力を失う。
その機体は、赤い霧となって急速に分解され、宙空に溶けていく。
緩やかに落下する灯馬。それを、スカーレットフィーニクスの掌が受け止める。
セレナ「やれやれ、私が援護しなかったらどうするつもりだったのかしら」
ミステリオが分裂し、必殺剣を繰り出した瞬間、セレナは外から攻撃を加え、ミステリオの体勢を僅かなりとも崩した。
それゆえ、灯馬は致命傷を避けることができたのだ。
セレナ「ともあれ……お手柄よ、灯馬くん」
さすがに力を使い果たしたのか、灯馬は目を閉じ、すやすやと眠っていた。
734
:
蒼ウサギ
:2014/01/16(木) 00:54:53 HOST:i121-118-62-87.s10.a033.ap.plala.or.jp
ブレードゼファー・エクスのコクピットに突如鳴り響く通信音。
相手が誰だが、容易に想像がついた。
悠騎「……レイリーだな」
回線を開くと、その予想は的中した。
しかも、内容までもこれまた予想通りだった。
レイリー『ちょっと正気!? リミッターⅢを解放するなんて!』
悠騎「さすがにやり過ぎた感はあるぜ……この剣も、あと一振りが限界ってとこだ」
レイリー『なっ!』
レイリーの声の他にざわめく声が混じっている。
恐らくはコスモ・ストライカーズのブリッジからこの通信を送っているのだろう。
由佳『お兄ちゃん……』
悠騎「おいおい、それでもオレの妹か? お前もそこにいるんなら、私情は挟むなよな」
由佳の声は、艦長という立場からは想像できないような弱々しいものだった。
しかし、悠騎の返しに由佳は思わず安心した。
それと同時に、まだそんな軽口が叩ける兄をどこかで尊敬してしまった。
レイリー『由佳! 至急あのバカを収容して! エクスの応急措置をしないと危険だよ!』
悠騎「んな時間あるかっての!」
レイリー『まさか、その状態で戦いを継続させるつもり!? 下手したらあっという間に撃墜させられるかもしれないよ!』
レイリーは、怖かった。
自分の技術の未熟さで仲間が死んでくのを。
かつてのゼルのように…。
悠騎『安心しろ。……ただ、ヤツとの決着をつけるだけだ』
それを告げるなり、悠騎は一方的に通信を切った。
§
ドンっと、コスモストライカーズの通信機にレイリーの拳が打ちつけられた。
「あのバカ」という、レイリーの呟きを、ミキは聞き逃さなかった。
心情的にはミキも似たようなもので、ミキは祈っている。
ミキ(無事に帰ってきてください。先輩)
ブリッジが静まり返っている中で、由佳は一艦長として、その役を全うしようとしていた。
由佳「皆さん、油断しないでください。敵はまだ全て倒していません」
トウヤ「由佳くん……」
由佳「兄は兄。私は私の役目を果たすだけです」
トウヤに向けられた由佳の微笑。
彼女は、なんだかんだいって、兄・悠騎のことを誰よりも信じているのだと思わされた。
735
:
蒼ウサギ
:2014/01/16(木) 00:55:56 HOST:i121-118-62-87.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
「さてと」、と、一息置いてから悠騎は、ウラノスが飛んでいった上空を見上げた。
一向に反応はないが、まだウラノスも、そしてヴィナスも無事であるとどこかで確信している。
手応えは、確かにあった。
だが、それでもまだそこにウラノスがおり、ヴィナスが悠々としている姿が目に浮かんでくる。
キョウスケ「ケリをつけに行く気か?」
悠騎「ん? あぁ、まぁな」
ゼンガー「勝算はあるのか?」
悠騎「……多分、今のオレ達がもし万全の状態でも、アイツには勝てないかもしれないな」
これまでどんな相手であろうと、悠騎の口からそんな言葉は出なかった。
リュウセイ「おいおい! それじゃ、みすみす奴をこのまま行かせる気か? 冗談じゃねぇよ!」
悠騎「いや、そうはさせねぇよ。絶対」
ヒイロ「……星倉悠騎、まさか」
悠騎「安心しろ、お前のように自爆なんてしねぇよ……。ま、悪いがここから先はオレ一人でやらせてもらうぜ」
ガロード「待てよ! 一人でなんて無茶だ!」
悠騎「……被害は、少ない方がいいだろ?」
小さく呟いて、ブレードゼファー・エクスは高く飛翔した。
悠騎を制止する声が聞こえてくるが、それもすぐに小さくなる。
悠騎の後を、追おうとする者はいたが、それはゼンガーに止められていた。
ゼンガー「奴の後を追うな」
エクセレン「でも、ボスぅ。あの子1人じゃ危ないと思わない?」
ゼンガー「機体越しに伝わる奴の覚悟を、武人として無下にするわけにはいかん!」
ロム「ならば、我々は彼の防衛線となろう!」
ドモン「応! この流派東方不敗の名の元に、ここから先はいかせはせん!」
無尽蔵に湧いて出てくる量産機。
感情のない殺戮マシン達が、今もなお迫り切っている。
§
ヴィナス「来ましたか……」
それは、必ず来るだろうと予想していたような口振りだった。
遥か上空で、ウラノスとブレードゼファー・エクスが対峙する。
悠騎「けっ、リミットⅢの直撃を受けてもまだ平気でいやがる……可愛くねぇな、オイ」
ヴィナス「いえ、そうでもありませんよ。現に二つのカラミティブレードはあの攻撃を受けたお陰で消滅してしまいました」
そう文字通りと、付けたしウラノスの両手を見せた。
悠騎「……良く言うぜ。剣だけがウラノスの武器じゃねぇだろうに」
こっちは、「あと一振りしか振れない剣」だけなのによ、と内心で毒づいた。
ヴィナス「その通り。……ですが、あなたのその剣は、最善の注意を払いましょう」
と、ウラノスが天に手を掲げる。
ヴィナス「大気よ!」
ただの突風、とは思えないほどの大気のミサイルが襲いかかる。
しかし、それが飛んでくる前にエクスは回避していた。
ヴィナス「予測してましたか?」
と、再びエクスに向けて、大気のミサイルを放つ。
悠騎「んなわけねぇだろ! てめぇじゃあるまいし!」
最初の風を避けたのはいいがその余波まではかわせきれず態勢が不安定だったエクスは、今度の攻撃は防御せざるを得なかった。
悠騎「ちぃ!」
盾もDプロテクションもない、今のエクスには、一撃の直撃を受けただけも致命的になる。
最も剣が万全の状態であれば、それを盾にすることもできるが、その剣さえも今は攻撃手段しか残されていない。
悠騎(今は…耐えるしかねぇ)
736
:
蒼ウサギ
:2014/01/16(木) 00:56:27 HOST:i121-118-62-87.s10.a033.ap.plala.or.jp
そう、最大の勝機(チャンス)のためにも! と、必死に回避行動を続けていた。
そんな中で、悠騎は徐々に広がりつつある空間の“穴”が目に映った。
悠騎(だが、時間もないか!)
ヴィナス「どうです? 美しいでしょう? アレが私にとって、次なるステージの入り口なのですよ」
ウラノスの攻撃が止んだと思いきや、搭乗者のヴィナスは自慢するかのようにウットリしている。
見た目は単なるトンネルのようなものも、彼にとっては新世界の入り口のように魅力的に見えるのだろう。
悠騎「アルテミス(お前の仲間達)の犠牲の上で開いた穴が、そんなに綺麗なものか?」
ヴィナス「あなたと私は、どこか似ています。……しかし、あなたには絶望が足りません。
だから、私の同じような気持ちにはなれないのですよ」
悠騎「……そうだな」
深いため気を吐いた後、悠騎の眼光が鋭くなる。
悠騎「確かにお前が味わった絶望がどれほどのものかは知らねぇ!
けど、お前はその先に、仲間をも犠牲にする復讐鬼になり果てやがった!
お前はそれで良かったのか!?」
ヴィナス「後悔はありません。この究極の兵士(からだ)を得て、さらにウラノスまで手に入れたのですから
それに、私は“未知なる存在”との戦いの後から仲間の存在意義を失くしてしまいましたよ
貴方たちもそうであるかのように、彼らもまた私にとって“マテリアル”に過ぎません」
悠騎「ちっ!」
もう口論しても無駄だ。
そう舌打ちし、徐にエクスは剣を構えた。
悠騎「なら、お前の言う“マテリアル”の底力、見てみるか?」
悠騎の瞳が紫に染まり、機体のスラスターから炎を噴き出しているかのような紅い粒子が放出される。
それが徐々に機体全体を覆うようになり、ブレードゼファー・エクスが烈火に燃え上がるような姿へとなった。
ヴィナス「剣を構えますか……」
その隙をヴィナスは見逃さなかった。
エクスの剣は得体が知れない。こちらの恐怖を脅かすほどだ。
だから、先に動いたのはウラノスだった。
ヴィナス「やらせはしませんよ!」
大気のミサイルと障壁弾をブレンドしたものを放った。
大気のミサイルの速度と障壁弾の威力が合わさったそれは、ヴィナスの目論見通りゼファーブレードの剣を破壊し、刀身を折った。
悠騎「っ!」
反動で機体がよろけるも、悠騎の目はまだ絶望してはいなかった。
悠騎(Dジェネレータは無傷……! いける!)
ゼファーブレードに組み込まれていた二つのDジェネレータそれぞれがエネルギーを放出し、一つの刀身を創りだした。
実剣は失われても、その二つの刀身が残った鍔の部分と連結して、再び剣としての形を保った。
悠騎「行き先がどこかわかんねぇぜ……リミットFINAL……解放!」
“アンフィニ”の影響で無限に出力が上昇するD(ディメンション)エネルギーの塊の剣。
それを振るったその時、二機が消えた。
どこともわからぬ、次元の彼方へ……。
737
:
藍三郎
:2014/01/28(火) 05:06:07 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
直後、戦場の時は停止していた。
G・K隊、統合軍の誰もが、目の前で起こったことを受け入れられずにいた。
アイ「……ブレードゼファー・エクスとウラノスの反応、消失……」
内心の動揺を隠すように、アイは務めて冷淡に状況を報告した。
アイ「別次元に転移した……可能性も……」
不確定なことを口にしたのは、僅かなりとも希望を繋ぎたい気持ちの現れだろうか。
言葉の端から、彼女も強いショックを受けていることは明らかだったが。
由佳「…おに……」
神「艦長!!」
間近で放たれた声が、彼女を己の職務へと引き戻した。
意思ではなく反射で、艦長としての役割を果たそうとする。
由佳「皆さん! ウラノスが消失した以上、この場で戦闘を続ける意味はありません。
残敵を迎撃しつつ、全軍、撤退します……!」
本作戦の目的は、ウラノスが別次元に転移する前に止めることだ。だが、ウラノスは既に消えてしまった。
ネオバディムの幹部達も既に倒れている。これ以上戦闘を続ける意味は無かった。
だがそれを、この場で最も自失して然るべき一人である由佳が口にしたことが、パイロット達の硬直を解くことになった。
量産機も、これまでの戦いで大半が撃墜されており、無人機の宿命か、予めプログラムされた動作は実行できても、
細かな命令を下す司令塔を欠いた今では状況に応じた臨機応変な対応を出来ずにいた。
無人機達の最優先目的はタイムリミットが来るまでウラノスを護衛すること。
ウラノスが次元跳躍を果たした後のプログラムは組み込まれていない。
まして、逃げる敵を追撃する命令は元より存在しないのだ。
残敵の多くは、既に消えたウラノスを守るように円陣を組んだまま動こうとしない。
撤退は難しくはないだろう。
そして、撤退の判断は別の意味でも功を奏した。
遥か上空、ウラノスによって開けられた次元の穴がその半径を拡げ、渦を巻き始めたのだ。
台風の如き次元の歪みは地上にも伸び、最も近くにいた無人機を吸い込んでいく。
無人機達は抵抗もままならず、その大半は穴に消える前に空間に歪みによって引き裂かれ、残骸と化す。
天と地の狭間に、巨大な竜巻が発生していた。
その宙域に存在していたものは、残らず次元の穴へと吸い込まれていく。
大地が抉れ、岩盤が宙に浮く。
ユミルの残骸や、繭と化した2体のターンタイプも、虚空の彼方へと消え去っていく。
撤退が遅れていれば、G・K隊や統合軍の機体も、この暴威に巻き込まれていただろう。
だが、九死に一生を得た感慨を持つ者は少なかった。
彼らの胸を貫くのは、掛け替えの無いものを無くした喪失感、そして、敗北感だった。
ムスカ「……俺たちは、負けたのか……」
ゼド「……もしも、ウラノスが彼(ヴィナス)の目指していた次元まで跳躍を果たしていたとしたら、
歴史は創り変えられ、我々の存在も消え去ってしまうのでしょうね……」
それがわかっていながら、自分達には何もできない。
彼らは既に、手の届かぬ場所に行ってしまった。
やがて、荒れ狂う嵐が収まった後、次元の穴は消失していた。
先程までの大破壊、そして人類の未来を懸けた闘争など無かったかのように、
澄み切った夜空に浮かぶ満月は、無垢な光で地上を照らしていた。
738
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:22:48 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎(何だ…このイメージは!?)
ヴィナス(これは……あの冬の神殿で見た……)
脳内に無理やり流れ込んでくる“イメージ”に戸惑いつつ二人は、意識を閉じた。
刹那に過ぎった次元の狭間の中で―――
――――――――
――――
――
ザザーン、ザザーンという波音が聞こえてくる。
深い眠りから目覚めるかのように、重い瞼を開いた。
そこでまず目に映ったものは、一面に広がる血のような真っ赤な海だった。
ここは何処だ?
若干の混乱に混じる畏怖を抱きながら、ゆっくりと記憶を呼び覚ます。
悠騎「そうか……オレ、次元を跳んだんだ……」
ゼファーブレードで次元の壁を斬り裂いた結果がここにあり、半ば呆然とそれを売れ入れた。
しかし、“ここ”は、元の世界でもなければ、あの戦っていた世界でもない。
悠騎「! ヴィナスは?」
少し離れた赤い海の浅瀬にウラノスが見えた。
だが、肝心なのはそのパイロットだ。
悠騎「……ちっ、全システムがダウンしてやがる」
ブレードゼファー・エクスを動かそうにも、どうにも動かせない。
緊急のための生命維持装置以外、全ての機器が停止しているようだ。
お陰でヴィナスのことを確かめようにも接触回線ワイヤーさえも飛ばせない。
いつまでも機体の中には入られない。
念のためにに外の空気の様子を確かめてから悠騎は、機体のハッチを開けた。
赤い海からは、潮の香りとはまた少し違う匂いが鼻を不愉快につんざいたが、悠騎は確信する。
“ここ”は基本的には地球と大差ない世界だと。
改めて、ウラノスを見上げる。全高100m以上あり、一つの巨神にさえ見えるそれだが、
今はまるで主に使える騎士のごとく、片膝をついて恭しく頭を下げている姿勢制御を維持している。
悠騎「ヴィナスは……いるのか?」
確認しようとしたその時だ。
どこからかメロディが聞こえてくる。
ピアノだ。それも、あの交響曲第9番 第4楽章。
悠騎「っ! これは!」
ヴィナスのことも気になるが、一先ずはメロディが鳴っている方向へと向かう。
砂浜に立っているピアノには、悠騎の思っていた人物の姿が見えた。
悠騎「やっぱりな」
アッシュグレイの髪に赤い瞳、男性にしては白い肌のその少年。
―――渚カヲルがいた。
カヲル「やぁ、“初めまして”」
739
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:23:46 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
その一言で、悠騎は改めて次元を越えて別の世界へとやってきたのだと確信した。
どこかはわからないが、顔見知りがいることにどこか安心感が湧いた。
カヲル「どうやら、君は“僕のこと”を知っているようだね」
悠騎「まぁな」
そんな軽いやり取りの後、カヲルはそれ以上追及することもなくピアノの演奏を再開した。
悠騎「ったく、今にも世界が終わりそうな光景でよく弾けるな」
カヲル「世界の終わり? むしろ“この世界”はこれから始まるんだよ
文字通り、世界の生死をかける時代がね」
悠騎「どういうことだ?」
カヲル「再び“この世界”が終わるかもしれないってことさ」
悠騎「世界の……終わり?」
カヲル「“この世界”は、死と新生を繰り返していてね。以前の“この世界”は、神に近づいた1人の少年が
ヒトの進化を拒んだ結果、終わってしまった。最も、彼を取り巻く陰謀、野望が交錯したこともあるけどね。
そして新生したのが今の世界だ。そういえば前の世界の終わりと今の世界の海は同じ色だね」
まるで過去全ての世界を知っているかの口振りだ。
実際、そうなのだろう。それは彼が使徒故なのであろうか?
ひょっとしたら彼もまた……
カヲル「また世界が終わってしまったら今度は新生せず、永遠に失われるかもしれないね」
悠騎「失われる? って、どういうことだよ?」
カヲル「その原因たる僕らの存在が消えてしまう、ってことだよ」
悠騎は思わず言葉を失った。
存在が消える? もしそうなったら彼らはどうなるのだろうか想像もつかない。
だが、似通ったケースを自分は知っている。
“失われた世紀”
あの時代に生きていた人々がまさにそれと言えるだろう。
ヴィナスのお陰……という言葉は癪に障るが、実際、自分はそれで知ることができた。
悠騎「一つ、答えろ」
カヲル「なんだい?」
悠騎「お前はそうやって色々知ってるようだが、それで何かをするつもりはないのか?」
カヲル「僕は“この世界”では、ある人のために存在しているだけだからね」
彼のいうある人とは恐らく碇シンジのことだろう。
カヲル「今度はこちらが訊こう。君はもし今の世界がひょんなことで終わろうとするならどうする?」
悠騎「そうだな。……とりあえずギリギリまで精一杯足掻くかな」
急にバカなことを、とは返せなかったのは、これまでの戦いがあったからだろう。
人間同士の戦争、侵略者達襲来、人類補完計画、プロトデビルン、深虎、そしてアルテミス。
“あの世界”だけで何度もうダメかと思っただろう。
だからこそ、そう答えられる事ができた。
カヲル「滅びる事が運命だとしても?」
悠騎「同じ事言わせんな」
ぶれない彼の言葉に、カヲルは思わず口を綻ばせた。
鍵盤の手を一旦止め、すぐさま次の曲を弾きはじめる。
740
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:24:28 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「この、曲は……」
カヲル「知ってるのかい?」
カヲルが弾き始めたのは、かつてミレーヌが歌っていた「愛・おぼえていますか」だった。
この曲がどれほど皆を鼓舞させられたか。
カヲル「この歌はね。大昔の異星人達の中で流行っていたラブソングなんだよ」
自然とあの時、ミレーヌが歌っていた歌詞が過ぎってくる。
たった1回だけだがどこか心安らぎ、耳に優しく残るものだった。
やがてカヲルは全てを弾き終えた後、空を見上げた。
カヲル「そろそろ行かなくちゃね」
悠騎「どこにだよ?」
カヲル「月に……それが僕の今回の始まりの舞台なんだ」
月。この世界にも月にはムーンレイスがいるのだろうか?
様々な疑問が押し寄せるが、今となってはどうでもいい。
悠騎「なら、オレもそろそろ行くか」
カヲル「どこに?」
悠騎「帰る。……ただそれだけだ」
741
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:25:05 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
「ここは、何処だ?」
目を開けてヴィナスが最初に見えたのは、暗闇だった。
それ以前に自分が目を開けているのかさえわからない。
まるで何もない暗闇の空間を浮いているかのようにも感じる。
音も何も聞こえない。
周囲の温度さえも何も感じない。
ただただ、目の前に広がるのは暗闇だけだ。
ヴィナス「私は、一体……」
どうなったのか?
まずそれが知りたかった。
星倉悠騎との戦いのおり、何が起きたのかさえわからないのだ。
そんな時、声が聞こえた。
正確には、耳ではなく、「言葉を感じ取った」という感覚だ。
「どうやら、お前もオレと同じ状態になっちまったわけだ」
声だけでは誰かはわからない。
が、ヴィナスに組み込まれたニュータイプの遺伝子が声の主を教えてくれた。
ヴィナス「深虎…ですか」
深虎「ケッ、なるほど。テメェがここに来るわけだ」
ヴィナス「どういうことです?」
深虎「オレも、テメェも、ヒトの理を外れちまったんだよ」
ヴィナス「どういう意味です?」
深虎「わかんねぇのか? てめぇはとっくに普通の人間とはかけ離れた力を持ってしまった。
故にオレと同じような存在になっちまったんだよ」
ヴィナスの心中は穏やかではなかった。
確かに自分はあらゆる能力者の遺伝子を組み込み、ヒトを越えたかもしれない。
だからといって、自分は彼のような狂気な思考は持ち合わせていない。
一緒にしてほしくないというのが本音だ。
深虎「オレと一緒が嫌っていうのか? けど、諦めなよ。
テメェはもう、オレと同じ“未知なる存在”として世界に認識されてるんだからよ」
ヴィナス「!?」
この場にお互いの肉体が実際にあったら、ヴィナスは即座に深虎を締め上げただろう。
事実、イメージとしてヴィナスはそうしていている。
ヴィナス「取り消してもらいましょう! 私が“未知なる存在”と同列などと!」
深虎「取り消したら、それで満足なのか? “ここ”にいることは間違いないんだぜ?」
ヴィナス「……っ!」
怨敵と同類にされて、虫唾が走る。
だが、同時に理解してしまった。
自らの行いが、この結果を招いたということを。
皮肉にもティファのクローンから得たNTの直感で。
マテリアルと認知された者達の遺伝子を取り込み、常人の遥かな高みに昇り、
加えてウラノスに搭乗できるようにマルスの遺伝子をも己の者にした。
結果として自分はマルス以上のウラノスの操縦者となり、強力になったことだろう。
あの戦いからでも容易に想像がつく。そして、自ら湧き上がる力に少々酔いしれていた感覚も。
ヴィナスは、無闇やたらに異能の力を得たことで、知らず知らずのうちに“未知なる存在”になってしまったのだ。
ヴィナス「では、私はなぜここに……?」
深虎「さぁな? だが、これだけは言えるぜ。オレも、お前も肉体は死んでるも同然だ、ってことだ。
こうして話しちゃいるが、いわゆる霊体同士……いや、魂だけの存在になってるってことだ」
ヴィナス「っ!」
現実を受け切れないヴィナス。
魂同士の会話は、そこで沈黙してしまった。
742
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:26:15 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
「そんなに昔の仇を討てなかったのかが悔いか?」
知らない男の声がふと聞こえてきた。
何者かを問う前に図星を当てられた事の方が衝撃だった。
ヴィナス「なんでそのことを?」
彼は小さく笑いながら
「残念だが、これはお前自身が招いた結果だ。……お前は他人のことを利用するばかりで、自分の力を信じなかった。
お前と“アイツら”の違いはそこだ。
ここに来たのは、お前があの時、戦っていたヤツが“ここにも”次元を斬り裂いたからだ。
結果、お前は直接、肉体は滅んでなくても、ここに来てしまったってことだ」
ヴィナス「どうしてそこまで知ってるのです? あなたは」
「なぁに、オレもお前達と同じ“未知なる存在”ってヤツだからな」
その男は、どこか自嘲しているかのように言い放った。
743
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:26:51 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
あれから3週間の月日が流れた。
ヴィナスの跳躍で危惧していた歴史の改ざんは、今のところ見受けられない。
そのことには安堵するが、素直に喜べない。
星倉悠騎が未だに帰って来ないからだ。
由佳「レイリーさん、艦の調子はどうですか?」
レイリー「月のお姫様のお陰で艦も機体も問題ないよ。他の艦も同じようだね」
戦争は終わった。異世界人の侵略もない。
全ての争いが終わったのだ。
あの後、月の女王ディアナ・ソレルは、月の政治をキエル・ハイムに託したのだ。
最も、月の住民達は彼女をディアナ・ソレルだと疑っていない。
まだ、この世界に残っているリリーナ・ドーリアンを始め、各要人達の必死の働きかけで
地球と月。今は、共存の歩みを見せている。
トウヤ「この世界は、平和を取り戻した。
まだ小さな小競り合いがあるけど、それはヒイロ達が解決してくれるだろう」
ミキ「『プリベンター』、でしたね。ヒイロくんだけじゃなくて、アキトさんも所属しているらしいですよ」
プリベンター設立は、ミリア市長の案でもある。
元々、愚連隊のような形で各艦が共同しているガンダムや多くのスーパーロボットは、事実上、宇宙統合軍預かりになっている。
戦争がなくなったからこそ、これを機に新たな火種が起こる可能性もある。
多種多様の兵器を持つ宇宙統合軍に不満を持つ市民たちが暴動を起こすこともある。
それらを未然に対処するために設立されたのがプリベンターだ。
メンバーの中にはヒイロたちガンダムパイロット他に、ナデシコクルーやガムリン達といったこの世界の者達がいる。
もし、ヒイロ達が元の世界に帰ってもプリベンターという組織がなくなることはない。
トウヤ「はぁ、僕も参加したかったなぁ」
アイ「艦長が参加してしまったら、G・Kの貴重な指揮官がいなくなってしまいます」
由佳「ちょっ! アイちゃん、それはちょっと聞き捨てならないよ!?」
アイ「それはそうとレイリーさん。例のアレはどうなんでしょう?」
由佳「スルーされた!?」
由佳がショックを受けている一方で、レイリーはその話題になると神妙な顔つきになった。
レイリー「それに関しては、実はサッパリなんだ。まぁ、キッド達の手伝いで損傷部分の修理はできたんだけど、
肝心のデータ部分がねぇ……」
それは、<アルテミス>が拠点としていた機動要塞シャングリラ……その中枢部分のことであった。
それ、単体では次元跳躍はできないが、3週間前の悠騎とヴィナスが次元跳躍したデータを元に改造しようというのだ。
レイリー「たった1回だけのあの次元跳躍じゃ、データ不足だよ。もうDジェネレーターもないしね」
ブレードゼファー・エクスが次元跳躍できたのは、ナックルゼファー、メテオゼファーのDジェネレーターを合わせたから、
とも言える。
元々、Dジェネレーターは、異なる次元に直結させることができるD粒子から得られる膨大なエネルギーを生みだすための機関。
だが、その構造、製造法はレイリーは知らないのだ。
レイリー「今、みんなの機体を預かって、それに近づくほどのエネルギーを生み出そうとしてるけど、それが難しいのよねぇ。
生み出した所で、今度はシャングリラの方がもたないかもしれない」
アイ「難題は多い、ってところですか」
由佳「やはり、ウラノスがあれば、ってことですか?」
レイリー「それがベストだね。エクスで次元跳躍できるっていっても自分が思ったところに跳躍できないと意味ないし」
それほどにウラノスにはまだまだ解明できないパワーを秘めていたということだ。
これは恐らくだが、本来の搭乗者であるマルス・コスモだからこそ単体でも跳躍できたのかもしれない。
ヴィナスは、マルスより遥かに腕はたつが、オリジナルではなかったので、膨大なエネルギーを必要としたのかもしれない。
まぁ、これは技術者同士の憶測なのだが。
由佳「ったく、なんでウラノスと一緒に跳んだのよ……お兄ちゃん」
一見、悪態をついているかのように見えるが、横顔が明らかに不安に満ちている。
次元の彼方に消えた兄が心配なのだ。一艦長というより、1人の妹としてだろう。
こんな時にどんな励ましも声も虚しいだけだ。
ここにいる誰もがそれをわかっている。
レイリー「……ともかく頑張ってみるよ。せめてこいつを次元跳躍マシンに仕上げてみせるから」
由佳「……よろしく、お願いします」
744
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:13:23 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
事態は動かずとも、月日は少しずつ流れていていく。
激動の戦いがウソの様に、それは静かに、せせらぎの様な静けさで―――
エレ「・・・・・」
格納庫を見下ろせるタラップ。
その上で金糸の髪を弄びながら、少女は一人物思いにふける。
アイラ「エレ、もう直エイジ達の出発だぞ?」
声を掛けに来たのは彼女の親友―――一度は崩れ、それでも本物の絆を繋いだ相手だ。
エレ「あ、うん。ごめんね。ちょっと考え事してた」
笑い掛ける少女の脳裏に浮かぶのは、あの日の事―――
§
ひどく、悲しい夢を視ていた気がする。
とてもとても懐かしいのに、どこか曖昧で色あせた夢。
古い映写機に映った映画の様に、静かに流れていく映像を眺めていた気分。
でも、それも目覚めと同時に泡沫に消える。
とてもとても儚い夢。
「―――か?」
覚醒していく意識が、夢に沈んだ心を引き上げる。
遠くから聞こえる声が、幻のしじまにいる心を引き戻す。
「―――大丈夫か?」
徐々にクリアになっていく視界。
心の檻が解き放たれて、体が自由を取り戻していく。
「エレ・・・大丈夫か?」
自分の名前を呼ぶ声。
知ってる。
この声の主を自分は知っている。
エレ「あい・・・ら・・・」
その名を呼んだ途端に、ブラックアウトする視界。
それはわずか一瞬の事。
だが、その一瞬で彼女の意識は駆け抜ける。
自分が今までどこにいたのかを。
自分が見つけた答えを得た場所へと―――
§
それは戦いにすらなっていなかった。
一方的な蹂躙ですらない。
男は文字通り、壊れた玩具を処理するように。
少女は反射に従って体を動かしていただけだ。
殺意も闘志もない空しい追いかけっこ。
互いに何かの戯れの様に攻防を交わすのみ。
激しい熱気に包まれた他の戦場とはかけ離れた、あまりに諾々とした手慰み。
それは、疲れ果てた両者の心の顕れであるかのようであった。
―――何、してるのかな。私―――
捨てられた
大切な人にも
宿敵とも言うべき相手にも
目の前の相手を満足させるために生まれ
縋った友情は見せかけ
誰からも必要とされない
唯の玩具
壊れた玩具
何もない
何もかもがどうでもいい
それなのに
エレ「なんで、まだ生きようとしてるのかな・・・?」
そう
自分は生きている
生き汚く
みっともなく
生にしがみ付いている
捨てられたのに
745
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:14:43 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
止めてしまえば楽になるに
それでも動きを止めないのは
未練があるから―――
エレ「おかしいね・・・全部嘘っぱちだったのに・・・」
見せかけの生
見せかけの友情
見せかけの自分
それはもう痛いほど解っている事なのに
エレ「でも、まだ思ってる。助けって私は、まだ叫んでる」
捨てられたのに
いらないと言われたのに
まだ、その影を追っている
エレ「アイラ・・・」
脳裏を掠めていく友人”だった”モノの顔。
笑っていた顔も、凛々しい横顔も、憤怒した顔も、泣いた顔も
エレ「全部・・・嘘なのに―――!!」
何も見ていなかった自分。
何も知らなかった自分。
視ようともしなかった、ある事すら知らなかった想いに傷つけられて、捨てられたのに。
エレ「でも、でもやっぱり嘘だなんて思いたくないよ・・・」
涙が頬を伝う。
苦しい時、悲しい時、励ましてくれた彼女の声が自分を支えた。
自分の生まれた理由を知って、絶望して、その時も彼女は抱きしめてくれた。
誰よりも強く、誰よりも身近で自分を支えてくれたトモダチ。
それが、嘘―――
エレ「やだ、やだやだやだやだ!そんなのやだ!!助けてよアイラ!!嘘だって言ってよ!!すっと、一緒だったのに・・・私を捨てないで!!」
自分を捨てた相手に、自分を捨てるという事から助けて欲しいという矛盾。
その矛盾に気づいても、心は言う事を聞かない。
駄々っ子の様に無理な注文を付け続ける。
心がひび割れて消えるまで。
ルドルフ「いつまで、生きあがく?」
対して、男は苛立ちを覚える。
未だに動き回る出来の悪い模造品。
失敗作が今尚彼の手を離れて生存してる事実に心がざわめく。
必要ない。
”彼女”でないなら必要ないのに。
それが、未だに抵抗を続ける事実が気に入らない。
否
事実彼が本気を出せば、目の前の玩具など塵芥だ。
ハーメルシステムまで起動しているのだ。
これで一瞬で片が付かない方がどうかしている。
ルドルフ「情けをかけているのか?俺が・・・?」
馬鹿馬鹿しい。
劣化品などに様はないのに。
掛ける情など一片も残ってはしない。
元よりそうしてきた。
友と呼んだ相手すら斬り捨てて、本気で殺しに掛かった自分だ。
今、この失敗作を相手に情を見せるなどあり得ない。
ルドルフ「もういい。これ以上無意味な時間の浪費は出来ん。このボディもそろそろ限界だ。”次”に備えて俺も動かねばなんのでな」
”次”
そう次こそは、長年の願いを成就させる。
その為に、邪魔になった玩具は始末しなければならない。
そうして本当の殺意を見せた時、少女はそれに反応する。
エレ「あ・・・」
746
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:15:24 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
”消えろ”
その言葉がリフレインする。
消される
消える
自分が
否定されて
エレ「嫌だ・・・消えたくない・・・」
―――どうして?―――
エレ「アイラ・・・助けて・・・」
違う
ルドルフ「さらばだ」
エレ「助けてよ。アイラぁっ!!」
違う
そうじゃない!!
エレ「あ・・・・・・」
一瞬の時間が無限に引き延ばされる。
その中で、浮かぶのは親友と呼んだ人の笑顔―――ではない。
最後に見た、あの氷の様な笑み。
儚く、冷たく、寂しい、”本当の顔”。
エレ「そっか・・・そうだよね・・・」
自分は
彼女の何を見ていただろうか?
親友と呼んで
その強さに惹かれて
誰よりも頼った
誰よりも慕った
誰よりも、一緒に居たいと思った
エレ「でも・・・」
自分は視ていなかった
彼女の闇を
それを目にしても
それは違うと思いたかった
苦しんで悲しんで
そんな姿は彼女じゃないと
本当の気持ちじゃないと信じようとしていた
だが
だが、それは目の前の相手と何が違うだろうか?
自分は彼女に押し付けた
自分の理想を
在って欲しい形を
自分が視てきた彼女の在り方こそが真実だと思って
そこに救いを、助けを求めた
それは傲慢だ
彼女の闇を否定して
自分に都合の良い彼女で居て欲しいと願った―――
ルドルフ「ぬっ!?」
振り下ろした刃が受け止められる。
エレ「でも、それじゃダメだよね・・・」
救いを、助けを求めていたのは彼女も同じだったのに
747
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:16:05 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
自分はそれから目を背けるばかりで
自分だけが捨てられたと思い込んでいた
何が親友か
何が友情か
結局、自分達は相手の何を見ていたというのか?
エレ「でも、それでも―――!!」
彼女の存在は自分にとって救いだった
自分を支えてくれた、抱きしめてくれた事が今まで自分を守ってくれた事に変わりはない
彼女の闇は本物だ
だが、自分を助けてくれた彼女の存在もまた本物なのだ
だから―――
エレ「今度は私がアイラを救う」
全部受け入れて
全部抱きしめて
本当の彼女を見据えて
言わなきゃいけない言葉がある!
エレ「だから、消えない!あなたに消されはしない!!」
ルドルフ「何を・・・!」
弾かれた刃。
驚きは隠せないが、それでも慌てはしない。
戦力差は歴然。
この相手に負ける要素は微塵もない。
その筈だ―――
エレ「行くよ」
―――ええ―――
飛び立つ金糸の鶴。
輝く翼を翻し、優雅に舞う。
それは怨念の剣を追い詰める。
失われし想いを乗せた剣を圧倒する動きで、全ての攻撃をかわしていく。
ルドルフ「バカな?何故当たらん!」
機動力はこちらが勝っている。
アンフィニを発動した以上反射で後れを取る筈もない。
にも拘らず、こちらの攻撃をかわす。
そして向こうの攻撃は此方を捉える。
圧倒される。
機体の性能も、パイロットの技量も比べるべくもないというのに。
ルドルフ「アンフィニ?いや、違う。奴に適正は無いはず。それに・・・」
この劣勢はスペックの差によるものではない。
まるでこちらの動きを先読みされるような・・・。
ルドルフ「まさか・・・!?」
―――次はこっち―――
エレ「うん、解った」
その動きには見覚えがある。
こちらの攻撃を、いや癖を完璧に読まれている。
それは・・・
ルドルフ「君なのか・・・ユイナ?」
自分の癖を知り尽くした攻め。
こんな事が出来るのは、この世に二人しかいない筈だ。
―――ごめんなさい、エリアル―――
身勝手なのは解っている。
でも―――
748
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:17:19 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
―――彼を、救ってあげて―――
エレ「解ってるよ」
流麗な動きで紫紺の機体を追い込む。
彼に舞う白鶴は、鋭い一撃で確実に相手の体を削っていく。
ルドルフ「は、ははは!刷り込んだ記憶が混ざり合った結果とでも?バカな!!」
だが、自分が追い込まれているのは、彼女の手で追い込まれているのは敢然たる事実。
認めなければならない。
今、彼女の中にはユイナ・サイベルがいる。
ルドルフ「だが、それならこちらにもやり様はあるという事だ」
向こうがこちらの動きを読めるように。
こちらも向こうの動きを読むのは容易い。
それだけの時間を、自分達は共に過ごしてきたのだから―――
ルドルフ「そら、胴ががら空きだ!」
癖などは百も承知。
滑り込んだ懐で、剣を振るう。
しかし―――
エレ「ううわあああぁぁっ!!!」
ルドルフ「何!?」
振り上げた脚が頭部を蹴り上げる。
そのまま密着姿勢を崩さず拳の嵐。
ルドルフ「なんだ・・・これは?」
知らない。
自分の記憶の中の彼女に、こんな戦い方は存在しない。
ルドルフ「っ!調子に乗るな!模造品が!!」
振り抜いた剣もかわされる。
飛び退いた勢いそのまま、相手は付近の壁に”着地した”。
ルドルフ「なっ!?」
前傾姿勢で壁に蹲る。
その姿には見覚えがある。
ルドルフ「まさか・・・そんな事が―――」
あり得るのか?
そう叫ぼうとした刹那、仮面の女の姿を幻視した。
ルドルフ「ひっ!?」
飛び出す鶴は猛禽の如く。
その姿に怯えて背を向けた。
それが、決定的な敗北を生む。
―――さよなら―――
―――さよなら―――
エレ「さよなら」
光条が、怨念の剣を撃ち抜いた―――
749
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:18:15 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
§
長い、長い微睡の時間は終わった。
目の前には泣きそうな顔で自分を見る彼女の顔。
エレ「アイラ・・・」
アイラ「エレ!大丈夫か?どこも痛くないか!?」
一心に自分の身を案じてくれる彼女の顔に、あの冷たい笑みはない。
体を抱く手はとても暖かい。
だから
エレ「ごめんね・・・」
アイラ「っ!!」
ようやく言えた
その一言が
アイラ「わた・・・私の方こそ・・・」
積を切ったように溢れ出す涙と感情に任せて抱きしめる
アイラ「ごめん!ごめん!!エレ!!」
エレ「ごめんね・・・ごめんね、アイラ」
ゆっくりと
互いの傷を癒すように
少女達は謝り合う
自分達のこれまでと
これからの為に―――
§
エレ「色んな事があったね」
アイラ「ああ・・・」
静かな声音の中に、一抹の寂しさを感じる。
それは少女たちが得たモノ、失ったモノ、双方への哀悼だ。
エレ「帰れるのかな・・・」
ぼうと天井を見上げて呟く。
言外にある気持ちを、今なら理解できる。
―――帰っても自分に居場所はあるのか―――
アイラ「エレ・・・」
その問いに応えようとしたその時だ。
眼下の喧騒が聴こえて来たのは。
§
シンジ「本当に行っちゃうんですね」
エイジ「ああ、グラドスと地球。未だ出会うべきではないが故に今回の悲劇は起こってしまった。だが、それを繰り返さない事は出来るんだ」
そしてそれを為すのが自分の役目だと、両者の血を引く青年は胸を張る。
ジェット「何、俺達が付いている」
ドリル「どんな困難でもどんとこいだ」
レイナ「もう、困難を向かい入れてどうするのよ」
格納庫の隅。
これから旅立つ仲間達を見送る為の人だかりが出来ていた。
幾度の出会いと別れがあった。
その中には二度と出会えぬ相手もいるのだ。
それに比べれば、今の別れはいつでも会える、希望に満ちた出発だった。
ソシエ「ガムリンさん達は残ってくれるの嬉しいけど、本当にいの?」
元々マクロス船団は宇宙移民、未知なる宇宙へ漕ぎ出す為の開拓士達だった。
それがプリベンターの中核として、この星に残らざるを得なくなったのは、心苦しいと感じる者も多いようだ。
750
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:19:03 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
マックス「何、マクロス船団は我々だけではない。新たなフロンティアへ向けて今も旅を続けている仲間達はいる事だろう」
だから何も気負う事は無い。
そう言い切られては、今更それに異を唱えるのは野暮と言う物だろう。
シンジ「新たな・・・フロンティア・・・」
その言葉の力強さに圧倒された。
シンジ「綾波は、これからどうするの?」
不意に襲ってきた不安に、そっと後ろを振り返る。
しかし、答えなど解っている。
“解らない”
彼女ならそう答えるだろう。
何故なら自分がそうだからだ。
父は拘束された。
母は消えた。
保護者であったミサトやネルフの職員は、大なり小なり査問が待ち受けている。
「それがオトナの都合ってもんよ」
いつもの様に、笑って大人の義務を果たしに行ったのだ。
それに対して自分は何を以て応えれるだろう?
エヴァンゲリオンは全機凍結。
あれはヒトの領分を超えたモノだ。
そして、ヱヴァの無い自分は、唯の子供に過ぎない。
ガロード「何なら、付いて来てもいいんだぜ?」
思い悩む背中をバンと叩かれ、出し抜けにそんな事を言われる。
ガロード「やる事なんていっぱいあるんだ。手伝ってくれるなら大歓迎だぜ」
チポデー「いいのかよ。愛しのガールフレンドとの二人旅に誘ってよ」
暖かい言葉を掛けてくれた少年。
その首に腕をからめて茶化す大人達。
ドモン「ふっ、何なら流派東方不敗。受け継いでみるか?」
シンジ「えっと・・・その・・・」
アスカ「無理無理!」
騒がしい喧騒に、更に騒がしい声が割って入る。
アスカ「もやしのシンジに格闘技なんてできるわけないって!」
シンジ「な、何だよ。そんなのやってみなくちゃ解らないだろ?」
アスカ「ほーっ、バカシンジのクセに言うようになったじゃない?じゃあ、ここで組み手でもやってみるぅ?」
さすがにムっとして売り言葉に買い言葉。
思わず挑発に乗ってしまった。
だが、正直自分には出来るとは思えない。
アスカ「そらみなさいな。人間そう簡単に根っこが変わる訳ないって」
シンジ「じゃあ、アスカがやればいいじゃないか」
思わず口を突いて出た言葉だったが、それが意外に周囲にウケた。
ウィッツ「そりゃあいい!」
エクセレン「あらん?案外やるんじゃない?白ウナギちゃん相手に無双してたし」
ジョルジュ「女性のファイターも珍しくはありませんしね」
照れる者
冷やかす者。
煽る者
真面目に考える者。
あっという間に巣箱を突いたように騒がしくなる格納庫。
ミレーヌ「で、結局これからどうするの?」
ふいに自分に言葉を向けられ、戸惑うシンジ。
ミレーヌ「いっそ、ファイヤー・ボンバー入りしちゃえば!?」
シンジ「ええ!?」
またも意外な所から選択肢を出されてしまった。
しかし、あながち冗談な様子も無い。
レイ「まー、なんだ。バサラの奴がな・・・」
聞けば今や伝説のバンドとして引っ張りだこのファイヤー・ボンバー。
そのヴォーカル担当は、そんな英雄扱いを窮屈に感じて、またぞろ一人どこかへ行きかねないそうだ。
751
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:19:34 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
レイ「弾けるんだろ?楽器」
暖かな手が差しだされる。
戸惑う目線は、我知らず一人の少女を追っていた。
シンジ「綾波・・・」
綾波「碇君の好きにしたらいい」
そっけない言葉だった。
だからこそ放っては置けなかった。
綾波「私には何も無いもの」
そう
自分も、綾波もアスカも三人とも“ヱヴァに乗るしかない”と言う点で同じだった。
それが存在意義だった。
しかし―――
シンジ「何もないなんて、そんな悲しい事言うなよ」
そう
“何もない”等と言う事はもう無いのだ。
シンジ(そうだ。ヱヴァのパイロットじゃない僕だってあり得るんだ)
やっと―――それが解った。
―――こんな時、どんな顔すればいいか解らない―――
かつて、少女は少年にそう返した。
その時の答えがここにある。
§
エレ「ふふふ」
眼下で楽しそうに笑う少年少女を見て、自然と笑みがこぼれる。
エレ「ね、アイラ。私さ、もう帰らなくてもいいかな、なんて思ってた」
静かな告白。
しかし、それが間違いである事は知っている。
エレ「でも、それじゃダメだよね。私は兎も角、皆は家族がいるもん。アイラも義弟さんや義妹さんに暫くあってないんでしょ?」
アイラ「どうだろうな。あの子達は私よりずっと強かだ」
この世界に来て
友と語らい
傷つけあった今だからこそわかる
自分がどれだけ未熟であったか―――
アイラ「だからまあ、急いで帰る必要はないんだ。私は」
エレ「それは―――」
ダメだと言おうとした唇を静かに止められる。
アイラ「いいんだ。最高の友達がいるんだ。何処でだって生きていけるさ」
その言葉は―――自分の答えと同じもの―――
エレ「うん!」
花の様に笑った笑顔は―――仲間達と同じ輝きを持って―――
752
:
蒼ウサギ
:2014/10/15(水) 22:43:08 HOST:i114-190-102-81.s10.a033.ap.plala.or.jp
最初に“ここ”に来た場所に戻った悠騎は、元の世界に帰る方法を考えていた。
ブレードゼファー・エクスは、未だにシステムが全て落ちている状態。
幸いなのは、Dジェネレータが3つとも損傷だけですんでいるというところだ。
もちろん、剣に装着されてた内2つも、剣自体が完全に粉砕されたにも関わらず軽い損傷だけですんでいる。
だからといって、もう一度、同じように次元を開けるかといえばそうではない。
損傷を被ったDジェネレータは、とても今の悠騎の整備技術では直すことはできない。
なにより、肝心のトリガーとなる剣がほぼ全壊状態なのだ。
悠騎「……まいったな」
だが、それで諦めたつもりはない。
何か使えそうなものがないかと、思考を巡らせる中、ウラノスの巨体がどうしても目に入ってくる。
悠騎「……ヴィナス、いないのか?」
何故かウラノスに惹かれるように下げられている掌の上に乗った。
すると、それまで沈黙していたウラノスが動きだした。
そして、コクピット部分らしきところまで持っていくと手の動きは止まった。
悠騎「コクピットか? でも、どうやって……」
そう思った矢先、コクピットらしき部分が開いた。
音はほぼ無音だった。ハッチというより、ウラノスへの入り口にさえ見えた。
そこに入り込んだ悠騎。だが、当然ながら操縦法はまるでわからない。
と、いうよりコクピット内が意外とシンプルな構造だったのだ。
手を包み込むような穴の開いた球体が左右に二つ、コクピット内に浮いていた。
他に機器らしい機器は見当たらない。
まるで異世界ファンタジー作品なんかでありそうなコクピットだ。
悠騎「どうやりゃあ、いいんだよ……?」
毒づきながらも吸い込まれるかのようにその球体の穴に手を入れる。
すると、突然のフラッシュバック。
遠い、遠い過去の――――ウラノスに眠っていた記録が甦った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・
“今の”人類の歴史が始まる遥か以前、文明が栄えていた時代があった。
そこには、精霊もいた。それに加えて機械技術も“今の”時代よりも発達していたのだ。
名もなき時代…いわゆる『失われた世紀(ロストセンチュリー)』である。
大陸が4つに分断されており、それぞれの大陸に独自の国を築いていた。
国同士に争いはなかったものの、それぞれの国には預言書が記されていた。
それは、世界が滅びるというというものだ。
この予言を変えるため、国同士のトップは話し合いを重ね、対抗手段を模索した。
そして時がきた。
宇宙から隕石が落ちてきたと同時に、隕石に紛れて侵略者が現れた。
『滅びの使い』
誰が言うまでもなくそれが浸透していった。
各国はそれと戦うも、人々は勝負の先が見えていた。
自分達が負ける。自分達の世界が滅びる。
恐怖と絶望が渦巻く中で、決して諦めない者達がいた。
各大陸から現れた四戦士に加え、その仲間達。
その中に――――
753
:
蒼ウサギ
:2014/10/15(水) 22:44:07 HOST:i114-190-102-81.s10.a033.ap.plala.or.jp
―――あれは……オレか?
もちろん、星倉悠騎自身にその記憶はない。
顔立ちや雰囲気こそ似ているが、全くの別人だ。
だが、悠騎自身、彼にどこか親近感を抱いている。
似ているからか?
それだけでは説明できない“何か”があった。
4人の戦士とその仲間達は、『滅びの使い』と戦った。
しかし、健闘空しく、彼らは敗れた。
その時だ。
まだ赤ん坊のマルスを連れて、ウラノスは世界を跳んだ。
本来ならばウラノスは、『滅びの使い』に対抗するための切り札だった。
しかし、実戦投入させるには遅すぎたのだ。
だから、マルスの両親は幼いマルスを護衛役のミスティと共に“こことは違う世界”へと跳ばしたのだ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・
悠騎「っは!」
壮絶な大昔の戦い、その一端を見せつけられて額に汗が滲んでいる。
月で黒歴史を見ていた冬の神殿の時より強烈かつ鮮明な映像だ。
まるで自分がそこにいるような感覚に見舞われた。
悠騎「遥か古代の時代か……マルスとミスティはその時代に生きていた希望の証だったんだな」
ふと<アルテミス>の要塞、エデンでの戦いを思い出す。
ヴィナスの企みで氷漬けにされたその二人の事を思うと、少し複雑な気持ちになった。
しばし、瞑目して、目をカッと見開く。
悠騎「とりあえず、今のオレにとってはお前(ウラノス)が最後の希望なんだ! 頼むぜ!」
なんとなく操縦法がわかった。
先の映像の影響なのだろうか、とにかく「やれる」という自信が湧いている。
由佳やトウヤを始め、長く戦ってきた戦友たちの顔が次々に思い浮かぶ。
瞳の色が紫に色に染まる時、ウラノスの目が輝いた。
§
長らく平和が続き、復旧作業の方に力を入れている彼らがある機体の反応に気づいた。
ミキ「上空に強大な熱源反応確認!」
神「識別照合は?」
ミキ「待ってください……こ、これは!? ウラノスです!」
その声に一同に緊張が走った。
ミキはすぐに艦内放送で知らせ、由佳達が慌ててブリッジに集合した。
トウヤ「このタイミングでウラノス!?」
由佳「よりによって……。すぐにミリア市長と連絡をとってプリベンターとの共同戦線を要請して!」
ミキ「はい!」
その時だ。
???『ちょい待ち〜!』
すごく懐かしく、そして聞き覚えのある声が一同の耳に届いた。
その声に、思わず由佳やミキは涙した。
ミキ「せ、先輩……」
由佳「お兄ちゃん……」
ヴィナスでもなければ他の誰でもない。星倉悠騎の声だ。
悠騎『悪いが、アイかホシノ艦長いる? そちらからこっちにハッキングして回線開いてくれね?
何せ使ったことない機体だからよ』
アイ「……変わってない様子ですね」
小さく笑って、アイが少々手こずりながらもウラノスの回線を乗っ取って開いた。
そこに見えるのは、まるであの戦いの後、1〜2時間で帰ってきた様子の悠騎の姿だった。
レイリー「何処行ってた知らないけど、忘れもん、ないか?」
悠騎『あぁ、ちゃんとエクスも一緒だ』
まるで小旅行から帰ってきたかのようなやり取りに、レイリーは泣きそうな顔を堪えていた。
由佳「お兄ちゃん!」
ついに堪え切れず涙が溢れた由佳。
その姿は、艦長という以前に1人の妹としての反応だった。
トウヤ「とりあえず、着艦したら色々説明してもらうよ。悠騎くん」
悠騎「望む所っすよ。……ひとまず、みんな。ただいま!」
―――おかえりなさい―――
754
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:53:31 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
倒壊したビル、罅割れた大地、
汚染大気で赤黒く染まった雲が空を覆っている。
とうに終末を迎えた世界の光景なれど、地上には人の声が絶えずにいた。
外を出歩く人の姿は見えないが、代わりに巨大なロボットたちが闊歩し、烈しい戦闘を繰り広げている。
ボルジャーノンのビームアックスがリーオーの腕を切断し、
バルキリーのピンポイントバリアパンチがカプルの胴体を貫いた。
荒廃した大地には無数のロボットの残骸が転がっている。
此処は闘争のみを至上とする弱肉強食の世界。
強者が弱者を虐げ、力を持つ者だけが生きる資格を持つ。
「ヒャッハー!何だあのロボットは!?」
「きっとレアものだぜ!」
「レアパーツはいただきだぜぇ!!」
ロボット乗りたちは自らのロボットを強化する為に、他のロボットを倒し、より強力なパーツを奪い取るのだ。
3体のロボットが向かう先には、見慣れぬロボットが腕を組んで佇んでいる。
ならず者たちが操縦するのは、ズサン、ギラ・ドーガ、リーオーの3体。
頭にモヒカンヘッドを付け、全身に棘を生やしたパーツを纏っている。
3体のロボットは背後から一斉に襲い掛かった。
3体の攻撃が交差した瞬間、相手のロボットの体が弾け飛んだ。
「何だ、見かけ倒しかよ!!」
「まぁいい、レアモノなら売れば金になるぜ!」
「売れなきゃ溶かして新しいパーツに……うぎゃあああああ!!」
突如背後から飛んできたビームに貫かれ、爆砕するギラ・ドーガ。
「な、何ぃ!? 新手か!」
「い、いや、違う! あのロボット……バラバラになったまま動いてやがる!」
ロボットは、バラバラになったまま宙を舞い、ならず者たちに攻撃を仕掛けたのだ。
???「ふん! またしてもザコどもか!
その程度の腕では、このターンXの破片一つ奪うことはできんぞ!!」
複数のパーツに分離したロボットは、リーオー目掛けて突撃。
リーオーの装甲を圧し砕き、爆発四散させる。
爆煙の中から現れたのは、合体を果たした薄緑色のロボットだった。
「う、うあああああああ!?」
狂乱したズサンはミサイルを発射するが、薄緑色のロボットは手刀でそれらを弾き飛ばしつつ突進。
瞬時に肉薄すると、その掌でズサンの胴体を掴み、持ち上げる。
???「シャイニングフィンガーとは、こういうものだ!!」
「ひぎゃああああああああああ!!!」
溶断破砕マニピュレーターに掴まれ、ズサンは閃光と共に砕け散った。
一瞬で屠られた3体のロボットの残骸を前に、
薄緑色のロボットのパイロットはコクピットハッチを開け、
汚染された大気に生身を晒す。
カールした青色の髪を持つ、立派な体格をした男は、自らの戦果を前に鼻を鳴らす。
???「力のみが唯一価値を持つ世界!
何とも小生好みの素晴らしい世界であるが、これしきの敵では物足りぬ。
∀やあの者達との熱く激しい戦いが懐かしい……」
755
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:54:54 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
男が郷愁に浸っていると……曇天の空が、突如として眩しく照らし出された。
風の流れは生じておらず、分厚い雲は依然晴れていない。
それ自体が太陽のような輝きを放つ物体が、空から舞い降りて来たのだ。
光に包まれたそれは、全て等しい長さの辺を持つ金色の四角錐(ピラミッド)だった。
『遂二度寝してしもうた間に、万事(すべて)は終焉を迎えたか。
気付けば、また知らぬ枝界へと飛ばされし』
金色のピラミッドから、男性の声が世界に響き渡る。
『今は朝か?夜か?こうも曇っていては分からぬ。
まぁ善かろ、朕(われ)が起きたのなら、それは朝である』
時間の基準さえも己の都合で決まると、四角錐の主は傲岸な台詞を吐く。
『勝利したのは銀河の門番か?美神を名乗る者か?
まぁどちらでも善い。所詮悠久の流れの一幕。
一時の嵐に水面を震わせようと、大河(ナイル)の流れは変わらぬ』
その言葉に、地上の男は反駁の声を張り上げる。
???「聞き捨てならぬなぁ!小生らの戦いが、取るに足らぬ無意味なものであると言っているようではないか!!」
『左様。怎(そも)、此岸で誠に人足るは朕(われ)只一人であり、其れ以外は全て時獄の縛奴なり。
蟻共の争覇(あらそい)になど泡沫の意味も無し。
その存在に何か価値を見出すとすれば、其れは朕へ奉仕することのみよ』
???「神気取りか?片腹痛いわ。何もしなかった者が、あの尊ぶべき戦いを冒涜することは許さぬぞ!!」
『……そこな機械人形の乗り手。朕は朝の運動をしたい。相手をする栄誉を与える』
ピラミッドの主は、男の怒声を風のように受け流しながら、一方的に己の望みを口にする。
いや、話に受け答えしているようで、実際には独り言を口にしているだけだ。
主にとって己だけが唯一の存在であり、それ以外の全ては己に奉仕するための道具(もの)だと、“正常に”認識しているのだ。
だが、この展開は地上の男にとっても望むべきものだった。
???「ふん、いいだろう。小生としても、もっと骨のある相手を求めていたところだ。大口を叩いておいて、小生の期待を裏切るなよ?」
男はターンXのコクピットの中で不敵にほほ笑む。
あれが並はずれた存在であることは一目で分かる。
朝の運動などと戯けたことを言っているが、あの圧力は、僅かでも気を抜けば、即座にすり潰されると伝えている。
だが、そんな存在との闘争こそが男――ギム・ギンガナムの求めているものだ。
さらに輝きを増した、ピラミッドの放つ金色の光に対抗するように……
ターンXの背中から、虹色の輝きが放たれる。
暗く濁った世界は、金と虹の光によって、たちまち眩く染め上げられる。
しかしそれは破滅の光。月光蝶に触れたモビルスーツの残骸は、たちまち灰燼に帰する。
ギンガナム「小生は今日も……絶好調である!!」
蝶の翅をはためかせ、金色のピラミッドに向かい飛翔する――
756
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:56:55 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
生還を果たした星倉悠騎は、ただちに統合軍の病院へと入院させられた。
本人は拒否したが、単身境界へ飛び込み、長らく別の世界に留まっていたのだ。
体にどんな不調が起こっているか分からない。彼の病室には、連日多くの人が訪れた。
ジョウ「全く、心配かけさせやがって」
悠騎「悪い悪い。でもこうしていると思い出すな。確か、俺が最初にこの世界に来た時、目覚めたところはエルシャンクの艦内だった」
レニー「そうだったわね。あれからすごく長い時間が経ったように感じるわ」
エイジ「だが、本当に無事に帰って来てくれてよかった。お前の安否が、この星を去る前の一番の心残りだったからな……」
悠騎「地球を去る? ああ、お前らは元々別の星の人間だったな」
ロミナ「ザ・ブーム星に侵略されているわたくし達の故郷・シェーマ星系を解放することが、わたくしの本来の使命……
アネックス皇帝がこの地球で倒れたとはいえ、故郷がザ・ブーム星に侵略されている状況には変わりありません」
ガメラン「だが、皇帝の死は、ザ・ブーム本星にも激震を与えたはず。シェーマ星を解放するのは、今を置いて他に無い」
ジョウ「伝説のニンジャも見つかったことだしな!」
ロミナ「うふふ、そう、わたくし達はそのために地球に来たのでしたね」
懐かしげに語るロミナ姫。
悠騎「と、いうことは、お前らも?」
マイク「ジョウの兄貴が行くって言うんなら、俺らも一緒に行かなきゃでしょ」
ダミアン「俺らは元々火星育ちだし、宇宙で生きていくことには慣れてるしな」
レニー「それに何より……ロミナは私たちの友達ですもの。友達の故郷が侵略されているのを放っておけるものですか」
ロミナ「レニー様……いいえ、レニー、ありがとうございます」
ロミナやイルボラはシェーマ星系から来た異星人であるが、ジョウ達はエルシャンクが火星に不時着した際、なりゆきで巻き込まれた地球人だ。
忍者ロボを動かせると言う理由でエルシャンクの戦力となったが、今はそんな事とは関係なく、彼らとの間には、星と星の垣根を越えた分かち難い絆が生まれている。
ロミナ「飛影やジョウ様たちが本当に伝説のニンジャだったのかは分かりません。
しかしわたくしはこの星で、それ以上に掛け替えのないものを学んだと思っています」
ジョウ「それは俺らもだ。イルボラ、色々あったが、お前とももう友達だと思っているぜ」
イルボラ「ジョウ……今なら素直に言える。ありがとう。ならばこれからは忠義や贖罪だけでは無く、友のために刃を振るおう」
悠騎「そっか……でも、お前らはそうするんだろうなと、話を聞いていた時に思っていたぜ」
ジョウ「俺らだけじゃねぇ。エイジさんや、マシンロボチームの皆も一緒だ」
エイジ「ああ。シェーマ星系が解放された後は、グラドス星に向かい、内部からグラドス星の選民思想を変えていくつもりだ」
ジョウ「もちろん、俺らもそれに協力するつもりだぜ」
エイジ「例えシェーマ星系を解放しても、また新たな脅威が現れる可能性はある。それを防ぐために星々を渡り歩き、争いの虚しさ、共存の大切さを訴えていく。
最終的には、銀河全体で平和の輪を広げていければ……と思っている」
悠騎「何ともスケールの大きな話だな……」
エイジ「ああ……だが、この戦いで俺たちは、星や世界の境を越えて、互いに手を取り合って滅亡の脅威に立ち向かい、勝利することができた。
その人の……いや、銀河で生きる命の可能性を、俺は信じたい」
悠騎「そうだったな……俺らG・K隊も、銀河の守り手を名乗るなら、それぐらいを目指さないといけないのかもな……」
ジョウやエイジの目指す未来と、G・K隊の行くべき道を重ね合わせる悠騎だった。
757
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:57:53 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
G・K隊や統合軍が駐屯している基地から、少し離れた岩場……
そこでは、ドモン・カッシュとロム・ストール、二人の男が向かい合っていた。
ドモン「お前も、この星を去るんだったな」
ロム「ああ、星を侵略する悪を討つのが天空宙心拳の使命だ。それに、ジョウやエイジに、友として力を貸したい」
ドモン「その戦いが終わったら?」
ロム「ギャンドラーは滅んだとはいえ、この宇宙には、まだまだ弱者を虐げる悪が蔓延っている。それに、滅んだままのクロノス星の復興も果たさないとな……」
ハイリビードの力は、L.O.S.T.の侵蝕を跳ねのけるために失われた。
だが、あの深虎との戦いで分かった通り、その力は本来、生存を願い前に進もうとする人々から湧き出る命のちからそのものなのだ。
ロム「銀河に平和をもたらし、人々の活力を呼び覚ます……それが新たなハイリビードを顕現させ、クロノス星を再生させると俺は信じている」
ドモン「そうだな……お前ならきっとできるさ。俺も、力を貸してやりたいが……」
ロム「その申し出はありがたいが、お前は、元の世界でやるべきことがあるはずだ」
ドモン「ああ……」
そう言って、二人は同時に歩み出し、互いに固い握手を交わした。
ドモン「望まずして来た異世界だが、お前という男に出会えたことを感謝したい。お前もまた、師匠や兄さんと同じく、俺が尊敬すべき武闘家の一人だ」
ロム「ああ、属する世界は違えど、これからも互いに技を磨き上げていこう」
ドモン「……こうしてゆっくり語らう時間も、これが最後になるかもしれんな」
ロム「ああ、ならば、後はやるべきことは一つだ」
これ以上、言葉は不要だった。手を放した後で、互いに距離を取ると、二人の武闘家(おとこ)は同時に構えを取った。
共に世界を脅かす敵と戦い、切磋琢磨してきた日々……二人は紛れもない戦友であった。
だが、同じ武闘家である以上、己と同等以上の強さを持つ者に対し、戦ってみたいと言う思いが沸かぬはずがない。
怒りも憎しみも無い、ただ純粋に、どちらが強いか決めたいという欲求……いや、更に根源的な、『俺の方が強い』という、武闘家を武闘家たらしめる自負……
骨の髄まで武闘家である両者が向かい合った以上、決着をつけようとするのは必然であった。
これが正真正銘最後の……二つの世界を代表する格闘家同士の――
ドモン「流派東方不敗、キング・オブ・ハート、ドモン・カッシュ」
ロム「天空宙心拳伝承者、クロノス族族長、ロム・ストール」
「「いざ尋常に――」」
勝負(ファイト)――!!
758
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:59:00 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
コスモ・フリューゲル内にある、休憩用のカフェバーのカウンターを挟んで、二人の男が向かい合っていた。ムスカ・D・スタンフォードとゼド・グロリアスである。
ゼドは二つのカップにコーヒーを淹れ、一杯をムスカに、もう一杯は自分であおる。
ムスカ「美味ぇ……」
ゼド「はい、私もあれからようやく満足できる一杯が出来たと思いますよ」
理由はもちろん、悠騎が無事に帰ってきたことだ。
あのヴィナスとの最終決戦……悠騎とヴィナスが共に次元の渦へと消え、敗北感と無力感を味わわされてから、ムスカは一度も心からコーヒーを美味いとは思えず、ゼドも満足の行くコーヒーを作れていなかった。
ムスカ「あいつには今回も驚かされたぜ……生きて帰って来ただけでも奇跡だってのに、この世界を救っちまうんだものな」
悠騎があの次元の渦に飛び込んでからどうなったのかは、彼自身にもよく分かっていないらしい。だが、この世界を含む全ての世界が救われたのは、彼のお陰なのだろうと直感していた。
ムスカ「おまけにウラノスまで持って来て、俺らが元の世界に戻れる可能性もできた。全く、大人の立つ瀬がないぜ」
ゼド「若者には無限の可能性がある……それはこれまでの戦いで、十分わかっていたはずですがね」
ムスカ「ああ……おっと、もう子ども扱いするべきじゃねぇな。あいつはもう、立派な大人だ」
年若い戦士に、心からの賞賛を送りながら、二人はコーヒーを口に運ぶ。
ゼド「白豹がマザーグースから抽出した知識、機動要塞シャングリラ、そして一番の要であるウラノスが我々の下に戻って来たのです。
更なる解析は必要でしょうが、元の世界には帰還できるでしょう……いいえ、そうしてくれるはずです」
ムスカ「最悪、カフェ・トライアングル異世界店を開業するつもりでいたんだがな。その必要もなさそうだ」
ゼド「はい……私にもあなたにも、向こうで待っている人たちがいますからね……」
二人は、懐に入れていた写真に目をやる。ムスカの写真には一人の女性が、ゼドの写真には、彼の妻と子供たちが映っている。
ムスカ「随分心配かけちまっただろうな……元の世界で、どれだけ時間が流れているかは分からねぇがよ……」
ゼド「元の世界に帰還するなら、その時間も調整しなければいけませんね……もし我々が異世界に飛ばされる『前』に帰還すれば、時間にどんなねじれが発生するか分かりません」
ムスカ「難しいところだな……」
セレナ「ちょっとちょっとぉ!おっさん二人が何を寂しく黄昏てるのよ!!」
その時、カフェバーの扉を開けて、セレナが勢い良く入って来た。
ゼド「社長……どうなされました?」
セレナ「どうも何も、今夜は悠騎の帰還祝いに、宇宙の皆さんのお見送りパーティーをやるのよ!!準備は山積みなんだから、早く来なさい!!」
ムスカ「そいつは、バミューダストームへの依頼……になるのかい?」
セレナ「そうよ!私の面子も掛かっているんだから、誰もが満足できる最高のパーティーにしないと!!」
ムスカ「……もしかしたら、これが、この世界でやる最後の仕事になるかもな」
ゼド「ならば、張り切って取り組まなければなりませんね」
二人の大人は互いに笑むと、席から立ち、社長の背中を追ってカフェバーを後にした。
759
:
蒼ウサギ
:2014/11/02(日) 00:18:19 HOST:i121-112-39-226.s10.a033.ap.plala.or.jp
=シティ7=
これまでパーティー等といったイベント事がなかっただけに、一同の盛り上がりぶりは尋常ではなかった。
出された料理に夢中になる者。この空気に乗じて口説こうとする者。ファイヤーボンバーの歌に乗じる者。
反応は様々だ。
悠騎「ったく、オレなら心配ないってのに。あの医者ときたら」
ブツブツと文句を零しながら悠騎は今、車いすでミキに連れられている。
医師はこの出席に良い顔はしなかったが、車いすで付き添いつきならと承諾してくれた。
悠騎「別にオレはどこも悪くないってのに毎日のようにあちこち検査しまくって」
ミキ「まぁまぁ。先生も心配なんですよ。だって例にないことですし、それに・・・・・・」
悠騎「ん?」
ミキ「私も心配ですから。あと、この際ですから今までの戦闘分の怪我も診てもらういい機会だと思いますよ」
悠騎「オレはそんなヤワじゃねぇっての」
由佳「また強がっちゃって。後で後悔しても知らないよ」
皿にタップリの料理を盛り付けている由佳が割って入った。
悠騎「てか、由佳。お前、オレがこっちに帰って来た時、泣いたってホント?」
うっ、と声を詰まらせ、次に顔を赤くした由佳は
由佳「そっ、そんなこと今頃になってほじくり返さないでよっ!」
と、悠騎の耳元で叫んだ。
どうやら泣いた事実は否定しないようだ。
ブンドル「マドモアゼル由佳。恥ずることはありません。あなたの涙は非常に美しいも―――」
悠騎「人の妹を勝手に口説くな、ブンドリ野郎!」
ブンドル「こんなときくらい大人しくしてもらいたいものだな。星倉悠騎」
悠騎の怒鳴りを軽くいなし、由佳に渡す予定だったであろう薔薇を咥える。
華麗にして無駄のない動きだ。
ブンドル「ひとまずは感謝しよう。このような催し物が出来るようになったのだからな」
そう言って、ブンルドはその場を去っていった。
結局は誰もが感謝しているのだ。
それが、例え偶然であれ、奇跡であっても。
悠騎「……ったく」
掴めない奴だ、と、悠騎は嘆息するもその表情には笑顔が浮かんでいた。
§
=コスモ・アーク 格納庫=
整備班長であるレイリー・ウォンは、こんな日でも格納庫に籠っていた。
例によって悠騎が持ちかえったウラノスを徹底的に調べるためだ。
元の世界に帰るには、いくら時間があっても足りないくらいだ。
レイリー「ふぅ……ウラノスとシャングリラ。それに、ブレードゼファー・エクスがあれば何とかなるかもしれないね」
そんな時に一杯のコーヒーが差し出される。丁度、飲みたいと思っていたところだ。
レイン「あっちに顔出さないの?」
レイリー「まだこれをどうにかしないといけないから」
キッド「ったく、レイリー姉ちゃんは水臭いなぁ。手伝いならするぜ」
ウリバタケ「おう! 及ばせながら力を貸すぜ。だってアンタらはオレ達の世界を守ってくれたんだからよ」
レイン「もちろん、私も手伝わせてもらうわ」
それぞれの温かい言葉に、レイリーは素直に嬉しくなった。
それと同時に少し寂しくもなっていく。
これで次元跳躍マシンが予定より早く出来てしまえば、それだけ別れが早くなってしまう。
それもまたどこか寂しい。
しかし、元の世界に帰る。当初の目的でもある。
レイリー「……ありがとう」
それでも、嬉しい気持ちは収まらなかった。
760
:
藍三郎
:2014/12/23(火) 21:47:05 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
セレナ「……やっぱり、体は修理しなくていいの……?」
パーティーが始まる少し前……セレナは、窓の外にいるクローソーを見かけ、話しかけた。
その問いかけに、彼女は黙って首を縦に振った。
マザーグースによって造られたアンドロイド、クローソーは長らくメンテナンスを行っていなかったため、その稼働時間に限界が近づいていた。
修理できるのは創造主であるマザーグースのみ。
彼の知識は白豹が吸い取り、統合軍にデータとして残されている。
ゆえに修理しようと思えばできるのだが……彼女はその申し出を拒否した。
クローソー「……別に、ヤツの知識のお陰で生き延びるのが癪だってわけじゃないさ。
そもそも他人の世話になりながら生きるのが面倒でね。元から長生きしたかったわけでもないし」
セレナ「あえて引き止めはしないけど……これからどうするつもり?」
クローソー「世界中を歩きながら、生きられるところまで生きてみるさ。お前らには……」
そこから先は言わず、クローソーはG・K隊と統合軍の前から姿を消した。
彼女も、最後まで言葉を決められなかったのだろう。仲間の仇でもあり、同時に命の恩人である彼らに対して……
=パーティー会場=
パルシェ「では、エナさんはこの世界に残るんですか」
エナ「……ああ」
頷く彼女の目に、迷いは無かった。
エナ「私はネオ・ジオン、ザビ派のサイコドライバー研究所にいた。
外の世界をこの目で見ることはなく、来る日も来る日も調整と訓練の日々……
そして結局、私は殆ど実戦に出ることがないまま、ザビ派は敗北し、私は戦う場を、生きる場を失った」
アルティア「…………」
エナ「だが、この世界に飛ばされて、私は初めて世界と言うものに直に触れることができた。
辛いこともたくさんあったが……生きるということが何なのか、分かった気がする」
パルシェ「そうですね……大変なことばかりでしたが、得たものも多かったと思います」
エナ「私にとっては、この世界の方こそ、初めて自分の意志で『生きた』世界と言える。
だから、私はこの世界で生きていく。
当面はミリシャの人たちの手伝いをすることになると思う」
タツヤ「そうか……元気でな」
エナ「ああ、あなた達を見習って、精一杯、生きてみる。
こんな私を生かすために、命を賭してくれた人がいたのだから……」
そう言って、エナは笑って見せた。
悲しみや喪失感など、様々な感情が入り混じっていたが、それは心からの微笑みだった。
761
:
蒼ウサギ
:2015/02/19(木) 21:55:20 HOST:i118-16-253-34.s10.a033.ap.plala.or.jp
=某資源衛星=
<アルテミス>との戦いから約一カ月後のこと。
ネオバディムの残党がこの資源衛星で反撃のチャンスを伺っていた。
大半の主要メンバーは失ったものの、いつか必ず野望成就の信念のもとにここで牙を磨いていた。
そして、そこに所属している研究員は日夜新型機の開発プランについて議論していた。
「やはり両より質でしょう。先の戦いが証明している」
「だが、量も無視できない。なにせ乗り手が少ないのだからな」
「この両方を両立させた新兵器が目下の課題だのう」
議論が白熱していく中、どこからか爆発音が響いた。
デュオ「ネオバディムの残党が保有していたMDやMSの製造プラントは叩いたぜ!」
ヒイロ「設計データのほうはこちらで消去した」
デュオ「ひき上げ時だな。残党共はどうする?」
ヒイロ「オレ達がいちいち始末する必要はない。ここ座標はすでにカトルやガムリンが捉えている」
デュオ「なるほど。後は宇宙統合軍のお仕事ってわけね」
プリベンター。
主に軍事産業を狙って破壊して争いの種を摘んでいくこの世界の平和のため組織。
構成員は小規模ながらもその成果は順当である。
デュオ「あ〜あ、オレもパーティの方に参加したかったぜ」
ヒイロ「お前が選んだ道だ。文句を言う資格はない」
デュオ「へいへい、っと」
脱出用にあらかじめ確保しておいたこの資源施設の小型シャトル発射の準備をしながらデュオがぼやく。
だが、ここで二人に予想外のことが起きた。
突然の銃声、それも生身の人間が使うものとは比較にならない轟音がシャトルを破壊した。
デュオ「なっ! MS!?」
ヒイロ「製造プラントに残っていたのか」
MS、リーオー。
一時は前線におけるOZの主力MSだったが、宇宙統合軍、G・K隊との戦いで性能差が明らかになり
ト―ラスやビルゴに取って代わられた。
デュオ「野郎! ここにこんなものまであったなんて」
ヒイロ「ちぃ」
デュオとヒイロの手持ちは拳銃と爆薬くらい。この状況ではとても太刀打ちできるはずもない。
ガンダムとまではいかないが、せめて使えるMSさえあればと思ってしまう。
そんな時だ。
空間が淡く歪んだかと思うと、そこからブラックサレナが現れた。
リーオーのパイロットはそれに不意をつかれたのか、手元のマシンガンをすぐに発砲することができずに
ブラックサレナの一撃に沈んだ。
ヒイロ「テンカワ・アキトか」
アキト「二人とも無事か?」
デュオ「あぁ、お陰さまでな」
その後、アキト共々ユーチャリスに回収され、この資源衛星から離脱していった。
デュオ「で、お前はパーティに行かなくてよかったのか?」
アキト「オレには必要ない」
デュオ「まぁ、そのなんだ。料理の味とかわかんねぇかもしれないけど、その雰囲気とか楽しめるんじゃないか?」
アキト「オレは影となってこれからのユリカやルリちゃんを守っていかなければいけない」
ヒイロ「だから、お前もプリベンターに入ったのか?」
アキト「そうだ。宇宙統合軍ができないことをオレ達がやる」
ヒイロ「それが、お前の今後の生き方なんだな」
アキト「あぁ」
ヒイロ「そうか……」
ヒイロは考えていた。
元の世界に帰った時の自分の生き方を……。
762
:
蒼ウサギ
:2015/02/19(木) 21:56:41 HOST:i118-16-253-34.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
ガロード「オレさ。元の世界に帰ったらティファと一緒に旅をしたい」
ティファ「ガロード……」
少し驚きの顔を見せつつも、すぐにそれが喜びへと変わっていく。
ウィッツ「言うようになったじゃねーか」
ロアビィ「でも、あの兄弟のゲテモノガンダムがいなくなったとはいえ、
元の世界に帰ったら帰ったでティファを狙うヤツがいるんじゃないの?」
ジャミル「……ティファ、あれからどうだ?」
その問いかけにティファは徐に目を閉じた。
ティファ「もう私は何も感じることができません。恐らくD.O.M.Eがもう必要ないと感じたのでしょう」
ニュータイプなどという幻想は終わった、ということだろう。
戦いが終わったことで、ティファはもう能力なんて必要ないということを自覚したのだ。
トニヤ「う〜ん、スペシャルパワーがなくったなんてちょっと勿体なかったんじゃない?」
ティファ「いえ、私はガロード達と同じになれて嬉しいです」
ジャミル「とはいえ、勘違いしてくる輩もいるかもしれん。その時はガロード……」
ガロード「あぁ、ティファはオレが守るぜ」
そして、数週間の時が経った頃、彼ら―――イレギュラーと呼ばれた者達はコスモ・ストライカーズに招集された。
=コスモ・ストライカーズ=
レイリー「なんとかだけど、ようやく皆が元の世界に帰れる目処が立ったよ」
悠騎「マジか!?」
レイリー「といっても、まだ実験もしてないから保証はできないけどね。というより、実験は難しいかなって思う」
当然、疑問の声が上がるが、何人かはその理由がすぐに理解できた。
トウヤ「なるほど。もし実験すればウラノス、そしてシャングリラも失いかけないってことか。成功失敗に問わずね」
レイリー「そう。まさに不安定な片道キップ状態なんだ」
でも、可能生は高いんだよ、と付け足して説明に入った。
レイリー「とりあえず手順を説明するわ。悠騎がウラノスに乗って、ゼファーブレードで次元を斬り裂くの」
悠騎「お、オレが?」
レイリー「この中で唯一、違う次元世界に行き来できたの、あんただけだけだからね。可能生は少しでも高い方がいいでしょ?」
悠騎「まぁ、そうだけどよ。……てか、ウラノスとエクスの剣じゃサイズが違い過ぎじゃねぇか?」
レイリー「大丈夫よ。ちゃんとウラノス用に修復させてるから。
ついでにエクスのDジェネレーターもゼファーブレードに組み込んだし」
マジかよオイ、という悠騎のぼやきを無視して、レイリーは説明を続ける。
レイリー「その際、皆にはそれぞれの帰るべき場所をイメージして欲しいの」
キラ「イメージ?」
レイリー「そう。そうしなきゃ次元が開いても、皆一緒に同じ世界に跳んじゃうからね」
ドモン「だが、イメージするだけで上手くいくものなのか?」
アイ「信憑性は欠けますが、そうする他ない。というのが現状です」
レイリー「何せシャングリラの方にもウラノスの方にもそれっぽいものはなかったしね。
でも、考えてみなよ。アルテミスのヤツらは無差別じゃない。ちゃんと選んでアタシ達をここに連れてきたんだ。
そう考えると、イメージっていう言葉が一番しっくり来るんだよ」
リリーナ「わかりました。やってみましょう」
リリーナの言葉に異議を唱える者はいなかった。
ジャミル「それで時間軸の方はどうなるのだ? 我々が飛ばされてきた直後になるのか?」
レイリー「そっちの方は上手く調整できなくってね。精々、ここにいた時間軸と同じ、約半年経ってると思っていいよ」
由佳「そこは致し方ありませんね」
一瞬の沈黙が流れたが、誰も思いの外それを深刻に思っていないようだ。
カトル「例え、僕らの世界がまた1からのスタートだったとしても」
ガロード「過ちを繰り返さなきゃこっちと同じような結果になるさ!」
キラ「それだけの大切な時間を、僕らはこの世界で学んだんだね」
これまでの戦いを振り返り、みんな思わず感慨に耽ってしまう。
ラクス「それで、出立はいつになりますか?」
レイリー「悠騎次第だけど、色々調整もあるからね。だいたい3時間ほどかな」
悠騎(そうだよな……オレが“あの力”を引き出さない頃には始まらない)
自分の一太刀が仲間達の帰るべき場所へと戻れる。そう思うとヴィナスとの戦いより緊張してくる。
できるのか、ではなくやらなければならない。
だが、不思議とプレッシャーは感じられない。
自分の中で、以前よりも“あの力”が近くに感じられるからだ。
意識を集中させれば、いつでも発動できそうなほどに、悠騎の中では馴染んでいたのだ。
763
:
蒼ウサギ
:2015/06/25(木) 00:19:56 HOST:i118-16-253-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
キエル「ドーリアン外務次官。あなたの思想、この世界にも広めていくよう尽力いたします」
リリーナ「それは光栄です、キエルさん。いえ、ディアナ様」
キエル・ハイムは、本当の月の女王、ディアナ・ソレルとなった。
ディアナ・ソレルという人物は、今の月には必要なのだろう。
瓜二つのキエル・ハイム自身が悟り、申し出た話だ。
ディアナ「よろしくお願いしますね。キエルさん」
キエル「はい、ディアナ様。それと、これからはロランと一緒に?」
ディアナ「彼はこんな私の最後を看取ってくれると言ってくれました」
キエル「最後の時、誰かが側にいることは、幸せな事だと思います」
それ以上はお互い何も言わなかった。
リリーナも、そしてキエルの傍らにいるハリーでさえも沈黙を通した。
いくら月の高度な科学力で人工睡眠をしていたとはいえ、肉体はすでに1000年前のもの。
限界が近いのだ。
だから、自らの政権をキエルに託した。
全ては月に住む民のために。
§
ゼンガー(ゼクス・マーキス、そしてトレーズ・クシュリナーダ。この世界で安らかに眠れ)
己の剣を大地に突き立てる。
さながら、二人の墓標を象徴しているかのように。
エクセレン「あら〜、ボス。こんなところで物思いにふけちゃったりしてるのぉ?」
ゼンガー「そんなところだ」
キョウスケ「確かに、長い戦いでしたからね」
エクセレン「その分、アタシとキョウスケはラブラブに」
キョウスケ「それはないだろう」
その言葉に、エクセレンが「がーん!」と明確に落ち込んでいるそんな時だった。
ヴィレッタ「ふっ、安心しろエクセレン少尉。」
ライ「キョウスケ少尉は、自分と同じで素直じゃありませんから」
エクセレン「あら〜、色男さん、良いこと言ってくれるじゃない」
キョウスケ「・・・・・・そろそろ時間だ。いくぞ」
その胸中はどのようなものか。キョウスケは足早にコスモ・ストライカーズへと戻っていく。
764
:
蒼ウサギ
:2015/06/25(木) 00:20:41 HOST:i118-16-253-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コスモ・ストライカーズ=
3時間が迫っている。
四之宮アイは、最後の調整を行いながら、ふと、思った。
アイ「ホシノ少佐、あなたとオモイカネには助けられてばかりですね」
ルリ「それはこちらも同じです。……それに、あなた達は、私達の世界を救ってくれました」
相変わらず愛想が感じられない無表情な二人のやり取り。
だが、いつもとは少し違う雰囲気をお互い感じている。
ルリ「アイさんは、元の世界に戻ったら何をしますか?」
アイ「そうですね……」
もちろん、やらなければいけないことは山ほどある。
今回の出来ごとの報告書の作成、今回の戦いにおいての新しい戦術プラン。
何より、いなくなったG・K隊員の処理だ。
結果はどうであれ、そこに善悪はない。丁重に葬るのがG・Kとしての役割だ。
アイ「……とりあえず、当分は戦場に出たくないですね」
ルリ「奇遇ですね。私も同じ気持ちです」
二人は、小さく笑みを見せた。
そして、3時間という時間はあっという間に流れた。
§
出発の時間になり、由佳から各自に通達があった。
由佳「皆さん、それぞれの機体や戦艦に乗ってください。
ないという方はそれぞれの世界―――自分と同じ世界からきた者同士の相乗りをお願いします」
レイリー「なんで? って人のために説明すると、転移の瞬間に少なからず衝撃が起こるの。安全のためよ」
ルリ「まるで、ボソンジャンプのようにですね」
ボソンジャンプは、戦艦のような大きさや適性のあるパイロットなら安全に使用できていた。
しかし、適性のないパイロットのボソンジャンプは生死の危険性がはらんでいる。
アイ「似たようなものですが、今回は皆さんがもつ“修正力”を増幅することで元の世界に戻るようにしています」
カトル「なるほど、だから僕達が帰るべき場所のイメージが必要なんですね」
アイ「そういうことにしておいてください。やらないよりずっとマシですから」
アイの言葉がこの作戦の難易度が物語っていた。
確立100%ではない、限りなくゼロに近い作戦なのだと
由佳「それでは皆さんの帰還作戦を開始します!」
凛と言い放つ由佳の内心は、悠騎のことでいっぱいであった。
「頑張って、お兄ちゃん!」と、心の中で叫ぶのが精一杯だ。
§
ウラノスのコクピットで悠騎は、大きく深呼吸をした。
不思議なほどにそれだけで心は落ち着いた。
悠騎「いくぜぇ!」
気合の声と共に、ウラノスが新たに調整されたゼファーブレードを持って格納庫から飛びだした。
天空に舞い、力強く、両手で握って、かつ思い切り
悠騎「うりゃぁぁぁああああ!!」
振り下ろすその瞬間、“あの力”が解放された。
そして―――――
765
:
蒼ウサギ
:2015/06/25(木) 00:23:03 HOST:i118-16-253-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
○エピローグ
トウヤ「以上がこれまで我々が体験した記録です」
G・Kの基地で紫藤トウヤは、最高司令官である星倉聖司司令に、こことは違う世界での出来事等を報告した。
聖司「御苦労。戦死した隊員達の葬儀は、後日合同で行おう」
トウヤ「了解しました」
味方はもちろん、裏切り者だった隊員でさえ共に手厚く葬る。
たとえ、死体はなくともそうするのがG・Kのポリシーなのだ。
帰還作戦は成功したのだ。
少なくとも、G・K隊達とその世界の住人達は。
他の世界の者はわからないし、確かめようがない。
ただ、全員無事元の世界に帰っていることを願うしかないのだ。
トウヤ「しかし驚きました。迎えにネオ・ジオンがやってきたのは」
聖司「彼らはもうネオ・ジオンではない。君たちがいない間に連邦もジオンもなくなったのだ」
トウヤ「皮肉な事にシャア・アズナブルのアクシズ落としが二つの組織を結んだ、といっていいんでしょうね」
聖司「だといいがな」
トウヤ「このまま終わらないとでも?」
聖司「歴史のターニングポイントは、いつも気づかないものだ。だが、平和になった今の時代を守っていかなければならない
これだけは、我らにとっても譲れないな」
トウヤ「当然です。それと――――」
聖司「ん?」
トウヤ「悠騎くんと由佳ちゃんをちゃんと褒めてあげてください。彼らがいなければダメだった時が何回もありましたから」
聖司「ふっ」
小さく笑った聖司が徐に立って背を向ける。
聖司「今更、そんなことで喜ぶ年齢でもないだろう」
トウヤ「やはり、似てますね」
ん? と、振り返った聖司だが、トウヤの「なんでもないです」という返す。
今頃、悠騎や由佳、アイは各自の部屋で泥のように眠っている。
766
:
藍三郎
:2015/06/28(日) 21:57:58 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
そして月日は流れ……
イレギュラーと呼ばれた者達の、故郷への帰還を目指した戦いは終わった。
だが、これで彼らの物語が終わるわけではない。
彼らが目指したのは、ゴールでは無くスタートなのだ。
しばしの安息の時を経て……彼らは、それぞれの未来に向かって歩き出す……
=アメリカ カフェ・トライアングル=
『元の世界』に帰還してから数日後……
傭兵派遣会社バミューダストームの面々は、彼らの根城であるカフェ・トライアングルに集まっていた。
帰還に成功してから数日間……彼らは恋人や妻子との再会を果たし、その喜びを存分に噛みしめていた。
ムスカ「ふぅー、やっぱこの店で飲むゼドのコーヒーはまた格別だな」
セレナ「いえ、以前より3割増しで美味しくなっているわね」
ゼド「ありがとうございます。これは、あちらの世界でのバルドフェルド氏との切磋琢磨の賜物かと」
アネット「とにもかくにも、全員無事に帰って来られて良かったよ!
私たちが離れている間も、連邦とジオンが和平を結んでいたし、言うことなしだね」
セレナ「アッちゃんは、大学の単位という新たな敵がいるけどね。
留年なんて、お姉ちゃん許さないからね」
アネット「ううう、分かってます!」
セレナ「と、言っても、私たちもあまりのんびりとはしていられないけどね」
ゼド「ええ。蜥蜴戦争は、我々が不在の間、火星に飛んだナデシコ隊の活躍で終結しましたが……」
店内には、ナデシコ隊から送られた帰還祝いの品や花輪が置かれている。
その中には、白鳥九十九とハルカ・ミナトの結婚式の写真もあった。
大口を開けて笑っているダイゴウジ・ガイの姿も映っている。
あちらの世界では戦死していた彼も、無事生還できたようだ。
ムスカ「俺たちはあちらの世界で知っている。木連の残党が、『火星の後継者』となって再び蘇ることを……」
セレナ「こちらの歴史があちらの世界と同じ道を辿るとは限らない……
でも、知ってしまったのなら、出来る限りのことはしないとね」
アネット「うん、アキトさんやユリカさんを、あんなことにはさせたくないもの」
セレナは、トライアングルの天井に視線を向け、小声でつぶやく。
セレナ(白豹……聞いてる?)
白豹(ああ……草壁の懐刀である北辰と北辰衆……奴らの動向には、特に注意を払っている……)
その後……
ロスト・アースでの知識を得た傭兵派遣会社バミューダストームの影の活躍によって、
あちら側の世界で起こった、木星連合残党による
テンカワ夫妻を狙ったテロは未然に防がれることとなる……
767
:
藍三郎
:2015/06/28(日) 21:59:40 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=別世界の宇宙 シェーマ星系の惑星=
ザリオス「ひゃーはははは!!ガデスや主な幹部たちは地球とか言う辺境の星でくたばった!」
ファルゴス「今やギャンドラーは生き残りである俺たちの天下だぜ!!」
キャスモドン「さぁ、俺たちにそのお宝を寄越しな!!」
兵士「断る!この物資は対ザ・ブーム戦の生命線!」
兵士「前線の仲間達の生死が掛かっているんだ!」
兵士「ああ!頭を失ったギャンドラーなどに負けてなるものかよ!」
ザリオス「ヒャッハー!なら皆殺しにしていただくまでだぜ!」
ファルゴス「かかれぇーっ!!」
???「待ていっ!!」
「!!」
???「悪の暴力に屈せず、恐怖と戦う正義の気力!
人、それを「勇気」という!」
ザリオス「な、何もんだぁ!?」
ギャンドラー達は、逆光を背負って立つ三人の男に目をやる。
ジョウ、エイジ、ロム「貴様達に名乗る名前は無いっ!!」
レニー「ハモった……」
レイナ「しかも、声も息もぴったり……」
ジム「……どうやら、我々の出る幕は無いようですな」
ジムの言う通り、飛影、レイズナーMkⅡ、ケンリュウによって、
ギャンドラーの残党たちは瞬く間に叩き伏せられていった。
=エルシャンク=
エルシャンクは地球を離れ、ワームホール航法を用いて故郷のシェーマ星系に辿り着いていた。
そこで彼らは、ロミナ姫たちの悲願であるシェーマ星系解放のための戦いを始めていた。
伝説のニンジャ戦士やマシンロボたちを伴ってシェーマ星系に帰還したエルシャンクは、
シェーマ星系で抵抗を続ける軍に、解放の旗印として迎え入れられた。
アネックス皇帝の急死で、その後釜を巡ってザ・ブーム軍は内部分裂を起こしており、
その隙を突いた解放軍は、飛影やレイズナー、マシンロボたちの活躍もあり、各地で連戦連勝を重ねていた。
ダミアン「しっかし、ザ・ブームとギャンドラーの残党が手を組んでいたとはな……」
グローバイン「ふん、どちらも頭を失った烏合の衆。今のワシらの敵ではない」
レニー「次はいよいよ、ロミナの故郷、シェーマ本星での決戦ね……」
エイジ「ザ・ブーム軍の残存艦隊は、シェーマ本星に結集して、強固な防衛線を敷いていると聞く」
ガメラン「だが、それさえ突破すれば、シェーマ星系解放は成ったも同然……!」
ジョウ「ああ、今の俺たちなら、負ける気がしねぇな!」
イルボラ「油断は禁物だぞ、ジョウ。精鋭揃いとはいえ、我らの戦力は少ない。あの頃とは違うのだ」
ジョウ「わ、分かってるよ! くそ、改心したのはいいが、すっかり小言が多くなってやがる」
ここで、ジョウはふと天井を見上げる。
彼が何を考えているか、他の者達もすぐに分かった。
イルボラの言葉で、彼らも等しく思い出したからだ。
あの苛烈な戦いを共に駆け抜けた、異世界の戦友たちを。
ジョウ「……あいつら……今頃どうしてっかな」
ロミナ「無事、元の世界に帰還できていればいいのですが」
レイナ「私たちには、ただ願う事しかできないのがもどかしいわ……」
ロム「……大丈夫だレイナ。彼らはきっと無事だよ。俺にはそれが分かる」
ジェット「剣狼が教えてくれているのか?」
ロム「……いや」
ロムは握り締めた拳に目をやる。その拳には、あの男との最後の戦いの熱が、今も残っていた。
あの男だけではない。異世界の仲間たちは皆、己の信念や誇りに懸ける熱を宿していた。
その熱意に、必ずや世界の修正力は応えるだろう……ロムはそう確信していた。
768
:
藍三郎
:2015/06/28(日) 22:01:07 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=ネオジャパンコロニー=
ネオ・ジオンのアクシズ落としに、決勝出場者の大半が消失するという事件が重なり、
中止されていた第13回ガンダムファイトだが、
今回、ファイター達の異世界からの帰還によって再開される運びとなった。
しかし、今大会の主催者のネオホンコン首相、ウォン・ユンファと
ガンダムファイターである東方不敗マスター・アジアは消息を絶ったままであり、
元の形でガンダムファイトを再開することは不可能だった。
そこで、連邦とジオンの和平、並びに行方不明者の帰還を祝うイベント……
その目玉として、第13回ガンダムファイトの決勝戦が執り行われることとなった。
急なスケジュールに、帰還したばかりのファイター達を慮る声もあったが、
彼らは皆一様に大会の参加を了承していた。
ドモン「やぁっ!せいっ!たぁぁっ!!」
大会に向けて、トレーニングルームで汗を流すドモン。
ドモン(チボデー達も今頃同じように技を磨いているはずだ。
この大会、僅かな鍛錬の差が勝敗を分けることになるだろう!)
そこに、ドアを開けてレインが入ってくる。
レイン「ドモン!さっき情報が入ったのだけど、アメリカ、チャイナ、フランス、ロシアの四国は、ゴッドガンダムに対抗して、この大会用にバージョンアップしたガンダムを用意するそうよ!」
ドモン「ほう、あいつらがな……」
元よりシャッフル同盟の四人は手ごわいが、それが新たなガンダムを得るとなれば、更なる高い壁となって立ちはだかることだろう。
レイン「ただでさえとんでもない人達なのに、それがさらに強くなるなんて……
それなのに、どこぞの誰かさんは全勝宣言までしちゃうし……」
ドモン「俺のやることは変わらない。大会が始まるまで、ひたすら己を鍛え抜くだけだ」
レイン「相変わらずね……」
ドモン「俺にできるのはそれぐらいのことだ。
それに、俺が強くなりさえすれば……お前の作ったゴッドガンダムなら必ず勝てる。そうだろう?」
その言葉は、パートナーへの何よりの信頼の証だった。
レイン「ええ、私もぎりぎりまで、ゴッドガンダムの性能向上を目指すわ。あなたの修行の成果を、あまさず再現できるように」
ドモン「頼んだぞ、レイン。俺とお前とゴッドガンダムなら、どんな相手だろうと負けはしない!!」
拳を握り締め、決意を新たにするドモン。
ふと、その瞳に一抹の寂しさがよぎる。
ドモン(……師匠……シュバルツ……
あなた達とは、できればこの大会で決着をつけたかった……)
あの異世界での戦いは辛いことも多かった。
しかし、師や兄との別れ、強敵との戦い、そして世界を跨いだ友との出会いが、己を更に成長させたと確信している。
ドモン(あなた達の教えは忘れない。受け継いだものを胸に、俺はファイターとして、さらに未来(さき)へ行く!)
769
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 17:19:01 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=ロスト・アース ミリシャ復興団キャンプ=
異世界の地球、ロスト・アース。
イレギュラー達が帰還し、平和が訪れても、戦災の爪痕はまだ各地に残っている。
いち早く復興を果たしたイングレッサ・ミリシャは、
宇宙統合軍やムーンレィスと共にアメリア大陸を巡りながら、各地の復興に務めていた。
リリ「グエン卿は本当にしぶといですわね」
グエン・ラインフォードは、再びイングレッサの領主として返り咲いていた。
ネオバディムと手を組み、ユーゼスの野望に加担した彼であるが、
戦後の混乱を鎮める人材として、
そして、ネオバディムが保有していた黒歴史のデータを統合軍に渡した功で
過去の罪状は一時的に保留されることになった。
グエン「ふふふ、私が今後も領主の座に留まれるかは、今後の働き次第ですがね」
メリーベル「キャハハハハ!グエンが失脚したら、私が領主サマに立候補しようかな?」
グエン「まぁ……メリーベル嬢が領主に相応しいかどうかはさておいて……
月やマクロス7船団に留学している若者達が戻ってくれば、ここは優秀な人材で溢れ返ります。
私の後釜ぐらいすぐに見つかるでしょう。
そうなれば、早々に引退して、産業革命の成った世界を見て回りましょうか」
グエン(ローラ……君ともまた、いつか……)
ソシエ「ちょ!?おじいちゃん!また私のカプルを勝手に弄って!!」
老人「ウヒャヒャヒャヒャ!!見たまえヨクリス!ミイの改造で、カプルのマニピュレイタアの出力は1.25倍アップしたヨ!」
ソシエ「だーかーらー!私はクリスじゃなくてソシエだってば!」
ソシエに怒られながらも、けらけらと笑っている小柄な老人は
かつてアルテミスの科学者、マザーグースと呼ばれた男だった。
シャングリラでの戦いで、彼は精神崩壊を起こし、廃人同然となっていた。
自分の子供を救うために、この世界を滅亡させようとした一人であるが……
その罪を問おうにも、こうなってしまっては裁きようがない。
行き場のない彼は、ミリシャに引き取られていた。
今の彼は、言葉を交わせる程度には回復している。
アルテミスにいた頃や、かつて自分の世界が滅びた時の記憶を全て失い、
幸福だった頃の記憶に浸り、目につく若者を全て自分の子供と思い込んでいる。
しかし、その豊富な知識と技術は残っており、地球復興の助力となっている。
このまま彼は、偽りの子供たちに囲まれ、幸せのまま短い余生を終えるのだろう。
エナ「ソシエさん、メシェーさん、新しい資材が届きましたよ」
エナ・シンクソート……ロスト・アースに残ることを選んだ彼女は、
ミリシャの一員として活動している。
かつては感情の薄かった彼女も、ミリシャの仲間たちと共に
汗を流す日々で、自然に笑えるようになっている。
メシェー「はーい。行くわよソシエ」
ソシエ「分かったわ。じゃあ、おじいちゃん、また後でね」
老人「オーウ!待ちたまえクリス!まだ新しい改造プランがネ……!」
ソシエ達は、届いた資材をMSで運びながら、復興が進む今の街並みを見やる。
エナ「グラドス軍に焼かれたこの地方も、だいぶ復興が進んできましたね」
メシェー「それも私たちの頑張りの成果ってわけね」
ソシエ「ふん、ここだけじゃないわ。あいつもきっとびっくりするわよ。新しい今の世界の姿を見たら……」
ソシエは遠い目で、使用人である少年の顔を思い浮かべる。
ホワイトドールに乗り、地球を救った一人であるロラン・セアックは、今ここにいない。
770
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 17:24:46 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
かつてこの地には、小さな街があった。
しかし、グラドス軍襲来の際、SPTの無差別攻撃によって焼き払われてしまった。
クローソー(私はここで一度死んだ。だが、マザーグースに拾われ、機械の体を得て、第二の生を得た……)
フードを被った女……クローソーは、建物の陰からかつての故郷を眺めている。
当てのない放浪の旅だったが、いつしかここに辿り着いていた。
自分が最初の死を迎えたはずのこの故郷に……
だが、完全な廃墟と化しているはずのこの街は……見事に復興を果たしていた。
宇宙統合軍とムーンレィスが物資を提供し、地球圏の復興を早めた結果だろう。
未だ建物の修復は続いているが、慌ただしく駆け回る人々からは、失われた活気と熱意が感じられる。
クローソー(……これが、平和か。あいつらが、G・K隊が護りたかったものか……
この光景を見ることができたのなら……
あいつらに手を貸してやった甲斐も……あったってものだな)
微笑を浮かべて、クローソーは近くの壁にもたれかかる。
クローソー(おまけにしちゃあ、悪くない人生だった。
ラキシス……アトロポス……私も今……行く……)
人々の活気に満ちた声を聴きながら……
数奇な運命を辿った彼女は、静かに目を閉じた。
771
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 20:26:21 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=地球連邦軍 月面基地=
地球連邦軍の月面基地には、G・K隊のメンバー、
SRXチーム、ATXチーム、神ファミリー、
グッドサンダーチーム、傭兵派遣会社バミューダストーム、シャッフル同盟……
ネオ・ジオンとの決戦、および、その後飛ばされた異世界、
ロスト・アースでの戦いを生き残った者たちが、数ヶ月ぶりに集まっていた。
エレ「何だか、久しぶりに会ったって気がしないよね〜」
アイラ「確かにな。時間はあれから何ヶ月も経ったが、あっという間に過ぎたように思える」
元の世界に帰還した後……彼らはそれぞれの所属に戻り、
地球圏の復興や、ジオンや木連の和平に反対する者達の対処に追われ、忙しい日々を送っていた。
しかし、あの異世界の熾烈な戦いの記憶は、未だ彼らの脳裏に強く焼き付いていた。
ここに集まって、彼等は改めて、自分たちの間に離れても薄れない強い絆が生まれていることを実感していた。
勝平「で、俺たちが久しぶりに集められたのは……えーっと、何だったか……」
恵子「『イージス計画』よ。ちゃんと覚えておきなさい」
勝平「おう、それそれ」
宇宙太「内容の方も分かっているんだろうな」
勝平「分かってるよ!要するに、みんなで仲良く一致団結しようってことだろ?」
キョウスケ「まぁ、要点はそれで正しいな」
ヴィレッタ「地球や、旧ジオンを始めとするスペースコロニー、木星連合など、地球圏の軍事力を統合し、
未知なる脅威への備えとする一大プロジェクト……」
ライ「戦争が終わったとはいえ、ジオンも木連も、直ちに軍備の解除には応じないだろう。逆にそれが軋轢の元となる」
ゼンガー「そこで、その戦力を結集し、地球圏で起こる災害や、外宇宙や他次元からの脅威に対抗する備えとする……」
パルシェ「まさに地球圏を守る盾(イージス)を作り出そうと言う計画ですね」
エクセレン「実際、ガイゾックやアルテミスみたいな連中がまた出ないとは限らないしね」
アヤ「ガイゾックとの戦いでは、連邦とネオ・ジオンが戦争中だったこともあって、大きく被害が広がってしまった……
その轍をまた踏むわけにはいかないわ」
キリー「で、その計画を推し進めているのが……」
室内にあるテレビには、連邦政府の議員として返り咲いたスーグニ・カットナルが演説する姿が映っている。
ブンドルのメディチ家や、ケルナグール・フライドチキン社も、この計画を経済的に支援している。
キリー「あいつら、戦後のどさくさに紛れて見事にドクーガ時代の悪行をもみ消しやがったな」
レミー「罪滅ぼし……なんて殊勝なこと考えるとは思えないけどねぇ」
真吾「どうだろうな……あいつらも、今回の戦いで色々と変わったはずだからな」
ロスト・アースでの戦いで、彼らの助力が勝利に繋がったのは確かだ。
真吾「もしかしたら、またあいつらと一緒に戦うことになるかもな」
キリー「レジェンドゴーショーグンは、あいつらがいないと成れないしな」
真吾「何だか、もう腐れ縁を通り越して運命を感じて来たぜ」
レミー「うわぁ、そのブンドルみたいな物言いやめてくれる?」
そうは言いつつ、グッドサンダーチームの面々も、彼らを心から嫌っているわけではないようだ。
ツグミ「プロジェクトの中には、太陽系からさらに外への探索も含まれているわ」
アイビス「その時は、私達のハイペリオンの出番だね」
スレイ「人類の外宇宙進出の先導者となる……それこそが、兄様が私達三人に望んでいたことだろう」
アイビス「大役だね……」
スレイ「フ……自信が無いのなら、いつでもメインパイロットを変わってやるぞ」
アイビス「冗談!ずっと夢見て来た舞台がやって来たんだ。まだ誰も見たことない星空へ飛ぶ時を……」
772
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 20:27:15 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
セレナ「地球だけじゃない、コロニーや他の惑星を含めた、太陽系統一政府の樹立……」
ゼド「ちょっと前までは絵空事と言われていた構想も、現実味を帯びてきましたね」
レイン「そうなれば、地球圏全体の問題を、武力ではなく話し合いで解決していくことになるのね」
アルゴ「リリーナ・ピースクラフトの提唱する、完全平和主義か」
ジョルジュ「一対一の勝負とはいえ、コロニー同士の問題を争いで解決するガンダムファイトも、いつか無くなってしまうのでしょう」
アレンビー「うーん、それはちょっと残念な気もするかも?でも、ファイトならいつでもできるしね」
チボデー「そうだな、満員のオーディエンスを前に、ファイター最強決定戦ってのも面白そうだ」
ドモン「武闘家の本懐は、修練を通じて、心を鍛えることにある……
ガンダムファイトが無くなっても、俺たちの戦いは終わらない」
ジョルジュ「それに、ガンダムファイトも時が流れれば、また別の形になっていくのかもしれません」
サイ・サイシー「でも、もし今度やる決勝が最後のガンダムファイトになるのなら……」
ジョルジュ「これは……絶対に負けられませんね」
アルゴ「ああ……!」
ドモン「ふっ、ならばここで改めて宣言する。俺は決勝大会を全勝で勝ち抜き、ガンダムファイト王者となることを!!」
チボデー「言ってくれるぜジャップめ!チャンピオンの座は渡さねぇぞ!!」
サイ・サイシー「決着をつけるぜ、兄貴!!」
間近に迫った決勝大会に向けて、それぞれ闘志を高めるガンダムファイター達。
セレナ「ううう!!みんな滾っちゃってまぁ。第13回ガンダムファイト決勝は、女房を質に入れてでも見に行かないとね!」
ムスカ「いや、あんたが女房だろう……」
セレナ(でも……戦いに生きる者は、彼らのように真っ直ぐな闘志を持つ人だけじゃない。
中には、他者を傷付けることしか喜びを得られない者もいる)
異世界に飛ばされたメンバーの中で、夜天蛾灯馬だけは、この集まりに顔を見せていなかった。
彼は異世界から帰還した後、シャングリラから姿を消し……その後、誰も彼の姿を見ていない。
セレナ(今度君と会う時、君はどんな顔を私達に向けるのかしら?灯馬くん……)
ゼンガー「軍の在り方も、これまでのそれぞれの領分を守る為ではなく、純粋に地球圏に生きる全ての人々を守るための力となるだろう」
トウヤ「それは……G・K隊と同じですね。星倉聖司司令も、その理想の先駆けとして、G・K隊を設立したそうです」
悠騎「親父の夢が、もうすぐ叶うかもしれないのか……」
アイ「ところで、これは非公式な話なんですか……
今回のプロジェクトの要になる太陽系防衛構想……それは、あの矢島裕也が考案したものだそうです」
悠騎「矢島って、俺らがいない間にテロ事件を起こしたって言う、あの……」
アイ「彼は、ワールドエデンが世界を掌握した後には、この構想を実現させようとしていたらしいです」
トウヤ「彼は誤った手段に……テロ活動に走ってしまったが、その平和を求める信念は本物だったと言う事だね……」
773
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 20:28:11 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
レナ「でも、今度また宇宙や別次元から誰かが太陽系にやって来たら、戦うんじゃなくて、仲良くなりたいですね」
シャル「もちろん、それが最善だな」
宇宙からの来訪者には、エイジやマシンロボたちのような信頼できる者たちもいた。
恵子「プロトデビルンも、そしてあのガイゾックも……その目的は平和だった。
けど、そのやり方が間違っていたから、争いになってしまった」
パルシェ「なら、それは間違っていると教えてあげて、一緒により良い道を探せばいいんじゃないかしら」
ムスカ「コミュニケーションの基本だな。大事なのは相手を思いやる心……それは誰が相手でも変わらない」
リュウセイ「向こうの人類だって、ゼントラーディやプロトデビルンと和解できたんだ。俺たちだってやってみせるさ」
キョウスケ「ああ……ただ戦うだけでは、強くなるだけでは道は拓けない……
アイツ……熱気バサラはそれを俺たちに教えてくれたからな」
FIRE BOMBERの全ての曲が収められたCDは、この場にいる全員が持っている。
異世界のロックバンドの楽曲は、こちらの世界でも徐々に広まり始めている。
しかし、あのバサラやミレーヌの熱いサウンドを、また生で聴いてみたいとも思う。
セレナ「ま、あの男なら、いつか次元を越えて私たちの前に来るかもね」
アネット「俺の歌を聴けぇーっ!って?」
ゼド「冗談に聞こえないのが、彼の凄まじいところですな」
タツヤ「FIRE BOMBERのみんなだけじゃない。ガロードやロランたちとも、またいつか出逢えるといいな……」
星どころか、次元を超えた出会い……
彼等が異世界に飛ばされたのは、アルテミスの陰謀だった。
ネオバディムの跳梁に深虎の暴走と、二つの世界の接触により、多くの血が流された。
しかし、そこで得た交わりは、異星人とのコミュニケーションに、リリーナの完全平和主義と、
それぞれの世界に大きなものを残してくれている。
ゼンガー(それこそが、世界と世界の交わりが不幸を生み出すだけではないことを証明し、
あの戦いで出た多くの犠牲に報いることなのだろうな……)
ミキ「間もなく、地球からロンド・ベル隊、ネルガル社からナデシコ隊、旧ジオンと木連の選抜隊が到着します」
トウヤ「それに僕達を加えて、イージス計画の第一陣となるわけだね」
由佳「私達はG・K隊の代表……しっかりしないとね!」
悠騎「ああ!」
悠騎(エッジ、ゼルさん、巽艦長……
銀河の平和を守るG・K隊の理念は、俺たちが護っていくぜ。
それに、ヴィナス……お前も、本当はそれを望んでいたんだろう?)
774
:
蒼ウサギ
:2015/09/14(月) 23:25:11 HOST:i118-16-116-231.s10.a033.ap.plala.or.jp
かつての月の王女は、初めて見る雪に興味を抱いているのか、杖をつきながらゆっくりと歩いていた。
ロラン「ディアナ様。そこにいらっしゃったんですか」
エプロンをかけたロランがディアナに呼び掛けると、ディアナは微笑んで家に戻っていった。
ロラン「今日のスープは美味しいですよ」
ディアナ「ありがとう、ロラン」
二人はまだ主従の関係なのかと問われれば少し違う。
ディアナの左薬指に光る指輪がそれを証明しているなものだ。
ゆっくりとした食事の時間が流れていく。
§
=A.W.(アフターウォー)=
サラ「よろしいのですか? キャプテン」
ジャミル「リリーナ嬢のいう完全平和には、まだほど遠い世界だが何事も歩み寄りが大事だ。
そのために私はこうして新連邦に戻って来た」
サラ「この世界には、まだまだ問題がありますからね」
ジャミル「だからこそ、新連邦と宇宙革命軍。双方の意見をもって、話し合わなければならない
そして、D.O.M.Eの言っていた真実を皆に伝えなければいけないのだ」
サラ「信じてもらえるかは分かりませんけどね」
ジャミル「信じてもらうまで話すさ。……せめて、あの二人が安心して旅ができるようにさせたいものだ」
元の世界に戻ったフリーデン一行は、それぞれの道を行くために解散していた。
あの世界で学び、そして過ちを繰り返さないためにも。
電車に揺られながら、ガロードとティファは、窓の夕暮れを眺めていた。
ティファ「ガロード、あれ」
ティファが指差したそこには、夕月が出ていた。
ガロード「月か……綺麗だな、ティファ」
ティファ「うん」
D.O.M.Eは、もうあそこにはない。
だが、この世界にも月は、いつもそこにある……。
775
:
蒼ウサギ
:2015/09/14(月) 23:27:09 HOST:i118-16-116-231.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コズミックイラ=
月明かりに照らされている頃、ザフトと連合の小規模な戦闘が行われていた。
両軍に主戦力はいないものの、未だこのような小競り合いが続いている。
連合兵「貴様ら宇宙人は宇宙に帰れ!」
ザフト「ザフトのために!」
両軍の戦いが苛烈する中、そのどちらにも所属しない者達が現れた。
イザーク「両軍、ただちに武装を解除しろ!」
イザークのデュエルアサルトシュラウド始めとした、いわゆるザフトの赤服3機のガンダムが戦場に乱入した。
ニコル「もうザフトと連合で争う理由はないんです!」
ディアッカ「どうしても、っていうならオレ達が相手になるぜ」
ザフト、連合のパイロットはその挑発を受けて、3機に襲いかかった。
しかし、あの戦いを生き抜いた彼らに、敵う者はいなかった。
=オーブ=
カガリ「お前達はこれで良かったのか?」
キラ「あぁ、この世界はまだ少しだけ混乱が多い」
アスラン「時にはぶつかり合うことになるだろう。だからこそ、守る為の力としてオレ達はオーブに残った」
キラ「そして、ラクス―――」
=プラント=
ラクス「ラクス・クラインです。訳あって、しばらく「この世界」とは違う「世界」にいました
私は、そこで多くのことを学びました。今は争っていても、人はいつか分かりあえるということを」
民衆に語るラクスのそれは、プラントのアイドルではなく、エターナルに乗っていた頃の彼女を彷彿とさせる毅然さがあった。
それを見守るのはバルトフェルド、そしてマリューである。
もはや、連合、ザフトといった垣根はない。
少なくとも、「あの世界」にいった者達はそうなっている。
ラクス(キラ、アスラン、そしてカガリさん。私はここで頑張ります)
§
=アフターコロニー=
トレーズ、そしてゼクスという有能な指導者を失ったこの世界。
OZは、実質上解体を余儀なくされ、地球には統一国家が樹立された。
リリーナ・ドーリアンは、そこの外務次官となり、宇宙と地上、両方に日々完全平和を唱えている。
だが、全ての兵器を全て失くしいくという理想論は、数々の兵器開発業者に受け入れがたいものであった。
中にはトレーズ、ゼクスの後釜にしようと暗躍している企業もいる。
そんな輩を“ガンダム”なしで密かに潰しまわっている組織がいた。
“プリベンター”
あの世界で創り上げたものをこちらでも継続していた。
ピースミリオン。
デュオのつてで、マイク・ハワードという技術者が提供している巨大戦艦だ。
今では武装を外して、プリベンターの機動要塞となっている。
トロワ「これでまた一つの争いの種が消えたな」
カトル「けど、まだまだ怪しい動きを見せているところもある。今頃、デュオやヒイロは地球でそれらを叩いている頃だよ」
トロワ「そうか……」
カトルの淹れてくれた紅茶を一口飲んでピースミリオンの窓から見える月を見る。
トロワ「五飛の行方は?」
カトル「それがまだ……。でも、彼は彼なりに答えを探しているようだ。今は少し時間をおいたほうがいいと思うんだ」
統一国家が樹立されて以降、五飛を除くガンダムのパイロットは自分の機体をそっくりカトルに預けた。
予定ではこれを太陽にぶつけて沈める気だ。
今のこの世界にガンダムという強力な兵器は必要ない。
だが、五飛のガンダムだけはまだここにはないのだ。
=月面=
アルトロンガンダムのコクピットで張 五飛は瞑想していた。
これから自分はどう生きるべきか。
原因は、あの世界で決着しそこねたトレーズ・クシュリナーダのことだ。
一時、共闘したとはいえ、五飛にとっては、トレーズは永遠のライバル。
それを失った今、自分の行き場を失っているのだ。
五飛「教えてくれ、ナタク」
それに答えられるガンダムではない。
五飛とて、それは理解している。
だから、自分の答えが出るまでこのまま瞑想するしかない。
戦士として生きるべきか……それとも――――
五飛は己の答えを見つけようと月に留まるのであった。
776
:
蒼ウサギ
:2015/09/14(月) 23:28:04 HOST:i118-16-116-231.s10.a033.ap.plala.or.jp
=地球=
宇宙行きのシャトルに搭乗したリリーナ。
これからの地球と宇宙について会談が設けられるというところだ。
思わずため息が漏れてしまう。さすがに連日の疲労が蓄積しているのだ。
指定されたシートに向かう途中、シャトルの作業服を着た者とすれ違った。
「失礼」。思わず肩がぶつかったことを詫びる彼に、リリーナは一言「いいえ」と返した。
そこで気づく。
自分の乗るシートにクマのぬいぐるみと共に手紙が置いてあるという事を。
その手紙を開いてハッとしたところで窓から先程の作業員を探す。
ゆっくりと歩いているところを見つけて叫ぶ。
リリーナ「ヒイロ!」
その作業員が振りかえると、見知ったヒイロ・ユイの姿が見えた。
ヒイロ「・・・・・・」
そんなヒイロが見ている前でリリーナは手紙を破った。
リリーナ「今度はちゃんと手渡しなさい」
ヒイロ「・・・・・・」
かつて、自分はリリーナの誕生日パーティの招待状を彼女の目の前で破いたことがある。
意趣返しにしては、リリーナのその表情はあの時の自分と比べれば柔らかいものだ。
ヒイロは、何も言わずその場を後にした。
リリーナを乗せたシャトルが発進した後、それを見送るヒイロに近づいてくる少年がいた。
デュオ「誕生日プレゼントは渡せたかい?」
ヒイロ「次はちゃんと手渡せと言われた」
デュオ「そうだろうねぇ。じゃ、そろそろ行くか?」
ヒイロ「あぁ」
リリーナはリリーナの戦い。
彼らは彼らの戦いを続けていく。
§
=ロスト・アース=
ディアナ「美味しかったわねぇ」
ディアナ達が食事を食べ終わった頃には、夜空に月が昇っていた。
ロラン「ありがとうございます」
穏やかな時間が流れ、夜もふけた頃、ディアナはベッドで眠りについた。
明日には起きない身体かもしれない。
だが、ロランはいつものように言った。
ロラン「ディアナ様。また、明日」
=地球=
悠騎は、エクシオンのコクピットに乗りこんで感慨耽っていた。
ブレードゼファーは、この世界に跳んだ早々、G・K本部に補修を兼ねた解析が行われており、
今の悠騎の愛機が新しく支給されたエクシオンなのだ。
悠騎「なんか懐かしいな……そうだよな、お前から全て始まったんだよな」
ゼファーブレードはあの跳躍時に刀身が完全に折れてしまった。
元々、ウラノス用に調整されたものだ。そうなるのは、予想がついていた。
そのウラノスも完全にもはや宇宙のデブリとなっている。
悠騎(ヴィナス……お前は折れた剣の先に絶望を見た。でも、オレは――――)
そう耽っている所に、口うるさい妹の声が飛んできた。
由佳「お兄ちゃん! ロンド・ベルの人達がきたよ! ほら、挨拶に行くよ!」
悠騎「ったく、わーったよ」
本来ならめんどくさいの一言で断るのだろうが、自分もまた<イージス計画>の代表の一人なのだ。
それなりに自覚していかなければならない。
兄妹の仲は相変わらずであるが、一人の銀河の守り手として自分は、まだまだ成長していこう。
それがきっとこれまでに犠牲になった人々の想いでもあるのだから……。
スーパーロボット大戦ロストセンチュリー2nd〜折れた剣の先に〜 完結
777
:
はばたき
:2015/09/15(火) 22:57:52 HOST:zaq77193af0.zaq.ne.jp
☆あとがき寄贈
どうもはばたきです。
ロストセンチュリーシリーズ、遂に完結致しました。
アナザーからの途中参加組でオリジナルメンバーではない自分ですが、微力ながら制作に関わったリレー小説がこうして完結を迎えられたこと、非常に嬉しく思います。
完結の報を聞いた時は、感極まっておかしなことを口走ったりもしました(苦笑)。
思えば、サイト参加とほぼ同時に始まったこの小説、ご縁あってアナザーの作成から参加する事になり、こうして最後までお付き合いさせて頂きました。
途中参加故に至らぬところも多く、設定、伏線のパスを大暴投したりした事も多々あり、頭が下がる思いです。
一時期、執筆が滞り、一部のエピソードをオムニバスに書き込まざる得ない等、ご迷惑をかけた事も多いですが、他のスタッフのお二人のフォローも多々頂き、有難い限り御座います。
自分の書き込み回数の少なさを見れば解りますが、根幹は蒼ウサギさん、藍三郎さん両名のスタッフが屋台骨を支えておられ、自分はそれに便乗する様にエピソードの肉付けを行う程度の仕事でした。
それでも一スタッフとして、完結を見届けられたことは感慨深く、我が事の様に(実際他人事も言い切れませんが)嬉しく思っています。
このシリーズを通して学ばせてもらった事は、やはり創作とは終着点のビジョンが視えていればいい、と言う訳ではないと言う事です。
全体の骨組みを作って、「絶対に完結させる!」と言う意気込みより、「絶対面白いモノにしてやる!」と、一瞬一瞬の気合こそが大事なのだと痛感しました。
今でもリレー小説以外にも色々な創作を続けている自分ですが、これからもここで学んだ事を力に代えて、より面白いモノを目指していきたく思います。
それでは、長くなりましたが、蒼ウサギさん、藍三郎さん、他『スーパーロボット大戦ロストセンチュリー』に関わったスタッフの皆様。
そして、この小説を読んで下さった読者の皆様へ、心よりの感謝を。
ありがとうございました!お疲れ様でした!
それでは☆
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