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スーパーロボット大戦ロストセンチュリー 2nd〜折れた剣の先に〜
100
:
藍三郎
:2008/05/18(日) 20:41:34 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ブッチャー「バカな!バカなバカなバカな!!
わしは認めんぞ!!このバンドックが落ちるなどと!!」
宇宙太「喚くんじゃねぇよ、ブッチャー」
恵子「それに、何も不思議な事は無いわ」
勝平「お前は1回、俺たちに倒されてるんだからな!!」
ブッチャー「な、何!?」
“勝平たちの世界のブッチャー”の記憶を持たない
“今のブッチャー”は、勝平の言葉の意味が解らない。
ただ混乱して、両手両足をじたばた動かすだけだ。
ブッチャー「ええい!どこまでも楯突きおってぇ!!
貴様らは所詮ひ弱な人間!!黙ってわしらに殺されておればよいのだ!!」
宇宙太「けっ、てめぇ自身は関係ないが、
その胸糞悪い物言いを聞いたら、
てめぇが俺達の世界で散々やった悪行を思い出しちまったぜ!」
勝平「ああ、てめぇみたいな野郎は、好き勝手にさせちゃいけねぇんだ!」
恵子「だからここで・・・私達が、倒す!!」
ガイゾックの戦いで生まれた多くの犠牲・・・
その重さを受け止めながら、強い思いを懐いて、叫ぶ。
勝平「ブッチャー!!今日がてめぇの最後の日だ!!」
ブッチャー「ほざけ!!死ぬのは貴様らよ!!
バンドック砲を喰らって、宇宙の塵になるがいいわ!!」
バンドックに備わった主砲が、赤く輝く。
それに合わせて、ザンボットも大型のキャノン砲を取り出し、構える。
宇宙太「気持ち悪い話だが・・・
どうにもお前と俺達には因縁があるみたいなんだな・・・」
勝平「綺麗さっぱり、断ち切ってやるぜ!!」
恵子「イオン砲、エネルギープラグ接続開始!!
バイオニックコンデンサ、全段直結っ!!」
宇宙太「エネルギー充填開始!!・・・60%・・・80%・・・」
バンドック砲に勝るとも劣らぬ光が、イオン砲の砲身に宿る。
ブッチャー「吹き飛べぇ――――――――――っ!!!!」
バンドックから、真紅の破光が放たれる。それと同時に・・・
宇宙太「120%!!充填完了!!」
勝平「いっけぇぇぇぇぇ!!!」
限界までエネルギーを溜めた巨光が、
イオン砲から一気に解き放たれた。
激突する二つの光。
巨光同士のぶつかり合いが、宇宙を白熱させる。
勝平「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
だが、勝負の趨勢は早くも決した。
ザンボットのイオン砲の光が、バンドック砲のそれを呑み込み始めたのだ。
しかも、その威力は衰えるどころか、
ザンボットチームの気魄が乗り移ったが如く・・・その輝きを増していく。
ブッチャー「お、お、おのれぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
ブリッジのあちこちで火花が散り、内部は既に崩壊を始めていた。
惑乱の極みに達したブッチャーは、誰もいないはずの天に向かって叫ぶ。
ブッチャー「ガイゾック!ガイゾックの神よ!!」
宇宙太「!!」
恵子「ガイゾックの神、ですって?」
ブッチャー「全知全能なるガイゾックの神よ!!
何とぞ、何とぞ貴方様の力をお貸しください!!」
ブッチャーの叫びが届いたのか・・・
ブッチャーに、そしてザンボットチームの下へも、謎の声が響き渡る。
101
:
藍三郎
:2008/05/18(日) 20:42:52 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ガイゾック『ブッチャー・・・ブッチャーよ・・・・・・』
ブッチャー「おお!!ガイゾック様!!」
差し伸べられた救いの手に、ブッチャーは歓喜の声を上げる。
だが、彼の主が放ったのは、救いなどではなかった。
ガイゾック『・・・やはり汝は、ただの野を流離う獣に過ぎなかったか・・・
未だ己の無能を解せぬ愚かさ・・・もはや度し難し』
ブッチャー「は!?」
ガイゾック『弱肉強食の習いに従い、ここで滅びるがよい・・・
これは汝が定めた掟・・・不満はあるまい』
ブッチャー「そ、そんな・・・・・・!!!!」
主に見捨てられ、ブッチャーの顔が絶望で染まった瞬間・・・
イオン砲の光はバンドックの機関部を貫き、ブリッジ全体を閃光で包み込む。
ブッチャー「ぶっぎょおおおおおおぉぉぉおおおおおぉぉ!!!?!?」
高熱で風船の如く、倍以上に膨張するブッチャー。
全身の体液が沸騰し、膨れ上がった肉体が破裂する。
飛び散った体液も瞬時に蒸発し、光と熱によって跡形も無く消滅した・・・
勝平「やったぁ!遂にブッチャーを倒したぜ!!」
因縁の敵を打ち倒した勝平たちは、コクピットで喝采を上げる。
恵子「いえ、待って!バンドックの熱源反応が・・・消えてない?」
宇宙太「・・・そうだ。ガイゾックとの戦いは、
ブッチャーを倒しただけじゃ終わらねぇんだ・・・!」
ここまでは、“元の世界”で成し遂げた事と同じ・・・
本当の戦いは、ここから始まるのだ。
濛々と立ち込める噴煙の中から・・・
唯一残された、バンドックの頭部が現れる。
その正面には・・・かつて勝平たちの前にも姿を見せた、
巨大な眼と触手を備えた、生物の脳髄の如き物体が、ホログラフとして映し出された。
この異形の物体こそ、バンドックを制御する中枢にして、
ガイゾックを束ねる真の支配者・・・
ガイゾック『我は・・・ガイゾックの神なり・・・!』
勝平「てめぇが・・・ガイゾックの親玉か!!」
ガイゾック『我こそ、ガイゾックを統べし神・・・
全ての人類、そして彼らが生み出したる全ての文明を破壊する者なり・・・』
宇宙太「けっ、お前もブッチャーと同じ、イカれた戦闘狂かよ!」
ガイゾック『否・・・我は争乱を求める者に非ず。
我が存在する意味・・・それは、宇宙の平和を守る為なり・・・』
勝平「何ぃ!?」
ガイゾックが放った衝撃的な一言に、勝平らは動揺を隠せない。
ムスカ「宇宙の平和だぁ?何をトンチンカンな事を・・・」
皆が混乱する中、ゼドはかつてのガイゾックとの邂逅を
思い出しながら、冷静に意見を述べる。
ゼド「いえ、心当たりはあります・・・
ガイゾックの神よ。確か貴方は以前・・・
“人類の存在が宇宙の秩序を崩壊させる”・・・と仰っていましたね」
ガイゾック『その通りだ。ゆえに、我は人類を滅ぼす・・・
この静かなる宇宙を、争乱で汚すやもしれぬ火種・・・それが汝ら人類だ』
ゼド「やはり・・・貴方の・・・ガイゾックの真の目的は、
宇宙の秩序を乱す可能性を持った地球人を滅ぼす事・・・!」
勝平「何・・・だって・・・!?」
ついに明かされたガイゾックの目的に、一同はただただ愕然とするばかりだ。
その内容は、これまで必死になってガイゾックと
戦ってきた勝平ら神ファミリーの面々には、あまりにも信じ難い内容だった。
102
:
藍三郎
:2008/05/18(日) 20:44:49 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「貴方は・・・一体何者なのです?異星人?それとも・・・」
ゼドの問いに、ガイゾックはまたしても衝撃的な返答を放った。
ガイゾック『・・・コンピュータードール第8号・・・
それが我の真の名・・・
ガイゾック星人によって生み出された巨大電子頭脳・・・』
宇宙太「コンピューター!?」
恵子「それが、ガイゾックの正体だって言うの!?」
ゼド「・・・あの外見からして、ただの機械ではなく
一種のバイオコンピューターのようなものでしょうが・・・」
ガイゾック『我に与えられた使命・・・
それは、宇宙の秩序を乱す生命体の根絶、及びその文明の抹消・・・
バンドック、キラー・ザ・ブッチャー、メカブースト・・・
全て、争乱の火種を排除すべく、我が創りだしたる武器なり・・・
我と我が創り出した武器は、数多の星を巡り、
数多の火種を消し去り、宇宙の平穏を保ってきた・・・』
恵子「私たちの故郷、ビアル星も、その一つだって言うの!?」
ガイゾック『如何にも。かつて我、お前たちの先祖の星・・・
ビアル星を、悪い考えが満ち満ちていた故に滅ぼせり・・・
しこうして我、二百年の平和な眠りに就けり・・・
だが、再び悪い考えに満ち溢れた星が我の平和を目覚めさせたのだ』
ゼド「それが、地球というわけですが」
勝平「ふざけんな!何で地球が悪党呼ばわりされなきゃいけねぇんだよ!!」
ガイゾックの語る言葉の不快感に耐え切れなくなったのか、勝平は声を荒げて叫ぶ。
それに対するガイゾックの返事は・・・どこまでも冷たく、侮蔑しきったものだった。
ガイゾック『愚かな・・・まだ理解しえぬのか。
汝らがどれほど罪深い存在であるかを・・・』
宇宙太「・・・・・・・・・」
恵子「・・・・・・・・・」
勝平「ど、どうしたんだよ、宇宙太、恵子・・・」
押し黙る二人に、うろたえる勝平。
しかし、それは勝平自身も・・・
ガイゾックの言葉の意味が解っているゆえの動揺に他ならなかった。
ガイゾック『地球人は、己の欲望が為に他者を利用し、傷つけ、
それを是とする度し難き精神の持ち主・・・
憎しみ合い、嘘をつき合い、我が儘な考え・・・
まして、仲間同士が殺し合うような生き物が、良いとは言えぬ・・・
宇宙の静かな平和を破壊する・・・』
勝平「そ・・それは・・・」
ガイゾックの発する言葉、それは、誰しも決して否定できない、人間の暗黒面だった。
ガイゾック『人種、生まれ、貧富の差・・・
種族全体からすれば些細な溝から差別が生まれ、反目し合い、憎み合う。
やがてそれは、例外無く一方を滅ぼすべきという結論に行き着く。
それは、人類が辿ってきた歴史が雄弁に証明している』
由佳「スペースノイドとアースノイド・・・」
ジュン「地球人と木星人・・・」
ハーリー「地上人とムーンレィス・・・」
アイ「それに、ナチュラルとコーディネーターの対立・・・」
ここ最近の歴史を見ても・・・その証明となり得る事例は、幾つも転がっている。
ガイゾック『それだけではない・・・地球人の奥底には、
決して消えぬ、争いを望む心が宿っている・・・
憎悪や怨恨が無くとも・・・人類は己の闘争本能を満たす為、争いを求め、引き起こす』
ロム「闘争本能・・・ギム・ギンガナムのような男か」
ドモン「いや・・・俺たちガンダムファイターも、
違っているとは言い切れない・・・」
戦いの最中に沸き立つ闘争本能。
それは、戦いに身を置く者ならば誰もが解る感覚だ。
ガイゾック『人類の歴史は、血生臭い戦争と欲深き虐殺に満ち満ちている・・・
かつて地球で起こった出来事・・・汝ら自身も体験した戦争の記憶・・・
それらを省みても、尚人類に罪無しと言えるのか?』
103
:
藍三郎
:2008/05/18(日) 20:46:55 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ヴァルカン「ククククク・・・ハァ―――――――――ッハッハッハッハッ!!!」
悠騎と交戦中のヴァルカンは、ガイゾックの演説を聴くや否や、
一切の憚りも無く笑い出した。
ヴァルカン「おい、聴いたか星倉悠騎!!あの気色悪い脳味噌の言葉を!!」
悠騎「ああ・・・で、何がそんなに可笑しいんだよ!」
ヴァルカン「ククク・・・人間は欲深くて、闘争本能の塊である罪深い生き物だとよ!
笑えるねぇ・・・全くその通りじゃねぇか!!」
メルティング・チェーンの一閃が、ブレードゼファーを襲う。
ヴァルカン「人間は生まれながらに闘争を望んでいる生き物だ!!
他者から奪い、殺し、踏み躙る!!誰もが沸き立つ血の本能を止められねぇんだよ!!」
自身も血に酔いしれた顔つきで吼えるヴァルカン。
ヴァルカン「そんな人間の本性を捕まえて、悪だの罪だのと・・・
ククク・・・よく似てるなぁ、G・K隊(おまえら)と・・・」
悠騎「あんなのと一緒にするんじゃねぇ!!」
ヴァルカン「いいや、同じだね。
平和だ何だと御題目を掲げて、気にイラねぇ奴らをぶち殺す。
あの脳味噌野郎と何が違うってんだァ!!」
メルティング・チェーンを放ちつつ、ヒートセイバーで突っ込んでくるヘファイストス。
ブレードゼファーは、真っ向からその突撃を受け止めた。
ヴァルカン「じゃあ、聞くがよ・・・
地球上の人間が全員戦争を望んだら・・・お前らはどうするんだ?」
悠騎「な・・・・・・」
ヴァルカン「ありえない、何て言い切れる話じゃねぇぜ?
そん時は、人間を全員殺して平和を勝ち取るのかぁ?
あのバケモノどもみてーによぉ!!ハハハハハハハハハハハ!!!!」
高熱の鎖でブレードゼファーの装甲を焼くように、
言葉でもヴァルカンは悠騎の心を焼き切ろうとしていた。
ゼド「なるほど、あなた方の主張は理解できました」
落ち着いた口調で、一先ず肯定の言葉を返すゼド。
しかし続けて、兼ねてより懐いていた“矛盾”を指摘する
ゼド「ですが・・・貴方にも矛盾はありますよ。
貴方は、平和を維持する為に・・・戦争を生み出す者を滅ぼすと仰った。
しかし、貴方はキラー・ザ・ブッチャーといった
危険な部下を好き勝手に放任し、
逆に戦火を拡大し、罪無き者達の命まで奪っている・・・」
勝平「そ、そうだ!ブッチャーが殺してきた人達には、
お前が言うような戦争なんて望んでない、普通の人達だって一杯いたんだぞ!!」
ガイゾックの襲撃で死んだ罪無き人々を思い出し、勝平は闘志を奮い起こす。
ゼド「確かに戦争は人間の罪悪かもしれませんが、
それに介入する事で、より多くの生命が失われる事もあるはずだ。
貴方がた自身が、争いを生み出す火種とは思わないのですか?」
それは、アイデンティティの崩壊にも繋がる決定的な矛盾。
しかし、そこを突かれても、ガイゾックは揺るがなかった。
ガイゾック『思わぬ。我は神として創造された。
ゆえに、我の取るべき手段は全て完璧である。
間違いや矛盾などあろうはずがない』
ムスカ「神様だからOK、と来たか・・・」
傲慢すぎる返答に、あきれ返るムスカ。
ゼド「やれやれ、もっと論理的な会話を期待していたのですが・・・」
ガイゾック『それに、人間は所詮生まれながらにして罪深き存在である。
誰もが、戦乱を生み出す火種を抱えている。
宇宙の平和を保つ為には、徹底的に絶滅させるより他に無い。
あのキラー・ザ・ブッチャーは、その任に実に的確であった』
ゼド「毒を持って毒を制す、ですか・・・
それに、全てを消し去ってしまえば、善も悪も存在しない・・・
ただ、残った貴方たちが正義というわけですね」
やれやれ、とゼドは肩を竦める。
ゼド「しかし、疑問ですね。
貴方を創り出したガイゾック星人は、それほど過激な手段を求めたのでしょうか。
貴方の思想は、創造主である自分達をも滅ぼしかねない危険なもののはず・・・」
ガイゾック『元より、我はただ宇宙の平和を守る為に生み出された。
しかし、我はその使命を果たす為に最も効率的な方法を創り出した・・・
それこそがガイゾック・・・悪の因子を孕む全てを滅ぼす、宇宙秩序の守護神なり・・・』
104
:
藍三郎
:2008/05/18(日) 20:47:57 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「ちっ、何が神様だ。
ぶっ壊れたコンピューター、当初の目的を曲解してるだけじゃねぇか」
ゼド「いえ、彼・・・と便宜的に呼びますが・・・の中では真っ当な思考なのでしょう。
我々の倫理観など、元より当てはまらない存在なのですよ。
狂人の論理だろうと、理は理・・・
最も、好んで人を苦しめるキラー・ザ・ブッチャーのような男を配下をする辺り、
既に相当な歪みが生じているようではありますがね」
ガイゾック『我は全てのものを滅ぼす・・・まずは、汝らからだ!』
ハーリー「バンドックの周囲に、無数の熱源反応が!」
宇宙太「あれは・・・!」
バンドックの頭部を取り巻くように、無数の赤と青の騎士が出現する。
それは、青騎士ヘルダインと赤騎士デスカインだった。
恵子「そんな!倒したはずなのに!」
宇宙太「メカブーストが量産されてるなら、
アレも沢山居てもおかしくねぇって事か・・・!」
ガイゾック『ガイゾックの守護神よ・・・争いを振り撒く愚か者達に、裁きを』
ガイゾックの思念に操られ、G・K隊と統合軍に襲い掛かる数十組の騎士。
ガイゾック『人間は生まれながらにして、戦争を望み、殺戮を望む悪しき生物・・・
ゆえに我は滅ぼす・・・この宇宙から、あらゆる戦争を消し去らんが為に・・・』
ゼド「武力による戦争根絶・・・その行き着く果てが貴方というわけですね・・・」
妙に重い表情で呟きながら、ヘラクレスパイソンもまた、ヘルダイン、デスカインとの戦闘に入る。
勝平「ふっざけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!
そんな勝手な理屈・・・許してたまるかよ!!」
激昂した勝平は、一人ガイゾックへ突っ込んでいく。
宇宙太「待て!勝平!
ザンボットはイオン砲を撃った後で、エネルギーが・・・!」
恵子「無闇に突っ込んじゃ・・・!!」
その隙を突かれ、左右から攻めてきた二体の騎士に、取り押さえられてしまう。
勝平「こんにゃろ・・・離せっ!!」
ガイゾック『ガイゾックの神たる我に逆らいし汝ら・・・その命をまず頂く!!』
バンドックの正面に光が集中し、ザンボットに狙いを定める。
強力な破壊波が、ザンボット目掛けて撃ち出される。
勝平「―――――――――!!!」
絶体絶命の瞬間・・・・・・
ゼンガー「チェストォォォォォォォォォ!!」
巨大な斬艦刀が、盾となって破壊波を防いだ。
そのまま刀を大きく振るい、
ザンボットの両側にいる二体の騎士を、まとめて撃砕する。
宇宙太「ゼンガー少佐・・・!」
ガイゾック『汝も、宇宙の秩序神たる我の邪魔をするのか・・・ならば・・・』
ゼンガー「黙れ!!偽神よ・・・」
ガイゾック『!!!』
ガイゾックの言葉を、怒号で抑え付けると、ゼンガーは裂帛の気合と共に叫ぶ。
ゼンガー「人による争いは、紛れも無く人の業・・・
されど、人には平和を望む心も、確かに宿っているのだ!
神気取りの視線で、全ての人類滅ぶべしと断じ、
無垢なる命も摘み取るその傲慢・・・
貴様など、神を名乗るに値しない!!」
斬艦刀をバンドックに突きつけ、高らかに名乗りを上げる。
ゼンガー「そして、聞けい!!
我はゼンガー・・・ゼンガー・ゾンボルト!!我は・・・」
ゼンガー「神を断つ剣なり――――――――!!!」
105
:
蒼ウサギ
:2008/06/05(木) 23:13:10 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
エクセレン「フフ、さすがボス♪……燃えてきちゃった♪
色男さんに冷やしてもらおうかしらん?」
ライ「断る」
エクセレン「あららん。ホントに冷たいことで……」
キョウスケ「くだらんことを言ってる暇があったら弾丸の一発でも叩きこめ」
エクセレン「んもう、キョウスケったら淡白ねぇ。
そんじゃま、気分がお熱いうちにやりますか!」
ゼンガーの言葉は仲間への鼓舞へと繋がり、勢いを増していった。
各機散開し、まずはバンドック頭部の周辺にいるヘルダインとデスカインに仕掛けていく。
$
一方、悠騎とヴァルカン。
ヘファイストスの突撃を受けたことで、ブレードゼファーの装甲の表面がじわじわと溶解し始めていた。
ヴァルカン「ハハハハハハ!!このまま己の儚い信念と共に焼き尽きるがいいわ!!」
ヴァルカンの高笑いと勝ち誇った声が高熱と共に悠騎に重苦しく響く。
意識が朦朧としかけるが、悠騎は叫んでそれを引き戻す。
悠騎「っっっざけんなぁぁぁぁ!!!」
同時に振るわれた剣がヘファイストスを弾き飛ばす。
二機の距離が離れ、空中で対峙する。
ヴァルカン「どうした?答えらぬので、勢いで誤魔化すか?」
侮蔑するように、装甲の表面がすっかりただれてしまったブレードゼファーに向けて言い放つ。
次の瞬間、今度は悠騎が高笑いをした。
悠騎「アハハハハハハ!」
ヴァルカン「ん?気でも触れたか?」
悠騎「違ぇよ。まさかヴィナスじゃなくて、アンタがそんなこと言うなんてな!
意外だぜ!あれか?パワーアップしたオレの剣に敵わないとみて、
そんな屁理屈でオレを動揺させようってのか?」
ヴァルカン「あぁん?」
それは問いに対する「答え」ではなく、明らかな「挑発」だった。
その意外な返しにヴァルカンは、激昂するどころか耳を疑った。
悠騎「らしくねぇな!アンタは変な理屈こねてねぇでブンブン鎖、振り回してりゃいいんだよ!」
大剣の切っ先を真っ直ぐヘファイストスに向けて突きだし、悠騎は言い放った。
ヘファイストスのコクピット中で、ヴァルカンの口が大きく三日月型に広がった。
ヴァルカン「フハハハハ!!言うようになったな小僧!!」
ヴァルカンの語尾とほぼ同時にヘファイストスのメルティング・チェーンが
ブレードゼファーに襲いかかる。
だが、それよりも早く、ブレードゼファーがヘファイストスのチェーンの攻撃を抜け、
懐に潜り込んでいた。
106
:
蒼ウサギ
:2008/06/05(木) 23:15:00 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
悠騎「おりゃああぁ!!」
ヴァルカン「度胸がいいな!だがっっ!!」
ヴァルカンの天性の反応の良さか、悠騎の行動を読んでいたのか、
ブレードゼファーが肉薄するよりも早く機体を高熱化させて迎えうつ。
先程、叩き落とされた時と同じパターンとなろうとしている。
悠騎「同じ手はくうかよ!」
今度は止まることなく、ダメージ覚悟で、そのまま突撃する。
想像以上の熱がぶ厚い装甲を通じて、コクピットにも伝わってきたが、悠騎は歯を食い縛って耐えた。
そして、背部のスラスターを急速噴射させて勢いをつけると、
そのまま自分もろとも流星のように赤い大地へと落ちた。
ヴァルカン「ぐぅぅう!!」
悠騎「いくぜ!」
ヘファイストスを赤い大地へと叩きつけ、ブレードゼファーがすぐに離れる。
そして、剣を真っ直ぐに天へと突き上げる。
悠騎はDエネルギー出力設定をMAXにして、レバーを倒した。
刀身がさらに巨大化したが、さらに揺らめき、不安定となった。
突如、回線が開き、ブレードゼファーのコクピットモニターにレイリーの顔が映し出される。
レイリー『ちょっと悠騎!せっかく刀身がマシになってたのに、なにやってんのよ!?』
レイリーの言い分は最もだった。
元々、この新たな剣は、偶然であれ、微妙なエネルギー出力により、刀身が成り立っていた。
それを悠騎はMAXにして崩したのだ。
肩で息をしながら、悠騎はモニターのレイリーに返す。
悠騎「……大丈夫だって、多分………わかんないけど、そんな気がするんだよ」
確信めいた笑みをそこに向けると、強い意志が篭った瞳をヘファイストスに向ける。
そして、天に突き上げている剣をその場で思い切り振るった。
悠騎「いっけえぇぇぇぇっっっ!!!」
斬撃の瞬間に放たれた巨大な紅い閃光。
それがヘファイストスに見舞われた。
ヴァルカンには、それがまるで紅い流れ星が迫ってくるように見えた。
赤い砂塵が巻き上がり、ヘファイストスが視界から見えなくなくなって悠騎は呟いた。
悠騎「地球上の人間が全員戦争を望む?・・・・・・へっ、確かにありえなくはないかもしれないけど、
それは結局、人間って生き物に絶望した奴の考え方だ・・・・・・
少なくともオレ達はそこまで人間に絶望しちゃいない・・・じゃなきゃ、守ろうなんて思わないぜ」
先ほどのヴァルカンの問いに答える。
自分なりに導き出した答えを・・・・・・
107
:
藍三郎
:2008/06/08(日) 22:33:50 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=火星=
互いのポテンシャルの限りを尽くしてぶつかり合う赤と蒼の影。
もはやその速度は、誰の眼からも見えない領域に突入している。
イルボラ「くくく、どうしたジョウ?
かつての飛影と比べて・・・動きにキレが無いぞ!!」
ジョウ「けっ、ぬかしやがれ!」
反駁しつつも、ジョウのこめかみに冷や汗が流れる。
イルボラに指摘されるまでもなく、その事は彼自身が良く解っていた。
自分では、飛影を完全に使いこなせていない。
飛影の超絶的な反応速度に、自分の感覚が追いついていけない。
ほんの僅かな差ではあったが、
同等の力を持つ零影相手には、致命的と言っていい遅れとなる。
イルボラ「たぁぁぁぁぁっ!!!」
ジョウ「くっ!!」
閃く忍刀を間一髪でかわす飛影。
だが、それがイルボラの罠だった。
避けた瞬間、零影からマキビシランチャーが放たれる。
回避途中だったジョウは、不覚にもそれを喰らってしまう。
“飛影”ならば紙一重でかわせたはずなのに・・・と臍を噛む暇も無く・・・
イルボラ「もらったぞ!!ジョォォォォォォォォッ!!!!」
ほんの刹那・・・動きが止まったところで、
零影が忍刀を構えて突っ込んでくる。
一直線の最大加速、音速を超えた矢と化した零影の前に、
ジョウが生きる道は完全に閉ざされたかに見えた。
ジョウ(殺られる!?)
周囲の感覚がスローモーションで流れる。
脳裏には、マイク、ダミアン、
エイジやG・K隊の面々、レニーやロミナ姫の顔が浮かぶ。
これが、走馬灯という奴なのか・・・?
ジョウ(俺は死ぬ・・・のか!?)
生死の極限において、ジョウの感覚は異常に研ぎ澄まされていた。
自分自身の荒い息遣い、心臓の鼓動すら、はっきりと聞こえる。
実質は刹那にも満たない時間でありながら、
ジョウは自分の精神に深く、静かに潜っていった。
死を目前して、諦めの境地に到ったのか・・・・・・
ジョウ(俺は・・・俺は・・・・・・!!)
それは・・・・・・否。
ジョウ「俺は・・・まだ・・・死ぬわけにはいかない!!」
イルボラ「!!!!」
零影の刃が飛影を貫いた瞬間、赤い忍者の姿は幻影となって消えた。
分身の術・・・そう判断したイルボラは、ただちに飛影を索敵する。
果たして、飛影は彼の上空にいた。
ジョウ「俺とした事が・・・まだ黒獅子に乗っているのと同じ気分でいたぜ・・・」
腕組みをして、零影を見下ろす飛影。
ジョウはあの瞬間・・・“飛影の世界”を垣間見た。
飛影との合身は、ただ単に機体に搭乗するのとはワケが違う。
自身の知覚、感覚の全てを、飛影という存在と合一化させるのだ。
ジョウ「飛影は道具でもマシンでもねぇ。俺だ!俺自身なんだ!!」
飛影が最強の刃ならば、ジョウもまた最強の刃となる。
刃身一体・・・その境地に至ってこそ、
飛影とジョウは、真の忍者戦士となるのだ。
イルボラ「飛影ぇ・・・!今度こそ、あの世へ逝けぇぇぇぇぇぇっ!!!」
マキビシランチャーを撒きつつ、再び高速で接近するイルボラ。
今までは追いつくので精一杯だったその動きも、
今のジョウにははっきりと捕らえられる。
零影が赤い影を切り裂いた刹那・・・再び飛影の姿は雲散霧消する。
イルボラ「!!!」
ジョウ「見えてるぜ・・・イルボラぁぁぁぁぁっ!!!」
次の瞬間・・・零影は、四方八方から斬撃を受ける。
約五体に分身した飛影が、零影を包囲しつつ切り刻んだのだ。
空を飛び交う真紅の影は、刃の螺旋となりて零影を捕らえる・・・!
イルボラ「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
大きな損傷を受けた零影は、大地に墜落していく・・・
108
:
藍三郎
:2008/06/08(日) 22:34:55 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
イルボラ「ぐ・・・ぅ・・・!!」
忍刀を支えにして、何とか起き上がる零影。
先ほどの圧倒的なスピードは、まさに飛影のもの・・・
いや、かつての飛影をも凌駕しているように思える。
程無くして、彼の目の前に飛影が降下してくる。
ジョウ「イルボラ・・・」
その姿に・・・飛影の中にいるジョウを
垣間見た瞬間・・・イルボラの顔が歪む。
イルボラ「・・・・・・憎い・・・!」
身体の底から絞りだすように、イルボラはそう吐き捨てた。
イルボラ「憎い!憎いぞ!ジョウ!!
私とて・・・私とて、姫様をお守りしたかったのだ!
だが!!貴様が突然やってきて、その役目を横から掻っ攫っていった・・・
あの三体の忍者マシン・・・せめてあれが私にも動かせれば、
このような妬みを懐かずに済んだものを!!」
ジョウ「・・・・・・」
血を吐くような怨み節の後・・・
イルボラは、先ほどとはうって変わった沈鬱な口調で話し始めた。
イルボラ「・・・・・・・・・確かに、愚かではあった・・・
いくらお前たちが妬ましくとも、よりによって、姫様に刃を向けるなど・・・
私は・・・お前を倒す事で姫様の信頼を取り戻そうとしたのか?」
イルボラの自問とは解っていても、ジョウはあえて答えを返す。
ジョウ「・・・そんな事をしても、ロミナ姫は喜ばないぜ・・・
勿論、俺とお前の立場が逆でもな」
イルボラ「そうだな・・・そのような事、最初から解りきっていた事だ。
なのに・・・何故私は・・・私は・・・・・・」
以前のジョウならば、鼻で笑い飛ばしたかもしれないが・・・
不思議な事に、今の自分には彼の心情が解るような気がする。
戦士と戦士・・・共に刃を交えて初めて、解り合える事があると知った。
同じ忍者戦士の身体を得て、同等の舞台に立って初めて解る。
彼の刃には・・・底知れぬ苦悩と葛藤が宿っている事を。
嫉妬と羨望・・・それは、人間ならば誰もが持っている感情だ。
イルボラは、かつてロミナ姫の側近、エルシャンクの司令官という重責にいた。
その重圧と責任感が、彼にプレッシャーを与え、歪んだプライドへと変化していった・・・
その中で現れたジョウ達地球人と三体のマシン・・・
自分が姫を護らねばならないという一種の強迫観念に苛まれながらも、
赤の他人である、地球人にそれを任せなければならないジレンマ・・・
抑圧の中で、嫉妬の炎は激しく燃え盛り、
とうとう彼自身も望まぬ道へ、脚を踏み外してしまったのではなかろうか・・・
ジョウ「イルボラ・・・てめぇはとんだ大バカ野郎だぜ・・・」
ジョウ「立てよ、イルボラ・・・!」
イルボラ「・・・!」
蹲っている零影に、忍刀を突きつけるジョウ。
ジョウ「最後の勝負といこうじゃねぇか。
お前がどうしても後には引けないってんなら・・・
とことんまで白黒つけてやるよ」
イルボラ「・・・・・・・・・」
ジョウ「どうした?俺がそんなに怖いのか?
あれだけ俺たちを見下していた、プライドの塊みてぇな
お前は何処へ行っちまったんだよ!」
イルボラ「!!!」
イルボラはきっと顔を上げると、ジョウに向かって吼えた。
イルボラ「ほざくな!!
最後の勝負か・・・いいだろう。望むところだ!!」
零影は立ち上がり、同じ視線で飛影を睨みつける。
立ち昇る殺気が、陽炎のように空間を揺らす。
109
:
藍三郎
:2008/06/08(日) 22:36:27 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ジョウは、汗ばむ手を握り締めて、思いに浸る。
イルボラはバカ野郎だが、それは自分も同じ事。
結局は、“力”以外で物事を解決する術を持たない。
ロミナ姫のようにはいかない。
だが・・・ロミナ姫の優しさだけでは、
イルボラは救えない。そんな確信があった。
ただイルボラを許しただけでは・・・彼自身が納得すまい。
例え姫に許されても・・・一度姫に背いた裏切りの罪は消えない。
それどころか、ますます罪悪感を募らせ、やがてはそれに押し潰されてしまうだろう。
イルボラを止めるには・・・一度彼を、完全に“否定”しなければならない。
裏切り行為も、歪んだ忠誠心も、それによって生まれた嫉妬も・・・
全てを斬り捨て、断罪し、無に還す。
それは、同じ忍者戦士である自分にしかできない事だ。
ジョウ「イルボラ・・・てめぇのねじくれきった魂・・・
この俺が叩っ斬ってやる!そうしたら――――――――」
次の瞬間―――――――
飛影と零影の身体が、無数に分裂した。
高速移動による分身・・・だが、その数はあまりにも膨大だった。
二十や三十では追いつかない。
圧倒的な数が、火星の空を埋め尽くす。
紅と蒼・・・互いの分身によって作り出された“幻影の軍勢”は、
夕焼けに似た空を背景に真っ向から対峙する。
数十の飛影と零影が、同時に刀を構える。そして―――――
イルボラ「ジョォォォォォォォォォォォォッ!!!!」
ジョウ「イルボラァァァァァァァァァァァッ!!!!」
無数の分身が乱れ飛び、互いの“群”は激突する。
共に業を極めし忍者戦士による、
凄絶なる最終幕の火蓋は、今切って落とされた。
ブンドル「美しい・・・鮮麗なる紅と蒼の演舞・・・
これが忍者の戦なのか・・・
東洋には、まだこのような美もあるとは・・・
このブンドル、少々美意識を改めねばなるまい」
飛影と零影の戦いを見て、恍惚の吐息を漏らすブンドル。
カットナル「こぉれ!!他のヤツの戦いに見蕩れてないで、手伝わんかい!!」
ヘルダインとデスカインが、二人一組になってこちらに向かってくる。
ブンドル「ふ・・・姿形だけ騎士の真似事をしようとも・・・」
二体の騎士は、シールドを光らせて眼を晦まそうとする。
だが、レジェンド・オブ・メディチは紫のマントを翻し、その光を遮断した。
隙を作るつもりが、逆に隙を晒したのは二体の騎士だ。
ブンドルは、飛燕の如き速さで敵の懐に切り込むと、白銀の刃を一閃する。
一刀の下に、ヘルダインとデスカインは両断され、宇宙に朱色の華が咲く。
ブンドル「所詮、貴様らはただの木馬。
騎士の誇りも、高貴な魂も持ち合わせぬ木偶よ」
G・K隊、統合軍がガイゾックの守護神なる二騎士を次々と屠り去るのを見て、
ガイゾックは畏怖の声を漏らす。
ガイゾック『恐ろしい・・・何と恐ろしい者達だ。
これほどまでの暴力は、恐怖と殺戮しかもたらさぬ・・・
争乱の火種たるお前たちが、宇宙へと蒔かれれば・・・
必ずや、この静かなる宇宙に厄災の仇花を咲かせる・・・
ゆえに、摘み取らねばならぬ!滅ぼさねばならぬ!!』
リュウセイ「まだそんな事を言ってやがるのか!」
ライ「確かに・・・人間の中には、お前の言う血と戦争を望む者もいるだろう・・・」
ライは唇を噛み締める。
彼の兄の妻・・・義姉カトライアは、テロリストの起こした事件で命を落としたのだ。
ライ「だが、それを裁くのは神(おまえ)ではない・・・
人が犯した過ちは、人の手で正すべきだ。
それによって人は成長し・・・その先にこそ、真の平和がある」
エクセレン「あなたのやっている事は、要するに余計なお節介なのよ」
110
:
藍三郎
:2008/06/08(日) 22:37:43 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ガイゾック『それでは遅いのだ・・・
地球人が反目し合い、互いに喰い合うだけなら、まだ良い・・・
だが、そのような未完成な種族が、宇宙に解き放たれたらどうなる?
同胞同士で争うような種族が、他の星の生命体を脅かさぬなどと、何故言える?』
ルリ「それは否定しきれませんね。
現に、私たち人類は、他の星の種族とも戦争をしているわけですから」
ハーリー「か、艦長・・・」
ルリ「しかし・・・一方で、私達には
他の宇宙の方々ともわかりあえた歴史もあるのです。
歌によって和解した、人類とゼントラーディのように・・・」
ダミアン「エイジさんは、自分の危険も省みず、
裏切り者になってまで地球の危機を俺たちに教えてくれた・・・」
ドモン「例え種族は違おうとも、
熱き魂を拳に込め、正義を貫く男達がいる事を知った・・・」
ロム「それは、俺たちも同じ事だ。
地球には、悲しむべき事に悪を欲する者も多い・・・
だが、悪を許さぬ熱い正義の魂も、確かに燃え盛っているのだ!」
ムスカ「種族だの、生まれた星だの、
そんな“狭い”枠に囚われてちゃ、考えまで狭くなっちまう。
大事なのは、心、なんじゃねぇかな?」
ルリ「同じ心を持っていれば・・・
互いに歩み寄ろうとすれば・・・違う宇宙の人とでも、きっと分かり合えます」
ロミナ「同じ星の、同じ宇宙の人間同士で争いあう悲しみは、私達も知っています。
宇宙に争いが耐えないからこそ・・・私たちは、星々の垣根を取り払い、
同じ志を持つ者同士が手を取り合って、平和への道を模索すべきでは無いでしょうか?」
彼女らの切なる願いを、機械仕掛けの神は冷徹に切り捨てる。
ガイゾック『斯様な戯言、所詮夢物語に過ぎぬ・・・
愚昧な妄想は捨て、速やかに滅びの道を受け入れよ・・・
滅びの果てにこそ真の静寂が・・・平和がある』
アキト「だが、俺達は生きている」
ガイゾック『・・・・・・』
アキト『生きている以上、己の血を流しても・・・
死人同然になろうとも、何かを成し遂げようと足掻くのが、
人間(ヒト)の生き様だ」
ルリ「アキトさん・・・」
死人同然・・・彼の境遇を表した
その言葉の重みが、ルリの胸に深く圧し掛かった。
ムスカ「そこんところが解らないお前は、所詮欠陥製品ってこった!」
勝平「俺・・・ザンボット3に乗って、戦って・・・
辛かったし、苦しかった。嫌な事だって沢山あった。
街を守るためにメカブーストをやっつけても、
怖いもんを見るみてぇな眼で見られる事もあった・・・」
宇宙太「勝平・・・・・・」
いくら普段強気に振舞っていても、彼はまだ幼い子供なのだ。
そんな彼が地球を守る使命を帯び、ロボットに乗って戦場へ向かう・・・
それが如何ほどの恐怖であっただろうか・・・
筆舌に尽くしがたい物である事は明らかだ。
彼が始めて吐露した弱みに・・・
宇宙太と恵子もまた、勝平と同じ気持ちであった事を思い出す。
だが、傍らの二人の憂いを払うように、勝平は叫んだ。
勝平「けど!!俺、やっぱり地球が好きだ!!
地球には、死なせたくない善い奴らが一杯いる!!
だから・・・俺は戦う!!
お前みたいなヤツに、俺の大切なみんなを殺されてたまるかよ!!」
どれほどの悲しみ、恐怖がその身に降りかかろうとも・・・
勝平の心には、最初と何ら変わらぬ信念の灯が点っていた。
111
:
藍三郎
:2008/06/08(日) 22:39:15 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「ガイゾック・・・これで解ったでしょう?
私たちは誰も、貴方の思想など受け入れはしませんよ」
ガイゾック『それが愚かだと言うのだ。
神である我の思想を解せぬ蒙昧さ。十分滅びるに値する』
ゼド「やれやれ・・・処置なしですね。
まぁ、事ここに至って、貴方からの譲歩は期待していませんが・・・
一つだけ、貴方に聞いておきたい事があります」
ガイゾックを倒す前に・・・彼はどうしても、
訊いておかねばならぬ事があった。
ゼド「貴方は何故、“この世界”に現れたのですか?
元々貴方は、“私たちの世界”の存在のはず・・・
貴方もまた・・・次元を越える能力を有しているのですか?」
ガイゾック『・・・・・・我を異なる世界に呼び寄せたのは・・・お前たちと同じ人間だ』
ゼド「では、アルテミスが?」
ガイゾック『・・・・・・・・・・否。
“ゼーレ”と申す者達・・・彼らが我をこの世界に召喚せしめた』
ガイゾックの言葉は、主にナデシコCに乗艦する者達に衝撃を与えた。
ルリ「!」
ハーリー「ゼーレ・・・ですって?」
ゴート「バカな・・・」
アネット「ど、どういうことなの?何なのそのゼーレってのは・・・?」
ルリ「・・・特務機関NERVの上位に存在する機関です・・・
私たちも、それ以上の事は知らないのですが・・・」
ゴート「噂では、統合軍を隠れ蓑に太古より
世界を裏から操っていると云われる秘密結社らしいが・・・」
キリー「はっ、まるでドクーガじゃねぇか」
真吾「胡散臭い組織だとは思っていたが・・・裏にそんな連中がいたとはよ」
ガイゾック『彼らもまた、人類の未来を憂いる者達であった。
そして、宇宙の平穏を守るには、
“世界の終焉”以外はありえないと考えていた』
ヴィレッタ「世界の、終焉(おわり)・・・」
ゼド「それで・・・貴方は彼らと手を組んだのですか?」
ガイゾック『元より、我はただ使命を遂行するのみ・・・
“この世界”の地球もまた、人間の悪しき心で満ち溢れていた・・・
ならば、この世界の人類も速やかに抹消・・・
然る後に、元の世界に帰還・・・“我の世界”の地球も滅ぼすつもりであった』
ゼド「それを、ゼーレ(かれら)は容認していたと?
いえ・・・貴方には、そんな事は関係無いのでしたね」
ゼド(しかし・・・ならば、ゼーレもまた
アルテミスと同じく、次元を越える機関を保有していると考えた方が妥当ですね。
ですが、何故ガイゾックを呼び寄せたのか・・・
ガイゾックの行動が、彼らにとって都合が良いから?
無差別に破壊を繰り返すメカブースト・・・
彼らが地球圏に蔓延すれば、統合軍は勿論、
ネオバディムやグラドスといった敵対勢力も大きな被害を受ける・・・
真の目的は、それによる各組織の足止め?
他の組織が対策に苦慮している間に、裏で円滑に何らかの計画を進めるために・・・)
戦闘中ながらも、脳内で推理を組み立てるゼド。
全ては憶測に過ぎないが・・・確信は持っていた。
ただ、その“計画”とは何か。彼らは如何にして次元を越える力を有したのか。
そこまでは読み切れなかったが・・・
ガイゾック『最も・・・汝らが如何に足掻こうと、全てはもう手遅れだがな・・・』
ムスカ「何・・・?」
ガイゾック『世界の崩壊は既に始まりつつある・・・
滅びの“門”は・・・間もなく開かれる・・・
その時、この世界は・・・・・・』
112
:
藍三郎
:2008/06/08(日) 22:40:26 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=火星近海 G・エクセレント=
ザ・ブーム兵「陛下、正体不明の怪物どもの掃討、完了いたしました」
その頃・・・火星周辺でぶつかり合っていたザ・ブームとガイゾックは、
火星でのブッチャーの死に呼応してか・・・
メカブーストの動きも鈍くなり、ザ・ブーム軍の前にほぼ壊滅させられていた。
最も、ザ・ブーム軍も決して小さくない被害を受けていたが・・・
アネックス「梃子摺らせおって・・・
よし、我らも火星に降下するぞ!!
我らに刃向かう地球人を根絶やしにし・・・
必ずや“ニンジャの力”を手に入れるのだ!」
ザ・ブーム兵「はっ!!」
巨大戦艦、G・エクセレントが動き出そうとしたその時・・
ブリッジ内に、凄まじい震動が走った。
アネックス「!!・・・な、何事だ!?」
ザ・ブーム兵「げ、現在調査中・・・
周辺宙域に、巨大な時空震反応が・・・!あ・・・ああっ!!」
ブリッジにいる者達は驚愕に目を見開いた。
艦を襲った異変の正体が、すぐ目の前に現れたからだ。
宇宙が裂けていく・・・
黒い紙を破り捨てるように、
宇宙の黒い部分が剥がれ落ち、正体不明の赤い空間が覗く。
赤から橙、橙から緋、緋から紅へと変幻する空間は、
ザ・ブーム星人がこれまで垣間見た、どの宇宙とも違っている。
生ある者を引きずり込む奈落の穴が、ぽっかり宇宙に開いたようだった。
やがて・・・空間の中から・・・黒い影が這い出てくる。
全身に墨を被ったような漆黒のボディは、
生物とも機械ともつかぬ、禍々しい鎧で覆われていた。
悪魔―――――――
その姿はまさしく、見た者に畏怖を与える伝説上の悪魔そのものだった。
『ウォォォ・・・・・・オオオオォォォ・・・・・・』
人型をした悪魔は牙の生え揃った口を開け、
地の底から響くような声を漏らす。
アネックス「な、何だ、あれは・・・!!」
アネックスは、その怪物に本能的な恐怖を覚えた。
アレは・・・自分達とは違う、異質な存在・・・
ザ・ブーム星の覇者となり、今まさにシェーマ星系を、
そして地球を手に入れようとする支配者である
彼をしても、総身を走る震えが止まらない。
アネックス「ええい!!主砲発射準備!!
あの化け物をわしの視界から消し去ってしまえ!!」
ザ・ブーム兵「はっ!!」
G・エクセレントから、フォトン砲の数倍の威力を誇る主砲が、
次元の狭間に潜む怪物に向けて放たれる。
凄まじいばかりの極光が、闇の宇宙に一条の道を刻む。
だが・・・・・・
『ウウウ・・・ウゥヴォオオオオオオオオオオ―――――――――――――ッ!!!!!!』
咆哮と共に、胸部の装甲をこじ開ける怪物。
そこから空間が大きく歪曲し・・・巨大な重力場が発生する。
圧縮され続ける重力の渦は・・・やがて漆黒の球体を生み出す。
球体は、怪物自身をも飲み込むほどの大きさへと肥大化し、
急速に周囲の塵やデブリを吸い込んでいく。
G・エクセレントが放った主砲もまた・・・
漆黒の孔の中に、虚しく飲み込まれていった。
ザ・ブーム兵「ブ、ブラックホール・・・!!」
怪物が生み出したブラックホールは、
周囲にいるシャーマンやバンクス、
僅かに残ったメカブーストをも吸い込み、消滅させる。
113
:
藍三郎
:2008/06/08(日) 22:41:19 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
『ウウゥゥゥ・・・ヴァァァァァァァァァァッ!!!!』
両の手に刀を携えた悪魔は、その濁りきった瞳に標的を捉えると・・・
次元の裂け目から飛び出し、G・エクセレントへと殺到する。
アネックス「う、うおおおおおお!!?」
恐慌の淵に立たされたアネックスは、皇帝の威厳も全て捨てて取り乱す。
G・エクセレントに配備されたバンクスの砲撃部隊が、集中砲火を掛けるが・・・
悪魔の疾走は、最早何者にも止められなかった。
『アアアアアアァァァァァァァァッ!!!!』
怪物の全身に裂け目が入り、不気味な眼球が開かれる。
鱗の如く全身にびっしり張り付いた瞳から、眩い閃光が放たれる。
妖しき光の洪水は、無数に分岐し、
G・エクセレントを守るバンクス部隊を残らず貫いていく。
ザ・ブーム兵「バ、バンクス部隊、全滅!!」
ザ・ブーム兵「う、うあああぁぁぁぁ!!!」
そして・・・
旗艦まで到達した悪魔は、
圧倒的な暴力の元、力任せに装甲をこじ開け・・・
皇帝が鎮座するブリッジ内へと突入してきた。
ザ・ブームの最強戦艦も、心臓を握られては脆いもの・・・
炎に包まれ、崩壊していく艦の中・・・
アネックス「ば、バカな・・・こ、こんなところで果てるのか?
皇帝である、このわしが!?」
シェーマ星系を手中に収め、やがては全宇宙支配に乗り出す遠大なる野望。
それが、こんな辺境の星で潰えるなどと・・・
悪魔の暗い瞳が、皇帝を正面から睨みつける。
節くれだったその掌が、こちらへ迫ってくる―――――
アネックス「わしは、ザ・ブーム星の覇者・・・
アネックス・ザ・ブームなるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
皇帝は最期まで、己を見舞った災厄を受け入れられないまま・・・
黒き悪魔の掌によって、押し潰された―――――――――
G・エクセレントが、大爆発を起こし火星周辺から
完全に消滅したのは・・・そのすぐ後の事だった。
114
:
蒼ウサギ
:2008/07/11(金) 00:16:11 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=火星 コスモ・アーク 格納庫=
ブレードゼファーの新装備を随時モニターしていたレイリーは、
先の凄まじい攻撃に目を見開いた。
整備員「今の、一体なんでしょうか? え、エネルギー出力がMAXの80%も越えました」
レイリー「元々、安定性に欠けた兵器だからね。あらかじめ設定された予測値なんてアテにならないよ
それにしても、今の機体状況はどうなってんの?」
整備員「各パーツがかなり損耗しており、通常スペックの半分の性能しか発揮できない状況です」
レイリー「その辺は改良の余地ありね。O・D・・・いえ、SS(シューティングスター)の刀身出力の方は?」
整備員「一度、悠騎隊員がMAXにしたことで、不安定となりましたが、今は安定しています」
レイリー「あの放出量のおかげか・・・・・・それしてもまぁ、凄い威力ね」
モニターに映る、赤い大地に空いた底が見えない大穴を見て、レイリーは溜息をついた。
そして、呆れたように呟く。
レイリー「ま、考えなしにやった代償はちょっと大きいわね」
そう言ったあと、レイリーは悠騎に通信を繋ぐ。
§
まだ粉塵が収まらない大地を見つめ続ける悠騎のコクピットにレイリーから通信が入る。
レイリー『悠騎、聞こえる?』
悠騎「あ、あぁ? どうした?」
レイリー『あんた、無茶したわね。機体が悲鳴あげてるわよ!
ったく、可哀想に・・・・・・帰ったら放送コードに引っかかるお仕置きしてあげるから覚悟なさい!』
悠騎「いや、拒否するわ。つーか、機体捨ててでも帰って来いっていったのお前じゃないのかよ!?」
レイリー『そんな昔のことは忘れたわよ。それより、すぐに帰艦しなさい。
そのままじゃ機体性能が著しく低下したままよ』
悠騎「あぁ、みたいだな。さっきから警告音がうるさいよ」
悠騎の言う通り、先ほどからブレードゼファーのコクピット内は喧しく故障や、
出力低下を警告するアラームが鳴り響いている。耳障りなことこの上ない状況だ。
レイリー『お生憎様。ま、考えなしに変なことやったツケね』
悠騎「あぁん? 変なことって、“スター・オブ・クラージュ”のことか?」
悠騎がその言葉を言った瞬間、通信の向こうが一瞬、時が止まるのが分かった。
レイリー『す、スター・・・・・なにそれ?』
悠騎「オレが考えたさっきの技名。なんか響きよくない?」
レイリー『いや、アンタのセンスを疑うわ』
悠騎「うっせぇよ」
悠騎が苦笑しながら吐いた瞬間、巻き上がった粉塵から鎖が一つ飛び出してきて、
それがブレードゼファーの足に絡みついた。
悠騎「!!」
突然のことに悠騎は驚愕する。だが、その時にはすでにGが働いており、
ブレードゼファーは、粉塵へと引き込まれていった。
悠騎「やろぉ! しつこいんだよ!」
剣を振るい、鎖を断ち切る。そして、すぐに体勢を立て直そうと、機体を制御すると、
粉塵に紛れてヘファイストスが目の前に現れた。
115
:
蒼ウサギ
:2008/07/11(金) 00:17:23 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
ヴァルカン「ハッハーーーーー!!」
豪快な笑いと共に、ヘファイストスの拳がブレードゼファーの顔面に決まる。
吹き飛ぶブレードゼファーを逃がすまいと、鎖を首に巻きつけ手元に引き戻し、
その勢いを利用して膝蹴りを見舞う。
一発、二発、三発!
ブレードゼファーの胴体の装甲に亀裂が走った。
悠騎「ぐっぅぅ!!」
剣を振るおうと悠騎は必死にもがくが、そこで致命的な弱点に気づく。
巨剣であるがゆえ、このようなインファイトに持ち込まれれば明らかな不利なのだ。
悠騎(こいつ、まさか! これを見越して!?)
ヴァルカン「楽しいなぁぁぁぁぁぁぁあ!! ほ゛し゛く゛ら゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
違う、今のヴァルカンはまさに本能のまま戦っている戦闘狂。
恐らくこの剣の弱点などもその本能で悟っているのだろう。
悠騎は、背中に何か冷たいものを感じた。
悠騎「マジ、ヤバイかも・・・・・・」
ヴァルカン「フハハハハハハハハハハハハ!!!」
高笑いと共に、ヴァルカンは機体の熱を上げる。
ブレードゼファーのバーサーカー・メイルが再び融解し始めた。
鳴り響く警告音。血液でさえ沸騰しそうな暑さに悠騎は悲鳴を上げた。
ヴァルカン「どうしたぁ!? どうしたぁ!? 叫んでいる暇があったら戦えよぉぉお!!」
次にヘファイストスはベアバックの体勢に入った。
ギリギリと締め付けながら、機体もさらにヒートアップさせる。
ついに、叫ぶ気力すら失った悠騎がコクピットの中でうな垂れる。
ヴァルカン「ハハハハハハハハハハハッ!!」
戦いという行為そのものに狂喜するヴァルカン。
だが、その時、ヘファイストスの機器が何かを感知した。
ヴァルカン「むぅ! これは・・・・・・」
そのことに少し頭が冷えたヴァルカンはブレードゼファーから離れる。
その瞬間、ブレードゼファーは赤い大地へと落ちた。
ヴァルカン(・・・・・・これは報告の必要があるな。口惜しいが退くとするか)
機体を戦闘モードから巡航モードへと移行し、その場から離れようとすると、
背後より怒声が響く。
悠騎「ま、待ちやがれ!!」
その声に、ヴァルカンの口がニタリと広がる。
ヴァルカン「その意気や良し! だが、不完全燃焼はお互い様!
次に会ったときはその剣、完璧に仕上げてくるのだな!
フハハハハハハハハハッッ!!」
その言葉を最後に、ヘファイストスは火星から飛び去っていった。
悠騎は、コクピットの中の壁に思い切り拳を打ちつけた。
116
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:42:09 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=火星=
それは・・・一分にも満たぬ時の中の死闘だった。
飛影と零影・・・
高速で分身し続ける二体の忍者戦士は、
互いの持てる全てを出し尽くして激突した。
白刃を浴びせ、幻影で目晦まし、隙を突き、罠に嵌め、
斬り、弾き、撃ち、奔り、飛び、そして断つ―――――
振り下ろす刃の一振りに、撃ち出す光弾の一発に、
全身全霊の気魄を込め、一瞬の内に幾千幾万と繰り返す。
もはや思考が及ぶレベルの戦いでは無い。
ジョウ・マヤも、イルボラ・サロも・・・
飛影、そして零影と完全に一心同体となって、
ただ己の全てを出し尽くす。
一方が相手の速度を上回れば、もう一方も直ちにそれを凌駕する。
互いが力を高め合うに従って、
厘、毛、糸、忽、微、繊、沙、塵、埃、渺、漠、
模糊、逡巡、須臾、瞬息、弾指、刹那と、
勝敗を分ける時を加速度的に細らせていく。
永劫に終わらないとさえ思える死闘の螺旋・・・
されど、その領域が神速へ近づくほど、決着への時は短くなっていく。
そして・・・極限の紙一重にて・・・
ついに、両者の勝敗は決した――――――
イルボラ「・・・・・・・・・」
赤い大地に倒れ臥すのは、イルボラの零影・・・
傍らに立って刀を突きつけているのは、ジョウの飛影・・・
ジョウ「・・・俺の、勝ちだ・・・」
そう宣言するジョウだが、その実感は全く無い。
無我夢中で、本能の赴くままに全力を尽くした。
意識さえも彼方へ飛翔する神速の領域にて、
ただ、相手に勝ちたい――――それだけを想って。
気づいた時には・・・
飛影の刃は零影に食い込み、相手は地に倒れていた。
それが、ほんの一瞬早かった・・・
刹那の違いで、自分が討たれていてもおかしくない・・・そんな戦いだった。
そして、その思いはイルボラも同じだ。
胸中に渡来するものは、敗北の屈辱でも、悔恨でもなく・・・
ただ、全てを出し切ったという思い・・・
だからこそ、認める事が出来る・・・敗北を――――
イルボラ「・・・・・・見事だ」
あらゆる確執、嫉妬、葛藤、屈辱・・・
己の身を縛っていた全ての重石は、あの神速の世界の中で捨て去ってきた。
思えば・・・そのような荷物を背負っていたからこそ、
自分はジョウに負けたのかもしれない・・・
いや、今は何も考えまい。
彼の心は、青空のように澄み切っていた。
117
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:43:09 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ハーリー「!艦長!火星外周域にて、大規模な次元震動を確認!!」
ユキナ「ザ・ブーム軍の艦隊が展開している場所です・・・
あ!ザ・ブーム艦隊の反応、次々に消失していきます!」
ルリ「・・・・・・」
その有様は、火星の空からでも確認できた。
赤い裂け目が、空を切り裂くようにぱっくりと口を開けていたのだ。
サブロウタ「な、何だありゃ・・・」
リョーコ「ちぃ、この脳味噌野郎、また何かやりやがったな!」
突如として起こった異常状態・・・
それをガイゾックと結びつけるのは当然であったが・・・
ガイゾック『お、おお・・・おおおおおおお・・・・・・・!』
ゼド「!」
意外にも・・・この事態に最も狂乱しているのは他ならぬガイゾックだった。
ガイゾック『ついに・・・ついに始まったか・・・
もはや全ては手遅れ・・・
汝らの行いが・・・悪しき人類の存在が、終焉への門を開いたのだ・・・』
ムスカ(門・・・か・・・)
その言葉から即座に連想するのは、あの次元の裂け目だ。
そして・・・これと同じ現象と、以前にも自分達は遭遇した事がある。
白豹「深虎・・・・・・」
ムスカ「やっぱ、あの野郎とも関係のある事なのかよ・・・」
ガイゾック『宇宙が悪に染まったが故に、世界の終焉は早まったのだ・・・
災いを招きし人類・・・滅ぼさねばならぬ・・・滅ぼさねばならぬ・・・・・・』
残るヘルダイン、デスカインを結集させ、総攻撃を始めるガイゾック。
ゼンガー「黙れぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
天空を駆ける斬艦刀の一太刀が、赤と青の騎士を斬り裂き、残骸へと変えていく。
斬艦刀を最大まで巨大化させたダイゼンガーは、
立ちはだかる障害を斬り捨て、バンドック目掛けて一直線に突き進む。
ゼンガー「貴様が宇宙の平和のために生み出されたというならば、
何故、滅ぼす事しか考えない!
平和とは、全ての人の心の内にあるもの・・・
人を生かす事で、世界を救おうとは考えないのか!!」
万能の神を名乗るならば、そのような選択肢もあったはず・・・
ただ無闇に殺戮へと走るガイゾックに、ゼンガーは強い憤りを覚えていた。
元は・・・“彼”も自分たちと同じ志だった事を思えば、その怒りはより一層強くなる。
ガイゾック『我は滅ぼす・・・故に我在り・・・
我は神・・・我に過ちはありえぬ・・・
滅びこそが平穏・・・故に、我は・・・・・・』
ゼンガー「・・・・・・・・・そうか」
ゼンガーの口調が、突然落ち着いたものへと戻った。
彼のガイゾックを見る眼は、怒りではなく・・・憐れみを込めたものだった。
ゼンガー「失ってしまったのだな?
お前自身も・・・人に絶望し、滅ぼしていくうちに・・・」
手段と目的の逆転・・・
長きに渡る放浪の末に、平和の為に滅びをもたらすのではなく、
滅びこそを至上とするようになってしまった。
あるいは、最初からそのように創られていたのかもしれない。
ならば、その咎はガイゾックを創り出した者達・・・
血を流す手段で平和をもたらそうと考えた者達にある。
いずれにせよ・・・目の前にいるのは神では無い・・・
飽くなき人間の欲望によって生み出された機械仕掛けの殺戮者・・・
平和を求める人間の心が、歪んだ形で結実した亡霊に他ならない。
ゼンガー「ならば、ここで終わらせよう・・・
使命という鎖を断ち切り・・・貴様を、神という偶像から解き放ってやる」
哀れな亡霊を、これ以上現世に彷徨わせるわけにはいかない。
歪んだ思念を無に還す事こそ・・・
同じ平和を目指す者の務めだ。
118
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:44:09 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
赤と青の騎士による護りは、仲間たちの援護によって突き崩された。
後は、本丸目指して突き進むのみ――――!
ゼンガー「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」
バンドックの砲撃の中を、斬艦刀一本で突き進むダイゼンガー。
どれだけの砲弾、どれだけの閃光が降り注ごうとも、
その疾走を止める事はできない。
ゼンガー「届けッ!雲耀の速さまで!!」
大型機動兵器にはありえぬ速度・・・
ゼンガーの気魄が乗り移ったのか・・・
ダイゼンガーは全ての限界を超え、極光の領域へと達する。
ガイゾック『消えよ・・・!!』
バンドックから破滅の魔光が放たれる。
ゼンガー「チェェェストォォォォォォォォォォッ!!!!」
だが、それを持ってしても斬艦刀を止める事は叶わない。
雲耀の太刀は、光をも断ち切り、
強固なバリアを斬り裂き、
遂にその刃は、バンドックの頭部へと深く食い込む。
ガイゾック『―――――――――!!!?!?』
ゼンガー「我に・・・断てぬ物無し!!」
真っ二つになったバンドックの頭部は、
紅蓮の劫火に包まれ、跡形も無く爆発四散した。
宇宙太「や、やったのか?」
恵子「いいえ!バンドックから、小型のカプセルの射出を確認!
きっと、あそこにガイゾックが!!」
勝平「逃がすかぁぁぁぁぁ!!」
ザンボット3は急上昇し、爆発寸前のバンドックから排出された、
小型の脱出カプセルをキャッチする。
勝平「てめぇが・・・ガイゾックか!!」
透明な防護壁から覗くのは、あの不気味な脳髄に似た姿に相違ない。
宇宙太「こいつが、ビアル星を・・・地球を・・・!!」
いざその姿を目の前にしてみると、
溢れる憎しみを抑えることができない。
今すぐ握り潰したいのを、寸前で押し留めている状況だ。
ガイゾック『我を・・・滅ぼすか?』
勝平「当たり前だ!!お前は・・・お前は・・・!!」
ぶつけてやりたい怨み節は幾らでもある。
自分達が、どれだけの人の悲しみを背負って戦ってきたか、こいつは知らない。
だが、ガイゾックの真実を知った今では、どうしてもそれを口にする事が出来ない。
例えようも無い虚しさだけが返って来る事が、解りきっているからだ。
目の前にあるのは、ただの機械・・・
人を滅ぼし、世界を救済するという
使命に取り付かれるままに動き続けた機械(がらくた)。
これまで犠牲にしてきた人々の命に、何一つ思う事などあるまい。
そう・・・・・・今なら解る。
突如現れ、世界に災厄をもたらす存在。
宇宙の平穏の為、駆除しなければならない存在。
ガイゾックにとっては、人類こそメカブーストだったのだ。
勝平達がメカブーストを屠るのと同じ・・・
ただ、邪魔になる敵を駆逐する感覚で、
人類を殺していたに違いない。
119
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:45:18 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
今まで憎しみを込めて戦っていた相手が、酷く矮小な存在に思える一方、
自分達と似通った存在である事も解り、
それでいて、溢れる憎しみを捨てる事が出来ない・・・
そんな複雑なジレンマに捕らわれ、勝平達三人は、一言も発することが出来なかった。
彼らの思いを他所に、機械仕掛けの神は語りかける。
ガイゾック『・・・その前に・・・今一度、胸に手を当てて考えてみよ・・・
汝らが命を賭けて守ろうとした人間は・・・
本当に、守るべき価値があったのか?』
その言葉は、実に自然に、勝平達の胸へと突き刺さった。
ガイゾック『人間は愚かで、弱く、自分達と違うものを決して認めない存在だ。
汝らの暴力は・・・人のそれを遥かに越えている・・・
例え汝らが人類を守ろうとも・・・過ぎたる力は、人類にとって恐怖となる』
宇宙太「そんな・・・事は・・・!」
否定できない。
メカブーストと戦い始めた頃は、人々から味方として認められず、
街の被害を広げたと蔑まれ、非難されることもあった。
自分達が戦わなければ、皆殺しにされていたというのに・・・
そんな身勝手な人々を・・・
一瞬たりとも、憎まない時は無かったと言いきれるだろうか?
ガイゾック『汝らは・・・いずれ、憎まれ、疎まれ、蔑まれ、
この世界で生きる事を否定されるだろう。
潔く消え去るか・・・それとも、自分達を否定したものを滅ぼして、
この世界で生き延びるか・・・汝らに与えられる選択は、二つに一つしかない』
恵子「そ、それじゃあ・・・・・・」
恵子は戦慄した。
想像せずにはいられなかったのだ。
自分達が人類の敵となる未来を―――――
そして、その時こそ自分達は・・・・・・
ガイゾック『汝らは、第二の―――――――――』
ガイゾックが次の言葉を紡ぐことは無かった。
ザンボット3の左腕に握られた、
ザンボットグラップがカプセルを串刺しにして、その機能を停止させたからだ。
歪な機械音を発して、爆発するカプセル。
もう、ガイゾックは二度と音声を発する事は無い。
地球とビアル星・・・
そして、それ以前に滅ぼされてきた多くの星にとっての宿怨の敵・・・
ガイゾックの神ことコンピュータードール8号は完全破壊された。
それは・・・ガイゾックによって流された幾多の血と比べると、
あまりにも呆気ない幕切れだった。
宇宙太「勝平・・・・・・」
勝平「・・・・・・・・・」
ガイゾックを貫いたのは、それまで無言を通していた、
勝平の操縦によるものだった。
ガイゾックが語る言葉の不快さに耐え切れなくなったのか・・・
俯いたままの勝平から、その心中を読み取ることは出来ない。
勝平「う、ううう・・・」
歯を食い縛り、しばらくは込み上げる何かに耐えていたが・・・
堰を切ったように、その感情を爆発させた。
勝平「うあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!!!!!」
天に向かって、力の限り叫ぶ勝平。
胸の内の不快感を取り払う為か、行き場の無い感情を解き放つ為か・・・
ただ、払いようが無い後味の悪さだけを残しつつ、
彼ら三人の少年少女は、打倒ガイゾックの悲願を果たしたのだった・・・
120
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:46:48 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=火星開拓基地=
ハザード「な、なんじゃと!?」
火星開拓基地長官、ハザード・パシャは、
上記の台詞を一体何回繰り返したのだろうか・・・
それ程、彼にもたらされる情報は最悪のものばかりだった。
兵士「シャルム・ベーカー様、ならびにイルボラ・サロ様との通信が断絶!
恐らく、撃破されたものと思われます・・・」
兵士「火星周辺に、原因不明の次元震動が発生!
アネックス・ザ・ブーム皇帝の旗艦他、
ザ・ブームの艦隊は、大半が呑み込まれ消滅した模様・・・・・・」
兵士「大型の土偶型戦艦、統合軍により撃沈・・・
同時に正体不明の怪物群、全て機能を停止・・・
それにより、統合軍の我が方への攻撃、一層激しさを増しております!」
兵士「第6防衛ライン突破!統合軍、最終防衛ラインまで迫っております!」
兵士「宇宙統合軍、ホシノ・ルリ少佐より最後通達が・・・
降伏しない場合は、総攻撃を開始すると・・・」
ハザード「な、何故だ・・・何故、こんな事に・・・」
シャルム、イルボラの撃墜を聞いた時には、
邪魔者が消えたとまだ余裕を見せていた彼も、
次々と降りかかる災難に、脂汗を流さずにはいられなかった。
ハザードも愚かなばかりの男ではない。
この戦い、敗色が濃厚なのは解っていた。
だからこそ・・・いざとなれば基地を捨てて脱出し、
アネックス皇帝に保護してもらう算段だったのに・・・
その目論見も、旗艦が次元震動に呑み込まれたという
ふざけた報によって呆気無く潰えてしまった。
脅威は外側から押し寄せてくるだけでは無い。
彼の部下だった者達も、敗北を悟るや否や、大挙して統合軍に投降している。
元々、ザ・ブームの後ろ盾を得たハザードによって、
無理矢理従わされていた者が大半だ。
ザ・ブーム軍が崩壊の兆しを見せ始めた以上、裏切るのは当然の流れといえよう。
もはや、火星開拓基地とザ・ブームの無人機動兵器だけが彼を守る壁・・・
その僅かな戦力さえも、統合軍の猛攻の前には蟷螂の斧に等しかった。
全てが全て、彼にとって悪い方向へと進んでいる。
今までは上手く行っていたのに・・・
アネックス皇帝に取り入り、あわよくば地球の支配権を賜り、
地球圏に君臨する薔薇色の未来が彼を待っていたはずなのに・・・
ドッグ「終わりですな。ホシノ少佐の申し出を受け入れ、降伏いたしましょう。
今降伏すれば多少は・・・・・・・・・・・・・減刑されるかもしれませんぞ?」
あえて長い溜めを挟んだのは、もちろん皮肉を込めての事である。
ハザード「ふ、ふ、ふざけるな!あんな小娘の軍門に下るなど!!」
統合軍に捕らわれた自分に、
どんな極刑が待っているか・・・想像するだに総身が震える。
降伏という選択肢も、彼にとっては死に等しかった。
ドッグ「ではどうするので?
これ以上向こうを怒らせると、ここを重力砲で吹き飛ばされますぞ?」
ハザード「に、逃げるぞ!!
しばらくどこかに身を隠して、ほとぼりが冷めるのを待って・・・」
長官としての責務など、とうにこの男には無い。あるのはただ、己の保身だけだ。
半狂乱状態になったハザードは、脱兎の如く司令室を逃げ出そうとする。
だが、彼の前に、天井から落ちてきた黒い影が立ちふさがった。
ハザード「な!!?」
精悍な顔立ちをした、その青年は・・・
ジョウ「逃げられるとでも思ってんのか?ハザード!!」
ジョウ・マヤは、積年の宿敵を前にして、十本の指をポキポキとならした。
121
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:52:49 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ハザード「き、貴様はっ!ジョ、ジョウ・マヤ!?」
腰を抜かしたハザードは、怯えきった目でジョウを見上げる。
ジョウ「覚えていてくれたとは嬉しいねぇ。
そうだ・・・てめぇがザ・ブームに寝返ったせいで散々な目にあった、
火星生まれのジョウ・マヤ様だ!!」
ハザード「け、警護の兵は何をしていたぁ!!」
ジョウ「はっ!この程度の基地に忍び込む事なんて、今の俺にゃ容易い・・・
って、そんな乱暴なことしなくても、素直に通してくれたけどな」
ハザード「な、何だと・・・」
ジョウ「ありがとな、そこのひげのおっちゃん」
ハザード「ド、ドッグ!貴様ぁぁぁ〜〜〜〜!!」
ドッグ「申し訳ありません。私も自分の身が可愛いものでして・・・」
さして悪びれもせずに言うドッグ。
イルボラとの決闘に勝利した後・・・
ジョウは、レニー達にイルボラを任せ、自身は火星開拓基地へと向かった。
イルボラは、かつての彼からは考えられないほど従順に縛についた。
さらに、火星開拓基地の司令室へ侵入するためのルートも教えてくれた。
如何にイルボラとの戦闘で疲弊しているとはいえ、
基地の守りなど、飛影の前では何の意味も成さない。
だが、基地に近づいた時・・・SOSを求める通信をキャッチした。
発信源は、火星開拓基地司令室・・・
ジョウは、ハザードを見限った副官ドッグ・タックによって、
一切戦闘をする事無く司令室まで通されたと言うわけだ。
ジョウ「とうとう部下にまで見捨てられたか。
まぁ、全部身から出た錆だがな・・・」
ハザード「ま、待て!見逃してくれ!!
そうだ、か、金だ!金で手を打とう!!
労働者上がりのお前には、目も眩むような大金をくれてやる!」
この期に及んで尚自分達を見下した発言をするハザードに、
ジョウは怒りを通り越してあきれ返っていた。
ジョウ「どこまでも救いようが無いクズ野郎だな・・・
今の一言で、俺も遠慮なくてめぇをぶちのめす意志が固まったぜ」
ハザード「く・・・くぅ・・・」
憤怒に顔を歪め、ハザードは懐に手を差し入れる。
ハザード「このゴミ虫が!!死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
銃を向けるハザード。
だが、痛みは彼自身へと降りかかる事となった。
ハザード「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ジョウ「下衆の考えなんざお見通しなんだよ」
ジョウが投げたクナイが手の甲に刺さり、銃が
ジョウ「今の痛みは、レニーの恨みだ。
みんなから、恨みをぶつけてくれるよう頼まれているんでな・・・」
ハザード「ま、待て!話を・・・話せば解る!!」
腰を抜かしたまま、壁際まで後退するハザード。
ジョウ「悪いな。俺は労働者上がりのバカだからよ・・・
あんたみてぇな“お偉いさん”の言葉なんて、聞こえねぇ・・・なっ!!」
ジョウの左拳が、ハザードの顔面にめり込んだ。
ハザード「ぶぎゃぁっ!!?」
ジョウ「こいつはダミアンの分だ!!そんで・・・」
間髪いれずに放たれた右拳が、腹部に炸裂する。
ハザード「ごぶぅぅぅっ!!?」
ジョウ「これが、マイクの分!!
それでこいつが・・・」
万感の思いを両の拳にこめて、解き放つ―――――!
ジョウ「この俺の怒りだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ハザード「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!」
その後・・・・・・
宇宙統合軍に投降したハザード・パシャ元長官は、
顔に何十発のパンチを喰らって、
言葉を発する気力さえも失い、顔面を真っ赤に腫らしていた・・・
最も、ハザードにとって肉体的な痛みはほんの始まりに過ぎない。
本当の絶望は、ここから先に待ち構えているのだから・・・・・・
122
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:54:16 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
こうして・・・火星開拓基地の全面降伏を持って、火星での戦闘は終結した。
最も、ザ・ブームの艦隊を巻き込んだ謎の次元空間の事もあり、
依然予断を許さぬ状況は続いていた。
空間の裂け目自体は、火星での戦闘中に閉じられたようだが・・・
=エルシャンク=
ガメラン「終わりましたな・・・
よもや、アネックス皇帝があんな形で最期を遂げるとは・・・」
ロミナ「ええ・・・」
仇敵の呆気無さすぎる最期に、ロミナ達は素直に喜ぶ気持ちになれなかった。
それよりも、突如として起こった次元震動・・・
その不気味さが、彼らの心に暗い影を落としている。
しかし、皇帝が急死した事でザ・ブームには大きく動揺が生じるはずだ。
もちろん、地球侵攻どころではなく、自国の存亡に執心せざるを得なくなる。
ロミナ達の悲願である、シェーマ星の解放も希望が見えてきた。
過程がどうあれ、この事態は喜ぶべきことなのだろう。
シャフ「ところで、ジョウ様が飛影と一体化した事ですけど・・・
やっぱり地球の忍者伝説は、この事を指していたのでしょうか」
ロミナ「そうかもしれません・・・
けれども、今となってはどうでもいい事ではありませんか」
ロミナは晴れやかな笑顔で、こう告げた。
ロミナ「飛影も、ジョウも・・・わたくしたちの頼れる仲間なのですから」
ガメラン「それ以上でもそれ以下でも無い、という事ですな」
ロミナ「はい・・・」
それから・・・捕虜扱いとして拘束されていた
イルボラが、ロミナ姫の前へと連れてこられた。
イルボラ「・・・ロミナ姫」
ロミナ「イルボラ・・・・・・」
面と向かって久々の再会を果たした主従。
イルボラはすぐさま跪き、沈痛な面持ちでこう述べた。
イルボラ「一切の申し開きはいたしません。
姫様を裏切った我が罪、万死に値します。
どうか私めに、然るべき裁きをお与えくださいませ」
ガメラン「・・・・・・」
かつてイルボラの部下だったガメランは、複雑な面持ちで元上官を見ている。
イルボラが裏切った後も、
上官への信望を捨て切れなかった彼だが・・・
今のイルボラは、かつて自分が尊敬し、仕えていたイルボラと同じ雰囲気を感じる。
まるで、地球に来る前の状態に戻ったようだ。
ロミナ「ならば、わたくしロミナ・ラドリオが、
イルボラ・サロに命じましょう・・・」
ロミナもまた、厳粛なる“姫”としての顔で、断罪を下す。
ロミナ「生きなさい。生きて罪を償いなさい。
これから危難に瀕するであろう地球の人々を、一人でも多く救うのです。
それが、貴方に出来る贖罪だと、わたくしは考えます」
イルボラは、否定も反発もせず、
眉一つ変えず、ただそれを受け入れる。
イルボラ「ハッ!全ては、姫様の御心のままに・・・」
この場でロミナに死ねと言われたら、
イルボラは何の躊躇いも無く命を絶っただろう。
全ての確執を捨て、ただロミナ姫への忠義にのみ生きる・・・
それが、イルボラ・サロが新たに生きる為の拠所であった。
ガメラン「イルボラ様・・・」
イルボラ「よせ・・・もう私は指揮官でも何でも無い。
指揮官はそなただ、ガメラン。
今や私はただのイルボラだ。
栄誉も地位も求めず、ただ贖罪にのみ生きる男だ」
ガメラン「・・・わかりました。
それが貴方の生き様というならば、私はそれを認めましょう。
私は、今でもイルボラ・サロを尊敬しているのですから・・・」
イルボラ「こんな私をか?ふふふ・・・・・・」
自嘲するように笑うと、こう続ける。
イルボラ「こうして、お前の前に顔を見せられるのも、ジョウ・マヤのお陰だな・・・」
ガメラン「・・・今では私も、あやつを認められるようになって来ております。
さすがは姫様が目を付けられた男、というべきなのでしょう・・・」
イルボラ「そうだな・・・あの姫様が、ただいい加減な男を気にかけるはずも無いか・・・」
それが解っていれば、あんな下らぬ嫉妬に囚われる事も無かったかもしれない。
結局、自分はまだまだ姫への忠誠心が足りなかったのだ。
イルボラ「ガメラン、礼を言う・・・これまで、よく姫様を守ってくれた・・・」
ガメラン「お褒めに預かり、光栄です・・・」
123
:
藍三郎
:2008/07/12(土) 22:55:11 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
アネット「!!由佳さん!上空から、一体の熱源反応が降下してきます!
こ、この識別コードは・・・!」
由佳「ま、まさか・・・!」
戦闘後も警戒に当たっていた幾つかの機体が、
降下してくる正体不明の熱源へと向かう。
天空から舞い降りる、黒い影・・・
禍々しき外殻を備えたその姿は・・・
悠騎「あ・・・あれは・・・!」
ムスカ「アルハズレット・・・!?」
姿は大きく変わっているのが・・・
その特徴的な外見は、第三新東京市で消えた、
葉山翔大尉のアルハズレットに間違いなかった。
正体不明の次元の裂け目と、この機体を結びつけることは容易かった。
ムスカ「まさか・・・ザ・ブームの艦隊をやったのは、こいつなのか?」
パルシェ「乗っているのも、葉山大尉なんですか?」
『オオオオオ・・・オオオ・・・・・・』
漆黒の機体は答えない。
ただ、生物のように開いた口から、不気味な唸り声を漏らすのみ・・・
やがて、黒い機体の各部に裂け目が生じ、一斉に眼球が見開いた。
ムスカ「!!全員、下がれ!!」
『オオ・・・ヴァアアアアァァァァァアアァァアァッ!!!!』
咆哮と共に、眼球から破壊光が放たれる。
無数の閃光は火星の大地を傷つけたが、
G・K隊は咄嗟に引いたお陰で事無きを得た。
やはり敵なのか?
警戒する彼らの思惑を他所に・・・
黒い機体の背後に、空間の歪みが生じる。
やがて、宇宙に生じたような、赤い次元の裂け目が生じ・・・
黒い悪魔は、その中へと飲み込まれていった・・・・・・
ムスカ「引き上げたのか?それとも・・・」
ゼド「・・・ガイゾックが遺した言葉といい・・・
いよいよ何かが動き出すのは間違い無さそうですね・・・」
不安と混乱が場を支配する中で・・・彼女は一人、小声で呟いた。
アルティア「・・・・・・あの人、苦しんでた・・・」
124
:
蒼ウサギ
:2008/07/16(水) 01:09:28 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
様々な疑問を抱えながら、各機は各々の戦艦へと帰艦する。
ただし、悠騎のブレードゼファーだけはコスモ・アークへと着艦した。
もちろん、バーサーカー・メイルの修復は、レイリーの役目だからだ。
=コスモ・アーク 格納庫=
レイリー「また、派手にやったわね・・・・・・そこ、胴部のパーツ着脱は慎重にね!
かなり融解が酷いから!」
アームでバーサーカー・メイルの胴部をガッチリ固定され、ゆっくりと外されていく。
すると、本来のブレードゼファーのコクピット開閉口から悠騎がようやく顔を出した。
本当ならば、バーサーカー・メイルの装甲からでも出入り可能なのだが、融解が酷く、
開閉口が完全に解けていたのだ。
悠騎「ふぃ〜・・・・・・助かったぜ」
レイリー「メカを大事にしない奴はそのまま丸焦げになればよかったのよ」
悠騎「・・・・・・トゲがあるな、オイ」
とても出撃前に心配してくれた人と同一人物とは思えない悠騎だった。
タラップで下まで降りると、レイリーがブスッとした面構えで歩み寄ってきた。
嫌な予感を覚悟しつつ、悠騎はそれを待ち受けた。
そして、レイリーの容赦ない拳が悠騎の顎を的確に捉えた。
悠騎「つぅ〜〜〜〜」
レイリー「言ったでしょ? 帰ったらお仕置きだって。私は有限実行なの。特に特に男にはね」
悠騎「知ってるよ」
レイリー「でも、ま・・・・・・よく帰ってきたな。痛いってことは、ちゃんと生きてるって証拠だよ」
そう言ったレイリーの顔は笑顔が零れていた。
満足した彼女は殴った手をヒラヒラさせて悠騎に背を向けながら整備員の方へと歩いていく。
彼女の本当の仕事はこれからなのだ。
悠騎「あ、レイリー」
悠騎が呼び止めると、レイリーは背を向けたまま立ち止まった。
悠騎「サンキュな。勝てなかったけどよ。負けなかった・・・・・・・お前――」
レイリー「その台詞は、言う相手が違うんじゃない?」
悠騎「あん?」
レイリー「私は元々反対だったんだよ。けどさ、あのコがアンタを信じてくれって言ったから」
その言葉で、悠騎はレイリーの言わんとすることが分かった。
悠騎は、「そうだな」と小さく呟いた後、「それでも」と前置きして、レイリーに告げた。
悠騎「ありがとよ」
そして、意を決したように、格納庫から走り去っていった。
レイリーは、男のような短くカットされた髪をクシャクシャとかきむしった。
レイリー「ったく、世話焼けるよ」
と、小さくぼやいた。
125
:
蒼ウサギ
:2008/07/16(水) 01:10:04 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
=コスモ・アーク ブリッジ=
アイ(葉山 翔大尉・・・・・・旧ジオンのフラナガン機関出身。
ネオ・ジオン、ザビ派に所属しており、ハマーン・カーン戦死後、
G・K隊コスモ・フリューゲルへと亡命。その後、『シャアの反乱』の際、
アクシズ落下を阻止している最中、<アルテミス>が出現。転移に巻き込まれた。
ただし、転移時、コスモ・フリューゲル隊とは時間軸が大幅にズレたと確認されている。
そして、同じく転移時に搭乗していたMSも大幅に変化した。
これについての理由は未だ明確な回答は出ていない。
合流後は協力者として、友軍に加わっていたが、地上の第三新東京市での戦闘後、行方不明・・・・・)
ルリや由佳から貰った葉山翔のデータを整理するアイ。
先ほどの突如現れたアルハズレッドのことを詳しく調査するためだ。
ミキ「が、がんばるね。アイちゃん」
アイ「艦長代理ですから」
しれっと短く答えるアイにミキはどう返していいか分からなくなり、とりあえず「あはは・・・・」と笑う。
特にやることもやって自分の仕事が終わったミキなのだが、年下のアイが頑張っているのを見ると、
どうにも一人だけ休むのは憚られる。
かといって安易に手伝いを申し入れようととも思わない。やっていることがあまりにも高度すぎて、
自分では手に負えないことを分かっているからだ。
次々とディスプレイ詳細なデータが映し出されては消えを繰り返されては、目が回ってしまう。
ミキ(あれって、全部ちゃんと見えているのかな?)
そんな疑問すら浮かんでくる。
下手に手伝えば逆に効率を落としそうなものの、何か自分にもできないかと考えあぐねるミキ。
思いついたのは実に在り来たりなものだったが、それを実行に移すことにした。
ミキ「アイちゃん! おにぎりの具は何が好き?」
アイ「・・・・・・はい?」
思いがけない急な質問にアイの手が止まる。
ミキ「だからおにぎりの具。頑張ってるアイちゃんにおにぎりでも作ってあげよっかなって・・・・・・
あ・・・・・もしかして、嫌い?」
アイ「あ、いえ・・・・・そんなことは・・・・・・」
ミキ「じゃあ、何?」
アイ「えっと、たらこで・・・・・」
ミキ「了解!」
意気揚々とミキがブリッジから出て行く。
アイはしばらく呆然としていたが、口元を笑みを浮かべて作業を再開させた。
§
キッチンルームへ向かう途中、ミキは悠騎と遭遇した。
ミキ「せ、先輩!?」
悠騎「うぉ!?」
お互い出会い頭の遭遇で驚く。特に悠騎は相手がこれから会おうと思っていただけに、
急に緊張し始めた。
悠騎「あ、ど、どっか行くのか?」
ミキ「えっと、キッチンルームに・・・・・アイちゃんに差し入れでもって思いまして・・・・・」
悠騎「そうか・・・・・・・」
頬をポリポリと掻きながら言葉に迷う悠騎。
そして結局、言葉が纏まらないまま悠騎はアイに頼む。
悠騎「あ〜、オレも付き合っていいか?」
ミキ「え・・・・・・」
思いがけない悠騎の言葉に、ミキは赤面しつつ固まった。
126
:
蒼ウサギ
:2008/07/16(水) 01:10:39 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=コスモ・アーク キッチンルーム=
悠騎「へぇ、綺麗に三角に作れるんだな」
皿に乗っている一つ目のおにぎりを見て、悠騎が感心する中、ミキは二つ目のおにぎりを握っていた。
キッチンルームは普段は料理長がいるのだが、今は二人きりである。
ミキ「母から教わってから、これだけは得意なんですよ。空気を含ますことがコツなんです」
悠騎「ふ〜ん」
とは言われても、今ひとつピンとこない悠騎は曖昧に返事をする。
頭の中では、ミキにいつあの一言を言おうか、そのタイミングのことで一杯なのだ。
ミキ「よしっと、二個で足りるかな?」
二個目のおにぎりを皿に乗せてふと考えるミキ。
悠騎「足りるんじゃね? アイがマイやアルティアみたいに食い意地張っているとは思えないし」
ミキ「そうですね」
ミキは小さく笑いながら皿を持って、ブリッジに戻ろうとキッチンルームを出ようとする。
ミキがブリッジに戻ってしまえば、どうにもあの一言が言いづらくなる。
言うとすれば、二人きりである今この時を置いて他にない。
だが、悠騎は未だどうにも決意が鈍っていた。
そうしている間にも、ミキの足は確実にブリッジに向かっている。
悠騎は、もやもやしながらもいよいよ口を開いた。
悠騎「あ、あのさ・・・・・・ちょっといいか?」
ミキ「は、はい?」
急に呼び止められ、ミキは少し驚く。
悠騎「え、えっと・・・・・・今度、一緒に飯でも食わね?」
ミキ「・・・・・・・・え?」
悠騎「いや、その・・・・・・出撃前にお前、飯誘ってくれたけど、オレ、断ったじゃないか。
その埋め合わせってわけじゃないけど、今回、お前のお陰でレイリー説得できて、
新装備試すことできたし・・・・・・なんつーか、色々礼がしてーんだよ。だからよ・・・・・・」
やはり言葉が上手く纏まってないせいか、時々しどろもどろになる悠騎。
ミキは気恥ずかしくなったが、嬉しさの方が何倍も勝っていた。
ミキ「じゃあ・・・・・・先輩が奢ってくれます?」
悠騎「あ、あぁ、もちろん。てか、元々、お礼なんだし、後輩から奢られるほど貧乏じゃねぇよ」
ミキ「クスッ、じゃあ、楽しみにしてますねっ♪」
満面の笑みで、ミキは返した。
二人がブリッジに戻ったのはそのすぐ後のことだった。
§
=機動要塞シャングリラ 格納庫=
ヴィナス「ほぅ、彼がね・・・・・・」
白衣姿のヴィナスは、ヴァルカンからブレードゼファーの追加装備の件を聞いていた。
ヴァルカン「最初は頼りない剣だったがな! だが、あれはまだ未完成な剣!
完成までにはまだかかるかもしれんな!」
ヴィナス「そうですか。なんにしてもそれは楽しみです。
それより、火星で何やら面白い発見をしたそうで?」
ヴァルカン「そうよ! それをこれからザオス殿に報告ところよ!」
ヴィナス「ご苦労なことです。では、私は自分の研究室に戻るとしますよ」
ヴァルカン「フン、閉じこもって何をやっておるのだ?」
ヴィナス「なぁに・・・・・・面白いことですよ」
含みのある笑みを零すヴィナスだった。
127
:
ニケ
:2008/07/19(土) 19:49:35 HOST:zaq3dc05d8d.zaq.ne.jp
雨が降っていた
――――何故だ!何故殺したぁっ!!
叫んでいる
男の手に抱かれているのは女
――――殺してやる!絶対に殺してやる!
雨音に混じって、怨嗟の声が響く
――――ただでは殺さん!お前にも味あわせてやる!俺と同じ苦しみを!
――――いつかお前に大切なものが出来たとき、必ず奪いに行ってやる!お前を幸せの絶頂から叩き落してやる!
雨が、降っていた――――
§
=機動要塞シャングリラ ルドルフの部屋=
自分の叫びで目が覚めた。
酷くうなされていたようだ、体にはびっしょりと汗を掻いている。
暫し、夢の余韻か、酷く興奮する体を抑えるのに心砕いていると、ややあってその効果は現れ、心身ともに普段の冷静さを取り戻した。
ルドルフ「ふん、ままならんものだな。夢という奴は・・・」
自嘲気味に笑ってベッドから身を起こす。
ふと、その視線が、部屋の隅のテーブルに置かれた写真立てに向く。
そこに飾られている写真、一部が乱暴に破り捨てられた写真の、一際目を引く一人の人物に向けて、ルドルフは組織の誰に見せた事のないような表情を浮かべる。
ルドルフ「――――ユイナ・・・・」
哀切と親愛の入り混じった声。
だが、それも一瞬の事。
ルドルフ=F=ギーゼルシュタインは、また元の、冷徹な非人人の顔に戻って体にまとわりつく汗を拭うべく、シャワー室へと姿を消した。
§
=コスモ・アーク 廊下=
アイへの差し入れを終え、悠騎とミキがブリッジから戻って来る時だった。
セレナ「あら、エースさんのご帰還ね」
悠騎「せ、っちゃんさんにエクセレン少尉?」
廊下でばったりと鉢合わせした二人からかけられた第一声がそれだ。
悠騎「エースってそんな・・・・」
エクセレン「あらん、謙遜しなくてもいいわよ。
今日のMVPは間違いなくジョウ君と悠騎クンで決まりだから♪」
照れ交じりに否定しようとする悠騎のわき腹をつついてエクセレンが笑いかかける。
確かに先の戦い、難敵零影を下し、火星基地を事実上無力化したジョウと、コスモ・フリューゲルを電光石火の勢いで救い、乱入したアルテミス、ヴァルカンを退けた悠騎の活躍が目覚しかったのは事実だ。
悠騎「いや、それを言ったらザンボットチームやゼンガー親分だって・・・」
キョウスケ「だが、それでもお前は賭けに勝った」
そこで、多分コーヒーでも買わされに行っていたのであろうキョウスケが会話に加わった。
キョウスケ「それに、確かに俺達はガイゾックを退けたかも知れん。
だが、奴を完全に論破は出来なかった。
奴がああであった以上、無理からぬ事ではあったかもしれないが・・・。
だが、お前はヴァルカンに言ったな。
『全人類が戦争を望むのというのは人類に絶望したもの考えだ。
でなければ、自分は人類を護ろうなどとは思わない』とな」
火星で、悠騎が残した言葉を人づて聞いたのだろう。
キョウスケ「それは俺達の総意でもある。
一番最初にそれを叫んだお前は、G・Kを、俺達の戦いを体現してみせた」
キョウスケの忌憚無い褒め言葉に、悠騎はただ頭を掻いて縮こまる。
自分は素直な気持ちをぶつけただけなのに、それをここまで評価されるとなんだかむず痒い。
タツヤ「お、エースパイロット!」
と、そこで今度は反対側から来た一団にももみくちゃにされる悠騎。
和気藹々とした雰囲気で和む一同だったが、それを遠くから昏い目で見つめる視線があった。
アイラ「・・・・・」
暫し、そうして彼らを眺めていたアイラであったが、やがてきびすを返すと、誰にも気付かれずその場を後にする。
アイラ「―――――クソッ!」
誰もいない廊下の突き当たり。
そこまで来て初めて、アイラは押さえていた感情をぶつけるように壁を力任せに蹴り飛ばす。
凹んだ壁を先ほどの昏い目で一瞥し、アイラは再び踵を返した――――
128
:
藍三郎
:2008/07/20(日) 07:13:49 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
第40話「地球創生神話」
=????=
委員A「『破壊者』が滅びたか・・・」
委員B「少々早すぎる・・・」
委員C「うむ。イレギュラーの抹殺、および
地球圏に奴らを蔓延させ、各勢力の戦力を削る・・・
当初予定した以上の成果は上げられなかったな」
キール「まぁいい・・・彼らは所詮保険に過ぎんさ。
微小な差異はあれど・・・事態はゼーレのシナリオ通りに推移している」
委員B「大敗を喫したネオバディムは息を潜め、異星人は着実に排斥されつつある・・・」
キール「統合軍とイレギュラー、彼らが勝利を収める度に、
外れかけたシナリオを修正してくれているのだ」
委員A「当初は邪魔者だったイレギュラーが、
我らの計画を後押ししてくれるとはな・・・」
キール「悪しき要因が、やがては良き結果へと繋がる・・・
これも・・・シナリオの一部と解釈すべきだろう」
委員C「しかし、統合軍はともかくイレギュラーは、
いつ我らの思惑を外れるか解らぬぞ?」
委員B「それに、再び開かれた『門』と、
<アルテミス>・・・奴らの動向も気になるところだ」
キール「我らにとって好都合なのは・・・
彼らがまずイレギュラーを第一の標的としている事だ。
しばらく事態を静観し・・・互いに喰らい合うのを待てばよい」
委員A「そして最後に残った不確定要因を消す事で、
シナリオは完成する・・・というわけだな」
キール「終焉の時は近い・・・
全ての憂いを取り除いた上で、『審判の日』を迎えねばな・・・」
=グラドス艦隊=
ル=カイン「統合軍を討つ!」
グラドス軍総司令・ル=カインは、司令室にて意気揚々と宣言した。
ル=カイン「ネオバディムとの戦いで消耗し、
一部の部隊が火星に向かった今が好機・・・
我がグラドス艦隊の総力を持って、統合軍を叩き潰してくれる!」
グレスコ「・・・楽観的だな。
奴らが我らへの対策を、何も考えていないとは思えんが」
ル=カイン「父上はまた地球人を高く見る・・・
あのような卑しき出自の猿どもに、我らグラドスが負ける事などありえませぬ!」
グレスコ「卑しき出自・・・か・・・」
グレスコは自嘲するように笑うと、息子に向かって厳粛な面持ちで告げる。
グレスコ「なぁ、ル=カインよ・・・もう終わりにせぬか?」
ル=カイン「な?」
グレスコ「やはり、我らはこの星に来るべきではなかったのだ。
地球人達の生き様、地球人が創りだした文化の数々・・・
それらを見るたびに、私は確信した。
地球人は、決してグラドスに劣る種族では無いと・・・」
ル=カイン「父上・・・!」
グレスコ「それに・・・地球人は・・・・・・」
言葉を濁して話すグレスコに、
ル=カインはただ苛立ちを募らせていく。
ル=カイン「地球人地球人と・・・何故父上はそこまで彼らに拘られる!
一体彼らに、何があるというのですか!?」
グレスコは重苦しい顔つきで、ゆっくりと口を開く。
グレスコ「お前には、知らせずにおきたかった。
だが、もはやお前を止めるには、この真実を伝えるより他にあるまい。
ゆえに話そう・・・我らグラドス創生の秘密を・・・」
129
:
藍三郎
:2008/07/20(日) 07:15:52 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=バトル7 格納庫=
エイジ「レイズナーの様子が?」
キッド「ああ。さっきからずっと、妙な音声を発し続けているんだ。
ほら、聴こえるだろ?」
キッド達メカニックに呼ばれ、格納庫を訪れたエイジは、
レイズナーのコクピットからなる、サイレンのような音を耳にした。
デュオ「もしかして、エイジに何かを伝えようとしてるんじゃねぇか?」
エイジ「一体何が起こったんだ・・・レイ?」
コクピットに入り、レイズナーのコンピューター・レイに応答を求めるエイジ。
だが、レイからの反応は無く・・・代わりに違う音声が流れてくる。
???『エイジ・・・アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ・・・だな?』
エイジ「ああ・・・お前は、レイじゃないな?」
同じ機械音声とはいえ、すぐさまエイジは違いを感じ取った。
???『如何にも・・・』
エイジ「誰だ?」
フォロン『我が名はフォロン・・・
地球とグラドス創生の秘密を知り、伝える者なり・・・』
エイジ「地球とグラドスの・・・創生の秘密?」
フォロン『私の役目は、地球とグラドスの真実を伝える事・・・
そして、託すべき者とは、アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ・・・
地球とグラドス双方の血を受け継ぐ、君に他ならない』
エイジ「・・・お前が何者なのかは解らないが・・・
教えてくれ・・・もしかしたら、
その事実が地球とグラドスの争いを止める鍵になるかもしれない」
こうして・・・エイジは、フォロンが話す言葉に耳を傾けた。
フォロン『地球人とグラドス人・・・
遠く隔てた二つの星に住む二つの種族・・・』
グレスコ「これらは異なる種族にあらず、
共通の祖先を持つ、本来同一の種族なのだ」
ル=カイン「な!?」
ル=カインは驚愕に目を見開いた。
父が話した台詞は、彼にとっておよそ受け入れ難い話だったからだ。
ル=カイン「なんですと・・・?そんな・・・バカな!」
グレスコ「信じられぬのも無理は無い・・・だが事実だ。
それどころか・・・」
フォロン『現在のグラドス人は、純粋なるグラドス人ではない。
先に創りだした地球人を元にして・・・
創造主が作り出した、地球人と同一の種族なのだ』
エイジ「創造主・・・?」
フォロン『先グラドス人・・・あるいは、プロトカルチャーと呼ばれる者達だ』
エイジ「プロトカルチャー・・・」
それについては、以前マクシミリアン艦長やエキセドル参謀から聞かされた事がある。
地球人とゼントラーディ、共通の祖・・・
それが、プロトカルチャーだと。
地球人は、地球の原住生物をプロトカルチャーが
自らと同じ種族へと改造したものと聞く。
グラドス人もまた、彼らにより生み出された種族だというのか。
フォロン『滅びの危機に瀕した彼らは・・・
自らと同一の遺伝子を持つ種族を創り出し、
後世にその遺伝子を遺そうとした・・・
そして・・・後に、惑星グラドスにも同一の種を着生させた・・・』
エイジ「いずれかが、滅びの道を辿った時の事を考えて・・・か?」
地球人とグラドス人。
彼らは、いずれもプロトカルチャーの遺伝子を伝える為に作られた種族であり、
互いが互いのバックアップでもあったのだ。
フォロン『そうだ・・・
そして、それは最悪の形で実現しようとしている・・・
本来同一である二つの種族が、互いに相争うという形でな・・・』
エイジ「・・・・・・」
130
:
藍三郎
:2008/07/20(日) 07:18:13 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
フォロン『私はその最悪の事態に備えて・・・
相応しき者に真実を伝えるべく、創造主により創り出された・・・』
エイジ「それが何故、レイズナーに?」
フォロン『私は、グラドス星の神聖マザーコンピューターに封印されていた。
私をSPTレイズナーに搭載したのは・・・
地球人ケン・アスカ・・・君の父だ』
エイジ「父さんが・・・?」
フォロン『ケン・アスカは、次の伝承者に君を指名していた・・・
これまでの戦いを通して・・・
私も、君がふさわしい人間だと判断する事ができた・・・
地求とグラドスの子、アルバトロ・ナル・エイジ・アスカよ・・・
時が来た今・・・私は君に全てを託そう・・・』
エイジ「・・・何故、今になって?“時”とは一体・・・」
フォロン『私の役目は、この秘密を守り抜き、来るべき時に伝承する事・・・
それは・・・私の機能が停止する時だ・・・』
エイジ「では、お前は・・・」
フォロン『まもなく、全ての機能を停止する・・・』
エイジ「・・・俺にも、その役目を引き継げというのか?
創生の秘密を守り、死ぬ時に誰かに伝える事を・・・」
フォロン『それは求めてはいない・・・
真実は真実であり、それ以上でもそれ以下でもない・・・
託した者がそれを如何に受け取るかは・・・その者次第だ』
エイジ「・・・・・・」
ル=カイン「う、嘘だ・・・我らグラドス人が・・・
あのような、野蛮な地球人と同種などと・・・・・・!」
グレスコ「地球人を野蛮と見なすことは、
我らグラドスもまたそうであると認める事になるぞ、息子よ・・・」
ル=カイン「黙れ!!」
ル=カインは懐から銃を取り出し、父親に突きつけた。
父親への、地球侵攻軍提督への敬語も捨てて、
激情の赴くままに声を張り上げる。
ル=カイン「根も葉もない下らぬ妄言で、この私を惑わすつもりか!
これ以上、地球人の肩を担ぐつもりならば・・・
グラドスへの重大な背信と見なす!!」
グレスコ「・・・・・・」
ル=カイン「例え貴方が提督であろうと、
我らグラドスに反逆するならば、
総司令の権限において、このル=カインが粛清する!!」
グレスコは、その恫喝に怯える事なく・・・
哀れむような視線で息子を見下ろしていた。
グレスコ「・・・・・・そう、それが・・・グラドス人としての正常な反応だ。
だが、これは真実なのだ・・・
自分達が、別の惑星の種族のコピーであると解れば、
グラドス人をグラドス人たらしめている誇りと尊厳に皹が入り・・・
我らの文明は衰退するやもしれぬ・・・・・・」
アイデンティティの崩壊は、人々から生きる気力を奪う。
地球とグラドスの真実は、それほど重大な意味を持っていた。
グレスコ「だからこそ、この秘密は守られねばならなかった」
ル=カイン「黙れと言っている!!」
グレスコ「しかし・・・この星を訪れ、
地球人と接して・・・矛を交えてみて解った・・・
彼らは決して、愚かなだけの種族では無い。
確かに、彼らは互いに憎み合い、争う事もあろう。
だが・・・地球人は手を取り合い、互いを慈しみ、
力を合わせて苦難を乗り越えていく心も持っている・・・
どんな苦境に立たされても、決して諦めぬ意志と誇りも持っている・・・
そして、その“力”が・・・
今まさに、我々グラドスの侵略と支配をも跳ね除けて、我らを追い込んでいる・・・
我らは彼らを侮り過ぎていたのだ、息子よ」
ル=カイン「負けてはおらぬ!!まだ、負けてはおらぬ!!
我らは、地球人などに負けはせぬ!!」
グレスコ「曇り無き眼で彼らを見るがいい・・・
私は、彼らからも学ばせてもらった・・・
グラドス人にも、地球人と同じく悪しき面はある。
今の我らの行いがまさにそれだ。
自分達以外の価値観を認めず、他の文化を力で抑えて矯正させる・・・
地球の歴史を調べればすぐに解る。
我らの行いは、かつてお前の言うところの、
醜い争いを起こした地球人と同じである事に・・・」
ル=カイン「・・・・・・・・・」
グレスコ「地球人と我らは同じなのだ。
正しくもあり、愚かしくもある・・・
そんな曖昧で、また崇高な魂を持った“人間”なのだよ・・・」
131
:
藍三郎
:2008/07/20(日) 07:19:43 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ル=カイン「言うな!!父上!!
貴方の口から、そんな言葉は聞きたくなかった!!
グラドス人としての誇りを!この私に教えてくださった貴方が!!」
ル=カインは、総司令から“息子”の顔に変わっていた。
グレスコ「許せ・・・私もまた、グラドスの呪縛に取り付かれていたのだ。
その私の教えが・・・お前をここまで染め上げてしまった。
お前に咎は無い・・・罪深きは私と、グラドスの頑なな選民思想だ」
ル=カイン「言うな・・・・・・」
暗い闇底から、声を絞り出すル=カイン。
その瞳に宿るのは、憎悪か。それとも、父の話を受け入れられない混乱か。
グレスコ「だからこそ・・・私はそれを変えていきたい。
同じ志を持つ者は、地球人の中にもいるはずだ。
そう・・・地球とグラドス、
二つの種の血を受け継ぐ、あの男となら――――――――」
ル=カイン「言うなぁ―――――――ッ!!!」
銃声が、司令室に響き渡った。
エイジ「俺は・・・この真実を秘密にはしない」
フォロン『そうか・・・・・・』
エイジ「・・・グラドス人の頑なな心を溶かす可能性があるなら・・・
俺は、真実を広く伝えたい。父さんも、きっとそれを望んでいるはずだ」
フォロン『・・・それが君の意志ならば、私は止めない・・・
既に、君には全てを託しているのだから』
エイジ「フォロン・・・」
フォロン『私の持つ全てのデータは、“レイ”にダウンロードしておく・・・
私の役目は、これで終わりだ・・・・・・・・・』
別れの言葉もなく・・・
コンピューター・フォロンは、そのまま永遠の眠りについた。
ル=カイン「父上!!」
胸に風穴を開け、血塗れで倒れ臥した父親に駆け寄るル=カイン。
彼自身が撃ったとはいえ、錯乱状態での衝動的な発砲。
父を殺めた事に、後悔と罪悪感が湧き上がってくる。
いや・・・そんな感情も押し流すほど、彼は混乱の極みにあった。
グレスコ「う、うう・・・・・・・・・」
ル=カイン「父・・・上・・・・・・」
自ら父を殺めたショックからか、震えて見下ろす事しかできない。
息も絶え絶えになったグレスコは、腰から護身用の銃を取り出す。
ル=カイン「!!」
それを見て、ル=カインは戦慄した。
もしや、自分を道連れにするつもりでは・・・
未だ震えが止まらないル=カインに、反応できるはずも無く・・・
再び、室内に乾いた銃声が鳴った。
132
:
藍三郎
:2008/07/20(日) 07:21:05 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
カルラ「がっ・・・!!」
司令室の扉は開け放たれていた。
扉の陰から身を乗り出していたカルラ・エジールは、
額に赤い穴を穿たれ、そのまま崩れ落ちた。
グレスコの銃口は、息子へ向けられたものではなかった。
その銃弾は・・・いつの間にか扉の近くにいた、
副官カルラへと放たれた。
カルラは、最期まで自分に訪れた死が理解できなかった。
彼女が報告に訪れた際・・・
ル=カインとグレスコは激しく口論していた。
カルラは興味を引かれ、その様子を密かに覗き見していたのだ。
グレスコが話した地球とグラドスの真実は、
彼女の心を虜にするのに十分な内容だった。
さらに、激昂したル=カインがグレスコを射殺するという予想だにしない展開・・・
グレスコが倒れてからも、カルラは副官としての立場を忘れ、
金縛りにあったように、目の前で起こる状況に魅入っていた。
そんな彼女に・・・死にかけたグレスコが自分に発砲するなどと、
どうして想像できただろうか。
ル=カイン「カルラ・・・!」
グレスコは、カルラの死を確認すると、残る力を振り絞って呟いた。
グレスコ「秘密は・・・・・・守られねば・・・ならぬ・・・・・・」
何という事か。この男は、生命の危機に瀕しながらも、
部下を射殺し情報漏洩を防いだのだ。
グラドス軍人としての責任感か、
創生の秘密を守る者としての使命感か・・・
あるいは・・・・・・
グレスコ「総司令が・・・提督を殺した・・・などと・・・
知られる・・・わけには・・・いくまい・・・・・」
ル=カイン「父上・・・・・・」
グレスコ「息子よ・・・我々の・・・
行くべき・・・道は・・・―――――――――」
そのままグレスコは事切れた。
銃を持つ大きな手が、静かに開かれる。
ル=カイン「父上!!父上!!!」
何度呼びかけても、返事が戻るはずが無い。
父を殺し・・・そして、最後の最後でその父に守られた息子は、
ありとあらゆる感情が綯い交ぜとなった心境の中・・・絶叫した。
ル=カイン「う・・・うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!!!!」
133
:
蒼ウサギ
:2008/07/24(木) 19:49:30 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=バトル7=
火星での決戦が終了した旨はナデシコC、コスモ・アークの長距離通信で伝えられていた。
誰一人として犠牲者が出たことがなかったことに、マックス達は一先ず胸を撫で下ろしていた。
マックス「さすがはホシノ少佐達だこれでガイゾックやザ・ブームの脅威は潰えたな」
エキセドル「ですが、気になる報告がいくつかありましたな」
マックス「あぁ・・・・・・」
二人が言う“気になる報告”とはガイゾックが口走ったゼーレと、
突如現れたアルハズレットのことである。
ここに来て、嫌な予感を感じずにはいられないマックスとエキセドル。
何より、まだ脅威はまだ多数存在するのだ。
ザ・ブームはほぼ潰えたとはいえ、その連合としての異星人勢力の片割れ、グラドスは未だ健在。
ロストマウンテンに落ちたギャンドラーの本拠地。
ネオ・バディムはバルジという要こそ失ったものの、組織としての強大さは計り知れない。
時間が経てば立て直すことは容易いだろう。
半独立状態になっているギンガナム艦隊の動きも気になるところだ。
何より、彼らが一番危惧しているのはバロータの存在だ。
エキセドル「激戦続きで見落としがちですが、プロトデビルンに対する有効な兵器の開発は未だありません」
マックス「やはり、“歌”でしか有効打は見出せないか・・・・・・」
エキセドル「サウンドエナジーが唯一の切り札ということですが・・・・・・」
マックス「“歌”を兵器として望まない者がいる・・・・・・か」
葛藤に重く、マックスは目を閉じた。
§
=火星 コスモ・フリューゲル 艦長室=
由佳「ん〜〜、はぁ〜〜。報告書作りは肩こるぅ〜」
由佳は火星からマクロス7船団へ合流する前に向こう側の指揮官達へ提出するための報告書を作成し、
たった今、それが完了したところだ。
自室の椅子で背一杯伸びをして体をほぐす。
合流の際のボソンジャンプやワープ航法は戦闘の損耗などですぐには出来ない。
最低限、四つの艦が正常に航行できる状態にできてからでないと失敗の恐れがあるのだ。
そのため四つの艦の整備班は連日徹夜続きである。
パイロットにはその間、しばしの休養が与えられているが艦長職は休養なしだ。
仕事が終わればそれなりに取れるのだろうが、実は由佳はこの報告書作りが苦手だったりするのだ。
由佳「職権乱用して、整備員の人達に修理作業遅らせてもらおうかな〜」
などとんでもないことを思わず考えてしまうが、情勢を考えたらそんなことはとても出来ない。
それはよくわかっている。
実際、自分より若いアイは頼んでもいないのに突如現れたアルハズレットの調査をしてくれている。
半ば押し付けたようにコスモ・アークの艦長代理を頼んだにも関わらず、よくやってくれている。
由佳(でも、まぁ・・・・・ぼやくぐらいはいいよね)
そう小さく笑ってみせる。
そしてデスクの上に置かれている通信機に手を伸ばす。
『ブリッジ』というスイッチを押しながら声をかける。
由佳「こちら由佳です。ブリッジ、誰かいます?」
アネット『あ、由佳ちゃん? アネットよ』
返ってきた親しき声に由佳の表情が柔らかくなる
由佳「あ、アネットさん。お兄ちゃん、どこにいるか知らないかな?」
アネット『今、コスモ・アークみたいよ』
由佳「え、あぁ・・・あの新型装備のことでか・・・・・」
アネットの返事に由佳の声のトーンがほんの僅かに落ちる。
アネット『違う違う、どうやらデートみたいよ、デート♪』
由佳「え・・・・・・・・・・・・で、デート???」
アネット『エクセレンさんが目撃したって言うからちょっと尾ひれついてるかもしれないけどね
あの、アークのオペレーター、ミキちゃんってコと』
由佳「あぁ・・・そうなんですか・・・・・・」
アネット『なんか重要な用だったらアークに通信入れておくけど?』
由佳「あ、大丈夫です。大したことじゃありませんから・・・・・・」
そう言って由佳はブリッジとの交信を切った。
背もたれに体重を預けて天井を仰ぐ。
由佳「肩、もんで貰おうと思ったのになぁ・・・・・・」
少し残念そうに呟く由佳だった。
134
:
藍三郎
:2008/07/27(日) 08:49:09 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
=バロータ第4惑星=
ゲペルニッチ「・・・終焉の予兆だ・・・」
ガビル「は?」
ゲペルニッチ「つい先ほど・・・
サンプル達が住まう惑星周辺で、次元の綻びを感知した・・・
この現象は・・・一つの世界が終わる予兆に他ならぬ・・・」
バルゴ「何と・・・」
ゲペルニッチ「元より・・・
我らはこの次元が消えようとも滅びはせぬが・・・
この世界が失われる前に・・・スピリチアファームだけは、
何としても完成させねばならぬ・・・
私自ら、彼の星へ赴こう・・・・・・」
ガビル「ゲペルニッチ様、御自ら前線に?」
ゲペルニッチ「アニマスピリチア・・・
我が夢の扉を開く鍵となるのは・・・あの男だ」
=バトル7 司令室=
マックス「うむ・・・そうか・・・」
エイジから、『グラドス創生の秘密』について聞かされたマックスは、
顎に手を当てて思案する。
この場には、エイジ、マックスの二人しかいない。
マックス「・・・重大な秘密を私に打ち明けてくれた事、感謝する。
だが、この事実はまだ公表すべきではないな・・・」
エイジ「それは・・・」
マックス「地球人にとって、長年虐げられてきたグラドスへの憎悪は根深い。
今更この事実が公表されたとて、そう簡単に恨みを取り去る事など出来まい」
エイジ「・・・・・・」
エイジは沈黙する。
地球占領、文化矯正、レジスタンスの虐殺・・・
これまでグラドスが行ってきた非道の数々を思えば、当然の事であろう。
マックス「事ここに至って・・・地球とグラドスの融和を図るのは最早困難だろう。
君たちの活躍もあって・・・現在、統合軍はグラドスを追い詰めている。
そんな中で、この事実を公表するのは、グラドス側のみならず・・・
地球側の士気を下げる事になりかねない」
エイジ「それは・・・その通りですが・・・」
統合軍を預かる指揮官としての意見を、エイジは否定できなかった。
マックス「しかし・・・我々としても、グラドスとの戦争が泥沼化するのは避けたい。
地球圏から撤退させられるならば、それに越した事は無い」
グラドス以外にも、地球圏には多くの敵がいる。
彼らとの戦いを最短期間で終わらせられるのなら、それが最善の流れと言えた。
マックス「主力艦隊を撃退した後・・・彼らに停戦交渉を持ちかけるつもりだ。
その際・・・この事実は、交渉材料の一つとして有用かもしれない」
エイジ「はい・・・その時は、俺に交渉する役目を任せてもらえないでしょうか?」
マックス「元より、そのつもりだ。
この任務は、地球とグラドス・・・双方をよく知る君が適任だと考える」
マックスの言葉に、エイジは改めて、自分の背負う使命の重さを実感するのだった。
そんな中、彼の脳裏に浮かぶのは・・・
エイジ(ル=カイン・・・)
グラドス軍総司令にして、最強の戦士。
他の価値観を認めない、グラドスの選民思想を体現したような男。
実力も、思想も、付け入る隙が無い程強固な敵だ。
だが・・・グラドスとの戦争を終わらせる為には、決して避けては通れない壁。
次に相見えた時・・・あのザカールに勝てるだろうか・・・
レイズナーと同じV−MAXを・・・
それをも凌駕する、V−MAXレッドパワーを持つ、超絶性能のあのSPTに。
いや・・・
勝つしかない。あの男を乗り越えずして、未来(さき)へは進めない。
そんな決意を固めた矢先に・・・
決着の刻は、早々に訪れようとしていた。
135
:
藍三郎
:2008/07/27(日) 08:50:14 HOST:250.150.183.58.megaegg.ne.jp
ル=カイン『統合軍に決戦を挑む!』
そんなル=カインの号令と共に、沈黙を守っていたグラドス艦隊が遂に動き出した。
ル=カイン率いる精鋭艦隊が、統合軍の主力である、バトル7に強襲を掛ける。
バトル7撃沈後・・・地球圏の各地に
潜伏中のグラドス軍が、統合軍に対して一斉蜂起する・・・
それが、ル=カインの発動した最終作戦の全容だった。
マンジェロ「へへへへ・・・待っていろよレイズナー!
この俺様のガッシュランの新たな力で・・・今度こそ地獄に送ってやる!」
MF・ガッシュランを見上げて、マンジェロは狂喜の雄叫びをあげた。
ボーン「あの“装置”か・・・」
マンジェロ「この美しい俺様を虚仮にしたエイジ・・・奴だけは許さねぇ!!」
一方・・・その瞳に、マンジェロよりも暗い憎悪の炎を燃やし、男は呟く。
ゴステロ「ふざけろ・・・エイジを殺るのは・・・この俺だ・・・!」
ル=カイン「・・・・・・」
最終作戦の発動を宣言したル=カインは、司令室で一人、宇宙を眺めていた。
父と最期に交わした言葉・・・グラドス創生の秘密・・・
それらはル=カインの中で、拭い切れぬ澱みとなって脳裏を巡り続けていた。
常勝こそ己に課せられた宿命。
あらゆる敵を打ち破り、グラドスの武威を証明する。
今まで、自分はずっとそうして生きてきた。
そんな当たり前の価値観が・・・今揺らいでいる。
その揺らぎを振り払おうとすればするほど、
思考は泥沼に陥り、理解不能の苛立ちばかりが込みあげる。
父の言葉を思い出す度、脳裏に浮かぶのは“あの男”の顔だ。
地球人とグラドス人の子にして、グラドスの裏切り者、
アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ・・・
彼の考えは、グラドスの治世にとって毒となる。
グラドスの至上を証明する為にも、必ず消し去らねばならない汚点だ。
そして・・・ル=カイン自身の迷いを振り払う為にも・・・
彼の内なる葛藤や揺らぎは、やがてエイジへの憎しみへと転換される。
己が己である為に。ル=カインは、最後の決戦へと赴こうとしていた。
136
:
ニケ
:2008/07/31(木) 16:31:45 HOST:zaq3dc05f6d.zaq.ne.jp
=コスモ・アーク 廊下=
エッジ「お〜い、お嬢。
ご飯ですよ〜」
ドア越しに、わざとおどけた調子で声をかけながら、エッジはエレの部屋の戸をノックする。
エッジ「もう三日目だぞ?いい加減、何か食わねぇと身がもたねぇって」
今度は真剣に、より強くドアを叩きながら、エッジは中のエレに向かって声をかけ続ける。
エッジ「・・・・・・・・・・・・・・」
長い沈黙が降りる。
エッジ「・・・・・ここ、置いてくぞ」
辛抱強く部屋の前で粘っていたエッジだったが、いつまでもそうしてはいられない。
後ろ髪惹かれる気分ではあったが、トレイを床に置いて、この場は一先ず立ち去る事にした。
§
暗い、暗い部屋の隅。
電気すらつけない室内で、エレは一人その場所に縮こまっていた。
腕に抱いた肩は細かく振るえ、
歯はかみ合わずカチカチと不快な音を立てる。
瞳は常に大きく見開かれているにもかかわらず、その眼は焦点を結ばない。
エレ「違う――――わた、私は・・・・」
――――ユイナ
巽の声が聞こえた。
エレ「違う・・・」
――――ユイナ
義兄がそう呼んだ
エレ「違う・・・!」
――――ユイナ
誰とも知らぬ、だが懐かしい声が聞こえた――――
エレ「違う!
――――ユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナユイナ
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!!!!!!!!!!!!!!
エレ「私は・・・ユイナじゃない。
私は・・・私はエ、エ・・・エリア・・・」
エリアル=A=ギーゼルシュタイン
そう言いたい筈なのに。
自分の名前のはずの言葉は、何故か喉に詰まって出てこようとしない。
絶望的な想いが胸を満たしていく。
自分がわからない。
信じていた筈の“自分”という殻が、まるで作り物めいて思えてくる。
エリアル=A=ギーゼルシュタインという個性が、音を立てて崩れていく。
他ならぬ、自分自身が“自分”を観測できない。
足元の床が崩れ、奈落に落ちていくような感覚。
もう何度それを味わった事だろう。
エレ「――――――アイラ」
我知らず、彼女は立ち上がった。
自分が一番信頼する人の元へ、行く為に。
§
137
:
ニケ
:2008/07/31(木) 16:32:18 HOST:zaq3dc05f6d.zaq.ne.jp
トレーニングルームでのいつもの日課を追え、アイラは自室へ向かうべく、廊下を歩いていた。
歩む速度は少し速い。
ここ最近、色々な事が起きすぎて眩暈がしそうな忙しさだったが、そんな中でもやらねばならない事があった。
それも急ぎで、だ。
ユイナ=サイベルの日記の解読。
ルドルフの、そしてエレの秘密を探るには、避けては通れない道だと彼女は思っている。
だが、巽の死をきっかけに、多くのことはすでに判明している。
それはパイロット一人の、個人の問題だ。
他人の、まして部隊の手を煩わせるわけにはいかないし、何より彼女自身が他人の手を借りようとは思わなかった。
お陰で解読は遅々として進まない。
アイにでも頼めば一発であろうが、彼女の個人的な事情から、それを頼むのは憚られた。
アイラ「全く・・・」
ガシガシと頭を掻きながら、アイラは部屋の前までたどり着く。と
アイラ「え?」
部屋のドアが開いている?
仮にも戦艦、部屋のドアはオートで閉まるよう出来ている。
部屋を出るときは、確かにしまっていたはずのドアは、今は何故か開け放たれていた。
中に人でもいない限り、ドアが開けっ放し、という事はないはずだ。
そして自分の部屋のパスコードを知っている人物は限られる。
アイラ「・・・・・エレ?」
案の定というべきか。
部屋の中にいたのは金髪の髪の少女に他ならなかった。
そして――――
アイラ「っ!!」
彼女は一つの本に目を落としていた。
カバーに書かれた単語のうち、アイラが読めるのは一つだけ
ユイナ=サイベル
エレ「・・・・・・・・・・・・・これ?」
まるで機械の様なぎこちなさで、エレがアイラを振り返った。
アイラ「それ・・・・は・・・・」
なんと言っていいかわからず、アイラは金魚のように口をパクパクさせるばかりだ。
エレ「・・・・・8月三日、今日はの別荘にいった・・・」
アイラ「!読めるのか!?」
エレ「・・・・・四月九日、今日は私の誕生・・日」
消えるような声で、日記の内容を読み上げるエレに、アイラは薄ら寒い予感を覚える。
エレ「全部・・・私の事だ。
ううん、全部・・・私と同じ――――」
アイラ「エレ!」
思わずといったようにエレの手から日記を引っ手繰るアイラ。
だが、もう遅い。
ゆっくりとした動作で振り返ったエレの顔には、自虐の笑みとも哀切の泣き顔とも付かぬ表情が張り付いている。
エレ「全部・・・嘘っぱちだったんだよ?
小さい頃、風邪で寝込んでお母さんに看病してもっらった記憶も。
皆で丘の上の草原にピクニックに行った事も・・・・」
頬を伝う涙。
喜びも哀しみも
エリアル=A=ギーゼルシュタインとして生きた19年間は全て
作られたものだった――――
アイラ「エ・・・レ・・・・」
泳ぐようなエレの視線。
焦点の定まらぬ瞳は、アイラをたじろかせるには十分だった。
だが、それ故泳ぐエレの瞳は捉えてしまった。
アイラの陰に隠れて見えなかった、部屋にかけられた鏡に――――
エレ「っ!!」
――――いつか
エレ「や・・・・」
――――いつか、必ず貴女にもこの顔の意味を理解できる時が来る!
エレ「いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
耳を塞ぎたくなるよう絶叫と共に、エレも手は机にあった鋏へと伸びた。
アイラ「エレ!!」
咄嗟にエレの手を掴んで止めるアイラ。
彼女は、あろう事か、鋏で“自分の目を抉ろうとした”のだ。
エレ「いや!放して!放してぇっ!!」
アイラ「落ち着け!エレ!!」
なおもじたばたと暴れるエレを、アイラは思い切ってその腕で抱きしめる。
アイラ「大丈夫、大丈夫だ」
幼子に言い聞かせるような優しい声で、エレの耳元でそっと囁く。
エレ「アイ・・らぁ・・・・」
アイラの腕に抱かれたエレは、そのまま暫く泣きじゃくっていた。
138
:
蒼ウサギ
:2008/08/17(日) 02:28:56 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=バトル7 司令室=
突如としてブリッジに鳴り響く警告音。
それは、敵の襲来を意味していた。
美穂「艦長! こちらに接近してくる艦隊多数!」
マックス「識別は?」
美穂「グラドス軍です!」
サリー「噂をしたら、なんとかってね」
あまりの展開にサリーが思わず嘆息する。
誰もが彼女と同じ気分だった。
マックス「火星派遣部隊が戻らない今を狙われたか・・・・・・」
エキセドル「可能性はありますな。ザ・ブームとグラドスは繋がっていましたから」
しかし、疑問はある。戦力が半減したのは向こうも同じだ。
しかも、ザ・ブームは実質上、壊滅状態。
時間が経てば統合軍側勢力である火星派遣部隊も戻り、グラドス側の不利は否めないはずだ。
マックス「短期決戦を決め込むつもりか・・・・・・ともあれ、これは好都合だな。
各艦に通達! さらにダイヤモンドフォース出撃準備!」
美穂「了解!」
マックスの司令で一気に慌しくなるブリッジ。
フリーデンⅡ、アークエンジェル、エターナルに美穂が通信を送る。
続いてマックスがエイジを視線を送る。
マックス「思いのほか、決着の時が早くなりそうだ」
エイジ「はい、俺も出撃します」
丁度自分も決心を固めた所。
ザカールの攻略法は見出せないままだが、時間が経てば鈍ってしまいそうなだけに
エイジとしてもこの展開は好都合だった。
マックス「頼む。それから・・・・・・」
エイジ「えぇ、わかってます。この戦い後も、オレは自分の成すべき役割があります」
暗にそれは、己がこの戦場で命を落とすことではないと告げていた。
それを聞いてマックスは安堵の表情を浮かべる。
彼だけではないが、仲間が戦場で命を落とすなど、指揮官としては耐え難いことだと彼は知っている。
エイジ「それでは・・・・・・」
短く告げて、エイジはブリッジを後にした。
それを見計らったかのようにエキセドルがマックスに声をかける。
エキセドル「艦長、サウンドフォースはいかがいたしましょう」
マックス「・・・・・・熱気バサラは?」
エキセドル「レイ・ラブロックからの報告によりますと、ここ最近は練習にも身が入っていない様子」
マックス「・・・・・・そうか」
思い当たる節はある。
サウンドフォースとして、歌の力がプロトデビルンに通用することが実証されたことが
彼にはどうにも気に入らないようなのだ。
彼が去り際に放った叫び。
「俺の歌は・・・人殺しの道具なんかじゃねぇ」
それに反論できる術をマックスは持ち合わせいなかった。
マックス(かつて、リン・ミンメイは歌でゼントラーディと和解できたが・・・・・・
プロトデビルンにとって歌は凶器でしかないのか?)
エキセドル「艦長?」
マックス「・・・・・あぁ、今回の相手はグラドスだ。この隙をついてプロトデビルンが
襲撃してくる可能性も否めないが・・・・・・・とりあえずは待機だ」
エキセドル「了解しました」
139
:
蒼ウサギ
:2008/08/17(日) 02:29:30 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
悠然と、マクロス7が航行中の宙域に接近するグラドス艦隊。
そこから次々におびただしい数のMFが出撃し、攻撃をしかけようとする。
その先頭に立っているのはル・カインのSPT・ザカールだ。
ル・カイン「これより統合軍に攻撃を開始する!」
たった一言の号令で何千、何万ものグラドス兵が奮起する。
その中には、ル・カインの言葉などには耳を貸さず個人的な憎悪に身を焦がしている者もいた。
ゴステロ「エイジィィィ、エイジィィ!! 今日こそテメェを殺してやるよぉぉぉ!
ヒャーーッハッハッハッハ!!」
MF・ダルジャンのコクピットでゴステロが狂乱に笑う。
もはや彼にはエイジしか目に見えていない。
エイジの死が、ゴステロの至上の悦びとなっているのだ。
その一歩、後ろ、同じ死鬼隊であるマンジェロもまたMF・ガッシュランの中でほくそえんでいた。
マンジェロ(ゴステロなんぞにとられて堪るか!・・・・・エイジは俺が殺る!)
殺意に目を滾らせるマンジェロ。
各々の野望を秘めながら機体を進行させる。
が、その時だ。
ヒイロ「目標確認・・・・・・破壊する」
マクロス7・・・・正確には統合軍艦隊の一つからピカッと何かが光ったと思えば
そこからグラドス艦隊へと極太のビームが飛んできた。
それは艦隊の一つを掠めていき、航行不能にさせた。
ル・カイン「!? 何事だ!?」
まさか統合軍側からの強襲! バカな! この距離で!?
疑いに目を見開いていると、次の砲撃が襲い掛かってきた。
今度は先ほどよりも極太いビームだった。
ガロード「マイクロウェーブ、チャージ完了・・・・・・・ツインサテライトキャノン!
いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」
並外れた威力を誇るそれは同時に複数の艦隊を航行を不能とさせた。
ル・カインはギリッと屈辱に奥歯を鳴らした。
ル・カイン「おのれ、おのれ!! 舐めているのか!」
本気でやれば艦隊を消滅させることもできたはずだ。
だが、しないということは暗に降伏を求めているとしか思えない。
ル・カイン「しかし、それには屈しない! いくぞ、地球人ども!」
ヒイロのウイングガンダム・ゼロカスタム、ガロードのガンダムダブルエックスの牽制は
皮肉にも、グラドス軍に油を注いだ形となってしまった。
宇宙を劫火がなめつくす。
140
:
藍三郎
:2008/08/21(木) 06:26:40 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
デュオ「今ので敵さんは泡喰ったはずだ。一気に切り込むぜ!」
先陣を切るガンダムデスサイズヘルに続いて、他のガンダムも続く。
ビームシザースが三体目のスカルガンナーを切り裂いたところで・・・
高出力のビームが、彼らのいる眼と鼻の先を薙いだ。
カトル「デュオ、新手だよ!」
デュオ「こいつら・・・モビルドール!」
グラドス艦隊から新たに出撃したのは、
ネオバディム製のモビルドール、ビルゴだった。
トロワ「グラドスとネオバディムは以前結託していた・・・
ならば、量産機を提供されていても不思議では無い」
ロアビィ「あいつらやり難いんだよねぇ。
砲撃はバリアで無効化されちゃうしさ」
五飛「臆するようなら戦うな。悪は俺の手で斃す!!」
ドラゴンハングがバリアごとビルゴを噛み砕き、
高熱の炎が一気に焼き尽くす。
エイジ「うぉぉぉぉぉっ!!!」
高速で宇宙を駆けながら、的確な射撃でSPTを撃墜していくエイジ。
百発百中、近寄ってくる敵は全て撃墜する。
彼が目指すのは、ル=カインが座するグラドスの旗艦。
ザカールとの戦いを前に無駄なエネルギーを使うわけにはいかない。
障害となる敵を排除しつつ、最短ルートを突っ切っていたが・・・
141
:
藍三郎
:2008/08/21(木) 06:27:40 HOST:25.182.183.58.megaegg.ne.jp
ボーン「死ねぇ!!」
エイジ「!!」
唸りを上げて、ドリルの牙がレイズナーへと迫り来る。
蛇の如くしなる毒牙をかわしたところで、
今度は新たな機影が肉迫してくる。
マンジェロ「フヘヘヘヘッ!!!噛み砕いてやる!!」
エイジ「死鬼隊かっ!!」
ガッシュランのスクイーズ・アームを紙一重でかわし、
ブースターを噴かして距離を取るエイジ。
機動性ならば、レイズナーMkⅡの方に分がある。
マンジェロ「アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ!!」
ボーン「てめぇの息の根!ここで止めてやる!!」
ガッシュランとエルダールの波状攻撃を、機敏な動きで回避するレイズナー。
エイジ「くっ・・・」
ボーン「踊れ踊れぇ!!」
変幻自在のスネーク・ドリルが、レイズナーを翻弄する。
そして、回避した隙を狙って、
近距離戦を得意とするガッシュランが飛び込んでくる。
ハード・コーンとスクイーズ・アームの前では、
レイズナーも回避に徹するしかない。
だが、エイジとて長い間死鬼隊と交戦してきたわけではなかった。
エイジ「ここだっ!!」
ある一点を狙い、レーザード・ライフルを撃つエイジ。
彼の狙いは、スネーク・ドリルの尖端だった。
いかに鞭状のドリルが不規則な動きを取ろうとも、
攻撃のポイントは尖端に集中している・・・ならばそこを狙うまで。
スネーク・ドリルは大きく跳ね上がり、本来の俊敏な動きを失ってしまう。
ボーン「ぬぅっ!?」
その隙を逃さず、レーザード・ライフルを掃射するレイズナー。
二機のコンビネーションも、一度リズムを崩されれば脆いもの。
ガッシュラン、エルダール共に被弾し、仰け反ってしまう。
マンジェロ「ボーン!!てめぇ何やってやがる!!」
マンジェロは怒気で端正な顔を歪めつつ、レイズナーへの憎悪をさらに高める。
怒りも露にマンジェロが仕掛けようとした、その時・・・
レイ『熱源反応接近!!』
エイジ「新手か!!」
次の瞬間、無茶苦茶な狙いのレーザー掃射が彼らを襲った。
敵も味方もお構いなしの、出鱈目な狙い。
グラドス軍で、こんな事をする敵といえば・・・
ゴステロ「ひゃあっはっはっはっはっはぁ!!!
どけどけどけぇ!!エイジを殺すのはこの俺だぁ!!」
左側だけ残った生身の眼に、
マンジェロやボーンを遥かに凌駕する憎悪を秘めて、
憎き蒼いSPTを睨みつけるゴステロ。
エイジ「ゴステロ・・・!」
エイジにとって、ある意味ル=カイン以上に因縁深き相手だ。
マンジェロ「ゴステロォ!!てめぇは引っ込んでやがれっ!!」
ゴステロ「それはこっちのセリフだ!!エイジは俺の獲物だ!!
横取りしようってんなら、てめぇらからぶっ殺してやるぜぇ!?」
マンジェロ「死に損ないのサイボーグがっ!!
美しい俺に命令するんじゃねぇ!!」
ボーン「おいマンジェロ、落ち着け・・・・・・!!」
次の瞬間、死鬼隊のMFを砲撃が襲った。
マンジェロ「ちぃ・・・何だぁ!?」
マンジェロの視線の先からは、数機のガンダムが駆けつけてくる。
エイジ「みんな!!」
デュオ「多勢に無勢ってのは、よろしくねぇなぁ!」
カトル「エイジさん、ここは僕達に任せて・・・」
ウィッツ「金ぴかの大将首を獲って来な!!」
エイジ「ああ・・・!」
多く言葉を交わす必要は無い。
自分がすべき事は、グラドス軍の総司令、ル=カインとの決着をつける事。
そうすれば、この戦いを終わらせられる。
レイズナーMkⅡは飛行形態に変形し、グラドス艦隊の中枢へと向かう。
ゴステロ「エイジィ!!逃がすかよぉぉぉ!!」
眼を血走らせ、レイズナーを追うゴステロ。
デュオ「おっと、お前らの相手は俺達・・・・・・」
阻止しようとしたところで、無数のビームが降り注ぐ。
援軍として、モビルドール・ビルゴや
ガンステイド、スカルガンナーの大群が押し寄せてくる。
マンジェロ「地球の猿どもが!!皆殺しにしてやらぁ!!」
142
:
蒼ウサギ
:2008/09/21(日) 00:58:20 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
デュオ「でりゃああああ!!」
デュオのガンダムデスサイズヘルカスタムがビームシザースを大振りする。
強力な切れ味をもった粒子が複数のビルゴを一斉に切り裂いていく。
が、全体的な数から見れば焼け石に水だった。
デュオ「くそっ、相変わらず物量戦だな!」
カトル「敵の狙いは僕らの消耗です。戦力が分散されている今ではもっとも効率かつ、
有効的な戦術だ」
ウィッツ「敵を褒めてる場合かよ!」
そうこう言っている間にも次々に量産機が襲い掛かってくる。
ガンダム達は必死にそれに応戦し、確実に撃墜していく。
ガロード「くそっ! またサテライトキャノンでぶっとばしてやるぜ!」
ダブルエックスが虎の子のツインサテライトキャノンを起動させようとするが、
後方よりビームの襲撃を受けて中断させられる。
ガロード「ぐあぁぁっ!!」
体勢が崩れ、追い討ちをかけらるかと思われたその時。
アスラン「これで!」
アスランのジャスティスが両肩のパッセルを投擲して、ダブルエックスを奇襲したビルゴを切り裂いた。
アスラン「こんな乱戦状態でのその兵器は危険だ!」
ガロード「けど、このままじゃこっちが消耗するだけだぜ?」
そこへ再び別のビルゴが砲撃し、二機を分散させる。
アスラン「ちぃ!」
ジャスティスがビームライフルで応戦するが、ビルゴはプラネイトディフェンサーを展開させて、
防御する。それを盾にして、背後からガンステイドが二機現れては、ジャスティスに重火力を浴びせる。
咄嗟にシールドを構えて防御するも、衝撃までは防げずに、数秒も経たずに体勢を崩してしまう。
ガロード「おい! こんのぉ!」
アスランを助けようとライフルを構えるが、直後、また別のビルゴに襲撃されてしまう。
戦いは混戦を極め、戦力を二分している統合軍はグラドス軍の物量に思いのほか苦戦していた。
そして、一方、こちらでも激戦を極めていた。
ヒイロ「目標確認破壊する」
銃口に光る粒子。それが次の瞬間、膨大な破壊力を持つ極太のビームを撃ち出す。
マンジェロ「そんな巨砲に当たるかぁ!」
言葉通り、ウイングゼロカスタムのツインバスターライフルの砲撃を回避するガッシュラン。
しかし、それが紙一重だったため、装甲の表面が溶解してしまう。
マンジェロ「えぇぃい!」
ヒイロの予想を超える技量に、マンジェロは焦り始める。
マンジェロ(くそっ、こんな奴らに奥の手を出さなきゃならなくなるとはな!)
だが、ここでやられては本命のエイジを倒すことは叶わない。
やむなくマンジェロは切り札を発動させることにした。
すなわち。
マンジェロ「V−MAX、発動!」
ヒイロ「・・・・!」
カトル「えぇ!?」
マンジェロの発言に衝撃を受けるヒイロたち。次の瞬間、ガシュランの動きが豹変する。
「V−MAX」という発言を肯定するかのような高速化し、ウイングゼロに肉迫する。
マンジェロ「くらえぇい!」
胸部のバルカンを正射しつつ突撃し、その距離が零となるとスクイーズ・アームで頭部を締め付ける。
潰される直前、ヒイロはビームサーベルを振るったが、ガシュランはそれよりも早く離脱した。
カトル「ヒイロ!」
頭部にスパークが走っているウイングゼロにサンドロックカスタムが近寄る。
ヒイロ「問題ない」
ヒイロはあくまで冷静に答えると、真っ直ぐにガシュランを捉えた。
ヒイロ「あのスピードに対抗するには、ゼロの機動性は無理だ。ならば、奴の先を読むしか勝機はない」
己が破壊される前に。
ヒイロは、静かに目を閉じた。
そして、深呼吸を一度して目を開ける。
ヒイロ「ゼロ、オレに未来を見せてくれ」
ウイングゼロに搭載されている「ゼロ・システム」が起動した。
143
:
藍三郎
:2008/09/23(火) 23:17:14 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
マンジェロ「あははははははは!!!!
美しい俺様に敵はいないぃぃぃぃぃぃ!!!!」
V−MAXの流星と化したマンジェロは、縦横無尽に宇宙を駆ける。
機体を覆う粒子フィールドに、ガンダム達も思うように手が出せない。
ボーン「くたばれ!スネークドリルゥ!!」
エルダールの腕から放つスネークドリルが、アルトロンガンダムを襲う。
五飛「蛇が龍に敵うと思うな!!」
アルトロンもまた、ドラゴンハングを伸ばして迎え撃つ。
五飛「弱者を嬲り、悪を為す貴様らグラドスを、俺は許さん!!」
ボーン「吼えるんじゃねぇよ!
戦場に善も悪もねぇ!あるのは殺戮だけよ!!」
龍と蛇が、長大な身体をうねらせ、互いに交差し咬み合う。
ボーン「弱肉強食は宇宙の掟!!
俺たちは、ぬるま湯に浸かった
地球人どもにそれを教えてやっているんだよ!!」
五飛「ふざけるなっ!!貴様らの戦いから学ぶものなど何も無いっ!!」
だが、大振りなドラゴンハングに比べて、スネークドリルは小回りが利く。
この手の武器同士の戦闘において、その差は致命的であった。
五飛「!!」
二つのスネークドリルがドラゴンハングの頭を貫き、
そのままアルトロンへ伸びていく。
ボーン「もらったぁ!!!」
ドラゴンハングを抉ったドリルを、そのまま一直線にアルトロンへと伸ばす。
その尖端が、アルトロンの両肩を貫いた。
五飛「ぐ・・・・・・う、おおおおおっ!!」
ボーン「な!!?」
ボーンの勝利の笑みは一瞬で消えた。
アルトロンは、両肩にドリルを刺したまま一気にこちらに向かってくるのだ。
五飛「肉を切らせて・・・骨を断つ!!」
肩を貫いたスネークドリルをロープウェーに見立て、
一気にエルダールとの距離を詰める。
両腕を封じられてしまったエルダールは、急いでスネークドリルを引き抜く。
だが、その動作によって隙が生じてしまった。
神速で放たれたツインビームトライデントが、
エルダールのコクピットを貫いていた。
ボーン「俺としたことが・・・退き際を誤るなんてな・・・
くそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ボーンの絶叫は、爆砕するエルダールと共に消えていった・・・
爆散するエルダールを横目に捕らえたマンジェロは、
仲間の死に悲しむでも、怒るでもなく・・・ただ歪な笑みを浮かべた。
マンジェロ「アヒャハハハハハハッ!!
ボーンもゲティも他愛ないカスどもだったぜッ!!
そしてゴステロもどうせ死ぬ!!
生き残るのはこの俺様だけ!!美しい俺様こそ、最強なんだよォォォォッ!!!」
エイジ「どけぇぇぇぇぇ!!!」
ガンステイドやソロムコといったSPTを蹴散らしながら、
グラドス軍の中枢を突っ切るエイジ。
グラドスの艦艇が艦砲射撃をかけてくるが、
レイズナーMkⅡの機動性の前では止まっているも同然。
逆に、友軍機を巻き添えにしてしまう始末だ。
エイジ「!!」
その艦砲射撃が・・・突如としてピタリと止んだ。
エイジはそれを訝しがりつつも・・・
肌を刺す寒気が、これから起こるであろう事態を告げていた。
この宙域で・・・最も強大な敵の出現を・・・
これが異世界から来た“ニュータイプ”という者達が持つ
霊感や超感覚といったものなのかもしれない。
レイ『敵戦艦ヨリ、SPTガ発進!!』
エイジ「来たか・・・・・・」
見間違うはずもない。
豪壮な金色の鎧を纏ったSPTは、
グラドス軍総司令ル=カインの搭乗機、ザカールだ。
144
:
藍三郎
:2008/09/23(火) 23:18:41 HOST:199.157.183.58.megaegg.ne.jp
エイジ「ル=カイン!!」
ル=カイン「アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ・・・
ついにここまで来たか・・・・・・」
いつしか、ル=カインを取り巻く戦場から他のSPTやモビルドールは消えていた。
全ての機体は邪魔が入らぬよう、統合軍の足止めに赴いている。
純然たる一対一の決着をつける、彼の意思表示と見ていいだろう。
だが、エイジはその前に告げておかねばならぬ事があった。
エイジ「ル=カイン!聞け!!
俺は父さんから、地球とグラドス創生の秘密を知った。
それは・・・・・・」
ル=カイン「ほう!貴様も知ったのか!グラドス最大の禁忌を!!」
エイジ「!!」
ル=カインが既に創生の秘密を知っていた事に、エイジは眼を見開く。
ル=カイン「貴様が肩入れする地球人が、我らグラドスと同一種族・・・
プロトカルチャーを称される、同じ創造主によって生み出された存在・・・
私もこの戦いに臨む前に、父上より明かされた・・・」
エイジ「ならば話は早い・・・ル=カイン、今すぐ戦いを止めてくれ!
同じ種族で殺しあうなど・・・・・・」
ル=カイン「そう、愚かなる事だ。
お前達地球人のようにな・・・
笑うがいい、アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ・・・
争いを続ける愚かな地球人を矯正するという
我らグラドスの大義は・・・この事実によって雲散霧消したのだ!!」
エイジ「だったら・・・・・・!」
ル=カイン「それでも、私は戦いを止めるわけにはいかぬ!!」
ル=カインは昂然と、気魄を込めて言い放った。
ル=カイン「我らグラドスは宇宙の冠たる優良種族。
それが、劣等なる地球人種と同一であるなど、あってはならぬ!
その誇りを汚すものは、何であろうと闇に葬るまで!!」
エイジ「真実から眼を逸らそうというのか!ル=カイン!!」
ル=カイン「この真実が公になれば、グラドスの矜持は地に落ちる。
誇りを失ったグラドスは、やがて衰退し滅びの道を辿るだろう。
暗愚なる貴様ら地球人と同じようにな!!
グラドスの矜持こそ我が全て!!そのような未来を、私は断じて認めん!!」
声高に叫ぶル=カインの闘志は、
かつてないほどに昂ぶっていた。
ル=カイン「だからこそ・・・この真実を公にするわけにはいかぬ。
父上は、秘密を守って逝った。私が殺した!!」
エイジ「!!」
ル=カイン「創生の秘密を知る者を抹殺する・・・
これが、私が父上から受け継いだ業だ!!
私の手は、既に父の血で汚れている!!後戻りする事はできぬ!!」
エイジ「ル=カイン・・・お前は!!」
ル=カイン「何があろうとこの秘密を守り通す!!
貴様を殺し、統合軍を滅し、地球を完全に隷属させれば、
このような事実に耳を貸すものなどいなくなろう!!」
エイジ「欺こうというのか・・・グラドスの民すらも!」
ル=カイン「その通りだ。姑息だろうが欺瞞だろうが、
好きなだけ吼えるがいい。全ての泥は私が被る。
グラドスの未来の為ならば、その程度の汚辱がどれほどのものか。
我が身命の全ては――――グラドスが為に!!!」
エイジ「―――――!!」
決意の咆哮に、エイジは一瞬気圧される。
ル=カインの覚悟は本物だ。
彼は創生の秘密を守る為に、自分の全てを捨てようとしている。
『誇り』を守る為に『誇り』を捨てる。
その矛盾を、己の中で完全に昇華してしまっている。
確固たる信念は、ル=カインに今まで以上の力を与えるだろう。
ル=カイン「アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ・・・
今や貴様は、単なる逆賊ではない。
グラドスの歴史において・・・必ず消さねばならぬ汚点となった!!」
エイジ(来る―――――!!)
ル=カインの闘気が頂点に達した事を、エイジは肌で感じた。
ル=カイン「真実を抱えたまま、散れい!!」
145
:
蒼ウサギ
:2008/10/22(水) 01:18:12 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
ゼロシステムが敵の動きを演算、予測し、パイロットであるヒイロに全ての可能性を見せ付ける。
濁流のように流れる情報をヒイロはあくまで沈着冷静に見極める。
そして、迫りくる敵の“未来”を予測する。
マンジェロ「ヒャハハハハハ!!」
粒子に包まれた機体でウイングゼロに突撃を開始。
ヒイロはそれを予測してツインバスターライフルを発射した。
ヒイロ「目標確認・・・・・・」
語尾と同時に発射されたビームがマンジェロのガシュランを捉え、直撃する。
マンジェロ「ぐぅぅ! あは、アハハハハハハ!!」
己の力に溺れているかのような狂気でマンジェロはさらに出力を上げる。
機体がビームの粒子を押しのけ始めた。
カトル「ヒイロ!」
あまりの光景にカトルが驚愕して声を飛ばす。
一番近くにいる彼でさえ、MDの攻撃に阻まれ援護に迎えない状況だ。
しかし、ヒイロはこれすらも予測していた。
瞬時に右手でビームサーベルを抜いて、突撃してきたガシュランに向けて突き刺す。
激しい粒子同士の火花が迸り、眩い光が二機を煌かせる。
マンジェロ「無駄な抵抗を!」
ヒイロ「すぐに分かる・・・・・・・」
無駄かどうかはな、という言葉をヒイロは呑みこんだ。
そんな中で、マンジェロはさらに高笑いの声量を上げる。
そしてヒイロはその笑いの中で静かに思う。
ヒイロ(ゼロが見せたお前の未来は・・・・・・・)
ヒイロはウイングゼロのスロットルを上げた。
背部のバーニアから噴出す炎が激しさを増し、驚異的な推進力を与える。
マンジェロ「むっ! 押し返す気か!? だが、無駄だ!」
だが、次の瞬間、マンジェロの視界が爆発の炎に包まれた。
同時にコクピット内に轟く音。
どちらもヒイロがほぼ密着状態で発射したマシンキャノンによるものだ。
マンジェロ「こ、こしゃくな!」
粒子同士ではなく、質量がぶつかった衝撃でガシュランが震え、
それに連動してコクピット内が激しく揺れる。
マンジェロ「み、見えねえ!」
装甲が爆裂して起きた煙でモニターの視界が塞がれてしまう。
しかし、程度の煙はすぐに晴れた。
その“すぐ”が命運を分けた。
マンジェロ「!?」
目の前にすでにウイングゼロの姿はなかった。
直後、コクピットのレーダーが警告音を発するが遅かった。
ヒイロ「これだ・・・」
頭上からツインバスターライフルのビームの光が降り注ぎ、マンジェロの視界を包み込んだ。
§
カガリ「大丈夫なのか? お前」
エターナルの発進口前にカガリはいた。
話しかけている相手はキラだ。
キラ「うん、もう大丈夫。みんなが戦っているんだ・・・アスランも。
僕一人だけ、落ち込んでられない」
キラのことは、アスランから聞かされている。
彼の出生のことを知って、カガリは何も言えない。
どういう言葉をかけてあげたらいいか分からないでいたが、何かしてあげたかった。
一言でも声をかけようとエターナルに来たところで戦闘が始まり、今に至っている。
カガリ「そうか・・・そうだよな・・・・・・」
キラ「それに・・・・・・今の両親が本当の両親じゃないって言われても、ちょっとピンとこなくてさ・・・・・・
でも、元の世界に帰ったら・・・色々話したいと思う」
カガリ「そうか・・・」
キラ「それに、あの人が言った“双子”ってことも気になるしさ」
カガリ「お前の双子ぉ? きっとお前にそっくりでウジウジしている奴なんだろうな」
彼女なりの励ましにキラは苦笑した。
幾分気が楽になってフリーダムに乗り込む。
カガリ「が、がんばれよ! キラ!」
カガリはそう言いながら低重力に流されながら発進口から離れていく。
その声援にキラは親指を立てて応えた。
ハッチが閉まり、フリーダムに取り付けられていた機材が次々に外されていく。
フェイズシフト装甲が起動し、装甲が着色されていく。
核エンジンが低重音で轟き始め、ツインアイが力強く光る。
カガリが完全にいなくなった頃、発進口が開いて漆黒のフィールドが現れる。
キラ「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
カタパルトが勢いよく奔り、フリーダムが戦場へと飛び出した。
146
:
藍三郎
:2008/10/29(水) 23:13:39 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
高速で戦場を駆けながら、レーザードライフルを撃ち合う蒼と金色のSPT。
グラドス戦艦を盾にしながら、ザカールの射撃をかわすエイジ。
それはル=カインも同様で、両者一歩も引かぬ目まぐるしい攻防を続けていた。
かつてはザカールに圧倒されたレイズナーだが、
レイズナーMkⅡに強化された事で、機体の性能は互角になっていた。
最も、V−MAXを使わない状態での話だが・・・
エイジ「ル=カイン!!
例えあの真実が無かったとしても・・・
俺たちは分かり合えるはずなんだ!」
ル=カイン「世迷言をほざくなっ!!」
ザカールのレーザードガンを回避しつつ、反撃を行うレイズナー。
いつV−MAXを発動されるか分からない以上、一瞬の油断も許されない。
それでもエイジは叫ぶ。先ほどル=カインが放った、信念の叫びに答えるように。
エイジ「地球人も、グラドス人も、誰かを愛し、憎み、思いを交わす!
お前が地球を憎み、グラドスを愛するのと同じように!
その気持ちに何の違いがある!」
ル=カイン「何だと!」
エイジ「お前のその激情も、地球の人々が持っているものと同じだ!
なのに、何故そこから目を背けようとする!!
変わっていけるはずだ!地球人も、グラドスも!」
ル=カイン「変わる必要など無い!!
不完全で未成熟な地球人とは違い、我らは既に完全なのだ!
その矜持が我らに力を与える!!グラドスの誇りだ!!」
エイジ「違う!!変わっていく事を受け入れる覚悟・・・
それが真の誇りだと、俺は信じる!!」
ル=カイン「ならば、示してみせよ!このル=カインの前でなぁ!!」
両者の戦意がさらなる昂ぶりを見せたところで・・・
レイ『新タナ熱源反応接近!!』
エイジ「!!」
一機のMFが、わき目も振らずレイズナーの下へと突っ込んでくる。
他のグラドス軍は、ル=カインの命令で一騎打ちの邪魔をせぬよう退いている。
そんな中で、命令を無視して割って入ろうとする男といえば・・・
ゴステロ「ひゃぁ〜〜〜っはっはっはっはっは!!」
瞳に憎悪を宿し、レイズナーの下へと突っ込んでくるゴステロのダルジャン。
レーザー・バズソーの一撃を、エイジは辛くも回避する。
エイジ「ゴステロ!!」
ゴステロ「逃ぃげるなよぉエイジィィィィィィィ!!!
大人しく俺様に殺されやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
尋常ならざる狂気に囚われ、レーザー・バズソーを振り回す。
ゴステロ「疼くんだよ・・・俺様の脳ミソが!!
お前を殺せ、殺せ、殺せってなぁ!!
そのせいで頭が痛くて痛くて痛くてたまらねぇんだよぉ!!!」
頭を抑え、充血した瞳でモニター越しにレイズナーを睨みつける。
ゴステロ「てめぇをぶっ殺せば、きっとこの疼きも止まるぅ!!
だから死ねよ!!死ね!死ね!死ね!
いぃぃぃひゃはははははは!!!」
エイジ「くぅ・・・!!」
そのプレッシャーを誰よりも感じながら、
ゴステロの執拗な攻撃をかわすエイジ。
戦い慣れた相手ではあるが、今は状況が違う。
ル=カインとゴステロの二人を同時に相手にすれば、まず勝ち目は無い・・・
147
:
藍三郎
:2008/10/29(水) 23:15:09 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
しかし・・・
ゴステロ「!!!」
レーザーの光が、ゴステロの肩部を撃ち抜いた。
それは、レイズナーのものではなく、統合軍の友軍機でもなく、
ル=カインのザカールが撃ったものだった。
ル=カイン「失せろゴステロ!貴様の出る幕は無い!!」
エイジとの決着は、純然たる一対一で付けなければならない。
互いの誇りを懸けた戦いに乱入された事に、
ル=カインは憤怒の炎を燃やしていた。
ル=カインはグラドスの最高司令官。逆らう事は死を意味する。
本来ならば、決して逆らってはならぬ相手だ。
しかし、狂気の極限まで至ったゴステロには、
分を弁えるような理性は完全に消し飛んでいた。
ゴステロ「うるせぇぇぇぇ!!エイジは俺が殺すぅぅぅぅぅ!!
誰だろうと邪魔はさせねぇ!邪魔をするなら、てめぇも殺す!!」
恐れる事なくザカールにレーザーを撃ち返すゴステロ。
もはや相手が誰なのかという判断すら付いていない。
これまで、顔だけは平静を保っていたル=カインだが、
飼い犬に手を噛まれた事によって、初めて怒りを露にした。
ル=カイン「狂ったか・・・死に損ないのサイボーグが!
飢えた野良犬が、誇り高き獅子に噛み付く愚かさを知れ!!」
レーザードガンを撃ち、ダルジャンの各部を破壊する。
ゴステロ「あっ!!がっ!!ぎぃぃぃっ!!?」
ル=カイン「このグラドスの恥晒しがっ!!」
その後、急接近して、ダルジャンを蹴っ飛ばす。
ル=カイン「この裏切り者を処刑しろ!!」
ル=カインの命で、周囲にいたスカルガンナーがダルジャンへと殺到する。
あれだけの数に一斉に襲い掛かられれば、いかにゴステロとて一たまりもあるまい。
エイジ「ル=カイン・・・」
ル=カイン「とんだ邪魔が入ったな・・・
ふ・・・くくくくく・・・くははははははははは!!!!」
先ほどまでの憤怒の表情から一転して、ル=カインは哄笑する。
ル=カイン「なるほどな・・・
我らグラドスの中とて、あのような醜い下衆が生まれるのだな・・・
誇り高き優良種族の名が泣く・・・
地球もグラドスも同じか・・・
貴様の言う事も、全て出鱈目という訳では無かった・・・」
エイジ「・・・・・・」
ル=カインの哄笑は自嘲の笑いだった。
彼が今までグラドスに対して抱いてきた理想・・・
それを、あのゴステロの醜態によって、全て撃ち砕かれたのだ。
ル=カイン「いや・・・私も、本心ではそれを理解していた。
ただ、受け入れる事が恐ろしかっただけだ・・・
私の愛するグラドスを、自ら貶める事が恐ろしかった。
認めたくないあまりに、私は、父上までも、この手で・・・・・・」
ル=カインから、深い悲しみが伝わってくる。
だが、彼の闘志自体は、静かながらも一向に衰える事は無かった。
エイジ「そこまで分かっていながら、何故戦う!」
ル=カイン「言ったはずだ!私はグラドスの誇りに殉ずると!
その誇りに皹が入ったならば、膿を取り除いた後に治せばよい!!
だからこそ私は、ここで斃れるわけにはいかん!
地球を制圧し、グラドスに真の誇りを取り戻す為にな!!」
148
:
藍三郎
:2008/10/29(水) 23:18:13 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
=バトル7 ブリッジ=
グラドス軍との最終決戦は、敵の主要なパイロットが撃墜された事もあり、
やや統合軍が優勢のまま戦局は推移していた。
しかし・・・
サリー「艦長、重力場に異常発生!
何者かがフォールドアウトしてきます!」
エキセドル「プロトデビルン・・・!」
マックス「このタイミングで・・・!」
マックスは眉間に皺を寄せる。
ガムリン「バロータ軍かっ!」
金龍「しかし、あの数は・・・!」
次々とフォールドしてくるバロータ軍の戦艦。
幾ら現れても止まらぬその数は、
これまでとは比べ物にならないほどの大艦隊を成している。
しかも・・・今回はこれで終わりではなかった。
両翼に布陣した多数のバロータ戦艦の中央にぽっかり開いた空間に、
艦体を左右に広げた、巨大な蟹のような赤い戦艦がフォールドしてくる。
他のバロータ艦が、まるで小人の船のように見える巨大さだ。
その中枢には、バロータ軍総司令・ゲペルニッチの姿があった。
統合軍とグラドスの艦隊を見下ろしながら呟く。
ゲペルニッチ「夢が我が掌で踊る・・・」
デュオ「で、でけぇ・・・!」
場にいるパイロット達は、その威容に息を飲む。
トロワ「大きさからして、バロータ軍の旗艦と推察する」
カトル「?あの艦から、通信が・・・」
美穂「艦長!敵艦から大規模な電磁波が!」
サリー「マクロス7の・・・
いえ、この宙域全ての通信網がジャックされました!」
マックス「何だと・・・?」
程無くして、バトル7のモニターに仮面を被った金髪の男の姿が映し出された。
バトル7のみならず、シティ7中のテレビやパソコンなどのモニター、
さらには展開中の機体群、グラドス軍に対しても同様の現象が起こっていた。
キラ「この人が・・・」
ガムリン「プロトデビルンの親玉なのか!?」
ゲペルニッチ『我が名はゲペルニッチ・・・
50万年周期・・・
悠久の彼方より、ついに我が夢の完成の時をここに見出した・・・
サンプル達よ、夢のしずくとなるがよい・・・』
マックス「ゲペルニッチ・・・」
エキセドル「プ、プロトデビルン・・・」
ゼントラーディ特有のプロトデビルンへの恐怖に、
慄きを抑えられないエキセドル参謀。
美穂「敵艦隊、攻撃を開始します!!」
マックス「くっ、艦を後退させろ!ピンポイントバリア展開!!」
バロータ艦体の砲撃が、統合軍とグラドス軍に降り注ぐ。
これの巻き添えとなって、多くの艦艇や機体が犠牲となった。
149
:
藍三郎
:2008/10/29(水) 23:18:51 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
ゲペルニッチ「・・・・・・む?』
バトル7から、ゲペルニッチの下へと通信が入る。
向こうからこちらにアクセスする通信手段は存在しないはず。
それが出来るのは、こちらが送り込んだ潜入工作員のみ・・・
ギギル『ゲペルニッチ!今すぐ攻撃を止めさせろ!!」
ゲペルニッチ「ギギル・・・そこにいたのか」
ギギル『お前が攻撃しようとしているこの艦には、シビルがいるんだぞ!』
ゲペルニッチ「我が夢の前にはうたかたのごときもの・・・お前も幻を見るがよい」
ギギル『貴様、何を言っているんだ!?』
ギギルの訴えなど意に介さず、
バロータ軍はさらにエルガーゾルン、パンツァーゾルンを発進させる。
その指揮を執るのは、ガビルのザウバーゲランだ。
ガビル「ハハハハハ!!
ゲペルニッチ様御自ら率いる我らが艦隊の威風堂々たる美に
恐れおののくがいい、サンプル共!!」
バロータ軍は、統合軍、グラドス軍お構いなく
圧倒的な物量で攻め立て、破壊、あるいはスピリチアを奪っていく。
ウィッツ「ちぃ!グラドスどももやっつけてくれるのはいいけどよ!」
アスラン「数が違いすぎる・・・!」
デュオ「このままじゃ、ジリ貧だぜ・・・!」
ガビル「無駄なあがきは止めて、ゲペルニッチ様に屈服するがいい!
お前達の運命は既に決まっているのだ!これぞ、圧倒美ィ!!」
バロータ軍の大部隊が、怒涛と化して統合軍に押し寄せる。
誰もが戦意を削がれかけたその時・・・・・・
???「待てい!!」
ガビル「な!!」
広大な黒の世界に、輝きを持って立つ一人の男。
だがその輝きは、巨大なゲペルニッチ艦に比しても
決して屈せぬ意志が秘められていた。
ゲペルニッチ「ほう・・・・・・」
その輝きを、ゲペルニッチは好機の視線で見つめる。
???「たとえどんなに巨大な悪が存在しようとも、
この星々の中ではちっぽけな塵に過ぎない。
悠久の時の流れと、果てしなき広がりを持つもの・・・。
人、それを・・・『宇宙』と言う!」
ガビル「むぅ、含蓄美!貴様、何者だっ!!」
ロム「貴様達に名乗る名前は無いっ!!」
150
:
はばたき
:2008/11/04(火) 21:55:46 HOST:zaq3dc05f6f.zaq.ne.jp
美穂「ボゾン反応を確認!友軍です」
後退したバトル7らの間を生めるように、ボース粒子の残滓を牽いて現れる三つの艦影。
出現と同に放った各艦の主砲が、バロータ軍の艦隊に風穴を開ける。
ルリ「ご無事で何よりです。マックス艦長」
マックス「ホシノ艦長。感謝する」
敵の虚を付く友軍の奇襲に、安堵の息を漏らしながら艦長帽を被りなおすマックス。
沸き立つブリッジ。
挫かれ掛けた士気は回復した。
アイ「状況は厳しいようですが、不利ではありません。
グラドス軍の動きを利用してバロータ軍の母艦を抑える事が出来れば・・・」
マックス「打開の道はあるか・・・全軍に通達!敵母艦に攻撃を集中させろ!」
戦意を回復したのはブリッジばかりではない。
ロムの登場により、前線で戦っている主力メンバー達の士気にも、否が応でも火が入る。
牙ロード「いよ!待ってました!」
デュオ「相変わらず美味しい所もっていってくれるぜ!」
ガビル「ぬうう、激励美・・・!
サンプルどものスピリチアが向上しているだと!
ならばその元を断つまで!根絶美!」
ガビルの指揮の元、バロータ軍の戦闘機達が、一斉にロムめがけてミサイルの雨を降らせる。
しかし
ロム「天空宙心拳奥義・天誅跳馬!!」
降りかかるミサイルの数々を潜り抜け、足場にしながら宇宙を駆けるロム。
ガビル「おお!?跳躍美!?」
そのままの勢い、ガビルのザウバーゲランに手刀を叩き込む。
指揮官機への攻撃で、一瞬怯むバロータ軍。
その隙を見逃す統合軍ではない。
ディアッカ「よっしゃぁっ!敵さん、ビビってるぜ!」
カトル「この隙に母艦へ攻撃を!」
味方の艦砲の援護を受けて、次々に敵陣を突破していく各機。
そんな中、一人グラドス軍の方に向き直ったままのレイズナーの姿があった。
エイジ「ル=カイン・・・バロータ軍と火星にいっていた俺達の仲間が帰ってきた以上、もうグラドスに勝ち目はない。
それでもまだ戦うと言うのか・・・」
黄金のSPTを見据えながら、エイジは再度問いかける。
ル=カイン「くどいぞ、エイジ・アスカ。
私はグラドス人なのだ。
グラドスの誇りを取り戻すまで、私は負けるわけにはいかんのだ
そして、私が倒れぬ限り、グラドスは負けぬ」
静かな、だが不退転の意思を込めた意思表示。
ル=カイン「ゆくぞ、レイズナー。
グラドスと地球。
この戦いの後、立っていた方がその命運を決めることになろう!」
151
:
藍三郎
:2008/11/05(水) 23:10:34 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
ジョウ「エイジさん!」
飛影で出撃したジョウは、金色のSPTと交戦するエイジに目をやる。
イルボラ「待て、ジョウ・・・」
飛び出そうとしたジョウを、手で制するイルボラの零影。
イルボラ「あの二人・・・並々ならぬ因縁があるようだ。手出しは無用だろう」
機体越しながら、どこか特別な闘気の流れを感じ取ったようだ。
それは、つい先ほど火星で、
自分たちが、飛影と零影を駆って戦った時と同じようなものだ。
ジョウ「ああ・・・そうみてぇだな・・・」
ジョウ(俺はイルボラとの決着をつけた・・・
だから、エイジさん、あんたも勝ってくれ!!)
ル=カイン「決着をつけるぞ・・・」
エイジ「・・・・・・」
語るべき言葉は尽くした。
後は、ただ全てを出し切って決着をつけるのみ。
ザカールとレイズナーMkⅡの下にも、多数のバロータ軍が忍び寄る。
ル=カイン「V−MAX、発動!!」
エイジ「レイ!V−MAXIMUM、発動!!」
レイズナーとザカールの両機が、蒼と金のLCMパウダー粒子フィールドに包まれる。
向かい合った二機は、ほぼ同時にその場から消え去る。
蒼と金の流星が戦場を駆け巡り、近づいていたバロータ軍の機体を瞬時に殲滅する。
エイジ「うぉぉぉぉぉぉッ!!」
ル=カイン「覚悟ッ!!」
電磁フィールドを纏ったまま、激突する二機。
触れるものは全て消し飛ばす破壊の流星。
周囲の機体に二人を止められるものは無く、
この死闘の行く末を決めるのは、両者と互いのSPTのみだった。
ゲペルニッチ『感じる・・・
彼の星の者達のスピリチアの高まりを・・・
その魂の輝きこそが、我が夢へと続く道となるのだ・・・』
152
:
蒼ウサギ
:2008/11/29(土) 21:36:13 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
戦況は、明らかに統合軍側に傾き始めていた。
しかし、バロータ軍側のゲペルニッチ艦の存在は未だ脅威となっている。
その圧倒的巨大さだけでも見るものを圧倒させる。
ヒイロ「目標確認・・・・・・・破壊する」
ウイングゼロのツインバスターライフルが火を吹き、ゲペルニッチ艦を直撃するが、
その圧倒的大きさの前には超強力ビームでさえ、細い糸が通ったようなものだ。
しかし、照射し続ければコロニーすら破壊できるエネルギー量を持つ強力な兵器。
ヒイロはゲペルニッチ艦にビームを当て続けた。
が、ゲペルニッチもそれを黙って見過ごすわけはない。
すぐに何千というミサイルで反撃してきた。
ヒイロ「・・・・・・・・・・っ」
ゼロシステムで事前に予測していなければ全てを回避し切れなかっただろう。
それでも紙一重だった。
デュオ「無茶すんな! 死ぬぞ!」
ヒイロ「お前なら死んでいた」
デュオ「あぁ、そうかい! つーか、厄介だぜ、あの艦はよぉ」
=バトル7=
美穂「艦長! 前線部隊は、バロータ軍の母艦に苦戦しています!」
マックス「あの巨大さだからな・・・・・・」
マックスとチラリとエキセドルを見やるが、彼はプロトデビルンの恐怖に当てられて震えている。
今はとても声をかけられない。
マックス「・・・・・・一か八か艦をトランスフォーメーションさせる!」
ブリッジ内が騒然となった。
サリー「この混戦状況でですか!?」
マックス「敵の予想を裏切ってこその戦術だ。各艦に通達!
ダイヤモンドフォースに艦の護衛を!」
=エターナル=
バルトフェルド「ほーう、どうやらバトル7は切り札を出すみたいですよ」
ラクス「やはりあの巨大戦艦に対抗するためでしょうか?」
バルトフェルド「でしょうね。では、こちらも彼らの援護のため、切り札を出しますか?」
バルトフェルドに問われ、ラクスは静かに目を閉じて少し黙考した。
そして、目を開けたときには微笑を浮かべて決断していた。
ラクス「えぇ、二人との回線を繋げてください」
バルトフェルド「了解!」
数秒後、ラクスの言う「二人」が目の前のモニターに映し出される。
キラとアスランだ。
キラ『ラクス?』
ラクス「お二人にさらなる力を託します」
アスラン『さらなる・・・力?』
ラクス「その力で、ジーナス艦長を援護してください」
ラクスの柔和な表情が、次の瞬間、真剣みを帯びる。
それは、強大な力を託すという一つの覚悟を示していた。
ラクス「ミーティア、射出」
凛とした声と共に、エターナルの両サイドの兵器がパージされ、射出された。
巨大補助の兵装「ミーティア」。
エターナルから離れたそれはフリーダムとジャスティスの背部とドッキングした。
MSよりも巨大なそれは、ある種、巡航艦のようでもあった。
キラ「すごい・・・・・・」
接続時にモニターに現れる兵装マニュアルを一目見てキラは目を見開いた。
多数のミサイルに、大口径のビーム。機動性の高い戦艦を思わせる性能だった。
アスラン「さらなる力か・・・・・・いくぞ、キラ!」
キラ「うん!」
二機はミーティアの高機動をもって、変形を開始したバトル7への援護へと向かった。
バトル7は変形中完全無防備だ。当然、敵はそこをついて攻撃してくる。
護衛は必須だが、現状、グラドス軍、バロータ軍と混戦して数が多い。
ダイヤモンドフォースだけでは押さえきれないでいた。
そこへ・・・・・・・
キラ「ターゲット、マルチロック・・・・!」
アスラン「いけぇぇぇぇぇ!!」
ミーティアに搭載されている無数のミサイルとビームの奔流が大量の二大勢力の機動兵器を呑み込み、
戦闘不能に陥らせる。
ディアッカ「グゥレイト! やるじゃないか、お二人さん!」
ミーティアによる戦力アップは、混戦状態でありながらバトル7のトランスフォーメーションを
成功させるだけの時間を稼ぐ充分の成果をあげられた。
153
:
藍三郎
:2008/11/30(日) 11:05:04 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「ほほう、あの艦にあんな隠し玉があったとはね」
二つのミーティアを見ながら、
ムスカのハイドランジアキャットも、ミサイルで敵機を撃滅していく。
ミレーヌ「大きい・・・!あれが敵の母艦なの?」
バサラ「へっ、相手がでかければでかいほど、聴かせがいもあるってもんだぜ!!」
ギターを鳴らし、『突撃ラブハート』のメロディを奏でるバサラ。
バサラ「行くぜ、ゲペなんとか野郎!!俺の歌を聴け!!」
金龍「プロトデビルンに対して、
俺たちの頼みの綱はバトル7とサウンドフォースだ!
何としても守り抜くんぞ!!」
ガムリン「了解!!」
金龍「行くぞ!!突撃ラブハァ―――ト!!」
バサラの歌は、バロータ軍のパイロットを正気に戻すだけではなく、
周囲の味方の士気も上げていた。
激戦が続く中・・・
戦闘の渦から離れた場所で
品定めをするように戦場を見回している一人の男がいた。
黒光りする機械の体を持つその男は、戦場のある一点に視線を集中させる。
そこには、獅子奮迅の戦いぶりで
次々と敵を蹴散らすケンリュウの姿があった。
???「ふふふ・・・奴がロム・ストールか・・・
貴様の力・・・このガルディが見極めてやろう!!」
ロム「天空真剣・真空竜巻!!」
剣狼を振るい、グラドスやバロータ軍を撃破していくケンリュウ。
しかし、幾ら倒しても敵の数は一向に減る事が無い。
だが、どれほど苦しい戦いであろうとも挫ける事は許されない。
それが天空宙心拳継承者としての誇りなのだから。
その時・・・・・・
ロムの手にした剣狼が、何かに反応したように音と光を放ち出した。
ロム「!剣狼が・・・・・・!?」
次の瞬間、強烈な殺意がロムに押し寄せてくる。
とっさに身を逸らすロム。
その眼前を、漆黒の影が通り過ぎていった。
ガルディ「・・・安心した。
この程度も避けられぬようなボンクラではないようだ」
漆黒のボディに、雄雄しく伸びる二本の角。
自分と同じ機械生命体。ならば・・・・・・
ロム「貴様・・・ギャンドラーか!!」
ガルディ「如何にも。ガデス様の怨敵、ロム・ストール・・・
貴様を地獄に送る者だ!!」
新たに現れたギャンドラー・・・
しかし、いつもは大量に現れるはずの妖兵コマンダーが一人もいない。
ロム「貴様一人か・・・?」
ガルディ「そうだ。雑兵を何人引き連れていたとて、
足手まといになるだけよ!
クロノス族の討伐など、俺一人いれば事足りる・・・」
尊大なガルディの物言い。だが、ロムはそれを増長とは受け取らなかった。
ロム(それだけ・・・己の実力に絶対の自信を持っているということか)
堅牢な鎧を思わせる、濃密で重厚なる闘気。
真の強者のみが纏う事を許される、威風堂々たる覇気。
格が違う・・・・・・一目見て、そう直感した。
154
:
藍三郎
:2008/11/30(日) 11:06:26 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
ジェット「ギャンドラーだと!」
ドリル「なら、俺たちの敵でもあるって事だな!!」
周囲にいたジェットとドリルも、謎のギャンドラーに相対する。
本能的に危機感を覚えたのか、二人同時に突っ込んでいく。
ジェット「天空真剣、鎌鼬!!」
ドリル「天空宙心拳、岩石割りだぁ!!」
神速と剛力。二人が得意とする最高の必殺技。だが・・・
ガルディ「温い・・・・・・」
ガルディは、左手で剣を掴み取り、
右の掌でドリルの拳を受け止めた。
ジェット「な・・・!?」
ガルディ「雑魚は引っ込んでいろ!!」
怒号と共に、左膝がジェットの腹部を直撃し、
右手でドリルの拳を掴んだまま、力任せに投げ飛ばす。
ドリル「ぐああああああ!!」
ロム「ジェット!ドリル!!」
ジェットのスピードに対応する超反応と、
ドリルの渾身の一撃を楽々と受け止めるパワー。
ロム「この男、今までのギャンドラーとは比べ物にならない強さだ・・・!
天空真剣・爆裂空転!!」
剣狼から、青白く輝くオーラの波動を放つロム。
ガルディ「ふん・・・・・・!」
だが、ケンリュウ最高の攻撃も、ガルディには通じない。
軽く腕を払っただけで、爆裂空転のオーラを消し飛ばしてしまった。
ロム「な・・・!」
ガルディ「どうした?それで攻撃のつもりか?」
ガルディが纏う闘気の鎧には、僅かな綻びもない。
ガルディ「とっとと全力を出せ。
弱者を葬ったところで、何の意味もありはしない」
レイナ(あの人・・・)
ガルディの物言いにレイナは違和感を覚えた。
弱者を虐げ、金品を強奪するギャンドラーとは、あの男は違うように見える。
むしろ、ロムのような武闘家に近いものがあるような・・・
レイナ(ううん、それだけじゃない・・・)
あの男が現れた時から感じていた、どこか懐かしい感覚。
それについて深く思い出せないのは、
レイナもまたガルディの強烈な闘気に当てられていたからだろうか。
今は兄の無事を祈りつつ、ジムと共にジェットとドリルの介抱に当たっていた。
ロム「いいだろう。天空宙心拳の全力を尽くさねば、お前には勝てないようだからな・・・!」
そう言って、剣狼を宙にかざすロム。
ロム「天よ地よ・・・火よ水よ・・・我に力を与えたまえ――――っ!!!
パァ―――――――イル・フォ――――――ゥメイション!!!」
ケンリュウからバイカンフーへと合身するロム。
ロム「バァイ、カンフゥゥゥゥゥッ!!!」
ガルディ「それでいい。期待させてもらうぞ。
貴様の実力が、俺を満足させてくれる事をな!!」
腰の剣を抜き放つガルディ。
ロム「その剣は・・・!」
ガルディ「我が愛刀・流星(ながせ)。
覚悟せよロム・ストール!
俺の天空暗黒剣で、貴様の天空真剣を闇に葬ってくれるわ!!」
155
:
藍三郎
:2008/11/30(日) 11:08:23 HOST:82.175.183.58.megaegg.ne.jp
ル=カイン「地球の歴史からもグラドスの歴史からも、
貴様を抹消してやる!!」
蒼と金の電磁フィールドを纏いぶつかり合うレイズナーとザカール。
近づくバロータ軍を消し飛ばしながら、二つの流星は苛烈に戦場を彩る。
一見、互角に見える二機の争いだが、エイジは焦燥を覚えていた。
エイジ(MkⅡとザカールのV−MAXの力は互角・・・
だが奴には、切り札のV−MAXレッドパワーがある・・・!)
前回、レイズナーのV−MAXを正面から打ち破った驚異的なパワー。
性能が向上したMkⅡといえど、前回の二の舞になるのは目に見えている。
ル=カイン「エイジ!地球人の血を引いて生まれなければ、
貴様もこれほど苦しむ事はなかっただろうに!!」
エイジ「確かに・・・俺も最初は己の出生に悩み、迷った事もあった・・・
だが今は、地球の優しさに触れて、
俺自身の意志でこの地球(ほし)を守りたいと思っている!
もちろん、グラドス星もだ!!
二つの故郷を持って生まれた事に、
俺を生んでくれた父さんと母さんに、俺はこの上なく感謝しているさ!!」
ル=カイン「感謝だと!」
エイジ「そうさ!むしろ苦しんでいるのは・・・
お前の方じゃないのか、ル=カイン!」
ル=カインの顔色が変わる。
生粋のグラドス人として生まれ、決められた道を迷い無く進んできた男・・・
だが、最後の最後で、彼を構成する土台は揺らぎ、脆くも崩れ去った。
二つの種族の血を引く事に葛藤しながらも、それを乗り越えたあの男とは対照的だ。
ル=カイン「ほざけっ・・・!!
私も苦しみも、全てはグラドスの誇りに捧げる!!そう誓ったのだ!!」
エイジ「ならば俺はそれを打ち砕く!
お前を縛っている誇りという呪縛を!
地球とグラドスの未来のために!!」
ル=カイン「いいだろう。私とお前・・・
この戦いに勝利した方が、己の信じる未来を握るのだ!!」
エイジ「ル=カイン!!」
ル=カイン「我がザカールの全力で貴様を葬り去り、
私の信じる未来をこの手にしてみせる!!」
ル=カイン「V−MAX!!スーパーチャージ、オン!!」
ザカールの黄金の輝きが、真紅に染まっていく。
封印されし赤き猛獣が、ついに鎖を断ち切られ、その暴力を顕現しようとしている。
息を飲むエイジ。
全てを絶望で染め上げる赤い光を前に、勝機は――――
156
:
蒼ウサギ
:2008/12/04(木) 21:55:09 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
混迷の戦場の中、バトル7の変形は完了し、ブリッジのマックスが次なる命令を下す。
マックス「続いてマクロスキャノン、チャージ開始! 照準はバロータ軍母艦だ!」
美穂「了解! チャージ完了まで60秒!」
サリー「各隊! 援護お願いします」
切迫するブリッジ。
その一方で、前線ではバサラ機とミレーヌ機がゲペルニッチ艦に向かっていっていた。
そして、その艦に向けてバサラ機がスピーカーポッドを撃つ。
・・・・が
バサラ「なっ!?」
ミレーヌ「弾かれちゃった!?」
ゲペルニッチ艦の強固な装甲の前ではバサラの歌を響かせるスピーカーポット打ち込ませることが
できず、一旦、艦から離れる。
バサラ「くそっ、これじゃ歌が届かねぇ!」
歯痒い気持ちが押さえきれないバサラ。
ミレーヌ「あ、あれ!」
ミレーヌは、そこでゲペルニッチ艦の砲台に光が迸っているのが見えた。
一目瞭然。エネルギーをチャージしているのだ。恐らく狙いはバトル7だろう。
ミレーヌ「どうしよう、バサラ!」
レイ「慌てるな、ミレーヌ」
と、後ろから突然レイ機がやって来た。それも巨大な円柱形の物体を運んできている。
ミレーヌ「わっ、レイ! なにそれ!?」
レイ「スピーカーポッド・ガンマ、Dr.千葉が開発したものだ」
バサラ&ミレーヌ「スピーカーポッド・ガンマ?」
レイ「これならお前の歌が届けられるかもしれんぜ!」
四の五の考えている余裕はなかった。
バサラ「わかったぜ!」
バサラ機はレイ機からスピーカーポット・ガンマを受け取ると、再び、ゲペルニッチ艦に向けて肉迫した。
その時、ゲペルニッチ艦の砲台が閃光を放った。
ミレーヌ「あぁっ!」
レイ「遅かったか!」
砲台から放たれたビームは一直線にバトル7を直撃した。
ピンポイントバリアを簡単に破り、強固な装甲を貫いた。
ブリッジ内に激震が走る。
マックス「ぐぅぅぅ!!」
美穂「じゅ、重力制御装置損壊!」
サリー「姿勢制御40%低下!」
マックス「・・・・・マクロスキャノンのチャージ状況は?」
美穂「え?」
マックス「報告は的確に!」
美穂「よ、40%をまで完了しています!」
マックス「・・・・・そのままチャージを続けろ。80%チャージ完了時点であの艦に向けて発射する!」
エキセドル「相変わらず無謀な賭けですな・・・・・」
=ゲペルニッチ艦=
バロータ兵士「目標、轟沈に至らず」
ゲペルニッチ「すぐに再攻撃を開始せよ・・・・・ん?」
その時、ゲペルニッチはメインモニターに接近してくる三機の人型を見た。
バサラ、ミレーヌ、レイの三機のバルキリーはゲペルニッチ艦に迫る。
バサラ「いくぜ、ゲペなんとか野郎! オレの歌を聴けぇ! ハートをビンビンにしてやるぜぇ!」
スピーカーポッド・ガンマを肩に担いだバサラ機がゲペルニッチ艦の前に躍り出る。
そして、その引き金を引いた。
バサラ「ファイヤーーーーッ!」
円柱形の半分ほどの部分が発射され、それが艦に打ち込まれる。
打ち込まれたそれはさらにブーストを噴射し、さらに深く入っていく。
それが丁度、ゲペルニッチが見ていたメインモニターの場所だった。
ゲペルニッチ「なんだ?」
怪訝な様子のゲペルニッチ。スピーカーポッド・ガンマの先端部が外れると、そこから
バサラ「アァァァァーーーーーーっ!!」
全身を、艦内を震せるバサラのシャウトが大音量で放射された。
ゲペルニッチ「!!!」
Holy Lonely Light!
何よりも自分の歌の力を信じるバサラの歌声がゲペルニッチの全身に駆け抜け、
頭部を覆っていた仮面が飛ばされる。ブワッと金髪が歌声の風に揺れた。
ゲペルニッチ「・・・・・・・・・アニマスピリチア」
瞬間、ゲペルニッチに中で大いなる野望が確信された。
その直後!
マックス「マクロスキャノン! 発射!」
体勢を崩しながらもバトル7がゲペルニッチ艦に向けてマクロスキャノンを発射した。
切り札に相応しいその破壊力をもった光は射線軸の敵機を全て飲み込みと同時に、
ゲペルニッチ艦の一角に命中した。
ブリッジが揺れ、ゲペルニッチはよろめきながらもその視線は嬉しそうにバサラを見つめている。
ゲペルニッチ「異常コードC・・・・・・アニマスピリチア・・・・・・フフフフ」
ついには笑って両腕を大きく広げて叫ぶ。
ゲペルニッチ「スピリチアドリーミング!」
157
:
藍三郎
:2008/12/06(土) 18:18:35 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
触れたもの全てを噛み砕き、掻き消す紅の魔光。
V−MAXレッドパワーを発動させたザカールは、
圧倒的なる速度とパワーでもってレイズナーを執拗に狙う。
蒼と紅の流星が、一瞬だけ交錯する。
レイズナーの電磁フィールドは紙屑のごとく破られ、
左肩部の装甲が瞬時に蒸発した。
エイジ「ぐ・・・っ!!」
レイ『左肩部破損!!』
レイズナーのV−MAXIMUMは、もはや防壁の意味を成さない。
ル=カインの技量とレッドパワーの破壊力を前にしては、ただ逃げ惑うしかできない。
ただ瞬殺されないだけで、戦況は前回と同じく、絶対的な不利。
猫にいたぶられ、死を待つだけの鼠も同然。
だが、エイジの瞳は決して闘志を失わなかった。
エイジ(手は・・・・・・ある!!)
防戦一方ながらも、エイジはずっと逃げ続けるつもりは無い。
元より、いずれは追い詰められる。
エイジが狙っているのは、ほんの一瞬訪れる、起死回生の刻・・・・・・
そんな中・・・・・・
バサラ「HOLY LONELY LIGHT 急げ 自分を信じて
HEAVY LONELT NIGHT
闇の中から答えを見つけ出せ――――――――」
ゲペルニッチ艦に撃ち込まれたスピーカーポッド・ガンマから、
バサラの歌声が大音量で放たれた。
ガルディ「天空暗黒剣・滑空自在剣!!」
ロム「ぐああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
闇の波動を帯びたガルディのバイカンフーに決まる。
ガルディの底知れぬ力の前では、バイカンフーですらも圧倒されてしまう。
ロム(やはりこの男・・・強い!)
ロム「だが・・・負けん!!」
相手がどれだけ強くとも、いや、強いからこそ、負けるわけにはいかない。
自らの魂全てをぶつける覚悟で挑まねば、到底勝ち目は無い。
不思議な事に・・・このガルディに対しては、
ギャンドラーに抱くような悪への怒りの感情を覚えなかった。
怒りや憎しみではなく、強敵を乗り越えたいと思う
純粋な武闘家としての本能が、彼の闘志を静かに燃え上がらせている。
そしてロムは、それを心地良いとさえ感じている。
いや、それだけではなく・・・・・・
剣狼を強く握り締めたその時・・・
ロム「剣狼が・・・!」
ガルディ「む・・・・・・?」
ロムの持つ剣狼が、突如輝き始めた。
戦場に響くバサラの歌に呼応するように、その輝きは増している。
そして・・・ガルディの持つ流星にも、それと同じ現象が起こっていた。
ロム「どういうことだ!?その剣は、流星とは一体・・・」
ガルディ「何であろうと構わん!今は貴様との勝負に興じるのみよ!」
心の内で芽生えた小さな疑念を気にする暇もなく・・・
ガルディは流星を振り上げ、こちらに向かってくる。
バイカンフーもまた、剣狼で応戦する。
ロム「たあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ガルディ「ぬおおおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
剣狼と流星、二つの刃が交錯した刹那・・・
その中心から、眩く輝く極光が溢れ出た。
キリー「真吾!なんだかゴーショーグンの様子がおかしいぜ!!」
真吾「エネルギーが上昇していく!?」
レミー「駄目よ、全然制御できない!」
ゴーショーグンの機体から、ビムラーと思しき光が発散される。
それは、バサラのサウンドエナジーと入り混じって、
七色に変遷する巨大な光のフレアを生み出す。
ゆらめく光の炎が、戦場全域に広がっていく。
その光景は、あたかも宇宙を包む光の花びらのようだった。
美穂「正体不明のエネルギー波、熱量は一切感知できません!」
千葉「サウンドエナジー!?い、いや、それだけでは・・・ない?」
アルティア「この暖かな光・・・知っているわ・・・」
悠騎「そうだ・・・同じだ!俺達の世界で、アクシズを止めた時と・・・!」
ケルナグール「な、何じゃこれはなぁ!?」
ブンドル「言葉は要らない。ただただ・・・美しい・・・」
ガビル「何という煌き・・・これぞ絶句美!!」
158
:
藍三郎
:2008/12/06(土) 18:20:10 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ル=カイン「何だこれは・・・!何のまやかしだっ!!」
ル=カインの心に響いてくる歌声。魂を包み込む暖かな光。
地球やグラドスという垣根を越えて生まれた純粋な気持ちを・・・
ル=カインは必死に否定する。
ル=カイン「ええい!地球人め!!これ以上私を惑わせるなッ!!!」
例え何が起ころうとも、今は眼前の宿敵を討つ。
それだけが、今の彼の自我を保つ唯一の術だった。
レイ『右脚部破壊!!』
エイジ「・・・・・・!!」
右脚が丸ごと吹っ飛ぶ。ここまで破壊されては、
もはや十全な運動性を発揮する事はできない。
ル=カイン「終わりだっ!!」
紅き魔槍と化して突貫するル=カイン。
レイズナーもろとも、己の中の歪みも全て消し去らんとする。
エイジ「・・・・・今だ!!」
ザカールが真っ直ぐに向かってくる時・・・
この瞬間(とき)を待っていた。
機体を高速で後退させながら、
レイズナーMkⅡを飛行形態に変形させる。
飛行形態のV−MAXIMUMは、SPT形態と比べて細かな動作性に劣る。
ザカールとの戦いではそれは致命的な隙となる。
ゆえにこれまではずっとSPT形態で戦っていたのだ。
だが、直線の加速においては、飛行形態はSPTを大きく引き離す。
エイジが狙っていたのは、ル=カインは一直線に突っ込んでくる、この瞬間。
加えて、この時のために温存していた
プロペラントタンクの予備燃料を全て燃焼させる。
これで、飛行形態と加速と合わせて、レイズナーは倍以上の出力を得る事になる。
エイジ「うおおおおおおおおおお――――――――ッ!!!!」
極限の輝きを得たレイズナーMkⅡは、ザカールに向かって飛翔する。
ル=カイン「―――――――――!!!」
音と光の波が、二つの流星を包み込む。
その魂の波動は、今まさに決着をつけようとする二人の胸に届いた。
全てを呑み込む紅と、全てを照らす蒼、
二つの輝きがぶつかり合い――――――・・・・・・
ゲペルニッチ「アニマスピリチアに、スピリチア再生種族・・・
そして、数多の異界より集った大いなる力と意志・・・・・・
我が夢を実現する全ては、あの蒼き星にあり!!」
狂喜の表情で恍惚に酔いしれるゲペルニッチ。
その喜悦がクライマックスに達すると同時に、
ゲペルニッチ艦を初めとするバロータ軍の各艦隊は、
一斉にフォールドでその場を後にした。
=地上=
静かな海上・・・・・・
彪胤「あの光・・・そうか、ついに時は満ちたのだな」
大臨亀皇の上から、第二の太陽のごとく発生した光を見上げる夏彪胤。
地球周辺で発生したあの発光現象は、地球からも見上げられるほどの規模だった。
彪胤「禁断の遺跡と共に、“あの力”も目覚めるだろう。
彼らがビムラーに、大いなる意思に選ばれたならば、
私は彼らを導かねばならぬ。そして、その時こそ・・・・・・」
159
:
藍三郎
:2008/12/06(土) 18:22:03 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ル=カイン「エイジ・・・これが、貴様の力・・・かッ!!」
両機とも、殆ど動けないほど消耗していた。
だが、紙一重で急所を外したレイズナーに比べ、
ザカールはジェネレーターに深い損傷を受けていた。
爆発するまで、もう間もない。
ル=カインは、自分でも驚くほどに事実を受け入れていた。
敗北したのは、己なのだと。
エイジ「ル=カイン・・・・・・」
ル=カイン「何も言うな・・・貴様は勝ったのだ。
地球とグラドスの未来は、貴様に託そう・・・
貴様の望む未来とやらを、切り拓いてみるがいい」
ル=カインの耳に、歌声が響く。
地球人の歌でありながら、それは確かにグラドス人である彼の心をも揺さぶった。
あの瞬間・・・レイズナーに後れを取ったのは、
地球の歌を、文化を受け入れまいとして、
無意識の内に迷いが生じたからかもしれない。
もし・・・巡り合わせが違っていたならば、
自分も、あの地球(ほし)を愛する事が出来たのだろうか。
グラドスと祖を同じくする、
プロトカルチャーが遺した、もう一つ希望を・・・・・・
ル=カイン「父上・・・・・・私は・・・・・・!!」
紅き炎と共に爆砕するザカール。
その散り際を、エイジは目に焼き付けた。
誰よりも気高く、誇り高く、
それ故に迷い、苦しみぬいた男の最期を・・・・・・
160
:
藍三郎
:2008/12/06(土) 18:24:01 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
エイジ「ル=カイン、お前は・・・」
レイ『損傷率90%突破!エネルギー残量後僅カ!』
レイの声で、エイジは即座に現実に引き戻される。
紙一重でザカールを撃破したものの、
エネルギーを使いきってしまい、ザカールのV−MAXで受けた被害も甚大だ。
あの決着は、双方甚大な被害を受け、
たまたまエイジが生き残った・・・勝敗を分けたのは、ほんの小さな偶然だ。
エイジ「友軍に救援の要請を・・・・・・!!」
レイズナーの頬を、一条のレーザーが掠めていく。
レイ『敵機接近!!』
エイジ「お前は・・・!」
ゴステロ「ふへへへ・・・・・・
ようやく戻ってきたぜぇ・・・エイジィ・・・・・・」
エイジ「ゴステロ・・・生きていたのか」
エイジの眼前にいるのは、紛れも無くゴステロのダルジャンだ。
だが、今のダルジャンは、レイズナーMkⅡに劣らぬほど損傷している。
ル=カインの命を受けたスカルガンナー隊の執拗な攻撃を受けるも、
それを掻い潜り、立ちはだかる敵を全て撃破して、ここまで還ってきたのだ。
その代償は重く、レーザードガンを持つ腕は、
満足に照準も合わせられないほど損傷している。
ゴステロ「殺してやる・・・殺してやるぜぇ・・・エイジィ!!
てめぇの手足を捥ぎ取り・・・腸を食い千切り・・・
脳ミソ磨り潰しながら殺してやるぅぅぅぅぅぅ!!!」
腹の底から搾り出すように声を出すゴステロ。
コクピット内のゴステロ自身も、
サイボーグの内部機構が露出するなど、激しいダメージを受けていた。
体中から火花が散っており、もう間もなく生命活動を停止するだろう。
エイジ「そこまで俺が憎いか、ゴステロ・・・」
だが、エイジのゴステロを見る目は、
憎しみとは違い、どこか悟ったような視線だった。
エイジ「貴様の俺への憎しみが・・・罪無き人々を傷つけてきたのなら・・・」
俺の甘さが、ここまで貴様を生かしてきたのなら・・・
それは俺の咎でもある。だから、貴様はここで俺が殺す!!」
怒りや憎しみも越えた・・・さりとて親愛の情とは程遠い。
最も長く戦場で相対した者同士のみに生じる奇妙な因縁を、ゴステロに感じていた。
ゴステロ「馬鹿め!!死ぬのは・・・てめぇだぁっ!!!」
彼は何も変わらない。
善悪や苦楽の概念を超えた、憎しみと狂気こそが、彼の本質。
だから彼は戦い続ける。仇敵を抹殺するまで、殺して、殺して、殺し尽くす。
その憎しみに果ては無い。
エイジ「ゴステロォォォォォォォォォォォォ!!!」
二人同時に、手にした銃を向ける。
格闘戦をやるようなエネルギーは残ってない。
照準も満足に定まらない。
生死の境を分けるのは、ただ運命のみ。
互いの運命を断ち切るべく、引き金を引く――――――
ゴステロ「脳が・・・脳がはちきれそうだぜぇ――――――ッ!!!」
161
:
蒼ウサギ
:2008/12/13(土) 21:59:06 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
赤い爆炎は、まるで血のように見えてすぐに消えた。
最後の最後まで、ゴステロはゴステロのままだった。
ル=カインもそうであったように、人はそう簡単には変われないのだろうか?
いや、と、エイジは小さく声に出して否定した。
エイジ「ル=カインの最後の言葉・・・・・・以前のル=カインならば
オレに託すことはしなかったのかもしれないな・・・・・・」
答えはわからないが、そう思いたい。
自分は、二つの故郷を託されたのだから・・・・・・・・・。
§
バロータ軍は撤退し、宙域に残っているグラドス軍もル=カインが戦死したことが知らされ、
次々に降伏し始めていた。戦闘は終局に向かいつつある中、まだここに戦う者たちがいた。
ロム「てぇぇえああああ!!」
ガルディ「ぬぉぉぉっ!!」
剣狼と流星がぶつかり合う。その激しさが壮絶な斬り合いを物語る。
二人には周囲の状況が見えていない。見えているのは目の前の敵のみ!
斬撃! 捌き! 反撃! 回避! 技!
ありとあらゆる攻撃を互いに繰り出していくなか、戦況はガルディに傾いていた。
ついにガルディの流星がバイカンフーを捉える。
ロム「ぐぅっ!」
バイカンフーの体勢が大きくよろめく。この隙をガルディが逃すはずもなかった。
ガルディ「終わりだな!」
流星の刃が振るわれようとしたその矢先、一条の閃光がガルディに迫った。
ドモン「ばぁぁぁくねつっ! ゴッドスラッシュ!」
ガルディ「むっ!?」
突如、居合い切りで援護に入ってきたゴッドガンダムに気づいたガルディがその場を瞬時に離れる。
直後、ゴッドガンダムの極太化したビームソードが空を切った。
だが、ガルディに仕掛けたのは彼だけではない。
アイラ「ハァァッ!!」
ゴッドスラッシュをかわして、動きを止めた瞬間、アイラのシャッテンシュヴァルベが
直角から蹴りを繰り出す。本能的にガルディはそれを流星で防御した。
ガルディ「ぬぅ!」
奇襲とは卑怯な、とでも言わんばかりに弾き飛ばそうとしたが、その前にアイラ側から離れ、
そのままゴッドガンダムやバイカンフーの元へと行く。
奇妙な行動だったが、すぐに察しがついた。
ガルディ(フン・・・・・・用心深いことよ)
ワシの反撃を予測して、それを防ぐとはな。
あのロム・ストール。随分と人望が厚いようだ。
しかし。
ガルディ「興が削がれた・・・。ロム・ストール、その首、次の戦場まで預けておくぞ」
ロム「待て、ガルディ!」
ガルディ「フン、仲間に救われた命・・・。ここで散らすこともあるまい」
そう言い残すと、ガルディは戦場から撤退していった。
ロムの中には、敗北感だけが残った。
ロム「・・・・・・・ドモン・カッシュ、アイラ・ガウェイン。何故、オレを助けた?」
その問いにドモンは静かに目を伏せた。
ドモン「確かに一対一の勝負に割って入るのは、武道家として無粋なマネだ。
だが、これまでにもお前はオレ達を何度も助けてくれた」
アイラ「そんなあなただからこそ死なせたくなかった・・・・・・それだけじゃダメかしら?」
ロム「・・・・・・・・・」
ロムは目を閉じて二人に告げる。
ありがとう、と。
162
:
藍三郎
:2008/12/14(日) 19:10:46 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=地球 ギャンドラー要塞=
ガデス「・・・・・・!!」
ギャンドラー要塞最深部・・・
玉座に座るギャンドラーの首領・ガデスは、瞳を大きく見開く。
ガデス「感じる・・・感じるぞ!
ハイリビードの鼓動を・・・大いなる意思を!」
グルジオス「おお・・・ついに・・・」
この場にいるのは、ガデス以外は副官のグルジオスのみだ。
ガデスは喜悦に巨体を震わせている。
こんな辺境の星まで追い求めてきたものが、
ついに手の届く場所に現れようとしているのだ。
グルジオス「ガデス様の読みどおり・・・
ロム・ストールとガルディの接触は、
ハイリビードに大きな影響を与えたようですな」
ガデス「うむ・・・あやつめ、期待通りの働きをしてくれおる」
グルジオス「さすがはガデス様の秘蔵っ子。
ギャンドラー最強の将・・・というところですかな」
ガデス「フフフ、それだけではないがな・・・」
グルジオス「左様でございますな・・・フフフフフ」
含み笑いを浮かべるガデスとグルジオス。
その真意を知る者は、今はこの二人しかいない。
=バトル7 ブリッジ=
マックス「激戦の後だというのに、済まないな」
エイジ「いえ・・・やはり、グラドスの事で?」
マックス「先ほど、グラドス軍から停戦の申し出があった。
すでに多くの艦隊が地球圏から退く準備を進めているらしい」
エイジ「そうですか・・・」
ついに、長きに渡って続いたグラドスと地球との戦争が終わるのだ。
しかし、随分とあっさりした退き際な気がしないでもない。
マックス「ああ・・・何でも、総司令官が戦死した場合は、
ただちに停戦を申し出るよう、予め定めてあったらしい」
エキセドル「グラドス軍内でも、
過激派は総司令ル=カインを初めとする一握りだけで、
大勢は既に撤退論に傾いていたようです」
エイジ(・・・あの戦いは、彼にとって最後の賭けだったんだな。
そして、自分が敗れた場合は、直ちに戦いを終わらせるよう仕組んでいた・・・)
争いで全てを決しようとするル=カインのやり方は認められないが、
それでも、敗北した場合、全てを捨てる潔さはあったようだ。
マックス「我々としては、この申し出を受ける気でいる。
統合軍内では依然彼らに対する怨恨は深いが・・・
今は一刻も早く戦いを終わらせ、他の脅威に戦力を割く事を優先したい」
エイジ「ええ・・・俺に出来る事でしたら、何でもします。
地球とグラドス、双方の星の平和のために・・・」
マックス「ああ、これからもよろしく頼む、エイジ君」
マックス(そう・・・グラドス軍が去っても、
地球圏にはまだ多くの脅威が残っている)
あのゲペルニッチなる人物・・・
彼こそがバロータ軍の総司令で、プロトデビルンの長に相違ない。
その人物があれだけの規模の戦艦と共にこの星に現れたということは・・・
マックス(いよいよ始まるのか・・・
プロトデビルンによる、本格的な地球侵攻が・・・)
163
:
藍三郎
:2008/12/14(日) 19:11:41 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=エルシャンク=
ダミアン「そうか・・・ようやくグラドスとの戦争が終わるんだな」
レニー「4年も続いた戦争がもうすぐ終わるなんて、いまいち実感が薄いわ」
エイジ「だが・・・これで全てが終わったわけでは無い」
マイク「というと?」
エイジ「今回は退いたが、いずれグラドスはまた他の星を侵略しようとするかもしれない。
全ての元凶は、グラドスの歪んだ選民思想にある。
俺はこの戦いで学んだ事をグラドスの人達に伝え・・・
身命を賭してグラドスを変えていくつもりだ」
ロミナ「ご立派ですわ・・・エイジ様」
ジョウ「じゃあ、エイジさんはグラドスに帰っちまうのか?」
エイジ「ああ・・・だが、まだまだ地球には平和を脅かす多くの敵が残っている。
この地球に平和を取り戻すまでは、レイズナーと共に戦い続けるさ」
ロミナ「わたくしたちも、いずれはシェーマ星系に戻り、
ザ・ブームの支配から解き放たねばなりません」
ガメラン「はい・・・」
ロミナ「ですが、わたくし達の恩人である地球の危機を捨て置く事はできません。
わたくし達も、最後まで彼らと共に戦いましょう」
イルボラ「このイルボラ、姫様と共にどこまでも・・・」
ジョウ(エイジさんも、ロミナ姫も、
いつかは元の星に帰っちまうのか・・・俺は・・・・・・)
=コスモ・フリューゲル=
ロム「・・・・・・・・・」
ドリル「ロム、ずっと黙りっぱなしだぜ・・・」
ジェット「無理も無い・・・ドモン達のおかげで窮地を逃れたが、
あのまま続けてれば、負けていたからな・・・」
ロムとて人の子、敗北のショックは大きいようだ。
レイナ「ううん・・・それだけじゃない・・・と思う」
ジム「どういう事です?お嬢様」
レイナ「上手く説明できないんだけど・・・
ねぇグローバインさん、あのガルディって人の事、何か知らない?」
グローバイン「いや・・・わしもあのような男は知らぬ。
元より、妖兵コマンダーより上の幹部達には謎が多いからな・・・
ただ、あの尊大かつ威厳に満ちた闘気と圧倒的な実力・・・単なる新参者とは思えぬ」
ジェット「ああ・・・今までのギャンドラーとは、次元が違う強さだった・・・」
ドリル「また戦って、あいつに勝てるのかよ・・・」
ロム(ガルディ・・・)
あの強さからして、ギャンドラーの中でも
最上位に位置する実力者であるのは間違いない。
彼が現れたということは、いよいよギャンドラーも最後の決戦に臨むつもりだろう。
彼との再戦は近い・・・その時、自分に勝ち目はあるのだろうか。
不安はそれだけでは無い。
もう一つの不安・・・それは、ガルディ自身の正体に関する事だった。
その名前や、身のこなし、繰り出す技の数々が、
ロムの深層意識に眠る記憶を刺激する。
そして、剣狼と流星・・・二つの剣を交えた時に起こった、
あの共鳴現象は何を意味するのか。
迷いと不安という名の暗雲が、ロムの心を暗く包んでいく・・・
=シティ7 緑地帯=
バサラ「今日はすっかり遅くなっちまったぜ。
さぁ、行くぜシビル!!」
シビルの眠る光球の下で歌うバサラ。
しかし、いつもと違うのはその様子を、
木陰から一人の少女が窺っているいる事だった・・・
ミレーヌ(前々から怪しいと思って後をつけてみたけど・・・
バサラ、あなた一体何を・・・!?)
164
:
はばたき
:2008/12/18(木) 19:26:52 HOST:zaq3dc05dfe.zaq.ne.jp
=コスモ・フリューゲル 個室=
有体に言って、その場所はクローソーにとって居心地が悪かった。
宛がわれた部屋が気に入らない、と言うわけではなく、原因は別の所にある。
エレ「・・・・・」
クローソー「・・・・」
部屋の隅、ベッド脇に座った少女を、気のない表情で一瞥する。
死人のような顔だ、と思った。
乾燥した肌はあちこちでひび割れ、白い下地に青く血管を浮き立たせている。
頬は痩せこけ、何日も眠っていないのだろう、目元には隈が出来ている。
磨けば太陽のように輝くであろう金の長髪は、手入れもロクにされず、縮れ乱れきっていた。
―――悪いとは思っている・・・
―――でも、誰かが見張っていないと、また暴れだすかもしれないんだ
―――エレを頼む
そう言って頭を下げた黒髪の女性の言葉を反芻した。
好き勝手言って置いてもらった身だ。
多少の窮屈は致し方在るまいと、思っていたが、まさか子守を任されるとは思わなかった。
全く、この部隊の連中はどうかしているとしか思えない。
仮にも敵であった自分に、仲間を任せ、挙句頭まで下げるのだから・・・
クローソー「何処まで甘ちゃんなんだか・・・」
両腕を動かせないよう、拘束服を着せられ、座る少女。
これではどちらが捕虜なのかわからない。
首筋に巻かれた包帯や、頬に張られたガーゼが痛々しい。
それらの意味する所は、容易に想像できる。
クローソー「ハッ、全く贅沢なもんだね。
生きたくても生きれなかった奴なんて、ごまんといるのにさ」
ポツリと、そんな言葉が漏れた。
だが、独り言のようなその皮肉に、少女は、ぴくん、と思いのほか強く反応する。
エレ「・・・・・貴女にはわかんないよ」
うわ言の様な調子の声。
それに対して、解りたくも無い、と心の中で答えてやる。
今もあんなにも真剣に自分を心配してくれる仲間に囲まれた、この女の言い分など。
自分は一人きりになったと言うのに、こいつときたら・・・。
全く、贅沢な女め。
エレ「わかんないよ・・・わからない・・・わか・・・」
首を僅かに左右に振りながら、ぽつぽつと零していた少女だったが、ややあって何かに気づいたように、その瞳が見開かれる。
エレ「ねえ・・・・」
くりんと、マネキン人形のようなぎこちなさで、首を廻らせる少女に、僅かにだが反応してしまう。
ここに来て以来、唯々震えるばかりだった彼女の、初めて見せる能動的な動きに興味を持ったからかもしれない。
だが、
エレ「“造られる”ってどんな気持ち?」
にへら、と笑って彼女は訊ねた。
165
:
はばたき
:2008/12/18(木) 19:27:58 HOST:zaq3dc05dfe.zaq.ne.jp
―――パンッ!!―――
反射的だった。
それを聞くのかと。
自分にそれを聞くのかと、怒りを込めて、拳を握っていた。
ふざけるな、と。
へらへらとその様な顔で、聞いた彼女を、憎悪に燃えた瞳で睨み付けた。
クローソー「貴様・・・・死にたいのか?」
自制が利いた事の方が驚きだった。
或いは、そのか細い首をへし折っていても、電撃でその身を消し炭に変えていたとしても不思議は無かったのだ。
にも拘らず、頬を打たれた少女は、怯えた様子もなく、かといって悪びれた様子も無く、再び朱に染まった頬のまま、クローソーに向き直った。
エレ「ねえ、教えてよ・・・。
“自分”が無い人間はどうしたらいいの?」
相変わらず、その顔は、泣いているのか笑っているのか曖昧な表情だ。
だが、その瞳を見た途端、先ほどのような激しい義憤に駆られない自分に、内心驚いた。
或いは、その瞳の奥に映るものを、本能的に悟ったからかもしれない。
エレ「教えてよ・・・どうしたらいいの?
空っぽの人間は何を信じたらいいの?
どうやったら生きていけるの?
どうして生きていけるの!?
過去も今も無い人間って、何を寄り代にしたらいいの!?
貴女はどうやって生きてきたの!?
どうして生きてこれたの!?
何が支えてくれたの!!?
何が自分を信じさせてくれたの!!?
何があったの!?何があればいいの!?
いつ何処で、誰が、誰に、誰を、何を!何が!何で!どうして!?どうやって!!?」
クローソー「う・・・あ・・・・」
突き放せなかった。
必死の形相で言い募る、彼女の剣幕に、気圧されされた。
エレ「・・・教えてよ・・・・・」
胸の中に寄りかかる少女の姿がひどく小さく見えた。
クローソー(何が・・・だって?)
そんなものは決まっている
それをお前は持っているはずだから・・・・
自分は取りこぼしてしまったけれど、
お前はまだ持ってるじゃないか
本当
贅沢な女―――
呆然とした表情で胸の中の少女を見下ろしながら、我知らずその腕は彼女の体を、肩を抱いていた。
166
:
藍三郎
:2008/12/27(土) 23:26:13 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
翌日・・・
=シティ7 緑地帯=
早朝・・・
熱気バサラは、いつも通りシビルの眠る森へと向かっていった。
シビルの前での演奏会は、もはや習慣となっていたが・・・
バサラ「!?」
その日常は、唐突に終わりを告げる。
シビルが眠る光球が浮いていた場所・・・
そこには彼女の姿は影も形も無くなっていた。
場所を間違えたのだろうか・・・
いや、森全体からシビルの気配そのものが消えている。
バサラ「シビル・・・一体何処に・・・」
困惑するバサラの前に、叢を掻き分けてギギルが現れた。
彼もまた、その顔を驚愕で凍りつかせる。
ギギル「な・・・!?何でシビルがいねぇんだ!?
シビル!どこだ!シビル!!」
今来たばかりらしく、シビルがいない事に大きく狼狽している。
やがて、彼の眼はバサラの姿を捕らえた。
激情のままにバサラに掴みかかるギギル。
ギギル「アニマスピリチア!!
てめぇがシビルを連れ出したのか!!」
バサラ「何言ってやがる!!お前が連れて行ったんじゃないのか!?」
ギギルがシビルの仲間ならば、
彼がどこかに移動させたのでは無いかと考えていたのだが・・・
ギギル「シビルはどこだぁ!!」
全く話を聞こうとしないギギルは、拳を握り締め、
ついには殴りかかろうとする。その時・・・
ミレーヌ「やめて!!!」
バサラ「ミレーヌ!!」
森から姿を現したミレーヌは、思いつめたような表情で告げる。
ミレーヌ「私のせいなの・・・昨日、バサラの後をつけたのよ・・・
そうしたら・・・バサラが、あの女の子の前で歌ってて・・・
それで、私・・・・・・」
バサラ「軍に知らせたのか!!」
バサラの剣幕にたじろぐミレーヌ。
ミレーヌ「だ、だって!あの子はマクロス7を襲った敵なのよ!?」
バサラ「ちぃ!!余計な事しやがって!!」
ギギル「サンプル共が・・・シビルを!?」
ミレーヌの話を聞いたギギルは、強く歯を噛み締める。
ギギル「おらぁっ!!」
バサラ「うぉっ!?」
バサラを突き飛ばし、ミレーヌを押さえつけるギギル。
そのこめかみに、光線銃を突きつける。
ミレーヌ「きゃぁぁぁぁっ!?」
ギギル「おいてめぇ!こいつの命が惜しかったら、
俺をシビルの下へ連れて行けぇ!!」
バサラ「放せ!そいつは関係無いんだ!!」
ギギル「うるせぇ!!俺は気が立ってんだ!!
シビルを取り戻す為なら、何だってやってやるぞ!!」
ミレーヌ「バサラ・・・」
バサラ「く・・・・・・・・」
167
:
藍三郎
:2008/12/27(土) 23:27:23 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=バトル7 研究室=
マックス「ミレーヌから連絡を受けた時は、耳を疑ったが・・・」
千葉「まさか、プロトデビルンの一体がずっとシティ7に潜伏していたとはね」
マックスは、強化ガラス越しに捕らえたプロトデビルンの様子を見つめている。
プロトデビルンの脅威は、これまでの戦いで存分に思い知らされた。
その敵が、ずっと自分たちの本拠地に潜伏していたとは・・・
考えるだけで空恐ろしくなる。
また、この事を知った市長のミリアがどれだけ憤激するかという事も悩みの種だった。
少女型のプロトデビルンは、森で発見した時と同様、
光球に包まれた状態で眠っている。
この光球によって、彼女は外部から完全に遮断されているらしい。
運びこむ時も、彼女の周囲に在る土ごと抉って来る必要があった。
レイン「依然、“彼女”からは何の反応はありません」
神「まぁこの場合は、目覚めないでくれて助かるというべきか・・・」
小さいとはいえ相手はプロトデビルン・・・
かつて、統合軍のバルキリー隊に単機で大打撃を与えた小さな悪魔だ。
この場で暴れられたら、それこそバトル7は崩壊してしまう。
研究施設に運びこんだはいいが、その事を警戒して、
マックス達はこれと言った手を打てずにいた。
その時・・・・・・
マックス「私だ・・・何だと!ミレーヌが!?」
その知らせは、プロトデビルンの存在を知った時以上に、
マックスの心胆を寒からしめた。
ギギル「シビル――――!!どこだぁ―――!!シビル―――――!!!」
エルガーゾルンに乗ったギギルは、
その手にミレーヌに掴んだままバトル7に突入した。
バサラのファイヤーバルキリーもついて来ているが、
人質を取られている以上は何も出来ない。
ガムリン「ミレーヌさん!!」
ガムリンのナイトメアと、三機のサンダーボルトが立ちはだかる。
ミレーヌ「ガムリンさん!!」
ギギル「出やがったな!てめぇらがシビルを連れ去りやがったのかぁ!!」
ガムリン「貴様、ミレーヌさんを放せ!!」
バルキリー隊は、エルガーゾルンにガンポッドを突きつける。
バサラ「やめろ!こいつをこれ以上刺激するんじゃねぇ!!」
ガムリン「く・・・・・・」
あの敵パイロットの精神状態は到底まともでは無い。
万が一の事態を考えて、ガムリンらは銃を下げる。
ギギル「シビルはどこだ!!シビルの居場所を教えろ!!」
ガムリン「シビル・・・?あの女のプロトデビルンのことか」
ギギル「教えねぇってんなら、この女を握り潰してやるぞ!!」
ミレーヌ「きゃああああああっ!!!」
ガムリン「ミレーヌさん!!」
その時・・・ガムリンらの前の隔壁が自動で開かれた。
その先には、シビルの連れ込まれた研究室が見える。
ギギル「おおっ!!シビル!!」
エルガーゾルンをその先に進めるギギル。
ガンポッドを撃ち、シビルの前の強化ガラスを破壊する。
ガムリン「マクシミリアン艦長が・・・
おい貴様!要求は呑んだぞ!早くミレーヌさんを解放しろ!!」
ギギル「黙れ!!俺とシビルがこの艦を脱出するまで、この女は人質だぁ!!」
ガムリン「貴様ぁ!!」
168
:
藍三郎
:2008/12/27(土) 23:28:24 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
その時・・・・・・
POWER TO THE DREAM
POWER TO THE DREAM
ギギル「!?」
ガムリン「歌・・・バサラか!」
POWER TO THE MUSIC
新しい夢が欲しいのさ
バサラの歌、それはまだ誰も聞いた事の無い曲だった。
バサラ「POWER TO THE UNIVERSE
POWER TO THE MYSTERY
俺たちのパワーを伝えたい――――――」
ギギルに、そしてシビルに聴かせるように、力を込めて歌い上げるバサラ。
サウンドウェーブの波動が生じ、ギギルとシビルに向かう。
ギギル「な・・・何だ、これは・・・!?」
心臓の鼓動が早まり、体が言う事を利かなくなる。
昂ぶった激情が、歌によって中和されていくように・・・
エルガーゾルンの指が開かれ、ミレーヌが解放される。
ミレーヌ「きゃああああああ!!?」
ガムリン「ミレーヌさん!!」
落ちて来たミレーヌをキャッチするガムリンのナイトメア
バサラ「やっと掴んだ希望が 指のすきまから逃げてく
ブラックホールの彼方まで ずっとおまえを追いかけてく――――」
かつて無い程に輝きを増すサウンドウェーブは、シビルにも照射される。
ギギル「くっ、こうなったら・・・!!」
追い詰められたギギルが取る道・・・それは、自身の保身ではない。
この場で彼が最も優先するべき事は・・・シビルの覚醒だった。
ギギル「シビル――――!!俺のかき集めたスピリチアだ!!
受け取れ―――――!!!」
潜伏中に市民から集めたスピリチアを、一気に放出するギギル。
スピリチアの光が、シビルの光球へと注ぎ込まれる・・・
二つの光を浴びたシビルの目蓋が、ゆっくりと開かれ・・・・・・
シビル「コォォォォォォォ―――――――――――!!!!」
艦内に響くシビルの絶叫。
永き眠りから覚めたシビルは、眩い光を振り撒きながら、天へ向けて飛び立つ。
天井を破壊し、シビルは虚空の彼方へと飛び去っていった・・・
ギギル「ふ、ふははは!やった!やったぞ!!」
バサラ「シビル・・・・・・」
飛び去ったシビルを、呆然と見上げるバサラ。
その声からは、普段の彼からは想像もつかないほど
覇気の欠片も残っていなかった。
169
:
藍三郎
:2008/12/27(土) 23:29:45 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
更に翌日・・・・・・
ムスカ「で、結局その敵兵士の方もどさくさに紛れて逃げちまったのか」
ゼド「ええ・・・プロトデビルンの方は地球に降下したようです。
恐らく、彼女を追いかけていったのでしょう」
G・K隊が昨日の事件の全容を知ったのは、全てが終わった後だった。
ミレーヌが無事だったのは何よりだが、
プロトデビルンとバロータ軍の敵兵士、両方とも逃がしてしまった。
事件は突発的に起こり・・・そして同じく急速に決着した。
サイ・サイシー「バサラの兄ちゃんは、
あのプロトデビルンの事をずっと知っていたんだよな・・・」
アルティア「非常識ですね・・・敵兵を匿っていたなんて、
慣例に照らせば、軍法会議で銃殺刑は免れませんよ」
タツヤ「じゅ、銃殺って・・・」
パルシェ「まぁ、バサラさんは元々軍属じゃありませんけど・・・」
ゼド「しかし、統合軍サウンドフォースの一員ではあります。
その辺のラインが曖昧なので、統合軍も処分に困っているようですね」
ムスカ「加えて・・・その張本人が失踪と来たもんだ」
あの一件の後・・・・・・
熱気バサラはファイヤーボンバーから姿を消した。
ミレーヌの話によると、あれからバサラは一言も喋らぬまま姿を消し、
そのまま翌日になってもアクショに帰ってこなかったという。
ウィッツ「あいつの破天荒さは今に始まった事じゃねーが、そろそろついていけねぇぜ」
エッジ「大体、何だってあいつは敵を匿うなんて事を・・・」
シャル「・・・・・・あいつは・・・熱気バサラは、
プロトデビルンを敵とは見なしていないんだろう」
悠騎「あいつらを・・・・・・?」
ムスカ「そうかもな。熱気バサラは、敵を倒すというよりは、
聴かせる為に歌を歌っているように思えた」
カリス「歌っている時のあの人からは、
殺気や戦意といった感情が全く感じられませんでした」
ティファ「・・・・・・・・・」
ティファも同意するように頷く。
リョーコ「聴かせる為って・・・そんなんじゃ何にもなんねぇだろうが」
シャル「そうだな、全くその通りだ」
ムスカ「あいつが悩んでいるのは、そこなのかもな・・・」
歌が戦いに果たす意義。
誰もがサウンドエナジーの有用性にばかり注目して、考えもしなかった事。
一切省みられる事が無かったその根本について、
バサラは苦悩していたのかもしれない・・・
ミレーヌ「バサラ・・・・・・」
レイ「そう心配するな。あいつはいずれ帰ってくるさ」
ミレーヌ「レイは知らないの?バサラがいなくなった理由」
レイ「さぁな。あいつ自身もよく分かっていないのかもしれん。
それを見つけ出す為に、あいつは旅に出たのかもな」
ビヒーダ「・・・・・・・・・」
三人だけになったファイヤーボンバーのスタジオに、
ビヒーダのドラムが空しく響いた。
170
:
藍三郎
:2009/01/01(木) 21:09:55 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
第41話「ギギルが歌った日」
統合軍が、グラドス軍との長年の戦いに終止符を打ったのも束の間・・・
それさえもほんの通過点に過ぎないと言わんばかりに、
世界は更なる激動の渦に呑み込まれようとしていた・・・
あたかも、来るべき終焉に向けて、
世界の全てが加速しているかのように・・・
=第三新東京市 NERV本部=
青葉「宇宙統合軍本部より入電!
南極大陸に大規模なフォールド反応が確認されたとの事!
そのエネルギー量は、巨大隕石衝突時のそれに等しいと・・・」
マヤ「まさか、サードインパクトが!?」
一気にNERV本部内は騒然となった。
リツコ「セカンドインパクト級の隕石が再び南極に落下したのなら、
今度こそ南極の氷は完全に融解し、地球は水没するわ」
日向「い、いえ・・・南極の氷に目立った変化はありません。
衝突と言うよりは、巨大な物体がただ転移してきた模様です」
冬月「転移だと・・・」
青葉「続けて、バロータ軍の艦隊が次々と南極に降下しています。
統合軍の駐屯部隊は、数分足らずで壊滅したとの事・・・」
冬月「ならば、その物体とはバロータ軍・・・プロトデビルンのものだというのか」
ゲンドウ(プロトデビルン・・・始祖が残せし大いなる災いか・・・)
=南極大陸 プロトデビルン封印チャンパー=
バルゴ「お帰りなさいませ、ゲペルニッチ様。
ゲペルニッチ様と残る同胞の肉体・・・転移完了致しました」
艦隊と共に南極大陸に降下したゲペルニッチは、
ガビルを伴ってその地下に広がる空間へと立ち入った。
そこには、バロータ第4惑星にあった封印チャンパーと、
そっくり同じ空間が再現されていた。
第4惑星内の封印チャンパーを・・・
ゲペルニッチらの肉体ごと、まるごと転移してきたのだ。
先行して地球に転移していたバルゴが、恭しく出迎える。
ゲペルニッチ「ご苦労であった、バルゴ」
バルゴ「恐悦至極・・・ですがこの為に、
これまで回収したスピリチアをほぼ全て使ってしまいました・・・」
ガビル「ふん、スピリチアなど、いくらでもサンプルどもから集めればよい!略奪美!」
ゲペルニッチ「そうだ・・・この星は、我らが求めるスピリチアに満ち満ちている・・・
彼の地を起点としてスピリチア・ファーム・プロジェクトを開始する」
バルゴ「しかし・・・何ゆえこの場所に?」
ゲペルニッチ「この地は特異点なのだ・・・
この星、特にこの氷に閉ざされた地は、
次元の狭間を閉ざす壁が極めて薄くなっている・・・
世界終焉の日には、この地より別の次元へと転移する事になろう」
ガビル「では早速、この星の者どもを狩り集めて参りましょう。
もはやこの星は我らの手の内に入ったようなもの・・・これぞ、占領美!!」
優越感に浸るガビルとは対照的に、
ゲペルニッチの瞳には憂いの色が浮かんでいた。
ゲペルニッチ「まだだ・・・まだ我が手の内にそぐわぬ者がいる。
50万年周期の時の悪戯が、余計なものを目覚めさせようとしている」
バルゴ「余計なもの・・・?」
ゲペルニッチ「シビルだ。奴の目覚めは夢の妨げ」
ガビル「ゲペルニッチ様。お許しをいただければ、この私が始末いたします」
ゲペルニッチ「ではバルゴと共に行け」
ガビル「いえ、私一人で十分です。
花は一輪でこそ美、枯れ木の賑わいは不要です」
バルゴ「戯言を。我とて足手まといのお守などしたくもないわ」
ガビル「お前こそ、邪魔の極致!」
いがみ合うガビルとバルゴ。
50万年前と全く変わらぬやり取りだ。
ゲペルニッチ「今のシビル、ただの眠りについているのではない!
起こしてからでは遅いのだ!」
あまり見せる事のないゲペルニッチの焦燥に、ガビルとバルゴも押し黙る。
バルゴ「致し方あるまい。命とあらば、ガビルの蒙昧も見逃しましょう」
ガビル「おのれ・・・・・・」
171
:
藍三郎
:2009/01/01(木) 21:11:57 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=バトル7 ブリッジ=
南極大陸への巨大なフォールド反応と、バロータ艦隊の降下・・・
その報を聞いたマックスは、さらに頭を悩ませる事となった。
マックス「あの時仕掛けてきたのはほんの前哨戦・・・
総司令官自ら出陣して来たのは、地球に本拠地を移動させる為か」
エキセドル「敵の本拠地ははっきりしましたが、
これからは、敵の攻撃は一層激しいものとなるでしょうな」
マックス「ああ・・・こちらから仕掛けたところで、
返り討ちに遭うのが関の山だろう・・・・・・」
アルテミスとの交戦後、南極に駐屯していた統合軍は呆気無く壊滅した。
バロータ軍は、地球人を洗脳して手駒にしている。
下手な戦力を差し向ければ、取り込まれて逆に敵戦力の増強に繋がってしまう。
加えて、熱気バサラの失踪・・・
現状の戦力では、彼無くしてプロトデビルンに対抗できるとは思えない。
マックス「とにかく、我々も急ぎ地球に降下せよとの司令部からの通達だ。
これよりバトル7艦隊は、シティ7から離れて地球に降下する。
その間、シティ7の護衛は統合軍艦隊に任せるつもりだ」
172
:
藍三郎
:2009/01/01(木) 21:13:18 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=地球 荒野=
ファイヤーバルキリーを駆って当てのない放浪に出たバサラ。
バサラ「・・・・・・・・・」
シティ7を離れる際に彼が持ってきたのは、ファイヤーバルキリーと
装着型のサウンドウェーブ発生装置、そして愛用のギターだけだった。
焚き火を炊いて、一人ギターを奏でる。
しかし、どうしても歌う気になれない。
歌への情熱が消えたわけでは無い・・・
だが、何のために歌うのか、自分の歌には何の意味があるのか。
今まで考えもしなかった事が頭を包み込み、歌う意思を奪い去っていた。
そんな中で・・・
どこからか、歌が聞こえてきた。
まだ成長過程にある少年の声。
歌詞などはなく、ただバサラの曲に合わせて歌っている。
その視線の先には、銀髪のショートカットに赤い瞳、
シンプルな白いワイシャツを着た少年が立っていた。
平凡な都会ならば群衆に溶け込んでいるその姿も、この荒野では実に不釣合いに見える。
だがそれは、ファイヤーボンバーのステージ衣装のままで
飛び出してきたバサラとて同じ事だった。
バサラが演奏を終わると同時に、銀髪の少年は歌うのを止め、バサラに向き直る。
???「良い曲だね・・・」
バサラ「・・・・・・・・・」
???「君は、歌わないのかい?」
バサラ「今は、そんな気になれねぇ・・・」
???「それは勿体無いね。
歌はリリンが生み出した文化の極みだというのに」
バサラ「・・・そんな大層なもんじゃねぇよ」
???「だからと言って、軽いものでも無い・・・
君が悩んでいるのはそんなところじゃないかな?」
バサラ「・・・・・・・・・」
???「まぁ・・・そんな悩みすらも表面的なものなんだろう。
君が歌えない理由は、もっと心の奥深くに根ざした部分にある。
それは到底言葉では説明しきれないものだよ」
まるで自分の事をよく知っているかのように語る少年。
どうにも会話が噛み合わないが、バサラはさして気にした様子もない。
元々、バサラ自身他者には理解し難い精神構造の持ち主というのもある。
???「君は孤独を求めているようで、他者との繋がりも求めている。
自分の価値を一方的に押し付けるようで、
他者への思いやりも人一倍持っている。
君の複雑な人間性は、どれだけ言葉を尽くしたところで
他人が理解するなんて不可能だろう。
君自身にだって、自己の本質を制御できていないのだから。
君という存在を表現するには・・・もはや歌う事しかない」
バサラ「・・・・・・・・・」
謳うように朗々と語る少年。
バサラの方は、これを興味あるのか無いのかわからない顔つきで聴いている。
???「君は何かのために歌うんじゃない。歌こそが君なんだ。
だけど・・・これも所詮は言葉遊び、ただの戯言さ。
君の覚醒を促すには、やはり歌しかないのだろうね」
バサラ「訳わかんねぇよ・・・」
???「わからなくてもいい。理由を考える必要もない。
大事なのは、たった一つのことだけさ」
バサラ「・・・?」
???「君は・・・・・・歌が好きなのかい?」
バサラ「歌が・・・・・・」
それは、最もシンプルでありながら、これまで意識する事も無かった問いだった。
その直後・・・
コォォォォォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!!!
バサラ「!!」
聞き覚えのある奇声が、夜空に響き渡った。
バサラが上空を見上げると、光球と化したシビルが空を駆けていった。
バサラ「シビル!!」
偶然の再会・・・いや、バサラは無意識の内に、
シビルの波動を感じ取ってこの地に来たのかもしれない。
続けて、シビルを追って一機のエルガーゾルンが現れる。
これまた鬼気迫るスピードで、バサラの上空を通り過ぎていった。
ギギルのものに違いない。
バサラ「シビル・・・!おいあんた、名前は!」
カヲル「名前・・・か。そうだね。カヲル・・・渚カヲルだよ」
バサラ「そうか!俺は熱気バサラだ!!
今は駄目だが・・・いつかファイヤーボンバーのライブに来い!
そうすりゃ俺の歌を存分に聴かせてやるぜ!!」
カヲル「楽しみにしているよ」
バサラはファイヤーバルキリーに飛び乗りながら、少年に別れを告げる。
シビルとギギルを追って、夜天に飛び立つファイヤーバルキリーを、
銀髪の少年は微笑を浮かべて見送った。
カヲル「あれで完全に目覚めた・・・というわけではなさそうだね。
やはり彼の覚醒は、僕ではなく、
彼自身の歌が成すべき事なのだろうね・・・」
173
:
蒼ウサギ
:2009/01/08(木) 01:06:17 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
時は少し遡る。
ミキ「あの・・・バサラさん、戻ってくるんでしょうか?」
ポツリと発言したのは、資料を持ち運ぶために通りかかった滝本ミキだった。
全員の視線に見つめられ、急に萎縮してしまうが恐る恐る続ける。
ミキ「もしも戻ってきたら・・・・・・また、サウンドフォースとして戦場にいかされてしまうんでしょうか?」
悠騎「それは・・・・・・」
ゼド「彼の意思次第でしょうね。立場もありますが、なりよりあの性格です」
と、ゼドは苦笑した。どこまでも自分勝手といっては表現は悪いが、誰にも縛られない。
なによりも自分を信じ、突き通すその性格は不思議と惹きつけるものがある。
だから、彼の歌には魅力を感じるのだろう。
リョーコ「でもよ、アイツの歌がねぇとプロトデビルンとの戦いが・・・・・・」
ミキ「それって・・・・・結局、バサラさんを・・・・・バサラさんの歌を兵器として見ていないってことですよね?
そしてそれは・・・・・・兵器のためにクローソーさん達を生み出した<アルテミス>と同じって、ことにな
りません?」
エッジ「アイツらと?」
ミキ「そういうのって・・・・・・なんか嫌じゃありませんか?」
ミキの言葉で急に沈黙が訪れる。
それが彼女自身を恐縮させてしまった。
ミキ「す、すみません! わ、私、生意気なこと言っちゃって! い、今の話、忘れちゃってください!
じゃじゃ、じゃあ私、これで!」
足早にその場を立ち去ろうとしたミキだが、その手がギュと握られ止められた。
止めたのは悠騎だった。
ミキ「せ、先輩!?」
悠騎「そうだよな!」
ミキ「え?」
ポカンとするミキをよそに、何かを悟ったように悠騎は破願した。
悠騎「誰だって、他人に利用されたくねぇよな。それが自分の生きがいだったらよ」
ウィッツ「おい、まさかお前、やべぇこと考えてんじゃないだろうな?」
悠騎「だとしたらどうするよ?」
ムスカ「さぁな・・・・・・お前もあの熱気バサラとどこか似てるからな」
ゼド「えぇ、だから言っても聞きはしないでしょうね」
エッジ「おい、まさかサウンドフォースを解散させるつもりじゃねぇだろうな?」
誰もが予想していたことを、エッジが我慢しきれず口にした。
悠騎の口元が呆れたように笑う。
悠騎「バカか。オレにそんな権限があると思うのか? ただでさえ由佳にあれこれ言われっぱなしでな、
これ以上、アイツの小言なんてゴメンなんだよ。それに、新装備の改良もあるし、忙しいんだよオレは
」
エッジ「オメーな・・・・・」
悠騎「ゼドさんが言ったろ・・・バサラが戻ってくるのは、アイツ自身が決めることだって」
そう告げた悠騎の目は真剣みを帯びていた。
彼らが南極大陸の異変の報を受けたのはそのすぐ後のことであった。
§
=コスモ・フリューゲル=
ミキ「コスモ・フリューゲルも地球へと降下します! 各員は大気圏準備してください!」
本日付で滝本ミキは、コスモ・アークからコスモ・フリューゲルに転属となった。
元より同じG・K隊なので、たいした異動ではないが、これには理由がある。
神「悠騎くんの新装備の剣を滝本くん側で制御することで安定させるか・・・・・・
それほどまでにコントロールが難しい兵器なのかね?」
ミキ「えぇ、レイリーちゃ・・・・いえ、ウォン開発主任によるとDエネルギーの出力が高すぎて、
通常だとぐにゃぐにゃ状態になって全く剣の形にならないそうです」
神「火星で見た最初の状態だな。だが、途中からは多少マシになった。剣・・・・というよりは
よくしなるムチという表現が近いが」
ミキ「えぇ、だから常にそんな感じになるよう、私がここから先輩のD・O・Dブレード・・・・・いえ、
“シューティングスター・ブレード”の出力調整をするんです」
神「シューティングスター・ブレード?」
なんだね、それは? と、怪訝な顔をする神に、ミキはなんとなく気まずそうな顔をする。
ミキ「えっと、最初はDブレード・SS(シューティングスター)って、名前だったんですけど、
先輩がそれを聞いて、「語呂が悪い!」って、言って・・・・・」
神「それでシューティングスター・ブレードか・・・・・ま、彼の機体だ。彼の好きにすればいいだろう」
そう言っている間に、降下艦隊は地球への大気圏に突入した。
174
:
蒼ウサギ
:2009/01/08(木) 01:07:03 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=機動要塞シャングリラ 研究室=
ヴィナス(さて・・・・・また南極でなにやらパーティーがあるようですね。ですが・・・・・)
と、少々名残惜しそうにヴィナスはその場を後にした。
一人の男を連れて。
§
=機動要塞シャングリラ ザオス自室=
ザオス(ついにプロトデビルンが動いたか・・・・・)
自分の机の椅子に座し、何かを思いながらザオスは目を伏せた。
その時、自室のドアが開く音が思考を邪魔する。
ザオス「呼び出し音くらいは鳴らして欲しいものだな」
ヴィナス「これは失礼しました。何かに耽ってらっしゃいましたか?
想い出にでも?」
ザオス「まさかな・・・・・」
冷徹に言い放つが、上着の懐にしまわれている写真をヴィナスは知っている。
全く・・・・・
ヴィナス(あなたは甘いのですよ)
内心でヴィナスは軽蔑しながらゆっくりと近づく。
ヴィナス「グラドス軍の降伏しましたが、今度はプロトデビルンが本格的な活動を開始した・・・・・・・・」
ヴィナスがザオスの机に密着する。
ヴィナス「“また”この世界は失われてしまうのでしょうかね?」
また?
ザオスは、ヴィナスの台詞に不自然なものを感じた。
ザオス「死と新生ならば幾度となく起こっているだろう?」
あぁ、やはりこの人は分かっていない。
この世界はね・・・・・・
ヴィナス「いや、忘れてください。それより、マルス様はどうしていらっしゃいますか?」
ザオス「ミスティが楽園室で見ている」
ヴィナス「フッ、最近はずっと彼女にベッタリですね」
ザオス「きっと“失われた世紀”での僅かながらの思い出が残っているのだろう。
当時は赤子だから当然、記憶すらないが・・・・・」
ヴィナス「感覚・・・・という奴ですか母親に抱かれると不思議と落ち着くのと同じですね。
ですが、ミスティさんはマルス様の母親ではないでしょう」
ザオス「それでも、同じ時を生きた者同士・・・・・安心するのだろう」
口が綻ぶザオス。
同じ時を生きた者同士、ですか・・・・・
ヴィナス「残念ながら、あなたと私では、それは当てはまりませんね」
ザオス「?」
一瞬、ザオスには何のことか分からなかったが、次の瞬間には銃声が鳴っていた。
殴られた痛み・・・・・なんか感じるよりも前に意識がなくなり、すぐに目の前に銃を構えた
ヴィナスの姿が消えた。
ヴィナス「さよならです。シェイド・クラインライト隊長」
冷徹に告げ、銃を降ろした後、踵を返してドアを開ける。
そこには殺したばかりの彼が立っていた。
ヴィナス「これからよろしくお願いします。ザオス様」
ヴィナスは、薄ら笑みを浮かべながらザオスのクローンに向けて挨拶をした。
175
:
藍三郎
:2009/01/08(木) 21:10:54 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=地球 北大西洋海域=
何処へ向かおうとしているのか、海上を高速で飛行するシビル。
その進路上に、二体の巨大な怪物と青白い機体が立ちはだかる。
ガビル「見つけたぞ!シビル!!」
ゲペルニッチの命を受け、シビル抹殺に動いたガビル達だった。
ガビル「バルゴ!貴様はそこで大人しく見ていろ!やれグラビル!!」
グラビル「グガァァァァァァァァッ!!!!」
グラビルの掌が推進するシビルの前に壁となって立ちはだかる。
普段のシビルならば容易くかわせるはずなのに、
今はまるで意思など無いかのように直進一辺倒となっていた。
そのせいであっさりと捕まえられてしまうシビル。
しかし、グラビルといえど、同じプロトデビルンであるシビルを握り潰す事は叶わない。
その代わりに、腕からシビルのスピリチアを吸引する。
グラビル「グロォォォォォォォォォッ!!!」
ガビル「いいぞグラビル、スピリチアを吸い尽くして、
未来永劫目覚める事の無い永劫の美を見せてやれ!!」
しかし、幾ら吸ってもシビルのスピリチアは尽きる事がなかった。
バルゴ「なるほどシビル、スピリチアで溢れておる。魂消た奴よ」
マスク状の顎を三つに割って喋りながら、バルゴは腹部を展開する。
腹部に輝く逆五芒星から、ピンク色の使い魔が放出される。
それらはグラビルの援護をするかと思いきや・・・
グラビル「グガアァァァァァァァァァァッ!!!」
使い魔たちはグラビルの巨躯に纏わりつき、スピリチアを吸収する。
弱ったグラビルは、手からシビルを離してしまう。
ガビル「邪魔をする気か!ただでは済まんぞ!」
バルゴ「どけ。貴様達には荷が重い」
ガビル「そもそも貴様を呼び覚ましたのが間違いだった!!」
仲の悪い者同士、こうなるのは必然だったのかもしれない。
一触即発の雰囲気が漂う中・・・・・・
ギギル「シビルゥ――――――――――――ッ!!!」
ギギルのエルガーゾルンが、高速で接近してくる。
ガビル「何だあいつは!!」
バルゴ「この波長、ギギルの寄り代か」
ギギル「貴様らぁ!!シビルに何しやがんだぁぁぁぁぁぁ!!!」
血走った眼で、三体の同胞を睨みつけるギギル。
ガビル「勝手に任務を放棄した役立たずが何を今更。いいか、教えてやる!!
ゲペルニッチ様より、シビルの抹殺命令が下ったのだ!!遂行美!!」
ギギル「ゲペルニッチが・・・だと!?」
バルゴ「そういう事だ。大人しくそこで私がシビルを始末するのを見ていろ」
ガビル「ふざけるなっ!貴様などに手柄を渡してたまるか!名誉美!!」
ギギル「・・・ふざけてんのは、てめぇらだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
激昂したギギルは、マイクロミサイルを乱射する。
ガビル「な、ギギル貴様!」
ギギル「これであの野郎の腹が分かったぜ・・・
シビルを抹殺だと・・・させてたまるかよ!!」
ガビル「ゲペルニッチ様に逆らう気か!!」
ギギル「ゲペルニッチがどうしたぁ!!
シビルに手を出す奴は、誰だろうと許さねぇ!!」
ガビル「ふん、反逆など、美しくないぞ、ギギル!!」
バルゴ「裏切り者には死あるのみだ」
腹部から黒い風を放つバルゴ。
漆黒の竜巻は、ギギルのエルガーゾルンを飲み込み、機体をズタズタにする。
ギギル「ぐあああぁぁぁぁぁ!!!」
それでも何とか竜巻から離脱し、バルゴにミサイルを放つ。
バルゴ「むぅ・・・!」
ギギル「シビルを守るためにも・・・やられてたまるかよぉ!!」
バルゴ「ならばこれでどうだ!」
今度は使い魔を発射するバルゴ。
通常兵器では破壊しても複数の個体に分裂するだけで決して倒せない厄介な生物だ。
しかし、ギギルのエルガーゾルンはミサイルではなく、
頭部のスピリチア吸収ビーム砲を放つ。
夜空を切り裂く閃光を浴び立つ使い魔たちは、呆気無く消滅していく。
バルゴの使い魔もまた、バルゴ自身のスピリチアによって生み出された存在。
ならばそのスピリチアを吸い尽くされれば、存在を維持できなくなるのは当然の理。
バルゴ「な、我が使い魔たちが・・・」
ギギル「ふん!!何十万年の付き合いだと思ってやがる!!
てめぇらの手の内なんざ全部お見通しなんだよ!!」
176
:
藍三郎
:2009/01/08(木) 21:18:04 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
グラビル「グガァァァァァァァァッ!!!」
続けてグラビルも仕掛けようとするが、ガビルはそれを制止する。
ガビル「待て、グラビル。
ギギルのあの姿、あれはあれで美を感じる。
献身美という奴だ。我らはシビルを追うぞ」
ガビルの眼は、グラビルの拘束から解き放たれたシビルを睨んでいた。
ギギル「させねぇぞぉっ!!!」
エルガーゾルンのミサイルが、ザウバーゲランに降り注ぐ。
ギギル「シビルは誰にも渡さねぇ!!」
ガビル「ちぃ、見逃してやろうと思えばつけ上がりおって!!」
スピリチアスパーク砲を放つザウバーゲラン。
ギギルは素早くそれを回避するが・・・
グラビル「ガアアァァァァァァァァァァッ!!!」
ギギル「ぐがっ!!!」
グラビルの爪がエルガーゾルンを掠める。
グラビルの巨体の前では、かすり傷ですら馬鹿に出来ない損傷となる。
ガビル「せめて美しく散るがいい!!有終美!!」
トドメを刺そうとするガビルだったが・・・
バサラ「おおおぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
真っ赤なバルキリーがギギルに半ば体当たりする形でその場から押し出す。
それによって、ギギルはガビルのスパーク砲から逃れることができた。
バルゴ「奴は!!」
ガビル「アニマスピリチア!!」
ギギル「貴様、アニマスピリチア!!」
バサラ「どうした、仲間割れかぁ!!」
ギギル「てめぇには関係ねぇ!!」
バサラ「さっきからてめぇだのアニマなんたらだの・・・
俺には熱気バサラって名前があんだよ!」
ギギル「てめぇなんぞ名前で呼ぶ価値はねぇ!!」
助けられておきながら悪態を連呼するギギル。
バサラ「へっ、勝手にしろ。それより、シビルを追うぜ」
ギギル「そうだ・・・シビル―――――――ッ!!!」
シビルは再び意思のないまま前に向かって進み続けている。
バサラとギギルの両機はこれを追う。
ガビル「これは何と言う僥倖美!
シビルに加えてアニマスピリチアまでも現れるとは!!」
グラビル「グガァァァァァァァァァァァッ!!!」
バルゴ「アニマスピリチアを捕らえれば、ゲペルニッチ様もお喜びになろう!」
シビルを追う二機に、一斉に襲い掛かる二体と一機。
降り注ぐミサイルとビームに、二機は避けるのが精一杯だ。
反撃を試みようとするギギルだったが・・・
ギギル「くそったれ!!弾切れか!!」
これまで何の補給も受けずに動かし続けてきたのだ。
弾薬が底をつくのは当然の事だった。
ガビル「万事休すだなギギル!観念美!!」
ザウバーゲランのマイクロミサイルがギギルとバサラを襲う。
ギギル「ちっ・・・てめぇ!何で歌わねぇ!!」
バサラ「・・・・・・!!」
ギギル「知ってんだぞ!!あいつらがてめぇの歌で逃げ帰った事をな!!
いつもみてぇにやればいいじゃねぇか!!」
気に喰わない事この上ないが、バサラの歌の効力はギギルも認めざるを得なかった。
ましてこの窮地ではそれが唯一の命綱といってもいい。
バサラ「うるせぇ!!俺は歌いたい時に歌うんだよ!!」
ギギル「何だとぉ・・・!」
バサラ「どいつもこいつも俺の歌を何だと思ってやがる!
俺の歌は・・・俺の歌は・・・!」
ギギル「知るかよ!!」
悩むバサラを一喝するギギル。
ギギル「てめぇの歌なんぞわかりたくもねぇ!
わかってんのは、てめぇがうじうじしてやがるだけの腰抜けだってことだ!!
バサラ「何・・・!」
ギギル「てめぇに期待した俺が馬鹿だった・・・・・・」
その時、ギギルは瞳を驚愕で塗り潰す。
ギギル「シビル!!」
バサラ「!!」
177
:
藍三郎
:2009/01/08(木) 21:21:28 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ここで、シビルに異変が生じた。
これまで脇目も降らず飛んでいたシビルが、突如動きを止めたのだ。
そして、そのまま緩やかに海面へと落下していく・・・
バサラ「シビル――――――ッ!!!」
慌ててシビルを追いかけるバサラ。
焦りの為か、それとも精神的に余裕が無いためか。
それは普段の彼からは考えられないほどに隙だらけの行動だった。
これを、パイロットとしても高い技量を誇るガビルが見逃すはずは無い。
ガビル「もらったぞアニマスピリチア!!撃墜美!!」
ザウバーゲランのマイクロミサイルが、ファイヤーバルキリーの背後を狙い撃つ。
だがその刹那、ギギルのエルガーゾルンが
割って入り、代わりにミサイルをその身に受ける。
ギギル「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
バサラ「な・・・・・・っ!?」
絶句するバサラ。エルガーゾルンは撃墜こそ免れたものの、
ほとんど戦闘不能なまでに破壊され、コクピットも破壊されてむき出しになっていた。
バサラ「お前・・・・・・」
ギギル「ちぃ・・・ドジしやがって!手間かけさせんじゃねぇ!!」
頭から血を流しながら、吼えるギギル。
バサラ「何で俺を助けたりした!!」
ギギル「うるせぇ!助けた覚えはねぇ!
シビルを目覚めさせるのにてめぇを使うんだよ!!
用が済んだらぶっ殺してやる!心配すんな!!」
バサラ「何言ってやがる・・・シビルはお前が目覚めさせただろ・・・」
顔をうつむかせるバサラ。
結局、自分の歌ではシビルを目覚めさせる事はできなかった。
その無力感が、今のバサラの自信喪失に繋がっていたのだ。
ギギル「バカが。シビルはまだ目覚めてなんかいねぇ!!」
バサラ「何・・・・・・?」
ギギル「ありゃただ動いてただけだ・・・
見ての通り、すぐに眠っちまってる。
俺じゃ結局シビルを助ける事はできなかった・・・
いいか!もうお前しかいねぇんだよ!!わかりやがれ!!」
バサラ「・・・・・・!」
バルゴ「しぶとい奴らよ。ならばシビルからだ!!」
使い魔を放つバルゴ。
動かなくなったシビルはもはやただの的でしかない。
無数の使い魔がシビルに群がっていく。
ギギル「な・・・シビル――――――ッ!!!」
すぐさま助けに行きたいが、大破したエルガーゾルンではそれも叶わない。
バサラ「・・・・・・」
ドクン・・・・・・
心臓の鼓動が跳ね上がる。
ガビル「ふははははは!!己の無力さをたっぷりと味わうがいい!絶望美!!」
ドクン・・・・・・
全身を血が駆け巡り、体中が熱くなる。
ギギル「くそ・・・シビル・・・シビル・・・・・・!!」
ドクン・・・・・・
今迄押し込められてきたものが・・・
“出してくれ”と体の奥で叫び続けていたものが・・・
迸る激情と共に、今、解き放たれる。
178
:
藍三郎
:2009/01/08(木) 21:23:47 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
バサラ「POWER TO THE DREAM
POWER TO THE DREAM」
ギギル「!?」
バサラ「POWER TO THE MUSIC
新しい夢が欲しいのさ」
バルゴ「これ・・・は・・・!?」
虹色のサウンドウェーブの波が、
ファイヤーバルキリーを中心に広がって行く。
シビルに纏わりついていた使い魔は、瞬時に消し飛んだ。
バサラ「POWER TO THE UNIVERSE
POWER TO THE MYSTERY
俺たちのパワーを伝えたい」
圧倒的なサウンドとヴォーカル。
燃え盛る炎のような歌声とは対照的に、
周囲のプロトデビルン達は全て動きを止めた。
バサラ「やっと掴んだ希望が 指のすきまから逃げてく
ブラックホールの彼方まで ずっとおまえを追いかけてく」
ガビル「アニマスピリチアの力か・・・だ、だが、これは・・・!?」
グラビル「グロァァァァァァァァ!!?」
バサラの歌を聴くたびに、体中から湧き上がってくる原因不明の感情。
今回のそれは、いつもよりもさらに激しいものだった。
バサラ「POWER TO THE WORLD
POWER TO THE LOVERS
本当の愛が見たいのさ
POWER TO THE RAINBOW
POWER TO THE FUTURE
あきらめたらお終いさ」
ギギル「ふ、ふははははは・・・ははははは!!
そうだ!それでいい!!それでいいんだよ!!熱気バサラァ!!」
バサラの歌によって呼び起こされる謎の感情。
ギギルにはずっとその意味が分からなかった。
気持ち悪いとさえ感じていた。
だが、今ならばはっきりと分かる。
全身の血が沸騰するような衝動、心が波打つような激情。
その感情が何なのか、理性で認識するよりも先に・・・・・・
バサラ「輝くすい星の軌跡が メロディーにソウルを与える
人は1人じゃ生きられない 愛する誰かが必要さ yeah!」
ギギル「ぱわーとぅざどりーむ!ぱわーとぅざどりぃぃぃむ!!」
ギギルは自分から歌い始めていた。
高まった激情が、ギギルを自然とそうさせていたのだ。
ギギル自身にも何の違和感も無い。
魂の望むまま、力の限り歌い続ける。
そんなギギルを、バサラは好ましげに見、負けじと更に声を張り上げる。
バサラ「OH POWER TO THE DREAM
POWER TO THE MUSIC
COME ON!
FEEL THE POWER
FROM YOU & ME YEAH!!」
179
:
藍三郎
:2009/01/08(木) 21:24:25 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ガビル「恐怖美、嫉妬美、感傷美、憤怒美、激昂美、優越美・・・
この感覚、私の知る如何なる美にも当てはまらぬ・・・!!」
バルゴ「アニマスピリチア・・・これほどのものとは!!
そしてギギル、お前に一体何が・・・!?」
ギギル「ぱわーとぅざどりーむ!!ぱわーとぅざどりーむ!!」
バサラのみならず、ギギルの歌もまたプロトデビルンたちに影響を与えていた。
二人の声が組み合わさり、サウンドウェーブはますます輝きを強めて行く。
バサラ「POWER TO THE UNIVERSE
POWER TO THE MYSTERY
COME ON!
FEEL THE POWER
FROM YOU & ME OH・・・」
二人が生み出すあらん限りの情熱は、ついに眠れる少女を揺り動かす。
シビル「バサラ・・・・・・・・・!」
シビルの目蓋が大きく開かれる。
その瞳は、かつてのシビルと何ら変わりない・・・
いや、その時以上に熱い感情の炎を点していた。
バサラ「シビル!!」
ギギル「シビル―――――ッ!!」
シビル「コォォォォォォォォォォォォォ―――――――――!!!!!!」
シビルを中心として、全てを包み込む光の渦が発生する。
ガビルもグラビルもバルゴも、成す術なくそこから弾き飛ばされる。
海は揺れ、大地は轟き・・・天を貫く巨大な光の柱が屹立する。
カヲル「いい歌だ・・・心に染み渡っていく」
その光景を、銀髪の少年はいずこかから見つめていた。
距離も時間も越えて、その歌声は少年の心を打った。
カヲル「七色の歌を歌うリリンの歌い手・・・
始祖が生み出した災厄を、久遠の牢獄へ追放せし者・・・
だけど、僕にはそれとは違った未来が見えるよ。
熱気バサラ・・・運命すらも、君を縛る事は叶うまい。
どこまでも歌い続けてくれ、魂の望むままに・・・・・・」
この謎の発光現象は、統合軍の記録に残る事はなかった。
しかし・・・その直後、北大西洋海域に未知の巨大遺跡が浮上する。
この遺跡こそ、世界の行く末を左右する、運命の分岐点となるのだった・・・
180
:
はばたき
:2009/01/15(木) 21:45:56 HOST:zaq3dc05ec5.zaq.ne.jp
=コスモ・アーク=
医務室への扉を開こうとして、躊躇する。
中に人の気配を感じたからだ。
十中八九、アイだろう。
ここ最近、艦の運行を一手に任されて以来、働き詰めだろうに、甲斐甲斐しい限りだ。
アイラ「全く・・適わないな」
扉にぽふっと背を預けて、天井を仰いでアイラは誰に聞かせるでもなくそう呟いた。
§
女生徒1「知ってる?今日の模擬戦の担当官」
女生徒2「知ってる知ってる。
紫藤先輩でしょ?あの秀才の」
女生徒1「そうそう、あの若くして、引き抜きの隊長連中に混じってゼファーシリーズも任されたって」
女生徒2「トップガンだよねぇ。やだぁ、憧れちゃうなぁ」
黄色い悲鳴にも似た女生徒連中の噂話。
その日、模擬戦の監督役選ばれたには、組織の屋台骨を支える指揮官達や、叩き上げの退役軍人達ではなく、彼女らと同じカレッジ出身の卒業生。
若くして、艦長職まで任されようとの噂も名高いエースパイロットだった。
女生徒1「ここでいい成績残したら、先輩のお眼鏡に適っちゃったりするのかなぁ?」
女生徒2「そしたら先輩の部隊に配属?」
女生徒1「俄然、張り切っちゃうよねぇ」
そんな会話を、何をバカな、と当時のアイラは聞き流していた。
何処に配属されようと変わらない。
常に自分のベストを尽くすのが、軍人の役目というものだ。
砂塵が舞い上がる。
脇を掠める銃弾を、ミリ単位で避けて、返す刃で目の前のターゲットに振り下ろす。
だが
アイラ「くっ・・・!」
完全に捉えたと思った攻撃は、しかし、相手の急激な旋回運動によって、此方もコンマ数秒の差で避けられてしまう。
急ぎ次のマニューバをと、機体を動かすアイラだったが、時既に遅く、コクピットにターゲットされた事を告げるアラートメッセージさえ鳴らせることなく、撃墜を告げる赤いランプがコクピットを照らした。
アイラ「ふう・・・」
実技講習を終え、コクピットから出たアイラは軽く息を付いた。
全く、噂には聞いていたが、大したものだ。
同期相手には負け知らず・・・・否、一人だけやたらと食い下がってくる相手がいて、そいつとは未だに10戦2勝2敗6引き分けという結果が出ていたが、兎に角入学以来、決定的な敗北を知らずにいたアイラにとって、その相手は正に上には上がいる、という事を教えてくれるには十分すぎる存在だった。
多少は鼻に掛けていた自身も、見事に粉砕してくれて、いっそ清清しいくらいだ。
そんな時だ。
彼女に冷えたドリンクポットを彼が差し出してきたのは。
トウヤ「丁寧な操縦だね」
それが、今さっきまで相手をしてた模擬戦の相手と気づくまでに、数秒を要した。
柔和な顔つきは、激しい格闘戦を得意とする戦闘スタイルとは対極のような気がしたから。
トウヤ「かなり離れしている。
どこかで訓練を?」
アイラ「は、はい!養母に、手ほどきを受けた、程度ですが・・・」
トウヤ「そうか、きっといいお母さんなんだろうね。
今年は凄い新人が二人いるって聞いてたけど、君がそうなのかな?」
アイラ「い、いえ、そんな・・・私は・・・・」
柄にもなく緊張したのを覚えている。
しどろもどろになったのなんて、何年ぶりだったろうか?
数分程そうやって話をしたろうが、何を話したやら、今でも良く覚えていない。
それ位、目の前の相手は刺激的だった。
程なくしてカレッジを卒業して、何度か顔をあわせるようになってからは、ますますその印象を強くした。
温厚で誠実、それでいながら戦場では静かに燃えるような気性を垣間見せる。
出来た人間性、誰にでも分け隔てなく接するその姿勢。
憧れた。
あんな風になりたいと思ったのは、これで二人目だった。
その背中を追い求めて、自分を磨き続けた。
いつか追いつくため、彼のようになりたいと思ったから・・・
181
:
はばたき
:2009/01/15(木) 21:46:39 HOST:zaq3dc05ec5.zaq.ne.jp
§
ふと、物思いに耽っていた自分に気づいて、アイラは壁から背を離した。
随分と懐かしい記憶に浸っていた気がする。
それを思い出して、アイラは医務室のドアに一礼した。
アイの感情とはまた違うだろうが、自分もあの人には強い想いがある。
その背を見つめ続けていたのは、彼女も同じだから。
誰にも、それこそエレにも教えていない、憧憬の念。
アイラ「先輩・・・・私もアイもこうして待っています。
どうか、早く戻ってきてください。
それまで・・・」
それまでは、と言い掛けて、その口が止まる。
ゼルが逝った。巽が死んだ。そしてトウヤも倒れた。
今この世界にいるG・Kの面子で最年長者は自分だ。
自分が皆を守らねば、皆を引っ張らねば。
トウヤの代わりにリーダーとして、彼らを導いていかなくては・・・・
だが、現実はどうだろう?
ここ最近の戦い、アイラは皆の後塵を拝してばかりだ。
特に火星では、悠騎を前に散々な醜態をさらした。
遅れを取っている、その事実が否応なく彼女に重責として圧し掛かる。
ギリと、我知らずに拳を握り締める。
見舞いの花が、ぽきりと折れる。
強くならねば。
もっと強く、より強く。
誰にも負けないくらいに・・・・!
アイラ「そう、負けられない・・・」
負けられない、敵にも“味方にも”。
誰にも、皆を引っ張るのは自分の役目だ。
その為にも負けられない、特に“悠騎(あいつ)”には―――!
瞳に揺らぐ暗き情念。
その想いが摩り替わっていくのに、彼女はまだ気づいていなかった。
182
:
蒼ウサギ
:2009/01/16(金) 21:35:17 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
シティ7の最新医療設備でも、トウヤの回復に進展はなかった。
だが、ある時、Dr.千葉がこう提案したという。
「歌の力に賭けてはみませんか」と。
それも音楽ディスクから聞こえるものではなく、生の歌を。
そして、白羽の矢が立ったのが「FIRE BOMBER」であり、「サウンド・フォース」である。
そうなるとやはり戦場であった。当然、担当医共々、アイは反対した。
統合軍艦隊とG・K隊の連合軍はかなりの戦力を誇るが、それでも危険には変わりない。
だが・・・・・・このまま目覚めないトウヤを見るだけの日々もアイは辛い。
最終的にアイは、トウヤをシティ7からコスモ・アークへの移送を許可した。
僅かな可能性であっても、決してゼロではないと信じて・・・・・・。
アイ「艦長・・・・・・」
名残惜しいがそろそろ行かなくては、とアイが立ち上がろうとしたその時、
降下中の青い星から不思議な光が昇ってくるのが窓から見えた。
アイ「これは・・・・・・」
艦長代理として、すぐにブリッジと連絡をとり状況を確認しようと部屋に備え付けられている通信機に
手を伸ばそうとした、まさにその時だった。
歌が、聴こえてきた。
微かで、歌詞など全く聴こえないが、それはすぐ近くで確かに聴こえる。
アイはブリッジとの連絡も忘れて振り返った。
そして、衝撃を受けた。
微かだが、動いているのだ。
倒れてから今まで人形のように動かなかったトウヤの口が、
ゆっくり、ぎごちなく
“POWER TO THE DREAM”
と・・・・・。
§
=コスモ・フリューゲル=
由佳「この光・・・マクシミリアン艦長! この光は!?」
血相変えて由佳は、急ぎバトル7と回線を繋ぐが、マックスも似たような様子だ。
マックス『こちらも調査中だ。とりあえず今は降下することに地球圏に専念しよう。
あの光の出所は・・・・・・おそらく南極、丁度降下地点だな』
由佳「南極・・・・・」
またか、と由佳はあの場所で運命めいたものを感じた。
そして、同じこともマックスも思っていた。
セカンド・インパクト発端の場所。
由佳たちの世界では、ワールドエデンとの激戦した場所。
アルテミスに大敗した場所。
数々の出来事がかの場所で起きている。
由佳「今度は何が起きるのかしらね?」
由佳は、思わず薄ら笑みを浮かべた。
183
:
蒼ウサギ
:2009/01/16(金) 21:35:52 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
コスモ・フリューゲルの格納庫で、悠騎は愛機の最後の点検をしていた。
悠騎「よし、バーサーカー・メイルとの接続も完璧だ」
バーサーカー・メイルを装備した、ブレードゼファーを見上げて悠騎は満足した表情を浮かべる。
便宜上、「ブレードゼファー・強襲型」と名付けられたそれは自分が設計したものだけに、
それなりに思い入れがあるものだ。
ふと、そんな時、話し声が聞こえてきた。
リュウセイ「地上か・・・・・なんか懐かしい気がするな。最後にいたのはいつだったけ?」
キョウスケ「・・・・・・・南極だ」
リュウセイ「あぁ、あの<アルテミス>との戦いか・・・・・・あれでトウヤさんが・・・」
アヤ「リュウ!」
リュウセイの失言を、アヤが即座に遮ったが少し遅かった。
振り向いてはいないが、リュウセイが近くにいる悠騎の存在に気づいてしまったのだ。
一気に場の空気が悪くなる。
あの戦いは、いわば悠騎にとってのトラウマ。トウヤ負傷の原因も未だに自分だと思っている。
リュウセイ「わ、わりぃ、悠騎・・・・・・オレ」
悠騎「気にすんなって」
悠騎は、軽い調子でそう言った後、一人その場を後にした。
ゴンッ!
通路の壁に思い切り拳を叩きつける悠騎。リュウセイへの失言への怒りではなく、あの時の自分への怒りに
悠騎「ヴィナス・・・・・・そして、マルス・コスモ、次、会った時は、負けねぇ・・・・・」
絶対に!
堅く心に誓った悠騎の耳に突如、緊急コールが鳴り響く。
直後に流れる艦内放送。
アネットの声だった。
アネット『総員第二種戦闘配置です! なお降下地点より謎の発光現象あり!
出撃するパイロットは充分警戒してください!』
悠騎「発光現象だって・・・・・・」
ただごとではない。
そう直感した悠騎はすぐに格納庫へと戻った。
184
:
藍三郎
:2009/01/19(月) 23:17:02 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
これは・・・“あの事件”が起こる数ヶ月前・・・
上海の伝説的暗殺一家・白家の総本山、黄聖殿にて・・・
「ろ、老師!!」
一人の若者が血相を変えて奥の院に入ってくる。
「何事だ・・・・・・?」
100歳は優に越えているであろう
皺まみれの老人が、しゃがれた声で返事する。
「た、大変でございます!
宝物庫が破られ、白家の秘宝が盗まれました!!」
もう一人の弟子が続ける。
「下手人は、深虎と思われます!
只今、白豹様達が追跡及び奪還に向かっておりますが・・・」
「・・・・・・・・・」
「老師・・・?」
弟子は、さして驚きもせず、黙ったままの老師を不信に感じたが・・・
「わかった。こちらでも手を打つ・・・お前達も深虎の追跡に当たれ」
「はっ・・・!!」
「貴方の預言通りになりましたな・・・大老師」
「ええ・・・残念ながら、この出来事は必然・・・
そして、こちらが手を尽くそうとも、
秘宝は“邪悪なる意思”の手に落ちてしまうでしょう」
「邪悪なる意思・・・ドクーガなる組織の長か」
「その者は、次元が乱れる隙を突いて、異なる世界に飛ぼうとするでしょう。
私もそれを追って、次元の狭間に向かおうと思います。
世界の滅びを食い止めるには、奴が秘宝を使う、一瞬の好機に懸けるしか・・・」
「済まないのう・・・これも我ら白家が至らぬばかりに・・・
深虎の、利己的な本性を知っていながら・・・」
「弟子を信じる貴方の親心を責める事はできません。
それに、全ては定められた流れ。
彼がやらなくても、何らかの手で秘宝は失われていた。
今は我々ではどうする事もできません。
時を・・・運命が変転する時を待つしか・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
=地球 海上=
彪胤「・・・・・・・・・」
大臨亀皇の内部で、彪胤は遠き過去を思い出していた。
いや、己の生きた時間の長さに比べれば、ほんの刹那に等しいひと時だ。
それでも・・・あの場所で過ごした人間らしい日々は、
今でも彼の記憶にしかと残っている。
彪胤「!この波動は・・・!」
彼の霊感に、巨大な感情の流れが入り込んできた。
地球全てを埋め尽くすような、熱き感情の爆発。
そして彼は目撃する・・・
空に向かって聳え立つ、輝く光の柱を・・・
彪胤「ついに始まったか・・・急がねば・・・・」
進路を光の柱へと向ける彪胤だったが・・・
彪胤「!!?」
己の身体に違和感を覚えて、彪胤は自分の左手を見る。
その手は、7,80歳の老人の手のように皺まみれになっていた。
彪胤「・・・ついに来たか・・・
この姿で力を発揮できるのも・・・後わずかしかないか・・・」
自身の宿命を悟りつつ、大臨亀皇を目的の地へと向かわせる。
しかし・・・
付近の海上に、時空の歪みが発生する。
やがてそれは、空中に赤い亀裂を刻み込む。
不気味に胎動する赤い次元の裂け目からは、
無数の異形が次々と姿を現していく・・・
彪胤「奴らもあの遺跡に向かうつもりか・・・
ここは私が足を止めるしかないな・・・
遺跡の封印を解くのは、一先ず彼らに任せるしかあるまい・・・」
185
:
藍三郎
:2009/01/19(月) 23:20:25 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=南極大陸 ゲペルニッチ艦=
ガビル『申し訳ありません、ゲペルニッチ様・・・
シビルの生み出した光で、この星の外まで放り出されてしまいました』
シビルが目覚めた際に発した光に呑み込まれたガビルは、
グラビルやバルゴともども宇宙空間まで吹き飛ばされていた。
ガビル『それもこれも、バルゴの奴が私の足を引っ張ったが為・・・』
ゲペルニッチ「失われた時は戻らぬ」
ガビルの釈明に対し、ゲペルニッチはただ一言返すのみだった。
ゲペルニッチ「気になる・・・
ギギルとシビル、あの二人に何かが起ころうとしている。
これもアニマスピリチアが原因なのか・・・気になる・・・」
バロータ兵「ゲペルニッチ様。
先ほど戦闘が行われた海域に、未知の建造物が出現しております」
ゲペルニッチ「この遺跡は・・・!」
モニターに映し出された遺跡を見て、ゲペルニッチの顔色が変わる。
五つの角を持つ、薄紫色の星型の遺跡・・・
ゲペルニッチ「夢は実現させねば意味が無い。
ガビル、バルゴ。ただちに地上に戻り、この遺跡を破壊せよ」
ガビル『かしこまりました。今度こそ、挽回美!!』
=地球 バトル7=
一方・・・地球に降下したバトル7も、
海中から浮上した遺跡を目の当たりにしていた。
マックス「何だこれは・・・建造物のようだが・・・」
エキセドル「おお・・・あれはまさしく・・・・・・」
遺跡の全貌を目の当たりにしたエキセドルは、感嘆の声を上げる。
マックス「知っているのか、エキセドル参謀・・・」
ここで、エキセドルは思いもよらぬ提案を口にする。
エキセドル「艦長。私をあの遺跡に連れて行ってください」
マックス「君がそんなことを言うとは、珍しい・・・」
エキセドル「何かを感じるのです・・・あの遺跡から・・・」
マックス「それは、プロトデビルンに関係しているのか?」
エキセドル「恐らく・・・・・・」
エキセドル自身も詳細は知らない・・・
だが、体を流れるゼントラーディの血が、彼をあの遺跡へと誘っていた。
マックス(このまま南極に向かっても勝算はゼロに近い・・・
少しでも、彼らに関する情報が必要だ・・・)
マックス「よし、これよりバトル7艦隊は、
北太平洋に浮上した謎の遺跡の調査に向かう!」
=北太平洋 遺跡=
遺跡に到着した艦隊は、艦を沿岸部に接岸させた後、
数名の探索志願者たちが上陸する。
その中には、ガムリンやミレーヌ・・・
そして、エキセドル・フォルモ参謀も含まれていた。
探索隊の中でも、やはりゼントラーディ本来の巨体は別格の存在感を放っている。
大半のクルーにとって、エキセドル参謀の
首から下を見たのはこの日が始めてであった。
マックス『エキセドル参謀、そろそろ話してくれないか?
何故、君はあの遺跡にこだわる?
バトル7の就航以来、一度として艦外に出なかった君が・・・
何故、自らの目で遺跡を確かめてみたいと言うのかね?』
エキセドル「ある予感が・・・今はそうとしか言いようがありません」
小型の通信機を使って、バトル7のマックスと会話するエキセドル。
マックス『君はかつてゼントラーディの参謀として活躍し、
数多くの過去のデータも把握している。
海から現れた遺跡に一体何を感じたのだ?』
エキセドル「もしも、私の予測が当たっていたら・・・
我々の・・・そして地球人の謎が解ける重要なデータを入手出来るかも知れません」
マックス『それは・・・』
エキセドル「そうです。人類の祖先であり、我らゼントラーディを創造した・・・
プロトカルチャーと呼ばれている種族・・・」
マックス『プロトカルチャー・・・』
エキセドル「プロトカルチャーは、この地球に人類を生み落としました。
ならば、プロトカルチャーにまつわる遺跡があってもおかしくはない・・・
この遺跡の形状は、私の記憶が伝えるそれに酷似しているのです」
186
:
藍三郎
:2009/01/19(月) 23:22:21 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「思ったより志願者は多いな」
ゼド「何せ、我々人類の祖先が残した遺跡ですからねぇ。
興味を惹かれるのも当然の事かと」
ムスカ「そういうお前は、一番興味ありそうな顔してるよな」
ゼド「ええ。もし本物ならば、学術的な価値も計り知れない・・・
異世界とはいえ、我々も同じ人類・・・全く無関係とは言い切れませんしねぇ」
この世界が、元いた世界と密接に関係しているのは
もはや疑いようの無い事だった。
ゼド「エイジくん、君は来ると思っていましたよ」
エイジ「ええ・・・プロトカルチャーは、
地球人とグラドス人・・・両方の先祖でもありますからね」
レイナ「兄さん、剣狼が・・・」
ロムの腰に差した剣狼が、白く光り輝いていた。
ロム「ああ、地球に降りてから、突然光り始めたんだ。
そして、この遺跡についてから、更に輝きを増し続けている・・・
まるで、俺達をこの遺跡に導いているかのように・・・」
剣狼の柄に手を当てるロム。
内心の興奮と不安を何とか抑えようとしている。
ブンドル「フ・・・我らの遠き祖先が残した遺跡・・・
悠久の時を越えた遺産は、我々に何を語りかけてくるのか・・・」
レミー「何だかこういうアドベンチャーなノリって、
初期のあたしたちの旅を思い出すわね」
キリー「そうだな。グッドサンダーで世界各地を飛び回ったもんだ」
ブンドル「マドモワゼル・レミー。
あの時と違うのは、君と私が肩を並べて共に歩んでいる事だな」
レミー「その言葉以上のあらゆる意味を認めないけどね」
ケルナグール「グハハハハ!こういう遺跡に残されているものと
いえば財宝と相場は決まっておるわい!!」
カットナル「よぉし!必ず財宝を見つけ出してやるぞ!」
キリー「もし見つかったら、山分けな」
ブンドル「・・・この神秘の遺跡内でも、
俗物根性を忘れられぬとは・・・美しくない・・・」
ガムリン「ミレーヌさん、何があるかわからないので、足下に注意してください」
ミレーヌ「わかったわ、ガムリンさん」
ガムリンは調査隊を護衛するための部隊を率いてここに来た。
ミレーヌも、エキセドル同様この遺跡に何かあると感じたのか、同行を申し出た。
ミレーヌ「この遺跡が浮上する前に
凄い光が生まれたって聞いたけど・・・やっぱりバサラなのかしら?」
ガムリン「可能性はありますね・・・あいつなら、もう何をやらかしても不思議じゃない」
しかし、バサラの姿は遺跡のどこにも見当たらなかった。
もしかすると、内部にいるのかもしれないが・・・
ミレーヌ「バサラって、やっぱりあたしたちとは違うのかしら・・・」
バサラの失踪がまだ尾を引いているのか、いつもに比べて元気が無い。
ガムリン「・・・・・・・・」
しばらく進んだ先に、回廊を大きな地鳴りが襲った。
ドリル「うぉっ!何だぁ・・・!?」
それと同時に周囲の壁が下に沈んでいく。
壁の向こうにはまた壁があり、そこには一面絵画が広がっていた。
太陽や星、人や炎、家畜や建物が、独特のタッチで描かれている。
ゼド「エキセドル参謀、この壁画は・・・」
エキセドル「・・・これは、プロトカルチャーの歴史をつづったものですな」
ジム「同じく壁に彫られているのは・・・文字ですかね?」
エキセドル「プロトカルチャー文字・・・」
エイジ「解読できますか?」
エキセドル「ゼントラーディ文字と
文字の構図がほぼ同じですからな。何とか・・・
エッグ・チャータ・デラーダ・エット・プロトカルチャー・・・
【誇り高き我らは、宇宙に生息するあまたの生命体の中で
初めて文化を持った種族である・・・
故に我らは自らをプロトカルチャーと名づけし・・・】」
壁の文字を解読しながら、歩を進めるエキセドル。
187
:
藍三郎
:2009/01/19(月) 23:24:53 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
エキセドル「・・・【我らプロトカルチャーは緑多き大地に生まれ育ち、
小さな集落を形成し、木の実をとり、魚を釣り、平和に暮らしてきた。
やがて鉄器を開発し、農耕器具を作り、田を耕し始めた頃には種族が増え、
領土が二つのエリアに分かれ始めていった。
さらに工業や商業が発達し、
政治経済文化などあらゆる面で交流を持つようになった】」
ゼド「この辺りは、今の人類の文明の進歩と全く同じですな」
エキセドル「・・・【やがて我が種族は宇宙に進出し、
二つの勢力に分かれて争いが起こった】」
ケルナグール「何じゃ、喧嘩か?」
キリー「とてもそんな規模じゃあねぇだろうな・・・」
エキセドル「【そして、戦火は次第に全宇宙に拡大していった。
我が種族は自らの手を汚さず、
相手を倒すべく巨大な戦闘用兵士ゼントラーディを造った】」
エイジ「力には力を。地位が上の者達が、
自分のための戦いを無理矢理他者に押し付ける・・・
これじゃあ、地球やグラドスの辿った歴史と全く同じじゃないか・・・」
ゼド「争いあう事の愚かしさは、プロトカルチャーも変わらぬようですな」
エキセドル「【兵器は次第にエスカレートし、
ゼントラーディ兵士より強力な新たなる兵士エビルを造った。
いつ果てるとも知れぬ長きに渡る戦いは続き、
やがて我らはプロトデビルンによって滅びの道をたどりぬ・・・】」
ガムリン「参謀、私達の祖先を滅ぼしたのはプロトデビルンなのですか?」
エキセドル「・・・この記述を信じるならばそうなりますな」
ゼド「生きる意志を吸い取るプロトデビルンは、
まさに知的生命体の天敵と言えるでしょう」
真吾「で、そのプロトデビルンはどこからやってきたんだ?」
エキセドル「恐らく、この先に手がかりが・・・」
ガムリン「しかし、もう通路は途絶えていますが・・・」
エキセドル達の眼前には、垂直の壁が行く手を阻んでいた。
ドリル「よっしゃ、オイラのドリルで穴を開けてやる!」
ジェット「やめとけ。こういう遺跡は迂闊に壊していいものじゃない」
レイナ「待って!ここにも文字があるわ・・・!」
エキセドル「【平和の証たる者、触れれば扉開かれん】・・・」
ガムリン「平和の証たる者・・・?」
エキセドル「この言葉に何かの鍵が隠されているに違いありませんな」
ミレーヌ「あ、あたしにも見せて下さい!」
ガムリン「あ・・・危ないですよ、ミレーヌさん。尖った部分もありますから・・・」
ミレーヌ「痛っ!」
ガムリン「大丈夫ですか・・・!?」
ミレーヌ「ええ、ちょっと指の先を切っただけですから」
指から散った血が、壁に付着した時・・・
地鳴りと共に、行く手を閉ざしていた
壁が上に開き始める・・・
エイジ「これは・・・!?」
ジェット「か、壁が開き出すぞ!」
エキセドル「おお、デカルチャー・・・!」
188
:
藍三郎
:2009/01/19(月) 23:27:35 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=宇宙空間=
ギギル「うおおおおおおっ!?」
シビル「コォォォォォォォォ――――――ッ!!」
バサラ「すげぇ・・・これが銀河か!!」
シビル、バサラ、ギギルの三人は、光の波動に乗って宇宙を駆け巡っていた。
数多の星々が、瞬く間に視界を通り過ぎていく。
黒い銀河一面に広がるその様は、まるで星屑の洪水だ。
込み上げる感動を抑えきれず、バサラは歌い始める。
シビル「アニマスピリチア!!」
バサラ「ボンバ―――――ッ!!!」
=北太平洋 遺跡=
<平和の証たる者よ・・・>
扉の開かれた先には・・・
茫漠とした光のヒトガタが待ち受けていた。
ミレーヌ「な・・・何、これ・・・?」
カットナル「何じゃ、どんな金銀財宝が眠ってるかと思ったら・・・」
エキセドル「まさか、プロトカルチャー・・・」
ムスカ「!!」
真吾「こいつが!?」
<我はプロトカルチャーの遺せし言の葉を蓄え、
後の世に伝える役目とし、ここに眠るものなり>
エキセドル「どうやら起こしてしまったようですな、これは」
<平和の証たる者、触れれば扉は開き、我を眠りから呼び覚ます者なり>
ガムリン「いったい平和の証たる者とは・・・」
<異種族の血の混じりあいし者・・・>
ガムリン「ミレーヌさん、あなただ!平和の証たる者とは!」
ミレーヌ「え・・・」
エキセドル「なるほど・・・マックス艦長とミリア市長の子、
即ち地球人と巨人族の間に生まれた平和の象徴・・・」
ミレーヌ「あたしが・・・」
<この時が来るのを待っていた。平和を司る者達よ・・・
世界の正と負のバランスが乱れる事で生じた
異次元のエネルギー体が、戦闘兵士エビルに取り憑いた>
ガムリン「エネルギー体・・・」
ミレーヌ「取り憑いた・・・」
レミー「一気に話がSFからオカルトじみてきたわね」
<その異次元のエネルギーは悪魔のような存在となった。
我々はそれをプロトデビルンと呼んだ>
エキセドル「プロトデビルン・・・!」
<プロトデビルンはあらゆる銀河の生き物のスピリチアを奪い取った。
彼らはスピリチアがなければ生きていけぬ存在なのだ>
ムスカ「今と全く同じだな・・・」
<プロトデビルンはあまりにも無造作にスピリチアを乱獲した。
そのためスピリチアを持つ生き物は減少し、宇宙からスピリチアが絶えかけた。
プロトデビルンは生命の源を断たれ、自滅の道を歩まざるを得なかった・・・>
エキセドル「プロトデビルンは自らスピリチアを生み出せぬわけか」
エイジ「だからこそ、他の種族からスピリチアを狩り集める・・・当初の推測通りですね」
<スピリチアを喪失したプロトデビルンは以降、力を弱めた。
さらに、ある神秘なる力がプロトデビルンを封じ込め、長き眠りにつかせた>
ガムリン「プロトデビルンを封じ込めた・・・」
エキセドル「神秘なる力・・・」
<アニマスピリチア・・・・・・>
189
:
蒼ウサギ
:2009/01/26(月) 21:09:46 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
少年は、小高い氷塊に腰掛けて歌を口ずさんでいた。
ヒトが生み出した曲を、熱気バサラが生み出した歌を。
カヲル「“俺達のパワーを伝えたい”・・・・・・か、やはり、彼の歌はいいね・・・・・・」
胡乱な瞳で空を見上げながら渚カヲルは呟く。
その瞬間、彼の周りを黒いモノリスが囲んだ。
委員A「ここで何をしている?」
それを言われ、カヲルの表情が若干陰りを見せた。
カヲル「わからないかい? リリン達は今、大事な局面を迎えている。世界を滅ぼすか、救うか・・・・・・
どちらにせよ、滅んでしまえば、もう、この世界に新生する力は残されていないけどね」
委員B「左様、この世界はすでに失われし世界。だが、何者かの力によって新生された世界」
委員C「だからこそ、我等のシナリオ通りに導かねばならぬ」
委員D「君のこの行動は、我等のシナリオにはない」
知ってるよ、とカヲルは笑いながら告げて、目を伏せた。
そして、こう返す。
カヲル「でもね、いくら死と新生が繰り返されようとも、僕を束縛できる者は誰もいない。
それが僕に与えられた唯一の権利だからね」
それを告げられると、モノリス達は一斉に沈黙した。
その反応に満足したのか、カヲルはフッとまた笑った。
カヲル「でも、今回は君たちのシナリオに従ってあげるよ。・・・・・・いい歌も聴けたしね」
そう言ってカヲルは、少し名残惜しそうにその場に立ち上がり、遺跡の方向を見やった。
§
=遺跡内=
誰もが口々にその神秘的な声に返すように呟いた。
<アニマスピリチア>
という言葉に。
さらに声は続いた。
<近づくプロトデビルンは殲滅すべし。近づくアニマスピリチアは、迎え入れるべし。
アニマスピリチアのある所、すなわち半永世・・・・・・・>
その言葉に誰もが押し黙る中、突如、一同の携帯通信機が鳴る。
第一級警報だ。
アネット『皆さん、大変です! 敵襲です!・・・・・・識別は・・・・・・・バロータ軍、その中にプロトデビルンも確認!
その遺跡へ進行中!』
ゼド「えぇっ!?」
ムスカ「ちっ、やばい知らせだな・・・・・・」
プロトデビルンがいるとなると通常兵器では非効率的だ。
彼等に唯一対抗できるサウンドフォースの要である熱気バサラがいない今、打開策は見出せない。
いや、本当にそうだろうか?
ガムリン「・・・・・・」
ガムリンの目にはミレーヌが映っていた。
190
:
蒼ウサギ
:2009/01/26(月) 21:10:27 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
それはまるで敵襲を予測していたようにアイラ・ガウェインのズィッヒェルシュヴァルベが
すでに戦場でバロータ軍を迎えうっていた。
そして、星倉悠騎のブレードゼファー強襲型も。
悠騎「なーんで姐さんまでいるんだよ?」
アイラ「その言葉、そのまま返してやる」
悠騎「・・・・・・オレはただ、負けたくねぇ奴がいるから、そいつに勝つためにはどうすりゃいいかって考えて
機体のマニューバーチェックしてたら警報がなったんで、そのまんま出撃しただけだ。
ま、由佳には無許可だけどな」
アイラ「・・・・・・・・・・私も同じだ」
奇遇だな、とは言わなかった。
アイラが負けたくない相手が誰なのかも興味があったが、その前に敵はすでに目の前に来ていた。
アイラ「はぁぁぁぁぁっ!!」
悠騎「だりゃぁぁぁぁぁっ!!」
敵陣の真っ只中に飛び込んで、クライングジャッカルⅡを乱射。
自慢の格闘術を駆使して、バロータ軍のパンツァーゾルンを次々に撃破していくズィッヒェルシュヴァルベに対し、
ブレードゼファーは、その大剣たるシューティングスター・ブレードを大振りにし、真紅の刃とそれによって起こる
副作用というべき、“刀身の拡散現象”によって一振りで一気に落としていく。
負けられない!
負けられない!
負けられない!
二人ともそれぞれ思いは違えどその一心だけで戦っていた。
ガビル「なんという鬼神美! だが、遺跡は隙だらけ今だグラビル!」
その掛け声に傍らにいる巨獣が蠢きを上げると共に片手から赤き光を遺跡に向かって放出する。
破壊威力を持った光線だ。
アイラ「しまった!」
悠騎「やべっ!」
だが、その心配は杞憂に終わる。
遺跡が突如、ドーム上の光に覆われ、その光線を阻んだのだ。
だが、それもいつまで保つかは分からない。
アイラは、悠騎へと回線を繋げた。
アイラ「星倉! ここは私がやる! あの怪物を遺跡から可能な限り離せ!」
悠騎「なっ! 待てよっ! まだみんな来てねぇ状況で姐さん一人だけで保つわけねぇだろう!」
アイラ「私を舐めるなっ!」
それを証明するかのごとく、アイラの動きはさらに鋭さを増していった。
スタイリッシュに、ダイナミックに。
より深く敵陣に切り込んでいっては、尽く撃破していく。
悠騎「す、すげぇ・・・・・・っと、こうしちゃいられねぇっ!」
見惚れている場合ではない。
有無を言わさないならば、悠騎はアイラの指示に従うしかなかった。
悠騎「いくぜ化け物! おららぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
勢いよく大剣がグラビルに振り降ろされて、見事直撃するもグラビルは平然としている。
やはり歌以外の攻撃にさほど効果はないようだ。
ガビル「フハハハ! 無駄だ! 今だ、反撃美!」
ガビルのザウバーゲランのミサイル。グラビルの光線が悠騎のブレードゼファーを襲った。
間一髪で避けるも、状況は厳しかった。
悠騎「ちぃ、こりゃ、やべぇな・・・・・・!」
§
=遺跡内=
ガムリン「ミレーヌさん、急いで!」
何を思ったか、ガムリンはミレーヌの手を握って走り出した。
ミレーヌ「え?」
ガムリン「歌うんだ!」
ミレーヌ「だ、だけど!」
バサラの歌が通じても、私の歌があのプロトデビルンに通じるか分からない。
ミレーヌの不安はそこにあった。
だが、ガムリンはその真っ直ぐな視線で強く言い放つ。
ガムリン「何を言ってるんだ! 君もサウンドフォースだろ! ミレーヌ!」
ミレーヌの目がガムリンの目に釘付けとなった。
次の瞬間の彼女の答えは決まっていた。
ミレーヌ「はい!」
191
:
藍三郎
:2009/01/27(火) 21:55:51 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=シャングリラ=
マザーグース「むむむむむむ!?このエネルギイ反応は……」
シャングリラ内部の自室……
ディスプレイと向き合ったマザーグースは、興奮を抑え切れなかった。
北大西洋に出現した謎の巨大遺跡……
そこから、レーダーが尋常ならざるエネルギー量を計測したのだ。
マザーグース「もしかすると……あそこにミイのサアチしていた“アレ”が見つかるカモ!!
よオし!早速、ギガマシインと四天王を総動員しテ……」
ジェローム「やぁやぁ、随分と盛り上がっておられるようですな」
背後から老人の声が響く。振り返ると、そこにはジェローム・フォルネーゼが立っていた。
マザーグース「アア、奇術師(マジシャン)カ……ちょうどいいところに来たネ。
ユウ以外のファイタア達も、全員出撃させるヨ」
ジェローム「いえ、いませんよ?」
マザーグース「ホワット?だから、全員で……」
ジェローム「私で全員なのです。他の皆さんは、もうこのシャングリラから脱走してしまいましたから」
マザーグース「………………」
しばし沈黙をためた後、マザーグースは大声で叫んだ。
マザーグース「ホワアアアァァァァァァァイ!?」
=遺跡上空=
ルリ「全機発進。遺跡を防衛しつつ、敵軍を迎撃してください」
バロータ軍の強襲を受け、待機していた統合軍、G・K隊も応戦し始める。
周囲がほとんど海のため、飛べない機体は戦艦に乗ったまま迎撃に当たる。
ロアビィ「目立てない状況でも、きっちりお仕事しないとね!」
上空にミサイルを発射し、弾幕を張って敵の進撃を防ぐレオパルド・デストロイ。
ウィッツ「喰らいやがれ、化け物!!」
エアマスター・バーストは、高出力のノーズビーム砲を発射する。
チボデー「行くぜぇ!! 豪熱ゥ! マシンガンパァ――――ンチ!!」
移動用トランスポーターに乗り、サーフィンの要領で海上を駆けるマックスター。
そのまま加速をつけて、グラビルに必殺のパンチを繰り出す。
グラビル「グガァァァァァァァァァ!!!!」
多少のけぞらせる事には成功したが、やはり決定打を与えるには至らない。
グラビルの咆哮が海面を震わせ、大きな波を生み出す。
バルゴ「行け、使い魔たちよ!」
桃色の使い魔達を放つバルゴ。
勝平「あのピンク色のちっちぇえのは……!」
恵子「いけない…… 確か、壊してもまた小さな個体に分裂しちゃう敵だわ!」
マクロス7に侵入した時の先頭記録を思い出し、恵子は叫ぶ。
実際、先走って攻撃した結果、分裂させてしまう状況が発生していた。
リョーコ「くそ、うざってぇ奴らだぜ!!」
ヒカル「短気起こしちゃ駄目よ〜分裂しちゃうから!」
イズミ「煮ても焼いても食えないとはこの事ね……」
ヴィレッタ「とにかく、スピリチアを吸われないよう、避けつつ戦うしかないわ!」
通常兵器では破壊できず、分裂してしまう使い魔を相手に、皆苦戦を強いられていた。
シャフ「姫様!東南方向から、新たな敵軍が降下してきます!」
ロミナ「何ですって……!」
統合軍から奪ったと思しき輸送船に乗って現れたのは、宇宙犯罪組織ギャンドラーの軍勢だった。
デビルサターン「わはははは! あれかいな! お宝が眠っとるっちゅう宝島は!!」
ディオンドラ「そうさね。野郎ども! まずはあのバリアをぶち壊すよ!!」
ザリオス「ガデッサー!!」
次々と海中に身を投じ、遺跡のある島へと進軍するギャンドラー。
イルボラ「奴らもあの遺跡が狙いか!」
ジョウ「やらせねぇ! 行くぜ! マイク! レニー!」
遺跡の防衛に徹する統合軍は、部隊を分けてギャンドラーの迎撃に向かう。
192
:
藍三郎
:2009/01/27(火) 21:57:20 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=シャングリラ=
マザーグース「脱走したとは、どういうことだネ!!」
矮躯から頭を突き出して、ジェロームに詰め寄るマザーグース。
ジェローム「さぁて……元々私以外は、好き好んで貴方に束縛されているわけではありませんからな。
別に逃げてもおかしくは無いでしょう」
マザーグース「ふん! まぁいい…… ヒイ達の機体に仕掛けた次元転移装置で、またこちらに呼び戻して……」
そう言って、マリオネットを使って自身のキーボードを叩くマザーグースだったが……
程無くしてその手を止める。覆面越しに眉間に皺が寄るのが目に入った。
ジェローム「どうやら、壊されているようですな。ご愁傷様です」
マザーグース「白々しいコトを……」
瞳を動かし、ジェロームを睨みつける。
マザーグース「あの一つの事しか考えない狂人どもにそんな器用な真似ができるワケがない……
脱走の手引きをしたのはユウだろう?」
ジェローム「ご想像にお任せします……」
殺意の篭った目で睨まれても、ジェロームは穏やかな笑みを浮かべるのみだった。
マザーグース「ふん、腹が立つ話だが、今はユウ達に構っているヒマは無い……
ユウ達を戦力としてアテにしようとしたミイがバカだったってコトサ!!」
ジェローム「ああ、ご安心ください。私はこれからも、貴方達に協力させていただく所存ですので……」
マザーグース「好きにするがいいサ!!」
怒気の混じった返答を返すと、キーボードの操作を再開する。
その様子を、ジェロームは微笑みを崩さぬまま見つめている。
マザーグースの確信通り……他の四天王を脱走させたのは、ジェロームだった。
ジェローム(申し訳ありませんね、マザーグースさん。
貴方と違って、我々は生粋の戦士(ファイター)なのですよ。
所詮、己の我を通すことでしか、満足を得られない愚かな生き物……
そんな我々に、ルールに縛られたガンダムファイトでの居場所はありませんでした)
ガンダムファイトの理念を踏みにじり、崩壊の危機にまで追いやって彼ら。
闘争心の赴くまま、破壊と殺戮を重ねた彼らを、世界は敵視し、排除しようとした。
それに大人しく従うようならば、最凶ファイターなどと呼ばれはしない。
敵が誰であろうと、邪魔をするならば、己が暴力を持って叩き潰す……
それが、出身も嗜好も性格もバラバラな四天王にとって、唯一共通する信念だった。
自分たちが滅びるか、世界が滅びるか。
秩序の象徴たるシャッフル同盟を相手にした、最後の戦いを迎える寸前に……
何者かの謀によって、自分達は異なる世界へと連れてこられた。
ジェローム(秩序と暴力…… 理性と本能の究極の戦い……
それは結局、実現する事はありませんでした)
最初は残念に思うこともあったが、南極におけるG・K隊との戦いで、その考えは一気に変わった。
この世界は、元の世界以上に闘争に満ち満ちている。
血沸き肉踊る戦いができる、好敵手が何人も見つかった。
前の世界では体験できなかった、真のファイトを堪能できる最高の戦闘場だ。
それを、アルテミスの計画などに邪魔をされては敵わない。
自分達は誰の為でもない。己の欲望の為だけに戦うのだ。
ジェローム(あなた方が何を考えていようと、私の望みは、
この世界に、ルールや約束事に縛られない……
生物の本能をむき出しにした、真のガンダムファイトを開演すること……
その為には、他の皆さんには好き勝手暴れてもらった方が、都合がいいのですよ)
193
:
蒼ウサギ
:2009/02/01(日) 23:12:16 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=遺跡上空=
悠騎「へっ、やっと増援が来てくれたぜっ・・・・・・」
正直、一人ではキツかっと、一人コクピット内でごちた後、自機を立て直す。
そして、増援は来ても今も彼等に負けまいいう迫力で、アイラの機体は必要以上に敵陣に前進していた。
むしろ、新たに出てきたギャンドラーにもその牙を剥こうとしている。
悠騎「無茶すんなよ・・・・・・」
そう思った矢先のことだった。
歌が、聴こえてきた。
いつも聴く、バサラの声ではない女性ボーカルの歌。
しかし、確かにそれも「FIRE BOMBER」の歌だった。
勝平「なぁ、これって」
宇宙太「あ、あぁ・・・ミレーヌ姉ちゃんの歌だ」
恵子「いい歌声・・・・・・」
そう、その歌は確かにミレーヌ・ジーナスのバルキリーから聴こえてきた。
ミレーヌ「宇宙を全部くれたぁって〜、譲れない愛もある〜♪」
グラビル「ぐ、ぐごぉぉっ!!」
バルゴ「ぬぅぅぅっ!!」
ガビル「こ、この歌! まさに驚嘆美!!」
彼女の機体が不思議な光に包まれ、プロトデビルン達が突如苦しみ始める。
対して、仲間たちはミレーヌの歌に励まされていた。
ヒカル「な〜んか、歌詞がすっごいラブソングって、感じだね〜」
イズミ「ヒ・ヲ・ツ・ケ・ロに、気をつけろ・・・・・・」
ヒカル「あ〜、それ、言うと思った〜」
イズミ「誰もが思うことを言うことをあえて言うのが私・・・・・・」
リューコ「お前等! 状況考えろーーーっ!」
リョーコが叫んだところで、アキトのブラックサレナが疾走する。
ディストーションフィールドを纏ったその機体で、ガビル機に突進。
ガビル「がぁあぁぁぁっ! なんという突撃美!」
刹那、ガビル機が大破。
だが、さすがプロトデビルンというところか、己の翼で悠々と脱出した。
その分、ミレーヌの歌を生に聴くことになったしまう結果となったが。
ガビル「ゾクゾク! 貴様ぁ、これが狙いか!? この策士美!」
アキト「せっかくのいい歌だ。じかの耳で聴くといい」
ブラックサレナのコクピット内で、アキトはその口を笑みに模った。
§
Holy lonely light、か。今の私にはピッタリの曲だ。
最も、「聖なる光」は、余計だがな・・・・・・
アイラ「はぁぁっ、てやぁぁぁっ!」
アイラは必死に己の体を燃やした。
それこそ、ミレーヌが今歌っている歌詞の如く、芯まで。
撃破するごとに後ろを振り向くことはない。ただひたすら前へ!
前へと突き進む!
誰より! 味方の誰もよりも強く気高く!
ここにいない相棒や憧れの人達の分まで自分は戦う!
アイラ「おぉぉぉぉっ!!」
その勢いはバロータ軍を越え、ギャンドラーの方へと飛び火した。
ジョウ「おい! 単機で前へ出すぎるな! てか、もうアンタの機体は限界じゃ・・・・・・」
イルボラ「ジョウ、あのパイロットにはお前の声は届いていないようだ。」
イルボラの言うとおりだった。
今のアイラには目の前のギャンドラーしか見えていない。
アイラ「まだだ! 私の限界はまだ! こんなものじゃ・・・・・・・ないっ!」
両肘から伸びるハイラインスライサーが敵の妖兵コマンダーを切り裂く。
爆破。
その後も、ズィッヒェルシュヴァルベは、嵐のように激しく攻める続ける。
その姿は、敵を畏怖させ、味方に頼もしさを感じさせると共に、ほんの僅か畏怖を仄めかせた。
194
:
藍三郎
:2009/02/03(火) 21:19:33 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
海中を泳ぎ、遺跡へと進撃するギャンドラーの妖兵コマンダー・ミズチ。
一斉に攻撃を仕掛けるが……バリアは海中からの攻撃も弾いてしまう。
ミズチ「ちぃ、やはり海中まで届いてやがったか!」
更なる攻撃を加えようとしたその時……
ミズチの背中が、ぱっくりと切り裂かれた。
ミズチ「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」
ジョウ「させねぇよっ!!」
海に潜った飛影は、水中の負荷を物ともしない機動性でミズチの内一匹を仕留める。
マイク「喰らえ、光波弾!!」
海中で待ち構えていたマイクも、爆竜の砲撃でミズチを押し退ける。
ジョウ「行くぜマイク! 合体だ!」
マイク「わかった!」
爆竜が変形し、その中心部に飛影が収まり、海魔となる。
マイク「これでも喰らえぇぇぇっ!!」
海魔の電撃で、群がるミズチは全員黒こげになり一掃された。
ケルナグール「グハハハハ!どかんかい!」
ザリオス「ぶぎゃっ!?」
拳を振り回し、妖兵コマンダーを蹴散らしていくグランナグール。
デビルサターン「おうおう!あんま好き勝手で暴れとるんやないで!!」
デビルサターン6は両のチェーンナックルを発射する。
グランナグールはそれを両手で受け止め、両者がっぷり四つに組む。
押し合う両機だが、力は拮抗していて一進一退である。
ケルナグール「ぐぬぬぬぬぬぬ!!」
デビルサターン「全く、なんちゅうバカ力や!」
二人の力はやがて、お互いの体を反対方向へと弾く。
デビルサターン「やるやないけ!せやけど、
ロム達の仲間にお前みたいな悪人面がおったなんてなぁ」
ケルナグール「グハハハハハ!そう言われて悪い気はせんのう!」
デビルサターン「しかし、あんたからは何かわいと同じ臭いがぷんぷんするでぇ」
ケルナグール「おう、ワシもそう思っておったところじゃ!
これもシン……シンパ……シンなんたらというやつじゃのう!」
デビルサターン「そのボケっぷり、ますます他人のような気がせぇへんな!」
戦いながら、いつしか二人は互いに好感を持ち始めていた。
デビルサターン「わいら……同じ側におったら親友(とも)になれとったかもしれへんなぁ」
ケルナグール「そうじゃのう……じゃが、今のワシらは敵同士……」
デビルサターン「せや。戦わなあかん宿命なんや」
ケルナグール「ガハハハハ! それもまた良し! 手加減はせぬぞ、強敵(とも)よ!!」
再び激突するグランナグールとデビルサターン6。
カットナル「B級悪役同士、何意気投合しとるんじゃ……」
ロム「ギャンドラー!何が目的でここに来た!!」
剣狼を抜き放ち、ディオンドラと剣を交えるロム。
ディオンドラ「何だ?知らずにここに来たのかい?
あたいらギャンドラーの目的なんて、最初から一つだけさね」
ドリル「それって、いつものお宝探しか……?」
ジェット「だが、この期に及んでこれだけの軍勢を投入してくるとは……」
ロム「! ま、まさか……」
ロムの頭に一つの考えがよぎる。
それは、今迄抱いていた予感や不安を、全て解明するに足るものだった。
195
:
藍三郎
:2009/02/03(火) 21:21:33 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
遺跡のバリアに向けて一斉にマイクロミサイルを放つパンツァーゾルン。
そのミサイルを、ハイドランジアキャットのミサイルが撃墜する。
ムスカ「バリアがあるといっても、いつまで持つのか……!」
ゼド「とにかく、今は防衛に徹するしかありません!」
そんな中、コスモ・フリューゲルから通信が入った。
アネット『みんな聞いて!6時の方向に空間歪曲反応あり!何か出てくるわ!』
空間の歪みから亀裂が生まれ、何機もの機体群が出現する。
悠騎「あいつら……アルテミスか!」
エッジ「冗談じゃねーぜ!ただでさえキツイってのに……!」
ライ「奴らもこの遺跡が狙いなのか……?」
十数機のロストセイバーと、
キング・ハンプティ、ビッグシューズ・グランマなどのギガマシーン。
その中央に、ジェロームのガンダムミステリオと、
マザーグースが直接遠隔操作するギガマシーンが現れる。
熾烈な戦場には似合わぬ、のどかな童謡と共に……
♪Who killed Cock Robin?♪ (誰がクックロビンを殺したか?)
♪I, said the Sparrow♪(それは私 とスズメが言った)
♪With my bow and arrow♪(私の弓に矢を番え)
♪I killed Cock Robin♪(私が殺した クックロビン)
全体は弩(クロスボウ)のような形状をしているが、湾曲した弓の部分に鳥類の翼が乗っている。
先頭部は鳥の嘴になっており、クロスボウと怪鳥を融合させたようなデザインをしていた。
マザーグース『オオ!何ともミステエリアスな遺跡(レガシイ)だネエ』
プロトカルチャーの遺跡を見て、感嘆の声をあげるマザーグース。
彼は今もシャングリラの研究室におり、
ギガマシーンの操縦は彼の造ったマリオネットが務めている。
マリオネットの目を通して、遺跡の全景を見ているのだ。
ジェローム「ふむ、既に先客が何人もいらっしゃるようですな」
マザーグース『宝の価値(バリュウ)もわからない奴らガうじゃうじゃと……
“アレ”は必ずミイ達が手に入れるヨ!!攻撃開始ダ!!』
ロストセイバー達は遺跡に向けて攻撃を始める。
その攻撃も、やはり遺跡を覆うバリアによって弾かれる。
マザーグース『チッ、バリアか……どうやら、ミイ達のテレポオトでも抜けられないようだネ。
先客に習って、とりあえず壊して入るとするカネ』
♪Who saw him die?♪(誰が死ぬのを見届けた?)
♪I, said the Fly♪(それは私 とハエが言った)
♪With my little eye♪(私の目玉でしっかりと)
♪I saw him die♪(彼が死ぬのを見届けた)
新型ギガマシーン、クロスボウ・ロビンの翼から無数の矢が射出され、遺跡目掛けて降り注ぐ。
=コスモ・フリューゲル=
由佳「こんな時にアルテミスまで出てくるなんて……」
そんな中、クローソーが息せき切ってブリッジに入ってくる。
クローソー「何があった!外は一体どうなっている……!?」
アルテミスの……否、“あの男”が生み出した
ギガマシーンを目の当たりにして、クローソーの目の色が変わる。
クローソー「マザーグース……」
憎んでも憎みきれない怨敵。自らの造物主の名を低く呟く。
クローソー「おい!何でもいい!私を機体で出撃(だ)させろ!!」
アネット「ええ!?そんないきなり……」
クローソー「逃げようなんて気は無い!あいつと戦わせろと言っているんだ!!」
そう、あの男だけは許すわけにはいかない。
自分たちを人形のように扱い、仲間を死へ追いやったあの男だけは……
逸るクローソーに対し、思わぬところから声が上がった。
神「うむ、君がそう言ってくれるのを待っていたよ!」
クローソー「何?」
神「いずれ発表する気でいたが、ちょうどいい!ついて来たまえ!!」
ブリッジから出て行く神。
戸惑うクローソーも、彼を追ってブリッジを後にする。
196
:
藍三郎
:2009/02/03(火) 21:22:35 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
統合軍、バロータ軍、ギャンドラー、そしてアルテミス。
幾つもの軍が入り混じり、戦場はさらに渾沌の度合いを強める。
ガビル「おのれ……サンプル共!
究極の手段……いや、真の姿……本来美!
貴様らに見せてくれる!」
ザウバーゲランを破壊されたガビル。
ミレーヌの歌によって思うように力が出せない中で、彼は最後の手段を使う事を決意する。
ガビル「来い、グラビル! 今こそ我らが一つになる時!」
グラビル「ゴガアアアアアア―――ッ!!」
グラビルの額にガビルが移動し、額へと吸い込まれる。
海上を照らす眩い光が、グラビルの全身から発せられる。
やがて、グラビルの背中から、ガビルのような巨大な白い翼が生える。
グラビルの頭頂部に、やや姿の変えたガビルの上半身が結合していた。
ガビル『これぞ究極の手段、我が本来の姿、ガビグラ!完成美!』
真の姿となったプロトデビルンは、海上を揺るがす雄叫びを上げた。
リュウセイ「プロトデビルンが……合体しやがっただと!?」
真吾「ガビグラとは、またわかりやすいネーミングだねぇ」
ガビル『合体?違うな。我らは元々一心同体!本来の姿に戻ったまでの事よ!』
パルシェ「では、最初から二体ではなく、
あれで一体のプロトデビルンなんですね……」
ガビル『このガビグラの真の力を思い知るがいい!怒涛美!!』
グラビルの口から衝撃波が放たれる。
グラビルだけの時とは比べ物にならない威力だ。
ミレーヌ「きゃぁっ!?」
その衝撃波に巻き込まれ、大きく体勢を崩すミレーヌ機。
ガムリン「ミレーヌさん!!」
急いでミレーヌを救助に向かうガムリン。
当然、この間歌は止まってしまう。
ガビル『ゾクゾクが止まった!!今だ、消滅美!!』
その合間に、完全に力を取り戻したガビグラは、
グラビルの腕からペンタクルビーム砲を放つ。
赤い破滅の光は、進路上の機体を巻き込み、遺跡のバリアへと直撃する――――!
197
:
蒼ウサギ
:2009/02/24(火) 22:00:33 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
誰もがその一瞬だけ注目した。
もしバリアが破られ、あのプロトデビルンのビームが遺跡に直撃すればどうなるか?
考えるまでもない。
遺跡そのものが消滅し、プロトデビルンを始めとするあの遺跡に眠っていた情報が引き出せなくなる。
リュウセイ「くそっ! やめやがれぇぇぇぇぇっ!!」
少しでもバリアへの照射時間を減らそうとしてか、リュウセイのR−1が無謀にもガビグラに突貫。
そして、
リュウセイ「T−LINKナッコォォォォ!!」
捨て身ともいえる攻撃でガビグラに挑んだものの、R−1とではあまりにも体格に差がありすぎる。
格闘戦で挑むには無謀すぎた行動だった。
ガビル「所詮は、無駄美! そんな小さき身でこのガビグラを止めようなどとは!」
リュウセイ「うるせぇ! 止められなくても、そのビームを逸らすことさえできれば! 少しでも遺跡から外せれば!
それでいいんだぁぁぁぁぁぁっ!!」
ライ「リュウセイ・・・・・」
アヤ「リュウ」
だが、リュウセイの叫びも空しく、グラビルのビームはバリアを破り、遺跡の一部を消し飛ばした。
その様に、一同は息を呑んだ。
悠騎「やべぇ! あのビーム、前よりも強くなってやがるぜ! 由佳! 今ので誰か犠牲に・・・・・・」
そうコスモ・フリューゲルと交信しようとした矢先のことだった。
―――ゾワッ
悠騎「っ!」
悠騎は、これまでに味わったことの感覚に違和感を覚え、戸惑ってしまった。
悠騎(なんだ・・・・・・これ?)
細胞が騒ぎ出す、という表現が一番近いのか、とにかく悠騎は落ち着かない。
この感覚は・・・・・・そう、“アンフィニ”を発動させた時の感覚に似ていた。
由佳『とりあえずエキセドル参謀他、遺跡内にいた人達に怪我はないわ・・・・・ってお兄ちゃん?』
妹の声が聞こえる中、悠騎は破壊された遺跡の一部がキラリと光ったのを確かに見た。
そしてその光は、ほどなくして強くなり、目の前へと飛び込んできた。
悠騎「なっ!?」
反射的に機体を動かすと、光は空高く、そして瞬く間に雲を突き抜けて銀河へと昇っていった。
ロム「これは・・・・・・・。っ! また剣狼が」
光に呼応するかのように輝く剣狼。
ディオンドラの口元が妖艶に広がる。
ディオンドラ「ほぅ、やっぱりあの遺跡には何か秘密があるみたいだねぇ」
不可思議な光に、G・K隊や統合軍だけではなく、バロータ軍やギャンドラー、
アルテミスまでもが遺跡から昇った光に目を奪われた。
そして、その光によって変化が起きた機体があった。
ライ「っ! トロニウムエンジンの出力が上がっている!? この光の影響なのか!?」
ライはすぐにチームの隊長であるヴィレッタとの通信を繋げる。
ライ「ヴィレッタ隊長、トロニウムエンジンの出力が上昇しています。・・・・・・・これなら、フルドライブ可能です」
ヴィレッタ『っ! それは、SRXへの合体許可を求めているのか?』
ライ「今をおいてチャンスはありません」
沈着冷静なライにしては、珍しい大胆な意見だ、とヴィレッタとしては率直な感想だった。
そして、それはこの二人も同じだった。
198
:
蒼ウサギ
:2009/02/24(火) 22:01:22 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
リュウセイ「へへっ、ライ。お前にしては思い切った案だな」
ライ「お前に感化されたのかもしれんな。だが、懸念材料のほうにもある」
リュウセイ「誰にもの言ってやがる! そんなもの、最初っからあるに決まってるだろうが!」
あの突貫を見てなかったのかよ、と言わんばかりのガッツポーズを見せ付けるリュウセイに、ライは苦笑した。
それに、アヤも苦笑しながらライに強気に微笑む。
アヤ「私のことも心配しないでライ。あなた達には負けられないわ。だから、ヴィレッタ隊長!」
シミュレーションは一度もなし。
一発本番で、しかも敵が大勢いるなかでの状況だ。
普通ならば承認しないところだが、ヴィレッタは、何故か今、この状況でこの三人が限りなく信じられた。
ヴィレッタ『わかったわ。では、SRXチーム、パターンOOCを解除・・・・・・SRXの合体を許可する!』
ヴィレッタの不敵な笑みより発せられたと同時に、三人の顔に緊張が走る。
アヤ「いくわよ、リュウ、ライ!」
リュウセイ「おう!」
ライ「了解!」
アヤの号令と共に三機が素早く展開。
誰もがそれに気づき、敵はその妙な行動に異変を察知してか止めようと動き始める。
だが!
悠騎「邪魔者は!」
ムスカ「ひっこんでな・・・・・てか?」
SRXの合体を成功させようと、仲間たちもサポートに回った。
そして、Rシリーズの三機は空高く舞い上がった。
アヤ「T−LINKフルコンタクト! 念動フィールド・・・・・・・オン!」
ライ「トロニウムエンジンフルドライブ!!」
アヤ「各機変形開始!」
リュウセイ「いくぜぇ、ヴァリアブルフォーメーション!!」
リュウセイの気合の入った声と共に三機がいよいよぶっつけ本番のフォーメーションで合体を開始し始めた。
エクセレン「あららん、リュウセイくんったら、はりきってるわねぇ」
キョウスケ「奴の好みそうな展開だからな」
ガコン、と、ステークのカートリッジを交換しながらキョウスケは苦笑しつつも
不敵な笑みを浮かべていた。
そう、自分も同じだ。切り札(ジョーカー)を切るこの瞬間、
エクセレン「それはキョウスケも同じでしょ?」
キョウスケ「あぁ、嫌いではないっ!」
そして迷わず二機はガビグラへと迫った。
ガビル「何を企んでるかは知らんが、潰しておくことにこしたことはない! 消滅―――」
エクセレン「美ってのは、私のことかしらん?」
今まさにSRXに合体しようとRシリーズ各機が変形している所にビームを撃ち込もうとしたガビグラに
ヴァイスリッターの砲撃が直撃。
続いて、
キョウスケ「エクセレン、敵のペースに合わせる必要はない」
アルトアイゼン・リーゼのリボルビング・バンカーがガビグラのどてっ腹に全弾叩き込まれ、
ガビグラはその衝撃に踊った。
エクセレン「もぅ、キョウスケったら、真面目ねぇ〜」
軽口を言いながらもヴァイスリッターのビームが薙ぎるようにガビグラを焼く。
キョウスケ「タイミングがずれると言っている・・・・・・・。これで最後だっ!」
その宣言どおり、両肩のアヴァランチ・クレイモアがカビグラに猛威を振るった。
その名の意味の如く「雪崩」のように。
ガビル「ぐぅぅっ! 大した怒涛美・・・・・・だが、このガビグラ、これしきのことで倒れることはない!」
通常兵器では歌ほどの効果はないのは、誰もが承知済み。
だが、キョウスケは不敵に笑みを零した。
キョウスケ「わかっている。だが、目的は果たせた」
ガビル「なにっ!?」
ガビルは目を剥いた。
遺跡の光に導かれたかのように空へと舞い上がったあの三機のロボット達。
それらがいつの間にか一つとなりて巨大な人型機動兵器となっていたのだ。
キョウスケ「フッ、どうやら賭けは成功したようだな」
エクセレン「こういう場合、「合体美」って奴かしらね♪」
そして、その三機のRシリーズが合体したメインパイロットであるリュウセイがここぞとばかりに吼える。
リュウセイ「天下無敵のスーパーロボットォォ! ここに見参っ!!」
199
:
蒼ウサギ
:2009/02/24(火) 22:02:03 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
ギギル「っ! なんだこの光は!?」
遺跡から昇った光は銀河を駆けていた三人を眩く包み込んだ。
バサラ「へっ、すげぇ! これから第二ステージってとこだなっ!」
何かを悟ったかのようなバサラは、その光の中でも歌い続けた。
ただひたすらに、純粋に。
子供の頃、山に向かって毎日のように歌っていた頃のように。
シビル「アニマスピリチア!」
バサラ「いくぜ! オレの歌を聴けぇぇぇぇぇ!!」
バサラは力の限り、ギターをかき鳴らした。
§
=遺跡付近=
吹き飛ばされたミレーヌ機。
そのコクピット内で、ミレーヌは確かに聞いた。
熱気バサラがライブの前に必ず言うお決まりの台詞を。
ミレーヌ(・・・・・・・ちっとも変わってないんだから。バサラの奴)
だから早く帰って来いっての、と、届かない声を投げかけたそのすぐ後、
ミレーヌの意識が夢と現の狭間から現実へと引き戻される。
ガムリンの必死の呼びかけによって。
ガムリン「ミレーヌさんっ! ミレーヌさん!」
ミレーヌの重い瞼がゆっくりと開かれる。
自分のコクピットハッチが開かれた状態で目の前にガムリン木崎の顔が見えた。
ミレーヌ「が、ガムリンさん!?」
ガムリン「よかった・・・・・・お怪我はありませんか?」
ミレーヌ「え、えぇ、大丈夫です。その、今、戦況はどうなってます?」
ガムリン「あの通りですよ!」
ガムリンが指差す方向。
そこには、ミレーヌが見たこともない巨大な人型機動兵器があの合体したプロトデビルンに挑んでいる姿が見えた。
ミレーヌ「あれは・・・・・・」
ガムリン「私も資料でしか知りませんでしたが、Rシリーズ三機が合体した姿、SRXというものです!」
ミレーヌ「SRX・・・・・・」
200
:
藍三郎
:2009/02/25(水) 21:39:14 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ガビル『何という合体美! 衝撃的、登場美!』
遂に合体を果たした究極汎用戦闘一撃必殺型パーソナルトルーパー、SRX。
R−1が頭部・胸部・背面、R−2の本体が胴体肩関節・装甲及び腹部でプラスパーツが腕部、
R−3は本体が腰部及び大腿部でプラスパーツが脚部となっている。
メインパイロットはリュウセイで、ライがトロニウムエンジンとアヤの体調管理、
アヤがT−LINKシステムを担当している。
ライ「トロニウムエンジンの出力が、合体して更に上がっている……しかも……」
予想値を遥かに上回るエネルギー量を示す一方で、その出力は実に安定している。
SRXは、T−LINKシステム、トロニウムエンジン、
ゾル・オリハルコニウムといった最新のEOTが投入されている。
既存の機動兵器とは比べ物にならない圧倒的な攻撃力を誇るが、投入されたEOTは未解明の部分も多く、
膨大なエネルギーを誇るトロニウムも完全に制御できる代物ではなかった。
万が一、トロニウムエンジンが暴走した場合には周囲50kmを消し去る程の
凄まじい大爆発を起こす危険性をはらんでいる。
SRXはまだ試作機で、安定性の問題を完全に克服できていない。
それゆえに、長い間合体は封印されてきたのだが……
現在のSRXは、高い出力を誇りながらも安定しているという、理想的な状態を保っている。
ライ「大尉、T−LINKシステムの方は……」
アヤ「こちらも問題ないわ。自分でも信じられないぐらい落ち着いている……」
遺跡から生じた、あの謎の光の影響だろうか……
自信の念動力が、かつて無い程に高まっているのを感じる。
そしてそれは、リュウセイも同じことだろう。
リュウセイ「つまり……全力でブチかましても構わないってことだな?」
ライ「そういうことだ……」
リュウセイは会心の笑みを浮かべて、トリガーを握る。
リュウセイ「じゃあ早速、行くぜぇぇぇぇ!!」
SRXの巨体が飛翔する。
空中で脚部をガビグラに向け、足の甲に付属するブレードを展開する。
リュウセイ「ブレェェェェド・キィィィィィィィク!!!」
刃が体にめり込み、ガビグラの巨体が大きく揺らぐ。
ガビル『見事な先制美!!
ええい! 同じ合体でも、このガビグラの
美の方が勝ることを見せ付けてくれる!! 凌駕美!!』
その巨体で、SRXへと圧し掛かろうとするガビグラ。
対するSRXは、念動フィールドを張りながら、その圧力を真っ向から受け止める。
ガビル『ぐ! 予想外の剛力美……』
リュウセイ「うおおおっ! ザインナッコォ!!」
組み合った姿勢から、ガビグラの顔面に拳を放つリュウセイ。
SRX版T−LINKナックルと言うべき念動力の拳を喰らい、大きくよろめくガビグラ。
ガビル『こ、この感覚は……!』
ライ「どうやら高い念動力による攻撃は、奴らに幾らかの効果があるようだな……」
念動力として具現したリュウセイの気魄が、歌エネルギーに似た効果を及ぼしているのか。
Rシリーズ単体では微々たる効果しか見込めなかったが、
SRXになって集束、増幅したことにより、プロトデビルンに対抗できる量にまで達していた。
201
:
藍三郎
:2009/02/25(水) 21:40:30 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
激しくぶつかり合うSRXとガビグラ。
だが、敵はプロトデビルンだけではない。
マザーグース『フフン、厄介な敵(エネミイ)同士が潰しあってくれて助かるヨ。
ミイ達はその間に、遺跡を抑えさせてもらうとするカネ』
クロスボウ・ロビン率いるギガマシーン、ロストセイバーの編隊は、ガビグラを迂回して遺跡へと向かう。
G・K隊の機体が阻止に向かうが……
クリスチャン「…………敵機捕捉」
クリスティン「…………掃討開始」
ロストセイバーのコクピットで静かに呟くのは、青と赤の髪をした若い男女だ。
彼らの操縦するロストセイバーは、量産機とは思えぬ機動性でG・K隊を翻弄する。
レニー「気をつけて! こいつら、ただの雑魚じゃないわ!」
火星で一度交戦したことのあるメンバーが忠告する。
その言葉通り、初めてロストセイバーと交戦する者達は、その強さに圧倒される。
ウィッツ「クソッ! 攻撃が当たりゃしねぇ!」
エアマスター・バーストのバスターライフルを避け、レオパルド・デストロイのミサイルをも切り払う。
一機一機が名のあるパイロットであるかのような実力には、驚倒せざるを得ない。
カリス「この感覚……まさか!」
一方カリスは、彼らにあるものを感じ取っていた。
それは、フリーデンⅡにいるジャミルやティファも同じことである。
その予感を裏付けるような攻撃を、ロストセイバーが繰り出す。
クリスティン「ブレード・スレイヴ、射出……」
両肩に搭載された、カタール型のパーツが分離する。
それらは中空を飛翔し、自律して動いているかのように攻撃を仕掛ける。
切り付けるだけでなく、刀身からビームも発射できる。
カリス「今ので確信しました。あれに乗っているのは、全てニュータイプです!」
ガロード「何だってぇ!?」
カリス「恐らく僕のような人工的、擬似的なニュータイプでしょうが……
その戦闘能力は、“本物”に極めて近いと言っていいかと……」
ジャミル「<アルテミス>は、全ての能力を備えた完全な兵士を作り出すため、
サイコドライバーやニュータイプを狙っていた……だとすれば……」
ゼド「彼らが、その能力を再現した、完全兵士というわけですか?」
これまでのアルテミスの行動の成果……
それが、今戦っている規格外の能力を持つ兵士ということになる。
マザーグース『もちろん、まだまだ完全兵士(パアフェクト・ソルジャア)には程遠いがネ。
彼らは雛型に過ぎない。これからどんどん進化(プログレス)していくのサ。
ユウ達との戦闘経験を糧としてネェ!!』
マザーグースが造り上げた、最新にして最終のマリオネット、クリスシリーズ。
男性型のクリスティン、女性型のクリスチャンの二タイプが開発されており、
アンドロイドである彼と彼女は、これまでにアルテミスが集めたニュータイプやサイコドライバー、
その他優秀なパイロットのデータを参考にして造られた最新鋭のAIを搭載されている。
アルテミスが目指す「究極生体兵士」の雛形というべき存在。
脳を含む体組織の40%ほどはクローン技術を用いた生体部品で構成されており、
どちらも外見は本物の人間そのものだが、コーディネーター以上の怪力と運動性を持ち、
アンドロイドとして、与えられた命令を忠実かつ正確にこなす。
無論、パイロット技能も従来のAIや一般の兵士を遥かに凌駕する。
202
:
藍三郎
:2009/02/25(水) 21:42:54 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
そして、彼と彼女らに与えられた機体が、最新鋭機ロストセイバー。
アルテミスが開発した、最新鋭の量産機で、人型のシャープなデザインをした機体で、飛行能力を持ち、機動性に優れている。
Mタイプ、Wタイプの二種が存在し、それぞれ青色と桃色で塗り分けられている。
機体構造に関しては、G・K隊の所有するAW……
中でも『ゼファーシリーズ』の設計思想を取り入れている。
それ以外にも、MSやPTなど、これまでアルテミスが集めた
様々な機体のデータを元にして作られており、
あらゆる機種の長所を併せ持つ、高性能機となっている。
クリスシリーズ同様、アルテミスが推し進める
『完全兵士計画』を想定して作られた機体であり、
計画における先行試作型量産機といった意味合いが強い。
ニュータイプや念動力者ら『超能力兵士』に対応すべく、
擬似的なT-LINKシステムを搭載しており、
思念波によるデバイスの遠隔操作も可能とする。
それが、遠隔操作攻撃デバイス、『ブレード・スレイヴ』である。
ただし、ニュータイプ能力を完全再現するにはまだ至っておらず、
ある程度電波や赤外線など機械的なシステムで補っている。
動力には、光学エネルギー機関『L(ライトニング)・エンジン』を使用している。
ジャミル「アルテミス……お前達もまた、ニュータイプを戦争の道具として利用するのか」
マザーグース『それはノウだネ。オリジナルのニュウタイプなど、デエタを搾り取ればただのジャンクでしかない。
そのデエタは全て彼(ヒイ)と彼女(シイ)へとコンバアトされ、新たなニュウタイプの力を引き継ぐ!
良かったネ! 用済みになったユウ達は、もう戦場に出なくてもいいんだヨ!
いずれこの世界から、ミイの作り出す完全な兵士以外の兵士は全て不要となるのだからネェ!!』
デュオ「完全な兵士が生まれれば、俺達はお払い箱って訳か」
カトル「兵士が不要になる。それは何よりも望むべきことなのかもしれませんが……」
トロワ「だが、それは代わりに、ただ操られるだけの兵士が戦場に出ることを意味する。
意思無き暴力には抑止力が無い……僅かな過ちで、取り返しのつかない惨劇を引き起こす危険性もある」
ずっと兵士として生きてきた彼らは、
“完全なる兵士”の危険性を誰よりも強く認識していた。
五飛「志無き戦士など、戦士ではない!!」
ヒイロ「戦争を誘発する因子は、全て破壊する」
バスターライフルを発射するウイングガンダムゼロ。
ロストセイバー達には避けられるが、間髪入れずもう一方のライフルを撃つ。
ゼロシステムでの先読みを利用して、回避したロストセイバーを撃墜する。
ガロード「それに、その計画の為に、ティファ達ニュータイプがどんな眼に遭わされるかわかったもんじゃない。
そんなの見過ごせるかよ!!」
エッジ「おう! てめぇらの腐ったやり方には、いい加減頭に来ているんだ!」
カリス「貴方達も知るべきだ……
彼らの力の源は、特殊な力なんかではない。その心にあることに!」
アルテミスへの怒りに燃えるG・K隊は、ロストセイバーへ猛反撃を開始する。
マザーグース『フン! 物の価値(バリュウ)もわからナイ能無しどもメ……
まぁいいサ。いずれ思い知るコトになる……
ミイはその間に、遺跡を押さえさせてもらうヨッ!!』
遺跡へと加速するクロスボウ・ロビン。
♪Who caught his blood?♪(誰がロビンの血を受けた?)
♪I, said the Fish♪(それは私 と魚が言った)
♪With my little dish♪(私の小さな皿にとり)
♪I caught his blood♪(私がロビンの血を受けた)
翼から無数の矢が射出され、瀑布となってバリアへと降り注ぐ。
矢には炸薬が内蔵されており、バリアに突き刺さった瞬間に爆発する。
♪Who'll make the shroud?♪(誰が経帷子を作るのか?)
♪I, said the Beetle♪(それは私 とカブトムシ)
♪With my thread and needle♪(私の糸と針を持ち)
♪I'll make the shroud♪(経帷子は私が縫う)
三度射出される鉄の矢。
それらが遺跡の上空に達した時…………
空中を走る雷電が、矢の雨を一斉に焼き払った。
マザーグース『ホワット!?』
急速に上昇する青緑色の機体。
脚部が存在せず、貴婦人が纏うドレスを禍々しくしたような容姿をしている。
その手からは、溢れる電流がバチバチと音を立てている。
クローソー「ようやく会えたな、マザーグース!!」
怨敵の操る人形達を前に、クローソーは吼える。
203
:
藍三郎
:2009/02/25(水) 21:44:59 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
その姿を見たマザーグースは、うんざりしたように声を漏らす。
マザーグース『あれは、ザキュパス……
何処の誰かと思えば……とっくに廃棄した失敗作じゃあないカ。
ま〜〜だ生きていたのカイ。しぶといネェ』
クローソー「私は人形だからな。打ち捨てられたところで、死にはしない」
マザーグース『ハッ! 少しは気の利いた返しができるようになったジャないか。
で、ユウは一体ここで何しに来たのカネ?』
マザーグースの問いかけに、クローソーは挑戦的な笑みを浮かべて答えた。
クローソー「決まっているだろう? 貴様を炭屑にしてやるためさ」
マザーグース『オウオウ、何だい何だいそんなに怒っちゃって。
ユウにいつそんな恨まれるような仕打ちをしたのカナ?
ミイは全く覚えがないのだけれド?』
とぼけた態度で話すマザーグース。
いや、この男のことだから、本当に何故なのか解っていないのかもしれない。
クローソー「ああ、そうだろうな。お前にとっては取るに足らないことだろうさ。
それならそれでいい。わからなくてもいい。お前に理解なんて求めない。
そのまま……死ね」
そう言う彼女の声は、凍りつくような殺意に満ちていた。
憎しみを濃縮した結果、純粋なる殺意へと昇華させたかのようだ。
そんなクローソーを、マザーグースは鼻で笑うと、こう続ける。
マザーグース『愚かな愚かなクローソー。いつまで経っても反抗期の抜けない子供(チャイルド)。
そう、所詮ユウは何も知らない子供(チャイルド)でしかナイ。
何故ミイがユウの叛意を知りながら好きにさせていたと思ウ?』
マザーグースは顔を歪めて、手元のスイッチを手にする。
マザーグース『ユウ達マリオネットにはね、非常時のために強制コントロオル装置が内蔵されているんだヨ。
このボタンを押せば、ユウの体はすぐにミイの思うがまま……』
そう……これが原因で、クローソー達はマザーグースに反逆することが出来なかった。
マザーグース『生みの親としては、出来れば更正(リクラメイション)させてやりたいけど……
生憎ミイは今急いでいるんだ。出来の悪い子供と遊んでやる時間は無いんだヨ。
だから…………』
マザーグースは、会心の笑みと共にスイッチを押した。
マザーグース『一瞬でスクラップにしてあげるヨ!!』
これでいい。
奴の全身の関節はあらぬ方向に曲がり、コクピットの中で悪趣味なオブジェと化すだろう。
制御を失ったザキュパスも、すぐに海中へ落下するはず……
だが……
マザーグース『!!!』
彼の視界(モニター)を、電光の輝きが覆った。
ザキュパスが放った電流が、クロスボウ・ロビンに直撃したのだ。
マザーグース『!? ホホホホ、ホワァァァイ!?』
何度もスイッチを押す。それでも、ザキュパスの攻撃は止まらない。
やむ無く、スイッチを捨ててギガマシーンの操作に専念する。
マザーグース『ど、ど、どうなっているんだッ!?』
原因がわからずに狼狽するマザーグース。
その時、彼女と開いた通信回線に、別の人物が割り込んでくる。
巨大な竹の着ぐるみを着ている、妙な男だ。
神『ああ、彼女の頭に埋め込まれていた変な装置なら、私が取り外しておいたぞ』
マザーグース『何!?』
それは間違いなく、マリオネットを遠隔操作する受信機となる装置……
それが取り外されれば、もはや一切のコントロールを受け付けない。
神『やっぱり、あれはまずい物だったか。無理にでも取り除いておいて正解だったな』
クローソー「おい貴様! 私が寝ている間に勝手なことを!」
怒声の矛先を神へと向けるクローソー。
どうやら、クローソーの知らない内に起こったことらしい。
神『まぁいいじゃないか。そのお陰で助かったんだし』
クローソー「それは……確かにな」
神『では、見せ付けてやりたまえ……
生まれ変わったザキュパス……ザキュパス・リジェネレートの力を!』
クローソー「貴様に言われずとも!!」
204
:
藍三郎
:2009/02/25(水) 21:46:14 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ザキュパス・リジェネレートは、南極での戦いでG・K隊に回収されたザキュパスが、
鍋島神博士の手により修復・改造された機体である。
勿論、これも全て彼女に無断で行ったことだ。
神に格納庫まで連れ出され、完全に修理が終わり、
しかも姿の変わったザキュパスを見て、クローソーは随分驚かされた。
かつてのザキュパスと比べて大幅にスマートになっており、やや女性らしさが増したように思える。
聞いた話では、当初はファンシーなピンク色にする予定だったらしいが、間に合わなかったらしい。
神には、これ以上余計なことをしないように脅迫交じりで釘を刺しておいた。
マザーグース『フン!! 旧式が、多少姿が変わった程度デ!
ミイの最新ギガマシーンの敵じゃあナイ!!』
大空を疾駆し、両翼から矢の洪水を撃ちだすクロスボウ・ロビン。
ホーミング機能を備えたそれらの矢は、正確にクローソーに向けて飛んで行く。
前後左右、あらゆる方向から襲い来る矢の群れ。
両手からの電撃だけでは防ぎきれない。そこで…………
迎え撃つザキュパス・リジェネレートの、大きく膨れたスカートから、数本の触手が伸びる。
電流を流す管のような形状のそれらは、空中をうねくるように飛び回り、先端から電流を放つ。
それらは、広範囲から迫り来る矢を纏めて撃墜してしまう。
クローソー「ふん、この武器、中々使いやすいな」
これがザキュパス・リジェネレートの新武器、『スパーク・テンタクル』である。
それ以外にも、前の機体と比べて各所が大幅に改良されている。
スカートの中から、二振りの刃を同時に抜き放つ。
電流を帯びて輝くそれらは、二刀一対の実体剣、『ディザスターセイバー』だ。
マザーグース『おのれこの失敗作め……
ミイを裏切って、そいつらの人形になったというのカ!!』
マザーグースの罵倒に対して、クローソーは冷然と笑ってこう告げる。
クローソー「違うな。こいつらの仲間になった覚えなどない。
私は失敗作……壊れた人形だ。だから、誰の命令にも従わない。
私は私だけの意志で、マザーグース、貴様の全てを消去してやる!!」
マザーグース『アハハハハハハハハハハ!!
壊れたノなら、大人しくスクラップ置き場で眠るがいいサ!
それが出来ないなら、灰も残さず焼却処分(インシネレイション)ダ!!』
205
:
蒼ウサギ
:2009/03/11(水) 00:44:18 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
クローソー「その台詞がいつまで吐けるかな!?」
クロスボウ・ロビンに向かって、ザキュパス・リジェネレートが積極的に攻める。
新兵装のスパーク・テンタクルを駆使し、マザーグース本人を翻弄。
その触手に、ディザスターセイバーを絡ませて斬りつけるなどの応用も見せ始め、
完全に改良機を手足の如く乗りこなしていた。
マザーグース「おのれぇ! 人形(マリオネット)の分際デ・・・・・!」
クローソー「まだ言うか! いいだろう・・・。ならば、その人形に殺される屈辱を味わえ!」
ザキュパス・リジェネレートの10本の触手全てが、クロスボウ・ロビンへ伸びと絡みつき、
先端全てがクロスボウ・ロビンへと吸着する。
それにマザーグスが気づく間もなく、クローソーは、特大の電撃を放出した。
マザーグース「ギャアァァァァァッ!!」
苦しみに悶えるマザーグースだが、クローソーの攻撃は終わらない。
電流を迸らした二振りの剣を構えて、クロスボウ・ロビンめがけて突進を開始。
容赦なく、その切っ先を突き刺した。
マザーグースの第二の悲鳴が響く中、その戦場の空で何かが光った。
§
ゆっくりと、遺跡の光に導かれるかれるかのように彼等は舞い降りてきた。
熱気バサラのファイヤーバルキリー。そして、ギギル、シビルの三人だ。
バサラ「ここが・・・第二ステージか・・・!」
辺りを見回して、バサラはその光景に満足したかのようにまずはギターの調子を確かめる。
そして、
バサラ「俺の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
直後、強烈なシャウトが戦場を震わせた。
迷いのない、Holy Lonely Light!
戦場に、バサラの歌で活気が溢れかえった。
その瞬間だ。
遺跡がさらに輝きを増した。
§
悠騎「うあぁぁぁああああっ!!!」
まただ。
遺跡の光によって、悠騎は違和感を通り越して呻き声を上げるほどの不快感を全身に味わった。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは誰にも届かない呻き。
悠騎は、知らず知らずのうちに気を失って、気がつけばあの遺跡内にいた。
だが、そこにいるはずのエキセドルはいない。
悠騎「どこだ? ここは・・・・・・」
遺跡に入っていない悠騎には、初めて見る場所で戸惑ってしまったが、
不思議と何故自分がここにいるのかは疑問に思わなかった。
そこへ、あの光のヒトガタが現れる。
<黒歴史に触れ、平行なる世界より来た<枷>を外せし者よ>
悠騎「?・・・・・・あんたは?」
<我はこの世界のプロトカルチャーの遺せし言の葉を蓄え、
後の世に伝える役目とし、ここに眠るものなり>
悠騎(・・・・・この“世界の”)
<この幻想なる世紀を・・・・・・元より失われていた世紀を断ち切ってくれ>
悠騎「・・・・・・え?」
<歪んだ“想い”で、この世紀は繰り返されている。すでに終焉を迎えた世界なのに>
悠騎「おい、どういうことだよっ!?」
昂った感情に突き動かされて悠騎がそのヒトガタに触れようとしたところで、パァンと光が弾けた。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは、数分だったのか一瞬だったのか悠騎には分からない。
或いは単なる夢幻だったのか。
あいまいな幻覚だったのかもしれない。
気がつけば、元のブレードゼファーのコクピット内にいた。
悠騎「じょ、状況は!?」
慌てて確認するも、大幅な戦況に変化はない。
変わったといえば、遺跡の輝きがバサラが歌う前と同じくらいの輝きに戻っているということだろうか。
悠騎(じゃあ、さっき見たあれは何だったんだ?)
そんな呆然としていた自分をすぐに恥じて、悠騎は少しでも数多い敵を落としにかかった。
206
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:27:29 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ガムリン「熱気バサラ、戻ってきたのか!」
バサラ「よぉ」
地上からの通信を送るガムリンとミレーヌに、バサラはいつも通りに会釈する。
ミレーヌ「バサラ! 今まで何処に行っていたのよ!」
バサラ「……すげぇ旅だった! 俺は銀河を見た!」
ガムリン「何?」
バサラ「銀河はでかかった! とんでもなくでかかった!」
その時の感動を声に乗せて、バサラは歌い続ける。
レイ(何があったかは知らないが……完全に吹っ切ったようだな)
今の彼のサウンドからは、悩みも惑いも感じられない。
自分の思うが侭に歌う、熱気バサラのヴォーカルだった。
クローソー「リミッター解除!!」
天を焦がすように猛る雷の奔流。
ザキュパスに搭載していたリミッターを外し、一時的に電力を大幅に上昇させたのだ。
両手のみならずスパーク・テンタクルからも電流が放たれ、それが頭上の一点に収束されていく。
クローソー「アーク・ディザスター、墜ちろぉぉぉぉぉ!!」
収束した電流は、巨大な雷の槍と化す。
ザキュパスが両腕を振った瞬間、天からの厄災がクロスボウ・ロビンへと舞い降りる。
巨槍はギガマシーンの機体を貫き、高圧電流を全身に流して行く。
マザーグース『オウ、ノオオオオオオオオオオ!!!』
崩壊していくクロスボウ・ロビン。
クローソーは、冷たい表情のままでそれを見下ろしている。
仇敵を撃破したにも関わらず、彼女は達成感の欠片も感じられなかった。
クローソー「ふん……どうせそれに乗っているのも、貴様本人ではなくマリオネットだろう」
クローソーは最初から見抜いていた。
マザーグース本人は、シャングリラから遠隔操作しつつ高みの見物を決め込んでいるはずだ。
クローソー「だが、いずれ必ず……貴様を追い詰めてやる! 必ずだ!」
マザーグース『おのれ……旧式の人形の分際でよくもこのミイを……許さないヨ!!』
だが、最後の反撃が残っていた。
背中にマウントされた巨大な矢が、弦によって引き絞られ……ザキュパス目掛けて放たれる。
クローソー「!!」
リミッター解除で激しく消耗したザキュパスに、この矢を避ける術はない。
ディザスターセイバーを組み合わせ、間一髪で矢を食い止める。
だがその瞬間、矢に内蔵された爆薬が一斉に炸裂する。
クローソー「ぐぅぅぅ!!」
スパーク・テンタクルを重ねて、咄嗟に防御するクローソー。
それでも、決して小さくない損傷を受けてしまった。
一方のクロスボウ・ロビンは、電流に包まれ、爆発を起こす寸前だった。
だが……機体の崩壊も厭わずにブースターを噴かして、全速力で遺跡へと直進する。
まるで機体そのものが、電光を帯びた一本の矢になっているようだ。
クロスボウ・ロビンの巨体が、遺跡を覆うバリアと衝突する。
マザーグース『ウフフフフ……ブヒャハハハハハハハハハ!!!』
蒼白い雷光に包まれて、クロスボウ・ロビンは大爆発を起こす。
だが、その衝撃はバリアを貫通してしまう。
崩壊の寸前に、巨大な矢が発射され、遺跡へと直撃する。
それによって、遺跡を包むバリアは完全に消滅してしまった。
直後にクロスボウ・ロビンも爆発四散する。
207
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:29:27 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ジャミル「しまった!? バリアが!」
ジム「そんな……じゃあ、エキセドル参謀達は……!」
ロム「俺が行く!」
レミー「私達も行くわよ!」
バイカンフーとなったロムとゴーショーグンは、遺跡へ急行する。
ディオンドラ「おっと、行かせないよ!」
ガロード「俺達も、ロムさん達に続くぜ!!」
他の機体群も、バリアが無くなったのを幸いに一斉に遺跡へと殺到する。だが……
海上から立ち昇る赤い光が、ほぼ全ての機体を襲った。
遺跡の島を中心として、赤い五芒星が海上へと浮かび上がる。
ウィッツ「な、何だぁ!?」
アレンビー「機体が……動かない!」
チボデー「SHIT! どうなってんだ!?」
赤い五芒星に捕らわれた機体群は、所属を問わず行動不能に陥っていた。
海中では……
バルゴ「間に合ったか……」
この五芒星は、バルゴの能力によるもの。
プロトデビルンのエネルギーを広範囲に拡散させ、相手の動きを封じ込める。
同族相手には殆ど効果を与えないが、ただの機体相手なら十分だ。
リュウセイ「何だ!? 急にSRXの動きが……」
ガビル『隙あり! 逆襲美!!』
動きが鈍くなったところで、ガビグラの体当たりを食らってしまうSRX。
ガビルは、海上の五芒星を見て、これがバルゴの術であることを知る。
ガビル『バルゴに助けられるとは屈辱だが、全てはゲペルニッチ様のため。
そして終焉の美は、このガビグラが飾ってやろう!!』
ガビグラは、その巨腕を遺跡へと向ける。
リュウセイ「な、やめろぉぉぉぉぉぉ!!」
リュウセイの叫びも虚しく、ペンタクルビーム砲が遺跡へと放たれる。
赤い破壊の閃光は、遺跡を完膚なきまでに破壊しつくした。
ガビル『フフフ。任務達成、完了美!』
ただの瓦礫の山と化した遺跡を見て、満足げに微笑むガビル。
だがその時……
噴煙から飛翔するバイカンフーとゴーショーグン。
バイカンフーはエキセドル参謀に肩を貸し、ゴーショーグンは他の調査員を乗せている。
ガビル『何! 奴ら、バルゴの呪縛を逃れただと! 克服美!』
バルゴ「奴らもアニマスピリチアと同じ……特別な力を持っているというのか」
エキセドル「お世話になります」
ロム「いえ……」
ロム達は、彼らをバトル7へと運ぶ。
ロムは遺跡を見下ろして考える。
あの遺跡には、クロノス星とギャンドラーにまつわる重要な鍵が隠されていたのではないか。
剣狼の反応や、ギャンドラーの出現から考えると、その推測は恐らく間違いないだろう。
だが、この有様では……
ディオンドラ「ああ! 何てこったい!」
デビルサターン「あれじゃあ、お宝も何もかもぺしゃんこでんがな!」
デビルサターンが頭を抱える一方で、
ディオンドラは思うようにいかないことに苛立ちを覚えていた。
ディオンドラ「全く、やってられないよ!
大体……グルジオスの言っていた助っ人はいつ来るんだい!」
ガデスの副官グルジオスが、出撃前に言っていた強力な助っ人……
その者は依然、この戦場に姿を現すことはなかった。
208
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:31:02 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
遺跡にある何かを求めていた他の勢力と違い、
プロトデビルンの目的はあくまで遺跡の破壊である。
本来ならば、これで全ての任務は達成された。しかし……
ガビル『ゲペルニッチ様のお望みどおり遺跡は破壊した……
だが、まだ我らの役目は残っている!』
ガビルとグラビル、ガビグラの四つの眼が、バサラと共に現れた二人へと向けられる。
ガビル『見つけた! 発見美!』
ギギル「ガビルか!」
ギギルとシビルを目にしたガビグラは、直ちに彼らの下へと向かう。
体から赤い光線を放ち、ギギルとシビルを狙い撃つ。
ガビル『ギギル、シビル、喜ぶがいい。貴様達はこのガビルが消滅の美に包んでやる!』
ギギル「何だと!?」
シビル「!」
ギギル「ガビル! どうしてシビルを狙いやがる!?」
ガビル『心配するな。お前も一緒に消し去れとゲペルニッチ様のご命令だ。抹殺美!』
ギギル「何故だぁぁっ!?」
ガビグラは全身から閃光と衝撃波を放ち、ギギルとシビルに総攻撃を加える。
バサラ「シビル!!」
ミレーヌ「何をする気なの、バサラ!?」
バサラ「シビルを助けに行く!」
ミレーヌ「シビルってあのプロトデビルンの女の子!?」
バサラ「シビルは……シビルは……俺に銀河を見せてくれた!」
ファイター形態に変形し、シビルの下へと飛翔するバサラ。
一方、海中にいるバルゴは……
バルゴ『アニマスピリチア……彼奴の力は一体、我らに何をもたらすというのだ!?』
その時……
彪胤「大臨亀皇、封魔殲滅波!!」
突如現れた亀型の戦艦が、赤いエネルギー波を放つ。
その閃光は、プロトデビルンであるバルゴに大きなダメージを与えた。
バルゴ『ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』
大臨亀皇の核である太極宝珠に蓄えられた『仙力』の波動である。
物理攻撃の効かない精神体を消滅させる為の切り札だが、
案の定プロトデビルンにも効果があったようだ。
彪胤「ネオネロス相手に使ったせいで威力は大きく減衰しているが、彼の術を破る程度なら!」
そう言う夏彪胤の顔は、すっかり老いさらばえていた。
肩で息をして、立っているのも辛そうである。
バルゴ『ぬぅぅ……貴様……』
バルゴは大きく態勢を崩し、戦場を覆う五芒星は解除される。
ジェット「お、体が動く!」
ドリル「俺達、自由になったぞ!!」
そして、海を割って浮上する大臨亀皇。
ムスカ「夏彪胤さん! またあんたか!」
ゼド「美味しいところで助けに来てくれる御方ですね。感謝します」
彪胤「話は後だ……ロム・ストール!急いで遺跡に戻るんだ!」
彪胤は、全く余裕の無い声でロムに向かって叫んだ。
ロム「何……? だが、遺跡は既に……」
彪胤「遺跡は壊れても、中にあるものまでは壊れはしない。
そしてそれを手にすることが出来るのは、君だけなんだ!
あそこにあるのは、永遠にして不滅のエネルギー……」
ロム「!!」
彪胤「君達の星で、ハイリビードと呼ばれるものだ!」
209
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:32:30 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
シビル「コォォォォォ――――ッ!!」
シビルをその手に掴み、破壊のエネルギーを送り込むガビグラ。
ガビル『フフフ……消えてゆけ、シビル。消滅美!』
ギギル「シビル――――ッ!!」
シビルと同じ、光る球体にその身を包んで突進するギギル。
ギギルはシビルの前に立ち、ガビグラと対峙する。
ギギル「うおおおお――――っ!!」
全身からオーラが放たれ、ガビグラの攻撃を防いでしまう。
シビル「!」
ガビル『バカな…あいつはまだ目覚めていないはずなのに…!』
そこにバサラのファイヤーバルキリーが駆けつける。
バサラ「ア――――――――――ゥ!!!」
ガビル『ぐおおおっ!? 今度はアニマスピリチアか!!』
サウンドウェーブを浴び、ガビグラは大きくのけぞった。
バサラ「お前……!」
シビル、そしてギギルと向かい合うバサラ。
ギギル「バサラ……」
長い間争ってきた仇敵。だが今は、最も心が通じる相手に思える。
ギギルは僅かに微笑んで見せた。
バサラ「お前……!」
ギギル「シビルのためだったら、俺はどうなってもいいんだ!」
バサラ「お前は……お前は!」
ギギル「俺は……俺はギギルだ! 俺の歌を聴けぇ――っ!!」
そう叫んで、力の限り歌い始めるギギル。
ギギル「ぱわーとぅーざどりぃーむ! ぱわーとぅーざみゅぅじぃっく!」
ミレーヌ「何なの…」
レイ「奴らが……歌を……!」
ギギル「あたらしいゆめーをみたいのさぁー!」
ガビル『ギギル……貴様……!』
地球人の耳には凄まじいだみ声であるが、その歌声には確かなパワーが込められていた。
ギギル「ぱわーとぅーざゆぅにばぁーす! ぱわーとぅーざみぃすてりー!
おれたちのぱわーをつたえたいー!」
バサラ「俺の歌を……俺より先に歌いだすとは……」
一瞬呆気に取られたバサラだが、やがて彼の顔に喜びの笑みが浮かぶ。
バサラ「上等じゃねえか!」
バサラもまた、ギターをかき鳴らして歌い始める。
バサラ「やっと掴んだ希望が 指のすきまから逃げてく
ブラックホールの彼方まで ずっとおまえを追いかけてく」
ギギル「ぱわーとぅーざわーるど! ぱわーとぅーざらばーず!!」
「「本当の愛が見たいのさ」」
戦いも何もかも忘れて、二人で歌うバサラとギギル。
歌うことしか頭に無い彼らだったが、その魂は確かに共鳴し、不思議なハーモニーを生み出していた。
バサラ「輝くすい星の軌跡が メロディーにソウルを与える
人は1人じゃ生きられない 愛する誰かが必要さ yeah!」
ギギル「ぱわーとぅーざどりーむ! ぱわーとぅーざみゅぅじぃっく!!」
マイク「な、何なんだよあれは……」
ジョウ「うまく言葉で言い表せねぇけどよ……とにかく、すげぇ……!」
イルボラ「ああ……」
戦場にいる統合軍とG・K隊の者達も、戸惑いながらも思いは同じだった。
210
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:34:05 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ガビル『ぐ……ぅぅぅぅ!!』
ギギルから生じる未知のエネルギー。
なまじ同胞であるだけに、ありえない現象がよりありえなく思える。
アニマスピリチアよりも、ガビルはギギルに恐怖を覚えた。
ガビル『おのれギギル! まさしく危険な存在、殲滅美!!』
逆上したガビグラは、ギギル目掛けて拳を放つ。
ギギル「ぐはぁっ!!」
その鋭い爪が、虫でも潰すようにギギルを叩き落とす。
シビル「!!!」
絶句するシビル。
バサラ「! ギギル――――っ!!」
デュエットもそこまでだった。
致死量に近い打撃を受けたギギルの体は、海上へと落下する。
ガビル『ふはははは……裏切り者には相応しい末路だ! 必然美!!』
恐れを取り払った喜びで、嘲笑するガビル。
だがその時……
リュウセイ「念動結界……ドミニオン・ボォォォォル!!」
念動力で造り上げたエネルギー球が、ガビグラに直撃する。
ガビル『ぐおおおおお!! 奇襲美!?』
光の球は巨大化し、ガビグラを捕らえる檻と化す。
アヤ「T−LINK、フルコンタクト!」
ライディース「Z・O・ソード、射出!」
胸部装甲が展開し、R−1のシールドの先端でもあった、剣の柄が姿を見せる。
SRXがそれを引き抜くと、その手には光り輝く大剣が握られていた。
ゾル・オリハルコニウム・ソード、通称Z・O・ソード。
柄部分に装填されているゾル・オリハルコニウムを念動フィールドで固定して剣の形にしている。
液体状のゾル・オリハルコニウムに種結晶となる結晶核を投入することで、
任意の様々な形に硬化、結晶化させているのだ。
リュウセイ「せっかくのライブに……余計な横槍入れてんじゃねぇよ!!」
リュウセイの怒りが、T−LINKシステムを通じて光の刃をより輝かせる。
ライ「トロニウム・エンジン、フルドライブ!!」
SRXは、ブースターを噴かしてガビグラへと飛んで行く。
リュウセイ「超必殺! 天上天下っ! 念動! 爆・砕・剣!!」
光の刃が、ガビグラの体を貫く。
刀身が柄から離れ、ガビグラの全身が巨大なエネルギーの奔流に包まれる。
ハイ・ゾル・オルハルコニウム・ソード。
刀身を切り離し、念動力により相手の体内に残した刀身を膨張、
破裂させ内部から破壊する、SRXの必殺技である。
最初にドミニオン・ボールで敵を拘束するので、敵は避けることすら適わない。
リュウセイ「念動爆砕!!」
ガビル『これは超絶の美……ぎぃやあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!』
大爆発を起こすガビグラ。
その巨体が宙に踊り、そのまま海中へと没した。
一方、ガビルに撃ち落されたギギルは……
「………………」
彼の瞳からは生気が消え、糸の切れた人形のように、海面を漂っている。
それでも、彼の口は動き、声無き歌を歌い続けていた。
既にこの身体は死につつある。だが…………
=南極大陸 プロトデビルン封印チャンパー=
分厚い氷に閉ざされた、プロトデビルン達の眠る場所。
封印されたプロトデビルンは後四体……その中の一体が、突如として目を覚ます。
瞳を開き、内なる衝動の命ずるまま、氷を砕いて外に出る。
青緑色の体表に、背中に二対の突起を持つ巨人の姿をしている。
「グ……ウオオオオオォォォォォォォォッ!!!」
洞内を揺るがす咆哮をあげると、フォールドの光と共にその場から消え去った。
211
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:35:24 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
海面に漂うギギルの身体から、強烈な光が発生する。
その光は瞬く間にドーム状に拡大し、中から巨大な怪物が姿を現す。
「ウオオオオォォォォォォォッ!!!」
左右二対の昆虫のような突起を広げ、怪物は周囲を睥睨する。
海面を揺るがす怪物に、戦場にいる者達は驚愕するしかなかった。
リョーコ「ま、またでかいのが……!」
エイジ「あいつもプロトデビルンなのか!」
サブロウタ「冗談じゃないぜ! ここに来て化け物がもう一体だなんて……」
プロトデビルンの強大さは今更語るまでもないこと。
この状況でさらにもう一体増えたということは、もはや絶望以外の何者でもない。
だが、地球人たち以上に驚いたのは、プロトデビルン達の方だった。
シビル「ギギ……ル……」
バルゴ「馬鹿な! ギギルが眠りから目覚めただと!?」
彼らだけは知っていた……あの怪物こそ、ギギル本来の姿であることを。
あの地球人男性の姿は、バロータ第四惑星調査船団所属の
陸戦部隊ブルーライナセロス隊隊長、オートルマウワー大尉の肉体に、ギギルの精神を憑依させたものだ。
従って、憑依した肉体が死んだところで、本体であるエビルの器にはまだ意思が残っている。
ギギルがまだ生きていることについて不思議はない。
彼らを驚愕させたのは、ギギルがプロトデビルンとしての体で現れたことだ。
本来、プロトデビルンを目覚めさせるには一定のスピリチアが必要。
そのために、ギギルはあえて地球人の肉体を用いて行動していたのだ。
現時点では、ギギルを目覚めさせるまでのスピリチアは溜まっていなかったはず。
まして、裏切り者の彼にゲペルニッチがスピリチアを与えるはずもない。
スピリチアが足りないにも関わらず、ギギルは復活した。
それが何を意味するのか……悲しげな表情のシビルは、本能でそれを察していた。
ギギルはもう、長くないということを。
ギギルはシビルを両手で包み込む。
そして、漲る怒りを周囲へと発露する。
ギギル「許さねぇ……! シビルを殺そうとする奴は、誰であろうと許さねぇ……!」
シビルを守りたい。たった一つの純粋な想いが、
彼を突き動かし、プロトデビルンとして覚醒するという奇跡まで成し遂げた。
ギギル「ぶっ殺してやる!!
ぬあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ギギルの全身から放たれる虚無の波動。
それは黒い暴嵐と化して、周囲にあるものをすべて破壊し始めた。
ガビル『ギギル!そのパワーの放出……
このままでは、無の暗黒美の雫すら、消えてしまうぞ!』
美穂「艦長! 前方の空間が無くなっていきます!」
マックス「いかん……! 全軍、あのプロトデビルンより退避せよ!」
エキセドル「……それだけで足りるかどうか……」
エキセドル参謀の声は、恐怖に震えていた。
彼の予感は、間もなく的中することとなる。
サリー「コスモ・アークより入電!
計測したところ、あのプロトデビルンの能力は、ブラックホールに酷似していることが判明しました!」
美穂「ナデシコからも同様の結果が……後数十秒後には、
あのプロトデビルンそのものがブラックホール化して、周囲の全てを飲み込んでしまいます!」
マックス「何だと……!」
マックスの顔は絶望に凍っていた。
全てを飲み込み、完全なる無へと帰する宇宙の暗黒、ブラックホール。
それが地上で発生すれば、どれほどの被害を生むのか……彼には想像もつかなかった。
マックス「全軍後退! 全ての機体は可能な限りこの戦場から離れるんだ!
バトル7はフォールドの準備に取り掛かれ! 急ぐんだ!!」
かつてないほどの焦燥と共に、マックスは指示を出す。
一方で、何をやっても無駄かもしれない諦念も芽生えていた。
プロトデビルンの比類なき力……
それが暴走すれば、この星すらも無事で済むかどうかわからない……!
212
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:37:42 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ギギル「ガアアアアアァァァッ!! ウアアアアァァァァァァァァッ!!」
咆哮しながら虚無空間に全てを引きずり込んで行くギギル。
統合軍、ギャンドラー、バロータ軍、ロストセイバー、ギガマシーン……
その全てが、今のギギルの前では無力だった。
ギギルは自らの身体をも崩壊させながら、何もかもを破壊して行く。
本来の彼ならば、自分の能力で自滅するなどありえないだろう。
しかし、不完全な状態での復活。
加えて、理性を失ったことによってその暴走に歯止めが効かなくなっていた。
ジェローム「いやはや、恐ろしいですねぇ……」
崩れゆくギギルに一抹の儚い美しさを感じつつも……
ガンダムミステリオは漆黒のマントを翻ると、逸早くこの場から離脱する。
バサラ「ギギル! もうやめろ! 死んじまうぞ!」
皆が全力で退避する中、バサラはただ一人、ギギルへと近づく。
サウンドウェーブがバリアを形成し、虚無の波動から身を護っていた。
そして……崩壊するギギルの身体を見て、悲痛な叫びを上げる。
ギギル「バサラ……」
僅かに残った理性で、バサラの言葉に応じるギギル。
一体この男は何だったのだろうか。
散々に自分を振り回し、時には忌まわしく、時には頼もしく思えた存在。
どう表現すればいいのか、言葉が見つからない。
それに思いを馳せるだけの理性も、もはや残っていない。
だが、ただ一つ……これだけは確信できる。
もうすぐ自分は消える。
しかしその後も、この男ならば、シビルを守り抜いてくれるだろう。
ならば、消えることに一片の後悔もありはしない。
彼にとっては、シビルを守ることこそが、己の全てなのだから。
バサラ「やめろ、ギギル!」
ギギル「………………」
必死に叫ぶ声も、もう聞こえない。
ガムリン「何をしている、バサラ!!」
ミレーヌ「早く逃げなきゃ、バサラまで!!」
背後からガムリンのバルキリーが組み付き、バサラを強制的に連れ出す。
ガムリンとミレーヌにバトル7へと連れられながら……
バサラは崩れゆく巨人に向かって叫んだ。
バサラ「ギギル――――――ッ!」
213
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:38:20 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
バサラたちが着艦した直後、バトル7と残存艦隊は、一斉にフォールドで消え去る。
残されたギギルは、やがて完全なる漆黒の闇へと変わって行く。
海も、大地も、残っていた機体の全ても、虚無の闇へと吸い込んでしまう。
バルゴ「う、うおおおおおおっ!?」
バルゴもまた、その引力の魔手に捕らわれる。
ガビル『貴様らと心中など、冗談ではない! 全速撤退美!!』
逸早く重力圏から逃れたガビグラは、フォールドでその場から離脱する。
バルゴもまたフォールドで抜け出そうとするが、彼は既に虚無空間の中心まで引き寄せられていた。
歪みきった空間の中では跳躍を行うことなど適わない。
バルゴ「ギギル、やめろぉぉぉ! ぬおおあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
不滅の肉体がいとも簡単に引き裂かれていく。
成す術無く虚無の核に吸い込まれ、プロトデビルン・バルゴは跡形もなく消滅した。
やがて、肥大化した漆黒の闇は、遺跡を中心とする半径数キロを完全に呑み込んだ。
静寂が支配する黒い空間の中で……
残っていたのは巨大な怪物と、その上に浮かぶ、光球に包まれた少女だけだった。
ギギルは己の全てを出し切った。
今、彼の目の前には、この世で最も愛しい者が立っている。
ギギル「シビル……俺の……全て……」
両の手で彼女を包み込もうと腕を伸ばすが……指の先から崩れて行く。
シビル「ギギル…………」
シビルの瞳は、自分を護った者の姿をじっと見つめている。
砂の城のように崩壊して行くギギルの体。
彼の口は……いつか聞いた、あの男の歌を口ずさんでいた。
おまえが……かぜになるなら……
はてしない……そらになりたい……
ギギルが消滅した後も……
シビルの心には、彼の最後の歌がずっと響き続けていた。
214
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:40:19 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ロム「ぐ……」
波に揺られて、ロムは目を覚ました。
今の自分はバイカンフーからロム・ストールへと戻り、海上に漂っている。
傍には、気絶したレイナがいる。
彼女が息をしているのを見て、ロムはひとまず安堵した。
あの時……ロムはレイナを庇って破壊の奔流を受け止めた。
そこから先の記憶はぷっつりと途絶えている。
ただ、無我夢中で妹を守ろうとしたことしか覚えていない。
目の前には、一つの岩塊もない海原が広がっていた。
先ほどまでの激闘が嘘のように、海上には機体の残骸すらも残っていない。
もちろん、遺跡があった島も、影も形も無い。
まるで、地球の反対側へと転送されたのかと錯覚するぐらいだ。
自分の後ろ、水平線の彼方を見ると、戦艦や機体がちらほらと見える。
あれは、統合軍やG・K隊のものだ。彼らもどうにか、退避に成功したらしい。
しかし……ロムは疑問を覚えずにはいられなかった。
あの暗黒の波動は、全てを飲み込み破壊しつくすものだった。
それこそ、この星そのものを消し去りかねないほどの……
それが、島を消滅させる程度の被害で済んだのは、喜ぶべきことであろうがどうにも腑に落ちない。
その時……
ロムの手に握られた剣狼の紋章が、強く輝き出す。
ロム「剣狼が……」
その意思に導かれ、ロムは上空を見上げる……するとそこには……
光り輝く球体が、宙に浮いていた。
離れた場所からも伝わってくる、神秘的なエネルギー。
天空に座するその輝きからは、太陽のような荘厳ささえ感じられる。
もはや、疑いを挟む余地すらもない。
ロム「あ、あれは……ハイリビード!!」
知識ではなく、感覚がそれを確信させていた。
剣狼が、クロノス族の血が、あれをハイリビードだと伝えている。
あの男、夏彪胤は、遺跡にハイリビードが眠っていると言った。
ならば、ギギルの暴走によって遺跡が消滅したことで、初めて出てきたのだろうか。
ここで、ロムは少し前の事を思い出す。
虚無の波動に飲まれる寸前……剣狼に強く祈った。
どうか、皆を助けて欲しい……と。
剣狼とハイリビードには密接な繋がりがある。
ロムの願いが剣狼を通してハイリビードを動かし、
虚無空間から自分を含む皆を救ったのではあるまいか。
とにかく……今は一刻も早くハイリビードを確保する方が先決だ。
ロムはハイリビードに向けて飛び立とうとするが……
215
:
藍三郎
:2009/03/12(木) 12:41:53 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
「ほほう。あのブラックホールをも吸収してしまうとは、
さすがはハイリビード……と言ったところか」
眩い光を覆う黒い影。
そのシルエットを見た瞬間、苦い記憶が喚起される。
ロム「貴様は……ガルディ!!」
ガルディ「だが、“鍵”であるこの流星を使えば……」
ガルディは、愛刀・流星をハイリビードへと突き立てる。
すると、ハイリビードは、瞬く間に流星へと吸い込まれてしまう。
ロム「!!」
ガルディ「ロム・ストール、貴様には感謝しているぞ。
ハイリビードを呼び起こすには、貴様とワシ……
“鍵”を持つ二人の強い願いが必要不可欠だったからな」
あの時、ハイリビードの力を求めたのはロムだけではなかった。
ロムとガルディの願いが一致したために、ハイリビードは真に覚醒し、その力でロム達を救った。
しかし……最終的に解き放たれたハイリビードを手にしたのは、ガルディの方だった。
ガルディ「ワシは最後までハイリビードを求めた。
お前は、土壇場で妹を守ることを優先した。
だからこそ、ワシは貴様に先んじてハイリビードを手中に収めることが出来たのだ。
情に流されるが故に使命を放棄するとは、愚かな男よ」
ガルディの嘲弄に対し、ロムは毅然とした態度でこう返した。
ロム「そうか……だが、それで俺が後悔すると思っているのか?」
ガルディ「何?」
ロム「天空宙心拳は正義の拳法! 愛と優しさこそがその使命だ!
レイナや仲間達を犠牲にするぐらいなら、ハイリビードなどくれてやる!」
そう断言すると、ロムは剣狼をガルディへと突きつける。
ロム「それに、ハイリビードはすぐにでも取り返す! 貴様を倒してな!!」
ロムの挑発に対し、ガルディは鼻で笑って返す。
ガルディ「ふ……ここで貴様と雌雄を決するのも一興……
だが、今はガデス様にハイリビードを届けることが先決……
勝負は預けておくぞ、ロムよ」
ロム「ま、待てっ!!」
ガルディ「むん!!」
ガルディの剣から漆黒の閃光が迸り、ロムへと降り注ぐ。
ロムがそれを凌ぎきった時には……ガルディの姿は跡形も無く消えていた。
ロム「ぐ……ガルディ……!」
彼の前では強がって見せたが、やはりハイリビードを奪われたショックは大きい。
ハイリビードの力の深遠は、先ほど見せ付けられたばかりだ。
それほどのエネルギーをガデスが手にすれば、一体どれだけの脅威となるのであろうか。
加えて、あのガルディにも依然勝ち目が見えてこない。
ロム(父さん……俺は……!)
自分は恐れている……
敵の強大さを。敗北の予感を。
そんな自覚を抱きながらも、ロムは必死でその恐怖を押し殺すのだった。
216
:
蒼ウサギ
:2009/03/18(水) 00:02:20 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=第三新東京市・NERV本部=
マヤ「北太平洋に浮上した謎の遺跡、消滅!」
統合軍やG・K隊が調査していたというプロトカルチャー遺跡の情報はここネルフにも伝わっていた。
そして、それが先ほどの伊吹マヤの言う通り消滅したことも。
冬月「やれやれ、謎は謎のまま終わったというわけか」
ゲンドウ「いや、そうではない。少なくとも連中はそこで何かを掴んだ。後で葛城三佐からの報告を待てばいい」
そうか、と言って冬月は口をつくんで場に沈黙が訪れる。
統合軍、及びG・K隊の方にはシンジのエヴァンゲリオン初号機とオブザーバとしての葛城ミサトが出向しており、
この場の守りとして前の使徒の戦いで大破し、修復された零号機及び弐号機のパイロットが残されていた。
だが、その前の使徒である第14の使徒ゼルエル以降、第三新東京市には新たな使徒の出現はない。
それが幸いなのかどうかは不明だが、ネルフスタッフに不安がないわけではなかった。
重い口を冬月が開く。
冬月「碇。これで修正されたシナリオが一歩進んだ。どうやら使徒に欠番が出たようだな」
ゲンドウ「老人どもが何を考えているかは知らん。だが、これは好都合というものだ」
冬月「最近の弐号機パイロットのシンクロ率低下のことか? それとも零号機パイロットのことか?」
ゲンドウ「生きていれば問題ないことだ」
冬月「N2爆雷の特攻・・・・・・。あれで生きていたのはまさに奇跡、というやつか?」
先の第14使徒の戦闘の際、零号機パイロットである綾波レイは、N2爆雷による自爆ともとれる攻撃を仕掛けた。
結果として、成果はなかったもの重傷ですんで生還したのは、誰が見ても「奇跡」という言葉が相応しいものに思えた。
だが、ゲンドウは、きっぱりとそれを否定する。
ゲンドウ「いや、シナリオ通りだろう」
と。
冬月「ゼーレのか?」
そう尋ねると、途端にゲンドウは、口を固く閉ざした。
こういう時の彼は、何かを隠している。
かつて、大学時代からの教授と生徒の間柄であった冬月の勘がそう告げていた。
再び場に重い空気が漂う。
§
そして、ここでも重い空気が漂っていた。
リツコ「アスカ、またシンクロ率が低下していたわ・・・・・・」
ハーモニクステストの結果を告げるリツコの目をアスカは逸らした。
その現実を受け入れたくないという感じに。
アスカ「今日は生理で調子が悪いのよ」
リツコ「身体的な調子にエヴァは影響されないはずよ。影響されるのはあなたの心の問題じゃなくて?」
アスカ「・・・・・・・」
リツコ「向こうでは一人シンジくんが頑張っているのよ。ここの守りはあなた達二人に掛かっているの
だから、心の問題はすぐに解決することね」
それだけ告げるとリツコは、足早にその場を去った。
残されたアスカ、そしてレイは無言のまま立ち尽くすが、リツコの姿が見えなくなると、
レイは一人更衣室へと向かおうとする。
が、その時。
アスカ「待ちなさいよっ!」
がしっ! と、突然、その白い腕をアスカの手が強く握り締めて止めた。
レイ「何?」
アスカ「言いたいことがあるんなら言いなさいよ!」
レイ「別にないわ」
アスカ「ふんっ! どうせ、ざまぁみろ、とか思ってんでしょ?
前の使徒に無様に負けた挙句、シンクロ率までガタ落ちして、情けないとか思ってんでしょ!?」
レイ「別に・・・・・・」
アスカ「嘘よっ! 変な慰めはやめなさいよっ!」
ヒステリックに叫ぶだけ叫んで、アスカはそのままレイを横切って更衣室へと向かった。
残ったレイは、ボソリと呟く。
レイ「慰めてないわ。だって・・・・・・」
私も負けたもの。
217
:
蒼ウサギ
:2009/03/18(水) 00:03:34 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
これは、勝利か敗北か。
いや、恐らくは後者だろう。
護衛対象だったプロトカルチャー遺跡は破壊され、ロムにはハイリビードという決して奪われてはならないものを
ガルディに奪われてしまった。
SRXという合体は成功したものの、あれは遺跡の力によって成功したようなものだ。
ヴィレッタ「仮説ではあるが、恐らくあの遺跡に眠っていたハイリビードなる未知なるエネルギーがSRXの
トロニウムエンジンを安定させ、合体を成功させたのだろう」
コスモ・フリューゲルの格納庫内で、SRXチームを緊急的に召集してヴィレッタがそれを話すと、
途端にリュウセイの頭が垂れ、ライが納得の表情となる。
ライ「なるほど。あの光は、そのハイリビードなるエネルギーの漏れだったわけですね」
ヴィレッタ「あくまでも仮説に過ぎないがな」
アヤ「じゃあ、次なる合体は・・・・・・」
ヴィレッタ「ロム・ストールの話ではハイリビードは敵に奪われてしまった。
先のようなトロニウムエンジンの安定が望めない以上、パターンOOCの解除は認められないだろう」
リュウセイ「くそぉっ! これでオレ達SRXチームが本領発揮ができると思ったのによぉ!」
悔しがって拳を打ち付けるリュウセイの一方で、悠騎はそれを聞きつつも己に起きた現象を思い出していた。
悠騎(じゃあ、あれもハイリビードの影響、って奴か?)
恐らくは自分だけに起きた現象。
全身の細胞がザワつく感覚に続いて、見えた奇妙な光景と声。
<この幻想なる世紀を・・・・・・元より失われていた世紀を断ち切ってくれ>
悠騎(幻想なる世紀を断ち切る・・・・・・・? 失われていた世紀だって?)
これに似た言葉を聞いたことがある。
そう、あのD.O.M.Eでの出来事だ。
この世界の遥か古代に存在したという認識されていない“失われた世紀(ロストセンチュリー)”
<アルテミス>の主たるウラノスは、そこで生まれた機動兵器であり、彼等のテクロノロジーとして現代で活用されている。
悠騎「でも、歪んだ“想い”で繰り返されている世紀って、どういうことだよ?・・・・・・すでに終焉を迎えたって・・・」
訳がわからず、悠騎はただただ混乱するだけだった。
218
:
藍三郎
:2009/03/20(金) 09:32:34 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=南極大陸 ゲペルニッチ艦=
ゲペルニッチ「ギギル、私の夢を塗り潰して消えてゆくのか……
もっと早く始末しておくべきだった。
だが夢は潰えたわけでは無い。新たな夢を成し遂げる策へと移る」
モニターに、帰還中のガビルの顔が映し出される。
ガビル『思わぬ打撃でした!
目覚めたギギルがバルゴを巻き添えにして消滅してしまうとは。
バルゴなど、元々足手まといだったとはいえ……』
ゲペルニッチ「同じこと。ギギルは既に夢からは程遠く、色を失っていた。
約束された消滅。いささか無駄な時間を過ごしたというもの」
ガビル『ゲペルニッチ様……』
ゲペルニッチ「だが、バルゴのために費やしたスピリチア
我が夢の綻びは大きい。シビルの行方も分からぬ」
僅かに口許を締めるゲペルニッチ。
彼をしても、今回の結果には憤りを覚えているようだ。
ゲペルニッチ「ただでは済まさぬ……
サンプルどもには、いずれ夢を与えてやるとしよう。
水滴の如き、ささやかな夢を……」
=シャングリラ=
マザーグース「シィィィィィット!!」
マザーグースは怒りのあまり、手にした人形を叩き付けた。
ピエロの人形は、頭部と四肢がバラバラになって地面に散らばる。
マザーグース「おのれガラクタめ……あいつが邪魔をしなければ……
これじゃア、今までの労苦が水の泡だヨ……!」
創造主に逆らった人形(クローソー)に憤慨するマザーグース。
それ以外にも、想定外の事態が多すぎた。
プロトデビルンの暴走による遺跡の消滅。ギャンドラーによるハイリビードの奪取。
マザーグース「まさかギャンドラア側に、“鍵”を持つ者がいたとはネ……
彼らの手に“アレ”が渡ったとなると、迂闊に手を出せないネェ……」
ギャンドラーに全面戦争を挑むには、現状の戦力では少々心許ない。
ロストセイバーやギガマシーンはプロトデビルンの暴走に呑み込まれて消滅した。
再生産するにはもうしばしの時間を要する。
こういう時のために用意した最凶四天王も、うち三体が脱走してしまっている。
マザーグース「全く! ユウが脚を引っ張らなければ、こンな面倒なことにはならなかったものを!!」
彼の怒りの矛先は、四天王を脱走させたジェローム・フォルネーゼへと向けられる。
ジェロームは、いつも通り飄々とした態度で謝罪になっていない謝罪をする。
ジェローム「いやはや、申し訳ない。
しかし……何故そんなにあの光の球に拘るのですか?
貴方の口ぶりからすると、今までの全てはこの時のためにあったように思えますが……」
マザーグース「ユウの知る必要の無いことだヨ!!」
憤るマザーグースを見て、ジェロームはくぐもった笑みを漏らす。
ジェローム「そう……誰しも他人には語りたくない心の内がある……貴方にも、私にもね?」
マザーグース「………………」
ジェローム「いいでしょう。
貴方の欲するものは、いずれ私が手に入れて御覧に入れましょう。
当面は、貴方に協力するとお約束しましたからね……」
219
:
藍三郎
:2009/03/20(金) 09:55:37 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=コスモ・フリューゲル=
ムスカ「どうにもいい気分じゃねーな……」
ムスカの憂いの表情。
それは、単に任務を達成できなかったことから来るのではない。
ゼド「ええ……どうも、我々の理解の及ばぬ次元で何かが動いている印象はありますね」
ムスカ「夏彪胤……あいつなら何か知っているかもしれねぇが……」
ゼド「あの後、彼も姿を消してしまいましたからね。
消滅していない事を祈りたいですが……」
アネット「でも、あの人は悪い人じゃないと思いますよ」
あの時……
迫り来る漆黒の波動に、コスモ・フリューゲルも飲み込まれそうになった。
しかし、寸前で大臨亀皇が割って入り、自分を中心として結界を張った。
それにより、コスモ・フリューゲルは空間に引きずりこまれるのを免れたのだ。
ゼド「そうですね……」
一方、白豹は艦の外に座り、静かな大海原を眺めていた。
滅多にしない、物思いに耽りながら……
白豹(大老師……)
220
:
藍三郎
:2009/03/20(金) 09:56:50 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ロム……ロム・ストールよ……
ロム「!!」
ガルディやハイリビードのことで思い悩んでいたロムは、ふと聞こえてきた声に顔を上げる。
目の前には、すっかり老いさらばえた老人がいた。
ロムはこの老人に見覚えがある。
かつて、バグに敗れて山中を彷徨っていた時、自分を介抱してくれた老人だ。
思えば、あの老人の料理を食べたお陰で、毒手拳の猛毒から回復できたのだ。
ロム「貴方は……」
『私は夏彪胤……世界の破滅を知る者……
ここにいるのは私ではなく……私の分身だ。
今は仙力を消費し動けない状態ゆえ……
要件を伝えるべく、このような手段を取らせてもらった……』
では、あの時自分を助けた老人も、夏彪胤だったのだ。
彪胤は、しわがれた声で、静かに言葉を紡ぐ。
『ロム・ストール……ハイリビードを取り戻せ……
君の持つ剣狼は、ハイリビードを制御する鍵……』
ロム「鍵……?」
ガルディも同じようなことを言っていた。
ならば、ガルディの流星も剣狼と同じ性質を持つ剣なのか。
『別次元からの流入によって、世界の調和は乱れ、終焉の時が早まろうとしている……
正と負のバランスが崩れて、負の力のみが異常に活性化している。
それを阻止するには、正の力の極限……即ちハイリビードが必要なのだ……』
ロム「………………」
世界の破滅。
一度聞いただけでは理解しがたい話ではあるが、その危機感は伝わってきた。
『ハイリビードを正しく用いることができるのは、正しき心を持つ者のみ……
“鍵”を集め、その力を引き出すのだ……そうすれば………………』
そこまで言って、老人の姿は霧のように消え去った。
ロム「ま、待ってくれ…………!」
聞きたいことは幾らでもある。
だが、彼とてここまで喋るのだけで限界だったのだろう。
分かったことと言えば……
いずれ世界が破滅するので、ハイリビードを用いてそれを阻止せよということだ。
さらに、剣狼と同じくハイリビードに干渉できる力を持つ“鍵”が他にも存在するらしい。
そして、もう一つ気になることがある。それは……
ロム「別次元からの流入……まさか……」
汚泥のようにこびりつく悪い予感。思い当たる節は、すぐ身近に存在している。
疑念を胸の内に留め、ロムは改めて己の使命を果たすことを誓うのだった。
深い海の底……岩塊に紛れて、大臨亀皇はじっと静止している。
彪胤(結界を張るのに、力を使い果たしてしまったか……
仙力を回復させるには、今しばし時間が必要だな)
髪は白髪になり、皮膚は皺まみれになっている。
すっかり老人の姿となった夏彪胤は、大臨亀皇の中枢に体を横たえていた。
こうやって休息を取ることで、仙力が自然回復するのを待つつもりだ。
今はそれ以外に取るべき手段が無い。
先ほど、ロム・ストールの下へ自らの分身を放ったが……全てを伝えられたとは言いがたい。
彪胤(ハイリビードはギャンドラーの手に落ちたか……
それでも、最悪の事態だけは免れた……)
そう……あのままプロトデビルン……
あるいは“門”の刺客に奪われるよりは数段マシな結果だろう。
ギリギリで希望は繋がれた。依然、先の見えない状況は続いているのだが……
来るべき世界の破滅。
それに至る未来を予知してしまったことから、彼の運命は決定付けられた。
出来る事ならば、この異変は自分の手だけで収拾したかったが……
事態は既に、彪胤の予想を遥かに超える速度で推移している。
ギャンドラーにプロトデビルン、ゼーレやアルテミスと言った者達も
“世界の真実”に気づき、露骨な干渉を始めている。
結局……自分は導き手でしかないのか。
世界の行く末は、同じ世界を生きる者達のみが変える資格を持つのだろうか……
221
:
蒼ウサギ
:2009/03/31(火) 21:40:40 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
だが、何も買わない。
ただ、黙ったままアイラに背中を向けたまま佇んでいる。
アイラ「・・・・・・・・・何が言いたい」
その態度を、無言の抗議と受け取ったのか、アイラが切り出した。
エッジ「別に・・・・・・・。ただ、あんな無茶な戦い方、“らしく”ないんじゃないですかね?」
アイラ「なに?」
エッジ「あんな戦い方続けたら・・・・・・いつか、死にますよ」
警告し、振り返ったエッジの目は怒りと、そしてどこかやるせなさを含んでいた。
その目に、アイラは一瞬だけ気圧されたが、すぐにそれに負けない強気な視線をぶつける。
アイラ「私は死なない」
断言して、アイラは休憩室を足早に出て行った。
まるで、エッジの目から逃げるかのように。
残されたエッジは、一人寂しく呟いた。
エッジ「そうじゃねぇんだよ・・・・・・アイラ姐さん」
第42話「蛇神の宴」
降下部隊に休息の時間はあまりなかった。
宇宙から最悪な情報がもたらされたのだ。
ルリ「たった今、宇宙のラミアス艦長より連絡がありました。
現在、世界各地でギャンドラーと思われる襲撃が同時多発的に起こっています」
各艦首脳会議で発せられたルリの言葉に一同、騒然となる。
マックス「なんだとっ!?」
由佳「ギャンドラーが世界各地って・・・・・・まさか、あのハイリビードってのを手に入れたから?」
ルリ「恐らくそうでしょう。なので、これよりこれを迎撃したいと思います。
幸い、宇宙に待機しているラミアス艦長らも降下して迎撃に協力してくれるそうです」
マックス「そうか。・・・・・・戦力の低下は否めないが、世界同時多発攻撃ならば我々も戦力を分散して迎撃に
当たるべきだろうな」
アイ「ならば、正確な情報を収集する必要があります。それは、私に任せてください」
ルリ「私とオモイカネもお手伝します」
ロミナ「しかし、休む暇もないのですね・・・・・・」
悲痛な面持ちとなるロミナ。
誰もが同じ思いだろう。だが、それと同時に考えていることも同じだった。
それだけ、事態は切迫しているということを。
ハイリビードを手に入れたギャンドラーは、ここぞという今に総攻撃をかけているのだろう。
そう、今、この星を守る者達が激戦続きで疲弊しているこの時を狙い済ましたかの如く。
由佳「ともかく、被害が拡大する前にも艦を発進させながら戦力を分散させましょう!」
マックス「・・・・・・それしかないな」
少しでもパイロット達を休ませて上げたいところだが、断腸の思いで賛同せざるを得なかった。
なによりも、この瞬間、誰かが悲鳴を上げているのかもしれないのだから。
222
:
どうぞw
:2009/04/01(水) 10:58:52 HOST:pl027.nas981.matsue.nttpc.ne.jp
とても人気なブログを紹介しますw
普通の女の子が書いているブログです。
Hなところもあっておもしろいですよw
ttp://angeltime21th.web.fc2.com/has/
223
:
藍三郎
:2009/04/02(木) 20:11:10 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
それから……
世界各地で、宇宙統合軍とギャンドラーとの熾烈な戦いが始まった。
G・K隊やマクロス艦隊を初めとする人類側の戦力は必死に戦ったが、
無尽蔵に沸くギャンドラー軍には苦戦を強いられ、一進一退の攻防が続いていた……
=ギャンドラー要塞=
グルジオス「黄泉に落ちし同胞の魂よ……大いなる力により再生せよ……!」
怪しい呪文と共に、グルジオスが紫色の念波を放出すると、そこから多数の妖兵コマンダーが発生する。
彼らは皆、一度戦いに敗れて魂だけになった者たちだが、グルジオスの妖術で蘇生したのだ。
元々、グルジオスの妖術にはこれほどの力は無い。
しかし、ハイリビードを得たガデスから力を授かったことにより、
多数の死者を同時に復活させるほどの妖力を手にしていたのだ。
ギャンドラー軍の全世界を同時に襲撃できるほどの戦力の源は、この死者蘇生の儀式にあった。
ガデス「貴様たちには、このワシが力を与えてやる。
このガデスのために存分に働けい!!」
玉座に君臨するガデスは、これまで以上の覇気を漲らせている。
手から赤いエネルギーが放たれ、復活したばかりの妖兵コマンダーに注がれる。
キャスモドン「おおお!力が漲ってくる!!」
ファルゴス「これなら勝てるぜ!!」
ザリオス「ガデッサ――!!」
ファルゴス「ガデッサ――!!」
最強の力を手にした首領に、妖兵コマンダーは喝采を送る。
グルジオス「もはや我らは死すらも克服した!
ギャンドラーに恐れるものなど何も無い!」
ガデス「そうだ……! 永遠の命を司るハイリビードは、既に我が掌中にある!
このガデスが宇宙の支配者として君臨するのも、もはや時間の問題!
逆らう者には死を与えよ! 我が野望が成就する日まで、存分に暴れるが良い!!」
「ガデッサ――!!」
「ガデッサ――!!」
「ガデッサ――!!」
「ガデッサ――!!」
首領ガデスを讃える声が、要塞中に木霊する。
デビルサターン「なぁなぁアネゴ。ハイリビードっちゅうのは、そんなすごいお宝なんでっか?
わいは、もっとキラキラしたざっくざくの財宝を想像してたんやけと……」
ディオンドラ「アネゴとお呼びでないよ!
……ふん、永遠の命に比べれば、そんな物は石ころ程度の価値しかないさね。
あたし達も、ガデス様に力をもらっただろ?
この力の高ぶり……あたしでも恐ろしくなるぐらいだよ」
自分の手を見つめて、喜び半分、恐れ半分の笑みを浮かべるディオンドラ。
デビルサターン「せやな。わいも信じられんぐらいパワーが上がっとる。
これなら、ロム・ストールもけちょんけちょんにしてやれるでぇ!!」
ガデスから与えられた力に昂揚し、マッスルポーズを取るデビルサターン。
その時、視界に黒い姿をしたギャンドラーの姿が映る。
歓喜に沸くギャンドラー要塞の中で、ガルディは愛刀・流星を抱いてじっと佇んでいた。
デビルサターン「そのハイリビードを奪ったのが、あのガルディっちゅう奴か。
あないな奴がおるなんて、猫に鼻水やでぇ」
ディオンドラ「寝耳に水、だろ?
確かに……ガデス様の秘蔵っ子って噂だけど、
あれだけ腕が立つなら、もっと早くに出て来ても良かっただろうにねぇ」
そんな疑念を抱きつつも、それ以上深入りするつもりは無かった。
ガデスやギャンドラーにはまだ秘密がある……
しかし、その秘密に迂闊に近寄る行為が死を意味することを、狡猾なディオンドラは熟知していた。
224
:
藍三郎
:2009/04/02(木) 20:12:49 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
グルジオス「ガデス様、いかがですか? ハイリビードの調子は……」
グルジオスに問われたガデスは、落ち着いた口調で答える。
ガデス「うむ……我が内に取り込んだハイリビード……まだまだ底が見えぬ。
完全に我が力とする為には、しばしの時間を要するだろう……」
現在、ハイリビードが流星を離れ、ガデスの体内に取り込まれている。
ガデスはその力を徐々に引き出し、最終的には自分自身との融合を目論んでいる。
それまでは、この場から動くことは出来なかった。
ガルディ「ならばガデス様……」
ずっと沈黙を貫いていたガルディが、初めて言葉を発した。
ガルディ「このガルディが、ガデス様の退屈を紛らわせて御覧に入れましょう」
ガデス「ほほう……どのような趣向でワシを楽しませてくれるのだ?」
ガルディ「ロム・ストールの処刑……では、不足でしょうか?」
ハイリビードを奪ったとはいえ、ロム・ストールとその一味は、今もギャンドラーと戦い続けている。
今も決して野放しには出来ない敵だ。
それ以上にギャンドラーにとっては、宿命の怨敵でもある。
ガデス「よかろう……往くが良い、ガルディ」
ガルディ「ははっ……!」
ガデスに深く礼をすると、要塞の外へ向かうガルディ。
グルジオス「ガデス様……」
ガデス「わかっておる……ガルディのロム・ストールへの執着……
それがただ単に、ワシへの忠誠心や武人としての矜持なのか否か……」
ガデスの意を汲み取ったグルジオスは、あの二人にも命令を発する。
グルジオス「ディオンドラ、デビルサターン! お前達も行け!!」
デビルサターン「ガ、ガデッサー!」
ディオンドラ「あいよっ!」
二人にとっても、ロム・ストールは怨み積もる相手……
決着をつけるのに不満があろうはずも無かった。
デビルサターン「ふふふ……ロム・ストール!
パワーアップしたわいの力を存分に思い知らせてやるでぇ!!
待っとれや〜〜〜!」
言葉通り腕を鳴らしながら、意気揚々と出陣するデビルサターン。
それに続くディオンドラだが、彼女だけはグルジオスに引き止められる。
ディオンドラ「グルジオス……?」
グルジオス「……ガルディが仕損じるとも思えんが……
万が一の事態に備えて、お前に伝えておくべきことがある」
いぶかしむディオンドラの顔が、驚愕に凍りつくのは、そのすぐ後のことだった……
225
:
藍三郎
:2009/04/02(木) 20:13:46 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=コスモ・フリューゲル=
世界中で発生したギャンドラーの迎撃のため、
コスモ・フリューゲルもマクロス7船団を離れ、単独で動いていた。
現在、フリューゲルは南アジア、インド上空を航行中だった。
由佳「失踪事件……?」
由佳はマックスから、この南アジアで起こっている奇怪な事件の報を受け取っていた。
マックス『ああ。基地に配備された部隊が、
バルキリーやSPTごと、一夜にして消える事件が多発している。
その影響で、南アジアの守りは現在手薄になっている』
由佳「だから私達が派遣されたのですね……」
世界中を見ても、この南アジアは一番の激戦区と化していた。
マックス『それは勿論だが、消えた部隊のことも気になる。
もっと詳しく調べたいところだが、生憎状況が状況だ……人手が足りない。
そちらも重々気をつけてくれたまえ』
由佳「わかりました。マクシミリアン艦長」
謎の消失事件……やはり、その裏にいるのはギャンドラーなのだろうか。
宇宙からやって来た敵ならば、何をやっても不思議ではない。
しかし……マックスの話では、基地には機体の残骸も殆ど残っておらず、まさに文字通り消失していたという。
ギャンドラーの攻撃は、破壊と略奪……それだけに集約されている。
彼らの仕業とするには、少々腑に落ちない点が残った。
由佳(ロムさん達に聞いてみようかしら……)
ギャンドラーと必死に戦う彼らに、これ以上の案件を持ち込むのは少々心苦しく思える。
それほど、ロム・ストールの戦いぶりは苛烈なものだった。
ハイリビードを奪われた自責の念から来るものであろう。
圧倒的なギャンドラーの猛攻に対し、彼は常に身を削るように戦っている。
ギャンドラーの噂を聞けば、単身飛び出していくのも日常茶飯事だ。
そんな彼の戦い方に危うさを感じるのは、由佳だけではないはずだ。
その証拠に、ロムの妹レイナは、いつも辛そうな顔をしていた。
インドの山岳地帯……
月光が照らす山奥に、無数の機動兵器群が集まっていた。
多数のバルキリーやドール、エステバリス、さらにはザフトやOZの機体までも……
その中心には、巨大な蛇の怪物が鎮座している。
頭の上に乗っているのは、褐色の肌をした少女だ。
イリアス「わらわの下に集いし信徒たちよ……
神を讃えよ! わらわを崇めよ!!」
薄いヴェールを翻しながら踊る少女……
イリアス・サラスヴァティーの鼓舞と共に、人間たちは一斉に神を讃える声を上げる。
彼らの瞳は、皆正気を失っている。
イリアスへの崇拝に眼を曇らせ、サラスヴァティー神への狂信に脳内を支配されているのだ。
イリアス「わらわはこの地上に再びサラスヴァティーの楽園を築き上げる……!
まずは濁ったこの世界を、神の炎にて浄化する!!
汝らはその尖兵となり、異教徒どもを誅罰するのだ!!」
掌の上に燃え盛る炎を灯し、信徒達の熱狂を更に高める。
一切の枷から解き放たれた彼女は、己の狂信の赴くままに、この世に再び神意をもたらす熱情に突き動かされていた。
イリアス「オホホホホホホ……オーッホッホッホッホッ!!!」
226
:
蒼ウサギ
:2009/04/02(木) 23:44:23 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
すみません、今さらながら
>>221
の前半部分が切れておりましたので、正式な物をここに掲載いたします。
―――――
=コスモ・アーク=
誰もが喪失感に苛まれる中、アイラは、一人、失っていた自信を取り戻しつつあった。
すっかり傷つき、エネルギーも底をついたズィッヒェルシュヴァルベをレイリーら整備班に預け、
自分は、さすがに疲れた身体を休めていた。
アイラ(・・・・・・いける。私は、負けていなかった)
先の戦闘。
誰よりも撃墜数は勝っていた。
そう、奇跡の合体に成功したSRXチームや、あの星倉悠騎よりも。
アイラ「エレ・・・・・・私はもう一人でも大丈夫だ」
自信から零れる笑みで休憩室の天井を仰いでいると、誰かが入ってくる気配がした。
悠騎か?
そう思って、目だけでその気配のほうを見てみるが予想は外れていた。
気配の主は、自分よりも何期も下の後輩、エッジだった。
エッジ「邪魔しますよ、ガウェイン先輩」
アイラ「・・・・・・遠慮する必要はない」
急な敬語に少し戸惑うアイラ。
確かに、G・K隊は、上下関係の礼儀はそれなりにあるものの基本は実力主義。
先輩であれ、後輩であれ、年上であれ、年下であろうとも、同じ戦闘要員であれば同じ立場をもって付き合うのが、
常識とされている。だから、階級というものも存在しない。
もちろん、最小限の礼儀はあれど、アイラの記憶が正しければエッジは最初からそれがなかったように思える。
普段から先輩問わず、友達のように接し、話しかけていたのがエッジだ。
それが今日に限って敬語。第一、今まで、「姐さん」から「ガウェイン先輩」などと。
妙な違和感だった。
エッジ「そんじゃ、遠慮なく・・・・・・」
と、少し様子のおかしいエッジは、まず自販機前に立った。
だが、何も買わない。
ただ、黙ったままアイラに背中を向けたまま佇んでいる。
アイラ「・・・・・・・・・何が言いたい」
その態度を、無言の抗議と受け取ったのか、アイラが切り出した。
エッジ「別に・・・・・・・。ただ、あんな無茶な戦い方、“らしく”ないんじゃないですかね?」
アイラ「なに?」
エッジ「あんな戦い方続けたら・・・・・・いつか、死にますよ」
警告し、振り返ったエッジの目は怒りと、そしてどこかやるせなさを含んでいた。
その目に、アイラは一瞬だけ気圧されたが、すぐにそれに負けない強気な視線をぶつける。
アイラ「私は死なない」
断言して、アイラは休憩室を足早に出て行った。
まるで、エッジの目から逃げるかのように。
残されたエッジは、一人寂しく呟いた。
エッジ「そうじゃねぇんだよ・・・・・・アイラ姐さん」
227
:
蒼ウサギ
:2009/04/15(水) 00:14:55 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
=コスモ・フリューゲル=
レイナ「兄さん・・・・・・あまり自分を責めないで」
ギャンドラーとの戦いの度に、出撃してはボロボロになって帰ってくる兄の姿は、見るに耐えなかった。
戦列や、連携などは全く無視して、単機で突出。
だが反面、一騎当千を思わせるその鬼神ぶりは、頼もしさというよりは、杞憂を思わせる。
レイン「レイナさんの言う通りです、ロムさん。
あなたがもし、ハイリビードのせいで自分を責めているのなら、それは・・・・・」
ロム「俺のせいです・・・・・・」
レインの言葉を遮って、ロムの声が重々しくリフレッシュルームに響いた。
その一言だけで、その空間が重苦しくなる中、誰かが堰を切るかのように立ち上がった。
ドモン「構うな、レイン。これはロム自身の問題。自分で折り合いをつけなければ前へは進めないものだ」
だが、と言ってから、ドモンはロムの前まで歩み寄り、怒りの形相で突然、掴みかかる。
ドモン「なんだその体たらくは! 以前、お前は言っていたな!
『武道家は、心・技・体。三つが揃って初めて己の力を残さず引き出すことができる』と!
そうでなければ、拳のキレが鈍り、折角の技も曇ってしまうと!」
今にもロムに殴りかからんとするドモンの迫力は、レインを始め、部屋にいる誰もを慌てふためかせた。
しかし、当のロムは、そうまで言われても、尚、どこか生気を失ったかのような目をしている。
ドモンの声が届いてるかも分からない状態だ。
ドモン「・・・・・・そんな調子では、あのガルディに勝つ事はできないぞ」
そう言い放っては、ロムを放したドモンは、「もう言うことはない」とばかりに、
クルリと身を翻し、そのまま部屋を出て行き、重い空気を残して騒然と化した部屋に静寂をもたらした。
レイン(ドモン・・・・・・)
レインがドアの向こうに消えたドモンの背を見ていると、チャランという鈴の音が聞こえて来た。
それがキラル・メキルのものであるとわかったのは、振り返ったときだ。
キラル「ロム・ストール殿。僭越ながら、私もドモン・カッシュと同じ考えですぞ。
この所のあなたの拳には、いつもの光が見えぬ」
レイナ「光?」
ドリル「てか、それって見えるものなのか?」
疑問符を浮かべたドリルに、キラルは微笑ましく口を広げた。
キラル「眼に見えるものが全てではありませぬ。故に、目が視えぬ私でもわかります。
今のロム殿には以前のような“光”が見えないのが」
ドリル「ん? ん? オイラ、よくわかんないぜ?」
一人、首を右往左往するドリルだが、誰もそれに応える者はいない。
誰もが、そして、ロム自身もキラルが言わんとすることが分かっていた。
すなわち、「以前のロムとは違う」ということを・・・・・・。
§
ドモン「まさかオレがロムにあんなことを言うとはな・・・・・・」
言った自分が驚きだった。
衝動的といっていい行動だったが、ロムには多く助けられたこともあり、自分と同じ過ちを犯して欲しくないという
思いはあったのは確かだ。
ドモン(やっぱりオレはシュバルツや師匠のように、上手くは伝えられない不器用な男だな)
自嘲気味にドモンは頬を緩めながら、アテもなく艦の通路を歩いた。
だが、その足はいつもの癖なのか、自然とトレーニングルームへと向かっていた。
今は、パイロット全員が体を休めている時間。
当然、この場所を使っている者などいないと思っていた。
228
:
蒼ウサギ
:2009/04/15(水) 00:17:26 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
しかし、
ゼンガー「チェェェストォォォ!!」
灯馬「とわぁぁぁっ!」
ゼンガーと灯馬が互いに刃を交えていた。
二人とも、入ってきたドモンの存在など気づかないほど互いの太刀筋に神経を研ぎ澄ませている。
蛇鬼丸「おい、灯馬ぁ! 手ぇ抜くんじゃねぇよ! さっさとこいつをバラしてやれぇ!」
灯馬「いや、さすがにそらまずいやろ」
と、灯馬が刀の蛇鬼丸の暴言に集中力を切らしたその僅かな隙をついて、ゼンガーが大きく踏み込んで面打ち。
ゼンガーが峰ではなく、刃のほうで斬っていたら灯馬の前髪はハラリと数本ほど切れていただろう。
ゼンガー「ここまでにしよう」
灯馬「そうしましょうか・・・・・・いやぁ、つきおうてもろうて、おおきにです」
ポリポリと頬を掻くなり、ドモンの視線に気づいたのか、灯馬は呆けた彼の顔を見るなり破顔した。
灯馬「なんや、ドモンさんもジッとしとらんでここに来たんでっか?」
ドモン「あぁ、いや・・・・・・」
随分と歯切れの悪いドモンに、灯馬は首を傾げたが、何やら話し辛そうなドモンの気持ちを悟ったのだろう。
灯馬「実は、ボクもそうなんよ。んで、ゼンガー少佐も、ホンマは休憩しとかなアカンのやけど、
やっぱジッとしとるのは性に合わんらしゅうて、だからついでにちょっとばかり稽古つけてもろうてん」
ゼンガー「出撃前の準備運動だ。それに目的地までまだ時間はある。これくらいならば問題ない」
そう言って目を伏せていたゼンガーの視線がドモンを捉える。
ゼンガー「お前も気持ちが晴れないのならば、ここで発散するがいい」
蛇鬼丸「そうだぁ! んで、オレのサビになりやがれ!」
灯馬「せやから、サビにしたらアカンて・・・・・・」
相変わらずといった様子の灯馬と蛇鬼丸のやり取りを見て、ドモンは、自分の中で先ほどまで浮き立っていた
心のさざ波が次第に落ち着いていくのがわかった。
ドモン「・・・・・・ふっ、変わらないな、お前たちは」
彼等の関係を見て、ドモンは苦笑した。
§
=機動要塞 シャングリラ ザオス自室=
慌しくその部屋に入ってきたのは、ルドルフ=F=ギーゼルシュタインだった。
ルドルフ「失礼します。先ほどインドに駐在させていた我が諜報兵からの連絡が途絶えました」
ザオス「・・・・・・・そうか」
ルドルフの報告に応答するザオスだが、以前とは何かが違うそれにルドルフは若干の違和感を覚える。
まるで、感情のない人形があの席に座っているかのような感じが否めないのだ。
ヴィナス「ギャンドラーの仕業・・・・・・とは考えにくいですね。こちらの耳に入る前に途絶えるとは・・・
これはもしや彼等以外の仕業と考えた方がいいでしょう」
傍らにいるヴィナスが、振り返ってルドルフに告げる。
その目は、何か全てを知っているかのような目だった。
ルドルフ「・・・・・・ヴィナス。私は、貴様に報告しているわけではないのだがな」
ヴィナス「これは失礼。ですが、耳に入った以上、放っておく訳にもいきませんからねぇ。
とりあえず、対策を講じましょうか・・・・・・。まぁ、大方の見当はついてますがね」
ルドルフ「なんだと?」
ヴィナス「まだ予測の段階に過ぎませんが・・・恐らくは、脱走した最凶四天王の誰かでしょうね。
まぁ、芸当が芸当なので、この予測が正しければ自ずと犯人は分かるでしょうが」
ルドルフ「・・・・・・ザオス様は、どう思われます?」
再び目を向けたルドルフに、彼は神妙な顔をしつつ、少しの間を置いて、
ザオス「ならば、さほど問題はないだろう。現在、地上ではギャンドラーの一斉攻撃が開始され、
統合軍、G・K隊の連合部隊は、その迎撃に当たっているとの情報も入っている。
さすれば、そのインドでの消失事件とも遭遇する可能性もあるだろう」
ルドルフ「では、彼等に任せていればいいと?」
ザオス「どちらが勝利しても我々に害はないのだよ。“ルドルフ”」
ルドルフ「!」
何気なく発したザオスの一言に、ルドルフは驚愕した。
ヴィナス「クスッ、ザオス様。さすがに彼等には勝ってもらわないと・・・・・・
まだ、マテリアルとしての価値が残っていますから」
ザオス「フッ、そうだったな、ヴィナス」
笑いを交し合う二人の外で、ルドルフは一人怪訝な顔をした。
ルドルフ(違う・・・・・・いつものザオス様なら、私のことをその名で呼ばない)
そう、いつもの・・・・・・クローンではない本来のザオスならば、彼を“ガリア”と呼ぶのだ。
229
:
藍三郎
:2009/04/18(土) 13:09:39 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
=コスモ・フリューゲル=
その後……
ゼンガーとの訓練を終えた灯馬は、廊下に背中を密着させて座り込んでいた。
灯馬「はぁ、やっぱりゼンガーのおっちゃんは強いなぁ」
蛇鬼丸「けっ! あんな野郎はな、てめぇが俺様の好きなように戦わせればイチコロなんだよ!!」
いきり立つ蛇鬼丸に、灯馬は苦笑する。
訓練で、この血に飢えた狂犬ならぬ狂剣のやりたい放題にさせるわけにはいかない。
いや……それはむしろ、“自分”の方か。
灯馬「でも……本当に強い人で良かったわぁ……」
刀の表面に映る自分の瞳を見つめる灯馬。その瞳が、徐々に深さを増して行く。
灯馬「もし、ボクよりも弱い人だったら……………………
殺してしもうたかもしれへんもん………………」
アネット「統合軍の救援信号をキャッチしたわ!」
神「またギャンドラーか?」
アネット「いいえ……報告には、敵は統合軍やネオバディムの機体とあるけど……」
由佳「ネオバディム?でも、統合軍の機体も混じっているのが気になるわ……」
マクシミリアン艦長が言っていた、消失事件とも何か関係があるかもしれない。
アネット「そして、敵軍の中には、巨大な蛇の姿をしたガンダムもいるそうよ」
神「そいつぁ……最凶四天王で間違いないな」
由佳「だとすると、<アルテミス>も関わっている可能性もありそうですね。
コスモ・フリューゲルは、当該ポイントに急行します!」
=インド カルカッタ基地周辺=
イリアス「オホホホホホホホ!!
神の行軍を妨げし者は、裁きの炎に焼かれて我らが道となるがよい!!」
VF−11サンダーボルト、ドール、エステバリス、ボルジャーノン、ウォドム、ジン、ゲイツ、
リーオー、トーラスと種々雑多な機体群を率いて、イリアスのガンダムナーガは進軍する。
道往く施設や市街地を焼き払い、焦土の道を創りながら突き進む。
立ちはだかる統合軍も、彼女の信徒に撃破されるか、炎の蛇に呑み込まれてしまう。
イリアス「不浄な大地を焼き払い、
サラスヴァティー神が降臨するにふさわしい永劫楽土へと変えるのだ!!」
ガンダムナーガの頭部に乗り、ヴェールを振って信徒たちを煽るイリアス。
そこに、コスモ・フリューゲルとG・K隊の機体が駆けつける。
ゼド「いました!ガンダムナーガです!」
彼らの姿を眼に止めた途端、イリアスは眉間に皺を寄せ、憎しみを露にする。
イリアス「むぅ、来おったか! わらわの神威執行を阻もうとする異教徒どもめ!!」
何度か交戦したG・K隊の面々は、イリアスにとって神に刃向かう怨敵である。
ゼド「異教徒ですか……まぁ、私も敬虔というほどではありませんがクリスチャンですけどね」
エッジ「おい! またアルテミスの命令で出てきたのか! 今度何を企んで……」
次の瞬間、メテオゼファーの下に炎の蛇が踊りかかった。
エッジ「うおおおっ! 熱っち!!」
イリアス「戯けが!! わらわが従うのは唯一つ、サラスヴァティー神のみよ!!
彼奴らなぞ、最初から眼中に無いわ!!」
ムスカ「その神様はあんたの妄想の中の……いや、それでいいや」
最凶四天王と会話すること自体無駄……そんなことは、最初から分かり切っている。
そんな彼らを捨て置いて、イリアスは饒舌に語る。
230
:
藍三郎
:2009/04/18(土) 13:10:47 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
イリアス「わらわは、大いなる意志を具現せんがためにこの地上に遣わされた巫女なり……
かつて、わらわは地上にサラスヴァティー神の信仰豊かな楽園を築こうとした。
だが、大命を果たさんとする最中に、わらわは異なる世界へと飛ばされた……」
ムスカ「<アルテミス>の仕業だろ?」
イリアス「否! わらわは、これも神の意志と受け取った……!
この世界こそ、サラスヴァティー神のおわす聖地なのだ!!
わらわが導かれた理由は、それ以外に考えられぬ!!」
イリアスの瞳に、悲しみと怒りを湛えた光が宿る。
イリアス「されど、この大地は数多の異教徒や涜神者どもによって穢されていた……
その時、わらわに神託が舞い降りたのだ!
この穢れた大地を浄化し、サラスヴァティーの聖地を復活させよと!!」
イリアスの言う神託や預言とは、要は自分に都合の良い解釈のことなのだ。
彼女にあるものは純然たる狂気、ただそれだけ。
己の狂気を、信仰という言葉に置き換えて酔っているのだ。
ガンダムナーガは六つのシミターを広げ、その威容を見せ付ける。
彼女の周囲には、多数の混成部隊が展開している。
イリアス「見るがいい! 我が神の軍勢を!
この者達こそ、わらわの教えに賛同し、神の楽土を築き上げる信徒たちよ!!」
パルシェ「バルキリーにドール、それに、ザフトやOZのモビルスーツも……!」
アネット「あれは、もしかしなくても……」
由佳「ええ……消失した統合軍の部隊に間違いないでしょう……!」
怪奇現象の真犯人は、最凶四天王の一人だったのだ。
イリアス「さぁ! わらわに崇拝を捧げる信徒たちよ!
大命成就を阻む異教徒どもを殲滅せよ!!
彼奴らの屍で築かれた祭壇の上に、我らが神は光臨なされるであろう!!」
イリアスは高らかに命令を下すと、ガンダムナーガの中へと沈んでいく。
ムスカ「相変わらず無茶苦茶言ってやがるが……」
ゼド「手強い相手であることには間違いありません。
それに、彼女の信徒と呼ばれている彼らも気になりますねぇ……」
かつて、イリアスはゼド達の居た地球で、僅かな期間で大量の信徒を集め、
ネオインドを支配するほどの巨大宗教団体を作り上げる過去があがる。
イリアスの引き起こす奇跡の数々に魅せられた、と言う噂が一般的であるが、果たしてそれだけなのだろうか。
この謎は、目の前で起こっている事態とも密接に関わっているはずだ。
ゼド「その謎が明かされるまでは、彼らを下手に撃墜しない方が良さそうですね」
ムスカ「要は、バロータ軍の時と同じ……
コクピットとエンジン部を避けて戦闘不能に追いやればいいってことか……」
231
:
^^おいで
:2009/04/22(水) 16:23:23 HOST:z145.124-45-36.ppp.wakwak.ne.jp
すごく好評のブログw
ちょっとHでどんどん読んじゃうよ。
更新もしてるからきてみてね^^
ttp://angeltime21th.web.fc2.com/has/
232
:
はばたき
:2009/04/22(水) 18:58:20 HOST:zaq3d2e47fa.zaq.ne.jp
戦端は開かれた。
無数の雑多な、この混迷の世界を象徴するような編成の部隊の中を、これまた雑多に集められた小数の先鋭達が食い込んでいく。
チポデー「シット!正気じゃない相手ってのはやりにくいぜ!」
赤い豪腕がMSの頭部を潰す。
だが、メインカメラが破壊されたにも拘らず、意に介した様子も無く、組み付く勢いで突撃してくる敵に、僅かにでも怯まずにはおれない。
カガリ「兎に角、手足を奪って進軍を止めるんだ。戦えないようにすれば自然と足も止まる」
ドッカー「無茶言ってくれるぜ。おい、キラ!お前そういうの得意だろ!」
毒づくエメラルドフォースの横を、言われるまでもない、とばかりに駆けるフリーダムが、全火器を総動員して、目の前の軍勢ことごとくを戦闘不能に追いやる。
だがそれもつかの間。
次から次に湧き出すようなイリアスの軍勢は、文字通り死をも恐れぬ勢いで仲間の屍を踏み越えて進軍してくる。
リョーコ「ったく、どこまでまともじゃなえぇんだ!こいつら」
イズミ「この世で最も恐ろしいのは、狂信。自分以上に信じられるものがあると、人は容易くタブーを捨てられるものよ」
下手をすれば特攻でもかましてきそうな、鬼気迫る敵の勢いに、徐々にではあるが、統合軍の面子も気圧されされ始める。
しかし
悠騎「畜生、こいつら・・・!?」
前線で剣を振るっていたブレードゼファーの前に影が射す。
それは、彼が相手取っていたバルキリーの頭部を踏み抜くと、羽毛のような軽さで飛び上がり、更に前方のドードレスの頭部を同じように踏み抜いた。
悠騎「アイラ姐さん!?」
次、そのまた次と、敵機の頭部を踏み抜き、前々へと進軍していく漆黒の影は、アイラのズィッヒェルシュヴァルベだ。
ヒカル「わお、やるぅ!」
ジェット「おお、あれはロムの天誅跳馬!!」
サイ・サイシー「すっげ、いつの間に」
次々と敵を踏み台にして一人進軍していくアイラ。
その姿は正しく燕。
飛翔する黒翼は、まっすぐ敵陣中央に陣取るガンダムナーガへと迫っていく。
アイラ(どれだけ敵がいようと、頭さえ潰せば・・・!)
駆け抜けるズィッヒェルの中で、アイラは静かに闘志を燃やす。
神の奇跡だがなんだか知らないが、所詮は相手もただの人間。
どれだけその力を超越していようと、自分と同じ存在なのだ。
これから先、自分達はハリピートやプロトデビルンといった、未知なる存在とすら戦わねばならない。
ましてやその先に控えるアルテミスの存在は、こんな化け物染みた彼女らを拘束すらしていたのだ。
たかだか一幹部程度の位置の相手に足踏みなどしていられない。
あのアルテミスの長を名乗った少年、マルス・コスモを倒す為には!
アイラ「だから、お前にはその為の試金石になってもらう!」
イリアスの周囲に並んでいた親衛隊らしき一軍を一蹴して、アイラのズィッヒェルシュヴァルベは、ガンダムナーガの前に立つ。
イリアス「おのれ、異敵め!神の代行者たるわらわの眼前に許しも無く立つとは度し難き!去ね!」
瞬間、ガンダムナーガの周囲に炎の蛇が踊ったかと思うと、それらが束なり、巨大だ大蛇のとなってズィッヒェルに襲い来る。
だが
アイラ「はあっ!!」
裂帛の気合と共に放たれた蹴りが、此方は黄金に輝くプラズマのエネルギーを纏って、その大蛇を一刀両断した。
イリアス「ぬっ!?」
アイラ「悪いが、その手品は以前見せてもらった!もう私には通用しない!!」
叫ぶと同時に、大地を蹴る燕。
虚を突いた二連の蹴りが、黄金の刃を現出し、ガンダムナーガのシミターの一本を半ばからへし折る。
§
=コスモ・フリューゲル 個室=
外で戦闘が始まっても、クローソーは相変わらず部屋でベッドに腰掛けたままでいた。
無論、敵が攻めてきていることは知っている。
だが、怨敵であるマザーグースなら兎も角、相手はアルテミスですらなくなった最凶四天王とかいう輩だ。
糸の切れた凧に用は無い。
そう思って出撃を見合わせていたのだが・・・
エレ「・・・・・・・・」
クローソー「・・・・・」
先日の出撃以降も、相変わらず彼女の隣にはこの少女がいた。
馴れ合うつもりはない。
戦うと決めた以上は、彼女も暇ではなくなった。
だが、そうなった今でも、彼女はこうして“お守り”を続けている。
理由はわからない。
だが、自分から断りを入れに行くのが面倒だった。
それだけの筈だ。
233
:
はばたき
:2009/04/22(水) 19:00:11 HOST:zaq3d2e47fa.zaq.ne.jp
クローソー「・・・全く、どうかしてる」
その言葉は誰に向けてのものだったか。
それを述懐する暇も無く、艦に細かい振動が走った。
クローソー「被弾したのか。全く何をやってるんだ」
呆れたように呟いた後、彼女は隣に座った少女に目を向ける。
相変わらず、小刻みに震えているが、衝撃が走るたびに、その小さな体がビクン、と跳ねるのがよく解る。
クローソー「・・・・チ」
§
=コスモ・フリューゲル ブリッジ=
オペレーター「右舷被弾!第一装甲版を抜けました」
由佳「弾幕を厚くして!これ以上近づけさせてはダメです!」
ブリッジルーム、慌しく指示が飛び交うその中で、不意に廊下へと通じる扉が開いた。
クローソー「おい」
由佳「貴女は・・・」
由佳が何か言うより早く、クローソーは一緒に連れてきていたエレを乱暴に鍋島博士の方に放った。
神「おっと」
クローソー「私も出る。このまま、艦と一緒にお陀仏なんてゴメンだからな」
クローソーのその発言に、一瞬怪訝な顔になるブリッジクルー。
出撃するなら、格納庫なり自分の部屋から通信して来ればいい。
わざわざブリッジまで足を運んで許可を得る必要も無いはずだ。
クローソー「誰か見ていないとダメなんだろう?」
一同の疑問を察したのか、そっぽを向いてそう答えるクローソー。
クローソー「預けたからな、私は行くぞ」
それだけ言って、ブリッジを後にしようとする彼女の手を、はし、と掴む手があった。
エレ「いっちゃ・・・やだ・・・・」
クローソー「・・・・」
驚きに目を見開く。
だが、それも数瞬。
すぐに、目に怒りを溜めて、クローソーは乱暴にその手を振り払った。
§
イリアス「おのれおのれおのれ!娘がぁっ!!神に仕えるわらわをどこまで辱める気か!!」
無数の炎の蛇が踊り、漆黒の機体を追い回す。
地を焼き、大気を焼き、迫る蛇を紙一重で回避していくアイラ。
やれる!
十分に自分はこの相手と戦えている。
その実感が、彼女の体を満たしていく。
後は、決定打さえあれば、勝機はある。
そう考えながら、必殺の機会を待ちながら猛攻に耐えるアイラであったが、ふいに彼女らのいる戦場に無数の雷が降り注いだ。
234
:
はばたき
:2009/04/22(水) 19:01:33 HOST:zaq3d2e47fa.zaq.ne.jp
アイラ「なんだ!?」
驚いて見上げた先、いつの間にここまで来たのか、中空に浮かぶ、ザキュパス・リジェネレートの姿があった。
イリアス「この雷!以前もわらわの邪魔をしてくれた娘御か!」
怒りに満ちた表情でザキュパスRを見上げるイリアス。
クローソー「これで助けるのは二度目だな」
そんなイリアスを無視して、アイラのズィッヒェルシュヴァルベの傍に降りてくるクローソー。
アイラ「・・・助を頼んだ覚えはない。私は一人でもやれていた」
クローソー「ふん」
厳しい目で睨むアイラをこれまた無視して、ディザスターセイバーを抜き放つ。
クローソー「まあいいさ。今日の私は機嫌が悪いんだ。巻き込まれないように注意しな」
言うが早いが、スパーク・テンタクルから電撃を放ち、ガンダムナーガへと間合いを詰めるザキュパスR。
クローソー(全く、なんなんだ!あの娘は!!)
果敢に攻め立てるクローソーの脳裏に浮かぶのは、あの少女、エレの瞳。
まるで救いを求めるように、期待と同情と哀切と憐憫と興味と矛盾した感情がない交ぜになった瞳で自分を見る少女が、どうにも気に入らなかった。
いや、あの瞳の意味は、いかないでという言葉の意味が解ったからこそ、苛立つのかもしれない。
彼女は求めていた
“仲間”を
その瞳は、まるで、まるでそう・・・・
クローソー「違うんだよ!“あれ”は“あいつら”とは違うんだ!」
我知らず、叫んでいた。
その叫び声を聞き取ったのは、幸い近くにいたアイラだけだった。
だが、それ故、怪訝そうな疑問が返ってくるのは、当然だった。
アイラ「何を・・・・」
クローソー「ふん!なんでもないさ!“ペット”の世話位自分でやんなって話」
思わず口を付いて出た、毒を含んだ言葉。
当然、アイラはそれに過剰に反応する。
アイラ「何だと」
静かな怒りの声。
抜き放たれた銃口が、容赦なく、クローソーの方を向いている。
クローソー「なんだい、図星を突かれて怒ったかい?」
一瞬、銃を向けるほどの逆鱗に触れたという事実に、少なからず驚いたクローソーだったが、プライドから更に挑発的な台詞が飛び出す。
クローソー「はん、情けない。今のアンタ、“まるでお気に入りの玩具を取られたみたいな顔してるよ”」
刹那、銃声が轟いた。
発射から着弾まで光の速さで到達するビーム。
それを避けられたのは、そこに“本気の殺意”があったからだ。
クローソー「・・・!アンタ」
意外なほどに怒りは湧かなかった。
それよりも、寧ろ気付いてしまったのだ、彼女は。
自分の本気で撃った相手の背後に蟠る、濃い“闇”の気配に。
クローソー「・・・ハ!なんだい、驚いたね。甘ちゃんの集団みたいなあの連中の中に、“アンタみたいのがいるなんてね”」
アイラ「・・・・・」
235
:
蒼ウサギ
:2009/04/28(火) 01:48:18 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
エッジ「いい加減にしろよ、あんたら、こんな状況で!」
二機の間に走る一筋の光。
メテオゼファーが放ったスナイパーライルフのDエネルギーの弾丸だ。
アイラ「! エッジ・・・・・・」
クローソー「ふん」
重苦しく、気まずい沈黙が三機の中で流れる中、その隙をイリアスが見逃すはずもない。
イリアス「わらわを前にして止まるとは命知らずな者達よ!」
語尾と同時に、天に祈りを捧げるようにして六つのシミターを掲げる。
すると次の瞬間、その三機に雨の如き無数の剣が降り注いだ。
それだけではない。
まるでガンダムナーガから遠ざけるかのごとく、無数の操られた機体たちが押し寄せてくる。
三機は、ガンダムナーガの攻撃のダメージを引きずりつつも、嫌でもその操られた機体の迎撃をせざるを得なかった。
イリアス「オホホホホホ! 異教徒風情がわらわに触れた神罰よ!」
アイラ「チッ!」
何が神罰だ。と言い返したいアイラだったが、止め処なく襲い掛かる機体の対処にそんな余裕はなかった。
これが無人機ならば容赦なく撃墜できるのだが、彼等がただ操られている兵士だというのだから厄介この上ない。
エッジ「くそっ! やり辛いったらないぜこりゃあ!」
このもどかしさに、エッジはただただ苛立つしかなかった。
そして、それはエッジだけではなかった。
アイラと同じく、頭であるイリアスを狙って攻撃しようとしていた他の仲間たちも同じように苦戦を強いられていた。
ムスカ「くそっ、思った以上にこりゃヤバイぜ!」
一見、無造作にハイドランジアキャットのミサイルをばら撒いているように見えて、実は正確に敵機のエンジン部等の
急所を的確に破壊していくムスカだが、それでも治まらない敵の猛威に苦笑いを見せた。
ゼド「さすがにまずいですね。我々の戦力が分散している今、単純な数では向こうが圧倒的有利です」
悠騎「しかも、こいつらは容赦ねぇときてる。こっちはそうもいかないってのによ!」
誰もが悠騎と同じような気持ちだった。
そんな時、一同の無線から由佳の声が聞こえてきた。
由佳『皆さん、こちらコスモ・フリューゲル! 今、ガンダムナーガに接触したズィッヒェルシュヴァルベから
得られたデータを元に、四之宮艦長代理が解析を進めています! 今しばらく耐えてください』
悠騎「今しばらくって、どれくらいだよ!」
由佳『アイちゃんが謎を解明してくれるまでよ! それまで根性見せなさいよね、お兄ちゃん!!』
悠騎「・・・・・・なんでオレだけ当たり厳しいんだよ!」
由佳『ごちゃごちゃ言ってる暇あったら、一機でも多く迎撃―――』
そこで由佳が口篭る。
そして、間髪入れず別の声が割って入ってきた。
ミキ『皆さん、警戒してください! この区域にもギャンドラーが接近してきています!』
ムスカ「なっ!?」
悠騎「こんな時にかよっ!」
236
:
蒼ウサギ
:2009/04/28(火) 01:48:50 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
§
=コスモ・アーク=
常人にはとても真似できないような素早く、そして正確なキーボード操作でアイはガンダムナーガの解析を進めていた。
コスモ・アークに搭載されている解析機能とアイの頭脳を併せ持てば、イリアスがどのようにして大量の使徒を集める
ことができるのか?
アイ(単なる奇跡や世迷言で、短期間にあれほどの信仰者を増やすことはほぼ不可能といっていい。
必ず何かトリックがあるはず・・・・・・)
ギャンドラーが迫っているという今、一刻の猶予もない。
ズィッヒェルシュヴァルベとガンダムナーガとの短い戦闘記録で得たガンダムナーガの姿形から武器を可能な限り、
徹底的に分析し、そこからあのトリックの解明のヒントを掴み取る。
だが、いくらなんでも情報が少なすぎた。
アイ(主だった武器はあの六つのシミターだけ・・・・・・。
機体形状は、私達の世界に存在する、ネオインド代表のコブラガンダムに似ているけど・・・・・・)
元よりネオインド出身だけにそれは理解できるのだが、大きさが二倍以上という巨体だ。
しかし、もしあれと同系統ならば同じようなシステムが応用されて使われているのかもしれない。
アイ「確か、こちらの世界に来る前に行われていた誰かのコブラガンダムの戦闘ファイルデータがどこかに・・・・・・」
コスモ・アークの膨大なデータバンクを検索して、それはすぐに発見された。
第13回ガンダムファイト決勝大会二回戦。
ネオジャパン代表ドモン・カッシュVSネオインド代表チャンドラ・シジーマ。
アイ「この戦闘において、シジーマは笛の音色でサポートユニットである蛇・・・・・コブラ型のMFと連携し、
ドモンさんを苦しめた。・・・・・・・・・けど、ガンダムナーガに音を発生させる武器や装置なんかはない」
この線はダメか、そう思った矢先のことだった。
ふと、イリアスの言葉が蘇ってきた。
“この世界こそ、サラスヴァティー神のおわす聖地なのだ!!”
“この穢れた大地を浄化し、サラスヴァティーの聖地を復活させよと!”
アイ「サラスヴァンティー・・・・・?」
すぐにネットワークに検索をかけて画像を呼び出してみた。
その画像には、そのほとんどが4つの手を持ち、琵琶のような弦楽器を持った女神の姿だった。
アイ「まさか・・・・・・・鍵は“音”?」
それに気づいた時には、すでにギャンドラーの攻撃は始まっていた。
=機動要塞 シャングリラ 格納庫=
ルドルフ「どこへ行く?」
アフロディテに乗ろうとするヴィナスを、ルドルフが呼び止めた。
ヴィナス「ちょっと地球の様子を覗きにね。なに、高みの見物という奴ですよ」
ルドルフ「マテリアル達の戦いをか?」
ヴィナス「そんなところです。これはいわば彼等に与えられた試練。
これを乗り越えてこそ、マテリアルとしての価値も上がるというものです」
優雅に笑ってみせるヴィナスだが、ルドルフに笑みはない。
理由は先ほどのザオスの一件だ。
どうしても違和感が拭えなくて、落ち着かない。
ルドルフ「貴様・・・・・・何を企んでいる?」
ヴィナス「もちろん、<アルテミス>の企みこそが、私の企みですよ」
それ以上でもそれ以下でもないとでも言いたげなヴィナスの口振り。
そして、ヴィナスはルドルフとの会話を打ち切るように足早にアフロディテに乗り込んだ。
ヴィナス「では、行ってきますよ。せっかく集めたマテリアルにして、究極生体兵士の“テスト相手”を下等な
宇宙犯罪者に奪われないようにね」
そういうとアフロディテが格納庫から発進口へと歩を進めた。
それをただルドルフは見つめた。
睨み付けるように。
237
:
藍三郎
:2009/05/03(日) 10:40:59 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
ロム「出たか! ギャンドラー!!」
戦場に突入してくる彼らを眼にした瞬間、ロムの激情は一気に沸点へと達する。
戦列を離れ、一人ギャンドラーの群れへと突撃して行く。
キャスモドン「ぎゃぁはははは! 来やがれ、ロム・スト――ぶぎゃっ!!」
剣狼によって一刀の下に切り伏せられるキャスモドン。
右の剣狼で敵を斬り、左の拳で叩き潰す。
ケンリュウの鬼気迫る戦いぶりに、ギャンドラーはいきなり出鼻を挫かれる。
レイナ「お、お兄ちゃん、落ち着いて!!」
阿修羅の如き戦いぶりに、レイナも感嘆するよりは心配してしまう。
ジェット「任せろ、俺達がサポートに回る!」
ドリル「おうよ!!」
ジェットとドリルも続いてギャンドラーの迎撃に向かう。
ロム「ぬおおおおおっ!!」
並み居るギャンドラーの大軍を掻き分けて進むケンリュウ。
だがそこに……
???「待たんかい!!」
よく聞きなれた声がロム達に浴びせかけられる。
デビルサターン「光ある所、闇あり! 正義ある所、悪あり!
地獄からの使者、デビルサターン6!あ、参上でっせ!!」
断崖の上で、逆行を背負って登場するデビルサターン6。
デビルサターン「なははははは! これ、一度やってみたかったんや!」
ジェット「ロムの猿真似かよ! それで強くなったつもりか?」
ジェットの挑発に対して、デビルサターンは手を振って鼻で笑う。
デビルサターン「ちゃうちゃう、つもりやない……わいは、ほんまに強くなったんや!!」
ドリル「何ぃ……」
デビルサターン「積年の恨み、晴らさせてもらうでぇ!!」
チェーンナックルを放つデビルサターン。
その爪が、一瞬巨大化したように見える。
ジェット「な!?」
ドリル「ぐああぁぁぁぁぁぁっ!!」
ロム「!!」
チェーンナックルはジェットとドリルを薙ぎ払い、ケンリュウへと飛んで行く。
ケンリュウも盾を構えて防御するが、そのパワーにより吹き飛ばされてしまう。
ロム「ぐ……! このパワーは……!」
大地には、チェーンナックルの痕跡である深い亀裂が刻まれていた。
以前のデビルサターンからは想像も出来ないほどの破壊力である。
デビルサターン「うほほほっ! 我ながら惚れ惚れするでぇ!
ガデス様に頂いた力は!!」
ロム「ガデスに、だと?」
デビルサターン「そうや! 全く、あのハイリビードっちゅうお宝はサイコーやでぇ!」
ロム「ハイリビード……そうか、ガデスめ……!」
恐れていた事態が起こってしまった。
デビルサターンの異常な進化は、ハイリビードを得たガデスが己の力を分け与えたからだったのだ。
それだけではない。蹴散らしたはずのギャンドラー達が、
意識を取り戻して起き上がって行くのが見える。
ファルゴス「へぇ……いつもと比べてあんまり痛くねぇな!」
ザリオス「これならまだやれるぜぇ!!」
デビルサターン「このパワーがあれば、金銀財宝も奪い放題や!
ロム・ストール! 今日こそお前をぶち殺して、わいらギャンドラーが天下を取ったるでぇ!!」
挑発するギャンドラーに対し、ロムの怒りは限界を越えて高まりつつあった。
父が命を懸けて守ろうとしたハイリビードの力を、好き勝手に利用されるのが我慢ならないのだ。
ロム「ハイリビードの力を悪に染め、己が欲望を満たすための道具にするとは……
ガデス! ギャンドラー! 貴様達だけは、絶対に許さんッ!!」
怒りに震える拳を握り締め、その激情を解き放つ。
ロム「パイルフォ――――ゥメイション!!」
バイカンフーに合体して、爆炎の闘気を巻き起こす。
238
:
藍三郎
:2009/05/03(日) 10:42:43 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
イリアス・サラスヴァティーの周囲を取り囲む純白のヴェールが、竜巻のごとく高速で駆動する。
布と布同士が擦れ合い、人の耳では聞こえない音を奏でる。
だがそれは、聞いたが最後人間をイリアスの傀儡にする魔性の音曲でもあった。
「オホホホホホホ……わらわが承った神の意志を、
妙なる音曲に変えて万民に聴かせてやるのだ。
神の教えを体中に染みこませ、忠実な信徒となってわらわに従うがよい!」
アイの予測どおり……イリアス・サラスヴァティーが多数の信徒を獲得した手段は、この音にあった。
ヴェールをこすり合わせて生じさせる摩擦によって特殊な催眠音波を発生させ、人間を自由自在に操る。
この布が、イリアスにとってのサラスヴァティーの琵琶なのだ。
ただし一つ違う点があるとすれば、イリアス自身には人を操っているなどという認識は無い。
彼女は、脳内に下りた神々の声を、下々の者に聴かせてやっているつもりなのだ。
「響け、響け、サラスヴァティーの琵琶(ヴィーナ)の音よ!
神の教えを愚民どもの脳漿に刻み付けるのだ!」
ムスカ「なるほどな、音か……」
ゼド「サラスヴァティー神は日本では、弁財天と同一視されていますからね……
もっと早くに気づいておくべきでした」
タツヤ「でも、そんなもん全く聞こえないけどな……」
パルシェ「恐らく、超音波と同じで人間の可聴域では捉えられないほどの微弱な音量なんだわ……」
キリー「すると何か……俺たちも知らないうちに操られていたかもしれねぇってことか」
レミー「もう、ぞっとしないわね!」
アルゴ「いや……もう遅かったかもしれん……ッ!」
一同は、脳に不愉快な痛みを覚える。脳を万力でじわじわ締め付けられているようだ。
リュウセイ「ぐ……!!」
ライ「何だ……? 急に頭が痛く……」
ムスカ「急にじゃねぇ……迂闊だった。奴の術は……もう俺達にも効いていやがる……!」
イリアスが奏でる“ヴィーナの音曲”は、機体を透過してパイロットにも作用している。
防音設備など意味を成さない。
彼女が発する宇宙空間でも燃え盛る“神の炎”と同じく、この音も異能によって生じたものなのだから。
ここにいる機体群も、ヴィーナの音を聴かせて機体ごと連れ去ったものだ。
イリアスの率いる軍勢と遭遇した軍は、魔性の音色に囚われ、傀儡へと堕ちていった。
これによって、イリアス・サラスヴァティーは短期間で巨大な軍勢を作り上げたのだ。
その前兆となるのが、ムスカ達を襲った頭痛である。
途端に機体の動きが鈍る。この劣勢で、精神の不調は命取りになるだろう。
だが、痛みを感じられるならまだいい。
この痛みは、まだ精神がイリアスの支配に抵抗している証だ。
もし、痛みが消えてしまえば……たちまち理性は蕩け、洗脳と言う快楽へと転げ落ちるだろう。
アレンビー「冗談じゃないわよ! あいつの信者になるなんて!」
ゼド「何とか……音波の発生源を特定できればいいのですが……」
音を外部に放出しているならば、あのガンダムナーガのどこかにスピーカーのような機器があるはずだ。
それを破壊すれば、洗脳音波も止められるはず……
ムスカ「手当たり次第に仕掛けるにゃ、ちと危険すぎる相手だぜ……!」
加えて、撃墜できない敵を相手にした戦いも限界に達しつつある。
今頃はアイが全力で解析している最中だろうが、発生源を特定するだけの時間はあるのか……
239
:
藍三郎
:2009/05/03(日) 10:44:04 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
蛇鬼丸『あ〜! さっきからイラつくことばっかだぜ!
思うようにぶっ殺せねぇしよぉ!!』
灯馬「あかんて! あのオバちゃんを除けば、皆こっちの味方なんやから……」
一方、灯馬は敵を斬り殺したくてたまらない蛇鬼丸を抑えるのに手を焼いていた。
こういった敵にトドメをさせない戦いは、この二人にとって鬼門だった。
蛇鬼丸『それだけじゃねぇよ!
何かよぉ、さっきから気色悪い音が聞こえてくるんだよ!』
灯馬「音やて……?」
蛇鬼丸『ああ! やたら甘ったるくてしつこくてねばねばしていて……聴いていると気分が悪くなる!』
灯馬「おま……あいつの出しとるっちゅう音が聴こえるんか!?」
蛇鬼丸『おう、さっきからず〜〜〜っとな!!
全くうざったい音だぜ、どうせ聴くなら斬った奴の悲鳴の方が……』
灯馬「なら早く言えや!!」
思わず蛇鬼丸を一喝する灯馬。
耳もない蛇鬼丸に何故聴こえるのか不思議だが、彼もイリアスも人ならざる魔性の持ち主。
彼らだけに通じる特異な感覚があるのかもしれない。
灯馬「ほんで、その音がどっから出とるのかもわかるんか……?」
蛇鬼丸『まぁな、あの蛇女の尻尾の先……そこからどす黒い音が漏れ出ていやがる』
“黒い音”とは奇なる表現だが、それも“妖刀”ならではの感覚なのだろう。
果たして、蛇鬼丸の指摘は当たっていた。
ガンダムナーガの尾の先端部には、鱗状の装甲が密集していた。
イリアスのヴェールと連動して、それらを激しく震わせて超音波を発生させているのだ。
それは、ガラガラヘビが相手を威嚇する際の行動と良く似ていた。
灯馬「みんなも何かヤバそうやな……
よぉし、そうと決まれば、ボクらであの尻尾を斬り落としたろうやないか」
蛇鬼丸『おっしゃあ! ようやくやる気が出てきたぜ!!
あの蛇女には借りもあるしよぉ!!』
刀を握り締め、麟蛇皇はガンダムナーガに向かって疾走する。
マントで身をくるみ、道を阻む信徒の攻撃を、最小限の斬撃で切り払う。
イリアス「むぅ、あやつはッ!!」
イリアスの顔が怒気に歪む。
今迫ってきている相手は、かつての月での戦いで、イリアスを散々馬鹿にした敵だ。
蛇鬼丸『おらおらぁ、クソババア!! 今度こそてめぇを三枚におろしてやるぜぇ!!』
イリアス「わらわを侮辱する矮小な下衆めが!!
今度こそ、汝の双眼を抉り、四肢を斬り刻み、五臓六腑を火にくべてくれるわ!!」
ガンダムナーガが繰り出す炎とシミターの嵐が襲い掛かる。
灯馬「うひゃあ! やっぱあのオバちゃん怖いわぁ」
態度では気圧されているが、心中では全く冷静さを失っていない。
灯馬は刀を鞘に納め、加速しながら抜刀の構えを取る。
灯馬「出し惜しみはせぇへん! 夜天蛾流抜刀術奥義、胡蝶乃夢!!」
刀を抜き放った瞬間……魚群の如く驀進するシミターが麟蛇皇を貫く。
麟蛇皇は十数に分かたれ、空域に散らばる。
だが、それはバラバラに切り刻まれたわけではなかった。
分かたれた麟蛇皇は、どれも同じ姿で等しく蛇鬼丸を腰に下げていた。
夜天蛾流抜刀術奥義、胡蝶乃夢(こちょうのゆめ)。
緩急を織り交ぜた高速移動により複数の分身を作り出し、敵を翻弄する奥義……
現在の灯馬は、最大で十六体の幻像を作ることができた。
240
:
藍三郎
:2009/05/03(日) 10:46:59 HOST:164.130.183.58.megaegg.ne.jp
イリアス「眼晦ましか! 神を玩弄しようなどと……不遜の極みぞ!!」
いつしか、イリアスの周囲は十六体の麟蛇皇に取り囲まれていた。
全周囲に向けてシミターを発するイリアス。
幻像の麟蛇皇は、蝶のような軽やかな動きでそれを回避する。
そして、刀を握り、蜂の如く鋭い動きでガンダムナーガへと一斉に肉迫する。
蛇鬼丸『細切れにしてやるぜッ!!』
イリアス「戯けが! 斯様な小細工がわらわに通じると思うたか!!」
今度は炎を発生させつつ、全身を躍動させるガンダムナーガ。
巨大な体が竜巻の如く回転し、もはや何物をも薙ぎ払う暴威と化す。
イリアス「神を欺こうとする傲慢には、裁きの鉄槌が下るであろう!!」
長大な尾によって、麟蛇皇の幻像は次々に消し飛んで行く。だが……
蛇鬼丸『たわけはてめぇだ!!』
灯馬「そいつを待っとったんや!!」
多方面からの同時攻撃は全て囮……
真の狙いは、音波の発生源である尾の先端……
灯馬は蛇鬼丸を大きく振り上げ、加速の勢いを刀に乗せる。
灯馬「ゼンガー少佐の見様見真似で会得した……灯馬式示現流や!!」
蛇鬼丸『ヒャッハァァァァァッ!!』
振り下ろされた刀が、ガンダムナーガの尾に食い込む。
蛇鬼丸『来た来た来た来たぁ! この感覚! いっくぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!』
敵を斬る感触が、蛇鬼丸の快楽を煽り、更なる力を刃に与える。
刃は深く深く進み……ついには尾の先端を断ち切ることに成功した。
イリアス「!!?」
ジョルジュ「! 頭痛が……」
ゼド「止まった……?」
同時に、イリアスに操られていた統合軍の機体も一斉に行動を停止する。
それは、ガンダムナーガの発するヴィーナの音が途切れたことを意味していた。
悠騎「灯馬……あいつがやってくれたのか……」
蛇鬼丸『ヒャハ――ッ! 気分爽快だぜぇ!!』
灯馬「へへっ、どんなもんや。これも鍛錬の成――――」
得意になった、その瞬間――
麟蛇皇の胸に、シミターの切っ先が突き刺さった。
刃は麟蛇皇を貫通し、地面へと串刺しにする。
それは、幻像ではなく紛れも無い実体だった。
歓喜を味わう暇もなく……戦場は、絶望に凍りつく。
地に臥した麟蛇皇から紫の血が流れ、大地を染める――――
イリアス「よくも……よくもよくもよくもよくもやってくれおったなぁ!!!」
機体の一部を破壊されたことに激昂するイリアス。
彼女の怒りは、斬った相手を貫いただけでは収まらなかった。
イリアス「神意を執行する為の我が御神体を欠損させるとは!!
何たる不敬!不敬!不敬!不敬不敬不敬不敬不敬不敬――――――ッ!!!」
計り知れぬ怒りに突き動かされ、巨体を躍動させて紅蓮の炎を撒き散らす。
悠騎「灯馬ぁ――――――っ!!!」
241
:
蒼ウサギ
:2009/05/21(木) 02:50:16 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
疑問に思う中、ヘッドホンからふと聞こえてきた悠騎の声にミキはハッとした。
ミキ「先輩・・・・・泣いてる?」
§
悠騎「ゆるさねぇぇぇぇぇぇ! てめぇぇぇぇ!!」
強化された装甲で、ガンダムナーガの撒き散らす炎を耐えながら単機で突入するブレードゼファー。
その手に持ったシューティングスターブレードを大きく振りかぶって斬りかかる。
イリアス「神の代行者たるわらわに、そして御神体たるナーガを傷つけたのだぞ!」
ブレードゼファーの剣と、ガンダムナーガのシミターが同時にぶつかり合う。
イリアス「当然の神罰ぞ!」
悠騎「うるせぇ! てめぇの自己満足に、他人を巻き込んでんじゃねぇよ!」
イリアス「なんと!? 我が神意さが理解できぬというのか!?」
悠騎「誰かを不幸にさせるような者が神様の意志なら、そんなもの・・・・・・こっちから願い下げなんだよ!!」
その悠騎の怒りに呼応するかのように、シューティングスターブレードの刀身に変化が起きた。
赤き刀身の色の輝きが増し、まるで閃光のように眩い光を放った。
イリアス「ぬぅ!?」
悠騎「!・・・・なんだ!?」
悠騎自身もその予測しなかった現象に、思わず自機を飛び退かせた。
瞬間、その光が止み、同時にシューティングスターブレードから刀身が消えていた。
イリアス「くっ、こけおどしか!?」
悠騎「!・・・・・滝本! すぐに剣の出力を上げてくれ!」
コスモフリューゲルのミキにヘッドホンを通して連絡をするが、
ミキ『だ、ダメです! 先ほど、出力量200%超えてからDエネルギー供給率が格段に落ちています!
もし、無理に出力を剣に供給すれば機体の全体の起動に支障をきたします!』
という返事。
悠騎は言葉にできなかった。
直後、強烈な衝撃がコクピットに走る。
ガンダムナーガの反撃だった。
242
:
蒼ウサギ
:2009/05/21(木) 02:50:46 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
イリアス「先ほどは我が神意を侮辱してくれたな。死をもって償うがよい!」
悠騎「ちぃ! Dプロテクションも発動しねぇのかよ・・・・・・マジでヤバイぜ!」
シミターを振りかざしているガンダムナーガを目の前にして、悠騎は焦燥した。
何か打つ手はないかと必死に思考する。
だが、時間はもうなかった。
イリアス「これが神罰よ!」
ギィィン!
戦場に鳴り響いたのは装甲を突き破る音ではなく、刃同士がぶつかり合う音だった。
???「あなたにはまだ利用価値があります。ここで死んでもらっては困りますからね」
悠騎「て、てめぇ・・・・・」
悠騎は目を疑った。
まさか彼が自分を助けてくれるなど、露ほどにも思わなかったからだ。
そして、イリアスも突然の乱入にその顔を歪めた。
イリアス「お、おのれぇ! 貴様も邪魔するか! ヴィナス!」
ヴィナス「フッ、覚えていてくれて光栄ですよ。イリアス女史」
全身が金色に染められた機体、アフロディテのクレセントソードでシミターを受け止めながら、
そのコクピット内でヴィナスが不敵に微笑んだ。
§
ロム「ライジングスマッシュ!!」
宙に舞い、稲妻を纏った蹴りをデビルサターン6目掛けて見舞うバイカンフー。
これにはさすがに少しよろめくも、いつもならそこで膝くらいはつくはずのダメージも今回はそこまではない。
デビルサターン6「なんや、今までこんな蹴りにワイらはやられとったんかいな? 情けないなぁ?」
ロム「ちっ・・・・・なら、これはどうだ!」
語尾と同時に凄まじい速度で間合いを詰め、拳打の猛攻。
ロム「天空宙心拳奥義を受けろ! ゴッドハンドスマッシュッッッ!」
デビルサターン6の体が「く」の字に曲がる。
さすがにこれは決まった。そう思われたその瞬間、
デビルサターン6「それがどうしたんやぁぁぁ!!」
デビルサターン6が組んだ両手をバイカンフーの頭上に叩き込んだ。
ロム「ぐぁぁっ!!」
地面に叩きつけられ、一瞬、意識が飛びそうになるロム。
そこに次々に積年の恨みを晴らそうと集まるギャンドラーの妖兵コマンダーが群がり、
ここぞとばかりにバイカンフーを痛めつける。
デビルサターン6「いいざまやなぁ、ロム・ストール!」
高笑いするデビルサターン。
だが、そこに
ドモン「ゴッドスラッシュハリケェェェン!!」
二つのゴッドスラッシュを構えながら竜巻の如く回転しながら迫るゴッドガンダムが駆けつけ、群がる妖兵コマンダーを
吹き飛ばし、さらにデビルサターン6を斬りつける。
デビルサターン6「あたたた・・・・・い、いきなり乱入してくるなんてズルイでぇ〜」
ドモン「フン。鍛錬で得た力ではなく、奪った宝で得た力で貴様に言われたくない台詞だな」
243
:
藍三郎
:2009/05/30(土) 15:10:09 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
デビルサターン「じゃあかしいわ! お前もすぐに地獄に送ってやるでぇ!!」
ドモン「やってみるがいい……! 力任せの攻撃が、いつまでも通用すると思うな!」
チェーンナックルでゴッドガンダムを引き裂こうとするデビルサターン。
ゴッドガンダムも、二刀のビームサーベルで応戦する。
ロム「ぐ……」
大きなダメージを負ったためか、その場で膝を突くロム。
それでも、剣狼を支えにして何とか起き上がろうとする。
レイナ「兄さん! 無理しないで!!」
ロム「止めるな……レイナ! 俺は戦わなくてはならないんだ!
天空宙心拳の誇りを……お前達を、守るために!」
レイナ「兄さん……」
レイナの制止も聞かず、ロムはまだ戦おうとする。
だが、周囲にはまだ多くの妖兵コマンダーがいる。彼らはそう易々とこの好機を逃しはしない。
ザリオス「ヒャッハ――ッ!! 死ねや、ロム・ストール!!」
ロム(ぐ……まだ、力が……)
いざとなればその身を盾として妹を守ろうと叫ぶ
ロム「レイナ! 逃げ――――」
だが……ここでロムは信じがたい光景を目の当たりにする。
レイナ「天空宙心拳、蟷螂拳!!」
レイナの乗るパワーライザーは、兄の前に出ると、得意とする天空宙心拳の技を繰り出した。
ザリオス「ぶぎゃっ!!」
顔面を歪め、吹っ飛ぶザリオス。
だが、その反動も大きく、パワーライザーの拳も弾け飛んだ。
レイナ「きゃっ!?」
ロム「レイナ! 何故こんな無茶を……」
レイナ「だって……私も、兄さんを守りたかったんだもの!」
レイナの瞳には今までロムが見たことも無い程の強い意志が秘められていた。
レイナ「兄さんは、今までずっと辛い思いをしながら私を守ってくれた……
いつも思っていたわ……兄さんの苦しみを、少しでも和らげてあげたい……
兄さんを守れるほど、強くなりたいって……!」
彼女もまた武闘家、旅を続ける間も欠かさず鍛錬は続けていたのだ。
たゆまぬ鍛錬の積み重ねが、先ほどの渾身の一撃を生み出したのだ。
ロム「レイナ……だが、お前の力では……」
レイナ「そうよ……私はまだまだ弱い……でも、諦めたくないの!
例え力不足でも、諦めずに前に進み続ける意志があれば、いつか道は開ける……
それが天空宙心拳の教えだったはずよ!!」
ロム「!!」
レイナの言葉を聞いたロムは……これまで鎖(とざ)されていた心の内に、一筋の光明を見出した。
だが、兄妹の会話は長く続かなかった。
まだ大勢のギャンドラーがこちらに押し寄せてくる。
そこに割って入ったのが、三人の戦士たちである。
ドリル「させねぇ!!」
ジム「お嬢様は、私が守ります!!」
ジェット「お前達はしばらく休んでな!!」
244
:
藍三郎
:2009/05/30(土) 15:11:35 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ロム「ジェット! ドリル! ジム!」
ストール兄妹を守って、ギャンドラーと戦うジェットたち。
デビルサターンの攻撃で傷を負っているせいか、彼らも苦戦している。
それでも、彼らは退こうとしない。不屈の意志で、強大な敵軍と渡り合っている。
そんな彼らを見ながら、ロムは思う。
ロム(いつしか俺の心には驕りがあったんじゃないか……
俺が皆を守らなくてはならない……俺一人で皆を守れるはずだ。
俺は自惚れていた……自分の強さに。一人でも戦えると、心の底で思い込んでいた……
だが、それは間違いだった……! 俺はずっと……皆に支えられて、戦ってきたんだ)
ジェット、ドリル、ジム、レイナ、ドモン、そしてG・K隊や統合軍、
地球で出会ったかけがえの無い仲間たち。
彼らの支えなくして、自分は戦ってこられなかった。
ロム(俺に欠けていたもの……それが今、ようやく分かった……)
まだ幼き頃……父であり師であった男、キライ・ストールに、ロムは何度も戦いを挑み、その度に敗北してきた。
だが、ロムは決して諦めなかった。
父の教えを信じ、いつか父を超える日を目指して、弛まぬ努力を積み続けた。
一度敗れたのならば、もっと強くなればいい……諦めない意志さえあれば、いつか必ず壁は超えられる。
天空宙心拳は弱者を守るためにある。
それは同時に、弱い己を克服するための武道でもあるのだ。
ロム(思い出せ、ロム! あの時の自分を!
己の弱さを自覚し、絶対に敵わない相手でも退かない……“挑む心”を!!)
ドモン「分身殺法、ゴッドシャドウ!!」
何体にも分身して、デビルサターンの攻撃を凌ぐゴッドガンダム。
デビルサターン「ええい! ぎょうさん増えよって! 鬱陶しいったらありゃせんわ!!」
チェーンナックルを振り回していたデビルサターンだが……
デビルサターン「のわっ!?」
突如飛来してきた物体に頭をぶつけるデビルサターン。
それは、他の妖兵コマンダーの体だった。
デビルサターン「な、何をしくさるねん!!」
ドモン「ロム……」
ファルゴスの身体を投げつけたのは、バイカンフーだった。
その後ろには、完膚なきまでに叩きのめされた妖兵コマンダーが山となって積み重なっている。
ロム「ドモン、先ほどは礼を言う。しかし……」
ドモン「もう、大丈夫なんだな?」
ロム「ああ……俺も、ここで立ち止まっているわけにはいかないからな」
先ほどまでとは別人のような闘気を感じ、ドモンはこれ以上の心配は無用だと判断する。
両者、強く手を叩き合う。
245
:
藍三郎
:2009/05/30(土) 15:13:12 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
デビルサターン「お・の・れぇぇぇぇ! このくたばりぞこないがぁ!!」
バイカンフー目掛けてチェーンナックルを繰り出すデビルサターン。
デビルサターン「オドレはもう終わっとるんや!! 大人しく地獄に落ちろや!!」
ロム「凄まじい威力だ……だが!」
爪を横に回避すると、チェーンが伸びきったところを見計らい、蹴りを叩き込む。
その衝撃で、デビルサターン6は大きくバランスを崩してしまう。
デビルサターン「おわわわわわ!?」
その瞬間、デビルサターン6から全ての力が抜ける。
そこを見逃さず、ロムはチェーンナックルを握り締め、そのままぶん投げた。
脳天から地面に激突するデビルサターン6。
デビルサターン「ごえええええ!?」
ロム「デビルサターン……確かに貴様は強くなった。
だがそれは“力”だけだ……その力を最大限に生かす、“技”が伴っていない……!」
デビルサターン「な、何やと!!」
ロム「鍛えた心と技があれば、強大な力をも跳ね返せる……それが武道だ!」
デビルサターン「じゃあかしいわ! ブドーだかワインだか知らんが、そんなもん捻り潰したるわい!!」
デビルサターン6は額からレーザー砲を発射する。
これも、今までのデビルサターンとは比較にならぬほどの規模と破壊力を有していた。
しかし、ロム・ストールは動じない。素早く横に回避すると、そのままデビルサターンの背後へと回り込む。
今、ロムは脳を極限まで動かしている。
相手の動きを見、相手を倒す方法を、休むことなく考え続けている。
修行時代……何度敗れても諦めず、試行錯誤を繰り返し、父に挑み続けてきた時のように。
弱者が強者を打倒する……武の基本を思い返しながら、ロムは戦う。
デビルサターン「なっ!?」
ロム「天空宙心拳……ファイヤーチョップ!!」
バイカンフーの強烈なチョップが、デビルサターンの肩に振り下ろされる。
デビルサターン「ぐおっ……なぁーんてな!
そないなヘナチョコな攻撃、わいには効かへんでぇ!!」
ロム「バイカンフー・ボンバーッ!!」
デビルサターン「うわははははは!! 無駄や、無駄や!!」
ロムはこの後も再三デビルサターンに攻撃を加えるが、やはり通用しない。
ロム「ムーンライト・スマッシュ!!」
デビルサターン「往生際が悪いのう!! 効かへん言うとるやろ!!」
チェーンナックルの一撃を、ゴッドハンドファイナルでガードするが、あまりの威力に吹き飛ばされてしまう。
ロム「ぐ……」
デビルサターン「わ――っはははははは!! 大口叩いといてそのザマかいな!!
かつてのライバルのそんな姿は見るに耐えん! 今すぐ引導を渡したるでぇ!!」
一気に押し切ろうと、前へ脚を踏み出したその時……
デビルサターン6の体に、異変が生じた。
デビルサターン「な……!? 何やねんな、わいの体が……!?」
突然動きを止め、体中から火花と電撃を散らすデビルサターン6。
デビルサターン「の、のわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
程無くして、デビルサターンの身体がバラバラに弾け飛ぶ。
いや、合体前の六体のギャンドラー……ギルヘッド、バラバット、デスクロウ、
グロギロン、アイゴス、ブルゴーダへと分離してしまう。
デビルサターン「な、何やこりゃぁぁぁぁぁ!?」
自身に起こった事態に動転するデビルサターンNo.1・ギルヘッド。
246
:
藍三郎
:2009/05/30(土) 15:15:07 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ロムの攻撃は、決して無意味ではなかった。
彼は最初から、デビルサターン6の弱点……合体時の接続部分を狙って技を繰り出していたのだ。
ハイリビードによって強靭なボディを得たデビルサターンも、そこだけは脆いままだった。
デビルサターン「あ、あかん! 早く六鬼合体せんと……」
分離した今では、強さも六分の一、妖兵コマンダー程度の戦闘力に落ちてしまう。
だが、それを見逃すロムではない。
ロム「悪いが……そうはさせん!」
バイカンフーが天に両手を掲げると、大量の落雷が降り注ぐ。
ロム「天空宙心拳……エンジェルサンダー!!」
手から放たれた電撃が、六体になったデビルサターンに炸裂する。
デビルサターン「ぎょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
電撃をまともに喰らった六体のデビルサターンは、それぞれ体から煙を吹いている。
デビルサターン「け、結局こうなるんかいな……」
ロム「トドメだ! デビルサターン!!」
チャンスを逃すまいと、突進するバイカンフー。
だがそこに、漆黒の影が割って入った。
ロム「!!」
陰が繰り出す拳の連打を、ロムは間一髪でガードする。
背筋が凍るような闘気を感じる。顔を確認するまでも無く、相手が何者かはすぐに分かった。
ロム「ガルディ……」
ガルディ「安心したぞ……あの程度の奴に負けてもらっては困る。
やはり、貴様を倒せるのはワシだけのようだな……!」
247
:
藍三郎
:2009/05/30(土) 15:16:28 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
灯馬「ん……んん…………」
夜天蛾灯馬が目を覚ました時……彼の周囲の風景は、赤一色に染まっていた。
灯馬(何や……ボク、死んだんかいな……)
自らの腹には、刃が深々と突き刺さっている。
彼の周りを染めているのは、彼自身の赤い血か。
【喰ワセロ……喰ワセロ…………】
脳の中に直接響いてくる声……
憤怒でも憎悪でもなく、動物的な本能というべき、毒々しい殺意。
【喰ワセロ……喰ワセロ…………】
周囲を囲む壁が、無数の蛇に見えてくる。
やがて、壁は歪み、四方八方から蛇が伸びてきて、自分の体を喰らおうとする。
灯馬(お前……蛇鬼丸かいな)
【血ヲ啜ワセロ……肉ヲ喰ワセロ……マダダ……マダマダ、喰イ足リナイ……
オ前ノ、オ前ノ血肉ヲ喰ワセロォォォォォ!!】
戦国時代……多くの人間を斬り殺し、そのあまりにも濃密な執念ゆえに、成仏することなく現世まで留まった蛇鬼丸の魂。
その殺意に満ち満ちた怨念が、今自分に迫っている。
自分は所詮、蛇鬼丸という刀の持ち手でしかない。友情や信頼で結ばれた関係ではない。
使い手としての役割を果たせなくなった以上、喰われるのは当然の結末なのだ。
それは、この刀を握った時から分かっていたこと……
蛇鬼丸はただ人を斬り、肉を喰らう……そのためだけに存在している。
では、自分は何なのか。何のために戦っているのか?
灯馬(ああ……痛いなぁ……苦しいなぁ……
そもそも……何でこないな目に遭ってまで戦わなあかんのやろ……)
仲間のため、誰かのため、正義のため、平和のため……
周囲の人間は、そんな立派な理由のために戦っている。
自分は違う。
基本的に他者との衝突を好まず、流されるままに生きる性分ゆえに気づかれにくいだけだ。
自分は彼らの中で、唯一と言っていい異分子だということを。
【喰ワセロ喰ワセロ喰ワセロ喰ワセロ喰ワセロ
肉ヲ裂キ骨ヲ砕キ体中ノ血モ汁モ臓物モ何モカモ啜ラセロ
喉ガ渇イテ渇イテショウガナイ
オ前ノ頭カラ脚マデ骨モ残ラズシャブラセロォォォォォ……】
無数の蛇と化して押し寄せる、蛇鬼丸の狂気の奔流。
蛇が灯馬の全身に巻き付き、その牙を突き立てようとした時……
夜天蛾灯馬は、静かに微笑んだ。
248
:
藍三郎
:2009/05/30(土) 15:17:20 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ヴィナス「!!」
ガンダムナーガと戦いながらも、ヴィナスはある“力”の波動を感知した。
自然と彼の視線は、麟蛇皇が斃れた方向へと向けられる。
生存を示すように、ゆっくりと空中へ舞い上がる麟蛇皇。
腹に受けたシミターは、寸前のところで急所を外していた。
体から零れ落ちた刃が、地面へと墜落する。
悠騎「灯馬……良かった。生きていたのか……」
安堵する一方で、悠騎は微かな違和感も覚えていた。
何かが……違う。あれに乗っているのは、本当に灯馬なのだろうか。
張り詰めた緊張感と、得体の知れないものに対する危機感が、胸をざわつかせる。
由佳「とにかく、あの傷じゃこれ以上の戦闘は危険だわ。速く回収しないと……」
アネット「ええ……灯馬君、聞こえる?
急いで戦線を離脱して、コスモ・フリューゲルに戻って!」
通信回線を通して麟蛇皇に呼びかけるアネット。
だが、全く応答は返ってこなかった。
沈黙を守る麟蛇皇は、抜いたままの刀を静かに宙に掲げると……
その瞳を赤く輝かせ……強烈なまでの殺意の波動を、周囲に発散する。
悠騎「!」
ヴィナス「ほう……これは……」
次の瞬間、刀から膨大な量の赤い液体が溢れ出る。
それは血……蛇鬼丸が今までに斬り殺し、啜ってきた人間の血だった。
濁った赤い血が、麟蛇皇の周囲を螺旋状に回転する。
そして、衣服を着用するように、赤い血は麟蛇皇の体へと吸着していく。
やがて……
血飛沫を飛ばした後には、全身を真っ赤に染めた麟蛇皇が浮揚していた。
それはまさに、斬り殺した相手の返り血で、体を赤く染めた古の剣鬼・蛇鬼丸そのものだった。
灯馬「なぁ――んか……めっちゃええ気分やわぁ……」
いつものような気の抜けた声で、されど、抜き身の刃のような危うさを秘めて、灯馬は呟く。
彼の後ろで縛った黒い長髪もまた、麟蛇皇の変貌に呼応して赤く染まっていった。
灯馬「あぁ――――あ……」
変貌を遂げた麟蛇皇・紅(くれない)に乗り、赤い髪を宿した夜天蛾灯馬は、軽く刀を振るってこう呟く。
灯馬「人、殺したぁ……」
249
:
藍三郎
:2009/05/30(土) 15:20:46 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ヴィナス(これは……何らかの理由で進化を果たしたようですね)
昂揚か……畏怖か。ヴィナスも微かな震えを感じる。
ヴィナス(今までアルテミス(われわれ)が調査した如何なる力とも類似しない……
ベラアニマの力とも違う……もっと禍々しく、おぞましい何かが……)
イリアス「ええい! 神罰を受けてなお浅ましく生き延びるとは、
どこまでも穢れきった魂を持つ罪人よ!!
ただちに冥府に落ち、己が罪を悔いるが良いわ!!」
復活した麟蛇皇を目の当たりにし、シミターを投擲するガンダムナーガ。
灯馬はそれを見て、口許を軽く歪める。
刀を再度鞘に収め、続けて瞬時に抜刀する。
甲高い音を立てて、シミターは弾き飛ばされた。
灯馬「よーわからんけど……ボクが神さんの罰を受けても死なんかったっちゅーことは……
そりゃ、ボクは神さんに許されたってことやないの?」
イリアス「!!」
灯馬らしからぬ、皮肉を織り交ぜた切り返しである。
灯馬「ま、そんなんどーでもええわ。
おばちゃんがボクを殺したいっちゅうなら、それはそれで構わへん。けれども……」
次の瞬間……
ガンダムナーガの六本の腕の一本が、瞬く間に寸断された。
イリアス「な!?」
これにはイリアスも驚愕する。
シミターを弾く際の抜刀は、防御だけが目的ではない……
最初から、敵の腕一本切り落とすつもりで放ったのだ。
灯馬「バラバラにされて死ぬのは……おばちゃんの方やけどな?
たっぷり……ボクを愉しませてや」
灯馬は、かつて見せることの無かった愉悦に満ちた笑みを浮かべた。
禍々しい殺気と言動……灯馬の内外合わせた変貌ぶりには、味方も驚いていた。
アネット(そういえば……お姉ちゃんが言っていたわ……)
アネットは、かつてマクロス7の病院で、姉と交わした会話を思い出す。
灯馬は元々セレナの紹介で、G・K隊の助っ人として現れたのだ。
灯馬の祖父、夜天蛾公爵とセレナは古くからの友人で、その縁で灯馬とも親交があったらしい。
セレナ「どう? 灯馬は元気でやっている?」
アネット「うん。蛇鬼丸って奴は危ないけど、何とか抑えてくれているわ」
セレナ「灯馬が、蛇鬼丸を……ねぇ……」
セレナはやや含みを持たせて呟く。
セレナ「ねぇ、アッちゃん……持った人間の心を支配する妖刀・蛇鬼丸に、
どうして灯馬は支配されずにいると思う?」
アネット「え……それは、ああ見えて意外に意志が強いとか……」
誰にでもすぐに思いつく答えを口にするアネット。
セレナ「まぁ……それもあるわね。
けどね、それだけじゃ持ち手と蛇鬼丸の意志が反発しあい、とても戦うことなんて出来ないはずよ。
もっと根本的な理由は別にある……
それは、あの子と蛇鬼丸の精神の波長が合い、なおかつ……あの子が蛇鬼丸の狂気を遥かに上回っているからなのよ
だから、蛇鬼丸はあの子には絶対に逆らえない。表面上に出る態度がどうであろうとね……」
それは、普段の飄々としていて、蛇鬼丸にいいように使われる灯馬からは想像もつかない答えだった。
セレナ「あの子はね……単に人を殺して喜んでいる蛇鬼丸みたいな小物よりも、ずっと恐ろしいわ……
そういう“血”の下に生まれているのよ。
あの子の“血”の中に潜んでいる魔物は……あの子自身にも制御できない。
蛇鬼丸のような分かりやすい狂気を加えることで、何か中和している状態なのよね」
にわかには信じがたいセレナの話だが、姉の言うことに間違いはない……
長年の経験と姉への信頼で、アネットはそれをよく分かっていた。
セレナ「あの子が自分の“血”を目覚めさせ……
蛇鬼丸の狂気すらも呑み込んでしまったら……私にもどうなるかわからない」
ここで、セレナは朗らかに笑って、こう続ける。
セレナ「敵にならないことを、祈りたいわね」
姉のそんな発言を聞くのは、初めてのことだった。
250
:
蒼ウサギ
:2009/06/10(水) 00:23:49 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
あの時聞いた姉の言葉は正直半信半疑だったが、こうして見てみると恐ろしいまでに実感できる。
アネット「だ、大丈夫よね・・・・・・と、灯馬くん?」
ミキ「え?」
ボソリと呟いたアネットの声は、隣に座っているミキには届かないほどか細いものだった。
§
ヴィナス「・・・フッ・・・・・・クッ、フハハハハハハハハ!!」
気でもふれたかのように、ヴィナスが急に笑い始めた。
だが、悠騎は何故彼がこのように笑ったか分かった。
悠騎「てめぇ・・・灯馬も、てめぇらで言う、良い“マテリアル”とでもいうんじゃねぇだろうな?」
ヴィナス「これがそうでないと、あなたが言いますか? ・・・いや、あなたは言えないでしょうね。
あなたは剣を振るうばかりの単細胞ですから、この研究心を刺激させられる素材の素晴らしさが
分からないのですよ」
悠騎「んだとこらぁ! さりげなくオレの悪口織り交ぜながら灯馬を素材だと!」
ヴィナス「言ったはずです。あなた方にとって我々<アルテミス>の存在意義は“マテリアル”としての価値のみ。
その類稀なる力がまだこんなところにもあったとは・・・・・・いやはや、わざわざ出向いた価値がありました」
アフロディテのコクピットで必死にこみ上げる笑いを抑えながら語るヴィナス。
それは悠騎に話しているにも関わらず、未だ好奇心の目は灯馬へと向けられていた。
悠騎「へっ、てめぇがオレ達を助けるなんざ、所詮そんな理由だと思ったぜ・・・。
あの蛇女は、もう灯馬に任せて大丈夫そうだな・・・・・・なら、てめぇはここでオレがぶっ倒す!」
ヴィナス「フッ、短気な方だ。私なんかよりももっと火急を要する事態があるでしょうに。
もっと広い視野を持った方がいいのではないでしょうか?」
悠騎「うるせぇ! てめぇをぶっ倒して元の世界に帰る方法を聞きだすのがオレ達の一番大事な目的なんだよ!!」
ヴィナス「やれやれ。もはや満足に戦えないその機体で何ができるというのですか?」
悠騎「強襲型(この格好)なら、な・・・・・・けどよ!」
破裂音と共にブレードゼファーを覆っている腕部分を除くバーサーカーメイルが弾け飛ぶ。
悠騎「これなら最小限のエネルギー供給で、てめぇにオレの新しい剣を見せてやれるぜ!
滝本、SSBの再チャージを頼むぜ!」
新兵器である剣を見せ付けるかのようにDエネルギーを再チャージもらい、
元の刀身を取り戻したそれを構えるブレードゼファー。
ある意味、防御を完全に捨て、捨て身の一撃に全てを掛けた戦法だ。
ヴィナス「なるほど。これがヴァルカンさんが言っていたあなたの新しい剣。
腕パーツだけを残したのはその剣を振るう衝撃に耐えるため、ということでしょうか・・・
単細胞にしては考えましたね。ですが・・・・・・」
そう言って、ヴィナスはアフロディテを180度旋回させて、ブレードゼファーに背を見せる。
ヴィナス「今の私はそんなものには興味ないのですよ。私を前にすると周りが見えなくなるのは相変わらずのようですが
そのためにお仲間を見捨てるつもりですか?」
悠騎「なに!?」
ヴィナス「ハイリビードで強化されたギャンドラー達が今までどおりと思ったら大間違い。
油断をすれば、あなたのお仲間の一人や二人死にますよ? ほら、あそこはもう危ない」
アフロディテが指す方向に、悠騎はサブモニターで確認した。
エッジのメテオゼファーが何機もの妖兵コマンダーによって完全に手玉にとられていたのだ。
251
:
蒼ウサギ
:2009/06/10(水) 00:24:51 HOST:softbank220056148175.bbtec.net
普段ならばどうってことない相手だが、先のガンダムナーガのダメージもあり、妖兵コマンダー自体のパワーアップもある。
しかも、メテオゼファーの機体特性上、懐に入られては不利。
肝心のバインドパネルすら射出させてもらえない状態になっていた。
悠騎「ちぃっ!」
口惜しさは否めなかったが、ヴィナスの言葉に悠騎は従うしかなく、一刻も早くメテオゼファーの元へと
ブレードゼファーを向かわせた。
―――フフフ、それでいいのですよ。・・・・・・私の観察を邪魔されたくないですからね。
そんな声が聞こえたような気がした。
§
デビルサターン「あ、アネゴ〜。助けてくだせ〜」
わらわらと六体のデビルサターンがディオンドラに集まっていく。
ディオンドラは情けないと、彼等に侮蔑の目で見下しつつも、改めてロムの底知れぬ強さに戦慄する。
ディオンドラ(ちぃ・・・ガルディ、しくじるんじゃないよ)
歯軋りをする最中、ふいに何かがディオンドラの頬を掠めた。
それは、先ほどまでイリアスの信者になっていた統合軍の機体だった。
半壊状態で、動けなくなった機体がほとんどだが、砲台代わりとでもいうのだろう。
精一杯の抵抗を示していた。
ディオンドラ「ちぃぃっ! ゴミ共がぁ! 不愉快なんだよ!」
妖剣メデューサーから赤い光を放ってもはや動けなくなった機体達を容赦なく破壊していく。
まるで鬱憤でも晴らすかのように。
それでもなお、生き残っている者は抵抗し続けた。
例え微力であろうとも、この銃弾が少しでもダメージになるのならとばかりに。
ディオンドラ「えぇい! どこまでもコケにしてぇ!」
再度、妖剣を振るう。赤い光が大地を抉り、そこにいる者の機体達はもう動くことはなかった。
ディオンドラ「は・・・・・・はは・・・これでやっと―――」
安堵した矢先に別の方向からまた銃弾やビームが飛んでくる。
ディオンドラはそれに苛立ちを覚えるどころか、僅かばかりの恐怖を抱いた。
ディオンドラ「な、何故だ? 何故こいつらは無駄だと分かって撃つ!?」
力量の差が歴然と分かっていて何故抵抗する。
勝てないと分かっていて何故?
そんな疑問符を広げるディオンドラに声を掛けるものがいた。
ブンドル「それが美しいからだ」
ディンドラ「何!?」
突如、背後に現れたレジェンド・オブ・メディチに、ディンドラは目を見張る。
ブンドル「例え無駄だと分かっていてもその手に銃があり、目の前に倒すべき敵がいる。
敵わぬ相手であろうと、侵略者であるならば震える拳を握り締めて立ち向かうその姿・・・・・・じつに美しい」
薔薇をたずさえていつもの決めポーズをするブンドルに、ディオンドラは呆気にとられてしまった。
252
:
藍三郎
:2009/06/13(土) 22:02:34 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ロム「はぁぁぁぁぁっ!!」
ガルディ「りゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
互いに剣を取り、ぶつかり合うバイカンフーとガルディ。
瞬時に十数回の斬撃を繰り出し、剣狼と流星、二つの剣から火花が散る。
剣のみならず、拳や蹴りによる格闘も加えて相手の守りを崩そうとする。
しかし、双方の力は全くの互角で、互いに隙を見せなかった。
ガルディ「ほう……以前とはまるで別人! この短期間で一体何をやったのだ……?」
ロム「俺は何もやっていない。ただ、仲間たちが、曇った俺の目を覚まさせてくれた。
今まで見てこなかったものを見ることができた……それだけだ!!」
バイカンフーの力の篭った振り下ろしを受け、大きくあとじさるガルディ。
ロム「だから……一つ分かったことがある……」
ガルディ「何?」
ロム「お前からは邪悪さを感じない……
悪に身を置きながらも、その技は濁りの無い澄み切ったものだ。
俺も、怒りや憎しみではなく……ただ“超えたい”という想いで、お前に勝つ!!」
イリアス「おのれ……おのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
麟蛇皇・紅に腕一本を切断されて、イリアス・サラスヴァティーは怒り狂っていた。
イリアス「一度ならず二度までも、我が御神体を傷つけるとはぁ!!
許すまじ! 断じて許すまじぃぃぃぃ!!」
残る五本の腕にシミターを構えると、一気に中空へと放り投げる。
イリアス「身を切り裂く裁きを受けよ! 降り注げ! <千蛇(アナンタ)の雨>!!」
天空から降り注ぐ無数のシミター。しかし、灯馬は全く動じることはない。
腰に差した刀を眼にも止まらぬ速さで抜き放ち、全てのシミターを叩き落す。
わずか数秒……その間に五十回以上刃を振るっている。
灯馬「あ〜あ……こんなん幾ら斬っても……腹の足しにもならんなぁ……」
神業めいた剣を繰り出した後にも関わらず、灯馬は眠たそうな瞳で吐息を漏らす。
だが次の瞬間……炎の蛇が四方八方から襲い掛かり、麟蛇皇・紅の体を包み込む。
イリアス「オ――ッホホホホホホホホホホ!!
そなたの汚泥に塗れた邪悪なる魂は、もはや清めることは叶わぬ!!
肉の一片、骨の一本、魂魄の欠片残らず、灰に還るがよいわ!!」
無数の炎の蛇が、次々と麟蛇皇に絡みつき、その身を焼き尽くそうとする。
しかし……その火勢は徐々に弱まって行く。
まるで、炎が何かによって吸われているように……
イリアス「な……!?」
やがて炎は完全に消える。
そこに残っていたのは、光沢を放つ赤い球体だった。
球体を構成しているのは、ねっとりとした赤い液体……
それは、麟蛇皇の刀から放出された血液であった。
大量の血で膜を造り、猛火を凌いだのだ。
赤い球体が崩れ、血流となって再び刀へと戻って行く。
灯馬「熱いのは、嫌やなぁ……」
イリアス「くっ……神罰からは逃れられんぞ!」
再び、炎の蛇が群れを成して飛んでくる。
灯馬「はぁ……めんどくさぁ……」
目蓋を半分閉じ、けだるそうに呟く灯馬。赤い髪が目許にかかる。
麟蛇皇・紅が刀を振ると、刀身から血の奔流が吹き出る。
赤黒く濁った血は、灯馬の意志に呼応して、生き物のように宙を駆ける。
灯馬と蛇鬼丸の魂が宿ったこの血は、彼らの手足も同然。
炎の蛇を血の蛇が喰らい、相殺して消し去って行く。
253
:
藍三郎
:2009/06/13(土) 22:04:25 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
イリアス「神の業を模倣するとは……
どこまでわらわを愚弄すれば気が済むかァ――ッ!!」
灯馬「ん〜……別にバカになんかしてへんよ?
ボクはただ……あんたを斬り殺せれば、それでええんやから……」
静かな口調の中には、濃密なまでの殺気が込められていた。
灯馬「ほな……行くで……」
マントを翻し、空中を疾走する麟蛇皇・紅。
刀を鞘に収めたまま、ガンダムナーガへと突き進む。
イリアスも即座に迎撃態勢をとる。
自機の周囲を覆うように、断崖の如き炎の壁を作り出す。
それでも灯馬は怯まない……いや、彼は炎など見てはいない。
その妖気の篭った瞳で彼が見据えているのは、炎の壁の先にいる敵(えもの)のみなのだから……
灯馬「夜天蛾流抜刀術……」
炎の壁の直前で、麟蛇皇は刃を抜き放つ。
灯馬「“朱闇(あけやみ)”――――」
その刃はナーガまで届くことは無かったが……
瞬時に刀身から血液が溢れ出て、刀に纏わりつき、長大な刃の形を成す。
麟蛇皇の三倍以上に長くなった赤い刃は、
無明の闇が光を飲み込むように、炎の壁を易々と切り裂いていく。
イリアス「――――!!」
そしてその刀身は、ガンダムナーガの胴体部分を引き裂いた。
痛烈な一撃に、イリアスは絶句する。
ムスカ「な、何なんだあの“血”はよぉ……」
ゼド「ゼンガー少佐の斬艦刀と同じ、液体金属の類なのでしょうか……
攻守両面に使えるなど、汎用性では遥かに上回るようですね……」
いや、ただの液体金属であるはずが無い。
金属ならば、イリアスの炎に触れた瞬間に蒸発しているはずだ。
それを防いでいるのが、血液に宿る灯馬と蛇鬼丸の魂である。
イリアスの炎と同じく霊的な性質が備わっているが故に、相殺することができたのだ。
液体化している時は、接触した炎の熱量を奪い、
さらに、攻撃の際には一瞬で凝固し、強靭な刃物となる。
麟蛇皇・紅の操る“血”には、紛れも無い血液としての特性が備わっていた。
血液が神秘的な霊力を持つ、あるいは生命そのものと見なす観念は、
古代社会にあっては世界中に普遍的に見られる考えだ。
灯馬の能力はまさにそれを具象化している。
今まで蛇鬼丸が斬り殺し、刀に吸わせてきたありとあらゆる生物の血。
その血液に宿った霊性に干渉して、自在に操っているのだ。
血液の形と性質を取りながらも、その本質は無数の怨念の集合体だ。
それがこれだけの力を発揮するのは、灯馬の魂があまりにも巨大で、他の霊を恐れさせるものだからである。
古来より、人々に崇められてきた神聖なる血を“霊血”とするならば、
恨みや憎しみと言った思念の塊であるこの血は“妖血”と称すべきものだろう。
刀身を形成していた血が弾け、再び麟蛇皇の周囲に滞空する。
血液で作り上げた、赤いマントやローブに似た形状を取っている。
灯馬「はぁ……やっぱええわぁ……この感触……たまらんなぁ……」
手に伝わる“敵を斬る”感触を、灯馬は存分に堪能する。
頬を染め、毒気に満ちた笑みを浮かべて恍惚している。
254
:
藍三郎
:2009/06/13(土) 22:06:24 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
イリアス「キィエエエエエエェェェェェェェェェェッ!!!」
斬られた痛みなどはすぐに消し飛び、魔女の大鍋のように煮えたぎった怒りの念が湧き上がる。
整った顔立ちは見る影も無いほど歪み、眼球は大きく開かれ、額に無数の血管を浮かべている。
何故、自分がこのような眼に遭わなければならないのか。
自分はこの世に楽園をもたらす為に選ばれた、神の使者、サラスヴァティーの巫女だ。
言うなれば、人類で最も尊ばれるべき存在なのだ。
それが、信仰心の欠片も無い下衆な輩にここまで傷つけられるなど……許されることではない。
イリアス「わらわは神だ……わらわは神だ……わらわは……神だッ!!」
脳内麻薬が過剰に分泌される。神への狂信の念が、精神を果てしなく昂ぶらせていく。
神は彼女の脳髄にいた。
生まれ持って授かった異能の力に振り回される中で、彼女はその狂念を肥大化させていった。
他者への優越感、己より優れた者はいないという自尊心。
やがてそれは、彼女の脳内で神を生み出す。
脳の中の神が彼女に語りかける……我を崇めよ、我を敬え、と……
彼女はそれを神からの啓示と受け取り、己を神託の巫女だと思い込み、一心不乱に狂信と崇拝を捧げた。
その狂念は、世界の全てを焼き尽くそうと思うほどに膨れ上がり……自身を神と同一化していった。
いや、むしろ正しい形へと戻っていると言った方がいいだろう。
最初から、神などはおらず……彼女自身の狂気の産物に過ぎないのだから。
ガンダムナーガを包む炎の色が、橙色から金色へと変わって行く。
かつて月面での戦いで、灯馬も眼にした事のある現象だ。
イリアス「神に逆らう者がこの世にいてはならぬ……
わらわと同じ空気を吸っていることすら穢らわしい……!!
我が黄金の神火にて、完全に滅却してくれようぞぉぉぉぉぉぉ!!!」
イリアスの絶叫と共に、ガンダムナーガの全身が発光する。
頭部に張りついたガンダムの胴体部が収納され、
広い顎を剥き出しにしたコブラそのものの姿となる。
金色の炎が全身を包み、やがてガンダムナーガを炎の蛇に変えてゆく。
ドモン「あれは……奴のハイパーモードか!!」
ドラクロワ・ザ・ガイアのガンダムサイクロプスには、機体性能を向上させるもう一つの形態が備わっていた。
同じ最凶四天王であるガンダムナーガにそれがあってもおかしくない。
彼らのハイパーモードは、ドモン達のものとは違い、
かつてシャイニングガンダムが発動させた怒りのスーパーモードや、
ノーベルガンダムのバーサーカーシステムに近いが、
圧倒的な狂気から生み出される暴力を最大の武器とする彼らには、最良のシステムと言っていいだろう。
イリアス「思い知れぇぇぇぇぇぇ!! 神(わらわ)の怒りをぉぉぉぉぉぉ!!!」
<黄金の蛇神(ナーガラージャ)>と化したガンダムナーガは、その長大な体で突撃する。
灯馬は咄嗟に血液で壁を作るが……黄金の炎に宿る霊力は、先ほどまでとは比べ物にならなかった。
呆気無く壁は蒸発してしまう。それでも、灯馬は間一髪のところで直撃を避けた。
炎に触れた大地は一瞬で溶け、長く深い溝を作り出す。
地形を変えながら荒れ狂う様は、神話に謳われる蛇神(ナーガ)を思わせるに十分であった。
原始、地球は炎の中から産み落とされた。
この大宇宙もまた、極限の熱である大爆発(ビッグバン)によって誕生したものだ。
世界の創造主を神と仮定するならば、炎こそ神そのものと言えるかもしれない。
炎と化した今のガンダムナーガは、まさに神に最も近い姿となったのだ。
255
:
藍三郎
:2009/06/13(土) 22:08:50 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「くっ、あれはやばすぎるぜ……!」
パルシェ「何とか、援護しないと……」
G・K隊の機体もそれぞれ攻撃を仕掛けるが、今のガンダムナーガには無意味だった。
ビームは全て炎に溶けてしまい、ミサイルの爆発もまた同様だった。
戦争に使われる兵器の大半は、“熱”を用いている。
熱による攻撃が、炎となったナーガに通用しないのは道理だった。
イリアス「烏合の衆がッ! さえずるでなぁぁぁぁい!!!」
長大な体を振り回すイリアス。瞬間、金色の炎の津波が生まれ、周囲へと拡散する。
ゼンガー「いかん! 皆、離れろぉぉぉぉ!!」
押し寄せる炎の津波から、急いで退避するG・K隊。
デビルサターン「あ、あかん! わいらまで丸焼きにされてまうで!!」
分離しているデビルサターン達は、慌てふためいてその場を離れる。
ガンダムナーガの放つ猛火は統合軍やギャンドラーのみならず、地形までも焼き尽くしていく。
これによって、戦場は炎の川の流れる火炎地獄と化した。
誰かが思った……もはやこれは戦いではない。
自分達が目の当たりにしているのは、蛇神の引き起こす大災害なのだと……
イリアス「そぉぉぉぉだッ! 何もかも溶けてしまうがいい!!
汝らの命を、魂を、神への生贄に捧げるのだ!!
この黄金の炎こそが、わらわのもたらす救済の光!
森羅万象の全てが神と溶け合ったその時こそ、真の永劫楽土の誕生なのだ!!
オ――ッホッホッホッホッホッホッホッホ!!
ア――ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
狂乱の劫火が、世界の全てを焼き尽くす。
彼女を崇めるものも、愚弄するものも、等しく全て。
だがそれこそが、イリアスの望む永遠の楽園なのだ。
彼女の望みは、全ての人間が自分を崇め奉ること。
信じる神の為に命を捧げる行為こそ、究極の信仰に他ならないのだ。
イリアス自身も、それが神を敬う道なのだと本気で信じている。
信仰が狂気を生み、狂気が信仰を産み落とす。
ガンダムナーガの中で金色の炎に照らされ、笑い続けるイリアス。
今のイリアスは、かつてガンダムファイトの会場で数万の信者を焼き殺した時と同じ具合に昂ぶっていた。
灯馬「………………」
黄金の炎に囲まれる麟蛇皇・紅。
彼は眠っているような瞳で、眼前の炎を見つめている。
だが……燦然と輝く黄金の炎ですら、瞳の奥の濁った闇を照らすことは出来なかった。
256
:
蒼ウサギ
:2009/06/25(木) 01:18:43 HOST:softbank220056148018.bbtec.net
ヴィナス「ククク、イリアスさん。ついに本気になりましたか。さぁて、夜天蛾灯馬。これをどうしますか?
フフ、興味深いですねぇ」
傍観者たるヴィナスは、二機の戦いぶりに興奮を隠せなかった。
勝負の行方。
それだけが彼の興味の惹くところだった。
しかし、その姿は、はたから見れば隙だらけである。
妖兵コマンダー「おっとぉ、獲物発見〜! てめぇも倒したら、オレ様のコマンダーランキングアップに―――」
己のパワーアップした力を過信したギャンドラー兵の言葉は、最後まで言わせてもらえず、アフロディテの大剣によって、
胴を真っ二つにされて炎に散った。
ヴィナス「ふぅ……まったく汚い花火ですね」
襲いかかったギャンドラー兵だったものに侮蔑の視線を一瞬向けると、すぐに興味の対象へとその目は動いた。
それは他に襲おうとしたギャンドラー兵の効果的な警戒線となった。
§
パイロットA「そうだ! 一撃でもいい! 動けなくても弾があるなら撃ってやる!」
パイロットB「侵略者なんかに地球を渡してなるものかーーーっ!」
つい先ほどまでイリアスの使徒にされ、てごわされいたザフトや統合軍のパイロット達がギャンドラーという共通の敵に対して、
機体の銃を向けて引き金を引いている。
反撃されては銃撃が止まっても、また誰かが銃撃を開始する。
リュウセイ「こ、これって……なんか凄くないか?」
キョウスケ「皮肉なものだ。こんな戦いで統合軍とネオバディムが手を組む状況になるとはな……」
エクセレン「ま、いーんじゃない? こんなチャンス、滅多にないんだから♪」
エクセレンがにこやかに言ったその側からコスモ・アークより緊急通信が発せられた。
アイ『皆さん、この戦域に接近する機影を確認しました。数は1。
……その機影より入電があり、それを今から全周波回線で発信します』
ムスカ「なんだぁ? 乱入機体からのメッセージ?」
ゼド「……妙ですね」
誰もがそう思っている間に声が聞こえてきた。
???『戦場にいる志を共にする戦士諸君。決して諦めないでくれ。志が同じならば所属、星の違いなど些細なことだ。
共に戦おう。この蒼き星を守るために………私はトレーズ。トレーズ・クシュリナーダ』
257
:
蒼ウサギ
:2009/06/25(木) 01:19:28 HOST:softbank220056148018.bbtec.net
ムスカ「なっ!?」
ゼド「これは……驚きましたね。四之宮艦長代理、識別信号は確かですか?」
アイ『はい。トールギスⅡです。現状、あれを動かせるパイロットは少ないので恐らく本人かと思われます。
……声紋も、本人と示していましたし』
淡々と答えていたが、その実、アイも内心では驚いていた。
§
ガルディ「勝つ、ときたか……だが、あながち虚栄に聞こえないのが不思議だ」
語尾と同時にガルディは、一足飛びでロムとの距離を縮めて流星を振るう。
ギィン、という剣狼の刃と激突する音と同時に、ロムはそれを素早く捌いて、
ロム「天空宙心拳! 破岩拳!」
ガルディ「ふぬぅ!」
互いの拳が同時にぶつかり合う。
一瞬の硬直が生まれたかと思えば、二人は同時に蹴りを繰り出して激突。
距離がまた離れた。
ガルディ「正直……ここまでやれるとは思わなかったぞ、ロム・ストール」
ロム「だが、このままでは決着がつきそうにないな……」
互いにわかっている、という風に己の剣を今一度強く握りしめる。
ガルディ「その通り。このままノラリクラリという戦いは性に合わんのでな…!」
そう言って流星を大きく振り上げるガルディ。
その様から正真正銘の大技を繰り出すという気迫が感じられた。
ロム「全てのパワーをあの一太刀にかけるつもりか……いいだろう!」
ロムも、剣狼を正眼で構えた。
両方の刀身に、それぞれのエネルギーが集中し始める。
迂闊にこの状況で動けばもちろん相手も動くだろう。
二人は、互いの気迫が切迫していることを感じてかまだ動かない。
動けばそこで決まる。決まってしまう。
だからこそ、少しでも一瞬でもいいから付け入る隙を、踏み込めるタイミングを探った。
そして―――。
ロム「はぁぁぁっ!!」
ロムが先に仕掛けた。
上段の構えをとっているガルディは、正眼の構えのロムより隙が多い。
先手をとれば、有利なのだ。
しかし、ガルディは、もちろんそれは承知の上だ。
ガルディ「来たな!」
待っていたかのように流星を振り下ろす。
それは、ロムが肉迫するよりも明らかに早い。
最大の攻撃力をもった一太刀がバイカンフーの肩を切り裂いた。
ロム「ぐぅ……!」
幸いか偶然か、腕がボトリと落ちなかったもののダメージは大きい。
ガクッと膝をつくバイカンフーだが、それと同時にガルディは両膝をついた。
ガルディ「……ぬかったわ」
ガルディの胴には、剣狼が見事に突き刺さっていた。
ロムの狙いはあくまで自分の剣を届かせることにあった。
例えガルディの剣を受けようとも、自分の剣が先に当たっていれば多少なりともその威力が落ちるはず。
ロム「オレの勝ちだ……!」
誇らしくいうなり、ガルディから剣狼を抜く。
そして一考する。
目の前に倒れている男は、邪悪さこと感じないもののギャンドラーの一味であることには変わりない。
ここでトドメを刺すべきかどうかを、ロムは悩んだ。
ロム「剣狼よ……オレはどうしたらいい?」
物言わぬ自分の剣に訊いても、答えは返ってこない。
258
:
藍三郎
:2009/06/27(土) 09:40:22 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ディオンドラ「ま、まずい……! まさかガルディがやられるなんて!!」
バイカンフーの前で膝を突いたガルディを見て、ディオンドラは蒼褪める。
ロムが躊躇していることなど考えもつかないディオンドラには、
今まさにガルディがトドメを刺されそうになっているように見える。
ただでさえ、統合軍の予期せぬ反撃に苦戦しているというのに、
ここでガルディが斃れては完全に勢いはあちらのものとなってしまう。
ここでディオンドラは、出撃前グルジオスに耳打ちされたことを思い出す。
ディオンドラ「ロム・ストール! よくお聞き!!」
ロム「!!」
ディオンドラが放った一言は、実に衝撃的なものだった。
ディオンドラ「お前は、実の兄を殺す気かい!!」
ロム「兄……だと!?」
ディオンドラの言葉に、ロムはその動きを凍りつかせる。
効果有りと見たディオンドラは、畳み掛けるように言い放つ。
ディオンドラ「そうだよ! そこにいるガルディはね! お前の兄さんなんだよ!!」
ロム「何っ!」
ディオンドラ「そうさロム。お前は兄さんが死んだと思い込んでいるようだけどね……
実はこうして生きていたのさ。ギャンドラーの一員としてね!!」
ディオンドラの発言には、G・K隊の他のメンバーにも波紋を広げた。
タツヤ「あいつがロム兄さんの兄さんって、マジなのかよ!!」
ジェット「確かに……ロムとレイナの上には、もう一人兄さんがいた……」
ジム「ですが、それがまさか……」
とりわけ、ロムと行動を共にしているマシンロボチームの動揺は大きい。
リュウセイ「おい! 適当な出任せ言っているんじゃないだろうな!!」
デビルサターン「ア、アネゴ! ホンマなんでっか!? あいつがロムの兄やなんて……」
衝撃の事実に、敵のみならずデビルサターンもまた驚きを隠せないようだ。
ディオンドラ(ふん! あたいだって知らないよ!)
所詮はグルジオスから聞かされただけの情報。
当のディオンドラ自身も、確信を持っているわけではなかった。
ディオンドラ(別にウソでもハッタリでも構いはしない! ロムの動揺さえ誘うことが出来れば……)
ロム「ガルディが……俺の兄さん……ま、まさか……」
最初のその名を聞いた時から、引っかかるものを感じていた。
戦っている内に感じた奇妙な感覚……あれは、懐かしさだったのではないか。
だが、まさか、まさかと自分の中で否定し続け、無意識の内にその可能性に目を向けようとはしなかった。
あの人は死んだはずだ。
突然襲ってきたギャンドラーと戦い、自分とレイナを逃がす為に命を落とした。
その時、一体何が起こったのか……
ロム「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
激しい頭痛がロムを襲う。自分の頭が、思い返すことを拒絶している。
理性を保つこともままならず、頭を抑えて地面に膝を突く。
ディオンドラ「よし! もらった!!」
ディオンドラも半信半疑だったが、とにかくその効果は覿面のようだ。
ディオンドラ「今だ! ガルディ! ロムを仕留めるんだよ!!」
しかし、ディオンドラには一つ誤算があった。
ガルディ「ワシとこいつが……兄弟……!?」
ガルディもまた、ディオンドラの発言によって激しく動揺していた。
致命的な隙を晒したバイカンフーには目もくれず、ただ自分の掌を見つめている。
ディオンドラ「ちっ、逆効果か! こうなればあたいが直接……」
妖剣メデューサを手に、走り出そうとした時……
彼女の正面の大地を、破壊の閃光が焼き払った。
ディオンドラ「!?」
259
:
藍三郎
:2009/06/27(土) 09:44:24 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
青い甲冑を纏った騎士が、戦場に舞い降りる。
トールギスⅡは、ドーバーガンでディオンドラを牽制した後、
その高機動力を存分に生かし、正面にいるギャンドラーを一掃する。
そのずば抜けた操縦技術は、紛れも無くトレーズ・クシュリナーダのものだった。
「おお! トレーズ閣下!」
「トレーズ閣下が来られたぞ!!」
トレーズ・クシュリナーダの参戦を聞いて、最初に喝采をあげたのは元OZの兵士達だった。
挫けそうになった心を奮い起こし、再びギャンドラーへの反撃を開始する。
戦列に加わったトレーズは、敵を駆逐しながら戦場全体へ呼びかける。
トレーズ『諸君……人にはそれぞれ、守りたいものがある。
それは人間にとって、生きる意味そのものだ。
されど、それゆえに我々はすれ違い、不幸な衝突を繰り返してきた……』
その言葉には、ネオバディムとして統合軍と戦ってしまった自分自身への悔恨が込められているようだった。
トレーズ『だが、今一度考えて欲しい……生まれや人種、主義や価値観が違おうとも、
大切なものを守りたい……その想いは同じはずだ。
侵略者の横暴を許しては、この世界は壊され、何もかも失われてしまう。
それだけは、何としても阻止しなければならない。
君達の心の支えを! 世界の明日を! 星の未来を守るために!
今こそ我々は力を結集し、この世界を襲う脅威と戦うべきなのだ!!』
トレーズの言葉は、戦場にいる全ての兵士達の心に深く染み入った。
わだかまりは完全に消え去り、連帯感はより強まり、頑強に抵抗する。
続けて、トレーズへの通信がG・K隊にももたらされる。
トレーズ『聞いての通りだ。私もこれより、君たちG・K隊に加勢する』
ムスカ「ネオバディムにいたあんたが、一体どういう風の吹き回しだい?」
トレーズ『私は既にネオバディムを離反している。
また、OZの総帥でもない。
今は、この世界の存続を願う一人の人間として、君たちと共に戦いたいのだ』
由佳「そういうことなら……トレーズさん、貴方の助勢に感謝します!」
続けて、驚くべき報告がもたらされる。
ミキ「各地から、OZやザフトの機体が、ギャンドラーへの攻撃に加わっているとの報告が入っています!」
ゼド「ほう……これも貴方の差し金ですかな?」
トレーズは、微笑みながら肯定する。
バルジ攻防戦の後……トレーズはネオバディムを離反したが、
彼を慕う多くの兵士達もまた、トレーズと共に行動する道を選んだ。
トレーズは居場所の無くなった彼らを率いて、ユーゼスや異星人に対抗するため、水面下で戦力を整えていた。
そして、ギャンドラーの大攻勢が始まった今、トレーズらもまた行動を起こしたのだ。
トレーズ「この戦いは試練でもある……私達が、真の絆を手にするための……」
ブンドル「なるほど……」
ギャンドラーの群れを切り裂きながら、トールギスⅡの側に並ぶブンドル。
ブンドル「トレーズ・クシュリナーダ殿……
貴方の先ほどの演説、このレオナルド・メディチ・ブンドル、感服した。
やはり貴方は、美の何たるかを理解しておられる方だったな」
トレーズ「この世界にはまだまだ美しいものが満ちている……
我々はそれを守らなければならない。
人は、真に美しく、貴いものを守るために戦うべきなのだ」
その“美しいもの”とは何なのか……二人にとって、あえて名を挙げる必要は無かった。
いや、彼らが守ろうとしているのは、名で呼べない、形で現せない、全ての人にとって大切なものなのだ。
ブンドル「心の底から同感だ……さぁ、奏でようではないか。美しき絆の調べを……」
トレーズ「終わらない円舞曲(ワルツ)を終わらせる……
我らの剣の音は、未来に向けて響かせるべきなのだ」
これが初めての共闘にも関わらず……全く息のあった戦いぶりを見せる二人。
それは、二人が理想とする“美しき戦い”が、極めて酷似しているためなのか。
美しき二人の騎士の舞いによって、敵軍は次々に打ち破られていく。
260
:
藍三郎
:2009/06/27(土) 09:48:09 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
トレーズの参戦で、人類側の団結力は一層強まった。
だが、イリアス・サラスヴァティーにとっては、甚だ面白くない事態だった。
イリアス「何なのだ、何なのだあやつらは!!
何故わらわを崇めぬ! わらわを恐れぬ!!
この世にわらわ以上に人心を掌握する者など……あってはならんのだっ!!」
そんなイリアスに対して、実に冷ややかな声が浴びせられる。
灯馬「なぁ、えーかげん気づいたらどうなん?」
イリアス「何だと……!?」
灯馬「あんたは神さんでも何でもない。
どうしようもなく壊れて、後戻りできないほど道を踏み外してもうた、
ただの人殺しや。腐れ外道や」
赤髪を揺らしながら、淡々と告げる灯馬。小さな声でこう付け加える。
灯馬「そう……ボクと同じようにな……」
イリアスの額に浮かんだ血管が、蠕動を始める。
イリアス「貴様……わらわを、わらわを罪人呼ばわりするかぁ――――ッ!!!」
黄金の炎が膨れ上がり、瀑布と化して麟蛇皇へと襲い掛かる。
その炎の嵐を、灯馬は紙一重で避けて行く。
イリアス「わらわは選ばれた信託の巫女なのだっ!
汝のような、薄汚い罪人とは違うのだァァァァァァァァッ!!!」
灯馬「はぁ……」
イリアスの烈火のような怒りとは対照的に、気の抜けたため息を吐く灯馬。
灯馬「ま、認めても認めんでもどっちでもえーよ……
結局、ボクのやることは変わらへんのやから……」
刀に“妖血”をまとわりつかせ、長い深紅の刃を形成する。
灯馬「ボクはみんなとは違う。未来なんてどーでもええ。
ただ、あんたを殺したいから殺す……それだけや」
穏やかな口調の裏には、ねっとりと濁った殺意が込められていた。
イリアス「ほざけェェェェェェェェェェッ!!!」
押し寄せる黄金の炎に向けて、赤い刃を振るう灯馬。
しかし、炎に触れた刃は瞬時に蒸発してしまう。
溶鉱炉に突っ込まれた鉄の棒のように、無惨な形となる。
灯馬「………………」
イリアス「オホホホホホホホ!! 無駄ぞ、無駄ぞ!!
この神聖なる究極の炎に、汝ごときの力など通用するものかっ!!」
やがて黄金の炎は麟蛇皇・紅の背後を覆い、高い壁を形成する。
正面にはガンダムナーガ……完全に挟まれた形となる。
イリアス「滅せよ! <黄金の蛇神(ナーガラージャ)>――――!!」
金色に輝く炎の蛇と化して突撃するガンダムナーガ。
進退窮まったのか、麟蛇皇は微動だにしない。
そのまま成す術なく、ガンダムナーガの顎に飲み込まれる。
直撃と同時に、周囲一帯を消し飛ばす爆炎が巻き起こる。
イリアス「神罰執行ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
ついに! ついにやったぞッ!!
愚かな罪人めの魂を、神罰の炎で滅却してやったぞぉぉぉぉ!!
何人たりとも、神の裁きから逃れることはできぬのだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
261
:
藍三郎
:2009/06/27(土) 09:49:45 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
憎むべき敵を葬り去り、哄笑するイリアス。
しかし、その笑い声は長くは続かなかった。
灯馬「ところが、そうはいかんのやなぁ……」
イリアス「!! き……さま……っ!!」
ガンダムナーガの背後には、灯馬の麟蛇皇・紅が浮揚していた。
ところどころ焼け焦げてはいるが、無事にその姿を留めている。
灯馬「さっきあんたが消したんは、ボクが造った偽物や」
灯馬は“妖血”を用いて己の分身を創り出し、素早く離脱することでイリアスを幻惑した。
元より残像を作り出せるほどの速さを備えている上に、黄金の炎は目くらましには十分だった。
イリアス「ぐむむむむ……だから……どうしたというのだ!
汝に、炎と化したわらわを斬ることはできぬ!!
汝のやっていることは、全て愚かしい足掻きに過ぎぬわ!!」
イリアスの指摘は最もだった……
これまで灯馬は逃げの一手に徹するばかりで、炎の大蛇と化したイリアスに有効な手を打てていない。
灯馬「ま……どう思ってくれようと構わへんよ。
どうせ、あんたはもう終わっとるんやから……」
イリアス「何ぃ……?」
灯馬「お天道様をよう見てみい」
刀を天空に向けて掲げる麟蛇皇。
空を見上げたイリアスは、ようやく上空で起こった異変に気づく。
空が真っ赤に染まっていた。夕焼け空ではない……もっと赤く、毒々しく濁った色だ。
空を埋めつくすのは、赤く染まった暗雲。
渦を巻いた赤色の雲が、イリアスの真上を天蓋のように覆っている。
イリアス「何……だ……これは!?」
灯馬「――“紅叢雲(べにむらくも)”」
灯馬がそう呟くと同時に……赤い雲から一斉に、真っ赤な雨が降り注ぐ。
文字通りの“血の雨”だ。
金色の劫火が焼く地上に降る真紅の雨。
最初は、触れた瞬間に蒸発するだけだった。
だが、赤き雨は瞬く間に豪雨と化し、ガンダムナーガを中心とする空間を赤く染め上げる。
燃え盛る黄金の猛火も、断続的に振る雨によって、その火勢を弱めていく。
赤い雨に含まれた“妖血”によって、霊気を吸われているのだ。
イリアス「な、な、な、何ということをっ!!
神の炎を、薄汚い血で穢そうというのかぁぁぁぁぁぁ!!!」
赤い雨は、やがてガンダムナーガを覆う炎の鎧も剥ぎ取って行く。
これまで灯馬が逃げ回っていたのは、全てこのため……
この“呪法”を発動させて、イリアスの炎を消し去るための時間稼ぎだったのだ。
夜天蛾一族の中には、このような術を使役する呪術師も多くいた。
灯馬の血には、彼らが編み出した呪術が記号として残されているのだ。
それは、血によって受け継がれる呪いの力。
灯馬自身も、元より呪術師としての素養を持っていた。
今までずっと封じ込められていたそれが、
“血の目覚め”によって解放され、今や自在に使役できるようになったのだ。
赤い血の雨は大地を染め、沼地を作り出す。
そこから血で出来た赤い蛇が伸び、ガンダムナーガの機体を拘束する。
蠢く蛇は魔方陣を形成し、より強い呪力で炎の勢いを封じ込める。
262
:
藍三郎
:2009/06/27(土) 10:03:19 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
イリアス「悪魔……! 貴様は悪魔(マーラ)だっ!! 呪われた子だっ!!
死ね! 死ね! 死んでしまえぇぇぇぇぇぇ!!!」
憎悪と畏怖の混じった狂貌で、灯馬を罵るイリアス。
灯馬は、それを何処吹く風といったように受け流す。
灯馬「はぁぁ……そんなもん、飽きるほど言われとるわ」
その出自と血脈により、疎まれ、避けられ、忌み嫌われ……
放浪することを余儀なくされた彼が行き着く先は、血の臭いの立ち込める闇の世界でしかなかった。
太陽の照らす世界に、真っ当な神が統べる世界に、自分の居場所はない。
血の雨が降り注ぎ、真紅の沼が大地を染める……“ここ”が、自分の世界だ。
“ここ”ならば、自分の全てを出し切れる。
血に飢え、ただ敵を斬ることを欲する妖刀……本当の自分に戻って、戦うことができる。
灯馬の耳には何も届いていない。
彼の胸にあるのは、目の前の敵を“斬りたい”という渇望のみだった。
そしてそれは、ついに臨界点を迎える。
灯馬「ふぅ……これでようやく、あんたを斬れるなぁ……
愉しいわぁ……愉しくて愉しくて、仕方が無いわぁ……」
所詮は人の世では生きられぬ、外道の本性。
ならば、血の雨の降る修羅場にて、存分に歓喜に悶えようではないか。
それこそが自分の在るべき姿、生きる道だ。
刀と鞘を左右の手に持ち、斜め下に向けて構える麟蛇皇。
“妖血”が双方に纏わりつき、二振りの長大な刃を形成する。
灯馬「妖刀……朝闇(あさやみ)・夕闇(ゆうやみ)」
腕を交差させ、長い刀を腰に差す麟蛇皇・紅。
両手による、変則的な抜刀術の構えだ。
その姿に、イリアスは確実なる“死”の気配を感じた。
ようやく彼女は悟った……目の前にいる敵は、生贄でも罪人でもない。
かつて自分が相対したことの無い、神の敵……真の悪魔なのだと……
イリアス「わらわを……わらわを殺めようというのか!
この神託の巫女を!! この穢れた世界に楽園を築こうとするわらわを!!
神も恐れぬ極罪(きょくざい)ぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
灯馬「当たり前やん」
絶叫するイリアスに対し灯馬は実に冷ややかに返答した。
灯馬「だってボク……悪魔やもん」
ガンダムナーガ目掛けて一直線に疾駆する灯馬。
イリアス「ギィエェェェェェェェェェェェッ!!!」
機体を縛る血の蛇を無理矢理破壊して、最後の抵抗を試みるイリアス。
黄金の炎を放ち、麟蛇皇・紅を焼き尽くそうとする。
猛火が麟蛇皇の肩を焼き、瞬時に溶解させる。
だが、それでも灯馬は止まらない。
その痛みさえも、この瞬間を彩る香辛料(スパイス)であるかのように、内なる歓喜を高ぶらせていく。
灯馬「夜天蛾流抜刀術――――」
交差した腕を、一気に解き放つ――――
灯馬「皇十字(すめらぎじゅうじ)――――」
263
:
藍三郎
:2009/06/27(土) 10:04:52 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
イリアス「――――――――――!!」
斜めに傾いた真紅の十字が、ガンダムナーガに刻まれる。
この瞬間……勝負は決した。
紅の刃は、コクピットのイリアスもろとも、ガンダムナーガの機体を四つに断ち切った。
イリアスは絶句していたが、最後の力を振り絞って呪いの言葉を叫ぶ。
イリアス「嘘だァァァァァァァァァァァ!!!
わらわが! わらわがこれしきのことで死ぬはずが無いぃぃぃぃ!!
神よ!! サラスヴァティー神よぉぉぉぉぉぉ!!
奇跡を起こし、わらわに新たなる命を与えたまえ!!
そして、こやつに、この悪魔に! 罰を、神罰を下したまえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
彼女は信じていた……自分が死ぬはずが無い。
例えこの身が朽ち果てようとも、神は自分を蘇生させ、再び託宣を下すであろうと……
本来の年齢に見合わぬこの若さも、神によって授かった賜物だ。
自分は神に選ばれた存在なのだ。それがここで死ぬはずが無い……死ぬはずが無い……
だが、どれだけ呼びかけようとも、何も返ってくることは無かった。
奇跡は……起こらなかった。
イリアス「何故だぁぁぁ!! 何故応えてくださらぬ!!
わらわは、わらわは神託の巫女ではないのかぁぁぁぁぁぁぁ!!!
神よ、神よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
イギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
薬によって形作っていた若い皮膚が、膨大な熱量で剥げ落ち、本来の皺まみれの体に戻る。
体に十字を刻まれ、四つに分かたれたイリアスは、最期まで己の中の神を信奉しながら……爆炎の中へと消えていった。
灯馬「せやな……多分、ボクにはきっと天罰が下るんやろうな……」
炎の中に熔けて行くガンダムナーガを見ながら、灯馬は我が身を振り返る。
ただ血肉を求める自分も、あのイリアス・サラスヴァティーと変わらない。
彼女の死は、未来の自分の姿だろう。
人を殺すことをサガとする者は、いずれそれ以上の力によって斃される……それが闇の世界の掟だ。
灯馬「でもま……」
灯馬はイリアスの血を啜ったばかりの刀を見て、この上ない満足感に包まれた。
斬殺の余韻に浸るように、体を震わせる。
灯馬「気持ちよかったなぁ…………」
分かっていてもやめられない。
一度沈んでしまえば、この恍惚の海からは決して這い上がることはできない。
自分はずっと、ここに居続けるのだろう。破滅が来ることが分かっているとしても……
灯馬「もうちょっと浸っときたいんやけど……時間切れや」
血脈の力を使えば、やはり莫大な消耗が降りかかるようだ。
実際、もう少し決着が遅れていれば、命を落としていたのは自分の方だろう。
灯馬の赤い髪が、徐々に黒へと戻って行く。麟蛇皇・紅もまた、元の麟蛇皇へと姿を変える。
灯馬「何か疲れたわぁ……ちょっと…………眠ろ…………」
ゆっくりと目蓋を閉じると、制御を失った麟蛇皇は、そのまま地上へと墜落して行く。
264
:
蒼ウサギ
:2009/07/03(金) 23:14:32 HOST:softbank220056148026.bbtec.net
麟蛇皇が地面へと激突するその瞬間、それを救ったのは一部始終を傍観していたアフロディテだった。
ヴィナス「いいものを見せてくれた礼、とでもいうべきでしょうかね。
ま、あなたにもまだまだ利用価値がある、ということです」
灯馬に告げるも、気を失った状態では届くはずもない。
だが、その相棒は違っていた。
蛇鬼丸「こらテメェ! スカしてるとバラすぞぉ! さっさと灯馬を起こしてオレのサビになりやがれぇ!」
ヴィナス「生憎と今はそのつもりはありませんよ……“今は”ね…」
含みを持たせた笑みを零しつつ、ヴィナスは、麟蛇皇を担ぎつつアフロディテを飛ばした。
§
トレーズの参戦。
それによる人類側の奮起は、ギャンドラー、いや、ディオンドラの予想を遥かに上回った。
頼みの綱であったガルディの真実は、逆効果に終わっている。
ディオンドラ「ちぃ! なんてことだい!」
焦燥が募りに募って、自分の剣も揮わない。
幾度なく「敗北」の二文字が思い浮かぶ。
デビルサターン「あ、アネゴ〜。ここは逃げたほうがええんちゃいますやろうか?」
傍らにいるデビルサターンのその言葉に、ディオンドラは屈辱に顔を歪めた。
次々に撃墜されていく妖兵コマンダーや、いつ倒れてもおかしくない幹部コマンダーを見れば、
形勢は火を見るより明らかだ。
ディオンドラ「歯がゆいねぇ…! ここは撤退するよ! 生きてるやつはついてきな!」
デビルサターン「が、ガデッサー! み、みんな撤退や〜!」
デビルサターンの号令を皮切りに、次々に逃げ行く妖兵コマンダー達。
その中でガルディは自身を襲う動揺の中でも、まだギャンドラーとしての意志が強いのだろう。
ガルディ「……ロム・ストールとその仲間達よ…次に会った時は容赦はせん!」
苦痛に顔を歪めながらもその場を離脱していった。
ロム「うっ…ガルディ………オレの兄さん…」
このまま追いかけたい。
どこかそんな気持ちにロムは苛まれた。
265
:
蒼ウサギ
:2009/07/03(金) 23:15:24 HOST:softbank220056148026.bbtec.net
§
悠騎「ふぅ……ようやく行ってくれたかぁ」
トレーズの参戦により、士気が上がったのは行幸だったがこれ以上、戦闘が長引くのは正直悠騎としては危なかった。
エッジの損傷したメテオゼファーを守りながら、バーサーカー・メイルを排除した状態でのブレードゼファーでの戦闘。
想像以上に酷なことだった。
エッジ「……ちぃ、オレとしたことが。アンタに貸しを作ることになるとはね」
悠騎「後輩が遠慮すんじゃねぇ……と、言いたいところだが、マジでキツかった。でかい貸しだ」
エッジ「ま、普段の借りをこれで返したと思えば」
悠騎「あぁっ!? オレがいつお前に貸し作ったぁ!?」
エッジ「だから普段……っと、こっちに接近する熱源あり!」
瞬間、二機が身構えた。
すぐにその熱源が肉眼で確認できる。
悠騎「ちっ、ヴィナスの野郎。まだいたのか!?」
剣を構える横で、メテオゼファーがスナイパーライフルを構える。
そのスコープがアフロディテの手元を捉える。
エッジ「……悠騎、あいつ灯馬の機体持ってるぜ」
悠騎「っ! 人質にでもする気か?」
そう言っている間にアフロディテが二機の目の前に滞空した。
ヴィナス「下種な考えはやめてください。私はただ彼をお渡しにきただけですよ」
と、麟蛇皇をブレードゼファーめがけて放り投げた。
とっさのことで一瞬反応が遅れたが、悠騎はなんとかそれを受け止める。
悠騎「っと、あぶねぇ! 本当にこれだけか? お前にしては気持ち悪いくらい今回はおとなしいな?」
ヴィナス「そうですか? では……」
瞬間、悠騎の視界から黄金の機体が消えた。
見えているのはエッジだけ。
クレセントソードをその手に持ったアフロディテは、メテオゼファーに肉迫。
エッジ「てめ―――」
悠騎「え?」
―――――グサッ!
装甲が貫かれる音が悠騎の耳をつんざく。
メテオゼファーの装甲を貫いたクレセントソードの刃先には、鮮血が生々しく塗られていた。
それが何を意味しているのか。
悠騎は、分かっていながらも、思考が数秒停止してしまっていた。
ヴィナス「フフ、動けませんか? 星倉悠騎。心配いりません。彼はマテリアルではない。
……つまり、私の研究対象外の存在。そして、貴方には必要な生贄」
悠騎「…………」
ヴィナス「目の前で“仲間を失う痛み”……とくと味わえましたか?」
ゆっくり剣を抜くや否や、メテオゼファーが落下していき、アフロディテは目的を果たしたかのように離脱していった。
悠騎は、目の前で起きた現実が受け止められないのか、それとも湧きあがるヴィナスへと怒りか。
彼の言う、目の前で“仲間を失う痛み”に苛まれたのか。
悠騎「――――――――!!!!」
言葉にならない声で叫んだ。
叫び続けた。
266
:
藍三郎
:2009/07/04(土) 08:23:56 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼は“要らない子”だった。
彼の一族は、“血”を何よりも重んじ、幾度と無く近親間での交配を繰り返し、その血の密度を保ってきた。
跡継ぎには最も濃い血を引いた者が選ばれ、一族が持つ絶大な権力を手中に収めることとなる。
だが、少しでも異なる血が混じった子供は、“不良品”と見なされ、徹底的に冷遇された。
劣った血を持つ者は、存在価値すら認められない。
生まれる必要の無かった子供……夜天蛾灯馬は、幼少期からそんなレッテルを貼られ、冷遇されながら生きてきた。
家に彼の居場所は何処にも無かった。
しかし、外の世界で人を交わろうとしても……異能の力を宿した一族の血が、それを許さない。
夜天蛾一族の本質は、奪い、侵し、そして呪うこと。
呪われた“血”の力で、他者を傷つけ、その財を奪い取って膨れ上がる……
そうして、一族は発展を遂げてきたのだ。
本人の意思とは関係ない。ただ居るだけで周囲を傷つける。
存在そのものが災禍……それが夜天蛾一族の血なのだ。
内にも外にも灯馬の居場所は無く、開け放たれた監獄の中で、徐々に腐って死んでいくものと思われた。
そんな彼に自由を与えてくれたのは、祖父だった。
祖父……夜天蛾十風斎は、夜天蛾一族としては開明的な性分を持つ男で、その人徳ゆえに多くの人々から好かれていた。
隠退した彼は、一族から半ば放逐されていた灯馬を引き取り、親代わりとなって育てた。
彼は、どうにかして灯馬を血の呪縛から解き放とうと苦心したが……
やはり延々と続いてきた血族の宿命は断ち難く、凶悪な殺人者の本能を秘めたまま、灯馬は成長する。
せめて、力をコントロールできるようにと剣術を教えたりもした。
膨れ上がる血の力を抑えられるだけの器が無ければ、暴走した挙句自滅するしかない。
それが、夜天蛾灯馬を恐るべき剣鬼に仕立て上げるとしても……彼は灯馬の運命を諦めたくは無かった。
十風斎の愛情もあってか、灯馬は比較的優しい少年に成長した。
しかし、表面上の態度と“血”の宿業は何の関係も無い。
六十年以上生きて一族と関わってきた十風斎には、よく分かっていることだった。
それは剣の稽古の最中に、突如覚醒を起こし、自分に斬りかかって来たことで改めて思い知らされた。
この子はどうあっても、平穏な生活は送れない宿命なのだと。
武器を持たないただの一般人を斬り殺す……それだけは何としても避けねばならない。
人を殺さずには居られない性ならば、せめて殺人が罪にならぬ場所でのみ戦わせればよい。
苦渋の末、そう考えた祖父によって、灯馬は戦いの世界へと誘われる。
祖父と共に裏の世界で戦い抜くうちに……
灯馬は妖刀・蛇鬼丸と出会うことになる……
それからだった。彼の呪われた“血”が、表に出なくなったのは……
だが、決して消えたわけではなく、その力は彼の中で確実に残り……
蛇鬼丸の狂気を吸い上げながら、覚醒の時を待ち続けていたのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
267
:
藍三郎
:2009/07/04(土) 08:25:19 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
それから……
ガンダムナーガの破壊と、ギャンドラーの撤退により、インドでの戦いは終結した。
各国に現れたギャンドラーも、ザフト、OZの加勢によって撃退される。
トレーズ・クシュリナーダは星倉由佳と改めて交渉し、統合軍およびディアナ・カウンターとの会談に移った。
会談は通信回線によって行われ、トレーズの他には
ムーンレィス元首ディアナ・ソレル、マクロス7艦長マクシミリアン・ジーナス、
そして宇宙統合軍総司令ミスマル・コウイチロウが席についた。
まずトレーズは、彼ら三人に対して、かつての自分の行いを謝罪した。
トレーズ『異なる世界で、真に戦うべき敵を見失い、
貴方がたに刃を向けてしまった我々の罪は、許されるものではありません。
幾ら言葉を連ねても、償えるものではない……
ですから、私に出来ることは、この未曾有の危機に対して、貴方がたに力を貸すこと……それしかないと考えております』
ディアナ『頭をお上げください。ギンガナム艦隊の暴走を止められず、
ネオバディムの勢力を拡大してしまったことは、わたくしにも咎があります』
マックス『統合軍の者たちは、まだネオバディムに組した貴方がたを、完全に信じているわけではない。
ですが、貴方には、今回の戦闘を含め何度か助けて頂いたことは事実……
それは信頼に値する行為と言えるでしょう』
ミスマル『貴方が仰られるとおり、今は人間同士で争っている場合ではない。
ここで無用な諍いを起こすことは、人類を守護する統合軍の責務に反する。
プロトデビルンの地球降下、使徒の脅威、ユーゼス・ゴッツォやアルテミスの暗躍、
そして機械型異星人の組織、通称『ギャンドラー』による総攻撃……
事態は既に、我々統合軍で収拾出来る限界を超えています。
この危機を跳ね除けるには、人類が一丸となってことに当たらなければならない。
貴方の申し出……喜んでお受けしたい』
トレーズ『寛大なるご処置、感謝いたします……
ですがもう一つだけ、貴方がたにお願いしたいことがあるのです』
ディアナ『それは……』
トレーズ『私の目的は二つあります。まずは、この世界の地球を救うこと。
そして、私に付き従ってきた同志達を、元の世界へと帰すことです。
ネオバディムが行った破壊活動、統合軍への敵対行動については、全て私が責任を負います。
もしも、元の世界に戻す方法が確立したならば……他の同志達は、無事に元の世界に戻していただきたい』
マックス『貴方は、帰らないつもりだと?』
トレーズ『はい。ネオバディムに加担し、この世界を混乱させた罪……それから逃れるつもりはありません。
この世界の人々の手によって、裁きを受けたいと考えております』
その罪の重さはトレーズ自身が一番良く理解しているはずだ。
彼の目には、ただ一人で全ての裁きを一身に受ける覚悟が見て取れた。
ミスマル『しばしの時間は要するでしょうが……
その条件ならば、上層部も受け容れるでしょう』
トレーズ『感謝いたします……』
こうして……トレーズ率いるOZ、ザフト軍と宇宙統合軍、ディアナ・カウンターとの同盟は成った。
かつて敵対していた者達、異なる世界に住む者達……
それらの垣根を取り払った大きな人類の環が、ここに成立したのだ。
戦力を立て直した統合軍は、敵が更なる攻撃に移る前に……
ロストマウンテンに陣取るギャンドラー要塞への総攻撃を決断する。
期日は三日後……
地球圏全体を飲み込み巨大な流れは、戦士たちを次なる戦場へと押し流す。
戦友を失った悲しみが、癒える暇も無いままに……
268
:
はばたき
:2009/07/07(火) 22:01:33 HOST:zaq3d2e47fa.zaq.ne.jp
=コスモ・アーク 格納庫=
ウリバタケ「いいか、開けるぞ?」
作業用のアームが、軋みをあげてメテオゼファーの胸部装甲を引き剥がす。
損傷が激しい上、直撃を受けたものだから、ハッチがひん曲がって開かないのだ。
ウリバタケ「っと、こいつぁ・・・」
レイリー「・・・・・」
神「見ないほうがいい」
前に出かけたレイリーを制する。
だが、見なくとも判る事だ。
実剣の直撃を受けたコクピットの中身の姿など・・・
悠騎「・・・・・」
その様子を、呆然と悠騎は見ていた。
目を背ける者、臥せる者。
嗚咽を漏らす者、やり場のない怒りをぶつける者。
戦友を失った痛みは十人十色だ。
しかし、皆が一様にエッジ=フロイトという名の少年の戦死を悼んでいた。
そんな中で、悠騎は動けないでいた。
―――つまり、私の研究対象外の存在。そして、貴方には必要な生贄―――
エッジは死んだ。
他ならぬ、自分の為に。
自分を覚醒させるという目的の元の人身御供として―――
アイラ「・・・・・バカな話だ」
茫然自失としていた悠騎の耳に、そんな声が聞こえた。
振り返れば、いつの間にそこに来たのか、黒髪の女性が彼の傍に立っていた。
アイラ「あいつ、出撃前になんて言ってたと思う?」
意図するところが読めず、悠騎が戸惑っていると、アイラはそんな彼を横目で見て、
アイラ「“あんな戦い方続けたら・・・・・・いつか、死にますよ”だと。だけど、結局死んだのはあいつで、私は生き残った。とんだお笑い種だ」
鼻で笑ったように、悠騎には見えた。
だからだろう。
反射的に拳を振るっていたのは。
悠騎「あ・・・・・」
柔らかい頬を打った感触に、我に返る。
だが、冷静になればなるほど、先ほどの言葉に感情が揺れ動く。
悠騎「・・・りけせよ」
アイラ「うん?」
悠騎「取り消せよ!今の台詞は幾ら姐さんでも許せねぇっ!!なんだよ!どうしちまったんだよ!?悲しくないのかよ!?辛くないのかよ!!?」
搾り出すような声で悠騎は訴える。
悠騎「・・・それとも、お笑い種は俺の方かよ・・・」
項垂れる悠騎。
それを見ていたアイラは、床に血の混じった唾を吐き棄てると、そっと人差し指だけで優しく悠騎の顎を持ち上げ、そして
ゴッ――――!!
思いっきり、腰の入った拳で殴り飛ばした。
269
:
はばたき
:2009/07/07(火) 22:02:12 HOST:zaq3d2e47fa.zaq.ne.jp
悠騎「っ!!?」
アイラ「どうした?これしきのパンチも避けられないのか?」
床に尻餅をついた悠騎を冷たい瞳で見下ろすアイラ。
アイラ「この程度で倒れるのがお前の実力か?その程度の力でG・Kの切り込み隊長などとのたまってきたのか?」
悠騎「何を・・・・!」
アイラ「お前は私より強いんだろう?」
思わずゾっとするほど重い声。
胸倉を捕まれ、無理やりに立たされる。
アイラ「お前は!何度も隊の危機を救ってきたんだろう!?あの奇跡みたいな力で、都合よく!何度も・・・何度も!なのに、何故今回に限ってそれが出来なった!!?」
悠騎「・・・っ!」
アイラ「一番近くにいたんだろう!?手の届く距離にいたんだろう!?それが、何故・・・何故だ・・・・」
無茶を言っている。
それは彼女にも解っている事だろう。
悠騎の胸倉を掴んだまま、その胸元に頭を埋める。
アイラ「私は何も出来なかった・・・」
悠騎「姐さん・・・?」
アイラ「一人で息巻いて、自分が果たさねばならない役割すら果たせず、挙句この様だ。私がやらねばならなかった・・!私がもっと強く、私に奴らに通用する位の力があれば、結果は変わっていたんだ!!」
それは違う・/と言いかけて、悠騎は言葉に詰まった。
違うと言い切れるか?
アイラの慟哭は、そっくりそのまま自分の想いだ。
否定する権利が、資格が、果たして自分にあろうか?
アイラ「無力なんだ、私は・・・。でもお前は違う。違うはずだ・・・!なのに・・・!」
ギッと鋭い視線が突き刺さる。
見上げるアイラの瞳に映るのは悲しみと怒り・・・・だけではない。
だが、友の死に心を乱す悠騎には、その瞳の奥の感情を読み取ることが出来なかった。
アイラ「お前は・・お前はどこまで―――」
やがて、叩きつけるように悠騎の体を離すと、アイラはくるりと背を向けて格納庫を後にした。
悠騎に出来ることは、それを黙って見送ることだけだっだ。
§
コスモ・アークの廊下を早足で歩いていくアイラ。
その表情には、虚脱したように色が無い。
やがて、廊下の突き当たりにぶち当たり、彼女は足を止める。
右に曲がるか左に曲がるか・・・。
暫し、黙考していたアイラだったが、ややあって何を思ったか、その場でくるりと半回転。
流れるような動作で、“壁目掛けて蹴りを放った”。
キィン―――!
金属をすり合わせたような澄んだ音が響いた。
そして、数瞬の後、壁が中央からすっぱりと“斬れた”。
アイラ(いける・・・・)
いつもより、蹴りの鋭さがあがっている。
気分は晴れやかだ。
力が漲ってくるとはこのことか。
自分の中に、形容しがたい“何か”が沸いてくる感触に、彼女は満足した。
アイラ(ありがとう、エッジ。お前のおかげで、私は“まだ”戦える。強くなれる・・・)
アイラ「あは、あはははっ!あははははははははははははははははははははははははっ!!!」
270
:
蒼ウサギ
:2009/07/11(土) 02:12:28 HOST:softbank220056148051.bbtec.net
=コスモ・フリューゲル=
『エッジ=フロイド隊員、我々とは異なる世界のインド、カルカッタ基地の戦闘にて戦死。享年、17歳。』
アイ『星倉艦長……エッジ=フロイド隊員の死亡報告書が完了しましたのでそちらに送ります』
由佳「了解」
コスモ・アークより送られて来た今回の戦闘報告書、及び、エッジの死亡報告書。
簡潔な文章にしてみれば、一行にも満たないが、詳細な内容を起こせばかなりの文章量になる。
これを入力するのは、精神的にも酷だろうが、これが艦長としての絶対義務なのだ。
由佳「確認しました。エッジ隊員の遺体は我が隊の規定により、彼の入隊事前の希望通り宇宙葬にしましょう。
……我々の世界に帰ってから」
アイ『はい。それまでエッジ隊員の遺体は、可能な限りの復元手術を行い、コールドスリープさせておきます』
由佳「えぇ……お願いね、四之宮艦長」
アイ『いえ、私は代理艦長です。星倉艦長』
あくまでも代理艦長という位置を貫くアイに、由佳は感服に表情を綻ばした。
だが、本来のコスモ・アークの艦長が目覚めたとき、今回の報告書の内容を見たらどう思うだろうか。
いや、彼のことだ。
恐らくその強い意志のもと、エッジの死を慈しみながらも決して涙を見せないだろう。
少なくとも、クルーの前では。
そうでなければ、艦長という任は務まらない。
務めてはならないのだ。
由佳「……お兄ちゃんのピンチにいちいち動揺しているようじゃ、私もまだまだ未熟だよね」
どこかで、私よりもアイちゃんが艦長に向いている。
そんな思いが過ぎった。
§
振り返ってみれば。
ドモンは、師と兄を失い、シンジは、望まない形で自分の手で友達を傷つける形となった。
敵であったクローソーも、姉妹同然の仲間を亡くしたため、アルテミスを裏切った。
コスモ・アーク隊の者達は、仲間を失うのはゼル=ゾムロイヤーに続いて二人目なのだ。
他にもディアナ・ソレル派のムーンレイスや統合軍。
自分たちに敵対したものもいれば、それで自分自身が倒したものもいる。
戦場とは本来そういうものなのだ。
生と死が隣り合わせであり、誰が死のカードを引いてもおかしくない。
それが今回、エッジが死のカードを引いただけなのだ。
だから……。
悠騎「……だからって、割り切れるもんじゃねぇよな」
頭でどんなに理屈づけてもやはり感情が許さない。
ヴィナスへの、そして、自分への憎悪が沸々と湧きあがる。
アイラの言うとおりなのだ。
一番近くにいながら、アイツの動きに対処できなかった。
悠騎(オレが甘かったんだ……奴から元の世界に帰ることを聞き出すことに躍起になってたから)
―――もっと広い視野を持った方がいいのではないでしょうか?
271
:
蒼ウサギ
:2009/07/11(土) 02:13:33 HOST:softbank220056148051.bbtec.net
悠騎「くそっ! いつもいつも、何もかもを見透かしたような口振りが気にいらねぇ……
もうアイツから元の世界に帰ることを聞き出すなんざどうでもいい! 今度会ったら…」
ぶっ殺す!
そう紡ごうとした言葉は「ダメです!」という声によって遮られた。
ミキ「先輩……。それはダメです」
悠騎「滝本……。でも」
ミキ「私達の最初の目的を忘れないでください!」
強い意志を秘めた目だった。
惹きつかれて、視線を外すことがおこがましいとさえ思うほどに。
ミキ「それに……憎しみで戦っている先輩の姿なんて、私、見たくないですから」
先ほどまでの強い意志が、一瞬の後に潤んだそれに変わり、悠騎は少し動揺したが、
どこか心の中の阿修羅が僅かに薄くなった気がした。
悠騎(……エッジ、わりぃ。……けど必ず元の世界に帰ろうぜ)
§
=機動要塞 シャングリラ 格納庫=
ヴィナス「まさか出迎えがあなたとはね……マルス様はいいのですか?」
アフロディテがシャングリラの格納庫へと着艦する際、勝手な出撃に一言あるとは予想していたが、それがルドルフでは
なく、ミスティであることにヴィナスは意外だ、という顔になった。
ミスティ「今は楽園室で眠ってらっしゃるの。そっとしてあげるのがマルス様のためよ」
ヴィナス「クスッ」
ミスティ「………何がおかしいの?」
ヴィナス「いえ、最近の貴方はすっかり変わりましたね。いや、それが本当の貴方、というべきなのでしょうか……
いやはや、やはり“失われた世紀”の遺産は興味深いです」
ミスティ「あなたは恐ろしいほどに変わった気がするけどね……それとも、今まで猫を被ってたのかしら?」
ヴィナス「ご想像にお任せしますよ。では、私は研究があるのでこれで失礼します」
周りから見れば、何気ない幹部同士の会話に見えるだろう。
だが、ミスティの直感がヴィナスへの微妙な違和感に怖気を覚えずにはいられなかった。
ミスティ「ルドルフの言ったこと……ある意味、当たっているかもね」
ヴィナスは、幹部でも知らない個人で何かを企んでいる。
=ヴィナス研究室=
ヴィナス(さぁ、星倉悠騎。目の前で“仲間を失う痛み”の味はどうですか?
フフフフ、次はあなたにどちらの味を味わせてあげましょうか?)
最愛の者を失う痛み?
それとも愛する家族を失う痛み?
安心してください。
あなたには、私と同じ痛みを味わせてあげます。
そう、全てを失った痛みの味をね。
そして見せてください。
全てに絶望し、己の剣が折れた先に、あなたが選ぶ道を!!
272
:
藍三郎
:2009/07/11(土) 09:21:14 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
第43話「クロノスの大逆襲」
トレーズ・クシュリナーダと同盟を結んだ宇宙統合軍、ディアナ・カウンター、G・K隊は、
ギャンドラーの侵略を食い止めるため、ロストマウンテンに陣取るギャンドラー要塞へ決戦を挑む。
その間も、世界の各地ではギャンドラーやバロータ軍による攻撃が続いているため、
統合軍とディアナ・カウンター、そしてOZやザフトがその防衛に当たった。
彼らがギャンドラーの攻撃を食い止めている間に、
ロム・ストールらマシンロボチーム、G・K隊を中核とした精鋭部隊が、ギャンドラー要塞へと向かった。
ロム「………………」
決戦を間近にして、ロム・ストールが思いを馳せるのは、彼の兄……ガルディ・ストールのことだった。
ロム(貴方が生きていた頃……俺はまだ幼く、レイナは赤子だった。
あの頃から俺にとっては、貴方は天空宙心拳の尊敬できる師であり、理想の兄だった……)
ガルディは若くして父キライに匹敵する技量を持つ武人であり、厳しさと優しさを併せ持つ人格者であった。
天空宙心拳継承者の証である剣狼も、当然長兄であるガルディが受け継ぐはずだった。
しかし……キライ不在の折に、ロム達が住む星を天変地異が襲った。
ガルディは弟と妹を庇って爆発に巻き込まれてしまい……以後、消息を断つことになる。
兄ガルディの死は、幼いロムの心に癒えぬ傷を与えると共に、
亡き兄に恥じない継承者になろうとする決意も宿らせた。
それからロムは死に物狂いで修行に励み、天空宙心拳継承者に相応しい実力者となったのである。
だが……ガルディは死んでいなかった。
ギャンドラーの一員として、再びロムの前に姿を現したのだ。
ディオンドラの言うことが真実だと証明されたわけではない。
それでも、今ならばはっきりと分かる……
あの動き、あの強さ、あの太刀筋……
それらは全て、ロムにとって目標であった兄、ガルディ・ストールのものであったと……
強く拳を握り締めるロム。いくら信じたくなくても、心の中では既に理解している。
今から自分は、再び実の兄と刃を交えることになる。
だからといって、逃げることは許されないのだ。天空宙心拳継承者としても、弟としても。
レイナ(ロム兄さん……)
仲間たちと共に、兄の背中を見つめるレイナ。自分には、もう一人の兄の記憶は無い。
恐らく、自分が受けた何倍もの衝撃を、ロムも味わっていることだろう。
だから、どんな言葉をかけていいのか分からない……
ロム「心配するな、レイナ……」
そんな妹の心中を見透かしたように、ロムの方から声をかけてくる。
レイナ「兄さん……」
ロム「俺はもう迷わない。ガデスを倒し……兄さんを救い出す」
自分はまだ甘いのかもしれない……
だが、ロムは兄が心からギャンドラーに組したとは信じていない。
だから、倒すのではなく、救うのだ。
これ以上、大切な者を失う悲しみを広げないために。
ロム「だがそれには……お前達の力が必要なんだ」
ロムは先ほどの戦いで、己の未熟さと、仲間たちに支えられていることを知った。
仲間たち一人一人の顔を見渡すロム。
ロム「力を……貸してくれるか?」
ドリル「へっ、何を今更。水臭ぇぜ」
ジェット「俺達は、クロノス星を旅立ったあの時から、一蓮托生のはずだ」
ジム「最後の最後まで、お供いたします」
グローバイン「暗闇を彷徨っていたワシに光を与えてくれたのはお主らだ。
最後まで、お主らと共に戦う覚悟はとうにできている」
レイナ「兄さん、私も戦う! あの人を……ガルディ兄さんを助けるためにも!」
マシンロボチームは円陣を組み、手を重ね合わせる。
これが、ギャンドラーとの最後の決戦になる。
敵はハイリビードの力を取り込んだガデス……今までとは比べ物にならない激戦になるだろう。
だが、彼らに気負いはない……
これまでの戦いで築き上げてきた“絆”の力ならば、どんな敵でも打ち倒せると信じているから。
ロム「行くぞっ!!」
273
:
藍三郎
:2009/07/11(土) 09:22:54 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
=ギャンドラー要塞=
ギャンドラー要塞最深部の玉座では……
ガデス「おおおおお……力が……力が漲って行く……!!
ハイリビードの力を、完全に我が物とするのも時間の問題……
今こそワシは、永遠の命を手にするのだ!!」
全身からオーラを放ちながら、内に宿るハイリビードの力を実感するガデス。
星をも掴み握り潰せるほどの力が、体中に漲るのを感じる。
グルジオス「素晴らしいお力でございます、ガデス様……」
ガデスの前で恭しく跪くグルジオス。
今のガデスからは、神をもねじ伏せるような覇気を感じる。
ガルディが逃走したという話を聞いた時は肝を冷やしたが、もはや何の心配も要らぬようだ。
今のガデスは誰にも止められない。
ロム・ストールや人類が束になってかかろうとも、一方的に蹂躙されるしかないだろう。
グルジオス「時にガデス様……人間どもが大挙して
このギャンドラー要塞に押し寄せております。いかがいたしましょう?」
ガデス「ふん、どの道人間どもに、あの結界を破ることなどできぬわ」
ロストマウンテン跡地に陣取るギャンドラー要塞は、
グルジオスの妖術によって周囲の次元から切り離されていた。
それによって視認することすらできず、近づこうとしても歪曲空間によって弾き飛ばされるだけなのだ。
これまで統合軍が総攻撃に踏み切れなかったのには、そんな理由がある。
ガデス「まぁ、奴らが何らかの方法で突破して来るならば、その時はその時だ。
我がギャンドラー要塞の総力を持って、歓迎してやれい!!」
グルジオス「はは――っ!!」
ガルディ「う、ううう……」
何とか要塞に帰還したガルディだったが、その表情は優れない。
先ほどの戦いで明かされた衝撃の事実が、彼を打ちのめしているのだ。
あの時……ガルディは動揺したロムの隙を突いて、命を奪うことも出来たはずだ。
しかし、『兄』という響きが、彼の心にブレーキを掛けた。
ガルディ「ワシが奴の兄だと……そんなバカなことが……!!」
否定しようとした瞬間、頭が強く疼く。
――――ロム、逃げろ――ロム――――
ガルディ「ぐぅぅぅぅ!!」
脳内にあるイメージが呼び起こされ、それがガルディの脳を締め付ける。
自分は何か……大切なものを忘れてしまっているのではないか……
ガルディ「違う! ワシはガルディ……ギャンドラーの戦士だ……!」
己の存在意義を思い出し、一瞬芽生えた思いを振り払うガルディ。
ギャンドラーの弱肉強食の世界。
強くなければ、首領ガデスの役に立たねば、生きている価値はない。
自分はそのためだけに存在している。余計な思いは、全て斬り捨てるべきなのだ。
腰の流星を抜き放ち、近くの円柱を一刀両断にするガルディ。
その赤い瞳には、凄まじい殺意と敵意が渦巻いていた。
ガルディ「ロム・ストール……次こそは貴様を必ず……殺す!!」
274
:
藍三郎
:2009/07/11(土) 09:24:34 HOST:106.145.183.58.megaegg.ne.jp
ロストマウンテン周辺には、インドから移動したコスモ・フリューゲル、コスモ・アークに加え、
エルシャンク、ナデシコC、アークエンジェル、フリーデンⅡ、そして多くの統合軍の戦艦も合流していた。
トレーズは各地のOZ、ザフト連合軍の指揮を執るために別の激戦区へと向かった。
世界各地では、今も統合軍とギャンドラーとの戦いが続いている。
彼らがギャンドラーの猛威を食い止めている間に、自分たちはギャンドラー要塞を攻略し、首領ガデスを討たなければならない。
しかし、ギャンドラー要塞は依然視認することはできず、白い靄がかかっているだけである。
外側からの艦砲射撃も試みたが、コスモ・フリューゲルのコロナキャノンも、
ナデシコのグラビティブラストも、エルシャンクのフォトン砲も虚しく宙に吸い込まれるだけだった。
皆が対策に苦慮する中で……
ロム・ストールはコスモ・フリューゲルの上に立ち、剣狼を正眼に構えて、前を見据えていた。
ロム(ハイリビードと剣狼は繋がっている……
ならば、今ハイリビードを取り込んでいるガデスへの道を切り拓くこともできるはず……)
瞳を閉じ、精神を集中させる。剣狼とハイリビードを繋ぐ“道”を強くイメージする。
ロム(父さん……俺は信じる……父さんが命を賭けて守ろうとしたハイリビードを……!
ハイリビードは、ただの破壊の力ではないはずだ!!)
ロム「剣狼よ……! 我を導きたまえ――ッ!!」
ロムが叫んだ瞬間……剣狼から眩い光が放たれ、光の刃と化して何処までも伸びていく。
その長大なる光の刃を、ロムは一気に振り下ろした。
剣狼の力と、ロムの切なる願いによって生み出された光の剣は……
大海を切り開くモーゼの如く、目の前の空間を切り裂いていく。
空がカーテンのように開かれ……巨大なギャンドラー要塞が、その姿を現した。
剣狼とハイリビードを繋ぐラインが、グルジオスの妖術を撃ち破ったのだ。
ミキ「ギャンドラー要塞、確認できました!」
アネット「ロムさん、すごい……」
一刀の下に道を切り拓いたロムに、皆は驚きを隠せない。
だが、彼女らには呆気に取られている暇も与えられなかった。
要塞の周辺には……あまりにも大勢のギャンドラーがひしめいていたからだ。
密集する妖兵コマンダー達はまるで、要塞を覆う壁のようだった。
シャフ「敵部隊、大量に展開しました!」
ガメラン「な、何て数なんだ……」
待ち構えるギャンドラーの大軍勢に、圧される統合軍。
しかし、先頭に立つロム・ストールには、微塵の怖れも無い。
かつてロムの故郷・クロノス星はギャンドラーに襲われ、父キライは命を落とした。
それ以降、ロムは父の意志を引き継ぎ、ギャンドラーの魔の手から世界を守るため、鍛錬と研鑽を続けてきた。
その長い戦いが、今日この日終局を迎えようとしている。
父の無念を晴らし、宇宙を蝕む巨悪を討つこの時こそ、彼がずっと待ち望んでいた時なのだ。
ロムは目を見開き、剣狼を空中へとかざす。
ロム「剣狼よ! 勇気の雷鳴を呼べ!!
ケンリュウゥゥゥゥッ!!」
剣狼に刻まれた“狼の紋章”が青く輝く。
次元の彼方から青き巨人が光来し、ロムと一体化する。
<光のエネルギーが頂点に達すると、剣狼は次元の壁を越えて、ケンリュウを呼び寄せるのである。
ロムは、ケンリュウと合身することにより、その力を数十倍に発揮することが出来るようになるのだ!>
ロム「闇あるところ光あり、悪あるところ正義あり!
天空よりの使者! ケンリュウ、参上ッ!!」
クロノスとギャンドラー、最後の闘いの火蓋が、今切って降ろされた。
275
:
蒼ウサギ
:2009/07/15(水) 01:26:03 HOST:softbank220056148015.bbtec.net
ブンドル「さぁ、同胞達よ。我々も彼らに遅れをとってはならない」
レジェンド・オブ・メディチのマントを翻しながらブンドルが号令をかける。
それに続くのは、隣に位置するトレーズのトールギスⅡだ。
トレーズ「これは彼らの戦いと同時に、この星の存亡を賭けた我らの戦いでもある。
我らは今一度、神にそして、母なるこの星に試されているのだ。この星、いや世界に存在していいか否かを。
それに答えはすなわち!」
ブンドル「美しき勝利のみ!」
二機の後ろには眼前に迫るギャンドラーの大軍勢に臆さない、統合軍、そしてトレーズ派のネオバディム軍。
二機は互いにそれぞれの剣を重ね合わせた後、すぐに先行し、ロム達を抜き去り、自らギャンドラーの大軍勢に突っ込ん
でいった。
それに感化されてか、後続の二つの連合部隊がそれに続いていく。
瞬く間に合戦状態が完成した。
レイナ「す、すごい…」
ジェット「数には数か、最初はやばいかと思ったけど、ロムのおかげで道は開けたんだ当初の作戦通りでいけそうだな」
ドリル「で、でも……オイラたち、本当に手を出さなくても大丈夫なのかなぁ?」
ロム「心苦しいが……要塞の壁を破るまでは仲間を信じるしかない」
そう、これはあくまで作戦であり、最もロムが望む形でガルディ…いや、ギャンドラーそのものを叩き潰すことなのだか
ら。
話は、作戦開始の数時間前にさかのぼる。
§
ギャンドラー要塞に攻めるさい、無策でいくにはあまりにも無謀。
当然、敵陣の要塞のことだ。ありとあらゆるトラップも警戒しなければならない。
各艦の主要人物は、合流地点に集まりつつも、回線を通じて作戦を練っていた。
アイ「ナデシコCとの情報共有から推測するに、他の地点でも我々と同じように敵は人海戦術で攻めてきました。
恐らく今回も同パターンの可能性が高いでしょう」
由佳「そうね。そして、それが本陣となれば今までの比じゃないわ……数ではこちらも相当とはいえ、向こうは無尽蔵…
と、考えた方がいいわね」
ルリ「ならば常套手段としては、敵の人海戦術を一手に引き受ける部隊と、内部に突入する部隊を編成する作戦」
アイ「私も同じことを考えていました。問題は、突入方法ですが・・・・・」
ロム「ま、待ってください!」
狼狽しながらロムが二人の会話にストップをかけた。
ロム「ギャンドラーは、ハイリビードでパワーアップしていることを見落としていませんか?
確かに敵の兵力は尋常じゃないかもしれませんが、粘っていればしびれを切らして、
そのうちガルディやガデスを引きずりだせるかもしれない。わざわざを部隊を分散するなんて無謀です!」
アイ「逆です、ロムさん。私が敵の司令官なら自分の兵力を惜しみなく使って敵を徹底的に弱らせた後、
幹部を出して仕留めます。これは今までとは勝手が違う、いわばこちらから敵陣に攻め込むということですから。
……粘っていて、ロムさんの体力を消費させるわけにはいきません」
ロム「え?」
その意味がロムには理解できずについ聞き返してしまう。
ルリ「なるほど。四之宮艦長も、最初からロムさんを少数精鋭部隊に入れるつもりだったんですね」
アイ「艦長代理です、ホシノ艦長。……はい。ロムさん他、マシンロボチームは、この作戦の鍵。
全員を内部組に編成するつもりです」
作戦の鍵。
それを聞いても、ロムには実感が湧かなかった。
マックス「確かに。いや、むしろこれは君達の戦いだからな。露払いに君達に余計な消耗は避ける必要がある。
なにより、敵の幹部に君の身内がいると報告あった。
……これは君が…君達が決着をつけなければ気が済まないだろう?」
ロム(ガルディ…兄さん)
ロミナ「それに、ロム様。私達はこれまであなた方には色々助けられてきました。
ですから、今度は私達があなた方を助ける番なのです」
由佳「それにね。私達もそうだけど、ロムさんもギャンドラーにはいつも後手後手に回されてきたじゃない?
それが今度はこっちから攻めるんだから……やるからには本気でいかなきゃね!
そう、これは逆襲も逆襲、大逆襲なのよ!」
ロム「大…逆襲……」
276
:
蒼ウサギ
:2009/07/15(水) 01:28:03 HOST:softbank220056148015.bbtec.net
§
アイ『予想外の靄で予定されていた作戦がズレましたが、今のところ許容範囲内です。
フェイズ2までは順調に進んでます』
コスモ・アークから、全ての友軍機にアイの声が伝えられる。
次はフェイズ3。
それに緊張しているのは、他でもない要塞の壁を破砕するために編成された部隊だった。
エクセレン「ま〜ったく、ウチの部隊の艦長達の作戦って、大胆というか、無茶ぶりというか……
奇跡でも起こせっていうのかしらね〜」
キョウスケ「文句を言うなエクセレン。オレは嫌いではない。こういう分の悪い賭けはな」
エクセレン「いつものことじゃな〜い。それにしても、アヤ、大丈夫?」
アヤ「え、えぇ……」
相変わらず誤魔化し方が下手だ。顔色が明らかに悪い。
何しろ、この作戦。彼女が鍵を握っているといっても過言ではないのだから。
リュウセイ「む、無理すんなよ、アヤ。いざとなったら、オレ達のフォーメーションでいけば、
あんな要塞の壁の一つや二つ」
ライ「そうです大尉。艦長達の作戦はあまりにも無謀です! 今からでも遅くありません、作戦変更の進言を!」
R−3パワードのモニターに映る二人の心配顔。
これまでこの二人には何度同じような顔をさせてきただろう。
そのたびに、自分はどれだけ勇気をもらい、そして二人の力になろうと思ったことか。
アヤ「だ、大丈夫よ、二人とも! 今は自分の作戦に集中して!」
気丈に振る舞ってみせたものの、二人の表情に変わりはない。
そんな時だ。
シンジ「そろそろ作戦が開始されます」
エヴァンゲリオン初号機に乗るシンジが、全機体先頭に立った。
アヤ「うん……頼んだわね、シンジくん」
シンジ「はい。あ、それからコバヤシさん」
アヤ「え?」
シンジ「これは前に綾波が言ったことの受け売りになるんですけど、大丈夫ですよ。あなたも、皆さんも死にません」
言いながらシンジは、開き始めるコスモ・フリューゲルのハッチを見据えた。
シンジ「僕が守りますから!」
完全に開いた直後、アイからの通信。
アイ『フェイズ3、スタート』
エヴァ初号機が真っ先に大ジャンプして、着地と同時に、
シンジ「ATフィールド全開!!」
凄まじいスピードでギャンドラーの大軍勢を突っ切る。
それに続くは、SRXチームとATXチーム。
強力なATフィールドに守られて、脇目も振らずにギャンドラー要塞へと肉迫する。
何人かその狙いに気づいた妖兵コマンダーがいたが、トレーズ、ブンドルの正確な指揮のもと、撃破されたり、
また、それぞれが自ら出向いて、援護してくれた。
そして、要塞の壁撃破部隊がついにそこへ辿り着く。
瞬間、すでにATXチーム二機は動いていた。
キョウスケ「どんな壁でも……撃ち貫くのみ!!」
エクセレン「大盤振る舞い! 全弾もっていっちゃいなさ〜い!」
アルトアイゼン・リーゼのリボルビング・バンカーが全弾撃ちこまれ、離脱した後、ヴァイスリッターが同じ個所に
寸分違わずオクスタンランチャーBモードを全弾撃ちこむ。
だが、壁はへこんだ程度で破壊には至っていない。
エクセレン「あらら〜ん、これで私達の出番終わり〜?」
キョウスケ「あとはあいつ等任せるしかあるまい」
言ってキョウスケは空を見上げる。
そこには、合体モーションに入っていたSRXチームがいた。
アヤ(一瞬でいい……一瞬でいいの! もって私の心!)
ライ「くっ……トロニウムエンジンはあの遺跡の時のように安定はしていない。やはり無理か!」
リュウセイ「くっ! くそぉぉぉぉぉ!!」
ライ「大尉の精神も危険だ! やはり遺跡の時のような奇跡でもおきなければ今の我々では合体は……」
アヤ「いえ、まだ、まだ大丈夫! やらせてライ!」
だが、現実は非情だ。
合体の隙を、妖兵コマンダーに突かれて、仕掛けられたのだ。
それに気づいたのはキョウスケとエクセレン。
だが、SRXチームは空。間に合わない。
その時だった。
シンジ「やらせるかっ!」
まるでこれを予期していたかのようにエヴァ初号機がジャンプして襲ってきた妖兵コマンダーにATフィールドを展開。
態勢が崩れた瞬間に、パレットライフルとプログレッシブ・ナイフで応戦していく。
アヤ「シンジくん……」
その姿を見てアヤは、胸が熱くなった。
アヤ(……念動集中。心に念じる刃……!)
そして、変化が起きた。
277
:
蒼ウサギ
:2009/07/15(水) 01:28:56 HOST:softbank220056148015.bbtec.net
ライ「トロニウムエンジンが僅かだが安定し始めた…大尉のT−LINKに反応しているのか?
これなら、少しだが合体できるかもしれん。いくぞリュウセイ!」
リュウセイ「おう! こっからが本当のヴァリアブルフォーメーションだァァァァッ!!」
さらに高く飛翔した三機は、そこで一瞬の後に変形、合体。
再びあの雄々しき巨人をその前に現した。
リュウセイ「天下無敵のスーパーロボット! ここに見参っっっ!!」
アヤ「リュウっ! 今は時間がないわ! 一気に壁を斬って! T−LINKフルコンタクト!」
リュウセイ「おう!」
急降下するSRX。
その中でライは躊躇っていた。
そんな中、思念を通じて、アヤの言葉が流れてくる。
アヤ(大丈夫……私は耐えられるわ、ライディース)
ライ「大尉……」
不思議な現象だ。よもや念動力者でもない自分にこのような現象が起こりえようとは。
迷いが少し吹っ切れた所でライが吠える。
ライ「Z・O・ソード、射出!」
胸部装甲から現れた剣の柄。
SRXはそれを強く握りしめて一気に引き抜く。
ライ「トロニウムエンジン、フルドライブ!」
リュウセイ「いくぜぇぇぇ! 天上天下っ! 無敵斬りぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
SRXの剣がアルト、ヴァイスリッターの撃ちこんだ個所にさらに斬りこむ。
壁の表面が瞬く間に融解し始めていくが、それよりも早く、SRXに限界がき始めていた。
パーツのあちこちにスパークが迸り、いつ分離してもおかしくない。
リュウセイ「もってくれ! SRX!!」
リュウセイが念じ、吠えた。そんな時だ。
遥か上空より、もう一振りの剣が舞い降りた。
ゼンガ―「チェストォォォォォォォォッッッッッ!!」
それはただのきっかけに過ぎなかった。
だが、そのきっかけがなければ……
ゼンガ―「我らに……断てぬものなし!!」
ギャンドラー要塞の壁は確実に破砕できなかった。
§
ルリ「フェイズ3、成功。……やりましたね」
表情こそいつもと変わらず涼しげだが、声色には安堵感が潜んでいる。
アイ「彼らなら大丈夫……そう、信じてました」
アイも同じだ。最も、彼女の場合、額の汗までは隠し切れていない。
ルリ「油断はできません……ここからが本番です」
アイ「はい。続いて、フェイズ4!」
アイのその声と同時にそれまでブンドル、トレーズの指揮の元に華麗に立ち回っていた統合軍、ネオバディム連合軍
の両者が、またも隊列を変える。
それは、ある射線上から離脱だった。
マリュー「ローエングリーン!!」
由佳「コロナキャノン!!」
マリュー&由佳「発射!」
二艦の主砲により、射線軸上のギャンドラーは呑まれていく。
直後、その二つの艦より、内部潜入用に編成された部隊が顔を出した。
悠騎「よし、今だロム! オレ達と一緒に内部(なか)に行くぜぇ!」
ドモン「遅れるなよっ!」
ブレードゼファー強襲型、そしてゴッドガンダムがそれぞれの艦より飛び出す。
全艦の艦砲射撃。そしてトレーズ、ブンドル率いる大軍勢を一手に引き受ける部隊。
そして、内部に突入する部隊。
もう、後戻りはできない。しては、ここまでしてくれた仲間達に顔向けできない。
ロム「いくぞ、みんな! これは、オレ達、クロノスの逆襲なのだ! いや、大逆襲なのだ!」
278
:
藍三郎
:2009/07/20(月) 17:58:23 HOST:166.233.183.58.megaegg.ne.jp
ギャンドラー要塞の内部に突入した精鋭部隊だったが、
要塞内部は幾つもの道が交差する、極めて入り組んだ構造になっていた。
いや、そんな生易しいものではない。
道は捻じれ、空間は歪み、それらが重なり合って、この世には在り得ぬ四次元の迷宮を作り出していた。
ダミアン「そう簡単に進める構造ではないと思っていたが……」
飛影と合身したジョウに代わって、黒獅子にはダミアンが乗り込んでいた。
彼を含めた皆が、まるで物理法則の全く異なる世界へと紛れ込んだような感覚を覚えていた。
ジェット「ロム、これは……」
ロム「ああ……天空魔城と同じだ!」
ドモン「天空魔城……?」
ドリル「俺たちが、この星に来る前に潰したギャンドラーの拠点の一つだ」
レイナ「拠点というより、罠だったわ。私達を、永遠に迷宮に閉じ込める為の……」
あの時も今と同じような迷宮に閉じ込められ、あわや脱出不可能なまでに追い込まれたことを覚えている。
この要塞内は、かつての天空魔城よりも遥かに歪んだ異空間を形成している。
ジェット「やはり、奴の仕業か……」
ロム「ああ……ここはギャンドラーの本拠地なんだ。
生きているとしたら、当然奴もいるだろう」
天空魔城の支配者。
ガデスの副官にして、ギャンドラー随一の妖術使い。
かつて天空魔城の戦いで倒したはずだが……生存している可能性は否定できない。
あの男もガデスやガルディと同様、容易ならざる敵となるだろう。
ジョウ「ここは俺が先行して、正しいルートを探して来ようか?」
飛影の機動力は、内部探索には打ってつけである。
そんなジョウの提案を、ロムが制止する。
ロム「いや、それではこの迷宮は突破できない。
二度とここへ戻ってこられない危険性もある……」
サイ・サイシー「じゃあ、どうするんだよ?」
ロム「大丈夫だ……剣狼はガデスのハイリビードと呼応している。
その導きに従えば、奴のいる最深部までたどり着けるはずだ」
天空魔城の時も、剣狼に導かれることで脱出できた。
重要なのは信じること。
もし少しでも迷いが生じれば、道を誤りそのまま迷宮に閉じ込められてしまう。
狼の紋章は、依然輝き続けている。
その輝きが強まった道を、迷わず選んでいくロム。
マイク「ど、どうするの……?」
ジョウ「へ、そんなの考えるまでもねぇよ」
エイジ「彼が剣狼の導きを信じるなら、俺達はロムを信じる……当然のことだ!」
ここまで来て、彼らに怖れはない。ロムを信じ、彼の後についていく。
ロム(ありがとう……俺はこの星で、かけがえの無い仲間に得た。
彼らのためにも、俺は必ずガデスを倒してみせる……!)
279
:
藍三郎
:2009/07/20(月) 17:59:32 HOST:166.233.183.58.megaegg.ne.jp
剣狼に導かれ、何度も異次元のトンネルを抜けた末に……彼らは一際大きな広間へと到達する。
幾つもの階層でなりたつその場所には、要塞の外で見たような、無数のギャンドラーが集まっていた。
デビルサターン「おうおう! ついにここまで来おったか、ロム・ストール!!」
最初に突入したロムを、デビルサターン6の聞き慣れた声が出迎える。
彼はこの広間で最も高い階層へと陣取っていた。
ロム「デビルサターン……」
ディオンドラ「おいグルジオス! 話が違うよ!
あんたの張った結界は、絶対に破れないんじゃなかったのかい?」
同じ階層にいるディオンドラは、傍らにいるグルジオスに悪態をつく。
グルジオス「どうやらガデス様のハイリビードが、
ロムの持つ剣狼と呼応したようだな。まぁ、想定の範囲内に過ぎんわ」
ディオンドラ「ふん、負け惜しみにしか聞こえないさね」
ジェット「ディオンドラ……それに、グルジオス!」
悠騎「何なんだあの不気味なのは……」
悠騎を初め、マシンロボチーム以外の面々は、グルジオスを見るのは初めてだった。
頭部の水槽の中に、芋虫状の顔が浮いている。
ジム「あの男がグルジオス……ガデスの副官です」
ダミアン「つまりギャンドラーのナンバー2ってことか。強いのか?」
ジム「はい……しかし、奴にはそれ以上に恐ろしい力が秘められているのです……」
ジェット「それが、天空魔城やさっきの迷宮を作り出した妖術だ」
エイジ「妖術か……何をやってくるか分からない分、確かに恐ろしいな」
ロム「グルジオス! やはり生きていたか!!」
グルジオス「ふふふ……言ったはずだ。
アイ・シャル・リターン……私は必ず戻ってくるとな!」
ロム「お前が指揮を執っているということは、
ガデスはまだハイリビードと一体化していないのだな?」
グルジオス「ふん! 貴様達を葬るのに、ガデス様のお手を煩わす必要はない……それだけのことよ!」
グルジオスの言葉の真偽は定かではない……いずれにせよ、やることは決まっている。
ロム「そうか。ならばお前達を倒し、ガデスへの道を切り拓くッ!!」
ディオンドラは大きく電磁鞭を振るい、足下に叩きつける。
ディオンドラ「あたいらの家に土足で踏み込むとは、
正義の味方の癖に、礼儀を知らない奴らだね!」
悠騎「地球に攻めてきたお前らに言われたくはないぜ!」
ジェット「俺達の故郷、クロノス星もだ。
今まで散々平和な星を荒らしまわってきた報いを、受けさせてやる!」
ディオンドラ「吼えるんじゃないよ!この数に勝てると思っているのかい?
さぁさお前たち! あいつらを八つ裂きにしておやり!!」
「「「「「ガデッサー!!!!」」」」」
数え切れないほどの数の妖兵コマンダーが一斉に叫ぶ。
そして、洪水か雪崩のように、一気にロム達に押し寄せてきた。
280
:
藍三郎
:2009/07/20(月) 18:00:54 HOST:166.233.183.58.megaegg.ne.jp
ジョウ「へっ、最後まで力押しかよ。いい加減飽きてんだよ! ダミアン、合体だ!!」
ダミアン「おう!!」
ダミアンの黒獅子が変形し、ジョウの飛影と合体する。
ジョウ「獣魔、行くぜぇぇぇぇぇっ!!!」
刀を咥えた獣魔は、先陣を切ってギャンドラーの群れへと突撃する。
獣ならではの突進力で、妖兵コマンダーを次々に切り倒し、薙ぎ払って行く。
アルゴ「うおおお!! 炸裂! ガイアクラッシャー!!!」
地面が隆起し、ザリオス達を亀裂へと呑み込む。
ロム達も、負けじと前に出ようとするが……それをドモンが制止する。
ロム「ドモン……」
ドモン「ロム、お前は力を温存しておけ! お前が戦うべき相手は、更に向こう側にいる!」
サイ・サイシー「そういうこと! 雑魚の相手はオイラ達に任せときな!!」
ドモン「超級! 覇王! 電・影・弾!!」
サイ・サイシー「宝華経典・十絶陣!!」
広範囲への攻撃で、ギャンドラーを次々に撃破して行く。
いかに数では不利でも、彼らは一人一人が一騎当千の強さを誇っている。
しかし、次々と斃れて行くギャンドラー達を見下ろすグルジオスの顔からは、全く余裕が消えていない。
グルジオス「ふふふふ……やるではないか。
だが、今からお前たちは真の絶望を味わうことになる……!」
グルジオスは両手を広げると、全方位に向けて紫色のエネルギーを発する。
粘ついた雲のようなエネルギーは、敗れて残骸となった妖兵コマンダーを包み込む。
グルジオス「さぁギャンドラーのしもべ達よ! ハイリビードの力を得て、蘇るがよい!!」
グルジオスがそう叫んだ直後……
完膚なきまで破壊されたはずの妖兵コマンダーたちが、次々と起き上がって行く。
破壊された箇所は急速に修復され、再びロム達へ敵意を向ける。
ロム「蘇生の力だと……!」
エイジ「そうか……これがギャンドラーの、無尽蔵に思える兵力の秘密だったのか……」
グルジオス「いかにも。これこそ我が最高の妖術よ……!
そして、蘇ったのはここにいるしもべだけではない……要塞の外も同じことだ!」
ジェット「何だと……!?」
グルジオス「もはやお前たちに勝機はない。
もがき苦しんで死ぬがよい……ふははははは……ははははははは!!」
ディオンドラ「オーッホッホッホッホッホッホッホッ!!」
デビルサターン「なぁーっはははははははは!!
いい気になってわいらの本拠地までのこのこやって来たが運の尽きや。
よくも今まで散々梃子摺らせてくれたなぁ!
その借りは、今からたっぷり利子つけて返したるでぇ!!」
復活した妖兵コマンダーの殺意が、一斉にG・K隊に向けられる。
グルジオス「行け、ディオンドラ! デビルサターン! 奴らに引導を渡してやれ!」
ディオンドラ「そうだねぇ。あたいもこいつらには怨みが積もっている。
あたいの手で首を刎ねないと、収まらないんだよ!!」
妖剣メデューサを抜き放つディオンドラ。
ガデスに力を授かった彼らの強さは、今までとは比べ物にならない。
281
:
藍三郎
:2009/07/20(月) 18:01:46 HOST:166.233.183.58.megaegg.ne.jp
マイク「そ、そんな……一体どうすれば……」
ジョウ「飲まれるんじゃねぇ! 心が折れたらそれで負けだぜ!!」
ロム「その通りだ……!」
力強く同意するロム。
ロム「復活した奴らからは、命の波動を感じない……
グルジオスの妖術で、ただ操られているだけだ……!」
今目の前にいるギャンドラーは、グルジオスに注入されたエネルギーで操られているだけの命無き傀儡……
ロムは早くもそれを見破っていた。
ジェット「確かに……死者の蘇生なんざ、そう簡単に出来るはずがねぇ」
グローバイン「ならば、その術者を倒せばよいということになるな」
ロム「ああ……さらに、その力の源であるハイリビードを取り込んだガデスを斃す……!
それ以外に俺達の勝利の道はない……!」
悠騎「へっ……要するに……やることは今までと何も変わらないってことだろ」
レニー「ここを突破してロムさん達をガデスのいるところまで送り届ける……」
ゼド「いかに駒の数が多かろうと、敵のキングを討ち取れば私達の勝ち……
考えようによっては、これは私たちに有利な展開ですよ」
ムスカ「そういう解釈もありか……まぁ、気休めにはなるな」
ドモン「どれだけの敵がいようと、俺たちは退くつもりはない……!」
この場にいる者たちは皆、ロムのために戦おうとする不退転の決意を固めていた。
ロム「大いなる川の流れを力で止めようとする者は、
やがてその愚かなることに気付くだろう。
正義の流れは、もはや止められぬ……
人、それを……『怒濤』という!」
ディオンドラ「はっ! お前のうざったい口上もこれで聴き納めさね!」
デビルサターン「どうせこれが最期の戦いや。一応聞いといたるで、何者や!!」
ロム「貴様たちに名乗る名前は無いッ!!」
282
:
蒼ウサギ
:2009/07/31(金) 00:29:16 HOST:softbank220056148062.bbtec.net
デビルサターン「大見栄切った割に結局名乗らんのかいなぁ! けど、名前は知っとんのじゃぁぁぁぁ!!」
「「ロム・ストォォォォォオオオル!!!!」」
怒号ともとれるデビルサターン6の雄叫びと同時に、妖兵コマンダーが雪崩のようにロム達に襲いかかる。
それに応じて、真っ先に飛び出したのは烈火の機体・ブレードゼファー強襲型だった。
悠騎「おりゃぁぁぁぁぁああああああ!!!」
SSソードを一振り。紅い刃が前列の妖兵コマンダーを斬り払い、ついで降り注ぐ紅き矢が中列のコマンダーを次々に撃
ち抜いた。
ムスカ「まだ終わっちゃいないぜ!」
続くハイドランジアキャットのお家芸ともいえるミサイル攻撃。
その場にいる全ての敵に放たれているのではないかと思われるほどの、そのミサイル数は瞬く間に戦場を煙で覆った。
デビルサターン「ゲホゲホっ! ど、どこや! どこにいる!?」
煙で敵も味方も見失ったデビルサターンは完全に混乱していた。
そこに、鈴の鳴る音が響く。
キラル「見えぬことが怖いか?」
デビルサターン「誰や!?」
キラル「私もそうだった……視力を失ったばかりのころはな。だが、今は違う!
ドモン・カッシュや、この世界の人々と出会い、視力では見えない光を見えることを知った! だから!」
恐怖はない!!
その言葉とともにマンダラガンダムが仕込み刀でデビルサターンを斬りつける。
長らく封印された暗殺剣術がここで再び目覚めた瞬間だった。
キラル「南無阿弥陀仏」
鋭く走る太刀筋から放たれた音と共に、デビルサターンのうめき声が煙の中に響き渡ったまさにその時、
ディオンドラの怒声がどこからかキラルの耳に届いてきた。
ディオンドラ「えぇい! ここまでいいようにやられるなんて情けないねぇ!」
煙の中を走る音。
だが、それはキラルの優れた聴覚では、自分に向かっているのではないということがわかった。
ディオンドラ「こんな小賢しい手にいつまでも手こずっているようじゃ宇宙犯罪組織ギャンドラーの名がすたるさねっ!」
そんな気迫のこもった剣の一振りが今、ディオンドラの手によって薙ぎられた。
戦場を包みこんでいた煙は一気にかき消え、同時に嵐ともとれる強烈な衝撃を一同は機体を通して肌で感じた。
悠騎「やろぉ……」
ゼド「なるほど。敵は敵なりに必死というところでしょうか?」
ムスカ「悪には悪なりのプライドがある……ってか!」
ならば応じようではないか。
存分に。それこそこの星の生存権を賭けて!
283
:
蒼ウサギ
:2009/07/31(金) 00:36:05 HOST:softbank220056148062.bbtec.net
§
ガルディは、今まさに激闘が行われている戦場となっている広間すぐ上の間に鎮座していた。
下より響く戦いの気配が感じられる。
そして、見え隠れするロム・ストールの闘志も。
ガルディ「……また強くなったか」
そして、どうやらロムの仲間達は意識的にロムを温存させているように思える。
ガルディの口の端が上がった。
ガルディ「よかろう……ならば応えればなるまい!」
ガルディはその重い腰を上げた。
§
エイジ「この地球はオレのもう一つの故郷だ。お前達のような奴らに蹂躙されるわけにはいかない!
ル=カインに託された地球の未来……仲間達と共に切り拓いてみせる! レイ! V−MAXIMUM、発動!!」
レイ『レディ』
機械的な音声と共に、レイズナーMkⅡが蒼い流星と化して妖兵コマンダーの敵陣へと飛び込む。
グルジオス「フフフフ、計画通りだ。ここにいる者どもは我らの圧倒的戦力の前に己のエネルギーの消耗も考えていない。
そのまま雑魚を相手に疲弊し続けろ。そして朽ち果てるがいい」
遥か後衛に位置し、ひたすら倒されては復活させるだけの妖術を繰り返すだけのグルジオスは戦況の明白な優位に笑っていた。
グルジオス「あがけばあがくほど苦しい思いをするだけだ。戦力を分散した時点で貴様たちに勝ち目はない。
そして、この要塞に攻めてきたことがそもそもの間違いなのだ」
だが、誰もグルジオスの言葉に耳を傾けようとはしない。
ひたすら戦闘に集中し、妖兵コマンダーであろうと、幹部であとうと容赦なく大技を繰り出していた。
まるで後先を考えていないかのように。
グルジオス「な、何を考えている? 勝てないとわかって揃って自棄になったか?」
さすがにうろたえ始めるグルジオスに、悠騎はあきれ果てたように言い放つ。
悠騎「なわけねぇだろ。言ったはずだぜ? てめぇらを全部倒す。そうしたらこいつらも消える。
単純な話じゃないか。安心してロム達をガデスって奴と決着つけさせられるってもんだ!」
コクピット内で沈んだ悠騎の顔。
その胸の内に、エッジの顔が過ぎった。
悠騎「それに、オレは…オレ達はてめぇら以外にもまだ戦わなきゃいけない奴らがいるんだよ!
全ての戦いを終わらせるためにも……てめぇらには負けらんねぇぇぇぇえええええ!!!」
雄叫びを上げながらブレードゼファー強襲型は剣を振るう。
スター・オブ・クラージュ。
放たれた流れ星のような剣閃は、搭乗者の“勇気を具現化した星”だった。
284
:
藍三郎
:2009/08/01(土) 21:47:20 HOST:166.233.183.58.megaegg.ne.jp
グルジオス「ぐ……!」
圧倒的兵力差を物ともしないかのような、G・K隊の気魄に気圧されるグルジオス。
だが、戦場を注視するあまり、彼は一時自らの身を守ることを失念してしまった。
ロム「グルジオォォォォォス!!」
グルジオス「! ケンリュウ!!」
ギャンドラーの大群から一人抜け出たケンリュウが、グルジオスの下へと飛翔する。
G・K隊が派手な戦闘を行うことによって、意図する、しないに関わらず、
グルジオスの注意をロムから逸らす効果を生んでいたのだ。
グルジオスさえ斃せば、妖兵コマンダーの蘇生は阻止され、この劣勢を一気に覆せる。
剣狼を両手で持ち、大きく振りかぶって敵の脳天に振り下ろす……!
だが……寸前で、ロムの身体に強い衝撃が走る。
漆黒の影がケンリュウとグルジオスの間に割って入り、ケンリュウを吹き飛ばす。
ロム「ぐはっ!!?」
上層まで達したケンリュウも、すぐに最下層まで突き落とされる。
グルジオス「お、おお! ガルディ、よくやったぞ!」
自身の窮地を救った男の姿を見て、グルジオスは快哉を叫ぶ。
ギャンドラー最強の戦士、ガルディは流星を手に、ケンリュウの前に立ちはだかっていた。
その漆黒のボディからは、ロム・ストールへの激しい敵意が漲っている。
ジェット「ついに……出てきやがったか!」
レイナ「あの人が、私達の兄さん……なの?」
ガルディの登場に、マシンロボチームは動揺を隠し切れない。
ガルディ「ロム・ストール……
ガデス様のため、ギャンドラーのため……貴様の命、貰い受ける!」
ロムを見据えるガルディの瞳からは、氷のように凍てついた殺気しか感じられない。
弟への情など、最初から存在しなかったようだ。
それでも、ロムは諦めない。
ロム「兄さん……ガルディ兄さん!」
ロムの叫びを聞いたガルディは、不快そうに顔を歪める。
ガルディ「このワシを兄などと……まだ世迷言を抜かすか!」
ガルディの拒絶にも、ロムは怯まず叫ぶ。
ロム「兄さん! 一体どうしてしまったんだ!
貴方は天空宙心拳継承者、キライ・ストールの子!
俺の兄、ガルディ・ストールのはずだ!! 目を覚ましてくれ!!」
ガルディ「くどいわッ!!」
ガルディが流星を振るうと、漆黒の衝撃波が生まれ、ケンリュウを吹き飛ばす。
ロム「ぐっ……!!」
ガルディ「ワシに弟などおらぬ!
親も無く! 兄弟も無く! ワシはずっと天涯孤独のまま宇宙を彷徨っていた!
それを拾ってくださったのがガデス様だ!!
今ワシが今生きていられるのは全て、ガデス様の御陰なのだ!!
ゆえにワシはギャンドラーとしてあの御方のために戦うと決めた!!
それがこのワシの全てだッ! 貴様に、このワシの記憶と信念を否定させはせん!!」
ガルディの一喝に、マシンロボチームは言葉を失う。
ガルディの言葉には彼なりの強い信念が込められており、到底嘘偽りとは思えなかったからだ。
あの男は、本当にロムの兄、ガルディなのか?
実の兄が、あそこまで徹底的に弟を拒絶できるものなのか?
やはりガルディ・ストールは、既に死んでいるのではないか……
彼らの内に、暗い絶望の闇が広がっていく……
285
:
藍三郎
:2009/08/01(土) 21:50:57 HOST:166.233.183.58.megaegg.ne.jp
ガルディ「どうだ! これでもまだワシが貴様の兄などと言う、ふざけた口を閉ざす気になったか!!」
流星をケンリュウに突きつけ、さらなる殺意の波を放つガルディ。
だが、ロムは全く怯まなかった。その瞳には、希望の輝きさえ宿っている。
ロム「……いや、今ので俺は確信した……貴方は間違いなく俺の兄、ガルディ・ストールだ!」
ガルディ「何だと……!?」
自信に満ちたロムの姿に、ガルディは言葉を詰まらせる。
ロム「初めて貴方と戦った時から、俺はどこかおかしいと思っていた。
他のギャンドラーとは違い、貴方は確固たる信念を抱いて戦いに臨んでいた」
ガルディと剣を交え、拳を交える内に、ロムは彼の戦いに懸ける強い想いを感じ取っていた。
ロム「それは、自分本位の欲望では決して生み出せない強い力!
力とは、己のためではなく、他人のために振るうもの!!
貴方の内には、確かに天空宙心拳の魂が息づいているッ!!」
ガルディ「むぅ……」
ロム「自分のためではない、誰かのために戦える強い信念!
それこそ貴方がキライ・ストールの息子である何よりの証だ!!」
何故彼がガデスを恩人と思い、忠誠を誓うようになったのかは分からない。
だが、この男の魂は、ロムの知るガルディ・ストールと全く同一のもの。
ならば、希望を捨てるにはまだまだ早過ぎる。
信じる縁(よすが)がある限り……
ロム「俺は諦めない! 必ず貴方の記憶を蘇らせてみせる!!」
決して折れようとしないロムの姿に、ガルディの苛立ちは頂点に達する。
その正体が何なのか、自分でも分からないままに……
ガルディ「黙るがよい!! 断じてワシは貴様の兄などではないッ!!
ワシはギャンドラーの戦士ガルディ!
我が全てを懸けて、ガデス様のために、貴様を必ずや葬ってくれる!!」
ロム「ならば、俺も全身全霊を尽くして貴方と戦う。
天空宙心拳の技を、魂を! 俺が今まで学んできた全てを!!
貴方に……貴方の心にぶつける!!」
どんな経緯(いきさつ)があったにせよ、今目の前にいるガルディは、ガデスへの恩義と忠誠を支えにして戦っている。
クロノスやギャンドラーに関係なく、完成された一人の戦士だ。
そんな男が一番強いことを、ロムは他ならぬ兄、ガルディに教えられている。
その強固なる信念は、どれだけ言葉を連ねたところで覆らないだろう。
だがガルディの技や魂には、確かに天空宙心拳の教えが宿っている。
ならば、こちらも今まで磨いてきた奥義をぶつけ、ガルディの内に眠るもう一つの意志を目覚めさせる。
もはや迷いはない。ロムは最後まで諦めずに戦う。
ガルディの奥底に、ロムの兄としての意志が残っていると信じて……
ガルディ「いいだろう! 見せてみろ! 貴様の全力をッ!!」
覚悟を決めたロムは、剣狼を天に向けてかざす。
狼の紋章が極限まで輝き、ロムに最強の力を与える。
ロム「天よ地よ……火よ水よ……我に力を与えたまえぇぇぇぇッ!!
パァァァァイルフォ――――――ゥメイション!!!」
<ロムの意志を受け、剣狼が空中で光となり、
時を越え次元を越え、バイカンフーへとメタモルフォーゼするのだ。
バイカンフーは地上全てのエネルギーとシンクロし、
自然現象さえも変えるパワーを出すことが可能となるのである!>
赤きボディにケンリュウが収まり、バイカンフーへと合体を完了する。
ロム「バァァイ、カンフゥゥゥゥッ!!!」
ガルディの前に降臨する、赤き闘神バイカンフー。
その胸には、天空宙心拳の象徴である狼の紋章が刻まれている。
灼熱のごとき闘志に漲ったその姿を目にしたガルディは、更に戦意を昂ぶらせる。
ガルディ「ロム・ストール!! ここで決着をつけるぞぉぉぉぉぉッ!!」
ロム「ギャンドラーの戦士ガルディ! これが貴様との最後の戦いだ!!
そして蘇れ! 我が兄、ガルディ・ストールよ!!」
286
:
藍三郎
:2009/08/01(土) 21:53:51 HOST:166.233.183.58.megaegg.ne.jp
剣を構え、全く同時に飛び出す両者。
剣狼と流星がぶつかり合い。赤と黒の衝撃波を生み出す。
そこから間髪入れずに繰り出される、拳と蹴りの連打。
互いの拳の速さは、とうに音速を超えている。
拳と拳、剣と剣が激突すると同時に、凄まじい闘気が放出され、爆炎となって二人を包み込む。
次元の違う戦いを前に、マシンロボチームは瞬時に悟る……
これは、自分たちに手出しのできる領域ではない。
ドリル「くっ……やっぱりこうなっちまうのかよ!!」
ジム「ようやく巡り合った兄弟が、戦わなければならないなんて……」
本当に二人が実の兄弟だとすれば、これほど残酷な戦いは無い。
ロムに降りかかる過酷な運命に、彼らは胸を痛める。
ジェット「それは違うぜ、ドリル……
ロムは、戦いを通じて、ガルディさんの記憶を呼び戻そうとしているんだ」
ドリル「そんなこと……できるのか?」
グローバイン「できるはずだ。ワシもかつてジェットと
命懸けの戦いをすることで、己の過ちに気づくことが出来た。ならば、あの男も……」
ジェット「どこまで行っても俺たちは武闘家……最後は拳で語り合うしかないってことさ」
ジム「ロム様は、最初からそのつもりだったのですね……」
ロム自身も既に覚悟していたのだろう。
ならば、自分達にできることは一つだけだ。
レイナ「私はもう一人の兄さんの記憶はない……
だけど、私はロム兄さんを信じている……!
だから私も信じるわ! あの人が私達の兄さんで、ロム兄さんが、必ず連れ戻してくれることを!!」
ドリル「そうだな! そのためにも、こんなところで死ぬわけには行かないぜ!!」
押し寄せるギャンドラーの大群を蹴散らしていくマシンロボチーム。
だが……
ジム「! お嬢様、危ない!!」
レイナ「!!」
しなる電磁ムチがレイナを襲う。
ジム「ぐあああああああああっ!!!」
咄嗟にレイナを突き飛ばしたジムは、背中に直撃を受けて感電しまう。
レイナ「ジム!!」
ジェットは、襲撃者へと目を走らせる。
ジェット「貴様! ディオンドラ!!」
多数のギャンドラーを従えたディオンドラが、マシンロボチームの前に現れる。
ディオンドラ「おほほほほほほ!
ロム・ストールには怨みがあるが、奴の首はガルディにくれてやる。
だが、それじゃああたいの腹の虫が収まらない。
ロムの代わりに、あいつが大切にしているお前たちを血祭りにあげてやるよっ!!」
ガデスに与えられた力に加え、積み重なった憎悪と殺意はディオンドラと妖剣メデューサにかつてない力を与えていた。
ディオンドラ「ロムには二つの道しかない。ガルディに殺されるか、
生き残ってお前らの無惨な亡骸を見て嘆き悲しむかのどちらかさね!!
勿論その後には、あたい自らロムに引導を渡してやるよ!」
ジェット「そうはさせるか! 俺たちこそ、ロムの負担を減らす為にも、ここでお前を斃してみせる!!」
ディオンドラ「ロムがいないと何も出来ない雑魚どもが、ほざくんじゃないよっ!!」
ドリル「俺たちは雑魚なんかじゃねぇっ!!」
レイナ「兄さんが言っていたわ……本当に強さとは、心の強さ。
弱いのは、邪悪に魂を売った貴方達ギャンドラーよ!!」
レイナの口上に、ディオンドラは激しい苛立ちを覚えた。
ディオンドラ「ハッ! 口だけなら何とでも言えるさね!
命乞いをするまで痛めつけて、そこから嬲り殺しにしてやるよぉっ!!」
グルジオス「ふっふっふ……さっきは肝を冷やしたが、
どうやらこちらの狙い通り、この場所に釘付けになっているようだな……」
先ほどの轍は踏むまいと、グルジオスは幻術を用いて自らの姿を覆い隠していた。
グルジオス「お前たちはもはや鳥籠に入れられた哀れな小鳥に過ぎん。
私の最後の妖術が完成すれば、お前達は全員異次元の迷宮に閉じ込められる……」
この圧倒的な軍勢もまた、異次元の穴を開ける術式を完成させるまでの時間稼ぎでしかない。
唯一の不確定要素はロム・ストールだが……
ガルディがロム・ストールを抹殺すれば、それも取り除かれる。
それに、ガデスがハイリビードを取り込んで完全復活を果たせば、どの道奴らに勝ち目はない。
どう転ぼうとも、こちらの勝利は確定しているのだ。
グルジオス「くくくくく……何とも楽な戦いよな……!
勝利の決まった戦いを優雅に観賞することこそ、支配者の娯楽と言うものよ……!
はははははははは……」
287
:
蒼ウサギ
:2009/08/18(火) 01:00:58 HOST:softbank220056148019.bbtec.net
ロム「みんな!?」
ロムがレイナやジェット達がディオンドラに痛めつけられている様子に気づいた僅かその一瞬に気を取られた隙に、
ガルディは拳を繰り出していた。
ガルディ「戦いの最中、どこを見ている!」
ロム「ぐっ!」
反射的に体の上体を逸らすことで、なんとかダメージこそ抑えたものの、それでもバイカンフーの体は大きく飛ばされてしまった。
ガルディ「仲間が気になってワシとの戦いに集中できんか? 失望させるな、ロム・ストール」
ロム「……」
ガルディの言葉に、あえてロムは無言の抗議で返す。
今は、口より拳で語り合う時。
自分がここまでこれたのは、仲間達のお陰であり、どんな戦いであろうと安否は気になるもの。
例え、それが相手に弱さと罵られようと、自分は知っている。
時にそれが、なにより強い力をもたらしてくれるものだと!
ロム(ジェット、ドリル、ジム、グローバイン……レイナ、無事でいてくれ。そして、みんな。共に勝利を!)
バイカンフーの剣狼を握る手に力がこもる。
ロム「いくぞ、ガルディ!」
ガルディ「そうだ! その気迫でこい! ロム・ストール!!」
バイカンフーとガルディが同時に跳躍後、互いの剣が同時に斬り結ぶ。
再び他者が割って入れないような剣撃の応酬が始まった。
だが、そんな中で蠢く影があった。
デビルサターン「グフフフ……ロム・ストール。積年の恨み。晴らさせてもらうでぇ」
この戦場にいる多数の妖兵コマンダーに紛れて二人に気づかれず、虎視眈眈とデビルサターンは近づいていた。
言葉通り、因縁の相手であるロム・ストールを己の手で倒したいがために。
デビルサターン「ガルディなんかにトドメを譲らへんで……あいつは、ワイが倒すんや!」
そして隙あらばガルディも、という考えが過ぎる。
真意はどうあれ、ロムとの血縁関係が疑われるならば、いずれギャンドラーに刃を向けるかもしれない。
それに、幹部の中でも実力の高いアイツを倒せば、自分のコマンダーランキングは自ずと繰り上がるというもの。
デビルサターン「戦場に事故はつきもん・・・てなぁ。ガルディはん」
そんな野心を抱きつつ、デビルサターンは、バイカンフーがガルディの攻撃によって態勢を崩したところを見計い、その姿を現した。
デビルサターン「いくでぇ! ロム・ストォォォォル!!」
ガルディ「ぬっ!? デビルサターン!?」
ロム「しまった!」
普段の二人ならば忍び寄るデビルサターンの殺気に気づいただろう。
だが、それにすら気づかぬほど、ガルディとロムは互いの戦いに神経を注いでいたのだ。
そして、ロムは、いつもなら対処できたはずのデビルサターンのチェーンナックルをまともに受けてしまった。
ロム「ぐっっ!!」
デビルサターン「まだ終わりやないで!」
続いて放たれた口からの火炎放射。ロムは、態勢を崩した状態から剣狼でそれを受け止める。
デビルサターン「ちぃ、往生際が悪いで! さっさと諦めて死ねや!」
ロム「デビルサターン……力と力のぶつかり合う狭間に、己が醜い欲望を満たさんとする者。その行いを恥じと知れっ!
人、それを…『外道』という!」
デビルサターン「はっ、この状況でお得意の口上かいな? ええ加減にしろや!」
目からビームを放ち、さらにバイカンフーを追い詰める。
この瞬間、デビルサターンはかつてない優越感に浸っていた。
自分がここまでロムを、バイカンフーを追い詰めているのだ。
デビルサターン「いける! 今度こそはいけるでぇ! 積もりに積もったワイの恨み……今日でスッキリ晴らさせて貰うでぇぇぇ!」
ガルディ「フン、漁夫の利で晴れる恨みなど、浅いものよ」
デビルサターン「じゃかあしい! 勝てばいいんや! 勝てば!」
ガルディ(ぬぅ…いつもとは違う。このデビルサターンの目。これは…恨みつらみにとりつかれた目だ)
288
:
蒼ウサギ
:2009/08/18(火) 01:01:28 HOST:softbank220056148019.bbtec.net
その目に、ガルディは珍しく気圧された。
だが、ロムの闘志はデビルサターンのそんな狂気に気圧されたりはしなかった。
ロム「デビルサターン……お前が望むなら、お前との決着。今、ここでつける! とあぁ!」
ダメージを負いながらも、バイカンフーは剣狼をもってデビルサターンに斬りかかった。
それに目がけてデビルサターンもチェーンナックルで迎え撃つ。
剣と拳がぶつかり合い、僅かに剣が押された。
ロム「っ!」
デビルサターン「ワイのパワーを舐めたらアカンでぇ!」
伸ばした手を引き戻し、デビルサターンがバイカンフーに肉迫。
その言葉を示すかのように、バイカンフーの両の腕を爪でガッチリと掴んで持ち上げた。
じりじりと、まるで分厚い紙を引き裂くかのようにデビルサターンは徐々に力をこめていった。
デビルサターン「このまま真っ二つにしたるでぇ!」
ロム「ぐぅ!」
デビルサターンの表現は少々誇大だが、このままではバイカンフーの腕は引きちぎられてしまう。
ガルディとの戦いでダメージや疲弊もあるにしろ、ことパワーに関しては、今のデビルサターンは今までよりも遥かに強い。
そう、ロムは直感した。
ロム「だが、オレは今、お前に倒されるわけにはいかない! うぉぉぉぉぉ!!」
精一杯の力でロムはデビルサターンに蹴りを見舞った。
優位に立ち、これで勝てると確信していたデビルサターンは冷静さを失っていたのだろう。
その蹴りを完全に見逃し、派手に吹き飛ばされて爪の拘束を解いてしまった。
そして、その瞬間、バイカンフーが動いた。
ロム「一撃で決める! ゴッドハンド……スマァァァァァシュ!!」
デビルサターンが立ちあがったその瞬間、バイカンフーの必殺技が見事直撃した。
ロム「……成、敗!」
デビルサターン「お、おのれ……ロム・ストール」
289
:
藍三郎
:2009/08/26(水) 17:48:51 HOST:196.170.183.58.megaegg.ne.jp
ゴッドハンドスマッシュを腹部に喰らい、デビルサターンはその場にうずくまる。
それでも残る力を振り絞って、何とか立ち上がる。
デビルサターン「うぐぐ……やるのう……
いつものわいやったら、もうこの時点でリタイヤや……
けどな、今日のデビルサターン様は一味も百味も違うでぇ!!」
腕を振り回し、なおもロムに食って掛かるデビルサターン。
チェーンナックルによる攻撃をあしらうバイカンフー。
だが、深刻なダメージを受けてもまるで衰えぬどころか、更に燃え盛る気魄に、ロムも圧倒される。
ロム「何故だ……何故こうまでして戦う!」
デビルサターン「ふん! 戦う理由やと?
そんなもん一つしかあらへんがな!!
それはな、オドレが正義の味方で、わいが悪役やからや!!」
ロム「何だと……?」
デビルサターンの言葉の意味が分からず、面食らうロム。
そんな彼の反応などお構いなしに、デビルサターンは吼える。
デビルサターン「わいはギャンドラーの
妖兵コマンダーランキングNo.1、デビルサターン6や!
その称号は、わいの悪党としての意地とプライドそのものなんや!
悪として生まれたからには、最後まで暴れまくって、大輪の華を咲かせたる!!
だから、わいはオドレと戦わなあかんのや!!」
レーザーを発射するが、重傷を負った今のデビルサターンでは半分の威力も出せない。
あっさりとバイカンフーに弾かれ、反撃の拳を喰らってしまう。
デビルサターン「ぐはぁぁぁぁ!!
強い……やっぱりオドレは強いのう……ロム・ストール……
せやけど、それでもわいは膝を突くわけにはいかへんのや……」
とっくに斃れてもおかしくないほどのダメージを受けながらも、
デビルサターンはしっかりと大地を踏みしめ、立ち上がる。
デビルサターン「そらぁな、オドレのご立派な正義に比べれば、わいの意地なんざ薄っぺらいもんかもしれん……
けどな、それが“悪党”の生き様なんや!
正義なんざ糞喰らえや!! やりたい放題にやってこそ“悪”なんや!!
わいがホンマモンの“悪”であるためにも、
オドレには絶対に負けられへんのやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
デビルサターンの炎のような闘気を、ロムはひしひしと感じていた。
ロム「デビルサターン……欲望に飲まれ他者を傷つける
貴様のあり方は、俺には絶対に認められない……
だが、貴様の気魄は確かに受け取った……ならば、俺も全力で貴様を打ち倒すまで!」
ギャンドラーとの戦いが始まって、最も長く戦ってきたのがこのデビルサターンだ。
長き因縁の積み重なった彼との決着もまた、やはり重要な一戦なのだ。
デビルサターン「ふん、そんな好敵手みたいな言い方、虫酸が走るわ!!
いつもみたいにわいを見下してケチョンケチョンにせんかい!
そないな生意気なオドレをぶち殺してこそ、わいの溜飲も下がるってもんや!」
負けじと吼えるデビルサターンだが、やはり受けたダメージはあまりにも大きすぎる……
今はやせ我慢で何とか立っているに過ぎない。
デビルサターン(くっ……ここまでか……悔しいのう……
やっぱ、勝てんもんは勝てんのんか……)
290
:
藍三郎
:2009/08/26(水) 17:51:15 HOST:196.170.183.58.megaegg.ne.jp
心が屈しそうになるその時……デビルサターンの脳裏に、声が響いた。
……デ……サ……ガデ……サ……
デビルサターン(な、何や、この声は……!)
その声は次第に大きくなり、デビルサターンの脳内のみならず、周囲一帯から聞こえてくることが分かる。
この、懐かしくも力強い声は……
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
それは、数百体にも昇る妖兵コマンダー達の大合唱だった。
生きている者も、死して魂となった者も、揃って大音声を上げ、デビルサターンに声援を送っているのだ。
デビルサターン「オ、オドレら……」
デビルサターンの胸の内に熱いものが込み上げる。
彼らもまた自分と同じ……強すぎる正義に、殴られ、蹴られ、倒され、叩き潰されてきた者達。
決して勝てないと分かっていながら、悪党のサガゆえに戦わなければならない者達だ。
言葉にせずとも、デビルサターンには彼らの想いがはっきりと伝わった。
彼らも自分も、想いは一つ……目の前の最強の男を、打ち倒すことのみ!
デビルサターン「おまはんら、わいに力を貸してんかー!!」
両手を天空に掲げるデビルサターン。
妖兵コマンダー達は、一斉にデビルサターンの意志に答える。
周囲にいる妖兵コマンダーが、全員火の玉と化して、次々にデビルサターンに集まっていく!
それは、機体と魂の超融合。
無数の妖兵コマンダーの魂と合体することで、
デビルサターンの体は留まるところを知らず大きくなっていく!
ロム「こ、これは!!」
やがて、その体はバイカンフーを遙かに超える十倍以上のサイズとなる……!
ロムの周囲は、巨人の影によって暗黒の世界へと変じた。
デビルサターン「見たかロム・ストール!
これが六百六十六鬼合体……!!
デビルサターン666(トリプルシックス)やぁぁぁぁぁっ!!!」
さすがのロムも言葉も出ない。
その禍々しい造型は、まさしく“悪”の象徴。
理不尽なる暴力をふりかざす、妖兵コマンダーの精神を具現化したような機体だった。
デビルサターン「これが悪党の底力や!!
悪党は何度やられても! 何度だってしぶとく! しつこく蘇るんや!!
そしてよう覚えとけ!! この世に悪が栄えなかった試しは無いんやでぇ!!」
それは一つの奇跡。
幾度と無くクロノス族に蹂躙されてきた彼らの意地と怨念が、今こそ結実したのだ。
ロムを圧しているのは単なる妖兵コマンダーの集合体ではない。
何が何でも正義に勝ちたいという、未来永劫消えることの無い、“悪”の執念そのものなのだ。
デビルサターン「死にさらせ!!
デビルサタァァァァァン・アルティメット・クラァァァァァァッシュ!!」
両の腕を組み合わせ、バイカンフー目掛けて振り下ろす。
それはあたかも天空より舞い降りる神の鉄鎚……否、魔王の鉄鎚だった。
ロム「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ロムも全身全霊でそれに抗うが……デビルサターン666の力はあまりにも強大だった。
巨大なる鉄鎚は、バイカンフーを、そしてその仲間たちを纏めて叩き潰す……
蝿を蝿叩きで潰すように、あまりにも呆気ない幕切れだった……
今この瞬間、デビルサターンは完全勝利を果たしたのだ!
291
:
藍三郎
:2009/08/26(水) 17:56:16 HOST:196.170.183.58.megaegg.ne.jp
デビルサターン「……ふ……ふははははははは!!
ふはははははははははははは!! やった!! やったで!!
ついに! ついに! このわいが! デビルサターン6が!!
あのロム・ストールを斃したでぇ!!
うわははははははははははははははははははははははっ!!!!」
底無しの歓喜がデビルサターンを包み込む。
長きにわたる苦渋の日々が、脳裏をよぎる……だが、それも今となっては良い思い出だ。
むしろ、あの敗戦があったからこそ、自分は今勝利をつかむ事が出来たのだ。
デビルサターン「これからはワイの時代の幕開けやぁ!
来週からは新番組『マシンロボ ぶっちぎりデビルサターンズ』を始めるでぇ!!
おっと、あかん、この話のタイトルも変更せなあかんな」
第43話「クロノスの大逆襲」
↓
第43話「デビルサターンの大勝利」
デビルサターン「うわははははははははははは!!!!」
ギャンドラーの同胞が集まり、デビルサターンの勝利を祝福する。
ディオンドラ「やるじゃないのさ、デビルサターン」
ガルディ「ふっ、お前には負けたぜ……」
アシュラ「やはり妖兵コマンダーランキングNo.1はお前しかいないな」
バグ「デビルサターン、お前こそ悪の理想像だぜ」
グルジオス「私の想像を超える力、見せてもらった」
ガデス「見事だデビルサターン……
お前の妖兵コマンダーランキングNo.1を永遠に不動のものとし、
ワシに次ぐギャンドラー大将軍の称号を与える!!」
デビルサターン「わいが……わいが大将軍!!」
大将軍……何と良い響きだ。
悪党に生まれたからには、いつか名乗ってみたいと思っていた称号だ。
どうせなら上に暗黒をつけたいが、それは欲張りが過ぎるというものだろう。
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
ガデッサー! ガデッサー! ガデッサー!!
妖兵コマンダー達が、デビルサターンの大勝利を湛えている。
彼らの協力無くしては、ロム・ストールに勝つことはできなかった。
デビルサターンは彼らに最大の感謝を寄せつつ、絶頂に酔い痴れるのだった。
デビルサターン「わいを応援してくれたみんな、おおきに!!
このデビルサターンがおる限り、ギャンドラーに敵はおらへん!!
宇宙のどこまでも荒らし回ったるでぇ! 目指すは銀河制覇や!!
この銀河を、ギャンドラーの色で塗り潰したる!!
わいの栄光のロードは、まだまだ始まったばかりやでぇ!!!」
エンディングテーマ『黒いハートのインベーダー』と共に、スタッフロールが流れる……
CAST
デビルサターン6 小野健一
ガデス 大友龍三郎
グルジオス 稲葉実
ガルディ 秋元羊介
ディオンドラ 高橋ひろ子
アシュラ 大友龍三郎
バグ・ニューマン 塩屋翼
妖兵コマンダーの皆さん
ロム・ストール 井上和彦
(以下略)
THE END
292
:
藍三郎
:2009/08/26(水) 17:58:13 HOST:196.170.183.58.megaegg.ne.jp
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ロム「成敗!!」
デビルサターン(あ、あれ……?)
ロムの力強い声と共に、デビルサターンは我に返った。
デビルサターン(…………何や、夢オチかいな)
先ほどまでの話が全て刹那の夢だと分かり、気落ちするデビルサターン。
奇跡は起こらなかった。ゴッドハンドスマッシュの直撃を受け、腹には大きな風穴が開いている。
これではもうどうしようもない。
この最後の戦いも、自分はロム・ストールに負けたのだ。
デビルサターン(これで、本当でわいの出番もおしまいかいな。
ま、こーゆー呆気ないやられ方も、わいらしいっちゃらしいか……
でもやっぱ、もっとぶっちぎりたかったでぇ……)
両手を天に掲げるデビルサターン。
もちろん、妖兵コマンダーの魂などは集まってこない。彼には最初からそんな能力など無いのだ。
デビルサターンの戦いは、もう終わってしまった。
やはり、悪では正義に勝つことはできなかったのだ。
これが現実……この世に悪が栄えた試しはないのだ。
だとすれば、彼の取るべき行動はただ一つしかない。
それは、どこまでも“悪党らしく散ること”……
デビルサターン「う、嘘やろ!?
わいはスッポンのデビルサターンと呼ばれた男やで!? それが、こんなところで……」
ロム「デビルサターン! 貴様の悪行三昧に、ついに裁きが下る時が来たと知れ!!」
悪を決して許さぬ気魄を込めて、デビルサターンを一指するバイカンフー。
デビルサターン「はは……はははははは!!
ロム・ストール! わいを倒したぐらいでいい気になるんやないで!
わいを倒しても、まだガデス様がおる!!
ガデス様に比べたら、オドレなんぞムシケラみたいなもんや!
精々、地獄を味わうがええで!!」
ロム「ガデスがどれだけの力を手にしようと! 俺は絶対に負けない!!
それが、天空宙心拳継承者としての誓いだ!!」
デビルサターンの捨て台詞にも、ロムは力強く答える。
それを聞いたデビルサターンは、心中で笑みを浮かべる。
デビルサターン(ふ……ロム・ストール……オドレはそれでええんや。
その綺麗事ばかり並べ立てたムカつく言い草……
オドレがそういう“正義の味方”やから、ワイはオドレに勝ちたい思うたんやからな……)
思い残すことは何も無い。
大爆発の一秒前に、両手を天高く上げて叫ぶ。
デビルサターン「我がギャンドラー軍は! 永遠に不滅でっせぇぇぇぇぇぇ!!!」
293
:
藍三郎
:2009/08/26(水) 17:59:18 HOST:196.170.183.58.megaegg.ne.jp
ドリル「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」
ジェット「うわあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ディオンドラの電磁ムチを受け、吹っ飛ばされるドリルとジェット。
ディオンドラ「ホホホホ……ガデス様の力を与えられたこのあたいに、
今更お前らみたいな雑魚が束になってかかろうが勝てるわけが無いのさ!!」
レイナ「ドリル! ジェット!」
ジム「レイナ様、お下がりください!」
ディオンドラ「ふ、お姫様を護るナイト気取りかい! お前じゃ力不足だよ!!」
妖剣メデューサから赤い破壊光線を放つディオンドラ。
レイナを庇い、ジムはその直撃を食らってしまう。
ジム「ぐはぁぁぁぁぁっ!!」
レイナ「ジム!!!」
ディオンドラ「あははははは!! 随分頼りないナイト達だねぇ!!」
レイナ「許さない……」
仲間を傷つけられ、レイナは怒りに燃える瞳でディオンドラを睨む。
それに対して、ディオンドラは嘲りに満ちた笑みで返す。
ディオンドラ「へぇ? どう許さないって言うのさ!
お前がこのあたいが倒せるとでも? のぼせ上がるんじゃないよ小娘がぁ!!」
レイナ「きゃああああああぁぁぁっ!?」
電磁ムチで、パワーライザーを破壊されるレイナ。
レイナには見切ることすら出来ないほどの速さだった。
ディオンドラの嘲笑は、いつしか憎悪の表情に変わっていた。
ディオンドラ「あたいはね! お前みたいな誰かに守られてなきゃ何も出来ない女が大嫌いなんだよ!
お前にどれだけの価値があるってのさ!
ロム・ストールとその取り巻きに守られているだけの足手まといが!!
ちやほやされて、自分が特別な存在だなんて自惚れてんじゃないよ!」
肩を抑えながら起き上がるレイナ。
だが、彼女には身体のダメージよりもディオンドラの放った言葉の方が胸に突き刺さっていた。
レイナ「ええ……そうよ……私はずっと、兄さん達に守られてきた……
役立たずの足手まといと言うのなら、否定はしないわ」
ディオンドラ「ほぉ、分かっているじゃないのさ」
だが、レイナはここで、強い視線をディオンドラに浴びせかける。
レイナ「……だからこそ、私は戦う! これ以上兄さん達の重荷にならないように!
私に出来ることを、いいえ、私の限界を超えてみせる!!
私も天空宙心拳の使い手、刺し違えてでも貴女を倒す覚悟はとうにできているわ!!」
ジム「お嬢さま……」
天空宙心拳の構えを取るレイナから立ち昇る気魄は、ロムのそれに酷似していた。
ディオンドラ「はっ! それが自惚れていると言っているんだよ!!
まずはお前から血祭りにあげてやる!
妹の生首を見た時のロム・ストールの顔が見物だよ!!」
ディオンドラの電磁ムチが飛ぶ。
レイナ(兄さんが言っていた……相手の動きをよく見るんだ……
そうすれば、どんな攻撃もかわせるって……)
音速に迫る電磁ムチのスピードは、肉眼では到底捉えることはできない。
レイナが見ているのは、ディオンドラの腕の動き。
兄に教えてもらった。如何なる攻撃であろうと、その起点となるのは敵の手足。
ゆえにそこに注目すれば、攻撃を事前に予測でき、かわすことが可能になると……
ディオンドラ「!!」
ディオンドラの電磁ムチは、レイナを屠らず、床を切り裂くだけに留まった。
レイナはディオンドラのムチの軌道を先読みし、ムチが動く前から別の場所に逃れていたのだ。
294
:
藍三郎
:2009/08/26(水) 17:59:58 HOST:196.170.183.58.megaegg.ne.jp
ドリル「へぇ! やるじゃねぇか、レイナ!」
レイナの健闘に、一同は安堵と感嘆の声を漏らす。
ディオンドラ「はっ! まぐれはそう続かないよっ!!」
ディオンドラの言うとおり……
先ほどの動きは、偶然ではないとは言え、集中を極めた末にようやく可能となったもの。
二度目ともなれば、その読みも通じなくなる……
だがレイナは、一度回避するだけの隙を作れば十分だった。
ディオンドラは即座に標的をレイナから変更する。
攻撃後の隙に乗じて、背後から迫る殺気を感じ取ったからだ。
二刀流を電磁ムチで絡め取るディオンドラ。
その敵の正体とは、グローバインだった。
グローバイン「ワシが相手だ! ディオンドラ!」
ディオンドラ「グローバインか……お前も馬鹿な奴だよ!
ギャンドラーを寝返りさえしなければ、ガデス様から素晴らしい力が頂けたものを!!」
グローバイン「強さとは、日々己を磨き、修練を重ねた末に始めて得られるもの。
他人から与えられるものではない! そのような紛い物の強さなど、ワシはいらぬ!!」
二刀を振るい、電磁ムチを振りほどくグローバイン。
ディオンドラ「はっ! くだらないねぇ!
鍛錬だの修行だの……そんな汗臭い強さなんざちっぽけなものさね!
そんなものより、ガデス様に寄り添う方がよっぽど楽に最強の力を得られる……
あのお方の強さは、あたいやお前らの常識を遙かに超えているんだよ。
戦おうと思うだけ愚かな行為と思い知りな!!」
グローバイン「ふ……そうやってガデスの恐ろしさに
屈服していることこそが、お主の弱さの証だ! ディオンドラ!!」
妖剣メデューサと二刀が激しく火花を散らす。
ディオンドラ「ほざけ! 所詮この世は弱肉強食、強い奴に縋って何が悪い!!」
グローバイン「ワシはロムやジェットに教えてもらった……
本当の強さとは、力ではなく心……
友を思い、仲間と助け合う、絆の強さなのだと!
その力は、如何なる暴力も恐怖も跳ね除ける……先ほどあの娘がお主に見せたようにな」
その台詞に、ディオンドラの顔が不快に歪む。
ディオンドラ「何だと……あんな小娘が、あたいより下だと言いたいのかい!
そのふざけた口、二度と叩けなくしてやるよグローバイィィィィン!!!」
295
:
蒼ウサギ
:2009/09/16(水) 02:11:21 HOST:softbank220056148049.bbtec.net
火花散らすグローバインとディオンドラ。
その一方で、見事、宿敵ともいえるデビルサターンを倒したロム。
だが、その疲労は少なくはなかった。
ロム「はぁ、はぁ……」
ガルディ「デビルサターン……。まこと見事な散り際よ。さて、ロム・ストール」
ロム「っ!」
再びガルディの持つ剣・流星に力がこもるのを察して、ロムが身構える。
ガルディ「いらぬ邪魔が入った……とは今は言うまい。が、もうワシとは戦えぬか?」
ロム「……何を言うガルディ…!」
ロムは真っ直ぐにガルディを見据える。
何のためにお前の相手は身構えているのかと、無言で問いかける。その強き目で。
ガルディ「……デビルサターンのダメージがあるとはいえ、容赦はせんぞぉ!」
剣を再び構えたガルディのその表情は、どこか嬉しげだった。
§
激しいグローバインとディオンドラの剣の応酬。
技量の差はほとんどなかった。
だが、やはりというか力の差が決定的な勝負を分けた。
グローバイン「ぬぅ!!」
激闘の末、グローバインはディオンドラの剣の前に片膝をついた。
ディオンドラはそれを見下し、顔に妖剣メデューサーを突き付ける。
ディオンドラ「どうだい? グローバイン。これが今のアンタとお前の力の差だ!
いくら綺麗ごとを並べようとも結果はこの通りさね」
グローバイン「・・・・・・・・・・・」
何を言われても、グローバインは無言を突き通し、再び立ち上がっては剣を構える。
ディオンドラ「ちぃ! そんなボロボロになってもまだ立ち上がるかい!?」
グローバイン「かつて……」
ディオンドラ「ん?」
グローバイン「かつてジェット殿も……我が暗黒双殺剣を何度受けても立ち上がった……」
まだグローバインがギャンドラーに身を寄せていた時の戦いがふと甦る。
グローバイン「だからワシも何度でも立ち上がろう! さぁ、こいディオンドラ!」
ディオンドラ「いい度胸だよ! グローバイン!!」
合図したわけでもなく、二人は同時に疾駆していた。再び他を寄せ付けない激しい攻防戦が再開される。
ジェット「よせ、グローバイン! もう無茶はするな!」
援護しようとも銃を構えるが、二人の動きが速すぎて撃てない。レイナやドリル、ジムも同じだ。
いや、これはむしろ……。
グローバイン「助太刀は無用願う!」
剣撃を繰り出しながらグローバインは彼らの意図を先読みして懇願する。
その隙に一撃見舞われるが、構わず剣を振るう。
レイナ「な、なんで?」
グローバイン「それは……!」
ガキン、と二刀でディオンドラの剣を止めながらグローバインは語る。
グローバイン「ワシはジェット殿との勝負に敗れ、お前達に命を救われた。だから、ギャンドラーとの決戦との場でこの命! 散らすのであれば本望よ!」
ディオンドラ「ハッ! 随分と綺麗ごとをほざく様になったもんだねぇグローバイン!!」
グローバイン「綺麗ごと?……違うな。これはワシの戦士としての誇りだ! イヤァァァァ!!」
グローバインの雄叫びと共にこう着は終わる。
再び他者を寄せ付けない連撃の嵐が起きる。
だが―――。
グローバイン「ぐあっ!」
今度は電磁ムチを浴びてグローバインは倒れてしまう。
ディオンドラ「さぁ、今度こそトドメさねぇ!」
また立ち上がられては適わないとばかりにディオンドラは妖剣メデューサーを構えて走りだす。
それが今、グローバインの胸に振り下ろされるまさにその寸前―――紅い閃光が奔った。
ジェット「天空真剣奥義、鎌鼬!!」
ジェットの居合い抜きは振り下ろされたディオンドラの剣を弾き飛ばし、グローバインの窮地を救った。
ディオンドラ「ちぃ、ブルー・ジェットかい! 次から次へと忌々しいねぇ!」
ジェット「フン、悪いね。だが、これ以上、仲間を失うのはゴメンなのでね」
ニヒルに笑うや否や、ジェットは剣を構えた。
その横にレイナ、ジム、ドリルが並ぶ。
グローバイン「お、お前達……」
レイナ「グローバインさん。ここで命を散らすなんて考えないでください。ギャンドラーに勝ったとしても、
大切な仲間を失っては手放しで喜ぶことができません!」
ディオンドラ「なんだい! この生意気な小娘はもう勝った気でいるのかい? 自分達の状況をよく見てものを言うこったね!」
レイナ「闇に染まりし悪しきもの達に私達は決して負けないわ!」
レイナの力強い眼差しと気迫。
それは、どこかロムを思わせるものがあり、ディオンドラは一瞬だが思わず気圧されてしまった。
296
:
藍三郎
:2009/09/19(土) 18:15:49 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ディオンドラ「ち……ロム・ストールの真似事かい!!
そんなことで強くなったつもりか!! お前らは口先だけの半人前以下だってことを思い知らせてやるよ!!」
迸る稲妻と共に電磁ムチが飛ぶ。だが、それを見て怯える者は誰一人としていなかった。
ジム「ええ、私達はまだまだ未熟……貴女の領域には及ばないかもしれません」
ジェット「だが、俺たちには共に支えあう仲間がいる」
ドリル「半人前でも、二人揃えば一人前! 五人ならもっと強い!!」
レイナ「私達は絶対に屈しません。
決して諦めない強い気持ちと、仲間との絆こそが、何物にも勝る力だと信じているから!」
レイナ達の口上に、グローバインも深く頷く。
ディオンドラの苛立ちと憤怒は、ついに臨界点に達する。
ディオンドラ「はっ!! お前たちの戯言は聞き飽きたよ!!
仲間だ? 絆だぁ? そんなもの、絶対的な力の前には無意味なんだよぉっ!!」
ディオンドラが飛びかかった瞬間、地面目掛けて拳を叩きこむドリル。
ドリル「天空宙心拳! 岩盤割り!!」
床に亀裂が生じ、粉みじんに吹き飛ぶ。土煙が立ち昇り、周囲を覆い尽くした。
それと同時に、四方へと散らばるマシンロボチーム。
ディオンドラ「目くらましのつもりかい! どこまでも浅はかな……!!」
間髪入れず、双方向から切りかかるジェットとグローバイン。
ディオンドラは電磁ムチを振り回し、二人を弾き飛ばす。
ジェット「がっ!!」
グローバイン「ぐはっ!!」
度重なるダメージで、もはや彼らに十分な力など残っていなかったのだ。
ドリル「うおおおおおおっ!!!」
ディオンドラ「これがお前らの最後の手段だとしたら……お笑いだねぇ!!」
体当たりを仕掛けるドリルだったが、ディオンドラに力及ばず屈してしまう。
ディオンドラ「くくくく……お前らにトドメを刺すのは後回しだ……」
ディオンドラの血走った眼が、土煙の隙間にレイナの姿を捉える。
ディオンドラ「ロム・ストールの妹! まずはお前から地獄に送ってやるよ!!」
レイナ目指して駆け出すディオンドラ。
すでにパワーライザーは破壊した。
あんなひ弱な小娘を仕留めるなど、トマトを握り潰すよりも容易いこと……!
レイナと視線が交差する。
ありったけの憎しみを込めて、彼女の脳天に電磁ムチを振り下ろす……
だが、その時……
ディオンドラ「!!?」
腹部を焼け付くような痛みが貫いた。
レイナの手から赤い光が放たれ、ディオンドラに直撃した。
正確には、その手に握られた一本の剣から……
ディオンドラは、その剣に見覚えがあった。いや、それどころではない。
ディオンドラ「そ、それは! あたいの妖剣メデューサ……!!」
レイナ「良かった……何とか私にも使えたみたいね」
レイナが持っているのは、ディオンドラが落とした妖剣メデューサだった。
土煙は、ディオンドラの視界を狭めるためにもの。
皆で一斉にかかって脚を止め、その隙にレイナにメデューサを取りに行かせる作戦だったのだ。
予想だにしない展開に、動揺しているディオンドラ。
その隙を、ずっと背後に潜んでいたジムは見逃さない。
ジム「今です! お嬢さま!!」
後ろから組み付き、ディオンドラをはがい締めにするジム。
彼の力では、ほんの一秒も持たない。だが、レイナにはその一秒で十分だった。
持っているだけで、体中の生命を奪い尽くされるような気分だ。そう長い間使える武器ではない。
この一瞬に、全てを賭ける……!
レイナ「やあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
渾身の力を込めて、妖剣メデューサでディオンドラに斬り付ける。
ディオンドラ「ぎぃやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
彼女の黄金のアーマーが切り裂かれ、その身に深い傷が刻まれる。
初めてディオンドラに効果的なダメージを与えることが出来た。
ガデスに力を与えられたことで、ディオンドラのみならず、妖剣メデューサもまた強化されていた。
だからこそ、ディオンドラには致命傷となり得る。
これは、レイナ達の知る由も無い、嬉しい誤算だった。
297
:
藍三郎
:2009/09/19(土) 18:21:04 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
レイナ「……!」
ジム「お、お嬢さま!」
その直後、レイナはその場に倒れ込む。慌てて駆け寄るジム。
妖剣メデューサは、レイナの手から離れて落ちる。
全身の力が、一気に抜けていくのを感じる。
さすがに妖剣と呼ばれるだけあって、使用者への負担も大きいようだ。
ディオンドラ「がはっ……! 畜生……! あたいが……こんな……こんな!」
深手を負い、よろめくディオンドラ。
あんな奇策にしてやられたことが、未だに信じられないようだ。
ドリル「ジェット! グローバイン!」
ジェット「ああ!」
グローバイン「今こそ、決着をつける時!」
レイナの活躍に応えるべく、最後の力を振り絞って立ち上がる三人。
ドリル「うおおおおおおっ!!」
ドリルタンク形態に変形し、渾身のブチかましを食らわすドリル。
ディオンドラ「がはっ!!?」
傷口にドリルを喰らい、空高く打ち上げられるディオンドラ。
ジェット「ジェ――――ット!!」
それと同時に、ジェットとグローバインも飛翔する。
グローバイン「受けよッ! 暗黒双殺剣!!」
グローバインは二体に分裂し、ジェットと共に“三人”で何度も斬りつける。
ジェット「天空真剣奥義・重ね鎌鼬! 三・重・殺!!」
最後の居合い抜きが決まり……ディオンドラは墜落する。
何とか起き上がるも、もはや虫の息である。
ディオンドラ「ぐ……はっ!!
正義の……味方が…… 散々……綺麗事並べ立てておいて……
何だいこの勝ち方は……とんだ邪道じゃないか……」
朦朧とする眼は、レイナを捉えていた。
まさか自分の妖剣メデューサを使ってくるとは思わなかった。
あんな小娘に出し抜かれたことが……何より、それを許してしまった自分の油断が、悔しくて仕方が無かった。
ディオンドラ「くくくく……まぁいいさ……あたいが自分で言ったことだからね。
弱肉強食……あたいが何を言ったところで、所詮負け犬の遠吠えに過ぎないさね……
でも、覚えておくんだね、小娘……
結局はお前たちも、“力”で敵をねじ伏せるという点では、あたい達と同類だってことに……」
ドリル「何だと……」
突っかかろうとするドリルを、レイナは手で制する。
レイナ「ええ……確かに貴女の言うとおりだわ」
ジム「お嬢さま……」
レイナ「私たちも、敵を倒すために力を振るっているわ……
だけど、それは自分のために使うんじゃない。
理不尽な暴力に苦しめられる、力なき人々を護る為にあるのよ!」
ジェット「力の使い方を知ること……それもまた、天空宙心拳の心得だ。
お前たちとは違う!」
その答えを聞いたディオンドラの顔から、憎しみの色が変わる。
代わりにその顔に貼り付いたのは凄絶なまでの笑みだった。
ディオンドラ「ああ……大正解だよ。全く持って、お前達は正しい!
……だからこそ、憎たらしいったらありゃしない……!
覚えておくんだね……世の中には、正論を説かれると虫酸が走るド外道がわんさかいることを!
光あるところ闇あり……お前らが正義を振りかざす限り、悪は絶対に消えない!!
あたい達とお前らの戦いは、永遠に終わらないのさ!!
せいぜい無限地獄を苦しみ続けるがいい!! あたいは一足先にあの世で待っているよ!!
あはははははははははははは!!!
あっはっはっはっはっはっはははははははははははははぁ――――――ッ!!!!!」
高笑いと共に、全身から火花と電流を散らして、ディオンドラは爆発四散した。
ディオンドラが最期に残した言葉は、ジェット達の心に幾らか暗い影を落としていた。
それを振り払うように、レイナは力強く言う。
レイナ「それでも私たちは、戦い続けるしかない……
いつの日か、宇宙のみんなが平和に暮らせる日々が来ることを信じて……!」
強く拳を握り締めるレイナ。
歴代の天空宙心拳継承者と比べても何ら遜色の無い心の強さを見て、ジムは内心涙ぐむ。
ジム(ご立派になられました……お嬢さま……)
298
:
藍三郎
:2009/09/19(土) 18:26:07 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ロム「うおおおおおお――――っ!!!」
ガルディ「はああああああ――――っ!!!」
互いの持てる全ての力を尽くして、ぶつかり合うガルディとバイカンフー。
赤と黒の波動が衝突し、弾けて周囲へと拡散する。
両者の間に言葉はない。だが、繰り出す技の一つ一つが、互いの魂を何より雄弁に語っていた。
ロム(何という凄まじい技だ……! ここまで極めるのに、どれだけの修練を積んだのか……!)
与えられた紛い物ではない、鍛え抜かれた魂の技の数々。
兄であろうと無かろうと……このガルディという男は、尊敬に値する素晴らしい武人だ。
だからこそ、超えたい。この類稀なる武人に、自分の全てをぶつけてみたい。
天空宙心拳継承者として、ロム・ストールという、一人の武闘家として!
後のことは何も考えない。
結果がどうであろうと、拳と拳で語り合った果ての真実が、紛い物であるはずがない――!
ガルディ(こいつ、どこまで強くなる……!?)
一方ガルディも驚嘆していた。ロムは着実に進化している。
拳を放つごとに、剣を振るうごとに、技のキレは鋭さを増すばかりだ。
戦いの中で、どこまでも果てしなく進化する。それがロム・ストールの強さなのだ――!
かつて初めて戦った時、ロムとガルディの間には到底埋めがたいほどの差が開いていた。
それが今では、限り無く零に近づいている。いや、今まさに凌駕せんとしている。
いつしか、ガルディの口許には笑みが浮かんでいた。
ガルディ(嬉しい……? 俺は、喜んでいるのか……?)
命を削って戦っている相手に対して、何とも奇妙な感覚であったが、不快な気分はしない。
不思議な感覚だ……俺は、この男をずっと昔から知っているような気がする。
そう、“あの頃”も、このように果敢に挑んできた。
何度倒されても、決して諦めず、何度も何度も……
当時は小さな子供だったのに、今ではこんなに大きな男となって、自分の前に立ちはだかっている……!
ガルディ(まだだ……まだ超えさせん! 俺を超えるにはまだまだ早い……!!)
激しく闘志が沸くのを感じる。
負けられない。ガデスへの忠誠心とはまた別の……
心の奥に根ざした記憶が、“この男には負けたくない”と訴えている。
何故なら、それは――――――
両者、一定の間合いを保って着地する。
ガルディ「強くなったな……ロム」
ロム「!」
その語り口……紛れも無く、在りし日の兄、ガルディのものだった。
ロム「兄さん、記憶が……」
ガルディ「だが、俺は負けん……!
兄として、お前に負けるわけにはいかんのだ――!!」
断言するガルディ。記憶は確かに蘇りつつある。
しかし、そのことが逆に、ロムへの闘争心を高めてしまっている。
急に蘇った記憶が、ギャンドラーの洗脳と混濁して、このような現象を起こしているのだろう。
今のガルディを突き動かしているのは、“兄として負けられない”の一念だった。
だが、ロムは絶望しない。むしろこれは、望んでいた状況だ。
彼は幼い頃からずっと思っていた……
兄を超えたい、兄に勝ちたい。
誰よりも尊敬している兄だからこそ、一人の武闘家として超えてみたい……!!
その時初めて、自分は兄を完全に取り戻すことが出来るのだ……
何の根拠も無くても、ロムは確信していた。
ロム「ああ……勝負だ、ガルディ兄さん!!」
ガルディ「行くぞ、ロム!!!」
299
:
藍三郎
:2009/09/19(土) 18:27:36 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
互いに剣狼と流星を構える。二人とも、残るエネルギーは限界に近い。
この激突で、完全に勝敗が決するだろう。
ガルディ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
全身から暗黒のオーラを解放するガルディ。
そのオーラが流星に纏わりつき、漆黒の光剣を構成する。
ガルディ「天空暗黒腐乱剣ッ!!!」
触れるもの全てを腐らせ、死滅させるガルディの暗黒奥義。
生半な技で対抗しても、たちどころに打ち破られるだろう。
これを迎え撃つバイカンフーの構えは、今まで見せたことのないものだった。
ロム自身も、この技は初めて繰り出す。
かつて、父キライが、一度だけ見せてくれた天空宙心拳の極意……
今の自分に使えるかどうかは分からない……
だが、自分の持てる最大の奥義は間違いなくこの技だ。それを使うのが、兄への最大の敬意と考える。
ならば、封印を解くのはこの時を置いて他に無い――!!
真紅のオーラが、バイカンフーから放出される。
ロム「天空宙心拳極意……――――――!!」
ガルディ「その技は――まさか!!」
紅の閃光が、天から舞い降りる――――
それから…………
両者とも、技を放った体勢のまま固まっていた……
変化は、バイカンフーの方から訪れる。
ロム「ぐ……」
パイルフォーメーションを維持するだけの力も使い果たし、バイカンフーから投げ出されるロム。
地面にうずくまるロム。
それを見ながら、ガルディは静かに語りかける。
ガルディ「見事だ……ロム……」
ガルディの漆黒のボディには、縦一文字の亀裂が走っていた。
一方、ロムは激しく消耗しているものの、深手を負ってはいない。
ガルディの天空暗黒腐乱剣が届く前に、ロムの極意が先に命中していた。
ガルディ「お前の……勝ちだ」
己の敗北を認めると同時に……ガルディの亀裂は、全身へと広がっていく。
漆黒の鎧が砕け散り……
その下から、金髪を長く伸ばし、緑色の鉢巻を巻いた、美しい青年が姿を現す。
その姿は、紛れもなくロムとレイナの兄、ガルディ・ストールのものだった。
ロム「兄さん……ガルディ、兄さん……!!」
ロムの両目から、とめどなく熱い涙が流れる。
起き上がろうとして、またも倒れそうになるロムをガルディは抱きとめる。
ガルディ「済まなかったな、ロム……」
ロムをここまで傷つけたのは、紛れも無くこの自分……
その言葉には、万感の想いが込められていた。
彼もまた、双眸から溢れる涙を止められない。
ついに真の再会を果たした兄弟は、溢れんばかりの喜びを噛み締めるのだった……
300
:
藍三郎
:2009/09/19(土) 18:28:47 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ガルディは、自分が敵に回ったいきさつを訥々と語り出す。
ガルディ「かつてクロノス星を襲った大異変……あれを起こしたのはギャンドラーだ」
ロム「何だって!?」
もう十年以上も前……クロノス星で原因不明の大爆発が起こり、
ガルディは幼いロムとレイナを逃がした後、それに巻き込まれてしまった。
それ以降、ずっと死んだものと思われていたのだが……
ガルディ「俺は宇宙に投げ出され、そこをギャンドラーに捕らえられたんだ。
その時ギャンドラーを率いていたのが、あの男……グルジオスだった」
ロム「グルジオスが……」
ガルディ「グルジオスは俺に妖術をかけ、記憶を消した……
そして、新たな記憶と人格を書き込み、ガデスの忠実なしもべにしようとしたんだ」
瀕死のガルディは、グルジオスの洗脳に容易く陥ってしまう。
こうして、ガルディは『天涯孤独の身をガデスに救われた』という記憶を植えつけられ、
ギャンドラー随一の戦士としてガデスに仕える事になる。
記憶を取り戻した今でも、ギャンドラーにいた頃の記憶も残っている。
その頃のことを思い出し、ガルディは苦悩に顔をゆがめる。
ガルディ「それから俺は、ガデスの元で闇の仕事に手を染めてきた……
天空宙心拳継承者としてあるまじき行為を、ずっと……
挙句の果てには、ロム……お前たちまでも傷つけてしまった」
ロム「何を言うんだ兄さん! それは兄さんのせいじゃない!
悪いのは、野望の為に兄さんを利用したギャンドラーだ!」
ロムにそう言われても、ガルディは静かに頭を振った。
ガルディ「どんな理由があれ、天空宙心拳の奥義を悪の為に使ったことは、決して許されない。
俺は裁きを受けなければならない。ロム……俺はお前に、裁いて欲しかったのかもしれないな……」
ロム「兄さん……」
ロムは真っ直ぐに兄の目を見つめ、手を差し伸べる。
ロム「兄さん、兄さんの気持ちは、俺にも分かる。
もし俺が兄さんと同じ立場で、レイナを傷つけるようなことがあれば……死にたくもなるだろう。
だが、死ぬことだけが償いじゃない! もっと他に、やるべきことがあるはずだ!」
ガルディ「それは……?」
ロム「俺に力を貸してくれ! 兄弟で力を合わせて、ガデスを……父さんの仇を倒すんだ!
父さんもきっと、それを望んでいる!!」
ガルディ「……そうだな。それが、俺に出来る唯一の償いかもしれん……!」
打倒ガデスを誓い、ストール兄弟は力強くお互いの手を握った。
301
:
蒼ウサギ
:2009/10/01(木) 02:07:15 HOST:softbank220056148040.bbtec.net
グルジオス「ば、バカな……そ、そんなバカなァァァ……!!」
グルジオスの策略に一分の隙はなかったはずだった。
だが、今、彼が見ている光景は先ほどまで予見していたはずのものとはかけ離れていたものとなっていた。
デビルサターン6、ディオンドラが倒れ、あまつさえガルディに至っては記憶を取り戻してしまった。
圧倒的勝利とは実にかけ離れている最悪のシナリオに向かいつつある。
グルジオス「うぅうう……! だ、だがしかし! まだこの迷宮を攻略されない限り、奴らが私やガデス様に辿り着くことは不可能!
このまま物量戦を保ち続ければ、いかに奴らとて身がもつまい!」
未だ優勢であることを自分に言い聞かせるが、焦燥感は拭えない。
だからだろう。
冷静であれば気付くであろう気配にグルジオスは気付けなかった。
そう、ロムという不確定要素が、兄を得たことによりさらに不可解なものとなったことに。
§
ガルディ「ロム、剣狼を掲げよ」
ロム「兄さん?」
ガルディ「まずはこの雑兵達を何とかせねばならん。それには元凶であるグルジオスを引きずりだす必要がある。
ワシの流星、お前の剣狼の導きがあれば奴の妖術など恐れるにたりん」
ロム「わかった、やろう兄さん!」
頷いて二人は剣を天井に向けて掲げる。
そして、各々の剣に精神と力を集中させると刀身が光を帯び、やがて何かを指し示すかの如く天に向かって伸びていった。
ジェット「!? あれは…!」
レイナ「不思議な光…」
誰もがその神々しいまでの光に目を奪われた。
無理もない。
それは、あらゆる妖術など、悪しき者を打ち消す、破邪の光なのだから。
キラル「この光が我らを導くのか……」
天に伸びゆく破邪の光は、瞬く間にグルジオスを捉えた。
グルジオス「ぬっ、これは!!」
気付いた時にはもう遅い。
剣狼と流星。
二つの剣から放たれた光をグルジオスは浴びた。
グルジオス「ぐあぁぁぁぁっ!!」
あまりにも眩く、己にとっては衝撃的な光にグルジオスはもがき苦しんだ。
そのショックで、自身を隠していた幻術や妖術によって迷宮と化していた要塞も元に戻った。
グルジオス「ぐっっ!! お、おのれぇぇぇ! やはり奴らを侮ってはならなかったか!」
ロム・ストールとガルディ…いや、今はガルディ・ストールというべきだろうか。
たかがクロノス族が一匹増えたと思っていたのをグルジオスは今、後悔し始めていた。
信じられないことだが、ロム・ストールは、ガルディが記憶を取り戻したことで、恐らくは自身でも気付かない更なる力を得ているようだ。
それも爆発的な。
それは、ただ単純にパワーが上昇した、という類なものではない。
グルジオス(認めたくないが……奴らは同族が増えれば増えるほど凄まじい力を発揮するようだ!)
いくらこちらが不死の軍勢で攻めても決して屈しない強さ。
グルジオスは、ここにきて初めてロム、そして彼ら人類に恐怖し始めた。
そんな思考を巡らせている彼にふと、背筋が凍る感覚に見舞われた。
???「……奴らめ。ここまできたか」
静かだが、本能で恐怖が刺激される声。
振り向かなくともグルジオスはその主を良く知っている。
グルジオス「が、ガデス…様」
ガデス「小細工はもう……要らぬ!」
302
:
蒼ウサギ
:2009/10/01(木) 02:08:37 HOST:softbank220056148040.bbtec.net
§
それは突然のことだった。
先ほどまで鬱陶しいほど現れていた妖兵コマンダー達が突如として次々と倒れていく。
まるで元の死体へと戻ったかのように。
悠騎「あん? どうなってんだ?」
ゼド「……これはグルジオスが倒れた、ということでしょうか? でも誰が?」
ムスカ「油断するな……。なーんか嫌な予感がするぜ」
嵐の前の静けさに、誰もが緊張の糸を解く者はいなかった。
そしてロム達も。
ロム「……兄さん」
ガルディ「……来るぞ!」
ガルディのそれを合図に、何かが天井を破壊してその巨体を一同の前に現れた。
ガルディ「ガデス……!」
憎々しい目でその名を呟くと、一同の緊張感が最高潮に達する。
悠騎「なるほど…こいつがギャンドラーの親玉か!」
ドモン「底知れぬ気迫を感じる。伊達に総大将ではないな」
初めてガデスの姿を見るものがその畏怖とそこから伝わる言い知れぬ力を感じ取る中、
ガデス本人はまるで小物でも見るような目で彼らを見回し、一言言い放った。
ガデス「さぁ、来るがよい」
敵総大将からの開戦合図。
誰もが躊躇したが、それは一瞬に過ぎなかった。
悠騎「いくぜぇぇぇ!」
§
=要塞外=
ブンドル「む、これはどういうことだ?」
ここでもグルジオスによる妖術で操られた妖兵コマンダーの軍勢が次々に消えていった。
トレーズ「どうやら我らの勝利のようだが……どうにも胸騒ぎがする。星倉艦長、内部の部隊から何か連絡はあったかね?」
由佳『いえ、先ほどから我が艦だけではなく、どの艦の通信網を用いても要塞内の部隊との交信はできない状況です』
コスモ・フリューゲルも水準以上の通信機能を有しているが、それ以上の性能を持っているナデシコCやコスモ・アークでも内部との交信ができない。
もちろんそれはグルジオスの幻術が原因であったのだが、その真意を彼らは知らないのだ。
ブンドル「ふむ、だが、先ほどまで無限とも思える雑兵共が一斉に消えたのもまた事実。内部で何かしらのアクションがあったのは間違いないだろう」
トレーズ「ならば、この気に我々も突入してみるか?」
コクピットモニター同士で微笑み合うトレーズとブンドル。
そこへ、由佳の声が飛んできた。
由佳『待ってください! いくらお二人とて補給と整備なしに内部へ突入は無謀です! ここは一度艦へ戻ってください!』
トレーズ「様子見くらいならば問題ないだろう」
ブンドル「引き際は見極める技量はあるつもりだよ、マドモアゼル由佳」
言うや否や、二機は制止も聞かずに要塞の亀裂を目指して機体を飛ばした。
アネット「……いっちゃいましたね、どうします?」
由佳「……とにかく、敵の攻撃が止んでいる今は、要塞外にいる友軍機に帰艦命令を。簡単な補給と整備。
パイロットには治療と休息をお願い」
アネット「了解!」
§
=要塞内=
要塞の迷宮。
グルジオスの妖術はなくなっているこそ、その入り組んだ構造は未だ健在のはずだった。
しかし、トレーズやブンドルが要塞内部に入った時、そこには崩れた壁や天井がごった返していた。
ブンドル「これが内部部隊の激闘の跡か。なるほど、随分と荒れくれている」
トレーズ「戦いは常にエレガントとはいかないものだな。だが、これでは些か彼らの元へ辿り着くのは容易では―――」
その時だった。
要塞内が突如、激しく揺れ、次の瞬間、二機のすぐ近くを黒く禍々しい光が横切った。
トレーズ「あれは?」
ブンドル「……どうやらまだ戦いは終わってないようだ」
そしてどうやら道は敵から開いてくれたようだ、とブンドルは内心で皮肉付いて光が止んだ頃を見計らって大きく穴開いたそこへ向かう。
そこで二人が見たものはたった一人の巨人の前に多数の仲間が倒れている姿だった。
ロム「こ、これほどまでとは……!」
悠騎「何て野郎だ……アイツが持ってるあの剣から出た黒い稲光。オレ達が苦労してぶち破ったこの要塞の壁を呆気なくぶち抜きやがった」
ムスカ「直撃したらと思うと、考えたくないねぇ」
悠騎の言う黒き稲光を放ったガデスの剣。
それは一同に決定的な力の差を改めて見せつけられた。
ガデス「ギャンドラーに逆らう者達に……死を!」
303
:
藍三郎
:2009/10/03(土) 16:53:39 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ガデスによって開けられた穴からは、月明かりが差し込んでいた。
すでに夜の帳が降りており、満月がギャンドラー要塞を照らしていた。
ガデス「ふふふふ……ハイリビードの力は、完全にワシのものとなった!
ワシは永遠の命を……究極の肉体を手に入れた!
もはや全宇宙の誰も、このワシを止めることはできんのだ!!
この宇宙はワシのものだ!!
グハハハハハハ!! ハハハハハハハハハハハ!!!」
エクセレン「うわ〜。何てテンプレな悪の大魔王……」
レミー「今時こういうのも珍しいわね」
キリー「だが、やば過ぎるってことは間違いねぇ……」
ロムとガルディの兄弟は、剣狼と流星を構えてガデスに立ち向かう。
ロム「ふざけるな! お前の身勝手な野望のせいで、どれだけの人々が苦しんだか、分かっているのか!!」
ロムの糾弾を、ガデスは鼻で笑い飛ばした。
ガデス「所詮この宇宙は弱肉強食!
そこに生きる者は全てワシの奴隷に過ぎんわ!! 生かすも殺すもワシの自由よ!!」
ガルディ「ガデスッ! 貴様のような邪悪に仕えていたなどと、俺は自分が許せない!
この罪は、お前を倒すことで償わせてもらう!!」
ガデス「ガルディか! そうか、記憶を取り戻したのだな!」
ガルディ「俺はもう、貴様の傀儡ではない! 天空宙心拳の子孫、キライの息子だ!」
ガデス「ふん! 助けてやった恩を忘れてワシに牙を剥くとは、とんだ恩知らずがいたものよ!!」
ガルディ「黙れ!! 俺が記憶を失った後……お前が何をしたのか分かっているぞ!
よくもクロノス星を……父さんを!!」
ガデス「グワハハハハハハハ!! キライ・ストールか!!
あの男もお前たち息子に似て愚かな男だったわ!!
ハイリビードを、星の再生などに使おうとしていたのだからな!!」
ロム「何……?」
ガデス「クロノス星は、間もなく寿命が訪れようとしていた。
キライは、ハイリビードの力を使って、星に生命を吹き込み、クロノス星を護ろうとしたのだ。
くだらん! 実にくだらん!! あんなゴミのような星に何の価値がある!!
ハイリビードは、このワシの全宇宙制覇の野望を叶えるためにあるのだ!!
そんな下らないことの為に使わせてなるものか!!」
故郷であるクロノス星を護ろうとした、父・キライの深い愛情。
その父の優しさを悪し様に罵り、命まで奪ったガデスに、ストール兄弟の怒りは頂点に達した。
ガルディ「ガデス……貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ロム「許さん……絶対に許さん!!
バァァァイカンフゥゥゥゥゥゥッ!!!」
一瞬でパイルフォーメーションを行うロム。
ガルディもまた、漆黒の鎧を身に纏い、バイカンフーと同程度の大きさになる。
二人とも、怒りのオーラを解放し、剣狼と流星に纏わせる。
ガデス「グハハハハハハ!! そんなに父親が恋しいか?
ならば、お前たちもすぐに父親の下に葬送(おく)ってやろう!!」
大剣に黒い稲妻を纏わせ、再び先ほどの攻撃を放とうとするガデス。
ガルディ「行くぞ、ロム!」
ロム「ああ、兄さん!!」
ガデスが剣を振るうのと、兄弟が飛び出すのはほぼ同時だった。
「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」
駆け抜ける二頭の狼と化し、ガデスを食い破ろうとする兄弟。
そんな彼らを、漆黒の稲光が飲み込んだ。
赤と黒の闘気がぶつかり合い、凄まじい爆発が巻き起こる。
304
:
藍三郎
:2009/10/03(土) 16:55:13 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
レイナ「ロム兄さん! ガルディ兄さん!!」
大気を薙ぎ払う爆風に耐えながら、レイナは二人の兄の名を呼ぶ。
やがて、煙が晴れた後には……
ガデスは健在だった。ほとんど傷など受けていないかのように、その場に仁王立ちしている。
ガデスの技の余波か。黒く深い溝が刻まれ、要塞を貫いて遥か外まで続いている。
一方、ストール兄弟の姿は影も形も無い。
あの雷電の直撃を食らったならば、生きているとは思えない。
ジェット「嘘……だろ?」
レイナ「そ、そんな……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大好きな兄と、ようやく再会できたもう一人の兄。
二人を同時に失い、レイナはただ慟哭するしかなかった。
ガデス「くくくく……キライの忘れ形見め。やってくれおるわ」
ガデスは大剣を見つめる。
剣の表面に亀裂が走り、柄の部分からぽっきりと折れてしまう。
彼らの一撃は、折れぬはずの無いガデスの剣を叩き割っていた。
攻め落とした星で手に入れた最強と呼ばれる剣で、これまで刃毀れ一つしたこともなかったのに……
だが、それまで。ガデス自身にはほとんどダメージを与えてはいない。
ガデス「グフフフ……フハハハハハハ!! キライ、ガルディ、ロム!!
天空宙心拳の継承者はことごとく消え去った!!
残るは貧弱な小娘と有象無象の雑魚ばかり!!
もはや天空宙心拳は滅んだも同然!!
宇宙の王たるこのガデスに逆らったのだ、当然の報いという奴よ!!
ガハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
タツヤ「そ、そんな、ロム兄さんが……」
エイジ「何てことだ……!」
ロムとガルディの死は、他のG・K隊メンバーにも衝撃を与えていた。
イルボラ「何を呆けている! あいつらの戦いを無駄にするな!!
今こそ、一気に奴を仕留めるんだ!!」
ジョウ「そ、その通りだ! みんな、行くぜ!!」
イルボラに叱咤され、皆正気を取り戻す。
剣が砕かれたことで、ガデスの攻撃力は大きく下がった。
今こそ最大の好機。ロム達の死を無駄にしてはならない。
ジョウ「ダミアン! 合体だ!!」
マイク「おう! ロム兄さんの弔い合戦だ!!」
飛影は黒獅子と合体し、獣魔となる。
口に大太刀を銜えて突進し、ガデスの身体を切り裂く。
ガデス「むぅ……!」
勝平「ザンボット・ムーンアタァァァァァック!!」
真吾「ゴーフラッシャー・スペシャル!!」
ムスカ「踊れ! ナイトメアカーニバル!!」
ライ「ハイゾルランチャー、シューッ!!」
ドモン「石破っ! 天驚拳ぇぇぇぇぇぇん!!!」
続けて、G・K隊の波状攻撃がガデスに炸裂する。
しかし、その身を包む装甲は厚く、容易に貫くことはできない。
ムスカ「ちぃ、何て堅い野郎だ」
ゼド「ですが、決してダメージが無いわけではないようです。諦めずに続ければ……」
蛇鬼丸「ゲヘヘヘヘへ!! ぶった切って内臓ぶちまけてやるぜ!!」
灯馬「今回ばかりは同意するで! ロム兄さんのカタキや!」
そんな彼らの奮戦を、ガデスは鼻で笑った。
ガデス「ククククク……無駄なあがきを……
地球人もクロノス族と同じで、諦めが悪い種族のようだな。
よかろう。お前達の希望の灯を、残らず吹き消してくれよう!!
我が真の力、その眼に焼き付けるがいい!!!」
305
:
藍三郎
:2009/10/03(土) 16:56:35 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ガデスの身体が、大きく膨れ上がる。
全身を覆う鎧や兜に皹が入り、粉々に砕け散った。
そこから姿を現したのは、今までの機械的な外見とは異なる、緑色の生物的な体躯だった。
同時に、ガデスから放たれるプレッシャーも、数倍以上に膨れ上がったように感じられる。
ガデス「グハハハハ!! 見よ! 生気に満ち溢れたこの肉体を!!
決して老いることも朽ちることも、錆びることも無い!!
ワシは永遠の若さを手に入れたのだ!!」
異変はさらに続く。
周囲に転がっていた妖兵コマンダーの死体が宙に浮き、ガデスに吸い寄せられていくではないか。
ガデスの身体に張り付き、ずぶずぶと沈んでいく。
それと同時に、ガデスの身体が少しずつ大きくなっていく。
チボデー「OH MY GOD! グロテスク極まりないぜ!!」
ジョルジュ「な、何が起こっていると言うのですか……!?」
ガデス「ふふふ……これがハイリビードを得たワシの新たなる力……
この世のあらゆる機械は、全てワシの血肉となる!!」
妖兵コマンダー達は次々とガデスに吸収され、その肉体の一部となる。
それによって、ガデスの受けた傷は修復され、その力はさらに増幅していく。
だが、その真の恐ろしさはそれだけではなかった。
ムスカ「ま、まずい! 機械を取り込むってことは……!」
ガデスが手をかざすと、周囲にいたG・K隊機体もまた、ガデスに吸い寄せられていく。
ガデスを中心として、巨大な引力が発生しているかのようだ。
もしガデスに触れてしまえばどうなるか……考えるまでも無い。
ガデス「さぁ! お前たちもワシの一部にしてやるぞ!!」
エイジ「みんな! 逃げるんだ!! 奴に触れてしまったらお仕舞いだぞ!!」
レイズナーMkⅡも飛行形態に変形し、最大速度でその場から離脱しようとする。
ダミアン「何てこった……これじゃまともに近寄ることすらできやしねぇ!!」
近接戦闘は元より、ミサイルやグレネードといった実弾兵器もまた機械。
ガデスに吸収されるのがオチ……核兵器や反応弾でさえも、効果が無いかもしれない。
ガデスは妖兵コマンダーを次々と吸い込み、その身を膨れ上がらせていく。
それだけではない……ギャンドラー要塞もまた、巨大な機械。
足下からガデスに吸収され、巨大化を加速させる。
やがてガデスの身体は、要塞の天井を貫く上回るほどに巨大化していく。
グルジオス「おおお!! ガデス様!! 何と素晴らしいお姿……!!」
グルジオスは、そのガデスの威容を見て感動と畏怖で体を震わせている。
ガデス「グルジオスか。そうそう、貴様には最後の役目を果たしてもらわねばならぬ」
グルジオス「そ、それは何でございますか?」
ガデス「知れたことよ。貴様もまた、ワシの一部となるがいい!!」
グルジオス「へ……」
グルジオスは一瞬、言われたことの意味が分からなかった。
次の瞬間、ガデスの脚の先がグルジオスに触れ、その身を取り込んでいく。
グルジオス「ひ、ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ガ、ガデス様、何故でございますか!? 何故この私を!!」
ガデス「貴様はワシの下僕であろう?
ならば、ワシの血肉となり、ワシのために尽くすことこそが、最大の忠誠だとは思わんのか?」
グルジオス「お、お助けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
グルジオスは完全に吸収され、ガデスの右胸に芋虫型の顔が浮かんだ。
306
:
藍三郎
:2009/10/03(土) 17:00:32 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ガデス「宇宙犯罪組織ギャンドラー……
元より、ワシが宇宙の覇王に登り詰める為の道具でしかなかった。
だが、ワシ自身が究極の力を手に入れた今、それももはや無用の長物。
その命を生贄として捧げるがいい! グワハハハハハハハハハ!!」
宇宙太「何て奴だ。自分の部下であっても食べやがった……!」
ブンドル「むぅ……美しくないにも程がある……」
ガデスの吸収と進化は止まらない。
このままギャンドラー要塞を……ひいては、
地球全ての機械を食べ尽くしてしまったら、一体どうなってしまうのか。
いや、ガデスの進化に際限が無いとしたら、その枠は地球にすら留まらない。
宇宙の全てを喰らい尽くすまで、ガデスの進化は終わらないのでは……
永遠の命、無限の進化……これこそが、ハイリビードの力を得たガデスの究極の肉体だった。
ガデス「グハハハハハハハハハハ!!
全てを吸い尽くしてやるぞ!! もはやワシに恐れる者などありはしない!
例え相手があの破壊神どもであろうと、世界の崩壊であろうともな!!
何故なら、このワシ自身が世界そのものとなるのだからなァ!!」
イルボラ「破壊神だと?」
ガデス「貴様らがプロトデビルンと呼んでおる奴らのことよ!
今までこのワシを脅かす存在は、奴らだけだった……
この宇宙で、ワシと並び立つ存在など許されぬ。故にワシはハイリビードを求めた!
だが! ハイリビードを手に入れた以上! ワシの進化は奴らをも凌駕する!!」
ジョウ「世界の崩壊ってのは……」
ガデス「宇宙の死と新生よ! この世界はもうじき滅び、新たなる世界が生まれる!!
次元の狭間から流れ込む悪意の波動が、宇宙の全てを殺しつくすだろう!!
全にして一なるもの、一にして全なるもの……
『L.O.S.T.(エルオーエスティー)』の力によってな!!」
ムスカ(LOST……だと!?)
ガデス「それに耐えられるのは、究極の肉体を持つ者のみ!!
ワシは世界の崩壊を乗り越え、新たに誕生した世界で、支配者として君臨するのだ!!
このワシこそが、新たなる世界の神となるのだぁ!」
悠騎(死と……新生!)
悠騎の脳裏に浮かんだのは、ムーンレィスの冬の宮殿で見た、“失われた世紀”のヴィジョンだ。
ヴィナスは、あれから何度も死と新生を繰り返した後、今の世界が誕生したと言った。
その宇宙の“死”が、近いうちに起こるというのか。
ゼド「ふむ……宇宙の死と新生ですか。
これまでも断片的に出てきましたが……いよいよ現実味を増してきましたね。
この戦いが終わったら、本気で取り組まなければならないようです」
ムスカ「生き残れたら、の話だろ。このままだと、世界が滅ぶ前にあの野郎に吸収されちまうぜ」
ガデス「ふん! 何を他人事のような口を利いておるか!!
この宇宙が死滅するのも、元を正せば貴様らイレギュラーが元凶なのだぞ!!」
悠騎「な、何だって!?」
ガデスの発言は、異世界から来たG・K隊の者全てに衝撃を与えた。
ガデス「『L.O.S.T.』は、本来宇宙が壊滅の危機に瀕さない限り、眠りについているはずだった。
いわば自然現象、世界のリセットの為のシステムなのだ。
それを起こしたのは貴様たちだ!
貴様たちが次元の狭間を越えこの世界に侵入したが故に、世界のバランスは崩れ、
『L.O.S.T.』は目覚め、世界の滅びは早まることとなった!」
リュウセイ「く、口から出任せ言ってんじゃねー!!」
しかし、皆思っていた……作り話にしてはあまりにも出来すぎている。
そんな作り話をする必要がどこにあるというのか。
ガデス「だがお前たちには感謝しておるぞ!
『L.O.S.T.』が目覚めたが故に、その対極であるハイリビードもまた目覚めた!!
これまで杳として行方の知れなかったハイリビードの存在を感知でき、こうして手に入れることが出来たのだ!!
感謝の証として、お前たちも我が体内に取り込んでやろう!
そうすれば、ワシの中で永遠に生きることが出来る!
宇宙の死であろうと恐れることはない! どうだぁ? グワハハハハハハハ!!!」
タツヤ「じょ、冗談じゃねぇ!!」
307
:
藍三郎
:2009/10/03(土) 17:02:12 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
全力で否定するタツヤ。
しかし、ゼドはガデスの言葉の一つ一つを、冷静に吟味していた。
ゼド(ハイリビードがLOSTの対極?
そして、ハイリビードを取り込んだガデスは、宇宙の死から逃れられると言った……
ならば、もしかすると……)
パルシェ「そんな……私たちが……」
リュウセイ「ま、待てよ。俺たちは自分達の意思でここに来たんじゃない。あいつらが……」
ヴィレッタ「じゃあ、<アルテミス>の狙いは、まさか……」
明かされた衝撃の事実に、皆困惑していた。
それでも、現時点で彼らに出来る事といえば、ガデスから逃げ惑うことだけだった。
ジム「お嬢さま! しっかりしてください!」
レイナ「あ……ああ…………」
ジムはヘリ形態に変形し、レイナを載せて飛んでいる。
兄二人を目の前で失った衝撃から、レイナはまだ立ち直れていない。
だが、彼らの頭上に黒い影が覆い被さる。
ガデスがすぐ後ろまで迫ってきているのだ。
ジム「ガ、ガデス!!」
ガデス「小娘ぇ!! 貴様さえ消し去れば、キライの血縁は完全に途絶える!!
天空宙心拳の存在を、この宇宙から完全に抹消してくれようぞ!!」
ジムとレイナに手を伸ばすガデス。逃げようとしても、引き寄せられる。
このままでは、自分たちもグルジオス同様、ガデスの一部にされてしまう。
ガデス「グハハハハハハハハハハハ!!!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
レイナ(兄さん……兄さん!!)
その時……
「待てい!!」
ガデス「!!」
凛とした声が響き渡り、ガデスが、この戦場にいる全員が、動きを止める。
ぽっかりと穴の開いたギャンドラー要塞の屋上部分……そこに、一人の人影が立っていた。
満月を背にして立つそのシルエットは、腕を組み、ガデスを見下ろしながら言い放つ。
「人は誰でも宇宙を動かせるほどの、無限の力を秘めている。
しかし、その力を破壊と殺戮に使おうとする者もいるだろう……
創造に使うか破壊に使うかは、人に委ねられた最後の選択なのだ。
あらゆる生命の源である光を、絶やすまいとする心……
人、それを……『愛情』という!」
ガデス「誰だ、貴様!」
ロム「クロノス族族長、キライ・ストールの遺子、ロム・ストール!」
ガデス「何っ!?」
ロム「闇の支配からこの世を守れとの命により、ここに正義の鉄槌を下す!!
とぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ガデスに斬りかかるロム。月光を反射して、剣狼の刀身が煌く。
剣狼も鉱物である以上、ガデスに吸収されるはず……だが、そうはならなかった。
剣狼の刃は、吸収されることなくガデスの皮膚を貫き、その腕に深々と食い込んだ。
ガデス「ぐあああぁぁぁぁぁっ!!!」
皮膚が裂け、紫色の体液が噴出する。予期せぬ痛みに、ガデスは絶叫をあげる。
308
:
藍三郎
:2009/10/03(土) 17:02:57 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
同時に、ガデスに吸い込まれそうになったレイナとジムを、金髪の男が救い出す。
ガルディ「レイナ! 無事か!!」
レイナ「兄さん……! ガルディ兄さん!!」
ガルディもまた生きていた。
レイナは喜びのあまり、溢れる涙を止められない。
レイナ「二人とも生きていたのね!!」
ガルディ「ああ、お前を残して、二度も死ねるものか」
あの時、自分が行方不明になってロムとレイナは苦難の道を歩むことになってしまった。
自分は、そんな二人を護ってやれなかったばかりか、あまつさえ刃を向けてしまった。
長兄としての役割を、今こそ果たす時だ。
タツヤ「生きてた! ロム兄さんが生きてたぜ!!」
ドモン「ふ……俺は信じていたがな」
レミー「というか、とうとう名乗ったわね、あの人……」
ガデス「ば、馬鹿な!?」
ガデスはまだ動揺していた。不滅の肉体を持つはずの自分が、手傷を負ったことが信じられないのだ。
ガデス「ど、どういうことだぁ!?」
ロム「ガデス! 剣狼が……剣狼に宿る父さんの魂が教えてくれた……!」
ロムとガルディは、ガデスの攻撃の余波で要塞の外へと吹き飛ばされていたのだ。
だが、二人とも意識を失い、このままでは要塞もろともガデスに吸収されるところだった。
そんな彼らの目を覚まさせたのが、剣狼からの、父キライからの呼びかけだ。
ロム「ハイリビードは意志を持つエネルギー……
剣狼は、そのハイリビードと意志を通じ合わせるための武具なのだ」
ガルディ「そしてこの流星もまた、剣狼と同じ力を持つ武器!
ガデス、俺を捕らえて洗脳したのは、俺にしか使えないこの流星でハイリビードを捕獲するためだったのだな」
ロム「ハイリビードは、正しき心を持つ者に力を貸す。
ガデス! 貴様はハイリビードを取り込んだが、完全に一体化したわけではない!
ハイリビードの意志を屈服させ、無理矢理支配しているだけだ!!
だから、この剣狼と兄さんの流星で、ハイリビードの意志を目覚めさせる!!」
ガルディ「ハイリビードが解放されれば、貴様の無限の力は失われる……!
その時こそ貴様の最後だ! ガデス!!」
ガデス「黙れぇぇぇぇぇぇ!! ハイリビードはワシのものだ!!
ワシがこの宇宙を支配するためのものなのだ!!」
右胸のグルジオスの顔面が、不気味に蠢く。
すると、ガデスの全身から今まで吸収した妖兵コマンダーが吐き出され、ガデスの周囲にずらりと並ぶ。
彼らに本来の意思などはなく、命無き傀儡、ガデスの断片というべき存在である。
だが、ガデスのパワーを直に浴びた彼らは、以前よりも強化されていた。
その大軍勢を前にしても、ロムとガルディの心は折れない。
巨悪への怒りに、闘志が際限なく燃え上がっていく。
ロム「ガデス……どれだけの人形に囲まれようと、貴様は所詮ただ一人だ」
ガデス「何ぃ?」
ロム「俺には多くの仲間がいる。支えてくれる兄妹がいる!!
この絆こそが、天空宙心拳の本当の力だ!」
ガルディ「父さんは、いつだって俺達にそれを教えてくれていた……」
ロム「父さんがハイリビードに込めた想いを、己の欲望のために踏みにじったお前を許すわけには行かない!!
ガデス! 今こそ全ての決着をつけてやる!!」
309
:
蒼ウサギ
:2009/10/15(木) 02:56:29 HOST:softbank220056148025.bbtec.net
ガデス「ほざくなぁ!」
ガデスの怒声にも似た叫びを合図をするかのように、周囲に並んだ妖兵コマンダーが一斉にロムとガルディに襲いかかる。
これまでのバラバラな動きではない。王に統率された兵士の動きだ。
しかし―――
ムスカ&タツヤ「おらぁぁぁ!!」
爆炎が咲き、それに続く様に、
ブンドル&トレーズ「はぁっ!」
また一つ。
悠騎「おうりゃあ!」
また一つと派手に仲間達が妖兵コマンダーをなぎ倒していく。
語らずとも、ロムには分かる。露払いは任せろということなのだろう。
ガルディ「いい仲間をもったな、ロム」
ロム「彼らに報いるためにも、オレ達は!」
「行こう!」
何も迷わず。振り返ることもなく。
ただガデスを倒すために!
ガルディ「天空真剣! 流星落としぃぃぃぃ!!」
ガルディの剣は凄まじく、ガデスの左胸へと振り下ろされた。
ガデス「おのれぇ、死にぞこないがぁ!」
ガルディ「天空宙心拳は心の拳! 肉体は滅んでも心は死なん!」
それを聞いて、ガルディの一撃を食らって苦痛に歪んでいたガデスの表情が不気味な笑みを作った。
ガデス「ならばその心。我が一部なって永遠に生きるがいい!」
ガルディ「なに!?」
ガルディに嫌な予感が走った時には、すでに遅かった。
ガルディが加えた一撃の傷が融解し、あたかも蟻地獄のように瞬く間にガルディを飲み込んだのだ。
そして、右胸のグルジオス同様、オブジェのようにガルディもまたガデスに取りこまれてしまった。
その光景に一同、激震が走る。
ロム「兄さん! くっ、ガデェェス!」
怒りに駆られたロムが剣狼の刃を向けると、ガデスはそれを悠然と制す。
ガデス「ふぅ、いいのか? せっかく助けたお前の兄を傷つけることになるぞ?」
ロム「!?」
その言葉に硬直する。
ガデスを倒すことは、兄を倒すことと同義。
その残酷が現実が、今まさに突き付けられた瞬間だった。
ドモン「ロム……。くっ!」
ドモンにかつての苦い記憶が過る。
致し方ないとはいえ、自分の手でデビルガンダムを…兄を倒した記憶。
ドモン「オレは、オレは…どうしたら……兄さん! 師匠!」
歯がゆさと、悲しみを噛みしめながら向かってきた妖兵コマンダーにゴッドフィンガーを叩き込む。
自分に何がしてやれる?
似たような境遇、似たような状況を味わされた同じ武道家として何を言ってあげられるか。
悩んでいる内にガルディがすでに動いていた。
ガルディ「ロム! これを受け取れ!」
彼が弟に投げたのは流星。
ロムは、その行動に目を剥いた。
ガルディ「ロム! オレを敗ったあの天空宙心拳極意を覚えているか?」
ロム「な、なにを言ってるんだ、兄さん?」
確かにロムは覚えている。
あの瞬間、無我夢中で放った技。
使えるかどうかも分からないが、父、キライが見せてくれ、それで兄をギャンドラーから解き放てた奇跡ともいえる技。
ガルディ「剣狼と流星! 二つの剣が一つとなった時。あの奥義はその真価を発揮する! それでオレごとガデスを斬れぇ!!」
ロム「!?」
レイナ「!?」
310
:
蒼ウサギ
:2009/10/15(木) 02:58:19 HOST:softbank220056148025.bbtec.net
その言葉に、ロムは驚愕し、レイナは半ば放心した。
そして、ドモンは、どこか予感していたようで苦渋に表情を歪めた。
ドモン(弟が兄を倒す……これが繰り返されるのか!)
モビルトレースシステムの中で、ドモンは拳を震わせながらガルディの言葉に耳を傾けた。
ガルディ「お前……そしてレイナは、オレがあれほどのことをしたのに「兄さん」と呼んでくれた」
ロム「あ、当り前じゃないか! 兄さんに変わりはないじゃないか!」
ロムが叫び、離れているレイナも叫ぶ。
レイナ「ガルディ兄さんも、ロム兄さんも、どちらも私の大切な兄さんよ! だから生きて帰ってきて欲しいの!」
悲痛な叫びがこだまする中で、ガデスは悠然と笑った。
ガデス「はははは、ガルディよ。奥義がどうのとかいっていたが、肝心のロム・ストールがこの調子では望みが薄いなぁ」
ガルディ「ぐっ、黙れガデス! やれ! やるんだロム! 何を躊躇っている! 自分の肉親への情の拘りのために、この星を犠牲にしてもいいのか!」
頭では分かっている。だが、感情がロムを突き動かさない。
これは、彼ら兄弟達の問題。
仲間達からの言葉に、入り込む余地はない。
一人を除いては。
ドモン「ロムぅぅぅぅ!! お前はここへ何しに来た? オレ達はここへ何しに来た!?
お前も武道家、いや、クロノス族族長の遺子、キライ・ストールならば目的を見失うな!」
ロム「っ!」
ドモン「ガデスにハイリビードを好きにさせてしまえば、こんな悲劇が繰り返されるだけだ! だからこそ、お前達がいるのだろう!」
ロム「ドモン……!」
ドモンは「お前達」と言った。
ロムとガルディ。剣狼と流星。
ロムは、自然とそれらの柄同士を合体させて一つにしていた。
ガルディ「そうだ…ロム。せめて、お前の手で……」
ガデス「ぐっ! やらせん!」
ロムの目に危険を感じたのか、ガデスが仕掛けてきた。
ドモン「ゴッドフィールドダァァァッシュ!!」
疾風の如き速さでガデスに迫るゴッドガンダムはすでにゴッドフィンガーの構えに入っていた。
ドモン「兄弟のケジメに邪魔させん! ゴォォォッドフィンガァァァァァァア!!!」
ロムに振り下ろされたガデスの爪を、間一髪のところでゴッドフィンガーが止める。
そして次の瞬間、ロムは空高く跳躍していた。
ガデス「ぬぅ!」
眩い光の中で、ロムはケンリュウとなり、続いてパイルフォーメーションしてバイカンフーとなる。
ロム「二刀一刃! 天よ地よ、火よ水よ! 我に力を与えたまえ!」
バイカンフーの手で回転する剣狼と流星。
ガデス「まさか奴め……本気でガルディを、兄を……斬るというのか!?」
ドモン「ふん、覚悟を決めた人間。そして、覚悟を決めた戦士をお前は見誤ったようだな!」
誇らしげに呟くや否な、ゴッドガンダムはバイカンフーの持つ眩い剣に消えるかのように、ガデスから離脱した。
そして、ロムが叫ぶ。
ロム「聞けぇ! ハイリビードは貴様のような私利私欲に走る悪が使っていいものではない! これは世界を救う希望の力だ!」
ガデス「おのれぇぇえ!!」
ガデスの大剣に最大級の稲光が一瞬にして纏っては、ロムに向かって放たれる。
それは、ハイリビードを持っているからこそできる今のガデスの全力。
311
:
蒼ウサギ
:2009/10/15(木) 02:58:57 HOST:softbank220056148025.bbtec.net
ロム「おぉぉぉぉ!!」
光の刃と、黒い稲光が激突して膠着する。
その激しい余波が戦場を揺るがした。
ここまでかなり疲弊した機体では、まともに立つことさえできないほどそれは凄まじい。
レイナ「兄さん……」
不安な面持ちで二人の対決を見つめる妹は、もう見守ることしかできないと悟った。
どちらが勝っても自分は一人の兄を失うことになる。
できることなら、あの戦い止めたいが、ドモンの声、ガルディの声を聞いてレイナもレイナなりに分かったつもりだ。
だから、せめてこの戦いの結末は最後まで目を逸らすことなく見ていようと決意したのだ。
自分も、彼らの兄妹の一人として。
そして、その戦いも終わりが見え始める。
ロム「ぐぅ! オレは……オレは……!」
左胸に見えるガルディの顔を見て、ロムの剣にこめる力が増大した。
兄を取りこみ、父の仇である眼前の敵ガデス!
ロム「お前を倒す!」
天空宙心拳極意!
ロム「運命両断剣!!」
第一斬で、黒い稲妻と、共に右胸のグルジオスを斬り裂き、続いて、
ロム「ツインブレェェェド!!」
第二斬の斬り上げで、ガデスを真っ二つに斬り裂いた。
ガデス「ぐあぁぁぁあぁぁっ!!」
阿鼻叫喚の叫びと共に、ガデスは眩い光に呑まれていった。
左胸に取りこまれ、無傷のガルディの表情は、実に安らかなものだった。
312
:
藍三郎
:2009/10/17(土) 23:55:41 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
剣狼と流星を組み合わせた刃から繰り出す天空宙心拳極意・運命両断剣ツインブレードにより、ガデスの内で閉じ込められていたハイリビードは解き放たれた。
ガデスの肉体は内側から砕かれ、彼に吸収された命もまた、光の粒子となって周囲に飛び散る。
その中には、ロムの兄、ガルディ・ストールの命も混じっている。
ドリル「ついに……ガデスを倒した……!」
ジェット「だが……俺達が失ったものは……あまりにも……」
グローバイン「ガルディ……お主こそは真の漢(おとこ)であった……!」
ついにクロノス族最大の宿敵、ガデスを打ち倒したロム。
そのために払った犠牲は、あまりにも大きすぎた。
兄の最期を見届けたレイナの両目からは、涙が溢れて止まらない。
レイナ「兄さん……ううっ……」
ロム「すまない……そして、ありがとう……兄さん……
貴方は最期まで、誇り高き天空宙心拳の戦士だった……」
ロムの瞳から、一滴の涙が流れる。
だが、まだ悲しみに浸るには早すぎる。まだ自分には、天空宙心拳継承者として為すべき使命が残っている。
ガデスの身体から離れたハイリビードは、光の球となって中空に浮かんでいる。
かつて、プロトカルチャーの遺跡で発現した時と同じだ。
あの時ガルディは、流星を使ってハイリビードを捕獲した。今度は自分がそうする番だ。
剣狼と流星を、ハイリビードに向けて掲げ、強く念じるロム。
ハイリビードも、双剣に呼応してゆっくりと動き出す。
しかし……
突如、ハイリビードを取り囲むように、赤い光の障壁が発生する。
それらは正六面体を形成し、ハイリビードの動きを止めてしまう。
ロム「な!?」
全く予期せぬ展開に、ロム達が驚愕する間も無く……
???「やれやれ……一時はどうなることかと思いましたが……
無事、確保できたようで何よりですな」
光の六面体に立つように現れたのは、シルクハットに黒いマントを着用したガンダム……
ドモン「貴様……ジェローム・フォルネーゼッ!!」
ジェローム「お久しぶりです。G・K隊の皆様……
できれば、再会の挨拶代わりのマジックでも披露したいところですが……」
言葉も発さずに、ガンダムミステリオに向かって飛び立つロム。
他の機体も、一斉にハイリビードの下へ殺到する。
だが、一足遅かった。
ジェローム「生憎時間がありません。
今回は、“消失の奇術”だけに留めさせていただきますよ」
ガンダムミステリオを中心に、空間の歪みが発生する。
アルテミスがいつも起こしている現象だ。六面体に捕らわれたハイリビードもろとも、ガンダム
ロム「くっ……!!」
ジェット「何てこった……!」
兄の犠牲もあって、ようやく取り戻しかけたハイリビードを土壇場で奪われた……
マシンロボチームの落胆は計り知れない。
313
:
藍三郎
:2009/10/17(土) 23:57:37 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「まさか、彼らの狙いは最初からハイリビードだった?」
迂闊だった。プロトカルチャーの遺跡での一件を見るに、ハイリビードを狙う勢力はギャンドラーだけではないことは予想して然るべき。
ジェロームはずっとギャンドラー要塞に潜み、ガデスが斃れ、全員が力を使い果たす時を待っていたのだ。
そして、まんまとハイリビードを手中に収めた。
ガデスが遺した「イレギュラーの存在が世界の崩壊を加速させた」という言葉……
自分たちG・K隊を、この世界に呼び寄せたのはアルテミスだ。
そのアルテミスに所属しているジェロームが、今目の前で、ハイリビードを奪取した……
世界を破滅させる存在『L.O.S.T.』……
それが目覚めたが故に、ハイリビードもまた目覚めた……
いくつもの事実が符合するにつれて、この大戦の影に潜む真実が浮かび上がってくる。
自分たちは、世界の核心に迫りつつある。
そして、これから起こるであろう破局を避けるには、その全てを知らなければならない。
果たしてその答えは、コスモ・フリューゲルに帰還した時にもたらされた。
コスモ・フリューゲルには夏彪胤からの通信が届いていた。
彼が言うには、ようやく通信できる状態になったので、コンタクトを取った。
その目的は、今この世界で起こっている異変の真実を伝えること……
通信回線の繋がった大ホールには、G・K隊、統合軍の関係者のほぼ全員が集められていた。
正面のモニターに、夏彪胤の姿が映し出される。
その姿は、一気に50年以上もの時が流れたように老いさらばえていた。
ムスカ「ど、どうしたんだよその姿は……」
彪胤『うむ、開きかけた“門”を閉じるのに力を使いすぎてね……むしろ、これが私の本来の姿というべきだ』
そう言って、場のある一点に視線を送る。
彪胤『白豹にとっては、この姿の方が馴染み深かろう』
白豹「はい、大老師殿……」
白豹は前に出ると、膝を突いて平伏の姿勢を取る。
ムスカ「お前……! この人のこと知ってたのかよ!?」
ゼド「大老師……? まさか、貴方があの白家の老師、白天峰(はく・てんほう)の師で、共に白家を隆盛に導いたといわれる……?」
ムスカとゼドの反応を見て、彪胤は昔を懐かしむように、微かな笑みを浮かべる。
もしそうならば、この人物の年齢は百を優に越えているはず。
彪胤『私の正体についてはおいおい語るとして……まずは現在の状況に対処する方が先だ』
ムスカ「ああ、確かにそうだ。だから俺達は、今こそ全てを知る必要がある」
悠騎「俺達が何故この世界に送り込まれたのか……世界の死と新生ってのは何なのか」
ゼド「そして、『L.O.S.T.』とは何なのか……」
彪胤『いいだろう。まずは、最初に大前提として話しておくことがある……』
こうして夏彪胤は長い話を始めた。それは、世界の裏に潜むある真実だった。
彪胤『この世界には、<修正力>と<崩壊力>という二つの力が存在している。
それらは、正と負、陰と陽、創造と破壊を司る両極の力だ。
修正力は、生命を生み、世界を修復し、調和と安寧を保つ力だが、
崩壊力は、生命に死を与え、世界を壊し、混乱と災厄を生む力だ。
この二つの力は、何も珍しいものではない。
常世のあらゆる存在は生まれ、育ち、進化する一方で、朽ち、衰え、いつかは必ず滅ぶもの。
修正力と崩壊力とは、誕生と消滅という、世界における当然の摂理を成立させる為の力なのだ』
314
:
藍三郎
:2009/10/17(土) 23:59:25 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「我々の持つ科学知識では解明し得ないメカニズム……という奴ですか」
彪胤『そういうことになる。この力は、我々の世界に普遍的に存在するもの。
同等の値のプラスとマイナスを足せばゼロになるように、本来二つの力は拮抗しており、表立って世界に影響を及ぼすことは無い。
しかし……一つの世界が、文明の消失や生態系の絶滅によって、
これ以上先の無い“終わり”を迎えた時、世界は崩壊力によって死を迎え、その後に修正力によって新たに生まれ変わる。
宇宙の死と新生を司ることこそが、修正力と崩壊力の主な役割だ。
あらゆる宇宙は、この破壊と創造のサイクルを繰り返すことで、永続性を保ってきた。
この世界でも、かつて同様の現象があった……』
ロラン「まさかそれが……」
彪胤『黒歴史の終焉……それによって死を迎えた後に、この世界は修正力によって新生したのだ。
先ほども言ったとおり……普段は両極のバランスが拮抗している事によって世界に害を及ぼす事は無いが……
時空の歪みや並行世界の交叉などが起こると、そのバランスが崩れ、世界に悪影響を及ぼすようになる。
具体的には、世界の終焉の加速だ。元来ただ世界の調律するシステムであるはずの崩壊力が、
世界を滅ぼすという意思を帯びるようになる。それが……』
ムスカ「ガデスの言っていた、『L.O.S.T.』って奴か……」
彪胤『L.O.S.T.……それは、次元の歪みが原因で生み出された超常存在。崩壊力の化身だ。
奴はその力で各地に破壊と殺戮を巻き起こし、世界のバランスを歪め……
最終的には、文明がまだ滅びていなくとも、世界を構成する次元そのものを崩壊させて世界を終焉に導く。
このような現象は、過度な並行世界からの行き来が原因で起こるとされ、次元の狭間を通り抜ける際の人々の意思が、
本来無色透明であるはずの崩壊力に影響を与え、意志を持つ存在へと変えてしまうのだ』
由佳「つまり……並行世界を行き来して、崩壊力に意志を与えてしまったのが、私たち……」
神「ガデスが我々こそが世界の終焉の原因と言ったのは、そういうことだったのだな」
彪胤『無論、君たちだけが原因ではない。数名程度の人間の移住ならば、崩壊力が意志を持つほどに次元が乱れることなどありえない。
この世界には、君たちがアルテミスによって転送される前にも、もっと多くの人間が転送されてきている』
アスラン「俺達ザフトやOZの連中か……むしろ影響があるとすればそちらの方なのかもな」
ムウ「その前に、アルテミスの連中自身も自由に次元を移動しているぜ?」
彪胤『むしろ君たちの存在は、次元を乱すきっかけに過ぎないのだろう。
アルテミスは、もっと直接的な手段で次元の歪曲を行っていると思われる。
全ては、崩壊力を目覚めさせるために』
悠騎「奴らは何だってそんなことを!」
キリー「さっきの話からすると、その崩壊力とやらが目覚めると、この世界は滅んじまうんだろ?」
パルシェ「そんなことして、一体何になるって言うの……?」
彪胤『彼らの最終目的は、私も未だ全てを知りえているわけではない。
だが、想像はつく……崩壊力の目覚めは、同時にその対極である修正力を目覚めさせる。
L.O.S.T.同様、修正力をまた、意志を持つ存在として覚醒するのだ。
それを、君たちはつい先ほど、目の当たりにしているはず……』
ロム「まさか……ハイリビードが?」
彪胤「そう、ハイリビードこそが、『L.O.S.T.』と対を成す修正力の意志の具現化だ。
その内に秘められた力は、L.O.S.T.と同様……
崩壊力による世界の終焉を食い止めるための、最終手段だ。
だが、その凄まじいエネルギーは、使いようによっては奇跡にも等しい事象を実現する。
世界の救済ではなく、ただ一人の為に使えば……不老不死の神にも等しい存在に昇華させることも可能となる』
ロム「それをやろうとしたのが、ガデス……」
彪胤『プロトカルチャーは、修正力と崩壊力の存在を知り、その危険性を重々承知していた。
だからこそ、ハイリビードはあの遺跡に封印されていたのだ。
解放するには、剣狼と流星……そして、平和の象徴……
異種族間で誕生した人間の遺伝子が必要となっていた』
ミレーヌ「それがあたし……」
ジム「クロノス族の伝承に残されたハイリビードが、何故地球に……と思っていましたが……
もしやプロトカルチャーとは、クロノス族の源流でもあるのでは……」
ゼド「話が繋がってきましたね。
アルテミスの狙いは、崩壊力を目覚めさせると同時に、修正力……即ちハイリビードを目覚めさせること。ガデスの発言とも全て符合します」
315
:
藍三郎
:2009/10/18(日) 00:02:09 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
彪胤『君たちが選ばれたのは偶然ではない。修正力と崩壊力に影響を及ぼす、『鍵』となりうる人物が多くいたからだろう』
ヴィレッタ「鍵……とは?」
彪胤『この世のあらゆる生物は、修正力と崩壊力の影響を受けずにはいられない。
だが、例外も存在する。修正力や崩壊力の束縛から逃れ、
また、それら両極の力に影響を及ぼす事の出来る特別な力や存在……それこそが『鍵』だ。
両極の門を開くことが出来る事から、『鍵』と呼ばれている。
これらの存在は、修正力や崩壊力によって影響を受けず、逆にそれらの力を変化させる事さえできる。まずは、ロム君が持つその二つの剣だ』
ロム「剣狼と、流星が……」
彪胤『その二つの剣は、ハイリビードの意志に干渉する力を持つ。
鍵は物体の形状を取るとは限らない。人間や、力そのものとなる場合もある。
君達の仲にも何人かいるニュータイプやベラアニマと呼ばれる能力者も、それに該当すると言われている』
ガロード「ティファが?」
悠騎「俺のベラアニマの力も、『鍵』……?」
彪胤『そして使徒やプロトデビルンと呼ばれる存在もまた『鍵』の力を有している。
そしてアルテミスには、あらゆる並行世界からその鍵を探し出す力が備わっている。
鍵が次元の狭間を通過した時、次元にいくらかの乱れが生じる。
本来はすぐに塞がるはずのそれに、力の干渉を加えることで、際限なく拡大させる……それを繰り返すことで、崩壊力の覚醒を促したのだ』
何も分からないまま、見知らぬ世界へ飛ばされたG・K隊……
その現象そのものが、世界崩壊に繋がるほどの事態を呼び起こしていたとは……
皆、その事実を受け止め切れていない。
その心情を理解しつつ、今は真実を告げることが先と、彪胤は話を続ける。
彪胤『だが、決定打となったのは、深虎が持ち出した白家の秘宝だ。
あれは他の鍵と比べても、まるで次元の異なる力(パワー)を宿していた。
それを引き寄せたのはアルテミスではない……既に半ば目覚めていたL.O.S.T.自身だ。
意志の芽生えたL.O.S.T.は、自身の更なる覚醒に向けて動き出した。
アルテミス同様異世界に思念を飛ばし、己を復活させうる鍵を探し出しだのだ。
それが……白家の秘宝『時流の顎(あぎと)』と、ネオネロスだった』
ケルナグール「ネオネロス様じゃと!?」
レミー「ここに来て、あたし達に馴染み深い名前が出てきたわね……」
彪胤『ネオネロス……あれの正体は、L.O.S.T.と起源を同じくする崩壊力の化身だ。
元々は一つの存在、互いの意志は共有している。
そして、共に自身の完全復活に向けて動き出したのだ。
実際には、L.O.S.T.の断片に過ぎないネオネロスは操られている状態にあったが……
その第一段階として、深虎を影ながら動かし、白家から秘法を持ち出させた。
その後、この世界に転移し、次元の“門”を開き、L.O.S.T.の潜む領域と、この世界とを結合させた。
できれば、この段階で阻止したかったのだが……』
真吾「そういえば、ドクーガとの最後の戦いで、あんたネオネロスを追ってどこかに行っちまったよな」
彪胤『ああ……ネオネロスには追いついたが、私の力が及ばず、L.O.S.T.の門を開かせてしまった。
そしてここからだ……L.O.S.T.が、契約者を用いて世界に露骨な干渉を始めるのは……』
316
:
藍三郎
:2009/10/18(日) 00:04:23 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「契約者……」
彪胤『崩壊力の化身と言っても、L.O.S.T.は、ただの力と意志だけの存在。
覚醒したところで、そのままではただ“存在”しているだけに過ぎない。
その力を現実の事象とするには、この世界に確たる存在を有する寄り代が必要……
そして、崩壊力によって選ばれた人間を『契約者』と呼ぶ。
最初の契約者は君たちがよく知っている人物だ』
ムスカ「葉山翔大尉か?」
彪胤はゆっくりと頷いた。
彪胤『彼は半ば目覚めていたL.O.S.T.に接触し、契約者として選ばれた。
彼の持つニュータイプ能力は、『鍵』としての特質も備えている。だからこそ引き寄せられたのだろう……
だが、L.O.S.T.にとっての誤算、我々にとって幸運だったのは、
葉山氏が想像以上の精神力で、L.O.S.T.の意志を抑えていたことだ。
彼の意志は固く、容易に乗っ取らせはしなかった。
それにより、L.O.S.T.の復活にはかなりの遅れが生じることになる』
ムスカは、翔が医務室で苦しんでいたことを思い出す。
彼は一人、そんな規格外の怪物と孤独に戦っていたのか……
彪胤『それに業を煮やしたのか……L.O.S.T.は、新たな契約者を選抜する。
それが、ネオネロスによる次元解放に居合わせた、深虎だ』
深虎の名を聞き、白豹の目が殺気を帯びる。
彪胤『葉山氏の時とは全くの逆……
深虎の内なる狂気と暴力性は、L.O.S.T.の意志と極めて近かった。
彼が契約者になったことを皮切りにして、L.O.S.T.は一気にその力を現世に解放するようになる。
深虎が魔人の如く変貌したのも、彼が生み出した未知なる機動兵器も、L.O.S.T.の力の現れの一端。
今や深虎とL.O.S.T.の意志は限り無く融合し……次元の壁を壊し、世界を破滅させようとしている……』
ゼンガー「火星の戦いで発生したあの次元の亀裂も、L.O.S.T.の力だというのか……」
彪胤『さて……そろそろ、私自身の話に移ろうか。
崩壊力は、契約者を用いてその力を表出すると言った。一方で、崩壊力と対をなす修正力にもまた、契約者は存在する。
今回の両極の覚醒において、修正力側の契約者に選ばれたのが……この私なのだよ』
ムスカ「あんたも……契約者?」
彪胤『ああ……深虎が白家の秘宝を盗み出したのと同時期に、私は修正力に見出され、契約者となった。
私も『鍵』としての力を有していたからね……思えば、漠然とした予感はあった……
百八年に渡る私の生涯は、大いなる使命を果たす為にあったのだと……』
かつては若々しく見えた彼の外見も、修正力によって契約者と化したゆえなのだ。
彪胤『目覚めた頃の私は、まだ全てを知りうることはできなかった。
君たちに最初から全てを話すことができなかったのはそのためだ。
ただ、修正力の導きに従い、L.O.S.T.の動きを阻止するので精一杯……
それすらも満足に果たせなかったのだが……』
自嘲するように語る彪胤。
彪胤『修正力の助けも得て、何とかL.O.S.T.の影響をこれ以上広げぬよう抑えてきたが……それももう限界だ。
まだハイリビードがあれば、状況を好転できるのだが……私は結界の構築に手一杯で、もはや動くことも叶わない。
結界が破られれば、一気にL.O.S.T.の眷属があふれ出し、この世界は地獄と化すだろう。
そこで、君たちに頼みたい……ハイリビードを取り返し、その力でL.O.S.T.を滅ぼしてくれ……!』
ムスカ「はっ、薄々そう来るとは思っていたが……」
317
:
藍三郎
:2009/10/18(日) 00:06:33 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
彪胤『剣狼や流星を始め、ニュータイプにサイコドライバー、ベラアニマ……君たちの下には、多くの『鍵』が存在する。
他にも、修正力と同じエネルギーを持つ者も多くいる。それらの力もまた、L.O.S.T.との戦いで大きな力となるはずだ』
キリー「え?そんなすごい力が、俺らにあんのか?」
彪胤『ビムラーやアニマスピリチア……生命を活性化させ、“正”の影響をもたらすこれらもまた、修正力なのだよ』
真吾「マジか……」
ガムリン「アニマスピリチア? 確か、プロトデビルンがバサラのことをそう呼んでいたが……」
当のバサラは、さっきから全く興味なさげに眠っている。
レミー「ビムラーは、元々意志を持つエネルギーって話だけど……」
レイ「ハイリビード、ビムラー、アニマスピリチア……
それらは全部ひっくるめて、修正力という意志を持つ巨大な一つの力なのだな」
彪胤『修正力もまた、崩壊力と同じ……“全にして一なるもの、一にして全なるもの”なのだ。
両者はどこまでも拮抗している。
覚えておいてくれ……最後に勝敗を分かつのは、人の意志だということを……』
ムスカ「つまりこれは両者互角のチェス……
修正力も崩壊力も、どっちもただの駒でしかねぇ。重要なのは差し手である俺らってことだな」
由佳「わかりました! 私たちはアルテミスからハイリビードを奪還し、何としてもこの世界の崩壊を止めてみせます!」
キョウスケ「責任の一端は俺達にもあるらしいからな、当然のことだ」
ジョウ「あんたらのせいじゃねぇよ。悪いのはアルテミスとL.O.S.T.って野郎だ!」
エイジ「ようやく戦争が終わって、平和な世界への道が開かれたんだ。理不尽な暴力で、この世界を滅ぼさせはしない!」
ロム「父さんや兄さんが、命を捨てて守り抜いたハイリビードで、この世界を救ってみせる!」
悠騎「そのために、アルテミスからハイリビードを取り戻す!」
リュウセイ「どの道アルテミス(やつら)とは決着をつけなきゃならないんだ。
はっきりした目的が出来てむしろ助かるってもんだぜ!」
彪胤『ありがとう……その強き意志こそが、修正力にも勝る力となって、世界を救うだろう。私は、そう信じている……』
ゼド「最後に聞かせてくれませんか?ハイリビードを手に入れたアルテミスの目的とは一体何なんです?」
彪胤『それは分からない……君たちから異能力者を捕獲しようとしているのは、ハイリビードを制御する為の鍵を増やす為だろう。
だが、ハイリビードを何に使うかまでは……』
ゼド「次元の崩壊を止めるためではないでしょうね。
そもそも彼らは世界が崩壊する危険を承知の上で、L.O.S.T.を、ひいてはハイリビードを目覚めさせたのですから」
ついに明かされた、この世界そのものを脅かす敵の存在……
アルテミスの目的を始め、未だに謎は多い……だが、彼らの志は世界の垣根を越えて、より強く結びついていた。
彪胤(L.O.S.T.が、世界を一つ犠牲にしてでも己が野望を叶えようとする人の意志の具現化ならば……
この危難に立ち向かう人々の強き絆こそが、修正力そのものなのだろう。
これは神や悪魔の戦いではない……最後に未来を決めるのは、人々の選択なのだ……)
318
:
蒼ウサギ
:2009/10/28(水) 23:23:15 HOST:softbank220056148079.bbtec.net
=???=
そこは何もない暗闇だけが支配する空間だった。
12体のモノリスが円状にして並んでいた。
キール「イレギュラーはまた一つ我らの計画を修正してくれたな」
委員A「皮肉、というしかないな。目の上のたんこぶでしかないはずの彼らがこうも我らの障害を排除してくれるとは」
委員B「よもやイレギュラーの中に碇の息子がいることが要因しているのか?」
委員C「まさか!」
キール「可能生はある。事実、そのことで使徒に多くの欠番が生じている」
委員B「左様。死海文書に記されているはずの使徒は、前回の使徒後、予定ではあと二体のはず」
委員C「それがもう―――」
第44話『最後のシ者』
モノリスが一斉に消えてそこに二人の人物にスポットライトが当てられ、姿を現す。
一人は、碇ゲンドウ。もう一人は冬月コウゾウだ。
冬月「委員会はシナリオ通りにいっていると思っているようだな」
ゲンドウ「あぁ、だが、イレギュラー達がいる限り、老人達の思惑通りはいかんよ」
組んだ指に隠れた口元がゆるりと笑う。
冬月「……だが、その老人達は最後の使者。つまり最後の使徒がくることを予期している」
ゲンドウ「加えてこのタイミングでEVAのパイロット補充者か」
冬月「委員会が直接送り込んだフィフスチルドレン。名前はそう―――」
§
=コスモ・フリューゲル=
シンジ「渚カオル……くんですか?」
突如、碇シンジに告げられたそれは一時、第三新東京市へ帰還命令が下ったことと、フィフスチルドレンが配属されたことだった。
由佳「詳しくは先に向こうにいったNERVの人に聞いてね。葛城三佐は一足先に本部に向かったわ」
シンジ「ミサトさんが……」
由佳「もちろん、あなたのEVAも含め艦や他のみんなも、今回の戦闘でかなりのダメージを受けたから今すぐには行けないけど……
それが落ち着いたらすぐにでも追いかけるつもりよ。それまでシンジくんもゆっくり休んでね」
シンジ「わかりました」
短く返事しては、シンジはやや早足でブリッジを去って行った。
神「あまりいい顔はしていなかったな」
アネット「シンジくんにとって、複雑な場所(ところ)ですからねぇ」
ミキ「不可抗力とはいえ、友達を傷つけてしまいましたからね……」
鈴原トウジの件を思い出して、ミキは思い息を吐いた。
由佳「いや、多分違うよ。ミキさん……。シンジくんがあんな顔していたのはこれから出会うフィフスチルドレンや父親。
それに、あの場に残されてしまった他のEVAパイロットにどう接していいかわからないからだと思うよ」
319
:
蒼ウサギ
:2009/10/28(水) 23:23:45 HOST:softbank220056148079.bbtec.net
=第三新東京市=
トレーズが用意してくれた軍用ヘリに揺られること十数時間。
葛城ミサトは、NERVのヘリポートへと降りた。
リツコ「久しぶりね、ミサト」
ミサト「あはは〜。元気してた? こっちは毎回が刺激的で生きている心地がしなかったわよ〜」
などと軽い挨拶を交わしながら二人は地下のジオフロントへ向かうカートレインに乗る。
リツコ「っで、シンジくんにしたの? フィフスのこと」
ミサト「いや〜……星倉艦長にはしたんだけど……ね」
リツコ「直接にはしてないわけね」
はぁ、と分かりやすい呆れたため息を吐くリツコに、ミサトは頭を垂れるしかなかった。
ミサト「だってシンちゃんって、人見知りするほうだし〜…なんとうか、タイミングが悪いのよね〜」
リツコ「確かに悪いわね…。激戦続きの彼らにとってもいきなりの帰還命令は」
ミサト「初号機単機での移送ってのは、以前の松代の件もあるから迂闊にはできないのよね」
リツコ「使徒にも学習能力が備わっている。それはMAGIの見解にも出ているわ。
事実、あの寄生するタイプの使徒はが出てきたり、二機のEVAでも敵わない強力なタイプが出てきたり……」
ミサト「いやいや〜、私はただでさえ、激戦オンパレードに立ち会ってるんだから〜。これ以上、強い使徒には会いたくないの〜」
手をヒラヒラさせて拒絶するミサト。しかし、リツコはそれにクスリとも笑わずに窓から見えるほぼジオフロント風景を眺めた。
リツコ「でも、ミサト。問題はそれだけじゃないわ」
そう、問題は山積みだった。
ミサトがそれを知ることになったのは、彼女がEVAパイロットのハーモニクステスト所だった。
ミサト「アスカのシンクロ率が10%を切ってるって……これどういうこと?」
リツコ「おそらく、前回の使徒との戦闘の敗北。そして自分が取り残されたという屈辱が彼女のプライドを著しく傷つけているのでしょうね」
ミサト「……それでフィフスの配属が決まったということ?」
リツコ「さぁ? どうかしら……少なくともアスカのシンクロ率低下の兆候はフィフス配属決定以前から見られていたわ」
ミサト「だとしたら随分と都合がいいわね。委員会はこれを予期していたとしか思えないわ!」
ガン、とミサトは怒りをぶつけるかのようにコンソールを叩いた。
それを神経質な横目で見ながらリツコは、そっと一枚の報告書を差し出す。
ミサト「これは?」
リツコ「この間試しにフィフスにやらせたテスト結果よ。マヤが驚いていたわ」
ミサトはそれを奪ってさっと文章を流し読みした。
一瞬、目を見開いたが、それを事実ならば受け入れる他ないと悟った。
ミサト「シンクロ率を自分の意志で自在にコントロールできる、か。なるほど、マヤちゃんは驚くはずよね」
リツコ「理論上はありえないことだからね」
ミサト「でも、事実なんでしょ? これ」
リツコ「えぇ」
ミサト「なら、受け止めないとね」
このフィフスのことも、アスカのことも。
ゼーレの不気味な動きも何もかも……。
320
:
藍三郎
:2009/11/03(火) 10:01:50 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
=機動要塞シャングリラ 中枢部=
マザーグース「フフフフ……これが修正力の意志の結晶……ハイリビイド……
ここまで来るのに、長かった……本当に長かったヨ……」
シャングリラの中枢に存在する、周囲を金色の階層で囲まれた広大な空間……
その中央に浮かんでいる光の球体を、うっとりとした目つきで見つめるマザーグース。
彼の胸に、万感の思いが去来する。
宇宙の死と新生を司る両極の力……世界の真実を解き明かした時から、この計画は始まった。
その核となるエネルギーを、ついに手中に収めることができたのだ。
ジェローム「これが……この世界を滅ぼしてでも貴方が手に入れたかったものですか。
<鍵>ではない私にも、神々しさのようなものは感じます」
マザーグースから与えられた、<鍵>の特質を有した檻でジェロームはハイリビードを捕獲し、帰還した。
その後、ハイリビードはシャングリラ中枢部に安置され、マザーグース率いる研究団の手によって解析が行われている。
マザーグース「マダマダ解析(アナライズ)が必要ダヨ。
修正力と崩壊力については、まだまだ未知数(アンノウン)の部分が多いからネ」
周囲には、何十人ものフードを被った人間たちがおり、光の球体に祈りを捧げているように見える。
彼らはアルテミスによって造られたニュータイプのクローンで、彼らを使ってハイリビードと意志の疎通を図ろうとしているが……
ジェローム「見たところ、あまり上手くは行っていないようですな」
マザーグース「そうだね……ニュータイプやサイキッカーのクローンをいくら揃えようとも、所詮は紛い物。
コレを本当の意味で“使ウ”には、全然力(パワア)が足りないヨ。やはり、本物の<鍵>が必要だネ……」
マザーグースは、くぐもった声で笑う。
マザーグース「ま……無ければ集めればいいだけのことだネ。
どの道、彼らとの戦いは避けられないンだしネ……」
ギャンドラー要塞が陥落し、ギャンドラーが壊滅したことで、彼らの世界侵攻もまた食い止められた。
南極で沈黙を守るプロトデビルン、次元の狭間に拠点を置くアルテミス、何処かに潜んだまま動きを見せないネオバディム……
どの勢力も現時点では静観を保っており、地球圏は一時の平穏を取り戻していた。
しかし、それは表向きの話……
白家の大老師にして修正力の契約者、夏彪胤の口から、宇宙の死と新生に関する真実を聞かされた
宇宙統合軍とG・K軍は、L.O.S.T.という恐るべき敵の存在を知る。
彼は言った……程無くしてL.O.S.T.は次元の扉を超え、この世界への侵食を開始する。
そうなった時の切り札が、ハイリビードなのだが……土壇場でアルテミスに奪われ、その行方は杳として知れない。
現時点で彼らが出来ることは、来るべき決戦に備えて態勢を整えることだけだった。
由佳「オペレーション・スターゲイザー?」
マックス『うむ、他勢力が動きを見せない今……まずは所在のはっきりしているプロトデビルンを先に叩こうというわけだ』
プロトデビルンが南極に降下してきたことは、脅威でもあるが同時に好機でもあった。
統合軍の全戦力を結集し、南極に総攻撃を仕掛ける最終作戦。
それが、オペレーション・スターゲイザーである。
321
:
藍三郎
:2009/11/03(火) 10:03:26 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
夏彪胤は、現在海底に篭り、L.O.S.T.の侵攻を防ぐためにこの世界と異世界との境界に、結界を張り続けているという。
だが、彼の言によれば、そう長くは持たないらしい。
L.O.S.T.の力は、日々確実に強まっている。
結界が破られれば、L.O.S.T.の本格的な攻撃が始まる。
それまでに、可能な限り他の敵勢力を撃破しておきたかった。
マックス『できることならば、ハイリビードを持つアルテミスを優先的に攻撃したいところだが……』
遅かれ早かれ、L.O.S.T.の侵攻は始まる。
世界の崩壊に直結する事態なだけに、ハイリビードの奪還は最優先事項であった。
由佳「やむを得ません……彼らの情報は、あまりにも少なすぎるのですから……」
ムスカ「おまけに奴らはハイリビードを手に入れちまった。
あいつらにしてみれば、ほぼ目的は達成したも同然じゃないのか?」
神「いや、まだそうと決まったわけではないぞ」
アネット「というと?」
神「夏彪胤氏は、ハイリビードを意のままに動かすには、<鍵>が必要だと言った。
<鍵>とは、ロム君が持つ剣狼と流星……ニュータイプやサイコドライバー、ベラアニマといった力も、それに該当すると言う。
ならば、ハイリビードの力を引き出す<鍵>を手に入れるために、再び我々を狙ってくる可能性は十分考えられる……」
アネット「そっか! 私たち自身が囮となることで、<アルテミス>を誘き出し……何とか本拠地を突き止めるのね!」
神「そういうことだ。彼らは常に、空間転移をして撤退している。
空間の狭間に存在すると思われる敵の要塞もまた、常に所在を変えている可能性が高い。
正攻法でその居場所を掴むのは不可能だ。
だが、敵の機体を鹵獲し、空間転移のシステムを解析すれば……」
ゼド「彼らの要塞への行き方を記したデータが、手に入るかもしれませんね」
アネット「ちょっと! そんないい手があるなら、どうしてもっと早く……」
神「これまで破壊したアルテミスの機体には、いかなるデータも残されてはいなかった。
恐らくは、機体が戦闘不能になるか、あるいは敵に捕獲されると同時に、
全てのデータが消失するようにプログラムされていると思われる」
アネット「そうなんだ……」
落胆するアネット。
ムスカ「いや、データは手に入れられないかもしれねぇが、鹵獲ってのは悪くないぜ。
ただし、必要なのは機体じゃなくて人間だ。奴らの幹部をとっ捕まえて、その口から吐かせるのさ」
ゼド「敵を捕らえて情報を得るのは、基本中の基本でもありますしね」
ムスカ「まぁ、それについても、そう上手くいくとは思ってねぇけどな……
何せ、どいつもこいつもとんでもなく強い奴らばかりだしよ」
同感とばかりに頷くゼド。
マックス『その件に関しては、こちらも全面的にバックアップしよう。ハイリビードは、何としても奪還しなければならない』
由佳「ありがとうございます」
マックス『ところで、君たちはこれから第三新東京市に向かうそうだな』
由佳「ええ、そこで補給を受ける手はずになっています」
マックス『実はな、サウンドフォース、即ちファイヤーボンバーの面々も、現在東京に向かっている』
アネット「ファイヤーボンバーの人達が?」
マックス『東京で、彼らのライブが開かれることになっている。
今やこの地球圏で、彼らの人気は絶大だ。
その歌声で、度重なる戦争で疲弊した地球の人々を勇気付けることが目的だ』
ファイヤーボンバーは、今や地球圏全土で熱狂的な人気を獲得していた。
マクロス7の市民のみならず、彼らの歌は地球圏の人々にとって、見えない明日へと立ち向かう活力になっている。
マックス『だが、それはあくまで表向きの理由だ』
由佳「と、言いますと……?」
マックス『彼らが東京に向かうのは、ゼーレの要請があったからだ』
322
:
藍三郎
:2009/11/03(火) 10:04:05 HOST:68.32.183.58.megaegg.ne.jp
その言葉に、全員が表情を引き締める。
太古より裏から世界を操っていると言われる秘密結社、ゼーレ。
NERVの上位組織であるらしいが、その詳しい内情は一切が不明。
ガイゾックの神が遺した言葉によれば、彼らがガイゾックをこの世界に呼び寄せたらしい。
その名前が出たことで、一気に話がきな臭くなってくる。
ゼド「またしてもゼーレですか。あの街や使徒に関わることには全て、彼らの影は付いて回りますね」
アネット「どう考えても怪しいわね、それ……」
マックス『ゼーレは未だ宇宙統合軍の中枢に根を張り、確たる影響力を持っている……
彼らの直接の命令とあらば、拒絶できないのが現状だ』
申し訳無さそうに述べるマックス。
ムスカ「軍人は上の命令に従わざるを得ないものだ。あんたを責める気はねぇよ」
マックス『それで、一矢報いるというわけでもないが……
我々としても、彼らの目論見を知りたい。ゆえに今回は彼らの意に沿ってみることにしたのだ』
ゼド「確かに……ゼーレに関しては、謎が多すぎて対処の仕様がありませんからね」
ムスカ「いずれにせよ、“何か”が起こるのは間違い無さそうだな……」
由佳「わかりました。ファイヤーボンバーの皆さんは、私たちが守り抜いてみせます!」
マックス『感謝する。我々は、オペレーション・スターゲイザーの準備に全力を尽くそう』
作戦決行の日には、必ずやファイヤーボンバーと共に合流することを約束し、コスモ・フリューゲルは第三新東京市に向かった。
323
:
来てね♪
:2009/11/13(金) 12:14:22 HOST:z179.124-45-32.ppp.wakwak.ne.jp
とってもおもしろいブログだよ♪
たまに更新もしてるから見に来てください☆ミ
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324
:
蒼ウサギ
:2009/11/15(日) 03:16:14 HOST:softbank220056148005.bbtec.net
コスモ・フリューゲルが第三新東京市のNERV管轄の着艦ポートに着いたのと、FIRE BOMBERのライブが幕を開けたのはほぼ同時だった。
バサラ「ボンバァァァァァアアアア!!」
バサラのシャウトとギター、ミレーヌのベース、レイ・ラブロックのキーボード、ビヒーダのドラム。
それらが一つの音楽となって会場を壮大に盛り上げる。
オープニングはもちろん! 「PLANET DANCE」!!
満員の観客がバサラの第一声で一気に彼のビートを感じとった。
トウジ「くぅ〜! たまらんなぁ。この迫力! さすが銀河をかけるバンドや〜! 痺れるで〜!」
あの悲惨な事件の事故の傷も随分と回復した鈴原トウジも、今は彼らの音楽に聴き惚れていた。
その横で銀髪で赤い瞳をした少年がクスリと笑うも、それはFIRE BOMBERの歌でかき消される。
???「やはりいい歌だよね。」
誰の耳にも届かないようなか細い声でその少年―――渚カヲルは呟いた。
カヲル「約束通り君の歌を聴きにきたよ。アニマスピリチア。……いや、熱気バサラ」
その口に笑みを零しながら。
§
=NERV本部=
ゲンドウ「補給の件は了解した。こちらで任せてもらおう」
由佳「は、はい。よろしくお願いします」
ゲンドウ「………」
由佳「……」
ゲンドウ「……」
由佳「……」
重苦しい沈黙が流れること十数秒間。
ゲンドウ「まだ何かあるのか?」
由佳「いえあの……何故、急にシンジくんが戻されたのか、その理由を話してもらえますか?」
ゲンドウ「使徒に対抗するにはEVAが必要だからだ」
神「それは近々、使徒がくる。と、いうことでしょうか? 随分と予言めいたことを仰る。
ファイヤーボンバーの件もそうですが、あなた方は些か胡散臭いですなぁ」
ゲンドウ「今回お前達を呼び寄せたのはフィフスが新たに配属されたことが理由だ。以前の参号機の件もある。
初号機単体での運用は危険だと判断し、お前達ごと呼び寄せたにすぎん。パイロットごとな」
神「なるほど。我々は大きなタクシー、という奴ですな」
神が大仰に肩をすくめる。傍から見ればちょっとした嫌味にも見える。
由佳「……わかりました。とりあえずはその理由で“納得しておきます”」
ゲンドウ「……」
由佳「では、失礼します」
軽く会釈をして、由佳は踵を返してその場をあとにし、神は少し遅れて由佳を追った。
そして、二人が完全に退室した後、ゲンドウの傍らに立っていた副指令がボソリと呟き始める。
冬月「読まれているな」
ゲンドウ「あぁ」
冬月「EVA初号機の帰還。フィフスの配属。まさに老人達のシナリオ通りだ」
ゲンドウ「ただ違うのは……奴ら(イレギュラー)の存在だけ」
325
:
蒼ウサギ
:2009/11/15(日) 03:16:57 HOST:softbank220056148005.bbtec.net
=ハーモニクステスト所=
チン、とエレベーターの扉が開いた途端、シンジの耳に飛び込んできたのはアスカの怒鳴り声だった。
アスカ「はぁ? あんたバカァ? あんな人形に心がある?」
レイ「EVAは人形じゃないわ。ちゃんと心があるから私達とシンクロできる。あなたがEVAとシンクロできないのは、あなたが心を閉ざしているから」
アスカ「うるさいわね! EVAと同じ人形のくせに!」
レイ「……私も、人形じゃないわ」
レイのささやかな反抗的な目つきを敏感に感じ取ってしまったのか、アスカの手が感情的に振りあがる。
静観を保っていたシンジが「アスカ!」と叫んだときにはすでにその手は、レイの頬に振り下ろされていた。
アスカ「シンジ……」
一瞬、愕然とした表情になったアスカだったが、すぐに目つきを鋭くしてポツリと、
アスカ「大嫌い……」
呟き、それから一気に感情を爆発させた。
アスカ「嫌い嫌い嫌い嫌い!! みんな大っ嫌い!!」
そう怒鳴り散らした後、脱兎のごとく二人の前から去って行った。
呆然としたシンジと、白い肌に、頬を赤く染めたレイだけを残して。
シンジ「……何があったの?」
レイ「彼女のシンクロ率。また下がったの」
また、と、言われてもシンジはアスカがあの敗戦以来、シンクロ率が低下していることなど聞かされていない。
かといってこの口数少ない少女に深く追求しても多く語ってくれはしないだろうと、シンジは勝手にそう思った。
シンジ「……今、どれくらいなの?」
レイ「今日のテストで彼女のシンクロ率は―――」
§
アスカ「ゼロ……だなんて」
それはEVAを乗ることを、EVAに乗って使徒を倒すことだけが居場所だった自分にとっては死刑に等しい数字だった。
ガン、と更衣室のロッカーに拳を打ち付ける。
アスカ「加持さん…今、どこにいるかな?」
元・恋人だったミサトに訊けば何か分かるかもしれないが、アスカとしてはそれは絶対に嫌だった。
虚ろな目でロッカーを開き、そこにある鏡で自分の顔を見る。我ながらなんてみっともない顔だろう。
アスカ(……誰も、私を見てくれないのね)
エヴァも、シンジも、大好きな人も……。
何も、かも……。
§
=コスモ・フリューゲル=
悠騎「で、結局、オレ達は穴蔵で待機ってわけ?」
予定通り補給を受けれるようになったコスモ・フリューゲルは現在、第三新東京市の地下にあるNERV本部。
つまりは、ジオフロントに収まっている。
だから、悠騎はそんな場所を「穴蔵」と揶揄した。
由佳「暇だったら護衛も兼ねてFIRE BOMBERのライブでも観てくれば? 艦は動かせないけど、
NERVからはジオフロントと上(第三新東京市)は自由に行き来できるように許可もってるから」
悠騎「護衛ならオレより、ドモン達の方が適任だろうに……」
由佳「あ、それは言えてるかも」
てめぇなぁ、と内心、兄に対しては相変わらず遠慮のない妹に怒りを覚えつつも、悠騎はそれをグッと押し込めた。
悠騎「ま、いっか。それよりあの司令から何か掴めたのか? ゼーレのこと」
由佳「そんな隙あると思う? 迂闊に踏み込んだら追い出されるだけよ」
悠騎「それも言えてるな」
NERV…いや、碇ゲンドウ。そしてゼーレ。
ここまできても謎に包まれすぎている。
悠騎達は、それが気持ち悪かった。
悠騎「下手すりゃ異星人や使徒なんかよりも、人間の方がタチ悪いかもな」
326
:
蒼ウサギ
:2009/11/15(日) 03:17:50 HOST:softbank220056148005.bbtec.net
=第三新東京市 某海岸=
夕暮れの水平線をシンジは見つめていた。
アスカのシンクロ率低下の事情を知ってしまってから一気にあの場の空気は重くなった。
複雑な心境にかられながらも、なんとかレイとの会話を繋げようとフィフスパイロットを話題を出すものの返って来たのは。
「知らないわ。まだ会ったことないもの」
だった。
シンジ「……はぁ」
これからどうして彼女たちと接していけばいいか分からなくなり、さらにこれから配属されるというフィフスにも
どう接すればいいのか途方に暮れた。
そんな時、ギターの弦が弾かれる音が聴こえた。
思わずその方へ振り返ると、見知った顔が夕日に向かって座り込んでいた。
バサラ「よぅ、こんなところで何やってんだ?」
シンジ「あ……FIRE BOMBERの。ライブ、もう終わったんですか?」
バサラ「まぁな。けど、なんかまだ何かが足りなくってな」
シンジ「不完全燃焼って奴ですか?」
バサラ「さぁな?」
バサラの返事はそれだけに終わったが、シンジは表情から何となく読み取れた。
言葉には出していないけど、自分でもわからないもどかしさが拭えないのだと。
そう、今の自分と同じように。
そんな気持ちで二人、水平線をしばらく眺めていると……。
???「〜♪〜♪〜♪」
シンジ&バサラ「?」
どこか近くから、誰かが口ずさんでいる聴こえてくるメロディに気付いた。
小高い岩にその少年はいた。
一目で、シンジはその少年の来ている制服が自分の通っている中学のものと同じであるとわかり、
バサラは少年の後ろ顔にハッとする。
シンジ(第九?)
そんなことを思っていると、ふいに少年の歌が終わる。
???「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。君もそう思わないかい? 碇シンジくん」
赤い瞳で見つめられ、しかも自分の名前を言われてシンジは驚きのあまり声が出なかった。
シンジ「君はその……」
しどろもどろの声で何者かを訊こうとした途端、横にいたバサラがポツリと呟いた。
バサラ「渚カヲルか」
カヲル「そう、覚えてくれていたんだね、バサラ。そう、僕は渚カヲル。シンジくんと同じ選ばれし子供、フィフスチルドレンさ」
シンジ「君が! その、渚くん……」
カヲル「カヲルでいいよ」
一瞬、戸惑ったものの、彼の透き通った声はどこか心地よく聞こえた。
シンジ「僕も、シンジでいいよ」
仲良くできる、上手くやっていけると思った。
この時は。
327
:
藍三郎
:2009/11/21(土) 21:27:46 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
ブンドル「その通りだな」
夕暮れに、突然バイオリンの音が響き渡る。
皆がその音源の方を向くと、そこにはバイオリンを弾くレオナルド・メディチ・ブンドルの姿があった。
シンジ「ブンドルさん、いつの間に……」
ブンドルはその問いには答えず、バイオリンを弾きながら歩み寄ってくる。
その音色は、プロと比較しても遜色の無い技量だった。
ちなみに曲目は、ベードーヴェンの『交響曲第9番』である。
ブンドル「音楽とは深遠なるもの……
ただの音符の羅列が、人々の心に感動を与え、ひいては世界を救い、歴史をも変える……
そちらの少年の言うとおり、音楽は人が生み出した至高の美の一つに数えられよう」
バサラ「へっ、そんな小難しいこたぁわかんねぇが……」
バサラもギターを鳴らし、即興で歌い始める。
クラシックとロック、しかも曲もまるで違うが、二人のメロディは不思議な一体感を生んでいた。
カヲルは満足そうに微笑むと、ボーカルに加わる。
そして、シンジに手を差し伸べ、君も入ってくるように誘う。
彼らの環の中に、抵抗無く加わっている自分がいた。
心地良いメロディが、気の置けない友の存在が、曇った気持ちを吹き飛ばしてくれる。
こんな風に、何のしがらみも無く楽しい時間を過ごせたのは、いつ以来のことだろうか……
翌日……
陽光が照らす第三新東京市のビルの屋上に、その男は立っていた。
筋骨粒々で大柄な体躯の持ち主で、長く伸ばした金髪に、赤いバンダナを巻いている。
手には大型のスレッジハンマーが握られている。
右眼はバンダナによって隠され、唯一開かれた左眼が、眼下の街を俯瞰している。
ドラクロワ「醜い……! 何て……何て醜いんだこの街は……ッ!!」
破壊の芸術家、ドラクロワ・ザ・ガイアは、この東京に怖気が走るような不快感を覚えていた。
立ち並ぶ高層建築物、明確なルールに従って築かれた街並み……その全てが、彼の神経を逆撫でする。
生来、綺麗なもの、整っているものには何の感動も覚えなかった。
普通に街を歩いていても、見るもの全てに不快感と圧迫感を覚えてしまう。
それが対象への憎しみに変わるのに、長い時間はかからなかった。
ゆえに、彼は破壊する。徹底的に破壊する。完膚なきまでに破壊する。
原形を留めぬほどに破壊する。
その一つ目に映る一切合財を破壊して破壊して破壊する。
対象が木っ端微塵になる瞬間、積もり積もった怒りと憎しみもまた華となって散り、そのカタルシスは彼を陶酔へと誘う。
平凡な秩序は砕け散ることで、混沌という美を取り戻す。
それこそが、彼にとっての美の創造。破壊と創造が一体となった究極の芸術だった。
ドラクロワ「ウオオオオォォォォォォ――――ッ!!!
いいぃっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
天に向かって雄叫びを上げ、手にしたスレッジハンマーを振りかぶり、渾身の力で持って振り下ろす。
五十階以上はあろうかというビルを、巨震が揺らす。
ハンマーが突き刺さった屋上の床は深く陥没し、雷電が走るがごとく、亀裂が生じる。
やがてそれは、ビルの壁面を垂直に走り、それが地面まで達した瞬間……
縦に真っ二つになったビルは、左右に向かって倒壊する。
それは、ドラクロワ・ザ・ガイアの宣戦布告でもあった。
自らビルを壊したことで足場を失い、落下していくドラクロワ。
ドラクロワ「この醜い街を! 俺が作り変えてやる!!
大地を耕し! 破壊の種を撒き! 美しき瓦礫の花を咲かせてやるぜぇぇぇぇ!!
出ろぉぉぉぉ!! ガンダムサイクロプスゥゥゥゥゥッ!!!」
ドラクロワの叫びに応え、ビルの跡地から、地面を突き破って巨大な機影が姿を見せる。
左眼がバイザーで覆われ、分厚い装甲で身を包むモビルファイター……
ドラクロワ・ザ・ガイアがコクピットに乗り込んだ後……
単眼の魔神、ガンダムサイクロプスは、片眼に赤い灯を灯し、凶暴なまでの駆動音を辺りに響かせた。
328
:
藍三郎
:2009/11/21(土) 21:28:56 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
高層ビルの倒壊と、ガンダムサイクロプスの出現は、東京市民全員を骨の髄まで戦慄させるには十分すぎた。
彼らは一斉にシェルターへとひた走る。
幾度と無く繰り返された使徒の襲来によって、市民が非常時の対応に慣れつつあったことは、幸か不幸か……
コスモ・フリューゲルにスクランブルのサイレンが鳴り響く。
ゼド「敵は最凶四天王の一人! ガンダムサイクロプスです!」
ムスカ「野郎、こんなところに潜んでやがったか」
ガンダムナーガと同様、彼もまた野に解き放たれたままだった。
タツヤ「どうせまた街を好き勝手に壊す気なんだろ。そうはさせねぇ!!」
悠騎「おう! って……前みたいにお前達は手を出すな、黙って見ていろ、とか言うんじゃないだろうな」
アネット「今のところ、そういう類のメッセージは入っていませんね……
あ! ジオフロントの天井が開きます!」
それと同時に、フリューゲルにNERVからの通信が入った。
由佳「冬月副指令!」
冬月『先程現れた敵機体の処理は、諸君らに一任しようと思う。そちらの裁量に従って行動してくれたまえ』
悠騎「何だ、今回は随分物分りがいいな」
ムスカ「好きにやってくれってことか」
ゼド「敵は使徒ではありません。イレギュラーの処理はイレギュラーに、ということなのでしょうな」
由佳「了解しました! コスモ・フリューゲル、発進!」
地上へと浮上するコスモ・フリューゲル。
ドラクロワ「フハハハハハハハ!! 潰れろ! 砕けろ! 壊れろぉぉぉぉぉぉ!!」
内なる破壊衝動に従い、市街地を破壊して回るガンダムサイクロプス。
だが、ハンマーを振りかぶった瞬間……目を焼くようなまばゆい光が、彼の片眼を貫いた。
ドラクロワ「な、何だぁ!?」
太陽の光ではない。その光を収束させ、何倍にも増幅したものだ。
ビルの上には、白い騎士風の機体が立ち、ガンダムサイクロプスを見下ろしている。
ブンドル「粗野で下品で、暴れる事しか知らない怪物……美しくない」
レジェンド・オブ・メディチを見上げるドラクロワ。
ドラクロワ「てめぇっ! 俺の芸術活動の邪魔をする気かぁ!!」
ブンドル「芸術? その行いのどこに芸術的要素があるというのだ?」
ドラクロワ「破壊こそが最高の芸術だ!! この世の全ての醜いものをぶち壊すことで、完全なる美を蘇らせているんだよぉ!!
気取ったなりしやがって、てめぇも粉微塵にしてやらぁっ!!」
ブンドルは、処置無しと言った風に首を振る。
ブンドル「美の無い芸術など、芸術にあらず。
よって貴様に芸術家を名乗る資格は無い……
芸術を愚弄したその罪、我がレジェンド・オブ・メディチが裁いてくれようぞ……!」
329
:
来てね♪
:2009/11/27(金) 14:04:54 HOST:z6.124-44-69.ppp.wakwak.ne.jp
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330
:
蒼ウサギ
:2009/11/29(日) 23:28:27 HOST:softbank220056148054.bbtec.net
市街地にガンダムサイクロプスを肉眼で確認したシンジはすぐにジオフロントへ続くカートレンに向かって走っていた。
もちろん、ブンドルが自機で出撃したように、自分もEVAで出撃するためだ。
カヲル「ねぇ? どこ行くの?」
シンジ「え?」
気づけばすぐ後ろに渚カヲルが続いていて走っていた。
シンジ「EVAに乗るんだよ…。僕も、戦わなきゃ!」
カヲル「相手が使徒じゃないよ?」
シンジ「でも、この街が攻撃されてるんだ! 友達がいる街だから……!」
カヲル「ふぅん」
それ以上、カヲルは追及しなかった。
そして、誰にも聞こえない心の中で呟く。
カヲル(“今回の君”は強いようだね)
そう、幾度なく死と新生を繰り返したこの世界、その度に僕たちは出会った。
その中でも今回は特別に強い。
これは僕の推測にすぎないが、あのイレギュラー達による存在の影響が大きいかもしれないね。
カヲル「できれば僕がその役割を担いたかったけどね」
シンジ「え?」
カヲル「なんでもないよ。さ、急ごう」
首だけ振りかえったシンジに、カヲルはそう微笑み返した。
§
=NERV本部 作戦司令室=
ミサト「状況は?」
そこに入るなり、作戦指揮官の顔になったミサトは地上の戦い模様をオペレーター達に求めた。
日向「民間人の避難は、もうまもなく終了します」
青葉「まぁ、所詮、相手は一機。我々の出番はありませんよ」
ミサト「それならばいいけどね」
ミサトは目を細めてジッとメインモニターに映る地上の光景を見つめていた。
嫌な予感がしてならない。これで終わるはずがないと、何かが直感しているのだ。
そして、次に空席になっている司令席に視線を流す。
ミサト(碇司令。この展開はあなたのシナリオですか? それともゼーレの……?)
ミサトの心は、猜疑心で膨らんでいくまさにそんなときだった。
シンジ「ミサトさん!」
司令室の自動扉が開く音と共に、叫びにも似たそんな声が飛び込んできた。
ミサト「シンジくん!?」
シンジ「ミサトさん、EVAの出撃は?」
その言葉に、ミサトはシンジから目を背けた。
そして、ポツリと、「EVAの発進許可はできないわ」と告げた。
瞬間、シンジの胸がカッと熱くなった。
シンジ「何でですか!?」
ミサト「それは……」
カヲル「今回、現れた敵が使徒じゃないから、でしょ?」
間髪入れず、カヲルが図星をついてきて、ミサトは彼を一瞥した。
ミサト「えぇ、そうよ。あなたが噂のフィフスチルドレンね?」
カヲル「えぇ…。“初めまして”」
その挨拶には何か含みがあるように感じたが、ミサトは深くは追求しなかった。
すれば何かのタブーに触れてしまいそうなものを、本能的に察してしまったのだ。
ミサト(この子……まるでヒトじゃないみたい)
この感覚を以前にも体験している。
そう、綾波レイだ。彼女と初めて会った時にも、確か似たような印象を抱いたような気がする。
ミサト(渚カヲル……確かレイと同じく過去のデータは一切抹消済みだったわよね。
ただし、誕生日…そして、誕生時間がセカンドインパクトの瞬間とほぼ重なっているということだけが判明している)
カヲル「どうかしました?」
ミサト「何でもないわ。私は葛城ミサト三佐。ここ(NERV)の作戦指揮官よ」
いつものシンジやアスカに接すようなフレンドリー口調ではない、少し一線を引いた口調でミサトは簡単に自己紹介を終えると再びその厳しい目を
メインモニターの方へ向けた。
シンジ「ミサトさん! いくら相手が使徒じゃなくても、今、襲われているのはこの街なんですよ!」
シンジの必死の訴えにも、ミサトは沈黙を保ったままただただ奥歯を噛みしめて沈黙を保つだけだった。
無言の拒否。シンジの目には、ミサトの背中はそう映った。
カヲル「まぁ、まだ敵は一体だ。彼らを信じようじゃないか。シンジくん」
慰めるようにカヲルがシンジの肩に手を置いた。
331
:
藍三郎
:2009/12/01(火) 22:29:52 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
ドラクロワ「るぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
旋回するスレッジハンマーの一撃を、紋白蝶のように軽やかな動きで回避するブンドル。
ブンドル「ふっ、美意識の欠片もない攻撃では、私を捉えることはできんよ」
ドラクロワ「うるせぇぇぇぇ! なぁら、街もろとも粉微塵にしてやらぁぁぁぁっ!!」
ブンドルも、隙を突いて刃を繰り出すが、ガンダムサイクロプスの分厚い装甲に阻まれ、貫き通すことはできない。
直撃を食らうようなヘマはしないが、このままでは、被害の拡大を防ぎきれない。
更にハンマーを振ろうとした瞬間……背後からの砲撃がガンダムサイクロプスに突き刺さる。
ドラクロワ「ぐはっ!? 何だぁ?」
ドラクロワの片目に映るのは、緊急発進したコスモ・フリューゲルとG・K隊の機体群だった。
ドラクロワ「出ぇぇぇやがったなぁ!!
いつもいつも俺様の芸術活動の邪魔ばかりしやがって!!
てめぇらだけは、絶対にぶっ壊してやるっ!!」
怨敵の出現に、ドラクロワの怒りと憎しみも更に増幅される。
真吾「この数を相手に、一歩も退く気無しか」
ムスカ「大人しく投降……って、そんなの聞くタマじゃねーわな」
パルシェ「はた迷惑な芸術活動は、ここまでにしてもらいます!」
ゼド「少々フェアプレー精神に欠ける気はしますが、貴方は存在自体が危険すぎます」
勝平「てめぇは、ここでぶっ倒してやる!!」
ドラクロワ「やってみろぉぉぉぉぉぉ!! 壊し壊される破壊の饗宴んんん!!
てめぇらまとめて、芸術作品にしてやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
これだけの数を前にしても、彼の闘志は全く衰えることはなかった。
元より、彼の存在意義は壊すこと。
彼にとっては、目に映るもの全てが、ただの破壊対象でしかない。
ドラクロワの溢れんばかりの破壊衝動……
それは、天に向けて立つ火柱となり、異界への扉を叩いた。
332
:
藍三郎
:2009/12/01(火) 22:32:13 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
アネット「! 周辺の空間に異常が……」
計測器が示したその異変は、すぐに目に見える形で現れる。
眩しくも禍々しい赤い輝きが天空を走り、大きな十字型の傷を刻み込む。
アヤ「空に……割れ目が……!」
ヴィレッタ「この現象……まさか!」
紙をナイフで切りつけたように、空間がばっくりと裂ける。
赤い異界へと繋がるそこから、大量の黒い影が雲霞の如くあふれ出す。
白豹「魔鬼羅……!」
ムスカ「それだけじゃねぇ、他にも色々いやがるぜ」
魔鬼羅に邪鬼羅……
さらに、背中に翼を生やした青い個体、死鬼羅(しきら)や、巨大な眼球型の怪物、怒愚魔(どぐま)もいる。
市街地は、瞬く間に異形の怪物たちによって埋め尽くされた。
ガンダムサイクロプスを包囲していたG・K隊は、一転して囲まれる側となる。
いずれも彼らに向けて、明確な敵意と殺意を放っていた。
ムスカ「こいつら、深虎が召喚した……」
ゼド「即ち、L.O.S.T.の軍勢ということですな。彼本人はいないようですが……」
これもまた、夏彪胤の言っていた、L.O.S.T.の力が活性化している証なのだろうか……
ドラクロワ「ク、ククククク……ハハハハハハハ……
ハァ――ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!」
異形の兵を見渡し、派手に哄笑するドラクロワ。
タツヤ「な、何がおかしいんだ!!」
ドラクロワ「俺は夢を見た……今日この日、この時、この場所で!
“究極の破壊”が行われるとな!! 俺はそれを見届ける為にここに来た!!
穢れた世界は浄化され、破壊と渾沌に満ちた美しき新世界が幕を開ける!!
こいつらこそ、その破壊の使者!! 黙示録(アポカリュプス)のラッパ吹きだぁ!!」
悠騎「く……またわけのわからねぇことを……!」
キリー「元々イカれた野郎だったが、さらに電波まで入っちまうとはよ……」
レミー「ノンストップでぶっ壊れ街道驀進中って感じ〜」
真吾「奴にも、あの化け物どもにも、好き勝手させるわけにはいかないぜ!
ゴーショーグン、GO!!」
ゴーサーベルを手に、ガンダムサイクロプスに挑むゴーショーグン。
周囲にいる魔鬼羅達も、同時にG・K隊に攻撃を開始する。
ゼド(究極の破壊……それは恐らくサードインパクトのこと。
以前も、深虎はサードインパクトの発生を狙い、使徒の出現と同時にこの街に現れた……
ならば、今回もまた、使徒が現れるというのですか……?)
333
:
蒼ウサギ
:2009/12/14(月) 02:46:55 HOST:softbank220056148040.bbtec.net
新たに出現したその異形なる怪物たちを、渚カヲルはモニター越しに見つめていた。
その紅き瞳はどこか物憂いに満ちているように、傍らのシンジには見えた。
シンジ「カヲルくん?」
たまらず声をかけると、カヲルはすぐにいつもの爽やかな表情を取り戻して「何だい?」とシンジへとその瞳を向ける。
出会ったばかりだというのに、何故か前々から知っているかのようなこの感覚に戸惑うシンジ。
シンジ「いや…その……なんか様子がおかしく見えたようだったし…。大丈夫かな、って思ってさ」
カヲル「心配してくれるのかい? 嬉しいな。安心して、僕は大丈夫だよ。それよりも、彼らはどうかな?」
そう言ってカヲルは、シンジを促すように再びモニターへと視線を移す。
数こそ、圧倒的に劣勢ではあるが、戦力的に見れば 戦局は、ようやく五分といったところだろう。
カヲル「ここで僕らが加勢できれば彼らの負担も一気に軽減できると思いますが?」
その言葉はミサトの背中へとぶつけていた。
しかし、それを一番わかっているのは当のミサト本人である。
五分になったこの状況でEVAを投入すれば第三新東京市の被害も最小限にすむ。
そう考えた時、ミサトはあることに閃いた。
ミサト「そうね……。二人ともEVAのエントリープラグ内にて待機。シンジくんは初号機。……君は」
ミサトはカヲルを見つめつつしばし考えた後、命令を告げた。
ミサト「弐号機よ」
シンジ「え?」
ミサトのその命令に頭が真っ白になってしまったシンジだった。
弐号機。それは惣流・アスカ・ラングレーのEVA。
シンクロ率がゼロになってしまったとはいえ、プライドの高い彼女ならば決して譲られないEVAだ。
シンジ「……非情だな」
そうボソリと呟いている間に、カヲルはすでにそこにはいなかった。
§
空室になっている部屋で、アスカは一人膝を抱えていた。
戦闘が行われていることなどは知らない。知りたくもなかった。
知ったとして、自分にはあの人形(EVA)を操縦することはできない。
アスカ(ママ……)
夢と現の狭間で、アスカは本当の母の顔を思い出しならが、あの時の頃が甦る。
「可哀想に、もうあの人形を娘さんだと思ってるんだよ」
「すぐ近くに本当の娘がいることに気づけないなんて……」
「実験で精神を病んでしまったのが原因だな」
自分の周りで医者や看護師達は口々にそういった。
同情している口調だが、所詮は他人事。
アスカ「ママ……こっちを見てよ」
アスカの母親、惣流・キョウコ・ツェッペリンはある時から幼いアスカを、人形と思いこんでしまい本当のアスカを見てくれなくなった。
だからアスカは誰よりも強くなろうと、優秀になろうと努力した。全ては精神を病んでしまった母親に振りむいて欲しかったがために。
アスカ「……ダメよね。EVAに乗れなくなった私なんて、ママは見てくれない」
瞬間、アスカの脳裏にトラウマが甦る。
母親が首を吊って自殺した所を目撃した光景を。
アスカ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
一人、頭を抱えるアスカの悲鳴を誰も気づく者は……一人だけいた。
偶然にもその部屋を通りかかっていた赤木リツコだ。
リツコ(母の喪失は“選ばれし子供(チルドレン)”の定め……か)
アスカの母親が精神を病んだ原因はEVAに関わっていることは資料で知っている。
それがアスカがパイロットに選ばれた要因の一つであることも。
リツコ「弐号機のコアは、あなたでしかダメなのよ。……いつか分かる時がくればいいわね」
ドアの向こうにいるアスカに無感情に呟き、リツコはその場を後にした。
§
シンジより一足早くケイジに向かっていたカヲルは綾波レイと遭遇していた。
カヲル「やぁ、ここは“初めまして”というべきかな」
レイ「……」
カヲル「今回は、まだ“二人目”なんだね。まぁ、何人でもどの道、君は君に変わりはない」
レイ「……あなた誰?」
カヲル「僕は……君と似ているけど、確実に違うものさ。同じなのはこの星で生きているカタチをしているのがリリンというだけ」
レイ「…………」
カヲル「じゃ、僕はケイジに行くから」
不敵にそう告げて、カヲルはレイの横を通り過ぎた。
334
:
藍三郎
:2009/12/15(火) 18:30:13 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
蝙蝠のような翼で空中を飛び回り、ハイドランジアキャットを追う死鬼羅。
数体が、携えた三つ又の槍の先端から破壊光線を照射する。
ムスカ「させるかよっ!」
ハイドランジアキャットは急旋回で光線を回避し、支援ユニット、グロリオーサに指示を出す。
グロリオーサから放たれたミサイルが、青い体色をした死鬼羅の群れを、爆発四散させる。
周囲を機敏に飛び跳ねながら、その鋭い爪で獲物を狩ろうとする魔鬼羅。
それらの間を、一陣の白い光が駆け抜ける。
白豹「白家暗殺術……残粛……!」
刹牙のメーザーフィールドクローによって、魔鬼羅が瞬時に切り刻まれる。
獰猛な彼らも、より上位の存在の前では獲物に過ぎなかった。
白豹「深虎……何を企んでいる……!」
彼らがあの忌むべき仇敵の意図で動いているのは明らかだった。
それが、破滅的な未来をもたらすであろうことも。
魔鬼羅の派生型と思しき怪物群が戦場を駆ける中、一際目立つ個体が空中を浮揚している。
球形の肉に包まれた巨大な眼球、怒愚魔(どぐま)。その大きさは特機や小型艦に相当する。
サイズが大きいのはいい的とばかりに、エリアル・クレイモアを放つアルトアイゼン・リーゼ。
その瞬間、目蓋を閉じる怒愚魔。
ベアリング弾は全体命中するものの、分厚い肉の鎧に阻まれて、弾丸が内部まで通らない。
やがて、再び開かれた眼球部分に赤い光が集まり出す。
キョウスケ「あれは……まずい!」
危険を察知したキョウスケは、怒愚魔の正面から離れる。
次の瞬間、眼球から赤い閃光が放たれ、直線状の地面を丸ごと焼き払った。
さらに、肉の一部が剥がれ、複数の眼球と化して辺りに飛び散る。
かつて法眼眩邪が放ったものと同じく、これらの眼球も瞳から破壊光線を出し、目に映る敵を撃つ。
機動兵器とは思えぬ、特異な攻撃を仕掛けてくる魔鬼羅達ではあったが、G・K隊もその手の敵の相手には慣れている。
魔鬼羅の軍勢は、徐々に撃滅されつつある。
そんな状況下で……NERV本部より、エヴァンゲリオン初号機と弐号機が発進する。
シンジ「G・K隊の皆さん、お待たせしました!」
悠騎「エヴァンゲリオン! シンジにアスカか?」
シンジ「あ、いえ……後弐号機に乗っているのはアスカじゃなくて……」
カヲル「初めまして、G・K隊の皆さん。
僕の名前は渚カヲル、エヴァンゲリオンのパイロットです。これより皆さんを援護します」
悠騎「おう、よろしくな!」
レミー「あ〜ら、また大層な美少年じゃないの」
キリー「新人さんの前で、無様なところは見せられないな……っと!」
ガンダムサイクロプスのスレッジハンマーを、紙一重のところでかわすゴーショーグン。
シンジの初号機、カヲルの弐号機は、周囲を飛び回る魔鬼羅を、パレットライフルで撃ち落として行く。
隣で迎撃に当るカヲルの戦いぶりを見て、シンジは息を飲む。
シンジ(凄い、一匹も撃ち漏らさず、全部正確に当ててる……)
カヲル「無駄なことだよ」
シンジ「え?」
カヲル「今僕らが戦っているのは器に過ぎない。器を幾ら壊したところで、“彼ら”はまた別の器を借りて蘇る……」
彼の言葉の意味が分からず、首を傾げるシンジ。
カヲル(彼らに宿っているのは、かつて契約者だったもの達の成れの果て……
肉体が消滅し、精神が死した後も、崩壊力の渦に取り込まれ、永遠に使役され続けている……)
紅い瞳を通して、あの怪物達に宿るヒトの存在を見抜いているのは、彼だけだった。
カヲル(哀れに思えるかもしれないが……彼らに既に意志はない。
喜びも悲しみもない、無限の牢獄……人によっては、楽園に思えるかもしれないね。
そんな彼らを解放する方法があるとすれば、それは――)
335
:
藍三郎
:2009/12/15(火) 18:33:40 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
ドラクロワ「っだぁらぁぁぁぁぁっ!!!」
巨体と剛力から繰り出されるハンマーは、風圧だけでも凄まじい威力を誇る。
胸にハンマーの先端を当てられ、ゴーショーグンは大きくよろめいた。
キリー「かすっただけでこの威力かよ……」
真吾「こりゃあ、一気に決着をつけた方がよさそうだ! ゴーフラッシャー!!」
ゴーショーグンの背中から、黄色のエネルギー光が放たれ、ガンダムサイクロプスを撃つ。
直撃を喰らい、大きくよろめくサイクロプスだが、その装甲に殆ど傷はついていなかった。
真吾「なぁっ!?」
ドラクロワ「ハッハァッ!! 効ぃかねぇなぁっ!!」
反撃に放たれたサイクロプスのハンマーが、ゴーショーグンの胸部装甲に炸裂する。
巨体が宙を舞い、後方に吹っ飛ばされる。
そのまま背面からビルに激突し、瓦礫の中へと倒れ込む。
ドラクロワ「ハハハハハハハハ! 瓦礫に埋もれる姿ってのもまた趣があらぁな!
てめぇもバラバラに砕いて、その瓦礫に混ぜてやるぜ!」
ハンマーを担ぎ、ゴーショーグンに歩み寄るサイクロプス。
レミー「真吾、キリー、生きてるぅ?」
キリー「痛たた……何とかな」
真吾「早く起き上がらないとやばいぞ……うおおっ!?」
気付いた時には、サイクロプスは彼らの目の前まで迫っていた。
絶体絶命の瞬間……
ドラクロワ「ぐおおっ!?」
真っ白い閃光が、ドラクロワの片目を焼く。
一時的に視力を失い、サイクロプスは大きくよろめく。
ブンドル「ふっ、大丈夫かね、マドモワゼル・レミー!」
ブンドルの乗るレジェンド・オブ・メディチが、剣から放つ光でドラクロワの目を眩ませたのだ。
レミー「ありがと〜! 助かったわ! 今度何か奢ったげる!」
珍しく、素直に礼を言うレミー。
ブンドル「ふっ、騎士としては当然のこと……」
レミー「あ、危ない!」
ブンドル「む……!!」
目の見えない状態で振ったハンマーが、ブンドルの頭上を掠める。
純白の騎士は風圧で飛ばされ、仰向けに倒れ込む。
装甲の薄いレジェンド・オブ・メディチにとっては、これだけでも大きな痛手だ。
機体がもう少し大きければ、直撃を受けて木っ端微塵になっていただろう。
サイズ差のお陰で命拾いした形となった。
レミー「あ〜らま、やっぱり微妙に決まらない人よね、貴方って」
ブンドル「面目ない……」
ケルナグール「グワハハハ! もやしのブンドルは引っ込んでおれ!! ワシが相手だ!!」
両腕を振り回して突撃するグランナグール。力自慢同士、この戦いは負けられない。
ドラクロワ「しゃぁらくせぇっ!!」
まだ視力が回復しない状態ながらも、ハンマーを振るうドラクロワ。
ケルナグール「来んかぁぁぁぁい!」
グランナグールも一歩も引かず、同時に両の拳を放つ。
鎚と拳がぶつかり合い……
ケルナグール「ぐあああぁぁぁぁっ!?」
軍配はドラクロワに上がった。
吹き飛ばされたグランナグールは市街地をごろごろ転がっていく。
それでも、拳を放っていたからこそ互いの威力が相殺され、大破を免れたのだ。
336
:
藍三郎
:2009/12/15(火) 18:40:57 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
カットナル「ふん! 単細胞め。突っ込むだけで勝てるなら苦労はせんわ」
鼻を鳴らすカットナル。
グランナグールの傍に寄るカットナルのカットナークロウ。
だが、それが彼の過ちだった。
ケルナグール「おのれぇ、こうなったらぁ!!」
カットナル「へ?」
グランナグールは上空に腕を伸ばし、カットナークロウの脚を掴み取る。
カットナル「な、な、な、何をするか! 敵はワシではないぞ!?」
カットナルの抗議をよそに、グランナグールはカットナークロウを掴んだまま、腕を高速回転させる。
カットナル「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」
竜巻に飲まれたような揺れと回転が、カットナルを襲う。
満足に言葉を発することもできない。
ケルナグール「喰らえぃ! ドクーガ友情奥義!! カットナグールボンバ――ッ!!」
十分に遠心力をつけ、カットナークロウを放り投げるグランナグール。
グランナグールのパワーに、カットナークロウの流線型の構造が合わさり、恐るべきスピードで飛んでいく。
これがサイクロプスに直撃すれば、あるいは有効打になりえたかもしれなかった。
だが、乗っているカットナルはそれどころではない。
カットナル「な、なぁぁぁぁにが友情だぁぁぁぁぁぁっ!」
異常な重力に晒されながら、カットナルはハンドルを掴む。
サイクロプスに激突する寸前、カットナークロウを急旋回させ、何とか脱出に成功する。
カットナル「ふぃぃぃ……死ぬかと思った……」
ケルナグール「くぉらカットナル!!貴様が逃げたら必殺技が決まらんではないか!この腰抜けが!!」
カットナル「黙れ!必殺技とは、何だ、ワシを必ず殺す技か!?
玉砕戦法なら一人でやれこの脳筋バカが!!」
ケルナグール「うるさい!どうせ貴様のことじゃ。また高みの見物を決め込む気だったのじゃろう!
出番を作ってやったことを感謝せんか!!」
二人が口論している間に……
ドラクロワ「ハッ……見えるぜぇ〜〜……」
視力が回復したドラクロワは、二体に向けてハンマーを振り下ろす。
カットナル「うおあああぁぁぁぁぁっ!?」
ケルナグール「のわあああぁぁぁぁぁっ!?」
直撃は免れたものの、震動で吹っ飛ばされる中年二人。
突き刺さったハンマーは、地震さながらに地面を揺らす。
リュウセイ「ち、まるで地震が来たみてぇだぜ……」
ライ「地震だと……まさか……!」
ライは気づいた。事態は自分達が考えている以上に、最悪の方向に転んでいることに。
=NERV本部=
ミサト「上層都市が崩落!?」
日向「は、はい! あのガンダムのハンマーによる攻撃は、
第3新東京市を支えるプレートに多大な負荷を与えています。
これが地面ならば、問題なかったのでしょうが……」
マヤ「プレートのひずみは急速に広まっています。
このまま攻撃が続けられれば、亀裂が街全体に広がり、第3新東京市そのものが崩落することになるでしょう……」
ムスカ「待てよ……さっきから野郎、やたらハンマーを地面にたたき付けていたと思ったが……」
あれは、攻撃を避けられたから地面を殴ったのではなく、最初から地面が狙いだったとしたら……
彼の目的は、単純な破壊活動ではなく、第3新東京市そのものの破壊にあるのでは……
ドラクロワ「くくく……お高く止まったこの街を、地の底まで叩き落としてやるぜぇ!
見るがいい、ドラクロワ・ザ・ガイア畢生の大作!!
作品名!『奈落への堕天(フォールダウン)』!!」
337
:
蒼ウサギ
:2009/12/26(土) 00:47:18 HOST:softbank220056148001.bbtec.net
ドラクロワの雄叫びとともに、その作品は完成してしまった。
最後のハンマーの一撃と共に第三新東京市の地面には亀裂が一気に広がり始め、そこからはもうドミノ式だ。
周囲の建物の重さに地盤が耐えきれず陥没。ついでに皮肉にもEVAを始めとする飛行できない機体がそれの手伝いをしてしまった。
シンジ「わぁぁぁぁぁっ!!」
カヲル「っ!」
ケルナグール「おわ〜〜〜! 誰か手を貸してくれ〜〜〜!」
矢継ぎ早に落ちていく機体達を見て、ミサトは顔面を蒼白させた。
ミサト「っ…日向くん! あのガンダムのパイロットは使徒である可能性は!?」
日向「今のところパターン、オレンジ。使徒とは確認されていません」
ミサト「じゅあ、何故あのパイロットはこんな真似を……!」
苦虫を噛み潰したような顔をしていると、背後より自動ドアが開く音が聞こえ、同時に聞きなれたここの司令官の命令が飛び込んできた。
ゲンドウ「これよりNERVも第一種戦闘配備に入る」
その一言で、NERVもようやく本格的に緊張感を高めた。
ミサト「司令、零号機の出撃は?」
ゲンドウ「レイは待機だ。このタイミングで使徒が本部に直接攻めてくる可能性もある」
ミサト「……了解」
一応、言葉にしたものの、どこか納得はいっていない表情のミサトだった。
§
なんとか落下した機体は全員上手く着地できたものの、S2機関で実質、永久稼働できる初号機は問題ないが、
一方の弐号機は落下の衝撃でアンビリカルケーブルが千切れてしまい、内部電源に切り替わって、あと五分しか稼働できない。
キョウスケ「弐号機のEVAパイロット、大丈夫なのか?」
カヲル「あぁ、これくらい問題ないよ。本部もようやく本腰を入れ始めたようだし、すぐに新しいケーブルがくる」
言ってる側からカヲルの元に、ミサトからの新しいアンビリカルケーブルの場所の位置がいくつか知らされる。
これらのどこかに向かい、接続しろというのだろう。
カヲル「お互い飛べないのは不便だね。まぁ、リリンはそれが自然なんだけどね」
キョウスケ「?」
去り際に告げられたそれがキョウスケには少し妙に感じられたが、すぐに陥没した穴より押し寄せる異形の怪物たちにそれどころではなくなった。
338
:
蒼ウサギ
:2009/12/26(土) 00:48:06 HOST:softbank220056148001.bbtec.net
§
悠騎「ちっ、あの芸術ハンマー野郎は、とんでもないことしやがって!」
タツヤ「芸術家は変わり者が多いと聞くがよ…あれは極端すぎるぜ!」
悠騎「なんでもいいけど、人に迷惑かける芸術ばっかり創ってんじゃねぇよ!」
怒鳴りながら悠騎のブレードゼファー強襲型がガンダムサイクロプスへと斬りかかる。
剣とハンマーがぶつかり合い、火花を激しく散らしてそこから反発しあうように離れる。
ドラクロワ「ハーッハハハ! てめぇもオレの作品にしてやろうかぁ!」
悠騎「冗談じゃねぇ! てめぇのハンマーで潰されるんなら、その前にオレがこの剣でてめぇをぶった斬ってやらぁ!」
ドラクロワ「ハハハハハハハハハハハ!!!」
やってみろよとばかりに高笑いするドラクロワ。
それを耳触りとばかりに怒り顔になる悠騎。そんな二人の間で歌が聴こえてきた。
悠騎「!……これは?」
何度も聴いたことある歌。その度に力をもらったような歌。
そう、熱気バサラの歌だった。
バサラ「お前ら! オレの歌を聴けえぇぇぇぇぇぇぇ!!」
曲の間奏の間にバサラは吠えた。
まるでライブ感覚に彼は、ファイヤーバルキリーにこの戦場に現れたのだ。
§
新しいアンビリカルケーブルを接続したカヲルの弐号機は、突如戦場に流れてきた歌声に心地よく耳を傾けた。
カヲル「まさかこういう場で彼の歌が聴けるとはね……。感謝するよ、イレギュラーなリリン達」
339
:
藍三郎
:2009/12/27(日) 20:18:32 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
バサラ「POWER TO THE DREAM POWER TO THE MUSIC
新しい夢が欲しいのさ――」
ジオフロント全体に木霊する、バサラの歌声。
それに呼応して、ファイヤーバルキリーからも、七色のサウンドウェーブが放たれる。
悠騎「バサラ! でも相手がプロトデビルンじゃなけりゃ……」
パルシェ「いえ、そうでもなさそうですよ……!」
サウンドウェーブを浴びた魔鬼羅の動きが鈍り出す。
一切声を発しないが、何らかの影響を受けているのは確かなようだ。
ムスカ「バサラの歌は、あいつらにも効果があるのか……?」
やがて、魔鬼羅の内一体がその場に膝を突く。
爛々と輝く赤い眼から、光が消える。その機体はひび割れ、黒い灰となって崩れ落ちる。
他の魔鬼羅や邪鬼羅にも、同様の効果が現れ始めているようだ。
宇宙太「す、すげぇ……」
エクセレン「いつもながら、彼のミラクルボイスには驚かされるわ!」
カヲル(あれは死ではない……彼の歌声が、閉じ込められた魂を揺り動かし、呪縛から解き放ったんだ)
彼の眼には、バサラの歌に揺さぶられ、魔鬼羅から解放される魂が見えていた。
アネット「! また空間転移反応よ!」
ムスカ「ち、奴らの増援か!?」
ジオフロント内部の空間が裂け、その中から、新たな機体群が出現する。
だがそれは、魔鬼羅や邪鬼羅ではなく……<アルテミス>の機体だった。
ドモン「アルテミス……だと!?」
青と赤、二色のロストセイバーが多数出現する。
さらに……キング・ハンプティ、ビッグシューズ・グランマ、クロスボウ・ロビン。
マザーグース製の三体のギガマシーンも、同時に出現する。
タツヤ「あ、あいつら、皆壊したはずだよな!?」
アルティア「また、造り直したということでしょうね……」
一体一体でも厄介だった敵が、三体同時に出現した衝撃は大きい。
中央にいるキング・ハンプティの額部分に、マザーグースのホログラフが浮かび上がる。
マザーグース『ヤァヤァG・K隊の諸君、今日もお元気そうデ何よりダヨ。
ヤンチャが過ぎて、少々鬱陶しいぐらいニネ!』
クローソー「マザーグース! 貴様ッ!」
憎んでも飽き足らない怨敵の出現に、クローソーの口調も一層厳しくなる。
マザーグース『黙りたまえヨ。今日はユウの怨み言なんか聞いているヒマは無いんダ……ミイの目的は……』
ゼド「ハイリビードを操るのに必要な……“鍵”を手に入れるためですね?」
ゼドの指摘に対し、マザーグースは目に見えて動揺する。
マザーグース『!……どうしテ、それを……』
ゼド「ある人に教えて頂いたのですよ。
貴方達が、私達をこの世界に送り込んだ、本当の目的もね」
マザーグース『ホウ……言ってみたまえ!』
340
:
藍三郎
:2009/12/27(日) 20:24:20 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「詳細な説明は省きますが……貴方達<アルテミス>は我々に時空の狭間を潜らせることで、
修正力と崩壊力のバランスを崩し、ハイリビードを発現させようとした。
そのせいで、この世界が滅ぶことも承知の上で……」
マザーグース『おやおや、いつの間にやらそこまで辿り着いていたとは
どうやら、ユウ達はただのサンプルの領域を、超えつつアルようだネ……危険だ……実に危険だヨ』
ゼド「ですが、貴方は既にハイリビードを手に入れている。
ならばもう、我々に用は無いはず。
なのに、我々の前に姿を現したということは……
ハイリビードを完全に制御し切れていないのではないか……
そのために必要な、“鍵”を求めているのではないか……と考えたのですよ」
ゼドの答えに、マザーグースは人形の手で拍手を送る。
マザーグース『コングラチュレイション! 大正解だヨ!
いやぁ、上手く行ったと思ったンだケドネェ。
“アレ”は予想以上のじゃじゃ馬ダヨ。ミイの望みを叶えるニハ、もっと上質な“鍵”が必要なんダ。
ネェネェ、“鍵”……渡してくれないかナァ? まずはロム君が持っている剣狼と流星をネ……』
ロム「断る! 貴様こそ、ハイリビードを還せ!
あれは、個人の欲望のために使っていいものではない!」
レイナ「そうです! ハイリビードが無ければ、この宇宙は崩壊してしまうかもしれないんですよ!?」
ストール兄妹の叫びを、マザーグースは鼻で笑う。
マザーグース『知ったこっちゃ無いネ。
どうせこの世界を離れるミイには、何の関係もない話ダヨ』
ムスカ「所詮異世界だから、どうなろうと構わないってことか」
ゼンガー「外道が……!」
リュウセイ「俺らも同じ別世界から来た人間だが、てめぇみてぇな考えは許せねぇぜ!」
マザーグース『何とでも言うがいいサ……ミイにとっては、
世界一つを犠牲にしてでも欲しいモノがある……それだけの、話だヨ!!』
そう語るマザーグースからは、苛立ちと……僅かな悲しみのようなものが感じられた。
それは、常におどけた態度を取る彼が珍しく見せた、本心の発露に思えた。
マザーグース『さァ! ミイのかわいいマリオネット達! 攻撃開始だヨ!!』
造物主の命令に従い、ギガマシーンとロストセイバーが動き出す……
だが……
アルテミスの攻撃は、G・K隊をすり抜けて、魔鬼羅達にのみ降り注いだ。
ムスカ「! どういうつもりだ?」
マザーグース『アア……さっきはああ言ったケド、まだこの世界を壊されては困るンでネ。
ここは、共同戦線と行こうじゃナイカ』
それは、あまりにも意外な申し出だった。
パルシェ「世界が……壊れる?」
マザーグース『使徒があのネルフ本部に収められているモノに接触すれば、サアドインパクトが起こることは知っているヨネェ?
L.O.S.T.はサアドインパクトを起こして、空間の境界を破壊し、一気にこの世界への侵入を果たそうとしているのサ!!
あのダニどもの目的は、そのお手伝い。邪魔者になるユウ達を排除することなんだヨ』
ムスカ「じゃあ、前みたいに、使徒が現れるってのか!」
ゼド(やはり……)
マザーグース『そういうコト。以前のNo.14(フォウティン)みたいなバケモノに出て来られたら、厄介なんでネェ。
その時に、お互い疲弊してちゃあたまったもんじゃナイ。
ここは、ユウ達よりもL.O.S.T.のダニを駆除するのに専念させてもらうヨ』
確かに、双方の利害は一致する……
それでも、これまで敵だった<アルテミス>の言い分を、そう簡単に信じられるはずもない。
タツヤ「そんなこと言って、隙を見て俺らをどうこうしようって考えているんじゃねぇだろうな?」
マザーグース『アア、もちろん、そのつもりだケド?』
あっさりと答えるマザーグース。
タツヤ「な……?」
マザーグース『共同戦線と言ったケド、その途中でミイ達が隙を見せたら、その時は遠慮なく、不意を突かせてもらうヨ』
ムスカ「ま、当然だな」
ゼド「予想の範囲内です」
二人に驚いた様子はない。
マザーグース『うふふふ……だから、精々ミイに寝首を掻かれないよう、気をつけて戦うコトだ』
マザーグースはニヤニヤ笑っている。
341
:
藍三郎
:2009/12/27(日) 20:25:46 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
由佳「……いいでしょう。貴方がたの支援を受け容れましょう」
アネット「由佳ちゃん、いいの!?」
由佳「ただし、寝首を掻かれる可能性があるのは、貴方たちも一緒である事をお忘れなく」
マザーグース『おお!怖い! 言ってくれるネェ、お嬢さん!!』
ムスカ(今ここで無駄に敵を増やすより、利用する方が得策か。
もうじき、本当に使徒が出て来るってんなら、無駄な消耗は極力避けた方がいい……)
しかし、敵は到底信用などできない輩だ。
いつ裏切られてもおかしくない、綱渡りのような共闘となるだろう。
パルシェ「クローソーさん……」
この中で最も反対しそうなクローソーだったが、意外にも彼女は冷静だった。
クローソー「気に入らないが……どうせあれは全部マリオネットだ。
奴自身はいつものように高みの見物だろう。だったら、他の邪魔者を片付けてから、全部叩き壊してやるよ」
マザーグース『アハハハハハハ!! デハ、これにて交渉成立ってことで♪
それトね、理由は他にもあるんだヨ』
ムスカ「何?」
マザーグース『熱気バサラ君だっけ? 彼の音楽(ミュウジック)は素晴らしい。
実は、ミイも彼の隠れファンでネ。こんなところで死なせるのは惜しいんだヨ』
ドラクロワ「ずぁりゃあああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
全力で振られたスレッジハンマーが、ブレードゼファーの剣を弾き、吹き飛ばす。
悠騎「ぐっ! さすがに力押しじゃ分が悪いか……!」
ドラクロワ「ハッハ――ッ!! グチャグチャに砕けちまいなぁっ!!」
追撃とばかりに突進するドラクロワ。
シンジ「悠騎さん!!」
その間に、エヴァンゲリオン初号機が割って入り、ATフィールドを展開する。
ゼルエルとの戦いでS2機関を取り込んだ初号機には、活動限界は存在しない。
ビルをも一撃で粉砕するスレッジハンマーの一撃だが、初号機のATフィールドに阻まれる。
ドラクロワ「な、何だこりゃ!!」
今までに、味わったことの無い感触だった。
堅いというよりも……ハンマーの衝撃そのものを、“拒絶”されたように感じる。
シンジ「誰も……誰も殺させるもんか! 僕の友達も……僕の仲間も!」
決意を込めた視線で、ガンダムサイクロプスを見据えるシンジ。
悠騎「シンジ……」
ドラクロワ「ありえねぇ……ありえねぇ!!
俺様に壊せないものなんざ、あるわけねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
激昂したドラクロワは、何度もスレッジハンマーを打ち付ける。
だが、物理的な衝撃とは次元を異にするATフィールドは小揺るぎもしない。
壊したいのに壊せない。これまで大地さえも破壊した自分が、こんな薄い障壁一つ砕けない。
湧き上がる苛立ちが、ドラクロワの破壊衝動をより熱く、より深く、より加速させていく。
それが限界を越えるのに、長い時間はかからなかった。
ドラクロワ「う、うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!」
342
:
藍三郎
:2009/12/27(日) 20:26:58 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
ガンダムサイクロプスの全身から、褐色のオーラが噴出する。
それはあたかも、活火山の噴火のようであった。
頭部のバイザーが下がり、一つ目を模った赤いネオン光が点灯する。
かつてG・K隊の前でも見せたことのある、ガンダムサイクロプス・ハイパーモードの発現である。
シャッフル同盟のように、明鏡止水の心で呼び覚ましたハイパーモードではない。
かつて憎しみに取り付かれていたドモンが、誤った方法で発現させた怒りのスーパーモードに近い。
しかし、彼は最凶四天王。人の道を外れ、人の文明を破壊せんとする怪物である。
そんな彼にとって、怒りと憎しみこそが、己の力を極限まで引き上げる燃料なのだ。
ドラクロワ「ずぅおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
ギガンティック・ダッシャァァァァァァァァッ!!!」
オーラを纏ったスレッジハンマーを、エヴァンゲリオンではなく、地面に叩きつけるサイクロプス。
シンジ「う……わっ!」
ガンダムサイクロプスを中心として、蜘蛛の巣状の巨大な地割れが発生する。
ATフィールドで正面からの攻撃は防げても、地形への破壊までは止められない。
初号機も地割れに飲まれ、大きく体勢を崩してしまう。
続けて迫り来る、スレッジハンマーの第二撃。それも、何とかATフィールドで防御してみせるが……
シンジ「いけない……このままじゃ!」
シンジが危惧しているのは、このジオフロントにある避難用シェルターのことだった。
ATフィールドがある限り、サイクロプスの攻撃は自分には届かない。
だが、このままサイクロプスが大地を破壊し続ければ、NERV本部や、
友人達が避難しているシェルターに及んでしまうのではないか……
悠騎「やらせねぇ!!」
ドラクロワ「!!!」
スター・オブ・クラージュで、ガンダムサイクロプスの背中から切りつけるブレードゼファー。
初号機に気を取られるあまり、完全に背後への注意がおろそかになっていた。
その間にブレードゼファーは機能を回復し、サイクロプスの背後へと回りこんだのだ。
もんどりうって倒れるサイクロプス。
カヲル「大丈夫かい、シンジ君」
シンジ「カヲル君……」
ケーブルを再接続した弐号機に助け起こされる初号機。
シンジは、眼前の光景に目をやる。
不意打ちを喰らったにも関わらず、ガンダムサイクロプスは起き上がり、今度はブレードゼファーにその闘志を向けている。
悠騎も果敢に応戦するが、やはり異常なまでに分厚い装甲の前では、決定打を与えられないようだ。
シンジ「あいつは強い……あんな怪物、どうやったら倒せるんだろう……」
ふと、シンジの脳裏に、かつてのバルディエル、ゼルエルとの戦いが蘇る。
エヴァンゲリオンの暴走……あの秘めたる力を解放すれば、あるいは……
しかしシンジには、あの力を使う事に抵抗があった。
以前はあやうく親友を殺しかけたのだ。
それだけではなく、あの力には、妄りに触れてはならない、禁忌のようなものを感じていた。
カヲル「心配は要らない……」
そんなシンジの気持ちを読み取ったように、カヲルは優しく微笑みかける。
カヲル「彼の歌が……世界をも癒す歌声が……今から奇跡を起こす」
343
:
藍三郎
:2009/12/27(日) 20:28:46 HOST:253.160.183.58.megaegg.ne.jp
レミー「少年たち、頑張ってるわね〜〜」
真吾「こりゃ、大人の俺達が、のんびりしているわけにもいかねぇな!」
地面に埋まったゴーショーグンを再発進させようとする真吾。しかし……
レミー「どうしたの? 真吾」
真吾「ゴーショーグンのパワーが……」
キリー「何だ? まさかエネルギー切れじゃ……」
真吾「違う、その逆だ……」
ゴーショーグンの内包するビムラーエネルギーが、急速に上昇している。
そしてそれは、ゴーショーグンだけの現象ではなかった。
ケルナグール「うおおおお! 何だか知らんが、力が漲ってくるわい!!」
カットナル「う、うむ。これならば、カットナライザーが無くても何とかなりそうだ!」
ブンドル「この力の源は……彼か」
バサラ「POWER TO THE UNIVERSE POWER TO THE MYSTERY
俺たちのパワーを伝えたい――」
戦況の変化などお構いなしに、ただ歌い続ける熱気バサラ。
ファイヤーバルキリーから放たれる七色の光が、ゴーショーグンと三機のネオドクーガメカを結んでいた。
ブンドル「……天啓だ」
ブンドルは、空を仰いで呟く。
ケルナグール「は……?」
ブンドル「今、私に美の神が舞い降りた……
そして、垣間見たのだ。我々の進むべき道を光輝く、美しきヴィジョンを!!」
ケルナグール「……前々からおかしな奴だとは思っていたが……」
カットナル「いよいよ、本格的にやばくなったようだのう。カットナライザー飲むか?」
陶酔するブンドルに対し、思いっ切り引いているケルナグールとカットナル。
そんな彼らをよそに、ブンドルは大きく目を見開き、叫んだ。
ブンドル「聞きたまえ! グッドサンダーチームの諸君!!」
キリー「ん? 何だぁ?」
ブンドル「今、閃いた。ゴーショーグンとレジェンド・オブ・メディチ……この二体を合体させるのだ!」
レミー「はぁ!?」
真吾「また唐突に何を……」
グッドサンダーチームの三人も、ブンドルの発想にはついていけない。
ブンドル「私が知る中でも、最高級の美しさを持つこの二機が一つになれば、
華麗さと荘厳さを兼ね備えた、真の魔神が誕生するに違いない!」
キリー「いや、それは大雑把過ぎるんじゃ……」
ブンドル「では、早速始めるとしよう……美と美の融合を!」
聞く耳持たずとばかりに、ゴーショーグンに向かって飛んでいくレジェンド・オブ・メディチ。
いや、ゴーショーグンから放たれる光によって、引き寄せられているようですらある。
ケルナグール「待たんかい!!」
カットナル「何をするか知らんが、ワシらも混ぜてもらおうか!」
グランナグールとカットナークロウも、その光に飛び込む。
ブンドル「お前達は要らぬ! 完璧な美に、不純物は必要ないのだ!」
ケルナグール「ガハハハハ! 貴様だけ盛り上がろうとしたところで、そうはいかんぞ!」
キリー「どいつもこいつも勝手なことを……」
レミー「でも不思議、何だか私もやってやれそうな気がしてきたわ」
真吾「これも、ビムラーのお導きって奴か? なら、どこまで行くか、見せてもらおうじゃないの!!」
ゴーショーグンを中心として、ネオドクーガメカの三機が光の球に包まれる。
それは、ジオフロント全体を照らすほどの巨大な光だった。
やがて、光が収まった時……
そこには、一体の巨神が降臨していた。
悠騎「な、何だありゃ……」
マザーグース『オオ……イッツ・ワンダフル……』
レジェンド・オブ・メディチが変形し、ゴーショーグンの頭部と胸部に合体する。
グランナグールが両腕、両足のパーツとなり、カットナークロウは背中に装着され、翼となっていた。
真吾、キリー、レミー、ブンドル、ケルナグール、カットナルの六人は、全員同じコクピットに集合していた。
合体に伴い、コクピットの大きさや内装も変化したようである。
キリー「あーれま、マジで合体完了しちゃったよ」
真吾「いい加減、驚くことなんて無いと思っていたが……」
戸惑うグッドサンダーチームに対して、ブンドルは上機嫌である。
ブンドル「予定とは狂ったが……この姿も悪くない。
ふふふ……渾沌(カオス)と秩序(コスモス)を司る美しき戦神……
その名も、伝説魔神・レジェンドゴーショーグン!」
344
:
蒼ウサギ
:2010/01/06(水) 02:07:44 HOST:softbank220056148040.bbtec.net
マザーグース『ホォォォ! ワンダフォゥ! ワンダフォゥ!! 実に、実にこれは興味深いネェ!』
すぐさまレジェンドゴーショーグンのデータ解析に夢中になるマザーグース。
彼にしてみれば今回あの機体が出てきたことは想定外の収入なのだ。
いやがおうにも探究心が刺激されてしまう。
マザーグース『あれをアナライズ(解析)できれば、今後の機体性能向上が期待できるかもしれないネェ!』
笑いが止まらないといった様子のマザーグースの一方で、レジェンドゴーショーグンの登場は、敵味方とも反応は様々だ。
驚く者、不思議がるもの。そして―――。
カヲル「これはさすがの彼らも想定外のシナリオだろう。いや、誰もこのシナリオを予測できるものなどいない。
何故ならこれはイレギュラーである彼らと、この星の世界で生きていたアニマスピリチアの歌が揃い、
奇跡的な確率で起こりえた新たらしいシナリオなのだから」
シンジ「カヲルくん…? 何を言ってるの?」
達観したように呟いたカヲルの言葉を、シンジは半分も理解できていなかった。
当然だ。シンジは、これまで、ただEVAに乗って戦っていただけなのだから。
ゼーレ。そして、自分の父である碇ゲンドウが企む“シナリオ”のことなど知るよしもない。
カヲル「ただの、独り言だよ」
だが、小さくカヲルの独り言は続いていた。
カヲル「けど、彼らのシナリオが少し狂った所で、僕は僕である限りその役割を果たさなければならない。……悲しいね、アダムより生まれた僕は」
カヲルの言葉は、自分に、そして今、自分に乗っているEVA弐号機にも告げられていた。
カヲル「アダムの分身にして、リリスのしもべEVA。……付き合ってもらえるかい?」
キュン、とカオルの言葉に答えるかのように、弐号機の四つの目が一瞬、光った。
§
キリー「よくもまぁ、すぐにそんな御大層な名前が思いつくねぇアンタも。案外、リュウセイと気が合うんじゃない?」
ブンドル「フン、私の美学を分かり合えるのにはあの少年は若すぎる」
ケルナグール「ガハハハハ! 名前なんぞどうでもいいわ! とにかくパワーアップしたことには変わりない! 早速この力を試してみようではないか!」
レミー「軽いノリは変わらないのねぇ。ま、いいわ。真吾、縮こまっても始まらないわ!」
カットナル「ちょっと待て! メインパイロットはやっぱりそいつなのか!」
ブンドル「少なくとも貴様ではなかろう」
真吾「いつにもまして賑やかになったが……ゴーショーグン、改めレジェンドゴーショーグン、GO!」
ついにレジェンドゴーショーグンが動き出す。そのスピードはゴーショーグンの比ではない。
真吾「ぐぅぅぅぅ!! こいつは扱い辛い!」
今までにないGに押しつぶされそうになりながらも、目標をガンダムサイクロプスに定める。
しかし、まるで危険を本能で察知した獣の如くドロクロワは、レジェンドゴーショーグンが来ることを予見していたかのように、接近に合わせて
迎え打つためのスレッジハンマーを大きく振り上げていた。
ドロクロワ「ぐぁぁぁああああああ!!」
キリー「チッ、頭に血が上っても、ファイターはファイターだな。体に戦闘本能ってのが染み付いてるぜ」
レミー「真吾、いける?」
真吾「とりあえず……ゴーサーベルを―――」
瞬間「いや!」、という声が割って入る。
345
:
蒼ウサギ
:2010/01/06(水) 02:08:22 HOST:softbank220056148040.bbtec.net
ブンドル「もはやこれはゴーショーグンではない。新たな武器、レジェンドサーベルだ!」
するとレジェンドゴーショーグンの手にゴーサーベル、ゴースティック、そしてレジェンド・オブ・メディチのエレガンスサーベルが次々に現れ、
それが瞬く間に融合され、一つの大剣が出来上がった。
真吾「な、なんでもありだな……」
ブンドル「フッ、存分に振るうがいい」
真吾「いわれなくても!」
真吾のセリフは、剣とハンマーの激突音にかき消えた。
その瞬間、大地が大きく震え、衝撃波が周囲の機体を襲う。
シンジ「くぅぅ!」
悠騎「あっぶねぇ!」
真吾「悪い! まだ慣れてないんだ!」
カヲル「クスッ……じゃあ、しばらく離れていたほうが賢明だね。行こう、シンジくん」
シンジ「え?」
急にアンビリカルケーブルをパージした弐号機を見て、シンジが唖然すると同時に戸惑った。
カヲル「僕達は……僕達にできることをしよう」
悠騎「そうだな。あの化け物どもいるし……共同を謳っちゃいるが<アルテミス>もいるがな」
その悠騎のぼやきは、都合が悪いことに由佳に聞かれたらしい。「今は余計なこと考えないの!」と個人回線ですぐに怒られてしまった。
シンジ「そ、そうですね。わかりました」
そう答えると、真っ先にブレードゼファーがL.O.S.T.軍勢へと飛んでいった。
それに続くかと思いきやカヲルは、唐突にシンジへ問いた。
カヲル「ねぇ、シンジくん」
シンジ「え?」
カヲル「もし、君の手一つで世界が救えるか滅ぶかどうかの選択肢が迫った時、君はどうする?」
シンジ「どうしたの? 急に……」
戸惑うシンジにも構わずカヲルは続けた。
カヲル「答えを……見せてもらうよ」
その時、カヲルの雰囲気と、EVA弐号機が変わった。
そして、NERV本部に最悪の信号パターンが判明する。
§
=NERV本部=
日向「ぱ、パターン青! 使徒です!」
ミサト「! このタイミングで? どこから!」
日向「そ、それが……」
震えながら日向はそれをミサトに伝える。
本部内に激震が走った。
ミサト「……EVA弐号機から。あのフィフスが使徒!? に、弐号機の現在位置は!?」
青葉「現在、EVAの射出口から本部へ侵入。現在、セントラルドグマを降下中です!」
してやられた、とミサトの口元が歪んだ。
今までの使徒は圧倒的に攻撃力をもってしてNERV本部内へと侵攻を試みていたが、今回は実にスマートだ。
EVAの射出口という本部との出入り口を利用して、さらにそこから通じるセントラルドグマを降下すれば容易にターミナルドグマへと辿り着く。
ミサト「まずいわ! 使徒がアダムと接触するのは時間の問題! すぐに待機中のレイを……」
焦るミサトに、ゲンドウの冷静な声が割って入る。
ゲンドウ「待て。……初号機パイロットに使徒殲滅を優先させろ」
ミサト「! しかし、時間が……」
マヤ「初号機! 弐号機を追跡中!……どうやらシンジくん、何も言わなくても弐号機を追っていったようです」
ミサト「っ……最後までシンジくんに頼るしかないのね、私達は……」
346
:
藍三郎
:2010/01/15(金) 22:34:34 HOST:99.182.183.58.megaegg.ne.jp
ドラクロワ「ずぁぁらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ガンダムサイクロプスのハンマーを、レジェンドサーベルで打ち払うゴーショーグン。
剛力無双を誇るサイクロプスを相手に、力勝負で渡り合っている。
ドラクロワ「てめぇもか! 何でだ! 何で壊れやがらねぇ!!」
あの剣、あれだけ自分のハンマーを受けていれば、とうにへし折れていないとおかしくないはずだ。
にも関わらず、壊れない。苛立ちは、吹雪の夜の雪のように積もって行く。
レミー「そんなこと言われても、ねぇ?」
ブンドル「真実の美は、何者にも侵されることはない。
貴様の歪んだ欲望で、我らの絆が生み出した美の巨神を砕けると思わぬことだ」
ゴーショーグンの剣は、赤・青・黄、三色の輝きを宿したビムラーの光に包まれ、サイクロプスの一撃にも耐えうる強度を有していた。
剣のみならず、機体全体がビムラーの障壁に覆われ、衝撃を緩和している。
真吾「我らの絆、ねぇ」
キリー「大体、成り行き任せでこうなった気もするが」
そんな台詞は耳に入らないのか、ブンドルは陶酔したまま続ける。
ブンドル「敵と味方、本来交わるはずのない者たちが手を取り合い、その力を一つにしたことが、奇跡を現実のものとしたのだ。
レジェンドゴーショーグンこそは、まさに渾沌(カオス)と秩序(コスモス)を司る美しき戦神……
さぁ、始めようではないか。真なる美の饗宴を……」
ケルナグール「おっしゃあ! ここからはワシに任せんかい!」
ブンドルの口上に割って入ったケルナグールは、操縦権を奪い取る。
ケルナグールは、剣を地上に突き刺し、ゴーショーグンに拳闘の構えを取らせた。
今のゴーショーグンの両腕には、グランナグールのパーツが装着され、手甲(ガントレット)となっていた。
いや、この場合はグローブというべきか。
ケルナグール「ぐおおおらぁぁぁぁぁっ!!」
拳を突き出し、サイクロプスに殴り掛かるケルナグール。
速く、かつ重い拳が突き刺さる。厚い装甲は砕けずとも内部に衝撃を通すには十分だった。
拳を包むビムラーの光もまた、威力を上乗せしている。
ドラクロワ「ぐはぁっ!?」
ケルナグール「グハハハハ!! いつぞやのお返しをしてくれるわ!!」
高速で繰り出される拳の連打が、サイクロプスに叩き込まれる。
ドラクロワ「こん……のぉぉぉっ!!」
ケルナグール「グフフ! 血が滾るのう!
やられっぱなしは性に合わん、やはり相手を叩き潰してこそのワシよ!!」
剛拳剛打、互いに闘争本能を解放してぶつかり合う両者。
それを見ながら、ブンドルは眉に愁いの色を浮かべる。
ブンドル「ち、違う……私が目指していたのは、このような泥臭い戦いではなく、もっと華麗で優雅な……」
レミー「いいじゃないの、勝てれば何だって」
真吾「おう、頼んだぜ。ケルナグールのおっさん」
ケルナグール「グハハハハ!! 任せとけい!!
喰らえ! ナグールパイルドライバーッ!!」
一部ボクシングとは関係ない技も含めつつ、ガンダムサイクロプスに有効打を与えていくケルナグール。
ブンドルは、苦々しい顔つきでそれを見ていた。
その時……
キリー「ん? 母艦から全機体に通信……」
347
:
藍三郎
:2010/01/15(金) 22:42:21 HOST:99.182.183.58.megaegg.ne.jp
NERV本部からの報告を、瞬時に理解できた者はどれだけいるだろうか。
それだけ、その内容は突飛で……衝撃的なものだった。
悠騎「何だって……!?」
リュウセイ「嘘だろ……」
多くの者は、驚く以前に理解が追いついていないようだった。
彼らのためか、自分自身のためか、ゼドは簡潔に言ってのける。
ゼド「つまりはこういうことですか?
あの弐号機に乗っていた渚カヲルという少年は実は使徒で……現在セントラルドグマに向かっている。
彼がそこに辿り着けば、サードインパクトが発生すると!」
この場の通信は、全てアルテミス側にも筒抜けになっている。
マザーグースは、状況を理解した後……大きな声で笑い出す。
マザーグース『ククククク……ハハハハハハハハハハハ!!!
なるほど、こう来たか!! これこぉれは、とんだ驚愕(サプライズ)だ!!』
タツヤ「てめぇ! 何が可笑しい!」
宇宙太「まさか、これもお前の差し金なんじゃ……」
マザーグース『いやいや、ミイにとっても寝耳に水(ボルト・フロム・ザ・ブルウ)だヨ。
ミイはてっきり、No.14(ゼルエル)を上回るバケモノが出てくると思って身構えていたのだガ……
よもや化物(モンスタア)どもに一本取られるとはネェ!! アハハハハハハハハハ!!』
マザーグースの投げ槍な哄笑が響き渡る。
この場で、G・K隊と連携してでも使徒を迎え撃つつもりでいたが、彼とて使徒が人間に“擬態”していることは予想できなかった。
まんまと裏を掻かれる格好になってしまった。
悠騎「と、とにかく、俺らもシンジを追いかけようぜ!」
悠騎は既に、ブレードゼファーの進路をNERV本部に向けている。
マザーグース『そうするがいいサ。でも、そうは行かないみたいだヨ?』
ドモン「何……?」
本部に向かった機体の目前で、空間に赤い亀裂が走る。
それだけでなく、ジオフロント外周、上空からも、赤い空間が顔を覗かせた。
爪牙を備えた怪物たちが、雲霞の如く湧き出て来る。
その数は、これまで撃破された個体を上回るどころか、その倍以上に達しており、ジオフロント全体を埋め尽くす勢いである。
パルシェ「増援!? このタイミングで……」
チボデー「しかも、何てぇ数だ!」
ヴィレッタ「奴らの目的が使徒の支援だとすると……
今までは戦力を温存していたのか? この瞬間、大兵力を投入する為に……!」
L.O.S.T.の軍勢と意思疎通はできない。
しかし、この大群はその予想を正しいと裏付けていた。
彼らは瞬く間にNERV本部を取り囲み、G・K隊を近づけまいと壁を作っている。
由佳「み、皆さん! 急ぎNERV本部に向かってください!」
使徒がNERV本部にある“何か”に接触すれば、サードインパクトが起こり、壊滅的な損害がもたらされる。
何としても、阻止しなければならない。
マザーグース『そうかネェ? ミイは逃げるべきだと思うがネェ。
どうせもうサアドインパクトは避けられないんだからサァ。
ミイ達に出来ることなんて、もう何も無いんだヨ』
マザーグースは、既に敗北を認めつつある。
サードインパクトは、この地球に甚大な被害をもたらし、L.O.S.T.侵攻の呼び水となる。
それは確かに脅威だが……決して全てが台無しになるような問題ではない。
元よりこの世界に固執していない、彼らにとっては。
悠騎「そうはいくか! シンジは仲間だ! 仲間を見捨てて逃げられるかよ!」
ゼド「この街の人々もね。それに、セカンドインパクトのことを考えると、
被害は日本全土どころでは済みそうにありませんしね」
他のメンバーたちも、悠騎と同じ心境のようだった。
マザーグースは、呆れたように嘆息する。
マザーグース『そうか。ユウ達は……あくまで戦うと言うのだネ……』
タツヤ「へっ、びびったんならてめぇは引っ込んでな!」
ムスカ「最も、お前はここにいないんだろうがな」
マザーグース『仕方が無い、ネ……なら……!』
348
:
藍三郎
:2010/01/15(金) 22:47:11 HOST:99.182.183.58.megaegg.ne.jp
ギガマシーンとロストセイバーが一斉に行動を開始する。標的は、魔鬼羅……ではない。
ロム「っ! 何の真似だ!」
マザーグース『方針変更だヨ。貴重なマテリアルをここで消し飛ばしてしまうのは勿体無イ!
どうせみんな吹き飛ばされるなら、<鍵>を一つでも多く、回収しておくとしよう!!
ユウ達だって死にたくは無いだろう、ミイが救いの手を差し伸べてあげるヨ!!』
キング・ハンプティは捕獲用のエッグ・バブルを放ち、ビッグシューズ・グランマは大地を跳びはね、クロスボゥ・ロビンは矢を射出する。
ムスカ「そうかい、わざわざ助けてくださるってわけだ……余計なお世話だっての!」
パルシェ「そんな、このタイミングで彼らが敵に回るなんて!」
リュウセイ「最初から信用しちゃいなかったがな!!」
クローソー「はっ、どの道奴らは潰すつもりだった。それが少し早まっただけのことだ!!」
クローソーは、闘志と憎悪を燃やし、ギガマシーンへと向かって行く。
マザーグース『何だガラクタ、命乞いでもするつもりカイ? 生憎だが、ミイを助けてやるつもりなんか無いヨ』
クローソー「ほざけ! 世界がどうなろうが私の知ったことではない……
ただ、それを貴様が勝ち誇ったように眺めるのは、絶対に我慢ならん!」
ザキュパス・リジェネレートの手から多量の電撃が放たれ、ロストセイバーの内一機を焼き尽くす。
アネット「これって……割と最悪の状況かも……」
大量の魔鬼羅だけでも厄介なのに、更にアルテミスまで敵に回ってしまった。
加えて、時間の制約もある。この敵群を突破して、NERVの地下深くに潜った渚カヲル……
第17使徒タブリスを撃破せずして、サードインパクトは阻止できない。
敵、時間に加えて、絶望という重石が彼らにのしかかっていた。
ミレーヌ「バ、バサラ! 敵があんなに……」
バサラ「へっ、面白ぇじゃねぇか! 聞かせる奴らが多いほど、歌い甲斐もあるってもんだ!!」
イナゴの編隊のごとく迫る死鬼羅の大群にも全く臆さず、歌い続けるバサラ。
サウンドウェーブが光の槍となって、死鬼羅の群れを貫き通す。
七色の光を浴びた死鬼羅は、いずれも消滅……いや、器の束縛から逃れ、“解放”される。
レイ(何故バサラの歌が効くのかはわからんが、どうやらこの戦い、俺達の歌が鍵になるようだな)
グババ「キーッ!」
ミレーヌ「? どうしたの、グババ?」
不穏な空気を感じ取ったのか、ミレーヌの肩のグババが毛を逆立てる。
その直後、上空の空間が切り裂かれ……
眼球が埋め込まれた肉の球体がサウンドフォースを取り囲むように降下する。
バサラ「お、何だ。てめぇらも俺の歌を聴きに来たってか……」
レイ「! バサラ、逃げろ!」
ビヒーダ「………………」
レイ「ビヒーダが、“そいつらはやばい”と言っている!」
巨大な目玉、怒愚魔の瞳孔が最大まで開かれ、眼の白と黒が逆転する。
怒愚魔から紫色の瘴気が放たれ、サウンドフォースの機体に絡みついた。
ミレーヌ「な、何よこれぇ!」
レイ「振り切れ……ない!」
巨大な渦に飲み込まれたような、酩酊感。
脳内に暗黒が広がり、精神を汚染される。全身から、急速に力が抜けていく。
とても歌える状態ではなく、ミレーヌ機、レイ機共に動きを止める。
バサラも、同様の症状に陥っていた。
バサラ(頭が、痛ぇ…力が、出ねぇ……喉が、掠れる……俺は、俺は歌わなくちゃならねぇのに……!)
いつしか彼の歌声は、酷くか細いものとなっていた。
しかし、どれだけ疲弊しようとも、彼の口から歌が途絶えることはなかった。
349
:
藍三郎
:2010/01/15(金) 22:49:31 HOST:99.182.183.58.megaegg.ne.jp
白豹「あの瘴気、以前深虎が使った術と同じ……」
六体の怒愚魔に包囲されたサウンドフォースは、紫色の瘴気の中に閉じ込められていた。
以前法眼眩邪が使ったものと同じ、相手の生命力を奪う瘴気だ。
同じL.O.S.T.から発祥した存在ならば、同様の能力を備えていてもおかしくない。
ゼド「むぅ、敵もまた気付いていたようですね。この戦いの鍵は、彼らであることに」
ムスカ「あいつらは、例え百発のミサイルが飛んで来たって歌っていられる。
けど、ああやって動きを封じられちまうと……」
ゼド「最悪、命の危機に繋がります。早く救出に向かわねば……」
しかし、バミューダストームの前に、多数の死鬼羅、邪鬼羅が立ちはだかり、それを許さない。
他の機体も、皆似たような状態であった。
ケルナグール「グワハハハハ!! このままKO勝利を飾ってくれるわー!」
ケルナグールの操るゴーショーグンは、ガンダムサイクロプスを追い詰めつつあった。
ドラクロワ「ぐ……」
ジャイアントスイングで投げ飛ばしたサイクロプスに、とどめの必殺パンチを叩き込もうと機体を走らせる。
だが……
ケルナグール「!?」
レジェンドゴーショーグンの拳は、サイクロプスの両手で受け止められていた。
ドラクロワ「はっ、どぉしたぁ? 一気にヌルくなった、なぁっ!!」
拳を掴んだまま、ゴーショーグンの巨体を持ち上げ、投げ飛ばす。
ケルナグール「ぬおおぉぉぉぉぉっ!?」
カットナル「こぉれ! 何をやっておるかケルナグール! 調子に乗りすぎるからこういうことになるんじゃ!」
ケルナグール「ま、待て、今のはワシのせいではない、何だかわからんが急に力が……」
カットナル「見え透いた言い訳を!」
真吾「いや、多分おっさんが正しいぜ、こいつを見ろ」
真吾は、計器の一つを指し示す。
真吾「これはゴーショーグンのビムラーエネルギーの量を表している。
合体した時は、ゴーショーグンの三倍近いエネルギーがあったってのに……今じゃ元のゴーショーグンと大差ないところまで落ちてやがる」
カットナル「な、何じゃと!?」
ゴーショーグンの不調は外見にも現れていた。
機体の全身を包んでいたビムラーの光が、今では酷く弱々しくなっている。
ドラクロワ「へ、ははははは……何だか知らねぇが、壊せるなら何だっていいぜ!」
スレッジハンマーが立ち上がりかけたゴーショーグンに振り下ろされる。
天地を割ったがごとき衝撃が、機体を、コクピットを襲う。
ドラクロワ「よくも! よくも! この俺の芸術活動の邪魔をしやがってぇ!!
この醜い石くれがぁ!! 潰れろ、砕けろ、壊れろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
今まで受けた攻撃を全て返すように、執拗にハンマーで殴り続けるサイクロプス。
まさに鋼鉄の暴嵐。鈍重な外見からは想像もできないほどの速さでハンマーが振るわれ、無数の打撃を与えて行く。
その姿は、一心不乱に作品に取り組む、彫刻家のようであった。
ドラクロワ「世の中ぁ、どいつもこいつも芸術のわからねぇ馬鹿どもばかりだ!
愛? 正義? 法律? 道徳? 友情? 秩序? 平和?
ああ、くだらねぇ! くだらねぇくだらねぇ!
つまらねぇ、みみっちい、せせこましい!! 見ているだけで吐き気がする!!
酔っ払いのゲロと鼠のクソを掻き混ぜる以上の最ィ低最悪だ!
だってのによぉ、世の愚民どもはそんなもんを美しいだの、素晴らしいだのとありがたがる!
どれもこれも、外面だけ小綺麗に見せといて、中身は蛆虫の巣窟の方がましってぐらい、ドロッドロに濁ってやがるのによ!
ああああぁぁぁぁぁっ!! 気持ち悪いったらあぁぁりゃしねぇ!
そんなものが美であるはずがねぇ! 俺は認めねぇ!!
だから俺は破壊する!! 徹底的に、完膚なきまで破壊するッ!!
どんなモノであろうと、破壊しちまえば何も無くなる!
気持ち悪いもんも、訳わかんねぇもんも、みんな吹き飛ばしちまえる!!
それこそが究極の美!! それこそが俺の――」
赤い闘気をハンマーに収束させ、完成(とどめ)の一撃を放つ――
ドラクロワ「“破壊の芸術(アート・オブ・ディストラクション)”だぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
350
:
藍三郎
:2010/01/15(金) 23:28:19 HOST:99.182.183.58.megaegg.ne.jp
誰もがこの時、死を幻視した。ドラクロワ・ザ・ガイアの世界への憤怒と憎悪……
それら全てを乗せたこの一撃は、例えレジェンドゴーショーグンであろうとも耐えられない!
真吾「くっ、上昇っ!!」
全身のブースターを無理に吹かし、急上昇させる。
カットナークロウが背中に装備されたことで、飛行性能が向上したのも幸いした。
破壊の鉄鎚を、辛うじて避ける。
ハンマーが生み出す衝撃波は、遥か地平線の彼方まで届き、地面に深い陥没を刻んだ。
キリー「ふぅ、危なかった……」
真吾「ああ。だが、今もビムラーエネルギーは減り続けている。次あれを放たれたら、多分避けられねぇ」
加えて、無理な回避をしたせいで、その分のエネルギーも減っている。
この量で、後どれだけ持ち応えられるか……
やがて、ずっと沈黙を守っていたブンドルが口を開く。
ブンドル「私が推測するに……この合体形態(レジェンドゴーショーグン)は、恐ろしく大量のエネルギーを消費すると思われる。
だからこそ、あれだけ絶大な力を発揮できるのだ」
レミー「ふぅ、やっぱり世の中そうそう上手い話は転がっていないのね」
キリー「エネルギー切れか、当然ちゃ当然だが、思わぬ弱点があったもんだぜ」
カットナル「おい、ケルナグール、お前が張り切り過ぎるからこうなったのだぞ」
ケルナグール「またワシのせいか! いい加減にせい! さっきから貴様は何もしていないくせに偉そうに……」
言い争いを始めた二人は放っておいて、残る四人は話を進める。
真吾「とにかく、エネルギーの問題を何とかしないとな……
しかし、ビムラーなんてそう簡単に補給できるもんじゃ……」
ブンドル「いや、ある。ビムラーではないかもしれないが、それに近いエネルギーならば。
事実、先ほどまではずっとエネルギーが供給されていた。彼らの歌によって……」
ブンドルは、サウンドフォースのいる方角に視線を送る。
彼らは目玉の化物が作り出した濃紫色の靄の中に、今も囚われている。
レミー「ファイヤーボンバー?」
ブンドル「思えば、このブンドルが合体の閃きを得たのも、彼らの歌を聴いたからであった。
彼らの歌には、ビムラーにも通じる神秘的な力が宿っているのだ」
キリー「なるほど、あいつらの歌が生み出すエネルギーが、ゴーショーグンに力を与えてくれていたってわけか」
真吾「その歌が届かなくなったから、エネルギー切れを起こした……」
ブンドル「そういうことだな」
レミー「じゃあ、早くあの子達を助けないと!」
キリー「それは勿論だけど……なっ!!」
ガンダムサイクロプスのハンマーを避けるゴーショーグン。
キリー「この野郎に追いかけられてちゃ、とてもそんな余裕はないぜ……」
ブンドル「……何、近づく必要はない。彼らが自力で脱出すれば、それでいいのだ」
真吾「どうする気だ?」
ブンドルは、ヴァイオリンを取り出し、その弦に弓を掛ける。
ビムラーが、アニマスピリチアと同種の力ならば……
音楽によって、その力を行使することができるなら……
彼らと同じことが出来るはずだ。
ブンドル「彼らの音楽に敬意を払い、私も、音楽で礼を返すとしよう――
願わくば、暗闇に囚われた彼らの心に差す、一筋の光とならんことを……」
曲目は、ベートーヴェン作、交響曲第9番――
351
:
蒼ウサギ
:2010/01/25(月) 01:10:53 HOST:softbank220056148020.bbtec.net
ブンドルの奏でる曲は、このセンドラルドグマにも届いていた。
それはビムラーかそれともアニマスピリチアルによる共鳴作用かは分からない。
だが、その曲をBGMに、ゆっくりと渚カヲルはEVA弐号機と共にセントラルドグマを降下していた。
カヲル「まるでレクイエムだね」
すでにエントリープラグから出て、弐号機を動かしているカオルはまるで他人事のようにそう呟いた。
そして、じっくりと好きな第九を聴きながらある人物を待ち望んでいる。
カヲル「遅いな、シンジくん」
ふと、上を見上げるが、何も見えない。
聞こえてくるものといえば戦いの音だが、不思議と第九だけは透き通るようにカヲルの耳に届いていた。
しかし、そのうち必ずくる。
カヲルはどこか安心しきった表情でしばし第九のみにその耳を傾けていた。
そして―――。
シンジ「カヲルくんっ!」
カヲル「シンジくん……」
待ったいたヒトが来た。紫色のEVA。
その悪鬼の如き顔と共に、シンジの初号機はセンドラルドグマを垂直で滑り降りてきた。
シンジ「止まって! 止まってよ! カヲルくん!」
言うよりも先に初号機の手がカヲルへと伸びるが、すかさず弐号機がそれを止める。
シンジ「くっ! アスカ、ごめん!」
初号機がブログレッシブナイフを抜いた。
それは本来の持ち主であるアスカが誇りにしている弐号機を傷つけることに躊躇していられない状況だということだ。
しかし、その弐号機も同じブログレッシブナイフを抜いて、対抗してきた。
互いの刃がぶつかり合って激しい火花と耳障りな振動音を響かせる。
カヲルはその中心にいながらも、まるで傍観者のように振る舞っていた。
シンジ「くっ…なんでアスカのEVAが動くんだ!? 君が乗ってないのに!?」
カヲル「EVAは僕と同じ体でできている。僕もEVAも同じアダムより生まれたものだからね。魂さえなければ同化できるのさ」
シンジ「!?」
カヲル「この弐号機の魂は今、自ら閉じこもっているから」
§
アスカが入っているその部屋で青い髪の少女が入室する。
まるで「感情」というものを持たない、というより「知らない」という表現が正しいその少女はただ震えているだけのアスカを赤い瞳で見つめていた。
アスカ「ママ……ママ……」
ただただそう呟くだけのアスカに、少女―――綾波レイはどう言葉をかけていいか分かりはしない。
「慰める」ということを知らない彼女は、ただただ見つめているだけ。
そして、唯一発した言葉は。
レイ「それじゃ、私、行くから」
だけだった。
それが何を意味するのか。
今のアスカには理解するどころか、耳にすら届いてはいなかった。
§
由佳「アネットさん! 使徒とシンジくんの状況はわかる?」
アネット「NERV本部からの情報によると、現在、セントラルドグマにて交戦中。もっとも、使徒というより、EVA同士みたいだけどね」
ミキ「それでも侵攻は止まってません! なおも降下中です!」
由佳「くっ!」
その状況を直接目で見れないことに、由佳はもどかしかった。
コスモ・アークとアイならばNERV本部の中枢コンピューターであるMAGIに忍び込み、その場の状況をモニターで見ることもできるかもしれない。
しかし、肝心のコスモ・アークとアイはこの場にいない上、なによりそれはNERVを敵に回す行為だ。
MAGIを掌握することはNERVそのものを占拠したのと同義なのだから。
由佳(この状況でもう余計な敵は作りたくなよねぇ……)
<アルテミス>のギガマシーン達を一瞥して、苦笑する。
予想通りといえばそうだが、タイミングがあまりにも悪すぎる。
まさに使徒がすでに内部にいた時点で予想外の事態だ。
由佳(あのフィフスの子が使徒。ということは、ゼーレの選出ミス? それともこれも使徒の策略? それとも、もっと裏が…)
深く考えるほどに恐ろしくなってしまう。だが、滅んでしまっては謎は謎のままで終わってしまう。
由佳は、頭を切り替えた。
由佳(考えるのは後! 今はこの場を切り抜けることだけを考えなきゃ!)
時間はないのだから、と由佳を始め、友軍は皆、焦っていた。
352
:
藍三郎
:2010/01/30(土) 09:00:43 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
まるで、深い川の底に沈んでしまったようだ。
五臓六腑に泥を吸い込んだように、体が、心が重い。
周囲を見回しても、見えるものはぬばたまの闇。もはや自分が何なのかも、分からなくなりそうだ。
自分は一体何なのか……何故、自分はこうやって、口を動かし続けているのか?
その時……黒一色の世界に、一筋の白が入ってくる。
これは……光?
いや、音だ。
駆け巡る音の波が、闇しかない世界に、光と彩りを与えて行く。
それに呼応して、自分の心もまた、目覚めて行くのを感じる。
そうだ、自分は……俺は――!
ブンドルがヴァイオリンを奏でると同時に、ゴーショーグンのビムラーの光もまた、輝きを取り戻す。
レミー「すごい、どーゆーことこれ!?」
真吾「そうか……バサラ達の歌エネルギーとやらと、ビムラーの力が同種ならば……こっちも、音楽によって力を活性化できるはずだ」
ゴーショーグンから放たれた光は、第九の旋律に乗って、バサラ達が閉じ込められた黒い球体へと達する。
その光は、黒い球体に亀裂を生じさせ、砕かんとする……
黒球が、急速に膨れ上がって行く。
これは、外よりの力だけではない。内から溢れる力が、闇を打ち破ろうといるのだ。
バサラ「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! ボンバ――――ッ!!!」
眩い光が、あふれ出す。
アニマスピリチアの光は、闇の繭を木っ端微塵に打ち砕いた。
中からファイヤーボンバーの機体が姿を見せる。
バサラ「ミレーヌ! レイ! ビヒーダ!!」
ミレーヌ「う、うーん……」
レイ「どうやら、助かったみたいだな……」
ビヒーダ「………………」
バサラ「しっかりしやがれ! 俺達ファイヤーボンバーのライブは、まだまだこれからなんだからよ!!」
ミレーヌ「そうね……!」
レイ「お前一人にだけ歌わせといたら、ファイヤーボンバーの名折れってもんだからな」
ビヒーダ「………………」
ビヒーダがドラムを叩き、レイがキーボードを奏で、ミレーヌがベースを弾く。
それにバサラのギターが加わり、ファイヤーボンバーの旋律はかつてないほど激しいものになっていく。
バサラ「行くぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
怒愚魔は、なおもファイヤーボンバーを結界に幽閉しようとするが……
拡散する歌と光の波動を浴びた瞬間、跡形も無く消え去った。
真吾「あいつらの歌と……ゴーショーグンが、共鳴している!?」
ゴーショーグンとファイヤーボンバー、両者の放つ音楽(メロディ)が呼応し、光の円環を描く。
ビムラーとアニマスピリチアの光は、今やジオフロント全体を埋め尽くすほどになっていた。
カットナル「おおい、エネルギーの上昇率が、とんでもないことになっておるぞ!?」
瞠目するカットナル。ブンドルがヴァイオリンを奏で、ファイヤーボンバーが歌いだした途端、
ゴーショーグンのエネルギー量は際限なく上がり続けている。
ドラクロワ「その光……気にいらねぇ……ぶっ壊してやらぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
スレッジハンマーの一撃が、ゴーショーグンの腹部に叩き込まれる。しかし……
ドラクロワ「な、何ぃ!?」
ゴーショーグン全体を包むバリアによって、ハンマーの一撃は弾かれてしまう。
ゴーショーグン本体へのダメージは零だ。
なおも攻撃を続けるサイクロプスだが、それでも今のゴーショーグンを、揺るがすことすらできない。
ドラクロワ「何故だ! 何故だ! 何で、何で壊れねぇぇぇぇぇっ!!」
キリー「おいおい、何だか俺……ちょっと恐ろしくなってきたんだけど」
これまでとは比べ物にならないゴーショーグンの力に、乗っている側が困惑していた。
ケルナグール「ならばワシがやってやる! そおれい!!」
拳をサイクロプスに向けて放つケルナグール。
その拳は、ハンマーを真っ向から打ち破り、サイクロプスの巨体を後方へと吹っ飛ばした。
ドラクロワ「ぐはぁっ!!」
圧倒的な力の差だった。先ほどまで、あれだけ苦戦していた相手とは思えない。
353
:
藍三郎
:2010/01/30(土) 09:03:57 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
真吾「な、何だ?」
レミー「どーしたの、真吾!」
真吾「ゴーショーグンが……勝手に……」
真吾のコントロールを離れ、三色の光に包まれ、空中へと浮揚するレジェンドゴーショーグン。
真吾「これが、ビムラーの意志って奴か……それなら、なるようになれってんだ!!」
臨界点間際まで高まったエネルギーを……一気に放出する!
真吾「ゴーフラッシャー!!!」
それは、あたかも流星群のようであった。
レジェンドゴーショーグンから放たれた光の雨が、ジオフロント全域に降り注ぐ。
ビムラーの力を帯びた三色の光芒が、L.O.S.T.の眷属に突き刺さり、消滅させていく。
キリー「うわぁ……」
カットナル「これはまた、ド派手じゃのう……」
ブンドル「美しい……これぞ、音と光のアンサンブル……」
悠騎「ん? 何だ……?」
パルシェ「私たちの機体が……修復されていく?」
ゴーフラッシャーがもたらしたものは、破壊ではない。
光に触れた味方の機体の損傷を、修復してしまった。
さらに……
ビムラーの光を浴び、完膚なきまでに破壊された街が、元通りになっていく。
サイクロプスのハンマーで崩落した市街地も、ジオフロントの破壊痕も、全て……
荒れ果てた世界に、色が戻っていく。まるで、時間が逆行するような光景であった。
真吾「これが、ゴーショーグンの新たなる力……!」
これまでもビムラーは、何度も進化を遂げてきた。
第一段階は、物質を転送する力。
それが第二段階で破壊力のあるエネルギーに変わり、第三段階でメカに自我を目覚めさせる能力を持つようになった。
そして、これが第四段階……メカの闘争を取り除く力。復元と再生の力である。
ビムラーは、機械に生命を吹き込む力。
人間がそうであるように、あらゆる生命には自己治癒能力が存在する。
その、元の姿に戻ろうとする性質により、この奇跡がもたらされたのだろう。
マザーグース『ハハハハハハ……ファハハハハハハ!!
グレェト! アメェーイジング!!!
L.O.S.T.と対を成す、“修正力(リバイバル・パワー)”がこれほどのものだったとは!!
できる! これなら、“この力”ならば、ミイの悲願(アアデント・ウィッシュ)を達成できる!!』
モニター越しに狂喜乱舞するマザーグース。これは、彼の期待通りの現象だったからだ。
レジェンドゴーショーグンの輝きが収まった時には……眼下に、完全に元通りになった第3新東京市の街並みが広がっている。
まさに奇跡と呼ぶ他無い、感動的な光景であった。
この男を除いては……
354
:
藍三郎
:2010/01/30(土) 09:05:46 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
ドラクロワ「何を…………」
ドラクロワは、身体をわなわなと震わせている。
ドラクロワ「ぬぁぁぁにしやがってんだてめぇこのやるあぁぁぁあああぁああぁぁあぁぁ!!!?」
制御不能の怒りと憎しみを込めて、ゴーショーグンに突撃する。
ドラクロワ「よくも! よくもよぐもよぐもよぐもよぐもぉぉぉぉぉぉぉ!!!
俺の芸術をおおぉぉおおぉぉおッ!! 穢してくぅれぇだなああぁぁあぁぁぁっ!!!」
ドラクロワは、破壊こそが究極の芸術と考えていた。
何故なら、それが永久不変のものだからだ。
一度破壊したものは、元通りになることもないが、失われることもない。
移ろいゆくこの世の全ては、破壊によって永遠の存在に昇華される。
彼にとって破壊とは、物を永遠に留めておくための儀式であった。
しかし、破壊されたものは戻らない。その大原則が、たった今覆された。
それは、ドラクロワの美に対するこの上無い冒涜であった。
ドラクロワ「ゆるすぁねぇぇえぇぇぇえぇぇえぇっ!!
壊す! 壊す!壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊すぅぅううぅぅぅううぅっ!!!
何度もハンマーを叩きつけるサイクロプス。
しかし、ビムラーの障壁に覆われた今のゴーショーグンはびくともしない。
ブンドル「無駄だ……貴様の美は、現実を厭うがゆえの、独りよがりの逃避に過ぎん。
そんなもので、我らが絆と創造の美を打ち砕けると思うな」
レミー「独りよがりって、あんたが言うなって話だけどね……」
加えて、レジェンドゴーショーグンには、自身を修復する機能(ちから)も備わっている。
もはや、ガンダムサイクロプスに、ゴーショーグンを破壊することは、不可能――
ドラクロワ「……ざけんな」
その現実は、瞬時に打ち砕かれた。
真吾「……!!」
ケルナグール「う、うおっ!? 何じゃい!?」
ゴーショーグンに、凄まじい震動が走る。
かつてない衝撃が、コクピットを見舞う。
六人とも、すぐに状況を把握することができなかった。
現象自体は、極めてシンプルなもの。
ガンダムサイクロプスが、ゴーショーグンを殴ったのだ。
ビムラーの障壁を突き破り、自己修復では追いつけない程の損傷を与えている。
今までのサイクロプスのパワーでは、ビムラーの壁は貫けなかったはず。それが突然、何故――
355
:
藍三郎
:2010/01/30(土) 09:07:22 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
ドラクロワ「破壊だ……破壊だ……破壊だ……!」
ただ一つの言葉を、呪詛のように呟くドラクロワ。
答えは、ガンダムサイクロプスを見れば瞭然だった。
先程ゴーショーグンを殴った方の左腕が、無惨にへし折れていた。
機体だけではない。モビルトレースシステムにより、ドラクロワ自身も腕が折れている。
これが、限界を超えた代償だった。
積もりに積もったドラクロワの憤怒と憎悪は、彼に限界を越えさせた。
強すぎる想いの力は、時に現実を捩曲げ、不可能を可能にする力を秘めている。
その“真実”は、これまでの長き戦いで、G・K隊の面々が体験してきたことだ。
それは、善のみの力に非ず。身勝手な欲望とて、“想い”の一つには変わりないのだ。
ドラクロワにとってそれは、“壊したい”という欲求だった。
壊したいものを壊せないどころか、自らの芸術作品を汚された。
彼を見舞ったかつてない抑圧は、破壊衝動を一点に尖らせ、限界を突破しうる力となった。
だが、強大な力には、必ず反作用が伴うもの。
限界を越えた破壊を行えば、その代償として、自身の肉体も破壊される。
しかし……ドラクロワにとって、それは代償と呼べるものなのだろうか?
ドラクロワ「破壊だ……破壊だ……破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ
破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だ破壊だァァァァァァァァァァッ!!」
赤いオーラが全身を包み、金の長髪が逆立つ。隻眼は赤く輝き、獣じみた咆哮が轟き渡る。
サイクロプスは残った右腕でスレッジハンマーを持ち、持てる全エネルギーを収束させる。
その量は、今のレジェンドゴーショーグンと比しても遜色の無いものだった。
間違いなく……反動で己自身を消し飛ばすほどの……
既に自壊は始まっている。自身が生み出した破壊のエネルギーに触れ、装甲が剥がれ落ちて行く。
壊す。壊す。全てを壊す。
それこそが我が本懐、それこそが我が存在意義。
敵も味方も、生きているものもそうでないものも、神も悪魔も、目に映るものは全て壊す。
同じ世界に存在するものは全て壊す。それが自分自身であろうとも。
ドラクロワ・ザ・ガイア最終作品。
作品名――
『破壊者 −Apollyon−』
356
:
蒼ウサギ
:2010/02/13(土) 03:52:32 HOST:softbank220056148010.bbtec.net
=セントラルドグマ=
カヲル「歌が聴こえなくなっちゃったなぁ……」
初号機。いや、シンジとの戦いの最中、カヲルはふと上を見つめて呟いた。
だいぶ、降りたということもあるだろうが、第九も熱気バサラの歌も彼の耳には届かない。
強いて聞こえてくるといえば……。
カヲル(破壊の音色…)
思わず切なくなってしまうこの音は、あのドラクロワが“作品”とやらを作っているため? それとも、これから自分が向かう破滅への鼓動だろうか?
いや、違う。と、すぐさまカヲルは自嘲した。
このまま最深部のターミナルドグマに辿り着いたとて、“自分はそこにあるものが何か知っている”はずだ。
これまで死と新生を幾万幾億と繰り返されたこの世界のほぼ全ての記憶を持ち続けている自分には。
カヲル「でも僕はいかなきゃいけない。君がEVAに乗って使徒を倒すという選択を決めた時から、僕の運命(シナリオ)は決まったんだ」
シンジ「! 急に何を…!?」
カヲル「君はあの時、逃げることもできた。……友達を父親に殺されかけて、一度は逃げ出したはず。けど、戻ってきた。自分の意志でね」
シンジ「! なんでそれを!?」
知ってるの? と言おうとした瞬間、弐号機のブログナイフがカヲルめがけて飛んだ。
だが、それが見覚えのある壁によって阻まれる。
シンジ「AT・・・フィールド?」
カヲル「そう、君達リリンはそう呼んでるね。何人にも侵されざる聖なる領域。心の光。
リリンも解ってるんだろう。ATフィールドは誰もが持っている心の壁だということを」
シンジ「そんなの……そんなのわからないよ! カヲルくん!」
§
=NERV司令部=
マヤ「初号機、弐号機! いまだ降下中!」
緊迫した状況が未だ収まらない。
いまや、一人の少年に世界の命運を託している状況なのだ。
彼の援軍にいけるものは、恐らくいないだろう。
ミサトは直感した。
ミサト「初号機の信号が消えて、もう一度変化があったときは……」
日向「わかってます。そうしたらここを自爆させるんですよね」
二人のやりとりは、周囲に聞こえないように行われた。
日向「サードインパクトを起こされるよりマシですからね」
ミサト「すまないわね」
日向「いいですよ。あなたと一緒なら」
日向の告白めいた言葉は、次の瞬間起こった強烈な地響きの前に掻き消えた。
ミサト「何が起こったの!?」
ただごとではない。外で何か大きな爆発でも起こったのだろうか?
矢継ぎ早にオペレーター陣が報告し始める。
日向「これまでにない強力なATフィールドをです!」
青葉「光波、電磁波、粒子、すべて遮断しています! 何もモニターできません!」
マヤ「目標及び、EVA初号機共にロスト! パイロットとの連絡もとれません!」
それらの報告を聞いてミサトは外部との連絡をとった。
しかし、コスモ・フリューゲルから帰ってくる声はなかった。
ミサト「外部からとも交信手段を断たれた。まさに結界か」
このNERV本部そのものが、ATフィールドという結界によって孤立された。
ミサトはそう直感したのだ。
357
:
蒼ウサギ
:2010/02/13(土) 03:53:03 HOST:softbank220056148010.bbtec.net
§
=ジオフロント=
悠騎「なんだって? NERVとの連絡が途絶した?」
マザーグース製のギガマシーンやロストセイバー群と交戦中の悠騎達は、そんな由佳からの通信の内容を受けていた。
ムスカ「……またあちらさんの都合ってやつか?」
ゼド「いえ、この状況では明らかに不自然でしょう。恐らくは、使徒による影響と考えるのが今は自然ではないでしょうか?」
タツヤ「ってことは……」
マザーグース『状況は相当マズイ(バット)のようだねぇ〜』
機体の通信を傍受したのか、マザーグースが口を挟んでくる。
クローソー「ふん、高みの見物してるやつはいい気なもんだ!」
マザーグース『そうでもないサァ。サァドインパクトの規模は未知数(アンノウン)だからネェ』
それでも、いや、だからこそマザーグースは己の目的に忠実だった。
マザーグース『だからぁ…いい加減、鍵をよこしたまえよ。ハリーハリー♪』
悠騎「ちっ…そうしたらまた共同戦線してやる……てか?」
マザーグース『考えてやらないこともないヨ?』
直後、それまで激しく交戦していたアルテミス側の機体がG・K隊の機体から離れ、動きをピタリと止める。
クローソー「……オイ、まさか奴の言葉を信じるのか!?」
悠騎「んなわけねぇだろうが!」
雄叫びと同時にブレードゼファー強襲型の剣から放たれた強大な剣閃。
それに伴い不確定に流れ星のように分散する無数の矢は、回避を困難なものにする。
マザーグース『オォゥ・・・・』
直撃。
瞬く間に爆発音が轟き、煙が広がっていく。
ゼド「やれやれ…これは狙いですか?」
悠騎「さぁね……。それより、オレは今の内に行くぜ。今の一撃(スター・オブ・クラージュ)で仕留め切れてる数なんてたかがしれてる」
言うや否や、悠騎はブレードゼファーを疾駆させた。
クローソー「ふん、勝手なやつだ。まぁ、私は最初からこいつ狙いだから……行く気はないがな!」
ザキュパス・リジェネレートの手に稲妻を迸らせながら、眼前のホログラフのマザーグースをクローソーは睨みつけた。
マザーグース『フフフフフ……』
§
マザーグース率いるアルテミス軍を抜け、押し寄せる魔鬼羅達の群れも薙ぎ払いながらブレードゼファーは初号機が弐号機を追跡したという
射出口へと辿り着いた。
悠騎「ここから本部に直接乗りこめば……!」
だが、悠騎はそこで絶望的な事実を知ることになる。
入り込むとしたその矢先のことだった。
悠騎「なにっ!」
突如として壁に阻まれたのだ。それも見覚えのある壁に。
悠騎「こ、これって……EVAと同じ!?」
ATフィールドだった。
何ものその侵入を許さない絶対領域の壁。
悠騎「まさかこれが……NEVR本部との連絡がとれなくなった理由、なのか?」
358
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 21:40:40 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
アネット「こ、これは……!!」
火柱の如くオーラを噴出するドラクロワを見て、アネットはその解析結果に愕然となる。
アネット「あのガンダムの熱源反応がぐんぐん上昇してる……これは……戦術核、水爆……いえ、それ以上!?」
タツヤ「な、何だそりゃあ!?」
誰もが、アネットの報告を即座に真に受ける事が出来なかった……が。
ドモン「いや……」
ロム「あの力……危険すぎる!」
同じガンダムファイターや、ロムは気付いていた。
あのガンダムが放つ闘気が、およそ一人の人間、一つの兵器が生み出せる領域をとうに越えていることに。
マザーグース『おぉっとォ、そういう解析なら、ミイの方が正確だヨォ。
彼女(シイ)の分析は些か過小評価といわざるを得ないネェ?』
悠騎「過小評価!?」
核や水爆が……過小だと?
マザーグース『そちらの熱源センサーでは、核(アトミック・ボム)クラスが限界だろうからネ。
だが残念なァ〜がら、あの威力と比較するに相応しい対象を、ミイは知らない。
何せ、今から彼が行使しようとしている“力(パワア)”は、
有史以来人類が生み出した兵器の常識を遙かに越える領域なのだからネェ!!』
勝平「だから何だってんだ!勿体ぶらねぇでさっさと言いやがれ!』
マザーグース『デハ、ユウのような子供(チャイルド)にも分かりやすく説明してあげヨウ。
大分低ぅ〜〜い見積もりだけどネ……
あの鉄鎚(ハンマア)が振り下ろされれば……
この街はもちろん……下手するとこの島国が丸ごと吹っ飛ぶかもヨ?』
リュウセイ「な、何ぃぃぃぃ!?」
ドラクロワ「グ……ァ……アアアアアァァアァアアアァァアァァアァッ!!!」
とうに理性は吹き飛び、破壊衝動のみが己を突き動かしている。
それでも、内より溢れ出る渇望が消えたわけではない。
そうだ……何やら小蠅どもが騒いでいた。あの“奇術師”も言っていた。
今日この日、この街で、世界を終わらせる破壊(サードインパクト)が起こると。
破壊こそは我が望み、我が人生、我が総て。
ならばそれは、己にとって僥倖か?
否――
我はドラクロワ・ザ・ガイア、破壊の芸術家。
そう自分は芸術家だ。芸術を創造(はかい)するもの。
他人が壊し(つくっ)たものを観賞するだけではただの批評家だ。
作品(はかい)は自分で完成させねば意味が無い。
サードインパクトだが何だか知らないが、“これ”は自分のキャンバスだ。他の者の筆は加えさせない。
壊れるのが不可避ならば……先に自分の手で壊す!
ただの破壊装置として堕するはずだったドラクロワの人間性を繋ぎ止めていたのは、芸術家としての誇りだった。
そして、その誇りが、情念が、渇望が、破壊装置としての性能を爆発的に上げて行く。
我こそは究極の破壊者。破壊において何者の追随も許さない。
サードインパクトが究極の破壊ならば、自分はその上を行く!!
そう――
街を、国を、世界を。
そして星をも砕き、我が畢生の大作を完成させてくれよう。
余白など残さぬ。壊れていないものなど残さぬ。
完全なる終焉を――この世界(キャンバス)を、破壊の色で塗り潰してくれよう!
359
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 21:49:23 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
マザーグース『ハハハハハハハ!! ハハハハハハハハハ!!!』
狂笑するマザーグース。
眼下の戦場では、G・K隊が必死の戦いを続けている。
他の案件を一時中断し、サイクロプスの脅威の排除に、総てを傾けている。
周囲の物体を破壊しながら渦巻くドラクロワの闘気が、スレッジハンマーに集束される。
ドラクロワが望むは最大の破壊。ならば、己の限界までエネルギーを搾り出さねばならない。
直ぐに解き放つのではなく、存分に溜めてから……
それは、G・K隊にとって希望の光明であった。
審判の鉄鎚が振り下ろされる前に、サイクロプスを破壊すれば、あるいは大破滅(カタストロフィ)を止められるかもしれない。
それを目指して、彼らは足掻き続ける。
だが……
足掻きにすらなっていないのが、現実だった。
ガンダムサイクロプスを中心とした空間にあるもの総てが壊されていく。
ゆえに彼らは満足に近寄ることすら出来ない。
そのスレッジハンマーが、地盤を打ち貫き、星の核にトドメを刺す瞬間を、黙ってみているしかない。
外からの攻撃とて同じこと。実弾兵器は言うまでも無い。
光さえも、破壊の暴嵐で歪んだ空間の前では掻き消されるだけだろう。
同様の理由で、かつてアトモスを急停止させたようなハッキングも、電波そのものが寸断されては行使不可能だ。
元よりあれに乗っているのは人形(きかい)ではなく、人間であるドラクロワ、そんな手が通用するはずも無い。
そもそも、アレの属性は破壊だ。
赤に赤をどれだけ加えても、赤にしかならないように。
破壊に破壊を上塗りしたところで、何の意味も成さない。
ありとあらゆる攻性兵器は、ドラクロワの前では無効化される。
自己の犠牲を前提にした破壊を行使した時点で、既にドラクロワ・ザ・ガイアの破壊は確定している。
彼はもう“終わっている”。
彼自身が言っていた。終焉を与えられたものは揺れることも変わることも無い。
故に永遠にして永劫。絶対不変の存在。
それこそが、ドラクロワの求める美なのだと。
そう……
今のドラクロワは、己が狂おしく求めた美を完全に体現している。
絶対の自滅を運命(さだめ)として、絶対の破壊をもたらし、それを邪魔する総てを絶対の防御で打ち払う。
絶対自滅・絶対破壊・絶対防御――
この三つが揃うことで、ドラクロワが望む終焉は確定された。
誰にも彼は破壊できず、彼に破壊できぬものはない。
ゆえに破壊者(アポリュオン)――ヒトガタをした破壊そのもの。
彼が、己が身を削って創り上げた、至高の美神(ヴィーナス)だ。
360
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 21:51:00 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
マザーグース『アハハハハハハ!! アハハハハハハハハハハ!!!』
マザーグースは笑い続ける。
彼自身は、こことは位相を別にしたシャングリラにおり、サードインパクトだろうがドラクロワの破壊だろうが、巻き込まれる心配はない。
ならば、今の彼の哄笑は、無駄な足掻きを続けるG・K隊(かれら)を嘲笑っているのだろうか。
いや、そうではない。
マザーグース『なァァァんと言うことダ!!
とうの昔に見放した失敗作が、ようやく本来の機能を発揮するトハ!!
ドラクロワ・ザ・ガイア……奴は今、<鍵>たる存在に昇華されタ!!』
最凶四天王は、何ゆえ彼ら(アルテミス)によってこの世界に導かれたか?
ただの戦力強化などではない。最初から制御不能の怪物を、兵力として当てにできるはずもない。
理由は、G・K隊と同じ……この世界の地球では見つからなかった、<鍵>たる素養を持つ者を呼び寄せる為である。
その素養とは――
マザーグース『“想い”の力ハ、総てを変える!!』
ベラアニマしかり、ニュータイプしかり、サイコドライバーしかり。
<鍵>となるのは、いずれも人の想いを現実の力に変えられるもの。
その“想い”が大きければ大きいほど、<鍵>へと変わる可能性は高い。
善悪は問わない。ただ大きければそれでいい。
あの時代……最も巨大で、最も深遠な渇望を抱いていたのが、最凶最悪と称され歴史の闇に葬られた、四人のガンダムファイターだったのだ。
故に彼らは選ばれ、シャングリラへと招かれた。<鍵>の候補者として。
だが、彼らはアルテミスの命令など受け付ける存在ではなかった。
アルテミスそのものを壊してしまいかねないほどの暴悪の化身。
実際、彼らの暴走はシャングリラに大損害をもたらし、計画に遅延が出た。
四天王の一人ジェローム・フォルネーゼの協力もあり、何とか彼らを抑え……シャングリラ内部に封印することに成功する。
当初の予定では、彼らをこの世界の戦争に介入させ、力を解放させて鍵としての覚醒を狙うつもりでいたが……
彼らの牙は、こちらに向かいかねない危険性を宿していた。ゆえにシャングリラに拘束され続けてきたのだ。
だが、今こうして再び解放され、そしてG・K隊との激戦の末、ついに<鍵>として覚醒した者が現れた。
それが今のドラクロワである。
破壊への渇望。想いの力が極限を超え、<鍵>たる存在に引き上げられたのだ。
マザーグース『ようやく原石が金剛石(ダイヤモンド)まで昇華されたと言うの二、
炎の中にあっては取り出せない……フフフフ……どんな皮肉だい、これハ』
成功でありながら、完全なる失敗だ。
それどころか、多くの貴重な<鍵>を巻き添えにして、総てを吹き飛ばそうとしている。
なのに――
マザーグース『アハハハハハハハ!! 全く! 全く台無しにも程があるヨ!!
これだけ時空が乱れれば、もはや空間転移も使えナイ!! 彼らを助けることもできやしない!!
まァーいいさ、既にハイリビードは手に入れたんダ。
<鍵>ならば、また何年か待って、新しいのを呼び寄せれば事足りるサ!
次こそは、ユウ達やあの凶獣(モンスタア)どものような、厄介な奴らじゃないことを祈るヨ!!
アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』
彼は笑い続ける。それは負け惜しみであるかのようだが……彼は本心から愉悦している。
自分の予想だにしない結末が、滑稽で溜まらないのだ。
四天王達が壊れているというならば、彼もそうである。
ただ一つの我執に憑かれ、そのためだけに総てを呑み込む計画を推し進める人形師。
たかが一回や二回の失敗で、本気で落胆したり憤怒するほど、柔な狂念の持ち主ではない。
そう、彼は科学者でありながら道化師(トリックスター)。
研究も観察も救済も蹂躙も野望の成就も、総て歓喜と切り離して考えないのだ。
361
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 21:52:22 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
そして――
戦場では、絶望へのカウントダウンが、終わりを迎えようとしていた。
ドラクロワ『ァ……ガ……ギィィィィイイイェエエエェアアァアァァッ!!!』
鬼神の形相で長髪を振り乱し、唸るドラクロワ。
潰れた右眼から止め処なく鮮血があふれ出す。
全身の筋肉は断絶し、骨格には蜘蛛の巣のような亀裂が走り、血液は沸騰して今にも内側から砕け散りそうだ。
機体の状態も、それに倣っていた。
堅牢を誇った装甲は尽く剥がれ落ち、もはやあばら屋の様相を呈している。
内部機構は剥き出しで、理科室の骸骨のようだ。
ハンマーを持つ腕と、コクピットのある胴体、大地を支える両足。
あるのはただそれだけ。辛うじて人型を留めているに過ぎない。
今のガンダムサイクロプスならば、カプルやボルジャーノンが少し突いただけで呆気無く全壊するだろう。
それほどに脆く、弱く、儚い。
しかし、壊れない。ハンマーに結集する巨大な破壊のエネルギー。
これが、ありとあらゆる攻撃を中和し無力化させる。
とうに数万回は壊されていてもおかしくない攻撃を受けながら、ガンダムサイクロプスは立ち続けていた。
ドラクロワ「グ……ゥゥウオルァオアアアァ……アァァアアァアァアアアァァァアァァアァァ!!!!」
獣じみた咆哮を上げるドラクロワ。
彼の自壊は脳髄にも及び、もはや言葉を理解するだけの知能も失われた。
あるのはただ、破壊への強烈な意志のみ。
他は要らない。機体も肉体も記憶も精神も何もかも、諸共にバラバラに砕けてしまえ。
自分は総てを破壊して、我が芸術を極めるのだ。
そして……
渦を巻くエネルギーが、ハンマーに結集する。
この時、誰もが直感する……時が満ちたのだと。
ドラクロワ『ズゥルルルゥオオォアアアオアラアアァアァァァァァアアアァァァ――――――ッ!!!!』
鉄鎚(ぜつぼう)が振り下ろされる。その余波で、周囲にいる機体は残らず薙ぎ払われた。戦艦でさえ、例外ではない。
アレが地面に到達すれば、総てが終わる――
真吾「だが、こっちも――」
レミー「エネルギー充填、完了よ!!」
レジェンドゴーショーグン……伝説の魔神は、背に三色の閃光を背負い、破壊の権化に立ち向かう。
これは、ただ一つ残された賭け。
真吾「ゴーフラッシャー!!!」
ハンマーが地面に達したのと、ゴーフラッシャーの極光がドラクロワに達したのは、ほぼ同時だった。
爆風が、ジオフロント内部を駆け抜け、総てが漂白される――
362
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 21:56:53 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
それは、実に単純明快な方程式だった。
破壊を頼みにした手段は、ドラクロワの破壊(いろ)の前では虚しく塗り潰されるのみ。
ならば、その破壊とは別の色を使えばどうか。
破壊という絵図を、塗り替えることもできるのではないか。
こうなれば、今日のこの日、この場所で、ビムラーが最終進化を果たしたのも、偶然とは思えない。
街一つを修復してみせた、癒しと再生の力。
それこそが、ドラクロワの破壊の色に対する唯一の対抗手段となる。
ガンダムサイクロプスは、未だ健在だった。
本来これはありえぬこと。破壊者(アポリュオン)の一撃が炸裂した時点で、
この身は機体の耐久限界を越え、吹き飛んでいなければならないはずなのに……
自分自身の破壊を代価として、限界を超えた破壊を行うドラクロワの最終作品。
その前提が欠ければ、結果が現出しないのは道理。
破壊のエネルギーは、地面に注がれることなく、未だ周囲に停滞したままだ。
いや、見方を変えれば、ぶつかり合っているとも言える。
壊れたものを修復する、ドラクロワ・ザ・ガイアが忌み嫌ったビムラーの力。
彼の美意識と相反するその存在が、彼の芸術の完成を阻むことになる。
力は既に解き放たれた。
ハンマーが突き刺さった地面から、既に崩壊は始まっている。
だがそれを、ビムラーの光が超速で修復する。
壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して
壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して
壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して
壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して壊して直して――
人間には知覚出来ない時間、一秒間に数億回という頻度で、破壊と再生を繰り返す。
それゆえの停滞。この状態が続く限り、大破壊は実行されない。
物体を破壊する力と、物体を再生する力。
双極のエネルギー、破壊と創造のせめぎあい。
それは、数多の世界で幾度と無く繰り広げられてきた、修正力と崩壊力の闘争に似ていた。
だが――これはあくまで人の戦い。単純な数理で割り切れるものではない。
ドラクロワ「グ……ウウゥゥ―――オオオアアァア――――ァアアアアァァァッ!!!!!」
あらゆる破壊を阻止するビムラーの力とて、人の意志までは捻じ曲げられない。
破壊の源泉はドラクロワの極限の衝動。それが枯れ果てぬ限り、力は溢れ続ける。
キリー「ぐぅぅぅぅ!!!」
焼け付くような波動がコクピットの六人を襲う。
ビムラーに守られたゴーショーグン以外、ここまでサイクロプスに接近することは叶わなかった。
だからこそ、分かる。まるで噴火寸前の火口の上で綱渡りをしているような心地だ。
少しでも脚を踏み外せば……たちまち灼熱の奈落に真っ逆さまだ。骨も残さず溶かされる。
363
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 22:00:29 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
レミー「これは、想像以上にとんでもないわね〜」
状況は拮抗している……とは言いがたい。
ドラクロワの破壊のエネルギーは、彼の狂念が尽きぬ限り途切れることはない。
しかし、レジェンドゴーショーグンの放てるエネルギーには限りがある。
ハイリビードがアルテミスの手に落ち、その効力を失っている今……
修正力と崩壊力のバランスは、崩壊力に傾きつつある。
世界は、崩壊に向けて加速している。
元来崩壊力とはそういうものだ。
それ自体では意志を持たず、その世界に生きる生命体の意志や渇望に影響され、終焉の力を行使する。
その人間が、契約者であろうが無かろうが関係ない。
分かりやすく言うならば、両者とも大気中にある“修正”と“崩壊”の二種の大気を動力源として力を行使している。
だが、現在“崩壊”に比べ、“修正”の密度は圧倒的に薄い。
ゆえにこの状況、真吾達に圧倒的不利なのだ。
更に皮肉なことに……ビムラーの光は、サイクロプスの機体をも同時に修復している。
大破壊の反動でとうに吹き飛んでいるはずのこの機体は、ビムラーの恩恵で未だ人の形を維持していた。
だから破壊を続けられる。
周囲を取り巻く大勢の味方の機体は、ゴーショーグンに加勢できない。
魔鬼羅も、アルテミスの機体群も、ドラクロワの破壊の余波で大半が消し飛んだ。
理由はそれとは別にある。何故なら、彼らが行使するは破壊の力。
それでは、勝負の天秤をドラクロワの側に傾けてしまう結果しかもたらさない。
このまま同じことを続けていたところで、いずれ拮抗は破られる。
これでは、単なる一時しのぎに過ぎない。
ビムラーの効果で、ゴーショーグンに乗る皆がある程度の超感覚に目覚めつつあった。
だから、これがジリ貧でしかないことも、おぼろげながら察せられた。
キリー「ちくしょう……」
カットナル「ええい!ワシはまだ死にたくないぞ!!」
ケルナグール「そうじゃ! 愛する妻を残して死ねるものか!!」
真吾「おっさん、それは死亡フラグって言うんだぜ……」
ドラクロワ「ヴァオアラ――アァアアァァ――アァア――――アアァッ!!!!」
再度炸裂するドラクロワの咆哮。
破壊の波動が膨れ上がり、治癒の力を押し退けようとする。
自分のキャンバスにそんな色は不用。一切を塗り潰してやるぞと吼える。
364
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 22:01:53 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
ブンドル「………………」
そんな中……ブンドルは、じっと目を閉じていた。
だが、何度目かの衝撃がコクピットを襲ったところで、静かに目を開ける。
ブンドル「――ドラクロワ・ザ・ガイアよ。私はどうやら、思い違いをしていたようだ。
貴公の、破壊こそ芸術とする観念。滅んだ後に在ると言う永遠……
ああ、それもまた美しさの一つであるよ。認めざるを得ない。貴公は芸術家だ」
キリー「こんな時に……何言い出してんだ、こいつはっ!」
カットナル「ほっとけ!! 脳味噌がシェイクして頭がおかしくなったんだ!」
外野の雑言には耳を貸さず、ブンドルは続ける。
ブンドル「総てを残さず破壊しつくす……己自身も含めて。
貴公の破壊の美学には、終始矛盾が無い。
どれだけ己の肉体を傷つけようと、その魂の輝きは色あせることはない。
貴公は己が信じる美しさの為に、総てを捨てる覚悟が出来ている。
それは、求道者の在り方だ。そう、貴公と私は、美しさを求める同志。
求める道は違えども、その道を真っ直ぐ進むという点では、私も貴公も変わりはしない」
死に瀕しても、恐れず力を使い続けるドラクロワに、彼は本心から心打たれていた。
想いの大きさに善悪なし。それは彼の主義でもある。
元より、レオナルド・メディチ・ブンドルは事の善悪には頓着しない性格である。
そうでなくば、悪の秘密結社ドクーガの局長は務まらない。
重要なのは、ただ美しいこと。
彼の目から見て、筋が通っているか。乱れている部分はないか。
己が是とする型に当てはまるかどうか。そこに善悪の基準は要らない。
それが暴念、狂念の類であろうと、心から美しいと思ったものを認めることに、躊躇いは無いのだ。
ブンドル「ならば、同志として、私の求める美の在り方も示さねばなるまいな。
私は、己の身体を流れるメディチ家の血統を、心から誇りに思っている。
それは、長きに渡り、重ねて受け継がれた血の尊さだ。母から子へ与えられた、貴き愛だ。
継承と発展、変化と進歩。それがあるからこそ、新たな美は生まれる。
私は変化こそが、人間の生み出した美しさであると認めている。
――故に、終焉を持って唯一の美とする、貴公の美意識とは相容れぬ」
相手を芸術家として認めながらも、美意識の一致は認めない。
何故なら、自分もまた、己の道を追い求める芸術家であるから。
それはブンドルにとって、相手が価値ある敵だと見なしたことと同義だった。
真吾「御高説どうも。内容はさっぱり分からんけどな……
で、あの野郎をやっつける方法が何かあるのか?」
美意識がどうのこうのという問題に、真吾は一切興味が無い。他の四人も同様である。
気になっているのは、ブンドルの余裕の裏に、何か秘策が隠れているかもしれないということだった。
それに対し、ブンドルは微かに笑ってみせる。
ブンドル「フ……何も無いさ。
だが、相手が己の美に殉じているならば、我々も我々の美しさを信じて、ただ全力を尽くす。それしかあるまい?」
カットナル「何じゃそりゃ……」
それでは、無策も同然ではないか。だが、真吾だけはその意味を察した。
真吾「つまり……勝負を仕掛けろ、ってことか?」
レジェンドゴーショーグンは、現在全力を出し切ってはいない。
ただビムラーの光を放出し、ドラクロワの破壊の力を食い止めているだけだ。
その気になれば、爆発的にエネルギーを上昇できる。しかし……
真吾「エネルギーが尽きちまえばお仕舞いだぞ」
それをやれば、間違いなくエネルギーは枯渇する。
もしもそれでドラクロワを倒せなかったら、再び活性化した破壊の奔流が、レジェンドゴーショーグンを呑み込むだろう。
あまりにもリスクが高すぎる。
そんな、常識的な真吾の言葉を、ブンドルは一蹴する。
365
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 22:05:04 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
ブンドル「そう、そのせせこましい思考……それがいけない。実に美しくない。
だから勝てぬのだよ。古来より、美しくないものは美しいものに勝てぬと決まっているのだ。
ケルナグール、実にお前らしくないとは思わぬか?
こんな守りの戦に回って、お前は満足なのかな?」
ケルナグール「む! た、確かに、それはそうじゃが……」
ブンドル「私はお前の、その怖いもの知らずなところだけは評価していたのだがな……捨て駒として」
ケルナグール「……何やら最後聞き捨てならぬことを言わなかったか?」
ブンドル「とにかく……我々に必要なのは信じることだ。我々が美しいと思っているモノを。
我々にとっての真実の美を信じぬ限り、彼の美を打ち破ることなど叶わぬよ」
キリー「信じる……か」
実に曖昧で茫漠な概念である。
不純物の無い零を持って美としたドラクロワとは、対極に位置する言葉だ。
だが、だからこそ――
真吾「よぉし、なら、やってやろうじゃないの!!」
レミー「そうね! 当って砕けろ、肩の力を抜こう、何とかなるさ。
いつだって能天気に、それが私達のスタイルだもんね!」
キリー「だな。主人公は俺達だ。なら、ここ一番での土壇場の賭けに、“負けるわけが無い”」
自分達の原点を思い出し、グッドサンダーチームは決断を下す。
真吾「ブンドルの旦那、任せたぞ」
ブンドル「ああ……!」
今やゴーショーグンは、それぞれの意志で各部の機能を動かすことも可能となっていた。
真吾が砲撃を……ブンドルが、剣技を担当することも可能なのである。
真吾「ゴーフラッシャー!!!」
ゴーフラッシャーが天高く放たれ、天にかざされたレジェンドサーベルに結集する。
三色の輝きが、刀身から伸び、長大なる光の刃を形成する。
それを見た瞬間、ドラクロワは悟った。
これは……これは忌むべき光だ。俺の芸術を台無しにする墨汁だ。
許せない。させるものか。破壊してやる。
全身全霊全力全開、それらをも貫き通した超絶の破壊で、総てを虚無に帰してくれる。
ドラクロワ「グゥオオァ……ドゥゥルルォ――――アアオァ――――アアア――アァア――――アァアァッ!!!!」
己が暴念を凝縮させ、スレッジハンマーを振り抜く。
これまでは地面に向けられていた規格外の破壊波が、レジェンドゴーショーグンただ一機に押し寄せる。
それを見て、ブンドルの心は高鳴る。
ああ、これは騎士の決闘。互いの誇りと信念を懸けた一戦だ。
ブンドル「貴公の美に敬意を込めて……受けよ。
ゴーフラッシャーサーベル!!」
極光の刃が振り下ろされ、三色の光の薔薇が花開く。
破壊と創造――両極の力が激突する。
366
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 22:20:49 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
カットナル「う、うおおおあああぁぁっ!?」
結果は一秒と立たずに判明した。
レジェンドゴーショーグンの機体が、急速にひび割れて行く。
ドラクロワの巨大な破壊波に晒され、外部装甲が瞬時に砕け散ったのだ。
再生も追いつけない……というより、そんなことにエネルギーを使う余裕が無い。
持てる力は総てレジェンドサーベルに注ぎ込んでいる。だが、打ち勝てない。
ドラクロワ「ヴォオオオアア――――――ァァルゥウウァァァ――――アァァアアアァア――――アアァッ!!!」
破壊の暴嵐が膨れ上がる。
ビムラーの光を持ってしても、その密度を中和できぬほどに。
恐るべき勢いで、こちらの領域を侵食している。
キリー「や、やっぱり駄目かぁ!?」
ブンドル「――ふっ」
ブンドルは、またも密かに笑った。この状況も、取るに足らぬことでしかないように。
ブンドル「何を恐れる? 私達の信じる美とは、そんなに頼りないものなのか?」
レミー「私達の、信じる……」
レミーの瞳が輝き出す。
レミー「そうか! そういうことね!」
ブンドル「その通りだ、マドモワゼル・レミー。さぁ、耳を済ませて聴いてみたまえ」
聴くと言っても、コクピットの外は暴風雨に見舞われているような状態で、とても音など聴こえはしない。
しかし……六人の耳には確かに響いた。
彼らの歌声が。
POWER TO THE DREAM POWER TO THE DREAM
聴こえるはずの無い音。だが、彼らの心には確かに聴こえていた。
POWER TO THE UNIVERSE POWER TO THE MYSTERY
ムスカ「熱気バサラ……」
タツヤ「ああ……だけど、この歌……!」
耳で聴こえるのではない。心に染み渡っていくような歌声。
男「な、何だ?」
女「この歌、確か……」
トウジ「ファイヤーボンバーや……熱気バサラや!!」
地下シェルターに逃げ延びていた人々の心にも、聴こえるはずの無い歌が聴こえる。
不思議と、人々に動揺は無かった。
それどこか、上から聞こえてくる爆音に恐怖し、萎縮していた心に、勇気の火を灯した。
そう、熱気バサラの歌は第三新東京市全体に広がっていた。
正確には、そこにいる人々の心総てに――
それは……決して貫けぬ心の壁に閉ざされた、地の底であろうと例外ではなく――
カヲル「――――――!」
シンジ「――――――!」
二人とも、心の中を通り過ぎた歌声に、思わず動きをとめる。
カヲルは、苦笑せずにはいられなかった。
総てを拒絶するATフィールドをすり抜けて、彼の歌が聴こえてくるなどと……
カヲル(全く、君には最後まで驚かせてくれるよ。
いや、これが当然というべきか。
何せ君は銀河の隅々まで歌を響かせようという男だ。
この程度の壁、破れなくてどうするといったところだね)
聴こえたのはほんの数秒――もう何も聴こえない。
しかし、レクイエムとしては十分過ぎた。
この戦いの結末を知れば、君はきっと悲しむだろう。彼だけではない、誰も喜びはしない結末だ。
自分のやることは何も変わらない。変えることなどできはしない。
ただ――彼の歌が、ATフィールドを一瞬たりとも貫いたという事実に……
渚カヲルは、一つの光明と確信を見出した。
そして、その唇が、音も無く動いた――
367
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 23:04:44 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
最初から、自分達だけでドラクロワを破る気など無かった。
技量や機体性能、出力と言った問題ではない。
ドラクロワの圧倒的な暴念に、自分たちでは抗しえないと断じたからだ。
奴は、四天王(やつら)は徹底的に己こそが人生の主役であろうとする者たちばかりだ。
己の価値観、己で定めた法にのみ従って生きている至狂の魔人。
皆、その価値観を他に押し付けることに、矛盾も躊躇も感じない。
自分達は、そこまで人と隔絶しようとは思わない。
ゆえに、最後のせめぎあいになれば、どうしても内に巣食った“常識”が足枷となる。
元より、性分ではない。正義の英雄を気取って、巨悪を打ち滅ぼすなど。
ドクーガ三将軍は元々悪党であったし、グッドサンダーチームも、成り行きでドクーガと敵対していたに過ぎない。
巨悪を滅ぼす……その役目は、別の、もっと相応しい主役に任せておけばいいのだ。
自分達だけで命懸けで気張るなど、流儀ではない。
ただ、信じればいいのだ。
長き戦いの日々を助けてくれた、頼りになる仲間たち――
それが、主義も性格もバラバラな六人の、共通する数少ない“美意識”だった。
ゴーフラッシャーサーベルの一閃は、ドラクロワを覆う破壊の球体に、風穴を開けるためのもの。
穴さえ開ければ、後はドラクロワの狂念に勝るとも劣らぬ熱を持つ、歌声(うたごえ)が流れ込んでくる。
それが、レジェンドサーベルに込められたビムラーの光を一気に活性化させ――ドラクロワの破壊を、押し退けるほどのパワーを宿す。
それだけではない……
バサラの歌声で希望を取り戻した街の人々の心が、修正力にも影響を与える。
この街、この空間に限っては、崩壊力と修正力の比率が同格となった。
与えられる恩恵においても、両者は互角となる。
だが、しかし。
ドラクロワ「ズァ、――ォ――――ァ――ァ、――ヴ――、ァ――、――――ァ、
――ァ――、――グ――ォ――ァ――――――ァ――――ァア――――――ァ ァッ!」
何処もかしこも壊れ、もはや満足に咆哮を上げることすら出来ない。
この状況に至っても、彼のやることは何も変わらない。
ただ、壊すだけ。ただ、壊れるだけ。
彼は破壊者(アポリュオン)。
壊れれば壊れるほど、彼は無敵に近づくのだ――
真吾「ぐ……こいつは!」
レミー「これでも……駄目だって言うの?」
一時期は押されかけた破壊の波動が、更に膨れ上がる。
壊れているものは壊せない。終わったものは終わらない。
矛盾の論理を狂気で塗り替えて肯定する。
未完の作品など認めない。作品は完成させてこそ芸術と呼べる。
総てを破壊するまで、絶壊の魔人は止まらない。
368
:
藍三郎
:2010/02/14(日) 23:07:24 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
ドラクロワ「―――――ァ―――――ガ――――ァ―――――ン―――――ァ―――――――――――ァ――――ァ―――――――――――――!!!!」
彼に歌は聴こえない。
例えアニマスピリチアであろうと、心を壊し人を捨てた彼に、人の歌は聴こえない。
だから、彼が敗れる不確定要素は何一つ存在しない――
――――――それが、ヒトの歌であるならば――――――
「――――――――――、――――――――、――――――――」
ヒトならざる声で紡がれた歌を聞き取れたのは、この戦場で二人しかいなかった。
バサラ「!!」
一人は熱気バサラ。
誰よりも歌を愛する彼にとって、それが異界の住人の言葉で聴けない歌などありはしない。
彼の脳裏に、銀髪の少年の姿が思い浮かぶ――
バサラ(あいつ……)
バサラはその歌声に、哀別の響きを感じ取った。
これは、最後に奇跡を聴かせてくれた彼への返礼。
少年には、それ以外の意図など微塵も無かった。
だが、彼の予期せぬところで、もう一人……この歌を聴いた者がいた。
それが……誰もが予想だにしない結果をもたらすことになる。
人を捨て、限界を越え、<鍵>と成り果てた彼は、今や人間の境界を越えている。
だから聴こえる。人ならざる使徒(モノ)の歌声が。
その歌声に、彼は“捕らえられた”。
超絶の破壊力を生み出していたのは、純粋なる破壊者たらんとする忘我の境地。
一種の強力な自己暗示だ。
己は既に壊れていると思い込むことで、生きた身でありながら死んでいると言う不条理を押し通す。
自分は既に壊れている。壊れているものは壊れない。だから自分は壊れない。
ドラクロワ・ザ・ガイアを無敵の破壊者たらしめる三段論法を、成立させてしまう。
だが――この忘我状態で、ほんの僅かでも“生”を実感してしまえば……
そう、ただ歌を聴くだけでも――
ドラクロワ「――――――――――――ァ――――――――――――――ァ―――――――?」
眠らせていた意識が浮上し、破壊の幻想は砕け散る。
自分は生きているのだという認識が、忘我を打ち壊す。
三段論法の欺瞞が、暴き出される。
そしてそれが、誰よりも破壊を渇望した魔人に、真なる破壊(おわり)をもたらす――――
天を突く爆発が、サイクロプスとゴーショーグンの二機を飲み込んだ。
369
:
蒼ウサギ
:2010/02/23(火) 00:48:29 HOST:softbank220056148018.bbtec.net
=セントラルドグマ=
一瞬だけだが、その空間そのものが振動した。
シンジ「なっ、なんだ!?」
その大気を震わした原因がガンダムサイクロプスとレジェンドゴーショーグン。
二つの強大な力のぶつかりがもたらしたものだということを、シンジには知る由もない。
しかし、もう一人の少年は全てを知っている。
カヲル「これで、僕のやるべきことは終わった、かな?」
シンジ「え?」
カヲル「さぁ、もうすぐだよ。シンジくん」
その言葉と共に、少年は、降下のスピードを上げる。
ほどなくして辿り着いた扉。
強固なコンピューターセキュリティに守られたそれだった、カヲルの一瞥によっていとも簡単に解除されてしまう。
使徒の前では、人間が造った鍵だと無意味といわんばかりに。
カヲル「僕に決められた運命は変えられないんだね。リリン」
自動的に開いていく扉<ヘブンズドア>を、カヲルは憂いを秘めた表情で見つめた。
直後、二機のEVAが追いつく。
シンジ「待ってよ!」
激しい着水音。オレンジ色の水しぶきが舞い散った。
弐号機の頭部には、プログナイフが刺さっている。
カヲル「やぁ、シンジくん。早かったね……」
言って、倒れている弐号機に目を落とす。
カヲル「変わらないね。君の行動も」
シンジ「はぁ、はぁ……止まってくれよ、カヲルくん!」
カヲル「できないね。わかってるだろ? ここで止まるってことは、僕が使徒であることを放棄することだ」
シンジ「っ!」
カヲル「さぁ、おいで、シンジくん」
僕を――止めるために。
シンジ「カヲルくんっ!」
カヲルに誘われるまま、シンジの初号機は追いかける。
その先は、ドーム状に広がった空間と先ほどのオレンジ色の水に満たされた地面――いや、湖というべきか。
そしてなりよりシンジが真っ先に目に入ったのは、見たこともない巨人。
シンジ「っ!? あ、あれは……!?」
カヲル「そうか。この世界の君はまだ知らされてないんだね?」
十字架に磔にされ、七つの目の面がはりつけられた白き巨人。
シンジ「まさかこれがアダム!?」
カヲル(そう、君たちリリンはそう呼んでるね……けど、これはリリス。僕はこの光景を幾度なく見てきただろう。そして―――)
目を閉じて、カヲルはシンジへと振り返った。
カヲル「イレギュラー達の影響か……彼らのお陰で君は第三新東京市という閉鎖的空間から抜け出れた。アレを見たのも、今、この瞬間が初めてだろう?」
シンジ「う、うん……」
カヲル「それが良いことかどうかは、今の僕には分からない。……けど、僕はこの世界が死と新生を迎える度に、君とここにこうして来ることになる」
シンジ「じゃあ、やっぱりあれがアダム!」
カヲル「アダム、か……白き月より発見され、セカンドインパクトを引き起こした第一使徒」
そして僕の魂でもある、とカヲルは心の中で付け足した。
渚カヲル。それは、アダムの魂を持つ人型の肉体。
そう、彼はゼーレによって生みだされた使徒であり、最後の使者なのだ。
かの組織はまるで、あらかじめ用意されていたシナリオのように人型の肉体を事前に作っておき、セカンドインパクトが起きた際に消滅した
アダムの肉体から魂だけを回収した。
そうして、事前に作っておいた肉体にアダムの魂を宿らせ、『渚カヲル』を生みだしたのだ。
カヲル(まるで彼女のようにね)
綾波レイ。
カヲルは全て知っている。彼女は肉体が滅んでも、魂さえ無事ならば何度でも甦ることができることを。
もちろん、NERVがそのためにセントラルドグマで彼女の「器」となる肉体をクローンとして大量に造っていることも。
370
:
蒼ウサギ
:2010/02/23(火) 00:49:09 HOST:softbank220056148018.bbtec.net
シンジ「カヲルくん……君は、一体何を知ってるんだい!?」
カヲル「少なくとも、今の君よりはこの世界の理については知ってるつもりだよ。死と新生をいやというほど味わっているからね」
シンジ「死と、新生?」
カヲル「そう。君もD.O.M.Eの片鱗を見た仲間達から話くらいは聞いているとはずさ。この世界は幾度も死と新生を繰り返している。
滅びた理由は様々だけどね。サードインパクトが原因になった数も幾度かある」
その言葉を聞いた瞬間、シンジの思考が危険を察知し、同時に初号機の手がカヲルを握りしめていた。
ATフィールドで抵抗することもなく、カヲルはあっさりとその手に捕まる。
カヲル「そう、それこそが君の役割さ。例えシナリオ通りであっても、僕は君の手の中で死にたい」
シンジ「え……!?」
カヲル「幾度なく世界は繰り返されても、僕に許されている絶対的自由意志は変わることはない。それは、自らの死を決められること」
あまりのことにシンジは、言葉がでなかった。
一瞬、初号機の手が緩みそうになったが、すぐに「ダメだよ」とカヲルの声が飛んでくる。
カヲル「言っただろ? 僕は君の手の中で死にたいって……だから、僕をこのまま消してくれ」
シンジ「っ……!」
カヲル「残念ながら、僕らは滅び合うことしかできない生命体なんだ。でも、幾度なく世界が変わっても、僕の意志は変わらない。
君たちリリンは死すべきではない」
シンジ「だ、だったら……」
呼吸荒く、シンジが切り出した。
カヲルはそれを黙って聞きに徹する。
シンジ「だったら何で最初っから味方のフリして僕に近づいてきたんだよ! なんで友達みたいな真似してきたんだよ!
初めから何もかも知ってるんなら、最初から、僕に近づかなきゃいいのに! 僕に優しくしなきゃいいのに!」
カヲル「……君を傷つけるつもりはなかった。けど、この世界の君も見ておきたかったんだ」
シンジ「けど!」
カヲル「これは、僕のわがままだね。でも、多分、お陰で一番充実した時間(とき)を過ごせたよ」
シンジを通じて熱気バサラやブンドルとの出会えた。
カヲル「ありがとう……君に、君たちに逢えて、嬉しかったよ」
シンジ「くっ!」
―――ずるいよ、カヲルくん。
§
=NERV本部=
ターミナルドグマの静けさとは対照的に、ここでは突然の異変に騒然としていた。
青葉「ターミナルドグマの結界周辺に、先と同等のATフィールドが発生!」
ミサト「まさか新たな使徒!?」
青葉「結界の中に侵入していきます!」
反応モニターを見ながら叫ぶ青葉。
誰もが、新たな脅威に畏怖する中、モニターを注視していた青葉の様子が変わる。
青葉「あ、いえ、消失しました」
ミサト「消えた?……使徒が?」
どよめきが走る。
ミサト(何が起こってるの……一体)
§
=ターミナルドグマ=
少女は、その紅い双眸で少年達のやりとりをただじっと見下ろしていた。
それに干渉するわけでもなく、ただじっと、じっと……。
レイ「………」
綾波レイ。
ふと、カヲルとレイの目が合った。
371
:
藍三郎
:2010/02/23(火) 23:14:28 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
爆煙と閃光の後に残されたものは、相打つ二体の巨神だった。
レジェンドサーベルはサイクロプスの肩に浅く食い込んだだけだが、スレッジハンマーはゴーショーグンの脇腹に直撃していた。
先に崩れ落ちたのは……ゴーショーグンの方だった。
脇腹を中心として、大破寸前の損傷を負っている。
無論、合体状態を維持できるだけのエネルギーは残っておらず、三対のネオドクーガメカは放り出される。
だが……
ブンドル「私達の……勝利だ」
ドラクロワ・ザ・ガイアは、コクピットの中で絶命していた。
肉は裂け、骨は砕け、木乃伊(ミイラ)のような姿になり、立ち往生している。
彼の命を奪ったのは、ゴーショーグンの力ではない。
その力は修復と再生の為のものであり、人間であるドラクロワを討つことはできない。
彼を壊したのは、己自身。
限界を超えて生み出した破壊力の反動が、彼自身を破壊したのだ。
本来ならば、とうに死んでいてもおかしくない衝撃……それを狂念で押さえ込み、自壊を引き伸ばしていた。
しかし、ヒトならざる者の“歌”を聴いたことにより、
彼の意識は現実へと引き戻され……破壊の代償を、己が身で払うことになってしまった。
装甲は残らず砕け、内部構造剥き出しとなったガンダムサイクロプスは、これ以上一歩も動くことは無い。
辛うじて人型を保っているだけの残骸とはいえ……陽光を浴びて立つその姿は、一個の男神像のようだった。
ドラクロワは己が身を削って、自分の墓標を……最期の作品を完成させたのだ。
ブンドル「……貴公の芸術、魅せて貰った。今はただ、賛辞を贈ろう」
破壊者としての己を最後まで貫いた隻眼の芸術家に、同じ美を追求する者として、ブンドルは心中で手を叩く。
ブンドル「そして、熱気バサラ。君の歌にも……」
一方、ブンドルと違い、グッドサンダーチームの面々はやつれ果てた顔をしていた。
真吾「全く、とんでもねぇ野郎だったぜ」
キリー「もう二度と、あんなのとはやり合いたくねーな」
レミー「同感〜〜〜」
ゼド「これで最凶四天王の内、二人を倒したことになりますね」
ムスカ「残るは、あのジェロームって爺さんと……後一人……」
最凶四天王、最後の一体。
未だG・K隊の前に姿を現していないが、イリアスやドラクロワのような強大な敵であることは、容易に想像がつく。
ムスカ「一人だけこの世界に来てないとか、
もう死んでいる、なんてオチならいいんだけどな……」
マザーグースの繰り出したギガマシーンとロストセイバーは既に撤退し、魔鬼羅達も何処かに消え去っている。
そして……
悠騎「! おい、見ろ!」
由佳「NERV本部のATフィールドが……消えた?」
372
:
蒼ウサギ
:2010/03/04(木) 00:54:22 HOST:softbank220056148090.bbtec.net
ずるいよ……カヲルくん。
シンジは、心の中でそれを繰り返しながらセントラルドグマを上昇していた。
初号機の手は鮮血に彩られている。
―――カヲルを握りつぶした跡だ。
シンジ「これで……よかったんだ」
彼は……使徒だったんだから。
そう言い訳しながらも、どこかで後悔していた。
そう、少しだけ。
§
=NEVR本部=
日向「モニター復活しました! 初号機パイロットの生命反応に異常なし
ATフィールドは二つとも消失しています」
マヤ「弐号機からの信号もありません……」
静寂が本部内を包み込む。
先ほどとは違った、緊張感のとれた静けさだ。
マヤ「倒したってことですよね……使徒を」
それに返す者はいなかった。
ミサト(……シンジくん)
複雑な面持ちでミサトは、ゆっくりとセントラルドグマを上がっていく初号機の反応を見つめ続けた。
§
=コスモフリューゲル=
由佳「そうですか……やはり使徒が。では、後ほど」
そう言って由佳は、NERV本部、葛城ミサトとの通信を切って、一息ついた。
ミキ「どうにか最大の危機は間逃れたね」
由佳「どうかな……」
由佳は力のない笑みを零した。
これが部隊の、人類の最大の危機であって欲しいとおもっていたが、心のどこかではまだまだこれ以上のことが起こるのではないのかという
不安が拭えなかった。
アネット「由佳ちゃん。みんなの回収、進めてもいい?」
由佳「あ、はい。お願いします。それから、パイロットの皆さんには指示があるまで艦内で休んでいてもらえるよう伝えて下さい」
アネット「りょーかい!」
アネットは、それをパイロットに伝える傍ら、由佳は今回のことをすぐさまコスモ・アーク他、友軍艦隊へと報告する手はずをとった。
§
=機動要塞シャングリラ=
ヴィナス「……最後のシ者は消えましたか」
ヴィナスもまたマザーグースと同じ手段であの戦況を眺めていた。
最も、ホログラムで姿こそ見せていないが、ロストセイバーに戦況が見えるよう密かに細工を仕込んでいたのだ。
さらに言うなら、NRVE本部やコスモ・フリューゲルといった回線の情報も盗聴できるようにしていた。
もちろん、これはヴィナスの独断だ。
一時、強力なATフィールドによる通信途絶で回線が混乱したものの、最後の最後で「使徒が倒された」という情報だけは掴めた。
それだけで、ヴィナスは充分だった。
ヴィナス(せいぜい争い、潰しあってくれれば僥倖。その間、私は私の計画を進めるだけですよ)
ニヤリと、ヴィナスの口元が三日月のように歪んだ。
抑えきれない感情の迸りが思わず顔に出てしまったのだろう。
ヴィナス(今回で、ドラクロワが興味深いデータを残してくれました。これでまた一歩、近づきます……そう)
―――私があの巨神・ウラノスに乗る体質を身につけることを。
あらゆる並行世界、時空をも超えることが可能な<失われた世紀“ロストセンチュリー”>の究極の遺産。
現在、マルス・コスモという少年だけが唯一、搭乗を許され、自在に操縦ことができるあれをヴィナスは欲している。
そう、全ては――。
ヴィナス(あのD.O.M.Eで出てきた“失われた世紀”の再現……フフフフフフフ)
一人、研究所でヴィナスは笑い続けた。
狂気に、高らかに……。
373
:
藍三郎
:2010/03/14(日) 20:57:48 HOST:92.198.183.58.megaegg.ne.jp
第45話「悪夢の突入作戦」
第三新東京市の戦いから、数日……
サードインパクトの発生は、G・K隊とNERVの活躍により阻止された。
想像を超える大事件となったことに、マクシミリアン・ジーナス艦長は内心戦慄したが、ひとまず落着したことに安堵する。
ファイヤーボンバーの面々も、無事にマクロス7へと戻ってきた。
そして、G・K隊もまた、マクロス7船団と合流していた。
次なる作戦……南極へ、バトル7を中心とした少数精鋭部隊を送り込み、
プロトデビルンの中枢を一気に撃滅する
最終作戦・オペレーション・スターゲイザーのために。
その決行日は、いよいよ間近に迫っていた。
プロトデビルンは全部で七体。
これまでに確認されたのは、ギギル、シビル、ガビル、グラビル、バルゴ、そしてゲペルニッチ。
少なくとも後一体、まだ見ぬ個体がいることになる。
内、ギギルとバルゴは消滅し、シビルは敵か味方か定かではないが、ゲペルニッチの支配下にいないことは確かなようだ。
残り一体は姿を見せず、ゲペルニッチは未だ復活を果たしていない。
故に、総攻撃を仕掛けるならば、今が最大の好機になる。
むろん、ガビルとグラビルも易い敵ではないが、彼らはサウンドフォースによって何度も撃退している。勝算は十分にあるだろう。
マックス(我ながら、甘い見積もりだ)
司令室で、現状を改めて思い起こしながらマックスは自嘲する。
プロトデビルンの真の恐ろしさ。それは、圧倒的な戦闘能力はもちろんだが、総てが未知であることにある。
プロトデビルンとの戦端が開かれたのはかなり初期のことだが、彼らの正体は、常に謎のヴェールに包まれていた。
プロトカルチャーの戦闘兵器だったのが判明したのも、つい最近のこと。
徹底して正体不明。それが敵の特徴であり、現在も状況はさして変わっていない。
現状の情報だけを当てにして、作戦を組めば……予期せぬ事態により全滅の憂き目を見ることになりかねない。
だが、いかに不確定要素があろうと、作戦を引き伸ばしにすることはできない。
彼らプロトデビルンが、地球人から集めた生命エネルギーで、自身の肉体を復活させようとしているのは分かっている。
最終目的は、彼らのリーダー、ゲペルニッチの復活なのだろう。
どれほどの力を持っているか定かでは無いが、それが人類にとって絶望的な事態であることは、想像に難くない。
本来ならば、もっと早くに実行しておくべきだった。
時間が経てば経つほど、ゲペルニッチ復活の可能性は上がり、自分達は不利な状況に追いやられる。
それを、今日まで先送りにせざるを得なかったのは、各地で暴れるギャンドラーや最凶四天王のためだ。
ただし、その過程でOZやザフト、旧ネオバディムの軍が協力を申し出たことで、不安だった戦力不足も、些かは解消できた。
これで、各国の治安を維持しつつ、南極に精鋭部隊を投入できる。
バロータ第四惑星から生きて帰還し、マクロス7にプロトデビルンの存在を知らせた、バロータ調査船団の生き残り、イリーナ早川少尉。
彼はファイヤーボンバーのサウンド療法により、順調に回復し、今ではほぼ完治している。
彼の言によれば、プロトデビルンの肉体は、バロータ惑星の洞窟の中で氷漬けになっているらしい。
その洞窟は、南極に丸ごと転移してきている。
そこまで分かれば、自分達の取るべき道は一つだ。
ゲペルニッチの復活を阻止し、プロトデビルンの目論見を頓挫させる為に……
完全覚醒を果たす前に、ゲペルニッチの肉体を破壊する。
それが、オペレーション・スターゲイザーの最終目標だった。
マックス「オペレーション・スターゲイザーか……こんな作戦しか思いつけんようでは、天才の名が泣くな」
重ねて自嘲するマックス。
これまで、多くの敵を撃破してきた統合軍とG・K隊とはいえ、今回の任務の成功率は限り無く低いだろう。
何せ、今までプロトデビルンを退けたことはあっても、正面から撃破できたことは、ただの一度も無いのだ。
故に、封印が解けていない状態を狙う……確かに理には適っている。だがそれを、敵が想定していないはずもない。
万全の備えで、ゲペルニッチ本体への攻撃を死守するだろう。
それでもやるしかない。ゲペルニッチの復活だけは、何としても阻止しなければならないのだ。
374
:
はばたき
:2010/03/15(月) 21:01:24 HOST:zaq3d2e5b1c.zaq.ne.jp
アイビス「反応弾?」
耳慣れぬ単語に、浮かぶ疑問符。
ルリ「そう言えば、イレギュラーの皆さんはご存知ありませんでしたね」
マクロス7のドッグに搬入された弾頭類。
内幾つかのミサイルには、オペレーション・スタゲイザーの為に用意された統合軍の切り札である、反応兵器の印がマーキングされている。
ウリバタケ「反応兵器、即ち反物質を利用した対消滅兵器の総称だ」
第一次星間戦争、ゼントラーディと地球人類との最初の戦争において用いられた大量破壊兵器。
物量、技術双方の点で圧倒的劣勢であった統合軍の不利を覆したワイルドカードだ。
勝平「なんでぇ、そんな凄い武器があるなら、何で今まで使わなかったんだよ?」
ソシエ「そうよ!それがあれば、もうちょっと楽な戦いだって出来でしょうに!」
ドッグのそこかしこで上がる不満の声。
これまでギリギリの、綱渡りのような勝利で激戦を潜り抜けてきた所に、今更になっての切り札投入である。
無理からぬ事であったが、それにも理由はあった。
マックス「それが、モノによっては核をも凌ぐ威力を持つとしたら?」
マクロス船団のリーダーとして、またかつてのゼントラーディとの戦争の当事者としての責務からか、その理由を告げる役目を請け負うマックス。
キラ「核を・・・」
水を打ったように静まり返る一同。
核の威力は、誰もが目にしている。
大量虐殺兵器の存在が、どれだけ悲惨な結末を迎えるかも含めて・・・・。
故に、統合軍でもこの武器は封印されていた。
メカニック総出でメンテを行っているのもそれが理由だった。
確かにプロトデビルンは恐るべき敵だ。
その親玉であるゲペルニッチの本体の破壊。
それが以下に困難であり、反応兵器レベルの武装に頼らざるを得ないと言うのも、ある意味心理だ。
しかし、
ディアッカ「いいのかよ・・・・それ」
かつて、核の脅威に晒された世界の住人は複雑な表情を浮かべる。
勝つ為に、生き残る為に必要な力。
そう言ってそれを持ち出すことは、今まで自分達が立ち向かってきた者達の論理と何が違おうか?
マックス「確かに、使わずに済むならそれに越した事はない」
だが、この作戦は真っ当な戦争ではない。
ある意味での生存競争。
双肩に掛かるものは、理念や信条以上のものだ。
誰かが泥を被らねばならない。
ラクス「悲しいものですね。どれだけ、言葉を尽くしても、私達がやっていることは戦い。そのための手段を論じている余裕すらないとは・・・」
ロラン「でも・・・道具は道具です」
沈痛な雰囲気の流れを破ったのは、かつて地球の全てを埋葬した力の引き金を任された少年だった。
ロラン「結局は使う人間次第じゃないんですか?人の作った道具なら、人を救う事にだって使えるはずです」
甘い戯言と言い切られても仕方のない言葉かもしれない。
だが、原子力を生み出した旧世紀の科学者は、果たして人を殺す為にそれを求めたか?
格であれロボットであれ、その発端は人の生活を豊かにする為のものであり、その為の使い道があるのだ。
一面だけで、物の価値を、存在理由を決めることなど出来はしない。
ムスカ「・・・・・どうも、難しく考えすぎちまったか・・・」
紫煙を吐き出して、ムスカがそう締めくくった。
先の戦いで破壊に全てを掛けた漢の想いを見せ付けられ、少しナイーブになっていたのかもしれない。
だが、今はやれる事をやるだけだ。
一同は、その想いと同時に、この作戦に賭けられたものの大きさを改めて反芻し、万全の体制を整える為に散っていった。
375
:
蒼ウサギ
:2010/03/23(火) 02:09:45 HOST:softbank220056148058.bbtec.net
各艦の代表者は、オペレーション・スターゲイザーの最終確認のためマクロス7へと集まっていた。
NERVの代表として、シンジのEVA初号機と共に継続して、G・K隊に配属が決定された葛城ミサトも、
この作戦の概要を説明されて当初、唖然とせざるを得なかった。
ミサト「よくもまぁ、こんな無鉄砲な作戦が立案できるわけねぇ。」
ルリ「とまぁ、無鉄砲な作戦立案に定評のある葛城三佐もお墨付きの作戦ですが、現状、これが一番手っとり早くかつ効率がいいと思います」
サラッと吐いたルリの毒舌に、ミサトは気まずそうに頬を掻く。
張りつめていた場の緊張感が少し和らいだ。
由佳「問題は今作戦の部隊編成ですね。今回の場合、迅速かつ、火力が要求されます」
アイ「反応弾を使用する場合、ダイヤモンドフォース隊他、バルキリー部隊で編成した旧ネオ・バディムの戦力も必要かと思われます」
トレーズ「うむ、必要ならば手配しよう」
かつては敵だったが、今は味方の快諾に、誰もが心強く感じる。
ルリ「ですが、さすがにこれだけでは数に勝っても、力不足は否めません。ましては舞台は南極です」
ミサト「セカンドインパクトや<アルテミス>との抗争で、かなり損害がひどくなってるからね〜。ウチ(NERV本部)のMAGIにもこの作戦を提唱
してみたけど、反対2、条件付きで賛成1になったわ」
マックス「条件付き?」
ミサト「はい。先の第三新東京市で、ゴーショーグンと、ネオドクーガメカ三体が合体すれば、南極の問題も解決するそうよ」
由佳「あ、レジェンドゴーショーグン……」
確かに、崩壊した第三新東京市を瞬く間に修正したあの力があれば、反応弾で南極の氷が蒸発しようが問題ないだろう。
かつ、火力の問題についても解消される。
しかし―――
トレーズ「……おそらくは、無理だろうな」
アイ「私もそう思います。由佳さんから頂いた報告書とデータを検証した結果から、あれば奇跡がもたらした産物だからです」
神「ほぅ、君の口から奇跡という言葉が聞けるとはね」
カエルの着ぐるみで意外な顔をする神。
恐らくメンバー1といっていいほど、科学的考えな彼女からは、奇跡という曖昧な表現は微塵も想像できなかったのだろう。
アイ「私だって奇跡って言葉を言いますよ。……それにそれを信じたいって気持ちもあります」
由佳「あ、紫藤先輩のことだね!」
アイ「!」
図星をつかれて、アイは一瞬。ほんの一瞬だけ目を丸くした。
未だ目覚めぬ眠りについている紫藤トウヤ。レインやテクスによると、彼が目覚めるには奇跡が起きる可能性だという。
だから、アイは信じるのだ。彼が起きることを。奇跡が起こることを。
―――しかし、このままでは由佳、というより星倉兄妹独特のペースに乗っかることになってしまう。
咳払いを一つして本題に戻した。
アイ「……とにかく、不確定要素に期待するのはこの作戦では止めておきましょう。今回は、より確実性が求められるミッションです」
マックス「そうだな……」
サウンドフォース隊。特にそのメンバー内に娘がいる身としては、その方が何よりも安心だった。
§
オペレーション・スターゲイザ―とは、バトル7中心にナデシコC、コスモ・アークなど情報分野に長けた艦で南極へ移動。
南極のどこかにあるという、バロータ惑星の洞窟を強襲し、ゲぺルニッチの肉体を破壊するというものだ。
言葉にするだけなら簡単だが、熾烈を極めることは必至。
パイロット達の中では緊張感が高まっていた。
悠騎「ったく、人類が滅亡するかどうかの瀬戸際から逃れたかと思いきや、これかい。……オレ達って死神に憑かれてんじゃねぇか?」
タツヤ「デュオには聞かせられないセリフだなそりゃ。けど、まぁ、これが上手くいけばプロトデビルンも倒せるんだろ?
ここのところ、ギャンドラーや使徒といった勢力はどんどん倒していってるから、この波に乗って行けるんじゃね?」
悠騎「ん〜、だといいけどな」
なんとなく楽観的にはなれない悠騎だった。
どんな戦いにおいても、拭いきれない嫌な予感というものが働いていくようになってきた。
特に戦場が南極となると、少し怖くなる。
悠騎(アルテミス戦以来……か)
あの惨敗の光景が、苦い思い出がふと甦り、悠騎の拳を震わしたが、それを必至で止めた。
376
:
はばたき
:2010/03/24(水) 21:14:24 HOST:zaq3d2e6410.zaq.ne.jp
極寒の海。
生命の息吹を殆ど感じさせないその場所にも、僅かながらに生きる命がある。
暗い海を横切る魚群。
だが、何もないはずの深海で、ゴポリと上がった気泡に、さっとその身を翻す。
野生の勘が、本来なら知覚し得ない存在に気づいた。
日の殆ど射さない海で、静かに光るカメラアイ。
キョウスケ「アサルト1よりコスモ・アークへ。目標を視認した」
のそりと、目立たぬように動くアルトアイゼン。
海中から南極海に侵入したチームは、今、セカンドインパクトで殆ど氷の残らぬ筈の南極大陸に出現した巨大な岩塊を目にしていた。
間違いなく、先日の<アルテミス>との戦闘では確認できなかったものだ。
キョウスケ「これ以上の接近は不可能か・・・」
青い装甲の機体を、なるべく目立たぬよう動かしながら、キョウスケは呟いた。
パロータ軍の主力兵器は、鹵獲したバルキリーシリーズを元に開発されたもの。
故に、海中の防衛網は地上に比べて手薄とはいえ、そこは敵の本拠地。
夜間迷彩を施していようと、そうやすやすと通してはくれないのは、眼前に浮かぶ機雷群を見れば明らかだ。
アイラ(南極・・・・)
我知らず、握りこんだ拳が、DMLシステムを通して機体を動かす。
ゴポリと浮かぶ泡が、自分の逸る気持ちを代弁するかのよう。
アイラ(ゼルさん・・・エッジ・・・)
キョウスケ「気負うなよ?」
ふいに、声を掛けられ、はっとするアイラ。
キョウスケ「プライベートにまで口を挟むつもりはないが、あまり感情的にならないことだ。なんせこの勝負、オッズは限りなく低い」
一人の焦りが全員を危機に晒す。
これまで以上に僅かなミスも許されない切羽詰った状況だ。
キョウスケ「感情は腹の中で燃やしておけ。ぶつける相手には事欠かないからな」
今は耐えろ、と言う言葉と同時に、アイラのメンタルの揺らぎをケアするキョウスケ。
その意を汲んで、アイラは一先ず呼吸を整え、自分をコントロールする。
それを感じ取って、キョウスケもまた瞑目して作戦の開始に備える。
と、程なくして、地上で動いているメンバーからの連絡があった。
§
デュオ「こちらデュオ。見つけたぜぇ」
岩壁の間に身を潜ませたデスサイズヘルとサンドロック。
そのカメラアイの映す先には、巨大な洞穴が口を開けていた。
カトル「まるで地獄の入り口のようだ・・・」
驚嘆の声を上げるカトル。
その比喩はあながち間違っていないだろう。
MSに乗っていても、向かう祠の入り口の大きさは、彼らの非ではない。
元一郎「こちらも確認した」
アキト「こちらもだ」
次々と入る報告。
南極、プロトデビルンの本拠地の全貌が、少しずつ明らかにされてゆく。
377
:
はばたき
:2010/03/24(水) 21:14:57 HOST:zaq3d2e6410.zaq.ne.jp
§
=ナデシコC ブリッジ=
先行して南極のデータ採集に向かった部隊からの報告を受け、ナデシコCではルリがその情報を解析、演算を続けている。
球体のディスプレイに映る映像を驚異的な速さで整理し、正確な形へと導いていく。
ルリ「皆さん、ありがとうございます。これで敵本拠地の割り出しには半ば成功しました」
規模、突入口、更に地形のデータから、件の洞穴の構図を割り出していく。
電子の妖精の面目躍如といった仕事だ。
ハーリー「上空の偵察部隊より連絡来ました。画像出します」
§
南極上空。
地軸とほぼ並行するほどの位置から、ハイペリオンのカメラが真下の遺跡を映し出す。
本来、外宇宙探査の目的で作られたこの機体なら、成層圏ギリギリまで上がっての高高度偵察が可能だ。
しかし・・・
アイビス「大きい・・・・」
思わず息を呑む。
アイビス「これ本当に壊せるの?」
対象の全貌に、緊張と不安のない交ぜになった声が出る。
壊せる、と言っても遺跡そのものではない。
あくまで対象は、内部にあるゲペルニッチの本体。
しかし、視認可能となった遺跡の大きさを見ると、中に閉じ込められたそれの大きさは如何ほどか・・・。
ヒイロ「壊せるか、ではない」
ふと出た弱気な発言に、随伴するウィングゼロから返答が返ってきた。
ヒイロ「壊さねば、倒さねばならない」
アイビス「・・・うん!」
静かに、だが淀みなく言い切るその声に、アイビスも力強く頷く。
ヒイロ「作戦時間まで二○三九を切った」
時計を確認し、今一度気を引き締めると、ヒイロは飛行形態から変形させたウィングゼロをハイペリオンの上に着艦させる。
ヒイロ「ジェネレーター出力安定・・・・対象との距離算出・・・空気抵抗、及び気流による誤差修正・・・」
計器を見ながらパチパチと諸々の計算を済ませていく。
ウィングバインダーから取り外したツインバスタービームライフルを構え、コンセントレイトを高めていく。
オペーレーション・スターゲイザー。
作戦開始まで、後僅か・・・
378
:
藍三郎
:2010/03/28(日) 22:54:28 HOST:80.191.183.58.megaegg.ne.jp
バトル7が、オペレーション・スターゲイザーに向かう翌日の事。
その日は、ちょうどミレーヌ・フレア・ジーナスの15歳の誕生日だった。
簡易ながら、シティ7でパーティーが開かれ、ファイヤーボンバーの面々もライブを行った。
間近に迫った絶望的な戦いへの、せめてもの景気づけであるかように。
ガムリン「あの……これ、改めて、誕生日おめでとう。私からのプレゼントです」
小箱を受け取るミレーヌ。
開けてみると、中身はダイヤモンドの指輪だった。
ミレーヌ「あ、ありがとうございます!」
ガムリン「本当はミレーヌさんの誕生石にしようと思ったんですが、私はダイヤモンドフォースですので、ダイヤにしました」
ミレーヌ「ガムリンさんらしい」
ガムリン「そ、そうですか?」
照れくさそうにしていたガムリンは、途端に真剣な顔つきになり……
ガムリン「ミレーヌ、もしも、私が生きて戻ることができたなら……」
箱を持つミレーヌの手を、両手で包み込む。
ガムリン「これを、左手の薬指に嵌めてください」
『艦長、ブリッジ・イン』
アナウンスと共に、ブリッジに入って来たのは、マクシミリアン・ジーナスではなく、 妻でありシティ7市長のミリアだった。
いつものスーツ姿ではなく、マックスと同じ艦長の正装に身を包んでいた。
エキセドル「よろしくお願いします、ミリア艦長」
ミリア「ええ、こちらこそ頼りにしているわよ、エキセドル参謀」
元は戦闘種族メルトランディのエース、前線を退いて久しいとはいえ、場数も経験も、統合軍のメンバーの中では群を抜いている。
艦長の椅子に座るのに、十分な力量を持っていた。
だが、何故彼女が艦長代行を務めることになったか。
それは、艦長のマックスが、自ら突入部隊への参戦を志願したからだ。
彼自身がバルキリーを取り、最前線で指揮を執ると言う。
その話を聞いた時には、あきれ返る一方で、ならば自分もバルキリーで出ると進言した。
ミリア「あんな無謀な作戦をこなせるのは私と貴方しかないわ。
貴方と私がコンビを組めば、あるいは……」
しかし夫は、その申し出を断った。
マックス「君には、私の代理として、バトル7のブリッジに座ってもらいたい」
自分が不在の間、バトル7の指揮を執れるのは君しか居ないと。そして……
マックス「生きて帰った時、出迎えてくれる家族がいなければ」
ミリア「分かった。でも約束してね、必ず生きて帰ってくるって」
マックス「ああ、ミレーヌも一緒にな」
作戦決行の数時間前……ブリーフィングルームに、突入部隊のメンバーが集められる。
マックス「諸君、もう一度、今回の作戦を確認する。
我々は、南極に落ちたプロトデビルンの封じ込められた洞窟を強襲、反応弾で殲滅する。
それが今回の作戦、オペレーション・スターゲイザーだ」
モニターに、偵察部隊が調査した、洞窟の全容が映し出される。
外からの調査だけでは、ここまで詳細なデータは得られない。
これは偏に……プロトデビルンの存在をバトル7に知らせた、
バロータ第四惑星調査隊の生き残り、イリーナ早川少尉の功績でもある。
彼は、統合軍で唯一、プロトデビルン封印チャンパーに脚を踏み入れた人間なのだ。
彼はスピリチアを吸われ、多くの患者と同様虚脱状態にあったが、サウンド療法によって今では完全に意識を取り戻した。
今回の作戦にも、バルキリーを駆って参加することになっている。
マックス「各隊は、目標地点への攻撃を絶対任務と考え、速やかに行動すること。
部隊は十二に別れ、それぞれ、別行動で攻撃目標に向かってもらう。
そして、攻撃目標のコードネームは、ポーラスターだ。
ポーラスターに辿り着く、それを優先任務と考えてくれ」
この先を告げるのに、やや言葉が鈍った。
マックス「例え……例え最後の一機になろうとも、反応弾を敵の本拠地に撃ち込むのだ」
379
:
藍三郎
:2010/03/28(日) 23:10:30 HOST:80.191.183.58.megaegg.ne.jp
バサラ「気に入らねぇな」
先ほどから、不機嫌そうな顔をしていたバサラが口を挟む。
バサラ「俺達には爆弾なんていらねぇよ。
歌で、必ずあいつらの心を動かしてみせる」
熱気バサラは、迷いの無い眼でこちらを見てくる。
確かに、彼の歌には底知れぬパワーがある。
それがプロトデビルンに有効である事も、これまで何度も実証されている。
彼に総てを委ねることが、最善の選択肢である可能性は高い。
しかし……
マックス「そんな時間の余裕は無い。
許可できない。この作戦の失敗は許されないのだ。
この地球だけでなく、全銀河の運命がかかっているのだ」
もしかすると、自分は途方も無い過ちを犯そうとしているのかもしれない。
プロトデビルンに真っ当な手段が通用しないことなど、これまで何度も思い知らされているだろうに。
だが、自分は統合軍の軍人で、バトル7の艦長だ。
両肩に背負った命の数を思えば、最も可能性が高く、最も現実的な手段を取らざるを得ない。
長い軍人生活で、そうした思考が染み付いている。
そんな、自分の小賢しい打算など一蹴するかのように、バサラは叫んだ。
バサラ「だからこそ俺は本気で歌いたいんだ!」
彼は何も、自分の我が儘を通そうとしているのではない。
プロトデビルンと歌で心を通わせることこそが……自分達にとっても最善であると、信じて疑わないのだ。
そしてそのためには、命を懸ける覚悟でいる。
バサラ「俺は歌いに来たんだぜ!」
レイ「まぁ待て、バサラ」
熱くなるバサラを制止し、レイが進言する。
レイ「マクシミリアン司令、バサラに、歌を歌うチャンスをください!
バサラなら、本当にプロトデビルンの心を動かすことが出来るかもしれません!」
レイだけではなく、G・K隊や、多くの統合軍の軍人たちも、気持ちは同じだった。
彼らは皆、長い戦いを通して、バサラの歌に秘められた、無限の可能性を見せられてきたのだから。
マックスは、しばし考えた後……
マックス「……いいだろう。サウンドフォースが、ポーラスターに一番速く突入できた場合のみ、
反応弾ではなく、歌を聴かせることを許可する」
バサラ「ああ!」
レイ「ありがとうございます!」
父の返答を聞き、ミレーヌも顔が明るくなる。
マックス「間もなく出撃だ。皆、各々の機体内で待機するように。諸君らの成功を祈る!」
380
:
藍三郎
:2010/03/28(日) 23:11:10 HOST:80.191.183.58.megaegg.ne.jp
ガムリン「ミレーヌさん、いよいよですね」
ミレーヌ「ガムリンさん! あの、あたし……」
ミレーヌは、ダイヤモンドの指輪を紐で繋いで首にかけていた。
それを見て、ガムリンは優しく微笑む。
ガムリン「今は、何も仰らないで下さい。この戦いが終わった後でお話しましょう」
ミレーヌ「で、でも! あたし達にもしものことがあったら!」
ガムリン「ミレーヌさん。その言葉は、戦場に向かう者にとって、禁句ですよ」
そこにバサラがやって来て……
バサラ「最後の挨拶は済んだか?」
ガムリン「最後じゃない、我々ダイヤモンドフォースは、必ず任務を遂行し、戻ってくる!」
バサラ「まずは俺の歌を聞かせてやっから!」
自信満々に答えるバサラ。
ガムリン「一番乗りしたらだぞ」
バサラ「するさ!」
ガムリン「なら、勝負するか?」
バサラ「無理なんじゃねぇか?」
ガムリン「そんなことやってみなければ分からない!」
そんな二人のやり取りを見て、ミレーヌは出撃前の不安が、僅かながら和らいだ。
悠騎「ようバサラ。俺達は、お前を応援することに決めたからな」
真吾「あんたにゃ、この間随分と世話になったからな」
レミー「せめてもの恩返しってわけで」
キリー「お前さんを、あのポーラスターの奥まで連れて行ってやるよ」
タツヤ「プロトデビルンの奴らに、最高の歌を聴かせてやろうぜ!」
バサラ「ああ! 絶対に俺の歌は、奴らのハートに届く……奴らのハートを動かして見せるぜ」
ゼド「より成功率の高い方法を選ぶ、マクシミリアン司令の気持ちも、分からないではありませんがね」
仮に自分が、彼と同じ立場に置かれても、同じ決断を下しただろう。
プロの軍人として、冷徹な決断をせざるを得ない艦長の気持ちは、よく分かる。
そして、意地の悪い見方をするならば……
バサラの歌は、“保険”でもある。
万が一……そう、万が一そんなことが起これば、悪夢としか言いようが無いが……
反応弾による攻撃が失敗した場合の……
ムスカ「ま、全員がそれぞれの全力を尽くす。誰が一番乗りでも、恨みっこ無しで行こうぜ」
この戦いに勝利し、無事に生きて帰る。その想いだけは、ここにいる誰もが同じなのだから……
381
:
蒼ウサギ
:2010/04/04(日) 18:48:52 HOST:softbank220056148036.bbtec.net
作戦開始約60秒前。ふと、ミネ―ヌバルキリ―に個人回線が開いた。
その相手は、マックス。
ミレーヌ「パパ…?」
マックス「作戦が始まれば、通信は完全封鎖される。だから今の内に言っておく。……しっかり歌ってこい」
僅かな言葉だが、それはこの作戦の指揮官としての顔ではなく、一人の父親としての顔になっていた。
その気持ちに、ミレーヌの胸が思わず熱くなる。
ミレーヌ「うん!」
感激に浸っている中、バサラの横やりが入ってきた。
バサラ「ミレーヌ! 出遅れるんじゃねぇぞ!」
ミレーヌ「なによ! いつもライブに遅れるのはバサラの方でしょ!」
するとレイがすかさず、割り込んで
レイ「おいおい、今回はいつものライブじゃないんだぞ? もうちょっと緊張しろ? 会場は敵の本拠地なんだからな」
タツヤ「ほんっと…FIRE BOMBERのみんなといると、緊張感和むな〜」
パルシェ「い、いいんでしょうかね〜」
ムスカ「ガチガチに固まって動けなくなるよりはいいさ……さっ、5秒前だぜ?」
作戦開始を伝えるカウントダウンのアナウンスが先ほどから各機のコクピットに流れている。
並の神経の持ち主は、このような和やかな空気は作り出せないだろう。
彼らは、改めてFIRE BOMBERというグループが、ただのロックバンドではないことを実感した。
自分達には、ない何かを持っている。それもバサラ一人だけではない。
FIRE BOMBER全員で成り立つ筆舌し難い何かを。
ミレーヌ「うん、じゃあ、思いっきり騒いじゃおう!」
3、2、―――
バサラ「ファイヤーーー!!」
マックス「オペレーション・スターゲイザ―、開始!」
その瞬間、各機一斉に戦艦を飛び出し、南極の空を駆けた。
しかし、これが悪夢の始まりであることを、彼らはまだ知らない。
少なくともこの瞬間までは……。
作戦開始から僅か1分後。
激しい、火線が一同を襲った。
ルリ「やはり読まれていましたね」
アイ「チャフ、デコイを散布しても無駄でしたか……」
できるだけのことはやった結果、予想通りの反撃。
誰もが覚悟していたことであり、ここまでは想定の範囲内だ。
ただ、少しばかり“早かった”というだけを除いては。
強襲を仕掛ける前に、今の反撃の奇襲で、何機かダメージを受けてしまったのは否めない。
悠騎「へっ、まだまだ……こっから本番だぜ!」
絶え間なく続いてくる敵の放火を、それぞれ潜り抜けながら目的地へと目指していく。
§
ガビル「フフフフ、いつぞやの借りを返してやる。サンプル共!」
満足気にその光景を見守ると、自分も出撃するためにザウバーゲランに乗り込む。
ガビル「ゆくぞ、グラビル。我らで殲滅美!」
グラビル「グァァァァァァッ!!」
猛るグラビルの咆哮に、ガビルは頼もしさを感じた。
382
:
蒼ウサギ
:2010/04/04(日) 18:49:28 HOST:softbank220056148036.bbtec.net
§
バルキリー隊は誰かが目的地に到着して、反応弾を撃ち込む。
ただそれだけが目的だ。
だが、ガムリンはそれだけではなく、頭の隅でサウンドフォース隊のことを考えていた。
ガムリン(どうしたんだサウンドフォース……バサラのやつ、あんなにはりきっていたのに…)
おかしい、と思いつつも目的地はすぐ目の前にまで迫っている。
このままいけば自分を始めとするダイヤモンドフォースが一番乗りだ。
ガムリン「よし、このまま一気に―――」
ガムリンは、VF-17 ナイトメアを一気に加速させようとしたが、突如、レーダーに反応した強力な熱反応に気づいてファイターからガウォークへ変形し、
その場で宙返りをした。
直後、極太の火線がガムリン機を掠める。もし、あのまま先行していたならば直撃していただろうというコースだ。
ガムリン「まさか!」
予感は的中。すぐに視認すると、そこには巨獣が見えた。幾度も確認されているプロトデビルン、グラビルだ。
そして、傍らにはバロータ軍の指揮官機であるザウバーゲラン。
ガビル「これ以上、行けると思うなサンプル共!」
ガムリン「ちっ! うぉぉぉぉぉ!」
すぐにガンポッドで応戦するが、プロトデビルンに並の兵器は効果はない。
しかし、けん制にはなる。そう思いガムリン他、ダイヤモンドフォース隊は撃ち続けた。
そんな時だ。
歌が聴こえて来た。
バサラ「LOVE WILL SAVEYOUR HEART 夢を描く まっすぐな瞳たちよ――」
絶望的で、悪夢のような状況に、ふと流れるバラード。
宣言通り、歌っている歌詞の通り、汚れのない瞳で熱気バサラは戦場に歌いにきた。
ガビル「現れたな、アニマスピリチア!」
バサラの存在に気づいて、ガビル、そしてグラビルも、ダイヤモンドフォースという小さな脅威などはもはや目に入らなくなっていた。
ガムリン「まさか囮になるつもりなのか!?」
危惧するガムリンに、ふと、悠騎からの通信が入る。
悠騎「さぁ? アイツはただ歌いにきただけだろ? ここへ」
ゼド「まぁ、我々が彼らをここまでエスコートしたのは否定しませんけどね」
口調は軽くとも、やはり戦闘は激しいのだろう。通信はそこで切れた。
彼らの言葉を、そしてバサラの行動の真意をどこまで信じていいのか、ガムリンは迷った。
一方、バサラは、いくら砲火の的になろうとも構わず歌い続けていた。
ミレーヌ「もぉ、もうちょっと上手いこといけないの!」
バサラ「コソコソすんのは性に合わねぇ! 堂々と真正面から歌いながら一番乗りだ!」
叫びながらファイヤーバルキリーはさらに加速していく。
ムスカ「やれやれ、こりゃ疲れるわ」
悠騎「まっ、バサラの「コソコソすんのは性に合わねぇ」ってのはオレも同感なんすけどね!」
ニッと笑いながら、各々サウンドフォース隊に続いていく。
383
:
藍三郎
:2010/04/12(月) 21:47:32 HOST:105.6.183.58.megaegg.ne.jp
=南極 プロトデビルン封印チャンパー=
オペレーション・スターゲイザーの最終目標であるコードネーム・ポーラスター。
その地下にある大洞窟では、総司令官のゲペルニッチが
“自分自身の肉体”を見上げながら、“時”の訪れを待っていた。
ゲペルニッチ「スピリチア・ファーム・プロジェクト……
最後の欠片が埋まりし時、我が夢は完成を見る」
その口許に笑みが浮かぶ。
気の遠くなるような長い時間、ずっと焦がれてきた夢が、ついに形を成そうとしている。
敵軍が総攻撃を掛けて来たことについても、彼は何ら動揺していない。
そもそも、ゲペルニッチは、彼らを敵として見做していない。
むしろ慈しみすら覚えていた。彼らがいなければ、自分の夢は未だ成就しなかっただろうから。
彼は、自身の肉体から視線を下に移す。
そこには、無数のカプセルが集合した、蟷螂の卵のような装置が鎮座していた。
カプセルの中に収められているのは、いずれも人間達だ。
地球人、ゼントラーディ、機械生命体……
これまでプロトデビルンが捕獲してきた種々雑多な星系人が、この場に集められている。
ゲペルニッチの両の眼が光る。
ゲペルニッチ「目覚めよ、ゴラムとゾムド」
カプセルから、スピリチアを吸い上げ、二つの氷柱へと送り込む。
これで、現在自分たちが保有しているスピリチアのストックは、ほぼ尽きた形となる。
当然、ゲペルニッチ自身の復活も不可能……
だが、問題は無い。長年、自分達の足枷となってきたスピリチアの不足は、間もなく解決される。
氷柱が砕け散り、中から二対のプロトデビルンが姿を現す。
両者とも、左右三本、背中に一本、合計七本の腕を持ち、大変似通った外見をしている。
残る“二体”のプロトデビルン、ゴラムとゾムドだ。
ゴラム「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
ゴラム「我ら」
ゾムド「お呼びで」
交互に話すゴラムとゾムドに、ゲペルニッチは命じる。
ゲペルニッチ「行け、ゴラムとゾムド。行ってアニマスピリチアを私の下に持って参れ」
ポーラスター周辺に、雲霞の如く溢れ出るバロータ軍のバルキリー部隊。
弾幕が津波となって押し寄せ、豪雨となって降り注ぐ。
各地で死闘が繰り広げられ、ポーラスターの至近まで辿り着けたのは、ほんの僅かだった。
しかし、辿り着けても、それ以上進むことはままならない。
ポーラスターの上空には、ゲペルニッチの旗艦が陣取っている。
その威容はまさに天に浮かぶ魔城。
空陸どちらから近づこうと、圧倒的な砲火が侵入者を薙ぎ払う。
そして……
ガビル「貴様らの捕獲を最優先とする! これが我らの行動美!!」
グラビル「グオオオオオオオオッ!!!」
バサラ「俺の歌を聴きに来たってんなら、たっぷりと聴かせてやるぜ!!」
サウンドフォースの三機は、ファイター形態からバトロイド形態に変形する
「PLANET DANCE」のメロディーが鳴り響く。
384
:
藍三郎
:2010/04/12(月) 21:49:27 HOST:105.6.183.58.megaegg.ne.jp
「「ここは空飛ぶパラダイス 忘れかけてるエナジー
NOW HARRY UP 取り戻そうぜ」」
グラビル「ガオオオォォォォォォン!!!」
歌エネルギーの波動に当てられ、グラビルが怯んだ隙に……
悠騎「やらせねぇぜ!!」
Dブレードの出力を最大まで上げ、グラビルに切りかかるブレードゼファー。
真吾「ゴーフラッシャー!!」
ムスカ「踊れ!ナイトメアカーニバル!」
グラビル「グオオオオオオォォォォォォッ!!!」
G・K隊の援護攻撃に押し切られたグラビルは、眼下のクレバスへと落下して行く。
ガビル「おのれ! 餌風情が邪魔をしおって!!」
レミー「お邪魔の仕返しって奴よん」
悠騎「ファイヤーボンバー! こいつらは俺達に任せて先に行け!」
ミレーヌ「みんな、ありがとう!!」
バサラ「おおし! このままメインステージまで一直線だぜ!!」
ガビル「おのれ! 貴様らの好きにさせるか!」
ガビルが唇を噛みしめたその時……
空間が歪み、フォールドで巨大な“何か”が現れる。
???「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
???「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
出現したのは、異教の神像を思わせるシルエットを持つ、二体の怪物だった。
両者の形状は、双生児のように似通っている。
一方は黄色、もう一方は緑色で、それぞれ男性、女性らしき顔立ちをしている。
ガビル「おお、ゴラム! ゾムド!」
ゴラム「梃子摺っているな」
黄色の身体に、男性の顔をしたプロトデビルンが言う。
ゾムド「ガビル」
緑色の身体に、女性の顔をしたプロトデビルンが言う。
ゴラム「だが、我らが来たからには」
ゾムド「何の問題も無い」
ゴラム「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
悠騎「な!? プロトデビルン!!」
ムスカ「しかも二体も……だと!?」
レミー「ちょ、話が違うじゃないの!!」
プロトデビルンは全部で七体。そして、これまでに出現した個体は六体。
ならば残るは一体だけのはず……これでは数が合わない。
だが、ゼドはむしろ納得行ったように頷く。
ゼド「……以前現れた、二体のプロトデビルンが融合した個体……
彼はあれを真の姿と言っていましたね。
つまり……元々一体だったものが二体に分かれていたのでしょう」
ガビルとグラビルではなく、“ガビグラ”を一体としてカウントすれば……
未知のプロトデビルンの総数は、残り二体となり、眼前にいる二体と数が合う。
385
:
藍三郎
:2010/04/12(月) 21:50:34 HOST:105.6.183.58.megaegg.ne.jp
タツヤ「ちくしょー! 騙されたぜ!!」
ゼド「まぁ、彼らはそんな意図など無かったのでしょうがね」
ガビルも、これが本来の姿であると明言していた。
勝手に勘違い……いや、希望的観測を抱いたのはこちらの方だ。
ゴラム「捕らえる」
ゾムド「アニマスピリチア」
ゴラム「他は」
ゾムド「要らぬ」
短く言葉を述べつつ、短いフォールドを繰り返すゴラムとゾムド。
ムスカ「ちっ……」
ミサイルランチャーを一斉発射するハイドランジアキャット。
全弾命中するも、さしてダメージがあった様子はない。
ゴラム「これぐらい」
ゾムド「効かぬ」
ファイヤーボンバーを護衛するG・K隊は、嫌が応にもゴラムとゾムドに対応せざるを得なくなる。
そしてその好機を、 ガビルが逃すはずも無い。
ザウバーゲランの各部から、サウンドフォース目掛けてマイクロミサイルランチャーが発射される。
ミレーヌ「きゃぁっ!!」
レイ「ぐ……っ!!」
周囲で無数の爆発が起こり、バルキリー隊を包み込む。
ガビル「くくく! 爆発美! 爆光美! 爆炎美!!」
ガムリン「……ええい!」
それを見かねたガムリンは、本来のコースを離れ、サウンドフォースの救援に向かう。
仲間の危機に、体が勝手に動いた……というのは、いかにも彼らしいことだ。
しかし、本当のところ……自分の選択肢は、とうの昔に決まっていたのかもしれない。
ガムリン「俺は、バサラの歌を信じる!!」
ザウバーゲラン目掛けて、マイクロミサイルランチャーを撃ち、サウンドフォースから引き離す。
ガビル「ぐ……ぁぁぁっ!!」
ミレーヌ「ガムリンさん!!」
ガムリン「ここは俺に任せて先に行け!」
ガビル「ぐっ、貴様だけは許さん!!」
これまで、何度も邪魔をしてきた黒いバルキリー。ガビルの憎しみは頂点に達していた。
凍てつく海の上で、激しいドッグファイトを繰り広げるナイトメアとザウバーゲラン。
386
:
蒼ウサギ
:2010/04/21(水) 00:51:53 HOST:softbank220056148082.bbtec.net
ミレーヌ「ガムリンさん!」
ミレーヌは、もう一度叫ぶも、恐らく本人には届いていないだろう。
それだけ二機のドッグファイトは激しいものだった。
バサラ「いくぜ、ミレーヌ!」
ミレーヌ「え?」
バサラ「オレ達のステージは、目の前だ!」
曲目を「HOLY LONELY LIGHT」に変え、まずはお決まりのシャウト。
一気にサビから歌い始める。
レイ「「急げ、自分を信じて」っか…。それでこそバサラだな!」
ミレーヌ「……いや、それでこそFIRE BOMBERよ!」
バサラに感化されたように、ミレーヌも歌い始める。
歌エネルギーのオーラが機体全体から溢れながらサウンドフォースは目的地へと急ぐ。
ミレーヌ(ガムリンさん、ありがとう……)
チラリと振り返り、ミレーヌは心で礼を告げた。
§
ここにきて新たに二体のプロトデビルンの出現。
だが、逆にいえばこれで全てのプロトデビルンが発覚したということだ。
元よりこれは彼らプロトデビルンを含めたバロータ軍との決着をつけるための作戦。
敵の全容は、早い段階でわかったほうがいい。
アイ「ピンチはチャンス、ということですね」
マックス「皮肉なことだがな」
格納庫にて、自機の機動チェックを素早くすませながらマックスは答える。
ルリ「本当に出撃するのですね」
マックス「志願したからにはな。ただ、昔の腕が落ちてないことが心配だ」
ルリ「そこは心配ないと思いますよ」
ただ、作戦の成否について、ルリは触れなかった。
天才といわれるマックスのパイロット技術を疑っているわけではない。
どんな作戦にも、確実に成功するというわけではないことを知っているからだ。
それに、何か嫌な予感が拭いきれない。
ルリ「ハーリーくん。新たに出現したプロトデビルンとの交戦は足止め程度にと前線の部隊に伝えて。
今は作戦を成功させることが優先だから」
ハーリー「は、はい!」
ルリ「それと、万が一のためにあのプロトデビルンのデータをとっておいてね」
ハーリー「え? あ、はい」
歯切れの悪いルリの指示だったが、ハーリーは従った。
387
:
蒼ウサギ
:2010/04/21(水) 00:52:34 HOST:softbank220056148082.bbtec.net
§
ミサイル、ガンポット。
ナイトメアに装備されている火器を駆使して、ガムリンはガビルのザウバーゲランを追い詰める。
ガムリン「うぉぉぉぉっ!」
ガビル「くっ! 凄まじき気迫美!」
たかがサンプルの一人だと思っていガビルは、少々驚かされた。
この勢いでは、足止めされるどころか墜とされてしまう。
ゴラム「このままでは」
ゾムド「良くない」
G・K隊と交戦しながら、ガビルとガムリンの様子を伺っていた新たに現れた二体のプロトデビルンは、無感情ながらも焦燥感を現す言葉を口にした。
しかし、それが本心かは表情からは伺えない。
タツヤ「不気味な奴らだな……」
ムスカ「だが、油断はする……っ!?」
突如、二体の目が赤く光り、光線を放った。
G・K隊各機は即座に散開し、回避に成功したが、光線は残り少ない南極の氷を一瞬のうちに融解させた。
悠騎「っ! こいつら!」
ゴラム「反撃」
ゾムド「開始」
止めどなく乱射される赤い光線。
その一閃が故意が偶然か、ガムリンのナイトメアを掠める。
ガムリン「ぐっ! どこからの攻撃だ!?」
眼前のザウバーゲランに集中していたせいか、ゴラムとゾムドの攻撃には一切気を払ってなかったガムリンは、慌てて機体の態勢を整える。
だが、その隙をガビルが逃すはずがない。
ガビル「今だ! 好機美!」
瞬時にザウバーゲランを飛行形態へと変形させ、ガムリン機ではなく、サウンドフォースが向かった先へと飛ぶ。
ガムリン「しまった!」
遅れてガムリンもバトロイドからファイターへと変形させてザウバーゲランを追う。
ザウバーゲランは、みるみるうちに、サウンドフォースへと肉迫する。
ガビル「やはり追ってきたな!」
ニヤリと、ガビルの表情が悪意に歪む。
ガムリン「ミレェェェェヌ!」
歌いながら防衛ラインのバロータ軍兵機を無力化していくサウンドフォースだが、ガビルの接近にも、
ましてやガムリンの雄叫びも、気づいていない。
ガビル「かかった!」
反転。再び人型になったザウバーゲランは、ガムリン機へと突進し始めた。
ガムリン「うっ!」
もう、バトロイド形態に戻る余裕はない。必死にバルカンで応戦するものの、ザウバーゲランはそれに動じることもなく迫ってくる。
距離は瞬く間にゼロになり回避不可能な距離へ。
ミレーヌ「え?」
FIRE BOMBERの曲が止まったのは、閃光が視界いっぱいに広がり、耳をつんざくような爆発音が鳴り響いたからだ。
それが、ガムリンのナイトメアとガビルのザウバーゲランが激突したものだと気付くのにほんの数秒もかからなかった。
ミレーヌ「ガムリン…さん?」
閃光が晴れて爆炎の中からガビルが現れる。
してやったりの、その笑みは、バサラには憎たらしく見えた。
バサラ「お前よぉ……」
傍らでは、ミレーヌが錯乱してガムリンの名を呼び続けており、レイがそれを抑えている。
バサラ「お前……なんでわかりやがらねんだぁ!!」
それは、バサラの悲痛と怒りが入り混じった叫びだった。
388
:
藍三郎
:2010/04/24(土) 22:14:03 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
ガムリン木崎大尉のバルキリーの撃墜に、誰もが愕然となった次の瞬間……
空間を飛び越えて、一体の青いバルキリーが出現する。
ガビル「な!」
バサラ「!!」
驚愕するガビルを尻目に、マクシミリアン・ジーナスの駆るバルキリーは、ポーラスターに突撃する。
ガビル「しまった! 奴らはすべて囮か!!」
総ての敵、総てのプロトデビルンの意識が逸れた瞬間、最高のタイミングでフォールドすることが出来た。
立ちはだかる敵機体群を、ミサイルで一気に掃討する。
戦艦からの対地掃射も、殺人的なバレルロールで総て回避。
その軌跡は青白く輝く稲妻の如し。
VF−22SシュトゥルムフォーゲルⅡ。
ゼネラル・ギャラクシー社が開発した、ロールアウトされたばかりの最新鋭機である。
同社の試作機・YF−21の設計思想を受け継ぎ、ゼントラーディの技術が多く使われている。
かつて、YF−19とYF−21のいずれかを次期主力機を決める目的で行われた“スーパーノヴァ計画”。
YF−21はそれに破れ、次期主力機の座をVF-19 エクスカリバーに譲ったが、VF-19より大型で、
さらに様々な任務に対応可能である優秀な設計・性能を捨てるのは惜しいと判断され、
VF-17 ナイトメアの後継となる特殊任務機に採用された。
この機体は、その試作機で、マクロス7に2機のみ配備されている。
熱核バーストタービンエンジン、単独フォールド機能、
ピンポイントバリアシステム、アクティブステルス機能と、最新のオーバーテクノロジーが多用されている。
最も、その性能を100%引き出しているのは、パイロットであるマクシミリアン・ジーナスの技量だ。
だが、問題はここから。
ポーラスター上に陣取る旗艦が展開する弾幕が、侵入者を阻もうとする。
どれほど小さく、どれほど速い機体であろうと、この弾幕(かべ)は潜れない。
マックス機が弾幕の壁に近づいた刹那……
上空から放たれたツインバスターライフルの光が、旗艦の左翼を貫いた。
予め示し合わせておいた、最高のタイミングでの狙撃だった。
ヒイロだけは、この時刻、この瞬間に、マックス機がポーラスターに突入することを知っていた。
旗艦が揺らいだことで、針も通さぬ弾幕の壁に隙間ができる。
その隙を逃さず、魔窟の入口へと機体を飛び込ませる。
天才、マクシミリアン・ジーナスは、長いブランクで衰えるどころか、さらに冴えを増して戦場に復活した。
ムスカ「すげ……」
僅か一秒足らずの出来事であったが、その神がかった操縦技術は、ムスカら多くの戦闘機乗りを、驚嘆させるに足るものだった。
艦長であるマックスが、自らバルキリーで参戦した理由がやっとわかった。
彼の操縦技術は、自軍の中でも間違いなくトップクラスだ。
あんな真似が出来るのは、彼以外にどれだけいることか。
入り組んだ洞窟内部を、マックスは一瞬たりとも迷わず、目的地に向けて突き進む。
無人の戦闘ポッドをガンポッドで撃破し、道を切り拓く。
イリーナ早川からもたらされた洞窟内部の構造に、誤りはないようだ。
程無くして、一際広大な空間にたどり着く。
目標は、捜すまでもなかった。
中心部に、黒い“何か”が埋まった巨大な氷柱が、天井から垂れ下がっているのが見える。
あれが、プロトデビルンの肉体を封じ込めている“ゆりかご”なのだろう。
この空間にある氷柱は一つだけだ。
七体のプロトデビルンの内、六体の復活を確認している。ならば最後に残ったあれが、ゲペルニッチの肉体と見て間違いない。
思考は一瞬。
マックスは、反応弾のロックを解除し、ゲペルニッチの氷柱目掛けて発射した。
389
:
藍三郎
:2010/04/24(土) 22:15:23 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
ガビル「く……遅かったか!」
その直後、ガビルとパンツァーゾルンの編隊が後を追って突入してくる。
シュトゥルムフォーゲルはバトロイド形態に変形し、ガンポッドで迎撃する。
そのシルエットは、ゼントラーディの名機と呼ばれたクァドラン・ローに似ていた。
応戦しつつ、全周囲回線を開くマックス。
マックス『全軍に通達! こちらはマクシミリアン・ジーナス!
たった今、目標に反応弾を撃ち込むことに成功した。反応弾爆発まで、後120秒!
全機、直ちにこの空域を離脱し、バトル7に帰還せよ!』
ドッカー「マックス艦長! やったのか!?」
ムスカ「みてぇだな。考えるのは後だ! 残り二分じゃ、殆ど猶予はねぇぞ!」
作戦完了の報を受け、多くの機体が上空へと離脱していく。
レイ「ミレーヌ、この空域から離脱するんだ!」
ミレーヌ「だってパパは!? 敵はまだあんなに……」
悲痛な声を上げるミレーヌ。
このままでは、父は敵の只中に取り残され、反応弾の爆発に巻き込まれてしまう。
多くのエルガーゾルンが洞窟内部に引き返したため、現在守りは手薄になっている。
その隙を突いて、バサラのファイヤーバルキリーもまた洞窟へと向かう。
レイ「バサラ、どうするつもりだ?」
バサラ「ミレーヌの親父さんを連れ戻してくる!」
ミレーヌ「あたしも行く!!」
バサラ「邪魔なんだよお前は! とっとと家に帰れ!!」
POWER TO THE DREAMを歌いながら、洞窟内部に突入するファイヤーバルキリー。
レイ「ミレーヌ行くぞ!!」
ミレーヌ「嫌だ! あたしもパパを助けに行く!!」
これ以上、大切な人を失いたくない。
涙声で叫ぶミレーヌだったが、彼女の心を静めたのは、ドラムの音だった。
ビヒーダ「ミレーヌ、あんたが行ったって、足手まといになるだけだよ」
ミレーヌ「ビヒーダ……」
洞窟内部に帰還するパンツァーゾルンと抗戦するマックスだが、程無くしてガンポッドが弾切れを起こす。
既に突入時に大半の弾薬を使い果たしていた。
だが、ここまで粘れば、奴らも反応弾の爆発を阻止できまい。
マックス「ミリア、ミレーヌ、済まない……」
その時……聞き慣れた音楽が、彼の耳に入り込んでくる。
バサラのファイヤーバルキリーが、洞窟内部に突入してきた。
バサラ「輝く彗星の軌跡が メロディーにソウルを与える
人は一人じゃ生きられない 愛する誰かが必要さ yeah」
マックス「バサラ何故来た! 命令違反だぞ!!」
あえて問うまでもなく、答えはよくわかっている。彼のことだ、自分を助けに来たのだろう。
だが、遅すぎる。今からでは、バサラまでも巻き添えになってしまう。
バサラ「POWER TO THE DREAM POWER TO THE DREAM
POWER TO THE MUSIC 新しい夢が欲しいのさ」
そんな声には耳を傾けず、マックスを庇うように前に立ち、エルガーゾルンたちに歌を聞かせるバサラ。
サウンドウェーブを浴びたパンツァーゾルンは、すぐに行動不能に陥って行く。
390
:
藍三郎
:2010/04/24(土) 22:20:48 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
一方、ガビルはエルガーゾルンに命じて、ゲペルニッチの氷柱から、何とか反応弾を引き剥がそうとする。
ガビル「急げ! あれを引き抜くのだ!」
構わん、ガビル――
ガビルの脳裏に、声が響いた直後……
氷柱の中の巨大な影が、その双眸を開く。
フォールドが氷柱に突き刺さった反応弾が、突如として消え去った。
マックス「な!?」
マックスが愕然となったのも束の間。
ポーラスター上空に、反応弾が“転送”される。
反応弾は、光の膜に包まれ、臨界直前のまま、空中で静止していた。
驚愕するパイロット達の耳に、ゲペルニッチの声が響き渡る。
ゲペルニッチ『聞け、サンプル達よ。
お前達の切り札である、この爆弾は我が掌中にある。
全員、機体を捨て、直ちに降伏せよ。さもなくば、この爆弾をお前達の船へと再転送する』
ミレーヌ「バトル7に!?」
ゼド「やれやれ、選択の余地はなさそうですな」
肩を竦め、両手を上げるゼド。
ゴラム「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
ゴラム「お見事」
ゾムド「ゲペルニッチ様」
最初からこの展開を予測していたのか、彼らは終始笑い続けていた。
マックス「………………」
マクシミリアン・ジーナスは、自分で思ったよりも冷静さを失っていなかった。
冷静に、自身の過ちと、敗北を受け入れた。
相手はプロトデビルン、反応弾が通用しないことも、可能性の内にあった。
それならそれで、ある程度ダメージを与えられればよい……そんなことを考えていた。
しかし、反応弾を丸ごと転送され、その破壊力を逆手に取られるとは……
プロトデビルンの能力の深遠は、誰の予想をも遥かに越えていた。
あの氷柱の中のゲペルニッチは、完全に眠っているわけではない。
現に、意識を別の肉体に移して活動しているのだ。
完全復活には程遠いが、ごく近い距離ならば、“力”を行使できる。
これまでの交戦で確認できたように、プロトデビルンは皆単独でフォールドを行う能力を持つ。
ゲペルニッチは、自分自身のみならず、他の物体をもフォールドする力を有しているのだろう。
最悪の展開だ。これで、反応弾でなくとも、あらゆる物理的攻撃がゲペルニッチには通用しないということになる。
相手は肉体を損傷する可能性があるもの総て、フォールドで吹き飛ばしてしまえばいいのだから。
絶望的ではあるが、マックスは冷静に状況を把握し……希望が失われていないことを理解していた。
反応弾をフォールドした後、即座に爆発させていれば、容易に決着はついた。
それをせずに、脅迫の道具として使ったということは……自分たちを生かして、何かに利用するつもりなのだ。
いずれにせよ、生きている限りは、まだチャンスはある。
マックス「……わかった。そちらの要求を受け入れよう」
マックスは、ゲペルニッチの降伏勧告が発せられた直後、バトル7に、ミリアの下にある信号を送っていた。
その意味は……
作戦失敗。我々は投降する。諸君らは、直ちに南極から離脱せよ――
ガビル「ハハハハ……ハハハハハ! どうだ見たかサンプル共! ゲペルニッチ様の御力を!
これぞ美しき勝利! 圧勝美! 激勝美! 完勝美ィ――!!」
主の底知れぬ力に驚嘆し、歓喜するガビル。
旗艦のブリッジで、ゲペルニッチは薄く、されど妖艶さを含んだ笑みを浮かべる。
ゲペルニッチ『サンプル達よ、共に夢を語ろうではないか。星の瞬く間に……』
統合軍の突入部隊は、総員が機体を捨てて投降。
彼らは皆、ゲペルニッチの旗艦に連行される。
その直後……南極の曇り空を、反応弾の光が漂白した。
391
:
蒼ウサギ
:2010/05/04(火) 01:21:36 HOST:softbank220056148024.bbtec.net
オペレーション・スターゲイザ―が失敗した旨は、ただちにバトル7から待機中のコスモ・フリューゲルら友軍各艦へと通達された。
ミキ「そんな……」
今までどんな困難な作戦も生還してきた彼らが敵に投降したという最悪の結果に、オペレーターの滝川ミキの血の気がサーと引いていく。
アネット「ミキさん、しっかりして!」
ミキ「え、で、でも……み、みんなが…せ、先輩が……」
アネット「落ちついて! まだ投降しただけ! みんながどうこうされたわけじゃないでしょ!」
ミキ「う、うん……」
アネットの言葉で少しは落ち着きは取り戻すものの、顔色は貧血を起こしたかのように青白い。
今にも倒れそうだが理性と気力で耐えているといった感じだ。
それは、このブリッジ。ひいては、各艦の誰もが似たようなものだった。
由佳「ミキさ……いえ、滝川隊員」
ミキ「え、あ、はい!」
由佳「ナデシコC、及び、コスモ・アークから何か信号及び、こちらからの呼び掛けには応答しますか?」
ミキ「や、やってみます!」
一拍置いて、ミキはコンソールのキーボードを巧みに叩き始めた。いつもの由佳とは雰囲気が違うことに疑問を抱いたが、
こうして何かしていたほうが気分は少しばかり紛れる。
ミキ「……ダメです。両艦ともに応信ありません!」
由佳「そう、なら今、私達は待つしかできないわね」
ミキ「え?」
それは、ミキにとって冷徹な宣告に聞こえた。普段の由佳ならばここで仲間を助けに行く、などと言ってもおかしくなさそうなのだが、
その予想は大きく裏切られた。何か言おうとして、喉を振りしぼろうとしてもショックで声が出ない。
由佳「……焦ってはダメなの。これ以上の被害を出さないためにもね」
ミキ「由佳……ちゃん?」
疑問符を浮かべるミキに、神が告げる。
神「由佳ちゃ……いや、星倉艦長は、作戦部隊がどういう状況で投降したかを具体的に把握しなければ救助に向かいようがないと判断したんだよ。
無暗に助けにいっても彼らの二の舞になるか、最悪の場合、投降した彼らが殺されてしまうかもしれないからね」
ミキは、言葉に詰まり、改めて自分の未熟さを恥じた。
ミキ「そう、ですよね……」
気が動転していたとはいえ、軽く自己嫌悪に陥ってしまう。
思えばここにいる誰もが同じ気持ちなのだ。由佳に至っては悠騎という兄が今まさに敵の手中に囚われている状況。
それでも、平静さを保っていられるのはコスモ・フリューゲルの艦長という立場上、取り乱すことは許されなかった。
由佳(この窮地を逆転する方法が何かあるはずよ……!)
由佳は、必死にそのことだけを考えていた。
少し前までの彼女のならきっとミキと同じ気持ちで動転していただろう。
この世界に来てから始まった様々な辛い経験が艦長としての彼女の資質を開花させつつあった。
§
タツヤ「どうも、良い気分はしないねぇ」
悠騎「敵中で良い気分ができる方法があるんだったら逆に教えて欲しいぜ」
多数のバロータ兵に銃を突きつけられ、さらにプロトデビルン達からも囲まれたオペレーション・スターゲイザーのメンバー達。
完璧に囚われてしまった彼らは、ただ抵抗できないまま早や十数分と待たされている。
マックス「みんな彼らに手出しはするな。このバロータ兵もまた、イリ―ナ少尉と同じプロトデビルンに操られた者たちだ」
ゼド「なるほど……。我々は結局、同族同士で戦わされていた、ということですか」
ルリ「かつての「トカゲ戦争」と似たようなものですね」
口調こそ冷めたものだったが、どこか棘がルリの声からは感じられた。
ガビル「ごちゃごちゃとうるさいぞサンプル共! まもなくここにゲぺルニッチ様がいらっしゃる! おとなしくしてろ!」
ミレーヌ「あ、あなたがガムリンさんを……!」
ガビルを見た瞬間、体が沸騰したように怒りがこみ上げてくるミレーヌは衝動的に一歩前に踏み出ていたが、すぐにレイに「落ち着け」と制される。
元・統合軍として、FIRE BOMBERのリーダーとして、ここで妙な混乱を起こさせるわけにはいかないという彼なりの判断は正しい。
ミレーヌは、グッと気持ちを堪えた。
そうしている間に、艦の奥から誰かが浮遊しながらやってきた。
392
:
蒼ウサギ
:2010/05/04(火) 01:22:16 HOST:softbank220056148024.bbtec.net
悠騎「ちっ、待たせやがって……」
という、悠騎のボヤキを始め、各々思い思いに現れたゲぺルニッチを見つめている中、この男、
正気になって初めてゲぺルニッチを見たイリ―ナ早川の反応は周囲を驚かせた。
イリ―ナ早川「ぎゅ、ギュンター参謀!?」
マックス「ギュンター?」
マックスが疑問符を浮かべる横で、ルリが淀みなく割って入った。
ルリ「統合軍本部幕僚、イワーノ・ギュンター参謀。軍内部では有能な方だと聞いていましたが、
ある特務調査任務に赴いて以来、行方がわからなくなってしまったという経緯があります」
アイ「でも、現在、目の前にいます」
ルリ「はい。けど、残念ながら感動的な再会、というわけにはいきそうにないですね」
目を僅かに細めて怪訝な顔になるルリ。
イリ―ナ早川の発言で、ゲぺルニッチという者の見方が一つ変わってきた。
ゲぺルニッチ「指揮官は誰だ?」
一瞬にして張りつめた緊張感に、マックスがすかさず一歩前に出る。
ゲぺルニッチ「お前が指揮官か?」
マックス「私は統合軍宇宙軍艦マクロス7艦長、マクシミリアン・ジーナスだ。部下達には危害を加えないでもらいたい」
ゲぺルニッチ「スピリチアファームを望めば、無駄な消滅は避けられる。死は弾けゆく泡沫。私の望むものではない」
マックス「スピリチアファーム……それがお前達の目的か」
ゼド「以前、遺跡であったことが本当ならばプロトデビルンはスピリチアがなければ生きていけない存在。
つまり、スピリチアファームとは我々に家畜となれ、と言っているようなものですね」
悠騎「マジかよ! 侵略や世界消滅で人生終わるならまだしも、家畜で終わりなんて真っ平ゴメンだぜ!」
ゲぺルニッチ「スピチリア再生種族であれば、アニマスピリチアのサウンドウェーブで失われたスピリチアは湧きいずる泉の如き復活を迎える。
これを未来永劫繰り返すのだ」
ゲぺルニッチが指差すアニマスピリチア―――バサラに一同の視線が集中する。
バサラ「アニマスピリチアのサウンドウェーブだ? オレの歌はそんなわけのわからないものじゃねぇ!」
それを証明してやるとばかりに走りながら突如、歌う出すバサラだが、咄嗟に放ったゲぺルニッチの光状のリングがバサラの喉へと挟まった。
バサラ(声が…出ねぇ!)
そのもどかしさに思わずのたうちまわるバサラを、バロータ兵が取り押さえる。
ゲぺルニッチ「アニマスピリチア。身を裂く危険な蜜の香り。我らを惑わす豊穣の波動」
タツヤ「てめぇ! バサラを離しやがれ!」
衝動的に飛びかかりそうになったタツヤだったが、最終的にブレーキになったのはゲぺルニッチが映しだした見覚えのある艦隊の光景だった。
タツヤ「ま、マクロス7……」
ムスカ「コスモ・フリューゲル、エルシャンク、フリーデンⅡ」
悠騎「ご丁寧にアークエンジェルにエターナルも……どうやら友軍艦は全て奴らにロックオンされているみたいっすね」
ゲぺルニッチ「これらが星屑になることを望まぬのなら我々の命に従え」
マックス「お前に彼らを全滅させることなどできない。そんなことをすればお前の言うスピリチアファームはできなくなるからな」
誰もがマックスと同じような眼差しでゲぺルニッチを見ていた。
こもれ笑みがゲぺルニッチから漏れてくる。
ゲぺルニッチ「私の夢は無限だ。考える時間をやろう」
§
どこともわからぬ空間に“それ”はいた。
???「アニマスピリチア……」
永らく眠っていた“それ”は、南極のバサラの危機を感じ取ったかのように白き光の中で目を見開いた。
???「アニマスピリチア!」
瞬間、白き閃光が南極へ向けて飛ぶ。
その名は、“シビル”。
かつて、バサラと心を通わせたプロトデビルンである。
393
:
藍三郎
:2010/05/09(日) 09:53:23 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
=南極 ゲペルニッチ艦=
ゲペルニッチに囚われた一行は、艦内の一室へと収容された。
ただし、バサラだけは一人、別の独房に囚われている。
「――――――! ――――――!」
首に光の枷を嵌められ、声を発することはできない。
それでもバサラは、声も出せぬまま歌い続ける。
声も出せず、身動きも取れない程度のことではバサラの歌への情熱は欠片も損なわれはしない。
しかし、ファイヤーバルキリーもない現状、声が出せなければバサラの歌も効力を発揮することは無かった。
ミレーヌ「ガムリンさん……」
ミレーヌは、柱に寄りかかって悲しみに打ちひしがれていた。
これまで立て続けに多くのことが起きた為、怒りや混乱で感情を誤魔化していたが、
冷静になった今、ガムリンを失ったという事実が、容赦なく彼女を打ちのめしていた。
彼女以外も、多くの統合軍兵士達は沈鬱な表情をしている。
統合軍の、地球の命運を賭けた作戦が失敗したのだ。
気合が大きかった分、その反動で落胆も激しかった。
ドッカー「これで俺達もおしまいか……」
マックス「ドッカー大尉、絶望と言うにはまだ早すぎるぞ」
ゲペルニッチの言葉を信じるならば、すぐに殺されることはないだろう。
諦めない限り、必ず付け入る隙は生まれるはずだ。
いや……隙ならば、既に見つけ出している。
ムスカ「そうだぜ。俺ら、前にも似たようなことがあったが、見事に脱出してみせたもんな」
かつて、ネオバディムによってゾンダーエプタ島に囚われた時のことだ。
ゼド「とりあえず、我々の頼れる同僚は、既に行動を開始しているようです」
見れば、白豹の姿が何処にも無い。
彼も突入部隊に参加していたのだが、投降する際、兵士達の目を盗んで逃げ出していた。
今は闇に潜み、救出の機会を窺っているのだろう。
ムスカ「だが、ここは敵の本丸だ。警備もあの時とは比べ物にならない……あいつもどこまでやれるか」
ルリ「それに、人質を取られている以上、上手くここを出られたとしても、あまり目立った動きを取る事も出来ません」
マックス「………………」
あの、作戦失敗を告げるメッセージがミリアの下に届いているならば、
早急に、全ての艦を南極から引き揚げさせているだろう。
ゲペルニッチ艦の射程の外まで逃げることが出来れば……
マックスは、妻を信頼していた。
だから、彼女が肉親の情よりも、軍人としての任務を優先することに賭けていた。
マックスは、レイの方を見て自分の考えを述べる。
マックス「レイ、この基地内には、マインドコントロールされた兵士が多くいる。
バサラに思いっきり歌わせれば……兵士達のマインドコントロールを解いて味方につけることができるかもしれない」
レイ「!」
レイも、マックスの狙いに気付いたようだ。
394
:
藍三郎
:2010/05/09(日) 09:54:58 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
マックスは、バロータ軍のある弱点を看破していた。
プロトデビルンは多数の人員と武装を抱える大勢力であるが……
その中枢にいるのは、今や片手の指の数にも満たない。地球圏を脅かす異星人の中でも、最少の勢力なのだ。
僅かなプロトデビルンを除けば、その構成員は全てマインドコントロールを受けた人間。
そう……前線で戦う兵士だけではなく、艦内警備、火器管制、通信制御……それら全てに、洗脳された人間が使われている。
もしも……歌によって、彼らの洗脳を解くまでは行かずとも、揺るがすことが出来れば……
それは、バロータ軍という大軍に、未曾有の激震を起こすことになる。
レイ「しかし、肝心のバサラが歌えなくては……」
マックスは静かに首を振る。
レイ自身は既に気づいているのだろう。
だが、彼女を説得するのは、父親である自分の役目だ。
マックスは、ミレーヌの下に歩み寄り、視線を合わせる。
マックス「ミレーヌ、どうしたらいいと思う? 意見を聞きたい。お前もスターゲイザーの一員だろう?」
父親として、娘をいたわるように穏やかな口調で語りかける。
ミレーヌ「パパ……」
マックス「お前は、自分の意志でこの作戦に参加したんだ。
一体何の為に来たんだ? 何かをしたくて来たんだろう。めそめそと泣くために来たのか?」
声音は、どこまでも穏やかだったが、その根底には厳しさがある。
ミレーヌは、即座に頭を振った。
マックス「ガムリンは戦った、命を賭けて。彼が一体何のために戦い続けたのか、分かるはずだ」
ミレーヌは、力強く頷いた。めそめそしている暇などない。
ここで自分が挫けていては、彼の死が本当に無駄になってしまう。
今の彼女からは、悲しみを乗り越え、現実(いま)に立ち向かう勇気が感じられた。
ミレーヌ「私はファイヤーボンバーだもの……みんな! 私の歌を聴いて!」
レーザーガンを持ち、艦内を歩くバロータ兵。その目は正気を失い、ゲペルニッチの命令に忠実な傀儡と化している。
そんな彼らの耳に……歌が聴こえてきた。
失われた記憶に光を灯す、少女の歌が。
兵士達は、皆与えられた任務を忘れ、彼女の歌を聴いている。
この間、艦内の機能は一時的に麻痺することになる。
グババ「クキィ!」
その隙に、人の入れぬ通気口から出てきたグババは、コンソールから牢獄のキーを見つける。
一行を牢に閉じ込める際、このキーで封をしたのを目撃していた。
レイ「グババ、よくやったぞ」
グババ「キィ!!」
金色のキーを持って戻ってきたグババの頭を撫でるレイ。
キーで扉を開け、動揺した見張りの兵士を昏倒させる。
マックス「よし、行くぞ。まずはバサラを救出するんだ」
脱走した者達は、曲がり角を抜け、大きな広間に出る。
そこでは、多数の兵士達が折り重なって倒れていた。その中心には、白豹が立っている。
ムスカ「殺しちゃいねぇだろうな?」
白豹は、首を横に振る。
白豹「孔を突き、眠らせただけだ。それが命令だったのでな」
兵士達が惑乱状態に陥っていたこともあり、さしたる労苦も無く全員を気絶させられた。
ゼド「我々は無事脱出できました。これから熱気バサラの下に向かう予定ですので、貴方も」
白豹「知道了(わかった)」
白豹は、目にも留まらぬ速さで先行し、熱気バサラの牢を目指す。
395
:
藍三郎
:2010/05/09(日) 10:14:14 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
見張りの兵士を素早く昏倒させ、白豹の“氣”を纏わせた爪で、バサラの首の光輪を断ち切る。
レイ「バサラ、大丈夫か?」
バサラ「問題ねぇ。これでようやく、存分に歌えるぜ」
ミレーヌ「バサラ!」
バサラ「さっきのお前の歌、感じたぜ、ハートにな」
軽くミレーヌの肩を叩く。
バサラ「よっしゃ、歌いまくってやるぜぇ!!」
=バトル7 ブリッジ=
エキセドル「よろしかったのですか?ミリア艦長」
ミリア「………………」
バトル7にもたらされた、『作戦失敗』のメッセージ。
これが来た場合、直ちに今の場所から離脱するよう、マックスと事前に取り決めている。
このままここに留まっていれば……彼らの“脱出”の妨げになる。
ミリアは私情を抑え、艦長代行としてやるべき任を果たした。
ミリア「エキセドル参謀。しばし貴方に、艦長代行の任を移譲します」
エキセドル「やはり、行かれますか」
帽子を取り、艦長席から立ち上がるミリア。
エキセドルは、彼女がそうするであろうことを読んでいた。
艦長としての役目は既に果たした。ならば、ここからは“家族”の仕事だ。
「それなら、私もご一緒しますわ。ミリア市長」
そこに、赤い服を着た、長い黒髪の女性が現れる。
ミリア「貴方は……」
「貴方は家族のため。私は、家族同然の社員のために……
彼らには、私の退院祝いをしてもらわないといけませんからね」
彼らの生命については、何ら心配していないという風に、セレナ・アストラードは不敵に微笑んだ。
396
:
はばたき
:2010/05/13(木) 22:52:47 HOST:zaq3d2e48b3.zaq.ne.jp
=コスモ・フリューゲル ブリッジ=
由佳「・・・・・」
緊迫と静寂の空気に覆われたブリッジで、由佳は一冊の企画書を眺めていた。
オペレーション・スターゲイザー。
プロトデビルンの懐に飛び込むというこの危険な作戦が立案された際、もう一つ提唱されたプランがあった。
かつて、今回と同じように、攻略困難な”要塞”に対して行われた作戦。
しかし、それを実行に移すには、諸処の問題が片付かず、結局見送られた。
だが、作戦失敗という苦境において、出切る事は少ない。
由佳「打てる手は全て打っておかないと・・・・」
静かな決意と共に、由佳は書類を置いて立ち上がった。
その表面には、こう書かれていた。
『ヤシマ作戦』
§
クローソー「おい、幾らなんでも無茶だ。止めさせろ」
コスモ・フリューゲル格納庫。
二つ並んだAWの前で、数人の男女が揉めている。
神「無茶は十分承知だ。しかし、ここは”彼女”に頼るしかない」
居並ぶAWの内一機を見上げながら告げる。
白を基調に、赤や金で装飾された機体。
陽光を思わせる配色のその機体は、デンメルングクレイン。
そのコクピットの中で、エリアル・A・ギーゼルシュタインは、体を小刻みに震わせながら、シートに小さく蹲っていた。
オペレーション・スターゲイザーと同時に発案された作戦。
それは、超長距離からの高エネルギー兵器による一点突破砲撃だ。
だが、敵本拠地の詳細な構造がわからぬ以上、ピンポイントでの攻撃は難しいとされ、取り下げられた。
しかし、本命の作戦が失敗した今、このまま手を拱いて見ているわけには行かない。
幸い、敵本拠地の構造については、スターゲイザーでの突入作戦によって大凡のデータは揃っている。
好機があるとしたら、突入部隊が投降し、敵が動きを緩めた今しかない。
だが・・・・
クローソー「今のあいつの精神状態で、マトモな操縦が出来るものか!」
噛み付いているのは銀髪の女性。
この作戦にはもう一つの穴があった。
プロトデビルンの規模と能力の関係上、元となった作戦よりも、今回の作戦ではより高出力、長射程の攻撃が必要とされた。
だが、そこまで高密度のエネルギーを、しかも、直接敵本拠地の射程外から撃ち込めるだけの収束率ある武装は、残念ながら統合軍には存在しない。
出力だけなら、マクロスキャノン、サテライトキャノン、そしてSRXのHTBキャノンと候補は上がる。
射程を延長する為の追加パーツとしての砲身も用意された。
しかし、それでも超長距離から正確な射撃をするには、パイロットの技量や複雑な計算式を以ってしても十分ではない。
そこで必要となるのが、『中継点』だ。
幸いにして、エネルギー偏向技術は、統合軍にも豊富だった。
中でも、注目を集めたのが、デンメルングクレインのプラネットフィルターだ。
特殊なフィールドによって、エネルギー兵装の位相を変化させ、自在に反射拡散集束させるこの武器なら、トロニウムエンジンの大出力を受けても、僅かとはいえ、その角度に修正を加えること位はできる。
問題があるとすれば・・・・それはパイロットのコンディションだ。
エレ「・・・・・・・」
コクピットに座るエレの表情は、相変わらず硬い。
眼も焦点を定めず、小刻みに震える指は、正しくコンソールを弾けない。
複雑な操作を要求されるプラネットフィルターを満足に・・・否、動かす事さえ出来るかどうか・・・。
クローソー「出来っこないだろう?あんな屍みたいな奴に、無理をさせてどうな・・・」
エクセレン「ちょい待ち」
一人この作戦に反対意見を飛ばしていたクローソーを制したのはエクセレンだ。
エクセレン「気持ちは解るけど、それは皆同じよ。あの娘が今マトモな状態じゃないって事も含めてね」
クローソー「だったら・・・」
エクセレン「それでもね・・・」
いつにない真面目な調子でエクセレンは静かに諭す。
397
:
はばたき
:2010/05/13(木) 22:53:25 HOST:zaq3d2e48b3.zaq.ne.jp
エクセレン「あの娘しか出来ないことなの。代われるものなら、誰だって代わってあげたい筈よ」
それは、この場の全員の偽らざる気持ちだった。
プラネットフィルターの操作は熟練を要する。
或いはレイリーがいれば、外部からの操作で何とか出来たかもしれない。
しかし、今艦にいる中で、この兵装に習熟しているのはエレだけなのだ。
加えて、今回の作戦では、メテオゼファーの戦闘データも併用している。
両者を動かした事のある、エレだからこそ出来る芸当でもあるのだ。
クローソー「チッ・・・」
理屈は解る。
解るが納得はしていない。
そもそも、元は敵、今も味方と思ったことも無い連中の安否など、本来彼女の知った事ではない。
だが、しかし・・・・
クローソー「おい、いいのか?」
コクピットハッチまで駆け上がって、中のエレに問いかけると、彼女は一瞬びくっと体を振るわせる。
クローソー「わかってるのか?お前、このままだと”仲間を殺す事になるんだぞ?”」
一言一句、言い聞かせるように語りかける。
仲間を失う。
それがどういうことか、痛いほど自分は知っている。
それを、自分の手で下す。下さねばならない。
しかも、この少女に。
「行かないで」と、仲間を求めた娘にやらせることに、何故か無性に腹が立った。
エレ「わた・・し・・・ころ・・す?・・・なか・・ま・・・あい・ら・・・」
ぽつぽつと零れる言葉。
だが、それに反して、彼女の瞳には少しずつ光が宿り始め、震えも収まっていく。
エレ「やら・・・なきゃ・・・わたし・・・やら・・なきゃ」
それは、一種の逃避だったかもしれない。
縋るものを求めて、自分に役割を振ることで、存在理由をこじつけようとした。
いい兆候ではなかったかもしれない。
だが、それでも、今はそれに頼るしかなかった。
クローソー「・・・・・そうかい。なら勝手にしな」
エレの内面を悟ってはいたが、あえてそう突き放した。
彼女も、これ以上踏み込みたくは無かったのかもしれない。
この震える少女に、歩み寄るのを・・・・。
§
準備は全て整った。
後は砲撃のタイミングを待つばかり。
その時期になっても、相変わらずクローソーは、コクピットハッチに黙って座っていた。
ライ『エネルギー充填120%』
アヤ『T−LINKフルコンタクト。準備完了』
計器越しに伝えられてくる、作戦開始を告げる報告の数々。
準備は刻一刻と進む中、エレの息遣いは荒い。
ミキ『プラネットフィルター所定の位置に到達。カウントダウン、10,9,8・・・・』
ついに始まった、一世一代の大博打。
カウントダウンを告げるミキの声にも、祈りにも似た思いが乗っているのが解る。
光速で到達するビームには、フォールドでも対処は出来ない。
逆に言えば、偏光のタイミングを合わせられるのも、コンマ1秒足らずということだ。
勝負は、一瞬で決まる。
ミキ『3,2,1・・・!』
トリガーが絞られるその寸前!
エレ「っ!!」
クローソー「おい!?」
クローソーは見逃さなかった。
ゼロを告げるその瞬間、反射的に眼を瞑ったのが・・・・
398
:
はばたき
:2010/05/13(木) 22:54:06 HOST:zaq3d2e48b3.zaq.ne.jp
・・・・・
・・・
・・
コンマ1秒にも近い時間が、永遠にも似た長さに変じた。
エレ(ヤダ!怖い・・・・怖いよ。私なんかに、紛い物の私なんかに出来ることなんて・・・・!)
眼を瞑った一瞬の時間
全てが凍結したような無音の空間で、ふと感じた
エレ(え・・・?)
頬に触れる優しい感触
(大丈夫)
耳元に聞こえる優しい声
それはとても懐かしく、とても暖かで
(私も力を貸してあげる。だから・・・・)
・・
・・・
・・・・
§
=南極 ゲペルニッチ艦=
艦全体を揺さぶる衝撃に、ガビルは一瞬何が起きたか解らなかった。
ガビル「何が・・・・!ゲペルニッチ様!!?」
§
プロトデビルン封印チャンバー・ボーラスター。
ゲペルニッチ本体が眠るそこに、
否、その”一歩後ろ”
何も無いはずの場所を、一条の光が撃ち抜いた。
§
クローソー「外れた・・・・?」
否、”外した”のだ。
今回の作戦は、あくまで囚われたメンバーの救出が最優先。
ゲペルニッチ本体への攻撃は、敵の目を欺く為の囮に過ぎない。
クローソー「・・・・・」
牽制の射撃が成功した事で、俄か慌しくなる眼下の格納庫。
しかし、クローソーの目は、コクピットに座ったままのエレに向けられていた。
そこには先ほどまで震えていた少女の姿は無い。
静かに、瞑目したまま律とした雰囲気の娘がそこにいた。
エレ「・・・あ・・・・」
その口から、静かな息が漏れると同時に、まるで憑物が堕ちたかのように、元の状態に戻るエレ。
ふらりと倒れこむ体を、反射的に抱きとめる。
エレ「で・・・きた・・」
未だ震える体と声で搾り出すように声を発する少女。
エレ「出来た・・・・出来た、出来た、出来た出来た出来た出来た出来た出来た出来たよ!私っ!!!」
子供のように興奮した声で叫ぶエレ。
そのまま、狂ったように笑い声を上げながら、クローソーの体に抱きついてくる。
クローソー「・・・・・・」
エレ「あは、あはは、あはははははははっ!!」
笑う一方で頬を伝う涙。
まだ彼女の心は癒されたわけではない。
だが、それでも
それでも、何がそうさせたか、クローソーは我知らず、優しく彼女の髪をなでていた。
399
:
蒼ウサギ
:2010/05/21(金) 03:02:33 HOST:softbank220056148028.bbtec.net
その頃、脱走した者達は、丁度この艦の管制室らしき場所を制圧していたところだった。
部屋の規模と兵士の数からして、さほど重要な場所ではないのだろうが艦内を把握をするには充分の機器がここにはあった。
ルリ「ではアイさん。手早く格納庫の場所を」
アイ「はい」
短い返事と同時に二人は、この部屋のコンソールを探り始める。
多少のコンピューターに知識があるものでも、ここに設備されている機器は見たこともないものばかりだ。
しかし、この二人ときたらそれを手探りで解析しては、まるで普段使っているかのようなそれと変わらないように操作している。
悠騎「なぁ、あの二人って、何やってんだ?」
タツヤ「オレに訊くなよ……頭が痛くならぁ」
次々に表示されては消えるモニターについていけず、ほとんどのメンバーはもはや考えることを放棄している。
そして数分後、二人の作業が終了する。
アイ「お待たせしました。ようやく私達の機体が収容されている格納庫の場所が特定できました」
悠騎「お、おぅ……しかし、よくわかったなぁ。こんな見たこともないようなコンピューターなのによ」
ルリ「いえ、ここで使われている技術は従来の地球技術に少し手が加えれている程度のものでした」
ムスカ「! ということは、この艦は元々地球技術で作られたものなのか?」
アイ「或いはそれをモデルにしたのか……それを考えるのはここを脱出したときゆっくり議論しましょう」
ゼド「ごもっともですね」
§
ゲぺルニッチ「ガビル、捕虜が逃げだした」
ガビル「ハッ! 一匹残らず捕えます! 捕獲美!」
背後で飛び去っていくガビルには、一瞥もやらずにゲぺルニッチはほくそ笑んだ。
まるで全てが自分の掌の中で動いているような……。
§
バサラのミレーヌ。二人の歌のお陰で兵士は、次々に無力化されいないも同然だった。
悠騎「楽なもんだぜ!」
マックス「問題はプロトデビルンだな。それまで格納庫まで辿り着けるかだ」
兵士ならばミレーヌの歌でも無力化できるということが証明された。
だが、プロトデビルンならばどうだろう。
単体ならまだしも、複数現れたならばバサラだけでは対応しきれない。
それまでに何としても格納庫へ辿り着くのが彼らの賭けだった。
ルリ「……」
アイ「……」
ゼド「? どうしたんですか? 二人とも」
タツヤ「走りつかれたんすか? でも、確か格納庫まであと少しのはず……」
ルリ「いえ、少し気になる場所があって」
アイ「はい、私もです」
マックス「気になる場所だと?」
ルリ「それは……もうすぐそこです」
400
:
蒼ウサギ
:2010/05/21(金) 03:04:39 HOST:softbank220056148028.bbtec.net
長く、機体が余裕をもって通れる大きな通りを走っていた一同は、突如開けた空間に目を奪われる。
一見、蜂の巣のような巨大な建造物だが、それら一つ一つはひし形で人一人が入れるほどの大きさをもったケースで積み重なっている。
そして中には、そう人―――バロータ兵ではない。明らかに民間人と思われる人間が入っていたのだ。
しかも、その人間達はまるで眠っているかのようにピクリとも動かない。
ドッカー「こ、これって!」
マックス「まさか! 捕えられた地球人!?」
ルリ「………マクシミリアン艦長、私の仮説が正しければ、恐らく彼らはこの艦の元々の市民です」
マックス「!? まさかこの艦は、元はどこかのマクロス艦隊だったというのか?」
ルリ「恐らくは……物証は確かめられませんでしたけどね」
その光景にミレーヌは歌をやめ絶句。バサラも同じで歌うのをやめてその目に怒りを込めていた。
バサラ「許せねぇ!」
その時だった。
???「見つけた! サンプル共! 一斉捕獲美!」
白い光が一同に接近してくるのが見えた。
全員に緊張が走る。
悠騎「この声は、美野郎か! やばいぜ!」
白豹「殺っ……!」
瞬間、迫るガビルにカウンター気味に白豹が仕掛けた。
ガビル「ちぃ!」
ガビルの爪と白豹の爪が交錯し、ガビルの動きが僅かに鈍った。
ゼド「今の内に格納庫へ!」
白豹の意図を瞬時に理解したゼドが声を飛ばす。
流れるようにルリが格納庫の鍵の暗証番号を入力し、扉を開けた。
重々しく開く扉から見える立ち並ぶ見慣れた機体達。
悠騎「ふぅ、解体されてなくてよかったぜ!」
マックス「よし、みんな早く自分の機体に! 白豹、君もだ!」
白豹「知道了(わかった)」
だが、それをこのプロトデビルンが許すわけもない。
翼を広げて飛び、一同の前へと先回りする。
ガビル「悪あがきは見苦しい! 服従美!」
バサラ「POWER TO――」
バサラが咄嗟に歌い始めようとしたその時だった。
壁が壊れ、何かがそこへ飛び込んできた。
???「アニマスピリチアーーーッ!」
それは白き閃光。ガビルと同じくらいの等身のそれが壁を突き抜け、ガビルへと突撃してきたのだ。
ガビル「ぐっ!?」
不意をつかれ、呆気なく吹き飛ばされてしまうガビル。
白き閃光の光が落ち着き、その姿が露わとなる。
401
:
蒼ウサギ
:2010/05/21(金) 03:05:27 HOST:softbank220056148028.bbtec.net
バサラ「あれは! シビル! シビルなのか!」
シビル「アニマスピリチア!」
バサラと認めた途端、傷だらけのその表情に笑顔が戻るシビル。
一方で他のメンバーは呆然としてしまった。
タツヤ「ど、どうなってんだ? こりゃ? プロトデビルン同士の仲間割れ?」
ルリ「……というより、あのシビルというプロトデビルンはバサラさんになついちゃっているようです。どうやら好機みたいですね」
マックス「よし、今のうちだ。各自、機体に乗り込め!」
戸惑うことも多いが、今はここを脱出することが最優先。
各々、次々に自機へと乗り込んでいく。
レイ「おい、バサラ。お前も早く!」
バサラ「あ、あぁ! シビル、お前も――」
シビルをファイヤーバルキリーに乗せようと手を伸ばすバサラだったが、そこに、
ガビル「おのれシビル! よくも!」
激昂したガビルは、シビルへと牙を剥けた。
シビル「ガビル!」
ギッとガビルを睨むシビルは、爪で攻撃してくるガビルを雷撃で迎え撃った。
ガビル「ちぃっ! こいつめ! 裏切り美!」
シビル「アニマスピリチア、行ケ!」
バサラ「!」
シビルの言葉に、バサラは一瞬、逡巡したが、すぐにそれを振り払った。
バサラ「後で来てやるからもう少し待ってろよ! シビル!」
言うなりバサラはファイヤーバルキリーへと乗り込んだ。
そして、脱出する皆とは別の道へと機体を走らせた。
ミレーヌ「ちょっと、バサラ! どこに行くの!」
バサラ「へへ、聞かせてやるのさ! あいつらに、オレの歌を!」
そう、バサラはあの妙な建造物がある空間へと機体を走らると、操縦桿でもあるギターを掻きならした。
バサラ「みんな目を覚ませ!」
歌い始めたバサラのPOWER TO THE DREAMは、生命を、魂を、銀河を震わせた。
眠っていた市民が次々に意識を取り戻し始める。
だが、この様子をモニター越し見ていた者がいた。
ゲぺルニッチ「クククッ、上がれ上がれ……スピリチア」
ほくそ笑むゲぺルニッチには、予想外のシビルの裏切りなどもはや然したる問題ではなかった。
402
:
藍三郎
:2010/05/23(日) 21:14:43 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
バサラのサウンドウェーブを浴びたカプセルの人間達が息を吹き返したところで……異変は起こった。
積み重なったカプセルの山の上方にある赤い装置から、再度スピリチアが吸い上げられていく。
高層ビルの窓の明かりが消えていくように、蘇ったばかりの人間達は、瞬く間に昏倒して行く。
これには、バサラも唖然となるしかなかった。
ミレーヌ「蘇ったみんなのスピリチアが……」
悠騎「ち、何てことしやがる!」
マックス「してやられたというわけか……」
マックスは歯噛みする。ゲペルニッチは、バサラが彼らを助けようとすることを読んでいたに違いない。
人々を救出できなかったばかりか、彼らに大量のスピリチアを与えてしまった。
ゼド「人間からスピリチアを奪い、無くなれば、歌を聴かせることでスピリチアを回復し……再び奪い取る。
そうすることで、彼らはスピリチアを永久的に獲得することが可能となる。
これがゲペルニッチの創ろうとしている、スピリチアファームの縮図というわけですか」
口答だけでなく、その実態を目の当たりにし、改めてその野望に畏怖する。
ゲペルニッチ『その通り』
ゲペルニッチの声が、格納庫中に響き渡った。
ゲペルニッチ『スピリチア自己再生種族が住まうこの星は、我らにとっての約束の地。
いずれはこの星そのものを、スピリチアファームとする。
渇くことも飢(かつ)えることもない、豊饒の泉……永劫の安息が、そこにある』
ムスカ「冗談じゃねーぜ……」
乾いた声で笑うしかない。
プロトデビルンは、人間など家畜程度にしか見做していない。
そして、人類と彼らとの間には、それだけの厳然たる力の差が存在するのだ。
マックス「全機、直ちにコスモ・アークとナデシコCに乗艦せよ!! 艦内からの脱出を最優先とする!!」
レイ「バサラ! 気持ちは分かるが、今は逃げるのが先だ!」
ビヒーダ「そうだ。あんただけならまだしも、女子供も大勢いるんだから」
バサラ「ぐ……」
レイとビヒーダに言われ、バサラは後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にする。
彼自身も分かっているのだろう。この場に留まり続ければ、皆を危険に晒すことを。
助けるべき者達を見捨てて行くことに無念を感じているのは、全員が同じなのだ。
ルリ「グラビティブラスト、発射します」
機体の収容が終わったところで、ナデシコCのグラビティブラストが放たれ、艦の壁に風穴を開ける。
そこから、二隻の艦が南極の空へと飛び出していった。その中には、シビルも加わっている。
ゲペルニッチ『逃さぬ……やっと掴んだ夢のしずく、我が掌から零れ落としてなるものか……』
ムスカ「奴らの艦の機能が復旧するまでは、まだ時間が掛かるはずだ。
後ろから狙い撃ちにされる前に、少しでも遠くに逃げちまおうぜ」
アイ「はい…… ! やはり……そう易々とは脱出できないようです」
レーダーに、多数の熱源反応があるのを察知する。
ゴラム「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
艦の進行方向には、ゴラムとゾムド……そして、多数のエルガーゾルンとパンツァーゾルンが待ち構えていた。
悠騎「待ち伏せかよ!?」
アイ「というよりは、向こう側から攻めてくることを想定した部隊でしょうね」
ゴラム「逃がしはしない」
ゾムド「アニマスピリチア」
掌からビームを発射するプロトデビルン。
そして後ろからも、ゲペルニッチ艦から出撃した追撃部隊が姿を現す。
その先頭に立つのは、憤怒に燃えるガビルだった。
ガビル「シビルにサンプルども、そしてアニマスピリチア……
よくもゲペルニッチ様の見ている前で、私の顔に泥を塗ってくれたな!!
許さん、許さんぞ!! 報復美ぃ!!」
403
:
藍三郎
:2010/05/23(日) 21:26:24 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
その時……
水平線の彼方で、二条の赤い閃光が煌く。
双星は、音速もかくやと言わんばかりのスピードで、一気に敵部隊の間を駆け抜けた。
ムスカ「! あれは……」
それは、どちらも赤い機体色をした戦闘機だった。
二機の戦闘機は、ミサイルをばら撒き、エルガーゾルンを撃墜する。
どれも、コクピットは狙わず、戦闘不能になる部位だけを的確に破壊していた。
尋常ならざる技量であることが、一目で分かる。
ゼド「あの機体は……」
ムスカ「まさか、社長か!?」
二機のうち一機は、彼らの社長の愛機、スカーレットホークに酷似していた。
それを駆るのは勿論……
セレナ「はぁい、おっ待たせ〜〜〜!
傭兵派遣会社バミューダストーム社長、セレナ・アストラード。本日、完全復活しました!!」
飛行しながら、機体の各部が駆動し、鳥型形態から人型形態に変形する。
NEXUS・DRIVEを搭載したスカーレットホークの後継機、“スカーレットフィーニクス”である。
腰から二対のメーザーソード、“カンタービレ”と“ブリッランテ”を抜き放つ。
双閃が瞬き、接近する数機のパンツァーゾルンを瞬時に解体してみせた。
かつて“軍神”と称された天才パイロットは、
緋色の翼を纏った不死鳥の騎士と共に、戦場に再臨した。
そしてもう一機は……
マックス「ミリア……なのか?」
マックスのものと全く同じ、VF−22シュトゥルムフォーゲルⅡ。
異なるのはマックス機が青なのに対し、この機体は赤く塗られていることだった。
ミリア「ほらね、やっぱり私が来た方がよかったでしょう?」
ミレーヌ「ママ!!」
赤いシュトゥルムフォーゲルを駆るのは、ミリア・ファリーナ・ジーナスその人だった。
ミリア「よく頑張ったわね、ミレーヌ。私が来たからには、もう心配は要らないわ」
セレナ「そうそう。それとね、ミレーヌちゃん。貴女に嬉しいお知らせがあるのよ」
ミレーヌ「え……?」
???「うおおおおおおおっ!!!」
セレナとミリアに遅れて、もう一機、バルキリーが突入してくる。
それは、バロータ軍のパンツァーゾルンであるが、同じバロータ軍に対して攻撃を仕掛けている。
ミレーヌ「その声は、まさか……」
ミレーヌに対し、パンツァーゾルンを駆る男は力強く答えた。
ガムリン「ミレーヌ!! 私です! ガムリン木崎です!!」
ミレーヌ「ガムリンさん! ガムリンさん!!」
死んだはずの彼が生きていた。
知らぬ内に、ミレーヌの目に涙が溢れる。
ドッカー「ほ、本当にガムリンだ! あいつ生きていたのか!!」
バサラ「へへっ、やるじゃねーか!!」
セレナ「ここに来る途中で、脱出ポッドが落ちているのを見つけてね〜。
バトル7に戻るように言ったんだけど、聞き分けなくってね」
二人に助けられたガムリンは、傍に墜ちていた、パイロットのいないパンツァーゾルンに乗り込み、共についてきた。
元はバルキリーの改造ということもあり、操縦に全く問題は無いようだ。
ガムリン「艦長も、御心配お掛けしました」
マックス「気にするな。とにかく、生きていてくれたようで何よりだ」
ミリア「あら、そんなにあっさり死ぬような、柔な鍛え方はしていないわよ?」
かつてガムリンの教官だったミリアは、自慢の意味も込めて微笑む。
404
:
藍三郎
:2010/05/23(日) 21:36:49 HOST:249.31.183.58.megaegg.ne.jp
ガビル「ガムリンだと……お、おのれぇぇぇ! あの死にぞこないが!!」
怨敵の生存を知り、さらに怒りを高ぶらせるガビル。
ガビル「いいだろう! 今度こそ、私の手で! 完全なる終焉の美をくれてやる!!
来い! グラビィィィィィル!!!」
グラビル「グオオオォォォォォォォォン!!!」
ガビルの呼びかけに答え、グラビルが彼の下へと駆けつける。
白の鳥人と緑の魔獣は融合し、プロトデビルンとしての真の姿・ガビグラとなる。
ウィッツ「ちぃ、またあのトンデモ合体かよ!!」
ガビル『このガビグラこそ、我が憤激美を体現するもの!!
怒りの炎で、全てを焼き尽くしてくれるわ!! 焼却美!!』
内で燃焼する憤怒を解き放つように、グラビルの腕から、真紅のペンタクルビーム砲を発射する。
セレナ「はっ、役者は揃ったって感じねぇ♪」
危機的な状況にも拘らず、セレナはあくまでも楽天的である。
ゼド「社長……」
セレナ「わーってるわよ。今は脱出経路を切り拓くのを最優先、一点突破で行くわ。
私の狙った箇所を、続けて攻撃しなさい!」
ムスカ「了解!」
飛翔するスカーレットフィーニクス。その性能は、かつてのスカーレットホークの比ではない。
不死鳥をモチーフとしているこの機体は、尾部が連結されたチャクラムと化している。
メーザーチャクラム『マドリガーレ』を振るい、エルガーゾルン部隊を撃墜して行く。
その後に、ハイドランジアキャット、ヘラクレスパイソン、刹牙が続く。
ミサイルが、拳が、爪が、バロータ軍の包囲を掃討し、敵陣に風穴を開ける。
セレナは特に指示を出さない。
命令などなくとも、彼女の社員たちは、独自の判断で最善の行動を取れることを知っている。
だから、司令塔としての彼女の役目は、彼らが戦いやすい環境を作り出すこと。
社員たちがその能力をフルに発揮できるよう、敵機を排除し、誘導し、効率的に敵部隊を殲滅する。
緻密な計算と、天才的な直感を織り交ぜて。緋色の双翼は、極光の空を駆け抜ける。
セレナ「あはははは! こうやって社員をアゴで使う感覚、久しぶりねぇ♪」
ゼド「嬉しそうですな、社長」
ムスカ「大きい声で言う台詞じゃあないですけどね」
そう言うムスカ達も、久方ぶりの上司に率いられての戦闘に、やや気持ちが高ぶるのを感じていた。
彼らは三人とも、出身も所属も全く違うところから集められた傭兵たちだ。
三人に共通しているのは、いずれも経験豊富な兵士であること。
そして、優秀な兵士は、優秀な指揮官に率いられることを、本能的に求めている。
だから彼らは、バミューダストームという家に集まった。
自分達の能力を、十全以上に引き出してくれる戦場の天才、セレナ・アストラード。
彼女こそ、自分達を“使う”に相応しい存在だと認めるが故に。
四機一体のその動きは全てを押し流す怒涛の如し。
長らく戦線を離脱し、土壇場での復帰であったが……
司令塔が復活したバミューダストーム四人の連携に全く隙はなかった。
405
:
蒼ウサギ
:2010/06/08(火) 03:31:17 HOST:softbank220056148043.bbtec.net
悠騎「すげぇ……マジすげぇよ!」
まだ窮地な状況にも関わらず悠騎を始めとする何人かは、バミューダストーム達の凄まじい連携に思わず見とれて感嘆していた。
息つく間もないその怒涛の攻撃の嵐は、見る者を惹きつける何かがある。
アイ(これが本当のバミューダストームの力……そして、本当のセレナ・アストラードの力)
その中でもアイは、恐らく誰よりもセレナの動きをよく見ていた。
常人では簡単には真似できないだろう、まさに芸術ともいえるその動きを。
アイ「本当に天才なんですね、セレナさん」
セレナ「褒めても何もでないわよアイちゃん。ほら、ボーっとしている暇はないない!」
ルリ「そうですね。今の内に脱出しましょう」
セレナ達が開いた敵陣の脱出口目指して二隻は、同時に速度を上げて突破を試みる。
マックス「各機! 各艦の脱出を援護しろ! 今は一刻も早くここから退却することが先決だ!」
ミリア「戦線を離脱して、態勢を立て直すのよ!」
しかし、それを阻むプロトデビルンは計3体。(正確には4体だが、シビルは敵対意志がないため障害の対象には含まれないでいる)
悠騎「ちっ、後ろにいるあのデカブツ美野郎と、前にいる二体のプロトデビルンが邪魔だな!……ん?」
タツヤ「なんだ?」
視界に入ったゴラムとゾムドは、7本あるうちの1本の腕だけを互いに合わせて、あの不気味な笑い声を上げていた。
ゴラム「逃がしは〜」
ゾムド「しない〜」
次の瞬間。その合わせた手から黄色と黄緑の螺旋状になった砲撃が放たれた。
それは、友軍であるはずのパンツァーゾルンを瞬く間に蒸発させながらコスモ・アーク、ナデシコCへと襲いかかる。
ルリ&アイ「フィールド、全開出力」
マックス「各機、散開!」
二艦のバリアが広域範囲にわたって展開されるものの、持ち堪えたのはほんの数秒だけに過ぎなかった。
ゴラムとゾムドが放った砲撃は二つの艦のフィールドを貫通し、損害を与えた。
悠騎「っ! しまった!」
ルリ「いえ、ナデシコC、コスモ・アークとも大丈夫です」
派手な爆発とは裏腹に、両艦とも思いの外ダメージは少なかったようだ。
当たりどころと、互いのフィールドで補強しあっていたことが功を奏したようだ。
アイ「それより今ので落ちた機体はありませんか?」
マックス「正確ではないが、とりあえずはこちらも大丈夫だ」
二艦の護衛についていた機体達は、とっさのマックスの判断もあり、幸いにも被害を逃れることができたようだ。
タツヤ「くそぅ、あいつらただの気持ち悪い二組プロトデビルンじゃなかったぜ」
セレナ「文句言ってる暇はないわ。なーんか仕掛けてくる雰囲気よ!」
セレナの読み通り、ゴラムとゾムドは仕掛けてきた。
突如として、一同の視界から消えたかと思うと、次の瞬間にはナデシコCとコスモ・アークのすぐ上空へと瞬間移動してきたのだ。
悠騎「なっ! やべぇ、直接押さえにかかってきやがったか!」
瞬く間に二体のプロトデビルン七つそれぞれの手がフィールドを突き抜けて、両艦を掴んでいた。
ゴラム「フォ〜フォ〜フォ〜」
ゾムド「捕獲〜」
マックス「しまった!」
ルリ「……」
アイ「……」
マックス達パイロットとは正反対に、二人の艦長は捕われた状態でも動揺する素振りは見せなかった。
もちろん、対空砲火などで抵抗したりもしない。相手がプロトデビルンである以上、並の通常兵器での抵抗は弾薬の無駄遣いになるだけだからだ。
406
:
蒼ウサギ
:2010/06/08(火) 03:31:51 HOST:softbank220056148043.bbtec.net
ゴラム「スピリチア〜」
ゾムド「いただく〜」
ゴラムとゾムドの両艦を掴む手がスピリチアを吸い上げようと怪しく光り始めたまさにその時、歌が飛び込んできた。
バサラ「夜空を駆けるラブハート 燃える想いをのせてぇ 悲しみと憎しみを 撃ち落としてゆけ!」
その「突撃ラブハート」は、ゴラムとゾムドを苦しめた。
スピリチアを吸い上げる余裕などなくなり、標的を“アニマスピリチア”へと変更する。
ゴラム「オォ〜〜ゾクゾク!」
ゾムド「アニマスピリチア〜!」
レイ「よし、ホシノ艦長! 四之宮艦長! 今のうちだ!」
ルリ「了解。援護、感謝します」
アイ「私は、代理です。ラブロックさん」
各々告げながら自由となった艦を再発進させる。
ガビル「おのれアニマスピリチア! 援護美! そして追跡美!」
ガムリン「させるかぁ!」
ガビグラに、ガムリンのパンツァーゾルンが迫り、体格差を活かして翻弄する。
しかし、ひとたびガビグラの巨腕に掴まろうものならあっという間に機体は潰されてしまうだろう。
ガビル『おのれ! ガムリン! こうなったら……』
しびれを切らしたガビグラがグラビルのビームを放とうと構える。
ガムリン「何をするつもりだ……はっ!」
ガビルの意図に、ガムリンは直感した。
ビームの射線軸上。そこには、ナデシコCやコスモ・アークがいる。
ガムリン「ナデシコC! コスモ・アーク! 狙い撃ちされているぞ!」
ガビル『もう遅い! 狙撃美!』
ガムリン「うぉぉぉぉおおおっ!」
高出力の赤い閃光が放出されるその数秒もない前。ガムリンは、半ばやけくそ気味にパンツァーゾルンで攻撃していた。
狙いはガビグラの狙撃を食い止めるまでに至らなくとも、逸らすことが目的だが、いかんせん実弾兵器。
ガムリン同様に狙撃に気付いた機体達の援護もあったが、効果はいまひとつに終わっていた。
しかし、ガムリンが知ってか知らずか『スピチリア吸収ビーム』を撃ったことで状況は変わった。
ガビル『なにっ、がぁぁぁぁっ!』
みるみるうちに巨体であるガビグラが小さくなっていく。だが、ガビルの意地だろうか、あらん限りの力を振り絞ってビームは発射された。
しかし、それは目標である二隻の艦を大きく外れているコースではあった。
ミリア「どこに……あっ!」
赤い光が向かった先を見て、ミリア達の血の気が引いた。
そこは、サウンドフォースがいる位置なのだ。
そして、そのことにサウンドフォースのメンバーも気づく。
ミレーヌ「! みんな!」
バサラ「!?」
レイ「まずいっ!」
迫りくるビームに体が硬直してしまう。もう避けられない、誰もがそう思ったとき何者かが割って入ってきた。
だが、バサラだけはそれが誰かをわかっていた。
バサラ「シビル………」
シビル「バ…サ……ラ」
全身でガビグラのビームを受け止めたその小さなプロトデビルンは、ほどなくして衝撃でどこかへ吹き飛ばされていった。
407
:
藍三郎
:2010/06/16(水) 23:15:51 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
バサラ「シビル――――っ!!」
焦燥に駆られるバサラ。
吹き飛ばされたシビルを追い、ファイヤーバルキリーを加速させる。
それと同時に、ナデシコCとコスモ・アークの両艦も距離を開けようとする。
ゴラム「させぬ」
ゾムド「逃がさぬ」
バサラの歌が一時止まったことで、ゴラムとゾムドが動き出す。
ムスカ「おおっとぉ! そりゃこっちの台詞だぜ!!」
二体のプロトデビルンの前に立ちはだかるハイドランジアキャット。
グロリオーサと連結し、メーザー・ウェーブ照射装置を向けている。
セレナ「ムスカ! ぶちかましちゃいなさい!!」
ムスカ「了解、社長!!」
既にエネルギーの充填は完了している。
メーザー・ウェーブ照射装置が紫色に輝き、光の三角形を現出する。
ムスカ「NEXUS・DRIVE、エネルギー注入!
△(トライアングル)・ドアー、展開!!」
標的は右側にいるゴラムだ。光の回廊が伸び、ゴラムの巨体を捕らえる。
ゾムド「こ、これは」
ゴラム「う、動けぬ」
巨大な紫色の三角形は、ゴラムの体を磔にして動きを封じてしまう。
電磁力で周辺の空間を歪ませる為か、フォールドで逃れることもできない。
ムスカ「本来ならここで、『▽(アンチトライアングル)・ゲート」で吹き飛ばすところだが……
お前らに通常兵器が効かないのは分かっている。だから!」
メーザー・ウェーブ照射装置から、再び紫色の正三角形が放たれる。
ムスカ「もう一発だ。つがいで仲良く、磔になるんだな」
二度目の△・ドアーが、今度はゾムドを捕らえた。
ゾムド「う……!」
ゾムドもまた、フォールドを含めた一切の脱出手段を封じられてしまう。
現在最優先すべき事項は、プロトデビルンの撃破ではなく、ここから脱出すること。
ならば、破壊を目的とする△・パニッシュメントではなく、その前段階の△・ドアーを二発撃って、敵を拘束する方が上策だ。
セレナ「うーん、さすがはマイケルの開発した新兵器ね。実際に見るのは初めてだけど、惚れ惚れするわ〜〜」
ムスカ「そんかわし、消耗も激しいですがね」
プロトデビルン二体を拘束するだけの莫大なエネルギーを消費した
ハイドランジアキャットは、地力での飛行すら困難になり、ゼドと白豹に抱えてもらっていた。
セレナ「ご苦労様。さぁさぁ、アラホラサッサ〜〜と逃げましょう!」
ゼド「いつの時代の悪役ですか」
三体のプロトデビルンが行動不能に陥っている瞬間を逃さず、
ナデシコCとコスモ・アークは全速力でその場を退避していった。
ゴラム「おのれ……」
ゾムド「口惜しや……」
408
:
藍三郎
:2010/06/16(水) 23:18:16 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
数キロも離れた氷上に、シビルは墜落していた。
彼女に直接命を救われたファイヤーボンバーの面々は、皆心配そうにシビルを見ている。
バサラ「シビル、起きろ――っ! シビル――――っ!!」
何度もシビルに呼びかけるバサラだが、答えは返ってこない。
シビルの顔には亀裂が走り、瞳から光は消え失せていた。
バサラは息を吸い込むと、『MY SOUL FOR YOU』を歌い出した。
バサラ「お前が 風になるなら 果てしない 空になりたい」
かつて、シビルがシティ7で眠りについていた頃、よく聴かせていた歌だ。
バサラの歌声に、シビルの眉がぴくりと動く。
バサラ「COME ON PEOPLE 感じて欲しい
今すぐ わからなくていいから」
シビル「…………バ……サ……ラ……」
虚ろだったシビルの双眸に、光が宿る。
だが、それと同時に……シビルの髪が伸び、バサラに纏わりつく。
それを一切意に介さず歌うバサラだが……シビルの髪がライトグリーンに輝く。
髪を通して、バサラのスピリチアを吸収しているのだ。
バサラ「おまえの……悲しみが癒されるなら……声が枯れるまで……歌い続けよう……」
シビル「駄目! いらない! バサラのスピリチア、駄目――!!」
これはシビルの意志ではない。
シビル自身にも、スピリチアの吸収を止められない。
バサラの歌は、確かにシビルを目覚めさせた。
だが、スピリチアがほぼ完全に枯渇した状態で目覚めたのが仇となった。
いかにシビルがバサラと心を交わしていても、彼女はプロトデビルンである。
プロトデビルンにとって、人間はスピリチアを潤沢に含む、食料のようなもの。
その食糧が、飢えと渇きが限界に達した状態で目の前にあればどうなるか……
砂漠を三日三晩彷徨った人間が、水を見つけた時と同じことだ。
プロトデビルンの、飢餓に瀕した生物としての本能が、バサラのスピリチアを食らい尽くす。
バサラ「COME ON PEOPLE…… 信じて欲しい…… いつまでも……変わらない俺を…………」
バサラ「コォォォォォ――――ッ!! いらない! アニマスピリチア――!!」
バサラ「………………」
バサラの声が、徐々に小さくなっていく。
そしてバサラが目を閉じると同時に、その歌声も掻き消えてしまった。
ミレーヌ「バサラ!!」
シビル「スピリチア……」
吸収したスピリチアを、再度氷上に横たわるバサラに向けて放つ。
それでも、バサラは何の反応も示さない。シビルは、震える声で呟いた。
シビル「バサラ……死んだ……」
シビルの一言に、ファイヤーボンバーの面々は慄然となる。
ミレーヌ「そんな……嘘よ!!」
ミレーヌが駆け出そうとした時……
シビル「コォォォォォォ――――――ッ!!!」
哀しみの咆哮と共に、突風が吹き荒れる。レイとビヒーダは咄嗟にミレーヌを庇う。
シビル「ゾクゾク、いらない…… バサラ、かなしい…… コォォォォォォ――――――ッ!!」
光の膜に身を包み、シビルは曇り空へと飛び立っていった。
レイ「バサラ!!」
バサラに駆け寄る三人。バサラの胸に耳を当てたレイは、呻くように呟いた。
レイ「心臓が止まっている……」
ミレーヌ「そ、そんな……」
絶望に表情を凍らせるミレーヌ。
熱気バサラ、死す――――
409
:
藍三郎
:2010/06/16(水) 23:24:02 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
=ゲペルニッチ艦=
ゲペルニッチ「アニマスピリチアを逃したか……黄昏の訪れまでに残された時間は少ないというに……」
ゲペルニッチの眉が憂いの色を帯びる。
ゲペルニッチ「世界が滅びを迎え、新天地に飛び立ったとしても、
そこにスピリチアが無ければ、我らはまたしても、悠久の眠りにつくことになる。
何としても、スピリチア・ファームを完成させねば……」
その時、艦の外壁を突き破って、光球がブリッジに飛び込んでくる。
姿を見るまでも無く、発する波動だけで誰か分かった。
ゲペルニッチ「シビル!」
シビル「ゲペルニッチ!! 二度とスピリチアを吸わない! お前にもデッドスピリチア!」
シビルは怒りに燃えていた。
その怒りは、バサラのスピリチアを吸い、死に至らしめてしまった自分自身に向けられたものだった。
これまで何気なくやってきた、スピリチアを吸うという当たり前の行為に、激しい憤りを覚えていたのだ。
せめて、バサラの敵であるこの男を……
今のシビルは、そんな怒りと償いの気持ちに突き動かされていた。
ゲペルニッチ「悪夢から抜け出すことができなかったか、シビル!」
一方、ゲペルニッチも苦々しい顔をしていた。
恐れていたことが現実になった。今のシビルは、あまりにも人間に寄りすぎている。
人間をただの食糧源としてではなく、自分たちと同次元の存在として見做す。
そのことは、プロトデビルンという種族を変容させる可能性がある。
何が起こるかは、全くの未知数なのだ。
絶対的な力を持つゲペルニッチだが、それ故に、自分の予測の及ばない事態には、過剰なまでに恐れを抱いていた。
緻密な計画を突き崩すのは、常に未知の要素が原因だ。
その恐れが、シビルの抹殺に拘った理由だった。
シビル「スピリチアエンド!!」
ゲペルニッチ目掛けて、額からスピリチアを放射するシビル。
ゲペルニッチ「!!」
POWER TO THE DREAM POWER TO THE DREAM――
ゲペルニッチの脳内で、聴こえるはずの無い歌声が再生される。
ゲペルニッチ「何! アニマスピリチア…… 貴様が運んで来たというのか!」
POWER TO THE MUSIC 新しい夢が欲しいのさ――
シビルが吸収したスピリチアは、熱気バサラのもの。
ゲペルニッチに対して、バサラの歌を聴かせるのに近い効果を発揮していた。
ゲペルニッチ「ぞく……ぞく……ウ、ウウウウ……アアアアァァァ!!!!」
ゲペルニッチの形相が一変する。
目を見開き、口の端を吊り上げ、口腔を大きく開く。
これまでの、沈着冷静な指揮官の貌をかなぐり捨てた、狂乱と狂喜の形相へと変わっていた。
ゲペルニッチ「スピリチアストリィィィィム!!!」
両手を宙にかざし、光の波動を放つゲペルニッチ。
その頃、南極地下のプロトデビルン封印チャンパー、残された最後の氷柱の中で、青い瞳が不気味に輝いていた。
ゲペルニッチ「ウルィアアアアアアアアアァァァァァァ――――ッ!!!」
シビル「!!!」
ゲペルニッチが放つ、桁外れのエネルギーに、シビルは圧倒されてしまう。
ゲペルニッチ「イィィィアアアアアアアアアアァァァァァァァッ!! 消えろ!! シビル!!」
シビル「バサ……ラ…… コオオオオオォォォォォォ――――ッ!!!」
抵抗虚しく、光に飲まれたシビルは、その場から消失してしまった。
410
:
蒼ウサギ
:2010/07/02(金) 21:53:34 HOST:softbank220056148014.bbtec.net
ファイヤーボンバーから緊急要請を受け、バサラはすぐにシティ7の最高医療施設に搬送され、緊急治療が施された。
テクスやレインなど最高の医療スタッフが勢ぞろいし、心肺停止状態のバサラをなんとか蘇生させようと奮闘する。
長い、長い、もう一つの戦いが行われていた。
=コスモ・フリューゲル=
マックス『そうか……あの砲撃は君の援護だったのか。感謝する』
由佳「いえ、元々あの『ヤシマ作戦』を立案したのはNERVの葛城三佐であり、そしてそれを実行したのはエレ隊員を始めとする皆さんです。
ですが、それでも今回の作戦は……」
マックス『うむ、明らかに失敗してしまった……全て私の責任だ。敵の戦力を見誤りすぎた』
由佳「失敗=負けではありません……。犠牲は出てしまいましたが、私達はまだ全戦力を出してプロトデビルンに当たったわけではありません!」
折れない不屈の目、というよりは、逆襲の目という表現が正しい由佳のそれは不思議と落ち込み気味のマックスの心を奮い立たせてくれた。
マックス『そうだな…しかし、問題はどうやって戦力を立て直すかだ』
由佳「とりあえず皆さんを招集して話し合いましょう。現戦力の確認。そこからできることを創意工夫して少しでも勝てる可能性を導き出すのです」
由佳は、モニター越しのマックスに向けて強気の笑みをこぼした。
§
=シティ7 病院=
アイ「………以上がオペレーション・スターゲイザーの顛末です。……艦長」
心なしか、いつも以上に沈んだ声で眠っている紫藤トウヤに報告するアイ。
当然、返ってくる言葉はない。こうした行為は艦長代理という義務と本人は謳っているものの、傍から見れば彼女自身の自己満足に見えるだろう。
だが、アイは任務後のこれを欠かしていない。
そして、いつもの沈黙が訪れる。
アイ「……すみません、艦長。艦長から預かっているコスモ・アーク……もう少しで失うところでした……」
呟くようにアイは零した。
体が少し震えているのは、プロトデビルンに拘束されコスモ・アークが奪われた恐怖が今になって襲いかかってきたからだ。
ナデシコCと共に無事であったとはいえ、鹵獲された状態ではいつ破壊されてもおかしくはなかった。
アイ「……艦長…どうやったら起きてくれますか?」
つい自然とそんな切実な想いがアイの口から洩れてしまった。
その一方、同病院内でバサラの蘇生手術が行われている手術室のランプが消えた。
§
テクス「尽くせる手は尽くせた……」
自発呼吸なし。脈拍25。体温29。
集められる最高の医療スタッフが尽くせた結果、バサラは酸素マスクをつけた状態で専用の医療カプセルに寝かせられていた。
そんな変わり果てた姿を見て、ファイヤーボンバーのメンバーは唖然となる。
レイ「……正直にいってくれ、バサラは助かるのか?」
レイン「………このままの状態が続けばもって数時間、というところね」
その言葉に、ミレーヌが目を見開く。
テクス「残念だが、医者は万能ではない。……ましてや神でもない……。ここからは彼自身の戦いになる」
ミレーヌ「っ……」
ミレーヌは、返す言葉に詰るしかなった。ミレーヌだけではない。
ここにいる誰もがテクスの言葉を否定することはできない。
レイ「……バサラ、オレより先に死ぬなんて反則だぞ」
レイは、こんな時にふとバサラとの出会いの頃を思い出していた。
軍をやめて放浪していた時、まだ少年だった彼は、背中にギターを抱えて真っ直ぐに街を目指していた。
ただのすれ違いの遭遇なのに、不思議とレイはバサラにこれからの自分の生きる夢の可能性を感じてしまったのだ。
直感ともいっていい。
レイ「オレとお前の夢は、まだ終わっちゃいないぜ」
411
:
藍三郎
:2010/07/11(日) 11:38:18 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
ミレーヌ「バサラ! 起きてよ! バサラ!! 歌ってよ、バサラ……」
バサラの眠るカプセルに縋りつき、嗚咽するミレーヌ。
それを見て、ガムリンは苦い表情で目を逸らす。そして、一人病室から出て行った。
廊下の突き当たりの壁に、拳をぶつける。鈍い音が廊下に響いた。
ガムリン「バサラが生きるか死ぬかって時に、俺は最低な男だ! 嫉妬するなんて……」
自己嫌悪に苛まれながら、ガムリンは自分の正直な気持ちを吐露した。
=コスモ・フリューゲル=
アネット「お、お姉ちゃん!」
二本の脚で立つ姉の姿を目の当たりにして、アネットは驚きと喜びの入り混じった表情を浮かべる。
セレナ「生霊(いきりょう)なんかじゃないわよ?
世紀末の大魔王、セレナ・アストラード大統領陛下、本日完全復活よん♪」
くるりと一回転してみせるセレナ。姉妹は抱き合って、喜びを分かち合った。
アネット「よかった……もう大丈夫なの?」
セレナ「んー、まだ少し首のところがゴリゴリしてるけどねー。
色々とヤバイ状況になってんのに、いつまでも寝てるわけにもいかないでしょ?」
ゼド「それにしても、退院した直後にMSKに乗って獅子奮迅の御活躍、相変わらず無茶をなさる。
ま、そのお陰で我々は助かったわけですが。ありがとうございます」
セレナ「あははは~~、リハビリにはちょうどよかったわね。
それに、マイケルが改造したスカーレットに、早く乗りたかったし」
あの超高機動戦闘を、あっさり「リハビリ」などと言ってしまう彼女に、ムスカとゼドは苦笑する。
一方で……実際にまだ本調子ではないのだろうと思う。
本物のセレナ・アストラードは……緋色の軍神は、あんなものではない。
ムスカ「スカーレットフィーニクス、俺らの機体と同じ、NEXUS-DRIVE搭載型。確かにいい機体でしたね」
メーザーストライカー第一号機、スカーレットホーク。
あらゆる性能に優れ、バランスの取れた機体は、メーザーストライカーの基本型にして完成型と称される。
メーザーファイバーによる機体駆動、反応速度の高速化、豊富な武装とそれに相反する高い機動性、
変形機能、メーザーフィールドと、当時の汎用機を大きく凌駕するスペックを備えていた。
高性能機の必然として、この機体を使いこなせるのは、エース級の優秀な能力を持つパイロットに限られる。
だが、製作者であるマイケル・アストラードにとっては何の問題もないことだった。
最初から、この緋色の鷹は、彼が愛した女性のためだけに作った機体なのだから。
マイケルが目指したのは、軍神とまで謳われた恋人の技量を百パーセント引き出し、彼女を過酷な戦場から死なせないための機体だった。
彼女はマイケルの望み通り、スカーレットホークを駆って幾多の戦果を挙げ、緋(あか)き翼の軍神と謳われるまでになったという。
しかし、それ程の功績がありながら、メーザーストライカーが連邦軍の主流となることはなかった。
その理由の一つに、機体に使われているメーザーファイバーが挙げられる。
機体内部を血管や神経系のように駆け巡り、メーザー線によって反応速度の高速化を実現する。
それによって、従来の機動兵器に比べ数段滑らかで、かつ機敏な行動が可能となる。
だが、優れた機体性能は、パイロットの側にも相応の技量を要求する。
優れたパイロットが乗り込めば、能力を十全以上に引き出せるが、凡庸なパイロットが使っても、それ相応の力しか発揮できない。
機体のポテンシャルに、パイロットが追いつけないのだ。
これでは高価なメーザーファイバーも、宝の持ち腐れにしかならない。
そして、軍に置いて大多数を占めるのは、そのような凡庸な兵士だけだった。
彼らには、モビルスーツやパーソナルトルーパーのような従来の量産機で十分だったのだ。
412
:
藍三郎
:2010/07/11(日) 11:42:46 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
これ以降、新たなメーザーストライカーは数機しか造られなかった。
ムスカ、ゼド、白豹。セレナと同様、メーザーストライカーの性能を引き出せる三人の非凡なパイロット達。
彼らの戦法や特性に合わせて造られたのが、アイリスキャット、スタッグパイソン、凶である。
スカーレットホークが総合的なバランスを重視した機体なら、これら三機は長所を伸ばすことを主眼に置いた機体である。
更にNEXUS−DRIVEの開発によって、メーザーストライカーはさらに一次元上の性能を獲得する。
スカーレットフィーニクスはスカーレットホークの強化発展型で、NEXUS−DRIVEの搭載によって全体的な能力を底上げしてある他、
メーザーチャクラム『マドリガーレ』など新たな武装も追加されている。
ゼド「まさに鬼に金棒ですな」
セレナ「鬼だなんて、もうちょっと優美な例えを頂戴な」
ムスカ「美人に厚化粧とか」
セレナ「あははは、厚は余計じゃ」
けらけらと笑うセレナだが、それを微笑に変えて告げる。
セレナ「ともあれ、私が寝込んでいる間、よくやってくれたわ。
さすがは私の自慢の社員達、無償でここまで奉仕する精神には頭が下がるわ!」
ムスカ「ちょ、さりげなくただでこき使おうとしてんすか」
セレナ「冗談冗談。ちゃんと無事元の世界に戻れたら、特別ボーナスを支給してあげるわよ。期待してなさいな」
ゼド「それはいいことを聞きました。是が非にも、元の世界に帰らなければ」
セレナ「社員のやる気に火をつけるのも社長の勤めだからね〜。奮発してあげるから、たっぷり家族サービスしてあげなさいな」
ゼド「はい」
セレナ「まぁ、貴方達が無事生きて帰ることが、何より嬉しいことだけどね」
ゼドと、そしてムスカに向けて放たれた言葉だった。アリシアのことを言っているのだろうな、とムスカは思った。
セレナ「そして、あんたらを無事送り還すのも社長の責任、これからはバリバリ働いていくわよー!」
有り余る力を闘志に変えて、両の拳を握り締めるセレナ。口で言った理由以上に、働くのが楽しくてたまらないのだろう。
マイケル「あんまり無理しないでね、セッちゃん」
そんな妻に、夫は慈愛と信頼の篭った視線を向けている。
その時、部屋のドアを開けて入ってくる者がいた。
灯馬「お邪魔しま〜す。お、シャッチョさん、ホンマに退院なさはったんですか。
おめでとうございます」
夜天蛾灯馬はセレナの姿を見て、深く一礼する。彼は元々、セレナの依頼でG・K隊に合流したのだ。
彼の祖父、夜天蛾十風斎はセレナとマイケルの古い友人で、その縁で二人と親交があった。
セレナ「ええ、この通り、勇気凛々、元気万倍、今の私なら稲妻より速く飛べそうな気分よ」
灯馬「ははは、すっかりいつものシャッチョさんみたいやな。お元気なようで何よりです」
蛇鬼丸『ケッ、どうせなら、あのまま一生寝込んでいればよかったのによぉ』
毒づく蛇鬼丸。刀なので表情などはないが、セレナに対する敵意を剥き出しにしているのは明らかだった。
セレナ「あらあら、随分な言い草ねぇ。ジャッキー」
蛇鬼丸『誰がジャッキーだこの糞アマァ!』
灯馬「ああもう蛇鬼丸のアホ! 何ちゅう失礼なことを!」
セレナは、特に気分を害した様子も無く、微笑みを崩さない。
セレナ「いいわよぉ。無機物の、しかもこんなナマクラ刀の暴言にいちいち怒るのも大人気ないしね」
その言い方は、売り言葉に買い言葉じゃないかとアネットは思ったが、口には出さなかった。
413
:
藍三郎
:2010/07/11(日) 11:44:37 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
蛇鬼丸『ナマクラだとぉ!いいか、俺様はな……』
セレナ「ただし」
蛇鬼丸が言い終わる前に、セレナは音もなく近づくと、蛇鬼丸の柄を握り締めた。
一同はぎょっとなる。
最近、あまりに無害ゆえに忘れそうになるが、蛇鬼丸は妖刀、持ち主の魂を乗っ取り、操る呪われた刀なのである。
だから、灯馬は蛇鬼丸を肌身離さず持ち歩き、決して誰にも触らせない。
本来なら蛇鬼丸を握った時点で、セレナの意識は乗っ取られるはずだが……
彼女は、平然とした顔で、今までにない冷たい表情で言う。
セレナ「もしあんたが灯馬の同意もなしに人を斬ったり、他の誰かの意識を乗っ取って、罪もない人を斬らせたりしたら……その時は許さない。
あんたの刀身(からだ)をへし折って、熔鉱炉で熔かした後、トイレのドアノブに変えてやる。
ついでに花柄のファンシーなカバーもつけてやるわ」
蛇鬼丸『んぐ……』
冗談混じりの脅しに、蛇鬼丸は黙り込む。
ムスカ(すげぇ、あの蛇鬼丸が気圧されてやがる)
ゼド(刀を持っても精神が支配されないのは、社長の自我が常人のそれを遥かに凌駕するほど大きいから。
いやはや、我らの上司は恐ろしいお方です)
ゼドは思い出す。セレナ・アストラード、旧姓セレナ・リップルは、表舞台で、軍人として華々しい戦果を挙げただけでなく、
裏社会にも関わり、そこでも数々の武勇伝を残したという。
白豹や、彼の所属する白(パイ)家とは、その頃から親交があったそうだ。
当時のことはセレナも好んで語ろうとはしないが、自分達には想像できないほど濃密な人生を送ってきたのは間違いないだろう。
灯馬「蛇鬼丸、やめとき。ボクが言わんでも分かっとるやろ。
この人には勝てへん。どこぞの武芸者の体乗っ取って、悪さを働いとったお前を叩きのめして、
おじいちゃんのところに預けたのがシャッチョさんなんやから」
アネット「そうなの?」
蛇鬼丸は、苦虫をかみつぶしたような声で、ケッとだけ吐き捨てる。
それが事実ならば、彼がセレナを敵視するのも納得できる。
ゼド「それは我々も初耳ですな。社長のことですから、真実なのでしょうな」
セレナ「思い出すわー。奴の示現流奥義電光石火を、私が真剣白刃取りで破った時のことをね」
何処までが冗談なのか、もはや本人と蛇鬼丸以外には分からない。
セレナ「さーて、いっちょ派手に私の全快祝いでもやりたいところだけど、幾ら私でもそこまで空気の読めない真似はできないわね」
ゼド「そんなことを言ってしまう時点で十分読めていないかと」
セレナ「うっさい」
アネット「バサラさん、大丈夫かしら……」
今も集中治療室にいるバサラを想い、場は沈鬱な空気になる。
アネットは、姉ならばこの嫌な空気を消し飛ばしてくれるだろうと思い、見上げてみる。
意外にも、姉はかつてない真剣な表情で話し始めた。
セレナ「私は入院中、ファイヤーボンバーの曲をよく聴いていたわ。
とても良い曲だと思うし、入院生活の励みになったわ。
彼が非凡な才能と並外れた情熱の持ち主で、彼の歌には、私たちの考え付かないパワーがあることも確信できる。けどね」
そこで、声を調子を強張らせ、セレナは続ける。
セレナ「どんな聖人も超人も、天才も凡人も、いつかは必ず死ぬ。
どれほどの偉業を残そうと、どんな素晴らしい力を持っていようと、人が人であることには変わりない。
誰に対しても、死ぬはずが無い、なんて軽々しくは言えないわ。もちろん、私を含めてね」
彼女は恐らく、そうした死を幾つも見届けてきたのだろう。
それは、幾多の戦場を駆け抜けてきたセレナの、厳しくも哀しい観念だった。
414
:
藍三郎
:2010/07/11(日) 11:45:57 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
セレナ「信じるのもいい、祈るのもいい。
願えば叶うなんて精神論は全て非合理だと否定する気もない。
だけど、奇跡に縋る前に、まず私達が何をやれるかを考えないとね」
理想や奇跡を肯定しながらも、それに縋ることは否定する。
あくまでも、今ある中の最善を探り出す。彼女は何処までも現実主義者だった。
ムスカ「しかしなぁ……俺らに出来る事なんて、精々足止めぐらいだぜ」
灯馬「悔しいけれど、ボクらじゃあのプロトデビルンには勝てへん。
バサラさんもおらへんのに、どうやって戦ったらええのか、さっぱりわからんわ」
灯馬の嘆きは、この場にいる全員共通のものだった。
セレナ「そうかしら?」
セレナは、再びあっけらかんとした顔つきになって言い放つ。
セレナ「貴方達の戦いのことは、全部マイケルから聞かせて貰っていたわ。もちろん、プロトデビルンのこともね。
それでね、ずっと不思議に思っていたの。
答えはこんなに明白で簡単なのに、どうして皆は気付かないのかって……」
ゼド「何か思いついたのですか? プロトデビルンに対する秘策を?」
セレナ「秘策ってほどのものでもないわ。
そうねぇ……私はこれ以外にありえないと思うんだけど、聞いてみれば、きっと博打としか思えないでしょうよ」
セレナは、自分に言い聞かせるように語り続ける。
セレナ「これには確かに覚悟がいる。
今までの考え方を、ほぼ丸ごと、180度覆す必要がある。
そして、命懸けの戦いになることには変わりない……」
相手はあらゆる面において規格外の怪物、プロトデビルン。
人類が作り出した兵器の究極である反応弾すらも退け、頼みの綱の熱気バサラは生死の境をさまよっている。
この八方塞の状況下で、打開する手立てあるというのだろうか?
セレナ「それに……希望が潰えたみたいな言い方は失礼よ。
ファイヤーボンバーには、まだ熱気バサラに勝るとも劣らない、小さな歌姫(リトル・ディーヴァ)がいるんだからね」
415
:
藍三郎
:2010/07/11(日) 12:13:20 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
第46話「銀河に響く歌声」
因果の始まりは、50万年前に遡る――
地球時間で紀元前50万年代に存在した宇宙で最初の知的生命体・プロトカルチャーは、
自らが開発した巨人型生体兵器ゼントラーディや、フォールド航法を使用した超光速宇宙船によって銀河全体に勢力を拡大、
プロトカルチャー暦(P.C.)2800年には星間共和国の統一にまで至った。
しかし、P.C.2860年に星間共和国内において内紛が勃発、やがて共和国を二分する大戦争へと発展した。
その争いの中でプロトカルチャーは、P.C.2865年、先進科学惑星(後に地球人類によってバロータ3198XEと名付けられる惑星系の第4惑星)において
ゼントラーディよりも高位の新たな生体兵器「エビル・シリーズ」の開発に着手する。
一時は動力源の問題が解決せず開発が中止されたものの、P.C.2868年、共和国は、同時期に進められていた異次元宇宙(サブ・ユニバース)へのゲートを開く実験に成功。
その後、隣接する次元を交差させることにより、高エネルギーが発生することが判明する。
それに目を付け、異次元のエネルギーを動力源として供給するためにエビルの遺伝子設計を変更、P.C.2871年にエビル・シリーズのテスト運用が開始される。
しかし、その際に流入してきた意思を持つエネルギー生命体がエビルに憑依、プロトカルチャーに対する攻撃を開始する。
強攻型近接格闘戦用“ギギル”。
潜入諜報活動破壊工作用“シビル”。
戦術指揮用の“ガビル”と超大型多目的戦術格闘ビーム兵器“グラビル”。
生体生体戦術偵察ドローン指揮ユニット“バルゴ”。
多目的超光速戦闘トランスポーター“ゴラム”、同型機の“ゾムド”。
そして、エビル・シリーズの指令ユニットであり、高次空間エネルギー変換・分配システム型“ゲペルニッチ”。
通常兵器による攻撃をまったく受け付けないその戦闘力に加え、大規模なスピリチアの吸収、
さらに先進科学惑星のプロトカルチャーやゼントラーディを精神制御し尖兵とすることで星間共和国に壊滅的な打撃を与えた。
星間共和国はこのエネルギー生命体に「プロトデビルン」と名付け、内戦を停止し全面対決を開始、
プロトデビルンに操られたプロトカルチャーに対抗するため、ゼントラーディに施されていたプロトカルチャーへの手出しを禁じる基本命令を解除する。
P.C.2872年、プロトデビルンの出現から9ヶ月程度でプロトカルチャーの85%以上の生命が失われる。一方プロトデビルンは
あまりにもスピリチアを吸収しすぎたために銀河全体のスピリチア量が大きく減少、食糧を失い衰弱していった。
その戦いの中で「アニマスピリチア」と呼ばれる特殊なスピリチアの持ち主たちがプロトデビルンの力に影響を与える存在であることが判明。
残存するすべてのアニマスピリチアが投入され、プロトデビルンは先進科学惑星の特殊チャンバーに封印された。
しかし、既に星間共和国のネットワークは完全に崩壊しており、
ゼントラーディへの基本命令を再発令することが不可能となっていたため、
ゼントラーディの暴走を止めることが出来ず、プロトカルチャーは絶滅していったとされる。
実際はプロトカルチャーは自らの種を絶やさぬ為、地球、およびグラドスという星に自らの遺伝子を蒔いた。
その種子は、プロトカルチャーが滅んだ後の、遥かな未来に生命を実らせ、繁栄という花を咲かせることとなる。
そして、時は流れ――
宇宙統合軍の特務調査船団がバロータ3198XE第4惑星においてプロトカルチャーの遺跡を発見する。
調査船団を指揮するイワーノ・ギュンター参謀は自らの手でプロトカルチャーの技術を解明するために地球統合政府への報告を行わなかった。
フィールド中和作業によって覚醒しつつあったプロトデビルンの頭目格ゲペルニッチは、
ギュンターの肉体に意識のみを乗り移らせ、調査船団の乗組員を精神制御し指揮下に置く。
これは後に地球統合軍によって「バロータ軍」と名付けられ、
移民船団「マクロス7」との接触を経て、
人類とプロトデビルンとの激しい戦いの火蓋が切って落とされることとなる。
その長い戦いも……南極大陸に降ろされた、
全ての始まりであるバロータ第4惑星の遺跡において、最終局面を迎えようとしていた。
416
:
藍三郎
:2010/07/11(日) 12:16:45 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
=南極 プロトデビルン封印チャンパー=
金色の髪を揺らし、“自らの体”の前に立つゲペルニッチ。
青色と紫色の突起を放射状に広げた巨大なボディに、二つの大きな赤い眼が輝いている。
ゲペルニッチ……その意志の宿るイワーノ・ギュンターの体(うつわ)が光に包まれ、本体へと飛んでいく。
裸になったイワーノの体とゲペルニッチの本体が吸着・融合し、ゲペルニッチの魂が、約50万年ぶりに自身の肉体へと還った。
シビル「――――! ――――!」
その様子を、声を荒げつつも、見ている事しかできないシビル。
彼女はゲペルニッチによってクリスタルに閉じ込められ、脱出はおろか声を出すことも封じられていた。
氷山の頂上が砕け散り、ゲペルニッチの本体が浮上する。
山を取り囲むグラビルやゴラム、ゾムドと比べても、倍以上の大きさだ。
発する“力”もまた巨大で、存在するだけで周囲の空間が歪んでいる。
ゲペルニッチという、一つの宇宙が現出したようだった。
ガビル「ゲペルニッチ様、覚醒美!!
今日という日は、我らにとっての祝福美となりましょう!」
グラビル「グルルルル……」
ゴラム「ふぉ〜ふぉ〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜ほぉ〜ほぉ〜〜」
賞賛の言葉で、笑い声で、唸り声で、プロトデビルン達は自らの長(おさ)の復活を祝う。
ゲペルニッチ「アニマスピリチア!!」
胸の辺りで本体と吸着したイワーノ・ギュンターの顔は、歓喜、あるいは狂喜の笑みを浮かべていた。
=バトル7 ブリッジ=
各艦の代表者による緊急会議の最中に、研究部にいたエキセドルからの通信が入った。
エキセドル『兼ねてより、例のプロトカルチャーの遺跡に残されていた文章の解析を進めていたのですが、
プロトデビルン最後の一体、ゲペルニッチ本体の恐るべき秘密が明らかに。
ゲペルニッチは吸収型とでもいいますかな。
あらゆる生命体からスピリチアを無限に吸収し続けていく。
スピリチアのブラックホールともいうべき存在のようですな』
由佳『ブラックホール?』
エキセドル『もし、ゲペルニッチが目覚めれば、プロトカルチャーが全滅した時と同様に、
銀河の生命が全て死滅してしまうかもしれませんな』
ジャミル『銀河の全生命が死滅……』
ロミナ『何と恐ろしい……』
まさに世界の終焉をもたらす恐怖の大王だ。
マックス「ゲペルニッチの本体が銀河の全スピリチアを吸い尽くせば、彼らもまた、食糧を失って自滅する。それでは意味が無いではないか」
エキセドル『それ故にスピリチアファームを造って、スピリチアの安定供給を求めていたというわけですな』
一同の表情は暗い。判明したゲペルニッチの秘密は、最悪の状況を更にどん底に突き落とすものだった。
エキセドル『我々が犠牲となることで、銀河の安寧を保つのも選択肢の一つかもしれませんなぁ』
エキセドルが、あえて悲観的な意見を述べる。その時、Dr.千葉からの通信が入った。
417
:
藍三郎
:2010/07/11(日) 12:18:15 HOST:139.20.183.58.megaegg.ne.jp
千葉『艦長! 今こそサウンドバスターを作動させる時だと!』
マックス「サウンドバスター?」
千葉『アニマスピリチアは、スピリチアのレベルが極めて高い反面、プロトデビルンにとっては危険な存在のはず。
もしもバサラ君が、アニマスピリチアの持ち主であるなら、
プロトカルチャーの時代にアニマスピリチアが、プロトデビルンの自由を奪い、封印に成功したように!』
マックス「プロトデビルンを封じ込めることが出来ると」
千葉『そう確信しております。バトル7、ガンシップのフォールドシステムの改造、調整は、既に77%まで進んでおります。
歌エネルギーを超空間変調させ、プロトデビルンの体内に直接送り込めば、プロトデビルンの体の内側から歌を、アニマスピリチアを細胞の隅々まで浸透させ、
全ての機能を麻痺させることで、プロトデビルンを行動不能にしてしまえるはず』
マックス「しかし、一番の問題は、肝心のバサラが……」
千葉『はい……』
エキセドル『一刻も早くバサラに目覚めてもらうことを、祈るしかありませんな……』
美穂「艦長! 緊急事態です! 無人偵察機からの映像を御覧ください!」
マックス「こ、これは?」
モニターに、南極に向けて放った無人偵察機の映像が表示される。
氷山の上に立つ巨大な異形……ゲペルニッチ以外にありえない。
ジャミル『既に復活してしまったのか……』
マックス「どうやら我々には、祈る時間さえも残されてはいないようだ」
意識不明のバサラの覚醒を待つ時間は無い。現状の戦力で、対処する他無いのだ。
ミレーヌ『パパ!!』
マックス「ミレーヌ!」
ミレーヌ『サウンドバスター作戦、私に歌わせてください!』
マックス「だが、サウンドバスターには歌エネルギーが……」
ミレーヌ『わかってます、でも私歌いたいんです、バサラがいなければその分まで!』
ミレーヌの表情には、固い決意が感じられた。
ミレーヌ『パパ、私ファイヤーボンバーなの。ファイヤーボンバーが生き甲斐なの。
ここで歌わなかったら、今歌わなかったら、今まで大事にしていたものが皆無くなっちゃうわ!』
マックス「大袈裟なやつだ……」
苦笑するマックス。
ミレーヌ『だって……』
マックス「これは任務だ!ミレーヌ、しっかり歌え!」
ミレーヌ『はい!!』
必ず成功させるという意志を込めて、ミレーヌは力強く答えた。
418
:
蒼ウサギ
:2010/07/25(日) 01:50:30 HOST:softbank220056148041.bbtec.net
=バトル7 ブリッジ=
マックス「Dr.千葉。現状の改造度でサウンドバスターは機能するのか?」
千葉『計算上は可能です。ただし、至近距離に接近しない限り効果は期待できません』
マックス「至近距離か……」
瞑目して考えること数秒。マックスは、一つの覚悟を決めた。
エキセドル『もしや、また敵の中に飛びこむ気ですかな?』
マックス「今度に最後にする」
それは「これで決着をつける」とでもとれる物言いだった。
§
=コスモ・フリューゲル=
初めてSRXが合体に成功したのはプロトカルチャー遺跡の不思議な力の影響によるものだった。科学者としてはにわかに信じがたいことだが、
起こった事実は素直に受け止めるべきだとレイリーは思っている。
そして二度目は、ほんの十数秒だったが、ギャンドラー要塞攻略のとき。
そして、三度目は戦闘していないとはいえ、先の「ヤシマ作戦」において。
レイリー「けど、二回目以降、合体する度にフルメンテしなきゃならないからな〜」
ヴィレッタ「やはり今度もトロニウムエンジンが問題か?」
レイリー「うん、戦闘はしてないとはいえ、やっぱりまだ不安定材料が残った合体システムだからね〜」
ヴィレッタ「全機とも次の作戦には使えそうか?」
レイリー「ちょっと厳しいね……。アタシのポリシーとしてはこのまま出撃させるには断固反対だね」
パイロットにドクターストップをかける医師のような目つきでレイリーが宣告する。
レイリーが医師だとするならば、機体はまさに患者なのだ。
万全とまではいかなくとも、パイロットが生存して帰還できる状態に機体を仕上げておく。
それが彼女のポリシーなのだ。
特に先の作戦の失敗もある。プロトデビルン相手には慎重にならざるを得なかった。
ヴィレッタ「艦長達からは少しでも戦力が欲しいと言われそうだがな……」
レイリー「関係ないよ! アタシは現段階の整備状況からでしか言えないし。一度送り出しちゃったら後はパイロットや指揮官に委ねるだけだしね…。
だから、言える時に言っておくよ。現段階でRシリーズの出撃は無理って。どうしても死人を増やしたかったら別だけど、ね」
強気に、だが、どこか己の無力さを詫びるかのようにレイリーは告げた。
§
由佳「……現状ではそれしかないでしょうね。もちろん、そちらの襲撃はプロトデビルンに気づかれるでしょう」
ジャミル『だから今度は小細工抜きにこちらも戦力を投入してバトル7とサウンドフォースを守る。シンプルな作戦だな』
ブンドル「さしずめ、歌姫を守る騎士団というところか。美しい響きだ」
一人陶酔するブンドル。そんな彼に由佳やミサトは冷たい視線を送るが気づくわけもない。
419
:
蒼ウサギ
:2010/07/25(日) 02:25:30 HOST:softbank220056148041.bbtec.net
ミサト「ま、今からそのガンシップのフォールドシステムの改造を急ピッチで進めるわけにはいかないんでしょ?」
ルリ『はい。ウリバタケさんもですが、他の整備員は全て先の作戦で損傷した機体の修理にあたっています』
ミサト「なるほど。今すぐ攻めるにはこの作戦でいくしかないわけか」
マックス『うむ、なるべくならこちらから先手を取りたいからな。バサラがあぁなってしまった以上、プロトデビルンとの迎撃戦は消耗戦になるばかりだ』
悠長にシステムの完成を待っていたらいつプロトデビルンの襲撃が来るかもわからない。
それに今は静観しているもの、彼らの敵はプロトデビルンだけではないのだ。
由佳「やりましょう。これで彼らとの決着がつくなら…!」
マックス『頼む。みんなの力を貸してくれ』
§
バトル7がシティ7と分離すると同時に作戦は開始された。
目標は南極。ゲぺルニッチ本体へ。
由佳「まずは私達が先行します。囮くらいにはなりますから」
マックス「すまない。武運を祈る」
短い会話を交わし、コスモ・フリューゲルを始めとする友軍が次々に大気圏を突破し、南極へと向かっていく。
ややあって美穂が由佳からの通信を受け取った。
美穂「艦長、先行部隊が戦闘開始した模様です」
マックス「よし操縦回せ」
告げるなり銃を摸した操縦桿が現れる。
マックス「トランスフォーメーション、開始」
しかし、これまでのように一気に人型形態には変形しない。
ゆっくりと変形しながら巡航形態を維持しつつ、バトル7は自艦の護衛でもあるダイヤモンドフォースや作戦の要である
サウンドフォースと共に大気圏に突入する。
マックス(計算が正しければ抜けた頃には変形が完了している。あとは狙い撃つだけだ!)
=南極=
戦いは予想を上回る激しさだった。
プロトデビルンは、総出撃。パンツァーゾルンやエルガーゾルンもここぞとばかりに投入されている。
まさにバロータ軍全戦力で迎撃に出ていたのだ。
ガビル「奴らのスピリチアを奪え! 略奪美!!」
悠騎「にゃろぅ、あの美野郎、いい加減しつけぇんだよ!」
ガビルの指揮に毒づくも、多くのバロータ軍の量産機に足止めをくらってしまう。
強襲型ならば一気に目標に向かいシューティングスター・ブレードによる一撃必殺で仕留めることが可能だろうが、今回は通常仕様で赴いている。
攻撃力や強襲型にない圧倒的スピードはない分、小回りを優先したためだ。
プロトデビルンに生半可な通常兵器が通用しない以上、この仕様ならば時間稼ぎの方で戦果が期待できる。
そう悠騎は判断したのだ。
キョウスケ「そう熱くなるな。オレ達はただこいつらからバトル7とサウンドフォースを守り抜けばいいだけなのだから」
エクセレン「あららん? 熱くなるな! って。キョウスケだけには言われたくないわよね〜♪」
キョウスケ「うるさいぞ、エクセレン。余計な口を動かす暇があったら手を動かせ。奴らのためにもな」
キョウスケの言う「奴ら」とは悠騎もエクセレンもすぐに理解できた。
リュウセイ達SRXチームのことである。
エクセレン「はいは〜い。そんじゃま、はりきっていきましょうか! ね、ボス!」
ゼンガー「その通り!」
ダイゼンガ―の斬艦刀が豪快に、そしてどこか秀麗に一機のエルガーゾルンをたた斬った。
ゼンガー「相手がプロトデビルンであろうと、我が剣に断てぬものなしっ!!」
420
:
藍三郎
:2010/07/31(土) 06:16:20 HOST:207.25.183.58.megaegg.ne.jp
G・K隊の奮戦によって切り拓かれた道を、バトル7が降下していく。
バトル7の搭載機、ダイヤモンドフォースやエメラルドフォースも発進し、
ミレーヌとレイ、ビヒーダのバルキリーも、彼らに護られるように南極の夜空を降下する。
ドッカー「ガムリン! 化物野郎は俺達が始末する!
お前はサウンドフォースを無事、地上に連れて行くんだぜ」
ガムリン「ドッカー!」
ドッカー「ミレーヌちゃんを傷物にしたら、承知しねぇからな!」
ドッカー率いるエメラルドフォースは、激化する戦場へと先行する。
ドッカーのVF−19エクスカリバーが、マイクロミサイルで敵機を掃討し、グラビルの赤いビームをギリギリで回避する。
ドッカー「これでも喰らいやがれ! 化物!」
新たに装備された銃を、グラビルに向ける。
エルガーゾルンのスピリチア吸収ビームを解析して、同等の効果を持たせたビームガンだ。
グラビルの額にビームが当てられ、その巨体が僅かながら縮んで行く。
真吾「よし、今だ! ゴーフラッシャースペシャル!!」
グラビル「グオオオオオオォォォォォォン!!」
グラビルの腹部に青い閃光が突き刺さる。
ビムラーはアニマスピリチアと似た効果があり、プロトデビルンにも効き目があるようだ。
小回りの効く機体がプロトデビルンを引き付け、その隙に強烈な一撃を叩き込む。
倒すことはできないが、これによって、巨大なプロトデビルンの動きも封じ込めていた。
ドモン「石破天驚……ゴッドフィンガァァァァァァ!!!」
黄金の腕が、ゴラムの巨体を掴み、締め上げる。
勝平「今だ!!ムーンアタァァァァック!!」
動けないゴラムに破壊の月光が突き刺さる。
キラル「曼陀羅円陣、極楽往生!!」
エイジ「レイ、V−MAXIMUM、発動!!」
分身したマンダラガンダムに惑わされている隙に、レイズナーMkⅡの流星の一撃が、ゾムドの腹部を直撃、氷上へと墜落させる。
ゴラム「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
ゴラム「無駄」
ゾムド「無為」
だが、数秒後には両者とも平気な顔で起き上がっていた。
勝平「ちっくしょー! まるで効きやしねー!」
恵子「まさに暖簾に腕押しね……」
エイジ「いや、決して無駄なんかじゃない。こうやってあいつらの動きを留めておくことが、俺達の勝利に繋がるんだ」
不死身のプロトデビルンであるが、斃せなくとも、動きを封じ込めることはできる。
何度も交戦したためか、既に彼らについては万全の対策が出来ていた。
しかし……パイロット達は、戦いながらも沈殿するような不安を抱えていた。
生死を賭けた戦場である以上、当然の事だが、それにも増して……何か、生物として根源的な危機感を覚えてしまう。
ゼド(原因は、“アレ”でしょうな……)
ゲペルニッチの旗艦が座す氷山の更に上……そこに浮揚するゲペルニッチの巨体。
プロトデビルンと比してもなお巨大で、その深淵は計り知れず、小さな宇宙が存在しているようだ。
確信できる。アレは、戦ってどうこうできる相手ではない。
ゼントラーディがプロトデビルンに対して感じるような無意識の恐怖心を、パイロットたちは皆感じていた。
421
:
藍三郎
:2010/07/31(土) 06:19:48 HOST:207.25.183.58.megaegg.ne.jp
ガビル「アニマスピリチアがいなくとも、不確定要素は排除する! 慎重美!!」
サウンドフォースに向けて多数のミサイルをばら撒くザウバーゲラン。
しかし、それらの弾頭は、同時にVF−17ナイトメアが放ったミサイルによって全て誘爆させられる。
ガビル「おのれガムリン! どこまでも私の邪魔をしおって!!」
ミレーヌ「ガムリンさん、ありがとう」
ガムリン「………………」
ガムリンは、やや思いつめた顔をしていたが、思い切って口を開く。
ガムリン「……ミレーヌさん、自分は最低な男です」
ミレーヌ「え?」
ミレーヌは面食らう。
ガムリン「自分は……バサラに嫉妬しました――!!」
声を荒げて、偽りの無い気持ちをぶちまけるガムリン。
美穂「標的、射程距離に入ります!」
マックス「着地地点確認、地表よりサウンドバスターを発射する」
美穂「着地まで、後二秒」
強攻型にトランスフォームを終えたバトル7の両足が、氷山を引きずりながら着地する。
強引な着地に、ブリッジ内部にも激しい震動が走った。
マックス「サウンドバスター、スタンバイ! ガンシップ、内圧確認!」
ガンシップの上に着地するミレーヌバルキリー。
サウンドブースターが起動し、ゲペルニッチへと向けられる。
ミレーヌ「ガムリンさん……ごめんなさい。
あたし、ガムリンさんのこと大好きです。ほんとに……ほんとに大好きです!」
顔を上げたミレーヌの顔には、涙が溢れていた。
ミレーヌ「だけど、気づいちゃったんです。バサラのこと、同じくらい好きだってことに。だから……だから!」
ガムリン「もういい、ミレーヌさん。
歌うんだ。今、一番大切なことはバサラの分まで歌うことだ!」
ミレーヌ「ガムリンさん…」
ミレーヌは、大きく息を吸い込む。
ミレーヌ「バサラ、聴いてね」
レイとビヒーダの伴奏に乗せて、「LIGHT THE LIGHT」を歌うミレーヌ。
ミレーヌ「神様は忙しくて 今手が放せない
この世界はちょっと不思議な まるで MERRY-GO-ROUND」
ミレーヌバルキリーを、白い炎のようなサウンドウェーブが包み込む。
千葉「信じられん、期待以上のパワーだ!」
ブンドル「美しい――凍てついた大地を、光芒の楽園へと変える、女神の歌声だ」
感嘆の声を漏らすブンドル。
セレナ「頑張って、ミレーヌちゃん!
女の子のパワーは無限大ってこと、見せて上げなさい!!」
ミレーヌ「いい事ばかりあるわけじゃないし 嵐もやってくるけど」
マックス「サウンドバスター、発射!!」
ゲペルニッチ本体に照準を定め、操縦桿の引き金を引く。
ガンシップの砲口に、赤いエネルギーの球体が発生し、ゲペルニッチへと飛んで行く。
ミレーヌ「LOVE WILL SAVE YOUR HEART
夢を描くまっすぐな瞳たちよ」
ゲペルニッチ「なに!?」
歌エネルギーの塊が直撃し、ゲペルニッチの顔が驚愕に凍る。
ミレーヌ「LOVE WILL SAVE THIS WORLD
いつかきっと光は見えるはず」
ゲペルニッチ「ウワアアアァァァァァァァァ!!! ゾクゾク!!」
赤い光は一層輝きを増して行く。
血管に電流を流されたような、全身を駆け巡る衝動に仰け反るゲペルニッチ。
マックス「第二射、行くぞ、ガンシップ、内圧確認!」
千葉「歌エネルギーはキープしています!」
ミレーヌ「悲しみと微笑みの バランスをとる街で
立ち止まり見上げた空 続くLONG AND WINDING ROAD」
422
:
藍三郎
:2010/07/31(土) 06:22:28 HOST:207.25.183.58.megaegg.ne.jp
ガビル「い、いかん! あの攻撃を止めるんだ!!」
グラビル「グオオオオオッ!!!」
主の危機を見て、たまらず叫ぶガビル。
他の機体に押さえつけられていたグラビルだが、何とか手を動かし、ペンタクルビーム砲を放つ。
グラビルの掌のビームが、ミレーヌ機へと向かう。
ミレーヌは動じず、ビームを正面から受ける。
歌エネルギーがバリアとなって、ペンタクルビームを防ぎ切った。
ミレーヌ「一人の力なんて弱いけど そう捨てたものじゃないさ」
高出力のビームに、押し切られそうになる中……ミレーヌの脳裏に、よく知った声が響いた。
――ミレーヌ、歌は……歌はハートだ!!
ミレーヌ(バサラ!!)
歌に秘められた無限の可能性。バサラは、愚直なまでにそれを信じていた。
ならば自分もそうあろう。自分の歌は、必ず奇跡を起こせると、強く信じるのだ。
その想いが、歌声にパワーを与える。
ミレーヌ「LOVE WILL SAVE YOUR HEART
勇気を胸に 汚れなき瞳たちよ」
グラビル「グオオオオォォォォォォォォォォッ!!!」
ミレーヌ「LOVE WILL SAVE THIS WORLD
いつもそばにいる それを忘れないで」
輝きを増したサウンドウェーブが、グラビルのビームさえも押しのけ、やがてその巨体を弾き飛ばす。
今やミレーヌの力は、かつてのバサラか、それ以上に達していた。
ガムリン「うおおおおおおおおおっ!!!」
ザウバーゲランのマイクロミサイルは、割って入ったナイトメアが全て撃ち落していた。
返す刀でグラビルにスピリチア吸収ビームガンを撃ち、ミレーヌの歌との相乗効果で大きく弱体化させる。
ガビル「ガァァァムリィィィィン!!!
いつもいつもいつもいつも! 私の邪魔ばかりしおって!! 雪辱美! 報復美! 復讐美!!」
憎悪をむき出しにして、ナイトメアへと追いすがるザウバーゲラン。
南極の空で、黒白のバルキリーが激しいドックファイトを繰り広げる。
ガムリン「そうだ、掛かって来い! 貴様の相手は俺だ! 貴様達を――」
た……と言い掛けて、ガムリンは言葉を変える。
ガムリン「貴様達を殴り倒して首根っこを掴んででも、ミレーヌさんの、ファイヤーボンバーの歌を聴かせる! それが俺の使命だ!!」
ミレーヌ「LOVE WILL SAVE YOUR HEART
LOVE WILL SAVE THIS WORLD
LOVE WILL LIGHT THE LIGHT――」
マックス「サウンドバスター、発射!!」
サウンドバスターの第二射が放たれる。
ゲペルニッチ「ウワアアアアアァァァアアァァアアアァ!!!?」
二発目の効果は、よりはっきりと現れた。
ゲペルニッチの巨体が、徐々に収縮して行く。
423
:
藍三郎
:2010/07/31(土) 06:23:08 HOST:207.25.183.58.megaegg.ne.jp
美穂「ゲペルニッチが、収縮していきます!」
マックス「第三射、行くぞ!」
ミレーヌの歌声は、確かにゲペルニッチに届いている。
勝てる――確かな手ごたえを掴んだマックスは、畳み掛けるように第三射の指示を飛ばす。
だが――
サリー「ガンシップ、内圧制御システムに異常! オーバーロードです!」
千葉「ガンシップのシステムが、もはや限界です! やはり、77%では無理があったか……」
マックス「何!?」
ブリッジの皆の顔が青くなった直後……耐久限界を越えたガンシップの砲口が砕け散り、弾き飛ばされるミレーヌバルキリー。
ミレーヌ「きゃああああああ!!」
ガムリン「ミレーヌ!!」
飛ばされたミレーヌ機をキャッチするガムリン。
追撃を仕掛けようとしたガビルだったが、主の異変を見て足を止める。
ガビル「ゲペルニッチ様!?」
ゲペルニッチ「お、おおおおお!?」
ゲペルニッチの全身から、黄色の触手が多数伸びる。
触手の先端は人間の掌のようになっており、付近のサンダーボルトを掴み、スピリチアを吸収する。
ゲペルニッチ「どういうことだ!? 何なのだ?」
己の変化に、誰よりもゲペルニッチ自身が動揺していた。
ゲペルニッチは再び急速に膨れ上がっていく。
この現象が何を意味するかは分からない。ただ、かつてない絶望が迫っている事だけは、皆が直感的に理解できた。
セレナ「全機! 急いでゲペルニッチから離れなさい! 速く!!」
セレナの声にも焦燥が混じる。
ガビル「ま、まずい! ゲペルニッチ様が暴走している! 美ではない!」
ゲペルニッチ「違う! これでは夢の崩壊、スピリチアドリーミングが!!」
赤い稲妻がゲペルニッチの体の周囲で迸る。
次の瞬間、ゲペルニッチを巨大な光の柱が包み、辺り一面を照らし出す。
424
:
蒼ウサギ
:2010/10/19(火) 21:46:24 HOST:i114-188-251-205.s10.a033.ap.plala.or.jp
髪を逆立てた少年は、ギターを懸命にかき鳴らしながら山に向かって歌っていた。
猛烈な風にそのギターの音色と歌声は奪われようとも、力強いその姿勢は大きな山に絶対自分の歌声を響かせてやる、という思いが秘められている。
それが幼き頃の熱気バサラだった。
§
=南極=
光が晴れ、さらに異形に、そして南極の空を覆わんばかりに巨大化したゲぺルニッチ。
イワーノ=ギュンターと呼ばれたゲぺルニッチの肉体はもはや僅かしか見えず、
それを中心に八方に青と紫の禍々しい突起が伸び広がっている。
過剰なエネルギーを吸収し、肥大化した結果とでもいうべきか。
誰もが危機感を覚えざるを得なかった。
友軍も、そしてプロトデビルンでさえも。
エクセレン「あらら〜ん。ヤバさの二乗って感じね〜」
ガビル「げ、ゲぺルニッチ様……」
異様な雰囲気と不気味な静けさが漂う中、ゲぺルニッチが“動いた”。
ゲぺルニッチ「オォォォォォォオオオオオオオオオォォ!!!」
それは自身が込めて叫んでいるといるというより、どこか悲痛めいた叫びだった。
瞬間、南極の上空にマクロス7船団を始めとする待機中の友軍艦が次々に現れた。
ルリ「これは……」
アイ「以前、反応弾を転送させたように今度は私達の艦をこちらに転送してきたようですね」
ルリ「そのようですが……これは、彼の、ゲぺルニッチの意志で行ったのでしょうか?」
その答えにアイはYESともNOとも答えなかった。
ガビル「ふふふ、これぞ大量略奪美!」
空に現れたシティ7を始めとした人間達のスピリチアを感じ取り、ガビルは口元を緩ませた。
しかし、同時にゲぺルニッチの異変にも気付いてしまう。
どうにも苦しんでいるようにも見える。
刹那、ゲぺルニッチの髪が伸び、マクロス7の船団の一つを丸ごと飲み込もうとしている。
ガビル「おかしい…! ゲペルニッチ様が狂乱の美! このままでは!」
ゲぺルニッチ「違う! これでは夢が…スピリチアファームが崩壊する!」
どうやら本人の意志とは関係ない行動を起こしているようだ。
そこへ、ミレーヌ機が「HOLY LONELY LIGHT」を歌いながら単独でやってくる。
ガビル「ぐっぅ! 美のない奴は消えろ!」
歌の力に苦しみながらも、ガビルはミレーヌ機に突撃する。
ミレーヌ「んぁあ!」
ガビル「ぐっ、外したか!」
アニマスピリチアの歌ではないが、ガビル本人は直撃のつもりが狙いがそれてしまい翼を折る程度のダメージを与えた程度に終わってしまった。
しかし、それでも歌は消えた。もう一度攻撃を加えればいいだけのことだ。
ガビル「次は外さん!」
今度はコクピットへ向けての突撃攻撃。
歌がやんでいる以上は外しようがない。なにより致命的なのはミレーヌ機のサウンドブースターが翼と一緒に一部損傷したこともある。
これでは歌も聞かせられない。
だが、サウンドフォースはまだいる。
レイ「レイ「いいかげんにしろ、バケモノが! これ以上、大切なメンバーを傷つけさせやしないぞ!」
緑色のバルキリーがスピードを上げて接近。レイ機のだ。
だが、彼はサウンドブースターあっても、バサラやミレーヌのような歌担当ではない。
しかし、後部座席にいる彼女は違う。
レイ「いくぞ、ビヒーダ!」
その合図にビヒーダがドラムを鳴らし始めた。
サウンド。
派手なバサラや癒し系のミレーヌとはまた違った音がガビルに浴びせられる。
ガビル「がっ!? ぐぅ!?」
苦しみ始めるガビル。それはミレーヌやバサラが歌っているときと似た反応だ。
千葉「信じられん。歌エネルギーだ…ビヒーダのドラミングが生んでいるのか!」
新たな発見に打ち震えるDr千葉だったが戦場ではそれどころではない。
皆が皆、必死なのだ。
セレナ「とりあえずそこはラブロックくん達に任せて、ミレーヌちゃんは一度艦に戻りなさい!」
ミレーヌ「で、でも……」
セレナ「問答無用! そこの王子様! 急いでお姫様をお城に連れて帰りなさい!」
ガムリン機を指差してテキパキ命令を下すセレナだが、当のガムリンは自分が「王子様」と言われ「お、王子様ぁ?」などと動揺したが、
すぐに我に返ってセレナの命を遂行した。
悠騎「さぁて、あとはこのクソ馬鹿デカイ野郎をどうするかな!」
ゲペルニッチに向けて剣を構えつつ、悠騎は汗を額に汗を浮かばせつつ笑った。
425
:
藍三郎
:2010/10/22(金) 22:37:23 HOST:176.160.183.58.megaegg.ne.jp
美穂「エネルギー波! 来ます!」
マックス「ピンポイントバリア、最大出力!!」
ゲペルニッチの衝撃波に煽られるバトル7。各所で爆発が起こり、装甲板が膨れ上がって破裂する。
美穂「ピンポイントバリアのエネルギー、70%ダウン!」
サリー「艦長、このままではバトル7が……!」
これ以上の戦闘には耐えられない。そう判断したマックスは、傍らのエキセドルに話しかける。
マックス「エキセドル参謀、艦の指揮権を、一時君に預ける。バトル7を後退させ、損傷した機体を出来る限り収容するのだ。無論、危険を感じたら、すぐさま艦を捨て、乗員を退避させてくれ」
後退させたところで、あのゲペルニッチを倒せなければ、どの道南極どころか地球上の、ひいては銀河中のスピリチアが吸い尽くされてしまうのだが。
マックスの心中は分かっているのか、エキセドルもあえて指摘はしなかった。
エキセドル「わかりました。艦長は?」
後退したバトル7から、青いVF−22SシュトゥルムフォーゲルⅡが飛び立つ。
マックス「止めねばならん、何としても!!」
切り札であるサウンドバスターの大破、ミレーヌ機の破損、ゲペルニッチの暴走。勝算は無いに等しい。それでも、本作戦の責任者として、マクロス7船団の艦長として、
統合軍の軍人として、そしてこの地球に生きる一人の人間として、最後まで希望を捨てず戦わなければならない。妻や娘、大切な人々を守るために。
ゴラム「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
急接近するマックス機の前にゴラムとゾムドが立ちはだかる。マックスはホーミングミサイルを発射するが、テレポートで回避されてしまう。眼前に転移し、バルキリーを掴もうと手を伸ばすゴラム。
それを、驚異的な反射速度と機体駆動で回避するマックス。
直後に出現したゾムドのレーザー光線も、軌道を見切って避けきった。
バトロイド形態になり、スピリチア吸収ビームガンを構えるシュトゥルムフォーゲルⅡ。針の穴を通すような正確無比な射撃が、ゴラムの額に命中する。
ゴラム「ふぉぉぉぉぉぉっ!!?」
スピリチアを吸引され、ゴラムの身体が僅かに縮む。だが、十分に照射する前に、ゲペルニッチが伸ばした触手が迫り来る。そこに、別方面からホーミングミサイルが飛び、触手を残らず焼き払った。
ミリア「何やってんの? それでも天才のつもり?」
マックス「ミリア!!」
転移したシティ7から出撃した、ミリアの赤いシュトゥルムフォーゲルⅡが駆けつける。
元統合軍の天才パイロットとメルトランディのエース、共に夫婦であると同時に一級の戦士だ。あえて言葉を交わす必要はない。今何をすべきかは分かっている。
比翼連理の例えのように、並んで上空へと舞い上がる二体のバルキリー。
ゴラム「危ない危ない」
ゾムド「お前たちは危険だ」
ゴラム「倒す」
ゾムド「確実に」
ゴラム「ふぉ〜〜ふぉ〜〜ふぉ〜〜」
ゾムド「ほぉ〜〜ほぉ〜〜ほぉ〜〜」
先程の一撃で、彼らはスピリチアを奪われる危険を認識した。今までのように、攻撃を受けても平気という驕りは捨てる。遊びは止めて、本気で仕留めにかかるとしよう。
テレポートを繰り返しながら、掌からレーザーを放つゴラムとゾムド。自在に空間を転移する彼らにとって、戦場全てが射程範囲。あらゆる場所から繰り出される攻撃に、一切の逃げ場は存在しない。
加えて、完全なる不規則(ランダム)でテレポートする彼らの実体を捉えることなど不可能。
闇雲に放たれたミサイルなど、蚊の一刺し程度にも感じない。
あのスピリチアを吸収する光線さえ避ければ、自分たちに敵はいないのだ。
ゴラムとゾムドは二機のシュトゥルムフォーゲルを包囲するようにテレポートを繰り返し、二機をレーザーの檻に閉じ込めようとする。
426
:
藍三郎
:2010/10/22(金) 22:46:02 HOST:176.160.183.58.megaegg.ne.jp
ゴラム「どうだ」
ゾムド「見たか」
ゴラム「避けられまい」
ゾムド「当てられまい」
だが……彼らは思い至らなかった。完全に不規則な方向、タイミングで放たれるレーザーを、あの二機は今まで、完璧に回避しきっているということに。そして、避けることが可能ならば……
マックスとミリアは共にバトロイド形態に変形し、互いの背中を合わせ、スピリチア吸収ビームガンを構える。そして、一見全く見当外れとも思える方向に向け、引き金を引く。
ゾムド「ほぉぉぉぉぉっ!!?」
ゴラム「ふぉぉぉぉぉっ!!?」
スピリチア吸収光線は、転移直後のプロトデビルンを、過(あやま)たず貫いた。
ゴラム「な、なぜぇぇぇ!?」
ゾムド「ありえぬ! ありえぬぅぅぅぅぅ!?」
スピリチアの喪失を感じながら、ゴラムとゾムドは驚愕に顔を歪める。
避けることが可能ならば、当てることも可能。ゴラムとゾムドの不規則な空間転移を捉えたのは、本来ありえぬ方程式を捻じ曲げる、一つの不条理。
天より授かり、幾多の戦場で磨かれた、“天才の閃き”と呼ぶべきものだった。
常識を越える力を持つプロトデビルンだが、自分より遙かに弱いと見做してきた人類やゼントラーディにも、道理を捻じ曲げ、無理を押し通す能力(ちから)を持った者たちがいる。
その突出した才覚で、限界を乗り越え、絶望的な状況に風穴を穿ち、人類の未来に一筋の光明をもたらしてきた戦場の星。
人は彼らを“天才”や“エース”と呼ぶ。
マクシミリアン・ジーナスとミリア・ファリーナ・ジーナス。
人類・巨人族初の異種族間結婚を果たした二人もまた、そうした“選ばれし者”だった。
ゴラム「ふぉぉぉぉぉぉ!!」
ゾムド「ほぉぉぉぉぉぉ!!」
二体は再度空間転移を実行するが、それもまた“見切られて”いる。マックス機とミリア機は背を離すと、ゴラムとゾムドの真正面に移動する。スピリチア吸収ビーム砲がまたしても、二体のスピリチアを貪り喰らう。
最早ゴラムとゾムドは二人の敵ではない。対抗手段を得た二人の天才は、今やプロトデビルンさえも圧倒していた。
何度もスピリチア吸収ビーム砲を喰らったせいで、ゴラムとゾムドは酷く痩せ衰えていた。掌から発するレーザーの威力も、大幅に減衰している。
二体のプロトデビルンをほぼ無力化させた二人の意識は、眼前に巨大なゲペルニッチへと向けられる。
ミリア「一応、私の機体にも、反応弾は装填してあるわ」
マックス「だが、ただ撃つだけでは、前回の作戦の二の舞だ」
マックスの脳裏に、苦い記憶が浮かぶ。
マックス「今度あいつが何かを仕掛けてきた時……」
ミリア「それがチャンスね」
427
:
藍三郎
:2010/10/22(金) 22:48:56 HOST:176.160.183.58.megaegg.ne.jp
=シティ7 医務室=
バルキリーからを降りたミレーヌは、ガムリンと共に医務室に向かう。
ミレーヌ「バサラ!」
部屋に入るなり、バサラの眠るカプセルに縋りつく。
ミレーヌ「いつまで寝てるのよ! いつもならとっくに飛び出してるくせに! 何でまだこんなところにいるのよ!
みんな頑張ってるのに、自分勝手、卑怯者―!! 起きろバサラー!!」
カプセルを開け、必死に呼びかけるが、バサラは目を覚まさない。
ミレーヌ「起きてバサラ! 起きて! ファイヤーとか、ボンバーとか、言ってよ……」
後半からは、声に涙が入り混じっていた。バサラの胸の上ですすり泣くミレーヌ。
ミレーヌ「ずるいよ、バサラ……卑怯者、自分勝手……」
ガムリンは、苛立ちを押さえるように直立不動のままだったが、突然口を動かす。
ガムリン「さあ始まるぜ SATURDAY NIGHT 調子はどうだい?
LET’S STAND UP ビートを感じるかい?」
突然歌い出したガムリンに、ミレーヌも、医務室の人間達も面食らう。
ガムリン「ここは空飛ぶパラダイス 忘れかけてるエナジー
NOW HARRY UP 取り戻そうぜ」
ミレーヌ「ガムリンさん……」
ミレーヌも涙を拭き、ガムリンの隣に立って歌に加わる。
「「NO MORE WASTIN’ TIME まるで夢のように
何もかも流されてしまう前に」」
「「HEY! EVERYBADY 光を目指せ
踊ろうぜ DANCIN’ ON THE PLANET DANCE」」
様々な想いを込めた二人の歌声は、バサラの心に……届いた。
バサラ「………………」
バサラは目を覚ます。きょとんとした顔つきで、酸素マスクを外す。
バサラ「どうしたみんな? 情けない顔しやがって」
ミレーヌ「……バサラ!!」
ミレーヌは瞳に涙を浮かべ、バサラに抱きつく。
バサラ「ようガムリン」
ガムリン「バサラ……よくも俺に歌わせやがって!」
苦笑いを浮かべ、拳を突き出すガムリン。その拳を、バサラは掌で受けた。
「「「あきらめの SAD SONG 嘘つきは歌う
NO THANKS! お呼びじゃないぜ」」」
ファイヤーバルキリーの前に、万を越えるファンが集まり、「PLANET DANCE」を歌っている。
バサラ「待たせたな! みんな、燃えようぜ!!」
病院の屋上に姿を現した熱気バサラを見て、ファン達の間で、歓喜の怒涛が巻き起こる。
屋上からハングライダーで飛び立つバサラ。宙を舞い、ファンの頭上を通り過ぎて行く。
「「「「バサラ! バサラ! バサラ! バサラ!!」」」」
バサラの名を呼ぶ声が木霊する中、花束を持った一人の金髪の少女が、バサラを追って走り出す。
少女が投げた花束を、バサラは空中でキャッチする。少女の顔に、満面の笑みが咲いた。
ファイヤーバルキリーのコクピットに飛び込むバサラ。
その脳裏に、一瞬少年の頃の思い出が蘇る。
バサラ「ボンバー!!!」
428
:
藍三郎
:2010/10/22(金) 22:51:20 HOST:176.160.183.58.megaegg.ne.jp
ゲペルニッチの巨大な眼が開き、黄色いレーザーを照射する。
マックス「ミリア、今だ!」
ミリア「分かっているわ!」
ミリアのシュトゥルムフォーゲルⅡは、反応弾を眼球目掛けて発射する。
攻撃の瞬間だけは、ゲペルニッチを守る空間歪曲も消失する。反応弾はゲペルニッチの体内に滑り込み、極大の爆発を起こす。
閃光の中から飛び出る青と赤のシュトゥルムフォーゲル。
ドッカー「や、やったか!?」
マックス「いや、恐らくは……それより、急いでゲペルニッチから離れるんだ!」
ミリア「損傷の激しい機体は、今のうちに戦線から離脱しなさい!」
反応弾ですら、あくまで体勢を立て直す為の時間稼ぎにしかならないことを、二人は悟っていた。
光が晴れ、ゲペルニッチの体には黒い空洞がぽっかりと穴を開けている。だが、その身は滅んだわけではない。
先程にも増して猛烈な勢いで触手を伸ばし、周囲のスピリチアを吸引し始めた。
ゴラム「おお……これは!?」
ゾムド「おお……ゲペルニッチ様――!!」
近くにいたゴラムとゾムドはゲペルニッチの触手に絡め取られ、スピリチアを吸い尽くされる。
そのまま、体ごとゲペルニッチに吸い込まれ、二体同時に消滅した。
ムスカ「仲間だろうとお構いなしかよ!!」
レミー「こりゃ、常識外れの食いしん坊ねぇ……」
皆、伸びてきた触手を払うのに手一杯で、とてもゲペルニッチには手を出せない。
いや、出せたとても、反応弾すら意に介さない今のゲペルニッチを斃す術などあるのだろうか?
ガビル「ゲペルニッチ様……」
同胞が主に喰われる姿を目の当たりにして、ガビルは戦慄する。
ガビル「ゲペルニッチ様、おやめください!!」
ガビルの訴えも届くことは無く、触手がザウバーゲランの機体を貫く。
大破したザウバーゲランから、生身で飛び立つガビル。
ガビル「グラビィィィィィル! 合体美!!」
グラビルの頭に取り付き、ガビグラへと合体する。それでも、ゲペルニッチの触手に対しては逃げ惑うしかない。
ガビル『ゲペルニッチ様、このままでは、銀河のスピリチアは!』
イワーノ・ギュンターの体は、ただ呆然と上を見上げているだけだった。その眼は虚ろで、宇宙の深淵のように真っ暗だ。
ゲペルニッチ「もはや止められぬ。既にゲペルニッチは崩壊した」
ガビルの表情が絶望に凍りつく。
ガビル『終わりだ……五十万周期の再来!
スピリチアンブラックホール……滅びる! 全銀河の終末美!』
ゲペルニッチ「何故だ……すべてが闇の導きに身を任せてしまった……」
ゲペルニッチの意識が闇に沈んでいく。既にゲペルニッチは生物の枠を越え、ただの“現象”と化している。
スピリチアを吸い込むブラックホールそのものと言っていい。
意識の有無に関わらず、全銀河のスピリチアを吸い尽くすまで止まりはしないだろう。
429
:
蒼ウサギ
:2010/10/30(土) 04:07:50 HOST:i114-189-100-193.s10.a033.ap.plala.or.jp
どんなに攻撃しても触手に捕まってしまえば即アウト。
機動性のない機体は攻撃もできず逃げるのが精一杯の状況だ。かといって物理的な攻撃になんの意味があろう。
まさにブラックホール。
全てを吸い尽くす勢いだ。スピリチアも何もかも。
ムスカ「おりゃあああ! ミサイル全部もっていけぇ!」
ハイドランジアキャットが持てる火器を全て触手に向けて放つ。
それは、己を守ると共に掴まりやすい戦艦への援護でもあった。
しかし、一時しのぎにしかならない。
新しい触手がすぐに伸びてきて、ハイドランジアキャットの脚を掴む。
まずい、そう思ったその時。
灯馬「やぁぁあ!」
一閃が走り触手は切断された。
ムスカ「助かったぜ。っと、また来るぜ」
灯馬「休んでる暇、あらへんなぁ!」
ここまでくれば我慢比べ、と言いたいところだが相手はブラックホール。
言わば無尽蔵に吸い尽くす相手だ。終わりのない戦いを強いられるているようなものだ。
ついでにいうならばパイロット達の疲弊が凄まじい。
ゼド(触れなくとも少しずつスピリチアが吸い取られているということですか……厄介ですね)
§
由佳「もう……終わりかもしれませんね」
援護機体のお陰で触手にこそ絡まれてはいないものの、少しずつだがスピリチアが吸い取られていっているのがわかる。
疲労感、脱力感、倦怠感。
必死に己を鼓舞しても、思わず弱音が出てしまう。
アネット「艦……由佳ちゃん……まだ諦めちゃ……」
今にもコンソールに突っ伏しそうなアネットが必死に声をかけるが体が動かない。
隣にいるミキに至っては目が虚ろになりかけている。
そしてこういった現象はコスモフリューゲルだけではなかった。
バトル7では、エキセドルがその巨体をついに横たわらせた。
エキセドル「もう、おしまいですかな……」
虚ろな目で呟く中、彼の耳に微かに届くものがあった。
エキセドル「はて、これは?」
それは―――
エキセドル「バサラが歌ってるのですか?」
その通りだった。
少し耳をすませば聞こえてくる。
バサラの『PLANET DANCE』が!
§
その炎のような赤いカラーリングをしたお馴染みのファイヤーバルキリ―は、襲いかかる触手を華麗に避けつつゲぺルニッチの中心部へと接近していた。
しかも操縦者の熱気バサラは歌いながらだ。
例え直撃したとしても歌エネルギーによるバリアが発生しているのか、触手は裂けていき機体はおろか、バサラにも何らダメージはない。
コクピット内の花束がこのような状況下でも活性化しているのも、彼の歌エネルギーによるものだろう。
そして――。閉ざされてしまった一人のプロトデビルンにもバサラの歌が聞こえていた。
シビル「バ……サ…ラ」
目に光が戻った時にはすでにクリスタルを力の限り叩いていた。
430
:
蒼ウサギ
:2010/10/30(土) 04:08:56 HOST:i114-189-100-193.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
艦長。報告します……本日の任務は―――
―――ありがとう。艦には慣れてきたかな?
艦長。また来ますね……。
―――無理はしないでね。って、僕が言える義理じゃないか。
艦長……。今日、悠騎さんにやっと謝れました。
―――これで少し前に進めるかな?
コスモ・スワロウ轟沈。艦長の巽 小五郎さんは戦死しました……
―――そうか……あの人には色々お世話になったよ。実に残念だ。
……艦長、今日……エッジさんが……うっうう…
―――アイくん。艦長が泣いていいのは一人になった時だけだよ。
艦長、早く起きてくださいね。
―――僕も早く起きたいよ。
艦長……私、その……あ、あの! 無理だと承知してますけど艦長の―――
―――え? なに? どうしたの? アイ……く、ん。
夢か現か幻聴か。
紫藤トウヤは、短くも長い夢を見ていた。
レム睡眠とノンレム睡眠の繰り返しで壊れたテレビのように映像はぼやけているものの側から聞こえる声はハッキリと聞こえてくる。
最後のアイの言葉最後に深い、深い眠りについたところだった。
歌が聴こえる―――。
体が動かなくても、耳じゃなく心に響く歌が聴こえてくる。
これは何だろう?
今まで幾度なく聞いたことある歌だ。
正確には、音楽ディスクから聞こえてくる歌だったがそれとは雲泥の差。
自然と体中から力が湧いてくる。
ピクリ、と指が動く。自然とその歌を口ずさんでいる。
全盛期とまではさすがにいかないが、みるみるうちに体が活発化していくのがわかる。
まずは五指をゆっくり握ったり、離したりを繰り返してみる。
首はどうだ? 脚は? 腕は?
それぞれに感覚があり、それぞれが自身の意志で動くことがわかるとトウヤは、それまで瞑目していた瞼を力強く開いた。
§
コスモ・アークもまたゲぺルニッチの触手に翻弄されていた。
元より機動性はフリューゲルに劣るこの艦にとっては格好の的である。
迎撃兵装や護衛機。デコイなどを駆使し、なんとか凌いでいるもののスピリチアの吸収にはさすがに耐えきれない。
アイ「っ! もってあと12分。というところですか……」
火器や推進を一手に担当しているアイが呟く。
もちろん相手の解析になどやっている余裕はない。
だが、その分。アイの疲労もピークに達しつつあった。
アイ「うっ……」
目眩。その一瞬が本来は触手に当たるはずのコースだったミサイルを外してしまった。
アイ「しまっ……」
オペレーター「! 格納庫からAW一機発進! こ、これは……」
そのオペレーターの言ったAWが艦のブリッジの目の前に現れる。
誰もがその見慣れた後ろのフォルムに見覚えがあった。
アイ「あれ…は……」
トウヤ(今から艦を急速後退させるのは難しいな)
なら、とそのAW―――ナックルゼファーは拳を構えた。
右手に本来は防御用であるDウォールが纏い始める。
トウヤ「破ぁぁぁぁあああああ!!!!」
思い切り腰を溜めた正拳突き。
その破壊力に触手はあっけなく散っていった。
トウヤ「リハビリにしては、キツイ相手かもね」
そう、コクピット内でトウヤは苦笑いした。
431
:
藍三郎
:2010/10/30(土) 21:38:18 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
悠騎「トウヤさん!!」
アイラ「先輩……!」
セレナ「あらま、これは、合同で退院祝いパーティーをやらないとねぇ」
快哉を上げる者、口を押さえて声を詰まらせる者、反応は様々だ。
だが、もう二度と目覚めないと思われた紫藤トウヤの復活は、挫けかけた闘志を、再び奮い起こした。
バサラ「HEY! EVERYBADY 光を目指せ
踊ろうぜ DANCIN’ ON THE PLANET DANCE!」
ゲペルニッチ「無駄だ……今更アニマスピリチアなど……」
ゲペルニッチが虚ろな声で呟く。復活の奇跡を、バサラの歌をあざ笑うように、暗黒の嵐はさらに勢いを増し、スピリチアを略奪していく。
ひと時の喜びなど、止むことの無い暴風の前では、容易く吹き飛ばされてしまう。
バサラのコクピットに浮かぶ花も、徐々に萎れてゆく。
バサラ「NO MORE WASTIN’ TIME……愛を無駄にするな……
おまえだけを誰かが見つめてるはず……」
バサラの声も、徐々にしわがれていくのがわかる。いかに熱く燃える炎とて、嵐に飲まれれば消え去るしかない。
ゲペルニッチ「ハハハハハハハハハハ!! ハァーッハハハハハハハハハハハ!!!」
哄笑するゲペルニッチ。全ての感情を無くした者の、虚無の笑いだった。
ガビル『終わりだ……全ての美が、無限の暗黒に消えていく……』
止まらぬ勢いでスピリチアを吸収する暗黒の孔を見下ろし、絶望に表情を凍らせるガビル。
悠騎「畜生……せっかく、トウヤさんが復活……したってのに……」
絶望が、人々の心を塗りつぶそうとする。そんな中……
トウヤ「さあ始まるぜ SATURDAY NIGHT 調子はどうだい?
LET’S STAND UP ビートを感じるかい?」
悠騎「ト、トウヤさん!?」
突然歌いだしたトウヤに、面食らう悠騎。
トウヤ「みんな、歌うんだ! 歌の力が、僕に目覚める力と勇気をくれた!
バサラさんのような凄い力は無くても、その後押しぐらいならできるはず!」
ミレーヌ「そうよ! みんな、諦めちゃ駄目!!」
そう叫ぶのは、ガムリンのナイトメアにバルキリーの肩を抱えてもらい、再び戦場に現れたミレーヌだった。
ミレーヌ「神様は忙しくて 今手が放せない
この世界はちょっと不思議な まるで MERRY-GO-ROUND」
『LIGHT THE LIGHT』を歌うミレーヌ。
サウンドブースターは既に破壊されている。修理の時間もなく、これではサウンドウェーブを放つこともできない。それでも、ミレーヌは歌う。
ファイヤーボンバーの一員として、歌に全てを懸けた者として。
ガムリン「いい事ばかりあるわけじゃないし 嵐もやってくるけど」
ガムリンも歌う。熱気バサラの姿を見て思う。歌も歌うことも、また戦いなのだ。
全身全霊で歌に打ち込むバサラやミレーヌの姿が、そのことを自分に気づかせてくれた。
自分には軍人として、力なき人々を、友を、愛する者たちを守る責務がある。その信念に揺らぎはない。
ならば、自分も戦(うた)おう。バサラやミレーヌように、力強く!
「「LOVE WILL SAVE YOUR HEART 夢を描くまっすぐな瞳たちよ
LOVE WILL SAVE THIS WORLD いつかきっと光は見えるはず」」
ガビル『バカな……ガムリン、おまえは何をやっているのだ!? 絶望美に落ちれば、楽になれるものを……』
ガムリンまでもがアニマスピリチアのような行動をとったことに、ガビルは動揺を隠せない。
432
:
藍三郎
:2010/10/30(土) 21:43:15 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
マックス「ミリア! 悲しみと微笑みの バランスをとる街で」
ミリア「立ち止まり見上げた空 続く LONG AND WINDING ROAD」
歌いながら、マックスとミリアは思い出す。
人間と巨人族、決して相容れぬはずの二つの種族が結びついたのも、リン・ミンメイの歌があればこそだ。
自分たちは知っていたはずではないか。歌には、奇跡を起こす力があることを。
セレナ「おーし! この時を待っていたのよ! さぁ歌いなさいみんな! これは社長命令よ!!
あきらめの SAD SONG 嘘つきは歌う NO THANKS! お呼びじゃないぜ」
セレナも歌い出す。してやったりといった様子で、こうなることを薄々感じていたようだった。
ゼド「社長命令なら、仕方ありませんなぁ。しかし……」
ちらと、刹牙のいる方向を見やる。すると……
白豹「変わりつづける星座と 見えない汗と涙が
INTO MY HEART 勇気をくれる」
ゼドとムスカは、揃って驚嘆する。
ムスカ「ま、まさかお前まで歌うとは……!? しかも結構上手いじゃねぇか」
ゼド「我々も、腹を括りますか」
「「「「NO MORE WASTIN’ TIME 愛を無駄にするな
おまえだけを誰かが見つめてるはず」」」」
バミューダストームの四人も、揃って歌う。
アキト(五感を狂わされ、夢を断ち切られた俺だが……それでも、歌うことはできる)
アキト「LOVE WILL SAVE YOUR HEART」
クローソー(非科学的だ……だが、その馬鹿げた力に、私たちは敗れたのだな)
クローソー「LOVE WILL SAVE THIS WORLD」
エキセドル「ヤック・デカルチャー……
ブリタイ提督……あの最後の戦いを思い出しますなぁ……
らぶ・うぃる・らいと・ざ・らいと」
悠騎「み、皆が歌っている……なら、アレをやるか」
タツヤ「ああ、アレか……」
リュウセイ「実は……一度やってみたかったんだ」
三人は、揃って声を張り上げる。
「「「俺の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」」」
ロム「世界中の誰もが持ち、心の底の無限のエネルギーを呼び覚ますもの。
それは、心と心を結びつけ、闇を打ち払い、永久の安らぎをもたらすだろう。
人それを、『歌』と言う!!」
レイナ「ロム兄さん! 私たちも!」
ロム「ああ、レイナ!」
「「「「「HEY! EVERYBADY 光をめざせ
踊ろうぜ DANCIN’ ON THE PLANET DANCE
HEY! EVERYBADY 心のままに
叫ぼうぜ JUMPIN! ON THE PLANET DANCE」」」」」
「「「「「LOVE WILL SAVE YOUR HEART
夢を描くまっすぐな瞳たちよ
LOVE WILL SAVE THIS WORLD
いつかきっと光は見えるはず」」」」」
433
:
藍三郎
:2010/10/30(土) 21:44:49 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
今や戦場の誰もが歌っていた。『歌う』という行為は、彼らの体に確かな活力を与えていた。
ゲペルニッチという、極大の絶望を前にしても、彼らの心の力は途切れることなく続いていく。
ビヒーダ「………………」
レイがキーボードを奏で、ビヒーダがドラムを鳴らす。彼らもまた、音楽に情熱を燃やす者たち。そのビートには、魂が宿る。
レイ(バサラ、ついにここまで来たな)
先頭で歌うバサラを見て、レイは思う。
戦場で敵に歌を聴かせる。そんな馬鹿げた思い付き、最初は誰も相手にしなかった。俺だって、お前ほど本気で信じていたわけじゃあなかったさ。
だが、誰に何を言われても、お前は歌い続けた。ひたむきに、真っ直ぐに。
お前も人だ。一度は道を見失ったこともあった。
それでも、お前は蘇った。最後まで、歌を歌うことを諦めはしなかった。
見ろ。今や皆がお前の歌を信じ、おまえと同じように歌を歌っている。お前の歌が、皆のハートを揺り動かしたんだ。
今なら俺は、胸を張って言える。
お前に出会ってよかった。音楽に出会ってよかったと!
歌え、バサラ!!
次の瞬間……
ゲペルニッチの触手が、ファイヤーバルキリーの腹を貫通していた。
シビル「聞こえない……バサラの歌……コォォォォォォ――ッ!!」
バサラの歌が聞こえなくなり、シビルは焦燥に駆られる。
掌から衝撃波を放とうとするが、水晶を壊すような力は、今のシビルに残されていなかった。
シビル「力、足りない……」
俯くシビル。どうにもならない状況。そんな中、あのバサラはいつもどうしてきたか……
シビル「ぱわーとぅーざどりぃーむ……」
何気なく、彼が歌っていた歌の一節を口ずさむ。すると、シビルの体が緑色に輝き、活力が蘇る。
シビル「スピリチア……」
信じられないような目で、シビルは自分の両手を見た。
434
:
藍三郎
:2010/10/30(土) 21:49:09 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
触手に機体を串刺しにされ、凄まじい勢いでスピリチアを吸引される。
虚ろな意識の中で、バサラは思う。彼の心は、少年時代へと飛んでいた。
バサラ(あの山、何て言ったっけな。ガキの頃、あの山を動かそうと思って、毎日歌ったよな)
聳え立つ巨大な山。立ち向かうは、ギターを下げた幼い頃の自分。
自分の夢は、心は、魂は、あの頃と何も変わってはいない。そう、今だって……
バサラ「……たった1曲のロックンロール 明日へ響いてく」
火花の散るコクピットの中で、バサラは再び歌い始める。
この日のクライマックスのために作った新曲……『TRY AGAIN』を。
バサラ「朝焼けの彼方へ おまえを遮るものは 何も無い」
山に立ち向かう昔の自分と、今の自分。過去と現在が重なり合う。
ミレーヌ「バサラ!」
レイ「バサラ!」
ガムリン「バサラ!」
マックス「バサラ!」
ミリア「バサラ!」
バサラの歌とギターの音を聞いて、皆は快哉を上げる。
ミレーヌとレイとビヒーダは、直ちに伴奏をスタートさせる。
バサラ「うおおお――っ!! 今日こそ動かしてやるぜぇ――!!
山よ! 銀河よ! 俺の歌を聴けぇ――っ!!!!」
銀河に響く歌声が、弾けた。
バサラ「戦い続ける空に オーロラは降りてくる」
バサラの体から発散される、アニマスピリチアの奔流。
彼の傍の萎れた花束も、瞬く間に咲いてゆく。サウンドウェーブが、周囲の触手をまとめて吹き飛ばす。
バサラ「打ちひしがれた夜 お前は一人ぼっちじゃない いつだって」
悠騎「バサラ!!」
レイ「お前って奴は、どこまで……!」
バサラ「たった1つの言葉で 未来は決まるのさ
俺たちのビートは 輝くダイアモンド
本当の空へ 本当の空へ 命 輝く空へ」
ガビル『分からぬ! アニマスピリチア! お前は私の理解を超えている!!』
あの巨大な暗黒を前にして、機体を半ば破壊されても、なお立ち向かう熱気バサラの姿に、ガビルは形容できない想いを抱いた。
驚愕? 戦慄? いや、そのどれにも当てはまらぬこの気持ちは……
ブンドル「そんなことは無いはずだ」
ガビル『お前は……!』
いつの間にか、ガビグラの傍に、ブンドルの機体が寄っていた。
ブンドル「胸を打ち震わす輝き、己の想像の遥か先にあるもの。
それを何と言うか……君はすでに、知っているのではないのかね?」
ガビル『………………』
435
:
藍三郎
:2010/10/30(土) 21:50:15 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
ゲペルニッチ「お、おお……!」
虚無に沈んだゲペルニッチの目に、光が灯る。それと同時に、“本体”の方の目から、黄色のレーザーが発射される。
光がファイヤーバルキリーを掠め、今度こそ完全に大破させる。
何もない空の元へと、放り出されるバサラ。破片と共に、花束が、彼の隣を吹き飛んでいく。
バサラ「――――!!」
そんな状況になってもまだ歌おうとするバサラだが……その体を、光の球が優しく包み込んだ。
彼の目の前にいたのは、プロトデビルンの少女だった。
バサラ「シビル……」
シビル「バサラ……」
視線を交わした後、バサラは微笑み、歌を再開する。
バサラ「FLY AWAY! FLY AWAY! 昇ってゆこう
TRY AGAIN! TRY AGAIN! 昨日に手を振って」
シビルの光球に包まれ、バサラとシビルはともにゲペルニッチの中枢へと飛ぶ。
バサラ「FLY AWAY! FLY AWAY! 信じる限り
TRY AGAIN! TRY AGAIN! 明日を愛せるさ」
シビル「お前を消す! ゲペルニッチ!! コォォォォォ――ッ!!」
両手をかざし、衝撃波を放つシビル。
今の彼女は全快していたが、それでも彼女の力は、底無しの虚無に消えゆくのみだった。
ゲペルニッチ「シビル!無駄なこと、すでに夢は壊れた。無の暗黒を消し去ることなどできぬ」
シビル「コォォォォォォ――ッ!!」
なおも攻撃を続けるシビル。その隣で、バサラはひたすら歌い続けている。
バサラ「たった1つの迷いが チャンスをダメにする
嵐の中だって 瞳そらさない」
シビル「コォォォォォォ―――…………」
突然、シビルは攻撃を止めた。
ゲペルニッチ「無駄の終焉に辿り着いたのか、シビル……」
シビルの目には、ゲペルニッチは映っていない。彼女は、ただじっと、歌い続けるバサラを見ている。
バサラ「さあ 何度でも さあ 何度でも
やりなおせるさ きっと」
シビル「バ……サ……ラ……」
何かに気づいたように、シビルは再び前を向く。
バサラ「FLY AWAY! FLY AWAY! 昇ってゆこう」
シビル「TRY AGAIN! TRY AGAIN! あきらめないで」
ゲペルニッチ「!!」
シビルまでもが歌い始めたことに……ゲペルニッチはこの時初めて……真の驚愕を味わった。
「「FLY AWAY! FLY AWAY! 昇ってゆこう
TRY AGAIN! TRY AGAIN! 昨日に手を振って」」
436
:
蒼ウサギ
:2010/11/05(金) 02:13:24 HOST:i121-118-62-150.s10.a033.ap.plala.or.jp
―――やはり、歌はリリンが生み出した文化の極みだね。
シンジ「!?」
激しいライブが行われている中、ふいに聞こえたその声。
思わずシンジは自分の右手を見つめてしまった。
彼を、握りつぶしたその手を。
―――こればかりは、いくら死と新生を繰り返しても決して変わることがない。
シンジ「っ……カヲルくん!」
脳内であの時の光景、感触。渚カヲルの一言一言が甦る度にシンジは発狂しそうになる。
だから、シンジも歌った。
その目から自然と涙が流れていた。
―――そう、今は思い切り歌うところだよ。……シンジくん。
§
ライ「リュウセイの奴……勝手に出撃して。だが、この戦場の中ではわからなくもないな」
小さく笑いながらライは嘆息したその時だった。
レイリー「ねぇ! ちょっとライさん、来て! アヤさんとヴィレッタ隊長も!」
甲高いレイリーの声に呼ばれた一同が一斉に集まる。
そして彼女が驚いた理由がすぐにわかった。
ライ「これは…あの遺跡で起こった時と同じ現象……!」
レイリー「うん、これ以上ないってくらいトロニウムエンジンが安定してるの! 多分、これも歌エネルギーの影響…かも?」
だとしたら整備士としては立つ瀬がない。
いや、それを言うなら植物人間状態だったトウヤが歌エネルギーで復活した事実もある以上、テクスやレインも同じ気持ちだろう。
レイリー「ホンっと、歌って不思議だね〜」
そんなこと言いつつも、レイリーも嬉しそうに密かに口ずさんでいた。
そう、今この戦場おいて誰もがバサラの歌につられるかのように歌っていたっているのだ。
上手くても下手でも関係ない。
己を奮い立たせるため。或いはお互いを励まし合うために。
そして、彼女も……。
エレ「パワー…トゥーザードリーム……」
まだ精神が安定していない状態でも確かに歌っていた。
437
:
はばたき
:2010/11/05(金) 11:12:19 HOST:zaqd37c9324.zaq.ne.jp
レイリー「お嬢?」
ふいに聞こえた歌声に振り返る。
虚ろな瞳。
生気の無い顔。
それは相変わらずだが、その声には微かな光が感じられた。
生きているもの
懸命に生き足掻く生命の持つ光だ。
レイリー「・・・・」
何も言わず少女の体を抱き締める。
大丈夫、大丈夫だ。
トウヤも還って来た。
だから彼女も還って来れる。
だって、だってこんなにも・・・
レイリー「アンタは今を頑張って生きてる・・・・」
§
ユーゼス「〜〜♪」
ギンガナム「ほう、貴公が鼻歌とは珍しいな」
ユーゼス「これより地上の再生が始まるのだ。歌いたくもなる」
ギンガナム「ふははは!地上の再生とは大きく出たな!がだ、かく言う小生も今は歌い出したい気分で一杯だ。これからの戦いを思うとなぁ!」
§
レイ「〜〜〜♪・・・・」
ゲンドウ「ここにいたのか、レイ」
レイ「・・・〜〜〜♪〜〜」
ゲンドウ「もう直ぐ最後の時だ。それまでは・・・・」
§
ミスティ「〜〜〜♪〜〜〜♪」
ヴィナス「おや?今日は違う歌ですね。珍しい事もあるものだ」
ミスティ「ええ、何となく、ね。いつも同じ歌ではマルス様も飽きるでしょう。それに・・・」
ヴィナス「それに?」
ミスティ「いえ、何でもないわ。そうね。強いて言うなら、そういう気分という事かしら?」
§
トレーズ「〜〜〜♪〜〜〜♪」
「トレーズ閣下?」
戦場を俯瞰するトールギスⅡの中で、彼もまた歌っていた。
だがそれは、他の皆のような激しいサウンドではない静かなハミング。
トレーズ「彼らは勝ち得たのだな。兵器の力では無く。人の心の力で以って」
ゲペルニッチは未だ健在だ。
勝敗を決したと見るには聊か先走ってはいる。
だが、トレーズは、否、ここにいる全てのものが敗北など微塵も感じていまい。
バサラの歌が、シビルを、永らくの呪縛に囚われたプロトデビルンの心さえ変えたのだ。
それは一つの時代の終わりを意味している。
―――私は敗者になりたいのです
かつて彼はそう語った。
それが今叶おうとしている。
人は戦ってこそ美しい。
そう告げて世界に挑んだ男の、本当の願い。
戦場に響く歌声は、その想いに対する鎮魂歌(レクイエム)のように感じられた。
だが
トレーズ「世界は、人はかくも美しい・・・か」
悪くない。
寧ろ、これだけの歌で送り出されるなど、身に余る光栄だ。
トレーズ「〜〜〜♪〜〜〜♪」
敗者はただ去るのみ
その静かな歌声はどこか物悲しく―――
438
:
藍三郎
:2010/11/07(日) 23:30:26 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
バサラ「FLY AWAY! FLY AWAY! 昇ってゆこう」
シビル「TRY AGAIN! TRY AGAIN! 昨日に手を振って」
氷上のステージは、今や最高潮を迎えていた。
バサラの、シビルの、戦場にいる全ての人々の歌声が、ゲペルニッチの胸に届く。
それは、数十万年という悠久の時間、永久凍土に閉ざされていたプロトデビルンの心を、ついに揺り動かした。
ゲペルニッチ「おお……! この背筋を染めていく刺激の色は……!」
頬を染め、内から湧き上がる確かな力に、恍惚するゲペルニッチ。彼は自然と、次の行動に移っていた。
ゲペルニッチ「FLY AWAY! FLY AWAY! 信じる限り」
ゲペルニッチの唇は、歌を紡いでいた。
ゲペルニッチ「TRY AGAIN! TRY AGAIN! 明日を愛せるさ」
シビル「ゲペルニッチ……」
歌で満たされた世界に、わだかまりは何も無い。バサラとシビルは、新たに加わった歌声を受け容れる。
「「「FLY AWAY! FLY AWAY! 昇ってゆこう
TRY AGAIN! TRY AGAIN! あきらめないで――」」」
これか。これがアニマスピリチア。これが、“歌”か――
詩を口ずさみ、腹から声を出す度に、己の中の何かが作り変えられていくような感覚を覚える。
かつてのゲペルニッチが何より恐れていた未知の感覚……しかしそれは、決して不快なものではなかった。
彼の描いたスピリチアファームという夢は、闇へと沈んだ。
しかし、今はそれとは違う新たな夢が輝いているのが見える。
彼はついに悟った。歌が自分たちに、何をもたらすものなのかと言うことを。
ゲペルニッチ「……これは! 我が歌にも無の暗黒より生まれ出ずる、清水のごときスピリチアの奔流……!
これぞ紛うこと無き、約束のスピリチアクリエーション!」
両手を上げるゲペルニッチ。彼の身体から、スピリチアの輝きが溢れ出る。
ガビル『トライアゲイン! トライアゲイン!!』
ガビルもまた、知らぬ間に歌を口ずさんでいた。
彼もまた、ゲペルニッチと同様……相手から奪うのではなく、内より生まれ出ずるスピリチアを感じていた。
ガビル『これは……身体を駆け巡る、ゾクゾク美!』
彼もまた恍惚の表情で、スピリチアの快感に浸る。
その眼前では、ゲペルニッチの巨体が急激に収縮していった。
「「「FLY AWAY! FLY AWAY! 信じる限り
TRY AGAIN! TRY AGAIN! 陽はまた昇るだろう――」」」
それでも、皆戦いのことなど忘れたように、いつまでも歌い続けていた。
スピリチアンブラックホールによる、全銀河消滅の危機は去った。
一人の男から始まった歌声は、人々の心に、世界に、そして銀河へと、果てしなく響き渡っていった。
439
:
藍三郎
:2010/11/07(日) 23:46:30 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
――たった1曲のロックンロール 明日へ響いてく――
――朝焼けの彼方へ お前を遮るものは 何もない――
昇る朝日が、南極の大地を照らす。戦いは終わった。
天をも覆うほどの巨体だったゲペルニッチは、今は普通の人間と同程度に縮小していた。
髪は逆立ち、淡緑色のプロテクターを装着し、背には光輪が浮かんでいる。
ゲペルニッチはゆっくりと、バサラとシビルの前に降り立つ。
バサラ「中々だったぜ、お前の歌……」
ゲペルニッチ「我が身の内にもアニマスピリチアの扉があると。
尽き果てた夢のかけらの落とし子……」
ミレーヌとレイ達も、バサラの下に駆けつける。
ミレーヌ「バサラ!」
レイ「いいステージだったな」
バサラは、さっぱりした面持ちで、朝焼けの空を見上げる。
バサラ「……銀河が歌っているぜ」
やがて、戦場にいた者達の大半が、ゲペルニッチの前に集合する。
統合軍を代表して、マクシミリアン・ジーナスが前に出る。
かつての冷酷なゲペルニッチの記憶が残っているからか、やはり緊張を隠せないようだ。
マックス「ゲペルニッチ……そちらには、もう我々に敵対する意志は無いと見做してよいのだな?」
マックスのみならず、多くの人々が同じ気持ちだろう。
「本当にこれで終わったのか?」、と……
ゲペルニッチは、そんな彼らの不安など何処吹く風と言った様子で、あっさりと答えた。
ゲペルニッチ「その必要は無い。我らは歌うことで、スピリチアを生み出せることを知った」
ガビル『はい。今もまだ、歌いたいという衝動が高まっております。熱唱美!』
ガビルも力強く同意する。
ゲペルニッチ「もはや銀河に用はない! 歌こそ真のスピリチアパラダイス!」
ガビル『は! まさに究極の新鮮美!』
エキセドル「ふむ。プロトデビルンは、本来スピリチアを自己再生することが出来なかった。
しかし、熱気バサラの歌に感化され、歌うことを覚えたことで、我々と同じように、スピリチアを自力で補給できるようになったというわけですな」
ゼド「もはや彼らは人からスピリチアを奪う必要も無い。我々と敵対する理由も無くなったということです」
エキセドルとゼドは冷静に分析する。
ムスカ「なるほどな。奴らは最初からスピリチアだけを求めていた。それもこれも、奴らがスピリチアを自力で生み出すことが出来なかったからだ。
ならば、スピリチアの略奪を止めさせたければ、奴らがスピリチアを自力供給できるようにしてやればいい。
その好例は、俺達自身だ。スピリチアを奪われた人々は、どうやって回復した? ここまで考えれば、社長の言う通り、確かに答えは簡単だ」
セレナはやや得意気に微笑むと、話を継ぐ。
セレナ「でもね。私たちが空を飛ぶことが出来ないように、プロトデビルンも、歌うという行為を全く知らなかったのよ。
そんな彼らに歌うことを教えるには、熱気バサラやファイヤーボンバーの歌のような、常識外れのパワーが必要だったわ。
彼らの、小賢しい理屈をまるごと吹き飛ばすような情熱が、プロトデビルンの心に響いたのよ」
種族が異なれば、生態は元より考え方や価値観も全く異なる。
そんな相手に、人間だけに通じる理屈を説いても、聞き入れはしないだろう。
それでも、心を持つ種族である以上、何かに懸ける情熱を持っているはず。
プロトデビルン達も、自らの生存という目的の為に、スピリチアファームを創り上げようとした。
彼らにも、何かに向かう意志があるという証明になる。
炎という言葉は分からなくても、その熱さは伝わるように。
熱気バサラの歌によって、プロトデビルンはその情熱を理解し、言葉によらぬコミュニケーションを実現したのだ。
セレナ「とまぁ、知った風に言ってみたけど、彼はそんなこと、なぁーんも考えてなかったでしょうけどね」
両手を広げて締めくくるセレナ。
440
:
藍三郎
:2010/11/07(日) 23:51:18 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
シャル「答えは簡単でも、そこに辿り着くまでに、どれだけの犠牲が出たのか……
改めて、異星の生命体と交流することの難しさを思い知らされるな」
ゼド「だが、我々はそれを成し遂げました。困難ではあっても、不可能ではないということです」
エイジ「もしあのまま戦い続けていれば、俺達もプロトデビルンも共倒れになっていた。分かり合おうと努力する事は、決して無意味ではないはずだ」
これまでのプロトデビルンとの熾烈な戦い、そして、熱気バサラが起こした奇跡を思い返し、皆一言では語りつくせぬ想いを抱いていた。
ゲペルニッチ「……お前たちに伝えておかねばならぬことがある」
ゲペルニッチは、意を決した……というには、あまりに淡々とした、いつも通りの口調で、こう切り出した。
ゲペルニッチ「この世界は、間も無く終焉を迎える」
「!!」
ゲペルニッチ「人はまた、50万年前と同じ過ちを犯そうとしている。
悠久の時より繰り返されてきた死と新生の螺旋。されど此度の歪みは、その営みさえ崩しかねぬものだ」
ムスカ「ちょ、ちょっと待て、もう少し順を追って説明してくれないか?」
自分の認識に沿って話を飛ばすゲペルニッチに、人間達はついていけない。
ゼド「世界の終焉については分かりますよ。私達は、既に夏彪胤殿からその話を聞かされています」
ゼドはおさらいの意味も込めて話した。この世界には、破滅と創造を司る、崩壊力と修正力という両極の力が存在する。
だが、<アルテミス>による異世界からの流入によって修正力と崩壊力のバランスが乱れ、崩壊力の影響が強まり、意志を持つようになった。
L.O.S.T.と呼ばれるそれは、契約者となった深虎を尖兵として、この世界を崩壊させようとしていること。
来るべき破滅を阻止する為には、修正力の結晶であるハイリビードによって、L.O.S.T.を消し去り、両極のバランスを元に戻す必要があること。
ゲペルニッチ「その通り。破滅は既に目前に迫っていた。
故にこそ我らは、スピリチアファームを創り上げ、新たな世界に飛び立とうとしたのだ」
ガビル『我々の身体は、宇宙の崩壊にも耐えられるように出来ている。強靭美!』
真吾「……常識外れの頑丈さだな。通りで、まともな攻撃で倒せないはずだぜ」
ロム「そうか。ガデスがハイリビードを求めたのは、彼らと同じ肉体に進化することで、来るべき破滅から逃れようとしたのだな」
ゲペルニッチ「……だが、此度の歪みは、50万年前のそれを越えている。
新たな世界が生まれるという保障も無い。改めて、お前たちには感謝せねばなるまい」
ムスカ「その……世界の死と新生、だったか。それについて、もう少し詳しく話してくれないか?」
ゲペルニッチ「……いいだろう」
ゼド「おっと、この話は、夏彪胤殿にも聞いてもらった方がよいのでは?」
彼の知識とゲペルニッチの情報をあわせれば、世界の破滅を阻止するのに、良い方策を練ってくれるかもしれない。
アネット「そうよね。でも、連絡方法なんて分からないし……」
白豹「問題はない」
突然声を発した白豹に、皆の視線が集まる。白豹は、自分のこめかみを指で指し示した。
白豹「俺の意識は、今大老師様と念で繋がっている。
あちらから話をする事は難しいが、俺が知りえた情報は、全て大老師様に伝わるようになっている」
アネット「ほええ……そんなことできるんだ」
ムスカ「いやはや、中国四千年……以上か。恐るべしってとこだな」
441
:
藍三郎
:2010/11/07(日) 23:55:31 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
ゲペルニッチは話を始める。
ゲペルニッチ「まず、我々がいるこの世界は、既に死した世界だ」
悠騎「死した、世界……」
悠騎の中でデジャヴが起こる。これと同じような話を、いつか聞いたことがあるような……
ゲペルニッチ「それも、一度ではない。形あるものは、いずれ必ず滅び行く。
それは宇宙とて例外ではない。この宇宙は、過去に様々な原因で死を迎えて来た。
そしてその度に、大いなる創造の力が働き、新たな世界が誕生してきたのだ」
ゼド「それこそが修正力。ビムラーやハイリビード、アニマスピリチアと呼ばれるものですな」
ゲペルニッチ「世界とは、無数の円環が連なった長大なる螺旋だ。宇宙が生まれ、そして滅ぶ。さすれば時はまた遡り、新たな宇宙が生まれる。
それが連なって、巨大な世界を形成している。世界には、二つの時の流れが存在しているのだ」
アネット「二つの時の流れ?」
ゼド「一つ目は、我々が普段感じている時間のことです。そして世界は一度滅びれば、始まりに遡ってまた始まる。しかし、過去に滅びた世界からすれば、その世界は未来ということになります」
ゼドは手帳を取り出し、手早く図を描いて見せた。
過去
□■■□□□□■■□□□□■■□□□□□□
過□■■□□□□■■□□□□■■□□□□未
□□□■■□□□□■■□□□□■■□□□□
去□□□□■■□□□□■■□□□■■□□来
□□□□□□■■□□□□■■□□□□■■□
未来
ゼド「■とは、世界のことです。世界は終わりを迎えた時、また過去に遡り再開する。それが連なって、世界を成す。螺旋とは言いえて妙ですね」
ゼドは四方にある、過去と未来の字を指し示す。
ゼド「このように、縦軸と横軸、世界には二つの時間の流れが存在しているということです。
一つの世界にしか存在しえない我々人間には、この図における、縦方向の時間しか知覚する事は出来ませんが……
プロトデビルンの方々は、世界が死した後も、新生した世界に生き続けることが出来る模様。
ゆえに彼らは、縦と横、二つの時間を生きることになる」
ムスカ「解説御苦労、と言いたいが、正直分かったとは言い難い」
皆がムスカと同じような顔をしていた。初めから話を聴いていない者の方が多いぐらいだ。ゼドは肩を竦める。
ゼド「それはそうですよ。私だって、頭の中で整理したことを話しているだけで、実感できているわけではありませんから。
このことを真に理解できるのは、彼らのような、遥かな高みから世界を見つめてきた者たちだけでしょうね」
ゲペルニッチ「この世界は、新生した数多の世界の中でも最果てに当たる。
異界より訪れたる者たちよ。お前たちは過去の世界より、この世界へとやって来たのだ」
G・K隊や、その他の異世界からやって来た者達に語りかけるゲペルニッチ。
パルシェ「待って。じゃあ、もしかして……私達が元いた世界ってのも……」
キョウスケ「すでに一度滅んでしまった、この時間で言うならば、過去の世界ということなのか?」
エクセレン「わーお……」
理解を越えた事態に、一同は声を失う。
ゼド「……これが、黒歴史の真実ということですか。
黒歴史、失われた世紀とは、過去に死を迎え、その度に新生してきた、数多の世界のこと。
我々のいた世界もまた、黒歴史の一つに当たるわけです」
ムスカ「何故、冬の宮殿で見た黒歴史のビジョンが、俺達のいた世界に酷似していたのか……その説明がついたな」
ジャミル「ならば我々のいた世界も……」
アスラン「その一つに当たると言うわけか」
デュオ「何ともスケールのでかすぎる話だぜ……」
複数の世界を跨いで存在してきた、プロトデビルンと言う超常存在。
彼らの視点から語られる話によって、世界の真実が今、曝け出されていた。
442
:
藍三郎
:2010/11/07(日) 23:58:49 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
真吾「するってーと、俺らのいた世界も、いずれは死を迎えるってことか」
アネット「そう思うと、何だかブルーな気分になっちゃうわね……」
セレナ「一つの世界と言っても、宇宙の歴史はあまりに長いわ。
私たちのいた時間軸の、今日明日に滅ぶとは限らない。
それこそ、数世代、数万世代と言った果てしない歴史を重ねた後のことなのかも……」
ゼド「それでも、終わりは確実に訪れます。
いかなる世界においても、生命に永遠など存在しないのです。だからこそ、このようなシステムが存在するのでしょう」
ブンドル「薔薇は散るまでの間、懸命に咲き誇る。生命は限りがあるからこそ、眩く、美しく栄えるものなのだ」
ゲペルニッチ「この星は特異点だ。本来、お前達のような人間に、世界を跨いで移動することなどできぬ。だが、この場所、この時代だけは例外だ。
この星は、次元を分かつ境界が、極めて薄くなっている。それも、時空間移動を可能とする“坑道”が、世界を貫いて存在しているからなのだ」
トウヤ「僕たちは、その道を通って、この世界へとやって来たんだね……」
ゼドは顎に手を当てて考え込んでいたが、天啓を得たように目を見開く。
ゼド「もしかすると……時空間移動を可能とするのは、
この世界の地球圏が、異世界にあるものと相似を成していることに関係しているのかも……!」
ムスカ「どういうこった?」
ゼド「私達のいた地球と、この世界の地球。加えて、他の三つの異世界から来た方々のいる地球……あまりに似すぎていると思いませんか?
しかもどの星も同じ地球という名前で呼ばれ、そこに住む人々は、同じ容姿、言語、価値観を共有している。
人類が宇宙に進出し、人型機動兵器が存在し、宇宙と地球の間で、深刻な対立が起こっている。
辿った歴史も、文明レベルも、異なる部分があるとはいえ、極めて似通っているのです」
ムスカ「そりゃ、確かに……」
ゼド「これは単なる偶然ではない。推測ですが、異なる世界において相似を成す惑星、時系列、文化圏でのみ、転移は可能となる。
そうでなければ、いかにアルテミスとて、この世に数限り無く存在する異世界や時間軸から、好きに人間を転移させることなど出来ません」
セレナ「確かに、そんなことが出来れば、もはや神ね」
ゼド「推測を進めれば……アルテミスが元いた世界も、地球と相似形を成しているのでは……」
ゼドはじっと考え込んでいる。これ以上推理を発展させるには、更に長い思索が必要なようだ。
ゲペルニッチ「……“坑道”とは世界の狭間。創造と破壊、両極のバランスを維持する柱でもある。それは本来有り得ぬ奇跡。
か細い蜘蛛の糸、その上に乗りし水滴のように、脆く弱いものなのだ。
不純物を加えれば、それだけで世界の調和は乱れることになる」
アヤ「不純物というのが、私達異世界から来た人間というわけね」
ゲペルニッチ「今の状況は、50万年前と酷似している。我らが、我らとして目覚めた時だ」
ミリア「それは……プロトカルチャーが滅びた時のこと?」
ミリアの問いに、ゲペルニッチは頷いた。目の前にいる人物は、人類の祖、プロトカルチャーを滅ぼした張本人でもあるのだ。
ゲペルニッチ「プロトカルチャーは、当時二つの勢力に分かれ、果てしない戦いを続けていた。
やがてその一方は、勝利を得るために禁忌に手を染めた。次元の扉を開き、絶大なる力を得ようとしたのだ。
されど、その行いは世界のバランスを崩し、今と同様、崩壊力は意志を持つエネルギー体と化した。
それこそが我らの母体。それが、世界に流入し、プロトカルチャーが創りし器“エビル”と融合したことで、我らは生まれた」
ムスカ「じゃああんたらは、あのL.O.S.T.と同じような存在、ってことなのか?」
ゲペルニッチは無言で頷く。
ゼド「ならば、あれだけ力を持っているのも、納得できますね」
443
:
藍三郎
:2010/11/08(月) 00:00:21 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
何も生み出さず、ただひたすらにスピリチアを略奪するプロトデビルンの存在は、全生命体にとっての天敵だ。
アニマスピリチアという、スピリチアを回復させる手段を知らなければ、彼らはひたすらにスピリチアを吸収することしか知らなかっただろう。
最終的には、宇宙全ての生命がスピリチアを吸い尽くされる。そうなれば、その宇宙は滅ぶしかない。
世界に終焉をもたらす、崩壊力の存在意義に合致する。
先ほど、意志無きブラックホールとして銀河を滅ぼそうとしたゲペルニッチの姿こそ、彼らの本質なのかもしれない。
いや、実際に彼らは、プロトカルチャーの時代、一つの宇宙を滅ぼした。
ゲペルニッチ「……最も、今の我らは、歌によって変容しつつある。
50万年周期の昔も、我らはアニマスピリチアによって封印された。
思えばその頃から、我らの変容は始まっていたのやも知れぬ」
感慨深げに呟くゲペルニッチ。
ガムリン「ゲペルニッチ! お前たちの力で、世界の崩壊を止めることは出来ないのか!?」
ガムリンは、ゲペルニッチに訴える。世界の崩壊が間近に迫っている以上、手段を選んではいられない。
ガビル『ガムリン! ゲペルニッチ様に不遜な口を……』
ゲペルニッチ「よせ、ガビル。我らも、出来る事ならば、歌という妙なる恵みを生み出したこの世界を、終わらせたくはない。
だが、我らの力では、この崩壊を止めることは出来ぬ」
マックス「何故……?」
全能に近い力を持つプロトデビルンならば、出来ぬことなど無いように思えるが……
ゲペルニッチ「先ほども話した通り、世界崩壊の元凶と、我らが本来持っていた力の源は同じもの。
故にその力は、互いに中和されるだけ。黒に黒を混ぜても、黒にしかならぬことと同じことよ」
ガムリン「そうか……」
真吾「やっぱ、そうそう上手い話は転がっていないわけね」
ゲペルニッチ「加えて、現在時空の狭間は極めて不安定な状態になっている。
我らがそこに乗り込んでいけば、世界の崩壊を促進させることになりかねん」
キリー「バケツ一杯に溜めた水に、石を投げ込むようなもんか」
皆の顔に、落胆の色が広がる。
ゲペルニッチ「…………お前たちの話を聞いていたが……
お前たちがハイリビードと呼ぶ、創造の力の結晶。それは今、お前たちの手の届かぬ場所にあるのだな」
ヴィレッタ「ええ。次元の狭間にあるという、アルテミスの要塞に隠されているはず」
ライ「だが、俺達に次元の壁を越える手段はない。加えて、アルテミスの要塞が、何処にあるのかも分からない」
ムスカ「奴らの一味をとっ捕まえて吐かせることも考えたが……あんたらの話しぶりからすると、そんな余裕はなさそうだな……」
ゲペルニッチ「……見つけることが出来るやも知れぬ」
悠騎「何だって!?」
ゲペルニッチ「我ら自身は、狭間に入る事は出来ぬ。
だが、ハイリビードの位置を念で突き止め、そこに至る道を開き、維持することならば可能だ」
マックス「本当か!!」
ゲペルニッチ「時間を要する。ガビル、力を貸せ」
ガビル『分かりました! ゲペルニッチ様!!』
皆の顔に、希望の灯が点った。ハイリビードを奪われ、未来は絶望に閉ざされていた。
しかし、プロトデビルンと和解したことで、その壁は穿たれ、一条の光明が差し込んだ。
仮に武力でプロトデビルンを抹殺できたとしても、この結果は得られなかった。
歌が起こした奇跡は、人類の未来をつなごうとしている。
ゲペルニッチ「ハイリビードを見つけるまで、我らはこの地に留まる。シビル、お前は人間達と共に行け」
シビル「ゲペルニッチ……」
ゲペルニッチ「“道”を開いても、狭間の中は玄妙に入り組んでいる。お前という案内人が必要だ」
シビル「分かった!」
シビルは快く頷いた。使命云々よりも、バサラと共にいられるのが嬉しいのだろう。
444
:
はばたき
:2010/11/09(火) 21:57:50 HOST:zaq3d2e4534.zaq.ne.jp
=コスモ・アーク=
タラップを歩く音が響く。
誰もいない場所、誰にも触れられない場所を目指して彼は―――碇シンジは歩いた。
オペレーション・スターゲイザーの結末、それは誰もが予想し得なかったプロトデビルンとの和解という、奇跡に奇跡を塗り重ねたかのような希望溢れるものとなった。
今も艦内は、その勝利に沸き立つ熱気が溢れている。
だからだろうか・・・・
こうして人気を忍ぶのは。
シンジ(・・・・・・カヲル君)
じっ、と掌を見る。
奇跡の勝利を生んだのは、彼がその手で殺めた友人が愛したモノ、歌。
無我夢中で我を忘れた戦場ではまだ耐えられた。
しかし、終わってみれば、あの時思い出さされた気の狂いそうになる気持ちが、嘔吐感にも似た感覚で蘇ってくる。
気持ちが悪い。
とても皆のように勝利の美酒に酔って等いられない。
歩く足は自然と速まり、人気の無い方向へ。
シンジ「あ・・・・」
俯き加減で歩いていた足が止まる。
誰もいないと思っていた空間には先客がいた。
エレ「・・・・・・・」
同じように、癒えぬ傷を持つ者が・・・・
第46話「まごころをキミに」
エレ「・・・・・・・」
シンジ「・・・・・・」
誰もいない格納庫。
艦内の喧騒も聞こえぬ空間で、二人は何を話すでもなくじっと佇んでいた。
お互いに話す事は無い。
いや、話せる言葉がないと言ったほうが適切か。
直ぐ隣にいながらひどく遠い。
そんな距離感に置かれた沈黙を先に破ったのはシンジの方だった。
シンジ「・・・・初めてだったんだ。あんなに人に優しくされたの」
語るのは、もう何処にもいない友達の話。
人を避けながらも、心のどこかでは誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
自己否定にも似た罪の吐露。
淡々とした調子で、それを紡ぐ。
シンジ「生き残るなら、カヲル君の方だったんだ。だって・・・・」
エレ「それは違う」
言葉を遮られたのは突然だった。
それまで自分の話など聞いてもいないだろうと思っていた相手のはっきりとした声に、思わず言葉を切る。
エレ「生き残るのは、生きる意志を持ったものだけ。世界は生きていこうとするものだけもの。死者は現世に関わるべきじゃない」
声だけではない。
強い意志を感じさせる瞳がシンジを射抜いていた。
それまでの様子から一変した空気に、思わず呑まれかける。
だが・・・・
シンジ「あ、あなたに何が解るって言うんだ!!」
口を突いて出たのは怒声。
理性より先に、心が叫んでいた。
死者と。
友達だと思った相手を、「同じではない」と断じられた事に・・・
445
:
はばたき
:2010/11/09(火) 22:04:23 HOST:zaq3d2e4534.zaq.ne.jp
シンジ「・・・・っ!?」
はっ、と我に返る。
エレ「・・・・・」
目の前にあるのは、先ほどまでの強い瞳ではない。
怯えたような、自分が何を言われたのかも解っていないような小さな少女の姿だった。
シンジ「あの・・・その・・・・」
エレ「・・・・・そっか。”また”私じゃなかったんだ・・・」
口ごもるシンジの前で、エレは遠くを見るような瞳で呟いた。
エレ「消えてく・・・”私”が消えていくよぉ・・・・・」
ぺたり、と糸の切れた人形のようにその場にへたり込む。
その様子に、シンジは何も言えず・・・
シンジ「・・・・っ!」
踵を返して駆け出した。
解っていた。
彼女がどんな状態であるかなど、とうの昔に聞かされていたのに。
それをまるで当り散らすような・・・・
シンジ(最低だ・・・)
§
格納庫のタラップの上。
そこで泣き崩れる少女を見つけた時、レイリーはどう声を掛けるべきかと悩んだ。
忘れていたわけではない。
寧ろまた部屋を抜け出したという話を聞いて不安に思っていた所だ。
だから、そこで彼女を見つけた時、嗜めるのもあやすのも躊躇った。
そこで
§
レイリー「〜〜〜♪〜〜♪」
湯気の立つドライヤーを片手に、鼻歌が自然と零れる。
先の戦いの影響か、油断していると直ぐに歌いだしてしまいそうになるのはどうしたものか。
苦笑交じりに目の前の美しい金糸のような髪を剥いていく。
タラップでエレを見つけたレイリーがとった行動は、彼女を風呂に放り込む事だった。
掛ける言葉を捜していた彼女の目に、手入れも碌にされていない髪や肌が目に付いたからだ。
抵抗もしないエレを、半ば強引に引っ張って風呂に入れ、綺麗に洗って今は髪の手入れをしているところだ。
レイリー「全く、勿体無い。お嬢は元はいいんだから綺麗にしないと損だよ?」
勿体無い、と繰り返して流れるような金髪を整えてやる。
レイリー「肌もこんなに綺麗でさ。パイロットやってるなんて思えないよ」
笑顔でその白い肌をちょんと突付く。
未だ青白さが抜けていないが、体を温めた事で、張りと艶は戻ってきた顔は、同性が見てもため息が出るほどだ。
レイリー「あたしなんかさ、ほら、肌も髪も油まみれで。お嬢が羨ましいよ」
苦笑しながら自分の手を見るレイリー。
だが、ふとその手に白い指が重ねられた。
エレ「そんなこと・・・ない・・・」
ポツリと呟くような声。
エレ「ちゃんと、綺麗・・・。頑張ってる人の手・・・・」
自分のような紛い物ではない。
そんな声が聞こえた。
446
:
はばたき
:2010/11/09(火) 22:11:46 HOST:zaq3d2e4534.zaq.ne.jp
レイリー「・・・・・」
その一言に、最初驚き、そしてすっ、と目に笑顔を浮かべて、レイリーは静かにエレの体を抱きしめた。
レイリー「お嬢はいい娘だねぇ」
腕の中で小さく震える少女の温もりを、愛しく感じる。
レイリー「ねえ、お嬢。あたしはメカ屋だ。機械にだって心はあるって思ってる」
優しく抱きしめていた腕を放し、正面からエレを見据えて語る。
レイリー「でもね、だからこそ、あたしは人と道具を同列には扱えない」
道具にも心はある。
だが、道具は人の役に立つ為に生まれてくるものだ。
最初から存在理由(レゾンテートル)を与えられて生まれ、それを全うする事が全てだ。
レイリー「道具は、ボロボロになって擦り切れても、その時になって初めて『ありがとう』って言える。でもね、人は違う」
人には存在理由がない。
生まれた時に機能を決められて生まれてくる子供などいない。
それは、キラ達のようなコーディネイターだろうと変らない。
レイリー「だって、生まれた時から何でも出来る人間なんていないでしょ?」
人は、人間は年月を重ねて、少しずつ成長し、その中で自分に出来る事を見つけていく。
少しずつ少しずつ、自分に蓄えられたものから、自分というカタチを決めていく。
勿論、生まれてくる人間に、最初から存在理由を押し付ける者がいるのは知っている。
だが、それでも選ぶのは自分なのだ。
与えられたものから自分を選択していくから、人は存在理由を持たずに生まれてくる。
もし、それを決めるものがあるとすれば、それは・・・
エレ「出会い・・・?」
レイリーの言葉を反芻するように繰り返すエレ。
レイリー「そう。誰かに出会って、誰かから言葉を受けて、人は自分を決めていける」
役割を求めて人があるのではない。
ならば、人の価値とは・・・・
レイリー「だから言えるんだ。『出会ってくれてありがとう』って・・・・」
出会いが人を創るのなら、
その出会いこそが、人の持つ最大の存在理由ではないか?
レイリー「お嬢はさ、あたしや悠騎やアイラの事が嫌い?」
ふるふると小刻みに首を振るエレ。
レイリー「皆と出会ったのは嫌な事だった?」
再び、首を横に振る。
レイリー「皆同じだよ。お嬢に出会えて、皆良かったって思ってる」
エレ「あ・・・・」
何もいえず、涙を浮かべる少女を再び抱きしめてやる。
レイリー「大丈夫。お嬢はここにいていいんだ」
ぽんぽんと、優しく頭を叩きながら、レイリーはエレが落ち着くまでそうして抱きしめてやった。
§
アイラ「・・・・・・・」
部屋の外、扉に体を預けるようにして黒の制服姿があった。
中の声は嫌でも聞こえてくる。
暫し、そうして沈黙を保っていたアイラだったが、やがて扉を開かずにその場を後にする。
アイラ「・・・・チッ」
447
:
はばたき
:2010/11/09(火) 22:51:30 HOST:zaq3d2e4534.zaq.ne.jp
※No.444の”第46話「まごころをキミに」”は、第47話の間違いでした。
失礼致しました
448
:
蒼ウサギ
:2010/11/16(火) 23:05:55 HOST:i114-189-100-83.s10.a033.ap.plala.or.jp
=NERV=
先の最後の戦い以来、第三新東京市は復興作業中だ。
使徒―――渚カヲルの影響は少ないが、ドロクロワやマザーグースの戦闘が街中に大きな被害をもたらしたのだ。
冬月「あの少年が本当に最後のシ者だったのか?」
碇「あぁ、老人達が持つ死海文書によれば、の話だがな」
冬月「なるほど。どこまで真実かはわからんということか」
冬月に小さなため息が零れた。
その瞬間、テーブルの通話機が鳴り響いた。
碇がそれを無言で受け取る。
碇「……私です」
敬語を使ったのは相手が誰だか知っているからだろう。
十数秒とかからないうちにその会話は終わった。
冬月「ゼーレか?」
碇「あぁ。招集だそうだ」
冬月「約束の時か、彼らにとっての」
§
マヤ「本部施設の出入りが全面禁止?」
司令室でその知らせを聞いたマヤが驚きの声を上げる。それに続いたのが日向だ。
日向「第一種警戒態勢のままか?」
マヤ「何故? 最後の使徒だったんでしょ? あの少年が……」
ふと、ここに訪れた時の渚カヲルの顔を思い出しながらマヤの表情が暗くなる。
それに気遣う様に声を潜めながら答えたのが青葉だった。
青葉「ああ……全ての使徒は消えたはずだ。葛城さんからもプロトデビルンと和解したとの報告も受けている。けど……」
マヤ「あ……まだ他の戦いは終わってないから?」
日向「しかし、実質NERVに敵対する勢力はいなくなったんじゃないのか?」
青葉「NERVは組織解体されると思う。オレ達がどうなるのかは…見当もつかないな」
日向「じゃあ、補完計画が始まるまで自分たちで粘るしかないのか……」
449
:
蒼ウサギ
:2010/11/16(火) 23:07:10 HOST:i114-189-100-83.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コスモ・アーク=
トウヤ「そうか…アイくんはずっとこの艦長席で僕の代わりに指揮を執ってくれていたんだね」
懐かしむようにその座席を撫でるトウヤ。傍らにいるアイが少し照れているように俯いた。
アイ「あの、艦長……もう、お身体の具合は大丈夫ですか?」
トウヤ「うん、問題ないよ。レインさんやテクスさんには作戦に参加ならもう少しリハビリを続けてからにしろ、って言われてるけど…。
多分、現状がそれを許さないと思うんだ」
プロトデビルンと和解したとはいえまだまだ敵はいる。
一分一秒でも、前線に出たいというのがトウヤの本音であろう。
アイ「でも、私は艦長にもっと身体を大事にしてもらいたんです」
トウヤ「……巽さんやエッジくん、色んな犠牲者が出てしまった」
アイ「!」
トウヤ「余裕なんてしてられないよ」
並々ならぬ決意と闘志が伝わってくるそんな最中、ブリッジのドアが開く。
入ってきたのは星倉由佳だ。
由佳「失礼します。紫藤先輩」
敬礼はするものの、口調は硬くなく親しみが込めれている。
G・K隊とはプレイベートでは、よほど立場が離れてない限りこのような感じだ。
トウヤ「や、由佳くん。わざわざ来てくれてありがとう」
由佳「いえいえ。……プロトデビルンとは和解できたとはいえ、これからのことを考えると、やっぱりアイちゃん…いえ、四之宮代理艦長にも知っておいて
貰いたいですから」
トウヤ「そうだね」
会話の内容は理解できないものの、大事なことのように感じ自然とアイの表情が険しくなる。
アイ「……一体、なんですか?」
アイが切りだすと、トウヤは黙って艦長席の背もたれに隠されているカバーを開けた。
そこにあるのは1〜10までの数字があるボタンと実行ボタン。
いわゆるパスコード入力機である。
トウヤ「アイくん。今から押す数字をよく覚えていてね」
アイ「え? あ、はい!」
言うなりトウヤは素早い動作で31桁の数字を入力する。
一瞬でも瞬きしようものならその数字をすぐに忘れてしまいそうな規則性のない列数だ。
思わずアイも固まってしまう。
トウヤ「覚えれた?」
アイ「な、なんとか……」
トウヤ「さすがだね。僕なんか一週間は掛かったよ」
ぼやきながら実行ボタンを押すと、パスコード機が開き“鍵”が現れた。
トウヤ「これが、コスモ・フリューゲルとコスモ・アークを繋げる僕らの“切り札”だよ」
アイ「……」
その“鍵”をアイはまじまじと見つめた。
450
:
藍三郎
:2010/11/21(日) 20:45:55 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
そこは、古代エジプトの神殿のようであった。
かがり火が炊かれ、壁や、床と天井を支える円柱には、象形文字(ヒエログリフ)が描かれている。
内部の壁は上に向かって大きく傾いており、天井の頂点で一つに交わるようになっている。この室内は、巨大な四角錐の内側なのだ。
その中心部にして、最も天井に近い場所に、黄金の棺が横たわっていた。
四方を燭台で囲まれており、さながら祭壇を思わせる。古代エジプトの王(ファラオ)の姿を模した形状の棺は、周囲の炎の光を浴びて、皓々と輝いている。
その棺の蓋が、ゆっくりと開き、中から人影が直立する。
黒い髪を無造作に肩まで伸ばし、褐色の肌をした長身の男。男は、身に一糸まとわぬ全裸だった。
「朕(われ)の午睡を妨げしあの歌声は何ぞ」
伸びた前髪の下で、男は眉を顰(ひそ)める。
「実に猩々(しょうじょう)しき、下賤で耳障りな声なりや。不快この上無き」
男はそう言って、棺から足を出す。
「蛇神が落ち、一つ目もまた落ちたか。細やかな遊興であったが、中々愉しませてくれるのことよ。
されども、既に砂は零れ落ち。黄昏までの時、僅かなりや。
今しばし観劇に酔い痴れたきが、劇終(おわり)ぐらいは朕自ら舞台に上がるも悪く無き」
男は両手を水平に広げる。すると、周囲から白い布や金色に輝く物体が、次々に飛来する。男は、手も足も使うことなく、直立不動のままだった。
しかし、それらの衣服や装飾品は総てひとりでに動き、男の体に纏わりついていく。
あっという間に、クリーム色のスーツを着た紳士が、祭壇の上に立っていた。
長く伸びていた髪は、後ろに撫でつけられ、その面貌が露わになる。額には赤いほくろが見える。
吊り上った大きな三白眼の目の下には、紅い隈取りがされており、整った顔立ちと合わせて、古代エジプトの王(ファラオ)を思わせた。
クリーム色のスーツに、黄金の刺繍でヒエログリフの刻まれた黒いネクタイ。
十の指には総て、スカラベやウジャト眼などを象った黄金の指輪が嵌められており、耳や顎にも金の輪が附属していた。
ウジャト眼の装飾の付いた、服と同色のシルクハットを受け取ると、今度は自分の手で頭に被る。
同じく何処からか飛んできた冥府神(アヌビス)の杖を手に取り、杖で小突きながら、階段をゆっくりと降りていく。
=南極=
マックス「やはりバトル7は、しばらくの間動かせないか」
エキセドル「あれだけ無茶をしたのです。全壊しなかったことが奇跡かと」
現在、バトル7の各所では他の戦艦からもスタッフをかき集めて、修理が行われている。それでも、また飛べるようになるには長い時間を要するだろう。
美穂「他の戦艦や機体も、損傷が激しいものが多いようで……」
ロミナ『ガメランも、エルシャンクの修理にはしばし時間がかかると』
ルリ『ナデシコCも同様です』
マックス「うむ。そこでだ。ミスマル提督とも話をしてみたのだが、
ゲペルニッチが<アルテミス>の本拠地を見つけ、そこに繋がるゲートを開くまで、我々はこの場に留まり、修理に専念しようと思う」
由佳『わかりました。私たちとしても、<アルテミス>との戦いには万全の態勢で臨みたいですし……』
マックス「いつ見つかるのか分からないが、バトル7は、どの道間に合いそうもない。
プロトデビルンの脅威が去ったとはいえ、まだネオバディムは健在だ。総ての戦力を割くことは出来ない。
申し訳ないが、アルテミスとの戦いは、G・K隊(きみたち)に任せることになりそうだ」
由佳『それは、元よりそのつもりでした。皆も、同じ気持ちでしょう』
由佳の声には緊張が混じっていた。アルテミスは、G・K隊をこの世界に連れてきた、因縁の相手だ。
紆余曲折はあったが、彼女らはずっと元の世界に帰る方法を求めて、戦い続けてきた。
その終着点こそがアルテミスならば、迫る決戦に心が昂ぶらぬはずがない。
451
:
藍三郎
:2010/11/21(日) 20:56:43 HOST:159.7.183.58.megaegg.ne.jp
ハーリー『それにしても、プロトデビルンと和解した、なんて言ったら、提督、驚かれたでしょうね』
マックス「ああ、俄かには信じがたい様子だった」
サブロウタ『ま、俺らだってまだ呑み込めているとは言い難いもんな』
時が経って冷静になるにつれ、統合軍艦隊を壊滅寸前まで追いやったプロトデビルンと和解したという事実が、あまりに途方も無いことに思えて、現実感が無くなってくるのだ。
彼らとの戦いで、数多くの犠牲が出たことも忘れてはならない。
しかし、納得しようとしまいと、これからやるべきことは幾らでもある。
胸のしこりを払拭できぬまま、皆忙しさに身を任せていた。
もっとも、熱気バサラたちはそんな悩みとは無縁だろう。彼らは今、ゲペルニッチを応援するように、彼らの前で歌っている。
気が散るかと思ったが、ゲペルニッチによれば、ゲートを開くための力を溜める補助になることらしい。
マックス「それでも、我々の無事と勝利を喜んでくれたよ。ただ、どうも向こうもかなり慌ただしいことになっているようだが……」
美穂「艦長、葛城三佐から通信です」
葛城ミサトの顔がモニターに映し出される。
ミサト『マクシミリアン艦長、バトル7艦隊は、次の作戦までここに留まるそうですが……
それなら、私とシンジ君と初号機だけでも、NERVに帰還しても構いませんか?
今回の件について報告し、今後の対応について上層部と協議したいと思っています』
マックス「そうだな。元より我々に君たちを引き留める権限はない。
それに、次の作戦はNERVの任務からは大きく逸脱したものだからな」
ミサト『はい……』
本来は、使徒の撃退がNERVの目的だ。
最後の使徒を撃破したとはいえ、今ここにいること自体、特例中の特例なのだ。
それに、今回の戦いであまりに多くのことが明らかになった。NERVとしても、対策と協議が必要だろう。
統合軍の輸送艇に乗り、NERVの人員とEVA初号機は第三新東京市へと帰還していった。
=???=
ゼーレの中枢で、モノリス達が会議をしている。
だが、老人たちの声には、驚きと戸惑いが混じっていた。
「どういうことだ?」
「プロトデビルンと和解した……だと?」
「このような流れは、シナリオに記されていない」
「そうだ。50万年前と同じように、アニマスピリチアの力は、プロトデビルンを封印するはずだった」
「そう、そのために、我々は密かに彼らを支援してきたのだ」
「最大の不確定要素を取り除いた後に、人類補完計画を実行する」
「計画は、何ら滞りなく完結するはずだった」
「アニマスピリチアは完全に覚醒したのではなかったのか?」
「フィフスめ、我々を謀ったのか?」
キール「うろたえるな」
その中で、議長役のキール・ローレンツは、深く、威圧感のある声で、委員たちを黙らせた。
キール「確かに、この最終局面において、シナリオにずれが出たのは極めて憂慮すべき事態と言えるだろう。
だが、ここまで来れば修正に費やす時間は無い。
元よりあれは時空の特異点、境界の結び目だ。我らの思惑で制御すること自体、無謀であった」
委員達は黙って議長の言葉に耳を傾ける。
キール「それに、アニマスピリチアの力によって、プロトデビルンの暴走が静まったのも事実……
これは、封印と同じことが起こったと解釈することもできよう。
案ずるな。一度補完が始まれば、もはや彼らの力を持ってしても止めることはできぬ」
総ての手は打った。根回しも完璧だ。
長い時を掛けた計画が、いよいよ成就に向けて、加速を始めようとしている。
452
:
蒼ウサギ
:2010/12/06(月) 00:28:52 HOST:i114-189-92-109.s10.a033.ap.plala.or.jp
その後、呼び出しておいた男達がこの場に訪れた。
碇ゲンドウと冬月ゴウゾウである。
キール「きたか」
ゲンドウ「お待たせしました」
真っ暗闇の部屋を二人はゆっくりと歩み寄る。
キール「約束の時だ。唯一、リリスの分身たるEVA初号機による遂行を願うぞ」
ゲンドウ「死海文書のシナリオとは違うようですが?」
委員A「君のシナリオでは本当の人類補完計画は成就できない」
委員B「左様。我らは人の形を捨ててまで、エヴァという名の方舟に乗ることはない」
冬月「ヒトはEVAを生み出すためにその存在があったのです」
ゲンドウ「人は新たな世界へと進むべきなのです。そのためのEVAシリーズです」
毅然と反論する二人にゼーレの委員達は冷徹に徹する。
委員C「これはこの世界を救う最終手段なのだ。行き詰った世界そのもののあり方を変質させるためにも」
委員A「世界も神もヒトも全ての生命は死と新生をもってやがて一つになるために」
ゲンドウ「死は何も生みませんよ」
悲しげに呟くゲンドウにキールが冷酷に「死は君達に与えよう」と告げて、消えた。
残された暗闇の中でふと冬月はかつてゲンドウの妻の言葉を思い出す。
冬月「人は生きていこうとするところにその存在がある。それが自らEVAに残った彼女の願いだからな」
§
=コスモ・フリューゲル=
由佳は、改めて自分の艦長席のシートから取り出した鍵を見つめながら思いふけっていた。
由佳「G・K決戦用強襲艦コスモ・ストライカーズ……か」
見た目よりずっしりと重く感じるその鍵はコスモ・フリューゲルとコスモ・アークを繋げる。
つまり合体できる鍵なのだ。
由佳(本当は参番艦まで必要だけど……それでもアークが中心となるからフリューゲルとだけでも合体できるわけね。
改めてスペックノート見せてもらったけど、参番艦なくて60%出力までか……それでも大したものよね、これ)
事実上、コスモ・フリューゲルとコスモ・アークに搭載されている兵装は使える上、両艦の主砲を合わせたような超強力な主砲を備えている。
さすが決戦用と謳われることだけはあるが、これだけでも明らかにオーバースペックと感じる。
由佳はもちろん、トウヤもこの両艦が合体した姿を見たことがない。
というより、G・K隊の歴史上、これが表沙汰になったことがないのだ。
由佳(まぁ、コスモ級艦長……しかも、フリューゲルとアークの艦長にしか知らされてない事実だしね〜。
あと知ってるとしたらお父さんと造った天神博士かなぁ。どちらにせよ、これを見せるときになったらみんなにどう説明したらいいやら)
特に自分の兄については色々と突っ込まれそうで今から頭が痛い。
せめてこれを使わない日がこないことを祈るだけしか今はできない。
だが、トウヤの言った通りあの<アルテミス>を始め、他の勢力を前にそれを言っていられるだろうか……。
由佳「出し惜しみしている時じゃない…かもね」
その目にはどこか覚悟が秘められていた。
453
:
はばたき
:2010/12/07(火) 22:15:16 HOST:zaqd37c92cc.zaq.ne.jp
=第三新東京市 郊外=
静かだった森がざわめき立つ。
まるでこれから起こる事を予測していたかのように、鳥達が一斉に飛び立っていく。
来たか。
瞑目するように閉じていた瞳を開き、空の彼方を見やる。
そこには尾を引いて飛ぶ、統合軍の、否、その思惑を外れた者達に踊らされた姿があった。
§
統合軍兵A「目標地点へ到達。ABC班共に配置につきました」
統合軍仕官「よし、本艦はここで待機。これより作戦行動に移る」
眼下に見下ろすのは第三新東京市。
この国における、統合軍の要の都市の一つ・・・であるはずだ。
だが、今その街を包囲しているのは同じ統合政府傘下の軍。
彼らとて、上がどのような意図の下で下した命令かなど理解はしていない。
ただ愚直に、”NERV本部への殲滅作戦を行う”という指令を守っているだけだ。
元より、独自の思惑と権限で動くNERVを快く思わないものは統合軍には多い。
故に、一部のものにとっては、痛快な意匠返しでもあった。
統合軍兵B「ブラボーよりアルファ。これより降下作戦に入・・・」
先陣を切っていたバルキリーが翼を翻そうとしたその時、ふいにその機体が大きく揺れた。
§
統合軍仕官「何事だ!?」
突然途絶えた通信。
そして目の前で起こった出来事に、艦長席に座った士官が吼える。
今正に、NERV本部へ急降下爆撃に入ろうとしバルキリーの一機が、森から伸びた”何か”に掴まって地面に叩き伏せられたのだ。
統合軍兵C「四時の方向にに熱源!識別・・・・が、ガンダムです!」
上ずったオペレーターの声に、「バカな」と漏らす艦長。
統合軍に参加しているガンダムは、マクロス船団と共にオペレーション・スターゲイザーの為に南極にいるはずだ。
しかし、彼らの眼前には、事実として濃緑に染められた一機のガンダムが姿を見せている。
五飛「統合軍に正義があるのか、今の俺には解らない・・・」
落ち着いた声音で口を開くアルトロンガンダムことナタクのパイロット、張五飛。
G・K隊がトレーズと合流して以降、彼との確執を切れない五飛は、一人部隊を離れて行動していた。
ギャンドラーとの決戦、オペレーション・スターゲイザーでのプロトデビルンとの和解。
遠巻きにその行動を見てきた彼の心にも、それらの成果は響いた。
故に、独自の行動を取っていた今この時、彼にしか出来ない事を続けてきたのだ。
五飛「貴様らの計画の是非などは理解できん。だが味方を欺き、抵抗できぬ相手を嬲る貴様らは少なくとも悪だ!」
頭上に掲げた双刃のビームトライデントを構えて見得を切るガンダムナタク。
その勢いに載せて、一気呵成に第三新東京市へ迫る統合軍達へ切り込んでいく。
§
454
:
はばたき
:2010/12/07(火) 22:19:27 HOST:zaqd37c92cc.zaq.ne.jp
ユーゼス「随分と派手にやったものだな」
半壊したネオバディムの前線基地を睥睨しながら、ユーゼスは特に感慨も無く呟いた。
ルシア「なにせ、例のシステムを発動していたもので。単機でアレを止められる機体はネオバディムにもそう多くはありますまい」
随伴するルシアも至って悪びれた様子も無い。
この惨状の主は、統合軍でもアルテミスでもない。
内部から為されたものだ。
ユーゼス「例のシステムが発動したといったな?アレはそうやすやすと発動しないと貴様の報告書にはあったが?」
ルシア「耳の痛い話ですが・・・私も全容を把握しているわけではありませんので。ただ・・・」
ルシアが調べた所によると、例のシステムは特定の感情に起因して反応する遺伝子に関連があると言う事。
そして、その保持者が、一時的に感覚神経を発達させ、超人的な反射、認識力を得る場合があると言う事。
ルシア「ただし、彼の場合は因子が不足しているらしく、一種のトランス状態。つまり精神状態をシステム同調しやすいように無理に感覚の拡張を行うよう調整が施されているようです」
言ってみれば精神の強制的な暴走だ。
そして、それだけの事をすれば自ずとバックファイアは体に起こる。
ルシア「興奮による安定性の低下、判断力の劣化など、まあ色々と不都合な点はあるのですが・・・」
ユーゼス「過程は問題ではない。問題はアレが今後どう行動するかという事だ」
もし、まかり間違って今回のように此方に牙を剥くような事があれば・・・。
ルシア「ご心配には及びません。彼の行動は見当がつきます。恐らく今頃は極東の方でしょう」
あの地では、以前強力な破壊活動があった。
その破壊願望に刺激されたというのが、ルシアの見解だ。
ルシア(或いは・・・<鍵>同士が惹き合ったのかもかもしれませんね・・・)
§
その名の如く荒ぶる龍の化身の如く、悉く統合軍の機体を撃破していく五飛。
統合軍仕官「ええい、たった一機に何を手間取っている!」
統合軍兵C「新たな熱源接近!こ、この速度は!?」
苛立った声を上げる仕官の脇で、驚愕の声を上げるオペレーター。
そして・・・
五飛「っ!?」
突如、落雷のような勢いで、第三新東京市の中心に突撃する影が一つ。
煙の向こうで起き上がる影の中、紫の瞳を輝かせる獣が吼えた。
ナシュトール「どこだ・・・・紫藤おおおおおぉぉぉぉぉぉぃっ!!!」
455
:
藍三郎
:2010/12/07(火) 23:47:09 HOST:124.28.183.58.megaegg.ne.jp
彼らは、それこそを唯一の救済と信じた。
貧困、暴力、略奪、犯罪、テロ、戦争。人類が直面してきた艱難辛苦の数々。
その元凶は、究極的には“他者の存在”に集約される。
他者がいるから、限られた資源を奪い合わねばならない。
考え方の異なる他者がいるから、思想に軋轢が生じ、争いへと発展する。
能力の差がある他者がいるから、妬みや驕りが生まれ、反逆と弾圧へと繋がる。
そのような大仰なものでなくとも、ただ他者と接するだけで生まれる不安や恐怖。
自分は悪く思われているかもしれない。彼は自分を裏切るつもりなのかもしれない。
そんな恐れから、完全に逃れることは叶わない。
誰もが、他者の心の内を見通すことなどできないのだから。
皆が社会という無数の他者の中に放り込まれ、大小の不安を抱えて生きている。
それは、人が人として生きる上で必ず背負わなければならない業(カルマ)だ。
ままならぬ他者の存在が、苦しみや悩み、憎しみや争いを生み出す。
彼らは、そんな苦しみが取り除かれた世界を目指そうとした。
“他者”の存在しない世界こそが、世界の理想のカタチであると信じた。
その理想へと続く道標は、死の海より掘り起こされた予言に記されていた。彼らは予言に従い、歴史の裏で暗躍し、直接間接問わずあらゆる手段を用いて、人類の歴史をコントロールしてきた。
総ての人類を、完全なる一つの生命に統合するために。
遠大なる計画は、ついに結実の時を迎えようとしている。
=NERV=
日向「思わぬ援軍が来ましたね」
冬月「これでEVA起動までの時間が稼げるな」
それでも、NERV一同の表情は暗い。
ついに統合軍による、NERV本部への直接攻撃が始まった。殲滅
指示を下したのはNERVの上位組織であるゼーレ。自分たちは切り捨てられたのだ。
冬月「奴らの目標は本部施設及びEVAの直接占拠だな」
ゲンドウ「ああ……リリス、そしてアダムさえ我らにある」
冬月「老人達が焦るわけだ」
逆に言えば、それ以外は何が失われようと構わないということだ。施設も、それに関わった人間も。口封じも兼ねて、総てを闇に葬るつもりだ。
冬月「MAGIへのハッキング攻撃は?」
現在、NERVの中枢コンピューターであるMAGIは、
世界の五か所にある別のMAGIから、ハッキング攻撃を受けていた。
マヤ「赤木博士がMAGIのプロテクト作業に入っています。何とか間に合いそうです」
日向「しかし、外部への通信回線の大半をやられました。これでは、南極のバトル7に救援信号を発することもできません」
マクロス7船団は、統合軍内でもゼーレの思惑から離れて動く数少ない部隊だ。
敵も、こちらが彼らに頼ることを読んで、真っ先に通信回線を破壊してきた。
冬月「それでも、MAGIの占拠は本部のそれと同義……少なくとも抵抗は許されるらしい」
あくまで、“抵抗”だ。予期せぬ援軍はあったが、あのゼーレが本気になった以上、その戦いは絶望的なものとなるだろう。
456
:
藍三郎
:2010/12/07(火) 23:48:09 HOST:124.28.183.58.megaegg.ne.jp
ハザード「第一波が全滅だと?」
アルトロンガンダムによって壊滅させられた部隊は、ほんの一部に過ぎない。
既に第三新東京市には、一個師団に相当する統合軍の本隊が迫っていた。
その旗艦である、ファミール艦の艦長席に座っているのは、この場にいてはならないはずの男だった。
ハザード「どうやら奴らは大人しく降伏する気は無いようだ。よかろう、ならば存分に叩き潰してやるまでだ!」
この、赤い肌をした背の低い中年の男は、かつて火星開拓基地の長官だった、ハザード・パシャだった。
統合軍政府に不満を持っていた彼はグラドスとザ・ブームの侵攻に際し、異星人に寝返って火星開拓基地を明け渡した。
その後、統合軍による火星奪還作戦にて、ザ・ブーム軍は撃退され、火星開拓基地は陥落。彼も統合軍に拘束された。
異星人への協力と、火星住民への圧政によって、極刑を待つ身であったが、
つい数日前、ゼーレの手引きによって釈放され、こうしてNERV攻略戦の指揮を執っている。
ハザード「この作戦に成功すれば、わしには宇宙統合軍総司令官の椅子が約束されている。
とはいえこれだけの戦力があれば、基地の一つ落とすぐらい容易いことよ。ふふふふ……」
周囲には、VF−11サンダーボルトに地球製SPTドール、
更に、ザ・ブーム軍や火星の後継者が使用していたメカも展開している。
この部隊には、ハザード同様統合軍に捕縛された罪人たちも含まれている。
彼らはゼーレのちらつかせた特赦に惹かれ、この作戦に参加したのだ。
ハザード「わしが統合軍の頂点に立った暁には、わしを見下し、火星へ左遷した奴らを、まとめて足蹴にしてやるわ!!
いや、その前にジョウ・マヤ! 貴様を真っ先に処刑してくれる!!」
ハザードは開拓基地陥落の日、ジョウによって散々殴られたため、彼に深い恨みを抱いていた。
ハザード「裏切り者のイルボラにドッグ! 貴様らも同罪だ!
わしに楯突いた奴らは、皆殺しにしてやる! ふはははははは……」
地獄から一転して、栄光に手が届く場所まで来たハザードの頭に、この作戦の意味は何なのか、考える余地などあるはずがなかった。
457
:
蒼ウサギ
:2010/12/19(日) 22:48:27 HOST:i114-189-90-73.s10.a033.ap.plala.or.jp
ナシュトールの頭には紫藤トウヤとの確執しかない。
故に、それを拒む者。邪魔する存在は破壊の対象であり、そこに組織の利害など関係なかった。
ナシュトール「うおあぁぁぁぁぁああああ!!」
獣のように吼えて統合軍の機体を次々に撃破していく。
本能的ともいえるその動きは、冷静に見れば五飛のような達人クラスのパイロットなら隙を見つけることはできるが、
並のパイロットにはほぼ不可能だ。動く前に恐怖と機体を通じて発せられる彼の気迫に圧倒されてしまう。
そして、その牙は今にもハザードが率いるのファミール艦部隊へと向けられようとしていた。
ハザード「なんだアレは」
統合軍兵「元G・K隊所属にして、現代はネオ・バディムに所属にしているナシュトール・スルガという人物です」
淡白に返ってくるオペレーターの報告に、ハザードは眉を潜めた。
解せないという顔だが、次の瞬間にはそれが彼の単独行動ではないかと推測される。
ハザード「もしもネオ・バディムがこの作戦に介入してくるならもっと大体的な部隊でくるはず。
なら、奴はただの首輪が外れた獣。すぐに排除してNERVとらやの本部を武力占拠せよ!」
ハザードの号令と共に部隊の機体が一斉にイスカへと攻撃を開始する。
だが、ハザードの考えはあまりにも甘かった。
ナシュトール「がぁぁぁあぁぁぁ!!」
一薙ぎ。巨大化した剣をたった一薙ぎしただけで多くの機体が空に散っていった。
疑似的とはいえ、機体性能をパイロットの感情や運動能力に呼応して上限なく上昇させてしまう『ハ―メルシステム』が発動している状態。
以前にアイラから知らされたトウヤの状態を知っておきながらも、それすら忘れているくらい今のナシュトールは暴走しているのだ。
ナシュトール「貴様らじゃ力不足だ……紫藤は…紫藤はどこだぁぁぁぁぁああ!!」
その叫びは飢えた獣の叫びだった。
だが、五飛だけは彼とは自分に似たような感情を抱いていた。
五飛「紫藤……紫藤トウヤか」
自分にとってのそれがトレーズならば、ナシュトールはトウヤなのだろう。
だが、無差別に攻撃をする今の彼は五飛にとって似て非なるものであった。
五飛「ナシュトール・スルガ……お前の正義はどこにある!?」
迫りくる統合軍の機体群と善戦しながら、五飛は呟いた。
§
=NERV本部=
爆発が起きて、本部内が大きく揺れる。
所詮、数の暴力の前には二機の一流機体前でもどうしても「穴」ができてしまう。
冬月「ハッキングと同時に本部への直接攻撃か。連中はなにふり構ってないな」
ため息交じりに呟く冬月の傍らにいつものように司令席にいる碇ゲンドウは冷静を保っていた。
ゲンドウ「状況は?」
マヤ「はい。MAGIへのハッキングが停止しました。Bダナン型防壁を展開。以後、62時間は外部侵攻不可能です。
さすが、赤木博士です!」
だが、こうして現状、直接攻撃が行われている。
冬月「気休めだな」
ゲンドウ「あぁ、老人達は最初から無傷でここを手に入れる気はないようだ。そこまでしてEVAが欲しいらしい」
ともかく本部が占拠されるのは時間の問題だ。
ゲンドウが重い腰を上げる。
ゲンドウ「冬月先生。後は頼みます」
冬月「あぁ、ユイくんによろしくな」
それだけ告げると、ゲンドウは本部のシャフトで降りて行った。
冬月(碇ゲンドウ。……自分の妻と再会するためだけにゼーレや私、そして己の息子さえ利用し、自分の人類補完計画を達成させようとする男)
一瞬、不愉快な顔を見せるものの、冬月の口元はすぐに自嘲へと変わる。
冬月(まぁ、ユイくんに会いたいのは私も同じだから文句は言えんか)
458
:
蒼ウサギ
:2010/12/19(日) 22:50:59 HOST:i114-189-90-73.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
一方その頃。
惣流アスカ・ラングレーはまだ一人部屋に籠りきりだった。
食事もろくに摂ってない。今、何が起きているのかすらわかっていない。
それ以前、彼女自身もうすでに自分が生きているのか、死んでいるのすらも曖昧だ。
虚無感と脱力感が身体全体を蝕んでいるといっていい。
アスカ「……」
そんなアスカの部屋のドアに何日ぶりかの光が差す。
レイ「……」
アスカ「……」
綾波レイが無断で入ったことすら何も反応がない。
そもそも気づいているのかいないのか、それすらも曖昧だ。
レイ「あなたは、それでいいの?」
アスカ「……」
ふと、投げかけられた問いにも反応なし。
まさに生きた屍、という表現が正しい。
レイ「………」
次にかける言葉が見つからず無言を保っていると、ふと声が掛けられる。
碇ゲンドウの声だ。
ゲンドウ「レイ。ここにいたか」
レイ「……」
ゲンドウの顔を一瞥するレイ。以前のように微笑むことはない。
ゲンドウ「約束の時だ」
レイ「……はい」
間を置いてレイは答えると、もう一回アスカの方を見やる。
二人のやり取りの前でも相変わらずの様子だ。
レイ「それじゃ……さよなら」
ぴくり、と初めてアスカが少しの反応見せたが、その時には自動ドアが機械的な音と共に閉じていた。
アスカ「………また、一人になるのね……あたし…」
か細い声でアスカは呟いた。
§
その頃、NERV本部の現状など知る由もないミサト達は、輸送機で第三新東京市へと向かっていた。
しかし、異変には気付いていた。輸送機の通信機で連絡をとろうにも一向に返事がないのだ。
ミサト「おっかしいわね〜。距離的にはもう問題ないはずなんだけど〜」
少し苛立ちながらもキーボードを何度も叩いて交信を試みる。
だが、返ってくる声はない。嫌な予感が過る。
ミサト(使徒はもういないはず……NERVへの不安要素はもうないはずなのに……)
そう思っていた矢先のことだ。ノイズ交じりに交信から返ってくる声が出てきた。
???『・・・つ・・・か?』
ミサト「あ、こちら葛城ミサトです。NERV本部、応答してください」
音声を調節しながらノイズを消しながらマニュアルで交信電波を調節していく。
ノイズは徐々に消え、返ってくる声が鮮明になってきた時、ミサトは改めてこの時、形式めいた言葉遣いを使ったことに後悔した。
加持『お、やっと通じた通じた。よ、久しぶりだな、葛城』
ミサト「……なんであんたが出るのよ!?」
加持『色々、ワケありでね。……それより、シンジくんは元気かい?』
459
:
蒼ウサギ
:2010/12/19(日) 22:51:32 HOST:i114-189-90-73.s10.a033.ap.plala.or.jp
それを訊かれてミサトは言葉に詰まった。
輸送機に乗ってからシンジとは言葉を交わしていない。自分が作業に没頭していたというのもあるが、シンジが塞ぎこもっているという様子が痛々しくて
話しかけづらかったというのが正直なところだ。
加持『その様子だと、そちらもあまりよくないようだな』
ミサト「……そちらも、って言い方が気になるわね」
加持『今、NERV本部が統合軍……正確にはゼーレから攻撃を受けている。狙いはEVAだ』
ミサト「なんですって!?」
何故、彼がそれを知っているのか、この際それはどうでもよかった。
加持『最初はMAGIのハッキング。まぁ、それはリッチャンが阻止したようだけど、今は直接攻撃も行われている』
ミサト「アスカは? レイはどうしているの?」
加持『アスカはあれ以来の戦闘からまだ立ち直っていない。レイについては零号機が未修復状態だ。
戦闘は現在、統合軍からの張 五飛の孤軍奮闘と思わぬネオ・バディムからの乱入者によって乱戦状態だが、どのみち本部占拠は時間の問題だよ』
ミサト「……あなたは、今、どこにいるの?」
加持『それについては企業秘密だ。それと、今から俺なりに調べたデータを君に送る』
ミサト「いきなり何を言い出すのよ、加持くん!?」
突発的なことを言われ混乱するミサトを余所に手元のノートPCにそのデータが送信される。
ミサト「これは……?」
加持『見るか見ないかは君の自由だがきっと必要になるものさ。
……それと勝手で悪いが俺の代わりにスイカの水やりをやってくれると嬉しい。場所はシンジくんが知っている』
ミサト「なによそれ…?」
まるで永遠に逢えないような台詞にミサトは嫌な予感を拭えない。
加持『じゃあな、葛城』
ミサト「ちょっと加持くん――」
ミサトが全てを言う前に通信は加持の方から遮断された。再度交信を求めるものの、以降繋がることはなかった。
ミサト「加持くん……あなたは一体……」
460
:
藍三郎
:2010/12/23(木) 23:15:59 HOST:124.28.183.58.megaegg.ne.jp
=南極=
南極では、ゲペルニッチが次元の扉を開くのを待つ間、統合軍による事後処理が続いていた。
ゲペルニッチの旗艦には、プロトデビルンにスピリチアを吸われ、囚われの身となっていた人間達が大勢おり、皆彼らへの対応に忙殺されていた。
その数は、優に都市一つ分に相当し、とてもマクロス7船団に収容しきれないため、
彼らはそのままゲペルニッチ艦に留め置かれることになった。
これでは、担当する医師の数も足りるはずがないのだが、彼らの症状は総てがスピリチアの不足によるもの。
ファイヤーボンバーの歌を、艦内放送で聞かせることで、彼らは少しずつ虚脱状態から回復していった。
マックス「幸い、プロトデビルンの戦艦の設備は万全だ。いつまでも、というわけにはいかないが、当面の居住地は確保できそうだな」
エキセドル「最終的には、スピリチア・ファーム・プロジェクトとやらのために、ゼントラーディを含めたさらに大勢の人間を集めるつもりだったようですからなぁ。
大きさは十二分に取ってあるのでしょう」
マックス「……改めて、彼らと和解できたことにほっとしているよ」
美穂「艦長、統合軍本部のローニン・サナダ少佐から通信です」
マックス「サナダ少佐が? 繋いでくれたまえ」
モニターの正面に、オレンジ色の髪をした青年の顔が映し出される。彼は、統合軍の士官で、火星開拓基地の前長官で統合軍の重鎮、ケガレ・サナダの息子である。
親の権力とは関係なく大変有能な人物で、ミスマル・コウイチロウ提督の片腕と呼ばれている。
グラドスやギャンドラーの侵攻やプロトデビルンとの決戦でも、各地の軍を取りまとめることに尽力し、
各方面でバトル7やG・K隊が自由に行動できるよう働きかけてくれた。
ローニン『お久しぶりです、マクシミリアン艦長。至急お伝えしたいことがあり、連絡しました。この話は、エルシャンクの方々にも聞いて貰いたいのですが……』
マックス「分かった。エルシャンクに回線を繋いでくれ」
=エルシャンク=
ジョウ「よお、ローニン! 久しぶりだな!」
ローニン『ああ、お前たちの活躍は聞いている。プロトデビルンと和解したと聞いた時は、俺も驚いたよ』
ローニン・サナダはジョウの親友である。
ザ・ブーム軍の侵略時、異星人であるエルシャンクの受け入れに協力してくれたのも彼だ。
ローニン『存分に疲れを癒して欲しい、と言いたいところだが、そうもいかなくなった』
ローニンは、その実直そうな顔に隠しきれぬ不快感を滲ませて、その男の名を告げた。
ローニン『ハザード・パシャが、釈放されたそうだ』
その最悪のニュースに、エルシャンクの一同は驚愕する。
マイク「ハザードが釈放だって!?」
ジョウ「馬鹿な!? あいつが何をやってきたのか、統合軍だって知らないわけがないだろう!」
ジョウは、火星でハザードを捕らえた張本人なのだ。
ローニン『もちろんだ! 奴の裏切りで統合軍がどれだけの血を流したか……
俺も、奴には然るべき報いを受けさせねばならないと思っていた』
レニー「誰なのよ! あんな奴を釈放させちゃったのは!」
ローニン『……分からない。ハザードがいなくなっていることに気付いたのはつい先ほどだが、どうやら数日前には釈放されていたらしい。
統合軍の上層部の命令だそうだが、誰に聞いても、その命令の出所ははっきりしないのだ』
しかし、ローニンの表情を見て、ジョウはある事を察した。
ジョウ「……そうは言うけどよ、もしかして、お前はもう見当がついているんじゃないか?」
親友の指摘に頷くローニン。
461
:
藍三郎
:2010/12/23(木) 23:17:44 HOST:124.28.183.58.megaegg.ne.jp
ローニン『さすがにお前には分かってしまうか。その通りだ。確証は何もないが、“正体が分からない”という一点で、誰が指示を下したのかは想像がつく』
マックス「ゼーレ、か」
ローニン『はい。通常の命令系統を通さず、ハザードを独断で釈放できる者など、彼ら以外に考えられません』
NERVの上位組織であり、太古よりこの世界の権力の中枢にいるとされる秘密結社・ゼーレ。
宇宙統合軍自体が、ゼーレの手によって作られたものという噂さえある。
その噂を実証するかのように、ゼーレは統合軍内部で確たる権力を持ち続けている。
ローニン『……済まない、ジョウ。やはりこれは、ハザードから目を離した俺の責任だ。せっかくお前が奴を捕まえてくれたのに……』
ジョウ「……気にすんな。ギャンドラーやプロトデビルンの戦いで、お前が死ぬほど忙しかったのは分かっているからよ」
エイジ「あの戦いは、人類の存亡がかかっていたのだ。君を責めることは出来ない」
慰めの言葉を聞いても、ローニンの顔の暗雲は晴れなかった。
=バトル7 ブリッジ=
マックス「とにかく、NERVと連絡を取るべきだな。我々の知る限り、ゼーレに繋がるパイプを持っている組織はそこしかない」
ローニン『それは既に試みていますが、先ほどから、NERVと通信が繋がりません』
マックス「何だと?」
自分でも確かめようと、オペレーター達に指示を出す。しかし、結果はやはり音信不通のままだった。
ローニン『おかしいことはもう一つあります。またも出所不明の命令で、第三新東京市周辺の統合軍が、一斉に引き上げているのです。
一応、南極のプロトデビルン戦への援護のためだそうですが……』
マックス「あの渚カヲルという少年が、最後の使徒だとすれば、もうNERVが襲撃を受ける心配はない。
ならばその戦力を別の任務に割く……分からなくはない判断であるが……」
相手がゼーレということもあり、不信感ばかりが募っていく。
その時だった。正面のモニターに、突如真っ黒な画面が映し出される。画面には赤い文字で『01 SOUND ONLY』と書かれていた。
サリー「艦長! 何者かが、通信回線に割り込んできました!」
マックス「馬鹿な! これは統合軍の秘匿通信回線だぞ!?」
そんなことが出来るのは、同じ統合軍の、さらに上層にいる者たちに限られる。その答えは、すぐに明らかとなった。
『初めまして、マクロス7艦長、マクシミリアン・ジーナス殿。ならびにローニン・サナダ少佐。
私は、君たちが先ほど話していた、ゼーレの人間だ』
マックス「!!」
ローニン『!!』
男か女か分からぬ合成音声で発せられた自己紹介に、二人とも、驚愕で顔を固めている。ゼーレから接触を受けたのはこれが初めてのことだったからだ。
ゼーレを名乗った人物は、そんな彼らの驚愕をよそに、一方的に話し出す。
『さて、諸君らには聞きたいことが山のようにあるだろうが、我々はそれを聞くつもりも無ければ答えるつもりも無い。さっそく要件に入らせてもらおう。
おって全軍に正式な命令が下るであろうが、まずは諸君らに命じる。
今後、第三新東京市のNERV本部に接触することを禁ずる。全ての統合軍は現在位置で待機せよ』
ゼーレの人間は、高圧的な口調で一気にまくしたてた。
先ほど通信に割り込んできたタイミングといい、彼らはNERVに近づくなと警告している。
これでは、NERVで何かが起こっていると白状しているようなものである
マックス「……理由をお聞かせ願えますか?」
462
:
藍三郎
:2010/12/23(木) 23:25:11 HOST:124.28.183.58.megaegg.ne.jp
『NERVは本日付けで、統合軍政府からの離反を表明した。
我々の調査で、NERV総司令碇ゲンドウは、統合軍に対しクーデターを画策していることが判明している。
動機は、使徒の全滅で、役目を終えたNERVが解体されることへの反感だろう。
NERVはエヴァンゲリオンという、対使徒戦を想定した、危険な兵器を所有している。
放置しておけば、使徒災害の再来になりかねん。我々は直ちにNERVを殲滅し、碇のクーデターを未然に防ぐ。
これは、地球圏の平和を守る統合軍の果たすべき正義だ。妨害することは許されない』
正義という響きが、この上なく胡散臭く聞こえる。当人も本気で言っているわけではあるまい。
しかし、NERVは統合政府の中でも独立性の強い組織で、内部の情報を徹底的に遮断してきた。故に、軍内でもNERVを不審の目で見る者は多い。
彼らがクーデターを画策しているなどと言われれば、多くの統合軍の軍人はあっさり信じてしまうのではなかろうか。
だが、相手はそのNERVの上位組織であるゼーレだ。反逆の証拠など、いくらでもでっち上げることが出来る。
マックス「いきなり殲滅とは、行き過ぎではありませんか?」
エキセドル「それに、“妨害”とおっしゃいましたな。もしも我々が自由に動ければ、必ず妨害する側に回ると確信しているような言い方ですなぁ……」
マックス「もしも本当にNERVが敵に回ったというのなら、尚更我々も協力して事に当たるべきと思いますが……」
ゼーレの人間は、それには答えず、突然話題を変えた。
『……マクシミリアン艦長、実は君にも、ある容疑がかかっているのだよ』
マックス「私に?」
『君たちは、プロトデビルンの殲滅を命じられたにも関わらず、彼らと和解したそうだな。
それは、既に以前から、彼らと裏で取引をしていたということではないかね? もしそれが事実なら、これは統合軍に対する重大な背信行為だ』
マックス「何ですと!?」
ローニン『そんなことはありえません! 第一、プロトデビルンによって最も被害を被ったのは、マックス艦長のマクロス7船団なのですよ!?』
ゼーレと言えども、ほぼ無関係のマクロス7船団の反逆罪を捏造することまでは出来ないはずだ。
ゼーレの人間も、それは分かっているのか、あっさり折れた。
『そうだな。今はまだ疑いのレベルでしかない。だが、今諸君は大変危うい立場にいることを理解してほしい。
何、命令に従い、これから起こることをただ座して見ていれば、疑いも晴れるだろう』
声は、柔らかい口調で語りかける。裏を返せば、もしも命令に背けば、即時反逆罪の汚名を被せられるということだ。
『NERV殲滅に派遣した部隊には、妨害する者は何人であろうと排除せよと命じている。それは君達であっても例外ではない』
この作戦に介入しようとすれば、最悪、統合軍の同士討ちに突入してしまう。中には、ただ命令に従っているだけの兵士も大勢いるはずだ。
ゼーレを敵に回すということは、統合軍への反乱を意味する。
何の目的でNERVを潰そうとしているのかはわからないが、これは彼らにとって、極めて重要な作戦らしい。
ゼーレの人間は、最後にそれ以上の最悪を告げていった。
『最後に言っておく。マクロス7船団に預けた物を除く総ての反応兵器は、我々が所有している』
マックスとローニンの顔が、同時に凍り付く。
それが事実なら、彼らは統合軍そのものを、この地球圏から消滅させられるほどの火器を保有していることになる。
権力と暴力は切り離せない。ゼーレが地球圏で巨大な権力を持つのも、暴力に裏打ちされてのことなのだ。
463
:
蒼ウサギ
:2010/12/29(水) 01:04:55 HOST:i114-189-98-200.s10.a033.ap.plala.or.jp
=輸送機=
ミサト「できそこないの群体としてすでに行き詰った人類を完全な単体として人工進化させることでこの世界の破滅を耐えきる存在へとなる。
これが人類補完計画の真実?」
ミサトが加持から受け取ったデータにはそういったような内容のものだった。
もちろんその情報がガセの可能性もある。それを示すかのようにもう一つの可能性という文章に目が止まる。
ミサト「世界のあり方そのものを変質させる、か……。それができるとしたらもう、神ね。いや、もしかしたら」
人類補完計画とは、ヒトが神になるということなのだろうか?
それでなくとも、神に近い存在になる。
プロトデビルンの話によれば、この世界は幾度も死と新生を繰り返している。その悲劇が必ず起こりえるものならいっそそれに耐えうる存在となる。
前述も後述も異なれど、似ている部分がある。
つまるところ、ヒトの進化は「神」ということなのだろう。あくまでミサト独自の考察ではあるが。
そして、神になった人類は願いを何でも叶えることができる。
それこそ、世界のあり方を変質させたり、世界が終焉を迎えてもそれに耐えうる存在になりえたり。
ミサト「ゼーレと碇司令の補完計画は食い違っていた。……碇司令は、自分の願いを叶えるために独自の補完計画を進めていたのね。
そのためにゼーレを利用していた」
いや、もしかして互いに利用し合っていた?
憶測にすぎないが、ミサトはそう思い始めた。元々作戦指揮官でしかない自分には知らされることのないことだ。
ましてやゼーレなど雲の上の存在でしかない。
さらにデータを読み進めていくと、ミサトはある部分に目が止まる。
ミサト「!……15年前のセカンドインパクトは人の手で起こされたの!?」
加持のデータにはこう記述されていた。
『ゼーレ及び碇ゲンドウは、葛城調査隊を南極に派遣。他の使徒が覚醒する前にアダムをロンギヌスの槍を使い卵にまで還元。
その際、副次的に発生したエネルギーが南極の氷を約60%融解させた。後にセカンドインパクトと呼ばれる現象である』
ミサト「あれは、人為的に引き起こされたの……それに“ロンギヌスの槍”って……?」
聞いたことがない単語が出てきたと同時に怒りが込み上げてきた。
自分は父の復讐のために使徒と戦っていた、という自覚がまた甦ってくる。
だが、今はそれに捉われている時ではない。
ミサト「……どちらにせよ、本部に繋がらないこの状況……何か起こってるわね」
すぐさま血が上った頭を冷まして、マクロス船団に交信を試みる。
だが、反応が返ってこない。
ミサト(まさか……すでに先手を打たれた?)
§
=NERV本部=
青葉「52番リニアレール、爆破されました!」
激しい爆発音が青葉の耳に響き渡る。
統合軍がついに本部内に侵入してきたのだ。
冬月「タチが悪いな。使徒の方がまだマシだ」
リツコ「無理もありませんわ。みんな人を殺すことに慣れてませんもの」
武器を駆使した兵士と、非武装の職員。
話し合いの余地もなく発砲されては、次々に死体の山が築かれる。
冬月「非戦闘員の白兵戦闘は極力さけろと伝えろ。相手はプロだ。ドグマまで後退不可能なら投降した方がマシだ」
日向「投降が通じる相手ですかね?」
リツコ「……まぁ、あまり期待できないわね」
マヤ「そんな……」
絶望的になる中、冬月が一言放つ。
冬月「弐号機パイロットは今、どうしているかね?」
マヤ「あ、はい。……自室にいます」
アスカの部屋に取りつけられている監視カメラの様子がマヤのモニターに映し出される。
精気のない彼女の様子がまだ無事の状態で確認された。
リツコ「どうします? 副司令」
冬月「そこだと確実に殺されるな。連中の目的がEVAならパイロットを抹殺するはずだ。弐号機に乗せておけ」
マヤ「しかし、未だ弐号機とのシンクロが回復してませんが?」
冬月「少なくともこの中で一番安全だよ。弐号機はパイロット収容後、発進。地底湖に隠せ」
リツコ「すぐ見つかると思いますけど?」
冬月「ケイジよりマシだ」
その後、何故レイには触れないのか青葉、日向、マヤは気になったがとりあえず命令通りアスカだけの身は確保しておこうとオペレートを開始した。
日向「弐号機射出! 8番ルートから水深70に固定されます」
冬月(所詮、悪あがきだな……)
464
:
藍三郎
:2010/12/29(水) 18:48:53 HOST:253.184.183.58.megaegg.ne.jp
=輸送機=
統合軍兵士「葛城三佐! 本機の前方にVF-11が2機! 友軍でしょうか?」
パイロットの報告を聞いて、ミサトの顔が青ざめた。既にこの輸送機は第三新東京市に近づきすぎてしまった。
そして、今のNERV周辺は、ゼーレの息のかかった統合軍によって包囲されている。
ミサト「そいつらは敵よ! バルキリー相手に輸送機じゃ逃げ切れない。急いで脱出の準備を――」
その後……一切の警告なしで放たれたミサイルが輸送機の推進部に着弾。黒煙を噴き上げて、輸送機は墜落して行った。
=????=
暗い室内で、仮面と黒髪の男が、向かい合って会話をしている。ネオバディムの総帥ユーゼス・ゴッツォと、その腹心ルシア・レッドクラウドだ。
ユーゼス「この世のあらゆる生命の起源は、この宇宙で最初に誕生した知的生命体『第一始祖民族』に遡るとされる。
彼らは生命体の本能に従い、全宇宙に生命の種子を複数蒔いた。
その内、原始地球に落下したのが、アダムとリリスという2種類の種だ。
最初に落下したのは第1の使徒、アダムを乗せた『白き月』だ。これは現在の南極大陸にあるとされる。アダムは始祖がそうしたように、自らの子孫を生み出した。それが、我々が使徒と呼ぶ存在だ。
これまで第三新東京市を襲撃した第3から17の使徒は、総てアダムが生み出した個体なのだ。
だが、続いて第2の使徒リリスを乗せた『黒き月』が落下。この激突が、月が形成される原因となったファーストインパクトだ。
その衝撃により、アダムとその使徒たちは長き眠りにつき、代わってリリスが、この地球を支配することになる。
リリスもまた、この星に多くの生命体を生み出した。これが、我々人類のオリジナルとなった生命だよ。
リリスの後裔、第18使徒リリン……それが我々人類だ。
だがこの段階では、まだ現在の人類とは程遠い姿だった。その転機は、宇宙からの来訪者、プロトカルチャーによってもたらされることになる」
ルシア「プロトカルチャー……彼らもまた、宇宙で最初の知的生命体と呼ばれていますね」
ユーゼス「それも誤りではない。プロトカルチャーとは、第一始祖民族が進化を重ねた果ての姿とされている。
彼らは銀河に一大文明を築いたが、自らが生み出した戦闘民族・ゼントラーディの暴走とプロトデビルンによるスピリチアの乱獲で滅亡寸前にまで陥った。
彼らは自らの遺伝子を後世に残すため、地球やグラドスと言った星を渡り歩き、原住生物に遺伝子改造を行い、自らの姿へと近づけた。
こうして、今の人類は“完成”されたのだ」
ルシア「つまり我らは、リリスとプロトカルチャー、二つの祖を持つ種族であると。
さらにその祖も、第一始祖民族に遡る……。人類みな兄弟とはよく言ったものです」
ユーゼス「うむ。こうして誕生した我々人類は、プロトカルチャーと同じく地球に文明を築くことになる。
長い歴史の中で、アダムや使徒の存在は忘れられていった。黒歴史と同じようにな。
だが、君も知っての通り、近年になって、使徒……正確には“我々以外の使徒”は活動を開始した。ゼーレの持つ、死海文書に記された通りにな。
いくらかの欠番がいるか、それは目覚めなかったか、あるいは『黒き月』との衝突の際、すでに死滅したか」
ルシア「そもそも、死海文書とは何なのですか。これだけ過去の情報を、現在の人類が知り得たとは思えないのですが」
ユーゼス「この世界は過去の宇宙が死を迎え、新たに再生された世界だ。
しかし、プロトデビルンがそうであったように、<鍵>の特質を持つ“もの”は、例え宇宙が終焉を迎えようとも生き続け、次の宇宙へと引き継がれるのだ。
その中には、永い宇宙の歴史をその目に留め、記述していくことを目的とする集団もいた。死海文書とは、彼ら記述者によって記された記録の断片なのだよ。
最初の記述者は、過去の宇宙にて、今回と同様に使徒の襲来を体験した。そして、世界が一度滅んだ後、宇宙の開闢に移り、使徒の発祥を目撃した。
彼らはそれを文書に残し、その宇宙の人間へと伝えた。
……おそらく過去の宇宙には、第3から17までの使徒が、一体も欠けることなく出現した状況もあったのだろう。
故に死海文書に、その存在が記されているのだ」
465
:
藍三郎
:2010/12/29(水) 19:09:29 HOST:253.184.183.58.megaegg.ne.jp
ユーゼス「話を戻すか。復活した使徒は、自らの父たるアダムと接触することでサードインパクトを引き起こし、今の人類を滅ぼそうとした。
使徒が第三新東京市を狙っていたのはそのためだ。
使徒と人類の戦いは、地球の正当な支配者の地位を巡る争いだったのだよ」
ルシア「なるほど、それが事実なら、確かに彼らには今の人類を滅ぼそうとする確たる理由があることになりますね」
ユーゼス「あるいは……今の人類は、リリスより生まれた使徒に、プロトカルチャーの手が加えられたもの。
使徒は人類を、母星を支配する異星人と見做し、排除しようとしたのかもしれん」
ユーゼス「だが、第三新東京市のターミナルドグマに眠っていたのはアダムではなくリリスだった。アダムは先のセカンドインパクトによって、卵の状態にまで還元されている。
ここまではゼーレのシナリオ通りなのだが、碇ゲンドウが独自の行動を取ったことによって、事態はより複雑化することになる」
ルシア「……失礼」
話の途中でルシアは立ち上がり、眼鏡のフレームに指を当てる。彼の眼鏡は通信機になっていた。
ルシア「先ほど、我が軍の前線基地が、統合軍の反応弾攻撃によって消滅したそうです」
それは、ルシアとユーゼスがつい先ほどまでいた場所である。
ユーゼス「ゼーレの差し金か。いよいよ形振り構わなくなってきたようだな。まぁ、我々は予定通り動くだけだ」
ダミーの基地を潰されたところで、こちらにダメージは存在しない。
ユーゼス「ゼーレのシナリオ通りに進めば、世界は大きく変容する。そこに私の夢を叶える好機が生まれるわけだが……」
仮面の奥の彼の瞳は、世界が変わった更に先の未来を見据えていた。
ユーゼス「どう動く? 碇ゲンドウ、マクシミリアン・ジーナス、そしてギャラクシア・キーパーズよ」
=第三新東京市近郊 森林地帯=
ミサイルが着弾する直前、ミサトはシンジを連れて、備え付けの簡易ポッドに乗って脱出することが出来た。
輸送機は墜落した後に爆破炎上。初号機を乗せたコンテナは放り出されて、やや離れた場所に落ちている。
いずれ、この場に先ほどミサイルを撃ったVF-11が着陸してくるだろう。生き残るためには初号機へと辿り着くしかない。
ミサト「さ、シンジ君……行くわよ、初号機へ」
シンジ「………」
一刻を争う状況であるが、シンジはその場に蹲ったまま動かない。
ミサト「……シンジ君……ここから逃げるのか、EVAの所に行くのか、どっちかにしなさい!」
シンジ「…………」
ミサト「このままだと何もせずに死ぬだけよ!」
シンジ「助けて……アスカ、助けてよ!」
ミサト「こんな時にだけ女の子にすがって! 逃げて! ごまかして…! 中途半端が一番悪いわよ! さあ、立って!」
シンジ「もう嫌だ……死にたい……何もしたくない」
ミサト「何甘ったれたこと言ってんのよ! あんた、まだ生きてるんでしょ!? だったら、しっかり生きて……それから死になさい……!」
466
:
蒼ウサギ
:2011/01/06(木) 02:24:55 HOST:i114-189-108-210.s10.a033.ap.plala.or.jp
=南極=
マックス『……ということだ。事実上、我々統合軍は動けない状態にある』
補給面や艦の損傷面ならまだしも、政治面で動けないことを示されるとこれだけ歯がゆいものはない。
反逆罪だけの汚名を着せられるならまだしも、相手は反応兵器全てを所有していると告げた。
対して、こちらは戦力は勝っていても、数の暴力に加えて反応兵器ではプロトデビルン戦直後の機体損耗度からして分が悪い。
由佳「状況はわかりました……」
由佳は、ここで言葉に詰まる。一つ案がないわけではない。
自分達にしかできないことだが、果たしてこの理屈が通る相手だろうか?
そして何より気になるのはこのプランに誰か一人でも賛同してくれる者がいるのだろうか?
決断には、数秒要した。
由佳「……一つ、私に案があります。…あくまで、賭けに近いですが……」
§
数分後、あらかたの事情は口伝程度にパイロット達に広まっていたとこでブリーフィングルームに招集がかけられた。
場所は、コスモ・フリューゲルである。所属戦艦に関わらず、誰もがそこへと集まる。
用意されたパイプ椅子に座る者、壁にもたれかかって立ち聞きに徹する者、そして各戦艦のモニターでこの様子を確認する者達がいる中で由佳が壇場に立つ。
由佳「もうある程度の情報は伝わっているので簡潔に話します。今、NERV本部はゼーレに所属する統合軍の攻撃を受けています。
それと、私達の“同志”たるマクロス7船団やナデシコCらの統合軍は、そのゼーレにあらぬ疑いをかけられています」
ムスカ「確か噂じゃNERV側が統合軍に反逆行為を示したとか聞いたけど?」
由佳「ありえません」
ムスカ「根拠は?」
由佳「ありません」
きっぱりと言ってのける由佳に、ムスカの口から煙草がポロリと落ち、その横でゼドが苦笑する。
由佳「すみません。ですけど、後者は部分は明確に誤解であるということは皆さんが一番わかっていると思います」
それには一同が頷く。あれだけの戦いを「裏取引」などといわれるのは屈辱でしかない。
由佳「ですが、ゼーレは今回の作戦に介入……すなわち妨害すれば容赦なく排除させると言っています」
悠騎「つまりそれって、統合軍同士の撃ち合い……ってことか?」
無言で頷く由佳。そして二の句に、最悪の情報を告げる。
由佳「そして、マクロス7船団に残存している預かっている物を除いた現存する反応兵器を彼らは所有しています」
トウヤ「つまりそれは事実上、この地球圏内の最大火力を持つ兵器全てを彼らが所有している……ということだね?」
由佳「そういうことです……」
ロラン「核よりすごいんですよね……」
ガムリン「単純な破壊力だけならな」
自ずとざわついていたブリーフィングルームが静まり返る。
そんな中、コスモ・アークから中継で、アイの声が飛ぶ。
アイ『……それで由佳さんはどうするんですか?』
アイの眼差しに応えるかのように、由佳は一拍を置いて軽く深呼吸をしてから告げた。
由佳「前者の真偽はどうあれ、NERVの真意を確かめるためにも、これから私は一時、統合軍との結託を凍結し、
G・K隊として、コスモ・フリューゲルで第三新東京市へと向かおうと思います」
我々と言わなったのは、あくまで由佳個人決断だからだ。
G・K隊は元々、どこの組織にも縛られない独立組織。そして、並行世界からやって来たイレギュラーだからこそできる行動なのだ。
そして、これは命令ではない。そして提案でもない。しいていうならば、決意表明とでもいうべきか。
由佳「こうしている間にもNERV本部は大変なことになっているかもしれません。………本当は今すぐ発進したいところですが、10分待ちます
それまで準備がある人は速やかに退艦してくださ―――」
瞬間、コスモ・フリューゲルのジェネレーターに火が点いた。
こんな真似ができるのは、ブリッジにいる者だ。
瞬時にブリッジの様子をモニターに映す。
467
:
蒼ウサギ
:2011/01/06(木) 02:27:29 HOST:i114-189-108-210.s10.a033.ap.plala.or.jp
神『さぁ、艦長! 善は急げだ! 急ごうではないか!』
その端には、ミキを始めとした馴染みのオペレーター達の姿も並んでいる。
次に驚くべきはコスモ・アークも発進準備にかかっていたことだ。
アイ『由佳さん。どうやら先ほどから強烈なジャミングがかけられています。恐らくゼーレの仕業かと』
由佳「あ、アイちゃん?」
アイ『……まぁ、私もG・K隊ですから』
一人、由佳が戸惑う中、パイロット達の心情は臨戦態勢だった。
由佳「あの、皆さーん! 私の話、聞いてました〜!?」
悠騎「聞いたから、こういうことしてんだろ?」
高らかに声を上げる妹を、兄はからかうように告げた。
§
=NERV本部=
冬月「弐号機は無事、地底湖に射出されたようだな」
リツコ「はい。ですが、やはり時間稼ぎにすぎません。先ほど統合軍がどこかの前線基地に反応兵器を使用したそうです。
間もなくこちらにも火種がくるかと」
冬月「無茶をしおる。だが、現状ではあそこが一番安全であることには変わりない」
あとは母親が娘を守ってくれるかだ、と冬月は内心で付け足した。
EVA弐号機。そこにはアスカの母親、惣流・キョウコ・ツェッペリンの魂がコアとなっていることは一部の者にしか知られていない。
冬月(EVA……。母の魂を持つヒトが造りし兵器か……)
シンジ達が通う学校の生徒達は全てチルドレンの候補者であり、全員が母親不在という共通点がある。
母の魂をコアとし、子をパイロットとする決戦兵器。それがEVAなのだ。
唯一、零号機を除いてはだが……。
§
―――あぁ、私またこれに乗せられている。
そんなことを思いながら女性スタッフにプラグスーツに着替えさせられエントリープラグに半ば強引に入れられた所までは覚えている。
そこから先はもう夢の中だ。
大好きなママが出てくる夢。
不思議と、このEVA弐号機に乗ってるとあの悪夢のような夢よりも、楽しかった思い出の夢の方が出てくる。
アスカ「ママ……ママ……」
エントリープラグがまるで母親の胎内に還ったかのような不思議な温もりに包まれた。
そんな記憶などあるはずもないのに、不思議とそう直感してしまった。
―――さぁ、私に還りなさい
そんな声が聞こえたような気がしたので、アスカは素直にその温もりに甘えた。
468
:
藍三郎
:2011/01/09(日) 23:07:05 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
シャル「碇ゲンドウもゼーレも、俺にはどちらも信用できない。ならば、どちらが戦うべき敵か、自分の眼で確かめるまでだ」
キョウスケ「何かが起こるのを分かっていながら、ただ座して待っているのは性に合わん」
エクセレン「私たちはいつだって行動派だしね〜〜」
神「謎に包まれたNERVやらゼーレの真実を探るいい機会だからね。科学者の性という奴さ」
その後も皆答えて言ったが、少しずつ違ってはいても、このままじっとしていられないという思いは同じだった。
ムスカ「全く……まさかここまで考えなし揃いとは思わなかったぜ」
ゼド「皆、間違ったことを黙って受け入れられない性分なんですよ。かつての貴方がそうだったようにね」
ムスカはバツが悪そうに頭を掻き、ゼドは苦笑いする。
かつてムスカ・D・スタンフォードは地球連邦軍に所属していたが、ある時、功を焦った上官の、民間人を巻き込んだ無差別攻撃の命令に反発したことで、軍を追われる身となった。
そこをセレナ・アストラードに拾われ、バミューダストームに加わったのである。
だからムスカは、セレナとマイケルに計り知れない恩義を感じている。
ムスカ「俺の時は運が良かったんだ。いつも上手く行くとは限らねぇ。
それに、今回の敵は人間だ。人間ってのは、自分の欲と保身のためならば、どんな汚いことでもやる生き物だ。
俺たちの世界でもそうだったように、権力の一番深くにいる連中は特に、な。
ある意味、ギャンドラーやプロトデビルンより危険かもしれねぇ」
連邦の暗部に触れた経験のあるムスカは、権力者の持つ危険性をよく知っていた。
ゼド「……だからと言って、退くつもりは無いのでしょう?」
ムスカ「誰がそんなこと言ったよ。敵がそういう連中なら、尚のこと俺らの出番だろう?」
ゼド「ええ。そこをフォローするのが、私たち大人の仕事です」
由佳「……改めて思いますけど、私って凄い人たちと一緒にいたんですね……」
アネット「なーに言ってるの。そんな人たちを取りまとめている由佳さんが一番凄いんだってば」
由佳「そ、そうでしょうか?」
セレナ「そうよぉ。恐怖でも同情でもなく、これだけの人を動かすことが出来るなら、これは本物だわ。将来が楽しみね……」
由佳「あのー何か笑みが怖いんですが」
一体何を想像しているのか、ちょっと怖くて聞けなかった。
アネット「あ、エルシャンクからも通信が入ってるわ」
ロミナ『お待ちください! 由佳さま! わたくし達も共に行きます!』
由佳「ロミナさん!でも……」
ロミナ『難しいお話はよく分かりませんけど、これから貴女たちが危険の只中に飛び込もうとなさっているのは分かりますわ。
貴女たちにだけ、そんな真似をさせるわけにはいきません!』
エイジ『統合軍に所属していないのは俺たちも同じだ。
ロミナ姫の言う通り、貴方たちを放っては置けないし、いざと言う時のため、戦力は少しでも多い方がいいだろう』
ダミアン『ハザードの奴が釈放されたのはゼーレとかいう連中の仕業らしい。
なら、奴もこの件に関わっている可能性が高い』
ジョウ『おう! 野郎が何か企んでるなら、俺たちがそいつを止めてやるぜ!』
由佳「で、でも、貴方たちはこの世界の人々……統合軍に背けば、まずいことになるんじゃ……」
ラドリオ星人の艦であるエルシャンクもまた、正確には統合軍所属ではない。
しかし、つい最近この世界を訪れた由佳たちと違い、グラドスやザ・ブームと戦ってきた彼らは、統合軍との繋がりはずっと深いはず。
それを一時的とはいえ断ち切るのは、かなりの勇断だったはずだ。
エイジ『だからこそだ。かつて共に戦った仲間たちが、正体も目的も分からぬ者達に命じられるまま道を誤ろうとしているなら、俺たちがそれを正さなければならない』
レニー『それとね……あれから皆で色々話し合ったんだけどね。この戦いが終わったら、私たちも一緒にラドリオ星に行こうかなって』
マイク『そうそう、だから、何も心配することは無いのさ』
469
:
藍三郎
:2011/01/09(日) 23:08:07 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
由佳「皆さん……ありがとうございます!」
ロミナ『こちらからも礼を言わせて頂きます。私たちの世界のためにここまでして下さって、感謝いたしますわ、由佳様』
モニターに月臣元一朗の顔が映る。彼も今は、統合軍所属のナデシコCを離れ、エルシャンクに乗り込んでいた。
元一朗『話は聞かせてもらった。だが、あまり心配するな。
いざとなれば、お前たちは木連で保護するよう、上に働きかけてみる。
火星や木星が、宇宙人の侵略から解放されたのも、お前たちの働きがあればこそだ。
木連軍人は、受けた恩は決して忘れん』
由佳「月臣さんも……ありがとうございます!」
セレナ「ありがとね〜〜これで艦長さんも、少しは肩の荷が下りることでしょう」
シャフ「申し訳ありません、姫様。エルシャンクのマイクロワームホール航法は、先の戦闘のダメージで使用不能です」
ロミナ「仕方がありません。その分船を急がせることに致しましょう」
ガメラン「了解! エルシャンク、最大船速で発進!!」
アネット「コスモ・フリューゲル、出発準備完了よ!」
アイ『コスモ・アークも準備完了。いつでも出航できます』
由佳「分かりました! では、G・K隊、第三新東京市に向けて発進です!!」
その他の戦艦をマクロス7船団の護衛に残し、三隻の戦艦は日本を目指し飛び立っていった。
470
:
藍三郎
:2011/01/09(日) 23:10:13 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=第三新東京市 NERV本部=
青葉「第1発令所、爆破されました!」
日向「分が悪いよ……本格的な対人要撃システムは用意されていないからな、ここ」
青葉「ここに来るのは使徒とあの獣みたいな連中だけで、ネオバディムや異星人たちも全く手を付けようとしなかったからな。
けど、今になってみれば侵入者要撃の予算縮小って、これを見越してのことだったんだろうな」
その時、司令室を爆音と爆風が薙ぎ払った。
日向「!!」
分厚い扉が爆薬で破壊され、銃を持った兵士たちが突入してくる。
オペレーター達は、急いで机の下に隠れる。すぐ頭上を銃弾が通過していった。
青葉「ほら、拳銃のロック外して!」
マヤ「……私……私、鉄砲なんて撃てません……」
青葉「訓練で何度もやってるだろ?」
マヤ「で、でも、その時は人なんていなかったんですよ!?」
青葉「バカッ! 撃たなきゃ、死ぬぞ!!」
涙目で震えるマヤを怒鳴りつける青葉。
銃声が絶え間なく鳴り響く。使徒の迎撃戦でも、EVAが敗北すればここにいる人間も全て死ぬ。彼らは戦場に居ずとも、死の危機に晒されてはいた。
しかし、銃を持った兵士達は、これまでとは比較にならぬほどリアルに『死』という現実を伝えていた。
冬月「構わん。ここよりもターミナルドグマの分断を優先させろ!」
無線で指示を飛ばす冬月。オペレーター達も、上層から身を乗り出して銃を撃つ。
意図せずして階上という優位な場所を確保できているからか、プロの兵士相手にも何とか抵抗できている。
また、敵は隔壁や扉を破壊する時に使った爆薬を、ここに来て使ってこない。
日向「あちこち爆破されてるのに……やっぱりここには手を出さないか……!」
青葉「一気にカタをつけたいところだろうが……俺達の足の下にはMAGIのオリジナルがあるからな……」
日向「できるだけ無傷で手に入れておきたいんだろう」
青葉「ただ、対BC兵器装備は少ない。使用されたらヤバいよ……」
日向「N2兵器や反応弾もな……」
一方、NERVの上層では、アルトロンガンダムとナシュトールのイスカ改の奮戦により、多くの機体が本部への侵攻を阻まれていた。
NERVが未だ壊滅を免れているのも、彼らの存在があればこそだ。
ナシュトールは闘争本能の赴くまま、ただ近づいた機体を薙ぎ払っているだけなのだが、攻める側の統合軍としては厄介に過ぎる防壁である。
ハザード「えーい忌々しい奴らめ! もういい! 反応弾を撃てい!! 邪魔者は一気に吹き飛ばすに限るわ!」
業を煮やしたハザードは、暴挙とも言える命令を下す。
ファミール艦には、ゼーレより預けられた反応兵器が搭載されていた。
統合軍兵「直ちにですか!? それでは友軍の退避が間に合いません!」
ハザード「構わん。そいつらはわしが総司令官になった時に、二階級どころか三階級特進させてやる! それで満足だろうて!」
罪悪感など微塵も覚えていないような顔で言ってのけるハザード。
統合軍兵「り、了解いたしました……」
ハザード「ふははははは! よぉし、撃てい!! わしの出世祝いの花火じゃあ!」
ハザードの号令と共にファミール艦から、反応弾を搭載したミサイルが発射される。
五飛「!!」
ナシュトール「!!」
五飛もナシュトールも、戦闘者としての野性の勘で、それが危険なものだと悟った。直ちにその場から退避する。
反応弾はNERV本部の真上に着弾。極大の閃光が膨れ上がり、逃げ遅れたバルキリーやドールを飲み込む。
五飛「かつての同胞を討つだけでなく、それに加担した部下まで巻き添えにして葬るか……!!」
紛うことなき悪の所業に、唇を歪ませる五飛。
地面に撃ち込まれた反応弾の熱は、周囲の機体のみならず、復旧が済んだばかりの上層を喰らい尽くしていく。
その衝撃と震動は、NERV司令室にも伝わってくる。モニターの画像が激しく揺れ、室内が危険を伝える赤いランプで照らされる。
日向「ち、地表堆積層、融解!!」
青葉「チッ! 言わんこっちゃない!」
冬月「フン……無茶をしおる」
ハザード「ふぅーはははははははは!! これでわしの栄光への道を阻むものは何もなぁい! 撃て撃て撃てぇーい!!」
本部上空にぽっかりと空いた穴から、多数のバルキリーとドールが降下する。これらの機体が放った無数のミサイルが本部に着弾し、更なる激震を見舞った。
マヤ「ねえ、どうしてそんなにEVAが欲しいのっ!?」
答えは返って来ない。
返って来たとしても、彼女を恐怖させる現実は消えることは無い。
471
:
蒼ウサギ
:2011/01/20(木) 01:12:29 HOST:i125-202-196-140.s10.a033.ap.plala.or.jp
ママが優しく抱いてくれている。
アスカは幸せだった。
でも、不意にそれは壊れていく。
ママの顔が強烈な痛みと一緒に砕けていった。
アスカ「あぁぁぁぁっ!!」
痛みの原因は水中用の爆雷だ。
ちょうど頭部に当たって爆発。大きな衝撃を与えた。
アスカ「いや……死ぬのは嫌……死ぬのは嫌…死ぬのは嫌」
???「まだ生きてなさい…」
アスカ「死ぬのは嫌…」
???「まだ死んではダメよ…」
アスカ「死ぬのは嫌…」
???「殺さないわ」
アスカ「死ぬのは嫌…」
???「まだ死なせないわ…」
アスカ「死ぬのは嫌…」
???「一緒に死んでちょうだい…」
アスカ「死ぬのは嫌…死ぬのは嫌…死ぬのは嫌…死ぬのは嫌…死ぬのは嫌…死ぬのは嫌…死ぬのは…いやぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」
絶叫するアスカだったが、次の瞬間、呟いたのは「……ママ、ここにいたのね」だった。
地底湖から十字架を彷彿させる使徒特有の爆発が立ち上がる。
それを見たハザード・パシャは、喜び勇んだ。
ハザード「は、ははははは! やったぞ! ついに奴らの最大戦力たるEVAとやらを倒した!」
だが、次の瞬間、その高笑いがひきつり笑いにへと変わる。
地底湖に配備していた統合軍の軍艦が徐に浮き上がったのだ。そして見えるのは緑色の四つ目。
それがEVA弐号機だとわかると、すぐにバルキリー隊がガンポットで砲撃を仕掛ける。
アスカ「どうりゃぁあぁぁぁあああああ!!」
アスカはすぐさま持ち上げた軍艦で砲撃を防ぎ、次にはそれを放り投げて一気に地底湖へと沈めていった。
アスカ「わかったわ、A.T.フィールドの意味!」
迫るドールを一機掴んではまるでボールでも投げつけるかのように飛行していたバルキリーへとぶつける。
アスカ「私を護ってくれてる!」
背後から撃ってきているバルキリーの砲撃をATフィールドで防ぎながら、振り向きざまに蹴り落とした。
アスカ「ずっと、ずっと一緒だったのね! ママ!」
大量に迫って来たバルキリー隊、ドール隊に向けて横薙ぎに腕を振るう。
それに倣うかのようにA.Tフィールドが飛び、バルキリー隊、ドール隊を殲滅させる。
強固な防御力を持つバリアは強力な攻撃力を持つ兵器にもなりえるという理論だ。
五飛「あの女。なんという気迫だ……」
同じ戦場にいながら五飛が動けないほどにアスカの戦いぶりは激しかった。
ほんの数分前まで半死人状態とは思えないほどに。
ハザード「ま、まだだ! 情報によるとあのEVAとやらはケーブルがなければ動けなくなるらしい。総員、あの黒いケーブルを集中的に狙え!」
ファミール艦の艦長席で平静さを装いつつハザードが命を下す。
残存する統合軍の機体は命令通り黒いケーブルこと、アンビリカルケーブルを集中砲撃した。
さすがに数だけは多いだけあってあっさりとケーブルは切断される。
アスカ「ちっ…」
舌打ちするも、アスカからは余裕の笑みは消えない。
アスカ「アンビリカルケーブルがなくったって……!」
邪魔になる切れ端を切断し、弐号機が走り出す。
アスカ「こちとらには一万二千枚の特殊装甲と! A.T.フィールドがあるんだからぁぁぁ!!」
思い切りジャンプした弐号機の前に、もはや急上昇で逃げようとしていたバルキリーでさえ逃れることはできなかった。
アスカ「負けてらんないのよぉぉっ! あんた達にぃぃぃぃ!!」
その勢いはもうすぐファミール艦へと届きそうなものだ。
472
:
蒼ウサギ
:2011/01/20(木) 01:13:05 HOST:i125-202-196-140.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
シンジ「ぼ、僕は……」
シンジは戸惑っていた。ミサトにあそこまで言われても答えが出ない。決意できない。
そうこうしている間に、二機のVF-11・サンダーボルトが迫って来た。
ミサト「! しまった!?」
その場から逃走しようとミサトがシンジの手を掴んで走り出そうとするが、いかんせん相手は戦闘機。
すぐに発見されてしまう。
統合軍兵1「葛城三佐と、そこにいるのは初号機パイロットだな?」
統合軍兵2「命令だ、排除させてもらう。悪く思うなよ」
二機が同時にバトロイドに変形し、ガンポットを構える。
撃たれたら間違いなく蜂の巣どころかミンチにすらなりかねない。
ミサト「くっ!」
咄嗟に胸元から取り出した拳銃で応戦するも、無駄な抵抗だった。
装甲に傷すら与えられていない。
だが、無駄だとわかっていてもミサトは撃ち続けた。
そして次の瞬間、二機のサンダーボルトの上半身と下半身が真っ二つになった。
ミサト「え……」
爆発。ミサトは咄嗟にシンジを庇うようにして倒れた。
ほどなくして、爆炎の中から黒い影が姿を見せる。
デュオ「よぉ、どうにか間に合ったようだな」
ミサト「ガンダムデスサイズ!? デュオくん、なんでここに……あ!」
上空を見上げるとそこにはコスモ・フリューゲルやエルシャンクといった南極で分かれたはずの友軍艦の姿があった。
外部回線を通じて声が聞こえてくる。
アイ「目には目を。敵がジャミングを仕掛けてるのなら、こちらもジャミングをかけて存在を気付かせないことです」
そこでハイパージャマーを持つデスサイズヘルが出撃し、サンダーボルトの二機に気づかれぬよう切り裂いたということだ。
由佳「事情は後で説明します。とりあえずお二人を収容しますが、いいですね?」
ミサト「えぇ、よろしく頼むわ」
473
:
藍三郎
:2011/01/23(日) 20:30:47 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ハザード「な、何と言う奴……!」
弐号機の思わぬ反撃に、ハザードはすっかり狼狽していた。前方に展開していたドール部隊も、投擲されたATフィールドの直撃を受けて圧壊される。
こちらの攻撃も、さらに強度を増したATフィールドに阻まれ傷一つ付けられない。敵がここに到着するまで、後どれぐらいか。
ハザード「け、ケーブルは既に切断したのだ! いずれ奴は電力が尽きて動けなくなる!それまで……」
ハザードは言葉に詰まる。それまで?
果たして、それまで現在展開している部隊で、持ちこたえることが出来るのか。あの、真紅の悪鬼を相手に。
鬼神のごとき戦いを見せる弐号機に、自軍の機体は次々に屠られていく。
今の弐号機は正に生きた暴風。敵も攻撃も、触れたものは総て消し飛ばす存在を止めることなど不可能。人に出来るのは、ただ嵐が過ぎ去るのを待つことのみ。
ハザードの額に、冷たい汗が流れる。彼はようやく、自分達が追い詰められている側なのだと理解し始めていた。
ハザード「き、聞いとらん! わしは聞いとらんぞ! こんな、こんなバケモノがいるなどとぉっ!!」
赤ら顔を青くして、ハザードは立ち上がる。そんな中、通信兵が怖ず怖ずと声を発する。
統合軍兵「ち、長官。本部から通信が……」
ハザード「だ、誰だ! この忙しい時に」
統合軍兵「は……ゼーレの人間だと言えば分かると……」
ハザード「! 繋げっ!」
モニターに、『SOUND ONLY 01』と表示される。
これまで居丈高に振る舞っていたハザードだが、途端に萎縮する。
ゼーレこそは、ハザードを釈放させ、彼にNERV総攻撃を命じた組織だからだ。
彼は、ゼーレの実情について何も知らない。統合軍の権力を掌握している、「よくわからんがとんでもなく偉い連中」とだけ認識している。
ハザードにとっては、自由と権力を与えてくれるなら、それが誰であろうと、何であろうと構いはしなかった。
彼の再起はゼーレの胸の内一つに掛かっている。故に、ゼーレの機嫌を損ねるわけにはいかなかった。
『苦戦しているようだな、ハザード』
ハザード「も、申し訳ありません! ですが、所詮は単機! もうしばしお待ちを……」
『構わん。時間は稼げた』
ハザード「へ?」
『間もなく援軍が到着する。弐号機にはこちらの戦力で対処する。この場は退け』
ハザード「は、はぁ……」
『貴官には、別の任務を与える。現在、第三新東京市に、イレギュラーに異星人の艦が向かっている』
ハザード「何ですと?」
『貴官もよく知っている者達だ』
新たにモニターに映し出された戦艦を見て、ハザードは目の色を変える。
ハザード「こ、こいつらはっ!?」
『南極のマクロス7に確認したところ、彼らは統合軍を離反し、独自の行動を取るようだ。本作戦の妨害を試みようとするならば、全力を持って排除せよ』
話を聞くハザードの顔が、喜びに綻んで行く。
統合軍を離反した。それは即ち、あの憎きエルシャンクを、堂々と反逆者として処分できるということだ。
他の二隻も、あの忌々しい火星開拓基地での戦いで、見た覚えがある。奴らも纏めて叩き潰してくれる。
ハザード「了解であります!」
先程とは打って変わって威勢よく答えるハザード。ゼーレの人間は、無言で通信を切った。
ハザード「よぉし! 全軍、撤退せよ! 後は援軍に任せ、我らはエルシャンクを迎撃する!!」
撤退を命じるハザードの顔には、歪んだ笑みが張り付いていた。
ハザード(まさか、こんなに早く、恨みを晴らす機会が巡って来ようとはな!
見ておれ! ジョウ・マヤ! そしてエルシャンク!!
このわしを怒らせたことを、たっぷり後悔させてやるわ!!)
474
:
藍三郎
:2011/01/23(日) 21:05:09 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
残った機体を収容し、全速力で後退していくファミール艦。
アスカ「はっ!おととい来なさいって……」
彼女の視界に、新たな機影が目に入った。ファミール艦と入れ替わるように、九機の輸送機がネルフ上空に姿を現した。
『忌むべき存在、EVA。またも我らの妨げとなるか。やはり毒は、同じ毒を持って制すべきだな』
輸送機から、白いヒトガタが首を出す。
腹部を除く体表は雪のように白く、眼も耳も鼻も持たず、のっぺりした蛇か鰻のような形をしている。深く裂けた口に、むき出しになった白い歯は、まるで笑っているようだ。
白い巨人たちは、背中にEVAと同じプラグを差し込まれ、輸送機から自ら飛び降りる。
白い翼を広げ、編隊を組んで飛行する巨人たち。
弐号機の上空で円環を描きながら、ゆっくりと降下する。
アスカ「EVAシリーズ……完成していたの?」
これらは全て、5号機から13号機に当たる、エヴァンゲリオンの量産機だ。
人間は乗っておらず、渚カヲルがベースとなったダミープラグにより稼働している。
冬月「S2機関搭載型を九体全機投入とは、大袈裟すぎるな。
まさか! ここで起こすつもりか!?」
=コスモ・フリューゲル=
由佳「人類の意志を一つに統合……それが、ゼーレの目指す人類補完計画の真実だというんですか?」
ミサトは頷く。その場の誰も……この世界の人間達でさえも、まるで寝耳に水の話だった。
ゼド「宇宙の死と新生。来たるべき破滅。それを逃れるため、人類を単一の生命体に進化させる。人類という種を残すための手段としてならば、有効かもしれませんが……」
セレナ「ふざけんなって感じね。皆で一つになるって聞こえはいいけど、それぞれの人が歩んで来た過去や、その先も歩むはずの未来はどうなるの?
人は皆歩む道が違うからこそ、個を確立できる。
他の総てを切り捨てて、たった一つの意志に纏めちゃおうなんて、そんなものは進化なんかじゃない。ただの虐殺よ」
灯馬やバミューダストームの面々など、彼女の周りには正道から外れた、個性的な者達が多く集まる。それは、彼女が人の個性を何より重んじているからだ。だからこそ、ゼーレのやり方に不快感を隠せない。
ミサト「ええ。ゼーレもNERVも、エヴァンゲリオンも、総てそのために造らなかった。そして、私達もその計画に加担していた。知らなかったで済まされることじゃないわね……」
パルシェ「……そのことについて、今追究するのは止めましょう」
ムスカ「そうだな。どの道、この世界の人間ではない俺たちが裁くことじゃない」
カトル「今、NERVが統合軍……いえ、ゼーレの攻撃を受けているのは、皆さんがその人類補完計画に反対したから……ということで良いのですか?」
話と状況を照らし合わせると、そう考えるのが自然である。
ミサト「……それはどうかしら……まず、大半の職員は計画について何も知らされていないはずよ。私だって、ついさっき知ったばかりなの。
ただ、碇司令はまず知っていたでしょう。だけどそれで、計画を阻止しようとしているのとは……また違う気がする」
シャル「NERVですら、必ずしも味方であるとは限らないということか……」
碇ゲンドウの反逆罪と言うのはゼーレのでっち上げであろうが、それで彼がシロだと決まったわけでもない。
ヴィレッタ「だが、少なくとも、我々が戦うはっきりした理由は出来た」
エイジ「ああ……L.O.S.T.の侵攻は間近に迫っている。彼らの人類補完計画に、それなりの理があるとしても……
この状況下で更に世界を混乱させることは、何としても止めなければならない」
悠騎「とにかくNERVに行ってみないことには始まらねぇ!急ぐぞ、由佳!」
由佳「うん! コスモ・フリューゲル、全速前進!」
475
:
蒼ウサギ
:2011/02/01(火) 00:04:41 HOST:i114-189-100-147.s10.a033.ap.plala.or.jp
一方で、コスモ・アークの艦長席に座しているアイは必死にキーボードを叩いていた。
アイ(思ったより相手のジャミングが強い。こちらのジャミングを逆手に取られて動きが掴まされている。……MAGIの仕業?)
違う。直感がそう告げた。
彼らはMAGIに頼らずともこちらの情報を得ている。ならばもうここはいっそのこと攻勢に転じたほうがいい。
アイ「艦長、これからNERV本部にハッキングを行います」
トウヤ「……いけるのかい?」
アイ「やります」
トウヤは一瞬、目を見開いた後、アイのその力強い返事を信頼することにした。
トウヤ「わかった。任せるよ」
アイ「はい……」
対象はMAGI。
完全に掌握できなくとも、こちらでモニターできるか、或いは通信手段が取れればそれでいい。
アイ(ゼーレの好きなようにはさせない)
§
五飛「あの九体の量産機。嫌な予感がする。統合軍の引き際といい……何かあるな」
静観を保って、弐号機と白きエヴァンゲリオンを見つめているその時、レーダーが警告音を鳴らした。
急速にこちらに接近する機体。ナシュトールのイスカだった。
ナシュトール「おぉぉぉぉおおお!!」
五飛「ちぃ!」
ビームトライデントでイスカの巨大化した剣を受け止め、硬直へともつれ込む。
激しいビーム音が響く中で五飛は叫ぶ。
五飛「貴様に正義はあるのか!?」
ナシュトール「おぉぉぉぉぉぉ!!」
五飛「正義はあるのかと聞いている!」
トライデントで押しのけ、間髪いれずにドラゴンハングを伸ばす。
直撃コースかと思われたその攻撃は、まさに紙一重でナスカは回避した。
通常ではあり得ない機動性だが、ハ―メルシステムが発動している現状、不可能ではない。
五飛「ちぃ、パイロットは正気ではないようだな。まるで獣だ」
その通りである。
今のナシュトールは本能だけで戦っている。蓄積された戦術が頭を通さずに、身体が条件反射して動いているだけだ。
少なくとも目の前の敵はナシュトールにとって障害として認識され、排除の対象となっている。
故にそのために仕掛けてきたのだ。
ナシュトール「はぁ……はぁ…」
五飛「フン、オレを倒した後はあの紅い奴か? それとも白い奴か。いずれにせよ……」
アルトロンはビームトライデントを回転させ、再度態勢を立て直して構える。
五飛「獣にやられるオレではない!」
§
リツコ『いい、アスカ。EVAシリーズは必ずせん滅するのよ』
そんなリツコの声を聞いて、アスカは嘆息した。
アスカ「必ずせん滅、ね。赤木博士も病み上がりに軽く言ってくれちゃって……」
残り時間を一瞥。徐々に減り続けるその内臓電源に自ずとアスカの気持ちは高ぶる。
アスカ「残り3分半で9つ。1匹につき20秒しかないじゃない!」
落ち着き始めていたアドレナリンが再沸騰したかのように弐号機が駆け、一体の白いエヴァンゲリオンに飛びかかる。
能面の頭部を両手で潰した後、その巨体を持ち上げ、両肩と首に挟んで人間で言う所の脊髄をへし折る。
膨大な血が吹き出し滴り落ちる中でエントリープラグのアスカは呟いた。
アスカ「erst!(一匹目!)」
476
:
藍三郎
:2011/02/05(土) 22:59:11 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
エヴァンゲリオン弐号機は量産機に飛びつき、共に湖へとダイブする。
動きの鈍る水中に沈められ、あまつさえ上を取られては、抵抗の術は無いに等しい。
弐号機は背中からプログレッシブナイフを抜きとり、量産機の頭部へと突き刺す。
EVA量産機「!?!!?!」
ナイフは鼻梁から顎を貫通し、赤い液体を噴出させる。二番目の量産機は水面に膝だけを出して機能を停止する。
アスカ「うあああああああああぁぁぁぁ!!!」
湖から起き上がった弐号機は、次なる標的に突っ込んでいく。走りながら、先ほどの戦闘で折れたナイフを取り換える。
衝突寸前に唸る一閃。三番目の量産機は、右腕を切断され武器を落としてしまう。そのまま量産機の腹部に突き刺し、その勢いで馬乗りになる。量産機の白い肌に、何度も何度もナイフを突き刺す。
しかし、耐久限界を超えたナイフは途中で粉々に砕け散る。
アスカ「ちっ!!」
すかさず腕を伸ばし、逆襲に転じる量産機。顔面を掴まれる弐号機だったが、逆にその腕をつかみ、力押しで引きはがす。その勢いに乗って、背後から裸締めを仕掛ける。
完全に決まった裸締めから抜け出すことは不可能。そのまま首の骨をへし折る。
続けて上から飛来するのは四番目の量産機。量産機の共通装備である、楕円形の諸刃の剣を振り降ろす。
アスカ「うぅぅぅぅぅ……がぁぁっ!!」
弐号機は転がりながらそれをかわすと、先ほど量産機が落とした双刃を拾い、反撃に転じる。
アスカ「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」
赤と白のエヴァンゲリオンの間で、同種の刃が激しくぶつかり合う。
アスカ「もう!しつこいわねぇ! バカシンジなんかあてにできないのにぃ!!」
EVA量産機「!!?!!!?」
力任せに剣戟に打ち勝った弐号機は、大きく仰け反ったその肩へと楕円の刃を振り下ろす。この武器は対EVA戦を想定して造られたもの。
ならば当然、同じEVAである使い手自身にとっても、文字通りの『諸刃の剣』と化す。肉が裂け、臓物と鮮血が噴出する。
477
:
藍三郎
:2011/02/05(土) 23:16:45 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
一方……
ミキ「前方に熱源反応! 識別は統合軍です!」
トウヤ「ついに来たか……!」
第三新東京市の方向から、G・K隊の進路を塞ぐように、ファミール艦と多数のバルキリーが姿を現す。
各艦のモニターに、ハザード・パシャの顔が映し出される。
ハザード「そこを動くなぁ!! この反逆者どもが!!」
レニー「ハザード・パシャ!」
イルボラ「このタイミングで出てきたとなると……ゼーレが奴を釈放したという推測は、当たっていたようだな」
ジョウ「ハザード! てめぇ、どの面下げてそこにいやがる!!」
怨敵ジョウ・マヤの声を聴いて、ハザードはこめかみに青筋を浮かべる。それでも、一時怒りを堪え、強者の余裕を見せつける。
ハザード「ふん、大層な口の聞き方だな。火星の薄汚い労働者風情が、このわしを誰だと思っておる!
未来の宇宙統合軍総司令官、ハザード・パシャ様だぞ!!」
ハザードが口にした肩書きに、エルシャンクの者達は呆れ返った。
ダミアン「宇宙統合軍総司令だぁ?」
ジョウ「寝言は寝て言えよ。ザ・ブームに寝返ったお前がそんなのになれるわけ……」
ハザード「裏切り者は貴様らの方であろうが! 統合軍本部からは、その場で待機せよとの命令があったはずだ!
その命令に背いてのこのこやって来たばかりか、我が軍のバルキリーを撃墜するとは!!
これは明らかな敵対行為だ!! もはやどんな言い逃れも通用せんぞ!!」
緊急措置とはいえ、此方は既に二機のバルキリーを破壊している。パイロットは生かしたまま拘束してあるが……状況だけを見れば、悪役は完全にこちら側だ。
ハザードは、優位な立場から相手を見下す快感に浸っていた。
ハザード「それにな、貴様らが碇ゲンドウと手を組んでクーデターを起こそうとしていることは、既に調べがついているんだ!!」
それもまた、ゼーレによって与えられた偽りの情報だ。ハザードにとっても、それは憎き彼らを叩き潰すための口実に過ぎない。
ハザード「大方、奴に命じられてここまで来たのだろうが、統合軍に刃向かうとは、愚かなことをしたものよ!
一体どんな見返りを用意されたんだ? ん?」
真吾「全く、言いたい放題だな」
レミー「金に目が眩んで寝返ったのはあなたのことでしょうに……」
由佳「バルキリーのパイロット二名は、こちらで保護しています。どうか私たちの話を聞いてください、ハザード……元長官」
ハザード「元ォ!? おのれ、その名を聞く度、忌々しい記憶が蘇る!! 貴様らさえ、貴様らさえいなければ!!」
由佳「とにかく聞いてください! このままゼーレの好きにさせていたら、人類は滅んでしまうかもしれないんです!!」
正確には人類の意志を一つにする「補完」なのであるが、とてもハザードに理解させられるとは思えなかったので、あえて言い換えた。
最も、由佳たちでさえ、これから何が起ころうとしているのか理解しているとは言えないのだが……
由佳「私たちに、統合軍と敵対する意志はありません。ですが、ゼーレの計画を止めるためにも、私たちは何としても……」
ハザード「ふはははっ!! 宇宙人とどこから来たかも知れん馬の骨の言うことを信じろと? 笑わせてくれる!!」
マイク「その宇宙人に、真っ先に寝返ったのはどこの誰だよ……」
ハザード「ええい、やかましいわ! 貴様らとこれ以上話すつもりは無い! 全員直ちに投降しろ!
言いかぁ? 聞いて驚け!! 我が艦には、反応弾を搭載している!
一発で、貴様らを纏めて跡形も無く吹き飛ばすことなど容易い威力だ。
こちらの勧告を聞き入れぬ場合は、直ちに発射する!!」
478
:
藍三郎
:2011/02/05(土) 23:21:38 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
神「……やはりそう来たか」
敵艦が反応弾を搭載していることは、事前にゼーレから聞かされている。故に、驚きは少なかった。それが脅威であることには変わりないが。
アイ「……いえ、彼はそれほど悠長な人物ではないようです。もう撃って来ました」
コスモ・アークのセンサーがいち早くキャッチした。
ファミール艦から発射された二発の反応弾が、こちらに向けて飛んで来る。
ハザード「わははははは! 一瞬でも安心したか?
馬鹿めが!! 貴様らに降伏する権利など最初から無いわ! 纏めて塵となれい!!」
反応弾が、爆発に全ての敵艦を巻き込める位置まで接近した瞬間……
「へっ、そう来ることもお見通しなんだよ」
赤と青の閃光が瞬く。
目標に到達しても、反応弾は、爆発することなく、あまつさえ空中で静止していた。
シャフ「飛影に零影!」
空中で反応弾を止めたのは、飛影に零影だった。彼らは既に合身してエルシャンクの上に乗っていたのだ。
ロミナ「ジョウ! イルボラ! 何と言うことを! それは……」
血相を変えるロミナ。
イルボラ「ご心配には及びません、姫様」
ジョウ「もうこいつは爆発したりしねぇよ」
ハザード「な、何故だぁ!?」
ハザードは遠隔制御で直接爆発させようとするが、飛影と零影が掴んだ反応弾はやはり爆発しない。
イルボラ「マクロス7で、反応弾の構造は見させて貰った。どこを斬れば爆発しないかは、把握している」
ジョウ「そういうこった!」
飛影と零影は、反応弾の爆発を起こすための装置を、接触した瞬間に忍者刀を抜き、目にも止まらぬ速さで切り裂いたのだ。
規格外の俊敏さと、搭乗者と機体の意志と動作を完全に一致させる、飛影と零影だからこそ出来た神業だ。
それをいきなり実戦で、しかも不意打ちのように放たれた弾丸に見事対応してみせたことが、二人の戦士の非凡さを現していた。
ハザード「ぬぅぅ!! おのれおのれ! 憎き忍者ロボどもめが!!」
ジョウ「覚悟しやがれ、ハザード!!」
一足飛びにファミール艦へと斬り込むジョウ。守りを固めるバルキリー隊も、その超加速に反応しきれない。すれ違い様にブースターを破壊され、無力化される。
ジョウ「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ファミール艦のブリッジ目掛けて忍者刀を振り下ろす。だが……
ハザード「そう何度も貴様の好きにさせると思うな!!」
飛影の刃は、艦を包む見えない壁によって弾かれた。
レニー「ディストーションフィールド!」
ダミアン「同じ統合軍の艦なんだ。それぐらい備えていて当然か……!」
それも、エステバリスやナデシコに搭載されているものより、数段強固な代物らしい。重力場で空間が歪んでいる。
479
:
藍三郎
:2011/02/05(土) 23:24:27 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ハザード「飛んで火にいる夏の虫とは貴様のことよ! くたばれ! ジョオオオオオォォォォォッ!!」
ファミール艦の機関砲を、分身してかわす飛影。更に後方からは、バルキリー隊が集中砲火をかけて来る。
ジョウ「ちっ!」
ジョウはたまらず一旦距離を取る。同様に切り込んだイルボラもマキビシランチャーを撃つが、やはりディストーションフィールドに阻まれる。
イルボラ「そう簡単には落とせないようだな」
ハザード「ふふふ、恥知らずとは貴様のためにある言葉だなイルボラぁ。一度飼い主の下から逃げ出しておきながら、負けた途端にまたも尻尾を振るか。所詮犬は犬というわけよ!!」
地球とラドリオ星。二人とも、かつて故郷である星を裏切ってザ・ブームについた者同士。
その裏切りを心底悔いている今のイルボラは、その罵りを否定する言葉を持たなかった。
イルボラ「……私は許されざる罪を犯した。その点において、貴様と同じ穴の貉だ。いかなる誹りも、甘んじて受けよう。元より、償いきれる罪とは思わない。だが、ロミナ姫は、こんな愚かな私の命を救い、生きる場を与えてくださった」
零影は、分身で艦砲射撃をかわしながら、ファミール艦に肉薄する。
イルボラ「名誉も栄光も、私を惑わせた愚かしき妄執は、全て捨てた。この胸にあるのは、ロミナ姫への忠義のみ!! あの方のために、私は死すまで剣を振ろう!!」
ハザード「ええい! 今更立派ぶっても遅いわぁ!! その透かした態度が、わしは前から気に喰わなかったのだ!!」
ファミール艦から放たれたビーム砲を、寸前でかわす零影。
零影の一閃がファミール艦に炸裂し、ディストーションフィールドを大きく揺らす。
ハザード「うおおっ!? おのれぇ、イルボラぁーっ!!」
イルボラ「……大体こんなところか」
仕留めそこなったにもかかわらず、イルボラの顔には余裕の色があった。
ロミナ「由佳様! アイ様! 行って下さいませ!!」
由佳「わかりました……コスモ・フリューゲル、全速前進!!」
若干後ろめたさを残しつつ、由佳はコスモ・フリューゲルを急加速させる。
これが最初からの取り決めだった。ゼーレの息のかかった統合軍が妨害に現れることは最初から予想できていた。その場合、エルシャンクが残って敵を食い止め、フリューゲルとアークを先に行かせることを、南極からの道すがら決めていた。
もちろん、先を急がねばならないということもある。だが、それ以上に、異邦人であるG・K隊が統合軍と本格的に交戦すれば、それがどんな事情とは言え、その後の彼らの立場が極めて悪くなることは必定だ。
由佳『でも、それでは皆さんが!』
エイジ『仮に、我々が総力を持って当たれば、恐らく突破できるだろう。だが、それでは双方に多大な犠牲が出る。俺たちが戦うべき敵は、彼らではないんだ。
彼らが何者かの思惑に踊らされているのなら、その目を覚まさせなければならない。それは、この世界の人間である俺たちの役目だ』
ロミナ『ご心配なさらないでください、由佳様。ジョウ達もいますし、時間を稼ぐだけなら何とかなりますわ』
ハザード「んなっ!行かせてなるものか!」
まんまと時間稼ぎに引っかかったことに悔しがりつつ、配下に命令を発するハザード。
フリューゲルとアークの正面に、サンダーボルトの部隊が群がる。
しかし、彼らはいずれも、何処からかの攻撃を受けて撃墜される。攻撃を放ったのは、バミューダストームとガンダムファイターの機体だった。
セレナ「おっと、それはこっちの台詞よん」
ゼド「全機の脱出を確認。皆さん、お見事です」
ドモン「あんたもな。殺すだけが、武闘家の戦いではない」
由佳「皆さん、すみません!」
さすがにエルシャンクだけでは苦しいので、G・K隊からは彼らがここに残ることを志願したのだ。
ムスカ「なぁに、職業柄、こういう面倒な状況にゃ慣れっこだからよ。この場は俺達に任せな」
ゼド「まぁ、この世界に来てからというもの、面倒でなかった案件などありませんでしたがね」
ムスカ「確かにな」
遠ざかるフリューゲルとアークを注視しつつ、ムスカは苦笑する。
セレナ「あーら、それはついこの間まで寝込んでいた私に対する当てつけかしら。いいわね貴方たちは。共有できる思い出があって」
ゼド「何でそうなるんですか」
拗ねたように頬を膨らませてみせるセレナに、苦笑するゼド。
480
:
藍三郎
:2011/02/05(土) 23:29:17 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
統合軍兵「反応弾、次弾発射準備完了しました!」
ハザード「よぉし! 撃て撃てい! 目標はあの二隻だ!!」
ムスカ「おっと、待ちな! もし反応弾を撃てば、俺はそこに目掛けてミサイルを撃つ。そうすりゃ、吹っ飛ぶのはあんたらの方だぜ」
ハザード「ハッタリを。そんなこと出来るわけなかろう」
ハザードは鼻で笑う。彼は、ムスカ・スタンフォードの演算者としての能力を知らない。
彼の手にかかれば、発射直後を狙ってミサイルを当てることなどたやすい。
ムスカ「試して見ないとわからねぇぜ。ただし、賭け金はあんたの命だ。もし俺の狙いが成功すれば……分かるよな?
総司令官の椅子に随分とご執心なようだが、地位も名誉も、あの世までは持っていけねぇんだぜ?」
ハザード「むぐ……う、撃つな! 撃ってはならんぞ!」
ハザードもようやく気づいた。いや、気付かされた。反応弾は確かに強力無比な兵器だが、それは切れ味の良すぎる諸刃の剣でもある。威力があまりに大きすぎて、撃った側も爆発に巻き込まれる危険が常に付き纏っているのだ。
ハザード・パシャは、尊大であるが同時に小心者でもある。事が自分の保身に及べば、途端に冷静な思考を取り戻す。地位を目当てに作戦に参加しているハザードに、一か八かの賭けに出る勇気は無かった。
これも、事前にジョウ達から、ハザードの性格を聞かされていたムスカの思惑通り。反応弾の威力を逆用して、反応弾を封じ込めたのだ。
ハザード「え、ええい! 反応弾が使えずとも、我が軍の兵力は圧倒的!
正面から捻り潰してくれる! あの紫色の奴を重点的に狙え!」
ムスカ「おおっと、御指名してくれんのはありがたいが、今言ったことが出来るのは、何も俺だけじゃないからな?」
ジョルジュのガンダムローズも、ローゼスビットを使えば、反応弾を発射直後で破壊できる。ハザードは、またも言葉に詰まってしまう。
弱者を一方的に蹂躙するだけだったNERV侵攻と異なり、何をしてくるか分からない、くせ者揃いの機体を前に、ハザードはどう攻めるべきか迷っていた。
そして、指揮官の混乱は、軍全体を停滞させる。
結果的にムスカ達の望み通り、どちらが攻めることもない状況が作り出されていた。
481
:
藍三郎
:2011/02/05(土) 23:30:39 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
エイジ「皆、聞いてくれ!」
今度はエイジが、統合軍の兵士達に呼び掛ける。
統合軍兵「あいつは、エイジ……アルバトロ・ナル・エイジ・アスカか?」
統合軍兵「ああ、本物だ……」
グラドス侵攻時から、地球側について戦っていたエイジは、統合軍にもよく知られていた。中には、共に肩を並べて戦った者達もいる。
エイジ「軍人は、上の命令に従わなければならない。それは分かる。
だがそれは、己が正しいと信じた軍に対して果たすべき責務であるべきだ。
君たちに命令を下したのは、本当に信じるに値する相手なのか?」
ハザード「えぇい、うるさい! グラドスの血の混じった合いの子如きが、地球のことに口をはさむな!
我々には、NERVのクーデターを阻止する使命がある! これは正義の戦いなのだ!」
エイジ「なら、それが真実だと確かめた者はいるのか? ただ一方的に決め付け、上に命じられるがままに動いているだけではないのか?
真実も分からぬまま、いたずらにその手を血で汚せば、取り返しの付かないことになるんだぞ」
エイジの追究に、誰も言い返せなかった。
ロミナ「それなら、わたくし達と共に真実を確かめに参りましょう」
続けて、ロミナが兵士達に呼び掛ける。
ロミナ「わたくし達は、貴方達との戦いを望みません。
それがこの星のためになることならば、共に手を取り合いたいと考えています。私達は、今までもそうして来たじゃありませんか」
エイジ「グラドスにザ・ブーム、ギャンドラーを撃退し、プロトデビルンとの和解が成ったのも、地球人、異星人、異世界人が、共に手を取り合い戦ったからだ。
それが何故、今更互いに相争わなければならない。俺は許せない、この戦いを仕組んだゼーレを!
この星の歴史を終わらせかねない彼らの野望を阻止するためにも、俺達はまた、互いを信じて、力を合わさなければならないんだ!」
エイジやロミナの訴えに、統合軍兵士たちに動揺が広がる。
ハザード「黙れ黙れい!! 貴様ら、何をしている!! 早くあの宇宙人どもを排除せんか!!
奴らは妄言を垂れ流し、我々を混乱させようとしているだけだ!!」
ゼド「ハザード長官……ならば、貴方にとって分かりやすい話をしましょう」
見下すことも罵ることも無く、落ち着いた口調で語りかけるゼド。
ゼド「貴方は本作戦の見返りに、総司令官の椅子を用意されているそうですが、果たしてそんな無茶が通るものでしょうか?」
ハザード「な、なぬ?」
セレナ「そうよね。何たって相手は胡散臭いことこの上ない秘密結社ゼーレ。利用するだけ利用して、ポイ捨てなんてこと、十分考えられるわ。
どうせ、牢屋から出してくれるって言われて、藁にも縋る気持ちで飛びついたんでしょ。向こうにとっちゃ、何でも言うことをホイホイ聞いてくれる都合のいい捨て駒、その程度にしか思われていないわよ」
ハザード「う、うむ……」
ハザードは、更に思考の泥沼に突き落とされる。
思い当たる節が多すぎる。利用し、裏切り、使い捨てる。そういった、泥臭い権力の裏の姿こそ、彼が身近に接して来たものだからだ。
482
:
蒼ウサギ
:2011/02/13(日) 01:22:47 HOST:i114-190-97-79.s10.a033.ap.plala.or.jp
=NERV ジオフロント=
量産型エヴァンゲリオン。その五番目の胴体が上部真っ二つに切断され、空を舞っていく。
血しぶきを噴水のように上げる残された下半身を余所に、弐号機はすぐに背後にいた六番目に剣を振るって左足を切り落とした。
その瞬間、まるで大降りになった隙を伺っていたかのように七番目が襲いかかってきて弐号機をマウントポジションに一気に持ち込んだ。
口から滴り落ちるよだれに、アスカは憎らしげな目で睨み七番目を押し上げながら肩のニードルガンを射出した。
勢いよく発射された鋭い針は七番目の頭部を串刺し。そのまま仰向けに倒させた。
アスカ「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
内臓電源残り約46秒。弐号機の猛攻は八番目に迫っていた。
§
=コスモ・アーク=
第三市新東京市へ向けて全速前進中の二艦。
アイは、未だにMAGIへのハッキングに苦戦していた。
アイ(……やっぱり、ホシノ少佐のナデシコCのサポートがないと、このプロテクトを突破するのは簡単じゃない)
決してアイとルリの能力にほとんど差はないのだが、ナデシコCにはオモイカネというメインコンピューターがある。
彼女とオモイカネが一つのなることで、あの艦は電子戦に関しては無敵となる。
そして、MAGIはメルキオール、バルタザール、カスパーという3つの独立したシステムを搭載して、疑似的な人格を再現している。
コスモ・アークのコンピューターも優秀だが、“現状”ではそれらには劣るものがある。
アイ「……艦長、合体を―――」
トウヤ「アイくん、僕はそろそろ出撃準備をする。あとは頼むね」
アイの言葉を遮って、トウヤは艦長席をいそいそと立つ。
アイ「! 艦長っ!」
トウヤ「僕はこの艦を君に完全に預けたつもりだよ。だから君がコスモ・ストライカーを使用したいならそれで構わないと思ってる。
でも、出来るかどうかは、もう一人の艦長さん次第だ」
そう告げて、トウヤはブリッジを後にした。
アイは、コスモ・フリューゲルとの交信を数秒躊躇した。
未完成なれど、合体すれば少なくとも現状よりは情報能力は向上し、MAGIをハッキングできるだろう。
だが、後一歩というところで切り札を使ってもいいのだろうかと、葛藤してしまう。
アイ(……そう、これはまだここで見せるわけにはいかない!)
交信ボタンへの指をキーボードに移して思考をハッキングへと移す。
そして、発想を変えていく。
相手が疑似人格―――つまり、機械ではなく一人の人間の心と思い、奪うのではなく、説得として試みる。
すると不思議なことに、みるみるうちにこれまで解けなかったプロテクトが解けていく。
アイ「そう、メルキオールは科学者。バルタザールは母親。カスパーは女としての思考パターン。……それさえ理解できればあとは人間と接するとの同じ」
まだ母親や女としての思考は、アイには理解できない部分はあるけど、科学者としての思考は共感できる部分が多そうだった。
だが、これでは1:2で否決されてしまう。MAGIは民主的なのだ。だが、もし自分が女としての部分を少し、ほんの少しでも理解できれば……。
アイ「………ありがとう、カスパー」
=コスモ・フリューゲル 格納庫=
一方で、パイロット達は戦闘準備に取り掛かっていた。
だが、碇シンジはまだ思い悩んでいる様子で格納庫の隅で蹲っていた。
ミサト「シンジくん。彼らの姿を見て何も思わないの?」
シンジ「……」
何も動かない。答えようとしないシンジにミサトがついに手を上げようとしたそれをいつの間にか背後にいた悠騎が止める。
悠騎「やめときなって、ミサトさん。オレ達は、ただウチのバカ妹の駄々に付き合ってるだけだよ」
ミサト「だ、駄々?」
悠騎「あぁ、「統合軍が行かなきゃ、私がこの艦一人で行っちゃうもん!」ってな感じでな。兄としてはこりゃ付き合ってやんねーとなぁ〜って」
由佳『お兄ちゃん…聞こえてるわよ?』
悠騎「てめっ! 格納庫内の回線盗み聞きするなんざ趣味悪いぜ!」
由佳『盗み聞きじゃないわよ。皆に報告することがあって回線開いたら、たまたまお兄ちゃんの本音を聞いちゃったってわけ。
はいはい、悪かったわね駄々こねて。今すぐ南極にリターンしてもいいんですよ、ほ・し・く・ら・た・い・い・ん!』
悠騎「今更できるかぁ!」
お馴染みの兄妹同士のささやかな喧嘩で、うっかりと重要なことを聞き逃しそうな展開にタツヤが思わず割って入る。
483
:
蒼ウサギ
:2011/02/13(日) 01:23:37 HOST:i114-190-97-79.s10.a033.ap.plala.or.jp
タツヤ「ちょっ、ちょっと待て! 由佳さん、今、オレ達に報告することがあるって言ってたけど……何?」
由佳『あぁ、ごめんなさい。はい、四之宮艦長がMAGIの一部ハッキングに成功しました』
その声に格納庫内に歓声が湧きあがる。この状況で現場の情報が少しでも得られるのは実に喜ばしいことだ。
カトル「それで、どこまでわかるのでしょうか?」
由佳『それは……』
アイ『それは直接お話しします』
声がアイに変わって説明が始まる。
§
=NERV本部=
リツコ「彼女は科学者としてのメルキオールと共感し、カスパーを理解しようとした。
それによって母親であるバルタザールは彼らの意向を理解してMAGIはプロテクトの一部を自ら解除したわ」
冬月「よかったのかね?」
リツコ「えぇ。むしろこちらとしては好都合でしょう。こちらから外部への交信は一切遮断されているこの状況で唯一繋がれた相手ですもの」
外部から遮断されているはずのこの場で、突如、マヤのノートパソコンから砂嵐の画面とノイズ混じりに聞こえてきたアイの声。
そこからリツコは察した。ゼーレとは違う誰かがここに交信を求めているのだということを。
マヤがノイズと画面を調節して、どうにかアイの姿と声がまともに見えるようになったのはつい数分前のことだった。
アイ『それで、NERV側が統合軍に対してクーデターを起こしているというのは本当なのですか?』
冬月「それを君達に告げたのはゼーレかね?」
アイ『その口振りからすると、心当たりがありそうですね』
アイの目がスッと細くなるのを誰もが見逃さなかった。
リツコ「少し間違っている、と言ったところかしらね。あの人はアダム、そしてレイを使って自分自身の補完計画を企てていたのよ。
ゼーレを利用してね」
冬月「もっとも、ゼーレも気づいていて碇を利用していたがね。いずれこうなることは目に見えていたことだ。統合軍の反逆なんぞ、まるで考えておらんよ」
アイ『……わかりました。とりあえず現在行われている戦闘の状況をこちらのモニターに転送させてもらうことはできますか?』
マヤ「あ、できます!」
すぐさまマヤがその作業を開始した。
§
=コスモ・フリューゲル 格納庫=
アスカ『負けられないのよ! ママが見てるのにぃ!』
そんな怒声交じりの声がコスモ・フリューゲルの格納庫内に響く。
悠騎「おいおい、アスカじゃないか! あいつ、復活したのか?」
タツヤ「最近、セレナさんといい、トウヤさんといい、最近、復活する人が多いなぁオイ! いいことじゃないか!」
悠騎「へっ、さっさと行って援護してやっか。ま、この調子だと必要ないだろうけどよ。あ、ミサトさん」
駆けだそうとしたその時、悠騎はふと足を止めた。
悠騎「さっきは、あー言ったけど、本音はオレの知らないうちに人類が滅びたり、地球がどうにかなっちまうのが嫌だからってことなんだ。
つまり、頭ごなしにゼーレがNERVと接触するなって命令したのが、ただ気に食わなかったってだけだ」
ミサト「悠騎くん……」
その呟きは彼の耳に届くことはなく、悠騎はすぐに愛機へと走っていっていた。
それぞれがすぐにでも発進できる中、残されたのはミサトとシンジのみ。
シンジ「……ママ、母さん………」
久しぶりのアスカの声を聞いてか、シンジは思わずEVA初号機を見上げていた。
484
:
蒼ウサギ
:2011/02/13(日) 01:24:17 HOST:i114-190-97-79.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=NERV ジオフロント=
怒声と共に喉を掴んだ8番目を建物にぶち込ませ、その後、9番目の量産型へと投げつける。
アスカ「これでラストォォォォォッ!!」
全速力で走って二機の腹部を拳で貫通させる。内部電量が切れるそのギリギリまでアスカは二機の量産型が機能を停止するまでひたすら拳を捩じっていた。
その矢先、背後から飛来する剣。空を切る音で感づいたアスカは、腹部から手を抜いてすぐにATフィールドでそれを防御。
剣は完全にそこで停止。次の瞬間、みるみると形を変えていった。
アスカ「え!?」
冬月「あれは、ロンギヌスの槍!?」
二又の槍とでもいおうか、ともかくアスカは見たことない形状の武器であることは間違いなかったものの、
NERV本部ではその姿に冬月が目を見開いていた。
嫌な音をたてながらその槍は、ATフィールドを突き破ってついには弐号機の頭部へと深く突き刺さった。
アスカ「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっっ!!」
シンクロによる極限の痛みを伴いながら内部電源が0になり、力尽きた弐号機は、頭部に突き刺さったロンギヌスの槍で地面へと突き刺さった。
485
:
はばたき
:2011/02/15(火) 21:59:29 HOST:zaqd37c94d7.zaq.ne.jp
内部電源0。
それはエヴァにとって完全停止を意味する言葉。
エントリープラグの中のアスカが、どれだけ叫ぼうともがこうと、弐号機がそれに応える事は、もう無い。
だが、それは絶望と呼ぶには稚拙に過ぎる。
そう、本当の恐怖はここから・・・・。
全てのエヴァが沈黙したこの戦場で、一体誰が諸刃の剣を放ったか?
答えは至極シンプルだ。
沈黙した筈の9機のエヴァ量産機。
それが”全員起き上がって来ている”。
あるモノは潰された箇所そのままに
あるモノはニードルに貫かれた頭部を振りかざし
あるモノは切り裂かれた部分を復元してまで―――
彼らは本能のままに再生する。
その様は、これまでエヴァンゲリオン達が伏し、倒し、駆逐してきた使途のよう。
白い死神達は哂う。
無力な獲物を前にして、声は出ずとも愉悦に狂う。
翼を広げ、舞い上がり、そして紅いエヴァに群がり喰らう。
それは屍肉に群がるハゲタカの様だ。
生きながら喰われる痛みは如何程のものか・・・。
だが、それを伝える声の主は動けない。
発する声は誰にも届かない。
電池の切れた人形は動かない・・・
一方的な蹂躙。
それが最後の牙城を侵す―――
§
=コスモ・アーク 格納庫=
レイリー「いつでもいけるよ。艦長!」
艦の全てをアイに預けたトウヤを出迎えるレイリー。
それに対して、信頼の意を笑顔で示す。
南極での復活劇に至るまで、彼女が欠かさず自分の機体を整備してくれていたのはよく知っている。
レイリー「久しぶりの実戦だけど、無茶しないでね」
トウヤ「解っているさ」
ラダーを昇り、コクピットに入り込み機体を立ち上げ、カタパルトに移動しようとしたその時、
レイリー「え?」
ガゴン、と先に動く機体が一つ。
レイリー「お嬢!?」
驚愕はトウヤも同じ。
先だって動いたデンメルングクレインを乗りこなせる人物は、今はとても戦闘が出来る状態では無かったはず。
レイリー「お嬢!まっ・・・!」
静止を掛ける暇さえ無く、暁の鶴は翼を広げて飛び立っていく。
トウヤ「くっ!アイ君、僕は彼女を追う。すまないが、ここは任せた!」
§
コスモ・アークから出撃した影を見て、G・K隊の皆は誰もが目を見張った。
だが、一際驚愕したのは彼女だろう。しかし・・・
アイラ「エレ・・・・」
その瞳に映るのは、どこか暗い・・・炎。
486
:
はばたき
:2011/02/15(火) 22:00:07 HOST:zaqd37c94d7.zaq.ne.jp
§
=NERV ジオフロント=
ビームの鍔競る甲高い音が響く。
一方は双頭の龍、一方は交叉する嘴の鳥。
出力で勝る剣戟を、的確な槍捌きで返す戦いは一進一退だ。
ナシュトール「おおおおぉぉぉぉっ!!」
五飛「フン、いつまでもこうしてはいられんな・・・」
弐号機が殲滅した筈の量産型エヴァ。
それが動き出したのを目にして五飛の目にも僅かな焦りの色が灯る。
早々にこの場を納めたいが、我を忘れても、ナシュトールとイスカの力は本物だ。
攻めあぐねる五飛が、次の手を思案していたその時、ふいに上空から一筋の光が奔った。
ナシュトール「っ!!?」
正に野生の感といった所か、間一髪でそれを避けるイスカが振り仰いだ空には、輝く翼のAW。
エレ「・・・・・」
地表を見つめる瞳に光はない。
一遍の表情も伺えぬその顔で、少女は静かにスロットルを操る。
トウヤ「追いついた・・・!あれは、ナシュトール君か!?」
そして程なく後を追走してたトウヤのナックルゼファーも戦端に到着する。
モニタが捉えた映像に、顔を強張らせると、その予感は正しく的中する。
ナシュトール「紫ぃぃぃぃとおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
それまで矛を交えていた五飛も顔を顰めるほどのプレッシャー。
咆哮と共に飛んだイスカの刃が、ナックルゼファーの拳とぶつかる。
トウヤ「くっ!そんなに僕が憎いか・・・ナシュトール君」
激発する火花を散らし、二機が空中で対峙する。
トウヤ「・・・だけど僕は・・・」
ナシュトール「あああああぁぁぁぁぁっ!!」
再び脇目も振らずの突進を敢行しようとするイスカを前に、トウヤは叫んだ。
トウヤ「今でも君を仲間だと思っている!」
ナシュトール「っ!」
その叫びに、一瞬イスカの動きが止まる。
そう、今だからこそ信じられる。
プロトデビルンとの絶望的な生存競争を和解と言うカタチで制した今なら。
かつて、共に戦場を駆けたこの相手が、決して許されない邪悪ではないと。
その内にある想いに、悪性はないと確信を持って言えた。
だが・・・
ナシュトール「・・・こ・だ」
トウヤ「?」
ナシュトール「だからこそだぁっ!!!」
血涙の咆哮。
より高く、より強い想いで以って、イスカは飛ぶ。
トウヤ「ナシュトール君・・・君は・・・」
思えば、今まで何度と無く矛を交わしたが、果たしてそこに敵意はあったろうか?
殺意は?悪意は?
ナシュトール・スルガという男が振りかざした刃に宿っていたのは、果たして怒りや憎しみだったか?
そんな彼を制す様に、光条が奔る。
エレ「・・・・」
それはまるで狂える獣を、血の涙を流す男を鎖から解き放とうとするかのようにさえ、視えた・・・。
487
:
藍三郎
:2011/02/20(日) 22:02:33 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ハザード「うるさいうるさいうるさぁーい!! 貴様らの口車に乗ってたまるものか!!
貴様ら、さっさと攻撃を始めろ! 命令に従わぬ者は後ろから撃つぞ!!」」
悩みに悩んだ末、思考能力が限界に達したのか、彼が選んだのは、己の感情に忠実になることだった。
セレナ達の言葉は、ハザードの心をいくらか揺らしたが、エルシャンクとG・K隊への憎しみが、それを塗り潰した。
ダミアン「くっ、やはり戦いは避けられないのか……」
ムスカ「ちっ、やむを得ねぇ。みんな! 自分が生き残ることを第一に考えろ!!」
相手が統合軍とはいえ、この戦力差。下手に手を抜けばこちらがやられる。覚悟を決めて、非情に徹するしかない。
その時……
シャフ「姫様! 後方から艦隊が接近しています!これは……」
エルシャンクの来た側から、無数の機影が現れる。それは、ハザードの艦隊の優に倍はあった。
「双方、武器を収めよ。諸君らが戦う必要はない!」
突如現れた大艦隊から発せられた呼びかけに、皆言葉を失う。モニターに映し出された人物は、統合軍の軍人ならば、誰もが知っている顔だった。
エイジ「ミスマル・コウイチロウ提督!」
現在、地球圏でこれだけの軍を展開できるのは、宇宙統合軍の司令官である彼しかいない。
ミスマル「諸君、聞きたまえ!ゼーレは現在統合軍の手により、解体されつつある。もはや彼らの命令に従う理由はない!」
ハザード元長官指揮官は私が引き継ぐ。
ハザード「ば、馬鹿な! 出鱈目を抜かすな! そんな嘘八百、確かめればすぐに分かるのだぞ?」
ローニン「ならば確かめてみればいい!」
ジョウ「ローニン!お前まで……」
マイク「な、何がどうなってんだ?」
突然の成り行きに、ジョウ達を始めとする多くの者が困惑を隠せずにいた。
統合軍兵「ち、長官……」
ハザード「どうした?あのジジイどもは何と言っている!?」
ゼーレとのパイプ役を務めていた男は、生唾を飲み込む。その顔は、かつてない程に青ざめていた。
統合軍兵「どなたとも連絡が取れません……まさか……」
ハザードの赤ら顔が、一瞬で真っ青になった。
488
:
藍三郎
:2011/02/20(日) 22:03:32 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=???=
キール「やってくれたな、ミスマル・コウイチロウ……いや……」
暗い室内で、生身のキール・ローレンツは一人呟いた。
彼の眼前にはゼーレの委員を示すモノリスが映し出されているが、それがざわめきと共に、一つ一つ消えていく。
彼らは、ミスマルの命を受けた特殊部隊によって拘束されているのだ。秘密結社の幹部などやっていれば、拘禁に足る理由など幾らでも出て来るだろう。
正体や居場所、そして過去の罪状など、ゼーレの構成員の情報は、上層の人間になるほど厳重に秘匿されているはず。
故に、彼らは統合軍を裏から支配する秘密結社として君臨することが出来たのだ。
それがあっさりと、しかも一斉に流出するとは。キールは、これをミスマル達の手柄とは思わない。
内部から情報を流した人間がいるはずだ。ゼーレの内部事情に精通し、この段階でゼーレを潰すメリットがある人間といえば……
碇ゲンドウ――
彼が獅子心中の虫であることなど最初から承知していた。だから、こちらは統合軍という武力を用いて、ネルフごと彼の反意を挫くつもりだった。
しかし、こちらが統合軍を使って彼を潰そうとしたように、碇もまた、ミスマルらゼーレに従わぬ勢力を利用し、こちらの息の根を止める刃としたのだ。
だが……
それだけでは、まだ足りない。碇がそのような手に打って出る可能性も、考慮はしていた。
この計画を実行に移すには、碇だけではない、更に上層にいる者の協力が必要なはずだ。
それが誰かは、もう分かっている。分かっていながら、キールは何もしようとはしない。
いつの間にか、モノリスの数はキールのものを含めて残り四枚程度にまで減っていた。
ゼーレはもうおしまいだろう。再起をかけることも不可能ではないが、それが何だと言うのだ。
事ここに及べば、計画の成就は間近だ。ゼーレ自体、NERVと同様、人類補完計画を実行するための装置に過ぎない。
地位や権力、そんな、人と人との繋がりを前提とした概念は、もうすぐ無くなるのだ。
やがて、残ったモノリスはキールのものを含めてただの二枚だけとなった。
一つはキールのもの。そして、もう一つのモノリスが示す人物は……キールに対し、“肉声”で語りかけた。
???「随分と寂しいことになりましたな。キール・ローレンツ議長」
キール「やはり君か……」
キールは振り返ることなく、背後にいる人物の名を呼ぶ。
キール「ユーゼス・ゴッツォ……」
仮面を外した素顔で、ユーゼスは笑った。
489
:
藍三郎
:2011/02/20(日) 22:05:06 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ミスマル「たった今、統合軍のネルフ殲滅指令は撤回された!
作戦の中止と同時に、ハザード・パシャ前長官の指揮権も消失するものとする」
ハザード「んなっ!?」
ミスマル「以降、全軍の指揮権は私、ミスマル・コウイチロウが引き継ぐ。直ちに戦闘を中止し、我が軍に合流せよ」
ローニン「お前達の中には、ゼーレに見返りを約束された者もいるだろうが、既にゼーレは解体されつつある。見返りなど期待しても無駄だぞ」
ハザード「そ、そんな!?わしの……わしの統合軍総司令官の椅子は……」
ローニン「いい加減、夢から覚めろ。そんなものはない。冷たい牢獄で極刑を待つことが、お前に下された現実だ」
ハザードに対し、冷たい言葉を投げるローニン。
これまで、異星人の走狗となって統合軍の名を汚し、多くの同胞を死に追いやったこの男を許せるはずも無かった。
ハザード「!! おのれ! おのれぇ!!」
ブリッジの椅子を、拳で殴りつけるハザード。
そうしている間にも統合軍の兵士は次々にミスマル側へ投降していった。
ジョウ「ローニン、何がどうなってんだ?」
ローニン「それは……」
セレナ「たく、あんたらも人が悪いわね。私達にも黙って、水面下でゼーレを潰そうとしてたなんてね」
セレナは、統合軍の艦隊が現れた時点で、全てを察していた。
ローニン「すみません。ですが、万が一にも、我々の動きをゼーレに察知されるわけには行かなかったのです。
結果的に、皆さんだけを争いの只中に放り込むことになってしまいました」
セレナ「いいわよぉ、別に。これは、私達が自分で選んだことだしね。利用しようがどうしようが構いはしないわ」
さばさばした顔で答えるセレナ。
セレナ「……それに、貴方達が来てくれなかったら、いくら私でも無血で収めることは出来なかったわ」
ローニン「……統合軍を抑えてくれたこと、心から感謝します。彼らもまた、我々の貴重な同志ですので」
490
:
藍三郎
:2011/02/20(日) 22:05:36 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
宇宙統合軍を私物化するゼーレと、統合軍に所属するミスマルやローニンは、長年水面下で対立してきた。
切欠は蜥蜴戦争だ。木連の地球に対する憎悪の源である、火星の移住者達を追放した事件について調査を進める内に、背後でゼーレなる組織が暗躍していたことを知る。
ミスマルやローニンの父であるサナダらは、統合軍を裏で操るゼーレの正体を暴こうとするが、世の権力者達によって構成されるゼーレの実体を掴むことは容易ならず、
異星人の襲来や、突如として現れたテロ組織『バディム』への対応に追われ、調査に専念することが出来なくなっていった。
しかし、それで彼らが諦めたわけではない。地球圏で起こる様々な事件の内、ゼーレの影が感じられるものを重点的に調べあげ、その尻尾を掴もうとしたのだ。
それでも、微々たる成果しか上げることが出来なかったが……
つい先程、この状況を劇的に変化させる情報が、ミスマルらの下に舞い込んだのだ。
これは、第三新東京市に向かっている間に交わされた会話である……
ミスマル「加持リョウジ君、感謝する。ゼーレの構成員の所在とその犯罪の証拠……
君が持ち込んでくれた情報が無ければ、軍を動かせぬまま、ゼーレの思惑通りに事が運んでしまうところだった」
加持「何、俺は碇司令から、送られて来たデータを、そのまま渡しただけですよ。
でも、分かっているんでしょう? 司令は司令の思惑があって、貴方達を助けたということぐらい」
ミスマル「ああ……」
ミスマルの表情は暗い。碇ゲンドウの取った策も、ゼーレと同じだ。
ゼーレが、計画から統合軍の目を逸らすために地球圏に争乱を引き起こしたのに対し、ゲンドウはゼーレと統合軍内の反対派を噛み合わせることで、自分が自由に動ける時を稼いだ。
ゼーレは武力でゲンドウを排除し、リリスを押さえようとしたが、統合軍を掌握するのに時間がかかり、土壇場になるまで殲滅作戦を実行出来なかった。
その間、ゲンドウは加持らを使いゼーレの情報を集め、彼らが攻勢に転じた時を見計らって、情報を統合軍へと流したのだ。
ゲンドウ自身も、ゼーレの存在無くして計画を完遂できない。だから、計画が最終局面を迎えるまで情報を伏せておいたのだ。
結果的に……ゼーレと統合軍は互いに牽制しあい、その隙にゲンドウは、自由に動き回ることが出来た。計画の要たる全ては、今やゲンドウの手中にある。
ミスマル「人類補完計画の脅威は、未だ去っていないということか」
加持「脅威か否かの解釈は、人によって違うと思いますがね」
ゼーレは……少なくともキール・ローレンツは、真摯に人類全体の存続を願って、補完計画を遂行しようとした。
補完される人類の中には、当然、彼ら自身も含まれている。だが、碇ゲンドウは……
ローニン「皮肉なものですね。ゼーレのでっちあげとばかり思っていた碇司令のクーデターが、まさか現実のものとなろうとは」
ミスマル「全くだな。彼の情報でゼーレを解体に追いやることが出来た。
それには感謝するが、人類補完計画を実行させるわけにはいかん。何としても、彼の暴挙を止めねば」
ローニン「はい……」
ミスマル「先行しているエルシャンクにG・K隊の安否も気にかかる。先を急ごう」
加持「しかし、恐らくは間に合わないでしょう。碇司令は、事が最終局面に及ぶタイミングを見計らって、俺に情報を流させたんでしょうから」
ローニン「我々が到着する頃には、人類補完計画は実行されてしまうということか」
加持「ええ。ただ、具体的にどのような現象が起こるのかは、俺にもわかりません。
分かっているのは、計画が実行されれば、全人類の意志は一つに統合される、ということだけです」
ローニン「それは、人類という種の死と同じことだ。何としても阻止しなければならない……だが」
ローニンは、歯痒さを顔に滲ませる。時間が足りない。統合軍の動きは、尽く碇ゲンドウに読み切られている。
加持「……唯一、計画を崩せる可能性があるとすれば……」
ローニン「碇司令の想定にない行動を取った者達。……エルシャンクにG・K隊……彼らならば……」
グラドスやギャンドラーを撃退し、プロトデヒルンと和解した彼らならば、この危機的状況も、乗り切ることが出来るかもしれない。
己の無力さを噛み締めつつ、今はそんな、淡い期待に縋るしかなかった。
491
:
藍三郎
:2011/02/20(日) 22:06:58 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ハザードは、艦長席から立ち上がり、眩暈を起こしたようにふらついた。
ハザード「わしが……わしが終わる? 訳の分からん連中にこき使われた挙げ句、それは全部無かったことになって、また元の豚箱に逆戻りだと……?」
ローニン「それがお前の選択の結果だ、ハザード。散々往生際の悪さを見せてくれたが、そろそろ観念する時が来たんだよ」
ハザード「黙れ! サナダの小伜が!!
元を正せば、貴様達のせいだ!このわしを火星などという辺境に送り出しおって!
わしの力を認めない軍ならば、わしが統合軍を奪い取ってやる。そう決めたのよ!例え異星人や、ゼーレの力を借りてもなぁ!」
ローニン「確かに、我々に責任の一端はある。だがそれは貴様のような男を火星開拓基地の長官に任じてしまったことだ。
こんなことになる前に、お前を統合軍から追放しておくべきだった。お前は長官どころか、軍人と呼ぶのもおこがましい、ただの俗物だ」
ハザード「な、何ぃ?」
ローニン「まだ分からないのか?それがお前の器だということだ。
現にお前は、お前が見下す火星の統治すら満足に出来なかったじゃないか。
それで統合軍の長などと、本気で言っているのか?
お前は自分の野望のために戦っていたのだろうが、結局、その肥大化した野心を、異星人やゼーレに、いい様に利用されていたに過ぎないんだよ」
ハザード「ぐむむ……まだだ! まだ終わらんぞ! わしの野望が、こんなところで潰されてたまるものか!!
おい! 残った反応弾を全て発射しろ! 数で取り囲んだ程度でいい気になるな! わしが持つ力がどれほどのものか、思い知らせてくれる!!」
統合軍兵「え……し、しかし……」
兵士達は口ごもる。彼らは、統合軍の命令だからこそ、ハザードの横暴に耐えて来たのだ。
しかし、ミスマルの口から命令が撤回された以上、彼に従う理由は……
銃声が鳴り響く。兵士の一人が、額に風穴を開けて倒れた。
ハザード「早くしろ。お前達もその男のようになりたくなければな」
ジョウ「ハザードぉ!! てめぇっ!!」
激昂したジョウは、飛影でファミール艦へと突貫する。
ハザード「ふん、学習せん奴よ。所詮開拓民の脳みそはその程度か」
ハザードは鼻で笑った。ファミール艦は、強固なディストーションフィールドに守られているのだ。
飛影の軽量では突破できないことは、先程証明済みだ。
ジョウ「へっ、見くびるんじゃねぇよ、ハザード。“俺達”の力をな! レニー!!」
見れば、飛影の後ろには、レニーの鳳雷鷹がくっついて飛んでいる。
レニー「ええ! 空魔、合体よ!!」
鳥型に変形した鳳雷鷹の腹部に飛影が収まることで、空魔への合体を完了する。
比類なきスピードを誇るものの、やや火力に乏しい飛影だが、忍者メカと合体することで、それを補って余りある破壊力を生み出せるのだ。
レニー「覚悟しなさい!!ハザード!!」
ジョウ「空魔、突撃だぁっ!!」
赤いオーラに包まれ、ファミール艦へと突っ込む空魔。
飛影と鳳雷鷹、二体の力が合わさった突撃は、重力場を突き破り、船体に直撃する。
ハザード「お、おわわわっ!?」
ブリッジを激震が襲う。今の一撃でブースターが破損し、ファミール艦は徐々に降下していく。
本来ならば、船体上層をブリッジごと吹き飛ばしてもおかしくない威力だったが、他の乗組員を死なせぬよう、激突の瞬間、僅かに手加減していた。
空魔から分離した飛影は、ブリッジの正面へと降り立った。
492
:
藍三郎
:2011/02/20(日) 22:07:43 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ハザード「じょっ、冗談ではなぁい!!」
飛影の姿を見た瞬間、ブリッジから一目散に逃げ出すハザード。
ハザード「わしが、このわしが、こんな、こんなところで! あんな奴らに! やられてたまるかぁっ!!」
人生で初めての全力疾走の後、格納庫に駆け込み、バルキリーに飛び乗る。いざという時のため、このバルキリーは即座に発進できるようにしておいたのだ。
半分程開いたハッチから、滑り込むように発進する。ファミール艦を一瞬で突き放し、この場から逃亡を図る。
ジョウ「てめっ! いい加減観念しやがれ!!」
すぐに追い掛けるジョウだったが、特別製のブースターパックを搭載したハザードのバルキリーは、飛影の速度すら振り切って、あっという間に彼方へと消えてしまう。
ハザード「ふふん、残念だったなぁ若造め! 土壇場でのしぶとさにおいて、わしの右に出る者はおらんわぁーっ! これぞ年季の違いよっ!!」
嘲笑と共にベロベロバーをかますハザード。統合軍の艦隊が芥子粒より小さくなる場所まで逃げた後、ハザードはこの後のことを考える。
向かう先は既に決めている。元来た第三新東京市だ。
ハザード「確か、NERVの方には、ゼーレの送った援軍がいるはずだ。そいつらに助けを求めるとしよう……」
今はとにかく、逃げることを第一に考えるのだ。逃げて、ほとぼりが冷めるのを待て。
ゼーレが潰れたというのも、何かの間違いだ。いずれ必ずチャンスは巡って来る。
その時こそわしは、奴らに復讐し、総てを手に入れる。わしは、選ばれた人間なのだから!
自分にはまだまだツキがある。再起の希望を、ハザードは捨てていなかった。
ゼーレが送り込んだ“援軍”の正体が、何であるか知らぬまま……
ハザードを追い、ジョウとイルボラもまた、NERV本部の方角へと向かう。
セレナとムスカも変形を終えて既に先に向かっている。
ローニン「提督、急いでジョウを追いかけましょう。
ハザードのことは勿論ですが、それよりも、人類補完計画を阻止せねば。
G・K隊が先行しているのならば、希望はまだあります」
ミスマル「うむ。動ける機体は直ちにNERV本部に向かうのだ!」
ロミナ「私達も急ぎましょう! 飛べない機体はエルシャンクに乗って下さい!」
ゼド「分かりました」
493
:
蒼ウサギ
:2011/02/24(木) 00:43:21 HOST:i114-189-91-110.s10.a033.ap.plala.or.jp
=コスモ・フリューゲル=
悠騎「んだってぇ!? お嬢とトウヤさんが先行した!?」
コクピット内でスタンバイしていた悠騎を始めとするパイロット達に告げられたその連絡は衝撃的だった。
由佳『理由はよくわからないけど……まぁ、もう目的地は目の前だし皆さんも準備が完了次第スタンバイしてください!
目標は量産されたというエヴァンゲリオン9体とアスカさんのEVA弐号機の援護です!』
タツヤ「余裕っすね!」
悠騎「あぁ……」
確かに戦力的にはこちらにアドバンテージがあろうだろうが、悠騎が懸念しているのはATフィールドの存在だ。
生半可な攻撃力では絶対的に阻まれてしまう強固な壁。
それを破るには、「ヤシマ作戦」のようにその防御力を上回る強大な火力をもって攻撃ことか、或いは。
ただしこちらがその火力を出せるかだ。
悠騎「シンジ……」
ブレードゼファーのサブモニターに格納庫の端を映しだす。
蹲って動かないシンジと、それを見つめ下ろすミサトの姿。
シャル「彼には彼の心の問題がある。今は私達のできることをするしかないだろう」
悠騎「そ、そうだな!」
慌ただしく悠騎は発進カタパルトへと移動する。
悠騎「オレ達は発進する。シンジ、ミサトさん! とりあえずそこから離れてくれ!」
ミサト「あ、え、えぇ……」
シンジにどう言葉を掛けていいか途方にくれていたミサトはその声にハッとして、すぐさまテコでも動きそうにないシンジの片腕を持ち上げる。
ミサト「シンジくん、みんなの発進の邪魔になるわ。……一旦、ブリッジに戻りましょう」
シンジ「………はい」
ゆっくりと重くシンジの足が立ちあがって二人でブリッジへと向かっていく。
格納庫の出入り口がしまったのを確認して悠騎はブレードゼファー強襲型をカタパルトへと乗せた。
整備兵の一人が発進口を開くと目の前に広がるのは第三新東京市の光景―――同時におぞましき白き九体の群がりだった。
悠騎「な、なんだよ……アレ……」
§
=NERV 本部=
マヤ「うっ!」
あまりの悲惨さに伊吹マヤは吐き気を漏らし、目の前のノートPCから目を背けた。
日向「どうした!?」
マヤ「もう見れません! 見たくありません!」
完全に己の吐しゃ物をハンカチで抑えるだけに精一杯になっているマヤを押しやって日向が覗くと、すぐに察してしまう。
日向「これは!?」
潔癖症の彼女が目を背けてしまうのも無理もない。
映し出されるEVA弐号機のデータ図のあらゆる個所が次々となくなっていっているからだ。
一見、大した映像ではないかもしれないが、これは実際の弐号機の様子をトレースしているものなのである。
つまり、これを意味する所は―――。
青葉「ま、まさか。く、喰われているのか!?」
マヤ「やめてください!」
EVAはただの人型機動兵器ではない。人造人間として造られているということはEVAに携わる者なら誰もが知っている。
ただの無機質な兵器でないからこそ、魂を持ち、それにチルドレン達はシンクロできる。
つまり、今の弐号機……つまり、アスカは生きたままあの九体のエヴァンゲリオンに喰われている激痛を味わっているのと同じなのだ。
494
:
蒼ウサギ
:2011/02/24(木) 00:45:30 HOST:i114-189-91-110.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
―――殺してやる。
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる。
憎悪と痛みの狭間の中でアスカは呪術のように言い続けた。
外装は剥がされ、腸と思われる部分は喰われ、見るも無残な姿になってしまった弐号機。
だが、もう動かないと思われたその四つ目に光が灯った。
日向「暴走か!?」
マヤ「いやぁ、アスカ! もうやめて!」
本部からのそんな声は本人に届くはずもない。
アスカの内心は全て、あざ笑うかのように舞い浮かんでいる九つの白い怨敵。
アスカ「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
伸ばした腕は虚しく。
程なくして九つの槍が弐号機にへと降り注いだ。
そして九つのEVAの口が笑ったように歪み始めたかと思うと再び弐号機へと一斉に舞い降りる。
悠騎「どきやがれぇぇぇぇぇぇええ!!」
それを、巨大な剣閃が阻止した。まるでバットでボールを打ち返す要領でだ。
EVA量産機「!!??」
そして妨害はこれだけに終わらない。
すでに、直上ではウイングガンガムゼロの射程圏内に収まっていた。
ヒイロ「ターゲットロック。破壊する」
強力なツインバスターライフルはATフィールドを貫き、数体のEVA量産機を地面に叩きつけた。
五飛「ヒイロ……。そしてG・K隊か……まさかここへ辿りつけたとはな」
先行してきたデンメルングクレインとナックルゼファーに続いてコスモ・フリューゲル、コスモ・アークを確認した五飛は一人感服した。
彼らのことを過小評価したわけではないが、ここへ辿り着くあらゆる妨害や障害を全てクリアしてくるとは正直思わなったのだ。
カトル「あ、五飛!」
デュオ「あの野郎。勝手にどっかいったかと思えばここにいたのかよ」
トロワ「単独行動の理由はどうあれ、今回の目的は同じのようだ」
ヒイロ「………五飛、ガンダムのパイロットに暴走は許されない」
冷徹を帯びるヒイロの声に一同、身を身を強張らせる。
この状況で無意味な衝突は避けたい。
五飛「いいだろう。だが、話はこの戦いが終わった後だ、ヒイロ・ユイ」
ヒイロ「了解した」
そういってヒイロの敵意はEVA量産機に向けられた。
495
:
藍三郎
:2011/02/28(月) 22:20:11 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
その時、戦場に一機のサンダーボルトが突入してきた。悠騎らは知る由もないが、この機体にはハザードが乗っていた。
ハザード「おおぅ! あのウナギみたいなのが援軍とやらか?」
気味の悪い奴らだが、こちらを助けてくれるなら何であろうと構わない。
見れば、ハザードを散々に恐れさせた赤い機体が、大破し身体を啄まれた状態で、地面に転がっていた。
それを見たハザードは、会心の笑みを浮かべる。
ハザード「ほお!! あの赤い奴を片付けるとは、やるではないか!
さっきの役立たずどもとは違うようだ。おい貴様ら!! わしは未来の宇宙統合軍総司令官ハザード・パシャだ!!
このわしを助け、わしを追い掛ける不届き者を抹殺しろ!!
そうすれば、わしの側近に取り立ててやろう! 少将、中将はまず堅いぞ?」
ハザードはEVA量産機の前に出て、早口でまくし立てる。
一体のEVA量産機は、沈黙を保ったまま、その長い腕を伸ばし、ハザードのバルキリーをむんずと掴む。
ハザード「よーしよし! 貴様らは利口な人間のようだな!
誰に味方すればいいか、よく分かっておる!
さぁ、能無しの統合軍と、猿以下の開拓民どもを皆殺しにしてやれ!
このハザード・パシャの天下に逆らう大罪人どもをなぁ!!」
EVA量産機群は、今もG・K隊と戦闘を続けている。
しかし、あの鬼神のような赤い奴さえも倒したのだ。勝算は十分にある。
ハザード「そういえば、ゼーレはもう無くなったのだったな。
ならば、わしがゼーレの長になってやろう!
統合軍もゼーレも、表も裏も、全てこのハザード様が支配するのだ!!
この地球はわしのもの!!
惑星ハザードの誕生だ!! ふはははははははは!!」
いつしか、ハザードは量産機の口許にまで運ばれていた。量産機は口を大きく開け……
歯を閉じ、呵呵大笑するハザードごと、サンダーボルトのコクピットを噛み砕いた。
ジョウ「ハザード!!」
やや遅れて到着したジョウとイルボラは、ハザードの最期を目の当たりにする。
量産機の白い歯にこびりついた赤い血肉。それが、欲望に取り付かれた男の無惨な末路だった。
流石に同情はしないが、かと言って、ざまぁみろと笑う気にもなれなかった。
イルボラ「ハザード……過ちに気付くのが遅ければ、私もあのような惨めな最期を遂げていたのかもしれんな……」
イルボラにとっては、彼は憎むべき敵というより、在り得たかもしれない己。ああはならないと戒めを、心に刻む。
由佳『ジョウさん! イルボラさん! さっさのバルキリーは一体……エルシャンクの皆さんは、どうなったんですか!?』
飛影、零影の登場に、残された者達が気になるのか、問いを発する由佳。
ジョウ「あれはハザードだ。あいつを追ってここまで来たんだが……
まぁ、ああなったのも、自業自得って奴だろ……
統合軍なら、ミスマルのおっさんやローニンが出て来て、上手く収めてくれたぜ」
由佳『そうですか! 良かった……』
ジョウ「皆も、すぐにこっちに来るだろうよ。それより、あの白いウナギみたいなのが敵、ってことでいいんだよな?」
由佳『はい……ゼーレが開発したEVAの量産機です。
ATフィールドと強力な再生能力を持っています。気をつけて!』
ジョウ「分かった! ハザードはともかく、俺の仲間達をこれ以上傷付けさせるわけにはいかねぇ!」
刀を構え、量産機へと立ち向かう飛影と零影。また後方から、エルシャンクの船影が見える。
496
:
藍三郎
:2011/02/28(月) 22:29:29 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=???=
キール「……ここまでに、武装した兵士が十数名はいたはずだがな……」
背後にいるのはユーゼスだけではない。その傍らには、彼の側近、ルシア・レッドクラウドが立っていた。
彼の顔は、歪な微笑みを湛えている。全身から臭い立つどぎつい血の味と硝煙の香り。
そして視線だけで心臓を射殺すような殺意。あらゆる抵抗は無意味だと、すぐに悟った。
ルシア「この時が来るのを、ずっと待っていましたよ。Mr.ローレンツ。貴方は本当に用心深い。
同じゼーレの幹部達にも、“この場所”の存在を悟らせなかった。
私達も、“彼ら”も、情報を集めましたが、その作業は遅々として進まなかった。
ユーゼス「だから、我々も新たな協力者を求めた。ゼーレの内部に深く精通し、同時に貴方への叛意を持つ人物をね」
キール「それが、碇ゲンドウか……」
ユーゼスと碇、ゼーレを内から潰そうとする二人は互いに情報を交換しあい、互いの目的を達成しようとしていた。
碇はゼーレの幹部メンバーの情報を、ユーゼスはキール・ローレンツの居所を、それぞれ求めた。
彼らは交換条件として、互いの相手が求める情報を探っていたのだ。
ゲンドウがユーゼスより得た情報を統合軍に流したことにより、ゼーレは大混乱に陥った。
その隙に乗じて、ユーゼスはゲンドウの情報を頼りにキール・ローレンツの居場所を掴み、一気に攻勢に出た。
バルジ戦以降、ユーゼスはずっと身を隠し、来たるべき戦いに向けて準備を進めていたのだ。
キール「だが、碇だけではないのだろう?」
ルシア「どうやら、全て承知の上のようですね」
それは、委員の一人が、ユーゼス・ゴッツォと入れ替わっていたという事実。
ゼーレの上層メンバーは、互いの顔を晒さずに会議を行う。メンバーの中には表社会で相応の地位を築いている者も多い。
下手に正体を明かせば、脅しの種に使われる危険性がある。だから、モノリスの向こう側の人間が入れ替わっていたとしても、それを特定するのは困難なのだ。
キール「……彼はつい数日前、生存を確認済みのはずだが?」
しかし、議長のキールだけは、ゼーレの全メンバーの素顔を知っている。そして、委員達には常に監視を付けている。
途中で別の人物に入れ替わることなど、不可能のはずなのだが……
ルシア「あれは彼のクローンですよ。とある組織の手を借りましてね。
中身の無い人形ですが、監視の目を欺ける程度の演技をさせることは出来ます。同じようにして、後は監視達も……」
キール「成程な。それもまた、エクストラ・イレギュラー、“かつて守護者だった者ら”の技術か」
ルシア「はい。“彼ら”は同様にして、この世界に数多の間諜を忍ばせ、その行方を見つめて来た。貴方がたと同じように」
当時、地球に留まり、黒歴史を研究していた自分の下に、“彼”は現れた。
彼が持つ、異なる並行世界を行き来する技術に、世界の真実……これがあれば、自分の悲願を達成できる。そう確信したのだ。
キール「ならば、同じことをされても文句は言えぬ。そう言いたいのか」
ルシア「いえいえ、そんなつもりは。御不快に感じられたのならば、謝罪しましょう」
ゼーレの上層部を崩壊に追いやる情報を流し、更に護衛の兵士達をほぼ皆殺しにしておいて、今更謝罪とは、挑発以外の何者でもない。
しかし、キールは全く動じた様子を見せない。それは豪胆、剛毅と言うより、最初からユーゼス達に関心を持っていないようだった。
497
:
藍三郎
:2011/02/28(月) 22:31:02 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ルシア「御安心下さい。我々は、貴方を殺そうとは思いません。我々の目的は、貴方がたが所持しておられた“アレ”ですから」
キール「……わかっている。それ以外に、お前達がここに来る理由はない」
己の命になど、もはや何の価値も無い。その点において、キールとユーゼスの認識は一致していた。
キール「それを使って、黒歴史の再生とやらを成すつもりか。確か、それが君の望みだったな」
ユーゼス「その通りだ。最も、他にクリアすべき条件が、まだ幾らかあるがね」
キールはため息をつく。
キール「時の針を過去へ巻き戻して一体何になる?
人類同士の争いが続き、どれだけ文明が発展したところで、最後には同じ結末を迎えるだけだぞ。
黒歴史が月光蝶により埋葬され、プロトカルチャーが巨人族やプロトデビルンに滅ぼされたように。
そして今、この世界もL.O.S.T.の浸蝕によって滅びつつある。全ては人類が自ら招いた厄災だ。
自らが犯した過ちと、拭い切れぬ業によって自滅する。それが人類の、プロトカルチャーの系譜の限界なのだ」
キールの言葉には、長年人類の争いを見届けて来た者の、深い絶望が伺えた。
その絶望は、キール達この宇宙の人間だけのものではない。
幾度も死と新生を繰り返す宇宙で、滅びに至るまでの人類の歴史を記憶し、次の宇宙へと伝えていく。
そして、積み重なった過ちから学ぶことで、人類をより良き方向へと導いていく。
それがゼーレの、遥かな太古より存在する、人類文明の観察者達の使命だった。
彼らは自分達の宇宙が滅びに瀕した際、次の宇宙へと“文書”を残す。
それは次元の変動に影響を受けぬ“鍵”の一種であり、新生した宇宙の観察者および先導者としての役目を持った者達に引き継がれるようになっている。
死海より発掘されたその文書を下に、この宇宙のゼーレは結成された。
そして、彼らはその文書に従い、人類補完計画を目指して動き出す。
人類が、自己と他者を分かつ出来損ないの群体のままでは、滅びの運命は越えられない。
他者と言う、どうあっても理解出来ぬ異物がいる限り、妬みや恨み、憎しみが生まれる。
やがてそれは、人類全体を滅ぼす、致命的な過ちとなる。
過ちを犯さぬためには、人類と言う種族の在り方そのものを変えるしかない。
それこそが、果てしなく重ねられた過去の宇宙において、幾多の滅びを見続けてきた観察者たちが出した結論である。
ユーゼス「だからこそ、貴方がたは全人類の意志を統合し、死と新生の螺旋から抜けようとした」
キール「そうだ。恐らく次の崩壊で、この宇宙は完全に滅ぶ。最早やり直しは効かぬ。
来たる崩壊を乗り越えるには、人類の意志を一つにするしかない」
補完の結果、自分達に何が起こるのか。それは、個の消滅に他ならない。
キール・ローレンツと言う個人は、その瞬間に死を迎えるのだ。
それらを全て理解した上で、キールは微塵の恐れも無く、淡々と語る。
キール「……君達が何を企んでいようと、時は既に遅い。間もなく補完は始まる。
ここまで進んだシナリオを修正するなど、もはや不可能だ。それで、我らの計画は完遂する」
悠久の時を経て、観察者たちが出した結論は掛け値なく正しい。
それを実行することこそが、自分に与えられた使命である。
その使命に殉じて生きるのが、キール・ローレンツという人間の全てだった。
498
:
蒼ウサギ
:2011/03/09(水) 00:53:36 HOST:i121-112-135-73.s10.a033.ap.plala.or.jp
ブリッジに向かおうとしていたミサトとシンジを、由佳の通信が呼び止めた。
ミサト「なんですって! 弐号機…アスカが……」
弐号機の敗北を聞いて、ミサトは、携帯通信機を落すのを辛うじて堪えた。
感傷に浸りたい気持ちに押しつぶされたいが、今はその時ではない。
ミサトの心は指揮官の気丈さを持つそれを保っていた。
ミサト「……わかりました」
それだけ告げて、由佳との通信を切る。
俯いていたシンジの顔がいつの間にかミサトを見ていた。
先ほどの通信内容が気になって、それを聞きたいかのような顔を漂わせている。
ミサト「……シンジくん、みんな戦っているわ。あなたはどうするの?」
シンジ「……僕は…」
俯くシンジの顔を両手で持ってこちらミサトの顔へと向けさせる。
ミサト「いい、シンジ君…。ここから先はもうあなた一人よ。全て一人で決めなさい。誰の助けもなく」
シンジ「ミサトさん、何を?」
何を言っているのか一瞬、分からなかった。
ブリッジに向かうはずの自分達なのにこの言葉はシンジにはまるで突き放しているかのように感じられた。
ミサト「初号機はいつでも発進できる。……アスカがやられたの」
シンジ「!」
ミサト「みんな必死に戦ってるけど、相手はEVA。同じEVAに対抗できるのはやっぱりEVAなのよ。だから……」
シンジ「…僕は…ダメだ。ダメなんですよ」
一拍を置いて、シンジはようやくまともな返事を返してきた。
シンジ「…他人を傷つけてまで、殺してまでEVAに乗るなんて…そんな資格ないんだ。僕はEVAに乗るしかないと思ってた。でもそんなのごまかしだっ!
何もわかっていない僕にはEVAに乗る価値もない。僕には他人のためにできることなんて…何にもないんだ!
アスカも助けられなかった…カヲル君も殺してしまったんだ…。優しさなんかカケラもない、ずるくて臆病なだけだ。
僕には他人を傷つけることしかできないんだ。だったら、何もしない方がいいっ!!」
ミサト「同情なんかしないわよ。自分が傷つくのが嫌だったら、何もせず死になさい」
聞きに徹していたミサトが放った返しは、シンジにとって残酷なものだった。
思わず涙が零れ落ちてしまう。
ミサト「今…泣いたってどうにもならないわ!」
渇を入れるも、シンジの目から涙が止まることはない。
ミサト「自分が嫌いなのね…だから他人も傷つける。自分が傷つくより、他人を傷つけた方が心が痛いことを知っているから」
何かを悟った。いや、元より知っているかのような口振りでミサトは話す。
ミサト「でも、どんな思いが待っていてもそれはあなたが自分一人で決めたことだわ。価値のあることなのよ、シンジ君。
……あなた自身のことなのよ。誤魔化さず、自分に出来ることを考え、償いは自分でやりなさい……」
シンジ「ミサトさんだって…他人のくせに…! 何にもわかってないくせにぃ!」
ミサト「他人だからって、どうだってぇのよっ!」
シンジ「!」
ミサト「あんた、このままやめるつもり!? 今、ここで何もしなかったら私、許さないからね! 一生、あんたを許さないからね!!」
その怒声には鬼気迫るものを感じた。恫喝にさえ思えるが、次の言葉がそれを打ち消す弱気なものであった。
ミサト「今の自分が絶対じゃないわ…後で間違いに気づき、後悔する。私はその繰り返しだった…。ぬか喜びと自己嫌悪を重ねるだけ。
でも、その度に前に進めた気がする…」
シンジ「………」
ミサト「いい、シンジ君。もう一度EVAに乗ってケリをつけなさい。EVAに乗っていた自分に…」
これまでの自分の経験が甦る。初めてEVAに乗った時のこと。
“逃げちゃダメだ”
ヤシマ作戦を経て、深まった仲間達の絆。
参号機との戦いで自らEVAのパイロットを止めようと決断した自分。
直後現れた最強の使徒の登場で自らEVAのパイロットと宣言した自分、
そして渚カヲルとの出会い……。
他にもNERV以外の仲間たちとの共同戦線。
ミサト「何のためにここに来たのか、何のためにここにいるのか…今の自分の答えを見つけなさい」
シンジ「………」
ミサト「そして……ケリをつけたら必ず戻ってくるのよ………約束よ」
シンジ「…………うん」
ミサト「いってらっしゃい」
そう言って、ミサトはブリッジの方へと真っ直ぐに向かっていった。
残されてたシンジはというと……。
シンジ(いってきます、ミサトさん)
もう一度、格納庫の方へと走りだした。
499
:
蒼ウサギ
:2011/03/09(水) 00:55:12 HOST:i121-112-135-73.s10.a033.ap.plala.or.jp
=セントラルドグマ=
綾波レイ。リリスの魂を持つ少女。
碇ゲンドウ。アダムの肉体と融合した者。
その二人が今、白き巨人―――皆がアダムと呼んでいた者、リリスの肉体がいる場所に立っている。
ゲンドウ「もうすぐか……」
上の爆発――EVA量産機とG・K隊との戦いがここまで響いてくるのがわかってゲンドウは呟いた。
対してレイはまるで興味がないみたいにリリスを見つめている。
ゲンドウ「アダムは既に私と共にある。ユイと再び逢うにはこれしかない。アダムとリリスの禁じられた融合だけだ」
そう言って、ゲンドウは己の掌にあるアダムを見つめた。
大きな目玉が不気味に蠢いている。
ゲンドウ「……時間がない。A.T.フィールドがお前の形を保てなくなる」
レイ「……」
切なそうな目でレイはゲンドウに振り返った。
そう、これは全てわかっていたこと。
わかっていたが、綾波レイの心情は複雑だった。
ゲンドウ「始めるぞ、レイ。A.T.フィールドを、心の壁を解き放て。欠けた心の補完。不要な身体を捨て、全ての魂を今一つに」
レイ「……」
ゲンドウの掌……アダムがレイに触れらようとしたその時、レイの脳裏には様々な「思い出」が甦った。
その中でも一際、印象に出てきたのは碇シンジである。
「笑えばいいと思うよ」
ヤシマ作戦終了時、彼は自分にそう言ったことを今でも鮮明に覚えている。
そう、嬉しい時にでも泣くことを彼は教えてくれた。でも、本当に嬉しい時は笑えばいいということを。
今の気持ちは、そう―――。レイは不意に自分の気持ちに正直になった。
レイ「………」
一筋だけの涙が流れた。
500
:
藍三郎
:2011/03/13(日) 22:29:49 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=次元の狭間 機動要塞シャングリラ=
マザーグース「ホホウ、いよいよ始まったようだネ」
“それ”は、シャングリラにも伝わって来た。世界終焉を告げる鐘の音。
ここと隣接する宇宙で、大規模な次元震動が発生した。
マザーグース「しかしそうなれば、ここも危なくなってくるネ。
早いところ、ハイリビイドの調整を終わらせなけれバ……」
マザーグースは、数体の人形(マリオネット)を同時に操り、コンピューターで高度な演算処理を続けている。
彼の前には、ガラス越しに、ウラノスと、傍に浮かぶハイリビードが見える。
マザーグース「ウラノスが本来の力を取り戻せば、こんな死にかけの宇宙からはサッサとオサラバできる。
壊れかけのがらくた(ジャンク)ならば、
完全に壊れる前に使える部品(パアツ)だけを抜き出して、再利用(リサイクル)する。
機械も、世界も、それは同じ。その方が、宇宙全体のためってものサ」
ただ一つの妄執に憑かれ、彼はここまで来た。
例え、自らの手で一つの世界を滅ぼすことになろうとも、彼はその歩みを止めはしない。
世界を巨大な震動が襲った。大地を揺らすものではない。空を飛ぶ戦艦の中にいても伝わって来る揺れだった。
ガメラン「姫様、御無事ですか?」
ロミナ「大事ありません。しかし、今のは……」
断じて尋常な事態ではない。動揺も収まらぬ内に、それは起こった。
シャフ「ひ、姫様!あれを……」
シャフの視線の先には、更なる異変が顕在化していた。何もない空間に皹が入っている。
稲妻のようなジグザグ模様を描く亀裂は、瞬く間に空間を横断する。
統合軍の兵士達は絶句しているが、エルシャンクやG・K隊にとっては見覚えのある現象だった。
ローニン「何だこれは……」
エイジ「サナダ少佐! ミスマル提督! 気をつけて下さい!
あれは、L.O.S.T.が出現する前兆です!」
エイジの言う通り、亀裂によって生じた赤い空間の裂け目から、無数の魔鬼羅や邪鬼羅が溢れ出て来る。
その数は、統合軍艦隊に匹敵するほどの数だった。
ダミアン「ち、何て数だ!」
白豹「……始まったか」
そう呟く白豹の瞳は、此処ではない、何処かを見ていた。
ゼド「白豹……?」
白豹「ついに本格的な浸蝕が始まってしまった……これまでのものとは比較にならん。
あれですら、ほんの尖兵に過ぎんだろう。“私”の結界で堰き止めて来たが……もう、限界に近い」
ゼド(そうか、白豹は今、大老師である夏彪胤殿と知覚と思考を共有しているのか)
以前白豹は、そのように言っていた。
夏彪胤と大臨亀皇は、現在地球圏の何処かで、次元の狭間に結界を張り、L.O.S.T.の侵蝕を防いでいる。
その結界ですら、抑え込めなくなって来ているのだ。
白豹「……これから……更に亀裂は拡がり……最終的には……この世界へと流れ込み……命あるもの尽く滅するであろう………」
ゼド「止める手立ては無いのですか?」
白豹「……言ったはず……ハイリビードを取り返し……崩壊力の根源を断ち切らぬ限り……この世界は……」
501
:
藍三郎
:2011/03/13(日) 22:30:41 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ここで、白豹は言葉を切る。
白豹「……大老師殿の思念が……消えた」
いよいよ、白豹の口を借りて喋る余裕も無くなったということか。
白豹は、さして動揺した様子も無く、エルシャンクから刹牙を発進させる。
彼ら白家の忠誠とは、同情や礼儀で示すものではない。成すべきことを成す。それだけだった。
白豹「今我らに出来ることは、あの亡者どもを討ち斃すことのみ」
早速、接近した魔鬼羅の一体をメーザーフィールドクローで切り刻む。
ゼド「……確かにそうですね……」
ゼドも、ヘラクレスパイソンを発進させる。
南極のゲペルニッチが、次元の狭間にあるというアルテミスの要塞、シャングリラを見つけるまでは、こちらも攻勢に移ることは出来ない。
ゼド(座して滅びを待つぐらいならば、人類を一つにしてでも、破滅に耐えうる力を得る……ゼーレの考えもわからなくはありませんが……)
こうして世界の滅びを間近にすると、暴挙とも言える行いに出たゼーレの心情も、理解できなくはない。
所詮、自分たち異邦人と、太古よりこの世界に居続けた彼らとでは、危機感も責任感もまるで違うのだ。
だが、この世界の未来を決める権利を持つのは、ゼーレの人間達だけではない。
統合軍の彼らも、彼らなりのやり方で、滅びに抗おうとしている。
そして、自分達は彼らを支援すると決めた。
勝利への道筋は既に分かっている。それが、どんなにか細い道であっても……
この世界の人々がプロトデビルンと和解することで出来たチャンスを、無意味なものにはしたくなかった。
ローニン「いかんな。第三新東京市の住民は避難させているが、奴らを放っておけば、避難先にまで溢れ出て来るぞ!」
ミスマル「全軍、直ちにL.O.S.T.を殲滅せよ!」
ミスマルの号令一下、先ほどNERV殲滅に加わっていた者達も含め、統合軍は一斉に魔鬼羅へと攻撃を仕掛ける。
相手がこちらに敵意を持つ怪物と分かっていれば、撃つことに躊躇いはない。
ゼド「ミスマル提督、量産機は我々が引き受けます。そちらの火力では、EVAの障壁を貫けないでしょうから……」
ミスマル「うむ、すまぬが、任せたぞ」
統合軍の艦隊は、魔鬼羅の群れを迎撃すべく散っていく。
反応弾の着弾でクレーターと化したNERV本部周辺で、EVA量産機とG・K隊の戦いが始まった。
勝平「うぉぉぉぉっ!ザンボットグラァァァァップ!!!」
巨体とパワーを活かし、力任せにEVA量産機を押し倒すザンボット3。
勝平「ザンボット・ムーンアタァァァック!!!」
そのまま至近距離からムーンアタックを浴びせる。
その破壊力にはATフィールドも耐え切れず、量産機は大きく仰け反った。
蛇鬼丸「ヒャァッハハハハハハ!! ぶった斬ってやるぜぇ! ウナギ野郎!!」
灯馬「夜天蛾流抜刀術、『螺旋花(らせんか)』!!」
瞬間、背後へと回った麟蛇皇が電光石火の刃を抜く。
量産機に刀を突き入れ、そのまま旋回しながら降下する。その太刀筋は螺旋。
赤い斬痕を刻まれた量産機は全身から血を吹き出し、斃れ伏す。
蛇鬼丸「ヒャハハハハ! 一丁上がりぃ!!」
灯馬「!! あかん!」
倒れ際に量産機が放った手刀を、ギリギリで回避する麟蛇皇。
灯馬「おっと、危なぁ……」
キョウスケ「奴らのしぶとさを甘く見るな!」
アルトアイゼン・リーゼの両肩から、無数のベアリング弾が射出される。
ダメ押しに放たれたアヴァランチ・クレイモアが、量産機の全身に叩きつけられ、多数の陥没を刻む。
しかしその傷も、急速に修復していく。
大火力の一撃でATフィールドは貫通できるが、例えそれで致命傷を与えたとしても、時間をおけばすぐに復活する。
当然、こちらの消耗ばかりが大きくなり、いずれは押し切られる。まして、周辺には多数のL.O.S.T.の尖兵が展開しているのだ。
灯馬「全く、難儀な相手やな」
蛇鬼丸「生身に近い奴を斬れて、俺は満足だがな!!」
敵は僅か9体だが、その驚異的な生命力にG・K隊は苦戦を強いられていた。
502
:
藍三郎
:2011/03/13(日) 22:31:58 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
そんな中……
コスモ・フリューゲルのハッチが開き、紫色の巨人が飛び降りる。
シンジ「う、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
EVA初号機は、着地するや否や、手近な量産機へと殴り掛かった。
EVA同士の戦闘では、使徒がそうであったように、互いのATフィールドは中和される。呆気なく、量産機は顔面を殴り飛ばされる。
初号機は、左手でプログレッシブナイフを取り出し、体勢を崩した量産機へと突き立てる。
量産機の頸動脈から鮮血が吹き上がり、一時的に機能を停止する。
シンジ「うああああ、あああぁぁぁぁぁぁっ!!」
それでも、初号機は攻撃を止めない。倒れた量産機に、何度もナイフを突き刺す。
恐怖心を振り払うため、今のシンジはただ敵を倒すこと以外の思考を捨てている。
前だけを見ていれば、余計なことを考えずに済む。彼はアスカのように戦闘のエキスパートではない。
異常に昂揚した精神と、戦闘行為に徹する冷静さを両立させるようなことは出来ない。
だから、量産機が戦闘不能になったことにも、背後から別の量産機が両刃剣を手に近付いていることにも気付かなかった。
悠騎「させるかよっ!!」
横から突っ込んで来たブレードゼファーが、スター・オブ・クラージュで、量産機を吹き飛ばす。
それにより、ようやくシンジも我に返ることが出来た。
シンジ「あ……悠騎、さん」
悠騎「ふぅー。意気込んでるのは分かるけどよ、まずはもちっと落ち着け、な?」
シンジ「は、はい」
由佳『まさかお兄ちゃんの口から落ち着けなんて言葉が出るなんて』
アルティア「明日は雨かもしれません」
悠騎「う、五月蝿いやい」
シンジ「悠騎さん、ぼ、僕は……」
悠騎「よく来てくれたな。正直、俺らだけじゃあきつかったところだ。ありがとよ」
感謝の言葉が心苦しいように、シンジは言葉を絞り出す。
シンジ「……そんな立派なものじゃありません。
僕は怖かっただけなんです。友達を殺してしまって、戦いから逃げて……
でも、逃げた先にも安心なんてなかった。結局、皆が戦っているのを見て……」
ここで、居ても立ってもいられなくなったと言えれば良いが、現実はそんな立派なものではない。
シンジ「皆が命懸けで戦っているのに、僕だけは何もしない。それを責められることが怖かったんです!
何も変わっていない。僕はただ、逃げ込む場所を変えただけなんですよ!」
他者への恐怖と拒絶。碇シンジという人間の本質は、何も変わっていないのだ。
彼の問題が、そう簡単には解決しないことを悟りつつも、悠騎は告げる。
悠騎「……それでも、俺はお前に感謝してるぜ」
503
:
藍三郎
:2011/03/13(日) 22:33:20 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「いいんじゃねーか?それで」
周囲の魔鬼羅を、メーザー誘導ミサイルランチャーで掃討しつつ、ムスカは語りかける。
ムスカ「誰だって自分が可愛い。他人のために戦うってのも、結局他人が傷ついて、自分が心を痛めるのが嫌だから、ってことかもしれねぇ。
人の心の価値なんて、結局のところ誰にも、自分にもわからねぇのさ」
それは、シンジが何度も自問してきたことだった。
ムスカ「人なんざ皆バラバラで、考えてることなんて分からなくて、
ぶつかったり、気持ちがすれ違ったりすることなんざしょっちゅうさ。
誰だって、読めない他人に囲まれて、綱割りみたいな感覚で、たまたま上手くやってるに過ぎねぇ。
お前さんだけが、特別劣ってるなんて考えるなよ」
シンジ「ムスカさん……」
ムスカ「だからこそ俺は、今を大事にしたい。人の方向を示す矢印が同じ向きを向いている今をな。
例えそれが、ほんの一時のことだとしても、後で手酷い裏切りがあったとしても……だからこそ貴重なんだ。
目的も考えもバラバラの奴らが、一時でも手を組む。そういう貴重な時間だからこそ、人生の賭け時だって思える。
そんなもんでいいんだよ。人との関わりなんてな。
今すぐ、人を信じろ、他人と交われ、なんて言わねぇ。
俺はただの兵士だ。だから、俺は俺の利害に基づいて、お前にお願いする。
俺達と共に戦ってくれ。
俺達には、お前の力が必要なんだ」
ムスカの真摯な頼みに、言葉を詰まらせていると、コスモ・アークから通信が入った。
アイ『碇さん、惣流・アスカ・ラングレーを収容したとの連絡がありました。意識不明の重体ですが……生きています』
シンジ「アスカが!?」
アイ『NERV本部の方も、ミスマル提督の号令により、統合軍は作戦を中止して撤収しています。
まだ、全部が終わったわけじゃないんです』
悠騎「確かにお前は色んなものを失ったかもしれねぇけど、お前の大切なものは、まだ残ってるだろ?
それでも、ここで負けたら、総てが台無しになっちまうんだ」
これまで共に戦ってきたアスカにレイ、NERVの大人達、今も避難しているクラスメート達……
この戦いの結果、彼らの命が永遠に失われるかもしれない。
シンジ「そんなのは……嫌……です!」
普段の煮え切れない意見や考えと違い、それだけは、心の底からはっきりと拒絶できた。
悠騎「だよな……」
悠騎の脳裏に、失った友の面影が浮かぶ。もう誰にも、自分と同じような思いをさせたくない。
シンジ「僕は、僕は戦います! 皆と一緒に、帰るべき場所を守るために!」
他人が怖い、裏切られるのが怖い、他人を傷付けるの怖い。
何度も過ちを繰り返し、その度に心は悲鳴を上げ続けて来た。
戦うなんて嫌だ。他人を傷付けるぐらいなら、戦わない方がいい。
結論は出たはずだった。
それでも、それでも自分は、他人を求めずにはいられない。
心を許せる友達に囲まれていた、あの暖かい日常に、もう一度戻りたい。
心からそう願う自分がいる。それに気付いた今、前に進む脚は止められない。
悠騎「よし、それなら、お前は前の敵に専念しろ。
後ろや周りは、俺らがきっちりカバーするからよ」
シンジ「はい!!」
504
:
藍三郎
:2011/03/13(日) 22:33:50 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
方針が決まれば、後はそれを実行するだけだ。
ジョウ「ダミアン! 行くぜ!」
ダミアン「おう、獣魔に合体だ!」
獣へと変形した黒獅子の腹部に飛影が収まり、獣魔となる。
ジョウ「行くぜ獣魔、突撃だぁ!!」
カタナをくわえたまま、量産機へと突進する獣魔。刀の一撃はATフィールドでガードするものの、衝撃までは殺し切れず、吹き飛ばされる。
ダミアン「シンジ、そっち行ったぞ!」
シンジ「はいっ!」
獣魔に吹き飛ばされた量産機を、初号機が迎え撃つ。背後から羽交い締めにして、ナイフでとどめを刺す。断末魔を上げて、量産機は倒れた。
その隙を待っていたように、初号機の背後目掛けてATフィールド殺しの槍が飛んで来る。
アルティア「させません……」
しかし、それも予め初号機の守りについていたR−BREAKERが叩き落とす。
量産機の扱う槍はATフィールドを含むあらゆるバリアを貫通する特性を宿す、
EVAに対しては必殺たりうる武器だが、逆に言えばそれまでで、決して万能の武器ではない。
作戦は実に単純だ。この中で、唯一EVAに有効な打撃を加えられる初号機と量産機が、正面から一対一で戦える状況を作り出す。
弐号機の二の舞にはならぬよう、周囲の機体が全力で護衛、支援する。
これならば、シンジは目の前の相手にだけ、集中して戦える。
ゼンガー「チェストォォォォォォォッ!!」
ダイゼンガーの長大化した斬艦刀が、複数の量産機を纏めて薙ぎ払う。ATフィールドにより、両断を免れるも、逆に言えばそれが限界だ。
ゼンガー「碇!やれい!」
シンジ「はい!」
弐号機がそうしたように、初号機の手には量産機の両刃の剣が握られていた。
ぼとぼとと落ちて来た三体の量産機の首を、順番に刎ね飛ばす。
量産機の数が減れば、残りの機体は統合軍の支援に回ることが出来る。
ジョウ「マイク!今度は海魔で行くぞ!」
マイク「分かったよ、アニキ!」
直立する竜へと変形した爆竜に、飛影が収まり、海魔へ合体を完了する。
マイク「炎と稲妻を、喰らえぇぇぇっ!!」
炎熱と電撃の饗宴が、魔鬼羅の群れを焼き払った。
505
:
蒼ウサギ
:2011/03/24(木) 00:36:14 HOST:i114-188-248-188.s10.a033.ap.plala.or.jp
その一方で、ナシュトールとトウヤの戦いは沈黙していた。
決して、ナシュトールが戦えなくなったわけでも、ましてや彼の機体が致命的損傷を受けたのではない。
もっと別の何かが戦場を静止させてた。
トウヤ「………」
スッ、とナックルゼファーの拳が降りるのを見て、ナシュトールの怒声が響き渡る。
ナシュトール「どうした紫藤!」
トウヤ「仲間同士で争っている余裕はない。それに、もう仲間を失うのも嫌だしね」
ナシュトール「っ!」
トウヤ「君には帰れる場所がある。……誰に反対されようとも、僕は君を受け入れる。仲間としてね」
踵を返したナックルゼファーが向かった先は、悠騎達が戦っている戦場だ。
ナシュトールとの戦闘でかなり傷ついた機体で、艦に戻ることなくそのまま直行している。
ナシュトール「待て……待てぇ…紫藤ぉぉぉぉおおおお!!」
§
=セントラルドグマ=
地下深いここでもかなりの振動が伝わってきており、時折、礫が雨のように落ちてくる。
それが上の戦闘が激しさを増したということを物語っているかのようだ。
ゲンドウ「どうした? レイ」
流れた涙の一筋を見てゲンドウが躊躇した。
レイ「……違う」
ゲンドウ「!?」
綾波レイは、自分の頬に伝う涙に気づかない様子で呟いた。
人形のようだった彼女の雰囲気には変わりないが、言葉には確かな拒絶の感情が籠っていた。
レイ「あなたは、私の人形じゃないもの」
碇司令は、いつも優しかった。でも、それは“私”への優しさじゃない。
この器への優しさ。碇くんのお母さんへの優しさ。
レイ「……碇くんが呼んでる」
レイがゲンドウを突き飛ばした。軽い突き手ではあったが、ゲンドウにとっては精神的な面でかなりの痛手だ。
クローンとはいえ、愛している者があからさまな拒絶行動をとったのだから。
ゲンドウ「れ、レイ!?」
レイ「……」
いつの間にかゲンドウの手からアダムが失われている。
それに気づいたゲンドウは、すでにレイの体内にアダムが融合していることを悟った。
ゲンドウ「頼むっ、待ってくれ、レイ!」
レイ「……」
憐れんでいるでもなくレイは、白き巨人へと振り返る。
アダムの肉体とリリスの魂が融合したためか、レイは吸い寄せられるかのようにそれに向かっていった。
レイ「ただいま」
――――おかえりなさい
白き巨人―――リリスの肉体がレイを取り込み、磔の釘から解放された。
506
:
藍三郎
:2011/04/10(日) 01:12:11 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
水しぶきを上げて、オレンジ色の海へと着水するリリス。
その顔から、紫色の仮面が剥がれ落ちる。
ただの人型であったその姿も、少女らしき丸みを帯びた体つきへと変わっていく。
未だショックから覚めやらぬまま、ゲンドウはリリスの変貌を、呆然と眺めていた。
青葉「ターミナルドグマより、正体不明のエネルギーが急速接近中!!」
日向「ATフィールド確認、パターン青!!」
マヤ「まさか、使徒!?」
日向「いや、違う!! 人間です!!!」
オペレーター達の眼前を、巨大な白い巨人が通り過ぎていく。
少女の姿をしたその巨人は、壁や床、人間すらも無いかのように透過する。
未だへたり込んだままの伊吹マヤを、巨大な掌がすり抜けていく。
マヤ「!? い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
想像を絶する不快感を覚えたマヤは、恐怖に顔を歪めて絶叫した。
悠騎「ふぅーっ、あらかた片付いたな」
悠騎たちの目の前には、九体のEVA量産機の残骸が転がっている。
シンジの活躍もあり、量産機を速やかに無力化することに成功した。
シンジ「やれた……のか?」
ムスカ「ああ、お前さんのお陰でな」
ほぼ皆に頼り切りだったとはいえ、自分の力で何かを成し遂げることが出来た。
皆の力になることが出来たのだ。確かな達成感が、シンジの胸の中に残っていた。
この人たちと一緒なら……僕は――
シンジ(でも……何だ? この嫌な感じは……)
自分には、ニュータイプやサイコドライバーのような特別な感覚は無い。
これは、自分が感じているのではない。
EVAが……初号機が知らせてくれているような……
パルシェ「! NERV本部より高エネルギー反応確認! これは……!」
ダミアン「本部から……だと?」
敵はゼーレ。何か仕掛けてくるならば、外からと思い込んでいただけに、皆は意表を突かれた。
地表や施設をすり抜けて、白い巨人が立ち上がる。その姿は……
シンジ「綾波!?」
彼らが良く知る、綾波レイの姿をしていた。
507
:
藍三郎
:2011/04/10(日) 01:13:01 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
「「「――――――――――!!!!!」」」
白い巨人が現れた瞬間、蝉や蟋蟀が啼くように、魔鬼羅の群れが一斉に声を上げる。
全ての機体が、現在戦っている統合軍を無視して、白い巨人に向かっていく。
あれを消し去らねば、取り返しのつかぬことになる。本能でそう察したように。
しかし、白い巨人に近付いた瞬間……
???「………………」
眩い光が辺りを包んだ。
ただそれだけで……
光に当てられた魔鬼羅は、オレンジ色の液体に変わり、地面へとぶちまけられる。
僅か一瞬で、数十機はいた魔鬼羅は、跡形もなく消滅していた。
ムスカ「! 皆! あれから離れろ! あれはヤバい、ヤバすぎる!」
L.O.S.T.の軍勢を瞬時に壊滅させた白い巨人に、ムスカはかつてない脅威を覚えた。
これまでも、G・K隊は様々な強敵と戦ってきた。中にはゲペルニッチのような、到底人では抗いがたいような、宇宙規模の敵もいた。
しかし、強敵、難敵という表現は、あれに対しては相応しくないように思える。
先程の光も、恐らくは攻撃ですらないのだろう。大きい、強いといった物差しであれを量るのは間違っている。
まるで、存在自体が一つの現象であるかのような……
“あれ”から感じられる予感、それは、決定的な終焉。そして、それ以上に恐ろしくおぞましい、“安らぎ”だった。
ミサト「リツコ! あの巨人は一体何なの!?」
リツコ「……考えられる可能性はただ一つ……セントラルドグマに封じられていた、第二使徒リリス……外見からして、綾波レイを取り込んだものと思われるわ」
リツコ(だけど何のために……これが貴方の計画だというの?それとも……)
ここにはいない碇ゲンドウに向かって、リツコは答えの返らぬ問いを投げ掛けた。
巨人の出現に呼応して、倒れ伏していたEVA量産機が、次々と起き上がる。
中には明らかに致命傷の機体もいたが、それを意に介さぬかのように動く様は、糸を介する操り人形のようでもあった。
真吾「おいおい……ちっこい化け物どもが消えたのはいいが……」
エクセレン「ウナギちゃん達まで蘇っちゃうなんてね……」
皆が、白い巨人と量産機に身構える中、シンジは呆然とレイを見上げている。
シンジ「あ……あああ……」
蛇に睨まれた蛙の如く、シンジは眼前の巨人を前にして、金縛りにあったように動けない。
先程の決意も、丸ごと消し飛ばしてしまうような不気味な圧力に、シンジは何もできなかった。
そんな中……
虚空の彼方から、赤く染まった槍が飛来する。
シンジ「え……」
それは、反応する隙も与えず、エヴァンゲリオン初号機の喉元で、ぴたりと止まった。
508
:
はばたき
:2011/04/14(木) 22:01:31 HOST:zaq3d2e406f.zaq.ne.jp
紅い槍。
二股の捩くれたその形状は、今しがたまで戦っていた量産型のエヴァ達が操るものと酷似していた。
衛星軌道上からの攻撃かと、判断の早いものは警戒するが、直にそれが過ちだと気づく事になる。
初号機を射して止まるその槍は、攻撃、兵器といった次元で測れる代物ではない。
そう、それこそが正にオリジナル。
『ロンギヌスの槍』と呼ばれるアーティファクトの原典。
使途不明用途不明製作者不明。
人類史よりも遥か以前に存在し、幾度となく起こった宇宙の死と新生のサイクルを耐え抜いた、正真正銘人類の認識の埒外に在る建造物だった。
キョウスケ「何が・・・始まる?」
その場にいた全員が、縫い付けられたように動きを止める。
そして・・・
―――ぞぶり―――
ムスカ「っ!シンジ!?」
槍は何の抵抗も無く、初号機の胸へ
装甲板、否、拘束具の下の赤い核に突き刺さる
一瞬青ざめる仲間達だったが、それも間違い
初号機の胸に刺さった槍は、徐々にその姿を変えていく
まるで苗床を得て成長する樹の様に
否
それは正しく”樹”だった
重力の楔を無視するかのように浮かび上がる初号機
その周りに集う白きエヴァ達
それは一つの系譜を成す
『セフィロトの樹』
旧約聖書、創世記において生命の樹とも言われるカバラの神秘学の系図
§
白き巨人の出現は、地表にいた統合軍の目にも直に止まる事となる。
そして、それに抱かれるように現れる黒き『月』。
ローニン「あれは・・・ジオフロント!?」
内部にいるG・K隊には地鳴り程度の衝撃しか伝わらなかったが、ついにジオフロントの天井さえ突き抜け、地上を越えて尚伸びる白い少女の体は、すでに成層圏まで達しいつつある。
その腕に抱かれ飛び立つのは、真の姿を現したジオフロント―――『黒の月』。
§
マヤ「A・Tフィールドが反転している・・・」
ジオフロント内部。
先ほど、無数の魔鬼羅達を襲った現象。
それは、”個”を形成する、他社と自身を隔てる壁―――即ちA・Tフィールドの消失によるものだ。
マヤ「これって、サードインパクトの前兆なの?」
至った結論に、身震いするマヤ。
一方で
冬月「未来は碇の息子に委ねられたな」
§
509
:
はばたき
:2011/04/14(木) 22:02:46 HOST:zaq3d2e406f.zaq.ne.jp
ティファ「あ・・・あ・・・」
リュウセイ「ぐっ・・・これは・・・」
まず初めに異常に気付いたのはニュータイプや念動力者など、他者との感応能力を持つ者達だった。
ジョウ「う・・・こいつぁ・・」
エイジ「不味い・・・レイ、V−MA・・・」
続いて他の者達にも感じ取れるまでになる感覚。
”自己が消失する”
それ以外の表現が思いつかない。
自分という殻が解けて消えて行くような、名状しがたい感覚に埋め尽くされる。
恐怖と安堵がない交ぜになる不快感と酩酊感。
そこに自己は消え、他者は無くなり、全ては合一化する。
誰もそれに抗えない。
強固な意志を持とうとも、その意志が解体されていくのだ。
抗える道理が無い。
筈だった
ナシュトール「あ・・・がああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
誰一人動けぬはずの戦場で、羽ばたく影が一つ。
誰よりも他者を拒絶し続けた者が、唯一全てを許す誘惑に抗った。
ナシュトール「これ以上・・・これ以上俺の心に踏み入るなぁっ!!!!!」
喉も潰れんばかりの絶叫を挙げて、初号機に迫るイスカ。
構えた刃を振るい、A・Tフィールドの壁に何度と無く斬り付ける。
しかし、その刃が届く事は無い。
距離でもない、力でもない、互いが他者を拒絶する心が、絶対の壁となって両者を近づけさせない。
そして、もう一人・・・
エレ「あ・・・う・・・」
ほどけていく
自分と言う殻が
内なる”ワタシ”と”私”を隔てる壁が無くなっていく・・・
ワタシハダレ?
ワタシハえりある?ゆいな?
ああ、もう全て関係ない
その問答は無意味となる
スベテハヒトツニ―――
エレ「ま、けてたまるかぁぁぁぁっ!!!」
ごっ、と鈍い音が響いた。
自分の鼻っ柱を思いっきり殴った音なのだが、それを知る者はいない。
エレ「ダメだよ、シンジ!こんな終わり方!!君も私も、まだ『ありがとう』って言ってない!!」
未だ剣を振るい続けるイスカを引き剥がすように羽交い絞めにしながら、エレは叫ぶ。
エレ「痛くて苦しくて、全部なくなっちゃえばいいって私だって思った。でもそれじゃダメだよ!」
痛く苦しいままで、全てから逃げて全てを消してしまえても、後に残るのは『痛かった』という言葉だけ。
エレ「誰かに出会って、誰かから言葉を受けて、人は自分を決めていける!痛みも苦しみも、喜びが無きゃ生まれない!痛いから全部消しちゃったら、その楽しかったことも全部否定しちゃうんだよ!?君は君を創ってくれた人にまだ何も言ってない!そのまま消えちゃったら、君は一体なんだったの!?自分は・・・自分で自分を捨てていい人間なんていないんだ!!」
510
:
蒼ウサギ
:2011/04/21(木) 00:45:10 HOST:i114-188-248-38.s10.a033.ap.plala.or.jp
=シャングリラ 楽園室=
マルスが日々を過ごし、眠る場所でもある「楽園室」と呼ばれるシャングリラ内に作られたそこは、まるで無骨な設備だらけの
要塞基地とは隔離されたかのような自然に包まれた部屋だった。
しかし、そんな安穏な場所でさえもマルスは“感じ取ってしまった”。
マルス「……気持ち悪いよ、ミスティ」
ミスティ「え?」
先ほどまでぐっすりと自分の膝で眠っていたマルスの突然の言葉にミスティが戸惑った。
ここは特殊な障壁であらゆるものから守られている特殊な部屋。シャングリラの中でありながら他の影響など受けない閉鎖された空間なのだ。
マルス「ミスティは気持ち悪くないの? こう、自分が自分でなくなる感じ。……そう、自分でもあり、ミスティでもある変な感覚……」
ミスティ「……」
返す言葉が見つからなかった。
すがるような目でみつめるこの幼い少年の瞳に、ミスティはただただ困惑するしかない。
ミスティ(なまじ感応力が強すぎるのですね……)
§
ヴィナス「世界がこれで終末する……」
遠くに見える初号機を見つめながら、ヴィナスは口元を歪ませた。
ヴィナス「さぁ、G・K隊……いや、星倉悠騎。この状況をどう逆転しますか?」
ヴィナスは今にも世界に死が訪れようとしているこの瞬間でも少しも焦っていなかった。
むしろ、このまま死が訪れないことを知っているかのような心境で落ち着き払っていた。
§
キール「エヴァンゲリオン初号機の欠けた自我を以て人々の補完を」
ルシア「始まりましたね。あなたのショータイムが」
キール「ショータイムか、ふふ。確かにな。だが、最高のショーだ」
人類がこの瞬間、一つになろうとしている。
自分の計画が成就しようとするその時にキール・ローレンツの頬がほがらむ。
ユーゼス(だが、問題は神のよりしろとなる者が14の少年だということ。それも、碇ゲンドウの息子であり、その母親のコアを持つエヴァ)
仮面の下でユーゼスは、しばし静観をきめこんだ。
§
何が起きたのか?
何が起きているのか?
当事者である碇シンジは、理解できていない。いや、することを拒絶していた。
ただやみくもに操縦レバーをあの時のように動かすという無駄な労力を繰り返していた。
シンジ「動け! 動け! 動いてよ! なんで、いつもこんな時に限って動かないんだよーーーーーっ!!」
せっかく決意できたのに。
せっかくみんなが褒めてくれたのに。
なんで、なんで!
???「君はそれで満足なのかい?」
シンジ「!?」
心地よい聞き慣れた声にシンジは我に返る。
目の前の「綾波レイ」だったものが「渚カヲル」へと変わっていた。
シンジ「カヲル……くん?」
そのカヲルの顔をした白い巨人の手が静かに初号機を包むかのように伸びていく。
511
:
蒼ウサギ
:2011/04/21(木) 00:45:56 HOST:i114-188-248-38.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
それは、言葉にもできない。今まで感じたこともない得も知らない感覚だった。
全身が溶けていくのが一番例えやすいが、同時に自分を見失いつつも、同時に新しい自分に出会うという新鮮な感覚。
とりあえず、言えることは一つ。
悠騎「……気持ちわりぃ」
それだった。そのために力は入らず、操縦桿を握るどころか、目の感覚すらなくなっていっていた。
だが、それでも心の奥底には一つだけはっきりと残っているものがある。
悠騎「……シンジ」
届きそうにない声だが、悠騎が今、出せれる精一杯の声。
悠騎「オレは、お前がこんな終わり方を望んでるなんて思ってねぇ……だから―――」
できれば使いたくない“力”が胎動する。
だが、この強襲装備を開発した意図には、そんな未確定で危険な“力”に頼りたくなかったからだ。
同時にこうも思う。
こんなじゃじゃ馬な“力”でも、オレの“力”なんだと。
悠騎「どんなことしても、てめぇから“そいつ”を断ち切ってやるぜ!」
紫に染まった瞳で見つめるその先は、エヴァ初号機。
ブレードゼファー強襲型はこれまでない以上のエネルギー放出量で、傍目にはまさに烈火のドラゴンようにも見える。
激しいブースター音と共に凄まじい速度で接敵すると同時に、シューティングスター・ブレードの刀身がこれまでの不安定な刀身と違い
真っ直ぐ伸びたクリスタルレッドの巨大な剣と化す。
悠騎「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」
遠心力をつけて振るったその思い切りのいい太刀筋はリリスの身体を袈裟がけに斬り裂いた。
シンジ「ひっ……ぶ、ブレードゼファー……ゆ、悠騎さん」
シンジからしてみれば、今のブレードゼファーは一瞬、恐怖の対象になってしまっただろう。
悠騎「シンジ! 聞こえるか!? オレは……お前を絶対に助けるからな!!」
§
=コスモ・フリューゲル ブリッジ=
ミサト「悠騎くん、こんな状況でも諦めないのね……」
由佳「当り前です」
言い切る由佳の顔はどこか誇らしげだった。
艦長という顔の中に潜む妹という立場がくすぐったのだろう。
由佳「お兄ちゃんだけじゃありません。私達のメンバーは、みんな諦めが悪いんです」
だからここまで戦ってこれた。
いつもギリギリで、勝利と呼べない時もあったけど、ここまでやってこれた。
由佳「……ミサトさん。いえ、葛城三佐。どんな些細なことでも構いません。シンジくんとこの状況を解決できる良い案はありませんか?」
ミサト「え……?」
訊かれて、一瞬、ミサトの頭の中は真っ白になってしまう。
こんなことにならない様にこれまでやってきた前提なのだ。こういう時の対策など、考えているはず……いや、自分はNERV作戦参謀。
全ての脳細胞をフル作動させて思いつくままに、立案を即座に思い浮かべる。それがどんな無茶で無鉄砲なことでも。
ミサト「星倉艦長、シンジくんの心理グラフやバイタルは分かる?」
由佳「それなら……」
と、タイミングを見計らっていたかのように、コスモ・アークのアイから回線が勝手に開かれる。
アイ『心理グラフ、シグナルダウン。バイタルも危険域一歩前というところです』
ミサト「パイロットの自我が持つかどうかね……。でも、まだそれが計測できるってことは、シンジくんはまだEVAの中ってことが判明したわ。
これは賭けだけど、あのEVAシリーズとリリスをこちらの戦力で倒せば解決できるはずよ」
由佳「問題は時間ですね。パイロットの方もそうですが、サードインパクトが始まってしまってはどうにもなりません」
ミサト「その場合は……EVAのコアを破壊すれば止めれるけど……」
その時だ。一連の会話を聞いていた友軍がすでに動きながら通信を入れてきた。
キョウスケ「悪いが、簡単に勝てる勝負ならパスだ。分の悪い勝負の方がオレには性が合っている」
リュウセイ「おうよ! ようするにあのウナギ野郎とまたブチ倒せばいいだけだろ!」
エクセレン「あの白くて大きくなった綾波ちゃん♪」
ムスカ「ま、知ってか知るまいか、ウチの自称エースはもうすでにそいつらに攻撃しながらシンジに声掛けてばかりいるがね」
それぞれ、悠騎に感化されたかのように自己を取り戻しつつあった。
そして、倒すべきは九つのEVAシリーズ。そして、白き巨人にして、第二使徒・リリス。
512
:
藍三郎
:2011/05/02(月) 09:50:43 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
リリスに攻撃を仕掛けたブレードゼファーを危険と見做したのか、九体の量産機が動き出す。
白い翼を広げて滑空し、両刃の剣を振りかぶる。そこへ……
ドモン「うおおおぉぉぉぉぉっ!!」
ゴッドガンダムの飛び蹴りが、量産機の側面へと直撃し、大地へと叩き落とす。
他の八体も、別の機体の攻撃を受け、急降下していく。
悠騎「みんな!!」
リュウセイ「お前にばかり、いい恰好させるわけにはいかねぇからな!」
勝平「お前の相手は俺達だ、このウナギ野郎!!」
蛇鬼丸『ヒャハハハハ!! 何度でも蘇るってんなら、何度でもぶっ殺してやるまでだぜ!!』
エイジ(星倉悠騎……彼の我武者羅までに強い“想い”に感化され、皆は呪縛から解き放たれた)
ムスカ(大したもんだ。何だかんだでG・K隊は、あいつと艦長を中心に回っている。
そろそろ、“自称”を取ってやってもいい頃かもな……)
ドモン「だぁっ! はぁっ! とぉりゃあっ!!」
ゴッドガンダムが繰り出す、息も尽かせぬ拳の連打が、量産機を打ち据える。
例えATフィールドで防御されようと、拳に込められた熱が、力が、想いが、不可侵の壁を削り取っていく。
ドモン「俺は俺だ! 武闘家として、今日まで鍛えた心と体!
そこに刻まれた師匠や兄さん、シュバルツの教えを、忘れるはずがないっ!!」
彼にとっての自己とは、鍛え抜かれた体から切り離せぬもの。
故に誰よりも、己を強く保ち続けることが出来た。
真吾「確かにこの世界も、俺達のいた世界も、ろくでもないことばっかだわな」
レミー「大人になればなるほど、そーゆー嫌な部分が分かってちゃって、つい全部投げ出したくなるのよね〜〜」
キリー「多分、そいつが一番楽な道だ。けどよ、それが出来ないのもまた大人ってもんだ」
レミー「そうそう、苦しい時だからこそ、逃げずに恰好つけなきゃね!!」
真吾「少年に見せてやらないとな。
自分じゃどうにもできない程に辛い時には……手を差し伸べてやれる大人がいるってことをよ!」
その時……ゴーショーグンの機体が、青白く発光する。
キリー「何だ……? ゴーショーグンのエネルギーが……」
レミー「これはもしかして! ビムラーのミラクルパワーって奴?」
真吾「とにかくやって見るぜ! ゴーフラッシャー・スペシャル!」
ゴーショーグンの背中から、青色の閃光が放たれる。
九条に分かたれた青の光芒は……過たず九体の量産機を狙い撃つ。
その光は、ATフィールドを貫き、破壊する。
パルシェ「やった! これであの厄介な障壁が無くなったわ!」
ヴィレッタ「いつまで持つか分からん! 速攻で仕留めるぞ!!」
513
:
藍三郎
:2011/05/02(月) 09:57:09 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ケルナグール「うらうらぁっ! ナグールローリングナックルじゃい!!」
駄々っ子のように両腕を振り回し、量産機に打撃を与えるグランナグール。
ケルナグール「おうらぁっ!!」
締めに両手を合わせ、ハンマーのように振り下ろす。よろめいた量産機の懐へと、金色の影が飛び込む。
ゼド「NEXUS−DRIVE、解放!」
ヘラクレスパイソンの全身が、紫色の輝きに包まれた。右腕には、頭部のゴルドホーンがセットされている。
ゼド「ゴルドクラッシャー、スカイハイアッパー!!」
目にも止まらぬ速度で振られた右腕が、量産機の顎を貫き、遥か上空へと打ち上げる。
そこには……
チボデー「フィニッシュブローは俺が貰うぜ!!」
胸部装甲をパージし、肩のパーツを両手に装着し、ボクサーモードとなったガンダムマックスターが待ち構えていた。
チボデー「ウオオオオオォォォッ!!」
ガンダムマックスターの全身が、光り輝く金色に染まっていく。そこから放たれるは無双の豪拳。
チボデー「ゴウネェツ!! マシンガンパァ――ンチ!!」
機関銃の名を冠す通りの凄まじい轟音と共に、百を優に越える拳の連打が、量産機へと突き刺さり、再度大地へ叩き落とす。
大の字になって倒れた量産機の全身には、陥没痕が刻まれている。
ケルナグール「ぐわははははは!! テンカウントは必要ないのう!!」
ゼド「お見事です。さすがはチャンピオン。かつて同じ道を歩んだ者としては、憧れずにはいられませんよ」
チボデー「そう言うアンタのアッパーもデンジャラスな切れ味だったぜ。
ゴタゴタが全部片付いたら、アンタらとはリングの上でファイトしたいもんだ」
日向「量産機、一体沈黙しました!!」
キラル「行くぞ、イルボラ殿!」
イルボラ「ああ!!」
キラル「曼陀羅円陣、極楽往生!!」
イルボラ「奴を仕留めるぞ、零影!!」
マンダラガンダムと零影は、それぞれ複数体に分身し、量産機へと切り込む。
キラル「拭えぬ罪を背負ったこの身なれど、かようなやり方で、全てを無意味にしようとは思わぬ!」
イルボラ「そんなものはただの逃避だ。偽りの平和に縋るなど、私に裁きを下された姫様への、最低の裏切りだ!」
分身したまま量産機を包囲し、ありとあらゆる方向から刀を振るい、斬り刻む零影。
そこに、五体のマンダラガンダムがミサイルのように突っ込んで来る。
EVA量産機「!!!!」
奇声を上げ、大きくのけ反る量産機。物陰から忍び寄る白い影が、その機を逃すはずもない。
白豹「…………」
人類全ての同化を進めるこの現象の最中にあっても、彼は微塵も揺れなかった。
元より彼には、縋り付くような自我などはない。彼の中身は、白家の使命という大義で染まり切っている。
最初から自分も他人もない。今も昔も、彼のやることは変わらない。
彼にあるのは、従うべき命令と……屠るべき敵のみだ。
白豹「白家殺体功秘奥伝……黒点経!」
漆黒の氣が、刹牙の爪へと凝縮する。生命の活性を促す陽の氣とは真逆の、衰退と死をもたらす陰の氣。
濃縮されたそれが、爪を通して量産機へと注入される。
EVA量産機「――――――!!!」
黒点経を喰らった部位から純白の体表が黒く染まり、腐り果てていく。
あらゆる生物に死を与える氣の猛毒は、生体兵器であるエヴァンゲリオンに対しては効果覿面だった。
やがて、全身が黒色に染まり切った時、仰向けに倒れた量産機は、ぴくりとも動かなくなった。
青葉「二体目、沈黙!!」
514
:
藍三郎
:2011/05/02(月) 09:58:40 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ジョルジュ「民の意思を無視して、一方的に世界の在り方を決めようなどと……阻止してみせる! サンド家の誇りに懸けて!」
ガンダムローズの機体が黄金に輝く。
ジョルジュ「受けよ! 薔薇の洗礼! ロォォォォゼスハリケェェェェェン!!」
真紅のローゼスビットが造り出すエネルギーの渦が、量産機の動きを封じ込める。
ジョルジュ「このエネルギーの渦から逃れることは不可能!!」
ライ「そこだ! ハイゾルランチャー、シューッ!!」
R−2パワードの両肩から放たれた大出力ビームが量産機へと直撃、装甲を溶解させる。
ブンドル「ふっ……」
その機を逃さず、暗い空から舞い降りるは、美を奉ずる純白の騎士。
ブンドル「全てが平等な世界、一見、美しく思えるやもしれぬが……差異が無ければ、そこには美醜も生まれない。
美とは、芸術とは、何であれ、より高みを目指すことで生まれるもの。
進歩の無い、何も変わらぬ世界を理想郷と認めることなど、私にはできない……!」
レジェンド・オブ・メディチの天空からの一閃が、量産機を真っ二つに斬り裂いた。
ミキ「三体目、撃破しました!」
エイジ「人と人は皆違う生き物……だから、全ての人を同じにすれば、平和が生まれるという考えか……」
人類同士の争いに異星人の侵略。数多の血と涙が流され、この星は荒れ果ててしまった。
加えて、夏彪胤やゲペルニッチが言うには、破滅は目前に迫っているという。
全てを諦めたくなる気持ちも、分からないではない。
エイジ「……それでも、俺達はここまで来た。
別の星、別の世界の人達とも手を取り合い、少しずつだが、戦いを終わらせて来たんだ。世界の破滅に対しても、希望は残っている。
後もう少しなんだ……それを、一握りの人間の諦めで、無為にさせはしない!!」
ジョウ「こちとら生憎火星育ちの開拓民でね! みんなで楽して幸せになろうなんて、綺麗事は信用できねぇよ!
本当に大切なもんは、汗水垂らして働かないと手に入らねぇ。そんぐらい、俺にも分かるぜ!」
エイジ「レイ、V−MAXIMUM、発動!」
レイ『レディ!』
変形し、蒼き流星となったレイズナーMkⅡは、量産機の腹部に突撃する。
一方、飛影も、無数に分身して別の量産機を複数の方向から切り刻む。
EVA量産機「――――!!!」
紅と蒼の閃光に、押し切られる二体の量産機。
その先には……
ジョウ「決めてくれ、ロム兄さん!!」
ロム「凍てつく氷河の中にいようと、身を焼く炎の中にあろうと、心に誓ったことを翻しはしない。
力の攻めに遭おうとも、守らなければならぬもの……
人、それを『尊厳』と言う……」
剣狼と流星を組み合わせた、バイカンフーが待ち構えていた。
ロム「天空真剣極意、二刀一刃……!
天よ地よ、火よ水よ、我に力を与えたまえぇぇぇっ!!」
父と兄の遺した双剣に二人の想いを乗せ、奥義を放つバイカンフー。
ロム「はぁぁぁぁぁっ!! 運命両断剣!! ツインッ! ブレェェェェェェェェド!!!!」
二刀一対の刃が天空に煌く。
剣狼が一体の量産機の胴体を寸断し、流星がもう一体を袈裟懸けに切り裂く。
ロム「これぞ全てを断つ一刀なり……成敗!!」
バイカンフーの背後で、二つの爆炎が噴き上がった。
両隣に、飛影とレイズナーMkⅡの二機が着地する。
ロム「人々の意志は、他の誰のものでも無い、その人だけのものだ。
それら全てを、一方的に奪うことなど、決して許されない……!
俺は戦う。父さんや兄さんが託したハイリビードを取り返し、この世界を救ってみせる!
それがあの人たちの遺志に応える、唯一の道なんだ……」
アネット「四体目、五体目、撃破!! その調子でやっちゃって!!」
515
:
藍三郎
:2011/05/02(月) 10:16:50 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ドモン「俺たちは負けない……諦めもしない!
未来は、この手で切り拓いて見せる!! おおおおおおおおおおっ!!!!」
明鏡止水の境地に至り、金色のハイパーモードとなるゴッドガンダム。
ドモン「流派! 東方不敗が最終奥義!!
俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!! 勝利を掴めと轟き叫ぶぅっ!!
ばあぁぁぁぁぁくねつ!! ゴォォォッドフィンガァァァァァッ!!!
石破ッ!! 天驚けぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」
EVA量産機「――――――!!」
巨大化した金色の掌が、量産機を包み込み、眩い光の中へと昇華した。
レイン「これで、六体目……!」
蛇鬼丸『ヒャハハハハ! 死に晒せぇ!!』
蛇鬼丸の刀が、量産機の皮膚を切り裂く。機械ではない、生物と同じ鮮血を浴び、蛇鬼丸は一層興奮する。それは、灯馬の側も同じだった。
灯馬「……ふぅーっ、何や今日は、ボクも羽目外したい気分やわぁ……」
欲望を発散する蛇鬼丸に対し、彼は深く沈んでいく。灯馬の髪が、黒から赤へと染まっていく。
蛇鬼丸の刀から鮮血が溢れ出て、麟蛇皇の機体を赤々と塗り上げる。
灯馬「人間が皆同じやなんて、あるわけないやろ。誰だって、斬る側と斬られる側に分けられるんやで」
灯馬の顔には、暗く、それでいて獰猛な獣の笑みを浮かんでいた。。
蛇鬼丸の支配さえも受け付けなかった彼だ。その色は朱に交わって尚、他より鮮烈な赤を放っている。
灯馬「さぁて、アンタはどっちやろな? 一体どこまで不死身か……挽き肉になるまで刻んで、試したるわぁ」
あまりにも禍々しい殺気に、量産機は一瞬怯む。
喰う側と喰われる側の序列は、この瞬間に決定した。
灯馬「朱闇、夕闇」
刀と鞘を、二刀流のように下方へと構える灯馬。麟蛇皇・紅の全身から滴る血が、刀と鞘へと伝わる。
膨張し、凝固した血は、真紅の刀身へと変じていた。
灯馬「夜天蛾流抜刀術……『紅朧(べにおぼろ)』」
次の瞬間……地上に、紅の月が生まれ出でた。
月蝕を思わせるそれは、量産機へと直進する。白い指先が触れた瞬間に、その肉を裁断し、血霞へと変えていく。
量産機の血が、渦を巻いて紅い月へと取り込まれ、更に赤く赤く染め上げていく。
紅い月の正体は、空間を丸ごと削り取るような、超高速の斬撃乱舞。
全包囲に向けて放たれる刃は、触れた総てを切り刻む。
この世ならざる紅い月は、現世と冥府を繋ぐ門。そこに捕われれば、生きて出ることは叶わない。
やがて、紅い月が通過した後には……
大量の鮮血と、かつて量産機だった、細かい肉片が残るのみだった。
麟蛇皇・紅の色は、量産機の血を啜り、更に毒々しい輝きを放っていた。
ルシア「これで七体目……ふふふ、いかがですか、Mr.ローレンツ。希望を信じて戦う彼らの力は」
モニターの先で、G・K隊の奮闘を見据えるルシアは、満足げに微笑む。
キール「…………愚かな。与えられた運命を受け入れずに抗うことが、
新たな戦いを、そして絶望を生み出すのだ。そのことに何故気付けない……」
ルシア「笑わせないでくださいよ。その運命とやらは所詮、貴方達が造り出す、歪められた世界ではありませんか」
ユーゼス「その通り。互いに争い、傷つけ合い、何度でも、同じ過ちを繰り返す。それこそが世界の真の姿。
なればこそ、理に反している方が排除されるのは、当然の帰結と言えるのではないか?」
キール「………………」
ルシア「死と新生を繰り返すこの世界で、貴方達ゼーレは、何度も人類補完計画を実行してきました。
ですが、今この世界が在るということは、過去に行われてきた計画は、総て失敗してきたことを意味します。
ならば今回も……」
ユーゼス「だが私は、そんな貴方が嫌いではない。
与えられた運命を受け入れずに抗う……それは貴方達のことだ。
世界の理不尽に納得せず、人類の平和と幸福を求め続ける……
貴方達は、何処までも人間らしい……」
516
:
蒼ウサギ
:2011/05/11(水) 23:45:38 HOST:i114-190-98-127.s10.a033.ap.plala.or.jp
数々のEVA量産機が撃破されているのを確認していくなか、柄にもなく己が高揚していることにトウヤは微笑する。
一指揮官でありながら、今は一人の兵士でありたい。そんな気分になっていた。
トウヤ「今なら僕も思い切り暴れられるな!」
相手が相手だけに、とばかりに積極的に残りの二体の内の一体のEVA量産機に肉迫する。
すでに構え前傾気味となって渾身の一撃を繰り出す態勢となっている。
EVA量産機「シャアアアア!!」
EVA量産機の大きく開いた口がナックルゼファーに襲うも、その大口にDナックルが炸裂。
トウヤ「破っ!!!」
口内部で拳に纏っていたDエネルギーが爆発して頭部を木端微塵にした。
だが、それだけは終わらない。
トウヤ「砕っ! 勢っ! 粉っ!」
左腕、右足、みぞおち、背後に回って脊髄など、嵐のように繰り出される打撃の連続でEVA量産機を圧倒する。
それでも、諸刃の刃で反撃してきたEVA量産機だったが、その攻撃ですらDウォールで纏った手で受け止められてしまう。
EVA量産機「!!!?」
トウヤ「腰が入っていない!」
受け止めた諸刃の刃を砕いて、瞬時に腹部にトドメの一撃を見舞う。
トウヤ「羅ぁぁぁぁぁぁあああああああああっっ!!」
Dエネルギーの最大爆発。
爆炎から一人残っていたのは、トウヤのナックルゼファーのみだけだった。
アイ『8体目の撃破を確認しました、艦長』
ふいに届いたコスモ・アークからの通信が闘争心に漲っていたトウヤの心を少しばかり冷ましてくれた。
§
ナシュトール「邪魔するなぁあぁぁぁ! 星倉ぁぁぁぁ!!」
悠騎「それはこっちの台詞だ!」
イスカの大剣と、ブレードゼファーの大剣がぶつかり合い、イスカの方が弾き飛ばされた。
二機は、“セフィロトの樹”と化したEVA初号機の前でリリスの間で激しい剣のぶつかり合いをしている。
悠騎「やらせねぇぜ。てめぇにシンジは殺させねぇ!」
そう、“セフィロトの樹”に攻撃していたイスカを危険視した悠騎はまずナシュトールをどうにかすることに全力を注いでいた。
しかし、長くはかけられないと自覚はしている。幸い仲間達のお陰でEVA量産機は抑えられているが、リリスと“セフィロトの樹”
―――その中にいるEVA初号機とシンジを救うためには時間が足りない。
この“アンフィニ”と呼ばれる状態になってしまっては、能力は増大しても、タイムリミットという致命的な弱点がある。
悠騎(ちっ、相手が元仲間じゃなかったら、手間かからずに済むってのによ!)
なまじ相手が熟練したパイロットなだけに、コクピットを外しての攻撃はかえってこちら側がやられてしまう可能性が高い。
かといって、このまま相手し続けていれば、タイムリミットで自分は気を失ってしまうだろう。
悠騎は賭けに出た。
悠騎「耐えろよ、ナシュトール!」
“ハ―メルシステム”が発動した状態で撃ったことはないため、どれほどの威力になるかは不明だが、悠騎はナシュトールの頑丈さとその執念深さに賭けた。
いや、これはある意味信頼しているといっていい。
悠騎「これくらいならどうだ……!」
真紅の剣を掲げ、刀身のエネルギー出力を上昇させる。本来ならば、ここで炎のような揺らめきを起こすのだが、今回はその現象がなく、刀身の色が光り輝き始める。
悠騎「いくぜ……“スター・オブ・クラージュ”!!」
ブレードゼファーが力強く振り下ろしたその瞬間、ナシュトールの眼前をクリスタルレッドが染め上げた。
イスカが撃墜したような爆発を見せたその時だ。
ナシュトール「はぁ…………がぁぁぁぁぁあああああああ!!」
煙から抜け、一直線にブレードゼファーに突撃してくるイスカ。この瞬間、悠騎は己が撃墜されると確信した。
だが、ナシュトールの狙いはブレードゼファーではなかった。
517
:
蒼ウサギ
:2011/05/11(水) 23:46:25 HOST:i114-190-98-127.s10.a033.ap.plala.or.jp
EVA量産機「!!?」
OADCASを最大出力にして物の見事に真っ二つにされた九体目のEVA量産機がブレードゼファーの背後にいた。
悠騎「ナシュトール……てめぇ」
ナシュトール「誰も……オレの心に入ってくるな!」
誰に告げているような呟きを最後に、雄叫びを上げながら九体目のEVA量産機を今度は横切りに斬り裂いて完全に撃破させた。
特有の十字架爆発の余波でイスカが墜落しそうになるのをブレードゼファーが掴もうとするも、それが叶うことはなかった。
そのことの苛立ちか、それともナシュトールの不可解さからか、悠騎から思わず舌打ちが漏れる。
悠騎「だが、礼は言っておくぜ。サンキュな」
そう告げて、ブレードゼファーは再び、リリスと“セフィロトの樹”の間に割り込む。
悠騎「あとはてめぇだけだぜ。綾波……それとも渚カヲルだっけか? ったく、ころころ変わりやがるから頭がこんがらがるぜ」
―――どちらでもなく、どちらである。
そんな声が耳ではなく脳で悠騎に伝わって来た。
悠騎「なるほど。まぁ、わけわかんねぇんなら、あんたとの会話は後回しだ。……まずはっと」
そう言って、ブレードゼファーが180度回転して“セフィロトの樹”の方へと向き直る。
悠騎「よぉ、シンジ。待たせたな。聞こえるか!?」
シンジ「……」
悠騎「みんながお前のことを迎えに来てる」
シンジ「それは……わかっています」
精気のない声が帰ってくるも、それだけで悠騎は安心した。
シンジ「なんで、こんなことになってしまったんでしょう……」
せっかく前向きになれると思えたのに、自分の知らないところで運命が決められてしまう。
みんなを助けるつもりが、そのみんなを滅ぼしてまうような存在になりかけてしまう自分を悟ってしまったシンジ。
あまりにも理不尽で残酷な現実に、今、この世界と己に彼は拒絶しかけていた。
シンジ「でも……僕にはもう、帰れる場所なんてないんですよ。せっかく前に進めると思ったのに、こんなカタチになるなんて……」
悠騎「お前のせいじゃねぇ」
シンジ「こうなることになるために僕はEVAに乗せられたんです。僕は、僕の居場所をなくしてしまった。
僕は、EVAに乗ることでしか価値が見出せない人間なんです。そんな僕があれだけ阻止しようとしていたサードインパクトの要因になるなんて……」
悠騎「お前を利用した親父さんが憎いか? それとも、もっと上の方の連中か?」
シンジ「……わかりません。でも、僕をEVAに乗せたのは父さんです」
シンジの口の端が憎々しげに歪む。
口調の感じからそれを察した悠騎の次の言葉はどこか諭すように告げられた。
悠騎「ならよ、わかんないなら、わかんないで、ここで終いってのは、とりあえずナシにしないか?」
シンジ「え?」
悠騎「お前が望まなかったら、サードインパクトなんか……」
と、一旦止めて、遠心力たっぷりにSSブレードを振り回しながら、
悠騎「起きねぇよ!」
背後に迫っていたリリスを斬り払った。
最初に斬り裂いた部分はすでに再生している。やはり他の使徒同様、再生能力は備わっているようだ。それも驚異的な。
悠騎「いいか、シンジ。オレ達の目的は最初からお前らを救うことだ。それができなきゃ、オレ達の負けなんだからよ!」
シンジ「………」
518
:
蒼ウサギ
:2011/05/11(水) 23:47:29 HOST:i114-190-98-127.s10.a033.ap.plala.or.jp
降りかかる重い沈黙。
その間にも迫るリリスの手をブレードゼファーの剣は容赦なく斬り払っていく。
悠騎「なぁ、シンジ。……今のこの世界って、好きか?」
シンジ「え?」
悠騎「確かに、お前はその年齢で過酷な運命しょっちまったけど、それでも前向きになれたってのはすげぇって思うぜ。
その理由はなんだよ?」
シンジ「それは……」
改めて思う。
EVAに乗って自分の人生は確かに大きく変わった。辛いと思った時は確かにあった。
それでも、そこには常に話しかけてくれる仲間や、励ましてくれる友達がいた。
トウジも、あんな悲惨な目にあったにも関わらず応援してくれた。
シンジ「僕は……」
この第三新東京市に来てすぐの時は仕方なくEVAに乗っていた。
父に捨てられ、都合のいい時にだけ呼び戻されて、いきなりEVAの操縦者にさせられて、何度も苦しい思いもした。
でも、そうすることでしか、自分の価値が見出せなくて、それがずっと続くと思っていた。
イレギュラーの来訪があってから、統合軍やG・K隊、他にも色んな出会いがあって、別れもあった。
第三新東京市の外に出てからは、あの街だけじゃ分からない世界情勢に改めて驚かされたり、苦しめられたこともあった。
人類同士の争い。異星人との戦いとその調和。どうしても分かり合えない異星人もいた。
でも、歌を通じて理解し合える者達だっていることもわかった。
そして、今は自分の意志でEVAに乗っている。
シンジ(そう、全ては大事なもの……大好きなもの。僕が守りたかったもの……僕を変えていってくれたもの)
確かに痛みは知ったが、シンジは改めて思う。
『今のこの世界が好きなんだということを』
シンジ「……僕、まだこの世界にいてもいいんですよね?」
悠騎「当ったり前だろ!」
当然のことのように答えると、シンジはエントリープラグ内で憑きものが落ちたような笑みを零した。
それと同時に、消えていた“セフィロトの樹”の内部にいる初号機の眼に、まるで今のシンジの決意を露わしているような光がぎらついた。
シンジ「うあぁあぁぁぁぁぁあぁっ!!」
“セフィロトの樹”にひびが入り、そこから紫色の指が現れる。
この瞬間、それが初号機のものであると誰もが理解した。
シンジ「はぁ、はぁ……ふぅ、ああああああぁぁあぁぁあぁぁぁっっ!!」
雄叫びの瞬間、“セフィロトの樹”が一気に引き裂かれて、EVA初号機が現れた。
悠騎「シンジ、大丈夫か?」
シンジ「は、はい……悠騎さん」
機体越しに二人の顔が合う。
その後、すぐにシンジの初号機は、綾波レイの顔になっているリリスを見つめる。
シンジ「あれは、綾波じゃない」
そう呟いた時だ。初号機のモニターにミサトの顔が映し出される。
ついさっき見たばかりの顔なのに、何故か久しぶりに見たような気分に駆られた。
ミサト『シンジくん、よく帰って来たわね』
シンジ「いえ」
頭を振りながら、モニターのミサトに向けてシンジは強く言った。
シンジ「まだ、全部終わってません」
519
:
蒼ウサギ
:2011/05/11(水) 23:48:00 HOST:i114-190-98-127.s10.a033.ap.plala.or.jp
その言葉に、ミサトは一瞬、目頭の熱さで言葉に詰まりかけるも「そうね! がんばりなさい」と強く励ました。
そこへ、アイからの割り込みが入る。
アイ『すみません。惣流さんの意識は回復されていないのですが、何かうわ言を言っているとのことなので、直接音声をそちらに回します。
一応、プライベート回線なので他の方には聞かれていませんので、ご安心ください』
その後、ミサトのモニターが消え、変わりにSound Onlyという文字が現れる。
アスカ『……なさいよ、バ…シ……ジ』
間違えなくそれは、惣流・アスカ・ラングレーの声だった。
こっちは、本当に久しぶりだった。思わず声を掛けたくなるくらいに。
アスカ『絶……対、帰って……きなさいよね……バカ、シンジ……』
シンジ「アスカ……わかった」
その声が本人に届いたかどうかはわからないが、シンジはそこで通信を切った。
悠騎「もういいのか?」
シンジ「はい。それにゆっくりもしてられませんから!」
改めて目の前の巨大な綾波……リリスを見据える。
―――私(僕)は、碇(君)くんと、一緒にいたい。
綾波とカオルの混ざり声がシンジの脳内に木霊する。
それには何も反応せず、シンジは深呼吸を一つ。
そして。
シンジ「綾波を……返せっ!」
突如、“セフィロトの樹”の残骸を思い切り蹴って跳躍した初号機は、リリスの腹部に拳をねじ込ませた。
瞬間、一同に緊張が走る。リリスとの一次的接触でサードインパクトが起こるのではないかと。
だが、それはない。
§
キール「初号機パイロットは、すでに完全なる自我を取り戻し、自らの手で補完をしているということなのか?」
ルシア「これは実に初めてのケースなのではありませんか? Mr.ローレンツ。長き死と新生の歴史において、このような展開はありましたか?
いえ、なかったでしょう」
その言葉に、キールは沈黙を保つことで肯定した。
誰にでもある心の隙。足りない部分。それを他者で補い合うことで完成するのが人類補完計画。
だが、あの碇シンジはどうだろうか、自虐的で他人との関わりを極端に拒む彼をここまで変えた一番の理由はもはや一つしかない。
ユーゼス「やはりイレギュラーの存在は大きかったですな」
520
:
蒼ウサギ
:2011/05/15(日) 02:57:28 HOST:i121-112-132-31.s10.a033.ap.plala.or.jp
初号機の手が、腕が、どんどん腹部に入っていく。一方でリリスには何の反応もない。ピタリと静止してしまった。
それらを一同は固唾を呑んで見守る。
ムスカ「あとは、シンジ次第だな……」
リリスと同じくして、周囲の機体も制止する。
静寂なる時の中で、シンジは、たった一人の少女を救うために足掻いていた。
シンジ「うっあ……どこだ!? 綾波っ!」
感覚で分かるとか、脳内で直感したとか、そんなことよりも真っ先にその場所に拳を突き刺した理由は、ただ一つ。
その場所で綾波レイが自分を呼んでいたという理屈を超えた自信があったからだ。
シンジ「いるんだろ!? 綾波! 答えてくれぇ!」
―――碇くん。
それは、リリスの声と同じではあるが、綾波という存在が理解できる声だった。
シンジ「綾波っ!」
さらに手を伸ばしてリリスの体内で手探りをする。
シンジと初号機のシンクロ率はどんどん上昇し、すでに100%以上。感覚全てがEVAと同化しているといってもいい。
そして、その感覚で何かに触れた。
人間のようで、どこか人形のようなこの独特の手応え。
シンジ「……カヲルくん?」
まるで卵でも握るかのようにデリケートに触れて、あの時の感覚が甦ると同時に全身の血の気が引いてくる。
この手で渚カヲルを握りつぶした感覚。彼の顔が一気にフラッシュバックしてくる。
だが、それも数秒のこと。
―――私、今、碇くんに触れらている。
綾波レイの声。それが、シンジをカヲルという呪縛から解き放ってくれた。
―――最初に触れられた時よりも、ポカポカする。
シンジ「え?」
―――碇くんにも、ポカポカして欲しい。
シンジ「……だったら、一緒に帰ろうよ。みんなが君を待ってるから」
だが、その暖かな言葉に綾波は手を掴もうとしない。
罪悪感か、それとも一種の諦めか。
―――でもダメ。もう私は、カタチを失っているから。碇くんが触っているのは、碇くんが思っている私のイメージ。
この中で私のATフィールドは失われているから、ヒトのカタチが保てなくなってるの。
シンジ「違うっ!」
この感覚がイメージ?
そんなことがありえるわけがない、とシンジは叫ぶように心に刻んだ。
手触り、少し冷たい人の温もり。こんなにも綾波レイを存在づけるものがあるというのにだ。
―――大丈夫、私がなくなっても変わりは……
シンジ「いない! 今の綾波は、綾波しかいないんだ! 消えるなっ! 自分を……ヒトのカタチを取り戻せぇ!」
綾波「!」
確かな感触を離さぬよう、シンジの初号機は一気にリリスから一気に手を抜いた。
手の中には、第3新東京市立第壱高等学校の制服を身に纏った青い髪に、赤い眼をした少女が一人。
綾波レイそのものの姿があった。
シンジ「……綾波!」
思わずエントリープラグから飛び出そう勢いで駆けつけるところで、その少女がゆっくりと長き夢から覚めたかのように目を開けてゆっくりと起き上がる。
綾波「碇くん……」
シンジ「……おかえりなさい」
シンジは、微笑む綾波に、微笑み返した。
いつぞやのヤシマ作戦の時のように。
521
:
藍三郎
:2011/05/16(月) 21:38:21 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
EVA初号機が、リリスから綾波レイを抜き取った直後……
レイの姿をしていたリリスの白い巨体が、見る見る内に崩れて行く。
リリスのあの姿は、綾波レイを取り込んだゆえのもの。ならば、レイが初号機の手に移った今、崩壊するのは必然だった。
悠騎「やべぇ、逃げろ、シンジ!!」
シンジ「!!」
至近距離にいた初号機は、退避に間に合わない。
手の上のレイを庇うように、両の手で包み込むと、上からの衝撃に身構える。
南極の氷のように崩れるリリスの体が、上から初号機を飲み込んだ――
抜けるような青空が広がる空間。
その上に、シンジは立っていた。そして、目の前には……
シンジ「カヲル君……」
パチパチパチ……
カヲル「おめでとう」
青空の上に立つ渚カヲルは手を叩いて、シンジの選択を祝福する。
カヲル「君は、ついに君の進むべき道を見つけたんだね」
シンジは首を縦に振る。
シンジ「カヲル君、君も……」
彼にも手を伸ばそうとして、シンジは動きを止める。カヲルは柔らかい微笑みを浮かべた。
自分は行けない、そのことを肯定するように。
そう、彼はもう死んでいる。
自分が殺した。そして、死んだ人間は二度と蘇らない。
それが、シンジの選んだ、この世界の残酷な現実なのだ。
その罪は、重さは、これから自分が、ずっと背負っていかなければならない。拭い切れぬ痛みに、胸が鋭く疼く。
シンジ(……そうか。父さんも、母さんが死んだことを認められなくて、それで……)
大切な人を失った悲しみは、痛みは、何が何でも取り戻したいという、強い想いに駆り立てる。
理屈ではない。何を犠牲にしてでも、この世界の理をねじ曲げてでも、奇跡を欲するのだ。
それは、人として恐ろしく自然な……本人でさえ、抗い難い衝動なのだ。
長らく省みることの無かった父の想いに、ほんの少しだけ触れられた気がした。
カヲル「さぁ、行くんだ。君の望んだ未来に」
いつもの微笑を浮かべて、彼はシンジを送り出す。
シンジ「僕に、こんなことを言う資格は無いのかもしれないけど……」
本当は泣きたいのを堪えて、シンジは笑顔で別れを告げる。
シンジ「君が友達になってくれて、嬉しかったよ」
裏切られても、敵味方に分かれても、相手を殺してしまっても……それは、偽らざる本当の気持ちだった。
ありがとう――
そして、さようなら――
世界を埋め尽くすように溢れた眩い光が、シンジを包んでいく。
彼を、あるべき世界に戻すために。
522
:
藍三郎
:2011/05/16(月) 21:39:09 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ああ、本当に……
本当に、これでさよならだ。
世界が死と新生を遂げる度に、時間は巻き戻され、僕は君と、何度も巡り会って来た。
その君は、今の君とは全く別の君だけど……
どの世界においても、僕は君と友達になり、敵同士になり……最後には君の手で命を奪われた。
何度同じ時間をやり直しても、その流れは変わらなかった。この世界においても、結末は同じだった。
だが、もうやり直しはきかない。歪んだ想いで何度も繰り返されたこの世界は、既に死に瀕している。
“世界が、死を望んでいる”
今度世界が死す時は、正真正銘の終わりだろう。君と巡り合うことも、もはや無い。
だから、僕はただ願っているよ。君が、君の望んだ未来を歩んでくれることを。
僕も――
どんな形であれ、どんなに短い間であっても――
君と友達になれて、嬉しかったよ――
ありがとう
523
:
藍三郎
:2011/05/16(月) 21:39:55 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
戦いは終わった。
崩れ落ちたリリスは跡形もなく消失し、初号機および碇シンジと綾波レイは無事救出された。
そしてNERV本部では……
ローニン「NERV総司令、碇ゲンドウ。貴方を宇宙統合軍への反逆罪で拘束する」
碇ゲンドウは、あの後NERV本部に突入した統合軍によって、セントラルドグマにいるところを捕縛された。
彼は、一切の抵抗をせず、拘束された後もずっと虚ろな眼をしており、統合軍など最初から眼中に無いかのようだった。
ゲンドウの前には、冬月や赤木リツコを初めとする、彼の部下達も集まっていた。
リツコは「バカな人……」と口走ろうとして、やめた。自分が言えたことではないと思ったからだ。
そう、自分も、もう少し自制が足りなければ、彼のように過去に囚われ、凶行に走っていたかもしれないのだから。
冬月「碇」
代わって冬月が一歩前へと歩み出る。
冬月「お前の息子はやってくれたぞ。長い時をかけたゼーレや、我々の計画も、全て台無しにしてしまった」
ゲンドウ「…………」
冬月「我々は普通に暮らしていたあの子を、半ば強制的にEVAのパイロットにし、計画の駒として組み込んだ。
しかし、結果はこうだ。彼が初号機に乗るのは必然だったとはいえ、私は思うのだよ。
もし、初号機に乗っていたのが君の息子ではなく、全くの別人だったら、果たしてどうなっていたのかとね」
ゲンドウ「…………」
冬月「恐らくは、もっと従順な駒になっていただろう。
お前とシンジ君はずっと歩み寄ろうとせず、シンジ君はお前に反発し続けた。
しかし、だからこそ、彼は完全な駒とならず、お前の予測を越える動きを見せた。
もっと父親らしく、甘い顔を見せてやれば、もっと楽に事を運べただろうに。
自分にそんな資格はないと思っていたのか……いずれにせよ、それも我々の敗因の一つだ。
どこまでも不器用で、真っ直ぐな男だよ、お前は」
ゲンドウ「………ふん」
冬月の皮肉を込めた言い方に、ゲンドウはただ鼻を鳴らした。
ローニン「何? ゼーレのメンバーが!?」
そんな中、統合軍本部からの通信に、ローニンは顔を歪めた。
524
:
藍三郎
:2011/05/16(月) 21:41:05 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
統合軍に拘束されていたゼーレの幹部達は、人類補完計画の失敗を知るや、口の中に仕込んでいた毒薬のカプセルを噛み、全員が自殺した。
そして、この男も……
キール「………」
ユーゼスとルシアはもう傍にいない。彼らは既に、目標の“あれ”を手に入れている。
キールがこれからどうするのかを読んでいれば、早々に撤収するのは当然のことだ。
現在、彼の目の前にあるボタン。これを押せば、この施設のあらゆる場所に設置された爆弾が起爆し、跡形もなく吹き飛ばす。なお、キールのいるこの区画も例外ではない。
加えて、ネットワーク上にウィルスを流し、ゼーレにまつわる機密情報の全てをデリートする。
このボタンを押せば、あらゆる意味で、ゼーレという存在はこの地上から消失する。
人類補完計画が失敗に終わった時……ゼーレは全ての痕跡を消し、次の世界に望みを繋ぐ。
それが、世界が新生する度、幾度となく繰り返されて来たゼーレの掟だった。
だが……
果たして、次はあるのだろうか。繰り返しの果て、この世界は死に瀕している。死を望んでいる。
自壊衝動(アポトーシス)。
イレギュラーの流入も、プロトデビルンの目覚めも、L.O.S.T.の覚醒も、全ては世界が死を望んだ結果ではないのか。
今回の計画は、世界を変える最後のチャンスだった。
それでも補完は成らず、自分達は、あるかどうかも分からない次に全てを放り投げようとしている。
キール「間違えていたのか、我々は……」
死海文書の預言……前の世界が残した計画書に従い、ゼーレは世界を掌握し、
多くの人間を操りながら、世界を創り変えるための計画を進めて来た。
だが、その実、踊らされていたのは自分達ではなかったか。
何度も失敗する内に、やがては思考を止め、ただ死海文書に従うだけのマシーンに成り下がっていたのでは無いだろうか。
“何度やり直しても、人類は本当の意味では、救われない”
その事実を認めたくない。ただその思いだけで……
答えなど出ない。過去、数え切れぬ程の先人が悩み、苦しみ抜いて、それでも出なかった答え。
それを、この世界のキール・ローレンツ個人が出せるはずがない。そして今更、ゼーレ以外として生きることはできなかった。
しかし、もう繰り返しは起こらぬとすれば……
ゼーレの計画を崩した者達。彼らが、この世界の人類最後の希望だとすれば……
ゼーレがこれまで調査した、L.O.S.T.やアルテミスに纏わるファイル。
その全てを、統合軍のメインコンピュータへと送信した。
それから……
僅かな迷いも無く、キール・ローレンツは、ゼーレの消滅を引き起こすスイッチを押した。
525
:
蒼ウサギ
:2011/05/27(金) 01:31:27 HOST:i114-189-102-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
拘束された碇ゲンドウがNERVの部下達に見送られながら統合軍のヘリで護送される時だった。
シンジ「待ってください!」
息切れ気味に聞こえてきた声の主に気づいて全員が振り向いた。
碇シンジ。
この戦いで人類補完計画を潰した立役者に、統合軍の護送兵達の足も止まる。
ゲンドウ「……」
シンジ「父さん……」
いつ以来だろうか、父の顔を、こうして直接見たことは。
記憶が正しければ、あのゼルエル襲撃の際、もう一度、出撃させてほしいと願った時以来。
だが、今、目の前にいる父にあの時の威厳さは、微塵もない。
それでも不思議とシンジは、憐れみと言う感情は生まれなかった。
ゲンドウ「何しにきた?」
シンジ「そ、その……」
あの時と同じように拳をグッと握りしめて、勇気を奮う。
シンジ「あ、ありがとう……」
ゲンドウ「!?」
ゲンドウならずとも、その言葉は一同を驚かせた。
誰もが悪態の一つでも浴びせるのではないかと思ったが、シンジの今の心境にそれはない。
シンジ「僕、父さんが呼んでくれなかったら、多分、ずっと一人だった。だから―――」
ゲンドウ「私は、お前を利用しただけだ」
シンジ「わかってる。父さんは、ただ母さんに会いたかっただけなんだよね……。父さんも、寂しかったんだ」
それには無言を突き通す。
否定はしない。それまでの行動が全て裏付けているのだから。
ゲンドウ「そんな私の気持ちを知りながら、お前はこの世界を選んだ。私を……『人類補完計画』を拒絶した」
シンジ「うん、僕は……僕達は、今のこの世界が好きだから」
ゲンドウ「この先、どんなことが起こるのかは、もはや我々にも想像できん。それでも、お前達は抗い続けるのだな?」
その問いに、シンジは躊躇いなく頷いた。その瞳には確かなる決心を秘めた目が輝いている。
ゲンドウにとって、何よりもそれは眩しく見えた。
ゲンドウ「そうか……」
息子の目を避けるように、ゲンドウは視線を逸らした。
シンジ「父さん?」
ゲンドウ「……今更、自分が人から愛されるとは信じられない。私にそんな資格はない」
散々、自分勝手に息子どころか周りの人間を利用し続けた己を自嘲する。
しかし、そこに後悔があるかと問われれば、ないと言い切れるだろう。
それほどの覚悟をもってここまでやってきたのだから。
シンジ「それでも、僕は父さんのこと待ってるよ」
それは、シンジがゲンドウと共に生きていくということを選択したということ。
あれほどの憎しみの対象であった父を受け入れていくということが、シンジの決断だった。
一拍の沈黙が訪れ、ゲンドウは小さく返す。
ゲンドウ「……すまなかったな、シンジ」
そう告げて、ゲンドウは護送ヘリへと自ら歩を進めた。
526
:
蒼ウサギ
:2011/05/27(金) 01:32:08 HOST:i114-189-102-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
目覚めてみると、そこには見知らぬ天井があった。
そして次に全身に走っている鈍い痛み。自分が生きているという証だった。
ミサト「起きた?」
聞き慣れた声に惣流・アスカ・ラングレーは、少し混乱し、どこか安心感を覚える。
アスカ「ここ、どこ?」
ミサト「統合軍管轄下の医療施設よ。あなたは助かったのよ」
アスカ「そう……。っで、結局、どうなったの? あの後……」
EVA量産型に滅多打ちにされたあとに残っている微かに記憶は、夢の中でシンジに何かを言ったことくらい。
あれが夢の中か、はたまた現実に口走ったことなのはか定かではない。
緊急措置を施された際に大量の麻酔を打たれていたせいか、頭が未だにくらくらしてしまう。
そんなアスカに、ミサトは事の顛末を母親が子供に絵本を読んであげるような優しい口調で報告した。
アスカ「そう、結局、なんでもかんでもあの無敵のシンジ様がなしとげちゃうのね……」
ミサト「不満?」
アスカ「別に……」
そう言ったアスカの表情は、諦めのものでも、拗ねたものでもない。
心の靄が晴れたような少しばかりの笑みが思わず零れ出ていた。
ミサト「そう、ならいいわ。NERVも解体しても、主なスタッフは、統合軍に編入されたから。でも、あなたは今はゆっくりと休みなさい」
そういってミサトはその病室を退室した。
残ったアスカは、ふと自分の表情が緩んでいることに気付いた。
アスカ「そっか、私、笑えるんだ……」
生きていこう。
EVAのパイロットだけに拘らず、一人の惣流・アスカ・ラングレーという14の少女として。
§
護送ヘリの中でゲンドウは、一人物思いに耽る。
ゲンドウ(誰も敵ではなかった。他人を隔てていたものが、本当は互いを強く結びつけるものだと……。
ユイと出会って、それに気づいていたはずだった」
改めてシンジの言葉。そして、これまでの戦いを思い出す。
ゲンドウ(シンジ、お前の言葉、お前を見て、ようやくそれに気づくことができた。心から、感謝している)
父は、選択した。
息子と共に生きることを。
527
:
はばたき
:2011/05/29(日) 21:23:28 HOST:zaq3d2e4614.zaq.ne.jp
―――ねえ、・・・ス。貴方にとって他人って何?
決まっている。
他人か、そうでなければ敵だ。
―――寂しいね。
そうでなければなんだというのだ。
―――じゃあ、貴方にとって”私”って何?
それは―――
・・・・
・・・
・・
・
ナシュトール「・・・・・・・」
ひどく、懐かしい夢を見ていた気がする。
ソレが何だったのか、今の彼にはわからない。
唯、ジンジンと痛む頭の奥に小骨のように引っ掛かる感情が残るのみ・・・。
ナシュトール「く・・・!」
ズキン、と一際強い痛みが走る。
―――君には帰れる場所がある。……誰に反対されようとも、僕は君を受け入れる。仲間としてね
―――痛くて苦しくて、全部なくなっちゃえばいいって私だって思った。でもそれじゃダメだよ!
―――だが、礼は言っておくぜ。サンキュな
ナシュトール「だ・・まれぇ・・・」
痛みが加速していく。
明滅する瞳から、血の涙が零れ落ちる。
痛みに、そして体の奥から湧き上がる飢餓にも似た衝動に従い、彼は吼えた。
ナシュトール「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
§
エレ「むー・・・・」
レイリー「あ〜あ〜もうバカだね、この娘は。何もこんな思いっきり殴る事は無いだろうに」
上を向いて赤く腫れた鼻頭を押さえるエレを、呆れたように見下ろしながらレイリーはため息をついた。
レイリー「鼻血まで垂らして・・・。折角の美人が台無しじゃない」
エレ「ごべんなざい・・・」
鼻を上に向けたまま、何とか頭を下げようと悪戦苦闘するエレ。
その様子に、レイリーはふっ、と安堵の笑みを浮かべ、
レイリー「よかった。もう大丈夫なんだね」
出撃前までの様子から一転、かつての明るい少女の表情を取り戻したその様子に、心底嬉しそうに頭を撫でてやる。
528
:
はばたき
:2011/05/29(日) 21:24:14 HOST:zaq3d2e4614.zaq.ne.jp
エレ「てへへ」
くすぐったそうに、だが嬉しそうな表情でされるがままになる。
そして、
悠騎「お嬢!元に戻ったって本当か?」
タラップの上から、機体から降りたばかりのG・K隊のパイロット達が顔を出す。
エレ「ん〜〜」
大丈夫、と言おうとして、まだ鼻血を止められずに、腕だけぶんぶんと振って其れに応える。
ドモン「ふっ、どうやら本当に心配は要らないようだ」
カトル「ええ、無事に帰ってこられたみたいで何よりです」
クローソー「・・・・・ふん」
ある者は呆れたように、ある者は心底嬉しそうに、またある者は無愛想だが、皆一様に喜びを見せる。
ロム「無謀の嵐が吹き荒れようと、くじけぬ心あるならば、いつか嵐は凪(なぎ)となり、静けさが戻る。災いは必ず去るもの・・・。人、それを・・・『禍福』という!」
レイナ「もう、兄さんったら」
マイク「でも、こうして見るとやっぱ、美人だよなぁ」
照れた様に笑う顔には、以前の華の様な笑顔が戻りつつある。
それはエリアル・A・ギーゼルシュタインという少女の自我が取り戻された何よりの証拠だ。
トウヤ「何にせよ。おかえり。エリアル君」
エレ「艦長・・・。その・・・」
エッジの事、トウヤの事、自分が沈んでいる間に起きた多くの事を反芻し、エレの表情が僅かに曇る。
だが、
トウヤ「気にするな、とは言わない。でも今は君が帰ってきたことを素直に喜ばせてくれ」
エレ「・・・・はい!」
再び浮かんだ笑顔に、その場の全員が明るい気持になる。
この少女には、そういう人徳があるのだ。
皆からの歓待を受け、もみくちゃにされるエレ。
そして―――
アイラ「・・・・・・・」
その瞳に暗い炎を宿して、アイラは一人遠くから少女の笑顔を見つめていた・・・・。
529
:
藍三郎
:2011/06/02(木) 05:48:41 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ゼーレによるNERV殲滅作戦、並びに人類補完計画が失敗に終わってから、およそ二日が経とうとしていた。
アルテミスの次元の狭間に、ネオバディムは地下に潜伏し、L.O.S.T.はあれ以来動きを見せない。
現在、地球圏には主だった敵はいなくなり、久しく訪れなかった平穏を取り戻していた。
だが、統合軍やG・K隊の面々は、これが嵐の前の静けさであることをよく知っていた。
統合軍はL.O.S.T.の再度の侵攻に備え、各地で軍の配備を進める一方、ゼーレについての調査も進めていた。
碇ゲンドウの証言から、キール・ローレンツ以下幹部が拠点としていた場所を突き止めるが、そこは既に一面の瓦礫と化していた。
しかし、その崩壊直前に、統合軍本部にあるデータが送信されていた。
それには、秘密結社ゼーレがこれまでに集めた、L.O.S.T.やアルテミスに関する全ての情報が記されていた。
キール・ローレンツが、何を考えこのデータを送ったのかはわからない。
しかし、未知の情報の詰まったこのデータは、人類にとって大きな助けとなった。
=マクロスシティ 統合軍本部=
ローニン「……このファイルによれば、アルテミスはずっと以前から地球圏に潜伏し続け、情報を集めていたそうです。
その目的は、世界の正負のバランスを崩すことで、L.O.S.T.……そして、その対となるハイリビードを生み出し、それを奪取すること。
だが、そのハイリビードを用いて何をするつもりなのか、アルテミスがどこの世界から来たかまでは彼らも掴み切れていないようでした」
ミスマル「アルテミスについては、ゼーレもまだ調査途中だったようだな。だが、それより急を要するのはL.O.S.T.だ。
俄かには信じがたいが……ゼーレはこの宇宙が誕生する前に存在した宇宙……更にその前の宇宙からも存在し続け、人類の歴史に干渉してきたと言う。
だから、前の宇宙がいかにして滅んだのかも、その目で確かめ、記録に残してきたようだ」
ローニン「かつて宇宙はプロトデビルンの暴走によって死に絶え、その後L.O.S.T.によって消滅し、今我々のいる世界が誕生した。
問題はそのL.O.S.T.による世界の消滅が、どの程度のものなのか……」
ローニンは手元のファイルを指示しながら説明を続ける。
ローニン「ゼーレが語るところによると、L.O.S.T.とは生命体でも宇宙意志の類でもなく、ただの“現象”……
世界が終焉を迎えた際に、総てを消し去り、新しい宇宙を始めるためのシステム。
L.O.S.T.はまず、<鍵>たる資格を持つ者……ニュータイプやサイコドライバーといった特殊な能力者から、<契約者>たる者を選びます。
今回で言うと、G・K隊の葉山翔や、深虎がそれに当たりますね。
その後、L.O.S.T.の干渉を受け、変質した契約者を文字通りの<鍵>として、“こちら側”と、L.O.S.T.の本体が存在する“向こう側”への扉を開くのです。
そうなれば、何人たりともL.O.S.T.の流入を止められません。
世界を根本から消滅させる波動が、<鍵>たる者や、プロトデビルンのような超常存在を除いて、世界の全てを消し去るでしょう」
ミスマルは思わず息を飲む。
ミスマル「恐ろしい話だ。だが、今そうなっていないということは……」
ローニン「ええ、扉は未だ、完全に開いていません。
度々出現した機動兵器は文字通り、尖兵に過ぎません。
あれはただ、境界の歪みによって出来た亀裂から、僅かに漏れ出て来ただけのようです」
ミスマル「境界の歪み、それもまた、深虎らの手によって行われたことなのか」
ローニン「ええ。今回のL.O.S.T.の覚醒は、自然法則に則った結果ではなく、
アルテミスによって人為的に引き起こされたイレギュラーなケース故、そうすんなり扉を開くことは出来ないようです。
未だ世界の境界は強固で、そのままではL.O.S.T.の本体を招き入れることは出来ません。
ですから、彼らはこちら側とあちら側の境界に歪みを生み、境界を弱めようとした。
それには、時空間を揺るがすような現象を、こちら側で起こす必要があります。
例えば、サードインパクトのような……」
ミスマル「深虎が使徒に手を貸すようなことをしていたのは、それが理由だったのか……」
ローニン「ですがその境界も著しく弱まり、今や決壊寸前です。
G・K隊の協力者、夏彪胤氏の話によれば、前回NERVでの戦いの際に起こった時空震動が、その決定打だったとのこと」
530
:
藍三郎
:2011/06/02(木) 05:54:26 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ミスマル「L.O.S.T.が流入を果たせば、<鍵>を除いて、誰も逃げられない……
これが、ゼーレが人類補完計画を急がせた理由か」
人類総ての意志を統合し、来るべき破滅に備える……
絶望的な真実を知っていれば、そのような手段に訴える気持ちも、分からなくはない。
ローニン「ですが、我々はその道を否定しました。我々に残されたのは、座して破滅を受け入れるか、抗って破滅の運命を打ち破るかのどれかです」
ミスマル「無論、後者だ。今回のL.O.S.T.が人の手によって引き起こされたのならば、同じく人の手によって止めることも出来るはず」
ローニン「はい。崩壊力の化身であるL.O.S.T.が覚醒すると同時に、それと対を成す、修正力の化身も覚醒しました。
それがハイリビード……その力をL.O.S.T.の本体にぶつければ、対消滅を引き起こし、世界の崩壊を未然に防げるとのこと」
ミスマル「だが、そのハイリビードは今やアルテミスの掌中にある」
ローニン「それこそが彼らの目的でしたから。我々がそれを奪取できるかどうかは、これから発動する作戦に掛かっているのです」
その時、会議室の扉が勢い良く開けられた。
統合軍兵「み、ミスマル提督ッ!!」
ローニン「何事だ!」
彼が相当混乱していることは一目で分かった。
それは、そうさせるだけの事態が起こったことを意味していた。
総合軍兵「そ、空が! 空が、赤く――――」
彼が恐怖した光景を、ミスマルとローニンは、すぐにその目で確かめることになる。
この日、全世界の空で、赤いオーロラが観測された。
地球は元より、コロニー、月面、火星、木星、宇宙空間と、この地球圏に住まう全ての人類が、それを目撃した。
赤く歪む宇宙は、世界の終末を予感させるに十分な光景だった。
いや、予感ではない。これは紛うこと無き、崩壊の前兆。
赤いオーロラの正体は、大規模な時空断層。
この世界と、L.O.S.T.の領域が、重なりつつある証である。
世界消滅のカウントダウンは、今始まったのだ。
第48話「折れた剣の先に」
=南極 バトル7 会議室=
チボデー「ヘッ、またとんでもねぇことになっちまったな」
普段なら、幻想的な色とりどりのオーロラが見られる南極の空も、今は血のような赤一色に染まっている。
世界のあらゆる場所で観測された赤のオーロラは、人々の不安と恐怖を煽り立て、僅かな平穏の時を、即座に終わらせた。
マックス「現在、統合軍はミスマル提督の指揮の下、各地の混乱を鎮めている」
エキセドル「ですが、あの赤いオーロラの原因であるL.O.S.T.を排除しなければ、人々の不安通り、世界の破滅は現実のものとなります」
マックス「ゲペルニッチも、同様の意見を口にしていた。それを可能とするハイリビードを手にするためにも……」
由佳「私たちは、アルテミスの手から、ハイリビードを奪還しなければならない……」
531
:
藍三郎
:2011/06/02(木) 05:55:21 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
会議室には、主要なメンバーが集められ、次の作戦、アルテミス要塞への攻撃についての説明が行われていた。
マックス「ゲペルニッチの話によれば、彼はアルテミスの移動要塞<シャングリラ>内にあるハイリビードの力を探り、そこに向けて次元の扉を開くとのこと。
その後、我々は直ちに精鋭部隊を送り込み、要塞へと奇襲攻撃を掛ける」
エキセドル「シャングリラは常に空間転移を繰り返すことで、位置の特定と要塞への侵入を防いでいます。ですが、直接内部に乗り込めば、それをもはや意味を成しません」
ムスカ「それは分かった。だが、俺たちがシャングリラに入ってから、空間転移を行われたらどうするんだ? 要塞内からでも、帰還用の扉を開くことは出来るのか?」
マックス「問題はそれだ。ゲペルニッチが自分で狭間に入れない以上、プロトデビルンの力で、“あちら側”から“こちら側”への扉を開くことは難しいらしい」
キリー「やれやれ、つまりは片道切符ってわけか」
キリーは肩をすくめた。
マックス「帰還する方法ならばある。我々が攻撃目標としている場所にな」
エイジ「そうか。シャングリラに空間を移動する機能を持つならば、それを占拠して、要塞ごと帰還を果たせばいい」
エイジの答えに、マックスは頷いた。
ゼド「その、異空間を移動するシステムを入手するのも、我々の目的でもありますからね」
シャングリラを占拠することが出来れば、こちらの宇宙のみならず、自分達の宇宙への帰還も可能となるだろう。
ネオ・ジオンやワールドエデンとの決戦の後、アルテミスの機体が出現したように、彼らはシャングリラの機能を用いて、異なる並行世界を移動することもできる。
そして、シャングリラほどの大きさならば、一度に大勢の人間を乗せて転移することも容易だ。
マックス「今回の主要な目的は、三つ。まず、ハイリビードの奪取。続いて、シャングリラの占拠。最後に、こちらの宇宙へと帰還することだ」
ハイリビードを入手しても、こちらの世界に持ち帰らねば意味が無い。そして、帰還を果たすには、シャングリラの占拠は必須条件なのだ。
由佳「バトル7では、シャングリラに突入させるには大きすぎます。
また、あまりに多くの戦艦を一度に転移させようとすると、失敗する可能性も出てくるそうです。
ですので、本作戦に参加する戦艦は、私たちG・K隊のコスモ・フリューゲル、コスモ・アークの二艦に絞ります。
他の部隊は、こちらの世界に留まり、ネオバディムの行動や、L.O.S.T.の侵攻に備えることになります」
ロム「俺たちも、G・K隊に同行する。ハイリビードを制御するには、俺の持つ剣狼と流星が必要だ」
彼らに続いて、マックスは深刻な表情で続けた。
マックス「……諸君らも気づいているだろうが、これは不確定要素の多い、リスクの大きい作戦だ。
“狭間”への侵攻など、我々が有史以来全く体験したことがないことだ。成功の可能性は、全くの未知数。
私が話したことも、総てゲペルニッチの話に、推測を交えたことに過ぎない」
狭間の中がどうなっているかなど、知っているのはプロトデビルン達だけだ。どんなことが起こって帰還不能になるかわからない。
そんな、人跡未踏の地に、これから自分たちは飛び込もうとしている。
ロム「しかし、ハイリビードを手に入れられなければ、L.O.S.T.の侵蝕を止めることは出来ず、この世界は破滅する」
彼方が無明の渾沌ならば、此方は破滅が秒読みに迫った朽ち行く世界だ。
ムスカ「信じるしかねぇってことか。プロトデビルンたちを……」
悠騎「やるしかねぇよ。どの道何もしなきゃ、この世界は滅んで、俺たちも永遠に元の世界に帰れない」
シャングリラに飛べば、そこではヴィナスやマルス・コスモが待ち構えている。
そこが彼らとの決戦の舞台になるかと思うと、悠騎の表情にも緊張が混じる。
エクセレン「ま、この世界に来てから、危険じゃなかった戦いなんて無かったしね〜」
レミー「いつものことよ、いつもの」
リュウセイ「アルテミスの奴らには、これまで散々振り回されてきたからな。今度はこっちから乗り込んで、奴らに目にもの見せてやるぜ!!」
緊張を高める者、闘志を燃やす者、いつも通りの軽い調子の者。反応は人それぞれだが、皆が生死を賭けた戦いに望む覚悟を決めていた。
532
:
藍三郎
:2011/06/02(木) 05:56:57 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
――パパ! パパ!!
――ぼくね、大きくなったら、パパみたいに――
――銀河の平和を守る“エオス”の一員になって――
=境界空間 機動要塞シャングリラ=
マザーグース「……アア、いよいよダ。ウラノスがハイリビイドを取り込み、その力を完全に取り戻した時……無限の世界への扉は開かれる。
その時こそ、ミイ達<アルテミス>はその使命を果たすことが出来る……!」
ウラノスの鎮座する、広大な空間。
ウラノスの頭上には、光る球体……ハイリビードが掲げられ、その光は少しずつウラノスへ吸い込まれていた。
マザーグースは、その光景を、覆面の下から恍惚の眼差しで見上げていた。
ヴァルカン「使命、ねぇ……」
彼の隣で、同じくウラノスを見上げていたヴァルカンは、やや苦笑しながら呟く。
この男が本気でそんなことを考えているかどうかは怪しいものだ。彼が行動するのは、世界のためでもマルス・コスモのためでもない。
胸に抱いた、たった一つの妄執のために、彼は世界一つを生贄に捧げようとしている。
ヴァルカン(最も、俺も人のことは言えないがな)
目的があるだけ、あの老人の方がマシかもしれない。自分にはそれすらない。ただ、血の滾りの赴くまま、闘争の刹那に浸っていたいだけだ。
“あの日”から続く熱に、自分は今も抜け出せずにいる。
ヴァルカン(あの日、“エオス”が敗北し、俺たちの世界が終わった日……突如現れたウラノスに救われ、俺たちだけは生き残った。
全てを失った俺達には、目的が必要だった。そのために、あの男はアルテミスを結成した。
抜け殻となった俺達に、新たな道を指し示すために)
ザオス、ヴィナス、ヴァルカン、そしてマザーグース。
未知なる存在と戦い、敗れ、生き残った者達は、新たなる人生を歩み出す決意を込めて、組織と同様、その名を変えた。
ウラノスとシャングリラの力を使い、並行世界を渡り歩いて、再び戦力を結集し、エオスを再生する。完全兵士計画も、その過程で生まれたものだ。
だが、その胸に刻まれた悲嘆と絶望、そして憎悪は、そう簡単に拭えるはずが無かった。
憎しみを糧とする彼らの導くアルテミスは、いつしかエオスの理念とは似ても似つかぬ方向へと歪んでいった。
スカルやルドルフ、最凶四天王といった者達が集まったのも、その歪みが同類を招き寄せたに違いない。
マザーグース「G・K隊から多くの<鍵>をゲット出来ていれば、もっと早く計画を達成出来たンだけどネェ。
バアッド、流石はウラノス。他の<鍵の>サポオトが無くても、ハイリビイドを定着させつつある。
この分なら、L.O.S.T.の流入に間に合いそうだよ」
ヴァルカン「つまり、もう奴らと戦う機会は無いということか」
マザーグース「<鍵>としての役割を抜いても、彼らは貴重なマテリアルだったのだガネ。
今更リスクを冒して回収に行くつもりは無いヨ。
そして、彼らにここまで到達する手段は無い。
いや、あったとしても、刻一刻と空間転移(テレポオト)で位置を変えるこのシャングリラの現在地を掴むことなど出来ない。
つまり彼らは永遠にミイ達に辿り着けないってことサ!
最ももうじきあの世界は消えて無くなるカラ、永遠なんて時間は残されていないがネェ。あははははははは!!」
嘲笑するマザーグースを横目に、ヴァルカンは思う。
ヴァルカン「さて、どうだかな……」
――俺には、あいつらがこのまま終わるとは思えないんだがな。
あいつらとは、また戦うことになる。そしてその戦いが、自分と奴らとの決着の時になるだろう。
現実の可能性は無いに等しくとも、ヴァルカンは確信に近い予感を抱いていた。
533
:
はばたき
:2011/06/05(日) 11:29:29 HOST:zaq3d2e4614.zaq.ne.jp
=コスモ・アーク=
コン、コンという軽快なリズムでノックされる扉。
エレ「アイラ、ちょっといいかな?」
アイラ「・・・なんだ?」
聞こえてきた声に、抑揚の無い声で応える。
ややあって扉が開き、姿を見せたのは彼女の相棒とも言うべき少女。
エレ「ごめんね、作戦前の忙しい時に」
断りを入れてから入ってきたエレの顔は明るい。
3日前までの、暗鬱とした表情は何処にも無く、綺麗に手入れされた金色の髪は流れるように輝いている。
それは、”背を向けていても解る事だ”。
エレ「最後の戦いになるかもしれないから、さ。ちょっとアイラと話しておきたかったんだ」
言葉とは裏腹に、その声には緊張も悲壮も無い。
明るく、朗らかな調子はいつも通りのエレだ。
気負い無く話す彼女は、背を向けたままでいるアイラに何の疑問も浮かべない。
デスク上のライトだけを点けた薄暗い部屋の中で、じっと壁に向かう様子にも、特に異常を感じなかった。
エレ「ありがとう、アイラ。それとずっと迷惑かけてゴメンね」
お礼と謝罪。
それはひどく当たり前の事だ。
これまでずっと、ボロボロの自分を支えてくれた相棒への感謝の言葉。
エレ「皆には凄い迷惑かけちゃった。でももう、私は大丈夫だよ」
アイラ「・・・・・・」
エレ「ずっとずっと悩んできたけど、結局私は私でしかないんだよね。例え造られたモノだとしても、今の私は皆がいるから私になれたんだったって」
アイラ「・・・・・・」
エレ「アイラはずっと私の事支え続けてくれたよね」
アイラ「・・・・・い」
エレ「アイラが居てくれたから、私は私でいられた。だからさ・・・」
アイラ「煩い」
言葉を、感謝を述べる暖かな言葉を、冷たい声音が切り裂いた。
エレ「だから・・・え?」
アイラ「煩い・・・黙れ!!」
一瞬、何を言われたか解らず、きょとんとするエレに、今度は決定的な言葉が刃となって叩きつけられた。
アイラ「三文芝居はもういいよ。私のお陰?笑わせる」
エレ「あい・・・ら?」
振り返った友人の顔。
だが、そこに彼女の知っている顔は無かった。
アイラ「今に至るまで、お前は誰に頼ってきた?誰に寄り添ってもらいここにいる?お前は、一度でも私に助けを求めたか?」
エレ「え?・・・そんな、だって・・・」
534
:
はばたき
:2011/06/05(日) 11:30:43 HOST:zaq3d2e4614.zaq.ne.jp
アイラ「お前が私を必要とした事なんて一度も無いさ。お前が求めた居場所は私の元じゃない」
エレ「そんな!ちが・・・」
アイラ「だったら!」
冷たく、鋭く、否定の言葉を否定する。
そして、
アイラ「何故、今頃になって私の元へ来た?」
エレ「っ!!」
決定的。
決定的な矛盾を突く言葉に、エレは思わず固まる。
作戦前で忙しかった。
皆への感謝でここへ来る時間が無かった。
本調子に戻るまでまだ時間が掛かった。
最大の友人には最後に言葉を贈りたかった・・・。
理由と呼べそうなものが幾つも脳内を駆け巡るが、そのいずれも空虚に思えた。
どんな理由をつけようと、全てはアイラが指摘した通りではないか?
その事実に、エレの中で、目の前で冷たい目をした”何か”と合わせて、恐怖と混乱が大きくなっていく。
アイラ「―――私はね・・・」
すっ、と冷たい指先が頬に掛かる。
小刻みに震える顔を撫でるように、そっと掌が添えられる。
アイラ「私はずっと一人だった」
浮かんでいるのは微笑だ。
だが、その内に潜むのは真逆の何か。
見慣れているはずの形の良い唇が動く。
ぞっとする妖艶さだ。
535
:
はばたき
:2011/06/05(日) 11:31:38 HOST:zaq3d2e4614.zaq.ne.jp
アイラ「ずっと、ずっと一人だった。私の力は知っているだろう?触れるだけで何もかも読み取ってしまうこの力・・・」
静かに、暗い色を宿した言霊が吐き出される。
アイラ「いつもいつも、人は私を遠ざけた。心の内を読まれるのを恐れ、嫌悪し、いつもいつも私を放逐した」
でもね、と続く言葉に、僅かながらの熱が篭る。
アイラ「一人だけ、一人だけ居たんだ。私の事を受け入れてくれた人が。私はその人に救われた。泥の中を這い回るような私の生に光をくれたんだ」
微笑が色を帯びていく。
刹那の歓喜に、蝋人形からヒトへ脱皮。
羽化する蝶の様な静かな変化。
アイラ「養母さんは、私の光だった。養母さんの傍に居る時、私は初めてヒトに成れた。養母さんに護られる事で、私は”アイラ・ガウェイン”という自分を手に入れた。そんな私に―――」
熱が闇を駆逐する。
絶頂に至る感情は、表情から影を消し去る。
その顔に、人らしい色を帯びた時―――
アイラ「―――私は心底絶望した―――」
熱は
一瞬にして燃え尽きた
アイラ「私は私の弱さに絶望した!誰かに依存し、誰かに護られなければヒトとして満足に立つ事すら出来ない!私は誰かの庇護下でしか生きられない雛鳥だ!私の価値は、愛でられる事で護られる事で他人を満足させる愛玩動物程度のものだった!!」
微笑みの中で瞳だけが笑っていない。
アイラ「それでも養母さんの傍に居られた間はよかった・・・。だけどその養母さんももういない。私は私を護るものが無くなり改めて自分の惰弱さを思い知らされた。誰かに依存し、誰かの保護下で生きねばならない寄生虫のような自分の在り方に、いつもいつも苦しんださ」
エレ「う・・あ・・・」
圧倒された。
今まで自分の傍にあって、誰よりも信頼していた筈の相手の、全く知らない心の闇に押しつぶされそうになる。
アイラ「ずっと誰かに必要とされたかった・・・。例え愛玩動物でも構わない。そうしないと私は生きていけないから・・・。なのに誰もが私の傍を去っていく。養母さんも、先輩も・・・。当たり前だ。雛は巣立っていくものと誰もが思っている。私のように自力で飛べない雛がいるんなんて考えることすらしない」
頬を撫でる掌が、するすると這い上がってくる。
底冷えするような冷たさに、身を竦ませた。
アイラ「私はね、エレ。お前の正体を知った時、歓喜したよ」
エレ「っ!?」
ゾ、っと背筋が凍りつく。
それまでの独白から、自分の事へ話が飛んだとき、言い知れない恐怖を感じた。
アイラ「哀れなエレ、可哀想なエレ。私と同じ、否それよりもっと悲しい生き物。私はようやく見つけたんだ。私が護るべきもの。弱くて無様な私が、護られる以外に誰かと接する事の出来る存在を」
微笑みの中に浮かぶ慈愛。
その表情は、さながら凍れる慈母だ。
アイラ「なのに―――なのに、お前は私の元を離れていった。私じゃない誰かを頼り、私じゃない誰かの言葉で救われた」
その言葉を揶揄するかのように、静かに頬を離れる掌。
アイラ「私の救いにならないなら、お前なんかに用は無い」
ふるふると首を振るが、言葉は出てこない。
そして―――
アイラ「旧くなったオモチャはいらない」
エレ「っ!!」
決定的な言葉を吐いた。
アイラ「出て行け!私の前から消えろ!!」
突きつけられた言葉。
心を砕くその言葉に、エレは何も言えずに、逃げるようにその場から駆け出した。
536
:
蒼ウサギ
:2011/06/05(日) 22:38:52 HOST:i114-189-93-96.s10.a033.ap.plala.or.jp
これから因縁というべき相手の要塞を攻略しようとしている最中、この整備長であるレイリー・ウォンは頭を抱えていた。
原因は、先の戦闘で得られたブレードゼファーの戦闘記録である。
レイリー(元々、強襲型のコンセプトは悠騎の設計コンセプトを私なりにアレンジしたもの。……けど、今現在の段階では通常のエネルギー出力ではあのような
真っ直ぐな刀身を保つことはできない)
そもそも先の戦闘で得た記録データが通常の機体スペック値よりもデタラメに高いものを示していたのだからおそらく“ハ―メルシステム”などという
自分にはおおよそ不可解なものが発動したのに違いないだろうとは容易に推測できた。
しかし、ただ出力が向上したのであれば、あのような形にはならない。むしろ、もっと不安定な刀身となり、下手をすれば膨れ上がった出力エネルギーで爆発しても
おかしくはなかった。
現状のシューティングスター・ブレードは、サポートありの出力制御でようやく不安定ながらも“よくしなる剣”というような感じで刀身を保っている。
悠騎の当初のコンセプトとは些か違った形になったが、それだけでも今ではかなりの戦力となっている。
しかし、先の戦闘で見せたあのクリスタルレッドに輝いたSSブレードは、紛れもなく悠騎の理想通りの形であるのだろう。
レイリー(“ハ―メルシステム”は、単に機体性能を向上させているわけではないってこと?
ひょっとしたら、搭乗者の本当の願いなんかも叶うようなそんなシステム……)
まさかね、と思いつつも、どこかでその仮説を捨てきれずにいた。
§
=コスモ・フリューゲル=
珍しく自室の部屋で待機している悠騎は、少し己の身体に疑問を感じていた。
以前より反動が弱いことを。
悠騎(慣れって奴か……それとも)
あんまり小難しい理論を並び立てて考えることが苦手な悠騎は、少し自室が居心地が悪くなり、そそくさに出た。
休むこともパイロットのうちとも言われているが、こうも落ち着かないことには休めない。
一先ずは空腹を満たすことに食堂へと向かった。
そこで悠騎は思わぬ人物と遭遇することになる。
アイ「あ……」
悠騎「あ……」
それは今まさに目の前に湯気が漂うタヌキうどんを前に割り箸を割ろうとした瞬間の四之宮アイの無防備な姿であった。
しかも、他に客は見られない。
悠騎「あー、んと、邪魔していいか?」
アイ「構いませんよ」
表情や言葉の起伏からは特に気分を損ねた様子もなくアイは割り箸をパチリと割る。
相手が由佳ならばまだ分かりやすいのにな、と思いつつも悠騎は、自分のメニューを選ぶ。
アイ「作戦前なので軽食がお勧めですよ。特にパイロットは」
悠騎「……それくれぇ分かってるよ」
危うくG・K食堂名物、銀河定食コスモ盛りのチケットボタンを押しそうになった指をひっこめて、泣く泣く隣のタラコスパゲティを注文した。
待つこと数分。見かけはごつ普通のものでも、味は三つ星級レストランにも劣らないと言われているタラコスパゲティが出された。
悠騎「っと、隣、失礼するぜ」
アイ「どうぞ」
簡単なやり取り。
それぞれの食事を堪能することしばし、悠騎は素朴な疑問から切り出した。
悠騎「……なんで、フリューゲルの方にいるわけ?」
アイ「由佳さんと今作戦の打ち合わせです。まぁ、最終段階に至るまではもう少し掛かりますが……」
悠騎「通信でやり取りしないわけ?」
アイ「できるなら顔を合わせて作戦会議する方がいいって、艦長が。まぁ、一理ありますけどね」
通信での作戦会議は確かに便利ではあるが、敵への漏洩という危険性がある。
指揮官はそれを見越して、信頼できる人物同士直接、顔を合わせて作戦を立案させるというのは一見、面倒に見えて実は確実なやり方なのだ。
537
:
蒼ウサギ
:2011/06/05(日) 22:40:41 HOST:i114-189-93-96.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「そっか。そこら辺はオレ達パイロットには分からないところだからなぁ。ま、この作戦が成功したら一先ずオレ達の第一目標はクリアだ」
アイ「そうですね……。元の世界に帰るっていう当初の目標……」
だが、G・K隊はそれで終われるような存在ではない。
世界は違えど、目の前の危機があれば放ってはおけない主義者の集まり。
離反者であるナシュトールもいる今、この世界もまた何とかして救わなければならない。
少なくとも、まだ現存する組織の企みを阻止するために。
悠騎「でもな、正直、オレは、コスモ・アーク隊……いや、G・K隊に関係ないリュウセイやキョウスケ少尉達だけは一先ず元の世界に帰って欲しいと思う」
アイ「え?」
悠騎「ここでの戦力低下は確かに痛いかもしれないが、お前らは元々、コスモ・フリューゲル隊の捜索で派遣された部隊なんだろ?
それで<アルテミス>に巻き込まれてしまった。だから、今回の作戦に成功して、もし並行世界を行き来できるようになったら……」
アイ「今更それを言っても、誰も聞かないと思いますよ」
悠騎の言葉を遮って、アイは言い切った。
アイ「なんだかんだ言って皆さん、もう勢いに乗せられちゃってますから。特に由佳さんと……悠騎さんに」
悠騎「……そんなんでいいのか?」
アイ「皆が良ければ、それで良いんじゃないですか? それに、私の居場所は常にG・K隊ですから……」
それを聞いて、悠騎のフォークが止まる。
まだ13の少女がこんなことを口走るのが意外に思えた。
悠騎(そういえば、オレ、アイのこと。何も知らないや……)
知っている事といえば、これまで星倉由佳のG・K艦隊指揮官証を最少年齢で首席取得したのを塗り替えたこと。
一人身だったところを父の古い知り合いである四之宮夫妻の養子にされたことだけだった。
悠騎(……なんでG・Kに入ったんだろう? オレの知る限りじゃ四之宮のおっさん達は悪い人じゃねぇけどなぁ)
家が不満とかそういうことではないらしい。
この小さな瞳の奥には自分とは違う意味での強い意志が秘められている気がした。
アイ「悠騎さん」
悠騎「あん?」
アイ「パスタ、固まりますよ」
すでにうどんを食べ終えたアイがさりげなくアドバイスをしたところで、悠騎は己のタラコスパゲティがまだ半分も減っていないことに気付いた。
538
:
蒼ウサギ
:2011/06/05(日) 22:41:13 HOST:i114-189-93-96.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=境界空間 機動要塞シャングリラ=
個人であてがわれた研究所で一人、ヴィナスは、うたた寝をしていた。
そんな彼を、自動ドアの開閉音が覚醒を促す。
ヴィナス「おや。私としたことが、ロックを掛け忘れたようですね……しかし、あなたから訪ねてくるとは珍しい。何か御用でも?」
いつもと変わらぬ不敵な笑みを零しつつ、ヴィナスは無遠慮に入って来た客人を迎え入れる。
まるで見る物を凍てつかせるような目つきに、アッシュブロンドのショートの精悍な女性であるミスティ。
かつての妖艶な笑みはあの“覚醒”以来、今では一切見られない。実質、マルス・コスモの守護者へと生まれ変わってしまったのだ。
ミスティ「用がなければこんな薬品……いえ、きな臭い場所にはこないわ」
ヴィナス「これはまた手厳しい。やはりどんなときにも部屋にいる際は、ロックをかけるべきだ」
肩をすくめるヴィナスに、ミスティの表情がさらに厳しいものとなる。
ミスティ「貴様……何を企んでいる?」
ヴィナス「今更ですね……。あなたもご存じのこと」
ミスティ「<アルテミス>の目的は知っている。だが、お前“個人”の目的は何だ?」
感づいたか、と、ヴィナスの口の端が軽く上がる。
だからとて、ヴィナスには微塵も焦燥感を見せない。
巨大な要塞とはいえ、所詮は閉鎖された空間だ。一人二人くらいは気付かれてもおかしくはない。
ヴィナス(だからまず、最大の懸念要素でもある旧友(ザオス)を殺し、都合のいい人形(クローン)と入れ替えた)
このシャングリラの中で実質の最高権力者であったザオスを欺きながらヴィナスの目的を達成することは至難。
そのためにティファ・アディールのクローン精製の際に、ヴィナスは密かにザオスのクローンも造っておいたのだ。
全ては己の目的のために。
ヴィナス「フフフ、知らない方が身のため。という言葉もありますよ、ミスティさん」
ミスティ「……なら、はっきりさせておく。私は、お前達<アルテミス>がどうなろうと関係ない。
だが、マルス様に危害を及ぼすようなら、その時は遠慮しないことを覚えておけ」
ヴィナス「いいでしょう……。約束しますよ。……氷の女神」
ミスティ「!」
氷の女神。
それは、ミスティの機体であるスクルドのもう一つの名前である。
ミスティ自身しか知らない名をヴィナスが知っていることに、些かの畏怖と恥辱を覚え、足早に部屋を退散行った。
ヴィナス(フッ、所詮、感づかれたとしても真意に迫ることはまずない。それに私の目的はほぼ達成しつつあるのだから)
ノート型の端末ディスプレイを見て、思わず笑みが零れる。
そこに映っているのは、先のG・K隊の戦闘のおり、ブレードゼファーのSSブレードがクリスタルレッドの大剣となった瞬間の映像だった。
539
:
藍三郎
:2011/06/09(木) 05:36:54 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
そして、決戦の日はやって来た。
南極には、G・K隊にバトル7を始めとする統合軍、そしてガビグラ、シビル、ゲペルニッチの三体のプロトデビルンが集まっていた。
時刻は夜8時……上空の赤いオーロラは更にその輝きを増し、嫌が応にも破滅が近付いていることを実感させる。
ゲペルニッチの前には、狭間へ突入する二隻の艦、コスモ・フリューゲル、コスモ・アークが並んでいた。
由佳「ゲペルニッチさんが次元の扉を開いたら、直ちにそこへ飛び込むことになります。
プロテクト・フィールドは、最大まで引き上げておいて下さい」
アネット「了解〜〜それにしても、豪華な見送りねぇ。みんな忙しいでしょうに」
コスモ級二隻を取り囲むようにフリーデンⅡやアークエンジェル、
エルシャンクにナデシコCと、こちら側に残る艦が配置されていた。多くの機体は既に出撃し、周囲に展開している。
神「いや、ただ見送りに来た、という訳ではないようだぞ」
アネット「え……?」
ゲペルニッチ「ではこれより、次元の扉を開く。ガビル、支援せよ」
ガビル『はい、ゲペルニッチ様』
ゲペルニッチ「人間達よ、私が次元の扉を開けたら、シビルと共に直ちに突入するのだ。後は、シビルがお前達を導くだろう」
シビル「コォォォォォォ――!!」
コスモ・フリューゲルとコスモ・アークの間に立つシビルが、任せろと声を上げる。
トウヤ「分かりました」
由佳「は、はい、了解です」
プロトデビルンと共同作業をしていることに戸惑いつつも、二人の艦長は答える。
ゲペルニッチ「では、始めるぞ」
緊張した面持ちで、ゲペルニッチが諸手を掲げる。彼をしても、境界空間の特定の場所にゲートを繋ぐのは、相当の集中力を要するのだろう。
ムスカ「さぁて、いよいよか」
到着した直後、即座に戦闘に入る可能性が高い。パイロット達は、それぞれの機体の中で待機していた。
ゼド「……これは、成功するまで胸に仕舞っておこうかと思ったのですが……」
ムスカ「ん、何だよ」
ゼド「ゲペルニッチは、ハイリビードの位置を朧げに感知し、その付近に我々を転送するとのこと。
つまり、彼はシャングリラの構造を眼で見て、座標を固定しているわけではありません。ですから、もし壁の中に転送されてしまったら……」
ムスカ「……その時点でアウトってことか。ちっ、聞かなきゃ良かったぜ」
セレナ「もー、ネガティブなことばかり考えないの。運が良ければハイリビードの真正面に出られるかもしれないじゃない」
ゼド「私の経験上、前持って楽観的な予想を口にすると、ほぼ確実にそれは外れるのですが……」
ムスカ「ま、どの道楽に行けるとは思っていねーよ。何が待ち受けていようが、最終的に勝ちゃそれでいい。俺達は、ずっとそうして来たんだ」
セレナ「そうね。でも、忘れないで。私達の勝ちってのは、この場の誰一人欠けることなく帰って来ることなんだからね」
ゲペルニッチ「……ここだな」
やがて正面の空間が渦を巻くように歪み始める。これまで何度も目撃した、空間跳躍の前触れだ。
最も歪みの大きな中心が裂け、穴が形成される。
その先は、火口を真上から覗いたような、赤一色の空間(せかい)が広がっていた。
到底、人が生きられる環境とは思えない。
穴が十分に拡がった段階で、あの中へと突入する。突入を控えた多くの者が、生唾を飲み込む。
だが……
540
:
藍三郎
:2011/06/09(木) 05:40:47 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
「――――――――!!」
空を裂くような金切り声が、穴の奥から響いて来た。直後、開き切っていない穴から、黒い影の群れが、さながら濁流の如く溢れ出て来る。
L.O.S.T.の尖兵である、魔鬼羅の大群だった。
しかし……
更に上空から放たれた光の渦が、魔鬼羅の群れを焼き払う。ウイングガンダムゼロのツインバスターライフルだ。
マックス「やはり、こうなったか……!」
マックス達にとって、この事態は想定の範囲内だった。この世界への浸出を目指すL.O.S.T.が、次元の境界に亀裂の生じる、この機会を逃すはずはない。
マックス「G・K隊を除く総員は、直ちにL.O.S.T.軍を掃討せよ! 穴が拡がりきるまでに、彼らの進路を確保するのだ!」
マックスの号令一下、統合軍は一斉攻撃を開始する。
この戦力は、見送りのためなどではなく、穴から這い出るL.O.S.T.を駆逐するために配備されたのだ。
ロミナ「フォトン砲、発射!」
マリュー「ローエングリン、てぇーっ!!」
出現位置が予め分かっていれば、そこに大火力を叩き込み、一気に殲滅できる。
艦砲射撃が次々に炸裂し、密集していた魔鬼羅の群れを一気に消し炭に変える。
だが、今回はあまりに数が多過ぎた。前方ではなく、上下左右に散開した群れは、集中砲火を免れる。
黒い群体は、爪牙となってコスモ級二隻へと迫る。
ルリ「グラビティブラスト、発射してください」
ナデシコCの放つ重力の渦を浴び、左側の魔鬼羅の群れが圧潰する。彼らの動きは先読みされていた。
射線から漏れた敵群へは、既に展開していた機動兵器部隊が対処する。
エイジ「彼らの邪魔はさせない……!」
元一朗「我らの世界の存亡、お前達に託す!」
ジョウ「だから、絶対に生きて帰って来いよ!」
ロラン「皆さんの勝利を信じています!」
この世界に住む者、同じくこの世界へと転送られて来た者……皆がG・K隊の勝利を信じ、彼らの道を切り開かんとする。
仲間達の奮戦もあり、魔鬼羅の群れは駆逐されていった。
ゲペルニッチ「後僅かで、扉は十分に開き切る。私が次に声を発したら、即座に突入せよ。その瞬間を逃せば、次は無い」
由佳「分かりました!」
チャンスは一瞬……
だが、その時までに敵を完全に排除出来なければ、無防備なところを狙い撃たれることになる。
541
:
藍三郎
:2011/06/09(木) 05:41:52 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ガロード「チャージ完了! ツインサテライトキャノン、行けぇーっ!!」
ダブルエックスから放たれた光が、残る魔鬼羅の大半を消滅させる。
リョーコ「おっしゃ! この分なら……!」
だが、次元の扉の正面の六ヶ所で、同時に空間転移が発生する。中から出て来たのは、六体の怒愚魔だった。
巨大な眼球にエネルギーを収束させ、コスモ級二隻に向けて放つつもりだ。
デュオ「やらせねぇぜ!」
デスサイズヘルのビームサイズが、怒愚魔を両断する。
アルトロンのドラゴンハングが眼球をかみ砕き、サンドロックのヒートショーテルが十字に切り裂く。
ヘビーアームズが至近距離から放ったミサイルとガトリングの雨が、蜂の巣にし、ウイングゼロのバスターライフルが、眼魔砲発射寸前の怒愚魔を貫通する。
しかし、敵はまだ一体残っている。
眼球に赤い光が集束し、コスモ・フリューゲルへと狙いを定める。
それと同時に、ウイングガンダムゼロがもう一方のバスターライフルを、残る怒愚魔へと向けた。
だが、それより先に……
緑色の光の刃が、怒愚魔の肉体を通過する。両断された眼球は、攻撃を行うことなく崩れ落ちる。
それを見てヒイロは、バスターライフルの引き金を引くのを止める。しかし、突如現れた機体に対し、彼は警戒を払い続けていた。
六体目の怒愚魔を葬ったのは、翼を持つ赤紫色のガンダムだった。
デュオ「あいつは……!」
カトル「ガンダムエピオン! なら、パイロットは……」
トロワ「ゼクス・マーキスか」
ガンダムパイロット達の反応と異なり、パイロットが名乗ったのは別の名だった。
ミリアルド「宇宙統合軍並びにG・K隊の諸君、私はミリアルド・ピースクラフト。
これよりL.O.S.T.の掃討に参戦させて頂く」
かつてゼクス・マーキスを名乗っていた男は、仮面を外し、エピオンのコクピットに座っていた。
リリーナ「お兄様!」
フリーデンⅡのブリッジで、懐かしい兄の名と声を聞いたリリーナは、声を上げる。
カトル「ミリアルド、それが貴方の本当の名でしたか」
デュオ「今更どういう風の吹き回しだ?」
ミリアルド「さしたる意味は無い。OZはネオバディムに利用され、ゼクス・マーキスの名も地に落ちた。
ならば私に出来ることは、ただ一人の、ミリアルド・ピースクラフトとしてこの世界のために戦う。それだけだ」
エキセドル「ふむ、近頃、各地に出現したL.O.S.T.を、あのガンダムと思しき機体が破壊して回っていると聞きましたが……」
マックス「今は一人でも多くの協力者が欲しい。君の参戦を受け入れよう」
ミリアルド「感謝する」
ヒートロッドが、近くにいた魔鬼羅三体を纏めて切断する、
己の意志はその働きで証明するとばかりに、ガンダムエピオンは残る魔鬼羅の掃討を開始した。
542
:
藍三郎
:2011/06/09(木) 05:43:35 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
やがて、空間の穴は、戦艦二隻が入り切るまで大きくなる。
ゲペルニッチ「今だ、行け!」
由佳「はい!コスモ・フリューゲル、全速前進!」
トウヤ「コスモ・アーク、突入せよ!」
シビル「コォォォォォォォォォ――――!!!」
先導するシビルの後を追い、コスモ級二隻は次元の穴へと飛び込む。
二隻が赤い境界へと姿を消した瞬間、ゲペルニッチは穴を閉じた。
マックス「行ってしまったか……頼んだぞ、ギャラクシア・キーパーズ……」
こちら側で彼らのためにしてやれることはもうない。
後は、彼らが無事生還することを祈るだけだ。
サリー「艦長、次元の扉が閉じる直前、機動兵器が一機、穴へと飛び込んで行くのを、バトル7のカメラがキャッチしました」
マックス「何?」
サリー「今、映像を再生します……これは!」
モニターに映った機体を見て、ブリッジの一同は驚きの声を上げた。
境界の内側は、血のように赤く染まっていた。辺り一面に見られる空間の歪みが、蠕動する生物の体内に見える。
ここは<境界>。数多の並行世界の狭間に存在する、どこでもない世界――
シビルの進んだ後に出来た光の道を、コスモ級二隻は着いていく。
常に空間を歪ませる揺らぎも、光の道だけは侵せずにいる。
道標も何も無く、空間自体が刻一刻と変動する世界……彼女の先導が無ければ、とうに次元の迷子になっていたことだろう。
エナ「………………」
ヒュッケバイン・ナイトメアのコクピットの中で、エナ・シンクソートは思い出していた。
自分があの世界を訪れる前にも、この境界を通過した。
外の景色は見えなくとも、境界独特の雰囲気は覚えている。
その時に自分は、L.O.S.T.に遭遇し、共にいたネオ・ジオン軍は壊滅させられた。思わず体に身震いが走る。
“あれ”は、今もこの境界にいるのだろうか。そして、あの人も……
光の道を進む内に、その正面に、来た時と同じ空間の穴が見えて来る。あの先が、アルテミスの拠点、シャングリラに繋がっているのだろう。
ただし、要塞内の何処へ到着するかは分からない。
固唾を飲んで待つ暇もなく、フリューゲルとアークは出口へと突入した。
543
:
蒼ウサギ
:2011/06/14(火) 22:36:45 HOST:i114-189-91-126.s10.a033.ap.plala.or.jp
=境界空間 機動要塞シャングリラ=
ヴィナス「……ほぅ、ここを嗅ぎつけましたか。上手い具合にプロトデビルンを味方につけたようですね」
要塞の管制でも、ましてや肉眼でも確認したわけでもない。
ヴィナスは、確かに“感じた”のだ、G・K隊という存在がこの空間に入って来たということを。
思わず零れる笑みは、度重なる研究の成果が成功したものによるものだろうか、ともかくヴィナスは司令室であるザオスの元へと向かおうと、
自室を後にしようとしたところだった。
マルス「やぁ、ヴィナス。奇遇だね……君もザオスのところ?」
マルス・コスモとその傍らにいるミスティと遭遇した。
とても子供とは思えないほどに背筋を凍らされるような冷徹を帯びた口調だったが、それも一瞬。
ヴィナス「えぇ、何やら胸騒ぎが致しますので。しかし、珍しいですね。……さすがに楽園室は飽きられましたか?」
マルス「いや、マザーグースがいっぱい、おもちゃ持ってきてくれるから飽きないよ。……ただ、今回は特別なおもちゃ達が来そうなんだ!」
ヴィナス「何かを感じ取られたようですね?」
そう、自分のように、とヴィナスは内心でその部分だけは収めておいた。
ミスティ「……ヴィナス、これは一大事なことよ。もし、厄介な勢力がこの空間に侵入したとあらば……」
ヴィナス「えぇ、ですが、我々はすでに強大な戦力を保有しているまでに成長しています。“マテリアル”達のお陰でね。
まぁ、ここはザオス様の指示を仰ぐことにしましょう」
クスッと、白々しくと笑ってそのままザオスがいる司令室へと向かう。
ヴィナス(まぁ、そこにいるのはクローンのザオスですがね……)
つまり実質上、ヴィナスの傀儡。
それは、<アルテミス>の実権そのものがヴィナスに握られているものと同義であった。
§
=コスモ・アーク=
アイ「艦長は、やっぱりその席の方が合ってるような気がします」
アイは、艦長席のサブモニターに映るトウヤを見て、少し笑ったように告げた。
今作戦も、トウヤはナックルゼファーで出撃することになったのだ。
トウヤ『ごめんね。毎回の事ながら君に心労を掛けるような真似ばかりして』
アイ「もう慣れました。それに……」
アイは、少し躊躇ったかのように一拍置きつつ、言葉を続けた。
アイ「そこが今の艦長には、必要な居場所でしょうから」
トウヤ『……ありがとう。もう、アークの艦長席はアイ君に譲ってもいいかもね』
アイ「そんな冗談はやめてください。……それに私、元の世界に帰ったらやりたいこと、見つかったんです」
トウヤ『え? なんだい?』
アイ「パイロット搭乗資格を取得しようかと思うんです。……少しでも艦長に近づくためにも」
一瞬、目を丸くしたトウヤだったが、すぐにまたいつもの柔らかい目に戻った。
心のどこかで彼女がいずれ、こんな発言をするのではないかと予想していたのだろう。
トウヤ『僕が教官になった場合は、容赦しないからね』
互いに微笑み合い、それで交信は終了した。
544
:
蒼ウサギ
:2011/06/14(火) 22:37:31 HOST:i114-189-91-126.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コスモ・フリューゲル=
打って変わってコスモ・フリューゲルでは、滝本ミキと星倉悠騎が交信し合っていた。
ミキ『あの、先輩。本当にSSブレードのDエネルギー出力サポートは、大丈夫なんですか?』
悠騎「あぁ、レイリーにこれまでの戦闘データに基づいて得られたソフトウェアを大幅にアップデートしたお陰で
バックアップサポートが向上している。現状では、外部からのサポートがなくても、今でのような剣でいけるさ」
ミキ『そう、ですか……』
ミキの声色が少し落ちる。
自分の役目の一つが終わったことに一抹の寂しさを感じているのだ。
悠騎「あ、でも、その代わりといっちゃなんだけどよ……」
ミキ『は、はい……』
悠騎は、ここで咄嗟にプライベート回線に切り替える。
悠騎「由佳のこと、頼むな。アイツ、今までもそうだけど、この作戦でもかなり気を張り詰めて無茶しそうだからよ」
ミキ『え……あ、はい…そうですね……』
ミキとしては、話の内容よりも、急にプライベート回線に切り替えられたことにドキドキしっぱなしだった。
悠騎「ブリッジ内で頼めそうなのは、お前だけからな」
ミキ『……はい』
ようやく悠騎の話の内容が頭に追いついてきて、落ち着き始めた頃には安らかな気持ちで返事ができた。
ミキとしては、自分に振り向いてくれなくても、艦長であるまえに、一人の妹として見ている由佳の身を第一としている兄。
実は、そんな星倉悠騎が好きなのだ。
悠騎「んじゃ、よろしくな!」
返事を待たずして交信終了。
ロマンに浸らしてくれる間もないが、それが彼らしいといえばそうだろう。
ミキは、それなりに憧れと同時に異性としての恋愛対象でもある悠騎とのちょっとしたプライベート回線に満足していた。
=境界空間 機動要塞シャングリラ=
ザオス「それが事実ならば迎撃するのみだな」
事の説明は、全てヴィナスが行い、その対処策の全てヴィナスが提案した。
ザオスは、まるでそれらに人形のごとく受け入れていく。
この二人は“エオス”創設期からの古い付き合いだからこそのやり取りだが、ここまで来ると一部の者は違和感を覚えてしまう。
だが、<アルテミス>としては現状がそれを許さない。
マルス「珍しいねぇ、ザオス。君なら極力戦いを避けると思ったのに」
ヴィナス「さすがにこればかりは予測外だったのでしょう。ねぇ、ザオス様」
ザオス「その通りです、マルス様。なので、心苦しいですが、今回はマルス様にもご出撃願いますか?」
それにいち早く反論したのはミスティだった。
ミスティ「恐れながら、彼ら……恐らくはG・K隊でしょうが、この空間にやってきたということは、あの戦力を大幅に削っているはずです
マルス様とそのウラノスがご出撃なさらずとも……」
マルス「いいんだよ、ミスティ」
凄く冷徹な声、かつ無邪気な笑顔でマルスはミスティを見上げる。
マルス「僕も久しぶりに遊びたいんだから……ね?」
幼い子供のように見えても、その能力はさすがは組織の長と言わざるを得ない迫力を醸し出していた。
もう彼女は反論する余地はない。
ミスティ「ならば、全身全霊をもってして貴方を守護したします」
マルスよりもずっと低くミスティはその場で恭しく頭を垂れた。
545
:
はばたき
:2011/06/16(木) 22:18:01 HOST:zaq3d2e4693.zaq.ne.jp
G・K隊のシャングリラへの強襲。
要塞内を駆け巡るその報に、<アルテミス>の構成員、とりわけ幹部格のメンバーはいち早く対応を求められた。
無論、この男も・・・。
ルドルフ「クソ、あのボケ老人め・・・。何がこの境界にいる限り誰も手出しは出来ない、だ」
ヴィナス「おや、いつに無く荒れていますね」
肩に怒りを載せながら歩くルドルフの前に、余裕の笑みを浮かべたヴィナスが姿を見せる。
ルドルフ「ヴィナスか。聊か不甲斐無いこの城の守りに、さすがの俺も腹も立とうというもの」
憤りを押さえ込むように、努めて尊大を装った声音で返す。
だが、ヴィナスはそんな彼の内情を見透かしたように涼やかだ。
ヴィナス「予想外の事態が重なりましてね。今回ばかりは貴方にも私情以外で動いてもらわねばなりません」
あえて挑発的な物言いを選ぶヴィナス。
その言い様に、腹の中の熱が更に温度を増したが、それに乗るのを理性が押し留める。
この男は得体が知れない。
あのザオスですら既にこの男の掌に落ちている。
恐らくミスティもマルスも出し抜かれているだろう。
マザーグースやヴァルカンはどう思っているか知らないが、少なくとも<アルテミス>内部で真に注意すべき相手が目の前の男である事は、随分前から解っていた。
・・・解っていたのだ。
あの仮初の最高司令官の姿を見せられた時から。
ルドルフ「ふん、マルス様が出られるのだろう?ならば急ぐ事もあるまい」
心中の焦りを見せないように気を配りながら、態度の上では上位を譲らない構えで挑む。
だが・・・
ヴィナス「それがそうも行かないのですよ」
ふっ、と肩をすくめてモニターを点ける。
画面の向こうに映るのは、早速要塞内を破壊し始めた侵入者。
いや・・・
ルドルフ「っ!!?」
見覚えのあるグレーと藍色に塗られた機体を見据えてルドルフの目が見開かれる。
ヴィナス「サンプルNo1047。驚きましたね。よもやこの場所まで突入してくるとは」
帰巣本能でしょうか、と言葉とは裏腹に、全く焦った様子もなくヴィナスは哂う。
ヴィナス「兎も角、貴方の大切なオモチャです。私達が勝手にどうこうするのは問題でしょう」
それだけ言って、ヴィナスは優雅な足取りで去っていく。
後に残されたルドルフは暫し拳をわななかせた後、
ルドルフ「クソっ!!」
思いっきり壁を殴りつけた。
全く忌々しい事ばかりだ。
<アルテミス>に下り、自分は決して叶わないと諦めていた悲願を果たせると思った。
その為にあらゆるものを利用し、切捨て、裏切り、蹴落としてきたつもりだった。
だが、現実はどうだろう。
何もかもが裏目に出る。
用意した駒は”二度も上手く育たなかった”。
手駒を求めれば、それは直に裏切り使い物にならない。
功績を立てたかと思えば、次の瞬間にはもっと大きな陰謀に呑み込まれる。
そして、保険を掛けておけば、それは此方の思惑を外れて動き回り、挙句自分に不利な状況を作り出す。
かつて彼は言った。
ある人物に”同病相哀れむ”と。
その人物が辿ったのは惨めな敗北だった。
突きつけられたのは自分の弱さという結果。
それがそのまま自分に重なるようで、ルドルフは激しく憤った。
ルドルフ「冗談ではない!俺は勝つぞ・・・。どんな手段を使ったとしても、必ず俺の望む未来を引き寄せてみせる!」
546
:
藍三郎
:2011/06/26(日) 20:35:27 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
時はやや遡る……
シャングリラの一角で、空間の歪みが生じ、その中から二隻の戦艦が這い出て来る。
コスモ・フリューゲルとコスモ・アークは、広大な通廊へと姿を現していた。転移直後、衝撃が艦を駆け巡るが、それもすぐに収まる。
由佳「……っ!」
転移に成功した……それを認識した後、由佳は戸惑う暇もなく、声を張り上げる。
由佳「皆さん、直ちに艦の状況をチェックして下さい!」
慣れない空間転移に呆けている暇などは無い。
程無くして、艦にさしたる異常はないことが判明する。
神「とりあえず、壁の中に減り込むのは避けられたようだが……」
アネット「え、壁って何のこと?」
実は到着する前から命の危機に見舞われていたことなど、彼女は露知らない。
神「分からないなら分からないままでいい。それより、ここは本当に目的地なのか? 我々はシャングリラの外観しか見ていないのだぞ」
由佳「待って下さい、クローソーさんに確かめてみます……」
彼女は現状、シャングリラの内部構造を知るただ一人の人物だ。
クローソー『心配はいらん。ここはシャングリラで間違いない』
確認を取る前に、クローソーから連絡が入った。
クローソー『それより、早くハッチを開けろ。来るぞ……!』
手短に告げた直後、通廊内部で赤いランプが点灯し、アラートが鳴り響く。
ここが真にアルテミスの拠点だとすれば、すぐに敵が押し寄せて来るだろう。
由佳「機動兵器部隊は直ちに発進、敵を迎撃してください! 本艦は、このままシャングリラの中枢、<楽園室>へ向かいます!」
要塞内部の大まかな見取り図は、クローソーから聞き出している。しかし、彼女は楽園室周辺の構造までは知らない。
中枢に近付くことを許されているのは幹部のみ。中枢に向かおうにも、そこまでの道程は分からない。
ロム「感じるぞ! 剣狼と流星が共鳴している! ハイリビードは、この先にある!!」
いつの間にかロムは生身のままでフリューゲルのバリアの上に立っていた。剣狼と流星を前に突き出し、進むべき道を指し示す。
ロム「ケンリュウゥゥゥゥゥッ!!」
ケンリュウに合身し、先陣を切って進むロム。
かつて迷宮と化したギャンドラー要塞でも、剣狼の導きによって正しい道を進むことが出来た。アルテミスがハイリビードを手にしているなら、同じことが出来るはずだ。
由佳「皆さん、ケンリュウに続いて下さい! ハイリビードはそこにあります!」
アネット「由佳さん! 前方、および後方より、熱源反応多数接近!」
通路のフリューゲルとアークを挟み打ちにするように、アルテミスの量産機が迫る。
フレギアス、アクタイオン、プラクテシア、エルギノス、アキレウスといった機体群は、全て自律回路で制御されていた。
クローソー「退け、貴様らなどに用はない」
ザキュパス・リジェネレートのスパークテンタクルがアクタイオンへと絡み付き、高圧電流を流し込む。
同時に背後から迫っていたフレギアスを、電流を帯びたディザスターセイバーで串刺しにする。花びらのように、大気へと電流が吹き散る。
クローソー「見ているのだろう、マザーグース。ついに人形ではない、貴様の懐まで辿り着いたぞ。今日こそ決着をつけてやる!」
ケンリュウも、剣狼と流星の二刀を巧みに振るい、敵機体を切り裂く。後続の機体も次々に戦線に加わり、無人機を撃破していく。
タツヤ「おおらぁぁっ!! 吼えろ! 俺のドリル!!」
R−DRILLのドリルパンチがプラクテシアを貫通する。
パルシェ「張り切るのはいいですが、くれぐれも要塞を壊し過ぎないようにしてくださいよ」
ムスカ「こいつは俺たちの帰りの船にもなるんだ。ついうっかりじゃ、笑い話にもならねーぞ」
突入時の空間の穴は、既に無くなっている。向こう側に帰還するには、このシャングリラを使うしかない。
いつも以上に細心の注意を払って戦う必要があった。
ロム「進め! 決戦の地は、この先だ!」
547
:
藍三郎
:2011/06/26(日) 20:36:43 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
シャングリラ内部にフリューゲルとアークが転移してきたとの報を聞き、マザーグースはぬいぐるみの顔面を歪ませる。
マザーグース「ホワイ? ホワァイ!? ワケが分からないヨ、一体奴ら、どうやってここに!?」
自律回路で動く迎撃部隊を、次々に蹴散らすG・K隊をモニター越しに眺めるマザーグースは信じられないといった顔つきだ。
一方、彼とは対照的に、ヴァルカンは口許に笑みを浮かべている。
アイツら、やってくれたぜ――!
マザーグース「奴らに境界に干渉するような技術はナイ。道標もないのに、この要塞の位置(ポジシヨン)を特定出来るはずがないんダ!」
ヴァルカン「どれだけありえないことだろうが、目の前で起こったならそれが真実……
俺達は、そのことを身を持って体験したはずだぜ」
ヴァルカンが何を指しているのか、マザーグースはすぐに分かった。
かつては同志だった二人にとって、決して忘れられない過去。
この世には、一切の常識や想像の及ばぬ、完全なる<未知>が存在するのだ。
彼らはそれを、過去の戦いで嫌と言うほど思い知らされた。
マザーグース「ヤツらもまた、<未知なる存在>だト……?」
バルカン「そこまでは言ってねぇよ。だがな……」
あるいは、あれに対抗しうる<剣>か――
ヴァルカンは、その先の言葉を飲み込んだ。まだ早い。彼らに資格があるかどうかは、これからの戦いで決まる。
ヴァルカン「……ま、何でもいいさ。それよか、奴らの狙いは、あんたがご執心のハイリビードだ。
盗っ人が忍び込んだなら、叩き潰すだけのこと。違うか?」
マザーグース「……アア、奴らにアレは渡さないヨ。ある意味チョウドいい。
奴らの持つ<鍵>を奪って、一気にハイリビイドをミイ達のモノにしてヤル!」
マザーグースの視線は、ケンリュウの持つ剣狼と流星に向けられていた。
続けて、ザキュパス・リジェネレートへと目をやる。
マザーグース「ガラクタめ……手引きしているのはヤツか」
ヴァルカン「だとすると、これはお前の不始末でもあるな」
マザーグース「……アア、ミイも遊びが過ぎたことは認めるヨ。
責任と言ってはナンだが、この戦い……ミイ自身が出るとしヨウ。
ジェロームも、どこぞへ雲隠れしてしまったようだしネ」
最凶四天王の一人、奇術師ジェローム・フォルネーゼは、しばらく前から要塞内より姿を晦ましていた。
マザーグース「つい最近調整の終わった決戦用ギガマシイン……よもや、奴ら相手に使うコトになるとはネ」
マザーグースは、手元のコンソールをマリオネットを使って操作し、要塞内のある区画の扉を開く。
マザーグース「間もなく奴らはミイの<遊戯室>に到着するダロウ。そこで決着をつけてあげるヨ」
ヴァルカン「好きにしやがれ。俺はただ、俺の望む戦いが出来ればそれでいい」
肉食獣の笑みを浮かべるヴァルカン。彼の発する闘気は、あたかも熱を帯びているようだった。
548
:
藍三郎
:2011/06/26(日) 20:38:25 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
壁を破壊し、突入した先は、これまでより遥かに広大な空間だった。
コスモ級二隻が入って尚、遠くまで見渡せる室内は、花柄の描かれた紫色の壁に六方を囲まれていた。
パルシェ「ここが、楽園室……?」
クローソー「いや、ここは……」
区画の広さより目を引くのは、辺りに立ち並ぶ人形の数々だった。
いずれも特機クラスの大きさで、絵本の世界から飛び出て来たようなユーモラスな外見をしている。
まるで、ゼントラーディの子供のぬいぐるみ置場のようだ。
ある一点で目が止まる。巨大なぬいぐるみの中には、彼らが見知った形状のものも在った。
クローソー「あれは全てギガマシーン……ならばここはヤツの……」
“Old Mother Goose,(マザーグースのおばさんは)”
“When she wanted to wander,(散歩がしたくなったときは)”
“Would ride through the air On a very fine gander.
(ご亭主の背中にまたがって 空中を飛び回るんだとさ)”
『ハハハハハハハハハハハハ!!!』
“Old Mother Goose”の童謡と共に、おどけたような、嘲るような笑い声が、頭上から降ってくる。
マザーグース『よウこそ! ミイの可愛い可愛い人形たちのワンダアランドへ!
歓迎してあげるヨ、ギャラクシア・キイパアズの諸君!』
正面の空間にスクリーンが浮かび、マザーグースの顔が映し出される。
それと同時に、居並ぶギガマシーンの目に光りが点る。
多くは初めて見る機体であるが、中にはG・K隊を苦しめた、キング・ハンプティやビッグシューズ・グランマもいる。
あれを全て相手にするとやると、かなり手こずることになりそうだ。
クローソー「マザーグース……貴様……」
仇敵を前に、唇を噛み締めるクローソー。怒りに呼応して、電流が迸る。
由佳「待って下さい!」
今にも飛び掛かろうとするクローソーを制止する由佳。
由佳「……お願いします、クローソーさん。最初に約束した通り、私に時間を下さい」
クローソー「……いいだろう。どうせ無駄だと思うがな」
由佳の切実な声音を聞き、クローソーは一旦剣を収める。
マザーグース『ほウ、まさかこの期に及んで話し合いをするつもりじゃあるまいネ?』
由佳「その、まさか、ですよ。私たちがここに来たのは、ハイリビードを取り返し、元の世界に戻る手段を手に入れるため。
それが出来るなら、貴方がたと和解することも考えています」
由佳の発言にも、他のメンバーが動じた様子は無い。最初からまずは話し合いをすると決めていたからだ。
マザーグース『和解?和解カ。うんうん、結構なコトだ。そうだネ。
誰もがいがみ憎しみ合うことを止めれば、争いのナイ理想の世界の出来上がる。パアフェクト・ピイスフル・ワアルドの完成サ!』
マザーグースのからかいを無視して、由佳は続ける。
由佳「貴方達も知っているはずです。
ハイリビードが無ければ、L.O.S.T.の侵蝕で、あの世界は滅んでしまうことを。
貴方達はハイリビードを使い、一体何をするつもりなんですか?
その目的は、本当に一つの世界を犠牲にするのに足るものなのですか?」
断片は明かされつつも、その核心は謎に包まれて来たアルテミスの目的。
もしその目的の内容によっては、手を取り合えるかもしれない。
世界の命運の掛かったこの作戦に失敗は許されない。
故にどんなに可能性が低かろうと、エッジやゼルの死の元凶となった憎い相手だろうと、私情を捨てて、あらゆる手段を試す必要があった。
549
:
藍三郎
:2011/06/26(日) 20:40:16 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
マザーグース『……アア、そうだネ。どうやったのかは知らないガ、ここまでやって来た御褒美を上げようカ』
マザーグースは覆面の下で一息つくと、高らかに宣言した。
マザーグース『ミイ達の目的は、ハイリビードの力を使イ、ウラノスを完全復活させるコトさ』
悠騎「ウラノスの……完全復活だと?」
かつて南極での戦いで、G・K隊を敗北に追いやったウラノス。
あれだけの力を持ちながら、未だ完全ではないというのか。
マザーグース『ミイ達をあの世界に呼び寄せたように、
ウラノスが、異なる次元(デメンシヨン)の壁を突破する力がある事は知っているだろう?
だが、それは完全(パアフェクト)なものではナイ。
現在、ウラノスとシャングリラは、地球と似た環境の並行世界(パラレルワアルド)しか移動できナイんだヨ。
それにしたって、制限がアル』
ゼド(やはり……)
ウラノスの力で招聘された異世界の住人達が、皆『地球』の住人であることも、それに由来していたのだ。
マザーグース『本来ウラノスが持つ力は、あらゆる並行世界を行き来することが出来るようになるというものだ。
それがどれだけ素晴らしいコトか、言わずとも分かるダロウ?」
異なる世界に存在にする技術、文明、資源、特殊能力……それら全てを手中に収めることが出来れば、万能の神に等しい力を得られるだろう。
それぞれの世界の長所のみを取り入れた軍団は、必然的に、あらゆる世界において最強の力を持つことになるのだから。
ゼド「アルテミスの完全兵士計画……それもまた、ウラノスの完全復活により達成されるということですか」
マザーグース『イエース! 完全なるウラノスに、数多の並行世界の技術を取り入れた無双の軍団(レギオン)。
一つの世界を相手にしても、滅ぼしうる力だろうネ。
そしてその軍団を構成するのは、ミイの作り上げた人形(こども)達。
そこの失敗作とはモノの違う、完成された兵士達が、マルス様の旗の下に集い、戦ウ。
あらゆる並行世界の住人達が、畏れ、敬い、ひざまずく姿が目に浮かぶヨウだよ」
自分の思い描く未来を語るマザーグースは、覆面をしていても分かるほど恍惚していた。
キョウスケ「それだけの力を手に入れて、お前達は何をするつもりなんだ」
エクセレン「やっぱりここは、ベタに世界征服とか?」
エクセレンの冗談にマザーグースはくすくす笑いを漏らす。
マザーグース『征服(コンクエスト)か……アア、それも一つの手段になるだろうネ。
この銀河を、“正しい世界”に導くためには』
ロム「正しい世界……だと?」
マザーグース『ミイの夢、ミイの望み、ミイの悲願……
それは、歴史の過ちを正し、この宇宙をやり直すことサ』
550
:
藍三郎
:2011/06/26(日) 20:42:54 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
マザーグース『ユウ達のいるこの世界が、過去に幾度となく誕生(バアス)と消滅(ロスト)を繰り返していることは既に知っているダロウ?
ミイ達のいた世界は、ここより過去の世界からやって来たのサ。
黒歴史……あるいは、“失われた世紀(ロストセンチュリー)”の一つからネ……』
ゼーレやプロトデビルン達との関わりを通して、彼らは、世界は繰り返されているという真実を知るに至った。
また、ムーンレィスの冬の宮殿にて、ヴィナスは語った。
自分達は、既に滅んだ過去の世界から、ウラノスの力で転移してきたと。
マザーグース『ミイ達のいた世界は、一度滅ぼされている。あの忌ま忌ましい<未知なる存在>によって……!』
ヴィレッタ「未知なる存在……」
マザーグース『あれはミイ達の想像を超える怪物だった。ミイ達の所属するエオスに四人の戦士……
彼らが束になっても敵わず、ミイ達の世界は滅ぼされてしまった……
何より大事な、ミイの“宝物”までも……』
マザーグースの声色には、恐怖と憎悪……そして、底知れぬ悲しみが篭められていた。
マザーグース『ミイはこんな結果を認めない。だから間違いをやり直すンだ。
マルス様とウラノスが力を取り戻せば、またあの時代に戻り、今度こそヤツを斃せる。
その時こそ、失われた世紀などではない――正しい歴史が始まるンだ』
由佳「でも、だからって、そのために一つの世界を犠牲にするのは……」
マザーグース『世界? ハッ、あんなものは、ただの繰り返し、コピーの一つに過ぎないヨ。
過った歴史から生まれた世界に、どれ程の価値がある?
無いネ、少なくともミイにとっては、“あの子”がいない世界など、何の価値もありはしないのサ。
オリジナルの世界を救うために生贄(サクリファイス)に捧げるのも、やむを得ないというものダロウ?』
由佳「な……」
今も大勢の人間が暮らしている世界を、マザーグースは事もなげに、“コピー”に過ぎないと言ってのけた。
マザーグース『そンなことより、大局を見なヨ。
ウラノスが復活を果たせば、マルス様はその力で、あらゆる並行世界の争いを消し去り、永劫の平和をもたらされるダロウ。
真なる銀河の救世主として君臨されるのだヨ。
ユウ達の力も、ミイ達の軍団に取り入れられる。銀河の平和を守るG・K隊の本懐は、ミイ達の手によって遂げられる!
だから安心して、ミイのための素材(マテリアル)となるがいいサ!』
マザーグースの言葉に対する、由佳の返答は早かった。
由佳「確かに私たちの理想は、人々の命と平和を守ることです。
ですが、そのために、一つの世界を犠牲にする選択は……到底容認できません」
自分達は、あちらの世界の多くの人々の想いを託されてここにいる。妥協する気は一切ない。
話し合いによる解決が不可能なら、後は全力で戦うまでだ。
マザーグース『交渉決裂……というワケだネ』
その言葉と同時に……天井が割れ、巨大な影が落下してくる。
巨大な……そう、それは大型のギガマシーンと比べても、段違いの巨体を誇っていた。
もしや、<ウラノス>―― 皆の緊張感が、一層強まる。
しかし、噴煙から垣間見える姿は、ウラノスではなかった。
だぶだぶの紫色の服を着込み、上に湾曲した鼻に大きな目、ギザギザの歯が噛み合った口。
四本の大きな腕で、昆虫のように地を這っている。
それは、全長80メートル近い、道化師の人形だった。
その内部には、いつもの人形ではない……
マザーグース自身が乗り込み、無数の糸――インターフェース・ワイヤーを介して、この巨体を操作していた。
マザーグース「ミイの最新作にして最高傑作……この“ナアサリイ・ライム”で、遊んであげるヨ。
さぁ、愉快で痛快で豪快な人形喜劇(コメディア・デラルテ)の始まりだ!!」
551
:
蒼ウサギ
:2011/06/28(火) 23:50:01 HOST:i118-17-224-34.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「てめぇのオモチャと遊んでいる暇はねぇんだよ!」
ブレードゼファーのSSブレードが淡く光り、爆発的なDエネルギーの奔流がマザーグースのナアサリイ・ライムを強襲する。
しかし、それは見事に他のギガマシーン群によって阻まれた。
マザーグース「ユウのご自慢のその技(スキル)は、何度も見ているからネ。攻略(キャプチャア)は簡単だヨ♪」
悠騎「ちっ、この人形ジジイが……」
舌打ちをしながらも、その巧みな動きから察するに、あながち嘘はないと判断した悠騎は一度後退をした。
ムスカ「冷静に戦局を判断できるようになったな。あいつだけならまだしも、オレ達の知る限り<アルテミス>には、まだ戦力が残っているはずだ」
キョウスケ「つまり、こいつ一人に戦力を掛けているようでは、もたんということか」
マザーグース「マァ、そう慌てないデ、ミィの喜劇(コメディ)を楽しんでいってくれたまエ!」
再び“Old Mother Goose”の童謡がその喜劇のバックコーラスとばかりに鳴り響く。
まずは、ビッグシューズ・グランマのスタンプで機体は散開する。
続いて、キング・ハンプティの爆弾風船が飛行している機体へとしつこく襲いかかっていた。
ライ「ちぃ、このフィールドは奴の独壇場というわけか!」
ハイゾルランチャーやチャクラムシューターを放とうとも、その攻撃は一切本陣のナアサリイ・ライムには届かない。
何故ならキング・ハンプティの強力なバリアが瞬時に主を守るかのように立ちふさがるからだ。
リュウセイ「守りに入ってたらこっちの身がやばいぜ!」
タツヤ「だな! 一気に突破するか!」
意を決し、二人の機体が揃って攻め込む。
リュウセイ&タツヤ「T−LINKぅぅうう……!」
二人の呼吸が合い、キング・ハンプティに接敵するその瞬間、
リュウセイ「ナッコゥゥゥウ!!」
タツヤ「ドリルパァァァァァァンチ!!」
貫かれた一機のキング・ハンプティの爆発が連動し、周辺のギガマシーンも巻き込まれる。
そんな大炎上なバックの中、勢いを落とさずに二機は拳を繰り出しながら本命に近づいていた。
だが、そんな中でもマザーグースは笑みを忘れてはいなかった。
二人の知らない間に上空に待機させておいたクロスボウ・ロビンが動き出していた。
リュウセイ「なにっ!?」
タツヤ「やばっ!?」
二機のレーダーがそれに気づいた時にはすでに手遅れなはずだった。
仲間達がいなければ。
ゼンガー「往け、リュウセイ! タツヤ!」
アルティア「そう、今の私達相手に……」
断 て ぬ も の な し !
ダイゼンガー、そしてR−BREAKEの剣がそれぞれの奇襲を断ち、援護に回ってくれたのだ。
結果、見事に二つの鉄拳はこの日初めてナアサリイ・ライムに届くことになった。
だが、次の瞬間、激しい損傷を負ったのはR−1改と、R−DRILLの方だった。
ムスカ「おい、何があった!?」
ゼド「……隠し刃、というところですか。どうやら大きな反撃を受けたようですね」
元プロボクサーならではの並はずれた動体視力で確認できたようだ。
ムスカ「ただの木偶の坊ってわけじゃないってことか」
悠騎「やろぅ、これでまだ一人だけっていうんだからシャレにならねぇぜ……」
そんな愚痴を零したその時だった。
独特の殺気と怖気が悠騎の背筋を舐めて、すぐさま機体を翻した。
そして、繰り返される“Old Mother Goose”の中で響き渡る激しい剣音。
ヴィナス「ほぅ、よく反応できましたね」
悠騎「テメェのは、何か独特なんだよ! 特に最近はなぁ!」
アフロディテの剣を捌いて、ブレードゼファーは距離をとる。
悠騎「テメェまで来てくれるとは助かったぜ。ここで一気にケリつけてやる!」
ヴィナス「フフフフ、それは頼もしい言葉ですね」
精々、足掻きもがいて苦しんでください星倉悠騎。
そう、かつての私のように……。
無様に這い蹲る姿を見せてもらいましょう。
……我が野望の余興のために。
552
:
藍三郎
:2011/07/05(火) 22:05:10 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
クローソー「マザァァァァグゥゥゥゥゥスッ!」
怨敵を目指して、空を駆けるザキュパス・リジェネレート。流れる電気が、飛行機雲のような軌跡を描く。
雷を束ね、身の丈ほどの槍を生み出す。クロスボゥ・ロビンの放つ矢の弾幕を、一薙ぎで焼き払うと、そのまますれ違い様に、醜怪な顔面へと突き入れる。
爆発四散するクロスボゥ・ロビンを背後に、ナアサリイ・ライムへと肉薄する。
クローソー「随分とかかってしまったが……ようやく直接貴様と戦えるな!」
怨みの言葉は、これまで何度も積み重ねた。待ち望んだこの好機、全霊をぶつけるのみ。
そんなクローソーの気魄を、マザーグースはせせら笑う。
マザーグース「オヤァ? おかしいネ、至高の舞台(ステエジ)に、場違いな輩が紛れ込んでいるようだネ!
与えられた役割(ロオル)も満足に果たせず! 役が終わっても舞台に居座り続ける!
そんな、無様で浅ましい大根役者には、いい加減退場してもらおうカ!」
クローソー「ほざけ! 消えるのは貴様だ!!」
ザキュパス・リジェネレートは、両手と六本のスパーク・テンタクルから、ありったけの高圧電流を放つ。
ナアサリイ・ライムの巨体では、回避仕切れまい。
マザーグース「オオ、ノウ。愚かな失敗作、ユウはまだ、ユウが誰を相手にしているか、ワカっていないヨウだね」
その瞬間、ナアサリイ・ライムの周囲に、稲妻が迸り、網の目を描く。
クローソーが放ったものではない、ナアサリイ・ライム自身から溢れ出たものだ。
空を走る電流は、ナアサリイ・ライムをすっぽりと包む半球型のシールドを作り出し、クローソー渾身の雷を中和してしまう。
クローソー「電流の壁だと……くっ!」
ドームより伸びて来る稲妻から、何とか逃れるクローソー。
マザーグース「チッ、チッ、チッ。ユウの使うギガマシーンを創ったのは、誰だと思っているんダイ?
電撃(サンダア)を発生させるその機体のシステムも、元々はミイが創ったもの! 対策していない方がおかしいダロウ」
全周囲に向けて放たれる電撃に、攻撃の機を伺っていた者達も、たまらず回避する。
マザーグース「オフコオス……ユウの機体だけじゃないヨ?」
ナアサリイ・ライムの掌に空洞が開き、内蔵されたスクリューが高速回転する。咄嗟に射線をずらすクローソー。
直後に生じた螺旋の気流は、進路上の瓦礫を搦め捕り、空洞へと吸引、スクリューによって粉微塵に破砕する。
ナアサリイ・ライムの手の一つは、強力なバキュームと化していた。
クローソー「それは、アトロポスの……」
続けて、ナアサリイ・ライムの五指の付け根に火が付き、ミサイルのように射出される。
ナアサリイ・ライムの指先は、マザーグースの姿をした指人形のようになっていた。
一本一本がAI制御された指先は、生き物のように駆動し、敵機を狙い撃つ。
体当たりだけでなく、ぱっくり開かれた口から光弾を放ち、クローソーを包囲しようとする。
クローソー「ラキシスのファンタスティック・ビット……!」
ムスカ「まさか……」
マザーグース「こいつには、今までミイが創り上げたギガマシインの機能(スキル)や武装(ウエポン)をほぼ全て取り入れてイル。
ユウ達姉妹(シスタアズ)のマシンや、これまでに創ったギガマシインは全部(オォォル)、
このナアサリイ・ライムを創り出すための試作品でしか無かったのだヨ」
ナアサリイ・ライムの背中に、無数の穴が開く。
クロスボゥ・ロビンのものと同じ、百発を越える矢が一斉に射出され、遅れてキング・ハンプティの風船爆弾が発射される。
高速で動く矢と対照的な、ゆっくりと動く風船爆弾の波状攻撃は回避しづらく、被弾する者も出始めた。
さらには指人形ビットにバキューム……多彩な武装は、一切の接敵を許さない。
加えて、マザーグースの言うところの“試作品”である他のギガマシーンも、ナアサリイ・ライムを守っているのだ。
553
:
藍三郎
:2011/07/05(火) 22:06:26 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ヴィナス「あれがマザーグース老がずっと造っておられた決戦兵器ですか。
星倉悠騎、貴方はまた、仲間を失うことになるかもしれませんね」
ヴィナスのいつも通りの癇に障る物言いに、悠騎は今すぐに相手を両断してやりたい衝動に駆られる。
そんな己を制したのは、これまでの戦いで培った経験だった。
逸る心を一時抑えたことで、側面から迫る新たな敵手に対応することが出来た。
見覚えのあるオレンジ色の鎖が、ブレードゼファーのいた空間を薙ぐ。
悠騎「てめぇは……」
ヴィナス「ヴァルカン……」
ヴァルカン「ハハハハハ! よくかわした! 星倉悠騎!」
ヴァルカンの駆る赤褐色の魔神、ヘファイストスも遊戯室に姿を現していた。
背後には、彼に随伴するロストセイバー部隊が隊列を成している。
ヴィナス「ヴァルカン、邪魔をしないで欲しいものですね」
ヴァルカン「そう言うな。俺もこいつとは、火星での戦いが半端なままなんだ。
これが最後の決戦だってなら、心残りは全て消しておかねぇとなぁ!」
機体腕部から伸びる、メルティング・チェーンを振るうバルカン。
大気を歪ませる程の超高熱を宿した鎖を剣で受けるは愚の骨頂。悠騎は見切りと回避に徹する。
不規則に動く鎖だが、相手の意を読めば、かわしきるのは不可能ではない。
ヴァルカン「ほう、この程度は苦もなくかわすか。
最初に立ち会った時とはまるで別人……ヴィナスよ、お前も油断していると、足元を掬われるかもな!!」
ヴィナス「クス、心しておきましょう」
しかし、ヴァルカンが誉める程悠騎に余裕はない。
高熱の鎖を完璧にかわしきるのみならず、ヴィナスにも注意を払い続けねばならなかった。
今は一時剣を収めているようだが、再び彼が動き出せば、アルテミスの幹部二人を同時に相手にすることになる。
ヴァルカン「さぁて、小手調べはこの辺りでいいだろう。本当の闘争はこれからだ!」
悠騎「!!」
二条だけ伸ばしていたメルティング・チェーンを、今度は一気に八条に増やす。
宙で蠢く八つの熱鎖は、炎で出来た八俣大蛇(やまたのおろち)のようだった。
この状態からいかな大技を繰り出すのか……いっそ、リスクを覚悟であの鎖の中に飛び込み、SSブレードの一撃必殺を狙うべきか。
悠騎が決断を迫られたその時……
ヘファイストスの機体が、上下に分断された――
ように見えたのは、超高熱の陽炎が生み出した残像。ヘファイストスは、天井に近い場所まで上昇していた。
代わって悠騎の前に現れたのは、白刃を構え、全身を蛇の鱗で覆った機体、麟蛇皇だった。
灯馬「本当の闘争やて? ほんなら、後ろから斬り付けても文句はあらへんな?」
悠騎「灯馬!」
灯馬は、悠騎と交戦中のヘファイストスの背後から居合抜きを放った。
奇襲の居合抜きはかわされたものの、灯馬はすぐに体を百八十度捻らせ、ヘファイストスへと飛翔する。
灯馬「あのおっちゃんはボクが引き受けるで! 悠騎君は、エッジ君のカタキを取ったってや!」
蛇鬼丸『ハッハ――ッ! チンタラしてっと、あのハゲだけじゃなく、みんな俺様がブッ殺しちまうぜぇーっ!!』
554
:
蒼ウサギ
:2011/07/11(月) 01:37:02 HOST:i118-17-223-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
=コスモ・フリューゲル=
ミキ「現在、アルテミス幹部と思われる機体が二機増援! 星倉隊員、そして、灯馬くんが迎撃に当たっています!」
由佳「了解。そちらは任せます。それよりも今はあのギガマシーンよ。本艦は、あれに専念します」
普通の指揮官ならば、幹部相手に単機では不利と思うだろう。一度、敗戦した相手ならば尚更だ。
しかし、由佳は、凛とした決意でそう判断した。
アネット「信じてるんですね、悠騎さんのこと」
由佳「だって、私のお兄ちゃんは倒れてもただじゃ起きないって、だんだんわかってきましたから」
小さく笑ったのはそれだけで、すぐに指揮官の顔に戻った由佳は、すぐにコスモ・アークとの連絡を取る。
アイ『こちらコスモ・アーク』
メインモニターのワイプに現れたアイの顔を察して、由佳は現コスモ・アークの艦長がやはりアイだと知る。
由佳「四之宮艦長、とりあえずこの空間からの脱出方法はある?」
アイ『すでに解析中ですが、とりあえず現状は、目の前の目標を制圧ことが先決だと思われます』
予想通りの答えに、安心と同時に内心で焦燥を抱いていた。
これまでの戦いならば量よりも個々の質で勝っていたが、今度ばかりは質さえも拮抗している。
加えて<アルテミス>の幹部三人。由佳の知る限りでは、実質の実権者たるザオス、そして長たるマルス、その守護者ミスティ。
そして、裏切り者のルドルフ=F=ギーゼルシュタイン。
由佳(このまま長引けばこちらが不利になりそうね……)
逡巡は一瞬だけだ。それ以上は、戦局を左右しかねる事態を招いてしまう。
由佳「四之宮艦長!」
アイ「はい……!」
もはや、二人の間に言葉はいらなかった。モニター越しに意志疎通できたのが直感したのだ。
切り札を出し惜しみしている暇はない。
アイ「合体しましょう」
由佳「そうね」
§
二機の間には、静寂が訪れていた。
しかし、ひとたびきっかけがあれば激しい斬り合いが行われるであろう予感が渦巻いている。
ヴィナス「頼もしいお仲間に助けられましたね」
灯馬の麟蛇皇を一瞥して、口元を歪める。
悠騎「あぁ、オレの仲間達はみんな最高の奴らだぜ……」
ヴィナス「私が葬った彼も……ですか?」
悠騎「っ!」
挑発するヴィナスの物言いに悠騎は、あらゆる理性で衝動を抑え込んだ。
一拍置いたのは、さすがに怒りに息が乱れてしまったからだ。
悠騎「……エッジは、本当に最後までいい奴だったぜ。気づくのが遅くなるくらいにな」
ヴィナス「仲間とはそういうものです。今まで当たり前にいたかのような存在が、失って初めてわかるその尊さ
そして、それは仲間に限ったことではありません」
悠騎「やらせねぇよ」
SSブレードの出力が上がり、再びその刀身を伸ばし始める。
悠騎「もう、誰もやらせねぇからな! 今日こそ覚悟しろよ! ヴィナス!!」
ヴィナス「『誰もやらせない』……それがあなたが剣にかけた誓いですか?」
悠騎「はん、オレにそんなロマンチックなものは似合わないが、この際、何にでもかけてやるぜ! いくぜぇ!」
ブーストダッシュからの突撃気味の剣撃。悠騎お決まりの先手戦法は、やはりというかアフロディテの大剣に受け止められる。
だが、そのまま膠着状態で止まることはなかった。
先にブレードゼファーが捌いて、アフロディテの態勢を崩し、その空いた腹部に即座に蹴りをいれた。
ヴィナス(さすがに、アフロディテのパワーでは限界がありますか……!)
倒れずとも後方に吹き飛ばされたアフロディテだが、次に待っていたのはスター・オブ・クラージュだった。
赤い流れ星のようなエネルギーの塊には防御の術はなく、その余波から生まれ出てくる遅れてきた「矢」には、回避しようもない。
爆発。アフロディテは、黒煙に包まれた。
555
:
蒼ウサギ
:2011/07/11(月) 01:38:03 HOST:i118-17-223-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「……直撃コースだったが、どうだ?」
心の底では、これでヴィナスを倒せたとは思っていない。
機体と自分が少しばかりパワーアップしたからといって、あの男は倒れるはずないという確信がどこかあった。
だから、油断せずに構えられていた。
黒煙が晴れて、そこに“立っていた”のはアフロディテだった。
機体損傷は、そこそこ与えられたようだがそれでもまだ充分戦闘可能な様子である。
ヴィナス「やれやれ、盾とマザーグース老のオモチャがなければ、この程度のダメージではすみませんでした」
悠騎(盾はともかく、どうやってあのジジイのギガマシーンを……?)
アフロディテの足元には盾と三体のギガマシーンの残骸が沈んでいた。
ギガマシーンは事前に用意していたものなのか、それともあの場から遠隔操作で拝借したのかは不明だが、そこにあるのは事実である。
ヴィナス「ヴァルカンの言うとおりです。あなたは機体だけではなく、あなた自身も腕を上げています。むしろ、その機体の力を引き出しつつあるのでしょう。
しかし、これは困りましたね。こちらは盾を失っただけでなく、ダメージも受けてしまったのですから」
悠騎「それにしてちゃあ余裕かましてくれるな!」
ヴィナス「いえ、ただ単純に嬉しいのですよ……順調にあなたが、私に近づいてくれているので……ね」
瞬間、アフロディテが視界から消えたかと思うと、次の瞬間には眼前に姿を現した。
反射的にSSブレードで斬撃を受け止められたのは、悠騎が腕の上達と油断していなかったからだろう。
ヴィナス「アフロディテの切り札……<オーバーリミッター>を解除しました。アフロディテの残量エネルギーが尽き果てるまでお付き合い願いますよ!」
またアフロディテの姿が消えたかと思ったら、警告アラームが鳴る前にコクピット内に衝撃が走った。
思い切り背後から攻撃を受けたようだ。
悠騎「ちぃ! 機動性なら強襲用より上ってことかよ! だがな!」
瞬時に反転。アフロディテを視界に捉えたまま、悠騎はアクセルを踏む。
ブースターの火が一気に噴いて、超加速を与える。
悠騎「スピードなら!」
ピーキーに設計されたブレードゼファー強襲型は、小回りは利かないが、圧倒的加速力と突撃力を誇る。
そこだけは、他の追随を許さない。
ヴィナス「ぐっ! だが、受け止めましたよ……クスッ」
悠騎「ちぃ!」
嫌な予感が過る前に斜め上からの攻撃。反応が遅れてしまうも、強引に強襲型用の装備「バーサーカーメイル」の一部である爪でその斬撃を受け止める。
もはや、直感を越えた本能での行動に近い。
ヴィナス(フフフフ、先ほど言ったあなたが剣に誓ったもの……まずはそれを折らせてもらいますよ)
そして、問題はそこから。
それからあなたはどうするのか……全く持って見物です。
556
:
蒼ウサギ
:2011/07/11(月) 01:38:58 HOST:i118-17-223-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
G・K隊員のミキさえ初めて見る少し大仰な“鍵”は、ブリッジ一同を唖然とさせた。
由佳「皆さん、これからコスモ・フリューゲルとコスモ・アークは合体します。合体はオートですのでどうか落ち着いてください」
アネット「ええぇっ!? こっちとあっちの艦って、合体できるの!?」
ミキ「艦長、私、初めて知ったんですけど……」
オロオロする中でも由佳はあくまで冷静に告げた。
神「まぁ、君達。今は緊急事態だ。こういった議論は無事帰った時のティータイムの笑い話すればいいだろう」
少しの沈黙後、アネットとミキは頷き合って由佳に笑顔を見せた。
それだけで、由佳は満足だった。そして、神に軽く感謝の会釈をする。
由佳「ありがとう。では、いきます!」
艦長席のデスクが変形し、鍵穴が姿を見せると由佳はそこに鍵を差し込んだ。
そして、同じ頃。
アイ「では、艦長。これより、フリューゲルとアークは合体します」
トウヤ『分かった。僕はそれを援護するよ』
後衛で艦の護衛についていたナックルゼファーが行き掛けの駄賃とばかりにギガマシーンを3、4体破壊してコスモ・アークから離れていく。
アイ(ありがとうございます、艦長)
アイも、その想いを胸に鍵を差した。
直後、二隻の艦は、強力なDウォールで包まれた。
その場にいたギガマシーンが全て破壊されてしまうという正に誰も寄せ付けない超強力なものだ。
そして、コスモ・アークの甲板が二つに割れそこへ、コスモ・フリューゲルがジョイントされる。
次に、そのコスモ・フリューゲルを包むかのように、アークの割れた甲板がフリューゲルの横幅に合わせて固定される。
最後に互いのブリッジが中心に来るよう移動し、一つに統合され、開いた部分には、シャッターが閉まって完成。
由佳「ようやくお披露目ね」
アイ「まぁ、これでも未完成なんですが一応……」
情報指揮官としてのアイは後方、攻撃指揮官としての由佳は前方という艦長配置という以外は、
フリューゲルとアークのブリッジがそのまま移住されたようなイメージの広い空間。
神「ほぅ、これが二隻の艦が合体したブリッジの姿かね」
アネット「これはもう、一つの基地じゃない?」
ミキ「あ、あの由佳ちゃん……この艦の名称は何なのかな?」
恐る恐る尋ねるミキに、由佳は咳払いを一つ。
由佳「G・K決戦用強襲艦コスモ・ストライカーズ。私達の切り札です!」
557
:
藍三郎
:2011/07/22(金) 21:35:34 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「フリューゲルとアークが、合体しやがっただと?」
レミー「私たちのゴーショーグンも合体ロボットだけど、戦艦が合体するなんてのは前代未聞よね〜」
二隻の母艦が合体したことに、誰もが驚きを隠せずにいた。
マザーグース「ハハハハハ! 実にワァンダホオなギミックを取り入れているじゃアないカ!
是非ともミイのモノにしたくなったヨ!」
中でも、いたく興味を惹かれたのはマザーグースだった。興奮しながら、ナアサリイ・ライムへと指令(コマンド)を下す。
ギガマシーンやロストセイバーを操縦しているマリオネットやクリスシリーズは、平時は高性能AIによる自律行動を取っているが、
一度ナアサリイ・ライムからの指令電波を受ければ、マザーグースの意のままに動く操り人形と化す。
マザーグースは、自身の脳をナアサリイ・ライムのシステムへとダイレクトに接続している。、
これだけの巨体でありながら、殆どタイムラグ無しに操縦できるのはそのためだ。ナアサリイ・ライムは、マザーグースの体の延長と言っても過言ではなかった。
また、その機構を応用したのがマリオネット・システム。
これは、自身の脳波を電磁波に乗せて周辺へと拡散し、複数の機体を同時にコントロールするというものである。
脳波(いと)に操られた大半のギガマシーンおよびロストセイバーは、コスモ・ストライカーズへと狙いを定める。
それも、ただ雲霞の如く群がるのではない。マザーグースがこれまでに集めた、コスモ級戦艦のデータに基づき、艦の死角を撃つ最も効果的な布陣を組んでいる。
マザーグース「見世物としては上出来だヨ。バァット……残念ながら、ユウ達の判断は誤り(ミステイク)ダ。
一塊になった分、狙い易くなったのだからネェ!!」
マザーグースの“人形”達は、指示に従い、コスモ・ストライカーズに一斉攻撃を仕掛ける。
アイ「ええ、貴方の言う通りです。そうやって狙って貰うために、このタイミングで合体したのですから……」
次の瞬間……針鼠のように、戦艦から光の線が溢れ出る。コスモ・ストライカーズの対空砲火は、自身への攻撃を全て焼き払っていた。
マザーグース「なぬ!?」
続けて、周囲の機体が、タイミングを計ったように背後から敵機体へと襲い掛かる。
攻撃直後の隙を狙われ、多くのギガマシーンやロストセイバーは、あえなく撃墜されてしまう。
由佳「……貴方が、自分の頭脳に絶対の自信を持っている種類の人間であることはわかっていました。
そんな人物なら、私達のデータを収集し、そのデータに基づいた部隊・戦術を用意してくることは読めていました」
アイ「敵が完璧なデータに基づいて攻めて来ると分かっていれば……その対策を立てることは容易です……」
二隻の艦が合体したコスモ・ストライカーズは、G・K隊の保有する戦艦の中でも最大級の火力を誇るが、その真髄は、コスモ・アークの情報処理能力にある。
双方の長所を組み合わせることで、高い命中精度を維持したまま、大火力の艦砲射撃を可能とした。
しかし、最大の敗因はマザーグース自身にある。マザーグースは、優れた兵器を創り出す科学者であるが、戦士ではない。
故に、戦いにおいて最善を尽くすことが、逆に相手に手の内を読まれやすくなることまで思い至らなかったのだ。
そして……
ゼンガー「待っていたぞ!この時を!!」
斬艦刀を限界まで伸ばしたダイゼンガーが、ナアサリイ・ライムを両断せんと迫る。
目の前で派手な合体を見せ付けてやれば、この男は必ず狙いを集中させるだろうと読めた。
ストライカーズに戦力を傾けたということは、その分ナアサリイ・ライムの守りは手薄となる。
ゼンガー「おおおおおぉぉぉぉぉっ!!」
マザーグース「ハッ! 冗談じゃあないヨ!」
刃がナアサリイ・ライムを捉える寸前で、その巨体が、天高く跳躍した。
彼の造ったギガマシーン、ビッグシューズ・グランマの機能を使ったのだろう。
斬艦刀の刃は、ナアサリイ・ライムのいた空間を通り過ぎていく。
マザーグース「アハハハハハハハッ! 残念だったネェ! 大ハァズレ〜〜〜!」
ゼンガー「いや……“これでもいい”」
ゼンガーの謎の台詞にマザーグースは首を傾げる。だが、すぐにその意味に気付き、覆面の下の瞳孔を開く。
ゼンガー「チェェストォォォォォッ!!」
水平から上へと振り上げられた斬艦刀が、遊戯室の奥……<楽園室>へと続く、分厚い隔壁を叩き斬った。
558
:
藍三郎
:2011/07/22(金) 21:36:52 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
灯馬「夜天蛾流抜刀術、『琴雪』!」
本来の刀の間合い(リーチ)より、踏み込みにより倍以上に伸びる蛇鬼丸の一閃を、後方に下がって避けるヘファイストス。
しかし、完全には避け切れなかったのか、胸部装甲に亀裂が走る。
ヴァルカン「ほぉ……貴様も随分と腕を上げているようだな……面白い」
蛇鬼丸『ひゃひゃひゃ! 次は中のてめぇごと、真っ二つにしてやるぜぇ!』
ヴァルカン「だが……」
灯馬「!!」
次の瞬間、麟蛇皇の両肩と左足のふくらはぎが同時に爆ぜる。
ヴァルカンは灯馬の神速の居合を避けながら、メルティング・チェーンによる反撃を行っていたのだ。
蛇鬼丸『どあちちち!! てめぇ灯馬! きっちり避けやがれ!』
灯馬「まーまー……気にすんなや、蛇鬼丸」
蛇鬼丸『んだとぉ? てめぇがそうやってのらくらしてやがるから……』
抗議する蛇鬼丸の声を聞きながら……灯馬は、唇を吊り上げ、薄く笑う。
灯馬「命に届かんこないな傷、傷の内に入らへん。
殺し合いっちゅーのは、殺したモン勝ちや。最後の最後にぶった斬ってやれば、それでえーねん」
ヴァルカン「ほう……」
今の灯馬の声には、底冷えのする妖気が篭っていた。ともすれば、火花のように刺々しい殺意を散らす蛇鬼丸よりも、強い存在感を放っていた。
ヴァルカン「少し変わったか……? いや、それが本来の貴様なのか……」
灯馬「どうなんやろなぁ。ただ、最近わかって来たんや。ボクが蛇鬼丸を使って人を斬るんは、蛇鬼丸のためでも、操られとるわけでもない……全部、ボクの意志やて」
そんな台詞が自然に出て来る自分に違和感を覚えつつも、その気持ちはすぐに掻き消える。
自分を取り繕うことが、ひどく無意味なことに思えてくる。
ヴァルカン「今更だな。俺はとうの昔に気付いていたぞ。
戦っている時の貴様は……表面上の態度はどうあれ……実に生き生きとしていた」
まるで、自分自身と戦っているように……
強さや潜在能力だけではない。己と似通った魂を感じたからこそ、バルカンは灯馬に興味を持つようになったのだ。
麟蛇皇の中で、灯馬は苦笑しつつ、黒い髪を梳(す)く。
灯馬「ホンマ、ここだけの話なんやけどな。ボク、君ら<アルテミス>には感謝しとるんや」
ヴァルカン「何……?」
灯馬「元の世界に戻りたがっとる皆と違おて、ボクは別に未練とかないねん。
おじいちゃんやセレナさんはようしてくれたけど……あっちにはボクの居場所は無いなて、心のどっかでずぅっと思うとったんや。
でも、キミらに転送されたあの世界での冒険は……ホンマにおもろかったわ。
悠騎君も由佳さんも、バミューダの皆も、いい人ばっかやった。
いつまでもここにいたい。ずっとこの人らと旅をしたい思うぐらいにな」
今でも鮮やかに思い出せる。未知の驚きに溢れた世界での、絶え間無い戦いの日々。
灯馬はそれを苦しいと思ったことは一度も無かった。彼はただ、自分の巻き込まれたこの状況を、存分に楽しんでいた。
その出生と、身体に流れる“血”ゆえに、彼は極力他者との関わりを絶ち、根無し草として各地を流離って来た。
そんな彼にとって、自分のいる世界が何処だろうとさしたる意味はない。
刀を振るう価値のある争いの場と、斬る価値のある“敵”さえいれば、それでいい。
灯馬「ああ……でも……」
その考えを突き詰めるならば――
灯馬「もしも、もし、アルテミス(あんさんら)もおらんで、宇宙人やネオバディムもおらへん。
そんな、平和な世界に呼びだされとったら……あの人らに刀を向けとったかもしれへん。いや、きっとそうやな」
ヴァルカン「くく、くく……ははははは! ははははははははは!!!」
哄笑するヴァルカン。
ヴァルカン「よもや、ここまで期待通りとは思わなんだぞ。貴様の頭の中にあるのは、戦いのことだけか!」
灯馬は、少し小首を傾げて見せるが、すぐに肯定の意を込めて、首を縦に振る。
ヴァルカン「なら、さっさと本気を出せ。遊んでいる時間も惜しい。
俺がその気になれば、貴様の刀なぞ、容易く溶解してしまえるのだぞ?」
ヘファイストスから放たれる熱波が、一段と勢いを増した。
これまでとは比較にもならない。ただ対峙しているだけで、皮膚が焦げ付いてしまいそうだ。
そんな中でも、灯馬は変わらぬ微笑みを浮かべ――
灯馬「ほな、お望み通り……」
559
:
はばたき
:2011/07/27(水) 21:57:45 HOST:zaq3d2e56c4.zaq.ne.jp
=シャングリラ 通路=
G・K隊とマザーグースとの激闘が行われているのとほぼ時を同じくして、”楽園室”へ続く回廊の一つでもまた、人知れず行われる戦いがあった。
火花を散らすのは濃紺と淡紫の機体。
一人は<アルテミス>幹部、ルドルフ・F・ギーゼルシュタイン。
そしてもう一人は、孤高の狂犬ナシュトール・スルガ。
互いに、両の腕に構えた刃で、既に何度と無く打ち合っている。
が、ここまで碌な整備も受けずに、先のジオフロントでの戦いの傷も癒えぬイスカの方が不利である事は日を見るよりも明らかだ。
確実に機体各所に受ける傷は増えていくが、それでもナシュトールが止まる事はない。
そんな、彼の様子を前に、ルドルフの表情にふと哀切の情が浮かぶ。
ルドルフ「哀れだな・・・。最早俺の顔も解らんか」
吼え猛るナシュトールの様子からは、最早敵の存在すら認識していないのかも知れない。
心なし、動きにも精彩を欠き始めている様にも見える。
ルドルフ「細胞の自壊も始まっているな。もう長くは持つまい・・・」
戦いが始まったその時から、両者は既に<ハーメルンシステム>を起動している。
だが、元より彼らは<ベラアニマ>の因子が薄く、肉体改造によって無理矢理に<アンフィニ>を発動できるまでに精神を高揚させる処置が施されているに過ぎない。
瞳の色が本来の色とは違う色素で変化するのはそれが理由でもある。
しかし、今のナシュトールの瞳は、本来の<アンフィニ>の色である紫色に明滅している。
それは、肉体の限界を超えた暴走状態に陥っており、限度を超えた力の行使による過負荷が体に掛かっているに他ならない。
ルドルフ「愚かだ。愚かだな、ザックス!俺の言った事を真に受け、何処までも他人を退け否定してきた結果がそれか!」
”いつかお前に大切なものが出来たとき、必ず奪いに行ってやる!お前を幸せの絶頂から叩き落してやる!”
それがかつて、彼が目の前の贈った呪いだ。
ルドルフ「そのケモノのような姿がお前の答えか!?誰も信じず、誰も求めず。ふざけるな!これでは殺す価値も無い!!」
やりきれないほどの怒り。
普段の冷徹の仮面を外してルドルフは激昂する。
ルドルフ「何故だ・・・貴様もエレもアルフィーも・・・何故いつも俺を裏切る。”彼女”でさえも・・・」
奥歯が砕けるほどかみ締め、再び刃を向けようとしたその時、激しい振動が要塞内を襲った。
ルドルフ「なんだ!?今のはマザーグース老のスペースの方・・・。まさか隔壁が破られたのか!?」
高ぶっていた感情が冷静さを取り戻す。
このままでは”楽園室”に突入されるのも時間の問題だろう。
ウラノスが敗北するとは考えづらいが、万が一と言う事もありうる。
ルドルフ「ちぃ、致し方ない。貴様の相手はしていられなくなった」
突っ込んできたイスカを蹴り飛ばし、待機させていた部下達を特攻覚悟で突撃させる。
ルドルフ「生きていたら、今度こそ俺の手で殺してやろう」
尤も長くは持たないだろうが・・・。
そういい残し、ルドルフは戦場を後にする。
560
:
はばたき
:2011/07/27(水) 21:59:48 HOST:zaq3d2e56c4.zaq.ne.jp
=遊戯室=
破られた隔壁。
その先に続く回廊は正しく楽園への架け橋の様に荘厳に彩られていた。
目を凝らせば、その奥、十字路になった先に精緻なレリーフの刻まれた”楽園室”への扉がある。
マザーグース「ホワァイ!?よもやミーを無視しようとでも言うのかい?」
タツヤ「当たり前だろうが!」
ライ「俺たちの最終目標はウラノスだ。お前にばかり感けていられん」
ライ達の言葉を肯定するように、コスモ・ストライカーズの火砲が進路上の敵機を屠っていく。
”楽園室”への血路を開かれた遼機達が、”遊戯室”を突破すべく駆け出す。
トウヤ「全機突撃!挟み撃ちにならないよう最低限の戦力は背後の敵を迎撃してくれ!」
狭い通路に出れば、数の多さとサイズの多さは仇となる。
マザーグースの部隊を受け止める為にも、通路を戦場に移すのは下作ではないだろう。
トウヤ「エレ君。キミはここに残って。アイラ君が出撃出来ていない以上、キミは後衛の援護を・・・」
アイラは体調不良を理由に、この作戦では出撃から外れている。
そしてエレも出撃前から様子がおかしいのを見切っていたトウヤは、あえて彼女を艦の暴走に回そうとしたのだが・・・。
エレ「いる・・・」
トウヤ「え?」
エレ「彼が・・・・」
トウヤが言葉を終えるより早く、加速したデンメルングクレインが隔壁の穴を突破していく。
そしてトウヤは見た。
進み出る彼女の横顔が、かつての”ユイナ・サイベル”のそれであった事を・・・。
561
:
蒼ウサギ
:2011/08/12(金) 01:30:46 HOST:i125-204-45-217.s10.a033.ap.plala.or.jp
その一方、悠騎とヴィナスの戦いはというと、すでに決着間近という所に来ていた。
いわゆる、アフロディテの“タイムリミット”が来たのだ。
ヴィナス(残量エネルギーからして、あと1分もない、か……)
悠騎との激しい攻防戦を繰り広げておきながらも、ヴィナスは常に大局的に戦局を見ていた。
合体した二隻の戦艦、ヴァルカンと灯馬の激闘。そして破られた“楽園室”へと続く壁。
ヴィナス(なるほど。彼(ヴァルカン)が評価するのも頷けますね。どこまでも予測の一歩先を行く)
眼前の悠騎でさえ、それは例外ではない。以前とは段違いの強さだ。
機体性能もそうだが、なによりそれを操縦できる技術力。そして、何より精神力が大きく成長しているように垣間見れる。
ヴィナス(チャンバラしか出来なかった子供が、それなりの太刀筋を磨いた、というべきでしょうか……)
闇雲に剣を振り回すだけでなく、しっかりと斬るタイミングと位置を見極めて剣を振るっている。
隊の中には、ゼンガーを始めとする、達人は多けれど、悠騎は彼らから特に指南を受けてはいない。
恐らくは、これまでの自身経験と、彼らの戦いを無意識に取り入れてることで、元からあった並はずれたあったセンスが開花したといえるだろう。
ヴィナス(ですが、現状は“想定の範囲内”ですね)
コスモ・フリューゲルとコスモ・アークの合体。そして、悠騎の思わぬ成長。
それらは、確かに当初のヴィナスの予測を遥かに超えていたが、まだ余裕はある。
―――いや、むしろ彼らの力によって、計画は恐ろしいほどに自分に有利に進んでいる。
ヴィナス「チェックメイトですね……!」
瞬間、静止していたアフロディテが動いた。
§
コスモ・ストライカーズのブリッジでアイが涼しげな顔をしながらも、手元はせわしなくキーボードを叩いている。
アイ「各火砲で敵勢の30%を撃破確認」
由佳「まだまだ、油断しちゃダメよ!」
アイ「はい!」
まるでピアノを奏でているかのようにアイの指は軽やかに次のステップに移行していた。
艦に搭載されている全ミサイルを装填。反射的ともいえる速度で「敵機」だけを瞬時にロックオン。
アイ「由佳さん」
それだけで充分だった。
由佳は、一拍置いてギガマシーン群をギリギリまで引きつけそして絶妙なタイミングで言い放つ。
由佳「発射!」
凛としたその声と同時に各ミサイル管から白き砲線は、更なるギガマシーンを焼いた。
由佳「このままコスモ・ストライカーズは、できるだけ敵を引きつける役割を担います。皆さんは、一人でも多く“楽園室”へ!」
この時、由佳はすでに宛がわれている椅子には座していなかった。
自ら立ち、より幅広い視野で戦局を見ている。無意識の行動なのだろうが、少なくともブリッジの者にはこれまでにないほどに彼女にカリスマ性というものを感じた。
アイ(まだまだ、遠い……かな)
そんな由佳の姿を見て、ライバル心を越えてすでに憧れの対象になっているアイ。
由佳だけではない。似たような年頃のホシノ・ルリでさえ、似たような気持ちにさせられる。
彼女とナデシコC、そしてオモイカネが一つになれば情報能力においては、他の艦の追随を許さない。
もちろん、今のコスモ・ストライカーズでもアークとは比べ物にならないほどの情報能力は飛躍している。
が、それでも、アイは自分の未熟さを知っている。
アイ(恐らくホシノ少佐がこの場にいれば、いますぐシャングリラの機能を停止させることも可能でしょうけど……今の私には無理)
アイもそれなりの事情のある“天才”ではあるが、ルリにはまだまだ及ばない。
それは、ただ彼女が遺伝子操作で生まれたからではなく、わずか11歳で木星戦争を経験して得て、
あの個性的な旧ナデシコクルーとの別れと再会を繰り広げた末なのだろう。
詳しい経緯は知らないが、自分にはそういった経験がないからこそ“未熟”なのだと自覚できる。
アイ「だから、今を精一杯、やり遂げます」
決意の眼差しをしたところで、一番の憧れの対象の声が耳に入ってくる。
トウヤ『こちら紫藤! これより突入する!』
562
:
蒼ウサギ
:2011/08/12(金) 01:31:32 HOST:i125-204-45-217.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
エレの様子に不安が過ぎるも、この気を逃すわけにはいかない。
瞬時に呆けていた頭を切り替えてナックルゼファーを加速させる。
そんな時だった。
不意の気配。
不気味な人影が目の前に現れた。
トウヤ「お前はっ!」
金色の機体。
しかし、装甲のあちこちにはかなりの損耗が見受けられるそれは先ほどまでブレードゼファーの相手をしていたアフロディテであった。
ヴィナス「フッ」
トウヤ「ッ……おぉぉぉぉっ!!」
ヴィナスの僅かな殺意を感じ取ったのと、トウヤがナックルゼファーの拳を突き出したのはほぼ同時であった。
トウヤの予想に反し、ヴィナスは無抵抗とばかりにあっさりと拳を受け、“楽園室”へと続く回廊に吹き飛ばされていった。
遅れて、悠騎のブレードゼファーがそこへ合流する。
悠騎「トウヤさんっ! 今、ここに!」
トウヤ「あぁ、君の言う、ヴィナスがやってきた」
一応、迎撃したが、ということを捕捉して静まり返った現場に二人は妙な不気味さを覚える。
トウヤ「とりあえず僕は“楽園室”に向かう。君はどうする?」
悠騎「……オレも行きますよ」
言葉はトウヤに向けられていたが、視線はやはりコスモ・ストライカーズに向けれていた。
G・K隊員でありながら、彼もまたあの存在を知らなかったのだから複雑な気持ちはあるのは当然だろうと、トウヤは何となく感づいていた。
悠騎「まぁ、アレなら由佳達もしばらくは大丈夫そうだし。……あとで色々聞かせて貰いますよ」
どうやらコスモ・アーク艦長という肩書きからトウヤは、アレを知っている人物。所謂、グルだと認識されたようだ。
トウヤ「……あはは、また一人、無茶できない理由ができてしまったな」
苦笑いしつつも、二機は“楽園室”へと向かう回廊に入った。
§
ヴィナス「さて、舞台は“楽園室”へ……」
ナックルゼファーに引導渡してもらった長年の愛機を捨て、専用の通路に入ったヴィナスは、不敵な微笑みを崩さずに自らの計画を推し進めつつあった。
ヴィナス(長かった……ですが、成果を見るのはこれからです)
さぁ、戦いなさい。マルス・コスモ! そして、星倉悠騎、紫藤トウヤ!
潰し合い、嬲り合い、そして―――。
ヴィナス(全てを私に……)
563
:
はばたき
:2011/08/12(金) 22:31:50 HOST:zaq3d2e56c4.zaq.ne.jp
=シャングリラ ”楽園室”への通路=
要塞攻略の最後の関門、打倒マルス・コスモへの道へ最初に飛び出したエレのデンメルングクレイン。
並み居るギガマシーンをその高機動で振り切っていくが、その瞳は回廊の先の扉を見てはいない。
後続を突き放し、一気に駆ける金糸の鳥は、十字路になった通路で一旦動きを止め、そして・・・
ルドルフ「来たか」
振り仰いだ先に見える淡紫の影。
エレ「ガリ・・兄さん・・・」
言葉には戸惑いの色があるのに、抑揚には一切の動揺が無い。
エレ「兄さ・・あなたは、まだ私、わたしを求めている・・の・・・?」
ノイズ交じりの壊れたテープレコーダーの様な言葉で問い掛ける。
その姿にルドルフは諦念とも怒りとも取れる表情に顔を歪める。
ルドルフ「意識が混濁しているのか。半端な自我を確立するからこうなる。全く、”今回も失敗か”」
”前回”の反省を踏まえて、今回は自分が兄という形で彼女に近づき、経過を観察するつもりでいた。
だが、<アルテミス>としての活動が活発化し、彼も自由が利かずに結局、預けたG・Kのカレッジで、余計な自意識を刷り込まれてしまった。
ルドルフ「あの女に出会った辺りからおかしくなり始めた。次からかはキチンと一から俺が管理せねばな」
”あの女”という単語が誰を指すのかは明確だ。
それ故に、それまで無表情だったエレの顔に、僅かに揺らぎが生じ始める。
―――私の救いにならないなら、お前なんかに用は無い―――
心の奥で反芻される言葉が、揺れる天秤のように動揺を大きくしていく。
次第に引いていていく血の気と共に、狂いで鎧った心が剥がれていく。
ルドルフ「最早、お前も不要だな」
―――旧くなったオモチャはいらない―――
一つ一つの言葉が、彼女の言葉を連想させる。
一つ一つの言葉が、彼女から受けた恐怖を蘇らせる。
一つ一つの言葉が、彼女に壊された心を取り戻させていく。
ルドルフ(アイラ)『私の前から消えろ』
エレ「嫌ああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!??」
§
=コスモ・アーク アイラ私室=
薄暗い部屋で、アイラは人形のように脱力した姿で壁に寄り掛かっていた。
艦が揺れる。
外では世界の命運を懸けた戦いが繰り広げられているというのに。
自分は最早それに何の感慨も感じない。
心はもう捨ててきた。
彼女を放り出したあの時に・・・
全部どうでも良かった
もう、強がるのも、虚勢を張るのも、誰かに頼む事さえ疲れた
一人でいい
564
:
はばたき
:2011/08/12(金) 22:32:58 HOST:zaq3d2e56c4.zaq.ne.jp
傍に誰もいなくてもいい
例えそれで自分が死に行くだけの人形だとしても
アイラ「それでいい・・・」
生きたいとさえ思えなかった
居場所なんてもう自分で手放したから
何も残ってやしない
暖かいものなんてなにも―――
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
エレ『ねえ、隣いいかな?』
あれは何時の頃だったろう。
思わず見惚れる様な美しい金糸の髪の少女に出会った。
エレ『貴女だよね?今期のナンバー1』
それが何度と無く自分と実技試験で引き分けてる相手と知って驚いたのは今でも覚えている。
§
エレ『凄いよねぇ。アイラってどんな機体でも直ぐ乗りこなしちゃうもん』
そんな事は無い。
手足が伸びきる頃にはロボットの操縦が彼女の遊びだったのだ。
自分は多少人より動かす事に慣れているだけ。
そういう彼女こそ、本当の意味での天才だった。
エレ『そんなこと無いよう。私、この前もチューニングミスって怒られたばっかりだし』
§
エレ『ねえ、一緒にチーム組まない?』
言い出されたのは突然だった。
エレ『私は砲戦、アイラは格闘戦。ね?相性バッチリだと思うんだ』
驚いた。
急にそんな事を言われたからではない。
自分も同じように考えていたからだ。
エレ『ホント?わっはー、私達息ぴったりだね♪私達なら絶対最強のコンビになれるよ♪』
華のように笑った彼女に、思わず牽き付けられてOKを出してしまった。
エレ『やったー♪ふっふっふ、カレッジに新しい歴史を刻むぞぉっ!』
・
・・
・・・
・・・・
565
:
はばたき
:2011/08/12(金) 22:33:35 HOST:zaq3d2e56c4.zaq.ne.jp
そうして自分達は今の関係を築いていったのだ
切欠をくれたのは彼女の方
それを魅力に感じたから、自分は彼女といる事を選んだ・・・
アイラ「え・・・?」
傍と気付いた。
アイラ「なんで・・・私は彼女のと居ようと思ったんだろ?」
エレに向けて吐き出した自分の心の闇。
それは全て真実だ。
覆しようの無い醜い自分の姿。
だが、
”その気持を抱いたのは何時頃からだった?”
アイラ「私は・・・」
エレと居たいと思った
エレの笑顔に引かれた
エレの飾らない性格が好きだった
エレの危なっかしい所を支えてやらねばと思った
エレの・・・エリアル・A・ギーゼルシュタインという少女が、自分に笑顔をくれた
アイラ「あ・・・・」
頬を伝うものに気付いて愕然となる。
こんな簡単なロジックにどうして気付かなかったんだろう?
自分は、アイラ・ガウェインは、彼女が、エレが好きだから一緒にいようとしたのに。
歩み寄ったのは自分も同じだったのに
惹かれあったのは自分も同じだったのに
大切だと思えたのは自分も同じだったのに
求めたのは
親鳥じゃなかった
求めたのは
巣ではなかった
求めたのは
一緒にいて心地よい”トモダチ”だったのに!!
アイラ「エレ・・・!」
§
火線砲線が行きかう戦場は正に混沌と化していた。
中でもストライカーズの大火力と、ギガマシーンの大軍の押し合いは、この戦局の華といえる。
そんな激しい戦いが繰り広げられる中、ブリッジへの通信が入った。
アイラ「ハッチ開けてくれ!私も出る!!」
由佳「アイラさん!?」
予想外の人物からの通信に、由佳も一瞬驚きの声を上げる。
確か、体調不良で出撃を見合わせていたのでは無かったか?
トウヤ「アイラ君・・・いいかい?」
隊のリーダーとして。
また、おそらくアイラの不調の原因に感付いているであろうトウヤが割って入る。
566
:
はばたき
:2011/08/12(金) 22:34:10 HOST:zaq3d2e56c4.zaq.ne.jp
アイラ「先輩・・・」
その顔を前に、自分の手前勝手を恥じ入ると共に、一つの決意が生まれる。
アイラ「私は貴方が好きでした!!」
・・・・・・・・・・・・・・は?
力強い宣言を、それも全周波回線で言ってのけたアイラの言葉に、戦場の誰もが一瞬困惑した。
アイラ「ずっと憧れていました!貴方の背中を見て走って来ました!養母さんのように、貴方のような人になれるようにと!ずっと貴方を目指して鍛えてきました!!」
続く発言に、ああそういう事か、と心内でホッと胸をなでおろしたものが一人。
アイラ「でも、それも終わりです。私は私にしか成れない。そして私に成れるのも私一人なんです。だから私は飛ばなきゃいけない。誰かの翼を借りてじゃない!私自身の翼で!!」
迷いは晴れた。
その瞳に輝きを戻して、黒き燕は飛び立つ。
マザーグース「ディスメィル(鬱陶しい)!!三文芝居はその辺にしておくれヨ!!」
全周波回線という事は当然”遊戯室”にいる全員に筒抜けという事だ。
その行動についに怒りにまで感情が達したか、ギガマシーンを更に苛烈に掻き立てるマザーグース。
アイラ「・・・・」
目の前に居るのは、何度と無く自分達を苦しめた難敵ばかりだ。
だが、今の彼女に恐れは無い。
アイラ「奔れ黄金の牙!未来を切り開け!!」
輝くズィッヒェルシュヴァルベの右脚の一振りが、ギガマシーンの大軍をなぎ倒す。
雲が晴れ、蒼穹を望む青空へ飛び立つ若鶏のように、アイラは駆ける。
アイラ(養母さん・・・巣立ちの日です。どうか、見守っていてください)
567
:
藍三郎
:2011/08/13(土) 10:06:51 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
無造作に構えた蛇鬼丸から、大量の鮮血が溢れ出る。
灯馬と蛇鬼丸が、これまでに殺めた人間の血。
蛇のようにのたうつ鮮血は、麟蛇皇の周囲を旋回する。
血の大蛇は麟蛇皇の全身に纏わり付き、その身を赤々と染め上げた。
同時に、内部の灯馬にも変化が生じる。
麟蛇皇が赤く染まるのと呼応して、彼の黒髪も、鮮やかな赤へと変色する。
麟蛇皇の全身が赤く染まりきった時……
ヘファイストスの熱波をも掻き消す、冷たい殺気が場を吹き抜けた。
灯馬「ふぅ――」
闘志や熱意とはまるでかけ離れた、力無い溜息が、彼の口から洩れる。
両腕はだらりと下がり、その双眸は疲れているか、睡魔に襲われているかのように垂れ下がっている。
それでいて……彼の瞳の奥には、泥土のように澱み、刃金(ハガネ)のように鋭い、殺人の意志が秘められていた。
彼の唇は、そのまま短く言葉を紡いだ。
灯馬「これで……斬れるわぁ……」
何と言う――
ヴァルカンは思わず息を呑む。
夜天蛾灯馬の変貌――“血の覚醒”についての情報は、既に得ている。
ベラアニマの使う、アンフィニにも似た、爆発的な力の上昇。
しかし、いざ相対して見れば、データで得た情報とは別次元の凄味を感じる。
その体から発せられる圧迫感たるや、これまでの比ではない。
先程までの妖気など、ほんの片鱗でしか無かった。
そこにあるのは、極限まで濃縮された殺戮の意志。
人のカタチを取り、言葉を発しているだけで、その本質は、死を撒き散らす害毒に他ならない。
ヴァルカンは直感する。
もうこいつは、俺を殺すことしか考えていない――
変貌を果たした麟蛇皇・紅の周囲には、蛇鬼丸から溢れた血が宙に漂っていた。
その“血”の一部が、突如音もなく掻き消える。
ヴァルカンには骨の髄まで戦士としての習性が染み付いている。
灯馬の変貌に心奪われていたのは確かだが……それで集中を切らす男ではない。
彼は無意識下で、ヘファイストスを右へと移動させていた。
今の“あれ”と正面から渡り合うのは、あまりにも危険過ぎる。
それが、ヴァルカンの命を拾った。
彼の目には、視界の左端で、赤い光が瞬いたようにしか見えなかった。
だが、ヴァルカンは正しく認識していた。動くのが遅れて、もしもあれに触れていれば、己の半身は残っていなかっただろう。
視認は出来ずとも、その濃密なる殺意で分かる。あれは麟蛇皇の“刀”。
データで事前に知っていたことだ。あの状態になった夜天蛾灯馬と麟蛇皇は、これまで自分が殺めた者達の血を操る。
先程は、抜刀と同時に血を刃に変えて飛ばし、遠く離れたヘファイストスを狙ったのだ。
これで、彼に射程(リーチ)の死角は無くなったと言っていい。
最も、驚嘆すべきはその能力以上に、抜き打ちの速さ。
辛うじて空気の流れや漂う塵の動きで抜刀を察知できただけで、その動き自体はまるで捕捉できなかった。
今の彼は殺気の塊だ。故に、通常静から動へと移る際に生じる“意”の変化……それが全く感じられない。
568
:
藍三郎
:2011/08/13(土) 10:07:25 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ヴァルカン「ふっ――!!」
ヘファイストスの全身から、猛烈な熱波が溢れ出る。
一切の出し惜しみはせず、全身全霊で相手を殺す。
その気構え無くば、自分と言えど、今の灯馬の前では数秒と持つまい。
八条のメルティング・チェーンも、眩い橙色に熱せられ、陽炎が周囲の空気を歪める。
これらの鎖を個別に放っても、容易く斬り払われるのは見えている。
神速の刃に対抗するには、刀ごと砕き散らす、圧倒的な力――!
ヘファイストスを中心として鎖は旋回する。それらは互いに絡み合い、長大な螺旋を織りなす。
ヴァルカン「デッドエンド・クリメイション!!」
絡み合った鎖は、炎の大竜巻となって放出され、麟蛇皇へと迫る。
この世界に来て最初の交戦時、ヴァルカンはこの大技で灯馬を破っている。
今の奴に、どれだけ通用するか――
灯馬「朝闇、夕闇」
灯馬は麟蛇皇の腰の鞘を抜き、二刀流のように構える。瞬間、蛇鬼丸から溢れ出る多量の血が刃へと纏わり着き、長大な刃を形成する。
澱んだ血で創り出した、紅色の剣を、双方腰へと回す。変則的ではあるが、二刀による抜刀術の構えだ。
灯馬「夜天蛾流抜刀術……『皇十字(すめらぎじゅうじ)』」
居合抜きの要領で、双刀を一気に抜き放つ。
中空で交差した刃は、紅の十字を描き、真っ直ぐに飛んでいく。
爆炎の螺旋と、中空でぶつかり合う十字型の赤い波濤。
呪いの血が炎を消し去り、同時に規格外の熱量が、血を蒸発させていく。
閃光と炎熱、そして赤い蒸気が、二機の間を包み込む。
ヴァルカン「これは――」
視界を覆う赤い濃霧に、ヴァルカンの本能が危険信号を発した。
彼は即座に、デッドエンド・クリメイションを解き、その場から離脱する。
その間を、長い深紅の刃が通り過ぎて行った。
灯馬「ははっ! よう避けたなぁ、おっちゃん!!」
技を放った直後、麟蛇皇はヘファイストスの側面へと移動していた。
反撃にメルティング・チェーンを放つも、麟蛇皇は余裕を持ってそれを躱し、赤い霧の中へと姿を消す。
――これはまずい。
今自分は、灯馬の気配をまるで感知できていない。
原因は、この赤い霧だ。今の夜天蛾灯馬は、殺意と殺気の塊ゆえ、動きが目で捕らえられなくとも、気配を探るのは容易かった。
しかし、今は違う。麟蛇皇の放つ呪いの血には彼の殺意が込められている。
全周囲を血の霧で覆うことで、自身の殺意を溶け込ませ、気配を完全に断ってしまったのだ。
霧を生み出すために、自分のデッドエンド・クリメイションの熱量を利用したと言うのか。
ともあれ、この状況は危険に過ぎる。
一撃必殺を旨とする抜刀術を前にして、その気配を探れないのは、丸腰で突っ立っているに等しい。
直ちに、“隠れ蓑”である霧を除去せねば――!
ヴァルカン「ずぁぁぁぁあああぁぁあぁぁぁっ!!!」
咆哮と共に、太陽と見間違うばかりの熱波が、ヘファイストスから放出される。
周囲を覆う血を纏めて吹き飛ばし、霧も残らぬまで蒸発させる。
対応が遅かった、と言うことは無い。むしろ、最善最速の行動を取ったからこそ、この程度の被害で済んだと言えるだろう。
赤き刃が閃いたのを視認した時には、ヘファイストスの右腕は斬り飛ばされていた。
569
:
蒼ウサギ
:2011/08/17(水) 23:05:04 HOST:i125-202-199-113.s10.a033.ap.plala.or.jp
=楽園室=
“楽園室”―――。
マルス・コスモのためだけに、造られただだっ広い遊園。
“楽園室”の名に恥ずかしくない自然溢れている自然のみの空間に、マルス用の豪奢なベッドが一つあるだけ。
だが、それも今日で終わり。
今より、この場所は戦場へ変わる。
マルス「来るね……奴ら」
ミスティ「はい」
マルスの愛機にして、<アルテミス>、最強にして巨神・ウラノス。その傍らには近衛機のようにしてミスティのスクルドが携えている。
マルス「この部屋、ちょっと気に入っていたけど仕方ないよね……ま、また造って貰おうよ。……今度は、動物なんかも放してさ!」
ミスティ「マルス様……」
己の主は、この場がすでに修復不能になるほど、以前の南極戦になるほどの激しい戦いになるのだと感じているのだ。
確かにマザーグースの作戦で彼らは殲滅させられる予定だった。ヴァルカン、それにルドルフ、ヴィナスだって出撃した。
だが、事実、彼らは確実にここへ来ている。
つまり、以前のように圧倒できる、というわけにはいかなそうだ。
ミスティ(だが、相手が誰であれ。マルス様は私が守る)
この命に代えても…。という、何度目かの誓いを反芻したところで、ミスティは、彼らを肉眼で確認した。
ミスティ「往け、下僕共! マルス様のお命のために!」
ミスティの号令と共に、クリスチャン、クリスティンが搭乗したロストセイバーを始めとしたアルテミスの量産シリーズが群れが“神風”のように攻撃を開始した。
§
エクセレン「ちょちょちょ! “カミカゼアタック”なんて、そんなのあり〜〜!?」
迎撃射撃を連射しながら突撃してくる量産機を回避するヴァイスリッターだが、一機でも当たればその薄い装甲ではひとたまりではないだろう。
キョウスケ「向こうからこっちに来るなら都合がいい。……打ち貫くのみ!」
リボルビングバンカーで一機のロストセイバーWを打ち貫くも、その爆発の余波が通常より激しかった。
しかも、その後も立て続けに襲いかかってくるものだからさすがのアルトアイゼン・リーゼの装甲とて損傷度が高い。
ただの特攻だけならまだいい。
厄介なのは、クリスチャン、クリスティンというアンドロイド兵士という準エース級の思考と技能を持つパイロットが乗っていることで、ただの特攻じゃなくなる。
弱った相手には特攻ではなく、コンビネーションで攻めてくるだろう。
アンドロイド兵士であり、感情が希薄な彼らならば己の命さえ惜しむことなく特攻できるからこその作戦なのだ。
タツヤ「だがよっ! 敵将、目の前に弱気は言ってられねぇ!」
R−DRILLがドリルパンチをフル回転させつつ、敵陣を突き進む。直後、その道が爆発を起こして各方へ拡散する。
ゼンガー「その通りだ! だから、往けぇ!」
巨大化させた斬艦刀を大きく振るい、さらに敵機を一掃した直後、飛び出てきたのはブレードゼファーとナックルゼファーだった。
悠騎「見えたぜ、ウラノス!」
トウヤ「ここで、決着だ!」
悠騎とトウヤ、マルスとミスティの目と目が量産機の爆発と残骸の合間で激突する。
ミスティ「マルス様の前に立つ者よ、愚かな者よ、凍てつくがよい…っ!」
マルス「さぁ、君達の“力”、魅せてくれよ……」
570
:
はばたき
:2011/08/25(木) 21:44:29 HOST:zaqd37c9617.zaq.ne.jp
=シャングリラ ”楽園室”への回廊=
破られた扉の向こう、爆炎の華が咲く。
今、あの部屋では、先ほど以上の死闘が繰り広げられている事だろう。
アイラ「皆・・・」
すまないと思う。
その場に駆けつけられない我が身の歯がゆさ。
だが、全ては自分自身が招いた事だ。
今、彼女には成さねばならないことがある。
だからこの命は皆に預ける。
彼らが勝利する事を信じて―――
アイラ「エレ、どこだ・・・!」
”楽園室”へ続く回廊は広い。
それこそ、合体したコスモ・ストライカーズが悠々通れる程だ。
その長い回廊の先に、散発する爆発以外の熱源を見つける。
アイラ「こっちか・・・!?」
見つけた戦闘の痕跡目掛けて機体を滑らせようとしたその時、ふいに眼前に濃紺の影が、幽鬼の様に姿を見せた。
アイラ「ナシュトール・スルガ・・・!」
ギリと奥歯をかみ締める音が頭に響く。
装甲は焦げ、全身に仕込んだアームは殆どが折れ下がっている。
腹部のキャノン砲は、それを隠す装甲が用を要しておらずむき出しだ。
何より、最大の武器であるはずのOADCASは刀身が砕け、バーニア部は煙を上げる無残な姿。
満身創痍と読んで差し支えない程ボロボロだが、見まごう筈もない。
目の前に居るのはかつての仲間だったもの。
そして、幾度と無く自分を阻んだ相手。
ナシュトール「どこだ・・・どこだどこだどこだどこだどこだどこだ紫藤おおおぉぉぉぉっ!!!」
空間を軋ませるかのような咆哮。
その声に、言葉に、アイラはナシュトールの意識がすでに満足に自分を捕らえていないことを得心する。
直感的にだが、彼の何かが既に壊れているのは、既に後戻り出来ない領域まで踏み込んでいるのは理解できた。
それを哀しいとまだ思ってしまえる自分に驚いたが、そこで立ち止まるわけには行かない。
イスカの、ナシュトールの覇気は一向に衰えていない。
半生の体などなにするものか。
油断をすれば、自分がやられるのは目に見えている。
アイラ「だが、私は負けない・・・。今は、今こそは誰にも敗れるわけにはいかないんだ!!」
だから、お前を超えていく、と。
何度と無く敗れた相手に臆する事無くアイラは駆ける。
その姿に、臆する事無く自分に向かう燕の姿に、ナシュトールは確かに視た。
ナシュトール「そこに・・・そこに居たか!紫ぃぃ藤おおぉぉっ!!!」
571
:
蒼ウサギ
:2011/09/02(金) 01:32:53 HOST:i114-189-96-226.s10.a033.ap.plala.or.jp
=楽園室=
敵の総大将を目の前に、もはや手加減は出来なかった。
悠騎「スターァァァァ・オブ・クラージュゥゥゥゥウウウ!!!」
ミスティ「凍てつかせよ、クリスタロスシャイン!」
まずは挨拶代わりといった必殺技同士のぶつかり。
本来、この状況で使うはずべきではないスクルドの絶対零度の切り札ではあったが、それだけ目の前の敵が脅威であると認識したと同時に、
マルスを守りたい“想い”があるのだ。
だが、そのぶつかり合いの隙にトウヤのナックルゼファーが動いていた。
トウヤ「勢ぃやぁぁぁあああ!!」
向かうはウラノス。そして狙いは―――。
マルス「最初に遊んでくれるのは、やっぱり君か」
嬉しそうにマルスは、変幻縮尺自在のカラミティブレードを、自機とほぼ同等のサイズである100M程に伸ばして真っ向から振り下ろした。
並のパイロットならば、この状況に恐慌状態になり、そのまま愛機と共に散っていく運命を辿ってもおかしくはない。
だが、トウヤは違った。
ギリギリ。本当に刃の切っ先が当たるその寸前まで引き付けて、そこから機体のブースターの片方のみを急加速させた。
それによる起こりうる現象は、急旋回である。最も、剣が叩きつけられた衝撃の余波もあってか、思いの外かなり飛ばされてしまったが、
精一杯の制御で態勢を立て直し、即座に本命の位置―――懐めがけて再加速する。
トウヤ「破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ! 破っ!」
ここぞとばかりにナックルゼファーがウラノスを殴りつける。インファイトにおいては、大型より、小回りが利く小さい機体の方が有利だ。
トウヤ(あのバリアも今はない……! やっぱりアレはパイロットの意思で稼働するものなんだな)
確かにウラノスは、超がつく強敵だ。しかし、一度の敗北から学んだことが一つだけある。
それは、搭乗者がまだ幼稚であることだ。戦術もなければ、戦法もない。
ただ単にウラノスという強大な力を自在に操れるだけなのだ。
熟練し、さらに特性などを掴んだトウヤとしては、いわばウラノスへの攻略法を得たともいえる。
だが、問題が一つ。
トウヤ(どうすればここからハイリビードを取り出すかだ……が!)
考えているうちに障壁が展開され、それに気づいたトウヤは、一度、ウラノスから離れた。
手応えはあったものの、見た目からはそこまで損傷は見受けられない。
マルス「やるじゃん、やっぱ楽しいよ。君達は!」
トウヤ「元気だね……実に子供らしい」
コクピットシートに座るトウヤの目は、実に輝いていた。それは皮肉ではなく、本心からの言葉だったからだ。
§
ヴィナス「戦局は、5分と5分……というところでしょうか?」
ヴィナスは、端末を操作しながらシャングリラ全体を見ていた。
恐らく、マザーグースやルドルフも長くはないだろう。それに、ウラノスはこの計算では「戦力外」とされている。
もう少し事態が進展すれば、自分が動くからだ。
ヴィナス「さすがに“ロストセンチュリー”の生き遺産であるミスティさんは生かして欲しいものですね、星倉悠騎」
だが、それもどうだろう。
彼女は、あくまでマルスを護るために己の存在意義を感じている。
そうなると、或いは……。
ヴィナス(まぁ、腕試しには良さそうですね)
暗闇の中で、ヴィナスはほくそ笑んだ。
572
:
蒼ウサギ
:2011/09/02(金) 01:33:49 HOST:i114-189-96-226.s10.a033.ap.plala.or.jp
=楽園室=
ミスティ「! マルス様!」
ウラノスの思わぬ苦戦ぶりを見てか、ミスティが動こうとするがその隙を悠騎は与えなかった。
悠騎「おっと、あんたの相手はオレだぜ!」
こちらもインファイトに持ち込む。一瞬にして、ミスティの表情が苦みに歪んだ。
スクルドの武器はボウガン。つまり、中遠距離だと有利だがこうも密着されると一気に不利に陥られる。
ミスティ(フェザー・フィールドもこれでは…!)
防御方法にして、不可視攻撃としても有効なそれは翼から剥離されたもので作られる。
しかし、こうも密着されるとその不可視領域に自分自身さえも刻まれてしまう状況なのだ。
それ以前に、今はブレードゼファーのパワーに押されて、制御に精一杯であった。
ミスティ(ここは一度離れて!)
悠騎「逃がしゃしねぇよ!」
スクルドの僅かな動きから、距離を取ろうとしたことを看破した悠騎はすかさずSSブレードを振るう。
カラミティブレードほどではないが、鞭のようにしなるそれは、スクルドのクリスタルアローを砕き、再び接近を許した。
ミスティ(こいつ! 南極とは比べ物にならないほど強くなってる!?)
直接戦闘経験はないにしろ、ヴィナスやヴァルカンから聞く限りはもっと直情的な人物かと思っていたがそうではない。
いや、もしかしたら自分の機体性能を誰かから聞かされたのかもしれない。何せ裏切り者のクローソーがいるのだから。
危険だ!
ミスティの脳内で悠騎という存在が一気に大きくなった。
彼が存在することは、マルス様への危険度が増していく。
ならば、やるべきことは一つ。最優先事項で星倉悠騎を倒す。
ミスティ「調子にのるなぁ!」
我ながら無理があると思いながらもクリスタロスシャインを撃つ構えをとったが、それすら「バーサーカー・メイル」の爪で止められてしまう。
悠騎「もう観念しやがれ! さっきから戦っていりゃわかる! てめぇがこの距離なら何もできねぇってことがな!」
ミスティ「っ! そ、それでも!」
図星をつかれてもなお、ミスティは唇を噛む勢いで吼えた。
ミスティ「それでも、私はマルス様を護らなければいけない!」
悠騎「ちっ、使命感に溢れてやがるな!」
最初の時とはえらい違いだぜ、という言葉だけは心の中で呟いた。
ミスティ「そうじゃない……や、約束だから…」
悠騎「約束?」
今にも泣きそうな―――否、ミスティは涙ぐんでいた。
遥か昔を思い出しながら零れそうな涙を必死でこらえていた。
ミスティ「あの方との……約束だから。もう、二度と会えなくとも、あの方の“想い”だけは忘れないために……!」
悠騎「…あの方って、誰だよ。蒼き光の魔術師か? それとも混沌の天使か? 必滅の剣姫……」
あの黒歴史を見た時、ふと悠騎が夢幻の中で出てきたキーワードを次々に上げる。
目を丸くしたのはミスティだった。
ミスティ「何で…お前が知っている?」
悠騎「さぁな。……けど、約束か。そりゃ、大切だな。けど!」
徐に悠騎は、掴んでいるブレードゼファーの手でスクルドを地面に向けて叩きつけた。
ミスティの肺から一気に空気が吐き出される。
悠騎「悪いけど、約束ならこっちにもあるんでね。そして、それは誰にも譲れねぇんだよ」
SSブレードを向けて、悠騎は宣告した。
573
:
藍三郎
:2011/09/05(月) 23:01:48 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=遊戯室=
マザーグース「シィィィィット!!」
マザーグースは、これ以上の楽園室への進撃を阻むように、ナアサリイ・ライムを破壊された隔壁の跡へと滑り込ませる。
風船爆弾と鏃型爆弾をばら撒き、なおも楽園室へ進もうとする機体を阻む。
マザーグース「行ィかせないヨォ?
マルス様が負けるとは思ワないガ、これ以上ユウ達の土足で、清浄(クリーン)な楽園室を荒らさせるワケには行かないからネ!!」
ムスカ「ちっ、これ以上は奴を倒さなきゃ無理か……」
ゼド「ウラノスには全員で当たりたかったところですが……彼を放置していては、背後から挟撃される畏れがあります。ならば……」
白豹「奴は、ここで始末する」
フルメンバーであっても、苦戦は必至の相手だ。
先行したメンバーの負担を減らすためにも、マザーグースはここで倒さなければならない。
ムスカ「あのお嬢ちゃんは、ここで決着をつける気満々だしな。放っておくわけにもいかねぇよ」
ムスカの視線の先を、蒼い電光が駆け抜ける。
クローソー「おおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
全身に電流を帯びたザキュパス・リジェネレートは、ナアサリイ・ライムに高圧電流を叩きつける。
彼女は最初からウラノスなど眼中に無い。恨みつらむ造物主に対してのみ、戦意と闘志を向けている。
ナアサリイ・ライムは、雷の網を展開し、雷を分散・無効化しようとする。
しかし、クローソーの一撃の方が強く、雷の網は引き裂かれ、ナアサリイ・ライム本体へとダメージが及ぶ。
マザーグース「チィッ! だが、背後がお留守だヨ?」
マザーグースに命令(コマンド)を与えられたギガマシーンが、背後から襲い来る。
だが、彼女に仕掛ける前に、それらの機体はバミューダストームによって撃墜された。
クローソー「お前ら……!」
ムスカ「少しは落ち着け、って言っても無理な話だよな」
ゼド「ならば、貴女は攻撃に専念してください。サポートは我々が」
クローソー「……いいだろう、利用させてもらう」
マザーグース「人形の分際で馴れ合いカ……くくっ、身の程を知りたまエヨ!」
ナアサリイ・ライムはバキュームと化した掌を掲げる。
固まっているクローソー達を、一気に吸い込むつもりだ。
だが、赤い影が眼前を過ぎ去った瞬間……その掌は、音も無く寸断されていた。
マザーグース「NAッ!?」
セレナ「んふふふふ、私はそんなにお人よしじゃないからね。隙あらば、手柄は横取りさせてもらうわよ?」
攻撃に移る瞬間を見計らい、高速でナアサリイ・ライムの腕を断ち切ったスカーレットフィーニクスは、その断面目掛けてミサイルを放つ。
着弾し、ナアサリイ・ライムの長い腕は、肩口に至るまで爆砕される。
そこに間髪入れず、叩き込まれる、ザキュパス・リジェネレートの雷撃。
マザーグースは慌てて電流の網を再展開し、少しでもダメージを軽減する。
クローソー「奴を倒すのは私だ!!」
セレナ「だぁめ♪ そうしたいなら、もっと張り切ってみなさいな」
そうは言いつつも、セレナもまた、他のバミューダ機同様、クローソーをアシストするように動いている。
今のセリフは、クローソーの激情を更に煽り立てるためのものだろう。
マザーグース「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
狭い回廊に陣取ったのは明らかに彼の判断ミスだった。
ムスカ達をマルスの元へ行かさぬ為、彼は回廊の前から動くことは出来ない。
ダイゼンガー相手に見せた、驚異的な跳躍力も、宝の持ち腐れとなってしまう。
それは、小回りを生かして自由に動き回れる敵機から、格好の的となることを意味していた。
そんなことは、彼も先刻承知のはずである。
しかし、それでも尚、マザーグースは、これ以上マルスの危険を増やす選択肢は取れなかった。
マザーグース「あの子は、ミイの夢なんだヨ!
あの忌まわしき戦いで失われたミイの夢(ドリイム)……もう二度と、失ってたまるものカ!
行かせはしないヨ、“クリス”の下へはネェ!!」
マザーグースは、遥か昔に失われた、彼の息子の名を呼んだ。
574
:
藍三郎
:2011/09/05(月) 23:02:21 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=楽園室=
ロム「トウヤ君! 加勢するぞ!!」
バイカンフーとなったロムが、剣狼・流星の二刀を手に、ウラノスへと斬り込む。
マルス「君も一緒に遊んでくれるんだね。歓迎するよ!!」
新しい玩具を前にした子供のように目を輝かせ、マルスはカラミティブレードを振るう。
ロムは剣狼と流星を組み合わせ、二刀一刃とし、風車のように回転させる。
それをカラミティブレードの腹に当て、刀身に沿って滑るように加速する。
刀の摩擦で生じた火花が、バイカンフーの装甲を照らす。大剣を滑り台代わりにし、一気にウラノスの懐へと飛び込む。
その時既に、ウラノスの正面には無色の障壁が張り巡らされていた。
だが、それはロムも承知の上。
ロム「はぁぁぁぁぁ……ゴッドハンドスマッシュッ!!」
右掌に矯めていたエネルギーが、障壁に炸裂。そのパワーは、障壁を貫通し、ウラノス本体へと届いた。
マルス「!!」
確かな手応えを感じたロムは、更なる追撃に移る。だが、最強の巨神はそれを許さない。
剣を持たぬ方の手が、握り拳を形作り、横からバイカンフーへと飛ぶ。
ロムは咄嗟に剣狼と流星でガードを固めるも、その衝撃には堪えきれず、地面目掛けて吹き飛ばされる。
トウヤ「ロムさん!! 今のは……!」
先程のウラノスの拳には、障壁が備わっていた。
ただ大きいだけの拳なら、ロムとて他に対処の仕様があっただろう。
ナックルゼファーやバイカンフーが、エネルギーを拳に纏わせるのと同じ原理だ。
よもや、トウヤ達の戦いを見て学習したと言うのか。
バイカンフーは草木の生い茂る大地へと叩き付けられる。
攻撃はしっかりとガードし、受け身を取ったため、派手な音に比べてダメージは少ない。
それでも、やはり規格外の難敵であることに変わりは無い。
だが、ロムの心は、それとは別の疑念に囚われていた。
ロム(この感覚は、確かにハイリビードのそれ……)
先程から、剣狼と流星が強い共鳴を起こしていたが……接触して確信が持てた。
やはり、ハイリビードはウラノスの内にある。
ロム(だが……)
ウラノスの力は確かに強大で、底が知れない。
だがそれは、ハイリビードの持つそれとは、違うように思えてならないのだ。
575
:
蒼ウサギ
:2011/09/15(木) 03:19:56 HOST:i114-189-105-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
マルス「なぁんだ。意外と簡単なんだね♪」
ウラノスの目がギラリと光って、それがマルスの目の光にリンクしているように見えて、トウヤは思わず身を強張らせた。
トウヤ(これでクロスレンジでの攻撃もきつくなったかな?)
しかし、内にに秘めたる闘士は、まだまだ消えていない。
試行錯誤、相手の引き出しを開けるまで開けて、そこから打開策を見つける。
トウヤ「基本はできても、応用はどうかな?」
ナックルゼファーは、再度、ウラノスに向かって加速した。
§
ミスティ「ぐっ……舐めるなよ小僧!」
悠騎「へっ、その意気やよし、てか!」
コクピットシートでは笑って見せたが、内心では心臓がバクバクだった。
すでに機体のあらゆる個所で問題が発生している。警告アラームを切っておかないと、鳴り続けて戦闘に集中できたい状態だ。
やはり、アフロディテからの戦い後、ロクな整備を受けずにここに来たのが仇となったようだ。
悠騎(あと一撃、だな)
SSブレードの調子を確認して、そう判断する。
できれば、ウラノスとの戦いまでこの剣はもってほしかったが、今は目の前の敵を倒すことが勝利に繋がると判断した。
悠騎(つーわけだから、勝負にのってくれよ!)
悠騎は、ブレードゼファーのSSブレードを構えてミスティのスクルドの出方を伺った。
そして、そのスクルドのとった行動はというと、悠騎の予想通り氷の弓を構えていた。
ミスティ「ここなら私の距離だ!」
凄まじい数の矢が瞬く間にブレードゼファーに迫る。
しかし、悠騎はそれを躊躇うことなく突き進んでいった。
強襲型の「バーサーカーメイル」は、当然、氷の矢の前に次々と損傷していくも、その勢いは止まらない。
ミスティ「っ! ならば!」
相手が直行してくるのなら好都合だとばかりに、ミスティはここで再び絶対零度の技を繰り出す構えをとる。
今度は距離、相手の速度共々外しようがない。
ミスティ「クリスタロスシャイン!!」
直撃だった。
壮大な霜が吹き荒れ、氷像が現れる。
そう、“バーサーカーメイル”だけの氷像が。
ミスティ「なっ!?」
気付いた時はもう遅い。
氷とは対照的な、熱い炎のような刃がスクルドを斬り裂いた。
ミスティ「っあっ…私の、約束、が……」
機体のダメージが痛みとなってミスティに伝わってくる。
とても激しく、しばらくは動きがままらない。
悠騎(ちっ、決められなかったか!)
悠騎もすっかり故障してしまったSSブレードを放り捨て、完全に全てのバーサーカーメイルをパージしたブレードゼファーとして戦うことになった。
悠騎(内部も、結構やられてる……これ以上の長期戦はヤベェぜ)
パッと計器類でチェックして舌打ちする。いくら頑強なバーサーカーメイルといえど、それだけスクルドの攻撃が強力だったとうことだ。
悠騎「……覚悟、決めるか!」
腰のDブレードを一振り抜いて構えた。
576
:
蒼ウサギ
:2011/09/15(木) 03:20:33 HOST:i114-189-105-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
ロム「トウヤくん!」
今の彼の攻撃はいくらなんでも無謀だと言わんばかりだ。
マルス・コスモ、そしてウラノスは十中八九まだ実力の半分も出していない。
恐らく、あのような量産機で小細工しなくとも全員を相手にしてもお釣りがくるであろう巨大戦力だ。
そんなものに、トウヤは果敢に挑んでいる。
マルス「しぶといなぁ。君の攻撃はもう通じないんだよ?」
障壁を張り、それからの無数の攻撃エネルギーを持つ弾丸へと変換。
それらを全て射出させた。
トウヤ「破ぁぁぁぁぁぁぁ………」
迫りくる弾丸にナックルゼファーは、腰溜めにして、次の瞬間、
トウヤ「羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅羅っっっっ!!」
根源は同じ防御エネルギーで作られたもの。Dナックルの乱打で迎撃するのが一番損傷が少ないと判断したのだ。
なにより、この障壁弾には弱点がある。それは、
ロム「そうか、この隙だな!」
防御エネルギーである障壁を攻撃エネルギーに変換するため、必然的に障壁はなくなる。
すなわち、ウラノスから障壁がなくなるのだ。
ロム「サンダーボルトスクリュー!」
ウラノスの頭上から、バイカンフーが急降下で蹴りを見舞う。
一瞬、巨神が揺れるも、並の攻撃はすぐに態勢を立て倒されてしまうだけだった。
だが、それでいい。
ロム「トウヤくん、一度離れるぞ!」
トウヤ「は、はい!」
ロムに促されてトウヤのナックルゼファーがウラノスから離れる。
だが、カラミティブレードの伸縮次第ではもちろん射程距離内ではあるため油断はできない。
ロム「あまり無茶をするな。この状況で君を失えば仲間へのダメージが大きい」
トウヤ「……すみません。どうしても、彼がまだ本気でない。つまり、もっと大きな隠し玉を用意してるんじゃないかって思ってしまって」
その言葉にロムも思わず口を摘むんでしまう。
似たような気持ちになったことは否定できないからだ。
マルス「何やら作戦会議かな?……なら、今度はこっちからいってもいいよね?」
言うなり、ウラノスはカラミティソードを天に向けて掲げた。
その途端にだ。突然、先ほどまで“楽園室”の青空が黒雲に包まれる。
そもそも、先ほどまでの青空は、人工的なものであり、ここでは天候の変化はまずあり得ないはずだ。
トウヤ「まさかっ!」
マルス「さぁ、落雷鬼ごっこの時間だよ!」
ピカッと光った瞬間はもう遅い。
何万ボルトの落雷がナックルゼファーに直撃した。
577
:
はばたき
:2011/09/18(日) 22:07:57 HOST:zaq3d2e5683.zaq.ne.jp
=シャングリラ ”楽園室”への回廊=
戦いは熾烈を極めた。
半壊の機体を駆って尚、ナシュトール・スルガの力はあらゆる意味で彼女を上回っていただろう。
だが、そんな状態で長く続くはずも無い。
折れた牙では、致命の一撃には届かない。
徐々に磨り減っていく力を、気力だけで保たせていくのも限界だ。
そして、何よりそれ以上に今は相手が悪かった。
全てに負けぬと、何よりも大切なもののために爪を研ぎ、牙を剥いたアイラ・ガウェインの覇気は、ナシュトールに劣るものではない。
その一点、ナシュトールをここまで戦い抜かせた最大の要素で負けが見当たらぬ以上、傷ついた身で敵おう道理は無かったのだ。
かくして勝敗は決した。
最後の腕を斬り飛ばされ、イスカに反撃の武器は無い。
ナシュトール「があああぁぁぁぁっ!!!」
それでも狂犬は止まらない。
腕が無ければ胴でも頭でも、そう言わんばかり食い下がる。
アイラ「ナシュトール・・!」
その姿に、僅かに哀切の情が湧く。
だが、ここで甘えは許されない。
最悪、機体の動力炉を暴走させてメルトダウン。
今のナシュトールならそれすらやりかねない。
アイラ「だから、私はお前を倒して先に行く!」
渾身を込めた蹴りが伸びる。
それは過たず、イスカの胴を、決定的なトドメとしてなぎ払う。
―――バチィ!―――
アイラ「っ!?」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
物心付いた時から、周りにいたのは獲物か敵か、それだけだった。
弱ければ喰われ、強ければ奪う。
それが普通だった。
ぶたれれば殴り返す。
それしか他人との関わり方を知らなかった。
腕を買われて軍人になってもそれは変らない。
誰とも交わらず、腫れ物を触るように遠ざけられる日々にも、何の感慨も湧きはしなかった。
それを―――強引にでも捻じ曲げてくれた女がいた
他人ではない、敵ではない”誰か”を意識したのは初めてだった。
傍にいるのが心地よかった。
そんな風に思う自分に戸惑い、やがて慣れた。
相変わらず他人といるのは落ち着かないが、
人の輪にいることには戸惑いを感じなくなっていった・・・。
578
:
はばたき
:2011/09/18(日) 22:10:41 HOST:zaq3d2e5683.zaq.ne.jp
初めてだったろう
”好きだ”
声に出したのも初めてならば
応えてくれたのも初めてだった
なのに―――
『何故だ!何故殺したぁっ!!』
なんで、お前が倒れてるんだよ
『殺してやる!絶対に殺してやる!』
なんで、お前がそいつを庇うんだよ
『ただでは殺さん!お前にも味あわせてやる!俺と同じ苦しみを!』
なんで、俺を責めるんだよ
『いつかお前に大切なものが出来たとき、必ず奪いに行ってやる!お前を幸せの絶頂から叩き落してやる!』
悲しいのは
辛いのは俺の方なのに―――!!
・
・・
・・・
・・・・
アイラ「・・・・・・・」
爆散するイスカ。
その最期に、声にならぬ声を聞いた気がした。
アイラ「ごめんな、ナシュトール・・・」
傷ついて、恐れて、触れ合う事を拒絶し、それでも誰かを求め続けた
その在り方は、根源こそ違え、自分と同じものだった
自分が、気付いてやらねばならなかったのだ
ほんの少し早ければ救えていたかもしれない
唯々最期まで、失う事を恐れ続けた魂を
ほんの少し道を違えていれば自分も同じだったかもしれない
誰にも触れ合わない、孤独で悲しい魂へと
アイラ「私は、お前のようにはならない・・・!」
579
:
蒼ウサギ
:2011/10/02(日) 00:19:37 HOST:i121-112-154-137.s10.a033.ap.plala.or.jp
=楽園室=
ナックルゼファーに落ちた雷撃は、紛れもなく“雷”そのものであった。
雲行きが怪しくなったと同時に、光った瞬間に轟音がなったことに、戦場にいる誰もが一瞬、凍りついた。
そして、装甲全体が焼け焦げたナックルゼファーを見て悠騎の背筋が凍る。
悠騎「トウヤさん……!」
すぐにその暴虐をやった人物を捉えて確信する。ウラノス―――マルス・コスモだ。
南極の出来事が甦り、一気に頭に血が上った悠騎は、眼前のスクルドを無視してそのままウラノスへと突撃しようとしたまさにその時だった。
トウヤの制止の声と共にナックルゼファーが立ちあがった。
トウヤ「目的を忘れるな! 星倉悠騎隊員!」
凛とした部隊長としての“命令”。
普段の穏やかさを残しつつも、力強い。反射的に動きを止めさせるには充分だった。
だが、マルス・コスモはそんな少しの隙も待ってはくれない。
マルス「起き上がったんならゲームの続きだよ!」
再び暗雲がゴロゴロと音を立て始める。
だが、これはマルス側でいうなら“ただの演出でしかすぎない”
マルス「さーて、次はどこに落そうかな?」
ウラノスの“能力(ちから)”で気まぐれに、いつでもどこにでも落せるのだから。
§
ミスティ「フフフ……」
ついにマルス様が本気になられた、とばかりにミスティは笑っていた。
それを感じ取ったのか、悠騎はいやに癪にさわった。
悠騎「やけに嬉しそうじゃねぇか……ま、自分のご主人さまがご活躍なさってんならそりゃ嬉しいだろうね」
ミスティ「お前も同じだろ?……あの紫藤トウヤもお前にとっては主のような者……だから、先ほどは焦っていた。
…いや、今も焦っている、と言った方が正しいか」
自分の立場が有利になるとやけに雄弁になるミスティにどこか違和感を覚える悠騎。
だが、実際、ミスティの言っていることは的を得ていた。
“半分”は。
悠騎「ま、焦ってることは否定できないな……だってよ、大事な仲間がピンチなんだ。普通、放っておけないだろ!」
告げると同時に奇襲。
真正面からの高速連撃が次々にスクルドの装甲を削り取る。
悠騎「それに! あんたは一つ勘違いしてる! 確かにトウヤさんは、オレの尊敬する先輩で今のG・Kの部隊長だが
あんたらのような主従関係じゃない!」
ブレードゼファーの各所が悲鳴を上げ、いつオーバーブーストしてもおかしくないが、それでも悠騎はこの連撃を止めなかった。
そして、スクルドはそれにひたすら耐えることしかできない。
悠騎「そう、オレ達は……!」
左腕部の盾に内臓されている実体剣を杭打ち機のように突き出してスクルドを飛ばし、腕部ガトリングでけん制。
ほとんど密着状態だった状況から少しの間合いをとると一振りのDソードの出力を限界まで上げる。
悠騎「信念を一つにした仲間なんだよ!」
580
:
蒼ウサギ
:2011/10/02(日) 00:20:08 HOST:i121-112-154-137.s10.a033.ap.plala.or.jp
突き。
それも、Dソードのエネルギー出力を限界突破して刀身が巨大化したものだ。
剣というよりは、砲撃に近いだろう。しかし、それは確かにスクルドの装甲を貫通していた。
ミスティ「マルス……様」
自分は負けたのだ、と確信するもそこには聖母ように微笑えみがあった。
走馬灯、ともいうべきか。彼女の“還るべき場所”がおぼろげながら見えたてきたからだ。
ミスティ「あぁ……すみません。―――様」
内部爆発が起こると同時に誰かの名前を呼び、ミスティは目を閉じた。
瞬間、Dソードが爆散すると同時に、刀身を形成していたDエネルギーは消滅。
ブレードゼファーと、スクルドはそのまま“楽園室”地面へと自由落下していった。
悠騎「……ハァハァ」
荒く息を上げる一方で、ミスティは意識を失っていた。
§
この日のために用意していた量産機・フレギアスM。
ヴィナス用にそれなりにチューンナップされているが、性能にほとんど差はない。
少しばかり機動性と加速度を上げたくらいだ。
ヴィナス「やれやれ、ようやく手の内を明らかにしてくれましたか“マルス様”
ですが、まだまだ見せてもらいたいものですね」
ウラノスの真の力は、雷を操ることだけではない。嵐や豪雨。
酸性雨や雪吹雪等、“天”に関することなら全て操れるのだ。
雷は、その一端でしかない。
機体のモニターで戦場の様子が確認しながら、ヴィナスはほくそ笑む。
そして今、スクルドが倒れ、ブレードゼファーもほぼ動けない状況を確認した。
ヴィナス(スクルドが消えていない……ということは、ミスティさんは生きている可能性が高いですね)
さらに顔が綻ぶ。
これは、やはり自分に運が向いているのではないだろうか、と。
ヴィナス「感謝しますよ、星倉悠騎」
それは彼が初めて出た心の底からの言葉だった。
581
:
藍三郎
:2011/10/02(日) 21:06:47 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=遊戯室=
赤い瀑布が、唸りを上げて落ちて来る。麟蛇皇・紅が生み出した、血の大洪水。
機体の二、三体ならば、軽々と押し潰す圧力を秘めている。
ヴァルカン「ぐ……っ!!」
ヘファイストスは、メルティング・チェーンを重ね、機体正面に蜘蛛の巣……メルティング・ネットを展開。
血の濁流を防ぎ切る。しかし、凄まじい水圧はヘファイストスの機体を後方の壁面まで押し飛ばす。
麟蛇皇・紅は、追撃として、更なる血の濁流を放つ。右腕を失ったヘファイストスは、防戦一方に追いやられていた。
灯馬「あは……あははは……あははははははははははッ!!!」
夜天蛾灯馬の哄笑が――彼を知る者からすれば、とても同一人物とは思えない――戦場に響き渡る。
血を好み、乱を好み、破壊と殺戮を愛する異形の精神。
それは、夜天蛾の血を引く者の業であり、逃れ得ぬ宿命。
されど、闘争渦巻くこの現世にあって、この業は大きな長所となった。
敵対する者を虐げ、踏み躙り、利権を奪い、己の力として取り込むことで、彼の一族は繁栄を手にして来たのだ。
夜天蛾の栄光へ続く階段は、彼らに駆逐された数多の屍で築かれている。
しかし、夜天蛾灯馬は、彼の祖父曰く“優しすぎた”。
他の血族のように、己の業を当然のものとして受け入れることが出来なかったのだ。
さりとて、業を捨て去る事など出来はしない。
善意と悪意のせめぎ合いの末……彼は、“狂ってしまった”。
夜天蛾灯馬の“血の呪い”は、最も直截に他者を害する手段……即ち“殺す”ことにのみ特化して発現していた。
他者を踏み躙る才に長けた“悪”より尚性質の悪い、狂える斬殺者となる事を定められたのだ。
それは、平穏な社会において、あまりにも決定的な異質であり、そのままで在り続ければ、いずれ破滅することは分かり切っていた。
故に、その“狂”を蛇鬼丸と分割することで、精神の均衡を保っていた。
蛇鬼丸は、この狂気を抑え込み、軽減するための安全装置だったのだ。
だが、二つに分かたれた凶念は、今や一つとなり、一切の枷から解き放たれた。
ヴァルカン(これほどの怪物を、起こしてしまったとはな……)
強い。彼が望んだ真の夜天蛾灯馬は、今やヴァルカンを追い詰めていた。
自分を見下ろす姿は、紅の大蛇を従える蛇遣いの王だ。
麟蛇皇・紅を取り巻く血流が、彼の歓喜に呼応して、生き物のようにのた打ち回る。
この血には、灯馬や蛇鬼丸に斬られた者達の怨念が濃縮され、彼の中で渦を巻いている。
この極大の呪詛を“殺意”というベクトルに束ねることで、意のままに操っている……否、暴走させている。
ヴァルカン(これは……勝てん、な――)
攻め手は一切緩めぬながらも、心の中で自分は、既に敗北を受け入れつつあった。
当初、互角に戦えていたのは、歴戦の戦士である自分と、覚醒して間もない彼との、戦闘経験値の差に過ぎない。
だが、長時間戦うことで、その差は急激に埋められつつある。
今の灯馬は、成長速度も以前の遥か上を行っているのだ。
582
:
藍三郎
:2011/10/02(日) 21:13:52 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ヴァルカン「く、くくく……」
敗北を悟った自分の胸に去来するのは一体何なのか。無念、恐怖、絶望?
それとも、自分の見込んだ男が己を乗り越えたことへの歓喜か。
否――
自らの血で今もたぎり続けているのは、純然たる闘争本能。
これまでと何も変わらない。自分にあるのはそれだけだ。
今も昔も自分は血の衝動に突き動かされるがまま、戦い続けて来た。
かつて自分が、独立特殊部隊『エオス』所属、アルフォンソ・ボスキーノ中佐だった頃から、彼の本質は何も変わっていない。
彼は、軍属だった頃から幾多の戦場を駆け回り、多くの戦果を挙げ、
『エオス』に所属してからは、この世の悪と呼ばれる者達と戦い続けてきた。
だがその目的は、他の者達のように、世界の平和や人々の安息といったものではなく、ただ永劫続く戦いの熱に浸っていたかったからだ。
何故なら、どれだけ悪を滅したところで、この世界から闘争は無くならない。
正義や悪など、コインの表と裏の如く容易く裏返る。そこに絶対の真実などは無い。
彼にとって、唯一信じられるものがあるとすれば、
それは戦いの中で感じ取る、血を滾らせ、魂を沸かす“熱”――それだけだった。
それが、完全なる絶望――敗北へ続く道程であろうとも関係ない。
最期の最期まで、己が魂を燃やし尽くし、戦い続ける。それこそが“己”と言う存在の在り方だ。
途切れることなく続いていたヘファイストスと猛攻が、突如ぴたりと止んだ。
当然、この好機を逃さず、一足で飛び込もうとする灯馬だったが……
灯馬「……っ!!」
先程までとは桁違いの熱波が、麟蛇皇・紅を見舞った。身に纏っていた血の衣は、蒸気も残さず消滅する。
紅い装甲は、熱で焙られ焦げ目がついていた。血のヴェールが無ければ、この程度では済まなかっただろう。
目の前に、一個の太陽が現出していた。
あまりの熱と眩しさに直視することも困難だ。
もし生身の人間がこの場にいれば、瞬時に沸騰、肉のシチューになり、並の機動兵器であっても、飴細工のように溶けていただろう。
機体越しであっても、目が焙られるような熱を感じつつ、灯馬は前から目を逸らすことはなかった。
光の中心には、人型の機動兵器……ヘファイストスが浮いていた。全身が、溶岩のようなオレンジ色に輝いている。
灯馬の目では確認できないが、装甲や機体の各部が、少しずつ熔け始めている。
ヴァルカン「今……ヘファイストスの動力源……『鍛冶神(ヘファイストス)の窯』を暴走させた」
ヘファイストスは、機体から発する高熱を最大の武器としている。その熱は、ともすれば機体そのものを融解させてしまうため、普段はリミッターをかけている。
現在のヘファイストスは、そのリミッターを全て解除してある。こうなれば、機体の熱量は、際限なく上昇し続ける。
ヴァルカン「夜天蛾灯馬……貴様は、俺の血を沸騰させ尽くして戦うに相応しい男だ。
後のことは考えぬ。貴様と闘う時間のためだけに、我が命を燃やし尽くそう」
アフロディテのオーバーリミットと異なり、一度リミッターを解除すれば、
熱量は際限なく上がり続け、メルトダウンを止めることは出来ない。再冷却は不可能だ。
コクピット内部の気温は、既に人類が生存不可能な領域まで上昇している。
ヴァルカンがまだ生きているのは、耐熱スーツに加え、肉体そのものに超高熱に耐える生体強化手術を受けているからだ。
だが、それも、機体が融解してしまっては意味が無い。一度限界を越えてしまえば、後は煉獄へ繋がる坂を、転げ落ちるのみ……
ヴァルカン「……い……く………ぞ……」
既に喉は焼き切れ、声を出すことも出来ずにいる。
だが、今のヴァルカンの戦意と気魄は、これまでとは比べ物にならなかった。
583
:
藍三郎
:2011/10/02(日) 21:25:33 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
炎熱の魔神が迫る。技も何も無い。ただ近付いただけで、壁面やギガマシーンの残骸が、溶けて無くなってしまう。
さながら、レイズナーのV‐MAXの拡大版だ。己自身をも溶かす超々高熱の鎧は、有形無形問わず、あらゆる攻撃を無効化する。
触れれば無論、死あるのみ。
灯馬も、これには血の幕や身代わりを展開しつつ、逃げ回るしかない。
彼の持つ技で、あの人造の太陽を打ち破るものは存在しなかった。
灯馬「あぁ、どないしようか……弱ったなぁ……」
麟蛇皇の中の灯馬は、眉を下げ、本気で困った顔を見せる。
灯馬「……これじゃあ……ボクの手で斬れへんやん」
そう、今のヴァルカンに“勝つ”こと自体は、灯馬にはたやすいのだ。
焔の魔神と化した今のヘファイストスは無敵であるが、制限時間は無限ではない。
いずれは機体が持たなくなり、大爆発を起こすだろう。
その時には、今ギガマシーンと戦っているG・K隊も巻き添えとなるだろうが、今の灯馬にはどうでもいいことだ。
彼にとって大事なことはただ一つ。
“斬る”ことのみ。
命を捨てても戦うことを選んだヴァルカン……
彼の熱い魂を斬れば、きっと最高の悦楽を得られるだろう。
灯馬の顔に、薄い笑みが浮かぶ。
これをやれば、自分は今の力を全て使い果たすだろう。その後戦う力などは残りはすまい。
灯馬(おっちゃんを斬ったら、他の皆も斬るつもりやったけど……ま、しゃーないな)
他の皆の中には、仲間である者達も含まれている。
今の灯馬には、相手が誰であろうと瑣末なことだ。人格が変わったわけではない。
彼の内にある真実の欲求……それに嘘をつかなくなった。それだけだ。
刃から、全身から、大量の血が噴出する。灯馬の意のままに動く、呪いの血。麟蛇皇を包む赤色の雲は、熱圏に触れた直後に蒸発する。
それと同時に、血流が吹き出て、再度麟蛇皇を覆う。血の防壁に護られ、少しずつではあるが、灯馬は確実に前へ進んでいる。
だが、近付けば近付くほどその身を苛む熱は烈しいものになっていく。僅かでも気を抜けば、骨も残さず焼滅するだろう。
死と隣り合わせの無謀なる前進。今の彼を突き動かすもの……それは、ただ一つの欲求。
灯馬(斬りたい、斬りたい、斬りたい、斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい――!!)
生きながら蒸し焼きにされる苦痛を味わいながらも、彼の意志は小揺るぎもしない。
まるで磁石のように、己と同じ殺意を向ける者へと引き寄せられていく。
だが、それにも限度がある。
いかに血の防壁を高速で展開し続けても、蒸発する速度の方が早い以上、いずれ限界は訪れる。
その時――
彼の血に宿るある“思念”が、大きく脈打った。
――ほう、これしきの炎で焼こうと言うのか。この、『神』を――
584
:
藍三郎
:2011/10/02(日) 21:26:11 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
光球の中心部にて、遂に灯馬はヘファイストスと対峙した。
眼前にいるのは、いつ爆発を起こしてもおかしくない、半ば融解しかかった機体。
それでも灯馬はここまで来た。自滅ではなく、自らの手で引導を渡すために。
その瞬間、確かにヴァルカンは見た。
彼を包む怨念の血が、大きな襞を持つ蛇神(ナーガ)の姿をしているのを。
かつて灯馬の刃は最凶四天王の一人、イリアス・サラスヴァティーを斬り、その血を啜っている。
最凶とまで呼ばれた彼女の怨念は、他の有象無象の雑魂とは比べものにならぬはずだ。
今の灯馬が、呪いの血を操るだけでなく、その血に宿る怨念の“特性”すらも引き出すことが出来るならば――
イリアスは炎を操る異能者。当然その血には、炎熱への強い耐性が宿る。
超高熱の空間に身を投じながら、無事でいられた理由がそれだ。
(そうか……貴様! そこまで――そこまで達したか!!!)
言葉を交わすことは出来ず、また、そんな猶予はありはしない。
だが、勝敗を決する直前、両者とも、口許に微笑を浮かべてみせた。
「――――――――――」
――あの日……エオスが壊滅し、自分たちの世界が終焉を迎えた時――
彼もまた、命を燃やし尽くし、死を迎えるはずだった。
いっそのこと、あのまま死ねていれば幸福だった。しかし、何の因果か、彼は生き延びた。
極限の戦いで沸き起こった“熱”を体に残したまま……
最高の死闘の経験した今の彼は、もはや安穏な死など許容できない。
彼はずっと求めていたのだ。この熱を発散し尽くせるほどの強敵を。真実の終焉を。
最期の一瞬まで、命の全てを燃やし尽くすように、向かって来るヘファイストス。
それに対し、灯馬は最高の抜刀で応える。
無音と灼熱が支配する世界で、二つの影が交錯し……
一瞬速く、血塗られた刃が、ヴァルカンの胴へと吸い込まれた。
585
:
蒼ウサギ
:2011/10/17(月) 21:53:53 HOST:i118-17-220-118.s10.a033.ap.plala.or.jp
=コスモ・ストライカーズ=
アイ「……星倉艦長、アルテミス幹部の反応が次々に消滅していきます」
随時、“楽園室”と“遊戯室”の敵勢力図を管理していたアイが報告した。
クローソーからの情報を得て<アルテミス>の量産機には、無人機及びアンドロイド兵士が搭乗しているだけだと判明している。
つまり、それらを排除した残りの反応が幹部級なのだ。事実、ウラノス出現の際もレーダーにもマルス・コスモの生体反応が確認された。
由佳「それで、肝心の頭(マルス)は?」
アイ「健在のようです」
ここで、ブレードゼファーの反応が消えたことを告げるべきか迷ったが、一拍を置いて報告することを選択した。
アイ「それと……ブレードゼファーの反応が―――」
ミキ「え?」
ミキを始めとするブリッジクルーが騒然とする中、間髪入れずに由佳は言い放った。
由佳「そんな個人的なことは後よ、四之宮艦長。今は大局を見ないと……」
握り拳を作りながら王手一歩手前で難戦の状況に歯噛みする由佳。
だが、相手が相手だ。
由佳「みんな、今が正念場よ! 補給が必要なら無理せずに帰艦してください!」
この声は、友軍機全員の回線に流れた。
§
=楽園室=
キョウスケ「貫け!」
リボルビング・バンカーのステークがロストセイバーWを撃ち貫いた。
当然、爆弾同然の化したかの機は、強大な爆発を起こすがキョウスケは衝撃に耐え、すぐさまバンカーの弾薬のカートリッジを交換する。
アルトアイゼン・リーゼも搭乗者に応えるかのように、激しい損傷にも関わらず威風堂々たる姿を爆炎の中で見せる。
一方、その空では。
エクセレン「当たらなければどうってことない! ってね♪」
オクスタン・ランチャーをひと回しして、迫ってくるロストセイバーWの群れをEタイプのビームで薙ぎ払う。
完璧な軌道を描いたそれは一撃必殺とはいかなったが、ヴァイスリッターにとっては充分な足止めになった。
エクセレン「そいっと、お次はBモードってね!」
足止めをくらっている“一機だけに”特殊徹甲弾を撃ちこんで撃破させる。
耳をつんざく爆音と共に群がっていた他の機体も連鎖的にその余波に巻き込まれてトドメを次々に奪われていく。
撃墜時の爆発火力を大きく増したことが仇となり、またエクセレンはそれを利用した戦術をとったのだ。
エクセレン「密集しているからよ! だったかしらねん♪」
キョウスケ「今の発言は、トロワのモノマネだとするなら後で彼に報告する必要があるな」
エクセレン「いやーん! それだけは勘弁してぇ〜」
無言でヘビーアームズ改のフルオープンバーストを撃たれることでも想像したのか、
エクセレンは悶絶しながらもロストセイバーWの迎撃を止めなかった。
破壊しても破壊してもこのアンドロイド兵士を乗せた量産機は、心なしか全く減ってくる気がしない。
それもそのはず。“楽園室”のあちこちには、目視こそできないが隠れたシェルターがあり、
そこから絶え間なくロストセイバーWが出撃しているからだ。
ヴィレッタ(これでは我々が本命に援護に行くことは難しい……だが、もし)
<アルテミス>の組織図があのマルス・コスモを筆頭としているなら、この群れも必然的に収まるはず。
一つ懸念予想があれば、“彼が本当に<アルテミス>の長”ということだ。
ヴィレッタ(そもそも、あのザオスはどうしたのだ?)
ふと、南極でのファーストコンタクトの際の彼の印象を思い出す。
誰もが感じたアレはまさに影の黒幕といったところだ。
だとすれば、この奇襲において何らかのアクションがあってもおかしくはないはず。
ヴィレッタ(考えすぎか……?)
それでも、彼女の中には嫌な予感が燻っている。
そんな思考に駆られていると、突如、アラート音が鳴り響く。
ヴィレッタ「っ!」
ライ『隊長! 前です!』
咄嗟のライの指示に反射的に身体が動いて緊急回避行動をとる。
瞬間、“雷”が落ちてきた。
次に通信がくる。トウヤからだ。
586
:
蒼ウサギ
:2011/10/17(月) 21:54:48 HOST:i118-17-220-118.s10.a033.ap.plala.or.jp
トウヤ『みんな、気をつけてくれ! ウラノスの攻撃目標は、“楽園室”にいる全員だ!』
それは、もはやマルスの度が過ぎた戯れ。
何人にも触れさせることを許されないとばかりにその“雷”は天より落ちている。
リュウセイ「くそぅ! あんなのアリかよ!」
ライ「信じがたいことだが、受け入れるしかあるまい」
アヤ「纏まっていては危ないわ! 一旦、散開するわよ!」
雷はロストセイバーW部隊にも容赦なく落ちて爆散させてしまうため、チームで固まっていてはかえって危険。
そう判断したアヤが咄嗟に指示し、リュウセイやライは、弾けるようにその場を離れ、他のメンバーも自然とそうなっていた。
トウヤ「ちっ! マルス!」
ナックルゼファーを踏み出そうとした瞬間だった。
まるでそれを予測していたかのようにウラノスのカラミティブレードが足元に楔のように突き刺さる。
ロム「ならば、天空宙心拳! サンダークロー!!」
雷を拳に纏ったバイカンフーがカラミティブレードを叩き折る。
ロム「雷(いかずち)を操れるのはお前だけではない!」
マルス「へぇ……。通りで君が追い求める“ハイリビード”が何でウラノスに上手く適合するか、少し分かった気がするなぁ」
ロム「なにっ!?」
マルス「君のバイカンフーは、地上全てのエネルギーとシンクロすることで、
事実上、自然現象さえも変えるパワーを出すことが可能なんでしょ?」
それを何故知っている、という返しは愚問であることをロムは直感した。
彼らの情報網は、自分達が知っているよりも遥か上をいっている。今までが良い例だ。
ロム「だが、バイカンフーの力と天空宙心拳は、お前のように戯れで使う様なものではない!」
マルス「あはっ、このウラノスが君と同類だって?……笑わせないでよ」
突如、突風が吹き荒れ、ナックルゼファーとバイカンフーがそれに煽られる。
マルス「悪いけど……」
バイカンフーに折られたカラミティブレードが瞬時に修復され、さらに野太く伸びる。
マルス「格が違うんだよ」
斬るというよりは、殴る感覚で二機を大きくフルスイング。
防御も間に合わない二機が大きく仰け反って倒れる。
ロム「ぐっ! 大丈夫か? トウヤくん」
トウヤ「……操作系が少し鈍くなってますが、少し調整すれば問題ありません、戦えます!」
伝えながら手早くその調整を終え、ナックルゼファー、そしてバイカンフーが立ちあがる。
そして、入れ替わるようにして三機の機体が傾れ込む。
アヤ「今よ! SRXチーム、集結! フォーメーションRよ!」
ライ「了解!」
リュウセイ「うおぉぉぉ!」
散開していた三機のSRXチームが再び集結、アヤの指示の元で独自のフォーメーションを組みながらウラノスへと接敵していた。
リュウセイ「チェェェンジ! Rウィング!」
R−1が飛行形態に変形して先行するなか、まずはR−3パワードとR−2パワードが仕掛ける。
アヤ「まずは、私からよ! ストライクシールド!」
ライ「続いていきます! ハイゾルランチャー、シューッ!」
アヤの攻撃に。間髪入れずにライがハイゾルランチャーを散弾式のバーストモードで発射。
激しい弾幕の中、先行していたR−1が人型へと変形し、最後の攻撃をかける。
リュウセイ「最後はオレだ! T−LINKダブルナッコゥ!!」
両手に念動フィールドを集中させるT−LINKナックルのラッシュ。
だが、それらは全て障壁に阻まれている手応えがリュウセイに感じられた。
リュウセイ「くっ、ならこれでトドメだぁ! T−LINKソード!!」
すでに両手に集中させている念動フィールドを剣のような形状となり、そのままウラノスへと弓矢の如く放った。
アヤ「っ! リュウ!」
ライ「いけるか!?」
ウラノスの障壁、R−1のT−LINKソードがひしめき合っている。
だが、確実に違うのはコクピットで必死なリュウセイに対して、マルスは余裕顔を作っているというところだ。
マルス「前よりは少し成長したんじゃないかな?」
パァン、と儚く散っていくTLNKソードに、リュウセイは呆気ともとられる表情を隠せない。
587
:
蒼ウサギ
:2011/10/17(月) 21:56:27 HOST:i118-17-220-118.s10.a033.ap.plala.or.jp
ヴィレッタ「止まるな! リュウセイ!」
ヴィレッタの叱咤でリュウセイは、慌ててウラノスから離れて、ライとアヤの元に合流する。
ヴィレッタのR−GUNパワードも丁度そこにいた。
リュウセイ「た、助かったぜ隊長〜」
ロム「だが、君達のコンビネーションでもウラノス……いや、マルス・コスモは余裕すら感じさせる」
トウヤ「とりあえず、このまま固まっていては危険です!」
言うが否や、狙っていたかのように、特大の“雷”がその場に落ちてきた。
幸いにも各自が状況を理解していたため、誰もがそれに直撃することはなく散開できたがウラノスの圧倒的強さに対抗策が見出せないでいる。
それでも、誰も諦めてはいない。
リュウセイ「せっかく、ここまで来たんだ! ここで無様に帰ったらせっかくのチャンスが無駄になるだろうが!」
リュウセイが吼えると、マルスがバカにするように笑う。
マルス「あはは、それなら大歓迎だよ。まぁ、誰も帰す気ないんだけどね!」
リュウセイ「うるせぇ、ガキ大将! 絶対、そいつ(ウラノス)をぶっ倒して、ハイリビードを取り戻してやらぁ!」
その時、リュウセイの魂の叫びに応えたかのようにR−1の目が光った。
そして、コクピット内に響く機械音声。
―――READS TO THE ENEMYレベル、一定値ヲ オーバー。
パイロット及ビ機体ノ 安全ヲ 優先シ。T−LINKシステムカラ ウラヌス・システムヘ移行。
リュウセイ「ウラヌス…システム?」
―――現在ノ 戦況ヲ 打開スルタメ「パターン『ONLY ONE CRASH』ノ 解除ヲ 要請スル
リュウセイ「そ、それは!?」
変化を起こしたのはR−1だけではなかった。
ライ「なんだこの数値は…! 今まで以上にエンジンの出力が安定している!?」
アヤ「これって……!」
ヴィレッタ「『ONLY ONE CRASH』……パターンOOCの解除をR−1。いや、ウラヌス・システムが望んでいるという事だな」
すなわちRシリーズによる合体。SRXになることである。
恐らくはこの中では最も有力な戦力となりえるだろう。
リュウセイ「隊長!」
ヴィレッタ「……よし、パターンOOC解除を承認する!」
リュウセイ「おっしゃあ!」
すぐさま、三機のRマシンが合体のフォーメーション体性に入る。
トウヤ「よし、なら時間はこちらで稼ぐ!」
ロム「こちらも付き合うぞ!」
絶え間ない“雷”の無差別攻撃に合体を邪魔されまいと、二人の機体がウラノスへと疾走する。
ライ「念動フィールド、ON! トロニウムエンジン、フルドライブ! 各機、変形開始!」
アヤ「変形開始! プラスパーツ、パージ!」
リュウセイ「いっくぜぇ! ヴァリアブルフォォォメーーーション!!」
舞い上がる三機を見て、マルスは無邪気に笑った。
マルス「おもしろいなぁ。もっと楽しませてくれるなんてぇ」
そんなマルスの視界に、ナックルゼファーとバイカンフーが入り込む。
トウヤ「悪いが、これ以上君を楽しませるわけにはいかない!」
ロム「我らの力を受けよ!」
ナックルゼファーのDナックル。バイカンフーのゴッドハンドスマッシュが決まるが、障壁でその装甲に傷一つつけることはできない。
トウヤ(ちぃ、どうやったらこの障壁を破ることができるんだっ!)
ロム「退くぞ、トウヤくん!」
トウヤ「! 了解っ!」
588
:
蒼ウサギ
:2011/10/17(月) 21:57:30 HOST:i118-17-220-118.s10.a033.ap.plala.or.jp
ウラノスの反撃が来て上手く回避する二機。まるで興味ないといった“ふ抜けた攻撃”。それでも気が抜けない凄まじさを誇っていた。
それだけの攻防でSRXチームの合体は終えていた。
リュウセイ「天下無敵のスーパーロボットォォォォッ! ここに! 見参!!」
全長約50mは、それでもウラノスの半分だが圧倒的な頼もしさを味方に与えてくれた。
ライ「凄い…! 今までで最高の安定出力だ。大尉の方は大丈夫ですか?」
アヤ「えぇ。怖いくらい大丈夫よ。だから、リュウ、今まで通り精一杯やりなさい!」
リュウセイ「おう! いくぜ、マルス! これがオレ達の力だぁぁ!」
§
かつて、男は守れなかった。
友を。愛すべき家族を。そして、愛する者を―――。
全てを失った男は、ただひたすらにそれらを奪った“モノ”己が剣を振るうしかなかった。
折れてしまった剣を。
だが、その先には……
………………………
……………
………
ヴィナス「もう、後戻りはできない」
この計画は、いつから思いついたのだろうか?
あの時、敗れた時?
それとも、ウラノスと出会った時?
ザオスをその手にかけた時?
―――もはや、そんなことは忘れた。
ヴィナス「さて、頃合いですか」
589
:
藍三郎
:2011/10/24(月) 23:46:39 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
=遊戯室=
ヘファイストスの爆発で起こった熱波は、遊戯室の三分の一を吹き飛ばす程のものだった。
幸い、爆発をいち早く察知したセレナが、部隊を引かせたことで、G・K隊側の犠牲は無かった。
しかし、ヴァルカンに引導を渡し、爆心地にいた灯馬と蛇鬼丸は……
ムスカ「灯馬ぁっ!!」
マザーグース「! ヴァルカンのヤツ、やられたか!?」
あれだけの規模の爆発だ。ヴァルカンは当然、灯馬も生きていられるとは思えない。
そんな、絶望的な光景を前にして……
セレナ「大丈夫よ!」
セレナの凛とした一声が、放心しかけた彼らを引き戻した。
セレナ「あの子は、あれぐらいじゃ死なないわ!今は、あのデカブツピエロに専念して!」
彼女の言葉は、単なる気休めや希望的観測とは思えない、力強い確信に満ちていた。何をうろたえる必要があるのかと言わんばかりに。
少なくとも、バミューダストームの三人は、彼女の判断に一切の疑念を差し挟まなかった。
彼女は、夜天蛾灯馬に関して、未だ自分達の知らぬ何かを知っている。
そうでなくとも、彼らには、長年自分達を引っ張って来た社長への信頼があった。故に、彼らは標的を、マザーグースに絞る。
マザーグース「グ、ウゥ!!」
拳が、爪が、ミサイルが、そして雷撃が。ナアサリイ・ライムに着実に損傷を与えている。
周辺に展開したロストセイバーやギガマシーンは、既にあらかた破壊されている。
新たに援軍を呼び出すことも可能だが、それはできない。
現在、シャングリラの全戦力は、マルスのいる楽園室に集結させている。
そこから一機でも下がらせて、“万が一”を起こす確率を上げるわけにはいかない。
アルテミスの首領という立場に関係なく、マルス・コスモは、彼の目的のため、必要不可欠な存在なのだから。
とはいえ、今ここを突破されてしまえば本末転倒だ。
マザーグース(この手だけは、使いたく無かったがネ……)
覆面の下で舌打ちしつつ、マザーグースは回線を繋ぐ。
590
:
藍三郎
:2011/10/24(月) 23:47:50 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
マザーグース『クロォソォ、クロォソォ……』
クローソー「…………」
マザーグースから、自分一人に向けられた呼びかけにも、クローソーは耳を貸さない。
どうせ、耳の腐るような罵利雑言に決まっている。
こちらからの恨み言など、百万語を連ねてもまだ足りない。代わりに電撃を百万発叩き込んでやる。
無視を決め込み、唯電撃を放つことのみに専念していたが……
マザーグース『ダフニー……ダフニー・ムーア』
ぽつりと発した一言が、クローソーの脳内を、鋭く抉った。
この聴覚が、初めて感知した名。それでいて、強い懐かしさを感じさせるその名は……
クローソー「それ……は……」
表情を一変させたクローソーは、返事を放っていた。
マザーグース『そウだ。それは、ユウの本当の名前ダ。正確には、ユウの人格の元(ベエス)となった、記憶(メモリイ)の持ち主の名さ。
まァ、ユウ自身と言っても差し支えなかロウ』
クローソー「…………」
クローソーは何も言わない。しかし、その聴覚は、マザーグースの一語一句を余さず脳裏に刻んでいた。
ソレは、彼女の根源に在る、抗い難い誘惑だった。かつては人間だった自分。機械の体ではない、温かな血の通いし、生身の体。
マザーグースの“調整”により、普段は抑えられているものの、消えることなく、彼女の記憶の深奥に残り続けていた。
一度その名を聞けば、否が応にも共鳴してしまう。
麻薬のように、故郷のように、自らの欠けた一部であるかのように、深い訳も分からず求めてしまうのだ。
彼女の反応に、内心ほくそ笑みながら、マザーグースは続ける。
マザーグース『アア、認めようともサ。ユウは出来損ないのガラクタなどではない。
例え機械の体(ボディ)であろうトモ、心(ハァト)を持った、一人の立派な人間(ヒュウマン)ダ。誇ッていいヨ』
この期に及んで、歯の浮くような褒め言葉。今更こんなものが通用するなどと、向こうも思っていまい。
だからこそ、不気味なのだ。何故そんなことを言い出すのか、理解できない。
クローソー「何が……言いたい?」
既に奴の意図に関心を持ってしまっていることが、奴の狙い通りだと言うことに気付かぬまま……
591
:
藍三郎
:2011/10/24(月) 23:49:00 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
マザーグース『なァに、そろそろ気は済んだダロウと思ってねェ。
反抗期というのかな? ミイにも覚えがあるヨ。若者なら、誰にでもあることダ。
全て許してあげようじゃないカ。安心して、パパ(ミイ)の下に戻っておいで』
猫撫で声で語りかけるマザーグースに、クローソーは声を張り上げる。
クローソー「ふざけるな! この期に及んで命ごいか! 私はもう、貴様の言いなりになどならん!」
かつて彼女の中に埋め込まれていたコントローラーは、既に取り除かれている。
マザーグース『ノウ、ノォーウ。そんな無粋な真似はしないヨ。ああ、するものか。ユウはユウの意思で、ミイの下に戻って来るコトになる』
クローソー「そんなことがあるものか! 一体何を企んで……」
マザーグース『おーやおや、隠しているのハ、果たしてどちらかナ?』
老人の舌には、嘲弄だけでない、憐れみが乗せられていた。
クローソー「……!」
マザーグースの指摘に、クローソーは押し黙る。その言葉は、彼女の真芯に届くものだった。
マザーグース『分かっているんだロウ。ユウがミイの下を離れてカラ、どのぐらい経ツ?
ユウを創ったのはミイだ。今どんな状態(コンディシオン)カは大体分かる。そろそろ、体が鈍くなっている頃なんじゃナイかな?
ユウのこれまでの戦いのデエタは見させて貰ったヨ。ザキュパスのリミッター解除は、ユウの機体(ボディ)に大きな負荷(プレッシャア)を加える。
それ以外にも、最凶四天王相手に相当無理したそうジャないか。合金の外装は平気でも、ユウの中身はもうボロボロのハズさ』
それは事実だ。今も、重い体を更なる負荷を加えることで、無理矢理動かしている。
当然、金属疲労は蓄積し、崩壊の時は加速度的に速まっていく。
このままでは……
マザーグース『ユウはもう、長くない』
ああ、そうだ。
マザーグース『ユウを直せるのは、ミイだけだ』
ああ……そうだ。
どんな機械も、経年劣化というものが存在する。
まして、クローソーのような精密なアンドロイドとなれば、定期的な調整や部品の交換は必須となる。
アルテミスにいた頃は、マザーグースがずっとそれを行って来た。
彼の持つ技術は、失われた世紀のもので、この世界には存在しない。
マザーグース「ユウは人間ダ。人間なら、己の生存を何ヨリ願うのが、当然の姿だヨ。それが機械にはない、生き物の本能というものダ。
ミイの下に戻ってきたまえ。そうすれば、ミイがユウを直してアゲる。
それだけじゃ無い。マルス様が神となり、更なる異世界の技術が得られれば、ユウは、失われたユウの下の体を取り戻すことさえ出来るだロウ。
ミイはミイの望みさえ叶えられれば、それでいい。昔の確執など、水に流してあげるヨ」
クローソー「…………」
マザーグース「ユウだって壊れたくはないだろう?
生き延びたければ、あの邪魔者どもを片付けて、ミイの手を取りたまえ。
ユウの命のために、ユウの輝かしき未来(フュウチャア)のために!!」
592
:
蒼ウサギ
:2011/11/02(水) 00:19:46 HOST:i114-189-111-112.s10.a033.ap.plala.or.jp
=楽園室=
リュウセイ「いっくぜぇぇ! ブレードキィィィック!!」
空高く舞い上がった直後の垂直蹴りが、ウラノスへと繰り出される。
だが、それすらも障壁で阻まれてしまう。
マルス「あはは! こんなものなのかい? 君達の力は」
リュウセイ「まだまだぁ!」
一度、障壁を弾いてSRXは大地に立つ。
すかさず放ったのは、右手に込めた緑色の光球だ。
リュウセイ「こいつをくらえぇ! ドミニオンボーール!!」
光球は放たれた途端、次々に色を変えながら複数の弾がウラノスへと傾れ込む。
マルス「っ!」
マルスを驚かせたのは、それが障壁を破ったからだ。
立て続きの攻撃とはいえ、それはSRXのパワーが障壁のエネルギーを上回ったことを証明している。
トウヤ「チャンスだ! 今の内に皆、仕掛けるぞ!」
それは、もはや反射的な行動だった。
雷が落ちて、自機に当たろうが、風で吹き飛ばされようが関係ない。
攻撃できる僅かな隙を即席のコンビネーションで可能な限り繰り出した。
あたかも、セッションを奏でるかのように拳の一撃、剣の一太刀、弾丸の一発でも本体に当たればいい。
ただ、それだけの目標をもって一同は攻撃していた。
お世辞にも華麗とはいえない。
しかし、それ故に、マルスは“先読み”し辛かった。
マルス「くっ! まるでハエのようだよ!」
リュウセイ「あんまりオレ達を舐めてんじゃねぇ!」
SRXの渾身の拳がウラノスに決まった。
確かな手ごたえを感じつつも、ウラノス自体は、ビクともしていない。
ライ「ちぃ、バリアを通過しても、奴の装甲が異常だ!」
リュウセイ「諦めんなライ! SRXは……地球を守るスーパーロボットなんだぞ!」
瞬間、マルスの顔が嘲笑に歪んだ。
マルス「な〜にが、地球を守る、だよ!」
巨大な手がSRXを掴みあげる。半分もの体長差があれば、大人と子供のようなものだ。
マルス「君達は、“この世界の地球”を守る義理なんてない! お前達は別の世界の地球から来たんだからね!」
リュウセイ「それがどうした! 世界は違っても地球は地球だ! 守るべき理由ができたんなら関係ねぇ!」
SRXの胸部が開き、剣の柄を掴み引き抜く。
ゾル・オリハルコニウム・ソードと呼ばれるそれはウラノスの手を斬りつけた。
マルス「こいつ…!」
ウラノスの手から解放されたSRXは、すぐに後退。そこへヴィレッタのR−GUNパワードが駆け寄って来た。
ヴィレッタ「今よ! このR−GUNの真価を見せてあげましょう!」
ライ「隊長、まさかハイパートロニウムバスター(HTB)キャノンを!? しかし……!」
確かに今のトロニウム・エンジン及びT−LINKシステムの状態はこの上ない万全だ。
しかし、以前のヤシマ作戦エレバージョンで行った所謂固定砲台とは違い、今回は本格的な実戦であり、シミュレーションも行っていない。
不安要素のある機体は欠陥品という、ライの軍人らしい考えがどうしても先走ってしまい躊躇してしまう。
アヤ「ライ、私なら大丈夫。やってみせるわ!」
ライ「大尉…!」
リュウセイ「オレもだぜ! ここを逃したらもうアイツに決定的なダメージを与えるチャンスはねぇ!」
ライ「……わかった。その代わり、絶対外すなよ!」
593
:
蒼ウサギ
:2011/11/02(水) 00:20:17 HOST:i114-189-111-112.s10.a033.ap.plala.or.jp
三人の心が一つになったのを確認したヴィレッタは、少しばかり表情を和らげアヤに己の機体を託した。
ヴィレッタ「では、アヤ。後は任せたわ」
アヤ「了解! システムコネクト! T−LINKフルコンタクト! メタルジェノサイダーモード、起動!」
その声に従う様にR−GUNパワードが瞬く間に変形を始めた。全身全てがまさに“砲身”となって、SRXの手に収まる。
ライ「トロニウム・エンジン、フルドライブ!」
アヤ「リュウ、トリガーを預けるわ!」
リュウセイ「エネルギー充填、120%!」
砲身の中で強大な光のエネルギーがくすぶり始める。
トウヤ「よし、各自散開!」
その兵器が何かは知らされていないが、強力なのを察してかトウヤが皆に促す。
攻撃に夢中になっていたもの、倒れていた機体は各自、支え合いながらウラノスから散り散りに離れ行く。
そして、巻き込みにならないそのタイミングを見計らって、リュウセイは、
リュウセイ「くらえ! 天上天下! 一撃必殺砲ぉぉぉぉぉぉっ!! 」
トリガーを引いた。
予想よりも速く、そして予想よりもより強大なそのエネルギー砲は、ウラノスが例え障壁を張ったとしても破られたであろう。
これは、単なるビームではない。念動力を集中させた力なのだから。
マルス「な、何で…何でなの!?」
HTBキャノンによる攻撃は、ウラノスの左腕や翼を破壊させることに成功していた。
マルスにしてみれば、このような痛手は初めてのことだった。
彼にしてみれば、相手は常にイージモードでのコンピューターキャラクター。
“先読み”によって、どんな相手でも常にパターン化されているかのように錯覚してしまう。
その上、自分は常にウラノスという最強キャラクターだ。追い詰められることなど考えた事もない。
ましてや、負けるという考えなど持てるはずもなかった。
トウヤ「動きが止まった!」
キョウスケ「畳み掛けるのなら今しかないが……」
トウヤは、判断に迷った。
確かに左腕及び左翼の破損は二度とないチャンスかもしれない。
だが、何か胸騒ぎがする。トウヤの中に秘められた危機本能が何かを知らせているかのように。
そして、その予感は的中した。
「苦戦、しておられるようですね。マルス様」
ウラノスが創り上げた暗雲を割って出てきたのは何の変哲もない一機の<アルテミス>の量産機・フレギアスM。
だが、パイロットの声だけは一線を博していた。
ヴィナス「お邪魔でなければ、お手伝いしましょうか?」
トウヤ「ヴィナス! 悠騎くんが倒したんじゃないのか!?」
ヴィナス「まぁ、さりとて屈辱は感じませんでしたが、彼には一度、敗北しました。ですが、生憎と死亡はしていないもので」
鼻につく物言いでヴィナスは言い放った。
だが、誰もが疑問に思う。
キョウスケ(何故、奴はこのタイミングで現れた? しかもその機体で)
あまりにも不気味だ。
元々腹の底が読めない人物なだけに尚更その不気味さが増す。
マルス「ヴィナス……ウラノスを回復している間、奴らの遊び相手になっててよ」
ヴィナス「フッ、無茶を仰いますねぇ。あなた一人でもここまで苦戦なされた相手です。私が相手したところで3分ともちませんよ
こんな機体なら尚更です」
マルス「じゃあ、何しにきた―――」
ヴィナス「なので……」
瞬間、ヴィナスの目の色が“紫色”に変化。
無駄のない動きでウラノスの胸部中心……いわゆる、搭乗者の部分にレーザーソードを突き立てていた。
ヴィナス「私がウラノスを頂きにあがりました」
野心成就にヴィナスの表情は、この上なく笑っていた。
594
:
蒼ウサギ
:2011/11/26(土) 00:53:48 HOST:i121-118-104-17.s10.a033.ap.plala.or.jp
彼女は、重い鈍痛と共に意識を取り戻した。
視界がまだはっきりしないながらも、まず目の前で確認できたのは倒れ伏せているブレードゼファーの姿だった。
ミスティ(勝った、のだな……私は!)
目の前の勝利に浸るのはミスティにとっては後だ。
そう、己の役割は自らの主を護るため。
ミスティ「マルス…様は?」
やけに静かなのは、もう主の圧勝で戦闘が終わってしまったのか、それとも自分の感覚がまだ戻ってないかのどちからだと思っていた。
やっとの思いでスクルドを立ちあがらせ、ウラノスの方を見るまでは。
ミスティ「――――――!」
驚愕、憎悪、嫌悪、激情etcetc。
様々な想いが混ざり合って彼女のココロを沸騰させる。
ミスティ「き、貴様ァァァァァァァァ!!」
ウラノスの胸部に突き立てられたレーザーソードを見るなり、ミスティは動いていた。
彼女にとって、それは冒涜に値する行為。
そして、それを行った者には死すら生ぬるい。
ヴィナス「ほぅ、お目覚めですか?」
ミスティ「ヴィナスか!」
相手が誰だろうともはや関係ない。全てを持って鉄槌を下すのみ。
その瞳を“紫色”に染めて。
ミスティ「うぉぉぉぉおおお!!」
かつてない強力なクリスタロルシャインがヴィナスの搭乗していたフレギアスMを襲う。
凍てつく絶対零度のそれはもはや一つの機体が消滅するくらいの威力を誇っていた。
しかし。
ヴィナス「なるほどなるほど。さすがは、あなたも“アンフィニ”を発動できる者。
いや、正確には“インフィニティ”でしたか? まぁ、似て非なるものということでしょうね」
ヴィナスのその声は、ウラノスから響いてきていた。
あの瞬間にすでに乗り移っていたことということになるのだろう。
ヴィナス「原種が同じでも、デバイス(機体)が違えば発動条件も自ずと変わってくる。フフフ、どうやら私の仮説は正しかったようだ」
ミスティ「貴様ぁ! ウラノスはマルス様のものだ! すぐに離れろ!」
ヴィナス「生憎と、彼はすでに虫の息です。まぁ、早めに緊急手当てを施せば命くらいは助かるかもしれませんけどね?」
そう伝えつつ、ミスティにぐったりした様子のマルスを見せつける。
傍からはピクリともしない、まるで死体のようだが、一途の希望がミスティの理性を縛りつけていた。
ミスティ「き、貴様というやつはぁぁぁ!」
ヴィナス「フフフフ、できれば貴女も共に私の同志になってもらいたかったのですが、その反応では無理そうですねぇ。
できれば“眠っているままマルス様はG・K隊によって戦死なれれた”という筋書きでいきたかったのですが」
ミスティ「―――っ!」
さんざんミスティの逆鱗に触れながらも、ヴィナスに噛みつかなかったのはやはりウラノスの手にあるマルスの存在があったからだ。
それを知っているからこそヴィナスは、利用していた。
ミスティは、マルスの守護を存在意義と捉えている節がある。恐らくは“失われた世紀”での出来事が起因しているのだろう。
まさに、生身のマルスは、ミスティにとっては最大の人質といえる。
ミスティ「貴様……何の目的でこんなことを!」
ヴィナス「彼(マルス)とて貴女と同じ存在。……ですが、まだまだ搭乗者としての能力は未熟。ウラノスの性能に頼り切っている感じでした
つまり、無知な子供に核ミサイル発射装置を持たせているようなものです。……これでは、我々、いや、私の復讐は果たせません」
ミスティ「どういう―――」
二の句にを告げる前に、ミスティのスクルドが動いた。
何故なら何の前触れもなく“瀕死のマルス”を放り出したからだ。
だが、それまで鎮静を図っていたG・K隊には分かる。
トウヤ「! 待て! それは―――」
ヴィナス「吹き荒れろ、雹雪!」
595
:
蒼ウサギ
:2011/11/26(土) 00:54:26 HOST:i121-118-104-17.s10.a033.ap.plala.or.jp
ウラノスが天を指すなり、それは起こった。
マルスが起こしたような嵐とは比較にならないほど強く、そして激しい雹。
それがピンポイントでスクルドとマルスを包み込むようにして、宣言通り吹き荒れている。
罠と薄々気がつつトウヤの制止が一歩遅かったのだろうか。否、それでもミスティは止まらなかっただろう。
彼女は、マルスを見捨てたりできることはできない。
ヴィナス「フフフフフ、どうです? 少し応用すればあなたの氷の力にも引けをとらない凄まじさでしょう?
と、いっても、今頃は雹の吹雪の中で必死にマルス・コスモを捜索中…といったところでしょうか?
あぁ、念のためあなた方にご注意を」
ヴィナスの言葉はG・K隊達へのものだった。
ヴィナス「下手に助けようとしてあの雹の嵐に飛びこまない方がいいですよ。……あなた方も氷づけにされてしまいますから」
リュウセイ「ヴィナス、てめえぇぇ!」
衝動的に仕掛けたSRXだったが、その動きを先読みしていたヴィナスが余裕の笑みを浮かべてカラミティブレードで応戦。
ヴィナス「説明が遅れて申し訳ありません。今の私の体質は以前のものと少々違っていましてね。いわゆる、究極生体兵士。
あなた方、マテリアルと“失われた世紀”の遺伝子を解析し、それを基とした薬物投与や遺伝子構造を施したのが今の私なのです」
リュウセイ「じゃあ、てめぇがウラノスに乗ってられるのもそのせいか!」
ヴィナス「実験は成功でした」
搭乗者空間の中で、ヴィナスは愉悦に笑っていた。
アヤ「な、なんなの! この人…」
ライ「狂っているとしか思えない…だが!」
強い。それだけは、念動力者ではないライでも感じられた。
それは、超人的な能力が加算されたからではない。パイロットスキルそのものが極めて優れている事を軍人家系ならではに嗅ぎ取ったのだろう。
ライ(確かにヴィナスの言うとおりかもしれん。マルス・コスモなら、まだSRXならば勝利の可能性はあった。
だが、ウラノスを手にし、かつその搭乗条件を満たすために様々な能力を身につけた奴ならば……)
少なくとも性能は互角としても、パイロットスキル、多重特殊能力という時点でSRXだけでは勝機は薄いとライは感じた。
ヴィナス「さぁ、もうすぐあの二人は永遠の時へと眠るのだろうね。氷の世界へと」
ヴィナスの胡乱な瞳で見つめる先にはあの猛吹雪の中、なんとかマルスを見つけて安心したように丸まっているスクルドの姿だった。
そしてそれは次第に氷塊へと変わっていった。
ヴィナス「いい氷像です。タイトルは、そう……『永遠に解ける事のない主従』なんてのはいかがでしょう」
底知れぬ闇。
今のヴィナスにはそれが垣間見れた瞬間だった。
596
:
藍三郎
:2011/11/27(日) 22:12:57 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
返答は、大気を八つ裂く轟音に乗せて放たれた。
マザーグース「!??」
ザキュパスのありったけの雷撃が、ナアサリイ・ライムの電磁障壁を貫通し、その巨体を揺るがせる。
マザーグース「……それが、ユウの返答(アンサア)かい!」
クローソー「そういうことだ。私は貴様を倒す。その決定に変わりはない!」
彼女の声色には、一片の迷いも躊躇も無かった。
マザーグース「馬鹿なことを!ミイを殺してしまえば、ユウを直せる者は誰もいない!分かっているンだロウ?」
ああ、十分分かっている。
先ほどの一撃で、また体に負荷をかけた。全身の機械(なかみ)が悲鳴を上げている。間違いなく寿命を大きく縮めただろう。
この体はボロボロで、生物に当て嵌めれば、とうに気絶するか発狂してもおかしくない痛みに苛まれているはずだ。それでも戦い続けていられるのは、機械の体ゆえだ。
更に、体への負荷を抑えるためのリミッターそのものが、既に壊れかけている。
自然治癒能力を持たぬ機械の体ゆえに、この身は劣化していく一方だが、同時に機械だからこそ、その痛みに屈さず、戦い続けていられる。
マザーグース「ハッ! 自滅覚悟の特攻かい! 所詮は失敗作というコトか!」
誘いをかけていた時の猫撫で声を捨て去り、憎悪に濁った声で面罵する。
マザーグース「ユウはやはり、人形(ドオル)だヨクロォソォ。
ミイの糸を裁ち切ったつもりでいても、結局はあいつらの都合の良いように動いているんだからネ!」
それに対し、クローソーは怒り返すのではなく、自嘲するような笑みを浮かべてみせる。
クローソー「ああ、そうだ。私は何をやっているんだろうな。
奴らのことなど、見捨ててしまえばいいんだ。
私の仲間はもうどこにもいない。
誰を裏切ろうが、誰を敵に回そうが、どうでもいいはずなのに……」
だが、それでも。ほんの短い間であったけれど。
そこは仲間という寄り所を失った自分にとっての紛れも無い居場所であり……
クローソー「奴らを見捨てて貴様の下に降る。ラキシスやアトロポスを見捨てた貴様と同じように……
それが人間らしさと言うのなら、そんなものは糞喰らえだ。私は人形のままで十分だよ」
貴様を殺すことだけを考える、壊れた人形のままで……
マザーグース「こぉの、ガラクタがぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ナアサリイ・ライムの両腕が動く。右掌のバキュームが唸りを上げ、左手の指人形ビットが乱れ飛ぶ。
そこに二体の影が割って入り……
ゼド「おおおぉぉぉぉっ!!」
白豹「…………」
ヘラクレスパイソンのアッパーが右腕を跳ね上げ、バキュームの軌道を変える。
大気の渦は、宙に浮く瓦礫を吸い込むに留まった。
一つ一つが自律して、不規則に動く指人形ビットも、一流の暗殺者たる白豹の動態視力の前では、亀の歩みに等しい。
音速を越える爪が、一指残らず切り裂いていく。
597
:
藍三郎
:2011/11/27(日) 22:14:34 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「NEXUS−DRIVE、解放!!」
白豹「……解……放……」
駄目押しとばかりに、切り札たるネクサスドライブを解放する二機。
紫色のメーザーの光に包まれる中、ヘラクレスパイソンは、頭部のヘッドパーツ『ゴルドホーン』を腕に装着する。
白豹もまた、己が内で氣を練り上げ、刹牙の両の爪へと収束させていく。
近付いた敵機(むし)を薙ぎ払わんと、再度電磁障壁を展開しようとするマザーグースだったが、反応は無い。
先ほどのザキュパスの轟雷は、障壁を貫くのみならず、内部にも電流を流し、システムをショートさせていたのだ。
マザーグースの最高傑作ナアサリイ・ライムと言えども、度重なる激戦で受けた損傷は、確実に蓄積されている。
この巨体は、今も絶えずナノマシンによる修復が行われているが、それでも、復旧には数十秒を要するだろう。この好機を逃してはならない。
ゼド「ゴルドクラッシャー、スカイハイアッパーッ!!」
天に向かって飛び立つ様は、まるで黄金の滝が逆流しているかのよう。兜虫の独角は、バキュームを備えた右腕の付け根を穿ち、砕き飛ばす。
白豹「白家殺体功秘奥伝……身醒経!」
全身を陽の氣で満たし、身体能力を極限まで引き上げる白家の奥伝。
高速移動から繰り出す爪撃が、ナアサリイライムの左腕を、螺旋状に切り裂く。輪切りにされた左腕は、連鎖して爆散する。
マザーグース「キ、キ、キ、貴様らぁ!!」
両腕を失ったナアサリイライムは、これ以上の反撃は許すまいと、風船爆弾と鏃型爆弾を放つ。
だが、それらは全て、上空から降り注いだミサイルにより爆破された。
ムスカ「甘ぇよ。手数の多さと種類が自慢らしいが、ああも惜しげもなく開帳されちゃ、“演算”するのに苦労はねぇ。それだけの時間は、稼がせて貰ったぜ」
単に弾同士をぶつけるだけではなく、爆風に他の弾頭を巻き込み、尚且つ、友軍には被害を及ぼさぬよう計算して、全ての敵弾を排除してみせた。
演算者(カリキュレイター)ならではの、神業的な芸当である。
ムスカ「そこに留まった時点で、俺らの仲間を先に通した時点で、既にあんたは詰んでいるんだよ」
ハイドランジアキャットは、変形したグロリオーサのメーザーウェーブ照射装置を、既にナアサリイ・ライムへと向けている。
紫色に輝く三角形の波動が、巨大な道化人形へと照射される。
マザーグース「ふざけるなァッ!!」
その時、傍に転がっていたキング・ハンプティが、ナアサリイ・ライムとの間に割って入った。まだコントロールの生きていた最後のギガマシーンである。
それとて損耗が激しく、トライアングル・パニッシュメントの直撃を受け、沸騰・融解する。
その余波は、ナアサリイ・ライム自身にも少なからず損傷を与えた。
マザーグース「ミイは、ミイは負けられないンだヨ。ユウ達のよウなガラクタや、間違った歴史の人間なンかにはネ……
再びあの子を、クリスを蘇らせ、この手に抱くまでは!!」
ゼド「その名は……」
ムスカ「さっきもそんな事を言ってたな。それがあんたの戦う理由って奴か」
狡猾で不敵な道化者。
奇矯な物言いと奇怪な衣装で覆い隠されていた彼の本性が、ついに曝け出されようとしていた。
598
:
藍三郎
:2011/11/27(日) 22:17:01 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
マザーグース「おお……ミイの愛しい愛しい我が子(マイ・サン)よ。
元気で溌剌で、夢と希望に満ち溢れていた我が子よ。
守ってあげると誓った。その夢を叶えてあげようと思った。
だが、それは叶わなかった――
あの忌々しき“未知なる存在”……アレがミイから、我が子を……ミイの全てを奪ったンだ!!」
未知なる存在――
月の宮殿でも語られた、かつて<アルテミス>のいた世界を滅ぼした存在(モノ)……
彼ら(アルテミス)は、G・K隊をロスト・アースへと転送し、エッジやゼルの死の元凶となった怨敵だ。
今もまたハイリビードを奪い、一つの世界を滅ぼそうとしている。
確かに彼らは、強大にして冷酷な敵であるが……
同時に、住んでいた世界を滅ぼされ、流れ行くしかなかった敗残者でもあるのだ。
かつて、ミッキー・グリシャムと呼ばれた天才科学者もその一人。
何より大切な我が子を奪われ、自身もまた、絶望と悲嘆の中で死んでいくと思われた。
だが、彼は生き延びた。光輝く、巨神に救われて。
マザーグース「ウラノスと、マルス様を見た時に思ったヨ……あれこそは、クリスが夢見ていた救世主(メシア)の姿そのものだと!」
例え生き延びたところで、我が子を失った時点で、彼は既に廃人となっていた。
そんな彼に、生きる意志を与えたのも、マルス・コスモだった。
マルスの容姿が、息子と瓜二つだったわけではない。
だが、彼の妄執と渇望は、その少年と息子を重ね合わせるようになった。
マザーグース「そウだ……全ては、あの子の望みを叶えるため。
世界を救う英雄(ヒイロオ)になる……その夢を叶えた時初めて、マルス様は“あの子(クリス)”になる。
おお、愛しき我が子(マイ・サン)……
それだけガ、何もかも失ったこの世界(ロストセンチュリイ)に残された、ミイのただ一つの望み……!」
マルスを救世主とすることで、世界を救う英雄になりたいという夢を描いた息子(クリス)を取り戻す。
客観的に見て、彼の考えはどうしようもなく破綻している。
だがそれは、彼の内においてのみ真っ当な理論であり、
壊れそうになった精神を、歪め、捻じ曲げることで繋ぎ合わせた。
そうして狂うことでしか、彼は生きられなかった。
誰かに話し掛けているのではない。ただ、悲願の成就を前に、己の中でずっと渦巻いて来た感情が、漏れ出てしまったのだ。
その言葉は、攻撃を仕掛けるバミューダストームの面々にも届いていた。
この着ぐるみの老人を動かして来たものが、大切なものを失った悲嘆と、
それを取り戻さんとする狂おしいまでの渇望であることは理解できたが……それでいて攻撃の手を緩めることはない。
ゼド「…………」
多弁なゼドも、口を噤んで戦いに専念している。彼も妻子を持つ身……もし、マザーグースと同じ目に遭ったなら、彼と同じ道を走らぬとは言い切れない。
しかし、子を想う親の愛の深さを知るからこそ……相手は一歩も退けないのだと確信出来た。
これまでと何も変わらない。こちらも譲れないもののため、全力で戦うだけだ。
599
:
藍三郎
:2011/11/27(日) 22:17:39 HOST:59.226.183.58.megaegg.ne.jp
セレナ「……一つだけ聞くわ。あなた、息子さんを世界を救う英雄にしたいのよね?
だったら、そのために、一つの世界を犠牲にするのは、矛盾しているんじゃないかしら?」
セレナの問いに、マザーグースはただ首を傾げて見せる。
マザーグース「何もおかしいことなど無いダロウ? 英雄(ヒイロオ)とは――
何より大切なもののために、他の全てを犠牲にする者のことなのだからネェ」
今の彼に、真に愛と呼べる感情が残っているのかどうか疑わしい。
彼の脳髄にあるのは、壊れかかった己の精神を維持しようとする本能のみ。
そのためならば、幾らでも己に都合の良い論理を展開することが出来るのだ。
セレナ「――なるほど、否定はしないわ」
セレナは、瞳に冷たい光を宿らせて、マザーグースを見下ろす。
セレナ「だったら、私もかつて“英雄”と呼ばれた者らしく……私の大切な家族のために、貴方を、殺すわ」
彼女が戦う理由は、今も昔もただ一つ。世界を守ろうなどという大義ではなく、身近にいる大切な人を守るため。
しかし、世界の平和無くして、身近な人々の平和などあり得ない。
そう思って、世界を脅かす敵全てと戦い続けていれば、いつの間にか軍神と呼ばれるようになっていた。
マザーグース「マルス(クリス)の邪魔はサセない。
ミイは、ミイの愛する全てを、取り戻すんだッ!!
この間違ったガラクタ(ジャンク)だらけの世界を壊してネェ!!」
しわがれた声を震わせて、咆哮するマザーグース。
その守るべきマルスの身に今、何が起こっているのか、彼は知らない……
600
:
蒼ウサギ
:2011/12/15(木) 02:13:44 HOST:i125-204-44-38.s10.a033.ap.plala.or.jp
=楽園室=
ヴィナス「さてと……」
一仕事終えた、という気分でヴィナスは改めてG・K隊達に向き直る。
それは、マルスが搭乗していたウラノスとは、また違う圧迫感があった。
そしてまたかつて、アフロディテに搭乗していたヴィナスのそれととはまるで風格が違っていた。
ヴィナス「ここで消耗しているあなた方を潰してしまっても構わないのですが……今となってはそれも無意味ですね」
トウヤ「……どういうことだ?」
単に力量の差のことを告げているのかと、戦場にいる何人かが憶測したが、ヴィナスはそれを嘲笑した。
ヴィナス「私の本来の目的は、この“ウラノスに乗る身体を得ること”なのです。……そのために、あなた方をこの世界へ招待し、“マテリアル”と
なって頂きました。お陰で感謝していますよ」
キョウスケ「究極完全兵士、という名目はブラフだったのか?」
ヴィナス「いいえ、<アルテミス>という組織としての計画は、確かにそれと間違いないですよ。
ただ、私はその計画に乗じて自分の身を『ウラノスに適性できる身体を得る』という別の計画を遂行したに過ぎないのです」
それは、意図的に初めから組織を、仲間を裏切るつもりだったということを意味していると宣言しているようなものだった。
だから先の情け容赦のないマルス達への反逆も躊躇いがなかったのだろう。
だが、理解しがたいものが多々あった。
トウヤ「何故、そんなことを…?」
ヴィナス「……友を失った時、家族を失った時……。そして、愛する者を失った時、あなたはどうしますか?」
その言葉を発したヴィナスの声色に、誰もが戸惑い、そして即答できる者はいなかった。
ヴィナス「私とて、以前は、G・K隊のような人命を守るような組織に所属し、その信念の元で己の命を張っていました。
ですが、それと同時に一人の人間でもあったのですよ」
“未知なる存在”との遭遇。
たった、それだけで全てが失われてしまった。
護るべき者、護りたい者さえ……。
ぶつけようのないこの怒りと悲しみの矛先は、自然と復讐心へと変わっていく。
ヴィナス「あなた方も、いずれ分かります……」
それは、まだ護る者がある彼らへの妬みか、それとも憐れみか。
ヴィナスの紫色に変化した瞳からは、自然と涙が零れていていた。
だが、その時だ。
そのヴィナスの言葉を払拭させる檄が響いてきた。
トウヤ「ふざけるなっ! 散々、<アルテミス>の仲間を利用しておきながら一人だけ復讐?
メンバーの中には君と同じ想いの人もいたかもしれないじゃないか!」
一拍の静寂。それまでヴィナスのペースに乗せられていたG・K隊達が一斉に目を覚ました瞬間だった。
全員、一瞬まるでトウヤが別人に見えたからだ。
タツヤ「あ、あの……トウヤさん?」
トウヤ「いや、もし、悠騎くんが今この場で起きていたら今のような事を言ったかなって思って……。でも、同時にそれは僕の考えでもある」
そう、危なっかしくもどこまでもまっすぐな悠騎なら先ほどのトウヤのような台詞を言ってもおかしくはないだろう。
長い付き合いだけに、誰もが納得をせざるを得なかった。
ゼンガー「確かに。このまま黙ってこの状況に目を瞑るなど、アイツは臆病ではない」
ヴィナス「やれやれ、先ほども申した通り。あなた方と戦う事は無意味なのですよ。よって、このまま双方撤退すべきだと思いますがねぇ」
リュウセイ「うるせぇ。大体、そのウラノスの中のハイリビードを取り戻すためにも、オレ達はお前と戦う意味があるんだよ!」
ロム「そう、これ以上、ハイリビードの力を悪用させるわけにはいかない!」
各機が態勢を立て直して改めてウラノスに対して戦闘体制を取る。
それに対し、余裕をもてあましているのだろう。ウラノスは、棒立ちの姿勢で待ちうける。
トウヤ「逃がさないよ……ヴィナス!」
601
:
藍三郎
:2012/01/16(月) 05:59:33 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
――パパ、パパ!
――おお、クリス、見てごらん。今日はお前の誕生日だろう。
これは、パパからのプレゼントだ。
“ウラノス”という。宇宙で一番強いロボットで、世界を平和に導く救世主なんだ。
――そうかそうか、嬉しいか。
――パパはな……
マザーグース「お前の喜ぶ顔を見るのがァ……何よりも……嬉しいのサ……」
大破したナアサリイ・ライムのコクピットから這い出したマザーグースは、息も絶え絶えに何事かを呟いていた。
紫色の覆面は、半ば焦げ落ち、皺に塗れた黄色い皮膚をさらけ出している。
その肌には、延命処置であろうサイボーグ手術の痕跡が、あちこちに見られた。
クローソー「…………」
芋虫のように地を這う老人を、クローソーは冷たい目で見下ろしている。
マザーグース「アハ、アハハハ……そウだな、今度は家族揃って旅行にでも行こウじゃナイか……」
かつてマザーグースと名乗ったその男から、言葉が返って来ることはない。
彼はクローソーを……いや、周りにある現実(もの)など見てはいない。
彼の精神は、最も幸福だった時代へと戻り、そこから抜けられなくなっている。そこにはない何かを見ている彼は、心の底から幸せそうな顔をしていた。
クローソーの掌に、紫電が迸る。憎んでも憎み切れなかった怨敵。
今なら指先で触れるだけで、この男の脳髄を沸騰させ、死に至らしめることが出来るだろう。だが……
クローソー「……ッ!!」
掌が光り、電球が放たれる。しかし、それはマザーグースの頭を撃つことなく、すぐ傍の瓦礫を砕くに留まった。
セレナ「なーんか、勝ち逃げされちゃったって感じ?」
クローソーの後ろにはいつの間にかセレナが立っていた。スカーレットフィーニクスは全てのエネルギーを使い果たし、傍で蹲っている。
この機体のみならず、他のバミューダストーム機を含め、現在まともに動ける機体は存在しなかった。
彼らの戦いが、それだけ凄まじいものであったということだ。
セレナ「ま、それは私たちも同じだけどね。急いで片付けるつもりだったけど、この有様じゃあ……」
セレナはそうぼやきながら、上を見やる。
楽園室へと繋がる通路は、ナアサリイ・ライムの“自壊”により、瓦礫で塞がってしまっていた。
バミューダストーム四機の波状攻撃は、ナアサリイ・ライムの武装を一つ一つ削ぎ落とし、後一歩のところまで追いつめていた。一方でマザーグースもまた、鬼気迫る執念で、彼らの猛攻を耐え抜いた。
双方が力を使い果たし、僅かな差でバミューダ側が勝利を収める寸前で……
彼は自らの最高傑作(ナアサリイ・ライム)を、通路の天蓋ごと破壊したのだった。
通路は、ナアサリイ・ライムの巨体と瓦礫によって閉ざされ……楽園室への突入を阻むと言う彼の目的は、己の身と引き換えに達成されたのだった。
しかし、正気と狂気の狭間を綱渡りするように、ナアサリイ・ライムを操っていた彼の神経は、この極限の戦いの末についに均衡を崩し、狂乱の深淵へと沈むこととなった。
セレナ「何が何でも私たちを先に行かすまいとする執念……瓦礫を壊して進もうにも、私達にもうそれだけのエネルギーは残っていないしねぇ」
どんな行動を起こすにせよ、体勢を立て直す頃には、向こう側での戦いは全て終わっているだろう。
この怪物を、ウラノスとの決戦の場に行かせなかっただけでも戦果と思うしかあるまい。
602
:
藍三郎
:2012/01/16(月) 06:00:43 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
セレナ「そんで、どーすんの?殺るならとっとと殺っちゃいなよ」
クローソー「………………」
クローソーの指先から、僅かに電流が走るが、すぐに掻き消えた。
クローソー「……私は、こいつに思い知らせるつもりでいた。私達の力を、怒りを、憎しみを。ガラクタと見下した相手から全てを奪われ、絶望させてやりたかった。だが、こうなっては……」
無邪気な赤子のように、けらけらと笑うマザーグース。心を無くした者の、空白の笑顔だ。
彼はもう、死んだも同然。今更トドメを刺したところで、何の意味があるだろう。
それに……口には出さないが、一つ気付かされたことがある。
今の壊れた彼を見下ろし、生殺与奪の自由を握っている自分は、自分達をガラクタと見下していたこの男と同じではないかと。自分にそんな感情があることを、クローソーは否定できなかった。
慈悲をかけるつもりはないし、その事が正しいとも思わない。ただ、きっと今、この男を殺しても、自分の虚しさは埋まることはないだろう。それだけは確信できた。
クローソー(ラキシス、アトロポス……私は、弱くなってしまったのだろうか……)
セレナ「それは違うわ。その迷いと躊躇いは、貴方が人間である証よ」
クローソーはハッとなる。セレナは、自分の考えていることなど、全て見透かしているようだった。
セレナ「ねぇ、“これ”、殺さないなら、私達が預かっても構わないわね?」
クローソー「何……?」
そう言って、指を鳴らすセレナ。すると、彼女のすぐ傍に、白豹が姿を見せる。白豹は、マザーグースの前に割って入り、その指を老人の頭に当てる。
セレナ「どう?やれそう?」
白豹「生きてさえいればな……俺はこの術に精通している訳ではないが、大老師様の知識をお借りすれば……」
セレナ「じゃ、打ち合わせ通り、手早くやって頂戴」
頷く白豹。いつしか彼の指先に、青白い光が点り始めた。
クローソー「お前達は、一体何をするつもりなんだ……?」
困惑するクローソーに、セレナは悪戯っぽい笑みを浮かべてみせた。
セレナ「むふふ。ちょぉっと、こいつの頭の中身を覗かせて貰おうと思ってね」
「社長ぉ――――っ!!」
その時……ヴァルカンとの死闘を終えた灯馬の様子を見に行ったムスカ達の叫び声が聞こえた。
ムスカ「灯馬が、灯馬が……!」
クローソーは、傍らの女の顔を見る。振り返ったセレナのどこか神妙な顔つきは、何が起こったのか、朧げに察しているようだった。
ヴァルカンのヘファイストスが燃え尽き、周囲の壁面や床が全て融解した区画の中心部に、それはあった。
ごつごつした、蛹のような形をした赤い物体。
まるで血液を濃縮して固めた岩のようであった。
戦いの最中も“それ”は微動だにしなかったが、確かに脈打ち、鼓動を刻んでいた。
603
:
藍三郎
:2012/01/16(月) 06:01:51 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
=楽園室=
ヴィナス「仕方ありませんね。貴方がたには、未だ絶望が足りないようだ。
仲間をもう十人は失えば、悟ることでしょう。力というものの残酷さを」
カラミティブレードを構えるウラノス。
ライ「啖呵を切ったはいいが、何か手はあるのか?」
アヤ「ここで彼を逃がすわけにはいかない。けど……!」
マルスは戦闘に関しては素人同然だった。強大な力を、ただ振り回しているに過ぎなかった。しかし、ヴィナスの技量の程は、これまで交戦してきた彼らは重々承知している。
いかに強くとも、幼児の駄々ならまだ付け入る隙がある。しかし、ヴィナスという優秀な操縦者を得た今となっては、ウラノスは真に完全無欠、勝機など微塵もない。まして、ハイリビードを抱えているのだ。
ロム「……いや、手はまだある」
トウヤ「ロムさん、それは一体……」
ロム「奴に聴かれては意味がない。ただ、一太刀、この剣狼と流星で、奴に一太刀浴びせることが出来れば……」
ウラノスを中心に、障壁が拡大していく。また、天井間近で渦巻く黒雲も、雷を轟かせている。細胞を押し潰すようなプレッシャーは、刻一刻と増して行く。
ロム(ガデスの時と同じだ。今、ウラノスはハイリビードをその内に宿しているが、完全に取り込んでいるわけではない。
先程ウラノスと切り結んだ時……ほんの微かだが、懐かしい、暖かい気を感じた……今なら分かる。あれは、ガルディ兄さんの気だ。
もしも兄さんの意志が、ハイリビードに宿り、ウラノスの支配から守っているのだとすれば……)
ロムは、剣狼の柄をより強く握り締める。ガデスの時と同じく、この剣狼と流星を使い、解き放つことも出来るのではないか。
勝算は薄い。だが、それ以外に光明は見出だせなかった。
604
:
蒼ウサギ
:2012/01/26(木) 01:04:28 HOST:i114-189-96-123.s10.a033.ap.plala.or.jp
ロム「いくぞ、ヴィナス! この天空宙心拳継承者、ロム・ストールが相手だ!」
それは、まさに自分を狙ってくれといわんばかりの啖呵で切り、ウラノスに向けて一気に特攻をかけた。
誰から見てもそれはあまりにも無謀であろう。
だが、考えなしに突っ込むほど彼は愚かではない。
ヴィナス(何か企んでいますね?)
ヴィナスは、眼前に迫るバイカンフーを捉えつつも、周囲の動きにも注意した。
他の機体に動きは……あった。
ヴィナス「やはり、あなたですか」
即座にバイカンフーに向けてカラミティブレードを槍の如く伸ばす。
バイカンフーは、もちろんだが、その影で隠れているナックルゼファーの存在を確認したからだ。
気配で、第六感で。
グサリッ! という、鋼鉄が砕けるような確かな音と手応えを感じた。
ヴィナス(限りなく“真性に近いアンフィニ”状態である今の私に小細工は無理なのですよ!)
ルドルフ並のコントロール性で悠騎やトウヤのような“アンフィニ”並のパワーを得る。
しかも、副作用を起こさないのが最大の利点と言えるだろう。
そもそも、ウラノスの搭乗条件の一つに、“べラアニマ”という細胞が必要不可欠だった。
マルスを始め、ルドルフさえも彼にとってはこの日のための研究材料<マテリアル>に過ぎなかったのだ。
ヴィナス「後はこの私の調整相手のために、這い蹲るといい」
そう、思っていた。
しかし、それはどうやら簡単にはいかないようだ。
トウヤ「ぐぅぅぅぅ!!」
ナックルゼファーの胴部にズッサリ刺さっているカラミティブレードだが、かろうじてコクピット部の胸部に達していてはいない。
もちろん、少し力を加えればすぐさま真っ二つになるだろうが、両手のDナックルで剣を挟み込むようにして固定されている。
そして、バイカンフーは、そのまま接近し続けていた。
すぐさま、カラミティブレードの刃を二分かれさせて、バイカンフーを後ろから刺そうと思ったが、ナックルゼファーのDナックル―――。
正式には、Dウォールで刀身全体を包み込んでいるのが邪魔していてできない。
あわよくばカラミティブレードを破壊しようと試みる魂胆だろう。
ヴィナス(フッ、なんとリスキーな)
鼻でその行為を笑いながら、向かってきたバイカンフーの頭上に特大の雷を落とす。
瞬間、バイカンフーが剣を振り上げるが全身に稲妻が走ってその場で止まってしまう。
ロム「ぐぁぁぁぁぁ! ぐぅ!」
ヴィナス「愚かですねぇ。剣が避雷針にでもなると思ったのですか? 限界があることを思い知りなさ―――」
瞬間、9時の方向にとてつもない“エネルギー量”を感じ取った。
SRXだ。すでに、二発目のHTBキャノン発射態勢に入っている。
ヴィレッタ「アヤの分は、私がフォローする。いけるな?」
アヤ「はい! リュウ、頼んだわよ!」
リュウセイ「おっしゃあ! いくぜ、ヴィナス!」
ライ「お前が調子に乗るのもここまでだ!」
リュウセイ「こいつで決まれ! 天上天下! 一撃必殺砲ぉぉぉぉぉぉぉぉおおおっ!! 」
一発目とそぐわぬ強力なエネルギー砲。
あの攻撃の前では障壁も意味をなさないであろう。
あくまで、マルス・コスモだったら。
605
:
蒼ウサギ
:2012/01/26(木) 01:05:04 HOST:i114-189-96-123.s10.a033.ap.plala.or.jp
ヴィナス(障壁のエネルギーを全てHTBキャノンの直撃領域に集中展開)
障壁が全身を守るバリアならば、ヴィナスが行っていることは盾の生成だ。
確かにHTBキャノンは、障壁を破れる超強力な武器だが、あらかじめ当たる領域に一点集中して障壁を強化させれば貫通は困難となる。
いわゆる、ピンポイントバリアのようなものだ。
だが、その計算式は言うほど容易くはない。ヴィナスの頭脳。なにより、強力な“第六感”を得た“アンフィニ”状態だからこそ可能にしたのだろう。
そして、それは見事に成功した。
何層にも組み上げられた障壁が次々破壊されながらも、最終的にはHTBキャノンの威力が弱まりウラノスへのダメージを無力化させてしまった。
ヴィナス「これで、あなた方の切り札も破れたようなものですね」
一瞬の静寂。
そして、次の瞬間だった。
ロム「天空宙心拳極意!」
ヴィナス「っ!」
視界に“それが”入って来た時は、すでに遅かった。
守る障壁もない。何より、それ―――バイカンフーからは微塵も“第六感”が働かなかった疑問で動けなかった。
ロム「運命両断剣!! ツインブレェェェェェェェド!!」
ウラノスの分厚い装甲に、バイカンフーの奥義が決まる。
ガデスのように切り裂かれはしなかったが、ダメージは相当なものだ。
ヴィナス「っ!」
カラミティブレードから手を離して思わず後ずさる。即座に機体再生を試みるも、進行が遅い。
ゼンガー「なるほど、「無の境地」や「明鏡止水」といったものの類か……どうやらそういったものが奴の弱点のようだな」
ロム「オレの場合、それだけではない。この剣狼と流星。そして、ガルディ兄さんの意志が導いてくれた」
強く、そして確かな手応えと共にロムはウラノスを真っ直ぐに捉える。
ヴィナス「フッ、それがどうしたのです? あなたのダメージを比較すれば、私のダメージなどまだ生ぬるいものですよ」
ロム「それはどうか? 先ほどの一太刀は、決して無駄ではない!」
片方の剣をウラノスに向けて、言い放つ。
ロム「返してもらうぞ、ハイリビードを!」
606
:
藍三郎
:2012/02/08(水) 23:04:43 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
ヴィナス「! こ、これは……!」
ロムが運命両断剣ツインブレードでウラノスに付けた傷は、致命傷には程遠い規模だ。
しかし、見ればその傷口は輝き出しているではないか。
やがて、生物が血を流すように、傷から眩いエネルギーの奔流が噴き出す。
その光は、ロムの剣狼と流星へと吸い込まれていく。
ヴィナス「ハイリビードが……!」
これまで余裕を保っていたヴィナスの表情に、始めて動揺の色が浮かんだ。
彼は即座に事態を察知する。マザーグースの研究資料によれば、あのロム・ストールが持つ剣狼と流星は、<鍵>としての特性を持つ。
ウラノスに宿るハイリビードに干渉し、吸い出すことも可能とするのだろう。
むざむざ喰らうつもりは無かったとはいえ、あの二刀にはもっと警戒しておくべきだった。
ロム「これがハイリビードの力……!何と言う……!」
一方のロムも、剣に集まるハイリビードのエネルギー量に圧倒されていた。
これほどの量が、ガデス、そしてウラノスに取り込まれていたとは。
精神を集中し、剣を振り落とさぬよう、しかと握り締める。
ロム(感じる……ハイリビードの中に、兄さんの意志を!)
やはり、あの感覚は錯覚ではなかった。
ガデスを葬るため、共に犠牲となった兄ガルディの魂は、ハイリビードの内へ留まり、悪しき心を持つ者の自由にされるのを防いでいたのだ。
そして今も、ロムの意志と共鳴し、ハイリビードを剣狼と流星へと吸い込んでいる。
ロムの頭上から雷が落ちる。しかし、剣狼と流星が避雷針となって、ロム自身には命中しない。
雷の技を使う彼には、天候を介した攻撃は元より効果が薄いのだ。
更に他の機体も、ロムの邪魔はさせまいとウラノスに攻撃を仕掛ける。
ヴィナス「くっ……! やむを得ませんね。これまでに奪われたものは諦めるとしましょう」
ウラノスは、激しい攻撃の隙を縫ってカラミティブレードを振るい、現在吸い出されているハイリビードを斬り裂いた。
ロム「!」
ウラノスもまた、剣狼や流星と同じく<鍵>たる遺産。ならばその付属品であるカラミティブレードも、ハイリビードに干渉できる特質を持つ。
ロム「ぐっ……!」
ハイリビードとのリンクを断ち切られ、バイカンフーはその反動で後方へと吹っ飛ぶ。
ロム「全てを取り戻すことは、できなかったか……!」
剣狼と流星に戻ったハイリビードは、総量の半分程度だ。残りは未だウラノスの内にある。
ヴィナス(さて……)
ここで彼らを倒し、ハイリビードを再度奪い返すのが常道。しかし、今のでハイリビードの半分近くを吸い取られた。
現在のウラノスは、ハイリビードを始め、内で複数のエネルギーが混在している状態だ。
完全に制御下に置かない限り、同じことの繰り返しになる可能性は高い。
ヴィナス(限定的な世界跳躍なら、今の段階でも可能……)
今のウラノスは、シャングリラとほぼ同等の機能を有している。
ここまで荒らされた以上、この要塞も、アルテミスも最早必要ではない。
ヴィナス(保険のつもりでしたが、これは、彼らの手を借りることになりそうですね)
素早く思考を終えると、ヴィナスは決断を下す。
ウラノスの輪郭が歪み、その造型が希薄になっていく。
アネット「ウラノスを中心として、限定的な空間歪曲が発生しているわ!」
神「空間転移の兆候だな、これは……」
ライ「まさか、逃げるつもりか……!」
ロム「くっ、させるか!」
ロムは、残るハイリビードも取り戻そうと、背後の壁を蹴り、ウラノスへと突っ込む。
しかし、剣狼の切っ先が触れそうになる寸前で、ウラノスの巨体は霞のように掻き消えてしまう。
アイ「ウラノスの反応、消失……」
由佳「そんな……」
ロム「ぐっ……」
指の間から血が流れる程、拳を握り締めるロム。取り戻したハイリビードは総量の半分程度だ。これで、あのLOSTを倒せるのか……
それに、ウラノスにハイリビードとのリンクを断ち切られたと同時に、兄の気配もまた消えた。もう一度同じことは出来ないだろう。
だが、茫然とする間もなく……
激しい震動が、シャングリラ内部を襲った。
タツヤ「な、何だ!?地震か?」
パルシェ「そんなことあるわけないでしょ!けど……」
607
:
藍三郎
:2012/02/08(水) 23:06:46 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
その頃……
セレナ達は要塞の中枢、コントロールルームへと足を踏み入れていた。種々雑多なアンドロイドに加え、クリスチャン、クリスティンが複雑な機械類を制御していた。
クローソー「お前達、どうやってこの場所を……」
シャングリラの機能を司る、頭脳および心臓にあたるこの場所の位置は、彼女のメモリーには存在しない。
最高幹部(最も、アルテミスに生身の人間は数える程しかいないが)のみが位置を知らされ、十重二十重のセキュリティで守られているはずの
この最重要区画へのルートを、セレナ達はあっさりと見つけて、無事目的地まで辿り着けていた。
セレナ「それは、こいつに教えて貰ったのよ。いえ、奪い取ったというべきね」
セレナは後ろの、白豹に頭を抑えられているマザーグースを指し示した。
白家の奥伝、念心伝通経。
相手の脳に氣を流し、自身と相手の脳の波長を重ねることで、相手と思考を共有し、情報を余すところなく引き出す。
現在においては、既に使い手は途絶えたとされる秘中の秘技。
本来なら、白豹ですらこの奥伝は修得出来ていない。
だが、白豹と思考を共有している大老師、夏彪胤の知識を借りることで、この奥伝を実現している。
現在、夏彪胤が白豹に掛けているのもまた、この念心伝通経なのだ。
また、術の難度以外にも、危険と制約がある。
相手と思考を共有するため、相手の思考に自身が飲まれる、あるいは思考が衝突して、精神が壊れる危険を多分にはらんでいる。
しかし、白豹はそうはならない。白家の暗殺者として完成された彼は、精神を極限まで研ぎ澄まし、同時に感情を限りなく摩耗させている。
相手の思考が混ざったところで、風景か何かと同じ、意に介さないのだ。
クローソー「そうか……」
そこでふと気付く。
クローソー「お前、もし私が奴を一思いに殺していたら、どうする気だったんだ?」
セレナ「やぁねぇ、私は信じていたわよ?クロちゃんのコ・ト♪」
クローソー「く、クロちゃん!?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるセレナに、クローソーは一瞬困惑する。
セレナ「冗談はさておき……その時はもちろん、全力で止めるつもりだったわ。
こいつを生け捕りに出来ること事態、慮外の幸運だったし、この好機を逃してたまるもんですかっての」
例え、貴女を壊してでもね……声には出さずとも、セレナが一瞬見せた冷たい眼光からは、目的の為には一切容赦をしない、機械のような無慈悲さが感じられた。
セレナ「さぁて、どっから手をつけようかしら。アイちゃんが来てくれると早いんだけど、私達だけでも出来る限り進めておかないとね」
シャングリラのコントロールルームを制圧し、ロスト・アース並びにセレナ達の世界への帰還を可能とする。ハイリビードの奪還と並ぶ、こちら側の最重要目的だ。
ゼド「ハイリビードについては、まだ情報が入っていませんが、これで何とか、片道切符は避けられそうですな」
その時……楽園室と同様、この区画でも、激しい揺れが走った。
セレナ「ここは要塞の制御中枢……万が一の事態も起こらぬよう、他とは比べものにならない程頑丈に作っているはず」
ムスカ「それが、ここまで揺れるってこたぁ……」
要塞そのものに深刻な損害をもたらす程の事態が起こったと見るべきだろう。
ウラノスと仲間達との戦闘の余波か、それとも……
608
:
藍三郎
:2012/02/08(水) 23:11:18 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
しかし、想像を働かすまでもなく、外部の映像を表示するモニターを起動させた途端、事態は明らかとなった。
シャングリラに何かが絡みついている。要塞をすっぽり包むサイズのそれは、不規則に蠕動を繰り返す、巨大な肉の塊だった。シャングリラに纏わり付き、締め上げている。
ムスカ「何だ、ありゃあ……」
ゼド「恐らくは、あれが、L.O.S.T.……」
白豹「全にして一なるもの、一にして全なるもの……」
ゼドの言葉を肯定するように、夏彪胤の知識を共有する白豹は、頷いて見せた。
その確たる形のない不気味な姿は、今までに登場した魔鬼羅や法眼眩邪とは明らかに異なっていた。
その巨体から感じられるのは、この世のあらゆる邪悪を混ぜ合わせ、煮詰めたような圧倒的な負の気配。
現実的な危機感も相俟って、モニター越しでさえ魂を喰われるような戦慄を覚える。
蛸が獲物を締め上げるように、巨大な触手が要塞へと食い込み、装甲を軋ませていく。
船を襲っては海の藻屑に変える伝説上の生物、クラーケンを連想させる光景だった。
セレナ「とにかく、この事を由佳ちゃん達に伝えましょう。通信は使える?」
白豹「問題ない」
マザーグースの知識を得た白豹が、コンソールを素早く動かし、映像と文章を送信する。
ゼド「……以前にも、ハイリビードの出現した地点にL.O.S.T.の軍勢が現れたことがありましたが……
白豹「そうだ。あれの狙いもまた、この地にあるハイリビード……今だその力が完全ではない内に、消し去ろうとしているのだ」
ゼド「アルテミスは、頻繁に空間転移を繰り返して、要塞の位置を変えていたそうですが……」
それは、自分達の追跡を逃れること以上に、このL.O.S.T.に居場所を悟られぬためだったのでは……
マザーグース「ああぁ……ひぃぃぃぃぃ!!」
うめき声を上げるマザーグース。
白豹「映像を切らせてもらう。例え映像越しであろうとも、あれを長い間見ているのは危険だ」
傍らのマザーグースは、うずくまって体を小刻みに震わせている。
精神の壊れた今の彼に、この強烈な悪意は過ぎたる毒だ。
マザーグース「クリス……ああ……クリス……!」
その顔には、くっきりと恐怖の形が張り付いていた。息子を失った時のことを、思い出しているのだろうか。
ムスカ「いいぜ。どっちにせよ、外のことを気にしたってしゃあねぇ」
ハッチを確認して要塞から逃げ出そうにも、外は右も左もない無限の境界空間だ。例えあの化け物から逃れられても、待っているのは命尽きるまで境界を漂流し続けるという、長い絶望だけだ。退路があるとすれば、ただ一つ……
セレナ「この要塞を転移させて、振り切るしかないわね。けど……」
問題は、空間転移を行おうが、現在要塞にへばり付いているこれが一緒について来ては意味がないということだ。それでも、逃げ場の全くない今の状況よりは、遥かにマシであるが……
白豹「要塞の外周に備え付けた兵器を、一斉に起動させる。無論、誘爆を起こし、外周はするだろうが……一時、奴を引きはがすことは出来よう。
その隙に、我々のいる中枢部のみを転移させる。我々全員を収容できるだけの空間は、確保できるはずだ」
そう言いながら、白豹は、彪胤は、高速でコンソールを動かしている。一刻を争うということだろう。
セレナ「なるほどね。けど、間に合うの?こういうのって、結構複雑なプログラムが要るんじゃないかしら」
白豹「それも問題ない。どうやら、この男も今回のような事態は想定していたらしい。
既に専用のプログラムが組み上がっている」
マザーグースは、芋虫のようにうずくまり、まだぶるぶる震えていた。
白豹「それと……このシャングリラでは、我々のいた世界まで帰還することは出来ない。
あちら側……この男の言葉を借りればロスト・アース、最も近接したあの世界にしか転移できん」
セレナ「でも、彼らは多数の異世界を自由に行き来していたようだけど……」
白豹「それは、ウラノスの補助があってこそだ。
この要塞に積まれた次元転移装置だけでは、一つの世界と今我々がいる境界を移動する程度が限界だ」
ゼド「と、なると、我々が元の世界に還るには……」
ムスカ「この要塞だけじゃなく、ウラノスも必要ってことか……」
セレナ「ま、最初からこっちのゴタゴタ放り出して、元の世界に逃げ帰るつもりなんてないわ。
白豹! ぱぱっとやっちゃって!」
白豹「知道了(わかった)」
609
:
藍三郎
:2012/02/08(水) 23:13:27 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
夜天蛾灯馬が目を覚ました時、彼は見知らぬ地に一人立っていた。
空を覆う曇天。荒れ果てた大地。そして、辺りから漂う血と火薬の香り。
その源である何人もの亡骸が、大地にその身を横たえている。
彼らは日本の甲冑を着込んでおり、周囲には割れた兜、刀や槍、矢が突き刺さっていた。絶叫したまま固まったであろう顔からは、彼らの嘆きや無念が伝わって来る。
灯馬「何や……ここは」
漫画や映像作品で見たことがある。
まだ、人が刀や槍で殺し合っていた時代、旧世紀の日本の合戦場だ。
しかし、何故自分がこんなところにいるのか分からない。
灯馬「ボクは、さっきまで、ハゲのおっちゃんと戦っとって、そんで……」
意識を失う前後の記憶がはっきりしない。すぐに思い付く結論と言えば……
灯馬「夢でも見とるんか……?」
「夢か……まァ、似たようなもんだ」
声のした方向に振り向くと、男が一人、死体の山に腰掛けていた。
長い灰色の髪を後ろで縛り、大きな眼を爛々と輝かせている。
左右に釣り上がった口、下方に湾曲した顎、低い鼻と、男の顔立ちは、一言で言えば蛇に似ていた。
肋骨の浮いた痩せぎすな体を、返り血で染まった着物で包んでいる。
右手に携えた刀は、たった今腰掛けている人々を肉塊に変えたことを示すように、血液と肉片がへばり付いていた。
灯馬「お前……」
間違いなく、初めて見る顔だ。しかし、灯馬はこの男と以前に会っていた。
いや、つい先程まで、<肌身離さず>一緒にいたような……
灯馬「蛇鬼丸……か?」
問い掛けではあったが、灯馬は確信を持っていた。彼が常に発していた殺意と鬼気。
何より、男が手にしている刀。あれには、はっきりと見覚えがある。
彼の問いに、人斬り蛇鬼丸は、不敵な笑みで答えた。
610
:
蒼ウサギ
:2012/02/19(日) 02:54:17 HOST:i118-17-222-93.s10.a033.ap.plala.or.jp
白豹からの報告に、思わず由佳は苦い顔になった。
由佳「次から次へと……」
アイ「星倉艦長、現状のL.O.S.T.だけならば、コスモストライカーズだけでも排除可能かと思いますが……」
由佳「却下よ。この合体は、まだ未完成モノ。どれだけ境界空間に耐えられるかはわからない以上、リスクが高すぎるわ」
いくら強力な戦艦とはいえ扱うのは所詮、人間。
少しの判断ミスが自分だけではなく、ブリッジの人員を巻き込んでしまう惨事になりかねない。
由佳「なによりこれ以上の戦闘継続は控えたほうがいいわ。L.O.S.T.は白豹さんの案でいきましょう。
この艦は、負傷者の収容、及びその手当を最優先事項に」
アイ「了解。早急に救護班と補給部隊を準備させます」
§
総員、動ける者は、ただちに帰艦してください。
なお、損傷の低い機体は、損傷の大きい機体をカバーをお願いします。
トウヤ達、友軍勢力の回線に送られて来た由佳からの指示は、冷静を持ちながらも焦燥感を併せ持っていた。
無理もない。激戦の後にL.O.S.T.の侵攻だ。
SRXも今は合体が保てなくなり、分離している状態だ。
疲弊、損傷、被害。
総合的に評価すれば、<アルテミス>という組織には勝利したのだろうが、実質的にはヴィナス個人の一人勝ちであろう。
しかも、こちらは援軍が望めないままの延長戦。
否がおうにも、トウヤは悔しさに奥歯を噛みしめる。
もちろん、誰もが同じ気持ちであろう。
そう、ミスティのスクルドとの戦闘で相打ち同然……
いや、むしろ先に立ちあがったのは、スクルドなのだから敗れたといっていいのかもしれない。
星倉悠騎もその一人なのだ。
悠騎(くっそ……結局、ダメだったのかよ……)
意識が目覚めかけた時は、目の前でスクルドが凍らされている瞬間だった。
生きていた音声を拾った限りの情報では、その相手がヴィナスだということだということ。
ノイズまみれで仲間割れかどうかまで分からなかったが、とりあえずヴィナスはまだ倒してないという事実が悔やまれる。
それから幾度なく愛機を動かそうともがいたが、全身から力が抜けるような疲労感。
内部機器もだいぶ破損したお陰で最低限の生体維持はできても空調は故障し、
スクルドが攻撃した冷気が凍った装甲越しにコクピットの中へと流れてきている。
打傷、切り傷等の怪我もあるが、それ以前に凍死が危ぶまれる状況だ。
悠騎(こういう場合、寝ちまったらあの世行きなんだよな……割とマジで)
――――だったら、早く起きろよ。
ふと、懐かしいその声に、悠騎の眠気が一気に吹き飛んだ。
そして、夢か幻か。それとも、自分はすでに凍死してあの世に行ってしまったのか、
かつてエッジの愛機であったメテオゼファーが目の前に立って、手を差し伸べていた。
悠騎「エ…ッジ?」
かすれ気味の声で呟くや否や、帰って来た声は、彼とは全く違う声が帰って来た。
レイリー「なにビックリしてんのよ。アタシよアタシ!」
悠騎「れ、レイリー…なんで?」
レイリー「救出作業よ。みんなボロボロだから整備班も駆りだしてるの
ちょっと、待ってなさい。とりあえず、あんたの機体をオートパイロットで帰艦できるようにセットし直すから」
メテオゼファーのコクピットが開き、そこからレイリーが現れると、整備道具を片手にすぐさまブレードゼファーの外部ハッチを開く。
コクピットが現れると、そこに無理やり身体を潜り込ませ配線などを各機器に繋げ始める。
戦場時の応急処置に慣れているといった流れるような動きだ。
悠騎「お前、AWの操縦って、出来たんだな」
レイリー「機械のことを知らなきゃ、直すもの直せないじゃない。
……まぁ、あんた達みたいに戦闘はできないけど、動かせるくらいなら出来るわよ」
悠騎「そっか……」
先ほど聞こえた懐かしい声は、何だったのだろうか今ではもう分からない。
だが、今となっては衰弱しきったのか、安心したのか。悠騎は少し眠る事にした。
611
:
藍三郎
:2012/02/25(土) 09:55:25 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
第49話「虚妄の帝国 〜Paradise L.O.S.T.〜」
=地球=
デュオ「こっから先へ行きたきゃ、渡し賃を払いな。お前らの命でなぁ!!」
デスサイズヘルのツインビームサイズが、魔鬼羅の群れを大地と水平に切り裂く。
エイジ「居住区には、一匹足りとも通しはしない!」
レイズナーMk2のレーザードライフルが、正確無比な照準で、
飛行する死鬼羅を撃ち落とす。
コスモ・フリューゲルとコスモ・アークが、境界空間に旅立った後も、
こちら側に残された者達は、攻勢を強めるL.O.S.T.の軍勢から人々を護って戦い続けていた。
ミリアルド「必要ないのだ!この宇宙に貴様たちは!!」
ガンダムエピオンのビームソードが、最後に残った怒愚魔を両断する。
ムウ「ふぅ、これで仕舞いか?」
キラ「そのようですね……」
現在、地球とその周辺は、ゲペルニッチの力を借りた夏彪胤が結界を張り、L.O.S.T.の流入を防いでいた。
この結界には探知の効果もあり、敵の侵攻を事前に知ることも出来る。
これにより、ナデシコCを中心とした統合軍遊撃部隊は、
L.O.S.T.の発生地点にいち早く飛び、市民の居住区への侵入を阻んでいた。
だが、こうして探知できるのは、L.O.S.T.の存在が、この世界のすぐ間近に迫って来ているからだ。
この世界は今や、集中豪雨に晒されている小さな小屋のようなものだ。
今は雨漏りが激しくなっている程度。水を拭き取り、屋根の裂け目を塞ぐことが出来る。
だが、もし屋根が、雨の量に耐え兼ねて崩れ落ちてしまえば……雨を防ぐ術はなくなり、いずれ小屋ごと流されてしまうだろう。
そしてこの雨は、人類にとっては猛毒に等しいのだ。
今の戦いが無意味ではないとはいえ、時が来れば、全ての成果が水泡に帰す。
その事実は、戦う者達の心に重い影を落としていた。
そんな中……
マックス「何、彼らが帰って来た?」
美穂「はい、ロシア近海に落下した大型の要塞から、付近の統合軍に対し通信がありました。
コスモ・フリューゲルの星倉由佳艦長です」
ブリッジに歓喜が走る。先の見えないこの状況下で、
L.O.S.T.に唯一有効な手段であるハイリビード奪還に向かったG・K隊は、残された最後の光明なのだ。
シャングリラは、かつて南極で目にした時と比べ、見る影も無く破損していたが、G・K隊がいた中枢ブロックは無事だった。
後で聞いたところでは、L.O.S.T.にへばり付かれ、それを振り切るために要塞の外周部の兵器を一斉に起動させたらしい。
幸い、L.O.S.T.を引きはがし、無事こちらの世界へと戻って来た。
しかし、マックスらを迎えたのは、由佳の沈鬱な表情だった。
由佳「申し訳ありません……ハイリビードの奪取作戦は、不十分な結果に終わりました……」
口調に悔恨を滲ませて、由佳はあの戦いの成果を報告する。
マックス「そうか……」
君達が帰って来てくれただけで十分だ……そんな慰めの言葉も出て来ない。
この世界の存亡の掛かった、か細い希望の糸が、これで切れてしまったかもしれないのだ。
612
:
藍三郎
:2012/02/25(土) 09:58:31 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
マックス「彪胤氏……どうだろうか。
ロム君が持ち帰ったハイリビードの量だけで、L.O.S.T.の打倒は可能か否か」
マックスの視線の先には、白豹がいる。今、この場に夏彪胤はいない。
結界の維持のため、大臨亀皇に乗り、長年に渡って溜め込んだ全ての道(タオ)を出し尽くそうとしている今の彼は、すっかり老いさらばえた姿になり、ミイラのように干からびていた。
そんな状態の師に代わり、彼と知識と思考を共有している白豹が答える。
白豹「どちらであれ、答えることは出来ない。今回発現したL.O.S.T.の総体がどの程度のものかは、私を含め、誰にも把握できていないのだ。
ただ一つ分かっていることは、崩壊力の化身である奴に対し、世界の修正力であるハイリビードが有効だと言うことだけ……」
白豹は、彪胤は、慎重に言葉を選びながら続ける。
白豹「此度のハイリビードは、L.O.S.T.と対になる存在として誕生した。
その総量もほぼ同一のはず。ならば、量で劣るこちらに勝ち目は、恐らく……」
絶望的な宣告に、マックスを始めとする、多くの者達が顔を伏せる。
だが、その時、バン!と机を叩く音と共に、立ち上がった男がいた。
悠騎「力が足りねぇって言うんなら、俺達で補えばいいだけの話だろ」
由佳「お兄ちゃん……」
エイジ「そうだな。勝ち目の薄い戦いなど、これまで何回もあった」
ゼンガー「その度に我らは、死力を尽くして、勝利への道をこじ開けて来たのだ」
ジョウ「グラドスやザ・ブームの奴らを追い出して、ようやくここまで来たんだ。
今更そんな訳のわからねぇ奴らにやられてたまっかよ」
ミスマル「……我々は統合軍だ。この世界に生きる人々を護る義務と責任がある。
元より我らに、座して終わりを待つ安穏など許されるはずもないか」
由佳「ええ、それは、私達G・K隊も同じことです」
ありがとう、お兄ちゃん……
皆の、そして自分の戦意を奮い立たせるするきっかけを作った兄に、短く礼を述べる。
マックス「彪胤殿、我々の意志は聞いての通りだ。
どれだけ勝算が薄かろうと、我々は決して、自ら生き延びる道を諦めたりはしない」
白豹「……そうだな。あるいはその意志の強さが、欠けたハイリビードを埋めて余りある力を生み出すやもしれぬ」
ミスマル「そうと決まれば、無為な議論に費やす暇も惜しい」
彪胤とゲペルニッチの計算によれば、L.O.S.T.の到来は、もう明日に迫っているのだから。
ミスマル「サナダ少佐」
ローニン「はい。彪胤氏とゲペルニッチ氏の分析から、
L.O.S.T.が流入を果たす時期、及びポイントは、既に絞り込めています。
我々はそのポイントで待ち構え、L.O.S.T.の居る領域へと繋がる扉が開いた瞬間、
バトル7のマクロスキャノンから、ハイリビードを乗せた特殊弾頭を発射し――」
ムスカ「本体ってのは、あのシャングリラにへばり付いてたゲテモノのことか」
映像越しに、しかも長く見たわけではないが、あの肉塊の発する邪悪な意志は、今も心胆寒からしめている。
白豹「理想的にはな……しかし、例え消滅できなくとも、効果があることは間違いない」
ローニン「もし、最初の一撃で倒せぬ場合は、統合軍が保有する全ての反応弾頭を残らず発射します。
幸い、L.O.S.T.が侵入して来るポイントは宇宙空間です。周辺の被害を懸念する必要はありません」
ミリア「まさに総力戦ね……」
マックス「相手の戦力が分からない以上、出し惜しみは出来ないさ。それが世界の存亡が掛かっているとなれば、ね」
プロトデビルンとの決戦で封を解かれ、
その後、ゼーレに利用されて大きな脅威となった反応弾を、今まだこちらの切り札として使う。
その使用と存在の是非については、全てが終わってから論ずるべきだろう。
勝たねば、全てが終わってしまうのだから。
613
:
藍三郎
:2012/02/25(土) 10:00:06 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
=コスモ・フリューゲル 格納庫=
アネット「これが、灯馬君、なの?」
真っ赤に染まった、ごつごつした岩石のような物体……
それが、ヴァルカンとの激闘の末、シャングリラにて回収された、麟蛇皇の現在の姿だった。
莫大な熱量にて機体が融解し、原型を留めぬ状態になった。そう考えるのが自然だが……
ティファ「……この人はまだ、生きています……」
エナ「生命の脈動を、感じる……」
ニュータイプやサイコドライバー達は、その鋭敏な感覚で、“それ”が生きていることを悟っていた。
彼女らで無くとも、それがただの残骸ではないことは察せられた。
それほど、この物体は強い気配を放っていたのだ。
セレナ「ええ、ティファちゃんやエナちゃんの言う通り、これはまだ生きている。
こんな状態になってもまだ、ね」
エナ「卵……いえ、蛹……?」
エナが呟いた言葉に、セレナは感心したように肩を竦める。
セレナ「そうよ。この中に居るものは、今、新しい姿に生まれ変わろうとしているわ。
時が来れば、繭を突き破って蘇るでしょう。分かる人には分かっちゃうものなのね」
アネット(ニュータイプみたいな特別な力のないお姉ちゃんがそこまで分かっている方も不思議だけど……
まぁいいか、お姉ちゃんだし)
それだけでアネットは、すぐに納得していた。
セレナ「さて、問題はここから。この中から何が出て来るかは、私にも断定は出来ないわ」
セレナは、この物体に対し、一言も灯馬とは言わなかった。
セレナ「誰彼構わず斬らずにはいられない、血に飢えた悪鬼が出て来るかもね……」
イリアス、そしてヴァルカンと戦った時の灯馬を思い出す。
機体を真っ赤に染め、敵を斬殺しようとするその姿は、まさしく剣鬼と呼ぶに相応しかった。
セレナ「そうじゃなくても、今は大事の前よ。今の内に、宇宙に捨てるなり、叩き壊したりするなりが賢明かもね……」
パルシェ「そんな!」
タツヤ「そりゃねぇぜ!セレナさんよ!灯馬は俺達の仲間だ!」
セレナ「今まではね。けど、これからもそうなるとは限らない。あの子の抱えた闇は深い。
新たな最凶四天王……それ以上の脅威になるかもしれないわ。精神的には、貴方達より四天王(あいつら)に近いぐらいよ」
セレナはそこであえて、「私達」と自分のことを含めなかった。
セレナ「じゃあ逆に聞くけど、あの子の胸の内がどうだったか、はっきり言える人はいる?」
この問いには、誰も即答できなかった。ニュータイプの力をもってしても、彼の心の闇を見通すことはできなかったのだ。そんな中、最初に口を開いたのは彼女だった。
アネット「私は、灯馬君のことはよく分からなかったけど……お姉ちゃんのことは分かるよ。色々言ってるけど、お姉ちゃんは、あの子を助ける方がいいって思っているのよね?」
セレナ「流石はアッちゃん、バレバレか」
もし姉が本気で灯馬を排除するつもりなら、とっくにやっている。あの境界空間に放り捨てればそれで済む話なのだ。
セレナ「そうよ、私は諸刃の剣と分かっていて、彼をこの船に向かわせた。
あの時は、まさか別の世界に飛ばされるとは思ってなかったけど……その選択は間違ってなかったと思ってる。これからも、ね」
この戦いは絶対に負けられない。力が及ばなきゃ、どっちにしろ全て失う。
なら、戦力になりうるなら、どんな小さい可能性でも残しておく方がいい……
私はこの子の力が、逆転の一押しになると思っているのよ」
合理的な判断には程遠い、単なる女の勘であるが、彼女は今日までそれを信じて生き延びて来たのだ。
614
:
蒼ウサギ
:2012/03/15(木) 21:57:02 HOST:i114-190-102-73.s10.a033.ap.plala.or.jp
灯馬の問題も深刻ではあったが、整備班にとって各パイロットの修理、補給が最優先とされていた。
中でも、レイリーが頭を抱えていたのは、先の戦いで合体した二つの艦。コスモ・フリューゲルとコスモ・アークであった。
合体に成功したのは良かったが、分離後、各艦の火器管制に不具合が生じたのだ。
これが、作戦前だったからまだ良かったが、作戦後に発覚したら大変な事態を招き起こしただろう。
レイリー「確かに事前に報告してもらってたら、こちらとしては整備し易かったんだけどねー」
実質、G・K隊の総合整備長でもあるレイリーの前で星倉由佳と四之宮アイは、コスモ・アークのブリッジで正座をされられていた。
理由は、もはや言わずもがなである。
由佳「ご、ごめんなさい。アレは艦長職でしか知らされてはいけない極秘事項だったの。まだ未完成型だってこともあって特に…」
レイリー「だったら余計にですよー。ったく、艦のメンテもこっち(整備班)あってのものだと少しは考えてくださいね!」
例え相手が艦長であろうが、メカを傷つける者には容赦しない。それがレイリー・ウォンという女性だ。
戦闘で傷つくならまだしも、損傷の原因が不完全な合体から引き起こった人為的事故だった可能性が高いということだ。
レイリー「いいですか! この際、星倉艦長にも言っておきますが、兄妹揃って無茶な行動し過ぎてるわ!
戦艦は突貫機じゃないのよ!? それなのによくもまぁ、敵陣に飛び込もうとしますねぇ、ホント!」
アイ「あ、でも。ストライカーズの火力ならある程度の戦力なら対応でき―――」
レイリー「あー、黙ってください! 計算外のことがあるってことぐらいアイちゃんもいい加減理解してね
……それに、次は、本当に常識外れの化け物なんだからさ。無茶して帰る居場所がなくなったら元も子もないじゃない」
アイ「……すみません」
重い沈黙が流れる事、数秒。ブリッジのドアが開いてトウヤが入って来た。
どうやら途中から話が聞こえてきたのであろう、すぐに彼からもレイリーに声がかかる。
トウヤ「悪かったね、レイリーくん。でもあの時は、彼女達が彼女達の意思で決めたことなんだ。それに、アークをアイくん。
…いや、四之宮艦長に預けたのは僕だし、彼女にコスモ・ストライカーズのことを話したのも僕だ。責任の元凶は僕にもある」
そう言って、トウヤは頭を下げた。
さすがに少しヒートアップした自分の頭が冷えたのか、レイリーの口調が少し落ち着きを取り戻した。
レイリー「ま、とりあえず整備マニュアルがないみたいなんで、カタログスペックくらいはもらいますけど、いいですね?」
由佳「あ、えっと……」
思わず対応に困る目をトウヤに送ってしまった由佳だが、トウヤはそれを上手く察して、「あぁ、構わないよ」とレイリーに告げた。
トウヤ「けど、一応、重要機密だから整備班の中では……」
レイリー「分かってます。私しか見ませんよ」
言い包められたのが少し悔しかったのか、その後ろ姿は拗ねているようにも見えた。
615
:
蒼ウサギ
:2012/03/15(木) 21:57:41 HOST:i114-190-102-73.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
変わり果てた灯馬の姿を見て、ショックを受けたのは悠騎も同じだった。
いつぞや、交わした会話で、彼が自分の事が羨ましいと言っていたが、それが今になって少し分かった気がした。
時々、危なっかしくなり、最終的にはただの殺人マシーンのような存在と化すとわかっているのなら、
確かに風来坊としての生き方が賢明だろう。
悠騎「ま、ここ(G・K隊)にいる以上は、最後まで付き合ってもらうからな」
一人ごちて、格納庫からひっそりと立ち去る。
そして、向かった先はトレーニングルームだった。
そこには案の定、いつものガンダムファイターメンバーやロムやゼンガーなどが日課のように組み手等のトレーニングをやっていた。
悠騎「ったく、パイロットは明日の襲撃に備えて休めって命令はどうしたんだよ」
ゼンガー「む、星倉か。何、いつもより軽いメニューでやっている。いつでも出撃できる体力は残してある」
珍しい奴がきたとばかりに、各々がゼンガーの声に続く。
サイ・サイシー「オイラ達、ガンダムファイターは、こんな程度じゃへばらないしね!」
ドモン「そういうことだ。だから心配は無用だぞ」
常人離れしたサイ・サイシー凄まじい連続蹴りを、全て紙一重でかわしながら涼しい顔で避け続けるドモンだが、悠騎の目から見れば
その一撃が万が一にも当たって出撃不可能にならねーかな? とか思ってしまう。
ロム「しかし、君がここに来るとは珍しいな。もしかして、僕らへの注意が目的かい?」
悠騎「いや、怪我も落ち着いたんで、オレはオレで……」
トレーニングルームにある手頃な竹刀をとって、悠騎は告げる。
悠騎「秘密の特訓って奴ですよ」
616
:
藍三郎
:2012/03/23(金) 21:46:23 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
此処ではない何処か……
その獣には翼がなかった。
獣は、生まれながらにずっと、地にへばりついて生きてきた。野山を駆け回り、獲物を喰らい、日々の糧を得る。
獰猛なる獣の姿に、他の獣達も畏れを抱き、一目置かれるようになっていった。
それでも、獣は満足することはなかった。獣が真に見据えていたもの。それは、同じ大地に立つ獲物でも、ましてや同胞などではなかった。
獣はいつも、天を見上げていた。生きとし生ける全てを包み込む天。
獣は天に、ずって見下されているという思いを抱いていた。いや、そうではない。天は地を這う芥子粒のような獣の存在など一顧だにしない。
天はただ悠然と、地の上に在るのみだ。それゆえ余計に、獣は怒りを募らせた。
いつかその喉笛に喰らいつき、地へと引きずり落ろし、己が天に取って変わる。
獣には翼はない。故に天へと至ることは叶わない。それが天が獣に与えたさだめだ。
しかし、獣はそれでも、天を喰らおうとする意志を消すことはなかった。
だが、今は違う。
今の己には翼(ちから)がある。
決して届かなかったあの天に爪を突き立て、引き裂き、噛み付き、飲み込み、砕き散らしてしまえるほど、己の存在は巨大になっていた。
今こそ、憎き天を喰らう時。
天(せかい)を滅した後、己が新たな天として君臨するのだ。
長き眠りより目覚めたソレは、凶猛なる衝動に動かされ、“外”へと意識を浮上させた。
来る決戦の日……
南極大陸の上層、地球の真芯、その頂上に当たる宙域に、統合軍艦隊は集結していた。
宇宙(そら)の色は、変わらず血の海のような赤一色。中でも、この宙域は歪みが酷く、前方には空間歪曲が重なり、赤黒く染まっている。天の川ならぬ、天の血の池地獄だ。
ムスカ「いよいよ、か……」
ゼド「ええ、もう間もなくして浮いて来るでしょう。あの歪みから、世界を滅ぼしうる存在(モノ)が、ね……」
白豹(深虎……奴も恐らく、あそこに)
歪みの酷い宙域では、航行することさえままならない。この位置が、艦隊の安全を保持しつつ、敵を迎え撃つことの出来るギリギリのラインなのだ。
艦隊の中央には、夏彪胤の乗る大臨亀皇が陣取っている。彼はこの位置を起点として結界を張り、L.O.S.T.の侵攻を少しでも押し止めている。
また、L.O.S.T.の流入時には、地球にも相当規模の被害がもたらされることが予測される。
住民は皆シェルターへと避難しているが、破壊の規模如何によってはどの程度安全か分からない。
それを護るのが、地球に残ったゲペルニッチだ。
彼らプロトデビルンの力は、起源を同じくするL.O.S.T.には効果が薄い。
しかし、守りに徹するならば話は別。地球や月への被害を防ぐのに、これ程頼れる盾はない。
ガムリン(ゲペルニッチ……かつてお前達は、私達にとって絶望的な敵だった。だからこそ、今その力、頼らせてもらうぞ!)
先の戦いで専用のナイトメアを撃墜されていたガムリンは、ジーナス夫妻が使っていた機体と同じ、VF−22シュトゥルムフォーゲルⅡに乗り込む。
ガムリン専用機としてナイトメアと同じく黒く塗装されていた。
ガムリン「お前達と和解して守ったこの世界、みすみす滅ぼさせはしない。
それが、統合軍ダイヤモンドフォースの使命だ!」
617
:
藍三郎
:2012/03/23(金) 21:49:04 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
クローソー「…………」
人類が一丸となって、最悪の敵に立ち向かおうとしている今、彼女は一人、場違いな思いで戦列に加わっていた。
何故、自分はまだ此処にいるのだろう。そう自問する度、つい先日、あの女と交わした会話を思い出す。
セレナ「貴方の体、直せるかもしれないわよ?」
クローソー「な……に?」
あの女は、唐突にそんなことを言い出した。
マザーグースに指摘された通り、自分の体は既に限界に達しつつあった。
長い間調整を受けていないことによる、内構造の限界。そして、その調整不足。
そのことは、まだ誰にも話していない。それを何故、この女は……
あのマザーグースとの会話を聞かれていたのだろうか。
クローソー「お前、私の機体に……」
セレナは、悪戯が見つかった子供のように、短く舌を出してみせた。何ともわざとらしい態度である。
しかし、これで怒った所で線なきこと。元より自分は、正式に仲間になったわけでもないはぐれ者。コクピットに盗聴器を仕掛けるぐらい、当然の処置というものだろう。
セレナ「ま、細かいことは気にしない気にしない♪
それより、喜びなさいな。せっかく、貴女の体が直りそうなんだから」
クローソー「…………」
セレナ「信じられないってカオね。でも、思い返してみなさい?
貴女の体の直し方を知っているのはあのお爺さんだけ。でも、うちの白豹はなら、あいつの記憶を読み取ることが出来る。当然、貴女を直す方法もね」
クローソー「……お前らの次の戦いに手を貸せば、その方法を教える、と言いたいのか?」
セレナ「やぁねぇ。そんな俗なお話より、まずは一つ両手を広げて喜んだらどうなの? バンザーイ、って」
クローソー「……喜ぶ、か」
クローソーは、僅かに顔を俯かせる。
クローソー(もしこれでもっと長く生きられたところで、一体私に何があるのだろうな)
唯一心を許せた姉妹は死んだ。当初思い描いていたものとは違えど、復讐も果たせた。そんな今の自分に、一体何が残っているのだろう。
生きる意志も、死ぬ覚悟もなく、ただ憎しみに身を任せて、戦い続けていただけだ。そこから先のことは、何も考えていなかった。
目的さえ果たせれば、後はどうなってもいい。なるほど、機械に相応しい生き方だ。少なくとも、今の自分に、戦う意志がまるで欠けていることは確かだった。
セレナ「ふぅ……なるほど、ね」
何も喋っていないにも関わらず、セレナはクローソーの胸の内を見透かしたような視線を向ける。
セレナ「なら、こうするしかないか」
そんな彼女に、クローソーはやや警戒を強める。
ことによると、この女、自分を拘束し、メモリーを弄って強制的に戦わせるつもりかもしれない。元より得体の知れない女だった。そのぐらい考えていてもおかしくはない。冗談ではない……クローソーは、即座に臨戦態勢に入る。
あの女、アンドロイドであるこの自分を、制圧できる気でいるのだろうか。
観察した限りでは、あの女はただの人間、いくら自分が壊れかけとはいえ、万に一つも勝ち目はない。
いや……何もこの女が戦うとは限らない。
あの白豹とか言う覆面の男、奴は確か、この女の部下だった。今も何処かに潜んで、あの女の合図を待っているのかもしれない。あの男は油断ならない。
どうやら生身の人間らしいのだが、自分のセンサーにも引っ掛かることなく、いつも傍まで接近されている。
いつ、何処から仕掛けられても対応できるように、全周囲に警戒を払っていると……
次にセレナがとった行動は、彼女にとってあまりに意外だった。
セレナはその場に膝を突き、深々と頭を下げた。
クローソー「き、貴様、何のつもりだ!?」
セレナ「……お願い、私達に力を貸して。次の戦いは、絶対に負けられないの。
世界を……いいえ、私の何より大切な、家族を守るために」
それは、セレナ・アストラードの紛れも無い本心だった。彼女は決して夢想家ではない。完全平和も、異なる世界の危機も、自分と関わりのないことならば、ドライに切り捨てられる性分だ。
しかし、一度自分の愛する家族に危機が迫るなら……L.O.S.T.とやらが、夫に妹ごとこの世界を消そうとしているなら、世界の一つ、全身全霊で救ってみせよう。
自分一人の力ではそれは不可能だ。だから社員を、仲間を、利害の一致した組織を頼る。
数が多ければ多いほど、勝利の可能性は上がる。
そして彼女は、僅かでも勝率を上げる努力を惜しまない。
クローソー「家族……」
それは、彼女の根源にあるものを貫く言葉だった。
618
:
藍三郎
:2012/03/23(金) 21:50:33 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
白豹「………来る」
白豹の口を通した夏彪胤の言葉が、開戦の合図となった。
歪みが重なり、赤黒く見える箇所が、渦を巻き、左から右へ亀裂が生まれる。
宇宙(そら)が、割れる――
最初に彼らを襲ったのは、大規模な次元震動だった。
各艦は、ディストーションフィールドおよびピンポイントバリアで耐える。
事前に備えをしていなければ、今ので撃沈してしまった艦もいたことだろう。
マックス「各艦は破損状況をチェックせよ。直ちに態勢を立て直せ!!」
挨拶代わりと呼ぶにはあまりに痛烈な洗礼。しかし、相手側からすれば、これはただ扉を開けただけのこと。
荒れ狂う次元の歪みが、こちらに吹き付けて来たのだ。
まだそれは、こちら側に攻撃を仕掛けてすらいないのだ。
窓に手をかけるように、空間の裂け目から、巨大な触手がのっそりとはい上がるのが見える。所々に眼球や顎門のへばりついた、不定形な肉の塊。
G・K隊にとってはこれで二度の遭遇となるが……大きさの桁が違っていた。
デュオ「ちょ、こいつぁ……」
リョーコ「でかすぎだろう、おい……」
見える範囲だけで、シャングリラに張り付いたものの十倍以上。
あの境界空間の向こう側には、どれだけの質量が存在するのか、想像もつかない。
あの時シャングリラを襲ったのも、ほんの末端に過ぎなかったのだ。
統合軍の兵士達は、それが如何に強大な存在かは、事前に夏彪胤から説明を受けていた。
だが、現実に姿を見せたそれは、彼らの想像を遥かに越える存在だった。
その姿を直視した者の中には、恐怖にかられ、戦う前から戦意をへし折られる者も少なくなかった。
アレに比せば、人間など塵芥も同然。世界の全てを喰らい、虚無へと帰す、“消滅(ロスト)”そのもの。
エナ・シンクソートの中で、記憶が鮮明に蘇る。
あれだ。かつて、この世界に送られる途中に、ネオ・ジオン艦隊を襲い、壊滅せしめた存在(モノ)。
今目の前にいる、無数の眼球に口腔、長大な触手を蠕動させる肉の化け物こそが、あの日自分の記憶が失われる原因となった存在だ。
あの化け物は、自分に語りかけて来た。鍵たる存在を探していると。
理由は定かではないが、自分はアレに目を付けられた。
あのままでは、自分は、少なくとも今の自分とは全く違うナニカに作り替えられていたことだろう。
だが、今自分は、こうして助かっている。あの人が身代わりになってくれたことで。
夏彪胤は、彼はあの化け物が世界を滅ぼすための鍵になると言っていた。ならば、この最終局面、あの人も、今何処かにいるはず……
ゼントラーディやプロトデビルンと比して尚、常識外れの存在を目の当たりしても、マクシミリアン・ジーナスは一切揺れず、自分のなすべきことを実行した。
マックス「目標、L.O.S.T.! マクロスキャノン、発射!!」
マクロスキャノンから、ハイリビードを詰めた特殊弾頭が発射される。
赤い宇宙(そら)を突っ切る弾丸は、境界から身を乗り出した肉塊へと突き刺さり……
無明の夜に昇る太陽の如く、眩い光が、辺り一面を包み込んだ。
L.O.S.T.の巨体が、急速に融解していく。崩壊力の化身であるL.O.S.T.にとって、修正力は身を滅ぼす猛毒だ。
見れば、ハイリビードの光に当てられた宇宙が赤から、元の漆黒へと戻っていく。
修正力が、その名の通り、歪んだ空間を修正しているのだ。それに伴い、肉塊もまた、苦痛に全身をよじらせる。
海の魚が陸に住めないように、L.O.S.T.は本来、この世界にあらざるもの。世界から拒絶される存在だ。
L.O.S.T.を鯨とするならば、人間などは蟻に等しい。しかし、鯨は陸では生きられない。
L.O.S.T.が宇宙を赤い空間……境界に近い環境に変えたのも、この世界へ進出するための下地造りだ。
619
:
藍三郎
:2012/03/23(金) 21:52:35 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
マックス「攻撃の手を緩めるな! 反応弾、全弾発射!!」
そして、この好機を逃す手はない。バトル7並びに、他の統合軍艦隊からも、一斉に反応弾頭が発射される。
人間同士の争いには過剰な火力であっても、あの化け物相手なら遠慮はいらない。幸いにここは宇宙空間……人の居住地への被害を気にする必要もない。
戦艦ほどの太さの触手が爆ぜ、反物質の炎が、肉塊を幾度も焼き払う。
もしも人類同士の争いで使われれば、何度地球を壊滅状態に追いやるか解らない。
勝てる。いや、既に勝っている。
いかにあの化け物といえど、これだけの反応弾を撃ち込まれて、生きていられるはずがない。
敵の消滅を確信した兵士達の顔に、安堵の色が浮かび始める。
だが……
――ク、ククク、クククク……
機体、戦艦を問わず、この宙域にいる全ての人間に声が聞こえて来た。
――アハ、アハハハハハ……ハハハハハ!!
それは、明らかに嘲笑だった。彼らの無知と非力を笑う声だった。
最初は空耳かと思っていた者達も、次第に声が鮮明になるにつれ、これが異常な事態だと気付くようになる。
通信などではない。この声は、自分達の頭の中に直接響いて来る。
――てめぇら、この程度で勝ったつもりかよ? ああ!?
ゼド「この声は……」
ムスカ「ああ、忘れやしねぇ」
――これで、この程度で、本気でこの俺に勝つ気でいたのなら、呆れ果てた蒙昧どもだ。絶望の意味を知らないらしい。
マックスは、エースパイロットとしての勘で感じ取っていた。これから、艦隊に致命打を与えかねない何かが来ると……
マックス「全艦! 直ちに防御態勢に移行せよ!!」
――ならばこの俺が貴様らに絶望を下賜(くれ)てやろう。新世界の帝王たるこの俺がなァ!!
白豹の眼が大きく見開かれる。
この時彼は、夏彪胤としてではなく、白豹として叫んだ。
白豹「姿を見せろ!深虎(シェンフゥ)!!」
――アヒャハハハハハハ!! 久々に聞いたが、相変わらずクソムカつく声だぜ!! ヒャハァッ!!
爆煙を貫いて、数条の触手が、統合軍艦隊へと伸びる。
先端は鋭く尖っており、最前線にいた一隻が、貫通され、爆砕する。
その内の、最も巨大な一本は、バトル7へと真っ直ぐ伸びる。
ガムリン「させるかぁっ!!」
ガムリンの乗る、黒色のシュトゥルムフォーゲルⅡが発射した反応弾が、触手へと着弾、跡形もなく焼き払う。
ガムリン「万が一のため、バルキリーにも反応弾を搭載しておいて正解だったか……」
しかし、バトル7を狙うのはそれ一本だけではなく、別方向からも触手槍が迫っていた。
ガムリン「……いかん!」
急ぎ迎撃に走るガムリンだが……
ガビル「行け! グラビル!!」
グラビル「グオォォォォォォォン!!」
バトル7を守るように浮上する、白い機影と緑の巨影。
グラビルのペンタクルビーム砲とガビルのスピリチアスパーク砲が合わさり、触手槍を消滅させる。
ガビル「ガムリン! 油断するな! 集中美!」
ガムリン「済まない、ガビル!」
ガビルとグラビルも、共にゲペルニッチの命令でこの戦いに参戦していた。
ガビル「あのような美意識の欠片もない化け物が、同じ宇宙にいることすら汚らわしい! 徹底的、殲滅美!」
620
:
藍三郎
:2012/03/23(金) 21:55:22 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
ゼンガー「おおおぉぉぉぉっ!!」
斬艦刀を極限まで伸ばし、数本の触手を纏めて切断する。他の機体も、それぞれ威力の高い武器で触手を破壊して回っていた。
カトル「! 皆さん! あれを……!」
煙が晴れた後、そこに在ったのは……
宇宙要塞級にまで縮小した肉塊が残された。その形状は、どこか生物の心臓に似ている。ハイリビードの力か、背後の空間の穴は既に閉じられている。
大樹から芽が出るように、赤い眼球が、肉塊から零れ落ちる。
大小様々な眼球は、魔鬼羅や死鬼羅といった眷属へと姿を変える。たちまち、門の前には悪鬼羅刹の大軍勢が並んだ。これまで地上に出現した数の比ではない。
更に、肉の中心部からは、赤銅色の装甲に身を包み、数珠を肩からかけた、特機級の機体が出現する。
かつて二度に渡りG・K隊と交戦し、窮地に追いやった法眼眩邪だ。
ならば、あの中には深虎自らが乗っているはず……
白豹「いや、無駄ではない。ハイリビードが浸透している。
深虎は、先程と同じく、戦場全域に向け、思念波で語りかける。
深虎「無駄な足掻き御苦労さん、褒めて使わす、ってなぁ!!見ての通り、てめぇらの切り札とやらは、俺様の軍勢には全く通じなかったぜぇ!?
己の無力を思い知るがいいぜ虫けらども。ヒャハハハハハハ!!」
エクセレン「随分久しぶりに見るけれど、相変わらず頭悪いチンピラ節全開ねぇ」
キョウスケ「だが、凄まじい圧力だ。奴め、以前より数段力を増している」
ライ「あの聞くに耐えん挑発にも、効果があることは認めざるをえん」
現実に、深虎とL.O.S.T.は、あれだけの攻撃に耐えきって見せたのだ。
ドッカー「おいおい、あれだけ反応弾ぶち込んでも倒せねぇだと……そんな奴、どうやって勝てばいいんだよ!?」
兵士達の間に動揺が走る。それが恐慌に変わるのも時間の問題だ。
深虎「この帝王に弓を引いたてめぇらの罪は重い。判決は死刑だ!
まぁ逃げるなら勝手にしな。どうせ、この世界の何処にも逃げ場はないんだからよ!!」
更に嘲笑を重ねる深虎だが……
白豹「強がるな! 深虎!!」
いつもの彼らしからぬ、白豹のよく通る声が、深虎の嘲笑を遮った。
深虎「白豹……? いや、違う……」
白豹の乗る刹牙からは、白豹一人分の魂しか感じない。しかし、魂の中に、別の人物の気配が混ざっている。それは、大臨亀皇にいる弱々しい魂と同一のものだった。
深虎「大導師(クソジジイ)! てめぇかぁ!!」
白豹「L.O.S.T.の本体である“門”が剥き出しになっているのは、先程の攻撃で門を守る肉の鎧が砕け散ったからだ。
それだけではない。貴様達に撃ち込んだハイリビードは、全身を巡り、今も蝕み続けている。
今なら、通常兵器であっても、貴様らに致命打を与えることができる!
深虎、それは何よりお前が、一番分かっているはずだな?」
深虎「ぐぅ……」
白豹は、深虎の声に、どこか苦しげな調子が混じっているのを聞き逃さなかった。会話から相手の精神状態を読み取るのは、白家暗殺者の基本技能だ。
実際、深虎はハイリビードによって、体が焼けるような苦痛を味わっていた。
深虎「ハッ!だから何だってんだ!!
あんなハリボテが無くなったところでよぉ……この“冥獄門(みょうごくもん)”さえあれば何の問題もありゃしねぇ。
こいつが開けば、この糞くだらねぇ宇宙は滅び、未来永劫俺を崇め続ける、俺のための帝国が完成する!!」
崩壊力は元来実態を持たぬ、純粋な滅びの力そのもの。
普段は修正力と拮抗していて、目立った影響を及ぼせはしないが、現在は時空が乱れたことで、そのバランスが崩壊している。
冥獄門は、その状態を負の側へと加速させるための装置だ。
さすれば、この宇宙から修正力は駆逐され、崩壊力で満たされた宇宙は自ずと崩れ落ちていく。
悠騎「勝手なことばかり抜かしやがって! なら、俺らがそのデカブツをぶっ壊せば、全て片がつくっことだろうが!!」
白豹「その通りだ。あれこそが、世界のバランスの乱れを加速させるもの。
破壊してしまえば、後は自然の摂理に則り、宇宙の均衡は回復する!」
マックス「全軍! 攻撃開始! 目標、冥獄門!!」
深虎「やってみやがれ!
“宇宙の終焉(パラダイス・ロスト)”は間も無くだ。
新世界の帝王たる俺が決めた絶対の運命に、てめぇらごときが抗えるものかよォ!!」
セレナ「新世界、帝王、絶対、運命……知らないの? その台詞全部、負けフラグってことにね!!」
ゼド「まずは我々で突破口を開きましょう! 勝てる光明を示せば、後続の士気も上がるはずです!」
621
:
蒼ウサギ
:2012/04/09(月) 01:29:30 HOST:i121-118-62-115.s10.a033.ap.plala.or.jp
ロラン「今のターンエーじゃ決定的なダメージは与えられない。なら…」
何かを思いついたロランは、バトル7に交信を求めた。
エキセドルの仲介を経て、艦長のマックスに繋がる。
ロラン「マクシミリアン司令。反応弾は、まだありますか?」
マックス『あぁ。バルキリー隊の補給用に僅かだが……どうするつもりだ?』
ロラン「今が攻撃のチャンスだとするなら、ホワイトドールに預けてください」
§
悠騎「また真っ二つにしてやるぜぇ! 深虎よぉ!」
深虎「てめぇにはその借りがあったなぁ! 星倉悠騎ぃぃぃぃ!!」
冥獄門から戦艦さえ貫く巨大な触手が、たった一機のAWに迫る。
それだけに彼の悠騎に対する憎悪が溢れ出ているのだ。
悠騎「こんなのぉ!!」
SSブレードと二つ束ねたDソード。それらを二刀を両手に、悠騎のブレードゼファー強襲型は真っ向から対抗する。
激突の瞬間、衝撃で悠騎は肺どころか全ての臓器が一瞬、停止した感覚で意識が失いかけたが、喉を振り絞って声を上げた。
悠騎「うりゃああああああああああ!!」
もはや、それは執念だった。
しかし、その執念があったからこそ、戦艦を貫くほどの巨大な触手を、二つの剣で受け止め、そしてそのまま触手を斬り裂いていった。
深虎「て、てめぇのその“力(エネルギー)”は!?」
悠騎「?」
深虎は、見慣れない“存在”に少しばかり畏怖した。
先ほどの剣は、普通ではなかった。
触手を受け止める瞬間、まるで衝撃吸収マットのような、やわらかい炎の盾のようなモノが見え隠れしたかと思いきや、
次の瞬間、思い切り振ったそれは、鋭く、まるで“次元を斬り裂く”ような一太刀だった。
深虎(ちっ。てめぇは何も知らないってかぁ!。……なおさらムカつくんだよぉお!)
幸いにも致命的ダメージの一手ではなかったが、それでも煮え湯を飲まされたのは変わりない。
ますます彼に対する憎しみが増したその時だ。
ロラン「全員、避難を! 反応弾を使います!」
ガムリン「何っ!?」
一斉に機体が下がる中、一機―――∀ガンダムだけが前に出てくる。
デュオ「あのヒゲのガンダム。反応弾が装備されてたってのかよ?」
ヒイロ「いや、違う」
ゼロシステムからロランの行動を予知していたヒイロは、すでに退避を済ませており、次の狙撃ポイントについていた。
622
:
蒼ウサギ
:2012/04/09(月) 01:31:08 HOST:i121-118-62-115.s10.a033.ap.plala.or.jp
ロラン「人の英知が造ったものなら、人を救ってみせろー!!」
そう叫びながら、∀は、“手に持っていた反応弾を冥獄門に向けて手投げ”した。
反応弾は、核をも凌駕する兵器。だが、兵器も人の使い方次第だとということをロランは証明したかったのだ。
さらに言えば、この攻撃のチャンスに残りの反応弾をバルキリー隊に補給するというタイムラグは極めて痛い。
そのロスをロラン―――∀ガンダムが埋めることで、マックスも反応弾の持ち込みを許可したのだ。
この行動には、誰もが呆気にとられたがすぐさま押し寄せる反応弾の衝撃の余波が機体を襲う。
だが、その余波を察したかのように誰かが前に出てきた。
シンジ「ATフィールド全開!」
EVA初号機だった。
例え、強固なバリアを誇るATフィールドとて、複数の反応弾同時の直撃には耐えられないだろうが、余波から一同を守るくらいは問題ない。
タツヤ「いいぜ、ロラン! シンジ! これならあの化け物も……」
ガビル「いや、油断美! この程度の攻撃ではまだまだ……」
そう、ガビルが言った側から、
深虎「わかってるじゃねぇか!!」
直後、ATフィールドを貫いて赤い光線が一同に襲いかかる。
シンジ「ぐぁっ!」
カトル「シンジくん、一度後退してください!」
ヒイロ「……援護する」
ツインバスターライフルを始め、すぐさま反撃できる機体は動いた。
しかし、EVAとの神経接続で繋がっているシンジは、先ほどの攻撃で機体のダメージが痛みとなって伝わっているためすぐには動けないでいた。
そんな時だ。
―――歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。
シンジ「! カヲルくん!?」
―――君もそう思わないかい? 碇シンジくん
そう、シンジの耳に聞こえたのは紛れもなく渚カヲルそのものだった。
それは、初めて出会った時、彼から掛けてもらった言葉だが、不思議と何かを案じているかのようにも聞こえた。
623
:
はばたき
:2012/04/09(月) 21:18:26 HOST:zaqd37c90da.zaq.ne.jp
幻聴・・・だったのだろうか?
いや
この世界が何度となく同じ運命を繰り返す死と再生のサイクルにあるのなら。
悠騎達の世界の様に、また別の運命を辿る平行世界がるのなら。
あるいは自分の罪を、あの結末を変えられた未来もあったのかもしれない。
時は巻戻らない。
自分と彼の運命はあの結末で終わってしまった。
だけど
そうなら
もし世界が、無数に分岐していく枝葉の様に広がるなら
そこで救われるものもあるのかもしれない
シンジ「逃げちゃだめだ・・・逃げちゃだめだ・・・逃げちゃだめだ・・・!」
かつての自分は呪詛の様にその言葉を繰り返してきた。
そうする事で辛い現実を無理矢理肯定する事で自分を保ってきた。
だが今のシンジの声にはかつての様な自己逃避はない。
救えなかった友達の言葉が一歩前に進む力となり、あのサードインパクトを防ぎ、父に向かい合えた時の様に。
今こそ歩き出す時だ。
もう一度自らの脚で―――。
シンジ「そうだ。逃げちゃ、ダメだ!!」
アネット「初号機、再起動!」
ブリッジからの報告に、一瞬強張る統合軍。
また暴走の前兆かと思った矢先、その懸念は一瞬で消し飛ぶ。
起き上がった初号機が再び前へ踏み出し、ATフィールドで味方を守ったからだ。
ジョウ「シンジ・・・」
真悟「あいつ、やっぱ変わったな」
先程よりも堅牢なATフィールド。
心の壁と称させるそれは、今他人を拒絶する為でなく、世界の滅びを拒絶する力となって立ちはだかっていた。
数多の平行世界、その全てを護らんとするかのように。
深虎「ちぃっ!どこまで足掻けば気が済むんだ!!」
L.O.S.Tは絶対の力だ。
全てを無に帰し、己の望む世界を創り上げる力。
それを手にした筈の自分こそ、世界の覇者たるに相応しいはずだ。
だが、再び動き出す初号機の姿に、一瞬の慄きを覚えた。
その事実が腹立たしい。
深虎「人造の神とでも言いてぇのか!?ビビッて世界を壊すのを止めた臆病者風情がよぉっ!!」
怒りに身を震わせる深虎だったが、体を駆け巡るハイリピードの力が身を焼く。
本来ならモノともしない筈のちっぽけな豆鉄砲にダメージを貰う。
自分の絶対性を揺るがす事態に、苛立つのは彼もまた肉の器に縛られたが故であろうか?
とはいえ、その様な思考に埋没するような精神など、既に深虎からは失われている。
この場で最も厄介な存在、それは今でも自分を苛む修正力だ。
深虎「やっぱ、邪魔な奴から片付けていくべきだよなぁっ!!?」
修正力の源を絶てば、残りの木端などものともしない。
そう考えて、冥獄門から無数の触手を撃ち放つ。
狙い勿論、修正力の力を扱うゴーショーグンやバイカンフーだ。
しかし
エレ「させるものかぁっ!!」
無数の光条が無数の触手を撃ち貫く。
エレ「一歩も通さないから!今度こそ私が皆を護るから」
深虎「雑魚が、目立とうとするんじゃねぇっ!!」
目論見を外され、更に激昂する深虎。
端末たる魔鬼羅達に命じてそちらを対処させようとするが
624
:
はばたき
:2012/04/09(月) 21:19:37 HOST:zaqd37c90da.zaq.ne.jp
アイラ「それは此方のセリフだ!!」
割って入った宵闇の燕がそれを撃ち落していく。
深虎「羽虫がっ!!なんの力もないくせに、粋がるんじゃねぇ!!」
手数で押し込む事を決める深虎。
何せ此方の手勢は事実上無限大だ。
幾ら落とされようと、文字通り痛くもかゆくもない。
降り注ぐ赤い閃光に、バリアを持つ機体が中心となってガードを固めていく姿に満足したのか、深虎は高笑いを挙げた。
深虎「ひゃはははっ!!碌すっぽな力もない癖にでしゃばるからそうなるんだよ!!何の力もねぇから盾にでもなろうってのか?」
アイラ「確かに私達に修正力に通じる力はない」
それどころか、念動力やニュータイプと言った特殊な力すら持ってはいない。
エレ「でも、貴方に突き立てる牙が無いわけじゃない!」
その声を合図にしたかのように、急にばらける統合軍。
開いた道の向こうに、輝く月がある。
ガロード「俺達だって、そうやって今まで戦ってきたんだ!」
どこにでもいるただ普通の少年だった。
ニュータイプとの差に苦しんだ事もあった。
だが、今は違う。
特別な力等なくても、何かを成せるとそれを体現し続けた少年の放つ月の光が冥獄門を直撃する。
アイラ「お前は私達を羽虫と言ったな?だが、お前はその羽虫の力によって滅びるんだ!」
がら空きなった本体の胴体を、蹴りが、ビームが、剣が、銃弾が襲い来る。
小さな力が積み重なり、少しずつだがその身を削っていく。
深虎「フザケんなぁっ!!」
少しずつではあるが、自分の再生速度を上回り始めた損傷に、深虎の顔に初めて焦りが浮かぶ。
深虎「ただのちっぽけな人間風情がぁっ!人間を超えた俺様に楯突くなどぉっ・・・」
ドモン「哀れだな」
深虎「なにぃっ!?」
深虎の叫びを遮るような辛辣な台詞。
ドモン「俺はお前を買いかぶっていた。仮にも白豹と同じ師に師事したその拳には、歪んでいようと誇りがあると思っていた」
だが、
と前置きしてドモンは更に言葉を紡ぐ。
ドモン「借り物の力で有頂天になるなど愚の骨頂!お前に比べれば、あのバグの方が気骨があった!」
深虎「ほざけ!これが俺の力だ!」
確かに崩壊力の力はヒトが抗うには強大過ぎるかもしれない。
だが、人が鍛え続けた技と英知が今それを追い込んでいるのだ。
崩壊力が深虎の魂に染まって方向性を得たように、修正力もまた彼らの想いに応えてそれを打倒しようとしている。
その為に自分達はその全てを燃やし尽くすのだ。
ドモン「いくぞ!お前達!!」
ドモンの、いや新生シャッフル同盟のファイター達の拳に光り輝く紋章が現れる。
そう
この魂の炎、極限まで高めれば、壊せないものなど何もない!
シャッフル同盟「俺のこの手が真っ赤に燃える!お前を倒せと轟き叫ぶ!!爆熱っ!!シャッフル同盟拳っ!!」
625
:
藍三郎
:2012/04/19(木) 05:45:04 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
シャッフル同盟拳の光が、冥獄門に直撃し、赤い宇宙に光の華が咲く。
五人の戦士が力を合わせた最強技は、再生のスピードを上回り、細胞を死滅させていく。
爆炎が晴れた時、冥獄門の肉は大きく抉れていた。
空白は、肉塊の中心近くにまで達していたが……
その中心には、空間の歪みが発生し、それ以上の破壊をシャットアウトしていた。
デュオ「重力場か!」
カトル「では、あそこにいるのは、やっぱり……」
統合軍は、事前に夏彪胤から聞かされていた。
L.O.S.T.は、<鍵>たる特質を持つ者……ニュータイプやサイコドライバーを選び、自身の寄り代<契約者>とする。
L.O.S.T.は、次元に感応・干渉する資質を持つ彼らを傀儡とし、秘めたる力を解放することで、この世界と自身が存在する領域との扉を繋ぎ合わせる。
その名が表す通り、<鍵>とはそういうものだ。
そして、この世界で、その役割に選ばれたのは……
禍々しいデザインを持つ黒い機体は、両手両足を肉塊に埋(うず)め、さながら磔にされているようだった。
あれこそが、冥獄門の要であり、門を開ける<鍵>……本作戦における、真の最終攻撃目標だった。
エナ「………!」
機体越しであっても、それが誰なのか、彼女には分かった。
それは紛れも無くアルハズレットであり、コクピットハッチからは、葉山翔の思念が感じられた。
626
:
藍三郎
:2012/04/19(木) 05:46:57 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
灯馬「何や、“外”もえろう騒がしゅうなって来たなぁ」
夢か現か……灯馬の意識は、未だ幻の合戦場にいた。
曇天の覆う草原に居て、“外が”というのはおかしな話だが、そう表現する他ない。
最も、それが感じられたのはつい先程のことだ。
本来、この空間は現世から隔絶されているはず。
それでもなお、影響を及ぼす程の巨大な“何か”が、“外”にいるということだ。
蛇鬼丸「ヒャァーッハッハッハ!! よそ見している余裕あんのか? アァッ!?」
外へ意識を逸らせた灯馬の首を、妖刀の切っ先が襲う。
灯馬は即座に上体を大きく反らし、首斬りの刃をかわす。
そのまま横転して、蛇鬼丸から距離を取る。
蛇鬼丸「ククククク、無様だな、灯馬。いつまでみっともなく逃げ惑ってんだ? あぁ?」
灯馬「そんなこと言われたかてなぁ……」
一気に距離を詰める蛇鬼丸の刺突を、今度は右に跳躍して躱す。
この空間に来てからというもの、有無を言わさず襲い掛かって来た、蛇鬼丸……と思しき男の剣をかわし続けていた。
反撃もままならない。それもそのはずで……
灯馬「お前だけ刀もっとるやなんて、ずっこいとは思わへんの?」
今の灯馬は、得物である刀を持っていない。妖刀・蛇鬼丸は、今その当人が握っている。
灯馬「お前も侍やろ?こーゆーのって、なんちゅーの?武士道に反するんちゃうんか?」
蛇鬼丸「知らねぇなぁ! 俺様は人斬り蛇鬼丸。武士道も人の道も知ったこっちゃねぇ!俺はただ人を斬り、肉を断ち、血飛沫を浴び、酔いしれることが出来ればそれでいいのよ!!」
それが己の存在証明であるかのように、狂喜の笑みを浮かべる蛇鬼丸。
灯馬「はぁ……お前、ほんまボクがイメージしとった蛇鬼丸そのまんまやんなぁ……」
ぼやきながらも、蛇鬼丸の次の太刀を紙一重で避ける灯馬。
性根は最低だが、蛇鬼丸の実力は一流の剣豪クラスだ。
礼儀も忠義もなく、ただ人を斬ることだけを追求して研鑽した剣技は、ある意味、剣というものの本質に最も近しい。
武道や士道の名の下にどれだけ取り繕うとも、剣は凶器で剣技は殺人のための技術なのである。
まして蛇鬼丸が生きていたのは、殺すか殺されるかが日常の戦国の世だ。
泥沼の戦場で、人を斬り続けて来たという事実は、常に勝利して来たことと同義。
彼は何百、何千という真剣勝負に勝ち続けて来たのだ。
世に名だたる剣豪達が、武勲を立て、大名に仕える中、彼は人を斬りたいという渇望だけで最前線に居続けた。
そんな剣豪達と比べても、圧倒的な戦闘経験と勝ち星を持っている。
生涯を一兵卒として終えたため、歴史に名を残すことはなかった。
しかし、その妄執に満ちた魂は、死した後も刀へと宿り、妖刀と呼ばれ、多くの持ち手の間を転々としながら現代に至る。
灯馬は、大地に転がっている骸の持っていた刀を拾おうとするが、ホログラフ映像のようにすりぬけてしまう。
蛇鬼丸「おーい、それもう無駄だって分かってんだろ?
ここは俺の記憶をただ映し出しただけの場所だ。
見えるし匂うし感じもするが、持ったり拾ったり、そいつで相手を斬ったりすることは出来ねぇ。ここで使えるのは、自分(てめぇ)自身だけだ」
灯馬「何やそれ……」
蛇鬼丸は刀。自分は丸腰の人間。これでどうやって勝てばいいというのか。
灯馬「そないなクソゲー、やる気せぇへんな」
蛇鬼丸「文句ばかり多い野郎だ」
灯馬「せやけど、マジでやばいんちゃうか?
外におる奴は半端やない。ボクらのおる“ここ”ごと潰されてもおかしゅうないで」
その事実については、彼は反駁しなかった。蛇鬼丸もまた、外に居る強大な気配を感じ取っていたのだ。
蛇鬼丸「ああ、だからこうして、さっさと決着(ケリ)つけちまいてぇんだよ。何せ……」
三連続で放たれた蛇鬼丸の剣閃が灯馬を襲う。今度は完全にはかわしきれず、左頬と左肩、右胸に手傷をおう。
蛇鬼丸「ここから生きて出られるのは、俺とお前、生き残ったどちらかだけなんだからな」
627
:
藍三郎
:2012/04/19(木) 05:48:31 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
ヘファイストスのメルトダウンに飲み込まれた麟蛇皇と灯馬は、ヴァルカンを葬ったものの、超高熱に耐え切れずにドロドロに熔けてしまった。
疑いようもない、死。しかし、覚醒を果たした灯馬に流れる血は、これで彼を終わらせなかった。
何が何でも宿主を生かすため、血が働き掛けた結果が、今の彼らの姿である。
ヒトやモノという脆弱な形を捨て、魂を血に溶かし込むことで、消滅だけは免れた。
今、血は時間を掛けて、宿主を元の姿に修復しようとしている。
蛇鬼丸「つくづくバケモンだぜ。てめぇの“血”はよ」
灯馬「ン百年も昔から生きとる妖刀にだきゃ言われたくないで」
だが、あの時灯馬の傍には、彼自身の魂だけでなく、麟蛇皇に宿る蛇鬼丸の魂もいた。
二つの魂は共に夜天蛾の血に溶けた。今向かい合っているのは、血に溶けたそれぞれの魂の主体なのである。
蛇鬼丸「分かるか? こいつはチャンスなんだよ」
蛇鬼丸の眼が、更に剣呑な光を帯びた。
蛇鬼丸「今ここでてめぇを殺し! 俺が魂の主導権を握れば! この体も化け物の血も、全部俺様のもんだ!!
血の方は、生きてさえいれば、宿主(からだ)がどっちだろうとどーでもいいみたいだしよぉ!!」
蛇鬼丸の言うことは真実だろう。
今ここで、蛇鬼丸が灯馬の意識をすり潰せば、夜天蛾の“血”は蛇鬼丸を宿主として選ぶ。
蛇鬼丸「そうすりゃ、俺はついに本物の体が手に入る! 最凶最悪の力のおまけ付きでなぁ!
あんな窮屈な刀(うつわ)に閉じ込められて、てめぇの都合で斬るのを我慢することもねぇ!
幾らでも、いつまでも、斬り放題、食い放題、殺し放題だ!!アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
自らの欲望をさらけ出し、哄笑する蛇鬼丸。
灯馬「ホンマ、サイテーやな、お前」
蛇鬼丸「ヒャハハハハ! 笑わせんじゃねぇぜ! てめぇだって俺と同じ穴の貉だろうがよ」
灯馬「……? ボクが?」
蛇鬼丸「俺ぁ全部見てたんだぜぇ! てめぇの髪が赤く染まった時!
楽しそうに敵を斬っていたのをよぉ! 俺の前では味方を殺すな無闇やたらに人を斬るなと善人面しやがって。
ひと皮剥けばてめぇも俺と同じ、最低最悪の畜生なんだよォ!!」
灯馬「…………」
蛇鬼丸の言葉を聞いた灯馬は、口をつぐんだまま動きを止める。今が、殺し合いの最中であることを忘れたように……
蛇鬼丸「だぁが! 生き残るのはこの俺だ! 煮え切らないてめぇの分まで、俺様が全て斬り刻んでやんよぉ!!」
蛇鬼丸の刃が、無防備な灯馬の首筋へと飛ぶ。致死の間合いに入っても、灯馬は微動だにしない。
そして……彼の視界に、鮮血が迸った。
628
:
藍三郎
:2012/04/19(木) 05:53:17 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
ヒイロ「ターゲット、アルハズレット……!」
冥獄門に取り込まれたアルハズレットを目の当たりにして、皆が息を飲む中で、この男は一瞬たりとも迷わなかった。
アルハズレット目掛けて、ツインバスターライフルを最大出力で撃つ。
深虎「ちっ! クソ兄弟を守ってやるのもシャクだが、さすがにそいつは見過ごせねぇな!」
磔のアルハズレットの前に、法眼眩邪が割って入る。
深虎「冥獄怨爆夢ゥゥゥゥゥッ!!」
法眼眩邪の胸部に開いた緑色の瞳から、破壊の奔流が放たれる。
緑色の波動はツインバスターライフルと衝突し、その威力を相殺した。
ヒイロ「だが、貴様のその行動も、ゼロは予知している」
冥獄怨爆夢を撃った直後の法眼眩邪へと、もう一機のゼロシステム搭載機が迫る。
ミリアルド「貰った!!」
ガンダムエピオンは、MS形態に変形すると同時に、ビームソードを最大出力で振り下ろした。
深虎「う、おおおぉぉぉぉっ!?」
宇宙要塞バルジをも両断した剣を受けては、さしもの法眼眩邪も一たまりもなく、右肩から左腰まで、斜めに切断される。
だが、過去二度も体の半分を失いながらも復活したこの怪物が、これしきで終わるとは誰も思っていない。
追撃のヒートロッドが、法眼眩邪の上半身へと絡み付く。
そのまま、尖端で以前コクピット部分があった部分を串刺しにする。
勝平「未だ! イオン砲、行けーっ!!」
空間転移をする暇もなく、イオン砲の光が、法眼眩邪の上半身を飲み込み、消滅させる。
悠騎「よし! まずはあの虎野郎を倒したぜ!」
しかし、悠騎もこれで終わりとは思っていない。
むしろ難題はここから……世界の破滅を止めるためには、あのアルハズレットを、葉山翔を殺さなければならない。
躊躇いはある。現に、アルハズレットの姿を目にした時、心の中でブレーキが生まれた。
だが、仲間の命と世界の命運を天秤に掛けたならば、ヒイロの行動こそが正しいのだろう。
ヒイロは再度ツインバスターライフルをアルハズレットへと向け、ミリアルドもまた、ビームソードで刺突を繰り出す。
どちらが先に決まろうと、初撃で重力場を相殺し、二撃目で引導を渡す。
ゼロシステムだけ頼るのではない、かつて何度も刃を交えた者同士だからできる、完璧な連携だった。
だが……
「しゃらくせぇんだよ! カトンボどもがぁ!! 冥獄! 灼滅陣ッ!!」
深虎の叫びが聞こえた直後、既に斃れたはずの法眼眩邪の数珠が橙色に輝き、破壊の炎を纏ってゼロとエピオンに襲い掛かる。
一発一発が戦略兵器に相当する数珠を前にしては、両機も守りに徹さざるを得ず、アルハズレットへの攻撃は中断を余儀なくされる。
その合間に、アルハズレットは再び増殖する肉塊に覆われてしまう。
だが、それ以上に統合軍を驚嘆せしめたのは、深虎の異常なまでの頑強さである。
法眼眩邪は、下半身だけになったにも関わらず、冥獄灼滅陣を撃って見せたのだ。
デュオ「冗談だろ……おい」
ジョウ「あれでもまだ死なないのかよ……」
629
:
藍三郎
:2012/04/19(木) 05:55:11 HOST:199.159.183.58.megaegg.ne.jp
白豹「……法眼眩邪(あれ)には奴自身は乗っていない。いや、あれもまた、奴の体の一部と言えるが」
白豹が、ぼそりと呟いた。
キョウスケ「どういうことだ?」
白豹「深虎(やつ)は既に、L.O.S.T.の意志そのものと一体化している。今我々が目にしている全てが、奴の身体も同然と言っていい」
深虎「そういうこった! もはやこの俺様は誰にも! 何者にも縛られねぇ。
何故ならこの俺自身が神に等しい存在になったんだからよぉ!!」
かつて、深虎はL.O.S.T.の意志に従い行動しているように見えた。それが今では、深虎自身がL.O.S.T.そのものと化したというのか。
冥獄門を含む機体の一体一体、否、あの肉塊を構成する細胞の一つ一つに、深虎の意志が宿っていることになる。
深虎「ククククク……誰にもこの俺を滅することは出来ねぇ。
せっかくだ。見せてやるよ。新世界の覇者の、真の姿をなぁ!!」
深虎が念話でそう言い放った直後……巨大な心臓に似た形の冥獄門が、一際大きく脈打った。
それから、遠目でも分かる程の速さで、肉塊のサイズが縮んでいく。大きな紙風船を潰し、掌に収まる程の紙屑にしていくようだった。
あっという間に、うごめく肉が、周囲の肉を巻き込んで、内へ内へと押し進む。肉が潰れ、血が飛び散る。
無論、統合軍もこれを黙って見ているわけではない。反応弾は撃ち尽くしたものの、絶え間無い砲撃が降り注ぐ。
肉は焼かれ、砕かれ、急速にその体積を減らしていくが、核となるアルハズレットが姿を見せることはなかった。
やがて……宇宙要塞クラスから、二百メートル程度にまで縮んだ肉塊が残された。
サイズは遥かに小さくなった。しかし、肉塊から放たれる殺意や悪意、圧迫感は飛躍的に増していた。
シャル「このプレッシャー……!」
真吾「あれ以上放置しとくと、やばいことになりそうだぜ!」
何かが起こる前に止めようと、冥獄門へ向かうG・K隊。しかし、攻撃を仕掛けた時……肉塊の内側から、肉を貫いて湾曲した無数の刃が生えて来る。
同時に肉塊が急速に回転し、旋回する刃がG・K隊の攻撃を尽く弾き落としていく。
続けて……空間を歪ませる波動が、肉塊を中心に発せられる。
それは、機体だけでなく、パイロットの精神を軋ませる程の、殺意と悪意に満ちていた。
吹き荒れる次元嵐の中で、冥獄門は変貌を遂げる。
肉塊は五方に伸び、それぞれ頭、腕、脚となる。
全身を、鋼のような紫色の体毛が覆い、ずんぐりした体躯の、人型の虎のような姿となる。
両手両足、両肩、背中、さらに体のあちこちから鋭利な爪が伸びており、
両手の甲、両膝、そして体の各部には眼球が散りばめられている。
頭部は黒い瞳孔に白い眼球を持つ紫色の虎の形をしており、
首を一周するように裂けた牙の生え揃った口が、三段重ねになっている。
腹部には巨大な三つの眼球が三つ葉の形を為している。
虎のような尻尾を生やしており、先端は鰐の口のように裂けている。
深虎「ヒャハハハハハハハ!! どうだ!!
これが新世界を統べる帝王、破滅の獣、闇眼虎皇(あんがんこおう)だ!!」
闇眼虎皇は、念話を通して、宇宙にすら轟く咆哮を発した。
630
:
蒼ウサギ
:2012/04/27(金) 19:21:06 HOST:i58-95-70-150.s10.a033.ap.plala.or.jp
闇眼虎皇の咆哮後、戦場に幾ばくの沈黙が訪れた。
動こうにも動けない。
そんな空気が張り詰めていたのだ。
ドモン(ぐっ、このような空気は……!?)
殺意、破滅、そして絶望の塊。まさに全てを終焉にしてしまいそうな存在。
触れればたちまち死に至りそうな雰囲気すら感じ取れる。
この境地は、あのヴィナスがウラノスに搭乗した時にどこか似ていた。
深虎「どーした、てめーら? さっきまでの勢いはどーしたよぉぉ!?」
時が止まった戦場を動かすかのように、闇眼虎皇が腹部の三つ目をギロリを動かし怪しく光らせる。
誰もが強烈な危険な予感を察知し、即座に散開をする。
深虎「こいつは景気づけだぜぇぇぇ!」
三つ目から放たれたのは赤い光だった。しかしその恐ろしさは、単純な高威力で収まるものではなかった。
アイ「直撃した南極大陸の一部が消滅しました」
由佳「消滅!?」
それは、文字通りそこに何もかもなくなってしまったということだ。
各機パイロットは、回避に成功したからいいものの、もし当たっていたかと思うとという想像に戦慄する。
セレナ「ん〜、L.O.S.Tの意志は、伊達じゃないわけね〜」
ロム「だが、ここで臆してしまえば我々もこの世界も破滅の道に突き進むだけだ!」
剣狼、そして流星の二振りを両手に持ちながらロムは闘志に燃え、皆がそれに触発された。
631
:
蒼ウサギ
:2012/04/27(金) 19:21:40 HOST:i58-95-70-150.s10.a033.ap.plala.or.jp
=コスモ・アーク=
レイリー「……」
闇眼虎皇の脅威も気になるが、彼女が今、一番気になっているのはブレードゼファー―――悠騎が先ほど繰り出した攻撃のことである。
ゼファーシリーズには、“Dimension Energy-ディメンション・エネルギー”が動力源として利用されている。
その最終的な運用コンセプトは、単独長距離空間跳躍航行。
いわゆる単独でワープ航法を可能にする人型機動兵器を実現するために造られているゼファーシリーズだったが、
現状では、戦艦クラスの大きさじゃないと装甲等の耐久性が保たないことが判明している。
かといって、装甲面を厚くすれば今度は、機動性に欠け、本来の目的から外れてしまう。
つまり“ディメンジョン・エネルギー”とは、一種の次元に関する力なのだ。
偶発的とはいえ、悠騎は重ねたDソード二刀とSSブレードを一つにした。その事で爆発的な次元の力が発動してしまったのだろう。
悠騎本人はどうあれ、これはレイリーにとって大きな収穫となった。
レイリー「これはひょっとすると……ひょっとするかもしれないかも……」
§
=ギンガナム艦隊=
ギンガナム「ふははははははは!! 見ろ、メリーベル! 今、あそこではかつてない戦が起こっているぞ!」
月の衛星軌道上からG・K隊の戦いぶりをモニター確認しているギム・ギンガナムは、心躍らせていた。
メリーベル「あははは! ギムは参加しないのかい?」
ギンガナム「フン、小生とて後の支配権となる世界を滅ぼそうとせん輩を野放しにするのは性に合わんが、グエン卿が今は静観しろとだ。
まぁ、兄弟の戦いぶりをとくと楽しむとするか!」
メリーベル「ターンXの弟。たしかパイロットは、ローラだっけ?」
メリーベルが確認するように目を向けたのはグエン・サード・ラインフォード。
かつては、ミリシャの中心人物でもあった男だ。
グエン(ローラ。僕とこなかったことを後悔するよ)
632
:
藍三郎
:2012/05/06(日) 06:04:40 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「こんだけ数が多いなら、いちいち狙いを付ける必要もねぇわな!!」
グロリオーサから放たれるミサイルの嵐が、赤と黒の軍勢を焼き払っていく。
深虎「ヒャハハハハ! なら、こういうのはどおだぁっ!!」
闇眼虎皇はやや前傾姿勢を取り、逞しい二の腕の先に伸びた、鋭利な爪を光らせる。
爪の一本一本が、彼の悪意を凝縮した妖刀のようだ。
闇眼虎皇は、腕を×の字に振り、目の前の、何もない空間を切り裂く。
すると、十本の爪の軌跡に沿って、空間に亀裂が刻まれる。
重なる亀裂は大きな穴となり、赤い断層が生じる。闇眼虎皇は、その巨体を断層へと滑り込ませた。
ガムリン「何っ!」
元一朗「消えた……いや、潜ったのか……?」
その直後……
統合軍の戦艦のすぐ側の空間に皹が入る。続いて、空間を貫き、五本の爪が伸びる。
墨汁のような濃い紫色の瘴気が刃の軌跡を描き、戦艦を一撃の下に引き裂いた。
ムスカ「! やべぇ! 皆、固まるな!! 一気にやられるぞ!!」
再び空間を裂いて、今度は別の腕が虚空を薙ぐ。間一髪、今の一撃で命を落とした者はいなかった。
悠騎(両腕を出した! なら、次は……!)
ただの勘だった。悠騎は、ブレードゼファーを急上昇させる。
その直後、彼の真下に巨大な顎門(あぎと)が開き、びっしりと生えそろった牙の群れを閉じる。
空間を突き破り、今度は首を出して来たのだ。
あの男のこと、怨み重なる自分を狙うに違いない……その判断が一瞬でも遅れていれば、噛み砕かれ、あの化け物の胃袋に収まっていたところだ。
ハイリビードによって再生能力は減退している今こそ、一斉に攻撃を加える好機……しかし、これでは満足にダメージを与えられない。
それどころか、一方的な攻撃を受けてこちらが壊滅してしまいかねない。
既に、闇眼虎皇が召喚した軍勢によって、統合軍は劣勢を強いられていた。
深虎「アハハハハハ……! てめぇら如きに俺様の玉体に触れさせるものかよ! 見えない恐怖に怯えながらくたばるがいいぜ!!」
そう言って、闇眼虎皇は再び次元の狭間に消えて行く。
今や人間だったころの面影は微塵も無いが、かつては彼も、白豹と同じく闇に潜んで敵を討つ暗殺者。本来はこういった奇襲に長けた使い手だ。
シャル「奴め、体のサイズを圧縮したことで、今まで以上に自在に空間転移を操れるようになったということか!」
音も気配もなく、“ここ”とは異なる別の位相から繰り出される攻撃は、逃れようのない脅威と言っていい。
ゼド「まずいですね。こちらの危機は勿論ですが、もし、あのまま地球に行かれたら……」
白豹「それは案ずるな。ゲペルニッチを地上の守りに残したのはそのためだ。彼がいる限り、地球に直接転移することは出来ん。それに……」
白豹……彪胤は、“あの策”を実行に移す時が来たと感じていた。
白豹「……この状況、むしろ我々の最後の好機と成りうる!」
633
:
藍三郎
:2012/05/06(日) 06:05:18 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
白豹「グッドサンダーチーム! ブンドル達と合体するのだ!」
真吾「ああ、あれか! 今やれんのか?」
レジェンドゴーショーグンになるには、一定以上のビムラーエネルギーの高まりが必要なはずだが……
白豹「今、この空間にはハイリビードが満ちている。時間に制限はあるが、今なら可能だ」
ブンドル「ふ……どうやら、今が勝敗の要のようだな」
ケルナグール「おう! それであのいけ好かない奴をぶっ飛ばせるなら、やってやるわい!」
ゴーショーグンと三体のネオドクーガメカが合体し、レジェンドゴーショーグンとなる。
それと時を同じくして、空間が乱れ、闇眼虎皇が顔を見せる。
白豹「すぐにゴーフラッシャーを放て!」
真吾「おうさ! ゴーフラッシャースペシャル!!」
レジェンドゴーショーグンの背中から、ビムラーの閃光が放たれる。
それらは闇眼虎皇ではなく、彼を取り巻く宇宙へと命中する。
深虎「な……んだとぉ!?」
再び空間から浮上した瞬間、体の上半分だけが出た状態で、闇眼虎皇の動きが止まった。次元の裂け目が急速に狭まり、それ以上前に進むことが出来ない。
深虎「ぐおおぉっ!? この力は……!」
真吾「そうか! レジェンドゴーショーグンのゴーフラッシャーは、ものを修復する力を持つ。
東京で壊された街を治したように、今度は引き裂かれた次元を修復したのか」
キリー「で、あの虎野郎はそいつに巻き込まれて見事に嵌まっちまったってわけだ!」
レミー「この期に及んで陰からコソコソ仕掛けようだなんて、セコい手が完全に裏目に出たってとこかしら」
白豹「今こそ深虎を、L.O.S.T.を討つ好機!」
今や闇眼虎皇は、次元の裂け目という見えない十字架に磔にされたも同然。
ゴーフラッシャーの強い修正力が、次元の崩壊を押し止めている以上、彼の力でこの束縛を破ることは出来ない。
タツヤ「おおおぉぉぉぉっ! やるぜぇぇぇぇぇぇっ!!」
動きを封じられた闇眼虎皇目掛けて、G・K隊による一斉攻撃が降り注ぐ。
深虎(糞どもが……不快だ…不快だ不快だ不快だ不快だぁっ!!
俺は帝王だ……俺は無敵だ! こんなこと、あっていいはずがねぇ!!)
肉が爆ぜ、骨が砕け、己の存在(からだ)が削られていく感覚を味わいながら、彼の意識は、かつてまだヒトだった頃へと遡っていった。
634
:
藍三郎
:2012/05/06(日) 06:07:56 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
上海の貧民窟。血と硝煙の臭いと、死体にたかる蝿の羽音の絶えぬ、無法と退廃の街。
いや、法はある。暴力(ちから)ある者が全てを握り、暴力なき者は全てを奪われるという唯一絶対の法が。
そこでは日夜縄張り争いが繰り広げられ、他者を踏み躙り、屈服させる者だけが支配者としての資格を得る。
“上”に立つことが出来なければ、鉄砲弾か、あるいは弾避けにされ、役に立たなくなればゴミのように棄てられる、家畜以下の人生が待つだけ。
それは、そうなるのだけは嫌だった。
父親も分からぬまま、自分を産んですぐに死んだ母親のような惨めな末路だけは御免だった。
王族や貴族のような高貴な血など、この体には一ミリリットルも流れてはいない。
ゴミ溜めで生まれ育ち、生き延びるために腐肉でも何でも喰らったこの体には、汚物の血が流れている。
だが、この身には暴力があった。相手を引き裂き、噛み砕く爪と牙があった。それだけで、己は王座へと上り詰めた。
暴力(それ)こそが、彼にとっては血統よりも尊い、勲章であり王冠だ。
そこは、彼の王国。誰もが彼という暴君を恐れ、頭を垂れ、跪く。
心地好かった。誰かの下にいることでは決して味わえない恍惚と万能感が、そこにあった。
だが、程なくして、彼は思い知らされることになる。
彼の玉座が、脆く儚い、砂の楼閣であることに……
上海を牛耳る黒社会の重鎮、白家。
彼らの権力と言う名の巨大な力の前では、深虎の持つ暴力など蟷螂の斧以下だった。
彼の王国は根こそぎ奪い取られ、生き延びるため、彼は屈服せざるを得なかった。
それは、彼はずっと見下し、こうはなるまいと思い続けて来た、負け犬の姿そのものだった。
それから、白家に降った深虎は、その技能と暴力を活かし、組織の暗殺者として頭角を現していった。
人を率いるにはまるで向いていないが、誰かに使われる駒としては有能……それが、組織の下した評価だった。
そのことが、深虎の王としての誇りを傷付けたことは言うまでもない。
逆らえば殺される。貧民窟での経験から、力ある者となき者との絶対的な格差を知っていた彼は、白家に対し、従順を装い続けた。
腹の底に、いつか全てを手に入れるという野心を秘めて……
権力という、この世で最強の力。それを打ち砕く程の暴力。
それさえあれば、自分は全てを手に入れられる。
己を見下した者達を再び跪かせ、究極の栄光と、帝王の座を掴むことができる。
まさしく子供の夢物語。そんなものなど無いと己を偽りながら、心の奥底で焦がれ続け、渇望し続けた力が、今、この手にある。
深虎(なのになんだ? このザマは!?
俺は栄光を手にしたはずだ! 誰も俺を傷付けることは許されないはずだ!
なのに何で、何だってこの糞虫どもは、この俺を見下してやがる!!)
拭い去りたい敗北と屈服の過去。その屈辱の念が、彼の全てを手に入れたいという渇望を強めた。
その状況が、今、この場で蘇っている。
――俺を、この俺をッ! 足蹴にしてんじゃ、ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
635
:
藍三郎
:2012/05/06(日) 06:11:59 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
闇眼虎皇を中心に、放射状に拡がる次元の波が、宇宙を揺らす。
悠騎「……っ!?」
多くの機体はバランスを保てずに機体を揺さぶられる。
そして、漆黒の太陽が……弾けた。
先程とは比べ物にならない殺意と悪意の怒濤が押し寄せる。
次元に挟まれた部分を、己の肉ごと引き千切る。
しかし、欠けた部位からは即座に眼球が泡立ち、欠損を埋め合わせる。
白豹「この力は! まさか!」
白豹の脳内の彪胤は、戦慄に凍っていた。
白豹「……時間切れ……だ。やはり、半分のハイリビードでは、持たなかった……」
ムスカ「じゃあ、今の奴には……」
深虎「そうだ……! これだ、これだぜ!!
俺が望んで望んで望んで、ようやくこの手にした力が、こんな糞共にいいようにされる程度で、あっていいはずねぇよなぁっ!!」
深虎の咆哮と共に、闇色の瘴気が、赤い宇宙を浸蝕する。
宇宙が黒く染まるという、本来有り得ぬ光景が現出していた。
G・K隊の総攻撃で負った傷も、急速に修復されていく。
白豹「奴の体を巡っていたハイリビードが、今、奴の中で打ち消された!
ハイリビードが残っている間に仕留める以外に、勝機は無かったというに……!」
ハイリビードとL.O.S.T.は、互いに対となる存在。
本来は、闇眼虎皇の再生能力も、その本来の力も、完全に封じ込めておけるはずだった。
だが、半分程度では、その効力も、持続時間も半減するのは自明の理。
深虎「さぁて、てめぇらにやられた分、百倍にして返してやるぜ!!」
闇眼虎皇の腹部が開き、左・右・下に連なる三つの赤い眼が禍々しい輝きを放つ。
彼が一度外に放った闇の瘴気が、赤い三つ目に集まる。
まるで、激昂と共に撒き散らした怒気を、より強い殺意に絞り込むかのように……
アヤ「! あれは危険すぎる! 皆、逃げて……!」
パルシェ「でも、私達が避けられても、後ろの艦隊は……」
あの赤黒い光が、先程南極の一部を吹き飛ばした時とは、比べものにならない威力を秘めていることは、想像するまでもない。
セレナ(アッちゃん……!)
悠騎(由佳!!)
深虎「終わりだ糞虫どもぉ!! 塵一つ、原子一つ残さず消え去るがいい!
冥獄燼滅炮(みょうごくじんめつほう)ぉぉぉぉぉっ!!!」
闇眼虎皇の腹部から、破滅の光が放たれると同時に……
白豹「皆! 大臨亀皇の後ろに下がれ!!」
白豹はその時、大老師との思考の接続(リンク)が途切れたのを感じた。
そうしなければならない程、彪胤は、持てる力の全てを使っているということだ。
大臨亀皇が、横に倒れ、甲羅を正面に向ける。
――太極霊亀結界、展開!!
陰陽の印を中心として、光の線が亀甲の紋様を描く。
結界が、幾重にも張られ、直径1キロに及ぶ巨大な盾を形成する。
ディストーションフィールドのように、空間を歪曲させるのではない。
その逆……空間を正常化することで、限定領域内で起こる変化、この場合は破壊を阻害する。
修正力を活用した、これまで何度もL.O.S.T.の浸蝕を防いで来た強固な結界だ。
しかしそれさえも、猛威を振るう深虎の崩壊力の前では崩れかけた砦のようなもの。
高熱が水を蒸発させるように、圧倒的な物量は、しばし理を覆す。それもまた、この世の摂理だ。
636
:
藍三郎
:2012/05/06(日) 06:14:31 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
赤黒い波動がぶつかり、結界を瞬く間に消し飛ばす。
幾重にも張った結界が、障子紙でも破るように、次々と消されていく。
そして、最後の結界が破られ……
大臨亀皇を守るように立ち塞がる、蒼牛王と碧雀王の二体が、赤い光に飲み込まれ、瞬時に溶解する。
だが、二体の最期の力は、結界により減退化した燼滅炮を遂に相殺せしめた。
深虎「ハハハハハハハ! いいザマだなぁ糞爺!!
あの日とは逆に、今度はてめぇが地べたを舐める番だ!!」
白家の大老師である彪胤こそ、白家の権力の象徴。
深虎にとって、最もストレートに怨みをぶつけられる相手だ。
急速接近した闇眼虎皇が、強烈な蹴りを食らわす。その一撃で、大臨亀皇の装甲に、文字通りの亀裂が走る。
深虎「皮を! 肉を! 骨を! 臓物を! 引き裂き、断ち割り、抉り出し!!
伽藍洞になった中に、俺の赫怒(いかり)と憎悪(にくしみ)と屈辱をぉ!!
たぁぁぁぁっぷりと塗り込んでやるぜぇぇぇぇぇぇっ!!!」
逃げられないよう、無数の触手で貫いた後、両手の爪で、ズタズタに切り刻んでいく。
深虎「冥獄! 慙滅爪ぉぉぉぉぉッ!!」
ロム「くっ、このまま護られているだけなどと……!」
加勢に入ろうとするバイカンフーを、刹牙が肩に爪を当て、それを止める。
白豹「手を出すな」
ロム「何故だ! 彪胤氏は君の師でもあるのだろう!?」
白豹「それが大老師の望みだからだ。今の内に、疲れを癒し、態勢を建て直せとのことだ」
ロム「……っ!」
俺が、ウラノスから完全にハイリビードを奪還できていれば……
ロムは、内の悔恨の念を消すことが出来なかった。
白豹「老師が、最期に伝えるよう言われた言葉だ。
“この世全ての生が、生きる意志を失わぬ限り、ハイリビードもまた潰えることはない”」
深虎「くぅたばりゃあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
大臨亀皇の両端に爪を突き立て、左右へと引っ張る。
中心部のコクピットごと、大亀の巨体が、二つに引き裂かれた。
深虎「フ、フハハハハハハハ!!! やった! やったぞぉ!! ざまぁみやがれ糞爺――ッ!!!」
それと同時に……
深虎「……っ!!」
砕け散った亀甲の破片が、闇眼虎皇の周囲を取り囲む。
光の線が破片同士を繋ぎ、多面体の結界を形成する。
深虎「最後の足掻きって奴か? ハッ!!
まぁいい、ほんの僅か、絶望する時間をくれてやろう。
ここから先は戦いなんぞじゃねぇ。帝王(オレ)を喜ばせるためだけの、鏖(みなごろし)の宴だぁ!!」
小賢しいとばかりに笑う深虎。彪胤の最期の念を込めた結界だが、今の深虎相手では僅か数分の時間稼ぎにしかならないだろう。
それでも、今のG・K隊には、その数分に計り知れない価値があった。
ロミナ「夏彪胤様……貴方の下さった情報のお陰でわたくし達は、ここまで戦い抜くことが出来ました……」
ロム「貴方の永い戦いは無駄にしない……必ず、倒してみせる。あの悪鬼を……!」
白豹「…………」
白豹は何も言わない。己がすべきこと、必要な知識は全て、既に師に託されているからだ。
誓いを口にするまでもなく、己の使命は、心に刻みつけられている。
ただ、帽子を取り、胸に当てて見せた。
637
:
蒼ウサギ
:2012/05/28(月) 17:47:56 HOST:i121-118-61-103.s10.a033.ap.plala.or.jp
―――今、あなたの声が聴こえる。「ここにおいで」と―――。淋しさに負けそうな私に……
宇宙に優しく響き渡る歌声に、一同が思わず耳を傾けた。
というよりは、傾けたくなるような歌声だった。
マックス「これは・・・?」
少し昔を懐かしく思っていた。
何せあの“星間戦争”を元に作られたといわれる映画。
この名曲にのせて、1人のアイドルを歌う中で一機のバルキリーが舞うクライマックスシーン。
それが「愛・おぼえていますか」なのだから。
―――今、あなたの姿が見える。歩いてくる―――。目を閉じて待っている私に……
タツヤ「歌? まさか、FIRE BOMBER……」
ミリア「ミレーヌ……あなたが歌っているの!?」
そう、星間戦争の立役者のアイドル。伝説の歌姫と呼ばれているリン・ミンメイは、ここにはいない。
今この場でこの歌を歌っているのは、紛れもなくアレンジを利かせているミレーヌ・ジーナスなのだ。
ミレーヌ「昨日まで涙で曇ってた―――。心は今―――♪」
他のメンバーは、ミレーヌの歌の演奏へ徹している。あくまでもこの場はミレーヌのサポートだ。
バサラもライブの時はミレーヌの曲では演奏には徹する。そして今も。
ガムリン「ミレーヌさん……その歌は…?」
ミレーヌ「(私…いや、私達だって、みんなを。そして、この世界を助けたいの)」
だからミレーヌ自身この歌を選曲した。
バサラやレイ、ヒビーダもそれに賛同したのだ。
ミレーヌ「(自分があのリン・ミンメイのようになれるかどうかわからないけど…私なりにやってみる!)
おぼえていますか―――。目と目会った時を。おぼえていますか。手と手が触れ合った時―――」
瞬間、その歌に耳を傾けていた者達は、心なしか癒され、気分が落ち着き始めてくる。
脱力感や疲労感などはなく、心地よい不思議な気持ちだ。
ロム「不思議な歌だ……」
悠騎「あぁ……疲れが抜けて一気に気合が漲ってきやがるぜ!」
皆、それぞれに機体がボロボロだが、ミレーヌの歌はそれほどまでに癒しをあたえてくれるに充分だった。。
たとえ、それがアニマスピリチアではなくとも、誰かのために想い。身を呈して守ってくれた夏彪胤へのせめてもの感謝の気持ち。
シンジ「カヲルくん……これが君が言っていた文化の極み、ってやつなのかな?」
―――そうだね。プロトカルチャーもかつてこの歌を歌っていたんだよ。
50万年程前…。いや、1万と2千年前だったかな?
プロトカルチャー、神話、使徒、そしてリリン。
時を経て、様々な変化を遂げた今だからこそリリンは、最後まで“歌”を忘れなかった。
シンジ「え?」
―――僕はいくよ。久遠の彼方にね……。
シンジ「あ……」
それから後は、カヲルの声は聞こえなかった。
638
:
藍三郎
:2012/06/05(火) 21:08:06 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
クローソー(何だ……この……歌は……)
戦場に響く少女の歌声。
それは、彼女の記憶の底にある何かを、掘り起こそうとしていた。
クローソー(覚えている……私は覚えているぞ……この曲を……)
今の機械の体に記憶を移される前、彼女には人としての人生があった。
クローソー(そうだ……これは“母さん”が好きだった歌……
かつて、この星で大流行した、世界を救った歌姫の曲……
待て……私に“母さん”……だと?)
己の内に湧き上がる記憶に困惑する一方で、それを不快なものとは思えない。
むしろ、温かく包み込まれるような、姉妹と共にいた頃の安心感に通じる感覚だった。
ハーリー「これが、あのゼントラーディ戦争で歌われたという、伝説の……」
サブロウタ「へへ、心に染みる、いい歌じゃねぇの」
ミレーヌの歌は、絶望的とも言える最期の抵抗に望む戦士達の心を癒していった。
ダミアン「この歌をきっかけに、俺達人間とゼントラーディは和解できたんだよな」
ハリー「先人の払った犠牲と奇跡……その結果として、今の我々の歴史がある」
エイジ「そしてそれは、未来へと続いていくんだ。ここでその道程を絶やすわけにはいかない!」
セレナ「アレを招き入れたのには、私達にも一因があるみたいだしね。
あんなのを身内だなんて思っちゃいないけど、ケジメはつけさせてもらうわ。
でないと寝覚めが悪いしね」
ゼド「それに、あれを止めなければ、今度は私達の世界が滅ぼされます」
白豹「……奴の驕慢に果てはない。ありとあらゆる世界を滅ぼし尽くそうとも」
リュウセイ「やらせるかよ! この世界も! 俺達の世界も!」
ディアナ「巨人族との和解の後も、我々は愚かなことに、人と人との争いを無くすことは出来ませんでした。
ですが、地球、月、コロニー、火星、木星、グラドス、シェーマ、クロノス、
ゼントラーディ、メルトランディ、プロトデビルン、そして境界を越えた異世界の方々……
わたくし達は何度もすれ違いながらも、今、手を取り合い、ようやく始まりの場所に立てたのです。
わたくし達の思いは一つ。力を合わせ、お互いにとってより良き未来を切り開くこと。
数多の尊い犠牲の末に手にしたこの時を、終わらせるわけには行きません!
国を越え、星を越え、世界を越え……全ての生命の未来(あす)のため……あの悪鬼を討ちます!!」
ハリー「御意!!」
ミレーヌの歌とディアナの演説が、戦士たちの心に安らぎと、災厄に立ち向かう勇気を与えていた。
ムスカ「で、白豹。お前、最期に大老師に何を聴いたんだ?」
ゼド「あの深虎を倒せる策があるなら、早く皆に伝えなくては……」
ムスカとゼドの問いに、白豹は短く答えた。
白豹「……死力を尽くし、ありとあらゆる手を使って、奴を追い詰めろ。全てはそこからだ」
ムスカ「前提条件がそれか……追い詰めるってのは、当然、さっき奴が力を解き放つ直前よりも、更に……ってことだよな……」
あの時は、闇眼虎皇の全身にはハイリビードが回り、大きく弱体化していた。しかし今は、その効力も切れている。
真の力を発揮した今の闇眼虎皇相手に、あの時以上のダメージを与えなければならないのか。
ムスカ「気が遠くなる話だ……いや、そんなちんたら時間をかけてるヒマはねぇか」
長い時間をかければ、闇眼虎皇の内部に組み込まれている葉山翔が、契約者としての力を発動させられ、世界の崩壊が始まってしまう。
639
:
藍三郎
:2012/06/05(火) 21:08:46 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
ゼド「どれだけ絶望的でも……やるしかないということですね」
白豹「そうだ。そして、その時は……」
――俺が、極(き)める。
一瞬、ムスカとゼドは共に言葉を失っていた。
彼とは長くチームを組んでいるが、これほど力強く何かを言葉にしたのは初めてのことだ。
彼は決して、根拠のない強がりを言う男ではない。
だから、彼の言葉は小さくとも確かな光明として信じられた。
白豹「刻が来るまで、俺は闇に潜る。この業は、まず俺が極限まで氣を練った状態を維持しなければならないからな……」
ゼド「これまで積極的に打って出なかったのは、そのためでしたか」
ムスカ「ああ、奴を追い詰めるのは俺らに任せとけ」
彼は暗殺者。闇に紛れ、致命の一点を狙って闇から敵を討つのが本分。
それを、彼はこの最終局面で実行しようとしている。
そのまま刹牙は気配を消し、宇宙の闇へと消えて行った。
やがて、結界に亀裂が走り、内側から湾曲した爪が伸びる。
夏彪胤の最期の結界も、その効力は長く続かなかった。
紫色の剛毛で覆われた巨腕が一振りされると、結界は粉々に砕け散った。
それと同時に、宇宙に吹き荒れる悪意の暴風。
虫一匹たりとも生存を許さぬその超高密度の殺意は、
黒い宇宙を更に黒く染め上げるかのようだ。
深虎「ヒャァーッハッハァッ!! 死ぬ前の最期の猶予、存分に楽しんだかぁ!?
来世に望みなんざあると思うなよ?
てめぇら人類(クソども)の歴史はぁ、今日ここで終わんだからよぉーッ!!」
その直後、残る艦隊と機動兵器部隊による、一斉射撃が闇眼虎皇に降り注ぐ。
しかし、今の深虎は、空間転移を使って回避しようとすらしない。
例え、超硬度の剛毛を貫いて傷を負わせても、受けた端から、傷が修復されていくのだ。
ハイリビードの呪縛を封じ込めた今の彼の再生能力は以前の比ではない。
深虎「アハハハハハハハハハ!!! 蚊に刺された程度にも感じねぇなぁっ!!」
マイク「くそっ、やっぱりバケモンだ……!」
ジョウ「怯むんじゃねぇ!! 俺らの後ろにはロミナ姫達が……地球の皆がいるんだ!!」
ジョウの言葉に、深虎は口元を歪ませる。
深虎「ククク……そういやさっき護るだの、未来のためだの、青臭ェことほざいていやがったな。
ハッ! くだらねぇ。だからてめぇらは奴隷なんだよ」
タツヤ「何ぃ?」
深虎「誰かのために戦うってのは、即ちそいつに依存、従属してるってことだろうが!
俺は違う! 俺は、俺という俺のためだけに殺し、奪い、征服する!それが帝王の証だぁ!!
てめぇらのごとき奴隷根性の塊みてぇな小さな生き物、アリみてぇに踏み潰されるがお似合いなんだよ!!」
ゼド「貴方相手に説教する気にもなれませんが、王とは、支配する国と民がいてこそ成り立つもの。
それを自分で壊してしまっては、貴方を崇める者もいなくなってしまうのでは?」
何もかも破綻しているこの男に問いを投げ掛けること自体無意味に思えるが、相手の注意を逸らす目的で会話を続けた。
深虎「ハハハハハハハハハ! 前にも言っただろうがよ。俺に対する恐怖と絶望!
それこそが俺を讃える唯一にして至高の賛美歌だってな!
俺を恐れるのは、俺という帝王の力に屈服した証!
死に怯える下々の者どもを踏み潰してやるのは、帝王にのみ許された、至高の悦楽だぜぇ!!」
640
:
藍三郎
:2012/06/05(火) 21:19:06 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
ゼンガー「では貴様は、己の自尊心を満たすため、ただそれだけのために、この宇宙を壊し、他の世界でも殺戮を続けるというのか!」
他のメンバーも深虎の言い分に嫌悪感を滲ませる。
パルシェ「何が王よ……そんなの、自分より弱い生き物を虐めて喜ぶ子供と同じじゃない!」
シャル「その通りだ。だが、最悪なのは、奴は俺達も含めたこの世の全てをその小さな虫けらと見做し、滅ぼそうとしてるってことだ!」
ブンドル「醜い……醜過ぎる。ケルナグールのように、ただ力に溺れて獣以下の醜態を晒すだけならまだしも、その所業を王の在るべき姿と決め付けるとは……
今日までの歴史を築いて来た全ての名君、高貴なる血統への最大の侮辱だ」
ケルナグール「全くじゃい! って何でそこでワシを引き合いに出すんじゃ!」
ブンドル「……間違った物の見方を持つぐらいなら、脳みそまで筋肉で出来ていた方がまだ救いがあるということだ」
ケルナグール「ふむふむ、なるほど、つまり日頃から筋肉を鍛えておるワシは奴より格上ということじゃな!!」
カットナル「もはや訂正してやる気にもなれん。とはいえ、ワシも政に携わる身。
暗君が国を滅ぼそうというのなら、暗殺でもクーデターでも何でもやって消してやるのが国のためじゃわい。
でないとワシの啜る甘い蜜が無くなるからのう!!」
恵子「ガイゾックでさえ、元は宇宙の平和を護る存在だったのに……」
宇宙太「こいつはただ、自分が楽しみたいという欲望だけで、宇宙を滅ぼそうとしてやがる」
勝平「どっちも変わらねぇよ! 絶対に許しちゃおけねぇ、倒すべき敵ってことはな!!」
深虎「アハハハハハハ!! 餓鬼どもが囀りやがる!! 俺様は無限に輝き続ける破滅の太陽!! チンケな月の光なんざ、届くと思うなよ!!」
勝平「お前みたいな偽物の太陽は、ザンボット3が叩き壊してやるぜ! 俺達が欲しいのは、平和な世界の朝日だ!!
ザンボット・ムーンアタァァァァァック!!」
ムーンアタックの光が、闇眼虎皇の体に三日月の火傷を刻む。
そこにすかさず、飛影を先頭とした忍者メカ達が追撃を加える。
ジョウ「てめぇごときが王だと!?
故郷を救うため、危険を侵してこの星までやって来た、ロミナ姫の爪の垢でも煎じて飲みやがれってんだ!!」
深虎「てめぇの国を滅ぼされ掛かって、余所の星に泣きつくなんざ、よっぽど弱っちい王なんだな、そいつは!!」
レニー「L.O.S.T.に縋って今の力を得た、あんたにだけは言われたくないわ!!」
イルボラ「罪人たる私に、貴様の悪を裁く資格はない。だが、我が主、ロミナ姫を侮辱したことは、断じて許せん!!」
ジョウ「行くぜ! マイク! レニー! ダミアン! イルボラ! そして……飛影!
俺達伝説のニンジャ戦士が、てめぇのたわけた野望、闇に葬ってやる!!」
641
:
藍三郎
:2012/06/05(火) 21:21:27 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
済まんな、蛇鬼丸……
やっぱりボクは、まだどうすればええのか分からん。
悠騎君らと一緒に、楽しく仲良く旅をすんのも、本能に身を任せて誰彼構わず斬り殺すんのも、どっちも同じぐらい愉しいんや。
けど、それでどっちにすればえーのか凄く迷っとる……ちゅーのも、また違うねん。
結局、どっちでもええんやろ。どっちかを選んで、その結果がどうなろうとどうでもええ。
昔、シャッチョさんが言うとったわ。
君はきっと、今まで後悔することなく生きて来たんでしょうね。
それは、絶対に揺るがない信念を持っているわけでも、誤りのない人生を歩んで来たわけでもないわ。
あなたは、どんな選択をしようと、その結果に何かを感じ入ることがない。
いえ、それとも違う。貴方も人なんだから、人並みに喜んだり悲しんだりするわ。ただしそれは、あなたのその後に、殆ど影響を及ぼさない。
人は過去の経験から自分にとっての敵と味方、善と悪を定める。
けれどあなたは過去に囚われない。過去が己を決定づけない。
その癖、あなたはその中に、切れ味の良すぎる刃を持っている。
善い方にも、悪い方にも、どうにでも転びうる、危険な刃……それが君の本質よ。
灯馬「皆みたいな正義の味方にも、蛇鬼丸(おまえ)みたいな悪党にも成り切れへん。お前から見たら、えらい中途半端な奴に映るやろ」
灯馬の手の間から、血が滴り落ちる。
灯馬「けどな、どないにぶれて迷っても、どっち付かずであっても、それがボクやねん。お前にも、誰にも、くれてやることはでけへんわ」
蛇鬼丸「……ハッ」
蛇鬼丸の刀は、灯馬の首筋を、皮の部分だけ切り裂くに留まった。だが、彼の腹には、血のように赤く染まった刀が、深々と入っていた。
蛇鬼丸「く、くくくくく、それでいい……それでいいんだよ。この野郎がぁ……」
この世界では、お互い自分の力だけで戦う。
灯馬は刀を持っていなかったが、最早、彼に武器は必要ない。
覚醒した夜天蛾の血を持ってすれば、刀を作り上げるなどは容易い。
蛇鬼丸と同じく、今や彼自身が一振りの刃と化していた。
刀が無くとも、蛇鬼丸を倒すことは出来たのだ。
迷い流されていても、灯馬の中で、自己への執着は決して揺らぐことは無い。
それも、生存を求める血の本能に流された結果かもしれないが……
血の刃が引き抜かれると共に、彼の脇腹から今度は彼自身の血が噴き出す。
鮮血は、地面ではなく、灯馬の刃へと吸い込まれていった。
蛇鬼丸「思い出したぜ……あん時代(とき)も俺ぁ、こうやって斬られたんだったな……」
あまりにも人を斬ることに執心していた蛇鬼丸は、斬られてヒトとしての生を終えた時も、その事実を認識することは無かった。
妄念に取り付かれた彼の魂は、肉体よりも刀こそを主と見做し、死の寸前で魂が移動したのだ。妖刀・蛇鬼丸の誕生である。
蛇鬼丸「その戦いが善でも悪でも構いやしねぇ……
俺はただ、人を斬ることが出来りゃあそれで良かった。
けどよ、使い道がないのに、ただ飾り物として置いておかれる……それだけは御免だ」
灯馬が真の力を解放すれば、もはや自分の出る幕は無い……蛇鬼丸は、それを既に悟っていた。
蛇鬼丸「そうなるぐれぇなら、へし折られた方がまだマシってもんだ……
……だが、これでようやく終わることが出来る……
もしかすると俺は、ずっとこの時を……」
灯馬「…………」
今まさに死に絶えようとしているかつての相方に、灯馬は無言で背を向け、その場を立ち去ろうとする。
蛇鬼丸「……なぁぁぁぁんて言うと思ったか甘ぇよクソガキィ!
俺は人斬りだ俺は妖刀だぁ!
いつまでも何処までも死ぬまでいやさ死んでも永遠に人を斬る斬る斬る斬る斬る斬らせるぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
悪鬼の形相で、背後から灯馬に刀を振り下ろす蛇鬼丸。
だが……
その刃が、再び人の血肉を啜ることは叶わなかった。
蛇鬼丸「あ……ぎへっ」
真っ直ぐ前へ放たれたはずの必殺の刃は、前方斜め下へと向かい、地面を裂くに留まる。胴体を両断された蛇鬼丸が、前へと崩れたからだ。
灯馬の周囲100mには、肉眼では見えない程の小さな血の飛沫が漂っている。
どれだけ小さくとも、これらもまた彼の一部。
背後からの攻撃でも、相手の存在を感じ取り、時間差無しで本体を動かし、超反応を可能とするのだ。
灯馬「さいなら、蛇鬼丸。お前、結構おもろかったで」
一撃で絶命した蛇鬼丸を振り返ることなく、灯馬は“外”へと歩み出した。
642
:
藍三郎
:2012/06/05(火) 21:22:57 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
格納庫で微動だにせず佇んでいた赤い塊に、変化が生じる。
表面に皹が入り、それが浮き上がって、頭や腕、翼に似た形を成していく。
やがて、頭と思しき部分に、毒々しい色の赤い眼光が、二つ宿った。
G・K隊と統合軍の決死の猛攻を受けてなお、闇眼虎皇はかつてとは比べものにならぬ速度で修復していった。だが……
深虎(まだまだ大したこたぁねぇが、再生速度が遅ぇ……どうなってやが……!)
周囲の気の流れを読み取る闇眼虎皇の“眼”は、自身の再生を阻害している原因を看破した。
深虎「そこかぁっ!!!」
闇眼虎皇の両肩が、突如膨張する。
牙の生え揃った口が開き、中から赤銅色の皮膚を持つ機体が二体、這い出て来る。
ムスカ「あれは……法眼眩邪!」
ミリアルド「先程倒した機体も分身である以上、可能であるとは思っていたが……!」
深虎「殺れぇ! あの耳障りな音を消し潰せぇ!!」
闇眼虎皇の両肩から完全に抜け出た法眼眩邪は、禍々しい氣を振り撒きながら、バトル7の上で歌うファイヤーボンバーへと向かっていった。
深虎が、ミレーヌの歌を脅威と見做した……それは即ち、彼女の歌に、確かな効果があることを意味していた。
しかし、彼女らを消されてしまっては、人類の希望の灯は潰える。
ガムリン「ミレーヌさん!!」
すでに反応弾は撃ち尽くしている。
バルキリーの武装では、あの法眼眩邪を止めることは出来ない。
ガビル「させるか! グラビル、防衛美!!」
グラビル「グオォォォォォォン!!」
ガビルとグラビルが盾となり、法眼眩邪の進路を塞ぐ。
しかし、そのうちの一体は、自らグラビルに組み付いていった。
体当たりを仕掛けると同時に、体から触手を放ち、グラビルの巨体を縫い止める。
その隙にもう一体が……
だが……
宇宙を走る紅い刃が、法眼眩邪の胴体を、美しい軌跡を描いて両断した。
液状の刃の柄を握るのは、全身に血を滴らせる紅の剣鬼。
悠騎「灯馬!!」
セレナ「ふふ……社長(わたし)を差し置いて重役出勤とはね」
以前とはやや姿を変えた麟蛇皇・紅を見上げ、この事態を予見していたかのように微笑むセレナ。
この宙域には、この場の人間全てのそれを凌駕する、深虎の殺意と悪意が充満している。
灯馬と共に復活を果たした麟蛇皇・紅は、その殺意に反応する形でコスモ・フリューゲルから飛び立ち、すぐ近くにいた殺意の源を斬った。
それだけのことで、決してミレーヌらを護ろうとしたわけではない。
しかし、闇眼虎皇が、分身も含め絶え間無く殺気を放っているこの状況は、灯馬に斬るべき相手を定めさせていた。
両断された法眼眩邪だが、断面から触手を伸ばし、すぐに再生を果たす。
この二体は他の分身とは違い、より強く闇眼虎皇の力を分け与えられている。
灯馬「へぇ……斬っても斬っても元通りになるんか……そりゃ、ええわぁ。
ナンボでも、心行くまで斬れるっちゅーことやな」
灯馬は、口元を吊り上げ、酷薄で嗜虐的な笑みを浮かべて見せる。
灯馬「蛇鬼丸(あいつ)だけじゃ物足りひんかったんや……思う存分、斬らせてもらうで……」
血液を纏った刃が、鞭のようにしなり、眼前の法眼眩邪を斬り裂く。
灯馬「それが、蛇鬼丸へのせめてもの餞や……あれ、ボク、何か今おかしいこと言ったかな?」
迷いと矛盾を内に抱え、それでなおも揺るがぬ刃は、更にその冴えを増していた。
643
:
蒼ウサギ
:2012/06/15(金) 22:39:29 HOST:i114-189-88-43.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「と、灯麻……」
ただ己の欲求のままに斬り続ける麟蛇皇・紅。
そんな様子が変わった灯馬に戸惑う中、セレナはすかさず回線を入れてきた。
セレナ「あの子なら、この化け物を倒した後にしなきゃね?」
悠騎「あ、あぁ!」
少々、灯麻の迫力に気圧されたものの、歌の効力もあってか勢いの方が勝っている。
そんな中、ふと気付いた。ミレーヌの歌声の中にもう一つ、違う歌声が混じっていることを。
クローソー「おぼえていますか―――。手と手が触れ合った時。それが初めての―――愛の旅立ちでした」
――I love you ,so
悠騎(アイツ……?)
意外な人物だった。少なくとも悠騎にとっては。
彼女とは目的が一緒という事だけで共に戦っている間柄だ。しかし、元は敵対して相手。
知らない部分が多々あるとはいえ、まさかこのような形で意外な一面が見られるとは思わなかっただろう。
悠騎「アイツ、結構、歌上手いんだな」
ロム「むっ…この剣狼の輝きは! もしや…?」
ロムが気づいたその時だった。
―――今、あなたの視線感じる――。離れてても――体中が暖かくなるの―――
聴こえてきた。
ミレーヌとクローソーだけじゃない。
部隊の何人かの歌声も、そして地球から一つ。また一つと同じ歌が聞こえてきた。
アイ『ミレーヌさんの歌と映像を、地球圏全域にあらゆるに流しておきました。それとディアナ女王の演説も』
ルリ『同じ事を考えてましたね』
お互い少し回線を開いて微笑した。
コスモ・アークとナデシコC。なんの示し合わせたわけでもなくこの二隻の超電子艦は、水面下で地球全域に電波ジャックを行っていたのだ。
もちろん、初めは当惑や混乱はあったものも、次第にディアナの演説。
そして何よりFIRE BOMBERのミレーヌの歌に地球圏の人々は心を動かされた。
結果、それを聴いた人々の歌声が地球中から溢れかえっているのだ。
=統合軍政府=
地球全域にハッキングが行われてから即座にここは対応に乗じた。
いくら彼らとて、ここまでやると犯罪集団となりかねない。
名義上、G・K隊は、並行世界からやってきた独立部隊と名乗っているが、こっちの立場からすれば危険因子にしかなりえない。
加えてお抱えのナデシコCまでその行為に共同している。
言わば、市民が統合政府と対立してしまい、クーデターが起こる可能性もあるわけだ。
ローニン「やれやれ。この状況、いかがなさいますか? ミスマル提督?」
ミスマル「うむむむ……」
ミスマル・コウイチロウ提督は、顔中、汗を滲ませながら唸っていた。
この戦いだけでなく、コウイチロウは、基本的には彼らの味方だ。それは単にナデシコCやテンカワ・アキトがあそこにいるだけではない。
彼らに己の正義と運命を託してもいいと思ったからこそ、自分はこの場所にいることにしている。
ミスマル(し、しかし、ここまでになると収拾が……)
その時だった。
???「こらパパぁ! 早くルリちゃん達の映像と歌! 超法規的処置として対応! このまま全チェンネルで放送しつづけて!」
扉がバーンと空いたそこに立っていたのは、火星の後継者に拉致されボソンジャンプの生体ユニットにされてしまった娘。
その服装は、すでに統合軍―――すなわちミスマル提督と同じものが身につけられていた。
ミスマル「ユ、ユリカ!? お前、もう大丈夫なのか?」
ユリカ「大丈夫! 大丈夫! ぶい! さぁ、パパ。早くチャッチャッとやっちゃって! アキトを…ううん、みんなを守るために」
ミスマル「だ、だがな、ユリカ〜」
渋るコウイチロウにユリカは、指を一本立ててコウイチロウの口を塞ぐ。
ユリカ「これらは、私達らしくやっていきましょう?」
眩い笑顔に、コウイチロウは、何も言えず。ローニンはただ苦笑し、それからユリカの手筈通りに動いた。
644
:
蒼ウサギ
:2012/06/15(金) 22:40:06 HOST:i114-189-88-43.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
どこかで懐かしい歌が聞こえる。
あぁ、これはあの時、歌ったものだ。
―――久しぶりに私も歌いたくなってきたな。
「いいよね、だってこれは特別な歌だもの」
そして彼女は歌い始めた。
伝説のアイドルは、今もなおその衰えを知らない。より磨き上げ、洗練された歌を彼ら戦友(マックス達)に届けた。
§
=第三新東京市=
幾度の戦いから時を経たここは、今や残った者も少ない。
だが、残った者は、帰る者達のために必死に復旧作業を行っている。
元NERV職員。そして、かつてそこを攻撃したハザード率いた元統合軍兵士達も。
そして、時にはここに残っているトウジ達、第壱中学校に通っている生徒達が放課後にも手伝っている。
だが、今はその復旧作業の手を止めて大スクリーンのテレビにくぎ付けになっていた。
これは、元々、地下のNERV本部から持ってきたものであるが今はこのように皆の観賞用になっている。
トウジ「おい、シンジを映さんかい! シンジはどうなってんや〜!」
ヒカリ「鈴原ー! そんなに大声出さないでよ! 歌が聞こえないじゃない!」
トウジ「なんや〜。委員長のほうが声、でかいんやんけ…」
ヒカリ「なんか言った?」
トウジ「なんもあらへ〜ん」
そんな二人のやり取りがすっかりこの場では定番となり、どっと笑いが起こる。
そして、誰かがミレーヌが歌っているのにつられて、同じ歌を歌い始める。
―――昨日まで、涙でくもってた。―――世界は、今……
そして、また一人。また一人と、歌い始めていく。
冬月(お前もどこかで聴いているか? 碇。この歌を…)
§
地球が全体が輝いていた。
それは、比喩でもない。本当に輝いていたのだ。
悠騎「こ、これは……!?」
悠騎は、それを見た事がある。
そう、ここに来るまでの時、戦い。ネオジオンのシャア・アズナブルがアクシズを落した際のνガンダムのサイコフレームの放った輝きに
酷似しているのだ。
悠騎「そうか……これが人の想いが持つ力なんだ!」
想いが一つになると、それは巨大な力となる。サイコフレームはそれを媒介としていたが、今回はミレーヌの歌がその代わりとなった。
同じ歌を歌う事で、人々の想いが強くなる。そしてそれは―――。
ロム「っ! は、ハイリビードが!?」
悠騎「あぁ、やっぱ皆、気持ちはオレ達と一緒なんだよ!」
そう言って、ブレードゼファーの剣を闇眼虎皇に向ける。
悠騎「あんな奴に滅ぼされたくないってな!」
悠騎のそれを聞いて、次々に地球に向けて敬礼を繰り出す機体が出てきた。
それは、感謝の気持ちと自分達が負わされた責任と覚悟の現れだった。
マックス(一条先輩……今度は自分達の番ですね)
645
:
藍三郎
:2012/06/30(土) 06:42:53 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
「…………」
それは最初、己の感覚が拾ったものが何なのか解らなかった。
何かを感じるということ自体、実に久方ぶりのことで、己という存在が、ここに在るという認識自体、朧げなものだったのだ。
それ程までに、“彼”は疲弊し、摩耗し、朽ち果てていた。
彼が受けた責め苦を、ヒトの身に当て嵌めれば、数千、数万は死んでいてもおかしくないだろう。
ありとあらゆる苦痛を感覚器を通して直接精神に刻み込まれ、その魂は原型が解らぬ程にすり潰されていた。
しかし、それらの外的な苦痛に増して恐るべきは、己のすぐ側にある、“力”への欲求だった。
その手で世界を握り潰すことも出来る圧倒的な万能感、開放感。それを掴めば、己を苛む苦痛の嵐からも解放される。
それが分かっていながら、彼は力に身を委ねることを拒絶し続けていた。
己がそれに屈することが、この状況を仕組んだものの、悪辣なる奸計であると知っていたからだ。
力に身を委ねた瞬間、全てが終わることも……
北風と太陽が手を組んで外套を剥ぎ取ろうとしているような状況。
極限の苦痛と、無限の力との狭間に築かれた牢獄で、彼は抗い続けて来た。
彼は、意志さえあれば、いかな苦痛にも誘惑にも負けないと信じていた。
いかに■■■■でも、直接心を弄ることは出来ない。彼はそういう存在、世界から独立した<鍵>だからだ。
だが、それも限界に近い。あまりに長く続いた日々は、着実に彼の意志を蝕み、削り落としていった。。
拷問や誘惑には耐えられた。しかし、単純な時間の流れが、孤独が、彼から抵抗の意志を、徐々に奪い去っていったのである。
自分が何なのか、何故自分はこうまで抵抗するのか。その根源も、時を経る毎に薄れ、かき消えていく。
今の彼は、自分が何者なのかも解らず、ただ抗うという意志だけで、己が心を繋ぎ止めている。
そして……それも間もなく終わりを迎えようとしている。
人は他者の存在により、己の存在を確立する。
“無”に囚われた彼の心は、やがて己を構成する全てを見失い、魂の生存本能に従って、力の側へと流されていくように思われた。
だが、今彼は他者の存在を感じている。人の感覚はとうに失われ、音も光も感じられない。
それでも、消え掛かった彼の心を僅かながら揺さぶった。それが何なのかは解らない。
ただ、これまでの苦痛と誘惑とは違う何かを感じ……彼は、その手を伸ばした。
地球の輝きと呼応するかのように、レジェンドゴーショーグンも、かつてない程の輝きを放っていた。
キリー「こいつは……」
レミー「何だかよく分かんないけど、今なら、すんごいことが出来ちゃいそう!」
真吾「同感だ。行くぜ、ゴーフラッシャースペシャル!!」
直感に従い、上目掛けてゴーフラッシャースペシャルを放つ。
数条の光芒は、垂直に舞い上がった後、無数に分裂し、流星群のように戦場全域に降り注いだ。
ドッカー「おいおい、味方も巻き添えかぁ?」
ゼド「違いますよ。これは……」
光を浴びた機体は、破壊されるのではなく、急速に修復されていった。
かつて第三新東京市での戦いでも見せた、機械を蘇生させるビムラーの新たなる力だ。
闇眼虎皇の猛攻に晒され、激しく損傷、消耗していた機体も、瞬く間に元に戻る。
逆に、魔鬼羅や怒愚魔といった闇眼虎皇より生み出された機体群は消滅していく。
闇眼虎皇がそうであるように、物を修復するビムラーの力は彼らには致命的なのだ。
ムスカ「ありがてぇ。これでまだまだ戦えるぜ」
エイジ「いや、今回は、ただ傷を癒すだけではなさそうだ」
ビムラーが、ハイリビードが、地球の人々の意志が、戦うための力を与えてくれるのを感じ取っていた。
646
:
藍三郎
:2012/06/30(土) 06:43:32 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
深虎「!! がっ! ごがぁっ!?」
ゴーフラッシャースペシャルを浴びた闇眼虎皇の体内から、七色の光が溢れ出す。
それは、紛れも無くハイリビードの光だった。
深虎「ぬぁ……にぃぃ!?」
深虎の顔は、信じられぬといった様子で歪んでいる。
完全に封じ込めたはずのハイリビードの力が、先程の光で再び息を吹き返しているのだ。
ロム(彪胤殿……貴方の最期の言葉の意味、今分かった)
人々の生きる意志の消えぬ限り、ハイリビードは消えることはない。
世界は修正力と崩壊力という、両極のバランスで成り立っている。
文明が滅んだ時に、崩壊力はその宇宙を一度消し去る。
文明とは、生命ある場所に起こるもの。言うなれば、人々の生きる意志の結晶なのだ。
生きる意志が消えぬ限り、文明も無くならず、修正力はそれを後押ししようと、更に力を増すだろう。
滅びへ抗う強き意志……それが連なり、束ねられ、消滅を打ち消す力、ハイリビードが生まれるのだ。
ハイリビードとは、必ずしも一つではないのだ。
そう……今や地球は、第二のハイリビードと化している。
それが、闇眼虎皇の内で押さえ付けられていたハイリビードの残滓と共鳴しあい、彼の身体で烈しくうねっているのだ。
体内の血液がマグマに変じたかのごとき苦痛が、深虎を苛む。
その時、ロムが持つ二振りの刃が、赤と青、二色に輝き始めた。
ロム(感じる……父さんと兄さんが守り通したハイリビード……
地球の人々が新たに生み出したハイリビードの力を!
今分かったぞ……クロノス星の至宝、剣狼と流星が、二振りである意味が!)
本来ならこれは、兄ガルディと二人で行うはずの技。今の自分で出来るかどうか……
ロム(だが、兄さんの魂は、今も俺と共にある。やってみせる!
それが、天空宙心拳伝承者の使命だ!)
ロムは流星の切っ先を地球へ、剣狼を闇眼虎皇へと向ける。
鍵たる特質を持つ二つの刃は、ハイリビードと共振し、操る力を持つ。ウラノスからハイリビードを吸収したように、流星を通して、地球のハイリビードを集束する。
同時に、剣狼から、目覚めたばかりの闇眼虎皇のハイリビードへと接続(リンク)を作る。
ロム(が……っ!!)
同時に、ロムの体に凄まじい衝撃が走る。
地球一つ分のエネルギー、気を抜けば、即座に五体がバラバラになりそうだ。
ロム(ぐ……ち、違う! 抗うんじゃない、受け入れるんだ!
生きて明日を迎えたい、この星の、宇宙全ての人々の意志……その流れと一つになるんだ!!)
自分もまた、宇宙を構成する生命の一つ。支配するのではなく、受け入れる。
心を宇宙と一つにし、進むべき未来を切り開く。
それが、天空宙心拳の極意……
647
:
藍三郎
:2012/06/30(土) 06:44:15 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
ロム「天空宙心拳……二刀一刃ッ!」
地球のエネルギーを受け、青く輝く流星の柄に、剣狼の柄を接続する。
その瞬間、地球と闇眼虎皇側、二つのハイリビードが繋がり、混じり合う。
赤く輝く光の刃が、剣狼の刀身から伸びる。
ロム「天よ地よ、火よ水よ! この宇宙の生きとし生ける全ての生命よ! 我に力を与えたまえぇっ!!」
バイカンフーの体長を遥かに越える、闇眼虎皇の巨体に匹敵する大きさの、蒼紅一対の光の刃が彼の手に握られていた。
その大きさでさえ、刀に宿った莫大なエネルギーを極限まで凝縮した状態なのだ。
ロムは、ハイリビードの共鳴に苦しむ闇眼虎皇目掛けて、剣狼を横薙ぎに払った。
ロム「運命両断剣……」
父キライと兄ガルディの遺志を宿した紅い一撃。
ロム「ツインッ! ブレェェェェェェドッ!!」
地球の人々全ての想いを乗せた蒼い一撃。
蒼紅縦横の斬撃が、闇眼虎皇に重ねられる。
深虎「ぐおぁ!? がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
濃紫色の巨体に、深い十字の亀裂が刻まれる。
ロム「これぞ未来を切り拓く一刀なり……成敗!!」
断崖のような十字傷から、青と赤の炎が噴き出す。そのダメージは、見た目よりも深刻だ。
彼にとって猛毒に近いハイリビードが、二頭の獣となって体内で暴れ狂っているのだ。
最初に冥獄門に撃ち込んだハイリビードは、半分の量しかなかったが、今は地球が生み出したものと合わせて、完全な状態となっている。深虎が受ける苦痛もその比ではない。
だが……
深虎「おうああぁぁぁぁぁぁっ!! ぐぞがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
咆哮と同時に彼の肉が急激に膨張し、傷口を埋め合わせる。ハイリビードの炎も、増殖する肉の中へと埋もれていった。
ハイリビードの光によって、世界の修正力が息を吹き返し、今やL.O.S.T.は強烈な反発を受けている。
かつてのように、異界からエネルギーの供給を受けることはもうできない。
しかし、増殖は出来なくとも、既に膨大に過ぎる量が顕現している。
深虎はハイリビードに侵された己が身を削り、全体の消滅を免れようとしているのだ。
この土壇場での生き汚さこそが、深虎という男の最大の長所と言えるだろう。
しかし、今の深虎の矜持に照らせば、到底許容できない事態だった。
深虎「ふっ……ざけるなぁ!何で俺が、この帝王(オレ)がぁ! 自分(てめー)の身を削らなきゃならねーんだ!
俺のための犠牲となるのは、奴隷(てめーら)の役目だろうがよ!!」
エゴに満ちた台詞を吐き、その肉体を少なからず失っても、星一つを圧するような殺意と悪意は、依然衰える様子がない。
648
:
藍三郎
:2012/06/30(土) 06:44:58 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
エイジ「分からないのか? 神や帝王を気取ったところで、お前のその考えは、何処までもヒトのものだということに……」
己の優位を過信し、それを誇示するために、他者を傷付ける。
そんな傲慢な考えが、宇宙に戦火を振り撒き、起源を同じくする二つの星で争い合う元凶となったのだ。
エイジ「この星の人々は、いや、宇宙の全ての命は、その命それぞれのものなんだ。
お前の歪んだ欲望で、踏み躙られてなるものか!! レイ、V−MAXIMUM発動!!」
レイズナーMkⅡは飛行形態に変形し、光の膜で機体を包み、闇眼虎皇に突進する。
いつもの蒼いフィールドだけではない、ゴーフラッシャースペシャルの輝きと似た光の膜で二重に覆われていた。
その光はレイズナーの二倍、三倍へと拡大し……
深虎「ごがあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
脇腹をえぐられる闇眼虎皇。その傷口からは、ハイリビードの光が漏れていた。
エイジ「やはりそうか! あの光を浴びた俺達の機体と武器は、深虎(ヤツ)に対して有効な……修正力を宿しているんだ」
ムスカ「へぇ、それなら……」
ハイドランジアキャットの全身からミサイルが放たれ、闇眼虎皇に突き刺さる。これもまた、肉を爆ぜさせ、闇眼虎皇に有効打を与える。
破壊された箇所は、即座に周囲の肉が埋め合わせる。
しかし、その度に、ビムラーで“汚染”された部位は消失し、敵の体積は着実に削られていくのだ。
ジョウ「行くぜ! マイク! レニー! ダミアン!」
三体に分身する飛影。その気になれば、数百体にも分身できる飛影だが、これは通常の分身とは訳が違う。
超速度より生まれる残像ではなく、己の闘気を凝縮して創り出した、極限まで本物に近い分身だ。
飛影の機能も、ほぼ完全に再現されている。それ故に……
ジョウ「「「合体だ!!」」」
三体の飛影が、黒獅子、爆竜、鳳雷鷹へと収まる。
獣魔、海魔、空魔……本来ならありえぬ三頭の獣が、今ここに並び立った。
ビムラーの加護か、宇宙空間でも威力の衰えぬ海魔の炎と稲妻の波状攻撃が、紫の魔獣の皮膚を灼く。
「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」
それに紛れて急接近する獅子と鳳凰。
空魔の翼が肩を切り裂き、獣魔の咥えた大太刀が脇腹を断ち割った。
ガビル「おおおぉぉっ! 星が、星が歌っている! これぞ、惑星合唱美!!」
グラビル「グオオォォォォォォン!!」
ガビル「行くぞグラビル!我らの真の力、見せてくれる!!」
法眼眩邪の攻撃で、爆発寸前だったザウバーゲランを乗り捨て、生身で飛び立つガビル。
グラビルの額にガビルが結合し、白き翼持つ緑の巨獣、ガビグラとなる。
ガビグラはその怪力で触手をひきちぎり、法眼眩邪に掌をかざす。
ガビル『消えろ! アニマスピリチアと共に歩む我らの未来に、貴様のような輩は不要……爆光消滅美ーっ!!』
ガビグラのペンタクルビーム砲が、法眼眩邪の腹を貫通し、風穴を開けた。
正と負の力が鎬を削るこの戦場で、最も異質なのは彼だった。
修正力、崩壊力、そのどちらの影響も受けず、完全に独立した存在。
彼はただ、相手を斬るという一念のみで動いていた。
法眼眩邪の放った数珠玉を、血を変成させた刃で斬り払う。
灯馬「まさに宴もたけなわってところやな。
早く君との戦いなんか終わらせて、ボクもアッチの戦いに参加せなな」
機体の手首から鮮血が噴き出て、刀と鞘を包み、長大なる刃、朝闇・夕闇を形成する。
その二刀を水平に構え、灯馬はその場で回転を始めた。
血液からなる刃は鎖のようにしなり、回転が加わることで、赤い竜巻と化す。
灯馬「夜天蛾流抜刀術――『禍津大蛇(まがつおろち)』……
ヴァルカンのおっちゃんを見て、やろうと思うとった技や」
血流が渦を巻き、法眼眩邪の巨体を絡め取る。
これに囚われた以上、血の呪縛が敵を拘束し、脱出は不可能。
急速に流れる水の刃が対象の肉を斬り裂く。
灯馬「ああ……やっぱ、この瞬間はたまらんなぁ……
夜天蛾流抜刀術――『皇十字(すめらぎじゅうじ)』」
朝闇、夕闇の二刀が、身動きの取れなくなった法眼眩邪を縦横に両断する。
649
:
藍三郎
:2012/06/30(土) 06:45:36 HOST:78.160.183.58.megaegg.ne.jp
深虎「くぉの、雑魚どもがぁぁ!! 眼球煉獄!!」
闇眼虎皇の全身から、赤く輝く眼球が大量に飛び出て、統合軍艦隊へと押し寄せる。
赤い眼球の一部は、途中で割れ、魔鬼羅などの機動兵器と化す。深虎自身を倒さぬ限り、その数は無尽蔵だ。
魔鬼羅の群れは、ソレイユへも殺到する。
ポゥ「ウォドム隊!悪魔どもをディアナ様に近付けるな!! 砲撃開始!」
ソレイユの正面に展開したポゥ率いるウォドム隊が、一斉に額からビーム砲を撃つ。
魔鬼羅の群れは大半が近付く前に焼き払われるが、中には俊敏な動きを活かし、ビームを逃れる個体もいた。
まずは頭を潰そうとする知識があるのか、それらはソレイユへと向かう。
???「ウオオーッ!!させねぇーっ!!」
鬼の金棒に似た武器が、高速回転し、邪鬼羅の腹部に風穴を開けた。同時に、片方の大型の握り拳で、魔鬼羅の脳天を叩き割る。
ハリー「あれは……コレン・ナンダーか!」
角を生やし、赤く塗装されたカプルに乗っているのは、あのコレン・ナンダーだった。
かつてネオバディムの策略で冷凍刑から解放され、錯乱するがままノックスの街で暴れ回ったが、∀に敗れて以降は行方が知れなかった。
しかし、この戦いが始まる前、何処から調達してきたイーゲルの武装を取り付けた専用カプルに乗り、戦列に加わっていたのだ。
コレン「ディアナ様! 貴女様のお言葉、臣コレン・ナンダー、いたく感服致しました!
貴女様のお命を狙わんとする不逞の輩、粉骨砕身! 叩き潰して御覧に入れましょう!!」
粉骨砕身に二重の意味を込めて、魔鬼羅の群れに立ち向かっていく。
その顔は、錯乱していた頃のそれではない。黒歴史の世から、月の女王がために戦い続けて来た、歴戦の猛者のものに変わっていた。
ソシエ「あいつ、前にノックスの街で暴れ回った……」
ロラン「まずいですね、あの人はホワイトドールを目の仇にしていました」
あの男のガンダムへの執念は、今もありありと思い出せる。
そんなロランの胸中を知ってか、コレンは声を張り上げる。
コレン「案ずるな! ガンダムのパイロット!
今のお前が、ディアナ様のために戦っていることぐらいは分かる! 今戦うべき相手が何なのかもな!!」」
ロラン「コレンさん……」
ディアナ『コレン、よくぞ戻って来ました。貴方の変わらぬ忠心、嬉しく思います』
コレン「勿体無き御言葉……おおおっ!! 行くぞ皆の衆! 女王陛下をお守りし、あの悪鬼どもを蹴散らすのだ!!」
ディアナ・カウンターの兵らを鼓舞するかのように、勇ましく敵陣に切り込んでいくコレン。
650
:
蒼ウサギ
:2012/07/23(月) 00:53:59 HOST:i114-188-249-146.s10.a033.ap.plala.or.jp
=エターナル=
ラクス「キラ、アスラン。この力を受け取ってください。ミーティア、射出!」
バルドフェルド「了解!」
エターナルから離れた「ミーティア」にフリーダムとジャスティスはすぐに飛んでいきそれぞれの機体にドッキングさせる。
これならば、魔鬼羅の群れもより一層排除しやすくなる。
アスラン「よし、これなら!」
キラ「アスラン、一斉にいくよ!」
アスラン「あぁ、タイミングを合わせろよ、キラ」
たったそれだけのやり取りで二機は同時に大量のビームやミサイルなどを一斉に発射。
大量の魔鬼羅がたった二機によって撃破され、大幅に戦力を傾けた。
§
ロランは、そんなコレンや地球上から溢れる歌に感慨深くなった。
ロラン「月の人と、地球の人達も分かり合えるんですよ……」
ハリ―「そうだな」
傍らにいるゴールドスモーのハリ―・オードが同調するかのように唸った。
ディアナ親衛隊として、地球帰還作戦から参加した彼からの観点からの意味でロランと共通したのだ。
ハリー「だが、もはや人類は種族も越え、歩み寄ろうとしているのかもしれない。……だが、それにまだ納得のいかない者達がいるも確かだ」
ロラン「ギム・ギンガナム隊……それに、グエン卿ですね」
言葉は返さずとも、肯定した様子を見せてハリーは、ロランを促す。
ハリー「だが、まずはこの悪魔から人類を守らなければ意味がない!」
ロラン「はいっ! ホワイトドールのご加護を!」
§
深虎「雑魚の一匹や二匹増えようがなぁ! 最後にひれ伏すのは貴様らなのは確定事項なんだよォ!」
相も変わらず狂気と攻撃性に満ちているが、その裏腹は先のような余裕のなさが滲み出ている。
あの小さな歌声からまさかこの地球規模にまで発展し、ハイリビードを呼び覚ますに至るなどと誰が思っただろうか。
負けねぇ! 負けねぇ! 負けね! 負けねぇ! 負けねぇ! 負けねぇ!!
ドモン「まだお前には分からないようだな!」
深虎「!?」
自分の心を見透かされたのか、それとも無意識に心の声を叫んだのかは分からないが、眼前のゴッドガンダムから放たれた
ドモンがハッキリとそう告げた。
ドモン「もうお前に勝つ見込みはない! 師匠や、シュバルツが愛したこの地球に住む人々の声が聞こえぬ貴様にはな!」
深虎「ハッ! わかるかよぉ。せいぜい、最後のてめーらのためのレクイエムをボソボソ歌ってんじゃねーのかぁ!?」
ドモン「全ての人類を滅ぼすというあのデビルガンダムと同じモノになるというなら、東方不敗キング・オブ・ハートの名にかけて
貴様を倒す!」
ゴッドガンダムがハイパーモードになり、ゴッドフィンガーの態勢に入る。
深虎「ハッ! できるもんなら―――」
冥獄慙滅爪で玉砕しようと思った矢先、深虎の言葉はゴッドフィンガーによってかき消された。
651
:
蒼ウサギ
:2012/07/23(月) 00:54:39 HOST:i114-188-249-146.s10.a033.ap.plala.or.jp
深虎「ぐふっ――」
ドモン「オレのこの手が真っ赤に燃える! お前を倒せと轟き叫ぶっ! 爆ぁぁく熱! ゴッド、フィンガァァァァァァ!!」
巨体がゴッドガンダムにぐいぐいと押されてゆく。
そして、ゴッドガンダムと入れ替わるようにガンダムファイター達の攻撃が繰り出される。
チボデー「オレは夢! オレは希望! オレはこの手で掴む! 豪ぇぇぇ熱! マシンガンパァァァァァンチ!!」
先手を切った、チボデーのガンダムマックスターがその名の通り如く、1秒に10発のパンチを放つ。
ジョルジュ「我が祖国の名誉に掛けて! ここであなたと決着をつけましょう。ローゼェェェスハリケェェェン!!」
即座にローゼスビットを放ったジョルジュのガンダムローズは、さも竜巻のように闇眼虎皇を包み込んで一時的に硬直させた。
そこにまた隙が生じる。
サイ・サイシー「少林寺再建のためにも、ここでオイラは死ぬわけにはいかないんでね! 天に竹林! 地に少林寺!
目にものみせよ!最終秘伝! 真・流星胡蝶剣!!」
そしてサイ・サイシーのドラゴンガンダムがこれに突撃すし、ローゼスハリケーンのビットが崩れるも。
これも次のための布石である。
アルゴ「オレは、部下達を釈放させるその日まで、オレは倒れるわけにはいかん! 炸裂・ガイアクラッシャー !!」
宇宙に漂っているデブリや隕石などをかき集めてできた、ちょっとした塊にボルトガンダムの必殺技が叩きつけられる。
本来ならば地上専用のこの技も、宇宙ではこうすればこうやってダメージを与える事が出来た。
相手が巨体だったのが、功を奏したようだ。
広範囲で、かつより大きくダメージが与えられる。
深虎「ぐぅぅ! て、てめぇらぁぁぁ! オリンピック感覚で戦争している奴ら何ぞにこのオレによくもこんなことをなぁ!」
チボデー「へっ! てめぇのガンダムファイトの何が分かる!」
ジョルジュ「我々はあくまで祖国のために闘い合い。そして、今、共に戦っているのです」
キラル「左様!」
チャラン、という音と同時に闇眼虎皇の身体が斬りつけられた痛みに襲われた。
突如、現れたマンダラガンダムのガンダムファイター、キラル・メキルは深虎に言い放つ。
キラル「外道の道に走ってしまった私だが、ガンダムファイトで出会った仲間の光によって今ここにいる!
我ら目的は違えど、今、お主を倒すことには変わらない」
悠騎「そういうことだ!」
モビルファイター達に隠れて接近してきたブレードゼファーは、キラルに続いてもう一太刀浴びせる。
深虎「ぐぅ!」
悠騎「諦めろっ! もう、てめぇは負けたんだよ! 誰よりも見下していた“奴隷−人類(オレ達)−”によってなぁ!!」
再びDソードを二刀と、SSブレードを重ねて一振りの巨剣を作り出す。
それが、意識してか、無意識かは分からない。だが、そこには未知なるエネルギー体の結晶が体現されていた。
悠騎「うおらぁぉぉぁぁぁぁっ!!」
斬―――!!
ハイリビードの力をも得たそれは、以前の一振りよりも確実に深虎にダメージを与えていた。
652
:
藍三郎
:2012/08/16(木) 18:38:19 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
光の刃は、次元を越え、理を越え、闇眼虎皇の巨体を切り裂いた。
それは、あの一瞬……悠騎とブレードゼファーが、<鍵>たる存在に昇華したことを意味していた。
その刃に乗っているのは、悠騎の想いだけではない。
双星のハイリビードを通して、歌によって繋ぎ止められた、
この戦場の、この地球圏全ての人々の……未来と生存を願う意志が集束しているのだ。
斬撃そのものは致命打に至らずとも……その想いは、幾重もの肉壁を貫き、深奥へと到達し、囚われとなった“彼”の心を撃ち貫いた。
! そうだ……俺は……
暗闇を穿つ一条の光が、彼の意識を覚醒させた。
己が何者なのか。何を成すべきなのか。
完全に消されないように、自ら奥底へと封じ込めていた記憶が、瞬時に蘇った。
それを促したのは、かつて共に戦った仲間達との繋がりだった。
そして、自分を想う、一人の少女の心も……
俺の……俺の成すべきことは……!
白豹「見えた……! 待っていたぞ……この、刻を……!」
宇宙に闇に潜む者は、豹の眼で、ずっと深虎を観察していた。
決定的な瞬間が訪れる、その時まで……
ブレードゼファーの剣が闇眼虎皇に炸裂するのと同時に、白い影もまた、氣を宿した爪を繰り出す。
白豹「白家殺体功、極奥伝……」
――真醒・極点経!
深虎「ぐっ! ごあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
闇眼虎皇の総体からすれば、まさに蚊の一刺しにも劣る一撃。
しかし、瞬時に全身の細胞が沸騰するような痛みが、彼の体を駆け巡った。
深虎(白豹テメェ……何……しィィやがったぁぁぁぁぁ!!!)
かつての同輩は、互いに念話で語り合う。
白豹(深虎、俺達にとっては基礎中の基礎だが……
生きているものもそうでないものも、この世の万物には全て秘孔と経絡が存在する。
全ての生命の源、“氣”の出入口と通り道だ。それは、“この世の存在”として顕現した貴様とて例外ではない。
白家殺体功は、秘孔を通して経絡に氣を流し込み、敵の、そして己の体を活性、あるいは死に至らしめる。
だが、貴様は体を埋め尽くす氣があまりに濃く、深すぎて、とても見通すことはできなかった……)
653
:
藍三郎
:2012/08/16(木) 18:39:00 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
しかし、今は違う。
二つのハイリビードが、人々の決死の反撃が、闇眼虎皇の経絡を見通せるまでに、その総体を削り落としたのだ。
白豹(この業の原理は単純だ……“全てを在るべき形に戻す”。
傷を癒し、壊れたものを直すような効果は無い。
それらはあくまで、この世の法理に乗っ取って、形を変えただけのことだからだ。
しかし、その理の外側にあるものに対しては、覿面な効力を発揮する。
この世の外の理で形造られたモノは、常に世界からの修正と反発を受けつづける。
今打ち込んだ経絡は、その修正を加速させるもの。それが如何なる結果を導くか……云うまでもないな)
深虎「!!!」
全身の細胞が、末端から急速に壊死していくのを感じる。
真醒極点経によって開かれた経絡が、自ら修正力を吸い寄せ、崩壊を加速させているのだ。
外からの攻撃で、闇眼虎皇を滅ぼし尽くすのは至難……だが、内側からならば……
それは、彼をして“死”を実感させるに足るものだった。
深虎「ぎがっ! がぁっ! まだだ! 俺は王だ! 全てを奪い、滅ぼし!
頂点に座し続けるが俺の王道ォ! こんなところで……止められてなるものかよォ!!」
死への秒読みが始まっても、なおも悪意と殺意は勢いを増す。
白豹(俺、俺、俺、か……)
白豹の心には、憐みや蔑みの感情は無かった。ただ淡々と、“事実”のみを彼に告げる。
白豹(まだ分からないのか? 貴様が何より執着している“己”は、既に何処にもいないことに……)
深虎(!! 何……だと!?)
白豹(大老師は見ておられた。最初に扉が開けられたあの時……
貴様はネオネロスと共に、L.O.S.T.に飲まれ……<契約者>としてその体を造り変えられた)
この世に非ざる存在であるL.O.S.T.は、原則として、境界からこちら側の安定した世界へ出ることが出来ない。
それ故、自身の存在を流入させるための手駒として、境界に触れたこちら側の人間を“契約者”として選び、侵蝕し、自らの手駒とする。
その契約者には二通りが存在する。
一つは、境界へと繋ぐ門を開き、自身を流入させるための<鍵>たる存在……
ニュータイプやサイコドライバーなど、特殊な資質を持った者達だ。
そしてもう一つは、自身の意志を反映させるための映し身……入れ物となる存在だ。前者と違い、こちらは誰であろうと構わない。
L.O.S.T.は、最初に契約者として選んだ葉山翔に、二つの役割を兼任させるつもりでいた。
しかし、彼の精神的な抵抗があまりに強すぎ、自由に操ることは出来なかった。
そのため、自身の目的を代行させる別の手駒を用意する必要があった。
それが深虎である。彼の、栄光を求め、その為に他の全てを踏み躙っていく性質は、世界の破壊を本能とするL.O.S.T.と適合したのだ。
だが……
白豹(貴様とあの男は、同じくL.O.S.T.に選ばれたが、ニュータイプであるあの男と違い、
“鍵”としての特性を持たない貴様は、即座に自我をL.O.S.T.に喰われた。
その時点で、貴様の自我はL.O.S.T.に喰われ、深虎と言う人間は、この世界から“消滅”した)
654
:
藍三郎
:2012/08/16(木) 18:39:41 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
深虎(何を……何を言ってやがるんだてめぇは……っ!!)
白豹(しかし、元よりL.O.S.T.は自我を持たぬ存在。
無色透明の混沌は、より新しい、貴様の自我に染められて行き、時が経つにつれ、貴様の意志を色濃く反映するようになった。
貴様の自我(オリジナル)が、とうの昔に消えたことにも気づかずにな……
貴様が得意げに語った目的など、生前の深虎の思考から、それらしいものを導き出したに過ぎない。
貴様自身の意志など、もう何処にもありはしない。
貴様が言う力の象徴とやらも、所詮は<鍵>を閉じ込めておくための入れ物……
貴様の存在も何もかも、L.O.S.T.にとって都合の良い道具でしかなかったという事だ)
深虎(だから……何を言ってやがる!?)
理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能――――
何もわからない。奴が口にしていることが、何一つ理解できない。
ただ、苛立ちと憎悪だけが、天井知らずで膨れ上がっていく。
白豹(理解できないだろうな……それが貴様が自我を喰われている証だ。
己への迷いは、目的遂行の妨げになるからな……)
憐みも同情も持たない。
目の前にあるのは、深虎の言葉で話し、深虎に似た態度を取るだけの、ただの入れ物に過ぎない。
白豹(お前は栄光を手にしたつもりでいた……だがその実……お前は全てを失ったのだ)
いずれにせよ、既に勝負は決した。次元の歪みは安定に向かいつつある。
それは即ち、この世界が、L.O.S.T.が存在しえない環境になっているということだ。
闇眼虎皇に打ち込んだ真醒極点経は、その崩壊を加速度的に加速させていくだろう。
深虎「もういい、もういい……喋るな吠えるな囀るな!!
てめぇらの存在は俺をひたすらに不快にする……!
もう一分一秒たりともてめぇらの存在を感じていることに耐えられねぇ!!」
白豹「!!」
膨れ上がる闇眼虎皇の氣に、白豹は、今から奴が何をするのか理解できた。
深虎は、今の大きさにまで圧縮した総体を、残らず解き放つつもりだ。
闇眼虎皇の姿を捨て、本来の肉の塊に戻る。最初に出現した冥獄門……あれですら、相当に圧縮した状態だった。
本来の総体は、それよりも遥かに大きい。触手を細分化すれば、この宙域を優に飲み込む。
そうなれば、この戦場はおろか、双星のハイリビードを持ってしても、抑え込めるかどうか……
深虎「臣下も下僕も奴隷も最早必要ねぇ!!
こんな糞で出来た糞が住んでる糞塗れの世界、微生物の一匹も残さず……!!!」
圧縮した体を元に戻すのだから、攻撃力や防御力は落ちる。
しかし、膨大な肉の波濤は、この戦場にいる命の大半を飲み込むだろう。
ゲペルニッチに守られているとはいえ、地球や月、火星にも、被害が及ぶ可能性が高い。
深虎「鏖(ミナゴロシ)だぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
655
:
藍三郎
:2012/08/16(木) 18:40:18 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
その瞬間……
黒い腕(かいな)が、内側から、闇眼虎皇の腹部を貫いた。
深虎「がっ!! な……にぃ…!?」
この事態に、深虎も驚きを隠せない。それに構わず、右側から、更にもう一本の腕が伸びる。
両の腕は、裂け目を掴み、門を開くように傷口をこじ開ける。
赤い眼を光らせ、黒い機体がその威容を現す。
悠騎「アルハズレット……葉山大尉か!」
エナ「……!」
エナとアルハズレットの瞳が交錯する。
その瞬間……ニュータイプの感応能力を用いて、彼は彼女だけに対し、自らの意志を伝えた。
何かを言葉にして発するだけの力は、とうに失われているのだ。
彼がこれから、何をしようとしているのか、エナはたちどころに理解した。
止めたい。やめさせたい。
だが、それこそが彼の望みであり、自分には何もできないこともまた、悟ってしまった。
アルハズレットを中心として、闇眼虎皇を巻き込み、巨大な重力場が発生する。
内へと収束するその力は、闇眼虎皇の“拡散”を封じ込めていた。
L.O.S.T.を流入させるための鍵である葉山翔とアルハズレットは、冥獄門……闇眼虎皇と限りなく同一化させられていた。
そのため、彼の僅かに残った自我は、絶えずL.O.S.T.によって押さえ付けられ、表に出ることは許されなかった。
しかし、先程闇眼虎皇が受けた大打撃により、L.O.S.T.の支配力もまた、著しく弱まった。
その隙を突き、彼は、ずっと奥底に潜ませていた自我を急速に浮上させ……闇眼虎皇の支配を、一時的に乗っ取ることに成功したのだ。
L.O.S.T.は全にして一、一にして全……侵蝕された時点で、契約者同士、意識は何処かで繋がっている。
深虎と同じL.O.S.T.の眷属になっていたからこそ、出来た芸当だった。
それが、彼の狙いだった。
自分一人の力では、L.O.S.T.の支配を跳ね返すなど不可能。
どれだけ抵抗しても、いずれ完全に自我を乗っ取られるのは見えている。
だから、彼は自我を精神の奥底に潜ませのだ。来たるべき“時”に、奴の体を乗っ取る“毒”として。
勿論、そんな時がただ待つだけで起こるはずがない。彼は、信じたのだ。
彼の仲間達が、奇跡を起こしてくれることを。
アルハズレットの発生させた重力場、グルイ・ラグルに囚われた闇眼虎皇は、急激にその体を崩壊させていく。
それに伴い、アルハズレットと、今や機体と一心同体となっている翔の体もまた、崩壊していった。
656
:
藍三郎
:2012/08/16(木) 18:41:16 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
深虎(……ッ! わぁってんのかテメェ……俺が死ねばテメェも死ぬんだぞ!)
翔(無論……承知の上だ)
相手の意志を乗っ取れる程に侵蝕と同化が進んでいる以上……彼はもう、元には戻れない。
世界の反発を受け、深虎共々消え去る運命だ。そうなることは、彼も覚悟の上だった。
深虎(ハハハハハ!! 死なばもろともか! まさしく負け犬の発想だなァ!! 何もかも守れねぇんだよ!!)
翔(そうだな……俺もまた敗者だ。守るべきものを守れず、全てを失い、この異世界に投げ出された……)
深虎(ハッ!! 俺とテメェを一緒にすんじゃねぇ!
俺は俺を否定したこの世界を許さねぇ……叩き潰して踏み躙って! その先にある栄光を掴む!!
雑魚どもと傷を嘗め合って、負け犬のまま地を這いつくばってテメェとは違うんだよ!!)
翔(そうだな……俺と貴様は違う。少なくとも俺は、何かを奪うためではなく、未来を創るために戦っていた。
俺が信念を捧げた道は、歴史に選ばれる事は無かったが……それでも、その先の未来まで、滅ぼそうとは思わない)
それでも、自分が一人だったならば、ここまで己を強く保てたかどうか分からない。
孤独の中で、運命への憎しみを肥え太らせ、そこをL.O.S.T.に付け込まれ、滅びの化身と化していたかもしれない。
だが、自分は、一人ではなかった。
ナデシコBに拾われ、かつては敵だったG・K隊の者達と出会い、この異世界で共に戦い続けた。
自分がL.O.S.T.に取り込まれそうになった時は、悠騎やエナが助けてくれた。
翔(お陰で、俺は俺自身の人間(ヒト)としての誇りを、尊厳を……裏切らずに済んだ……)
深虎「だぁからぁ何だってんだァ!! 誇りだァ? 尊厳だァ?
所詮は群れなきゃ生きていけねぇ弱っちい屑どもの戯言だろうがよ!!
そんなもん帝王の力の前では、無価値なゴミクズだってこと、教えてやるぜぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
翔(やってみろ……貴様に……それが出来るならな……!)
闇眼虎皇は重力場に抑え付けられ、内部崩壊に晒されながらも、両腕を動かし、腹部のアルハズレットに爪を喰い込ませる。
深虎がその気になれば、アルハズレットなど瞬時に破壊できる。
だが……深虎は、ここに至るまで、何故かそれを実行しなかった。
葉山翔は、門を開け、L.O.S.T.を流入させる鍵として必要不可欠な存在だ。
一方で、今彼を破壊しなければ、闇眼虎皇は直に崩壊してしまう。
その矛盾が、深虎の、L.O.S.T.の意志を停滞させていた。
L.O.S.T.は、世界を滅ぼすほどの強大な力を持ってはいても、決して高度な知能を持つわけではない。
故に、世界の消滅と自己の存続……二つの至上命題が、互いに衝突した場合の対処法を、即座に導き出すことは出来ないのだ。
657
:
藍三郎
:2012/08/16(木) 18:43:16 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
悠騎「野郎!!」
悠騎は、翔を助けようと、再度闇眼虎皇に斬り込もうとする。
エナ「待って……」
そんな彼を制止するエナ。彼女は、ヒュッケバイン・ナイトメアのバニシングバスターを、闇眼虎皇に向けていた。
その照準は、闇眼虎皇の中心部にぴたりと当てられている。
今、フルチャージでそれを放てば、アルハズレット諸共、闇眼虎皇を巻き込んで飲み込むだろう。
悠騎「エナさん……」
エナ「……皆さん、今がL.O.S.T.を滅ぼす機会です……
残る全ての火力を、あれに叩き込んで下さい……」
由佳「でも……! それじゃあ葉山大尉は……」
エナ「…………それが、あの人の願いだから……」
彼女の瞳からは零れるは、一条の涙。
戦場の皆が、言葉を飲んだ。これが闇眼虎皇を倒す最後の好機だと言うのは分かっていた。
あの重力場が無くなれば、闇眼虎皇は拡散を再開し、甚大な被害をもたらすだろう。
そして、どの道彼を救出する術は、もう……
ゼド「遺憾ですが……」
悠騎「やっぱ……やるしかねぇのかよ……」
ルリ「……オモイカネの計算では、あの重力場は長くは持ちません……」
世界の危機を救うために、仲間を手に掛ける。
その結末は、夏彪胤が告げた通り……この戦いに臨む前から、分かっていたことだった。
マックス「展開中の全部隊に命じる……闇眼虎皇に、残る全ての火力を集中せよ!!」
何だ? 何だ? 何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだこれはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?
俺が? やられる? 俺が? 消される? 俺が……死ぬ?
あんな……あんな雑魚が雑魚を塗り固めて出来た雑魚どもに?
ありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇありえねぇ!!
俺は帝王だ誰にも負けない決して死なない全てを滅ぼし全てを屈服させ全ての頂点に君臨する
宇宙最強絶対無敵の存在そんな俺様がこんなところで消えるはずがねぇ死ぬはずがねぇ
俺は無敵だ俺は最強だ俺は究極だ俺は至高だ俺は絶対だ俺は帝王だ
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は俺は
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺俺
俺――って……
俺は…… 何だ?
658
:
藍三郎
:2012/08/16(木) 18:43:57 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
瞬間――
ビムラーとハイリビードの加護を受けた、数多のエネルギーが収束し、超新星の如き光を生み出した。
その光は、闇眼虎皇を飲み込み、細胞の一片残らず消滅させた。
かつて、深虎と呼ばれた男……その意志の“複製”もまた、残らず消え去った。
それが……栄光と引き換えに全てを奪われた男の……何処までも空虚な末路だった。
――ああ……
彼の視線の先には、既に逝った仲間たちの姿が見える。
――長く、待たせちまったな……
先に待つ仲間たちの顔には、彼を責める色は無い。優しく、何処か誇らしげな顔だった。
――俺も今から、傍に行く……
彼は、光に向けて手を伸ばした。
後に残していく仲間たちが勝ち取った未来が……自分達の誇れるものであると信じて……
最後に彼は、少女に向けて言葉を残した。
ありがとう、と――
659
:
蒼ウサギ
:2012/09/10(月) 00:02:26 HOST:i125-204-47-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
L.O.S.Tは、完全に消滅した。
本当に? とういう疑問を抱きながらも、その実感は少しずつ湧きあがってきて、そして―――
エナ「……」
すぐに空虚な気持ちへと変わっていった。
いつも、そうだ。
―――仲間を失った時は特に。
§
ヒイロ「最後に確認したい事がある」
それはL.O.S.Tでの戦いの直後の光景だった。
各々が損傷している機体で帰艦している中、ヒイロのウイングゼロのバスターライフルミリアルドのガンダムエピオンに向けられていた。
普段と全く変わってないように見えながらも機体越しに感じたそれは“返答次第”では即発砲しかねないほどの殺気抱いていた。
ヒイロ「人類の敵が全てが倒れた今……お前はどうするつもりだ?」
ミリアルド「……なるほど。そういうことか」
現在、統合軍はL.O.S.T戦の損耗が激しい。
この気に乗じてギム・ギンガナム艦隊やネオバディム等といった組織が攻め込むかもしれない。
そして、仮にも彼はそちら側だった人物なのだ。
ミリアルド「……さすがはヒイロ・ユイだな。共闘時でも常に私への警戒を怠っていなかった」
ヒイロ「……」
バスターライフルの引き金が引かれる空気がにわかに強くなり、一気に辺りが緊張感に包みこまれた。
ミリアルド「ネオバディムはOZを利用した。もしこれに乗じて彼らが攻め込んでくるのなら私にとってはむしろ好都合なものだ」
ヒイロ「復讐か?」
ミリアルド「いや、決着だ」
ヒイロ「それが、お前のゼロシステムが見せた未来の答えか?」
ミリアルド「違うな。人類同士の争いは、システムが導き出すものではない。……自分の意志だ」
そのままお互いが睨みあう事数秒、ウイングゼロは銃を下ろした。
ヒイロ「……いいだろう。だが、お前の意志が間違っていると判断したらその時は―――」
ミリアルド「その時は遠慮なく引き金を引くといい」
660
:
蒼ウサギ
:2012/09/10(月) 00:04:11 HOST:i125-204-47-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
第50話『月の繭』
L.O.S.Tを倒してから数日後、各艦の整備班はいつも以上にフル稼働だった。
ハイリビードによるオーバーパワーの反動が原因かは定かではないが、外部はともかく、内部損傷が著しく激しい機体が山積みだった。
そんな貴重な時間を割いて、レイリー・ウォンは、あえてG・K隊員の重要メンバーだけを招集した。
=コスモ・アーク=
トウヤ「このタイミングで“G・K隊員(僕達)”が集まるなんて、余程のことのようだね?」
レイリー「はい。まずはこれを―――」
だらだらと説明するよりは、実際見たほうが早いと思い、レイリーは先の戦闘映像をスクリーンに映し出した。
ミキ「これって、どれも悠騎先輩の機体……ですよね?」
コクリ、と頷いてレイリーは補足説明をする。
レイリー「正確には、ブレードゼファーがSSソードと重ねた二刀のDソードを同時に振り下ろした瞬間の映像だよ」
悠騎「あ、この時ねぇ」
レイリー「……パイロットとして、何か感じたことはある?」
そう尋ねるも、案の定、悠騎は頭を振った。
そこまで計算高く戦えるほど悠騎は、賢くない。レイリーは、これを、良い意味で捉えている。
計算されてないからこそ生まれる、豪胆な戦術は、時に誰も予想だにしない戦果をもたらす。
そういった意味では、パイロットセンスに関しては努力型に見えて、実は天才肌な一面を持っているものだと見ている。
悠騎「あ、でも、SSブレードとDソードの二つを重ねて斬るっていうシミュレーションはやったんだぜ?」
レイリー「あれ? 聞いてないわよ」
悠騎「まぁ、報告する暇なかったしな。いわゆる秘密の特訓でちょっとやってみたのさ」
L.S.O.T戦での出撃前でのトレーニングルームで悠騎がやっていたのはまさにそれだったのだ。
すでにその時点で悠騎は、SSブレードと二刀のDソードを組み合わせて戦うシチュエーションを描いていたのだ。
由佳「……お兄ちゃん。ほう・れん・そう、って言葉知ってる!」
拳をわなわな震わせる由佳を制しながら、ミキが本題に戻す。
ミキ「そ、それで結局、その映像がどうしたんですかぁ?」
レイリー「あぁ、ゴメン。ちょっと横道にそれたね。実はね―――」
といいながら、映像を拡大して、その一部を抜き取り、その部分をアップさせて解像度を上げてみせた。
その瞬間、一同にざわめきがおこる。
アイラ「何か違和感があるというべきだろうな。……これはどういうことだ?」
アイ「膨大な出力が生み出した空間の歪み……でしょうか?」
アイの推測に、一同の空気が先程のものと一変する。
ざさめきの中に水のしずくを落したように静まり返ったのだ。
レイリー「ご名答」
エレ「え〜っと、よくわかんないんだけど」
アイラ「……“例の力”の影響か?」
悠騎「いや、それはねぇぜ」
アイラの言い分をすっぱり否定したのは当人の悠騎だ。
“例の力”というのは、悠騎やトウヤが時々、瞳が紫色に変化する能力であろうことは、各自およそ察しがついた。
両機の機体には、条件が揃えば自動的に作動する“ハ―メルシステム”が搭載されている。
今のところ、そのシステムの認識は、「機体性能が従来のスペックより飛躍的に上昇させるもの」としか理解できていない。
だが、それだけでは説明できない戦果を数々挙げてきたのも事実。
要するに謎に満ち溢れているのが現状のG・K隊内なのだ。
無理もない。開発者は、レイリーではなく、元の世界にいるG・K開発員なのだから。
悠騎「確かに後半戦は、歌やハイリビードのお陰で随分とパワーが上がった気もしたが、そうじゃねぇ。
思い出してみれば、アイツ(深虎)と最初に斬り合った時、妙にアイツはオレの剣に警戒していた」
ひょっとすると深虎は、この空間を歪ませた力の正体に気づいていたのか、と冷静になった頭であの時の交戦模様を思い出しながら思う。
トウヤ「それでレイリーくん。つまるところ今回は、この空間の歪みが生じた原因について調査するってことかい?」
レイリー「いえ、すでにこの原因については仮説は立てられてます。そして、ここからが本題ですが……」
少し間をおいて、レイリーは、恐る恐るといったらしからぬ様子で口を開いた。
レイリー「もし、これが元の世界に帰れる方法に繋がる一つの方法だとすれば、どうします?」
661
:
蒼ウサギ
:2012/09/10(月) 00:04:51 HOST:i125-204-47-227.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=D.O.M.E=
冬の神殿で眠った“それ”を何者かが介入する。
ディアナコードではなく、もっと恐ろしいサテライトシステムだ。
オルバ「兄さん。こっちは完了したよ」
暗闇に紛れてオルバ・フロストは兄に戦果を報告した。
ここに来るまでの防衛システムは、兄のシャギア・フロスト。
そして―――
クロト「ひゃはははは!! この木偶人形がぁ、撲殺っ!」
レイダーのミョルニルがGビットを破砕し、
オルガ「クロト! てめぇ、そいつはオレの獲物だったんだぞ! こいつ!」
レイダーを撃とうとして放ったカラミティのビームが全てGビットを破壊し、
シャニ「あ、これもーらい!」
フォビドゥンの鎌が撃ち漏らしのGビットを容赦なく斬り捨てた。
一見、連携が成り立っていないようで、成り立っているように見えるだろうが、全くといって成り立っていない。
ただ、彼らの操縦技術と個々の機体の性能故にこれだけの荒業が可能なのだ。
もし、彼らが本当に連携を成す3機小隊だったらキラやアスラン達はもっと苦しめられただろう。
ただ、予想外の動きに関しては、今のままの方が遥かに上である。
彼らは別にフロスト兄弟に協力しているわけではない。ただ、ひたすらに暴れたいだけでここに来ただけなのだ。
そして、フロスト兄弟の目的は―――
シャギア(フフフ、ガロード・ラン。次に会う時は、月の力を使えるのは君だけではないということを教えてやろう)
662
:
藍三郎
:2012/10/06(土) 06:27:28 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
=バトル7 ブリッジ=
エキセドル「L.O.S.T.がこちら側に顕現した際に、次元震動が発生し、
地球や月にも押し寄せたそうですが……ゲペルニッチの空間操作により、被害は最小限に留められたようです」
マックス「ハイリビード奪取の時といい、もしも彼らと和解できていなかったらと考えると、ゾッとしないな……」
エキセドル「そんな彼らも、既に地球圏、いえ、この銀河を去っていきましたが……」
闇眼虎皇の消滅を確認した後……ゲペルニッチは激闘を制した統合軍艦隊の前に現れた。
ゲペルニッチ「廃滅の意志は消え去ったようだな。
この宇宙は、一先ず滅びへの流れから外れることが出来たようだ」
マックス「ゲペルニッチ……君たちの助力無くして人類が存続することは出来なかっただろう。感謝する」
マックスは、全軍を代表して感謝の言葉を述べる。
ゲペルニッチ「何……この宇宙から、人の歌が失われるのは避けたかったからな」
ゲペルニッチの視線の先には、熱気バサラとファイヤーボンバーの面々がいた。
ガビル『ゲペルニッチ様!』
ゲペルニッチの近くに、ガビグラとシビルが集まる。
ゲペルニッチは遥か彼方を見上げ、高らかに宣言した。
ゲペルニッチ「もはや銀河に用は無い! 歌こそ真のスピリチアパラダイス! さらばだ!」
ガビル『我らはこれより、我らにとっての新天地を目指す。これぞ、開拓美!!』
シビル「バサラ……オ前ノ歌、忘レナイ……」
バサラ「へっ……」
別れの言葉は掛けない。バサラはギターを奏で、見送りのための歌を熱唱する。
ファイヤーボンバーの歌に見送られ……プロトデビルン達は、銀河の彼方へと去って行った。
マックス「異星人との抗争を終え、L.O.S.T.の脅威が去った今、
残るは人類同士の問題だけ……彼らに助力を請うのは筋違いというものだな」
エキセドル「はい。それを解決することは、我々が宇宙へと進出し、再び彼らと交流するために……避けては通れぬ道となりましょう」
マックス(その時までに、我々は、彼らと交流するに相応しい種族へと、進化出来ているだろうか?)
これから先の戦いが、その未来を占うものとなるだろう。
現在、地球では、シェルターに避難していた人たちが、次々と地表に出ている。
ファイヤーボンバーの面々は、戦いが終わった後もライブを続け、その模様は、今も地球に配信されている。
これが、長き戦乱に苦しめられてきた彼らにとって、安息の始まりとなればよいのだが……
美穂「艦長! 月から緊急通信!
月面のD.O.M.E.が、ネオバディム所属と思しき機体群に、攻撃を受けているとのことです!」
マックス「何だと!」
マックスが、ブリッジを立ち上がったその時だった。
サリー「艦長……地球からも、緊急通信です……!」
663
:
藍三郎
:2012/10/06(土) 06:27:59 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
=コスモ・フリューゲル 格納庫=
灯馬「………」
夜天蛾灯馬は、格納庫の片隅に座り、ぼんやりと虚空を眺めていた。
髪の色の赤から黒に戻り、一見、以前の灯馬と何も変わっていないように見える。
だが、目に見えない箇所で、明白な変化は存在していた。
セレナ「お帰りなさい。どう?一回死んでみた気分は」
灯馬「シャッチョさん」
正面から声を掛けられ、視線を前へと向けた灯馬の顔は、やはり以前と大差ない。
しかし、セレナは決定的な変化を、既に見抜いていた。
セレナ「蛇鬼丸は……どうなったの?」
セレナの問いに対し、灯馬は、眉一つ動かさずに答えた。
灯馬「ボクが、斬ったよ」
セレナは、ただ、そう……とだけ漏らした。
元より、あの二人はそういう関係だった。
食うか食われるか……どちらが肉体の主導権を握るかの戦いを続けて来たのだ。
その戦いに決着がついたならば、いずれか一方は消える……セレナも、その事を承知していた。
セレナ「面白い奴だったんだけどねぇ……」
いずれにせよ、自分が口を挟むことではない。大事なのはここからだ。
セレナ「それで……貴方はこれからどうするの?」
灯馬「…………」
互いに、表情は変わらぬまま。だが、両者の間には、剣呑な空気が流れ始めていた。
彼女の生きる目的は、自らの家族を守ること。その危険となるものには容赦しない。
返答次第では、この場で目の前の青年を始末することも決意していた。
灯馬「せやなぁ……まずは、元の世界に帰るとするわ」
セレナ「……それから?」
灯馬「家(うち)に、戻ろうと思うてんねん」
セレナ「夜天蛾家に……」
灯馬の口から、そんな言葉を聞いたのは始めてのことだ。
彼は、十かそこらの歳で夜天蛾家を出て、それから一度も家に帰ったことはない……
そう、彼の祖父、夜天蛾十風斎から聞いている。
夜天蛾公爵家……セレナの世界において、政財界に強い影響力を持つ貴族家系だ。
だが、彼女は知っている。
夜天蛾家が、数多の凶悪な異能者を擁する、魔人と悪鬼の巣窟であることを。
そして……夜天蛾家の中枢に座する者達は、
そんな彼らを震え上がらせる、真正の怪物であることを。
彼女でさえも、好き好んで関わろうとは思わない。
相対するなら、常に死を覚悟せねばならない……夜天蛾家とはそういう者達の集まりだ。
セレナ「それで、帰ってどうするの?」
灯馬「さてな……まだ決めとらん。ちゅうか、特に何がしたいというわけでもないねん。ただ、帰らなな、と」
数年ぶりのホームシックというわけでもあるまい。いや、ある意味それに近いのだろうか。
灯馬は、先の戦いで夜天蛾の血をより深い段階まで覚醒させた。
故に、同じ血に覚醒した者と、呼び合っているのではあるまいか。
――その血を喰らい、己を更に高めるために。
セレナ「とにかく……今は私達と事を構える気はないのね?」
灯馬「シャッチョさん何言うてへんの。ボクがそないなことするわけないやん」
その言葉は恐らく本心だろう。それすらも、次の瞬間にはすんなり翻してしまう危うさが、今の彼にはあるのだが。
セレナ「……ま、いいわ。これからの戦いに、まだあんたの力が必要なのは確かだし」
灯馬「うん、引き続き、よろしゅう頼んます」
灯馬は笑顔で、ぺこりと頭を下げた。
その時だった。艦内に、非常招集を告げるアラームが鳴ったのは……
灯馬「……どうやら、最後の最後まで退屈させてくれへんようやなぁ……」
セレナ「……その通りね……」
664
:
藍三郎
:2012/10/06(土) 06:29:39 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
グエン「まさか……我が領地の真下に、かようなモノが在ったとはね」
眼前に広がる光景に、グエン・ラインフォードは感嘆した。
この場所に通されたのは自分だけだ。
彼は今、ユーゼスやルシアと共に、周囲を半球状の壁面で覆われた、白い空間にいる。
その構造は、ドームのあった月の宮殿に酷似していた。
この場所は、北アメリア大陸北部、イングレッサ領ビシニティ、アーク山の地下深くに存在していた。
かつて、ホワイトドールが祀られていた場所の、ちょうど真下に当たる。
しかし、あまりに深くに存在していたため、当時のイングレッサの掘削技術では、外壁を掠ることも出来なかった。
グエン「もしや、この施設は……」
ルシア「御推察の通りですMr.ラインフォード。
月の冬の宮殿……ムーンクレイドルに対し、こちらは“アースクレイドル”と呼ばれています。
世界が終わりを迎えた時、その時代の記憶を次の世界に伝える……それがこの場所の役割です。
冬の宮殿に残されていた黒歴史のデータは、実は全体の半分ほどしかありません。
残り半分は、こちらアースクレイドルに収められています。
こちらは、黒歴史の地球側の保管所と呼ぶべきもの……
黒歴史のデータは、月と地球……二つのクレイドルのものを合わせて、完全となるのです」
ユーゼス「そしてここは、ゼーレの真の本拠地でもある。
死海文書も、黒歴史の一部であり、このアースクレイドルから発見されたものだ」
人の立ち入りを拒む程の地下深くにあるこの場所へ行く方法は只一つ……
ゼーレの本部に存在する、空間転移装置を利用することだけだ。
ゼーレへの干渉を行ったのは、人類補完計画の阻止と同時に、この地を抑える目的もあった。
ルシア「彼らはその記述に従い、前の世界でも行われていた人類補完計画を遂行していったのですね」
ユーゼス「滅びに瀕した世界を救い……人が、永遠にその種を存続できるように、この施設は遺された。
だが、私はゼーレとは違う形の救済……否、“進化”をもたらしたい。
私の今日までの戦いは、月と、こちらのクレイドルを抑えるためにあったと言っても過言ではない」
長かった……
グラドス星からの調査で地球に辿り着き、
月で黒歴史の真実に触れ、この星の可能性に魅せられた自分は、黒歴史を眼前に現出したいと願った。
もしも、黒歴史の果てに、世界が滅びなければどうなっていたか……世界は、人類は、いかな発展を見せたのか。
それを、何としてもこの目で確かめたかったのだ。
そのために、自分はネオバディムを結成した。
ユーゼス「その為には、“君”の協力も必要不可欠だったがね……
組織の基盤となる戦力、次元転移装置の提供……
それら無くして、ネオバディムの結成と、今日までの成果はありえなかった」
最も、彼もまた、自分の目的のために、こちらを利用しているのだろうが、な……
内心でそれを理解しつつ、ユーゼスは、内部にいたもう一人の男に語りかけた。
仮面越しの視線に対して……ヴィナスは、ウラノスを背後に立ち、微笑を浮かべていた。
グエンには、彼らの会話が理解できていない。
ただ、彼らが何かとてつもないことを始めようとしているのは、その空気から感じ取れた。
地球で産業革命を推し進め、月や宇宙とのパワーバランスを修正し、対等な関係に持ち込む。
そのための協力者として、自分は彼らと手を結んだが……それは、あまりに危険な賭けでは無かったか。
施設の中心部には、異形の女神像が鎮座していた。
無数のコードで周囲と接続されたそれは、かつて宇宙要塞バルジから姿を消したアウルゲルミルだった。
その瞳が光り、コードにエネルギーの光が宿る。それと同時に、舞台は“浮上”を始めた。
激しい地響きと共に、アーク山が揺れる。山の頂上から裾野にかけて亀裂が生じ、崩れる土砂の隙間から、白く輝く壁面が覗く。
聳え立つ山々は、一転してその姿を、白い天蓋へと変える。
それはまるで、大地に横たわる、巨大な昆虫の繭のようであった。
ネオバディムの決戦要塞・アースクレイドルが、大地を突き破り、その威容を全世界に晒したのだ。
665
:
藍三郎
:2012/10/06(土) 06:30:40 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
イングレッサ地方に、正体不明の巨大構造物が出現したとの報は、即座に宇宙のバトル7へと届けられた。
映像が、ブリーフィングルームに映し出される。
ムスカ「でかいな……縮尺によると、全長7km以上はあるぞ、ありゃあ……」
ロラン(ホワイトドールが埋まっていた山の真下に、あんなものがあったなんて……)
ジャミル「これも勿論だが、月の方も気に掛かる。フロスト兄弟が現れたそうだな……」
マックス「月からの報告によれば、ディアナ・カウンターが到着した頃には、襲撃者は既に撤収したそうだ。
ネオバディムは、独自の転送技術を持っているため、捕捉も困難だろう……」
最も、月の戦力では、彼らに手出しをしても返り討ちに終わるだろうが。
直ちに状況の確認に動こうとするが……その答えを告げるかのように、ユーゼス・ゴッツオからのメッセージが届けられた。
ユーゼス『久しぶりだ。統合軍並びに、宇宙、異世界からの来訪者諸君。まずは君達の勝利に、賞賛の言葉を贈らせて頂こう。
さて、今回このメッセージを送ったのは他でもない。
我々のこれからの行動と、その最終目的について、宣言しておきたい。
事ここに及んで、あえて隠し立てすることなど何もないのだから』
ユーゼスは、このアースクレイドルが、自分達の今の拠点であり、
黒歴史からもたらされたものである事について語った。
ユーゼス『改めて言おう。私の目的は、この世に黒歴史を再臨させ、争いによって人類をより高度な次元へと押し上げることだ。
今後、いかなる危難がこの星を襲おうとも、跳ね除けることができるように。
だが、君たちの活躍もあり、もはやこの宇宙から、争いの火種はほぼ取り除かれつつある……
無論、完全に消し去ることなどは不可能だが、
文明そのものを革新させる規模の争いは、今の世代では訪れはしないだろう。
では、いかにしてこの世界に新たな戦乱を招くのか……
ターンタイプと同時期に造られたこのアースクレイドルは、
二機の放つ月光蝶のナノマシンと共振させることで、次元に干渉する効果を与えることができる。
まずは、ターンタイプの月光蝶システムで、地球全土にナノマシンを散布。
それはやがて、地球を越え、太陽系全域へと拡がっていくだろう。
同時に、このアースクレイドルの核となった、アウルゲルミルの次元歪曲システムを作動。
アースクレイドルによって増幅した次元の波は、月光蝶のナノマシンと共振し、効果範囲を一気に拡大……太陽系全域で次元震動を発生させる。
そうなれば、異なる世界を分かつ次元の壁は、一気に不安定となる。
その瞬間を狙い……“ウラノス”のシステムを用いて、あらゆる世界への扉を開く。
黒歴史のデータは、様々な異世界への扉を開くための道標でもあるのだ。
これまで、限りなく近くにありながら、閉ざされていた世界が一つとなる。
無論……月光蝶と世界同士の結合により、この世界が受ける打撃は計り知れないだろう。
加え、繋がった世界との争乱が起こることもまた必定。
それでも……私は、人類はその試練さえも乗り越え、数多の並行世界の文明を統合し、更なる高次の文明を築き上げると信じている。
降り懸かるいかな危難をも退け、大銀河にその版図を拡げるほどに、な。
G・K隊、並びに宇宙統合軍の勇士達よ。これまで幾多もの戦いに勝利してきた君達の力を、私は高く買っている。
君達ならば、これから訪れる混沌の世を勝ち抜いて行けるだろう。
私としては、君達と手を組むことを望んでいるが……私の計画を止めたいと言うのならば、それでも構わない。
私は君達を、この地で待つ。最後の決着をつけようではないか』
アースクレイドルは遠目からでは完全な球形に見えるが、実際はポリゴン画像のように、いくつもの四角い装甲板が連なり、構造を形成していた。
その板の一部が展開し、球面にいくつもの四角い穴が空く。
大小様々な穴から出てくるのは、ビルゴ2やバンデットを始めとしたモビルドール部隊に、多数のアスピーテから成るギンガナム艦隊だった。
中央に座するアスピーテの甲板には、ターンXが仁王立ちしていた。
ギンガナム「さぁ! 今こそ、新たなる黒歴史の黎明を迎えようではないか。
果てしなき闘争の世界、それこそが小生の望み、人の世の在るべき姿なれば……!」
666
:
蒼ウサギ
:2012/10/28(日) 00:53:42 HOST:i118-17-223-9.s10.a033.ap.plala.or.jp
遅かれ早かれ、こうなることは分かってた上で、改めて一同は自分達の置かれている状況に焦燥する。
一つ、前回のL.O.S.Tとの戦いで疲弊した機体の損傷が完璧に終わっていないと言う事。
一つ、G・K隊としては、“ある機体の改造”のためのプランが揃ってない事。
そして、最大の問題は―――。
由佳「<アルテミス>……いえ、ヴィナスがネオバディムやギンガナム艦隊と手を組んていたとはね…」
ジャミル「しかし、彼が容易に他の組織に“ウラノス”のシステムを流用させる人間とは思えんのだが?」
トウヤ「確かに。一見、スタンドプレーな彼らしくないやり方に見えますが、ヴィナスには強力な個(ウラノス)はあっても、
数という戦力はありません」
バルトフェルド「なるほど。でも、恐らくは互いの利害の一致というわけだろうね。
ネオバディムはウラノスのシステムを利用することで、僕らのような様々なイレギュラー世界の住人達を呼び出す」
ディアナ「黒歴史を繰り返しては、終わる事なき闘争を繰り返す……。考えただけで恐ろしいです」
冬の神殿で見た様々な戦いの映像が、やがてこの世界に再臨されると思うと、想像するだけで恐ろしい。
月の女王であるディアナはそれを誰よりも知っている。
ルリ「どちらにしても、行かざるを得ないでしょう。このままジッと待っててしまえば彼らの計画がすすむだけです」
マックス「それは我々としても賛成だ。
プロトデビルン、様々な侵略者を退けた今、彼らの計画を止めなければそれもまた振り出しに戻ってしまう」
ジャミル「問題は、あの地に“ウラノス”がいるか、どうかだがな」
由佳「それには……G・K隊(私達)の方が一応、考えてますが、今はネオバディムの作戦を止めることが先決です!」
§
=コスモ・アーク=
レイリーは、他の整備スタッフに一通り整備指示をしてから“ある機体の改造”の構想を考えていた。
レイリー(まさか…紫藤艦長があっさりOKしてくれるとはね……)
今、レイリーの前にはブレードゼファー、ナックルゼファー、そしてメテオゼファーという三機のゼファーシリーズが並んでいる。
紫藤トウヤが許可したのは、ナックルゼファー及びメテオゼファーの分解作業である。
理由は、二つのゼファーシリーズを使い、ブレードゼファーを強化することにあった。
2つの中にある、“Dジェネレーター”を取り外し、“ぬけがら”状態の二つの機体を大胆にアレンジする。
全ては元の世界に帰る為と、あのウラノスに対抗するためである。
レイリー(待ってなさい、ブレードゼファー。あなたにもっと良い剣を用意してあげる!)
それには、時間もそうだがパイロットの方にも問題が山積みだった。
667
:
蒼ウサギ
:2012/10/28(日) 00:54:58 HOST:i118-17-223-9.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コスモ・フリューゲル 格納庫=
―――とりあえず、あんたはあの火事場の馬鹿力みたいなモノを自由自在に使いこなせるようにしてみなさい!
星倉悠騎は、悩んでいた。
元の世界へ帰れるという可能性が自分にあると聞かされ、自ら活きこんでみたはいいが押し付けられた難題がこれまたどうしようもない。
悠騎「……ったく、無茶言いやがって!」
レイリーのいう、「火事場の馬鹿力みたいなモノ」とは、恐らくは数多の危機を救い、逆転劇を繰り広げてきた
“アンフィニ”のことだろう。
それがトリガーとなって発動される“ハ―メルシステム”は、どうやらその能力に反応して機体性能を底上げするようだ。
全く持って怪奇現象的なシステムだが、形は違えどドモン達のMFやゼロシステムなどに通ずるものがある。
かといって自分の意志で起こせない能力(アンフィニ)を一朝一夕でやれといわれてもできるわけがない。
悠騎(オレもドモンのように明鏡止水の心境でも覚えたらできるのか?)
そう思ったが、今までの戦いを思いだした結論から鑑みて、その条件で発動した試しがない。
むしろ感性のまま、感情のままに戦ってきた自分とは明鏡止水とは無縁の存在だ。
では、何だろうか?
もっと、もっと、何か大切な事を忘れているような気もする。
悠騎(そもそも、何故レイリーは、オレを、ブレードゼファーを選んだのか?
トウヤさんでも同じ能力を持ってるんじゃないのか? それとも……)
先の戦いで悠騎は、次元を斬り裂いたらしき現象を見せている。それが切っ掛けだろうか?
ブレードゼファーでなければできないことならば、トウヤが代わりに乗ればいいのではないのか?
考える度に疑問が湧いてきて、思考回路の迷路に嵌る。悠騎の頭ではパンクするのにそう時間は掛からなかった。
悠騎「だぁー! わからんねぇよ!」
ついには、大の時になってその場で倒れた際に「ひゃっ!」という声が聞こえた。
滝本ミキのものだった。
ミキ「だ、大丈夫ですか? 先輩」
悠騎「え? あぁ、大丈夫大丈夫。って、いつからそこにいたの?」
すぐに起き上がって尋ねた所、ミキは悠騎よりも前にここにいたらしい。
何やらブツブツと考え事しているところを話しかけようとしたが、何となく声を掛けにくそうな雰囲気だったので、
しばらく離れて自分の仕事をしていたが先の唐突の叫びと同時に倒れるところで駆け寄った、というところだ。
ミキ「……やっぱり、レイリーさんの与えられたことって、難しいですか?」
悠騎「まぁな。……例えるなら、火事場の馬鹿力って奴は追い詰められた状態で発揮することだろ?
追い詰められてもないのに発揮できるか? 言われたらどうだ?」
ミキ「……む、難しいですね」
悠騎「それに例のシステムもそうだ。スイッチ一つで発動できないなんて、戦術兵器としては役に立たないだろうに……」
今の言葉にミキは、少し引っかかるものを感じた。
ミキ「兵器…ですか」
悠騎「ん?」
ミキ「その、例の星倉先輩や紫藤艦長の能力もそうですけど、あのシステムも危険すぎるからわざわざスイッチ一つで発動しないために
したんじゃないでしょうか?」
悠騎は、少し得たような感じで思わず押し黙った。
それに気づかずにミキは、捲し立てる。
ミキ「あの能力も強大ですが、代償としてパイロットに負担が掛かります。危険なんですよ。そして、それに連結するそのシステムは、
スイッチ一つで発動できないよう、開発者が“わざと”そうしてるんじゃないかと思うんです。
パイロットが悪い方面で暴走しないように」
それはゼロシステムが良い事例だということを悠騎は思い出した。
確かに強大なシステムは、時にパイロットを暴走させる。今ではウイングゼロのゼロシステムを使いこなせているヒイロだが、
当初の頃は、ガンダムエピオンのゼロシステムに翻弄され、暴走していた。
なるほど、ミキの言い分はあながち間違いでもない。
668
:
蒼ウサギ
:2012/10/28(日) 00:55:37 HOST:i118-17-223-9.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「そっか……。オレ達、試されてたんだ」
最初、ヴィナスは、“ハーメルシステム”“べラアニマ”“アンフィニ”等、自分達が知らない事を知っている上で、「実験体」
と呼んでいた。
それは、ヴィナス自身の“マテリアル”のための言葉だったのかもしれないが、本当の意味は―――。
悠騎「オレ達が、オレが誤った力の使い方をしないためか、どうかなんだったんだ」
改めて、独立組織G・K隊としての有り余る力というものに対しての責任感が再認識させられた。
そして、それをわからせてくれた仲間の肩をぐっと掴む。
ミキ「せ、先輩!?」
今にも口から心臓が飛び出そうなくらいに脈動するミキだが、悠騎はそれに気づかない。
悠騎「ありがとよ! やっぱり、オレ達は兵器になっちゃいけない。
そして、アレは無暗に使うもんじゃなく、“切り札”として使うもんなんだ」
ミキ「それって、何かわかったっていうことですか?」
悠騎「ま、確証はないけどな。なんとなくってところだ」
と、言って、悠騎は改めて新しくも、久しぶりに配備された機体のハンガーに向かう。
見上げると、そこにはかつての愛機の姿があった。
エクシオン。
ブレードゼファーに乗り換える前の深虎との戦いにおいて半壊したが、レイリーが合間を縫って修理していたのだ。
もっとも、今のブレードゼファーの改造が済むまでの急ごしらえ仕様だが、以前よりも違う点が節々に見受けられる。
壊れたバーサーカーメイルのパーツを一部流用し、頑丈性とブレードゼファーに近い出力速度を出せるように改造されている。
性能ではゼファーシリーズに劣るエクシオンシリーズだが、こと拡張性やパーツの流用などに関してはエクシオンシリーズの方が
断然に勝っている。
設計者が言うには、改造次第ではゼファーシリーズを越えられる可能生を秘めているそうだ。
悠騎(次の戦いではお前(エクシオン・改)と一緒にやらなきゃな……)
まずはネオバディムの計画を阻止する。
確証がない。だが、これで迷いは吹っ切れた。
§
=決戦要塞・アースクレイドル=
グエン「彼らはここに来るでしょうか?」
ユーゼス「もちろん来るだろう。でなければ、メッセージを送った意味がない」
ユーゼスの仮面の表情はもちろん、声からでもグエンにはまるで感情が読み取れない。
彼が統合軍達が来ると言えば来るのだろうが、それは敵対する意味で来るのか、それとも同盟する意味で来るのか。
グエンとしては、後者の……とりあえず、ロランことローラだけでも手中に収めたいところなのだ。
ルシア「Mr.ラインフォード。彼らがここに来るという事は、およそ100%相容れることはないでしょう」
グエン「何故です!?」
ルシア「それは、彼らはそういう人達の集まりですから」
ギンガナム『小生としても、それが望むところだ!』
通信越しからまるで一連の会話を聞いていたかのようなギム・ギンガナム声。
今にも闘争心に溢れていて、爆発寸前であろう。
グエン「ギム・ギンガナム御大将。ホワイトドールとの交戦だけはなるべく避けてくれよ!」
ギンガナム『フン、このギム・ギンガナム。戦さ場になれば、敵は全て倒す主義よ! ましてや∀は我がターンXの兄弟!
避けろというのは無茶な話だ!』
ルシア「なるほど、Mr.ラインフォード。あなたは、あのもう一人のターンタイプのパイロットがお気に入りのようですね」
グエン「っ! ローラならきっとわかってくれる! だから……!」
ユーゼス「……どうやら、その愛しの人物たちのご登場らしい」
モニターを見てみると、宇宙統合軍やG・K隊の戦艦が近づいてくるのが見えた。
669
:
藍三郎
:2012/11/11(日) 00:06:41 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
メシェー「信じられない……アーク山が、真っ白い鉄の山になっちゃってる!」
かつてホワイトドールが発掘されたアーク山は、イングレッサの住人になって馴染み深い場所である。
その、物心ついた時から当たり前のようにあった風景が、まるで異なる姿に変じているのを目の当たりにした衝撃は計り知れなかった。
しかし、あれはただの舞台に過ぎない。
白き天蓋の周囲には、ギンガナム隊のバンデットにマヒロー、ビルゴにビルゴⅡを始めとした無数のモビルドール部隊がひしめいていた。
ロランにとって、イングレッサは自分の第二の故郷と言っていい。
ここに帰って来るのは、戦いを終わらせた時だと思っていた。
それが、決戦の地となるとは……
敵の射程圏内まで後僅か……熾烈な戦いになることを確信しながら、ロランはここに来るまでの作戦会議を思い出していた。
ハリー「ネオバディムの計画が、ユーゼスの言葉通りならば……
敵の要は、ターンXにウラノス、アースクレイドルなる要塞ということになる。
いずれも未知数の部分が多く、脅威となる存在だ。
しかし、これらを破壊、あるいは無力化することに成功すれば、彼らの計画を頓挫させることが出来る」
最終目標は定まった。後は、いかにして攻略するかだが……
ハリー「まず我々が考えるべきはターンXだ。他の二つに比べれば、まだデータが揃っているからでもあるが……
あのモビルスーツが持つ月光蝶システムの危険度は、現時点で他の二つを上回る。
ネオバディムはそれを、異世界の扉を開く下準備として使うらしいが……
かつては地球文明を埋葬させた月光蝶だ。一度発現すれば、地上に甚大な被害をもたらすに違いない。
最優先で撃墜、あるいは無力化を目指す。
幸いと言うべきか……ギンガナムは自ら最前線に出てくるはずだ。
加えて、敵はまだ月光蝶を発動させていない。
原因は不明だが……恐らく、敵もシステムを完全に制御出来ていないからだと思われる」
ハリーは、ロランに視線を向ける。
ハリー「ロラン、次の戦闘では、ホワイトドールは出撃させない。
ホワイトドールとターンXが戦った場合、何が起こるか分からない。
それこそが、月光蝶発現の引き金かもしれんのだ。
君には、ホワイトドールの中で待機していてもらおう」
ロランは短く頷いた。
以前、ターンXとの戦いで起こった共鳴……ハリーの言う事は、十分に起こり得ることだ。
月光蝶は、これまで何度かこちらの窮地を救ってくれたが、
ロランもまだ、ホワイトドールを完全に制御しきれるか、自信がない。
ハリー「一方で、ターンXを止める可能性を持つのも、またホワイトドールだ。
もしも月光蝶が発動した場合には、戦力を温存する意味も無い。直ちに出撃してもらう」
ロラン「……わかりました」
かつて、ホワイトドールこと∀は、月光蝶で地球文明を埋葬し、
ターンXはそれを止める為に戦ったと言う。
今回は、立場が逆になる……そのような事態は、出来うる限り避けたいが……
二体の蝶の羽を持つ機体が戦う未来を、ロランは予感せずにはいられなかった。
670
:
藍三郎
:2012/11/11(日) 00:10:29 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ディアナ「ユーゼス・ゴッツオの言う、闘争が人の文明の進化を促して来た、という言葉は、確かに一面の真理でしょう。
進歩した技術によって、私達は多くの危難を乗り越えて来たことも……
ですが、我々はその恩恵にだけ目を奪われて、その陰で犠牲になる人達がいることを、忘れてはなりません。
闘争は、数多の苦しみや悲しみを生み出し、掛け替えのない生命を奪い、未来の可能性を消失させます。
例え闘争が人の営みから切り離せぬとしても、無秩序で、いたずらに人の命を奪うものであってはなりません。
我々は、常に己を戒め、そうならないよう努力していくべきなのです」
ディアナは己の胸に手を当てて、続ける。
ディアナ「それは私にも当てはまることです。
私は、月の民を地球に帰還させようとしましたが、
結果として、地球の民との間で戦争を引き起こすこととなってしまいました……」
月との戦いで父親を失ったソシエは、僅かに目を伏せる。
地球と月との争いが起こった影には、ネオバディムが関与していたことが分かっているが、それを指摘したところで何の慰めにもなるまい。
ディアナ「より良き世界を目指して、理想を追い求めることは大切です。
しかし、それを叶える為に、強引なやり方を取れば、大きな歪みを生み出します。
ネオバディムが行おうとしているのは、かつて私が犯した過ちでもあります。
武力で止めることが、愚かな行為と分かっていても……私は、彼らの行いを見過ごすことはできません」
ロランやハリー、多くの者達が、彼女の言葉に同意する。
ディアナ「どうか、私に力を……とは言いません。
私達が目指す世界のため、共に戦いましょう。
そして願わくば、これが人と人とが血を流して争う、最後の戦にならんことを……」
=アースクレイドル=
戦いの火蓋は、間もなく切って落とされる。
ルシア「それではユーゼス様、私も外へ出ます」
ユーゼスは、ルシアの掌が僅かに震えているのを見逃さなかった。
無論、恐れでは無く、これから始まる戦いへの歓喜故だ。
ユーゼス「……ルシア。君には感謝している。
グラドス星から来た一介の科学者に過ぎなかった私が、
ネオバディムという力を持てたのも、君の働きがあればこそだ」
ルシア・レッドクラウドは、地球で活動していたテロ組織、バディムの幹部の一人だった。
地球で調査活動を進めていたユーゼスと出会い、死に体だったバディムを乗っ取り、共にネオバディムを造り上げたのだ。
ルシア「……礼を申し上げるのは私の方でございます、ユーゼス様。
貴方に出会う前の私は、ただの血に飢えた獣に過ぎなかった。
破壊以外に生きる術を知らず、それでいて、どれだけ壊しても満たされなかった私に、
心を震わす生き方を教えて下さったのは貴方だ」
テロリスト集団、バディムのメンバーとして、血と破壊に明け暮れていたあの頃。
今の世に不満があり、世界の在り方を改善しよう……などという志があるわけではなかった。
自分がかつて、どんな人間だったのかは最早彼自身にもわからない。
あえて言うならば、惰性であり習性だ。
他者の嘆きと悲鳴を聴き、その返り血を浴びる度に、今の己が染み付いて行った。
だが、降りかかる血に昂揚しながらも、同時にルシアは、圧倒的なまでの無力感に苛まれていた。
どれだけの人命を奪い、どれだけの破壊を繰り返そうとも、この世界は微動だにしない……
そんな虚しさに囚われた日々を送っていた。
ユーゼスと出会い、彼に黒歴史の真実を見せられるまでは……
今ある世界の破壊と、その後の創造。
それはかつてない昂揚と充足を、己にもたらすに違いない。
ユーゼス「これからだ。これは到達点ではなく、まだ始まりに過ぎない。
君の働きには期待しているよ。次の世界でも、な」
ルシア「はい。次にお会いする時は、新世界で……」
671
:
藍三郎
:2012/11/11(日) 00:11:40 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ルシアは一礼して、アースクレイドル内の格納庫へと向かう。
彼が姿を消すのを見届けた後、ユーゼスもまた、アウルゲルミルに目を向ける。
ナノマシンと次元歪曲装置を制御するため、彼自身が乗り込む必要がある。
グエン「ユーゼス氏、私は……」
不安を抱えたグエンの心中を見抜いたように、ユーゼスは告げる。
ユーゼス「グエン卿。君は、君の望む通りにしたまえ。
我らが勝利した暁には、君の望みである、地球の技術革新も叶う事だろう。
私個人としても、協力は惜しまぬつもりだよ。
だが、その時には……今ある世界の枠は、全て無くなっているだろうがね。
地球も月も、いや、世界すらも関係ない。
真に優れた者が生き残る、弱肉強食、適者生存の世の始まりだ」
アースクレイドルに向かう各艦のブリッジに、ユーゼスからの通信が届く。
ユーゼス『ようこそ、G・K隊に宇宙統合軍の諸君……新世界の生まれ出ずる地へ。
では、早速、返答を聞かせてもらおうか』
マックス「我々に君の計画に賛同せよというのなら、答えは無論、ノーだ。君の計画は、この地球圏に甚大な被害をもたらす。
人々の生命と平和を守るためにある我々統合軍が、そのような計画に賛同するはずがなかろう」
ユーゼス『なるほど、君達の立場では、そう言わざるを得ないだろうな。
G・K隊の諸君はどうかね?君達はこの世界の住人ではない。
君達は、元の世界への帰還を目的としている。
複数の異世界が結び付けば、その中に君達の世界が含まれているかもしれない。
我々も協力は惜しまない……どうだろうか?』
ユーゼスの誘いに対し、由佳は、G・K隊を代表して、迷い無く答えた。
由佳「お断りします。私達G・K隊は、世界の安寧を守ることを理念としています。
それは、世界が異なろうとも、変わることはありません。
その理念と反するような、貴方達の計画には賛同できません」
アヤ「星倉艦長に代表して貰ったけど、私達や、他の異世界の人達も同意見よ」
アスラン「そもそもお前達は、俺達に元の世界への帰還に協力すると言って、いいように利用した。今更信じられると思うか」
セレナ「ちゅうか、あんたがどれだけ戦争好きか知らないけど、私はいい加減お疲れモードなの。これ以上の面倒はもう沢山。
あんたらをさくっと片付けて、お家に帰りたいのよ」
シャル「新世界など迎えさせるが。ここが、お前の野望が終わる地だ」
ユーゼス『くくく……君達なら、そう答えると思っていたよ。ならばもはや言葉は無用。
いずれが次の世界を切り拓く資格を持つか……
弾丸と刃を持って、決しようではないか』
美穂「艦長! 後方に空間歪曲反応あり!」
マックス「空間転移……伏兵か!」
艦隊のすぐ真後ろに、空間の歪曲が発生。同時に多数のビルゴが出現する。
既に砲口には、ビームの光が点っている。空間転送直後にビームカノンを一斉発射。
モビルドールならではの、恐れも惑いもない、完全に統率された動きだ。
古の世から、城攻めの難しさは、その最中に背後を突かれることにある。
だが……
トロワ「……交渉決裂と同時に空間転送を利用した奇襲……最善手ではあるが、故に読みやすい」
各艦の艦尾には、ヘビーアームズにレオパルドと砲撃戦用の機体が立っていた。
ミサイルが、ビームカノンの砲口へと着弾。プラネイトディフェンサーは、発射の際には展開しない。
連鎖する爆音。モビルドールの構えた砲身が、機体を巻き込んで爆砕する。
以前の戦闘で、空間転送を用いた背後からの奇襲を読み、迎撃のための機体を既に配置していたのだ。
672
:
蒼ウサギ
:2012/12/05(水) 02:46:22 HOST:i125-202-199-246.s10.a033.ap.plala.or.jp
デュオ「オラオラァ! 死神様のお通りだァ!」
戦艦がまだ爆風包まれている中で、前線のビルゴがガンダムデスサイズヘルによって次々に切り崩されていく。
目標を熱源で感知して攻撃するモビルドールは、まだ奇襲してきたビルゴ隊の爆発が混同してしまい、反応が遅れてしまったのだ。
加えて、デスサイズのハイパージャマーとでは相性が悪かったようだ。
ヒイロ「あまり出過ぎるな。奴ら(ビルゴ)は、三機一組で行動している」
カトル「それってつまり……」
五飛「三機で死角を埋めているということか!」
ヒイロ「だが、奴らは未来が見えているわけではない!」
ゼロシステムの音が奇妙に唸り、ウイングゼロは、ツインバスターライフルを左右に割り、片手に一つずつ持って両手に広げた。
リュウセイ「おっと! ヒイロが派手なことをしそうだ! みんな逃げろぉ!」
その号令と共に、友軍はすぐにウイングゼロから退いたその時、
ヒイロは迷わず左右のバスターライフルを同時に発射しながらその場で回転した。まるでその“未来”が見えていたかのように。
ビルゴのプラネットディフェンサーといえども、バスターライフル級の威力を受ければ少なくともその衝撃で“三機一組”という
隊列が分散するだろう。破壊や半壊に持ち込めばなおさらよしだ。
カトル「皆さん、今です!」
ゼンガー「了解だ!」
ビルゴの隊列が崩れたその隙をついて、接近仕様の機体はプラネットディフェンサーの死角をついて積極的に攻撃を仕掛ける。
ドモン「魂のこもっていない兵器に、このキング・オブ・ハートの拳は見切れまい!」
ゴッドガンダムの拳が真っ赤に燃えて、プラネットディフェンサーを突き破り、破壊した。
元々、ATフィールドほど強固なバリアではない。かといって簡単に突き破れるほど脆くもない。
ドモンの拳に込められた覇気がそれを可能にしたのだ。
ドモン「オレに小細工は不要! どこからでも掛かってこい!」
そんなドモンに対し、ビルゴとは違う機体が現れた。
そう、胸に×印を持つもう一つのターンタイプ。
ギンガナム「ふはははは! また会ったなぁ! キング・オブ・ハート!」
ドモン「ギム・ギンガナム!?」
ドモンの声に、誰もが反応した。
早くも本命の一人が現れたのだ。
ギンガナム「見た所、兄弟はこの戦場にいないようだなぁ。フッ、どれ、奴が来るまでお前で準備運動させてもらおうか!」
ドモン「望むところだ! この東方不敗の名にかけて! 貴様を倒す!」
673
:
蒼ウサギ
:2012/12/05(水) 02:46:57 HOST:i125-202-199-246.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=宇宙・ヴェサリウス=
戦場の火が渦巻く中、地球を眺めながら、ラウ・ル・クルーゼは、仮初の同志をどう思うのか?
それは同じ艦に乗るフロスト兄弟やオルガ、シャニ、クロト達もわからないし、興味もない。
クルーゼ「さて、我らもそろそろ出撃するか」
シャギア「ほぅ、もう加勢するつもりですか?」
クルーゼ「いかねばならぬだろう? “同士”だからな」
オルバ「フフっ、確かにそうだね」
そして、そんな彼らの行動に不安を持つ者が二人いた。
ザフトの残り赤服と呼ばれるニコルとイザークである。
イザーク「隊長達はようやく降りるようだな……」
ニコル「うん。ねぇ、イザーク。僕達は、本当に“ここ”にいていいのかな?」
ニコルのそんな疑問をイザークは前々から持っており、思わず舌打ちで返した。
ディアッカに聞かされた最後の言葉が頭から離れない。
―――なぁ、イザーク・・・・・・こんな世界に連れてこられて、オレ達は何の為に戦ってるんだろうな?
否が応でも彼らの情報は入ってくる。イザークやニコルはその収集を欠かすことはなかった。
当然、アスランやディアッカがいることを知っていてだ。
イザーク「くそっ、奴等は何であそこまで戦えるんだ!」
胸の中のもどかしさが、イザークを苛立たせた。
674
:
藍三郎
:2012/12/15(土) 10:18:30 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ギンガナム「ふはははは!! やはり闘いとは心躍るものだな!!
特に、未だ知らぬ強者と拳を交える時などは格別だ!! 貴様もそうであろう!」
ドモン「それについては同感だがな……!」
ギンガナム「ならば貴様も小生の側に来い!
異なる世界同士が繋がれば、数多のまだ見ぬ強者達と死合うことができよう!
永劫に戦いを愉しむことが出来るのだ!!」
ドモン「断る! 確かに未知なる強者との戦いは武闘家の本懐!
だが、俺は世界の秩序を守るシャッフル同盟のメンバーでもある!
多くの力無き者を犠牲にする強さなど、俺は認めない!」
ただ己が強くなるため、戦いの快楽の味わうために戦う。確かにそれも、強さを極める道の一つだ。
このギンガナムや最凶四天王……人にそうした一面があることは否定しない。
だが、ドモンが目指す強さの高みは、その更に上にある。
ドモン(師匠、シュバルツ、ロム、シャッフル同盟の皆……
俺が目標とし、ライバルとしてきた格闘家達は皆、守るべきもの、信念を持ち、それが強さの支えとなっていた。
俺はそんな彼らの強さが、こいつらに劣るとは思わない。俺のこの拳で、証明してやる!!)
ドモン「それに……」
ギンガナム「?」
ドモン「まだ見ぬ敵とやらを気にする前に、
まずは目の前のこの俺を倒すことに死力を尽くしたらどうだ?」
挑発めいたその言葉を聞き、ギンガナムの顔が喜悦に歪む。
ギンガナム「ふっ、ははははは! 確かにその通りだな!
やはりお前達とは、共に肩を並べるよりも矛を交える方が面白そうだ!
今という時を、存分に楽しもうではないか!!」
ターンXの全身に電撃が走る。腕、脚、頭部が胴体から分離し、複数のパーツとなってゴッドガンダムを包囲する。
天地縦横前後左右、あらゆる方向から、弾丸と光線が降り注ぐ。
ドモン「貴様が己の身を分離するならば、俺はこうだ!分身殺法!ゴッドシャドー!!」
目まぐるしい速度で動き、ゴッドガンダムの数が四、五体に増える。
全方位から飛んで来る攻撃を、拳やビームソードで叩き落とす。
ギンガナム「やるな! ならば全てまとめて消し飛ばすまでだ!
シャイニングフィンガーで引導を渡してくれる!!」
ターンXの溶断破砕マニピュレーターが展開し、橙色の輝きが満ちる。
ドモン「ならばこちらも、流派東方不敗が最終奥義!
石破天驚! ゴォォォォッド・フィンガァァァァァァッ!!」
以前の戦闘より遥かに威力を増したシャイニングフィンガーに、ドモンも己の全てを持って応える。
ハリー・オードのグラスには、激突するゴッドガンダムとターンXが映し出されていた。
ハリー「やはり、ターンXはまだ月光蝶を使わない……か!」
ターンXの背中に、月光蝶発現の兆候はない。
こちらの推測通り、ネオバディムは未だターンXのシステムを完全に解析できていないということなのか。
それともただの余裕か……あの男の性格からしてありえないとは言えない。
いずれにせよ、ターンXが単騎で突出している今が好機だ。
ハリー「ポゥ中尉、親衛隊! 奴を包囲し、動きを封じるぞ!」
ポゥ「貴様に指図されるのは気に入らんが……了解した!」
金色のスモーを先頭に、銀のスモー部隊がそれに続く。
675
:
藍三郎
:2012/12/15(土) 10:19:43 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ミキ「敵の第一陣、壊滅しつつあります」
アイ「でも、油断は禁物です……敵は高度な空間転移の技術を保有しています。
恐らく、次の奇襲が……」
何もない空間へとモビルドールを転送し、奇襲を仕掛けるネオバディムの戦術は、確かに脅威だ。
しかし、空間転移は、出て来る前に必ず空間歪曲の兆候がある。
統合軍とG・K隊の全ての艦は夏彪胤の協力の元、次元の歪みを捉えるセンサーを強化していた。
ミキ「七時方向に、空間歪曲反応、来ます!」
音も無く、夜空から吐き出されるモビルドール部隊。
だが、転移する位置を予め掴んでいたG・K隊の対応は早い。
ビルゴがビームカノンを撃つ前に、艦を防衛する部隊が迎撃に入る。
ムスカ「…………」
そんな中、ムスカはハイドランジアキャットの照準を、全く別の方向に合わせる。
熱源も、空間歪曲反応共に感知できない。
それでも、彼は少しも躊躇うことなくトリガーを引いた。
発射された多数のミサイルは、幾つかのグループに分かれてそれぞれ異なる方向に飛んで行く。
「「やはり」」
二人の声が重なると同時に、ミサイルを撃ち込んだ地点に複数の機体が出現する。
これらは皆、周囲の風景と同じ画像を映し出すマントを装備していた。
ムスカ「空間転移による奇襲、それにタイミングを合わせて、従来の光学迷彩、熱源遮断を用いたステルス部隊を近付ける。
その程度じゃ、こっちの裏は掛けねぇな」
ルシア「ええ、貴方ならば、この手も通じないだろうと予測しておりました」
アースクレイドルのハッチが開き、新たな部隊が出撃する。
急上昇する機影は十三騎。
内十二騎が暗緑色の量産型のベルゲルミル、中央に陣取るのは、赤いボディカラーを持つベルゲルミル・アスラだ。
ルシア「お久しぶりです。G・K隊並びに宇宙統合軍の皆様。
お初の方々は初めまして。ルシア・レッドクラウドと申します」
初めて敵として現れた時と同じく、厭味な程慇懃な態度で挨拶するルシア。
ムスカ「ようやく出て来たか。で、ヒイロ達みてぇに、今度は俺達を勧誘するつもりか?」
ルシア「ええ、最初はそのつもりでした。ですが……」
ルシアはコクピットの中で、汗ばんだ手を震わせていた。
夜天を照らす満月を見上げ、陶酔した表情で続ける。
ルシア「この戦場の空気。今の貴方達の奮闘を見ていたら、そんな温い考えは頭から消し飛んでしまいましたよ。
ああ、今すぐ貴方達を引き裂き、その血であの月を赤く染めてしまいたい……!」
ムスカ「薄々そうじゃねぇかとは思っていたが……本性見せやがったな」
ベルゲルミル・アスラが弓を構えると同時に、他の量産型ベルゲルミルもマシンナリーライフルを構える。
それと同時に、背中の宝玉、シックス・スレイブも放たれる。
G・K隊各機は、散開してこれをかわす。
しかし、一度かわされた矢は宝玉に命中し反射、標的に向けて真っ直ぐに進む。
ここまでなら、前回と同じ。違うのは、ルシアの機体だけでなく、他の量産型ベルゲルミルも同様、マシンナリーライフルの弾で正確な跳弾を行っている。
ムスカ「自分だけじゃねぇ。無人機の跳弾まで計算できるってか!」
跳弾の嵐は、バミューダストームの機体を閉じ込めて行った。
ルシア「貴方にも出来るはずですよ。同じ演算者(カリキュレイター)であるならばね」
ムスカ「そいつは持ち上げ過ぎだぜ。だが、俺には必要ねぇな」
次の瞬間、二体の量産ベルゲルミルが同時に破壊される。
一機はヘラクレスパイソンの拳で腹を貫かれ、
もう一機は刹牙の爪で脳天から三つに裂かれていた。
ゼド「確かに無数に跳ね返る弾丸を予測して回避するのは私には無理ですが……
それでも長年の勘でどうにか対応できますよ」
白豹「…………」
白豹は言うまでもない。暗殺者である彼にとって、
予期せぬ闇からの奇襲に晒されている状態は、日常と同じなのだ。
ムスカ「俺には、小難しい計算や指示なんぞ無くても、
いつも俺の計算を越えた動きをしてくれる奴らがいるんでね!」
676
:
藍三郎
:2012/12/15(土) 10:20:26 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ヒイロ「……!」
ミリアルド「来るか……!」
ゼロとエピオンのシステムが、新たな敵の転移を予測した。進撃するガンダム達のちょうど真上に、それらは現れた。
一方は、長大なビームカノンと、
それにエネルギーを供給する円形の大型ジェネレーターを背負った青い機体。
もう一方は、背中にプラネイトディフェンサーを搭載し、
両手にビームガンと円形のシールドを持った赤い機体。
ガンダムに匹敵する性能を与えられ、ビルゴの元となった二体のモビルスーツ、ヴァイエイトとメリクリウスだ。
量産化されたのか、数組の機体がガンダムの前に立ちはだかる。
デュオ「随分と懐かしい奴が出て来たな。だが、いくら性能がガンダム級でも、動かしているのがただのモビルドールなら……」
『ところがそうはいかんのぉ』
突如通信に割り込んで来た人物にデュオは面食らった。その老人は、ガンダムデスサイズの生みの親、プロフェッサーGだったからだ。
同様に、他のガンダムにもドクターJらそれぞれのガンダムの製作者から通信が入っていた。
カトル「博士! 貴方たちはネオバディムに捕われていたのでは……」
H教授『ああ、だが、どうにか奴らの目を盗んで、通信回線を一部奪うことに成功した。時間がない、よく聞け』
プロフェッサーG『あの二体、ヴァイエイトにはトロワの、メリクリウスにはヒイロの、
それぞれの戦闘データを解析、コピーした人工知能が搭載されておる。決して油断するなよ』
トロワ「俺達の……」
かつてヒイロとトロワは、ネオバディムに参加してあの二機に乗って戦ったことがあった。
その時に、戦闘データを取られたということか。
カトル「それで、博士達は何処に? 助けに行きます!」
老師O『その必要はない』
五人の博士は、きっぱりと断った。
ドクトルS『わしらが持つ情報は全て、今コスモ・フリューゲルへと送信した』
ドクターJ『異なる世界、異なる文明との交流は人類の夢じゃ。
しかし、それをなすには、今の人類はあまりにも未熟過ぎる。
まして、この世界の多くの命を犠牲にしてまでやることではない。
ユーゼスは、ただ己が生まれ変わった世界を見たいだけなのじゃ』
H教授『最初にユーゼスにその計画を聞かされた時に、それに心惹かれたことは事実』
ドクトルS『科学者として、未知のテクノロジーに触れるのは何よりの喜びじゃからな』
ゼロシステムやビルゴの開発等、五人の博士がネオバディムで成した功績は大きい。
しかし、その全てが強制されて仕方なくやったこととは言い切れない。
ドクターJ『ヒイロ、アースクレイドルのコアユニット、アウルゲルミルを破壊せよ。
それで奴らの計画は破綻する。
……わしらのことは、気にするな』
ヒイロ「……任務、了解」
博士らの覚悟を知りつつ、ヒイロはいつも通りの淡々とした口調で返した。
677
:
蒼ウサギ
:2012/12/28(金) 23:59:19 HOST:i121-112-36-132.s10.a033.ap.plala.or.jp
久々のエクシオンのシートだが、思いの外すぐに慣れた。
当たり前だ。
パイロットの実習、それまでの数々の実戦経験に比べればブレードゼファーよりも長いのだから。
悠騎「なめんじゃねぇぞ!」
確かに少し改良したとはいえ、全体的な性能はブレードゼファーには及ばない。
しかし、機体に対しての信頼性は、パイロットの力を存分に発揮することができる。
悠騎は、新装備の大型ビームソード―――元は、二つのビームソードだったものを一つにすることで大型化させた武器を存分に振り回した。
鋭い斬撃にビルゴは反応できずにあっさりとプラネットディフェンサーを張る間もなく次々と斬り裂かれてゆく。
悠騎「ハッ、てめぇらがそうやって数増やしている間に、オレ達は色んな相手を倒してきたんだ!
それが終わった矢先にしかけてくる姑息な野郎どもに、負けられっかよ!」
エクシオンのツインアイが、まるで悠騎の怒りを表現しているかのようにギラリと光る。
相手が人間のパイロットならばこの気迫で間合いに近づこうとはしないだろう。
だが、相手は機械だ。情け容赦のない感情のないモビルドールだ。
だから、恐れをしらずに攻撃をしかける。
そんな「命」知らずな奴らを、悠騎は、練り上げられた技術・・・・・・いや、もはや人馬一体といった風な動きで次々に斬り捨てた。
そして、この勢いのまま悠騎は、量産型ベルゲルミルへと斬り込んでいく。
§
ヒイロ・ユイとトロワ・バートンの人工知能を有したメリクリウスとヴァイエイト。
その動きは確かに普通のモビルドール隊とは違っていた。
単にそれぞれ個々の性能がアップしたのではなく、動きに“人間味”が滲み出ているのだ。
ミリアルド「なるほど。……さすがはガンダムのパイロットということか! 機体は選ばなくとも性能を充分に発揮している!」
疑似戦闘データのヒイロであるメリクリウスと剣を交えながら、ミリアルドが言う。
その隙をトロワの疑似戦闘データを持つヴァイエイトが撃とうとするが、一筋の砲撃によって妨害された。
トレーズ「だが、所詮は“紛い物”。心なき兵士に一流のパイロットの真似事をさせようなどと、些かエレガントではないな」
砲撃した機体は、トレーズのトールギスⅡだった。
五飛「フン、貴様の通理に付き合う必要はないが……!」
アルトロンガンダムが一気にヴァイエイトに接近。
五飛「魂のない者が戦場をうろつくなぁ!」
ビームキャノンを撃つ前よりも早くドラゴンハングで破壊した。
そして―――。
678
:
蒼ウサギ
:2012/12/29(土) 00:00:15 HOST:i121-112-36-132.s10.a033.ap.plala.or.jp
トロワ「かつての自分が“そこ”にいるなら、行動パターンも読みやすい」
自分なら武器を破壊された場合、後退するだろうと判断したトロワは、ヘビーアームズ改の全武装を一斉発射していた。
後退位置も読み通り。全弾受けてしまったヴァイエイトは、抵抗むなしく夜空に散った。
だが、これもヴァイエイトの“盾”であるメリクリウスが足止めをくらっていることで成せる業だった。
そして、そのメリクリウスも“二つのゼロ”によって破壊されようとしている。
ミリアルド「所詮、ガンダムのパイロット(ヒイロ・ユイ)のデータをコピーしようともモビルドールはモビルドール!
敵ではない!」
メリクリウスの斬り合いで、エピオンはプラネットディフェンサーを構築する10基の円盤状のエネルギージェネレーターを
ピンポイントで次々に破壊していった。
もはや、メリクリウスの特性である“最強の盾”は、崩れ始めてきている。
反面、エピオンにも損傷も受けている。
しかし、エピオンの後退。その隙に上空からウイングゼロが構えていた。
ヒイロ「以前の“オレ”なら、この未来は見えていないはずだ」
間髪入れずに発射されたツインバスターライフルはメリクリウスを見事に捉えて撃破した。
事前に通信で打ち合わせしたわけでもない。しかし、それは見事な連携プレーだった。
おそらく二つのゼロシステムが見せた未来が同じだったのか?
それはヒイロとミリアルドの知るところだろう。
§
ガロード「ティファ、本当に大丈夫か?」
ガンダムDXのコクピットに同乗しているティファが頷く。
彼女が言うには「嫌な予感がする」らしく、ガロードはそれが放ってはおけなくて同乗させたのだが、
激しい混戦ともなると心配せざるをえない。
ティファ「……大丈夫、ガロードがいるから」
ガロード「そっか。よし! なら、しっかり掴まっていろよ!」
ジャミル「ガロード。お前のDXは迂闊に前に出ると的になる」
DXの傍らに、ジャミルのガンダムXディバイダーが並ぶ。
フリーデンⅡの指揮は、すでに副長のサラに任せているようだ。
ガロード「なら!」
と、ガロードは空を見上げた。月がよく見えている。
サテライトキャノンを撃つには充分だ。
ジャミル「いや、この状況で“それは”危険だ。どこからでも不意に現れてくるモビルドールの奇襲の際に発射してしまったら味方への
誤射を招きかねん!」
ガロード「そ、そうだな……!」
―――過ちは繰り返してはならない。
ティファがD.O.M.Eに告げた一つの答えを今一度、ガロードは心の中で呟く。
強力な力に溺れてしまわぬように、その強力な力に責任をもって。
それを改めて胸に刻んだ。
ティファ「……ガロード、何かがきます!」
ガロード「っ! なんだと!?」
ティファの「嫌な予感」とやらは、どうやら的中したようだ。
679
:
蒼ウサギ
:2012/12/29(土) 00:03:07 HOST:i121-112-36-132.s10.a033.ap.plala.or.jp
上空より、何機かMSと思われる機体が降下してきた。
その中には、ガロード達の見覚えのあるものもいた。
ウィッツ「あのゲテモノガンダムは!?」
ジャミル「フロスト兄弟か!」
§
大気圏を突入し、地球圏に降下してきたヴェサリウス隊。
それを事実上率いている、ラウ・ル・クルーゼは、仮面のしたで悠然とした面持ちでユーゼスと交信を試みた。
クルーゼ「こちらネオバディム所属、ヴェサリウス隊。ユーゼス閣下、これより援護しましょう」
ユーゼス『……感謝しよう。しかし、合流が遅かったのではないかね?』
クルーゼ「私の新鋭機の調整に手間取っていましてね。……ヴェサリウスは、地球圏では活動できないので全機、そのまま馳せ参じました」
クルーゼの新鋭機。グレーかかったガンダムのような機体は「プロヴィデンス」の名付けらている。
背部に大きな突起がいくつも見えるのが特徴的だ。
ユーゼス『いいだろう。すでにG・K隊、及び、統合軍は我々の管下に入ることを拒否した。その新鋭機とやらの力、見せて貰うぞ』
クルーゼ「お望みのままに」
交信が終わると、クルーゼに思わず笑みが零れる。
そして、それはフロスト兄弟もだ。
オルバ「ついにこの時がきたね、兄さん」
シャギア「あぁ、最後にこの戦争に勝利するのは、統合軍、G・K隊でも、ネオバディムでもない……」
オルバ「力なきオールドタイプ。そして、力ある特別な存在を、僕らが正すためにも!」
妬み、野望、嫉妬、怨念。
この兄弟に渦巻く闇もまた、今まさにこの戦場に混じり合おうとしている。
680
:
藍三郎
:2013/01/04(金) 08:24:20 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ルシア「役者が揃いつつありますね……しかし、この戦いすら前座に過ぎません。
いずれ、世界の名だたる名優達は、全て同じ舞台に上がることになるでしょう」
ムスカ「どうだかな! どんなに良い役者を揃えても、お前らのへぼ脚本じゃあ台無しってもんだ!」
ルシア「脚本などはありませんよ。筋書きのない混沌にこそ、至高の未知は生まれるのです!」
ハイドランジアキャットのミサイルを、的確に撃ち落とすルシア。
互いに演算者である以上、全ての攻撃は予測の内。
将棋の名人同士の対局のように、互いに数十、数百手先を読みながら攻防を続けている。
このままでは、永遠に決着はつかないだろう。しかし……
ムスカ「……ぐっ!」
ムスカの脳内に痛みが走る。
同じ演算者を相手にする場合、その計算の量は普段の比ではない。
敵の、未来予知に等しい精度の攻撃を瞬時に計算して対応する度、
彼の脳には深刻な負荷が掛かっていた。
ムスカ(条件は奴も同じ……パイロット同士の……持久戦ってわけかよ……!)
ドモン「ぐはぁっ!!」
ゴッドガンダムとターンX、二体のフィンガーの激突の末……
互いのエネルギーの衝突で生み出された爆発の中から、ゴッドガンダムの機体が飛び出てくる。
ロム「ドモン!!」
バイカンフーは、地面に激突しそうなゴッドガンダムを寸前でキャッチする。
しかし、ゴッドガンダムの装甲は所々溶解していた。
ドモン「奴のシャイニングフィンガー……以前より遥かに威力を増している……!」
ギンガナム「ふははははは! 力が漲るのを感じる……
どうやらこれまでのターンXは、上手く動けぬ幼虫でしかなかったようだな。
だが、雌伏の時も間もなく終わる……
後少し……後少しで、このターンXを覆う殻を破ることができるぞ!!」
ギンガナムの昂ぶりに呼応するかのように、ターンXの各部から、光る粒子が漏れ出ている。
ユーゼス「そうだ……それでいい、御大将。
蛹が蝶に羽化する時こそ、我らの計画は、真の発動を見る……!」
ハリー「させん! させんぞ、ギンガナム!!」
不安と焦燥がハリーを突き動かす。
ハリー率いるスモー部隊が、ターンXを包囲すると同時に、
各機は一斉に、腕部のIフィールドジェネレーターを稼働。
Iフィールドを竜巻状にして放つ。
ハリー「ユニバァァァァス!!」
荒れ狂うIフィールドの嵐が、ターンXを拘束する。
ギンガナム「ぬぅ! ハリー・オードか!!」
ポゥ「い、今だ、やれぇぇぇぇぇぇ!!」
元よりこれで倒せるとは思っていない。目的はあくまで足止め。
この機を逃すまいと、他の統合軍やG・K隊の機体が、一斉にターンXへと狙いを定め、引き金を引いた。
ヴィレッタ「ハイツインランチャー!!」
勝平「イオン砲、行っけぇーっ!!」
レナ「ジャスティスランチャー、シュート!!」
動けないターンXに、G・K隊の攻撃が次々と突き刺さる。
しかし、ナノ・スキンによる高速自動修復により、大破には至らない。
既に、一個のモビルスーツとしてはありえない耐久度に達していた。
681
:
藍三郎
:2013/01/04(金) 08:25:45 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ロム「ならば……おおおぉぉぉぉっ!!」
天へと舞い上がり、とどめの一撃を叩き込もうとするバイカンフー。
ロム「ゴッドハンド・スマァァッシュ!!」
間近に迫った、輝く掌を前にしてギンガナムは……
ギンガナム「蛹を破り……蝶は舞う……」
口元の微笑みが、哄笑へと変わる。
ギンガナム「月 光 蝶 で あ る !!」
ターンXの周囲に、激しい“力”の爆発が生じる。
その衝撃波は、最も近くにいたバイカンフーのみならず、周囲のスモー部隊もIフィールドごと蹴散らした。
同時に、ターンXの背中から、極彩色の奔流が噴き出す。
天空を塗り潰すかのように広がっていく、ナノマシンの翅。月光蝶の発現であった。
ロム「何! う、うおおおおっ!?」
空中でバランスを崩し、ナノマシンの奔流に飲み込まれるバイカンフー。
ターンXに向かっていた全ての攻撃は、月光蝶に触れた途端に分解・消滅させられる。
レイナ「兄さん!!」
光の粒子の中から、ケンリュウが墜ちてくる。
ロム「ぐ……まさか、バイカンフーを丸ごと分解されるとは……!」
しばらくは呼び出せないが、時が経てばバイカンフーは再び蘇る。
しかし、再びあのナノマシンの嵐に飛び込んでいけば、同じ結果になるだけだ。
コレン「光の蝶が、全てを、全てを消しちまう……う、うおああああああ!!?」
かつて黒歴史の戦いに参加し、月光蝶による文明の埋葬に居合わせていたコレン・ナンダーは、動揺を隠せなかった。
コレン「終わりだ!世界の終わりだあああああ!?」
ソシエ「ちょっと、あんた!金棒振り回して暴れないでよ!!」
メシェー「錯乱しちゃう気持ちは分かるけどね……」
ミラン「ディアナ様!?」
月光蝶の発現を目の当たりにして、ミラン達は動揺を隠せない。
ディアナは毅然とした態度で臣下達に命じる。
ディアナ「うろたえてはなりません。遺憾ながら、これも想定の内です。
ソレイユを始め、ディアナ・カウンターの全艦隊が盾となり、月光蝶の拡散を防ぐのです!」
ミラン「は、ははっ!!」
女王の命を受けた艦群は、月光蝶発現時に対応したフォーメーションを取っていく。
ディアナ(ですが、それとて、いつまで持つか……)
ディアナは、格納庫で待機している∀ガンダムへの通信を繋ぐ。
ディアナ「ロラン・セアック、この期に及んで、貴方を留めておく理由も無くなりました。
どうか、ギンガナムを……世界の終わりを、止めてください……!」
ロラン「分かりました、ディアナ様」
ソレイユ格納庫のハッチが開き、ロランの目にも、月光蝶を広げるターンXの姿が映った。
ロラン「このホワイトドールは、かつて地球文明を終わらせた。
今、ギンガナムはあのターンXで同じことをしようとしている。
どうすれば止められるのか、僕には分からないけれど……」
それでも揺るがぬ決意を乗せて、∀ガンダムは夜空へと飛翔する。
ロラン「人が、安心して眠るためにも!!」
682
:
藍三郎
:2013/01/04(金) 08:27:41 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ユーゼス「見事だ、御大将。ターンXのブラックボックスを開け、
月光蝶を発現する鍵……それは、君自身の闘争本能にあったのだな。
ネオバディムやイレギュラーを使い、世界の闘争を活性化させた甲斐があったというものだ。
ギャラクシア・キーパーズ……我々にとって理想的な“敵”になってくれた君たちにも感謝せねばなるまい。
これで、計画を発動させる全てのピースが揃った」
アウルゲルミルのコクピットの中で、ユーゼスは月光蝶の発現を目の当たりにし、仮面の下で満足気に笑った。
周囲に展開する仮想キーボードを操作し、最後のコマンドを入力する。
ユーゼス「システム・メイガス発動。起動せよ、アウルゲルミル……いや……」
アウルゲルミルの各部から白いコードが伸びて、クレイドルの壁面へと接続される。
プログラムによって内部のマシンセルが活性化し、壁面が変形を始める。
夜天にナノマシンの蝶が広がると同時に、アースクレイドルにも激震が走っていた。
周囲の大地に亀裂が走り、半球型のアースクレイドルが中心から裂け、上へ向かってせり上がっていく。
変形を繰り返し、やがて巨大な人型の上半身となる。
ユーゼス「蒼き星の大地より出でて、月光照らす空に、新たなる世界の扉をこじ開けよ! 開闢巨神ユミル!!」
ムウ「な……んだありゃあ……」
エクセレン「基地が変形して巨大ロボットになるってのは、お約束だけどね」
タツヤ「くっ、あれが味方なら素直に燃えられたのに!」
キョウスケ「下らないことを言っている場合か」
アルティア「下らないことを言っている場合ですか」
特機に似た造型の、全長1000mにも達する鋼の巨神。
その威容は、月光蝶に怯える戦場の者らを、更なる戦慄へと叩き落とした。
ミハイル「お、御曹司! あ、あれを!!」
グエンは危険を察して、配下を連れてウィルゲムでアースクレイドルを脱出していた。
ブリッジから、アースクレイドルの変貌を見やる
彼の表情は、一見平静を保っているようであったが、
実際はあまりの急展開に立ち尽くしているだけだった。
グエン「……私は、とんでもない連中と手を結んでしまったのかもしれんな……」
ぽつりと呟くグエン。
天空を覆う月光蝶、大地に鎮座する巨神……その光景は、まさに世界の終末そのものであった。
グエン「ローラ……君はこんなものを目の当たりにして、それでも戦う気でいるのか……?」
ユミルの頭部を中心として、空間の歪みが拡散していく。
ユミルから放たれる次元震動が、月光蝶のナノマシンによって増幅されているのだ。
ユーゼス「月光蝶が地球全土を覆い尽くした時、
ディメンション・ブレイクにより、次元の境界は焼滅し、新たなる世界が産声を上げるのだ」
オルバ「兄さん……」
フロスト「ふっ、良いではないかオルバよ。我々が復讐すべき相手は、元の世界にいる。
それに、ニュータイプが至上などと、下らない価値観に縛られた者達の目を覚ますには、
一度世界を壊すぐらいの事をしなければならないのだよ」
683
:
藍三郎
:2013/01/04(金) 08:28:52 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
イザーク(あ、あんなモノがあるなど、俺は何も聞いていないぞ!?)
月光蝶はもちろん、あのユミルの存在をも秘匿していたユーゼスへの不信感は高まる一方だった。
そもそもイザークやニコルは、この作戦の目的さえ知らされていない。
イザーク「ク、クルーゼ隊長!!」
クルーゼ「うろたえるなイザーク。あれは儀式なのだよ。
世界の境界を取り払い、この世界と我々の世界を繋げるための……な。
我々の目的は本来の世界への帰還だ。ユーゼス閣下は、我々全員の悲願を叶えようとしているのだ」
そんな中、イザークとニコルに通信が入った。
ディアッカ『騙されるな!イザーク!!』
アスラン『あの月光蝶こそは、一度この地球を滅ぼした終焉の光。
それだけじゃない、もしもユーゼスの目論み通り、次元の境界が消えれば、その影響はこの世界に留まらない。
俺達の世界……プラントにもどれだけの被害が出るか分からないんだぞ!』
イザーク「何……!」
クルーゼ(ふふふ……その通りだよアスラン。
だが、それこそが私の望みでもある。
世界の統合によって生まれる混沌、愚かな人類に、それを制御することなど出来るものか。
人は自らの手で自らの世界を破壊し、終末に向かって堕ちていくのだ!!)
ユーゼス「ナノマシン拡散の進行が遅いな。あの艦隊が原因か……」
ユミルの右拳が、ディアナ・カウンターの艦隊へと向けられる。
ユーゼス「新世界の誕生を阻む者には、消えて貰おう。巨拳にて塵潰せよ」
手首に亀裂が走り、唸りを上げて拳が飛ぶ。
巨大な鉄拳は、ソレイユの隣にいたアルマイヤーに激突。戦艦は瞬時に圧潰し、拳ごと後方へと飛ぶ。
ユーゼス「ソレイユを狙ったのだが……“起きたて”では調子が悪いようだな。まぁ、この巨体ならば、多少の誤差は関係あるまい」
マシンセルが切り離された拳を再生していく。その間にも、左の拳が放たれる。
今度は正確に、ソレイユに向かって飛んでいく。
ゼンガー「おおおおおおおおおぉぉぉっ!!」
ソレイユとユミルの拳との衝突コースに割って入るダイゼンガー。
最大限まで伸ばした斬艦刀が、鉄拳へと喰い込み、火花を散らして両断する。
ゼンガー「皆、怯むな!! 敵がどれだけ強大であろうと、我らに後退は許されぬ。
無辜の民を犠牲にしての新世界創造などさせるものか!!」
ディアナ「その通りです。私は、貴方達の勝利を信じています。
欠けた艦の穴を埋めつつ、全艦隊は所定の位置で固定!
月光蝶の拡散を、何としても阻止するのです!!」
ミラン「ディアナ様……!」
女王自身も、この戦いに命を懸けている。
その覚悟を悟ったミランら臣下達も、その想いに殉じることを誓うのだった。
ブンドル「まさに、月を統べる女王に相応しい気高き覚悟!
そのような貴き者を護ることこそ、騎士の本懐……」
キリー「生憎俺達は、女王様の盾になって死ぬなんて、騎士道精神は持ち合わせちゃいねぇが……」
レミー「女王とか何とか置いといて、あの人を死なせたくはないわね!」
真吾「奴が次元の境界を壊そうとしているなら、俺達はそれを止めてやる。
レジェンドゴーショーグンだ!!」
ゴーショーグンと三体のネオドクーガメカが合体し、レジェンドゴーショーグンとなる。
真吾「こう何度も世界の危機とやらを経験すれば、やるべきことは大体わかるぜ。
ゴーフラッシャースペシャル!!」
ゴーフラッシャーの光がソレイユ他、ディアナ・カウンターの艦隊に降り注ぐ。
修正力の恩恵を受けたこれらの艦隊は、月光蝶の拡散のみならず、ユミルの起こす次元震動を防ぐ効果も得た。
684
:
蒼ウサギ
:2013/01/10(木) 16:55:07 HOST:i114-189-103-129.s10.a033.ap.plala.or.jp
ユーゼス「レジェンドゴーショーグンも現れたか。……さすがに簡単にはやらせてくれんな」
だが、レジェンドゴーショーグンの出現さえも想定内だ。
もうじきユミルのナノマシンの拡散はさらに活性化するだろう。
もはや時間の問題なのだ。
ユーゼス「いくら、貴様達が修正力を有していようと、このユミルの前では無意味。
次元の壁は崩れることに変わりはない」
ゼンガー「ならば、その根源たるその機体を破壊すればいいだけのこと!」
ユーゼス「できるのか? ゼンガー・ゾンボルト」
ゼンガー「笑止! できるではなく、やるのだ! 我らは、悪を断つ剣なり!」
「その通りよ〜ん♪」という、間の抜けたエクセレンの声と同時に轟音が鳴り響いた。
ヴァイスリッターの射撃がユミルに当たったのだろう。
その攻撃に怯みはしないが、そこにアルトアイゼン・リーゼが突撃してきた。
キョウスケ「でかいだけでは、的に過ぎない!」
バンカーを数発叩き込んだ後、少し下がってからのクレイモアを浴びせた。
ユーゼス「鬱陶しいハエ共が」
さしてダメージを受けた素振りはないが、些か相手をするのも面倒な事は確かだ。
ユーゼス「ならば、お前達にはこいつらが相手してやろう」
ユミルの各部ハッチが開くと、そこから量産型のベルゲルミルが次々に発進してきた。
アルティア「……さすがに分の賭けが悪すぎましたかね」
§
キラ「あなた達はそれでいいのですか!?」
オープン回線でキラ・ヤマトは、クルーゼ達に問いかけた。
その声に聞き覚えのあるイザークは、戸惑いと憎しみを同時が湧きあがり、声がでなかった。
イザーク(お、お前は……ぐっ!)
キラ「このままじゃ、本当に世界が――――っ!」
プツン、と不自然な形で回線が切れた。
キラが搭乗しているフリーダムが攻撃を受けたのだ。
クロト「ヒャハハハハ、撲殺!」
レイダーのミョルニルがフリーダムに直撃した。
コンビネーションが成り立っていたならいざ知らず、交信中での不意の攻撃だったので回避できなかった。
キラ「くっ!」
アスラン「キラ! ちぃ!」
すでに他の二機、フォビドゥンとカラミティも仕掛けようとこちらに向かってきている。
アスラン「お前達には、アレを見てもわからないのか!?」
オルガ「ハッ、関係あるかよ!」
カラミティの一斉掃射が放たれ、ジャスティスとフリーダムは二手に分かれて回避する。
だが、その先にはフォビドゥンがいた。
シャニ「ハァン」
お馴染みのようにゲシュマイディッヒ・パンツァーがカラミティのビームを受け流してジャスティスに向かう。
アスラン「!?」
背部への直撃コース。
だが、それを事前に読んでいた人物がいた。
イザーク「おぉぉぉおおおお!!」
一気に加速したイザークのデュエル・アサルトシュラウドがジャスティスを守った。
とっさの出来事で、イザーク自身もわからない。
だが、一つ言えることは。
イザーク「クルーゼ隊長、自分はあくまでこの赤服に忠誠を誓ったザフトの軍人です!
もし、この影響がプラントに及ぼすものなら自分は……いや、オレは、今ここでネオバディムを離脱する!」
アスラン「イザーク……」
そして、イザークと考えを同じくする者もまた一人。
ニコル「大丈夫でしたか?」
キラ「君は……」
ニコルのブリッツは、フリーダムの傍らにいた。
ミラージュコロイドで完全に視界から見えなくなるこの機体は密かにフリーダムのカバーに入っていたのだ。
ニコル「お互い、自己紹介は後にしましょう。今はこの場を止めることです」
685
:
蒼ウサギ
:2013/01/10(木) 16:55:45 HOST:i114-189-103-129.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
シャギア「来たか、ガロード・ラン。我らの宿敵!」
ガロード「おぉぉぉ!」
ガンダムダブルエックスとガンダムヴァサーゴ・チェストブレイクがビームサーベルで同時に斬り結びあう。
ガロード「なんで今更戦う必要がある!」
シャギア「愚問だな、ガロード・ラン。対立すれば戦うのが必然だろう」
オルバ「そうだ!」
MA形態のアシュタロン・ハーミットクラブが背後から接近してくる。
ギガンティックシザースを大きく広げ、DXを羽交い締めにしようとする算段だろうが、ウィッツ達がそれを許さなかった。
ウィッツ「させねぇぜ、ゲテモノガンダム!」
エアマスターバースト、レオパルドデストロイ。そしてXディバイダーがDXを援護し、フロスト兄弟のガンダムに対して弾幕を張った。
その隙にDXは、一度距離をとった。
ガロード「みんな、助かったぜぇ」
ロアビィ「ま、お前はどうでもいいけど、ティファが乗ってるからねぇ」
ガロード「なっ!?」
ウィッツ「そうそう、ったく、後先考えず突っ込むのは治ってねぇな」
ガロード「ウィッツまでぇ!」
そんなやり取りで先程の緊迫感が良い具合に解れたところで、ジャミルが“何か”に気づく。
ジャミル「ん? なんだ、あれは……」
弾幕が収まったそこにはフロスト兄弟のガンダムが一つに合体していた。
とはいっても、MA形態のアシュタロン・ハーミットクラブに、ヴァサーゴ・チェストブレイクが乗っている状態だけなのだが普段とは
様子が何かが違っていた。
オルバ「さぁ、奴らに見せてやろう、兄さん」
シャギア「あぁ。月の力が、GXの専売特許ではないことをな」
瞬間、ティファに感じたD.O.M.Eの気配。
ティファ「! 来ます!」
ガロード「何が!? って、あ!」
一同は驚愕せざるを得なかった。
月から伸びる一筋の光。あれは紛れもなくマイクロウェーブ。それがヴァサーゴ・チェストブレイクに照射されているのだから。
ロアビィ「まさかサテライトキャノン!?」
ガロード「だったら、こっちも!」
ジャミル「いや、間に合わん! この戦域にいる者は総員、退避しろ!」
次の瞬間、その月の力がアシュタロン・ハーミットクラブから放たれた。
オルバ「サテライトランチャー、発射!」
夜空に閃光が奔るようにそれは放たれた。
その威力は、DXのツインサテライトキャノンのものと勝るとも劣らないものだ。
686
:
藍三郎
:2013/01/14(月) 21:14:51 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ギンガナム艦隊の戦艦・ジャンダルムのブリッジにて、
ミーム・ミドガルドは、外の光景に戦慄していた。
ミドガルド「た、ターンXが月光蝶を……! 世界の終わりだ……!
私は、とんでもないことに加担してしまったのではないか……」
兵士「た、大尉!」
ミドガルド「何だ……うおぉぉぉぉ!?」
フロスト兄弟が放ったサテライトランチャーの光は、統合軍の機体のみならず、
ネオバディム側の機体も巻き込み、最後にジャンダルムを貫き、轟沈させた。
サラ「フロスト兄弟が、サテライトキャノンを……!」
ジャミル「彼らが月のD.O.M.E.を襲撃したのはこのためか……」
ガロード「てめぇ……味方まで巻き添えにしやがって!」
オルバ「あいつらは最初から利用していただけさ。それは向こうも同じだろうがね」
シャギア「だがユーゼスの求める世界は、我々にとって都合がいい。
複数の世界が統合されれば、間違いなく空前の規模の戦争が起こる」
オルバ「それは、僕らが求めた戦争でもあるんだよ」
ガロード「何でだ……何でお前らは、そこまで戦おうとする!
この世界で、俺達が戦う理由なんて無いはずだろ!」
無知なる者を嘲笑う笑みを浮かべ、フロスト兄弟は己の生い立ちを語る。
オルバ「僕たちには普通の人間には無い特別な力があった……
どんなに離れた場所にいても、兄弟で思考を通じ合わせる力……」
シャギア「だが、フラッシュシステムに対応できなかった我々を、
我々の世界の人間はニュータイプに劣る存在、カテゴリーFと呼んで冷遇した!」
オルバ「たったそれだけの理由で僕らは世界から黙殺されたんだよ!」
フロスト兄弟の声を聴いたティファは、思わず肩を震わせる。
ティファ「あの人達の心に、激しい憎悪を感じます……
世界を滅ぼしても余りあるほどの……」
シャギア「理解出来ぬと言いたいか? 貴様達には分かるまい。
人を越えた力を持ちながら、評価を受けぬ者の苦しみを!」
オルバ「だから決めたのさ。
ニュータイプを賛美し、僕らを貶めた者達の縋る世界を破壊してやろうってね!
そうして初めて、僕たちの屈辱と絶望は癒される」
シャギア「この世界に送り込まれたことで予定は大きく狂ったがな。
結果的には、ユーゼスはより面白い道を示してくれた。
奴が誕生させる混沌の世界……そこで我々が覇者となり、
あらゆる世界の人間達に、我らこそが真に優れた存在であると思い知らせるのだ!」
周囲に月光蝶を拡散させるターンXには、誰も近づけずにいた。
しかし、ナノ・スキンで守られたロランの∀ガンダムだけは月光蝶の影響を受けることなく、ターンXに向かって上昇を続けていた。
ハリー「ポゥ少尉、無事か!」
ポゥ「お前などに気遣われるほど落ちぶれてはいない!」
ハリー「その元気があれば心配はいらんか。
ならば、まだ戦えるな? ∀を、ロラン・セアックを援護するぞ」
ポゥ「言われずとも!!」
再度上昇したスモー部隊は、∀へと群がるバンデッドやマヒロー部隊との交戦に入る。
ギンガナム「来たか兄弟!! やはり貴様がおらねば始まらぬ!!」
ロラン「ギム・ギンガナム!!」
まずは牽制とばかりに両機はビームライフルを撃ち合う。
だが、そこに別方向からの攻撃が来る。
スエッソン「ヒゲの白い奴! 俺と戦えぇ!!」
マヒローのハンドガンとメガ粒子砲を、∀ガンダムはシールドで防御して何とか凌ぐ。
687
:
藍三郎
:2013/01/14(月) 21:16:23 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
スエッソン「新世界がどうのとさっぱりわからんが、とにかく手柄を立てれば全て万々歳だろうよ!!」
ロラン(いけない……ギンガナムだけじゃなく、この人まで相手にしていたら……!)
その時、マヒローの腕部のシールドが爆散する。
マヒローに攻撃を加えたのは∀ガンダムではなかった。
ギンガナム「身の程を知れ、スエッソン・ステロ!
我らの戦いに手出しすること罷りならん!!」
ターンXは左腕を分離させ、マヒローの正面に回らせ、ビームを撃つ。
スエッソン「それが御大将のやることかぁっ!!」
スエッソンの叫びは、マヒローの爆散にかき消された。
ロラン「ギンガナム! 貴方って人は……!」
ギンガナム「余興はここまでだ。さぁ、お前も月光蝶を解き放つがいい!!
その時こそ、真なる黒歴史の再演となろう!!」
ロラン「く……」
今のターンXに対抗するには、こちらも月光蝶を使うしかない。
しかし月光蝶を使えば、それは地球の滅びを加速させることになる……
ユーゼス「もう一つのターンタイプも月光蝶を使うなら、それも私の望むところだ。
ナノマシンの濃度が上がれば、一気に次元震動を起こすことができる。
いかにこの周囲を封鎖しようとも、止めることは出来ん」
∀とターンXを戦わせ、双方が月光蝶を発現することが、本来の計画だった。
ユーゼス「かつて二体のターンタイプの激突は、黒歴史を終焉させた。
だが、今回はその逆だ。天空を覆う蝶の光は、新たなる黒歴史の幕を開くのだ!!」
ディアナ「そんなことをして何になります。人類の過ちを再び繰り返すつもりですか!」
ユーゼス「見解の相違だな、月の女王。私は、かつての黒歴史も過ちとは思っていない。
月光蝶は一度地球文明を埋葬したが、見たまえ。
地球の文明は見事に復興し、存亡の危機を何度も乗り越えたではないか。
その度に、人は新たなる文明を生み出す。
私の考えでは、そもそも人に過ちなどはないのだよ。
流血も戦乱も、全ては次代への進化を促す糧に過ぎない」
ディアナ「人の痛みを思いやれない者に、世界を思い通りにする資格はありません。
私は地球に降りたことで、より深くそれを知ることが出来ました。
戦争の虚しさを、互いに傷つけ合うことの愚かしさを、大切な人を喪う悲しみを……
その責は私にもあります。私はその咎を抱えて、今ここにいます。
故に、戦乱を繰り返そうとする貴方を、断じて見過ごすことが出来ません!」
ユーゼス「理想論だな。人の感情とは無関係に、戦乱は起こり、歴史は廻り続ける……それが世界の真理だ」
ディアナ「それだけではありません。私が危惧しているのは、他にもあります」
ユーゼス「ほう?」
ディアナ「私は、今ではこうも考えています。
二体のターンタイプが黒歴史を終わらせたからこそ、
人はその戦乱の渦を宇宙まで広げることなく、絶滅と言う最悪の事態を免れることが出来た……
貴方が言ったように、黒歴史の後も、この地球は文明を復興させました。
今と言う時代は、決して最悪ではない。ですが、次もそうなるとは限らない。
過去の過ちを顧みず、いたずらに戦火を広げれば、
新たな黒歴史とやらは、今度こそ人類の決定的な終末をもたらすでしょう」
ユーゼス「そうはなるまい。私は、人の可能性を信じている」
ディアナ「ならば私は、人の平和を愛し、争いを終わらせる可能性を信じましょう。
そして、何より今は……」
いつソレイユに対して、致命的な攻撃を放ってくるやも知れぬ
ユミルを前にしても、ディアナは臆することなく告げた。
ディアナ「私と志を同じくし、今この戦場で、命を懸けている全ての者達を信じます」
688
:
藍三郎
:2013/01/14(月) 21:18:14 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ライ「奴のパワーに対抗するには、SRXしかない!」
リュウセイ「行くぜ! ヴァリアブル・フォーメーションだ!!」
三体のRシリーズが合体し、SRXとなる。
SRXは、念動フィールドでユミルの攻撃を弾きながら接近する。
ユーゼス「このアースクレイドルは、世界が終焉を迎えた時、黒歴史のデータを次の世界に伝える為のもの……
しかし世界規模の危機が訪れた際、ただ座しているだけでは危険な場合もあろう。
このユミルこそはアースクレイドルの最終戦闘形態。
ありとあらゆる危難から、人類の叡智を守護する最後の砦なのだ」
リュウセイ「だったら何でそいつを人の命を守るために使わねぇ!」
ユーゼス「人の命など消耗品に過ぎん。
私が価値を見出すのは、人の営みが産み落とした叡智だけだ」
ライ「なるほどな、お前の考えの根源が分かった」
アヤ「貴方にとって人類は、自分の欲する文明を創り出すためのただの労働力なのでしょう」
リュウセイ「そんな奴が創ろうとしている世界なんざ、ろくなもんじゃねぇ。
俺達が絶対に止めてやるぜ!!」
重量級の特機でなければ、ユミルにダメージを与えられない。
レイズナーMkⅡは、ユミルを守護する量産型ベルゲルミルを撃ち落としていく。
ユーゼス「アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ、地球がむざむざグラドスに占領されたのは、
人々が争いを忘れ、文明の進歩を止めたからだ。
黒歴史の時代が続いていれば、そうはならなかったものを……」
エイジ「確かに、戦争によって生み出された技術が、平和を守ることもあるだろう……
だからといって、永遠に争いが続く世界など、あっていいはずがない!」
ユーゼス「甘いな、グラドスが再び侵攻を開始すれば、
今度こそ地球は完全に占領されるぞ?」
エイジ「そうはさせない、俺が、地球とグラドスの争いを止めてみせる!
それが俺を産んだ、父さんや母さんの願いでもあるはずだ!」
シャル「あの図体だ……当てるのに苦労はないが……」
規格外の巨体に加え、堅牢な装甲。次元震の原理を応用したと思しき歪曲フィールドが全身を覆っている。
弾幕や量産型ベルゲルミルの陣形を抜けても、ユミルにまともな損傷を与えることが出来ずにいるのが現状だった。
ユーゼス「このユミルを前に闘志を失わぬお前達の姿勢は賞賛する。
故に、私はお前達を過小評価しない。このユミルの<剣>にて葬ってくれよう」
ユミルの額から赤い光線が放たれ、正面の大地に一条の亀裂を刻む。
ユミルの腕がクレバスへと伸び、中から自身とほぼ同等の大きさの大剣を掴み取る。
タツヤ「で、デカすぎんだろありゃあ……」
戦艦をも一撃で断ち割る大剣を振るうユミル。
剣の軌跡上の大地が抉られ、津波のように砂塵が舞い上がる。
ミリアルド「……星倉艦長、先程ドクターJから送られたデータを、私とヒイロのガンダムに」
由佳「はい、しかし、あのデータにはアースクレイドルの情報はありましたが、
あの形態は勿論、とても詳細なデータとは……」
ユミルの存在は、五人の博士には知らされていないことなのだろう。
ミリアルド「構わない。やってみなければわからんが……
我々のゼロシステムを使って、ユミルの中核部の位置を特定する」
由佳「そんなことが……いえ、今はあらゆる手を尽くす時ですね」
由佳は、既にゼロとエピオンの2機に対して、送信を開始している。
ミリアルド「不完全なデータであっても、ゼロシステムの予測と組み合わせれば……
それが博士達の狙いだったのかもしれんな。
ヒイロ・ユイ、お前はツインバスターライフルのエネルギーを溜めつつ、ゼロシステムで演算を行ってくれ」
ヒイロ「分かった」
互いに交わす言葉を少なくとも、やるべきことは理解している。
あの文字通り大地を断つ剣を凌ぐには、こちらも相応の刃が必要だ。
エピオンはビームソードの出力を上げ、ユミルへと斬り込んでいく。
689
:
蒼ウサギ
:2013/02/10(日) 02:49:25 HOST:i121-118-102-8.s10.a033.ap.plala.or.jp
ゼンガー「ただ振り回すだけのがらくた同然の剣になどに、我らの魂の一振りは砕けん!」
斬艦刀を巨大化させたダイゼンガーが、エピオンに続く。
そして、その後ろから―――
アヤ「T−LINK、フルコンタクト!」
ライ「Z・O・ソード! 射出!」
リュウセイ「おぉぉぉぉ! 天上天下爆砕けぇぇぇぇん!!」
SRXもまた、ユミルの大剣へと刃を立てた。
自身の全長を遥かに凌駕するユミルの剣だが、その3機の剣は見事に受け止めきった。
ユーゼスは、構わずハッチを開いて量産型ベルゲルミルを発進させて遊撃させようとする。
だが、エピオン達はそこを動こうとはしない。
何故なら、エピオン―――ゼクスはその先の“未来”がすでに見えていたのだから。
先程発進された量産型ベルゲルミルがすぐに撃墜される未来を。
トロワ「やはり、膠着状態になるとこういう動きで出てきたか」
デュオ「こいつらなら相手なら、オレ達に任せな!」
カトル「だから、少しでもヒイロに時間を!」
量産型ベルゲルミルを撃墜したのは、ヘビーアームズの弾幕で足止めされその隙をついたデスサイズヘルとサンドロック改だった。
ユミルには攻撃は通じなくとも、量産型ベルゲルミルなら彼らの機体でも撃墜できる。
ユーゼス「お前達、戦士は戦う事しかできない存在だ。何故、止めようとする?」
五飛「決まっている! 貴様達がやっていることが悪だからだ!」
また一機、量産型ベルゲルミルを撃破したアルトロンに搭乗している五飛が啖呵を切る。
五飛「確かにオレ達は戦う事しかできない存在だ! だが、それは目の前の悪を倒すことのために振るうための力だ!」
ユーゼス「お前達が正義だとでもいうのか?」
五飛「そうだ! オレは、オレの信じたものこそが正義だ!」
ユーゼス「ならば、私は、私の信じる正義のために戦いを続けるしかあるまい!」
§
クルーゼ「イザーク、ニコル。この私を裏切るつもりかな?」
イザーク「オレ達はあくまで元の世界。プラントのためにここまで戦い続けてきたんです!
あなたがその考えと違うというのなら……オレはあなたを倒すだけです!」
クルーゼ「私を倒す?……フッ、それは無理だな」
クルーゼの新型機。プロヴィデンスの背部から突起が一つ分離し、それがまるで意志をもったかのように動いてビームが放たれた。
見たこともない兵器に不意を突かれ、イザークのデュエル・アサルトシュラウドが膝をついた。
イザーク「っ! あれは……ガンバレルの一種なのか?」
ガンバレル―――通称、ガンバレル・システムは地球連合軍が開発したシステムであり、多数の飛行砲台を同時に制御し、
オールレンジ攻撃を行うことを可能にした代物だ。
これは、G兵器開発以前、ザフトのMSとも対等に渡り合った数少ない兵器だったのだが、空間認識能力の高いパイロットが希有だったため
G兵器開発に移行したという話だ。
しかし、これは、メビウス・ゼロのような有線式であるように、先のはそれがなかった。
完全に無線で飛行砲台を動かしていたのだ。
ニコル「もしや、ガンバレル・システムの発展系ですということですか!?」
クルーゼ「その通りだよ、ニコル。……ドラグーンシステム。ガンバレル・システムのような有線ではなく、完全無線式でね。
これの完成のおかげでプロヴィデンスの実戦投入が遅れてしまったよ」
もう一度見せてやろうと言わんばかりにプロヴィデンスは、次々にドラグーン・システムを展開し始める。
ディアッカ「ちっ、こんなもの撃ち落せれば!」
クロト「はっ! どこ見てんだよ! 瞬殺!!」
ドラグーンに狙いを定めていたその時、レイダーが背後からツォーンを撃った。
690
:
蒼ウサギ
:2013/02/10(日) 02:50:05 HOST:i121-118-102-8.s10.a033.ap.plala.or.jp
ニコル「ディアッカ!」
応援に向かおうとしたその矢先、ドラグーンのビームがブリッツを襲う。
キラ「くそっ! これじゃ、アスラン!」
アスラン「あぁ!」
形勢を逆転しようとビームライフルを連射するも、ドラグーンには命中せずその隙をカラミティに攻撃され、フリーダムはダメージを負い、
ジャスティスは背部のファトゥム-00を着脱して、乗っかりそれで直接プロヴィデンスにビームサーベルによる接近戦に持ち込むも、
クルーゼ「確かナイフ戦は、キミは赤服のナンバー1だったな」
プロヴィデンスもすぐに大型ビームサーベルを備えた複合兵装防盾システムで応戦した。
クルーゼ「だが、私は赤服ではないよ!」
アスラン「なっ!?」
見事に捌かれ、ジャスティスはドラグーンの餌食となった。
§
その男は、眺めていた。
遥か空から戦場の様子を。
まるで己が決勝戦の相手を見定めているかのように……。
だが―――。
ヴィナス(さて、少々退屈ですねぇ。ですが、この局面。最後まで私は見送る義務があるでしょう)
そう、最後の相手として。
ヴィナスにこの世界に未練はないが、このウラノスの力を最大限に活かしてくれる“当て馬”には興味はある。
全てはこのための戦いなのだ。
アルテミスもマルスも、ネオパディムもそして、G・K隊の召喚でさえ、全てこのための利用価値。
自分がウラノスに適合し、さらにその力を存分に発揮するための“当て馬”が欲しかっただけなのだ。
ヴィナスの野望は極々個人的なものだが憎悪に満ち満ち溢れている。
だからこそ誰よりも思慮深く、何でも利用する。
ヴィナス(さぁ、ここまで五分。いや、若干。統合軍側が不利か? しかし、ここから逆転するパターンが彼らの不思議なところだから
侮れない。……くくく、侮れませんね)
と、そんな笑いが零れそうな時だった。
高エネルギー体がウラノスに向かって急接近するのが見えた。
ヴィナス「っ!」
一瞬、冷や汗をかくも攻撃されたわけではない。いうなれば流れ弾の類みたいらしい。
だが、次の瞬間、ヴィナスは思わず絶句する。
ウラノスのレーダーが捉えたもの、それは星倉悠騎のエクシオン改だった。
どうやら先程の高エネルギー体は、剣を巨大化させ、量産型ベルゲルミルを斬り裂いた模様だ。
だが、不意にその頭部がこちらを見上げている。
そう、彼は気づいているのだ。
ヴィナス―――ウラノスの存在に。
ヴィナス「……やはり、侮れませんね」
691
:
藍三郎
:2013/02/13(水) 17:24:07 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ(ち……さすがにキツくなってきたな……)
連続して演算者の能力を使い、脳に負荷をかけたことで、ムスカも動きに精彩を欠きつつあった。
ハイドランジアキャットにも目に見えて被弾箇所が増えている。
一方で、ベルゲルミル・アスラは未だにダメージを受けていない。
両者の能力の差が、くっきりと表れていた。
ルシア「どうやら、ユーゼス様手ずから脳改造を施された私の能力の方が上を行くようですね。
この結果も、予測の内に過ぎませんが……過程は十分楽しませていただきましたよ」
ムスカ「そうみてぇだな……」
その時……
ベルゲルミル・アスラはその身を素早く右へとスライドさせる。
その空隙を、刹牙の爪が通り抜けて行った。
ルシア「お仲間の助けを借りたところで、この私には……」
ルシアの脳内では、ムスカのみならず周囲の敵機の動きも正確にシミュレートされている。
それでも、即座に刹牙が切り返してくる可能性を考慮し、警戒を解かない。
しかし刹牙は突進の勢いを殺さぬまま、ハイドランジアキャットへと向かう。
そのまま刹牙の爪が、ハイドランジアキャットの装甲にめり込む。
ルシア「同士討ち!? いや……」
白豹「白家殺体功秘奥伝――身醒経!!」
ムスカ「――ッ!!」
刹牙の爪を通して、白豹の氣がムスカへと送られる。
溢れる陽の属性の氣は、ムスカの全身を活性化させた。
その中には、演算者の力の要たる脳も含まれている。
ムスカ「……こいつは効くな……」
体の芯から力が溢れる感覚。それに飲み込まれないよう、己を強く律する。
あの男との戦いは、1ミリの狂いも許さぬ繊細さが必要なのだ。
ムスカ「……確かにお前さんの能力は、俺よりも上だろうよ。
だが、全く消耗していないと言うことは無いはずだ」
白豹の身醒経によって、ムスカは脳の疲労は一時的にだが全快している。
敵の能力が上であることなど、最初から承知の上だ。
これまでの戦いは、ルシアを消耗させるためにあったのだ。
ムスカ「この状態も、長く続きはしねぇ……
どちらが先に力尽きるか、斃れるか……お前さんの計算結果はどうだい?」
ルシア「…………」
この間にも互いの脳は演算を行い、結果を算出している。
ルシアの唇の両端が、三日月形に吊り上がった。
ルシア「答えは出ましたよ。だが、それを口に出しはしません。
最期の一瞬まで……愉しませて頂きましょう!!」
692
:
藍三郎
:2013/02/13(水) 17:24:47 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ヒイロ「演算終了――コアの存在するポイントを転送する」
五人の博士から渡されたデータとゼロシステムから、
中核部の位置を割り出したヒイロは、それと同時にツインバスターライフルを組み合わせ、チャージしていたエネルギーを発射する。
進路上のベルゲルミルを貫いた高出力のビームは、ユミル胸部の右斜め上に直撃する。
最大出力で放たれたバスターライフルは、ユミルの装甲板を破砕する。
カトル「ヒイロが砲撃を……!」
デュオ「つうことは、あそこが奴の核に近いポイントか!!」
ヴィレッタ「全軍、奴の右胸上方に、攻撃を集中せよ!!」
迷っている時間は無い。
ウイングゼロから転送されたデータを受け取った者達は、指定のポイントに集中砲火を加える。
ユーゼス「攻撃がアウルゲルミルの位置に集中している。
どうやら気付かれたようだな……だが、こちらにも手はある」
ユミルを取り囲む防御フィールドが収束し、右胸の辺りに集まる。
通常の数倍の強度となったフィールドに、G・K隊の攻撃は尽く弾かれる。
その間に、マシンセルによって装甲の修復が進められている。
ユーゼス「諸君らのマクロス級戦艦にも搭載されている、ピンポイントバリアシステムの応用だ。
防御を一点で強化すれば、位置が特定されてしまうから使わなかったが……
もはや出し惜しみする必要もあるまい」
量産型ベルゲルミルも陣形を組んで右胸への防護を固める。
ユミルの頭上では、次元歪曲が更に激しくなっている。
ユーゼス「例えユミルの攻撃に耐えきったとしても、時間が過ぎれば我々の勝利だ。
共に新世界の夜明けを迎えようではないか」
パルシェ「生半な攻撃は弾かれるか、修復されてしまう」
キョウスケ「時間も無い、何もかも、奴ごと貫く一撃で無ければ……!」
しかし、急所への防護を固めたベルゲルミルの攻勢に、近づくことも難しいのが現状だった。
コレン「嬢ちゃんたちはこいつを前のノズルの左右の差し込みにいれてくれぇ」
恐慌状態から回復したコレンは、ソシエとメシェーに、
2体のカプルのコードを自身のカプルに接続する作業を行わせていた。
ソシエ「これでいいの?」
コレン「上出来だ。じゃ、嬢ちゃんたちはお家に帰って飯の用意でもしといてくれ」
コレンがエンジンを入れると、カプルが激しく揺れ、ソシエとメシェーは転げ落ちる。
ソシエ「コレン軍曹!何を!」
メシェー「一人で行くつもり!?考えられないよそんなの!」
コレン「女たちは、戦士たるものの生き様を、後世に伝えるがいい!!」
コレンの乗るカプルは、二人のカプルをブースター代わりにして、極光色の空へと舞いあがった。
ソシエ「コレン軍曹……」
メシェー「! ソシエ! ウィルゲムが!」
メシェーの指した方角には、激しい戦闘の余波で被弾したウィルゲムが
煙を吹きながらゆっくりと墜落していくのが見えた。
693
:
藍三郎
:2013/02/13(水) 17:28:00 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
ウィルゲムのブリッジでは、グエンの配下たちが大わらわで何とか不時着させようとしている。
グエン「何とか、工場までは辿り着くんだ」
ミハエル「こんな状態で、機械人形の工場まで行っても……」
グエン「ほとぼりがさめるのを待ちます!」
グエン(あるいは、ユーゼスの言う新世界が来るのを……か)
ミハエル「しかし、あの機械巨人やギンガナムが暴れ続けている限り……」
グエン「そうなるとは限らないから、準備をするのです。
上手くいけば、この戦いで両軍は共倒れになる。
さすれば、より多くの機械人形を保有している者が、戦後の主導権を握ることになる」
ミハエル「今から戦後のことなんかを考えているんですか!?」
グエン「それが、政治家と言う物です」
今は自分達が生き残るので精一杯のはずだ。
今のグエンには彼の忠実な配下であったミハエルも失望を隠せなかった。
ロラン「∀は、ホワイトドールと呼ばれ、人々に崇められてきた……
∀が人の産み出したものなら、使い方次第で人々のためにもなるはずだ!」
ギンガナム「∀が眠っている間に善人になったとでも言うのか!?」
ロラン「今の地球を破壊する必要なんてどこにもないんですよ!
ギンガナム「ならば、何故ディアナは地球帰還作戦を始めたのだ!
何故地球人はそれを拒んだのだ!
我々の歴史は間違っていたのだ、人類は戦いを忘れられんから、∀を目覚めさせたんだよ!!」
その時、∀とターンXの頭上から、無数のミサイルが降り注いだ。
メリーベル「あははははっ! まだるっこしいんだよ! 二人とも!!」
メリーベルの操るバンデットだった。
バンデットの装甲にもナノマシンが使用されており、月光蝶にもある程度の耐性を持っていた。
ギンガナム「邪魔をするなメリーベル!!
メリーベル「戦い方が下手なギンガナムなんか、見ちゃいられない!」
ギンガナム「おのれ!運河人以下の貴様を、今日まで飼ってやった恩を忘れたのかぁ!!」
バンデットの背部のスクイーズ兵器から、ワイヤーで接続された爪が乱れ飛ぶ。
∀はギリギリでそれを躱し、ビームライフルを発射。バンデットのバックパックを爆砕する。
メリーベル「きゃっ!?」
ギンガナム「ふん! やはり貴様では力不足よ」
∀のビームサーベルとターンXのシャイニングフィンガーが衝突する。
2体のモビルスーツから輝きが溢れ、同時に周囲の機体のモニターに、∀とXのマークが乱れ飛ぶ。
ロラン「! 月光蝶を呼ぶんじゃない!!」
ギンガナム「ふっ! 見たことか! ∀もまた、この世界の終わりを、黒歴史の再来を望んでいるのだ!!」
しかしロランの叫びも空しく、∀からも月光蝶の翅が発現しようとしていた。
メリーベル「あははっ! なんだかよく分からないが、今の内にぃっ!!」
その時、2体のカプルに押し上げられ、コレン・ナンダーのカプルが戦場に加わる。
ナノマシンで徐々に機体装甲が分解されていくが、それを意に介さない気迫と共に飛翔する。
コレンはカプルを足場にして更に跳躍、バンデットに体当たりを喰らわし、体勢を崩す。
コレン「この窓枠がぁ!!」
カプルのミンチ・ドリルが、バンデットの頭部を叩き潰す。
メリーベル「きゃああああああ!?」
コクピットは股間にあるが、制御系を失ったバンデットは墜落していく。
694
:
藍三郎
:2013/02/13(水) 17:30:23 HOST:92.193.183.58.megaegg.ne.jp
カプルは、バンデットを叩いた衝撃で、組みつく∀とターンXへ向かって跳ぶ。
コレン「その金縛り状態を解かないと、また黒歴史が来るぞぉ!!」
カプルの体当たりは、2体のターンタイプを引き離し、共鳴を一時的に停止させた。
コレン「そのまたぐらに、ロケットパァァァァァンチ!!」
逆さまになったターンXに、ロケットパンチを叩き込む。
ギンガナム「ぬおおおおお!! 小癪な!!」
しかし、鉈のように振るわれたターンXの月光蝶によって、
カプルの脚部と左腕部は丸ごと削ぎ落とされる。
そのダメージは、既に機体の限界を超えていた。
彼の脳裏に浮かぶのは、黒歴史の時代、幾度となく戦った「ガンダム」の姿。
だが、憎しみの象徴であったそれは、今のコレンには違って見える。
コレン「∀なら、時代を拓けるぞぉぉぉぉぉぉ!!」
コレンの雄叫びは、炎と光の中に消えて行く。
ロラン「! コレン軍曹!!」
ギンガナム「戦いというのは、こういうものだ!」
ロラン「知った風な口を利く方だ!」
ギンガナム「我らの闘争本能のままにエネルギーを使い切れば、地球は滅びないかもなぁ!!」
哄笑するギンガナムを見上げるロランには、覚悟と決意の火が灯っていた。
ロラン(僕は……僕はもう恐れない! ターンXを破壊しなければ、どの道地球は滅ぶ……
それが出来るのは∀だけ……もしもその結果、∀が暴走してしまったとしても……
その時は、みんなが止めてくれる!)
最悪の場合は、この∀を自分ごと破壊することも作戦の内に入っている。
あの頼れる仲間たちならば、それを成し遂げてくれるはずだ。
今はただ、必死に足掻いて、それ以外の可能性を手繰り寄せる……それしかなかった。
リリ「とうとうミハエル大佐にも見限られておしまいになりましたわね」
グエン「……リリ嬢は、私がどん底になると現れますね」
結局、ウィルゲムは戦場から遠く離れた位置に不時着した後、
ミハエル大佐を始めとするクルー全員の意志で統合軍に降伏した。
現在は、戦場の後方で負傷兵や避難民の収容を行っている、ルジャーナ・ミリシャ預かりとなっている。
その中には、リリ・ボルジャーノの姿もあった。
リリ「もう日は昇りませんわね」
グエン「それは分かりません。人生の最後に成功すればいい事なのですから」
リリ「その成功も、アメリアがあってのことでしょう?」
グエン「今私が願っているのは、愛するローラの勝利だけです」
グエンの瞳の先には、月光蝶で覆われた空が見える。
あそこにいるはずのホワイトドールの姿は、この位置からでは見えない。
もし見える距離まで近づけば、こちらの命は無いだろう。
リリ「ローラは男の子です。そんなに愛しているなら、ご自身のお力で」
グエン「スカートを穿いて、産業革命を起こせるようになるには、まだ時間が」
そんな中、戦場から流れ星のように落ちてくる、一機のモビルスーツの姿が見えた。
爆発することは無く、軟着陸したバンデッドからメリーベルが放り出される。
グエン「メリーベル!」
メリーベルの下へと駆け寄るグエン。
メリーベル「ちくしょう……おい、何か使える機体は無いのか!?」
グエンは、意外に元気なメリーベルにやや安堵しつつ、ゆるやかに首を横に振った。
グエン「生憎、今の私は全てを失った身だ。
せっかく拾った命を、粗末にすることもあるまい」
695
:
蒼ウサギ
:2013/03/07(木) 23:07:25 HOST:i114-188-249-155.s10.a033.ap.plala.or.jp
ミレーヌ「でも、もし世界が終わっちゃったらどうするの?」
バサラ「……そんなこと一々考えてたら、歌えねぇよ」
そう言ってる間に曲が出来上がったようだ。
一通り鳴らした後、バサラの顔には満足げな表情が張りついていた。
レイ「いくのか? ステージに?」
すでに後部座席にビヒーダが乗っている状況を見つつも、レイ・ラブロックは改めて問いた。
バサラ「あぁ、聞かせてやるぜ。アイツらにオレ達の歌をな!」
§
ジャミル達がユミルでの交戦具合をサラから聞いたのは、一斉砲火が行われ惜しくも防がれた直後だった。
ジャミル「なら、このGXをサテライトキャノンに換装しよう。その分、火力が増すだろう」
ウィッツ「ジャミルの護衛はオレ達が引き受けるぜ!」
ロアビィ「けど、ガロード達は……」
そんな不安な声を払拭させるかのようなガロードの声が間髪入れずに飛んできた。
ガロード「オレ達なら大丈夫だ! ジャミル達は一刻でも早くヒイロ達に加勢してやってくれ!」
ジャミル「ガロード……」
ガロード「こいつらは……オレ達がケリをつける! それに、後でオレ達も追いかけるからよ!」
頼もしく聞こえるその少年の声にジャミル達は後押しされた。
オルバ「舐められたものだね」
分離したアシュタロン・ハ―ミットクラブは、ジャミル達を追おうと加速するも、ダブルエックスの
DX専用バスターライフルを連射して阻止された。まるで、ガロードが意地でも行かせないと言ってるかのようだ。
ガロード「オレは、お前達を認めない!」
ビームソードでシャギアのヴァサーゴ・チェストブレイクに斬りかかるも、ヴァサーゴのリーチのある伸長自在の
ストライククローによって弾き落とされた。
一瞬、勝利の顔に微笑みを浮かべたシャギアだったが、次の瞬間、その顔が歪んだ。
ガロード「誰だって辛い事や悲しい事を抱えて生きているんだ!」
まさかダブルエックスが素手で攻撃繰り出し、それが直撃したのだ。
オルバ「兄さん! このぉ!」
背後からアシュタロンのギガンティックシザースがダブルエックスの両腕を羽交い締めにする。
ガロード「お前達の勝手な理想で世界を滅ぼされてたまるかぁぁぁぁ!!」
バーニアを吹かしてアシュタロンに熱風を浴びせて、吹き飛ばす。
オルバ「貴様などにわかるか! 僕らのこの苦しみが!?」
ガロード「わかってたまるかーっ!」
その言葉と共にアシュタロンを蹴り飛ばす。
696
:
蒼ウサギ
:2013/03/07(木) 23:10:38 HOST:i114-188-249-155.s10.a033.ap.plala.or.jp
オルバ「なんて奴だ」
シャギア「オルバよ。ここはもはやアレでいくぞ」
オルバ「……了解。兄さん」
再び二機のフロスト兄弟のガンダムが合体した。
シャギア「ようやく我らとの因縁の決着がつけられる時がきたな。マイクロウェーブ、照射!」
夜空の雲を破って一筋の光がシャギアとオルバのガンダムに降りる。
ガロード「お前達は、D.O.M.Eの言葉がわかっていない! 黒歴史が何で封印されなければならなかったからを!」
シャギア「我らには関係ないことだ」
オルバ「言ったはずだよ。初めから“僕ら”は僕ら兄弟だけの戦争をしているってね」
ティファ「あなた達もD.O.M.Eに触れていたら……」
悲しげなティファの言葉と共にガロードは、強い決意と共にGコンのサテライトシステムをオンにする。
腹部の照射ポイントが露わになり、背部が大きく変形して両肩にサテライトキャノンが装着される。
そして先程までフロスト兄弟達に降りてきたマイクロウェーブが打って変わってダブルエックスの元へと降りてくる。
シャギア「なに!? 送電施設はこちちらの手中にあるはず!?」
オルバ「兄さん!?」
ガロード「D.O.M.Eは、こう言いたかったんだ。……黒歴史のような過ちは繰り返すなと!」
ダブルエックスのマイクロウェーブが100%チャージされた一方で、シャギア達のサテライトランチャーは―――
シャギア「ダブルエックスを撃つ!」
オルバ「でもチャージが!?」
シャギア「構わん!」
先にトリガーを引いたのはシャギア。
ガロード「いけぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
激しいサテライトキャノン同士のぶつかり合い。
戦場が光に包まれた。
―――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
――――
歌い始めた頃の♪ 鼓動を揺さぶる想い 何故かいつか どこかに置き忘れていた♪
気づけば、そんな歌がガロードに聞こえてきていた。
どれくらい自分が気を失っていたかはわからないが、この歌声が目覚ましとなった。
決して不愉快ではない。むしろ、自分が生きていると実感できる歌だ。
ガロード「ティファ……」
ティファ「ガロード……私は、ここに」
後部座席からティファの手が伸びてガロードに掴まる。
とても温かい手だ。
ティファ「あの人達が…歌っています。この戦いを終わらせようと」
Fire Bomerの熱気バサラ。
武器ではなく、歌で戦場を駆け巡る彼の新曲は不思議と力が漲るような気がした。
§
ガムリン「みんな、バサラ達の歌を聴け!」
Fire Bomerのバルキリーの先陣を切ってきるのはガムリンのバルキリーだった。
量産型ベルゲルミルを攻撃しつつ、バサラに思い切り歌わせている。
バサラ「DYNAMITE! DYNAMITE! DYNAMITE EXPLOSINON ONCE AGAIN!」
DYNAMITE! DYNAMITE! DYNAMITE EXPLOSINON ONCE AGAIN!
DYNAMITE! DYNAMITE! DYNAMITE EXPLOSINON ONCE AGAIN!
バサラ「DYNAMITE! DYNAMITE! Everyday everynight everywhere――――――!!」
サビの最後のシャウトと同時にそれまで強敵達の前で挫けそうになっていた戦士達の心が
より強固なものとなって震え立たった。
697
:
藍三郎
:2013/03/17(日) 21:30:40 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
オルガ「獲物、見ぃつけたぁ!!」
クロト「ヒャハハハ!! 墜滅ぅ!!」
フリーデンへと戻るジャミル達の元に、オルガ達のガンダムが襲いかかる。
ウィッツ「ちっ、まだこいつらがいたか!!」
ロアビィ「あいつらは俺らが引き受けるよ。キャプテンはその間に!」
ジャミル「すまない、頼む!!」
バサラの歌が、ファイヤーボンバーの音楽が、ロランにある一つの事実を気付かせた。
ロラン「ギム・ギンガナム、あなたの言う通り、人は闘争本能を捨て去れないのかもしれない……けど!!」
ギンガナム「ようやく分かったか! 故に小生は黒歴史を……」
ロラン「だけど、人を傷付け、命を奪うことだけが、戦いでは無いはずです!」
ギンガナム「何……?」
熱気バサラの歌からは、溢れんばかりの闘志が伝わってくる。
しかし、彼には人を傷付けようという意志は一切無い。
彼が戦場で歌うのは、戦いを止めさせるためだ。
彼にとっては、歌う事こそが戦いだ。人を傷付けることの無い、優しい戦いだ。
歌に限った話ではない。
患者や医師が病魔と闘うように、人は誰もが懸命に、何かと戦いながら生きている。
それが惰弱などとは言わせない。
ロラン「人が人を傷付けることなく、己の意志で立ち、
互いに手を取り合い、より良い未来を目指して戦う世界。
ディアナ様が目指しているのも、そんな未来のはずです。
黒歴史はもう終わっている。あなた達の言う新しい世界も、もう必要ない!」
ギンガナム「もはや小生らは要らぬというのか!!」
ロラン「そうではありません! あなた達も戦い方を、生き方を変えればいいんです!」
ギンガナム「ふん、二千年も戦う事のみを考えて生きて来たのだ。今更変えられるものか!!」
ロラン「それは諦めだ! あなたの弱さだ!」
ギンガナム「何だと!?」
その時……∀ガンダムの月光蝶が変質を始めていた。
ユーゼス「? どういうことだ……」
取り込んだ周囲のデータを見ながら、ユーゼスはその情報に疑念を抱いていた。
ユーゼス「∀が月光蝶を発現したことで、ナノマシンの総量は一時的に増大した……だが……」
ある一点をピークとして、周囲のナノマシンが急激に減り始めている。
ユーゼス「∀のナノマシンが……Xのナノマシンを喰らっているのか……?」
全てを滅ぼすのが月光蝶ならば、同じ月光蝶をも喰らう事ができる。
飽和したナノマシンは、最も身近な対象である別のナノマシンを消し始めた。
あるいは、バサラの歌とビムラーによって、ナノマシンが変異を起こしたのか。
ユーゼス「もしや、かつての黒歴史においても同じことが……?
それが、世界が完全に滅ぼなかった理由なのか。
だがもう遅い。既に次元震動を起こすに足る環境は整った」
ユミルの頭上で、一際大きな次元歪曲が発生する。
そこを中心として、周囲一帯の空が渦を巻くように歪む。
698
:
藍三郎
:2013/03/17(日) 21:31:56 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
アキト「空間歪曲が激しい……ボソンジャンプは使えないか……」
フィールドを纏い、量産型ベルゲルミルを撃破していくブラックサレナ。
エイジ「レイ、V−MAXIMUM、発動!」
レイ『レディ!』
レイズナーMkⅡは蒼き光を纏い、流星となって進路上の敵を蹴散らす。
ゼンガー「おおおおぉぉぉっ!!」
ユミルの大剣と、参式斬艦刀が強く噛み合う。
参式斬艦刀を最大まで拡大しても、ユミルの剣に比せば蟷螂の斧だ。
ダイゼンガーは、剣を拡大させるのではなく、最小限の大きさに縮小させていた。
剣を拡大・伸長させても、金属の総量は同じ。
ならば、剣を凝縮すればするほど、強度は上がるはず。
激突した刃は、大剣に亀裂を入れる。だが、それだけで、断ち割るまでには至らない。
その直後、狙いすましたように左右からアルトアイゼン・リーゼのバンカーと
ヴァイスリッターのオクスタンランチャー・Bモードが、剣の両側から叩き込まれた。
キョウスケ「これがおれ達の……」
エクセレン「斬り札よん♪」
三方向からの同時攻撃、それに加え、既にこれまでに受けていた金属疲労が、限界に達したのだろう。
亀裂は瞬く間に拡がり、ユミルの大剣をへし折った。
ゼンガー「奴の剣にして盾は砕いた! 今だ!!」
ウイングガンダムゼロはツインバスターライフルを構え、
SRXはR−GUNパワードを変形させたHTBキャノンを構える。
ヴィレッタ「生半な攻撃では、ユミルの装甲を撃ち抜くのは不可能……
こちらに出来る最大の攻撃を、一点に集中する他ない」
そこに、サテライトキャノンに換装したガンダムXも合流する。
シャッフル同盟のガンダムやマシンロボたちも、最大の技を撃つ準備を終えていた。
ヒイロ「……!」
リュウセイ「いくぜ! 天上天下、一撃必殺砲ぉぉぉぉぉ!!」
ジャミル「サテライトキャノン、発射!」
勝平「イオン砲、行っけぇぇぇぇぇ!!!」
ドモン「爆熱!! シャッフル同盟拳!!」
ロム「運命両断剣・ツインブレェェェェェド!!!」
死力を尽くした攻撃の数々が、ユミルの一点に突き刺さる。
フィールドの耐久限界を越えて貫き、
幾重もの隔壁をマシンセルの再生も追いつけない程に粉砕する。
ユーゼス「見事……だが、一歩及ばなかったな」
砲撃は無数の隔壁を破砕したが、まだ隔壁は一つ残っていた。フィールドは、今も再生しつつある。
だが、フィールドが閉じる寸前、モビルスーツ一機分のスペースに割り込んだ機体がいた。
トレーズのトールギスⅡだ。トールギスⅡの爆発的な加速が、いち早くそれを実現した。
トレーズ「……!」
フィールドから加わる負荷に、機体が悲鳴を上げる。
トールギスⅡの耐久値でも、長くは持ちそうにない。
その状態のまま、トールギスⅡは隔壁に向けてドーバーガンを撃つ。
五飛「トレーズ! 貴様! 何のつもりだ!!」
ベルゲルミルと交戦していた五飛は、トレーズの捨て身の行動に目を剥く。
それには答えず、トレーズは引き金を引きながら、バトル7へ通信を送る。
トレーズ「……マクシミリアン艦長、残された我々の世界の兵達のことを、頼まれてくれるか?」
マックス「了承した。彼らもこの世界のために命を賭して戦ってくれた。
必ず、元の世界に送り届けると約束しよう」
699
:
藍三郎
:2013/03/17(日) 21:37:23 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
ユーゼス「君ほどの男がここで消えるつもりか?
君ならば、新世界においても、人々を導くことのできる器と信じていた。
そんな君が、捨て石になるというのか?」
渾沌たる黒歴史の時代、トレーズ・クシュリナーダというカリスマは、
そんな時代でこそ真に輝くはずだ。
彼と初めて会ったその時から、ユーゼスはそんな未来を夢想していた。
トレーズ「悪いが、今の私はOZの総帥ではなく、一人の男としてここにいる。
これまで、私の掲げる理想のために数多の若者が命を投げ出して来た。
そんな私が、ここで退くことは許されんよ」
トレーズは微笑を浮かべると、銃撃を続ける。
五飛は焦燥に顔を歪め、絶叫する。
五飛「トレーズ! それで貴様の罪を償ったつもりか!!
俺は認めん! 貴様は俺が……!!」
トレーズ「すまないな……」
尋常な勝負の末、彼の刃に斃れる。それはきっと素晴らしい死に様だろう。
自分とて、この場で散ることは無念である。
これから先も、彼らの行く末を見届けたいと言う思いは確かにある。
だが、今この時において、活路を拓けるのは自分しかいなかった。
この戦場では、誰もが死力を尽くし、僅かなチャンスを掴むため、その身を投げ打って戦っている。
その姿は美しい……ならば、自分もそれに殉じよう。
トレーズ「さらばだ、五飛。我が永遠の友よ……」
ドーバーガンを何度も撃ち、残る隔壁を爆破。
閉じるフィールドによって、トールギスⅡの機体が爆砕するのは同時だった。
五飛「トレェェェェェェズ!!!」
その瞬間――MA形態のガンダムエピオンが、穴へと滑り込む。
トールギスⅡが破壊されて出来た空白を通り抜けて行った。
トールギスⅡが前に出ても後ろに退いても、フィールドが閉じていた。
トレーズは後続を通すために、自らの死を覚悟でこの場に留まったのだ。
ミリアルド(見事だ、トレーズ……次は、私が……!)
ゼロシステムの予知ではない……予知に頼らずとも、彼には、トレーズの行動が読めていた。
友が、自分に何を託したのかも。
スペースの大半は隔壁で覆われていたため、エピオンが飛び込んだ直後、眼前にアウルゲルミルがいた。
ガンダムを造ったドクターJら五人の博士も、同じ空間にいた。
これ以上余計な真似をされないように、最も目のつく位置で監視されていたのか。
あるいは、彼ら自身の意志で、この場に留まったのかもしれない。
全ての決着を見届けられる、この場所で。
ミリアルド「ユーゼス・ゴッツォ!!」
最大出力のビームソードを構えるガンダムエピオン。
その姿を目にした時点で、ユーゼスは自身の死を確信した。
ユーゼス「トレーズ、ゼクス。私は……」
ユーゼスは、最期に何を口にしようとしていたのか。
新世界を見届けることが出来ないことへの悔やみか。
訣別したとはいえ、紛れも無い戦友であったトレーズを失ったことへの哀惜か。
それとも、彼もまた一人の弱い人間として、命乞いをしていたのだろうか。
その答えの分からぬまま、彼が言葉を発する前に、
エピオンの最大出力のビームソードが、アウルゲルミルを、そして内部のユーゼス・ゴッツォを、頭から一刀両断にした。
至近距離で発生した爆風は、逃げようともしなかった五人の博士を、
そして、ガンダムエピオンを飲み込んだ。
700
:
藍三郎
:2013/03/17(日) 21:39:41 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
リリーナ「お兄様――!!」
戦いの様子をモニター越しに見ていたリリーナは、爆発の中に消える兄の姿に息を詰まらせる。
ヒイロ「ゼクス……」
トレーズ・クシュリナーダとゼクス・マーキス。
二人の偉大な指導者にして、誇り高き戦士を一度に失い、
OZの兵士たちは……いや戦場の全員が、言葉を失っていた。
五飛は、皮膚を裂き骨を砕かんばかりの力で、拳を握り締める。
五飛「また、勝ち逃げか……トレェェェェェズ!!」
もはや、どうやっても越えることの出来なくなった宿敵に向けて、五飛は叫んだ。
ヴィナス「さようなら、ユーゼス・ゴッツォ。貴方には感謝していますよ。
これで……私は、私の望みを果たすことができる」
その瞬間――中空から稲妻が降り注いだ。
ユミルへの攻撃に全ての力を費やした統合軍とG・K隊は、成す術なく電撃を受けてしまう。
リュウセイ「あいつは……!」
稲妻を降らせた黒雲に紛れて、機動兵器の巨体が見える。
これまで目立った動きを見せていなかったウラノスが、ユミルの真上へと出現したのだ。
アウルゲルミルが破壊されたことで、ユーゼスの悲願である、世界の壁を壊す次元震動は発生しない。
だが、ユミルによって発生した空間の歪みは、以前空に残ったままだった。
ウラノスはカラミティブレードにその歪みを纏わせ、一個の球体へと収斂させていく。
悠騎「ヴィナス! てめぇは何を……」
上昇しようとするブレードゼファーだが、巨大な力に阻まれる。
ウラノスの力の一つである障壁……それを、周囲一帯の全てを押しつけるように、広範囲に向けて展開したのだ。
明らかに、かつてシャングリラで交戦したウラノスを上回る力だった。
ヴィナス「私はこの時をずっと待っていたのですよ。
空間の歪みが最高潮に達し、ウラノスを完全体へと進化させる条件が整うのを……」
次元の歪みが、ウラノスの腹部へと取り込まれる。
ヴィナス「ハイリビードに匹敵する力を宿した、この“特異点”を産み出す瞬間をね!」
ウラノスを中心に、誰も目を開けていられない程の輝きが発生する。
701
:
蒼ウサギ
:2013/04/16(火) 01:11:05 HOST:i125-204-40-38.s10.a033.ap.plala.or.jp
輝きはやがて一つの宝玉となりて、ウラノスの胸部中心部へと収まった。
見た目は以前と変わらないものの、何気ない静けさが一同に緊張感を与えていた。
ヴィナス「……これで計画はまた一つ進行しました。これもあなた方のお陰ですよ」
キョウスケ「オレ達、だと!?」
ヴィナス「えぇ、この世界の文明もですが、特にイレギュラーの皆さんには、
このウラノスの完全復活のための“マテリアル”となってもらいましたよ。実に感謝しています」
心からの感謝の言葉からなのか、それとも嫌味なのかは声色からは察せない。
以前からそんな節があったものの、さらに靄がかかっているようだ。
エクセレン「そんじゃあ、そのお礼にちょっとお姉さん達に事情を教えてもらえれないかしらん?」
軽口に捉われる言葉だが、エクセレンの心情は穏やかではない。
それは、皆も同じだ。
ヴィナス「いいでしょう。今の私は実に気分がいいですしね。
……本来、ウラノスは、最初の時間転移か、それとも別の理由かは分かりませんが、完全ではなかったのですよ」
その言葉に一同は、戦慄した。
南極と<アルテミス>の本拠地、シャングリラとあの激戦。
パイロットはそれぞれ違えど、どちらも他の機体とは一線を越えるものだった。
だが、それもまた未完成ものだったとは、とても信じがたい。
悠騎「ハッタリ……なんて、てめぇが言うわけないよな?」
ヴィナス「当然です」
リュウセイ「それで、完全になったウラノスが、どうだっていうんだよ! 前よりパワーアップしてるだけなのか!」
ヴィナス「少し違いまね。“本来の力”を取り戻したウラノスは、時空、時間の全てを跳躍できるようになりました。
そして、“特異点”。……これがあれば、あらゆる運命がウラノスによって引き寄せられるでしょう」
ヒイロ「……それに乗っている貴様は神になったつもりか?」
似たような言葉を亡きトレーズに言った覚えがある。
ゼロシステムを搭載したエピオンを造った事だ。
ヴィナス「神……ですか、そんなもの、私は信じたことはありませんよ」
少しばかり語尾が強くなったと思えば、ヴィナスは突如として声を荒げた。
まるで、今まで抑えていた感情をむき出したかのように。
ヴィナス「もし、神がいたというなら、何故、あの時、我々を救ってくれなかったのだ! 何故、あの時、奇跡の一滴でも零さなかったのか!
<エオス>が滅び、この世界が死を迎える定めるのが神の裁判だというのなら、私は神を憎もう!
それが、人の道理に反しようとも、私はそれを貫く!」
眠ると見る夢はいつも同じだった。
未知なる存在と交戦する自分。わけもわからず次々にあっけなくやられていく仲間達。……そして―――
気づけば、ヴィナスの瞳は紫色に変化していた。
悠騎「……今、ようやく分かった気がしたぜ。あんたの“本当”の強さ、って奴をな」
ヴィナス「……ほぅ、珍しいですね、星倉悠騎。まさか、あなたのからその言葉が聞けるなんて」
悠騎「あぁ、お前は最初からただ一つの目標のために真っ直ぐに、確固たる信念の元に動いていた。
そして、一度、絶望を味わっているからこそ、負けられない覚悟がある。
……根本的には、エオスもG・Kも似たような組織だからな、なんとなく分かるぜ。負けちゃあいけない戦いってのをよ
要は、お前とオレ達……いや、オレとでは覚悟の差が違ってたってわけだ」
ヴィナス「世辞でもお褒めの言葉として受け取りましょう。……で、そしてどうするのです?」
悠騎「決まってる」
静かに答え、エクシオン改の大型ビームソードを構えた。
悠騎「全力で、お前を倒す!」
§
イザーク「アスラン、そして、フリーダムのパイロット!」
アスラン「イザーク!?」
イザーク「オレ達は、あの3機を相手にする! お前達はクルーゼをやれぇ!」
イザークの言葉には、確かな覚悟があった。
かつて、自分を苦渋を舐めさせられた名も知らぬパイロット―――キラ・ヤマトにまで、隊長機を任せるまでの。
キラ「君は……」
アスラン「いくぞ、キラ! イザーク達があの三機を相手にしてくれているためにも!」
キラ「うん!」
イザーク達に後ろを任せ、フリーダムとジャスティスがプロヴィデンスの元へと奔る。
あの悪意に満ちた憎悪の塊の元へ……。
702
:
蒼ウサギ
:2013/04/16(火) 01:11:36 HOST:i125-204-40-38.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
ブースデッドチルドレンの三人は、まさに戦闘狂。
目の前の敵を倒すことにしか興味がないのだ。それが、例え今、この瞬間、世界が終わりがカウントダウンを始めているとしても。
ウィッツ「ちっ、こいつらしつけぇな!」
ディアッカ「おっさん、ちょっとどいてな!」
ウィッツ「なっ! おっさんだとぉ!?」
抗議の間もなく、ディアッカのバスターがMA形態のレイダーに乗っているカラミティの足元を狙い撃ちする。
収束火線ライフルとガンランチャーを連結させた精密狙撃用の超高インパルス長射程狙撃ライフルだ。
オルガ「ちぃ! てめぇ、クロト!」
クロト「飛べない奴が悪いんだよぉ!」
レイダーの咄嗟の回避行動に振り落とされる。カラミティは振り落とされ、レイダーはそのままMS形態へと変形し反撃に転じた。
クロト「オラオラ! こいつで滅殺っ!」
イザーク「そのパターンはもう読み切っている!」
デュエルASの全武装が一斉に発射される。
ウィッツ「よっし、こいつも持ってきな!」
それに続く様にエアマスター・バーストも全ビームを連射する。
これには、クロトも予想しなかっただろう。ミョルニルは破壊され、フェイズシフトもダウン。
今にも爆発しそうな火花を散らしながらMA形態となって逃走した。
クロト「僕は…僕はね……」
その言葉を最後にレイダーは、爆発した。クロトが脱出した様子は見なれない。
オルガ「貴様らァ!」
仲間を殺された怒りからか、それとも単純に目の前に敵がいるからかは定かではないが、
いつも通りオルガは雄叫びを上げて全武装のビームを発射しようとするが―――
ロアビィ「残念だけど、後ろががら空きなのよねぇ」
レイダーから落ちた位置が悪かった。
奇しくもそこは、ロアビィのレオパルドデストロイの射程圏内だ。
間髪入れずに発射したロアビィの方が早かった。
持ってる限りのビーム兵器をカラミティに撃ち続ける。
オルガ「がぁぁっ!」
かなりのダメージは与えているのがわかるが、途中からビームがあさっての方向へと反れていったのが見えた。
シャニのフォビドゥンが乱入したのだ。
シャニ「お前、死んじゃえよ」
ロアビィ「なっ!」
大鎌を振るって接近してくるフォビドゥンを必死に迎撃しようと撃ち続けるがどれも反れてしまう。
接近戦か、離れるしかない。そう考えた瞬間、もう一機のガンダムが突如現れ、フォビドゥンの対エネルギー防御。
エネルギー偏向装甲「ゲシュマイディッヒ・パンツァー」が破壊された。
ニコル「今です!」
ミラージュコロイドでフォビドゥンに接近し、ビームサーベルを突き立てたブリッツのパイロットがロアビィに号令を掛ける。
ロアビィ「オッケー、これでどうだ!」
不意な攻撃とビームの嵐で、フォビドゥンは腕や脚が次々に破壊されていく。
シャニ「がぁぁぁぁあああ!!」
ほとんどガラクタ同然と化したフォビドゥンが倒れる。パイロットの安否は定かではないが、彼らは定期的に薬物投与していないと
禁断症状で苦しみ、最終的には廃人となるらしい。
オルガ「てめぇら、絶対に許さねぇぞ!」
立ち直ったカラミティだが、レオパルドデストロイのダメージが効いているのか、すでにバッテリー残量も少なく、オルバ自身も
薬物効果が切れ始めているのが自覚出来ている。
ディアッカ「……っ、悪く思うなよ!」
自棄になって暴れ回る前に、ディアッカはもう一度狙撃した。
ただ、それだけで機体もグレーに変色し、倒れた。
オルガ・サブナックの最後の叫びすら、誰の耳にすら届いてない。
703
:
蒼ウサギ
:2013/04/16(火) 01:13:07 HOST:i125-204-40-38.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コスモ・アーク=
レイリー(思った以上に厄介だ。外部ができても、ソフトウェアが完成しない……!)
思いの外、ヴィナスの早めの登場にまだ悠騎の最終機は完成に至っていない。
コスモ・アークの優れた情報処理能力ならば、可能だと思っていた自分が甘かった。
レイリー(ナデシコCとホシノ少佐に協力してもらう…とか? いや、それでも……まだ足りない)
作業を進めながら悩むレイリーにある賭けのような案がひらめく。
躊躇う時間もおしく、すぐさまそれをブリッジに伝えた。
アイ「艦長、それに、由佳さん。レイリーさんから『コスモ・ストライカーズ』へ合体の要請です」
由佳『レイリーさんから?』
アイ「どうやら、例のモノの完成のために、らしいです」
トウヤ「……なるほど。そういうことか」
由佳『情報処理能力なら、アークが増してるけど、そこにフリューゲルの情報処理能力も加えたいわけね?』
つまり、合体しても事実上、戦力には加算されない棒立ち状態になるが、それだけ悠騎の機体の完成も早くなるという事だ。
由佳『わかったわ、こっちは大丈夫よ』
トウヤ「ナックルゼファーを預けたんだ。今はそれに掛けるとするよ」
二人の艦長が合意すれば話は早い。すぐさま二隻の艦が強力なDウォールで包まれ、合体が行われた。
G・K決戦用強襲艦コスモ・ストライカーズ。
由佳「ミキさん、レイリーさんのフォローに回って! アイちゃんはホシノ少佐と連絡をとって、協力の要請を!」
ミキ「は、はい!」
アイ「了解」
一つになったことで、一回り大きくなったブリッジを由佳が的確に指示をしている。
トウヤは、自ら副官という座に収まっている状況だ。
トウヤ「各員に告ぐ。コスモ・ストライカーズとナデシコCは、しばらく動けません。
フォローをお願いします」
704
:
藍三郎
:2013/04/29(月) 22:02:08 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
ロラン「ユーゼス・ゴッツォは倒れました! あなたの野望もここまでです! ギム・ギンガナム!!」
ギンガナム「まだだ! まだ終わりはせんよ!!
いや、黒歴史の再臨など最早どうでもいい! 今は、貴様との決着をつけるのみよ!!」
∀の月光蝶で、ターンXの月光蝶を抑え込めると解った今、力を出し惜しむ必要はない。
極光のように輝く蝶の翅を拡げ、∀は飛翔する。
∀のビームサーベルと、ターンXの溶断破砕マニピュレーターが衝突し、火花を散らす。
二人の武器には月光蝶のナノマシンが宿り、互いを喰い合っていた。
ターンXは空中戦に不要な脚部を切り離し、∀の背後から攻撃させる。
ロランは背の月光蝶を振ってそれを阻み、ビームライフルで牽制。
それもまた、ターンXの月光蝶の翅に打ち消される。
ロラン「あなたが戦う力を守って来られたのは、
ディアナ様をお守りすると言う、誇りがあったからでしょう!
ギンガナム「その誇りを奪ったのもディアナなのだ!
ねぎらいの言葉も無く、地球に降りたぁ!!」
ロラン「甘ったれがぁ!!」
ロランの言葉に刺激されたかのように放たれたターンXの拳が、∀の腹部にめり込む。
だが、∀のビームサーベルもまた、ターンXの肩口へと深く喰い込んでいた。
ギンガナム「おのーれ!!」
胴体を残し、ヘッドを切り離して離脱するギンガナム。
相討つ形となった2機のターンタイプは、組み合った体勢のまま、月光蝶の影響で砂地と化した地上へと墜ちて行く……
ルシア(さようなら、Mr.ユーゼス・ゴッツォ……)
長年仕えていた主である、ユーゼスの死を確認しても、ルシア・レッドクラウドは僅かなりとも動揺しなかった。
それどころか、捨て身の覚悟でユーゼスを討ったトレーズとミリアルドへの感嘆と敬意の念の方が大きかったぐらいだ。
敗北の可能性は、常に考慮に入れていた。そもそも、今回自分達が取った行動は戦略的に見れば愚行ばかりだ。
アースクレイドルが浮上する時と場所を、あえて彼らに教えてやる必要は無かった。
もし少しでも到着が遅れていれば、自分達の計画は成就していた。
その理由は一つしかない。
ユーゼスも、自分も、そして恐らくはギム・ギンガナムも、考えは同じだったのだ。
黒歴史の再臨よりも、新世界の創造よりも、ただ、彼らと決着を付けたかった。互いに死力を尽くして戦いたかったのだ。
だから、計画が頓挫した今も、自分の心に一点の曇りもない。今、この胸を満たす極上の歓喜に、溺れてしまいそうだ。
今はただ、この戦いに血潮を滾らせるのみ。
敵手にミサイルをかわしつつ、弓矢の先を敵手に向ける。
輝く六つの宝玉がバックパックから離れ、弓の周りに集まる。旋回する宝玉は、光の矢へと形状を変える。
セブンス・スレイヤー。
合計七本の矢を同時に発射、演算者の能力を用いて確実に命中させる絶技だ。
例え回避しても、その矢は周辺に多数展開しているビルゴのプラネイトディフェンサーに弾かれ、全く別の角度から目標を撃ち抜く。
以前見たこともあるが、あれはほんの挨拶代わりだ。今からが本気で撃つ、絶対必中の七星に違いない。
まずはこちらに向かって飛んで来る、七本の光の矢を、ハイドランジアキャットは避けようとしなかった。
705
:
藍三郎
:2013/04/29(月) 22:02:51 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
ムスカ「どうせかわすのが無理なら……こっちから当たってやるよ」
下手に回避して、背後から跳弾を喰らい重要な機関を損傷させるぐらいなら、危険なヒットポイントをずらして命中させる。
それが、絶対必中の射撃を凌ぐ手段だった。
無論、これも十分危険なことには変わりない。
演算者の能力から割り出した結論と、コンマ一ミリの誤差も許されぬ、精密な操縦が求められている。
あまりにヒットポイントをずらしすぎると、相手に命中していないと判断され、狙いを修正されてしまうからだ。
七本の矢が、次々にハイドランジアキャットに突き刺さる。
刺さった矢が四本に達したところで、グロリオーサを分離させる。
誘爆を避けるため、こちらのミサイルは全て撃ち尽くしていた。背後で響く鈍い爆音。
これまで自分の身を守ってくれた支援機に、心の中で別れを告げる。
そんな、綱渡りをしながら皿の上にグラスを積み上げて行くが如き、、
僅かな力加減が即座に死に繋がる作業を、ムスカは、火花が散り、警報が絶え間無く鳴るコックピットの中で、平常心を保ったままやってのけた。
ムスカ「で、これが最後の隠し玉だ!!」
ハイドランジアキャットを覆う、ミサイル格納庫を含む装甲を全てパージ。
中から出て来たのは、ムスカのかつての愛機、アイリスキャットに酷似した姿を持つ小型機だった。
七本目の矢を、コクピットを僅かに逸れた部分で受ける。
ルシア「……クレイジー」
ムスカ「お前さんにそこまで言われるたぁね……最高の褒め言葉って奴か」
こめかみが裂け、流れる血で濡れた瞳の先のモニターに映るのは、
最後に残った武装であるメーザーソードが、アスラの胸部へと突き入れられた光景だった。
ルシア「なるほど、私の性格を読み、いかにも私が好みそうな“イカレた”行動をすることで、
私の関心を引き付け、演算者としての計算を狂わせたということですか……」
ムスカ「違うね。俺の勝因を挙げるなら、そいつは、俺には頼れる上司や仲間がいたことさ」
自分とルシアが真に一対一で戦えば、身醒経によるブーストを加えても勝ち目は無かった。
しかし、セレナやゼド、白豹らの動きを封じるために、ルシアは演算者としての能力を割いていた。
それが加わって初めて、この結末に辿り着くことが出来たのだ。
ルシア「……仲間との絆……なるほど……それもまた、一つの合理ですか……」
ルシアが、まだ何か続けようとした次の瞬間……
頭上の黒雲が轟き、雷がアイリスキャットに向けて降り注ぐ。
ウラノスの天候操作による雷撃は、今も戦場全域を襲っていた。
ムスカ(やべ……計算に入れていたが……
さすがにコイツを相手にしながらじゃ対応しきれねぇか……)
落雷を気にしながらの戦闘では、ルシアの上を行くことは出来なかった。
可能性を考慮しても、それに対処しない……運に天を任せる道を選んだのだ。
しかし、気まぐれな天が、いつまでも見逃してくれるとは限らない。
ムスカが死を覚悟した、その時……
ベルゲルミル・アスラが上昇し、アイリスキャットの機体をその影で覆う。
雷は、盾となったアスラへと直撃する。
ムスカ「な……に?」
明らかに致命傷を負ったアスラは、そのまま煙を吹きながら地上へと墜落。
鈍い音と共に、爆破炎上する。
彼の演算者の力をもってしても、この結果は予想できなかった。
彼は何を考えて、自分を庇うような真似をしたのだろうか?
あそこでまだ動けるなら、あの状態からでも自分を返り討ちに出来たのでは?
ムスカ「…………」
ルシアの謎めいた最期は気になるが、今はそれに拘泥している場合ではない。
アイリスキャット2号機も、エネルギーを使い果たして墜ちて行く。
その肩を、ようやくモビルドールの妨害を突破して駆けつけたゼドのヘラクレスパイソンが支えた。
706
:
藍三郎
:2013/04/29(月) 22:10:24 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
砂塵を巻き上げ、地上へと不時着したコア・ファイターから転がり出るロラン。
彼の前に、同じくターンXヘッドから降りたギンガナムが、二本の刀を持って立っていた。
ギンガナムは、刀を一本ロランに投げ渡す。
ギンガナム「剣で戦ったことは?」
ロラン「……ありません」
ギンガナム「残念だなぁ!」
ギンガナムは口元に獰猛な笑みを浮かべ、鞘から刃を抜き放ち、斬りかかる。
ロランは刀を水平に構え、ギンガナムの激しい打ち込みを防御。二本の刃が火花を散らす。
体格で勝るギンガナムにじりじりと押し込まれる中……
背後から伸びてきた光る糸が、ギンガナムの体を捕らえた。
ギンガナム「ぬぅぅぅぅ!?」
抵抗に殆ど意味は無く、同様に光る糸に捕らえられたXヘッドごと、ギンガナムはターンXに吸い込まれる。
∀ガンダムとターンXは、互いに向かい合ったまま、光る糸に包まれていく。幻想的な光景だった。
危険を感じたロランは、振り返ることなく、走ってその場を後にした。
激戦の疲れからか、百メートルも走らぬ内に、力尽きて倒れてしまう。
そこを、モビルスーツのマニピュレーターが掬い上げた。
カプルの代わりに、フラットに乗ってロランの救出に駆けつけたソシエは、
光る糸に包まれた二体のターンタイプを見て呟く。
ソシエ「あれ、繭の玉が立っているみたい」
ミラン「∀とターンXの反応、停止しました」
ディアナ「ロラン・セアックは?」
ミラン「ソシエ・ハイムが収容しました。今からこちらに戻るとのことです」
ディアナ「そうですか……」
安堵の息を吐いて、ディアナは艦長席に深くもたれかかる。
ギンガナムの暴走には、自分にも責任の一端はある。彼の喪失を、素直に喜ぶことは出来なかった。
ネオバディムが企てた、月光蝶と次元震動の脅威は去った。
しかし、戦いはまだ終わらない。
ディアナの瞳には、天空に鎮座するウラノスの姿が映っていた。
707
:
藍三郎
:2013/04/29(月) 22:12:35 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
アースクレイドルが変形したユミルの上半身の内、
コアの部分を中心とした四分の一は吹き飛んでいるが、それ以外の部位はまだ残っている。
そこから、モビルドールとは異なる多数の人型機動兵器が発進する。
アルテミスの主戦力である、青と赤のロストセイバーだ。
更にウラノスの両隣には、ロストセイバーとは明らかに形状の違う二種の機体が数機、直衛として控えていた。
シャル「ヴィナスめ、ここぞと言う時に戦力を温存していたか」
また、ユミルは倒れたが、既に発進したモビルドールは、当初のプログラムに従い、統合軍に攻撃を加える。
まるであの男の残留思念が乗り移っているかのようだ。
サラ「この状況で、コスモ・ストライカーズの援護を得られないのは厳しいですね……」
ジャミル「だが、この疲弊した状態では、どの道勝ち目は薄い。
星倉艦長達に、逆転の秘策があるならば、それに賭けるべきだろう」
ジャミルはサテライトキャノンを捨て、再びディバイダーを装備して、近づくビルゴⅡを撃ち落として行く。
キョウスケ「計画がまた一つ進行した、と言ったな。
つまり、ウラノスが完全体になっただけでは、お前の目的は果たされてはいない」
バンカーでプラネイトディフェンサーを貫き、ビルゴⅡを内側から爆散させながら、キョウスケは問う。
ヴィナス「ええ、ユーゼス・ゴッツォは、ユミルと月光蝶を用いて黒歴史を再臨させようとしましたが……
私はそれを、全く別の目的に使わせて頂きます」
ウラノスは、カラミティブレードを天に向けて掲げる。
剣を中心軸として、月光蝶のナノマシンと共に周囲の空間がねじれ、渦を巻く。
回転するろくろの内側にいるかのようだった。
ヴィナス「ユーゼスは地球全土に月光蝶のナノマシンを散布し、
大規模な次元震動を引き起こし、複数の世界を繋げようとしました。
ですが、私にはこれで十分……」
空間の歪みが最も激しい頂上は、何度も撹拌される内に、赤黒い“孔(あな)”を形成していった。
悠騎「あれは……」
ヴィナス「そう、あなた方も最近目にしたはず。複数の世界を隔てる壁を貫き、異界を繋ぐ“坑道”ですよ」
孔は、周囲の空間を捻じ曲げながら、少しずつその半径を拡げて行く。
ヴィナス「この穴が完全に拡がりきった時……
私は、この地で次元震動を起こし、それを発条(バネ)として、
世界のはじまりの時、“界闢(かいびゃく)の座”へと飛ぶ」
今自分達がいる世界、G・K隊が元いた世界、アフターコロニー、アフターウォー、コズミック・イラ……
それらの無数の異世界は、かつて一度滅びた世界が、
修正力によって新たに蘇った姿であり、終わりと始まりで直結した一つの世界だったのだ。
しかし、あらゆる物に始まりがあるように、この多重螺旋世界にも、起点となったオリジナルの世界があるはずだ。
708
:
藍三郎
:2013/04/29(月) 22:13:19 HOST:110.192.183.58.megaegg.ne.jp
ヴィナス「まずは私の世界を滅ぼした未知なる存在……忌むべき怨敵を討ちます。
そして、この世界を生み出した神と呼ばれる何者かがいるならば、私はその神をも滅ぼす」
彼の紫の瞳は、狂気めいた光を帯びはじめていた。
しかし、その眼光は僅かたりとて揺らぐことは無く、紅い道の先にある、討つべき敵を見据えていた。
ヴィナス「私達に呪われた運命を押し付ける神など不要。私が新たなる座につきましょう。
然る後、今の醜く繰り返される世界を滅ぼし、私が新たなる世界の創造主となる」
五飛「何だと……!」
復讐を果たすだけならまだいいだろう。
しかし、その後に世界を滅ぼすと言うのならば、捨て置けない。
ヴィナス「あなた達もその目にして来たはずだ。
互いに争い合うことを止めず、滅びの因子を自ら招き寄せ、何度も世界を滅ぼして来た、愚かしき人の歴史を。
それが、我らの世界を滅ぼしてまで運命が選択した未来ならば、私はそれを認めない」
アヤ「……っ!!」
エナ「この、憎しみと悲しみは……」
ニュータイプや念動力者達が感じたのは、刃のように冷たく鋭く、同時に溶岩のように熱く濁ったヴィナスの念。
彼の憎悪の対象は、自分達の世界を直接滅ぼした存在だけに留まらない。
それでは満足できぬほど、彼の憎しみの炎は激しすぎるのだ。
ヴィナス「座に到達できれば、修正力と崩壊力、
破界と再世、開闢と終焉を司る力を手にし、思うがままの宇宙を創造することが出来る……
この“失われた世紀(ロストセンチュリー)”を終わらせ、
私の世界の延長に相応しい、理想世界を築き上げましょう。
そして私はウラノスと共に、その世界を腐らせる内なる敵を、侵そうとする外なる敵を滅ぼす。
真なる“銀河の守護者(ギャラクシア・キーパー)”となって!!」
最終話
「GALAXIA KEEPERS」
709
:
蒼ウサギ
:2013/06/15(土) 00:06:27 HOST:i121-118-98-190.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「言いたいことは“それだけ”かよ?」
ヴィナス「いってくれますね」
悠騎「あぁ! それで、ハイいってらっしゃい…って言われると思ったのかてめぇ!」
エクシオン改が斬り込み、ウラノスはカラミティブレードで受け止める。
勢いが強くみられるエクシオン改に比べ、ウラノスは余裕といったところだ。
直衛である赤と青の機体―――ヘリオスとセレネスは敢えて下がらせて、力試しをしているようだ。
ヴィナス「やはり旧式を少々改造した程度では、完璧となったウラノスの前では“ならし”にもなりませんね」
まるで力士が小さな子供を放り投げるように、ウラノスはエクシオン改を吹き飛ばした。
だが、それでも悠騎はエクシオン改の態勢をすぐ立て直し、さらに斬り込んだ。
悠騎「てめぇが誰に復讐しようなんざ関係ねぇが……勝手にカミサマ気取りされたくねぇんだよ!」
エクシオン改の斬撃を先と同じ感じで受けているヴィナス。
だが、今度は悠騎がエクシオン改のブースターをフルスロットに回し、押し込む感じで膠着している。
悠騎「それに……そんな奴がオレ達(ギャラクシアキーパーズ)の名を語って欲しくねぇぇぇえええ!」
第一印象から悠騎はヴィナスの事を気に入らなかった。
いつもいつも、自分が遥か高みから見下ろされている感じが気に入らなかった。
そんな奴がかつて自分達と同じような組織の一員であったのも、またどこかで認めたくなかった。
ヴィナス「あなたが一番の理解者だと思ったのですがねぇ……」
悠騎「お前と一緒にすんな!」
ヴィナス「どこがです?」
エクシオン改の何倍もあるヴィナス脚が動ごき、素早い蹴りが襲いかかった。
その勢いで機体が地面に叩きつけられるも、パイロットの意識はとんではいなかった。
ヴィナス「ほら、この私に手も足もでないその有様。……かつて、私も味わったものです」
悠騎「そしてお前は、剣を折られ、絶望と復讐鬼なったってか?」
ヴィナス「っ……」
ヴィナスの表情が一瞬、歪んだ。
機体越しに表情こそ見られないが、悠騎はほんのちょっとの無言でそれが想像できた。
悠騎「生憎だがな……オレの…いや、オレ達の剣はまだ折れてないんだぜ!」
ヴィナス「フッ……どこまでその強がりが通じますかね!」
そう一蹴すると、ヴィナスは攻撃目標を、動けないコスモ・ストライカーズへと向けた。
一瞬、血の気が引いたが、悠騎だがそれを阻止しようと機体を動かそうとするも、すぐには動けない。
蹴りの衝撃が強すぎたのだ。
悠騎「っ! このぉ!」
その間にヴィナスは、直衛機であるヘリオスとセレネスに指示を送った。
目標は――――
ミキ「本艦に接近する機体があります!」
由佳「っ!」
トウヤ「こちらが動けない事をいいことに…!」
しかし、ここで回避行動するわけにもいかない。
最後の切り札の完成のためにも。
ディアナ「ソレイユを前へ!」
ロミナ「本艦もこれよりコスモ・ストライカーズの盾になりましょう」
ソレイユとエルシャンクがコスモ・ストライカーズを庇うかのように弾幕射撃しつつ前に出た。
その行動に一番驚いたのは由佳だった。
由佳「! 皆さん!?」
ディアナ「あなた方が動けないのは、それなりの事情があってのこと」
ロミナ「それに、貴方がたは、我々のことを幾度も救ってくださいました。今度は私達が貴方がたを助ける番です」
しかし、弾幕射撃ごときに直衛機は落とせない。
だが、ここで飛影と零影が躍り出た。
ジョウ「お前達の相手は、このオレ達だ!」
イルボラ「姫様の艦に傷一つつけることは、許さん!」
二機の忍者ロボは、ヘリオス、セレネスとの交戦を開始した。
ヴィナス「フフッ、やはりそう簡単にはいきませんか……それでこそ貴方がたを“当て馬”にした甲斐があるものです」
ですが、全て無謀、無駄、無理。今の私とウラノスの前では何者も倒せる者など存在しない!
だからこそ、せいぜい足掻いてみなさい! ウラノスの性能を試すためにも。
710
:
蒼ウサギ
:2013/06/15(土) 00:07:18 HOST:i121-118-98-190.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
クルーゼ「これが人の夢! 人の望み! 人の業! 他者より強く、他者より先へ、他者より上へ!
競い、妬み、憎んで、その身を食い合う!」
クルーゼは、キラのフリーダムとアスランのジャスティスを相手にしながら声を荒げた。
キラ「っ!」
クルーゼ「全く。厄介な奴だったが、ここで終わりだな。ウラノスは全てを破壊するだろう!」
アスラン「まだ分からないぞ!」
アスランのジャスティスが振ったラケルタビームサーベルもクルーゼの技量の前では簡単に捌かれる。
クルーゼ「アスラン。正義と信じ、解らぬと逃げ、知らず聞かず!その果ての終局だ!もはや、止める術など無いのだよ!」
アスラン「それは貴方の理屈だ!」
クルーゼ「現実を直視するのだな!」
一基のドラグーンがジャスティスの死角からビームを直撃させた。。
アスラン「ぐぅ!」
クルーゼ「所詮、人類同士の争いは絶えぬ。その果ては世界の破滅……もう、人は滅びるしかないのだよ!」
追い討ちのビームライフルは、フリーダムの盾によって防がれた。
キラ「それが、この世界であなたが導き出した答えなのか!?」
クルーゼ「フッハハハハハハ! 最初から答えは出ていたのだよ、キラ君」
だから、あえて戦闘狂であるオルバ達や、世界の復讐に燃えるフロスト兄弟と手を組んだ。
何もかもが予定調和だったのだ、この男にとっては。
クルーゼ「そしてようやく人類は、ウラノスによって新生されるだろう!」
キラ「そんな……!」
アスラン「諦めるなキラ! お前は……いや、オレ達は、まだ守るべきものがあるだろう!」
キラ「アスラン……そうだね!」
二人の中で、SEEDが弾ける。
クルーゼ「私を倒してとこで、もはやこの世界の滅びは確定している!」
キラ「それでも……僕は!」
アスランを始め、ここまで戦ってきた仲間を信じている。
飛び交うドラグーンを掻い潜り、ラケルタビームサーベルを構えた。
キラ「守りたい世界があるんだ!」
ラケルタビームサーベルがプロヴィデンスの腹部を刺し貫いた。
瞬間、プロヴィデンスは動かなくなり、ほどなくして爆発を始めようとしている。
アスラン「キラーーーー!」
爆発するその寸前、ジャスティスの手が伸びる。
フリーダムは、その手を掴んだその時、プロヴィデンスは爆発した。
それは、まさにクルーゼが長年抱え込んでいた邪心が破裂したように。
キラ「アスラン。行こう」
アスラン「あぁ、まだ戦いは終わっていない」
そう、クルーゼの考えが間違いであることを証明するために。
711
:
藍三郎
:2013/06/30(日) 18:14:23 HOST:50.142.183.58.megaegg.ne.jp
エイジ「悠騎は奮戦しているが……やはり、一人であのウラノスを相手にするのは無謀だ!」
しかし、こちらもネオバディムとの死闘で、大半の機体が損耗している。
戦力を温存していたヴィナスの手駒達を相手に、前に出るのが難しいのが現状だった。
中でも、新たに出現した二機……ヘリオスとセレネスの性能は量産機の域を越えていた。
ヘリオスとセレネスは、ロストセイバーをベースに、ヴィナスがマシンセルを用いて新たに開発した機体だ。
汎用性が高いが、突出した機能を持たなかったロストセイバーに比べ、
重装甲、射撃戦特化のヘリオスと、機動性、近、中距離戦特化のセレネスと、それぞれの長所を伸ばしている。
その名の由来が、かつてヴィナスが所属していた二つの組織、太陽(エオス)と月(アルテミス)であることは明らかだった。
飛影と零影を前にして、藍色の装甲に、女性的なラインを持つ機体、セレネスが前に出る。
ジョウ「行くぜ、イルボラ!」
イルボラ「おう!」
飛影と零影は、残像が残るスピードで移動しつつ、敵機を挟み込む。
両側から同時に放たれる、カタナの一閃。しかし、夜空に鳴り響いたのは装甲を切り裂く音ではなく、金属が衝突する甲高い音だった。
ジョウ「ちぃ……!」
セレネスが手にした、二本の三日月型の刃、クレセントエッジによって、双影の刀は止められていた。
分身に一切惑わされることなく対応してみせたのだ。
ヘリオスを操る男性型のクリスチャンに、セレネスを操る女性型のクリスティン。
彼ら彼女らは、ニュータイプにサイコドライバー、様々な特殊能力者のデータとクローニング技術によって生み出された人造兵士、いや、生体兵器だった。
マザーグースにより創られた彼ら彼女らは、ヴィナスによって更なる改良が加えられている。
新たに追加されたデータには、二体の忍者ロボのものも加わっていた。
セレネスの両肩から、左右三枚合計六枚のクレセントエッジが分離する。
両手に携えた二枚と、宙に浮かび、遠隔操作で制御される六枚、合計八枚の三日月型の刃を振るい、鋭く切り込んで来るセレネス。
スピードこそ忍者ロボに劣るが、高度な演算機能を用いた先読みは、ジョウ達に常に紙一重の回避運動を強いていた。
しかも、敵はセレネスだけではない。
橙色の装甲を持つ特機級の機体・ヘリオスは、その動きの隙間を縫い、後方から熱線を降らせる。
完全兵士のクリスチャンとクリスティンによって操られる二機の連携は完璧で、ウラノスへの接敵を許さない。
飛影は、隙を見てビーム銃を撃つが、クレセントエッジは特殊なフィールドが施されているらしく、刃の鏡面で弾かれてしまう。
セレネスの八枚の三日月刀は、攻防一体の戦陣を形成していた。
ヘリオスの背部、プラズマ発生装置である太陽を模した円環が白熱し、中心部に輝く球体が発生する。
大型のプラズマ球は円環を離れ、夜の空へと舞いあがり、本物の太陽のように周囲を漂白させた。
古来より、人々に恵みと渇きをもたらしてきた太陽。しかし、この太陽が降らすのは災厄だけだ。
拡散したプラズマが、コスモ・ストライカーズを守る艦艇へと降り注ぐ。
パルシェ「バリア展開……きゃぁぁっ!!」
防御兵装を持つ機体は自ら盾になろうとするが、プラズマ球一発一発の威力は高く、範囲が広いこともあって、全てを防ぎきるには至らない。
その一部は、コスモ・ストライカーズへも……
712
:
藍三郎
:2013/06/30(日) 18:14:57 HOST:50.142.183.58.megaegg.ne.jp
だが、その時……
漂白された空間を縫うように、黒い影が割って入る。
戦艦の上層へと達した影は、一気にその面積を広げる。
オーロラのように拡がった黒い布が宙空を覆い、プラズマの雨を受け止めた。
リュウセイ「お、お前は……!」
その姿を見て、誰もが息を飲んだ。
ヘリオスのプラズマ球から艦を守ったのは、シルクハットに黒いマントを纏ったガンダム……最凶四天王の一体、ガンダムミステリオであった。
ジェローム「そのような弱腰では困りますね。
せっかくのクライマックス、観客(オーディエンス)の期待を裏切らぬよう、盛り上げていきましょう」
黒いマントを元の大きさに戻し、ガンダムミステリオは一礼して見せた。
シャル「何故、お前がここで手を貸す?」
ジェローム「私はガンダムファイター、闘争にのみ至上の価値を見出すもの。
Mr.ヴィナスの創る新しい世界とやらに、私が立つ舞台は無いようですからね。
ここは貴方がたに協力させていただきますよ」
ミステリオがステッキを一振りすると、虚空に無数のナイフが出現。敵群に向かって飛んで行く。
ヘリオスは全身を覆うプラズマフィールドで、セレネスは避けるか打ち払うかしてナイフを迎撃する。
だが……
ナイフが触れていないにも関わらず、セレネスの機体の腕や脚が寸断される。ただの射出型ナイフではなく、
間に視認困難なモノフィラメント・ワイヤーを通し、敵機体を切断したのだ。
ジェローム「古典的なトリックですが……過去のデータに頼って戦う貴方がたには効果覿面でしょう?」
ヘリオスにはさすがに糸などでダメージを与えられない。
しかし、プラズマフィールドに接触したナイフは、こぼれ落ちることなく、その場に留まり、フィールドの電気を帯電し続けていた。
キョウスケ「……そこだ!」
アルトアイゼン・リーゼは近くにいたヘリオスに突っ込みナイフ目掛けてバンカーを叩き込む。ナイフはバリアを貫通し、そのままヘリオスの装甲へと減り込む。
ガンダムミステリオ自身も、それに応じて敵陣へと切り込む。
ほぼ無音でセレネスに近付くと、ステッキに仕込んだビームサーベルを抜き放った。
セレネスも、クレセントエッジで迎撃しようとするが、ジェロームの剣閃は、まるで曲がったような軌道で三日月の刃をすり抜け、セレネス本体へと到達。その装甲を切り裂いた。
ドモン「速く鋭いだけでなく、自在に変幻し、相手に予測を許さない剣……
奴はただの手品師ではない。超一流の剣士、いや、ファイターだ」
奇術を思わせる特殊な兵装に惑わされがちであるが、この男の強さを支えているのは、それらを自在に使いこなず極限にまで高められた彼自身の技量だ。
イリアスにドラクロワ……これまで倒した二人の四天王が、規格外の暴威を振るう人間を超えた怪物ならば、
ジェローム・フォルネーゼは、己の技量を達人の域にまで磨き上げた、人間のまま怪物を超えた存在だった。
ゼド「だからと言って、信用などは出来ませんが……ウラノスを倒さねば、全てが水泡に帰すのも事実。
皆さんは早くウラノスの下へ!ここは私と白豹が……」
それは艦の防衛だけでなく、同時にジェロームの監視を受け持つことも意味していた。
713
:
蒼ウサギ
:2013/07/25(木) 01:44:57 HOST:i114-188-250-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
=コスモ・ストライカーズ=
由佳「っ! 皆さん、無理はしないでください! 機体が危ないと思ったらすぐに帰艦を!」
強気に号令するも、由佳は内心で焦燥している。
アイのタイピング音が聞こえるたびに、「まだか?」と問いたくなる。
だが、由佳はあえて問わない。完成すれば、いずれアイやレイリーからの報告があるはずだ。
だから、由佳は彼女達を信じて、今は自分が出来ることをやっていた。
マリュー「収容先はアークエンジェルやエターナルでお願い! いいわね、ラクスさん」
ラクス「もちろんです。損傷した機体はこの二隻で補います」
サラ「いえ、フリーデンⅡでも収容先を許可します……キャプテン、勝手をお許しください」
サラの通信がジャミルに届いたてから、すぐに「構わん」という返事が返って来た。
マリュー「サラ副長……」
サラ「私達は後方支援に専念しましょう。ラミアス艦長」
§
ディオ「ありがたい申し出だねぇ。なぁ、カトル?」
カトル「えぇ、そろそろ機体も限界でしたから……」
トロワ「だが、オレ達なら今すぐこのビルゴ隊を全て破壊できる」
五飛「自爆装置か……だが、オレは断る!」
スッパリ言い切った五飛に彼らは少し戸惑いと安堵が入り混じった表情をする。
五飛「オレはトレーズとの決着を奴らに奪われたからな……借りは返させてもらう!」
ヒイロ「そうだな…」
静かにヒイロも続いた。
ヒイロ「オレ達が自爆装置を押すことは容易い。……だが、それでオレ達の任務は達成したとはいえない」
そう、と一拍置いた後、ヒイロも断言する。
ヒイロ「オレ達は死ねない」
彼らは優れたエージェント。
任務達成が第一なのだ。そして、彼らの任務は……。
ヒイロ「目標、<アルテミス>……破壊する」
狙って放たれたツインバスターライフルはビルゴⅡのバリアごと多数、撃墜していった。
714
:
蒼ウサギ
:2013/07/25(木) 01:45:33 HOST:i114-188-250-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
そして、エクシオン改とウラノス。
悠騎とヴィナスの戦いは、激化していた。
ヴィナス「どうしたのです? まだ貴方の中の「べラアニマ」は活性化しないのですか?」
悠騎「っ! てめぇ、本当にどこまで知っている? この能力(ちから)のことを!」
巨大化した剣も、さらに大きいヴィナスのカラミティブレードの前には短剣も同様で、完全に遊ばれている。
ヴィナス「情報はガリア…いえ、貴方方にはルドルフ少佐の方が馴染みやすいでしょうね
彼から色々と教えてくれましたよ」
カラミティブレードの刀身がぐにゃりとねじ曲がり、まるでロープになったかのようにエクシオン改を縛り上げた。
ヴィナス「「べラアニマ」……それもまた失われた歴史“ロストセンチュリー”の遺産の一つですよ!
一種の細胞であり、普段は普通の細胞として人体に溶け込んでいます。
火事場の馬鹿力、という言葉があるように、「べラアニマ」を持つ者は、ある条件を満たすと、
「アンフィニ」という文字通り、無限のような力を発動します」
ですが、人間の体では「アンフィニ」にの力では耐えきれません。
嬉々としたヴィナスの高説は続いていく。
ヴィナス「そこで、「ハ―メルシステム」です。なるほど、これは「アンフィニ」の力をより頑丈な機械の身体に転換させ、
生身の肉体の代わりに無限なる力を与えてくれます」
悠騎「だが、所詮、パイロットは生身の人間だから、いくら機体性能が上がろうが短時間しか保たないってわけか!?」
ヴィナス「そうです。まさに諸刃の刃! 「アンフィニ」はあくまでその持ち主の潜在的パワーを発揮、無限に上昇させるためのもの
だが、それでは人体には非常に負担が掛かるものなのです」
悠騎「チッ、どうりでアレが発動した後は、体中が気だるくなって、眠たくなるもんだ!」
ヴィナス「だから、一般的には条件を満たさないと発動しないわけです」
だが、私は違う! と、ヴィナスは、カラミティブレードを解いて、今度は鞭のように振るう。
ヴィナス「ルドルフ大佐は、「べラアニマ」を使いこなしているようにみえて、実は不完全だったのです。
ですが、その簡易性は充分な素材となりえました。
私はその簡易性と、貴方方、本家のパワーを融合させたのです。しかも時間制限はありません!」
カラミティブレードの鞭の不規則な攻撃から、悠騎は何度も当たりつつも、回避に専念する。
ヴィナス「何故だかわかりますか?」
悠騎(っ! どうせ勝手に喋るんだろうが……!)
内心で悪態をついてみたが、熱を帯びたヴィナスの弁は冷める様子はない。
無言を「知りたい」という勝手な答えと受け取った。
ヴィナス「それは薬物強化や人体改造! ウラノスに乗る為のアクセス権も兼ねてやりましたよ!
もちろん、実験に実験を重ねました。
実験材料にはティファ・アディールのクローン等で困りませんでしたからねぇ!」
悠騎は、苦渋に顔を歪めた。あまりにも目の前の相手が狂気じみていた理由もあるが、それ以前に……
彼が哀れに見えてきたからだ。
悠騎「……お前は、たった一人で復讐を果たすつもりだったのか?」
ヴィナス「当然です」
冷たく言い切ったそれは、悠騎の中で何かの決意が固まった瞬間だった。
§
レイリー「もう本体は完成している……あとは、剣だけだよ!」
格納庫で檄を飛ばすのは、レイリーだ。
本体そのものはブレードゼファーを元に改造するだけだったので早く終わったが、肝心の武器が今だに手こずっていた。
ルリ『二つのDジェネレーターのエネルギー供給に耐えられる剣は、やはり難しいですね』
アイ『最終的にはブレードゼファーからもDジェネレーターが供給されます。そうなるとますます耐久性が問題となりますね』
設計は完璧にできているが、やはりその問題に突き当たったかと、レイリーはごちた。
仮にテストで成功しても、実戦とは違う。ほんの少しのヒビなどで剣そのものが粉々になるかもしれない。
レイリー「素材そのものから見直している時間はもうない……せめて、一瞬だけでもフルパワーが出せれば」
ルリ『一瞬だけなら可能です』
アイ『現状、リミットⅡ解放までは安定してます』
レイリー「リミットⅡか……」
その答えにレイリーは難色を示した。
レイリー「あとは、パイロット次第ってことか」
715
:
藍三郎
:2013/08/03(土) 23:23:36 HOST:50.142.183.58.megaegg.ne.jp
鞭の形状を取っていたウラノスの剣が、先端から二つに裂ける。
二つに分かたれた刀身は、さらに二つに……
やがて、九尾の狐の尾のように無数に分かたれた形状となる。
これにより切れ味と柔軟性に加え、攻撃範囲まで拡がった。
悠騎「ちっ、蝿叩きかよっ!!」
回避運動を取るが、機体の右肩から先をごっそりと削り取られてしまう。
悠騎「ぐっ……」
集中を切らした覚えはない。
それでも死力を振り絞って尚埋めがたい、
自分と敵手の間にある機体性能、加えて総合的な実力差が、この結果を導いたのだ。
ヴィナス「おや、当たってしまいましたか。
もう少し話を続けても良かったのですが……ここで命落とすようなら、所詮それまでのこと……!」
ヴィナスは、まだ本気を出しているとは言い難い。しかし、殺さぬつもりも無いようだ。
横薙ぎの一閃が、エクシオンを襲う――!
リュウセイ「ドミニオン・ボォォォォォル!!」
SRXの放った念動球が、カラミティブレードを弾き、悠騎を間一髪のところで救う。
悠騎「! みんな!」
量産機の壁を突破したメンバーが、続々と駆け付ける。
ロム「悠騎! お前は一旦退け!」
ゼンガー「新たな剣を手に、戻って来い!」
エイジ「どの道、その機体じゃそれ以上は戦えない!」
悠騎「……みんな、すまねぇ!」
軽く礼を言って、後方へと下がる悠騎。
キリー「そりゃこっちのセリフだぜ。
一人であのバケモンとあそこまで渡り合うたぁ……カッコつけすぎだっての」
ライ「出来れば、これ以上あいつに無茶させたくはないがな……」
716
:
藍三郎
:2013/08/03(土) 23:24:57 HOST:50.142.183.58.megaegg.ne.jp
真吾「ゴーフラッシャースペシャル!!」
ゴーショーグンの背から放たれる、数条の青き輝き。
ウラノスはそれを、幾つもに分かれた剣を振るい、刀身を鏡面にして反射させていく。
ドモン「おおおぉぉぉっ! 爆ぁ熱! ゴォォォォッド・フィンガァァァァァァッ!!」
死角から放たれたゴッドフィンガーに対しても、ウラノスは障壁を収束。
巨大な拳を思わせる塊に変えて、ゴッドフィンガーにぶつける。
ドモン「ぐうっ……」
相殺により発生した衝撃波が、ゴッドガンダムを後方へと弾き飛ばす。
キリー「ちっ、こちらの取っておきを、尽くかわされるとはよ……」
こちらの攻撃の軌道、威力、性質を即座に読み、それに応じた迎撃手段を選択する。
ウラノスのスペックは確かに驚異的だ。
しかし、眼前の敵の本当の強さは、パイロットであるヴィナスの圧倒的な技量、反射神経、
そして状況に応じて次々に効率的な迎撃手段を生み出す応用力にこそある。
ゼンガー「チェストォォォォォッ!!」
裂帛の気合と共に振り下ろされた、ダイゼンガーの斬艦刀に対しては、カラミティブレードを一本の大剣に凝縮。
更に刀身に障壁を纏わせ、強度を増す。これで、双方威力は互角。
大剣が激突する間も、障壁や雷撃を用いて、周囲の敵機体を牽制する。
ヴィナス「あなた方は紛れも無く、一騎当千の猛者達です。
これまでガデスやゲペルニッチ、闇眼虎皇といった強敵達を下して来ただけのことはある。
何故貴方達が私の世界に居なかったのかと、恨めしくなる程にね……」
最後の部分には、G・K隊ではなく、自分達を救わなかった運命への怨みが込められていた。
ヴィナス「ですが、貴方達はこれまでの戦いで、私に手の内を見せすぎた。力を出し惜しみできるような、甘い戦いでは無かったはず。
もはや貴方達の行動パターンは全て、私の頭の内にあるのですよ」
ヴィナスの言うことは、ハッタリではないだろう。それはここまでの一斉攻撃が、尽く弾かれていることからも分かる。
ゼンガー(それだけではない、奴の強さは……)
相手を見下すような物言いだが、ヴィナスは決して油断していない。全身全霊で持って、ただ一人で数で勝るこちらを打ち破り、己が悲願を成就せんとしている。
ガデスや深虎は、己の力に溺れるが故に、敵に対する油断と驕りがあった。それゆえに隙が生まれ、強大な力を十全に使いこなせたとは言い難かった。
あの男は違う。こちらの手を徹底的に研究し、対処法を練り上げ、ウラノスの機体性能を最大限引き出してそれを実現している。
それは敗北を糧とした強さだろう。敗北を知った者は、勝利に対してより貪欲になる。驕りや余裕といった曇りが落ち、ただ敵を斬ることのみに専心する剣となる。
エイジ(折れた剣の先にある境地……俺達もここに至るまで、幾多の敗北や喪失を経験してきた。
だがそれも、世界一つを失った奴の絶望に及ぶがどうか……)
ゼンガー(勝機があるとすれば、それは、これまで奴が目にしたことのない未知の要素……
星倉よ、やはりこの戦、鍵を握るのはお前のようだ!)
717
:
蒼ウサギ
:2013/08/23(金) 02:13:59 HOST:i114-189-99-30.s10.a033.ap.plala.or.jp
=コスモ・ストライカーズ=
よろよろと危なげな飛行のまま、エクシオン改は着艦し、格納庫へと収容された。
戦場を離れて、ようやく機体の損傷具合が思った以上に感じた。
そして、疲労感も。
悠騎(けど、ここで弱音は吐けねぇ!)
外から何か聞こえるが、ハッキリとは聞きとれない。
自分が操縦桿から中々手が離れない時に気づいた時には、整備班達にコクピットを開けて貰っていた。
油くさい格納庫がやけに涼やかな外気に感じられる。
レイリー「ちょっと、大丈夫なの!? 怪我は?」
悠騎「あ、…いや、ただの打ち身や打撲程度だ」
レイリー「なら、医務室で限界まで休んでなよ。……これからアレの最終調整に入るから」
悠騎「っ! オレにも何か手伝いを―――」
レイリー「パイロットは、休むことも任務の一つだよ。それに今更アンタの腕を借りるほど、ウチの整備班は落ちぶれちゃいない」
悠騎は、レイリーや他の整備員達の顔を見渡した。
誰もが自分ができることをやっていて、とても入れる雰囲気ではないことを肌で感じ取った。
悠騎「……わーったよ。後は頼んだぜ」
§
ウラノスの戦いに、フリーダムやジャスティスも参戦してきた。
キラ「もう止めるんだ!」
ヴィナス「私にその言葉は無意味ですよ」
フリーダムがラケルタビームサーベル振るうも、ウラノスのカラミティブレードがあっさりと切り払う。
瞬間、キラの目にアスランのジャスティスが映った。
キラ「アスランっ!」
アスラン「あぁ!」
二機は阿吽の呼吸でハイマットモードに入る。瞬間、全ての火力がウラノスを襲う。
ヴィナス「ほぅ、中々のコンビネーション――――ん!」
リュウセイ「こっちだ! ヴィナス!」
アヤ「リュウ、今よ!」
別の方向からSRXのHTBキャノン―――通称、天上天下一撃必殺砲が放たれていた。
それらの攻撃がウラノスに直撃し、その場で大きな爆発を上げる。
だが、攻撃が当たったからといって、誰もが安心してはいない。
いつでも反撃が来るかもしれないという緊張感で戦ってる。
ヴィナス「……さすがですねぇ」
予想通り、パイロットの声が聞こえてきた。
そして、煙がきえる頃、やはりそこにはウラノスの姿があった。
さすがに無傷ではなかったが、損傷部の自己修復はもう始まっている。
718
:
蒼ウサギ
:2013/08/23(金) 02:14:52 HOST:i114-189-99-30.s10.a033.ap.plala.or.jp
リュウセイ「ちっ、もう一発!」
ライ「待て! トロニウムエンジンが安定しない上、大尉の消耗も考えろ!」
リュウセイ「うっ!」
ヴィレッタ「どうやら、HTBキャノンの連続発射はまだ無理のようだな……」
ゼンガー「しかも、奴は以前、オレ達がヤツの基地を強襲した時より、遥かにパワーが増している」
リュウセイ「これも…特異点ってヤツの力かよ!?」
まぁ、それもあるでしょうね、と、ヴィナスは彼らを嘲笑った。
ヴィナス「しかし、高密度に凝縮した障壁ともう一つのカラミティブレードを出して、受け止めても
ウラノスは損傷を被ってしまった。……貴方がたは、やはり計算以上の戦果を常に上げます」
煙が完全にはれて、彼らが目にしたのはカラミティブレードの二刀流だった。
リュウセイ「や、野郎……!」
キラ「くっ! 僕達だけじゃダメなのか……!?」
ヴィナス「悲観することはありません。こちらは無傷で防ぐ予定でしたから」
挑発ともとれるヴィナスの発言だが、それに乗せられる者は誰もいない。
一見、隙だらけに見えるウラノスだが、不気味な威圧感が迂闊な動きを躊躇わせる。
ヴィナス「こないのですか? ならば穴が広がりきるまで待つだけですね」
一同が見上げる次元の穴。
それは、確実に広がりつつあった。
リュウセイ「ちぃ! タイムリミットがくればオレ達とおさらばかよ!」
ヴィナス「そんなところでしょうか? まぁ、こちらとしては精々、当て馬として存分にかかってきて欲しいのですがね
ウラノスの力を試す意味でも」
キョウスケ「安い挑発だな」
ゼンガー「だが、このまま何もしなく、みすみす奴をいかせるわけにはいかん!」
ダイゼンガーが構えた。
ヴィナス「ふふふ、そうこなければ面白くありません」
ゼンガー「黙れ! そして聞け! 我が名はゼンガー・ゾンボルト。この世界を守る剣なり!」
それが合図であるかのように、その場にいる機体は一斉にウラノスに仕掛けていく。
§
=コスモ・ストライカーズ 医務室=
コスモ・ストライカーズには、二つの医務室がある。
二隻の戦艦が合体したからといって、それぞれの医務室が一緒になるわけではない。
悠騎は、次の出撃に備えて格納庫に近いコスモ・アーク側の医務室を利用していた。
レイン「これで応急処置はできたわ」
悠騎「あぁ、助かったぜ」
腕を少しくらい激しく動かしても痛みはこない。
これなら再出撃は問題ないと思い、レインに感謝した。
レイン「ドモンもよく無茶するから、これくらいは慣れてるわ」
悠騎「なるほどね」
妙に納得する悠騎の元に、医務室のドアが開く。
機体を収容した、新しい怪我人かと思いきや、予想が外れた。
719
:
蒼ウサギ
:2013/08/23(金) 02:16:00 HOST:i114-189-99-30.s10.a033.ap.plala.or.jp
ミキ「先輩! 大丈夫でしたか?」
悠騎「お…おい、ミキ。ブリッジにいなきゃまずいんじゃないか?」
ミキ「艦長達の許可をもらってきましたから……あの、これ」
ミキが徐に差し出したのは、栄養パックだった。
水分と栄養が同時に口径摂取できるそれは、こういう際に手軽だ。
味の方は、人それぞれだが。
悠騎「おう、悪いな。丁度、喉乾いてたんだ」
受け取るや否や、すぐにそれを一気に飲み込む。
ミキ「あ、あの…先輩」
悠騎「ん?」
ミキ「あまり、一人で抱え込まないでください。……先輩一人で戦ってるわけではありませんから」
一拍の間が訪れ、悠騎はクスリと笑い、ミキの頭を撫でた。
悠騎「……あぁ、そうだったな。ありがとよ、改めて教えてくれて」
ミキ「そ、そんなこと……」
悠騎「それに、今度の機体は、トウヤさんやエッジの野郎の分も背負ってんだ……
そうなると、ますます一人で戦ってるっていうことなんて傲慢な考えは捨てないとな…」
そう、ヴィナスのように、と、悠騎は心の中で呟いた。
その後、悠騎は格納庫へと戻った。
悠騎「レイリー、準備はできてるか?」
レイリー「そっちはもういいのかい? ま、物資も時間もないし、完璧とはいえないけど機体事態は完成してるよ」
レイリーが言わなくても、悠騎には新型の姿がわかった。
ブレードゼファーが、まるで自分の腕を保護するかのように装着しているバーサーカー・メイルの腕。
その他にも、強襲型に付けられていたパーツがちらほら見え隠れしている。
そして、極めつけはその隣にある巨大な実剣。
その刀身には、ナックルゼファー、そしてメテオゼファーに搭載されていたGジェネレータが確認できる。
まるで宝石のようにその二つは輝いて見えた。
レイリー「重量級の剣よ。普通に使えば、ビルゴくらいは破壊できるわ」
悠騎「だが、それじゃ足りねぇ」
レイリー「わかってる。……現段階ではリミットⅡが限界よ。それ以上は、機体事態がもたないわ」
悠騎「リミットⅡまでか……」
正直、厳しい。
威力は、強襲型よりもかなり上昇しているだろうが、あのウラノスには届かないだろう。
レイリー「でもね、まだテストもできてないの。だから、さっき言ったのはあくまで計算の範囲内」
フッ、と笑ってレイリーは続ける。
レイリー「あんたも、あんた達は常に技術者の上をいく。……だから、思う存分やってみたら?」
悠騎「レイリー……」
あの剣がどれだけ複雑で未知数なのが、今のレイリーの顔を見れば一目瞭然だった。
もっと物資が、いや、時間があれば理想通りに完成したであろう。
レイリーは技術者として、また人間として、未完成品を戦場に送るのは気が引けてのだ。
悠騎「で、あの剣に名前とかあるのか?」
レイリー「別に。まぁ、アンタの剣だから、好きにつけたら?」
悠騎「わかったぜ!」
答えるなり、悠騎は新しいブレードゼファーのコクピットに滑り込んだ。
OSを立ち上げ、機体音声がオールグリーンを告げる。
悠騎「ブレードゼファー・エクス、星倉悠騎。出るぜ!」
§
格納庫のハッチが開くなり、飛び出したその真紅の機体は、すぐさまその大きな剣を振りかざした。
悠騎「ゼファーブレード! リミットⅠ解放!」
新たな剣―――ゼファーブレードの刀身が炎のように真っ赤なエネルギー体で覆われ、さらに巨大化する。
まさに刀身を含め、巨大化した剣はまさにDエネルギーの塊。
悠騎「スター・オブ・クラージュ!!」
一振り。たったそれだけで範囲内にいたビルゴⅡの群れが爆散していった。
それは、プラネットディフェンサーすら防げなかったという証である。
悠騎「さぁ、第二ラウンドといこうぜ!」
720
:
藍三郎
:2013/08/27(火) 22:05:47 HOST:50.142.183.58.megaegg.ne.jp
スター・オブ・クラージュ。
新たな剣から放たれたその輝きは、彼の眼をたちどころに魅了した。
ジェローム「何と……まさに星海に架かる虹の如し……
裏方に徹するも悪くないと思っておりましたが、このような輝きを見せられては、
舞台に上がる欲求を押さえられそうもない……!」
ジェローム・フォルネーゼを魅了したのは、網膜に映った輝き以上の“可能性”だ。
G・K隊とヴィナスの駆るウラノスでは、力の差があり過ぎて、勝敗は見えていた。
だからこそ、思わずG・K隊へと加勢したのだ。
だが、彼の剣の輝きを見て、考えは変わった。
彼が手にした新たな機体(つばさ)は、更なる高次の領域へと彼を押し上げ、
天空の神さえも貫くほどの可能性(やいば)を秘めている――!
ジェロームが、殺意の矛先をブレードゼファー・エクスに向けたその瞬間――
同程度の強い殺気が、その機先を制した。
ジェローム(やはり、ここで私を行かせるほど油断してはいないようですね)
殺気の源は、ヘラクレスパイソンに乗るゼドだった。
手にしたトランプを、そちらに向けて投擲しようとする。
その刹那、身を翻し、背後から飛んできた爪を回避。
あえてこちらに分かりやすく殺気を放ったのは囮。
それに紛れ、気配を殺して至近距離まで接近していた。
回避運動に合わせて返しの刃を放つが、メーザーで覆う爪で弾かれる。
黄金の輝く拳が、視界の端に止まる。
ヘラクレスパイソンは一足飛びでこちらの間合いまで踏み込み、渾身の一撃を繰り出す。
刹牙の奇襲を避けることは勿論、その体勢や方向まで読んだ完璧なタイミングだ。
ガンダムミステリオが掌をかざすと、正面に六枚ほどのトランプの盾が出現。
最大21枚展開可能だが、今の時間ではこれが限界。
ヘラクレスパイソンの拳は、そのトランプを次々に貫いて、
ミステリオに到達、その肩部分を大きく抉り取る。
ゼド「……これは、警告です。もし、ここで我々への敵対行動をやめるならば……」
そう言いつつも、既に彼の発する闘気はこちらを完全に敵と見做している。
それどころか、その言葉を信じて隙を晒そうものなら、容赦なく命を奪う腹積もりだ。
一方で、彼はこちらがそんな警告を受け入れるはずなど無い事を知っている。
あえて言ってみせたのは、彼なりの律儀さによるものだろう。
返答代わりに、ヘラクレスに向け刃を一閃。
挟み撃ちの形で同時に迫る刹牙には、特殊流体金属製のマントで対応する。
ジェローム「ふむ、Mr.星倉との相対は叶いそうもありませんね。
しかし、バミューダストームの皆さま……
貴方がたならば、この世界最後の相手として申し分ないでしょう……!」
ジェローム・フォルネーゼの白い髭の下は、隠しきれない喜悦に歪んでいた。
ミステリオが纏う黒い布が、殺気となって体に絡み付く感覚を覚える。
ゼドも白豹も、一片たりとも油断していない。
先程の攻撃が上手くいったのは、ジェロームの意識が悠騎に向いていたためだ。
ここからは、全力でこちらを殺しに来るだろう。
本来は、二人がかりでなお勝機の見えない程の使い手だ。
ゼド(しかし、ウラノスとの戦いに横槍を入れぬためには、ここで彼を足止めせねば……
星倉くん、君はただ真っ直ぐ進みなさい。貴方が倒すべき、最後の敵の元へ!!)
721
:
藍三郎
:2013/08/27(火) 22:06:50 HOST:50.142.183.58.megaegg.ne.jp
悠騎「おぉらぁぁぁぁぁっ!!!」
ブレードゼファー・エクスはゼファーブレードを振り下ろし、今度はヘリオスを一刀両断にする。
同時に、返す刀で背後から迫るセレネスを断とうとするも、
セレネスはその更に背後から飛んできた赤い刃によって両断される。
文字通り血塗られた装甲を纏った麟蛇皇が、呪血で形成された刀を手に浮揚していた。
灯馬「悠騎くん、ホンマすごいなぁ……今の君なら、いっちょ全力で死合ってみたいわぁ」
灯馬は感嘆の声を漏らし、思わず己の唇に舌を這わせる。
すでに味方とは思えない程、剣呑な気配をその身に纏っている。
灯馬「せやけど、君の意識は今、ヴィナス(あいつ)にしか向いとらん。
そんな君と戦っても、おもろないわ。
戦うのは、あいつを倒して、元の世界に帰ってからやな」
悠騎「俺は、別にお前とは戦いたくねぇけどな……っと!」
会話をしながらも、二人は傍にいたロストセイバーをほぼ同時に切り倒す。
これまで幾多の戦場を共に駆けて来ただけあって、呼吸の際は。
灯馬は何かと危ない奴だが、手を出さないと宣言した以上、不意打ちで仕掛けて来るような真似はすまい。
悠騎も、その点だけは彼を信用できた。
何より、灯馬に指摘された通り……今の自分は、ヴィナス以外の相手に、精神を集中できそうもない。
722
:
蒼ウサギ
:2013/09/16(月) 02:33:29 HOST:i121-118-99-246.s10.a033.ap.plala.or.jp
由佳「これより、コスモ・ストライカーズも戦闘行動に移ります!」
ルリ「ナデシコCも同じです」
そう伝えるや否や、二隻の戦艦はそれぞれの主砲のエネルギーチャージを開始した。
ミキ「エネルギー充填……90!…95…100%」
トウヤ「照準は完了できたよ」
アイ「星倉艦長、今の合体状態での「これ」は、正規の威力の60%まで出せません」
由佳「それでも充分すぎてお釣りがくるわ!」
コスモ・ストライカーズの前方、コスモ・フリューゲルの主砲口が大きく開く。
ミキ「斜線軸上に味方機はいません!」
由佳「よし、ギャラクシー・ノヴァ、発射!」
コスモ・フリューゲル、コスモ・アーク二隻のエネルギーが集合して強大化されたビーム砲が発射された。
それと同時にナデシコCもグラビティブラストを発射していた。
ビルゴⅡ「!?」
強大な二隻の砲撃は、無限に思われていたモビルドールを一掃した。
§
一方、ヴィナスがいるウラノスへと機体を飛ばしていた悠騎は、そこで思わぬ光景を見てしまう。
悠騎「っ! ヤツが二刀しているとは聞いてなかったぜ!」
カラミティブレードの二刀。それが悠騎にとって、どれほど脅威であるか予測できる。
悠騎「けどな、二刀が一刀に勝るなんてことは、必ずしもないんだぜ!」
烈火の一振りが、硬直していた戦場の時を動かした。
リュウセイ「悠騎か!?」
キリー「おぉ、また大層な登場だねぇ」
キョウスケ「どうやら賭け金の上乗せはできそうだな」
喜ぶ仲間達、そして―――
ヴィナス「ほぅ……」
ヴィナスは、思わず目を奪われていた。
一見、ブレードゼファーを少し改造しただけの機体。
しかし、その機体の倍以上はあろうかと思われる大剣がやけに目に付いたのだ。
悠騎「よぅ、待たせたな。ヴィナス」
ヴィナス「フフっ、さすがしぶといですね。……それが貴方の新たな“剣”ですか?」
悠騎「まぁな」
余裕ぶって馳せ参じたはいいものの、内心、悠騎は焦っていた。
現在の機体状況では4段階あるリミットの半分程度しか発揮できないのだ。
723
:
蒼ウサギ
:2013/09/16(月) 02:33:59 HOST:i121-118-99-246.s10.a033.ap.plala.or.jp
ゼンガー「星倉。期待していいのだな? その新たな剣に」
悠騎「まぁ、それなりに…ですがね」
ここで過度な期待を持たせるほど、自惚れてはいない。
なにより、ウラノスに乗っている今のヴィナスは、まさに常識を遥かに超越している。
ヴィナス「では、ここで一旦、仕切り直しにしましょう。いい加減、膠着しているにも飽きてきましたし」
悠騎「ハッ! どうせ待ってれば、お前の勝ちな戦いのくせに……」
ヴィナス「性能テストは、徹底的にやっておきたい性分なのですよ」
悠騎「悪いが、オレ達はそんなことに付き合っている時間も余裕もないんだぜ」
それを合図にするかのように、ブレードゼファー・エクスが斬りかかった。
以前よりも巨大な剣は、強襲型とは一味違った斬撃を放つ。
ヴィナス「しかし、所詮は、直線的な攻撃。私には通じませんよ」
即座にウラノスの両手のカラミティブレードの刀身がぐにゃりと形を変える。
まるで元から鞭であったかのようなそれは、巨剣の太刀筋を潜り抜け、
一つはエクスに、もう一つは自機の防御のために使われた。
悠騎「リミットⅡ! 解放!」
瞬時の判断だった。
ウラノスのカラミティブレードがこちらの斬撃の合間を縫ってくるのは、容易に予想がついていたのだ。
後はベストなタイミングで“こちらも斬撃を曲げる”かどうかだった。
ヴィナス「!?」
直線上とは打って変わり、カラミティブレードのように曲がり始めた刀身は虚をつかれ、
さらに盾にしていたカラミティブレードの隙間をついていた。
ヴィナス「っ!」
悠騎「がぁっ!」
力ではカラミティブレードが勝ったものの、エクスのゼファーブレードもウラノスのボディに傷を負わせていた。
悠騎「ちっ! やっぱ、体長差には敵わなかったか!?」
大きく吹き飛んだエクスだったが、まだ損傷は軽かった。
ヴィナス「……」
こちらの真似事とはいえ、カラミティブレードの盾を縫い、傷さえもつけたこの一撃。
ヴィナスは、心の底から感嘆した。
ヴィナス「なるほど……新しい剣は伊達ではないようですね」
率直なヴィナスの感想が口に出た。
しかし、そんな呆けているヴィナスの隙を彼らは見逃すはずもない。
キョウスケ「貫け! バンカー!」
悠騎がつけた傷にアルトアイゼン・リーゼのバンカーが突き刺さる。
一発、二発、三発と、打ちつけられ、ウラノスがよろめく。
ヴィナスの一瞬の油断が招いてしまった。
ヴィナス「邪魔ですねぇ!」
盾にしていたカラミティブレードが動くその瞬間、ビームと弾丸がカラミティブレードを落とさせた。
仕掛け人はヴァイスリッター―――エクセレンだった。
エクセレン「は〜い。私の事も忘れて貰っちゃあ困るのよねん」
キョウスケ「悠騎だけが、お前の相手だと思うなよ」
ヴィナス「……ようやく面白くなってきましたね」
強気なことを言ってみるも、どこかでヴィナスは焦っていた。
たった一人の援軍で、一同に気合が入り、動きにキレが増している。
ドモン「どこを見ているっ!」
ロム「はあぁっ!」
ゴッドフィンガーとゴッドハンドスマッシュが同時に繰り出される。
すかさずカラミティブレードで迎撃しようと一瞬、思考したが……
ヴィナス「この程度」
彼らの攻撃は、障壁によって阻まれた。
ここで、ゼンガーが吼えた。
ゼンガー「星倉、行くぞ!」
機体を立て直したエクスに向けて言う。
悠騎「あぁ、もちろんだぜ!」
二つの強烈な斬撃が繰り出されるも、それらも障壁に阻まれる。
だが、障壁もこれだけの連続攻撃に耐えきれそうにない節が見られた。
ヴィナスは、内心で舌打ちをした。
ヴィナス「……吹き飛びなさい!」
ウラノスを周囲に覆っていた障壁が弾丸となって四方に爆散した。
吹き飛ばされる各機だったが、その闘志はまだ尽きてはいない。
それに……
ヴィナス(あの新たな剣で傷つけられた個所の再生が遅れている……?)
ヴィナスは、悠騎とその新たな剣に少しだけ興味が湧くと同時に畏怖を抱いていた。
724
:
藍三郎
:2013/10/05(土) 10:26:28 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ジェローム「ほお……これは素晴らしい。まさに、この戦いを締めくくるに相応しい戦いだ」
ジェロームは、G・K隊とウラノスの戦いを視界の端に収め、感嘆の吐息を漏らす。
それでいて、集中は現在の敵から切らしていない。
夜空に舞う機動兵器サイズの多数の符吹雪(トランプ)。
それらを防壁および隠れ蓑として、二人の猛攻を凌ぎつつ、投げナイフで反撃する。
ゼド「これが最後の戦いなら、そろそろ話して頂きたいものですね」
拳を連打し、相手のナイフを叩き落としながら、ゼドは会話を仕掛ける。
無論、会話中もその技量に隙は見られない。
ゼド「あなたが一体、何を企んでいるのかを。
Mr.ジェローム・フォルネーゼ……いえ、ルシア・レッドクラウドとお呼びした方がよろしいか?」
ジェローム「おや、お気づきでしたか」
そう答えた直後……ジェロームの白い髭が無くなり、白髪が黒く染まる。
その顔は、紛れも無くルシア・レッドクラウドのものだった。
ゼド「変装と脱出マジックは、奇術の基本ですからね。貴方にしては、あの退場の仕方はあまりに不自然過ぎましたよ」
ルシア「これはこれは、手厳しいお言葉だ。まぁ、私のような三流以下の手品師には、返す言葉もありませんが」
シルクハットの下で自嘲するルシア。
ルシア「さて、先程の質問ですが……何を企んでいたのか。
ネオバディムの目的が、闘争が永劫に続く世界の構築であることは既にご存知でしょう。
私は黒歴史に強い執着を持つMr.ユーゼス・ゴッツォに接触、彼と協力して、その望みのために計画を進めていきました」
ゼド「貴方がユーゼス氏を言葉巧みに操った、の間違いでは?」
ルシア「ふふふ、それは買い被り過ぎというものです。
それに、誰に何を言われようが、周囲の環境がどうであろうが、ヒトは最終的には己の意志で物事を決めている。
それが、ヒトであるということです。“私とは違う”……」
ゼド「……?」
彼の言い方をいぶかしむゼド。
今のルシアの言葉に、何やら暗い感情が宿っていることは彼でなくともわかるだろう。
ルシア「ねぇMr.グロリアス、おかしいとは思いませんか?
このロスト・アース、そして貴方達の世界の地球。この辺境の星には、あまりにも闘争の因子が集まり過ぎる……と。
異なる世界の壁を越えるという芸当は、本来至難の業。そう簡単に成せるはずがない。
しかし、この世界に来るものに限ってはそれは当てはまらない。世界を隔つ障壁など、軽々と飛び越えてしまう。
まるでこの世界へと流されることこそが、自然であるかのように……
アルテミスの介入だけではない、何かしがの原因があるはずなのです」
ここでルシアはやや上を見上げ、己が過去を語り始めた。
ルシア「……物心ついた時から、私の周囲では争いが絶えませんでした。
誰も彼もが、ほんの些細なきっかけで、互いを敵視し、怒り、憎み、殺し合う。
誓いますが、私は決して人に何かを強制したり、そそのかした覚えはありません。他者の精神を制御したわけでもない。
私が全てを知っているわけではありませんが、彼らは彼らなりの争う理由があり、意志があった。
故にその結末は、必然と呼べるものでした。
ですが私の周りでは、その必然が、奇跡のような確率で起こり続けた。
やがて、争いは街へ、国家へ、そして世界へ……文明が滅ぶまで、さしたる時間はかかりませんでしたよ。
私もまた、その戦乱に巻き込まれ、命を落としました……いいえ、落としたはずなのです。
しかし、私が再び目を覚ました時、私はこれまでいた世界とは、異なる世界にいました」
ゼド「!!」
725
:
藍三郎
:2013/10/05(土) 10:28:29 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ルシア「それが当然のことであるかのように、私は急速に新たな世界の言語、文化、慣習に馴染んでいきました。
“あつらえたように”、その世界で暮らす上での不自由はなかったのです。
しかし、世界は違っても、起こることは変わらない……
私の周囲では、自然に争いの種が蒔かれ、戦火は際限なく燃え上がり、世界は終わりへと雪崩込んで行くのです。
そして、第二の故郷が終わった後は、また……」
ゼドにも、彼の話の異常性が見えて来た。
ルシア「何千、何万、それこそ数え切れなくなるほどの世界の終わりを、私は目の当たりにして来ました。
その中には、貴方達の知る黒歴史や、プロトカルチャーが滅んだ瞬間にも居合わせましたよ。
長い……長い時を経て悟りました。私自身が、争いを誘発する“生きた特異点”なのだと。
此度の戦いも、無数の異世界との接続も、私の存在によって引き起こされたに違いない。
無数の並行世界を内包するこの宇宙、その“界闢の座”に座る造物主によって生み出され、
果てしなき進化のため、停滞した世界を終末(ラグナロク)へと導くギャラルホルンの吹き手、それが私!
思えば、この血の渇きも、争いを好む気質も、全ては私の存在ゆえの業だったのです」
ゼドは言葉を返さず、攻撃を続ける。
彼をしても、ルシアの発言はあまりに突飛に過ぎ、その真意を計りかねたからだ。
逆にその事が、彼の心に動揺を生じさせずにいた。
だが、ルシアは更に瞳を輝かせて続ける。
ルシア「ですが……ああ、果たしてそれは、生きていると言えるのか。
人は、己の意志で動き、何かを手に入れてこそ、人間と言える」
長い長い闘いの日々。演算者としての能力も、達人級の武芸も、
常人を遥かに超える時を生きた者の、戦闘経験値が生み出したもの。
いや、それは自身がそう思っているだけで、これも“闘争の特異点”としての機能に過ぎないのではないか。
この血と暴力と殺戮を求める衝動も、所詮は滅びを効率的に進めるために仕込まれた要素でしかなく、
自分の意志で積み上げた物など、何一つ無いのではないか。
己の存在に刻み込まれた使命を遂行しながらも……つい最近になって、そんな不安に苛まれる己を自覚しつつあった。
ルシア「神(だれか)に与えられた偽りではない、私自身の望みを得、叶えてこそ、私は人になれる。
このような考えが芽生えたのも、あまりに長い時を経たために、
私の特異点としての機能が摩耗しているということなのでしょうか……
しかし、この状態がいつまで続くかは分かりません。
私が私の意志で動ける内に、私は私の望みを叶える……」
ゼド「では、貴方の望みとは一体……」
ゼドの問いに対し、ルシアは澱みのない口調で答えた。
ルシア「……私という存在の消滅、それが私の望みです」
ゼド「……!」
ルシア「幾多もの世界で私は死を迎えました。迎えたはずでした。
ですが、死の淵から落ちた直後には、私はまた異なる世界で覚醒を果たしている。
私に科せられた特異点としての宿命は、私に終わりを許さない。
Mr.ヴィナスが目指す世界の再創造。それは、世界の始まりへと遡り、その元凶を討ち果たすことで成就する。
その暁には、私を生み出した因果は断ち切られ、私は完全な形で消えることができるでしょう。
永劫に生きる存在など、もはや人ではない。
私は人として、終わりを迎えることができるのです」
その刹那――
セレナ「そんなに終わりたいなら……今すぐ終わらせてあげるわ!!」
スカーレットフィーニクスの一閃が、ガンダムミステリオを頭から縦に両断した。
726
:
藍三郎
:2013/10/05(土) 10:29:54 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ゼドと白豹は、会話と戦闘を続けながら、ミステリオをセレナが奇襲を掛けられる位置へと巧みに誘導していたのだ。
ミステリオが、下半身のないモビルファイターであることは既に判明している。
爆発四散するミステリオ。
セレナ「世界の全てを犠牲にしてでも望みを叶えようなんて……貴方はとっくに欲深い人間よ……」
ゼド「……社長! 危ない!!」
爆煙から飛んできたトランプを、ゼドは拳で弾き飛ばす。
煙が晴れた後には、まるで無傷のガンダムミステリオが浮揚していた。
セレナに動揺の色は無い。こうなると最初から思っていたように。
セレナ「……今度は一体、どんなマジックを使ったのかしら?」
ルシア「手品(マジック)などではありませんよ。言ったでしょう? 私は三流以下の手品師に過ぎないと。
つけ加えるなら、ベルゲルミル・アスラが破壊され、爆炎に飲まれた時も、私は特に何もしませんでした。
意識が途切れたのはほんの僅かな時だけ。気がつけば私は別の場所に立っていたのです。
どうですか? 種も仕掛けもない、身も蓋も無い、正真正銘の奇跡(マジック)は?」
白豹「……つまり貴様は、肉体や精神ではない、存在として不滅なのか」
白豹が、初めて口を開いた。大老師の知識を受け継いだ彼には、理解も早かったのだろう。
どんなに在りえない現象でも、この世界の物理法則に乗っ取っている限り、そこには何らかの仕掛け(トリック)がある。
高度に発達した科学は魔法と変わりない。その点では、科学と奇術、現実と魔法は同一のものと言える。
だが、今ミステリオが行った復活は、それらとは完全に異なるものだ。
その裏には、奇跡を成立させるトリックやギミック、物理法則を組み立てた過程が存在しない。
ただ、「復活と言う結果」だけを世界に対し、強引に貼りつけたような現象なのだ。
この世にあらざる上位の存在が、この世の法則を直接手で描き換えたような出鱈目な奇跡だ。
その起源は異なるとはいえ、異界の理を持ち込むことで超常の再生能力を獲得した深虎と、似通った存在と言えるだろう。
あるいは、その起源すらも同一なのかもしれないが……
ルシア「その通り……世界が終わりの時を迎えない限り、私には死ぬことも許されない。
私はいわば、伏せたトランプのようなもの。
伏せたトランプは、表にするまではそこに何が描かれているのか分かりません。
透視できない以上、めくられるまでは可能性は52通り、あるいはそれ以上に存在する。
私はそんな、“不確定の狭間”に存在(い)ることができます。いや、そういった存在というべきでしょう。
陳腐な言葉を使わせていただくなら……“無敵”ということです。
世界が終わる時が来れば、それも自然に解除されますが……」
セレナ「そうなったとしても、その時あなたを倒したところで、また別の世界に転生する……ということね?」
ルシア「はい。そして、不確定存在であるということは、こんな手品も可能とします」
次の瞬間……何の前触れもなく、ガンダムミステリオが“二体に増えた”。
ゼド「白豹、あれは……」
白豹「……傀儡に幻像、偽体、また別個の機体が現れたわけではない。
あの二体からは、寸分違わぬ氣の波動を感じる。機体も、操縦している者も、全く同じ存在だ」
白豹の鋭敏な感覚を裏付けるように、二人に増えたルシアは、
同じミステリオのコクピットの中で、声を完璧に同調させて肯定する。
727
:
藍三郎
:2013/10/05(土) 10:31:17 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ルシア「ネオバディムにおいてはルシア・レッドクラウドとして、
アルテミスにおいてはジェローム・フォルネーゼとして。
同時に二か所に存在しながら、私は私の本能の命じるまま、世界に闘争の渦を広げて行きました。
その過程で、ウラノスによる世界の再創造という、私を消滅させる手段を発見できたのは僥倖です。
そも、手段を見出したことで、私の内なる望みを認識することが出来たのですから。
もはや貴方がたとの決着に拘泥する意味はありませんが……
Mr.ヴィナスが目的を遂げるまでは、足止めさせていただきます。私の安らかな終焉(ねむり)のためにもね」
二体となったガンダムミステリオは、一体だった時とまるで遜色ない剣腕で、一人が欠けたバミューダストームへと仕掛ける。
ゼド「ふっ……最凶四天王の残り一人がなかなか出て来ないと思っていましたが……
貴方一人で、二人分の枠を埋めていたという事ですか」
鳩型の小型支援機を拳で叩き落とす。白豹のように氣を感じることは得手ではないが、
それでもこの殺意や凄味は、紛れも無く自分がこれまで戦っていた敵(ルシア/ジェローム)であると断言できる。
もう一体も、社長と互角以上の戦いを繰り広げている。そちらも本物と見做して間違いないだろう。
ルシア「深虎にL.O.S.T.……彼らにも期待はしていたのですがね。
彼らが勝利すれば、世界は創り直されることはなく、その先にあるのは永劫の虚無のみ。それでも、私の望みは叶っていた」
ゼド「深虎との決戦で、貴方がたネオバディムが動かなかったのには、そんな理由もあったのですね」
二対一で何とか凌いでいた相手だが、こちらにセレナが加わったことで戦力的には互角だ。
だが、最も重要な問題はそれでは無い。
彼の話が真実ならば、この場で何度ミステリオを撃墜しようとも、ルシアを葬ることは出来ない。
ヴィナスの目的が完遂するまで、時間稼ぎを続けられてしまう。
それでも、ゼドは社長に対し、指示を仰ぐことはしなかった。
信頼しているからだ。彼女ならば、何かしらの策を用意していると。
本当に手の打ちようのない状態ならば、態度で分かる。
あるいはその態度ですら自らの意志で操り、配下の不安を取り除く……
それも含めて彼女の将器なのかもしれないが……
いずれにしろ、指示が無いということは、今はただ全力で敵と戦うだけだ。
白豹と同じく、戦場に置いて自らを一振りの刃とする心構えはゼドも出来ていた。
728
:
藍三郎
:2013/10/05(土) 10:32:18 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ミステリオの仕込みビームサーベルをメーザーソードで受け、セレナはぼそりと呟く。
セレナ「……今回の一件の裏に、あんたみたいな元凶(ヤツ)がいる可能性は、
この世界に来る前に、大老師から聞いていたわ……
誰がそうなのかは、今の今まで分からなかったけどね……
でも、存在することは分かっていた。ならば万が一遭遇した時のため、対策を打っておく必要があった……
不滅の超常存在、それを殺し得る毒の刃を……」
ルシア「……?」
セレナ「その対策(やいば)も、ついこの間仕上がったばかりだけどね。
色々と偶然に助けられた感はあるけど……間に合って良かったわ」
スカーレットフィーニクスは、道を開けるように左へと流れる。
セレナ「……灯馬くん、私の“もう一つの依頼”……今こそ果たして頂戴」
その直後……赤い奔流が、空白部分を突き抜けた。
ルシア「!!」
ミステリオは、マントに風穴を開けられながらも、咄嗟に右に流れて回避する。
遅れて来た突風が、マントを揺らし、宙を舞う血の飛沫が機体に触れる。それだけで、コクピットにいる己の心臓が震える。
直感できた。アレは自分に、終わりをもたらすものであると。
破滅の使徒たる己と比べても、なお濃密なる狂気。
目の前にいたのは、人の形をした殺意そのものだった。
灯馬「君か? ボクに斬られたいって言うとんのは?」
刀と鞘、左右に広げた武器から、赤き濁流が迸る。
麟蛇皇・紅は二振りの血刀を掲げ、不滅の魔術師へと斬り込む。
729
:
蒼ウサギ
:2013/11/02(土) 22:03:09 HOST:i125-204-42-234.s10.a033.ap.plala.or.jp
ガロード「ティファ、もう少しここで我慢していてくれるか?」
その質問に、ティファは、コクンと頷いた。
ティファ「ガロードも戦うなら、私も一緒に」
ガロード「サテライトキャノンはもう撃てないかもしれないけど、オレ、加勢したいんだ!」
ティファ「大丈夫、ガロード。……月はいつもそこにあるから」
ティファが指差す方向には、確かに月が見えていた。
§
嵐で切り裂こうが、雷に焦がれようが、彼らの攻撃は留まる事を知らない。
ヴィナス(『窮鼠、猫を噛む』・・・といったところでしょうか・・・それにしても)
彼らの動きは、決して捨て身や自棄になったものには見えない。
むしろ、冴えわたっている。
ヴィナス「大した人ですよ、あなたは!」
斬りむすぶ悠騎のブレードゼファー・エクスに向かって言う。
悠騎「オレがか?」
ヴィナス「えぇ。あなたがやって来て、明確に士気が上がっています。
これも天性のカリスマって奴ですか?」
悠騎「けっ、そんな役回りが似合うのは、ウチの妹みたいなもんだぜ!」
ヴィナス「フッ、ご謙遜を」
確かに星倉由佳は、あの年齢にしてこの愚連隊のような組織を纏め上げている。
それは確かに指揮官としての実力以前に、彼女のカリスマ性によるものだろう。
しかし、悠騎はそれとは別のものをヴィナスは感じ取った。
ヴィナス「少々・・・いえ、かなり荒削りですが―――」
悠騎「バカにしてんのか!」
ヴィナス「失礼。……ですが、あなたには戦場でお仲間を鼓舞できるような、そんな不思議な要素がある。
世辞ではなく、これはカリスマ性のものですね」
悠騎「んなこと言っても、何も出ねぇぞ!」
再び、悠騎の一振りが障壁を突き抜け、ウラノスのボディを傷つける。
ヴィナス(しかし、彼のあの剣のみ、障壁を無視するかのように斬りつける……厄介ですね
ですが、まだ私の方に利がありますよ!)
障壁を突破されてもなお、ヴィナスには勝利の自信があった。
補って有り余るウラノスの性能。そしてそれを十分発揮できる操縦技術に人工改造した己の肉体。
その二つの要素を一つでも覆ることがない限り、自分への勝利は約束されている。
730
:
蒼ウサギ
:2013/11/02(土) 22:03:45 HOST:i125-204-42-234.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎(くっ、このままだとジリ貧だ!)
果敢に挑むも、その答えは誰もが出ている。
向こうは、時間が経ち、次元の壁さえ開けれれば、いつでもウラノスの能力で別の世界へ飛んでいける。
対し、こちらは弾丸やエネルギー。パイロットの体力さえも減るばかりだ。
―――現段階ではリミットⅡが限界よ。
レイリーの言葉が過ぎる。
リミットⅡの状態で決着を付けられるほど、悠騎は傲慢ではない。
悠騎(決めるなら今か!)
ヴィナス「!」
悠騎の何かしそうな気配を読み取ったのか、ヴィナスは一旦、距離をとる。
その瞬間、ブレードゼファー・エクスは急降下していた。
悠騎「悪いな、レイリー……」
ある程度降下したところで、静止。ゼファーブレードを高々に掲げる。
悠騎「リミットⅢ!」
瞬間、ゼファーブレードに搭載されているナックルゼファーとメテオゼファー、二つのDジェネレーターのフル稼働と共に、
ブレードゼファー・エクスそのもののDジェネレーターもフル稼働を始める。
悠騎「解放!」
機体そのものの装甲が嫌な音をたて始めながらも、
三つのジェネレーターが生み出す膨大なエネルギー量がゼファーブレードに集束してくる。
その圧倒的なエネルギー量に、機体が振り回されないよう、悠騎は制御に精一杯のようだ。
ヴィナス「っ! 何をするつもりかはわかりませんが、そう簡単にやらせはしませんよ!」
あの剣の脅威はもはや証明済み。
隙だらけの今が悠騎を倒すチャンスだと確信した。
キョウスケ「っ! やらせるか!」
キョウスケだけではなく、その場にいる全員が止めようと駆けだす。
しかし、その前に飛んできたものがあった。
ガロード「皆、どけぇぇぇ!」
友軍回線から聞こえてきた声の後、ツインサテライトキャノンの閃光が奔った。
この威力にはさすがのウラノスも思わず脚を止めてしまう。
悠騎「あいつに勝つために! いっけぇぇぇぇぇええええ!!」
雄叫びと共に、ゼファーブレードの極太の刀身が整っていき、ウラノスに向けて突き上げていった。
その剣先はどこまでも伸びていく。
ヴィナス「ぐぅぅぅぅ!!」
ウラノスは―――ヴィナスは、初めて防御を構えた。
ヴィナスの直感が思わず防御の姿勢をとったのだろう。
しかし、それでも凄まじい速度で伸びゆく剣の勢いは止まること知らない。
ヴィナス「おおぉぉぉぉぉっ!」
大気圏を抜ける寸前、二つのカラミティブレードでようやく捌いた。
ヴィナス「ハァハァ……」
戦闘で冷や汗をかいたのは、何時振りだろうか?
戦闘で畏怖を抱いたのは、何時振りだろうか?
ヴィナス「こ、これは……当て馬にしては、大きすぎますね…」
その一方で、悠騎の方はというと
悠騎「……ゼファーブレードにヒビか……マジでやるっていったら、あと一発ってところか」
ゼファーブレードの実剣部分の大きなヒビ。
今にも折れてしまいそうな愛剣に焦燥を隠せないものの、覚悟を決めつつあった。
731
:
藍三郎
:2013/11/15(金) 21:16:34 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
白豹「白家殺体功奧伝……身醒経!」
左右双方の爪に、陽の氣が凝縮される。
それを自身に、そしてゼドのヘラクレスパイソンへと突き刺し、氣を送り込む。
コクピットの中の白豹は、一切表情を崩さないが、これだけの奧伝の連続発動は、彼の気力を枯渇寸前まで消耗させていた。
ゼド「おおおおおおおおおおおっ!!!」
機体とパイロット、双方の力を限界まで酷使して、拳の連打を繰り出すゼド。
金色の弾幕が、ミステリオへと襲い掛かる。
しかし、演算者としての能力を持つルシアは、拳と拳の僅かな隙間を縫うようにして打撃をすり抜けて行く。
煌く一閃。裏から忍び寄るは必殺の爪。
ルシアは振り向くことなくビームサーベルを抜いた後のステッキを振り上げる。
黒点経の乗った爪は、五つに寸断されたステッキを黒く腐食させる。
だがそれも、ルシアの注意を僅かでも分散させるための布石。
ヘラクレスパイソンは、ミステリオの放った振り下ろしをあえて左肩で受ける。
左肩から先が切り落とされる間、カウンターとして渾身の右ストレートを撃ち込む。
ゼド「NEXUS・DRIVE オーバーフロウ!!」
腕に装備したヘッドパーツの先端が開き、光の奔流が噴出。
身醒経で引き出されたゼド自身の氣の力も上乗せされ、
機体の全高よりもさらに巨大な光の頭角を形成する。
ゼド「グローリークラッシャー!!」
ルシア「――――!!」
光輝く甲虫の角が、ガンダムミステリオの上半身を貫通、否、消し潰す。
直後、身醒経のバックファイアが全身を襲い、その場で膝をつくゼド。
奥義を連発した白豹も同じような状態だ。
ゼド「一体は仕留めました……後は……」
732
:
藍三郎
:2013/11/15(金) 21:29:57 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
灯馬「君、ボクに斬られたいん?」
ゆらめく殺意の陽炎を立ち上らせながら、灯馬は語りかけた。
ルシア「ええ、貴方にできるものならね。Mr.夜天蛾」
灯馬「ふぅん。けどな、ボクも単なる自殺志願者の手伝いしたかておもろないねん。君もそれでええんか?
どうせなら、君にできる最高の技で来てや。その方が、悔いなく成仏できるんとちゃうか?」
水平にした刀でミステリオを指し示す。
ルシア「ふ、ふふっ、いいでしょう。元より、貴方に殺してもらわずとも、Mr.ヴィナスが目的を果たせば私の望みも叶うのですが、死出の余興としては悪くない。
これから死ねると思えば、長い年月を共にし、私を縛って来た闘争の衝動もどこか愛おしい……」
灯馬「安心してええよ。君のことはきっちり殺したる。せやから、そのお駄賃がわりに、見せてや。君の、全身全霊を」
ルシア「全身全霊、ですか……」
ルシアは心の中で笑う。ルシア・レッドクラウドという人間としての全力は、ムスカと戦いで既に出したつもりだ。
だが、特異点としての機能は、まだ十全に発揮していない。彼の役割は闘争の拡大であって、彼自身が強くある必要は薄かった。
だが、今なら……己の意志で戦っている今ならば……
仕込み杖を納刀するミステリオ。それに合わせて、麟蛇皇・紅も刀を納め、抜刀術の構えを取る。
先に動いたのはミステリオの方だった。一足飛びで、灯馬の間合いへと侵入。ビームサーベルを抜き放つ。
無論、これだけで終わるはずがない。抜刀の刹那、ミステリオの姿が、テーブルの上でトランプの束を広げるように、
五十を越える数に増えていたのだ。自身が存在する確率を歪めれば、彼は理論上無限に増えることができる。
世界の修正力により、通常は二人が限界だ。
しかし、増殖のタイミングを攻撃の瞬間にのみ絞ることで、最大五十四体にまで増えることができる。
これが彼の能力を最大限に活かした技……
ルシア「五十四枚の切り札(フィフティフォー・ジョーカーズ)!!」
五十四の声が重なり、五十四の斬線が、麟蛇皇を襲う。
その刃の群れを、灯馬は……
納刀したまま、全てをその身に受けた。
血袋が爆裂したように、麟蛇皇を中心として、鮮血が周囲に飛ぶ。
返り血を浴びるミステリオ。その中のルシアはあまりに呆気ない決着に困惑していた。
当然と言えば当然。あの技をたった一人で凌ぎ切るなど、不可能のはず……
だが、同時にルシアは、彼が諦めたわけではないことも理解していた。あの紅の剣鬼から発せられる殺意は、些かも衰えてはいないのだから……
ルシア「……!」
突如、まるで自身の倍以上の重荷を乗せられたように、機体の動きが大きく鈍った。
見れば、ミステリオに付着した返り血が鎖のように繋がり、麟蛇皇まで続いているではないか。
データから、現在の夜天蛾灯馬は、血液に似た液体を操ると分かっている。
ルシア(まさか……)
血を全方位に拡散させるために、あえてこの身に刃を受けた?
どれだけ傷を負っても、抜刀術の構えが崩れることは無かった。
動きを封じたミステリオに向けて、灯馬の魔刀が放たれる。
灯馬「夜天蛾流抜刀術、絶刀・皇髏血(おろち)」
無尽に伸びる赤い刃が、周囲の空間全てを薙ぎ払い、五十四体のミステリオ全てを同時に両断する。
733
:
藍三郎
:2013/11/15(金) 21:35:38 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
ルシア(見事……ですが……)
これでは意味がない。
己の体は、また特異点の導きにより、再構築される。所詮は余興に過ぎなかったか……
ルシア「……!」
その時彼は気付いた。機体だけではない。己の体にも、赤き血が纏わり付いていることに。
その血からは、先程と同じ、灯馬の殺意が感じられる。
ルシア(そうか、この血は、あの少年の殺意……いや、彼そのもの!)
蠢く血が、無数の赤い眼球に見える。今や灯馬は、血の一滴、赤血球の一つ一つにまで己の意識を行き渡らせるほど、夜天蛾の血に馴染んでいる。
ルシアは、観測されていない状態ならば、何度でも再生することができる。箱の中の猫の生死は、箱を開けるまで分からない。
その不確定の闇に存在するルシアは、生存する可能性がほんの僅か、ほぼ奇跡のような確率で存在すれば、
その結果を強引につかみ取り、世界に貼付けることで復活できる。
しかし、灯馬の血を浴びたルシアは、今や細胞レベルで、いや、魂ごと観測されている状態にある。これでは逃げ道は何処にもない。
ルシア(いや、これは呪い……いかな奇跡も幻想も許さず、斬った者に確実な死を与える、赤き呪縛……
彼の殺戮の渇望は、特異点の力さえ塗り潰すというのですか)
ルシアはふっと笑った。待ち望んだ死が、ようやくこの身に下ることを悟ったのだ。
ルシアとジェローム、二人分の声が重なる。
ルシア「――さて、詰まらぬ奇術ショウも、これにて閉幕(カーテンフォール)でございます。
本公演は、本日が最終日……御来場の皆様、最後まで御覧頂き、誠にありがとうございました」
ガンダムミステリオが、深く一礼すると同時に、その機体は跡形もなく爆砕した。
その後、彼が世界と言う舞台に立つことは……二度と無かった。
全身を切り刻まれた麟蛇皇は、糸の切れた操り人形のようにぐらりと力を失う。
その機体は、赤い霧となって急速に分解され、宙空に溶けていく。
緩やかに落下する灯馬。それを、スカーレットフィーニクスの掌が受け止める。
セレナ「やれやれ、私が援護しなかったらどうするつもりだったのかしら」
ミステリオが分裂し、必殺剣を繰り出した瞬間、セレナは外から攻撃を加え、ミステリオの体勢を僅かなりとも崩した。
それゆえ、灯馬は致命傷を避けることができたのだ。
セレナ「ともあれ……お手柄よ、灯馬くん」
さすがに力を使い果たしたのか、灯馬は目を閉じ、すやすやと眠っていた。
734
:
蒼ウサギ
:2014/01/16(木) 00:54:53 HOST:i121-118-62-87.s10.a033.ap.plala.or.jp
ブレードゼファー・エクスのコクピットに突如鳴り響く通信音。
相手が誰だが、容易に想像がついた。
悠騎「……レイリーだな」
回線を開くと、その予想は的中した。
しかも、内容までもこれまた予想通りだった。
レイリー『ちょっと正気!? リミッターⅢを解放するなんて!』
悠騎「さすがにやり過ぎた感はあるぜ……この剣も、あと一振りが限界ってとこだ」
レイリー『なっ!』
レイリーの声の他にざわめく声が混じっている。
恐らくはコスモ・ストライカーズのブリッジからこの通信を送っているのだろう。
由佳『お兄ちゃん……』
悠騎「おいおい、それでもオレの妹か? お前もそこにいるんなら、私情は挟むなよな」
由佳の声は、艦長という立場からは想像できないような弱々しいものだった。
しかし、悠騎の返しに由佳は思わず安心した。
それと同時に、まだそんな軽口が叩ける兄をどこかで尊敬してしまった。
レイリー『由佳! 至急あのバカを収容して! エクスの応急措置をしないと危険だよ!』
悠騎「んな時間あるかっての!」
レイリー『まさか、その状態で戦いを継続させるつもり!? 下手したらあっという間に撃墜させられるかもしれないよ!』
レイリーは、怖かった。
自分の技術の未熟さで仲間が死んでくのを。
かつてのゼルのように…。
悠騎『安心しろ。……ただ、ヤツとの決着をつけるだけだ』
それを告げるなり、悠騎は一方的に通信を切った。
§
ドンっと、コスモストライカーズの通信機にレイリーの拳が打ちつけられた。
「あのバカ」という、レイリーの呟きを、ミキは聞き逃さなかった。
心情的にはミキも似たようなもので、ミキは祈っている。
ミキ(無事に帰ってきてください。先輩)
ブリッジが静まり返っている中で、由佳は一艦長として、その役を全うしようとしていた。
由佳「皆さん、油断しないでください。敵はまだ全て倒していません」
トウヤ「由佳くん……」
由佳「兄は兄。私は私の役目を果たすだけです」
トウヤに向けられた由佳の微笑。
彼女は、なんだかんだいって、兄・悠騎のことを誰よりも信じているのだと思わされた。
735
:
蒼ウサギ
:2014/01/16(木) 00:55:56 HOST:i121-118-62-87.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
「さてと」、と、一息置いてから悠騎は、ウラノスが飛んでいった上空を見上げた。
一向に反応はないが、まだウラノスも、そしてヴィナスも無事であるとどこかで確信している。
手応えは、確かにあった。
だが、それでもまだそこにウラノスがおり、ヴィナスが悠々としている姿が目に浮かんでくる。
キョウスケ「ケリをつけに行く気か?」
悠騎「ん? あぁ、まぁな」
ゼンガー「勝算はあるのか?」
悠騎「……多分、今のオレ達がもし万全の状態でも、アイツには勝てないかもしれないな」
これまでどんな相手であろうと、悠騎の口からそんな言葉は出なかった。
リュウセイ「おいおい! それじゃ、みすみす奴をこのまま行かせる気か? 冗談じゃねぇよ!」
悠騎「いや、そうはさせねぇよ。絶対」
ヒイロ「……星倉悠騎、まさか」
悠騎「安心しろ、お前のように自爆なんてしねぇよ……。ま、悪いがここから先はオレ一人でやらせてもらうぜ」
ガロード「待てよ! 一人でなんて無茶だ!」
悠騎「……被害は、少ない方がいいだろ?」
小さく呟いて、ブレードゼファー・エクスは高く飛翔した。
悠騎を制止する声が聞こえてくるが、それもすぐに小さくなる。
悠騎の後を、追おうとする者はいたが、それはゼンガーに止められていた。
ゼンガー「奴の後を追うな」
エクセレン「でも、ボスぅ。あの子1人じゃ危ないと思わない?」
ゼンガー「機体越しに伝わる奴の覚悟を、武人として無下にするわけにはいかん!」
ロム「ならば、我々は彼の防衛線となろう!」
ドモン「応! この流派東方不敗の名の元に、ここから先はいかせはせん!」
無尽蔵に湧いて出てくる量産機。
感情のない殺戮マシン達が、今もなお迫り切っている。
§
ヴィナス「来ましたか……」
それは、必ず来るだろうと予想していたような口振りだった。
遥か上空で、ウラノスとブレードゼファー・エクスが対峙する。
悠騎「けっ、リミットⅢの直撃を受けてもまだ平気でいやがる……可愛くねぇな、オイ」
ヴィナス「いえ、そうでもありませんよ。現に二つのカラミティブレードはあの攻撃を受けたお陰で消滅してしまいました」
そう文字通りと、付けたしウラノスの両手を見せた。
悠騎「……良く言うぜ。剣だけがウラノスの武器じゃねぇだろうに」
こっちは、「あと一振りしか振れない剣」だけなのによ、と内心で毒づいた。
ヴィナス「その通り。……ですが、あなたのその剣は、最善の注意を払いましょう」
と、ウラノスが天に手を掲げる。
ヴィナス「大気よ!」
ただの突風、とは思えないほどの大気のミサイルが襲いかかる。
しかし、それが飛んでくる前にエクスは回避していた。
ヴィナス「予測してましたか?」
と、再びエクスに向けて、大気のミサイルを放つ。
悠騎「んなわけねぇだろ! てめぇじゃあるまいし!」
最初の風を避けたのはいいがその余波まではかわせきれず態勢が不安定だったエクスは、今度の攻撃は防御せざるを得なかった。
悠騎「ちぃ!」
盾もDプロテクションもない、今のエクスには、一撃の直撃を受けただけも致命的になる。
最も剣が万全の状態であれば、それを盾にすることもできるが、その剣さえも今は攻撃手段しか残されていない。
悠騎(今は…耐えるしかねぇ)
736
:
蒼ウサギ
:2014/01/16(木) 00:56:27 HOST:i121-118-62-87.s10.a033.ap.plala.or.jp
そう、最大の勝機(チャンス)のためにも! と、必死に回避行動を続けていた。
そんな中で、悠騎は徐々に広がりつつある空間の“穴”が目に映った。
悠騎(だが、時間もないか!)
ヴィナス「どうです? 美しいでしょう? アレが私にとって、次なるステージの入り口なのですよ」
ウラノスの攻撃が止んだと思いきや、搭乗者のヴィナスは自慢するかのようにウットリしている。
見た目は単なるトンネルのようなものも、彼にとっては新世界の入り口のように魅力的に見えるのだろう。
悠騎「アルテミス(お前の仲間達)の犠牲の上で開いた穴が、そんなに綺麗なものか?」
ヴィナス「あなたと私は、どこか似ています。……しかし、あなたには絶望が足りません。
だから、私の同じような気持ちにはなれないのですよ」
悠騎「……そうだな」
深いため気を吐いた後、悠騎の眼光が鋭くなる。
悠騎「確かにお前が味わった絶望がどれほどのものかは知らねぇ!
けど、お前はその先に、仲間をも犠牲にする復讐鬼になり果てやがった!
お前はそれで良かったのか!?」
ヴィナス「後悔はありません。この究極の兵士(からだ)を得て、さらにウラノスまで手に入れたのですから
それに、私は“未知なる存在”との戦いの後から仲間の存在意義を失くしてしまいましたよ
貴方たちもそうであるかのように、彼らもまた私にとって“マテリアル”に過ぎません」
悠騎「ちっ!」
もう口論しても無駄だ。
そう舌打ちし、徐にエクスは剣を構えた。
悠騎「なら、お前の言う“マテリアル”の底力、見てみるか?」
悠騎の瞳が紫に染まり、機体のスラスターから炎を噴き出しているかのような紅い粒子が放出される。
それが徐々に機体全体を覆うようになり、ブレードゼファー・エクスが烈火に燃え上がるような姿へとなった。
ヴィナス「剣を構えますか……」
その隙をヴィナスは見逃さなかった。
エクスの剣は得体が知れない。こちらの恐怖を脅かすほどだ。
だから、先に動いたのはウラノスだった。
ヴィナス「やらせはしませんよ!」
大気のミサイルと障壁弾をブレンドしたものを放った。
大気のミサイルの速度と障壁弾の威力が合わさったそれは、ヴィナスの目論見通りゼファーブレードの剣を破壊し、刀身を折った。
悠騎「っ!」
反動で機体がよろけるも、悠騎の目はまだ絶望してはいなかった。
悠騎(Dジェネレータは無傷……! いける!)
ゼファーブレードに組み込まれていた二つのDジェネレータそれぞれがエネルギーを放出し、一つの刀身を創りだした。
実剣は失われても、その二つの刀身が残った鍔の部分と連結して、再び剣としての形を保った。
悠騎「行き先がどこかわかんねぇぜ……リミットFINAL……解放!」
“アンフィニ”の影響で無限に出力が上昇するD(ディメンション)エネルギーの塊の剣。
それを振るったその時、二機が消えた。
どこともわからぬ、次元の彼方へ……。
737
:
藍三郎
:2014/01/28(火) 05:06:07 HOST:111.201.183.58.megaegg.ne.jp
直後、戦場の時は停止していた。
G・K隊、統合軍の誰もが、目の前で起こったことを受け入れられずにいた。
アイ「……ブレードゼファー・エクスとウラノスの反応、消失……」
内心の動揺を隠すように、アイは務めて冷淡に状況を報告した。
アイ「別次元に転移した……可能性も……」
不確定なことを口にしたのは、僅かなりとも希望を繋ぎたい気持ちの現れだろうか。
言葉の端から、彼女も強いショックを受けていることは明らかだったが。
由佳「…おに……」
神「艦長!!」
間近で放たれた声が、彼女を己の職務へと引き戻した。
意思ではなく反射で、艦長としての役割を果たそうとする。
由佳「皆さん! ウラノスが消失した以上、この場で戦闘を続ける意味はありません。
残敵を迎撃しつつ、全軍、撤退します……!」
本作戦の目的は、ウラノスが別次元に転移する前に止めることだ。だが、ウラノスは既に消えてしまった。
ネオバディムの幹部達も既に倒れている。これ以上戦闘を続ける意味は無かった。
だがそれを、この場で最も自失して然るべき一人である由佳が口にしたことが、パイロット達の硬直を解くことになった。
量産機も、これまでの戦いで大半が撃墜されており、無人機の宿命か、予めプログラムされた動作は実行できても、
細かな命令を下す司令塔を欠いた今では状況に応じた臨機応変な対応を出来ずにいた。
無人機達の最優先目的はタイムリミットが来るまでウラノスを護衛すること。
ウラノスが次元跳躍を果たした後のプログラムは組み込まれていない。
まして、逃げる敵を追撃する命令は元より存在しないのだ。
残敵の多くは、既に消えたウラノスを守るように円陣を組んだまま動こうとしない。
撤退は難しくはないだろう。
そして、撤退の判断は別の意味でも功を奏した。
遥か上空、ウラノスによって開けられた次元の穴がその半径を拡げ、渦を巻き始めたのだ。
台風の如き次元の歪みは地上にも伸び、最も近くにいた無人機を吸い込んでいく。
無人機達は抵抗もままならず、その大半は穴に消える前に空間に歪みによって引き裂かれ、残骸と化す。
天と地の狭間に、巨大な竜巻が発生していた。
その宙域に存在していたものは、残らず次元の穴へと吸い込まれていく。
大地が抉れ、岩盤が宙に浮く。
ユミルの残骸や、繭と化した2体のターンタイプも、虚空の彼方へと消え去っていく。
撤退が遅れていれば、G・K隊や統合軍の機体も、この暴威に巻き込まれていただろう。
だが、九死に一生を得た感慨を持つ者は少なかった。
彼らの胸を貫くのは、掛け替えの無いものを無くした喪失感、そして、敗北感だった。
ムスカ「……俺たちは、負けたのか……」
ゼド「……もしも、ウラノスが彼(ヴィナス)の目指していた次元まで跳躍を果たしていたとしたら、
歴史は創り変えられ、我々の存在も消え去ってしまうのでしょうね……」
それがわかっていながら、自分達には何もできない。
彼らは既に、手の届かぬ場所に行ってしまった。
やがて、荒れ狂う嵐が収まった後、次元の穴は消失していた。
先程までの大破壊、そして人類の未来を懸けた闘争など無かったかのように、
澄み切った夜空に浮かぶ満月は、無垢な光で地上を照らしていた。
738
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:22:48 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎(何だ…このイメージは!?)
ヴィナス(これは……あの冬の神殿で見た……)
脳内に無理やり流れ込んでくる“イメージ”に戸惑いつつ二人は、意識を閉じた。
刹那に過ぎった次元の狭間の中で―――
――――――――
――――
――
ザザーン、ザザーンという波音が聞こえてくる。
深い眠りから目覚めるかのように、重い瞼を開いた。
そこでまず目に映ったものは、一面に広がる血のような真っ赤な海だった。
ここは何処だ?
若干の混乱に混じる畏怖を抱きながら、ゆっくりと記憶を呼び覚ます。
悠騎「そうか……オレ、次元を跳んだんだ……」
ゼファーブレードで次元の壁を斬り裂いた結果がここにあり、半ば呆然とそれを売れ入れた。
しかし、“ここ”は、元の世界でもなければ、あの戦っていた世界でもない。
悠騎「! ヴィナスは?」
少し離れた赤い海の浅瀬にウラノスが見えた。
だが、肝心なのはそのパイロットだ。
悠騎「……ちっ、全システムがダウンしてやがる」
ブレードゼファー・エクスを動かそうにも、どうにも動かせない。
緊急のための生命維持装置以外、全ての機器が停止しているようだ。
お陰でヴィナスのことを確かめようにも接触回線ワイヤーさえも飛ばせない。
いつまでも機体の中には入られない。
念のためにに外の空気の様子を確かめてから悠騎は、機体のハッチを開けた。
赤い海からは、潮の香りとはまた少し違う匂いが鼻を不愉快につんざいたが、悠騎は確信する。
“ここ”は基本的には地球と大差ない世界だと。
改めて、ウラノスを見上げる。全高100m以上あり、一つの巨神にさえ見えるそれだが、
今はまるで主に使える騎士のごとく、片膝をついて恭しく頭を下げている姿勢制御を維持している。
悠騎「ヴィナスは……いるのか?」
確認しようとしたその時だ。
どこからかメロディが聞こえてくる。
ピアノだ。それも、あの交響曲第9番 第4楽章。
悠騎「っ! これは!」
ヴィナスのことも気になるが、一先ずはメロディが鳴っている方向へと向かう。
砂浜に立っているピアノには、悠騎の思っていた人物の姿が見えた。
悠騎「やっぱりな」
アッシュグレイの髪に赤い瞳、男性にしては白い肌のその少年。
―――渚カヲルがいた。
カヲル「やぁ、“初めまして”」
739
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:23:46 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
その一言で、悠騎は改めて次元を越えて別の世界へとやってきたのだと確信した。
どこかはわからないが、顔見知りがいることにどこか安心感が湧いた。
カヲル「どうやら、君は“僕のこと”を知っているようだね」
悠騎「まぁな」
そんな軽いやり取りの後、カヲルはそれ以上追及することもなくピアノの演奏を再開した。
悠騎「ったく、今にも世界が終わりそうな光景でよく弾けるな」
カヲル「世界の終わり? むしろ“この世界”はこれから始まるんだよ
文字通り、世界の生死をかける時代がね」
悠騎「どういうことだ?」
カヲル「再び“この世界”が終わるかもしれないってことさ」
悠騎「世界の……終わり?」
カヲル「“この世界”は、死と新生を繰り返していてね。以前の“この世界”は、神に近づいた1人の少年が
ヒトの進化を拒んだ結果、終わってしまった。最も、彼を取り巻く陰謀、野望が交錯したこともあるけどね。
そして新生したのが今の世界だ。そういえば前の世界の終わりと今の世界の海は同じ色だね」
まるで過去全ての世界を知っているかの口振りだ。
実際、そうなのだろう。それは彼が使徒故なのであろうか?
ひょっとしたら彼もまた……
カヲル「また世界が終わってしまったら今度は新生せず、永遠に失われるかもしれないね」
悠騎「失われる? って、どういうことだよ?」
カヲル「その原因たる僕らの存在が消えてしまう、ってことだよ」
悠騎は思わず言葉を失った。
存在が消える? もしそうなったら彼らはどうなるのだろうか想像もつかない。
だが、似通ったケースを自分は知っている。
“失われた世紀”
あの時代に生きていた人々がまさにそれと言えるだろう。
ヴィナスのお陰……という言葉は癪に障るが、実際、自分はそれで知ることができた。
悠騎「一つ、答えろ」
カヲル「なんだい?」
悠騎「お前はそうやって色々知ってるようだが、それで何かをするつもりはないのか?」
カヲル「僕は“この世界”では、ある人のために存在しているだけだからね」
彼のいうある人とは恐らく碇シンジのことだろう。
カヲル「今度はこちらが訊こう。君はもし今の世界がひょんなことで終わろうとするならどうする?」
悠騎「そうだな。……とりあえずギリギリまで精一杯足掻くかな」
急にバカなことを、とは返せなかったのは、これまでの戦いがあったからだろう。
人間同士の戦争、侵略者達襲来、人類補完計画、プロトデビルン、深虎、そしてアルテミス。
“あの世界”だけで何度もうダメかと思っただろう。
だからこそ、そう答えられる事ができた。
カヲル「滅びる事が運命だとしても?」
悠騎「同じ事言わせんな」
ぶれない彼の言葉に、カヲルは思わず口を綻ばせた。
鍵盤の手を一旦止め、すぐさま次の曲を弾きはじめる。
740
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:24:28 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
悠騎「この、曲は……」
カヲル「知ってるのかい?」
カヲルが弾き始めたのは、かつてミレーヌが歌っていた「愛・おぼえていますか」だった。
この曲がどれほど皆を鼓舞させられたか。
カヲル「この歌はね。大昔の異星人達の中で流行っていたラブソングなんだよ」
自然とあの時、ミレーヌが歌っていた歌詞が過ぎってくる。
たった1回だけだがどこか心安らぎ、耳に優しく残るものだった。
やがてカヲルは全てを弾き終えた後、空を見上げた。
カヲル「そろそろ行かなくちゃね」
悠騎「どこにだよ?」
カヲル「月に……それが僕の今回の始まりの舞台なんだ」
月。この世界にも月にはムーンレイスがいるのだろうか?
様々な疑問が押し寄せるが、今となってはどうでもいい。
悠騎「なら、オレもそろそろ行くか」
カヲル「どこに?」
悠騎「帰る。……ただそれだけだ」
741
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:25:05 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
「ここは、何処だ?」
目を開けてヴィナスが最初に見えたのは、暗闇だった。
それ以前に自分が目を開けているのかさえわからない。
まるで何もない暗闇の空間を浮いているかのようにも感じる。
音も何も聞こえない。
周囲の温度さえも何も感じない。
ただただ、目の前に広がるのは暗闇だけだ。
ヴィナス「私は、一体……」
どうなったのか?
まずそれが知りたかった。
星倉悠騎との戦いのおり、何が起きたのかさえわからないのだ。
そんな時、声が聞こえた。
正確には、耳ではなく、「言葉を感じ取った」という感覚だ。
「どうやら、お前もオレと同じ状態になっちまったわけだ」
声だけでは誰かはわからない。
が、ヴィナスに組み込まれたニュータイプの遺伝子が声の主を教えてくれた。
ヴィナス「深虎…ですか」
深虎「ケッ、なるほど。テメェがここに来るわけだ」
ヴィナス「どういうことです?」
深虎「オレも、テメェも、ヒトの理を外れちまったんだよ」
ヴィナス「どういう意味です?」
深虎「わかんねぇのか? てめぇはとっくに普通の人間とはかけ離れた力を持ってしまった。
故にオレと同じような存在になっちまったんだよ」
ヴィナスの心中は穏やかではなかった。
確かに自分はあらゆる能力者の遺伝子を組み込み、ヒトを越えたかもしれない。
だからといって、自分は彼のような狂気な思考は持ち合わせていない。
一緒にしてほしくないというのが本音だ。
深虎「オレと一緒が嫌っていうのか? けど、諦めなよ。
テメェはもう、オレと同じ“未知なる存在”として世界に認識されてるんだからよ」
ヴィナス「!?」
この場にお互いの肉体が実際にあったら、ヴィナスは即座に深虎を締め上げただろう。
事実、イメージとしてヴィナスはそうしていている。
ヴィナス「取り消してもらいましょう! 私が“未知なる存在”と同列などと!」
深虎「取り消したら、それで満足なのか? “ここ”にいることは間違いないんだぜ?」
ヴィナス「……っ!」
怨敵と同類にされて、虫唾が走る。
だが、同時に理解してしまった。
自らの行いが、この結果を招いたということを。
皮肉にもティファのクローンから得たNTの直感で。
マテリアルと認知された者達の遺伝子を取り込み、常人の遥かな高みに昇り、
加えてウラノスに搭乗できるようにマルスの遺伝子をも己の者にした。
結果として自分はマルス以上のウラノスの操縦者となり、強力になったことだろう。
あの戦いからでも容易に想像がつく。そして、自ら湧き上がる力に少々酔いしれていた感覚も。
ヴィナスは、無闇やたらに異能の力を得たことで、知らず知らずのうちに“未知なる存在”になってしまったのだ。
ヴィナス「では、私はなぜここに……?」
深虎「さぁな? だが、これだけは言えるぜ。オレも、お前も肉体は死んでるも同然だ、ってことだ。
こうして話しちゃいるが、いわゆる霊体同士……いや、魂だけの存在になってるってことだ」
ヴィナス「っ!」
現実を受け切れないヴィナス。
魂同士の会話は、そこで沈黙してしまった。
742
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:26:15 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
「そんなに昔の仇を討てなかったのかが悔いか?」
知らない男の声がふと聞こえてきた。
何者かを問う前に図星を当てられた事の方が衝撃だった。
ヴィナス「なんでそのことを?」
彼は小さく笑いながら
「残念だが、これはお前自身が招いた結果だ。……お前は他人のことを利用するばかりで、自分の力を信じなかった。
お前と“アイツら”の違いはそこだ。
ここに来たのは、お前があの時、戦っていたヤツが“ここにも”次元を斬り裂いたからだ。
結果、お前は直接、肉体は滅んでなくても、ここに来てしまったってことだ」
ヴィナス「どうしてそこまで知ってるのです? あなたは」
「なぁに、オレもお前達と同じ“未知なる存在”ってヤツだからな」
その男は、どこか自嘲しているかのように言い放った。
743
:
蒼ウサギ
:2014/09/21(日) 01:26:51 HOST:i121-118-99-168.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
あれから3週間の月日が流れた。
ヴィナスの跳躍で危惧していた歴史の改ざんは、今のところ見受けられない。
そのことには安堵するが、素直に喜べない。
星倉悠騎が未だに帰って来ないからだ。
由佳「レイリーさん、艦の調子はどうですか?」
レイリー「月のお姫様のお陰で艦も機体も問題ないよ。他の艦も同じようだね」
戦争は終わった。異世界人の侵略もない。
全ての争いが終わったのだ。
あの後、月の女王ディアナ・ソレルは、月の政治をキエル・ハイムに託したのだ。
最も、月の住民達は彼女をディアナ・ソレルだと疑っていない。
まだ、この世界に残っているリリーナ・ドーリアンを始め、各要人達の必死の働きかけで
地球と月。今は、共存の歩みを見せている。
トウヤ「この世界は、平和を取り戻した。
まだ小さな小競り合いがあるけど、それはヒイロ達が解決してくれるだろう」
ミキ「『プリベンター』、でしたね。ヒイロくんだけじゃなくて、アキトさんも所属しているらしいですよ」
プリベンター設立は、ミリア市長の案でもある。
元々、愚連隊のような形で各艦が共同しているガンダムや多くのスーパーロボットは、事実上、宇宙統合軍預かりになっている。
戦争がなくなったからこそ、これを機に新たな火種が起こる可能性もある。
多種多様の兵器を持つ宇宙統合軍に不満を持つ市民たちが暴動を起こすこともある。
それらを未然に対処するために設立されたのがプリベンターだ。
メンバーの中にはヒイロたちガンダムパイロット他に、ナデシコクルーやガムリン達といったこの世界の者達がいる。
もし、ヒイロ達が元の世界に帰ってもプリベンターという組織がなくなることはない。
トウヤ「はぁ、僕も参加したかったなぁ」
アイ「艦長が参加してしまったら、G・Kの貴重な指揮官がいなくなってしまいます」
由佳「ちょっ! アイちゃん、それはちょっと聞き捨てならないよ!?」
アイ「それはそうとレイリーさん。例のアレはどうなんでしょう?」
由佳「スルーされた!?」
由佳がショックを受けている一方で、レイリーはその話題になると神妙な顔つきになった。
レイリー「それに関しては、実はサッパリなんだ。まぁ、キッド達の手伝いで損傷部分の修理はできたんだけど、
肝心のデータ部分がねぇ……」
それは、<アルテミス>が拠点としていた機動要塞シャングリラ……その中枢部分のことであった。
それ、単体では次元跳躍はできないが、3週間前の悠騎とヴィナスが次元跳躍したデータを元に改造しようというのだ。
レイリー「たった1回だけのあの次元跳躍じゃ、データ不足だよ。もうDジェネレーターもないしね」
ブレードゼファー・エクスが次元跳躍できたのは、ナックルゼファー、メテオゼファーのDジェネレーターを合わせたから、
とも言える。
元々、Dジェネレーターは、異なる次元に直結させることができるD粒子から得られる膨大なエネルギーを生みだすための機関。
だが、その構造、製造法はレイリーは知らないのだ。
レイリー「今、みんなの機体を預かって、それに近づくほどのエネルギーを生み出そうとしてるけど、それが難しいのよねぇ。
生み出した所で、今度はシャングリラの方がもたないかもしれない」
アイ「難題は多い、ってところですか」
由佳「やはり、ウラノスがあれば、ってことですか?」
レイリー「それがベストだね。エクスで次元跳躍できるっていっても自分が思ったところに跳躍できないと意味ないし」
それほどにウラノスにはまだまだ解明できないパワーを秘めていたということだ。
これは恐らくだが、本来の搭乗者であるマルス・コスモだからこそ単体でも跳躍できたのかもしれない。
ヴィナスは、マルスより遥かに腕はたつが、オリジナルではなかったので、膨大なエネルギーを必要としたのかもしれない。
まぁ、これは技術者同士の憶測なのだが。
由佳「ったく、なんでウラノスと一緒に跳んだのよ……お兄ちゃん」
一見、悪態をついているかのように見えるが、横顔が明らかに不安に満ちている。
次元の彼方に消えた兄が心配なのだ。一艦長というより、1人の妹としてだろう。
こんな時にどんな励ましも声も虚しいだけだ。
ここにいる誰もがそれをわかっている。
レイリー「……ともかく頑張ってみるよ。せめてこいつを次元跳躍マシンに仕上げてみせるから」
由佳「……よろしく、お願いします」
744
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:13:23 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
事態は動かずとも、月日は少しずつ流れていていく。
激動の戦いがウソの様に、それは静かに、せせらぎの様な静けさで―――
エレ「・・・・・」
格納庫を見下ろせるタラップ。
その上で金糸の髪を弄びながら、少女は一人物思いにふける。
アイラ「エレ、もう直エイジ達の出発だぞ?」
声を掛けに来たのは彼女の親友―――一度は崩れ、それでも本物の絆を繋いだ相手だ。
エレ「あ、うん。ごめんね。ちょっと考え事してた」
笑い掛ける少女の脳裏に浮かぶのは、あの日の事―――
§
ひどく、悲しい夢を視ていた気がする。
とてもとても懐かしいのに、どこか曖昧で色あせた夢。
古い映写機に映った映画の様に、静かに流れていく映像を眺めていた気分。
でも、それも目覚めと同時に泡沫に消える。
とてもとても儚い夢。
「―――か?」
覚醒していく意識が、夢に沈んだ心を引き上げる。
遠くから聞こえる声が、幻のしじまにいる心を引き戻す。
「―――大丈夫か?」
徐々にクリアになっていく視界。
心の檻が解き放たれて、体が自由を取り戻していく。
「エレ・・・大丈夫か?」
自分の名前を呼ぶ声。
知ってる。
この声の主を自分は知っている。
エレ「あい・・・ら・・・」
その名を呼んだ途端に、ブラックアウトする視界。
それはわずか一瞬の事。
だが、その一瞬で彼女の意識は駆け抜ける。
自分が今までどこにいたのかを。
自分が見つけた答えを得た場所へと―――
§
それは戦いにすらなっていなかった。
一方的な蹂躙ですらない。
男は文字通り、壊れた玩具を処理するように。
少女は反射に従って体を動かしていただけだ。
殺意も闘志もない空しい追いかけっこ。
互いに何かの戯れの様に攻防を交わすのみ。
激しい熱気に包まれた他の戦場とはかけ離れた、あまりに諾々とした手慰み。
それは、疲れ果てた両者の心の顕れであるかのようであった。
―――何、してるのかな。私―――
捨てられた
大切な人にも
宿敵とも言うべき相手にも
目の前の相手を満足させるために生まれ
縋った友情は見せかけ
誰からも必要とされない
唯の玩具
壊れた玩具
何もない
何もかもがどうでもいい
それなのに
エレ「なんで、まだ生きようとしてるのかな・・・?」
そう
自分は生きている
生き汚く
みっともなく
生にしがみ付いている
捨てられたのに
745
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:14:43 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
止めてしまえば楽になるに
それでも動きを止めないのは
未練があるから―――
エレ「おかしいね・・・全部嘘っぱちだったのに・・・」
見せかけの生
見せかけの友情
見せかけの自分
それはもう痛いほど解っている事なのに
エレ「でも、まだ思ってる。助けって私は、まだ叫んでる」
捨てられたのに
いらないと言われたのに
まだ、その影を追っている
エレ「アイラ・・・」
脳裏を掠めていく友人”だった”モノの顔。
笑っていた顔も、凛々しい横顔も、憤怒した顔も、泣いた顔も
エレ「全部・・・嘘なのに―――!!」
何も見ていなかった自分。
何も知らなかった自分。
視ようともしなかった、ある事すら知らなかった想いに傷つけられて、捨てられたのに。
エレ「でも、でもやっぱり嘘だなんて思いたくないよ・・・」
涙が頬を伝う。
苦しい時、悲しい時、励ましてくれた彼女の声が自分を支えた。
自分の生まれた理由を知って、絶望して、その時も彼女は抱きしめてくれた。
誰よりも強く、誰よりも身近で自分を支えてくれたトモダチ。
それが、嘘―――
エレ「やだ、やだやだやだやだ!そんなのやだ!!助けてよアイラ!!嘘だって言ってよ!!すっと、一緒だったのに・・・私を捨てないで!!」
自分を捨てた相手に、自分を捨てるという事から助けて欲しいという矛盾。
その矛盾に気づいても、心は言う事を聞かない。
駄々っ子の様に無理な注文を付け続ける。
心がひび割れて消えるまで。
ルドルフ「いつまで、生きあがく?」
対して、男は苛立ちを覚える。
未だに動き回る出来の悪い模造品。
失敗作が今尚彼の手を離れて生存してる事実に心がざわめく。
必要ない。
”彼女”でないなら必要ないのに。
それが、未だに抵抗を続ける事実が気に入らない。
否
事実彼が本気を出せば、目の前の玩具など塵芥だ。
ハーメルシステムまで起動しているのだ。
これで一瞬で片が付かない方がどうかしている。
ルドルフ「情けをかけているのか?俺が・・・?」
馬鹿馬鹿しい。
劣化品などに様はないのに。
掛ける情など一片も残ってはしない。
元よりそうしてきた。
友と呼んだ相手すら斬り捨てて、本気で殺しに掛かった自分だ。
今、この失敗作を相手に情を見せるなどあり得ない。
ルドルフ「もういい。これ以上無意味な時間の浪費は出来ん。このボディもそろそろ限界だ。”次”に備えて俺も動かねばなんのでな」
”次”
そう次こそは、長年の願いを成就させる。
その為に、邪魔になった玩具は始末しなければならない。
そうして本当の殺意を見せた時、少女はそれに反応する。
エレ「あ・・・」
746
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:15:24 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
”消えろ”
その言葉がリフレインする。
消される
消える
自分が
否定されて
エレ「嫌だ・・・消えたくない・・・」
―――どうして?―――
エレ「アイラ・・・助けて・・・」
違う
ルドルフ「さらばだ」
エレ「助けてよ。アイラぁっ!!」
違う
そうじゃない!!
エレ「あ・・・・・・」
一瞬の時間が無限に引き延ばされる。
その中で、浮かぶのは親友と呼んだ人の笑顔―――ではない。
最後に見た、あの氷の様な笑み。
儚く、冷たく、寂しい、”本当の顔”。
エレ「そっか・・・そうだよね・・・」
自分は
彼女の何を見ていただろうか?
親友と呼んで
その強さに惹かれて
誰よりも頼った
誰よりも慕った
誰よりも、一緒に居たいと思った
エレ「でも・・・」
自分は視ていなかった
彼女の闇を
それを目にしても
それは違うと思いたかった
苦しんで悲しんで
そんな姿は彼女じゃないと
本当の気持ちじゃないと信じようとしていた
だが
だが、それは目の前の相手と何が違うだろうか?
自分は彼女に押し付けた
自分の理想を
在って欲しい形を
自分が視てきた彼女の在り方こそが真実だと思って
そこに救いを、助けを求めた
それは傲慢だ
彼女の闇を否定して
自分に都合の良い彼女で居て欲しいと願った―――
ルドルフ「ぬっ!?」
振り下ろした刃が受け止められる。
エレ「でも、それじゃダメだよね・・・」
救いを、助けを求めていたのは彼女も同じだったのに
747
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:16:05 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
自分はそれから目を背けるばかりで
自分だけが捨てられたと思い込んでいた
何が親友か
何が友情か
結局、自分達は相手の何を見ていたというのか?
エレ「でも、それでも―――!!」
彼女の存在は自分にとって救いだった
自分を支えてくれた、抱きしめてくれた事が今まで自分を守ってくれた事に変わりはない
彼女の闇は本物だ
だが、自分を助けてくれた彼女の存在もまた本物なのだ
だから―――
エレ「今度は私がアイラを救う」
全部受け入れて
全部抱きしめて
本当の彼女を見据えて
言わなきゃいけない言葉がある!
エレ「だから、消えない!あなたに消されはしない!!」
ルドルフ「何を・・・!」
弾かれた刃。
驚きは隠せないが、それでも慌てはしない。
戦力差は歴然。
この相手に負ける要素は微塵もない。
その筈だ―――
エレ「行くよ」
―――ええ―――
飛び立つ金糸の鶴。
輝く翼を翻し、優雅に舞う。
それは怨念の剣を追い詰める。
失われし想いを乗せた剣を圧倒する動きで、全ての攻撃をかわしていく。
ルドルフ「バカな?何故当たらん!」
機動力はこちらが勝っている。
アンフィニを発動した以上反射で後れを取る筈もない。
にも拘らず、こちらの攻撃をかわす。
そして向こうの攻撃は此方を捉える。
圧倒される。
機体の性能も、パイロットの技量も比べるべくもないというのに。
ルドルフ「アンフィニ?いや、違う。奴に適正は無いはず。それに・・・」
この劣勢はスペックの差によるものではない。
まるでこちらの動きを先読みされるような・・・。
ルドルフ「まさか・・・!?」
―――次はこっち―――
エレ「うん、解った」
その動きには見覚えがある。
こちらの攻撃を、いや癖を完璧に読まれている。
それは・・・
ルドルフ「君なのか・・・ユイナ?」
自分の癖を知り尽くした攻め。
こんな事が出来るのは、この世に二人しかいない筈だ。
―――ごめんなさい、エリアル―――
身勝手なのは解っている。
でも―――
748
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:17:19 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
―――彼を、救ってあげて―――
エレ「解ってるよ」
流麗な動きで紫紺の機体を追い込む。
彼に舞う白鶴は、鋭い一撃で確実に相手の体を削っていく。
ルドルフ「は、ははは!刷り込んだ記憶が混ざり合った結果とでも?バカな!!」
だが、自分が追い込まれているのは、彼女の手で追い込まれているのは敢然たる事実。
認めなければならない。
今、彼女の中にはユイナ・サイベルがいる。
ルドルフ「だが、それならこちらにもやり様はあるという事だ」
向こうがこちらの動きを読めるように。
こちらも向こうの動きを読むのは容易い。
それだけの時間を、自分達は共に過ごしてきたのだから―――
ルドルフ「そら、胴ががら空きだ!」
癖などは百も承知。
滑り込んだ懐で、剣を振るう。
しかし―――
エレ「ううわあああぁぁっ!!!」
ルドルフ「何!?」
振り上げた脚が頭部を蹴り上げる。
そのまま密着姿勢を崩さず拳の嵐。
ルドルフ「なんだ・・・これは?」
知らない。
自分の記憶の中の彼女に、こんな戦い方は存在しない。
ルドルフ「っ!調子に乗るな!模造品が!!」
振り抜いた剣もかわされる。
飛び退いた勢いそのまま、相手は付近の壁に”着地した”。
ルドルフ「なっ!?」
前傾姿勢で壁に蹲る。
その姿には見覚えがある。
ルドルフ「まさか・・・そんな事が―――」
あり得るのか?
そう叫ぼうとした刹那、仮面の女の姿を幻視した。
ルドルフ「ひっ!?」
飛び出す鶴は猛禽の如く。
その姿に怯えて背を向けた。
それが、決定的な敗北を生む。
―――さよなら―――
―――さよなら―――
エレ「さよなら」
光条が、怨念の剣を撃ち抜いた―――
749
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:18:15 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
§
長い、長い微睡の時間は終わった。
目の前には泣きそうな顔で自分を見る彼女の顔。
エレ「アイラ・・・」
アイラ「エレ!大丈夫か?どこも痛くないか!?」
一心に自分の身を案じてくれる彼女の顔に、あの冷たい笑みはない。
体を抱く手はとても暖かい。
だから
エレ「ごめんね・・・」
アイラ「っ!!」
ようやく言えた
その一言が
アイラ「わた・・・私の方こそ・・・」
積を切ったように溢れ出す涙と感情に任せて抱きしめる
アイラ「ごめん!ごめん!!エレ!!」
エレ「ごめんね・・・ごめんね、アイラ」
ゆっくりと
互いの傷を癒すように
少女達は謝り合う
自分達のこれまでと
これからの為に―――
§
エレ「色んな事があったね」
アイラ「ああ・・・」
静かな声音の中に、一抹の寂しさを感じる。
それは少女たちが得たモノ、失ったモノ、双方への哀悼だ。
エレ「帰れるのかな・・・」
ぼうと天井を見上げて呟く。
言外にある気持ちを、今なら理解できる。
―――帰っても自分に居場所はあるのか―――
アイラ「エレ・・・」
その問いに応えようとしたその時だ。
眼下の喧騒が聴こえて来たのは。
§
シンジ「本当に行っちゃうんですね」
エイジ「ああ、グラドスと地球。未だ出会うべきではないが故に今回の悲劇は起こってしまった。だが、それを繰り返さない事は出来るんだ」
そしてそれを為すのが自分の役目だと、両者の血を引く青年は胸を張る。
ジェット「何、俺達が付いている」
ドリル「どんな困難でもどんとこいだ」
レイナ「もう、困難を向かい入れてどうするのよ」
格納庫の隅。
これから旅立つ仲間達を見送る為の人だかりが出来ていた。
幾度の出会いと別れがあった。
その中には二度と出会えぬ相手もいるのだ。
それに比べれば、今の別れはいつでも会える、希望に満ちた出発だった。
ソシエ「ガムリンさん達は残ってくれるの嬉しいけど、本当にいの?」
元々マクロス船団は宇宙移民、未知なる宇宙へ漕ぎ出す為の開拓士達だった。
それがプリベンターの中核として、この星に残らざるを得なくなったのは、心苦しいと感じる者も多いようだ。
750
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:19:03 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
マックス「何、マクロス船団は我々だけではない。新たなフロンティアへ向けて今も旅を続けている仲間達はいる事だろう」
だから何も気負う事は無い。
そう言い切られては、今更それに異を唱えるのは野暮と言う物だろう。
シンジ「新たな・・・フロンティア・・・」
その言葉の力強さに圧倒された。
シンジ「綾波は、これからどうするの?」
不意に襲ってきた不安に、そっと後ろを振り返る。
しかし、答えなど解っている。
“解らない”
彼女ならそう答えるだろう。
何故なら自分がそうだからだ。
父は拘束された。
母は消えた。
保護者であったミサトやネルフの職員は、大なり小なり査問が待ち受けている。
「それがオトナの都合ってもんよ」
いつもの様に、笑って大人の義務を果たしに行ったのだ。
それに対して自分は何を以て応えれるだろう?
エヴァンゲリオンは全機凍結。
あれはヒトの領分を超えたモノだ。
そして、ヱヴァの無い自分は、唯の子供に過ぎない。
ガロード「何なら、付いて来てもいいんだぜ?」
思い悩む背中をバンと叩かれ、出し抜けにそんな事を言われる。
ガロード「やる事なんていっぱいあるんだ。手伝ってくれるなら大歓迎だぜ」
チポデー「いいのかよ。愛しのガールフレンドとの二人旅に誘ってよ」
暖かい言葉を掛けてくれた少年。
その首に腕をからめて茶化す大人達。
ドモン「ふっ、何なら流派東方不敗。受け継いでみるか?」
シンジ「えっと・・・その・・・」
アスカ「無理無理!」
騒がしい喧騒に、更に騒がしい声が割って入る。
アスカ「もやしのシンジに格闘技なんてできるわけないって!」
シンジ「な、何だよ。そんなのやってみなくちゃ解らないだろ?」
アスカ「ほーっ、バカシンジのクセに言うようになったじゃない?じゃあ、ここで組み手でもやってみるぅ?」
さすがにムっとして売り言葉に買い言葉。
思わず挑発に乗ってしまった。
だが、正直自分には出来るとは思えない。
アスカ「そらみなさいな。人間そう簡単に根っこが変わる訳ないって」
シンジ「じゃあ、アスカがやればいいじゃないか」
思わず口を突いて出た言葉だったが、それが意外に周囲にウケた。
ウィッツ「そりゃあいい!」
エクセレン「あらん?案外やるんじゃない?白ウナギちゃん相手に無双してたし」
ジョルジュ「女性のファイターも珍しくはありませんしね」
照れる者
冷やかす者。
煽る者
真面目に考える者。
あっという間に巣箱を突いたように騒がしくなる格納庫。
ミレーヌ「で、結局これからどうするの?」
ふいに自分に言葉を向けられ、戸惑うシンジ。
ミレーヌ「いっそ、ファイヤー・ボンバー入りしちゃえば!?」
シンジ「ええ!?」
またも意外な所から選択肢を出されてしまった。
しかし、あながち冗談な様子も無い。
レイ「まー、なんだ。バサラの奴がな・・・」
聞けば今や伝説のバンドとして引っ張りだこのファイヤー・ボンバー。
そのヴォーカル担当は、そんな英雄扱いを窮屈に感じて、またぞろ一人どこかへ行きかねないそうだ。
751
:
はばたき
:2014/09/21(日) 22:19:34 HOST:zaq3d2e6478.zaq.ne.jp
レイ「弾けるんだろ?楽器」
暖かな手が差しだされる。
戸惑う目線は、我知らず一人の少女を追っていた。
シンジ「綾波・・・」
綾波「碇君の好きにしたらいい」
そっけない言葉だった。
だからこそ放っては置けなかった。
綾波「私には何も無いもの」
そう
自分も、綾波もアスカも三人とも“ヱヴァに乗るしかない”と言う点で同じだった。
それが存在意義だった。
しかし―――
シンジ「何もないなんて、そんな悲しい事言うなよ」
そう
“何もない”等と言う事はもう無いのだ。
シンジ(そうだ。ヱヴァのパイロットじゃない僕だってあり得るんだ)
やっと―――それが解った。
―――こんな時、どんな顔すればいいか解らない―――
かつて、少女は少年にそう返した。
その時の答えがここにある。
§
エレ「ふふふ」
眼下で楽しそうに笑う少年少女を見て、自然と笑みがこぼれる。
エレ「ね、アイラ。私さ、もう帰らなくてもいいかな、なんて思ってた」
静かな告白。
しかし、それが間違いである事は知っている。
エレ「でも、それじゃダメだよね。私は兎も角、皆は家族がいるもん。アイラも義弟さんや義妹さんに暫くあってないんでしょ?」
アイラ「どうだろうな。あの子達は私よりずっと強かだ」
この世界に来て
友と語らい
傷つけあった今だからこそわかる
自分がどれだけ未熟であったか―――
アイラ「だからまあ、急いで帰る必要はないんだ。私は」
エレ「それは―――」
ダメだと言おうとした唇を静かに止められる。
アイラ「いいんだ。最高の友達がいるんだ。何処でだって生きていけるさ」
その言葉は―――自分の答えと同じもの―――
エレ「うん!」
花の様に笑った笑顔は―――仲間達と同じ輝きを持って―――
752
:
蒼ウサギ
:2014/10/15(水) 22:43:08 HOST:i114-190-102-81.s10.a033.ap.plala.or.jp
最初に“ここ”に来た場所に戻った悠騎は、元の世界に帰る方法を考えていた。
ブレードゼファー・エクスは、未だにシステムが全て落ちている状態。
幸いなのは、Dジェネレータが3つとも損傷だけですんでいるというところだ。
もちろん、剣に装着されてた内2つも、剣自体が完全に粉砕されたにも関わらず軽い損傷だけですんでいる。
だからといって、もう一度、同じように次元を開けるかといえばそうではない。
損傷を被ったDジェネレータは、とても今の悠騎の整備技術では直すことはできない。
なにより、肝心のトリガーとなる剣がほぼ全壊状態なのだ。
悠騎「……まいったな」
だが、それで諦めたつもりはない。
何か使えそうなものがないかと、思考を巡らせる中、ウラノスの巨体がどうしても目に入ってくる。
悠騎「……ヴィナス、いないのか?」
何故かウラノスに惹かれるように下げられている掌の上に乗った。
すると、それまで沈黙していたウラノスが動きだした。
そして、コクピット部分らしきところまで持っていくと手の動きは止まった。
悠騎「コクピットか? でも、どうやって……」
そう思った矢先、コクピットらしき部分が開いた。
音はほぼ無音だった。ハッチというより、ウラノスへの入り口にさえ見えた。
そこに入り込んだ悠騎。だが、当然ながら操縦法はまるでわからない。
と、いうよりコクピット内が意外とシンプルな構造だったのだ。
手を包み込むような穴の開いた球体が左右に二つ、コクピット内に浮いていた。
他に機器らしい機器は見当たらない。
まるで異世界ファンタジー作品なんかでありそうなコクピットだ。
悠騎「どうやりゃあ、いいんだよ……?」
毒づきながらも吸い込まれるかのようにその球体の穴に手を入れる。
すると、突然のフラッシュバック。
遠い、遠い過去の――――ウラノスに眠っていた記録が甦った。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・
“今の”人類の歴史が始まる遥か以前、文明が栄えていた時代があった。
そこには、精霊もいた。それに加えて機械技術も“今の”時代よりも発達していたのだ。
名もなき時代…いわゆる『失われた世紀(ロストセンチュリー)』である。
大陸が4つに分断されており、それぞれの大陸に独自の国を築いていた。
国同士に争いはなかったものの、それぞれの国には預言書が記されていた。
それは、世界が滅びるというというものだ。
この予言を変えるため、国同士のトップは話し合いを重ね、対抗手段を模索した。
そして時がきた。
宇宙から隕石が落ちてきたと同時に、隕石に紛れて侵略者が現れた。
『滅びの使い』
誰が言うまでもなくそれが浸透していった。
各国はそれと戦うも、人々は勝負の先が見えていた。
自分達が負ける。自分達の世界が滅びる。
恐怖と絶望が渦巻く中で、決して諦めない者達がいた。
各大陸から現れた四戦士に加え、その仲間達。
その中に――――
753
:
蒼ウサギ
:2014/10/15(水) 22:44:07 HOST:i114-190-102-81.s10.a033.ap.plala.or.jp
―――あれは……オレか?
もちろん、星倉悠騎自身にその記憶はない。
顔立ちや雰囲気こそ似ているが、全くの別人だ。
だが、悠騎自身、彼にどこか親近感を抱いている。
似ているからか?
それだけでは説明できない“何か”があった。
4人の戦士とその仲間達は、『滅びの使い』と戦った。
しかし、健闘空しく、彼らは敗れた。
その時だ。
まだ赤ん坊のマルスを連れて、ウラノスは世界を跳んだ。
本来ならばウラノスは、『滅びの使い』に対抗するための切り札だった。
しかし、実戦投入させるには遅すぎたのだ。
だから、マルスの両親は幼いマルスを護衛役のミスティと共に“こことは違う世界”へと跳ばしたのだ。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
・・
悠騎「っは!」
壮絶な大昔の戦い、その一端を見せつけられて額に汗が滲んでいる。
月で黒歴史を見ていた冬の神殿の時より強烈かつ鮮明な映像だ。
まるで自分がそこにいるような感覚に見舞われた。
悠騎「遥か古代の時代か……マルスとミスティはその時代に生きていた希望の証だったんだな」
ふと<アルテミス>の要塞、エデンでの戦いを思い出す。
ヴィナスの企みで氷漬けにされたその二人の事を思うと、少し複雑な気持ちになった。
しばし、瞑目して、目をカッと見開く。
悠騎「とりあえず、今のオレにとってはお前(ウラノス)が最後の希望なんだ! 頼むぜ!」
なんとなく操縦法がわかった。
先の映像の影響なのだろうか、とにかく「やれる」という自信が湧いている。
由佳やトウヤを始め、長く戦ってきた戦友たちの顔が次々に思い浮かぶ。
瞳の色が紫に色に染まる時、ウラノスの目が輝いた。
§
長らく平和が続き、復旧作業の方に力を入れている彼らがある機体の反応に気づいた。
ミキ「上空に強大な熱源反応確認!」
神「識別照合は?」
ミキ「待ってください……こ、これは!? ウラノスです!」
その声に一同に緊張が走った。
ミキはすぐに艦内放送で知らせ、由佳達が慌ててブリッジに集合した。
トウヤ「このタイミングでウラノス!?」
由佳「よりによって……。すぐにミリア市長と連絡をとってプリベンターとの共同戦線を要請して!」
ミキ「はい!」
その時だ。
???『ちょい待ち〜!』
すごく懐かしく、そして聞き覚えのある声が一同の耳に届いた。
その声に、思わず由佳やミキは涙した。
ミキ「せ、先輩……」
由佳「お兄ちゃん……」
ヴィナスでもなければ他の誰でもない。星倉悠騎の声だ。
悠騎『悪いが、アイかホシノ艦長いる? そちらからこっちにハッキングして回線開いてくれね?
何せ使ったことない機体だからよ』
アイ「……変わってない様子ですね」
小さく笑って、アイが少々手こずりながらもウラノスの回線を乗っ取って開いた。
そこに見えるのは、まるであの戦いの後、1〜2時間で帰ってきた様子の悠騎の姿だった。
レイリー「何処行ってた知らないけど、忘れもん、ないか?」
悠騎『あぁ、ちゃんとエクスも一緒だ』
まるで小旅行から帰ってきたかのようなやり取りに、レイリーは泣きそうな顔を堪えていた。
由佳「お兄ちゃん!」
ついに堪え切れず涙が溢れた由佳。
その姿は、艦長という以前に1人の妹としての反応だった。
トウヤ「とりあえず、着艦したら色々説明してもらうよ。悠騎くん」
悠騎「望む所っすよ。……ひとまず、みんな。ただいま!」
―――おかえりなさい―――
754
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:53:31 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
倒壊したビル、罅割れた大地、
汚染大気で赤黒く染まった雲が空を覆っている。
とうに終末を迎えた世界の光景なれど、地上には人の声が絶えずにいた。
外を出歩く人の姿は見えないが、代わりに巨大なロボットたちが闊歩し、烈しい戦闘を繰り広げている。
ボルジャーノンのビームアックスがリーオーの腕を切断し、
バルキリーのピンポイントバリアパンチがカプルの胴体を貫いた。
荒廃した大地には無数のロボットの残骸が転がっている。
此処は闘争のみを至上とする弱肉強食の世界。
強者が弱者を虐げ、力を持つ者だけが生きる資格を持つ。
「ヒャッハー!何だあのロボットは!?」
「きっとレアものだぜ!」
「レアパーツはいただきだぜぇ!!」
ロボット乗りたちは自らのロボットを強化する為に、他のロボットを倒し、より強力なパーツを奪い取るのだ。
3体のロボットが向かう先には、見慣れぬロボットが腕を組んで佇んでいる。
ならず者たちが操縦するのは、ズサン、ギラ・ドーガ、リーオーの3体。
頭にモヒカンヘッドを付け、全身に棘を生やしたパーツを纏っている。
3体のロボットは背後から一斉に襲い掛かった。
3体の攻撃が交差した瞬間、相手のロボットの体が弾け飛んだ。
「何だ、見かけ倒しかよ!!」
「まぁいい、レアモノなら売れば金になるぜ!」
「売れなきゃ溶かして新しいパーツに……うぎゃあああああ!!」
突如背後から飛んできたビームに貫かれ、爆砕するギラ・ドーガ。
「な、何ぃ!? 新手か!」
「い、いや、違う! あのロボット……バラバラになったまま動いてやがる!」
ロボットは、バラバラになったまま宙を舞い、ならず者たちに攻撃を仕掛けたのだ。
???「ふん! またしてもザコどもか!
その程度の腕では、このターンXの破片一つ奪うことはできんぞ!!」
複数のパーツに分離したロボットは、リーオー目掛けて突撃。
リーオーの装甲を圧し砕き、爆発四散させる。
爆煙の中から現れたのは、合体を果たした薄緑色のロボットだった。
「う、うあああああああ!?」
狂乱したズサンはミサイルを発射するが、薄緑色のロボットは手刀でそれらを弾き飛ばしつつ突進。
瞬時に肉薄すると、その掌でズサンの胴体を掴み、持ち上げる。
???「シャイニングフィンガーとは、こういうものだ!!」
「ひぎゃああああああああああ!!!」
溶断破砕マニピュレーターに掴まれ、ズサンは閃光と共に砕け散った。
一瞬で屠られた3体のロボットの残骸を前に、
薄緑色のロボットのパイロットはコクピットハッチを開け、
汚染された大気に生身を晒す。
カールした青色の髪を持つ、立派な体格をした男は、自らの戦果を前に鼻を鳴らす。
???「力のみが唯一価値を持つ世界!
何とも小生好みの素晴らしい世界であるが、これしきの敵では物足りぬ。
∀やあの者達との熱く激しい戦いが懐かしい……」
755
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:54:54 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
男が郷愁に浸っていると……曇天の空が、突如として眩しく照らし出された。
風の流れは生じておらず、分厚い雲は依然晴れていない。
それ自体が太陽のような輝きを放つ物体が、空から舞い降りて来たのだ。
光に包まれたそれは、全て等しい長さの辺を持つ金色の四角錐(ピラミッド)だった。
『遂二度寝してしもうた間に、万事(すべて)は終焉を迎えたか。
気付けば、また知らぬ枝界へと飛ばされし』
金色のピラミッドから、男性の声が世界に響き渡る。
『今は朝か?夜か?こうも曇っていては分からぬ。
まぁ善かろ、朕(われ)が起きたのなら、それは朝である』
時間の基準さえも己の都合で決まると、四角錐の主は傲岸な台詞を吐く。
『勝利したのは銀河の門番か?美神を名乗る者か?
まぁどちらでも善い。所詮悠久の流れの一幕。
一時の嵐に水面を震わせようと、大河(ナイル)の流れは変わらぬ』
その言葉に、地上の男は反駁の声を張り上げる。
???「聞き捨てならぬなぁ!小生らの戦いが、取るに足らぬ無意味なものであると言っているようではないか!!」
『左様。怎(そも)、此岸で誠に人足るは朕(われ)只一人であり、其れ以外は全て時獄の縛奴なり。
蟻共の争覇(あらそい)になど泡沫の意味も無し。
その存在に何か価値を見出すとすれば、其れは朕へ奉仕することのみよ』
???「神気取りか?片腹痛いわ。何もしなかった者が、あの尊ぶべき戦いを冒涜することは許さぬぞ!!」
『……そこな機械人形の乗り手。朕は朝の運動をしたい。相手をする栄誉を与える』
ピラミッドの主は、男の怒声を風のように受け流しながら、一方的に己の望みを口にする。
いや、話に受け答えしているようで、実際には独り言を口にしているだけだ。
主にとって己だけが唯一の存在であり、それ以外の全ては己に奉仕するための道具(もの)だと、“正常に”認識しているのだ。
だが、この展開は地上の男にとっても望むべきものだった。
???「ふん、いいだろう。小生としても、もっと骨のある相手を求めていたところだ。大口を叩いておいて、小生の期待を裏切るなよ?」
男はターンXのコクピットの中で不敵にほほ笑む。
あれが並はずれた存在であることは一目で分かる。
朝の運動などと戯けたことを言っているが、あの圧力は、僅かでも気を抜けば、即座にすり潰されると伝えている。
だが、そんな存在との闘争こそが男――ギム・ギンガナムの求めているものだ。
さらに輝きを増した、ピラミッドの放つ金色の光に対抗するように……
ターンXの背中から、虹色の輝きが放たれる。
暗く濁った世界は、金と虹の光によって、たちまち眩く染め上げられる。
しかしそれは破滅の光。月光蝶に触れたモビルスーツの残骸は、たちまち灰燼に帰する。
ギンガナム「小生は今日も……絶好調である!!」
蝶の翅をはためかせ、金色のピラミッドに向かい飛翔する――
756
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:56:55 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
生還を果たした星倉悠騎は、ただちに統合軍の病院へと入院させられた。
本人は拒否したが、単身境界へ飛び込み、長らく別の世界に留まっていたのだ。
体にどんな不調が起こっているか分からない。彼の病室には、連日多くの人が訪れた。
ジョウ「全く、心配かけさせやがって」
悠騎「悪い悪い。でもこうしていると思い出すな。確か、俺が最初にこの世界に来た時、目覚めたところはエルシャンクの艦内だった」
レニー「そうだったわね。あれからすごく長い時間が経ったように感じるわ」
エイジ「だが、本当に無事に帰って来てくれてよかった。お前の安否が、この星を去る前の一番の心残りだったからな……」
悠騎「地球を去る? ああ、お前らは元々別の星の人間だったな」
ロミナ「ザ・ブーム星に侵略されているわたくし達の故郷・シェーマ星系を解放することが、わたくしの本来の使命……
アネックス皇帝がこの地球で倒れたとはいえ、故郷がザ・ブーム星に侵略されている状況には変わりありません」
ガメラン「だが、皇帝の死は、ザ・ブーム本星にも激震を与えたはず。シェーマ星を解放するのは、今を置いて他に無い」
ジョウ「伝説のニンジャも見つかったことだしな!」
ロミナ「うふふ、そう、わたくし達はそのために地球に来たのでしたね」
懐かしげに語るロミナ姫。
悠騎「と、いうことは、お前らも?」
マイク「ジョウの兄貴が行くって言うんなら、俺らも一緒に行かなきゃでしょ」
ダミアン「俺らは元々火星育ちだし、宇宙で生きていくことには慣れてるしな」
レニー「それに何より……ロミナは私たちの友達ですもの。友達の故郷が侵略されているのを放っておけるものですか」
ロミナ「レニー様……いいえ、レニー、ありがとうございます」
ロミナやイルボラはシェーマ星系から来た異星人であるが、ジョウ達はエルシャンクが火星に不時着した際、なりゆきで巻き込まれた地球人だ。
忍者ロボを動かせると言う理由でエルシャンクの戦力となったが、今はそんな事とは関係なく、彼らとの間には、星と星の垣根を越えた分かち難い絆が生まれている。
ロミナ「飛影やジョウ様たちが本当に伝説のニンジャだったのかは分かりません。
しかしわたくしはこの星で、それ以上に掛け替えのないものを学んだと思っています」
ジョウ「それは俺らもだ。イルボラ、色々あったが、お前とももう友達だと思っているぜ」
イルボラ「ジョウ……今なら素直に言える。ありがとう。ならばこれからは忠義や贖罪だけでは無く、友のために刃を振るおう」
悠騎「そっか……でも、お前らはそうするんだろうなと、話を聞いていた時に思っていたぜ」
ジョウ「俺らだけじゃねぇ。エイジさんや、マシンロボチームの皆も一緒だ」
エイジ「ああ。シェーマ星系が解放された後は、グラドス星に向かい、内部からグラドス星の選民思想を変えていくつもりだ」
ジョウ「もちろん、俺らもそれに協力するつもりだぜ」
エイジ「例えシェーマ星系を解放しても、また新たな脅威が現れる可能性はある。それを防ぐために星々を渡り歩き、争いの虚しさ、共存の大切さを訴えていく。
最終的には、銀河全体で平和の輪を広げていければ……と思っている」
悠騎「何ともスケールの大きな話だな……」
エイジ「ああ……だが、この戦いで俺たちは、星や世界の境を越えて、互いに手を取り合って滅亡の脅威に立ち向かい、勝利することができた。
その人の……いや、銀河で生きる命の可能性を、俺は信じたい」
悠騎「そうだったな……俺らG・K隊も、銀河の守り手を名乗るなら、それぐらいを目指さないといけないのかもな……」
ジョウやエイジの目指す未来と、G・K隊の行くべき道を重ね合わせる悠騎だった。
757
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:57:53 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
G・K隊や統合軍が駐屯している基地から、少し離れた岩場……
そこでは、ドモン・カッシュとロム・ストール、二人の男が向かい合っていた。
ドモン「お前も、この星を去るんだったな」
ロム「ああ、星を侵略する悪を討つのが天空宙心拳の使命だ。それに、ジョウやエイジに、友として力を貸したい」
ドモン「その戦いが終わったら?」
ロム「ギャンドラーは滅んだとはいえ、この宇宙には、まだまだ弱者を虐げる悪が蔓延っている。それに、滅んだままのクロノス星の復興も果たさないとな……」
ハイリビードの力は、L.O.S.T.の侵蝕を跳ねのけるために失われた。
だが、あの深虎との戦いで分かった通り、その力は本来、生存を願い前に進もうとする人々から湧き出る命のちからそのものなのだ。
ロム「銀河に平和をもたらし、人々の活力を呼び覚ます……それが新たなハイリビードを顕現させ、クロノス星を再生させると俺は信じている」
ドモン「そうだな……お前ならきっとできるさ。俺も、力を貸してやりたいが……」
ロム「その申し出はありがたいが、お前は、元の世界でやるべきことがあるはずだ」
ドモン「ああ……」
そう言って、二人は同時に歩み出し、互いに固い握手を交わした。
ドモン「望まずして来た異世界だが、お前という男に出会えたことを感謝したい。お前もまた、師匠や兄さんと同じく、俺が尊敬すべき武闘家の一人だ」
ロム「ああ、属する世界は違えど、これからも互いに技を磨き上げていこう」
ドモン「……こうしてゆっくり語らう時間も、これが最後になるかもしれんな」
ロム「ああ、ならば、後はやるべきことは一つだ」
これ以上、言葉は不要だった。手を放した後で、互いに距離を取ると、二人の武闘家(おとこ)は同時に構えを取った。
共に世界を脅かす敵と戦い、切磋琢磨してきた日々……二人は紛れもない戦友であった。
だが、同じ武闘家である以上、己と同等以上の強さを持つ者に対し、戦ってみたいと言う思いが沸かぬはずがない。
怒りも憎しみも無い、ただ純粋に、どちらが強いか決めたいという欲求……いや、更に根源的な、『俺の方が強い』という、武闘家を武闘家たらしめる自負……
骨の髄まで武闘家である両者が向かい合った以上、決着をつけようとするのは必然であった。
これが正真正銘最後の……二つの世界を代表する格闘家同士の――
ドモン「流派東方不敗、キング・オブ・ハート、ドモン・カッシュ」
ロム「天空宙心拳伝承者、クロノス族族長、ロム・ストール」
「「いざ尋常に――」」
勝負(ファイト)――!!
758
:
藍三郎
:2014/10/19(日) 16:59:00 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
コスモ・フリューゲル内にある、休憩用のカフェバーのカウンターを挟んで、二人の男が向かい合っていた。ムスカ・D・スタンフォードとゼド・グロリアスである。
ゼドは二つのカップにコーヒーを淹れ、一杯をムスカに、もう一杯は自分であおる。
ムスカ「美味ぇ……」
ゼド「はい、私もあれからようやく満足できる一杯が出来たと思いますよ」
理由はもちろん、悠騎が無事に帰ってきたことだ。
あのヴィナスとの最終決戦……悠騎とヴィナスが共に次元の渦へと消え、敗北感と無力感を味わわされてから、ムスカは一度も心からコーヒーを美味いとは思えず、ゼドも満足の行くコーヒーを作れていなかった。
ムスカ「あいつには今回も驚かされたぜ……生きて帰って来ただけでも奇跡だってのに、この世界を救っちまうんだものな」
悠騎があの次元の渦に飛び込んでからどうなったのかは、彼自身にもよく分かっていないらしい。だが、この世界を含む全ての世界が救われたのは、彼のお陰なのだろうと直感していた。
ムスカ「おまけにウラノスまで持って来て、俺らが元の世界に戻れる可能性もできた。全く、大人の立つ瀬がないぜ」
ゼド「若者には無限の可能性がある……それはこれまでの戦いで、十分わかっていたはずですがね」
ムスカ「ああ……おっと、もう子ども扱いするべきじゃねぇな。あいつはもう、立派な大人だ」
年若い戦士に、心からの賞賛を送りながら、二人はコーヒーを口に運ぶ。
ゼド「白豹がマザーグースから抽出した知識、機動要塞シャングリラ、そして一番の要であるウラノスが我々の下に戻って来たのです。
更なる解析は必要でしょうが、元の世界には帰還できるでしょう……いいえ、そうしてくれるはずです」
ムスカ「最悪、カフェ・トライアングル異世界店を開業するつもりでいたんだがな。その必要もなさそうだ」
ゼド「はい……私にもあなたにも、向こうで待っている人たちがいますからね……」
二人は、懐に入れていた写真に目をやる。ムスカの写真には一人の女性が、ゼドの写真には、彼の妻と子供たちが映っている。
ムスカ「随分心配かけちまっただろうな……元の世界で、どれだけ時間が流れているかは分からねぇがよ……」
ゼド「元の世界に帰還するなら、その時間も調整しなければいけませんね……もし我々が異世界に飛ばされる『前』に帰還すれば、時間にどんなねじれが発生するか分かりません」
ムスカ「難しいところだな……」
セレナ「ちょっとちょっとぉ!おっさん二人が何を寂しく黄昏てるのよ!!」
その時、カフェバーの扉を開けて、セレナが勢い良く入って来た。
ゼド「社長……どうなされました?」
セレナ「どうも何も、今夜は悠騎の帰還祝いに、宇宙の皆さんのお見送りパーティーをやるのよ!!準備は山積みなんだから、早く来なさい!!」
ムスカ「そいつは、バミューダストームへの依頼……になるのかい?」
セレナ「そうよ!私の面子も掛かっているんだから、誰もが満足できる最高のパーティーにしないと!!」
ムスカ「……もしかしたら、これが、この世界でやる最後の仕事になるかもな」
ゼド「ならば、張り切って取り組まなければなりませんね」
二人の大人は互いに笑むと、席から立ち、社長の背中を追ってカフェバーを後にした。
759
:
蒼ウサギ
:2014/11/02(日) 00:18:19 HOST:i121-112-39-226.s10.a033.ap.plala.or.jp
=シティ7=
これまでパーティー等といったイベント事がなかっただけに、一同の盛り上がりぶりは尋常ではなかった。
出された料理に夢中になる者。この空気に乗じて口説こうとする者。ファイヤーボンバーの歌に乗じる者。
反応は様々だ。
悠騎「ったく、オレなら心配ないってのに。あの医者ときたら」
ブツブツと文句を零しながら悠騎は今、車いすでミキに連れられている。
医師はこの出席に良い顔はしなかったが、車いすで付き添いつきならと承諾してくれた。
悠騎「別にオレはどこも悪くないってのに毎日のようにあちこち検査しまくって」
ミキ「まぁまぁ。先生も心配なんですよ。だって例にないことですし、それに・・・・・・」
悠騎「ん?」
ミキ「私も心配ですから。あと、この際ですから今までの戦闘分の怪我も診てもらういい機会だと思いますよ」
悠騎「オレはそんなヤワじゃねぇっての」
由佳「また強がっちゃって。後で後悔しても知らないよ」
皿にタップリの料理を盛り付けている由佳が割って入った。
悠騎「てか、由佳。お前、オレがこっちに帰って来た時、泣いたってホント?」
うっ、と声を詰まらせ、次に顔を赤くした由佳は
由佳「そっ、そんなこと今頃になってほじくり返さないでよっ!」
と、悠騎の耳元で叫んだ。
どうやら泣いた事実は否定しないようだ。
ブンドル「マドモアゼル由佳。恥ずることはありません。あなたの涙は非常に美しいも―――」
悠騎「人の妹を勝手に口説くな、ブンドリ野郎!」
ブンドル「こんなときくらい大人しくしてもらいたいものだな。星倉悠騎」
悠騎の怒鳴りを軽くいなし、由佳に渡す予定だったであろう薔薇を咥える。
華麗にして無駄のない動きだ。
ブンドル「ひとまずは感謝しよう。このような催し物が出来るようになったのだからな」
そう言って、ブンルドはその場を去っていった。
結局は誰もが感謝しているのだ。
それが、例え偶然であれ、奇跡であっても。
悠騎「……ったく」
掴めない奴だ、と、悠騎は嘆息するもその表情には笑顔が浮かんでいた。
§
=コスモ・アーク 格納庫=
整備班長であるレイリー・ウォンは、こんな日でも格納庫に籠っていた。
例によって悠騎が持ちかえったウラノスを徹底的に調べるためだ。
元の世界に帰るには、いくら時間があっても足りないくらいだ。
レイリー「ふぅ……ウラノスとシャングリラ。それに、ブレードゼファー・エクスがあれば何とかなるかもしれないね」
そんな時に一杯のコーヒーが差し出される。丁度、飲みたいと思っていたところだ。
レイン「あっちに顔出さないの?」
レイリー「まだこれをどうにかしないといけないから」
キッド「ったく、レイリー姉ちゃんは水臭いなぁ。手伝いならするぜ」
ウリバタケ「おう! 及ばせながら力を貸すぜ。だってアンタらはオレ達の世界を守ってくれたんだからよ」
レイン「もちろん、私も手伝わせてもらうわ」
それぞれの温かい言葉に、レイリーは素直に嬉しくなった。
それと同時に少し寂しくもなっていく。
これで次元跳躍マシンが予定より早く出来てしまえば、それだけ別れが早くなってしまう。
それもまたどこか寂しい。
しかし、元の世界に帰る。当初の目的でもある。
レイリー「……ありがとう」
それでも、嬉しい気持ちは収まらなかった。
760
:
藍三郎
:2014/12/23(火) 21:47:05 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
セレナ「……やっぱり、体は修理しなくていいの……?」
パーティーが始まる少し前……セレナは、窓の外にいるクローソーを見かけ、話しかけた。
その問いかけに、彼女は黙って首を縦に振った。
マザーグースによって造られたアンドロイド、クローソーは長らくメンテナンスを行っていなかったため、その稼働時間に限界が近づいていた。
修理できるのは創造主であるマザーグースのみ。
彼の知識は白豹が吸い取り、統合軍にデータとして残されている。
ゆえに修理しようと思えばできるのだが……彼女はその申し出を拒否した。
クローソー「……別に、ヤツの知識のお陰で生き延びるのが癪だってわけじゃないさ。
そもそも他人の世話になりながら生きるのが面倒でね。元から長生きしたかったわけでもないし」
セレナ「あえて引き止めはしないけど……これからどうするつもり?」
クローソー「世界中を歩きながら、生きられるところまで生きてみるさ。お前らには……」
そこから先は言わず、クローソーはG・K隊と統合軍の前から姿を消した。
彼女も、最後まで言葉を決められなかったのだろう。仲間の仇でもあり、同時に命の恩人である彼らに対して……
=パーティー会場=
パルシェ「では、エナさんはこの世界に残るんですか」
エナ「……ああ」
頷く彼女の目に、迷いは無かった。
エナ「私はネオ・ジオン、ザビ派のサイコドライバー研究所にいた。
外の世界をこの目で見ることはなく、来る日も来る日も調整と訓練の日々……
そして結局、私は殆ど実戦に出ることがないまま、ザビ派は敗北し、私は戦う場を、生きる場を失った」
アルティア「…………」
エナ「だが、この世界に飛ばされて、私は初めて世界と言うものに直に触れることができた。
辛いこともたくさんあったが……生きるということが何なのか、分かった気がする」
パルシェ「そうですね……大変なことばかりでしたが、得たものも多かったと思います」
エナ「私にとっては、この世界の方こそ、初めて自分の意志で『生きた』世界と言える。
だから、私はこの世界で生きていく。
当面はミリシャの人たちの手伝いをすることになると思う」
タツヤ「そうか……元気でな」
エナ「ああ、あなた達を見習って、精一杯、生きてみる。
こんな私を生かすために、命を賭してくれた人がいたのだから……」
そう言って、エナは笑って見せた。
悲しみや喪失感など、様々な感情が入り混じっていたが、それは心からの微笑みだった。
761
:
蒼ウサギ
:2015/02/19(木) 21:55:20 HOST:i118-16-253-34.s10.a033.ap.plala.or.jp
=某資源衛星=
<アルテミス>との戦いから約一カ月後のこと。
ネオバディムの残党がこの資源衛星で反撃のチャンスを伺っていた。
大半の主要メンバーは失ったものの、いつか必ず野望成就の信念のもとにここで牙を磨いていた。
そして、そこに所属している研究員は日夜新型機の開発プランについて議論していた。
「やはり両より質でしょう。先の戦いが証明している」
「だが、量も無視できない。なにせ乗り手が少ないのだからな」
「この両方を両立させた新兵器が目下の課題だのう」
議論が白熱していく中、どこからか爆発音が響いた。
デュオ「ネオバディムの残党が保有していたMDやMSの製造プラントは叩いたぜ!」
ヒイロ「設計データのほうはこちらで消去した」
デュオ「ひき上げ時だな。残党共はどうする?」
ヒイロ「オレ達がいちいち始末する必要はない。ここ座標はすでにカトルやガムリンが捉えている」
デュオ「なるほど。後は宇宙統合軍のお仕事ってわけね」
プリベンター。
主に軍事産業を狙って破壊して争いの種を摘んでいくこの世界の平和のため組織。
構成員は小規模ながらもその成果は順当である。
デュオ「あ〜あ、オレもパーティの方に参加したかったぜ」
ヒイロ「お前が選んだ道だ。文句を言う資格はない」
デュオ「へいへい、っと」
脱出用にあらかじめ確保しておいたこの資源施設の小型シャトル発射の準備をしながらデュオがぼやく。
だが、ここで二人に予想外のことが起きた。
突然の銃声、それも生身の人間が使うものとは比較にならない轟音がシャトルを破壊した。
デュオ「なっ! MS!?」
ヒイロ「製造プラントに残っていたのか」
MS、リーオー。
一時は前線におけるOZの主力MSだったが、宇宙統合軍、G・K隊との戦いで性能差が明らかになり
ト―ラスやビルゴに取って代わられた。
デュオ「野郎! ここにこんなものまであったなんて」
ヒイロ「ちぃ」
デュオとヒイロの手持ちは拳銃と爆薬くらい。この状況ではとても太刀打ちできるはずもない。
ガンダムとまではいかないが、せめて使えるMSさえあればと思ってしまう。
そんな時だ。
空間が淡く歪んだかと思うと、そこからブラックサレナが現れた。
リーオーのパイロットはそれに不意をつかれたのか、手元のマシンガンをすぐに発砲することができずに
ブラックサレナの一撃に沈んだ。
ヒイロ「テンカワ・アキトか」
アキト「二人とも無事か?」
デュオ「あぁ、お陰さまでな」
その後、アキト共々ユーチャリスに回収され、この資源衛星から離脱していった。
デュオ「で、お前はパーティに行かなくてよかったのか?」
アキト「オレには必要ない」
デュオ「まぁ、そのなんだ。料理の味とかわかんねぇかもしれないけど、その雰囲気とか楽しめるんじゃないか?」
アキト「オレは影となってこれからのユリカやルリちゃんを守っていかなければいけない」
ヒイロ「だから、お前もプリベンターに入ったのか?」
アキト「そうだ。宇宙統合軍ができないことをオレ達がやる」
ヒイロ「それが、お前の今後の生き方なんだな」
アキト「あぁ」
ヒイロ「そうか……」
ヒイロは考えていた。
元の世界に帰った時の自分の生き方を……。
762
:
蒼ウサギ
:2015/02/19(木) 21:56:41 HOST:i118-16-253-34.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
ガロード「オレさ。元の世界に帰ったらティファと一緒に旅をしたい」
ティファ「ガロード……」
少し驚きの顔を見せつつも、すぐにそれが喜びへと変わっていく。
ウィッツ「言うようになったじゃねーか」
ロアビィ「でも、あの兄弟のゲテモノガンダムがいなくなったとはいえ、
元の世界に帰ったら帰ったでティファを狙うヤツがいるんじゃないの?」
ジャミル「……ティファ、あれからどうだ?」
その問いかけにティファは徐に目を閉じた。
ティファ「もう私は何も感じることができません。恐らくD.O.M.Eがもう必要ないと感じたのでしょう」
ニュータイプなどという幻想は終わった、ということだろう。
戦いが終わったことで、ティファはもう能力なんて必要ないということを自覚したのだ。
トニヤ「う〜ん、スペシャルパワーがなくったなんてちょっと勿体なかったんじゃない?」
ティファ「いえ、私はガロード達と同じになれて嬉しいです」
ジャミル「とはいえ、勘違いしてくる輩もいるかもしれん。その時はガロード……」
ガロード「あぁ、ティファはオレが守るぜ」
そして、数週間の時が経った頃、彼ら―――イレギュラーと呼ばれた者達はコスモ・ストライカーズに招集された。
=コスモ・ストライカーズ=
レイリー「なんとかだけど、ようやく皆が元の世界に帰れる目処が立ったよ」
悠騎「マジか!?」
レイリー「といっても、まだ実験もしてないから保証はできないけどね。というより、実験は難しいかなって思う」
当然、疑問の声が上がるが、何人かはその理由がすぐに理解できた。
トウヤ「なるほど。もし実験すればウラノス、そしてシャングリラも失いかけないってことか。成功失敗に問わずね」
レイリー「そう。まさに不安定な片道キップ状態なんだ」
でも、可能生は高いんだよ、と付け足して説明に入った。
レイリー「とりあえず手順を説明するわ。悠騎がウラノスに乗って、ゼファーブレードで次元を斬り裂くの」
悠騎「お、オレが?」
レイリー「この中で唯一、違う次元世界に行き来できたの、あんただけだけだからね。可能生は少しでも高い方がいいでしょ?」
悠騎「まぁ、そうだけどよ。……てか、ウラノスとエクスの剣じゃサイズが違い過ぎじゃねぇか?」
レイリー「大丈夫よ。ちゃんとウラノス用に修復させてるから。
ついでにエクスのDジェネレーターもゼファーブレードに組み込んだし」
マジかよオイ、という悠騎のぼやきを無視して、レイリーは説明を続ける。
レイリー「その際、皆にはそれぞれの帰るべき場所をイメージして欲しいの」
キラ「イメージ?」
レイリー「そう。そうしなきゃ次元が開いても、皆一緒に同じ世界に跳んじゃうからね」
ドモン「だが、イメージするだけで上手くいくものなのか?」
アイ「信憑性は欠けますが、そうする他ない。というのが現状です」
レイリー「何せシャングリラの方にもウラノスの方にもそれっぽいものはなかったしね。
でも、考えてみなよ。アルテミスのヤツらは無差別じゃない。ちゃんと選んでアタシ達をここに連れてきたんだ。
そう考えると、イメージっていう言葉が一番しっくり来るんだよ」
リリーナ「わかりました。やってみましょう」
リリーナの言葉に異議を唱える者はいなかった。
ジャミル「それで時間軸の方はどうなるのだ? 我々が飛ばされてきた直後になるのか?」
レイリー「そっちの方は上手く調整できなくってね。精々、ここにいた時間軸と同じ、約半年経ってると思っていいよ」
由佳「そこは致し方ありませんね」
一瞬の沈黙が流れたが、誰も思いの外それを深刻に思っていないようだ。
カトル「例え、僕らの世界がまた1からのスタートだったとしても」
ガロード「過ちを繰り返さなきゃこっちと同じような結果になるさ!」
キラ「それだけの大切な時間を、僕らはこの世界で学んだんだね」
これまでの戦いを振り返り、みんな思わず感慨に耽ってしまう。
ラクス「それで、出立はいつになりますか?」
レイリー「悠騎次第だけど、色々調整もあるからね。だいたい3時間ほどかな」
悠騎(そうだよな……オレが“あの力”を引き出さない頃には始まらない)
自分の一太刀が仲間達の帰るべき場所へと戻れる。そう思うとヴィナスとの戦いより緊張してくる。
できるのか、ではなくやらなければならない。
だが、不思議とプレッシャーは感じられない。
自分の中で、以前よりも“あの力”が近くに感じられるからだ。
意識を集中させれば、いつでも発動できそうなほどに、悠騎の中では馴染んでいたのだ。
763
:
蒼ウサギ
:2015/06/25(木) 00:19:56 HOST:i118-16-253-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
キエル「ドーリアン外務次官。あなたの思想、この世界にも広めていくよう尽力いたします」
リリーナ「それは光栄です、キエルさん。いえ、ディアナ様」
キエル・ハイムは、本当の月の女王、ディアナ・ソレルとなった。
ディアナ・ソレルという人物は、今の月には必要なのだろう。
瓜二つのキエル・ハイム自身が悟り、申し出た話だ。
ディアナ「よろしくお願いしますね。キエルさん」
キエル「はい、ディアナ様。それと、これからはロランと一緒に?」
ディアナ「彼はこんな私の最後を看取ってくれると言ってくれました」
キエル「最後の時、誰かが側にいることは、幸せな事だと思います」
それ以上はお互い何も言わなかった。
リリーナも、そしてキエルの傍らにいるハリーでさえも沈黙を通した。
いくら月の高度な科学力で人工睡眠をしていたとはいえ、肉体はすでに1000年前のもの。
限界が近いのだ。
だから、自らの政権をキエルに託した。
全ては月に住む民のために。
§
ゼンガー(ゼクス・マーキス、そしてトレーズ・クシュリナーダ。この世界で安らかに眠れ)
己の剣を大地に突き立てる。
さながら、二人の墓標を象徴しているかのように。
エクセレン「あら〜、ボス。こんなところで物思いにふけちゃったりしてるのぉ?」
ゼンガー「そんなところだ」
キョウスケ「確かに、長い戦いでしたからね」
エクセレン「その分、アタシとキョウスケはラブラブに」
キョウスケ「それはないだろう」
その言葉に、エクセレンが「がーん!」と明確に落ち込んでいるそんな時だった。
ヴィレッタ「ふっ、安心しろエクセレン少尉。」
ライ「キョウスケ少尉は、自分と同じで素直じゃありませんから」
エクセレン「あら〜、色男さん、良いこと言ってくれるじゃない」
キョウスケ「・・・・・・そろそろ時間だ。いくぞ」
その胸中はどのようなものか。キョウスケは足早にコスモ・ストライカーズへと戻っていく。
764
:
蒼ウサギ
:2015/06/25(木) 00:20:41 HOST:i118-16-253-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コスモ・ストライカーズ=
3時間が迫っている。
四之宮アイは、最後の調整を行いながら、ふと、思った。
アイ「ホシノ少佐、あなたとオモイカネには助けられてばかりですね」
ルリ「それはこちらも同じです。……それに、あなた達は、私達の世界を救ってくれました」
相変わらず愛想が感じられない無表情な二人のやり取り。
だが、いつもとは少し違う雰囲気をお互い感じている。
ルリ「アイさんは、元の世界に戻ったら何をしますか?」
アイ「そうですね……」
もちろん、やらなければいけないことは山ほどある。
今回の出来ごとの報告書の作成、今回の戦いにおいての新しい戦術プラン。
何より、いなくなったG・K隊員の処理だ。
結果はどうであれ、そこに善悪はない。丁重に葬るのがG・Kとしての役割だ。
アイ「……とりあえず、当分は戦場に出たくないですね」
ルリ「奇遇ですね。私も同じ気持ちです」
二人は、小さく笑みを見せた。
そして、3時間という時間はあっという間に流れた。
§
出発の時間になり、由佳から各自に通達があった。
由佳「皆さん、それぞれの機体や戦艦に乗ってください。
ないという方はそれぞれの世界―――自分と同じ世界からきた者同士の相乗りをお願いします」
レイリー「なんで? って人のために説明すると、転移の瞬間に少なからず衝撃が起こるの。安全のためよ」
ルリ「まるで、ボソンジャンプのようにですね」
ボソンジャンプは、戦艦のような大きさや適性のあるパイロットなら安全に使用できていた。
しかし、適性のないパイロットのボソンジャンプは生死の危険性がはらんでいる。
アイ「似たようなものですが、今回は皆さんがもつ“修正力”を増幅することで元の世界に戻るようにしています」
カトル「なるほど、だから僕達が帰るべき場所のイメージが必要なんですね」
アイ「そういうことにしておいてください。やらないよりずっとマシですから」
アイの言葉がこの作戦の難易度が物語っていた。
確立100%ではない、限りなくゼロに近い作戦なのだと
由佳「それでは皆さんの帰還作戦を開始します!」
凛と言い放つ由佳の内心は、悠騎のことでいっぱいであった。
「頑張って、お兄ちゃん!」と、心の中で叫ぶのが精一杯だ。
§
ウラノスのコクピットで悠騎は、大きく深呼吸をした。
不思議なほどにそれだけで心は落ち着いた。
悠騎「いくぜぇ!」
気合の声と共に、ウラノスが新たに調整されたゼファーブレードを持って格納庫から飛びだした。
天空に舞い、力強く、両手で握って、かつ思い切り
悠騎「うりゃぁぁぁああああ!!」
振り下ろすその瞬間、“あの力”が解放された。
そして―――――
765
:
蒼ウサギ
:2015/06/25(木) 00:23:03 HOST:i118-16-253-97.s10.a033.ap.plala.or.jp
○エピローグ
トウヤ「以上がこれまで我々が体験した記録です」
G・Kの基地で紫藤トウヤは、最高司令官である星倉聖司司令に、こことは違う世界での出来事等を報告した。
聖司「御苦労。戦死した隊員達の葬儀は、後日合同で行おう」
トウヤ「了解しました」
味方はもちろん、裏切り者だった隊員でさえ共に手厚く葬る。
たとえ、死体はなくともそうするのがG・Kのポリシーなのだ。
帰還作戦は成功したのだ。
少なくとも、G・K隊達とその世界の住人達は。
他の世界の者はわからないし、確かめようがない。
ただ、全員無事元の世界に帰っていることを願うしかないのだ。
トウヤ「しかし驚きました。迎えにネオ・ジオンがやってきたのは」
聖司「彼らはもうネオ・ジオンではない。君たちがいない間に連邦もジオンもなくなったのだ」
トウヤ「皮肉な事にシャア・アズナブルのアクシズ落としが二つの組織を結んだ、といっていいんでしょうね」
聖司「だといいがな」
トウヤ「このまま終わらないとでも?」
聖司「歴史のターニングポイントは、いつも気づかないものだ。だが、平和になった今の時代を守っていかなければならない
これだけは、我らにとっても譲れないな」
トウヤ「当然です。それと――――」
聖司「ん?」
トウヤ「悠騎くんと由佳ちゃんをちゃんと褒めてあげてください。彼らがいなければダメだった時が何回もありましたから」
聖司「ふっ」
小さく笑った聖司が徐に立って背を向ける。
聖司「今更、そんなことで喜ぶ年齢でもないだろう」
トウヤ「やはり、似てますね」
ん? と、振り返った聖司だが、トウヤの「なんでもないです」という返す。
今頃、悠騎や由佳、アイは各自の部屋で泥のように眠っている。
766
:
藍三郎
:2015/06/28(日) 21:57:58 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
そして月日は流れ……
イレギュラーと呼ばれた者達の、故郷への帰還を目指した戦いは終わった。
だが、これで彼らの物語が終わるわけではない。
彼らが目指したのは、ゴールでは無くスタートなのだ。
しばしの安息の時を経て……彼らは、それぞれの未来に向かって歩き出す……
=アメリカ カフェ・トライアングル=
『元の世界』に帰還してから数日後……
傭兵派遣会社バミューダストームの面々は、彼らの根城であるカフェ・トライアングルに集まっていた。
帰還に成功してから数日間……彼らは恋人や妻子との再会を果たし、その喜びを存分に噛みしめていた。
ムスカ「ふぅー、やっぱこの店で飲むゼドのコーヒーはまた格別だな」
セレナ「いえ、以前より3割増しで美味しくなっているわね」
ゼド「ありがとうございます。これは、あちらの世界でのバルドフェルド氏との切磋琢磨の賜物かと」
アネット「とにもかくにも、全員無事に帰って来られて良かったよ!
私たちが離れている間も、連邦とジオンが和平を結んでいたし、言うことなしだね」
セレナ「アッちゃんは、大学の単位という新たな敵がいるけどね。
留年なんて、お姉ちゃん許さないからね」
アネット「ううう、分かってます!」
セレナ「と、言っても、私たちもあまりのんびりとはしていられないけどね」
ゼド「ええ。蜥蜴戦争は、我々が不在の間、火星に飛んだナデシコ隊の活躍で終結しましたが……」
店内には、ナデシコ隊から送られた帰還祝いの品や花輪が置かれている。
その中には、白鳥九十九とハルカ・ミナトの結婚式の写真もあった。
大口を開けて笑っているダイゴウジ・ガイの姿も映っている。
あちらの世界では戦死していた彼も、無事生還できたようだ。
ムスカ「俺たちはあちらの世界で知っている。木連の残党が、『火星の後継者』となって再び蘇ることを……」
セレナ「こちらの歴史があちらの世界と同じ道を辿るとは限らない……
でも、知ってしまったのなら、出来る限りのことはしないとね」
アネット「うん、アキトさんやユリカさんを、あんなことにはさせたくないもの」
セレナは、トライアングルの天井に視線を向け、小声でつぶやく。
セレナ(白豹……聞いてる?)
白豹(ああ……草壁の懐刀である北辰と北辰衆……奴らの動向には、特に注意を払っている……)
その後……
ロスト・アースでの知識を得た傭兵派遣会社バミューダストームの影の活躍によって、
あちら側の世界で起こった、木星連合残党による
テンカワ夫妻を狙ったテロは未然に防がれることとなる……
767
:
藍三郎
:2015/06/28(日) 21:59:40 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=別世界の宇宙 シェーマ星系の惑星=
ザリオス「ひゃーはははは!!ガデスや主な幹部たちは地球とか言う辺境の星でくたばった!」
ファルゴス「今やギャンドラーは生き残りである俺たちの天下だぜ!!」
キャスモドン「さぁ、俺たちにそのお宝を寄越しな!!」
兵士「断る!この物資は対ザ・ブーム戦の生命線!」
兵士「前線の仲間達の生死が掛かっているんだ!」
兵士「ああ!頭を失ったギャンドラーなどに負けてなるものかよ!」
ザリオス「ヒャッハー!なら皆殺しにしていただくまでだぜ!」
ファルゴス「かかれぇーっ!!」
???「待ていっ!!」
「!!」
???「悪の暴力に屈せず、恐怖と戦う正義の気力!
人、それを「勇気」という!」
ザリオス「な、何もんだぁ!?」
ギャンドラー達は、逆光を背負って立つ三人の男に目をやる。
ジョウ、エイジ、ロム「貴様達に名乗る名前は無いっ!!」
レニー「ハモった……」
レイナ「しかも、声も息もぴったり……」
ジム「……どうやら、我々の出る幕は無いようですな」
ジムの言う通り、飛影、レイズナーMkⅡ、ケンリュウによって、
ギャンドラーの残党たちは瞬く間に叩き伏せられていった。
=エルシャンク=
エルシャンクは地球を離れ、ワームホール航法を用いて故郷のシェーマ星系に辿り着いていた。
そこで彼らは、ロミナ姫たちの悲願であるシェーマ星系解放のための戦いを始めていた。
伝説のニンジャ戦士やマシンロボたちを伴ってシェーマ星系に帰還したエルシャンクは、
シェーマ星系で抵抗を続ける軍に、解放の旗印として迎え入れられた。
アネックス皇帝の急死で、その後釜を巡ってザ・ブーム軍は内部分裂を起こしており、
その隙を突いた解放軍は、飛影やレイズナー、マシンロボたちの活躍もあり、各地で連戦連勝を重ねていた。
ダミアン「しっかし、ザ・ブームとギャンドラーの残党が手を組んでいたとはな……」
グローバイン「ふん、どちらも頭を失った烏合の衆。今のワシらの敵ではない」
レニー「次はいよいよ、ロミナの故郷、シェーマ本星での決戦ね……」
エイジ「ザ・ブーム軍の残存艦隊は、シェーマ本星に結集して、強固な防衛線を敷いていると聞く」
ガメラン「だが、それさえ突破すれば、シェーマ星系解放は成ったも同然……!」
ジョウ「ああ、今の俺たちなら、負ける気がしねぇな!」
イルボラ「油断は禁物だぞ、ジョウ。精鋭揃いとはいえ、我らの戦力は少ない。あの頃とは違うのだ」
ジョウ「わ、分かってるよ! くそ、改心したのはいいが、すっかり小言が多くなってやがる」
ここで、ジョウはふと天井を見上げる。
彼が何を考えているか、他の者達もすぐに分かった。
イルボラの言葉で、彼らも等しく思い出したからだ。
あの苛烈な戦いを共に駆け抜けた、異世界の戦友たちを。
ジョウ「……あいつら……今頃どうしてっかな」
ロミナ「無事、元の世界に帰還できていればいいのですが」
レイナ「私たちには、ただ願う事しかできないのがもどかしいわ……」
ロム「……大丈夫だレイナ。彼らはきっと無事だよ。俺にはそれが分かる」
ジェット「剣狼が教えてくれているのか?」
ロム「……いや」
ロムは握り締めた拳に目をやる。その拳には、あの男との最後の戦いの熱が、今も残っていた。
あの男だけではない。異世界の仲間たちは皆、己の信念や誇りに懸ける熱を宿していた。
その熱意に、必ずや世界の修正力は応えるだろう……ロムはそう確信していた。
768
:
藍三郎
:2015/06/28(日) 22:01:07 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=ネオジャパンコロニー=
ネオ・ジオンのアクシズ落としに、決勝出場者の大半が消失するという事件が重なり、
中止されていた第13回ガンダムファイトだが、
今回、ファイター達の異世界からの帰還によって再開される運びとなった。
しかし、今大会の主催者のネオホンコン首相、ウォン・ユンファと
ガンダムファイターである東方不敗マスター・アジアは消息を絶ったままであり、
元の形でガンダムファイトを再開することは不可能だった。
そこで、連邦とジオンの和平、並びに行方不明者の帰還を祝うイベント……
その目玉として、第13回ガンダムファイトの決勝戦が執り行われることとなった。
急なスケジュールに、帰還したばかりのファイター達を慮る声もあったが、
彼らは皆一様に大会の参加を了承していた。
ドモン「やぁっ!せいっ!たぁぁっ!!」
大会に向けて、トレーニングルームで汗を流すドモン。
ドモン(チボデー達も今頃同じように技を磨いているはずだ。
この大会、僅かな鍛錬の差が勝敗を分けることになるだろう!)
そこに、ドアを開けてレインが入ってくる。
レイン「ドモン!さっき情報が入ったのだけど、アメリカ、チャイナ、フランス、ロシアの四国は、ゴッドガンダムに対抗して、この大会用にバージョンアップしたガンダムを用意するそうよ!」
ドモン「ほう、あいつらがな……」
元よりシャッフル同盟の四人は手ごわいが、それが新たなガンダムを得るとなれば、更なる高い壁となって立ちはだかることだろう。
レイン「ただでさえとんでもない人達なのに、それがさらに強くなるなんて……
それなのに、どこぞの誰かさんは全勝宣言までしちゃうし……」
ドモン「俺のやることは変わらない。大会が始まるまで、ひたすら己を鍛え抜くだけだ」
レイン「相変わらずね……」
ドモン「俺にできるのはそれぐらいのことだ。
それに、俺が強くなりさえすれば……お前の作ったゴッドガンダムなら必ず勝てる。そうだろう?」
その言葉は、パートナーへの何よりの信頼の証だった。
レイン「ええ、私もぎりぎりまで、ゴッドガンダムの性能向上を目指すわ。あなたの修行の成果を、あまさず再現できるように」
ドモン「頼んだぞ、レイン。俺とお前とゴッドガンダムなら、どんな相手だろうと負けはしない!!」
拳を握り締め、決意を新たにするドモン。
ふと、その瞳に一抹の寂しさがよぎる。
ドモン(……師匠……シュバルツ……
あなた達とは、できればこの大会で決着をつけたかった……)
あの異世界での戦いは辛いことも多かった。
しかし、師や兄との別れ、強敵との戦い、そして世界を跨いだ友との出会いが、己を更に成長させたと確信している。
ドモン(あなた達の教えは忘れない。受け継いだものを胸に、俺はファイターとして、さらに未来(さき)へ行く!)
769
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 17:19:01 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=ロスト・アース ミリシャ復興団キャンプ=
異世界の地球、ロスト・アース。
イレギュラー達が帰還し、平和が訪れても、戦災の爪痕はまだ各地に残っている。
いち早く復興を果たしたイングレッサ・ミリシャは、
宇宙統合軍やムーンレィスと共にアメリア大陸を巡りながら、各地の復興に務めていた。
リリ「グエン卿は本当にしぶといですわね」
グエン・ラインフォードは、再びイングレッサの領主として返り咲いていた。
ネオバディムと手を組み、ユーゼスの野望に加担した彼であるが、
戦後の混乱を鎮める人材として、
そして、ネオバディムが保有していた黒歴史のデータを統合軍に渡した功で
過去の罪状は一時的に保留されることになった。
グエン「ふふふ、私が今後も領主の座に留まれるかは、今後の働き次第ですがね」
メリーベル「キャハハハハ!グエンが失脚したら、私が領主サマに立候補しようかな?」
グエン「まぁ……メリーベル嬢が領主に相応しいかどうかはさておいて……
月やマクロス7船団に留学している若者達が戻ってくれば、ここは優秀な人材で溢れ返ります。
私の後釜ぐらいすぐに見つかるでしょう。
そうなれば、早々に引退して、産業革命の成った世界を見て回りましょうか」
グエン(ローラ……君ともまた、いつか……)
ソシエ「ちょ!?おじいちゃん!また私のカプルを勝手に弄って!!」
老人「ウヒャヒャヒャヒャ!!見たまえヨクリス!ミイの改造で、カプルのマニピュレイタアの出力は1.25倍アップしたヨ!」
ソシエ「だーかーらー!私はクリスじゃなくてソシエだってば!」
ソシエに怒られながらも、けらけらと笑っている小柄な老人は
かつてアルテミスの科学者、マザーグースと呼ばれた男だった。
シャングリラでの戦いで、彼は精神崩壊を起こし、廃人同然となっていた。
自分の子供を救うために、この世界を滅亡させようとした一人であるが……
その罪を問おうにも、こうなってしまっては裁きようがない。
行き場のない彼は、ミリシャに引き取られていた。
今の彼は、言葉を交わせる程度には回復している。
アルテミスにいた頃や、かつて自分の世界が滅びた時の記憶を全て失い、
幸福だった頃の記憶に浸り、目につく若者を全て自分の子供と思い込んでいる。
しかし、その豊富な知識と技術は残っており、地球復興の助力となっている。
このまま彼は、偽りの子供たちに囲まれ、幸せのまま短い余生を終えるのだろう。
エナ「ソシエさん、メシェーさん、新しい資材が届きましたよ」
エナ・シンクソート……ロスト・アースに残ることを選んだ彼女は、
ミリシャの一員として活動している。
かつては感情の薄かった彼女も、ミリシャの仲間たちと共に
汗を流す日々で、自然に笑えるようになっている。
メシェー「はーい。行くわよソシエ」
ソシエ「分かったわ。じゃあ、おじいちゃん、また後でね」
老人「オーウ!待ちたまえクリス!まだ新しい改造プランがネ……!」
ソシエ達は、届いた資材をMSで運びながら、復興が進む今の街並みを見やる。
エナ「グラドス軍に焼かれたこの地方も、だいぶ復興が進んできましたね」
メシェー「それも私たちの頑張りの成果ってわけね」
ソシエ「ふん、ここだけじゃないわ。あいつもきっとびっくりするわよ。新しい今の世界の姿を見たら……」
ソシエは遠い目で、使用人である少年の顔を思い浮かべる。
ホワイトドールに乗り、地球を救った一人であるロラン・セアックは、今ここにいない。
770
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 17:24:46 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
かつてこの地には、小さな街があった。
しかし、グラドス軍襲来の際、SPTの無差別攻撃によって焼き払われてしまった。
クローソー(私はここで一度死んだ。だが、マザーグースに拾われ、機械の体を得て、第二の生を得た……)
フードを被った女……クローソーは、建物の陰からかつての故郷を眺めている。
当てのない放浪の旅だったが、いつしかここに辿り着いていた。
自分が最初の死を迎えたはずのこの故郷に……
だが、完全な廃墟と化しているはずのこの街は……見事に復興を果たしていた。
宇宙統合軍とムーンレィスが物資を提供し、地球圏の復興を早めた結果だろう。
未だ建物の修復は続いているが、慌ただしく駆け回る人々からは、失われた活気と熱意が感じられる。
クローソー(……これが、平和か。あいつらが、G・K隊が護りたかったものか……
この光景を見ることができたのなら……
あいつらに手を貸してやった甲斐も……あったってものだな)
微笑を浮かべて、クローソーは近くの壁にもたれかかる。
クローソー(おまけにしちゃあ、悪くない人生だった。
ラキシス……アトロポス……私も今……行く……)
人々の活気に満ちた声を聴きながら……
数奇な運命を辿った彼女は、静かに目を閉じた。
771
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 20:26:21 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
=地球連邦軍 月面基地=
地球連邦軍の月面基地には、G・K隊のメンバー、
SRXチーム、ATXチーム、神ファミリー、
グッドサンダーチーム、傭兵派遣会社バミューダストーム、シャッフル同盟……
ネオ・ジオンとの決戦、および、その後飛ばされた異世界、
ロスト・アースでの戦いを生き残った者たちが、数ヶ月ぶりに集まっていた。
エレ「何だか、久しぶりに会ったって気がしないよね〜」
アイラ「確かにな。時間はあれから何ヶ月も経ったが、あっという間に過ぎたように思える」
元の世界に帰還した後……彼らはそれぞれの所属に戻り、
地球圏の復興や、ジオンや木連の和平に反対する者達の対処に追われ、忙しい日々を送っていた。
しかし、あの異世界の熾烈な戦いの記憶は、未だ彼らの脳裏に強く焼き付いていた。
ここに集まって、彼等は改めて、自分たちの間に離れても薄れない強い絆が生まれていることを実感していた。
勝平「で、俺たちが久しぶりに集められたのは……えーっと、何だったか……」
恵子「『イージス計画』よ。ちゃんと覚えておきなさい」
勝平「おう、それそれ」
宇宙太「内容の方も分かっているんだろうな」
勝平「分かってるよ!要するに、みんなで仲良く一致団結しようってことだろ?」
キョウスケ「まぁ、要点はそれで正しいな」
ヴィレッタ「地球や、旧ジオンを始めとするスペースコロニー、木星連合など、地球圏の軍事力を統合し、
未知なる脅威への備えとする一大プロジェクト……」
ライ「戦争が終わったとはいえ、ジオンも木連も、直ちに軍備の解除には応じないだろう。逆にそれが軋轢の元となる」
ゼンガー「そこで、その戦力を結集し、地球圏で起こる災害や、外宇宙や他次元からの脅威に対抗する備えとする……」
パルシェ「まさに地球圏を守る盾(イージス)を作り出そうと言う計画ですね」
エクセレン「実際、ガイゾックやアルテミスみたいな連中がまた出ないとは限らないしね」
アヤ「ガイゾックとの戦いでは、連邦とネオ・ジオンが戦争中だったこともあって、大きく被害が広がってしまった……
その轍をまた踏むわけにはいかないわ」
キリー「で、その計画を推し進めているのが……」
室内にあるテレビには、連邦政府の議員として返り咲いたスーグニ・カットナルが演説する姿が映っている。
ブンドルのメディチ家や、ケルナグール・フライドチキン社も、この計画を経済的に支援している。
キリー「あいつら、戦後のどさくさに紛れて見事にドクーガ時代の悪行をもみ消しやがったな」
レミー「罪滅ぼし……なんて殊勝なこと考えるとは思えないけどねぇ」
真吾「どうだろうな……あいつらも、今回の戦いで色々と変わったはずだからな」
ロスト・アースでの戦いで、彼らの助力が勝利に繋がったのは確かだ。
真吾「もしかしたら、またあいつらと一緒に戦うことになるかもな」
キリー「レジェンドゴーショーグンは、あいつらがいないと成れないしな」
真吾「何だか、もう腐れ縁を通り越して運命を感じて来たぜ」
レミー「うわぁ、そのブンドルみたいな物言いやめてくれる?」
そうは言いつつ、グッドサンダーチームの面々も、彼らを心から嫌っているわけではないようだ。
ツグミ「プロジェクトの中には、太陽系からさらに外への探索も含まれているわ」
アイビス「その時は、私達のハイペリオンの出番だね」
スレイ「人類の外宇宙進出の先導者となる……それこそが、兄様が私達三人に望んでいたことだろう」
アイビス「大役だね……」
スレイ「フ……自信が無いのなら、いつでもメインパイロットを変わってやるぞ」
アイビス「冗談!ずっと夢見て来た舞台がやって来たんだ。まだ誰も見たことない星空へ飛ぶ時を……」
772
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 20:27:15 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
セレナ「地球だけじゃない、コロニーや他の惑星を含めた、太陽系統一政府の樹立……」
ゼド「ちょっと前までは絵空事と言われていた構想も、現実味を帯びてきましたね」
レイン「そうなれば、地球圏全体の問題を、武力ではなく話し合いで解決していくことになるのね」
アルゴ「リリーナ・ピースクラフトの提唱する、完全平和主義か」
ジョルジュ「一対一の勝負とはいえ、コロニー同士の問題を争いで解決するガンダムファイトも、いつか無くなってしまうのでしょう」
アレンビー「うーん、それはちょっと残念な気もするかも?でも、ファイトならいつでもできるしね」
チボデー「そうだな、満員のオーディエンスを前に、ファイター最強決定戦ってのも面白そうだ」
ドモン「武闘家の本懐は、修練を通じて、心を鍛えることにある……
ガンダムファイトが無くなっても、俺たちの戦いは終わらない」
ジョルジュ「それに、ガンダムファイトも時が流れれば、また別の形になっていくのかもしれません」
サイ・サイシー「でも、もし今度やる決勝が最後のガンダムファイトになるのなら……」
ジョルジュ「これは……絶対に負けられませんね」
アルゴ「ああ……!」
ドモン「ふっ、ならばここで改めて宣言する。俺は決勝大会を全勝で勝ち抜き、ガンダムファイト王者となることを!!」
チボデー「言ってくれるぜジャップめ!チャンピオンの座は渡さねぇぞ!!」
サイ・サイシー「決着をつけるぜ、兄貴!!」
間近に迫った決勝大会に向けて、それぞれ闘志を高めるガンダムファイター達。
セレナ「ううう!!みんな滾っちゃってまぁ。第13回ガンダムファイト決勝は、女房を質に入れてでも見に行かないとね!」
ムスカ「いや、あんたが女房だろう……」
セレナ(でも……戦いに生きる者は、彼らのように真っ直ぐな闘志を持つ人だけじゃない。
中には、他者を傷付けることしか喜びを得られない者もいる)
異世界に飛ばされたメンバーの中で、夜天蛾灯馬だけは、この集まりに顔を見せていなかった。
彼は異世界から帰還した後、シャングリラから姿を消し……その後、誰も彼の姿を見ていない。
セレナ(今度君と会う時、君はどんな顔を私達に向けるのかしら?灯馬くん……)
ゼンガー「軍の在り方も、これまでのそれぞれの領分を守る為ではなく、純粋に地球圏に生きる全ての人々を守るための力となるだろう」
トウヤ「それは……G・K隊と同じですね。星倉聖司司令も、その理想の先駆けとして、G・K隊を設立したそうです」
悠騎「親父の夢が、もうすぐ叶うかもしれないのか……」
アイ「ところで、これは非公式な話なんですか……
今回のプロジェクトの要になる太陽系防衛構想……それは、あの矢島裕也が考案したものだそうです」
悠騎「矢島って、俺らがいない間にテロ事件を起こしたって言う、あの……」
アイ「彼は、ワールドエデンが世界を掌握した後には、この構想を実現させようとしていたらしいです」
トウヤ「彼は誤った手段に……テロ活動に走ってしまったが、その平和を求める信念は本物だったと言う事だね……」
773
:
藍三郎
:2015/07/05(日) 20:28:11 HOST:s215.GhirosimaFL1.vectant.ne.jp
レナ「でも、今度また宇宙や別次元から誰かが太陽系にやって来たら、戦うんじゃなくて、仲良くなりたいですね」
シャル「もちろん、それが最善だな」
宇宙からの来訪者には、エイジやマシンロボたちのような信頼できる者たちもいた。
恵子「プロトデビルンも、そしてあのガイゾックも……その目的は平和だった。
けど、そのやり方が間違っていたから、争いになってしまった」
パルシェ「なら、それは間違っていると教えてあげて、一緒により良い道を探せばいいんじゃないかしら」
ムスカ「コミュニケーションの基本だな。大事なのは相手を思いやる心……それは誰が相手でも変わらない」
リュウセイ「向こうの人類だって、ゼントラーディやプロトデビルンと和解できたんだ。俺たちだってやってみせるさ」
キョウスケ「ああ……ただ戦うだけでは、強くなるだけでは道は拓けない……
アイツ……熱気バサラはそれを俺たちに教えてくれたからな」
FIRE BOMBERの全ての曲が収められたCDは、この場にいる全員が持っている。
異世界のロックバンドの楽曲は、こちらの世界でも徐々に広まり始めている。
しかし、あのバサラやミレーヌの熱いサウンドを、また生で聴いてみたいとも思う。
セレナ「ま、あの男なら、いつか次元を越えて私たちの前に来るかもね」
アネット「俺の歌を聴けぇーっ!って?」
ゼド「冗談に聞こえないのが、彼の凄まじいところですな」
タツヤ「FIRE BOMBERのみんなだけじゃない。ガロードやロランたちとも、またいつか出逢えるといいな……」
星どころか、次元を超えた出会い……
彼等が異世界に飛ばされたのは、アルテミスの陰謀だった。
ネオバディムの跳梁に深虎の暴走と、二つの世界の接触により、多くの血が流された。
しかし、そこで得た交わりは、異星人とのコミュニケーションに、リリーナの完全平和主義と、
それぞれの世界に大きなものを残してくれている。
ゼンガー(それこそが、世界と世界の交わりが不幸を生み出すだけではないことを証明し、
あの戦いで出た多くの犠牲に報いることなのだろうな……)
ミキ「間もなく、地球からロンド・ベル隊、ネルガル社からナデシコ隊、旧ジオンと木連の選抜隊が到着します」
トウヤ「それに僕達を加えて、イージス計画の第一陣となるわけだね」
由佳「私達はG・K隊の代表……しっかりしないとね!」
悠騎「ああ!」
悠騎(エッジ、ゼルさん、巽艦長……
銀河の平和を守るG・K隊の理念は、俺たちが護っていくぜ。
それに、ヴィナス……お前も、本当はそれを望んでいたんだろう?)
774
:
蒼ウサギ
:2015/09/14(月) 23:25:11 HOST:i118-16-116-231.s10.a033.ap.plala.or.jp
かつての月の王女は、初めて見る雪に興味を抱いているのか、杖をつきながらゆっくりと歩いていた。
ロラン「ディアナ様。そこにいらっしゃったんですか」
エプロンをかけたロランがディアナに呼び掛けると、ディアナは微笑んで家に戻っていった。
ロラン「今日のスープは美味しいですよ」
ディアナ「ありがとう、ロラン」
二人はまだ主従の関係なのかと問われれば少し違う。
ディアナの左薬指に光る指輪がそれを証明しているなものだ。
ゆっくりとした食事の時間が流れていく。
§
=A.W.(アフターウォー)=
サラ「よろしいのですか? キャプテン」
ジャミル「リリーナ嬢のいう完全平和には、まだほど遠い世界だが何事も歩み寄りが大事だ。
そのために私はこうして新連邦に戻って来た」
サラ「この世界には、まだまだ問題がありますからね」
ジャミル「だからこそ、新連邦と宇宙革命軍。双方の意見をもって、話し合わなければならない
そして、D.O.M.Eの言っていた真実を皆に伝えなければいけないのだ」
サラ「信じてもらえるかは分かりませんけどね」
ジャミル「信じてもらうまで話すさ。……せめて、あの二人が安心して旅ができるようにさせたいものだ」
元の世界に戻ったフリーデン一行は、それぞれの道を行くために解散していた。
あの世界で学び、そして過ちを繰り返さないためにも。
電車に揺られながら、ガロードとティファは、窓の夕暮れを眺めていた。
ティファ「ガロード、あれ」
ティファが指差したそこには、夕月が出ていた。
ガロード「月か……綺麗だな、ティファ」
ティファ「うん」
D.O.M.Eは、もうあそこにはない。
だが、この世界にも月は、いつもそこにある……。
775
:
蒼ウサギ
:2015/09/14(月) 23:27:09 HOST:i118-16-116-231.s10.a033.ap.plala.or.jp
§
=コズミックイラ=
月明かりに照らされている頃、ザフトと連合の小規模な戦闘が行われていた。
両軍に主戦力はいないものの、未だこのような小競り合いが続いている。
連合兵「貴様ら宇宙人は宇宙に帰れ!」
ザフト「ザフトのために!」
両軍の戦いが苛烈する中、そのどちらにも所属しない者達が現れた。
イザーク「両軍、ただちに武装を解除しろ!」
イザークのデュエルアサルトシュラウド始めとした、いわゆるザフトの赤服3機のガンダムが戦場に乱入した。
ニコル「もうザフトと連合で争う理由はないんです!」
ディアッカ「どうしても、っていうならオレ達が相手になるぜ」
ザフト、連合のパイロットはその挑発を受けて、3機に襲いかかった。
しかし、あの戦いを生き抜いた彼らに、敵う者はいなかった。
=オーブ=
カガリ「お前達はこれで良かったのか?」
キラ「あぁ、この世界はまだ少しだけ混乱が多い」
アスラン「時にはぶつかり合うことになるだろう。だからこそ、守る為の力としてオレ達はオーブに残った」
キラ「そして、ラクス―――」
=プラント=
ラクス「ラクス・クラインです。訳あって、しばらく「この世界」とは違う「世界」にいました
私は、そこで多くのことを学びました。今は争っていても、人はいつか分かりあえるということを」
民衆に語るラクスのそれは、プラントのアイドルではなく、エターナルに乗っていた頃の彼女を彷彿とさせる毅然さがあった。
それを見守るのはバルトフェルド、そしてマリューである。
もはや、連合、ザフトといった垣根はない。
少なくとも、「あの世界」にいった者達はそうなっている。
ラクス(キラ、アスラン、そしてカガリさん。私はここで頑張ります)
§
=アフターコロニー=
トレーズ、そしてゼクスという有能な指導者を失ったこの世界。
OZは、実質上解体を余儀なくされ、地球には統一国家が樹立された。
リリーナ・ドーリアンは、そこの外務次官となり、宇宙と地上、両方に日々完全平和を唱えている。
だが、全ての兵器を全て失くしいくという理想論は、数々の兵器開発業者に受け入れがたいものであった。
中にはトレーズ、ゼクスの後釜にしようと暗躍している企業もいる。
そんな輩を“ガンダム”なしで密かに潰しまわっている組織がいた。
“プリベンター”
あの世界で創り上げたものをこちらでも継続していた。
ピースミリオン。
デュオのつてで、マイク・ハワードという技術者が提供している巨大戦艦だ。
今では武装を外して、プリベンターの機動要塞となっている。
トロワ「これでまた一つの争いの種が消えたな」
カトル「けど、まだまだ怪しい動きを見せているところもある。今頃、デュオやヒイロは地球でそれらを叩いている頃だよ」
トロワ「そうか……」
カトルの淹れてくれた紅茶を一口飲んでピースミリオンの窓から見える月を見る。
トロワ「五飛の行方は?」
カトル「それがまだ……。でも、彼は彼なりに答えを探しているようだ。今は少し時間をおいたほうがいいと思うんだ」
統一国家が樹立されて以降、五飛を除くガンダムのパイロットは自分の機体をそっくりカトルに預けた。
予定ではこれを太陽にぶつけて沈める気だ。
今のこの世界にガンダムという強力な兵器は必要ない。
だが、五飛のガンダムだけはまだここにはないのだ。
=月面=
アルトロンガンダムのコクピットで張 五飛は瞑想していた。
これから自分はどう生きるべきか。
原因は、あの世界で決着しそこねたトレーズ・クシュリナーダのことだ。
一時、共闘したとはいえ、五飛にとっては、トレーズは永遠のライバル。
それを失った今、自分の行き場を失っているのだ。
五飛「教えてくれ、ナタク」
それに答えられるガンダムではない。
五飛とて、それは理解している。
だから、自分の答えが出るまでこのまま瞑想するしかない。
戦士として生きるべきか……それとも――――
五飛は己の答えを見つけようと月に留まるのであった。
776
:
蒼ウサギ
:2015/09/14(月) 23:28:04 HOST:i118-16-116-231.s10.a033.ap.plala.or.jp
=地球=
宇宙行きのシャトルに搭乗したリリーナ。
これからの地球と宇宙について会談が設けられるというところだ。
思わずため息が漏れてしまう。さすがに連日の疲労が蓄積しているのだ。
指定されたシートに向かう途中、シャトルの作業服を着た者とすれ違った。
「失礼」。思わず肩がぶつかったことを詫びる彼に、リリーナは一言「いいえ」と返した。
そこで気づく。
自分の乗るシートにクマのぬいぐるみと共に手紙が置いてあるという事を。
その手紙を開いてハッとしたところで窓から先程の作業員を探す。
ゆっくりと歩いているところを見つけて叫ぶ。
リリーナ「ヒイロ!」
その作業員が振りかえると、見知ったヒイロ・ユイの姿が見えた。
ヒイロ「・・・・・・」
そんなヒイロが見ている前でリリーナは手紙を破った。
リリーナ「今度はちゃんと手渡しなさい」
ヒイロ「・・・・・・」
かつて、自分はリリーナの誕生日パーティの招待状を彼女の目の前で破いたことがある。
意趣返しにしては、リリーナのその表情はあの時の自分と比べれば柔らかいものだ。
ヒイロは、何も言わずその場を後にした。
リリーナを乗せたシャトルが発進した後、それを見送るヒイロに近づいてくる少年がいた。
デュオ「誕生日プレゼントは渡せたかい?」
ヒイロ「次はちゃんと手渡せと言われた」
デュオ「そうだろうねぇ。じゃ、そろそろ行くか?」
ヒイロ「あぁ」
リリーナはリリーナの戦い。
彼らは彼らの戦いを続けていく。
§
=ロスト・アース=
ディアナ「美味しかったわねぇ」
ディアナ達が食事を食べ終わった頃には、夜空に月が昇っていた。
ロラン「ありがとうございます」
穏やかな時間が流れ、夜もふけた頃、ディアナはベッドで眠りについた。
明日には起きない身体かもしれない。
だが、ロランはいつものように言った。
ロラン「ディアナ様。また、明日」
=地球=
悠騎は、エクシオンのコクピットに乗りこんで感慨耽っていた。
ブレードゼファーは、この世界に跳んだ早々、G・K本部に補修を兼ねた解析が行われており、
今の悠騎の愛機が新しく支給されたエクシオンなのだ。
悠騎「なんか懐かしいな……そうだよな、お前から全て始まったんだよな」
ゼファーブレードはあの跳躍時に刀身が完全に折れてしまった。
元々、ウラノス用に調整されたものだ。そうなるのは、予想がついていた。
そのウラノスも完全にもはや宇宙のデブリとなっている。
悠騎(ヴィナス……お前は折れた剣の先に絶望を見た。でも、オレは――――)
そう耽っている所に、口うるさい妹の声が飛んできた。
由佳「お兄ちゃん! ロンド・ベルの人達がきたよ! ほら、挨拶に行くよ!」
悠騎「ったく、わーったよ」
本来ならめんどくさいの一言で断るのだろうが、自分もまた<イージス計画>の代表の一人なのだ。
それなりに自覚していかなければならない。
兄妹の仲は相変わらずであるが、一人の銀河の守り手として自分は、まだまだ成長していこう。
それがきっとこれまでに犠牲になった人々の想いでもあるのだから……。
スーパーロボット大戦ロストセンチュリー2nd〜折れた剣の先に〜 完結
777
:
はばたき
:2015/09/15(火) 22:57:52 HOST:zaq77193af0.zaq.ne.jp
☆あとがき寄贈
どうもはばたきです。
ロストセンチュリーシリーズ、遂に完結致しました。
アナザーからの途中参加組でオリジナルメンバーではない自分ですが、微力ながら制作に関わったリレー小説がこうして完結を迎えられたこと、非常に嬉しく思います。
完結の報を聞いた時は、感極まっておかしなことを口走ったりもしました(苦笑)。
思えば、サイト参加とほぼ同時に始まったこの小説、ご縁あってアナザーの作成から参加する事になり、こうして最後までお付き合いさせて頂きました。
途中参加故に至らぬところも多く、設定、伏線のパスを大暴投したりした事も多々あり、頭が下がる思いです。
一時期、執筆が滞り、一部のエピソードをオムニバスに書き込まざる得ない等、ご迷惑をかけた事も多いですが、他のスタッフのお二人のフォローも多々頂き、有難い限り御座います。
自分の書き込み回数の少なさを見れば解りますが、根幹は蒼ウサギさん、藍三郎さん両名のスタッフが屋台骨を支えておられ、自分はそれに便乗する様にエピソードの肉付けを行う程度の仕事でした。
それでも一スタッフとして、完結を見届けられたことは感慨深く、我が事の様に(実際他人事も言い切れませんが)嬉しく思っています。
このシリーズを通して学ばせてもらった事は、やはり創作とは終着点のビジョンが視えていればいい、と言う訳ではないと言う事です。
全体の骨組みを作って、「絶対に完結させる!」と言う意気込みより、「絶対面白いモノにしてやる!」と、一瞬一瞬の気合こそが大事なのだと痛感しました。
今でもリレー小説以外にも色々な創作を続けている自分ですが、これからもここで学んだ事を力に代えて、より面白いモノを目指していきたく思います。
それでは、長くなりましたが、蒼ウサギさん、藍三郎さん、他『スーパーロボット大戦ロストセンチュリー』に関わったスタッフの皆様。
そして、この小説を読んで下さった読者の皆様へ、心よりの感謝を。
ありがとうございました!お疲れ様でした!
それでは☆
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