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SRWLRQST La branche le reve etrange qui se divise

1ニケ(実家Ver.):2006/01/13(金) 19:58:08 HOST:zaq3d738a1a.zaq.ne.jp



 夜、眠る時にみる夢

 希望に溢れた未来の夢

 焦れ、憧れる果て無き夢

 夢のカタチは星の数ほど在るけれど

 例えば、貴方が今こうしてここ覗いているのも、ただ一夜の儚き夢の一時だとしたら?

 無限に在りて

 無間に続き

 夢幻に漂うユメノカケラ

 貴方がみるのはどんな夢ですか?



はい、という訳で、タイトルだけでは解りにくいんですが(^_^;、『スーパーロボット大戦 Le reve qui se termine』の番外編で御座います。
ここでは、本編からちょいと離れて、面白エピソードや裏話、果てはギャグバロディまで、何でも御座れなお祭りワールドです(=^_^=)
本編では中々描けないキャラクターの日常風景や、過去の話。
更には本編と直接関係の無いNGシーンや、パラレル小劇場等々。
シリアスからギャグまで、どんなジャンルもオールOK♪
「そんな事言われても、何書いていいのか解らねぇや」という方は、SAGAやTH等方々にある番外編をご参照下さいませw(ぉ

零霄「で、肝心の一発目のネタは?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
レナ「無いんだ」
まあ、何かあったら気軽〜に使ってくれて構いませんよ〜、という程度のものなのでw(汗)
零霄「まる投げかよ」
レナ「まる投げだ」
参加者の方なら、何方でも気兼ね無くご利用頂けますので・・・(滝汗)
レナ「へタレだね」
零霄「へタレだな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(涙)

そういう訳なので、Le rave参加者の皆様、何ぞ書きたい事、やってみたい事が御座いましたら、どうぞご自由にご利用下さいませ♪

でわでわ☆

2蒼ウサギ:2006/02/06(月) 22:32:38 HOST:softbank220056148217.bbtec.net
 空気という名の気体。
 それは、ヒトが生きるのに必要なもの。
 空気がなければヒトは、命を紡げない。
 だから空気は必要なもの。

 水という名の液体。
 それは、ヒトが生きるのに必要なもの。
 水がなければヒトは、命を紡げない。
 だから水は必要なもの。

 私という固体。
 それは、ヒトが生きるのには決して必要とは限らない。
 私という固体がなくても、ヒトは、命を紡げる。
 だから―――


特別編「私は私を探して・・・・・・(前編)」




 目覚めて、私が最初に見たものは、暗闇を照らしている丸い発光体だった。
 それは―――満月。
 夜空に浮かぶそれが私の最初の記憶。
 
 私には、今に至るまでの記憶がない。
 何故、私が此処・・・・・・夜の海で仰向けになって浮かんでいるのかわからない。
 そして私は・・・・・・私のことを知らない。
 いや、私は私のことを一つだけ知っている。
 私の名前。
 私は―――アリサ。

3蒼ウサギ:2006/02/06(月) 22:33:53 HOST:softbank220056148217.bbtec.net



=酒場=


 昼間から常連の客が酒を煽り賑わいを見せているとある酒場。
 そんな中、ガラ空きのカウンターで一人、不機嫌な表情でシリアルを黙々と口に運んでいる青年がいた。
 輝くような鮮やかな金髪にモデルにでもなれそうな整った顔立ちだが、
 それより目立つのが、彼が背負っている大鎌である。
 その大鎌は否が応でも死神の持つ大鎌を彷彿させる、不気味で恐ろしいものである。
 大抵の人は、そんな彼を不気味がって近寄らないが、ある二人の人間だけは違う。
 一人は、この酒場のマスター。
 そしてもう一人は・・・・・・

 バンっ!

仲介屋「よぉ、シャオ! 元気かぁ?」
 酒場のドアを乱暴に開け、ぜい肉タップリの下腹を揺らしながら入ってきたこのご機嫌な男である。
 シャオを呼ばれた青年は、そんな仲介屋の呼びかけを無視し、ひたすらシリアルを食べ続けていた。
仲介屋「おい、シャオ。どーした? ん?」
 シャオの心情を読めていない仲介屋が彼の隣の椅子に腰掛ける。
 その瞬間、シャオのスプーンを持つ手が止まった。
仲介屋「なにか悩みか? 話せ! オレが聞いてやるぜぇ」
シャオ「へぇ、じゃあ・・・・・・聞いてもらおうかな!!」
 語尾と同時にシャオの左手が動いた。
仲介屋「ほごぉ!?」
 仲介屋のご機嫌な顔が一転して驚きと恐怖にへと変わった。
 彼の口にはシャオの左手に持っている大型の銃が突っ込まれているからである。
 シャオはにこやかな表情(ただし目は笑っていない)で告げた。
シャオ「心当たりねぇか?・・・・・・ねぇよなぁ〜?
    あったらオレの前でそんなご機嫌なブタ顔で現れるわけねぇもんなぁ?
    また太ったか? オイ。 さぞかし美味いモン食ってんだろうなぁ?
    羽振りが良いじゃねぇか? どこで稼いだ?
    カジノでイカサマでもしたか? それとも新しいドラッグでも横流ししたか?
    違うよなぁ? てめぇが羽振りが良いのは、オレが仕事で稼いだ金の仲介料をさば読んで
    本当は30%ってところを80%もふんだくってたんだからなぁ」
 そこまで言って、シャオはさらに銃を仲介屋の口の奥へと捻り込ませる。
 仲介屋は吐き気を催すが、吐くことすら許されないほど捻じ込まれていた。
シャオ「お陰でただでさえ少ない金なんでオレはここ一週間、朝、昼、晩とシリアルしか食ってねぇよ
    栄養のバランスはバッチリかもしれねぇけどよ腹に溜まらねぇんだ。
    おまけにミルクもかけてるってのにイライラが全然収まらねぇ。
    ミルクはカルシウム、タップリだってのに・・・・・・変だよなぁ?
    てめぇが一週間も行方をくらませたせいかもなぁ?」
仲介屋「うぅ〜っ!! うぅ〜〜〜!!」
 恐らく許しを請うようなことを述べているのだろうが、言葉にはならない。
 シャオは容赦なく続ける。

4蒼ウサギ:2006/02/06(月) 22:34:26 HOST:softbank220056148217.bbtec.net
シャオ「なぁ、どうやったらイライラ収まるかなぁ? 大型拳銃(こいつ)でてめぇの頭、吹っ飛ばして
    まん丸く太った体を大鎌(こいつ)でバラしてバーベキューでもしたら収まるかもなぁ?」
 殺気に満ちた目で各武器を指しながら告げる。
 彼の本気の眼差しに仲介屋の血の気は引き、冷や汗と涙がこぼれる。
 この光景を眺めていた客たちは「やれやれー!」などと無責任な言葉ではやし立てた。
酒場のマスター「そこまでにしておけ。これ以上やるとそいつが小便でも垂らしかねん。
        そうなったら掃除がかなわん」
 穏やかな言葉だったが、それだけでシャオの殺気はひいていった。
シャオ「仕方ねぇな」
 そう言って、仲介屋の口から銃を抜いた。
 ギャラリーはどこか拍子抜けしたように消沈したが、仲介屋はようやく生きた心地になった。
仲介屋「す、すまねぇ、シャオ。悪かった、ちょっと調子に乗りすぎたみたいだな、ヘヘヘ・・・・・・」
 無理に笑って見せるが、シャオはまだ不機嫌顔である。
 これ以上は何を言っても墓穴を掘りそうなので、本題に入ることにした。
仲介屋「わ、詫びといってはなんだけどよ、新しい仕事を持ってきたぜ。今度は超大物だぜ!
    成功すれば当分遊んで暮らせる」
シャオ「へぇ、それで今度は何十%ぶんどる気だ?」
仲介屋「こ、今度はそんな真似しねぇよ。いつも通り、30%だ」
シャオ「あぁん? 30? ふざけんなよ!」
仲介屋「わ、わかった。今回は25%でいい」
シャオ「10%だ」
仲介屋「なっ!?」
 その言葉に仲介屋は抗議しようとしたが、彼の目を見て止めた。
仲介屋「・・・・・・OK、今回のオレの取り分は10%でいい」
シャオ「少しは賢くなったじゃねぇか。それで仕事のターゲットは?」
仲介屋「お、おぉ、聞いて驚け! あのサラードファミリーのボスだ!」
シャオ「ぁあ? 確か国際指名手配されているマフィアだったか?」
仲介屋「あぁ、そいつがこの街に潜伏している。これは確かな情報だ! 近々、この街で一仕事するらしい」
シャオ「・・・ガセじゃねぇよな?」
仲介屋「オレが今までガセネタを掴んだことがあるか?」
シャオ「・・・・・・ねぇな」
 ここで初めてシャオが機嫌がよくなった。
シャオ「なら、そいつを“狩って”、懸賞金をガッポリ頂くとするか」
 シャオは立ち上がり、楽しそうな面持ちで酒場を後にした。
 
 シャオ=バーベル。
 指名手配犯などを捕えて懸賞金を得る“狩り屋”
 大鎌の“イシュタール”と大型拳銃の“ヘカテ”を持つ狩人が獲物を捜しに歩き出した。

5蒼ウサギ:2006/02/06(月) 22:34:53 HOST:softbank220056148217.bbtec.net
 再び目覚めた時、最初に目に入ったのは見知らぬ天井だった。
アリサ「・・・・・・」
 目覚めたそこでアリサは半身を起こす。
 暖かく、大きなベッドの上だった。
 そして見知らぬ部屋だった。
 広く、そして豪華なインテリアが飾られている部屋だ。
アリサ(ここは・・・・・・)
 注意深く辺りを見回す。そして、ふと違和感に気づいた。
 着ているものが変わっているのだ。
 今まで薄汚れた白いローブ一枚だけを着ていたのに、今はピンク色のネグリジェを着ているのだ。
アリサ(・・・・・・)
 誰かが着替えさせたのか? だとすればその誰かは近くにいるのか?
 少なくともこの部屋にはいない。
 そっと、ベッドから降りようと足を地に着けた。その瞬間、何か暖かく柔らかいものを踏んだ。
アリサ「ん・・・・・・?」
 恐る恐る視線を落とし、踏んだものを見る。
 それは、伏せ状態で眠っている大型のセントバーナードだった。
 アリサがすぐに足を離すと、そのセントバーナードが首を上げた。
 アリサはそれに微笑むと、セントバーナードを避けて、ベッドから降りた。
 それを追うかのようにセントバーナードが視線を向ける。
 アリサが優しく撫でると、心地よさそうに尻尾を振った。
???「おっ、珍しい。アルフォンスが懐いてる」
 不意に聞こえてきた少女の声。
 アリサは、振り向くと同時に警戒に身構えた。
 声の主は、煌びやかなドレスに身を包んだ、同い年くらいの少女である。
???「どうやら目が覚めたみたいだね」
 人懐っこい笑顔を見せながらその少女はアリサに歩み寄った。
シェリア「私、シェリア。 あなたは?」
アリサ「・・・・・・」
 敵意を微塵にも感じさせないその少女に戸惑いつつも、アリサは、小さい声で名乗った。
アリサ「私は・・・・・・アリサ」
シェリア「可愛い名前だね、アリサ♪」
 そう言うと、シェリアはアリサを抱きしめ、頬にキスをした。
 その瞬間、アリサは飛び退くようにしてシェリアから離れた。
 その目は驚愕に満ちており、仄かに頬が赤かった。
アリサ「なにを・・・!?」
シェリア「ん? ただの挨拶じゃない」
 それが至極当然であるかのようにシェリアが応えた。
アリサ(そんな挨拶・・・・・・私は、知らない)
 悪い気はしなかったが、何故か気恥ずかしさを感じた。
シェリア「気分はどう? 海岸で倒れていたけど、何かあったの?」
アリサ「わからない・・・・・・何かあったのだろうけど、覚えていない・・・」
シェリア「え?」
アリサ「私が覚えているのは、自分の名前だけ・・・・・・それ以外のことは覚えていない」
 寂しげなアリサの表情。
 どことなく気まずい雰囲気となる。
シェリア「あ〜・・・・・・きっと色々あったんだろうね。多分、記憶がないってのは、そのショックとからかも・・・・・」
アリサ「・・・・・・」
シェリア「よし! じゃあ私、アリサに協力する!」
アリサ「え?」
シェリア「アリサの記憶が戻るように、協力するよ!
     あ、でもぉ、辛い記憶が切欠で記憶喪失になっちゃたのなら思い出さないほうがいいかも・・・・・
     ん〜〜〜〜〜」
 人差し指を顎に当てながら真剣に考え込むシェリア。
 なぜ彼女がこんなに悩むのか・・・アリサには、わからなかった。
 わからなかったが、どこか嬉しさを感じた。
シェリア「ねぇ、アリサは、どっちがいい?」
アリサ「え?」
シェリア「記憶を取り戻したい? それとも忘れたままがいい?」
アリサ「・・・・・・私は・・・」
 自分のことは名前しかわからない。
 私が何者か、全くわからない・・・・・・だから
アリサ「私は・・・・・・私のことを知りたい」
 その言葉に迷いはなかった。
シェリア「うん、わかった! じゃあ、私、アリサの記憶が戻るように協力する!」
 満開の笑顔・・・・・・アリサのなかで自然と何かがこみ上げる。
 だが、それをどう顔に表せばいいか・・・どう言葉にしたらいいか・・・・・・
 アリサは、わからなかった。
シェリア「そうだ! お腹空いてるでしょ! パーティ会場に行こう!」
アリサ「パーティ・・・会場?」
シェリア「うん! 今、私のバースディパーティーやってるの! おいしい料理、いっぱいあるよ!」
アリサ「料・・・理?」
シェリア「そう! それじゃ、お着替えしよ! 私のドレス、貸してあげる!」
アリサ「え?」
 シェリアに引っ張られ、アリサは、ドレス部屋へと連れて行かれた。
 楽しそうにコーディネイトするシェリアにアリサはただただ戸惑うだけだった。
 

 穏やかで優しいひと時だった―――
 

 ・・・・・・次回に続く。

6SD:2006/02/09(木) 22:40:01 HOST:usr211019181033.tcn.ne.jp
「相変わらず、先生の情報は無し……か。」
「前の目撃証言から、結構日も経っとるんやけどなぁ……どないする?
結局ここでは、見つからなかったわけやし……」


間もなく日も沈み、闇が辺りを支配する時が近くなった頃だった。
街のとあるホテルの一部屋で、ノートパソコンを操作している一人の青年がいた。
彼の名は、アリク=ランシェルン。
ある男の行方を求め、仲間と共にこの世界を旅している、一介の技術者である。
その腕には今、いたって普通の腕時計が嵌められていた。
ただしその腕時計は、ある一点において普通ではない……一つだけ、決定的な違いがあるのだ。
それは……この腕時計が、喋るという事である。
アリク「まあ、ファリアが戻ってきたらこれからの事を考えるよ。
最近、色んな所で色んな事が起こってるみたいだし……慎重に動いたほうがいいからな。」
ログ「ま、そりゃ言えとるわな。」
喋る腕時計のログ。
その正体は、時計に埋め込まれた人工知能である。
ログはアリクともう一人、彼と仲のいい技術者が作り上げた、見事な合作だった。
もしも相手の姿を見ない、例えば電話での会話となれば、誰もが相手を人間だと信じて疑わないだろう。
それほどまでに、ログの出来は凄まじかったのだ。
ただし、実を言うと完全な成功策というわけではない。
一点だけ、アリク達の予想外だった事があった……本来ならば、ログは標準語を喋る筈だったのだから。
アリク「けどファリアの奴、遅いな……どうしたんだろ?」
ログ「お、流石に自分の彼女は心配か?」
アリク「……彼女じゃないって。」
ログ「そう照れんなって。
お前等、滅茶苦茶お似合いなんやし……ファリアはお前の事、そういう風に見とるんやしな。」
アリク「分かってるよ、そんな事。」
ログ「お前やって、何時も文句言いながらも、満更じゃないみたいに見えるし……」
アリク「あのなぁ、ログ……」
溜息をつき、自分の腕時計へと反論する。
二人が話題にしているのは、自分達のもう一人の仲間。
アリクと共にログを作りあげた、もう一人の技術者についてである。
しばしの間、二人は軽い言い合いを続けていたが……それからしばらくした時だった。
ドアを開いて、一人の少女が入ってきた。
可愛らしい容姿をした、人目を引く中々の美人。
彼女こそが、二人が話題にしていた相手……ファリア=メサルティアス。
ログ「お、噂をすればなんとやらか……お帰り、ファリア。」

7SD:2006/02/09(木) 22:40:13 HOST:usr211019181033.tcn.ne.jp
ファリア「ごめんね〜……下の売店、凄く込んじゃってて。
少し、遅くなっちゃった。
えっと、アリクはホットドッグとコーラだったよね?」
アリク「ああ、ありがと。」
ログ「なあなあファリア。
アリク、お前の事心配しとったで?
遅いけど、何かあったんかって。」
アリク「なっ……馬鹿、そんなんじゃないよ。」
ファリア「え、それ本当?」
アリクの言葉を聞くと、ファリアは買い物袋を机に置き、彼に近寄ってくる。
そしてその隣に座り込むと、勢いよく、自分の腕をアリクのそれに絡めてきた。
突然のその行動に、当然ながらアリクは顔を真っ赤にする。
ファリアは……アリクにベタ惚れだった。
彼と一緒にいたいという理由で、親の反対も振り切り、自分についてきた位なのだ。
絶対に、アリクを自分の方に振り向かせて見せる……そんな思いを胸にして、色々と彼女は行動を起こしている。
同年代の女性と比べれば、相当可愛い部類に入るファリア。
そんな彼女に好かれているとなれば、普通は誰もが羨ましがるだろう。
肩に顔を預け、頬を摺り寄せてくる。
色々と恥ずかしいこともあるのか、アリクの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
ファリア「アリクも私と同じ様に、いつも私のこと考えてくれてるんだ。
嬉しいなぁ……いつもは恥ずかしがって、素直に言ってくれないんだもん。」
アリク「いや、だから違うって……俺の話をまず聞けよ。」
ファリア「大丈夫、私もアリクの事は大好きだから。
心配してくれて、本当にありがとね?」
アリク「……お前、俺の話ちゃんと聞く気ないだろ。」
ファリア「ほら、そうやって……全く、素直じゃないんだから。
私はちゃんと、アリクのこと分かってるんだし、恥ずかしがらなくてもいいじゃん?
それとも……違うの?
私の事、嫌いだからそういう風に言うの?」
アリク「いやいやいや、別に嫌いって訳じゃないって。
まあ、その何ていうか……」
ファリア「……」
今までの明るい雰囲気からは一変。
急に悲しげな芳情を取り、俯くファリア。
自分が嫌われているのかと思ってしまうと、いつもこういう態度を彼女はとってくるのだ。
勿論、アリクはファリアの事をそんな風には思っていない。
寧ろ……口に出すのは恥ずかしいが、特別な異性として、それなりに意識はしている。
このままじゃ居心地も悪いし、すぐにアリクはファリアの機嫌を直すことにした。
アリク「ファリア……あ〜もう、どうやったら機嫌直してくれるんだよ?」
ファリア「……じゃあ、キスしてって言ったら?」
アリク「……え?」
ファリア「私の事、嫌いじゃないって……好きって証拠、見せて欲しいの。」
アリク「でも、キスってお前……」
ファリア「ねぇ……お願い?」
甘えた声でファリアが言い寄ってくる。
ここでアリクは、自分が上手く嵌められた事に気がついた。
この様子じゃ、するまで絶対に強請り続けるだろう。
仕方が無い……アリクは一度溜息をついた後、ログに小声で呟く。
いいというまで、目を開けるな……と。
にやにやとしながら(しているかどうかは分からないが)、ログはそれを了承する。
その後、アリクは意を決し……自分の真横にいる少女へと、己の唇を重ねた。
ほんの一瞬では合ったが、したことに変わりは無い。
恥ずかしそうに目を逸らすアリクと、目が少しとろんとして頬が紅潮しているファリア。
はたから見れば何とも対照的な姿である。
アリク「……機嫌、直った?」
ファリア「うん……アリク、大好き♪」
アリク「まったくもう……」
何時もこんな感じで、ファリアに甘えられっぱなしである。
色々と恥ずかしいのだが……あまり、迷惑とは思えない。
やはり心のどこかでは、彼女の事を好いているのだろうか。
アリクは溜息をつき、自分に抱きついているファリアの顔を見た。
何とも、幸せそうな顔である。
アリク「……あーもう。」
ファリア「きゃっ♪」
思わず、自分の方から抱きしめてしまった。
若干驚きながらも、嬉しそうに笑みを浮かべてファリアは彼に身を委ねる。
何か本当に、ファリアの性で彼女の事を好きにさせられてしまっている気がする。
そんな自分の事を、アリクは何ともいえぬ気持ちで見ていた。

8蒼ウサギ:2006/03/07(火) 06:23:23 HOST:softbank220056148061.bbtec.net
特別編「私は私を探して・・・・・・(中編)」


シェリア「うん、似合う似合う♪」
 ドレスアップを終えたアリサを見て、シェリアは、満足そうだ。
 ワンピース風の黒いドレス。それに合わせた薄めの黒いスカート。
 白のフリルのついた襟巻きと胸の白いリボンがシェリアなりのお洒落のポイントらしい。
 スラッと長く伸びている髪は、黒いヘアーリボンでツインテール状に結んでいる。
アリサ「・・・・・・」
 似合うと言われてもお洒落感覚のないアリサはよくわからなかった。
シェリア「着替えも終わったし、行こう、アリサ!」
 シェリアは、アリサの手を引っ張ってどこかへ連れて行こうとする。
アリサ「・・・・・・」
 当惑しながらも、為すがままのアリサ。
 程なくして、彼女が連れてこられた場所は、この家・・・・・・・いや、大豪邸の中央ホールである。
 そこには、豪華な料理が乗せられているテーブルを囲みながら歓談に耽っている人たちがいた。
 アリサは知らないが、その人らは全て、芸能界や政治界等、各界の著名人ばかりである。
アリサ「この人たちは?」
シェリア「言ったでしょ、今日は、私の誕生日パーティーなの。この人たちは来てくれたお客さんだよ」
アリサ「・・・・・・」
 普通の人ならここで驚く所だが、それが凄いことなのかどうかは、アリサにはわからないことだった。
シェリア「あ、テーブルにある食べ物は好きに食べていいよ♪ お腹、空いてるでしょ?」
アリサ「・・・・・これ、食べられるの?」
 数々のごちそうを見ながらアリサが質問する。
 シェリアは思わずキョトンとしてしまった。
シェリア「え? 別に変わった食べ物はないと思うけど・・・・・・」
アリサ「ここにあるの・・・・・・私、初めて見るから・・・・・・」
 本当に物珍しそうにテーブルの上のごちそうを見るアリサ。
シェリア(記憶喪失で、そういうことも忘れてるのかな?)
 とりあえずはそう解釈することにして、シェリアは近くのテーブルに置いてある苺を盛った皿をアリサに差し出した。
シェリア「じゃあ、これ! 私のオススメだよ!」
アリサ「これも・・・食べれるの?」
シェリア「うん! おいしいよ!」
 そう言われて、アリサは苺を一つ摘み、口に運んだ。
 ほどよい酸味と甘味が口中に広がる。
アリサ「あ・・・・・・」
 初めて感じたその舌の感触にアリサは少し驚いた表情を見せた。
シェリア「どう? おいしいでしょ♪」
 そう言って、シェリアも一つ食べる。そして途端に彼女の表情は至福のものとなる。
アリサ「おいしい・・・・・・?」
 その言葉の意味はわからなかったが、この赤い果実を食べた時は嫌な気持ちにはならなかった。
アリサ「・・・・・・・」
 じっと皿に盛られてる苺を見て、アリサはまた一つ口に運んだ。
シェリア「あはは、気に入ったみたいだね♪ まだまだいっぱいあるから、たくさん食べなよ」
 その言葉を聞いているのかいないのか、アリサは次々に苺を摘んでは黙々と口に運んでいく。
 と、その時、アリサの足元に何かが擦り寄ってきた。
 それは先程、アリサが寝ていた部屋にいたセントバーナードである。
シェリア「やっぱりアルフォンスはアリサに懐いてるね♪」
 シェリアはそう言うと、しゃがみ込んでアルフォンスの頭を撫でる。
 ご機嫌そうなアルフォンスを見て、アリサは自然と笑みがこぼれた。
シェリア「ほら、アリサも撫でてあげて。アルフォンス、こうすると喜ぶの」
 シェリアに言われるまま、アリサは苺の皿をテーブルに置くと、
 アルフォンスと同じ視線までしゃがみ込み、撫でてやった。
アルフォンス「くぅ〜〜ん」
 心地よさそうな鳴き声に微笑むアリサ。
 傍にいるシェリアはそんなアリサの微笑を見て、最上級の笑顔になる。
シェリア(ふふっ、アリサってこんな感じで笑うんだ♪)
 同性から見ても、その微笑みは愛らしく思えた。

9蒼ウサギ:2006/03/07(火) 06:23:50 HOST:softbank220056148061.bbtec.net
=整備工場=


シャオ「よぉ、オレのマシンのご機嫌はどうだ?」
 シャオが訪れたのは、馴染みの深い整備工場である。
 ここでは様々なものが整備できる工場だ。
 車、戦車・・・・・・そして人型機動兵器さえも範疇内である。
整備屋「久しぶりだな、シャオ。どうした? “アレ”が必要なのか?」
シャオ「あぁ、ブタ(仲介屋)が良い仕事拾ってきたんでね。場合によっちゃ頼ることになるかもしれねぇ」
整備屋「そうか、なら丁度いい。こっちこいよ」
 そう言って、シャオを工場の奥へと連れて行く。
 そこにシャオが求めている“アレ”があった。
シャオ「へぇ、キレイになってるじゃねぇか」
整備屋「商売だからな!」
 工場の奥に収められている唯一の人型機動兵器。
 “ザミエル”という名の黒き機体を見上げ、シャオは満足そうな笑みを浮かべた。
 以前、この機体を使った仕事の直後は、あちこちボロボロだったのに今では新品同然に輝いている。
整備屋「っで、今度はどんな仕事なんだ? こいつを使うかもってことはよっぽどの仕事なんだろ?」
シャオ「あぁ、ちょっとマフィアを狩りにな」
整備屋「もしかしてこの街に潜伏してるって噂のサラードファミリーか?」
シャオ「なんだ知ってるのかよ。まっ、そういうことだ」
整備屋「オイオイ、大丈夫か? 相手は国家警察程度ですら手を焼いてるってくらいの強大な組織だぜ?
    狩り屋同盟でも組む気かよ?」
シャオ「そんな面倒なのはゴメンだ。オレ一人でやる」
整備屋「はぁ〜、命知らずだなオイ。
    あんなモン相手にできるのはどっかの正義の独立部隊くらいなもんだぜ?」
シャオ「あん? それって十何年か前に滅びたっていうアレ?
    何か魔術師やら天使やらがいるって、噂に尾びれ背びれが絶えないモンだったな」
整備屋「若いのによく知ってるな。まっ、オレも噂程度にしか知らないけどな。
    本当にそんな部隊があったのかも今となってはわからねぇ・・・」
シャオ「まっ、そんな話はどうでもいいさ。とにかくオレはそのファミリーを狩るつもりだ」
整備屋「全くよぉ、どうしたらそんな命知らずな考えになっちまうんだ?」
シャオ「さぁな? とりあえず一週間、シリアルしか食わなかったらわかるんじゃねぇか?」
整備屋「は?」
シャオ「なんでもねぇよ・・・・・・さて、そろそろ行くかな。
    ザミエルは表に停めてあるトレーラーに積んでおいてくれよ」
整備屋「わかった。30分だけ時間くれ」
シャオ「おぅ、その間、そこら辺ブラついてくるぜ」
 そう言って、シャオは整備屋に背を向けて工場から出ようとした。
整備屋「まっ、せいぜい死なないようにな。
    お得意さんに死なれるのはこっちとしても痛いからよ」
 遠まわしに身を案じてくれている整備屋にシャオは背を向けたまま右手の親指を立てて返した。

10蒼ウサギ:2006/03/07(火) 06:25:16 HOST:softbank220056148061.bbtec.net
 心和む音楽。それに合わせてダンスを楽しむ客人をアリサは不思議そうに見ていた。
 普通のダンスなのだがダンスという概念を知らないアリサは彼らが興じているの様が不思議でしょうがない。
 そんなアリサの様子を見ながら、シェリアは父、レイオンと母、リオナに頼み事をしていた。
シェリア「ねぇ、いいでしょ? アリサの記憶が戻るまで一緒に暮らしても〜」
レイオン「もちろんだよ。彼女用の部屋も明日には用意しよう」
シェリア「あ、それはいいよ。アリサは私の部屋で寝るの♪ だって部屋もベッドも一人で使うには広すぎるもん」
レイオン「フッ、そうかい。なら好きにするといいさ。必要なものがあればいつでも言いなさい。すぐに用意するから」
シェリア「うん、ありがとう、パパ♪」
 とびっきりの笑顔を見せてシェリアはアリサの元に駆けた。
リオナ「シェリア、嬉しそうね」
レイオン「あの子の周りには同年代の子が少ないからな」
リオナ「アリサちゃん、良いお友達になるといいわね」
レイオン「あぁ、大丈夫だろう。あの子は悪い子じゃない」
 アリサを見つめながらレイオンは、うんうんと頷いた。


シェリア「やったね、アリサ。パパとママもアリサを歓迎してくれてるよ♪」
アリサ「パパ? ママ?」
シェリア「うん、ほら、あそこにいるのがパパとママだよ」
 シェリアが示す方向に見える二人の男女がアリサに笑顔を向けている。
 それに対してアリサはどう反応していいかわからず、ただ戸惑ってしまうだけだった。
アリサ「!」
 だが、その時、彼女は突如として嫌な感覚に襲われた。
アリサ「なに・・・・・・これ?」
 頭痛にも似た感覚に顔を歪めるアリサ。
 傍にいるシェリアはすぐアリサの異変に気づいた。
シェリア「どうしたの? アリサ!」
アリサ「わからない・・・・・・けど」
 このままでは、良くない・・・・・・
 そんな予感がする。
 そしてその予感は、すぐに当たった。

 ドォン!

 突如、耳をつんざく轟音が響いた。
シェリア「な、なに? なんなの?」
 騒然とする周囲。シェリアも軽くパニックを起こしている様子だ。
 アルフォンスに至っては音がした方向に向かって吼えている。
レイオン「なんだ!? 警備班! どうなってる!?」
 常備していたトランシーバーで呼びかけるレイオンだが、返事はない。
 耳に障るノイズだけが聞こえてくる。
 いよいよただ事ではない状況にレイオンは戦慄した。
レイオン「すぐに客人たちを裏門から避難させるんだ!」
 近場にいる使用人たちに指示をおくると、客人たちにその旨を伝える。
 迅速な判断だが、一同は不安は拭いきれない。
シェリア「パパ・・・・・・」
レイオン「お前もアリサと一緒に避難しなさい」
シェリア「パパは?」
レイオン「外の様子を確認してからすぐに―――」
 その瞬間、またも轟音が響いた。
 それと同時に軽い衝撃が襲い掛かってきた。
 中央ホールの扉が爆発したのだ。
???「ヒャ〜ッハッハッハーーーーッ!! レディース&ジェントルメェェン!!」
 強烈なダミ声の男が扉の向こうからやって来た。
 彼の後ろには数も分からぬほどの大勢の黒服達がいた。
 全員、火器を装備している。完全なる武装集団だった。
レイオン「何者だ、君達は!?」
サラード「どぉも、レイオン=フィル=ハイド氏。私の名はミラ=サラード」
 紳士的に挨拶して見せるが、どこかワザとらしい。
サラード「さすがはハイド財閥のお屋敷。素晴らしいですなぁ
     だが、残念です。 明日のニュースではこう伝えられるでしょう
     「ハイド家全焼。各界著名人多数死亡」ってね」
レイオン「なっ、なにを・・・・・・?」
サラード「わからねぇか? まっ、ようするにだ・・・・・・」
 サラードが持っていたマシンガンの銃口を向ける。
サラード「アバヨ、ってことだ」
 何の躊躇もなく、引き金が引かれた。


 穏やかで優しいひと時が壊れた瞬間だった―――



 ・・・・・・次回に続く。

11SD:2006/04/18(火) 23:05:19 HOST:usr211019181033.tcn.ne.jp
○野望の男○

ヴェルン「ヘリオポリスがザフトに……?」
利根川「ああ……モルゲンレーテ社が絡んでいた。
中立コロニーの裏で、またとんでもない真似をしてくれた……」
ヘリオポリス襲撃に関する報告は、既にアウトサイダーの耳にも入っていた。
中立コロニーのヘリオポリスで、新型のMSを開発。
己が耳を疑いたくなるような、とんでもないニュースだった。
ヴェルン「他国の争いに介入せず、他国を侵略せず……これのどこがだ。」
利根川「どんな理由であろうと、これでヘリオポリスは地球軍に加担したことになる。
中立の立場が崩れたとなれば……オーブが非難を受けるのも、時間の問題だな。」
ヴェルン「……所詮、中立なんて甘い立場じゃ何も出来ないという事か。
オーブは近い内に、大打撃を受ける……あの国に相応しい、いい末路だ。」
中立の理念では、所詮守れる物は何も無い。
前々から、ヴェルンはオーブの理念が好きではなかった。
他国の争いに介入せず、他国を侵略せず。
それはつまり、自分達さえよければ他は別にいいという考えにも取れるのだ。
国の外では、まさに戦争による悲劇が起こっているというのに……何も知らずに、国の中でのうのうと生きている。
自分達が裕福に暮らしている中、どれだけの人間が悲劇に苛まれているのか……それを知らないで。
他者が苦しんでいるというのに……手助けしようとせず、ただ傍観するだけ。
自分達の安全の為に……苦しむ者を見殺しにしておく。
その態度が……許せないでいた。
ヴェルン「俺は全てをこの手で壊す……あんな国は、あってはいけないんだ。」
利根川「全ては、平穏の為か……じゃあ、ヴェルン。
ワシは、自室で少し休ませてもらう……何かあったら連絡してくれ。」
ヴェルンと別れ、利根川は自室へと入っていった。
そして……ドアに鍵をかけると、ノートパソコンを開いた。
パソコンにカメラを取り付けると、彼は通信を始めた。
アウトサイダーとは別の、己のもう一つの仲間達……ブルーコスモスへと。
利根川「モルゲンレーテ社の情報が漏れたのは、やはり此方の読み通り……ザフトがスパイを忍ばせていたのが原因と見ていい。
部下から、そう報告があった。
それで……そちらの方では、どんな事があったのかな?」
利根川の持つ裏の顔……それは、ブルーコスモスの幹部としての顔である。
軍事企業に強い影響力を持つ、反コーディネイター組織。
それがブルーコスモスの実態ではあるが、利根川は別にコーディネイターの事はどうと思ってはいない。
彼にとってコーディネイターは、全く忌む対象ではないのだ。
それならば、何故利根川がこの組織に属しているのか。
その理由は至って単純……ブルーコスモスの持つ軍への影響力を、手にしたかったからだ。
もしもそれを、一部でも手にする事が出来れば……大きく利根川の立場は変わるだろう。
一方ブルーコスモス側からすれば、利根川が入る事は損以外の何者でもなかった。
軍を裏切りそして大規模な被害を与えた、最悪の裏切り者。
さらに、アウトサイダーの二番頭でもある男。
そんな男を味方に引き込むなど、どうしてできようか。

しかし……ブルーコスモス側は、利根川を仲間に引き入れざるをえなかったのだ。
ブルーコスモスの傘下にある企業の内……幾らかに、利根川の息がかかっているからだ。
利根川はその気になれば、経済面において相当な打撃をブルーコスモスに与える事も、十分可能なのだ。
いや、恐らくそれだけではすまされないだろう。
どんな報復を受けるかが分からない以上……利根川を引き入れる以外、選択肢は無かったのである。
利根川(しかし……人生とは、分からないものだな。
まさかあの時手にした企業が……こんな形で、最強の武器になろうとは。)
利根川は元々、アウトサイダーに着く以前……最大最悪の裏切り者として、軍に大打撃を与えたのよりも、更に昔。
聖印の存在を知る以前から……ある一つの野望を持っていた。
この世の全経済の掌握……ありとあらゆる企業を、己の傘下に治めること。
己の手で、世界にある金の流れの全てを支配すること。
それが、利根川の元々の野望だったのだ。
彼は偶然にもその頃に、ブルーコスモスの傘下である企業を、己が手に出来ていた。
それは今、最高の武器として使われている。
人生では、どんな形で切り札が手に入るかは分からない……そう利根川は実感していた。
利根川(さあ……いよいよ、幕は開いた。
ナチュラルとコーディネイターの戦いは、この一件を機に……いよいよ泥沼に入る。
地球圏は間もなく、混沌に包まれる……世界を変えられる、最大の契機が訪れる。
この野望を果たす……最大の契機が訪れる!!)

12名無しさん:2006/05/14(日) 22:09:01 HOST:softbank220056148073.bbtec.net
特別編「私は私を探して・・・・・・(後編)」


シャオ「チッ、一足遅かったか・・・・・・」
 街の郊外にある港の倉庫。
 サラードファミリーが潜伏していると踏んだシャオはそこへ殴りこみをかけた。
 だが、すでに倉庫内はもぬけの殻だった。
シャオ(微かにニコチンとアルコールの匂いが残ってやがる・・・・・・出てってあまり時間が経ってねぇな)
 まだ近くにいるかもしれない。
 そう思い、早々にこの場を立ち去ろうとするシャオだったが、突如、背後に気配を感じた。
 それと同時に後頭部に何か硬いものが突きつけられた。
 経験からそれが銃だということがすぐにわかった。
手下1「オイ、ちょっと目を離したら変な野郎がお邪魔してるじゃねぇか」
手下2「あぶねー、あぶねー、始末しとかなきゃ、ボスに見張りをサボってたのがバレちまう」
 二人の会話を聞いて、シャオはバカにしたように笑った。
シャオ「随分とアンタ等、チキンなんだな」
手下1&手下2「あぁん?」
シャオ「留守番にチキンを使うたぁ、アンタ等の組織も大したことねぇんじゃねぇか?
    せめて犬くらい飼ったらどうだ? まっ、こんな組織だ。どんな犬も負け犬になっちまうだろうがな」
手下1「よく喋るネズミがぁぁっ!」
手下2「ネズミらしく、ドブにまみれろやぁぁぁっ!」
 引き金が引かれる瞬間、シャオは不適な笑みを浮かべて振り返った。
シャオ「このネズミは・・・・・・怖ぇぜ!」

・・・・・・・数十分後。

シャオ「さてと、遅めのパーティーに参加するとするか。招待状はないけどな」
 手下二人から聞きだした情報をもとにシャオは停めてあったトレーラーを走らせた。
シャオ「ッ! あのチキンども、吐くんなら早く吐きやがれ、手間掛かったぜ」
 散々、ボコボコにし、倉庫内で放置させている手下二人に向けてシャオは毒舌を吐いた。


§


 穏やかで優しいひと時―――
 それは突然の理不尽で壊された。
 
 ダダダダン!!

 その銃声が鳴り、それと同時に誰かが倒れる音。
 そして悲鳴―――
 嫌な旋律が鳴り響く。
レイオン「な、なんてことを・・・・・・」
 先程の銃声で倒れたのはパーティーに来ていた客人の一人だ。
 その客人はもう息をしていないだろう。弾を受けた頭からはドクドクと赤い血が流れている。
 アリサはそれを見て、目眩にも似た感覚を覚えた。
アリサ(なに・・・・・・これ?)
 気持ち悪い? 不愉快?
 似ているがどれも当てはまらない。
 そう、あえて言うならこれは・・・・・・衝動。
 内から溢れる何かを身体が・・・心が拒否している。
 あのヒトから流れる赤い液体がそれを促がしているのか・・・・・・アリサは目を逸らすことでそれを和らげた。
 それに対して愉快な気持ちに浸っているのはサラードとかいう男。
 先程、引き金を引いた男である。
サラード「あら〜? 今のはひょっとして政治家サン? ヒャハハ〜、まぁいっか。
     一人くれぇいなくなったって国は変わらねぇよな! 腐ったまんまだ!」
 そう言って、サラードはまた狂ったように笑った。
 何がそんなにおかしいのか、アリサには理解できない。それどころかその笑いはアリサを不愉快にさせる。
アリサ「っ・・・・・・」
 不愉快のあまり肩が震える。そんな肩に暖かい手が置かれた。
 シェリアの手だった。
シェリア「怖く・・・・・・ないからねアリサ」
 本当は自分が怖いのだろうが、シェリアは無理矢理笑顔を作っている。
 アリサを不安がらせないよう気丈さを保っているようだ。
アリサ「・・・・・・怖く・・・ない?」
 言葉の意味はよく分からないが、シェリアの暖かい手、言葉を感じていると
 先程まで溢れそうだった“衝動”が少し収まった。
レイオン「き、君達は何が目的なんだ!?」
 怒りと恐怖が混ざった声でレイオンが叫ぶ。
 対してサラードは相変わらずの調子で応じる。
サラード「目的ぃ? なぁに簡単だよ。仕事さ」
レイオン「なに!?」
サラード「オレらは“暴力(ちから)”しか能がないんでねぇ。 まっ、こんな腐った世の中だし?
     こうして懐が暖かい奴らから奪うしか生きていけないんだよねぇ」
 おどけたサラードの口調に周囲の仲間達がゲラゲラと笑う。
レイオン「・・・理不尽な!」
 レイオンの言葉にサラードは表情を一変させた。
サラード「理不尽? クックック・・・・・・・」
 サラードは俯いた状態で笑う。そして銃口をレイオンに向けた。
サラード「上等だよぉ!」
 再び嫌な旋律が鳴り響いた。

13蒼ウサギ:2006/05/14(日) 22:10:39 HOST:softbank220056148073.bbtec.net
すみません↑はウチのです。

14蒼ウサギ:2006/05/14(日) 22:11:37 HOST:softbank220056148073.bbtec.net
シャオ「パーティーの会場ってのはここか?」
 倉庫街で遭遇したマフィアの手下から聞き出した情報を元にシャオはここハイド邸に訪れた。
シャオ(確かここの主はレイオン=フィル=ハイド・・・・・・世界的にも有名な財閥だったか)
 うろ覚えの記憶を手繰り寄せるが、すぐに止めた。
 ここへ来た目的はそれじゃないからである。
シャオ「なんだか騒がしい・・・どうやら盛り上がってるみたいだな」
 自分の何倍もある高い塀を軽々と飛び越え、シャオは敷地内に入っていく。
 そして感じた。火薬の匂い、銃声、人の悲鳴、血の匂い・・・・・・そして下卑た笑い。
シャオ「獲物が派手に余興を楽しんでるみたいだな・・・・・・」
 微かに聞こえた笑い声が癇に障ったのか、シャオは舌打ちをした。
 そしてその笑い声に向かって歩みを進めようとすると、突如として発砲音が響く。
シャオ「!」
 右頬に鋭い痛みが走った。それが弾丸が掠めたものとシャオは経験上すぐにわかった。
シャオ「囲まれてるな・・・・・・・」
 小さく呟くと、それを証明するかのようにシャオの体中のあちこちに赤いレーザーポインタが当てられる。
シャオ「招待状のない奴はお断り・・・てか?」
 おそらくシャオを狙っているのはマフィアの見張り役の者達だろう。
 レーザーポインタの数と気配からして十数人。
シャオ「招待状の代わりに・・・・・・いいモンくれてやるよ!」
 再び発砲音が響く前にシャオは動いた。
 右手に大鎌(イシュタール)左手に大型拳銃(ヘカテ)を持って・・・・・・


§


サラード「ヒャハハハ! サイコーだぜ、この銃。一瞬にして蜂の巣だもんなぁ」
 マシンガンに舌を這わせ、サラードは満足げな表情を浮かべる。
 その一方で泣き叫ぶ者たちがいた。シェリアである。
 彼女は銃声と悲鳴が絶え間なく響く中で父、レイオンと母、リオナの亡骸にすがる様にして泣き叫んでいた。
 その様子をアリサは呆然と見つめていた。目は大きく見開いており、微かに震えている。
アリサ「はぁ・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・」
 銃声が聞こえる度、悲鳴が聞こえる度、血が流れる度に呼吸が荒くなり、
 心臓の鼓動も激しくなる。そして・・・アリサの中で何かが弾けそうになる。
 彼女は初めて感じるこの“感じ”に困惑していた。
サラード「オイ、一人として逃がすんじゃねぇぞ。外に漏れたら色々と面倒だからな!」
 虐殺を行っている手下達に伝えると、サラードはシャリアとリオナに近寄る。
 そこへセントバーナードのアルフォンスが立ち塞がり、吼えた。
サラード「どきな、クソ犬」
 サラードは容赦なくアルフォンスを蹴り飛ばすと、マシンガンの銃口を向けた。
 それを見たアリサは反射的に身体が動いた。
アリサ「だ・・・め・・・・・・・・」
 アルフォンスを庇うようにして立ち塞がると、搾り出すような声でアリサは告げた。
サラード「あん? うるせぇよ。シラけるから邪魔すんなって」
 サラードが引き金を引こうとしたその瞬間、アルフォンスが凄まじい勢いで突進するような形で
 アリサを後ろから押し倒した。直後、銃声が鳴り響き、アルフォンスの身体が宙で踊る。
 倒れつつも、アリサはその様子を直視していた。
アリサ「あ・・・・・」
 また心臓の鼓動が激しくなる。
シェリア「い、いやぁぁぁぁぁっっ!!」
 両親にすがりつき泣いていたシェリアもアルフォンスが撃たれた時の銃声に気づいたようだ。
 動かなくなった愛犬にシェリアは更なるショックを被る。
サラード「あぁっ、うるせぇよ!」
 シェリアの叫びがサラードの苛立たせた。銃口がシェリアに向けられる。
アリサ「だ―――」
 シェリアの前に駆け寄ろうとし、起き上がろうとした瞬間、アリサは背中に激痛が走るのを感じた。
アリサ「あ・・・・・・・・・・・」
 一瞬にして意識が薄れゆく。その最中で見たものはアリサを背後から撃ってきた男である。
 手下の一人だろうか、その表情はサラードと同じ下卑た笑みを浮かべていた。

15蒼ウサギ:2006/05/14(日) 22:12:44 HOST:softbank220056148073.bbtec.net
 視界が暗闇に包まれる。意識は混濁とし、ハッキリとしない。
 そんな中で彼女は声を聞いた。

 ―――だれかが私の“想い”を受け継ぐ・・・!
 ―――“希望”は・・・・・・決して滅びない・・・!
 ―――・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ―――・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ―――・・・・・・・・・
 止め処なく様々な言葉が聞こえてくる。
 それらが誰の言葉なのか、アリサは知らない。
 そしてまた別の声が聞こえる。最後に聞いた言葉は・・・・・・

 ―――生きてくれ




 それは夢か現か幻か・・・・・・
 もし夢だとしたら、聞こえてきた言葉は記憶の断片だろうか?
 そうだとしてもアリサには理解できない言葉ばかりだった。

 不意に闇に光が射す。
 混濁していた意識が徐々にハッキリとしていく。
アリサ「・・・・・・・」
 血の嫌な匂い、僅かに感じる鈍い痛み。
 それは紛れもない現実。
アリサ「うっ・・・」
 身体が異様に重く感じつつも、アリサはなんとか立ち上がる。
 アリサが倒れていた場所には血溜まりができていた。背中から撃たれた弾丸は貫通していたのだ。
 左胸辺りから血が流れた跡が伺える。その血はもう止まっているが、痛みは微かに感じる。
 ボンヤリする目を凝らした瞬間、アリサは驚愕に目を見開いた。
 足元に倒れている少女がいる。アリサはその少女を知っている。
 認めたくない。だが、確かな現実・・・・・・・
 アリサは少女に触れる。―――冷たい。
アリサ「シェ・・・・・・・リ・・・・ア」
 少女の名前を呟いた瞬間、アリサは激しい“衝動”にかられた。
 灰色の瞳から溢れる水。それが頬を伝い、シェリアに触れていた手に落ちた。
 ふと、彼女の言葉が脳裏に甦った。

 ―――記憶を取り戻したい? それとも忘れたままがいい?

アリサ「私は・・・・・・・・」
 あの時言った言葉を心の中で呟く。
 不意にアリサは後頭部に冷たいものを感じた。
手下3「おやぁ、まだ生きてる奴がいるぜ」
 
 ―――生きている? そう、私はまだ生きている・・・・・・

手下3「どっかに隠れてりゃあ助かったかもしれねぇのになぁ。
      お友達をぶっ殺されて泣いているからだよ!」

 ―――泣いている・・・・・・? 私は、泣いているの?

手下3「んじゃま、死んどけや!」

 ―――死ぬ? それは・・・・・・

 夢の中のあの言葉が蘇る。“―――生きてくれ”という言葉が・・・・・・
アリサ「・・・・・・!」
 アリサは銃を突きつけた男に振り向いた。
 濡れた紫の瞳が下卑た笑いをしている男を映し出した。

16蒼ウサギ:2006/05/14(日) 22:13:22 HOST:softbank220056148073.bbtec.net
サラード「おい、あのネズミはなんだ?」
 屋敷中の金品を強奪し終え、退散しようとしていたサラード一味だったが、
 出口目前の中庭で足止めを食っていた。
 理由はシャオがそこで暴れているからである。
手下4「恐らく賞金稼ぎかと・・・」
サラード「へぇ、オレの首が狙いってことか・・・・・・」
 数十人の手下を相手に一歩も引かないシャオをサラードは興味深そうに見つめた。
 一方のシャオはそんなサラードに気づきつつも絶え間なく襲い掛かってくる手下達に手こずり、
 サラードに仕掛けられないでいた。
シャオ(ちっ、次から次へと・・・・・・鬱陶しいぜ)
 イシュタールを振るい、ヘカテを連射し、次々に手下達を倒していくが、
 サラード一味の勢いは止まることを知らない。
 超人的な体力を誇るシャオだが、さすがに息が荒くなっていく。
サラード「たった一人でよくやるぜ・・・・・・でもまぁ、オレらもそろそろ退散しなきゃ色々と面倒なんでな」
 サラードは手下の一人からスナイパーライフルを一挺受け取ると、シャオに狙いを定めた。
サラード「オイ、そいつを取り囲め!」
 叫ぶようなサラードの命令にシャオは気づいた。そして一瞬だが、動きを止めてしまった。
シャオ(チッ、あの野郎!)
 シャオはサラードがライフルを構えているのを確認し、舌打ちをした。
サラード「アバヨ・・・・・・」
 サラードが引き金を引こうとしたその瞬間―――銃声が一つ鳴り響いた。
サラード「なにっ!」
 突如、自分が持っていたライフルが爆発する。別方向から飛んできた銃弾がライフルを撃ち抜いたのだ。
サラード「だ、誰だ!?」
 周囲を見渡すと、その該当者はすぐに見つかった。だが、同時に信じられないことだった。
 撃ってきたと思われる人物は少女だった。
 ワンピース風の黒いドレスを纏い、鮮やかな紫色の長い髪を両端で結んでいる。
 どこにでもいそうなお嬢様の風体だが、その鋭い眼光は違う。
 とても少女とは思えないほどの凄まじい殺気と威圧感を放っていた。
 そして右手には銃を持っている。それがサラードのライフルを撃ち抜いたものであるとは想像に容易い。
サラード「お前・・・まだ生きてやがったのか!」
 サラードはその少女が背中を撃たれ、倒れたのを覚えていた。
 だが、今この瞬間、その少女がここに立っている。
 まるで撃たれたことがなかったかのように・・・・・・
サラード「て、てめぇ・・・・・・」
 その瞬間、また銃声が鳴り響く。それとほぼ同時にサラードの周りにいた手下がバタバタと倒れていく。
サラード(な、何発撃ちやがったんだ!?)
 響いた銃声は不自然な音だったが、一発程度しか鳴っていない気がした。
 だが、実際には何人もの手下がやられている。
 不意に少女が持っていた銃を投げつける。
 その銃は手下に持たせている物だったが、銃身がまるで暴発したかのように破裂していた。
 しかも引き金は不自然に捻じ曲がっている。
 とてもじゃないが普通の人間の握力ではこうはならない。
サラード「お、お前・・・・・ば、化け物か!?」
 悲鳴に近い声でサラードは叫ぶ。少女はその凄まじい殺気とは対照的な透き通るような声で告げた。
アリサ「・・・・・・化け物? わからない・・・・・・」
 そう呟き、一歩、歩き出す。
アリサ「私は・・・私がわからない・・・・・・」
 そしてまた一歩、歩き出す。
アリサ「あなたは・・・・・・私を知っているの?」
 月明かりのお陰で少女―――アリサの紫色に染まった瞳が鮮やかに輝いていた。

17蒼ウサギ:2006/05/14(日) 22:14:23 HOST:softbank220056148073.bbtec.net
 銃声の音と硝煙の匂いが充満した血生臭い場所。
 ロマンの欠片すらないその場所でオレは“あいつ”と出会った。
 “あいつ”が何者なのか、オレは知らないし、興味もない。
 だが、そいつはとんでもないことをしでかしてくれた。
 オレの断り無しにサラードファミリーを壊滅させてくれやがった!


=回想=

シャオ「お前・・・・・・誰だよ?」
 今、この場所に立っているのはシャオとアリサのみ。
 サラードファミリーはアリサが完全に壊滅させてしまったのだ・・・・・・
アリサ「・・・・・・わからない」
 半ば虚ろな目でアリサは応える。その視線の先には頭を撃ち抜かれ骸と化したサラードが倒れている。
シャオ「・・・随分、派手にやらかしてくれたな・・・・・・相当、ストレスでも溜まっていたのかよ?」
アリサ「・・・・・・」
 アリサの視線がシャオを捉える。
シャオ「んで、少しはスッキリしたかよ? 見事に皆殺しだぜ?」
アリサ「・・・・・・」
 シャオの言葉にアリサは応えなかった。いや、応えられなかった。
 それはアリサにもよく分からないから・・・・・・だが、いい気分ではなかった。
 シャオはヘカテの銃口をアリサに向ける。
シャオ「とにかくお前は一緒に来てもらうぜ。マフィアとはいえこれだけ派手にやらかしたんだ。
    確実に指名手配されるぜ? 早めに楽になった方がいいだろ?」
アリサ「・・・・・・いや」
シャオ「ん?」
アリサ「それは・・・・・・いや・・・!」
 その瞬間、大気が揺れた。そして巨大な何かが迫ってくる。
シャオ「っ! 何のつもりだ?・・・・・・!?」
 突如、襲い掛かってきた突風に耐えていたシャオはふと空を見上げ、異変に気づいた。
 煌く蒼きボディ。闇夜を照らし出す白き翼と闇夜に溶ける黒き翼を持った巨人がそこにいた。
シャオ「“ザミエル”と同じ人型の兵器か!?」
 その巨人はアリサとシャオの間に割って入るようにして中庭に着地した。
 まるで騎士が姫を迎えに来たかのように片膝を折っていた。
 アリサは巨人を見上げるとテンポ良く膝、胸部へとジャンプし、胸部のハッチを開いて搭乗した。
シャオ「! 逃がすかよ!」
 巨人に向けてヘカテを発砲するが、掠り傷程度しか負わせられない。
 巨人は立ち上がると、その四枚の翼を広げた。
シャオ「へっ、追いかけっこの始まりだな」
 シャオは自分が乗ってきたトレーラーへと走った。
 そして積んである愛機、ザミエルに乗り込むと飛び去っていく蒼き巨人を追った。

=回想終了=


 結局、逃げられちまったが、これで目的ができた。
 オレの予想通り、指名手配のサラードファミリーとはいえ皆殺しにした“あいつ”は指名手配されることになった。
 しかも懸賞金はサラードファミリーを越えた。捕まえて損したサラードファミリー分の金を手にしてやるぜ!
 “あいつ”の名前は知らない。手配書にはナンバーで名付けられているが、ちょっと味気ないよな・・・
 猫みたいに素早い“あいつ”をオレは“ロリ猫”と呼ぶことにした。
 絶対に捕まえてやるぜ・・・・・・ロリ猫。



§


 私が目覚めて、最初に出会ったヒト・・・・・・その人はもういない。
 残っているのは彼女がくれたこの服とかけてくれた言葉の記憶・・・・・・そして彼女の仄かな温もりの記憶。

 空気という名の気体。
 それは、ヒトが生きるのに必要なもの。
 空気がなければヒトは、命を紡げない。
 だから空気は必要なもの。

 水という名の液体。
 それは、ヒトが生きるのに必要なもの。
 水がなければヒトは、命を紡げない。
 だから水は必要なもの。

 私という固体。
 それは、ヒトが生きるのには決して必要とは限らない。
 私という固体がなくても、ヒトは、命を紡げる。
 だから私という固体はいなくてもいい。

 けど―――私はここにいる。
 ここにいる限り、私は生きていく・・・・・・夢で聞いたあの言葉の通りに・・・・・・
 そして私という存在の意味を探す。
 シェリアという存在の意味が私にあったように・・・・・・
 私という存在の意味を私は知りたい・・・・・・

 そう、私は私を探す・・・・・・



 特別編 「私は私を探して・・・・・・」 完結

18蒼ウサギ:2006/05/14(日) 22:15:06 HOST:softbank220056148073.bbtec.net
○特別編 「私は私を探して・・・・・・(エピローグ)」


 幸せに満ちていたその場所は一夜にして地獄へと変わった。
 多くの命が消え、多くの幸せが消えた。
 手にすることが難しいそれらを失くすことは本当に簡単で一瞬だ。
 だからこそ“恐怖”というものがあるのかもしれない。
 失う“恐怖”があるからヒトは足掻く。そしてそれは時に凄まじい力を発揮する。
 私も“恐怖”を感じる時がある。自分が失われるのが怖い・・・・・・
 けど、私は――――

???「クスッ、すごいわね。これが“地獄”って奴かしら」
 血と硝煙の匂いが立ち込めるその場所に不釣合いな少女が一人。
 彼女は頭を撃ち抜かれたある骸に手を触れた。
???「あなた・・・・・・おもしろそうなペットになりそうね」
 凍りつくような冷たい口振りだったが、
 その表情だけは新しい玩具を手にして無邪気に喜ぶ子供と何ら変わりなかった。

19神守柳:2006/07/15(土) 23:42:37 HOST:softbank218133032028.bbtec.net
これは新しい発見――――――

   これは今を紡ぐための話―――――
   
   そして――――――
   
   戦いに復帰する前のお話―――――

   特別編=休日と任務=

=ハワイ諸島=
ここの火山地域に、ある実験所研究所があった。
その名は、=G・E(グラウンド・エネルギー)研究所=
その昔、ネオ・アメリカが研究していたエネルギー、それがG・E
今は封印され、一般の人間に知るものも無く、そして、存在されないとされる施設。
しかし今は、GGGがある人たちのためにここを運用する事になっている。

=第四級特殊細胞研究室=

ミリア「CBAの細胞・・・・・なんて複雑なの・・・・だめだわ、ここの機械じゃ培養すらできない・・・」
アレイ「ミリア、CBAの細胞の解析、できたか?」
ここは研究所の一室、厳重なセキュリティで細菌や特殊な細胞を保護するために作られた部屋である。
ミリア「駄目ですね・・・・ここの機械じゃまったく解析が間に合わない・・・」
アレイ「そうか。では、クリスが持ち帰ってきた『G・N・S』(グラウンド・エネミー・シューグ)の方はどうだ?」
ミリア「それならどうにか・・・ですが、これもある意味CBの変種・・のようにも見えます」
ミリアはそう言うと、自分のパソコンのモニターに二つの細胞映像を出す。
一つはCB、一つはG・N・Sのものであった。


G・N・S、クリス達が戦闘していた際に現われた特殊な≪生物≫
ある種の生態兵器化、異星人のものか、それは判っていない。
だが、クリスが持ってきた肉片の細胞を解析したミリアはこういった。
ミリア「CBの細胞はこう、そう、その名の通りはっきり言って昆虫とそう変わりません。
まぁ地球上生物としては判りかねますが・・・。
しかし、G・N・Sは生物兵器、と言ったほうがいいでしょう。
クリスがこれからG・Eの反応をキャッチしたと聞いていましたが、その通りでした。
これは、聖魔神機の核、グラウンド・エレメンタルを核に活動しています。そして何より生きている。」
アレイ「なぜ、そうだと分かるんだ?」
ミリア「実際、このままでは細胞は死滅していくだけです。しかし、G・Eを当てれば話は別。これを見て下さい。ちょっとした実験映像です」
ミリアはそういうとマウスをクリックし、動画に切り替える。
アレイ「薄気味悪い・・・な」
それは実験中の映像。
G・Eの小さな欠片をその肉片に触らしただけで細胞が急に活発化し、それを取り込もうと肉が触手のようなものを出していた。
ミリア「死滅していたはずの体細胞の活発化、明らかに生物としての領域を越しています」
アレイ「生体兵器・・・か・・・」
そして二人はそのモニターに見入った。

20蒼ウサギ:2007/04/02(月) 00:51:45 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
○Piece of the Truth−Episode of Alisa−


 私は、私を探すために生きてきた。
 記憶がなく、私は、私のことがわからなかった。アリサという名前以外―――
 私は、私のことが知りたかった。
 それが私の唯一の望みだった。

 時は流れて・・・・・・私は、同じ顔の人に出会った。
 彼女の名はシリア。
 金色の瞳と髪をした彼女は、私を「失敗作」「旧式」と呼んだ。
 そして、私を殺そうとした。


§


アリサ「あなたは・・・・・・誰?」
 突然の襲来者に向けて、アリサは、アルスレイザーの二丁拳銃を連射させる。
 コクピットに直撃させて撃破するつもりはない、四肢を破壊して動きを封じるためだ。 
 せっかく現れた手掛かり。失うわけにはいかないのだ。
シリア「クスッ・・・古臭い武器ね。カオスウォール」
 アルスレイザーによく似た紅い機体、エクスレイザーが片手を前に突き出す。
 直後、エネルギーで生成された盾が現れ、銃弾を全て防いでいった。
アリサ「・・・・・・エネルギーの防御システム」
シリア「システム? 違うわ、これは“能力(ちから)”よ!」
 
 
§


 シリアの機体、エクスレイザーは全てにおいてアルスレイザーを凌駕していた。
 いや・・・私の力の全てをシリアは、凌駕していた・・・・・・。
 アルスレイザーは、四肢をもがれ、翼をも折られた。


§


シリア「どうしたの? 這い上がらないの?」
 完全に機能を停止したアルスレイザーを見下ろしながらシリアが告げる。
 だが、その声は、アリサには届かない。
 コクピットのベルトが引き千切れるほどの強い衝撃を受けた彼女は、額から血を流したまま気を失っているのだ。
シリア「そう・・・これでお別れね・・・・・・サヨナラ」
 興味を失ったように呟き、トドメを刺そうとするシリア。
 エネルギーで生成された光の鞭、シャインウェーブを振るったその時、乱入者が現れた。
シャオ「シャァァアアアアア!!」
 悪魔の名を持つ機体、ザミエルを駆るシャオ=バーベル。
 シリアのトドメの一撃は、この機体によって阻止させられた。
シャオ「オレの許可なしに、ロリ猫を殺そうとすんなよ。こいつはオレのターゲットだぜ?」


§


 私を追う、気に入らないあの男に私は、助けられた。
 生き延びることができた・・・・・・けど
 私は、アルスレイザーという力を失った。

 けど・・・・・・それが、私を誘う“鍵”になった。
 アルスレイザーには完全破壊が確認された時、起動する特殊なプログラムが組み込まれていた。
 ある場所を示した地図のデータ。
 そこに私は、行った。
 そこで私は・・・・・・私の全てを知った。

21蒼ウサギ:2007/04/02(月) 00:52:40 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
§


 誰が作ったのかも分からない人工的な海底洞窟の中に存在する研究所らしき施設。
アリサ「・・・・・・」
 銃を構え、警戒心を高める。不思議なことに研究所への扉は、「UNLOOK」状態となっており、
 セキュリティ等は、一切、かかってなかった。それどころか研究所内には、一切気配が感じられない。
アリサ「無人・・・・・・?」
 そう思いながらも、慎重に歩みを進めていく。
 手近な扉を開き、一つ一つ部屋に入っていく。全て無人だ。
 だが、そこに置いてある機器やコンピューターは、作動したままだった。
 実に不気味な様子である。

 やがてアリサは、この研究所の扉の中で一際、大きい扉の前に辿り着いた。
 直感的にこの研究所の中枢と思われる。
アリサ「っ・・・・・・!」
 扉の前に立った途端、アリサは、目眩を感じた。呼吸が苦しくなり、心臓は、バクバクと激しく鼓動する。
 身体全体から嫌な汗まで滲み出てきた。
アリサ「この不快感は・・・なに?」
 たまに起こるいつもの“発作”とは違う。まるで身体が“何か”を拒否しているかのようだ。
 少し気分を落ち着けてから、扉の開閉スイッチを押す。
 扉が開くと同時に素早く銃を構えるが、やはりここも無人だった。
アリサ(ここは一体、何なの・・・・・・?)
 銃を下ろしながら、そんな疑問符を浮かべる。
 機械だけが作動したままで、無人の研究所。
 何らかの理由で廃棄された施設にしても綺麗過ぎる。
 まるで神隠しにでもあったように人だけがいない。
 
 ともかく、この研究所が何なのか調べてみる必要がある。
 アリサは、この部屋のコンピューターから何か手掛かりとなるものがないか、調べることにした。
 その時に感じた言い知れぬ不安感は、とりあえず無視した。


§


 パンドラの箱・・・・・・というものがあるらしい。
 神から与えられた決して開けてはいけない箱。それをパンドラは、好奇心に負けて開けてしまった。
 中には、疫病や犯罪といったありとあらゆる“災い”が入っており、それが全て飛び去ってしまったという。
 あの日、あの研究所のコンピューター内で見つけた“研究日誌”のデータを開いたのは、
 私が私を知るための願いからだろうか? 
 それとも禁断の箱を開いたパンドラと同じ好奇心からなのだろうか?

22蒼ウサギ:2007/04/02(月) 00:54:00 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
§


アリサ「これは・・・・・・」
 偶然か必然か、コンピューター内で見つけたのは、研究日誌と言うべきか、そういった内容のデータだった。


―――この日が記念すべき日になるだろう。“ゼウス機関”が発足した日だ。
   そして始まる“永遠の時計-Eternal Clock-”計画。
   それを成就させるためにも『究極の生体兵器と機動兵器の開発』が不可欠だ。
   我々の研究が鍵を握る。


―――究極生体兵器に求められる条件の一つにあらゆる環境に対応、生存できる強靭な身体が必要だ。
   そこで開始されたのが、人間の身体のほとんどを機械化させるサイボーグ化だ。
   だが、人間の身体は、あまりにも脆弱で不安定。
   そのため、ナノマシン技術とロボット工学を応用した特殊なアンドロイドの開発が進められた。
   人間を素体にするのではなく、機械を素体とし、優秀な人間の頭脳を持つものを作るのだ。


―――ナノマシン技術とロボット工学の粋を集めて作られた新たな生体兵器が誕生した。
   “生体アンドロイド”と名付けられたそれは、高水準の戦闘能力を持ち、
   あらゆる環境に対して強い耐性を持たせることに成功した。 
   だが、人でいう感情面が非常に不安定だ。
   やはり人工的に人格を構成する技術は、まだまだ多くの課題が残る。


―――“生体アンドロイド”の試作体は、三十体生産したが、全て廃棄処分となった。
   だが、戦闘能力の高さは、評価に値するため、開発責任者であるザーン=クルトス博士によって、
   “生体アンドロイド”の研究が続行されることとなった。


―――究極生体兵器の開発において、遺伝子改造が提唱された。
   遺伝子を人工的に改造、強化することで通常よりも優れた人間を作り出そうと言うものだ。
   まずは、大量の実験素体となる人間が必要となった。


―――遺伝子改造の実験過程で、人工的に知能指数が高い、いわゆる「天才」を生み出すことと、
   特定の人物に対して絶対服従を可能とする改造法が生まれた。
   前者によって遺伝子改造された実験体は、“Intelligence Number”。通称、Iナンバーと呼ばれ、
   別の研究でさらなる改良と量産を進めるために移送することになった。
   そして後者の実験体は、“Marionette Nnmber”。通称、Mナンバーと呼ばれることになった。
   この技術は、資金提供者の一人であるクロノ=クロフォード氏が気に入り、
   現在、人工授精させた自分の子となる受精卵に施すことになった。
   受精卵段階での処置は、初の試みだったが成功した。
   この受精卵が今後、どのような結果を見せてくれるか楽しみである。

23蒼ウサギ:2007/04/02(月) 00:55:35 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
―――遺伝子改造法は、難航した。
    遺伝子改造では“生体アンドロイド”を越える戦闘能力を得ることが難しいのだ。
    “生体アンドロイド”を越えるほどの過度な遺伝子改造は、失敗する確率が非常に高い。
    上層部は、究極生体兵器を“生体アンドロイド”を素体として開発することを決断しようとしている。


―――ほぼ“生体アンドロイド”を素体とすることが決まりかけたが、上層部がそれを覆した。
    究極生体兵器は、遺伝子改造法を取り入れ、人間を素体とすることを決定したのだ。
    どうやらある一人の天才による提案が採用されたらしい。


―――究極生体兵器の素体には、ある四人の人間が使われることになった。
    その四人が選ばれた理由は、我々には秘匿にされた。
    “失われた世紀”という言葉が関係しているらしいが、その言葉の意味すら不明である。


―――素体の確保に機関のある男が動いた。
    男の名は、レイド=スタージェン。


―――あの男によって素体となる四人の遺伝子サンプルが手に入った。
    素体そのものの確保は、困難だったようだが、これで充分だ。
    まずは、この遺伝子サンプルを元にクローンを製造する。
    素体の在庫は、多いことにこしたことはない。


―――素体四人のクローン十体ずつ生成に成功。とりあえず予備は確保できた。
    我々は、この四人が選ばれた理由を独自に調べるため、四人の生体データを徹底的に調べることにした。


―――究極生体兵器に四人の人間を素体とする。
    つまりは、四人の能力や知識を一つの生体兵器に併せ持たせるようにするのだ。
    それが上層部・・・いや、あの天才が提案した方法であり、我々に課せられた研究なのだ。


―――試行錯誤の上、ついに試作体が完成した。
    四人の遺伝子を合成させ、これまでの遺伝子改造法を施した新たな生体兵器だ。
    この試作体には“アリサ”という名前が与えられた。


アリサ「!・・・・・・」
 日誌から自分の名前を見つけたとき、呼吸が数秒止まった。
アリサ(・・・偶然?)
 ただの同名なのだろうか? 心のどこかでそう願いつつ、アリサは、続きを読み始めた。

24蒼ウサギ:2007/04/02(月) 00:57:36 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
―――アリサは培養カプセルの中で人為的に成長を早め、現在は、人間でいう五歳くらいに成長した。
     明日、この試験体に“生体アンドロイド”と同じ、ナノマシン生成器官の植え込み手術を行うため、
     一時的にアリサを培養カプセルから出すことが決定された。


―――研究が始まって以来の大惨事が起きた。
     培養カプセルから出たアリサが殺戮を始めたのだ。
     薄ら笑みを浮かべながら研究員に襲い掛かり、常識離れした腕力で引き千切っては、
     溢れ出る血を見て興奮したように笑っていた姿に戦慄を覚えた。
     我々は、数時間をかけてアリサを沈静させると、再び培養カプセルの中へ戻した。
     多くの犠牲者が出てしまった。
     我々は、とんでもない怪物を創り上げたのかもしれない。


―――あの惨劇から数週間、少し成長したアリサを再び呼び覚ました。
     これまでに薬物投与や更なる遺伝子改造を施した成果が出たのか、アリサは非常におとなしく、従順だった。
     お陰でナノマシン生成器官の植え込み手術は滞りなく完了した。
     これから数ヶ月をかけて、アリサの実験、教育が始まる。


アリサ「っう・・・・・・・!!」
 突如襲い掛かる激しい頭痛。脳裏にフラッシュバックが起こる。

 人々の叫びや罵声。身体中に纏わりつく血の感触。生きているものを殺すという快感。
 様々な医療器具が周囲に配置される光景。注射器やメスが目の前を過ぎる様。
 何かを注射され、脳が焼き切れそうになった痛みや苦しみ。

 もう止まらない。断続的に次々と脳裏に映し出される光景がアリサを苦しめた。
 そして―――
アリサ「やっぱり・・・・・・これは、私・・・?」
 予感が徐々に確信に近づいてくる。
 痛む頭を堪えながら、再び続きを読む。


―――戦闘能力、状況分析と判断能力、環境適応力、機動兵器の操縦技術、素体の特殊能力遺伝率等、
     高い水準でアリサは持っている。
     だが、時折、苦痛を伴う“発作”が起きる。これが致命的だ。
     この問題の解決と更なる能力向上のため、アリサをベースとした第二世代型の開発を開始した。
     アリサは、再び培養カプセルの中に入れ、四人の素体と一緒に第四保管庫に移されることになった。


アリサ「第四保管庫・・・・・・」
 そう呟くと、アリサは駆け足で部屋を出た。
 それまでの慎重さを忘れてしまったかのように、研究所内を走り回る。
 そして目的の第四保管庫の前に辿り着いた時、アリサは息が上がっていた。
 妙な緊張がいつも以上に体力を消耗させたのだ。
 一呼吸置いて、アリサは扉の開閉スイッチに手をかける。
 そして、数秒の迷いの後、それを押す。
アリサ「・・・・・・・・・」
 扉は、開かなかった。この扉だけ「LOOK」になっていたのだ。
アリサ「・・・・・・私、焦っていた?」
 冷静に見れば、開閉スイッチのすぐ上の「LOOK」という文字が見えたはずだ。
 それを見落としていた程、今の自分は冷静でないと、どこか客観的にアリサは思った。
 思わずその場で溜息をついてしまう。
 と、その時・・・・・・・
アリサ「!」
 気配を感じた。この扉の向こうから・・・・・・
アリサ(誰かいる・・・・・・)
 そう思った瞬間、「LOOK」という文字が「UNLOOK」に変わった。
 中にいる誰かの仕業だと、考えるのが自然だ。

25蒼ウサギ:2007/04/02(月) 00:59:33 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
アリサ「・・・」
 銃を構え、再び開閉スイッチに手を伸ばす。
 ゆっくりとした動作でスイッチを押すと、今度は開いた。
 それと同時にアリサは、中にいる者に銃口を向けた。
アリサ「・・・なぜ、あなたがいるの?」
 銃口の先に見える見知った人物に、静かな口調で尋ねる。
 その人物、シリアは、薄ら笑みを浮かべながら答えた。
シリア「ご挨拶ね。あなた一人では、研究所内にすら入れなかったのよ」
アリサ「・・・・・・」
 シリアのその言葉で、アリサの中で引っかかっていた謎が一つ解けた。
 何故、研究所内のセキュリティが全て沈黙したままだったのか・・・
アリサ「あなたが研究所のセキュリティを解除したのね?」
シリア「そうよ」
アリサ「ここの研究所にいた人達は・・・あなたが殺したの?」
シリア「クスッ、そんなことしないわよ」
アリサ「じゃあ、なんでここは無人なの? あなたは何でここに―――」
シリア「そんなことより、ほら、あれがあなたの見たかったもの」
 アリサの質問を遮り、シリアは、ある物を指差した。
 アリサは、ゆっくりと目だけ、動かして見る。
 大型のカプセル。半透明で中は見れるようだが、今、アリサの立ち位置からは見えない。
 シリアの動きに気を払いつつ、アリサは見える位置まで移動した。
シリア「私は、何もしないわよ。いいから、じっくり中を見たら?」
アリサ「・・・・・・」
 その言葉を信用せず、目だけを動かして中を見た瞬間、アリサは、思わず持っていた銃を落としてしまった。
 そのカプセルに入っているのは、紛れも無く自分の姿だった。
 顔こそ、シリアも一緒だが、髪の色が自分と同じ、薄い紫色だ。
 衝撃・・・なんてものじゃない。心が粉々に砕けそうな気がした。
 確かに自分は、自分のことを知りたいと思った。そのために生きて、戦った。
 そして、今、その望みが叶った時だ。
 だが、喜びは一切無い。むしろ・・・・・・後悔の方が強かった。
アリサ(私は・・・・・・ヒトによって作られた、生体兵器・・・・・・)
 あの日誌を見る限りでは、多くの人体実験の果てに生まれた存在だ。
 多くの命を犠牲にして生まれた命が自分なのだ。
 その事実に心臓が押し潰されそうになる。
 自分という存在が不愉快になる。
シリア「どう? 感想は?」
 アリサの反応を、さも楽しそうにシリアは見ていた。
アリサ「これ・・・は?」
シリア「あなたよ・・・・・・正確には、“この世界のあなた”」
 この世界は、自分のいた世界とは違う。
 それはアルスレイザーのあの不思議な現象に巻き込まれて、この世界にやって来た時からわかっていた。
 ここが極めて近く、限りなく遠い世界だということが。
シリア「この世界は、私たちが本来いた世界とは違うけど、存在しているのあなたも“私”も」
アリサ「あなたも・・・・・・私と同じ存在なのね」
シリア「・・・・・・本当は一緒にされたくないけどね・・・あなたは旧式の欠陥品で、私は、完成体の第二世代型だから」
アリサ「“この世界のあなた”も・・・この研究所のどこかにいるのね?」
シリア「いえ、別の場所よ。最も“ここのあなた”と同じで、まだ目覚めていない・・・いや、目覚められないけどね」
アリサ「・・・どういうこと?」
シリア「私たちは、世界の希望が滅びた時に目覚めることになっている、いわば保険なのよ」
アリサ「希望・・・? 保険?」
シリア「そうね・・・この世界でいうと、今、あなたが一緒にいるお友達のことかしら?
    異星人や怪異の侵略から人類を守るヒトの希望・・・・・・。
    愚かな人間同士の争いに終止符を打てる者たち・・・・・・
    もし、それらが全て滅びた時、目覚めるのが私たちなのよ」
アリサ「・・・・・・」
 「友達」という感覚はないが、シリアの言っていることが“彼ら”だということがわかる。
 この世界で出会った、今、共に戦っている者達。その顔が次々に脳裏に浮かぶ。
 彼らが自分にくれた言葉の数々も、鮮明に甦ってくる。
 そんな彼らが滅びた時・・・・・・
アリサ「“私たち”が・・・・・・目覚める」
 強い風が吹き抜けただけで、掻き消えそうなくらいの声で呟きながら、
 アリサは、カプセルの中にいる“自分”を見た。
 今、自分がここにこうして目覚めているのは、自分の元いた世界では、彼らのような希望が滅びたから・・・・・・

26蒼ウサギ:2007/04/02(月) 01:00:03 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
シリア「『お前が新たな希望になりなさい。
     ヒトという種を護る盾となり、世界を滅ぼそうとする存在を斬る、剣となりなさい』
    培養カプセルの中で毎日、毎日そう聞かされて、教育されてきたわ・・・・・・」
 そう語るシリアの表情は、実に不愉快そうだ。
シリア「けどね、私は、それが嫌だった・・・自分の存在理由を他人に決めて欲しくなかった・・・・・・
    私の存在理由は・・・・・・私自身で決めたかった・・・・・・」
アリサ「・・・・・・」
シリア「だから、私は、目覚めても自由に生きることを決めたの」
アリサ「・・・・・・それが私を殺すこと?」
シリア「えぇ・・・・・・私は、あなたをベースに創られた。・・・・・・それが我慢できなかったのよ。
    欠陥品のくせに、私と同じ顔をした同類! 私にとってのオリジナル!
    その存在事態が許せないのよ!」
アリサ「・・・・・・」
 シリアの剣幕は、凄まじいものだった。
 あらん限りの憎悪が身体全体から溢れ出している・・・そのようにアリサは、感じた。
シリア「だからあなたを消すわ・・・・・・そしてあなたのお友達達もね」
アリサ「・・・・・・彼らも?」
シリア「この世界の希望は、彼ら・・・・・・彼らさえ滅ぼせば、この世界の“私”を目覚めさせてあげられる・・・・・・!」
アリサ「それが・・・あなたの願いなのね?」
シリア「例え違う世界でも、“自分という存在”は、救いたいのよ」
 そう言いながら、シリアは、部屋の扉の方へと歩みを進める。
 それを見つめながら、アリサは問う。
アリサ「・・・・・・もう一度訊く。あなたは、何故ここにいたの?」
シリア「・・・記憶を失った欠陥品に教えるためよ。あなたという存在をね
    あなたの機体に隠されていたプログラムの存在を私は、知ってたから、
    近いうちにここへ来ると予想できたわ」
 歩みを止め、背を向けたまま、シリアは、説明した。
 アリサは、再び問う。
アリサ「・・・・・・何故、あなたがそこまでするの?」
シリア「あなたが知りたそうにしてたからよ・・・・・・どうせなら身の程を教えてから殺そうと思ってね・・・・・・」
アリサ「・・・・・・今、ここで殺さないの?」
シリア「殺して欲しいの?」
 問い返してきたシリアにアリサは、無言を通した。
 シリアは、再び歩みを進める。
シリア「自分のことを知った感想、聞きたかったけど、それは今度にするわ
    あなたが生きる意味を失って、死んでなきゃね」
 そう言ってシリアは、部屋を出て行った。
 途端にその部屋が静寂に包まれた。
アリサ「・・・・・・」
 若干、俯き加減のアリサは、もう一度、“この世界の自分”の姿を見た。
 透明な培養液が満たされているカプセルの中で膝を抱えて、眠っている。
 少し前まで、自分も同じ状態だったのだろう。
アリサ「あなたは・・・・・・生きたい?」
 この狭いカプセルから出て、広い世界を生きていきたい?
 多くの命を犠牲にして、創られた自分を認められる?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 答えは、返ってくるはずもない。この“私”は、まだ眠っているのだから・・・・・・
 答えを出すのは、今、目覚めている私自身。
アリサ「ぁ・・・・・・」
 ふと、そのカプセルの向こうに、さらに四つほど同じようなカプセルがあることに気がついた。
 ゆっくりと、それに歩み寄る。
アリサ「・・・・・・彼らが、私の素体・・・・・・」
 そこには、男女二人ずつの若いヒトが眠っていた。
 日誌に書いてあった通り、確かに四人。
アリサ「私の・・・・・・ベースになった者たち」
 シリアは言った。彼女のベースである、自分の存在事態が許せないと。
 でも、自分は、ベースである彼らに何の感情も抱けない。
 憎しみ所か、愛着さえも・・・・・・
 四人の名前ですら知らないのだから抱きようがなかった。
アリサ「あなた達は・・・・・・誰?」
 答えが返ってくるはずもない。部屋の静寂が、嫌になる。
 自分と言う存在と同じように・・・・・・
 先ほど落とした銃を見て、拾い上げる。
 鼓動する自分の胸に、その銃口を突きつけ、そのまま引き金を引きたくなる衝動に駆られる。
 その時だった

 ―――生きてくれ

 その言葉が脳裏を掠めた。
 誰が言ったのか、何時聞いたのかもわからない言葉がアリサの衝動を止めた。
アリサ「生きて・・・・・・いいの?」
 アリサ自身では、その答えを出せなかった。

27蒼ウサギ:2007/04/02(月) 01:03:37 HOST:softbank220056148165.bbtec.net
§


 答えを出せないまま私は、まだ生きている。
 ・・・・・・まだ生きることにした。
 シリアを倒すために・・・・・

 シリアの言う、この世界の“希望”を・・・“彼ら”滅ぼさせたくなかった。
 理由は・・・・・・わからないけど・・・・・・
 シリアを倒すためには、“力”が必要だった。
 この世界にも“私”がいるのなら、あるはずだった。“この世界のアルスレイザー”も・・・・・・
 予想通り、それは研究所の地下に保管されていた。
 『究極の機動兵器』、その試作機として・・・・・・

 私は、研究所に保管されていた数々のデータや余剰パーツを元に、このアルスレイザーの改造を始めた。
 データの中には、あの四人のデータも入っていた。
 あの四人も個々の機動兵器を持ち、戦っていたようだ。
 嘗てか、それとも今、私が知らない何処かでかは、わからないが・・・・・・
 アルスレイザーは、あの四人の機動兵器を元にして造られていた。
 そう、私達は、似た者同士だった。


§


 あれから何日経ったのだろう。アリサは、それまで共に行動していた“彼ら”の元へと帰っていない。
 自分と言う存在を知ったため、帰れなかった。
 一人で、シリアを追い、倒そうと決めたのだ。
 彼女だけではない。“彼ら”を滅ぼそうとする全ての存在を倒そうと決意した。
 例えそれが、“この世界の自分”を永久に目覚めさせない結果になろうとも・・・・・・
 
 まだ朝日が完全に昇っていない時分。名も知らぬ時計台の上でアリサは、オカリナを吹いていた。
 この才能もあの四人の誰かの遺伝子によるものなのだろうか?
 そんなことを思いつつも、オカリナが奏でる旋律は、アリサの心を落ち着かせる。
 少し肌寒い朝風が吹き抜ける。アリサは、演奏を止めた。
 近くでシリアの存在を感じる。
アリサ「シリア・・・・・・私は、あなたを――――」
 今度は強い朝風が吹きぬけ、アリサの語尾を掻き消した。
アリサ「“Venus-ヴィーナス-”・・・・・・起動」
 新たな力を得たアルスレイザーが飛来する。
 アリサは、飛び乗り、戦闘モードを起動させる。
 アルスレイザーの六枚の翼が、大きく広がり、黄金に発光する。
 そして、まだ朧げな蒼空を高く、高く飛んでいった。
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ―――あなたの存在意義は、誰かから与えられるものじゃない。
    あなたは、御伽噺のキャラクターではなく、御伽噺を作る作者なのだから―――



 Piece of the Truth−Episode of Alisa− 完。

28SD:2007/04/27(金) 14:27:22 HOST:usr211019191129.tcn.ne.jp
創造神とヒトとの、全てを賭けた決戦。
その戦いに打ち勝ち、勝利を掴んだのは……ヒトだった。
ヒトの持つ想いの力に、神の力を宿した魔人は敗れ去った。

あの戦いから、既に二年もの年月が流れた。


今再び……新たな物語の、幕が開けようとしていた。





スーパーロボット大戦 Le reve qui se termine 外伝 〜絶対という名の運命〜



=原田邸 庭園=

原田「ホノルルマラソンに、初出場でぶっちぎり優勝……一気に有名人になっちまったな。
新聞でも週刊誌でも、この話題で持ちきりだぜ?」
王狼「正直私も、優勝できるとは思ってませんでしたよ。
……私が邪神教団の下で動いていた時の経歴を、あなたや茂が裏からもみ消してくれた事には、本当感謝してます。
そうじゃなきゃ、今頃とんでもない大騒ぎになってますからね……」
原田「ま、危ねぇ橋を渡るんはなれてるかんな。
けどよ……その御蔭でお前、クラウスに置いてけぼり喰らわされちまったんだろ?」
王狼「ええ……ホノルルに出かけてさえなかったら、次元転移についていけたんですけどね。」

遠い異世界。
日本最強の極道である原田の屋敷で、王狼は鯉に餌をまいていた。
彼はつい先日、ホノルル遠征から帰還したばかりだった。
遠征の目的は、マラソンへの出場……結果は見事に優勝。
しかも、二位以下を大きく引き離してのぶっちぎりであった。
その偉業の御蔭で、あっという間に王狼は有名人扱い。
日本に帰国してからも、引っ張りだこだったのだが……一つだけ、王狼には不満があった。
それは、彼の弟……クラウスが、勝手に異世界へと旅立った事であった。
クラウスは、異世界への転移術を扱えるこの世界唯一の存在。
そして……世界崩壊の危機を救うという宿命を背負った、大魔道士でもある。
彼は王狼がホノルルへと旅立っていた間に、異世界へと転移を行っていたのだ。
自分達の住むこの世界すらも巻き込む、全世界の崩壊の危機……それを察知したのである。
王狼は、出来る事ならばクラウスについていきたかった。
自分の力は、こういう時にこそ役立たせられるというのに……

原田「ま、仕方ねぇわな。
あいつとしても、お前に気を遣って一人で旅立ったんだろし……」
王狼「やれやれ……本当、よく出来た弟ですよ。」
原田「全くだ……ん?
悪ぃ、王狼……ちょっと待ってくれ。」

原田は胸ポケットから、震える携帯電話を取り出す。
相手の名前は、ワイス……自分達にとって、大切な仲間の一人である。
また、飲みに行く誘いだろうか。
すぐにボタンを押し、電話に出る。

原田「おう、ワイス……どうした?」
ワイス『……原田……よかった。
何とか、繋がってくれたか……』
原田「ワイス?
お前……おい、一体どうした!!」

電話の向こうから聞こえる声は、自分の予想を大きく裏切った。
ワイスの様子がおかしい……息も絶え絶えで、苦しそうに喋っている。
彼が重傷を負っているという事は、容易に想像することが出来た。
傍らの王狼も、原田の顔つきが真剣な物に変わったのを見て察する。
ワイスの身に、何かが起こったのだと。
すぐさま原田は、ワイスに何があったのかを問いただすが……返って来たのは、想定外の答えだった。

ワイス『すまない……ディセピエレンスを……奪われた……!!』
原田「ディセピエレンスを……!?」
ワイス『奴は……神具を、全て……手に入れるつもりだ……
マティウスが消えたとはいえ……神具の持つ力は……原田。
稜と琴美を守れ……!!
奴が次に現れるのは、間違いなく日本だ……!!』
原田「ワイス……奴ってのは?」
ワイス『……奴は、こう名乗った。
全てを零に戻す、絶対なる王……アブソ……リュート……』
原田「ワイス……?
おい……ワイスッ!!」

アブソリュート。
その名を残し、ワイスの声は途切れてしまった。
原田は彼に呼びかけるが、まるで返事がない。
呼吸音が聞こえるところから、どうやら死んでまではいないようだが……
原田は電話を切ると、すぐに王狼へと事の全てを伝えた。
勿論では有るが、王狼も驚きを隠せないでいた。

王狼「……確かワイスは今、啓吾とメガリオの二人が一緒でしたよね?
調査の護衛に、二人の力を借りたいといって……」
原田「そう聞いてる……ってことは、三人ともやられちまったってわけか。
……なあ王狼、こいつは……」
王狼「ええ……クラウスが転移した直後でこれは、偶然とは思えません。
アブソリュート……絶対なる王……一体、何が起ころうとしているんだ……?」

29SD:2007/04/27(金) 23:28:23 HOST:usr211019191129.tcn.ne.jp
茂「え〜と、後は響兄のコーラだけやったな。
んじゃ、腹も減ったしさっさと帰ろか。」

同時刻。
WMAのエージェントが一人、睦月茂は買出しに出ていた。
不運にもジャンケンに負けてしまい、皆が必要としている物を買いにいくハメになったのだ。
とりあえず、買うべきものは全て買えた……早く帰って、ゆっくりしよう。
レジで金を払い、さっさと店を出ていく。
かつての戦いの日々が去ってから、極めて平和な日々が続いている。
あの時敗北してしまっていては……決して、こんな日常は過ごせなかっただろう。

茂「あれから、もう大分経ったなぁ……懐かしいわ。
よし……また今度、京都に遊びに行こ。
稜と浜崎とも、長い間顔合わせてなかったし……ん?」

帰路を歩いていた、その時であった。
何やら妙な感覚を覚え、茂は足を止める。
彼を襲ったのは、急激な胸騒ぎ……茂はすぐに、周囲を警戒し始める。
一体何なのかは分からないが、とてつもなく嫌な予感がする。
胸ポケットに手を入れ、すぐさま銃を抜けるようにした。
間違いなく、近くに誰かが……自分を狙っている、何者かがいる。

茂「誰や、この感覚……!?」

その時だった。
茂の上にある青空が……音を立てて砕けた。
街行く人々の注目が、割れた空に集まる。
茂は、これに似た光景を一度見たことがあった……次元転移。
かつて共に戦った大魔道士……クラウスが得意としていた、魔術の一つ。

茂「……けど、クラウスさんのとは何か感じが違う。
それに、何よりこの殺意は……!!」
『見つけたぞ……神具を持つ者よ……』
茂「!!」

空間の裂け目から、何者かの声が聞こえてきた。
茂はすぐに銃を抜き、裂け目へと発砲する。
鳴り響く銃声を合図に、人々は悲鳴を上げて走り出した。
裂け目の中から、何者かが舞い降りてくる……現れたのは、黒い『人の形をした何か』だった。
禍々しい漆黒のオーラに包まれた、人型の何か。
それは地に足をつけると、茂へとその目―――そののっぺらぼうの顔に、目はないのだが―――を向けた。

茂「……何者や、お前?」
『私は、全てを零に戻し……再生する者。
絶対なる王……アブソリュート。
貴様が持つ神具……渡してもらおうか……?』
茂「……俺が神具を持ってる?
冗談言わんといてくれよ……そんな物騒なもん、持っとるわけないやろ?」
アブソリュート『隠しても無駄だ……私には分かる。
貴様の持つ神具……渡してもらおうか……?』
茂「……御見通しか。
しゃあない……そこまで言うんやったら、くれてやるわ!!」

茂はポケットから、一本の武器を抜く。
それは、一見杖に見えたが……杖と呼ぶには、少し妙な形をしていた。
そう……言うなればそれは、柄が極端に短い『槍』

茂「ぶち貫けぇ、方天載ぃぃぃ!!」
アブソリュート『ぬっ!?』

茂の取り出した、伸縮自在の槍槍……神具『方天載』が、アブソリュートの胴体を打ち貫いた。
そのまま茂は方天載に力を込め、柄を急激に伸ばす。
目標は、前方に聳え立つ高層ビル。
茂は、躊躇う事無く……アブソリュートを、ビルへと叩きつけた。

アブソリュート『グゥ……ッ!?』
茂「俺が方天載の持ち主やってのは、こっちの最重要機密の一つや。
クラウスさんやワイスにも、内緒にしとったんやがな……まあ、どうやって知ったかはどうでもええ。
悪いが、このまま退場願うで……怪物!!」

30SD:2007/08/25(土) 22:10:00 HOST:usr211019191129.tcn.ne.jp
クラウス『ディセピエレンスを……!?』
ワイス「ああ……すまない。
私達の力が、及ばぬばかりに……!!」

丁度、茂とアブソリュートの戦いが始まった頃。
何とか目を覚ましたワイスは、クラウス達に連絡を取っていた。
もしもの事態に備え、クラウスは旅立つ直前に、ある魔道具を作り上げていた。
異世界間の通信を可能にする『真紅の瞳』。
まさか、こんなに早く使う事になるとは思わなかったが……

マスター『過ぎた事を悔やんでいても仕方は無い。
今は、これからどうするかを考えよう。』
ビット『ああ……けど、俺達はこっちの世界だからな。
状況が状況だから、戻るってわけにもいかないし……』
ワイス「……いや、奴は恐らく、お前達の元に現れる。」
クラウス『え……?』
ワイス「……奴は私達との戦いの最中に、こう言ったんだ。
『神具の力を取り込めば、我が行く手を阻むものはいなくなる。
魔道の賢者といえど、もはや止める術は無い』と……」
クラウス『!?』


=東京=

アブソリュート『……くくく。
なるほど……少しは、骨のあるようだな……』
茂「……胴体貫通しててまだ生きてるか。
ほんまもんの化物やな……!!」

アブソリュートを倒しきれていないのを確認すると、茂はすぐさま発砲した。
その頭部目掛けて、無数の銃弾を叩き込む。
しかし……銃弾が命中しようとした、正しくその瞬間。
アブソリュートの姿が、突如として消失したのだ。

茂「消えた……!?」
アブソリュート『ここだよ。』
茂「!!」

背後から、アブソリュートは茂に囁いた。
とっさに茂は振り向き発砲するが……アブソリュートは、その弾丸の全てを回避。
そのまま、人知を超えたスピードで茂目掛けて猛進し……針状に変わったその手で、茂を貫きにかかったのだ。
狙いは、心臓に一直線……当たれば即死。

茂「こんなところで、誰がやられるか!!
伸びろや、方天戟!!」

茂はとっさに、方天戟の柄の方を伸ばし、地面を突いた。
そのまま、棒高跳びの要領で跳躍。
アブソリュートの頭上まで飛び上がると、懐に手を伸ばし、鉄扇を取り出す。
そして、勢いよく鉄扇を広げ……!!

茂「うおおおぉぉぉぉぉっ!!」

一閃。
振り下ろされた鉄扇の一撃は、アブソリュートの腕を切り落とした。
本来ならば、今の一撃で脳天から真っ二つにするつもりだったのだが、流石にそれは上手くいかなかった。
命中直前で、アブソリュートが体を動かしたからだ。
しかし……この得体の知れない化物相手に、腕を切り落とせたというのは大きい。
すぐに茂は間合いを離し、方天戟を元の大きさに戻す。

茂「……腕を切り落とされたのに、痛がる様子は無しか。
どんな奴やねん、お前……?」
アブソリュート『化物だよ……自分で散々言っていただろう?
最も、その化物相手にここまでやれるお前も……化物と呼ぶべきかな?』
茂「はっ……アホ抜かすなや。
俺はお前の胴体ぶち抜いて、おまけに片腕持ってった……俺の方が実力は上や。
化物やのうて、化物以上と呼んでもらおか?」
アブソリュート『化物以上?
この程度の傷で、よくそんな事がほざけたものだな……』
茂「何……!?」

その直後、眼前の光景に茂は恐怖を覚えた。
アブソリュートの胴体に空いた穴が、徐々に塞がり始めたのだ。
そして切り落とされた右腕からは、何か触手の様なものが伸び……胴体と結びつき、結合された。
一瞬の内に、自己再生を果したのだ。

茂「……何やねん、今の?」
アブソリュート『簡単な錬金術だよ……見ろ。』

よく見ると、アブソリュートの周辺の木々や草花が、いつの間にか枯れ果てている。
どうやらアブソリュートは、己の周囲にある生命を吸い尽くして傷を癒したようである。
かつて、神具によって錬金術の力を得たある男が、似た芸当をやらかしてはいたが……

茂「……確か、神具集めとる言うてたな。
俺、錬金術が使えるようになる神具って知っとるんやが……お前、まさか?」
アブソリュート『くくく……察しが良いな。
そのまさかだ……!!』

アブソリュートは己の胴体に手を突っ込み、そこからある物を取り出した。
それは、茂の予想したとおりの代物だった。
ワイス達の手から奪い去られた、神具の一つ……ディセピエレンス。
アブソリュートは、それを体内に取り込んでいたのだ。

茂「……ワイスさん達がやられたんか。」
アブソリュート『安心しろ、殺してはいない。
神具さえ手に入れば、生きていようがいまいが関係ないのだからな……』
茂「……なら、俺の次は稜と琴美か。
こりゃ、意地でも止めへんとな……」

31蒼ウサギ:2010/12/22(水) 22:11:50 HOST:i114-189-92-238.s10.a033.ap.plala.or.jp
※これは以前、書かせていただいた『Piece of the Truth−Episode of Alisa−』の続編であり、
 真説バージョンとなっております。故に細かい点が前回と違うところがありますが、ご容赦のほうよろしくお願いします。



 ―――あなたは、私を知ってるの?


 弱気なそんな自分の声がフェードアウトして、アリサは眼前の目標を見つめた。

シリア「……ふぅん、一人で来たんだ。アハッ、無謀ね」
アリサ「あなたに、この世界の“希望”を滅ぼさせるわけにはいかない……」

 いつからだろう。自分がこんなにも“彼ら”に傾倒し始めたのは。
 最初は、こんな感情すら知らなかったのに……。

シリア「……あなた、意味わかって言ってるの? 彼らが滅ばなければこの世界の私達は目覚めないのよ?
    ま、あなたは失敗作だから目覚めなくても問題ないけどね」
アリサ「……」

 アリサは目閉じて今一度熟考する。
 あの研究所で見たもの、そして知ったこと。
 そして達した結論を、改めて決意を込める意味で口にする。

アリサ「構わない……。この世界ではまだ私達は目覚める必要はない。……それに、あなたの言うこととあそこの研究所にあったことが真実ならば……」

 アリサの新たな愛機、アルスレイザ―・Venusが六枚の両翼を黄金に輝かせる。

アリサ「私の任務は、ヒトを護る盾であり、剣であること。……そして、それを滅ぼそうとしているあなたは……」

 両翼の羽が一枚づつ剥がれる。根元がブースターとなっており、コントロールされた通りにVenusの両腕におさまる。
 同時に羽毛が鋭利な黄金の刃(ダガー)へと変わる。

アリサ「私の敵……」
シリア「……失敗作のくせに生意気ね」

 シリアのエクスレイザーも武器を構える。光で構成された鞭、シャインウェーブだ。
 彼女がイメージすることで機体がそれを具現化する。シリアの能力であり、エクスレイザーの特殊機能なのだ。

シリア「じゃあ、いくわよ!」
アリサ「っ!」
 
 蒼と紅の機体が交錯する。
 アリサとシリア。
 ここに一つの決着がつこうとしていた。

32蒼ウサギ:2010/12/22(水) 22:14:18 HOST:i114-189-92-238.s10.a033.ap.plala.or.jp

○私は、私を見つけて……○

 
 ※これまでのあらすじ。


  アリサ。
  自分が何者かを知るために彷徨い、時に戦う薄紫の髪と瞳をもつ謎多き少女。
  出会っては自分の知らない世界を知り、別れてはその虚しさに明け暮れる。
 
  そんな中彼女は、この世界へと迷い込んだ。
  そこで出会った人々と触れ合い、また自分の知らない世界を知ることになる。
  そして、自分の真実さえも……。

  シリア。
  アリサと同じ顔をした金色の髪と瞳をもつ少女。
  アリサを知り、アリサを真実へと導いた彼女は、己の使命に縛られたくなかった。
  他人に存在理由を決めつけられたくなかった。
  だから、この世界の“希望”を倒すことにした。

  そんな真実を知ったアリサは今一度シリアに挑むことにした。
  この世界のアルスレイザーを改良させたVenusで。
  なによりも、“希望”を護るために。


=海底研究所=


 人の手が加えられていないコンピューターだけで管理されたこの場所に四人はいた。
 御神エイジ、八神マリア、天神ユウト、神里ナユ。
 彼らもまたアリサと同じ、この世界とは別の世界から来た者たちである。

エイジ「っで、オレ達をここに招待して……どうするつもりだ?」

 紅髪の少年の鋭い眼光が一人の人物を貫く。
 エディター・ストーリー。通称、エディ。
 アリサ以上に謎に包まれた人物だ。時に現れては、味方となり、或いは敵となる男。

エディ「そう睨まないでくれたまえ。今日は君たちと争う気はない」
エイジ「信用ならねぇな」

 冷静を保とうにも今にも拳が出そうなエイジの空気を察してか、ユウトがさり気なく手を出して制止を促す。

ユウト「……エディさん。あなたは何かを知っていることは確かなようです。特に、アリサちゃんのことを……」
エディ「それだけではないが、ね」

 と、含みのある言葉を漏らしながら、魔術師が被るような縁の大きいハットを深くかぶり直す。

マリア「……何を隠してるんですか?」
エディ「フッ、やはり覚醒者である君に隠し事はダメなようだね。だが、話すとなると、どこから話していいものやらと少し戸惑ってしまってね」

 思わず苦笑するエディ。一同の顔が一気に怪訝なものへと変わる。

ナユ「あ、はーい! じゃ、こっちから質問していいかな? 結局、ここは何?」

 重苦しい空気を真っ先に感じてか、ナユがわざと明るい調子で挙手して切り出す。
 エディの口元が少し笑ったように見えた。

エディ「ここか、いわゆる。“ゼウス機関”の主要研究所の一つにして、アリサが産まれた場所……いや、産まれる場所と言うべきだろうな」
ユウト「じゃあ、今いるアリサちゃんはやっぱり……」
エディ「あぁ、こことは別の世界から来たアリサ……正確には、君達の世界の未来から来たアリサ、というべきだな」

 さすがに最後の一言には一同、衝撃が走った。
 アリサが自分たちと同じようにこことは別の世界からきた人物とは何となく察していたが、まさか自分達と同じ、しかもその未来とはさすがに予想つかなかったのだ。

33蒼ウサギ:2010/12/22(水) 22:15:03 HOST:i114-189-92-238.s10.a033.ap.plala.or.jp
エイジ「……なんでそう言い切れる?」
エディ「アリサとシリアの存在がそれを証明しているからだ。アレは“人類の希望”が潰えた時に目覚める存在だからね」
マリア「じゃあ、やっぱり私達はあの時……」
エディ「そう、君達は敗北したのだよ。……君達でいうところの“未知なる存在”によってね」

 “未知なる存在”
 突然、現れたそれに彼らの部隊は完膚なきまでに敗北した。
 それまで地球圏の危機を何度も救ってきた者達がだ。

ナユ「でも! アタシ達は生きてるじゃん! 元の世界に帰ってリベンジすれば……あ……」

 ナユはそこで察してしまった。
 アリサはすでに目覚めている。それは例え元の世界へ帰っても、また敗北するか、永遠に帰れないか、もしくは―――
 そう、考えると自然と涙が目に溜まって溢れてきた。

エイジ「悔しいのはお前だけじゃねーよ」

 ポンポン、とナユの頭を軽く叩くエイジ。彼の表情も暗いが、すでに覚悟は決めていると言った雰囲気を漂わせている。

エイジ「で? 気になったんだが、“ゼウス機関”ってのは何だ?」
エディ「………」

 エディが返答に躊躇していると、ユウトが割って入る。

ユウト「ここに発足からの記録されたデータがあるよ。……アクセス記録がある。ごく最近だ。きっとアリサちゃんだね」

 管理コンピューターらしきものを勝手に弄っていたユウトは持ち前の技術を活かして研究所内を調べていた。
 自分達のクローンが大量生産されている部屋がある場所。アルスレイザーが保管されてあった場所等々。
 エディは、この手際のよさにため息をつかずにはいられなかった。

エディ「やれやれ……あまり年寄りを苛めないでくれたまえ。これでも話の整理をつけてから話したいんだがね」
マリア「……だったら、話してください。本当のことを……あなたの知る限りを全て…」

 真っ直ぐなマリアの視線。いや、彼女だけではない。
 ユウトもエイジもナユも、皆がエディを同じ眼差しで見つめている。

エディ「まぁ、そのつもりでここへ招待したのだ。ゆっくりいこうではないか」

 懐から煙草を出し、一本口に咥える。火はつけない。
 ただ、気持ちを落ち着かせるための必要な彼にとっての愛用品なのだろう。

エディ「それにはまず、私の本当の名を教える必要があるな。……私の名はレイド。レイド・スタージェンだよ」


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