[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
スーパーRPG大戦α
197
:
暗闇
:2005/11/19(土) 01:28:05 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
相手に対する畏怖の念はケンも同じだった。
―――リュウは……阿修羅だ。
―――当たり前の論理では及びもつかないほどのパワーを宿している。
―――リュウは手堅く相手を転ばせることを目的とした改良を完成させている。
ケンはそれを今までの稽古の過程で嫌というほど思い知らされていた。
恐怖を感じたわけではない。
だが、躰が心とは無縁のところで震えていた。
体内でアドレナリンが渦巻く。熱い血がたぎる。
ケンは間合いを計った。
刹那、リュウが動いた。
リュウの体内に芽生えた熱は、今や大きな固まりに成長していた。
両腕を手首で合わせ、体を捻る。
リュウが宿した熱は荒れ狂う波と化し、両腕を伝って掌へと押し寄せた。
―――時には自分を打たせることによって、相手の急所を狙う。
体の右側へ引き寄せた両掌に、青い光球が生じた。
リュウ「波動拳!」
勢いよく突き出したリュウの両手から、その光球はケンを目指して飛んだ。
波動拳は、人間の体内で発生する波動―――中国では『気』と呼ばれる―――を1つに収束し、遠距離の目標に向けて放出する技である。
―――間に合うか?
咄嗟にケンはジャンプした。
リュウの上半身を狙い、跳び蹴りの体勢をとる。
波動拳は、すさまじい破壊力と引き替えに使う者の体力を瞬間的に消耗させる。発射後の一瞬、全身が硬直してしまうのである。
ケンは、この隙に一撃を喰らわす狙いなのだ。
ガツッ!
ケンの踵が、リュウの肩にヒットした。
リュウの躰がグラリと揺らぐ。
が、直後、ケンの視界は白い闇に包まれた。
顎と胸に、鋭い痛みが走る。覚えているのは、鋭い光が胸ではじけたことだけだ。
着地する際に見せた一瞬の隙に、リュウはケンの顎にアッパーを叩き込むと、間髪入れずに波動拳を見舞ったのである。
198
:
暗闇
:2005/11/19(土) 01:45:35 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
―――何?
完全に虚をつかれたケンは、受け身もできずに背中から地面に激突した。
跳ねるようにして起き上がるケンに向かって、リュウは竜巻旋風脚を放った。
白い空手着の足が風を切り、低い唸りを上げる。
ケンは両腕を組んで盾とし、リュウが繰り出した技を必死に受けとめた。
その衝撃は痛いと言うよりも、体全体に響くほど、ずっしりと重かった。
恐怖はない。
しかし、負けるかもしれないという不安を抱いたことは確かだった。
ケン「喰らえ、昇龍拳!」
リュウが着地するのと同時に、ケンは立て続けに昇龍拳を繰り出した。
―――クッ!
最初の一撃をガードしながら、リュウは反射的に身を引いた。
ケンは技と技をコンビネーションにして攻撃することを好む。一発入れば、反撃のチャンスを見いだせないまま連続で攻撃されかねない。
それゆえ、リュウは迂闊にケンの懐に留まることができなかった。
しかし、昇龍拳に気を取られたリュウの足下に僅かな隙が生じた。
ケン「逃がすか!」
ケンの放ったローキックが、リュウの足にヒットした。
その衝撃で、上半身のガードが手薄になる。
すかさずケンはキックの軸とした右足で大地を蹴りながら、渾身の力で体を回転させた。
リュウを遥に凌ぐスピードである。
一撃の威力はリュウほど強くないが、ケンはあえて回転を速くすることで威力を抑え、最後の一発まで相手を倒すことなく、連続で打撃を加えているのである。
ケンの精神の根底には目立ちたい、注目されたい、という自己主張があった。
そこに天性の才能が加わったことで、ケンの技は『いかに相手をびびらせるか』という妖気すら感じられるものとなったのである。
―――ケンの竜巻旋風脚は疾手の如し。
リュウは常々、そう思っていた。
互いに凄まじい技の持ち主であることを熟知している。
その相手の技を凌駕して初めて格闘家としての誉れが得られるのだ。
リュウとケンは、再び間合いを開けて対峙していた。
2人とも肩で息をしている。
―――次の一撃で、すべてを決める。
―――今を逃せば、チャンスはない。
互いに、戦いの集結が近いことを感じていた。
最強の技で相手を撃ち、最良の決着をつけるためには、これ以上体力を消耗させることができなかったのである。
そして、唐突に最後の決戦が始まった。
199
:
暗闇
:2005/11/19(土) 02:06:19 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
相手に駆け寄りながら、残った力を振り絞る。
どの技で来るのか?それは、互いに分からなかった。だが、もはや2人ともそんなことを考えようとは思わなかった。
いかなる技を出してこようとも、優れた方が勝つ。簡単なことだった。
相手が必殺の間合いに突入したことを察知すると、2人は同時に攻撃を開始する。
リュウ&ケン「昇龍拳!」
互いの口から発せられた言葉に、2人は一瞬の恐慌にとらわれた。
―――何ぃッ?
―――同じ技を出してきたのか?
ガキッ! スボォ!
鈍い音が谺した。
同時に周囲の風がやんだ。
森の中が森閑とし、静謐が訪れた。
直後、リュウは顔に浅い傷を負い、ケンは左肩の一部を抉られた。
リュウがわずかに顔を振って、致命傷を避けることが出来たのは、数限りない訓練と修業のたまものであった。
ケンが左肩の一部を抉られただけで済んだのも同様に鍛錬と汗のたまものであった。
もはや一歩たりとも動けない。
結局、2人の間に白黒をつけることはできなかった。
完全に力尽き、もはやどちらにも立つ気力さえ残らなかったからである。
その時、森の茂みの中から声がした。
???「力は互角だ」
2人がハッとなって茂みの中を見ると、師匠の剛拳が現れた。
剛拳「相手を撃破できぬのは互いに未熟と思え」
師匠の声にはリュウとケンの意志を確固たるものにする。その狙いが感じられた。
剛拳「お前たちは闘いの中に生きる男だ。真の格闘家を目指して常に世界をさすらい歩け」
剛拳は2人を見つめて言った。
リュウとケンは10年以上も寝食を共にしてきた無二の親友だった。
だが、格闘技に関してはライバル同士である。
ケン「修業を終えてきた暁には、今日の決着をつけよう」
ケンの言葉にリュウは頷き、新たな技を究める修業の旅に出ることを決意した。
リュウ「互いに強くなったころに再び会おう」
2人には奇妙な満足感があった。胸に滲み通るような爽快感があった。
200
:
暗闇
:2005/11/19(土) 02:22:52 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
=中国・上海=
リュウ(あれからもうだいぶ経つな…)
中国の魔都と言われる上海は黄浦江<ワンフコン>の北と西に広がった都市だ。
リュウは夕陽に照らされた黄浦江を眺めながら、修業の旅に出るきっかけとなったあの時のことを振り返っていた。
額に巻いた赤いバンダナが夕陽に映えてさらに真っ赤に染まっている。
リュウの修業は最近は取り立てて成果があがっていない。
新たな技を開発することが出来ず、リュウは無為な日々を費やしていた。
―――時が無駄に過ぎていく。
自嘲気味につぶやいた。
河から吹く風さえ澱んでいるようにリュウには感じられた。
上海は噂通り、確かに猥雑な街に思えた。
だが、活気のある街でもあった。
―――俺はこんな街が好きだ。
そしてリュウは雑踏の中を歩き出した。
201
:
暗闇
:2005/11/19(土) 22:42:28 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
その時、背後に殺気を感じた。いや、背後だけではない。
瞬く間に殺気がリュウの周囲に漂い始めたのだ。
その殺気に気付かないのか、路上を行き交う人々は何事もないかのように歩いている。
動物特有の勘なのだろう。
路上で餌をついばんでいた鳩の群れが一斉にバタバタと舞い上がった。
シュッ!
その刹那、リュウの背後に微かな音を聞いた。
気合いを入れる際の、格闘家特有の鋭い吐息だ。
―――来たな!
咄嗟に振り向いたリュウは、太陽を背にして舞い上がる襲撃者のシルエットを見た。
ジャンプの頂点に達すると、黒い影は蹴りの体勢を整えた。徐々に速さを増す体の落下にあわせ、長い髪が風をはらんで広がる。
―――女?
蹴撃の直前、リュウは身を翻して、真横に跳んだ。
襲いかかってきた相手はリュウが移動したので、目標物を失い、バランスを崩した。
近くにいた人々は何事が起きたのかとばかり眼を見張った。
直後、反転したリュウの蹴りが狙撃者の胴部を撃った。
狙撃者A「!」
狙撃者が数歩、後方にのめった。そのまま、声も上げずに崩れ落ちる。
アアッ!と、街の人々が叫んだ。
驚いて転んだ老人がいた。突然の出来事にあっけに取られているジーンズ姿の若者たち。
さらに喧嘩だと錯覚し、恐怖にわなわなと震える買物袋を下げた婦人もいた。
軍服を模したような戦闘服に身を包んだ若い女が、街路に横たわっている。
見開いたままの眼が。あらぬ方向を見つめていた。
その瞳には輝きがなく、魔物に憑依されているかのように虚ろだ。
あきらかに自らの思考能力を失っていた。
―――誰かに洗脳でもされているのか?
リュウは一瞬、そう思った。
リュウ「女と闘うのは俺の趣味じゃない」
リュウは狙撃者を睨み付けた。
狙撃者A「ククク……」
狙撃者は不気味な笑い声を発しながら立ち上がり、再びリュウに挑もうと身構えた。
格闘能力はあきらかにリュウが勝っている。
だが、狙撃者は懲りることなくリュウに挑もうとしている。
―――おかしい……痛みすら感じていない。
常識の通用しない相手だとリュウは感じた。
リュウ「なぜ、俺を狙った?」
狙撃者との間合いを計りながらリュウは聞いた。
通常の格闘家ならばこのまま一気に相手の懐に跳び、体を組み伏せたに違いない。
しかし、リュウはそうしなかった。
このまま女を組み伏せる行動に出たなら背中に隙が出来てしまう。
その一瞬の隙を突かれて周囲にいる別の狙撃者に背後から襲われて倒されてしまう。
リュウにはそのことがわかっていた。
リュウ「4人……いや、5人はいるな。やるなら一気に襲ってくるがいい」
リュウは周囲で遠巻きに見る街の人々を見回した。
見物人たちにはリュウの言った意味が理解できていない。
誰もがリュウの言葉に対して訝しげにしている。
リュウ「隠れていないで出てこい」
抑揚のない声でリュウが言った途端、人々の群れからズイ、ズイ、ズイッと、5人の若い女が進み出た。皆、一様に戦闘服で身を固めていた。
202
:
暗闇
:2005/11/19(土) 22:57:39 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
狙撃者リーダー「サスガハ噂ノ格闘家ダワネ。私達ガ5人イルコトヲ、ヨク見破ッタワ」
リーダー格と思われる女が抑揚のない声で言った。
アッという間にリュウを取り囲む。
初めの狙撃者と同じように全員、虚ろな眼をしている。
同じように全員、虚ろな眼をしている。
同じように魔物に憑依されたか、誰かに洗脳されたとしか思えない。
だが、虚ろな眼に反して、明らかにリュウを倒そうという殺気が漲っている。
巻き添えを食ってはかなわないと思ったのだろう。周囲で遠巻きに見ていた人々が見物の輪を広げた。
殺気が渦巻く。
リュウ「俺は機嫌が悪いんだ。女と戦うのは趣味ではないが……」
リュウはジリッと間合いを計りながらリーダー格の女闘士を見た。
狙撃者リーダー「ソレハ正シイ考エネ。格闘家ニ男ト女ノ区別ハナイモノ」
リーダー格の女が低い声で応える。
それが、戦闘を再開する合図となった。
5人が同時に素早い動きで蹴りを入れてくる。
見物人たち「うわぁぁ〜っ!」
見物人の多くが、脅えたような叫びを発した。
それほど女たちの攻撃は鋭かった。
が、リュウは頭を左右に振りながら女たちの蹴りを避け、横に移動した。
見物人A「速い!」
見物人の誰かが叫んだ。
直後、見物人の多くは眼を見張り、呆気に取られた。
防御にまわっていたリュウが体勢を整え、一気に攻撃に転じたのだ。
その迅速な動きを的確に捉えることが出来た見物人はいない。
狙撃者B「ガッ!」
狙撃者C「ウグッ!」
女たちの口から低い悲鳴が漏れた。
見物人が瞬きする間もなく、女達は次々と倒れる。
見物人B「な、なんだ?何が起きた?」
見物人は一様に眼をしばたかせた。
気が付くと、女5人が地に倒れ、呻いている。
その前に息ひとつ荒げることなくリュウが立っていた。
203
:
暗闇
:2005/11/19(土) 23:09:05 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
見物人C「す、すげえ?」
黒い長衣を着た色白な若者が驚きの声をあげた。
しかし、周囲の人々はさらなる驚きの声をあげた。
地に倒れた女達が再び、モゾモゾと起き出してリュウを取り囲んだのである。
見物人C「な、なんだ?まるでゾンビのようだぜ!」
先程の若者がもう一度、驚きの声をあげた。
リュウ「何のために俺を襲う?」
リュウは女の1人に聞いた。
狙撃者たち「キエェェェェ〜イ!」
リュウの質問には応えず、奇声を発しながら女達は襲いかかった。
先程と同様に5人が同時に素早い動きで蹴りを入れてくる。
全く別の角度と方向から、しかも完全に同時にリュウの頭を狙っていた。
だが、今度もリュウの迅速な動きを的確に捉えることができた見物人はいなかった。
常人の動体視力では、軽い跳躍とともに片足を広げつつ、体に回転をかけるリュウの姿が網膜に映っただけだろう。
見物人が気付いた時、5人の女はまたも地に倒れていた。全員が気絶しているようだ。
リュウ「……何の為に……ここまでしつこく……俺を襲う?」
リュウはわけがわからず、その場に立ち尽くした。
―――単なる物盗りの仕業とも思えないが……
そう思いながら荷物を背負ってリュウは再び歩き出した。
見物人たちはただ呆然とそこから去っていくリュウの後ろ姿を黙って見つめていた。
204
:
暗闇
:2005/11/20(日) 01:44:36 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
その頃、ジャングルの上空を、戦闘機とも輸送機ともつかない異形の飛行物体が旋回した。
犯罪組織シャドルーのVTOL(垂直離着)機だ。
ジャングルの向こうには幾つもの岩山がそびえている。
その中央に、ひときわ高くそそり立つ岩山があった。
VTOL機は周囲に注意を払うかのように旋回を繰り返しながらその岩山に向かった。
その中腹には仏像のような顔の石の彫刻が施されていた。
大昔に造られた寺院のようだ。
夕暮れの中に浮かび上がるそれは、慈悲深い救い主のように思え、また禍々しい悪魔のようにも見えた。
やがて石仏の顔の一部が左右にゆっくりとスライドして開いていく。
VTOL機は轟音を上げながらその中に吸い込まれていった。
中には最新機器を備えたヘリポートがある。
シャドルー本部だ。
幾筋ものライトに照らされたヘリポートは外見とはあまりにもかけ離れていた。
VTOL機がゆっくりと降下する。
ヘリポートに待機していた軍服姿の数人の警備兵士たちがそれを出迎えた。
VTOL機のハッチが開くと、周囲を威圧するような大男が現れた。
鋭い眼を炯々と光らせている。
暗黒の格闘王といわれた男ベガだ。
警備兵士たちがベガに向かって一斉に敬礼する。
ベガは周囲を威圧するように見た。
それからいきなりマントを翻し、速い歩調でズンズンと歩きだす。
その後ろから3人の男が現れた。
胸に大きな傷を持つ長身の格闘家サガット。次に無敵のボクサーの異名を取るバイソン。
そして、少年のように優しく甘い雰囲気を持ったバルログだ。
3人の中でもとりわけ奇異なのはバルログだった。
顔に仮面を被ったバルログは格闘家らしからぬ風情を漂わせていた。
肩から背に垂らした長くしなやかなブロンド。ほっそりとしているものの弾力に富み、それでいて引き締まった無駄のない肉体。
その優雅な身振りはまさに女性にも見粉うような男である。
通りすがりの人がバルログを見たならば、いざ闘いに入ると別人のように変わるのを誰が予想しようか。
3人は大股でズンズンと歩くベガについて進んでいく。
警備兵士たちはベガたちの行く手をあわてて開けた。
ベガと3人の男は青白い間接照明に浮かぶ超近代的な廊下をズンズンと進んでいった。
時折、通過するガラス張りの部屋の内部は何処も最新のコンピュータやモニターで埋め尽くされている。
その通路の突きあたりにシャドルーの中央司令室があった。
自動ドアが開く。
奥はオフィスのような中央司令室だ。
ベガは司令室に入るなり、大小のモニターやコンピュータに囲まれた中央のデスクにズンと座り込んだ。
その傍らにベガをガードするように3人の格闘家が立った。
205
:
暗闇
:2005/11/20(日) 02:22:41 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
直後、一方のドアが開いて、白衣姿の小柄な老人が姿を現した。麻薬の影響か、痩せこけて顔色が悪く、眼だけが異様な光を帯びている。
しかし、白衣の下から覗く高級ブランドもののスーツは、この人物がシャドルーの研究開発部門で相当の地位に立っていることを示している。
老人「お待ちしておりました」
老人がしわがれた声で言い、頭を下げた。
ベガ「早く見せろ」
ベガが居丈高に言う。
老人はニヤッと笑って反対側の扉を見る。
すると、ドアが開いて顔半分を特殊合金のマスクで隠された戦闘服の男が立っていた。
老人「新たに改良しましたモニター・サイボーグです」
ベガと3人が戦闘服の男を見る。
老人「超高性能コンピュータ制御を装備させております」
ギギギ〜ッ!
戦闘服を身につけたサイボーグがゆっくりとベガの前に歩み寄った。
ベガ「うむ……」
ベガが満足気にサイボーグを見た。
サイボーグがベガの数歩手前でピタッと立ち止まった。
老人「このサイボーグを世界中にばらまきました」
キュッ、キュッ、キュッ、キュッ!
微かな軋み音を発し、サイボーグのマスクに付けられた片目のオートフォーカスレンズの眼がベガに向けられる。
老人「こいつに世界各地にいる有能な格闘家をキャッチさせます。そして、その情報をいち早く報告させます。我がシャドルーの通信衛星を通じて、世界のどんな辺境の地にいても、この本部からの指揮が可能です」
老人が得意気に話した。
だが、ベガは表情ひとつ変えずに聞いた。
ベガ「以前にばら蒔いた旧型のモニターロボットは?」
老人「はい、既に世界各地の旧型モニターロボットは回収し、この型のサイボーグに交換する手筈は済んでおります」
ベガ「うむ……いいだろう」
ベガは初めて鋭い眼を和らげ、老人に訊ねた。
ベガ「ところで、例の男は見つかったか?」
老人「リュウのことでございますな」
老人が応えると、側にいたサガットの眼がキラリと光った。
老人「中国の上海、黄浦江<ワンフコン>近くで見つけました。すぐに捕獲作戦を実行しましたが……残念ながら取り逃がしました」
サガット「逃がしただと?」
サガットが声を荒らげ、老人を睨み付けた。
老人「その後、行方を追っていますが、まだ見つかりません」
サガットが歯ぎしりする。
ベガ「リュウは昔、このサガットを倒し…そして俺をも倒してこのシャドルーを一度壊滅させたほどの男の一人でもある。簡単に捕らえられるとは最初から思っておらん。以前の物とは桁違いの戦闘力を持つ刺客だ。かつてのリュウならば1人ならともかく5人もの数でかかられれば一溜まりもないほどのな。
現在のリュウの力を過小評価したか……甘く見たようだな」
ベガが老人を見据えた
老人「も、もうしわけありません。早急に居所をつきとめます。大都市にいないとなると、何処かの奥地にでも潜んでいるとしか考えられません……」
老人が言い訳めいた口調で言った。
ベガ「リュウは桁外れの強さを秘めている。奴とケン・マスターズが我々シャドルーの再結成を知るのは時間の問題だろう。一刻も早く探し出すのだ。ヒマラヤの奥でも何でもサイボーグを飛ばせ!」
老人「は、はっ!」
ベガの言葉に老人は卑屈な態度で頭を下げた。
サガット「リュウ、どこにいる?見つけ次第、この俺がひねり潰してやる!」
ベガと老人のやりとりを聞きながら、サガットは再燃する復讐心を感じた。
206
:
暗闇
:2005/11/21(月) 00:28:58 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
一方、アメリカ北部の小さな漁港は激しい暴風雨にみまわれていた。
満潮の海は荒れ、港に繋がれている数々の漁船の群れが激しく揺れている。
その漁船のデッキに黒い人影があった。
黒い人影は先程から豪雨に叩かれながらずぶ濡れでジッと佇んでいる。
ピカッ!
夜の闇に稲光が走り、黒い人影を照らしだした。
それはベガが全世界にばらまいたモニターサイボーグだった。
稲光を浴びて、モニターサイボーグの眼が異様に光る。
光る眼から一条の光線が走り、港を照らした。
その眼には特殊レンズが設置されているのだ。
やがて、光線が一点を照らし、静止した。
埠頭に真っ赤なポルシェが停まっている。
光線はそれを捉える。
続いて、一条の光線は新たな1台の車を捉えた。
4WDの小型トラックだ。
それは真っ赤なポルシェの行く手を遮るかのように停まっていた。
モニターサイボーグは2台の車を照らしたまま嵐の中でジッと動かずにいた。
ポルシェと4WDの小型トラックの向こうには倉庫が見えた。
再び、周囲は激しい雷鳴と豪雨と怒涛の音が入り混じり、騒然となった。
その渦巻くような音を突き裂くように、どこからか叫び声がする。
いや、それは単なる叫び声ではない。
生と死の狭間で生命を燃やす格闘家の、気合いの雄叫びだった。
雄叫びは倉庫の中から聞こえてきた。
中で格闘家が激しく闘っていることは明らかだ。
モニターサイボーグはあたかもそれを透視するかのように倉庫に眼を移した。
倉庫の中は厚い壁で密封されている。
雷鳴や豪雨や波しぶきの音はかすかにしか聞こえない。
だが、それ以上に殺気が激しく充満していた。
207
:
暗闇
:2005/11/21(月) 00:56:34 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
???「闘え!ケン!」
隆々とした筋肉の大男が吠えた。
身長は2m30㎝はあるだろう。
額には幾何学的な模様を編んだ、部族の羽飾りをつけている。
上半身の素肌にジーンズのチョッキを着込み、同じくジーンズのパンツを覆うように仔牛の革で作られたと思われるブーツを履いている。
アメリカインディアンだ。
???「俺はお前と闘うためにわざわざやって来たんだ!」
ケン「サンダーホークとか、言ったな。俺は闘う気などはない!」
倉庫の片隅にケンがいた。
ケンはサンダーホークを睨みつけていた。
サンダーホーク「なぜだ?なぜ、闘わない!?」
サンダーホークの162㎏の体重に比べ、ケンの体重は76㎏だ。
約2倍以上もでかい相手に対し、ケンはゆとりの口調で応えた。
ケン「わからねえ奴だな。俺はもうストリートファイトはやらねえんだ!」
ケンは無益なストリートファイトはやらないと心に誓っていた。
公式大会に出ることが自分の修業になると思っていた。
ケン「ストリートファイトをやらないだと?ハハハ……」
サンダーホークは笑い、鋭い眼を光らせた。
サンダーホーク「だからこの倉庫で闘おうってんだ。格闘家は何処で闘おうと同じことだ」
ケン「くだらねえ」
サンダーホーク「ナニ……!」
ケン「くだらねえって言ってんだよ。闘って何になるんだ?」
サンダーホークは胸を張って応えた。
闘いに誇りを持つ格闘家ならではの態度だ。
それと同時に格闘家として目立ち、シャドルーに入りたいと考えていた。
サンダーホーク「湧きあがるこの力、尽きることはない。我が聖地を取り戻すその日まで!」
サンダーホークはかつて、メキシコ近辺に位置するインディアンの聖地で平和に暮らしていた。その、愛すべき自然や動物たちに囲まれた生活を奪ったのが再結成を完了し、再び暗躍を始めたシャドルーであった。
緑なす聖地は麻薬製造の拠点となり、かけがえのない肉親はこの世を去った。
この憎むべき組織を壊滅し、聖地を取り戻す。そのためには、組織に認められることで内部に潜入し、根本から叩き潰すしかない。
その思いが強かった。
サンダーホーク「ケン、お前は格闘家として高いタイトルを獲得している」
ケン「それほどでもないがな」
サンダーホーク「黙れ、そう言う男を倒して行くのは……格闘家としての名誉あることだ」
ケン「フッ、そういうのがくだらねって言ってんだよ」
サンダーホーク「黙れ!怖じ気づいたのか?」
ケン「そんなんじゃないよ」
サンダーホーク「だったら、いさぎよく闘え!」
ケン「嫌だね……それに……お前じゃ……俺は……倒せないぜ」
サンダーホーク「なんだと!」
ケン「お前が何人たばになろうとも、俺の敵ではない」
ケンは真顔で言った。
ケン「たとえどんな奴が現れたって俺を倒せやしない……リュウ以外はな」
サンダーホーク「リュウ……?」
ケン「そうだ。この世に生まれた真の格闘家だ」
208
:
暗闇
:2005/11/21(月) 02:15:18 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
サンダーホーク「噂は聞いたことがある。行方知れずの放浪格闘家らしいな」
サンダーホークは話ながら次第に間合いを詰めてくる。
サンダーホーク「私は一瞬の隙も見逃さぬ」
ケンが隙を見せれば、瞬く間に襲いかかる体勢でいる。
しかし、たとえケンが隙を見せようともサンダーホークは襲いかかりはしなかった。
格闘家としてのプライドが許さないからだ。
不意打ちや卑怯な手を使って倒したところで意味はない。
相手をただ倒しさえすればよいというのではなかった。
正々堂々と真正面から激突して倒す。
それが真の格闘家としての誇りなのだ。
サンダーホーク「では知っているか?リュウという男、とある世界規模の組織にマークされているという噂を」
ジリッ!と、サンダーホークはさらに間合いを詰めながら言った。
サンダーホーク「今頃その組織とやらに捕らえられているのではないか?そんな奴と私を比べないでほしいな」
サンダーホークはシャドルーの名を口には出さなかった。シャドルーが再結成したことはまだ表はおろか裏の世界にもあまり知られてはいない…直接の被害にあったサンダーホークは再結成を遂げ、以前とは比較にならない程の邪悪さと力を付けてきたシャドルーの恐ろしさを聖地が奪われたあの日に嫌という程思い知らされていた。
闘いたくないと言っている目の前の格闘家に対して無闇にシャドルーの名を口に出して、他人を自分の闘いに巻き込むのは流石に本意ではない。
が、目の前の格闘家…ケン・マスターズ…そして彼を奮い立たせる為の挑発の材料に使ったリュウがかつてシャドルーを壊滅させた男たちであるということを彼は知らなかった。
そして、そのサンダーホークの言葉を聞いた途端、ケンの身体から闘士が湧き上がった。
ケンは出来れば無益な格闘などしたくなかった。初めから闘う気などなかった。
初めは豪雨のために視界が悪く、運転を誤ったのかと思った。
しかし、違った。
相手はケンにストリートファイトを挑んできたのだ。
ケンは闘う意志のないことを告げた。
しかし、サンダーホークは承知しない。
それで近くの倉庫に入って腹を割って話そうと考えたのだが、無駄だった。
サンダーホークはどうあっても闘う気でいた。
―――俺がもっとも尊敬し、友と慕う男をけなす奴は……
ケンは憤った。
闘いをずっと拒み続けてきた心の糸がプツリと切れた。
親友であると同時に優れた格闘家。ライバルであると同時に師とも思える存在。
そのリュウを小馬鹿にするような言動は許せなかった。
ケン「断って置くが……リュウは……必ず現れる」
ケンはサンダーホークに対し、ついにファイティングポーズを取った。
209
:
暗闇
:2005/11/21(月) 02:16:10 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
サンダーホーク「やる気になったか!」
サンダーホークは身構え、さらに間合いを詰めてきた。
巨体に似合わず素早い動きだ。
サンダーホーク「そうだ。ケン、執念なくして勝てるほど甘くはないぞ」
ケンは壁際に追いつめられて逃げ場がなくなった。
その直後、サンダーホークは片手でケンの頭を掴んだ。渾身の力でケンの体を振り回しながら、巨体に似合わぬ身軽さで飛び上がる。
メキシカンタイフーンだ。
ケン「あっ!」
たじろぎの声をあげた刹那、ケンの頭に激痛が走った。
みしりと不気味な音を立てて頭蓋骨が軋み、鼻の奥からキナ臭い匂いがこみ上げる。口の中に血の味が広がった。
サンダーホークの全体重と共に、頭から地面に激突したのである。
ケン「なるほど、結構できるじゃねえか」
ショック状態による震えと脱力感にさいなまれる足を両手で支え、ケンは立ち上がった。
サンダーホーク見据えるとその表情には、燃えるような闘志がみなぎっている。
サンダーホークが宙を飛んだ。
サンダーホーク「ハッ!」
次の瞬間、空中で器用に姿勢を変え、急降下で体当たりを浴びせてきた。
コンドルダイブである。
ケンは背後にステップして、それを素早くかわした。
サンダーホークは膝をすりかえながら着地すると、間髪入れずに地を蹴った。巨体が、今度はケンの顔面を狙って急降下してくる。
トマホークバスターだ。
立て続けの連続攻撃を辛くも避けたケンは体勢を立て直し、反撃に出た。
サンダーホークの着地時に生じた一瞬の隙を突いて、ケンの竜巻旋風脚が炸裂した。
サンダーホーク「ぐわぁぁぁ〜っ!」
サンダーホークの叫び声が倉庫内に響き渡った。
次の瞬間、スローモーションの映像を見るかのようにサンダーホークの身体がゆっくりと傾き、それから床にドサッと、倒れた。
ケン「リュウはどこにも属さない。今もどこかで修業をしている。迂闊に非難をしないでくれ」
ケンは倒れたサンダーホークにその言葉だけを残し、倉庫の扉を開けた。
外は相変わらず激しい暴風雨みまわれていた。
海は荒れ、港に停泊した多くの漁船は揺れている。
ケンは豪雨と突風を浴びながら真っ赤なポルシェに向かう。
一艘の漁船のデッキにいた黒い人影がケンの姿を的確に捉えている。
先程から豪雨に叩かれながらずぶ濡れで佇んでいたモニターサイボーグだ。
ピカッ!
夜の闇に稲光が走り、ポルシェの運転席に乗るケンの姿を照らしだした。
ギアを入れてポルシェを走らせるケンの姿がクッキリと映る。
モニターサイボーグ「ケンノ居場所ヲ捉エマシタ」
モニターサイボーグが金属音の声で通信機に報告した。
210
:
藍三郎
:2005/11/21(月) 12:08:31 HOST:YahooBB219060041115.bbtec.net
=トゥアハー・デ・ダナン=
マデューカス「艦長。スペシャルポリスの人員を乗せた輸送機が、
こちらに到着したそうです」
テッサ「わかりました。では、私たちも会議室に行きましょうか」
カリーニン「は。若きスペシャルポリスの諸君と、ご対面と参りましょう」
そう言ってテッサとカリーニンはブリッジを後にする。
バン「うぉぉぉぉ〜〜これが潜水艦ってやつか!中はこんな風になってんだなぁ!」
ウメコ「窓とか無いのかな〜〜海底のお魚さんとか見たいのに〜〜」
ホージー「はしゃぐな!!」
生まれて始めて乗った潜水艦に、
やたらと騒ぐバンとウメコに釘を刺すホージー。
ホージー「我々は宇宙警察の代表としてここに来ているんだ。
その人格を疑われるような行動は慎めよ!」
バン「へいへい、わかってます!」
ホージー「本当だろうな・・・失礼します」
会議室のドアを開け、中に入る。
会議室には2人の人物が、デカレンジャーの到着を待っていた。
一人は灰色の髪をした大柄な軍人、もう一人はまだ若い銀髪の少女である。
ホージー「宇宙警察地球署・戸増宝児以下5名、ただいま到着いたしました」
5人を代表して挨拶するホージー。
カリーニン「私はミスリルのアンドレイ・カリーニン。階級は少佐だ。
今回の救出作戦の作戦指揮官を務めることになっている。よろしく頼む」
ホージー「は、こちらこそ、よろしくお願いします。カリーニン少佐」
いかにも軍人らしい風格を漂わせるカリーニンに、ホージーも多少は緊張していた。
カリーニン「此度は我々の救援要請を快く引き受けてくれたこと、大変感謝する」
ホージー「いえ、この地球に住む人々の平和と安全を守るのが、
我々宇宙警察の使命ですから」
ホージーは姿勢を正して、直立したまま答える。
カリーニン「ゆっくりしていってくれ・・・と言いたいが、
もうまもなく作戦会議が始まる。
今回の作戦の成否は君たちにかかっている。頼んだぞ」
ホージー「はい!プロのスペシャルポリスとして、
必ずや、ご期待に添える働きをしてみせます!」
211
:
藍三郎
:2005/11/21(月) 12:10:53 HOST:YahooBB219060041115.bbtec.net
カリーニン「そして、こちらが・・・」
傍らに座っているテッサを紹介しようとするカリーニン。
だが、その前にテッサは自ら立ち上がり、挨拶をする。
テッサ「お初にお目にかかります。宇宙警察の皆さん」
バン(うわ〜〜可愛い子だな〜〜)
ジャスミン(あんな若い子も、ミスリルで働いているのね)
ウメコ(あのおじさんの、秘書か何かかな?)
セン(ん・・・でもあの子の襟にあるのは・・・)
それぞれ思いをめぐらす4人。
そして、テッサの自己紹介を聞いた時、一同は度肝を抜かれることになる。
テッサ「私はテレサ・テスタロッサ。ミスリルの大佐で、
ここトゥアハー・デ・ダナンの艦長を務めています」
バン「えええ!?ウソぉ!!」
驚きに思わず声を上げるバン。
後方のウメコもジャスミンも、すっかり呆気にとられている。
ただ、センちゃんだけは「やっぱりね・・・」と言った表情で、
あごに手を当てている。彼は早くから彼女の襟にある階級章に気づいていたからだ。
ホージー「こら!バン!!大声を出すな!」
バン「だって、こんな女の子がこの潜水艦の艦長で、しかも大佐!?
多分ウメコより年下だぜ?ありえねぇって!」
ホージー「失礼なことを言うな!!」
そう言いつつも、ホージーは内心ではバンと同じく、
「ありえない」・・・と思っていたのだが・・・
ホージー「申し訳ありません!テスタロッサ大佐!この馬鹿が失礼なことを!」
バン「痛ててて!髪をつかむな髪を!!」
バンの頭をつかみ、侘びを入れさせるホージー。
テッサ「いえいえ、ある意味それが当然の反応でしょうから・・・」
くすりと笑うテッサ。
どうやら、彼女はデカレンジャーたちのこの反応を楽しんでいるようだ。
テッサ「呼びにくいようでしたら、
私のことは「テッサ」と呼んでくださってかまいませんよ。
あなた方はミスリルの一員ではありませんし・・・」
バン「テッサちゃんかあ〜♪
あ、俺の名前は赤座伴番。「バン」って呼んでくれよな!」
ホージー「馴れ馴れしい口を利くなぁ!!」
再びバンの頭をつかみ、上下に揺するホージー。
カリーニン「・・・・・・」
バンとホージーのやりとりを、若干呆れのこもった視線で見つめるカリーニン。
テッサ「うふふ・・・賑やかな人たちね」
カリーニン「まぁ、我々の部下も大体似たようなものですからな・・・」
遺憾ながら、カリーニンはそう認めざるを得なかった。
テッサ「それに、下手に縛るより、これぐらいのびのびとやってもらえた方が、
彼らのいつものペースを乱さない分、
よい結果を生むかもしれませんよ?」
カリーニン「ふむ・・・一理ありますな」
212
:
暗闇
:2005/11/21(月) 18:36:07 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
その頃…平行世界のエジプトでは…
頭上を覆う質量に圧倒され、鷲士は思わず口を半開きにした。
太陽の船―――約4500年前、クフ王が死後太陽の国に渡るために作らせたという。レバノン杉製の船である。1987年には日本の調査隊が対となるもう一隻を発見。前者は現在博物館に異なるが、歴史的価値ははかり知れない代物だ。
ただ、視界を塞ぐ巨大船の形は、鷲士の記憶とは少し違う。船腹には、ヨットのキールを思わせる舵。さらに後部には、ツボを思わせる構造の穴がいくつか。オールも、アンテナに見えなくもない。
さらに―――驚くことに、支柱はおろかワイヤーもない。つまり、この巨大構造物は、重力に逆らって浮いているのだ。
美沙の事前説明によると―――“来訪者”の残した宇宙船。
鷲士「す、凄いね!大発見じゃないか!これだったら―――」
と口をほころばせて顔を戻した鷲士だが、瞬き。
美沙「ハ、ハズレ……!」
鷲士「……は?ハズレ?」
美沙「……ううっ、ミニチュアなのよ、これ。でっかいから、そうは見えないけどさ」
鷲士「こっ、これが……ミニチュアぁ!?」
後退る鷲士を、美沙が幽霊みたいな顔つきで見上げ、
美沙「……同じ型のを、もう回収しているんだよぅ。去年、ナイル東岸でね。浮きはするけど、進まないの。構造も再現できなくて、今は品川の倉庫に放り込んでる」
鷲士「し、品川……!こ、これをですか……!」
美沙「うう、やられたぁ……久々のスカって感じ。ナルメルが死ぬ前に、アトゥン神は……来訪者は引き上げてたんだわ。ここだったら、って思ってたのにィ〜」
鷲士「ハハハ……もうぼくにはついていけないです……」
虚ろに笑う鷲士だったが、すぐに、
鷲士「……で、でもさ、どうして来訪者っていつもどこか行っちゃうの?物凄いテクノロジー持ってたのにさ」
突っ伏した美沙がため息混じりに、口を開けた。
213
:
暗闇
:2005/11/21(月) 20:55:59 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
美沙「……あのさ、鷲士くん、マヤ・オルメカ滅亡の256年周期説って知ってる?」
鷲士「マヤ……?ご、ごめん、分かんないや」
美沙「マヤってね、昔から優れた天文学を持ってたの。たとえば―――金星の公転周期は、正確に583.94日。んでもってマヤ人の計算では、548日。天文学って、高校生レベルの数学は必須だから、ある種の算術方法を編み出してたワケね。で、マヤにはカトゥン、ツォルキンって暦があって―――面倒だからどんなものかは、はしょるけどぉ―――その最小公倍数が、256年なのよ。で、問題はここから」
鷲士「う、うん」
美沙「マヤ都市には、チチェン・イツァーってのがあるの。で、西暦692年、一度、そこから人がごっそり消えた」
鷲士「やっぱり疫病?それとも戦争かい?」
美沙「はいはい、結論をあせらないの。それからチャカンプトンって都市が栄えたんだけどォ、なぜかこれまた948年、滅亡」
鷲士「はぁ」
美沙「そしてまた、チチェン・イツァーが繁栄するんだけどね、1204年に今度こそ完全に滅んじゃった」
鷲士「……256年周期だね。だったら1461年にも?」
美沙「はーい、大正解。今度は、マヤパンってトコが消えました」
鷲士「じゃあ、1697年は?でも確かコルテスのアステカ上陸は、1519年だよね?周期の前になくなっちゃった?」
美沙「ブー。アステカはマヤ族じゃありませーん。チチメカ・トルテカ族でーす。日本人的感覚だと同じものだけど、フランスとイギリス並みに違うから要注意よ。結局、マヤがスペインに征服されたのは、ジャスト1967年。同年にオルメカ系文明は完全に滅亡。ま、最後のは偶然ぽいけどね。でもコルテス上陸の1519年ってのは、アステカ族の滅びの暦・セーアカトルの968年周期にはヒットしてるんだよ」
鷲士「うわ、な、なんかもう頭おかしくなりそうだ。美沙ちゃん中一なのによく知ってるなぁ、そんなこと」
呆れと感心が入り交じった表情で、鷲士は言った。
普段なら、凄いでしょ、もっと誉めて―――を連発するところだが、ショックから立ち直れてないらしく、美沙は床に這いつくばったまま、
美沙「……マヤはどうやら、自分たちの作り出した運命暦に、完璧に従ってたみたいなのね。逆説的ってゆーかさ、滅んだのが、たまたま256年周期ってコトじゃなくて、滅ぶ時期がやってきたから、じゃあそろそろ滅ぼうか、みたいな」
鷲士「だから……都市を捨てて?住みやすいところを、わざわざ?」
美沙「腐敗と停滞を恐れたんじゃないのかなァ?まあ、なにかに対する考えって、民族や文化によって、それほど違うってこと。ましてやわたしたちの相手は、正確には人間かどうかも分かんない連中だからね〜」
鷲士「どうして行っちゃったのかは、分からない……か」
美沙「……そゆこと。は〜、むなし〜。結局は収穫ナシか。帰りにアレキサンドリア図書館でも攻めてみよっかなぁ?」
青息吐息で、床から膝を離した。
―――すぐに四つん這いになった。
何かを見つけたらしい。眉をひそめ、床に目を走らせる。
美沙「もっとも……偉大なる船の……一隻?かの地にあり……?なによ、これ……?」
―――世界地図が、いくつもの床のブロックにわたって浮き彫りにされていた。各地域の注釈なのか、ヒエログリフも刻まれている。
鷲士「5000年前の遺跡に……世界地図!?」
鷲士は唖然として呟いた。エジプトを中心にしているので違和感があるが、明かななメルカトル図法だ。ただ、現在のものとは、少し陸の形などが違う。諸大陸はそのままだが、太平洋には、見たこともない大きな島などもあった。
214
:
ゲロロ軍曹
:2005/11/22(火) 00:00:18 HOST:p4245-ipad34okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=???=
こつ・・こつ・・。
そんな足音をたてながら、覆面の兵士は周りを見回っていた。もっとも、彼らからすれば、こんなどこにでもありふれてる普通の高校に、刃向かえる様な居ないだろうとタカをくくっていた・・。だが、それは間違いだった。
覆面兵士「『バキィ!』ぐぉ・・!?」
突如後ろから何者かが兵士の頭を殴ってきた。それにより、地面に倒れる兵士。そして、その何者かは素早く兵士の腕を拘束した・・。どこのどいつがやらかしたのかと覆面兵士が相手の顔を見てみると、兵士は驚愕した・・。
覆面兵士「こ・・、高校生のガキだとぉ・・?!」
そう、彼を拘束してるのは、ざんばら髪で左頬に十字の傷を持ってる、むっつり顔の高校生、『相良宗介(さがら そうすけ)』だった。
宗介「動くな、貴様に聞きたいことがある。だが、もし大声を出そうものなら・・。」
そういいながら、宗介は兵士の腕を力強くひっぱった・・。それこそ、腕の間接があらぬ方向に曲がってしまうかのように・・。
覆面兵士「ぐぁぁ!?わ・・、分かった、しゃべる、何でもしゃべる!!」
宗介「・・よし。では聞こう。貴様ら、千鳥かなめをどこにやった?」
覆面兵士「だ・・、誰の事だよ?」
宗介「とぼけるのもいい加減にしろ。貴様らがマスコミに向けての撮影だのと抜かして連れて行った、この高校の女生徒のことだ。」
覆面兵士「あ・・、あのガキのことか・・。」
宗介「やはり知っていたな。さあ、とっとと吐いてもらおうか。さもなくば・・。」
覆面兵士「わ・・、分かった、しゃべるよ!!」
その後、覆面兵士はかなめが連れて行かれた場所と、そこへ行くまでの経路を説明した。
宗介「・・なるほど。ご苦労だったな。」
そう言った瞬間、宗介は隠し持ってたスタンガンを覆面兵士に当て、瞬時に気絶させた・・。
宗介(・・、急いだ方がいいな。)
そう思いながら、宗介は急ぎかなめの元へと向かった・・。
215
:
暗闇
:2005/11/22(火) 00:37:13 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
さらに―――美沙が凝視する地点には、おかしなものが。
―――樹、である。
ユダヤ教の曼陀羅にたとえられる。“セフィロートの樹”にも似た図が、この奇怪な世界地図に描かれていたのだ。円錐状に広がる枝葉、ジャガイモを思わせる巨大な塊茎―――。高木の根っこに塊茎というのも妙な話だが、そうなのだから仕方がない。描かれた場所は、ヨーロッパの中央より、やや西寄り―――今で言うドイツ辺りだ。
鷲士「な、なんなの、この木?昔の食べ物?」
美沙「船……だってさ。最大クラスの」
鷲士「ふ、船ぇ?だってこれ、誰がどう見たって……」
美沙「……だよね。おっかしいなぁ、解読間違ってんのかなぁ?シャンポリオンの用法とはずいぶん違うのは元から分かってたんだけど……大きさもヘン」
頬をポリポリやりながら、美沙だ。
鷲士「ヘン?おっきいんだ?」
美沙「うん。山を3つ重ねたよりでっかいって」
鷲士「……はぁ〜?山を3つぅ〜?」
美沙「ちょっと待ってね、えーっと……なになに?大切なのは……船そのものではなく……吐き出される水である……?水が……入り口に……?」
そして美沙が立ち上がり、
美沙「……なんのこっちゃ。船が水出してどーすんのよ?」
と首を傾げた。専門家がこれなのだから、鷲士にはサッパリである。
美沙はため息をつくと、肩のカメラを作動させ、
美沙「ま、いいや。なんだかサッパリだけど、これはこれで収穫だわ。記録記録、っとぉ」
鷲士「あの……太陽の船は?」
美沙「いらないわよ、そんなもん」
新たな声は、そのときにかかった。
???「そっか。じゃ、おれたちがいただいていくぜ」
鷲士は蒼然と振り返った。美沙が慌ててカービン型アサルトライフル・MP5Kを構え、声の方に向ける。
―――中背の肥満漢が、自動小銃で武装した戦闘員たちに囲まれて立っていた。
美沙が呆れたように、
美沙「……またミュージアム?ったく、どこにでも出てくるんだから」
???「へっへっへ、ナルメル王のピラミッドを追ってたら、こんな場面に出くわすなんて―――俺はついているぜ。身長180半ば、痩せ形、東洋人―――か。なるほどね。てめえがダーティ・フェイスだな?」
デブは鷲士を目にし、厚い唇を笑いに歪めた。
―――ここにもまた、新たな勘違い野郎が1人。
鷲士「ちっ、違いますよ!絶対に違います!」
泡を食って否定する鷲士だったが、デブは訳知り顔に何度も頷き、
???「うんうん、分かるぜ。てめえ、正体不明ってのが売りだからなぁ。顔バレちゃ、立場ねえからなぁ。メンツってやつもあるし」
鷲士「はぁ?いや、そうじゃなくて!あなたたちは根本的に―――」
と喚く鷲士だったが、一斉に銃口を向けられ、押し黙る。
美沙「チッ、ちょっと相手が多すぎるわね、退路はあいつらの後ろだし……」
???「へっへっへっ、悪いな、ダーティ・フェイス。この遺跡も太陽の船も、ぜーんぶ、俺達が頂く。もちろん―――てめぇの命もだ」
デブが部下に合図を送るべく、腕を振り上げた。
そしてせっぱ詰まって、鷲士が足を踏み出し、
鷲士「ああっ、もう!だから、最初から誤解しているんですってば!いいですか、ダーティ・フェイスなんて宝探しは、この世には最初から―――」
―――カチ。
216
:
暗闇
:2005/11/22(火) 00:49:38 HOST:YahooBB220020057170.bbtec.net
鷲士「は?」
ボケ青年の目が、点になった。音源は自分の足の裏―――床下である。なにかスイッチを踏んづけてしまったらしい。美沙、肥満漢も、同時に青ざめる。
美沙「ちょっ……鷲士くん……マジ?」
―――ゴゴゴ!
即座に震動が、足下から沸き上がった。
建物全体が揺れ始めた中、デブが呆気にとられたように、
???「トラップを……発動させた?なに考えてんだ、てめえ……!地下500だぞ、どーなるか分かってんのか……!?噂通りムチャクチャな野郎だな、そーゆー破れかぶれ、もっと切羽詰まった状態でやってくれよ……!」
鷲士「いやっ、これはですね、なんと言うか、よくある事故と言うか―――ああっ!」
と鷲士が頭を抱えたが、時既に遅し。
―――足下が、呆気なく陥没した。
広間と床と壁を構成するブロックの結合が、解けてしまったのである。鷲士、美沙は言うに及ばず、敵の一団までブロックと共に落下を開始した。
下には、何も見えなかった。文字通りの底なしだった。
美沙「やーん、もう、鷲士くんのドジィ!だから変なトコ踏むなって言ったのにィ!」
鷲士「ああっ、追試が、単位がー!ぼくの大学生活がー!」
間の抜けた絶叫を残し、若い親娘が、地下の闇に飲み込まれた―――。
217
:
藍三郎
:2005/11/22(火) 10:36:54 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco2.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=トゥアハー・デ・ダナン=
バン「いや〜〜しっかし驚いたよな〜〜」
会議室を後にしたデカレンジャーたちは、
先ほど対面したテッサやカリーニンのことについて話していた。
バン「まさかあんな女の子がこの艦の艦長で、しかも大佐なんだからよ〜」
セン「階級的には、あのカリーニン少佐より上ってことになるんだよね」
バン「だよな。全くスゲーよなぁ・・・」
ウメコ「でも、テッサちゃんもカリーニンさんもいい人そうでよかったね♪
軍隊って聞いてたから、
あたしどんな怖い人が出てくるかとビクビクしてたんだ〜」
テッサもカリーニンも、想像していたのと違い、
温厚で優しそうな人物であったことに、ウメコは安堵していた。
ホージー「いくらあのお二方が寛容とはいえ・・・
お前達は気を抜きすぎだ。
もっと宇宙警察にふさわしい態度というものをだな・・・」
そんな事を話していると、通路の曲がり角から、
一人の金髪の青年が五人の前に姿を現す。
クルツ「よ!あんたらが噂のスーパー・ポリス・ヒーロー、
デカレンジャーかい?ようこそデ・ダナンへ!」
セン「君は?」
クルツ「俺はクルツ・ウェーバー。
ミスリル(ここ)で戦闘要員やってるもんさ。よろしくな!」
バン「おう!俺の名は赤座ばんば・・・」
クルツ「あ、野郎はどうでもいい」
バンの自己紹介を、冷たい言葉で切って捨てると、
クルツは電光石火の素早さでジャスミンとウメコの側に近寄る。
クルツ「いやぁ〜〜こんなカワイイ子たちがデカレンジャーの
メンバーだなんて♪お会いできて嬉しいよ!ピンクちゃん、イエローちゃん♪」
ウメコ「ピンクちゃん?」
ジャスミン「はぁ・・・?」
いきなり凄い勢いで口説き文句をまくし立てるクルツに、
呆気にとられる女2人。
クルツ「ピンクちゃんは、小柄でキュートで本当に可愛いね〜♪
こちらのイエローちゃんは、才色兼備、クールビューティーって感じが実に素敵だ♪
これから作戦を共にするわけだけど、是非ともプライヴェートでも・・・がっ!!」
その時、クルツの足に強烈なローキックが飛んできた。
マオ「何馬鹿やってんだい!
お客さん相手に恥さらしてんじゃないよ!!」
曲がり角からショートの黒髪をした女性が姿を見せていた。
彼女の名はメリッサ・マオ。クルツ同様、ミスリルのAS乗りである。
クルツ「す、すまねぇマオ姐!!おー痛てて・・・」
ずきずきと痛む足をさすりながら、クルツは小声でこう呟く。
クルツ「たく、この暴力女が・・・」
だが、マオはその一言を聞き逃さなかった。
素早くクルツのほっぺたをつかみ、強く引っ張った。
クルツ「ひ、ひへえよ(痛えよ)」
マオ「『この』、なんだって?ん?ん?」
クルツ「うつくひふ(美しく)、ほーめー(聡明)で、
はより(頼り)になるほーちょー(曹長)ども、でありまふ」
マオ「ならよろしい」
そう言ってマオはクルツのほっぺたから手を離す。
そして、デカレンジャー達の方に向き直り自己紹介をする。
マオ「あたしはメリッサ・マオ。階級は曹長。
こいつと同じアームスレイブ乗りさね。
さっきは、この馬鹿がふざけた事を抜かしたようで・・・
こいつの存在ごと、さっさと忘れといてくれ」
ジャスミン「いえ、マオ曹長・・・」
マオ「マオでいいよ。これから一緒に戦おうって仲だ。
かたっ苦しいのは抜きでいこうよ」
ウメコ「さんせ〜〜い♪あたしは胡堂小梅。「ウメコ」て呼んでね♪」
ジャスミン「私の名前は礼紋茉莉花。ニックネームは、「ジャスミン」よ」
マオ「わかった。これからもよろしく頼むよ。ジャスミン、ウメコ」
三人の女性は、早くも打ち解けだしたようだ。
218
:
藍三郎
:2005/11/22(火) 21:05:13 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco20.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=トゥアハー・デ・ダナン 状況説明室=
カリーニン「すべてを迅速に進める」
大型スクリーンを背にして、カリーニン少佐は言った。
状況説明室には、救出作戦に参加するミスリルの兵士たちに加え、
デカレンジャー五人も顔を揃えていた。
カリーニン「敵基地の位置は東京湾沖に存在する無人島だ。
現在当艦はその島に向けて運航している」
カリーニンはスクリーン上に映された地図にある、小さな点を指し示す。
カリーニン「まず本艦が目標地点に到達し次第、
運搬用の大型輸送機を発進させる。
その輸送機には、スペシャルポリスの諸君も同乗してもらう」
そう言ってカリーニンは座っている五人に目をやる。
ホージー「了解です」
カリーニン「続けて、強襲機兵(AS)チームの出撃だ。
ASは本艦から直接、XL−緊急展開ブースターで射出する。
過去八時間以内にアルコールを摂取した操縦兵は申し出ろ」
緊急展開ブースターとは、AS一機を40キロまで飛ばす能力を持つ
片道オンリーの使い捨てロケットのことだった。
とにかく素早く、作戦地域にASを飛ばす時に使われる。
マオ(アルコール・・・か)
クルツ(10時間以内ならセーフだよな)
アルコールのくだりで、2人は顔を見合わせる。
カリーニン「先発部隊の主な任務は陽動とかく乱だ。
敵基地の要所を破壊しつつ、敵部隊をなるべく校舎から引き離せ」
さらにカリーニンは、敵基地の地図を示し、
施設の位置や敵兵力のくわしい配置を指示していった。
カリーニン「そして、敵がこちらの奇襲でひるんだところで、
スペシャルポリスの諸君の出番だ。
君たち五人は校舎上空に移動した輸送機から直接校舎に“降下”し、
敵部隊の掃討および、人質の誘導、脱出経路の確保を行ってもらいたい」
セン「わかりました」
ウメコ(空中からダイブか・・・なんかハラハラするね〜〜)
ジャスミン(こらこら、先生が喋っている時にお喋りしちゃ駄目よ)
カリーニン「人質の捕らわれている区画は、すでに割り出されている。
可能な限り短時間で、人質の脱出を遂行してもらいたい」
ホージー「具体的な最低所要時間は?」
カリーニン「5分だ。5分以内に全ての人質を救出し、
輸送機を島から離陸させなければならない」
カリーニンの「5分」という発言に場の兵士たちがざわつく。
「たったの5分?」「短すぎる」と言った言葉がその場を飛び交う。
カリーニン「その最大の理由は、敵が所有している怪重機だ。
時間をかければ敵は確実に怪重機を持ち出してくる。
そうなれば、戦力差は歴然・・・
人質を無事運び出すことも不可能となるであろう」
いかにミスリルが最新鋭の装備を揃えているとはいえ、怪重機の相手は苦しすぎる。
それに、あの巨体で暴れられたら、人質の生命の危機に繋がることは明白だった。
カリーニンの説明に、誰もが今回の任務の困難さを感じ取り始めていた。
しかし、当のデカレンジャーたちはそれを聞いても特に動揺した様子はない。
やがて、バンが勢いよく立ち上がると、自信満々にこう叫ぶ。
バン「オッケーです!!俺たちデカレンジャーに、任せて下さい!!」
セン「5分なら、ギリギリクリアできる時間だね」
ジャスミン「ぱぱっと救出、ぱぱっと脱出!いいんじゃないの?」
五人は皆一様に「やってやろう!」と言った表情である。
普段はおちゃらけたり、のん気に構えていたりする彼らだが、
これまで不可能とも思われる怪事件の数々を解決してきた、
スペシャルポリスの第1線で戦うプロフェッショナルである。
これぐらいの任務に、尻ごみする事は無かった。
カリーニン(フ・・・さすがはスペシャルポリス・・・
あのドギー・クルーガーの部下だけのことはあるな)
カリーニンは、かなり前に出会った、
異星の“戦友”のことを思い出していた。
カリーニン「既に理解していると思うが、
この作戦において、わずかな失敗は致命的な損害をもたらす。
だが、我々には、この任務を遂行できるだけの能力はある。
各員の働きに期待する・・・以上」
カリーニンが締めくくりの言葉を述べると、一同は持ち場につくべく、
席からわらわらと立ちあがった。
219
:
アーク
:2005/11/23(水) 10:32:37 HOST:YahooBB220022215218.bbtec.net
=トゥアハー・デ・ダナン格納庫=
しんと静まり返った格納庫に動く二人の影
一人は黒マントを羽織、もう一人は白いマントを羽織っていた
先程デカベースの上空で話しを聞いていた天皇こと聖夜と暗黒王こと無明だった
聖夜「侵入行動成功だね無明」
無明「簡単と言えば簡単だったな。しかし、ここの整備は見事なものだ」
無明はそう言いながら格納庫にあったASを見つめ触れていた
無明「どこも異常もない。人間達はこのような技術は褒めていいものだな」
聖夜「そうだね。人の努力の賜物って凄いねぇ」
ASを見終わると二人はマントを靡かせた
それと同時にマントが見る見るの内に変化しミスリルの軍服へと早変りした
無明「常にばれない様に手配をせねばな。念には念を」
そう言って二人は格納庫を出た
220
:
藍三郎
:2005/11/23(水) 21:20:14 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地=
すでに日は落ち、基地内は夜の闇に閉ざされていた。
その闇の中で、相良宗介はじっと息を潜めていた。
先ほど、敵の兵士から得た情報で
千鳥かなめの捕らわれているという研究施設まで辿りついていた。
研究施設は、陣代高校がある基地からかなり離れた場所に存在していた。
宗介は、移動する敵の運搬車両に飛び乗って、
ようやくここまで移動してきたところである。
宗介(さて・・・どうしたものか)
見張りは見える範囲で、
マシンガンを携帯した人間の兵士が一人と、ドロイドが2体いる。
不意をつけば、倒せない数ではない。
だが、その後が問題だ。たとえかなめを救い出す事が出来ても、
彼女を連れたまま敵だらけの基地内を無事に脱出できるかどうかは難しい。
まして現時点では、味方は自分ただ一人。孤立無援の状況なのだ。
宗介(まだ早い・・・まもなくカリーニン少佐が救出作戦を展開する。
その時に味方と合流して、彼女を救出するのが最良の選択だ。
こらえろ・・・今下手な行動を起こせば、
味方の救出作戦にまで支障が出る怖れがある)
ここで出て行くような奴は、大馬鹿のアマチュアだ。自分は違う。
しかし・・・
研究施設の方で、女の叫び声と、物が倒れるような音が立て続けに聞こえてきた。
宗介(千鳥・・・!)
その直後、宗介は暗陰から飛び出していた。
彼は生まれて初めて、任務の優先順位を無視した。
そして、ここから遠く離れた
校舎のある基地で爆発音が鳴り響いたのは、それから数分後のことだった。
221
:
藍三郎
:2005/11/23(水) 21:20:38 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
基地内は混乱に陥っていた。突如、数機のASが基地内に出現したからだ。
敵襲を告げるのサイレンが鳴り響き、慌しく防衛用の戦力が動き始める。
マオ「さあ・・・パーティーの始まりだよ!」
コクピットの中で、マオは上唇を舐めた。
デ・ダナンから直接射出されてきた彼女のM9ガーンズバックは、
着地直後、周囲にいる敵のサベージに40mmアサルトライフルの弾を叩きこむ。
完全に不意をつかれた敵軍は、満足に反撃する事もできず撃破されていく。
マオ「さて、人質の方はまかせたよ・・・デカレンジャー!」
陣代高校の校舎上空に、巨大なシルエットが覆い被さる。
人質収容のため、ミスリルが派遣したジャンボ輸送機だ。
その中には、スペシャルポリスの五人も同乗していた。
ホージー「タイムリミットは5分!必ず成功させるぞ!」
四人「ロジャー!!」
そう言ってSPライセンスを前に突き出す五人。
五人「「「「「エマージェンシー!デカレンジャー!!」」」」」
デカスーツを装着し、五人はデカレンジャーへと変身を遂げる。
デカレッド「よっしゃ、行くぜ!!」
そのまま輸送機から校舎屋上に向けて飛び降りる五人。
無事着地すると、人質がいる教室に向かって駆け出して行った。
222
:
藍三郎
:2005/11/23(水) 21:21:22 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=二年四組=
ガシャァァァン!!!
教室のガラス窓が砕け散る。中にいた生徒たちは、一斉に窓の方を振り向く。
その直後、窓の外から、ロープでぶらさがった
デカイエローとデカピンクが内部に突入してくる。
アーナロイド「ウィー!ウィー!」
見張りのドロイドは突然の闖入者に反応し、迎撃に移ろうとするが・・・
デカイエロー「お痛はダメよ!」
ピンクとイエローは、素早くディーショットを撃ち、
瞬時に教室にいたアーナロイド五体を沈黙させる。
教室に入ってからただちに敵を全滅・・・この間わずか0,5秒である。
選び抜かれたスペシャルポリスの精鋭ならばこそ、できる芸当と言えた。
デカイエロー「皆さん!我々はスペシャルポリスの者です!」
あなた方を救助に来ました!」
デカピンク「みんな!私たちが来たからには、もう大丈夫よ!」
生徒たちを安心させるように言葉をかけるイエローとピンク。
それに対し生徒たちは・・・
生徒「あ!あれって、デカレンジャー!」
生徒「ああ!本物だ!!」
恭子「嘘・・・あのデカレンジャーが、私たち助けに来てくれるなんて!」
突然現われた2人のデカレンジャーに、生徒たちは一斉に騒ぎ出す。
生徒「本物だ!」
生徒「本物だ!」
好奇心に眼を輝かせた生徒たちが大挙して押し寄せてくる。
デカイエロー「ちょ、ちょっとあなた達!?」
てっきり彼女は、人質の生徒たちは
捕らわれの恐怖にぶるぶる震えているものと思っていた。
しかし、目の前の生徒たちからはそう言った様子は全く感じられない。
初めて目にする世界のヒーロー、デカレンジャーにすっかり目を輝かせている。
デカピンク「えへへ♪私たち人気者だね〜〜♪」
まんざらでもない様子のピンク。
デカイエロー「そんな事言っている場合!
あ、そちらの方!あなたがこのクラスの担任ですね?」
神楽坂「あ、はい!!」
突然呼ばれて、慌てて答える神楽坂。
デカイエロー「今から私たちの誘導に従って、この校舎から脱出します!
その後、外に待機している輸送機に乗りこんで、
島外へ出る手筈になっています!」
神楽坂「わ、わかりました!」
はきはきと言葉を返す神楽坂。
もっとも彼女も、「あのデカレンジャーに直に会えるなんて・・・」
と心の中では興奮していたのだが。
223
:
藍三郎
:2005/11/24(木) 21:06:05 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco22.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地 司令室=
伊坂「してやられたな」
あちこちで起こる爆発の光景を目にしながら、伊坂はそう呟く。
伊坂「まさか奴らがここまで早く行動を起こすとは・・・
怪重機はまだ出せんのか」
兵士「ハッ!『エンバーンズ』ならば、あと少しで発進できるかと・・・」
伊坂「急がせろ」
伊坂の言葉を聞き、その場を後にする兵士。
アブレラ「だが、残念ながら空出撃に終わるだろうな」
伊坂「ああ、ここまで鮮やかに奇襲をかけてくる奴らだ。
当然こちらが反撃に出る前に、逃げる方策も立てているに違いない」
伊坂は忌々しげに吐き捨てる。
アブレラ「しかし、事件発生から半日も経たぬ内にこの島の位置を割り出し、
ただちに救出作戦を展開してくるとは・・・」
伊坂「それに、あれだけの見事な奇襲・・・
この島の地理や施設の位置などを、熟知していなければできない芸当だ」
アブレラ「どうやら、島にネズミが紛れこんでいたようだな・・・」
伊坂「ああ、内部に既に敵が入りこんで、
基地の情報を本隊に流していた・・・それ以外考えられん」
アブレラ「それだけではない。
あのASは、最新型のM9ガーンズバック。
となると、敵は<ミスリル>・・・現在、地球では最高峰と思われる
対テロ事件のスペシャリストたちだ」
武器商人としての立場上、アブレラもASやミスリルについての情報は多く持っていた。
アブレラ「奴らが<ウィスパード>を保護していることは知っていたが・・・
まさか宇宙警察と連携をとってくるとはな・・・完全に計算外だ」
伊坂「ふん・・・まぁいい」
これだけの非常事態になろうとも、伊坂とアブレラはすでに落ちつきを取り戻していた。
伊坂「人質など、我々にとっては何の価値も無い。
娘はすでに、ここから遠く離れた別の施設に隔離してある。
いくら奴らとて、たった一人の小娘に構って脱出を遅らせるわけにもいくまい」
そう、人質が救出されようがされまいが、彼らにとってはどうでもいいことであった。
今回の作戦において、重要なのは千鳥かなめただ一人である。
人質をとったのは、あくまで敵の陽動のため・・・
500名以上の人質がいては、宇宙警察も動きを鈍らせざると得ないと踏んだからだ。
そして、その目論見は成功したといえた。
アブレラ「だが、この島の位置を奴らに知られた以上、
娘は早い内に別の場所に移さねばならんな。
ミスリルの部隊が一時撤収した隙を見計らって・・・」
2人が今後の対策を協議している、その時だった。
司令室内のモニターに、血相を変えた兵士の顔が映し出されたのだ。
兵士『い、伊坂様!大変です!』
伊坂「どうした?」
兵士『緊急事態が発生しました。
こちらの第4研究施設が何者かの襲撃を受け、被験体の少女を強奪されました!』
伊坂「何ぃ!!」
報告を聞いた直後、伊坂は大声をあげた。
兵士『現在敵兵士は我が軍のジープを奪い基地内を逃走中・・・
ただちに追撃を駆けようかと・・・』
伊坂「侵入者は確実に始末しろ。
だが、何としても娘は生かして取り返せ!」
兵士『ハッ!』
その後通信は切られた。
アブレラ「“窮鼠猫を噛む”・・・か。
地球人のことわざだが、知っているかね?」
伊坂「ああ」
伊坂は、一万年の永き眠りから覚めたアンデッドだが、
地球人の文化についてはほぼ完璧に学習していた。
アブレラ「先ほど話したネズミの仕業だったようだな。
見事に噛まれてしまったというわけだ」
伊坂「しかし、ああやすやすと小娘を奪回されるとは・・・
これだから人間は使えん!!」
伊坂は憤怒の表情を浮かべ、拳を机に叩きつける。
アブレラ「そういえば、あの地区にはガウルンがいたな。
奴にも出撃するよう指示しておこう・・・
おや、どこへ行くつもりだ?」
部屋を後にしようとする伊坂を見て、呼び止めるアブレラ。
伊坂「俺が自ら出る。これ以上、人間どもには任せておけん」
そう言い残し、ドアを空けて外に出る伊坂。
伊坂(<ウィスパード>の脳内には、
失われた古代のブラック・テクノロジーが眠っているという・・・
その中には、古の<バトルファイト>の秘密についての記述が存在しているやもしれん…
その謎を解き明かせば、バトルファイトの勝利者に近づく事ができるだろう。
何としても、<ウィスパード>を我が手中に収めねば・・・)
伊坂の足が、地面から離れ宙に浮く。
秘めたる思惑を胸に、伊坂の体は漆黒の夜空に向けて飛んでいった。
224
:
藍三郎
:2005/11/24(木) 21:07:44 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco22.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地 別地区=
かなめ「もう、なんなのよ――――――っ!!」
爆走するジープの助手席で、かなめは絶叫を上げる。
無理も無かった。
研究所みたいな場所に連れてこられ、
意味不明な機械に繋がれて、これまた意味不明な幻覚を見せられていると、
今運転席に座っている相良宗介が研究室内に乱入。
そのまま研究所から連れ出されたと思ったら、
近くのジープに乗り緊急発進。発砲してくる兵士を後にして、
現在基地内の道路を爆走中、というわけである。
かなめ「あんた何者?どこへ行くの?これから一体どうする気?説明してよっ!!」
かなめの頭の中は疑問符でいっぱいになっていた。
宗介はそれに対し、落ちついた調子でこう答える。
宗介「・・・実は転校してきて以来、ずっと君をつけていた」
かなめ「なにをいまさら。んなこたー、わかってるわよ!
だからその辺の事情を聞かせなさいよっ!?」
宗介「実は俺も詳しい事情を知らない。
君が何か特殊な存在で、ある組織が生体実験に使おうとしていたぐらいだ」
かなめ「セイタイジッケン!?」
かなめは施設で研究員らしき人物がそんなことを話していたのを思い出した。
宗介「そうだ。それを未然に防ぐため、護衛として派遣されてきた兵士・・・それが俺だ」
かなめ「兵士ぃ・・・自衛隊?」
宗介「違う、<ミスリル>だ」
かなめ「みすりる?」
宗介「どこの国にも属さない、秘密の軍事組織だ。
各国の利害を超えて地域紛争を防ぎ、対テロ戦争を遂行する精鋭部隊。
俺はそのSRT――特別対応班(スペシャル・リスポンス・チーム)に所属している。
専門分野は偵察作戦とサボタージュ、そしてASの操縦だ。
階級は軍曹。コールサインはウルズ7。認識番号、B−3128」
宗介は一片の淀みもなくすらすらと答えた。
だが、聞いていたかなめは・・・相手を本気で心配している様子でこう言う。
かなめ「ちょ、ちょっとあなた・・・マジでヤバイんじゃない?」
宗介「?何故だ」
かなめ「そうだわ・・・あなたは今錯乱してるのよ。
あまりの異常事態に自分を見失っちゃって、
日頃の妄想が現実だと思いこんでいるんだわ!」
どうみても錯乱しているのはかなめの方なのだが、彼女はさらにこう続ける。
かなめ「とりあえず、落ちつきましょ?まずは一緒に深呼吸を――――」
そこまで言ったとき、宗介はハンドルを大きく切った。
かなめ「きゃぁぁぁぁ!!い、いきなり曲がらないでよう!!」
宗介「ふせていろ」
かなめ「な、なんで?」
宗介「突っ込むからだ」
「は!?」といい返そうとしたが、その時彼女は愕然とした。
2人の乗っているジープの進行方向には、格納庫のシャッターが道を塞いでいたからだ。
かなめの声にならない叫びと共に、
ジープはシャッターを破壊し、格納庫へと突入して行った。
宗介「千鳥、動けるか?」
かなめ「・・・もう死ぬ」
宗介「立つんだ。敵が来る」
何とか立ちあがって周囲を見ると、
正面の壁に、三機のアーム・スレイブが並んでいた。
カーキ色の機体色に、カエルのような頭部をしたこのASは、
『Rk−92サベージ』。旧ソ連で開発された機体で、
多くの国や傭兵部隊で使われているASであった。
宗介「少しそこで待っていろ」
ASの存在を確認すると、
宗介は一番近くの機体の足下に駆けより、コクピットへの梯子を上り始めた。
かなめ「ま、まさかあれに乗る気じゃないでしょうね?」
宗介「そうだ。乗る」
この男、正気か?かなめはそう思った。
かなめ「やめてよ!シロウトがそんなロボット、動かせるわけないでしょ!?」
いくら軍事マニアとはいえ、本物の軍人が使うASを操縦できるわけがない。
かなめは宗介の突飛な行動に、本気で危機感を覚えはじめていた。
しかし・・・
宗介「素人・・・?」
彼の顔は暗がりでよく見えなかった。
ただ、彼女には、瞬間彼の目がぎらりと光ったように見えた。
そして、ぞっとするような笑みを浮かべたような気も・・・
宗介「俺は素人ではない。専門家(スペシャリスト)だ」
225
:
藍三郎
:2005/11/26(土) 20:40:44 HOST:YahooBB219060041115.bbtec.net
敵軍のサベージを奪った宗介は、格納庫から外にでる。
外にはすでに3,4機の同型のASや装甲車がこちらを包囲していた。
宗介「戦闘開始だ」
しかし、宗介に表情に焦りの色は無い。
ためらいもなくサベージを、近くにいるASに突進させる。
傭兵「うぉっ!?」
体当たりを喰らい、大きくよろけるサベージ。
宗介は素早く敵機が取り落としたライフルを拾い、
身を起こそうとするサベージに銃弾を撃ちこむ。
宗介機の機敏な動作に、他の兵士たちも動揺する。
その隙を彼は見逃さなかった。
周囲にいるASに銃口を向けると、三発トリガーを引いた。
かなめ「うそ・・・」
格納庫の陰からこっそりと宗介の戦いぶりをみていたかなめは、思わず声をもらす。
宗介はわずか一秒足らずで、敵AS群を沈黙させてしまった。まさに電光石火の早業である。
今も、周囲にいる装甲車を次々と爆炎に包んでいる。
軍事兵器であるアーム・スレイブをやすやすと操縦し、あまつさえこの圧倒的な強さ。
こうなってくると、宗介の言った事を認めざるを得ない。
彼は妄想にとりつかれた軍事マニアなどでは無く、本当に秘密組織の兵士だったのだ。
かなめは呆然とした表情で、彼の戦いを見守っていた。
宗介『千鳥!!』
かなめ「!!」
宗介に呼びかけられ、かなめの意識は現実へと引き戻された。
見ると、宗介の乗るサベージが格納庫の近くに戻っている。
かなめ「やっつけたの・・・」
宗介『当面の敵は退けた。
だが、すぐに増援部隊が出てくるだろう。
その前に基地の外に脱出する。捕まれ』
外部スピーカーで語りかける宗介。そして、かなめの元にサベージの手を差し伸べる。
かなめ「こ、これに乗るの?」
宗介『そうだ。手のひらに腰掛けるように。さあ』
かなめ「でも・・・」
宗介『急げっ!!』
宗介に怒鳴られると、彼女は恐る恐るASの手に乗る。
宗介(相当揺れるだろうが・・・今はこれで我慢してもらうしかない)
サベージは手のひらにかなめを乗せたまま、基地の外へと逃走していった。
226
:
飛燕
:2005/11/28(月) 22:22:53 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
=渋谷 明治通り=
零児達の戦いを傍観していた者達が実は居た。しかも3人・・・だが、その3人は、今、とある人物に追われている。
そして、かつて人通りの多かったとされる<明治通り>と呼ばれる場所まで逃げてきたのだが、追っ手は一向に振り切れる様子が無い。
春麗「待ちなさい!」
青いチャイナ服が一際目立つ女性が、紺のレオタード・・・おそらく、身軽さを追求した格好なのだろう。その3人を追いかけるのは、中国局ICPO捜査官 春麗(チュンリー)である。
キャミィ「・・・目標、高確率で中華人民共和国インターポール捜査官 春麗(チュンリー)・・・ちっ」
機械のような冷徹さを兼ね備え、どのような状況下にも冷静に対応するべく<洗脳>された彼女の口から珍しく、舌の鳴る音がした。当然である。彼女には何かと手を焼いているのである。
ユーニ「状況からして無用な戦闘は避けるべきと断定・・・・このまま、逃走を推挙する」
キャミィ「否・・・おそらくは、この女は逃がさないだろう・・・・ならば、少しずつ弱らせ 完全に 追跡が出来ないようにするだけだ」
とどのつまり、ここで目前のチャイナ服を着たICPO捜査官を始末しようというわけである。
ユーリ「成功確立演算中・・・・確率、84%と判定・・・・了解、その命令に従う」
ユーニ「了解・・・・地理的状況から戦略<コンビネーション27>を推奨する」
ユーニの提案に、残る2名は無言で頷きあった。
春麗「ようやっと止まってくれたわね・・・・さぁ、言いなさい!あの”男”は何処に居るの!そして、貴方達は何が目的でここに来たの!」
キャミィ「答える義務及び教義する必要は無い」
そう吐き捨てると、彼女は身体の重心を低くし、回転を加えた特殊な低空ドロップキック・・・スパイラルアローで、春麗を地上から追い出した。
春麗「ならば、力ずくでも聞き出すわよ!・・気攻拳ッ!!」
足元を滑り込むようにして襲って来たキャミィの攻撃を寸でのところでかわすと彼女が放てる攻撃の中で最大級の破壊力を誇る大技をいきなり出した。
気攻拳、文字通り気攻を相手に放つ溜めを要する技だ。その破壊力は軽自動車を一撃でスクラップにするほどである。だが、それはあくまで地上で放った場合である。
反動が強いので地上で踏ん張って、この攻撃を放って始めてフルの威力が弾き出せるのだ。空中なんかでやれば、当然、威力は半減してしまう。
だが、相手を気絶させる場合となると、話しは別である。反動が空中で分散しきってしまうので、使用者の負担も抑えられるし、何より彼女達を最初からしょっぴいで行くつもりだったので、気絶してくれれば御の字というワケなのである。
だが、キャミィの胸部目掛けて放たれる筈の一撃は大きく軌道を逸らす事となってしまった。
ユーニ「キャノンスパイク」
視界の端から俊敏な動きで繰り出される対空迎撃用の蹴りが春麗の腕目掛けて飛んできたのである。
反射的に手を引き、顔の前で腕を十字に構えた対一転集中攻撃用防御方法<クロスアームブロック>によりユーニの一撃をなんとか弾き飛ばすと、春麗はそのまま両手を着いて着地。
両足を器用に空中で開脚するとそのまま、独楽が軸を中心に回転するように両の手を中心にした遠心力だけの回転による驚異的破壊力の連続逆回し蹴り・・・スピニングバードキックを逆に宙に浮いたままの2人に向かって放った。
今度はユーリが妨害に入ろうとしたが、春麗の一瞬の判断の方が早かった。防御していたにも関わらず2人は、手すりまで吹き飛ばされた。それを確認する前に、春麗は次の目標へと照準を定めた。
春麗「行くわよ!」
227
:
飛燕
:2005/11/28(月) 22:23:18 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
体勢を立て直し、春麗の猛反撃が始まる・・・かと思いきや、突然、春麗の視界からユーリの姿が消えた。ユーリの速度が春麗の反応速度よりも一瞬だけ上回った結果である。
この驚くべき事態に思わず、春麗の動きがつい止まってしまった。
春麗「しまっ・・」
ユーリ「エアスパイラルアロー」
振り向く間も無く、春麗の背中が弾けた。ユーリの一撃がもろに決まったのである。
春麗「かはっ!?・・・」
そのまま、体勢を戻す間も無く壁面に華奢な身体が叩きつけられた。
大きく壁面に亀裂が走り、力なく春麗の身体が崩れ落ちた。苦悶の表情を浮かべ、なんとか立ち上がろうとした。だが、神経が言う事を聞かない。
おそらく、大きな衝撃を受けすぎた為に一時的に身体の神経が麻痺を起こしているのだろう。それでも、なんとかほふくしながら壁に寄りかかり、立ち上がろうとした。
朦朧とする意識をなんとか保とうとする春麗の目に、更に追い討ちをかけるような光景が入ってきた。背中を鉄の塊で出来た手すりに目一杯強かに打ち付けられたにも関わらず、平然とした素振りでキャミィとユーニが立ち上がったのである。
ユーリ「援護が予定より1.64秒遅れた。すまない」
ユーニ「構わん。2人が囮になって一人が隙を突いて仕留める・・・・その為のコンビネーション27の筈だ」
キャミィ「そうだな。それに作戦としては、結果は良好と言えるだろう」
服についた汚れと埃を払い落としながら”キラービー”達は、呻き声を上げる目前の女性を見下した。冷徹なその目つきは明らかに氷のように凍てつく殺意がそこにあった。
キャミィ「それでは、殲滅を開始する」
ユーニ「了解」
ユーリ「了解」
キャミィの言葉を合図に、ユーリ達は春麗の前後の方向へそれぞれ走っていくと、そのまま這い蹲っている春麗目掛けて同時にスパイラルアローを放った。
よく見ると、ユーリ達の位置が微妙にずれていたりする。これはおそらく、同士討ちを避ける事と、相手を確実に”浮かせる”為であろう。
そして、四肢の神経が麻痺している春麗がこの妙技を避けられる筈がなかった。まるで、犬か何か小動物が車に撥ね飛ばされたかのように春麗の身体は2人の頭上を一気に飛んでいった。
春麗「ひぐぅっ!・・・・」
呼吸が出来ない
最悪だ。かなり打ち所の悪い一撃を貰ったらしい。余りの痛みに激痛が全身を襲い、春麗の呼吸が止まり掛けている。そして、留めと言わんばかりに、キャミィの身体が空高く飛んだ彼女目掛けて、実に軽捷な動きで迫ってきた。こういう狭い路地でこそ生かせるキャミィの必殺技。
壁から壁へと蹴った反動で、そのまま水平に移動。そして、その直線状に打ち上げられた相手を、蹴りの応酬を浴びせる、言わばデンプシーロールの変則蹴りver.。それが、この技・・・。
キャミィ「キラービー・アサルトッ!」
3,4・・・6.7と無残にも、成す術も無い春麗の身体がどんどんと打ち上げられていき、最後に、止めとばかりに踵落しを腹部に叩き込んだ・・・その筈だった。
―― ズドォオオオオオォォォ・・・・ ――
突如、する筈のない大音響・・・銃声にキャミィが驚き、攻撃の手を止めたのである。そのまま、身体を丸めながら着地。続けて、ユーニとユーリが銃声のした方向へと顔を向け、臨戦態勢を整えた。
そこには、仁王立ちの姿勢且つ片手で散弾銃を構えた赤いジャケットを着た男。
その男の蔭からひょっこりと顔を覗かせた赤いチャイナの少女。
ブルーのラインが入ったローブと珍しい格好をした少女。
袖の長い青色のクロスと短めのスカートと結構栄える格好をした20代頃の女性。
以上の4名がそこに立っていた。
零児「銃声で聞こえなかったかもしれないが、もう一度だけ聞く。貴様等は、何者だ?」
小牟「先程の動きに、あの速度・・・・並みならぬ人間としか言えぬぞ?」
慌てて、ドリス達が地面に横たわる春麗へと走っていったのを横目で確認しながらも、零児の声からは一瞬の隙さえも無かった。
キャミィ「目標、誘拐対象人物。 アリス レイジ と認識・・・・」
ユーリ「染色体情報確認・・・・97%の確率で目標と認証・・・・」
ユーニ「他の3名の女はどうする?」
キャミィ「・・・・ついでだ。これ等も、捕捉する事を推奨する」
ユーニ「異存はない。了解・・」
ユーリ「同じく異存はない、了解・・」
228
:
藍三郎
:2005/11/29(火) 21:04:05 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco13.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
かなめを連れて基地を脱出した宗介のサベージは、
森林地帯にある川に差しかかっていた。
宗介(そろそろ救出作戦が開始される時刻だ。
このまま森を抜けて、味方部隊と合流できればいいが・・・)
周囲に注意を払いつつ、川を渡ろうとしたその時・・・
森から一発の弾丸が飛んできた。
それを見て宗介は戦慄した。
あの弾頭はグレネード弾・・・半径数十メートルを焼き払う高性能の爆弾である。
あれが炸裂したら、この機体はともかく手に乗っているかなめはひとたまりも無い。
宗介「しまっ・・・!」
グレネード弾はサベージの目前に落ちた。
爆発からかなめを庇おうと、機体の背を向ける。
その直後、機体の右足、膝から下が吹き飛ばされた。
それによってサベージは川に倒れこみ、その手からかなめは放り出され川に落ちる。
かなめ「きゃっ!!」
宗介「千鳥っ!」
残った手足で機体を起こす宗介。そして、彼は気づいた。
グレネード弾は爆発していない。右足を撃ちぬいたのは敵の狙撃によるものである。
つまりグレネードは、こちらの動きを止めるための囮…
闇に潜む狙撃手に対し、抵抗を試みる宗介だったが、
敵はそれよりも早く正確無比な射撃を見舞ってきた。
右腕と脇腹を吹き飛ばし、胸部の電子装置と腹部のジェネレーターをえぐりとる。
あっという間に戦闘不能においやられ、大破したサベージは、川の中に倒れこむ。
宗介「ぐ・・・」
装甲板を破壊され、露出したコクピットの中にいる宗介も、激しい負傷を負っていた。
額からは血が流れており、脇腹には深い傷が口を開けている。
かなめ「さ、相良くん?」
宗介「来るな!下がっていろ!」
川を泳いでくるかなめに対し、宗介は叫ぶ。
やがて、暗闇の中から、狙撃手が姿を見せる。
スマートなデザインをした、銀色のASが宗介の前に立ちはだかる。
これまでにまったく見たことも機種だった。
ガウルン『川に来るまではいい動きだったな』
スピーカーから声がした。ガウルンのものである。
ガウルン『しかし、そこから先がいただけない。こちらが欲しいのはその娘だ。
本気でグレネードなどブチこむと思ったか?』
宗介「・・・もっともだ」
ガウルン『はん、あのときの生徒か。まさか高校生のエージェントとはな。
さすがに俺も騙されたよ。お前も“ミスリル”の・・・ん?』
サベージから見える宗介の顔を見ていたガウルンは、ここで何かに気づく。
そして、肩をこ刻みに振るわせると突然笑いはじめた。
ガウルン『ははは・・・くははははは!!』
これはたまげた・・・!おまえ、“カシム”か!』
“カシム”とは、かつでの宗介の呼び名である。
ガウルン『まるで気づかなかったぞ。お前が“ミスリル”にいたとはな・・・!
カリーニン“大尉”はどうした?あの腰抜けも元気か!?』
宗介はそれには答えず、不快な表情で問いかける。
宗介「なぜ貴様が生きている」
ガウルン『くくっ。昔の負傷で頭蓋骨にチタンの板を埋めこんであったもんでね。
角度も浅くて俺は助かった。しかし・・・うれしいね。
こんな形で再会できるとは。イイよ、最高だ』
宗介「随分と陽気になったな。ガウルン」
ガウルン『おかげでなぁ!あれからいろいろあったんだよ。
くっく。聞かせてやりたいことは山ほどあるが、時間も無い。
てめぇを始末してその娘の脳みそをいじり回す仕事があるんでな。
ちょっとした宝探しだよ』
憎悪の混じった懐かしさからか、ガウルンは饒舌になっていた。
宗介「何の話だ」
ガウルン『その娘の頭には<存在しない技術(ブラック・テクノロジー)>が詰まっているのさ。
ラムダ・ドライバの応用理論とかな。
完成すれば、核兵器さえ無意味になるかもしれんそうだ』
宗介「なに?」
ガウルン『知らないみたいだな。なら、知らないままあの世に逝くといい。じゃあな』
そう言ってガウルンはカービン・ライフルの引き金を引こうとする。
かなめ「やめ・・・」
かなめが叫ぼうとした瞬間、爆音が鳴り響いた。
だがそれは、ライフルの発射音ではない。
ガウルンのライフルが、どこからか飛んできた射撃によって真っ二つに折られた音だった。
229
:
藍三郎
:2005/11/29(火) 21:07:15 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco13.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地=
セン「さぁ皆!走って走って!!」
デカレンジャーやミスリル兵士達の陽動に従い、
陣代高校の生徒たちは次々に輸送機の中に入っていく。
電撃攻撃を食らった基地の敵勢力はほぼ壊滅状態になっており、
救出作戦は順調に進行していた。
バン(この調子ならタイムリミットぎりぎりには間に合いそうだな・・・)
その時、ふとバンの目に互いに何か話をしている二人の姿が映った。
ジャスミンと二十代ぐらいの若い女性、恐らくは教員の一人だろう。
この急いでいる時に何を話しているのか?気になったバンは彼女らの側に向かう。
バン「おい、どうしたんだジャスミン」
ジャスミン「バン、実はこの先生のクラスの・・・」
ジャスミンが説明しようとすると、それに代わって神楽坂恵里が必死の態度で訴えた。
神楽坂「生徒がふたり、まだこの島に残っているんです!
一人は犯人たちに連れ去られちゃって、
もう一人はいつの間にか教室からいなくなったきりそのままで・・・」
バン「何だって!?」
バンはその事実に衝撃を受ける。この場にいない生徒がまだいるという。
しかし、だからといってその2人の救助を待ち、
輸送機の発着を遅らせることはできない。
ことは500名の人命に関わる大事なのだ。
わずかな時間の遅れも深刻な事態へと繋がる。
数秒黙考した後、バンが出した答えは・・・
バン「わかりました。俺がその生徒2人を探しに行きます!」
神楽坂「え!?」
バン「ですから、先生は早く飛行機に乗ってください!
俺が必ず2人を助けてきますから!」
ジャスミン「ちょっと、バン!輸送機はもう1分足らずで出発しちゃうのよ!
敵の増援も来るでしょうし、再び救助が来る保証なんて・・・」
バン「だからってほっとけねぇだろ!俺はスペシャルポリスだ!
たとえ2人でも、助けを求めている人がいる限り、俺は行くぜ!」
今にも駆け出そうするバンに対し、後ろから声をかける者がいた。
ホージー「待て、バン!」
バン「何だよ!このまま見捨てろっていうのかよ!!」
ホージー「誰がそんなことを言った!俺も島に残る」
バン「え・・・!?」
ホージーの意外な言葉に面食らうバン。
ホージー「スペシャルポリスは、常に任務をパーフェクトに遂行しなければならない。
俺達がボスから課せられた使命は、人質全員の救出・・・
救助者を一人でも残せば、任務をコンプリートできたとは言えん
お前一人にその大事な任務を任せるのは、少々心もとないからな」
皮肉をこめた言い方だが、ホージーの心もバンと同じだった。
普段クールに構えているホージーも、
バンと同じく助けを求める人を見捨てられない、熱いデカ魂の持ち主なのである。
バン「へ・・・そうこなくっちゃな!相棒!」
ホージー「相棒って言うな!」
いつも通りの返事を返すホージー。
ホージー「そういうことだ。輸送機の方は任せたぞ」
残った3人に語りかけるホージー。
人質全員を収容し、輸送機はすでに離陸寸前の状態にあった。
セン「ああ、みんなを本土に返し次第、すぐに助けに行くよ」
ジャスミン「2人とも、無事でね」
そう言い残し、輸送機に乗りこむ3人。
轟音を立てて、輸送機が島から離陸したのはそれからすぐのことであった。
230
:
飛燕
:2005/11/29(火) 21:20:45 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
その頃、北欧大陸の廃屋街の地下では・・・
クラウス「成程・・・・過去の亡霊と手を繋いでいるとは・・・そこの義仲さんが言うように、貴方は”狐”なのかもしれないですね」
不利な状況にどんどん追いやられてゆく・・・こうなっては、一時撤退が相場なのだが、生憎とあちらさんはどうにも自分を素直に逃がしてくれそうも無かった。
義仲「”さん”付けなどせずとも良い・・・・どうせ、これから命を狩られる者の言葉なのだからな!」
どうやら、この目前の生ける死者はサディスティックな性格らしい。言葉によって相手を怒らせ、時には動揺させて、次に暴力によって甚振るのが彼の流儀だった。
だが、杖を構えた青年はさして、気にも止めなかった様子で切り返してきた。
クラウス「成程・・・・”三途の川に送り返される”のだから、丁寧な言葉遣いをせずとも良いという事ですね?ならば、そのお言葉に甘えさせてもらいましょうか?」
少し、義仲の眉が吊り上がったのがクラウスの瞳にはっきりと映った。
義仲「若輩者めが・・・・甚振りながら殺してくれようかと思うたが、貴様はもっと傷めつける必要があるみたいだな。貴様から先に地獄の特等席へと招いて進ぜよう!」
奇声を上げながら義仲の刀がクラウスの首を刎ね飛ばす為に逆袈裟斬りを見舞ったつもりだったが、刀身はクラウスの髪の毛先すらも当たることなく、空を斬った。軽やかなバックステップで回避してのけたのである。間を置かず義仲が第2撃を振るおうとしたが、それよりも早くほぼ一息で詠唱を終えていたクラウスの姿が義仲の目に映った。
< 猛き焔よ 凍原の霜ですら溶かす、その狂暴なる獄炎よ 我が命に従いたまえ >
嫌な予感が義仲の本能へと警告を告げた。刀を攻撃のために振るうのではなく防衛の為に、後退しながら目の前で円月の形に空を切り裂いていった。
瞬間、クラウスの命により生み出された獅子の形をした炎の塊が義仲目掛けて狂い襲いかかろうとした。
だが、義仲の防衛の方が早かった。真っ直ぐ突っ込んで行った炎獅子は、真空状態の『輪』に捉まったかと思うと、そこでふっと消えてしまったのである。
クラウス「なっ!?」
クラウスが驚くのも無理は無い。そもそも真空状態となると当然、酸素等も無い空間の事を指す。
少し補足という点で発火現象についても述べよう。発火現象とは、着火源と燃料又は燃焼物、そして『酸素』が必要となる。このどれか一つでも欠けてしまうと、物質の定理における炎や火炎は存在出来なくなってしまうのだ。
着火源と燃焼物の問題を魔力によって解決させるという非科学的方法での攻撃であったが、燃焼を助ける存在の酸素が無ければ、二酸化炭素の塊になるのが関の山である。
義仲「危うい危うい・・・・流石に骸とはいえ、焼き殺されるのは勘弁願いたいからな」
クラウス「そうですか、ならば!・・」
詠唱をする直前、クラウスの鼻先を何かが高速で走り過ぎて行った。沙耶の持つショットガンから発射された散弾丸である。
沙耶「あらん?私の事をお忘れじゃなくて?」
クラウス「そういえば、忘れていましたよ・・・・出来れば静観して欲しかったのですけどね?」
義仲「フン!世の中、そんなに甘くは無いという事だ!面妖な術を使う奇術師よ!!」
源氏の武士の咆哮が仄暗いホームに響いて間も無く、いきなり上から凛とした声が響いてきた。
???「・・・・それはこっちの台詞だ」
231
:
飛燕
:2005/11/29(火) 21:21:34 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
―― 粉砕 ――
人が大の字になってもまだ此方の字の方が大きく見える。そんな文字が突如、天井に白い光りと共に浮かび上がった瞬間、天井を覆っていた暗黒が眩い地上の光りで埋め尽くされていった。
そして、落ちてくる僅かな塵と同時に2人の男女が降りてきた。天上家の現家長と、長女である。
クラウス「界魔君、輪廻ちゃん!どうしてここが・・・」
界魔「普通、トイレになんか行くのに”なるべく”なんて言葉は使わないからね。なんとなく、嫌な予感はしていたんですよね・・・・」
右手に持ったかなり草臥れた古筆を構え、既に臨戦態勢に突入している界魔はクラウスの言い残した歯切れの悪い言葉を摘発した。
クラウス「そういえば・・・・そうでしたかね?」
そういえば、そんな事も言ったような気がするが、この状況下での増援は有難い。勝てない事も無いのだが、こう詠唱を一々中断させられては決着の着く勝負も着かないというものである。
輪廻「追求するのは・・・後。それよりも・・・・貴方達、何者?」
そうである。今、このように話している間にも、目前の白髪鬼はじりじりと距離と間合いを整えつつある。おそらく強い・・・それも油断がならない程にである。
余り、悠長に事を構えるのは得策ではないと判断した輪廻は沙耶に呪符を突きつけながら詰問した。
沙耶「あんw自己紹介ね?私の名前は・・」
輪廻「却下。私が欲するのはお義兄ちゃんをどうやったら、オトせるかの情報のみだから・・」
即答だった。0・コンマあるかないかというぐらいの即答であった。しかも、目が据わっているから余り笑い事ではない。
界魔「一寸待て、輪廻?」
こんな状況でそれを言うか?天然なのか、それともわざとか・・・いや、今更それを聞くまいて。頭を抱えながら、界魔は輪廻を止めた。
界魔「目的の趣旨が変わってる。ちゃんと元に戻してくれ・・・・」
クラウスが意地悪そうな笑みを向けているのを背中越しにちゃんと分かっている界魔は輪廻に懇願した。
輪廻「冗談に決まってるじゃない・・・・お義兄ちゃんw」
とても冗談を言ってる顔に見えなかった、とは誰も言わなかった。俗に言う、「流された」である。
クラウス「そういえば、あの化物・・・バグシーンとか言いましたけど、もう一度尋ねます。襲撃を止めてはくれませんか?」
沙耶が答えるより先に、鎧甲冑を纏った”白鬼”が口を開いた。
義仲「くどい。貴様等は我が刀の錆となるか、あの面妖な怪物共 ばぐしぃん とやらの餌食となるかのどちらかしか道は無いのだ」
好戦的な態度で挑んできた男に対し、既に筆を構えた界魔との間にソレが割り込んできたのは直ぐの事であった。
ブーメランのような形状をしたソレはいきなり現れて、跳び上がり界魔に斬りかかろうとした義仲を刀もろとも弾き飛ばしたのである。
クラウス「・・・・どうやら、乱入者はまだ増えそうですねぇ」
界魔がぶち開けたホームの天上を見上げながら、クラウスは溜息を漏らした。
そこに立っていたのは、先程のブーメランと非常に良く似た物を3つ所持した、何か特撮のスーツを着たような女性であった。だが、なんとなくそれと似たような物を着た格好に変身し、戦う漢達をその真っ直ぐな瞳に焼き付けた事のある界魔はぽつりと呟いた。
界魔「仮面・・・・ライダー?・・・」
だが、そこに立っているのは似ているようで全く違うものだった。人々の為に闘い続けたという点だけは、一致しているのだが、それをこの時点で彼らが知る由も無かった。
セラ「そこのジャパニーズサムライ?・・・・今、言った言葉をもう一回言ってみなさい? バグシーンが何ですって?」
232
:
藍三郎
:2005/11/29(火) 21:30:06 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco13.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=森林地帯=
クルツ『イィィィィ・・・ヤッホ――――ッ!!』
クルツのAS・M9ガーンズバックは、
大型ライフルを乱れ撃ちしながら宗介たちの目前に着地する。
クルツ『ウルズ6、着地成功!7と天使もここにいるぜ!』
言うなり、目前のガウルン機に向けて発砲。
ガウルンの駆るAS“コダール”は、回避運動をとりつつ後退する。
宗介「クルツ!」
クルツ『ソースケぇ、動けるか!?』
宗介「何とかな・・・お前がここに来たということは・・・」
苦痛をこらえ、宗介はコクピットから這い出す。
クルツ『ああ、もう救出作戦は始まってる!
いいかソースケ。カナメを連れて基地へ走れ!こっから南の方角だ!』
宗介「基地へ?」
クルツ『後少しで、AS部隊用の輸送ヘリが離陸する。
待ち時間は5分だ。ここは俺にあずけろ。後で拾ってやる』
宗介「わかった。銀色のASに気をつけろ。機体もオペレーターのケタ違いだ」
クルツ『心配すんなって。ケツを蹴飛ばしてやるぜ』
そう意気込みながら、敵機と対峙するクルツ。
宗介はそれを横目に、川にいるかなめと合流して森の中に入っていった。
233
:
アーク
:2005/11/30(水) 15:49:28 HOST:aa2005060632061.userreverse.dion.ne.jp
=北欧大陸の廃屋街付近=
精霊の導きにより時空を超えた人達がどこにいるか分かったマグナスは廃屋になった街を眺めていた
マグナス「何とまぁ凄い状況のようですねぇ。地上の方は申し分ありませんが地下の方は少し厄介ですね
何処の何方かは知りませんが争いは止めた方がいいのに」
そう言いながらマグナスは独り言のように言いながら廃屋の街へと歩いた
???『この邪な気配は何だ水の』
謎の声を聞いたマグナスは慌てる事もなく答えた
マグナス「さぁ?私には分かりませんよクロノス。大体興味がなかったのでは?」
クロノス『それはこの地に住む者達の事だ。だが異界から来た者達は興味深い
そいつらと一緒にいる邪の心を持つ者達もな」
マグナス「貴方が興味を得るとは相当の手誰達のようですね。これは私も退屈せずにすみますよ」
クロノス『そう言うわけで体を俺に渡してくれないか?』
クロノスの言葉にマグナスは一瞬足を止めたがまた歩き始めた
マグナス「冗談はよして下さい。この体は今は私の物ですよ。いざと言う時は呼びますから
それまでは皆と一緒に静かに待ってて下さいね」
クロノス『ちっ、止む終えまい。だが忘れるなよ邪の心を持つ者は俺の獲物だからな』
マグナス「はいはい、分かっていますよ天のクロノスさん」
クロノス『分かればよい水のマグナス』
謎の会話を終了したマグナスは一瞬にして姿を消した
234
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/01(木) 18:59:41 HOST:p4054-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=トレジャーベース・ムサシの部屋=
チームEYES(アイズ)。それは、国際的化学調査組織『SRC』の精鋭メンバーたちで構成された、救助活動、怪獣の捕獲、または保護、超常現象の調査に至るまで幅広い活躍をする、エキスパートチームのことである。
そして最近、チームEYESの一員として新しく配属された青年がいた。彼の名は『春野ムサシ』。そんな彼は今のところ、SRC本部として製造された人工島、『トレジャーベース』の自分の個室で・・。
ムサシ「・・zzz・・。」
・・・、すやすやと寝ていた。(汗)・・しかし、それも仕方ないことである。日頃から調査やら何やらで忙しいのがチームEYESであり、ムサシはまだ入ってから間もない。疲れがたまりやすいのは当然というものであった・・。さて、そんな彼に、夢の中で語りかける者がいた・・。
=ムサシの夢の中=
ムサシ「・・、あれ?どこだ、ここ??」
なぜか急に周りが真っ暗な空間にいることに、戸惑いを隠せないムサシ・・。すると・・
?『・・、ムサシ。』
ムサシ「!この声・・、『コスモス』?」
ムサシがそうつぶやくと、ムサシの目の前に、青き巨人が現れた。この巨人こそが、『優しさ』と『強さ』を兼ね備えた勇者、『ウルトラマンコスモス』である。そしてムサシは、幼い頃にコスモスと友達になり、今ではふとしたことから彼の力を借りて、様々な事件を解決してきたのである・・。
コスモス『すまない、ムサシ。君が眠っている最中に・・。だが、どうしても君に伝えたいことがあるのだ・・。』
ムサシ「伝えたい・・、こと?」
ムサシがそうつぶやくと、コスモスは小さくうなずいた。
コスモス『・・実は、少し前から、この世界とは別の世界から来た人々がいるようなんだ・・。』
ムサシ「べ・・、別の世界・・?」
コスモス『ああ・・。私はわずかだが、ここ数日、時空の乱れを感じた。恐らく、次元を跳躍した者達がやってきたために起きたのだろう・・。』
ムサシ「へ〜・・、異次元の世界の人たち、か・・。どんな人たちなのかな?」
コスモス『それは私にも分からない・・。ただ、なぜか嫌な予感がするんだ・・。』
ムサシ「いやな・・、予感?」
コスモス『そうだ。何かとてつもない事が起きる、その前兆のような感じがするのだ・・。私の勘違いだったらいいのだが・・。』
ムサシ「・・、コスモス・・。」
コスモス『・・、すまない、ムサシ。こんな話をして。』
ムサシ「あ・・、ううん、いいって。気にしないでよ。」
コスモス『・・、ありがとう。じゃあ、私はそろそろ・・。』
そういいながら、コスモスは一瞬で姿を消した・・。
ムサシ(・・、コスモスがあんなに不安になるなんて・・。『何かとてつもない事』、か・・。)
夢の中で、ムサシは真剣に考えるのであった・・。
235
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/03(土) 03:24:57 HOST:p1062-ipad02okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=モチノキ中学校・廊下=
?「・・?清麿?どうしたのだ〜??廊下に仰向けに寝てたら風邪を引くのではないか〜??」
とりあえず、清麿の頬をぺし、ぺしと軽く叩くバッグを着ている金髪の男の子・・。
立花(な・・、何なの、この子は?高嶺先輩の知り合いみたいだけど・・(汗))
先ほどのあまりに登場で、気持ちをクールにできず混乱気味の立花・・。その後、何とか落ち着かせて、金髪の男の子に質問した・・。
立花「・・ねえ、あなた、名前は??高嶺先輩の知り合いみたいだけど・・。」
?「ぬ・・?お主は誰なのだ??」
立花の呼びかけに反応した金髪の男の子。その反応を見て、相手が子どもとあってか、立花はすこし微笑みながら自己紹介をした。
立花「あたしは藤堂立花っていうものよ。高嶺先輩より一つ年下の後輩、ってところね・・。」
?「うぬ・・、立花殿か。私の名前は『ガッシュ・ベル』と申す。清麿の友達なのだ!!」
金髪の男の子、ガッシュは元気そうに立花に対して答えた。すると、なにやら恐ろしいオーラを感じる二人・・(汗)。
清麿「・・ぐぁ〜っしゅぅぅ・・・(ガッシュ〜・・・)。」
それは、先ほどのガッシュの体当たりでしばし気絶させられ、怒りが頂点に達した清麿であった・・。
そして清麿は、きっつーいゲンコツをガッシュにお見舞いした・・。
ガッシュ「ぬぉぉ!?い、痛いではないか、清麿ぉ!!」
清麿「やかましい!!何でまた勝手に学校に来てるんだよ!?」
ガッシュ「よいではないか、公園はナオミちゃんがいて遊ばせてくれないのだ〜!!(泣)」
清麿「ええ〜い、だからって、学校に来るなって、いつも言ってるだろうが〜!!」
ガッシュ「うぬう!清麿の白状者ぉ!!」
清麿「あほか!?なんで白状者呼ばわりするんだよ!!」
そういいながら、二人は取っ組み合っていた・・(汗)。
236
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/03(土) 03:35:01 HOST:p1062-ipad02okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
立花は最初あっけに取られていたが・・、二人の光景を見ていて思わず止めに入った。
立花「ま・・、まあまあ、高嶺先輩。少しは落ち着いてください。ガッシュ・・、だったわね。あなたもあなたよ。」
清麿「・・、わりいな、藤堂。つい、興奮しちまって・・。」
ガッシュ「うぬう・・、私も、ちょっと悪かったのだ・・。」
とりあえず、何とか騒動は収まった・・。その後、きちんと帰るよう清麿はガッシュにきつ〜く言って、その言葉にしぶしぶながら従って帰っていくガッシュ・・。
清麿「・・やれやれ。あいつには困ったもんだぜ・・。」
ため息をつきながらそうつぶやく清麿。
立花「・・、あたしの家にも、あの子みたいな元気がとりえの妹がいるから、気持ち、わかりますね・・(汗)。」
何だか清麿が自分みたいな苦労をしてるのを想像して、『この人も大変そうだ』と感じる立花であった。
清麿「そっか・・。あ、そうだ、これ。一応、全部集めたから。」
そういって、散らばった資料を立花に渡す清麿。
立花「どうもすいません、高嶺先輩。」
清麿「いいって。・・んじゃな!」
そういいながら、清麿は廊下を走っていった・・。
立花「・・、高嶺先輩、何だか、あのガッシュって子のおかげで、前向きになれたっぽいみたい・・。」
なぜかふと、そう感じる立花であった。
237
:
藍三郎
:2005/12/03(土) 09:15:38 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=秘密基地=
マオ「いちばんの厄介事は片付いたね・・・」
離陸していくジャンボ輸送機を見上げるマオ。
まだ油断はできないが、とりあえず作戦の主目的は達成できそうだ。
あとは自分たちAS部隊もAS輸送用のヘリに乗りこみ、
速やかにこの島から撤収すればいい。
マオ「ウルズ6、まだなの?早くソースケたちを連れてきな」
マオは単機でかなめと宗介の救援に向かったクルツのガーンズバックに通信回線を開く。
もうまもなく敵の援軍が現われるだろう。
そうなる前に、も島を離れなくてはならないのだ。
だが、クルツからの応答は無かった。
マオ「ウルズ6、応答せよ。ウルズ6」
何度も呼びかけるマオ。それでも返事は無い。
マオ「クルツ、こんな時にふざけてんの!?怒るよ!」
それでも、クルツは応えなかった。
そして無情にも、マオ機の元に敵増援部隊出現を告げる報がもたらされた。
238
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/04(日) 12:13:08 HOST:p3243-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
マオ「待って。ウルズ6からの連絡がないわ。ソースケとエンジェルも・・」
エンジェル(天使)とは、ミスリルが定めた『千鳥かなめ』に対してのコードである。
増援の知らせを受けながらも、もう少し留まっていたいマオ。だが、そんな彼女に最悪ともいえる知らせが届く・・。上空を警戒していた攻撃ヘリのパイロットからの通信だ。
パイロット『・・、こちらテイワズ12。今、M9の残骸を発見した。ウルズ6のものと思われる。基地の北の川だ。』
マオ「・・・、なんだって・・?」
それを聞いて、マオは青ざめた。確かに普段のクルツはお調子者の女好きで、黙ってれば美形のクセに何かと言う事が下品な奴だが、彼とてミスリルSRC班の一員。ASの操縦だって並外れたものである。そして、乗っている機体は通常のASを遥かに凌ぐ性能を有する、最新鋭の機体、M9だ。よほどの油断がないかぎり、やられるなんて、考えられたものではない。
パイロット『見るからにバラバラだ。胴体も真っ二つになっている・・。』
胴体・・、つまり、コックピットの部分だ。
マオ「お・・、オペレーターは無事なの!?」
思わず少し興奮気味で質問するマオ。
パイロット『確認できない。視界がひどくて・・・』
マオ「オペレーターを探して、ウルズ6を。ソースケは?」
パイロット『・・、マオ。俺もそうしたいが、クルツやソースケを捜索している時間はない・・。』
マオ「一分でいい。あたしもそっちに・・」
クルツ達の探索に行こうとしたマオだが、それをさえぎる声があった・・。
カリーニン『捜索は厳禁する。ただちに撤退せよ。』
マオ「少佐!?」
マオたちの上官である、カリーニン少佐からの通信であった・・。
239
:
飛燕
:2005/12/04(日) 22:39:43 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
=廃屋街・地下=
義仲「おなご・・・か?面妖な格好をしておるが?・・・」
眩い陽光が差し込んできて目が慣れるのに多少時間を要したが、降りてきた人間が女性である事をようやく認識した。一同の中で、逸早くその事に義仲が気付けたのは、やはり死人だからであろうか。
続いて、男性にしては胸の不自然な膨らみと、清んだ声色からして女性と沙耶が認識出来たのは彼女が此方へ自動拳銃の照準を向けてからである。
沙耶「あらあらv貴方が言えた義理かしら?悪いけど貴方が、三途の川でお寝んねしている間にどれだけの歳月が流れたと思うの?」
だが、銃口を向けられても平然と沙耶は義仲へと言葉を返した。普通に人間の頭を・・・脳漿と大半の頭蓋骨を辺りに四散させるだけの破壊力を持つ、銃を突きつけられても、けろっとしている沙耶の態度が癪に障ったのであろう。
バイザー越しの警告が先程のものよりも大きくなって、ホームに響いた。
セラ「質問に答えなさいッ!最近のバグシーン騒ぎは貴方達が原因なの!?」
本来、ピープル達に銃器を・・・対バグシーン用の物を向けるのは御法度(先保の義仲への攻撃は界魔が斬られるのを防ぐためなので例外)であるが・・・彼等は『人間』ではないと、セラの本能が叫んでいた。
そして、問い掛けの答えが返って来るのにそう時間はかからなかった。まぁ、答えたのが口が堅ければ頭も固い源氏の侍ではなく、口が軽い沙耶だったからというのが最大の理由だろう。
沙耶「ええ、そうよ?今月の頭から、計71件。そして、実際に見つかっちゃってメディアに報道までされたのは20件弱・・・・私がやった事よ?彼は・・・そうねぇ、さしずめ私の助手かしら?」
最後の言葉に憤慨な態度で開口しようとした義仲であったが、沙耶が先に「大体、貴方の身の上話なんかしたって彼女が信じると思って?なら、嘘でも、そういう情報をくれてやった方が話す手間が省けてよいと思うけど?」
実にごもっともな意見である。クラウスに名乗ってから述べ10分も掛かっていない。一々、新しい乱入者が来る度に名乗っていたのでは面倒である。
それに、彼女に自分達の姿を見られた以上、なるべくならば<始末するべき>である。目前の、少年少女と魔術師諸共、屠るだけ。変わった事といえば、血塗れの肉達磨が1体増えるだけの話しである。
義仲が不適な嘲笑を浮かべるのと同時に界魔が前方へ跳躍。セラの横へ並びながら声をかけた。
界魔「誰かは知らないけど・・・・下がった方が良い。こいつらの殺気、貴方でも分かるだろう?」
沙耶はともかく、背中が焼けるように熱い殺意に思わず嫌な汗が流れてきたが、それを拭おうともせずに界魔は忠告をした。だが、界魔に返ってきた言葉は彼の予想通りであったと同時に苛立ちのあるものだった。
セラ「それはこっちの台詞よ。ピープルは早く逃げて!幾ら、アムドライバーといっても、貴方達3人を庇いながら戦っていたのでは・・」
叱咤するような声が界魔達にかけられたが、彼等は少しも身動ぎしなかった。
界魔「やっぱり・・・・ライダーっていうのは、他人の事を第一においているな」
輪廻「・・・お義兄ちゃん?」
界魔「何でもないよ、輪廻。生憎と無用な闘いはしたくないけど・・・あちらさんはそうもいかないみたいなんでね」
散弾銃を再装填(リロード)しつつある沙耶と、先程から刀を不動の構えで止めている義仲の姿を顎でやりながら界魔はセラの勧告を無碍にした。
セラ「な、いいから!早く行って!」
クラウス「ご心配なく、お嬢さん。生憎ついでに、私達も普通の人間とはちょっと身体能力は強い方ですからね・・」
240
:
飛燕
:2005/12/04(日) 22:40:15 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
< 咎人の罪状を清算せし稲妻よ 目前に控えし悪鬼共の罪を焼き尽くせ >
クラウスの謳うような律の整った声がホームの中で反響し合った。それに続いて、輪廻も声を揃えるように唱えた。
< 天心伍雷正法創始者 伏羲とその弟子、天上 輪廻の意に従え 呪符達よ >
ぶわっ! 輪廻の細い指の間から紙切れが突然、羽ばたいた。白鳥が羽ばたいた瞬間、飛び散る数本の羽毛のように、セラの目には映った。
クラウス&輪廻「「 散・雷・撃ッ!!(弾火ッ! 砲水ッ! 斬金ッ!行ってぇ!!)」」
2人の声が重なった瞬間、何かの分子が急速に集束していき形作っていくのがセラには見えた。間も無く、ホームは大音量の雷電と水道管が破裂したような水の破裂音と水が急激に蒸発する音だけがホームを制した。
濃霧のような蒸気に包まれ、鋭利な金属と化した紙切れと無数の横にのびる稲妻に遭いながらも沙耶は焔と呼ばれる刀一本がお釈迦。義仲は両の具足を肩当を失っただけに終わるだけだった。
義仲「フッ・・・霧に乗じて、我らを襲おう等とはな・・・考えは良かったがな!」
もやと粉塵がその場を制していた。にも、関わらず、義仲は一人の人間へとその刃の照準を定めた。セラの隣に動いてから、全く動いていない青年へである。
義仲「・・・死人(しびと)には通用せぬわぁッ!!」
取った――。血飛沫が、粉塵を赤く染めると確信していた義仲であったが、次の瞬間それは驚愕へと変貌した。
大気の掠れたような悲鳴と共に狂喜している不吉な影が落下し、鈍く輝く日本刀が界魔の頭部を西瓜のように真っ二つにしようとした、正に寸前。界魔の口と両手が動いた。
界魔「先刻、承知済みだ。そんなのはな・・・・」
義仲「ッ!?」
ゆっくりと落ちついた動作にしか見えなかったのだが、界魔の両手は義仲の兇刃を捉えていた。否・・・捉えた、というよりも挟んだと言った方が正しいだろう。
義仲が界魔の位置を捉える前から瞑っていた目をゆっくりと開くと、界魔は口を開いた。
界魔「あんたからは死体の独特の腐臭が漂ってる・・・・微かにだけどね。だからこうやって”あらざる者”に対する対応をしているわけだ」
義仲「ぐぬ・・・・ぬぬぬ・・・・」
動かない。無刀取り・・・別名、真剣白刃取りをされており両手が塞がってるので脚を使った攻撃をすればよいのだが、義仲の頭はこの時点ではそこまで回らなかった。
押したり引いたりなんとか、この小童の手中に納まった刀身をなんとか脱出させようと必死になっていた。
界魔「家訓、曰く ―― 恩は2倍、又は出来る限り そして怨みは十倍にして返せ ――ってね!」
刀身を捕縛したまま界魔は器用に上半身だけを捻った。旋回しつつ、左足でしっかりと地面を踏み付けながら、投げつける。
無論、慌てて手を離そうと試みた義仲であったが果たしてその願いは叶う事無かった。右腕の奇妙な苦痛に何事かと視線だけ動かしてみると、何時の間にか界魔の右腕ががっちりとホールドしているのが見えた。
そして、次に見えたのは赤錆まみれの廃棄確定のレールと自分の八重歯数本であった。
義仲「ぐぶっ!・・」
一本背負いと日本では呼ばれている独特の投げを刀もろとも朽ち果てたレールへと顔面から叩き付けられた義仲はこみ上げて来る怒りを抑えながら、ふらふらと立ち上がった。
義仲「お、おのれ・・・・童如きが、味な真似を・・」
界魔「流石に甲冑を身にまとってるだけの事はあるな。だが、その低脳を冷やす為にも、烏帽子じゃなくて良ぉく冷えた金属で作った兜を頭につけた方が良いんじゃないの?」
我ながら安い挑発をしてしまったものだと、思わずかぶりを横に振った界魔であったが、そのあきれた様子が気に喰わないらしかった。
義仲「小童が粋がりおってからに・・・・余程、死にたいらしいな!」
界魔「そっちこそ、万博か源氏博物館に<滑稽な死に様な木曽義仲>という題名で飾られないようにせいぜい頑張ったら?・・・・クラウスさんは、そっちの彼女と一緒にその妖女を・・・俺は輪廻とで、こいつを張り倒す!」
濛々と立ち込める粉塵の中、義兄の匂いを頼りに見つけた義妹が背中から飛びついてくるのを無視しながら、界魔はクラウスとセラにもう一方の相手を頼んだ。
クラウス「分かりました、界魔君・・・ですが、油断はしないようにして下さいね?」
界魔「大丈夫、家長が居ない今、俺がしっかりしなきゃ駄目なんだから・・・・死ぬようなヘマはしないように努力はするよ。クラウスさんこそ、無茶はしないでくれよ?」
ようやく薄れてきた粉塵越しに双方は実に頼もしげな笑いを返し合った。
241
:
飛燕
:2005/12/04(日) 23:00:15 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.215]
沙耶「あらんvそれじゃあ・・・・話しからして、私がこのハンサムボーイと堅物お姉ちゃんの相手をすれば良いのかしらん?」
セラ「誰が堅物ですって?・・・・そういえばさっきのって?・・」
余りにも非日常現象過ぎる事が起きたので、気付くのが遅れたが急遽ペアを組む事となったと聞いてようやく気付いた。彼と、義兄v義兄vと連呼する少女が起こした超常現象はとても科学的には説明がつかないような現象だからである。
クラウス「自然界に於ける様々な事象等を意のままに操り、使役する術・・・魔術と呼ばれるものと、それを何時でも常用出来るように開発された符術という東洋における術の一つですよ。ただ、この符術は神仏の力を込めた呪符を使役するという物も存在しますで一概に魔術とは割り切り難いんですよ・・・宜しければ、この符術について簡素ながら講義しましょうか?おおよそ1時間42分56秒程度、必要ですが?」
無論、そこまできっかり計って講義するわけではない。ようは、2時間近い説明が必要だという事を述べたのである。無論、この状況下で話してもらっても全然、耳に入らないのは当たり前なので当然、返事はNOであった。
セラ「・・・・遠慮しておくわ」
沙耶「へぇ〜〜・・・・確かに、符術には日本と大陸とでの使い道が大きく違うのよねwあなた、中々博識じゃない?」
クラウス「お褒めに預かり光栄の極まり・・・・」
沙耶「でもね。悪いけど、そろそろ時間なのよね?貴方達の相手をしている時間も無い事だし・・・・」
瞬間、沙耶の周囲の空間が捩れた。そして、10歳児程の大きさの狢とも鼬とも区別がつかないような生物がわらわらと出現して来た。良く見ると、その鼬達の尻尾は鋭利な刃物のような金物独特の鋭い逆光がある。
クラウス「これは?・・・・」
魔術師の疑問に沙耶は肩を竦めながら答えた。
沙耶「鎌鼬(カマイタチ)。知ってるでしょ、日本の妖怪の?」
クラウス「ええ。ですが・・・・これだけ多いと流石にうんざりしますねぇ・・・・」
セラ「能天気な事を言わないで!・・・・この生物、強いの?」
クラウス「少なくとも、彼等の刃にさえ触れなければ問題は無いのでそんなには強くないですが・・・・時間稼ぎにはうってつけ、とは言えますね」
時空を渡っての広大な旅をしている彼は幾度かこのような”異形の者達”と一戦を交えた事があった。
個々の戦闘能力はそんなには無いものの、彼等の実力は集団でのコンビネーションが本当の実力といえよう。尾の刃はそこらの業物の刀ですら簡単に両断してしまう程である。そんな刃達は元来から徒党を組んでの狩りを好んでいた。ようは、ハイエナと同じである。
セラ「群がって来る前に撃破・・・・というわけね?」
クラウス「ええ・・ですから、倒す時は一気に倒すべきですね。でなければ、私達が刺身にされかねませんからね」
ジョークにしてはあんまり笑えないのだが、やはり踏んだ場数は伊達じゃなし。クラウスにつられて、セラも苦笑し出した。
セラ「全く・・・それは願い下げね。悪いけど、こんな所でこんなのに食べてもらう予定は私の人生には無いもの」
クラウス「それは全く賛同すべきですね。私もこんなところで胃袋に収まって朽ち果てるつもりはさらさら無いですから・・」
2人が詠唱とブーメランの安全装置を解除しようとした刹那、またもや聞き覚えの無い声が響いてきた。
???「ほぉ・・・・やはり、此方が正解らしいですね」
気配が消えていた、というしか無かった。訝しげな視線でセラが、薄ら笑いを浮かべながら沙耶が、眉を顰め厳しい表情でクラウスが、そして突然の来訪者に明らかな敵意を向けている鎌鼬達が一斉に後ろを振り返った。
一同の視線の先に居た者は、妙な気配を漂わせている男であった。なんとなく複数の気配はするのだが・・・何処をどう見ても一人しか居ないように見える。
???「おっとv自己紹介が遅れましたね・・・・私の名は、マグナス。以後、お見知り置きを」
丁寧な物言いの男が深々と頭を下げながら簡素な自己紹介をし終えたと同時に、沙耶の溜息が一同の耳に聞こえた。
沙耶「本当に今日は、珍客が・・・・多いわねぇ」
242
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/05(月) 00:57:15 HOST:p2065-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=地底冥府・インフェルシア=
かつて、数名の天空聖者により、地上世界への進出を阻まれてしまった、『地底冥府インフェルシア』の軍勢・・。しかし、数年の時を経て、彼らは再び地上を支配しようと企んでいた・・。だが、そんな彼らに毎度の如く『邪魔者』が現れ、それに苛立つものがいた・・。
?「ぐぬぅぅぅ・・、ええい!忌々しい、忌々しいぃぃぃ!!!」
そういいながら、右手に持ってる剣を乱暴に振り回して暴れる者がいた・・。何だか機械的な部分も目立つ、まさしく『化け物』っぽい見かけであった。
この者の名は『凱力大将ブランケン』。インフェルシアの絶対的な権力者『冥獣帝ン・マ』に忠誠を誓ってる者である。ご覧の通り、少しの事で切れてしまう性格・・。
そんなブランケンの姿に、何かと怯えている下っ端のゾンビらしき者たち・・。
ブランケン「ちぃぃ・・、忌々しい『魔法使いのガキども』めぇ・・、『門の鍵』さえあらば、あんな奴らなどすぐに片付けられるというものを〜・・!!」
そう、確かに彼は強い。しかし、色々と事情があり、彼は地上へは行く事ができなかった。そして、自由に地上へいけるために、手下共に『門の鍵』という物を探させている・・。
?2「ふん・・、相変わらずやかましいぞ、ブランケン・・。」
ブランケン「!『ウルザード』!!貴様、俺をバカにしに来たのか!??」
ウルザードと呼ばれるものは、何やら全身を紫色を基調とした鎧で纏っており、右手と左手にはそれぞれ彼専用の剣と盾が握られていた。
ウルザード「・・そんなつもりは毛頭ない。時間の無駄というものだ・・。」
ブランケン「!!!き・・、貴様ぁぁ!!」
思わず凄いスピードで斬りかかりにいくブランケン。しかし、ウルザードはさも当たり前のごとくブランケンの剣を自分の盾で防いだ・・。
ブランケン「・・大体貴様、なぜ最近地上で行動をしない!?ン・マ様に逆らうつもりではあるまいな!??」
ウルザード「俺とて、それなりに休養が必要だ・・。そんなことも分からんのか、貴様は?」
ふん、と鼻で笑いながら答えるウルザード。
ブランケン「こぉんのぉ・・!!(怒)」
そういいながら、怒ってさらに斬りかかろうとしたブランケンだが、突然やめた・・。
ブランケン「・・ちっ。まあいい。だが、もうそろそろ出ろ!!そうしなくば、俺が貴様を・・叩き斬る!!」
ウルザードの喉元に自分の刃を近づけながら言うブランケン・・。
ウルザード「・・、いいだろう。だが、俺にも準備がある。冥獣も1匹連れて行くぞ。」
ブランケン「・・勝手にしろ!!!」
怒った様子で、その場を離れていくブランケン・・。
?3「あ〜らら・・、あんたって、相変わらず恐いもんしらずだねえ・・、ウルザード?」
そういって、上空から一匹の化け物が降りてきた。前身黒色で、女性のような体型だった。
ウルザード「・・『バンキュリア』か。貴様に構っている暇はないぞ。」
この女性型の化け物は『妖幻密使バンキュリア』。いわゆる吸血鬼の一種であり、不死の能力を有している。何かと残忍な性格をしてる・・。
バンキュリア「お待ちよ。あんたに面白い情報を教えてやろうと思ってね・・♪」
ウルザード「面白い情報・・、だと?」
バンキュリア「そうさ・・。どうやら、この世界とは違う世界の人間共が、それぞれ別の場所に現れたみたいなのさ♪」
ウルザード「・・ほう?詳しく聞かせてもらおうか・・。」
『異世界から来た人間達』・・、それを聞いて、どことなく興味を持つウルザードであった・・。
243
:
藍三郎
:2005/12/05(月) 21:11:05 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco34.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
=森林地帯=
宗介(遅かったか・・・)
離脱していくミスリルの輸送ヘリを見て、宗介は苦い顔つきになる。
クルツの援護で何とかガウルンの追撃から逃れた宗介とかなめは、
やっと遠目で基地が見える場所までたどりつけたが、
その時にはすでにミスリルの部隊は島から撤収を開始した後だった。
宗介(クルツが追いついてこない・・・何かあったな)
クルツはすぐに片付ける、と言っていたが、
ガウルンと彼の駆る銀のASの性能はハンパなものではない。
苦戦をしていても不思議ではなかった。
かなめ「さ、相良くん・・・大丈夫なの?」
心配そうなかなめの表情を見た宗介は、安心させるべくとりあえずの善後策を口にする。
宗介「こうなっては仕方が無い・・・一旦ここを離れて海岸に向かおう。
俺の所属している艦がまだ残っている可能性もある。
何とかコンタクトをとることができれば・・・」
かなめ「そうじゃなくて、あなたのことよ。
あんな怪我して、血だらけで、顔色も・・・」
宗介は全身泥まみれで、ワイシャツは流れた血によって赤く染まっている。
額の傷はそれほどでもないようだが、脇腹の負傷がひどい。
宗介「応急処置は済ませた。問題無い」
まるで意に介していないように淡々と答える宗介。
しかし、どう見ても深刻な負傷であるのは間違い無かった。
見ている方が痛々しく感じるほどである。
かなめ「でも、血が止まってないんじゃ・・・どこかで一旦休んだ方が・・・」
宗介「敵が来る。足を止めるわけにはいかない。いくぞ」
そう言って歩き始める宗介。
かなめ(なに、なんなのこの人・・・)
その後ろ姿を見ながら、かなめは目の前のクラスメイトに対し、
言い知れぬ恐怖を感じはじめていた。
かなめ(あんなにひどい怪我をして、真っ青な顔をしているのに、敵、敵、敵、敵・・・)
相良宗介という人間が、かなめには全く理解できなかった。
自分達とはまるで違う、別世界の生き物のように思えるほどに・・・
宗介「どうした、千鳥?」
かなめが棒立ちしたままでいると、宗介が振り返った。
宗介「具合が悪いのか?」
宗介が近づこうとすると、かなめは逃れるように後ずさる。
かなめ「こ、来ないで」
244
:
アーク
:2005/12/05(月) 23:58:01 HOST:YahooBB220022215218.bbtec.net
=廃屋街・地下=
マグナス「ふむふむ、状況の説明は結構ですのであしからず」
そう言ってまた頭を下げた
クラウス「貴方は何者ですか?見た所普通の人間ではないようですね」
マグナス「痛い所を掴みますねミスタークラウス。確かに私は普通の人間ではありません
ちょっとだけ異常なだけなのでお気になさらずに」
そう言うと一歩進んだ。それと同時に鎌鼬の何匹かが襲い掛かった
マグナス「あまり手荒い事は無しで行きたい所ですが無理ですか。止む終えませんね」
出来るだけ被害は最小限にお願いしますね」
???『分かっている案ずるな水のマグナスよ』
なぞの声と同時に鎌鼬がマグナスに襲い掛かった
それと同時にマグナスは両手を突き出していた。その両手には白く輝く指輪があった
???「雑魚がこの冥王に手を出せると思うな!!」
白く輝く指輪から放たれた光に触れた鎌鼬達の半分は右腕だけを残し消滅した
クラウス・セラ・輪廻・界魔「!!!!!!」
???「ふん!妖怪風情が俺に触れるとは恐れ多い事だ。しかし実に見事だ
こんな数の実力者に出会えるとはこんなに嬉しい事はない」
義仲「貴様は何者だ!先程の奴とは比べ物にならないほどの殺気を放つとは」
???「俺の名はレイフェル。天のレイフェルだ!水の奴とは違うから手加減はせぬ!」
245
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/06(火) 17:33:57 HOST:p5072-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
=森林地帯=
かなめ「あたしに、近づかないで・・。」
かなめのその台詞を聞いて、宗介はひたと立ち止まった。そして、しばしの沈黙・・。
宗介「俺の事が・・、恐いのか・・?」
かなめ「!・・・・」
かなめは、彼の問いに答える事ができなかった・・。
宗介「多分、自然な反応だ。君から見れば、確かに俺は・・。」
そうつぶやく宗介の顔は、血に汚れた横顔に、癒しがたい帆ドン深い孤独の影が差した。少なくとも、その時のかなめにはそう見えた。
かなめ(えっ・・?)
かなめは、どきっとした。
かなめ(どうして?どうして、そんな顔をするの・・?)
今の宗介は、憧憬の対象に拒絶され、それを自分でも納得していて、寂しげにため息をつく・・そんな、人間に共通の顔。身体の傷ではなく、『別の何か』が痛いはずなのに、悲しいかな、それに耐えるだけの強さを持ってしまった人間の顔。そういう感じの顔だった。
宗介「・・だが、今は我慢して欲しい。今の俺が考えているのは、君を無事に、元の生活に帰すことだけだ。逃げ切る保障はできないが・・俺を、信じてくれないか・・?」
うずくまるように痛むわき腹を押さえながら、そして、目線はそらしたまま、どこか弱々しい声で言う宗介。その今の彼の姿からは、無機質な戦闘機械の面影は消えていた・・。
かなめ(そ・・、そんな・・。)
戦闘に傷つき、ぼろぼろになって、それでも自分を助けようとしている、ひたむきな少年。その相手を『来ないで』などと拒んだことに、かなめは、強い罪悪感を覚えた・・。
かなめ(彼は、一生懸命あたしを助けようとしていたんだ・・。今、こうして痛いのを我慢するのも。ひどく『敵』を警戒するのも。何から何まで機械的・合理的に考えるのも・・。全部、あたしを助けたいから。そうしないと、助けられないから。)
そのことに気づいたかなめは、宗介の学校で巻き起こした騒動にも、自然と納得がいった・・。
転校初日から彼女をしつこく尾けまわしたのも、どれだけ迷惑顔されようと学校でドタバタ暴れまわったのも・・、敵の恐さを、彼はよく知っているからなのだ、と・・。
246
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/06(火) 18:08:45 HOST:p5072-ipad13okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
・・、すいません。245において一部間違いがあったので訂正します・・(汗)。
×癒しがたい帆ドン → ○癒しがたいほど
247
:
藍三郎
:2005/12/07(水) 21:06:17 HOST:proxy1.ice.media.hiroshima-u.ac.jp[coco28.ice.media.hiroshima-u.ac.jp]
かなめ(そうだったんだ・・・)
切なさに愛しさ・・・理屈では説明できない感情の渦が、彼女の中で溢れていった。
この気持ちをどう表現したらいいか分からずに、ただ一言答えた。
かなめ「うん・・・」
宗介「助かる。では行こう」
それから二人は、森の中を再び歩き出した。
宗介「・・・?」
十分ほど山中を歩いたところで、突然宗介が足を止めた。
かなめ「どうし・・・」
宗介「静かに」
右手でサブマシンガンを構えると、その銃口を先の茂みに走らせる。
闇の中に、人の気配を感じたからだ。
十分に警戒しながら、マグライトを点けると・・・
茂みの奥の低木に寄りかかっていたのは、軍服を着た金髪の青年だった。
全身ずぶぬれで、体のあちこちに泥や血がこびりついている。
彼は宗介の姿を見止めると、力なくこう呟いた。
クルツ「よぉ・・・遅かったじゃん」
=トゥアハー・デ・ダナン=
発令所への通路を急ぐカリーニンの元に、
帰還したばかりのマオが追いすがってくる。
要件はもちろん、島に取り残されている彼女の部下のことだ。
カリーニン「マオ曹長、君は格納庫で待機のはずだ」
歩調を緩めることなく告げるカリーニン。
マオ「このまま撤退するんですか?」
カリーニン「そうだ」
マオ「クルツと同じに、ソースケも見捨てて?」
カリーニン「入隊契約の範疇だ」
マオ「彼らは私の部下です。私に行かせてください。
二時間・・・いえ、一時間あれば結構です。それまでに見つけて戻ります。お願いです」
カリーニン「50億ドルの艦と、250名の乗員を一時間危険に晒すのかね?
『お願いです』の一言で?」
冷たいようだが、正論である。マオはしばし口篭もるしかなかった。
やがて、カリーニンは発令所へと続く頑丈な防水扉の前で立ち止まる。
カリーニン「ここから先は発令所要員の区画だ」
マオ「いつもそうなのね・・・どうしてそこまで冷淡でいられるんです?」
カリーニン「そうなることが必要だからだ」
そう言うと、マオに背を向けて発令所への扉を潜り抜けて行った。
=トゥアハー・デ・ダナン 発令所=
テッサ「どれだけ待てるか聞きに来たんでしょう?」
発令所に入ってきたカリーニンに、テッサは振り返りもせずにそう告げた。
この娘にはかなわん、とカリーニンは本気で思った。
テッサ「今は一分たりとも待てません。潜水型の怪重機一体と、
機雷を満載した武装哨戒艇が二隻、こちらに接近しています。
大至急、ここから50キロ以上離れなければ」
正面スクリーンに映るサメのような形をした怪重機のシルエットを見ながら、
テッサはそう告げる。いかにダナンといえど所詮は動きの鈍い潜水艦。
海中を自在に泳ぎ回る怪重機に襲われてはひとたまりもない。
カリーニン「ごもっともです」
しかし、テッサの顔つきは言葉とは裏腹に不機嫌だった。
テッサ「でも、サガラさん達は助けたいわ」
カリーニン「はい。まだウェーバー軍曹にも生存の可能性があります」
あれで死ぬような男なら、カリーニンはクルツをSRTの一員に選んではいない。
スクリーンを見ながら、テッサはついさっき入った情報をカリーニンに告げる。
テッサ「先ほど宇宙警察から連絡がありました。
現在、脱出できなかった生徒の救出のため、
バンさんとホージーさんが島に残っているそうですよ」
カリーニン「なんと・・・あの二人が」
テッサ「彼らがここまでしてくれているというのに、
私たちは何もせずただ見捨てるというのは無しですね」
テッサは海図を見ながら、これからのプランを説明する。
テッサ「敵海中部隊の索敵をかわしつつ、夜明け前に沿岸部で数分間浮上します。
その際に皆を収容、全速力でこの海域を離脱します」
カリーニン「可能なのですか」
テッサ「普通の潜水艦なら無理でしょうね」
テッサは強気な笑みを見せた。まるで自分の息子を誇る母親のようだ。
カリーニン「・・・ウェーバーのM9が撃破された件が気になります。
私の考えが正しければ、“あれ”を使う必要がでてくるかもしれません」
テッサ「あれ?どのあれですか?」
カリーニン「ARX−7。<アーバレスト>です」
248
:
アーク
:2005/12/08(木) 00:19:12 HOST:YahooBB220022215218.bbtec.net
クラウス「天のレイフェル?ですがさっき貴方はマグナス・ガラントと言いましたよね?」
レイフェル「それは水の奴の名だ。俺の名はレイフェルだ覚えておけウィザード・クラウス」
先程までマグナスと名乗った青年とは違いレイフェルと名乗る青年は
髪はとても黒く眼は漆黒の色をしていた
レイフェル「さて、源氏の死人の相手をしたいのだその場を引け小僧」
界魔「そう言ってはいそうですかと言える?」
レイフェル「小僧風情が冥王に逆らうのか?水の奴が手を出すなと言っているから手は出さぬが
俺の邪魔をするのなら時限を越えた人間でも塵一つなく消してやるぞ」
レイフェルの言葉と一緒に放たれた殺気が脅しでない事に界魔は気づいた
先程の鎌鼬の半分を消滅させた技を思い出し界魔はその場から少しだけ遠ざかった
レイフェル「分かればいいのだ。さて、源氏の死人よお前の相手は俺がしよう」
義仲「くっ、いくら死人である俺でもあの技を食らったらひとたまりもない」
ゆっくりと迫るレイフェルに義仲は後ずさりを始めた
その時残りの鎌鼬達がレイフェルに襲い掛かった
仲間を殺された事に怒り狂ったかのようにレイフェルに切りかかった
レイフェル「ふん、半分ぐらい殺せば大人しくすると思えば所詮は下等種族の妖怪か」
そう言って右腕の指輪が光り出しそこから白の剣を出した
レイフェルは剣を取り襲い掛かった鎌鼬の二匹を真っ二つに切り裂いた
レイフェル「光栄に思うのだなこの冥王直々に殺されるのだからな」
恐ろしい笑みを浮かべたレイフェルは中に浮かび上がり始めた
ある程度浮かぶとそこで停止し両腕をゆっくりと前にかざした
残りの鎌鼬は攻撃をされる前に切りかかろうと思い飛び掛った
レイフェル「ふっ、消え失せろ天の力の前にな!!」
その声と同時に両手から巨大な光が放たれた
その光を浴びた鎌鼬は断末魔を上げる間もなく消滅した
レイフェル「フッフッフッフ、ハッハッハッハ、アッハッハッハ!」
そこに浮かんだままレイフェルは笑みを浮かべ高笑いをした
249
:
暗闇
:2005/12/09(金) 19:19:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
レイフェルの高笑いが響いていた時、
界魔「ん?」
足下に変な感触を感じて見下ろしてみると、そこには銀の液体が足にまとわりついていた。
界魔「なんだ、これは…」
輪廻「どうしたの?お兄ちゃ…」
その瞬間だった、突然銀の液体がそこからあふれ出し、その場にいた全員を飲み込んだのだ。
沙耶「なっ!?」
レイフェル「なにご…」
義仲「うおおお!!」
セラ「キャッ!!」
銀の液体に物凄い勢いで押し流される界魔たち…それはやがて廃屋から勢いよくあふれ出した。
叢魔「ん?」
降真「どうしたの?叢魔兄さん」
叢魔「どうやら事態はさらにややこしい方向に向かっているようだ。あれを見ろ」
叢魔に促されて、現在戦闘中の太陽を除く子供達がそれを見やる。
研也「なんだあれ…」
研也が呆然と呟く、その現象…それは何百メートルにも及ぶ銀の噴水が吹き上がっていたのだ。
そして、しばらくすると…その銀の噴水はゆっくりと止んでいき…やがてそれは収まった。
界魔「いったい……なんだった……んだ」
突然の銀の洪水に押し流された界魔は外に放り出されていた。辺りを見まわしてみると、となりには輪廻が後ろにはクラウスが気を失っていた。
二人の無事を確認し、ホッと胸をなで下ろした時、
???「久しいな…異邦の子供よ」
界魔「!」
界魔が視線を前に戻すと、そこには先程の銀の液体が一箇所に集まっていた。
そして、そのスライムは念話で直接界魔の頭の中に声を送ってきた。
界魔「銀のスライム…?」
???「この姿を見るのは初めてか…お前の時間で言って11年前…お前が初めて我を目にした時はこのような姿ではなかったから無理もあるまい…」
界魔「11年前…?」
???「今は思い出さずとも良い…あ奴の血を引いているだけでなく、良き男に拾われたものだ…お前は運の良い子よ…
今の我にあの時程の力はない…今は追われる身のゆえでな、何処かで身を潜めるとしよう」
その銀のスライムはそれだけ言うと近くにあったマンホールに潜っていく。そこに…
沙耶「あら、あなた達生きてたの?」
界魔「なっ!?」
瓦礫の山にはいつの間にか沙耶と義仲の姿があった。
界魔は立ち上がって、構えようとするとそれを沙耶が片手で制した。
沙耶「安心なさい、あなたたちと闘っている場合じゃ無くなったから…」
界魔「何…?」
義仲「その位にしておけ雌狐や、早くせねばアレが逃げるぞい」
沙耶「そうね、急がなくっちゃ。それじゃあ、縁があったらまた会いましょう」
沙耶と義仲が銀のスライムが逃げ込んで行ったマンホールの中へと姿を消していった。
250
:
暗闇
:2005/12/10(土) 18:09:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド=
ロイド「ただいま」
森の中にある小さな家に入ると、ダイクはいつものように作業台に向かっていた。注文を受けた細工ものを作っているのだ。
ダイク「おう」
養父は上目遣いにチラリと息子を見る。ロイドはドキリとした。
ロイド「あ、あのさ、親父。ちょっと聞きたいんだけど。要の紋なしのエクスフィアってのは、いったん装備したらもう手遅れなのか?」
ダイク「なんでぇ、帰ってくるなり藪から棒に」
ダイクは作業の手を休め、椅子から立ちあがって伸びをした。
ダイク「んー、そんなこたねえが……ただ、そんなエクスフィアは、はずすだけでも危険だからな。抑制鉱石でなんかしらのアクセサリーを作ってよ、まじないを刻むことで要の紋にするしかねぇなあ」
ロイド「そうか、それで大丈夫なんだ。じゃあ、腕輪でいいからさ。急いで作ってくれよ」
ダイク「ああ?」
ダイクはギロリとロイドを睨んだ。ドワーフなので小柄ではあるが、濃い髭面の彼の眼光は鋭かった。
ダイク「ちょっと待て。そいつはどこの誰が身につけるんでぇ」
ロイド「えっ、と。旅の人。そう、旅の傭兵」
ロイドは、とっさにクラトスを思い出して、答えた。
ダイク「嘘つけ。エクスフィアってのは、ディザイアンどもしか使ってねえんだよ。奴らから奪ったんだとしたら、要の紋はちゃーんとくっついてるはずでぇ」
まずい、とロイドは思った。
ダイク「ドワーフの誓い11番! 『ウソつきは泥棒の始まり』でぇ。ロイド! 正直に話さねえと……」
ロイド「わ、わかったよ」
ロイドは観念して、牧場で会ったマーブルの話をした。
ダイク「なんだとぉ、牧場に行ったってぇ? あ、あいつらにエクスフィアを見られなかったろうなあ」
ロイド「大丈夫だよ。でも、前から不思議だったんだけど、こんなことまでしてなんで隠すんだよ。きょう村で会った傭兵だって、堂々と装備してたぜ」
ロイドは幼い頃からダイクに命じられて布を巻いている左手を、養父の鼻先に突きつける。
ダイク「このバカ!」
突然、ダイクはロイドの胸倉を掴んだ。
ダイク「よく聞け。お前のエクスフィアは……特別なんだ。実の母親の形見なんだぞ? あの日、牧場近くの崖でお前を拾ったとき……お前の母親が息も絶えだえにいったんでぇ」
ロイド「なっ、なんだよ、それ」
ダイク「ディザイアンにやられたってな。奴らはこれを奪う為に、お前の母親を殺したんだ!」
ロイド「!」
ロイドは驚きのあまり、養父の手を振り払うのも忘れて目を見張った。
251
:
暗闇
:2005/12/10(土) 18:28:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ダイク「……隠してたのは悪かった。だが、言えばお前のことだ。ディザイアンに突っ込んでいったろう。そしたらいまごろ命はあるめぇ」
ダイクはようやく息子を離すと、荒げた口調を恥じるように続けた。
ダイク「救いの塔が現れたな……あとはコレット嬢ちゃんに任せるんだ。そうすりゃエクスフィアと共にな」
ロイド「親父」
ダイクは、息子の目をジッと見つめる。
ダイク「おまえ自身を大切にするんだ。母親が命をかけて守った、そのエクスフィアと共にな」
ああ、とロイドは頷きかけ、焦れったそうに聞いた。
ロイド「で、要の紋は作ってくれるのか?」
ダイク「バカっ!」
ダイクの拳がロイドの頭にめり込む。ロイドの体はやすやすと吹っ飛んだ。
ダイク「話を聞いてなかったのか!」
ロイド「いてーなっ。殴ることねえだろ。なんだよっ」
すばやく立ち上がると、彼はふてくされ、玄関のドアから飛び出した。
ロイド「あ……!」
後ろ手でドアを閉めながら、ロイドは薄闇の中に見慣れた顔を見つけて、唇をひくつかせた。
ロイド「コレット……ジーニアス」
ロイドを訊ねてきたらしい。ふたりの後ろには、リフィルとクラトスの姿もある。
ロイド「もしかして、みんなして聞いてたのか?いまの……」
リフィル「ロイド」
それには答えず、リフィルが進み出る。
リフィル「私、世界再生の旅に神子の護衛として一緒に行くことになったの」
ロイド「ああ、知ってるよ、先生」
ロイドは答えながら、クラトスを見た。
が、彼がそっけなく視線をはずしたので、ロイドはムッとなる。
ロイド「コレットと2人でお別れをしたら? 私たちはダイクさんにご挨拶に行ってきます」
ロイド「ああ……」
リフィルの言葉に、ロイドはやっとコレットは明日いなくなってしまうのだと思い出した。
コレット「ロイド、あっちに行こ」
コレットはロイドの腕をとると、庭の片隅に置かれている古いベンチへと引っ張っていった。
252
:
暗闇
:2005/12/10(土) 22:31:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
コレット「なつかしいねー、このベンチ。ちっちゃいころ、ここから飛び降りて足くじいちゃったんだよね、私」
ロイド「そうだったな。おまえってチビの頃から……」
コレットは、ふいに口をつぐんだロイドに首を傾げ、
コレット「どうしたの? おなかすいた? これ、ジーニアスに貰った誕生日プレゼントのクッキーだけど、食べる?」
と、レースペーパーの包みを取り出した。
ロイド「あ……ごめん! 俺、首飾り作ってやるっていって、まだ…」
コレット「いいの、そんなのいつでもいいよぉ」
コレットはニコニコしながらベンチに腰を下ろす。
コレット「よかった。今日まで生きてこれて。ロイドがそばにいてくれて」
ロイド「コレット……なんだよ、それ。お前はこの先もずーっと生き抜いて、世界を再生するんだろ?」
コレット「そだね」
コレットはぴったりとつけた両膝の上で、指を組む。
コレット「封印を解放して、天使になって、それから……」
ちいさな唇は動き続けたが、ロイドには聞きとれなかった。
なんとなく聞き返すのもためらわれ、彼は空を見上げる。
昇ったばかりの若い月が、白く霞んでいた。
これまで何度も2人でこの月を眺めたな、とロイドは思う。
ロイド「……なあ。やっぱりついていったらダメかな、再生の旅に」
コレット「ダメっていうか、ディザイアンに狙われたりして危ない旅になるんだよ?」
ロイドはため息をつく。
ロイド「聞いてたろ、さっきの。俺の母さんはディザイアンに殺されたんだ! このままここで暮らすなんて、できないよ」
コレット「ロイド……」
コレットはしばらく考えていたが、
コレット「そだね。わかった。私たち、明日のお昼に旅立つの。だからそのころ村に来てくれる?」
ロイド「ほんとか? もちろん行くさ!」
ロイドの顔がパッと輝いた。
ロイド「これで、お前が天使になるのを見届けられるんだな」
コレット「うん……」
そのとき、ドアが開き、リフィルたちが出てくるのが見えた。
リフィル「そろそろよろしい?」
コレット「あ、はい、先生。いま行きます」
コレットはあわてて立ち上がると、ロイドに向き直った。
コレット「じゃあね、ロイド」
ロイド「明日な」
コレット「うん。さよなら」
コレットの白い顔が微笑み、すっかり暗くなったあたりの空気にとけ込んでゆく。
ロイド「さあて、と。首飾りは明日渡すか。今夜のうちに作っちまおう」
世界再生の旅に同行できるという思いが、ロイドをわくわくさせていた。
彼はダイクに殴られたのも忘れて、弾む足どりで家に戻った。
253
:
藍三郎
:2005/12/11(日) 10:10:15 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
=森林地帯=
クルツ「痛ててて・・・俺はけが人だぜ?もっとていねいに歩いてくれよ」
宗介とかなめに支えられながら、クルツは苦しそうに呟いた。
クルツ「しっかし・・・今思い返してもまるでわけがわからねぇ・・・
一体何であんなことになっちまったのか・・・」
クルツは、つい先ほど、自身の機体が撃破された事を思い出していた。
宗介「あの銀色のASのことか」
クルツ「ああ。こっちは至近距離に誘い込んで、57ミリをぶち込んでやったんだ。
ところが、仕留めたと思ったら、次の瞬間にはこっちがバラバラになっていた」
宗介「指向性の散弾地雷でも使われたのか?」
クルツ「いや、そういうモンとも思えねぇ。
見えないハンマーで、ぶん殴られたみたいな感じだった・・・っ・・・うっ・・・」
宗介「もういい、しゃべるな」
やがて彼ら3人は、森林地帯を抜け平野の広がる場所へとたどりついた。
それを見て、かなめは目を細める。
かなめ「あんな見晴らしのいいとこ、ノコノコ歩いていったら・・・」
宗介「ああ、敵に発見される可能性が高いな」
宗介はクルツの体を地面に横たえた。
応急処置に使ったモルヒネが効いてきたのか、やがて寝息を立て始めた。
宗介(さて・・・どうするか・・・)
海岸まであと二十キロ少しだが、
敵の警戒をすり抜け、あの平野を進むのは不可能に思えた。
まして、手負いの兵2人と民間人の少女1人では・・・
宗介はしばし考えた後、一つの結論を出した。
宗介「千鳥、よく聞いてくれ」
かなめ「なに?」
宗介「これから俺たち3人が海岸までたどり着ける可能性は限りなくゼロに近い。
だから、こうしようと思う。
俺とクルツがこの場に残り、派手に暴れて敵の注意を引く。
可能な限り時間を稼ぐつもりだ。その間に君は一人で西に走れ」
かなめ「何ですって・・・!」
宗介「この通信機を持って海岸まで走るんだ。
もし味方が迎えに来ていれば、そのチャンネルに呼びかけてくれるはずだ」
彼女が無事海岸までたどり着けるか、
味方が救援に来てくれるかどうかは賭けだった。
だが、このまま手をこまねいているよりは・・・
かなめ「だって、そしたら相良くんたちは・・・」
宗介「気にする必要は無い。俺たちの仕事は君を守ることだ。
それに三人そろって捕まるより、一人でも生き延びたほうがましだ」
かなめ「そんな・・・私だけ・・・」
自分はいい。自分の人生は、こんな結末だろうと前から予想していた。
クルツも同じであろう。だが、彼女は・・・
宗介「君には生き延びる資格がある。いくんだ」
とにかく今は、彼女を無事元の生活に帰してやりたい。
任務や作戦といった名目ではなく、宗介は純粋にそう思った。
254
:
飛燕
:2005/12/14(水) 23:22:20 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.41]
不可思議な銀色のスライム状の”それ”を沙耶達が追いかけようとする少し前まで時間は遡る・・・
=廃屋街・中心地=
太陽「これでぇ・・・・最後でぇぃッ!」
弾丸の如く疾駆する韋駄天小僧・・・もとい、韋駄天少年のキレのある蹴りが聳え立つバグシーンのこめかみにクリーンヒットした頃でもあった。
慣性の法則に従い、超絶的な蹴りは最後に立っていたバグシーンの意識を確実に仕留めきったらしく、瓦礫の山に頭から突っ込んだにも関わらず、ピクリとも動こうとはしなかった。
太陽「へっ!楽勝、楽勝ぉ〜♪」
肩を回し、余裕綽々な顔付きで太陽は一同の元へと戻っていた。何時の間にだろうか。一同は、既に階下を降りており、太陽の戦神の如き戦を賞賛していた。
研也「流石は切り込み隊長vやっぱり、速いなぁ〜・・」
太陽「へっwそうだろそうだろ?」
八雲「うん・・・・やっぱり、馬力が違うね?」
太陽「人間に馬力っちゅう言葉は使わねぇんだけど・・・・まぁ、許してやるよw俺は心が広いからなv」
叢魔「4分27秒、か・・・正体不明の相手とはいえ、随分と手抜きが多い戦いじゃないのか?時間がかかり過ぎだな。何時もの貴様なら2分半程度で片はつくんじゃないのか?」
太陽「どこぞの馬ぁ鹿のせいでストレス指数が溜まってよぉ?実力がてんで出せなかったんだけど、どうしてくれるのかねぇ?」
叢魔「そんな事を言うのなら、前言撤回しろ。心の広い人間が、人の傷口を穿り返すような発言をするとはとても思えないのだが?」
何時の間にか、反省会どころか第2ラウンドが開始しかねない空気になりかけているのを一同が感じた時、年少組の中では一際目立つ陽気な声が陰険な空気を吹き飛ばした。
ラグナ「HEI!ピープル、喧嘩は良くないぜ?」
声の主はセラと一旦別れ、ピープルの救出に来たラグナである。尤も、暴風のように荒れ狂う韋駄天少年の戦いっぷりに見入り、現実に戻ってくるのに少々の時間を費やしたりしたのは別の話しである。
満天「そそv『Let`s Positive Thinking♪』何事も前向きに考えやしょってねw」
ラグナ「おっ!気が合うな、少年!」
波長が合ったのかどうかは分からないが、どうもこの少年の明るさにラグナは共感したらしい。豪快に笑いあう2人に毒気を抜かれたらしく、太陽はシーソーと共に溜息を、叢魔は肩を竦めて「やれやれ」とだけ呟いた。
天美「あ、そ、そういえば・・・・遅れてしまいましたが、助けていただいて、本当に有難う御座いました」
ほのぼのとした空気に危うく、自分達を援護、そして参戦してくれた戦士に礼を言い損なうところだった。この辺りは、やはり両親の教育が行き届いている証拠だろう。
普段からぐだぐだしているような両親だが、ことさら礼儀に関しては口を酸っぱくしてでも言うような親だったし、何より天美自身が礼節を重んじる性格だったのが幸いした。
天美の態度に気を良くしたのか、満足そうな表情を浮かべながらラグナは頷いた。
ラグナ「いやいや、ピープルを護るのは俺達の使命だからなw気にしないでくれよ、お嬢ちゃん!」
機嫌良さげに笑っているが、そこでとある単語を耳にして叢魔はラグナの言葉を聞き咎めた。
叢魔「ちょっと待ってもらえるか?・・・・今、”俺達”って言わなかったか?という事は・・・他にも仲間がここに居るという事か?」
ラグナ「うん?ああ・・・そういや、セラに調査を任せたままだったな。よし、お前ら、ついてきてくれないか?・・・・どのみち、ここで長話するというのも辛気臭ぇしな?」
情報を得るにしても、瓦礫と廃屋以外にこれ以上のものは期待出来そうもない場所に居たって現状が良くなるとは考え難い。なら、そのセラという人物と合流し、情報を得る方が良いに決まっている。クラウスと、追いかけて行った界魔達の事が、脳裏を掠めたが杞憂に終わると叢魔は確信した。
この廃屋だらけの街並みで人の気配がそんなに無い。気配を辿っていく事など朝飯前の、天上家の長男の顔が直ぐに頭に思い浮かんだからである。
255
:
暗闇
:2005/12/15(木) 17:34:10 HOST:kvc.iuk.ac.jp
そして、渋谷でも……
ゴゴゴゴゴ
零児「ん?」
キャミー「!」
突然の地響きに戦いを繰り広げていた零児たちとキャミーらが戦闘を中断した。
小牟「今度はなんじゃ!?」
ドリス「あ、あれ…」
ドリスが指差す方向には突然、空間に裂け目が発生している。
その時、空間から閃光が迸った。あまりの光に一同の視界がになるやがて、閃光が収まるとそこには銀のスライムの姿が…
オズー「あれは……?」
零児「スライム…あれが空間を突き破ってきたというのか?」
???「残された力で空間転移し、女狐と亡者を振り切ってみればここにも彼奴らの協力者がいたか……
しかし、先程とは違いこれらはどうにでもなるか」
ドリス「喋った!?」
零児「いや、少し違う…頭の中に直接声を送り込んできている…念話<テレパシー>と言ったところだろう。
しかし、スライムは本来低級の魔物のはず…念話はもちろんましてや空間転移のような芸当は本来はできないはず、こいつはいったい…」
零児たちがそのスライムを凝視している中、キャミーたちが動いた。
キャミー「最優先目標出現……捕獲対象機械生命体……コードネームGT」
ユーリ「成功確立演算中・・・・確率、現状では0%と判定」
ユーニ「先程までの戦闘で消耗しきっている現在の状態ではアレを捕らえるのは不可能……このまま、撤退を推挙する」
キャミー「そうだな…これは予定外だったか……」
キャミーたちはつい先程まで春麗と零児たちと戦闘を繰り広げていたために、体中のいたるところにダメージを負っていた。
それは零児たちも同様で、雑魚的ならまだしも空間を自らの力で突き破ってきたアレほどのものを相手にする余力はない。
キャミー「撤退する」
ユーリ&ユーニ「了解」
キャミーたちが零児やそのスライムとは別方向に走り出し、その場を去っていく。
春麗「待ちなさい!」
春麗が慌てて追おうとしたその矢先、
春麗「!!」
突然、銀のスライムが銀の高波とかして迫ってきたのだ…それは高さ30数mにまで及んでおり、人間など軽く飲み込んでしまうだろう。
零児「建物の影に隠れろ!」
零児に促され、一同はそれぞれお自分の位置から一番近い建物の影に隠れて銀の高波をやり過ごす。
やがて、銀の高波がそれらの後方に去ると、その波は収縮し5、6mくらいのスライム状になると、近くの排水溝に流れ込んでいった。
小牟「なんだったじゃアレは…」
零児「さあな…しかし、どちらにも逃げられたようだ」
256
:
暗闇
:2005/12/18(日) 13:34:48 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
冷たく、重く流れる沈黙。そして―――
かなめ「いやよ!」
宗介「!・・・千鳥!」
かなめ「イヤだって言ったの!相良くん、やっぱりあんたバカよ!
あんたひょっとして自分がいつ死んだって構わないとかそんなナメたこと考えてんじゃないでしょうね?」
宗介「・・・・」
かなめ「そういうのカッコいいと思っているわけ?こっちの気持ちなんて考えずに勝手に自己満足でおっちんで!
アタシはねあんたみたいな軍事オタクのネクラバカに命、助けられたってちぃ〜〜とも嬉しかないわよ!
えぇ!わかってんの!?」
凄まじい勢いでたてしまくるかなめに宗介は呆然としてしまった。
かなめ「・・・まだわかってないようね?そうするになんでみんなで助かる方法を考えないのって言ってるのよ!
簡単にギブアップするんじゃないわよ!」
宗介「ないんだ。他に手はない」
かなめ「考えればいいじゃないの!例えばこのあたりに火をつけて山火事起こして
そのドサクサで逃げるとか・・・とにかく、なにかあるわよ」
宗介「千鳥、聞け。俺は専門家だ。様々な状況を想定し、その中で最善と思われる策を選んだ」
かなめ「何べん言わせるの!あたしはいやだって言ってんのよ!!」
宗介「駄目だ!行け!一人で逃げるんだ!!」
かなめ「!!!」
叫んだ宗介はかなめの顔に銃口を真っ直ぐ向けていた。
257
:
暗闇
:2005/12/18(日) 13:35:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
かなめ「いかないと、撃つの?」
彼女はなぜか、哀れむように言った。
宗介「……そうだ。敵に捕まって廃人にされるより、ここで死んだ方がマシだろう」
かなめ「そんな。苦しい理屈」
かなめは微笑んで、宗介に一歩、近付いた。
なぜ脅えない?宗介はひどく焦った。そして漠然と、もはや彼女を従わせる手段がないことを感じ取り、絶望的な気分になった。
かなめ「どうして怖がらないんだろう、って思ってるんでしょ?」
宗介「うっ……」
かなめ「理由は簡単だよ」
彼女は優しく言うと、銃を押しのけ、ゆっくりと、宗介を抱きしめた。固くも強くもない、やわらかな抱擁。両腕を背中に回し、血の滲む肩に頬を寄せる。
かなめ「あたしはね、もう、貴方を信じたの。さっき、あなたが望んだ通りに……」
胸から彼女の体温が伝わってくる。怪我の痛みなど吹き飛んで、頭の中が真っ白になった。全身の血が逆流し、体中の筋肉がひきつった。手にした銃を取り落としたことさえ、彼は気付かなかった。
かなめ「だから……だからこそ、あたしがあなたを見捨てるのは嫌なの」
彼女の濡れた前髪が、宗介の鼻先をくすぐった。
宗介「千鳥……」
かなめ「あたしね……確かに、さっきまで相良くんのことが怖かった。ただのクラスメートが、別の誰かに変わっちゃったみたいに思えて。すごく強くて、あんな風に……」
彼女はしばらく口籠もったが、迷いを打ち払うように、
かなめ「でも……あなた、「信じてくれ」って言ったでしょう?だから自分に言い聞かせたの。彼は一生懸命なんだ、あたしを助けようとしてくれてるんだ、って。だから恐れずに、彼を信じよう……って。立派だと思わない?」
宗介「……思う。立派だ」
かなめ「でしょう?ただの高校生が、ここまで譲歩してあげてるんだよ?だから、あなたももう少し頑張って。『自分は死んでもかまわない』なんて、そんな寂しいこと、考えないで。一緒に帰ろうよ……」
一緒に帰る。彼女と。
それはとても魅力的に聞こえた。そんな方法があるのなら、ぜひとも試してみたい、と思った。朝の光の中で、彼女を助けるのか。だれのために助けようとしているのか。
それがはっきりとわかった。
俺自身のためだ。俺は彼女と一緒に帰りたい。この子とずっと……
もっと生きたい。
自分がこれほど強く、なにかを望んだことがなかったのに気付いた。そして、傷つき疲れきった身体の奥から、新しい圧倒的な力が湧きあがるのを感じた。
宗介「千鳥……」
かなめ「相良くん……」
2人がぎこちなく見つめあったところで……
クルツ「……あー。ん。ごほん」
そばに横たわっていたクルツが、申し訳なさそうに咳払いをした。宗介とかなめはハッとして、飛びすさるように互いから離れた。
258
:
暗闇
:2005/12/18(日) 13:37:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
宗介「お……起きていたのか?」
クルツ「そりゃ、起きるだろーが……。あんな大声で言い合いしてたら」
かなめ「ひどい。なんで黙ってたのよ!?」
クルツ「そりゃ、黙ってるしかないだろーが……」
クルツはこめかみのあたりをポリポリと掻いた。それから意地の悪い顔で、
クルツ「いや。でも、もうすこし黙ってた方が良かったかな?悪いことをしちまったな。しっかし、まあ……君らがねえ……。へえー」
かなめは耳まで真っ赤になって、
かなめ「ち、違うわよ!?ちょっと雰囲気に流されてただけで、あたしは別に、彼となにかする気とか、そーいう気持ちは全然なくって、その……本当よ!?」
宗介(そ、そういうものなのか……?)
彼女が躍起になって否定するのを見て、宗介は内心で愕然とした。一方、クルツはこらえきれなくなった様子で、くぐもった笑いを洩らし、
クルツ「くっくっく。って、痛え。お前の負けだよ、宗介。とにかく彼女が『嫌だ』って言ってるんだ。お前のプランは却下だね。むしろ、かなめちゃんの言ってた作戦の方がいいかもしれないぜ」
宗介「何?」
クルツ「山火事とかさ。いい考えだ。このままくたばるよりかは、ずっとマシだな。まあ、この雨じゃあ、放火なんて無理だが。ガソリンでも調達するか?いや、それでもボヤで終わりだな」
宗介「そうだ。敵にこちらの位置を知らせるだけだ」
かなめ「わかんないわよ。味方の飛行機がこの辺を飛んでて、空から見つけてくれるかも」
宗介「ここは敵の制空圏だ。味方が飛んでいるわけがない」
かなめ「……じゃあ、もっと上は?スパイ衛星とかあるでしょ?」
宗介はミスリルの偵察衛星『スティング』の存在を、部外者に話してもいいものかどうか迷った。だがすぐに思い直して、
宗介「ある。しかし、都合よくここの上を飛んでいるわけがない。偵察衛星の軌道は機密事項だ。俺達のような下士官には知らされていない」
クルツ「……いや」
クルツがポツリと呟いた。
クルツ「俺は出撃前、ブリーフィングで衛星写真を見させられた。昨日の一五三〇時の、あの基地の映像だ。……いま時間は?」
宗介はなにかに打たれたようになって、腕時計を見た。
宗介「〇二八四時。あと少しで半日が経つ。……ということは」
通常、偵察衛星は90分で地球を一周する。地球の自転から計算すると、偵察衛星が同じ場所の上空にやってくるのは、約12時間おきだ。昨日の一五三〇時この地域の上空を通ったのならば……
『スティング』が、もうすぐ上空を通過する。
ほぼ正確な時間がわかっているだから、地上から火文字で存在を知らせれば……?
宗介とクルツは顔を見合わせた。『熱源の目印』と『偵察衛星』。この2つのキーワード、生死を分けるほどの重要なヒントが、はからずも素人の彼女の口から出てきたのだ。
かなめ「どうしたの?」
宗介「こんな盲点があったとは……」
クルツ「かなめちゃん、君って最高だ……!」
かなめ「な、なによ、いきなり」
宗介「ともかく実行してくる。ここにいてくれ」
かなめ「……わかった。……無茶は……いや、どうせだから無茶してこい」
宗介「そうだな」
かなめ「一人で行くの?怪我は?」
宗介「忍び歩く程度なら問題ない。それに……力も湧いてきたのでな」
それだけ言って宗介は闇の中に消えた。
259
:
暗闇
:2005/12/18(日) 16:01:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
宗介が山を下りると、集団農場が見えた。
彼はそこに忍び込み、古ぼけたトラクターからエンジンオイルを抜き取った。
オイルの詰まったポリタンクを抱え、農場の休耕地へと走る。脇腹の傷が痛んだが、我慢できないほどではなかった。
荒れた農地に、オイルをドボドボと振りまいていく。時計を見ると〇三二八時だった。
宗介(よし……)
ポケットからサバイバル・キットを取り出し、消毒用に使う過マンガン酸の錠剤を砕く。それをオイルの上にばらまき、ジッポーライターで火を点けた。
やがてオイルが引火して、ゆっくりと炎が広がっていった。
偵察衛星<スティング>の解像度は非常に高い。晴れた日の昼間ならば、新聞の見出し文字さえ楽に読める。しかし、こんな霧雨の夜では、敵の兵士と彼らとを識別するのは困難だ。だから彼は火文字を作った。
だが、すでにワールドエデンらが撤退しているのだが…基地から離れていた宗介達はそんなこと知る由もない。
『A67ALIVE』
『A』はかなめの暗号名『天使』<エンジェル>を表す。『6』はクルツの『ウルズ6』、『7』は宗介の『ウルズ7』。
千鳥かなめ、クルツ・ウェーバー、相良宗介の3名は健在なり。
宗介は足跡に用心しながら、かなめとクルツの場所に引き返した。
かなめたちの待っている位置を知らせる必要はない。<スティング>があの火文字を捉えることができれば、あとは火を点けた宗介自身のシルエットを、宇宙から追跡していくだけでいいはずだった。
オイルの火は、数分もしないうちに消えてしまうだろう。それに敵が気付くか、味方が気付くかはわからない。これはあくまで、賭けなのだ。
260
:
暗闇
:2005/12/18(日) 16:04:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
(No259に間違いがあったので修正しておきます)
宗介が山を下りると、集団農場が見えた。
彼はそこに忍び込み、古ぼけたトラクターからエンジンオイルを抜き取った。
オイルの詰まったポリタンクを抱え、農場の休耕地へと走る。脇腹の傷が痛んだが、我慢できないほどではなかった。
荒れた農地に、オイルをドボドボと振りまいていく。時計を見ると〇三二八時だった。
宗介(よし……)
ポケットからサバイバル・キットを取り出し、消毒用に使う過マンガン酸の錠剤を砕く。それをオイルの上にばらまき、ジッポーライターで火を点けた。
やがてオイルが引火して、ゆっくりと炎が広がっていった。
偵察衛星<スティング>の解像度は非常に高い。晴れた日の昼間ならば、新聞の見出し文字さえ楽に読める。しかし、こんな霧雨の夜では、敵の兵士と彼らとを識別するのは困難だ。だから彼は火文字を作った。
『A67ALIVE』
『A』はかなめの暗号名『天使』<エンジェル>を表す。『6』はクルツの『ウルズ6』、『7』は宗介の『ウルズ7』。
千鳥かなめ、クルツ・ウェーバー、相良宗介の3名は健在なり。
宗介は足跡に用心しながら、かなめとクルツの場所に引き返した。
かなめたちの待っている位置を知らせる必要はない。<スティング>があの火文字を捉えることができれば、あとは火を点けた宗介自身のシルエットを、宇宙から追跡していくだけでいいはずだった。
オイルの火は、数分もしないうちに消えてしまうだろう。それに敵が気付くか、味方が気付くかはわからない。これはあくまで、賭けなのだ。
261
:
暗闇
:2005/12/18(日) 16:25:39 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、その宇宙では…宗介たちの知られざる闘いが起こっていたのであった。
宇宙空間を包む激しい閃光と、同時に起こる衝撃波。その閃光の中から、一体のロボットが飛び出し来た。
それは、機械仕掛けの神、魔導書によって呼び出される『鬼械神<デウス・マキナ>』と呼ばれるものだ。
名をアイオーンというその機体は、背中の翼をはためかせ、虚空を睨みつけた。
そして、右手に魔力を集中し、魔力を顕在<マテリアライズ>化し、銃を生み出して、虚空に向かって一発撃った。
再び、閃光が宇宙<そら>を灼く。
そして、それはその閃光の中に浮かび上がった。
黒い、鋼を纏う恐るべき悪魔の姿が…
???A「諦めよ……いかに最強を誇る貴公とて、術者無しでこのリベル・レギスにかなう道理はあるまい」
そう…その機体の名はリベル・レギス。『法の書』の名を冠する鬼械神。ブラックロッジの大導師<グランドマスター>、マスターテリオンの乗機である。
アイオーンはそれにも関わらず、銃をフルオートで発射した。だが、リベル・レギスの防御結界によって全て阻まれる。
マスターテリオン「無駄な事を…『ン・カイの闇』よ……」
リベル・レギスの腕部の装甲の一部が展開し、無数の重力弾を形成する。
その全てが、高速でアイオーンに飛来する。
翼をはためかせ、ン・カイの闇を避け続けるアイオーン。避けきれないものが迫ってきたので、咄嗟に持っていた銃を投げつけて身代わりにする。
その後も、何とか防御結界を張ってン・カイの闇を防ぐが、一発が片足をもぎ取り、もう一発が胸部に命中し、装甲を抉り取られた。
最早限界を感じたのか、アイオーンはリベル・レギスに捨て身の特攻を掛け、共に大気圏へと落ちて行った。
マスターテリオン「クッ!!貴公、世を道連れにする気か!!往生際が悪いぞ!!」
リベル・レギスは容赦なくアイオーンの頭を鷲掴みにすると、ン・カイの闇を放ってアイオーンを引き剥がした。
マスターテリオン「堕ちろ」
そのまま落ち行くアイオーンに止めのン・カイの闇を放つ。そこでアイオーンの反応は消失した。
???B「……追わないのですか?マスター」
マスターテリオン「構わん。どの道彼奴は、間違いなくあの街に落ちる」
前の席に座る黒いドレスを身に纏った、12,3歳ほどの少女にそう答えると、彼はゆっくりとリベル・レギスの高度を落とし、そのコックピット内から眼下の街を見下ろす。そこにあるのは、現在、大黄金時代にして大暗黒時代にして大混乱時代の世界の中心と呼ぶべき大都市。アーカムシティであった。
マスターテリオン(さぁ、今回はもっと楽しませてもらうぞ。死霊秘宝<ネクロノミコン>よ……そして……)
リベル・レギスのコックピットの中で陰鬱な笑みを浮かべ、アーカムシティを見下ろすマスターテリオン。
その姿は、その名が示す通り、『聖書の獣』または『大いなる獣』そのまたは『七頭十角の獣』…今の彼は正にそのものであった。
262
:
暗闇
:2005/12/18(日) 17:21:25 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
どんなに街の灯りが夜を照らしても、どんなに科学が迷信の闇を暴いても、人が神様を捨てることなんて出来やしない。
なぜかって?科学の光ってのは人の心の空洞を暴いてしまうからだ。
空っぽでスカスカな自分を何とか埋め合わそうと、人は宗教をその空洞に詰め込もうとする。何とも調子のいい話だ。
人は神様を潔癖をうとんじて、それから逃れようとしてこの傲慢の塊のような街を築いたけれど、それでもやっぱり駄目だったから、また神様にすがる。
尽きせぬ神への愛につけ込んで、だ。
俺こと大十字九朗とて人の事が言えた義理じゃない。
いや、むしろその典型だ。不敬で不遜で自堕落で……それでも困ったときはここぞとばかりに神にすがる。
祈りの言葉も聖書の一説も覚えちゃいないってのにホント調子がいい。
だけどそんな不様をさらしたって俺にはもう神様ぐらいしか頼るものはないんだ。
それほどまで俺の空洞は致命的に俺を侵しつつある。
虚ろだ。空っぽだ。がらんどうだ。
それほどまでに切実で、そして確実に直面している危機なのだ。
―――ぶっちゃけた話、ここ一週間ばかし何も喰っちゃいねぇ。
ここ一週間で口にしたのは塩と水だけだ。ちなみにその前日はパンの耳だけだったりするが。
まだしも路地裏の野良犬の方がよっぽど上等な食生活をしているのに相違あるまい。
―――そして塩の備蓄も昨日尽きた。
限りなく100に近付いていたエンゲル係数は今日に至って0に大暴落。計算式の裏を書く、前代未聞の経済大恐慌だ。
無論、俺とてただ手をこまねいて死を待っているワケではない。
この教会に来たのだって、恥を忍んで飯をたかろうという非常に前向きな人生プランに基づいたがゆえだ。
唯一の誤算は―――そのたかる相手が留守だったってことだけだ。
九朗(ははっ……死ぬしかないなぁ。)
倒れた俺の周りに、白い鳩がやたらと集まってきているのは、俺の屍を啄(ついば)み貪り尽くそうという、そんな『ニーチェが超人思想を語った著書に出てくる某人物が広めた某教え』の埋葬法的魂胆ゆえか?
ああ……どーでも良いや。俺はもう疲れたよ……
そしてなんだかとっても眠たいがゆえにルーベンスの『キリスト降架』『キリスト昇架』の絵の下、鏖殺(おうさつ)の雄叫びをあげるブービエ・デ・フランダースの犬そりに乗せられ、我が魂はヴァルハラへと導かれる。
……まずい。ついに幻覚まで見え始めてきた、そんな絶望的で麗らかな昼下がりの午後。
エンディングテーマまで流れ始めました。このまま俺の人生はスタッフロールに突入。
そして閉幕と共に観客総立ち、大喝采。世界中で感動の嵐。興行成績連続一位。
「そのとき、世界中が泣いた!」
「我々は歴史的瞬間に立ち会おうとしている」
「騙されたと思ってみて見なさい!」
「ママ、切り刻むほどに愛してる」
263
:
暗闇
:2005/12/18(日) 17:37:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ・教会=
ジョージ「あー、九朗が倒れてるぞ」
コリン「わ〜い、行き倒れ〜〜」
アリスン「(おろおろおろ)」
真剣に死に掛けている九朗の下に、この教会で引き取られている孤児の三人が寄って来た。
ジョージ「お〜い、九郎ー。生きてるかー?つんつん」
コリン「あはははははっ」
アリスン「(おろおろ)」
九郎「……」
ジョージ「ラクガキしちゃえー!」
アリスン「(おろおろおろ)」
九郎「………」
コリン「九朗、ミミズだよ〜、トカゲだよ〜、クモだよ〜、ヘビだよ〜」
アリスン「(おろおろおろおろおろ)」
悪戯盛りであるジョージとコリンは死体と化しつつある九朗に際限りなく悪戯を敢行。一方で気の弱い女の子であるアリスンはただおろおろしているだけであった。
九朗「だぁぁぁぁ!!クソガキどもが!!」
ジョージ「わ〜!行き倒れが甦った〜」
コリン「ゾンビ〜ゾンビ〜〜!!」
アリスン「………っ!!」
九郎「世界中では今日もどれだけの人間が飢えで苦しんでいるかを考えた事があるか、この冷血感どもっ!!」
全員そこに直れぃ!今日こそは、地球を救う愛の偉大さ加減を直接身体に叩きこんでやる!!」
ジョージ「わーい、九郎が怒ったぞーっ」
コリン「逃げろー逃げろー」
アリスン「………っ」
蜘蛛の子散らして逃げる子供達と九朗(本気)の追いかけっこが始まった。
とそこに、丁度この教会のシスターであり子供達の保護者であるライカが帰宅した。
ライカ「あらあらあら……哀れなる子羊たる九朗ちゃんが、子供達に毒牙を伸ばしてるぅ〜!!九朗ちゃぁぁん!早まっちゃ駄目〜!神様は哀しんでおられますよー!!」
コリン「あははははっ、殺される〜、助けて〜」
九朗「シスターか、このガキどもを無事に返して欲しくば、飯を用意しろ!今すぐだっ!つーか、急がないと俺が死ぬから!ああー!チクショウ!動き回ったから、尚の事意識が朦朧として来やがった!死ぬのか!?ここでスッタッフロールか!?」
ライカ「ああ、九朗ちゃんったらすっかり向こう岸に渡り掛けて…こらー、九朗ちゃぁぁん、帰って来ぉぉ〜〜い!お〜い!」
264
:
暗闇
:2005/12/18(日) 18:21:32 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その後…
=大十字九郎 探偵事務所=
九郎「ふぅ・・・」
あの後、結局、ライカの厚意により夕食をごちそうになった九郎。
事務所とは名ばかりのボロアパートに戻り、ソファーに寝転がり、毛布にくるまる。
横を見やれば、窓から街が見て下ろせた。
夜空を貫くようにそびえる摩天楼。
眠ることを知らない街。
アーカムシティ。
魔術理論の最先端にして、人類の繁栄の最頂点。
―――魔術。
物理法則すら捻じ曲げ、意図的に奇跡を実現させるシステムを人類は手に入れた。
さらにこの街ではその神秘を科学的に解明、応用する段階にまで達している。
情報単位『字祷子』<アザトース>によってエネルギーを生み出す魔力炉。結界内部の物理法則を改変することによって行われる環境コントロール。心霊医療。そして魔術兵器としての軍事利用―――
科学の進歩と錬金術の復古は人々の生活を格段に向上させた。様々な分野でそれはビジネスチャンスを生み、経済は未だかつてないほど潤っている。
繁栄は多種多様の人種を呼び、集まった人々がまた新たな流れを作り出す。一夜にして巨万の富を掴む者もいれば、一夜にして全てを失う者もいる。
良きにしろ悪しきにしろ、この街は活気に満ちている。満ち満ちている。有り余っている。
アーカムシティは今、間違いなく世界の中心だ。
だがこの街で発展しているそれらの技術は全て外に持ち出すことは法的にも厳しく禁じられており、街を出る時には必ずそれを防ぐ為の監視を初めとするあらゆる処置が行われる、さらに治安も悪化の一途を辿っている。
265
:
暗闇
:2005/12/18(日) 18:31:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
光と影がそうであるように繁栄と腐敗もまた表裏一体だ。浮浪者は増えスラムは広がり、暴力と新興宗教が道徳を追いやり幅を利かせている。
そして更に最悪なことに
―――この街には『悪の秘密結社』まで存在する。
魔術師を首領に揚げる彼らは実戦こそを魔術の本質と説き、その欲望の赴くまま犯罪に手を染めていく。
この街の凶悪犯罪のほとんどが、何らかの形で彼らに繋がっていると考えて間違いない。
何にせよ、この街は激動しているのだ。
大黄金時代にして大混乱時代にして大暗黒時代。
それがこのアーカムシティだ。
富豪も貧民も賢者も愚者も聖人も悪人も分け隔てなく受け入れ、生かし殺す。
そんな街だからこそ九郎も生きることが出来る。
だけれども…
九郎「……足りない」
足りない。
そう、何かが致命的なまでに足りない。
虚しい。
その理由が分からないままに、そしてその理由を考える暇もないままに、今日は過ぎ去り明日が来る。
九郎「それも……仕方ないか」
虚ろ。
空っぽ。
がらんどう――
独り呟き、九郎はまぶたを閉じた。
その翌日に…彼が目を覚ますその時に…彼の運命が大きく変動することを知らずに…
266
:
藍三郎
:2005/12/18(日) 20:18:06 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
=森林地帯=
かなめ「どう?うまくいきそう?」
戻ってきた宗介にかなめは声をかける。
宗介「わからん。もともと分の悪い賭けだ。
君一人で逃げた方が、まだ見込みはあっただろう」
かなめ「もう手遅れよ。考え直す気もないから」
宗介「それはよくわかった。もう君に命令はしない」
かなめ「ありがと」
かなめの言うとおり、もはや別の選択を選ぶ余裕はない。
やるべきことはやった。あとは作戦の成功を信じるだけだ。
かなめ「ねぇ・・・もし無事に帰れたら、相良くんはどうなるの?」
宗介「次の任務に就くだけだ」
かなめ「どこか別のとこにいっちゃうわけ?学校にはもう来ないの?」
宗介「そうなるだろうな。あの学校の生徒という立場は、あくまで仮のものだ。
別の任務では邪魔になる。俺はただ、君たちの場所から消え去るだけだ」
かなめ「そう・・・」
かなめが寂しげに漏らした、その時だった。
宗介「・・・・・・!」
複数の足音が、彼の耳に入った。位置はここからかなり近い。
かなめ「どうし・・・」
宗介「静かに」
宗介は、銃を手に取ると、音を立てぬよう立ち上がり、
木々の隙間を通して遠くの様子を伺う。
悪い予感が当たった。
4,5体のアーナロイドが隊列を組み、こちらに向かってくるのが見えたのだ。
クルツ(つけられたな、このバカ!)
いつの間にか隣に来ていたクルツが、小声で罵る。
宗介(時間の問題だった。仕方がない)
そう返しつつ、銃の標準を定め、ドロイド部隊に向けて発砲する。
アーナロイド「ウィー!?」
頭部に銃弾を食らったアーナロイドは、断末魔の機械音と共にその場に倒れ伏す。
しかし、これで安心はできなかった。さらに多くの足音が、あたり一面から聞こえてくる。
次から次へと、増援が駆けつけてくるのだろう。
宗介(あと十発・・・)
残った弾数を確認する宗介。
たったこれだけの銃弾では、敵の大部隊を相手にたちまち尽きてしまうのは明白だった。
クルツ「いよいよかい・・・くはは・・・」
絶望的な状況に、とうとうクルツは笑い出した。
かなめ「やっぱり、駄目だったみたいね・・・」
宗介「そのようだな。すまない・・・」
かなめ「でもあたし、後悔してないよ。相良くんと会えて、よかった」
宗介「・・・ああ」
暗い声で答える宗介。
267
:
藍三郎
:2005/12/18(日) 20:20:30 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
その直後、目の前の森をかき分けて、無数のドロイド部隊が姿を現す。
数は優に10を越えていた。
バーツロイド「○×▼♪△■×?$」
先頭にいたアーナロイドの上位型ドロイド『バーツロイド』は、
意味不明な擬音を上げると、手に装着されたレーザー銃を3人に向ける。
その時・・・
「まぁてぇぇぇぇっ!!!」
この暗い森に似合わぬ、空を切り裂くような雄叫びが、周囲に轟いた。
次の瞬間、いくつもの銃弾の雨がドロイド部隊を見舞う。
バーツロイド「●▽×&%◇$??」
突然の襲撃者に、バーツロイドは手のレーザー銃を向ける。
だが、その銃口から光線が吐き出されることはなかった。
森を縫って飛んできた閃光が、バーツロイドの頭部を先に撃ちぬいたからだ。
赤と青の影が姿を現す。一人は2丁拳銃を、もう一人はスナイパーライフルを携え、
瞬く間にドロイドを蹴散らしていく。
そして、わずか数秒の後・・・全てのドロイドは機能を停止し、地面に倒れていた。
かなめ「・・・・・・」
眼前で起こった出来事に、かなめは呆気にとられていた。
だが、自分たちを救ってくれた者たちの姿には見覚えがあった。
デカレッド「ふぅ〜〜・・・なぁんとかギリギリ間に合ったみてーだな!相棒!」
デカブルー「相棒って言うな!全く・・・」
銃を腰にしまう2人に、かなめは驚きの混じった声をあげる。
かなめ「あ、あなた達、デ、デカレンジャー!?」
目の前の2人は、日ごろ新聞やテレビで取りざたされている地球のヒーロー、
デカレンジャーに間違いなかった。
バン「その通り♪俺は宇宙警察地球署刑事、デカレッドこと赤座伴番だ!
君たちを、ここから助けに来たぜ!」
変身を解き、屈託のない笑顔で挨拶するバン。
ホージー「君が、テロリストに連れ出されたという女生徒だね。それに・・・!!」
かなめに話しかけていたホージーは、とっさにDショットを抜く。
傍らにいた宗介が、バンとホージーに銃を向けたからだ。
バン「おいおい!何しやがんだよ!」
ホージー(島に残されたもう一人の生徒か?だが、それにしては・・・)
宗介「お前たち・・・何者だ」
瞳に警戒の色を浮かべ、強張った口調で問いかける宗介。
彼にとって、デカレンジャーの2人は得体の知れない謎の闖入者だったからだ。
クルツ「待て、ソースケ。こいつらは敵じゃねぇよ」
既に2人と顔見知りだったクルツは、手を出して宗介の行動を制する。
クルツ「この2人はスペシャルポリスのメンバーで、今回の救出作戦の協力者だ。
だから、その銃は下ろしとけ」
宗介「・・・・・・」
クルツにそう言われ、宗介は銃を下ろす。
バン「クルツ!お前も島に残ってたのか!」
クルツの姿を見たバンは、意外そうな声をあげる。
クルツ「ちっとドジ踏んじまってな・・・だが、その台詞そのまま返すぜ。
お前ら人質搬送用の輸送機で先に脱出する手筈じゃなかったのか?」
ホージー「まだ島に要救助者が取り残されているという話を聞いてな・・・
その救出のため、俺とバンは島に残って捜索を続けることにしたんだ」
クルツ「エライこったねぇ・・・とにかく、恩に着るぜ。
どーせならウメコちゃんかジャスミンちゃんが
来てくれた方が良かったけどな♪」
バン「へっ、そんな軽口を叩けるぐらいの元気は、まだ残っているみたいだな!」
クルツ「ははは・・・かろうじてだがな・・・」
268
:
藍三郎
:2005/12/18(日) 21:00:40 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
クルツ「しかし、お前ら、グッドタイミングなのは結構だが、
どうして俺らのいる場所がわかったんだ?」
もっともな疑問を口にするクルツ。
ホージー「最初は闇雲に探すしかなかったが、
途中で森から煙が上がっているのが確認できたんだ」
バン「何か怪しいってことで、煙が出ているあたりを探してみたら、
見事ビンゴ!ってわけ」
クルツ「そうだったのか・・・おっと、紹介が遅れたな」
クルツは隣にいる宗介を紹介する。
クルツ「こいつは相良宗介。ミスリルのSRTで俺の同僚だ。
実は、こいつ今まで身分を隠してあの高校に潜入していてな・・・
そのせいで今回の一件に巻き込まれ、最初から島に居合わせていたのさ」
バン「へぇ〜こいつもミスリルの・・・」
ならば、銃を持っていたのも不思議ではない。
さらに、ミスリルがあれほど迅速に作戦を展開できたのも頷ける。
彼らは最初から島に潜入していた宗介によって、
敵の内部事情を詳しく知ることができたのだ。
ホージー「さて、おしゃべりはここまでにしておいた方がいいな。
この周囲にいた敵はあらかた片付けたが、また増援が来る可能性もある」
移動を提案するホージー。一同が同意しようとした、その時だった。
バン「・・・!危ない!!」
突然声をあげるバン。
見ると、夜空を照らし、ボール状の炎の塊がまっすぐこちらに落ちてくる。
バンは素早くディーショットを抜くと火炎弾を撃ち落とす。
ホージー「敵かっ!!」
伊坂「ようやく見つけたぞ・・・<ウィスパード>!」
火炎弾を放った襲撃者は、サングラスをかけた黒コートの男だった。
それだけなら驚くには値しない。だが、彼には異常な点が一つあった。
彼の体は地上から離れ、宙に浮いていたのだ。
かなめ「嘘・・・人間が・・・空を?」
信じられぬといった口調で呟くかなめ。
伊坂「フン、報告では娘を奪取したのは一人という話だったが・・・
いつの間にか取り巻きが増えている・・・
しかもスペシャルポリスの奴らまでいるとは・・・」
スペシャルポリスの制服に身を包んだ2人を見て、そう呟く伊坂。
伊坂「まぁよい。所詮俺の敵ではない。すぐに終わらせるとしよう」
伊坂の体は徐々に地上へと降下していく。
やがて着地すると、ゆっくりと5人の下へ歩み寄ってくる。
バン「お前、何者だ!!」
ディーショットを向け、声を荒げるバン。
伊坂「下等種族ごときに、名乗る必要はない」
バン「何ぃ!?」
ホージー(下等“種族”・・・?どういう意味だ?)
伊坂の言い回しにホージーは疑問を抱く。
伊坂「用件は一つだ。その小娘をこちらに引き渡してもらおう」
かなめ「あ、あたし!?」
宗介(千鳥を・・・やはりガウルンの言っていた、ブラック・テクノロジーとやらが目的か?)
ガウルンが戦闘中に口走っていたことを思い出す。
伊坂「おっと、勘違いする前に言っておくが、別に貴様らと交渉をするつもりはないぞ。
小娘以外のお前たち4人をこの場で殺せばそれで済むことだからな」
ホージー「何・・・!」
伊坂「とはいえ、相手はスペシャルポリス・・・
虫けらを潰すようにはいくまい。俺も真の姿で戦うとしよう・・・」
伊坂がそう呟いた直後、彼の体が青い炎に包まれる。
やがて、伊坂の体は人間のものから、異形の姿へと変貌していく。
かなめ「ば、化け物・・・」
変身・・・否、“本来の姿”に戻った伊坂を見て、かなめはおびえた声を漏らす。
伊坂の正体・・・孔雀の祖たる不死生物“ピーコックアンデッド”が、5人の眼前に降臨していた。
269
:
藍三郎
:2005/12/19(月) 21:10:56 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
アンデッドとしての本性を現した伊坂を前にして、バン達五人は皆凍りついたように固まっていた。
頭部は鳥のような形をしており、無数の孔雀の羽根が両肩から伸びている。
身に纏っている黒いコートが、人間体時の面影を残していた。
やがて、おもむろにピーコックアンデッドは手を前方にかざす。
そして、爆音と共に火の玉が掌から放たれ、5人の元へと飛んでいく。
バン「やばい!!」
危機を感じたバンとホージーはとっさにSPライセンスの変身ボタンを押す。
「「エマージェンシー!」」
瞬時に変身を遂げたデカレッド、デカブルーの二人は、それぞれ銃を抜き、
襲撃を受けた時と同じようにして火炎弾を打ち落とす。
デカブルー「3人とも!できるだけ後ろに下がっていろ!!」
クルツ「あ、ああ!!」
ブルーにそう言われ、宗介とクルツはかなめを連れて後方へと下がる。
デカレッド「てめぇ、一体何なんだその姿は!お前もアリエナイザーなのか!?」
異形と化した伊坂に対し、もっともな疑問をぶつけるバン。
ピーコックアンデッド「アリエナイザー?フッ、違うな・・・
俺はお前たち人間と同様、れっきとしたこの地球の生物だ」
デカブルー「地球の生物だと…」
ピーコックアンデッド「そうだ。もっとも、我々は貴様ら人類が誕生する以前・・・
一万年以上前より存在していたがな」
デカブルー「一万年前…ま、まさか!!」
ホージーは、何か思い至ったような声を上げる。
デカレッド「どうした相棒!何か心当たりでもあんのか!」
デカブルー「ああ、貴様の正体は、“アンデッド”だったのか・・・」
デカレッド「アンデッド・・・?」
聞きなれぬ単語にバンは首を傾げる。
デカブルー「お前は少し前に地球署に来たばかりだから知らないだろうが・・・
今を遡ること4年前、日本で正体不明の怪物による連続猟奇殺人事件が発生した。
その怪物どもは、あらゆる兵器による攻撃を受けつけず、
決して死すことがない不死の肉体を持つことから、
不死生物“アンデッド”と呼ばれたという・・・」
デカレッド「そのアンデッドってのが、こいつなのか・・・」
かなめ「あ・・・あたしもその話知ってる・・・本で読んだことあるわ・・・」
かなめは、以前読んだある本のことを思い出した。
その本には、4年前に起こったアンデッドによる事件・・・
そして、アンデッドに対抗するために
生み出された“仮面ライダー”と呼ばれる者たちの戦いの記録が記されていた。
かなめも最初読んだ時はあまりに荒唐無稽で到底信じられない内容だったが、
異常事態が次々と起こっている現在の状況では、真実でもおかしくない・・・という気になっていた。
かなめ「でも、その本じゃ“仮面ライダー”ってのに、
アンデッドは全部倒されたはずじゃ・・・」
デカブルー「ああ、確かにアンデッドはボードと呼ばれる研究機関が創り出した、
“仮面ライダー”によって全て封印された・・・
だが最近、封印されたはずのアンデッドが再び現われたという情報を聞いたことがある。
まさかと思っていたが・・・本当に復活していたとは・・・」
デカレッド「でも何でアンデッドがこの女の子を狙うんだ!?」
ピーコックアンデッド「フン、正確には小娘ではなくその脳に詰まっているモノだ。
今度こそ我が種族が、この星の支配者として君臨するためには、
その小娘の中にある“情報”が役に立つのでな」
宗介(情報・・・!やはりこいつも・・・!)
デカブルー(千鳥かなめ・・・この子はただの高校生ではなく、
アンデッドやアリエナイザーが狙う何かがあるというのか!?)
デカレッド「訳のわからねぇ事を!どういう意味・・・」
ピーコックアンデッド「お喋りはここまでだ。
目障りな貴様らは、今すぐ消えてもらおう!!」
そう宣告すると、ピーコックアンデッドは手に一振りの諸刃の剣を具現化させる。
それを持って、デカレッドとデカブルーの元へと駆けていく。
デカレッド「来るか!いくぜ相棒!!」
デカブルー「相棒って言うな!!」
2人のデカレンジャーも、それぞれ武器を取り出し、
ピーコックアンデッドを迎え撃つ。
270
:
藍三郎
:2005/12/19(月) 21:43:39 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
デカレッド「食らえ!!」
迫り来るピーコックアンデッドに向けて、ディーマグナムを連射する。
しかし、ピーコックアンデッドは全身に銃弾を浴びても、意に介することなく突っ込んでくる。
ピーコックアンデッド「無駄だ!いかに宇宙警察の最新鋭装備といえど、
我が不死の肉体には通用せん!!」
ピーコックは手にした剣を勢いよく振り下ろす。
デカレッド「ぐあぁぁぁぁっ!!」
袈裟懸けに斬られ、手痛いダメージを負うバン。
さらなる攻撃に出ようとするピーコックだったが、別方向からデカブルーが飛んでくるのが目に入った。
デカブルー「たぁっ!!」
電磁警棒ディーロッドで、突きを放つデカブルー。
だが、この攻撃はピーコックの振った剣によって阻まれた。
ピーコックは掌から火炎弾を発射する。デカブルーは腹部にそれを食らい、後方へと吹っ飛ばされてしまう。
デカブルー「ぐぉぉっ!!」
デカレッド「相棒・・・くっ!」
大きなダメージを食らいながらも、何とか立ち上がる2人。
デカレッド「これ以上・・・好きにさせるかよ!!」
ピーコックアンデッド「無駄なあがきを・・・ならば一思いに葬ってくれる!」
ピーコックの両肩に生えた、孔雀の羽根が肩から抜けて宙に浮き始めた。
そして、それらの羽根は、一斉にデカレンジャー2人に向けて飛んでいった。
無数の羽根は、まるで木の葉のように宙を舞い、その鋭利な刃で2人の体を傷つけていく。
2人「ぐわぁぁぁぁぁっ!!」
ピーコックアンデッド「話にならん!
噂に名高いスペシャルポリスとはいえ、所詮は人間、この俺の敵ではない!!」
倒れる2人を見てあざ笑うピーコック。
ピーコックアンデッド「だが、貴様ら宇宙警察の持つ技術には大いに興味があるぞ。
貴様らの息の根を止めたら、じっくりとその装備を解析させてもらおう」
ピーコックアンデッド(そして、俺が作る“最強のライダー”の礎となるがいい・・・)
271
:
藍三郎
:2005/12/23(金) 14:46:45 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
ピーコックアンデッドの驚異的な強さの前に、
バンとホージーは絶体絶命の危機を迎えていた。
クルツ「嘘だろ・・・デカレンジャーでも歯が立たないのかよ・・・」
後方でその様子を見ていたクルツは、うめき声を漏らす。
宗介「クルツ、千鳥、すぐにここを離れるぞ。
彼らがあの未確認生物を引きつけている間に、安全な場所へと退避する」
かなめ「ちょっと!あの人達を置いていくの!?私たちのために戦ってくれてるのに!」
デカレンジャー2人に足止めを任せ、その間に自分達は逃げようというのだ。
宗介の非情な提案をかなめは難色をしめした。
宗介「だからこそだ。彼らは敵を引きつけ、時間を稼ぐ役目を自ら選んだ。
俺たちがそれに答えなくては、彼らの行動が無駄になる」
宗介は、デカレンジャーについて詳しく知らないが、
彼らの態度や戦いぶりから、自分と同じように
任務のためには己を捨てられる真のプロであると察していた。
ここにいる4人のプロフェッショナルに託された目的は、千鳥かなめの護衛。
それを果たすために、宗介もその一人として、
自分にできる事をやらねばならないと感じていた。
クルツ「口惜しいが・・・あのバケモンは俺たちじゃ手に負えねぇ。
まして銃弾はとうに尽きかけてやがる。
宗介の言う通り、あいつが追って来れないところまで逃げるしかないな」
かなめ「・・・わかったわ」
やむなく同意したかなめを連れ、その場から離れようとする3人。
だが、その動きをピーコックアンデッドは見逃さなかった。
ピーコックアンデッド「む、逃げるつもりか…そうはさせん」
ピーコックにある無数の瞳が光った直後、両肩の羽根が再度宙へと放たれる。
ピーコックアンデッド「どうせすぐに見つけられるだろうが…
余計な手間がかかるのも面倒だ。動けぬように足を殺しておくか」
羽根がかなめ達の元に向けて飛ぶ。かなめの足を撃ちぬいて動けない様にするつもりだ。
デカレッド「させるかぁ!!」
それを阻止したのは、何とか起き上がったデカレッドだった。
二丁のディーマグナムが火を吹く。
放たれた銃弾は、正確に孔雀の羽根に命中し撃ち落とした。
ピーコックアンデッド「む・・・!」
デカレッド「今のうちだ!速く逃げろ!!」
かなめ「え、ええ!」
デカレッドに促され、足を速めるかなめたち。
ピーコックアンデッド「いかせん!!」
デカブルー「それはこっちのセリフだ!!」
同じく起き上がったデカブルーのディースナイパーのレーザー光が、闇夜を照らす。
伸びる火線は、ピーコックアンデッドの体を貫き、わずかながら負傷させる。
ピーコックアンデッド「くっ・・・目障りな奴らめ。
おとなしくたばっていればいいものを・・・今すぐ引導を渡してやる!」
手にした剣を大きく振るうピーコック。
レッド&ブルー「ぐわぁぁぁぁっ!!」
胸を切り裂かれ、2人は再び倒れてしまう。
ピーコックアンデッド「とどめだ!!」
発した宣告どおり、とどめを刺さんと剣を振り下ろすピーコック。
だがその時・・・
ゴォォォォォォォ・・・・・・
ピーコックアンデッド「む!?」
どこからか聞こえてくる轟音を耳にして、伊坂は手の動きを止める。
かなめ「何・・・?あの音・・・」
クルツ「空から・・・何か来る!!」
それは、巨大な質量を持った複数の物体が、はるか上空から落下してくる音だった。
やがて、轟音と粉塵を巻き上げ、5色の戦闘車両が着地する。
デカレッド「あ、あれは・・・!」
デカブルー「デカマシーン!!」
窮地の彼らの元に現れたのは、
スペシャルポリスが保有するデカレンジャー専用の大型戦闘車両“デカマシーン”だった。
???「アウーン!!」
皆があっけにとられる中、車両の中から犬のシルエットをした何かが、咆哮と共に飛び出てくる。
それはピーコックアンデッドに飛びかかると、その腕に噛みつく。
ピーコックアンデッド「ぐぅっ!!」
さらに、それに続けて緑、黄、桃の三つの影が夜空に舞う。
3人は手にした棒状の武器で、タイミングを合わせてピーコックに突きを放つ。
その攻撃は見事に炸裂し、アンデッドの肉体に火花を散らす。
その後、3人と1匹は素早く身を翻し、敵手から離れバンとホージーの元へと着地する。
272
:
藍三郎
:2005/12/23(金) 14:47:36 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
デカイエロー「バン、ホージー!!」
デカレッド「ジャスミン!センちゃんにウメコ・・・それに、マーフィー!」
マーフィー「アウーン!」
駆けつけたのは残る3人のデカレンジャーと、ロボット警察犬マーフィーK9だった。
デカグリーン「2人とも大丈夫かい?」
デカブルー「ああ、何とかな・・・」
デカレッド「だけど、こんなに早く来てくれるとは思わなかったぜ」
デカピンク「もう大変だったのよ〜〜
人質のみんなをミスリルの基地近くに降ろした後、
休む間もなく5人分のデカマシーンを
あたし達ごとロケットブースターで射出してここまで来たんだから」
デカイエロー「かなりスリル万点だったわよ♪」
デカブルー「だが、どうして俺達のいる場所に正確に着地できたんだ?」
デカグリーン「ミスリルから情報があってね・・・
なんでも、あちらの衛星がこの島からSOS信号を受信したそうなんだ。
信号をキャッチした地点に救助者と、捜索中のバン達がいると考えて、
デカマシーンと僕らを送ることになったのさ」
宗介(衛星・・・そうか、“スティング”があの狼煙をキャッチしたのか)
かなめ(うまくいったみたいだね、あたし達のアイデア)
宗介(ああ・・・)
デカイエロー「さ、お喋りはこの辺にして、まずはあの敵を何とかしましょう!」
デカピンク「そういや、とっさに攻撃したけど、
あのケバケバした鳥みたいなのって何者なの?」
デカブルー「詳しい説明は後だ。ジャスミンの言う通り、まずは敵を撃退する!」
ピーコックアンデッド「俺を倒すだと?下等種族風情が、奢った口を叩くな!」
デカレッド「そいつはどうかな!?
デカレンジャーが五人揃えば、もう怖いもんなしだ!!行くぜ鳥野郎!!」
ピーコックアンデッド「5人まとめて葬ってくれる!!散れ!!」
両肩から羽根を飛ばして攻撃するピーコック。
デカレッド「その攻撃は、既に見きってるぜ!!」
ディーマグナムを連射し、バンは羽根を撃ち落して行く。
デカイエロー「今よ、ウメコ!」
デカピンク「おっけ〜〜♪」
バンが羽根を撃ち落とした隙を縫って、上空へと飛びあがるイエローとピンク。
ディースティックで伊坂に突きを放つ。
ピーコックアンデッド「小癪な!!」
両刃剣を振るい、2人を切り落とそうとする。
だが、剣を振るう前に、前方から飛んできた光が剣を持った手を貫いた。
デカブルーが、伊坂の掌を狙ってスナイパーライフルを放ったのだ。
ピーコックアンデッド「ぐ!!」
剣を落としてしまったピーコックはイエローとピンクの直接攻撃を受けてしまう。
デカグリーン「まだまだ!!」
デカブルー「隙は逃さん!!」
デカレッド「行っくぜぇぇぇぇっ!!!」
2人による同時射撃が、ピーコックの体を見舞う。
さすがのアンデッドとはいえこれにはたまらず仰け反る。
ピーコックアンデッド「くっ・・・信じられん。
こいつらの個々の戦闘力は俺の足下にも及ばぬはず。
なのに数が増えただけでこれほどの力を発揮するとは・・・」
予想外のダメージを負った事に、伊坂は動揺する。
デカブルー「教えてやる!デカレンジャーの力は、単なる個々の力の足し算じゃない!」
デカグリーン「俺達のコンビネーションは、互いの力を二倍三倍へと上げていくんだ!」
デカレッド「そういうこった!このまま一気にキメるぜ!!マーフィー!!」
マーフィー「ワン!!」
飛びあがったマーフィーに、デカレッドはキーボーンを投げる。
キーボーンを咥えたマーフィーは、ディーバズーカへと変形を遂げた。
デカレンジャーはディーバズーカを構え、目前の敵に照準を定める。
デカレッド「ターゲットロック!!」
5人「「「「「ストライクアウト!!」」」」」
5人が叫ぶと同時に、ディーバズーカから二つの火球が轟音と共に放たれる。
ピーコックアンデッド「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ディーバズーカの直撃を食らったピーコックアンデッドの体は、
遥か後方へと吹っ飛んでいった。
クルツ「ひゅ〜〜♪すっげえな。あのバケモンをぶっ飛ばしちまいやがったぜ!」
宗介「あれが、宇宙警察の力か・・・」
デカレンジャーの戦いを目の当たりにした宗介の顔に、かすかな驚嘆の色が浮かぶ。
特に驚かされたのは伊坂を撃退したディーバズーカなる武器の威力だ。
あの破壊力なら、装甲車両はおろかASでさえ木っ端微塵にしてしまうかもしれない。
軍兵器に携わる者として、その凄まじさに宗介は戦慄を禁じえなかった。
273
:
藍三郎
:2005/12/23(金) 15:32:25 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
伊坂を倒し、何とか危難を退けた一行。
だが、さらなる脅威は、休む間もなく彼らの元へと訪れた。
激しい地面の揺れが、彼らを襲ったのだ。
かなめ「じ、地震!?」
宗介「いや・・・あれを見ろ!」
宗介が振り向いた方向から、40メートル近い大きさの
巨大な影が立ち昇ってくるのが見えた。
あのシルエットには見覚えがある。
昼間校庭に現われ、校舎を消し去りかなめ達を誘拐した張本人・・・
テロリスト達が所有する怪重機『エンバーンズ』だった。
バーツロイド「☆●×$%♪○」
エンバーンズのコクピットには、
主に怪重機の操縦を担当するドロイド兵、バーツロイドが搭乗していた。
デカレッド「出やがったな、怪重機!!」
デカグリーン「一難去ってまた一難だね」
デカイエロー「もう五難ぐらい来てる気もするけど・・・」
それだけではない。怪重機に随伴するようにして、多数のAS部隊も現われる。
デカレッド「向こうがマシンで来るなら、こっちもマシンで応戦だ!
みんな、デカマシーンで行くぜ!!」
デカピンク「ロジャー♪」
デカブルー「マーフィー!そちらの3人は任せたぞ!」
マーフィー「ワン!!」
かなめ達の警護をマーフィーに任せ、5人はそれぞれのデカマシーンへと散らばって行く。
赤色の六輪高速戦闘車『パトストライカー』にはバンが、
青色のホバージェット『パトジャイラー』にはホージーが、
緑色の巨大トレーラー『パトレイラー』にはセンが、
黄色の装甲車『パトアーマー』にはジャスミンが、
桃色の広報車『パトシグナー』にはウメコが、それぞれ乗りこむ。
デカレッド「デカマシーン、発進だぜ!!」
号令と共に、怪重機とAS部隊に向かっていく5台のデカマシーン。
デカピンク「そこの怪重機、止まりなさい!!」
天板にあるサイドボードを赤く点灯させ、停止のシグナルを送るパトシグナー。
だが、もちろん怪重機もAS部隊もそれを聞くことなく進軍を続ける。
デカピンク「あーん無視〜〜ひっど〜〜い!!」
デカグリーン「ま、今更聞くわけ無いよね。とりあえず、動きを止めさせてもらうよ!」
パトレイラーはコンテナに内蔵されているシグナルキャノンを展開し、黄色のワイヤーをエンバーンズに向けて発射する。
ワイヤーはエンバーンズをぐるぐる巻きにするが、すぐに振りほどかれてしまう。
デカイエロー「どーんといってみよー!どーんと!!」
デカブルー「ジャイロバルカン、発射!!」
パトアーマーは体当たりで、パトジャイラーは
上空からのバルカンでそれぞれ攻撃するも、エンバーンズには大して効いていないようだ。
デカグリーン「やはりデカマシーン単体の力では歯が立たないか・・・!」
デカピンク「だったらやることは一つだね!」
デカブルー「ああ、相手は怪重機・・・『特捜合体』で一気に倒すぞ!」
デカレッド「おっしゃ!真実一路、一発必中!行くぜ、特捜合体!!」
5台のデカマシーンは合体のフォーメーションを開始する。
パトアーマー、パトシグナーは両腕、
パトジャイラー、パトレイラーが両足、パトストライカーが胴体となり、
人型ロボへと合体していく。
5人「「「「「ビルドアップ!デカレンジャーロボ!!」」」」」
5台のデカマシーンが合体することで完成する全長45メートルの巨大ロボ、
地球署の切り札『デカレンジャーロボ』が、闇夜の森林に姿を現した。
274
:
藍三郎
:2005/12/23(金) 15:59:55 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
かなめ「ほ、ホントに合体しちゃった・・・」
クルツ「話には聞いてたが・・・信じられねぇ・・・」
合体を遂げたデカレンジャーロボの姿にかなめはおろか、クルツも唖然となる。
複数のメカが合体し、一体の巨大ロボになる・・・
アニメや特撮ではありふれた設定ではあるが、
こうして目の前で実際にやられては目の玉を飛び出さずにはいられない。
この日、散々非現実的な出来事を体験してきたかなめだったが、
『合体ロボ』の衝撃はこれまでで最高のものといえた。
宗介「・・・・・・」
一方、宗介は特に驚いた様子は無い。
宗介の中で、ある“強い思い”が湧き上がっていたからだ。
自分はミスリルの兵士・・・襲ってくる敵と戦い、任務を遂行するのが自分の仕事である。
だが、装備もASも失った今の自分は迫り来る敵に対してはあまりに無力な存在だった。
本来なら自分も戦うべきであるはずなのに、
現実はデカレンジャーたちに守られているだけ・・・
これでは、民間人と大して変わらない。歯がゆい思いが宗介の全身を支配していく。
宗介(俺は千鳥を守るために、何もすることができないのか・・・
力が・・・彼女を守るために戦える、力があれば・・・!)
宗介が強く願ったその時・・・
彼の願いが天に届いたのか・・・闇夜に覆われた空から、
彼らの元に思わぬ“援軍”が降ってきた。
275
:
藍三郎
:2005/12/23(金) 16:37:21 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
上空100メートルほどで、パラシュートつきのカプセルが弾けた。
その中から白いボディを持ったASが、躍り出て、宗介たちの近くの地面に着地する。
宗介「これは・・・?」
このASは、宗介やクルツが全く見たことの無い機体だった。
骨格の造りはM9に似ていたが、装甲の形がかなり異なっていた。
クルツ「誰が乗っているんだ・・・マオか?」
その疑問に答えるかのように、白いASのコクピットハッチが開放される。
意外にも、その中には人の姿は無かった。
宗介「無人か」
誰もいないことを確認すると、宗介は素早くASのコクピットに入り込む。
それと同時に、機体のAIが低い声で語りかけてくる。
<声紋チェック開始。姓名、階級、認識番号を>
宗介「相良宗介軍曹。B−3128」
<ラジャー。ラン、モード4。BMSA、3・5。コンプリート>
AIがそう答えた直後、コクピットハッチが閉じられ、
セミ・マスター・スレイブの操縦システムが起動した。
これで宗介は、このASを手足のように動かせる。
システム起動に成功すると同時に、録音された音声データが再生される。
その声は、カリーニンのものだった。
カリーニン『サガラ軍曹。君がこの録音を聞いているなら、
このASとの合流に成功したということだろう。以後はその前提で話を進める。
偵察衛星<スティング>で諸君らを発見した時、<デ・ダナン>は沿岸から60キロ離れた地点にいた。
通常の救出隊を派遣するには距離が遠すぎるため、
弾道ミサイルでこのASを射出した。無人なのはそのためだ』
宗介「そうか・・・」
弾道ミサイル射出時のGは、
デカスーツを身にまとったスペシャルポリスたちならともかく、
普通の人体には過酷過ぎる。無人なのも頷けた。
カリーニン『すでに宇宙警察の特殊車両隊が到着しているだろう。
彼らと協力して敵部隊を退け、これから指定するポイントへ急行せよ』
その後カリーニンは、スクリーンに映し出された地図で、ダナンが到着するポイントを示す。
到着後、ただちにダナンに宗介たちを回収し、全速で島を離れる手はずだ。
カリーニン『―――なお、このASは“ARX−7<アーバレスト>”と呼ばれている。
AIのコールサインは“アル”だ。
高価な実験機なので、必ず持ち帰るように。以上。幸運を』
それを最後に、録音のメッセージは途絶えた。
宗介「アーバレスト・・・それがこの機体の呼び名か」
宗介は機体の具合を確かめてみた。少しの動作だけでも、このASの持つ卓越したパワーがはっきりと感じ取れた。
アル<敵AS、推定五機、接近中>
“アル”が警告する。
見ると、怪重機と共に現れたASのうち何機かが、こっちに向かってくる。
宗介「アル・・・と言ったな」
アル<はい(イエス)、軍曹殿(サージェント)>
宗介「一分で片付けるぞ」
アル<ラジャー>
迫り来る敵軍に向けて、アーバレストは跳躍した。
276
:
藍三郎
:2005/12/23(金) 21:34:30 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
電光石火の速さで敵AS群に躍り出たアーバレストは、
敵に発砲の暇すら与えず、アサルトライフルの引き金を引く。
瞬く間に5機ものサベージは、アーバレストによって沈黙させられた。
桁外れの性能だ。操作方法はM9と全く同じシステムだが、
そのスペックはガーンズバックを遥かに上回っている。
これならば、たとえ数で押されていようと問題ではない。
デカレンジャーロボに乗る5人にもアーバレストの姿は目に入った。
デカブルー「あのアームスレイブは・・・?」
やや困惑するデカレンジャーに、アーバレストから通信が入る。
宗介『こちらウルズ6・相良宗介だ。ミスリルからこの機体を受け取った。
これよりこちらも戦闘に参加する』
デカレッド「ああ!あの軍人高校生か!」
アーバレストはライフルを撃ち、眼前にいるサベージを蹴散らしていく。
デカレッド「おっし、そんじゃ、うじゃうじゃいるカエル頭どもは任せたぜ!」
宗介『了解した。そちらは怪重機の撃破を頼む』
デカピンク「ロジャ〜〜♪」
バーツロイド「×○&$♪■!」
額から怪光線を放つエンバーンズ。
デカグリーン「おっと!!」
デカレンジャーロボは素早く横に飛び跳ねて、その攻撃をかわす。
しかも、ただかわしただけではなく、跳躍と同時に専用銃『シグナルキャノン』を放つ。
バーツロイド「▲%○&#!!!」
シグナルキャノンの弾は全弾命中し、エンバーンズは大きくダメージを負う。
さらにデカレンジャーロボは
近接戦用武器『ジャッジメントソード』を取り出し、エンバーンズに向かっていく。
鋭い剣撃が2度3度、エンバーンズに炸裂する。
デカイエロー「データスキャン完了!
敵のパイロットはアリエナイザーじゃない、ドロイド兵よ!」
デカレッド「なら遠慮はいらねぇな!一気に決めるぜ!」
ジャッジメントを省いて、シグナルキャノンを構えるデカレンジャーロボ。
脚、胸、肩、頭のパトランプが点灯する。
デカレンジャーロボの全身に流れるパトエネルギーが、
シグナルキャノンへと収束していく。
5人「「「「「パトエネルギー全開!!ジャスティスフラッシャー!!!」」」」」
デカピンク「5!」
デカイエロー「4!!」
デカグリーン「3!!!」
デカブルー「2!!!!」
デカレッド「1!!!!!」
5人「「「「「ストライクアウト!!!」」」」」
カウントダウンの後、デカレンジャーロボはシグナルキャノンの引き金を引く。
銃声が数発鳴り響き、吐き出された弾はエンバーンズに向かっていく。
バーツロイド「○$&■#▽×!!!」
エンバーンズの胸部で、激しい火花が舞い上がる。
全身に電流が走り、地面に向けて倒れ伏す。
5人「「「「「ゴッチュー」」」」」
決め台詞を言うと同時に、エンバーンズの巨体は大爆発を起こして塵となる。
277
:
藍三郎
:2005/12/24(土) 08:27:47 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
えっと、MSG276の宗介のセリフにある
ウルズ6はウルズ7の間違いでした。すみません(汗
278
:
藍三郎
:2005/12/24(土) 09:19:38 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
宗介「怪重機を撃破したか・・・」
デカレンジャーロボが怪重機をジャスティスフラッシャーで倒したその頃・・・
宗介の駆るアーバレストも順調にサベージの数を減らしていた。
宗介「残り一機・・・!」
低い声でそう呟くと、単分子カッターをサベージの頭部に突き刺す。
これでAS部隊も全て片付けた。伏兵を警戒するが、特に気配はない。
踵を返してかなめたちの下に戻ろうとしたその時・・・
左の山陰から、カービン・ライフルの銃弾が、アーバレストを見舞った。
宗介「・・・っ!」
前転することで何とか銃撃をかわす宗介。
現れたのは、つい先ほど戦った銀色のAS、ガウルンの駆る『コダール』だった。
ガウルン「よくかわしたな!カシムゥ!!」
宗介「ガウルン!!」
コダールは間髪いれず、さらにカービン・ライフルを3連射する。
宗介はさらに前転を繰り返し、致命傷を避ける。
デカブルー「相良軍曹!加勢するぞ!!」
怪重機を撃破し終えたデカレンジャーロボは、コダールと交戦するアーバレストの援護に現れる。
ガウルン「ちっ、宇宙警察の“組み立てロボ”か!」
シグナルキャノンを構え、3発引き金を引く。コダールは素早く飛びのけて
デカグリーン「あのAS、これまで見たこともないタイプだね」
デカレッド「妙なおさげ垂らして・・・まるでウメコの髪型だな」
コダールのポニーテール(?)みたいなものを見て、バンはそんな感想を抱く。
デカピンク「ぶー!あんなのと一緒にしないでよ〜〜」
そう言いつつも、デカレンジャーロボは銃撃を続ける。
コダールはそれを間一髪のところでかわしていた。
ガウルン「デカブツの割にゃあいい狙いじゃねぇの。
よほど腕のいいスナイパーが乗っているらしいな・・・」
デカレンジャーロボの狙撃手(ホージーのこと)の、射撃技能の高さにガウルンは舌を巻く。
ガウルン(それに、カシムの奴もいやがる。
ここは、“アレ”を使ってさっさとケリをつけるか・・・!)
2対1の不利な状況・・・しかも、一体は全長45メートルという巨大ロボだ。
ガウルンは“秘密兵器”の使用を、早々に決断した。
デカブルー「フリーズ!動きを止めて投降しろ!!テロリスト!」
ガウルン「やなこった。ワッパかけられてムショ送りはご免だね。“おまわりさん”!」
デカブルー「ならばやむを得ない・・・強制的に行動不能になってもらう!」
デカレンジャーロボはさらに数発、シグナルキャノンを発射する。
狙いは脚部とライフルを携えている腕部だ。
命中すれば、敵機の機能は完全に沈黙する。
だが、何故かガウルンは避けようともせずその場に突っ立っていたままだった。
銃弾がコダールの影を撃ちぬかんとしたその時・・・
異変は起こった。当たるはずの銃弾は、コダールの直前ですべて弾けとんだのだ。
デカブルー「な!?」
デカピンク「シグナルキャノンの弾が・・・消えた?」
デカイエロー「いいえ、弾かれたのよ!まるで、見えない壁に当たったみたいに・・・」
“見えない壁”・・・ジャスミンの形容は実に的を射ていた。
そう、あの時、目には見えない謎の障壁がコダールの周囲に出現し、
シグナルキャノンの弾を防いだのだ。
ガウルン「ククッ、それだけじゃないぜぇ・・・」
ガウルンはそう言って、コダールの手をデカレンジャーロボに向けてかざす。
ガウルン「ばぁーーん!!」
5人「!!!!!」
その直後、想像を絶するすさまじい衝撃が、デカレンジャーロボを襲った。
デカレッド「う、うわぁぁぁぁっ!!」
あるはずのない出来事が、目の前で繰り広げられた。
全長45メートル、総重量は4600トンにいたるデカレンジャーロボが、
たった8メートル程度のASの放つ謎の力によって、後方へと吹き飛ばされたのだ。
それはまるで、魔法使いが自分の何倍の大きさもあるドラゴンを、
呪文で打ち倒す光景に似ていた。
ガウルン「覚えとけ・・・
非常識科学は、宇宙警察(てめえら)の専売特許じゃねぇってことをな」
279
:
藍三郎
:2005/12/24(土) 09:51:48 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
轟音と共に、仰向けに倒れるデカレンジャーロボ。
デカレッド「痛っ〜〜〜」
したたかに背中をうち、苦痛の声をあげるバン。
デカブルー「ホワットハップン!!何が起こったんだ!?」
デカグリーン「わからない。ただ、強烈な衝撃がデカレンジャーロボを襲ったということぐらいしか・・・」
あまりに予想外の出来事に、皆が動揺していた。
デカブルー「被害状況はどうなっている!?」
デカイエロー「まずいわね。今ので回路の一部がショートしたみたい。
しばらく動けそうもないわ・・・」
どんどん出力が低下しているのを見て、ジャスミンは暗い口調でそう呟く。
クルツ「あれだ!俺はあの力にやられたんだ!!」
こうして遠くから見ても、まるで理解できない現象である。
散弾地雷でもない。炸裂装甲でもない。
何かの衝撃波・・・そうとしか表現できなかった。
クルツ「ちくしょう、いったいどんな手品を使いやがった・・・」
かなめ「手品・・・じゃない。ギジュツ・・・」
クルツ「え・・・?」
かなめ「このままじゃ、負けちゃうわ・・・デカレンジャーも・・・彼も・・・」
ガウルン「はっ、でかい図体が幸いしたな。一撃でバラバラになるのは免れたらしい」
動けなくなったデカレンジャーロボに、
とどめを刺そうとカービン・ライフルを構えるガウルン。
だがそこに、側面から数発の銃弾が飛んできた。
ガウルン「カシムか。お前にも見せてやるよ!<ラムダ・ドライバ>の力をなぁ!!」
デカレンジャーロボの時と同様、アーバレストの放った銃弾は、見えない壁によって阻まれた。
宗介「・・・!?」
ガウルン「潰れろ」
すこし遅れて、猛烈な衝撃がアーバレストを襲った。
デカレンジャーロボ同様、激しい勢いで吹っ飛ばされる。
宗介「・・・っ!」
宗介は激痛をこらえながら、クルツのいった言葉を思い出していた。
『ハンマーにぶん殴られたみたいな』
そしてその後、クルツの機体はばらばらにされた。
恐らくこの機体もそうなっているだろう。
デカレンジャーロボならともかく、軽量のASが耐えられる衝撃とは思えない。
だが、予想に反して正面のモニターには、こんなメッセージが映し出されていた。
<ダメージ軽微――戦闘に支障なし>
ガウルン「バカな・・・」
アーバレストが立ち上がるのを見て、ガウルンは目を疑った。
前に戦ったミスリルのASは、木っ端微塵にすることができたというのに・・・
ガウルン「なぜ利かん?」
不発か?なにしろ未完成の機能だ。思うとおりに作用しないこともある。
ガウルン「よぉし、くっくっく・・・」
もう一度、ラムダ・ドライバの斥力場をぶつけてやる。
それで今度こそ、しとめられるだろう。
宗介「どうなってる・・・?」
スクリーンの損害報告を眺め、宗介はつぶやいた。
あれだけの衝撃を食らいながらも、アーバレストはほぼ無傷だった。これは一体・・・
アル<ラムダ・ドライバ、イニシャライズ完了>
聞きなれぬ言葉が、アルから突如発せられた。
宗介「なに?なんのことだ?」
アル<回答不能。戦闘の続行を>
宗介「答えろ、アル」
アル<回答不能>
280
:
藍三郎
:2005/12/24(土) 10:39:00 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
クルツ「生きてる・・・あいつ、一体・・・」
なぜ宗介は無事なのか。自分の時は、機体がばらばらになったのに。
かなめ「・・・なるほど。な・・・なんとなく・・・わかる」
右手をこめかみに当てて、かなめは重たげに呟く。その表情は、どこか気分が悪そうだった。
クルツ「カナメ・・・?大丈夫か、おい」
マーフィー「アウーン・・・」
かなめ「気持ち悪い・・・TAROS・・・。彼は・・使い方をわかってない。
せいぜい相手の・・・相殺する・・・くく、くらい・・・?
つつつ、強い防衛衝動が・・・」
ぶつぶつと、弱々しい声を出すかなめ。その目は、とても正気には思えない。
クルツ「やめろカナメ、正気に戻れ」
だが、クルツの呼びかけもむなしく、かなめの言動はさらに支離滅裂なものとなっていた。
かなめ「ぎぎ擬似的なちち・・・ノらむ・・・きょ、きょきょ。
い、いそウ干渉ハこーしあ、たタたろス・・・」
狂気の発露を目の前にして、クルツはさすがに背筋が寒くなった。
クルツ「おい・・・!」
恐る恐る呼びかけるクルツだが、かなめはそれに答えず、
かなめ「ま・・・っけるもんかぁ!!」
いきなり寄りかかった樹木の幹に頭を打ちつける。
とうとう行動までおかしくなってきた。
クルツはどうしていいのかさっぱり分からず、自分まで錯乱しそうになる。
クルツ「か、カナメ・・・!」
かなめ「はぁ・・・はぁ・・・。くくる・・・つつ、くく?」
呂律の回らぬ言葉で、何か言おうとする。
かなめ「くぃ・・・クルツくん。つ・・・通信機を貸して!」
クルツ「構わねぇけど、一体・・・」
かなめ「はやく彼に教えないと・・・」
クルツ「教える?なにを」
かなめ「いいから、早く!!」
アーバレストのAIは、どうあっても宗介の質問に答えなかった。
そうしている間に、ガウルンのコダールは単分子カッターを抜いて、こちらに迫ってくる。
宗介(どうする?もう一度あれをやられては・・・)
次も無事という保障はどこにもない。
よしんば機体が無事だとしても、自分の身があの衝撃には耐えられそうもない。
体中が汗ばむのを感じた、その時・・・
かなめ『相良くん、聞こえる!?』
宗介「千鳥か?」
外部からの短距離通信が入った。声はかなめのものだ。
かなめ『よく聞いて!あなたの敵は、特別な装置を積んでいるの!
搭乗者の攻撃衝動を、物理的な力に変換する機械よ!』
宗介「搭乗者の攻撃衝動を・・・だと?」
かなめ『それっ・・・でぇ!ここからが重要なんだけど、
あなたのASにも、それが・・・<ラムダ・ドライバ>が積んであるの!
だから無事だったのよ!』
宗介(同じ装置が?このアーバレストに?)
かなめ『あなたはさっき、自分の身を守ろうと思ったでしょ?
それに装置が反応したの!あなたの心の中の、強いイメージがカタチになるのよ!』
宗介「イメージ?心?そんな兵器があるわけ・・・」
話している間にも、コダールはすでに数十メートルの距離に到達していた。
機体周辺の大気がぐにゃりとゆがむ。例の衝撃波による攻撃だ。
抗いようもなく、アーバレストの機体は大きくのけぞる・・・
だが、それだけだった。今度は吹っ飛ばされることはなく、
数歩後ずさっただけですぐに体勢を立て直せた。
宗介「これは・・・!?」
かなめ『そうよ。相手は今、あなたをバラバラにしてやるつもりだった。けど、できなかった。逆襲だってできるわ。強く念じて!』
宗介「念じる、なにを」
かなめ『相手をやっつけてやる、って思うの!
気合いを入れて、一瞬にこめて!カメハメ波とか、そーいうのみたいに!』
宗介「カメハ・・・なんだと?」
アル<接近警報!!>
聞いたこともない単語に戸惑う暇もなく、
敵のASは一気に踏み込み、ナイフを突き出してきた。
281
:
アーク
:2005/12/24(土) 10:55:01 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
無明「ラムダ・ドライバ……か。人間もやるようだな」
聖夜「そうだね無明。人間もやれば出来るって言う事だね」
宗介が乗るASの能力に二人は感心していた
彼らは知っているラムダ・ドライバがどういう物か
無明「しかし宇宙警察も情けないものだ。あの程の力を持ちながらラムダ・ドライバに負けるとはな
奴らの司令官は俺が認めるほどの武人なのに」
聖夜「落ち込む暇があったら助けに行こうよ。当分は動けないようだしね」
無明「そうだな」
そう言うと二人は倒れているデカレンジャーロボまで一瞬にして移動した
=デカレンジャーロボ操縦席=
デカグリーン「ん、何だ?……って何であんなところに人が?!」
モニターで確認したのだろうか黒と白のマントを羽織ったのがやって来るのが確認した
デカブルー「民間人か!全部非難させたはずだろ!」
デカレッド「兎に角こっちに近づいてくるぜ。やばいんじゃないか?」
その時センサーに反応があった
もの凄い数のドロイド兵がやって来るのが確認した
デカピンク「危ない!そこの二人逃げて!!」
スピーカーから声が聞こえた二人は立ち止まり後ろを振り向いた
後ろから大量のドロイド兵がやって来るのがわかった
デカレンジャー達はすぐ逃げると思ったが二人はドロイド兵の方に走り出した
デカイエロー「ちょっとあの二人死ぬ気?!」
デカレッド「くそ!動け、動いてくれぇ!!」
デカレッドが叫びながらレバーを動かすが反応は空しく動かなかった
それと同時に小さな地響きが起こった
モニターを見ると数体のドロイド兵が吹き飛ばされ破壊されている姿を見た
=戦闘区域=
聖夜「まったく人は良い行いをしようとしているのに邪魔するなんて……悪い子にはお仕置きだね!」
ドロイド兵の攻撃を避けながら聖夜はブツブツと何かを唱え始めた
聖夜「大地に眠りし地の巨人よ、我が周りにいし魂無き者達を吹き飛ばせ!!」
聖夜が叫ぶと大地に異変が起こった
徐々に揺れ始めゆっくりと盛り上がっていった
聖夜「本日は晴天なり!吹っ飛ばせ大地の怒り!!」
地面が盛り上がり巨大な拳となってドロイド兵を吹き飛ばした
無明「後は俺は始末しよう。黄泉に眠りし邪悪なる者達よ。暗黒王が命ずる!
常世の者達を冥世に引きずり込め!!黄泉沼!!」
ドロイド兵達が立っている場所が黒く染まりそこから何本ものの手が現れドロイド兵の足を掴み
ゆっくりと引きずり込んだ。ドロイド兵はもがいたが無意味のように引きずり込まれた
無明「所詮は器だけの存在か……無力に等しい」
そう言って二人は改めてデカレンジャーロボに向かっていった
282
:
藍三郎
:2005/12/24(土) 10:59:05 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
アーバレストも単分子カッターを前に出し、その一撃を切り払う。
ガウルン「はっはっ!なるほど、そりゃあ、そうかもしれん!」
アーバレストとコダールの間で、目まぐるしいナイフ・コンバットが始まった。
ガウルン「<ウィスパード>を守っていたお前らだ!
持っていても不思議はない。なぁ・・・!?」
宗介「なにを・・・」
ガウルン「で、俺の得意分野は知ってたか?そう、ナイフだぁ!」
突き、払い、薙ぎ、打ち、誘いをかけて、それを凌ぐ。
ガウルンの凄まじいナイフさばきに、宗介は次第に圧倒されていった。
ガウルン「覚えているかカシム!あの村の連中も切り刻んでやったぞ!こんな風にな!!」
コダールの単分子カッターが、アーバレストの胸部装甲を切り裂いた。
かなめ『何やってるの!気合いよ、気合い!!』
宗介「さっきからやってる。力場など出んぞ」
ガウルン「こう使うんだっ!!」
ガウルンが叫ぶと同時に、3度例の衝撃波が宗介を見舞った。
今度は背中から倒れ、2回3回と地面を転がった。
これで2機の間に大きく距離が開いた。
アーバレストはとっさにアサルトライフルをコダールに向ける。
ガウルン「ほぉ?それでどうする気だい?撃つのか?俺を」
宗介「くっ・・・!」
宗介は歯噛みする。
銃弾による攻撃は、例の力場で難なく弾かれてしまうのは目に見えていた。
ガウルン「馬鹿げた戦いだよ。
大の男2人が、ロクに使い方も知らないオモチャで殺しあってるなんてよ。
だが、装置の使い方がまるでわかってないてめぇよりは、俺の方が有利だよな?」
ガウルンの言うとおりだった。
彼はシステムの原理をある程度理解し、それを使いこなす訓練を受けているのだろう。
それに比べて、こちらはついさっきこのシステムの存在を知ったばかり・・・
これでは・・・いずれ負ける。
かなめ『いい、相良くん?大切なのは、瞬間的な集中力なの!』
かなめの切迫した声が告げた。
かなめ『ゆっくりと息を吸って、一気に吐く。その瞬間、砲弾に、自分の気合いを注ぎ込むイメージで!』
宗介「そうは言っても・・・」
できない。彼女の言葉の意味が、宗介にはどうしてもわからなかった。
かなめ『じゃあ、想像して。あなたが負けたら、あたしは捕まって、裸にひん剥かれて、
散々体を弄り回されて殺されちゃうのよ!その光景を思い浮かべて!!」
宗介「なんだと・・・!」
じっくり想像するまでもなく、それは最悪の光景だった。
かなめ『イヤでしょ?』
宗介「ああ・・・」
かなめ『頭にくる?』
宗介「そうだな・・・」
かなめ『あいつはそうしようとしてるの。そんな事が許せるの、あんたは!!』
宗介「・・・許せん」
宗介の中で、沸々と怒りが湧き上がってきた。
かなめ『じゃあ、あいつに銃を向けて!』
宗介はいわれるままに、銃口を敵手に向けた。
それが無駄な行為だとは考えなかった。
自分を信じてくれた彼女――それを、今度は俺が信じるだけだ。
ガウルン「とうとうヤケクソか?がっかりだぜ。そろそろ死んじまいなぁっ!!」
ナイフを振りかぶり、突進してくるコダール。
かなめ『イメージを頭の中に描いて。あなたはこれからアイツを素手でブン殴るの!』
宗介「・・・・・」
かなめ『そしたら息を吸って・・・』
大きく息を吸いこみ・・・
かなめ『イメージを・・・』
砲弾に、意志を注ぎ込むイメージで・・・
かなめ『今!!!』
宗介「っ!!」
至近距離で、アサルトライフルから砲弾が吐き出された。
ガウルン「無駄だぁぁっ!!」
ガウルン機は砲弾を防ごうと、例の衝撃波を発生させる。
だが、その現象は、アーバレストの方でも起こっていた。
同時に発生した衝撃波がぶつかり合い、大気をいびつにゆがませる。
宗介の放った砲弾は、それによって生じた力場の断層を縫い、コダールに直撃した。
ガウルン「なにっ・・・!」
被弾したコダールの機体は、思いっきりのけぞった後、爆炎を上げて大破した。
爆風に煽られ、アーバレストも地面の上を転がる。
何とか機体を起こし、バラバラの残骸と化したコダールを見る宗介。
この有様では、ガウルンは即死しているだろう。
かなめ『相良くん・・・無事?』
無線からかなめの声が聞こえる。それに対し、いつもの抑えた口調で彼はこう答えた。
宗介「・・・肯定だ」
283
:
暗闇
:2005/12/26(月) 23:13:48 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その後…宗介たちはデカレンジャーと共に救援の到着ポイントに向かい、そしてそこに海底から浮上したトゥアハー・デ・ダナンに回収されると、ダナンは全速で島を離れた。
無明と聖夜はそれを見届けると、何処かへと立ち去っていった。
=トゥアハー・デ・ダナン 格納庫=
医務室で手当を受けてから、宗介は格納庫へと戻ってきた。
かなめとクルツは、医務室に…怪我の軽かったデカレンジャーの方は重傷を負った部下たちの代わりにあの場所で起こっていた出来事について詳しく聞かせて欲しいときたテッサとマデューカスのいる中央発令所にいる。
格納庫は静かだった。艦内に騒音規制が敷かれているため、整備班の姿も見えない。
包帯だらけになった彼は、ひざまずいたままのアーバレストを見上げた。
白かった機体は泥まみれで、草の汁があちこちにこびりついていた。装甲も傷だらけである。
こうして見るぶんには、ただのASだ。M9をベースにした、風変わりな試作機。しかし、いったいあれは……
カリーニン「ひどい有り様だな」
背後の声に振り向くと、カリーニン少佐が歩いてくる所だった。
カリーニン「ガウルンはどうなった」
宗介「死にました。今度こそ間違いなく」
カリーニン「そうか。私も、その場に立ち会いたかったものだ」
カリーニンは感想を洩らし、
カリーニン「それ以外に、なにか言いたそうな顔をしているな」
宗介「はい。“ラムダ・ドライバ”とは、いったい?」
単刀直入な質問だったが、カリーニンはそれを予想していたようだった。
カリーニン「やはりガウルンが持っていたか」
宗介「そうです。そしてこのASにも装備されていた。違いますか」
カリーニン「そうだ。ウェーバーのM9が撃破されたと聞いた時、『あるいは』と思った。だからこのアーバレストを送り込んだ。あれに対抗するにはこっちもラムダ・ドライバを用いなければならない。現にデカレンジャーロボでさえ、あの通りだ」
高価な実験機を、わざわざ危険な敵地に無人で投げ込んだ理由がこれでわかった。
しかし――
宗介「最初の質問の答えを聞いていません。ラムダ・ドライバとは?」
カリーニン「君には知る必要がない。今の段階では」
宗介「少佐。俺だって初歩的な物理ぐらい知っています。あんな力を操る装置など、聞いたことがない」
カリーニン「当然だ。あれを考えた人間は、この世界には一人もいない」
284
:
暗闇
:2005/12/26(月) 23:39:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
宗介「? どういう意味です」
カリーニン「おまえの世代では実感がないだろうが――」
カリーニンの口は重たげだった。
カリーニン「今の兵器テクノロジーは異常なのだ。いくら異星との交流が行われるようになったとはいえ、それはまだ10年も経っていないというのにASやこの艦…中枢となるシステムにコンピュータ等…そして現在の世界の中心ともいえる大都市アーカムシティのみで発達しているという魔術理論…そのどれもが異常に発達した技術だ。
さすがに不自然とは思わんかね?ここまで以上発達した兵器類を……」
日頃、当然のように強襲兵器部隊を指揮・運用しているカリーニンが、こんなことを言うのは驚きだった。
宗介「自分は―――今日、初めてそう思いました」
カリーニン「私はすいぶん前から、この疑問を抱いていた。これらの物はある筈が無い、と。しかし、現にあるのだ。ASなどの現用兵器を支える技術体系。誰が考えたのかはわからないが、理論と技術も存在する。そして、それは社会に受け入れられた」
宗介「………」
カリーニン「だが繰り返しておこう。“こんなものは、あるはずないのだ”」
カリーニンは目線でアーバレストをさした。頼りになる味方だったアーバレストが、今ではどこかグロテスクに見えた。
カリーニン「これらの現用兵器を支える技術体系―――ブラックテクノロジーは一体誰が生み出したのか?というより、どこから来たのか?・・・それが分かるかね?」
宗介「千鳥のような人間ですか?ウィスパードとか呼ばれる……」
カリーニン「それは私の口からは言えん。だが、頭の中には留めておけ」
宗介「・・・ハッ」
カリーニン(もっとも、『ウィスパード』だけではないがな…)
宗介「少佐……?」
カリーニン「……それで、千鳥に関してだが情報部が偽情報を流す事になった。ガウルン達が千鳥かなめを調べたが彼女はウィスパードではなかったと。当面、彼女は安全の筈だ」
宗介「……」
カリーニン「ただし、保険はかけておく必要がある」
宗介「保険?」
285
:
暗闇
:2005/12/26(月) 23:45:42 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
翌日
=とある病院=
かなめ「あれ……?」
次に目を覚ますと、かなめは白い枕に顔を埋めていた。
マオ「お。やっと目を覚ましたみたいね」
かなめの横たわるベッドの脇に、看護婦姿のマオが座っていた。
かなめ「ここは……?」
マオ「病院よ。あなたは丸一日も眠ってたの。素性不明の救急車が、あなたを運び込んだのが昨日。打ち身とねんざはあるけど骨折はないわよ」
かなめ「一日も……ところで、あなたは?」
マオ「はは。やっぱり看護婦には見えない?肩凝るのよねー、この制服。まったく、宗介が乱暴なマネするから、あなたに余計な仕事が」
かなめ「宗介?相良君とクルツ君の仲間なの?」
マオ「まあね。……で、とにかく起きたから助言を。いい、かなめ?あなたはあの基地で悪党共に薬をうたれて、そのまま意識を失ったの。次に目を覚ましたら、この病院。その間のことは、なにも覚えていない。ソースケのこともクルツのことも、あの白いASのことも、すべて忘れてちょうだい。
もし、デカレンジャーはともかくあたしたちや“あなたのこと”が表に出たら、警察は当分あなたを家に帰してくれないだろうから」
かなめ「つまりその……『ミスリル』のことは秘密にしろ、と?」
マオ「それぐらいは自由よ。名前くらいなら、日本の軍事関係者でも知ってるだろうから。それより、あなたにお礼が言いたいの」
かなめ「お礼?」
マオ「そう、千鳥かなめさん。あなたは、私の部下とデカレンジャーの命の恩人よ」
いきなり真顔で握手を求められたので、かなめはうろたえた。
かなめ「あ、あたしは別に……」
マオ「いいえ、話はクルツから聞いているわ。あなたがいたから助かったって……」
かなめ「そ、そんな。お互い様ですって…」
かなめはおずおずとマオの手を握った。
マオ「じゃあ、あたしはこれで」
かなめ「あの……!相良君は今何処に…?」
マオ「ソースケの方はもう次の任務に就いたわ」
かなめ「そう……」
マオ「じゃ、さようなら」
マオは部屋を出て行った。
286
:
暗闇
:2005/12/26(月) 23:55:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、5分後、学校のクラスメートの面々が病院にどっとなだれ込んできた。
恭子を中心としたクラスの男女10人程と担任の神楽坂先生だ。
恭子「カナちゃん!」
恭子がまっしぐらに飛んできて、かなめに思いきり抱きついた。他の友人たちも殺到して、口々に無事を喜び、集中砲火を浴びせた。
恭子「ほんと、心配したんだよ!?」
風間「僕たちはあのあとデカレンジャーたちに助け出された後、彼らに協力している救出部隊に日本の空港まで運んでもらったんだ」
恭子「で、カナちゃんがここの病院に運び込まれたって聞いて、来たんだよ!」
恵理「ごめんなさい千鳥さん!私があの時、代わりに連れて行かれるべきだったのよ」
恭子に続き恵理先生も抱きついて泣き始める。
かなめ「ちょ……ちょっと、もう。あたし一応病人なんだよ」
???「そうだ。軽い打撲とはいえ安静にするべきだ」
かなめ「そうよ大切にしてよ」
???「デカレンジャーとあの救出部隊に感謝すべきだな」
かなめ「そうね。でも昨日マジでいろいろなことがありすぎて…頭が混乱ぎみに…」
???「命あっての物種だ。問題無い」
かなめ「そうそう。命あってのものだね……ん?」
かなめはそこで気づいた。
聞き覚えのある声。
そしてもう聞けないと思っていた声が確かに聞こえてきた。
かなめ「相良君!!」
そう、相良宗介は確かにそこにいた。
何気なくごく自然な様子で……
宗介「なんだ千鳥?」
かなめ「あ、あんたどうしてココに!?」
宗介「どうしてと言われてもだな……オレは見舞いに来たんだ。土産もほらこのとおり」
宗介はかなめに博多名物『辛子めんたいこ』をかなめの前へ差し出した。
かなめ「一体……どーゆう……」
疑問符だらけのかなめに宗介が顔を近づけ小さな声で囁いた。
宗介「保険だオレは。当分の間のな……」
287
:
暗闇
:2005/12/27(火) 11:15:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
一方…アーカムシティでは…
=大十字九郎 探偵事務所=
コンコン
九郎「ん・・・」
ようやく日が昇り始めた早朝…夢うつつである九郎はノックがしたことに気づいたが出ようとはしない。
コンコン
九郎「うぅ〜、今日はもう閉店ですよ〜」
コンコン
それでもなおノックはなり続ける。
九郎「あぁ、もう!しつこいなぁ!」
コンコン
九郎「はいはい、今、出ますよ〜」
観念した九郎がドアを開ける。
九郎「どちら様で?」
ウィンフィールド「失礼します。大十字九郎様であられますね」
九郎「あぁ、はい。あんたたちは?」
長身で眼鏡をかけた男と赤いドレスの少女。
この辺りでは見たことのない組み合わせである。
瑠璃「仕事の依頼です。大十字九郎さん」
そう言ったのは少女の方である。
瑠璃「あなたにこそ相応しい……いえ、あなたにしかできない仕事です」
九郎「オレにしか……とにかく話は中で聞かせてもらうよ。狭くて汚い犬小屋みたいなところで恐縮だけど……」
九郎はそう言って二人を部屋に招きいれた。
当然貧困極まりない九郎はせっかく来た客人にもてなす茶もない。
だが当の二人はそれを気にする必要もなく話を進めた。
瑠璃「わたくしは覇道瑠璃。後ろに控えている者は執事のウィンフィールドです」
瑠璃がそう紹介した後、九郎の思考が一瞬ストップした。
九郎「・・・・・覇・・・道?・・・覇道ってまさか・・・」
瑠璃「はい、おそらくは大十字さんがご想像されている通りの覇道です」
その言葉にさらに呆け顔を見せている九郎。
瑠璃はさらに続けた。
瑠璃「覇道財閥総帥、覇道瑠璃。こう申し上げたほうがよろしかったでしょうか?」
九郎「えぇえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!あ、あ、あ、あなたがあの覇道財閥のぉぉぉぉ!!そ、それで・・・あなたのような高貴で完璧超人のお方がわ、わ、わ、わたくしのようなボウフラにも劣る社会の屑でゴミで塵芥で、むしろ生まれてきてすみませんって遺書書き残して首くくって死ね……な人間に仕事を依頼するですと?」
瑠璃「……謙遜しているのか卑屈なのか皮肉なのか判断に迷う言い方ですね……」
九郎の言葉に呆れつつも瑠璃は一呼吸置いて続けた。
瑠璃「それはともかく、先程も申し上げましたよね。あなたにしかできない仕事だと」
九郎「そ、それは一体……」
瑠璃「魔道書です。魔道書を探して頂きたいのです。それも力のある魔道書を!」
288
:
暗闇
:2005/12/27(火) 11:22:36 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
瑠璃の口調はどこか静かで……だが、熱い何かを秘めているようで……。
九郎も、それを理解できないわけではなかった。なかったのだが……
九郎「ま、魔道書〜?そ……そんな、怪しげなもん、探せるわけないだろ?第一……そう!俺じゃなきゃって理由にもならない……」
彼の顔は、心なしか引きつっていた。
それが、関わるべきではない事を彼は知っている。
嫌に大きな声で、彼は瑠璃に言った。
すると、瑠璃と共にいた執事、「ウンフィールド」が、スーツから手帳を取り出した。
そして、それに目を通しながら、おだやかな口調で言う。
ウンフィールド「誠に恐縮ではございますが、失礼を承知で少し調べさせていただきました」
九郎「調べたって……俺のことを?」
ウンフィールド「左様……。大十字九郎、ミスカトニック大学に入学するも、二年で中退。当時の記録によると専攻は、『考古学』となっておりますが、それは事実ではありません」
九郎「!!?」
瑠璃「大十字さん。貴方が学んでいたのは陰秘学。すなわち、魔術の理論についてです」
九郎は思わず目を見開いて、二人をにらみつけた。
それもそのはずである。確かに、九郎の通っていたミスカトニック大学には、『陰秘学』というものが存在する。
だが、大学側は、その存在を公にしていない、隠しているのだ。
大学関係者ですら、その学科を知らないものがいるくらいだ。
……しかし、少なくとも目の前の二人は、それを知っている。
いくら、一財閥の総帥だからといって、それを見つけ出すとは……。
瑠璃「魔術を識る者にしか、魔道書を探し出せないと聞きます。わたくしたちには不可能なのです。これが、貴方にしか出来ない……」
九郎「ちょっと待った!!」
慌てて、九郎は瑠璃の口をふさいだ。
九郎「俺のことを調べたんなら話は早い!見ての通り、俺は落ちこぼれで、初歩的な魔術ですら使えやしない!!さっきも言ったが、なんで俺なんだ?陰秘学科には、俺よりも優秀なヤツがいるだろう?」
言いたい事を、九郎は全部ぶちまけた。
そして、一息ついてから、再び口を動かす。
九郎「アーミティッジの爺さんにでも、紹介してもらえばいいじゃないか?」
次第に、九郎は冷静になっていく。
だが、瑠璃たちは引こうとはしない。
ウンフィールド「大十字様は、魔導書を閲覧できる位階(クラス)になっていたはずですが?」
瑠璃「今更隠し事など、意味をなしません」
的を得た……というか、事実を言われ、九郎はさらに顔をしかめた。
九郎「あんたら……一体、どこまで俺のことを……?目的はなんだ?なぜ、覇道が魔導書を探す!?」
瑠璃「………」
九郎「後学のために教えてやる!魔導書ってのは外道の知識の集大成だ……素人が、手を出す代物じゃない!!」
怒りというか、焦りというか……九郎の口調は、何か特別な感情を感じさせる。
瑠璃も一瞬黙りこくってしまい、うつむいてしまう。
……が、それは九郎の口調にある、感情を感じ取ったからではなく、何かを考え、迷っているような……そんな感じであった。
そして、俯かせていた顔を再び九郎に向けると、瑠璃は意を決したように言う。
瑠璃「……デモンベイン……」
289
:
アーク
:2005/12/27(火) 12:04:25 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
=デカベースブリーフィングルーム=
ドギー「久しぶりと言えばいいのだろうか。あれから何年も経っているのに
貴方方は一つも変わらない。これも……成せる技ですか?」
無明「成せる技ではない。汝らと我らの時間の過ごし方が違うだけだ」
聖夜「でも驚いたよ。あの時の君が今では部下を持つ様になっていたなんて」
ドギーの前に座っている聖夜と無明は懐かしむかのように語っていた
ドギー「あなた方が現れたと言う事は状況は厄介のようですね」
無明「他にも理由はあるが大体はそうだな。今の状況は汝らでも抑え切れる状況ではない
以前はミスリルと協力をし何とか終えたが次の厄はそれでは収まらぬ」
ドギー「ミスリル以外の者達とも協力が必要と言いたいようですね」
聖夜「その通り。君も知っているね?五人の魔法使いの話を」
ドギー「存じております。だが本当に実在するとは」
無明「魔法使いなど普通は信じる者達ではないからな。だが彼らの協力も必要な時も来る
中には幼子達の力も必要な時が来る」
ドギー「これからミスリルの所へ向かうのか?」
無明「奴らにも伝えなければならぬ。我らの存在を、そしてこの地にやって来る災厄の存在をな」
無明と聖夜はドギーにそう伝えると姿を消した
ドギーは二人から伝えられた事を含めて今後の動きを考えた
290
:
暗闇
:2005/12/27(火) 14:02:51 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=大十字九郎 探偵事務所=
九郎「デモン?・・・なんだそりゃ?」
瑠璃「デモンベイン。祖父がわたくし・・・いや、アーカムシティに遺された『ブラックロッジ』に対抗しうる最後の切り札です。
『ブラックロッジ』については詳しく説明する必要はありませんね?」
九郎「ああ」
『ブラックロッジ』
主にアーカムシティを中心に暴れる現在の地球で最大最悪の犯罪組織。
その性質はギャングというより、テロリストに近い……しかし普通のテロリストとは違って政治的主張など持ち合わせていないが。
彼らはただ自らの邪悪な欲望のみに従う。
存在自体が冗談のような『悪の秘密結社』。
それが『ブラックロッジ』だ
瑠璃「ブラックロッジが破壊活動の為に用いる巨大ロボットは、科学と錬金術が生み出した脅威。既に治安警察の対応能力を超えています。
加えて、ブラックロッジの頂点に立つマスターテリオンと、幹部達……彼らは本物の魔術師です。
本物の魔術師の恐ろしさは大十字さんの方が詳しいのではないでしょうか」
九郎「……直接お目にかかったことはないけどね。想像はつくよ」
そう、ブラックロッジの恐ろしさはそこにある。
奴らは治安警察、もしかしたら軍の武装をも上回る戦闘力をもった巨大ロボットを用いて、世界を…特にこのアーカムシティを脅かしている。
治安警察の戦力ではそれを追っ払うのが関の山、現在ブラックロッジの巨大ロボットに対抗できるのはデカレンジャーが用いているデカマシーンぐらいである。
しかし、怪重機というブラックロッジの巨大ロボットに勝るとも劣らないロボットを用いるテロリストたちが急増している現在、とてもブラックロッジにまで手を回せる状態ではない。
それでも、アーカムシティがギリギリの線で秩序を守っているのは、覇道財閥が治安維持に関して多額の出費していることともう一つ、デカレンジャーと同等レベルの知名度を誇る程の『正義の味方』がこの街にいる御陰だったりする。
だが、そんな破壊ロボよりさらに恐ろしい存在がいる。ブラックロッジを束ねる魔術師たちだ。
彼らは表立った活動をしておらずその実体は謎に包まれたままだが、彼らに関わった者で生き残った者は一人もいない。
九郎も魔術を多少なりともかじった身であるから分かる魔術師はある意味、軍隊や宇宙警察にも匹敵する脅威なのだ。
彼らが本格的に動き出したら、どうなってしまうのか……これはブラックロッジの恐ろしさをよく知るアーカムシティに住む全ての人間の不安だった。
291
:
暗闇
:2005/12/27(火) 14:03:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
瑠璃「アーカムシティはブラックロッジの犠牲者が増えつつあります。覇道としてはこれ以上、彼らの暴挙を許すわけにはいきません。
ですが彼らに対抗できる勢力を我々は保持していません。デモンベインを除いては……ですが」
九郎「それがそのデモンなんたら……?」
瑠璃「その通りです。魔術に対抗できるのは魔術だけ……デモンベインは覇道が持つ技術の粋の結晶。そして祖父、覇道鋼造が導入した魔術理論は必ずやブラックロッジの魔術師たちを討つことでしょう。
しかしデモンベイン起動には魔道書が必要なのです。魔術師が魔道書を用いて魔術を行使するように魔術理論を組み込んだデモンベインの起動には魔道書が必要不可欠なのです」
九郎「なるほど…」
話は理解できた。
だが……どうしたものかと九郎は額に手を当てる。
九郎が大学で落ちこぼれたのは、要するに魔導書の内容についていけなかったからだ。
内容の難解さに、じゃあない。
内容のおぞましさに、だ。
異形の神がどうとか、そういうことが書いてあったと思う。よく覚えちゃいない。むしろ忘れようとしていた。
自分は――恐れたのだ。
魔術の知識を恐れて大学を辞めた自分だ。それなのにもう一度、魔導書と関わりを持つのは気が重い。
瑠璃「デモンベインは祖父の形見であり、希望なのです。わたくしはそれを無駄にしたくない」
澄んだ瞳が九郎を見据える。
九郎(といってもな……あんまりもう魔術とかに関わりたくないんだけどな……後味悪ぃけどここは……)
依頼を断ろうと思ったその矢先、瑠璃はウィンフィールドに指示を送った。
瑠璃「ウィンフィールド、例のモノを・・・」
そう言われて、ウィンフィールドはジュラルミン製のアタッシュケースをテーブルに置いた。
瑠璃「いかに大変かは承知しております。ですから報酬もそれに見合った額をご用意しました」
瑠璃が言い終わってからウィンフィールドはアタッシュケースを開いた。
そこにあるのはビッシリと詰まった札束。
瑠璃「依頼料と必要経費です。お納めください」
九郎の視線は札束に集中している。追い討ちをかけるように瑠璃は続ける。
瑠璃「もちろん、魔道書を発見したあかつきには成功報酬としてさらに倍額を用意します。引き受けてくださいますよね?大十字さん」
九郎「引き受けましょう!」
0.2秒の速さで九郎は即答した。
292
:
暗闇
:2005/12/27(火) 14:46:47 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃、シアトルにあるワシントンレーク湖畔の道を、赤いポルシェが疾走していた。
運転するのはケンだ。
湖面を渡る涼やかな風に、金色の長髪が躍っていた。
サングラスをかけてラフなジーンズ姿だが、清潔感が漂っている。
お洒落を知っている雰囲気を匂わせている。
湖畔のカフェの前に車を止めると、軽快な足取りで湖を見下ろすテラスに向かった。
テラスには、真っ白なテーブルが並んでいる。
その片隅でマガジンを見ていた金髪の女性が顔をあげた。
細面の知的な女性だ。
ケン「イライザ、遅れてゴメン」
ケンは金髪の女性に対し、気軽な感じで手を上げ、挨拶を送る。
昨夜、倉庫の中で厳しい闘いを繰り広げた男には思えない軽い調子であった。
イライザが澄んだ瞳で微笑んだ。
すばやい動作でテーブルまでやってきたケンはイライザの頬に軽くキスした。
ケン「途中でやっかいなことに巻き込まれてね」
イライザ「交通事故?」
ケン「ううん、ちょっと可愛い子と知り合いになってね」
ケンはイライザのとなりの椅子に腰掛けた。
ケン「付き合ってくれって頼まれてさ、断るのにいろいろ手間取った」
イライザ「それで?」
イライザはすでにケンが冗談を言っているのを知っている。
ケン「相手が結構しぶとい奴でさ、予定より時間がかかちゃった。ごめん」
イライザ「そう……」
イライザはケンが格闘家とストリートファイトをしてきたのだと確信した。
イライザ「で、どうだったの?」
ケン「いや、結局は冷たくして泣かせちゃったよ」
ケンは悪戯っぽく微笑んだ。その笑顔はさわやかだ。
イライザは少し悲しげに俯いた。
イライザ「昨夜、連絡が来ないから心配したのよ……こんな心配をまた続けなくてはいけないの?」
イライザの言葉にケンは何も言えない。
「あなたがいつ大怪我をするんじゃないかって……毎日、毎日、気を揉まなくてはいけない。つらいわ……」
なじる口調ではない。心配するあまり、思わず口に出た愚痴だ。
ケンにはそれが痛いほどわかっている。
無闇にストリートファイトをしない。
ケンがそう心に決めたのはイライザと出会ってからだった。
293
:
暗闇
:2005/12/27(火) 15:12:37 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
初めてシアトルに来た時、ケンはイライザと出逢った。
暴漢に襲われているところを助けるという、よくある陳腐な出会いだった。
安くて品数の多いスーパーや衣料店などを紹介してくれた。
言葉に不自由なケンに、すすんで快く英語の教師を申し出てくれたのも彼女だ。
ケンの人懐っこさにイライザはすぐに心を開いてくれた。
お礼のつもりでケンはレストランに招待した。
深いつきあいが始まったのはその夜からだった。
イライザは安らぎと温もりを与えてくれた。
格闘技に明け暮れる殺伐とした気持ちを忘れさせてくれる女性だった。
次第にケンの心がイライザに傾いていった。
そして、ケンは少しずつストリートファイトの虚しさを感じだしたのだ。
イライザ「この頃、無益な闘いはしなくなったのに……あなたを毎日のようにつけ狙っていたシャドルーだってもう壊滅したんでしょ、どうして受けて立ったの?」
イライザは潤んだ瞳でケンを見た。
ケン「俺の親友を貶されてな。ついカッとなっちまった」
イライザ「親友ってリュウのことよね。あなたって、いつもリュウのことばかりなのね?」
ケン「そんなことないさ。この頃は別の人のことで頭がいっぱいになってる」
イライザ「え?」
ケン「君のことさ」
ケンはイライザに額をツンと指で突いた。
イライザ「まあ、上手なんだから……」
イライザがプッとふくれた顔をしてケンを睨んだ。
愛する者に対する甘えの仕種だ。
ケンはイライザの怒った顔を可愛いと思った。
―――イライザが望むままに……
―――ストリートファイトをやらずに大会に出場することだけで技を磨いていく。
―――本当にそれでいいのか?
―――再会した時は互いに技を磨いて優劣を決しようと誓い合ったリュウとの約束。
―――その時にリュウに勝てる腕を磨いておけるのか?
ケンの心は乱れた。
―――まっ、いいか、それはそれ、これはこれかもな。
物事にこだわらない性格のケンは心の中でそうつぶやいてイライザの肩に手を回した。
294
:
暗闇
:2005/12/27(火) 18:11:50 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、そのリュウはというと……
=インド・カルカッタ=
埃っぽい駅舎の壁に幾つもの広告が雑然と重ねられて貼られている。
路上に直にしゃがみこんで何やら話している老人がいる。
トラックから粉袋を降ろしている男達の姿が見える。
石のベンチの上で寝ている男はもう何日もそうしているかのようだ。
さらに、路上の風景を隠してしまう程、多くの人々。
―――カルカッタの街は猥雑でゴミゴミしている。
リュウがインドに来て始めに感じた印象だ。
白い空手着姿で背中にザックを背負ったリュウの姿は街に溶け込んでいた。
路地に入ると、人通りは急に少なくなる。
道の隅の方にはテントの布地にくるまった人々がいる。
みんな一様にカネの水さしや器を並べて石段にうずくまっている。
そこを住まいとしているらしい。
日本では珍しい路上生活者だが、こちらでは当たり前の風景だ。
その路地を一台の黒塗りのベンツが駆け抜けて行った。
場違いな感じのピカピカの高級車だ。
車の後部座席にサングラスを掛けた男がチラッと見えた。
ベンツには似つかわしくない服装の筋肉質の男だった。
路上に並べられた水さしのひとつがタイヤに飛ばされ、コロコロと転がる。
―――乱暴な運転だ。
リュウは黒塗りベンツを見送りながらつぶやいた。
ベンツが走り去った奥に石造りの寺院が見える。
そこから男の声が聞こえてくる。
僧侶のような服装の男が石造りの寺院の岩の上に立って演説していた。
周辺をSPが警護している。
政治家か、あるいは思想家であろう。
男の回りにはかなりの群衆が集まって話を真剣に聴いていた。
石造りの寺院の入り口で、SPが入ってくる人々を入念にチェックしている。
―――大物なんだな……
リュウは横目でチラッと眺めながら埃っぽい路地を進んだ。
その時、水さしを抱えた幼い少女が路地の横道から飛び出してきた。
リュウは反射的に身をかわし、少女とぶつかるのを避けた。
少女「わっ!」
少女は驚いた拍子に道の小石につまづいて転んだ。
バシャ!
少女の抱えていた水さしが高い音をたてて転がり、中に入っていたミルクがトクトクと、道にこぼれはじめた。
295
:
暗闇
:2005/12/27(火) 18:12:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
リュウ「大丈夫か?」
リュウは急いで転んだ少女を抱き起こした。
ところが少女は返事をしない。
リュウを見ようともせず、地面に飛び散ったミルクをジッと見つめている。
その瞳に涙が滲んでいた。
だが、リュウを非難したり、わめいたりはしなかった。
口元をキュッとしめ、道にこぼれたミルクをただ黙って見つめているだけだ。
声を荒げて泣くという素振りは微塵も見せない。
幼い頃からあらゆる不幸という不幸を体験した者だけが知る虚無感。
ほんの些細な悲しみでは泣いたりしない数々の悲惨な体験。
泣くという行為の虚しさを知りつくしているかのようだ。
それは数限りない辛酸を味わった者だけが示す態度だった。
リュウは一瞬、少女の気丈な態度に圧倒されかかった。
リュウ「まいったなあ……」
リュウは不器用に髪を掻いた。
少女はリュウのその言葉にも反応せずに路地の前方に眼を移した。
少女の視線の向こうに石段にうずくまる中年の女がいた。
病気なのか、うずくまったまま動こうとしない。
リュウ「そうか、お母さんのミルクか」
少女は転がっている水さしを拾い、その中に覗き込んだ。
リュウはザックの中に手を突っ込んだ。
リュウ「悪かったな。これでもう一度ミルクを買ってきてくれるか」
ザックの中からクシャクシャのルピー札を取り出し、少女に手渡した。
少女「……?」
少女の瞳に一瞬、戸惑いの色が浮かんだ。
リュウ「お母さんにミルクを……」
少女は初めてリュウの眼を見て、はにかむように笑みを浮かべた。
リュウ「さあ、急いで!」
リュウに促され、少女はコクリとうなずくと来た道を戻っていく。
その後ろ姿は普通の少女にしか見えない。
リュウは石段にうずくまったままの女に頭を下げた。
女はリュウの後ろ姿に感謝の眼を投げかけ、力無く何度か頷いた。
その時、近くの西の方角にある広場からどよめきが起こった。
男「格闘だ! 大男とヨガの行者が闘い始めるぞ!」
バラバラに西の広場の方に走り出す人々の姿が見える。
リュウ「格闘……?」
リュウは興味を抱き、広場の方に進んで行った。
296
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/27(火) 19:37:27 HOST:p0018-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=日本・病院=
かなめ(ほ・・、保険?)
宗介の言葉を聞いて、少し呆けたかなめだったが、すぐにその意味を理解した。つまり、相良宗介軍曹は、『このまま自分と一緒に学校に通い、万が一の危険から自分を護ってくれる』、ということを・・。
かなめ「・・って、よくもまあ・・。」
普通こういう場面では、『ありがとう』とか、『迷惑をかけた』とか、『これからよろしく』とかいうべきなのに、そんな言葉もなく、いつもどおりの何の飾りもない口ぶりが、無性に腹立だしかったが・・、なぜかそれが、今の彼女にはとても、心地がよかった・・。
そして、かなめは大きく息を吸い込んで、宗介にお説教をしだした・・。
かなめ「・・やい、『ソースケ』!あんたには色々と文句が言いたかったのよ!!よっくもあの時・・(ガミガミ・・)」
突然怒り出したかなめに対して、宗介も、クラスメートや担任の恵理先生も驚いた。しかし、彼らはふと気がついた。彼女、千鳥かなめの相良宗介という青年に対しての呼び方が、『相良君』から『ソースケ』に変わったことを・・・。
297
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/27(火) 20:04:35 HOST:p0018-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=新東京国際空港=
???「ん〜〜!!久しぶりの日本だなぁ・・。」
背中に重そうなリュックを背負った、どこか不思議な感じのする青年が背伸びをしながら言った。
彼の名前は『五代雄介(ごだい ゆうすけ)』。世界のいろんな所を旅する、冒険が大好きな青年。飄々とした性格をしており、その内には強い意志と正義感を秘めている・・。
そして、彼にはもう一つ秘密があるのだが、ここではあえて伏せておく・・・。
雄介「さて、と・・。おやっさんやみのり、元気にしてるかな?」
しばらく会っていない、自分の妹やお世話になってる喫茶店のマスターのことを思い出しながら、彼は空港を出て、とりあえず彼らのいる喫茶店『ポレポレ』へと向かおうとしていた。しかし・・
?「きゃあああああ!?」
雄介「!?」
突然、どこからか女性の悲鳴らしきが聞こえた。そして、それを聞いて、五代雄介は無視をすることが出来ず、次の瞬間には、声のした方向へと全速力で走っていった・・。
298
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:12:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、インドでは…
広場には殺気が漲っていた。
大勢の観衆に囲まれた2人の格闘家が、互いに相手を牽制しながら対峙している。
一人は、顔に歌舞伎の隈取りの化粧をしたエドモンド本田。
相手の一人は首に髑髏をぶらさげたヨガの行者のような男ダルシムだった。
観客A「俺はあの大男に賭けるぜ」
観客B「俺もだ」
観客C「バッキャロ〜! あいつは図体がでかいだけだ。負けるに決まってら」
観客D「そうだ。あのダルシムって奴はインドヨガの究極の達人といわれている男だ」
観客E「勝つのはダルシムだ」
観衆は、口々に勝手なことを言いルピー札をふり回している。
賭けに熱狂する観衆の異様な興奮が、周囲に渦巻いていた。
リュウは路地を曲がって広場に出た。
始めに、エドモンド本田と呼ばれる大男の姿が目に入った。
素っ裸の身体にまわしを巻いた、まさに相撲取りの出で立ちだ。
だが、ただの相撲取りの格好ではない。
顔に歌舞伎の隈取りを描いているのが異様だった。
一方のダルシムも腰にわずかばかりの布を身に着けただけの男だった。
首には3つの骸骨をぶらさげている。
顔も骸骨に似て不気味だ。
身体は痩せて骨と皮だけのようだが、筋肉は引き締まっている上に鞭のようなしなやかさを持っているように見える。
無駄な栄養は一切取らず、ひたすら厳しい訓練に耐えてきた修行者とわかる。
が、その異相にもましてリュウの心を引いたのは、ダルシムの眼であった。
闘気が、かけらも感じられないのだ。
瞳には本田の姿を映しているが、その視線は、遙か彼方を見据えている。
しかも、その姿勢には全くスキがない。
リュウにはダルシムが深い知恵の完成を成し遂げた男のように思えた。
299
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:13:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ダルシム「西洋のわからず屋どもは、ヨガの力を頭から認めようとしない……エドモンド本田、お前は東洋人だ。ヨガの力がわかるだろう」
エドモンド本田「日本は東洋だ。だが、自分は東洋人と言いたくない。自分は日本人でごわす」
ダルシムが言おうとしている意味がわかっていない。
エドモンド本田という男は何事においても自己中心的に考えるタイプだった。
だから、他人の考えることを理解しようとしない。
すべてにおいて勘違いをして、それが正しいと思ってしまう類の男なのだ。
―――日本の力士から世界のスモウレスラーになる。
―――スモウレスラーの強さを世界の格闘家に知らせてやりたい。
そう思い、世界各地を回るために日本を離れる時も彼は大きな誤解をした。
町の人々はこの男の思い込みの激しさに、昔からキリキリ舞いさせられてきたのである。
だから、エドモンド本田が突如として世界を巡る旅に出ると言いだした時、『ついに救われる時がきた』と、ばかり、町の人々は大喜びをしたのである。
町の人々は一刻も早く町から出ていってもらおうと餞別を出した。
そうとは露知らぬエドモンド本田は感涙に咽び泣いた。
エドモンド本田『そんなにもワシのことを……皆さんの気持ちはよ〜く分かりもうした! ワールドにスモーの素晴らしさを認めてもらった時には、再びこの町に戻ってくることを約束するでごわす。そして、更なる研鑽に励むでごわす』
そう言って道場を後にしたのである。
一事が万事、このようにエドモンド本田は勘違いや錯覚の連続だった。
ダルシム「私のヨガの奥義をご覧になれば認めざるをえまい」
何度も何度も四肢を踏むエドモンド本田に、ダルシムは言った。
ダルシム「何なら5m先のリンゴを取ってご覧に入れようか? 口から火の玉を吐いて見せようか! 何の仕掛けもありゃしない。インドの火の神アグニの力を借りて悪を焼き尽くす炎は西洋の科学などでは理解できまい」
そう言った途端、ダルシムは口から火を吹いてみせた。
ダルシム「ヨガファイアー」
紅蓮の炎はエドモンド本田の前に吹き荒れた。
観客たち「うおぉぉぉぉ〜っ!」
周囲にいた観客たちが一斉に歓声をあげた。
観客はダルシムが口から火を吹いたことを驚いたのではない。
格闘に臨んで、闘う相手の前で火を吹くというショーを喜んだのである
ダルシムにとって口から火を吹くなど簡単なことであった。
口にアルコールを含み、歯と歯を火打ち石のように擦り、息を吹けば火は噴射する。
これも修業の最中に身に着けた技のひとつだ。
森で修業している際、獣に襲われそうになった時、この技を編み出した。
獣を殺すのが忍びないので、火を吹いて追い払ったのである。
朝から晩まで瞑想に入っていれば、それで1日は過ぎていく。
だからお金などほとんど必要としない。
必要最低限のお金は托鉢で十分間に合うのだ。
それゆえダルシムは金儲けのことなどまったく考えず、毎日、修業に励んでいた。
しかし、それは1つの小さな生命によって大きく覆された。
300
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:14:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
彼と彼の妻の間に子供が生まれたのだ。
ダルシムは神が与えてくれた子供を命に代えても守っていくことを誓った。
そして、神に感謝した。
ところが赤ん坊は毎日、泣き続けた。
なぜ泣くのか、ダルシムは始めわからなかった。
―――暇さえあったら泣いているような気さえする。なぜだ?
―――こんなにお前を愛しているのに?
ダルシムは悩んだ。
そして、やっと気付いたのである。
―――そうなのだ。この息子は私と違って腹が減るのだ。
ミルクを飲んでいるうちはよかったが、成長するにつれて食料が必要になった。
それでダルシムは妻に食料を買ってくるように言った。
ダルシムの妻『あなた、お金がありませんわ』
妻に言われてダルシムは改めて気づいた。
―――何とういうことだ。
―――私の家庭には必要ないと思っていた金がこんな形で必要になってくるとは!
わずかな托鉢の金ではとうてい間に合いそうもない。
もう少し多くのお金が必要だった。
しかし、ダルシムは働いたことがない。金を稼いでくる方法がわからなかった。
―――いったいどうしたらいいのだ?
途方に暮れていたダルシムの脳裏に、ヨガの仲間の話がよみがえった。
『格闘技世界戦に優勝すれば、インドで一生遊んで暮らせる賞金が手に入るらしい』
―――これだ、これしかない。
―――私のヨガをもってすれば野蛮な格闘家など恐るるに足らぬ。
―――だが、私は今日まで暴力をふるったことなど一度もない。
―――人を傷つけるというのは、神様の教えに反する野蛮な行為だ。
―――ここはひとつ、必要悪ということで神様には目をつぶってもらうとしよう。
―――息子よ、待っていろ。私が帰ってきたらカレーをたらふく食わせてやろう。
ダルシムはこうして金を稼ぐために格闘技の旅に出た。
301
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:14:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エドモンド本田「火など吹いて脅かそうとしても自分には通用しないでごわす」
ダルシムのパフォーマンスをエドモンド本田は苦々しげに見てエドモンド本田は言った。
エドモンド本田「卑怯な手はやめるでごわす」
ダルシム「卑怯? 私はインドの軍神スカンダに誓っても卑怯な真似などしてはいない。私が口から火を吹くのも厳しい修行の賜物。そして、手足が伸びるのも厳しい修行の賜物だ」
そういうやいなや、ダルシムの両手両足がスルスルと伸びた。
エドモンド本田はそれを見ながら大地に両手をついて相撲の仕切りの体勢を取った。
エドモンド本田「ハッケヨイ!」
エドモンド本田は気合いを入れて突進し、百裂張り手を繰り出した。
百裂張り手は彼の三大必殺技のひとつだ。
身体の細いダルシムがまともに食らってはひとたまりもない。
エドモンド本田「朝の稽古より楽勝でごわす」
エドモンド本田は百裂張り手を出しながら突進した。
エドモンド本田「わしの張り手は世界一じゃ! がっははは……」
移動のスピードは遅かったが、その勢いはダルシムを追いつめる迫力が充分にあった。
まさに『重戦車』だ。
接近戦に持ち込めば破壊力の強いエドモンド本田が有利になる。
ダルシム「ヨガファイアー!」
裏の裏をかくダルシムはわざと奇声を発し、フェイントをかけた。
相手を跳ばせてスキを作り出す戦法だ。
エドモンド本田はひるむ様子もなく、スーパー頭突きを出して突進する。
エドモンド本田「力だけが正義でごわす」
スーパー頭突きはヒットすると必ず相手をダウンさせる必殺技だ。
ダルシムはジャンプして頭突きをかわし、すぐにドリルキックを見舞った。
垂直や逃げジャンプから、突如として相手の足元に攻撃を仕掛けるのである。
互いがそれぞれの技を出し、披露したところから闘いは一気に激烈になった。
ダルシムは常に無表情だ。
逆に猛然と攻撃をかけるエドモンド本田の顔はさまざまに変化した。
顔に描かれた歌舞伎の隈取りが、興奮の度合いによって次々と模様を変えていく。
まさに鬼のようだ。
観客は興奮した。
誰もが2人の一進一退の攻防に眼を見張っている。
その観衆の中にモニターサイボーグがいた。
モニターサイボーグのレンズの眼はダルシムとエドモンド本田を的確に追っている。
コンピューター画像がインサートされ、ダルシムとエドモンド本田のデータが次々と打ち出されていく。
ベガが必要とする優れた格闘家かどうかを調べているのだ。
302
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:15:24 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エドモンド本田はスーパー百貫落とし、折檻蹴り、俵投げを次々に繰り出す。
―――ムチャクチャなスモウ・ファイトだ。
リュウはエドモンド本田のパワーを認めた。
だが、この勝負の決着はすでについていると悟った。
リュウの予測どおり、優勢だったエドモンド本田が次第にダルシムに体力を吸い取られるようにパワーが落ち始めた。
ダルシムのヨガスマッシュで体力を削られただけではない。
何か不思議な暗示をかけられているようだった。
ダルシムの眼はあきらかにエドモンド本田の眼をとらえて離さない。
―――一種の催眠術か……
―――恐ろしい奴だ。
リュウはダルシムを凝視してつぶやいた。
エドモンド本田「な、なんだ? 体が重い。思うように動かねえでごわす?」
突然、エドモンド本田の動きがギクシャクとしはじめた。
懸命に身体を動かそうとするが、思い通りに動かないようなのだ。
エドモンド本田は明らかに焦りの色を見せはじめた。
顔の隈取りが青一色に変わっていく。
エドモンド本田「くそ……なんだって身体が思うように動かねえんだ?」
エドモンド本田は敗北感を抱いた。
この状態でダルシムに襲われれば避けることは出来ない。
負けることは確かだと知った。
ダルシムは、エドモンド本田にドリルキックを浴びせようとジャンプした。
303
:
暗闇
:2005/12/28(水) 12:15:47 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その時、ダルシムに変化が起こった。
ダルシムの眼が異様に光った。
その視線はエドモンド本田ではなく別の方に向けられた。
明らかに観衆の中の一点を見据えている。
ダルシム「力を感じる……得体の知れぬ物凄い闘気エネルギーだ……」
ダルシムはひとりの男の凄まじい闘気を感じ取ったのだ。
そのパワーを発しているのは2人の格闘を観ているリュウだった。
―――誰も気づかぬような、そこはかとない波動だが……
―――圧倒的な力を奥底に感じる強い闘気エネルギー!
―――あいつは誰だ?
ダルシムは群衆の中にいたリュウを見た。
モニターサイボーグは突然のダルシムの変化に反応した。
そして、ダルシムの見つめる視線の先にレンズの眼を向けた時、すでにリュウの姿はなかった。
観客たち「うおぉぉぉぉ〜っ!」
再び、群衆が歓声をあげた。
モニターサイボーグはハッとなって、格闘する2人に視線を移した。
その直後、エドモンド本田の払い蹴りがダルシムの顎を捉えた。
ダルシム「ウグッ!」
ダルシムの呻きが聞こえた。
直後、ダルシムはバッタリと地に倒れた。
リュウに注意を払ったダルシムの隙を付いたエドモンド本田の勝利だった。
エドモンド本田「とどめでごわす!」
フライングスモウプレスを浴びせようと身構えた。
ダルシム「待った!」
攻撃される直前、ダルシムが制した。
ダルシム「この勝負。私の負けにしよう」
エドモンド本田「『しよう』だと? 『しよう』とは何だ?」
ダルシム「今まで感じたことのないパワーを背中に感じた。それで私は隙を見せてしまった」
エドモンド本田「この野郎、わけのわからねえ事を言って試合を放棄する気かよ」
ダルシム「そうじゃない、試合は私の負けでいい」
観衆が騒ぎだす。
観客A「ダルシム、いいわけは見苦しいぞ」
観客B「そうだ、そうだ。エドモンド本田の勝ちだ」
観衆の声にエドモンド本田はニヤリと笑って言った。
エドモンド本田「それじゃ賞金はいただくぜ」
ダルシムはもうそのことに興味はないかのように頷き、ポツリと呟いた。
ダルシム「あんなに強い闘気を感じたことはない……」
304
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/29(木) 14:42:03 HOST:p2085-ipad28okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
ちなみに・・
=日本・とある通路=
女性「あ・・ああ・・。」
OLらしき服をきた女性は、先ほど目の前で見た現象に恐怖していた。
会社が早めに終わったのでさっさと帰宅しようといつもの道を歩いていたら、どこかの男性がどこかの女性に襲われてる場面を見たのだ。
いや、正確にいうならば、その女性は「異形の怪物」というのがぴったりな姿に変身し、男性に触手のようなものを口から通して、男性を灰にしてしまったのだ・・。
そして、その場面を見て思わず悲鳴をあげてしまい、その化け物に気づかれてしまった・・。
女性(だ・・、だれか・・、誰か助けて!!)
女性は思わずそう願った。しかし、化け物はもう自分のすぐそこまで迫っていた・・。
化け物「ふう・・、仕方ないわね。悪いけど、目撃者がいると面倒になるから。」
そういって、化け物は女性を襲おうとしたのだが・・。
雄介「おりゃああああ!!!」
化け物「ぐぁ・・!?」
突然、雄介が化け物に空中キックをしかけて、ある程度化け物をふっとばした。
女性「あ・・?」
女性は、雄介に対して、ある意味驚いてしまった・・。すると、雄介はこう応えた。
雄介「・・逃げて、早く!!」
女性「あ!・・は、はい!!」
そういわれて、女性は元来た道を走って逃げた。それを見た雄介はほっとして、あらためて目の前の化け物を見つめた。よく見ると、その化け物は全身銀色の姿をしていた。
雄介(・・『未確認』じゃない・・。一体、こいつは・・?)
かつて自分が闘っていた奴らとは違うタイプの奴だということを認識した雄介。すると、化け物が立ち上がった。
化け物「こ・・こんのぉ・・、たかが人間の分際でぇ!」
どうやら、先ほどの雄介の奇襲に怒り心頭の様子だった。
雄介「!しゃべった!!」
化け物「ふん・・、当然よ。私は人類の進化した存在、『オルフェノク』の一員なのよ?しゃべれて当たり前よ。」
雄介「オル・・フェノク・・?」
聞きなれない言葉に首をかしげる雄介。ちなみにこのオルフェノクは蝶をモチーフとした奴で、『バタフライオルフェノク』という名称である。
バタフライオルフェノク「そう。あんたたち人間は、私たちの仲間として覚醒するか、死ぬしかないだけなのよ。」
雄介「!」
バタフライオルフェノク「は〜あ、それにしても、よくもさっきの女を逃がしてくれたわね?・・まあいいわ、あんたをとっとと灰にしてでも、あいつを始末しにいくから。」
余裕があるようにしゃべるバタフライオルフェノク・・。しかし、突然彼女はビクッ、とした。それは、目の前の青年、五代雄介が並並ならぬ『怒り』を発しているからだ・・。
雄介「・・そんな事・・、絶対に・・、させない!!」
そして、雄介は両手を自分の腹の部分にかざした。するとそこに、ベルトのようなものが突如出現した。
これこそ、遥か昔、戦闘種族グロンギを封印した人物が残した「戦士」となるため、霊石『アマダム』の力で変身するベルト、『アークル』。そして五代雄介は、そのベルトを受け継ぎ、闘ったことがある。
バタフライオルフェノク「な・・何!?何なの、これは!??」
わけが分からず困惑するバタフライオルフェノク。しかし雄介はそんな事おかまいなしに、即座にポーズをとった。すると、アークルの中央の丸い部分が、赤くなった。
雄介「・・・、『変・身』!!」
そう叫んだ瞬間、彼の体に赤と黒の強化スーツのようなものが装着され、五代雄介は、再び『戦士』となった・・。
バタフライオルフェノク「お・・、お前、一体何者なの!?」
雄介「・・俺は・・、『クウガ』。戦士、クウガだ!」
そう・・、彼のこの姿こそ、かつて封印が解かれたグロンギたちをすべて倒し、みんなの笑顔のために戦った超戦士、『仮面ライダークウガ』である・・。
305
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:01:05 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=インド=
リュウはモニターサイボーグの監視を感じ、素早く広場を立ち去っていた。
―――あの不気味な視線はなんだ。
リュウはまだモニターサイボーグの存在を知らない。
だが、自分にとって何か不利益な事態を引き起こすであろうことを事前に予知した。
数多くの修羅場を体験したリュウならではの勘だった。
ギラギラと照りつける太陽で道は白く光っている。
さきほど一台の黒塗りのベンツが駆け抜けて行った道だ。
リュウはなぜか場違いな感じのピカピカの高級車が気になっていた。
気になる理由は取りたててない。
だが、歯の間に食物のカスが挟まっているかのように心の隅にこびりついて離れない。
車の後部座席にサングラスを掛けた男。
ベンツに似つかわしくない服装の筋肉質の男。
乱暴な運転。
それらが記憶の断片となって浮かび上がってくる。
―――俺には関係のないことなのにな。
そう思いながら寺院の前まで来た。
そこは僧侶のような服装の男が岩の上に立って演説をしていた寺院だ。
相変わらず周辺を警護しているSPの姿が見えた。
政治家か、思想家か、演説していた中年の紳士の周辺に人々が群がっている。
人A「ジャハーンさん、すばらしい演説でしたよ」
人B「あなたは勇気のある人だ」
人C「我々はあなたの考えに賛成です」
人D「この世界から麻薬を撲滅しましょう」
人E「ジャハーンさん、みんなの力で麻薬組織を倒しましょう!」
演説の内容に感動した人々が取り囲んで握手をしている。
ジャハーンという紳士は、1人1人に丁寧に握手を返している。
壊れた塀の一角からその光景を眺めることができた。
306
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:17:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その時、リュウは殺気を感じた。
殺気の発信源はどこかと周囲を見回す。
すると、寺院の建物の陰に停められた黒塗りのベンツから降りる筋肉質の男が見えた。
―――あぶない。
―――誰かが狙われている。
リュウは咄嗟に感じた。
ズキュッ!
その直後、銃を発する鈍い声がした。
ジャハーン「ウッ!」
同時にジャハーンと呼ばれていた紳士が倒れた。
紳士を取り囲んでいた人々が騒ぎ、寺院の庭は騒然となった。
人A「あそこだ!」
凶弾の出所が黒塗りのベンツとわかり、SPたちが走り出した。
SP1「あの車の中に犯人がいるぞ!」
SPたちがバラバラッと駆け寄った。
すると、例の筋肉質の男がいきなり飛び出し、瞬く間に3人のSPを倒した。
その動きは素早い。
―――並の格闘家の技ではない。
リュウは反射的に黒塗りのベンツの方に走り出した。
紳士を狙撃した犯人を捕らえようと思ったのだ。
だが、距離がありすぎた。
筋肉質の男は物凄い勢いで走り、みるみるベンツに近づいて行った。
SP2「奴を撃て!」
SP3「急所を外して狙え!」
SP4「生け捕りにしろ!」
SPたちが筋肉質の男に銃を構えた。
その時、ベンツの中にサングラスの男たちがマシンガンを乱射した。
その照準はSPに向けられたのではなかった。
男「うわぁぁぁ〜っ!」
マシンガンの銃弾を浴びて倒れたのは仲間の所に逃げようとした筋肉質の男だった。
サングラスの男たちは筋肉質の男を撃ち殺したのだ。
さらにサングラスの男達はSPや群衆に向けてもマシンガンを撃ちまくった。
リュウは黒塗りのベンツに向かって尚も走った。
だが、黒塗りのベンツはリュウが飛びつく前に発進してしまった。
リュウ「間に合わなかったか!」
リュウが歯噛みしたその時だった。
307
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:29:24 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
寺院内の近くにミルクをこぼした少女の姿が見えた。
少女もリュウを見つけ、手に持ったルピー札を振ってリュウの方に走りかけた。
リュウ「危ない!」
黒塗りのベンツが少女に向かって物凄いスピードで突っ込んでいったのだ。
リュウは大地を蹴って跳んだ。
ガガガガ〜ッ!
黒塗りのベンツが少女に迫った。
運転者はSPから逃げることだけを考え、ブレーキをかけて少女を避けようとする気持ちなど微塵もないようだ。
少女「アアッ!」
間近に迫り来た黒塗りのベンツを見て少女は悲鳴をあげた。
少女がまさに轢かれそうになったその直前、リュウは少女の身体に飛びついた。
ガガガガ〜ッ!
黒塗りのベンツはスピードを落とすことなくリュウの脇をすり抜けて走り去っていく。
リュウ「大丈夫か?」
リュウが顔を見ると、少女は蒼白となり、歯をガチガチと鳴らし、ワナワナと身体を震わせていた。
だが、リュウを見て気丈にコクリと頷いた。
少女「ミルクを買ったお金、あまったの……」
リュウ「わかった……ありがとう」
リュウは少女が差し出したおつりのコインを手に握らせてやった。
リュウ「命は尊い。たったひとつしかないんだ。大切にするんだぞ」
少女は再び、コクリと頷き、頭を下げて走り去って行った。
308
:
暗闇
:2005/12/29(木) 15:38:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その時、背後からリュウの背を叩いた者がいる。
エドモンド本田「ヨウッ!」
振り向くと、広場で闘っていたエドモンド本田が立っていた。
エドモンド本田「この金、半分はお前の分でごわす」
エドモンド本田は人懐っこい笑みを浮かべ、分厚いルピー札の束を差し出した。
リュウ「金?」
エドモンド本田「ダルシムとの戦闘で得た懸賞金でごわす」
リュウ「それを半分、俺にくれるとは……どういうことかな」
エドモンド本田「さっきの勝負はお前がいなきゃ、負けてたかも知れねえでごわす。とっときな」
リュウ「よくわからないが?」
リュウが惚けると、エドモンド本田はニヤリと笑った。
エドモンド本田「お前がおびただしい闘気エネルギーを発散していたから、ダルシムは注意を奪われたんだ」
―――エドモンド本田は俺に気付いたいたのか?
リュウはあっけに取られた。
エドモンド本田「お前は日本人だろ?」
リュウ「ああ…」
エドモンド本田「お互い日本の格闘家だ。遠慮するな、ガッハッハッハッ」
エドモンド本田はルピー札を持った手でリュウの胸を叩き、高笑いした。
309
:
暗闇
:2005/12/30(金) 19:07:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド=
日はすでに高く昇っていたが、手入れの行き届いた墓石のまわりには、まだひんやりとした朝靄の名残りがあった。
ロイドは、家の裏庭にある母親の墓前に静かにひざまついていた。
珍しく早起きをした、というよりは興奮のためによく眠れなかったといいったほうが正しいのだが、少しも眠気を感じない。
ロイド「母さん……しばらく留守にするけど、心配しないでくれよな。俺、知らなかったんだ。母さんがディザイアンの連中に殺されちまったなんて……きっと、きっとあいつらを滅ぼしてやるから!」
ロイドは握りしめた拳をほどくと、胸に手を当てた。服の内ポケットには、昨夜遅くまでかかって完成させたコレットの首飾りが入っている。
ロイド「俺、コレットと一緒に旅に出るんだぜ。世界を再生したら、きっと戻ってくるから」
ロイドはそこでハッと立ち上がる。
ロイド「お、おはよう、親父」
ダイクは黙って、墓石とロイドを見比べた。
ロイドは拾ってすぐ、亡くなった母親をここへ葬り、墓を造ったのもダイクだった。
ロイド「あのさ、親父……」
ダイク「ほらよ。要の紋だ」
ダイクは息子の手の平に、見事な細工を施した腕輪を載せた。
ダイク「俺は止めたんだぞ。ま、どう使うかはお前の自由だ。なあに、ドワーフの誓い、第2番!『困っている人を見かけたら、必ず力を貸そう』、これを実践しただけでぇ」
ロイド「親父……ありがとう!」
ロイドは、この愛情深い養父のそばをまもなく離れるのだと思うと、胸が熱くなった。
ロイド「話があるんだ。俺、これから旅に出る。コレットたちと一緒に世界を再生して、母さんの―――仇をとる。絶対に」
ダイクは一瞬、なんともいえない表情を浮かべたが、
ダイク「そういうと思ったわい」
と、軽いため息をついた。
ダイク「けどな、ロイド。忘れるんじゃねえぞ。ここはおめぇの家だ。血が繋がってなくても、おめぇは俺の息子だ。いつでも帰ってこいよ」
ロイド「……ああ」
ダイク「ノイシュは連れて行くんだろ。まだ小屋にいるぜ」
ロイド(親父、今日からひとりぼっちなっちまうんだな―――)
が、ロイドはその考えを振り払うかのように、声を張った。
ロイド「ノイシュ、来い! 世界再生の始まりだ!」
310
:
暗闇
:2005/12/30(金) 19:08:25 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
クゥ〜ン、と鼻を鳴らしてノイシュが走ってくる。
が、ノイシュより先に現れたのは、ジーニアスだった。
ロイド「あれっ!? なんだよ。なんでお前が出てくるんだよ」
ジーニアス「ロイド! ま、まだこんなところにいたの……はぁ」
肩で息をしているジーニアスは、そこにいるダイクに気づくと、あわてて「こんにちは」と挨拶する。
ロイド「そうだ、ちょうどいいや。親父にはマーブルばあさんの要の紋、作ってもらったぜ」
ジーニアス「ほんと? うれしいよ。けどロイド、そんなことよりどうしてコレットの見送り来なかったのさ!」
ロイド「へ?」
ロイドは。ぽかんとしてジーニアスを見た。
ロイド「だって、出発は昼だろ? 実は俺も一緒に行くことになったんだよ」
ジーニアス「なに寝ぼけてるんだよっ! コレットも姉さんもとっくに出発しちゃったよ。
いつまでたってもロイドが来ないから僕がこうやって様子を見にきたんじゃないかっ!」
ジーニアスは、ほとんど涙ぐみそうになりながら訴える。
ようやくロイドにも事情が飲み込めてきた。
ロイド(置いて、いかれた―――)
ロイド「そ、そんなバカな!」
ダイク「ロイド。急いで村へ行くんだ」
ダイクがロイドの背中を押した。
ロイド「けど親父……」
ジーニアス「そうだよ。ロイド、早く行こうよ」
ふたりの剣幕に、ロイドはすぐそばで耳をパタパタさせているノイシュの首に手をかける。
ロイド「わかった。ジーニアスも乗れよ。急ごう」
ジーニアス「えっ。う、うん。乗れるかな、僕……」
ダイクはジーニアスをひょいと抱き上げると、ノイシュの背に放り上げる。
ジーニアス「ありがとう、ダイクおじさん」
ロイド「じゃな、親父。あわただしくてごめんな!」
ダイクは、無言のまま何度も頷いてみせた。
ロイドが背中にまたがるやいなや、ノイシュは普段ののんびりとした様子とは打って変わり、全速力で村に向かって駆け出した。
311
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/30(金) 20:17:39 HOST:p3216-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=アーカムシティ=
九郎「はあ・・、鬱だ・・。」
そんなセリフを思わずはきながら、大十字九郎は歩いていた・・。探偵らしく足で稼いで魔道書探しをしていたが、さすがにそんな簡単に見つかる訳がなかった・・。
そんな時もう今日は帰ろうと元来た道戻ろうをしたら、とある古書店が眼に入った。あまりにも小さかったので、最初通った時は気づかなかったが・・。
九郎「・・しょうがねえ、あそこに入ってみるか・・。」
対して期待もしないまま、その古書店へと足を運ぶ九郎であった・・。
=古書店=
その古書店の中は、奥行きがあるせいか意外に広く、蔵書数も多い。しかも、本棚に生前と納められた書籍は、大学の図書館でしかお目にかかれない代物ばかり、と言った感じであった。
九郎(こいつは・・、すげえな・・)
思わず感心する九郎。すると・・
?「探し物でも?」
突然、後ろから声がした。九郎が振り返ってみると、そこには店主らしき長身の女性が立っていた。歳は九郎よりも若干上、といったところ。大人の女性が発する妖艶な気配、それに胸元が盛大に開いたスーツがやけに印象的であった・・。
?「なかなかの品揃えだろ?ただ、ちょっと無節操かもしれないね。」
そういって女性は軽く肩をすくめ、九郎に向けて微笑みかけた。その瞬間、九郎の背筋に『ゾクッ!』、という寒気のような物が走り抜けた。
?「それより、こんなに多くちゃ、探すのも大変だろ?僕でよければ、協力するよ。」
女性は九郎の肩を軽く叩くと、少し考えるそぶりをしながらこういった。
?「おっと、失礼。挨拶がまだだったね。僕は・・、そうだな、『ナイア』って読んでくれればいいよ。」
九郎「ど・・、どうも。俺、大十字九郎です・・。」
とりあえず、九郎も軽めに自己紹介をした・・。
312
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/30(金) 20:38:22 HOST:p3216-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
ナイア「ふぅん・・、九郎君、かぁ・・。」
九郎が名前を告げると、ナイアはそう呟きながら、しげしげと九郎を眺めた。
ナイア「・・で、九郎君が探してるという本は?」
九郎「ああ・・それが、ちょっと特殊な代物で・・。」
ナイア「ふうん・・。例えば、『力ある魔導書』のような?」
九郎「!??」
ナイアが鼻先までずれた眼鏡を指先で押し戻すし、しれっと先ほどのセリフをいうと、九郎は思わず警戒心をあらわにし、ナイアを睨めつけた。
ナイア「そんな眼で見ないでくれよ。こんな商売をやってるせいか、なんとなく解かるのさ。客が求めている本がね。ましてや、君のように特殊な本を求めている客となれば、なおさらさ。」
ナイアはくすりと笑う。
ナイア「それにね、僕は思うんだよ。魔導書を求める物は、実のところ『魔導書に引き寄せられているんじゃないか』、ってね。つまり人が魔導書を選ぶのではなく、魔導書が自らの主を選ぶってわけさ。」
そう言い終えると、ナイアは本棚から手近な所にある一冊の本を引き抜いた。分厚く堅牢な装丁のその本には、『エノクの書』と書かれている。それは紛れもなく、魔導書であった。
ナイア「魔導書は魔術師に力を与え、彼らはそれを行使して奇跡を起こす。このエノクの書もそうさ。矮小たる人間が逆立ちしたところで遠く及ばない智の結晶。陣地を超越した奇跡の産物。魂が宿っていたとしても、不思議ではないだろう?」
なるほど、と九郎は得心する。心を惑わし、正気を失わせるような狂気に近い何かがこの本にはある。実際、毒気にさらされているのか、めまいと吐き気がしていた。
ナイア「おやおや、大丈夫かい?こいつに精気でもすわれちゃったかな?!」
おどけるような口調でたずねてくるナイアに対し、九郎は疑問を抱かずにいられなかった。
九郎(この人・・、なんで平然としていられるんだ?)
しかし、体の不調が、九郎から思考能力を奪い去っていった・・。そして、とりあえず九郎はナイアに対して、「それ、譲ってくれないかな?」と尋ねた。しかし、帰って来たのはこんな返答であった・・。
ナイア「申し訳ないけど、それはできない。」
313
:
疾風
:2005/12/30(金) 23:47:33 HOST:z215.61-205-223.ppp.wakwak.ne.jp
=とある商店街=
ショルダーバックを下げ周りの店を見ながら歩く少女・・・・・
時音「レイスの修理パーツ買えて良かったね〜」
レイス「うん、そろそろ動きが鈍くなってきたからね〜」
バックから首を出す時音のパートナーである時空勇者レイス・・・・
前回の戦いでレイスの装甲に不備が出た為、急遽修理用のパーツを探していた・・・・
それに合うプラモのパーツを購入し帰る所であった・・・・・
時音「ふにゅ?」
レイス「時音・・・・何だか様子が変みたい・・・」
それもその筈、前方に良くない気配を漂わせた者達が彷徨っていた・・・・
その者達の名は冥府兵ソビル・・・・・
この世界での敵勢力の一つインフェルシア・・・・・
その勢力の兵士である事をこの時点で時音達はまだ知らなかった・・・
そしてその兵士達は何故か時音達に襲いかかろうとしていた・・・・
時音「襲うつもりなら本気でやらないと私達を倒せないよ・・・・・」
何処からかヨーヨーを取り出し、戦闘状態に入る・・・・・
314
:
ゲロロ軍曹
:2005/12/30(金) 23:48:20 HOST:p3216-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=日本・とある道路=
クウガ「おりゃあ!!」
バタフライオルフェノク「ぐはぁ・・!?」
クウガに変身した雄介は、圧倒的な実力の差もあってか、バタフライオルフェノクを優勢的に攻撃していた。
バタフライオルフェノク「くっ・・このぉ!!」
怒り心頭のようで、バタフライオルフェノクはクウガに対してキックを放つが、軽々とよけられて、カウンターを喰らう。
バタフライオルフェノク(そ・・、そんな、バカな!?私は、オルフェノクなのよ!?それなのに、こんな訳の解らない奴に、押されてるだなんて!??)
彼女にとっては、認めたくなかった。せっかく人類の進化系という体を手に入れたのに、目の前にいる、人間を救おうとしてる奴に、こんな風にこけにされているのが・・。
バタフライオルフェノク「こ・・こんのぉぉ!!!」
クウガ「!!」
突然、バタフライオルフェノクが攻めに回った。突然のことで、クウガも防戦一方になる・・。
クウガ(このままじゃまずい!どうすれば・・・、!あれだ!!)
クウガは眼の先にある鉄パイプを見つけて、バタフライオルフェノクのバランスをくずし、一気に鉄パイプの所までジャンプし、鉄パイプを握った。すると、アークルの中央の部分が、赤い色から青い色へと変わった。
クウガ「よし・・、『超変身』!!」
クウガがそう叫ぶと、クウガの装甲などの紅い部分が青い色へと変わり、どこかすっきりとしたフォームになった。鉄パイプも、瞬時に伸縮自在のロッドへと変化した。
バタフライオルフェノク「ま・・、また変身した!?」
そう、これこそがクウガの超変身の一つ、『ドラゴンフォーム』である。
クウガ「・・おりゃあ!」
クウガはすかさず、手に持ってる『ドラゴンロッド』でバタフライオルフェノクを攻撃した。これには、さすがにバタフライオルフェノクも反撃できなかった。
バタフライオルフェノク「ぐぅぅ!??」
そして、それを好機と見たクウガは、すかさず必殺技『スプラッシュドラゴン』を使った。
クウガ「うぉりゃああああ!!!」
バタフライオルフェノク「あああああ!??」
そして、もろに必殺技を喰らって、盛大に倒れるバタフライオルフェノク。
バタフライオルフェノク「あ・・ああ・・。」
クウガ「!?」
すると、次の瞬間、バタフライオルフェノクの体は灰になってくずれていき、瞬時に全身が灰となってしまった・・。
クウガ(・・オルフェノク、か・・。一体、何が起ってるんだ・・?)
もはや灰となって消えてしまったバタフライオルフェノクのやられた場所を見ながらそんな事を考える、クウガこと五代雄介であった・・。
315
:
暗闇
:2005/12/31(土) 15:58:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド・イセリア村=
村の近くに茂みにノイシュを待たせると、ロイドとジーニアスは南門からイセリアへ入った。
神子の旅立ちのときを、村人は総出で見送ったらしい。彼らはそこに集まって、まだ興奮冷めやらぬ面持ちで、お喋りに余念がない様子だった。
ジーニアス「とにかくフランクおじさんのところへ行ってみようよ」
ロイド「ああ。なあ、ジーニアス。おまえも先生を見送ったんだろ? そのとき、コレットの様子はどんなだった?」
コレットの家に向かって歩きながら、ロイドは訊ねた。
ジーニアス「どうって、そういえば妙に明るかったかな。『がんばりまーす』とか言っちゃって。僕、ロイドが来てないのに、なんでこんなにニコニコしてるんだろうって、ちょっと思ったんだ」
ロイド「そっか……(あいつ、チビの頃から何か無理してることがあると、やけに明るく振る舞うくせがあったっけ……)」
コレットの家に入ると、フランクとファイドラが居間のテーブルについていた。
ロイド「おじさん! コレットのことなんだけど」
フランク「ああ、ロイド。待っていたよ」
フランクがファイドラの方を見ると、老婆は一通の手紙をロイドに渡した。
ファイドラ「これを神子から預かっておる」
ロイド「コレットから?」
ロイドは神妙な面持ちで便箋を開いた。
そこにはコレットのちょっと癖のある、懐かしい小さな文字が並んでいた。
『 親愛なるロイドへ
これをロイドが読むころには、私はもう旅に出ています。
嘘をついてごめんなさい。でも、世界再生の旅は、いままで大勢の神子たちが失敗してきた、とても危険な旅なのです。
大好きなロイドを、巻き込みたくはなかった―――。
私ががんばって魔物やディザイアンを鎮めるから、ロイドは再生された世界で平和に暮らしてください。
いままで仲良くしてくれて、本当にありがとう。
ロイドにめぐりあえて、私は幸せでした。
さようなら。
コレット』
ロイド「さようなら、だって?」
ロイドは呆然と便箋を持った手を下ろした。
ロイド(そういえば、昨日もあいつ、「さよなら」って俺に言ったよな。あれはこういう意味だったのか……)
ジーニアス「ロイド、大丈夫? 顔色悪いよ」
心配したジーニアスが訊ねたときだった。
幾人もの悲鳴があがり、続いてバリバリと何かが壊れるような、ものすごい音が外から響いてきた。
ロイド「なっ、なんだ!?」
ジーニアス「行ってみよう!」
二人はコレットの家を飛び出し、広場へと向かった。
316
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:34:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
広場の向こう側は、一面火の海だった。体に火がついたまま逃げ惑う人々に鞭を当て、容赦なく剣で突いている男達は、あのディザイアンの制服に身を包んでいた。
ロイド「家が燃やされてる……なんてことを」
ロイドが唇を噛んだとき、転がるようにして村長が出てきた。
村長「やっ、やめてくれぇ! これではみんな死んでしまう!」
が、そこにいたディザイアンの男は、すがりつく村長を突き倒すと、叫んだ。
ディザイアンA「ロイド・アーヴィング、出てこい!」
崩れ落ちる家屋の中で、新たな悲鳴が響きわたる。
ロイド「くそっ」
ロイドは、たまらずに飛び出した。
ディザイアンたちが十数人かたまっているその前で、彼は叫ぶ。
ロイド「やめろぉっ! 俺はここにいる。また村を襲いに来たのか?」
ディザイアンA「“また”、だと?」
下っ端のひとりが、鼻で笑った。
???「ふふふ。戯言を……どけ」
制服のディザイアンたちを肩でかきわけるようにして現れたのは、片目に眼帯をし、腕にごつい戦闘用機械を装備した大男だった。
ロイド(こいつがボスか……?)
ロイドは油断なくかまえた。背後にはジーニアスがいる。
フォシテス「聞け、劣悪種ども! 我が名はフォシテス。ディザイアンが五聖刃のひとり」
フォシテスは村中に響くような大声をあげた。
フォシテス「優良種たるハーフエルフとして、愚劣な人間どもを培養する牧場の主!」
ジーニアス「ハーフエルフ……優良、種……」
ジーニアスが低くつぶやく。
フォシテス「ロイドよ! お前は人間でありながら不可侵契約を破る罪を犯した。貴様が培養体F192に接触し、我らの同志を消滅させたことは、すでに記録装置によって照会ずみだ!」
村長「おお、なんということを!」
村長は地に伏した頭を抱えた。
フォシテス「よってロイド、我らディザイアンは貴様とこの村に制裁を与える」
ジーニアス「待ってよ!」
ジーニアスがロイドの前に立ちはだかった。
ジーニアス「け、契約違反はそっちも同じだろ? 昨日、神子の命を狙ったくせに」
フォシテス「我々が神子を? ははは、これはおかしい。奴らは神子を狙っているのか」
ロイド「奴ら?」
ロイドは聞きとがめた。
ロイド「昨日コレットを襲った連中とお前たちは違うっていうのか」
フォシテス「さあな。劣悪種に語ることなどなにもない」
フォシテスの横で、ようやく体を起こした村長がロイドを睨みつけた。
村長「ロイド。牧場には関わるなといつもあれほど念を押していたのに……!」
ロイド「……ごめん……」
返す言葉はなかった。ロイドが頭を垂れた、その時。
不気味な震動がブーツの底から伝わってきた。
317
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:34:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ロイド「な、なんだ」
フォシテス「ロイド! 貴様の罪にふさわしい相手を用意した。引き裂かれるがいい!」
ロイドは自分に近づいてくる、これまで見たこともない怪物の姿に絶句した。
二足歩行はしているが、醜く膨張した頭部のためにバランスが悪いのだろう。歩くたびに全身がゆらゆらと揺れている。灰色の衣服から突き出た、赤い大きな爪を持った手足の関節は、不自然に曲がっていた。
ロイドは怪物の、目鼻のない顔の中央に何かが埋まっているのを見ながら、剣の柄に手をかける。
ロイド(なんだあれは……エクスフィアによく似てるけど)
ディザイアンの一人が叫んだのは、彼が剣を抜いた瞬間だった。左手にいつも巻いている布がはらりと落ち、エクスフィアが光ったのだ。
ディザイアンA「フォシテス様! あの小僧、エクスフィアを装備しています!」
うむ、とフォシテスが頷く。
フォシテス「やはり、我々が探していたエンジェルス計画のものかっ! それをよこせ、ロイド!」
振り上げた腕が、唸りをあげた。
ロイドは咄嗟に後ろに跳びさりながら。左手を後ろに隠す。
ロイド「イ、イヤだ! これは母さんの形見だ……お前らが殺したんだ!」
フォシテス「何を言う。お前の母はな……」
フォシテスは怒りに燃えた片目でロイドを睨めつけると、再び腕を振りかざす。
と、足を引きずるようにして、怪物が動いた。
ロイド「くそっ。こっちが先か」
ジーニアス「ロイド! 僕も戦うよ」
ジーニアスの声を聞きながら、ロイドは威嚇するように剣を突き出した。
だが、怪物に怯む様子はない。くぐもった唸り声をあげながら襲いかかってくる。
ロイド「やああっ!」
ロイドは続けざまに剣を振るい、怪物の胸や腹に斬りつけた。
ジーニアス「ストーンブラスト!」
ジーニアスがけんだまを使うと、地面から勢いよく石つぶてが噴出する。
それをまともに頭部に食らった怪物は、自分をかばうために両腕を上げる。
ロイドは魔神剣で追い討ちをかけると、間を置かずに怪物が倒れ込むまで斬り続けた。
ロイド「はっ、どうだ。今度はそっちだぜ」
だが、彼の剣がフォシテスに向けられるより早く、怪物はフラフラと立ち上がる。
ジーニアス「ロイドっ」
ジーニアスが注意を促したその時、ふたりは信じられない声を耳にした。
???『逃げなさ……い……、ジーニアス……ロイ、ド……』
318
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:35:16 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ジーニアス「え!? なに、今の。聞こえたでしょ、ロイド」
ロイド「ああ」
ふたりは驚いて怪物を見上げた
???『早く……逃げ、て』
間違いない。くぐもってはいるが、この優しい響きには聞き覚えがある。
ジーニアス「ま……まさか……マーブルさん!? ウソでしょ」
マーブル『うっ、うううう……ぐぐぅ……は離れて、早く、ジーニア、ス』
怪物は苦しそうに身をよじりながら、
マーブル『新しい孫ができたみたいで……嬉しかったわ。さよう、な……ら』
そのままフォシテスに近づき、抱きついた。
フォシテス「うわぁっ、やめろぉっ!」
激しい爆発音が響いた。怪物の体が粉々に砕け散る。
ジーニアス「ああああっ! マーブルさぁぁぁんっっっ!!」
ロイド「危ないぞ、ジーニアスっ」
ロイドは、絶叫し、いまはもう形もなくなったマーブルに駆け寄ろうとするジーニアスを羽交い締めにするのが精一杯だった。
ようやく爆発音が途絶えると、ディザイアンたちは口々にその名を呼びながら、倒れているフォシテスに近寄り、抱き起こした。
フォシテスは怪我を負い、額に傷を作っていた。この場でこれ以上闘うのは不利だと判断したのだろう。
フォシテス「ロイド。その左腕のエクスフィアがある限り、我々はお前をどこまでも追いかけてやる。よく覚えておくのだな」
そう言い捨てるなり、部下たちと共に走り去った。
ロイド「あいつら……」
ロイドはふと、何かが地面を転がってくるのに気付いた。それは意志を持つもののようにジーニアスの足元でピタリと止まる。
ロイド「エクスフィア……マーブルばあさんの、エクスフィアだ。俺達を守るために、自爆を……」
ロイドはエクスフィアを拾い上げると、涙をポタポタこぼしている親友に握らせてやった。
ディザイアンが出て行ったので、生き残った村人たちは必死に消火活動を始めているが、火をかけられた家のほとんどは、既に跡形もなく焼失していた。
319
:
暗闇
:2005/12/31(土) 23:35:33 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
村長「ロイド。出て行ってくれ」
村長の声は憤りのせいで、ほとんど掠れてしまっていた。
村長「ディザイアンはお前を敵と認定した。お前がいる限り、この村に平和はない……すでに大勢の人々が命を落とし、家を失った。これ以上……」
ジーニアス「ちょっと待ってよ!」
ジーニアスは、濡れた顔を拭おうともせずにロイドの前に立ち、親友を守ろうと両腕を広げた。
ジーニアス「なんでロイドを追い出すんだ。ロイドは悪くない。そりゃ牧場へは行ったけど、ロイドはマーブルさんを助けただけだよ」
村長「事情は知らん。しかし牧場に関わるすべてが禁忌なのだ。例外はない」
ジーニアスの顔が、微かに歪んだ。
ジーニアス「じゃあ聞くけど。村を守るためなら、牧場の人は死んでもいいの!?」
すると、ひとりの村人がすぐさま答えた。
村人「当たり前じゃないか。どうせ牧場の人間なんて、あそこで朽ち果てる運命なんだから」
その通り、と村長は頷いた。
村長「余計なことをしなければ、死ぬのはその怪物だけですんだのに! ロイドなど元々この村の人間でもないくせに……ドワーフに拾われたよそ者じゃないか」
ジーニアスは俯き、唇を噛みしめる。
ジーニアス「人間って……汚い。人間なんか……!」
ロイド「もうよせ、ジーニアス。俺が悪かったんだ」
ロイドは親友の肩を叩くと、村長の前に進み出た。
ロイド「ご迷惑をかけました。出て行きます」
ジーニアス「だったら僕も出て行くよ! 僕だって同罪……ううん、もとはといえば僕のせいなんだ。僕がロイドを誘ったから」
村長は、ジーニアスの処遇をじっと考えているようだった。
村いちばんの秀才で、教師の弟―――。ディザイアンも彼を敵視しているわけではない。リフィルがまだここにいたら、事情は変わっていただろう。
村長「……よし、決定だ。ただいまをもって、ロイドとジーニアスを追放処分とする。ふたりともただちに村から出て行くように」
どよめきが起こった。出て行け、という叫びがあちこちから聞こえる。
ロイド「ジーニアス、おまえ……」
ジーニアス「いいんだ。行こう、ロイド」
憎悪の空気から逃れるように、ふたりは足早に歩き出す。
ようやく人がまばらになったところで、ロイドは口を開いた。
ロイド「なあ、ジーニアス。さっきのエクスフィアはお前が使えよ。要の紋もあるし」
ジーニアス「……僕が?」
ロイド「マーブルさんの形見じゃないか」
ジーニアス「そうか。そうだね」
ジーニアスは頷いた。
その時、誰かがロイドを呼ぶ声がした。
ロイドが顔を上げると、そこにはファイドラとフランクが立っていた。難を逃れ、ここでふたりを待っていたらしい。
ファイドラ「ロイド。神子さまたちは南に広がるトリエット砂漠に向かったはずじゃ」
ロイド「ばあさん……いろいろすまなかった」
ファイドラは微笑んだ。
ファイドラ「お前にその気持ちがあるのなら、どうか神子さまを追いかけて守ってやっておくれ。そうして世界が救われれば、みんなの気持ちもまた変わるじゃろう」
ロイド「ああ……、償いはする。そして、コレットは俺の命にかえても必ず守る」
フランク「ロイド。ジーニアス。きみたちにマーテルさまのご加護があるよう、祈っているよ」
フランクの言葉に、ふたりは「ありがとう」と精一杯の笑顔を作ってみせた。
320
:
疾風
:2006/01/01(日) 01:49:40 HOST:z215.61-205-223.ppp.wakwak.ne.jp
その頃・・・・・
インフェルシアの放った冥府兵と戦っていた時音・・・・
時音「ストリングスも切れちゃった・・・・後は・・・」
先程武器で使っていたヨーヨーの紐が千切れ使い物にならない為・・・・
本来ならば使う事を禁じられていた刀を引き抜き戦おうとしていた・・・・
時音「来れば・・・・もっとも痛い目に会うけどね・・・」
刀を構え冥府兵に刃を向ける・・・・
ゾビル「・・・・・・・」
不気味な動きで再び時音に襲い掛かるが・・・・・
時音「行くよ・・・・・・・」
間合いを取り、1体のゾビルを切り捨てていく・・・・・・
時音「次・・・・来れば?」
挑発した様な言い方で敵の視線を自分に向けさせる・・・・・
そしてバックの中でレイスは動けずに黙って見ているしかなかった・・・・
321
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/01(日) 16:55:58 HOST:p6203-ipad11okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
時は戦国時代・・、日本の各地で天下盗りの戦が繰り広げられていた。しかしその頃、遥か彼方の星からやってきた宇宙制覇をもくろむ悪の宇宙人、『カイザーハデス』なるものが、地球を侵攻すべく襲来したのであった。
しかし、そんなハデスの軍勢に立ち向かうものがいた。地球から遠く離れた星『ライザー星』からやってきた宇宙人、ライザー星人『ノルン』。地球を守る為、ノルンはハデスと戦い、どうにか地球の大地に封印する事に成功した。
だが、現在にいたって、その封印は弱まりかけていたのであった・・・。
=現代・???=
???「・・・・。」
何やら薄暗く、怪しげなオーラが立ち込めている部屋の中央に、妙に大きな物があった。それはまるで、何かを厳重に『封印』しているかのようにも見えた・・。
これこそ、かつてノルンが封印した、悪の宇宙人、カイザーハデスである。さすがに身動きが取れないのか微動だにしないが、そのすさまじい悪のオーラは健在であった・・。
ハデスは憎かった。自分にこのような忌まわしき封印を仕掛けたライザー星人のノルンが。・・しかし、その呪縛も今や弱まっている。それに、手持ちの『部下』もとっくに蘇っていた。部下どもに任せれば、軟弱者ぞろいな地球を制圧することなどたやすい。ハデスには、そんなゆるぎない自身があった・・。
しかしこの時、ハデスはまだ知らなかった。今の地球は昔と違い、たやすく侵攻を許さない状態であることを。そして、自分の願望の妨げとなる、ノルンに選ばれし『勇』・『仁』・『智』の、三人の戦士たちのことを・・。
322
:
飛燕
:2006/01/03(火) 21:56:35 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
=スペンサーレイン号=
薬品会社アンブレラの銘が書かれたボディが壮観に見える豪華客船の甲板の手摺りもたれながら、その男は立っていた。
黒いシャツの上に、ライダースPコートのディースクエアードを羽織った金髪の男が居た。春先だというのに寒い潮風を身にうけながらも、男は約束していた女性を待っていた。
???「ったく・・・・一体、何の用なのかねぇ・・・・逢引ならもちっと洒落た連絡方法取れっつぅの・・」
愚痴と共に無精髭に顎に手をやりながらブルース=マッギャヴァンは待ちぼうけする予定だった。
???「んなわけ無いでしょうが!・・」
前言撤回。待ちぼうけはしなくとも良くなったようだ。その約束してきた人間が隣からひょっこりと顔を覗かせてきたからだ。
ブルース「よぉ、鳳鈴。元気にしてたか?」
鳳鈴「・・・・見ての通りよ・・にしても、貴方の方も元気そうね?」
ブルース「そりゃあ、そうだろ?何せ俺は”Donn−ga”だからな?」
意味を分かって言ってるとは思う。あれからブルース並びに米戦略統合軍の大半は各国へと飛ばされている事が多く、それに比例して活躍する事も多くその猛者振りは中国保安部の耳にも聞こえる程である。
海外へと渡る、という事はそれだけ現地の言葉も達者にならなければ色々と不都合が生じる。
遵って、否応無しに統合軍の一員である彼も少なくとも社交的レベルの会話が出来るようになる事を迫られるという事になる。
そして、意味有り気に薄ら笑いを浮かべている辺りを見れば知っててその単語を述べてるかどうかは一目瞭然である。
ブルース「・・・・んで・・・・それはともかく、今更の時代に電報なんざ時代遅れの伝達方法で俺に連絡寄越して来て、いきなり合流できないか?ってのは、一体全体どういう事ったよ?」
FRONTIER(フロンティア)・・・新天地の名を冠する煙草を口に咥え、胸いっぱいに煙を吸い込んで一息ついてから、ブルースはそう切り出した。
鳳鈴「・・・そういえば、電報には「遭えないか」としか、書いていなかったわね。そうね・・・・この船で起きたあの<忌まわしい事件>に関する事で伝えておきたい事があったのよ」
途端、ブルースの目つきが変わった。瞳に霜がおり、先程よりも硬質さの増した声で尋ねた。
ブルース「おい、鳳鈴?今ならジョークとして笑い飛ばしてやれるぞ?・・・・この船で起きた事件で、忌まわしいだぁ?・・・・それは、あの事件か?化物が徘徊し回って俺達が地獄を見たあの・・」
???「他にあると思えるのかな、Bruce=McGivern?」
323
:
飛燕
:2006/01/03(火) 21:57:25 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
ブルース「ッ!?」
背後から突然聞こえた声が只者ではないと直感したブルースは振り向き様に迷わず、腰に提げていた銃を声のする方へと構えた。
そして銃を突きつけられた漆黒のトレンチコートを着こなしている男も躊躇わず、ブルースへと銃を突き返していた。
M1911A1・・・長年に渡って米軍の制式拳銃を務めた歴史的拳銃。
使用弾丸は、マグナム弾よりもやや大きめの45ACP(11.23mm×23mm)。
装弾数は、衝撃、反動の事も踏まえて7発。
1911年に制式採用されたM1911をマイナーチェンジしたもので、ベトナム戦争でも実践投入される程の高性能な銃である。
一般向け市場では、<コルト・ガバメント>の名称で親しまれており、1991年に復刻版なるM199A1が発売されたとの事である。
そして、1985年に制式拳銃の座をベレッタ”M9”に譲るまでの実に半世紀以上の間、、軍事大国アメリカの制式拳銃として君臨した。
対する男の方もまた、銃を構えていた。何の因果かそれは、先程述べたその”くだん”の『M9』である。
ベレッタM92F・・・それがM9の正式名称である。
イタリアのベレッタ社が同社のM951をベースに1975年に開発した中型自動拳銃。
1985年に当時最新モデルだったM92FがコルトM1911に代わるアメリカ陸軍制式拳銃として『M9』の略称名で採用されたものである。
だがM92Fはスライドの耐久性に問題があり、強装弾(通常より火薬量が多い弾丸)等を使用するとスライドが破損し、 ブローバック時に後方に飛び出して射手に当たると云う事件が多発した為、ハンマーピンを大型化して事故対応し、銃としての完成度を極めつつあるM92FSが制式採用されている。
ところが・・・・ところがである。
そのベレッタには奇妙な刻印が施されていた。
星を象った刻印がフレームに施されていたのである。
しかもところどころ、綿密な改良を施してある。
弾倉が通常の物よりも縦に長く伸びており、銃口もロングバレル仕様となっている。
そして、それは何処かで見覚えのある代物であった。ブルースは引金に力を込めつつ、必死になって記憶の箱の中を逆さにしていた。
???「銃口を下ろして頂けないかな、ブルース・・」
そう言われ、幾分か毒気を抜き取られてしまった。
というのも、鳳鈴が落ち着いた様子で事の成り行きを見守っているからである。
察するに彼は鳳鈴の仲間であろう、そう結論づけたブルースは溜息をつきながら銃を腰のホルダーへと押し込めた。
ブルース「・・お宅は?」
鳳鈴「仲間よ、ブルース。彼の名は・・」
古ぼけたトレンチコートの裾を翠色の潮風にはためかせながら、男は鳳鈴を制した。
???「構わないよ、鳳鈴。自己紹介くらいはね・・・俺の名はアーク。アーク=トンプソン・・・・元・私立探偵だ」
ブルース「・・・・もと、だ?」
324
:
飛燕
:2006/01/03(火) 21:58:30 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
???「そう。今はFBI怪異事件捜査課に籍を置いており、同時に・・・・俺達、STRASの大切なメンバーの一員だ」
今度は銃口を向けようとはしなかった。確かに今度も声色からして、只者ではないとは思えたがさりげなく鼓膜を叩いた単語の方に意識してしまったからだ。
ブルース「おいおい、STRASって・・・あの、STARSか!?」
「洋館事件」、「ラクーンシティの凶災」、それらの2大事件の影に活躍したと言われる伝説の猛者達・・・何処の組織にも服従するわけでも援助を受けるわけでもなく、単独で活動していながら”とある事件”を解決しているというのがブルースの耳に届く限りの情報である。
尤も、その情報も巨像の体毛一本程度にしか過ぎないのだが・・・それはまた別の話しである。
???「その通り・・・・といっても、大企業を相手に出来る事なんてたかが知れてるかもしれないがな・・・」
漆黒の影の中からぬぅっと現れたのは、複数の男女であった。
集団のリーダーと思われし先程の声の主である青年。
にこにこ笑いながらやってくる少し小柄の可愛らしい少女。
眼光は鋭いものの、それがより一層完成度の高い美貌の女性。
アークと名乗った男性に肩を回し、だべっている30過ぎ前後の大柄な男性。
他にも後ろにぞろぞろとついている者も居るのだが、ブルースの意識はリーダー格の青年へ向いていた。
というのも、その顔はそっちの世界ではかなりの御高名な人物だったからである。
ブルース「レ、レオン?レオン・S・ケネディ!?ブレイブ・イーグルの?・・」
勇敢なる鷹・・・STRAS実働部隊総指揮官で有り、同時にSTARSの総司令を勤めている大人物の通り名である。
レオン「ブレイブ・イーグル<勇敢なる鷹>・・・・そんな二つ名、欲しくてSTRASを結成したワケじゃないんだけどな・・」
肩を竦めながら、威風堂々たる貫禄を纏いし有名人は苦々しげに吐いた。
ブルース「そうか・・・道理でアークの持ってた銃を何処かで見たような錯覚を起こしたと思ったら・・・・鳳鈴が前に使ってた奴・・サムライエッジだったワケだ」
サムライエッジ
STARSにおいて標準装備されており、尚且つ高い戦闘能力を誇るベレッタを更に改良を加えていき、星の刻印をされたカスタム銃の事はそう呼ばれている。
LAMやら消音器、ロングバレル、弾倉増量等等の様々な改良が自在に出来るという使い勝手の良さからもSTRAS内では実に愛着のある装備なのである。
ちなみに鳳鈴の使用していたものは消音機と弾倉増量が施されたもの。
一通りの簡素な自己紹介を済ませた後、ブルースは目前に集合している猛者達にこう切り出した。
ブルース「・・・で、例のウィルスの”世界”に首を突っ込んだついでに棺桶にも両足いれかけてるような人間達の雁首揃えるなんて・・・・何するつもりだよ?」
この場合、世界という単語は適切でありながら適切ではない事を突っ込む人間は居なかった。
鳳鈴「・・・・貴方にも協力して欲しいからよ。ブルース・・」
325
:
飛燕
:2006/01/03(火) 22:00:16 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
ブルース「冗談言うなら他所に言ってくれ、鳳鈴。悪いが、俺はあの事件に遭ったから部署を変更してだな・・・・」
2本目の煙草に手をつけながらブルースは鳳鈴の願いを真っ向から却下してくれてやった。が、生憎とその願いを拾い、またブルースに叩きつける人物が横からやってきた。
ジル「残念ながらそうもいかない・・・いえ、上がそうさせてはくれていないのを分かっているかしら?」
意味深な言葉にブルースの動きが硬直した。油の足りないロボットのようにギ・ギ・ギと動かしながらジルの方へと振り返った。
ブルース「・・どういう・・・・意味だ?」
鳳鈴「今回、日本のエージェントと合流して現地に下る帰還命令が下るまで、そのエージェントの行動を共にし、現地命令に従え・・・・そう言われたのじゃなかったかしら?」
黙って頷くブルースにSTARS副司令官的存在のクリスが鳳鈴と交代した。
クリス「その現地での仕事が・・・・某事件解決の為にお前が抜擢された、って言ったらどうする?」
ブルース「・・・クソッ!まんまと一杯食わされたってワケかよ・・」
カルロス「まっwそういうワケだv・・・・ちなみに俺達はそのエージェントの上司って人間から情報提供されてそこに向かう途中なワケ。お分かり?」
クレア「更に言うなら私達もおそらく、貴方と合流してそこに向かう手筈になるだろうから・・」
ブルース「最初っから合流してた方が手間が省ける、ってワケかよ・・」
レオン「そういう事だ。だが・・・・少し状況が違ってきた」
ブルース「あ゛?何が?」
鳳鈴「・・・・Tyrant ledyの姿を目撃したのよ、日本で・・」
とんでもない程の爆弾発言だった。
ノイズが走りながら茸雲がもうもうと上がる映像が流れかけ、慌てて否定しようとしたブルースだったがその前にレベッカがブルースに一枚の紙切れ・・・写真を渡してきた。
レベッカ「英国の人工衛星で撮影したものよ・・・・目一杯引き伸ばしたからちょっと画がブレてるけど・・」
これで何度目であろうか。ブルースは別の意味で固まった。明らかな怒りを孕んだ表情で食い入るように写真を睨み付けた。
そこに映っていたのは右肩から爪先まで赤黒くグロテスクな造りで、そこを除けば全身が白に染まった珍妙な人間がそこに映っていた。
フランス人形のような彫の深い顔で、生気が無いにも関わらず何故か爛々と輝いて見えるダークブルーの瞳、ブルースは確信した。
ブルース「あんで・・・・こいつが生きてやがる・・・・」
それは確かに自分がこの手で倒した筈のゾンビであった。尤も、知性や意思、理性すらも残したままゾンビ化した人間である。
鳳鈴「だから、貴方に声をかけたのよ。ブルース・・・・」
鳳鈴&ブルース「「今度こそ、決着をつける為に(だろ?)」」
手摺りに凭れながら一服していたブルースは黒海に小さな灯火を放り捨てた。そして悪戯っぽい笑みを浮かべたブルースに対し、鳳鈴は穏かにそして包み込むような慈愛に満ちた微笑みを向けた。
鳳鈴「そう、ね・・・・」
レベッカ「へへんw分かってるじゃない?」
レオン「それくらいの理解力を持ってない人間でなければ、あの戦いは生きていけないだろうが?」
ブルース「へっ!言ってくれる連中だぜ・・」
326
:
飛燕
:2006/01/04(水) 00:12:30 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.224]
その頃、異邦者たる幼な子達はというと・・・
=ジェナスユニット移動用トレーラー・内部=
チームジェナスユニット・・・アムドライバーの中では存ぜぬ者などおらぬ、良い意味でも悪い意味でも有名なチームである。
そのトレーラーの中、居住ブロックに2人の男女がパソコンの前に居座っていた。叢魔と天美である。
此方の世界に来て間も無い彼等にとって、この世界における情報は無いと言い切っても良い。
その為、こうしてこっそり忍び込んでPCを無断拝借、そこからハッキングをかけているわけである。
天美「スキャン完了・・・・データロード終了」
夥しい量の文字文字文字文字文字文字数字数字数字数字数字・・・それらを目で追いかけながら天美は隣の少年へ声をかけた。
天美「検索終了・・・政治、経済学、歴史のデータの収集は終わったよ?そっちは?」
叢魔「戦争、武器の発達度合、書籍販売・・・・明らかに俺達の居た世界のものじゃあないな・・」
苦虫を噛んだような表情で叢魔は首を横に振った。
天美「や、やっぱりそう?・・・・こっちも駄目。ラヴォス・ネレイド戦役すら無いし・・・・まさか本当に異世界に来ちゃったのかな?どうしよう?」
顔をくしゃくしゃにして今にも泣きそうな表情で天美は叢魔に詰め寄った。だが、詰め寄られた側の叢魔は年齢には不釣合い過ぎる落ち着きある態度で接した。
叢魔「どうするもこうするもない。俺達の力を以ってして、無事に元の世界に帰るだけだ・・・・それ以外の何が出来る?」
天美「そ、それは・・・そうだけど・・・・」
叢魔「なら、何の問題があるというんだ?愚民はこれだから・・・・下劣な満天ですら、こんな事はめったに起きないから楽しんどこう〜・・・とか戯言も甚だしい事を抜かしていたんだぞ?もう少し楽観的、客観的に物事を見ようとしろ。でなければ、物事を把握する事が出来ないままだ」
ずけずけとよくもまぁ、これだけの非道なる暴言がぽんぽんと出るものだと、別の意味で天美は感心した。
しかも、嫌味を込めているどころか感情すらこもっていない抑制され過ぎな声で、である。
尤も、件のその下劣なる人物は勿論、攻撃的な太陽がこの場に居なかったのがせめてもの救いである。
だが、少なくとも後半の話しは分かる。自分の事なのに客観的に見られる等の冷静さが無ければ、何をなしてもしなくても良い失敗や無駄が省ける事が多いからである。
天美が思いつめかけたその矢先、玄関のチャイムのような甲高い音がパソコンに内臓されたスピーカーから流れた。
叢魔「ん?・・・・どうやら、情報”源”とでも言うべき場所に当たったようだな・・・・・・場所は・・・・驚いたな」
画面に食い入るように見入っていた叢魔は、あらかじめ最近の情報が逐一に収集されている場所を検索しておいたのである。そして、結果が出た時、叢魔は感嘆の溜息を漏らした。
天美「え?ど、何処に当たったの?」
慌てて、ディスプレイへと走ってきた天美を宥めながら画面をぐいっと天美の方へと向けた。
天美「日、本?・・・・」
―― JAPAN the National Police Agency ――
最初の単語はジャパンなので、日本と直ぐに分かる。
だが、後半の「イーズンスィー」という見慣れない単語に天美は止まってしまった。
これは、〜局・・・郵便局やTV局の『局』を表す単語で、その前の単語の意味は警察。
更にその前の単語の意味はナショナル。つまり国民。
全部纏めてひっくるめた言い方をすると、こうなる。
叢魔「そうだ。・・・・日本の”警察庁”だそうだ?」
たかが一国家の・・・しかも発展途上国に過ぎぬ国の狗が逐一、世界中のほとんどの分野のマスメディアを牛耳って情報を集めているというのである。
327
:
疾風
:2006/01/05(木) 23:09:23 HOST:z158.220-213-6.ppp.wakwak.ne.jp
一方・・・・・
時音「ふに・・・・・結構頑張るね〜」
後ろにゾビルの残骸を山積みにしながら時音は言う・・・・・
時音「それじゃとっておき・・・・いってみよ〜」
時音は刀を鞘に収め、地面に手を置く・・・・
時音「結構痛いよ・・・・ドリアードバイパー!」
地面から棘の付いた植物が勢いをつけて這い出してくる・・・・・
時音「私の友達は気性が荒いから気をつけてね♪」
ゾビルは植物に締め付けられ身動きが取れなくなっていた・・・・
時音「ちなみにその子はあなた達を餌にする事があるから・・・・」
そのまま植物達は捕まえた獲物を地面に引きずっていく・・・・・
時音「バイバ〜イ・・・・」
???「やるな・・・・異世界の少女よ・・・」
328
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/05(木) 23:30:53 HOST:p6073-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
時音「えっ・・?」
不意に後ろから声がしたので振り返ると、そこには全身紫色の甲冑を着込んだ、何やら怪しい人物がいた・・。
時音「・・、おじさん、誰?」
とりあえず、先ほど聞こえた声で相手を『おじさん』と呼んでみる時音・・。
???「ふっ、自己紹介がまだだったな・・、俺の名は『ウルザード』。魔導騎士、ウルザードだ。」
時音「・・ふ〜ん。それで、私に何の用??」
ウルザード「知れた事を・・。お前の実力の程をためさせてもらう。お前が異世界からやってきたことは当に承知している。無論、それなりの力があることもな・・。」
時音「!?(このおじさん、どうして私のことを!??)」
ウルザード「・・おっと。先にいっておくが、これは俺とお前の一対一の勝負だ。もっとも、お前のそのバッグに入れてる奴は、ろくに闘えんだろうがな・・。」
時音「!?(レイスのことまで、バレてる!?)」
ウルザード「・・さあ、とっとと刀を構えろ。」
時音「・・、おじさん、せっかちだよね。そんなに急ぐ必要、ないんじゃないの?」
ウルザード「・・ふっ、そうだな。ならばとっとと準備しろ。それぐらいは待ってやる・・。」
そういいながら、その場からぴくりとも動こうとしないウルザードであった・・。
そして、改めて刀を握る時音・・。
時音「悪いけど、これ以上付き合ってられないから、とっとと倒させてもらうね、変な格好のおじさん♪」
ウルザード「・・ふ、なめられたものだな・・。」
そして、ウルザードも左手にもつ『ジャガンシールド』に収められていた自分の剣、『ウルサーベル』を右手でとりだし、戦闘体勢に入るのだった・・。
329
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/05(木) 23:53:40 HOST:p6073-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
そして、数分ほど沈黙が続いたあと、勝負が始まった。先に動いたのは時音のほうである。
時音(本当に悪いけど、さっさと終わらせてもらうから!)
そう考えながら、瞬時にウルザードの後ろをとり、手に握る刀で斬りつけた、『はず』だった。
「きぃぃぃん!!」という音をたてながら、時音の刀を左手のジャガンシールドで、余裕の様子で防ぐウルザード。
時音「えっ・・?(そんな・・、後ろをとったはずなのに!?)」
ウルザード「ふん・・。そんなものか?」
そういいながら、左手のジャガンシールドで時音ごと刀を押し返すウルザード。時音は何回転かして、地面に着地した。
時音「へ〜・・。おじさん、変な格好してるわりに、結構やるね♪」
挑発まじりにそんなセリフをいう時音だが、内心はあせっていた。
時音(このおじさん・・、強い。でも、私だって、負けられないもん!!)
そう思いながら、再度ウルザードに斬りかかろうと近づこうとするが・・。
ウルザード「ふん。・・ぬるいな。」
いつのまにか、時音との距離を縮めたウルザードであった。
時音「!?(い、いつの間に!?)」
ウルザード「・・はあっ!!」
時音「くぅ・・!!」
ウルザードの力の入った一撃を、手に持つ刀で何とか耐えようとする時音だが、少し吹っ飛ばされてしまう・・。
時音「あぅ・・!?」
体に痛みが走るが、それを何とかこらえて立ち上がる時音・・。
ウルザード「・・ほう。いい度胸だな・・。」
時音「まあね・・。おじさんみたいな、変な格好をした人なんかに負けたら、皆の笑いものだもん・・。」
ウルザード「ふっ・・、苦し紛れの皮肉、だな・・。・・いいだろう。お前にこれが耐えられるか?」
そういうと、ジャガンシールドが少しスライドして、気味の悪い目玉のようなものが現れた。
ウルザード「・・『ドーザ・ウル・ザザードン』!!」
ウルザードがそう唱えた瞬間、ジャガンシールドの目玉のような部分から、すさまじい衝撃波が発生し、時音を襲った・・。
時音「きゃあああ!??」
衝撃波をもろに喰らった時音はふっとばされ、壁に思いっきり激突し、倒れてしまった・・。
330
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/06(金) 13:00:20 HOST:p2088-ipad31okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
329においての訂正です・・(汗)。
×ドーザ・ウル・ザザードン→○ドーザ・ウル・ザザード
すいませんでした・・(汗)。それでは、続きをどうぞ・・。
時音「ふ・・ふにぃ・・。」
かろうじて意識があった時音だが、いつ気絶してもおかしくない状態だった・・。
そして、ゆっくりと歩いて、時音の目の前にやってきたウルザード。
時音「・・、へへ、おじさん、強いね・・。」
ウルザード「・・、何を甘ったれたことを言っている?貴様が弱すぎるだけだ。」
時音「!」
時音はその一言が悔しかった。しかし、ぼろぼろにやられてるため、言い返すことができない・・。
ウルザード「確かに力があることは認めてやろう。しかし、貴様はまるでなっていない。これならば、『五色の魔法使いども』と闘った方が楽しめる・・。」
なぜか心底いらだったように言うウルザード。時音はもうすごし歯ごたえがある方だと思っていたのだろう・・。
時音「(五色の・・、魔法使い・・?)・・ねえ、おじさん。また、私と戦ってくれる・・?」
もはや視界もぐらぐらと揺れていながらも、とりあえず聞いてみる時音。しかし、返答は非情なものであった・・。
ウルザード「ふん・・。何を甘ったれた事を言っている?俺は相手が子供だろうが女だろうが、勝負をする相手には、一切手加減はせん。無論、見逃す事もな・・。(もっとも、あの『赤の魔法使い』などの例外もいるがな・・)」
そういいながら、右手のウルサーベルで時音にとどめをさそうとする・・。
時音「ふ・・に・・・。」
そして、時音はとうとう気絶した・・。その直後、ウルザードは止めをさそうとウルサーベルを時音に向けて振り下ろしたのだが・・
『きぃぃぃん!!』
ウルザード「!?何!??」
突然、時音の周りに見えない壁のようなものが現れ、ウルサーベルがはじかれてしまった・・。
ウルザード「こ・・これはまさか・・、『闇の加護』か!?」
少し驚いた状態で述べるウルザード。しかし、すぐに冷静になる・・。
ウルザード(こいつも『赤の魔法使い』同様、未知なる力を秘めているということか・・。ふっ、面白い・・。)
そう思いながら、ウルザードはウルサーベルをジャガンシールドにしまい、後ろを向いて歩き出した・・。
ウルザード「・・今回は特別に生かしておいてやろう。今度闘うときまでに、少しはましになっておけ・・。」
そして、ウルザードは転移魔法を使い、インフェルシアへと帰還するのであった・・。
331
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/06(金) 13:17:18 HOST:p2088-ipad31okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
数分後・・・
魁「はあ、はあ・・、チー兄、チー姉、早くしろよ!!」
?「うっせーぞ、魁!こっちはジム通いで帰ったばっかなんだぞ!?」
?2「魁こそ、もうちょっとこっちのペースに合わせなさいよ!!」
魁「あ〜、も〜!!何でこんな時までお説教なんだよ!?」
そう嘆きながら走る小津魁・・。ちなみに彼が『チー兄』と呼んでるのは小津家の次男である『小津翼(おづ つばさ)』、『チー姉』と呼んでるのは小津家の次女である『小津麗(おづ うらら)』であった・・。
彼らは『インフェルシア』がこの付近に現れたことを知り、急遽かけつけたのだが・・。
翼「・・それにしても、全然見かけねえな・・。」
麗「うん・・、もう撤退しちゃったのかな・・?」
『冥獣』どころか、下っ端のゾビルまで見当たらないため、首をかしげる二人。すると・・、
魁「!兄ちゃん、姉ちゃん!!あれ!!」
翼「どうしたんだよ?・・って、げっ!?」
麗「うそぉ・・。」
魁が見つけたものは、時音がやっつけたゾビルの残骸の山である。これには、さすがに翼や麗も驚いた・・。
と、そんな時・・
蒔人「お〜い、魁、翼、麗!!」
芳香「三人とも、遅すぎ〜!!」
魁「蒔人兄ちゃん、芳香姉ちゃん!!」
小津家の長男と長女がやってきた。これで、小津兄弟が勢ぞろいである。
翼「なんだよ・・、蒔人兄達がやったのかよ・・。」
蒔人「いや・・、俺達もついさっき来たんだが、その時からこいつらの残骸があったんだ・・。」
麗「ええっ!?じゃあ、一体だれが・・?」
芳香「ぜーんぜんわかんない・・。」
もうお手上げ、といった感じのリアクションを取る芳香であった・・。
332
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/07(土) 19:09:08 HOST:p4129-ipad29okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
?「・・きて!時音、起きて!!」
魁「・・?」
魁はふと、近くから女の子っぽい声が聞こえた気がした。
蒔人「?どうした、魁??」
魁「いや、今女の子の声が聞こえた気がしたんだけど・・。」
翼「はあ?空耳じゃないのか?どこにもそんな・・。」
そういいかけた翼だったが・・。
?「・・きてよ、時音!起きてってばぁ・・!」
今度は翼たちの耳にも声が届いた・・。
麗「!芳香ちゃん、聞こえた!?」
芳香「う、うん!!ばっちり!!!」
翼「まじかよ・・?」
蒔人「とにかく・・、行ってみよう!」
魁「おう!!」
そして、声がした方向に走っていくと、そこにはウルザードによってぼこぼこにされた時音と、時音を起こそうとする人形サイズのレイスがいた・・。
翼「お・・、おい・・、あの人形、動いてしゃべってねえか・・?(汗)」
蒔人「魔法・・、ってわけじゃなさそうだけどな・・(汗)。」
ちょっと唖然として遠くから覗く小津兄弟・・。と、そんな時・・。
?「ふぅ〜ん・・、珍しい奴もいるもんねえ・・。」
?2「いるもんねぇ〜。」
レイス「!?」
と、そんな時、俗に言うゴスロリ衣装を纏った、どこか得体の知れない二人の女が出現した。
魁「!あいつら、『ナイ』、『メア』!!」
思わず飛び出そうとする魁だが、蒔人が慌てて止める。
蒔人「落ち着け、魁!今出るのはまずい!!」
魁「蒔人兄ちゃん!だけどよ!!」
翼「あせるなっての。今は隙をうかがうことしかできねえよ・・。」
魁「ぐっ・・!」
魁は拳を強く握り締めながら、我慢する事にした・・。
レイス「・・、誰?普通の人間じゃないのくらいは、私だってわかるよ?」
時音を護るように気絶してる時音の前に立ちながら質問するレイス。
ナイ「人間〜?・・ぷっ!あっはっはっは!!人間なわけないじゃ〜ん♪」
メア「ないじゃ〜ん♪」
レイス「・・、悪いけど、時音に手を出させはしないから・・!」
そんなレイスの様子を見て、なぜか「むかっ」とした様子のナイとメア。
ナイ「・・、メア、こいつむかつかない?」
メア「むかつくむかつく。」
ナイ&メア「「じゃ・・、やっちゃおっか!!」」
互いの意見が一致したのを確かめると、二人の女は溶け込みあい、一つの化け物へと姿を変えた・・。
レイス「!??」
バンキュリア「初めまして、お人形ちゃん。あたしは地底冥府『インフェルシア』で『冥獣帝ン・マ様』に使えし『妖幻密使バンキュリア』よ・・。」
レイス「イン・・フェルシア?」
バンキュリア「あら、ごめんなさいね。あんたとそこのがきんちょも、こことは別世界から来た奴らの一人だったんだっけね。じゃ、知る由もないわけだ。」
レイス「!?(な、なんで・・)」
バンキュリア「ふん、あたしをなめないでほしいね。ここ数日、人間世界に別の世界からやってきた奴らがいることぐらい、あたしには手に取るように分かったよ。」
何だか偉そうに言うバンキュリア。
バンキュリア「・・ま、とにかく、あんたもそこで寝転がってるがきんちょも、あたしらにとっちゃ邪魔者以外の何者でもないのよ。悪いけど、とっととくたばってもらうよ。」
レイス「・・やってみれば、おばさん。」
バンキュリア「(ぴくっ!)・・、何だって?」
レイス「聞こえなかったの?そんなに耳が遠くて、私をやっつけられるの?お、ば、さ、ん♪」
バンキュリア「・・、こんのぉ・・、ふざけんじゃないよぉぉ!!!」
即座に、バンキュリアはレイスたちに対して攻撃を仕掛けた。そして、レイスはそれを防ごうとしたのだが・・。
魁「・・、させるかぁ!!『ジルマ・マジーロ』!!!」
レイス「えっ・・?」
バンキュリア「何!??」
突然、レイスの目の前に壁のような物が出現し、バンキュリアの攻撃を防いだ。そして、レイスは気づいた。いつの間にか隣にいる人間の青年を・・。
魁「・・大丈夫か?・・たく、あいつにあんな事いったら、怒るに決まってんだろうが・・。」
レイス「あなたは・・?」
魁「・・ま、『正義の魔法使い』、ってとこだな♪」
ウィンクしながらレイスにそう告げる小津魁であった・・。
333
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/08(日) 01:42:44 HOST:p1212-ipad29okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
と、魁は「あてっ!?」と言いながら頭を抑える。よく見ると、後ろに翼が立っていた。恐らく、魁の頭をかるく殴ったのだろう・・。
翼「・・たく、このばか!無茶もいいところだぜ・・。」
魁「馬鹿っていうなよ、馬鹿って!!」
翼「本当のことだろうが!?」
魁「なんだとぉ〜!?」
とまあ、兄弟喧嘩に発展しかねない勢いだったが、それを諌めるものがいた・・。
蒔人「・・お前ら、いい加減にしろ!!そんな場合じゃないだろ!?」
魁「うっ・・。」
翼「・・、分かったよ・・。」
そして、おとなしく喧嘩をやめる二人・・。
レイス「あ・・、あなたたち、一体・・?」
状況がよく分からず、呆然とするレイス。と、麗と芳香が、微笑みながらレイスに話しかけた。
麗「・・事情は良くわかんないけど・・、あなたたちは、私たちが護って見せるから。」
芳香「そうそう、私たちに、ま、か、せ、て♪」
レイス「・・・。」
とまあ、そんな会話をしていたのだが、バンキュリアは一人かやの外に出されてるため、面白くなかった・・。
バンキュリア「・・たく、またあんたたちかい。いっつもいっつも邪魔して・・、今日こそ倒させてもらうよ!!」
そういって、指をパチン!と鳴らすと、ゾビルたちが続々現れた。時音を襲った時よりも数が多い様子・・。
蒔人「悪いが、俺達兄弟は、お前ら『インフェルシア』を倒すために闘う!!」
魁「ああ!・・兄ちゃん、姉ちゃん、『魔法変身』!!!」
翼・蒔人、麗、芳香「「「「おう!!!!」」」」
魁の掛け声と共に、五人はそれぞれ携帯電話型の変身アイテム『マージフォン』を取り出した。そして、全員一定のダイヤルを押しながら、こう叫んだ。
小津兄弟「「「「「「天空聖者よ!我らに魔法の力を!魔法変身!!『マージ・マジ・マジーロ』!!!」」」」」
その言葉を言い終えると同時にエンターキーを押すと、五人の持つマージフォンのアンテナから『何か』が上空へと送られ、空にある魔方陣が浮かび上がる。
そして、五人の足元にも上空にあるのと同じ形の魔方陣が出現し、彼らはそれぞれ違った色の同型の戦闘服を身にまとった・・。
蒔人「唸る大地のエレメント!緑の魔法使い、『マジグリーン』!!」
翼「走る雷(いかづち)のエレメント!黄色の魔法使い、『マジイエロー』!!」
麗「たゆたう水のエレメント!青の魔法使い、『マジブルー』!!」
芳香「吹き行く風のエレメント!桃色の魔法使い、『マジピンク』!!」
魁「燃える炎のエレメント!赤の魔法使い、『マジレッド』!!」
五人は一斉に、変身した自分達の名称を述べた、そして次の瞬間、自分達が何者か、その口上を述べた・・。
魁「・・溢れる勇気を、魔法に変える!!」
五人「「「「「魔法戦隊!・・マジレンジャー!!!!!」」」」」
レイス「・・ふわぁ・・、なんだか、すごぉい・・。」
率直な意見を述べるレイスだった・・。
魔法、それは聖なる力。
魔法、それは未知への冒険。
魔法、そしてそれは・・、『勇気』の証!!
そして、その勇気の心で魔法を駆使し、インフェルシアに戦いを挑むのが彼ら、『魔法戦隊マジレンジャー』である!!!!
334
:
飛燕
:2006/01/08(日) 14:52:34 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
=移動用トレーラー・居住ブロック一室=
叢魔「さぁ・・・・泣き言を言うよりもよっぽど建設的行動に移すぞ、天美?」
今度は先程と一変、急にやんわりとした口調で天美に作業に移るよう穏かに催促した。
尤も、それも巧妙に使った掌握術なのだが天美は知らなかった。
突き放しておいてから、急に優しくする。そうするとされた人はした人間が本当は優しい人間なのだと心理学的に誤認してしまうのだ。
そしてこのケースの場合、天美に自分は期待されているのだという事を認識させて作業能率を上げる、というのがこの少年の腹の中の声であろう。
天美「う、うんv・・・」
だが、哀しいかな。疑心暗鬼という単語とは無縁なる彼女はそこまで腹黒い考えに至る事に気付かない。
純真無垢なる満開の桜の華のような微笑みを浮かべながら、鼻歌交じりに天美はキーボードへと向かった。
天美「炎の壁・・・・見た事ない機種だね?」
叢魔「それはそうだろう。異世界なのだから・・・」
プロテクトウォールに僅かな穴を作り、そこからさっと侵入して次の壁の侵食を始めつつある叢魔は天美の問いかけに興味なさげに答えた。
叢魔「にしても・・・・良くもまぁ、こんな旧式でここまで来れるものだな。天美、お前・・・また何かツールを使ったのか?」
天美「ふぁい?新しく造ったゲイザー(注意 ハッキングツール)だけど・・・・」
前言撤回。純真無垢どころか、思いっきり犯罪の道に染まってた。というか、これも先程の満開笑顔で言ってくれちゃってたりするのだから、ある意味怖い。
叢魔「・・・・とりあえず、ハックした跡は残さないでくれよ?」
天美「大丈夫だよ、叢魔君。CIAでも痕跡が残らなかった奴だから問題ないと思うよ?・・・・っと、早速 < 当たった > みたいv何々・・・・」
宇宙警察機構署内ファイル A級F
異星人犯罪組織:アリエナイザーの活動報告暦 新履歴
報告者:戸増 宝児
×月○日
自分の判断ミスで星を消滅させるほどの力を持つウェルネストーン及び王女・衛里香を
異星人犯罪組織の一員ケバキーアに奪われてしまうも我々の努力により、
なんとか王女、ウェルネストーンを奪還する事に成功。
尚、その肝心のケバキーアだが、既にデリート許可を得て消去を行なっている。
天美「なに、これ?・・・・・」
叢魔「分からん。が・・・・この世界の事もおおよそだが分かった」
天美「と、いうと?」
叢魔「第一に、この地球と思われる星は異星同士の交流がある。でなければ、犯罪組織などとは名称しないだろう?」
天美「・・そうか。組織という事は、他の異星人との区別をするため!」
叢魔「That’s right。それならば、この宇宙警察という単語にも説明がつく。そもそもA級クラスの機密書類を警察の中心核とも呼べる場所がこんな法螺を書くとは到底思えないしな」
無造作にそこに転がっていたチョコバーを頬張りながら叢魔は相槌をうった。ふと、そこで天美は自分も空腹だったという事に気付いた。業魔殿を不可抗力で発ってから何も口にしていない異を思い出したからである。
それに気付いたのか、叢魔はテーブルの上に転がっていたカロリーメイトを天美に放り投げた。
天美「あ、有難う、叢魔く・・」
慌てて御礼を述べようとした天美であったが、叢魔がそれを遮った。
叢魔「いいからさっさと作業に移れ。両手が塞がるような食物は渡していないはずだが?」
年齢に不相応な眼光で睨まれ、思わずたじろぎかけた。が、なんとか踏み止まれたのは、やはり彼との付き合いが長いお陰だからであろう。
天美「あ・・う、うん・・・・あ、別のが出たみたい」
なんとなく気まずくどろどろとした空気になりかけ、居心地が悪かった天美にとって報告のチャイムは救いの手を差し伸べているようにも思えた。
335
:
飛燕
:2006/01/08(日) 14:57:48 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
裏稼業者リスト A級F
昨今から増える犯罪や組織の戦いに一枚噛んでいると思われる一般的に呼称される裏稼業と呼ばれる
職業についた人間を我々が独自のルートで調べ上げ、要注意人物としてここに明記しておく。
作成者:胡堂 小梅
スミス・J・ウィリアムズ
リンスレット・W
ストーン・ミストレス
小早川 奈津子
T・ハーミット
・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
天美「うっへぇ・・・これまた数の多いこと・・」
叢魔「致し方あるまい。それだけ、此方の世界ではそっちの仕事が多いという事だろう。異世界どころか異星とも、となるとその活動規模だって尋常じゃあるまいて?」
何時の間にか自分だけちゃっかりインスタントではあるが珈琲を啜っていたが、画面に釘付け状態の天美にとってそれは、さして問題視するところではなかった。
問題視する点は・・・別にあった。というか、画面の端にあった。
天美「あっ」
それは良く見覚えのあるものだった、というか毎年、自分の生活する金も無いのにちゃんと御年玉を送ってくれる人物達の名前である。
そんな人物の名前がこのようなリストにあったのが意外過ぎたので、思わず天美は小さく叫んだのである。
叢魔「?、どうかしたのか。天美?」
天美「美堂さんの名前がある」
叢魔「・・・・何?」
今度ばかりは流石の叢魔も眉を顰めた。何ゆえに彼の名前がそこで出るのか?彼もまた自分達と同じく異世界に跳んだというのであろうか。考え込む前に天美がまた声を上げた。
天美「それだけじゃない、卑弥呼さんに、銀次さんに、MAKUBEXも・・・あ、赤屍さんの名前まである・・」
叢魔「・・・・どうもここは異世界ではなくて、平行世界<パラレル・ワールド>という可能性も上がってきたな・・」
知った人間の名前があるという時点でそれを決め付けるワケにもいかないが、かといって可能性は捨て切れなかった。美堂 蛮、天野 銀次達を含めた彼等の職業が自分達の知ってる<彼等>と全く同じなのである。
天美「とにかく・・・これも複写(コピー)しておくよ?」
叢魔「頼む」
間髪入れずに叢魔は答えた。杞憂かもしれない・・・だが、万一も有り得る。そう判断したからである。
天美「次の情報は・・・・何だろ、これ?」
急に素っ頓狂な声を出すものだから、コピーされたリストに目を通していた叢魔はちらりと天美を見た。
叢魔「どうしたっていうんだ、天美?急に変な声を出し・・」
天美「AAA級(連盟国間重要機密レベル)クラスのファイルらしいんだけど・・・変なの」
連盟国家の機密程度で声を出すほど天美のハッキング歴は決して短いものではない筈だが・・・訝しげに叢魔は画面に近寄った。
336
:
飛燕
:2006/01/08(日) 15:01:18 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
検索結果 AAA級機密ファイル
19××年 10月 ○日
事件現場:米国某州R・City
報告者:
叢魔「・・・・何処が変だって言うんだ、天美?」
一見、別段おかしな点など見当たらなかったのだが天美は首を横に振った。
天美「これ・・・・報告者の名前が無いの・・・・」
叢魔「そんなの別におかしくは無いだろうが?後で消したりした・・」
天美「重要ファイル・・・ましてや、連盟国内で密かに交わされたものだとしたら、イニシャルくらい入れるものじゃないかな?」
叢魔「ッ!」
確かにそうだ。報告者がいるということは匿名だろうが何だろうが、明記されてる筈である。だが、更に天美はとんでもない事を口にした。
天美「・・・・それに・・これ・・・・改ざんされた後がある」
叢魔「何?それは・・」
叢魔が目を見開くのも無理は無かった。
AAA級のファイルに名前が無いという事態そもそも有り得ないのである。
天美の言う通り、報告者の欄にイニシャルくらいは入るものだ。
だが、もしそれが改ざんされて名前が消されたというのならば話しは通る。
何者かが自分達よりも早くここに来て、情報が外部に漏れても大した情報しか漏れないぐらいに改ざんしてしまったのである。
ファイルを消さなかったのは、ファイルが存在していると警察側に誤認させて跡が残らないようにするため。
それならば、このファイルが年歴と事件現場、不明の報告者しか書かれていないのも道理が通る。
天美「誰がこのファイルの改ざんを・・」
叢魔「さぁな、だが、可能性は提示出来る。一つは、簡単。警察署内で情報隠蔽をするために改ざんしたか・・・」
天美「もう一つは・・・・私達みたいにクラッカー(ハッキング行為をしたり情報をウィルスで破壊したりする人間の事)行為をした人間が居る・・でも、それだと一つの結論に達しない?」
叢魔「・・・・ああ、そうだな。一つの結論は出る・・」
叢魔「ここまでのハッキングが出来る人間を持ち、且つ国家を敵に回そうが恐れはしない奴の仕業だって事・・・」
ふと、そこで叢魔は視界の端に何かあるのに気付いた。
食料や飲料水がてんこもりになったテーブルの上にある薬・・・胃腸薬の瓶である。
が、直ぐにかぶりを振って、リストに目を通す作業に戻った。馬鹿馬鹿しい。何を薬瓶ぐらいに時間をかけているのだ、そう思ったからである。
その時、何故、たかだか薬瓶一本如きに気を取られたのか叢魔は結局、最後まで分からなかった。
ぽつんと突っ立っている薬瓶・・・そのラベルに自分を誇示するかのように大きく書かれた文字と赤と白の傘のマークがあった。
――― Umbrella ―――と。
337
:
ゲロロ軍曹
:2006/01/08(日) 19:49:07 HOST:p4168-ipad33okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=某国・高級レストラン=
?「・・。」
何やら一人の女性が、礼儀正しく食事をとっていた。黒いコートを羽織っており、どことなく清楚な感じのする女性である・・。すると・・
?2「すまんな、『セフィリア』。呼び出しに遅れてしまって・・。」
女性と同じような黒いコートの男性がやってきた。少し恐い感じの表情である・・。
?「いいえ、構いません。急に呼び出したのは、私の方ですし・・。」
セフィリアと呼ばれる女性は、にっこりとした表情で告げた・・。そして男性は少し苦笑いしながら、女性と同じテーブルに腰をかけた・・。
?2「・・それで、今度の任務は?」
セフィリア「・・いえ、任務ではありません。実は、とある情報が入ったので、お伝えしておこうと思いまして・・。」
?2「情報・・?」
セフィリアと呼ばれる女性は先ほどとはうってかわって真剣な表情で、対面する男性に告げていく・・。
セフィリア「・・覚えていますか、『ベルゼー』。『バグシーン』のことを・・。」
セフィリアは、男性のことを『ベルゼー』と呼びながら、真剣な表情で質問する・・。
ベルゼー「・・、忘れるはずがない。あの化け物どもには、我ら『クロノス』ですら散々煮え湯を飲まされたのだからな・・。」
セフィリア「・・はい。実は、数時間ほどまえに連絡があったのです。あの『バグシーン』の残党を、『生身で』倒した正体不明の人間と、その人間と行動する正体不明の集団に関する・・。」
ベルゼー「何・・?」
ベルゼーは思わず眉を顰めた。対バグシーン用の装備を揃えたヒーローともいうべき存在、『アムドライバー』ならいざしらず、生身であのバグシーンと戦って倒したとなると、よほどそいつは人間離れした能力を持っていることになる。しかも、今や世界の3分の1を影で操るほどの力をもった『クロノス』の情報網で調べても『正体不明』というのは、どう考えても怪しい。ベルゼーはそう思った・・。
ベルゼー「・・それで、そいつらの動向は?」
セフィリア「・・どうやら、あの『ジェナスユニット』のメンバーと遭遇し、今のところ、彼らと行動を共にしてる、とのことです・・。」
ベルゼー「・・、そう、か。それで、長老たちは何と?」
セフィリア「・・、『現状維持』、だそうです。しかし、『もし不穏な行動を取ろうと言うのならば、即刻排除しろ』、とのことです・・。」
ベルゼー「・・、了解した。わざわざすまんな、セフィリア。」
セフィリア「いえ、お気になさらずに・・。」
その後、ベルゼーもセフィリアと共に食事をしだした・・。
セフィリア「・・それにしても、この世界は平穏そうで、平和とは程遠いですね・・。」
悲痛な面持ちで、外の風景を見ながらぽつりともらすセフィリア・・。
ベルゼー「・・確かにな。しかし、その世界を安定させるために『クロノス』があり、我々『クロノ・ナンバーズ』がいる。・・違うか?」
セフィリア「・・、そう、ですね。すみません、ベルゼー。愚痴をもらしてしまって・・。」
ベルゼー「構わん・・。」
思わず苦笑いするセフィリアに対し、ベルゼーは相変わらず表情をあまり変えずに答えるのであった・・。
338
:
暗闇
:2006/01/12(木) 01:44:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=野原=
界魔(ここなら、ゆっくり一人で考えられるか…)
界魔は皆をクラウスに任せ、一人誰もいない野原へと足を運んでいた。
今日は色々なことが起こりすぎた、これまでの情報を自分なりに整理する為にも一番集中できるこういう場所が好都合だったのだ。
この世界でまだ手に入っていない情報を収集する役目は界魔と天美の二人に任せてある。あの二人ならこの世界の表の一面はほぼ全て知ることが出来よう。
ただ、いなくなった自分にいち早く気付いた輪廻を撒くのに手間がかかり、やむなく『移』空呪を用いて強制的に皆の居る場所に戻したのだった。
界魔「ああでもしないと、追われている状態で逃れるのは厳しいからな…」
自分を心配してくれているのは嬉しいが、一人でじっくりと考えたいこともある…だが強引な手を使ってしまったのも事実なのでちゃんと謝っておこう。と界魔は考え、野原に膝を下ろした。
界魔(さて…悪魔召喚プログラムの起動の失敗の結果により俺達はこの世界に飛ばされた、その後に激しい“ゆらぎ”を感じてこちらの世界にやってきたクラウスさんと再会…そしてバグシーンとかいう機械生物を操る沙耶とかいう化け狐とそれに協力している源氏の亡霊…そして、あの銀のスライム…)
今までのことを振り返りながら、あの銀のスライムが11年前に自分は奴と面識のあるはずだと…界魔は懸命に11年前の記憶を辿った。
界魔(確か…あれは真さんを探しにパラレルワールドに飛んで…)
界魔の脳裏に段々当時の記憶が鮮明に浮かび上がってくる。
界魔(そして…同じ世界にやって来ていた直兄さんと啓兄たちとも協力して…どうにかバルマーの一部隊や宇宙怪獣を退いて…そして…!!)
脳裏に浮かび上がってくる銀の怪物、そしてその中心に存在する金の一つ目は自分を見つめ…
その時、
界魔「っ!」
界魔は素早く、横に転げるとほんの数秒前座っていた場所が小規模の爆発を起こしたのだ。
界魔はすぐに立ち上がると、辺りを見まわす。
界魔(誰だ!? 気配が全くな…)
???「上にいるよ」
界魔「!」
界魔は上を見上げると、そこには自分と同じ背丈の人がいた。
しかし、顔は真っ白な布で眼以外を覆っており、全く分からない。
???「いや〜さすがだね。さすがは天上家の長男にして、あの人の血を引く息子。他の子たちなら気づけなかっただろうね」
界魔「誰だ、お前は?」
???「あ〜ごめん。今は名乗りたくても名乗れないんだ。でも、これだけ教えてあげる…君と対なす存在だよ」
339
:
暗闇
:2006/01/13(金) 01:06:26 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
界魔「俺と対なす存在?」
界魔が首を傾げて言葉を返すと、宙に立つ少年はこくりと頷く。
???「君は僕のことを知らないと思うけど、僕は君のことをよく知っている。
とは言っても、それは君が8歳以降のことだし…それより前の君のことはあの人から聞いただけだからね」
界魔「俺のことを知っている…それに“あの人”?」
???「残念だけど…それもまだ言えないんだ。でも、なんで僕が君のことをよく知っているかのワケのヒントはあげるよ…君と僕は2つでひとつの存在」
界魔「二つで一つの存在?……!」
???「うすうすだけど分かったみたいだね。じゃあ、近い内に名乗るくらいはできるかも…
っと、そろそろ行かなきゃ…また近い内に」
その少年が指を鳴らした瞬間、その少年はフッとその場所から消えてなくなった。
界魔「空間転移か…それにしても…あいつは…まさか…な」
界魔はしばらくの間、呆然と少年のいた空を黙って見つめていた。
340
:
暗闇
:2006/01/15(日) 03:04:46 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アンブレラ・アーカム支部=
現在の世界の中心都市たるアーカムシティ、世界各地の企業や団体の活動の本部またはそれに匹敵する支部は現在はここに集中して設置される。
しかし、そのどの企業もこの街を支配する覇道財閥と比べると小者に過ぎない…だが、唯一この都市で覇道財閥と肩を並べることのできるある企業の支部がある…
それが製薬会社を母胎とする国際的規模の巨大コンツェルン…アンブレラ。
本社はヨーロッパにあり、世界各国に支部、研究所、工場などを持ち、独自の軍隊まで所有している。社名は「人々の健康を庇護する」という社訓に由来しており、表向きはウイルス治療の権威として社会への奉仕をアピールしているが、裏ではウイルスを用いた生物兵器の開発・製造を行っている。
あの「洋館事件」と「ラクーンシティの凶災」…この2つの事件の原因はアンブレラの開発した生物兵器によるものだった。
しかし、これらの事件の真相はアンブレラの“力”によりことごとく揉み消され、真相を知ろうとする者は次々と闇に葬られていった。
ここはそのアンブレラの支部のなかでも最大規模を誇るアーカム支部だ。
そして、その一室に一人の少年が机の書類にペンを走らせていた。
金髪で整った顔立ちをしたまだ年端もいかない少年だ。
しかし、この少年こそ…アンブレラ社で会長に次ぐ権限を有する社長にしてこのアーカム支部の支部長を務めるアゼル・V・スペンサーである。
そこに、脇に置いてある一本の電話が音を立てる。
アゼルはペンを置くと、受話器を耳に当てた。
アゼル「はい、何か御用ですか?」
社員「お忙しい所を申し訳ありません社長…社長と話をしたいという方からお電話がございます」
この社長室の電話に繋げるには、受付を経由しなければならない…アゼルは無駄な時間はとらない主義だ。普通は受付にいつものように適当な理由を付けて門前払いをさせるのだが、それをしないということは相手は余程の人物らしい
アゼル「誰です?」
社員「女性のようですが…名前を聞いても答えません。ただ、こう言えば分かると…私はただの可愛い狐さんよv…と」
その時、社員は受話器を通してまだ子供の社長がため息をつく音を聞いた気がした。
アゼル「繋いで下さい」
341
:
アーク
:2006/01/15(日) 11:47:36 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
=???=
???「今の話は本当なんですか陛下」
ホログラムとして立っている天皇こと聖夜に背中に六枚の羽を持つ青年が質問した
天皇「先程暗黒王から得た情報なんだ。ロザリエルは無事みたいだよ」
天皇の答えにロイヤルナイツの長セラフィムはホッと息を出した
ロイヤルナイツとは天界で最も徳の高い聖騎士や大天使が集まる最強集団の事である
誰にでも慈悲深く弱き者は守ると言う事を心がけている
セラフィム「ロザリーは無事なんですね。あの子が魔界の魔王と駆け落ちをした時は驚いたものですから
しかし何で私にだけ伝えるのですか?彼女の事を最も心配しているオファニにも伝えた方がよろしいかと思うのですが」
天皇「確かに僕もそう思ったんだけど実はそう簡単にはいかないんだ」
セラフィム「何かやばい事でも?」
天皇「そうなんだ。実はロザリエルは子を宿したんだよ」
セラフィム「何ですって!ま、まさか魔族との間に出来た子供だと言うのですか?!」
天皇「そう、天界と魔界に災いを呼ぶアルティメットハザードが生まれたんだ」
セラフィム「………確かに彼女には伝えない方がいいでしょうね。妹が魔族との間に子供を作ったのですから」
???「何の話をしているのだセラフィム」
声の主に驚いて振り向くとそこにはロイヤルナイツの一人オメガが立っていた
セラフィム「オメガか驚かすな。一瞬オファニかと思ったぞ」
オメガ「そんなに驚く事ではないと思うが…ところで先程の話は本当なのかセラフィム?」
セラフィム「聞いていたのか?………ああ、先程の話は本当の事だ。オファニの妹ロザリエルは
魔界の魔王の一人アスタロトとの間に子を宿したそうだ」
オメガ「そうであったか。オファニ殿にはこの事は?」
セラフィム「話してはいない。駆け落ちの話を聞いて倒れたんだこの話を聞いたら余計ショックを受けるだろ」
オファニに対するセラフィムの優しさにオメガは一瞬笑みを浮かべた
彼は知っていたセラフィムがオファニに恋心を抱いているのを
オメガ「愛する者が悲しむのを見たくないと言う事か」
セラフィム「う、うるさい。当然の事を私はしたまでの事だ(///)」
少しだけ顔を赤らむセラフィムを見てオメガは少しだけ笑い声を出した
天皇「あまりセラフィムをいじめないでよオメガ。インペリアルは元気?」
オメガ「今の所今の力を制御できる位にはなりました。ですが…まだ古代龍の力は無理ですね」
天皇「そうか。あの子も大変なんだなぁ」
セラフィムもインペリアルの事を知っている為同情せざるおえなかった
天皇はもう何もないと思い消えようとした時
セラフィムが重大な事を聞くのを思い出し踏み止まった
セラフィム「も、申し訳ありません。暗黒王はこの事は?」
天皇「知っているよ。今頃ムルクスに伝えているだろう」
そう言って天皇は姿を消した
=???=
???「また生まれたと言うのかアルティメットハザードが」
魔界の中心部でナイトメアソルジャーズの長ムルクスは暗黒王の情報に溜息を出した
暗黒王「これで三人目だな。お前の部下のカオスと天界のデュークを含めてな」
???「ちょっとまずいんとちゃいまっか?アルティメットハザードが三人もいるちゅう事は」
ムルクス「ジョーカーの言うとおりです。禁忌を犯したのは私だけで十分なのに…まさか甥のアスタロトが
私と同じ事をしようとは」
ジョーカー「血は争えん事やな。ムルクスはんと同じ過ちを起こしたんやから」
暗黒王「ムルクス……お前は禁忌を犯し自ら魔界に堕ちて来た。だがアスタロトはロザリエルと共に姿を消した
そこまで愛していたのだろう大天使ロザリエルを」
ムルクス「私と同じ行動をするとはアースの奴もやるようになったものです」
ジョーカー「何やてっきり心配していると思うたら全然してないやんか」
ジョーカーの言葉にムルクスは少しだけ吹き出した
ムルクス「少しは心配したが愛する人を守る為共に姿を消した事がとても嬉しかった」
暗黒王「それともう一つムルクスには嬉しい事かも知れない」
暗黒王の言葉にムルクスとジョーカーは耳を傾けた
暗黒王「その子供の名前がルシュファードと言うのだ」
ムルクス「な?!」
ジョーカー「な、何やて!ルシュファードって確かムルクスはんの昔の名前やないか」
ムルクス「アースの奴大天使だった頃の私の名前を使うとは」
アスタロトの子供の名前を聞いてムルクスは大きい溜息を出した
342
:
暗闇
:2006/01/16(月) 01:00:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アンブレラ・アーカム支部=
沙耶「はぁ〜いvアゼル君元気してたぁ♪ 可愛い狐のお姉さんはこの通り元気よ〜v」
アゼル「……ご用件は何でしょうか?」
沙耶「あらま、単刀直入? もう少し明るく振る舞わなきゃ女の子にモテないわよv」
アゼル「別に良いですよ…」
沙耶「あいかわらず、暗いわね〜。お姉さんは悲しいわ」
アゼル「…まさか僕をからかう為に連絡したんじゃありませんよね?」
沙耶「あのね〜、たまには笑顔ぐらい震う舞わないと、大人になって眉間に皺が残るように……冗談は此処までにするから切らないで」
電話の向こう沙耶はどうやって察したのか、アゼルが受話器から耳を放そうとした直前で、そう言った。
沙耶「実はこの都市にある宝物が落ちたの。それを回収する為に今からブラックロッジと共同作戦をとることになったのよ。
でも、そのブラックロッジから派遣されてきたのが……ちょっと“アレ”で…」
アゼル「アレ?」
饒舌の彼女の言葉が後半珍しく歯切れが悪くなり、アゼルは思わず首を傾げながら返した。
沙耶「ともかく、不安要素が大の人を何のつもりかあっちが送ってきたのよ…だから、万が一の保険としてB.O.Wをいくつか送って欲しいのよね」
アゼル「そうですか…わかりました。ハンターⅢを6品とタイラントⅡを1品送りますから」
沙耶「助かるわ〜v いい子、いい子…」
アゼル「幼児クラスの子供扱いは流石に止めてほしいのですが…」
沙耶「え? そんなこと言ったて、私たちから見れば…はい、はい、ごめんなさい」
アゼルの怒りで受話器が震えだしたのをまたもどう察知したのか、沙耶は彼に謝罪した。
アゼル「まあ、いいでしょう…ところでこの都市に落ちた宝物とはなんです?」
沙耶「ああ、それはね…」
沙耶の次の言葉を聞いたアゼルは眉をピクリと動かした。
アゼル「何ですって?」
沙耶「だから、今回はなるべく失敗したくないのよ…その宝物はこの町中を逃げ回ってるから、捕まえるのにちょっと骨が折れるのよね…
相手があの“魔導書”じゃ、あのキ○ガイじゃ不安なのよ。これならまだ源氏の武士と組む方がマシだわ」
アゼル「なるほど…」
沙耶「それじゃ、プレゼントを楽しみにしてるわよ。じゃ〜ね〜v」
その言葉を最後に、沙耶の声は受話器から聞こえなくなった。
343
:
飛燕
:2006/01/16(月) 20:03:04 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
=スペンサー・レイン号 船底倉庫内=
○月■日 8:05(ハチマルゴ)
この船に密航してから1日と9時間21分。
SEに関するDがこの船底倉庫内か船長室に存在する事がようやく判明。
これから、船底倉庫内を調査する。
尚、次からの定時連絡は10分ずつ延長させて頂く事を進言・・・。
ガチャ・・・
鉄の塊とでも称すべき分厚い扉が開く音がしたと同時に彼女は、素早く通信を切った。
コンテナの陰にさっと隠れると、彼女は腰の獲物を抜きながら侵入者の姿をゆっくりと顔を覗かせて確認した。
侵入者は40代そこそこの、中々体躯に恵まれた米人であった。口髭と見事なまでに伸ばした顎鬚、丸刈りに近い髪型の男性で、赤いケブラーのジャケットを羽織った姿は彼を加齢臭漂うただのオジサンから、戦場を渡り歩く戦士に見えてしまうのは彼女の錯覚ではなかった。
現に彼は地獄を何度も経験し、その度に仲間達の助け合いで生き延びてきた猛者であるから・・・。
彼が只者ではないと直感した彼女は、自銃に携帯型のサプレッサーを気付かれぬように着けた。
P226
SIG/ザウエル P226、それが彼女の銃の正式名称である。
SIg/ザウエル社の中枢をなす代表的な大型ピストルP220の後継銃。
P220の売りである高い命中率を損なわずに小型化、軽量化に成功したのがこのP226である。
SIG/ザウエル社の社名は、ヨーロッパ諸国でもとりわけメジャーな2つの銃器メーカーが合併した事によるもので、SIGとは『Schweiz Industrie Gesellschaft(スイス工業社)』という意味を持つ。
同社のP220シリーズは、どれも直線的デザインでまとめられ、その外観は着実、堅牢な雰囲気を漂わせているのが特徴的である。
自分の存在に感づいたのかもしれないと思った彼女は、マガジンに15発、慎重な手つきで最大装弾(フルリロード)を行なうと彼の隙を伺った。
仮に違うとしても、腰元にあるモデルガンにしては出来過ぎている44マグナムとケブラー(特殊防弾繊維)ジャケットなんぞを着ている人間が怪しくないワケが無い。
自分の任務の妨げになる者は早めに始末しようと考えたのである。
銃口をゆっくりと、持ち上げて男の頭部へと照準を合わせた。
幸いにも彼は気付いていないようだ。当然である。此方は感付かれないように殺意は出来る限り消して、行動を起こしているのだから。
引金に手をかけ、中年の男の後頭部に弾丸が直撃する様を想像しようとした瞬間、いきなり、またもや扉が開かれたのである。
「ッ!?・・」
声を押し殺したまま、驚きを隠せなかった彼女は素早くコンテナの陰に隠れた。
扉を開け放った金髪の米国人もまた、ショルダーホルスターにこれまた良く出来ているモデルガンよりも本物に見えるコルトガバメントの鈍い輝きが見えたからである。
344
:
飛燕
:2006/01/16(月) 20:26:41 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
バリー「よぉ、起きたみてぇだな。ブルース?」
食堂でベーコンエッグとフランスパン3切れ、フレンチサラダを食べ終えた後に倉庫へとやって来たブルースは、先客のSTARS大先輩と出くわした。
ブルース「まぁなvにしても、流石は豪華客船だな。たかが、粗末な朝食と侮ってたけど、中々美味かったぜw」
バリー「だろ?・・・・ところで、今、何時だ?」
昨夜、レオンとクリスから明日の朝9時に、最下層倉庫にて会議を開くとの言葉を聞いて2人はここに居るわけである。
そして、生憎とバリーは時計を持っておらず今、何時何分何秒という正確な時間が判らない。
右手をさっと持ち上げ、文字盤を見た。
ちなみにブルースの右手首に巻きついているものは、コグモことCOGU(Cosimo Gucci)という有名ブランドのSTK−CLモデルである。
銀一色で飾られた指針と盤、カートゥンに出てきそうなカラフル過ぎる文字が特徴的である。
ブルース「・・・・ちと早く来過ぎたみてぇだな、今、8時19分だな」
やれやれ、と軽くぼやきながら自分の勘の良さを呪った。
以前、乗船した事のあったブルースだったが、甲板やブリッジより下の3〜4階は、作りが全く違うものなのである。
だから、迷うだろうと高をくくって早めに行動を起こしたのだが、幸いにもB4階以降は以前見たものと全く同一のものだったので、あっさりとここまで来れたのである。
バリー「いや、多分、そろそろだと思うぜ?あいつら、あの事件に巻き込まれてから行動がいやに早くなったからな」
愛銃である44マグナムの調子を確かめつつ、バリーは回れ右して退出しようとするブルースを止めた。
ブルース「そうなのか?へっ・・折角、もう一眠り出来ると思ったのによぉ?」
憎まれ口を叩きつつ、ブルースはバリーの元へと戻ってきた。
ふと、そこでバリーはある事に気付いた。
バリー「なぁ?何だ、あのコンテナ?」
ブルース「うん?」
バリーが顎で指すその方角には、奇妙な鉄の箱があった。
345
:
飛燕
:2006/01/16(月) 22:04:45 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
周囲のコンテナとは明らかに浮いた水色一色のカラーリングで、何やら変な凹みがところどころに見受けられるものであった。
まるで、内側から強大な力で凹んだような・・・明らかな人為的な凹みのあるコンテナが静かにそこにたたずんでいた。
よく見ると、中に何が入っているか書かれたプレートもあったが8割方が錆が占めており、結局何が書いてあったか全く読めず終いとなったのは後の話である。
無言でブルースはバリーに合図を送った。手早く2人は44マグナムとコルトガバメントの安全装置を解除すると、摺足でそのコンテナへ近寄った。
そして、そっと、プレートの表面をなぞって中に何が入ってあるのか探ろうとブルースが表面を指でなぞってみた刹那、何やら軽い音がコンテナの中でした。
その時、2人はこの時ほど野生の勘に感謝した事は無かったらしい。
素早く、バックステップでそこから離れた2人は、先程まで自分達の居た場所に何か鋭利な物が突き刺さっている事に気付いた。
コンテナ毎、切断したその異形の者を2人は良く知っていた。
アンブレラの生体実験による変態の結果骨格そのものが異常に変形し4足歩行や脳のグリア細胞質露出等の身体的特徴を有するに至った亜種ともいえるゾンビ。
全身の皮膚が剥離し内部から新たな筋肉組織が形成されておりその結果筋力・瞬発力が凄まじく向上する事に成功した。
が、剥離し切ったせいか眼球も腐り落ち、視力を失い、代わりに異常発達した聴力で獲物の位置を割り当てる事が可能という死体。
また手足に吸盤が形成され壁や天井を自在に這い回ることもできる生ける屍。
主な武器は伸縮自在で強靭な舌と巨大で鋭利な両腕部の爪という異形の者・・・。
バリー&ブルース「「リッカーだと!?」」
思わず、顔を見合わせ口調をそろえてしまった。
男同士で気色悪いとか読者の皆様は能天気な事を考えてしまうかもしれないが、この場合2人は敢えて問題視しなかった。
というよりもそこまでの考えにいきつかなかった。
速度を武器とする愚鈍さが売りのゾンビとは全く対照的な出鱈目ゾンビが相手では、一瞬の油断も出来ないからである。
ブルース「ちぃっ!まさかたぁ、思うが・・・」
バリー「ああ・・・・どうやら、クリス達が来ないのは・・」
こいつらのせい、そう口を動かす前にリッカーと呼ばれた者は天井高く跳躍した。
ブルース「来るぞ!」
飲み込みかけた言葉をバリーが言う前にブルースは、真っ直ぐ此方へ伸びてくる舌目掛けて大口径銃弾をプレゼントした。
346
:
飛燕
:2006/01/16(月) 22:08:32 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.80.193]
ヒト?いえ、それにしたって不気味過ぎる・・・。
もしかして、ゾンビ?
・・・馬鹿馬鹿しい。B級映画じゃあるまいし、そんな事ある筈が無い。
だが、見た目のグロテスク加減に、あの2人の慌てっぷり・・・完全に否定というワケにもいくまい。
バリー「コンテナの中にリッカーなんざ入れるなんて、この送り主は一体、何考えてやがるんだよ!!」
ブルース「知るか!それよりも・・うおっと!?」
ゾンビ(仮)の方の攻撃力・・・侮れないわね。
あれだけ分厚い壁を内側からあの爪だけで切り裂くなんて、恐竜も顔負けね。
自嘲しながらも彼女は2人と一匹(?)の先頭の様子を逐一記録していた。
そして、記録に夢中になっており・・・背後からゆっくりと近づく気配に彼女は気付かなかった。
――― あ゛ あ゛ あ゛ ぁ゛ ぁ゛ ―――
「なっ!?」
背後を振り向いた時には時既に遅し。
作業員のツナギを着た腐乱死体が彼女の首筋目掛けて噛み付こうと圧し掛かってきたのだ。
「くっ!・・・・」
完全に虚を突かれた彼女はなんとか防ぐ事には成功した。
ガチッ・・・ガリッ・・・
苦肉の策であったが、P226を口の中に押し込みなんとか食い止めているような状態である。
「不味い・・・わね・・」
意外に、この生ける屍、馬鹿力が尋常なレベルではない事を彼女は身を以って知った。
否、知りたくもないのだが知ってしまった、とでも言うべきか。
とにかく、この方法も大した時間稼ぎにしかならない事を彼女が一番知っていた。
どう行動すればこの壊滅的状況を打破出来るか、彼女は追い詰められながらもなんとか考えようとした。
今、戦っている2人に助けを求める・・・NO。
彼等の正体が分からないこの状況で、助けを求めて必ずしも状況が打開出来るとは思えない。
下手すると、この化物諸共撃ち殺される可能性も捨て切れないからだ。
「どうしたものかしら・・・・」
蚊の鳴くような声でぼやいたその時、作業員の首が文字通り飛んだ。
「そんな時は正義のヒーローにでも助けを求めちゃあ、どうだい?お譲ちゃん?」
ようやっと力なく倒れかけたゾンビをのけながら、小さな声でこっそりと話しかけてきた救世主の顔を彼女は直視した。
荷物の中から拝借したのであろう、先端に血と肉片を乗っけたゴルフクラブのアイアンを片手にボロボロになったジーンズと無地のTシャツというラフ過ぎる格好をした男性の姿がそこにあった。
「・・・・貴方は?」
「見ての通りのただの密航者だ。あんたと同じな?・・・・しっかし、何で俺が行く先々でBHは起きるのかねぇ・・」
もう動かなくなった骸の前で軽く十字を切りながら、男はぶつぶつと愚痴をこぼした。
「行く、先々?・・・貴方、何者?」
「言ったろう?密航者だって・・・・名前は・・いいや、偽名使うのも面倒臭ぇ。俺の名前はビリー。ビリー・コーエンだ」
「・・・・レジーナよ、よろしく、ビリー・・・悪いけど、此方は本名じゃなくてコードネームよ」
「構わないさ。ゾンビ以外の美女ならペンネームですら分かったら、儲けもんだからなw」
屈託の無い笑みを浮かべながら、密かに、そしてこっそりと蚊の鳴くような声で2人は自己紹介と挨拶を交わした。
347
:
飛燕
:2006/01/31(火) 23:40:09 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.241]
=貨物区= 〜レッドフィールド兄妹〜
クリス「ちぃっ!何だって、こんな所で・・・」
サムライエッジのマズルフラッシュがクリスの顔を照らし出した。
放たれたパラベラムは的確にクリスに襲い掛かろうとした生物・・・否。最早、生ける者ではなくなったものの頭蓋を打ち貫いていった。
クレア「分からない!・・・・それよりも皆は大丈夫なのかな?」
素早くカートリッジポケットからパラベラムマガジンを取り出すと、兄と自分に一つずつ手渡すと再装填しながらクレアは答えた。
クリス「それこそさぁな、だな!だけど・・・あいつらは、そう簡単にくたばるような連中じゃねぇのは確かだな」
足元で首と胴を真っ二つにされ、ピクリとも動かないゾンビの首元に転がっている山刀の斬れ味を確かめつつ、クリス達は最下層へと向かった。
そして、ようやく下層へ降りるための非常階段を見つけた。
クリス「まぁ、とにかくだ。合流するのが早いことに越した事は無いだろうからな。甲板でもたついちまってたジル達と合流しに向かったレオン達も今頃、無事に着いた頃だろうからな?」
苦笑しながらクレアは頷きながら階段の手摺りに手をかけようとした正にその時。
―――ポトッ―――
奇妙な落下音がした。かなりの粘着量を持った物体が、クレアが今まさに手をかけようとした手摺りの上に落下して来たのである。
思わず身じろぎし、本能的にクレアは飛び退いた。だが、それは正しかった。
―――ポタタタッ!―――
クレア「ひぃっ!?」
小さな悲鳴が上がった。
グロテスクな粘々とした奇怪な小生物が一気に落下して来たのである。
良く見るとそれは、一匹一匹が大人の拳ほどもある肥大化した蛭であった。
この粘性のある肉体はおそらくT−ウィルスの影響であろう。
クレア「ヒル?」
クリス「・・こんなのまで居やが・・」
しかめっ面でクリスはとっととその場から逃げ去ろうとしたその刹那、今度は開いた口が塞がらない事態が起きた。
348
:
飛燕
:2006/02/01(水) 00:03:15 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.241]
なんと、蛭が収縮・合体し始めたのである。否、どちらかというと融合とよべば良いだろう。
あっという間に人の型を成した巨大な蛭が階段の踊り場に出現した。
クリス「った・・」
クレア「嘘・・・・」
クリス「あ・・あんなの有りかよッ!?」
不快感を催す足音をたてながら蛭人間はゆっくりと此方へ振り返ると、声帯の出来ていない喉から雄叫びをあげながら跳躍してきた。
クリス「来るぞッ!」
片手にルガーB・ホーク、サムライエッジ。フルUZを夫々構えた2人は空中で迎撃出来るよう臨戦態勢に突入した。
=客室区= 〜レオンチーム〜
鷲の名を馳させた45ACP弾採用のコルト・ダブル・イーグルが咆哮を上げた。
炸薬がレオンの前髪を焦がしたのだが然して気にも留めずに、そのまま前方に群がる元船員達の額を撃ち抜いていった。
レベッカ「♪〜〜〜、レオンさん凄いw」
ピンヘッドと呼んでもおかしくないその洗練された俊敏なる狙い撃ちを、感嘆の口笛を鳴らしながらレベッカが軽く拍手をした。
が、レオンはレベッカを一瞥すると周囲の警戒に戻った。
レベッカ「あ、あれ?何か、気に障るような事を言った?」
焦るレベッカに対して一言。
レオン「・・・・特には」
レベッカ「あ、そ、そう、ですか?・・・・」
それから全く会話が続かなかった。
どうにも彼は機嫌が悪いのか、はたまた彼自身乗りが悪いのか定かではないが、一つ言える事は彼がかなりの無愛想だという事である。
349
:
暗闇
:2006/02/05(日) 12:09:18 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃…別の平行世界では…
エジプトから帰ってきたばかりの鷲士が病み上がりの体を、なかば引き摺りながら大学に出ると、好奇の視線がまとわりついてきた。
友人A「おお、草刈か。おまえ、エジプトでバイトしてたんだって?」
友人B「いくら金欠だからって、よく行くよなぁ」
友人C「すっかり焼けてんじゃん。でも、疲労で入院してたらしいな」
友人D「戻った当日に点滴打ちながら追試だろ? よくやるよ、お前も」
そして感心と呆れがミックスされた言葉を聞くたび、彼はトレードマークと化した瞳のない笑顔を浮かべ、こう答えるのだ。
鷲士「ハハハ……ちょっと違うけどね」
ボケ青年は、結局その日も、気弱な笑いで真実を隠し通した。最後の授業が終わり、教諭が去ると同時に、机がバタン。
鷲士(……ううっ、そのうちホントに死んじゃうよ〜)
眼鏡の奥から流れた涙が、合板に水溜まりを作った。
―――草刈 鷲士。一言で言うと―――いや―――今や一言で表せるほど、彼を“蝕む”事情は単純ではなくなっていた。書き示すのも面倒なほどだ。
松井「ダーティ・フェイス? なんだい、そりゃ?」
背後から聞こえた会話の一端が、突っ伏すヘロヘロ青年の脊髄を貫いた。慌てて振り返った鷲士の瞳に映ったのは、見覚えのない人物だった。
???「……詳しくは言えないわ。ただ、聞いたことがあるかどうか教えて欲しいの」
少しハスキーな声が、淡々と訊いた。
―――白人の美女である。
背は170㎝前後。腰まであるブロンドの髪をまとめるのは、白いヘアバンドだ。髪と肌の色、上背のせいで、異様に目立つ。おまけに―――目鼻立ちもすっきりとした美人だ。同じ場所白人が何人いても、目に止まるのは、まず彼女だろう。
鷲士(……誰だろ? 留学生?)
松井「いきなり訊かれても……化粧品? あ、映画のタイトル」
困ったように顔を掻いたのは、写真部の松井。シャッターチャンスをものにするため、テニス同好会にも籍を置く強者だ。彼の狙うショットとは―――二回生以上は誰でも知っている。ゆえに、特に女性には近づこうとしない。
白人女性はイライラしたように腕組みし、
???「ある男のニックネームよ。知ってるの? 知らないの?」
松井「ニックネーム? さあ、聞いたことのないなぁ。悪いけど」
???「……そう。ありがとう」
美女はため息混じりに出口へ消え、鷲士もホッと胸を撫で下ろした。荷物をまとめて、大きめの黒いボストンバッグに放り込み、自分も廊下へと続く。
鷲士(……まいったなぁ、大学でもフェイスの名前を聞くなんて。以前、図書館メッチャクチャにしちゃったからなぁ)
背中を丸めて、ガックリ。
しかし、そのまま校舎を出てすぐ―――正門の前にいる人物に彼は顔を上げる羽目になった。
350
:
暗闇
:2006/02/05(日) 12:10:34 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
普通じゃない人だかり、その割に静まり返った雰囲気、中心に佇む袴姿の女性―――。相模大でこの組み合わせが意味する所は一つ。
―――麻当美貴だ。
鷲士の位置から見えたのは背中だが、前に回るまでもなかった。モデル並みの長身、腰位置の高さ―――影だけでも彼女だと分かる。体形が日本人離れしているのだ。これで顔がトホホならただのサギだが、その美貌は見る者の心を鷲掴みにして離さないから凄まじい。誰もが認める相模大のカリスマだ。
鷲士「ちょ、ちょっとごめん」
鷲士が足を踏み出したと同時に、人だかりに波が生じた。またあいつか、許せねえ、いつか殺してやる―――嫉妬の視線が背中に突き刺さる。いかにほえほえしているとは言え、自分がどう思われているか見当はつく。鷲士は身を縮めながら、前に進んだ。そして―――なんとか美貴と肩を並べたときである。
ブロロロロ……。
唐突に校門の前を、黒いリムジンがよぎった。
鷲士(……あれ?)
車影が見えたのは、ほんの一瞬―――しかし窓に映っていた影に、鷲士は眉をひそめた。よく知っている人物だったからである。
鷲士「い、今の……樫緒くん?」
美貴「うん……」
ぼんやり前を見つめながら、美貴はため息。髪に手をやった。彼女お決まりのポーズ―――この場合は、まいったなぁ、だ。
“事情”を知らない鷲士が青ざめたのは言うまでもない。
鷲士「あ、あの……どうして彼と美貴ちゃんが……?」
美貴「ん……わたし、ちょっと国を離れるんだ」
鷲士「そうなんだ? 旅行?」
美貴「……うん。麗華とね。憶えてる」
鷲士「も、もちろん。カト女時代からの美貴ちゃんの親友でしょ? 懐かしい名前だなぁ、ファミレスのバイトやめてから会ってないんだよね、ぼく」
美貴「その麗華が、面白い祭りがあるから見に行こうって。まあ、詳しいことはまだ訊いてないけどね。とにかく海外に出るから、身の回りのこととか……いろいろと注意しておこうと思って、それで樫緒を呼んだんだ。なのに……」
鷲士「なのに?」
美貴「あの子ったら……あなたはすぐに道に迷うから気を付けて、とか、水が違うから胃腸には注意しろ、とか、短気だから余計な揉め事に首を突っ込むな、とか、それはもうネチネチひどいんだよ。どっちが注意されてるんだか分からないって言うか」
鷲士「は、ははは……か、彼、心配性だから」
美貴「“片割れ”に至っては、ウザイから電話でいいよって、顔すら見せようとしないし。毎日ここに来てるくせに、もう」
と美貴は大きなため息をついた。鷲士の冷や汗が、止まるはずもない。
鷲士「あの……だからどうして2人が美貴ちゃんと?」
美貴「どうして?」
麗女の眉間に、シワが寄った。
美貴「なに言ってるんだ、決まっているじゃないか。わたしはあの子たちの母―――」
振り向いた美貴だったが、声を失った。
幽霊みたいに景気の悪い顔と、視線が重なったからである。
351
:
暗闇
:2006/02/05(日) 12:11:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
美貴「う……うわわっ! 鷲士っ!?」
美貴はたっぷり3mは後退った。やっと気付いたらしい。
美貴「ど、どうしたんだ、こんなところで! なにか用!?」
鷲士「えっ? いや、たまたま偶然見かけたものだから…それより、あの……やっぱりあの子達とは知り合い……?」
美貴「えっ? いや、あの、その……ほら、たまに来るし!」
鷲士「そ、それだけ?実は前から知ってたんじゃないのかい? だってあの子たち、ただの知り合いに呼ばれたからって、わざわざ来るような性格じゃ……!」
美貴「そ、そんなこと言われてもっ……!」
鷲士は青ざめたまま、一方の美貴は赤くなった。強風が吹けば、キスもアクシデントにしてしまえる距離である。
やがて、ギャラリーの視線に、殺意に近いものが混じり始めた矢先、
鷲士「あ、あの……美貴ちゃんって、ひょっとして、僕があの子たちの―――」
美貴「うっ、うるさーーーーーーいっっっ!」
例によって美貴の逆ギレ爆弾が、中庭に炸裂した。目線の位置にある鷲士の襟元を、弓懸そのまま引っ掴み、
美貴「鷲士っ、キミね、いちいち細かいぞっ! 女のプライバシーを根掘り葉掘り―――感心しないな! そういうの、男らしくないんだよ!」
すると外野の1人が青い顔で、
学生「オイオイ、今の……根掘り葉掘りって言うほどのもんか?」
美貴「そこっ、うるさいっ!」
噛みつきかねない形相で喚くと、美貴は鷲士に向き直った。
美貴「男はね、黙って構えてればいいんだ! それを細々……情けない! 答えろ、草刈鷲士、そんなに女の過去が知りたい!?」
鷲士「いや、そのっ……! 僕が知りたいのは、美貴ちゃんのことより、あの子たちとの繋がりって言うか……」
これがちょっとまずかった。麗女の美貌から、完全に照れが引いた。代わりに―――青筋が。
美貴「……ちょっと待って。今の、聞き捨てならないな」
鷲士「は?」
美貴「美貴ちゃんのことって言うより、あの子たち……? なにそれ? じゃあわたしって、あの子たち以外の存在でしかないってこと……?」
陰鬱に睨み上げられ、鷲士は、ひぃ、と身をよじった。
鷲士「い、いやっ、ぼくっ、そんな恐ろしいことを言うつもりは!」
美貴「お、恐ろしい!? もう許せない!」
と鷲士の首をギュー。もうメチャメチャだった。
352
:
暗闇
:2006/02/05(日) 20:33:39 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃…その平行世界でのヨーロッパでは…
=コナヴリ村=
重い扉を押し開けた瞬間、濃密な血の香りが押し寄せてきた。
礼拝堂の奥から吹き付けてくる腥い風に顔をしかめながらも、サーシャは手にした銀の燭台をもう一度握り直すことを忘れなかった。掌の汗が、じっとりと気持ち悪い。
頼りなく揺れる燭台の炎は、そこかしこにわだかまった邪悪な闇を浮き出させ、濃密な瘴気にも似た影は、意志ある者の如く、勇敢な少女を見下ろしている。
ここは、サーシャにとって、洗礼式から15の年になるまで、毎週のように足を運んでいた場所である。にも拘らず、今夜の礼拝堂は少女が始めて見る顔で闇の中に沈んでいた。
サーシャ「聖母さま、お守り下さい。お守り下さい。聖母さま……」
サーシャは、兄を除けば、村一番の勇者だった。
臆病者な村人どもは、“奴ら”が現れるや全てを諦めて家に閉じこもってしまった。村長である父も、ニンニクやサンザシを撒いた屋敷に籠もって息をひそめている。“奴ら”にさらわれた婚約者を奪回しようとする兄に助勢を申し出る者もいなかった。
3日前、“奴ら”の居座る教会に乗り込もうとした兄にサーシャも同行しようとしたのだ。だが、兄はそれを静かに拒んだ。自分の留守中、両親を守るように言い置いて、単身出発し―――そして、戻らなかった。
サーシャ「主よ、私をお守り下さい。聖母さま、私をお守り下さい……」
礼拝堂の闇を慎重に透かし見ながら、サーシャは一歩一歩足を進めていった。不吉な創造の中から伸びてきた冷たい手が肩を叩く。瞬きすることを忘れた目はちかちかと痛む。
床板の軋る音がすぐ側で聞こえたのは、サーシャがからからに乾いた唇を舐めた時だった。
サーシャ「だ、だれっ……?」
突き付けた燭台の光にゆらりと浮かび上がった巨大な女の影に、サーシャは危うく腰を抜かすところだった。思わず3歩後退ったところで、その女性が腕に幼子を抱えていることと、優しげな微笑みを浮かべた顔が白大理石で造られていることをようやく見てとる。
サーシャの口から安堵の吐息が漏れた。
サーシャ「び、びっくりした……おどかさないでください、聖母さま」
まだ心臓は動悸を打っていたが、膝の震えはかろうじて抑えることに成功して、サーシャは額の冷や汗を拭った。村の守り神でもある聖母像に軽口叩いてから、ふと背後に向き直る―――今度こそ、サーシャの心臓は止まりそうになった。
ベンチに2つの影が座っていた。
マリス「おや、誰かいらっしゃったようよ、ミリス」
ミリス「マリス、紛れ込んだのは可愛い小鳥」
顔を見合わせて微笑んでいたのは、2人の女だった。
女たちは、まったく同一人物に見えた。雪華石膏<アラバスター>のような白い美貌も腰までもある長い金髪もまったく同じ。そろそろ雪が降り始める季節というのに、これまた揃いの薄いシルクのドレスを纏っている、違いと言えば、唇に引いたルージュの色が、片方が薄桃色であることに対し、もう一方が紺色であることぐらいだ。
琥珀色の瞳を閃かせて、薄桃色の唇が囁いた。
マリス「ミリス、弱ったわね。せっかくのお客様なのにお茶の準備も出来ていない。サモワールはどこに置いたかしら?」
クスクスと笑いながら、わざとらしく周囲を見回す女に向かって、サーシャはぶんと燭台を振り回した。
サーシャ「あ、あ、兄上をどうした、この化け物ども!」
揺れたロウソクの炎にあわせて、3つの影が奇怪な生き物のように踊る。内心、それに怯えながらも、少女は渾身の力をふるって叫んだ。
サーシャ「私はコナヴリ村郷士カスパレクの娘サーシャ! 兄上の仇討ちに来た! いざ、尋常に勝負しろ!」
353
:
暗闇
:2006/02/05(日) 20:34:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ミリス「兄上? ひょっとして、この小鳥ちゃんが言っているのは、あの勇敢な雄鶏くんのことなのかしら、マリス?」
蠱惑的に蠢く薄桃色のルージュが囁いた。
マリス「ああ、3日前に私たちに聖書を読んでくれたあの雄鶏くんね」
サーシャ「せ、聖書ならここにもあるぞ! 十字架も!」
左手に持った聖典と首にかけたロザリオを示して、サーシャは怒鳴った。その間も、激しい恐怖に膝が笑っている―――怖い。心臓が凍り付きそうに怖い。
婉然と微笑んだまま、謳うように会話を交わす女たちの姿は闇の精霊のように美しかったが、サーシャはその姿に惑わされなどはしなかった。この美しい女たちは“奴ら”なのだ。数日前に、この村に突如出現した人類の天敵。“影這う者ども”、“夜の眷属”、“闇の住人”等々、数多くの異名をもって呼ばれるおぞましい魔物。中でも最も知られた名は―――
サーシャ「吸血鬼<ヴァンパイア>ども! さあ、覚悟して、その首を差し出せ!」
ミリス&マリス「あなたのお兄さんはとっても美味しかったわ、小鳥ちゃん」
甘い声は、直接、両耳の耳朶に吹き込まれた。
2つの手に両肩を掴まれ、サーシャの顔は霜でも降りたかのように真っ白になった。確かにベンチに座っていた筈の影が、目の前から消えている。まるで瞬間移動でもしたかのように、2人の化け物たちは勇敢な少女の背後に立っていた。
マリス「一生懸命、聖書を読んで……」
ミリス「十字架を突き付け……」
マリス「それから泣いて命乞いして……」
ミリス「結局、私達のご飯になった」
かわるがわる囁かれる声に、サーシャは答えることすらできなかった。凍り付いたように立ち尽くす少女の手に氷のように冷たい指が巻き付き、銀の燭台を床に落とす。
マリス「この小鳥ちゃん、兄よりは賢かったわね、ミリス。用意がいい」
ミリス「そうね、マリス。忌々しい銀……私達は太陽の次にこれが嫌い」
紺色のルージュの女は見るのも汚らわしいといった顔で、落ちた燭台を礼拝堂の隅に蹴り飛ばした。床に倒れた蝋燭が消え、あたりに闇が戻ってくる。
マリス「怖がらなくてもいいわ、小鳥ちゃん。あなたも愛しい兄さまのところに行くのだから」
裂けた薄桃色の唇から、八重歯にしては長過ぎる輝きと、ねっとり甘い声がこぼれた。
ミリス「さあ、小鳥ちゃん、あなたのお味はどうかしら」
窓から射し込む微かな月明かりの中、紺色の唇が、そっと少女の首筋に重なった。白々と光る牙が、初々しい柔肌にゆっくりと埋められる―――
氷のような輝きが、闇を裂いたのはそのときだった。
354
:
暗闇
:2006/02/05(日) 20:34:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ミリス「!」
紺色のルージュの吸血鬼<ヴァンパイア>が、この世のものとは思えぬ悲鳴とともにのけぞった。その手に深々と突き立っていたのは、何の変哲もないロザリオだ。いかなる力で投げつけられたものか、別段鋭いとも思えぬ十字架が、手の甲を貫いて掌まで抜けている。
マリス「ミ、ミリス」
苦鳴をあげる妹を抱きかかえながら、薄桃色ルージュの吸血鬼―――マリスがきっと振り返った。瞬かない瞳が、底知れぬ悪意を込めて細められる。
マリス「誰、そこにいるのは? 私達の食事の邪魔をする愚か者が、まだこの村にもいたのね……」
天窓の向こうには、青い夜空が見える。その南天から地上を見下ろす月の光の下、忽然と佇んでいたのは背の高い影だ。
???「……あいにくと、私は村の人間ではありません」
影の声は静かだった。
???「吸血鬼マリス・ザドロフシュカ、同ミリス・ザドロフシュカ……父と子と聖霊の御名においてあなたたちをコナヴリ村における22件の殺人および血液強奪容疑で逮捕いたします」
ミリス「誰だ、貴様は―――!」
月光に照らしだした影にミリスが牙を剥いた。影―――背の高い男のまとう黒い僧衣に同色のケープ。そして、その胸に輝いていたのは金色のロザリオだ。
ミリス「神父…?」
???「ああ、申し遅れました。私はあなた達を取り締まるために存在する某組織より派遣されて参りました……」
場違いなほど丁寧な自己紹介は、何かが肉を穿つ湿った音に遮られた。
男の背中に深々と突き立っていたのは、最前、吸血鬼の手を貫いたロザリオだ。いつの間に移動したものか、その背後に立っていたミリスが毒々しい怒りを含んで吐き捨てた。
ミリス「人間の分際で、よくも私の体に傷を……死んで償え、イヌ!」
ヒグマ以上の怪力を誇る繊手が優雅に動くと、ロザリオは根本まで埋まった。心臓の筋肉が弾ける不気味な音が響くと同時に、長身の男の膝ががっくりと折れる。青い月光の中に吹きあがった血飛沫を白い美貌に受け、満足げにミリスは微笑んだ。
ミリス「他愛もない……この前の雄鶏くんといい、こいつといい、身の程知らずのお馬鹿さんたちは人間<自分>と吸血鬼<相手>の力量差ぐらい計ることができないのかしらね、マリス」
マリス「どうでもいいけど、そんなに床を汚さないで頂戴、ミリス。責任取って、そっちの血はあなたが処分するのよ」
復讐と血の香りに酔いしれる妹にさりげなく後始末を押し付け、マリスは腕の中の少女に目を落とした。勇敢な小鳥は、目前に展開された惨劇に白目を向いて失神していた。
マリス「さて、私はこちらの小鳥ちゃんをいただくことにするわ」
白い顔にこぼれた髪をそっと書き上げて、マリスは笑った。人間にしてはまあまあの美形だ。さぞや、血の方も美味だろう。
戸口の方からも、牙が肉を抉る響きに続いて甘美な命の水に妹が喉を鳴らしている音が聞こえてきた。獲物の血がよほどに美味だったのか、熱い吐息さえこぼれてくる。
マリス「半分は私に残しておいて頂戴、ミリス」
こちらも少女の首筋から髪を払いのけながら、マリス妹に提案した。
マリス「こっちの小鳥の血も半分残しておいてあげる。公平に交換しましょう」
???「……いや、それはできませんね」
静かに聞こえてきた声は、妹<ミリス>のものではなかった。
???「私は偏食家でしてね……その娘さんの血はいただけません」
マリス「!?」
とっさに振り返ったとき、マリスの目に飛び込んできたのは、まるで人間のように恐怖に目を開いた妹の姿だった。悲鳴をあげる形に開かれた紺色の唇からはか細い吐息がこぼれ、ただでさえ白い顔は紙のように白ちゃけてしまっている。だが、吸血鬼を驚愕させたのは、妹の姿ではなかった。彼女の喉に覆い被さった長身の影は―――
マリス「ば、馬鹿な……なんだ、こいつは!?」
接吻するかのようにミリスの首筋に重ねられたそいつの唇から、赤い液体が糸を引いていた。それは、マリスにとってはごくごく見慣れた光景だった。だが、こいつが吸っているのは―――
マリス「馬鹿な! こ、こいつは、血を……我等の血を!」
???「……さて、こういうことを考えられたことはありませんか?」
失血と恐怖で力を失ったミリスの体を床におろしながら、それはどこか哀しげに笑った。だが、三日月形に割れた唇から覗いたのは、紛れもなく鋭い牙だ。
???「牛や鶏を人間が食べる。その人間の血をあなたたちが吸う。だったら、あなたたちを……」
マリス「そうか、噂に聞いたことがある……最近、人間でも吸血鬼でもない化け物が我々を狩っていると。そいつは、よりによって我等の血を……」
恐怖に牙を震わせる吸血鬼に向けて歩み寄りながら、それは少しだけ悲しげな声で名乗った。
???「私は…………。吸血鬼<ヴァンパイア>の血を吸う吸血鬼<ヴァンパイア>です」
355
:
飛燕
:2006/02/05(日) 22:30:19 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.104]
時間軸は再び、此方の世界へ戻って・・・。
=客室区= 〜レオンチーム〜
レオン「・・・・・・・・・・」
レベッカ「あ、あの・・・」
レオン「・・・・・・・・・・」
レベッカ「す、スミマセンが・・・・」
レオン「・・・・・・・・・・」
レベッカ「あの・・もしもし?」
先程から鉄鉱石のように堅い口が微動だにしないので、言葉のキャッチボールが続かずこの気まずい雰囲気をどうしようと真剣に悩んでいたレベッカだったが、その件の”岩”が言葉を発してきた。
レオン「・・・レベッカ」
レベッカ「は、はい?!」
レオン「・・・・何か・・・・聞こえないか?」
何時の間にか耳に手を当て周囲を見回すレオンに倣い、自分も耳をすませてみた。
すると下から何か聞こえてくるではないか。
ズル・・・・ズルルル・・・・・
何か巨大な物を引き摺っている音が足元から聞こえた。
しかも、この音・・・レベッカには聞き覚えがあった。
この鱗を壁や床に擦り付けて移動する異音・・・。
以前の洋館事件において、その圧倒的な巨体でジル達を苦しめてきた爬虫類系の異形の化物。
レベッカ「こ、これは・・・・もしかして・・」
レオン「?知っているのか?」
レベッカ「・・・・レオンさん、爬虫類は大丈夫ですか?」
冷ややかな表情の堅物が答える直前、レオン達の前方の床が爆発した。
否、強力な力で無理矢理したから押し出したので弾けた、という方が言葉として正しいだろう。
毒ヘビ特有の三角にとがった頭。
妙な光沢がある意味で栄えて見える爬虫類特有の鱗。
そして巨大過ぎる体躯。
洋館事件においてジル達を苦しめた毒蛇のB.O.W.。
ヨーンと呼称された巨大蛇が舌を鳴らしながら獲物を探していた。
レオン「・・・・そういう事か」
レベッカ「・・・そういう意味です・・・・」
狭い廊下という圧倒的不利な体制での人間対巨大毒蛇の戦いの幕が今、切り落とされた。
356
:
飛燕
:2006/02/05(日) 22:31:42 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.82.104]
=甲板= 〜ジルチーム〜
がらんどうとした甲板に脳天を撃ち抜かれた死体と、3人の男女の姿があった。
彼等こそ、レオン達が合流すべき人物達である。
鳳鈴「でも・・・・まさか、船長室まで駄目だったとはね・・」
カルロス「こうなると・・・・生き残りは俺達だけだと考えるべきだろうな」
ジル「そうなると・・・・やっぱり船操室に向かうしかないわね」
船長も船員すらも蠢く幽鬼と化している今、このまま船を放置しておくわけには行かない。
港町に突っ込むとかならまだしも、コンビナートなんかに突っ込まれたら洒落にもならない。
カルロス「まぁ、船が操作出来るかどうかは、合流して来るだろう皆に尋ねりゃ良いだろ?とりあえず、こんな所でだべってないでさっさと先に進もうぜ?」
ジル「そうね・・・・行きましょう、鳳鈴」
先程から上をじっと見つめている女性に声をかけた。だが、何時まで経っても返事が来ない。
不審に思ったジルが再度、声をかける前に鳳鈴の口が開いた。
鳳鈴「・・・2人共、あのメインマストのところの・・・・何に見える?」
カルロス「・・・・剣、か?」
ジル「・・・・剣、ね?」
メインマストの手前辺りに<浮いて>存在する凶々しき姿をした大両刃剣が目にとまった2人は、訝しげな視線を送った。
それこそ、時空を飛び回り、そして自らの下僕を増やす為にこの場所、この時間を選んで空間転移して来たツルギ。
この世界において10世紀末まで語り継がれてきた魂喰らいの邪剣、ソウルエッジであった。
カルロス「おいおい、近代RPGの次はいよいよ勇者様のご登場ってワケか?」
何故か自分達の向かう所、謎解きやら仕掛け有りが多いのでRPGに見立てているのだろう。
鳳鈴「少なくとも、勇者が使うような剣じゃないのは確かね・・・・」
無表情に鳳鈴が邪剣に対する意見とカルロスへの突っ込みを述べた。
ジル「そうね・・・・何か、邪々し過ぎるもの」
カルロス「そいつぁ、言えてるな。どちらかというと、ありゃぁ魔王とかそういうのが使ってそうなものだな」
鳳鈴の鋭い視線を苦笑いで緩和させながら、カルロス達は何気なく視線を剣に視線を戻そうとした刹那、赤い何かがジルの前髪を掠めた。
ジル「!?」
カルロス「ジルッ!」
第2撃が来る寸前、カルロスがジルの脇腹に手をかけて一気に引き寄せた。と、同時に鳳鈴の手元でマズルフラッシュが奔った。
鳳鈴「赤いゾンビなんて・・・・見た事無いわね?」
それは全身の皮膚の染色体が赤色化しきり、爪が異様に長い腐乱死体であった。
但し、動きは並みのゾンビの動きよりも明らかに早いものだったが。
現に、鳳鈴のパラベラムは全弾が空を切り裂いて後方のブリッジの硝子に虚しく激突し、当たる筈のゾンビには一発も掠りもしなかったのである。
ジル「クリムゾンヘッドっ!?何だってこんな場所で・・」
カルロス「気をつけろ、鳳鈴!そいつぁ、リッカー並みにすばしっこいぞ!」
口から硫黄臭のような臭い黄色い吐息を出している化物の存在を知っていた2人は思わず顔を見合わせた。
鳳鈴「ご忠告どうも・・・・で、何時まで見せつけているつもり?」
ジル「へっ?」
言われて自身の今の状況を改めて確認してみた。
ジルを抱き寄せるように引っ張ったカルロスだったが、勢いが強すぎてそのまま転倒してしまったところまでは覚えている。
それは丁度、ジルがカルロスを押し倒したような状態に見えなくもなかった。
カルロス「・・・・ジル、幾らなんでも朝っぱらからヤろうなんて・・」
真面目な顔で中々質の悪いジョークを飛ばすのだから、された方にしてみれば怒らないほうがおかしいものである。
ジル「何を言ってるのよ!馬鹿っ!」
頬をやや赤らめながら、自分の持つサムライエッジのグリップでカルロスの横っ面を思いっきり引っ叩いた。
カルロス「ぐおっ・・・・・き、凶器は無しだろ?・・」
鳳鈴「漫才してる暇が有るのなら、こっちを手伝いなさい!」
爪を滅茶苦茶に振り回し、周囲のコンテナやら手摺りをバターのように切り裂いていく紅の幽鬼に銃弾を叩き込みながら鳳鈴が一喝した。
357
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:52:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃…
=上空=
ヘリが爆音を撒き散らしながらスペンサーレイン号を目指して飛んでくる。このヘリに刻まれた赤と白の傘のマークそして、機内にはある部隊が乗っている。
その名はオメガチーム、U.B.S.S.<アンブレラセキュリティサービス>の特殊工作部隊である。その主な目的は、アンブレラの幹部クラスの警護またはアンブレラに仇なす企業や組織の壊滅などである。
パイロット「あと3分で目標地点だ。」
パイロットが指示する、オメガチームの今回の任務はスペンサーレイン号に集結するS.T.A.R.Sの殲滅と『ソウルエッジ』とかいう剣の回収だ。
今まで、アンブレラを手を焼いてきた存在の一つであるS.T.A.R.S…今までB.O.W.や他の工作員を送り込んで何度も始末を試みたが、それも失敗に終わっている。
そして、そのS.T.A.R.Sの中でもレオン・Sケネディを初めとする主要メンバーが、この船に乗り込んだことを掴んだ上層部は、現会長レイリーの承諾を得て、U.B.S.S最強部隊のオメガチームの派遣を決定した。
しかし、一つだけ疑問の残る命令も共に下された。それは、『ソウルエッジ』という邪剣の回収である。それは前代未聞の命令だった…自分たちが今まで受けてきた命令は、敵対組織の要人の始末や会長を初めとする幹部達の警護のみ…そのような訳の分からない剣の回収しろなどと、上層部は一体何を考えているのか?
そのことに関する疑問は、あとで会長か社長のどちらかに直に問いただすしかあるまい…そう判断して、彼らは黙って任務を引き受けたのである。
そして…その部隊を取り仕切る男…『死神』の異名を持ち、仲間からも一目置かれ、恐れられる者…オメガチーム隊長ハンクがメンバーたちに向かって今回の作戦の確認をしている所だった。
ハンク「いいか。今回は我々にとっては史上初の海上での任務だ。作戦をもう一度確認する。
いまからちょうど2分後開始。俺とⅠⅩとレムレス、クラウドはスペンサーレイン号に潜入。目標はあくまでS.T.A.R.Sだ。B.O.Wとは極力戦闘を避け、船内の何処かにある『ソウルエッジ』を回収する。マタイとディートリッヒは上空に待機、甲板にS.T.A.R.S隊員を一人でもいれば即座に上空から攻撃し、射殺すること。
そして、我々の方は船内のS.T.A.R.S隊員を殲滅とソウルエッジを回収次第、謎のバイオハザードが発生しているスペンサーレイン号に爆弾を設置。5分以内に船内に格納されているボートを使い離脱。離脱した我々をマタイたちが回収する。以上だ。なにか質問は!?」
その時、この場にいる者たちの中で一際美しい顔をした青年……ディートリッヒと身の丈程ある大剣を抱えた金髪の兵士……クラウドが手を挙げた。
358
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:55:42 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ディートリッヒ「船内のバイオハザードレベルは?」
ハンク「船に発生した今回のバイオハザードは発生したばかりだが、船員は全てクリーチャーの餌食にされたらしく連絡がない。したがって詳しいレベルは不明なままだ。」
ディートリッヒ「了解。まったく、この前敵対勢力の一つを潰したばかりだってのに……僕達に休みはないのですか?隊長さん」
ハンク「S.T.A.R.Sやハイブのような敵対勢力の動きが活発になっている現状では、それはしばらく望めないだろう」
ディートリッヒ「そうですか」
ディートリッヒは肩をすくめ、ため息をつく。
ハンク「クラウド、お前は?」
クラウド「この任務の目的の一つであるソウルエッジ…俺達はそれに関する説明をほとんど受けていない……あんたは何か聞かされているのか?」
ハンクに対して、二人の態度はまるで人を舐めたような口の利き方に近かった。それは無理もない、オメガチームの隊員たちはハンクとレムレスとⅠⅩ<ウーヌス・イクス>、マタイを覗けば、実力を買われて雇われた傭兵のようなもの…特にディートリッヒ、クラウドの2人は前会長のオズウェルに特別な契約をして、関係上はあくまで対等な立場であることが条件とされているからである。
ハンク「俺もお前と似たようなものだ……ただ、今まで検出されたことのない特殊なエネルギーの源であり、それをものにできれば強力なB.O.Wの開発を安易に行えるようになるという以外の説明はされていない」
ハンク「他には?…よし、もう少しで到着する。降下準備!」
一同「了解」
ハンク (S.T.A.R.Sか…連中と直接やり合うのは初めてだが、アンブレラが何度も仕留め損なっている連中…そしてあのニコライが舐めてかかるなと言っていた程だ……果たしてどれほどのものか……)
ハンクは無意識のうちだが、この時既に予感していた。それは自分が今まで経験してきた闘いよりも大きな戦いの始まりであることも…
359
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:56:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、あの平行世界では…
陽は落ちて―――夜。中央駅のガード下にある居酒屋『あばんぎゃるど』からは、相模大生たちの笑い声が盛大に漏れ聞こえていた。
学生「はーい、注目! つーワケで―――ドイツから相模大の教育学部にやってきた、ノイエ・シュライヒャーさんでーす!」
奥の座敷でトレーナーのロン毛が言うと同時に、金髪の美女が立ち上がった。高い鼻にはバンドエイド。実は先刻、鷲士がなんとか怒りが静まった美貴と別れた直後、その鷲士の前を通りかかっていた彼女に、友人の学生から声をかけられた鷲士が振り返った際に、手に持っていたバッグを顔面に叩きつけてしまったのである。
ノイエ「……ノイエです。19歳です。お酒は飲めないので、よろしく」
メチャメチャ不機嫌そうに低頭すると、すぐに腰を下ろす。
鷲士「あの、ごめんね、ホントに。大丈夫?」
心配そうに声をかけた鷲士を、青い双眸がねめつけた。
ノイエ「……大丈夫じゃなかったわよ! いったいなんなのよ! この国の人間は前見がないの!? 大人も子供もガチンガチン―――それになに入れてるの、そのバッグ!? 鉛の塊!? すっごく痛かった―――当たり所が悪かったら、死んでたわよ!?」
鷲士「アハハ……ちょ、ちょっと知り合いの預かりもの入れてて!」
この気弱な笑いがまずかった。
留学生は青筋をクッキリ浮かべて、鷲士の襟を掴み、
ノイエ「アハハって……人にぶつかってなにヘラヘラしてるのよ……! 悪いことをしたって自覚がないの……!? これだから腹が立つのよ、日本人って……! 言いなさい、おかしいのは私の顔……!? それともあなたの頭かしら……!?」
鷲士「ぼぼぼ、ぼくの頭です、はい!」
殺意も露骨な剣幕に、鷲士は青ざめた。歓迎コンパやるからメンツを揃えよう―――そう呼び止められたのに、メインゲスト本人をブチのめしてしまったのだから、立場がない。ずっとこの調子である。
―――ノイエ・シュライヒャー。
それが、碧眼猛女の名前だった。
ベルリン大で神学と教育学を専攻。既に卒業資格を得ているというから、ある種の天才である。しかし机上の知識だけでは意味がないと、大学に籍を置いたまま、ボランティアや施設での活動に従事。日本にやってきたのも、この国のすさんだ教育の様子を実施で研究するのが目的だとか。確かに美貴が心配するほどの美女だが―――出会いがこれでは、万が一にも、いい関係になることはあるまい。手を握ろうとしただけで殺されるのがオチだ。
360
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:57:20 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
やがて身内の会話も落ち着いた頃、今日の幹事・青木が、
青木「でもさ、ノイエちゃんって、ホントに日本語うまいよな!」
ノイエ「……祖母が戦後の混乱期に、この国にいたので」
目を閉じ、淡々と、ノイエ。人を寄せ付けぬ雰囲気だ。
今度はパソ研の後藤が、汗を拭きつつ、
後藤「あの、ノイエさん、雪肌つーかさ、ホントに真っ白だよね!」
ノイエ「……白人だから」
さらにさらに相撲部の三船が、慎重に言葉を選んで、
三船「えっと……だから、その……目が青いよな、うん!」
ノイエ「……黒い方が良かったかしら?」
そして最後に鷲士が、きわめて遠慮がちに、
鷲士「アハハ……でも、奇麗だね、その髪飾り。バレッタって言うんだっけ?」
ノイエ「……あなたには絶対にあげないわよ」
―――ヒュ〜
飲み屋の中だというのに、妙に薄ら寒い風が、彼らの間を横切った。場が凍てつくとは、まさにこのことである。
やがてノイエがため息混じりに、
ノイエ「……アオキさん? そろそろ話を聞かせてもらえる?」
青木「えっ? な、なんのことだっけか?」
ノイエ「……フェイスよ。ダーティ・フェイス、顔のない男。あなた、彼についてなにか知ってるんでしょう?」
この言葉に、二人の男が凍り付いた。
1人は、草刈鷲士。もう1人は―――当の青木だ。
青木「う、ご―――ごめん! へへへ、実は俺も大したネタ持ってるワケじゃなくてさ!」
ノイエ「……なんですって?」
青木「えっと……ほら、ウチの図書館って、妙に新しいだろ? あれってちょっと前に、深夜にサイコ野郎が車で突っ込んできて、銃やバズーカ撃ちまくって粉々にしちまったからなんだけどさ。海外じゃ有名な連中の抗争って話もあって、あとでケーサツが聞き込みに来て。その時に刑事の口から出たのが―――」
ノイエ「……ダーティ・フェイス? 改造された黒いランボルに、背の高い男? その話なら知ってるって言ったはずだけど? まさか、それだけ?」
怒りを押し殺した眼差しで、ノイエは言った。
ああっ、すいません、僕が私本を持ち出したのがいけないんです―――と小声で煩悶する鷲士の横で、青木ははぐらかすように、
青木「ご、ごめん! でもさ、そうでも言わないと、来てくれなかったろ? とりあえず、今はンなことどうでもいいじゃん。パーッと―――」
静かに言うと、ノイエ・シュライヒャーは立ち上がった。
美貌が怒りと軽蔑で染まっている。
「……連日のバカ騒ぎに、意味があるとは思えない会話。平気でウソをつくその軽薄さ。あなたたち、本当に大学生? いつもヘラヘラ笑ってるのはなに? 民族的な画面神経痛? 日本人はそれでいいかも知れないけど、わたしはお断り。 1秒たりともこんな場所にはいたくないわ。さよなら」
吐き捨てると、パンプスを履き出し、出口へ。
ガラガラガラ―――ピシャ!
これには、残された全員が呆気にとられた。
361
:
暗闇
:2006/02/06(月) 22:57:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
青木「……す、すげえな。麻当を越えてるぜ、ありゃ」
後藤「麻当は普段はクール―――不条理攻撃は草刈相手のときだけだからな〜。しっかしウチのガッコのいい女って、なんで尖ってるのばっかなんだろーね?」
三船「あれは露骨に日本人に偏見持っているよなぁ」
揃ってため息である。
だが、すぐに顔を上げることになった。
―――ガラガラガラ。
引き戸を開け、ノイエが戻ってきたのだ。碧眼の美女は、やはり露骨に不機嫌そうに、
ノイエ「ちょっと、あなた―――シュージって言ったかしら?」
鷲士「ぼ、ぼく?」
青い顔で立ち上がる青年に、ノイエは重々しく頷いてみせた。
362
:
藍三郎
:2006/02/11(土) 14:46:07 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
・・・ここで時は、昨日の深夜へと遡る・・・
女「はぁ・・・はぁ・・・」
人気の無い夜の通りを、息を切らせて走る人影がいた。
年齢20代後半程度のOLらしき女性である。
彼女は何かから逃げるように、絶えず背後を気にしながら夜道を駆け下っていた。
その顔はいびつに歪んでおり、何か尋常ならざる物への恐怖で満ち満ちていた。
残業で遅くなった彼女は、家への近道であるこの人気の少ない通りを歩いていたのだが・・・
そこで彼女は、“恐るべきモノ”を目撃してしまった。
この現代に生まれ出でるはずが無い、異形の存在。
“それ”は、明確な殺意を持って、彼女に襲いかかって来た。
今彼女は、その“恐怖”から必死で逃げているのである。
女「・・・?」
無我夢中で走っていた彼女だが、ふとここで違和感を覚えた。
先ほどまで自分を追っていた者の足音が、聞こえなくなったのだ。
ここまで逃げればもう大丈夫か?心の中にかすかな安心感が芽生えたその時―――
???「グォォォォォ!!!」
獣じみた唸り声と共に、“それ”は女の正面に飛び降りてきた。
うまく逃げおおせたつもりだったが、どうやら回り込まれたらしい。
女「きゃぁぁあぁぁぁあああぁぁ!!!」
追跡者の姿を再度目にした女性は、あらん限りの悲鳴を上げる。
“それ”は、蝙蝠を人間サイズにしたような化け物だった。
この怪物こそ、4年前に世界を危機に陥れ、
今また現代に蘇った不死生物・アンデッドの一体、『バットアンデッド』だった。
腰を抜かした女性を標的に定め、バッドアンデッドは一歩一歩近づいていく。
女は逃げようと思うも、全身を包む恐怖で身動き一つ取れない。
新たな犠牲者が生まれようとしたその時・・・
バァン!!
静寂の夜に、一発の銃声が鳴り響いた。
それと同時に、バットアンデッドの体に火花が散り、肉の一部が弾け飛ぶ。
バッドアンデッド「!!?」
予期せぬダメージを喰らい、うろたえるバットアンデッド。
銃声がさらに三発轟く。
銃弾は、性格無比にアンデッドの頭部、胸、翼を射抜いていく。
さすがの不死生物でも、耐えきれぬほどのダメージを受け、バットアンデッドは大きくよろめく。
一陣の強風が、あたりを駆け抜ける。
それと同時に、女性とアンデッドの間に“何か”が割って入ってきた。
それは、血のように赤い、真紅の布のような物体・・・
いや、正確には紅いマントを身に纏った“何者か”だった。
俊敏な動きと共に、マント風がなびく様は、
闇夜に彷徨する幽霊(ファントム)を彷彿とさせる。先ほどアンデッドを銃で狙撃したのは、この“紅い幽霊”である。
紅い幽霊は、身に纏ったマントの隙間から、再度数発銃を発射する。
追撃の銃弾を浴びせ、アンデッドの動きを完全に封じる。
そして、幻影のようにアンデッドに殺到すると、
真紅のヴェールで敵の体を包み込む。
そして、敵手を包んだまま、月が昇る夜空へと飛翔して行った。
二つの怪奇なる者たちが去って行った後・・・
この場には、恐怖と驚愕で緊張の糸が切れたままへたりこんでいる女性と、静寂だけが残された。
363
:
藍三郎
:2006/02/11(土) 14:47:12 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
そして、この事件の数分ほど後・・・
とある建物の屋上に、一人の男が立って夜風をその身に受けていた。
肩まで伸ばした黒い髪と、身に纏った真紅のマントが風になびく。
年は20代ごろ。まず美男子と呼べる顔つきをしていたが、
その瞳は血のように赤く、人を寄せつけない冷たい雰囲気を身にまとっていた。
男は先ほどからずっと、手にした一枚のカードを目にしていた。
表面に絵が描かれた、トランプ大のカードである。
不気味な蝙蝠の絵が描かれており、スートはダイヤの8である。
やがて、男はカードを懐にしまい、代わりに携帯電話を取り出す。
???「タチバナか・・・私だ。
指示通り、ダイヤのカテゴリー8“バットアンデッド”を捕捉・・・再封印に成功した。
これより回収したラウズカードをお前の元に送り届ける」
“ターゲット”撃破の報告を、電話の向こう側の相手に送る。
???『ご苦労。夜分遅くにすまなかったな。
位置的に、志村たちを向かわせるより、お前に動いてもらう方が確実だったのでな』
???「気にするな。これも契約の範囲内・・・
私としては、報酬さえ支払ってくれれば何も問題ない」
???『ああ。約束の報酬はすぐに、指定の口座に振りこんでおく』
???「わかった・・・」
簡潔に要件のみを伝えた後、電話を切る。
そして、夜の闇へ包まれた街なみへと目をやる。
夜はいい。ほどよい闇と静寂が、自分の心を落ち着けてくれる。
しばし夜風に当たっていたかったが、回収したカードを依頼主の元へと届ける仕事がまだ残っている。
携帯電話をカード同様懐にしまいこむと、
謎の傭兵・・・『ヴィンセント・ヴァレンタイン』は
真紅のマントを翻し、月明かりが残る夜空へと飛び立って行った。
364
:
ゲロロ軍曹
:2006/02/11(土) 15:53:19 HOST:p4173-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
ちなみに・・・
=小津家・魔法部屋=
時音「う・・・、ん・・・。」
頭を抑えながら、ゆっくりと起きる時音。
時音「私・・、どうしてたんだっけ・・?」
そう言いながら、今日の出来事をゆっくりと思い出す。そして、思い出した。あの紫色の甲冑の魔導騎士『ウルザード』という奴に完膚なきまでに敗北した事を・・。
時音「!そう・・だったよね・・。でも・・、ここは・・??」
周りを見渡すと、どことなく洋風な感じの部屋だった。多くの本棚に、年代物の机。しまいには、5つの箒まである。と、その時・・・
?「おっ、ようやくお目覚めでござりますですか〜?」
時音「・・?」
後ろから声がしたので振り返ると、顔のある奇妙な植物がしゃべってた・・。
365
:
ゲロロ軍曹
:2006/02/11(土) 16:21:23 HOST:p4173-ipad01okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=藤堂家・立花の部屋=
藤堂家の長女で、優秀な頭脳の持ち主である女子中学生の立花。そんな彼女は、ふと眼鏡を外して、ため息をついていた・・。
立花「・・まさか、いつもの通学路を歩いてて、『あんた』みたいな非常識極まりない奴と出会うなんてね・・。正直、驚いたわ。」
?「(むかっ)どういう意味だよ、それは?まるで俺が厄病神みたいな言い方じゃねえか。」
立花「あら?自覚があるわけ??」
?「・・けっ。悪かったな・・。・・だがまあ、確かにすまねえとは思ってるよ・・。」
立花「・・・?」
?「・・俺達の勝手な都合で、お前ら人間を巻き込んでる、ってことをだよ・・。まったく、何で『王を決める戦い』が、こんなシステムなんだよ・・。」
そういいながら愚痴るのは、鳥かごに入ってる鳥であった・・。
立花「・・確かに、ね。でも、驚いたわ。『バル』がそーいう事を考えてたなんて。」
意地悪な笑みで立花はその鳥に向かって言った。
?「(かちん!)てめえ!バルっていうんじゃねえ!!俺の名前は『バルモース』だっ!!(怒)」
立花「いいじゃない。バルモースなんて名前、はっきりいってダサいわよ?」
バルモース「!??」
『が〜ん!!』というBGMが流れながら、立花の言葉にショックを受けて一人へこむバルモース・・(汗)。
立花(・・やれやれ。こーいうのも、『運命のめぐり合わせ』・・っていうものかしら?)
立花はそう考えながら、手に持ってるエメラルドグリーンの色をした変わった『本』を見つめ、今日の帰りでの出来事を思い出した・・。
366
:
暗闇
:2006/02/21(火) 22:53:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、
=スペンサーレイン号・甲板=
鳳鈴「……次から次に…しつこいわね」
鳳鈴が舌打ちして、散弾銃<ショットガン>の引き金を引くと、目の前の紅き幽鬼<クリムゾン・ヘッド>の頭が盛大に脳髄をぶちまけながら吹き飛ぶ。
飛び散ってきた肉片の一部が服に着いており、払い落としたいのだが、数匹現れた新手のクリムゾン・ヘッドが素早い動きで迫ってくるので、そんな暇もない。
素早い動きを武器とするこの紅きゾンビには拳銃<ハンドガン>などから放たれる単発の銃弾ではまず命中しない。しかし、散弾銃は、その実包<ショットシェル>がプラスチック製のケースと金属製のリムで構成され、ケースの中にはあらかじめ多数の小さな弾丸(散弾)が封入されており、銃口より種々の角度をもって放射状に発射される。その為、攻撃範囲が非常に広く、クリムゾン・ヘッドのような素早い動きを誇る敵にも命中しやすく、至近距離から撃てば人間の一部分を完全に木っ端微塵にしてしまう程の威力がある。このようなゾンビたちの活動を完全停止させるには、体の大部分の重要器官を破壊し尽くすか、頭…即ち思考の源である脳吹き飛ばしたりをしなければならないので、有効武器の1つなのである。
ジルたちはそれを用いて、また一匹、また一匹と確実に赤い腐乱死体を仕留めていく、そしてクリムゾン・ヘッドが散弾銃によって大きな銃撃音と共に粉砕された。
カルロス「まったく人気者はつらいねぇ……あちらさんもなかなか休む暇も…」
カルロスが愚痴りながら、引き金から指を放そうとした時、
ジル「休憩はまだ先みたいよ」
ジルの一声と共に、銃を構え直すと鈍い動きながらこちらに迫ってくる腐乱死体の群れが…
「もう勘弁してくれよな」とカルロスが一発ぶちかまそうとしたその時、
ババババババババ
爆音と共に、自分たちの頭上を影が覆った…上を見上げると一機のヘリが頭上を旋回していた。
しかも、それは民間用ではなく、明らかに軍用の代物だ。ということはここで何が起きているかと察知しているのか?いや、ここで何が起きていると分かっているということはまさか…と悟りきる前にヘリに描かれた赤と白の傘のマークが教えてくれた。
カルロス「ずらかれっ!!」
カルロスの一喝を訊くまでもなく、二人の女たちも走り出したその瞬間に、ヘリに搭載されたバルカン砲が火を吹いた。
それは腐乱死体共を人が瞬きするほどの時間の内に肉塊に変え、放たれる弾丸はそのまま3人の男女に放たれようとしたが、既に彼らはバルカン砲では射殺不能の船内に逃げ込んでいた。
367
:
暗闇
:2006/02/22(水) 00:36:24 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=ヘリ・機内=
ハンク「仕留め損なったか…」
ヘリの助手席から甲板を見下ろしているハンクは舌打ちした。
パイロットは申し訳ないと謝罪するが、敵を仕留め損なった彼を責めもせず、ハンクは次の指示を出した。
ハンク「いい、どうせ作戦は変更だ。船に乗り込む執拗が無くなったからな。」
ハンクはメインマストの手前辺りに堂々と浮いて存在する凶々しき姿をした大両刃剣に目を向けていた。その剣の姿形は渡された資料の内容にピッタリと一致している。間違いない…あれがソウルエッジだ。
ハンク「メインマストにヘリを寄せろ。ソウルエッジを回収する。
その後、ミサイルで船ごとS.T.A.R.Sを葬る。以上だ」
パイロットは肯定すると…ハンクは助手席から離れてメンバーたちと顔を合わせる。
ディートリッヒ「まさか、お偉方の欲しがっている物があんな目立つ所にね、気が抜けちゃったよ」
クラウド「しかし、得体の知れない剣だな。直接触れるのは危険か…」
???「肯定<ポジティブ>。 あの剣からは今まで検出されたことのない未知の高エネルギーが発生していることはセンサーにも感知されています。直に触れれば、人体に深刻な影響を及ぼす可能性は極めて高いとされます」
アンブレラのマークが刻まれている軍服を着た小柄の青年……ⅠⅩという男が無表情で答えた。
???「となると、隊長…あれをどうやって回収するつもりで?」
穏和な声で、訊ねてきた同じ軍服を着た青年であるマタイにハンクは近くに置いてあったアタッシュケースを手に持って、それを開くとその中身にある物を彼らに見せた。
一同の視線が集中するその先には2丁のグレネードランチャーと、弾頭が青く塗られた擲弾が6つ収められていた。
ハンク「この2丁の銃は唯のライフルグレネードランチャー(小銃の銃身下部に装着し、専用の擲弾を発射する。)だ。しかし、重要なのはこの弾だ。これは元々、宇宙警察がエネルギー生命体のアリエナイザーを捕獲する為にアーカムシティの魔術理論を応用して開発されたものだとのことだ。詳しい原理は俺もよくわからないが、目標のエネルギーに触れると、弾丸が破裂し、詰め込まれていた術式のエネルギーがそのまま目標を固体化し、氷のように固めてしまうらしい」
ディートリッヒ「ほう…それはすごい。そんなものよく手に入れられますね」
ハンク「入手経路に関しては、極秘だそうだ。我々はただ任務をこなすだけだ」
だから余計な詮索はしないようにと、ハンクは部下達に釘を刺して話を再開する。
ハンク「これは本来、船に乗り込んだ俺とクラウド、ⅠⅩ、レムレスが2チームに別れ、手分けしてソウルエッジを捜索する為に2丁、6発用意された物だが……もはや知っての通り、そうする必要はなくなった。Ⅰ<ウーヌス>」
ハンクはそのⅠⅩを呼ぶと、彼がアタッシュケース内のグレネードランチャーを黙って手に取り、それに擲弾を込める。
ハンク「1発でやれ。いいな」
ⅠⅩ「肯定<ポジティブ>」
ⅠⅩはドアを開けると、十数m先のメインマストに浮く邪剣が姿を現す。
ⅠⅩは邪剣に銃口を向け、
ⅠⅩ「ターゲットロック…ファイ…」
その瞬間<とき>だった。邪剣が突然光り輝きだし、一同の視界に歪みが生じたのは……
368
:
飛燕
:2006/02/24(金) 23:07:55 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.84]
=異世界 某宇宙空間=
空は星々で埋め尽くされていた。
と、いうより星と星との間隔にかろうじて空が残されている。
そういいたくなるほど、宇宙は星々の明光で満ちていた。
それらの降りそそぐ中に少女がひとり佇んでいた。
黒と白をベースにしたケープを身に纏い、桜の花びらのように淡いピンク色の髪と紅玉をはめ込んだ髪飾りをつけた12〜3歳頃の少女である。
まだ、あどけなさと歳相応の初々しさが残った可愛いらしい容姿の彼女は、ここ星団連邦ミルチア州を拠点とする特殊財団の所有する巨艦「クーカイ・ファウンデーション」に居た。
一応、武装はしているが決して戦闘を専門とした戦艦ではない。
財団なだけに倉庫ブロックを主体としており、兵装したAnti Gnosis Wepon Systemこと通称A.G.W.Sも余り積み込んでいない。むしろ、居住区の方が多いくらいである。
ちなみに彼女が居るのは、その居住区の中にある大きな公園。
遊具は余りないものの、その無駄にだだっ広い草原は人工の芝とはいえ何処か懐かしさすら感じさせる。
更に特筆すべきは、ここの真上がちょうどこの船の天窓に位置するのである。
大きな草原と対称的に大きな天窓は、本当に吸い込まれそうなほど美しい情景を見せてくれる。
天窓から見える広大なる闇と鏤められた煌びやかに輝る金平糖を彼女が眺めてから5分も経過していない、そんな頃である。
???「あら?おはよう、MOMOちゃん。どうかしたの?」
背後から聞き慣れた声がした。滑らかで、同時に音律ゆたかな声の女性特有のモノである。
振り返ってみると、栗色の髪の毛と黄土を基調とした服が実に良く合う眼鏡をかけた知的な女性と晴蒼な髪と大きめのバイザーをつけた紅蓮の瞳を持つ女性がそこに立っていた。
MOMO「あ、お早う御座います。シオンさん、KOS−MOSさん」
KOS−MOS「お早う御座います、MOMO」
無表情で機械的な返事と軽い会釈で挨拶を交わしたアンドロイドは、再び口を閉口した。
シオン「お早う、MOMOちゃん。それで・・・・どうかしたの?こんな所で星空なんか見て?」
MOMO「あ、いえ・・・・なんとなく、見たかったから来てみただけです」
なんとなく余所余所しくて何か隠してるような気がしたが、直ぐに気のせいだと考えたシオンは問い詰めようとはしなかった。
が、アンドロイドは機械的論理に追従な為か、その曖昧な箇所への突っ込みは厳しかった。
KOS−MOS「MOMO。先程、シオンと挨拶を交わされた際よりも明らかに心拍、脈拍共に14〜5ずつ上昇しています。体温の僅かな上昇も見受けられており、これは動物学的用語によれば典型的な嘘をついている人間と断定・・」
シオン「KOS−MOS!」
それ以上の言及を許さなかったシオンは直ぐに止めに入った。
KOS−MOS「?・・・シオン、何ゆえに止めるのですか?この場合、言い渋るMOMOに非があるかと思えますが?」
MOMO「あ、あの!しゃ、喋りますから・・・・KOS−MOSさん、あんまりシオンさんを責めないで下さい」
慌ててMOMOは、2人の間に割って入った。
と、いっても、一方的な会話なのだが・・・。
シオン「そ、そう?・・・・それで、MOMOちゃん?改めて聞くけど、何かあったの?」
MOMO「・・・・上手く言えないんですけど・・・・誰かに呼ばれた気がしたんです・・」
KOS−MOS「誰か、とは曖昧な発言ですが・・・・声紋的に判断して、このクルーの者では無いのですか?」
MOMO「多分・・・・違うと思います・・」
やや自信なさげにMOMOは答えた。
鮮明な答えが出難く、歯痒い思いをしているのだろう。
言い喩えれぬ苛立ちに顔を歪めているのがその証拠である。
369
:
飛燕
:2006/02/27(月) 22:35:06 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.157]
――なんてこった!――
平静になれ、と頭の中で思い続けているのだが、どうにも心臓の方はそんな命令聞く耳持たぬらしい。
段々とテンポ良かった律動が徐々に速くなりつつある。
――これは・・・やっぱり、俺の常日頃の行いが良いから神様がご褒美をくれたに違いない――
一方で、また「ちび様、まぁた無駄遣いしてはって!」と言われるのが落ちだ、だから今回はやめておけという自分も居る。
だが、今ここで退いてしまっては何時また巡り逢えるか分からないぞ、という自分も居るのだ。
立体映像から繰り出される実寸大の映像を掴もうとしたり、そうかと思えばいやいやと踏み止まる事の繰り返しをさっきから20分も続けてしまっている。
人が見れば、なんとも滑稽に見えるだろうか。
だが、なんと思われようがこればっかりは譲れない。
譲れないのだが・・・。
しばらく腕組みを続けていた。
そして、清水から飛び降りるつもりで俺は操作パネルに手を伸ばした。
自分のIDとパスを入力し、躊躇いながらも押した。
Jr.「購入、と・・・・」
材質はステンレス。
弾薬は44マグナム弾のそれよりも巨大な454カスール。
圧倒的破壊力を生み出す分、それに合うシリンダーの強度がなくてはならない。
よって、装弾数が5発までとなっているが、断然威力が並みの古式銃の比ではない。
大型拳銃の代名詞、フリーダム・アームス・カスールの映像の下に小さな文字で「購入しました」というJr.を喜ばせる文字があった。
Jr.「ひゃっほぅ!とうとう買っちまったぜ!」
やったやったと小躍りし、大きくガッツポーズをとった。
誰が見ても嬉しそうなジェスチャーを、クーカイ・ファウンデーションの某居住区ブロックのど真ん中で恥じらいもなく行なえるのは余程、嬉しかったからだろう。
周囲の人々も思わず、苦笑してそのまま通り過ぎて行った。
約一名を除いて。
???「あれ?Jr.君?・・・何をしてるの?」
ふと、背後からなんとも頼りなさ気な声がかけられた。
振り返ってみるとそこには、なんとも弱弱しくおどおどしていて、挙動不審という言葉に足が生えたような知り合いが立っていた。
Jr.「お、アレンか?聞いてくれよ・・・・遂に、俺のコレクションに大型拳銃が加わるんだよ♪」
物凄く機嫌良く話しかけてくるJr.に愛想笑いを浮かべつつ、アレンは話を切り出した。
アレン「そ、そういえば・・・・Jr.君。主任を見かけなかったかい?」
彼が主任と呼ぶ人物は2人とて居ない。とりあえず、今日はまだ見ていない、という事実を伝える事にした。
370
:
飛燕
:2006/03/06(月) 23:20:37 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.81.157]
アレン「そ、そうかぁ・・・・あ、それじゃあ、僕はこれで・・」
大した収穫もなかったし、彼と話す話題も無かったのでアレンは早々に話を終わらせた。
小走りにその場を去ろうとしたアレンであったが、直ぐにJr.が制止した。
Jr.「え、あ、おい!アレン、前っ!?」
走ろうとした寸前で止められたので、ついつい顔だけJr.の方に向けて止まろうとはしなかった・・・否。
所詮は普通の人間、というか大抵の人間は物理法則に則って行動を制限されている。
無論、アレンとてその範疇を逸してはいない。
前方から、アレン達の姿を見つけて此方も小走りでやって来た人物と顔を合わせる前に正面衝突してしまった。
アレン「おわっ!?」
???「っ!?」
一瞬、何が起きたか理解できなかったアレンだが、ぶつかった拍子に来る筈の衝撃が何時まで経っても来ない事だけは分かった。
???「・・・大丈夫かい、アレン?」
次に、分かった事はその理由がぶつかった相手がアレンの手を強く引っ張っていたからだと言う事である。
アレン「え?あ、いや・・・・あ、うん」
その次にようやく、自分に非がある事と助けてくれた相手が知人だという事、自分の後方でJr.の溜息が聞こえた事を理解した。
アレン「あ、有難う・・・・ケイオス君」
自分より背の低い男の子に、引っ張り起こされるというのは大抵の男なら腹を立て、怒りだすだろう。
が、そこまでの度胸と考えに行き着く程、アレンの性格は荒れたものでもなく、また複雑な思考回路を持ち合わせていなかった。
Jr.「ったく・・・だから、前っつったのに・・・」
アレン「い、いや・・・おい!って言うから、てっきり呼び止められたと思ったから・・・ぶつぶつ・・」
ケイオス「まぁまぁ、Jr.・・・幸い、大した怪我も無かったから、良いじゃないか?」
何処かミステリアスな雰囲気をかもちだす、褐色の肌の少年はころころと笑いながら割って入った。
371
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:51:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界=
鷲士「ハハハ、漢字読めないなら、最初にそう言ってくれればいいのに。あのね、寮のある三鷹駅は、3番線の電車に乗って、3分ほどで―――」
と券売機から切符を抜いた鷲士だったが、振り返って凍り付いた。怒りで血走った青い双眸と、目が合ったからだ。ノイエは切符を受け取りながら、唇をひん曲げ、
ノイエ「だから、なにがおかしいのよっ……!」
鷲士「いやっ、別にきみを嘲笑ったワケじゃなくて……!」
ノイエ「漢字が読めないと、そんなに変なの……!? だいたいヒラガナとかカタカナとか……どうして表記がこんなにいくつもあるのよ! 英語もカタカナにコンバートして使うし! 先進国なら、文字くらい統一したらどうなの!」
鷲士「ごごごっ、ごめんなさい! 許してください!」
―――総武中央線・風苅町駅構内。
ノイエは、改札を顎でしゃくると、
ノイエ「ヒトの鼻を折りかけた罰―――最後までエスコートしてもらうわよ!」
鷲士「う、うん。こっちだよ。あ、これは自動改札って言って―――」
ノイエ「分かってるわよ、それぐらい! バカにしないで!」
万事がこの調子―――かけた言葉にすべて食らいつくので、たまったものではない。さすがのお人好しも口をつぐみ、黙々とホームへの階段をのぼった。
だが―――階段を上りきる寸前、鷲士は唐突に立ち止まり、
ノイエ「キャッ!」
しゃがみ込んだノイエの頭上を、鷲士の抱える黒いボストンバッグの角がよぎった。妙に辺りが静かだったせいで、風を切る音がしっかり聞こえたほどだ。
鷲士の額から汗が一筋―――ノイエは目を細めて一段ほど後退り、
ノイエ「あなた……まさか……事故に見せかけてわたしを殺す気……?」
鷲士「ごっ、誤解だよ、誤解! なんていうか、その、知り合いに、護身用にって無理やり持たされてて! 悪意はないんだ!」
ノイエ「ご、護身用? まあ、確かに撲殺できそうな感じだったけど……でも近寄らないでっ。あなたと関わってると、ひどい目にあいそうだわ……!」
不審そうな眼差しで言い、ノイエは鷲士を避けるように前に回った。青年も刺激しないようにと、慎重にあとに続く。
夜のホームに、人影はなかった。
風苅町駅は2ホーム構成である。東京・御茶ノ水方面の1番線2番線、三鷹・国分寺方面の3番線4番線という具合だ。そして2人は気まずいまま、3番線のホームに立った。おだやかな微風が、構内を横切っていく。
やがて鷲士が、恐る恐る、
鷲士「あのぉ……」
ノイエ「……なによ」
鷲士「いえ、なんでも……」
ボケ青年は、冷や汗タラタラで、顔を戻した。
―――彼はすぐに眉をひそめ、左右を見渡した。
他に客の影がない。しかしホームの時計は午後9時を指していた。風苅町は、大学と飲み屋を除けば、事実上のベッドダウン―――この時間なら降りる客の方が多いとは言え、むしろそれだけに、本来は騒がしいはずである。
……まさか、ね。
嫌な予感を拭い去るように、鷲士は今度こそ、
鷲士「あ、あのさ、訊いていいかな?」
ノイエ「……なによ、さっきから」
鷲士「いや、その……だからね、さっきから青木たちにさ、ダーティ・フェイ―――」
ホーム両端の証明が、唐突に消えた。
ノイエ「え……?」
ノイエが目を細め、顔を上げた。
それが合図になったかのように、動揺する金髪の美女を尻目に、ライトは次々に消え始めた。階段脇、自販機の傍―――闇が周りを取り込んでいく。
最後まで残ったのは、2人の頭上の蛍光灯だけであった。
―――意図的なライトアップ。誰かの仕業だ。
372
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:52:36 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???「プシュー」
またも擬音を口にしながら、暗がりから人影が浮かび上がった。
音ではない。闇が言ったのだ。高めの声だった。
鷲士、ノイエ、2人の顔から、血の気が引いた。
???「プシュー」
またも擬音を口にしながら、暗がりから人影が浮かび上がった。
―――赤いニットキャップの若者である。
少しくすんだパーカー、厚いバスケットシューズ―――渋谷や上野の駅前には、掃いて捨てるほどいるタイプだ。背は170半ば。顔もこれといった特徴がない。手にしているのは、汚れた鉄パイプである。
???「プシュー」
立ち止まると、表情を変えず、若者は言った。
スプレイ「おれ、スプレイ」
鷲士「は、はあ」
スプレイ「プシューっつーのが口癖でさ。まあ、スプレー・アートやってるってのもあって。ほら、廃ビルや倉庫の壁とかに、ガーッて感じで文字がペイントされていることもあるだろ?あれさ。あだ名ってワケ。名前を訊くには、まずは自分からって言うし」
親しげな口調で一方的に告げると、スプレイとやらはノイエを見た。
スプレイ「あんた、ノイエ・シュライヒャーさん?」
ノイエ「……そ、そうだけど?」
スプレイ「そっか。じゃあ、死ねよ」
―――スプレイの背後で、いくつものマズルフラッシュが炸裂した。
雨あられと弾丸を受け、一帯の構造物が粉々に砕けた。アルミ製のゴミ箱、柱は言うに及ばず、床のコンクリ自体が削り抉られていく。手前の自販機は穴だらけになり、盗難防止用ブザーが悲鳴を上げた。鉄板の隙間から、炭酸水が漏れ広がる。
闇に浮かぶ黒ずくめの戦闘員たちの姿―――彼らの仕業である。
スプレイ「……やるじゃんか。すっげー反射神経。冗談みてー」
呟いたスプレイの視界に、鷲士たちはいなかった。
2人がいたのは、少し脇に逸れたベンチの陰である。
気違い沙汰の銃声の中、呆気にとられたように、ノイエは敵の軍団と、自分を抱えてここまで瞬時に跳躍したボケ青年―――鷲士を見比べた。
ノイエ「シュ、シュージ……あなた……いったい何者」
鷲士「そ、そんなことよりさ、あいつらってやっぱり―――」
―――プルルル!
鷲士の懐で、突然、携帯が騒いだ。どこぞのハイテクちび魔王に貰った―――もとい無理やり持たされた―――ものだ。慌てて引き抜き、スイッチを入れる。
鷲士「もっ、もしもしっ?」
美沙『あ、鷲士くん? わったしっだよォ〜!』
小さなモニタに顔が映ったものの、映像は一瞬で掻き消えた。雰囲気をブチ壊すほどコロコロした声が、ノイズ混じりに聞こえただけだ。
鷲士「み、美沙ちゃん? あのね今―――」
美沙『あれれ、電波状態悪いのかな。ま、いいや―――えっと、わたしね、今タカちゃんちからの帰りなの。でぇ、ついでにコンビニ寄ろうと思って。何か買ってく?』
鷲士「えっ? ど、どうしたの、急に?」
美沙『だってぇ、鷲士くんいろいろ忙しそうだし。エジプトの件では入院もさせちゃったし……罪滅ぼしってワケじゃないけどさ。悪かったと思って。だからね、わたしもね、ちょっとは家のこと手伝おうかなー、なんてさ。テヘヘ』
……じぃ〜ん。
なんていいコなんだ……!
鷲士は心の中で泣いた。いや、本当に泣いていた。
373
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:53:20 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「じゃ、じゃあね、タマゴ1パック―――」
ノイエ「なに頼んでるのよ、こんなときに!? シュージ、あなた頭おかしいんじゃないの!?」
ノイエの怒号と共に、銃撃も勢いを増した。
しかし怒ったのは、金髪の美女だけではなかった。
美沙『ちょっ―――なによぉ、今の!? 女!? 美貴ちゃん以外はダメって言ったのに―――しかもシュージって呼び捨て!? こらあっ、どーゆーことォ!?』
鷲士「は? いや、今、妙な連中に囲まれてて―――」
美沙『場所は叢雲で―――よぉーし、分かった! 待ってなさいよぉ、今行くから! 待ってないとひどいんだからね、鷲士くん!』
鷲士「いや、ちょっと聞いてよ! だから誤解だって―――」
―――ブツッ。
鷲士は青ざめた。じきに起こるであろう、メチャメチャな破壊劇に。
そして―――唐突に銃撃がやんだ。
スプレイ「……出てきなよ、ノイエ。それとも、そのおかしな兄ちゃんも一緒に殺しとくか? あ、言い忘れたけど、おれ、ミュージアムだから。そのつもりよろしく」
スプレイの茫洋とした台詞が、ノイエを動かした。
金髪の美女は、きっかり深呼吸を3回。おもむろに立ち上がると、
ノイエ「シュージ、あなたは逃げてっ……!」
鷲士「え……ええっ!? ちょ、ちょっと、ノイエ!?」
ノイエ「こいつらはね、一片の土器のために都市をも滅ぼす、狂的な歴史遺産回収集団……その名をミュージアム……! さっきのは礼を言うけど……まぐれは二度も続かないわ……! 鼻の貸しは返してもらったから、あんたは逃げなさいっ……!」
敵を睨みながらの言葉だった。本気で自分が犠牲になるつもりなのだ。
―――不可解なことが起こった。
スプレイ「そうだな。いいよ、あんた行っても」
スプレイは頷くと、鉄パイプで奥の闇を指したのである。
経験上、鷲士は眉をひそめた。ミュージアムが、こんなまともなことを言うはずがないからである。しかし彼の疑問を、敵が勝手に解消した。
スプレイ「あのさ、おれらのホントの目的って、金髪の命じゃなくて、頭に付けてるそのバレッタなんだよ」
鷲士「バレッ……タ? ノイエの?」
スプレイ「まーね。でもさ、渡してくれそうにないし。交渉って手もあるけど面倒くさいじゃん? おれって、面倒なのキライなんだ。だからさ、あんた言ってもいいよ。人間1人殺すのって、けっこー手間かかるしさ」
生と死は等価値―――あとは手間の問題。本当に命を軽んじているからこそ、口にできる台詞である。2人は青ざめた。
しかしここで足を踏み出したから、ノイエの気の強さも凄まじい。
ノイエ「……好きにするがいいわ!」
スプレイ「素直じゃん。日本まで逃げた割にさ」
ノイエ「でも覚悟するのね! わたしを殺してバレッタを奪ったとしても、顔のない男が―――史上最強のトレジャー・ハンターが、絶対にあなた達を倒す!」
スプレイ「……プシュー。ダーティ・フェイス? 生ける伝説か?」
スプレイが目を細めた。
ノイエ「私は、故意に目立つように動いた……! フェイスは、あなたたちより遙かに優れた情報網を持つと言うわ……! 彼はミュージアムにとっての最強の敵対者、そして唯一拮抗する存在……! このことを見逃すはずがないものね……!」
これを聞いてガックリきたのが、鷲士である。ボケ青年は大きなため息をついて、黒い手袋を両手にはめた。例のボストンバッグに腕を突っ込む。
ゴソゴソやり始めた鷲士を尻目に、スプレイは、
スプレイ「言いたいことは分かるけど、それはどうかなー。7日ほど前に、あいつは俺の下についているデブ―――ヴァッテンって名前だ―――とエジプトでやり合ってる。退路作るために、また1つ遺跡をオシャカにしやがったらしい。ま、あのデブが無事だったぐらいだ、フェイスが死んだとは思えねーけど、今頃はズタボロのはずだぜ?」
ノイエ「ズ、ズタボロ……!? で、でも!」
スプレイ「しぶといね。じゃあ、どこにいんだよ、ダーティ・フェイスは?」
茫洋と、ミュージアムの使徒は訊いた。
―――返事は、ノイエの肩越しに現れた、銃のマズルがした。
鷲士「ううっ、違うけど、ホントは違うけど―――いますよ〜、ここに〜」
情けない声と共に、マズルフラッシュが炸裂した。
銃身は凄まじい速度で、辺りに弾丸をバラ撒きまくった。遠くの床、ホームの屋根、脇の線路―――ハッキリ言うと、ムチャクチャな狙いだ。腕の問題である。しかし単なる偶然か、それとも敵の多さに原因があるのか、跳弾したブリットの大多数は、戦闘員たちに次々に襲いかかっていった。
戦闘員「うぐっ!」
戦闘員「ごふっ!」
呻きながら倒れていく部下達を、スプレイはぼんやりと見つめた。
374
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:53:47 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「……え? マジ?」
淡々と呟いて、再び前を向く。
敵の目に映ったのは、右手にMP5K、左手にWz63―――カービン型アサルトライフルとSMG―――を構えた鷲士だった。ただし、逆襲に転じたというのに、思いっきり泣いているから気持ち悪い。
鷲士「ううっ、すいませ〜ん。ぼく銃とかぜんぜんダメで、当てるつもりはなかったんです〜。なのに弾が勝手に〜」
●無敵パパ育成計画・レベル1
・銃は常に持ち歩くこと!
もともと携帯電話とも無縁だったような人間である、そんなムチャクチャな、と鷲士も抗議はした。まあ、受け入れられていたら、こんなもの持ち歩いているわけがない。つまりそういうことである。
救われたノイエは、ポカンと口を開け、
ノイエ「えっ? えっ?」
大学で自分の鼻を直撃したボストンバッグの中身が、この2挺の銃―――それどころか、目の前で起きた事態すら呑み込めてないようだ。
スプレイが目を細め、足を踏み出した。
スプレイ「……なるほどね。身長180半ば、痩せ形、東洋人。完璧なカモフラージュで、社会に溶け込んでいるものと思われる……か。資料の通りだな。驚いたよ、どこに出てくるか分かったもんじゃない。上層部が殺そうと躍起になるのもムリねーって感じ。あんた、本物のダーティ・フェイスなんだ?」
ノイエ「なっ……なんですって……!?」
と振り向いたノイエの腰に腕を回すと、鷲士は腰を折り、
鷲士「ちょ、ちょっとごめん! 飛ぶから!」
2人の眼前に広がっていたのは―――対岸のホームだ。二車線分、7〜8メートルはある。
ノイエ「あ―――あなた、本気!? 冗談でしょう、あっちまで何mあると―――」
鷲士「ああっ、ノイエ、体重は!?」
ノイエ「え、ええっ!? ご、ごじゅう―――」
鷲士「100㎏以下なら大丈夫! 行くよ!」
言うが早いか、重なった影が、路線の上空に舞った。戦闘員たちの銃が再び唸ったが、掠りこそすれ、当たることはなかった。鷲士がノイエを抱えたまま、空中で1回転+体をひねったからである。さらに牽制として、MP5Kをフルオート連射した。
美しい構図―――青年が泣いていなければの話だが。
鷲士「ううっ、どうして毎回こんなことにー!」
ノイエ「キャーッ、おっ、落ちるー!」
しかし―――ノイエの絶叫とは裏腹に、2人はタッチ・ダウン。目を閉じたままの美女を引っ張って、鷲士は会談に向かった。
―――が。
スプレイ「甘いぜ、フェイス。この駅、占拠済みだから」
スプレイの言葉を、前方の闇から現れた別部隊が証明した。
―――ババババババ
鷲士「わわわっ!」
ノイエ「キャーッ!」
腰を落とした2人の頭上を、何百発もの銃弾が掠めた。無駄口をきく余裕もなく、慌ててとって返す。だが反対側の階段も既に押さえられていた。ホームの半ばまで戻ったところで、やはり乱射を受けたのだ。2人は青ざめた、中央のベンチの陰に隠れた。鉛弾を受けてプラスチックの合板が吹っ飛び、金属のフレームが顔を出す。しょせん文字通りの腰かけ用―――粉々になるのは時間の問題だ。
375
:
暗闇
:2006/03/16(木) 19:54:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ノイエ「ちょ、ちょっとシュージ、どういうこと!? あなたがダーティ・フェイスなの!? しかも簡単にあんな距離を―――どうなってるワケ!?」
鷲士「ちっ、違う違う、フェイスなんて人間は実在しないんだから! それより―――どうして君があいつらに!? そのバレッタっていったいなんなの?」
急に、夜の駅に静寂が訪れた。
対岸のスプレイが腕を上げたからだ。撃つのはやめろ、の合図だ。
スプレイ「道標さ―――禁断の井戸とやらへ、のな」
鷲士「禁断の……井戸?」
ノイエはここで沈黙し、訊いた鷲士は眉をひそめた。禁断と井戸―――結びつくような言葉ではないからである。
スプレイ「あんたさ、回る水って知ってる?」
鷲士「え……健康飲料水かなにかですか?」
スプレイ「そう思うよな。でも違う。なんでもさぁ、見る者の望む人間の顔を映し出すっつー、ふざけた水らしいんだ。ほっといても勝手にクルクル回ってるから、そんなおかしな名前がついてるらしいんだけどさ。んで、ドイツのド田舎に、その水が沸いて出るって奇妙な古井戸があるって話なんだが、正確な場所が分かんねー」
鷲士「それを指し示すのが、ノイエのバレッタ……? でも望む……顔? どうして、そんなものをわざわざミュージアムが?」
スプレイ「さあ? 上ってのは、マク○ナルドもウチも大差ねえ―――なに考えてるか分かりゃしねーからな。しかもおれのボスはハイ・キュレーターっつって、けっこーヤバイ系でさ。そのバレッタ持って帰んないと、まずいんだ」
しかし―――鷲士は青ざめた。
鷲士「あの……どうして、そんなこと教えてくれるんです?」
スプレイ「だってさ、あんたフェイスじゃん。だったら生かして帰せるワケねーだろ」
彼の言葉を待っていたかのように、戦闘員が、一斉に銃を構えた。万事休す―――退路を完全に断たれている以上、2人にもはや逃げ場はない。
そしてスプレイは、手を振り上げた。
スプレイ「じゃ、そういうことだから―――」
―――ボボボボボン。
鈍いエンジン音と共に、折り重なった男共の悲鳴が聞こえ、スプレイの腕が止まった。音源は直下―――駅の構内だ。
スプレイ「……なんだ、今の?」
と無表情男が、足下を覗いたときである。
とんでもないものが、鷲士側のホーム―――その北側階段から、飛び出してきた。
―――黒いカウンタック・LP500改。
ノイエ「なっ……!」
絶句したノイエの目の前で、イタリア製の暴れ馬は、階段手前の戦闘員たちを押し潰して接地。夜のホームにランボルギーニ―――マニアが見たら激怒しそうな光景である。シャーシとコンクリの隙間からくぐもった悲鳴が聞こえたが、LP500はおかまいなしに突き進んだ。意図的にヒトを轢いているのだ。
鷲士「ああっ、またムチャクチャを! ノイエ、伏せて伏せて!」
と言い合いながらも伏せた2人の鼻先で、車輌は停止。しかし破壊は、むしろそこから始まった。リア・フェンダー近辺の装甲が沈み、4連装ガトリング・ガンが、計2門、出現したのである。
―――ファイア。
機関銃の一種とは言え、ガンシップ搭載型の旋回砲―――その威力は小銃の比ではない。装甲車程度なら木っ端にできる大口径徹甲弾の洗礼を受け、今度は南側階段の敵たちが次々に倒れた。背後の柱、屋根までが、音を立てて崩れていく。さらに2門の砲は、狙いを対岸のホームに定めた。少し離れた暗闇で火花が飛び散り、車体両脇から排出された巨大カートリッジが、床で硬い音と共に跳ね返る。
実際には、破壊はものの数秒で終了した。
376
:
暗闇
:2006/03/17(金) 20:17:30 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「……マジ?」
とスプレイが見上げた瞬間、支えを失い、ホームの屋根が崩れた。ミュージアムの奇怪な若者など、膨大な質量の前には、ひとたまりもなかった。一瞬でブッ潰れ―――あとに残ったのは瓦礫の山のみだった。
粉塵が辺りを覆い尽くす中、2人は咳き込みながら立ち上がった。
ノイエ「コホッコホッ―――い、いったいなんなのよ……!」
鷲士「ああっ、なんてことを、駅が、ぼくらの駅が……!」
と鷲士が頭を抱えたと同時に、ドアが跳ね上がった。下でもがく戦闘員の後頭部を、学校指定の小さな革靴が踏んづける。
美沙「フッ……ま、ざっとこんなもんでしょ!」
鈴を転がすような声で言い放つと、人影は、肩にかかる髪を弾いた。
カトレア女学館の制服―――中等部のブレザーのままである。学校帰りに悪党をブッ潰しに立ち寄った―――電話の様子では、そういうことだ。ただしまともなのは服だけで、右手にはプラスチック製拳銃グロック17、肩には手榴弾が見え隠れするリュックと、おかしな形のカービン型アサルトライフルという武装ぶりである。
美沙「鷲士くーん、大丈夫だったぁ?」
鷲士「ぼ、ぼくたちはね、ありがとう! でも……ああっ、駅こんなにしちゃって! どーしてここまでやるの、きみは!」
泣きそうな鷲士に、しかし美沙はウインクして親指を立て、
美沙「だいじょーぶ! どーせこうなると思って、さっき駅、買っといたから!」
ペロッ、と舌を出してニッコリ。
―――シーン。
鷲士「……は? 買った? なにを?」
美沙「だからぁ……駅よぅ、この駅! 買ったの!」
実は誉めてもらえると思っていたのか、不満そうに、美沙。
ピンと来なかったらしく、鷲士は瞬き。右見て、左見て―――やっとアングリ。その顔が土気色に変わるまで、さほど時間はかからなかった。
鷲士「え……ええっ!? 買ったぁ!? 駅を!?」
美沙「そぉーよ、JRから! 運輸省にも認可させたし―――だから壊してもいいんだもん! もぉここ、わたしのだもん!」
和製の一流アイドルなど余裕で蹴散らす幼い美貌が、ムチャクチャなことを言った。世の中カネと権力―――普段は悪態として使われる言葉だが、ここまでくると表彰ものだ。そこらのゴミ政治家どもとは、やることの次元が違う。
額を押さえて、小市民はクラクラ。無理もない。
鷲士「か、買った……駅を買った……なんてことを……!」
美沙「そっ。だから問題なぁーし!」
鷲士「……ああっ、もうっ、きみは! いくらワケ分かんないぐらいのお金持ちだからって、限度があるよ! 駅なんて買っちゃいけません!」
うわーん、と両腕を振り乱す鷲士だったが、美沙は瞬き。首を傾げて、
美沙「はえ? なんで?」
鷲士「は? いや、なんでって言われても……」
美沙「法律で禁止されてるワケ? 違うでしょ? だったらいいじゃん。 買う人間がいて、売る奴もいる。これって経済原理! 問題ナッシン!」
と腰に手を当て、エッヘン。
ここで反論してこそ大学生。ところがどっこい、
鷲士「え……そ、そうなのかな。確かに売春とかとは違うし、暴力団の地上げとも……」
だが、異変はさらに続いた。
鷲士、ノイエ―――2人の頭上を影が覆ったのである。
スプレイ「悪い。まだ死んでない」
377
:
暗闇
:2006/03/17(金) 20:17:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「なっ―――!?」
くすんだ鉄柱が打ち下ろされるのと、振り返った鷲士が両腕でブロックするのが同時。その衝撃がいかに凄まじかったか―――眼鏡青年の足下で、コンクリの床が砕けた。亀裂が生き物のように走り、鷲士の足首を呑み込む。
さらに―――ボケ青年の体は、今度は背後に吹っ飛んだ。あまりの衝撃に、彼を受け止めたホームの壁が、あっさり陥落。乗用車に撥ね飛ばされても、こうはなるまい。砕かれたコンクリの破片が、ボロボロと鷲士に落下する。
そして―――ハイキックのポーズをとったスプレイが、
スプレイ「あの状態で受け身? フェイスは飛んでる弾丸が見えてるって話はマジだったらしいな、よく反応できたもんだ。ホントなら上半身と下半身がバイバイしてるとこなのにさ。やっぱあんたスゲーよ。フツーじゃねー」
と眉一つ動かさず、足を下ろす。
―――車の弾丸でズタズタされたパーカーの奥から、火花が飛び散った。本来噴き出す血肉はそこになく、青味がかかった金属が、無気味な光を放っている。中でカリカリと音を立てながら回っているのは、なんと原始的な歯車だった。
美沙「みょ、妙に特徴のない奴だと思ってたら―――チューン・マン!? 馬鹿力タイプとは何度かやり合ったことあるけど、そんなに速く動けるなんて……!」
スプレイ「地中海―――クレタ海底の裂溝から、タロスの試作品らしいのが引き上げられてさ。サイズが合ったんで、ドラッグでボロボロんなって体の代わりに使ってる。よく動くんだが、原理の方も分かんねーってさ」
美沙「こぉのローテク野郎ォ! よくも鷲士くんを!」
叫んで、美沙はグロックのトリガーに指をかけた。
―――しかし相手はミュージアムである。
スプレイ「燃えてんじゃん。でもクールにいこうぜ」
淡々と言う否や、スプレイは呆然と立ちすくむノイエを羽交い締めにした。喉元を押さえ、自分の盾にする。
鷲士「つつつ……ノ、ノイエ……」
口の血を拭いながら、鷲士もヨロヨロと立ち上がった。
スプレイは摺り足で横に移動しながら、
スプレイ「プシュー。定番で悪いんだけど……じっとしててくれよ。特にそっちの気合い爆発してるロリポップ、マジで頼むぜ。さもないと―――」
美沙「フン、さもないとぉ」
スプレイ「この金髪女、殺すってこと」
美沙「あっそ」
つまんなそうに言うと、美沙はトリガーを引いた。
―――バン!
鷲士の目が点になったと同時に、スプレイのニットが吹っ飛んだ。慌てて帽子を掴んだのはいいが、こめかみから鮮血が滴り落ちる。特殊素材で骨格補強はされているようだが、頭部の構造はどうやら生身のままらしい。
傷口に手を当て、敵は呆気にとられたように、
スプレイ「……驚いたな。クールなのはおチビちゃんの方だったってか。躊躇ぐらいしろよ、こんなの聞いたことねーぜ」
鷲士「こっ、こらーっ、なんてことを! ノイエが人質なんだぞ!?」
美沙「あまぁーい、鷲士くん。前ので懲りてるでしょ? こいつらが人質なんか生かしとくワケないじゃん。なんてゆーか―――そっちの人には悪いけど、人質にされちゃった時点で、既に屍も同じなのよね、うん!」
ニヤリと笑うと、グロックをポッケに突っ込み、今度はライフルを構えた。コッキング・レバーのスライド音が、構内に響き渡る。
美沙「てなワケでェ、覚悟よろしく!」
378
:
暗闇
:2006/03/17(金) 20:18:12 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「くそっ、ムチャクチャだぜ、セオリー通りにやってくれよ……!」
とスプレイがノイエを抱えて床を蹴ったと同時に、美沙の手元で、マズルフラッシュが炸裂した。問答無用である。
鷲士「う、うわーっ! 彼女、まだ生きてるのに!」
鷲士は頭を抱えた。
―――すぐに眉をひそめた。2人をまとめて穴だらけにすると思われたブリットの雨が、しかしミサイルのようにカーブを描き、一斉にスプレイの背後に回ったのだ。
スプレイ「……うっそ」
空中でスプレイが振り返った刹那、弾丸は揃って爆散した。衝撃波が背中からチューン・マンの肺腑を貫き、その腕の中からノイエが離れる。
鷲士「うわ、ノ、ノイエ!」
慌てて路線に飛び降りた鷲士が、なんとか留学生をキャッチ。対するスプレイは自分の驚異的な跳躍力が逆に働き、頭から対岸ホームの瓦礫に突っ込んだ。コンクリの破片をいくつも弾き飛ばし、柱の残骸に激突した時点で、ようやく停止する。頭を軽く振っただけで立ち上がれたのは、やはり改造人間ゆえだろう。
スプレイ「ウググ……今のは……OICWってヤツか……? なんだそりゃ、実用化されたなんて話は聞いてねーぞ……!」
美沙「アハハハッ、ばーか! 古代サイバネ野郎なんかに、私のハイテクウェポンが負けるワケないでしょー! 思い知ったかぁ!」
コロコロ声の嘲笑が、夜のホームに響き渡った。小さな手で構えたカービンは、銃器の形はしているものの、あちこちから電子の光を放っている。
OICW―――Objective−Individual−Combat−Weapon<オブジェクティブ−インビジュアル−コンバット−ウェポン>。
弾丸自体にある程度の軌道変更能力を持たせて、それを銃のレーザーで誘導する装置の事を指す略称名。
未来銃の代名詞とも言われるレーザー・ガンも既に実用化の段階に入っているが、実働部隊自体は導入に難色を示していると言われる。なぜなら強力でも、その攻撃範囲は光だけに、常に直線上に限定されるからだ。このような兵器は、正面からの白兵戦でこそ効果はあるが、現代ではそんな場面は皆無に等しい。それならば、爆撃で敵戦力を一気に奪う方が遙かに効率が良い。
そこで―――より効率的に敵兵を殺すために開発されたのが、OICWである。ミサイルと違って自動性はないので、どうしても命中精度は下がるが、弾頭を空中爆裂型にすることによって、敵をより確実にしとめるという恐ろしい仕組みだ。敵が塹壕の中にいても、銃の誘導で弾道が歪曲し、敵の背中で炸裂するのである。逃げ場など無い。
現在試作されているのは、かなり大型だ。口径は20㎜と、アサルトライフルの約4倍。しかし美沙の使っているのは、完全に小型化されていた。口径も大きさも普通の小銃と変わらないのだ。実体を持たずネットワークのみで構成されるフォーチュン・テラーの天才集団だからこそなせる業である。
379
:
暗闇
:2006/03/17(金) 22:28:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「……人質を無視するチビに、ぜってー当たる弾丸か。こりゃ出直した方がよさそうだ」
フラフラしながら、スプレイが呻いた。
一方、やっと一息ついたのが鷲士である。
鷲士「無事でよかった……ノイエ、大丈夫?」
ノイエ「シュ、シュージ、それより、バレッタが……! 母の形見なのよっ……!」
目を潤ませてシャツにしがみつくノイエの頭に、黄金の髪飾りはなかった。蒼然として振り向いた鷲士の目に映ったのは―――スプレイが握るバレッタだ。
鷲士「み、美沙ちゃん!」
美沙「はぁーい! ここは美沙におっまかせ!」
マガジンを入れ換え、再びトリガー・オン。
究極の命中率を誇るエア・バーン・ブリットは、廃墟と化した駅で、その力を存分に発揮した。瓦礫の隙間をかいくぐり、柱を避けて、蜂のように敵サイボーグに襲いかかる。背中の数㎝手前で爆散し、力を解放した。
―――ドンドンバン!
スプレイ「ぐわっ!」
痩せたスプレイの体が、衝撃で跳ねたが、銃撃は止まらなかった。続いて爆炎の中から、残りの弾頭が一斉に出現し、揃って炸裂。
ところが、これがまずかった。
スプレイ「ひでえ!」
短い叫びと共に、スプレイの姿が、完全に消えた。爆発の威力が強すぎてホームから吹っ飛ばされ、ガード下に転落してしまった。
美沙「あ……やっちゃった」
ぼんやりと、美沙。
リボンのツインテールが、いきなり風にさらわれた。サイボーグが消えた駅の下方から、巨大ななにかが、騒音と共に現れたのだ。
―――戦闘ヘリ・AH64アパッチ。
ウェポンランチに足をかけたスプレイが、片手でバレッタを弄びながら、
スプレイ「やるじゃん、ロリポップ。だけど、ここは俺の勝ちみたいだな。悪く思わないでくれ、これも妹のためでさ。ま、子供は殺さない主義だから安心しな」
美沙「妹のためぇ? 子供は殺さない? ドロボーがなにカッコつけてんの? それに―――おれの勝ちぃ? 夢見るなら、寝てからにしなさいよねー」
顔をしかめて、鼻を鳴らす美沙だ。
スプレイ「……おい、まだなんかあんのか」
美沙「知りたいでしょ。実験中だけど―――見せてあげる」
言う早いか、美沙はブレザーの袖を、ブラウスごとくめくった。露出するはずの肌の代わりに現れたのは、黒い長めのリストバンド―――例の着衣型PCだ。外気に触れると同時に現れた3次元映像に、美沙はお澄まし調で告げた。
美沙「システム起動、声紋確認モード。えっとぉ、ログオン権限はアドミニストレーター。セイフティ解除。狙いは―――前方のガンシップAH64に固定」
スプレイ「監視衛星にでもアクセスしてんのか? 巡航ミサイルでも使う気なら、遅すぎだ」
美沙「余裕だニャン―――光とほぼ等速だから」
スプレイ「……なに?」
瞬きしたスプレイだが、すぐに察してコックピットの窓を叩いた。
スプレイ「くそっ、逃げろ! なんてチビだ、キラー衛星にロックされちまった!」
美沙「アハハハハッ! ばーか、死んじゃえ〜!」
甲高い嘲笑と共に、空が光った。
夜の雲を突き抜けて、一本の細く赤い線が、ホームと空を繋ぐように出現した。
本当は衛星軌道上から照射されたものだが、光速を肉眼で追えるはずもない。音は―――なかった。ノイズする聞こえなかった。
一拍ほど置いて、対岸のホームが大爆発を起こした。
想像を絶する高熱により、コンクリが沸騰。その気泡が飛び散ったのだ。送電用の電線がバタバタと倒れ、マグマ化した構材と共に駅構内に沈んでいく。
ヘリはと言うと―――リアローターを切断されただけで済んでいた。
380
:
暗闇
:2006/03/17(金) 22:29:07 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
美沙「あ……まだ照準システムが甘いんだなぁ。むー」
と不満そうな美沙だが、ヘリの後部ローターは、姿勢制御と舵の役割を担う。ある意味でメインローターより重要な機関を失ったアパッチは、バランスを崩し、グルグルと回転しながら、落下し始めた。
そして200mほど漂った頃だろうか。
―――ドカーン!
前方の市街地から火柱が突き上げ、辺りを照らした。墜落したのである。
美沙「フッ……ザコの消え方にしちゃ、まずまずかな」
髪を弾いて体を戻した美沙を、青白い顔の鷲士が見つめ、
鷲士「あの……なんなんですか、今の」
美沙「ああ、草薙のこと? あのね、鷲士くんね、スターウォーズ計画って知ってる? TMD計画の元祖みたいなシステムのことなんだけど」
鷲士「……レーガン政権の? 大陸間弾道弾で撃ち落とすって、アレ?」
美沙「そっ。当時はバッテリと照準装置―――さらに予算の問題で、結局実用化には至らなかったんだけどね。設計図ウチで買い取ってぇ、ダメな部分を作り直して、宇宙に上げたの。どお? けっこー使えそうな感じするでしょ」
鷲士「……ははは。そ、そうだね」
もはや、そう答えるしかなかった鷲士であった。
381
:
暗闇
:2006/03/22(水) 13:59:08 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
時は遡り1604年……
=日本・江戸時代=
まだ現代のような開発による環境破壊は行われていない美しい自然が至る所に満ちあふれている世の中だった頃…
そして、4年前の関ヶ原の戦いで石田三成率いる西軍と徳川家康率いる東軍が勝利を収めたことにより以後200年以上も続く江戸時代がまだ始まったばかりである。
まだ戦の痕跡が各地にいくつも残っており、復興の進んでいない村々が多く、貧しい生活をしている者が多い……
そんな時代の山道を西洋の甲冑を着た異国の剣士が通っていた。
巨大な剣と布で刳るんだ何か異様な荷物を背負った金の髪の青年剣士に度々通りすがる人の視線が注げられるが、本人は気にしていないのか、目もくれずに前を歩いている。
その時、それまでは周りことを無視同然で歩いていた彼が目の前の存在を見て足を止めてしまった。
なんと小山ほどもある大量の薪を運んでくる青年が通りかかったのだ。ある意味、異人の自分より目立つ滑稽さだ。
その青年はまさに頼りない優男を絵に描いて実体化させたとも言える男だ。ぶつぶつと文句を言いながらも懸命に薪を運ぶその姿に誉めるべきなのか呆れるべきなのか……
???A「女の人ってのはなんでこう人使いが荒いんだろ? ゆやさんもあのばあちゃんも、人の優しさにつけ込んで……なんで最近僕と出逢う女の人ってみんな怖い人ばっかりなんだろ……」
どうやら彼は女の尻に敷かれて相当こき使われているらしい……その愚痴を聞かされる度になんか彼が哀れに思えてくる……大剣の騎士はそれ以外の感情は持たずに止めていた足を動かした。
だがその瞬間、何らかの拍子か大量の薪の重さに耐えきれなくなったのか遂にバランスを崩した青年が大剣の騎士に寄りかかってきた。
???A「おわわっ! 危ない!!」
薪の塊がこちらに目がけて迫ってくる。大剣の騎士はすばやく片腕を突き出してそれを受け止めてやった。
???A「ふ〜、いや〜どうもすみません。どなたか存じませんが……ん?」
そこで青年はようやく異人の騎士に気付いたようだ。どうやら、薪を運ぶのに一生懸命になっており、周りが見えてなかったらしい。
???A「異国の剣士の方ですか? どうして日本<ここ>に?」
青年が目を丸くして聞いてきた。4年以上前までは戦国時代であったこの国は、度々戦国大名と協力している外国人も見られたが、それも終わった今となってはほとんどが祖国へと帰ってしまい、見かけられなくなってしまったが、
それに対して、騎士がようやく口を開いてきた。
???B「ソウルエッジという邪剣を知っているか?」
???A「そうるえっじ? まあ、噂程度は……」
それは、先の戦国時代に大名達が追い求めて止まなかったと言われる最強の剣だ。
それさえ手にすれば天下など容易に手にすることが出来るとされ、大名たちは世界各地に使いを送ってその剣を捜索させたらしいが、遂に見つからずじまいだったという。
平和となった今となっては、それが本当に実在するかどうか怪しいという者がいるくらいだ。
???A「ひょっとして、貴方はその『そうるえっじ』を探してここまで来たので?
あんなホラ話に近い……」
???B「邪剣は実在する……俺はこの目でそれを確かめた奴だ」
騎士は剣呑な目つきになってそう断言した、青年は気圧されたが、なんとか口を開いて言い返す。
???A「その剣を手に入れて、あなたは一体何を……まさか世界征…」
???B「封印するんだ。二度と人の手に渡らないようにな」
騎士はそう言うと、歩みを再開しようとする。
???B「一つ言っておくが、邪剣には絶対に関わるな。人としての道を外したくなければな……」
382
:
暗闇
:2006/03/22(水) 16:47:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「人の道ですか……」
騎士の言葉を聞いた青年がポツリと呟いた。
???A「では、なぜあなたは人の道を踏み外す覚悟で、邪剣を封印しようと?」
騎士は驚いたように目を見張っていた。これは先程の優男の目とは違う……突然雰囲気が変わったような。
それに呑まれたのか騎士は口を開いていた。
???B「罪を償う為だ」
???A「……」
???B「俺は邪剣に関わりを持ったがために、罪を犯した。それを償う為にこの島国で新たに誕生したソウルエッジを永遠に封印する為にやってきた。それだけだ……しかし、例えソウルエッジを葬れたとしても俺は永遠に許されないだろがな」
騎士はそこで話は終わりだと言わんばかりに立ち去ろうとした時、
???A「たとえ、誰にも許されなくても……何もしないよりはいいじゃないのでしょうか?」
???B「!」
???A「許されない償いとは言っても、何もしないで死を選んだりするよりかは何かしてから死を選ぶ方がいいと僕は思いますよ」
騎士は背を向けたままで表情は伺えなかった。しかし、今の青年の言葉は罪の意識に縛られる騎士を少しは励ませたのか、彼は言ってきた。
???B「お前の名前は?」
京四郎「京四郎……壬生 京四郎と言います。愛と平和の薬売りです♪」
京四郎という青年は笑顔で名乗ると、騎士も
ジークフリート「ジークフリート・シュタウフェン」
京四郎「?」
ジークフリート「俺の名前だ」
大剣の騎士…ジークフリートは久しぶりに他者に対して名乗った。
そういえば邪縛から解放されてからここ数ヶ月、人とまともに話していなかったか。
名乗ったジークフリートは京四郎の目の前から立ち去っていった。
しかし、またこの男とは何処かで会うかもしれない……そんな気がしてならなかった。
383
:
暗闇
:2006/03/23(木) 09:13:51 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして…現代……
=アーカムシティ=
九郎「いったいなんだったんだ? あの店は?」
首を傾げながら、裏路地をトボトボ歩く九郎……その胸中にはあの本屋のことで占められていた。
それを説明するにはまた時間を少し遡らなければならない。
〜数時間前〜
九郎「どうしてだ?
もし値段の問題なら気にしなくて良いと思うぜ?
多分そっちの言い値で買い取ることが出来る」
ナイア「そういうことじゃないんだ。この店には、君が必要とするような魔導書を置いてないんだよ」
九郎「置いてないって……あんた、その手に持っているものは何だよ? だいたい自分でそれは魔導書だって説明してたじゃないか」
ナイア「それはそうなんだけど、この魔導書は君には合わないのさ。君にはもっと君に相応しい魔導書があるはずだ」
あれ?
何かまた変な方向に流れ始めたような……
だいたい誤解されているようだし。
九郎「あっ……いや、魔導書を必要としているのは俺じゃなくて、俺はただ依頼主に頼まれて……」
ナイア「いやいや!
君はまだ気付いてないだけさ。
君は近い将来、必要とするはずだ! 最高の力を持った魔導書……そう、『神』をも招喚できる窮極の魔導書を!」
九郎「え……あ……えーと……」
いかん……なんか盛り上がっている、この人。
こっちの話はまったく聞かずにどんどん進めてしまっている。
ナイア「あるんだよ。最高位の魔導書の中に『神』を招喚できるヤツがね
しかもその魔導書の所有者たる魔術師達は、何とその『神』を自在に操ることが可能なんだ……まあ、正しくは神の模造品なんだけど。
とにかく君が必要とするのは、きっとそういう魔導書なんだと思うよ」
もう何が何だかさっぱりだ。俺は完全に店長のペースに飲み込まれてしまい、言葉も出ない。
ナイア「嗚呼、楽しみだ、楽しみだね。君が手に入れる魔導書はどんなのだろう?
もしかしたら、それはかの『死霊秘法<ネクロノミコン>』だったりするかもしれないね――」
〜回想終了〜
結局あのまま店長の勢いに流されてしまい、気付いた時は店の外に出て閉まっていた。
九郎「なんつーか……狐にでも化かされた気分だ」
とにかく、もう日もすっかり暮れてしまった。
仕方ない、今日はもう終わりにしよう。
明日はもっと奥の方にまで足を運んでみるか……
そこに……
384
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:29:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「ちょいと、そこの兄ちゃん」
九郎「はい?」
九郎は呼ばれた方へ振り返ると、何やら侵入者は40代そこそこの、中々体躯に恵まれた中年米人と無精髭を生やした金髪の男性の姿があった。
???B「わりぃけど、ここは何処か知りてえんだけどよ。ここはどこだい?」
九郎「はぁ? あんたらこの街知らないの?」
2人の男性は「街ぃ?」と同じ言葉を同タイミングで吐く。
それに九郎はため息をつきながら、正直に答えてやった。
九郎「ここはアーカムシティ。現代世界の中心都市だ」
九郎の答えを聞いた2人の男の目が点になった。
その表情のまま、2人は九郎に訊ねてくる。
???A「失礼だけどよ、兄ちゃん……今、何つった?」
九郎「……アーカムシティ……」
???B「かの有名な悪の秘密結社が蔓延り、巨大ロボットが暴れる非常識が当たり前の日常の都市……そのアーカムシティかい?」
九郎「イエスです……」
???A「ということはこの街がある国はアメリカかい?」
九郎「少なくともその国以外に、アーカムシティという街が存在するなど聞いたこともございません」
そこまで言って、沈黙が支配した。
???A「こりゃ、俺達まだ夢の中にいるんじゃなかろうかな? なぁ、ブルース」
ブルース「そう思いたいんだけどさ……2人同時に同じ夢を見てるってこと有り得ないと思うぜ、バリー。それに、リッカーの爪を避ける時に転んで打っちまった後頭部がヤケに痛いんだよな……それもリアルによ」
バリー「やっぱりか?」
九郎「あのぅ〜」
バリー&ブルース「なんだい?」
九郎「さっきから、ワケの分かんないことばかりと話していらっしゃるが……あんたら……」
置いてけぼり状態にされかけた九郎が質問しようとしたその時だった。
カァー、カァー
一同「?」
一同が上を見上げると、そこには鴉の群れが。
別段珍しくないが、ヤケに鳴き声が激しい……興奮しているのだろうか?
やがて、鴉がこちらに向かって飛んでくる。何羽も何羽も……まるでこちらを敵と見なして攻撃してくるような……
バリー「伏せろ!!」
385
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:44:07 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
伏せた九郎達の頭スレスレを急降下してきた鴉が通っていく。
しかし、鴉は旋回してまた襲ってきたのだ。
ブルース「おい、この鴉もまさか……」
バリー「ああ、感染済みと見ていい!!」
バリーが鴉を手で思いっきり払いのけると、その鴉は一端上空へと逃げていく。
九郎「さっきから、なんだんだよ。感染済みとは言っても、病気にでも何かなってんのか? あの元気良く飛び回って人に猛烈アタックしてくる鴉さん達が!?」
バリー「そのまさかだよ」
バリーが真面目な顔してそう言う。しかし、その間にも……
ブルース「話はその辺にして、ここは逃げた方が良いんじゃないかい?」
ブルースが人差し指を上空やったので、見上げると……狭い裏路地から見える微かな夜空を覆い尽くしてしまうほどの鴉たちがいた。
九郎「何か悪いことが起こりますよって、暗示すか? こりゃ?」
バリー「ああ、おそらくそれも今からな」
カァァァァ!!
一匹の群れが鳴くと、それがスイッチだったかのように、仲間の鴉たちが一斉に急降下してきた。
ブルース「ここじゃ思いっきし不利だ。少なくとも路地からは出た方がいいな」
バリー「同意見だ。死体の次は鳥か……」
九郎「冷静に言ってないで、もっと慌てろよ!!」
386
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:46:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その一方……
儚い街灯の光に照らされ、数多の影が踊る。
慌しく駆け抜ける幾つもの靴音。
時折聞こえる怒声。そして――銃声。
少女は疾駆する。
猫科の肉食獣を思わせる俊敏な動き。
風を裂くような疾走。
銀の髪を靡かせ、白い肌を照らし出しながら走る。その姿は、喩えるなら白い雷光。疾く鋭く闇を刻む。
明らかに人間の規格を越えた身体能力。
――それでも少女は毒づいていた。
なんて、なんて不憫な躰。
まるで自由の利かない、矮小で脆弱なこの躰。
纏わりつく夜の空気すら重い。
水の中を走る気分だ。
力を失った今、我が身を縛る制約の何と大きいことか。なんとも、なんとも情けない。
路地の角から数名の覆面の男が姿を現した。全員がドラムマガジンのマシンガンを手にしている。
男達は躊躇うことなく銃口を少女に向けた。
マシンガンが一斉に吼える。
少女の姿はもう其処にはない。
すぐ横の角に、靡く銀の髪だけが一瞬だけ通り過ぎた。弾丸は虚しくコンクリートの地面のみを砕く。
男達は少女を追って、同じ角を曲がる。
そこで気付いた。
覆面の下で男達は笑う。
袋小路だ。
しかし、少女は止まらない。速度を落とすことなく通路を駆け、行き止まりのすれすれにまで……男達は目をむいた。
少女は重力の法則を無視し、壁に対して垂直に走ったのだ。慌てる男達。だがもう遅い。
ビルの壁を一気に駆け上がった少女は既に屋上に。
そこから跳躍。
少女の身体が月光を浴びて、摩天楼の空に舞う。
――その時、少女は誤算に気づいた。
落ちる少女の真下。
着地地点にせっせと走る男がいる。
慌てる少女。
しかし気付くのが遅すぎた。
間に合わない。
387
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:52:38 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「ちっくしょ…なんかややこしいことに巻き込まれちまったみたいだな」
あんな狭い所で、同じ道を逃げるのは無理だったので、とにかく路地の外で落ち合おうとなり、バラバラに逃げたのだ。
今のところ、こちらの方は鴉は追ってきていない……そろそろ歩いても大丈夫か?
???「……退け! 避けるのだ!」
んっ……?
突然、叫び声が聞こえてきた。
足を止めて周囲を見渡してみる。が、それらしき人はいない。
いったい何処から……?
???「さっさと避けろと言っておる! うつけがぁぁぁぁ!」
……真上?
ドスン
九郎「ぬあああああ! ぐげふぶぐぶはあっ!」
???「痛ぅ……」
――女? いやこの年頃なら女の子か。華奢ながら女性特有の柔らかい感触が伝わっている。
な、なんでいきなり女の子が降ってくるんだ……?
少女と目の合う――翡翠色の、吸い込まれるほどに澄んだ瞳
???「こ、この……! 何をボケっとしておった!? うつけうつけうつけ! 大うつけ!」
――メチャクチャ口悪ィ。
九郎「いや、普通、空から人間が降ってくるような事態を想定できる奴はいないと思うがっ!? つーかあんたこそ早く上から退いてくれっ!」
何が何だか全然分からないが、とにかく現状を何とかしなければならない。俺は少女を除けようとした。
そのとき。
物凄いスピードで走ってきたリムジンが俺達の前で止まった。その中からゾロゾロと覆面の男達が現れる。
妖しさ大爆発なその覆面、この町に住む者で知らない人間はいない。
九郎「『ブラックロッジ』!? なんで……」
???「ちぃ! 汝のせいで追いつかれたではないか!」
覆面男達は皆マシンガンを構えている。
銃口は……こっちに。
お、おいおい! 冗談じゃねえぞ!
無駄だと分かっていても、反射的に少女を庇った。
……銃声はいまだに鳴り響いている。だが、いつまで経っても銃弾が俺に降り注がれることはなかった。
不審に思って、恐る恐る顔を上げる。
――俺と覆面男たちとの間に、うっすらと光り輝く透明の障壁があった。
銃弾は全てその障壁に弾かれて、こっちに届くことはない。障壁の表面にはびっしりと魔術文字らしい紋様が刻まれていた。
はっと思い、少女を見た。
少女は冷たい瞳で覆面男たちを見つめ、手をかざしている。彼女の手もまた淡い光に包まれていた。
――こいつ、魔術師か!?
???「吹き飛べ、外道が!」
まるで巨大な手に薙ぎ払われたかのように覆面男たちは吹き飛ばされた。
これが魔術師の力か……初めて見た。
だけど……
???「くっ……
無駄に力を使いすぎたか……」
少女の息が荒いことに気付く。
よく見れば顔色も悪く全身に冷や汗をかいていた。
九郎「お、おい!? 大丈夫か?」
???「やはり術者なしでは……うっ……」
……気絶してしまった。
で、俺にどうしろと?
途方に暮れたその時だった。爆音と呼んだ方がいいような騒音と共にそれは現れた。
388
:
暗闇
:2006/03/23(木) 10:57:45 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???B「へぇ〜い! そこな若者! 大人しくその娘を我輩に渡すであるっ!」
現状認識及び思考回路の整理。
Q:
それとは何ですか?
A:
暴走族仕様な大型バイクに乗った、白衣着ていてエレキギターを掻き鳴らす何か変なの。(見たまんま)
俺の脳、なおさら大混乱。
いや……分かっている。分かっているんだ。
こういう輩は相手にしないで、とっととこの場から逃げ去るのがベストなのだと。
だが思考能力が完璧に鈍っていた俺は、うっかり声をかけてしまった。
九郎「……あの、どちら様でしょうか?」
ウェスト「なななななななななぁぁぁぁぁんと!? 我輩を! 一億年に一度と呼ばれた天才科学者たる、このドクターウェストを知らないとっ!?
なななななな何たる無知! 無知とは罪! 無知とは悲劇!
悲しみと絶望に彩られた君の人生を喩えるならばこの掌に舞い降りた儚い淡雪……雪が全てを白く埋め尽くす……僕の悲しみも何もかも……ゴゴゴゴゴゴ……何? 何が起こったの? な、雪崩れ!? ギャーーーー!!!」」
――やべぇ。電波だ。
えらいのに関わっちまった……どうするよ?
ウェスト「ともあれ若者!どうしても我輩の邪魔をするなら、死して我輩と『ブラックロッジ』の糧となるがモアベターな選択と言えよう!
貴様の死を乗り越えて我輩はまた少し大人になった!
さらば、少年時代!
一夏だけの淡い恋心!
アイム・ロックンロール!」
一通り叫ぶと白衣の変態は何を考えているのか、バイクに積んでいたギターケースを肩に担いだ。
ウェスト「レッツ・プレイ!」
ギターケースに何やら『穴』らしき物が開いた。担いでいる姿といい、これではまるでロケット砲の構えているような、『穴』は砲門に見えなくも……
……ちょっと待て。
九郎「何じゃそりゃぁぁぁぁ!」
少女を抱えて、大急ぎで逃げ出す。
穴から飛び出したロケット弾。言うまでもないが、人間の足でそれから完全に逃げ切れるわけはなく、やがて……
ズドォォン
九郎「だああああああああああっ!?」
爆発の衝撃と爆風に煽られて俺の身体は宙を舞う。
腕の中の少女を抱え込むように庇って、俺は地面を転がった。
九郎「い痛つつつ……って、だあああああ!?」
変態の横に控えていた覆面男たちがマシンガンを掃射してくる。もはや辺り一帯、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。通行人は悲鳴を上げながら逃げていく。
ボケッとしている暇はない。
少女を抱きかかえたまま俺も必死で逃げる。
ウェスト「追え! 追うのであるっ!
総ては! 総ては我らが『ブラックロッジ』の栄光と、そしてこのドクター・ウェストの偉業の為であーる!」
何ですか!? っていうことはアレも『ブラックロッジ』の一員ですか!? 裏社会の人材不足はそれほどまでに深刻化していやがりますか!?
とりあえず職安に求人募集を出すことを当方としてはオススメしたいっ!
九郎「つーか、俺が何をしたぁぁぁぁーーーーっ!?」
鴉、変態……何故こんなものに追われなければならないのか!?
神よ、俺は何か悪いことでもしたのでありましょうか!?
これはその罰でなのでございましょうか!?
などと、叫びながら、九郎は必死で突っ走っていった。
389
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:16:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして、町中では……
レオン「それで、ここは…」
???A「アーカムシティだよ。かの有名な悪の秘密結社が暴れる世界の中心都市だ」
かったるげな口調で警官がそう言った。
レベッカ「レオンさん、どうやら私たちアメリカに逆戻りしちゃったみたいですね……」
レオンの隣にいるレベッカがガックリと肩を落とす。
真っ白な光に包まれたと思ったら、いきなりこの街に飛んでいたのだ。
人外の化け物たちを相手にしてきた自分たちはもう何があっても驚かないだろうと、思っていたが……
レオン「……そうだな。また便を手配しなければいけないな……」
レベッカ「ジルさんたち、大丈夫だといいですけど」
???A「ところで、おたくらもう他に質問はないか……」
そこに。
???B「ネス警部ぅーーー!!」
怒鳴り声に振り返ると、そこには如何にも暑苦しい感じの男性警官の姿があった。
ネス「何だいストーン君? また“アレ”かい?」
ストーン「いいえ、“アレ”でしたらもうとっくにここら一帯までがパニックになってますよ!
ですが、ブラックロッジが絡んでいるとみて間違いはありません」
ネス「いいから何が起こったワケ?」
ストーン「裏路地の方で……実は蛇のような化け物が出たと…流石に私も最初はホラ話かと思いましたが……送られてきた画像にはしっかりとその化け物が……」
2人の警官の話を聞いていたレオンとレベッカは既に顔色を変えていた。
390
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:18:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=九郎&謎の少女サイド=
九郎「ハア……ハア……ハア……とりあえずは撒いたか」
俺は少女を降ろし、息をつく。
しかし……何で俺がこんな目に遭わなくきゃならんのだ?
九郎「……この娘を追っていたみたいだけどな」
九郎はしゃがみこみ、少女の様子を見る。
相変わらず冷や汗は止まらないが、呼吸の方がさっきより落ち着いている。
しかし闇にも映えるような肌の白さが少女を酷く儚げなものに感じさせた。どこか浮世離れした、神秘的な雰囲気を漂わせる少女だ。
先程の少女の行動を思い出す。
いきなり空から降ってきたり、銃弾を防いだり、覆面男たち見えない力で薙ぎ倒したり……あれは魔術の力に間違いない。
九郎「魔術師か……」
それならこの雰囲気も、『ブラックロッジ』追われているのもそれなりに納得できる。納得できるだけでワケが分からないのに変わりないが。
???「ん……」
小さな呻きを洩らして、少女がゆっくりと瞳を開いた。
九郎「おう……気付いたかい?」
???「此処は……?」
九郎「さあ……ひたすら逃げ回ったからな。
だいぶ奥の方まで来ちまった」
???「……汝が、妾を?」
九郎「ほっとくワケにはいかねぇだろ。あんなヤバイ奴らの中に置き去りにしたら、いくら何でも後味が悪すぎる」
???「……そうか……礼を言おう……くっ」
九郎「おい、大丈夫か?
さっきからメチャクチャ調子悪そうじゃないか」
???「……術者無しで無茶をしたからな。構成を維持できなくなっているようだ。
ふふっ、そのうえアイオーンまで失っては不様としか言いようがない……」
九郎「んあー、何だかはよく分からないけど、このままだとマズイだろ? 今、病院にでも……」
???「無駄だ……妾なら大丈夫だ。世話をかけさせたな……んっ?」
背中に浮いている羽――何かの魔術装置だろうか――をパタパタさせながら怪訝そうに俺の顔を覗き込む。
まただ。
また、あの吸い込まれるような翡翠の瞳。
何故か心臓が早鐘を打った。
???「汝……冥い闇の匂いがする。魔術師か?」
正直、驚いた。
魔術師ってのはそんなことまでわかるのか?
九郎「いや、残念ながら違う。軽くかじったことがあるだけだよ。そういうあんたこそ魔術師だろ? さっきの力見たよ」
???「違う」
九郎「違うって……あんな真似が出来るのは魔術師以外……」
???「そうか……魔術師でないということは『本』を持っていないという事か。
それは良い。見たところ、かなりの素質を秘めておる。何とも僥倖だ
まあ、ここまで都合が良いと何者かに踊らされている気がしないでもないが……構うまい」
……今日の俺って、なんか全力で置き去りにされっぱなしだよなあ。
九郎「あー、えーとな。俺にも分かるように話してほし……」
その時、ギターを掻き鳴らす音がその場所に響き渡った。
九郎&???「…………………」
ウェスト「ふはははははは! うまく隠れたつもりでも、この! 大!・天!・才!・たる吾輩ドクタァァァァァウェェェェストォォォォォ!……の目を欺くことなどインポッシブルなのである!
己の愚劣さ加減と無力さ加減を絶妙なさじ匙加減でミックスされた後悔に涙しつつ、神妙にお縄につけい!」
九郎「……確かに俺の人生において、今この瞬間に勝る後悔を味わった試しはねぇ」
確か――ドクター・ウェストとか言ってたか、その他にもそろぞろと覆面男たち現れる。
完全に囲まれている。絶体絶命だ。
こんなとき、俺が最強組織の殺し屋でケダモノだったら。
???「時に人間。汝、名前を何と申す?」
だがそんな状況もお構いなく、少女は呑気にもそう尋ねてきた。
391
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:23:30 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「こんな時に何だよ、あんたは!? それよりこの状況なんとかしないと、2人とも蜂の巣だぜ!?」
???「良いから答えよ、人間。名前は大切なことだ」
九郎「だからそんな場合じゃねえって!
あんた、魔術師だろ!? 何とかならねえのかよ!?」
ウェスト「『本』さえ回収できれば良い! やってしまうがいい!」
ウェストが合図すると覆面男たちが一斉にマシンガンを構える。
ちぃぃぃぃ!? もう駄目か!?
???「答えよ! 人間ッ!」
九郎「……ああああ! もう何なんだよ!?
――九郎! 大十字九郎だ!! 魔術師でもなければ正義のヒーローでもないぞ! ただの探偵だ!
こんな状況どーにも出来ねえぞ、チクショウッ!」
???「そうか。ならば大十字九郎。妾は汝と契約する」
不意に少女が俺の顔を、自分の目の前に寄せた。
儚くて、柔らかな、感触。
触れ合う唇と、唇。
その瞬間、俺達は眩い光に包まれた。
九郎「なっ……!?」
ウェスト「な、何であるか、あの光は!? くっ――!」
光の洪水が辺り一面を白く染め上げる。
目を開けていられないほどの閃光。白い闇。
その中で俺は、少女の声を聞いた。
アル「大十字九郎。我が名をしかと心に刻み込め。我が名は『アル・アジフ』! アブドゥル・アルハザードによって記された世界最強の魔道書なり!」
――久遠に臥したるもの死する事なく怪異なる永劫の内には死すら終焉を迎えん――
ウェスト「な、なんであるか? 彼奴の格好は……?」
俺は、ぴったりとフィットした黒いボディスーツに全身を包まれていた。それはこれは……マント? いや翼?
よく見ると本のページを束ねたような構造になっている……と言うか、そこにはびっしりと魔術文字が書かれている。魔導書のページそのものだ。
自分の置かれている状況が全然理解できない。
いったい何が……ってそうだ! あの少女は!?
周りを見渡す……だが少女の姿はどこにもない。
アル「此処だ。此処」
声は聞こえど姿は見えず。
アル「肩だ。己の肩を見ろ」
言われて、恐る恐る肩に目を向ける。
……いた。確かにいた。
妙に小さくなった……と言うか、デフォルメされた少女が俺の肩をの上にちょこんと腰かけている。
九郎「ず、ずいぶん縮んだな……」
アル「ふっ……その代わり、汝の魔力は爆発的に増幅したぞ。
そう、この妾――魔道書『アル・アジフ』の所有者に選ばれた今の汝は魔術師<マギウス>だ。さあ、共に戦おうぞ」
九郎「――って、さらりとトンでもないことが俺の意志とは関係なく決定されてないか、それ!?」
ウェスト「なっ……馬鹿な!? あの『アル・アジフ』が、あんな若造をマスターに選んだだと!?
有り得ん! 有り得んのである! 撃てぇぇぇぇぇぇ!」
ドクター・ウェストの命令で、覆面男たちが我に返る。
そして、覆面男たちはその引き金を引いた。
ダダダダダダダ
九郎「どわああああああああ!?」
アル「落ち着け九郎! かのような玩具、もはや汝には通用せん!」
少女が宣言すると同時、黒い翼が俺を護った。
銃弾はすべて翼に弾かれ、地面に転がる。
弾丸が止むと同時、翼が大きく羽ばたいた。
羽ばたきが凄まじい旋風が生み、覆面男たちを吹き飛ばした。
392
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:25:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウェスト「なんとっ!? おのれぇぇぇぇぇ!」
ウェストがあのギターケースを再び構えた。
ウェスト「レッツ・プレイ!!」
ドシュッ
ドクター・ウェストのロケット弾が再び迫る……ッ!
九郎「お、おい! アレはいくらなんでも……!」
アル「右手に魔力集中!」
どうすれば良いのか分からなかったが、なんとなく力を右手に集めるようなイメージを思い浮かべた。
果たしてどうだろうか、右手に魔術文字が浮かび上げる。
アル「掴め!」
言われるがままに飛んでくるロケット砲をその手で受け止めた。ロケット弾の勢いに押され、摩擦熱によって焦げた足跡をアスファルトに刻みながら後退する。
だが、それだけだった。
俺は脚を踏ん張って、ピタリと制止する。
ウェスト「は、はいぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
九郎「こ、これは凄いな……」
手の中で、炎の尻尾を振りまきながらなおも暴れるロケット弾を見て、思わず感嘆の吐息を漏らしてしまう。
少女は意地悪の笑みを浮かべた。
アル「さあ九郎……それは持ち主に返してやれ」
――なるほど。
俺もまた、にやりと笑って応えた。
ウェスト「ちょっ! ちょっと待ったァァァァ!? そ、それはマズイのである!」
こっちの意図を察したのだろう。慌ててバイクに乗り、急速Uターンで逃げようとする。
だが、遅い!
九郎「ほぉぉぉぉら、忘れ物だっ! 受け取れぇぇぇぇ!」
手に持ったロケット弾を槍投げの感覚で、遠ざかるドクター・ウェストの背中目がけて、思いっきり投げつけた。
ウェスト「ノォォォォ! ノオオオォォォォッッ! のあああああああっっ!?」
ヤケクソ気味に盛大な爆炎と爆音が夜闇を吹き飛ばす。爆風に舞い上げられたドクター・ウェストは、そのまま向かい先のビル壁に激突し、ベチャという音を立ててその身体は地に崩れ落ちた。
ドクター・ウェストをぶち倒して、ようやく辺りは静けさを取り戻した。肩の上の少女が満足そうに頷く。
アル「うむ……初めてにしてはなかなかの手際だったな。どうやら妾と汝、魔力の波長が合っているらしい」
九郎「……って、俺は相変わらず状況を把握出来てないんだが」
アル「ふむ、まだ混乱しておるか。まあ、無理もない。
先程も名乗ったが、妾は魔導書『アル・アジフ』。魔術をかじっていたのなら名前くらいは聞いたことがないか?
それとも『死霊秘法』<ネクロノミコン>と名乗った方が聞こえが良いか」
『ネクロノミコン』
偉業の神々について書かれている魔導書の中で、最も有名な本だ。
ただし現存しているのは写本も含めて、ごくごくわずかしかないと言う。はっきり言って伝説に近い存在だ。
しかも、『アル・アジル』と言ったら……
???「そうかの有名なネクロノミコンのオリジナルよv」
393
:
暗闇
:2006/03/24(金) 01:41:45 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「だ、誰だ!?」
九郎が声のする方を振り向くと、そこには界魔たちにバグシーンを仕向けたあの女性の姿があった。
沙耶「私は沙耶……よろしくね、新しいマスター・オブ・ネクロノミコンさん。以外といい男でよかったわ」
九郎「マスター・オブ・ネクロノミコンって……俺はまだ魔術師になると了承してねえんだけど!! それにあんたまさかあの変態の……」
沙耶「お願いだから、アレとだけは一緒にしないで……」
頭を抱えながら、彼女は言った。
その時……
ウェスト「ぐぬぬぬぬ……おのれぃ……」
なんと、そこにはボロボロになりながらも立ち上がってきたウェストが…とはいってもかなりフラフラだが……
ウェスト「よくも我輩にこんな仕打ちを……我輩を起こらせるとどうなるか……おうっ」
無理に身体を動かすたびに、ピューと血が至るとこから吹き出る。
沙耶「全くもう、あなたまだ生きてたの?」
ウェスト「貴様は妖怪狐ではないか? 邪魔だからそこを退くのである……彼奴は我輩の獲物であ…うっ!」
バランスを崩す、変態科学者はどうにか根性で踏みとどまっている。
沙耶「そんなんじゃ、邪魔になるだけだわ。 早くお帰りなさい」
ウェスト「黙るのである。如何に逢魔といっても今回の任務を任されたのは我輩である。勝手な真似は許さないである!」
沙耶「あら、そう……でもこの状況じゃ作戦妨害はどちらかしらね? そんな有り様じゃ、あなたの方に責任が問われると思うけど……最悪の場合、大導士様を怒らせちゃうかもね。
ブラックロッジきっての天才科学者はただの足手まといな変態だったということかしらね?」
ウェスト「!!」
ウェストはワナワナと身体を震わせながら、
ウェスト「ちょっとそこで待っているのである……今から我輩の本気を見せてやるのである……この大・天・才ドクター・ウェストの真の実力を!!」
ウェストは人差し指を上げながら、
ウェスト「アイシャルリターン!!」
ウェストは蹌踉けながら、九郎達の視界から消え去った。
沙耶「さてと、変態さんも居なくなったことだし……ちょっとお姉さんと遊んでくれないかしらv」
沙耶が微笑みを貌に浮かべると、その隣には数体の鎌鼬が姿を見せた。
394
:
ゲロロ軍曹
:2006/03/31(金) 20:40:36 HOST:p3174-ipad30okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
九郎「お、おい!?どうすんだよこれ!??なんか、さりげなく状況が悪化した気がするぞ!??」
自分の肩にいる小さくなったアルに対してそう告げる九郎。
アル「ふん、案ずるな。あのような物の怪の類、今の汝ならばたやすく仕留められる。」
九郎「だぁあ!!お前俺の話聞いてないのか!?聞いてないだろ!??俺が言いたいのは、お前のせいで今の状況が成り立ったんじゃないか、ってことだよ!!!」
アル「・・・ならば問う。妾の力もなしに、先の状況が打破できたとでも?」
九郎「うっ・・。(汗)」
アル「銃弾の雨霰の中、ミンチにならずにすんだのは誰がいたからだ?」
九郎「うっ・・・・。(大汗)」
アルの告げる事実に対して、反論する術がない九郎・・。
アル「魔術を齧ったとは言え、汝はただの人間だ。そして妾は力を使い果たしておった。ならば、汝と妾が契約するのが双方にとって最良の選択ではないか。うむ。何の問題もない。」
そういいながら、アルは不敵な笑いを見せた。そう、まるで自分が勝ち誇ったことを見せつけているような笑みだった・・(汗)。
九郎「ひでぇ・・。」
アル「運命だ。」
思わず泣きそうになった九郎に対し、あっさりと告げるアル・・・。
九郎「ひ、一言で片付けやがったな?ちくしょう、俺は認めねーぞ!!」
アル「・・往生際の悪い人間だ。まぁよい。」
九郎「よくないっ!」
沙耶「・・余裕ねぇ、あなたたち。こんな不利すぎる状況の中で・・。」
九郎「あ・・・(大汗)。」
沙耶の一言で、改めて自分がめちゃくちゃピンチな状態ということを再確認した九郎・・(汗)。
395
:
ゲロロ軍曹
:2006/04/03(月) 18:54:02 HOST:p6068-ipad29okayamaima.okayama.ocn.ne.jp
その頃・・・
=日本・とある公園=
剣崎「・・・。」
とある公園のベンチに座りながら、剣崎一真は一人、悩んでいた。それは、この間現れた復活したアンデッド、そして新しい三人のライダーたちのことである・・。
剣崎(一体、何がどうなってるんだ・・?烏丸所長や橘さんなら、何かしってるかもしれないけど・・。)
だが、それは到底無理だった。なぜならここ数年、彼らとは音信不通で、どこにいるのかすら分からなかったからだ・・。
剣崎(・・くそ!!こんな時、何もできないなんて・・!!)
剣崎は、今の自分が歯がゆかった。昔のようにブレイドとなって闘うことができない、今の自分が・・・。と、その時・・・
?「・・あのう、どうしたんですか・・?」
剣崎「え・・?」
剣崎は声に反応して、うつむいていた顔を上げた。するとそこに、優しそうな雰囲気の女の子がいた・・。右手には買い物袋をもっている。おそらく買い物から帰ってたところなのだろう・・。
剣崎「えっと・・、君は?」
?「あ、私、『五代みのり』っていいます。どうぞよろしく♪」
剣崎「あ・・、うん。俺は剣崎。剣崎一真・・。」
とりあえず、軽く自己紹介をする二人だった・・。
396
:
暗闇
:2006/04/04(火) 17:36:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界=
ノイエ「え……ええーっ!? 実の……実の親子ですって!?」
大学から坂を下って数分の場所――ボロアパートの2階部屋から悲鳴が上がり、深夜の静寂を切り裂いた。辺り一帯の民家に立て続けに明かりが灯り、ワンワン、ニャーニャー――犬猫までが喚き出す。
美沙「こらっ、しーっ。落ち着きなさいよ、ここドイツじゃないんだからっ。わたしこのボロ屋けっこー気に入っているの、追い出されたらどーすんのよっ」
ノイエの口を押さえながら、美沙が耳元で喚いた。
――鷲士のアパートでの出来事である。2部屋ある中で、こっちはハイテクとヌイグルミが同居する角側。美沙さまの居城だ。
茫然自失のノイエは、白茶けた顔でぼんやりと、
ノイエ「ミ、ミサは中学校で……シュージは大学生……! 年齢差は……たった9歳? 小学4年生のときにできた子供……? 神よ、なんてことなの……! 確かに本国にも、大学に赤ちゃんを連れてくるヒトはいたけれど……」
美沙「エッチしたのは8歳のときみたいだけどねー。 小学3年生かな? ちなみに美貴ちゃ――あわわ――じゃなくて、ママはもう1歳下だよ」
パパに作ってもらったサンドイッチをつっつきながら、ゲホンゲホン、と美沙だ。
ノイエ「じゃ、じゃあ、そのお母さまは……? どうなっている……? 教育研究のためにも、お話しを伺っておきたいわ……」
美沙「え、えっとね……し、死んだの。風邪で。うん、そう」
ノイエ「……か、風邪?」
ノイエが片眉を上げた。
ノイエ「ま、待って、シュージはともかく……あなた、あの超巨大コングロマリットを率いるユウキの直系なんでしょう? あなたにとっての祖父母がお亡くなりになったのなら、その一人娘であるお母さんは、一族の未来を左右する重要人物のはずよ? 100人の医師団がついてても不思議じゃないわ。それが……風邪?」
美沙「う、うるさいなぁ。カンケーないでしょ、そんなこと。だいたい、今はもう結城とわたしは切れてるんだし。鷲士くん、なんか言ってよー」
と振り向いた美沙だが、大学パパの反応はなかった。
鷲士はエプロン姿。大型TVの前で、先ほどから正座したまま動かない。
映像は深夜の特番だった。緊急報道である。6時のニュースの女性キャスターが、今はリポーターだ。背にしているのは――相模大らしい。
リポーター『ご覧下さい! AH64、通称アパッチと呼ばれる戦闘ヘリの残骸です! 今、この日本でなにが起こっているのでしょう!? 先日もこの大学は図書館を爆破される事件があり、テロの憶測も飛び交いましたが、今回は次元が違います! AH64というと、横須賀基地にも配備されている米軍のヘリコプターですが、外務省が先程確認をとったところ、在日米軍の部隊から失われた機体は一機も存在せず、その出所は全く不明のまま! さらに風苅町駅の大破壊は、なんと宇宙兵器が使われた形跡もあり――』
興奮気味のリポートが、延々と続く。
魂を抜かれたように、鷲士は前のめりにパタッ。動かなくなってしまった。
鷲士「た、大変名ことになってしまった……!」
美沙「しっかりしてよ――発見されたのは、頭を打ち抜かれたパイロットの死体だけかぁ。あのおかしなチューン・マンの仕業ね、きっと」
画面を見ながら、美沙。神経の太さが違う。
――スプレイの行方は、ようとして知れなかった。
美沙の“命令”で動いた治安・公安局だが、未だに発見できずにいる。フォーチュン・テラーが誇る監視衛星・叢雲でさえ、追尾は不可能だったのである。熱源などの反応が普通の人間と違っていたのが、主な原因だ。直後にモードを動的に切り替えて探索を行ったが、初動の遅れが、致命的な隙を与えてしまった。
疲労の濃い様子で、ノイエはかぶりを振った。
ノイエ「ああ……なんてこと……! わざわざ極東までやってきたのに、肝心のバレッタをミュージアムに奪われてしまった……!」
美沙「んじゃ、本題に入りましょーか」
ニヤリ、と美沙が笑い、鷲士も弾かれたように居住まいを正した。
397
:
暗闇
:2006/04/04(火) 17:37:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「そ、そうだね、まずはそれを聞いたとかなきゃ。あのバレッタはいったいなんなのか、禁断の井戸……回る水だっけ……を、どうしてミュージアムが狙ってるのか……あいつらを防ぐために、きみは日本に来たんだろう?」
ノイエは真剣な眼差しで、父娘を交互に見た。
――すぐにこめかみを押さえた。
ノイエ「本物は最初から存在せずに、あなたたちが事実上のダーティ・フェイスだなんて……! これはこれで問題だわ……! 任せて大丈夫なのかしら……?」
美沙「ふ〜ん、そぉ。んじゃやめる」
ノイエ「あっ、うそよ、うそ! ちゃんと話すから!」
そして夜はさらに更け――小一時間ほどのち。
腕組みした鷲士は、重々しく頷いた。
鷲士「……分かった。あ、いや、細かい部分は正直よく呑み込めてないところもあるけど、少なくともノイエの言いたいことは理解したつもりだよ」
ノイエ「そ、それじゃあ!?」
ノイエは希望に目を輝かせ、身を乗り出した。
が――。
鷲士「あの……悪いけど、1日ほど考えさせてくれないかな」
あちゃー、と美沙が顔をしかめ、ノイエはテーブルをブッ叩いた。
ノイエ「なっ――ど、どうしてなの!? 連中は既に部隊をミュンヘンに送り込んでる! 今回の現場指揮官であるハイ・キュレーター、ディーン・タウンゼントも、今頃は間違いなく合流しているはずだわ!」
美沙「ゲ……! ディーン・タウンゼント? 同じハイキュレーターって言っても、この前のヘボ桐古とかよりは遙かに格上じゃん。あっちも本気みたいねー」
ノイエ「そして井戸を開く鍵は、彼らの手に! 一分一秒でも惜しい――本当ならこれも帰りのジェットの中で話すべきようなことなのよ!? どうして!?」
鷲士「ど、どうしてって……ノイエはなにか誤解してるよ。ぼくたちは警察じゃない。ましてやヒーローでもなんでもない。きみの話を聞いてると、今回は宝探しっていうより、最初から戦いが前提みたいだ。簡単には引き受けられないよ」
ノイエ「既に被害者は出てるのよ! 放っておくと言うの!?」
鷲士「……あのね、ぼくは父親なんだよ。自覚、あまりないけど」
ため息混じりの、鷲士の言葉だった。
ノイエはハッとして、美沙を見た。12歳の少女は肩をすくめるだけだが、ダーティ・フェイスを駆り出すということは、彼女の出撃をも意味する。
碧眼の美女は、唇を噛んで顔を上げた。
ノイエ「じゃ、じゃあ、どうすればっ……!」
鷲士「……だから、考えさせてよ。その……悪いとは思うけどさ」
重い沈黙を破ったのは、やはり美沙だった。少女は両腕を後ろ手に組むと、肩を若いパパにこすりつけながら、猫なで声で、
美沙「ねえねえ、鷲士くぅん。美沙ぁ、行っきたいなぁ。井戸にもぉ、興味あるしぃ♪」
鷲士「ねえねえって……ぼくに色目使ってどうするのさ」
呆れる鷲士だが、すぐに真顔になった。
鷲士「……あのね、美沙ちゃん。ぼくは宝探し自体は反対じゃないんだ。ぼくも施設の出だから、自分のルーツを探そうっていう気持ちは、凄くよく分かる。だけどさ、戦いはよくないよ。ケガしたら大変だろう? カタいこと言うようだけど、やっぱり――」
すると美沙は、小さな手で、鷲士の腕を取り、
美沙「わたしのコト、キライ……?」
鷲士「まさか〜。うん、分かった、行く――」
笑顔で言う鷲士だったが、急に我に返り、
鷲士「――あわわ、きみは好きだけど、行かない! いや、行かないとまでは言わないけど、こんなことでいい返事なんかしないぞ!」
美沙「ちぇーっ。やっぱり本物じゃないとダメかぁ。半分は血を引いてるんだけどなぁ、なにが違うんだろ? これは要研究ね」
舌打ちし、指を鳴らす美沙である。
398
:
暗闇
:2006/04/04(火) 17:38:12 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「こら、もうっ、それ美貴ちゃんに教えちゃっただろう? ぼく、困ってるんだぞ」
美沙「えー、そりゃそうでしょ。だって元祖はあっち――」
と、今度はおチビさまが、あわわ。
大学パパは、不審な眼差しで顔を寄せ、
鷲士「……やっぱり昔からの知り合い? 彼女のこと話してる時は、な〜んかきみも樫緒くんも様子がおかしいんだよね。どういう関係なの?」
美沙「う、うるさいなぁ。女のプライドを訊くなんて、男らしくないよ、鷲士くん!」
鷲士「……言い訳の仕方まで似てるんですけど」
美沙「うっ、だからその、あれよ、あれなのよ、うん! ま、難しい話はおいといて――今日はごくろーさま。とりあえず、これでも飲んで。ねっ」
アハハ、と彼女は背後からドリンク剤を出すと、鷲士の前に置いた。
鷲士「あ……う、うん。美沙ちゃん、ありがとう」
ノイエを見ながら、ゴクッと一飲み。
――鷲士は、あっさりひっくり返った。
寝息を立て始めたパパを、娘は、フッ、と冷笑して見下ろし、
美沙「まだまだ甘いわね、鷲士くん。なんだろーと、ミュージアムに好き勝手させるワケにはいかないの。連中の目的にも興味あるし」
ノイエ「ちょ……ちょっと、大丈夫なの?」
しかし美沙は、少し不安そうに鷲士のもとにしゃがみ込むと、
美沙「ヤダ、でも心配になってきちゃった。どーしてこんなに簡単に引っかかるんだろ? ちゃんと大学卒業できるのかなぁ」
ノイエ「……ミサ、あなたは本当に娘?」
399
:
暗闇
:2006/04/07(金) 14:22:41 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=1604年・日本=
ここは名も無き農村。豊かとは言えないが、かつてこの国が戦国の世に晒されていた中も村の人々は互いに助け合い、それを乗りきってきた。
今年は幸いなことに天候にも恵まれ、豊作であろう。村の子供達も餓えさせずに済む……そんな時だった。
村の若者の一人が、血相を変えて村の長老の家に駆け込んできた。
何事かと思った長老は若者に聞くと、若者は「すぐに村から逃げろ。女子供を優先させて逃がせ」と言ってきた。
どういうことだ?と長老は若者に何があったのかを詳しく話させようとした時、悲鳴が上がった。
それを聞いた長老と若者が外に出ると、村の家々がばっさりと切断され、大多数の村人たちが鮮血と共に、その体を宙に舞わせていた。
その惨劇が信じられない長老は呆然とするなか、若者は「遅かったかと」その心は絶望の感情に支配されていた。
何が、何が起こっていると…長老が老いた体に鞭を打って騒ぎの中心へと足を運ぶ。
そして、老人は見た。
蒼い……蒼い鬼が、村を……村を襲っている。
老人の瞳に映る蒼い鬼……それは蒼一色の甲冑を身に纏い、その腕に握られた異形の大剣を持って、村人達を一振りで薙ぎ払っている。
蒼い鬼は、たった今家族を護ろうと立ちはだかった男を剣を持って一刀両断する。
男の後ろに立っていた彼の妻もその余波によって体が左右に分かれ、粉々に吹き飛ぶ。
そのあまりの光景に失禁していた子供が無惨に殺された父と母の名を叫ぶと、しかしその蒼い鬼は子供目がかけて大剣を突き刺し、それを振り払うように中へと投げつけた。
物凄い力によって吹っ飛ばされたその子供の体は、やがて近くの木に叩きつけられ、華奢な体はグシャッと嫌な音を立てた。
昨日まで笑って村中を走り回っていたその子供の頭は激突の衝撃で粉々になり、腕は引きちぎれ…もはや原形を留めていない。
始末を終えた蒼い鬼は…長老の方へと体を向ける。
老人が悲鳴を上げるその前に、自分の目に見える景色が真紅に染まる。それが老人の目に映った最後の色であった。
???「もっとだ…もっとだ……!」
その鬼は、そう言うと次の獲物を求めて剣を振りかざすのだった。
その様子を白いローブに身を包み、大鎌を携えた長身の男が見ていた。濃い褐色の肌、逞しい顔立ち、片方の金の眼を光らせてその村の悲劇を眺めている。
???「悪夢の名を冠す蒼い騎士……豊潤な魂を求め、全ての生命<いのち>を絶望の淵へと落としつくすか……」
その男……ザサラメールは呟いた。
今、村人達が蒼き鬼と呼び恐れる者の正体……ヨーロッパでは蒼騎士と恐れられたナイトメアはこの東の果ての島国に来て最初に立ち寄ったこの村を見つけるとすぐさま襲いかかり現在の虐殺劇を展開していた。
島国であるこの国はヨーロッパと比べると村も少なく、最近は通りかかる旅人などを襲ってその魂を喰らうという小規模な“食事”しか取れなかった蒼騎士は餓えていた。
それ故に、このような小さな村でもアレにとっては久々のご馳走なのだ。
ザサラメール「暴れ狂え、そして魂を喰らい続けるがいい……全ては我が呪われた運命を断ち切る為に……」
400
:
暗闇
:2006/04/08(土) 14:55:57 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ジークフリート「!!」
同じ頃、ジークフリートの右腕になにやら疼きのような物が奔った。
かつて、邪剣を握っていたこの腕が自分の意志に反して、襲いかかってくるような感覚が邪剣から解放された後から度々あった。
ジークフリートは右腕を押さえつけると、必死で言い聞かせる。
ジークフリート「オレはジークフリート・シュタウフェンだ。ナイトメアじゃない……ナイトメアじゃない……」
言い聞かせると共に、腕のそれはやがて収まっていき、先程の疼きは嘘のように消え失せる。
ジークフリート「ここの所……ヤケに疼くな」
最近は、この疼きが前にも増して多くなった気がしていた。
新たな邪剣が産まれたこの国に来たせいなのか、それとも……
ジークフリートはそこで頭を振りかぶり、答えは前者の方だろうと考えた。
後者の方は考えられない……奴はあの時に……
???「ほぉ、こんな所に異人か……珍しいこともあるのだな」
振り向いた先には、褐色の肌が特徴的の無気味な大男が居た。
401
:
暗闇
:2006/04/29(土) 23:44:08 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ジークフリート「なんだ、貴様は?」
黒蠍「おっと申し遅れた。我が名は鬼道ファミリー、三彩衆が1人黒蠍……この国最強の殺し屋よ」
ジークフリート「それがどうした?」
ジークフリートの明らかに興味なさげの感情を孕んだ即答に、プライドの高い黒蠍のこめかみを引きつらせた。
黒蠍「まあ、この国に来たばかりであろう……拙者の凄さがいまいち理解できんかもしれんのもわかる……
が、もう少し口に気を付けた方がいいぞ……本来なら先の一言で貴様を殺している所だが拙者は今はとても機嫌が……ってどこへ行くか!!」
話の最中に立ち去ろうとしていた大剣の騎士を怒鳴りつける黒蠍。
一方、呼び止められた当の騎士は迷惑極まり無さそうな目つきで相手を睨み、
ジークフリート「俺は今は機嫌が悪いんだ。さっさと失せろ」
黒蠍「貴様……ここで死にたいようだな」
黒蠍はどこから出したのかは不明だが、その手に針を握る……ついにその怒りが頂点に達したのだ。
黒蠍「我が鋼鉄尖の餌食になるがよい!!」
黒蠍が両手から複数の鋼鉄尖を素早く投げつける、それは人間の知覚能力では見切る事は不可能であろう……しかし、それはあくまで常人ならでの話である。
キン、カキン、カキン…
黒蠍「な!?」
ジークフリートは黒蠍のそれを上回る速さで鎮魂歌<レクイエム>の名を冠した愛用の大剣<ツヴァイハンダー>で鋼鉄尖全てを容易く弾いていたのだ。
黒蠍「なんと……鬼眼の狂以外で我が鋼鉄尖を防げる者がいようとは……」
ジークフリート「最初で最後の警告だ……俺の目の前から今すぐ消えろ」
黒蠍「なにぃ!?」
ジークフリート「今はなるべく人間を殺めないようにしているが……貴様のような救う価値のない人間は怒りの弾みで殺してしまいかねないからな……もっとも生きていられたとしても二度とその針が握れないようになるだろうな」
黒蠍「舐めるな!! 我が奥義をもって仕留めてくれる!! 貴様がどれほどの使い手であろうと、数百の鋼鉄尖は防げまい!!」
その瞬間、黒蠍が唸り声を上げ、なにやら闘気のようなものを沸き上がらせる。
やがて、その喉が風船のように大きく膨らんだかと思うと、同時に黒蠍の口が開いた。
――秘奥義 数多死極!!!――
黒蠍の口から機関銃の如く、大量の鋼鉄尖が発射され、それがジークフリートに目がけて襲いかかっていく。
が、ジークフリートは全く動じた様子もなく、手にした愛剣を針の嵐に目がけて振りかぶった。
すると、針の嵐は瞬く間に薙ぎ払われ、黒蠍も深い斬撃を刻まれると共に吹っ飛ばされた。
黒蠍「があああああ!!」
ジークフリート「だから言っただろう、俺の前から消えろとな」
ジークフリートはそう吐き捨てると、黒蠍には目もくれずに背を向けて、その場から立ち去った。
402
:
暗闇
:2006/04/30(日) 01:24:44 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=異世界 某宇宙空間=
かつて、この世界の人類がゾハルという謎のエネルギー機関を発掘したとき、それと同時に十数基の奇妙な物体が見つかった。それは全長数メートルにも及ぶ巨大な脳髄の形をしていた。この構造体のことを<アニマの器>と呼ぶ。
人類は長い研究の結果、この遺物を巨大機動兵器に組み込み、その構造体に潜在する膨大な力を引き出す方法を発見したのだ。
この機構を組み込んだ機体は、もはやA.M.W.Sとは別格の兵器と見なされ、畏怖の対象をこめてE.S.と称される。その性能はE.S.一機で一星系の軍隊とゆうに匹敵するとまで言われた。
そして、そのE.S.シメオン(Simeon)のコックピットで、乳白色の髪の男が狂気を湛えた紫の目を見開いていた。
14年前、U.R.T.V.も精神連鎖でウ・ドゥに相対したあの日、自分を包み込んだあの感覚――生きながら進化していくような激痛と快楽を己の内に想像しようとし、しかし、今はまだかなわなかった。
スクリーンに映る外は漆黒の宇宙だった。眼下に遠く巨艦……クーカイ・ファウンデーションの姿が浮かんでいた
その男、アルベド・ピアソラは愉悦の笑みを浮かべ、それを眺めていた。
アルベド「ネズミ共は網からすり抜けたか……」
先程、U−TIC機関が作戦でクーカイ・ファウンデーションが星団連邦所属艦ヴォークリンデへ攻撃を行ったという偽装工作映像を流し、無実の罪を着せる事によってペシェ(MOMOのこと)を掌握しようとしたが、向こう側にある対グノーシス用アンドロイド、KOS−MOSのメモリーデータにより結局その冤罪は晴らされてしまった。
もはや、強硬手段に出るしかないと踏んだU−TIC機関は“あるもの”を使用することを決定した。
アルベド「遂に聞くかあれを……あの“歌声”を……見物だぞ、フハハハハハハ!!」
コックピット内でアルベドが哄笑を上げる、狂気に満ちたその姿を前部座席ナビシートに座る肌の浅黒い白髪の少女が不安そうに見つめていた。
アルベド(さあ、喜劇の始まりだ……)
=クーカイ・ファウンデーション=
Jr.「これは!?」
Jr.の頭の中に、甲高い悲鳴のような声が聞こえた。神経がきしむ。頭の中に響き渡る声は穏やかに調子を上下し、雑音がその主旋律をくるんでいる。
この音、否…この歌は14年前の……
ケイオス「いけない! 歌わせちゃダメなんだ! その歌は!!」
そう、それはネピリムの歌声。かつて人々を恐怖の底へ叩き落とした悪魔の歌声。
そして、宇宙空間ではある異変が起こり始めていた。
歌声に導かれ、暗い宇宙に光の穴が生じる。その穴が爆発的な速度でその数を増やして行き、そして穴からは半透明の怪物たちがその姿を現した。
その怪物は魚類のようなものや人型に近いものやら、鳥類に近いものやらと様々だ。
その怪物郡、この世界の人類を脅かす謎の存在……グノーシスはクーカイ・ファウンデーションをめざし進行を開始した。
403
:
飛燕
:2006/05/04(木) 23:44:36 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.67]
=クーカイファウンデーション=
シオン達の居た公園へと舞台は戻る。
虚数空間に存在するグノーシスにとって、壁や遮蔽物など無いに等しい。
侵入は正に容易といえたであろう。
だが、彼等は知らなかった。いや、アルベドから教えられていなかった。
自分達の存在を確実なものへとさせるシステムを持ったアンドロイドや人造人間達が居ようとは・・・。
KOS−MOS「R・SPAINE」
右腕をハンマー状へと形状変化させると、跳躍。
敵の懐に飛び込み、その体形からは信じられない様な力で一瞬にしてゴーレムの頭部を潰した。
耳障りな悲鳴が上がる、と同時に悲鳴の主は塩化ナトリウム・・・粉塵と化した塩に成り果てた。
が、それには目もくれずに彼女は目前に控える20体以上のグノーシス<トロール>の軍勢へと2つの赤外線カメラを向けた。
KOS−MOS「・・出力、60%を維持。高速機動状態<ブースト・モード>、起動」
チュイン、と何かが作動する音と共に彼女は全身の駆動モーターと小型ブースターの制限を解除した。
その瞬間―――。
ぐん、と周囲の時間が遅くなったように感じる。
繰り出される巨腕の攻撃も、小型のグノーシスの口から発射されるレーザーの発射角度もはっきりと、まるで止まっているかのように見える。
その下を潜り抜け、上へと跳躍して、接近し肉薄する。
KOS−MOS「R−BLADE」
ぼそりと呟き、両の腕をブレードへと形状変化させるとその腕を振るった。
斬―――。
切る。
斬る。
切る、斬る。
切る、斬る、斬る。
腕を。
足を。
項を。
顎を。
脇腹を。
胸殻を。
肩を。
背中を。
腿を。
首を。
顔を。
ただ只管に断つ。
404
:
飛燕
:2006/05/04(木) 23:47:39 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.67]
裂傷から白い結晶が噴出し、たちまち辺りは白く変わっていく。
雪の中を舞うように切り裂くその姿は機械的な美があった。
抑制され、いかに無駄に動かずに標的を倒すかという思考<プログラム>を優先して行なうのだから、動きに無駄が無さ過ぎて逆にパターン的とも言える。
だが、それを考える間も無く次々とグノーシスは塩の塊となり、四散していった。
冷却の為に脚部の冷却液が蒸発し、大量の蒸気が巻き上がった。
全身各所の制限解除を解いたからである。
KOS−MOS「シオン、目標勢の76%の消滅に成功しました。次の標的へと移行します」
事務的な物言いとは裏腹に白煙漂う中、既に彼女の両腕にはヴェクター社製の27ミリガトリング砲という凶暴な物へと装備変換されていた。
シオン「わかったわ、KOS−MOS!こっちは大丈夫だから!」
後輩のミユキ・イツミが開発した個人携行型多用途兵器システムM.W.S.と呼称される手甲型の兵器が、地面から湧き出てくるグノーシスを捉えた。
シオン「ゴブリン!?・・くっ、熱攻撃は余り有効的じゃないんだけど・・仕方ない!」
M.W.Sに搭載されている穿熱爆薬を用いた一点爆撃兵器。クラッカーを”固着”させたグノーシス<ゴブリン>の腹目掛けて放った。
派手な爆音と共に、シオンの身体がに後退した。
力の限り踏ん張っているにも係わらず微動だするという事は反動がそれだけデカイという事である。
そして、圧倒的火力を凝固、光弾へと変じさせた”それ”は容易くゴブリンの腹に大きな風穴を開けてみせた。
ロケット弾3発連続発射並みの威力を正面から受け止めたのだから、完全によろけてしまっていた。
クラッカーを発射した際の硝煙によって前髪がやや焦げたらしく、額の辺りからなんともいえない焦げ臭いにおいが鼻孔を刺してくる。
が、それに我慢しつつシオンは可愛らしくそして頼もしい援護部隊の名前を呼んだ。
シオン「今よ、MOMOちゃん!」
ふらついて隙だらけなゴブリンの背後に回った小さな少女はエーテルサーキットと呼ばれる、一種の魔方陣を作り出した瞬間、その魔方陣はゴブリンの足元へと空間転移した。
MOMO「ミラクルスター!」
最後の詠唱文を唱えた瞬間、魔方陣が巨大化。そしてそのままゴブリンを飲み込むと四方八方から魔力の爆発が起き、最後には星型の巨大な魔力の塊がゴブリンを包みそのまま四散した。
405
:
飛燕
:2006/05/29(月) 23:34:50 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.224]
=クーカイ・ファウンデーション=
巡礼船団を触れるだけで塩に戻す。
そんな奇想天外破天荒な特技を持った人間など、果たしてこの世に居るのであろうか?
いや、修練を積み、術を極めれば或いは可能やもしれない。
もしくは、エーテル技術が後、0.5万年分ほど進歩すれば、一般人でも出来ない事は無いだろう。
しかし、世の中は広い。
それが銀河単位ともなれば、一人くらいは居たりするのである。
尤も、それが果たして、筋骨隆々の男でも、仙人みたいな人間でも無かったりする。
例えば・・・小麦色の肌と童顔が特徴的で大人しそうな少年とか―――。
少年に覆いかぶさるように漆喰色のグノーシスが腰を屈め、飛び上がった。
だがそれ以降、彼等は全く動こうとはしなかった。
約、半泊ほど経過したその時。
積み木が崩れるように地面にグノーシスは床に倒れた。
倒れた瞬間、皮膚が弾けて、肉があるであろう部分が剥がれ落ちた。
否、それは肉の形状をとどめておらず、砂状になって朽ち果てていた。
そして、白い結晶の粒子の中から少年が何事もなかったかのように、肩に乗っている塩を払った。
そして、少年の前方では奇妙な現象が起こっていた。
大量のコインが他のグノーシスらを取り囲むように宙を舞っていたかと思うと、一斉にコインの表面が弾けたのである。
更に奇妙なのは、その弾けた箇所の直前上にあった物全てが一斉に見えない手で殴られたかのように吹き飛んだのである。
否、直線状にあった地面には何かによって穿たれた痕があった。
嵐の円舞曲
そんな呟きが辺りに響き渡ったと同時に、不条理な方法で全身蜂の巣にされたグノーシス達は一斉にざぁっと崩れ落ちた。
ケイオス「Jr.大丈夫かい?」
先ほどグノーシスを塩化ナトリウムに変えてのけた少年は、この奇妙な現象を引き起こした者の名前を呼んだ。
直後、少年の隣にあった建物のドアが勢い良く開いた。
Jr.「あったりまえだって、ケイオス・・・・にしても、ここのコイン駄目だな。一発でお釈迦になっちまう・・」
『CASINO』と小さく書かれたコインを一枚、ケイオスに放りながらぼやいた。
Jr.と呼ばれた少年の腰には2丁の拳銃がベルトに差し込まれていた。
一方は、レシーバーの下部にある筈のLAMを除去し、代わりに拳銃用のストックを装着させ、インディゴブルーのフレームを基とし、金縁で象った鼠のエングレービングが中々お洒落な拳銃・・・アングリーキャンベリー。
もう一方は、トカレフと称されていた古式銃である。
一度だけJr.は、それの模造品で<54式拳銃>と呼ばれる物を購入した事があったが、直ぐに返品した事がある。
工作精度がすこぶる悪く、1,2発ほど試し撃ちをしてみただけで、弾詰まり。
しかも、少しの衝撃で暴発してしまったのだから始末に終えない。
安物買いは銭失いという事を学ばせて貰ったのは、言うまでも無い。
406
:
飛燕
:2006/05/29(月) 23:35:51 HOST:proxy.e-catv.ne.jp[10.0.83.224]
ケイオス「そういえば、アレンは大丈夫かな?避難したそうだけど・・」
Jr.「あいつなら大丈夫だろ?若干、ヘナチョコだけど逃げ足だけは俺達でも勝てないぜ?」
全然フォローになってない気がする、とは口にはしなかった。
やんわり愛想笑いを浮かべた。
つられて頬を綻ばせたJr.だったが、直ぐに真剣な表情に変わり、2門の銃口をケイオスの顔の前につきつけた。
と、同時にケイオスは横っ飛びに跳躍した。
足元で、何かが爆発する音が聞こえたが、ケイオスは正体を知っていたし、Jr.が乱心したとも思ってもいなかった。
前転して、体勢を整えて後ろを振り向くと、見えない手で殴られたかのように頭から地面に叩きつけられているゴブリンの姿があった。
Jr.「ちぃっ!まだ居やがったのか!」
舌打ちする少年の視線を追ってみて、ケイオスは顔には出さなかったものの少しだけ狼狽した。
ケイオス「これは・・・ちょっと、弱ったね・・」
律儀にも、ケイオスとJr.の会話が終わるのを待っていたらしく、2人の後方を除いてぐるりとゴーレムやグレムリン達が取り囲んでいた。
Jr.「・・装填させてくれる暇くらいは、くれねぇかな・・」
ケイオス「うん・・・これは、一旦引いた方が良いかな」
逃げる算段をつけない?と、さりげなくケイオスが誘ったその時であった。
???「Jr.、ケイオス、下がっていろ!」
突如、野太い声が2人を逃げるよう声をかけた。
拡声器越しから言ったらしく、微妙にエコーがかっていた。
だが2人は言われた通り、素直にその場から引き下がった。
直後、2人の居た場所から3歩前の床が突然、爆発した。
否、膨大な熱量により、床に用いられている金属が融解、蒸発した為に爆発したかのように見えたのである。
不条理な方法で蒸発していく金属と共に、吹き飛んでいったグノーシスの残骸と黒煙の中、ゆらりと影が動いた。
ケイオス「・・助かったよ。正直、僕は一対一なら大丈夫なんだけど・・」
やんわりとケイオスは影にお礼を述べた。
???「気にするな。それに”遅刻”した俺が悪いのだからな」
Jr.「そうだぜ、オッサン。幾ら、調整に時間がかかるからって遅刻してきてもいいってワケじゃないぜ?」
オッサンと呼ばれ機嫌を悪くしたのか、仏頂面のオッサンはこめかみをひくつかせながらJr.を睨んだ。
???「Jr.・・・俺はまだ30代・・いや、正確にいうと、もっと歳を重ねていたな・・」
Jr.「下手したらもっとじゃん」
肩をすくめ、大して詫びた様子もなく言ってのけた。
ふと、そこで何かの遠吠えらしきものが3人の耳に聞こえた。
ケイオス「・・ジギー、ケイオス、2人共・・・・どうも次が来たみたいだよ・・」
気を引き締めるかのように唇をやや噛み締めつつ、ケイオスは黒いライダーグローブの裾をきゅっと締めた。
直後、崩壊音と共に崩れ落ちるビルの向こう側からゴーレムの腕が突き出されていた。
Jr.「ちっ!・・慰謝料と修繕費はたっぷり請求するぜ!!」
呼びもしない傍迷惑な珍客達に悪態をつきながらもJr.は手中の拳銃の空薬莢をきっちりと廃莢し、次の弾丸を装填し終えた。
ジギー「そう言いながら、趣味に回すなよ」
先ほどのオッサンの仕返しとばかりに、ジギーはJr.の手中の物へと視線を向けた。
ぐっ、と忌々しそうな目でJr.は、先行していったジギーの背中を睨んだ。
Jr.「へっ!誤射しても、謝らねぇからな!」
そう悪態をついた直後、ジギーの”重過ぎる”ミドルキックで吹き飛ばし、上体を宙に舞わせつつあったグノーシスの目が突然、破裂した。
背後から火薬の炸裂する音と、耳元で風が逆巻きながら何かが走りぬけたがジギーはそれが何なのか熟知していた。
なのでジギーは別段驚いた様子もなく、冷静に次の相手に移行していた。
今の風の正体は、Jr.の手に収まった古式拳銃から放たれた弾丸である。
ジギーと比べ、一撃一撃が威力は低いが、彼のその一撃は正確無比にまでグノーシスの頭蓋を貫き、頭だけ一足お先に塩の塊と化した。
一秒遅れで、体の方もようやっと認めたらしく、地面に崩れ落ちた。
ジギー「誤射する程の腕前ではないだろう?」
信頼しているからこその、悪態の付きあいであった。
でなくばこうして、今更にのんびりと野暮な皮肉を言ってのけたりする筈がなかった。
407
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:03:14 HOST:kvc.iuk.ac.jp
グノーシスとシオンたちの激闘が続く中、クーカイ・ファウンデーション内ではある異変がおき始めていた。
この安定された世界の背景が歪みだし、蜃気楼のごとく揺れ始める。
あまりにも微弱なそれは徐々に大きくなりつつあり、やがて……
MOMO「何これ……?」
シオン「どうしたの? MOMOちゃん」
KOS−MOS「シオン、現在謎の空間歪曲が発生し始めております。早急に戦闘を終わらせ……」
KOS−MOSの警告を発するも次の瞬間、その“ゆらぎ”は彼女たち、ここから離れた位置にいるケイオスたちをグノーシスごと包み込んだ。
全てが白に染まり、それが晴れる頃には……そこはまるで最初から誰もいなかったかのように静かで、そこにいた者たちの気配も欠片もなく消え去っていた。
408
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:21:33 HOST:kvc.iuk.ac.jp
=アーカムシティ=
沙耶「成り立てホヤホヤだってのに、よくここまでできたわね。感心しちゃうわ」
九郎「そのホヤホヤに対してどうしてここまでされなきゃいかんわけ?」
九郎はアルからの助言に従いつつなんとか撃破した鎌鼬が地に付している。
沙耶「では、次のはどうかし……ん?」
九郎「おい、なにいきなり黙って……」
アル「――待て。何か聴こえないか?」
……
アル「――地響きか。こっちに近づいてくるぞ」
九郎「へっ? いや、俺には何も……」
そう言った矢先だった。
……確かに聴こえてくる。
しかもだんだん大きくなってる。
地面が地響きに合わせて、揺れ出し始めた。
近くに転がるアスファルトの破片やら、マシンガンの空薬莢やらがカタカタ振るえている。
まるで巨大な大質量の何かが、こっちに向かって歩いているような――
九郎「……本当だ。今度は何だ?」
409
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:23:52 HOST:kvc.iuk.ac.jp
逃げ惑う人々の悲鳴と絶え間なく続く地響きと時折聞こえる砲声、爆音の混声合唱。
阿鼻叫喚の――それは決して、この街において珍しいことではないのだが――人々の波を掻き分けるように治安警察の部隊員は動き回り、大声を張り上げ、指示を飛ばしている。
ストーン「目標は建築物を破壊しながら、スラムの方角へ進行中!
くそっ、『ブラックロッジ』め! これ以上、この街で好き勝手やらせるものか!」
ネス「ストーン君、気張ったところで俺らじゃ奴らをどーすることも出来んてって。
デカレンジャーやGGGもそれぞれの大事件で今回もここまで手は回せないそうだから。ここは例の『正義の味方』に任せて、俺らはさっさとトンズラしようや」
ストーン「ネス警部! 貴方は市民の財産が理不尽にも破壊されているのを見て、何の憤りも感じないのですか!?
あまつさえ、どこの馬の骨とも知れぬ輩を頼りにするなんて、なんと嘆かわしい!
本官は警察の使命に命を捧げた身! たとえ、この身が砕けようとも正義を遂行するのが本懐であります!」
ネス「心意気は立派だけどさ……無駄死にしたって誰も喜ばんよ。
俺も今月レースでスっちまってさ、香典払う余裕ないのよ」
ストーン「ネス警部! 貴方という人は――」
ストーンの怒鳴り声は爆音に遮られた。遠くで高層ビルが土煙を上げながら、崩れ落ちてゆく。
土煙と飛び散る瓦礫の向こう、立ち並ぶ高層ビルよりもなお巨大な威容が聳え立っていた。
ストーン「来たか! 『ブラックロッジ』の破壊ロボ!」
410
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:24:54 HOST:kvc.iuk.ac.jp
――もし、アーカムシティに暮らす者以外の誰かがこの光景を目の当たりにしたら、何の悪い冗談だろうと思うだろう。
自分は夢を見ているのではないかと疑い、次には自分の正気を疑うだろう。
それくらいに出鱈目な、滅茶苦茶な、荒唐無稽ここに極まる大事件の光景だった。
倒れるビルの向こう、今も進路上のあらゆる障害物を押し潰し、倒壊させ、行進する破壊の使者。その威容の正体は――途方もなくドデカいドラム缶というべきか。
ズングリした、その途方もなくドデカいドラム缶の下には不格好な脚が生えている。
どう考えても自重を支えられそうにない短足だ。
どう考えても自重を支えられそうにない短足だが……ちゃんと立っていた。あまつさえ歩いていた。
もう、笑うしかなかった。
重い腕を振り回す。
ドリルが唸り、砲口が火を噴く。
そのたびにビルは粉砕され、爆発する。
そう。それは出鱈目で滅茶苦茶で荒唐無稽であまつさえ不格好だったが――確かに破壊の権化であった。
そう。この驚嘆すべき巨体こそ、この戦慄すべき破壊力こそ、悪名高き『ブラックロッジ』の象徴、比肩するもの無き『力』そのもの。
――破壊ロボ。
そして破壊ロボを生み出し破滅と恐怖をばら撒く、呪われた頭脳。
そう。彼こそ、彼こそが、かの天才! 悪の天才! その名も轟く――
ウェスト「ドクタァァァァァァァァーーッ・ウェェェェェェェェストッッッッ!
ふはははは! 恐れ入ったか! これこそ吾輩の本当の実力である!
先程はちょっぴり油断しただけであり、まあ、そんなドジッ娘なところが萌えと言うか
だけど、とっても努力家で、ひたむきにガムシャラで真っ直ぐなそんな吾輩が好き。これが若さか」
恍惚に浸るドクター・ウェストの瞳に炎が宿った。
ウェスト「大十字 九郎とか言っておったな! この天才! ドクター・ウェストが味わった屈辱! 倍返しにしたうえにお釣りは取っといてもらうとしよう!
レッツ、JAM!」
無数の砲口が唄うが如く吼える。
ギターの音色に乗って破壊が広がっていく。
ストーン「おのれ! 本官が相手だ、破壊ロボ! たとえ街は破壊できても、治安警察の正義は壊すことはできないぞ!
征くであります!」
ネス「おいおい、装甲車を勝手に……早まるなよ。ストーン君ーっ」
ストーン「うぉぉぉぉぉぉ! 治安警察万歳ーーーーっ!」
ベギャ
ネス「あー……ありゃ死んだかな?」
411
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:30:03 HOST:kvc.iuk.ac.jp
地響きの正体は、すぐに判明した。
空も覆い尽くしそうな巨体――まるでブリキのオモチャを何の酔狂か、まんま巨大化した、人をバカにしたようなシルエット。
九郎「『ブラックロッジ』の破壊ロボ!」
しかも……何だ。建物をぶっ壊しながら、明らかにこっちに向かって突っ込んで来ている。
沙耶「あ〜もう!! だからアレと組まされるのだけは嫌だったのに……」
珍しく頭を抱えて本心から愚痴る沙耶。
九郎「……あれはやっぱり俺達が標的なのか?」
アル「であろうな」
九郎「さすがにアレを相手するのは無理がねえか?」
アル「無理があるな」
九郎「だったらお前、どーしろと……」
ウェスト「大十字 九郎! そしてアル・アジフ! どーだ、見たか!
これが吾輩の最高傑作! 『スーパーウェスト無敵ロボット28號スペシャル』であるっ!
如何に最強の魔導書と言えど所詮、この世紀の天才たる我輩の敵ではないのである!」
九郎「……って、乗っているのはヤツかい!?」
最悪にしぶとかった。
ウェスト「ふはははははははは! さあ塵と消えるがいいっ! ファイアァァァァァァァ!」
九郎「つぅああああぁぁぁぁぁっ!?」
沙耶「きゃっ!!?」
爆炎で沙耶の姿は炎に隠れ、見えなくなる。
九郎「うおおおおっ!? くそっ、メチャクチャだっ!」
アル「うむ……やはり、今の我等が正面切って戦える相手ではないな」
九郎「つーことは」
アル「脇目も振らず逃げろ」
九郎「結局そうなるのかよぉぉぉぉぉぉぉぉ! どわったぁぁっ!?」
間一髪で飛び退く。爆風に背中を押されるままに、俺は脱兎の如く逃げ出した。
ウェスト「ぬぬっ! 待てえ! 待つのであるー! 敵前逃亡は士道不覚悟であぁぁぁぁるっ!」
冗談じゃない!
こんなんじゃ切腹以前に、肉片だって残りゃしねえ。
九郎「うわぁぁぁぁぁぁんっ! 助けて、ママーーーーっ!」
ウェスト「HAHAHA! 貴様に大砲ブチ込んでやるのであぁぁぁる!」
412
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:31:08 HOST:kvc.iuk.ac.jp
ネス「おーい、ストーン君ー大丈夫かー」
破壊ロボに踏みつぶされた装甲車にネスはそれに乗るストーンの名を呼んでいる。
ネス「あーあ、ここまでひん曲がっちまったら、簡単には開かんなあ。ったく面倒ばっかり増えるよなー…………んっ?」
毒つきながら部下を助け出そうとするネスの上空、風を引き裂くような轟音が接近していた。
ネス「おおっとっ」
突風に吹き飛ばされそうな帽子を慌てて押さえた。
頭上を見上げる。一瞬、視界をかすめる何か。
摩天楼の合間を縫って飛翔する白い影。
あまりのスピードにビルの窓ガラスが全てひび割れた。
硝子の破片を散らし、
月光を浴びて、夜闇に白い奇跡を刻む。
その姿を認めた人々の間から歓声が巻き起こった。
ネス「おっ、来た来た。我等がヒーロー、天使様のご登場だ」
413
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:35:50 HOST:kvc.iuk.ac.jp
九朗「ちっ、これじゃ埒があかねえ! おい、自称『最強』の魔導書!!何か手はないのかよ!?」
アル「ふん! 我が鬼械神アイオーンさえあればこんな瓦落多なぞ取るに足らんと云うのに」
九郎「よく分からんけど、そのアイオーンとやらはどうした!?」
アル「ものの見事完膚なく大破した!悪かったな!」
九朗「つまりはどーしょーもないのかい! 当てにならねえなあ、最強!」
俺の目の前でビームが一閃した。
行く先が爆発、炎上し、俺を阻む。
九郎「しまった!」
ウェスト「ふははははは! 捉えたのであるっ!」
足を止めた俺に、破壊ロボのドリルが唸りを上げながら振り下ろされる!
九郎「ぬおおーーーーっ!?」
その時、突然、猛烈なGがかかった。
足が地面から離れ。もの凄いスピードで破壊ロボから空へと運ばれる。
目標を失った破壊ロボのドリルは虚しく地面を穿った。
ウェスト「何!?」
俺は誰かに抱きかかえていた。
そいつは破壊ロボから充分に離れたところで、俺を降ろしてくれた。
???「――大丈夫か?」
九郎「……あんたはっ!?」
顔を見合わせてビックリした。
白い仮面と被り、白い装甲を纏った、白尽くめの戦士。
よく知っている顔だった……と言うより、アーカムシティでこの人のことを知らない奴はいない。
ウェスト「くっ……また貴様であるか、メタトロン! 我輩の邪魔ばかりしおって!」
メタトロン「ここは私に任せて逃げるんだ」
言って、白仮面――メタトロンは破壊ロボと対峙する。
突き出した右腕が光り輝き、驚異的な変化<メタモルフォーゼ>始める。
右腕から溢れ出す光の文字。魔術文字。
遺伝子にも似た螺旋を描き、容<かたち>を編み上げていく。螺旋の中央でメタトロンの拳が眩く輝いていた。
生まれ変わった右腕は、魔術文字で編まれた砲身をまとっていた。砲口の中心で、光が輝きを増し膨れてゆく。
ウェスト「ぐおおおおおおおおおおっ!?」
光が炸裂した。
眩い爆光が夜を照らす。
メタトロン攻撃を受けた破壊ロボは、確かに傾いだ。
効いている!
アル「……何だ、彼奴は?」
九郎「ああ、あの人はメタトロン。
『ブラックロッジ』と戦う、この街のヒーローさ」
治安警察でも手が出せない『ブラックロッジ』の破壊ロボ。
それらと互角に戦えるのが、メタトロン――アーカムシティの守護天使。
その正体はまったくの謎に包まれているが、暴れる『ブラックロッジ』の前に颯爽と登場し、敵を倒して去っていく。
まさに正義に味方だ。
ウェスト「おのれっ! 今日という今日は貴様を葬ってやる! 死ねえい!」
破壊ロボの全砲門が一斉に火を噴いた。
連続して轟く砲撃の爆音。
だが、メタトロンはそれより速く。飛翔し、その全てをかわし切る。
背中から広がる板状の翼。機械の翼からフレアを迸らせつつ翔ぶその姿は、まさに天使<メタトロン>の名に相応しい。
ウェスト「うぎゃああああああああぁぁぁっ!」
2撃目。
破壊ロボの巨体が大きく揺らいだ。
さらに激化する破壊ロボの攻撃。
しかしメタトロンのスピードは、掠ることすら許しはしなかった。
ウェスト「ええい、ちょこまかと! この蚊トンボがぁぁぁぁ!」
九郎「すげえ……カンペキ手玉に取っているぜ」
アル「見ほれておる場合ではない! 今の内だ、逃げるぞ九郎!」
九郎「ああ、分かった! 悪いな、メタトロン!」
破壊ロボをメタトロンに任せて、俺達は全力で逃げ出した。
414
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:36:38 HOST:kvc.iuk.ac.jp
メタトロンの動きに全長80mの巨体は完全に翻弄されていた。
攻撃はことごとく避けられ、四方八方からメタトロンの攻撃を受ける。
分厚い装甲に護られ、いまだに致命傷は受けていないが、戦況は圧倒的に不利だった。
ウェスト「くぅぅぅぅ! このままでは……! ぐおっ!」
また被弾。
連続する爆音。
ついに装甲の一部が破壊され内部へダメージが及んだ。
爆煙を噴き、紫電を迸らせながら破壊ロボの動きが止まる。
ウェスト「しまったぁぁぁぁぁぁっ!」
メタトロン「――トドメだ」
一閃。二筋の光が疾る。
メタトロンの両手から真っ直ぐに伸びる光。
光の刃。
2本のビームセイバーを直角に交叉させ、メタトロンは破壊ロボ目がけて急降下する。
ウェスト「――――ッ!?」
メタトロン「十字・断罪<スラッシュ・クロス>」
これまでいくつもの破壊ロボを葬ってきたメタトロンの大技である。
メタトロン「……何!?」
斬撃は破壊ロボに届かなかった。
突如、割り込んだ黒い影が、2本のビームセイバーを素手で防いでいた。
黒い影。
それはメタトロン同様、黒い装甲で身を包んだ仮面の戦士。
その姿はまさに黒いメタトロン。
――黒の天使。
???「久しいな。メタトロン」
メタトロン「お前は――! ……チィッ!」
メタトロンの蹴りが、黒天使の頭部を襲った。
吹き飛ぶ黒天使。
メタトロンは蹴りの反動で背後に飛び退く。
双翼から噴き出るフレアの出力を調整して、空中に停止。
蹴り飛ばされた黒天使も鮮やかに宙返りし、破壊ロボの上に降り立った。
対峙する白と黒。
ウェスト「うぬぬっ! 貴様であるか、サンダルフォン! ええい、我輩の戦いの邪魔しおってからに!」
サンダルフォン「随分と手こずっていた様だが?」
ウェスト「なぁぁぁにを言うか、この小僧っ子っ! これからが、反撃に次ぐ反撃の、怒濤の逆襲タイムだったのであるッ!」
サンダルフォン「まあ、構わん。ウェスト、お前は『アル・アジフ』を追え。――此処は己が引き受ける」
ウェスト「何だと!? 貴様、勝手に……」
サンダルフォン「お前の任務はアル・アジフ回収だ。それとも大導師<グラウンドマスター>の意思に逆らうつもりか?」
ウェスト「くっ……よかろう、ならばここは任せたのである。貴様こそ醜態を晒すようになっ!」
大導師の名前を出されてはウェストも従うしかない。
サンダルフォンにそう告げて九郎たちを追う。
メタトロン「……っ! 待て!」
追いかけようとするメタトロンだったが、サンダルフォンが立ち塞がる。
メタトロン「――――ッ!」
サンダルフォン「さっきのお返しだ」
メタトロン「くぅあぁっ!」
雷光の蹴りがメタトロンの脇腹に炸裂する。
弾丸の如く吹き飛びメタトロンはビルに激突した。
メタトロン「くっ……!」
コンクリートにめり込んだ身体を引き抜き、腕を突き出す。
再び砲身へと変貌する右腕。
大気を灼いて、光の砲弾がサンダルフォン目がけて飛翔する。
サンダルフォンは避ける気配を見せない。
その場に停止し、ゆっくりと身構える。
サンダルフォン「綻ッ! 破ッ!」
裂帛の気合いと共に、正拳を突き出す。
拳は飛来するビーム弾を正確に捉えた。
正拳に撃たれたビーム弾はたちまち四散し、威力を失う。まだ消えぬ光の残像の向こう、拳を突き出したままの姿勢で黒い天使は滞空している。
サンダルフォン「ハハッ」
メタトロン「……………」
再び2人の天使は、正面から睨み合った。
周囲を震撼させる気配は、闘気か殺意か。
サンダルフォン「さあ……付き合ってもらうぞ、メタトロン」
メタトロン「お前と言う奴は……!」
白い天使が、夜を裂く光刃を十字に構える。
黒の天使が。夜より昏い拳を天地上下に構える。
ぶつかり合い、昴まる気迫と気迫。
メタトロン「シィィ――――――!」
サンダルフォン「殺ァァァーーーー!」
アーカムシティの夜空を2人の天使が翔ける――
415
:
暗闇
:2006/06/02(金) 15:37:37 HOST:kvc.iuk.ac.jp
ウェスト「ふはははははははは!
こらぁ、待て、待てったらー☆」
逃れたと思った束の間、破壊ロボは再び自分たちを追いかけてきた。
脳の方も今まで以上に、必要以上にトランスしているようだ。砂浜で恋人を追いかけてます敵に。
九郎「くそっ、メタトロンはどうしたんだ!? まさか、やられちまったのか!?」
アル「さあな。何かあったのは間違いないだろう」
振り出しに戻っちまったか!
何とかこの状況を打破する方法はないのか?
ウェスト「ふははははは! ほら、ミサイルのシャワーである!」
降り注ぐミサイルの直撃を受け、九郎はジャンプする。
魔法障壁で爆風から身を守り……そこで誤算が生じた。
地盤が脆かったのか、ミサイルによって着地地点が崩れ落ちた。
そしてそこにぽっかりと地の底にまで続いていそうな巨大な――
九郎「穴ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!?」
反応する暇さえなく、九郎たちは地下の深淵へと落ちていった……!
416
:
ゲロロ軍曹(別パソ)
:2006/06/20(火) 17:35:57 HOST:proxy02.std.ous.ac.jp[pc3f060.std.ous.ac.jp]
その頃・・・
=東京・フェリー乗り場=
?「・・ったく、ようやく到着かよ・・。」
先ほど到着したばかりのフェリーから次々と人が降りていく中で、何やらむっつりした顔の茶髪の青年がいった・・。
?2「ちょっと、『巧(たくみ)』!何着いた途端に文句言ってんのよ!?」
そんな彼の言動に少しカチンときた様子で反論する、勝気そうな一人の少女・・。
?「うるせーなあ・・、何言おうが俺の勝手だろうが?」
?2「だからって、限度ってもんがあるでしょう!?あ〜もう、何であんたはいっつもそう嫌な態度しかとれないのよ?」
?「うるせー!ったく・・、相変わらずおせっかいな女だな・・。」
?2「何ですってぇ!?(怒)」
・・と、何やら険悪な雰囲気になっていく二人・・(汗)。
?3「ちょ、ちょっと『真理(まり)』ちゃん!『たっくん』も!!こんなとこで喧嘩してちゃまずいよ〜!!(汗)」
そんな二人の様子を見て、あわてて止めに入る気が弱そうな青年・・。
茶髪の青年の名前は『乾巧(いぬい たくみ)』。勝気そうな少女は『園田真理(そのだ まり)』。そして最後の気弱そうな青年は『菊池啓太郎(きくち けいたろう)』という名前である。
彼らはまだ知り合って間もなかったりするのだが、いろいろあってこうして三人で行動することになったのだ・・。
しかし、ごらんのとおり、まだ色々と問題があったりもする・・(汗)。
その後、何とか喧嘩をやめた巧と真理。そして三人はある目的のため、東京にある『スマートブレイン本社』へと向かうのだった・・。
417
:
暗闇
:2006/07/16(日) 13:38:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
どうにか鴉を撒いたバリーとブルースは街中で猛威を振るう破壊ロボの様子を呆然と見上げていた。
バリー「おい、ブルース……改めて実感してしまったが、俺達の知るような日常は完全木っ端微塵になっちまたようだな……」
ブルース「ああ、あんたはあれ見るのは初めてだったな……あのドラム缶はブラックロッジの破壊ロボだ。
このアーカムシティを中心にアメリカ大陸で幅を利かせている一般人にも知られているほどの知名度のあの悪党共の傀儡さ」
バリー「ブラックロッジくらいのことは俺だって知ってる。ただ……あのロボはあんな出鱈目の構造をしてるにも拘わらずなんでああまともに動く事ができんだ?」
ブルース「……確かに言われてみれば……」
今まで破壊ロボの起こす騒ぎが大きい為に気にも留めていなかったが、あんな手抜きとしか言いようのない足でどうやってあの自重を支えているのだろうか?
そんなしょうもないこと考えていた矢先……
カサカサ……
バリー「?」
ブルース「どうした?」
破壊ロボが九郎たちを見失ってために破壊劇が一時中断された為、少し静けさを取り戻した無人の街路に響いた微かな音……あの事件以来、こういう僅かな音でさえも敏感に反応するようになってしまったバリーは辺りを見渡す。
やがて、家と家の間に蜘蛛の巣らしきものを見つけた。
その巣は一般に知られているものより遙かに大きい……そういえばあの事件の時にも似たような事が……
バリー「!まずい、銃を持てブルース!あれが来る!!」
ブルース「あれって……おい、まさか」
同じく巣を見つけたブルースも察してハンドガンを抜いた矢先、壁に張り付いていたそれが姿を見せた。
それは8本の足を器用に動かして狙いを定めるそれは2人に飛びかかる。
ブルース「久しぶりの大蜘蛛様のご登場だ」
2人の前には人間を喰えるサイズにまで大型化した蜘蛛の姿……T−ウィルスに感染した蜘蛛の辿った姿だった。
418
:
暗闇
:2006/07/16(日) 13:40:36 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ・地下=
どれぐらい落ち続けたであろうか……不意に激しい衝撃が全身を襲い、ようやく穴の底に叩きつけられたのが分かった。
九郎「〜〜〜〜〜〜〜っ」
……声も出ないくらい痛い。
アル「安心せい。
魔術で保護してやったからな。大した怪我はしておらん筈だ」
九郎「う……ぐ……どこまで落ちたんだ、俺ら?」
どうも、とんでもない距離を落ちたらしい。
魔術で護られていなかったら、疑う余地なく即死だ。
周りを見回してみる。
工事中かもしくは途中で廃棄されたのか造りかけといった感じの空間だった。
しかし、何でだ?
地下鉄やら非難シェルターの開発にしてはあまりにも深すぎる。そもそも、ここらの区画で地下開発があるなんて話自体聞いたこともない。
アル「九郎。向こうの方に通路がある」
精霊が指差す方角に、確かに通路はあった。
どこに繋がっているのだろうか?
……まあ、何にせよ。
九郎「ここに居ても仕方ないし……進むしかないか」
冷え冷えとした薄暗闇の中を進む。
靴音が通路に響き渡る。
前方から、わずかに差し込む光。
通路の出口だ。
通路を抜けると、広大な空間に出た。
……広い。本当に広い。やたら広い。
天上も馬鹿みたいに高い。
あまりにも広大すぎるので、たくさんある照明は空間にわだかまる闇を照らし切れない。
見た感じ格納庫と言ったところだが……
こんな広い空間、しかもこんな地下にいったい何を格納するってんだ……?
九郎「……え?」
そこで九郎はようやくソレの存在に気づいた。
見つかり辛かったり、隠されていたワケではない。というよりこんなモノ隠しようがない。
それなのに、ソレを認識できなかったのは……
ただただソレが、あまりにも巨大すぎたからだ。
九郎「何だ……これは?」
419
:
暗闇
:2006/07/16(日) 13:42:06 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
最初、ソレの全貌がまったく掴めなかった。
そのくらいに巨大な――ソレは鉄の塊だった。
鉄は何らかの意志によって鍛えた、ソレは巨大な鋼鉄だった。
空間の広さに、鋼鉄の大きさに慣れた脳がようやくソレの容<かたち>を捉え始める。
九郎「こ、これは……ロボット!?」
今まで見たことのないタイプのロボットだった。
『ブラックロッジ』の破壊ロボと違って、軍のASやガオファイガーを初めとするGGGの機動メカやデカレンジャーの使うデカレンジャーロボのようなスラリとしたフォルムの人型に近いロボットだ。
でも、何でそんなロボットがここに?
まさかこいつは『ブラックロッジ』の新型で、ここは連中の秘密基地ってことはないだろうな……
アル「ほう! この感じ……鬼械神<デウス・マキナ>か!
術者とアイオーン代わりを同時に見つけるとはな……まるで誰かが妾の運命に介入しているようだ」
九郎「機械仕掛けの神<デウス・マキナ>?」
アル「知らぬのか? 魔導書の中には、妾のように鬼械神を招喚できるものがある。
妾の場合、鬼械神はアイオーンなのだ。術者は魔導書を通じて、鬼械神を自在に操る事が出来る……」
ナイア『あるんだよ。最高位の魔導書の中には、『神』を召喚できるヤツがね。しかもその魔導書の所有者たる魔術師達は、何とその『神』を自在に操ることが可能なんだ……まあ、正しくは神の模造品なんだけど。
とにかく君が必要とするのは、きっとそういう魔導書なんだと思うよ』
そう言えば、あの古書店の店長がそんなこと言っていた……
九郎「『神』の模造品とかいうヤツか……?」
アル「なんだ、やはり識っておるではないか。如何にも鬼械神とは、魔術の力を用いて造られた神々だ。
鬼械神には動力部や至る所に魔術回路が組み込まれている。
ふむ? ただ、此奴は少々強引な構造となっているな。魔術理論と科学の混血児とでも言呼ぶべきか。
正式な鬼械神ではないが構うまい。ありがたく使わせてもらうとしよう」
九郎「……って、お前勝手に!」
アル「我等が見つけたのなら、すなわちこの鬼械神は我らのものということだ。これも運命ということだ」
九郎「いや……何かさっきから随分と都合良く解釈されまくっているな、運命」
アル「どのみち、上で暴れておる粗大ゴミを放置しておくわけにもいくまい?
ならば、此奴を使って戦うしかあるまいて」
九郎「……戦う?」
……またトンでもないことをさらりと言った気がする。
戦う? 何が? 何と?
このロボットが、『ブラックロッジ』の破壊ロボと。
ロボットと使わせてもらう?
誰が?
こいつが? ……こいつだけが?
我『等』とか言ってなかったか。今さっき?
……うん。ものすっげえ嫌な予感がする。
アル「安心しろ。妾がついておる。それに、魔術師と魔導書、そして鬼械神は三位一体。
騎士が軍馬を乗りこなすように、汝はそれを為すことができよう。往くぞ」
九郎「……って、待てぇぇーーっ!
まさかコレに乗って戦えっつーのか!?
この俺にっ!?」
アル「当然だ」
予感的中。
420
:
暗闇
:2006/07/16(日) 13:42:53 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「なっ、なっ……じょ、冗談じゃねえよっ!
何で俺がそんなことをっ!?」
アル「我等がやらねば、誰がやると云うのだ?」
九郎「ふざけんなっ! 俺がそこまでやらにゃいかん理由が……」
その時、ロボットが唸った。
重い駆動音が幾重にも木霊し、広大な格納庫の空気を震わせる。
ロボットの眸。
人間そのままにしっかり2つ存在する眸が、薄闇を払うように光る。
それだけではない、貌の表面にも、装甲にも、淡い光のラインが複雑な紋様を描きながら走り始める。
鋼鉄の躰の下、途方もなく大掛かりな機関が静かに胎動していた。途方もなく強大な力を内に秘めたまま。
九郎「……動き出した?」
アル「見よ。デウス・マキナも汝を認めている」
んな一方的に忠誠を誓われても。
迷惑千万な話だ。
だけど……何だ?
心の奥底から燃え立つような、この昂揚感は。
ロボットはじっと俺を見つめている。
何かをじっと待っているようにも見える。
何の意志も無い単なる機械の瞳――それなのに何故だろう。どうしてこんなに胸が高鳴るんだ?
んなアホな……ロボットなんかに憧れるようなガキの時分でもあるまいし。
アル「ふふふんっ」
耳元で囁いた精霊の笑い声。
……しまった。
アル「汝の方も、此奴を気に入った様だな」
九郎「……馬鹿言え」
アル「馬鹿な事かどうかはこれから判るだろうさ。
――接続<アクセス>!」
彼女は巨人の方を向いて、言葉を解き放った。
アル「識を伝え識を編む我、魔物の咆吼たる我、死を超ゆる、あらゆる写本<こ>の原本<はは>たる我、『アル・アジフ』の名において問う。
鋼鉄を鎧い刃金を纏う神。人が造りし神。鬼械の神よ。汝は何者ぞ」
『アル・アジフ』の精霊は、朗々と詠い上げる。
ロボットに走る光が、その輝きを増した。
九郎「うわわわっ! うわあああっ!? 何だ何だ何だぁぁぁぁぁっ!?」
光が九郎達を包み込んだ。
白く染まる身体が、輝く粒子になって崩れてゆく。
まるで揮発するみたいに、身体が消えてゆく――!
九郎「消え……! きききき消えっ!」
アル「内部<なか>に入るぞ!」
九郎「えっ? ええええっ? う、うわああああああっ!?」
崩れ、揮発して、身体も意識も光の粒子に変わる。
そして――奔る。
文字通り、光の速度で奔る。
光に乗った意識は、ロボットの輝きの中へと吸い込まれ、融け合った。
421
:
暗闇
:2006/07/16(日) 13:43:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
I'm innocent rage.
I'm innocent hatred.
I'm innocent sword.
I'm DEMONBANE.
九郎「――え?」
気づけば、目の前に光り輝く文字。
網膜に直接、灼きつくような文字。
九郎「DEMONBANE……デモンベインだって!?」
瑠璃「――デモンベイン。
私の祖父が遺した、『ブラックロッジ』に対抗する為の手段です」
あの時、覇道財閥のお姫様が言った、あの言葉。
アル「汝は、憎悪に燃える空より生れ落ちた涙
汝は、流された血を舐める炎に宿りし正しき怒り
汝は、無垢なる刃
汝は、魔を断つ者-デモンベイン-
――善い名だ!気に入った!」
精霊の声が少し離れた場所から聞こえた、
九郎は、どうも淡く輝く球体の中に居るようだった。
光に目を凝らせば、魔術文字。これは……魔法陣の内部なのか?
九郎を360°囲む魔法陣の向こう、計器類に囲まれたシートが見える。元の姿に戻った精霊の少女が腰かけていた。
九郎の目の前で、背中の羽みたいのが紙片にバラけて頭の上で再構成――猫耳みたいな形状ヘルメットになる。
九郎「お、おい、魔導書。ここはいったい……」
アル「鈍い奴だな。内装を見て判らぬか?
鬼械神の内部に決まっておるだろう」
九郎「デウス・マキナ? あのロボットのか?
それにデモンベインって……」
アル「それくらい想像つくであろう? 此奴の名だ」
デモンベイン。
このロボットの名前。
そして、覇道のお嬢様が言っていた『ブラックロッジ』への対抗手段。
九郎「じゃあこのロボットが覇道の……!」
アル「操作系に干渉<アクセス>するぞ」
九郎「はぁ? ……うわああっ!?」
ボディスーツの背中から生える黒翼が、魔導書のページになって解けた。球体は緑に沿って九郎を取り囲むように浮遊している。まるで土星の輪だ。
輪を構成する紙片が輝き出した。みるみる容<かたち>を変えてゆく……あるものはモニターに、あるものはコンソールパネルに、あるものは計器に。あるものは操縦桿に変化して、淡く輝く魔法陣を飾ってゆく。
操縦に関連するありとあらゆる機器が俺の周りに浮かんでいた。
九郎(ははは……こいつはなんちゅー不思議科学的な)
向こうのパイロットシート――あっちは、まだしもメカニカルでマトモっぽい――に座るアルが不敵な笑い声を漏らした。
アル「ふふんっ……良し、征ける! 九郎、デモンベイン出動だ!」
九郎「だあああああああ! だから状況でムリヤリ押し流そうとするんじゃねえええぇぇぇぇ!」
アル「毒喰らわば皿まで」
九郎「毒自身がその格言<セリフ>を吐くかっ!?」
アル「ふむ。ならば無理にでも皿を喰らってもらうか」
九郎「てめえぇっ! ぐおわあああっ!?」
もはやアルの思うがままに事は運ばされ、九郎はそれに翻弄されるしかなかった。
422
:
暗闇
:2006/08/03(木) 12:14:34 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=覇道邸=
覇道財閥総帥の執務室。
世界経済の表を牛耳る、覇王の間。
玉座たる総帥の椅子に座るのは、若くして先代より総てを引き継いだ女王、覇道瑠璃である。
机に積み上がった膨大な書類、絶妙なバランスの元で成り立つ山々を危うく崩しかねない音量で、電話の呼び鈴が鳴り響いた。
瑠璃「…………」
執務室の電話が鳴る事態はそうそう起こらない。
手に持った書類から目を離し、瑠璃は受話器を取った。
瑠璃「わたくしです。何が起こりました?」
???「お嬢様、破壊ロボです!
『ブラックロッジ』の破壊ロボが現れました!」
瑠璃は苛立たしげに眉をひそめ、歯噛みする。
――またか。
忌々しいテロリストどもめ。
今は対抗手段を持たない自分たちが苛立たしい。
デモンベインさえ動けば……あんな連中を、のさばらせたりはしないのに。
???「それと……もう一つ大変なことがっ!」
瑠璃「まだ?……他に何が?」
受話器の向こうから返ってきた言葉。
その意味の重大さに瑠璃が凍った。
緊張の張り詰めた厳しい顔で頷く。
瑠璃「分かりました。すぐに向かいます」
電話を切り、執務室の椅子に深く身を預ける。
椅子が独りでに回転した。
カチリと何かが合わさる音。続けて機械の駆動音。
低い駆動音は、執務室の空気をしばらく震わし続け――突然、総帥の椅子が、覇王の玉座が床に沈んだ。
椅子に座った瑠璃が床の下へと完全に姿を消してしまう。
執務室には、ただ無人の静寂とがらんどうが支配するだけ。
423
:
暗闇
:2006/08/03(木) 13:15:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
総帥の椅子が、シャフトの中を高速で降っていく。
覇道邸とその真下、地下に広がる『秘密基地』とを繋ぐ、総帥専用の直通エレベーター。
その向かう先は――
瑠璃は立ち上がる。
身に纏ったドレスを乱暴に鷲掴み……そのまま引き裂くような勢いで、一気に脱ぎ捨てた。
空間に躍る、豪奢なドレス。
ドレスを脱いだ瑠璃の格好は、今までと一変していた。
ドレス姿とは正反対の、機動性を重視した制服姿が瑠璃に総帥としてのものとは違う、戦う者の威厳を醸し出していた。
即ち、それは覇道瑠璃のもう一つの貌。
『ブラックロッジ』に対する勢力の『司令』としての貌だ。
目的の場所。
秘密施設――覇道財閥の枠を結集して築かれた、巨大な地下基地。
その中心部。地下最奥、アーカムシティ最下層にむけてエレベーターは下降していく。
眼下に広がる、広大な空間。
瑠璃の降りた場所は周囲よりも一段高く、広間の全体を見渡すことが出来た。
大小、無数のモニターから発せられる光が、壁面や空間を走る無数の魔法文字、紋様が、薄暗闇を灼いて輝いている。
視界の下方、メイド服をまとった3人のオペレーター達が主方に展開し、それぞれこの緊急事態への対応に追われていた。
天井より降りてきた瑠璃に気付き、オペレーターの1人であるソーニャが顔を上げた。
ソーニャ「お嬢様」
瑠璃「ここでは司令と呼びなさい」
ソーニャ「は、はいです! 司令!」
瑠璃「それで……格納庫に異常事態が発生したと聞きましたが」
ウィンフィールド「はい。虚数展開カタパルトが稼働を始めています」
瑠璃「……何故? まさか侵入者?」
マコト「――不明です。施設のコントロールは完全に奪取されています。
こちらからではモニタするのが精一杯です」
もう一方のオペレーターの1人であるマコトが淡々と状況を告げる。
瑠璃「電力を遮断しなさい。
魔力炉の緊急停止を許可します」
チアキ「既にブレーカーが作動しとります。しかし、その……カタパルトは格納庫の、まったく独立した動力源から電力の供給を受けとるんですわ」
罰の悪そうにオペレーターの最後の1人であるチアキが言った。
瑠璃「あ、有り得ないですわ!
そんな大電力、一体何処から……」
チアキ「……デモンベイン本体です」
瑠璃「!?」
ウィンフィールド「魔術回路を、補足しきれないほどの高密度情報が循環しています。機体が……稼働しているのです」
瑠璃「そ、そんな……デモンベインは魔導書が無ければ動かないのに、誰がどうやって……」
ソーニャ「虚数展開カタパルト、作動します!」
その表面に刻まれた魔法陣が輝き、やがて全体が眩い閃光が発した。
マコト「――全ての構成元素が無限速度に到達しました。デモンベイン、偏在化します」
瑠璃「反応が……消えた?」
チアキ「消えたのとは違います。虚数展開された物質は確率上の概念として、あらゆる空間に存在している状態でして……
ほら! 箱の中の猫と同じで」
瑠璃「それで! 何処に行ったのですか!?」
ソーニャ「あっ、タキオンカウンター作動しましたです!」
マコト「――選択された確率事象から出現位置が逆算出来ます。少々お待ちを」
瑠璃「……くっ」
424
:
暗闇
:2006/08/03(木) 13:16:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その一方、
九郎「うわぁぁぁぁぁっ!?
ななな、何!? 何が起こってんだ!?」
空間が、歪んでいた。
目に映るものが全てが、捩れ、波打ち、渦を巻く。
立っている感覚が怪しい。揺れているようでもあり、回転しているようでもあり、はたまた逆さまに立っているようでもある。
自分の声すら近くから、遠くから、四方八方から聞こえてくる感じ。五感の全てがアベコベでデタラメで、確かな手がかりがない。
アル「えぇい、狼狽えるな見苦しい。ただの空間転移だ」
九郎「はい?」
……空間転移だって?
確かにコレ、古典的なワープ描写っぽい感じがあるが。
アル「なんと! 空間転移も知らぬのか?」
九郎「ワープの類とは違うのか?」
アル「違う。ワープは瞬間移動といい、自分の居る空間と居ない空間を直接繋げることによって長距離を移動するものだが、この空間転移というのは、今『居る』我等を『居るかもしれなかった』空間に広げたあと、指定した座標に『居た』ことにする。つまりは、そういう意味だ」
九郎「はあぁぁぁ? 何だそりゃ?
全然、ワケ分かんねえよっ!?」
アル「今の汝の脳味噌では考えるだけ無駄だ」
九郎「ふざけんな。ちゃんと説明しやがれ」
アル「む。お喋りは此処までだ。実空間に顕現するぞ」
九郎「だから、もうちと分かりやすく……うおおおおおっ!?」
突然、五感が正常化し、歪んだ世界が元に戻り始めた。
425
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:16:01 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
ネス「よぉぉぉぉいっしょっと!
……ふー、よーやくハッチが開いたよ。
おーい、ストーン君。無事かぁぁぁい?」
ネスの呼びかけに答えるが如く、ハッチの中からガラガラと音を立てながら血だらけになったストーンが這いだしてきた。
ネス「……おお、生きていた生きていた。まったく頑丈だねぇ、君は」
ストーン「……伊達に鍛えてはおりませんので。それより、ネス警部! 破壊ロボはどうしたのでありますか!?」
ネス「あー、さっきまではメタトロンと戦ってたみたいだが……今はどーしてるんだ?
何かを追っていたみたいだったが……ん?」
ゴゴゴゴ
ネス「何だぁ? また地響きがしやがる」
ストーン「……っ? 耳鳴りがしますが……」
ネス「んんん……?」
バリー「おい、一体どうしたんだ?」
アーカムシティに起きつつある異変にはバリーたちも気付いていた。
そして、彼らよりも異変に敏感である大蜘蛛はそれを察知したのか彼らとの戦いを止めて逃げ去ってしまう。変わり果てた今でも自然に属するもの故にこれから何が起こるのかをその本能感じ取っているのであろう。
ブルース「わからんが、何かやばいことが起こるってのは確かだ。俺達も離れた方がよさそうだぜ」
一方、
レオン「!?」
レオンの銃口の先にいた巨大蛇が起こりつつある異変を感じ取り震え上がったかと思うと、地中深くに潜ってしまう。
レベッカ「逃げた?」
レオン「生物兵器になってもこうこと関してには人間より敏感な所は変わりないというわけなのか」
=覇道邸 司令室=
チアキ「逆算結果、来たで! デモンベインの出現地点は、シティ58番区画上空600m……って破壊ロボットの間近やないか!?」
瑠璃「えっ!?」
ソーニャ「何をするつもりなんですかぁぁぁ!?」
426
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:18:04 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
何もないはずの虚空に、たった今、途方もない質量の気配が生じた。
天を仰げば分かるだろう。
蜃気楼の如く、揺らめく月と――巨大な影。
揺らぐ影は徐々に色を増し、厚みを得て、存在を確固たるものにする。
ネス「おおおおっ!?」
ストーン「何が起こっているのでありますか!?」
其処に在り得べからざる物質が、存在する無限小の可能性。限りなく『0』に近い確立が集積され、完全なる『1』を実現する。
巨大な何かが、巨大な力を秘めた何かが、今、顕現しようとしていた。
=覇道邸 司令室=
ソーニャ「デモンベイン、実空間に事象固定化……衝撃波、来ますっ!」
瑠璃「――――っ!」
=アーカムシティ=
空間が圧倒的質量に弾き飛ばされ、爆砕した。
急激な気圧の変動が、突風となり稲妻を伴って吹き荒れる。路上に散らばる瓦礫や廃車が煽られ、木の葉の如く飛ばされていく。
人々は逃げる事すら忘れて、魂を抜かれたように見上げるしかなかった。
燃える空に飛翔する、圧倒的なその威容。
破壊を纏いて降臨する、鋼鉄の巨人を。
ストーン「あ……あれは、いったい何なのでありますか?」
ネス「『ブラックロッジ』の新手か? いや……」
=アーカムシティ・上空=
九郎「と、飛んでる!? つーか落ちてるぅぅ!?」
歪んだ世界から戻ったかと思うと、眼下に灯る街の明かり。繁華街から少し離れた位置で火柱が上がっている。その中心にはドラム缶に手足が生えた不細工な破壊ロボの姿が見えた。しかし、デモンベインが出現した位置はいささか問題だった。ガクンと機体が揺れたかと思うと、デモンベインは急降下―――ではなく、落下し始めたのだ。
アル「このまま敵に飛びかかる。着地の衝撃に備えろ」
九郎「飛びかかるってお前……ぐぅぅあああっ!」
急激に遅いくる横Gに、脳味噌が揺さぶられた。
破壊ロボの姿が、みるみる大きくなる。
もうどう考えても後戻りできないスピードで、この機体は落下していた。
……ええい、くそっ!
九郎「もうどうにでもなれ! こうなったらトコトンまでやってやるッ!」
九郎が言うまでもなく、デモンベインは破壊ロボへと向かって急降下した。
427
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:18:46 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウェスト「ぬぬぬ……彼奴ら、どうしてしまったのであるか?」
標的を見失い、破壊ロボの計器を使って索敵するウェストの上空。
デモンベインに無理矢理乗せられ、ヤケクソ気味の覚悟を決めた九郎が、下の破壊ロボ目がけて蹴りを入れるイメージを浮かべる。
気持ちだけは前向きに戦っている九郎に応えようとしたのか、デモンベインは脚を伸ばし、破壊ロボに渾身のドロップキックを炸裂させた。
九郎「でやあああああああああっ!」
全長80mに及ぶほどの馬鹿げた大きさ、これまた馬鹿げた質量を持つ巨大なドラム缶が軽々と宙へと舞っていく。
ウェスト「ぬおおおおおおおおっ! な、何事であるかぁぁぁぁぁぁっ!?」
未だかつて無い衝撃と浮遊感を味わされながらドクター・ウェストは見た。
破壊ロボにドロップキックを浴びせた、もう一つの巨体。
馬鹿げた大きさと質量を持った人型の鋼鉄。
ウェスト「わ、我輩の知らない巨大ロボットだとぉぉぉぉっ!?」
落下の勢いを利用した跳び蹴りの威力もまた、馬鹿げていた。
やがて落下したそれは、地面に激突し、周囲のビルを巻き込み、倒壊させながら、それでも転がり続け、破壊の傷痕を広げていく。
みるみる遠ざかる人型の鋼鉄。
そいつは大地に膝を突き着地した後、ゆっくり起き上がる。
輝く2つの眸が、転がる破壊ロボを見据えている。
その眸の輝きは、まるで意志を宿しているようで―――それは果たして、ドクター・ウェストの錯覚と言い切れるだろうか。
428
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:19:20 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=デモンベイン・コックピット=
渾身の跳び蹴りを喰らい、破壊ロボはどこまでも転がっていく。
ケッ、ざまあみろ!
――と言いたいところなんだが……
九郎「ううっ……脳味噌が良い感じにシェイクされまくって、いささか意識が混濁しまくっているパンチドランカー状態なのだが」
アル「我慢しろ。それより見よ、九郎。彼奴は動けぬ。止めを刺すぞ!」
九郎「トドメつっても……じゃあ何だ、お前。このロボットにどんな武器があるか知ってるのか?」
アル「……ふむ」
もの凄く気まずい沈黙。
少女は素知らぬ顔でそっぽを向いた。
九郎「知らねぇんだな!?
全然からきし微塵にも露ほどにも知らねぇんだな!?
てめぇの勢いだけで飛び出しやがって、チクショウっ!」
アル「あああっ! 煩い! 黙れ! 今から調べようと思っていたところだ! 悪かったな!」
九郎「ああ、悪いさ。悪いとも。この責任、キッチリとつけてもらうからな」
429
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:24:18 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
ネス「あー、破壊ロボと戦っているってぇことは味方……なのかなあ?
……応援するべきか?」
ストーン「な、なぁぁぁにを言っておるのでありますか、ネス警部!
見てください! 被害がメチャクチャ広がっているではありませんか!
巨大ロボット同士の戦闘なんて……GGGが所有しているディバイなんとかというものを使わずにやられてしまったらアーカムシティ全部、瓦礫の山になってしまうであります!以前デカレンジャーが破壊ロボや怪重機をここで撃退した時も……」
ネス「んなこと言ったって……あの戦いの間に割り込んでみろよ。んなの木っ端微塵に粉砕されるどころか塵ひとつ残りゃしねえよ。
オレらに出来ることっつったら、神様にお祈りすることくらいだなぁ」
ストーン「そんな無責任な!ネス警部ーーーーっ!!」
ブルース「蜘蛛が逃げた原因はあれか?」
バリー「他に考えられないだろ、特撮の撮影にしちゃこれは無理がありすぎる」
ブルース「他の連中は大丈夫だろうかね、ちゃんとずらかってくれてるといんだけど」
熾烈な戦いを繰り広げていた2人の天使も、突如として出現した謎のロボットに気付いていた。
戦いを止め、呆然と両機の戦いを見守っている。
サンダルフォン「あのロボット。まさか、噂の……」
メタトロン(……覇道綱造が作った対魔術師用の秘密兵器!)
ウェスト「このスーパーウェスト無敵ロボ28號を上回るパワーだと? 馬鹿な……そんなはずないのである!」
ぎこちない動きで破壊ロボが立ち上がる。
ダメージは深刻。特に駆動系への被害は68%に及んでいた。
慄くドクター・ウェストを怒りと屈辱が支える。
ウェスト「認めん!認めんであーる!! 我輩のロボこそ史上最強で地上最強!! そんなわけで粉微塵に吹き飛ぶのである。喰らえ、最終兵器!ジェノサイド・クロスファイアァァァァ!!」
九郎「おい……敵が!」
九郎たちがデモンベインの中で口論している間に、破壊ロボの外殻が開き変形し始めた。
機体のいたる箇所から出現するバルカン砲、ミサイルランチャー、大口径ビーム砲、キャノン砲……大小さまざま、おびただしい数の重火器類の全てが、デモンベインへと向けられていた。
九郎「おいおいおいおいっ! 何かヤベぇことになってるぞ!?
魔導書! 早くなんとかしろっ!」
アル「ええい、急かすな! 言われるまでもなく、やっておるわ。だがしかし……何だこの機体内を走る術式は。いくら何でも独特すぎるぞ。
こんなもの、いちいち調べている暇があるか……!」
九郎「何だか穏やかじゃねえ言い草だなぁぁぁぁ!?」
ウェスト「塵と消えるがよいわ! 死ねぇぇぇぇいっ!」
アル「くっ――!?」
破壊ロボの砲門がそこで一斉に火を噴いた。それは確実にデモンベインにヒットしていった。
430
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:25:35 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=覇道邸・司令室=
瑠璃「デモンベインが! お爺様の形見が!」
ウィンフィールド「落ち着いて下さい、お嬢……いえ、司令。あの程度で破壊されるデモンベインではございません」
瑠璃「でも……!」
―――そうあって欲しいな。妾としても
一同「!?」
司令室に座る全員が目を見張った。中央モニタ―――淡い光を放つ水晶球の中に、見知らぬ少女が映っている。
チアキ「アホなっ!? 電子的呪術的に暗号化されている基地に、どうやって割り込んだんや!?」
瑠璃「な……何者ですか、この娘は……?」
マコト「発信場所、特定出来ました……デモンベインからの通信です」
瑠璃「何ですって!?」
ウィンフィールド「では、この少女がデモンベインを―――」
瑠璃「貴女! デモンベインを勝手に持ち出して、どういうつもりです!?
その機体は我々、覇道財閥の所有物です!」
アル『うむ、そうであろうと思って質問に来た。
このデモンベインとやら……紛い物だけあって、操作系統の索引がまるでなっておらん。特に兵装項目が未分化でな。妾が解読して編纂してもよいのだが―――』
瑠璃「待ちなさい! 貴女、人の話はちゃんと聞いているのですか!?」
アル『そんな大声を出さんでも聞こえておるわ、小娘。
何でも良い。適当な攻撃呪法を一つ選んで呼称を教えろ。後の検索はこちらでやる』
瑠璃「〜〜〜〜〜ッッ!!」
堪えきれない憤りが怒声になって爆発する寸前、ウィンフィールドが割り込んだ。
ウィンフィールド「どなたか存じませんが、それであの破壊ロボに反撃が可能なのですね?」
瑠璃「ウィンフィールド!?」
ウィンフィールド「司令、火急の事態です。この場はこの少女に託してみましょう」
瑠璃「勝手なことは許しません! デモンベインはお爺様が全てを賭したロボットなのですよ! もし何かあったら……!」
ウィンフィールド「瑠璃お嬢様」
ウィンフィールドの瞳の奥、鋭い光が走った。
真摯な視線が主を見上げている。
その雰囲気に瑠璃は気圧された。
ウィンフィールドは。口調こそ静かなまま、だが確固たる自信を込めて断言した。
ウィンフィールド「ならばこそ、デモンベインを信じて下さい。
あの大旦那様がお造りになられたロボットです。ブラックロッジの鉄屑如きに敗れる道理はございません」
アル『あのな汝等、悠長に口論するのは勝手だが―――』
モニタでは、デモンベインが一際激しい爆炎に包まれた。
その巨体がグラリと傾く。
アル『……そうして呑気に構えていられる程度には、このデウス・マキナ、頑丈に作られておるのだな?』
瑠璃「……くっ」
歯噛みする瑠璃。奥歯がキリキリと軋んだ。
その相貌には苦悩がありありと浮かんでいる。
その間にもオペレーターの1人が、調査結果を報告する。
チアキ「該当するデータが1つありました……例のアレですわ。
つまり、第一近接昇華呪法―――」
ウィンフィールド「……『レムリア・インパクト』ですか!」
431
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:26:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
司令室に居る全員に動揺が走った。ただ1人、モニターの向こうの少女だけが訝しげな顔をしている。
アル『キツネザル<レムール>のぅ……いまいち頼りない名前ではあるが。そいつで良いのか?』
ウィンフィールド「いえ。『レムリア・インパクト』はその危険性から、二重の封印<ロック>が施されております。
発動には司令の決断が必要―――」
アル『全く……面倒な』
ウィンフィールド「司令! ご決断を!」
瑠璃「…………ッ」
ソーニャ「待っ……待ってくださいっ!
『レムリア・インパクト』は、こちら側からの制御も必要ですし……だ、第一! まだ1回も起動テストもしていないじゃないですかぁっ!」
マコト「―――制御に失敗した場合、最悪、アーカムシティが消滅する危険もあります」
ソーニャ「ね、ね、ねっ!? やっぱり危険すぎますよぉ!」
モニターの向こうで再び爆音が響き渡る。
遂にデモンベインが膝を突いた。
アル『汝等、いい加減にしろ! 決めるならさっさと決めぬか!』
ウィンフィールド「……総ては司令の決断一つです。我々はそれに従います」
瑠璃「――――――」
瑠璃は静かに瞳を閉じる。
全く無抵抗のまま、爆炎に煽られ続けるデモンベイン。その巨体に亡き祖父が託した意志は―――
―――誅すべし『ブラックロッジ』。汝、魔を断つ剣と為れ―――
瑠璃「……わかりました。お爺様」
面を上げた瑠璃に、もう迷いは無かった。
司令としての、祖父の意志を継ぐ者としての、戦士としての瞳が静かに燃えていた。
瑠璃「ヒラニプラ・システムを発動。言霊を暗号化。ナアカル・コードを構成せよ」
ソーニャ「えええええええっ!?」
チアキ「ぼやくなソーニャ、覚悟を決めぃ! 実戦こそが最大のテストってなぁ!
さあ、やるでぇぇぇ!」
ナアカル・コード。
司令であり総ての決定権を持つ覇道瑠璃の言霊を鍵として、禁断の奥義を解放する。
デモンベインは今、真の威力を発揮しようとしていた。
瑠璃「では、見知らぬ人……『レムリア・インパクト』確かに承認します。後は任せますよ……!」
アル『ふっ……承知した! 聞いての通りだ! 往くぞ、九郎!』
九郎『ええっ!? 往くつったて、ちょっと―――』
通信が切れる一瞬、聞き覚えのある青年の声が耳に届いた。瑠璃とウィンフィールドは同時に眉をひそめる。
瑠璃(九郎?……九郎ってまさか。でもどうして……?)
ウィンフィールド(……確かに今のは大十字様の声。何があったのでしょうか?)
そんな2人の思考を打ち消すように、オペレーターの声が司令室に響く。
チアキ「―――言霊のナアカル・コード変換、完了! いつでも行けるでぇ!」
432
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:28:27 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
デモンベインの姿は爆炎の向こうへと消えた。
勝ち誇るドクター・ウェストの哄笑が、燃えるアーカムシティに響き渡る。
ウェスト「ふはっ……はははははっ!
ふはははははははははははははははっ!
どうだ、思い知ったであるか!
やはり最強は、このスーパーウェスト無敵ロボ28號スペシャル!
この大天才! ドクター・ウェストが造った、破壊ロボなのでぁぁぁるッ!」
デモンベインを飲み込んだ爆煙が少しずつ晴れる―――
前方の視界が開け、薄れた爆煙の中で揺らぐ巨大な影。
ウェスト「ふははははは……………はい?」
爆煙の向こうにドクター・ウェストは確かに認めた。
街を燃やす炎を背景にして、雄々しくも立ち上がる巨大な姿。
圧倒的な存在力を放つ、巨大な刃金の存在を。
ウェスト「な……なななななっ!? 何ぃぃぃぃーーーーー!?」
紅の炎に染められ、銀色の月光に照らされ、何ら一つ傷を負うことなく、ソレは悠然と立っていた。
―――デモンベイン。
ブラックロッジへの対抗手段。
九郎「すげえ……まったくの無傷かよ」
アル「ふふっ……ますます気に入ったぞ、デモンベイン!
―――さあ! 今度こそ、こちらの番だ! 九郎!」
九郎「ああ……って、いや、だから俺は操縦なんて……!」
アル「何でも良いから言霊を吐け! あとはこちらで意訳する!」
九郎「言霊なんか吐いたことないぞ」
アル「彼奴に言ってやりたいことがあるだろう。それをぶつけてやればよい」
ええい、クソッ!
何だってんだ……
ああっ、もう良い! 分かったよ!
もう、なるようになりやがれ! 往くぞ……ッ!
九郎「奴をぶっちめて、奥歯ガタガタ言わせてやれぇ! デモンベイン!」
九郎が叫んだ、次の瞬間だった。
433
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:29:15 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
九郎「ぐおぉぉぉぉぉっ!」
超高密度に圧縮された情報が、九郎の脳内を駆け巡る。その膨大な情報は、彼の意志とは関係なく脳へと刻み込まれていく。圧縮された情報が脳内で展開され、一つの情報が十、百、千の情報へと膨張していく。脳細胞に激しいパルスが走り、焼き切れるような衝撃に九郎の顔が苦痛に歪む。
九郎「こいつはいったい……」
アル「汝の頭の中を駆け巡っているのは、『レムリア・インパクト』の術式だ」
九郎「術式? プログラムみたいなもんか?」
右手でこめかみの辺りを押さえつけながら九郎が問うと、アルは「そのようなものだ」と答えた。
九郎とアルの体内を駆け巡っていた術式が、デモンベインの魔術回路を疾走していく、
術者と魔導書、鬼械神を駆け巡っていた術式が三者をつないだ。その瞬間、九郎の脳で暴れまくっていた情報の洪水がピタリと止んだ。
視界が、世界が拡大していく。広大に、無限に、世界の果てまでも研ぎ澄まされた超感覚が九郎を包み込む。
肉体から意識が遊離し、個であったものが世界へと浸透し始める。意識が熱を帯びていた。
熱した鉄のように熱い。そのくせ中心はひどく冷めており、冷静だった。
九郎は人差し指と中指で剣指を作り、印を結んだ。習ったわけではない。体が自然に反応していく。それと同時に、デモンベインの光り輝く指先が夜闇を切り裂き、中空に光の軌跡を刻み込んでいく。それは複雑な紋様を形成し、それに応じて内部の各種機関が活性化する。動力部が無限とも思えるエネルギーを汲み上げ始めた。
九郎「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
九郎が吠え、デモンベインは凶暴な咆哮を上げた。
重ね合わせた両腕を天に掲げると、拳から光がほとばしる。それを左右に広げながら振り下ろし、両脚を大地に食い込ませながら踏ん張る。九郎の体が、そしてデモンベインが光に包まれていく。その背には、後光のごとく光り輝く五芒星の印が浮かび上がっていた。旧き印<エルダー・サイン>。邪悪を祓う結印である。
ウェスト「ぬおぉぉぉぉ! それは、なんであるかっ!?」
コックピット内をオーバーロードした魔力がほとばしり、暴れ狂う。だが、九郎とアルは集中力を途切れさせることなく、冷静にそれをさばいていく。九郎は右腕を天高く掲げた。
九郎「光射す世界に、汝ら暗黒、棲まう場所なし!!」
デモンベインの右の掌に組み込まれた機関に、高密度の術式が駆け抜けていく。必滅の威力を封じ込めた機関が覚醒した。
九郎「渇かず、飢えず、無に還れぇぇぇぇ!」
デモンベインが地を蹴り、アーカムシティを疾駆する。掌から溢れ出す閃光がデモンベインを、破壊ロボを、そして街を白い闇の中へと包み込んでいく。
ウェスト「ぬおああああああああああーーーーっっっっ!!」
デモンベインは一瞬にして破壊ロボとの距離を詰めると、右手を振りかぶった。掌が獣の如き咆哮を上げる。それを心地よく感じながら、九郎が叫ぶ。
九郎「レムリア・インパクトォォォォォォォォォォーーーーーッ!!」
掌が爆発的な光に包まれ、導かれるかのように破壊ロボへと吸い込まれていく。同時に、必滅の術式がその内部へと浸透していく。
ウェスト「ノォォォォォォォォォォォ!」
ウェストが断末魔の叫びを上げる。
アル「昇華!」
アルの声が世界に響き渡る。
デモンベインの掌から発せられた光が、世界を白い闇の中に閉ざした
434
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:30:09 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
サンダルフォン「何という威力……これではまるで鬼械神ではないか!?」
デモンベインが破壊ロボを昇滅させるその瞬間を、メタトロンとサンダルフォンはしかと見た。
2人とも己の身体を震わせる戦慄を隠しきれない。
慄くサンダルフォンの脳内に響き渡る。
冷たく澄んだ、少年の声。
間違えるべくもない。
サンダルフォンのよく知る声だった。
マスターテリオン「―――ドクターは敗北したようだな。サンダルフォン、撤退せよ」
サンダルフォン「―――大導師<グランドマスター>。しかし、まだメタトロンが」
マスターテリオン「命令だ」
サンダルフォン「……了解。メタトロン―――貴様の命、預けておく」
白の天使に一瞥だけくれて、サンダルフォンは昏い闇の軌跡を描き、翔び去っていた。
メタトロンは追わなかった。
ただ取り憑かれたように、昇滅の焔を前に佇むデモンベインを見つめ続ける。
メタトロン「デモンベイン……これほどまでとは。
いや、これ程までの化物でなければブラックロッジと互角に渡り合えない。そう言いたいのか、覇道綱造―――」
435
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:30:59 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=覇道邸・司令室=
チアキ「―――レムリア・インパクト。
敵の字祷子構成を崩壊させる、必滅の術式。
存在崩壊を喚起させられた敵対象の内宇宙に特異点を発現させ、質量零、重力無限大、熱量無限大の状況を生み出し、昇滅せしめる究極の奥義……ってまあ理屈は一応解るんやけど……何ちゅーか、実際、目の当たりにすると何とも言えんわ……」
ソーニャ「す、すごい……」
マコト「―――昇華術式の対昇滅を確認。若干の制御誤差がありましたが、被害は予測範囲内です」
ソーニャ「若干って! で、でもアレ……!」
マコト「―――だから、予測範囲内。あの区画は避難済みだから死傷者もいない」
ウィンフィールド「ヒラニプラ・システムの再調整が必要ですね。ですが期待以上の戦果です」
瑠璃「…………」
436
:
暗闇
:2006/08/03(木) 18:31:33 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
九郎「…………」
九郎は……ただ呆然と、その光景を眺め続けるしかなかった。
心は完全に麻痺していて頭の中も完全に混乱している。
目の前の現実を受け入れる事が出来なかった。
アル「ふっ……まあ、最初にしては上出来か。のう、九郎?」
人外娘はしれっとした口調で、そう語りかける。
九郎は何も答えられなかった。ただ口をポカンと開けたマヌケづらをぶらさげるばかりだ。
九郎(だって……これって……洒落になってねえぞ?)
……何なんだよ、このロボット?
ブラックロッジの破壊ロボやアリエナイザーの怪重機とかなんかよりこいつの方がよっぽど危険じゃないか!
どうしようってんだよ、こんな……
―――こんな破壊神!
九郎「冗談じゃねえよ……ったく」
思えば、この時総ては決定されたのだろう。
自分がアル・アジフと出会ったことも。
地下でデモンベインを見つけたことも。
全部―――この少女に言わせるなら、運命が自分に戦うべき道を指し示したからだ。
そう、それはこのアーカムシティの命運を賭けた―――いや、この地球の、もしかしたら全宇宙、最悪の場合は他の異世界や平行世界を含む全次元の命運をも決定するような、大きな戦いの道。
だが、このときの九郎はまだそのことを知らない―――
437
:
ゲロロ軍曹(別パソ)
:2006/08/03(木) 21:06:37 HOST:219.127.111.248
=東京=
?「はあ・・、まただめかぁ・・。」
なにやらため息をつきながら道をとぼとぼ歩く、スーツ姿の青年がいた・・。
彼の名前は『上条睦月(かみじょう むつき)』。4年前、アンデッドたちと戦っていた戦士の一人『仮面ライダーレンゲル』に変身していた青年である。
当時高校生だった彼も、いまや立派な社会人となるために就職活動に励んでいるのだが、なかなかうまくいかないようだ・・。
睦月(・・普通のサラリーマンになって、普通の生活を楽しみたいのに・・、なんだってこううまくいかない世の中なんだろ・・?)
心の中で思わず愚痴る睦月。と、そのときだった・・。
?「う、うぎゃああああ〜!??」
睦月「?!」
突然、男の悲鳴が聞こえた。最初睦月は行こうとはしなかった。だが、やはり気になって仕方がなくなったため、思わず駆け出しながら悲鳴の方へと向かった・・。すると、そこには・・
?2「・・ふん、また『はずれ』か・・。やれやれ、毎度の事だが、中々『オルフェノク』に覚醒する奴は現れないな・・。」
全身が灰となって崩れてしまっていく、悲鳴をあげたらしき男性と、男性を襲ったと思われる全身が灰色のライオンをモチーフとした怪人、『ライオンオルフェノク』が立っていた・・。
睦月「な・・・!?(なんだ、あいつ!?アンデッドじゃない・・!??)」
一応物陰に隠れて様子を伺ってる睦月。だが、近くにあった缶コーヒーの空き缶に足が当たってしまい、「カラン!!」という音がその場で響いた・・。
睦月「!??(や、やばっ・・!?)」
ライオンオルフェノク「!・・ちっ、目撃者か。・・まあいい。獲物が増えただけの話だ・・。」
睦月は慌てて逃げる。だが、ライオンオルフェノクもまた、狩りを楽しむ獣のように、睦月を追っていくのだった・・。
438
:
暗闇
:2006/08/04(金) 18:09:50 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=アーカムシティ=
沙耶「あれが魔を断つ剣か……これは予想以上ね」
街に出来たクレーターを目にしがら沙耶は呟く。
力は衰えていても死霊秘法は最強の魔導書……一端でこれだけの力を誇っていてもなんら不思議はない。
それより、今は気になることがある。
沙耶「これが貴女の言う筋書きかしら?」
沙耶の後ろにいる女性……妖艶な笑みを浮かべる長身の美女、ナイアは答えた。
ナイア「もちろんこれは細かな所を除けば何度も変わらない始まりさ、この後は……おっとネタバレばかりしちゃ面白くないか」
沙耶「それもそうね……でも、注意しなきゃならないポイントも聞き逃すわけにはいかないし迷うものだわ」
ナイア「僕は僕の目的を達したいだけさ。君たちは君たちの目的を果たすために頑張らないとね」
沙耶「あいかわらず喰えない性格ね……あなたは」
ナイア「僕にはそれは良い褒め言葉だよ。それじゃ、また今度……」
ナイアはそう言って闇に紛れて姿を消していく……同時に沙耶も姿を消した。
一部始終を、少年は見届けていた。
=アーカムシティ上空・高度1000m=
少年は月を背負い、夜空に浮いていた。
強風が少年を叩きつける。
長い金色の髪が、月の光に照り返しながら靡いていた。
それでも少年は、微塵にも揺らがない。
口元には冷たく凄惨な、亀裂の様な微笑を浮かべて。
金色の眸で―――金色でありながら一切の光を放たない闇色の眸で、街に穿たれた穴を見下ろしながら。
少年の名はマスターテリオン。
ブラックロッジを束ねる大導師。
マスターテリオン「やはり今回もこうなったか。そうだ、総ては運命の輪の内に。
さあ、踊ろうではないか。あの忌まわしきフルートが奏でる狂った輪舞曲<ロンド>の調べに乗って」
マスターテリオンは囁くと、街に背を向け姿を消した。
マスターテリオン「ヒロインは貴公だ―――アル・アジフ」
439
:
暗闇
:2006/08/04(金) 19:01:33 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
―――人生最大の災難だ。
魔導書を探す仕事のはずが、何故かブラックロッジに終われる羽目になり。
探していた魔導書はなんとクソ生意気な娘っこだったり。
しまいにはロボットに乗って戦う羽目になったり……
メチャクチャにも程がある。
一介の善良な私立探偵であるこの大十字九郎の穏やかな日常は、いったいどこで狂ってしまったのか?
神はこの誠実な青年にどれほどの試練を課すというのか?
とにもかくにも……
瑠璃「さて……大十字九郎さん。
どういうことか説明してもらえますね?」
―――人生最大の災難は続く。
マコト「―――デモンベイン、固定しました」
チアキ「そのまま運び出すで。『トイ・リアニメーター』システムを起動させとき。
うちが機体のチェックに入る」
ソーニャ「了解しましたです」
破壊ロボを倒した後、九郎はウィンフィールドの通信に従って廃墟区画まで撤退。
そこには巨大な回収口が隠されていたことに驚いた。
どうやらアーカムシティには、こういう仕掛けがあちこちに存在するらしい。
デモンベインを載せた昇降機は、地下を深く深く降下し、再び元の格納庫らしき場所へと戻った。
戻った彼らを待っていたのはウィンフィールドと、それからまさに怒り心頭といった様子の瑠璃だった。無理もない事だが……
こうして九郎は今、厳しく詰問されている。
さて、困った。
ウィンフィールド「やはりあの時の声は大十字様でしたか。しかし何故―――」
瑠璃「何故、大十字さんがデモンベインの中に?
動かないはずのデモンベインをどうやって動かしたのですか?
その少女はいったい?
……分からない事だらけなのですが」
九郎(そんな、いっぺんに言われても)
分からない事だらけなのは正直、自分も似たようなものなのだが。
九郎「何から説明すればいいのやら……あっ、とりあえず」
九郎はアルの首根っこを掴むと、瑠璃の前に差し出した。
九郎「ご依頼の品です」
アル「にゃ?」
瑠璃&ウィンフィールド「……………」
九郎「ちょっと生意気なところはありますが、意外に使える凄い奴です」
アル「にゃ、にゃにをする!妾は猫ではないぞ!」
アルの苦情を無視して九郎は愛想笑いで差し出す。
そんな様子に瑠璃の心が穏やかになるはずもない。
瑠璃「困ったわ……もしかしてわたくし、馬鹿にされているのかしら?」
瑠璃は目の前でジタバタしているアル・アジフを眺めながら、にこやかな笑みを九郎へと向けた。もちろん、その笑みの裏には般若の面が隠されている。
九郎「いや……大真面目です。魔道書です、これ」
瑠璃「まぁ、大変。ウィンフィールド、どうやら大十字さんは先の戦いで頭を打たれたみたい。お医者様を呼んできて」
九郎「いや、だからですね。これは魔道書で……(つーか、あなたの仰ってる通りに頭がおかしくなっていたのなら、どんなに楽だったことか)」
瑠璃「お医者様はまだかしら?」
まともに話を取り合おうとしない様子の瑠璃にアルがキレた。
アル「えぇい!人間の小娘が何をさっきから偉そうに!とくと見よ!」
その瞬間、アルの半身が魔道書のページとなって捲れていく。
それは突風に乗って舞い上がった。
アル「妾はアル・アジフ!アブドゥル・アルハザードにより記された世界最強の魔道書なり!
汝のような貧弱な想像力しか持ちあわせておらぬ哀れな小娘には理解できぬであろうが、魔道書とは何も必ずしも『本』という形態を取る必要はない。
妾ほどの魔導書となれば、命を持ち、魂の器たる肉体を持つものなのだ!汝の狭い常識に妾を当てはめられては不愉快だ!」
ばらけた魔道書のページがアルの身体へ吸い込まれ、再び元の姿へと戻っていく。
瑠璃「……ッ! 小娘小娘って! いったいどっちが小娘ですか!?」
アル「だからそれが貧弱な想像力と狭い常識だというのだ!見た目ばかりに惑わされおって!
汝のような20年も生きておらなそうな汝なぞ、千年以上もの悠久を生きた妾にとっては小娘以外の何者でもない!」
瑠璃「この……!!」
ウィンフィールド「……デモンベインが起動したという事実は彼女の主張を裏付けております。大十字様、詳しいお話をお聞かせ願えますでしょうか?」
アルと瑠璃の口争いが火蓋を切って落とされようとしていたが、そこにウィンフィールドが割り込むように九郎に尋ねてきた。これぞナイスフォローであろう。
大金のかかった依頼に飛びつく時に匹敵する速度で九郎は頷くのであった。
九郎「そうだな……とりあえず順番に話させてもらうわ」
440
:
暗闇
:2006/08/05(土) 01:18:22 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その後、九郎は時間をかけ、一つ一つを丁寧に説明していった。
古書店での調査、凶暴化した鴉との遭遇、ウェストとの対決、アルとの出会い、そしてデモンベインの発見についてである。覇道の秘密基地への侵入は不可抗力であり、デモンベインを勝手に乗り回したことについては成り行き上であることを付け加えた。
ウィンフィールド「なるほど。それでは大十字様が彼女の所有者というわけですか」
ウィンフィールドは、ごく自然に事実を受け止めているようだ。
アル「九郎と妾は相性がよいようでな。魔術師としてはからっきしだが、妾は此奴を気に入っておる」
九郎「いっとくが、俺は認めてないからな」
アル「汝も諦めの悪い男よの」
アルは「やれやれ」と呟きながら、肩をすくめた。
九郎はムカつきながらも口には出さず、ウィンフィールドとの会話を再開する。
九郎「あれがモンベインだったんだな……まさかロボットとは」
ウィンフィールド「左様です。あれこそ大旦那様が開発したブラックロッジに対抗する手段であり、覇道財閥の英知を結集させた最強のロボットなのです」
九郎「最強、か……」
まさに最強の名に相応しいと九郎も思う。だがいかんせん、強力すぎた。デモンベインが放った必滅の一撃―――レムリア・インパクト。右手から発生した無限熱量が、ドクター・ウェストの破壊ロボだけでなく、爆心地を中心とした周囲の建物までを吹き飛ばしてし、月面を思わせる巨大クレーターを作ってしまうあの力はアーカムシティの守護神どころか破壊神なのではないかと思わざるをえない。
瑠璃の怒りには間違いなく初戦で出したあの被害のことも入っているのだろう。
しかしアルは、そのことは気にもとめてないようだ。
アル「鬼械神と呼ぶには不完全すぎるが、なかなかどうしてたいしたものだ。デモンベインは妾が存分に使ってやるとしよう。光栄に思うがよい」
アルの言葉に、さっそく瑠璃の頬が引きつった。
瑠璃「そこの貴女ッ! 勝手に決めてもらっては困ります。そもそもデモンベインはお爺様の―――覇道財閥の所有物。貴女のような魔女に渡してなるものですかっ!」
一喝するような瑠璃の声が、格納庫内に響き渡る。
だが臆したのは九郎だけで、アルは平然としていた。
アル「では小娘、此奴をどうするつもりだ?」
アルは両腕を組んでいかにも傲岸不遜な性格を示すように瑠璃に問いかけた。
アル「鬼械神は戦うために生まれし存在。ならばデモンベインも最強の魔導書である妾とともに戦いたいと願うはず。解るか? デモンベインは汝の大きな玩具ではないのだぞ?」
瑠璃「あんな乱暴に扱っておいて、よくもまあぬけぬけと。壊れてしまっては元も子もありませんわ」
アル「それは九郎が未熟なだけであって、妾の責任ではない」
突然、話を振られた九郎は目をむいた。
九郎「ば、バカヤロウ! そんなところで話を振るやつがあるかっ!」
そして当然のように瑠璃の目は、彼へと向けられた。
気のせいか彼女の目は血走っており、あからさまな殺意すら感じられた。
九郎「と、とにかく。こうして無事に魔導書が見つかったわけだし、めでたしめでたしと」
瑠璃「認めると思って?」
九郎(思ってませんです。はい…)
瑠璃「大十字さん! こんな下品な魔導書ではなく、もっと品の良い魔導書を探してくださいまし」
瑠璃の言葉に、さっそくアルは目くじらを立てた。
アル「ふん! 汝は魔導書さえあれば、アレが起動すると思っていたようだが浅はかだったな。
アレは魔導書とそれを操る術者……魔術師でなくては動かす事は出来ぬ。
さてさて、ならばその魔術師を何処から捜してくるつもりだ?」
瑠璃「貴女が気にすることではありません! とにかく大十字さん!」
九郎「は、は、はいっ!」
思わず、背筋を伸ばして直立してしまう俺。
瑠璃「事と次第によっては、いくら成り行きとはいえ勝手にデモンベインを動かした責任を追及することになります! それが嫌ならすみやかに今度こそちゃんとした魔導書を見つけて下さいましねっ!」
九郎(それは脅しですか。脅しですね。考えるまでもねえか……)
九郎は頷くしかなかった。
九郎「了解……」
441
:
藍三郎
:2006/08/05(土) 15:07:08 HOST:softbank219060041115.bbtec.net
=夢幻心母=
アーカムシティの一角で密かに建造されたブラックロッジの本拠地・夢幻心母。
めったに部外者の立ち入らぬその“黒い聖域”に、足を踏み入れる者がいた。
アウグストゥス「来たか・・・」
暗く、広い室内で一人佇む色黒の男・・・
ブラックロッジの幹部・アンチクロスが一人、アウグストゥスは、天井を見上げて呟く。
天井には、室内を覆う闇に紛れて、黒い影がぶら下がっていた。
蝙蝠のように逆さにぶら下がっている影こそ、
宇宙をまたにかける闇商人、エージェント・アブレラである。
アブレラ「ご依頼の品を用意してきた。怪重機が10体、ドロイドが100体・・・だったな」
アブレラはそう言って、手にした目録らしくファイルを放り投げ、アウグストゥスに渡した。
アブレラ「品物は夢幻心母に運び入れてある。後で確認するが良い」
アウグストゥス「使えるのだろうな?
どこぞの似非天才科学者のような、役立たずのスクラップは御免だぞ」
アブレラ「フフフ・・・安心するがいい。“代金分の働き”はしてくれるはずだ」
アウグストゥス「代金分の働き・・・か」
つまりそれは、より高度なマシンが欲しければさらに金を積め、と言う事である。
まぁ、今は“計画”のための駒を揃える事のほうが重要である。
重要なのは質より量・・・アブレラの売りこみに乗って金をばら撒くつもりは無かった。
アブレラ「さて、要件も済んだ事だし、私はそろそろ失礼させてもらおう。
やるべき問題が山積しているのでな・・・
また商品が欲しくなったら、いつでも連絡してくれたまえ」
アブレラはそう言い残すと、体を包んでいた黒いマントを開き、
蝙蝠のように滑空してその場を去って行った。
442
:
ゲロロ軍曹(別パソ)
:2006/08/08(火) 20:01:55 HOST:host162.ip106.stnet.ne.jp
その頃・・・
=日本=
睦月「はあ、はあ・・!!」
睦月は全速力で逃げていた。しかし、ライオンオフフェノクは徐々に睦月に追いついていく・・。そして・・
ライオンオルフェノク「・・はぁ!!」
睦月「うわぁ!?」
超人的なジャンプをして、睦月の前に立ちはだかった・・。その事態に、思わず腰をぬかす睦月・・。
ライオンオルフェノク「ふん、よくもまあここまで頑張れたものだが・・、これでゲームオーバーだ。あきらめるんだな・・。」
そういいながら、距離を少しずつつめる様に歩くライオンオルフェノク。睦月も後ずさりはするものの、もう助かるとは思っていなかった・・。
睦月(くそ・・!?なんだってこんな事に・・!??)
そして、ライオンオルフェノクが睦月の首に手をかけようとした、そのときだった・・!
『ブォォォン!!!』
ライオンオルフェノク「!?(ばきぃぃ!!)ぐぁああ!??」
突如銀色のバイクが飛び出してきて、ライオンオルフェノクをはじき飛ばしたのだった・・。
睦月「あ・・・?」
その光景に、少し唖然とする睦月。すると、銀色のバイクのドライバーの仲間と思われる男女二人がやってきた。啓太郎と真理である。
啓太郎「あ、あの、大丈夫ですか!?」
睦月「え?あ・・、ああ。何とか・・。」
?「・・おい、啓太郎、真理。そいつ連れて下がってろ・・。」
すると、銀色のバイクのドライバーはヘルメットをはずし、その素顔を現した。それは、茶髪の青年、『乾巧』であった・・。
真理「う、うん、わかった!巧、気をつけてよ!!」
巧「わーってるよ。」
睦月「ちょ・・、ちょっと待てよ!?あんた、もしかして、あいつと・・!?」
巧「・・まーな。」
睦月「な、何考えてるんだ!?あんな化け物みたいな奴、普通の人間じゃとても・・!!」
巧の行動を無謀と考えてとめようとする睦月。しかし、啓太郎があわててフォローした・・。
啓太郎「あ、だ、大丈夫ですよ!!タックンなら、きっとあいつを倒せますから!!」
睦月「た・・、タックン・・??」
巧「をぃ、啓太郎!いい加減その呼び方やめろっつーの!!」
さすがに『タックン』と呼ばれるのは恥ずかしいのか、少し怒ってる感じの巧。すると、倒れていたライオンオルフェノクが立ち上がった・・。
ライオンオルフェノク「き・・、貴様ぁ・・・!たかが人間の分際で、なめた真似を・・、ぶっ殺してやる!!」
巧「そいつは悪かったな・・。・・だがよ、悪いがお前に殺されるつもりは毛頭ねーんだよ・・。」
そういいながら、巧は自分の乗ってるバイクにくくりつけてある銀色のトランクの中を開けた。するとそこには、少し変わったデジタルカメラやデジタルトーチライト、携帯電話、そして、『ベルト』が入っていた・・。
睦月「!?(べ、ベルト・・!?)」
その中身をみて少々驚く睦月。だが、彼の驚きはまだ続く・・。
巧はトランクに入っていたベルト『ファイズドライバー』を即座に腰に巻きつけ、携帯電話『ファイズフォン』を開き、あるコードを入力した。そう、『5,5,5,ENTER』と・・。
ファイズフォン『Standing by』
ライオンオルフェノク「!!そ、そのベルト・・、貴様、まさか!?」
ライオンオルフェノクが驚きをあげる中、巧は黙ってファイズフォンを閉じ、ポーズをつけながら持ち上げ、こう叫んだ・・。
巧「・・『変身』!!!」
そして、その言葉を叫んだ後、ファイズフォンをファイズドライバーへと装填する・・。
ファイズフォン『Complete』
ファイズフォンからそのような機械音が聞こえた瞬間、巧の体を赤色の線、『フォトンフレーム』が包み込み、彼の姿は『変わった』・・。
胸や肩などに銀色の装甲、ギリシア記号のΦ(ファイ)のような形の変わったマスクをした、強化スーツのような姿へと・・。
睦月「!?か・・、仮面、ライダー・・・?!」
睦月は変身した巧の姿に驚いた・・。彼の体はまるで昔自分が変身して戦っていた『仮面ライダー』の姿に、どこか似ていたからだ・・。
ライオンオルフェノク「ちぃ・・、やはり貴様・・、『ファイズ』か・・!!」
睦月「?ふぁ、い、ず・・・??」
そう、今の巧の姿の正式な名称は『ファイズ』。オルフェノクと戦う戦士、『仮面ライダーファイズ』である・・!
ファイズ「・・悪いな。俺たちは急いでんだよ。とっとと片付けさせてもらうぜ・・!」
そういって、巧ことファイズは、右手を軽くスナップさせ、ライオンオルフェノクに向かって走りだした・・!!
443
:
アーク
:2006/08/10(木) 10:10:40 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
=情報屋リローデット=
ライラ「学校の教師を順調だし、仕事もはかどるのはいいんだけど」
ルシュファー「確かに楽なのはいいけどよ。ここにいていいのか?あんたは」
二人の目の前でルシュファーが作った朝ご飯を食べている魔界四大侯爵の一人
剣豪スパーダはお茶を飲み干すと答えた
スパーダ「仕方ないだろう。俺の任務は君を魔界に連れて行く事だ。
ま、君は断じてお断りだろ?」
ルシュファー「まぁな。俺はこの生活で満足しているしな」
スパーダ「私とあと一人の侯爵は君を連れ戻すまで人間界にいろと命令されたんだ
その場合困るのは住む所なんでね」
ルシュファー「ま、まさか・・・・・ここに住むつもりか?」
スパーダ「他に住む場所がないのだ。構わんだろルシュファード?」
スパーダの確信の笑顔を見てルシュファードは溜息を出すばかりだった
444
:
ゲロロ軍曹(別パソ)
:2006/08/10(木) 21:03:46 HOST:host162.ip106.stnet.ne.jp
その頃・・・
ファイズ「はあ!!(ばしぃ!ばしぃぃ!!)」
ライオンオルフェノク「ぐぅお!?」
ファイズとライオンオルフェノクとの戦いは、ファイズが優勢の状態・・。
ライオンオルフェノクはファイズに殴りかかろうとパンチを放つのだが、ファイズは余裕の状態でパンチをよけ、カウンターとしてライオンオルフェノクのボディに2発のパンチを叩き込んだ・・。その攻撃に、思わずよろめくライオンオルフェノク・・。
ライオンオルフェノク「ぐぅ・・、お、おのれぇ・・!」
ファイズ「・・どうした?もう終わりか?」
ライオンオルフェノク「ふん・・、ほざけぇぇ!!」
そう叫んだライオンオルフェノクは、今までのお返しとばかり、猛攻撃を始めた。ファイズも何とかガードをしたりするのだが、ライオンオルフェノクのキックがまともに決まり、近くの壁まで吹っ飛ばされてしまう・・。
真理「!巧!!」
啓太郎「タックン!?」
二人がファイズに変身した巧の事を心配して叫ぶも、ライオンオルフェノクはチャンスとばかりに少しよろめくファイズに向かって走り出した。だが、当のファイズこと巧はそれほどダメージが大きくなかったようで、あわてずファイズドライバーにセットされていたファイズフォンを取り出し、『フォンブラスター』という銃形態へと変形させた。
ファイズフォン『(1,0,6,ENTER)Burst mode』
そしてすかさずコードを入力し、フォンブラスター形態となったファイズフォンの銃口をこちらへ襲い掛かろうとするライオンオルフェノクへと向け、トリガーを引く・・!
ライオンオルフェノク「(ダダダン、ダン!!)!?ぐぁあああ!??」
ファイズフォンからフォトンエネルギーでできた光弾が3連続で発射され、見事ライオンオルフェノクに命中。今度はライオンオルフェノクがよろめいてしまう・・。
それを好機と見たファイズは、すかさずファイズフォンを元の携帯の状態へと戻しファイズドライバーに再び装填。そして今度は、ファイズドライバーの右腰にセットされているデジタルトーチライト型ツール『ファイズポインター』を取り出した。
ライオンオルフェノク「ちぃ・・、させるかぁ!!」
そういって再び襲い掛かるライオンオルフェノク。だが・・
ファイズ「いちいちうるせーんだ・・、よぉ!!(ずばぁん!)」
ライオンオルフェノク「うぉおお!?」
ファイズは強烈なカウンターキックを放ち、ライオンオルフェノクを少し吹っ飛ばした。そして、ファイズフォンから『ミッションメモリー』と呼ばれる小型チップを取り出し、ファイズポインターにセットする。
ファイズポインター『(かちっ!)Ready』
ファイズポインターのライト部分が伸び、『ポインティングマーカーモード』になる。そのままファイズはポインターを右足のホルスター部分にセットする。最後に、低く構える姿勢を取り、ファイズフォンを開き、『ENTER』と書かれているボタンを押した・・。
ファイズフォン『Exceed charge』
そのような機械音がファイズフォンから流れた直後、ベルトからフォトンフレームを伝わって赤いフォトンエネルギーが右足のポインターへと送り込まれる・・。
ファイズ「・・はあ!」
そう言ってファイズは勢いよくジャンプ!くるりと一回転しながら、ライオンオルフェノクに向かってポインターから赤い光『ポインターマーカー』を発射させる。すると、ライオンオルフェノクの眼前に、赤い円錐状のエネルギー光が出現した・・!!
ライオンオルフェノク「ぐぉぉおお!?」
ファイズ「たぁああああああ!!!」
そのままファイズは赤いエネルギー光へとキックの態勢で突っ込んだ!これがファイズの必殺技の一つにして、最大の威力を誇る技『クリムゾンスマッシュ』だ・・!!
そして、ファイズは体ごと粒子化し、赤いエネルギー光はドリルのごとくライオンオルフェノクを貫く!!
ライオンオルフェノク「ぐぁああああああ〜〜!??」
そして、ファイズが再び姿を現し着地したその直後、ライオンオルフェノクは青白い炎を出しながら、その体は灰となり崩れていった・・。
睦月「す・・・、すごい・・。」
あまりの出来事に、ただただ呆然とファイズの姿を見る睦月であった・・。
445
:
暗闇
:2006/08/17(木) 21:06:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界=
13年前の、とある日――
青葉学園の廊下を歩いていた鷲士は、いきなり背中に軽い衝撃を感じた。
振り返ると、松葉杖を抱いたニコニコ少女と、目が合った。指には少し大きめの、おもちゃの指輪が光っている。
『エヘヘ……しゅーくんっ♪』
『な、なんだぁ、ゆうちゃんかぁ。こまるよ、返してよ』
『ダーメ』
『もう、また〜。ゆうちゃんは、どうしてぼくにそんなにいじわるするの?』
『い、いじわるじゃないよ。ミキ、いじわるなんてしてないもん』
少しフクれたものの、少女はすぐに笑い、
『あのね、わたしね、いいこと思いついたの』
『いいこと?なあに?』
『えっとね、しゅーくんはね、わたしのだんなさまになってくれるんだよね?』
『え……あ……う、うん……』
真っ赤になって、俯いてしまう鷲士だった。
すると少女は、耳元で囁くように、
『だったら、わたしのヒミツ、お・し・え・て・あ・げ・る♪』
その瞬間、鷲士の足は床から離れた。
ただでさえ軽め――加えて半年にわたる入院生活で体重が落ちていた少年の肉体は、あらざる力を受けて、風船のように宙に浮かび上がった。
『えっ?わっ!な、なにやったの、ゆうちゃん!?』
『エヘヘ。あのね、うちの一族ってね、みんなこんなコトできるんだって。ママもできたんだけど、だんなさまになるヒト以外には教えちゃいけませんって。だまってなさいって。でも、しゅーくんはわたしとケッコンしてくれるから、いいの』
嬉しいそうに笑い、少女は続けた。
『わたしたち、ずっといっしょでしょ。だからね、わたしがね、死ぬまでこうやって、しゅーくんを動かしてあげる。だったら松葉杖、いらないでしょ?』
ひまわりのような笑顔に、しかし少年は震え上がった。究極の無邪気さとは、時として究極の悪意よりも恐ろしいものだ。
『お、おろして! おろしてよー!』
ジタバタ暴れ出す鷲士の下で、少女は不思議そうに首を傾げた。
『ええ〜? どうしてぇ〜?』
鷲士「う、うわーっ!」
鼻腔にに刺激臭を感じ、鷲士は弾かれたように体を起こした。肩を上下させながら、思い切り新鮮な空気を肺に送り込む。
鷲士「ゆ、夢か……!」
こめかみを押さえ、大きくため息をついた。
『い、いじわるじゃないよ。ミキ、いじわるなんてしないもん』
唐突に夢の映像がフラッシュバックした。
……ミキ……だって?
青年は眉をひそめた。
ゆうちゃんのゆうは結城のゆう。しかし自分は、下の名前を知らないのだ。いつも一緒にいたせいで、肝心な部分をちゃんと訊いた記憶がない。これが、今に至るまで二十余年の人生の中で、鷲士が抱える最大の後悔となっていた。姓すらも、美沙の登場によって初めて明らかにされたほどである。自分はなにも知らない。
くそっ……どうしてもっと明確に思い出せないんだ……!
拳の腹で、額を叩いた。
446
:
暗闇
:2006/08/17(木) 21:08:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???「悪夢でも見ましたの?」
落ち着いた澄んだ声と共に、目の前にコーヒーカップが出現した。
???「あ……ど、どうも。いい夢というか悪い夢というか……ははは……でも久しぶりに彼女にも会えたから……いい夢かな?」
目覚めの原因は、恐らくこの香り――鷲士は受け取り、口を付けた。火傷しないように飲み込みながら、顔を上げる。
薄らとシャドウの入った切れ長の双眸と、視線が重なった。
鷲士「さっ、さささ、冴葉さん」
冴葉「おはようございます、ミスター・ダーティ・フェイス」
鷲士「ちょ、ちょっと!?か、勘弁してくださいよ!」
冴葉「分かりました――では鷲士さんと」
メリハリのきいた美貌が、しかし抑揚なく頷いた。
後ろへ流した長い髪、大きなイヤリング、黒いスーツの上下――いつも姿。どちらかと言うと派手な装いの部類に入るはずだが、雰囲気は澄んだ湖面を連装させた。少女っぽさが残る美貴、ノイエと違って、こちらは完全な大人である。
――片桐冴葉。フォーチュン・テラーの会長秘書だ。
ただ、彼女は先端企業にいながら、実質的には政治家の秘書と同等レベルにある。決定権を持つのが美沙なら、冴葉は細かな部分を指揮する立場だ。会長の美沙、まだ面識がない謎のCEOに次ぐ、ナンバー3が、この片桐冴葉なのである。
緊張のせいだろうか、妙に寒気を感じて、鷲士は体を揺すった。
鷲士「な、なんか寒くありません?」
冴葉「そうですね、少し緯度が北寄りですので」
淡々と言うと、壁を指した。
エナメル地のような黒いロングコートが引っかけてある。
冴葉「耳を押さえていただけます?」
鷲士「は?さ、冴葉さんのですか?」
冴葉「……いえ。ご自分の」
鷲士「すすす、すいません!」
と謝ったと同時に、冴葉がとんでもないものを手に持った。
――SPAS12。イタリアのルイジ・フランキ社が開発した、ポンプ及びセミオートマチックの二重作動方式を持つ軍事用のショットガンである。
鷲士「は?」
冴葉「――失礼」
軽く低頭すると、ポンプをスライドさせ、冴葉はSPASを構えた。
――バン、ガシャン、バン、ガシャン、バン!
きっかり三発分の散弾が、黒いコートに吸い込まれた。ただ、貫通することがなかった。いくつものベアリング弾が、床で跳ね返る。
最後に1回ポンプをスライドさせて空薬莢を排出し、冴葉は銃を下ろした。
鷲士「み、耳が〜!」
と目を白黒させる鷲士に、冴葉は淡々と、
冴葉「地球で最高の強度を誇る構造分子、カーボン・ナノチューブに特殊コーティングを施し、繊維化したものを素材に使用しました。極地戦用の生命維持電装を織り込んであります。右手首のボリュームを右に回せば、電熱によってインナーの温度を上昇――左に回せばベルチェ素子によって逆に作用します。ただ、後者は少し強力なので、使用にはご注意を。実験では被験者の3人が全員凍傷にかかってしまいました」
鷲士「は、はぁ」
冴葉「服の発電は、超薄型シリンダーと、静電気吸収によって行われています。鷲士さんが常に動いていれば、半永久的にバッテリが落ちることはありません。南極でも赤道直下でも、体感的には常春のはずですわ。ただ、機構の性質上、意図的に静電気を発生しやすいようにしてありますので、ヒトや電子部品に触れる際には、十分注意してください。左前腕部は、ウェアラブルPC化されていますが、これはあくまで緊急用だと思っていただいてけっこうです。服の電子部品と電波干渉するので、有効通信範囲を大幅に縮小せざるをえませんでした。ハッキリ言うと携帯以下です。どうぞ、袖を通してみてください」
鷲士「あ、はい。わあ、ちょっと重いけど、確かにあったかいですね。凄いなぁ。コタツが服になったみたいですねぇ」
冴葉「次に――これをどうぞ」
と脇にはさんでいたものを、鷲士に放った。
手袋である。裏側の部分に、指先から甲にかけて、関節ごとに、板のようなものが張りつけであった。甲虫の背中のように見えなくもない。
鷲士「あの、これは?」
冴葉「機能的にただの手袋です。やはりカーボン・ナノチューブ製ですが、甲のタイル部分はダイヤモンドを織り混ぜた衝撃吸収素材にしました。意図的に滑りやすくしてあります。これは完全にあなた専用です。手で弾丸を弾くときに使用してください」
447
:
暗闇
:2006/08/17(木) 21:09:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士「……あ、あの、冴葉さん、ちょっと?」
冴葉「なんでしょう?」
鷲士「動きを止め、冴葉さんが来たってことは、フォーチュン・テラーが全面的に動き出したってことなんでしょうけど……ぼく、まだ行くとは言ってませんからね」
冴葉「おっしゃる意味がよく分かりませんが」
鷲士「だってドイツですよ、ドイツ?僕、パスポートも持ってないし――」
冴葉「ご安心ください。移民局には話を通しました。既にあなたは、ドイツ連邦共和国の市民権を持ってますわ。パスポートは不要です」
鷲士「し、しみんけん〜?いつの間に……!」
冴葉「選挙にも行けます。それに――」
鷲士「そ、それに?」
冴葉は、壁のボタン――こんなボタンはなかった――をグーで殴った。
ガコン、と派手な音を立てて、壁が裂けた。正確にはカーゴ・ハッチが開いたのだが、事情が分かってない鷲士にはそう思えたのだ。
冴葉「――もう着いてますので」
鷲士「……は?」
当初、鷲士はボケ面で首を傾げた。
が――間抜けた顔が青く染まるまで、さほど時間はかからなかった。長身痩躯の青年は、慌てて外に飛び出した。
視界全体を、だだっ広い空間が埋めた。
足下の白線を見るまでもなく、滑走路だった。遥か前方にランチと連結されたジャンボ旅客機が、数機ほど見える。横の建物はターミナルだろう。上部に繋がっているのは電車の高架らしい。行き来する車両が目に入った。
蒼然と、鷲士は振り返った。
自分の部屋だと思っていたのは、巨大な輸送機だった。
全幅67.88、全長75.54m、空重量で約170t。空飛ぶ兵器庫の異名を持ち、無着陸で地球を四分の一周できる鋼鉄クジラ。
――ロッキード・マーチン・C5ギャラクシー。
鷲士「なっ……!」
さらにもう一度振り向いて、鷲士は手近な大きな建物に目をやった。
庇のところには、次のようにあった。
FLUGHAFEN−FRANKFURT−MAIN
フランクフルト・マイン国際空港である。
腰砕けになり、鷲士は膝を突いた。
鷲士「そ、そりゃないよぉー!」
コート姿の青年の哀れな悲鳴が、滑走路にこだました――。
448
:
暗闇
:2006/08/17(木) 22:40:28 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
フランクフルトから南南東に250㎞ほど下がった地点には、アルプスをまたがって、ドイツの最高峰・ツークシュピッツェがそびえている。
海抜296mと、火山国の日本人には少し拍子抜けする高さだが、目にした者は山の禍々しさに圧倒され、まず畏怖と感嘆の声を洩らすという。富士山のように、なだらかなコニーデ――円錐型火山――ではなく、ツークシュピッツェは絶壁の複合体だからである。足腰にかかる疲労以外には高さを認識する手段がない火山とは違い、麓に行けば天然の崖が垂直に頭上を覆うのだ。視覚的な高度は、富士山を遙かに上回る。
さらに西側の中腹――切り立った崖の端には、観光客も滅多に訪れぬ古ぼけた修道院が、ポツンと建っていた。
――グランツホルン修道院。
そして建物の傍には、一風変わった人物がいた。
イーゼルを置き、黙々と絵筆を走らせる、画家らしき男がそうである。
――妙に痩せこけた男だった。
彼の横には40も半ばの眼鏡をかけた修道女がいたが、笑顔で話しかけられているというのに、見ようともしない。眼前のアルプスから目を離さず、黙々と絵を描き続ける。
一方、修道院の窓からは、小さな顔が見え隠れしていた。
犯人はまだ幼い修道女――背が低いせいで、爪先立ちしても、やっと窓に顔が出せる程度なのである。顎を窓枠にひっかけるようにして、少女は画家をじっと見つめた。その口元がほころんでいる。
「ルイーゼ」
声をかけられ、慌てて少女は体を戻した。
20歳ぐらいのシスターが、廊下の奥からやってきて、
シスター「あらあら、またなの。窓拭きの途中で――おさぼりさんなのね、ルイーゼは」
ルイーゼ「あ……いえ……その……」
シスター「フフフ、そんなに、あの絵描きさんが気になる?」
クスクス笑いながら、シスター。ルイーゼと呼ばれた少女は真っ赤になると、俯いてしまった。小さな仲間の頭を撫でながら、しかし修道女は微笑み、
シスター「……いいのよ。お亡くなりなったお父さまも、仕事の合間に絵を描いておられたんでしょう?本当は画家志望だったと聞いているわ」
すると少女は、嬉しそうに顔を上げた。
ルイーゼ「あ、あのっ……イーゼルに向かってたのを覚えてて……背中がよく……それでお父さんって呼ぶと……だっこしてくれて……」
シスター「フフッ、じゃあ、わたしから頼んであげましょうか?ルイーゼをだっこしてあげてくださいって、あそこの画家さんに?」
ルイーゼ「そっ、そんなことっ……」
とまたまた赤面し、プシュー。俯いてしまった。
苦笑するシスターだったが、外を見ると汗ジトになり、
シスター「……でも、よく平気でいられるわね、あの絵描きさん。近年の異常気象で、九月にしては下でもかなり肌寒い――しかもここは山だというのに。やっぱりあれなのかしら?芸術家には変人が多いって言うけど、彼もそうなのかしら?」
と何気なく、顔を戻した。
ふくれっ面のルイーゼと、目が合った。
シスター「あ、ウソよ、ウソ。画家に悪い人はいないわ」
すると――少女はニッコリ。
年上のシスターは、ため息混じりに苦笑した。
シスター「……エルネストさんが持ってきてくださったお紅茶、まだ残ってたでしょう?いれて持っていっておあげなさいな。もちろん、副院長の分も忘れずに、ね」
ルイーゼ「は、はいっ!」
ルイーゼは、嬉しそうに頷くと、パタパタと足音を立てて廊下に消えた。
449
:
暗闇
:2006/08/17(木) 22:41:13 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして外では副院長が、笑顔を崩さず、
副院長「……あの、聞いておられます?繰り返すようですが、ここは立ち入り禁止になっておりまして。遠慮していただきたいのですが?」
額からは、冷や汗が滴っている。ただの作り笑いだったようだ。
男の方は、やはり筆を止めなかったが、やっと口を開いた。
???「……近い内に消えてなくなる定めの風景。描き留めておきたくてね」
副院長「消えて……なくなるですって?なんのことですの……?」
???「それに……この山は国有地のはず。ならば、君達には来客を拒む権利はないはずだ。敷地内部ならいざ知らず……少し黙っていてくれないか」
副院長「な……!で、ですが、私たちは……」
???「……禁断の井戸と、フレイア異伝を守る義務がある……かね?」
淡々と言い、画家は副院長のシスターを一瞥した。
副院長「い、井戸……ですって?どうしてそれを……!」
修道女の顔を、旋律が駆け抜けた。画家の腕を掴むと、彼女はムリヤリ引き摺り立てるように、
副院長「い、行って!行ってください!ここはあなたたちの来るようなところでは――」
しかしシスターは手を止めた。
――画家の頬に、赤い筋が走ったからだ。
修道女の胸のロザリオが、男の顔に引っかかったのである。画家の痩せこけた頬から、先決が滴った。
副院長「あ……!」
副院長が口元を押さえ、絵描きは無言で、傷口に指を伸ばした。
指先に付着した真っ赤な液体を目にするなり、男の顔を、衝撃が駆け抜けた。
――男のパレットナイフが、空気を切り裂いた。
中年のシスターの喉から噴き出した鮮血は、空中で弧を描いた。
くずれおちる中年の修道女などには目もくれず、画家は自分の血を指で口元に運んだ。
筋が浮かぶ喉が、静かに上下する。
そして――男は呟いた。
???「……うん。血だ。血の味だ。私は人間だ」
450
:
暗闇
:2006/08/17(木) 22:41:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ルイーゼ「ひ……!」
正門前で立ちすくむルイーゼの手から、トレイが落ちた。ポットと3つのティーカップが地面で砕け散る。一つは一緒に飲もうと思って用意した自分のカップだった。
やってきた若いシスターも、硬直した。
シスター「まさか……あれがノイエの言ってた……!?」
中年のシスター痙攣が終わるのと同時に、ゴツゴツした岩の陰から一斉に人影が立ち上った。揃って黒い戦闘機姿――手に持っているのは自動小銃である。彼らの中心にいたのは、美沙と鷲士がエジプトで戦った、例の肥満漢だ。
ヴァッテン「へっへっへ……タウンゼントさん?」
タウンゼント「……回る水を確保しろ、ヴァッテン」
呼応して、ヴァッテン――黒豚――がニヤリと笑った。
呆然と、ルイーゼは後退った。
ルイーゼ「そ、そんな……!画家さんなのに……画家さんなのに……!」
ボロボロと、涙が落ちていく。ささやかな夢を壊された少女の涙であった。
シスター「……来なさい、ルイーゼ」
幼い修道女の腕を取ると、シスターは大聖堂に向かった。回る水が封入された装置の横を通り、教壇に立つ。後ろを向くと、右脇の壁にかかる蝋燭立てを引っ張った。
ゴゴゴゴ……
鈍い音を立てて、壁が裂けた。隠し扉だった。
暗い空間が現れたと同時に、冷たい風が、ルイーゼの頬を叩いた。
シスターは首飾りを外すと、ルイーゼの手を取り、強く握らせた。
シスター「あなたはお行きなさい、ルイーゼ!」
ルイーゼ「で、でもっ、わたしっ……!」
シスター「この“フレイアの小鍵”を奪われたら、世界はあいつらの思い通りになってしまう!リッター村の惨劇を繰り返させるわけにはいかないの!外に出れば、ロープウェイの傍――街に下りたら、エルネストのお爺さんを頼りなさい!さあ!」
ルイーゼ「で、でも……シスターっ……」
口をパクパクさせるルイーゼだ。
すると――年上の修道女は、緊張の汗にまみれた顔で、微笑んだ。
シスター「本当の妹ができたようで嬉しかったわ、ルイーゼ。あなたも大人になれば分かる――未来へなにかを繋ぐということが、いかに難しくて面倒なことか。だけど――同時にないよりも大切だということが」
1人の人間としての正直な言葉だった。
それを最後に、壁は閉まった。幼い少女がなにか言おうとした刹那、壁越しに銃声が聞こえた。爆音の中に混じる悲鳴はシスターのものに間違いなかった。ルイーゼは動かなかった。動けなかった。
やがて――辺りが静まり返った頃、少女は背を向けた。歩き出したルイーゼの顔は、涙でクシャクシャになっていた――
451
:
ゲロロ軍曹(別パソ)
:2006/08/30(水) 17:08:21 HOST:i219-167-180-103.s06.a033.ap.plala.or.jp
一方・・・
=日本=
ライオンオルフェノクを撃破したのを確認した巧は、すぐさまファイズドライバーからファイズフォンを取り外し、変身を解除するボタンをおす。それにより、元の生身の姿へと即座に戻った・・。
真理「巧、おつかれさま。」
啓太郎「たっくん、大丈夫?さっきので怪我とかしてない?」
巧「別にどーってことねーよ、あのくらい・・。」
そういってぶっきらぼうに答えながら、ファイズフォンなどの変身ツールをトランクにしまい、銀色のバイクに乗ろうとする巧・・。すると・・
睦月「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
慌てて彼を呼び止めるものがいた。それは、先ほどまでライオンオルフェノクとファイズになった巧の戦いを見ていた、睦月だった・・。
巧「・・なんだよ?わりーけど、俺たち急いでるんだよ・・・。」
睦月「・・それは、わかってる。けど、俺知りたいだ!あの化け物が一体何なのか、それに、あんたがさっき変身した、ファイズっていう仮面ライダーの事を・・!」
巧「・・仮面、ライダー・・?」
睦月のその言葉に、少し反応する巧・・。
真理「それってもしかして・・、ノンフィクション作家の白井虎太郎さんが書いた、あの本の・・?」
啓太郎「あ、あの本なら、俺も読んだことあるよ。・・でも、なんでファイズのことを『仮面ライダー』って呼ぶんですか?」
啓太郎の言葉に、睦月は「はっ!」となりながらも、答えることにした・・。
睦月「・・姿が、結構似てるからさ。・・4年前、俺もその、『仮面ライダー』の一人だったし・・。」
睦月のその言葉に、3人は「えっ!?」という驚きの表情を浮かべるのだった・・。そして、このままでは拉致があかないと思い、近くのファミレスに立ち寄ることにした・・。
452
:
暗闇
:2006/08/31(木) 17:50:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァランド・トリエット=
トリエットには、ひどい風が吹き荒れていた。
砂漠の花と呼ばれるこの街の半分は砂でできているのではないかと思えるくらい、いたるところに黄味を帯びた細かい砂が舞っている。
ジーニアス「止まって、ロイド!」
ひと通り街の中を歩いてみようと、砂の積もった小道を曲がろうとしたときだった。
ロイド「なんだよ、急に」
ジーニアス「ディザイアンがいる!」
ロイド「なんだって」
ふたりは曲がり角からそっと様子を窺った。
鞭を持ったディザイアンが4人、その場に立てられた掲示板の前で声高に話している。
ディザイアンA「フォシテス様からの緊急命令だ。ロイドという人間がエクスフィアを持って逃走中」
ディザイアンB「認識番号は?」
ディザイアンA「不明だ。至急全土に非常線を張れ!詳細はこの手配所にある」
ディザイアンB「はっ!」
彼らはあっという間に四方に散った。
用心深く掲示板に近づいたジーニアスは、ロイドを手招きする。
ジーニアス「手配書だ。ははっ、似顔絵までついているよ」
ロイドは、自分の顔だというその絵を一目見て絶句した。
ぼさぼさの髪、ひしゃげた顎のライン。目つきが悪いのも気に入らないが、全体の印象が間抜けっぽいのが一番カンに触る。
ジーニアス「ね。ロイドでしょ。すごいデフォルメなりに、けっこう特徴をとらえて……」
ロイド「……俺、こんな不細工じゃねえよなあ」
ジーニアス「え?そ、そうだね。これなら絶対捕まらないよ。よかったじゃない」
ジーニアスは、あわてて笑ってみせた。
ジーニアス「とにかく用心だけはしながら、早くコレットを探さないと」
ロイド「ああ。誰かに聞いてみよう」
ロイドは辺りをキョロキョロと見回した。
ロイド「あそこがいいかな」
彼は、ボロボロの小屋を修理している男を見つけると、熱い砂の上を歩いて行った。
ロイド「おじさん」
男「ああん?店なら今日は休みだぞ。昨日の砂嵐で屋根が飛んじまってなあ。やっといま直したとこだよ」
ロイド「ちょうどいいや。ふたつ頼まれてくれないか?」
男「なんだい?」
男は金槌を持つ手を休め、日に焼けた人のよさそうな顔をロイドに向けた。
ロイド「世界再生の旅をしている神子について、知ってることがあったら教えてくれないか」
男「神子様だって?ああ、それならちょっと前に占い師のところに来てたそうだ。俺はあいにくそれどころじゃなかったから、見てないがね。いろいろ聞いていったらしい」
ロイド「ほんとか?」
ロイドは、パッと顔を輝かす。
男「占い師はテントにいるはずだから行ってみな。で、ふたつ目はなんだい?」
ロイド「こいつをちょっと預かっててほしいんだ」
男「うわっ。でけー犬だな」
走ってきたノイシュに、男は金槌を取り落としそうになる。
ロイド「話がわかるな、おっさん。人見知りがちょっと激しいかもしれないけど大人しい奴だし、日陰にいさせてやってよ。じゃ、よろしく」
男「あ、ああ」
おっかなびっくりの男を残し、ロイドはジーニアスの元へと戻った。
453
:
暗闇
:2006/09/01(金) 18:05:05 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
占い師はすぐに見つかった。
この街の貴重な水源であるオアシスの岸に沿って歩いたいちばん奥に椰子の林がある。彼女はその中にテントを張り、客を待っていた。
占い師「いらっしゃい。なにを占いましょう?」
まだ若い占い師は、テントの中央に置いた大きな水晶玉の前で、ニッコリと微笑んだ。
ジーニアス「ごめんなさい。お客じゃないんです。僕達、神子様のことを知りたくて」
占い師「あら、可愛い子ね」
占い師はジーニアスが気に入ったらしい。
占い師「いいですよ。一件につき100ガルドいただくのですけど」
ロイド「ひえっ、たけーよ」
ロイドの言葉を無視して、彼女は水晶を覗き込み、厳かに続けた。
占い師「見えました――神子様たちは、イフリートの暴走で滅んだというオアシスへ向かっています」
ロイド「本当か?そのガラス玉に映ってるってのか?」
ロイドが笑うと、彼女はキッとなった。
占い師「疑ってますのね?神子様のお供の方に聞いたのだから間違いありません!」
ジーニアス「占いじゃないじゃないか。それで100ガルドも取るの?」
ジーニアスが唇を尖らせると、
占い師「いいえ、特別にタダにしてさしあげます。今度はぜひ恋愛相談でいらっしゃっいね」
占い師は、ニッコリしながら2人を送り出した。
ジーニアス「……大丈夫かな、あの人。なんかインチキくさいよねー」
ロイド「まあ、いいじゃねえか。コレットのお供って、きっと先生のことだよ。先生の言うことなら間違いないだろうから、そのオアシスへ行ってみよう」
ジーニアス「そうだね。うまく追いつけるといいね」
ロイドとジーニアスが話ながら、街の出口近くまで来たときだった。
突然、目の前にディザイアンが3人現れた。巡回中らしい。
ジーニアス「知らん顔しよう、ロイド」
ジーニアスが呟く。
ジーニアス「ここのディザイアンはロイドの顔を知らないんだから、大丈夫だよ」
ロイド「ああ」
だが、1人のディザイアンが、すれ違いざまロイドを見るなり大声を上げた。
ディザイアンC「おい、手配書とそっくりな奴がいるぞ!」
ディザイアンD「本当だ。似顔絵と瓜二つだ。貴様、ロイドだな!」
3人が頷き合うのに、ロイドはムッとなった。
ロイド「なんだとぅ!?俺はあんなに不細工じゃねえぞ!」
彼はブツブツ言いながら、人気のない街の外まで走り、ディザイアンを引きつけた。
できるだけ広い場所で戦いたいという思いの他に、イセリアでの苦い記憶が、無意識の内に街の人々から自分を遠ざけているようだった。
ロイド「行くぞっ!」
ロイドは、丸く取り巻いていた鞭をまるで槍のように真っ直ぐ的確に繰り出してくるディザイアンの脇へ回り込むと、鋭い突きを浴びせる。
ディザイアンC「ぐううっ」
ジーニアス「こっちは僕に任せて!」
一人が倒れると、ジーニアスはけん玉を構えた。
ジーニアス「ウィンドカッター!」
ビュウッと空気が唸り、風の刃が次のディザイアンを宙に巻き上げる。
ロイドはディザイアンが地上に落下する前にそれを左腕で斬り捨てると、ちょうど最後のディザイアンが放ったボウガンの矢――すんでのところで肩口に突き刺さるところだった――を右手の剣で払いのけた。そのまま男に突進し、返す刀で切り倒す。
ロイド「ふっ、残念だったな」
ジーニアス「ロイド、油断したね」
ロイドの横に立ったジーニアスが、肩をすくめた。
ロイド「けど、こいつら相手だと負ける気がしないよなあ」
ジーニアス「いいの?そんなこと言って。そのうち痛い目にあっても知らな……!」
背後に異様な気配を感じたジーニアスは、振り向きざま悲鳴をあげそうになる。
新たなディザイアンたちが4、5人、立っていたからだった。
454
:
暗闇
:2006/09/01(金) 18:06:22 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ロイド「……!?あ、ああ……っ」
ジーニアス「ロイド!」
ジーニアスは、ロイドの体が丸く薄い膜に包まれ、発光するのを見た。
ジーニアス(なにこれ!?光る玉みたいだ……こんな武器、見たことないよ!)
ロイドはそれ以上声を出すこともできず、バッタリとその場に倒れてしまう。
ジーニアス「うわああ。僕、怖いっ!」
ジーニアスはとっさに鳴き声をあげた。
ディザイアンのひとりが、意識を失ったロイドを肩に担ぎ上げる。
ジーニアス「ねえ。おとなしくするからぶたないで!お願いだよ!」
男達はうるさそうにジーニアスを一瞥すると、
ディザイアンE「どうする?この子供。仲間のようだが」
ディザイアンF「連れてくのも面倒だ」
と、相談を始めた。
ジーニアス「わああん!僕、ロイドに無理矢理ここまで連れてこられただけなんだ。なんにもわかんないよぉぉ!」
ジーニアスは顔を覆い、ここぞとばかりに嘘泣きをしてみせる。
ディザイアンE「泣くな、ガキっ。あああ、うるさい!」
ディザイアンF「リーダーが欲しがっているのはロイドだけだろう?必要ない」
ディザイアンたちは厄介なものから逃れるように、足早に去って行った。
ジーニアス「……行っちゃった……ロイド、何処へ連れて行かれるんだろう?」
ジーニアスが顔を上げた時、
ノイシュ「クゥ、クゥゥ〜ン、ワウウゥ」
悲しげな声が聞こえてきた。
ジーニアス「ノイシュ!?」
ジーニアスは、近づいてきたノイシュに駆け寄った。
ジーニアス「勝手に来ちゃダメじゃないか……いや、そうじゃないよね」
ロイドの危険を感じ取ってあの小屋から飛び出してきたのかもしれない、とジーニアスは思う。
ジーニアス「よし。まずはロイドの行き先を一緒に確かめよう。何とか助けなくちゃ!」
ノイシュ「ウオオォ〜ン!」
ジーニアス「しっ。奴らに気付かれちゃうよ。当分、吠えるのは禁止。いいね?」
ジーニアスは慌ててノイシュの口を両手で押さえた。
455
:
暗闇
:2006/09/27(水) 18:38:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=夢幻心母=
ブラックロッジの本拠地、夢幻心母の中心部にある玉座で、ドクター・ウェストは冷や汗を流していた。
傲岸不遜で恐れる物など何も無い彼であるが、目の前の少年だけは別である。
ブラックロッジの大導師<グランドマスター>・マスターテリオン。
彼は床に跪くウェストの姿が目に入らないのか、憂いを帯びた目でどこかを見つめていた。
それは現世ではなく、どこか別の次元を見つめているかのようだ。
ウェスト「……というわけで、我輩の報告は以上であります」
滝のような汗を流しながら、ウェストは報告を終えた。
内容はもちろん先程のデモンベインとの戦闘とその顛末である。
任務の失敗を報告するにあたり、ウェストは極度に緊張していたがマスターテリオンは聞いているのかいないのか、退屈そうに枝毛をちぎっている。
そんな主に代わり、横から口を出す者がいた。
アウグストゥス「つまり、アル・アジフの回収に失敗した挙句、逃げ帰ってきたわけですな、ドクター」
玉座の横に立つ褐色肌が特徴の長身の男性・アウグストゥスは、目鼻立ちのハッキリとした精悍な顔にあからさまな冷笑を貼りつけ、ウェストを見下ろしている。酷く冷たい切れ長の目は侮蔑の色に染まっており、気品すら与えてくれる仕立ての良いスーツも、その前では色褪せて見えた。
アウグストゥス「全く持って情けない有様ですな。大天才の名が聞いて呆れますぞ」
アウグストゥスの鋭く冷ややかな視線を受け、ウェストの顔は苦痛に歪む。
ウェスト「それは不意打ちを突かれたからで、我輩は負けたなどとは思っていないのである」
不意打ちを食らったのは事実であり、万全の状態であれば負けるわけがない。少なくともウェストはそう考えていたし、負けを認めるなどというのは彼のプライドが許さなかった。
だが、そんな彼の自尊心を踏みにじろうとでもいうのか、アウグストゥスは容赦ない嫌味を浴びせた。
アウグストゥス「ほう。ご自慢の破壊ロボは素性も知れないロボットに歯が立たなかったと?」
アウグストゥスはスーツを正すと、口元に皮肉な笑みをウェストに向けた。
ウェスト「貴様ぁ、言わせておけば!」
両者の間に不協和音が流れる中、ずっと黙っていたマスターテリオンが突然口を開いた。
マスターテリオン「――――やめろ、2人とも。気が滅入る」
マスターテリオンから静かな口調で咎めの言葉を告げられた2人はそれだけで気勢が削がれ、熱した身体は一気に冷え切ってしまった。
マスターテリオン「ドクター、余が貴公を咎めるつもりはない。あのロボットがどのような理論で造られているのかは知らぬが、破壊ロボットとは違う理論に基づいているのであろう。遅れをとるのも無理からぬこと」
ウェスト「お言葉ではありますが、大導師……我輩の破壊ロボットが遅れをとるなどとは……」
おずおずと進言するが、すぐに口をつぐんだ。マスターテリオンが見据えていたからだ。
アウグストゥス「大導師。あのロボット、おそらくは覇道財閥が極秘裏に開発を進めていたロボットではないかと」
アウグストゥスは腰を屈め、マスターテリオンに耳打ちする。
ウェスト(あやつめ、あれが覇道のロボットだと知っていたのであるな!)
ウェストが食って掛かろうとしたその時だ。
???「そのとおり、あれは覇道が造りし鬼械神・デモンベインさ」
ウェストは目を疑った。どこから現われたのか、胸元が開いたスーツを身に纏った、長身の女性が玉座の脇に控えていた。
突然の出来事に驚いたのはウェストだけではない。アウグストゥスは表情を凍らせ、身体をわななかせていた。
アウグストゥス「き、貴様ッ!」
アウグストゥスは声を裏返すと、戸惑う表情を見せながらも素早く身構えた。
次の瞬間、彼の指先から輝く光の糸のようなものが現われる。
アウグストゥスが巧みな指さばきでそれを編み上げていくと、やがてそれは一冊の書物と化した。
魔導書『金枝篇』である。
456
:
暗闇
:2006/09/27(水) 18:38:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
マスターテリオン「よい、アウグストゥス。古い友人だ」
マスターテリオンは手でアウグストゥスを制し、謎の女性に目を向ける。
マスターテリオン「久しいな。“今回は”なんと名乗っている?」
ナイア「ナイアでいいよ。今回はそう名乗ってる」
マスターテリオン「ナイアとは、なんとも捻りの無い名前ではないか」
ナイア「どうもセンスがなくってね。次回があれば、君がつけてくれてもいいんだよ?」
マスターテリオン「次回とは。心にもないことを」
マスターテリオンはつまらなさそうにつぶやく。
ウェスト(あの女、何者であるか?それに今回とは一体?)
断片的に語られる奇妙な言葉に、ウェストは不安感を覚えた。
マスターテリオン「して、何用か?」
ナイア「おっとっと。僕としたことが、肝心なことを忘れてしまうところだったよ」
ナイアは頭をコツンと叩いて、軽く舌を出すと、マスターテリオンに向き直った。
ナイア「アル・アジフとデモンベインの搭乗者について、知りたくはないかい?」
「――――ッ!」
ナイアの話に反応したのはマスターテリオンではなく、ウェストとアウグストゥスである。
ウェスト(訊きたい、訊きたいのであるっ!)
名誉挽回のために、そしてボロ雑巾のようになってしまったプライドを修復するためにも、デモンベインにリベンジする必要があった。
ナイア「大十字九郎。うだつのあがらない、三流の探偵さ」
マスターテリオン「探偵?ミスカトニックの魔術師ではないのか?」
マスターテリオンはほんの少しだけ意外そうな顔をした。
ナイア「あの、アル・アジフが選んだのだから、間違いはないと思うけどね」
マスターテリオン「ふむ」
ナイア「どうだい?面白そうだろう?」
マスターテリオン「……今回はずいぶん向こうに肩入れしているではないか。――で、実際のところ、どうなのだ?」
ナイア「今までに比べたら力は劣るやね。だけど大導師殿?そんなものは関係ないだろう?」
マスターテリオン「ふむ」
しばし熟考していたマスターテリオンは、玉座から緩慢な仕草で立ちあがった。
マスターテリオン「アウグストゥス、留守を頼む」
突然のことに、アウグストゥスは惚けた表情をする。
ナイア「おやおや、大導師殿、自らご出陣で?」
とぼけた口調のナイアに対し、マスターテリオンは薄く笑って答える。
マスターテリオン「挨拶せねばなるまい?それに、余とて遊びに興じたくなる時もある」
マスターテリオンは言い終わると同時にその姿をかき消した。
457
:
暗闇
:2006/10/01(日) 18:12:31 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=シルヴァラントベース=
ロイド「くそうっ。なんなんだ、ここは。出せよ!」
牢の中で目覚めたロイドは、鉄格子を掴み、先刻から叫び続けていた。
トリエットの出口で襲われ、意識を失いかけたところまでは覚えている。
目の前を行ったり来たりしている見張りが制服を着ていることからも、ここがディザイアンの施設の中であるだけは理解できた。
ディザイアン「やかましいぞ。どうせお前は事と次第によっちゃあ、見せしめのために公開処刑になるんだ。おとなしくしていろ」
見張りの男の言葉に、ロイドは愕然となった。
ロイド(処刑!?や、やべぇ。グズグズしてたら殺されちまう)
剣は取り上げられてしまっている。彼は、なにか武器になるものはないかと、ポケットを探った。
ロイド(あ、これは……)
指先に当たったのは、マーテル教会聖堂から持ってきたソーサラーリングだった。
ロイドはリングを指先にはめると、見張りに向ける。
ロイド「ようし、当たれっ!」
リングの石と同じ赤い光が発射された。それを首筋に受けたディザイアンがあっけなく倒れたと思うと、ほとんど同時に鉄格子が音もなく開いた。
ロイドは通路に投げ出されていた自分の剣を拾い上げる。そして、急いでその場から逃れた。
458
:
暗闇
:2006/10/17(火) 01:52:46 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
出口を探して施設の中を歩き回るうち、ロイドは不思議な気分になった。
とにかく広いのだ。しかし、複雑な造りでは決してない。
開放感のある通路には、ひとりでに開くいくつもの扉やチカチカと瞬いている明かりなどが、すっきりと組み込まれている。
ディザイアンと鉢合わせしそうになるたび、彼は今まで見たこともない機械類の陰に隠れてやり過ごし、観察してみたが、彼らがこの施設のシステムを自在に使いこなしていることは間違いなかった。
ロイド(ここは、どういう技術で建てられたものなんだ?ディザイアンの奴らっていったい……。とにかく早く外へ出ないと)
ロイドは、自分がここで時間を食っているせいで、ますますコレットとの距離が開いてしますことに苛立ちを覚える。
その時だった。てっきり据え置きの機械だと思っていた金属の塊が2体、いきなり動き出すと襲いかかってきた。
ロイド「なにっ、こいつらモンスターかよ!?」
ロイドはとっさに抜いた剣で金色に輝くモンスターの頭部を斬りつけたが、刃がたつ固さではなかった。
ロイド「くそっ!」
今頃はもう、牢から脱走したことがディザイアンたちに知れ渡っているに違いない。
グズグズ戦っている暇はなかった。
ロイドは一番近い所にある扉めがけて突進した。自動的に開いたそれは、モンスターの侵入を許さない速度で再び閉まった。
ロイド「ふう。危ないところだったぜ」
ロイドは、自分が飛び込んだ場所が、誰かの私室らしいことに気が付いた。
いくらかの機械類とは別に、本棚やソファが置かれている。
???「何者だ!?」
ロイドは驚き、声のする方へ顔を向けた。
長身の男が立っていた。まだ若く、端正な顔立ちをしている。イセリアの空の色に似た青い長髪を後ろで一つに束ねており、長いマントを羽織っていた。
男はロイドをまっすぐに見据えると、スッと拳を上げる。そこから滲むように光が溢れ出すのを見て、ロイドは咄嗟にグローブで顔を庇った。
???「そ、それは、エクスフィア!」
男が驚愕の声をあげる。彼の視線はロイドの左手に注がれていた。
???「まさか、貴様がロイドか」
ロイド「……だったら?」
ロイドは、男の強い視線に負けまいと、睨み返す。
ロイド(なんだ?こいつ。人の顔をジロジロ見やがって)
???「……なるほど。面影はあるな」
ロイド「面影はある?なんのことだよ」
ロイドがオウム返しに聞いた時、甲高い音が響き渡った。警報装置らしい。
続いて扉が開き、数人の男が駆け込んできた。
459
:
暗闇
:2006/10/17(火) 01:53:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ボータ「リーダー!神子たちが侵入してきた模様ですぞ!」
ロイド「コレットが?」
思わずそう口にしたロイドは、聞き覚えのある声にハッとする。
ロイド「お前……マーテル教会聖堂で襲ってきた……あの時のディザイアンじゃないか!」
確か、ボータと呼ばれていた男だ。
ボータ「ん?そうか、お前がロイドだったのか。ははは、これは傑作だ!」
???「ボータ、私はいったん退く。ここで“奴”に私のことを知られてはせっかくの計画が水の泡だ。後のことは頼んだぞ」
おかしそうに笑っていたボータは、慌てて表情を引き締めると、
ボータ「はっ、リーダー。それでは神子の処遇はいかが致しますか?」
と、訊ねた。
???「……お前に任せる」
青い髪の男は、再びロイドに視線を注いだ。
???「ロイドよ。次こそは無事ですむと思うな。必ず貴様を……覚悟しておくのだな!」
ロイド「なんだとっ!?」
気色ばむロイドを睨み付けると、男は奥の扉の向こうに姿を消した。
と、まるで入れ違いのようにジーニアスが転げ込んできた。
ジーニアス「ロイド!よかったぁ、生きてる?」
続いてコレットとクラトスも入ってくる。
ここへ到達するまでにかなりの数のディザイアンとモンスターに遭遇したのだろう、クラトスは抜き身の剣を握ったままだ。
コレット「ロイド、大丈夫?ケガしてない?手は大丈夫そう、足も大丈夫そう?」
コレットは、ボータたちが目をギラつかせていることなどお構いなしで、ロイドの身体を気遣った。
クラトス「無事のようだな」
その様子を見て、クラトスが短く呟いた。
ロイド「……みんな。来てくれたんだな。俺の方から捜しに行こうと思ってたのに」
ジーニアス「僕一人でコレットたちを見つけるの、大変だったんだからね」
ジーニアスは自慢げに胸をそらした。
ボータ「仲間がみんな勢揃いか。ちょうどいい、神子もろとも始末してくれる!」
クラトスは、古めかしい大刀を構えるボータと対峙する。
ロイド「ジーニアス!コレットを頼む!」
ロイドは剣の切っ先をユラユラさせながら、
ロイド「ほら、こっちだ。来いよ」
と、からかうようにディザイアンを誘った。
ディザイアンA「くそう、小僧、行くぞ!」
460
:
暗闇
:2006/10/17(火) 01:54:13 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
コレット「レイトラスト!」
そこへ突っ込んできたうちの一人の背にコレットのチャクラムが命中する。
ディザイアンA「ぐわぅ!」
バランスを失い、一人が倒れた。残った一方をすかさずロイドが斬り捨てる。
それを見届けたジーニアスは、クラトスの援護に向かおうと絨毯を蹴った。
ジーニアス「ストーンブラスト!」
ボータの足許から、次々に石つぶてが飛び出した。大刀を振りかざしていたボータに一瞬の隙が出来る。
クラトスはそれを逃さず、瞬迅剣を繰り出した。
ボータは激しい突きを必死にかわしていたが、何度か右腕に刃を受け、低く呻く。ロイドが迫ってくるのを見てこれ以上は無理だと踏んだらしかった。
ゴトリ、と大刀が落ちる。
ボータ「き、貴様……やはり、さすがというべきか」
ボータは怒りに燃えた目でクラトスを睨み付けると、血の滴る腕を押さえながら、先程リーダーと呼ばれる男がくぐった扉の方へヨロヨロと近づいて行く。
ロイド「いいのか?」
ロイドの問いに、クラトスは答えない。ボータはそのまま、消えた。
と、その時、リフィルが入ってきた。
ロイド「先生!」
リフィル「あら、それは確か……!」
彼女は、ロイドの声も耳に入らない様子で、ボータが落としていった古めかしい大刀を拾い上げ、食い入るように見つめている。
リフィル「……うーん。そうかもしれない……!」
ロイドは、なぜ彼女だけここに来るのが遅れたのだろう、と疑問に思った。
ロイド「先生ってば。俺だよ、ロ・イ・ド」
リフィル「やっと顔を上げたリフィルは、ジーニアスをチラリと見てから、ロイドに言った。
リフィル「ここに案内される途中、あの子からいろいろ聞いたわ。迷惑をかけたそうね」
ロイド「そんなことない!巻き込んだのはむしろ俺の方だ。先生の弟なのに……ごめん」
クラトス「2人とも」
クラトスが割って入る。
クラトス「話は後にしろ。こんなところに長居は無用だ」
461
:
暗闇
:2006/10/18(水) 15:07:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ロイド「こんなところって、ここはディザイアンの……」
クラトス「シルヴァランドベース。奴らの基地といったところだな」
クラトスは答え、リフィルに水を向けた。
クラトス「どうだ、うまくいったか?」
水を向けられたリフィルは頷いた。
リフィル「ええ、もちろんよ。たったいま脱出口を開いてきたところ。さ、行きましょう」
462
:
暗闇
:2006/10/18(水) 18:40:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある異世界=
雪をかぶった山々が防壁のように空を狭めていた。アメストリス北の終わりの街、ヴァルドラ。天嶮ブリッグズ山の麓に抱かれたこの街では、1年のどの季節でも、街のどこにいても、白い峰を望むことができる。
大気の状態や雲のかかり具合によって、山が白いドレスの裾を引く女の姿に見えることもあるという。だからヴァルドラの新しい住人の多くは、この地方に昔から伝わっているある魔女の伝説はそこから生まれたと勘違いしている。白き魔女はおとぎ話の中の存在にすぎない、と。
しかし、古くからの住人達は知っている。白き衣を纏いし魔女は実在した。遠い昔、その魔力の巨大さゆえに地の底深く封印されたことを。
目覚めさせてはならない、と少女は小さな声で呟いた。ヴァルドラの中心部に建てられた魔女の像を見上げながら。
その像は、恐ろしい魔女とは思えないほど、やさしく慈愛に満ちた顔をしていた。いつの時代に造られたのかはわからないが、魔女がおとぎ話の中の存在だと思いこんでいる者の手によるものだろうと、少女は考えた。
それは、全てを滅ぼす大いなる力。
古くからの住人達の間で語り伝えられている言葉だ。それを知っている者が、このように穏やかな微笑をたたえた魔女の像を造るはずがない。
『彼女の力は人の手に負えるものではないのだよ。たとえ彼女の一族である私達であっても』
父の言葉が少女の耳元に蘇った。
???「お父さん……」
少女は俯いた。父の死から1年。もう泣かないと決めたのに、鼻の奥がつんと痛くなる。久しぶりにヴァルドラに帰ってきたせいだろうか。いや、この街を離れたのは物心つく前。思い出など一つもないのだから、感傷的になる理由などない。
もう一度、魔女の像を見上げる。
きっとこの像のせいだ、いつになく涙もろくなっているのは。だって、こんなに優しげな像だとは思わなかった。まるで……お母さんのよう。……何を考えているの、私ったら。お母さんの顔なんて覚えていないのに。
もともと体の弱かった母は、自分を産むとすぐに死んでしまったと聞いている。父にとってもつらい思い出だったのだろう、決して多くを教えてくれたわけではないが。それでも言葉の端々から、母の人柄を推し量ることはできた。
母の名――イルゼ――は、北の国の言葉で「神は我が誓い」の意味だという。その名に相応しく、信仰心に厚い女性だったと、父は語った。
『お前はお母さんにとっても、お父さんにとっても大切な宝物なんだよ』
だから何としてでも逃げ延びて、生き続けるようにと父は言った。底冷えのする晩だった。あれが、父とすごした最後の日となった。
『おまえこそが……希望の光』
父はそう言って微笑むと、少女の身体を隠し通路へと押し込んだ。追っ手が迫っていた。物心ついたときからずっと逃亡生活を続けてきたのだ。父が何をしようとしているのか、わからない少女ではなかった。
声を上げて泣きたくなるのを我慢して、少女は隠し通路の奥で息を殺していた。荒々しい足音や言い争う声が聞こえ、やがて大きな物音がした。それでも少女はじっとしていた。自分が捕まれば、父の死が無駄になる。
絶対に生き延びる、そう誓った。父の願いを叶える為に。
463
:
暗闇
:2006/10/18(水) 18:41:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???「私が必ず……」
止めてみせる、魔女を決して目覚めさせたりしない、と心の中で呟く。
時計台の鐘が正午を告げた。広場の噴水がひときわ高く上がり、陽光を受けてきらめく。噴水の周りで子供達が歓声を上げている。
ヴァルドラへ来るのはまだ早かったかもしれない。のどかな光景を眺めながら、少女は不安になった。もう少し、追ってから隠れて時期を待った方がよかったのではないだろうか。この街へ来るということは、敵の真っただ中へ飛び込むということなのだ。
でも、と少女は小さく頭を振る。夢の中で母に呼ばれた。はっきりとした言葉ではなかったけれども、その声は確かに自分を呼んでいた。あれは母の声だ。少女はそう感じた。声どころか、顔すら覚えていないけれども、間違いないと思った。
北の地に葬られた母が教えてくれたのだ。時期がきた、と。その予感を信じて、少女はヴァルド行きを決めた。
とはいえ、平和そのものといった光景を目にすると、予感などあてにならないのではないかという疑念が湧き上がってくる。何かが起きると思ったのは錯覚にすぎなかったとしたら。
その時だった。不意に地面が小刻みに揺れ動いた。
???「地震?」
違う。魔女の像が地面とは異なる揺れを示していた。足許から伝わる揺れよりも、ずっと長く、不規則な間隔。あたかも像が自ら動き出そうとしているかのように。やがて、地鳴りにも似た音が聞こえた。立て続けに3回、それぞれ別の方角からだ。
予感は、母の声は、正しかった。始まったのだ。
少女は魔女の像に背を向け、走り出す。既に行き先はわかっていた。
464
:
暗闇
:2006/10/18(水) 18:42:40 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
子供A「うわあ、でっかい!」
子供B「ヘンな鎧!」
子供達が無遠慮に指をさしてくる。平均的な大人より頭ふたつ分は大きい鎧が、わずかに低くなった。これでも本人は思いきり身を縮めているつもりだったが、そこは鎧である。これ以上、背中を丸めることも首をすくめることもできなかった。
ウィンリィ「アル、ごめんね。ずっと人混みばっかで」
アル(以後、鋼)「いいんだ、ウィンリィ。慣れてるから」
ため息のつける身体であれば、間違いなく最大級のため息が吐き出されていたに違いない。しかし、彼、アルフォンス・エルリックは肉体がなかった。空っぽの鎧に魂だけを定着させた姿は、初めて見る人を九割九分九厘驚かせ、この世のものとは思えぬ悲鳴を上げさせる。
ウィンリィ「裏通りが分かってれば、そっちを通るんだけど」
ウィンリィと呼ばれた少女が、すまなそうに周囲を見回した。石畳の歩道には、肩が触れ合いそうなほどの人数が行き交っていた。
ヴァルドラはアメストリス北方では人口の多い街である。古くからの城塞都市で、中心部から広い道路が何本も放射線状に校外へと延びている。それらの大通りをつないでいるのが細い裏通りだったが、こちらは計画的に敷かれた道路ではない。ゆえに、おかしな具合に曲がりくねっていたり、袋小路になっていたりして、土地勘がない者には迷路に等しい。どうしても大通りに人が集中することになる。
ウィンリィ「ヴァルドラは道がややこしいから、表通りを行くようにってガーフィルさんが……」
不意にウィンリィの言葉を不機嫌な少年の声が遮った。
???「あー、鬱陶しいったらねえ。これだから人混みはヤなんだよ」
小柄な少年が顔をしかめながら背伸びをした。
ウィンリィ「ちょっと見通しが悪いくらいで文句を言わないの」
金の瞳が剣呑な色を帯びる。せっかく鬱陶しいという遠回しな表現を使っていたのに、直接的な言い方をされたせいだった。
ウィンリィ「アルと違って、エドのは気の持ちようってやつなんだから」
エド「ウィンリィ、てめ……」
異を唱えようとしたその時、エドことエドワード・エルリックの後頭部を何かが直撃した。ごつ、という鈍い音とともに、星とも花火ともつかないものが目の前で弾ける。
???A「ああ、悪ぃ」
痛む後頭部をさすりながら見上げると、人の好さそうな青年がエドを見下ろしている。そして、その青年の隣にいる男が彼に気をつけろと諫めるような表情――どうやら友人同士のようだ――をしていた。2人ともこの街の人間ではなく旅行者なのだろう、その内の1人は首からカメラをぶら下げている。たった今、ウィンリィのスパナに匹敵する打撃を放ってきたのは、そのカメラだった。彼が友人と話している時に振り向いた矢先、位置が悪かったせいで軽い遠心力で振られたカメラがエドの頭に命中したのだ。
しかし、誰にでも不注意はある。相手も反省しているようだしここはひとつ、大人の対応というやつをするべきだろうと、エドは右手を挙げ、応用に構えてみせる。
エド「いや、大丈……」
???A「悪かったな、坊主」
口を開きかけたまま、エドはその場に固まった。男はエドの頭をなでると、にっこりと笑って友人の男と共に歩み去っていく。
エド「ぼ、坊主?」
ウィンリィは口元を両手で押さえ、クルリと回れ右をした。肩が小刻みに震えている。アルがその隣に並ぶ。正面に回ってみるまでもなく、2人が笑いをこらえているのは明らかだった。
酸素不足の魚のように口をパクパクさせるばかりのエドだったが、すぐに両腕を振り上げて叫んだ。大人の対応、という文字が跡形もなく吹っ飛ぶ。
エド「待ちやがれーっ!オレにケンカ売るたぁ上等だっ!」
アル(鋼)「兄さん、落ち着いて」
エド「だ〜れ〜が〜就学前のお子様サイズのミニマムどチビだ〜ッ!」
アル(鋼)「そこまで言っていない……っていうか、そんなこと全然言ってないでしょ」
呆れたというよりは諦めた様子で、アルが暴れるエドを押さえつける。慣れた動作だった。
ウィンリィ「これじゃ、どっちが兄なんだか」
ウィンリィが肩をすくめる。
エド「オレが兄!」
エドが「オレが」の部分を強調して答える。大きな鎧という外見に惑わされて、アルが兄だと勘違いする者も少なくない。だが、実際にはアルは14歳、小柄なエドが15歳だった。
エド「ったく。あのクソ大佐!これで何も出てこなかったら、ただじゃおかねえ」
アル(鋼)「何も出てこないってことはないと思うよ。わざわざ手紙で知らせてきたんだから」
エドがロイ・マスタング大佐からの手紙を受け取ったのは、ラッシュバレーだった。ほんの数日前である。機械鎧<オートメイル>の修理の為に、幼馴染みであり機械鎧技師であるウィンリィの許を訊ねたときのことだった。
465
:
暗闇
:2006/10/18(水) 18:43:13 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウィンリィ『そういえば、エドに手紙が届いてたんだっけ』
機械鎧の扱いが雑すぎる、なぜもっと丁寧に使わないのかと、いつものようにひとしきり説教した<ボコった>後だった。ウィンリィは思い出したように立ち上がり、手紙を出してきた。
エド『オレに手紙?』
アメストリス国内を転々と旅しているエドたちに手紙を届けるには、これが最も早く確実な方法だと踏んだのだろう。差出人の読みはどうやら正しかった。
ウィンリィ『一昨日届いたばかりなの。まさか、こんなに早く渡せるとは思わなかった』
エド『手紙なんて、いったい誰が……げっ!』
差出人の名前を見るなり、エドはのけぞった。
アル(鋼)『兄さんがそういう反応を示すってことは、大佐からだね。何かあったの?』
エド『こっちが訊きてえ』
エドが顔をしかめて、開封した手紙をアルに手渡した。
アル(鋼)『え?たったこれだけ?』
軍の紋章入りの便箋には、見覚えのある文字でたった一行、こう書かれていた。ヴァルドラに君達の求めるものがあるかもしれない、と。
エド『何のことだかさっぱりだろ?』
アル(鋼)『うん……せめて、もうちょっと具体的に書いてくれればいいのに』
裏に追伸文が書かれていないか、或いは透かしでも入っているのではないかと、アルが手紙をためつすがめして見ている。
エド『具体的なことを書くと、ヤバいってことかもな』
自分たちが求めているものを思えば、ありえない話ではない。過去に多くの錬金術師たちが探し求めてきた術法増幅装置である賢者の石。そして、それは関わった者を不幸にするとも言われていた。実際、賢者の石に関わったがために、命を落とした者たちを知っている。
エド『ちょっくら行ってみっか』
ヴァルドラとやらへ、とエドが言ったときだった。
???『あら、あんたたち、ヴァルドラへ行くの?』
ウィンリィの師匠であり、この攻防の主でもあるガーフィールが奥から顔を出した。外見こそむくつけき男であるガーフィールだったが、言葉づかいや物腰は極めて“女らしい”。それは繊細にして豪快という、機械鎧技師として彼の技術を体現していた。
ガーフィール『ちょうどよかったわ。頼まれてくれないかしら。あたしの昔なじみがヴァルドラにいるんだけど、届けて欲しいものがあるのよ』
エド『オレたちなら、いいけど?』
ロイからの短い手紙では、ヴァルドラという地名以外に何も手がかりがない。ガーフィールの申し出は渡りに船だった。地元の人間につてができれば、情報収集に役立つ。
ガーフィール『助かるわぁ。そうね……』
ガーフィールはチラリとウィンリィを振り返った。
ガーフィール『ウィンリィちゃんも行ってきてくれない?金ヅルもいることだし』
エド『費用はオレ持ちかよ!』
エドの抗議をあっさり聞き流し、ガーフィールはにっこりと笑った。
ガーフィール『ついでに彼の工房を見学してらっしゃいな。彼の技術はすごいわよぉ。きっとウィンリィちゃんと話が合うと思うわ』
ウィンリィと話が合うと聞いて、機関銃を仕込んだ義手だの、キャタピラ付きの義足などを思い浮かべたエドだったが、口には出さなかった。不吉な予感がしたのだ。ガーフィールにあっさり肯定されるのではないかという……
466
:
暗闇
:2006/10/18(水) 18:43:50 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そういう次第で、ウィンリィが同行してヴァルドラ行きは3人の旅となった。南部の街ラッシュバレーから北方都市ヴァルドラまで、汽車を乗り継いで数日。旅の疲れをものともせず、ウィンリィはホテルに荷物を置くなり出かけると言い出した。ガーフィールの行っていた「すごい技術」とやらが見たくて居ても立ってもいられなかったらしい。
フロントで市街地の地図をもらい、勇んでホテルを出たまでは良かったが、大通りをいくらも進まないうちにエドとアルは意気阻喪した。もともと人混みが極端に苦手な2人である。
エド「なんなんだよ、この人の多さは」
アル(鋼)「お祭り……なんてことはないよね」
確かに風船売りや露天の類が所々に出ていたが、それに対する人々の反応は鈍い。おそらく、大通りの人の多さを当てこんで店を出しているだけで、祭りや祝典というわけではないのだろう。
ウィンリィ「はいはいはい、文句言わないの。さっさと歩く!」
ウィンリィ一人が気を吐いている。
アル(鋼)「しょうがないね。がんばって歩こうよ」
エド「だな」
気を取り直して再び人混みへと突撃を開始したときだった。足許に揺れを感じた。
エド「ん?地震か?」
小刻みな揺れがいきなり突き上げるような衝撃に変わった。あちこちで悲鳴が上がる。遅れて何かが爆発したような音が聞こえてくる。かなり近い。あれは何だ、と誰かが叫ぶ。何のことを言っているのだろう?
アル(鋼)「兄さん、あれ!」
アルが指さす方向に目をやる。積み木のように並ぶ建物の向こうに、奇妙な形の塔が見えた。いや、塔なのか、石像の一部なのか、或いは全く別のものなのかは定かではない。ただ、一番高い建物よりもさらに高い位置に見えることと、その形状から塔ではないかと思っただけだ。
元からあったものではない。あれだけの高さなら、大通りを歩いていればいやでも目につく。今の振動は、あれが地面を突き破って生えてきたことによるものだろうか。が、それ以上、考えることはできなかった。
不意に人の群れが動き始めたのである。たちまちそれは速度を上げ、エドたちを呑みこみかける。パニックだ。
エド「アル!ウィンリィ!離れるなっ!」
とっさに近くにいたウィンリィの腕をつかむ。人の流れに押されてはぐれてしまったら、おそらく互いの安否を確認することすらできなくなる。ここは見知らぬ土地なのだ。
銃声が聞こえた。今度もまた近い。それがさらに群衆の不安を煽った。怒号と悲鳴とが飛び交い、押し流す力が勢いを増す。
石畳に足を取られた。身体が前のめりになる。体勢を立て直そうにも、人の流れが速すぎる。パニック状態の人混みで転倒することが何を意味するか。エドは焦った。まずい。せめて、ウィンリィを巻き込まないように手を放して……
アル(鋼)「兄さん」
襟首をつかまれた。鎧の腕がエドとウィンリィを人混みから引きずり出す。
アルの身体を盾にしながら、流れから抜け出し、裏通りへと飛び込んだ。ガーフィールにも、ホテルのフロントでも、不用意に裏通りに入るなと言われていたが、
あのパニックに比べれば道に迷うほうがマシだった。
エド「アルの御陰で助かった」
エドは大きく息を吐いた。もう少し遅かったら、あの怒濤の人混みに踏みつぶされていたかもしれない。
ウィンリィ「いったい何が起きたの?」
ウィンリィが不安そうに大通りに目をやった。雷鳴を短く区切ったような音にエドは口をつぐんだ。
アル(鋼)「兄さん、あれってもしかして……砲弾?」
もしかしなくても砲弾だ。間違いない。
エド「おいおい、冗談じゃねえ。街中で戦争おっ始めやがったってか」
内乱という言葉が脳裏をよぎった。この国では決してとっぴな連想ではない。急速に軍事化したアメストリスは、お世辞にも国家として安定しているとは言いがたい。中央から遠い地方、つまり国境周辺は軍の力が及びにくいために、常に内乱の火種がくすぶっている。数年前には、少数民族であるイシュヴァール人が内乱を起こしていた。
エド「とにかくホテルに戻ろう」
もしも内乱が勃発したのであれば、ホテルに戻ったからといっても安全とは言えないわけだが、何が起きているかくらいはわかるだろう。そう判断したエドはウィンリィとアルに提案すると、2人も頷き裏通りを歩み出した。
467
:
アーク
:2006/10/19(木) 20:23:07 HOST:softbank220022215218.bbtec.net
マグナス「地震の次は砲弾か・・・・この世界は面白いなぁ」
クラウス達と別れて次元を渡っていたマグナスは奇妙な気配に引かれ
この世界に降り立っていたのだった
この世界は一度来た事がありその時に聞いていたエルリック兄弟を見つけ
後を追っていたのだ
マグナス「最近時空のバランスが保っていないな。念の為彼らを追いながら
この世界を調査するか。この錬金術が発展したこの世界を」
三人に気づかれないようにマグナスは後を追った
468
:
暗闇
:2006/10/22(日) 23:14:49 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その頃、此方の世界では……
界魔「相変わらず、お前たちには恐れ入るよ……」
叢魔「そういうものか?父も言っているが、生まれつきの障害あったりする者等を除けば、本来人間のスペックはさほど……」
界魔「それは確かにそうだが……お前たちと一般人をあまり一緒に考えない方が良いぞ」
これまで数え切れないほど聞かされている台詞を界魔はサラリと流すと、周りを見渡していた。
如何にも豪華な席に座って満足気味になっている子供らを見て、彼はため息をつく。
日本に向かうべく、辿り着いた空港でジェナスたちと別れた彼らは叢魔と天美に偽造して貰ったパスポートを用いて飛行機に乗っていた。
あれほど短時間でこの世界には存在しないはずの自分たちのことをでっち上げた2人の才能には驚嘆するが、まさかファーストクラスの席まで手に入れるとは……
界魔自身は小さい頃から義父とは犬猿の仲である叢魔の父の元へ遊びに行ったりしていたので、豪華な待遇にもあまり気を引くこともないが……
界魔(昨日のあいつは……一体……)
界魔が昨日の夜中に出会った謎の人物のことはまだ誰にも言っていない。
余計なことを言って混乱を広げるのもいけないということもあるのだが、それ以上に気になることがあった。
界魔(あいつも……あのスライムも言っていたが……俺のことを知っているのか?)
界魔は元々天上家の人間ではない……身寄りのない子供だった彼を現在の天上夫妻が引き取ったのだ。
最初は養父とはウマが合わないこともあってか散々ケンカしたりして、一度はそれが原因で家を飛び出してしまったこともある。
だが、その直後に起こったある出来事によって養父と仲直りし、それまでと比べ衝突することは減った。
しかし、その出来事のさいに初めて自分に関する出生を界魔は知ることになった。
界魔は元いた世界の人間ではない……違う世界から流れ着いた人間だということだ。
しかも、自分は特別な存在らしい。
その事実を知った彼も最初は戸惑ったものの、幼い頃から非常識を経験していたこともありそれは結構早く受け入れ、割り切ることが出来た。
それでも、自分の出生が度々気になり、情報を集めようかと思ったこともあったが、そのことを詳しく知ると思われるある者たちとはまず出会うことがない為、諦めていた。
その者たちは基本的に界魔しか、まともな接触をあまりしておらず、おまけに敵として立ちはだかってきたこともあるので養父たちからは不信の目で見られている。
その者たちは11年前の戦い以来、自分の目の前に姿を現していない。
まあ、あれから大きな戦いも無かったのでそれはそうだろうが……
が、これは自分のあくまでも直感にすぎないが、今回の件はあの時の戦いと同じかそれ以上のものになるだろう……界魔自身はそれを薄々と察していた。
もしそうなら、彼らもまた自分達の目の前に姿を現してくるはず……今は当時と違って界魔も心身共に成長した。
今の自分なら彼らから自分に関する真実を聞き出すことはできるはずだ。
考えを纏めた界魔は目を閉じた。
実はあの後、輪廻に捕まりまともな睡眠が取れず、少し疲れが溜まっていたので、日本に着くまでの間少し寝ることにした。
469
:
暗闇
:2006/11/27(月) 02:25:51 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=ヴァルドラ=
あれからエドたちは地図を頼りに歩き始めたものの、すぐに方向を見失ってしまった。裏通りには、目印になるようなものが何もないのである。建物はどれも似たようなアパートばかり、看板の類もなければ標識さえもない。さらに間の悪いことに、にわかに広がりを始めた雨雲が太陽を覆い隠してしまった。これでは方角が全く分からない。
ウィンリィ「ねえ、もしかして……」
アル(鋼)「僕達って迷子になってない?」
アル(鋼)とウィンリィが顔を見合わせる。もしかしなくても迷子だとエドが答えようとしたときだった。
奇妙な服装の男達が行く手を阻んできた。おかしな模様を描いた仮面をかぶり、銃を手に武装している。その銃も、白っぽい衣服も、明らかに軍のものではない。もっとも、装備を見るまでもなく敵か味方かの判別はついた。彼らが一斉に銃口を向けてきたからである。
エド「問答無用かよ」
エドが両手の平を合わせながら、アル(鋼)にチラリと視線を投げかける。同じように手を合わせながら、アル(鋼)が頷いた。
アル(鋼)「ウィンリィ、下がって!」
2人同時に両手を地面に押し付ける。練成反応特有の光が弾け、石畳から無数のトゲが飛び出した。男達が銃を持ったまま跳ね飛んだ。が、彼らは怯むことなく起き上がってくる。
再び2人そろって石畳に両手を押し付ける。またトゲが練成されると思ったのだろう、男達が一斉に飛び退った。が、トゲではなかった。彼らの足許から迫り上がってきたのは、分厚い石の壁である。壁はみるみる高さを増し、エドたちと彼らとを完全に分断した。
3人そろって回れ右をして走る。これで、連中が壁をよじ登るなり、壊すなりする間に逃げられる。
アル(鋼)「狭い道でよかった」
全力で走りながら、アル(鋼)がつぶやく。練成速度は、練成物の質量に大きく左右される。狭い道幅に合わせた壁なら一瞬で練成できるが、大通りではこうはいかなかっただろう。
しばらく走った後、エドたちは足を止めた。これ以上、走ろうにも息が続かなくなったのだ。鎧戸を下ろした建物にもたれながら、エドとウィンリィはただただ荒い息をついていた。
動けない2人の代わりに、アル(鋼)は怪しい者が潜んでいないか、周囲を点検しに回った。肉体を持たないアル(鋼)だけはどれだけ走っても疲労を感じることがない。
それにしても、ここヴァルドラは最悪の事態に陥ってしまったらしい。やはり内乱が勃発したのだ。さっきの男達は単なる民間人ではない。あの統率のとれた動きは、一般軍人並みの訓練を経て初めて身につくレベルのものだった。
ウィンリィ「ねえ、エド……これからどうする?」
エド「とりあえず大通りに出る」
あんな連中がうろついているのでは、危なくて裏通りを歩けない。大通り沿いに歩きながら、街を脱出する方法を考えるしかなかった。内乱である以上、汽車は動いていないだろう。公共の交通手段に頼らずに街を出ることができるかどうか。しかし、グズグズしているうちに街が封鎖される恐れもある……
470
:
暗闇
:2006/11/27(月) 02:26:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
アル(鋼)「さっきの人たちが!」
アル(鋼)の鋭い叫びで我に返った。あの物騒な連中がまだいたらしい。
エド「おい、そんな大声出したら、連中に見つかって……」
アル(鋼)「違うよ。助けなきゃ!」
アル(鋼)が駆け出した。どうやら誰かが襲われているらしい。慌ててエドもその後を追う。ここでアル(鋼)とはぐれるわけにはいかない。
アル(鋼)「あっちの角を曲がってった!先に行くよ、兄さん」
ウィンリィがついてきているのを確かめ、さらにアル(鋼)を追いかける。幸いなことに追跡は短かった。
アル(鋼)「いた!」
アル(鋼)の指さす先、袋小路に誰かが追いつめられているのが見える。追いつめているのはさっき見たのと同じ服に身を包んだ男達だ。いや、もう一人いる。白ずくめの連中に交じって、一人だけ灰色のコートを着た男がいる。濃紺とも青紫ともつかない髪の色が遠くからでもよく目立つ。
男がゆっくり歩いている。いや、女かもしれない。背の高さから男だと思ったが、歩き方や身のこなしは遠目に見てもわかるほど女性的だった。さらに
近づいてみると、襟と袖に毛皮をあしらったコートも、男物というより女物に見える。
女はこの上なく優雅なしぐさで紫の髪をかき上げた。が、次の瞬間。エドは最初の判断こそが正しかったのだと悟った。
???A「さあて……どうしようかねえ」
その声ははっきりと男のものだった。過剰に女であることを強調しようとしている裏返った声色をもってしても、彼本来の性別はごまかしようがない。
???A「これ以上手間をとらせるようなら」
そして、壁際に追いつめられているのは、ちょうどウィンリィと同じくらいの少女だった。男がじりじりと少女に歩み寄る。その掌が光っているのをエドは見た。
練成反応の光に似ているが、この距離では断定できない。
アル(鋼)「やめろ!」
アル(鋼)の叫び声に、男が振り向く。きっちりと化粧が施されてはいたものの、あの顔立ちはまぎれもなく男である。
471
:
暗闇
:2006/11/27(月) 02:28:23 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「あら。何か御用?」
からかうように男が言った。が、その灰色の瞳は全く笑っていない。ここに至ってエドも確信を持った。この男は少女に危害を加えようとしている。
男の口許に嘲笑の色が浮かんだ。が、すぐにそれは消え、退屈そうな表情に取って代わる。鬱陶しげに、男が片手を挙げる。光を帯びているほうの手だった。男が何かを投げつけてくる。
光だ。太陽をそのまま地上に持ってきたかのような、真っ白な光の玉。それがエドとアル(鋼)に向かって飛んでくる。と、それは無数の氷に、次の瞬間にその氷は矢に転じた。とっさに後ろへ跳ぶ。石畳が砕ける音。
2人が立っていた場所に何本もの氷の矢が突き刺さった。氷の矢はガラスのように透き通っていたが、強度の方はガラスとは桁違いらしい。
エド「野郎……ッ!」
エドは男に向かって跳んだ。すでに右手は甲剣へと形を変えている。同じ術師ならばその練成速度が並のものでないとわかるはずだ。が、男は相変わらず嘲りの表情を崩さない。
男の利き腕めがけて甲剣を突き出す。避けようとするかと思いきや、男はまっすぐに前へと足を踏み出した。エドの甲剣と男の手とがぶつかった。
鈍い音とともに甲剣が止まる。生身の手が鋼鉄製の機械鎧で練成した剣を止めている。
エド「な……」
次の瞬間。身体が浮いた。男は甲剣を受け止めたばかりか、同時にエドを蹴り飛ばすという荒技をやってのけたのだ。とっさに受け身をとったものの、衝撃を殺しきれなかった。背中を走り抜ける痛みに、エドは顔をしかめる。どうにか上体を起こしたものの、すぐには立ち上がれない。
???B「やめて!その人たちは関係ないわ!」
絶叫する少女を、白ずくめの連中が押さえつけられる。
???A「黙って見てなさい。すぐに終わらせるから」
紫の髪の男は笑い含みに告げると、再び掌を払った。さっきと同じ光の玉がエドめがけて飛んでくる。
無理だ。避けきれない。光球が無数の氷の矢へと変じる。思わず目をつぶる。
突然、鼓膜に衝撃がきた。鉄板の上に砂利を勢いよくばらまいたかのような音。エドは目を見開く。アル(鋼)が立ちはだかり、盾となってエドを守っていた。あのけたたましい音は、無数の氷の矢が鎧めがけて降り注いでいたせいだった。
しかし、石畳に突き刺さる氷の矢である。その威力はすさまじいらしく、アルがジリジリと押され始める。
ついに耐えきれなくなったのか、アルが仰向けにひっくり返った。
エド&アル(鋼)「うわあっ!」
2人分の悲鳴が響き渡る。アル(鋼)の倒れた先にはエドがいた。
エド「アル〜!どけ〜!重いぃぃぃ!」
鎧の下敷きになったエドがはみ出した足をばたつかせてわめく。不自然な体勢でひっくり返ったせいか、アル(鋼)もすぐには起き上がれずに、同じように足をばたつかせている。
472
:
暗闇
:2006/11/27(月) 02:28:57 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
???A「あら、以外としぶといわね」
紫の髪の男が声をたてて笑うのが聞こえた。いつの間にか、降り注ぐ矢は止んでいた。
???A「子供だと思ってなめてたわ。今度はもっと……」
???B「やめてっ!」
悲鳴にも似た声で少女が叫ぶ。
???B「お願い……やめて……やめ…て……ッ!」
少女の声がどこかおかしい。どうしたのだろう?が、鎧の下敷きになっているエドにはそれを確かめる術がない。
???B「だめえええええっ!」
衝撃はいきなりやってきた。突風なのか、爆風なのか、それとも別の何かのか定かではないが、激しい力の奔流を感じた。アル(鋼)もろとも弾き飛ばされ、石畳に叩きつけられた。ウィンリィの悲鳴が遠くで聞こえる。
何が起きているのか、さっぱりわからない。ただただ視界が白い。それでも、正体不明の力は少しも衰えることなく押し寄せてきている。
きつく閉じてしまいそうになる瞼をこじ開けると、少女が見えた、その身体が光っている。視界が白いのは、そのまばゆい光のせいだったのだと気づく。
???A「なるほど恐ろしい力ね」
光の中で、男が苦しげに身体を曲げるのが見えた。
???A「また……会いましょう」
男が消えた。本当に消滅したのか、単にどこかへ駆け去っただけなのかはわからない。それ以上、目を開けていられなかったのだ。
もう視神経が限界だ、と思った瞬間、辺りが暗くなった。不意に手足に自由が戻る。静かだ。耳までおかしくなったのではないかと思うほど。
いつの間にか、少女の身体から光が消えている。ドサリ、という音が沈黙を破った。少女がその場に倒れ伏したのである。
エド「おい!大丈夫か!」
跳ね起きながら叫ぶ。返事はない。エドは慌てて駆け寄った。アル(鋼)が少女を抱き起こす。
アル(鋼)「しっかりして!」
が、彼女はふったりとして動かない。その手の甲が淡く光っている。
アル(鋼)「兄さん、この光……」
さっきのまばゆい光と同一のものにしては、あまりにもかすかで弱々しい。やがて、残り火が消えるようにその光は消えた。
エド「アザ?」
少女の手の甲には、赤紫色のアザがあった。いや、アザではなく、人の手によって描かれたものだろう。自然に出来たものにしては整いすぎていた。形は花によく似ている。入れ墨だろうか。
ウィンリィ「何がどうなってんのよ。まったくもう」
咳き込みながらウィンリィが歩み寄ってくる。が、意識を失っている少女を見るなり、ほとんど飛びつくようにして彼女の首を掴んだ。まず脈を確かめようとするあたりは、医者の家系に生まれたウィンリィらしい。
ウィンリィ「よかった……脈は異常ないわ」
アル(鋼)「でも、目を覚まさないよ。どうしよう」
エド「どこか横になれる場所を探さないと」
確かに、ここではいつまた白ずくめの連中が襲いかかってくるかわからない。
エド「横になれる場所って言っても、こんな裏通りじゃなあ」
ウィンリィ「近くに病院があればいいんだけど……あ!」
周囲を見回していたウィンリィが、ピタリと視線を止めた。
エド「どうした?」
ウィンリィ「あそこ。教会があるわ」
教会ならば、応急手当くらいしてもらえるかもしれない。少なくとも、少女を休ませる場所は提供してもらえるはずだ。誰からともなく頷き合う。
アル(鋼)が少女を抱えて立ち上がった。
473
:
暗闇
:2006/11/27(月) 23:32:39 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
間近に見ると、古い教会だった。扉を開けて中を覗いても、人の気配は全くない。
アル(鋼)「もう使われていないのかな。それとも、出かけてるだけだとか?」
エド「鍵もかけずに外出ってことはないだろ」
建物の中はたいして埃くさくもなく、蜘蛛の巣が張っていたりsることもなかった。使われなくなったとしても、最近のことなのだろう。いずれにしても好都合だった。
礼拝堂を抜け、2階に上がると、小さいながらも客室があった。こちらはうっすらと埃をかぶっていたものの、カーテンもベッドもそのまま残されている。もしかしたら、近い内に何かの施設として再利用される予定でもあるのかもしれない。
ベッドカバーを剥がすと、枕やシーツは実用に耐える程度の清潔さが保たれていた。アル(鋼)が少女をそっと下ろす。
アル(鋼)「いいよね、勝手に使っちゃっても」
エド「ったり前だ。この非常時に文句は言わせねえ」
アル(鋼)「当たり前っていうのは、いくらなんでも……」
何か言いたげなアル(鋼)をとりあえず黙殺し、エドは改めて少女の手の甲を覗き込んだ。
エド「この模様、さっきの光と関係があるのか?」
練成反応を何十倍にも強めたような光だった。手の甲に描かれているのが錬成陣ならば、少女の使った力は錬金術の一種ということになる。だが、この単純な模様はどう見ても錬成陣とは思えなかった。
いやな夢でも見ているのか、少女が顔をしかめた。汗ばんだ額に銀色の髪が貼りついている。ウィンリィがハンカチを取り出し、少女の顔をそっと拭う。と、少女の瞼が動いた。
???「お…とうさ…ん……」
ハッとしたように、少女が目を見開いた。瞳に戸惑いの色が浮かぶ。
ウィンリィ「気がついた?」
???「ここは……」
飛び起きようとする少女をウィンリィが手で制した。
ウィンリィ「まだ寝てなきゃだめ。ここは教会よ」
少女の視線がウィンリィからエド、そしてアル(鋼)へと移る。
エド「もう心配しなくていい。さっきの奴らはいなくなった。ここなら安全だろう」
安全という言葉を出しても、少女は固い表情を崩そうとしない。警戒しているのだ。辺りの様子を確かめるかのように視線が室内をさまよう。少女がゆっくりと起き上がる。ウィンリィも今度は止めなかった。
エド「俺はエドワード・エルリック」
アル(鋼)「ボクは弟のアルフォンス・エルリックです」
少女は無言のまま、エドとアル(鋼)を見比べている。
ウィンリィ「ウィンリィ・ロックベルよ。よろしくね」
同じ年頃のウィンリィに対してなら警戒心も解けるかと思ったが、少女の表情は相変わらずだった。
474
:
暗闇
:2006/11/27(月) 23:33:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エド「で、あんたは何者なんだ?」
何か妙な力を使ってはいたが、錬金術師には見えない。いったい何者なのだろう。が、少女はエドの疑問に答えてくれなかった。名乗れない事情でもあるのだろうか。エドは質問を変えることにした。
エド「さっきの白ずくめの連中、何者なんだ。あんた、何か事情を知ってるんだろ?教えてくれないか」
あの紫の髪の男は、はっきりと少女を狙っていた。手近にいた者を無差別に襲っているという様子ではなかった。何より彼女自身の言葉がそれを裏付けている。あの男がエドたちを攻撃しようとした時、彼女は言った。その人たちは関係ないわ、と。裏を返せば、彼女自身は関係者であり、自分が襲われる理由を知っていたということになる。
エド「おい、なんで黙ってるんだよ」
いっこうに答えようとしない少女に、エドは苛立った。
???「助けてくれたことには感謝してる」
俯いたまま、やっと少女が口を開いた。
???「でも、これ以上このことには……私には関わらないほうがいいわ」
エド「なんだって?」
少女が顔を上げた。その瞳には、うって変わって強い光が宿っている。
???「それより、早くここから逃げて。このヴァルドラを離れて。まだ間に合うから」
エド「ちょっと待った!オレたちは事情を知りたいんだ。今、この街で何が起きているのか」
間違いなく、少女は何かを知っている。
エド「それくらい話してもいいだろ」
???「事情を知ったところで……あなたたちじゃ、どうすることもできないわ」
ひどくカンにさわる物言いだった。つい、エドもとげとげしい言葉を返してしまった。
エド「別にどうこうしようとは言ってねえだろ。事情を教えてくれって言ってるだけで」
少女が黙って目を逸らす。薄い色の唇をきつく引き結んだまま。
ウィンリィ「ねえ、話だけでもしてみてくれないかな」
ウィンリィが少女の肩に手を置いた。
ウィンリィ「話すだけでも気が楽になるってこと、あるでしょう?」
少女の視線が迷うように揺れた。ウィンリィはここぞとばかりにたたみかける。
ウィンリィ「こいつ、見た目は小さいけど、以外と頼りになるのよ」
エド「そうそう。小さいけど意外と頼りに……って、おい!誰が小さいってっ?」
エドの抗議をウィンリィがあっさりと受け流す。
ウィンリィ「せっかく褒めてあげてんのに、いちいち絡んでこないでよ。すぐ小さいことにこだわるんだから」
エド「小さい言うなっ!」
ウィンリィ「実際、小さいんだから、小さいって言って何が悪いのよ」
エド「あーっ!2回も言いやがったっ!」
ウィンリィ「まったくもう。身体が小さいと心まで小さくなるのかしらね。さすが史上最小国家錬金術師だわ」
エド「史・上・最・年・少だーっ!」
エドの絶叫が辺りに響き渡った。古い窓ガラスがビリビリと震え、窓枠が軋む。
ウィンリィ「ちょっとエド!もう少し小さい声で話してくれない」
エド「だから、ちっさい言うな〜ッ!」
ぜいぜいと肩で息をしているエドのかたわらで、クスッと笑う声がした。アル(鋼)ではない。いつの間にか、少女が笑っていたのだ。
ソフィ「私の名前はソフィ。ソフィ・ベルクマン」
ひとしきり笑うと、少女はようやく名乗った。
ソフィ「いいわ。事情を説明する。助けてもらったお礼もあるし」
ソフィが再び真顔に戻った。
475
:
暗闇
:2006/11/27(月) 23:34:00 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ソフィ「さっき襲ってきたのは……この街を襲っているのは、ヴェルザの一族と呼ばれる者達」
エド&アル(鋼)&ウィンリィ「ヴェルザ……?」
エドたちが顔を見合わせる。どこかで聞いた名だ。
ソフィ「私は彼らの計画を防ぐためにヴァルドラへきたの」
アル(鋼)「計画って?」
それには答えず、ソフィは小さく息を吸い込んだ。
ソフィ「かつて、白き衣を纏いし魔女がいた」
目を閉じ、一語一語確かめるようにソフィは言葉を紡いでいく。
ソフィ「魔女は怪しい術で人々を惑わせた
魔女は怒った王に討たれた
魔女は死なず復讐を誓った
魔女は赤き悪魔の力を借りた」
赤き悪魔、という言葉にエドは思わずアル(鋼)を見る。アル(鋼)もまたエドのほうを見ている。全く同じものを連想したのだろう。
ソフィ「魔女が一度手を打ち鳴らすと、魔女を罵る者たちが死んだ
魔女が二度手を打ち鳴らすと、城は崩れて王が死んだ
魔女が三度手を打ち鳴らすと、怪物たちがこの地を襲った
魔女はますます荒れ狂い、許しを請う人々を苦しめた
魔女は人々を殺し続け、国は滅びた
やがて勇気ある者たちが現れた
やがて戦いが始まった。
やがて魔女は眠りについた
やがてこの地に城が建ち
ついに魔女は封印された」
アル(鋼)「ソフィ、その歌はいったい……?」
ソフィ「これがヴァルドラに伝わる魔女の伝承。その魔女の名はヴェルザ」
ウィンリィ「あ、思い出した!」
ウィンリィが指を鳴らした。
ウィンリィ「地図にあったじゃない。ヴェルザ像って」
さっき、どこかで聞いたことがあるような気がしたはずだ。ホテルで道を教えてもらったときに、ヴェルザ像のある広場が出てきた。
エド「そういや、その近くに遺跡か何かがあったよな。ってことは、この地に城が建ちって、それのことか?」
アル(鋼)「でも、言い伝えなんでしょ。ほんとにあったことじゃなくて」
いいえ、とソフィが首を左右に振った。
ソフィ「単なる言い伝えじゃないわ。街の人たちはおとぎ話だって思ってるけど、これは事実を基にした伝承なの」
アル(鋼)「じゃあ、魔女も実在した?」
ソフィは大きく頷いた。
ソフィ「ヴェルザの一族は、魔女ヴェルザを祀り、自分たちの神として信仰している一族。彼らはヴェルザを目覚めさせて、世界を滅ぼそうとしているの」
エド「世界を……滅ぼす?」
突拍子もないことを言われて、エドたちは面食らった。おとぎ話が一転して世界の命運に関わる話である。が、ソフィは構わず言葉を継いだ。
ソフィ「この伝承には続きがあるの。ヴェルザの一族だけに伝えられてきた続きが」
おごそかな口調でソフィは続けた。
ソフィ「それはすべてを滅ぼす大いなる力。決して目覚めさせてはならない」
沈黙が訪れた。はいそうですかと信じられるような話ではないが、かといって絵空事と切り捨てるのもはばかられた。何より、それを語るソフィが真剣そのものなのだ。
ソフィ「封印を解いてヴェルザを復活させるには、たくさんの生贄が、人の命のエネルギーが必要になる。だから、彼らはオベリスクと呼ばれる尖塔を造り、それを集めようとしているの。私はそれを阻止するためにこの街へ来た……」
エド「もしかして、それで追われていたのか?」
ソフィ「ええ、紫色の髪の男がいたでしょう。彼はヴェルザの四神官の一人、氷塵のレオニードと呼ばれる男だと思うわ。氷の矢を操っていたから」
大いなる力、オベリスクと呼ばれる尖塔、人の命のエネルギー。やはり突拍子もない話だが、引き込まれずにいられない。細部は違っているのだが、大筋の部分がエドたちの知っているあるものを連想させるからだ。
アル(鋼)「どう思う、兄さん」
エド「どうもこうも、いきなり世界を滅ぼす云々だろ?ただ……」
常識で考えれば、話半分に聞いておくべきなのだろう。が、エドたちがヴァルドラにきた目的自体が同じように雲をつかむような話なのである。生きた人間を材料として精製する「賢者の石」。それを思えば、ソフィの話をただ聞き流すなどできようはずがなかった。
476
:
暗闇
:2006/11/27(月) 23:34:52 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ソフィ「信じられないのも無理ないわ」
エドが黙り込んだのを否定的な反応だと勘違いしたらしい。ソフィが立ち上がった。
ソフィ「私、もう行くわね。これで事情は話したから」
エド「おい、ちょっと待てよ。そういう意味じゃなくて……」
引き留めようと伸ばした手が空をつかんだ。
ソフィ「あ……」
ソフィの身体が大きく傾いだ。エドは慌てて立ち上がると、今度こそ彼女の腕をつかんだ。そのまま身体を支え、ベッドに座らせる。
エド「大丈夫か?」
ソフィ「ええ。ちょっと目眩がしただけ」
ソフィは笑おうとしているようだったが、その唇には血の気がなく、頬は紙のように白い。ウィンリィとアル(鋼)が口々にソフィを引き留めにかかる。
ウィンリィ「まだ無理しちゃダメよ」
アル(鋼)「そうだよ。もう少し休まないと」
ソフィ「いいえ!」
ソフィが叫んだ。3人が思わず黙りこむほどの強い声だった。
ソフィ「そんなこと言っていられない。早くしないと、ヴェルザが復活してしまう!」
悲痛な声だった。ソフィをベッドに寝かせようとしていたウィンリィも手が止まる。
アル(鋼)「兄さん」
アル(鋼)がエドを振り返った。わかっているよね、と言いたげに。そして、再びソフィのほうへと向き直る。
アル(鋼)「ヴェルザの復活を止める方法をボクたちに教えて!」
ソフィ「え?」
アル(鋼)「こんなに弱ってる人をほっておけないよ」
ソフィ「な、何を言ってるの」
ソフィがうろたえたようにアル(鋼)を見上げる。
エド「別にあんたのためってわけじゃない」
エドは2人の会話に割って入った。
エド「オレたちはオレたちなりの思惑があって、ヴァルドラに来た。だから、さっきも事情を教えてくれって言ったんだ」
ソフィ「あ……」
エド「で、その事情を聞いてみると、だ。そのヴェルザとやらが、オレたちの探し物と関係があるんじゃねえかと」
アル(鋼)「赤き悪魔、だね」
アル(鋼)が言葉をはさんだ。さっき、あの歌の同じ言葉にアル(鋼)も反応していた。自分だけではない。
エド「魔女が赤き悪魔の力を借りたってのが、どうしても引っかかる」
伝説に聞く賢者の石の色は赤。もしもヴェルザが賢者の石を使って術を増幅させていたとしたら、錬金術を知らない人々には、「赤き悪魔の力を借りて」いるように見えたのではないか。
エド「さっき、ヴェルザの復活には人の命のエネルギーが必要だって言ったよな」
アル(鋼)「やっぱり、それって……」
エドはアル(鋼)に頷いてみせる。賢者の石は生きた人間を材料にして造られる。これもまた、賢者の石とヴェルザの共通項だった。
エド「とにかく、オレたちがあんたの代わりにやってやる」
ヴェルザをたどっていけば、賢者の石にたどりつけるかもしれない。いや、その可能性は極めて高い。ロイの手紙にあった「君達の求めるもの」とは、おそらくこれだ。
エド「ヴェルザの復活を防ぐ方法を教えてくれ。半病人みたいなあんたより、オレたちがやったほうが早い」
ソフィ「あなたたちには関係ないのよ。代わりだなんて……」
アル(鋼)「関係なくないよ!」
アル(鋼)が強く頭を振った。
アル(鋼)「ヴェルザの復活で世界が滅んじゃうなら、ボクたちだって無関係じゃいられない」
ソフィ「だめよ!これは私がやらなきゃいけないことなの!あなたたちを巻き込むわけにはいかないわ」
エド「だーかーらー!あんたのためじゃないって言ってんだろーがっ!」
思わずエドが怒鳴った。話がちっとも進まない。と、不意に頭が後ろに引っ張られた。ウィンリィだった。下がってなさい、と言いたげな視線をエドに投げてよこすと、ウィンリィはソフィの肩に手を置いた。
477
:
暗闇
:2006/11/27(月) 23:35:29 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ウィンリィ「ねえ、ソフィ。誰かを巻き込みたくないくらい大変なことなら、それこそ仲間と協力したほうがうまくいくんじゃない」
ソフィ「仲間……」
ソフィの口許がそのままの形で固まった。まるで仲間という言葉を初めて聞いて戸惑っているかのように。
ウィンリィ「それに、この2人って、すっごくガンコだからね。一度言い出したら引かないわよ」
ウィンリィが冗談めかして言う。
ソフィ「そういえば、さっき国家錬金術師って……」
ウィンリィ「それはエドのほうね。国家資格はとってないけど、アル(鋼)も錬金術師よ」
ソフィはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げた。
ソフィ「わかった。あなたたちにお願いするわ」
錬金術が使えるのなら、とソフィが呟いた。
ソフィ「エド、アル(鋼)、ウィンリィ。よろしくお願いします」
改まって挨拶されると、照れが先に立つ。エドとアル(鋼)は、ギクシャクと頭を下げた。
ウィンリィ「ほらほら、堅っ苦しい挨拶なんて抜きにして」
ウィンリィに言われて、3人はそろって頭を上げ、噴き出した。
エド「ウィンリィの言うとおりだよな。早いとこ片付けようぜ。で、どうすればいいんだ?」
ソフィ「ヴェルザの復活には人の命のエネルギーを集める必要がある。これはさっき言ったわね」
エドとアル(鋼)が頷いた。
ソフィ「だから、エネルギーを集めているオベリスクの動きを止めればいい」
エド「どうやって?」
ソフィ「今からあなたたちに聖印を渡すわ。それがあれば、オベリスクを封印することができる」
利き手を出して、と言われてエドは機械鎧の右手を差し出した。
エド「これで……いいのか?」
ソフィは頷くと、エドの腕に両の手のひらをかざした。やがて機械鎧の手の甲に、ソフィと同じ模様が浮かび上がってくる。練成されているといった感触はない。陽の光や街灯に手をかざしているのと変わらなかった。
エドが終わると、アル(鋼)にも同じようにソフィが手をかざした。ただ、その模様は手をかざした場所に現れるというわけではないらしい。アル(鋼)の場合、模様が現れたのは肩だった。
ソフィ「あなたたちに聖印を渡したわ。これであなたたちもオベリスクを封印できるはず」
エド「これ、どうやって使えばいいんだ?」
赤紫色の模様を指先でつついてみる。特に何かが変わったとも思えない。何なのだろう、これは。
ソフィ「オベリスクに手を触れて、術を使えばいいの。あとはその聖印が力を必要な方向へ増幅してくれるわ」
アル(鋼)「これ、さっきの力の?」
ソフィ「ええ。聖印は私の力の源。オベリスクの封印だけじゃなくて、神兵たちと対等に戦うこともできるはずよ」
エド「神兵?」
ソフィ「白い服の兵士達がいたでしょう?彼らのことよ」
見た目にはただの模様だが、錬成陣と似たような効果を持つものなのだろう。レオニードという名の男も、さっきの戦いで錬金術らしき力を使った。ヴェルザと錬金術との間にこれほど明白な関連性があるのだから、賢者の石とも必ず繋がっているはずだ。
ソフィ「3つのオベリスクのうち、西にあるのは私が封印したから残りはふたつ。そのひとつは街の北にあるわ。病院前の広場に」
エド「病院前だな。……って、オレたち、今どの辺にいるんだっけ?」
裏通りで迷子になったあげく、妙な連中に遭遇して、わけもわからずに走った。おかげで、現在位置がさっぱりわからなくなってしまった。ここが自分たちの泊まるはずだったホテルから近いのか、遠いのかさえも。ウィンリィが地図を広げる。
ウィンリィ「ソフィ、この教会がどの辺にあるのか、わかる?」
ソフィ「たぶん。ちょっと見せて」
地図を覗き込んだソフィは、指先で複雑に入り組んだ道をたどっていたが、すぐに顔を上げた。
ソフィ「ここよ。教会の記号があるでしょう。そして、ここが病院前広場」
ウィンリィ「見て!すぐ近くまで鉄道が通ってる」
ウィンリィが地図を指さした。
ウィンリィ「これって、ガーフィールさんが言ってた汽車のことじゃない?」
ヴァルドラの市街地には、地下遺跡を利用した鉄道が敷かれているという。それは市街地をグルリと一周していて、ヴァルドラの住人にとっても、旅行者にとっても、なかなかに便利な乗り物らしい。
エド「地下遺跡の中を走る汽車……か。使えるかもしれねえな」
アル(鋼)「線路に沿って歩いていけば道にも迷わないし、さっきの人たちにも見つからずにすむよ」
幸い、その鉄道の駅ならこの教会の近くにもある。この状況では汽車そのものは走っていないだろうが、線路沿いに歩くことくらいできるはずだ。
478
:
暗闇
:2006/11/27(月) 23:36:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
エド「ソフィはヴァルドラにくわしいんだな。もしかして、昔、住んでいたとか?」
ソフィ「ええ……でも、物心つく前だから、全然覚えてないけど。ヴァルドラの市街を知っているのは、父が地図を見ながら何度も説明してくれたから。父には分かっていたんだわ。いつかこんな日がくるって」
エド「お父さん?」
ソフィ「ええ。父は1年前に亡くなったの」
悪いことを聞いてしまったかもしれない。気まずく黙り込むと、ソフィは静かに首を左右に振った。
ソフィ「いいのよ」
ソフィの細い指先が地図を元通りに折りたたむ。平静を保とうとしている姿が痛々しい。
ソフィ「あとは……お願い」
ソフィの身体がグラリと揺れた。
エド「おい!」
エドとアル(鋼)は慌てて両側からソフィを支える。
ソフィ「ごめんなさい。緊張が解けたら、急に……安心して気がゆるんだみたい」
穏やかな表情を浮かべているが、ソフィの顔色がますます悪くなったように思える。
ウィンリィ「少し眠ったほうがいいわ」
ソフィ「……ええ。ありがとう」
ウィンリィが抱きかかえるようにしてベッドに寝かせると、ソフィは目を閉じた。疲れと緊張もあるのかもしれないが、一番の理由はさっきの戦闘で消耗したためであろう。気丈に振る舞っていたものの、やはり回復にはほど遠い状態だったのだ。
エド「ウィンリィ、ソフィのことは頼んだ」
ソフィ「まかせといて」
エドとアル(鋼)は互いに頷き合う。気をつけて、と消え入りそうなソフィの声に送り出されて、2人は部屋を後にした。
479
:
暗闇
:2007/02/28(水) 19:21:37 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
=とある平行世界・ドイツ=
冴葉「――以上の理由により、まずはガルミッシュ・パルテンキルヒェン――ここから30kmほど南下したところにある街です――に行き、ツークシュピッツェ山の中腹へ。回る水とフレイア異伝を今に伝えているという、グランツホルン修道院に向かいます。修道女たちの身の安全を確保したあとに、水のサンプリングを行い、可能ならば現地で性質を分析。その後、禁断の井戸本体の情報を追ってください」
地形図のホログラフィを背に、片桐冴葉は言葉を切った。
冴葉「ここまででご質問は?」
美沙とノイエは、冴葉の視線を追って振り返った。肝心の鷲士はガックリと肩を落とし、ぼんやりと窓から湖を眺めている。
ああ、こんなことになるなんて……
鷲士はうなだれ、ため息をついた。
ここはフランクフルトから200kmほど南東に進んだ地点――シュタインベルガー湖の傍に建つキャビンのリビングだった。澄んだ湖面に、写真でも見たことのない美しい山並みが映り込んだが、心を晴らすには至らない。
これからこのドイツで彼らは大波乱に巻き込まれていくのだが、その前に話を少し遡ることにする。
480
:
暗闇
:2007/02/28(水) 20:46:35 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
鷲士『北欧神話の……フレイア異伝だって?』
昨晩のボロアパート――眉を潜める鷲士に、ノイエは頷いてみせた。
彼女は、次いでポテチをつっつく美沙に目を見やり、
ノイエ『あなたは北欧神話って……分かる』
美沙は鼻を鳴らした。
美沙『はん、誰にそんなくだんないこと訊いてるわけ? 要は“散文のエッダでしょ?』
ノイエ『まあ、その歳でそんなことまで!あなた、偉いわ!』
と嬉しそうに、ナデナデ。日本はボロクソにけなすくせに、ヨーロッパの文化が浸透しているのは嬉しいらしい。
鷲士『神話はともかく……あの……なんなんですか、それ?』
ノイエ『……シュージ、あなたそんなことも分からないの?それでも大学生?』
鷲士『い、いや、文学部ってワケじゃないんで……』
凄い差別を感じたが、鷲士は引きつった笑みで誤魔化した。
ノイエ『仕方ないヒトね。じゃあ最初から話すわ。そもそも現在、一般的に北欧神話と呼ばれているものは、12世紀中頃に――』
そしてノイエは語り始めた。
481
:
暗闇
:2007/02/28(水) 21:26:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
冷徹な隻眼の魔神オーディン、酒飲みバイキングの化身とも言える雷神トール、ピエロ同然のトリックスター・ロキ、豊穣を司る双子のフレイ・フレイア兄妹神――彼らの名は、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。強烈な個性を持つ神々が衝突や旅を享楽的に繰り返し、巨人族と戦う物語――これが俗にアスガルド神話、アース神話などと呼ばれる、北欧神話の概略だ。
起源をたどれば、紀元前のスカンジナビアにまで遡るという。神々の性格が一人一人ハッキリ差別化がなされているのは、各部族の神を、当時にしては珍しく、ほぼそのままの形で取り込んだからだと思われている。神話の骨格が成立したのは、13世紀。サクソ・グラマティクスが記した9冊にわたるデンマークの歴史書『デーン人の事跡』と、詩人であり政治家でもあったスノリ・ストルルソンが著した教本『散文のエッダ』――この2作が完成した。
北欧神話の中では、神々は2つの神族に大別される。オーディン、トール等をはじめとしたアース神族と、フレイ・フレイアの双子を主神にいただくヴァン神族だ。前者は天神の直径とされ、後者はむしろ巨人族よりの一族だった。
アースとヴァン、これらの二大神族は、共同で巨人族にあたることが多いため、時として混同されるが、あくまで政治的な同盟関係にすぎなかったようだ。アース神族が始めた侵略によってヴァンの領土は奪われ、フレイアはオーディンに人質に捕られている。もっとも、神話が高度な政治的部分を含むのは、北欧神話だけではない。この神話の珍しさは、極端に退廃的な部分がある。
まず主役級のオーディン。彼からして、知識と色と死を追求する貴族の神である。彼は冥界の言語であるルーン文字を読み解くため、物語の主な舞台で天空と地上を繋ぐ世界樹ユグドラシルに、自らの体を槍で貫いた状態で9日9晩も吊した。欲しいものを手に入れるためなら手段を選ばないのだ。さらに暇になると、己のヴァルハラ宮殿で、不死の戦士エインヘルヤル同士を戦わせ、酒宴に酔う。飽きてくると、使いである鷲とワタリガラス、そしてヴァルキューリ同士の娘たちを派遣し、勇敢な戦士を連れてこさせ、また戦わせる。
雷神トールのような一部の例外を除けば、北欧神話の神々には常に死の影が付きまとう。ロキに至っては、意図的に仲間内で揉め事を起こし、神々の殺し合いを見物と洒落込む。幻想的に語られる叙事詩の側面を持つ一方で、ヒトはまるでゴミのように扱われ、そして神々の退屈しのぎに殺されるのだ。
このような退廃思考は、北欧神話の究極的な終末思想が原因であるとされる。神々は最後の戦い・ラグナロクにおいて滅亡は免れないことを悟っており、死を少しでも有利に迎えるために、日夜通して体を鍛えたり、勇敢な兵士を徴兵しているという。しかし死が確実なことが分かっていれば、あとは刹那的に楽しむしかあるまい。
結局、神話の中で、彼らは強大な邪狼フェンリルと世界蛇ヨムンガルド、そして炎の国からやってきた謎の死神・スルトによって、皆殺しにされてしまう。天と地は滅び、最後に残ったのは、スルトと世界樹だけだったのだ――
482
:
暗闇
:2007/03/16(金) 00:54:02 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
ノイエ『ただ、世界樹の中には、リーヴとリーヴスラシルという一組の男女がいたの。彼らはスルトが去り、再生された世界で、新たな生活を始めた。彼らはの子供たちは、やがて全世界に広がり、今の人類は、みんな彼らの子孫だと言われてるわ』
美沙『はーい、ちょっと補足ね』
と美沙が投げやりに手を挙げ、
美沙『スルトによって滅ぼされた大地は、結局、海の中に沈んじゃうワケ。でも、スルトの放った炎は決して消えなくて、海底でも燃え続けて悪しきものを完全に焼き尽くした。で、海水が引いて、一組の男女が世界の始祖となる、と。まあ、この辺りはよくある洪水伝説の一つとも言えるかな?』
鷲士『あ、ノアの方舟とか、その辺りだね。なるほどー』
ノイエは驚いたように、
ノイエ『ミ、ミサ……あなた、本当に博学ね。ラグナロクは知ってても、その結末まで知っている人間は、意外と少ないのに。ヨーロッパでさえも、世界が滅んで終わりだと思ってるヒトが多いものよ。素晴らしいわ』
美沙『ま、フツーはそんなもんでしょ。日本人だって、浦島太郎は玉手箱開けてジジイになって終わりだと思ってる奴がほとんどだし』
鷲士『ええっ!?続きがあったのかい!?』
しかし鷲士の発言は無視された。美沙は肩をすくめて、
美沙『とにかく、そのフレイア異伝ってのぉ、聞かせてよ。話はそれからね』
鷲士『あの……浦島……』
ノイエ『そうね、ミサ。あなたの言う通りだわ』
ノイエは真面目な顔で頷いた。
ノイエ『……これから言う話は、バイエルン州の中でも、一部の地域で口伝として知られているにすぎないわ。草の根の民間伝承とでも言うべきで……わたしの歳で知っている人間は珍しいぐらいね』
美沙『ふーん。続けて』
ノイエ『物語は、フレイアという人間の奴隷の少女の視点で語られているわ。そしてこの異伝の中では、世界を滅ぼした死神スルトは、救国の大英雄なのよ――』
483
:
暗闇
:2007/03/16(金) 02:56:14 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
“ヴァン神族は、ただの人間だった”
これがフレイア異伝の中核である。二大神族の片翼を、いきなりただの人間に貶めているのも珍しい。しかも、実質的な奴隷だったようである。ただ、異伝と言っても、本のような形で存在するわけでなく、ある種の詩編として今に残っているだけで、細部は曖昧を極めるという。ノイエの話では、遡ることを約3500年ほど前――紀元前15世紀頃。ゲルマン人どころか、その大元であるガリアの支配さえ及んでいない時代――ケルト人が住んでいたとされる頃よりも、数世紀も前の話である。
――とにかく詩編を解釈すると、次のようになる。
フレイとフレイヤ――双子の兄妹は、ヴァンと呼ばれる農耕民族として生まれた。有力者の子供だったそうだ。しかし物心つく前に、国――理由を伏しながらも、なぜかノイエは現在のドイツ南端だと言い切った――はアスガルドの神々によって制圧され、双子は奴隷たちのまとめ役的な存在にさせられた。ただ課せられる労役は全く一緒だったというから、見せしめのように扱われていたのだろう。
“神は昔、空の砦から来たれり――”
空の砦――この言葉がどこを指すのかわからない。アスガルドとは本来アースの砦という意味だが、ではアースはどこかというと、それは世界樹ユグドラシルの麓というだけで、やはり場所の特定などできはしないのである。起源を遡れば、スカンジナビア周辺のどこかなのかも知れないが、異伝は北欧神話起源の定説をも覆す古さだ。とにかく空の砦からやってきた神々から、ヴァン族が受けた仕打ちは、常軌を逸したものだった。
このときの様子を、ノイエはアウシュビッツにたとえている。
神々はたまに奴隷を連れていき、体に手を加えたというのだ。四肢を切られたり、逆に加えられたり――は日常茶飯事。全く別の怪物に変えられることも少なくなかった。年端もいかない子供すらも巨大なキマイラにされ、仲間の元へ戻される。彼らは皆、長く生きることはなかった。失意のうちに死んだ。
神々は己の魔術――これがどういったものか、今となっては知る由もないが――を、ヒトで試していたらしい。神は時には病疫の種を故意に蒔き、冷静な目で、ヒトが死ぬ様を観測した。逆らえば、魔術の武器によって殺される。労役と病疫が重なり、奴隷は健康な者を探すのが難しいほどになった。
やがて真の悲劇が、ヴァン全体を覆った。
――子供が生まれなくなったのである。
直接的ではなかったが、神の行いの影響だった。しかし神々は嘲笑った。おまえたちは増えすぎる、だからちょうどいい、と。
我慢の限界を超えた兄のフレイが、怒り狂って剣を取った。しかしオーディンの霊槍グングニルによって胸を刺し貫かれ、息絶えた。
ヒトは家畜も同然だった。いや、牛や豚の方が、まだマシに扱われる。
希望もなにもなく、むしろ死を願う日々。
涙など、既に涸れていた。フレイアはぼんやりと生きた。
484
:
暗闇
:2007/03/16(金) 02:57:11 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして蹂躙されて十何度目かの冬が訪れた。
――そんな中に、男はやってきた。
いや、正確には運ばれてきたのだ。雪の中に、男は倒れていたという。
助けるように命じたのは、フレイアだった。情けではない。単に労働力の確保と、子を作る能力を持つ新しい血を求めたのだ。しかし期待してはいなかった。投げやりな意向だった。男は虫の息だったが、解放の甲斐あって、やがて立ち上がれるようになった。
男は筋骨隆々とした、見上げるような大男だった。髪は伸びるがままに任せ、背には巨大な黒い大剣、腰にも優雅な曲線を描く真紅の剣。異国の人間らしく、見たこともないような飾りを、マントの下に色々と身につけていた。
剣を除けば、ほとんど黒ずくめ――フレイアは便宜上、男をスルトと呼ぶことにした。黒き者という意味である。男も、嫌がりはしなかった。
しかし――彼がフレイアの期待に応えることはなかった。
スルトの目は、半ば死んでいた。村人が歩く死人とたとえたほどである。さらにありとあらゆる部族の言葉を話すにも拘らず、無口。必要なこと以外、ほとんど喋ることがない。彼が村の女を抱くこともなかった。触れようともしない。
物珍しさでスルトに近付く者も、やがていなくなった。男は孤独になった。しかし困っている様子もなかった。
フレイアがスルトに興味を抱くようになったのは、さる事件がきっかけだったという。ある日――川の傍で一組の若い夫婦がケンカを始めた。最初は言葉でなじり合い、やがて掴み合いにまで発展した。しかしどちらともなく謝り、最後には肩を寄せ合った。それを見ていたスルトの口元に、薄らと笑みがよぎったのだ。
フレイアは謎の男に話しかけるようになった。スルトは完全には復調しておらず、無口なのは相変わらずだったが、次第に彼のことも明らかになった。
スルトは死の国――北方――の果てからやってきたという。ヒトの住める場所ではないはずである。さらに、彼はいくつかの魔術も使った。身につけた道具で、指も触れず呪文も唱えずに火を起こす。とにかく不思議な男だった。
彼から感じる潜在的な力強さに、何か期待していたのかも知れない。それとも純粋な恋だったのかもしれない。とにかくフレイアは、男に抱くように頼んだ。
しかし――彼は断った。
辱められたフレイアは怒り、口をきかなくなった。ノイエは、単に痴話喧嘩のレベルだったのだろう、と言っている。村から放り出せばいいのに、そうしなかったからだ。しかしスルトの体も癒え、彼は村を出ることに決めた。
485
:
暗闇
:2007/03/16(金) 02:58:12 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
事件が起きたのは、男が旅支度を整えていたときだったという。
神々の使い――エインヘルヤルの戦士たちが、銅の馬――ある種の機械のことらしい――に乗り、アスガルドで使う奴隷を狩りに来たのである。
事情を知らない男は通り過ぎようとした。
その時、ある女が斬られた。かつて川でケンカしていた、例の妻であった。病気を患っていた夫を、連れて行かないようにと、戦士たちに頼んだからである。
呆然と立ちすくむ男の腕を、駆けつけたフレイアが引っ張った。早く逃げなさい、神々の使いに勝てるはずがない――と。
――なぜかこの一言が、スルトを豹変させた。黒衣の剣士はエインヘルヤルどもの前に出ると。腰の剣を抜いた。
勝負は一瞬でついた。
絶命したのは、髪の戦士の方であった。馬上に槍という圧倒的優位な状態にも拘らず、エインヘルヤルどもは鎧ごと叩き斬られた。100本の槍を使っても貫けぬはずの鎧であった。さらに逃げた残りの兵士たちは、天から降った炎に、生きたまま焼かれた。スルトの呪文の叫びに呼応し、空が裂けたのだという。
フレイヤは、スルトを激しく避難した。殺せぬはずの戦士たちを殺した。このままでは、きっと神々がやってくる――と。しかし事情を知ったスルトの怒り狂いようは、言葉にならないほどだったという。彼は村人を集めさせると、威圧的に言い放った。
“これから半日の間、家に籠もり、戸を閉じよ!さもなければ汝等の身にも災いがふりかかるであろう――”
この旅の男は、自分たちとは根本的に違う存在である――そう感じたヴァンの人々は、震え上がって、言う通りにした。スルトは馬にも乗らず、たった一人でアスガルドへ向かった。フレイアも家に戻り、戸締まりを終え、さらに耳を塞いだ。
間を置かず地が震え始め、天も唸り声を上げた。まるで天地創造のようだったという。そしてその状態は、スルトの言った通り、半日続いた。
人々は、不安の時を過ごし――やがて静寂が訪れた。
最初にフレイアが外に出たとき、世界は破滅していた。
異伝のこの部分は、論理的に成立しえない。世界が滅亡したのなら、内も外もないはずだが、ノイエは、世界の解釈が今とは全く違ったのだろうと言った。とにかくアスガルドと支える大木ユグドラシル――それらは地に落ち、倒れ、燃え上がっていた。
突き上げる炎は、空の雲すら焼いたという。呆然と立ちすくむフレイアの前に戻ってきたスルトは、足下に2つの首級を放り投げた。
魔神オーディンと、雷神トールの首であった。
神々を滅ぼしたスルトは、川に薬を流した。水を飲んだ人々の体からは、毒素が消え、みんな元気を取り戻したという。
圧政から解放されたフレイアたちだが、途方に暮れた。神々の消滅――それは社会体制の完全な崩壊を意味する。特に紀元前である、不安が広がったという、ただそれだけの理由で即滅亡に繋がりかねない。
しかし、スルトは言った。
“おまえたちで新しき世をつくり、広げるがいい。この世には果てなどない――”
彼の言葉が、どこまでの意味を含むのかは知る由もないが、やがてスルトの旅立ちの時がきた。フレイアは泣き喚いて、とどまってくれるよう頼んだが、彼が頷くことはなかった。どうやら、何か大きな目的があって、旅を続けているようだった。しかし――地を耕して一緒に暮らそうと頼んだとき、スルトは初めて笑った。人々を極限の圧政から救った大剣士は、礼を言われる立場にありながら、なぜか何度も頭を下げたという。
そしてスルトは村を後にした。やがて――スルトが去り、3回目の春が来た頃、人々に新たな希望が芽生えた。
――若夫婦の間に、双子の子供が生まれたのである。
人々は2人に、リーヴとリーヴスラシルと名付けた。スルトの教えを守ったヴァン民族は再び繁栄し、人々は永久に平和に暮らしたという――
486
:
暗闇
:2007/03/16(金) 21:12:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
美沙『……なんか単なる英雄譚って感じ。で、回る水ってのは、どこに出てくるワケ?』
美沙が白い目をノイエに向け、鷲士もうんうん頷いた。
ノイエはため息混じりに、続けた。
ノイエ『……最後まで聞いて。スルトを忘れられなかった。フレイアは、彼の思い出を追い求めるあまりに、アスガルドの跡地にまで踏み入れたの』
美沙『おー、新展開。んでんで?』
ノイエ『そこは壊れた神々の道具が転がっていたけど、彼女には使い方が分からなかった。でも廃墟の中に1つの井戸があった。回る水の井戸ね。フレイアが覗き込むと、水は彼女の想いを反映し、スルトを映し出したというわ』
美沙『望む者の顔を、水が?でもなんかイマイチねぇ。北欧神話の方にも、そんなおかしな水のコト、出てないし。ま、こっちもハンターだからさ、ザルな情報でも信憑性があれば乗り出すけど……これはちょっとなぁ』
と、美沙は、少し不満顔だった。
うっ、と引いたノイエだが、すぐに身を乗り出した。
ノイエ『と、とにかく!フレイアはスルト見たさに井戸の近くに村を作り、毎日のように覗き込んだ。そこに映るスルトが、今どうしているかを思い浮かべながらね。結局、フレイアは一生独り身だったそうよ。フレイア異伝は、これでおしまい』
鷲士『結ばれないのか、ちょっと哀しいお話だなぁ。で、その井戸の鍵になるのが、バレッタってワケだね?でも、どうして水をミュージアムが狙うの?』
今度は鷲士が首を傾げ、美沙もうんうん頷いた。
するとノイエは、少しでも慌てたように、
ノイエ『そ、そんなこと、知らないわ!あいつらは狂的な歴史遺産回収集団――伝説上のものなら何でもいいんでしょ!それにミュージアムは、かなりの人数を投入してるわ!今分かっているだけで、500人もの工作員が既にドイツ入りしてるもの!』
美沙『ご、ごひゃくにん〜!顔を映す水に!?』
ノイエ『と、とにかく!わたしは話したわ!あなたたちの返事を聞かせて!』
487
:
暗闇
:2007/03/17(土) 04:45:22 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
そして睡眠薬を経て――現在に至る。回る水のことも分かった。しかしミュージアムの動きが大袈裟すぎる。どうも裏があるような気がしてならないのだ。
ノイエは、何かを隠している。それが気にかかる。
冴葉「……鷲士さん、ここまででご質問は?」
冴葉が重ね訊き、ボケ青年を我に返らせた。
鷲士「あ――すすす、すみません!聞いてませんでした!」
冴葉「ガルミッシュ・パルテンキルヒェンからグランツホルン修道院へ、です」
鷲士「グ、グランツホルン修道院って? そこにも水があるんですか?」
冴葉「その件に関しては、ノイエさんから」
頷いて、碧眼の麗女が口を開いた。
ノイエ「なんと言えばいいのか……グランツホルンは、異伝を伝える小さな組織の中心地のような者で……水の一部が貯えられているわ。ミュージアムの動きを察知したのも、彼等よ。わたしも……関係者ということになるのかしら」
鷲士「異伝を伝える組織……?じゃ、じゃあさ、どうしてバレたの?ミュージアムに、水の存在がさ?関係者に、内通者がいたってことかい?」
するとノイエはため息混じりに、
ノイエ「……山で遭難しかけてた2人のイギリス人を泊めたのよ。そこから、ね。わたしのおばあさまが、揉み消しをはかろうとしたんだけど、その……院長が、やけに潔癖な方で。お金の力に頼るのはよくないし、沈黙を誓った彼等の言葉を信じよう、と」
美沙「はぁ。でも裏切られちゃったっての?あっまーい」
冴葉「権力は使うべきときに使うものなのですが――ちなみにシュライヒャー一族はバイエルンでは名の知れた富豪です。デパート経営――大地主でもありますね。昔から、ある日本の企業とも繋がりがあります」
鷲士「へー。確かに、ノイエってお嬢様っぽいとこあるしね。そうだったのか」
美沙「企業ねえ。どこ?名前は?」
冴葉「お聞きにならない方がよろしいかと」
美沙「……なによぉ、言いなさいよ。わたしフォーチュン・テラーの会長だぞぉ〜」
うがぁ〜、と両手を振り上げる美沙に、秘書は咳払いをしてみせ、
冴葉「結城グループ――しかもその中心母体である結城海運です。100年以上前から一族の長レベルでの交流があります。現在、結城側の代表を務めているのは――」
美沙「……次期総帥」
冴葉「ご賢察」
美沙「では次に、我々の真の目標である井戸の位置ですが、これはノイエさんもご存じではありません。ただ、昔、リッターと呼ばれた村のどこかに存在するという話があるだけです。そのリッター村の所在はというと――」
――異変が起こった。
冴葉のスーツが、けたたましく鳴ったのだ。携帯のコール音だった。冴葉は例によって淡々と電話を抜き、耳に押し当てた。
488
:
暗闇
:2007/03/17(土) 04:45:57 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
冴葉「わたしよ。……ええ。……タイフーン?ドイツ空軍もなの?」
目を細めると、冴葉は顔を上げた。
冴葉「ボス」
美沙「なぁに?またミュージアムに動き?」
冴葉「ええ。視力が一番いいのはあなた――外に何が見えます?」
美沙「外ぉ?」
ヒョイ、と立ち上がり、トコトコトコ、と美沙はベランダに出た。
――すぐに振り返った。
美沙「タタタ、タイフーン!タイフーン戦闘機!突っ込んでくる!」
と血相を変えて、全力疾走。ソファの前で止まると、足踏みしながら、脇のリュックと銃に腕を通す。
鷲士「えっえっ?」
呆然とする鷲士の前で、彼等は、
美沙「敵にこの場所はバレてたってワケね!ここは別行動ってパターンでしょ!」
ノイエ「分かったわ!じゃあ、合流場所は、ガルミッシュの登山鉄道駅!ミサ、シュージ、場所は知ってるわね!」
美沙「OK!じゃ、登山鉄道駅で!」
と女性3人は、頷き合うと、部屋を飛び出した。
鷲士「待ってよ!?いったい何が――」
と振り返った鷲士の目にはとんでもないものが飛び込んできた。
――ユーロファイター2000・タイフーン。
ヨーロピアン・ファイター・エアークラフト計画のもと、ドイツ、イギリス、スペイン、イタリアが共同で開発した、クローズド・カップル・デルタ翼の全天候型戦闘機だ。美沙の愛機F22ラプターと並ぶ性能を持つが、現在は試作機を調整中で、実戦配備はされてない。機体は湖面スレスレを飛び、一直線にキャビンに突っ込んできた。
鷲士「なっ――」
鷲士が背を向けたのと、機体ノーズがベランダの手すりを吹き飛ばしたのが同時。
爆発は、すぐに訪れた。
まず窓という窓が一斉に吹っ飛び、縛圧に耐えきれず壁そのものが炸裂した。吹き出してきたのは、生き物のように蠢く、火柱だった。地響きを思わせる衝撃と轟音は、そのあとでアルプスを走り抜けた。
炎が湖面に反射し、映り込む月を掻き消した。
禁断の井戸を巡る戦いは、始まったばかりだった――
489
:
暗闇
:2007/03/18(日) 00:40:10 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
同時刻――ミュンヘン郊外。ローゼンヘイム市へ続く街道から、山側に逸れた場所――杉に囲まれた場所には、寂れた一軒家が建っていた。
――リリリン
昔ながらのベル音が廷内に鳴り響き、リビングから家政婦が顔を出した。エプロンで手を拭き、階段傍の電話を取る。
家政婦「はいはい、もしもし、こちらエルネスト先生の――あらあら!久しぶりね〜!分かったわ、ちょっと待って」
おばさんは耳を離すと顔を上げ、思い切り息を吸い込んだ。
家政婦「せんせー!電話ですよ〜!」
しばらく、間があった。
???「やかましいわ!急患なら、街の病院に頼むように言え!シトロエンの機嫌が悪くて話にならん!ダメじゃダメじゃ!」
――2階から声はすれど、顔は見えず。
家政婦は呆れたように、
家政婦「違いますよ、グランツホルンからです!ルイーゼちゃんですよ、ルイーズ!」
???「……なぁにィ?」
ドタドタドタ、と足音を響かせ、2階手すりの隙間から、老人が顔を出した。
――頭頂部が禿げ上がり、頬もこけている。
???「ルイーゼ?本当か!」
家政婦「公衆電話からだそうです!切れても知りませんよ!」
老人――エルネストは、弾かれたように階段を駆け下りた。ガウン姿である。家政婦の前で立ち止まり、慌てて受話器を奪い取る。
エルネスト「もしもし、ルイーゼかい?わしじゃ、エルネストのおじいちゃんじゃよ〜」
声をかけたときには、好々爺の顔つきだった。
夜の街――とある通りに面した電話ボックス。幼い修道女が、しゃがみ込んで電話に囁いた。
ルイーゼ「……あ、あのっ、わたし……です」
大きな瞳で、不安そうに周りを見回す。
エルネスト「なに……!?そうか、みんなは……?そ、そうか……!」
エルネストの顔に、不安の影が広がっていく。
少し考え込む素振りを見せた後、老医師は再び受話器に口を寄せ、
エルネスト「とにかく、ガルミッシュは危険じゃ!あの連中は、既にその街に大量の人員を送り込んだ可能性がある!ルイーゼ、カネは……?そうか!わしのことは既にバレとると考えた方がいい、こっちから動くのは……そうじゃな、ミュンヘンに来れるか?よし!今はオクトーバー・フェストの最中じゃ、明日、ヴァイエンシュテファンのテントで――そうじゃそうじゃ、ルイーゼは賢いな!うむ、気をつけるのじゃぞ!」
言うと、老人は受話器を置いた。
しかし――エルネストは動かない。
家政婦「あの……先生?」
エルネスト「……明日からは来んでええぞ。しばらく家を空けることになりそうじゃ。戻ってきたら、わしの方から電話するよ」
短く言うと、老人は階段をのぼった。重い足取りで自分の部屋に戻ると、机の前で立ち止まり、引き出しを開けた。汗を流しつつ、中のものを掴む。
――銀色のリボルバーだ。
エルネスト「50年前の悲劇……繰り返させるわけにはいかんのじゃ……!」
呻くように言うと、老医師は、銃を机に置いた。
エルネスト「ノイエよ、ダーティ・フェイスはまだ来んのか……?」
490
:
暗闇
:2007/03/18(日) 01:58:43 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
さらに深夜を回った頃――グランツホルン。
占領された修道院前の敷地には、異様な光景が現出していた。
――磔である。
手足を縛られた5人の修道女が、金属の杭に括りつけられていた。少し離れた位置から彼女たちを照らすのは、4柱の巨大なライトだ。地肌を埋めるように、パイプやケーブルが走っており、それらはすべて中央コンピューターに繋がっている。
事情を知らない人間なら、映画の撮影だと思ったかもしれない。あちこちに銃を持った見張りや、白衣を着た科学者の男たちまでいたからである。さらには、赤いコートで身を包んだ者が複数いる。
院長「わ、わたしたちをどうするおつもり?」
中央の杭に縛られた老シスターが、震えながら声を放った。
呼応するように、逆光の中から、やせ細った影が浮かび上がった。
――ディーン・タウンゼント。
タウンゼント「……これは院長。なに、ちょっとした実験に付き合ってもらうだけだ。回る水の有効性に関する実験をね。被験者は……あなたたちだが」
院長「なっ……!」
老女の顔を、旋律が走り抜けた。
タウンゼントは目を細め、笑みを浮かべた。冷たい笑いだった。
タウンゼント「どうした?ヒトの顔を映すだけの水……恐れることはないはずだ」
シスター「それは……その……」
タウンゼント「もっとも、我々の質問に答えていただければ、その限りではない。わたしが訊きたいのは、フレイアの子鍵を持ち出した、少女の行方についてだ」
ミュージアムの絵師は、言葉を切った。老女は汗まみれになりながらも、視線を背けた。タウンゼントは苦笑して背を向けた。
タウンゼント「いいかね?実験はなにもあなた方でやる必要はないのだ。ミュージアムには、死を恐れぬ者はいくらでもいる。たとえば、そう――そこの男、前に出ろ」
戦闘員「アイ、サー!」
戦闘員の一人が、前に出て不動の姿勢を取った。
タウンゼント「ミュージアムのために死ねるか」
戦闘員「アイ、サー!」
タウンゼント「それが無益なものであっても?」
戦闘員「もちろんであります、サー!」
タウンゼント「よし。では自分の足を撃て」
戦闘員「どちらの足でしょうか、サー!」
タウンゼント「左にしよう」
タウンゼント「イエッサー!」
叫ぶなり、男は片付けに自動小銃を構えた。マズルを向けた先は、己の左足――その大腿部であった。
――ドドドドド!
フルオートで発射された弾丸は、戦闘員の大腿部を木っ端みじんに粉砕した。筋肉繊維が細切れになったのは言うまでもない。左足は切断されて、宙に舞った。
戦闘員「ウギャアアアアッッッ!」
吹き出す鮮血が、闇夜で弧を描いた。バランスを崩して倒れた男の腿からは血がビュウビュウと流れ続け、シスターたちの顔面は蒼白になった。狂気の沙汰であった。
タウンゼント「押さえつけろ」
タウンゼントの指図によって、別の戦闘員らに、男は手足を掴まれた。そして続いて画家の行動は、奇妙という他はなかった。彼はコートの胸元を広げると、なぜか一本の小筆を抜いたのである。インナーに挿してあったのは、数十本もの絵筆だった。
タウンゼント「第27番筆……銘はトルキアの乙女……これにしよう」
呟くと、彼は毛先を、もがく男の足に押しつけた。
血を吸った刹那、毛先が光った。ホタルのようだった。
膝をつくと、タウンゼントは目を細めた。画家の顔であった。
タウンゼント「とくとご覧あれ――我がハイアート」
491
:
暗闇
:2007/03/18(日) 02:00:03 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
その瞬間、腕が霞んだ。
――恐ろしいことが起こった。
タウンゼントの筆先は凄まじい速度で動き、次第に空中に像を作っていった。足の絵だ。なぜか絵の具――鮮血――は、空中から垂れることはなかった。そしてそれは、傷口に癒着し始めたのである。
院長「なっ、なんてことなの……!その筆は、まさか……!?」
呆然と呟く院長の目先で、奇妙な“創作”は完了した。
画家の腕が制止したとき、筆の下に存在したのは、血まみれの新たな足であった。
自らの偉業を誇ることもせず、妖画家は老婆を見た。
タウンゼント「……19世紀末のロンドンに、ヴィタリスという名の画家がいた。吃る癖がある気弱な青年だったそうだ。彼が描く絵は、構図といいデッサンといい取るに足らないもので――実際に一枚の絵も残っていなければ、正確な名も分かっていない――しかし、ある特徴があった。彼が描いた絵は、すべて厚みを有し、生き物は魂を持ったというのだ」
タウンゼントはコートに絵筆を収めながら続けた。
タウンゼント「彼は食事に事欠くほどだったので、請われれば何でも――しかも安価で描いた。肉屋の看板がクックルーと鳴き、酒場の壁から抜け出た女が踊り出す。おかげで彼は有名になったが、不幸なことに、そのスピードが速すぎた。財と名声、そしてそれらを使う知性を築く前に、宮廷に呼ばれてしまったのだ」
冷たい風が、痩せ細った画家の髪を揺らした。
タウンゼント「ヴィタリスは王女に命じられ、御前で虎を描いた。ただ、学のない青年は虎というものを知らなかった。そこで彼は“想像の虎”を描いた。目が4つで足が6本、尻尾が2本で背中には翼が2枚――まあ、キマイラだな。見かけは狂獣だが、ただ、性質は大人しかったそうだ。しかし、ここで問題が起きた。王女のスピッツが、虎に噛みついたのだ。虎が軽く足を振っただけで、スピッツは頭を吹き飛ばされて死んだ」
淡々と言いながら、タウンゼントは、院長の前で止まった。
老齢のシスターの体は、小刻みに震えていた。
タウンゼント「気弱な青年はすくみ上がった。処刑されると思ったのだろう。頭も弱かったというから、彼が感じた恐怖は察するに余りある。そしてヴィタリスは意外な行動に出た」
院長「な……何をしたのです……?」
タウンゼント「壁に描いたのだよ。一枚の扉をな」
タウンゼントの口元に、陰鬱な笑みがよぎった。
タウンゼント「扉の向こうには2つの太陽と石の山並み、草木も一本も生えぬ荒野が広がっていたという。そして彼は、自分のお気に入りの筆を一本だけ掴み、扉の中に逃げ込んだ。ご丁寧に、扉を閉める間際に、ノブを白く塗りつぶしてな。それがヴィタリスの目撃された最後の姿となった。戻ってくるほどの度胸がなかったのだろうな」
院長「で、ではその筆は、やはり……!」
タウンゼント「ヴィタリスの魔筆――彼がこの世界に遺した57本に及ぶ筆のセットさ。日記によると、灌漑工事の手伝いをしていた時に、貝塚の中からケースと共に出土したそうだ。もっとも、魔筆と言えど長いときには勝てないのか、今では描いたものが著しい速度で劣化するようになってしまっているがな。オーパーツというにはオカルトじみているうえ、なぜかこの筆は、自分とヴィタリスにしか使えない――わたしがハイ・キュレーターの中でも異端派と呼ばれる由縁だよ。ちなみに虎の方は48年後に天寿をまっとうしたらしい。骨は現在、我々ミュージアムの所蔵になっているがね」
タウンゼントは淡々と頷くと、部下に命じた。
タウンゼント「痛みが取れるわけではない、時が来れば加筆した足も消える。騒ぐようなら彼等に献上し、吸血鬼<ヴァンピール>か喰屍鬼<グール>にでも変えてもらえ」
戦闘員たち「はっ!」
タウンゼントは赤いコートの集団に向き直り、
タウンゼント「というわけで、あの男を処理はあなた方に任せてよろしいな、ミスタージェンス」
赤いコートの男たちの中心にいたスーツ姿の男に妖画家の声がかかる。整った顔立ちはその辺のタレントや芸能人等と比べても遜色ない美貌の持ち主――ジェンスと呼ばれた男は取り巻きの赤コートたちに首を振って促すと、彼等は揃って首肯し、戦闘員たちと共に男を連れて行った。
492
:
暗闇
:2007/03/18(日) 02:01:19 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
タウンゼント「――というわけで、無理にあなたたちを使う必要はないわけだ。幸か不幸か、我々にとって修道女の命など、ゴミクズも同然――生死などどうでもいい。小鍵を持つ少女も、時間をかければ探し出せる。ただ、無駄な手間は省くにこしたことはないのでね。わたしとしては、合理的な提案をしているつもりなのだが」
しかし院長は答えず、呆然と、
院長「……ああ、エルネストさんの話を信じていればよかった……!ではやはりあなたが無から有を作り出すと言われ……ザ・クリエイターの異名を持つハイ・キュレーター……」
タウンゼント「ディーン・タウンゼントと申します、シスター」
丁寧に画家はお辞儀した。
院長「でもどうして……!私がその名を初めて聞いたのは、子供の頃よ……!それなのにあなたは……まるで青年のよう……!」
タウンゼント「……お喋りがすぎたようだ」
髪を下ろすと、妖画家は向き直って目を細めた。
タウンゼント「……答えを聞こう。さもなければ、あなたたちは己の願いを叶える代わりに、最も大切なものを失うことになるが?」
院長「ああ……!ではすべて知っていて……!」
俯いた老シスターの顔に、絶望の陰が差した。
タウンゼント「断っておくが“ミーミルの井戸”はいずれ探し出す。少女の行方は?」
院長「……お好きになさい」
顔を上げ、苦渋に満ちた表情で、院長は言った。
院長「……ある者の願いを受けて井戸からあふれ出した水は、かつてリッターの村を襲い、全住民をこの世から消し去った。その悲劇を、再び繰り返させるわけにはいきません。それにわたしたちには、まだ希望がある」
スプレイ「希望ってさ、こいつのこと?」
茫洋とした声と共に、あるものが、タウンゼントの足下に転がった。
――黄金のバレッタだ。
闇から現れたのは、部下の肩を借りたスプレイだった。
493
:
暗闇
:2007/03/18(日) 02:02:21 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
タウンゼント「……お前か。遅かったな」
スプレイ「ども。ちょっと心臓潰されてるもんで」
と半壊した自分の胸を指す。
院長「そ、そんな、バレッタが……!では、ノイエは……!」
スプレイ「安心しなよ。キンパツはフェイスの野郎と一緒だ。この国に戻ってる。明日には、ガルミッシュの方に着いてるはずだ」
タウンゼント「戦闘機一機突っ込ませた程度ではどうにもならんか。小鍵が奴の手に渡っている可能性を考えると、全力で叩くこともできん」
忌々しげに吐き捨てると、タウンゼントは再び老シスターを見た。
院長は青い顔をしていたが、言葉を翻すことはなかった。
院長「……答えは同じで。わたしたちは、秘密を守るために存在しているのですから。少し希望が残っている限り……いえ、たとえ残っていなくとも、手助けになるようなことはいたしません」
タウンゼント「結構だ。では水の実用性を、あなたたちで検証させていただくとしよう」
頷くと、タウンゼントは指を鳴らした。
白衣の男が頷き、コンソールのスイッチを押した。
ガラス筒に繋がる装置の底部から、泡が生じた。接続されたパイプに無色透明の液体が流れ出す。水は分配器を通ると、8本のホースに分かれ、シスターたちを括りつけた鉄柱へと突き進んだ。
シスターA「ああっ、院長!水が、水がこっちに!」
院長「主のことを考えるのです、シスター・アマンダ!主とその御国のことを!」
老シスターが叫んだ瞬間だった。
――金属柱の先端が開き、水が噴き出した。
シスターたちの変化は、水を浴びたと同時に始まった。体全体が、ぼんやりと光り始めたのである。蛍光色のペンキをかけられたようだった。
見つめるタウンゼントの顔は、やはり画家のそれだった。
タウンゼント「水の成分に変化は?」
研究員「H2O――やはりただ水です。センサーの数値上は全く差異がありません」
後ろの白衣が、モニターを見ながら答えた。
タウンゼント「……光っているのにか?ミスタージェンス、あなたも何も感じませんかな?」
冷笑して、タウンゼントは額にかかる髪を払った。
ジェンス「確かに魔力や霊力、気などといった霊的エネルギーは何も感じない。だが――」
シスターB「主よ、主よ……!」
シスターC「天にまします我らが神よ、願わくば、我らの子羊の魂を――」
――異変は、一瞬で起こった。
シスターたちの体が、目が眩むような閃光を放ったのである。
次の瞬間には、修道女たちは消えていた。いなくなったのである。縛めるべきものを失った柱のベルトが、少し遅れて、地面に落ちた。
ただ、例外が一人。
ソバカスの残る右端のシスターがそうだ。
シスターD「そ、そんな!ではわたしの信仰は……!」
戸惑ったように辺りを見回す彼女の前に、おかしなものが降ってきた。
―――1枚のエプロン・ドレス。
ジェンス「やはりな、一人だけ無意識下から微かな願望の波長を感じてはいたが――」
タウンゼント「ハハハ!信仰の砦グランツホルンと言えど、例外はいるか!しかしドレスの対価に、君は何を支払った?」
タウンゼントが嘲笑した直後だった。
シスターの口から、血が噴き出した。
壊れた人形のようだった。呻く間もなくシスターはうなだれ、動かなくなった。
処刑場を、悽愴の風が吹き抜けた。
やがて――タウンゼントは肩越しに振り返り、
タウンゼント「そちらの見解は?」
ジェンス「さっきも言った通り、魔力等の霊的エネルギーはいっさい感じられなかった。即ちこれは純粋な科学技術による産物だろう。しかし、あのシスターの無意識下にある僅かな欲求を叶える際に、その精神の波長に干渉する謎の力の動きは感じられた。消えた他のシスターに関してもそれは同様だ。」
タウンゼント「ふむ。そっちはどうだ?」
研究員「7人については揃って特異点の発生を。別の次元に飛ばされたようですね。最後の1人については空中の原子変換を確認しました。ただ、厳密に測定するためには、密室での再実験が必要かと思われます」
タウンゼント「やはり源は水か」
研究員「ええ。推測にすぎませんが――原子間に存在する素粒子という形で、水分子に特殊な機能を持たせているのかも知れません。物質の形で性質を与えてしまうと、毒性を持つのかも。こればかりは観測不可能です」
ジェンス「こちらもほぼ同文だ。強力な解析能力を持つ魔眼や心眼の類を用いればまだ何か分かるかもしれんがな」
タウンゼント「……しかし識閾下の願望までも顕在化させてしまうとなれば、実用性には疑問を抱かざるをえんな。現状では使い物にならない……か」
妖画家は目を細めて呟くと、スプレイに振り返り、
タウンゼント「……時間の無駄は避けよう。寝ろ、心臓を書き直してやる」
494
:
暗闇
:2007/03/18(日) 02:02:56 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
スプレイ「どーも」
スプレイは軽く頭を下げると、パーカーを脱いで横たわった。歯車や青味がかった液体が行き来するガラスパイプ、駆動ベルト――不条理なほど原始的な構造が露わになる。
タウンゼントは、やはりコートを開くと、
タウンゼント「第14番筆――銘はドワーフのヒゲでいくか」
スプレイ「ふざけた名前ッスね。マジに大丈夫ッスか?」
その首を、タウンゼントの骨張った長い指が掴んだ。
呻く改造人間を、画家は陰鬱な相貌で睨み、
タウンゼント「……いいか、忘れるな。今やお前の体となっているプロトタイプ・タロスだが、サルベージされたときには頭部と心臓がなかった。本来なら、高さ2m、幅5mに達する外部動力源を引き摺らねば、お前は寝返りすら打てんのだ――ミュージアムのロスト・テクノロジーを持ってしてもな。それを動けるようにしてやったいるのは、このわたしだ。侮辱は許さん」
スプレイ「ぐぐ……すいません、タウンゼントさん……」
呻いて、スプレイは押し黙った。
タウンゼントは無言で筆を取った。壊れた胸部に満ちる液体を絵の具に、自分の手のひらの上で、またもや筆を霞ませた。
数秒後――出来上がったのは、膨伸縮を繰り返す、機械仕掛けのリンゴを思わせる代物だった。まさにザ・クリエイター。創造主の異名を持つだけはある。
スプレイ「……ども」
既存の心臓を外し、スプレイは新品を受け取った。素早くパイプを繋ぎ直して蓋を閉め、パーカーに頭を通して立ち上がる。
妖画家は数歩進むと、腰を屈めてバレッタに指を伸ばし、
タウンゼント「おまえの装甲を破壊したのは、最新兵器を駆使する小娘の方か」
スプレイ「あ、いや。やっぱフェイスです」
タウンゼント「……なに?」
黄金の髪飾りに指が触れる直前、タウンゼントの動きが止まった。彼は眉をひそめて、肩越しに振り返った。
タウンゼント「どういう状況だった」
スプレイ「いや、まあ。頭上から鉄パイプ攻撃で動き固めて、着地と同時に腹に蹴りを入れたんス。たぶん、そのときに。実はこっちもワンパン食らってたみたいで」
タウンゼント「……おまえの拳と足、そして胸部の装甲は、チタン合金で作り直したはずだ。素手でチタンを砕く、生身の人間が存在するというのか?」
スプレイ「ヘロヘロな感じの野郎だったんですけどね。近寄らせたら、ヤバいのはチビじゃなくて、あっちの方ですよ」
タウンゼント「厄介な男め……!九頭竜という古武道、一筋縄ではいかんようだな……!」
顔をしかめて、タウンゼントは吐き捨てた。
ジェンス(フェイスをまだ個の存在と見ているのか――情報操作に惑わされおって……しかし、それをまだ話してやるわけにはいかんが、こちらにも都合があるのでな。伯爵様とあやつらにもすぐに連絡を入れておくか)
そこで突然、部下の一人がやってきて、画家の耳元で、何か囁いた。
タウンゼントは頷いてバレッタを拾い直すと、
タウンゼント「ヴァッテン!」
呼ばれて建物の方から、慌てて肥満漢がやってきた。脂ぎった顔に下卑た笑いを浮かべ、
ヴァッテン「は、はい、タウンゼントさん、なんでしょう?」
タウンゼント「おまえは手勢を連れ、街に下りろ。残った地区の選挙だ」
ヴァッテン「へへへ……任してください!」
小走りで去っていく肥満漢を尻目に、妖画家は改造人間に向き直り、
タウンゼント「……ミュンヘン行きの列車に、修道女らしき姿の子供が乗り込んだらしい。あのブタでは話にならん、スプレイ、お前が“彼等”と合流し共に後を追え。伯爵の了解はミスタージェンスを通して得ておく、小鍵は任せる」
スプレイ「え……でも、フェイスはこっちに近付いているんでしょ?」
タウンゼント「わたしがあいてをするさ。どちらにせよ、今度はリッター大惨事を引き起こした老婆も探さねばならん。それに……妹のためを思うなら、功を上げておくことだ」
スプレイは束の間、目を細めた。妹という言葉に反応したのだ。
スプレイ「……分かったッス。じゃ」
軽く頷くと、青年は山道を下る道へと歩き始めた。
が――途中、突然立ち止まると、
スプレイ「おれの元の体をボロボロにしやがったのは、てめえだろうが……!ええ?ガリガリな絵描きのおっさんよ……!ユーリのためじゃなきゃ、誰がこんなこと……」
のっぺりした顔に、初めて感情が生じた。
495
:
暗闇
:2007/03/18(日) 02:03:31 HOST:softbank220020057170.bbtec.net
場所は戻って――シュタインベルガー湖の湖畔。
細々と燃え続けるキャビンの残骸から、人影が飛び出してきた。
鷲士「あちゃちゃちゃちゃ!」
鷲士である。彼は飛び跳ねながら、体を被う火の粉をはたき落とした。最新技術が投入された機械式コートでも、全身をパックしてくれるわけではないようだ。
やがて一息ついて中腰になると、顔を上げ、
鷲士「美沙ちゃ〜ん?」
――シーン。
鷲士「ノイエ〜?冴葉さぁ〜ん?」
返事はない。先に行ってしまったのだろう。冴葉やノイエはともかく、美沙が大人しくやられるはずがない。ため息混じりに鷲士は惨状に目を戻した。
疲労の濃い顔が、さらに青くなった。
鷲士「……ああっ、ダメだダメだ。やっぱりやめさせなくちゃ、宝探しなんて。こんなことを続けてたらそのうちあの子、大ケガしちゃうよ」
が、視線を落とし、
鷲士「……でもなー、あっさり言いくるめられちゃうんだよなー。なんでなんだろ?12歳で宝探しやってる子を説得する本って、どこかに売ってないかなー」
ある意味、見上げた親バカぶりだが、さすがに今は事情が事情だ。肌寒さに震えると、彼はコートの襟を合わせた。
鷲士「と、とにかく――登山鉄道駅だっけ?に向かわないと」
顔を引き締めて、左右を見渡す。
鷲士「えっと……ガルミッシュなんとかって……どっち?」
あっけなく、鷲士は途方に暮れた。
“場所がぜんぜん分からない!”
何の予備知識もなく、眠らされて連れてこられたのである。秘宝や登山鉄道駅がどうとかいう以前に、自分の居場所すらも分かっていなかった。
鷲士「思い出せ、思い出すんだ、鷲士……!ドイツについて、なんでもいいから……」
ドイツ……正式国名、ドイツ連邦共和国。
人工は……ええっと……首都がベルリン。
……
鷲士「ああっ、ぜんぜんダメだ!」
鷲士は身悶えた。大学生と言っても、しょせんはこんなもんである。
……あ、でも待てよ?確か、南下するって、冴葉さんが……!
さんざん左右を見回した挙げ句、鷲士は、足を踏み出した。とにかく、ここにいては始まる者も始まらない。
――3歩進まないところで、鷲士は急に腹を押さえた。顔をしかめながら、あてた手を目の前に持ってくる。
指先に付着するのは、ぬるりとした液体だった。
――鮮血だ。
496
:
ゲロロ軍曹(別パソ)
:2008/01/29(火) 22:04:03 HOST:i219-167-180-50.s06.a033.ap.plala.or.jp
>395の続き
その後、みのりから夜も遅いこともあってか『こんな所に居続けたら、風邪を引くかもしれない』…という事をいわれ、一応は断りを入れたものの、半ば強引な形で、彼女が時々お手伝いをしてる喫茶店へと連れて行かれる剣崎だった…。
=喫茶『ポレポレ』・店内=
みのり「こんばんは〜♪」
?「はーい、いらっしゃ…、な〜んだ、みのりっちか。どしたの、こんな遅くに?…って、あれ?そちらさん、どなた??」
この店のマスターらしき中年の男性が、みのりに少し遅れて店に入ってきた剣崎の姿をみて、みのりに尋ねてくる。
みのり「えっと…、この人は剣崎一真さん。さっき、公園でちょっと知り合って。…あ、剣崎さん。この人はこの店のマスターの『飾玉三郎(かざり たまさぶろう)』さん。皆からは『おやっさん』て呼ばれてるの」
剣崎「へぇ…、そう、なんだ。あ、初めまして、剣崎一真です。えっと…飾さんって、呼んだ方がいいですよね?」
みのりの説明を聞いた後、一応丁寧に頭を下げて挨拶する剣崎…。
おやっさん「あ〜、気にすんなって。おやっさんでいーよ、おやっさんで。そー呼ばれた方が落ち着キングコング…、なぁ〜んてな!はっはっはっは!!」
剣崎「…ぇ??」
何でか急に寒い駄洒落(?)らしき事を言ってきたおやっさんに対し、思わず固まる剣崎。すると、みのりは慌てて剣崎に小声で説明する。
みのり「ご、ごめんなさい。おやっさんって、あーゆーギャグを言うのが大好きでして…」
剣崎「そ、そうなんだ…」
みのりの説明を聞き、「変わった人もいるもんだなぁ…」と、心の中で思う剣崎であった…。
497
:
ことは
:2012/04/13(金) 23:03:23 HOST:p852a7d.tokynt01.ap.so-net.ne.jp
麗「ねぇ、見てよこれ。」
と、麗が、指をさした所には
498
:
◆zv577ZusFQ
:2016/04/26(火) 12:24:00 HOST:zaq31fa4e22.zaq.ne.jp
y
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板