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ビジュSS
1
:
倉庫番弟(´・ω・`)
:2004/07/05(月) 13:45
ビジュのSSはこちらに。
18禁表現はカットでお願いします。
2
:
イスラ風ビジュ的14話
:2004/07/06(火) 00:52
「裁きを受けよ…死をもって!」
その言葉と共に、世界が変わった。
目の前のクソシスターが、とんでもないくらい緩慢に腕を振りかざす。
声だけが普通の速度で流れるせいで、時が止まっているように見えた。
走馬燈だとか幻覚だとか、そんな分析は必要ない。
今はこいつを止めないと。本能なのか理性なのか、とにかく頭が―――煩いくらいに叫んでいる。
あと15、6歩も踏み込めば投げナイフが届かなくもない距離の目標は、まだもう少し詠唱に時間がかかりそうで。
召喚術師に召喚術で刃向かおうとは思わない。
まずは接近。力の限り地を蹴って、集まりつつあるサプレスの魔力に狙いを定める。
思った通り、自分の動きも似たようなスピードだったが、思考し判断を下す時間で軍配が上がっている以上は何も問題ない。
これならいけると確信した。
無防備な姿に一投、横に飛んで発動直後にもう一投。二本のナイフで、確実に屠れる自信はある。
「あ、ああああ、ああ……ビ、ジュさ……あああああ…?」
そう思った俺の視界に、白いマントが入り込んだ。
先ほど魔剣―――使用者の心―――を折られてしまったせいか、呻きにも似た泣き声を発して首を横に振っている。
誰も助けには行かなかったのか、行けなかったのか。
そんな同情じみた考えが出てきてしまうのは、彼女が余りにも哀れな姿をしているからだと結論づけて。
視線を元に戻す。
ツェリーヌの唱えている術を認めた瞬間、近づいて召還発動直後を狙うなどという考えは吹き飛んだ。
その薄い唇からはき出される呪詛は、明らかに広範囲の召還術のそれ。
(あいつを―――巻き込む気か……っ!?)
視界が急速に狭まる。それと同時に、周りから赤が浸食してきた。
言うなれば、真正面にだけ穴を空けた紅の箱に入れられたような感覚だ。
左手の拳中には、無色に寝返る前から持っていたサモナイト石。
何が誓約されているのか確かめる気も起きないままに、詠唱を紡いでいた。
可能な限り強く、可能な限り強く、ただそれだけを念じる。
まっすぐに前だけを見据えて、足下から頭の先まで駆けめぐる炎のように熱い感覚に身を任せて。
いつもの召還とは全然違うはずなのに、俺の身体は何の違和感も感じないまま。
どうして吼えたか。どうして身に余る力を召還したか。どうしてそんな言葉を吐いたか。
なに一つ判らなくても、ただ前を見据えてそうすることはできる。
「俺の…………に、手を、出すなぁぁああああアああアアアアア!!!」
世界が、真っ赤に染まる。
地面からはじき飛ばされたような浮遊感の中、俺は―――俺は。
3
:
イスラ風ビジュ的14話(2/2)
:2004/07/06(火) 00:53
「……ビジュ、おいビジュ!!」
「ギャレオ落ち着け。
傷は塞いだ、出血だってそれほど多くない。
爆発で気を失っているのだろう。運んでやれ」
「はっ……申し訳ありません」
嵐のように肩を前後に揺さぶられて、もう一度意識を手放しかける寸前で止められた。
頭が痛む。何か考えようとするも、細かく黒い網がかかっているようにうまくいかない。
そとがみたい。
思ったけれどもそれは思うだけ。瞼はぴくりとも動いてくれなかった。
―――と、
「リペアセンターでしょうか」
掠れた声が聞こえて、身体が持ち上げられた。
何か大きなものに覆い被さるような体勢で、膝のあたりを固定されている。
おぶられているのだろう。
「そうだな……海賊、その、すまないが」
「わかってる。先生は俺らに任せといてくれ」
そのまま、ゆっくりと男は動いた。
後ろで誰かが喋った。
「暴走召還かしら」
「ええ。
抜剣したアティさん以外の……生身の人間が使うのは初めて見ました」
ぼうそうしょうかん、というものを聞いたことがある。でも、いつ聞いたのかは思い出せなかった。
というよりも、何かを思い出せるだけの透明さが、頭の中になかっただけなのだが。
それじゃ私たちは、と女が言い、それまで聞こえていた足音が激減した。
四人か五人か―――どうしてそんな数が気になるんだろう?
森の匂いがしなくなって、代わりに少し油臭い空間に入った。
やはり瞼を押し上げる事は出来なかったが、もしかしたら声なら出せるかもしれない。
咽に力を込める。
「……ぁあ」
声が出た。
「ビジュ、無理はするな」
即座に反応が返ってくる。相手も疲れているのか、音量は大分抑えられていた。
俺はどうやら『ビジュ』らしい。
「どう、なったんだ」
ただ息をはいただけかもしれない。肩に頭を乗せているこの状況でしか、通じない声なのかも。
でも、それしか頭になかったから。
全ての欲の中で、今の俺の中ではこれが一番だから。
何がどうなったのか、知りたかった。
「部屋でなら、何だって答えてやるから……今は、黙っていろ」
言われて頷く。が、頷いたまま顔が上げられない。
広い背中に全ての体重を預けたまま―――ちからが、はいらない。
4
:
名無しのビジュ
:2004/07/15(木) 01:28
つ、続きを…!
5
:
名無しのビジュ
:2004/07/15(木) 03:04
続きを求む!
6
:
名無しのビジュ
:2004/07/29(木) 17:24
続きは……?
7
:
名無しのビジュ
:2004/08/02(月) 08:23
先ほどまでの戦闘とその結果のおかげか、どことなくハイな雰囲気の一団が歩く。
無色の派閥を島から追い出すことができた。それだけでも充分嬉しい事なのだけれど、
「よかったですよ〜。
先生さんが元気になるとマルルゥも元気になるのです」
「うんうん、今夜は腕ふるっちゃうからね」
私が戻ってきた事のほうが嬉しいと、異口同音に仲間は言う。
そして私は、言ってくれる仲間達がいる事がこの上なく。
でも、心残りが一つだけ。
「アティ。
リペアセンターに寄るのなら、海賊どもに一言告げておけ」
さり気なくソノラ達から離れたところを、旧友に捕まえられた。
「あははー、わかっちゃいました?」
「わからないとでも思っていたのか、この阿呆が」
先ほどそっと『生きている』と聞いたばかり。
ツェリーヌの召喚術に対して真正面から撃ち合い、その結果リペアセンターに身を置くことになったと。
何より先に、会いたい。
「クノンから面会の許可を取り付けておいた。
細心の注意と第三者による監視が条件だ……相手がビジュだからな」
一応は、と付け加えたその口調に何か嫌な予感を覚えて、問いただそうと口を開いた瞬間、
「いいから言ってこい。
もう大分離されてるぞ」
苛立たしそうに遮られてしまった。
手甲に背中を押され、バランスを崩しながらも小走りに前進する。
言われてみれば、いつの間にか二人の後にはヘイゼルを背負ったギャレオしかいなかった。
ここだと指で示されて、思わず周りを見回してしまった。
数日前に来た覚えがある。
「……ギャレオさんの部屋じゃないですか」
「相部屋だ。見張りも兼ねてな」
「治療室に入れなくて大丈夫なんですか?」
「その必要はないという事だ。
傷は浅かったし、ツェリーヌの召喚術をまともに受けたわけでもないようだった」
ただ。
表情がかげる。長い前髪も相まって、脆く儚い印象がぐっと深まった。
すう、と一つ息を吸う彼女の、次の言葉を待つ。
「記憶が、混乱している」
文節の一つ一つを区切って話すアズリアの声に、平生のような強さはなく。
友人を気遣う等身大の彼女が、この上なく優しく思えた。
「なんと言っても昨日の今日だ。
もう少ししたら回復するのかもしれないし、演技の可能性も否定はできない。
でも、思い出せないと言うんだ。
私のことも、ギャレオのことも―――自分のことも。
だから」
「わかりました」
目の奥が熱い。けれど、今ここで泣きじゃくるわけにもいかない。
奥歯を噛み締めて、顔を上げて、目を固くつぶって。
心の波が過ぎるのを、ただ待つ。
8
:
イスラ風ビジュ的15話(2/3)
:2004/08/02(月) 08:25
「会うか」
「会います」
眉間の力が抜けた頃に聞こえた、短い言葉に短く応える。
動揺はするかもしれないが、それを知られないようにするだけの準備は出来ている。
瞼を上げるといつの間に来ていたのか、アズリアの背後に大男が控えていた。
「ギャレオ」
アズリアが呟くように呼ぶと、彼はカードキーを扉のスリットに差し込んだ。
緑のランプが開錠を知らせる。
横開きに流れていく、鈍い光沢を放つ板の奥には。
体型だとか服装だとか声だとか。
顔の作りだとか攻撃的な形の入れ墨だとか軍人にしては青白い肌だとか。
実は綺麗な緑色の髪だとか薄い唇だとか。
今までに幾度も―――時には戦場で、時には夜の森で―――見た彼に間違いない、はずなのだが。
「おかえりギャレオ、隊長。
……そっちの人は?」
「むしろ貴方が誰ですか」
驚くどころか同一人物と認めたくないほどに、人なつっこい雰囲気の青年が一人。
こちらを認めて軽く手を上げるその動作に無駄はなく、純白のベッドに腰を下ろして。
視線がはずせないまま、凝視したまま傍らに問う。
「アズリア彼に双子の弟は」
「いてたまるか」
ため息混じりの声が即座に返ってきた。
こちらを見やるその瞳に、警戒の色はない。僅かな緊張と期待感が見て取れるだけ。
「この人がアティだ。
―――今は大丈夫か」
「おう。飯食ったら落ち着いた。大丈夫」
ギャレオと言葉を交わす様子からも、以前の刺々しさは全くと言っていいほどない。
気分よか暇な方が重傷だよ、と笑う。
アズリアが口を開いた。
「ギャレオ。
話がある、少し廊下に出ないか」
心なしか早口で、抑揚が感じられない口調。
「そうですね、今ならクノンもあの暗殺者につきっきりでしょう」
答えるギャレオも、どことなく棒読み調だ。
「あの?」
「アルディラのシャワーは最低でも一時間かかる。二十分程度ならいなくてもわからないだろ」
「え、でも」
二人だけでてきぱきと話を進めてしまい、口を挟む猶予も貰えない。
どことなく、台詞が説明的に過ぎる気がしないでもないが。
「そういうわけでビジュ、しばらく隊長と俺は廊下にいる。
何か用事があったら呼べ」
「もしもしお二人さーん」
「ん、わぁった」
何度か呼びかけてはみるものの、聞いた上で無視している様子。ビジュすら反応しない。
どう勘ぐって良いのか解らないままに一生懸命勘ぐって、それで気を利かせてくれたのだろうが。
流れに一人置いて行かれた私は、扉が閉まるのをきっちり見送ってからため息をついた。
9
:
イスラ風ビジュ的15話(3/3)
:2004/08/02(月) 08:26
「隣、良いですか?」
拳一つ分だけ空けてベッドに腰を下ろし―――肩越しに見える顔の近さに驚いて目をそらす。
思えば、こんなに接近するのは初めてだった。
「夜中に抜け出して会ってたみたいだ、ってギャレオから聞いてる」
「といっても別に約束してたわけじゃなくて、偶然出くわしただけなんですけどね」
本当は自分から遭遇を求めて出歩いていたのだけれど、さすがにそれを言うのは憚られる。
それよりも、
「あの、アズリアから聞いたんですけど、記憶が混乱してるって」
今更確かめることでもないのだが―――聞かずにはいられなかった。
「そうみたいだ。
ここに運ばれる前の事は、まだ思い出せない」
まだ、と。彼はそう繰り返した。
双眸は強い意志を携えて、壁の一点を見つめている。
確かに何日も経っている訳でないのだから、いつ回復してもおかしくない。
けれど、そう考えただけの『ビジュ』であったなら、もう少し違う顔をしてはいないだろうか。
「やっぱり変なんだろ、俺。隊長も同じ顔してた」
はやく治らなくちゃな。
そう言う彼は、見たこともないほどやさしく微笑んだ。
ひどい人。
「はやく治ってくれればいいと、私も思います」
散々引っかき回しておいて、傷つけておいて。
全て忘れて笑うなんてひどい人。
「ビジュさんも、このままで済むとは思わないで下さい。
島のことが落ち着いたら―――その時までに記憶が戻らなかったらですけど、私は」
その先は、言えなかった。
―――すとん、と洗い上がりのシャツに顔を埋めていた。柔らかさの奥に、男性らしい感触があった。
次いで伝わるのは、頭と肩にここちよい重み。
私自身が体を傾けたのか、それとも彼が引き寄せたのかはわからない。
「ごめんな」
でも彼の腕から伝わる体温は思いのほか高くて、頭上から聞こえる声は思いのほか低くて。
目をつぶると、頬を何かが伝わり落ちた。
二人とも黙ったまま、もう十分が過ぎただろうか。
うとうととしかけた頭を無理矢理動かし、彼の腕から逃れようとする。
「そろそろクノンも来ますから」
緩慢にどけられる腕にはまだ未練があったけど。
この場に漂う何かを振り払うように、急いで立ち上がる。
扉の向こうの二人を呼ぶと、一秒も経たずにロックのはずれる音がした。
10
:
名無しのビジュ
:2004/08/03(火) 00:07
続きキター!!
11
:
名無しのビジュ
:2004/08/03(火) 00:44
GJ!!
続きをカナリきぼーん
12
:
イスラ風ビジュ的16話(1/2)
:2004/09/02(木) 03:15
『無色』とやらが去って、島にはひとまず平和が訪れたらしい。
ギャレオの話では、あとは隊長の弟を止めれば戦いは終わるという事だ。
全てが聞いた話―――俺自身は、何の実感も湧いてないけれど。
「検査の結果どうだ?」
「脳波には異常ありません、他の検査でも、健康状態は良好と」
いつも淡々とした口調で語りかけるクノンを前に、少しばかりの期待を込めて聞く。
「外出許可、とかは」
「それは―――」
少女が表情にかげりを見せた。
やはり駄目だったか。
予想していたため落胆は僅かだけれど、クノンのこの顔が俺は苦手だ。どうしていいか解らなくなる。
「申し訳ございません。今のところはまだ……」
一応、ギャレオから一通りの説明は受けていた。
何度もこの島の者達を傷つけたのは他でもない俺自身なのだと。
帝国軍としてアティ達と対立し、その過程でひとつの集落を襲った事もあるという。
そして無色が上陸してきたその日、隊長の弟と共に軍を裏切り、島での虐殺にも加わった。
俺が覚えていようがいまいが、姿を現すだけで住民の不安を煽ってしまうことは想像に難くない。
だから、医者の一存で決められる領分でないのは知っていた。
彼女がすまなそうにする事はないのに。そのあたりを上手く伝えられない自分がもどかしい。
「あーいや、俺もまだ本調子じゃねぇからよ。
リペアセンターから出ないようにすりゃいいんだろ」
にっと笑って彼女に向ける。無理矢理ではあるが、これが最善である―――はずだ。
クノンが発した感謝の声は、気のせいか少し上ずっていた。
とかなんとか、困らせないように言ったは良いものの―――留守番は、暇だ。
ギャレオがいくつか暇つぶしになるようなものを持ってきてくれたけれど、こう何日も留守番をしているとさすがに飽きる。
それは例えばテーブルの上の知恵の輪。
意外に脆かった。今は本来ならば外れないはずの部分まで徹底的に分解されて、いくつかの鉄屑としてそこに在る。
それは例えば可愛らしい装丁の恋愛小説。
胸焼けを引き起こし食欲を減退させるそれを、眉をひそめながら一通り読み通すことは出来たのだが―――もう一度読む気にはなれなかった。
クノンの愛読書だという話だが、俺には絶対に合わないと断言できる。
寝台を綺麗に整えてみるのも一つの手ではあった。が、あの巨漢にシワ一つ無いシーツは似合わないと思って片方だけ乱しておいた。奴は整える側であって、整えられる側ではない。
リペアセンター内を歩き回ってみたところで、部屋と同じ無機質な中では大した気分転換にもならない。
そんな訳で、今日は何もすることが無くなっていた。
否。
(しなきゃいけない事は、ある)
俺が“目を覚まして”からもう五日が過ぎようとしている。
記憶の戻し方なんか想像も付かない。けれど何かはしなくては―――
(どうすりゃいい?)
ギャレオから聞いた話を反芻しても、何かを思い出させるどころか実感すらわかずに終わっていた。
「く……っそ」
ベッドに乱暴に身体を投げ出した。
いつも、焦りだけが先行してしまう。落ち着いて考えれば、もしかすると何か掴めるかもしれないのに。
“以前”の俺はリペアセンターに入ったこともないらしい。見覚えのある景色も何もあったものではない。
隊長は必要最低限の用事が済んだらさっさといなくなってしまうし、クノンとも事務的な会話しか交わしたことがない。
影響を与えてしまうことを恐れているのか生来のものか、ギャレオをせっついても口が重い。
要するに、手がかりが少なすぎるのだ。
しかしアティに聞くのは、どうにも憚られる。
今まで自分が島でしてきたらしい事を考えると、あまり良い思いをさせていないかもしれない。
夕刻になると毎日来てくれる、その笑顔だけで満足していることもある。
それに―――何度も会話をしていながら、彼女から記憶について何も聞こうとしない事実が俺を引き留める。
お願いだから触らないで、と暗に言われているような気がして。
何も言わせないでいたのは、もしかしたら俺の方かもしれないけれど。
13
:
イスラ風ビジュ的16話(2/2)
:2004/09/02(木) 03:16
窓から外を見る。
風が吹いても雨が降っても、ラトリクスの景色は変わり映えがしない。
が、その時は違った。
深い影をまとった人型が、揺らめきながら立っていた。
眉間に力を入れると、右手に大剣を握っているのが判別できる。
立ち止まったまま、ぐるりと周りを見回して―――目が、合った。
節穴のような瞳の奥に、純粋な憎悪と一掴みの恐怖をかいま見て。
まずい。
思ったその時、鋭い冷気を感じて身をそらす。
一瞬前に頭があったところに鈍く光る鋼を認め、勢いを殺さず飛び退いた。
目の前を行き過ぎた影はまともにベッドに突っ込んで、パイプのひしゃげる音が部屋に響き渡った。
(じょ……ぉだんじゃねぇぞオイ)
胸中で悪態をつきながらも、身体は勝手に動くものらしい。
三十六計逃げるにしかずとはよく言ったもので、気が付くと俺はドアに向かって全力疾走していた。
必要なだけの力を込めてパネルに触れ、完全に開ききる前の隙間に滑り込む。
背中越しに、閉じた扉が衝撃に悲鳴を上げるのを感じた。
浅く息を吐く。
次に聞こえたのは、風を切る高い音。
空気の動きを察知して上体をひねる。
肩を掠めて何かが飛んだ。見るとシャツが破けている。
体制を整えて顔を上げると、弓を携えた影が一人。
次の矢をつがえて真っ直ぐに向けてきた。
殴りかかるにも距離がある。
廊下を反対側に逃げるにも、背を向ける方が危険だと脳内が告げる。
悪寒が走ったのかそれとも剣士が追いかけてきたのかは知らないけれど。
背後に冷気を感じて、反射的に隣の部屋の扉を開けた。
確か此処は、隊長の部屋。
飛びこんで、左右に目を走らせた。
何かないだろうか。隊長が置いていった予備の剣でもあれば良いのだけれど。
二、三歩進んだところで黒い棒状の物を見つけ、早足でそれに近づいた。
持ち手らしいところに手をかけて、慎重に引いていく。
音もなく刀身が姿を現した。
光を反射して輝くそれは、この状況を打破する未来を暗示しているようにも思えて。
完全に抜ききってから、扉へと向き直った。
鞘は左手にもったまま。
軍人だったのだから、俺は戦えるはずだ。言い聞かせて扉に向き直った。
パネルに触れる。自室を出た時よりも鼓動は落ち着いていた。
開けていく視界に一抹の曇り。
大きく踏み込んで、腰を落として右腕に力を込める。
力任せに振り回すのではなく、斬れる部分が斬れる角度で当たるように。
横に薙ぐ。
声にならない悲鳴が上がった。割かれた脇腹が、空気に溶けていくのが見えた。
降ろされてくる大剣の速度も大幅に落ちて、飛び退いた俺の前で影は崩れ落ちた。
動けなくなるまで構ってもいられない。
矢をつがえたもう一つの影に真正面から向き合い、歩を進めた。
確実に一歩ずつ、相手を凝視したまま。
なぜだか、避けられる自信があった。
ギシ、と弓がしなうのを聞き、膝に意識の半分をよこして。
矢が放たれた瞬間、頭一つ分だけ左へ飛んだ。
顔のすぐ横を過ぎゆくそれには目もくれずに、走りながら少し上に構える。
首を切り落とすと、今度は悲鳴も聞こえなかった。
唯一知っている外への道は、そこから4部屋分進んだ先にあった。
いつもは洗濯物が干されているテラスに、今は何もない。
端まで駆けて下を一瞥。動くものは何も見えない。
高さはギャレオ三人分と目星を付けて、申し訳程度の手摺に手をかけた。
手摺と地面とを同時に飛び越えて、外へと身体を投げ出す。
自分でも呆れるくらいに迷いがなかった。
14
:
名無しのビジュ
:2004/09/02(木) 16:42
>>13
ビジュ強いな。ヤバイ、惚れそう。GJ
15
:
名無しのビジュ
:2004/09/06(月) 09:24
かっこええ!
続きつづきー
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