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[SS]壊れた大学生の追憶

1ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:00:23 ID:dTDZPd7A00
7作目です。
これまで同様、世界観は前作までと共通です。
かなり長編になると思いますが、どうかお付き合いください。
よろしくお願いします。

2ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:01:34 ID:dTDZPd7A00


プロローグ



女「大学生になったのね」

大学生「まあな」

笑えない女と、壊れた大学生。

近いうち"優勝者"の称号を手にする二人は、会場の客席で話していた。

第十二回CPUトナメ。

レベル8勢の選手たちが集うこの大会に二人は参加し、敗退した。

今行われているのは決勝戦、週末のユウナくん対突起物!ポンチコの試合だ。

女「第八回の時に挨拶できれば良かったんだけど。変わりすぎていて気づかなかったわ。ごめんなさい」

大学生「ケケッ…コッチのセリフだわ鉄仮面」

女「あれ…?でも歳が合わなくないかしら」

大学生「うっせぇよボケ!浪人留年繰り返してなんか悪いかァ!?」

女「いや、悪いでしょ」

大学生「ケケッ、言うようになったじゃねえかクソ女!」

女「…貴方こそ、一体何があったのか気になるわ」

大学生「はァ?てめーが知る必要ねえよ」

女「…そう」

大学生「ケケケ…てめーに比べりゃ俺なんざ些細な変化だろ…」

大学生はぼそりと呟いた。

女「ん?何か言ったかしら。歓声でよく聴こえなくて」

大学生「何も言ってねえよ黙って試合観とけやボケ。そんなんだからすぐ負けんだよ」

女「…そう。貴方には言われたくないけど、一理あるわ」

大学生「ケケケ…俺は今回一勝してんだよ残念ながらなァ。てめーはシード貰っときながらあっけなく終了だろ?さぁどっちが上なんだろうなァ?」

女「ごめんなさい。形式上は二人とも二回戦敗退だけど、別にいいわ、貴方の勝ちで」

冷ややかに大学生の挑発を流し、試合の行われるステージへと視線を戻す女。

大学生はその横顔を眺めて、小さくため息をついた。

大学生「ケッ…ちっとは笑えや、気色悪い…」

3ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:03:20 ID:dTDZPd7A00




ギル「ポンちゃーん!がんばー!」

パタ「ちょ、はしゃぎすぎだろギル姐」

大学生たちから少し離れた席で観戦しているのは、♀幻のギルティースMk Ⅱと、悲しみのパターソン。

ギル「何よパターソン。アンタもポンちゃんに負けたんだから、どうせならポンちゃんに優勝してもらったほうが格が落ちないでしょ?」

パタ「フン、別にどっちだっていいよ…元々俺に落ちるほどの格なんてねえし…悲しみ…」

ギル「全くもう!いい大人が情けないわねえ。そんなんじゃ次の大型の出場権、私が取っちゃうわよ!」

パタ「好きにしろよ…まあどうせドドンだろうけどな…」

ギル「うっさい!ほんっとネガティブなことしか言わないんだからアンタはも〜!」

パタ「母ちゃんかよ…」

ギル「アンタが子供すぎるのよ!いつまでも私に甘えちゃって!」

パタ「へいへい…今日だって普段の任務だって、誘ってくるのはギル姐からだろ…」

ギル「あん!?なんか言った!?」

パタ「い、言ってねえよ…」

㌘「ひゅーっ、お熱いねェお二人さん」

ギル「あっ、ブラッド!」

そこに合流したのは、愛の㌘ブラッド。

この第十二回大会で初参戦した、フォックス族の新人だ。

パタ「そういうのに見えるか…?」

㌘「え?違うのか?確かに"愛"を感じたんだがねェ」

ギル「フフ、愛にも色々あるものよ」

㌘「違いねェな。さすが、最年長は大人の余裕っつーモンがあるようで」

パタ「大人の余裕があるヤツはこんな怒鳴り散らかさねえって…」

ギル「あん!?」

パタ「すいません…」

㌘「…あり?最年長?でもあのヒト、ギル姐さんより歳上に見えたが、気のせいかい?」

ギル「あの人?」

パタ「あぁ、リカエリス´中将´か。そういやこないだ自己紹介はしてもらったが、詳しい事は何も聞いてねえな。村でも見た事ねえし…」

ギル「そっか、話してなかったわね。リカエリスさんは私の先生よ」

パタ「先生!?ギル姐の!?」

㌘「てェことは、やっぱりあっちの方が歳上なのかい?」

ギル「う、うーん…同い年…かしら…?本当は歳上の筈なんだけどね…」

パタ「はあ?どういう事だよ…」

ギル「ま、とりあえず今は試合を観ましょうよ。あ!ほら!二ストック差よ!ポンちゃんいけーっ!」

パタ「うお、すげぇなアイツ…そりゃ俺が勝てねえ訳だ…悲しみ…」

㌘「ハハ、相変わらずパタさんは、"哀"に溢れてるねェ」

パタ「ほっとけ…」

4ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:04:21 ID:dTDZPd7A00




転校生「フン…レベルの低い大会だな」

BJ「そう?結構頑張ってると思うけどナ。あのポンチコとかいうピカチュウ、ふざけた名前のくせにミカにも引けを取らない動きだヨ」

ゲイ「ああ。ユウナくんも負けてないね。的確な戦い方で僕好みだよ…フフフ…」

また少し離れた席では、無敵の転校生、ξ黒きBlack Joker、綺麗なゲイが観戦していた。

"魔の一族"と呼ばれる魔界出身の者たちは、この世界でもよくつるんでいる。

転校生「俺ならこんな奴ら、五秒もあれば仕留められる」

ゲイ「フフ、それはどうかな。転校生も確かに強いけれどね」

BJ「キミ、黒猫と同じくらいの強さだったでショ。少なくともアイツらはそれより上だヨ」

転校生「大昔の話だろ。今の俺はあの時より遥かに強くなっている。黒猫がこの二十年、修行を続けていたとも思えないしな。動きが鈍っているに決まっている」

BJ「そうかナ。むしろ強くなってたように見えたケド…」

ゲイ「僕は魔界じゃ黒猫くんには会ってないんだよね。どうしていなくなったんだい?」

BJ「サア?いつの間にか消えてたナ。そもそもアイツがいたのはほんの一瞬だったしネ」

転校生「まあ…ヤツは惜しい人材だった。あの戦いの時、ヤツがいれば少しは戦局にも影響があったかもな」

ゲイ「へえ、転校生が人を褒めるなんて珍しい」

転校生「事実を言っただけだ。勿論俺が教育を行った上でなら、の話だがな」

かつて転校生は"無敵の教育係"を名乗り、魔の一族の新入りに戦闘教育を行っていた。

BJ「蒸発と言えば、アメリーナも魔の一族だったんだよネ?」

転校生「ああ。お前と入れ替わりで姿を消した。会ってないんだったか。結局今までどこで何をしてたのかさっぱり分からんがな」

BJ「黒光のヤツが毎日探してたのは今でも覚えてるヨ。かなりお気に入りだったんだろうナ」

転校生「パシリがいなくなって困ってただけだろ」

ゲイ「フフ…黒光のお気に入りと言うなら、間違いなく転校生だろうね」

転校生「気色悪い事を言うな!!」

5ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:05:28 ID:dTDZPd7A00




ウシ「モォォォォォォォ!」

飼育員「うわっ!興奮しちゃってる!落ち着いてウシくん!」

アントン「びっくりしたぁ…」

飼育員「すみませんアントンさん!」

アントン「あはは、大丈夫だよ。会場内の熱気すごいもん。興奮して当然だよね、うん」

動物園のウシとその飼育員、そして天空の虫使いアントンも、この会場に観戦に来ていた。

飼育員「一試合目はポンチコさんの圧勝でしたね…!このまま一気に決めてしまうんでしょうか…!」

アントン「どうかなぁ。CPUトナメは何が起こるか分からないからねぇ」

ウシ「モォォ」

飼育員「ん?どうしたのウシくん」

ウシが後ろを向き、飼育員とアントンも後ろを見る。

アントン「あ!」

ロハス「どーもっす」

そこに歩いてきたのは、若き日のロハスだった。

飼育員「ロハスさん!」

アントン「ロハスくん久しぶり〜」

ロハス「アントン先輩、ご無沙汰してます」

軽く会釈をしながら、ロハスはアントンたちの隣の席に座る。

飼育員「って、ボロボロじゃないですか!どうしたんですか!?」

ロハス「いえ、ちょっと任務帰りで。大した傷じゃないっすよ。試合どんな感じっすか?」

アントン「ポンチコくんが一歩リード!って感じだよ、うん」

ロハス「へぇ…さすがにパターソン先輩やブラッド先輩を倒しただけありますね」

飼育員「ん?先輩って…パターソンさんとは同期だし、ブラッドさんに至っては後輩なんじゃ…」

ロハス「いやいや、トナメに呼ばれたのは俺が早かったっすけど、フォックス族としちゃ二人の方が断然先輩っすよ。俺はまだまだヒヨッコですから」

アントン「ロハスくんはまだ若いもんねぇ。これからもどんどん成長していくって思うと末恐ろしいよ、うん。今でも十分強いのに」

ロハス「ええ、本当に学ぶ事が多いっす。先輩方からたくさん吸収させてもらって、感謝してます」

飼育員「あ!そう言えば私もロハスさんに感謝してますよ!」

ロハス「え?」

飼育員「ロハスさんに勝ったことでウシくんが色んな企業様からオファー頂いて!動物園の来客数も以前の百倍になりました!第十回以降本当にすごい反響なんですよ!ありがとうございます!」

アントン「飼育員さん結構失礼な事言うよね…」

ロハス「ハハ、まあ俺が弱かっただけっすよ。次はそうはいきません!」

飼育員「私もウシくんの育成を日々頑張っていますからね!そう簡単にリベンジはさせませんよ!ふっふっふ!」

アントン「うんうん、切磋琢磨でみんな成長していく…良いことだね、うん!」

ウシ「モォォォォ!」

飼育員「あ、二戦目が始まるみたいですよ!」

6ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:06:41 ID:dTDZPd7A00




セレブ「ひ、人がいっぱい…やっぱりこわいです…」

とろける「びっくりするよね〜。僕たち里の外にはほとんど出ないもんね〜」

鳴りやま「やっぱ決勝だけあってすげえ歓声だなオイ!!しかもそこらじゅうにファイターが紛れ込んでやがるぜ!って俺もファイターだったわ!ワハハハ!!」

セレブリティーヨシオの財力によりVIP席からヨシオ族たちも観戦していた。

奈落「長らく奈落の底にいた儂の耳には少し堪える…」

鳴りやま「老人臭えこと言ってんなよ奈落のジイさん!!アンタもトナメに参戦したからにはあの歓声を受ける側に回ってんだぜ!!あ、もしかして俺の喋りが煩いって意味か!?だったらすまんな!!なんたって俺は鳴りやまぬ事で有名な鳴りやまぬヨシオだからよ!!」

殺意「黙れ鳴りやまぬ、殺すぞ」

鳴りやま「おっす……」

奇跡「あはっ、やっぱりすぐ鳴りやむねぇ♪改名した方がいいんじゃない?きゃは☆」

鳴りやま「う、うっせー!」

勇者「殺意さんはどう思いますか?この試合」

殺意「ふん、さあな。準決までの試合じゃユウナくんが一枚上手に見えたが、今みたいにアイテムであっさりひっくり返るのがCPUトナメだ。予想なんかするだけムダだろ」

勇者(予想ハズレてご機嫌斜めみたいだ…あんまり話しかけないでおこう…)

ヨシオ「いいプリ?あれはでんげきという技プリ。ピカチュウ族の得意技で、遠くからチクチクと面倒くさいプリ」

仮面「ほうほう!」

ヨシオ「そしてあれはファイアボールといってマリオ族の得意技プリ。遠くからチクチクと面倒くさいプリ」

仮面「なるほどプリ!勉強になりますプリ!」

ドヤ顔で雑な解説をするヨシオくんと、律儀にメモるヨシオ仮面であった。

勇者(奇妙な光景だなぁ…)

7ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:07:37 ID:dTDZPd7A00




エーレ「おお、ポンチコくんやりますね。このまま押し切ってしまいそうだ」

ヒーロー「いや、ユウナくんのあの目、隙があればいつでも逆転してやろうという強い意思を感じる。油断禁物だぞ。…しかし同じマリオ族なのに、どうしてこうも違う…あの場所に立ってるのが俺じゃないのが悔しいな」

ポイゾネ「ヒーローにはヒーローの良さがあるよ。大丈夫さ、チャンスはまだいくらでもあるんだから」

殺し屋を微笑ませたエーレヒト、満たされないヒーロー、紅きポイゾネサスくんも、立ち見席から観戦中。

ヒーロー「そうか?このCPUトナメというのもいつまで続くか分からないぞ。主催者は素性の知れない謎の男だしな…」

ポイゾネ「はは、確かにそうだけど…ここまで規模の大きいものになったんだからそう簡単には終わらないんじゃない?初めて出た時はこんな事になるとは思いもしなかったけど」

ヒーロー「そうだな。第一回以降しばらく音沙汰もなく、一回限りのお祭り大会かと思っていた。それが今や世界中で愛され、ポイゾネサスくんもぶっちぎりの最強選手として大スターになった」

ポイゾネ「い、いやいやそこまでじゃないでしょ!言い過ぎだよヒーロー」

ヒーロー「フ、謙遜はよせよ…俺が虚しくなるから…」

ポイゾネ「だんだんパターソンみたいになってない?」

ヒーロー「おっと、すまない。満たされなさすぎて。しかしあの時、ねこくんと出会わなければ君がファイターになることもなかったと思うと、運命的なものを感じるな」

ポイゾネ「そうだね。ほんと、恩人だよ。もちろん僕を鍛えてくれたヒーローやゲンさんたちもね」

エーレ「いや二人とも喋ってないで試合観ましょうよ!?めっちゃアツイですよ!」

ヒーロー「お、おお!すまない」

ポイゾネ「わ!ユウナくんが一気に逆転したよ!」

エーレ「どうなるか分からなくなってきましたね!」

8ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:08:29 ID:dTDZPd7A00




reku「はあ…どっちが勝ってもどーでもいいや…」

妹「どうしたの?お兄ちゃん」

少し離れて世界のrekuiemuと[自称]妹も観戦していたが、rekuiemuは俯いている。

reku「いやだってさ…なんなのあの新人カービィ…あんなド派手な試合されたら僕の出番なくなんない?」

妹「ああ、報いちゃんのこと?」

reku「うん。なんだってあんなの復活させちゃったわけ…?僕への嫌がらせ…?青カービィは僕一人だから安泰だと思ってたのに…」

妹「しょ、しょうがないよ。あの子がいなきゃ死人が出てたかもしれないんだから」

reku「…そーだけどさぁ…」

妹「まあまあ、大丈夫だよ。お兄ちゃんは最古参で根強いファンもいるし、第十回でもしっかり好成績残してるんだから!」

reku「…ま、そうだよね。うん、確かに。よく考えたら僕の方がすごい」

妹「うんうん!分かったら試合観よっか!」

reku「やれやれ、仕方ないなぁまったく。後輩たちの晴れ舞台を観てあげるとするか」

妹「調子に乗るの早すぎない?」

reku「そこが僕の良いところだよね」

妹「すごく悪いところだよ」

reku「お!ユウナくんが勝ったよ!一気に決めた!」

妹「聞いてないや…まあ立ち直って良かったけどさ」

reku「これで次勝った方が優勝だね!面白い展開になってきた!」

妹「うん!ユウナお兄ちゃんがんばれー!あたしに勝ったんだから、優勝しないと許さないよ!」

9ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/10(土) 21:09:45 ID:dTDZPd7A00




他にも会場内のあちこちで、数十人のファイターたちがこの試合の行く末を見守っている。

会場に来ていなくとも中継で観ているファイターたちもいることだろう。

世界が注目する決戦。

勝っても負けてもお祭り騒ぎ。



これは、ここに至るまでの物語だ。

10はいどうも名無しです (ワッチョイ 9057-27fb):2021/04/10(土) 22:08:29 ID:w4LUPTDU00
待ってました。
ヨシオ君が仮面に先輩風吹かしてるの笑う

11ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:00:22 ID:USsiN0RY00
初見の方がもしいましたら、ここからは魔炎師ヤミノツルギ†の叛逆を読んでからご覧ください
第一章開幕です
よろしくお願いします

12ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:00:46 ID:USsiN0RY00


第一章



二十年とちょっと前。



とある北の町で、当時小学校低学年だった大学生は暮らしていた。

小学生「みんなまた明日なー!」

友達「おー!またなー!」

小学生はクラスの中心的存在だった。

友達も多く、先生からの信頼も厚かった。

小学生「ん?あいつ、何してんだ?」

少女「うーん…いない…もう…どこいったの…?」

河原の近くでキョロキョロと不安そうに辺りを見回しているのは、十歳にも満たない、小学生と同じくらいの少女。

小学生「おい!おまえどうしたんだ?」

少女「わっ…え…えっと…しょーくんが…いなくなっちゃって…うわあああん!」

小学生「はあ?ちょ、おい!泣くなよ!しょーくんって誰だよ!」

少女「う…うちのペットだよ…一緒に散歩してたの…うぅ…」

小学生「なんだペットか…ったく、一緒に探してやるから、泣くなよ!」

少女「ほんと!?」

小学生「ああ」

少女「ぐす…ありがと!」

小学生「…!そーだよ、そうして笑ってるほうがいい!」

少女「えへへ…」

小学生は、よく笑う少女と出会った。

13ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:02:35 ID:USsiN0RY00

小学生「で、しょーくんはどんなやつだ?」

少女「えっとね、黄色くて、ほっぺたが赤くて、耳が黒くて、尻尾がギザギザ!」

小学生「なんだそりゃ!?なんつー生き物だ!?」

少女「わかんない。ネズミかなぁ?」

小学生「何かわかんないもん飼ってんのかよ!?」

少女「う、うん…ごめんなさい…ぐす…」

小学生「わー!泣くな泣くな!怒ってるんじゃないって!でも変なヤツだな!そんなの目立つから、人に聞いたらすぐ見つかるんじゃないか!?」

少女「あ、そっか…!」

小学生「よし!聞き込み調査だ!」

少女「う、うん!」

小学生「すいませーん!おじさん、黄色くて尻尾ギザギザのやつ見なかった!?」

小学生は茶色いマリオ族の男に話しかけた。

???「おじさんじゃない。まだ二十代ですよ。黄色くてギザギザ…?それってもしかして…」

小学生「見たの!?」

???「いやいや、ピカチュウ族かと思ってね」

少女「ピカチュウ?」

???「ええ。それはこんな姿じゃないですか?」

男は片手に持っていた本を開いて見せた。

少女「あ!これ!しょーくんだ!」

小学生「ピカチュウっていうのか!」

???「そうです。ピカチュウ族はポケモンという生き物で、体から電気を放つことができます。今では喋れるピカチュウも少なくないみたいですよ」

少女「喋れる!?しょーくんが!?」

???「あくまでそういう個体もいるという話です。私の知り合いにも何人かいますよ」

小学生「へー。おじさん何もんなんだ?」

???「おじさんじゃないです。ただの教師見習いですよ」

小学生「へー!どこの学校!?うちじゃないよな!見たことないし!」

???「…それより、探さなくていいんですか?そのしょーくんを」

小学生「あ!そうだった!ありがとうおじさん!」

少女「あ、ありがとうござます!」

???「だからおじさんじゃない!…やれやれ…」

14ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:04:03 ID:USsiN0RY00



それからおよそ二時間後。

小学生「はあ…だめだな…もうこの辺にはいないかも…」

少女「え!?」

少女は泣きそうになる。

小学生「う、嘘だよ!でももう暗くなってきたから、また明日探してみよう!な!」

少女「う、うん…」

小学生「大丈夫だって!きっと見つかるよ!」

少女「うん…!」




翌日。

小学生は学校が終わると、すぐに待ち合わせの場所に行った。

小学生「おーい!」

少女「あ!よかったー!もしかしたら来てくれないんじゃないかって、不安だったの」

小学生「はあ?なんでだよ。来るに決まってるだろ?さあ、行こうぜ!」

少女「うん!」

二人はまた調査を開始した。

15ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:05:08 ID:USsiN0RY00


小学生「この辺で、ピカチュウ見ませんでしたかー!?」

少女「しょーくーん!どこー!?」

???「坊やたち、ピカチュウなら向こうで見たわよ!」

少女「ほんと!?」

小学生「ってうわ!恐竜!?」

それは赤ヨッシーだった。

???「あら、ヨッシー族よ。知らない?」

小学生「うん、初めて見た」

???「おぎゃああああ!!」

小学生「うわ!」

赤ヨッシーの抱いていた金髪の赤ちゃんが泣き出す。

???「あらら。よしよし、帰ってごはんにしましょうね〜。それじゃ坊やたち、がんばって」

少女「うん!ありがとうございます!」

小学生「ありがとー恐竜のおばさん!」

赤ちゃんをあやしながら、赤ヨッシーは去っていった。

16ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:05:56 ID:USsiN0RY00



それから二人は赤ヨッシーの指した方へ行き、ピカチュウを探した。

少女「しょーくーん!どこー!?いるなら返事してー!!」


ピカッ!!

ゴロゴロゴロ…


少女「きゃっ!?」

雷が鳴り、少女は怯えてうずくまった。

小学生「天気悪くなってきたな…まだ雨は降ってないけど…今日はこの辺にしよう。な?」

少女「そんな…しょーくんを見たって人がいるんだよ?」

小学生「それはそうだけど…俺たちがそれで怪我したり風邪引いたりしたら元も子もないよ。お母さんも心配するだろ?」

少女「いないよ」

小学生「えっ」

少女「お母さんもお父さんも、誰もいないよ」

少女は悲しい顔で、消えそうな声で言った。

小学生「…ご、ごめん」

小学生は小学生ながら、なんとなく事情を察して謝った。

小学生「だけど、俺はお前が心配だ!」

少女「…」

小学生「さ、一旦帰ろう。大丈夫だよ。俺はいつまでだってお前に付き合うよ。しょーくんが見つかるまで、いつまでも」

少女「そっか…うん、そうだね…ありがと」

そして二人は家路についた。

17ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:07:19 ID:USsiN0RY00




捜索三日目。

小学生「おっす!」

少女「ほんとに今日も来てくれた…」

小学生「当たり前だ!俺は約束は絶対守るんだからな!」

少女「でもどうして?私…会ったばっかりだし…全然知らないのに…」

小学生「関係ないさ。困ってるヤツがいたら助けてやんないと気が済まないんだ俺は!」

少女「えへへ、なんかヒーローみたい」

小学生「そ、そんなんじゃねーよ!さ、いこうぜ!」

少女「うん!」

二人はまた昨日の場所に向かった。



小学生「うーん…この辺にいるって言ってたよな。あの恐竜、ウソついたんじゃないだろーな!」

少女「そんなことないよ!あの人、すごくやさしそうだったもん!」

小学生「まあ、そうだよな…でもこの辺にはやっぱりいなさそうだぞ。移動したのかもしれない。もっかい聞き込みしてみようか!」

少女「うん!」

18ハイドンピー (ワッチョイ 9602-6259):2021/04/12(月) 18:08:44 ID:USsiN0RY00



そしてまた人通りの多い場所で聞き込みをすること一時間。

小学生「だめだー!全然目撃情報がないや!」

少女「うぅ…しょーくん、私のこと嫌いなのかなぁ…」

小学生「そ、そんなことないって!たぶん迷子になってるんだよ!だから早く見つけてやんないとな!」

少女「うん…」

小学生「この辺にはもういないみたいだし、場所うつそうぜ!しょーくんの好きなところとか、心当たりないのか?」

少女「うーん…お散歩はいつも同じコースだったし…」

小学生「じゃあ、好きなものは?」

少女「えっと、リンゴが好きだよ!」

小学生「そっか。だったら、果物屋さんとかにいるかもしれないな!よし、商店街の方にいってみよう!」

少女「う、うん!」



二人は商店街へ。

小学生「すいませーん!ピカチュウ見ませんでしたか!」

果物屋「うん?そうだなぁ、この辺でピカチュウ族っつーと、暴力さんかい?」

小学生「ぼ、暴力さん…?」

果物屋「ほら、赤い帽子のお医者さんで、最近結婚したっつう…」

少女「いや、ちがくて、えっと、しょーくんっていう私のペットなんですけど…」

果物屋「ペット?じゃあ知らないねえ」

小学生「そっか…ありがとーおじさん!」

果物屋「おう、なんか知らんが、頑張ってな!」

少女「ありがとうござます!」


小学生「くそー…ここでもないか…とにかく色んな人に聞いてみるぞ!」

少女「うん!」


しかし見つからず。





探し始めて、一ヶ月が経った。

19はいどうも名無しです (アウアウ 6531-9f24):2021/04/14(水) 04:48:34 ID:6zagFZicSa
しょーくん…まさか野生の衝撃?

20ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:32:16 ID:5FLa.PxQ00

小学生「おーっす!」

少女「おっす!」

小学生「行こう!」

少女「うん!」

この日は休日で、二人は朝から捜索を開始した。

毎日毎日暗くなるまで共に過ごし、もう二人は親友と呼べるくらいの仲になっていた。

小学生「なあ、聞いてもいいか?家のこと…」

それくらいの仲になったから、聞いても大丈夫なのではと思ったのだ。

だが。

少女「イヤ」

小学生「え…」

一瞬、表情豊かな少女の顔が人形のように冷たく変化する。

小学生は驚いて、唾を飲んだ。

少女「…そんなのどうでもいいじゃん!それよりしょーくん探さなきゃ!」

小学生「そ…そうだな!」

小学生は子供ながらに、踏み込んではいけない領域だと悟った。

小学生「そうそう!実は隣町に、野良猫の溜まり場があるらしいんだ!今日はそこに行ってみようぜ!」

少女「野良猫?でも、ピカチュウって猫なのかな?」

小学生「うーん、わかんねーけど、とにかく行ってみよう!」

少女「わかった!」

二人は隣町の、とある小さな公園に向かった。

21ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:33:28 ID:5FLa.PxQ00



小学生「ここか…」

少女「しょーくーん!いるー!?」

猫「ニャー」

少女「あ!猫さん!しょーくん知らない?」

猫「…?」

小学生「ははは!猫が喋るわけないだろ!俺あっちの方見てくるから、お前はそっちを頼む!」

少女「はーい!」

二人は手分けして探すことに。


少女「しょーくーん!どこー!?」

少女は茂みの方へ近づく。

ガサガサッ!

???「やあお嬢さん。何かお探しかい?」

少女「わっ!?」

突如茂みの中から白ファルコンが現れた。

少女は驚いて尻餅をつく。

???「おやおや、驚かせてしまったかな?フフフ。立てるかい?お嬢さん」

ファルコンは手を差し伸べる。

少女「う、うん。ありがとうおじさん…」

???「おじさん…?フフフ、惜しいな。私は性の喜びを知ろうとする者の前に現れる妖精さ」

少女「せ、せいの喜び…?なにそれ…?」

喜び「性の喜び…それすなわち、愛を育む事」

少女「あ、愛!?」

喜び「あの少年が好きなんだろう?フフフ」

少女「え!?ち、ちがうよ!?そういうんじゃないよ!?」

喜び「隠しても無駄だよ。妖精の私には人の持つ恋心が見えるんだ。そして私の役目は、その恋が実るように背中を押してあげることなのだ」

少女「ち、ちがうってば!」

少女は顔を真っ赤にして否定する。

喜び「フフフ、まあ君ぐらいの歳なら恥ずかしがるのも無理はないか」

22ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:35:33 ID:5FLa.PxQ00

小学生「おい、何してんだ?」

少女「あ!あのね、なんか変なおじさんが…」

小学生「おじさん?どこにいるんだ?」

小学生はキョロキョロと周りを見る。

少女「え?」

喜び「フフフ、言っただろう?私は妖精。普通の人には見えないのさ」

少女「な…!」

小学生「向こうにはいなかったよ。そっちはどうだった?」

少女「え、えっと…」

ガサガサッ!


???「ギャオオオオオオ!!」


少女「きゃっ!」

茂みの中から何かが少女に向かって飛びかかった。

小学生「危ない!」

小学生は咄嗟に少女を庇う。


ドゴォッ!!!


鈍い衝撃音が響く。

が。

小学生「…あれ?」

喜び「フ…フフ…無事か……よかっ…た…」

ドサッ…

少女「お、おじさーーん!!」

性の喜びおじさんが二人を庇い、倒れた。

小学生「さっきから何言ってるんだ?おじさんって…いや、それよりアイツ…!」

???「ガルルルルル…!!」

少女「しょ…しょーくん!?」

そこには"しょうげき"の文字が書かれた首輪を付けたピカチュウの姿があった。

小学生「あ、あれがしょーくん…!?」

少女「あの首輪…間違いないよ…!しょーくんの本名は衝撃っていうの…でも…」

衝撃「グワオオオオ!!」

小学生「な、なんかやばそうだぞ…」


ダッ!!


衝撃が二人に飛びかかる。


???「危ないっ!」

23ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:36:31 ID:5FLa.PxQ00


ズドォッ!!


またも何者かが二人を庇った。

小学生「こ、今度はなんだ!?」

???「ふぅ…なんとか間に合ったようですな」

青いドンキーが衝撃を受け止めていた。

少女「ゴ…ゴリラ…?」

???「性の喜びくんの妖圧が消えたと思って来てみれば…何なのですかこのピカチュウくんは」

少女「さ、さっきのおじさんの仲間…?」

???「私は屈強なる妖精。私を一言で表すならば、そう……屈強なる妖精ですぞ」

小学生「こいつは俺にも見えるぞ…!」

屈強「性の喜びくんはまだ妖精として未熟ですからな…さあ君たち、今のうちに逃げるのですぞ!」

少女「で、でもしょーくんが…!」

小学生「そんなこと言ってる場合か!正気じゃねーぞアイツ!」

少女「そんなの関係ないよ!しょーくんはしょーくんなの!」

衝撃「ガルルル…!」

屈強「くっ…すごい力だ…!このままでは跳ね除けられてしまいますぞ…!さあ、急ぐのですぞ!」

小学生「ほら!早く行こう!」

少女「でも…!」

小学生「今は無理だ!場所は分かったんだし、また対策を立ててこよう!見捨てるわけじゃない!」

少女「う、うん」

二人は走って公園を離れた。

24ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:39:19 ID:5FLa.PxQ00



小学生「はあ、はあ…怪我ないか?」

少女「うん、大丈夫…」

小学生「ごめんな…」

少女「あ、謝ることないよ!でも、どうしよう…しょーくん、もう私のこと忘れちゃってるのかも…」

小学生「大丈夫だよ!もし忘れちゃってたとしても、もう一回仲良くなればいい!一回仲良くなれたんなら、何回だって同じだろ!」

少女「そ、そう…かな…」

小学生「絶対大丈夫だ!俺を信じろ!俺がお前に嘘ついたことあったか!?」

少女「…ない…と思う…分かった。信じるよ」

小学生「ああ!」



二人はコンビニで買った昼食を食べながら、作戦会議を始めた。

小学生「アイツは今正気を失ってる。たぶん話しかけても意味ないだろう…」

少女「じゃ、じゃあどうするの?」

小学生「まずは落ち着かせなきゃな。だから一回、かわいそうだけど無理やり取っ捕まえる」

少女「…うん…でも、どうやって?」

25ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/14(水) 19:40:30 ID:5FLa.PxQ00

小学生「へへーん!これを見ろ!」

がしゃん!

小学生はポーチから鉤爪のついた装置を取り出した。

少女「何?これ…」

小学生「父ちゃんの部屋からこっそり借りてきた!クローショットっつー武器だ!」

少女「ぶ、武器?何に使うの?」

小学生「これをこーやって腕に着けて…」

たたたた…

小学生は少しだけ離れた場所に移動する。

小学生「こう!」

ジャキンッ!!

鎖の付いた鉤爪が真っ直ぐに飛び出し、正面にあった昼食のゴミを捕らえ。

小学生「はっ!」

ギュリリリ!

小学生が腕を引くと鎖が巻き戻され、鉤爪に掛かったゴミが手元まで引き寄せられた。

少女「お、おぉ〜…」

小学生「見たか!これでしょーくんを捕まえるんだ!」

少女「す、すごいけど…この鉤爪でひっかけられたら痛そうだよ…」

少女は鉤爪の部分をちょんちょんと触り、眉をひそめる。

小学生「その点は問題ないぞ!意外と痛くないんだ。父ちゃんに宿題終わるまで遊ぶなって言われて逃げ出そうとしたとき、コイツで捕まえられたことがあってな。まあその後くらったゲンコツは痛かったけど…ハハ」

少女「そっか…でも、引き寄せるだけ?暴れられたら抑え込めないんじゃ…捕まえるための檻みたいなのはないの?」

小学生「…たしかに!」

少女「考えてなかったんだ…」

小学生「よし!それじゃあ檻を探そう!」

少女「う、うん」

小学生「丈夫なヤツじゃなきゃ壊されそうだよなー。アイツ、めちゃくちゃ凶暴だったし…どこで買えるかな…」

少女「うーん…」

小学生「あ、そうだ!動物園に相談してみよう!」

少女「動物園?」

小学生「ああ!最近この辺にできたろ?あんまり話題になってないけど…」

少女「そうなの?…たしかに動物園なら頑丈な檻があるかもしれないね」

小学生「よし、行ってみよーぜ!」

少女「うん!」

こうして二人は動物園へと向かった。

26ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:04:10 ID:60d7cd5c00



小学生「子ども二人です!お願いします!」

小学生はなけなしのお小遣いから入園料を差し出す。

受付「はーい。あらあら、きみたちデート?うふふ」

小学生「は、はあ!?ち、違うよ!」

受付「うふふふふ」

少女「……」

少女は顔をトマトのごとく真っ赤にしていた。


そして動物園に入ると、二人は猛獣のコーナーへ行く。

小学生「うおおー!!ライオンだ!!かっけー!!あ!!こっちはトラだぜ!!すげー!!」

少女「目的忘れてる…」

小学生「あ…す、すまんすまん。つい興奮しちゃって」

少女「飼育員さんに聞くのがいいかな?」

小学生「だなー。どこいるんだろ」

飼育員「私に何か用ですか?」

小学生「おわ!飼育員さん!」

二人の後ろに、若い女性飼育員が立っていた。

少女「こ、こんにちは…」

飼育員「ふふ、こんにちは。どうしたんですか?」

小学生「実は、コイツが飼ってたピカチュウが逃げ出して…すごい凶暴になってて…檻が欲しいんです!」

飼育員「檻?ていうかピカチュウって…確か電気ネズミの種族ですよね。うーん…」

少女「だめですか…?」

飼育員「いえ!ただ、二人じゃ危ないんじゃないかと思って…」

小学生「大丈夫!これでも俺かなり強いんだぜ!リンク族っていう、英雄の末裔なんだ!ほら、このとんがってる耳が証拠!」

小学生は胸を張ってドヤ顔をする。

飼育員「リンク族…?なんか聞いた事ありますね…」

小学生「でしょ!まだ剣とかは使わせてもらえてないけど、父ちゃんにもファイターとしての資質があるって言われてるし!」

飼育員「ファイター…なるほど…ちょっと不安ですが、分かりました!檻を貸しましょう!」

少女「ほんと!?」

飼育員「はい!実はこんなこともあろうかと電気を通さないゴム製の檻があるんです!」

小学生「すげー!」

飼育員「えっへん!なんせここは動物園ですからね!」

27ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:05:33 ID:60d7cd5c00

少女「あ、ありがとうございます…!」

飼育員「いえいえ!野生化して凶暴化したピカチュウなんて、放っておくわけにもいきませんからね」

小学生「なんでこんなすごいのに、こんなにお客さん少ないんだろーな!」

少女「わ!失礼だよ!」

飼育員「あはは、いいですよ、事実ですから。実はここだけの話、設備ばかり整えてたら、動物を歓迎するお金がなくなっちゃったらしくて…ほら、空っぽの檻がいっぱいあるでしょ」

小学生「あ、ほんとだ…よく見たら…」

少女「大丈夫なんですか…?潰れたりしない…?」

飼育員「優しいんですね。でも大丈夫!心配しないでください!なんとかしてみせますから!」

小学生「おぉー、頑張ってお姉さん!」

飼育員「はい!」

飼育員(…って偉そうに言えるほどの立場じゃないんですけどね…ただの新人飼育員だし…)



それから、飼育員は倉庫から檻を持ってきた。

飼育員「どうぞ!」

小学生「ありがとうございます!」

飼育員「返すのは使い終わってからでいいですからね。それと、危険だと思ったらすぐに大人に頼ること!分かりましたか?」

小学生・少女「はい!」

飼育員「よろしい!それじゃあ頑張って!」

小学生・少女「いってきます!」

小学生は檻を抱え、二人は動物園を後にした。


飼育員「ふぅ…でもやっぱり心配ですね…一応お巡りさんに連絡しておきましょう」

飼育員は二人を見送った後、事務所に戻り警察署の番号を確認しながら、呟く。

飼育員「ピカチュウか…ファイターって呼ばれるような種族でも、ペットに飼われてるんだなぁ…うちの動物園でもファイターを飼育してみたら、人気出たりしないかな…?園長に相談してみよーっと」

28ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:06:47 ID:60d7cd5c00



一時間後。

小学生たちは再び衝撃のいた公園へ来ていた。

小学生「そういえばさっき助けてくれたゴリラ、大丈夫だったのかな?」

少女「屈強なる妖精さんだっけ…無事だといいな…」

屈強「き、君たち…なぜ戻ってきたんです…」

少女「妖精さん!」

屈強なる妖精は這いつくばっていた。

二人は妖精の元へ駆け寄る。

小学生「だ、大丈夫か!?」

屈強「も…問題ないですぞ…なんせ私は屈強なる妖精…屈強なことだけが取り柄ですからな…」

少女「しょーくん…なんでこんな酷いことを…」

小学生「とにかく、被害者が増える前に早く捕まえよう!」

少女「うん!」

屈強「つ、捕まえる…!?や、やめなさい…!いくらなんでも無茶ですぞ…!」

小学生「大丈夫!俺強いから!」

屈強「……!その目…そうか…君もファイターなんですな…ならば、止めはすまい…」

小学生「妖精さん!しょーくんはどっちに行った!?」

屈強「…あっちの路地裏にいきましたぞ…」

小学生「ありがとう!よし、行くぞ!」

少女「うん!」

二人は路地裏へ走る。

屈強「幸運を祈りますぞ…」

29ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:07:54 ID:60d7cd5c00


少女「しょーくーん!いるー!?」

小学生「いるなら出てこい!俺が相手になってやる!」

衝撃「グァオオオッ!!」

小学生「!!」

二人の後ろから衝撃が現れ、飛びかかった。

ズガァッ!!

小学生「うわっ!」

小学生はとっさに身を屈めて、衝撃の攻撃をかわした。

衝撃「ガルルル…!」

小学生「くらえっ!!」

ギャリンッ!!

衝撃「ギャゥ!?」

小学生のクローショットが衝撃を見事に捕らえた。

小学生「今だ!!檻を!!」

少女「うん!」

ガチャンッ!!

衝撃「グァオオ!!」

こうして二人は衝撃を檻の中へ捕らえることに成功した。

小学生「や、やった…!やったぞ!これで、後は正気を取り戻させるだけだ…!」

少女「だけ…か…そんなにうまくいくかな…」

小学生「すぐには無理かもしれない。でも、時間をかければきっと大丈夫だ!」

少女「う、うん。そうだよね。私がんばるよ。しょーくんとまた、檻なんかなくても遊べるように」

小学生「ああ、その意気だ!…ん?」

小学生は何かに気付いて衝撃に近づく。

少女「どーしたの?」

小学生「怪我してる。この傷…どっかで擦ったのかな。それともケンカか?」

衝撃の横腹には大きな擦り傷ができていた。

少女「ほ、ほんとだ…大丈夫?しょーくん…痛いよね…帰ったら獣医さんに連れて行ってあげるからね…」

衝撃「ガルルル…!!」

少女「きゃっ!」

衝撃は少女に向かって威嚇する。

小学生「これじゃ落ち着くまで手当ては無理そうだな…」

少女「しょーくん、かわいそう…」

小学生「まあとにかく、今日は帰ろう。そろそろ日が暮れるしな」

少女「う、うん、そうだね」

30ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:08:53 ID:60d7cd5c00



二人は衝撃の入った檻を抱え、家路につく。

小学生「一人で大丈夫か?しょーくん、うちで預かってもいいぞ?」

少女「大丈夫だよ。それに少しでも長く一緒にいたいから。早く前みたいに仲良くなりたいもん」

小学生「そっか、そうだな!」

少女「うん。今までありがとね…」

小学生「…?なんでそんな最後みたいな…」

少女「だって、しょーくんが見つかるまでって約束だったでしょ…?」

少女は目を潤ませながら言う。

それを見て小学生は大きなため息をついた。

小学生「はー…なーに言ってんだか…」

少女「え?」

小学生「そりゃ最初はそーだったけどさ、もう俺たち友達だろ?」

少女「友達…」

小学生「大体、俺だってしょーくんと仲良くなりたいっつーの!探すの協力したのに、独り占めする気か!」

少女「…あ」

少女の目からボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。

小学生「お、おい!どーしたんだ!?」

少女「もうお別れだって思って…でもそんなことなくて…安心したら…なんか…わかんないけど…涙止まんないよぉ…ふぇぇ…」

小学生「はは、泣くことないだろ!そもそもこんな近くに住んでるんだから、いつでも会えんじゃん!」

少女「うぅ…」

小学生「それじゃあまた明日、いつものとこに集合な!」

少女「うん…!」

小学生「気をつけてな!」

少女「うん…!」

二人はそこで分かれた。

31ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:10:05 ID:60d7cd5c00




翌日、放課後。

小学生「おっす!」

小学生が待ち合わせ場所に行くと、体操座りで少女は蹲っていた。

少女「…いなくなっちゃった」

小学生「え?」

少女「しょーくん…またどこかに行っちゃった…」

小学生「え?…えっと…どういうことだ?」

少女「…朝起きたら…檻が破られてて…」

小学生「ま、また逃げられたのか!?」

少女「…うん…」

小学生「マジかよ!なんつーヤツだ!くそー!」

少女「ごめんね…たくさん…手伝ってもらったのに…一人で大丈夫って…いったのに…」

小学生「お前が謝ることないって!しょーくんがめちゃくちゃ強かったんだろ!よーし!むしろ燃えてきたぞ!絶対捕まえてやる!」

少女「無理だよ…檻ももうないのに…」

小学生「また動物園に行けばきっと…!」

少女「そんなの迷惑だよ…」

小学生「だ、大丈夫だって!あの飼育員さん優しかったし!」

少女「無理だよ…」

小学生「…!」

少女はかつてないほど落ち込んでいた。

小学生の励ましの言葉がことごとく拒絶される。

小学生「よーし分かった!じゃあ俺が連れて来てやる!待ってろ!」

少女「…えっ…」

少女が顔を上げた時には、もう小学生は駆け出していた。



小学生「…って飛び出したはいいけど、どこにいるんだ?しょーくん…とりあえず昨日の公園に行ってみるか」

小学生は隣町の公園へ行こうとしたが。

???「待ちなさい」

小学生「え?」

小学生の前に現れたのは、捜索初日、最初に話しかけた茶色マリオだった。

32ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:11:55 ID:60d7cd5c00

???「しょーくんというのは、このピカチュウですね?」

そこにはマリオ族の腕に抱えられた、弱ったピカチュウの姿があった。

小学生「しょーくん!そうです!捕まえてくれたんですか!?」

???「いえ、保護しました」

小学生「ん?えっと…どこにいたんですか?」

???「君と共にいた、あの少女の家ですよ」

小学生「え!?」

何を言っているのか理解できず、小学生は混乱する。

???「この子は少女に虐待を受けていました。だから私が助け出した」

小学生「な…何を言ってるんだ…?そんなわけないだろ…」

???「この傷は彼女が付けたものです。檻に囚われ身動きの取れないこの子を、彼女は鞭で何度も叩きつけ…」

小学生「だからそんなわけないだろって、言ってるだろ!?」

小学生は激昂する。

???「落ち着いてください。私は君を助けたいんです」

小学生「はあ!?意味わかんねーよ!!」

???「彼女は魔力暴走体質なのです。二億人に一人と言われる特異体質…時折魔力が暴走して、自制が効かなくなる体質です」

小学生「うるせえっ!!しょーくんを返せっ!!」

ダッ!!

小学生は我を忘れて殴りかかる。

???「言い忘れていました」

パチンッ!

小学生「!?」

マリオ族が指を鳴らすと、突然小学生の前から消え、その拳は空を切った。

???「私は昼間の召喚士。魔法学校の教師見習いです」

いつの間にか小学生の背後に立っていたマリオ族はそう名乗る。

小学生「…魔法学校…?」

昼間「ええ。担当科目は召喚術。今のはその応用で、君の後ろに私自身を召喚した」

小学生「まっ…魔法なんかあるわけないだろ!!」

ダッ!

小学生は再び殴りかかる。

パチンッ!

小学生「くそっ!!また消えた!!」

そして召喚士は再び背後に現れる。

昼間「今のを見ても信じられませんか?まあ仕方ないですね。普通の人は魔力を感じ取ることはできませんから」

小学生「マリョク…?」

33ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:14:18 ID:60d7cd5c00

昼間「生きとし生けるもの全てには魔力という力が宿っています。我々魔法使いはそれを使ってさまざまな魔法を発動する。このように」

ボゥッ!

小学生「うわっ!」

召喚士は掌の上に炎の球を作り出した。

昼間「しかし"魔"という文字の通り、この力は良い面だけではありません。身に余る魔力を宿した者は、感情のコントロールを失ってしまうのです」

小学生「感情のコントロールって…別にアイツは…たしかにちょっと泣き虫だけど…そんなやばいヤツじゃねーぞ!」

昼間「君の前ではね。魔力暴走体質の傾向として、ある一定の条件を満たすことで魔力が爆発的に増幅する」

小学生「条件…?」

昼間「はい。その条件には個人差がありますが、多くの場合、"愛"が関わっています」

小学生「はぁ…?」

昼間「初めて君たちと会ったあの日、私は彼女の魔力の波が不規則に乱れていることに気付きました。そしてすぐに彼女が魔力暴走体質だと分かった。それから、彼女の過去を調べていました」

小学生「…過去…そう言えばアイツ、何も話したがらなかった…」

昼間「彼女の両親は、彼女が五歳の時に死んでいる」

小学生「!!」

昼間「そしてその後彼女を預かった祖父母も、二年後に事故で死亡…いや、殺されたのです。彼女自身の手によって」

小学生「はあ!?あ、あんなチビでひ弱なヤツが、大人を何人も殺せるわけないだろ!?」

昼間「そんな常識を覆すのが魔力というものです。先ほどの魔法を見れば体格など関係無いと分かるはずです」

小学生「く…」

昼間「その後は親戚からの仕送りで、あの若さで一人暮らしをしていたようですが…三ヶ月前、寂しさに耐えかねて野生のピカチュウを拾った。そしてこの子も彼女の手によって危険にさらされ、逃亡を謀った。家族やペットといった相手に深い愛情を持って接することが、魔力暴走のトリガーとなってしまうのです」

小学生「…じゃあ…俺を助けたいっていうのは…」

昼間「はい。君と彼女の関係性が、これから更に深くなっていった場合…近い将来、君も被害に遭う可能性があります」

小学生「…!…い…いいよ、俺は強いんだ!アイツが暴走したら俺が受け止めてやる!」

昼間「無理ですよ」

小学生「無理じゃない!!俺はリンク族だぞ!!」

昼間「彼女もサムス族…ファイターの一族です。同じファイター同士なら強い魔力を持つ方が当然強い。君では勝てない」

小学生「やってみなくちゃ分からねーだろ!!」

昼間「…ふぅ…」


ゴォッ!!


小学生「…!?」

目にも留まらぬ速さで、召喚士は小学生の目の前に拳を振り下ろした。

地面にはその拳を中心に大きなヒビが入っていた。

昼間「魔力による身体強化。魔法使いにとって基礎中の基礎です。それでも一般人を屠るには容易い。私は魔力操作には自信がありますが、魔力量は平均並み…そして暴走時の彼女の魔力は、私を遥かに超えています」

小学生「…!!」

昼間「分かっていただけたみたいですね」

小学生「で、でも…そんなのどうしろってんだよ!それじゃアイツは一生一人で生きてかなきゃいけないのかよ!」

昼間「そうですね」

小学生「そうですねって…てめー他人事だからって…!」

34ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:16:32 ID:60d7cd5c00

昼間「彼女を救うには魔力暴走体質を治すしかないでしょう」

小学生「な、治せるのか!?」

昼間「…はい。ですが魔力暴走の条件となる一人の協力が必要です」

小学生「俺でもいいのか!?どうすればいい!?なんでもするよ!!」

昼間「落ち着いて。協力者は君でも構いません…と言うより、君が最も適任でしょうね。条件に当てはまるのは今のところこの衝撃くんだけですが、衰弱しているし、意志の疎通も難しい」

小学生「つまり、俺がもっとアイツと仲良くなって、その条件ってのになればいいんだな!?」

昼間「そういうことです。あえて魔力の暴走を促し、その瞬間にこの魔力阻害リングを彼女に装着する」

そう言って召喚士は黒いリングを取り出す。

小学生「なんだそれ…」

昼間「文字通り、魔力の操作を阻害するリングです。本来は魔法を使った犯罪者などに使うもので、装着し続ければその魔力を吸収し、やがて一般人と変わらないレベルまで魔力量を減少させることができます」

小学生「そんなのがあるのか…!だったら早く使ってやってくれよ!」

昼間「このリングは魔法使いの中でも特別な資格を持つ者でなければ取り扱いできない、指定魔道具です。あまりにも効力が強いため、一般的な魔力量の相手では生命を脅かしてしまう」

小学生「な…!」

昼間「普段の彼女は一般人となんら変わりない。装着のタイミングを誤れば命を落とす危険性があります」

小学生「…そんな…」

昼間「だからこそ協力が必要なのです。タイミングは魔力が暴走を始める二秒間。その瞬間が最も魔力が上昇し、体内の魔力流動が高速化します。そこにリングの効力が加わる事により、その魔力を体内に留めたままが吸収を始める事ができます」

小学生「二秒…!?暴走のタイミングなんてどうやって分かるんだよ…失敗したら死ぬかもしれないんだろ…!?」

昼間「魔力測定器というものがあります」

召喚士はそう言って、懐中時計のような形の機械を取り出した。

昼間「このランプが赤くなった瞬間、リングを彼女に向かって投げれば、リングは触れた相手の魔力に反応して自動的に装着されます」

小学生「…!お、俺がやらなきゃだめなんだな…?」

昼間「…危険な方法です。やりたくなければ、やらなくて結構です。私とて初めから君に頼るつもりはありません」

小学生「はぁ!?ふざけんな!他に方法はないんだろ!」

昼間「ええ。ですが彼女はこれから魔法学校の監視下に置かれます。暴走の条件が揃わないようにし、何かあれば魔法使いがすぐに駆けつけて対処をするでしょう」

小学生「アイツの気持ちはどうなるんだよ!このまま一人で生きてけってのか!?」

昼間「魔力暴走体質は自然と治る可能性もあります。何年掛かるかは分かりませんが…」

小学生「そんなの待ってられないだろ!それにその言い方じゃ、治らないかもしれないんだろ!?そんなの…ずっと一人なんて、ダメだ!!」

昼間「君のような子供に、他人の命がかかった問題を任せる事などできないと言っているんですよ」

小学生「それでも…俺がやるしかないんだろ!!やるよ!!」

昼間「……!!……はあ…諦めさせるつもりで説明したんですがね…逆効果ですか…」

召喚士は困り顔で後頭部を掻く。

35ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/17(土) 21:17:43 ID:60d7cd5c00

そこへ。

少女「…私からもお願いします…」

小学生・昼間「!!」

小学生を追いかけてきた少女が、頭を下げていた。

少女「しょーくんのその傷…私がやったんでしょ…?」

小学生「…聞いてたのか…」

少女「ごめんなさい。ずっと私のために頑張ってくれたのに…一人でいじけちゃって…謝ろうって思って追いかけたら、その人と話してたから…」

昼間「やはり暴走中の記憶はないんですね。この体質の多くの人に見られる症状です」

少女「記憶はないけど…でも…なんとなくわかってた…もしかしたら私が何かしてるんじゃないかって…お母さんもお父さんも…おばあちゃんもおじいちゃんも…しょーくんも…いつも私が寝てる間にいなくなってたから…」

小学生「…!!」

昼間「そうですか。でも本当にそれでいいんですか?失敗すれば命に関わるんです。そう簡単に決めていい問題ではありませんよ」

少女「いいんです…もし死んでも…お母さんたちに会える…私がみんなを殺したのなら…平気な顔で生きてるなんておかしいよ…」

小学生「ふざけんな!何言ってんだ!お前がやりたくてやったんじゃねーだろ!」

少女「…うん。ありがとう。だから、あなたに私の全部を託すよ。あなたが私のことをすっごく大事に思ってくれてるって分かったから」

小学生「!!」

少女「私がみんなを傷つけたって知って、辛くて、消えてしまいたい…だけど、おんなじくらい嬉しかったの。だから…私を助けて…!」

小学生「…ああ…!当たり前だ!!」

少女「ありがとう…!」

小学生「お願いします!俺にやらせてください!」

小学生は召喚士の方を向き直し、深々と頭を下げる。

昼間「…………ふぅ…仕方ありませんね…では君にこれを渡しておきます」

召喚士は小学生に魔力阻害リングと魔力測定器を手渡す。

小学生「ありがとうございます!」

昼間「この二つは彼女と会う時、必ず肌身離さず持ち歩く事。測定器は魔力の上昇を感知すると、緑のランプが点滅してアラームが鳴ります。そしたらすぐにリングを用意してください。そして、一定の魔力量を超えるとランプが赤くなるので、その瞬間にリングを投げてください」

小学生「はい!」

昼間「我々はずっと君たちを監視していますからね。危険だと判断すればすぐに駆けつけます。それと、このピカチュウは私が預かっておきます。魔法学校の薬ならこの程度の傷はすぐに治せるはずです」

少女「よ、よろしくお願いします…!」

昼間「…もう一つ。暴走の条件となる"愛"とは曖昧なものです。何がどう繋がるか、私もはっきりとは分かりません。くれぐれも他の人と仲良くなろうとは考えないでください。寂しいかとは思いますが…治療が終わるまでの辛抱です」

少女「…はい」

小学生「大丈夫。俺がずっと側にいるよ!」

少女「うん…!」

昼間「では失礼します。頑張ってください」

パチンッ!

指を鳴らすと、召喚士は姿を消した。


小学生「…でもこれ以上仲良くなるって、具体的にどうすりゃいいんだ?俺たちもう親友だよな?」

小学生は腕を組んで首を傾げる。

少女「私…ずっと怖かった。私の家族のこと知ったら、あなたも離れていっちゃうんじゃないかって…だから隠してた。それが壁になってたんだと思う」

小学生「…そっか」

少女「うん。でももう何も隠さなくていい。だから大丈夫!今まで通りにしてるだけで、私もっとあなたのこと、好きになれるよ!」

少女はにっこりと微笑みかけ。

小学生「おう!」

小学生もそれに微笑み返した。

それから二人は今まで踏み込めなかったような話をしながら、家路についた。

36はいどうも名無しです (ワッチョイ ee0c-b625):2021/04/17(土) 22:20:03 ID:Ru/MWaCs00
悲しい体質…これは笑えない

37ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:30:43 ID:TVi5vk5600




翌日。

少女「ふーんふーんふんふんふーん♪」

少女は鼻歌を歌いながら、小学生との待ち合わせ場所へ向かっていた。

勿論衝撃の捜索ではなく、ただ友達らしく、遊ぶためにである。

その途中。

???「ここが地上か〜!すごいな!色がいっぱい!!」

黒いパワードスーツの頭部を脱ぎ、キョロキョロと周りを見回して目を輝かせているサムス族を発見した。

少女「お姉さん、どうしたの?」

少女は嬉しそうに話しかけた。

母に似ていたからだ。

???「私はアメリーナ。お嬢ちゃん、この街の子?」

少女「うん」

アメリ「ちょうどよかった!私、ここに来たばかりなの!案内してくれない?」

少女「え?いいよー」

少女はにっこりと笑って頷く。

アメリ「ほんと!?ありが…」

小学生「こらー!!そこで何してる!!」

アメリ「!」

そこへ小学生が走ってきた。

小学生「誰だおばさん!コイツに手を出すな!」

アメリ「おば!?」

少女「違うよー。この人この街に来たばかりで、これから道案内してあげるところなの」

少年「知らないヤツに話しかけちゃダメって言われてるだろ!!帰るぞ!!」

少女「わっ」

小学生は少女を引っ張って連れて行く。

少女「ごめんお姉さん、またねー!」

少女は手を振り、アメリーナも手を振り返した。

38ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:31:52 ID:TVi5vk5600


小学生「まったくもう!昨日の今日だぞ!」

少女「あはは、心配しすぎだよー。一ヶ月あなたと過ごしてても、まだ暴走してないんだもん。ちょっと道案内するくらい大丈夫だよ」

小学生「…そ、それもそーか。ちょっと過敏になってたかも…でも気を付けないとダメだぞ。あのおっさんも言ってたけど、どんなことがきっかけになるか分かんないんだから」

少女「そうだね。ありがと!それじゃ、いこっか!」

小学生「おう…ホントに分かってんのか…?」

少女「分かってるよ失礼な!私、あなたがいればそれでいいもん!」

恥ずかしげもなく少女は言う。

小学生「お、おぉ…」

小学生は照れ隠しに目を逸らす。

少女「…!」

その反応を見て、少女も自分の言動が急に恥ずかしくなって頬を染める。

と、その時。


ピーピーピーピーピー…!


小学生「!!」

首に下げていた魔力測定器からアラームが鳴った。

緑のランプが点滅していた。

少女「え…!?」

小学生「お、落ち着け!!大丈夫だ!!思ってたよりめちゃくちゃ早かったけど!!」

小学生はすぐにポケットからリングを取り出した。


ピピピピピピピ!!


アラームの音は大きくなり、ランプが赤に切り替わる。

小学生「今だッ!!」

小学生は少女に向かってリングを


ガシッ!


小学生「え」


投げられなかった。

何者かが、小学生の腕を掴んだのだ。

少女「にげて…!」

39ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:33:35 ID:TVi5vk5600


ピピピピピピピ…ボンッ!!


小学生「うわっ!」

魔力測定器が測定限界値を超えて爆発した。

少女「あはははははははは!!」

小学生「……!!」

少女「ねぇ、あそぼ?」

少女はニタリと不気味な笑みを浮かべた。

ドサッ…

小学生は無意識のうちに尻餅をついた。

これまで見てきた純粋な笑みとは明らかに違うその表情に、小学生は背筋が凍るような感覚を覚える。

小学生「…ひっ…く…来るなッ!」

少女「ひどい。私はこんなにもあなたを愛してるのに」


バチンッ!!


小学生「がっ…」

強烈な平手打ちが小学生の頬を襲った。

その一撃で小学生は気を失った。

少女「こらこらー、こんなとこで寝ちゃダメでしょ?」


バチンッ!!


小学生「っ…!?」

逆の頬を叩かれ、小学生はその衝撃で意識を取り戻した。

だがその次の瞬間には。


ドゴッ!!


腹を蹴られ、数メートル吹き飛ばされていた。

小学生「げぇッ…!」

ビチャビチャッ!

胃の中身が全て口から溢れ出る。

少女「あははははっ!!すごーい!サッカーボールみたいに跳んだね!」

40ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:36:27 ID:TVi5vk5600

小学生「…なん…で……」

少女「あ〜、だめだめ。ボールは喋らないんだよ?」

タッ…

少女は一瞬で距離を詰めると、再び蹴りの構えに入る。


ガッ!!!!


昼間「…すみません。遅くなりました」

小学生「…!」

間一髪、召喚士が現れ、蹴りを受け止めた。

少女「誰?」

昼間「昼間の召喚士ですよ。昨日会ったでしょう」

少女「さあ?知らない。邪魔しないでッ!」

昼間「記憶の混濁…まあさして問題は無いか」

パチンッ!

少女「なっ…!?」

召喚士が指を鳴らすと、少女の体に縄が巻き付いた。

昼間「大人しくしてください」

少女「…ばかなの?こんなの意味ないよ!あはははははは!」

ブチブチブチ…!

少女は縄を力尽くで引きちぎる。

が、その間に召喚士は魔法書を開き、更なる魔法を発動していた。

昼間「顕現せよ」


キュインッ!!


少女「!!」

少女の体を三つの光の輪が拘束した。

昼間「深き眠りに落ちなさい」

少女「なに…こ……れ……」

ガクッ…

召喚士の言葉と共に、少女は眠りについた。

昼間「…ふぅ…」

パタン…

召喚士は溜息をこぼして、魔法書を閉じた。

小学生「…ご…めん…なさい…」

小学生は倒れたまま涙を流す。

昼間「気に病むことはありません。君はまだ子供なのですから」

小学生「…でき…なかった…俺…ゲホッ…ビビったんだ…もし…失敗したら…ゲホッ…死ぬかも…しれないって…」

あの時小学生の腕を掴んだのは。

いや、小学生の腕は掴まれてなどいなかったのだ。

失敗する事への無意識的な恐怖が、体を硬直させた。

41ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:37:58 ID:TVi5vk5600

昼間「大丈夫です。さあ、これを飲んでください。すぐに治ります」

召喚士は魔法薬を小学生の口に流し込む。

小学生「……!!何だこれ…!怪我が治っていく…!」

小学生は本当にすぐに治り、立ち上がった。

昼間「これからは彼女の身柄は魔法学校で預かります。暴走しないよう、人との接触を防ぐ隔離施設に入れられる事になるでしょう。安全は保証しますよ」

小学生「…だ…ダメだ!!そんなのまるで牢屋じゃんか…!!ソイツは何もしてねーんだぞ!!」

昼間「何もしてない事はないでしょう…」

小学生「だけど…!」

昼間「君は失敗した。それにもう君には無理だ」

召喚士は冷たく言い放つ。

小学生「何だと…!?」

昼間「昨日の君はまさしく勇者だった。私も信じてみたくなるほどに。ですが今の君からは、恐怖しか感じません」

小学生「…そんなこと…!」

小学生はそこでやっと気付く。

自分の体が震えている事に。

小学生「そんな…」

昼間「いいんですよそれで。それが相応の反応です。勇気ある行動も、実力が伴わなければただの無謀。君は身をもって自分の弱さを理解した筈です」

小学生「…くそっ…どうすりゃいいんだよ…!」

昼間「もう何もする必要はありません」

小学生「そ…それじゃダメだって言ってるだろ!ソイツは寂しがり屋なんだ…!」

昼間「…なぜそこまで拘るのです?出会って一ヶ月程度のこの少女に」

小学生「そんなの…!」

少女「ん…」

小学生「!!」

少女が目を覚ました。

小学生「大丈夫か!?」

小学生はすぐに駆け寄る。

昼間「ダメだっ!!」


ズドッ!!


小学生「…え…」

42ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:40:14 ID:TVi5vk5600

強い衝撃。

少女を拘束していた光輪は消え、その右腕は真っ直ぐに、小学生の腹の中へと伸びていた。

小学生「がふっ…」

ビチャビチャビチャッ!

小学生は大量の血を吐く。

少女「わっ!ビックリした〜!あはははっ!」

ブシャアアアアアッ!

少女が手を引き抜くと同時に、血が噴き出す。

ドサッ…

そして小学生は力無く倒れた。

少女「あはっ!そのカオすごくいい!私、あなたが好きよ?あはははっ!」

昼間「くっ…魔力が前回の暴走時より上がっている…催眠輪もほとんど効いていない…レベルツーに移行しているのか…!」

少女「わあ…お腹に穴あいちゃったね。あははっ!すっごい血出てるよ?」

グチュ…グチュ…

少女は小学生の腹の穴に指を入れ、掻き混ぜるように動かす。

小学生「あぐ…ゲホッ…が…ッ」

少女「あはははははは!まだ生きてるんだ!すごいすごい!」

昼間「やめなさい!」


ドガァッ!!


少女「ブッ!」

召喚士の拳が少女の頬にヒットし、吹き飛ばした。

昼間「こうなってしまっては悠長な事は言っていられませんね」

パチンッ!

少女「!!」

召喚士が指を鳴らすと、少女の手首に魔力阻害リングが装着された。


バリィン!!


昼間「なっ…!?」

少女はもう片方の手でリングを殴り、粉砕した。

少女「あはははっ!変なのつけないでよ!」

昼間「くっ!ならば…」

パチンッ!

今度は両腕両脚にリングが現れる。

が。

バリィン!!

一瞬でその全てが粉砕された。

昼間「馬鹿な…っ!」

少女「やめてって言ってるでしょ?まったくもう」

昼間(触れもせず割れるのはリングの起動者が自ら魔法で解除するか、魔力の許容限界を超えた時のみ…それを四つ全て一瞬で…!あり得ない…!)

少女「あははっ!私はただ、あなたと遊びたいだけなんだよ?」

這いつくばる小学生に向かって言う。

小学生「う……ぐ……」

昼間「仕方ない…実力行使です」


ドガッッ!!


少女「だれ?おじさん。いきなり殴りかかるなんて危ないなぁ」

少女は片手で召喚士の拳を受け止めた。

43ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:41:48 ID:TVi5vk5600

昼間「はっ!」

召喚士はその瞬間拳から炎の球を撃ち出す。

ボフッ!!

少女「きゃっ!」

昼間「ほっ!」

ズガッ!!

その隙を突き、流れるように足払いを掛ける。

少女「わ…」

昼間「はぁっ!」


ゴッ!!


バランスを崩したその顎にアッパーカットを打ち込む。

少女「んぐ!」

パチンッ!

指を鳴らすと、表面に魔法陣の描かれた黒い布が出現。

昼間「はあっ!!」

ギュルルルッ!!

召喚士が手をかざすと布は一人でに動き出し、少女の体に巻きついていく。

昼間(少年には申し訳ないが…彼女は封印する!前例はないがこれは恐らくレベルスリー…!明らかに異質の進化を遂げている…!)

少女「あーもう……」

昼間(あと少し…!)



少女「邪魔っ!!!!」



ドォッ!!!!



昼間「!?」


ドドドドドドド…!!


少女が叫ぶと共に、巻きついた布が弾け飛び。

更には衝撃波によって周囲の物を吹き飛ばした。


少女「はあっ…はあっ…あははっ!キレーになったね!」

少女の周囲数十メートルが更地と化していた。

昼間「ぐ……な…なんという…魔力…!」

44ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:42:55 ID:TVi5vk5600

小学生「…あ……う……」

昼間「!」

召喚士のすぐ近くに小学生も飛ばされていた。

昼間(ギリギリ生きている…しかし早く治療しなければこのままでは危ない…だが彼女を放っておくわけにはいかない…魔法学校に応援を要請しなければ…)

少女「ぐうっ…!?」

昼間「!?」

少女は突然、頭を抱えて膝をついた。

少女「なに…これ…!?やめ…ろ…!だれだ!!わたしのあたまのなかから…でていけ!!きえろ!!」

昼間「何だ!?」

少女「あなたは私じゃない…傷つけないで…!ちがう!私は私!!ちがう!!ちがう!!ちがう!!」

昼間「何が起きてる…!?」

少女「ああああああああああああ!!!!」

少女は叫び。

叫んだ後、沈黙が訪れた。

そして。

少女「……ごめ…んな…さ…い…」

少女は一粒の涙を落として、そう告げる。

タッ…

そして高く跳び上がり、どこかへ去っていった。

召喚士は見ている事しかできなかった。

昼間「……そ、そうだ、少年を治療しなければ…!」

すぐに召喚士は小学生に魔法薬を飲ませる。

昼間「く…傷が深すぎる…この魔法薬だけでは治せないか…」

パチンッ!

小学生に触れたまま召喚士が指を鳴らすと、二人は消えた。

45ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:43:58 ID:TVi5vk5600





小学生「ん…」

小学生は目を覚ます。

小学生「…どこだ?ここ…俺なんでこんなとこに…」

そこは見知らぬ医務室のベッドの上だった。

がばっ!!

小学生「うお!?」

抱きついてきたのは小学生の母だった。

母「全くもう…心配させて…」

父「ははは!良いじゃないか!子供はこれくらい元気な方がいい!」

母「笑えないわよ!死にかけたのよ!?」

小学生「母ちゃん…父ちゃん…」

父「うん?何をぼーっとしてるんだ」

小学生「いや…ここどこ?」

昼間「ここは魔法学校です」

小学生「オ、オッサン!」

ゴンッ!

小学生「いだっ!」

父「命の恩人にオッサンはないだろ。老けて見えるがまだ二十代前半だそうだぞ」

ゴンッ!

父「あだっ!」

母「アンタも失礼よ…先生、本当にありがとうございます…!」

昼間「いえ、お気になさらず」

46ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:45:39 ID:TVi5vk5600

小学生「ど、どういうことだ…?状況がわかんねーよ…」

昼間「あれから一週間経ちました。君はずっと眠っていたんです」

小学生「あれから…?…そ、そうだ…アイツは!?アイツはどうなったんだ!?」

昼間「あの少女は…消えました」

小学生「消えた!?」

昼間「魔力暴走体質のレベルスリー…未確認の症状です。彼女の暴走した魔力は人間の限界を超えていました。私の手にも負えない程に…」

小学生「な…!」

昼間「そして、どこかへ姿を眩ましました。その時彼女は一瞬だけ自我を取り戻した様子でした。これ以上君を傷つけないためにあの場所を離れたのでしょう」

小学生「ど、どこに行ったのか分からないのか?魔法使いは魔力とかいうのを感じ取れるんだろ…?」

昼間「…それが…この空間を繋げる魔法書を使って彼女を探しているのですが、全く感知できないのです」

小学生「感知できないって…」

昼間「本来ならばあれほどの魔力、この魔法書を使えばすぐに見つけられる筈…しかし、魔力の痕跡すら見つからないのです。何が起きているのか、我々にもまだ分かっていません」

小学生「そんな…」

父「落ち込んでる場合か!」

小学生「え…」

母「ちょっとあんた、まだ目覚めたばっかりなのに…」

父「うるせい!お前が寝てる間に先生から詳しく聞かせてもらったぞ!お前は勇敢だが、弱い!よく分かったはずだ!」

小学生「…ああ…」

父「ならば強くなれ!自分の意志を貫くためには強くならねばならない!」

小学生「つ、強くなるったって…あんなヤバいヤツには…」

ゴンッ!

小学生「いでっ!」

父「ドアホウ!何をビビってるんだ!お前は勇者の血筋だ!それも、俺やジジイよりも色濃く血を継いでる!はっきり言って天才だ!」

小学生「分かってるよ!何回も聞かされてきた!でも、アレはそういうレベルじゃ…」

父「でもじゃないわ!お前はまだ何もしてないだろ!」

小学生「…!…まだ…そうだ…まだ俺は強くなるために何もしてない…」

父「ならばどうする?どうやって強くなる?ヒントは…その目で見たはずだ」

小学生「…ああ。分かった。ありがとう父ちゃん!!」

父「ふっ、さすが俺の息子だ」

ばっ!

小学生はベッドから降りて立ち上がる。

ヨロ…

母「わっ!大丈夫!?まだ寝てなきゃダメよ!」

小学生「大丈夫だよ母ちゃん。ありがとう」

そして小学生は真剣な顔で召喚士の方を見る。

小学生「オッサ…じゃなくて…召喚士さん!!」

昼間「はい」

小学生「俺を…この学校に入れてください!!」

小学生は深く頭を下げる。

昼間「…魔法は難しいですよ。ついて来れますか?」

小学生「意地でもついていく!!」

昼間「…!」

もうその眼差しに恐怖はない。

あの時召喚士が信じた、勇者の目だ。

昼間「…フッ…よろしい。認めましょう!」

小学生「ありがとうございます!!」

昼間「…と言っても私はただの新人なので、校長先生を呼んできますね」

ズコー!

盛大にずっこける似た者親子たちであった。

47ハイドンピー (ワッチョイ fefc-4942):2021/04/20(火) 19:49:41 ID:TVi5vk5600


それからいろいろな手続きを行い、来年度から魔法学校への転入が決まった。


昼間「表向きはこちらの学校に通ってもらいます。小中高一貫の私立学校です」

と、召喚士は資料を渡す。

小学生「へー…この学校、見たことあるな」

母「うちの近所に昔からある学校ね。どうしてこの学校に?」

昼間「ここは魔法学校へのゲートになっているのです。魔法学校の学生証を持って、北校舎の地下室に入ってください。そうすれば、魔法学校の正門に繋がります。毎回私が送り迎えするわけにもいきませんからね」

父「ほぉ〜!まるで映画みたいですなぁ!」

小学生「召喚士さんはなんでそれを通らなくてもいいんですか?」

昼間「召喚魔法ですよ。魔法学校内には私の召喚陣を張り巡らせているので、私自身を召喚すればいいわけです。まあこちらからあちらの世界に行く場合は基本魔法書を使いますがね」

小学生「ふーん…聞いてもよくわかんねーや」

昼間「でしょうね。まあしっかり授業を受ければすぐに分かるようになります」

母「どうか息子をよろしくお願いします…!」

父「みっちりしごいてやってくださいよ!はっはっはっは!」

昼間「お任せください。一人前…いや、それ以上の魔法使いにしてみせます」

小学生「よろしくお願いします!!」


小学生はこうして魔道に足を踏み入れる。


バッドエンドへ続く道の第一歩だ。

48ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:03:22 ID:eEyLx8kU00





同じ頃、隣国の小さな村では。

チュンッ!チュンッ!

ガガッ!!

ブラスターから放たれた二発のレーザー弾が、二つの的の中心を正確に射抜く。

???「ほう、物覚えがいいな。流石は彼奴の妹だ」

二人のフォックス族が、訓練場で訓練を行なっていた。

白いフォックスと、幼い紫フォックス。

???「ありがとうございますリカエリス中佐!」

リカエ「気を抜くなギルティース。第五ラウンドが始まるぞ」

ギル「はいっ!」

今度は天井に吊るされた三つの的が、猛スピードで動き始めた。

チュンッ!チュンッ!チュンッ!

ギル「ううー!当たんない!」

リカエ「呼吸を整えろ。冷静に動きを追い軌道を読むんだ」

ギル「は、はい!」

チュンッ!

ガガガッ!!!

ギル「えっ!?」

的が三枚重なったほんの一瞬、一発の弾がそれを全て射抜いた。

撃ったのはギルティースではない。

リカエ「ナザレンコ。お前、来ていたのか」

ナザ「ええ。まあ」

オレンジのジャケットを着た少年フォックスだ。

ギル「何よナザレンコ!邪魔しに来たの!?」

ナザ「え?いや、あんなゆっくり動く的、練習にならないだろ。ギル姐だって早く次のラウンドに行きたいだろ?」

ギル「はあ!?」

49ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:04:26 ID:eEyLx8kU00

リカエ「ナザレンコ。誰もがお前のようにすぐにこなせる訳ではない。成長するには段階を踏まなければならん」

ナザ「そうなんすか?」

ギル「ていうか何で私のやってるとこで撃つのよ!隣の部屋使いなさいよ!」

ナザ「だってガキどもが遊んでんだぜ、隣。あんな煩いとこじゃ集中できねえよ」

ギル「アンタもガキよ!」

ナザ「ギル姐もな」

リカエ「そうか。今日はドドンとポルスが来ているんだったな。誰が教えてるんだ?」

ナザ「アルバロ。アイツも別に大して上手くねえのに、偉そうに先生ぶってましたよ」

リカエ「アルバロか…彼奴も才能はあるんだがな…伝説のフォックスと呼ばれた長老の家系だからと甘やかされすぎて、自尊心が大きくなっている。我々大人にも責任はあるだろう」

ナザ「戦場じゃ家系がどうとか、何の役にも立ちゃしねえよ」

リカエ「ああ、その通りだ。まあ彼奴もいずれ気付くだろう。大事なのは自分自身だ」

ナザ「ギル姐も肝に銘じとくこったな。姉ちゃんの名前を継いだからって、アンタが強くなる訳じゃない」

ギル「分かってるわよ!だからこうして練習してるんでしょうが!邪魔しにきといて何言ってんのアンタ!…ていうかさっきから何なのその"ギル姐"って。私アンタの姉さんじゃないんだけど」

ギルティースはムッとした表情でナザレンコに詰め寄る。

ナザ「別に、歳上で先輩だから呼んでるだけだよ。ギルティースっつうとアンタの姉ちゃんの方が浮かんじまうし」

ギル「あっそ!ふん!勝手にすれば!」

ナザ「何なんだよ…」

リカエ「お喋りはそれくらいにしろ。さあ訓練の続きだ。第六ラウンドが始まる」

ギル「もー!アンタのせいでいきなりレベル上がったんだけど!」

ナザ「へーへー、すんまそん」

ギル「何よその態度ー!ムカつくー!」

リカエ「まあ落ち着けギルティース。まだ冷静になればお前ならクリアできるレベルだ」

ギル「は、はーい」

50ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:05:04 ID:eEyLx8kU00



それから数時間の訓練を終え、ギルティースたちは施設を後にした。

ナザ「普通のヤツってあんなもんなのか…勉強になったよ」

ギル「何よー!ちょっと才能あるからって見下して!」

リカエ「神童も二十歳を過ぎればただの人という言葉がある。ナザレンコ、お前もトレーニングを怠ればいずれギルティースや他の若いフォックスたちに抜かされるかもしれんぞ」

ナザ「大丈夫っすよ、俺は天才だし」

リカエ「それが駄目だと言っているんだが…」

ギル「ホントガキなんだから!絶対抜かしてやるわ!」

リカエ「その意気だギルティース。姉とは違って真面目だな。お前は必ず強くなるだろう」

ギル「ありがとうございます!姉さん、不真面目だったんですか?」

リカエ「彼奴もナザレンコと同じ天才タイプだったからな。だが俺は彼奴を超えるため必死に努力して、彼奴の成績を塗り替えた」

ギル「そっか…じゃあ私はもっと頑張らなきゃですね!今度は私が中佐を超えるくらいの気持ちで!」

リカエ「ああ。お前ならそれができると信じているよ」

ナザ「あーあ、やだやだ、そういう暑苦しいの苦手なんだよなぁ俺って」

ギル「あっそ!じゃあ私病院寄って帰るから、また明日!」

リカエ「ああ、気をつけてな」

ナザ「じゃあ俺もどっか寄り道して帰りますわ。さいなら中佐」

リカエ「またタワーか?お前も、親御さんにあまり心配かけるなよ」

ナザ「へーへー」

51ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/23(金) 21:06:43 ID:eEyLx8kU00



ギル「姉さん!」

姉「妹よ〜!よく来た!」

ギルティースは病室に入るや否や、ベッドの上の女フォックスに抱きつく。

ギルティースMk Ⅱの姉、初代ギルティースだ。

ギル「今日も疲れたぁ〜!」

姉「フフ、お疲れ様。リカエリスの稽古は厳しい?」

ギル「うん」

姉「でしょうね。アイツ真面目だから」

ギル「でも真面目に訓練を積んだから、姉さんよりも強くなったんでしょ?さっきその話をしてきたの。姉さんは不真面目だったって」

姉「う…リカエリスのヤツめ…まあそうね。アイツについていけば間違いなく私なんかより強くなれるわよ」

ギル「うん!…姉さんより強く…か…」

姉「自信ない?」

ギル「そうじゃないの。もちろん、絶対に超えてやる!って思ってるの。でも、果てしないなって…今のペースだといつまで掛かるんだろうって、考えちゃって…」

姉「そうねえ。でもアンタは私の妹だし、才能はあるはずよ。ちょっとしたきっかけで、一気に伸びるかもしれないわ」

ギル「きっかけかぁ…」

姉「例えば、任務で危機に瀕した時とかね。結局一番人を強くするのは実戦なのよ」

ギル「実戦…でも私まだ任務にはいけないわ。アーウィンの乗り方すら習ってないし…」

姉「何言ってるの。任務は宇宙だけじゃないのよ?」

ギル「え?」

姉「この星での任務もたくさんある。紛争地帯で人を助けたり、犯罪組織を潰したりね。そういうのは子供のフォックスたちの仕事。宇宙に出るのは若くてもせいぜい十五、六歳からよ」

ギル「そうなんだ…知らなかった」

姉「ああ、そう言えばアンタが物心つく頃にはもう私も宇宙に出てたんだっけ」

ギル「姉さんも小さい頃はそういう任務をしてたの?」

姉「そうよ。五つくらい組織を潰したかしら。懐かしいわね…」

ギル「五つも…!すごい!やっぱり姉さんって天才なのね!」

姉「フフ、ありがと。でも勿論一人の力じゃないわ。任務は基本仲間と二〜四人のチームを組んで挑むからね」

ギル「チームかぁ…」

姉「アンタが組むなら、ナザレンコくんとかかしら?気が合うみたいだって、この前リカエリスが言ってたわ」

ギル「冗談!あんなヤツ、全っ然合わないわよ!今日だって私の訓練を馬鹿にしに来たんだもん!」

姉「あら、そうなの?喧嘩するほど仲が良いってことかしら」

ギル「仲良くないー!」

姉「フフッ、好きでもない人にわざわざ絡みにくると思う?」

ギル「知らないわよ!ふん!そんなことより姉さんの仲間のことを聞かせてよ!」

姉「私の?」

ギル「だって姉さん、幻って呼ばれるようになった頃から、ほとんど一人で任務に行ってたじゃない。仲間の話なんて聞いたことないわよ」

姉「あー、確かに。そうね、それじゃあ一番最初にチームを組んだヤツのことから話していきましょうか」

ギル「やった!」

姉「フフッ、あれは私がアンタくらいの歳の頃…」

それからギルティースは目を輝かせながら姉の話に耳を傾けた。


病院を後にしたのは外が真っ暗になってからだった。

52ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:15:44 ID:w6mZig2w00




一ヶ月くらい後。


チュンッ!チュンッ!

ガガガガッ!!


ギル「……フゥー…」

リカエ「第五十ラウンド、クリアだ。おめでとうギルティース。これで全ラウンド制覇だ」

ギル「は、はいっ!ありがとうございます!」

ナザ「やっとか。ドドンとポルスも一週間前にはクリアしてたってのに」

ギル「アンタまた見に来てたの!?何なのよホントにもー!」

リカエ「気にするなギルティース。二ヶ月弱の訓練で制覇までいく奴はなかなかいない。お前も十分才能を持ってる」

ギル「そ、そうなんですか?」

リカエ「ああ。アルバロもお前より先にこの訓練に入ったが、まだ制覇していないしな。ちなみに俺は二年掛かった。正直驚いているよ。フォックス族の未来は明るいな」

ナザ「じゃあそろそろ任務行かせてもらえないっすか?」

リカエ「…確かに実力的には任務もこなせるレベルだろう。だが流石にまだお前たちには足りないものがある」

ギル「足りないもの?」

リカエ「実戦だ。明日からはこれまでとは違い現実に生きた相手と戦う訓練を行う」

ギル「じ、実戦…」

ごくりとギルティースは唾を飲む。

リカエ「大丈夫だ。お前ならやれる」

ナザ「俺もやるんすか?」

リカエ「ああ。嬉しいだろう?」

ナザ「いや…つうかやるならもっと早くすりゃ良かったじゃないですか。俺は二年前にはもうここの訓練は全部クリアしてたんだ。なんでギル姐にペース合わせてるんすか?」

ギル「確かに…」

リカエ「当然だろう。チームを組む者同士、足並みを揃えるのは」

ギル・ナザ「は!?」

リカエ「次の訓練に進まなかったのは、ナザレンコ、お前について来れる奴がいなかったからだ」

ギル「…っていうことは、次の訓練って…」

リカエ「ああ。チームで行ってもらう」

ナザ「いやいやいやおかしいでしょ。なんでギル姐とチームなんすか。ギル姐だってどうせ俺にはついて来れねえし…別に俺は一人でやれます」

リカエ「無理だ。どれ程の手練れでも一人でやるには限界がある。そういう場合を想定した訓練なのだ。初めから一人でできるようにはできていない」

ナザ「…そうすか。まいいや、足引っ張んなよギル姐」

ギル「ふん!こっちのセリフよ!」

53ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:18:17 ID:w6mZig2w00




翌日。

ギルティースたちはある山奥にやって来た。

ギル「こ、ここでやるんですか…?」

リカエ「ああ。ここは酸素が薄く、木や岩などの障害物も多い。訓練には持ってこいだ」

ナザ「どうでもいいけど…なんでコイツらまで来てるんすか?」

三人の後ろを、紫と緑のチビフォックスたちが追いかけていた。

リカエ「ドドンとポルスも訓練場での訓練は全てクリアしたからな。この二人は力量も同程度だ。チーム訓練に移ってもいいだろう」

ナザ「マジかよ…俺は二年もお預け食らったってのに…」

ドドン「よろしくな!」

ポルス「な!」

ナザ「よろしくねえよ。お前らにはまだ早え。帰れ」

ギル「ちょっとナザレンコ、こんな小さい子に悪態つくのやめなさいよ!みっともない!」

ナザ「フン、ギル姐に俺の気持ちは分かんねえだろうな」

ギル「分かるわけないでしょ!」

ポルス「なんかケンカしてるよ」

ドドン「俺たちが先にクリアしてやろう!」

ポルス「してやろう!」

リカエ「それでは訓練を始めるぞ」

ナザ「ん?こんなとこで何と戦うんだよ…」

ピッ、ピッ、ピッ…

リカエリスは携帯端末の画面を何度かタップする。

と。


ウィィン…


ギル「何!?」

リカエリスの前の地面がスライドし、縦穴が現れた。

ドドン「穴が空いたぞ!」

ポルス「空いたぞ!」

ナザ「なるほどな。この山は訓練用に改造してあるってわけか」

リカエ「ああ。お前たちには、此奴を倒してもらう」

54ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:20:04 ID:w6mZig2w00

ヌゥ…

ズシィン!

穴の中から、巨大な生物が現れた。

三つの目に六本の腕、長い尻尾を持っている。

ドドン・ポルス「でけえ!」

ギル「な、なんなのコイツ!?」

リカエ「昔フォックス族が宇宙で捕獲してきた宇宙生物だ。額の目と尻尾の付け根にあるコアが弱点だ」

ナザ「コイツを倒しゃいいんすね?」

リカエ「その通り。制限時間は三分。ナザレンコ、ギルティースのチームから始めよう」

ナザ「こんなもん、俺一人で余裕だぜ」

ギル「ちょっとナザレンコ!勝手に突っ走らないでよね!」

ナザレンコとギルティースが前に出て、宇宙生物に近づく。

他の三人はそこから少し距離を取る。

リカエ「準備はいいな」

ギル「はい!」

ナザ「うす」

ピッ

リカエリスが再び端末を操作すると、

ガシャンッ!

宇宙生物に付けられていた首輪が外された。

リカエ「スタートだ」


チュンッ!チュンッ!


ナザレンコはスタートと同時に額の目をブラスターで撃つ。

ナザ「…チッ、効いてねえか」

リカエ「あのコアはエネルギー吸収器官を兼ねる。ブラスターなど奴にとっては格好の餌だ」

ギル「体術で壊すしかないってわけ…」


ズドンッ!!


その瞬間、二人に二本の腕が振り下ろされた。

ギル「ちょっと!危ないわねもう!」

ギルティースはギリギリで回避する。


ダダダダダダ…!


ナザレンコはその腕に飛び乗り、駆け上がっていく。

ギル「うそっ…」

そしてそのまま背中を通り、頭上まで移動。

ナザ「まずは目だ」


ドガッ!!


額の目に渾身の蹴りを打ち込んだ。

眼球が破壊され体液が飛び散る。

ドドン「おー!やったぞ!」

ポルス「やったぞ!」

リカエ「だが二つのコアを破壊しなければ奴は死なん」

55ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:21:39 ID:w6mZig2w00


スタッ!


ナザレンコは宇宙生物の頭から降りると、


ダダダダダダッ!


一気に尻尾のコアへと距離を詰めた。

ナザ「これで終わりだ」


バゴッ!!


再び蹴りを叩き込み、尻尾のコアを粉砕した。

ギル「えっ…?」


バガァン!!


ナザ「ぐっ…!?」

ナザレンコは宇宙生物の尻尾で弾き飛ばされ、木に激突した。

ギル「コ、コアを壊したのに、どうして生きて…」

ナザ「…チッ、治ってやがる…」

見ると、額の目が復活していた。

そして尻尾のコアも、次の瞬間には再生された。

ギル「再生能力…!これじゃ片方ずつ壊しても間に合わないわ!」

ナザ「そういう事か…」

リカエ「気付いたようだな。チーム二人が完全に息を合わせなければ、奴を仕留める事はできないのだ」

ドドン「なるほど!」

ポルス「なるほど!」

ギル「だったら、私は目を狙うわ!ナザレンコ、そっちは頼むわよ!」

ナザ「大丈夫かよ」

ダッ!

二人は同時に駆け出す。


ドゴッ!!


ズドォッ!!


宇宙生物は巨大な腕を何度も振り下ろし、周りの木や地面を破壊していく。

二人はそれをするりするりとかわし。

ギル「よし!いける!」

ダンッ!

ギルティースは宇宙生物の頭上へ跳び上がる。

ギル「はあっ!」


ドゴォッ!!


跳び蹴りが宇宙生物の顔面を直撃。

56ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:23:10 ID:w6mZig2w00

ギル「あれっ!?」

しかし弱点である目には当たっていなかった。


ズドンッ!!


ナザレンコはコアに近付くため、邪魔な胴体を下から蹴り上げていた。

ギル「アンタのせいか!!」

ナザ「は?」

ギル「アンタの攻撃のせいで私の狙いがズレたのよ!もう!」

ナザ「知るかよ。大体同時に破壊しなきゃ意味ねえんだ。一人で勝手に突っ走んなよ」

ギル「アンタさっきはすぐコアのとこいけてたじゃない!」

ナザ「そりゃ二度目は警戒してくるだろ。それくらい考えて分かんねえのか?」

ギル「こ、こんなデカいやつと戦うのなんて初めてなんだもん!」

ナザ「俺だって初めてだよ」

ギル「きー!むかつくー!」

ポルス「ありゃ?またケンカしてるよあの二人…」

ドドン「アホだな」

ポルス「だな」

リカエ「はぁ…」


そのまま二人は息が合わず。

リカエ「そこまで!」

ギル「えっ!」

ナザ「は!?」

リカエ「三分経過した。ドドンとポルスに交代だ」

ドドン「よーし、いくぞポルス!」

ポルス「よーし、いくぞドドン!」



それからドドンとポルスの二人は、開始から一分足らずで宇宙生物を倒した。

ギル「嘘…」

ナザ「クソ…ギル姐のせいだぞ」

ギル「はあ!?アンタのせいでしょ!?あんだけ私のこと下に見てたんだから、私に合わせなさいよ!それぐらいできるんじゃないの!?」

ナザ「なんで俺が下のレベルに合わせなきゃいけねえんだよ」

ギル「な、なんですって!?」

リカエ「その辺にしておけ。ドドン、ポルス、よくやったな」

ドドン・ポルス「おす!」

57ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:25:38 ID:w6mZig2w00

リカエ「ギルティース、ナザレンコ、そう焦る必要はない。この訓練も俺は三年掛かった」

ナザ「中佐がどれくらい掛かったとか関係ねえんすよ。俺はとっとと任務に出たいんだ」

ギル「何言ってんのナザレンコ!失礼よ!」

リカエ「ナザレンコは才能を持って生まれた者として、ギルティースはその名を継いだ者として。焦る気持ちは分かる。だがそのせいで、お前たちは自分の事しか見えていない」

ギル「自分の事しか……そうかも…」

ナザ「…チッ…」

リカエ「ドドンとポルスはこのまま第二ラウンドに移る。ギルティースとナザレンコはもう一度だ」

ギル「え?でも今のでかいの、倒しちゃったんじゃ…」

ドドンとポルスによって二つのコアを破壊された宇宙生物は、もうピクリとも動いていない。

リカエ「地下に巨大な飼育施設があるのだ。あと十体はストックがいる。問題ない」

そう言ってリカエリスはまた端末を操作し、地下から宇宙生物を召喚した。

リカエ「ドドン、ポルス、お前たちはこっちだ」

ドドン・ポルス「おす!」

リカエリスはチビ二人を連れて、さらに深い山奥へと進んでいった。


ギル「ナザレンコ、さっきはごめんね。中佐の言う通りだわ。全部アンタのせいにして…」

ナザ「…そうだよ。悪いのはギル姐だ。だから言ったんだよ、ついて来れねえって」

ギル「なっ…!」

ナザ「もういいわめんどくせえ」

ナザレンコは村の方へと歩いていく。

ギル「ちょ、ちょっと!どこ行くのよ!」

すると少し離れたところで立ち止まり、宇宙生物の方を振り返る。

ナザ「俺一人でやる。最初からそう言ってるだろ」

ギル「いや、それができないからチームでやるんじゃない!」

ナザ「いいから、黙って見てろよ」


ダダダダダダダダッ!


ナザレンコは猛スピードで走り出す。

一瞬で宇宙生物の前まで来ると、


ダンッ!!


高く跳び上がり頭上へ。

宇宙生物は全く反応出来ず、攻撃も防御も回避も間に合わない。

ナザ「ファイヤーッ!!」


ボォッ!!!!


ギル「……嘘…」

ナザレンコの放った炎の体当たりは、宇宙生物の額から尻尾まで一気に貫通した。

スタッ…

ナザ「こうすりゃ同時に破壊できる」

ドシャァン…

宇宙生物は力なく地に伏した。

ギル「こ…こうすりゃって、簡単に言わないでよ…私まだファイアフォックスもできないのに…」

58ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:27:33 ID:w6mZig2w00


タタタタ…

そこへリカエリスが戻ってきた。

リカエ「これは…ナザレンコ、お前がやったのか…!?」

ナザ「はい。文句ないっすよね。倒せればいいんでしょ?」

リカエ「…ううむ…予想以上に規格外だな…体は大丈夫なのか?」

ナザ「何がですか?」

リカエ「ファイアフォックスは出力を誤れば自身も大きなダメージを負う危険な技だ。かつて"13人目の天才"と呼ばれた男は、自分の火力によって燃え尽きて死んだという。無論それほどの火力を出せる者などほとんどいないが…」

ナザ「俺は特に問題ないっすよ」

リカエ「そうか…それならいいが…」

ナザ「俺も第二ラウンドに進ませてもらえますよね?」

リカエ「駄目だ」

ナザ「は?」

リカエ「この訓練の本質を理解できなければ、お前はいずれ命を落とすだろう」

ナザ「仲間と協力しろっていうんでしょう?俺には必要ない。だからやってみせたんじゃないですか。何が不満なんすか?」

リカエ「たとえお前がどれほど強くとも、一人で乗り越えられない場面は必ず来る。必ずだ」

ギル「そうよ…幻と呼ばれた姉さんだってそれで…」

ナザ「俺はそんなヘマしねえよ」

リカエ「…それが分からないうちはお前に任務を任せる事はできんな」

ナザ「ふざけんな!俺は…」

ギル「ふざけんなはコッチのセリフよ!!」

ガッ!!

ギルティースはナザレンコの胸ぐらを掴んで怒鳴る。

ナザ「あ?何キレてんだ?お前俺に勝てんのかよ」

ギル「いい加減にしなさいよ!いつまでそうやって孤高気取ってんの!?アンタこの訓練に失敗してんのよ!?私たちなんかよりチビたち二人の方が何倍も才能あるわよ!!」

ナザ「ンなわけねえだろ。俺は一人でソイツ倒したんだぜ?」

ギル「倒したのは二人も同じよ!アンタドドンとポルス二人相手に勝てるつもり!?」

ナザ「勝てるだろ。あんなガキども…」

ギル「そうよ、今はガキ!でも自分と同じくらい大きくなったドドンとポルスに勝てるの!?無理よ!!一人と二人じゃ全然違うの!そして二人が連携できるのとできないのとでも全然違うの!!そんな事も分からないの!?」

ナザ「一人でやった方が効率がいい。同じ任務に向かわせるのに少ない人材で済むならその方がいいんじゃねえのか?」

ギル「あぁーもう分かんないわね!!アンタってやっぱり馬鹿なのね!!」

リカエ「落ち着けギルティース。ナザレンコの言う事も一理ある。個々の実力は大事だ」

ナザ「だったら…」

リカエ「だがギルティースの言っている事が本当に理解できないのなら、お前はもうフォックスとして宇宙に出るのは諦めろ。村で職に就いて平和に暮らすのも悪くないだろう」

ナザ「な…!」

ギル「ちゅ、中佐、それはさすがに…!」

59ハイドンピー (ワッチョイ 372b-717e):2021/04/26(月) 20:28:33 ID:w6mZig2w00

そこへ。

ドドン「中佐!第二ラウンド終わったぞ!」

ポルス「終わったぞ!」

山の奥からドドンとポルスが楽しそうに歩いてきた。

服はボロボロだが、大した傷は見当たらない。

リカエ「ほう、あれを一発クリアか。流石だなお前たち」

ドドン・ポルス「楽勝!」

二人は腕を組んでドヤ顔で言う。

ギル「すごい…」

ナザ「……!」

リカエ「どうするナザレンコ。このままでは差を付けられる一方だぞ?」

ドドン「あれ?二人はクリアじゃないのか?」

ポルス「クリアじゃないのか?」

宇宙生物の死体を見て、不思議そうに首を傾げるドドンたち。

ギル「大丈夫よナザレンコ。ちゃんと協力すれば私たちだって…」

ナザ「うるせえっ!!」

ギル「!!」

ダッ!!

ナザレンコは走り去っていった。

ギル「…ナザレンコ…」

リカエ「彼奴もアルバロと同じだ。才能を持て囃されて生きてきた。後から来た者に自分が抜かされるのが許せないのだろう」

ギル「あ、あんな顔したナザレンコ…初めて見た…」

リカエ「こうでもしなければ彼奴の頭を冷やす事はできん。これで折れるならばそれまでだ」

ギル「でも…」

リカエ「ギルティース、お前はどうしたい?」

ギル「え?」

リカエ「ナザレンコを待つか、他の訓練生と組むかだ。一人ではこの訓練は受けられないぞ」

ギル「そ、それは…」

ギルティースは黙り込む。

そして訓練中にナザレンコと話した事を思い出していた。

60ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:06:41 ID:ZNs/fPgc00




チュンッ!

ナザ「ギル姐、こんな毎日毎日同じ訓練してて飽きねえか?」

チュンッ!

ギル「飽きるとか飽きないとかじゃないでしょ。これが出来なきゃ姉さんを超えるなんて絶対無理なんだから」

ギルティースはブラスターを撃ちながら答える。

ナザ「そもそもアンタがやる意味あんのか?」

ギル「はあ?」

ナザ「だってよ、俺もガキどももギル姐より小さい時から訓練してんだぜ。ギル姐がこれまで訓練してこなかったのはなんでだ?元々戦うつもりなんかなかったんだろ?他に何か夢があったりするんじゃねえのか?」

ギル「か、関係ないでしょアンタには!」

ナザ「ふーん、てことはあるんだな?何だ?」

ギル「だから関係ないでしょってば!」

ナザ「まあ何でもいいが。…その夢を諦めてまでやる事か?」

ギル「いいのよ!私は姉さんを尊敬してるの!その姉さんに託されたんだもん!」

ナザ「姉ちゃんに託されたからって自分の夢諦めるのかよ?人生は一度きりなんだ。やりたい事やらなきゃ損だぜ?」

ギル「何よ偉そうに!人生語れる歳か!」

ナザ「俺の家族はアンタと違って普通なんだ。父ちゃんはヒラフォックス、母ちゃんは主婦。それでもいつもウゼェくらいに楽しそうにしてる。自分のやりたいようにしてきたからだっつってた」

ギル「…珍しいわね、アンタがそんな事語るの」

ナザ「ムカつくんだよ。ギル姐みたいに不自由な奴を見るとな」

ギル「ふん!アンタが自由過ぎんのよ」

ナザ「自由なのは悪い事か?」

ギル「他人に迷惑かけなきゃ良いんじゃない?」

チュンッ!

ギルティースの撃った弾は的を大きく外れた。

ギル「…現に今迷惑してるわけだけど」

ナザ「それは下手なだけだろ」

ギル「とにかく!邪魔するなら帰って!」

ナザ「…腰引きすぎ。尻尾立てすぎ。目ぇしっかり開けろ。狙い定まってねえのにトリガー引くな」

ギル「は!?」

突然の具体的なダメ出しにギルティースは驚いて振り向く。

ナザ「なんだよ、アドバイスしてやってんだ。これも邪魔か?」

ギル「何よいきなり…別に邪魔じゃないけど…」

ナザ「じゃあ今すぐ直せ。全然なってねえ。中佐はこんな初歩的な事も教えてねえのか」

ギル「お、教わったわよ!…できてなかった?」

ナザ「ああ、ダメダメだ。あのギルティースの妹だからって甘やかしてんのかね」

ギル「そんな事ないと思うけど…ていうか何なのよ、悪い物でも食べた?」

ナザ「別に。戦場にアンタみたいな鈍臭いのがいたら邪魔だと思っただけだ。まあそんなんじゃ任務なんて到底任されないだろうけど」

ギル「何よー!」

ナザ「ほらまた集中が切れてる」

ギル「アンタが話し掛けるからでしょーがっ!!」

ナザ「そんな言い訳戦場じゃ通用しねえぞ。俺たちには目の前で味方が墜とされても冷静でいられるメンタルも必要…」

ギル「うるさーい!!」

61ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:07:42 ID:ZNs/fPgc00




ダッ!!!

回想を終え、ギルティースは駆け出した。

リカエ「どこへいく、ギルティース!」

ギル「ナザレンコを連れ戻します!」

振り返らずにそう答える。

そのままギルティースはナザレンコを追った。

リカエ「…それでいい。お前たちは既にお互いを信頼している。あとはそれを自覚できるかどうかだ」

ドドン「大丈夫なのか?」

ポルス「なのか?」

リカエ「心配するな。彼奴らはこんな所で終わるタマじゃない。さあ、続きを始めよう」



ギル「ナザレンコ…いない…どんだけ速いのアイツ…」

ギルティースは全速力で追うが、ナザレンコの背中すら見えない。

ギル「アイツの行きそうな場所……訓練場…?いや…」



十数分後。

カン、カン、カン…

ギルティースは梯子を登る。

ギル「あ!」

ナザ「!」

ナザレンコが驚いた顔で振り向く。

村の東にあるタワーの頂上。

かつて実在したという、九尾を持つ妖狐の銅像の尾の一つに、ナザレンコは座っていた。

62ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:09:12 ID:ZNs/fPgc00

ギル「やっぱりここにいたのね」

ナザ「……」

ナザレンコは話したくないとばかりに、再び村の景色へと向き直す。

ギル「アンタ、いつも訓練の後はここに来てるんでしょ?前に中佐から聞いたわ」

ナザ「……」

タッ…

ギルティースも妖狐の尻尾に跳び乗り。

ギル「わぁっ…凄いわね…ここの景色。村の端から端まで見えるわ。知らなかった。危ないから登っちゃダメ!って、ずっと言われてたもん」

ナザ「…何しに来たんだよ」

ギル「話しに」

ナザ「は?」

ギル「アンタ言ってたわよね。不自由な奴はムカつくって」

ナザ「…ああ」

ギル「その気持ちがちょっと分かったわ。すごく不自由そうにしてる今のアンタを見てたらね」

ナザ「何?」

ギル「任務に行きたくても行けない。早く次の訓練に進みたいのに進めない。アンタが一番分かってるはずよ」

ナザ「……」

ギル「だけど逃げたって何にも変わらないわ。自由を手に入れるには行動するしかない。そうでしょ?」

ナザ「……だがありゃ無理だろ」

ギル「無理?」

ナザ「チームプレイなんざ俺にはできねえ。俺について来れる奴なんかいねえ。そんなもん分かってんだよ…」

ギル「またそうやって勝手に決めつける…アンタね、才能あるからっていい気になんじゃないわよ。どうせ自分一人で全部解決すりゃ他の奴らは戦わなくて済むとか思ってんでしょ?」

ナザ「…は…?」

ナザレンコは虚をつかれた表情でゆっくりとギルティースの方を見た。

ギル「アンタほんっとバカね。一人で何でもできるほどこの世界は甘くないのよ。私だってまだ子供だけど、それくらい分かる。適材適所ってもんがあんの」

ナザ「ちょっと待て!俺がいつそんな事言った!?違う!俺はただ戦いてえだけだ!」

ギル「プッ!何よそれ!アンタいつも私たちのこと気に掛けてるじゃない。私にアドバイスしてくれた事覚えてる?あんなのちゃんと見てなきゃ分かんないわよ」

ナザ「いや、あれは誰でも一目で分かるぐらい酷い構えだったぞ」

ギル「うっさい!とにかくアンタがいくらクールぶってても、みんなをすごく大切に思ってるのはバレバレってわけ!いつもここに来るのだって、こうやって村を見渡して、自分の守りたいものを確認するためなんでしょ?」

ナザ「!!」

63ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:10:10 ID:ZNs/fPgc00

ギル「ふふん、お姉さんにはお見通しなのよ!そして私も同じ。私もみんなを助けたい!アンタほど自信過剰じゃないけど、私の手で救える人が少しでもいるのなら、力になりたいの!」

ナザ「…チッ…分かった気になってんじゃ…」


ギル「だったら!!教えなさいよっ!!」


ナザ「っ!!」

ギル「一人で背負い込むのなんて偉くもなんともないわ!自分の事もっと話しなさい!たまに語ったと思ったら自分じゃなくて周りの話ばっかり!私はアンタ自身のことが知りたいの!」

ナザ「だから、言ってんだろ…!俺は戦いてえだけだ!」

ギル「んなわけないでしょ!!アンタの目ぇ見りゃ分かるわよ!!戦いなんて無くなってほしいって目よ!!」

ナザ「適当な事言ってんじゃねえ!!他の奴らが何してようが興味ねえんだよ!!」

ギル「だったら何でこんなとこに来るの!?何で毎日毎日訓練場に来るの!?何で私にアドバイスするの!?何で私に夢を訊いたの!?いつもいつも周りのことばっかりじゃない!!ねえ!!答えなさいよナザレンコ!!」

ナザ「く…!俺は…!」

ナザレンコは言葉に詰まる。

ギル「…私はみんなを助けたい…みんなには、アンタも含まれてんのよ…ナザレンコ」

その目には薄らと涙が滲んでいた。

ナザ「……!」

ギル「ちょっとくらい頼んなさいよ…寂しいじゃない…」

ギルティースは感情を出し尽くして、大粒の涙を流した。

ナザ「…………」

ナザレンコは何も言えなかった。

ギル「……返事は!?」

ナザ「は、はいっ!!よろしくお願いします!!」

勢いに流されてナザレンコはようやく素直になった。

ギル「よろしい!」

ナザ「…はあ…ったく…強引な姐御だぜ…」

ギル「なんか言った!?」

ナザレンコはクスリと笑い。

ナザ「いいや!!さて、そうと決まりゃ戻るぜ!!」

ガシッ

ナザレンコはギルティースの手を握り。

ゴゴゴゴゴ…

体に炎を纏う。

ギル「え、ちょっと何する気?嘘でしょ?ねえ、普通に梯子から降りよ?」


ナザ「ファイヤーッ!!」

64ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:10:57 ID:ZNs/fPgc00




ドドン「よっしゃー!!倒したぞ!!」

ポルス「倒したぞ!!」

ドドンとポルスの前には、たくさんトゲの生えたヤバそうな生物が横たわっている。

リカエ「第三ラウンドクリアだ。本当に凄いな…この若さで…」

ドドン・ポルス「はっはっはー!」

そこへ。

ザッ…

ギル「リカエリス中佐!」

リカエ「ギルティース、ナザレンコ。戻ったか」

ナザ「もう一回、お願いします!!」

ナザレンコが勢いよく頭を下げた。

ギル「お願いします!!」

続いてギルティースも頭を下げた。

リカエ「…フ…ああ。良いだろう」


それから二人は先程の失敗が嘘のように順調に訓練をこなしていった。

65ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:11:44 ID:ZNs/fPgc00





およそ四ヶ月後。

リカエ「おめでとう、ギルティース、ナザレンコ。これでここの訓練は全てクリアだ」

ギル「や、やった!ついにやったわね!ナザレンコっ!」

ギルティースはナザレンコの手を握り、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。

ナザ「はしゃぎすぎだっつーの…そんな大した難易度じゃなかったろ」

ギル「な、何よー!そりゃアンタは余裕だったでしょうよ!足引っ張りまくって申し訳ないわよ!まったくもう!」

ナザ「申し訳なさそうには見えねえな…」

ドドン「くそー!先を越された!」

ポルス「越された!」

ドドン「俺たちも早くクリアするぞ!ポルス!」

ポルス「うん!ドドン!」

リカエ「焦るな二人とも。お前たちがいくら才能があるとはいえ、まだ最終ラウンドに挑戦するのは早い」

ドドン「えー!ずるいぞ!」

ポルス「ずるいぞ!」

ナザ「だから言ったろ最初に。お前らにゃまだ早えってよ」

ギル「むしろ途中までほとんど私らより早くクリアしてたの、末恐ろしいわね…」

ナザ「へっ、誰かさんのせいでな」

ギル「ぬぁんですってー!!」

ナザ「ギル姐のこととは言ってねえぞ?」

ギル「じゃあ誰よ!!」

ナザ「はははっ、さあな」

ギル「むかーー!!」

リカエ「うむ、良い雰囲気だ。この訓練でお前たちの信頼関係もより深くなった。チームワークも完璧と言っていい。これなら入隊試験に推薦できそうだ」

ナザ「何!?」

ギル「ってことは、その試験を通れば…!」

リカエ「ああ。お前たちに任務を任せられるようになるだろう」

ナザ「っしゃ!」

ギル「ありがとうございます中佐!やった…これで姉さんにも、少しだけ近づける…!」

リカエ「気が早いな。試験はそう甘くないぞ。…とは言ってもお前たちならば問題なくクリアできるだろうがな」

ナザ「当然っすよ」

ギル「絶対に合格してみせます!見ていてください中佐!」

リカエ「ああ、期待しているよ」

66ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/04/28(水) 21:14:06 ID:ZNs/fPgc00



それから解散し、ギルティースはすぐに病院へと向かった。

ギル「姉さん!!」

姉「あら、今日は早かったわね」

ギル「チーム訓練、全部クリアしたのよ!」

姉「本当!?おめでとう!すごいわ!さすが私の妹!」

ギルティースの姉は満面の笑みで褒め称え、腕を広げた。

ギル「ありがとう姉さんっ!うふふ…」

そこへギルティースが抱きつく。

姉は抱きついたギルティースの頭を撫でる。

ギル「それで、ついに入隊試験を受けさせてもらえることになったの…!」

姉「お、やったわね!精一杯頑張んなさい!」

ギル「うん!私絶対合格する!姉さんに追いつくために!」

姉「ええ。アンタならきっと、立派なフォックスになれるわ。宇宙の平和は、貴方たちが背負っていくのよ」

ギル「うん…!」

ギルティースは、自分を抱く両腕から力が抜けていくのを感じた。

姉「いい?私たちにとって一番大切なことは…」

ギル「仲間を信じること!でしょ?」

姉「ふふっ、ちゃんと分かってるわね。そう。大変な時は仲間に頼るの。そして仲間が大変そうな時は、貴方が助けてあげるのよ」

ギル「うん!分かってる!」

姉「……一つ聞いてもいい?」

ギル「何?」

姉「後悔…してない…?」

ギル「え…」

姉「貴方が小さい頃…私みたいなフォックスになりたいって、言ってくれたでしょ?すごく嬉しかった…でも、その後他にも夢ができた…お菓子屋さんになりたいって…」

ギル「な、何で知ってるの!?姉さんには言ってないのに…」

姉「ふふ…前に…母さんに聞いたのよ…ごめんね…もし…私の名前を託された事を…後悔してるなら…」

ギル「してないよ!」

姉「……!」

ギルティースは笑顔で言う。

ギル「私、目標はずっと変わらないもん!他にどんな夢ができても、一番の憧れは姉さんだもん!」

姉「…嬉しい…」

ギル「姉さん、私頑張るからね…!!絶対なる…姉さんよりすごいフォックスに…!!」

姉「ええ…楽しみに…してる…」

ギル「だから…ね?ちゃんと見ててね…?姉さん…!」

姉「ふふ……頑張れ……幻のギルティース…マーク……ツー…………」

ギル「…うん…!」

ギルティースは零れそうになる涙を堪え、最後まで笑顔で答えた。

ピーーーー…

心電図が直線を映す。


リカエ(…さらば、戦友よ)

病室の外まで来ていたリカエリスは、静かに天を仰いだ。

67はいどうも名無しです (ワッチョイ b3aa-02aa):2021/05/02(日) 22:23:48 ID:mEerrwIU00
見てるよ

68ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 07:52:55 ID:l5TCJNfk00





宇宙のどこか。

一隻の宇宙船が飛行していた。

㍍「この宇宙での暮らしには慣れましたか?アメリーナ」

アメリ「え?突然どしたのアルザークさん」

宇宙船に乗っていたのは、パワードスーツを脱ぎラフな格好をしたサムス族たち。

㍍「貴女が来てから半年…いくつかの星を訪れましたわね」

アメリ「うん!すっごい楽しかった!」

㍍「魔界から来た、なんて言い出したときは驚いたものですわ。もし貴女が悪い魔族だったら、私は貴女を討伐することになっていたかもしれませんわね」

アメリ「えへへ、そうだね。でも意外と良い人もいるんだよ?奈落さんとか、アルベルトとかは結構優しかったし」

㍍「魔界の仲間ですの?」

アメリ「うん!他にも……いや、やっぱりあんまり良い人はいなかったかも」

㍍「どっちですの!?」

アメリ「あ、あははー、まあ中には良い人もいるってことだよ!」

㍍「そうですのね…いつか私もご挨拶したいものですわ」

アメリ「きっとそのうち会えるんじゃないかなぁ。近いうちに地上に妖魔が攻めるって言ってたし」

㍍「例の魔族の王ですわね。しかしそうなると、戦わなくてはいけませんわね…」

アメリ「そうだね。まあ大丈夫だよたぶん!なんやかんや、上手くいくって!」

㍍「適当ですわね…」

アメリ「えへへ、割と今まで適当でなんとかなってきたし。アルザークさんにも出会えたしね!」

㍍「魔力を失っても、貴女は変わりませんわね。生来、そういう性分なのでしょうね」

アメリ「うん!ていうか、アルザークさんが優しいからだよ、私がこんなに楽しいの!あの時アルザークさんに会えなかったら私どうなってたか分かんないもん!」

㍍「たまたま私が故郷に帰った日に、たまたま貴女が魔界から現れた。まさしく運命の出会い、ですわね。フフ」

アメリ「運命の出会いか〜!えへへ!これからもよろしくね!」

㍍「ええ。ですがいつまでも貴女の面倒を私が見るわけにはいきませんわ」

アメリ「え…?なんで?」

㍍「なんでって…貴女もいい歳ですし、そろそろ独り立ちを…」

アメリ「アルザークさんは楽しくなかったの?」

㍍「勿論楽しかったですわ。ずっと一人で旅をしてきましたから、二人旅というのは新鮮でした」

アメリ「じゃあいいじゃん!これからも二人で旅しようよ!」

㍍「しかし初めから言っていたはずですわ。この船に乗せるのは貴女が独り立ちできるまでだと。この宇宙で生きていく術はもう全て教えましたし、資金も充分に集まっていますわよね」

アメリ「むぅ…楽しい方が絶対いいのに。アルザークさんは私がいない方が嬉しいんだ」

アメリーナは口を尖らせていじけたように言う。

㍍「そ、そうは言っていませんわ!」

アメリ「それじゃいいよね!アルザークさん大好き!」

アメリーナはアルザークに抱きつく。

㍍(くっ…!可愛い…!なんと純粋な笑顔…!)

アメリ「あ!ほら!そろそろ次の星に着くよアルザークさん!楽しみだなー!」

㍍「ちょ、ちょっとアメリーナ!話は終わっていませんわよ!」

アメリ「何言ってるの!私はこの船降りる気ないよ!アルザークさんってば、ほんとわがままなんだから!」

㍍「す、すみません…」

アメリ「ふふん!分かればよろしい!」

㍍(ま、まずいですわ…このままではアメリーナはダメ人間になってしまいますわ…!しかし…この可愛さに逆らえない…!!)

69ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 07:55:03 ID:l5TCJNfk00




十数分後。

二人は目的地の星に着陸した。

多くの白い建造物が立ち並び、町は人々で溢れかえっている。

アメリ「わあっ!すごい!今まで行った星で一番人が多いかも!」

㍍「そうですわね。ここはこの星系で最も繁栄している星ですから」

アメリ「へえー!」

㍍「へぇって貴女、やっぱり昨日の私の話を聞いていなかったのですわね…」

アメリ「え!?い、いやぁ、キイテタヨ…」

㍍「…はぁ…私たちがこれから向かうエネルギープラント、そこに危険な生物が住み着き、エネルギーの供給を断っています。その討伐が今回のミッションですわ」

アメリ「わ、分かってるよ勿論!大丈夫!アルザークさんってば心配性なんだから〜!」

㍍「早く行きますわよ」

アメリ「わっ!待ってよー!」

二人は宇宙船から降り、町の中心部へと進んでいく。

70ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 08:01:14 ID:l5TCJNfk00



アメリ「ここがエネルギープラント?」

そこには窓一つない真っ黒なドームがあった。

人口密集地の中心にありながら、その周囲には誰一人いない。

そして一つしかない扉は、無残にも破壊されていた。

㍍「そうですわ。地下に流れる龍脈がこの星のエネルギー源。ここはその龍脈が多く集まる龍穴になっているようですわね」

アメリ「そうなんだ。じゃあ早く退治しないと」

㍍「しかし…」

アメリ「どうしたの?」

㍍「この中に生体反応はありませんわ…既にもぬけの殻…」

アメリ「ええ!?逃げられたってこと!?」

㍍「あるいは、既にどなたかが討伐したか…何にせよこれでは、私たちに出来ることはもうありませんわ」

アメリ「そんなぁ…前の星からこの星まで一週間かかったのにぃ…」

㍍「一週間もあれば先を越されても仕方ありませんわね。少々のんびりしすぎました。宇宙で働くバウンティハンターは私たちの他にも星の数ほどいますから」

アメリ「むぅぅ…ま、いっか!後悔してもしょうがないし、この星を楽しもう!」

㍍「そうですわね。ですがその前に念のため確認しておきましょう」

アルザークは壊れた扉からプラント内を覗き込む。

その中心には大きな穴が開いており、青にも赤にも見える不思議な光が噴き出していた。

その光が上部に設置されたエネルギー変換装置によって吸収され、街へと供給されるというシステムになっているようだ。

㍍「これが龍穴…凄まじいエネルギー反応ですわ」

そのすぐ近くに、黒い反応があった。

㍍「!!」

そこには十メートル程の巨大な生物の死骸があった。

アメリ「どう?なんかあった?」

㍍「ええ。これが龍脈のエネルギーを喰らっていた生物ですわね」

アメリ「わっ!でかっ!」

㍍「この銃痕と、焦げ付いた打撃の跡…恐らくフォックス族の仕業ですわね…」

アメリ「フォックス族?」

71ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 08:03:15 ID:l5TCJNfk00

㍍「私たちと同じ宇宙を股にかける種族ですわ。魔界にはいませんの?」

アメリ「うん。たぶん会ったことないなぁ。こんな大きいの倒すなんて、随分強いんだね」

㍍「ええ。しかしこの辺りで活動していたフォックスは、今は故郷で後進を育てていると聞きます。一体誰が…」

バッ!!

アルザークは急に振り返り、右腕のアームキャノンを構えた。

アメリ「わっ!?な、何!?」

㍍「誰ですの!?そこで見ているのは!」

すると、建物の影から初老の男性が出てきた。

偉い人「これは失敬。私はこの街の偉い人です」

㍍「…!失礼いたしましたわ。ミッションの依頼者の方ですの?」

アルザークは右腕を下ろす。

偉い人「はい。エネルギープラントの巨大生物が倒されたというので見に来たのですが、もしかしてあなた方が退治してくださったのですか?」

㍍「いえ、私たちが着いた時には既に終わっていましたわ」

偉い人「そうですか…報酬も貰わずにいなくなってしまうとは…」

㍍「監視カメラの記録を見せていただく事はできますか?この生物を討伐した方は、私の知り合いのフォックスかもしれませんわ」

偉い人「おお!そうですか!是非確認していただきたい!この街を救ってくださった恩人に何のお礼もできないなど、偉い人として失格ですからな!」



それから二人は偉い人に連れられ監視ルームへ。

偉い人「ささ、どうぞ」

㍍「失礼しますわ。あの死体の硬直具合や臭いから考えて半日も経っていない…恐らく数十分から数時間前に来ている筈…」

アルザークは映像を巻き戻し、チェックしていく。

アメリ「どう?なんか気になるところある?」

ピッ!

と、今から一時間前の映像を停止した。

㍍「これは…」

アメリ「見つかった?」

㍍「いえ…これはダミー映像ですわ…!」

偉い人「ダミーですと!?」

㍍「余程自分の姿を晒したくないのか…何か裏があるのかもしれませんわ…」

偉い人「しょ、少々お待ち下さい。他にもプラント内に十八台、外部にも三十台のカメラがあります。どこかに映っているかもしれません…!」

カタカタカタカタ…

偉い人はコンピュータを操作して、別カメラの映像記録を映す。

㍍「ありがとうございます。確認してみますわ」

72ハイドンピー (ワッチョイ 9348-f494):2021/05/03(月) 08:06:09 ID:l5TCJNfk00

アルザークはダミー映像が流れていた時間帯まで映像を遡る。

㍍「…駄目ですわね。全てダミーに差し替えられていますわ」

アメリ「ちょっと待って!ここ!」

ほんの一瞬、外部カメラのうちの一つだけが正常な映像を残していた。

㍍「…!!」

そこに映っていたのは、緑の服のフォックス族だった。

アメリ「知り合い?」

㍍「…いえ…ですがこの顔、見覚えがありますわ…」

偉い人「ほお!何という御方ですか?」


㍍「…ロハス…フォックス族の英雄、ロハスですわ」


偉い人「ロハス!?」

アメリ「ロハス…?」

驚く偉い人と裏腹に、きょとんと首を傾げるアメリーナ。

㍍「アメリーナは知りませんわよね。宇宙での活動を続けていれば知らない者はいない、いくつもの星の危機を救った奇跡の人ですわ」

アメリ「へー」

偉い人「で、ですが彼は戦死したと…!」

㍍「ええ…私の故郷の星で起きた戦争で、数十年前に。もし仮に生きていたとしても既に引退しているような年齢の筈ですわ…」

偉い人「い、一体どういうことなんですか!?」

㍍「私にも分かりません…考えられるとすれば、よく似た血縁者か…もしくは…クローン…」

偉い人「ク、クローン…!?」

㍍「…私も実際に会った事がある訳ではありませんし、ただの他人の空似かもしれません。ですが正体を隠すのにはそれなりの理由がある筈ですわ」

偉い人「な、なるほど…」

㍍「…お役に立てなくて申し訳ありませんわ」

偉い人「いえいえ!御二方もこの星のためにわざわざ遠路はるばる来てくださったんでしょう。是非ゆっくりしていってください!」

㍍「ええ、そうさせていただきますわ」


アメリ「やったー!観光だー!」

㍍「燃料や食糧なども買っておかなければいけませんわね」

それから二人は街へ繰り出し、観光や買い物を楽しんだ。

73ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:32:30 ID:J7ufTwrU00




翌日。

㍍「朝ですわよ。そろそろ起きなさい、アメリーナ」

ホテルの一室で爆睡するアメリーナの肩を、アルザークが揺する。

アメリ「…う〜…あと…五分…」

㍍「まったく…まあ今日は予定もありませんし、ゆっくりさせてあげましょう。私はちょっと外に出てきますから、留守番を頼みますわね」

アメリ「…は〜い…」

アルザークはホテルから出ていった。



三十分後。

アメリ「はっ!?」

アメリーナは目を覚まし、勢いよく体を起こした。

アメリ「はぁ…夢か…ってアレ?アルザークさんは?」

隣のベッドにアルザークがいないことに気付き(さっきの会話は寝ぼけて覚えていない)、バスルームやベッドの陰、クローゼットの中などを確認するが、いるはずもなく。

アメリ「まあいっか。どっか出掛けたのかな」

アメリーナは特に気にせず二度寝に入った。

74ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:34:46 ID:J7ufTwrU00



その頃アルザークは、エネルギープラントを再度訪れていた。

㍍「確かこの辺りでしたわね。死骸は既に片付いていますか…当然ですわね」

偉い人「ん?貴女は昨日の…どうかされましたか?」

㍍「あのフォックスのことが少々気になりまして」

偉い人「なるほど。こちらでも手掛かりがないかと調べていたのですが、未だ尻尾は掴めていません、フォックスだけに」

㍍「…」

偉い人「あの生物の死骸も今研究室で解剖を行っていますよ。案内しましょうか」

㍍「お願いしますわ」

偉い人「ではこちらへ」

プラントの外に停めてあった車へと案内される。

㍍「随分と大きな車ですわね」

偉い人「ほっほっほ、まあ私これでも一応偉い人ですからな」

㍍「…」

偉い人「…何か気掛かりなことでも?」

㍍「気付かないとでも?」

バッ!

アルザークはアームキャノンの砲口を車に向け。


ドォォォン!!


偉い人「なっ…!」

ミサイルを放ち、車を消し飛ばした。

タタタッ!!

その中から三人の緑フォックスが退避して姿を現した。

偉い人「…何故分かった?」

㍍「私のパワードスーツのAIは視野角に入った全ての生体を瞬時にスキャンしますの。表面的な変装など通用しませんわ」

偉い人「そうか」

ピッ

偉い人が腕にはめていた腕時計に触れると、身に纏っていたホログラムが剥がれ、本当の姿が露わになる。

それは車から現れた三人と同じく、フォックス族だった。

75ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:36:32 ID:J7ufTwrU00

㍍「フォックス族…貴方は何者なんですの?その三人も全く同じ生体反応を示しています。やはりクローンですの?」

???「知る必要はない。㍍アルザーク、貴様はここで処理する」

㍍「そう簡単にはいきませんわよ」

四人のフォックスが一斉にアルザークを襲う。

㍍「はっ!」


ギュルルルッ!!


その瞬間、回転しながら跳び上がるスクリューアタックを発動し、フォックスたちを弾き飛ばした。

ブォンッ

???「!!」

更にロープ状のビームでフォックスの一人を捕らえ。

ビュンッ!!

???「くっ…!」

後方へと投げ飛ばす。

飛ばした先には、龍穴から噴き出すエネルギーの奔流が待ち構えていた。

㍍「いくら頑丈なフォックス族と言えど、星そのものの巨大なエネルギーをその身に受けては、無事ではいられませんわ」

???「ぐおおおおおおっ!!」


ジュゥゥゥッ…!!


フォックスはそのままエネルギーに焼き尽くされて消滅した。

ダッ!!

今度はアルザークの背後から二人が飛び掛かる。

ヒュンッ

???「!!」

アルザークはそれをするりとかわし、逆に二人の背後を取った。

ドガッ!!

???「ぐっ!」

かかと落としで一人を龍穴へ落とす。

チュンッ!チュンッ!

㍍「!」

後ろで構えていた一人がブラスターでアルザークの背中を射撃し、隙を作ると。


ドガッ!!


㍍「かはっ…」

もう一人はその腹に蹴りを入れた。

ガシッ!

ブンッ!

更にアルザークを掴み、龍穴へと投げる。

㍍「くっ…!」

ギリギリのところでアルザークは踏みとどまり、すぐさま態勢を立て直す。

タタタタタタ…!

そこへ追撃すべくフォックスの一人が距離を詰め。

???「ファイヤーッ!!」


ゴォッ!!


㍍「甘いですわ」

炎を纏った体当たりを、アルザークはガードし、受け流した。

そのまま体当たりの勢いは止まらず、フォックスは龍穴へと落ちた。

㍍「さあ、後は貴方だけですわ」

76ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:37:53 ID:J7ufTwrU00


ガンッ!!


最後の一人も距離を詰め、蹴りを繰り出す。

アルザークはそれをアームキャノンで弾いた。

ダダダダダ!!

フォックスは更に何度も蹴りを浴びせ、アルザークは徐々に押され始める。


ギュルルルッ!!


???「!!」

龍穴の縁まで追いやられたところで、アルザークは再びスクリューアタックを繰り出し切り抜ける。

と同時に。

ブゥン…

フォックスの背後へと回り、ロープビームで捕らえ。


ドゴォ!!


地面に叩きつけた。

???「ぐっ…」

ドッ!!

???「ごはっ…!」

這いつくばるフォックスの腹を踏みつけ、その頭に砲口を突きつける。

㍍「チェックメイトですわ。さあ、話していただきましょうか。貴方たちが何者なのか。目的は何なのか」

???「フン」


ガシッ!!


フォックスはその脚を掴み。


ゴゴゴゴゴゴ…


㍍「!!」

体に火を纏い始める。

???「貴様も道連れだ、㍍アルザーク」


ゴォッ!!


そのままファイアフォックスを発動して、アルザークごと龍穴へと突っ込んだ。

㍍「解除」


バシュウッ!!


アルザークは掴まれた右脚のパワードスーツパーツを解除し、なんとか道連れを逃れた。

???「く…」

フォックスは一人龍穴に呑まれ、消滅した。

㍍「…フゥ…少し肝を冷やしましたわ。右脚のパーツを新調しなくてはなりませんわね……ん?」

アルザークはフォックスたちの乗っていた車の残骸の中に、白い箱を見つける。

㍍「これは…何かの記録媒体のようですわね…」

77ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/05(水) 10:40:08 ID:J7ufTwrU00



それからアルザークはホテルへ戻った。

アメリ「アルザークさんおかえりー。どこ行ってたの?」

㍍「少しエネルギープラントの調査を」

アメリ「って脚!どうしたの!?」

アメリーナが駆け寄る。

㍍「心配ありませんわ。ちょっとした戦闘になりましたが、ダメージはほぼありません」

アメリ「戦闘!?もしかしてフォックス族と!?」

㍍「あら、よく分かりましたわね」

アメリ「だってなんか獣くさいから…」

㍍「そうですか?アメリーナは鼻がいいんですのね。とりあえず、スターシップに戻りますわよ。支度しなさい」

アメリ「えっ!?もう出発するの?」

㍍「ええ。あまりこの星に留まっていると、また刺客が現れるかもしれませんから」

アメリ「刺客?」

㍍「あのフォックス族ですわ。どうやら私たちは見てはいけないものを見てしまったようですわね」

アメリ「そんな〜!もうちょっと観光したかったのにー!」

㍍「ぐ……!いやいや!今は我儘に付き合えるような状況ではありませんわ…!」

アルザークは駄々をこねるアメリーナの可愛さに甘やかしそうになりながらも、ぐっとこらえる。

アメリ「むぅ…は〜い…」



それからチェックアウトを済ませて、宇宙船へと帰った。

アメリ「…あれ?ちょっと待って」

㍍「忘れ物ですの?」

アメリ「いや、そーじゃなくて…あの偉い人は!?あの人も昨日の映像見ちゃってるよね!狙われるんじゃ…」

㍍「……手遅れですわ」

アメリ「え!?」

㍍「先程プラントからホテルに戻る前に連絡を取りましたが、応答したのは彼の部下の方でしたわ。既に殺されていたと」

アメリ「そんな…!」

㍍「この星を戦場にするわけにはいきません。出発しますわよ」

アメリ「つ、冷たくない!?つい昨日会った人が殺されたっていうのに…!」

㍍「死者はもう戻りませんわ。私たちにできるのは、生きているこの星の方々が平穏に暮らせるように、一刻も早くここから立ち去る事だけですわ」


ゴゴゴゴゴゴ…!!


こうしてアルザークたちはこの星から飛び立った。

78ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:42:08 ID:nlzBZUZU00





魔法学校では。

新年度を迎え、講堂にて新入生たちを歓迎する集会が開かれていた。

いくつも並べられたテーブルに、大きな燭台と絢爛な食事が用意されている。

㌦「はじめまして、僕は㌦ポッターだよ」

隣に座った赤い帽子の少年が、小学生に手を差し出した。

小学生「ああ、よろしく」

小学生は握手を返す。

㌦「君はなんでこの学校に?」

小学生「強くなるためさ。どうしてもやらなきゃいけないことがあるんだ」

㌦「へぇ、かっこいいね。僕はお金が好きでね、魔法で楽してお金を稼ぎたくて入ったんだ」

小学生「そ、そうか。まあいいんじゃねーかな…お金は大事だしな…」

㌦「錬金術というのがあるらしくてね。ああ、早く習いたいよ」

小学生「…」

ざわざわと新入生たちが会話する中、高級感漂うローブと帽子を身に付けた老人が登壇した。

校長「えー、静粛に。ワシは校長じゃ。新入生のみんな、仲良く楽しく学校生活を送ってくれ。以上じゃ」

パチパチパチパチ…

そして降壇した。

小学生(挨拶みじか!!)

㌦「あの校長先生、すごい魔法使いらしいよ。でも僕のリサーチによると、もっとすごい先生がいるらしいんだ」

小学生「召喚士さんのことか?」

㌦「…なんだ、知ってたのか」

小学生「俺はあの人の紹介でこの学校に入れたからな。俺の恩人だ」

㌦「そうだったのか」

小学生「つーか、他のヤツらはどうやってこの学校を知ったんだ?」

㌦「いろいろだよ。僕の家はとても貧乏でね、なんとか大金を手に入れる方法はないかと探してたら、錬金術を知ったんだ。そこから魔法関連の情報を漁るうちに、ここにたどり着いたってわけさ」

小学生「へー…すげーな、自分で見つけたのか」

㌦「まあね。でも一番多いのは家族や親戚の紹介だろうね。魔法使いの家系ってやつさ。中には突然魔力に目覚めて連れてこられたなんて人もいるらしいけど…」

小学生「突然魔力に目覚めて…か…」

小学生は消えた少女のことを思い出す。

79ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:47:50 ID:nlzBZUZU00

くっちゃくっちゃ…

㌦「…って行儀悪いな君!」

㌦ポッターの対面の席…というよりテーブルの上に座って、料理に食らいつく黄色いボール。

???「ん?」

ボールが顔を上げると、その顔面には大量の米粒がくっついていた。

㌦「汚っ!」

小学生「こ、こいつも新入生なのか…?」

ペロリと長い舌で顔についた米粒を舐め取って、ボールはにっこりと笑う。

???「うん!ぼく、おこめ!」

小学生「お、お米…?」

おこめ「お米すき!お米そだてるために入学した!」

㌦「…農業の学校じゃないよ、ここ…」

おこめ「しってるわい!お米そだてる魔法、開発するのだ!」

小学生「開発…?そんなことできるのか?」

昼間「勿論です」

小学生「召喚士さん!」

三人の後ろに昼間の召喚士が立っていた。

昼間「魔法とは魔法使いたちが研究を積み重ねて編み出した技術です。おこめくん、君は魔法研究者を目指すのですね」

おこめ「いや!農家をめざす!」

昼間「農家…魔法を使った農家ですか…ふむ、それもなかなか興味深いですね。頑張ってください」

㌦「あなたが昼間の召喚士先生ですか!?」

ガシィ!

昼間「わっ」

㌦ポッターは召喚士の手を握り、目を輝かせる。

㌦「僕は㌦ポッター!錬金術師を目指しています!よろしくお願いします!」

昼間「…はい、よろしくお願いします。君のことは聞いていますよ。私と同じマリオ族が入学したと」

㌦「は、はい!光栄です!」

昼間「古くからマリオ族は魔法使いとしての才能が開花しやすいと言われています。期待していますよ」

㌦「ありがとうございます!」

それからまた召喚士は他の生徒にも声を掛けて回っていった。

小学生「ふーん、マリオ族っつーのか」

㌦「ああ。ファイターと呼ばれる英雄の末裔さ!すごいでしょ!」

小学生「へっ、そーいうことなら俺だってファイターだぜ?リンク族っつーんだ」

㌦「…なんだ…君もそうだったのか…」

80ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:50:54 ID:nlzBZUZU00

おこめ「ぼくもカービィ族だよ!すごいよ!」

小学生「カービィ族?」

おこめ「たくさん吸い込んだり、マネしたりできる!」

小学生「マネって…物真似?」

㌦「聞いたことがあるよ。吸い込んだ相手の能力をコピーしてしまうんだとか…」

小学生「なんじゃそりゃ」

おこめ「やってみる?」

ヒュオオオオオ!

小学生「どわっ!?」

小学生がおこめの口の中に吸い込まれた。

きゅぽん!

かと思えば次の瞬間には外に吐き出されていた。

小学生「あれ!?な、何が起こったんだ!?」

㌦「吸い込まれてた」

小学生「マジで!?こんなちっこいのに!?」

おこめ「ほらみて!ぼうし!」

小学生「あ!」

おこめの頭に緑の帽子が生えていた。

小学生「…ってそれだけ?」

おこめ「うん」

小学生「…コピーする意味ある?」

おこめ「ない!」

そう答えると同時にピコッとおこめの頭から星が出て、帽子が消えた。

㌦「元に戻った…」

小学生「何だったんだ…」

おこめ「きみが何もできないからだ。コピーするほどの能力がなかった」

小学生「な、何ィ!?」

㌦「ふぅん…じゃあ僕もコピーしてみてよ」

ヒュオオオオ!

キュポン!

おこめ「ほい!」

㌦「お、今度は僕と同じ帽子だ」

小学生「また帽子だけか?」

おこめ「うーん…えい!」


ボッ!!


小学生「!?」

おこめの手から炎の球が放たれた。

㌦「おおっ!これはファイアボール!マリオ族に伝わる必殺技だ!」

球はそのままテーブルの上を直進し。

小学生「っておいおい…」

ボォッ…! ジュゥッ…!

並べられた料理を次々と燃やしていく。

おこめ「ありゃ」

81ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:52:58 ID:nlzBZUZU00


ボォォォォォ…!!


最後はカーテンにぶつかり、燃え移った。

教師「こらー!!何をやっとるんだお前たちはー!!」

三人「すみませんでしたー!!」

体格のいい教師が怒鳴り、三人は速攻で頭を下げる。

昼間「やれやれ…」

パチンッ!

㌦「あ、あれ?」

召喚士が指を鳴らすと同時に、炎上したカーテンが丸ごと消えていた。

昼間「カーテンは焼却炉に移動させました。もう大丈夫です」

小学生「ふぅ…良かった…」

教師「良くないわー!!昼間先生がいたから良かったものの、火事になるところだったんだぞ!!」

昼間「まあまあ、そう怒らず…あのカーテンもちょうど新しいものに替えようとしていたところでしたし」

教師「甘いっ!!甘すぎます昼間先生!!そんなことでは彼らは今後も問題を起こすかもしれませんぞ!!退学にすべきです!!」

小学生「た、退学っ!?」

校長「ほっほっほ、ここは魔法学校じゃ。事故は珍しくない。何もそこまで怒ることはあるまいて」

教師「校長!しかし…!」

校長「じゃが何の罰もなしでは他の生徒に示しがつかん。というわけで、君たち三人には特別授業に参加してもらおう」

㌦「と、特別授業…!?」

校長「昼間くん、お願いできるかね?」

昼間「分かりました」


パチンッ!


小学生「え?」

㌦「ん?」

おこめ「ぽよ?」

気付けば三人は真っ暗闇の中に立っていた。

小学生「な、なんだぁ!?停電!?」


ボボボボボッ!


すると両側の壁に並べられた燭台に火が灯って、周囲が見えるようになった。

そこは三人の他には誰もいない、狭い通路だった。

82ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:54:33 ID:nlzBZUZU00

おこめ「…どこ?ここ」

㌦「召喚士先生に飛ばされたのか…」

昼間『そこは魔法学校の地下迷宮です』

㌦「召喚士先生!」

小学生「迷宮!?」

昼間『三人で協力して脱出してください。特別授業開始!』

小学生「えっ!?ちょ、おい!……だめだ、もう返事がねえ!俺たちだけでなんとかしろってことか…」

おこめ「ぼく、迷路すき!たのしそう!」

小学生「楽しんでる場合か!って言いたいとこだけど、実は俺もちょっとワクワクしてるよ!ハハハ!」

㌦「よくそんな余裕でいられるね…ここは魔法学校だよ?」

おこめ「?」

小学生「どういうことだよ…」


ボオオオオッ!!


小学生「ぬぁ!?」

通路を照らしていた燭台の火が大きくなり、一箇所に集まっていく。

おこめ「なにこれ!?」

それはやがて火の巨人のような姿になった。


ドゴォン!!


小学生「うおおっ!?」

巨人が大きな腕を振り下ろし襲いかかってきた。

三人は一斉に駆け出す。

㌦「どうやらコイツから逃げながら出口を目指さないといけないらしいね…!」

小学生「な、何ぃー!?」

おこめ「おこめ、あいつ、倒す!」


ボォッ!!


おこめは先程のコピー能力を使い、巨人に向かってファイアボールを撃ち出す。

㌦「そうかっ!倒せばいいんだ!」


ボォッ!!


㌦ポッターも同じくファイアボールを撃ち出す。

83ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:58:20 ID:nlzBZUZU00

小学生「いやいや!火の巨人だぞ!?」


ボシュッ…


ファイアボールは巨人の体に吸収され、巨人は更に巨大化した。

㌦「しまった!火は効かないのか!」

小学生「考えたら分かるだろー!」

㌦・おこめ「ごめーん!!」

三人は再び駆け出す。

小学生「つーかすげーなお前ら!まだ魔法習ってないのにそんな技使えるなんて!」

㌦「言ったろ!僕らの種族なら使えて当然の技だ!」

おこめ「小学生は技ないの!?」

小学生「俺はこのクローショットくらいだ!」

㌦「その背中の剣は!?」

小学生「剣もブーメランもバクダンも入学祝いに貰ったばっかで、まだ全然使えねえ!」

㌦「だからおこめくんのコピーが効かなかったんだね!クローショットってのはどんな武器なの!?」

小学生「相手を捕まえて引き寄せる!武器っつーよりは便利道具だ!この状況じゃ役には立たねえ!」

㌦「そうか!仕方ない!とにかく今は逃げよう!」

おこめ「道、分かれてる!どうする!?」

小学生「左!」
㌦「右!」

おこめ「どっち!?」

小学生「左だよ!右はなんか嫌な予感がする!」

㌦「予感て!そんな曖昧なもので決めていいの!?」

小学生「じゃあ右でいいよ!!」

ダッ!!

三人は一斉に右折。

おこめ「また分かれ道!」

㌦「さすが迷宮というだけあるね…!」

小学生「どうする!」

㌦「左だ!」

ダッ!!

今度は一斉に左折。

とその時。

おこめ「あっ」

ズサーッ!

おこめはつまづいて転んだ。

㌦「おこめくん!!」

すぐそこまで火の巨人が迫る。


ズオオオオ!!


巨人が腕を振り下ろす。

おこめ「うわーっ!」

小学生「おこめっ!」

84ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/10(月) 20:59:37 ID:nlzBZUZU00


ギャリンッ!!


おこめ「わっ!」


ドゴォォォン!!


小学生「あっぶね〜…」

小学生のクローショットでおこめを引き寄せ、ギリギリのところで巨人の攻撃をかわした。

おこめ「ありがとう!」

小学生「おう!」

㌦「フフッ、役に立ったじゃないか、クローショット!さあ立って!まだ安心してる場合じゃない!」

おこめ「うん!」

㌦ポッターはおこめに手を差し伸べ、立ち上がらせる。

そしてまた三人は迷宮を走り出した。



教師「よかったんですか?昼間先生」

昼間「え?」

教師「地下迷宮は中等部の上位クラスでも苦戦する難関…いくら校長先生の提案とはいえ、あんな入学して間もない子供たちを…」

昼間「大丈夫ですよ。彼ら三人ともファイターの家系です。それに何かあれば私が助けますし、多少の怪我は魔法薬で治せます」

教師「しかし…」

昼間「見てください」

召喚士は魔法書を開いて見せる。

教師「こ、これは…!」

そこには地下迷宮で巨人から逃げ惑う三人の姿が映し出されていた。

昼間「ね?心配ないでしょう。むしろこれくらいでなくては、彼らにとって罰にはなりませんよ」

教師「そ、そのようですな…」

そこに映る三人の表情は、とても楽しそうだったのだ。

85ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:36:10 ID:nNVuxjDo00



それからおよそ二時間。

小学生「はぁ…はぁ…チクショー!全然出口が見つからねー!」

おこめ「ほんとに出口あるの!?もうつかれたー!!」

㌦「はぁ…ずっと走りっぱなしだし…流石に堪えるね…はぁ…」

三人はまだ迷宮を彷徨っていた。

おこめ「あのでっかいの…体力すごすぎ!はぁ…はぁ…」

小学生「そもそも…体力なんてないんじゃねーか?はぁ…火だし…」

火の巨人は未だにすごい勢いで三人を追いかけている。

㌦「体力がない…?そうか!」

小学生「なんだ?」

㌦「コイツの正体は…これだっ!!」


バキィ!!


㌦ポッターは壁にある燭台を殴って壊した。

小学生「ど、どういうことだ?」

㌦「火で作られたゴーレムがこんなに長時間単独で行動できるわけないんだ!すぐに燃え尽きて消えてしまうはず!つまり火が常に供給されてる!それがこの燭台だ!」

おこめ「なるほど!わかった!」

小学生「これを壊しゃあコイツも消えるってことだな!?」

㌦「そういうこと!」

小学生「よし!そうと分かりゃブッ壊しまくるぞ!」

86ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:37:42 ID:nNVuxjDo00


バキィ!!

ドガァッ!!

ズガガッ!!


三人は走りながら、壁の燭台をどんどん破壊していく。

小学生「お!?なんか小さくなってるぞ!」

振り返ると、火の巨人は小学生たちと変わらないくらいの大きさにまで縮んでいた。

㌦「供給される火が減ったからだ!」

おこめ「これ壊せば…おわり!」


バキィ!!


おこめが燭台をキックで破壊。

すると。


シュゥゥゥゥ…


小学生「消えていく…!」

㌦「はぁ…はぁ…やった!」

おこめ「ぼくたちの、かち!はぁ…はぁ…」

三人は疲れてその場に座り込む。

小学生「…って暗っ!?火ぃ全部ブッ壊しちまったから明かりがねーぞ!どうやってこっから抜け出しゃいーんだ!」

㌦「はは、そんな焦らないでよ…」

ボッ!

㌦ポッターは掌の上にファイアボールを作り出した。

小学生「おお…便利だなそれ…」

おこめ「ぼくもやる!」

ボッ!

おこめもコピー能力を使ってファイアボールを出したが、前へ飛んで行った。

おこめ「ありゃ?」

㌦「こうやって同じところに留めておくにはちょっとコツがいるのさ」

小学生「へー。同じ能力でもやっぱ扱い慣れてると差が出るもんだな」

おこめ「ポッター、すごい!」

㌦「はは、照れるな…とりあえずこれで出口をゆっくり探せるね」

小学生「ああ!」

㌦ポッターの掌のファイアボールを頼りに三人は迷宮を進んでいく。

87ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:40:00 ID:nNVuxjDo00

㌦「えっ…?」

ほんの十メートルほど歩いたところで、三人の前にドアが現れた。

小学生「こんなとこにドアなんてあったか?」

おこめ「なかった!」

㌦「あのゴーレムを倒すのが脱出の条件だったのか!」

小学生「まあ何はともあれ…これで迷宮クリアだ!」

ガチャッ!

三人はドアを開け、地下迷宮を後にした。

㌦「ここは…」

そこには木々が生い茂り、地には花が咲き、その中心に小さな湖があった。

小学生「庭園…?でも召喚士先生は地下って言ってたよな。どうなってるんだ…?」

???「ああ、間違いなくここは地下さ」

小学生「誰だ!?今どっから声が…」

???「ここだよ、ここ」

おこめ「どこ?」

三人はキョロキョロと周りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。

チャプン…

???「僕だよ」

中心にあった湖の中から、水色のルイージ族が顔を半分出した。

小学生「うおおっ!?」

㌦「なな、なんなんだ一体…!?」

???「僕は湖の精霊さ」

おこめ「せいれい?」

湖「自然界の魔力から発生する生き物さ。生まれた経緯や場所によって、妖精や魔物などと言うこともあるね。種類は様々だけど、大きな括りでは同じような存在だよ」

小学生「妖精…半年くらい前に一度会ったことあるよ。アイツ、元気にしてるかな…」

湖「へぇ、素晴らしいね。妖精は一般的に心の綺麗な人の前にしか姿を現さないんだよ」

㌦「そ、それよりここはどこなの?あの迷宮を脱出したら帰れるんじゃないの?」

湖「ああ、もちろん帰れるさ。校長先生に頼まれているからね」

小学生「ってことはお前が帰してくれるのか?」

湖「そういうこと。ただせっかくここまで来たんだ。僕の話に少し付き合ってほしいな。こんなところにいると中々人と会えないんだ」

おこめ「なんでこんなとこにいる?」

湖「言ったろう?僕は湖の精霊だからね。この湖から離れることはできないのさ。多少無理をすれば外に出ることはできるけど、すごく体力を使うんだ」

小学生「なるほどなー。湖ごと地上に移したりできないのか?召喚士先生なら魔法でチョチョイっとできそうなもんだけど」

湖「それは無理だよ。余程膨大な魔力でもなければ、空間移動できるのはある程度の大きさに限られているんだ」

小学生「じゃあホースで水だけ抜いたりとかは?」

湖「それも無理だね。水中の小さな生き物たちや、この周りに茂る自然も全て含めて湖なんだ。そんなことをしたら僕は存在ごと消えてしまうよ」

おこめ「はかない命ね」

88ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:41:03 ID:nNVuxjDo00

㌦「そもそもどうしてこんな地下に湖が…?」

湖「この魔法学校が裏の空間にあるのは知っているね?」

小学生「ああ。なんか入学手続きの時にそんなこと言ってたな。よく分かんなかったけど…」

㌦「普通の人たちが住んでるのが表の空間で、魔法使いたちが住んでるここが裏の空間だよね?」

湖「まあ簡単に言うとそう。大昔の魔法使いたちは魔法学校を建てるために、表の空間から一部を切り取って、この裏の空間を作り出したのさ。でもそんな大掛かりな魔法は当然とても不安定だ。その拍子にこの湖は地下深くに押しやられてしまったのさ」

おこめ「かわいそうに」

小学生「なんとかしてやれねーかな?」

㌦「無理だよ…僕たちまだろくに魔法も覚えてないのに」

小学生「だよなぁ…」

湖「何、気にすることはないよ。僕は静かなのが好きだし、ここにいるのが性に合ってる」

おこめ「でも、寂しいでしょ?」

湖「そう思うこともあるけど、君たちのようにたまに人が訪ねて来るし、なんたってもう何百年もここにいるんだ。心配ないよ。暇潰しにも困ることはないしね」

㌦「え?こんなとこで一人で何するの?」

湖「湖の中をご覧」

湖の精霊は人差し指でちょいちょいと三人を近くへ呼ぶ。

小学生「ん?」

三人が湖を覗き込むと。

㌦「こ、これは…」

おこめ「本?」

湖の中には、ズラリと本が並んでいた。

大きな図書館にも入りきらない程の膨大な量だ。

湖「そう。どうやらこれが僕の精霊としての特殊能力なんだ。捨てられた本、誰も読まなくなった本、そんな本たちが、この湖の中に集まってくる」

小学生「すげーなー。道理で頭良さそうなわけだぜ」

㌦「うん。まさに湖の賢者といったところだ」

湖「知識だけあっても特に意味はないけどね。さて、そろそろ気が済んだし、お別れだ。久しぶりに人と話せて楽しかった。ありがとう」

フワッ…

すると三人の体が宙に浮く。

小学生「おわ!なんだ!?」

湖「またいつか会おう、少年たち」

パッ!

三人は湖の前から姿を消した。

89ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 21:42:19 ID:nNVuxjDo00



ドササッ!

小学生「あだっ!」

おこめ「ぶぇ」

㌦「いたたた…あれ、ここは…」

そこは元いた講堂だった。

とはいえ歓迎の集会はもう終わり、すっかり人はいなくなっている。

昼間「お帰りなさい、君たち」

小学生「召喚士先生!」

おこめ「あーおもしろかった!」

㌦「いや第一声それって…一応僕たち罰受けてたんだよ…?」

校長「ほっほっほ、気にするこたぁない」

㌦「こ、校長先生!」

校長「君たちファイターと呼ばれる種族は、魔法学校の長い歴史の中で常に名を残してきた逸材ばかりじゃ。この昼間先生もその一人」

㌦「もしかして、僕たちの力を試すために…?」

校長「左様。そして見事あの難関を越えて見せた。間違いなく君たちは、最高の魔法使いになれるじゃろう」

三人「ありがとうございます!」

校長「ほっほっほ、期待しておるぞ」

校長はご機嫌そうに笑いながら去っていった。

昼間「三人とも、怪我はないですか?」

小学生「あ、はい!大丈夫です!」

㌦「そう言えば召喚士先生、あの地下の湖って…」

昼間「そうそう、彼のことは口外無用でお願いしますね」

㌦「え?」

おこめ「なんで?」

昼間「本来あの迷宮は中等部の実技試験に用いられるものなのです。そしてクリアした者だけが彼に会い、その知識を一つ分けてもらうことができる」

小学生「へー」

昼間「一昔前まで、その知識を狙って迷宮に忍び込んだ人が死亡する、という事故が多発していました」

小学生「え…」

昼間「試験外で勝手に入り込まれては、すぐには気付けませんからね。助けられなかったのです。それ以来、湖の存在は隠されています。彼は、詳しすぎたのですよ」

㌦「あ、あの人の知識ってそこまですごいものなんですか…?」

昼間「ええ。湖の本を見たでしょう。彼はあの力で、歴史の闇に葬られた禁断の魔法書をも手に入れています」

㌦「な…!!」

おこめ「きんだん?」

昼間「危険すぎて禁止された魔法、という意味です」

小学生「そこまで危険なら、試験なんかに使わなきゃいいじゃねーか。なんで…」

昼間「まあ、何百年と続く伝統ですからね。頭の硬い老人たちの…おっと、今のは聞かなかったことにしてください」

三人「…」

昼間「とにかく、くれぐれも湖のことは内密に。よろしくお願いしますね」

三人「はーい」

こうして入学初日が終わった。

90ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 22:04:17 ID:nNVuxjDo00




数日後。

小学生「うおおおおおっ!!」

小学生は机に置かれた水晶に向かって手をかざし、叫んでいた。

しかし水晶には何の変化もない。

昼間「力み過ぎです」

小学生「くーっ!ムズイ!なんでお前らそんな上手いんだよ!」

㌦「才能かな」

おこめ「小学生!がんば!」

㌦ポッターとおこめの前の水晶は浮き上がり、赤や黄色に光っている。

小学生「チクショー!」

㌦「意地張ってないで杖を使えばいいじゃないか…」

おこめ「ぼくの杖、貸す?」

小学生「いーや!自力でやる!㌦にできて俺にできないなんてありえねー!」

昼間「何も杖を使うのは恥ずかしい事ではないんですけどね…㌦くんが特別なだけですよ。マリオ族は元々魔法使いの素質が高いのです」

小学生「だ、だけど…」

㌦「おこめくんも杖を使ってるんだ。このまま魔力の基礎すら覚えられなかったら、それこそ恥ずかしいよ」

小学生「ぐ…!わーったよ!」

おこめ「はい、杖」

小学生「おう!ありがとう!」

おこめから杖を受け取り、小学生は水晶に向かって杖の先を向ける。

小学生「うりゃああああ!!動けええええ!!」

昼間「いや、だから力み過ぎですよ…」

91ハイドンピー (ワッチョイ 88ef-bf47):2021/05/16(日) 22:05:13 ID:nNVuxjDo00



三時間後。

小学生「よっしゃあああ!!浮いたぜ!!」

小学生は立ち上がりガッツポーズをする。

水晶はものすごーく淡く光り、ほんの数センチだけ浮遊していた。

㌦「やっとか…」

おこめ「もうみんな次の教室行った」

小学生「え!?」

㌦「召喚士先生もとっくに他のクラスの授業に行ってるよ…まったく…」

小学生「マ、マジかよ…お前ら…いい奴だな…!!」

㌦「え?」

小学生「みんないなくなっても残っててくれたんだろ!?」

㌦「ああ、まあ…」

おこめ「小学生、ともだち!」

小学生「ありがとな!ほんと!」

小学生は笑顔で二人の手を取る。

㌦「はは…ま、君の根性だけは認めるよ。周りのことが全く見えないくらい集中してたみたいだし」

おこめ「小学生すごい!ぼくも負けてられない!」

小学生「おうよ!俺だって負けねーぞ!飲み込みはお前らより遅えけど、練習量でカバーしてやる!」

㌦「それはどうかな。僕だってたくさん努力するからね。どんな分野だって一番強いのは、才能もあって努力もできる人なのさ」

小学生「だったらその倍努力するさ!」

おこめ「ぼくも!」

㌦「フフ、それじゃあ僕たちはライバルだね」

小学生「おう!」

おこめ「うん!」

92ハイドンピー (ワッチョイ bf82-de96):2021/05/23(日) 22:22:02 ID:wd2459j.00





とある夜の、とある都会。

立ち並ぶビルの陰で、何かの取引を行う二人組がいた。

ミカ「例の組織で手に入れた極秘資料だ。これで依頼は完遂したぞ」

???「ああ。二年間の潜入お疲れ様、ミカ君。助かったよ」

冷たい表情の青ピカチュウが、赤ドンキーに資料を手渡す。

そして赤ドンキーは、青ピカチュウに分厚い封筒を手渡す。

ミカ「組織は潰しておいた。これでお前以外に情報は知りえない」

ミカは封筒の中の札束を確認しながら、淡々と言う。

???「フ、流石は味方殺しの家系だ。以前、君の父上にも世話になってね。本当に良い仕事をしてくれる」

ミカ「父は関係ない。これからは俺を頼れ」

???「もう一人前になった君にとっては、父上すら商売敵という訳か。まだ若いのにしっかりしているな、フフ…そうだな、また頼める仕事があれば君に連絡しよう」

ミカ「ああ。じゃあな」

そして二人は互いに違う方向へと去っていった。

93ハイドンピー (ワッチョイ bf82-de96):2021/05/23(日) 22:27:52 ID:wd2459j.00


プルルルルルル…


ミカ「!」

赤ドンキーと別れてすぐ、ミカの携帯に知らない番号から電話が掛かってきた。

ピッ

ミカ「誰だ」

???『味方殺しだな?依頼がしたい』

ミカ「専用ルート以外からの依頼は受け付けてない」

???『専用ルート?そんなものがあるのか…用心深いんだな。そのルートを辿るにはどうすればいい?』

ミカ「自分で調べろ。表の人間に一から教えてやるほど暇じゃない。じゃあな」

ミカは電話を切ろうとしたが。

???『まあ待て。私は半年前、お前の父に仕事を依頼したのだ』

ミカ「…何?」

???『しかしその後一切連絡が取れない。仕事に失敗したのか、投げ出したのかは知らんが…』

ミカ「有り得ない。あの男が失敗するわけない…まして仕事を投げ出すなんてあるはずがない」

???『そう言われても事実なのだ。奴の息子なら、その尻拭いくらいしてもらわねば困る。こちらも高い金を支払っているのでね』

ミカ「知ったことか。俺には関係ない」

???『そうか…ならばこちらも相応の対応をさせてもらおう。私は一応名が通る立場にいるのでね。この世界において依頼者からの信用を失う事がどういう意味を持つか、分からない訳ではあるまい』

ミカ「くだらない」

プツッ

ミカは電話を切った。

94ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:06:56 ID:dIqdflQU00





一年後。

ミカ(依頼が来ない…あの男の仕業か?)

ミカは飢えていた。

そこへ。

プルルルルルル…

ピッ

ミカ「誰だ」

???『どうだね?味方殺し。私の依頼を受ける気になったかな?』

ミカ「お前か…」

???『断り続ける限りお前に仕事は来ない。早めに受けておいた方が得策だと思うぞ?』

ミカ「ここまでできるなら専用ルートくらいすぐに辿り着けるはずだろ。なぜこんな無駄なことに時間を使う?」

???『立場関係を知っておいてほしかったのでね。お前は私の依頼を受けるしかないのだよ。何もタダで働けと言っているんじゃないんだ。意固地になって断り続ける事の方が余程無意味じゃないか?』

ミカ「チッ…分かった。内容を教えろ」

???『おお!そうか!受けてくれるか!ならばこれから送る住所に来てくれ、そこで全て伝えよう』

95ハイドンピー (ワッチョイ 5725-7cff):2021/05/24(月) 18:08:39 ID:dIqdflQU00



その後メールで送られた住所へとミカは足を運んだ。

ミカ「でかいな…」

そこには大きな屋敷があった。

ギィ…

と、大きな門が開き。

???「やあ。待っていたよ味方殺し」

中から現れたのはいかにもな高級スーツを着てギラギラと輝くアクセサリーを大量に着けた男だった。

ミカ「お前が依頼人か」

???「ああ。ここでは人目につく。中で話そう」

そして屋敷の中へと招かれた。


ミカ「オイ、そろそろ話を…」

???「いいや、まだだ。屋敷の一番奥に秘密の部屋があるんだ。話はそこで聞いてもらう」

男はどんどん屋敷の奥へと進んでいき、ミカはその後をついていく。


ガチャン!!


ミカ「は?」

突如、ミカの踏み出した脚に足枷がはめられた。


ガチャン!!ガチャン!!ガチャン!!


更にいくつもの拘束具が床や壁や天井から突き出し、ミカを縛り付けていく。

ミカ「デガワァ!!」


ドガァッ!!!!


ミカはかみなりを落とし、その全てを一撃で粉砕した。


ドガガガガガ!!


しかしその間にミカの周囲に分厚い壁が降りてきて取り囲み、逃げ道を完全に封鎖した。

ミカ「はっ!!」


ドゴッ!!


尻尾で壁を叩きつけるも、表面にヒビが入っただけだ。

ミカ「チッ…何の真似だ…」


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