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ダンゲロスロワ

43 ◆jG/Re6aTC.:2019/06/22(土) 03:06:47
するとどうだろうか。何やら薄い膜のようなものが彼らの頭部を包み込んだではないか。
男たちは咄嗟に首筋に指を這わせたが、幾重にも巻かれたそれを引き剥がすのは容易ではなかった。

男たちの顔に巻かれていたものの正体、それはあれだった。
権利関係のあれで具体的な商品名を出すわけにはいかないが、どの家庭の台所にもあるあれ。
無色透明で薄く、若干の伸縮性があり、細長い筒に巻かれて収納されていて、おにぎりを握るのに使ったり、電子レンジで冷えた食品を温めるときとかにピッとやって被せるやつ……そう! それである。
そのあれなんだけど、何でも通気性があるものとないものがあるんだって。
ポリ塩化ビニリデンというものを原材料として作られたものは通気性がないらしい。
ここでは通気性がないものが巻かれたこととする。

男たちはしばしの間それと格闘していたが、やがて一人、また一人と力尽き、その場に倒れ伏した。
その様子を、いつの間にか接近していた巨大ぬいぐるみ(イカ)が無表情に見下ろしていた。
十分あまりが経過したとき、おもむろに巨大イカの背中のファスナーが下り、中から今まさに連れていかれんとしていた皿が姿を現したではないか。
どういうからくりか理解の追い付かない読者諸氏のために解説が必要だとは思うが、偶然にも皿には独白癖があったので、まずはそれを聞いてみたい。

「あーしはベッドで寝ねーんだわ。いつ来るか分かんねーしな。賊が。信用できねーし。でも暑ちーから正直辛いわ。最近は。ちなみにそっちもイカ。デコイのイカだからデコイカな。包み直すの面倒だから破らんといて。あっ、死んでるから聞こえないか。わりーわりー」

お分かり頂けただろうか。
ひきこもり生活が続いてめっきりコミュニケーション能力が低下してしまった皿の独白では若干分かり辛い部分があったかもしれないので、以下に補足説明させて頂く。

・皿は他人が信用できない。
・皿は『他人が寝込みを襲ってくるかもしれない』という妄想を常日頃から抱いていた。
・皿は自衛のため通販でイカ怪人の着ぐるみを購入し、その中に隠れて眠ることにした(魔人能力不使用)。
・それだけでは家捜しの末に自分の居場所がばれてしまう可能性があるので、身代わりを用意することにした。
・追加で購入したイカのぬいぐるみを自分の姿に変え、ベッドの上に配置した(魔人能力使用)。

大丈夫ですね? 先に進みましょう。

「──で、あんたらは誰よ」

警戒を解かぬまま皿は男たちの体を表に裏にひっくり返し、何か素性の分かるようなものがないかと探り始める。
すると細見の男、夜永のジーンズの後ろポケットに薄い本のようなものが丸めて入れられていることに気が付いた。
本を手に取り、表紙を窓のほうへと向けると、月明かりに題名が浮かび上がった。

『tl;dr 希望崎学園生、杏堂皿(あんどう・さら)が能力を披露しつつ拉致されるまでのお話。』

「これは……」

背中を冷たいものが伝う。
皿は嫌なものを感じながらも、次のページをめくった。

『登場人物。
 鎌瀬某……頭髪を短く刈り込んだ大柄で筋肉質な髭面の男。
 夜永某……前髪で片目を隠した細身の男。
 杏堂皿……希望崎学園の二年生。絶賛ひきこもり中。』

ページをめくる。

『台詞
 鎌瀬:台本をちゃんと読んでおけ。戦闘能力を確認するのもシナリオの内だ
 夜永:マジですか、俺そっちは得意じゃないですよ。帰っていいですかね』

本を閉じる。

「これは……演劇部様式の任務指示書、通称『台本』」


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