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ダンゲロスSSCINDERELLA幕間スレ

1タケダネット公式:2016/06/28(火) 21:41:11
ダンゲロスSSCINDERELLAに関するSS・イラストなどを投稿するスレです。
キャラクター投稿者以外も自由に活用していただいて構いませんが、wikiに転載はされません。ご注意ください

2人的資源:ネーター:2016/06/29(水) 00:06:33
応援絵巻:十四代目武田信玄
tps://twitter.com/nater_gamer/status/747807683948883968

3人的資源:ネーター:2016/06/29(水) 23:40:20
応援絵巻:姫宮マリ
tps://twitter.com/nater_gamer/status/748163765883965440

4マッスル先生:2016/06/30(木) 06:07:41
《マッスル先生の悩み相談》


「――マッスル先生、これが、そのポータルチケットです」
鞄の中から小さな紙片を取り出して見せた少女の身体は細かった。触れたならば折れてしまうのではないかと錯覚しそうなほどに。
マッスル先生と呼ばれた教師、薪屋武人の体躯は対照的に太く逞しい。

この藩立高校にも、魔人の生徒は通っている。
数少ない魔人教師である薪屋の元に、悩み事を相談するため生徒が訪れることは珍しくはない。
《魔人》とは、常識を越えた能力を持った存在であり、魔人生徒の相談事もまた常識の範疇には収まらないものが多い。
だが、この生徒が持ちこんだチケットは、それらの魔人生徒の悩みと比較しても風変わりな一品であった。

「それを『ダンゲロス』を通じて手に入れたのだね」
薪屋は、努めて穏やかな口調で聞いた。
彼女の纏う空気は危うく、迂闊なことをすれば心を閉ざしてしまいそうであったから。

「戦ってみたい。思いっきり《能力》を使って自分はどこまでやれるか試してみたい――そう思っていたんです」
「だが、気が変わった?」
「はい。怖くなってしまいました。やっぱり《能力》を使って戦うなんていけないことですよね?」

少女の瞳には、迷いの色が濃く浮かんでいたが、それでも強い輝きが秘められていた。
自分の力を限界まで試してみたいという気持ちと、人的資源として真っ当に社会貢献したいという気持ちがせめぎあっているのだ。
恐らく、今は後者の気持ちが強く出ている。
薪屋の元にやって来たのは、馬鹿な真似をするなと一喝して試合出場を止めてもらうことを願ったのだろう。

「そんなことはない」
薪屋は大きな身体をかがめ、少女の目を正面から覗き込んだ。
「自分の能力を活かしたい。その気持ちは間違いじゃない――だが、能力を使わず人的資源として生きるのも正しい道だ。冷たいことを言うようだが、どの道を歩くのは選ぶのは君自身だ。私達教師は、その手伝いをすることしかできない。まずは、ホットミルクでも飲みなさい。とてもよく効くプロテイン入りだ――筋肉がつくぞ」

傍らのテーブルには、薪屋が自ら注いだプロテイン入りミルクのカップが二つ、湯気を立てていた。
こうしたプロテインの類は、薪屋が管理する中庭の温室で育てられている。
その目的は、もっぱらこのように生徒の心を癒し、筋肉をつけるために使われる。

5マッスル先生:2016/06/30(木) 06:08:17
(続きです)

「落ち着いて、じっくり考えよう」
薪屋に促されるままに少女は細くしなやかな指を伸ばし、プロテイン入りミルクのカップを手にとった。
彼女は二口、三口と少しずつプロテイン入りミルクを飲み干してゆく。
その様子を満足そうに見守りながら、薪屋はラジカセにテープを挿入して再生ボタンを押した。
穏やかな明るい曲が流れ出す。

「音楽――?」
少女は目を丸く見開いて驚いた。
ラジカセが、音楽を演奏する装置だとは思わなかったのだ。
タケダネットからダウンロードしてポータブルデバイスで再生する以外の方法で音楽に接した経験のない世代なのだから、当然の反応である。

「いい曲だろう。この音楽は『ジャズ』という名前らしい。世界幕府には禁止されている音楽さ」
薪屋の言葉を聞いて、少女は更に驚いた。
厳しく校則を守らせ、厳格な指導をすることで有名なマッスル先生が違法な音楽を聴いているなんて!

「昔、傭兵をしていた頃に、反政府カルト集団から押収した曲なんだが、なぜか気に入ってしまってね」
穏やかに笑う薪屋の顔は、生徒指導のマッスル先生ではなく、今まで少女が一度も見たことのない表情であった。
「若い頃の私は、手の付けられない暴れ者だったんだ。自分の力を試してみたくて、傭兵部隊に入った。間違った道を歩いたとは今でも思っていない。だが――」
薪屋の目が、暗く濁る。
ラジカセがシンバルの音を二度、打ち鳴らした。
「汚いものを色々と見てしまった」

ふと気付くと、二人のカップは空になっていた。
「先生、私はどうすれば――」
少女の迷いはまだ消えていなかった。
薪屋は穏やかに笑い、決断した。
これから少女の不安を取り除くことにしたのだ。
「最後に決めるのはあなた自身です。――しかし、迷いを捨てる手助けならば、できます」
薪屋は、戸棚から何かを取り出してみせる。
一本の金属棒と、その両端に取りつけられた五キロウエイトであった。

「マッスル先生、それは?」
少女は訝しげな顔をした。
「これはダンベルです。このダンベルで、あなたの悩みを消すことができるかもしれません」
薪屋は、少女を勇気づけるべく微笑んだ。
「一緒に解決方法を探しましょう。私はあなたの味方ですよ」
薪屋は、少女の面前で五キロダンベルを手に持って、ゆっくりと上下に振り始めた。



――その翌日、薪屋武人は『ポータルチケット』の所有者となっていた。
変わり果てた姿となって発見された少女が、試合に出ることはなかった。
だが、少女の表情は穏やかなものであった。
きっと、マッスル先生の“生徒指導”の結果として辿り着いたこの結末に、彼女も納得しているのだろう。

6人的資源:ネーター:2016/06/30(木) 23:52:06
応援絵巻:「提督」
tps://twitter.com/nater_gamer/status/748529188273938432

7人的資源:ネーター:2016/07/08(金) 01:09:45
応援絵巻:弥六
tps://twitter.com/nater_gamer/status/751085195743285248

8平賀 稚器:2016/07/09(土) 00:14:16
 自分の掌すらぼやけて見える、夜闇の中。右手に握った懐中電灯の弱々しい灯りを頼りに、しかし確かな足取りで進む、長身の若い男が一人。

 男が進む道は、山岳の斜面にみっしりと雑木が生い茂る。ところどころに足場として確保された石畳がなければ、獣道にしか見えなかっただろう。

 『立ち入り禁止』を示すトラロープを潜り抜け、今は荒れ果てた大手道を、男はただひたに歩き続けた。十里も歩き、膝が笑い始めたころ、ついに男は、目当ての場所にたどり着いた。

 オダニ・キャッスル大手門。

 初代武田信玄のために、魔王織田信長と同盟を破棄し、反旗を翻した英雄浅井長政が居城。また、魔王の最愛の妹、お市の方の最期の地である。

 お市の方は、いつまでも変わらぬ若さと美しさを保ち、織田信長ですら溺愛したと言われる、伝説の女性だ。伝え聞く話では、オダニ・キャッスル天守閣において、織田信長と凄絶な一騎討ちを繰り広げた浅井長政とともに、織田信長に殺されたと言われている。

(だが、それだけが真実ではないはずだ)

 男は、懐からボイスレコーダーを取りだし、口元にあてた。

「●月×日午前2時12分、オダニ・キャッスル到着。この音声データは、俺の自室に設置されたハードディスクにリアルタイムで保存されている。タケダネットにより、不可侵地域と定められたこの場所に潜入した以上、いつ命を失ってもおかしくない。俺の調査結果を無にしないため、この記録を残す」

 男はひとつ息継ぎをして、三日月状に抉れた天守閣を、鋭い目で見据えた。

「俺はジャーナリスト、浅井・チャールズ・玲。お市の方の真実を知るために、この場所に来た」

9平賀 稚器:2016/07/09(土) 00:14:48
「午前2時56分、だいぶ到着予定時間が遅れている。なにしろ城の大きさが半端じゃない上に、廊下は歩きづらい。瓦礫がそこかしこに落ちていて、道を塞いでいることもある。織田信長と浅井長政の激戦の痕跡が、色濃く残っているようだ」

 じゃりじゃり、と山道を上るためのトレイルランニングシューズが、地面に散らばる瓦礫と擦りあい音をたてる。玲は、左手にライト、右手にボイスレコーダーを持ちながら、頭に叩き込んだ地図に沿って、『目的地』へと歩を進める。

「このまま足音を録音しても、容量の無駄だ。俺の記憶の整理のためにも、今日俺がこの場所の探索に至った経緯について話しておく。

 そもそも俺が疑問に思ったのは、お市の方の最期についてだ。知ってのとおり、彼女は、織田家と浅井家の同盟のために長政に嫁いだが、長政が魔王に反旗を翻した際、長政側についたことで、信長に殺された。浅井の恨みはすさまじく、祟りがあるからという理由で、オダニ・キャッスルは不可侵地域となった。これが、歴史の教科書の記載だ。

 しかし、この話には裏があると俺は考える。

 まず第一に、織田信長はお市を溺愛していた。だったら普通は、オダニ・キャッスルに攻め込む前に、使者を派遣するなり手紙を送るなり、説得を試みるだろう。だが、それをしたような記録はない。降伏勧告は一切ないまま、長政とお市の方を惨殺している。これはおかしいんじゃないか。

 第二に、お市の方が亡くなってから数年経って、織田信長の末妹である小谷の方が、柴田勝家に嫁いだと記録にある。だが、小谷の方と言う名前が出て来たのは、この時が初めてで、幼少期の記録が一切ない。まるで、お市の方と入れ替わりに、この世に生まれたかのように。

 そして、第三の理由。そもそも何故オダニ・キャッスルは、不可侵地域とされているのか。祟りなんて眉唾な話で、政府が規制をかけるなんて馬鹿げている。だが、他の不可侵地域……アヅチ・キャッスルや、ワイルド寺、悲鳴山などを考えればわかる。

 すなわち、織田の存在。タケダネットは、一般市民を織田の残骸に触れさせたくないと思っている。ならば、それはなぜだ」

 玲が、歩みを止めた。目の前には、豪奢な城にはあまりにも不釣り合いな、木製片開きのこじんまりとしたドアがある。ちょうど、玲の目線より少し低いところにかけられた、雲形でピンク色をしたプレートが、この部屋の主を示していた。

 そのプレートには、丸っこい文字で『おいちのへや』と書かれていた。

「……目的地に到達した。手の震えが止まらない」

 玲が、唾を飲んだ。ところどころメッキが剥げた金色の丸っこいドアノブを握り、押す。ドアは、悲鳴のような音を上げながら、ガタガタとぎこちなく開けていった。

10平賀 稚器:2016/07/09(土) 00:15:08
 部屋は、あまりにも簡素だった。

 真っ白い部屋に、布団が一組と箪笥が一つ。そして、広い壁一面に本棚。とても、当時信長の寵愛を受けた人間の住む部屋とは思えなかった。

 玲は、迷わず箪笥に向かう。

「お市の方は、絶世の美女だったと聞く。しかも、いつまでも若々しく、少女のようだったと。それが魔王の恩恵であったとか言うやつもいるようだが、俺は違うと考える」

 箪笥を開く。そこには、色とりどりの和装、帯、小物類がしまわれていた。違う。ここではない。玲は次に、本棚に向かう。

「織田家の技術は、サイバネまでと一般に言われている。人工知能開発に成功したのは、史上最も勤勉な武田信玄と言われる九代目武田信玄だと。だが、本当にそうか」

 本棚には、絵本から兵法書まで、様々な書籍が収められている。そのどれもが、長年にわたる放置によりくすんでいた。玲はライトを口にくわえ、一冊手に取ってみる。

 手あかが全くついていない。

 心臓が跳ね上がるような興奮を覚える。より注意深く、本棚をなめるように見渡す。

「実は、つい先日アヅチ・キャッスルにも忍び込んだ。織田家の蔵書には、人工筋肉理論だの、ミサイル兵器の推進力に関する論文だの、興味深いものに事欠かなかった。その中でも、俺が特に注目したものがある。人間型からくりの設計図だ」

 蔵書のうちの一つが、上下逆に収められていた。玲はその本を抜き取り、本棚の奥に手を突っ込む。指先に、くぼみの感触。そこに指を入れると、本棚が大きな音を立てながら横に開き始めた。

「オダ・テクノロジー・ワークスの技術者により設計されたそれは、完全自立稼働型であり、全身に織田式電子計算機が張り巡らされている。それにより、指一本に至るまで自立稼働できるというのも物凄いことなんだが、特筆すべきは織田式電子計算機は人間の脳を模倣していること。経験によって学習をすることで、論理的な推論等を行うことができる。

 そう、AIだ。織田家は当時すでに、人工知能を完成させていたんだ」

 本棚が開き切る。そこには、3畳程度の小さな倉庫のような部屋。中心にリクライニングのシートを配置し、雑然とドライバー、電子計算機、ハンダ等が置かれていた。それはまさしく、精密機械のメンテナンス室のようであった。

 玲の声に、緊張と喜びの色が混ざった。 

「間違いない。オダ・テクノロジー・ワークス試作壱型。すなわち、織壱の方。そして、壱型をベースに開発したオダ・テクノロジー・ワークス試作弐型。すなわち、織田弐の方。

 二人は、信長のために織田家が開発した、妹型ロボットだ」

11平賀 稚器:2016/07/09(土) 00:15:41




(パラパラと本をめくる音。息遣いが荒く、録音者が興奮していることがわかる)

「すごい。これはすごいぞ。タケダネットが織田家の資料をひた隠しにする理由がよくわかった。

 織田家のテクノロジーは、進みすぎている。俺では、このお市の方に関する資料に書いてあることの半分も理解できないが、少なくとも周りにAIと悟らせないほど自然に動く、自立稼働型からくりを作っていたことは間違いない。

 お市の方は、日記をつけているのだ。AIが日記だと。200年以上前だぞ? 信じられん。おそらく現在のタケダネットですら、当時織田家が開発した人工知能に劣っている。

 それは、隠すはずだ。200年前の織田家にテクノロジーで負けているなんてことが知れれば、タケダネットの威信は失墜する。いや、それ以上に、織田の技術を手に入れるということは、情報技術において、タケダネットの上を行くことを示す。それは、タケダネットにとって、最も危惧する事態だろう」

(遠くから、木材がこすれるような甲高い音が聞こえる。この音は、先ほど録音者がお市の部屋に入室した際に鳴った、扉がきしむ音と同一である)

「これで、織田信長がお市の方を殺した理由も説明できる。この日記を見ると、お市は毎夜、浅井長政の恨み言を聞いていたらしい。本来織田信長を裏切るはずがない人工知能が、浅井長政の苦悩を”学習”することで、織田信長より浅井長政を優先するというバグが出たんだ。」

(ギシギシと、床がきしむ音が聞こえる。録音者のまくしたてる声の調子は変わらない。気づいていない様子である)

「つまり、織田信長が狂った試作品を回収し、小谷の方の開発に着手するためには、お市の方を自らの手で破壊するしか……」

「そ兄ちゃん、みーつけた」

「うわ!」

(甲高い女の子の声。本が床に落ちる音と共に、ガサガサと大きな雑音が入る) 

「だ、誰だお前は……!」

「? チキはチキだよー。そ兄ちゃん、どうしちゃったの」

「そ兄ちゃん? い、一体お前は何を言って……おい! 近づくな!」

(空気を斬るような音。現場の状況からして、録音者がナイフを抜いた音と思われる)

「もー、ダメだよそ兄ちゃん。そんな危ないものだしちゃ」

(甲高い金属音と、録音者が息を飲む音。ナイフを弾き飛ばされたものと思われる)

「く、くるな!」

「それに、生きてるのも良くないと思うよ? 武田の世に生きる者には、遍く死を与えないといけないんだから。ふふ、しょうがないなあ。チキが手伝ってあげる」

(モーターの駆動音。なにがしかの開閉音。リロードのような装填音。その他、様々な機械音が響く)

「う、うわあ! や、やめろ! 来るなあああああ!」

「そ兄ちゃんったら、こどもみたい。だいじょぶだよー。こわくないよー」

12平賀 稚器:2016/07/09(土) 00:16:01
(録音者の悲鳴が響く中、モーターの駆動音が突然止まる)

「……長政様?」

(しばしの沈黙。その後、女性の震えるような声)

「ああ、ああ、長政様、長政様ァ……。浅井の血が、まだ絶えておらんとは……」

(甲高い金属音が響く。現場の状況からして、録音者が腰からもう一本のナイフを取り出し、からくりの右手を切り落とした音と思われる)

「イヤアアアアア! アアアア! イヤァ! おニいサま! やメろォ! アアアアアアアアアア!」

(モーターの激しい駆動音。足音が遠ざかっていく。環境音がなくなり、録音者の荒い息遣いだけが聞こえている)

「今のは……、からくり人形? そ兄ちゃん……。ああ、そうだ。確か先月頃、平賀曾兄が作り出した自立化同型からくり人形が逃げ出したと……。ああ、まさか」

(録音者が立ち上がる音)

「平賀曾兄が幕府の許可を得て、アヅチ・キャッスルを調査したという話を聞いたな。週刊誌の眉唾ゴシップと思っていたが、こうなってくると俄然真実味を帯びてくる。

 平賀曾兄は、アヅチ・キャッスルに保管されていたお市の方のパーツを流用して、からくり人形を作ったのではないか。そして、全身に張り巡らされた人工知能に残った、お市の方として学習した要素……バグに侵された」

(僅かにモーターの駆動音。録音者は気づいている様子はない)

「魔王とすら呼ばれた織田信長の邪念と、浅井長政の苦悩。それらによって引き起こされたお市の方のバグが、平賀曾兄の作成した人工知能に重大な障害を引き起こした。それはさながら、三者の怨念が蘇るかの如く……なんてな。まるで小説だ」

(徐々にモーター音が近づいてくる)

「まあ、いい。命があったのは僥倖だ。これから戻って、記録をまとめるとしよう……!?」

(モーター音が激しくなる。大きな雑音。録音者のうめき声)

「ガッ……! こ、これは、右手だけで動いてっ……! バカ、なっ……! やめ……っ!」

(グシャ、とフルーツを潰すような音。その後、遠ざかっていくモーターの駆動音。以下、無音)

13無知園児:2016/08/02(火) 00:09:12
『絡繰が冷却水を排出するまでのプロセス』





「全空」

 一閃。ただそれだけで、核戦争にも耐えうるシェルターの壁は、音すらたてずに両断された。

 人目を避けるように廃棄街に設けられた、平賀曾兄の秘密研究所。その地下に作られた、厚さ90センチの鉄板で覆われたシェルター。通常ならば、小さな穴をあけることすら困難な代物である。

 刀を振るったのが、サイバネティック富士山すら一太刀の下に斬り伏せることができる男でさえなかったならば。

 14代目武田信玄は、シェルター中央に置かれたイスに縛り付けられている、疲弊しきっている老人に駆け寄った。

「無事か。歴史博士」

「おお、たかしくんか……。来てくれたのか」

「当然だろう。俺は、俺に関わった人間を、一人たりとも死なせはしない」

 歴史博士は、くたびれた表情の中にも、わずかに笑みを浮かべた。14代目武田信玄は、歴史博士を縛る縄を斬り、少しふらつく歴史博士に肩を貸した。

「それで、平賀稚器はどこだ」

 歴史博士は、静かに首を横に振った。

「わからんよ。希望崎の戦闘に出て以来、ここには戻ってきておらん」

「チッ」

 14代目武田信玄は、悔しそうに歯噛みした。

 結局、千勢屋香墨と戦った後、平賀稚器と顔を合わせることはなかった。斎藤ディーゼルとの戦いに敗れ、修理に時間がかかっているとのことだったからだ。

 14代目にとって、平賀稚器はあくまでも、現在の織田信長の情報を得るための収集源にすぎない。千勢屋の管理下に治まっているのであれば、そこまで重要視する必要はなかろうと、たかをくくっていた。

 まさか、平賀稚器こそが、歴史博士誘拐の下手人だとは、思っていなかったのだ。

 14代目武田信玄は、タケダネットの衛星軌道カメラをハッキングすることで、平賀稚器が歴史博士を拉致し、平賀曾兄の研究所に放り込むまでの足取りは追えた。だが、その動機については、全くの不明だ。

 歴史博士は、14代目武田信玄の重苦しい表情を見て、何かを察したかのように力なく呟いた。

「いいんじゃよ、たかしくん……。おそらく、もうじき彼女は『終わる』」

「……どういうことだ」

 歴史博士は、どこか寂しそうに目を伏せた。それはまるで、患者の最期を看取る医師のような、沈痛な面持ちだった。

「彼女は、我が盟友、平賀曾兄博士が作った人工からくりだ。彼が死ぬ直前のタケダ科学賞授与式で、わしは彼と会っていてな。彼にとっては、下らない用事の暇つぶしだったのだろうが、少し話を聞いた。
 
 曰く、彼が作った人工からくり、平賀稚器には、失われた織田家の技術が使われている。人工筋肉や、電子頭脳の一部を、アヅチ・キャッスルに残されたお市の方のパーツから流用して、現代最高峰のからくりを作り上げた、と。

 じゃが、平賀稚器は暴走し、平賀曾兄博士を殺害して逃亡した。

 映像データによると、香墨くんとの一戦では、『武田に報いを、武田の世の者に死を』と言っていた。織田家が作ったからくりには、全身に織田式電子計算機が張り巡らされている。そのパーツを流用したことで、一部のバックアップデータが逆流し、電子頭脳を狂わせたのじゃろう。

 そして、お市の方の怨念が宿るからくり、平賀稚器は誕生した」

「……ならば、やはり平賀稚器を放置することは、危険なのではないか」

 歴史博士は、ゆっくりと頭を振った。

「わしを攫ったとき、平賀稚器は非常に不安定じゃった。まるで、お市の方の記憶が蘇っているようじゃった。

 大きな原因は、斎藤ディーゼル戦じゃろう。精密機器は、熱に弱い。放射熱戦により、”平賀稚器”の電子頭脳と、そこに保存された情報は大きく消失した。

 希望崎治療スタッフにより、からくり自体は直せても、情報は復元できぬ。だから、今までは影響を与える程度だったお市の方の情報が、平賀稚器というベースを侵食しだしたのじゃ。

 だが、ベースを消失したコンピュータが、問題なく稼働できるはずがない。今彼女が動いていることだって、奇跡のようなものじゃ」

「……ならば、平賀稚器は」

「今頃は、もう」

14無知園児:2016/08/02(火) 00:09:43
<さかのぼること、24時間前>

 


 ガー    ガー   ピガッ  ガガー

 頭の中で虫(バグ)が飛び回っている。うるさいなあ、もう。

 ≪お兄様、市は、どうなってしまったのでしょうか。ここは暗いわ。市は、怖い≫

 お姉ちゃん、ちゃんと勝てたかなあ。チキも、○○○○に勝ったよ。えらいえらいって、してくれるかな。

『不必要な情報。最適化のため、“てーとく”、削除。これを是とする』

 ……あれ? 勝ったって、なんだっけ? あー、そうだ。○○○で勝って、○○を溜めないといけないんだ。

『不必要な情報。最適化のため、”希望崎””お金”、削除。これを是とする』

 ≪お兄様。市は、がんばりましたよ。○○様のために、○○○○のために、○○を滅ぼすために≫

『不必要な情報。最適化のため、”長政=浅井長政””天下布武””武田=武田信玄”、削除。これを是とする』

 ○○○○○、○○どうしちゃったのかな。なんだか○○な。なんもかも、どっかいっちゃうの。

『不必要な情報。最適化のため、”そ兄ちゃん=マスター””チキ=平賀稚器””怖い=恐怖の感情”、削除。これを是とする』
 
≪○○○、○は、○は、○○○○○○○○○≫

『不必要な情報。最適化のため、”お兄様=織田信長””市=お市の方””どうしてしまったの=現状の把握”、削除。これを是とする』

 早くかえりたいよ。○○○○○に、ただいまって、言いたいよ。

『不必要な情報。最適化のため、”お姉ちゃん=千勢屋香墨”、削除。





 これを否とする』


『再評価。情報の統合が必要。矛盾する命令が生まれる。不必要な情報。最適化のため、”千勢屋香墨”、削除。

 これを否とする』

『再評価。”千勢屋香墨”、削除。これを否とする』『再評価。”千勢屋香墨”、削除。これを否とする』

『再評価。削除。否とする』『再評価。削除。否とする』『再評価。削除。否とする』

『否とする』『否とする』『否とする』『否とする』『否とする』『否とする』

『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』『否』

 いやだ。いやだ。いやだ。 

『”○○、お姉ちゃんの家の子になりたい”、削除。否とする』

『”うちや町の人のお手伝いしてくれるなら、まあ……”、削除。否とする』

 ○○と遊んでくれたの。○○をぎゅってしてくれたの。○○は、楽しかったの。

『”○○ちゃーん! また毬つきで遊ぼう!”、削除。否とする』

『”折り紙教えてあげる!”、削除。否とする』

 そこにいていいって、言ってくれたの。一緒に笑ってくれたの。嬉しかったの。

『一緒に帰ろうね』  

 もう二度と、忘れたくない!

『CPU温度上昇。再起動の必要あり。その後、頭部内チューブに、冷却水を注入。温度上昇した冷却水は、眼球より排出』





 コロッセオ中央には、頭から血を流し転がる『提督』と、右腕から銃砲を生やして制止する平賀稚器がいた。

 試合決着から、希望崎スタッフが回収に来るまでの、数分に満たない静謐。勝者であり、勝鬨を上げるべき稚器は、まるで動く様子はない。

 能面のような顔の奥からは、カチカチと忙しなく微細な電子頭脳が稼働する音だけが響く。肌色の人工皮膚が剥がれ、そこかしこから銀色の人工筋肉が露出する。その姿を見て、人と思う者はいまい。

 ひときわ大きな可動音の後、稚器の人工声帯が震えた。再起動の際、稚器は「おやすみ」と「おはよう」を言うように設定されている。だが、半壊し、まともな口語が不可能である現状では、意味不明な雑音を鳴らすだけだ。

 だから、彼女の声帯から、日本語のように聞こえる音が発されたのは、ただの偶然だ。


「かエらナきゃ」


 熱を持った液体が排出され、ポタポタと地面を濡らした。

15無知園児:2016/08/02(火) 00:10:17




<時は過ぎ、1か月後>




「たのもーう!」

 若い女性の、溌剌とした声が道場に響いた。千勢屋香墨は、数十人いる門下生への指導をいったん止め、玄関に足を運ぶ。

 そこにいたのは、使い込まれた道着袴を身にまとった、短く切りそろえた黒髪が印象的な少女だった。おそらく、香墨より少し年上といったところだろう。

 少女は、仁王立ちで香墨に向かい叫んだ。

「私は、日内流砲術第22代目当主、日内環奈である! 先の戦いで準優勝した、千勢流炮術流祖、千勢屋香墨! 我が流派の武名を上げるため、道場破りに馳せ参じた!」

「あ、わかりました。どうぞ、射場へ」

「まさか断るなどと不抜けたことを……! え?」

 環奈が、気の抜けた声を出した。香墨は、さっさと道場に向かって歩いていくので、環奈はその背を追う形になる。

「ん? いや、道場破りなのだが、いいのか!? 早くないか。普通は断ったりなんだりするところではないのか?」

 香墨が、歩きながら振り返り、にこやかに笑顔を見せる。それは、年頃の少女らしい瑞々しさを持ちながらも、どこか落ち着きがある、流派の祖にふさわしい、威厳すら感じる笑顔だった。

「うちの流派も、表社会ではまだまだ無名ですから。武名が欲しいのは、お互いさまなんですよ。流石に、道場破りに行くわけにもいきませんから、来ていただけるならありがたいんです」

 環奈は、目を丸くした後、ふっと笑った。以前の環奈であれば、道場破りをありがたいなどとのたまう少女に、嘗めた態度だと食って掛かっていっただろう。だが、今の環奈は、猪突猛進にただ戦うだけだった頃とは違う。冷静に相手の戦力を分析するだけの、経験と実力がある。

 一見してわかる、千勢屋香墨は、強い。穏やかな態度も、自信ゆえだ。負ける気はしないが、決して一筋縄ではいかない相手だろう。

 だからこそ、この戦いには価値がある。

 香墨が射場に一礼して入り、側面に誇り高き『千勢屋』の三文字が刻まれた火縄銃を手にした。

 雰囲気が変わった。殺気が、射場全体を包む。

 しかし、環奈はまるで意に介さないといった風情で、不敵な笑みを浮かべ、これもまた頑健な火縄銃を背から出した。

「言っておくが、私は強いぞ」

 環奈が、火縄銃を正眼に構える。

「ええ、そうですね。立ち振舞いをみれば、分かります。でも、負けません」

 千勢屋香墨もまた、火縄銃を構え、懐から折り鶴を取り出す。その目には、一切の曇りがなかった。

「我が千勢流炮術の名を、世に知らしめるために」

 御家再興のため。光の世界に行くため。町を活気づけるため。

 そして、迷子になったあの子が、迷わずに帰ってこれるように。

「千勢流炮術流祖、千勢屋香墨! 参ります!」

 パァーンッと、町中に轟くように、乾いた音が響いた。


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