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改訂版投下用スレッド

68忘らるる電波:2003/05/24(土) 01:16
「……はぁ」
 ため息を、吐く。
「……はぁ」
 もう一度、吐く。
 
 河原にうずくまる彼の名前は長瀬祐介。
 一応、最強の電波使いである。
 
「……はぁ」

 勝負方法にもよるが、本気の戦いになった場合、彼は最強候補の一角にも成りうるだろう。
 
「……はぁ」

 なにせ彼の『能力』は他の参加者たちのそれとは異質すぎる。単純に飛んだり跳ねたりの勝負では、彼に勝つのは難しい。
 ……が、
 
「……はぁ」

 それゆえに、彼の能力は今回のゲームではほぼ使用禁止と言ってもいいほどの措置を喰らい、あえなく今朝方、3人組に捕まってしまったわけではあるが。
 
「……はぁ」

 既に捕まってからかなりの時間が経つ。日もかなり暮れかけてきた。
 にも関わらず、彼はここから動く気配を見せない。
 なぜならば、
 
「……これからどうしよう」

 ……本気で優勝を狙い、序盤から誰とも組まず単独で過ごしてきた彼。
 一時は栞に洗脳されかけたが、その時も幸いなことに(ある意味主催者側に拘束されたのも幸運であったかもしれない)鬼化は避けられた。
 彼は、密かに期待していた。

「……優勝できるかもと思ってたのに……」

 ……が、状況はすでに終盤。
 軽く電波を走らせて周囲の状況を探ってみても、残っているのはほとんど鬼ばかり。
 こんな時期に鬼になってしまうのは、最も避けたい行為であった。
 
「……沙織ちゃんに追いかけ回されてまで逃げ続けたのに……」

 沙織だけではない。香奈子をも振りきってここまで来たのだ。
 言わば、全てをかなぐり捨て、ここまで来た。
 
「それなのに……」

 中途半端な時期に、捕まってしまった。
 
「……はぁ」

 こんなことなら、素直に最初っから沙織ちゃんと一緒にいればよかったかもしれない。
 こんなことなら、もっと積極的に瑠璃子さんを探すべきだったかもしれない。
 こんなことなら、瑞穂ちゃんに会っておくべきだったかもしれない。
 こんなことなら、香奈子さんと一緒に行ってもよかったかもしれない。
 ……が、全ては後の祭りだ。
 彼は一人。
 否、
 独り、であった。
 
「……はぁ」

 既に何度目かもわからないため息をつく。
 
「……とは言っても、ずっとこうしてるわけにもいかないからな……」

 このゲームがどのくらい続くのかはわからないが、あと小一時間かそこらで終わるというものでもないだろう。
 とりあえず、こんなところで夜を明かすわけにもいかない。
 適当なねぐらでも探して、あとはゴロゴロと……
 
 ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……
 
「……ん?」

 その時、ふと川の音が変わった気がした。
 常人ならば聞き逃すであろうぐらいの僅かな違和感。
 が、今朝から延々と川面を見つめ続けた祐介には、気付くことが出来た。
 
「何か……流れて……?」

 両目をこらし、流れる水を見つめる。
 
「……え?」

 見えたのは、人の手。
 
「……ちょっと?」

 そして、頭、体、……川に流される、女性の姿。
 
「……うわっ! 女の人が溺れてる!」

 ここに来てようやく、祐介は事態を飲み込むことが出来た。


「だいじょーぶですかーーーーっ!?」
 祐介は川のすぐ端まで飛び降り、大声で呼びかけた。
「………! あ……! ぶ……!」
 女性も祐介の姿に気付いたようであり、手を振って何か叫んでいる。
 ごうごうと流れる水の音にかき消され、何と言っているかはわからないが助けを求めているのは明らかだ!
「……助けなきゃ!」
 即座に祐介は決断した。
 そこには名誉も打算も迷いも無い。今、ここにいるのは自分だけ。あの人を助けることができるのは、自分だけ。
 ならば、己がやらずに誰がやる!
 腐っていた祐介の目にみるみる生気が戻ってくる。
「待っててください! 今助けますからね!」


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