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改訂版投下用スレッド

224士族の愛憎劇:2004/04/18(日) 14:43
「いやはや、さすがは花枝殿。見事な手並みであった」
 続いて森の奥より、これまたやはり呑気な、言葉どおり心底の感心だけを込めた言葉が聞こえてくる。
「己の得物を十分に相手に印象付けたところで自ずからそれを手放し、強制的に隙をこじ開け、明確な戦闘能力の差を埋め合わせる。某も感服いたしました」
 だが、岩切はその声を聞くといっそう殺気を強めた。
「……まさか、また貴様と会うことになるとはな……」
「……このっ、この声は……もしや……」
 再度剣を構えた岩切と、蹲ったまま依然動けないトウカ。二人が同時にその声に反応を示す。
「……ゲンジマル!」
「ゲンジマル殿!」
「然様」
 ガサリガサリと薮を掻き分け、一向の目の前に現れたのは、エヴェンクルガ稀代の英雄ゲンジマル。
「ウンケイの娘が闘っているから何事かと思えば……まさか相手が花枝殿、貴殿だったとは」
「……フン、どこかで見た耳かと思ったがそうか、ゲンジマル。お前と同族だったか……!」
 剣を正眼に構え、切っ先をゲンジマルへと向ける。
「……で、お前はどうするつもりだ? 同族の仇を討つか?」
「フム、それも悪くはありませんな。が、ウンケイの娘が貴殿に負けたのは実力の上でのこと。
 卑怯でもなんでもなく花枝殿、貴殿の作戦が見事だっただけのこと。某があれこれを口や手を挟むことではありませぬ。ウンケイの娘よ、そうだな?」
 言いながら、ゲンジマルの目線がトウカの目を射抜く。
「クッ……某、と、したことが……不覚、で、ありました……」
「その通りだウンケイの娘よ。皆が皆お前の武士道に付き合ってくれる道理も保証もどこにもない。戦場で相手が礼を守らなかったというのは、なんの言い訳にもならぬ」
 続いて岩切に向き直り、
「ということで、別段某としても仇を討つ云々のつもりはありませぬ。その点は花枝殿、ご容赦を」
「フン、ならばありがたい。私は先を急ぐのだ。ゲンジマル、見逃して――――」
「ですが……」
 だがゲンジマルは刀の柄に手を置いた。瞬間、岩切とは比べ物にならぬほどの圧倒的な闘気が、空間を支配する。
「――――もらえそうにないな」
 フッ、と岩切の唇が綻んだ。見様によっては嘲笑にも取れるその笑い。ただし対象は――――自分。


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