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【セ】彼方への郷愁【銀剣のステラナイツ】
29
:
マクア・ア・タランガ
:2018/12/05(水) 04:19:59
「…………ふ」
「そう、か……そうか」
それはきっと、幸せな夢だった。
二人で一緒に、思い思いに食事をして。
お腹いっぱいに魚を食べることができたら、どれほど幸せだろう。
この手で取った魚を焼いて食べるということが、どれほどに。
「……ありがとう」
「一本、もらおう」
亀のようにゆっくりと首をめぐらし、肉串を受け取る。
原始的な料理。
わざとらしい匂いが鼻孔をくすぐり――――そして、気付いた。
「……………………」
肉串を食べようと開けた口を所在無く閉じ、串を下ろす。
気付いた。
……気付いて、しまった。
「…………俺の」
「俺の鼻が、おかしくなったのかと思ったんだ」
「詰まるかなにかして……においを、感じなくなったんじゃないか、と……」
匂いはした。
わざとらしい、調味料の匂い。
鼻はイカレてなかった。
「――――――――潮の香りが、しないんだ」
しない。
感じない。
海の香りを。潮の香りを。
今まで、例え偽物であったとしても、例え作り物であったとしても、それでも潮の香りがするからここに来ていたのに。
それがしない。
なぜ?
今まではしていたのに。
確かに、ここは海だったのに。
「……また」
「遠くなるのか……?」
「海が……遠くへ……」
まるで、『世界が敵になってしまった』みたいだった。
……いいや。
あるいは最初から……世界が味方だった時なんて、無いのかもしれないけれど。
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