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【セ】彼方への郷愁【銀剣のステラナイツ】

20アレックス・グロース:2018/10/24(水) 22:43:24

余計な口は挿まない。今は必要ないからだ。
彼女の言葉が流れる内は、自分の言葉は必要ない。
ただ静かに、言葉を一つ一つ咀嚼する。余分な主観は挿まずに。

聞けば聞くほど、彼女と自分は何もかも正反対だ。
育ちも、価値観も、立っている場所も、見ているものも。
彼女はどこまでも華やかに刹那的で、俺はどこまでも地味。
しかし―――それでも、似ている所もあった。

「……なるほど。」

何もなかった俺が、悪党と戦うために、マスクを被ったように。
彼女もまた、何かと戦うために、華やかな仮面で自らを飾っているのだ。
人はいつか死ぬ。形あるものは、いつか失われる。
いつ自分が死んでしまうかはわからない。
けれど、何も残せぬまま、ただ死ぬのは嫌だ―――

―――彼女の言葉は、そんな悲痛な叫びに聞こえた。
思えば、この足元のなんと不安定なことだろうか。
かつて滅んだ故郷のように、全ては危ういバランスの上に立っている。
彼女が彼女なりに考えて出した結論ならばこそ、それを否定する事は憚られた。
しかし。たった一つ、何かを残しただけでおしまい、というのは―――
なんだか少し、勿体ないように思われて。つい、尋ねてしまう。

「……何か一つ残したら、それでおしまいか?」

何かを残したい、という思いには、思うところもあった。
ゴミを拾えば、その分だけ道は綺麗になる。
悪党をぶちのめせば、その分だけ悪党は減る。
些細な自分の行動で、何かが変われば―――なんて。
現実は、そう単純なものではなかったけれど。
俺は、最後まで後悔したくないから。
パートナーである彼女にも、後悔するような選択は、してほしくないのだ。

「……ああ、すまない。連れが騒がせた。」
「話の流れで、ついテンションが上ってしまっただけなんだ。悪気はない。」

「ああ……それと、追加でチョコレートケーキを2つ頼む。」

気がつけば、すっかり注目を浴びてしまっていたようで。
『これ持っていって良いのかな?』みたいな顔でコーヒーを運んできた店員に謝罪したり、追加で注文を入れたりして、場の空気を流す。
注目を浴びるのは全く得意ではないのだが―――今回ばかりは、仕方ないと割り切ろう。


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