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隔離部屋〜眠れぬ夜の姉ちゃんの為に〜

1ななし姉ちゃん:2002/04/09(火) 15:57
地下でヒソーリ。sage厳守でまいりましょう。

390第2話 <5>:2002/09/06(金) 23:40
「なっ、何今の!!!!!」
何の前触れもない、突然突拍子もないキンキン声に、カズナリは驚いて飛び起きた。
目の前の卓上には、ベソが放心したように突っ立っている。

「お、お前か?お前か、俺の安眠を邪魔した奴は!!!」
食ってかかるカズナリを、ベソはしばし焦点の定まらない目で見ていたが、不意にびくっと身体を震わせ、

「フーーートーーーーンーーーーーーをーーーーーーほーーーーーすーーーーーべーーーーーーしーーーーーーー」

再び裏声で告げた。

「あ、みたまさまだ!べそくんにみたまさまがおりてきた!!」
ピカドンが、嬉しそうに叫ぶ。
「はぁ??????」
「かずなりくん、みたまさまのおつげだよ!きょうは、ふとんをほしていったほうがいいよ!」
訳もわからず呆然とするカズナリに、ピカドンは興奮気味の口調で告げた。

「ベソには、ときたま山の御霊が降りてくるんだ」
カズナリの耳元で、リスが囁く。
「俺たちに霊力を授けてくださった、白神の山の御霊様だよ。今のは、ベソの身体を借りた神の声さ」
「・・・・それが、何で・・・・フトン?」
「そーさな・・・・ほら、朝のTVの占いで、『今日のラッキーポイント』とかってあるだろ?」
「テレビ、見ねえよ」
「そうか・・・・面白いのに『めざましTV』・・・・・とにかく、カズナリの今日の幸運の鍵は、
フトン干しにあるってこった。だまされたと思ってやってみろよ、いいことあるぜ」

いいから、頼むから寝かせてくれよ・・・・・・・
カズナリは、子供のように地団駄を踏み鳴らしたい衝動に駆られながら、切実に願った。
卓の上のベソは、唐突にくたっと倒れ伏すなり、小さないびきを立てながら眠ってしまった。

391ななし姉ちゃん:2002/09/10(火) 01:46
おお!たっぷり更新されておられる!
職人姉ちゃんいつも楽しいお話をありがとう。
みんな「目の中に入れたらちょっと痛いかな〜」ぐらいカワイイのですが、
一番気になるのは酒仙のようなベソくんです。

392ななし姉ちゃん:2002/09/17(火) 06:06
職人姉ちゃんはお忙しくていらっさるのかしら?
エロ小僧も大好きですが、今回のちょっと不思議なお話しもかなりイイ!
絵本もしくは「南くんの恋人」のような実写版で見てみたい〜!!

393</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2002/09/17(火) 16:17
お久しぶりでつ(モジモジ・・・
>>391 「目の中に入れたらちょっと痛いかな〜」(・∀・)イイ!!      
>392 絵本、いいっすね。私も下手ながら絵も描くので、今度何か描いたら
うpしてみます(←無謀。

当初はあまり意識していなかったのですが、今回のお話は、
「愛してると言えない」が自分的イメージソングであります。
大好きな曲なのに紺で聞けなかったので、ちょっとリベンジかな、と。
ま、どーでもいいことではありますが(ニガワラ

394第2話 <6>:2002/09/17(火) 16:22
予備校の階段教室は、空調こそ効いているものの、
窓がないためにどこかよそよそしい閉塞感を漂わせている。
正面の黒板に面した列の、前から5番目の通路がわに席を取ったカズナリは、
浅い椅子いっぱいに腰を据えると、小さな背もたれに身体を預け「はぁぁ」と息をついた。

結局、二度寝は出来ずじまいだった上、彼らに言われるまま律儀に布団まで干して。
実に無駄な時間を費やしてしまった気がする。
すぐにでも、居眠りしてしまいそうに萎え萎えな心身に鞭打つように、
カズナリはバッグからテキストを取り出した。
講義前のひととき、テキストや参考書をざっと眺めるのが、カズナリの決まりだ。
しっかり予習しているのかといえば、そうでもない。活字を目で追っているだけのことが多い。
要するに、ほかの受講者と交わるのが面倒なのだ。気安く声を掛けられたりするのが、カズナリは鬱陶しい。
これもいつもの決まりで、ペンケースから取り出したラインマーカーを指先でくるくる回しながら
(それは俗に、「浪人回し」と呼ばれる独特の回し方だった。器用な彼は、これをうまくやれるのがちょっと自慢だ)
カズナリは黙々とページを繰る。

やはり、疲れているせいなのだろう。ペンを回す手元が、今朝は微妙に狂った。
蛍光ピンクの派手なマーカーは、ぽんと弾んで指から零れると、勢いをつけ床に落ちた。
「ちっ」
カズナリは舌打ちすると、大儀そうに腰を上げ、ペンを拾い上げようとする。

「はい」
白い掌に載せられたマーカーが、屈みこんだカズナリの顔の前に差し出された。
「あ・・・・ども」
カズナリは顔を上げ、白い手から連なるノースリーブの二の腕を、
まっすぐ自分に向けている少女に、無愛想に頭を下げた。

395第2話 <7>:2002/09/17(火) 16:31
向坂ひなたが、自分よりも少し教壇寄りの、通路を挟んだ斜め前の席に着いていたのを、
カズナリは見ないふりしてひっそり見ていた。
小さくて細い肩や綺麗なうなじ、髪留めで緩く纏めた髪の、ゆらゆら揺れるしっぽ。
講義を受けながら、時折ひなたの後姿が視界の隅に入るのが、
カズナリは少しだけ楽しみだったのだ。
カズナリの属する国立理系のそのクラス内で、ひなたは常にトップクラスの成績だった。
東京の国立医科系を目指していると、小耳に挟んだことがある。
勿論、今のカズナリに、恋愛に心奪われる余裕はなかった。それは、受験のせいだけとは言えなかったが。
それでも、周囲に気を取られることなく、まっすぐ教壇を見つめるりんとした後姿を見るのは、
カズナリにとっては一時の安らぎではあったのだ。

「フトン干し、か・・・・・」

手元に戻ってきたマーカーの、透き通った腹から見える鮮やかなインクの色を眺めながら、
カズナリはここに着くまでのドタバタを思い返した。
物干し場とは名ばかりの、窓にへばりついている木製の柵に干されたフトンは、
朝から勢いよく照りつける太陽をまともに受けて、白く光っていた。

「いってらっしゃーい」
「フトンは、俺たちがちゃんと見てるからなー。安心してきっちり勉強してこいよー」
高鼾のベソと、勤行を終えてなおもトランス状態が抜けず、ぼおっとしたままのオガミを尻目に、
玄関までカズナリを笑顔で送り出すピカドンとリスの声を、ふっと思い出す。

これって、やっぱりフトン干しのせい?
・・・・・まさかな・・・・・。
ほんの一瞬向き合ったひなたの笑顔をまた頭に浮かべ、カズナリは思わずにやついた。

がらがらと音をたて、教室の戸が開いて、講師が入ってきた。
学生たちは皆、一斉に教壇を注視する。
いつもと変わらないカズナリの一日が、始まろうとしていた。

396第2話 <8>:2002/09/17(火) 16:34
築40年。やばいくらい年季の入った木造アパートに住むことになったのは、
カズナリが家族の反対を強硬に押し切って、一人暮らしに踏み切ったからだった。
予備校に近く、とにかく家賃の安いところを、不動産屋を歩き回って一人で探し、
漸く見つけ出した物件だった。
幹線道路を外れた、昔からの住宅地の更に裏。大家さんの庭に繁るヤツデの葉の合間を縫って、
一足ごとにぎしぎしと苦しげに息をつく階段を2階へと上がる。
今日も暑い。夕刻が近づいても、陽射しがかげる気配は一向にない。
・・・・・こんな日に干したフトンは、夜になっても熱いだろうなあ。
そう考えてげんなりしながら、カズナリはドアを開けようと、鍵穴に鍵を差し込んだ。

「あれ、開いてる」

中に、誰かが来ている。・・・それとも、あいつらがいたずらでもして、鍵を開けたのだろうか。
いずれにせよ、自分の領分を誰かに侵されている気がして、カズナリは面白くなかった。

「おい、開けっ放しにしてんなよ」
カズナリは、憮然としてドアを開け、中にいるはずの彼らに向かって叫ぶ。

「・・・・・カズくん?」
「・・・・・お母さん」

カズナリは、虫歯の穴に食べ物が嵌り、ひどくしみて痛いときのような表情で、
しんとした蒸し暑い部屋に、一人で佇む母を見た。
母は、カズナリが家を出たときよりも、更に痩せて見えた。
生気のない青白い顔を見るだけで、カズナリはいたたまれない気分になる。

「誰か、いるの?・・・・ここに」
「え?」

不意に問われ、カズナリはびくっと肩を震わせた。

397第2話 <9>:2002/09/17(火) 16:37
「開けっ放しにするな、って・・・・・誰に言ったの」
うわぁ。・・・・・カズナリは、うっかり口をすべらせたことを、いたく後悔した。
「誰かと住んでるの?まさか・・・・・女の子と?」
「んなわけねーだろ。落ち着いてよ、お母さん」
「だって・・・・・だから、お母さん嫌だったのよ、あなたが家を出るなんて」
「今さら、んな事言うなよ」

怒りと苛立ちとが、カズナリの胸をちりちりと焼いた。
もともとは色白で綺麗だった母の顔が、ますます色を失っていく。

「ねえ、カズくん・・・・・戻ってきて」
「嫌だ」
「お母さんね、もうカズくんのこと、縛り付けたりしないから・・・・・
お兄ちゃんと同じ大学に行けなくてもいい。お兄ちゃんみたいに出来なくても、カズくんのことを
責めたりしないから・・・・・お願い・・・・・お母さん、寂しくて・・・・・」

ああ・・・・・この人は、結局何にもわかっちゃいない。
胸を焼く苛立ちが一気に冷め、冷え冷えと寂しく萎んでいくのを、
重い鳩尾の痛みとともに、カズナリは実感する。

「もういいよ・・・・・帰れよ」

感情が漏れ出さないよう、極力抑えた声で、カズナリは母に告げた。

「そんな。お母さん、買い物してきたのよ。ご飯作ろうと思って。
エビチリと蒸し鶏のサラダ・・・・・カズくんの好物でしょ」
「いいから・・・・お母さんの気持ちはわかったから。今日は帰ってくれよ」
「どうして?ねえ、カズくん、お母さんのお願いきいて。
誰も居ない家に、一人で居るのが耐えられないのよ。どこかで・・・・・お兄ちゃんがいつも見てて・・・・・
お母さんを、何にも言わないで見てて・・・・・責めてるの」
「そんなの、気のせいだよ」

398第2話 <10>:2002/09/17(火) 16:41
母は、激しく頭を振る。
「違う。あの家には、あの子がいるの。だから辛いのよ・・・・・
辛くて寂しくて・・・・・・死にそうなの」

「・・・・・辛くて寂しいのは、お母さんだけじゃないよ」

無理矢理蓋をして、閉じ込めようとしていた感情が、ついに溢れ出す。

「俺だって、辛いし寂しいんだよ。自分のことで精一杯なんだよ。
自分の気持ち押し込めて、お母さんの寂しさを紛らわせたりとか、俺できないよ」
「カズくん・・・・・」
「『死にたい』とか言うなよ。そうやって、脅すのやめろよ」
「そんな、脅してなんか」
「俺にはそうとしか思えない。そういうのが重いんだよ、俺だって・・・・
とにかく、もうしばらくはこのままでいさせてくれよ。気持ち整理する時間、俺にもくれよ」

・・・・自分でも、よくこらえられたと思う。
ほんとは、肩の一つも小突いてやりたかったのに。
母は、言葉を失ってしばらく黙りこくっていたが、やがて手で顔を覆い、
静かに泣きじゃくり始めた。

「カズくんも、お母さんのことわかってくれないのね・・・・・」
「・・・・・も、帰れよ、マジで」
ほんの僅か、昂ぶった気持ちが混じり、カズナリの声がきんと尖る。
母は怯えた小動物のように、びくりと身を震わせると、
カズナリの脇を掠めるように駆け去っていった。

きっきっきっ・・・・・
母が、足早に階段を降りる音が響いてくる。
すっかり痩せてしまったせいなのか、その音は軽く、ひどく心もとなく感じられた。

399第2話 <11>:2002/09/17(火) 16:45
がらがらがらっ!
不意に、押入れの戸がけたたましく開けられた。

「ちょっとべそくん、さいてー!ねたままおならしないでよっ!
せまいとこでおならするから、においがたまってちょーくさいんだよっ!!!」

ピカドンの裏返ったきんきん声が、振り向きざまに耳に突き刺さり、カズナリは思わず顔を顰めた。
半分だけ開いた押入れの戸の隙間から、4人が顔をのぞかせる。

「急に来るんだもんなぁ・・・・・」
「久しぶりに、焦ったよな」
「あ、でも、おふとんはちゃんとしまっておいたからね」

3人が口々に言い合う中、ベソだけは、朝と同じ姿勢のまま、ぐーぐーいびきをかいていた。

「ねえ、かずなりくん」
押入れから出てきたピカドンが、ぴょんと軽く飛び上がって、カズナリの肩にとまる。
「きょうさ、ひまだったから、さんぽにいったのね。おれとりすくんと、おがみくんと。
そしたらさ、こんなのみつけたの」
かさかさと微かな音がするほうに、カズナリが目をやると、
リスとオガミが、4つに畳まれたB4判の紙を抱え、押入れから出てくるところだった。
「じゃーーーん」
少し勿体をつけ、2人は畳の上に紙を広げる。

「恒例 廣瀬連合町内会 大花火大会」

見事な筆文字でしたためられたそれは、カズナリも目にしたことがあった。
・・・・・確か、予備校に行く途中の路上で、電柱か何かに貼ってあったものだ。

「つーか、なんでそういうの剥がして持ってくるかなあ・・・・・」
「ほら、みて!これ、きょうのよるにやるんだよ!!みにいくよね、かずなりくん」
「行かねーよ。そんな気になんねえって」
「ふうん、そうなんだ。・・・・・おい、オガミ」
リスが、傍らのオガミを振り返る。
「おう」

オガミが、首に巻いていた太い数珠を外し、手首に巻きつけた。
「どーする?カズくん。オガミくん、呪う気満々みたいだけど」
「・・・・・わかったよっ、行けばいいんだろっ」
「わーい!きまり!!おにぎりつくってもっていこうねっ!!!」

どうして、誰も俺のこと放っといてくれないんだろう・・・・・
口の中に、苦くてじゃりじゃりした砂を押し込められたような顔をして、
カズナリは密かに我が身の不幸を呪った。

400第2話<12>:2002/09/21(土) 01:52
「よーし!おにぎりおにぎりっ!」
ピカドンは一声あげるなり、筒袖をくるくると腕まくりすると、
開けっ放しだった押入れに向かう。

「ちょっとべそくん、おきて!ごはんつくるよっ!!」
「・・・・・ぐぅ」
「もー、いびきでへんじしないでよっ!べそくんのあれがないと、したくできないぃ」
「・・・・・・・」

ピカドンに肩を揺さぶられたベソは、くるりと寝返りを打ち、ピカドンに尻を向けながら、
腰にぶら下げているなめし革の巾着袋を、ごそごそとまさぐると、
「・・・・・んぅ」
柿の葉色の布を一枚、寝たままピカドンに差し出した。

「よいしよっ」
ピカドンは、座卓の上にぴょこんと飛び乗り、布を広げる。・・・・・意外に大きい。
丁度、風呂敷位の大きさだろうか。

「せーのっ、そーれっ」
ばふっ。掛け声とともに、ピカドンが風呂敷を煽る。
「はいっ」
ぱっ。・・・・・風呂敷が持ち上げられたとき、カズナリは目を丸くした。
卓の上に、ぴかぴか光って湯気を立てるご飯が満杯に詰った、大きなおひつが現れたのだ。
「な、なにこれ・・・・」
「うふふ。そーれ、はいっ!」
ピカドンが風呂敷をぱたぱたさせるたび、食材が揃っていく。
つやつやと黒光りする、いい香りの海苔、小さな壷に入った梅干し、塩昆布、塩の壷・・・・・。

「じゅんびおっけー!さ、りすくんとおがみくんもてつだって!」
「おー」
「んあぁー?」
リスは張り切って、オガミは不承不承立ち上がる。

「かずなりくんも、ほら、おにぎりつくって。おれたち、ちっこいのしかつくれないもん。
じぶんのはじぶんでにぎんないと・・・・あと、てにつけるみずもってきてね」
「えぇー??」
カズナリは、不満げに声を上げる。
でも、絶えずほかほかと白い湯気を立てるご飯は、いかにも旨そうだった。
本能に導かれるまま、カズナリは水を汲みに台所へ向かう。

自炊はお手の物なのだろう。
ざしきわらしたちは、手慣れた様子で、ピンポン玉ほどの大きさのおにぎりを、
次々に握っていった。
「カズくんってさあ・・・・・」
カズナリの手元を見ながら、リスが真顔で言う。
「・・・・・・なんだよ・・・・・」
「ぶきっちょだよね。」
ふっと気づいて見回すと、カズナリの周りは零れたご飯粒だらけだった。
「うっせーな。こんなの、したことないんだよっ」
くすすっ・・・・オガミが、下を向いて笑っている。
カズナリは、ぷいとそっぽを向いた。
部屋の中には、湯気で蒸された海苔の香りが、ぷんと漂っていた。

401第2話<13>:2002/09/21(土) 01:54
「・・・・第一コーナー通過しました!カズくん、全力でぶっちぎれー!!」
「いいから、黙って乗ってろ!!」

大小さまざまのおにぎりの包みと、4人のざしきわらしをデイパックに詰めて背負い、
薄く溶け出した夕闇の中を、カズナリの自転車は走っていく。

「すげえ・・・・これ、乗るの?」
カズナリ自慢の愛車を見て、リスは目を光らせた。
「俺たち、こんなの乗るの初めてだ・・・・・」
まだ温かい包みの上で、相変わらず爆睡したままのベソを除いたざしきわらし達は、
リスの言葉にこっくりと頷いた。
初めての自転車は、さぞ快適だったのだろう。
終始ハイテンションのまま、彼らはカズナリの背中ではしゃぎまくっていた。
夏の夕暮れの風が、カズナリの頬に当たる。
まったりと湿り気を帯び、体中にまとわりつくような空気は、
自転車が加速するにつれ、軽く涼やかに流れていく。
カズナリは、久しぶりにわくわくしていた。

「ほら、ここ。特等席だろ」
河原に面した小さな雑居ビルの、非常階段のてっぺんからは、河川敷が下流の方までよく見えた。
「河原の方は、みんな昼間から席取りしてるからな。ここなら、他に人も来ないし」
よっこらしょっ。・・・重い荷物を背中から下ろしながら、カズナリは言った。
ちゃんと起きている3人は、次々にデイパックを飛び出すと、
カズナリが立ったままもたれかかっている階段の鉄柵に飛び乗り、腰を据えた。
「はー、腹減った。おにぎり、食っていい?」
カズナリは、自分からそう言って、デイパックの底をごそごそと探り、
風呂敷に包まれたおにぎりと、相変わらず寝溶けているベソを取り出した。
「・・・・こっちに寝てろな」
カズナリは、ベソを両手にそっと抱え、畳んだ風呂敷の上に置くと、
「さ、食おうぜ」
残り3人に、包みを解いて差し出した。

「・・・・うめぇ」
「うん、うめえな」

街並みを見下ろし、夕風に吹かれながら、4人でもそもそとおにぎりを頬張り、花火の始まりを待つ。
そう言えば、こいつらが来てから、やけに飯が旨く感じる・・・・・
少しぬるくなったペットボトルのお茶を飲みながら、カズナリはぼんやりと考えていた。

402第2話<14>:2002/09/21(土) 01:57
腹の底に響く爆音が、唐突に空を覆った途端、

「ひやぁぁぁぁぁ!!!!!」

ベソは飛び起きて、カズナリの背中に飛びついた。
「な、何するんだよ、おい、くすぐってぇだろっ」
狼狽するカズナリには構わず、ベソはTシャツの裾から、カズナリの背に潜り込む。

「だーいじょうぶだって、ベソ!」
「はなびだよ、べそくん。すっごくきれいだよ!」

リスとピカドンがかわるがわる声をかけ、ようやく正気に戻ったのだろう。
ベソは、カズナリのTシャツの襟首から、ぬっと顔を出した。

どぉぉ・・・・・・・んっ

二発目の花火が空に上がった。
目の前の上空が、一瞬昼間のように明るくなり、金の火花が無数に弾ける。
華やかに空を飾った無数の光が、白煙とともに虚空に消えていくと、
しばらくは息もつけないほどの、音と光の供宴だった。
「すげ・・・・・」
首根っこにしっかりとしがみつくベソの重さも忘れて、カズナリの目は、
まばらに星が瞬く夏の夜空へ吸い込まれていった。

ずっと昔、一度だけ、やっぱり自転車に乗って花火を見に行ったことがある。
この街が、年に一度だけ賑わう七夕祭りの前夜、
兄と2人で、街の中心にある公園の人ごみの中で、
大掛かりな花火を見た。
あのときも、たぶん、今のように口をぽかんと開いて、
目を大きく見開いて、無邪気に楽しんでいたのだろう。

自分が、感情を封じ込めて生きていることに、カズナリは改めて気づく。
ここしばらく、何かにときめいたり、心が動いたりすることを、カズナリは故意に遠ざけていた。
もともと地味な性格だったけれど、それだけが理由ではない。
喜びを享受することに、後ろめたさを感じているのだ。

「ひゃー」
「きれー・・・・・」

次々と打ちあがる色彩の渦に圧倒されたのか、
騒がしかったざしきわらしたちも、次第に口数が少なくなる。
ベソがずり落ちないよう、背中をそっと手で支えてやりながら、
カズナリも黙って、綺麗ではかない光の花たちを見つめていた。

403第2話<15>:2002/09/21(土) 02:05
地上では、人波がざわざわと動き始めている。
祭りの後の虚脱をはらみ、なんとなくのっそりとした足取りで人々が散っていくのを、
カズナリは手すりにもたれたままぼんやりと見ていた。

「・・・・どしたの?」
ピカドンが、カズナリを見上げ、尋ねた。
「ん・・・・なんかな、気が抜けた」
カズナリは笑って言った。
「こういうの、久しぶりだったしな・・・・・」

「ねえ、ひるまきたおんなのひと、かずなりくんのおかあさん?」
「そ、あれが俺のおかん。なんとなく変な感じだったろ?」
「んー・・・・・よく、わかんないや」
「あの人さ、ずっとああなんだ。兄ちゃんが死んじゃってから」
「かずなりくんのにいちゃん、しんだの?」

リスとオガミが、向き直ってカズナリを見た。
ベソは、カズナリのシャツに潜り込んだまま、また眠ってしまっていた。

「うん。去年の夏、マンションの上の階から飛び降りた」
「なんで?」
「それがさ、あんまりよくわかんないんだ。遺書もなかったし、
それまでずっと普通にしてたし。
・・・・・優しくて、頭よくてさ、いい兄ちゃんだった。いい人過ぎて、壊れちゃったのかな」

カズナリがふと黙り込むと、遠くを走り去る電車の音が大きく聞こえた。

「おかんには、自慢の兄ちゃんだったからさ。それまでも、子供以外の楽しみなんてなかったような
人だったけど、ますますおかしくなっちゃって・・・・
自分の辛さや寂しさしか、見えなくなっちゃってるんだな、きっと。
俺だって、親父だって、同じに苦しんでるのに・・・・
そういうの、全部煩わしくなって、家出たんだ。
・・・・・結局それって、逃げたことになるのかな」

「さ、帰るか」
リスが、手すりをさっと飛び降りた。
「うん。おまつりのあとって、なんかさびしいね」
ピカドンは、ちょっと何かを考えているように首を傾げていたが、
やがて、何かを決めた顔つきになって、カズナリの肩にぴょんと飛び移った。

「・・・・・かずなりくんは、にげたんじゃないよ」

言いながら、ピカドンは、カズナリの後ろ髪をさわさわと撫でた。

「とおくからみてたほうが、よくわかるときもあるだけだよ」

「そうかな・・・・・」

小さく火がともるような暖かさが、カズナリのうなじに伝わる。
不思議と、心が凪いでいくのを感じる。
こんな穏やかな気分になったのって、いつ以来だろう・・・・・
「もういいよ、くすぐったいって」
くふっと笑いながら、カズナリは肩をすぼめた。

404第2話<16>:2002/09/21(土) 02:09
「ねえ、おれたち、きてよかった?」

地上までの長い階段を、ゆっくりと踏みしめ降りるカズナリの背中で、
ピカドンがふと思い出したように訊ねる。

「どうかな・・・・わかんね」
「へっ、素直じゃねえの」
今の声はオガミだな。たぶん、思い切り口を尖らせてるんだろう・・・・
想像して、カズナリは笑いそうになる。

「でも、確かに今日はいい日だったな。やっぱ、フトン干したおかげかな」
「ほんとに?よかった!」

なんだか、久々にぐっすり眠りたくなった。今夜だったら、よく眠れそうな気がする。
日なたのにおいのするフトンを、部屋いっぱいに敷き詰めて。

カズナリは、自転車を漕ぎ出した。
来たときよりも、幾分スピードを落とし、ゆったりと風を楽しむ。
やがて、背中のデイパックの中から、
4人分の規則正しい寝息が聞こえてきた。



<第2話 おしまい>

405ななし姉ちゃん:2002/09/21(土) 02:59
職人姉ちゃん、更新お疲れ様です。
夜中になごんでしまいました。
なんか、ざしきわらしシリーズ、すごく好きだ。癒されたいのかなあ?

406ななし姉ちゃん:2002/09/29(日) 02:36
なんでかわかんないけど涙ぐんでしまいますた。。てへ。
自分もこのお話し、すごーく好きです。
いや、エロも好きなんだけどね(w
カズナリくん、がんがれー!

407</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2002/10/03(木) 17:56
姉ちゃん達、ごぶさたしちゃってごめんなさい。
お話自体が今までになくまったりムードなせいか、
自分もついまったり更新してしまっているというか・・・・・(ダメダメ

>>405-406 ありがとうございます。私も、書くことでちょっと
癒されてます・・・・

一応、「2レスついたら次更新」という自分内ルールがあるのですが(w
もうしばらくお待ちいただいていいでしょうか・・・・・

408ななし姉ちゃん:2002/10/09(水) 04:53
職人姉ちゃーん!
忙しいのかな?・・続きが気になる木ー!
お時間ある時で結構ですので、続きを楽しみに待ってますね。

409第3話「おはぎの朝、きんもくせいの夜」:2002/10/12(土) 15:42
<1>
「二宮くん」

予備校の談話室のバルコニーで、ぼんやりと外を眺めながらイチゴ味のヨーグルト(幼い頃からの好物だ)を
食べていたカズナリは、慌てて振り向いた。

「ちっス」

背後には、向坂ひなたがにっこり笑って、小さく片手を上げている。

「は・・・・ああ」
心臓が破れて飛び出しそうにどきどきしながら、カズナリは要領を得ない返事を返した。
どうしよう。・・・・・男子高出のカズナリにとって、女性との会話は未知の領域に等しい。
最後に女の子と話したのは、部活を卒業する前だったから、高3の高校総体の頃だったか・・・・・
つまり、もう1年以上、母親以外の女とは口も聞いていないのだ。

「ああ、きもちいーね、風」
カズナリの困惑などお構いなしに、ひなたはカズナリの傍らに立った。
「なんか、いいにおいがする。・・・・・花のにおいかな」
「きんもくせい、かな」
「ああ、それそれ!・・・・そっか、もう秋なんだね」

ひなたは大きく頷き、遠くの景色を見るように目を細めた。
頭の後ろでくるりと緩く纏めた髪が、風に揺らいでいる。
綺麗な横顔をしっかり見つめたい衝動をぐっとこらえ、カズナリも遠くの景色を見た。
街を横切る丘の、なだらかな稜線の上に、にょっきりと3本のテレビ塔が並んで、
青い空にその突端を光らせている。
見慣れたはずの景色が、急によそよそしく感じられて、カズナリは更に焦りを感じた。

「二宮くん、頑張ってるでしょ」
「え?俺?・・・・何が・・・・・?」
「勉強。こないだの模試、全国で100位以内に入ってたもんね」
「あ、ああ。まぐれってゆーか・・・・」
意外だった。自分の順位がチェックされてたなんて。
「夏が終わったら、クラスの人たちみんなその気になってきた感じだね。
あたしも気を入れ直さなくちゃ・・・・」

410第3話<2>:2002/10/12(土) 15:43
・・・・そうか、そういうことか・・・・
カズナリは、一人納得した。
結局、周囲はみんなライバルなのだ。ひなたにとって気になるのはライバルの動向であり、
カズナリ一人だけに向けられた関心ではないのだろう。
それにしても、この人は、なぜここまでがむしゃらなんだろう。
クラスでの成績はトップクラスだ。ずば抜けて出来ていると言っていい。
それでも、その立場に甘んじてはいない。周囲を気にしながら、更に引き離そうとしているかのようだ。

「向坂さん」
「え?」

「向坂さんは、なんでそんなに」

カズナリが、意を決して沈黙を破ったとき、午後の予鈴が鳴った。

「あ、行かなきゃ」
「・・・・あ」

カズナリが呼び止める間もなく、ひなたは振り返ると、軽い足取りで走り去ってしまった。
ぽつねんと一人、取り残されたカズナリの肩を掠め、
甘い花のにおいを乗せた風が吹き抜けていった。

411第3話<3>:2002/10/12(土) 15:45
あ・・・・・正月のにおいだ。
起きぬけ、部屋中に漂う温まった空気を吸って、真っ先にカズナリはそう思った。
台所から、何かがぐつぐつ煮える音が聞こえてくる。
何だか無性に懐かしい感じだ。子供の頃の、寒い朝を思い出す。

「ふぁぁ・・・」
カズナリの頭の上で寝入っていたはずのベソが、ふと目を覚ました。
いかにも眠そうに目をくしゅくしゅさせながら、ベソはあたりをきょときょとと見回す。
「やった、おはぎだ」
やがて、ベソは心底嬉しそうな声で言った。
あ、そうだ。これは、餡を煮ているにおいだ。
小豆を煮ている香ばしいにおいと、もち米を蒸すにおい。

「おはよー!」
台所では、いつにも増して張り切った様子のピカドンが、文字通りの奮闘をしているところだった。
いつもの鍋いっぱいの小豆を、長い木べらでかき混ぜている。
隣には、白い湯気をもくもくとはき続ける大きな竹の蒸篭。
流し台のシンクでは、今日もオガミが朝の勤めに精を出していた。
真言を唱えながら、小さなボウルに貯めた水を手桶に掬っては頭からかぶっている。
カズナリのクレームに従い、オガミは、蛇口を開けっ放しにして水行するのを控えてくれたのだ。

「朝から、えらい張り切ってんな」
「えへへ。あずきもおこめもすんげえおもかったからたいへんだった」
「何。おはぎ、作んだって?」
「うん!きょうはおひがんだからね。おひがんにはおはぎたべなきゃ、へんなかんじするでしょ」
「ふーん・・・・」

カズナリの肩では、ピカドンの言葉に、ベソが激しく頷いていた。
「そんなもんかな・・・・・」
和菓子にはさほど思い入れのないカズナリは、怪訝な顔のまま曖昧に呟く。

412第3話<4>:2002/10/12(土) 15:47
「しかし、結構な量だな」
「えー、こんなもんだよ。だって、あさにたべるでしょ。あと、ひるまもたべて、よるもたべて、
それからあしたのあさと・・・・・」
「ちょっと待てよ。これ、飯の代わりな訳?」
「かわりっていうか、これ、ごはんだよ」
「えー、勘弁してくれよー」
「なんでぇ?」
顔を顰めたカズナリを、ピカドンは心底不思議そうに見つめる。

「だって、これ甘いやつじゃん。そんな1度に食えるかよ」
「なにいってんだよぅ、さざえさんちだって、おひがんのときにはばんごはんおはぎじゃん」
「そんな特殊な例出されたって説得力ねえよっ」
「なんだよ。・・・・おいしいのになあ、おはぎ。おがみくんなんて、むかしからだいすきだよ。
いちどに、じゅっことかたべるよ」

・・・・・。真言が一瞬途切れ、
「余計なこと言うんじゃねーよ、バーカ」 低く毒づく声が聞こえてきた。

「はいはい、判ったよ。でも、俺はそんなに食えねえからな」
しょうがない。今日の飯はコンビニだ。

「あれ、きょうはりすくんまだおきないの?」
鍋をかき混ぜる手をふと休め、思い出したようにピカドンが言った。
「ん。まだ寝てる」
ベソが、間延びした口調で答える。
「めずらしいねえ。べそくんがはやおきしたのにりすくんがねてるなんて」
「んだな。・・・・あ、そうか」
ベソはぽんと手を打った。
「あ、なるほど」
ピカドンも、何かひらめいたように頷く。

「なるほどって、何だよ・・・・・」
「おはぎたべないひとには、おしえてあげないよーだ」
「なっ、何だよその態度!」
カズナリは、一人取り残され、ふてくされた。
クスクス・・・・オガミが低く笑う声が聞こえ、カズナリの神経は余計に逆撫でられる。

413第3話<5>:2002/10/12(土) 15:48
がたっ。
不意に、襖が大きく音を立てた。
「いって・・・・」
寝ぼけまなこのリスが、おおげさに顔を顰めながら立っている。
すっかり目覚めないまま起きてきたので、襖にぶつかったらしい。

「あ、りすくん、おはよ」
「ん」

目をしょぼしょぼさせながら、寝癖だらけの頭を振って、リスは頷く。
「ゆめ、みてたんでしょ?ひさしぶりじゃない?どんなゆめだったの?」
「ん」

ああ、そうか。・・・・2人のやり取りを聞いて、カズナリにもやっと察しがついた。
リスには、未来を予知する力があるのだ。確か、明け方に見る夢が予知夢だと言っていた。
みんな、少し改まった顔になり、リスの次の言葉を待つ。


「・・・・・くりぃむしちゅぅ・・・・・」
「はぁ?」
「・・・・あしたの夕飯は、クリームシチュー・・・・・・」


「そんだけかよ」
肩透かしを食った気になり、カズナリは気の抜けた声を出した。
「しっ」
珍しく鋭い調子で、ベソがカズナリの声を遮る。
「言うなって。・・・・あいつ、自分の予知夢があんまり役に立たないの、気にしてるんだから」
「ああ・・・」
ベソが、カズナリの耳元にこそこそと囁いたのを、まだ半分寝たままのリスは気づかない。
「すげえ!じゃあ、あしたのゆうはんはしちゅーとおはぎだねっ!!」
ピカドンが無邪気にはしゃぐ。カズナリは、そのメニューを頭に浮かべただけで胸焼けがしそうだった。

414第3話<6>:2002/10/12(土) 15:50
「ん、おはぎ?」
ピカドンの声に、リスは突然びくっとした。まるで、急にスイッチがオンに入ったように。
「お前、おはぎ作ってんの?やったー、おっはぎー」
リスもまた、小躍りしながら流しの上に飛び乗った。

「何でお前ら、おはぎでそんなに盛り上がれるんだよ・・・・・・」
眉間に皺を刻み、カズナリは呆れて言う。
数週間をともに過ごし、彼らがなかなかいい連中だと、カズナリはよく知っていた。
長いこと壊れたままになっていた風呂釜を、彼らが1日がかりで修繕してくれたときには、ちょっと感動もしたものだ。
それでも、やはり彼らには何かと謎が多い。カズナリには理解できない部分が、どうにも多すぎる。

「ま、いっか。さ、出かけるかな」
「あれ、きょうっておひがんだからおやすみでしょ?」
「全国模試。9時まで行かなきゃなんね」
「おはぎ、もうすぐできるからたべてってよ」
「いらねーよ、朝から胸焼けしそう・・・・」
言いかけて、カズナリはふと口ごもる。
ピカドンが、しょぼんと俯いてしまったからだ。

「・・・・ごめん。朝は俺、あんまり食えないんだ。帰ってきたら食うから」
「ほんとに?」
ピカドンは、すぐににっこりと笑った。
「これから丸めるんだろ?俺も手伝うよ」
リスが上機嫌で言う。
「うん。べそくんも、あとおがみくんも、おつとめおわったらてつだってー」
「おし」
ベソは頷き、カズナリの肩からたんっと身軽に飛び降りると、流しの上に立った。
ざわざわと賑やかにさざめく声を、背中で聞きながら、
カズナリは出かける支度を始める。
誰かを気遣ったりすることは、うざったいことだと思っていたのに、
それはまんざら悪い気分のものではないと、カズナリは感じ始めていた。

415ななし姉ちゃん:2002/10/16(水) 17:50
職人姉ちゃん、更新お疲れさまです。
微笑ましい光景が目に浮かんで、癒されまくりです。
職人姉ちゃんって、すんごい才能豊かだね〜(カンシ〜ン
リスの予知したクリームシチューがどう関係してくるのか楽しみなり。

416ななし姉ちゃん:2002/10/19(土) 03:06
おはぎ食べたくなっちゃったよ・・・
いいなぁ、5人が作ってくれたおはぎ。食べたいなぁ・・。
職人姉ちゃん乙でつ!
カズナリの変化がすごく嬉しい。あいかわらずちびっこい4人はかわえぇし。
ホントにこれ、本人達に映像化してほすぃー!

417</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2002/10/22(火) 16:07
なんかもうおはぎってよりか、焼いもとか肉まんの季節だね・・・・(汗
>>415->>416姉ちゃん、いつもありがとうございますー(ペコーリ
気がつくと、このスレ立ててから早半年なんですね。
お話の傾向が変っても、お付き合いくださる皆さんには、
ほんとに感謝カンゲキ・・・・です。

418第3話<7>:2002/10/22(火) 16:09
試験の終了を告げるチャイムが鳴ると、教室中にぴんと張り詰めていた空気が、一気に緩んだ。
「ふあぁ」
歓声とも嘆息ともつかない声があちこちから漏れ、学生たちはざわめきながら立ち上がる。
カズナリも椅子から立って、一つ大きく伸びをした。
今日も、自分的にはまずまずの出来だったように思う。
僅かだが、心地よい解放感と達成感を噛みしめながら、カズナリは教室を出た。

外に出る前、カズナリは手洗いに寄った。
手を洗い、ペーパーでぬぐって廊下に出た時、床の上に何か落ちているのに気づいた。
「あれ」
カズナリは身を屈め、誰かの落し物らしい、青い合皮の手帳のようなものを拾い上げた。
「なんだろ」
裏返してみると、どうやらそれは定期入れのようだった。
駅名が印刷された定期券に顔を近づけ、持ち主の名前を見て、、
「・・・・あ」
カズナリは、つい声を上げそうになった。
「向坂さん・・・・?」

改めて眺めると、定期入れは微妙な厚みを帯びていた。
後ろめたさを覚えながら、カズナリはつい、2つ折りをそっとめくってみる。

定期入れの片側に挟められた写真。
こちらを向いて、にっこり笑う向坂ひなたは、今より髪が少し短かった。
予備校の近所にある、地元では有名な進学校の制服を着ている。
その傍らには、彼女より頭一つ分背の高い青年。
肩幅の広い、端正な顔立ちの人だった。
ぴったりと肩を寄せ合い、カメラ目線で、2人はやわらかく微笑んでいた。

419第3話<8>:2002/10/22(火) 16:10
きゅっ、きゅっきゅっ。
リノリウムの廊下と、ゴム底のスニーカーが擦れる、少し滑稽な音が響く。誰かの足音だ。
カズナリは慌てて定期入れを閉じた。
薄暗い廊下を、ひなたが歩いてくる。心細げに視線を床に落とし、きょろきょろと辺りを見回しながら。

「あ、これ・・・・」

自ら探すまでもなく現れた落し主に、カズナリは手にしたものをさっと渡した。

「二宮くん、拾ってくれてたんだー。よかったぁ、ありがとう」
ひなたは、心底ほっとした様子で、定期入れを受け取った。
「失くしたら大事だったよ、助かったぁ」
屈託のないひなたの笑顔が、カズナリの胸をちくんと突き刺す。
「失くしたら大事」なのは、おそらく定期のことではないのだろう・・・・
彼女の物を無断で改めてしまったことへの罪悪感と、もっと別の種類の失望と。
カズナリは身体を固くし、きゅっと歯をくいしばる。

「ねえ、あたし、なんかお礼したい」
「え?」
ひなたの意外な申し出に、カズナリは目を丸くした。
「そ、そんな、こんなことぐらいで別に・・・・・」
「いいの、気持ちだから。・・・・ね、二宮くん、確か一人暮らしだったよね」
「・・・・・え?なんでそんな・・・・・言ったっけ?」
カズナリはあからさまに戸惑い、どぎまぎした。
なんでひなたが、そんなこと知ってるんだ?
「覚えてない?前に帰り、コンビニで会ったでしょ」
「あ」

かなり以前のことだったので、すっかり忘れていた。
確かに、夕飯の弁当を買っていて、ひなたと会ったことがある。

「あんとき聞いたよ。アパート住んでるって。
・・・・ねえ、明日、夕飯つくりに行っていい?」
「えっ!」
「明日は予備校も休みだし、夕方ならあたし、少しの間家出られるから」
「でも・・・・」
「いいでしょ?決定!おうちわかんないから、5時にここで待ち合わせしよう」
「はあ・・・・・」
「んじゃ、明日」

カズナリが答えあぐねている間に、話は決まってしまったらしい。
ひなたは、くるりと踵を返すなり、すたすたと立ち去ってしまった。

カズナリは、しばし呆然としたまま、その場に突っ立っていた。
脳の処理速度が、ことの次第に追いついていない。
つい今しがたのことが、頭の中をぐるんぐるんと幾度も駆け巡り、まるで乗り物酔いでもしそうな勢いだ。
しばらくの間、酸欠の金魚よろしく口をぱくぱくさせていたカズナリは、
「・・・・!!」
突然弾かれたように、廊下を猛ダッシュしはじめた。

420第3話<9>:2002/10/22(火) 16:13
「おい、お前ら!」

六畳間の襖を蹴破らんばかりに、血相変えて飛び込んできたカズナリを見て、
ざしきわらしたちは一斉にぎょっと目を剥いた。

「な・・・・なに?」
口の中いっぱいにおはぎを詰め、もごもごと動かしたままピカドンが答える。
4人は、早めの夕食の最中だった。
大きな朴の葉が4枚並び、上にはびっしり小粒のおはぎが載せられている。
みんな、口の周りに小豆の粒をくっつけて。
ベソは、いつもどおりに酒を呷りながら、おはぎをちびちびつまんでいた。

「おい、ベソ!」
「んぁ?」
「そんな気持ち悪い酒の飲み方してる場合じゃねえよ!明日、来るんだよ、ここによう!!」
「???」
さすがのベソも、カズナリのあまりの動転ぶりに目を白黒させている。
「???じゃねーつってんだろ!」
カズナリは錯乱が頂点に達したのか、
ベソを身体ごと掴み上げると、顔のまん前まで持ってきて揺さぶった。
「だーかーらっ!明日、来ちゃうんだよっ、この部屋に!!
どーすんだよ、俺わかんねーよ!!なんだっつーんだよ、全くよぅ!!!」
「・・・・・・」
「おい、ベソ!何とか言えよ!!!」
「・・・・・・・ん゛ぅ」

「ねー、カズくん」
「ぁー?何だよっ」
「つーかさ、それじゃベソ・・・・アンコ出ちゃうって・・・・」
「?」

リスの言葉に、カズナリは不意に我に返る。
どうやら、無意識に拳をきつく握り締めていたらしい。
手のひらの中で、ベソが白目を剥いていた。

「だいたい、来る来るって、誰が来るんだよ」
机の上に寝かせたベソに、かいがいしく気付けの処置をするピカドンを横目に、オガミがもっともな質問をした。
「だ、誰って・・・・・誰でもいいだろ」
カズナリはそっぽを向き、あからさまに赤面する。
「はぁぁ?わけわかんねーよ」
眉間に深々と皺を刻むオガミに向かって、
「バーカ、鈍感!だからオメーはボクネンジンだっての」
リスが、さもわかったふうな口をきく。
「ぼくねんじん?なにそれ、おっきいにんじんのこと?」
「・・・・。いいから、君はちゃんとベソくんを見ててね」
「?」

すちゃっ。――リスは、机の上に投げ出してあった参考書の上に、得意げに飛び乗った。
「カズくん、つまり、それはあれだね。・・・・
明日、ここに来ちゃうわけだね。君のオンナが」

部屋の空気が、一瞬止まる。
全員の小さな視線が、一斉にカズナリに集中した。

421第3話<10>:2002/10/22(火) 16:15
「お、おん、おんなって!そんなんじゃねえよっ!!」
「んおっ?」

引きつって裏返るカズナリの叫び声で、ベソがようやく目覚めた。
「何、カズくんどしたの?」
「ん、なんかね、たいへんらしい」
ピカドンが、こそこそと耳打ちをする。

「お、女なんかじゃねーよ・・・・・予備校の知り合いだよ・・・・・」
「ただの知り合いなんて、普通家に呼ぶかよ」
オガミが、あくまでも冷静に正論を返す。
「だって、自分から家来るっつったんだよ!お礼だから、ご馳走するからって・・・・・」
「はいはい、わかったわかった!」
カズナリの混乱を打ち消すように、リスが声を張り上げた。

「なんかよくわかんねえけど、要するに、明日ここに女の子が来るわけだろ。
おめでてーじゃないか、カズくん。ま、とにかく俺らに任せろ。悪いようにはしないから」
「あ、そうか!」
ピカドンが頷く。ようやく事態を飲み込めたようだ。
「じゃあ、えっちなびでおとかかくさなくっちゃね!」
「あー?つーかお前、なんでそんなこと・・・・・」
「だってかずなりくん、ふつーにほんだなにいれてたじゃん!みんなでみたよねっ」
「ん」
気がついた途端、酒徳利に手を伸ばしながら、ベソが頷いた。
「おっぱい、牛みてーだった」
「るっせー!!」
カズナリは、耳まで真っ赤になった。

「よし、とにかくお前、よくやったよ!明日は全員で部屋掃除な!」
「・・・・・はいはい」
「うおー」
「といれもおふろも、ぴかぴかにするからねっ!」

何が「よくやった」んだか、そして何ゆえ、風呂まで掃除する必要があるのか・・・・
カズナリはいまだ動転から覚めないまま、みんなに言われるまま「うんうん」と頷いた。

422ななし姉ちゃん:2002/10/26(土) 02:50
ベソ・・アンコ出ちゃうって・・ワロタ!!
カズナリの焦りと一緒になってドキドキしちゃいました(汗
口のまわりに小豆くっつけておはぎをほうばってる姿を想像したら
かわいくて和みますた〜。
職人姉ちゃん、がんがれー!続き楽しみにしてます。ぺこり。

p.s.そろそろエッチ小僧もお待ちしてます・・・エヘ。

423ななし姉ちゃん:2002/11/02(土) 18:28
アンコが口の端から出てるベソが容易に想像できます(W

ちっちゃいおはぎをならべてウットリしてそうなピカドン…
あぁ、続きが読みたい〜

424ななし姉ちゃん:2002/11/16(土) 01:45
職人姉ちゃーーん!!
忙しいのかな?もう飽きちゃったのかな??
ショボン・・・・楽しみに待ってまつ・・・

425</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2002/11/16(土) 23:32
あ・・・飽きてはいないでつ・・・・(滝汗
すんまそん。なんか、今必死で続き考えてます。
姉ちゃん達、正直すまんかった。
来週にでも、更新します!と、自分を追い込んでみる。てへ。

426ななし姉ちゃん:2002/12/08(日) 21:30
職人姉ちゃん、お元気ですか?
座敷わらしたちに年末大掃除を手伝いってもらいたい今日この頃・・・(W
もうすぐ冬コンも始まりますし、お忙しくなるとは思いますが、
お話しの続き(隔離ネタも(W))楽しみにしております。

427</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2002/12/16(月) 18:52
お待たせしました。更新でございます。
……座敷わらしさんたちには、ちょっとお休みいただきまして、
久しぶりに小僧と姉ちゃん復活です。
WUの小僧コメントを読んでいたら、ついこんなお話が浮かんできました。
少し早いですけど、一応クリスマス仕様ということで。

428「セカンド・ホーリーナイト」<1>:2002/12/16(月) 18:55
部屋に戻ると、鍵は中から掛けられていた。
何度か、インターホンを鳴らす。応答はない。
「……もうっ」
仕方なく、自分で鍵を開け、中に入ると、汚れた靴が玄関先に転がっていた。

「ちょっと、来てるんなら返事くらい……」
食料がどっさりと詰った袋を抱え、私はリビングに向かって声を上げる。
半分開いたままのドアの向こうから、けたたましい機械音が響いてくる。
テレビモニターの前に、丸い背中がちょこんと居座って、無心にコントローラーを操っている。
カラフルなポリゴンの画面は、めまぐるしい光を放ちながら、テレビの前の少年をすっぽりと包み込んでいるかのようだ。

「小僧!」
だんまりを決め込んだその背中に、私は声を投げつけた。
びくっ。――案外肩幅のある猫背は、一瞬緊張して弾け、こちらを振り返った。
「あー、姉ちゃん、お帰りー」
おそらく、悪気など微塵もないのだろう。家主を無視し、ゲームに興じていた客人は、私を見るなり、
いつもの人懐こい笑顔を弾けさせた。
「何よ、来てるんならドアぐらい開けてよ。何度もインターホン、鳴らしたでしょ」
「え、そう?わかんなかった」
「ったく、そんなでっかい音でゲームしてるからでしょ!」
「んー?……あー、ごめんね」
私の声が尖っていたからだろう。小僧は、ちょっと肩をすくめる仕草をすると、すぐまたゲームの画面に向き直ろうとする。
「こ、ら、こぞう!」
さすがにかちんときて、私は小僧の肩をつかみ、こちらを向かせた。
「なにー。もうすぐ、ラスボス倒して全クリするんだって」
「何が全クリよ、このゲーヲタ!こっちは、クリスマスだってのに残業こなしてきたのよ、食事の支度くらい手伝いなさいよっ」
さも迷惑そうに、私の腕を振りほどこうとする小僧に、なおも私は噛み付く。
「わ、わかったよもう……今、セーブするから待ってて」
私の迫力に気圧されたのか、小僧はようやく画面を切り替え、データをセーブし始めた。
「ふんっ」
私は、頭に上った血が下がらないまま、大荷物を抱えて台所に向かった。

429<2>:2002/12/16(月) 18:57
私がかっか来てるのには訳がある。
クリスマスだというのに、残業が入ってしまったことも、もちろんその一因ではあったが、
そもそも、私は小僧に腹を立てていた。
今年は、付き合い始めて2年目のクリスマスだ。
去年は、冬のコンサートの時期だった為、イブも当日も一緒に過ごせなかったから、私的に今年は気合を入れていた。

「……で、ちょっとこじゃれたレストランでディナーとか?めんどくせーよ、そんなの」
素敵な聖夜をともに過ごすはずの、私の年下の恋人は、こともあろうにそう言い放ったものだ。

「いい?俺、その時期はドラマ撮ってるわけ。しかも、コンリハもあるでしょ。それに、イブはひらちゃんの誕生日もあるし、
すげー忙しいのね。その上ディナー?わりい、ぜってー無理だからソレ」
「何よ、じゃあクリスマスは私と一緒に居てくれないのー?」
「それとこれとは別だって。俺、姉ちゃんちでまったりしたい」
「それじゃあ、いつものデートと変わんないじゃん!」
思いっきり口を尖らせ、ふてくされた私を見て、小僧はにやりと笑う。

「そっかー。それじゃ、勝負しよ、姉ちゃん」

――今にして思えば、あれは小僧の策略にまんまと嵌められていたのだ。
私達は、それぞれのクリスマスの過ごし方を賭け、野球ゲームで勝負した。
オフの日を、殆んどゲームに明け暮れる小僧に、私の歯が立つはずもないことに、そのときの(すっかり頭に来ていた)私は気づかなかった。

今日、12月25日。
どこにも出かける予定がないのをいいことに、さくっと残業を入れられた。
ほんとは、有給休暇さえも取る気まんまんだったのに……
くたびれきって家に戻れば、彼氏はただのバカゲーマーに成り下がっている。
この憤懣を、どこにぶつければいいのだろう。
通勤着を着替える間もなく、上からエプロンを着け、私はビニール袋から、次々に食べ物を取り出していく。
夕食を作る暇もないので、食事はすべて閉店間際のデパートから調達してきたできあいばかりだ。
チキン、サラダ、パン、キッシュ。一応、クリスマスの食事らしい体裁は整う。
さすがに、パックのままでは味気ないので、大皿に盛り分けていく。
ガラスのサラダボウルに、サラダを盛り終わったとき、不意に「にゅっ」と、
目の前に四角い大箱が差し出された。

430<3>:2002/12/16(月) 18:59
「えと、……ケーキ、買ってきたから」
さすがにすまないと感じたのか、おどおどと気弱な子犬の目をしてこちらを伺いながら、小僧はぼそぼそと呟いた。
私よりも少し背の高い、ほっそりした身体を、窮屈そうに屈めて。
私は一瞬にして、怒りを解いた。……この可愛らしさに、私はいつも丸め込まれる。
「ありがとう。そこに置いといて」
小僧は言われたとおりに、大きな箱をキッチンと居間の間にしつらえられたカウンターに置く。
私は向き直り、改めて盛り付けを急ごうとした。

ぴたっ。
何の前触れもなしに、背中が暖かく包まれる。
小さい子供のように、小僧が背中からくっついてきたのだ。
「なあに、まだ支度できてない……」
「へへ。いいじゃん」
止める間もなく、小僧の両腕は、私の腰に回された。
尖った顎が、肩に乗っかる。重みとぬくもりとが心地よくて、私はふと、食事を用意する手を止めた。
小僧は、私の肩越しに、頬をすり寄せてくる。
「なんだ。姉ちゃん、ほっぺた冷たい」
「やだ……なんか、くすぐったいよ」
「くふふっ」
ほんの少し顔を傾けたら、小僧の唇が、私に触れてきた。
始めはただ触れるだけの軽いキスは、次第に深さと熱っぽさを増していく。
緩めた唇の中のあちこちに、いたずらな舌先が這いまわり、やわらかな感触に思考が止まった。
途切れ途切れに漏らす二つの息が、それぞれに熱を帯びる。
せっかくのセレモニーの準備も忘れ、キスの甘さとやわらかさを、夢中でむさぼる。

薄いセーターの下に、小僧の手が潜ってくる。
キスを止めないまま、両手はもぞもぞと中をさぐり始めた。
「やっ」
思わず唇を外し、私は小さくうめいた。
乳房に触れてきた小僧の手が、思いのほか冷たかったから。
「やだ…手、冷たい…」
「だいじょぶだって」
さっきのキスですっかりぬくもった唇を、私の首筋に当てながら、小僧は囁く。
「姉ちゃんのおっぱい、すごくあったかいから、すぐにあったまるって」
「ん、ばか……」
「ほら、こうしてね、……くりくりって」
口を耳元まで近づけ、小僧は私をからかうみたいに、意地悪く言葉を選ぶ。
「さきっちょ苛めてあげると、すぐに熱くなるから」
小僧の指先は、言葉の通りに両方の乳首を捉えて、くるくると弄りはじめた。
「や……うぅ……ふぅん……っ」
目を閉じて、私は、小僧の指に意識を集める。
指先が微妙に波打つたび、腰がひくっと撥ねる。
身体が、どんどん熱くなる。鼻の頭に、じんわり汗がにじみ始める。
「あ、はぁぁ……だめ、まだ……」

ぱっ。指先が、急に離れた。
「え」
じんわりと快感の中を漂っていた私は、心もとないままで突っ立つ。
「ほら。あったまったでしょ?」
小僧はくすくす笑いながら、私の頬に、両手を押し当てて来た。
「やだ。……ばかっ!」
恥ずかしさに顔を熱くしながら、私は思わず小僧に向き直り、胸に顔を埋める。
「うふふ」
勝利の笑みを満面に浮かべたまま、小僧は私をぎゅっと抱きすくめた。

431ななし姉ちゃん:2002/12/23(月) 04:50
職人姉ちゃん、ひさしぶりの姉ちゃん話し嬉しいでごじゃるーーー!
座敷ワラシくんたちも好きだったので、いつか続きを待ってますね。

432ななし姉ちゃん:2003/01/02(木) 20:47
職人姉ちゃん、ここに集う姉ちゃん達、
あけましておめでとうございます。
昨年は思いがけずここのお陰でドキドキ出来ました。
今年もどうぞよろしくお願いします。

座敷わらしちゃんのほのぼのムードに浸ってる頃、
クリスマスなカップルの登場にドキドキです。
職人姉ちゃん、よろしくお願いします。

433ななし姉ちゃん:2003/01/04(土) 02:44
職人姉ちゃん、あけましておめで㌧!職人姉ちゃんは冬紺参加中かな?
落ち着いたらでよいので、紺で興奮し過ぎて眠れない姉ちゃんズの為に
今年も是非是非シクヨロでございます〜。

434ななし姉ちゃん:2003/02/16(日) 00:49
もう職人姉ちゃんは来てくれないのかなぁ・・ショボン。

435ななし姉ちゃん:2003/02/18(火) 23:35
歪様の新ドラマの内容を知り、ここの職人姉ちゃんのお話を思い出して、
また覗いてしまいました。

436</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/02/19(水) 09:54
ごめんなさい。なかなか更新できないでいました。
住人姉ちゃん達のあったかさに゜・(つД`)・゜ ……。
しかし、いつの間にこんなにagaってたんでしょうか。ちょっとドキドキ。

じわじわですが、また書いて行きたいと思っています。
そこで、皆さんにうかがいたいのですが、
今さらクリスマス話を更新、完結したほうがいい?
それとも、ざしきわらしに戻ったほうが……?

437ななし姉ちゃん:2003/02/19(水) 23:50
あ、職人姉ちゃんだ
私は個人的には、クリスマス話の小僧がどうなったか木になる気
後日談なんて形はだめ?

438ななし姉ちゃん:2003/02/22(土) 05:26
わーい!職人姉ちゃんだー!
ざしきわらし大好きだったから続き読みたいなー。
でもひさびさにエロ小僧も待ちどおしい・・・欲張りだw
職人姉ちゃんの書きやすい方でいいですので、楽しみにしてまつ!

439ななし姉ちゃん:2003/02/23(日) 23:12
職人姉ちゃんお久しぶりです。
私はどちらかというと、ざしきわらちのつづきの方が気になっておりますが・・・
438姉ちゃんに禿同で、職人姉ちゃんの書きたいほうで、、おまかせします。

440</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/03/16(日) 15:46
姉ちゃんの皆さん、お久しぶりです。
映画を見たら、ヘンなスイッチが入ってしまいましたので(w
クリスマス編、一気にうpさせていただきます。

441<4>:2003/03/16(日) 15:48
細いけれど、意外に力のある腕は、私をすっぽりと包み込んだまま、流し台を背に身体を固定させた。
小僧の口元からは、まだ含み笑いがこぼれている。
ちゅっ、ちゅっと、小鳥がついばむような短いキスを繰り返しながら、小僧は器用に私のセーターをたくし上げた。
「や…だめ、こんな……」
「いいの、ここでしたいの、俺」
すぽり。――セーターを脱がされる。
一体何のこだわりなのか、エプロンは手付かずのままだ。
エプロンの下にブラジャー1枚。間抜けで卑猥な格好にさせられる。
「わぁ……」
小僧は、いたずら坊主みたいに目を丸くして、無邪気な声を上げた。
「姉ちゃん、色っぽい。やらしー」
かぁぁ。……恥ずかしくて、頭がまた熱くなる。
「肩とかさあ。色白くて、すべすべしてて……」
言いながら、小僧の唇が、肌の表面を湿らせ滑っていく。
「ブラジャー、はずしちゃえ&hearts;」
制止する間もなく、背中に回った手が、すばやく仕事を済ます。
「ほら、ハダカエプロン。…上だけだけど」
「小僧、あなたねえ……」
AVとかの見すぎじゃない?呆れて言おうとした口を、また、キスで塞がれる。

「いいのっ、俺の姉ちゃんなんだから。俺、いろいろやっちゃうの」

エプロンの肩紐が、いつの間にかずり下がっている。
小僧は、私の腕から肩紐をするりと外してしまった。
片側だけ胸当てがはだけ、胸が晒される。
小僧は顔を寄せると、露わになった乳房に、まあるく口を開いて吸い付いた。
脆い柔肌に前歯を立てられ、舌先が弧を描くごとに、脊髄まで痺れが走る。
「はぁ……」
膝が震え、そのまま床に崩れそうな不安に捉われて、私は小僧の髪を強く掻き抱く。

「んっ、ね、おねがぃ……ここじゃ、や……っ」
甘いお菓子でも舐め尽くすかのように、舌を使い続ける小僧に、私は懇願した。
「……いいじゃん、ここでも」
ようやく乳首から唇を離し、瞳だけをこちらに向けて、小僧は呟く。
「だめ。がっつかないの」
いきなりな責めからようやく解放され、余裕を取り戻した私は、小僧の髪をくしゃりと撫でた。

442<5>:2003/03/16(日) 15:50
「姉ちゃん、座って」
淡い灯りだけを灯した薄闇で、小僧は私の背後から囁く。
私は、言われるままにベッドの縁に腰を下ろした。
さっき、キッチンで遊ばれた、そのままの姿で。

「あ、姉ちゃん網タイだぁ」
私の横に座り、スカートをめくり上げた小僧が、嬉しそうに言った。
「……何よ……」
「言わなかったっけー?俺、網タイ好きなんだもん♪」
「え、ちょっと、やだっ!待って……」

小僧はさっと立つと、床に座りなおし、私の膝に向きあった。
「よく見せてよ。こうやって…」
そう言うなり、膝に手をかけ、2つに割って、ベッドのへりに足首を乗せ押さえつける。
「やだ、だめぇ!――恥ずかしい……」
「恥ずかしくないって。…きれいなんだから…」

めくれ上がったスカートから脚が剥き出しになり、小僧の目の前に晒された。
小僧の視線が、太腿の最奥に突き刺さっているのを感じる。
私は恥ずかしさのあまり、手で顔を覆った。

443<6>:2003/03/16(日) 15:52
「あ。ここ、破けてるー」
小僧が、嬉しげに声を弾ませながら、人差し指で、内股にできたタイツの破れ目をつつく。
「へへ。なんかいい……超エロい」
「なんなの、今日はー……小僧、絶対ヘン」
「んなことないもん、普通だもん」
「ひあっ!」

小僧は、私の膝をぐいっと割ってさらにくつろげると、タイツの破れ目に舌を這わせ出した。
「んんっ、やっ、はぁぁ……」
太腿の柔らかい肌を、跡がつくほど強く吸われる。
びり――網目が破られる。意外に大きな音だった。
小僧の唇は、広がった裂け目を辿り、ショーツの上まで這いのぼると、
布の上からちろちろ舐めはじめた。

「ね」
「んっ……」
「きもちいいでしょ」
「ん、ん、や……っ」
「ここ、湿ってるもん……脱ぐ前からじとってしてるよ」
「ん、も……だめ、ばか……」

小さなうねりが、じわりと身体の芯をくすぐる。
それは、もどかしいほどに微かで、心もとない感覚だった。

「もっと、してほしい?」
私の胸のうちを見透かすように、小僧が目を上げ、私を見て囁く。
私の答えを待ちながら、小僧の指先は、布越しに敏感な裂け目の上をなぞる。
「……ぅん、して」
小僧を見下ろしていた私は、恥ずかしさに目を伏せながら頷いた。

444<7>:2003/03/16(日) 15:54
太腿にかけられていた手が、足の付け根からショーツの中へと潜り込んできた。
わざと脱がせず、窮屈なままもどかしい愛撫を続ける気らしい。
いつから、こんなに焦らすことを愉しむようになったんだろう?…小僧だって、ジーパンの下では、かなり逼迫しているはずなのに。
じりじりと焦れながら、先を待つ私は、もう溶けそうに熱い。

「あ、すげー濡れてる。ほら」
小僧は嬉しそうに言って、差し入れた指をわざと大きく動かし、ぬかるんだ音を立てさせる。
「や、ばか、やめて」
「やめたら、嫌なんでしょ?」
くちゅくちゅ…ぬるぬるに濡れた窪みを弄って遊ぶのに飽きると、意地悪な指先は肉の合わせ目の上まで這い登ってきた。
2本の指で小さく尖った蕾をとらえ、微妙にバイブさせながら、くりくり転がすように撫でる。
私のそこ全体が、小僧の掌に包まれた。小さな手は、自在に私を翻弄して愉しむ。
「やぁっ、んんっ、ああぁっ」
もう、言葉なんてなかった。ばかみたいに声を上げ、息をつきながら、身体を前傾させて小僧の頭を抱く。
小僧は、窮屈な布を指先でさらにこじあけると、今度は直に舌を差し入れてきた。
指で挟みこんだままの突起を、舌先でちろちろとついばみながら、私の奥にまで指を沈めていく。
「あ、やぁ、いいっ」
私は身体を前に押し出すと、小僧の肩に足をかけ、つま先を背中に投げ出した。
「ふふっ、ねえちゃんのえっち」
小僧は、ふっと顔を上げて笑うと、
「えい」
私のショーツを、タイツごと剥ぎ取って、もう一度私の太腿を自分の肩に掲げさせた。
私が後ろに仰け反ると、小僧は上体を倒し、ベッドへ上半身だけうつ伏せにもたれかかる体勢になり、
小僧の動きはより自由さを増した。

445<8>:2003/03/16(日) 15:55
「さ、もっと脚開いて」
ぐい、と、小僧は太腿を割り、露わになった私に指を添えくつろげると、
暖かい舌先を再度潜らせてきた。

「ね、あなた、平気なの?」
「平気って?」
「その…したくないの?」
「いいの。だって、姉ちゃんもうすぐいっちゃうでしょ?」
小僧はそう言うなり、私の突端に強く吸い付いた。
「えっ?あっ、やぁ……っっ!!」
空いた手の指先で、奥を擦るように突きながら、充血して膨らんだ蕾を吸い、舐める。
質の違ういくつもの快感が、瞬く間に全身を支配して、私は意識が遠のくのを感じた。
「は、ぁぁっ、いい、すご…っ、ああーっ」

秒殺で、私は身体を硬直させ、声を上げながら果てた。

「姉ちゃん、すごい。あそこから、さらさらのお湯みたいなの、いっぱい出てたよ」

小僧が少し上擦った声で、酷く淫らな言葉でその様子を語るのを、ぼんやりしながら私は聞いた。



「ね、姉ちゃん、俺ももうダメみたい…して」



小僧は、言いながら自分でズボンを下ろし、私の鼻先に硬直したものを突き出した。
吸い寄せられるように、私は身体を起こし、すっかり張り詰めて反り返るそれを口に含んだ。

446<9>:2003/03/16(日) 15:59
「あ、ああ……やばい、すげえきもちいい……」
ベッドの上に脚を広げ、腕をついて仰け反る小僧の前に、私は這うようにうずくまり、
勃起した小僧を口で愛撫した。
「ん、そう…さきっぽの裏、舐めて…」
小僧に乞われるまま、私は壊れた機械人形のように、無心に動作を繰り返す。
汗と体液の混じった味で痺れる舌を、ただ使い続けて。
「ん、そこ…ああっ、もっと強く…ぅ」
深く浅く、唇を這わせながら、ときどき舌で突起をちろちろと舐め、強く吸いたてる。
「あぁん、ねえちゃ…っ、んん…」
普段から高い小僧の声は、感じ始めるとさらに高く、細くしぼり出す声になる。
湿った息がたっぷり混ざった可愛い声は、一度登りつめて敏感さを増した私の肌を舐めるように響く。
小僧の漏らす声や息そのものが、私にとっては前戯のようなものだ。
少しだけ正気を取り戻した私は、そっと上目で小僧を見た。
喉を仰け反らせ、堪えきれずに声を上げる小僧の唇が、綺麗にたわみながらつやつやと濡れ光る。
「ふぁ、ああんっ、ぅくう、……んはぁっ」

小僧はひときわ高く声を上げると、強い腕で私の頭をそこから引き離した。
「はぁ、っ……ダメだ……出そうだから、やらせて」
激しく上がる息を絞るように、せつない声で囁く小僧を、これ以上責める気はなかった。
無言で頷いた私に、小僧は速攻でのしかかる。
開いた太腿の奥、さっきさんざんに弄われてとろとろになった裂け目の最深部は、たちまち屹立したもので塞がれた。
粘膜が滑らかに擦れあう感触に、私の意識は再び蕩けていく。
太く、ごつごつしていながら、それはあくまで繊細なリズムで、静かに抜差しを繰り返していた。
いっぱいに満たされ、突き動かされる感覚で、背骨から脳髄までひとしく痺れを覚える。
「あんっ」
思わず声を漏らすと、同じく熱い吐息を孕んだ唇が、私の吐息まで吸い取るように重ねられる。
「ん、んくぅっ」
重ねた唇の隙間から、それぞれに低く喘ぎながら、私達は微妙にずれたテンポで律動を繰り返す。

「もう、ダメ。…ガマンしてると、頭おかしくなりそう…」
不意に唇を外し、小僧が呟く。
「もう、いっちゃっていいでしょ……」
その言葉を合図に、小僧は一瞬腰を引き、いっきに奥まで深く貫いてきた。
「やぁっ」
奥底を一突きされ、私は思わず声を上げて腰を反らせる。
小僧の動きが、速く激しくなる。速く浅く前後したのち、強く深く奥まで埋もれさせる。
始め規則正しかった運動は、小僧の息が短く切れ、何度も声を上げる頃には、ただでたらめに強く突きまくるだけになっていった。
「あ、やぁ、いい、いいの、もっとぉ」
腰を浮かせ、何度も撥ねさせて、むさぼるように快感を味わう。
「ねえちゃん、すげ、きもちぃ……っ、はぁぁっ」
「んっ、もすこし…きそう…」
「あっ、あっ、やっ…いくっ、んはぁぁっ」

どくん。中で、小僧が脈打つ。
かたくかたく抱き合って、真っ白い宇宙にふたりでただよう。
一瞬浮いた身体は、激しい加速を伴ない、深い底へ
落ちていった。

447<10>:2003/03/16(日) 16:01
姉ちゃん。…姉ちゃんてばっ」

腰の奥に、さっきの余韻をまだ疼くように残し、ベッドにぼんやり横たわっていた私の意識を、人懐こい声が呼び戻す。
「ん……なに?」
「起きろよ。俺、すげー腹減っちゃった」
ベッドの縁から覗き込むように、小僧が私を見て笑っている。
いつの間に着衣を整えたのか、ジーパンはちゃんと穿いていたし、黒いTシャツの上から青いストライプのシャツを羽織っている。
「あ、そうか……ごめんね、ごはん、支度しないと」
「いいよ。俺、テーブルに並べといたから、あとは食うだけだよ」
「え」

そう言われてテーブルを見ると、確かにさっき用意した食事がちゃんと並べられていた。

「小僧、自分でしてくれたの?」
「うん。姉ちゃんすごいぐったりしちゃったから……」
ようよう腰に力を入れ、ゆるゆるした動作で上体を起こし、ベッドに座った私の傍に、小僧は腰を下ろし、
「そんなによかった?俺」
上目遣いに、私の顔を窺がう。
「ばか。っていうか、小僧こそ平気?あんなに動いたあとなのに」
「ん?あれだよ、男は余韻を引きずらないんだって。出したらすっきりしてそれっきり」
「……」
小僧のあけすけな答えに、私は返す言葉を失う。
「うふふ。……ごはん、食べよ」
まだ、下半身に力の入らない私を、小僧はぎゅっと抱いて、短く「ちゅっ」てキスしてくれた。

「フランスパン、硬い……」
顔を顰めながらバゲットと格闘する小僧を、ワイングラス片手に私はにんまり笑って見ている。
なんだか、不思議な子だ。大人で子どもで可愛い小僧。

「やっぱり、こんなんでよかったんだね」
まったりと回ってくるワインの酔いにまかせ、呟く私に、
「ん?」
硬いパンを頬張ったまま、小僧は怪訝な目を向ける。
「気張ってお出かけなんかしなくても、小僧が一緒にいてくれれば、最高のクリスマスなんだなー、って」
「でしょ。こんないいオトコが貸切のクリスマスなんだから。それだけでゴージャスでしょ?」
パンとの闘いをあきらめ、皿の上に放り出して今度はチキンに手を伸ばしながら、小僧はしれっと言い放った。
「バカ言わないの」
私はふふん、と笑ってみせるけど、
でも、実はその言葉に芯から納得していた。

「俺も、姉ちゃんがいれば、どこにも行かなくていーや」
肉の脂で汚れた指を舐めながら、小僧が言った。
「姉ちゃんと一緒にいるときが、いつだって最強のイベントな感じ」
言いながら、小僧は大きなグラスに注いだコーラをひといきに飲み干すと、
「トリ肉、しょっぱいね」と付け加えた。

なんでもない、なんてことのない日々が、何より幸せなんだと思う。
この子がいてくれるこの場所が、私の楽園。
神様が生まれた日だから、神様に感謝しよう。
この子と出会えた偶然を、神様ありがとう。

448</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/03/16(日) 16:08
途中大分途切れてしまったので。

「セカンド・ホーリーナイト」
<1>〜<3> >>428-430

でございます。

では、こっちもすっきりしたところで、ざしきあらちを続行しちゃおうかな、と。
ただし、更新は亀なので、申しわけないですがもう少しお待ちくださいね。

449ななし姉ちゃん:2003/03/18(火) 02:44
職人姉ちゃんこんばんは!ご無沙汰してます。お元気そうで何よりです。
お話は、更新されたところを読ませていただきました。
ここんところの自分は、映画の完成をこの上なく嬉しく思ってたのですけど、
今はそこから生じるいろいろなことを考えると胃が痛くなる思いだったんです。
小僧や製作スタッフに比べものにはならないんでしょうけどね。
でも、こちらで心が癒されました。ありがとうございました。
この姉ちゃんと同じく、自分も「この子と出会えた偶然を、神様ありがとう。」
な気分です。

450ななし姉ちゃん:2003/03/23(日) 02:57
職人姉ちゃん、更新ありが㌧でございます!
久しぶりのエロエロ小僧にドキムネしながらも、最後の4行で、なんか感動して
泣いてしまいますた(汗
やっぱり職人姉ちゃんは天才だーー!!
だってホントに小僧が言いそう&言って欲しい台詞のオンパレードだし。
素敵なお話しをありがとうございます。
お時間のある時でいいですので、ざしきわらしも楽しみにしてますね。

451ななし姉ちゃん:2003/03/23(日) 05:46
イターイ妄想なんですが、この主人公の「姉ちゃん」が
「青の炎」電車に乗ったり、スクリーンの小僧を見たら、きっと
胸が詰まるんだろうなあと思ったりすることがあります。
それくらい、職人姉ちゃんの描く「姉ちゃん」は生き生きしてるんですよね。
いつもありがとうございます。

452ななし姉ちゃん:2003/04/05(土) 17:16
こんな真昼間に久しぶりに覗いてみたら、エロ小僧が・・!
職人姉ちゃん乙でございます〜!

>451 いいねぇ・・その妄想。それだけで泣けてくるわ。
職人姉ちゃん、機会があればよろしくでつ。

453ななし姉ちゃん:2003/05/11(日) 00:40
久々に潜りに来たら職人姉ちゃんのステキなお話が!
エロエロ小僧に惚れながら笑顔で読んでました。
本当に職人姉ちゃんはすごいですねー。
自分、文才ないもんだから羨ましいっす。
ざしきわらしも楽しみに待ってます!!

454ななし姉ちゃん:2003/06/23(月) 02:02
職人姉ちゃんはもう来てくれないのかなぁ・・・ショボン。

455ななし姉ちゃん:2003/09/23(火) 04:00
ざしきわらちの続きが読みたいなぁ・・・
職人姉ちゃんもうきてくれないのかな?

456</b><font color=#FF9999>(xo45kK9A)</font><b>:2003/09/23(火) 10:18
姉ちゃん達、お久しぶりです。
ずいぶん前に前のノートパソがお陀仏になりました。
トリップ、うまく出るかなあ…

なんか、お彼岸がまた来てしまったねえ(´・ω・`)
もう、あれから1年経っちゃったんだなあ…
ここを放置してから大分経つのに、まだ待っててくれる
姉ちゃんがいるなんて、ほんとにありがたいことです。

ずいぶんお待たせしましたが、またぼちぼち再開いたします。
もう少しだけ、待っててね、姉ちゃん達。

457</b><font color=#FF9999>(xo45kK9A)</font><b>:2003/09/23(火) 10:19
あ、やっぱり前とトリップが違うや_| ̄|○
でも、私が職人姉ちゃん本人です。
また来ますね。

458ななし姉ちゃん:2003/09/23(火) 12:09
お〜〜〜、職人姉ちゃんさま・・・
地下まで久々に降りてきた価値がありますた。
秋の夜長楽しみにしてま〜す。

459455:2003/09/24(水) 01:11
職人姉ちゃん!禿ウレチィ
アオホノDVDもでることだし、秀一見ながら楽しみに待っております。

460</b><font color=#FF9999>(xo45kK9A)</font><b>:2003/09/24(水) 20:19
おばんでございます。半年振りの更新になります。

久しぶりにわらちを書いて思ったのですが、
去年の夏紺あたりのあらち面インプレッションで
書かれているので、キャラの性格が微妙に今現在のそれと
食い違いますね(ニガワラ
オガミ様のシニカル無口キャラなんて、まんま沢田慎な感じで、
書いてて照れるくらいです(´ー`*)
まあ、どっちみち●いのに変わりはないですがw

461</b><font color=#FF9999>(xo45kK9A)</font><b>:2003/09/24(水) 20:26
では、だいぶレス番が離れてしまいウチュなのですが、過去ログです。

「Theme of WARASHI〜わらしが、やってくる。〜」

■第1話■ 
>>377-382 
>>386-390 
>>394-404

■第2話■
>>386-390
>>394-404

■第3話■
>>409-414
>>418-421

462第3話「おはぎの朝・きんもくせいの夜」:2003/09/24(水) 20:30
<11>

「みんなー、おきて!おそうじするよ!」
翌朝一同は、通常の3割増でテンションの上がった
ピカドンの声で、早朝4時に起こされた。
いつもの薄衣の上に、真っ白い割烹着を几帳面に着て、
手ぬぐいで姉さんかぶりを決めたピカドンは、
驚くほどの手際よさで皆に段取りを指示した。
家財道具が極端に少ないカズナリの部屋は、
もともと散らかった印象はなかったが、
掃除は適当だったので、あちこち埃まみれだった。
ピカドンに命じられるまま、カズナリは雑巾を片手に、
あちこちを水ぶきしていく。
窓の桟、蛍光灯の傘、本棚……ピカドンの言うとおりに磨くと、
部屋は見違えるほど綺麗になった。
他のみんなも、黙々と手を動かし、大掃除に協力を惜しまなかった。
おかげでカズナリは、約束の時間にひなたを迎えに行くまで、
すっかり疲れ果ててしまっていた。

「ちーす」
予備校の前の通りで、ひなたはカズナリを見つけるなり、えくぼを見せて笑った。
両手でぶら下げたスーパーのビニール袋には、食材がみっしり詰っていた。
「あ」
カズナリは、咄嗟になんと返事したものかすらわからないまま、
あいまいに声を出してほほ笑んだ。

「夕飯、シチューにしようと思ったの、クリームシチュー」
「へ!?」
「……シチュー、嫌い?」
「や、いや、全然……好きだけど」
「へんなの」
ひなたは、ほんとにおかしそうにくすっと笑うと、
「さ、行こ!『時は金なり』でしょ?」
英語の講師の口癖を真似ながら歩き始めた。
「あ、うん、待って」
カズナリは、慌ててひなたのあとを追いながら、買い物袋を一つ、
ひなたの手から受け取る。

全く、いくら慣れない事とは言え、ここまでしどろもどろになるのも
いかがなものか――

我ながらなんともカッコ悪いと反省しながら、カズナリは、
ようやくひなたよりも半歩前に出た。
「こっち……歩きだと10分くらいなんだ。微妙に遠いけど」
「平気。この頃歩いてないから、いい運動だよ」

線路の脇で、白いコスモスがわずか数本ばかり風に揺れていた。
ついさっきまで、淡いピンク色に色づいていた夕空が、
意外な速さで濃厚な茜色にまでトーンを落としていく。
秋の夕暮れは、秒速で闇の気配を濃くしていった。
言葉少なく肩を並べて、2人は歩く。
不意に、踏み切りの警報機が点滅し始め、気まずい静かさを破る。
けたたましい警報音と、線路の軋みを遠くに聞きながら、
カズナリは、自分の受け取った荷物がやたらと重いと感じていた。
……ひなたは、いったい何人分のシチューを作る気なんだろう。

463<12>:2003/09/24(水) 20:33
部屋に戻ったカズナリの胸に、嫌なものが一瞬よぎる。
―あいつら、どこに隠れてやがるんだ?

「ふーん、ここかぁ」
どっこらしょ。床の上に、重い袋を投げ出しながら、
ひなたは物珍しそうに狭い台所をきょろきょろと見渡す。
「今時珍しいだろ?こんな木造のボロアパート」
「ん、でも嫌いじゃない。好きだよこういうの、昔っぽくて」
「そう?…そうか」
自分の住まいを誉められるのは、まんざら悪い気分でもなく、
カズナリは少しだけ心が弾んだ。
「結構、よく片付いてるよね。二宮くん、綺麗好きなんだ」
「あ……ま、まぁね」
良かった、4時起きで頑張った甲斐があった。
わらし達全員にキスでもしてやりたいと、カズナリは思った。

「んじゃ、やるかぁ!」
ひなたは、出し抜けに大声を上げると、シャツの腕を捲り上げた。
「えーと、……俺、手伝う……」
なんにせよ、初めてのことだ。カズナリは狭い台所でおろおろする。
「いいよ。あたし一人でできるから、あっちで待ってて」
「あ、そう?」
ただでさえ手狭な台所で、2人肩を並べて料理するのは至難の技だ。
まして、普段料理なんてろくにやりもしないカズナリは、どう考えても
足手まといそのものである。
カズナリは、とにかくひなたにすべて任せることにして、部屋に引っ込んだ。

座卓の前に居心地悪く座り、背中を丸めて、所在無く肘を突く。
と、右手側の押入れの戸が、音もなくすーっと開いた。
不意の出来事に、カズナリはびくっとしてそちらに目をやる。
細く開いた押入れの戸から縦に四つ、小さい顔が覗いた。

「きたねえ、かずくんのかのじょ」
押し殺した声で、ピカドンがにこにこしながら囁く。
「なんかさ、声しか聞いてないけど、可愛くね?」
今度はリス。好奇心で目が、汗でおでこがきらきら光っている。
「バカ、お前ら引っ込んでろ!」
カズナリは慌てて、押入れの前に膝で這い寄ると、
うっすら開いた戸を力ずくで閉めようとした。
「……なんなんだよ……」
押入れの戸は、意外なほどに強い力で押し戻される。
「だってさ、せっかくだから見たいじゃん」
リスが言い、珍しく酔っていないふうのベソがうんうんと頷く。
いつもは、他人の動静など気にも留めないはずのオガミまで、
無言のままこちらに強い目線を向けてきて、かえって怖い。
「バカ言うな。お前らが見つかったら、俺なんて説明すればいいんだよ」
「べつにいいじゃん。これ、うちのまもりがみですって」
「カズくん、そんなに慌てなくていいよ。俺達、心の清らかな人間にしか、
姿が見えないんだ」
「……ほんとに?」
「うっそぴょーん」
「だーーっ!いいからお前ら消えろ!失せろ!!」
カズナリは、むきになって戸にかけた手に力を込めた。こめかみに汗が滲む。

464<13>:2003/09/24(水) 20:36
「二宮くん、あのさー……」
突然、ひなたが台所から顔を覗かせた。
「ひっ」
「何やってるの…?」
きょとんとしてこちらを見るひなたから、カズナリは四つんばいのまま、
気まずく顔を背ける。
「あ、わかった。押入れになんか隠してるんでしょー、エッチな本とか」
「ばっ、バカ、違うって」
慌てふためくカズナリを見て、ひなたはくっくと笑う。
この上なく恥ずかしい思いをしながら、意外にさばけているひなたの様子に、
カズナリは少しだけほっとしてもいた。

「あのね、お玉ってある?」
「あ、ごめん……ないや」
今まで使っていたのは、わらし達が持ち込んだものだ。
「二宮くん、ほんとに料理とかしないんだね。お鍋もちっちゃいし」
「あー…ごめん」
何しろ、普段カズナリが作るものといえば、袋入りのラーメンぐらいだ。
作れば鍋からじかに啜りこむので、お玉はおろか、食器も要らないのだ。

「そんな恐縮しなくていいって。割り箸でなんとかなるから」
「あ、割り箸ね、こっちにあるから」
カズナリは台所に飛ぶと、ひなたに割り箸を渡す。
「ありがと。うんとおいしいの作るから、待っててね」
油を引いた鍋が、じゅうじゅうと音を立て始める。
鶏肉と玉ねぎを中に放り込み、割り箸で炒めながら、
ひなたはちょっとだけカズナリの方を見て、にっこり笑った。
屈託のない、明るい笑顔の愛らしさに、カズナリは一瞬ぼっとしたけれど、
「あ、うん、待ってる」
自分でも歯噛みするほど間抜けな返事を返し、また部屋に引き上げた。

「……りすくん、みた?」
「うん、見た見た。ベソ、見れたか?」
「うん、見れた。オガミくんは?」
「……どーでもいい」
「そのわりにはじっくりみてたよね、うえからしたまで」
「………」
カズナリが戻ってみれば、わらし達が嬉しそうにひそひそ喋っている。
「こら。お前らは給湯室でつるむOLか。ひそひそ人の噂しやがって」
「あ、かずくん」
ピカドンは、いかにも嬉しげな笑顔でこちらを見た。
「ってかさ、聞いた?お前ら」
リスが、小声でみんなを見回しながら囁く。
「うんと、おいしいの作るからね&hearts;だって。なんかさ、
あれだよな、新婚さん?みたいな」
「うんうん、おもったー。あれっておよめさんみたいだよねえ」
「まったくなあ、カズくんも隅におけませんよ」
「だからさ、お前はそのじいさん口調やめろってえの」
「うるせえな、静かにしろよ!」

勝手にやいのやいの盛り上がっていた声は、カズナリの一喝で静まり返る。

「でもさ、よさげな子じゃん」
リスが、しみじみと呟くと、
「うん、かわいいこだよね」
「いやいや、いい娘さんじゃよ」
ピカドンとベソが続けて言った。
「ま……な」
カズナリが、ちょっとだけ自慢げに頷くと、
「カズには勿体ねえよ。だいいち、まだ付き合ってるわけじゃないんだろ?」
オガミがいきなり釘を刺し、その場は再びしんと静まった。
どよーん……カズナリの周辺に、重苦しい空気が漂いだす。
「ま、まあ、あれだ。ここまで来てくれるってことはさ、
多少は脈アリってことじゃね?」
リスがとりなすように言い、みんなは口々に「そうだ」と頷いた。
「どっちみち、カズくんにとってはチャンスなんだからさ。頑張れよ」
リスは、ちょっと兄貴ぶった声で言うと、カズナリに向かってぱちんとウインクした。
「ほええ……」
頑張るのはいい。でも、何をどう頑張ればいいんだろう……
弾んでいるのか、凹んでいるのか自分でもわからない、不思議なテンションに包まれ、
なんとなく考え込んでしまったカズナリに、ひなたが再び声をかける。

「お待たせ。出来上がったよ、食べよう」

465<14>:2003/09/24(水) 20:39
出来上がったシチューは、皿と汁碗に取り分けられていた。
たぶん、綺麗に盛り付けられるはずだったサラダは、
アルミのボウルに入れられたまま、
卓の真中にどすんと置かれている。
パンにいたっては、中華丼に山盛りにされていた。
「いただきます」
ひなたと向かい合って座り、卓の上をしげしげと眺めながら、
もう少しちゃんと食器を揃えておけばよかった…と、カズナリは後悔した。
「なんかね、おかしいよね、ラーメンの丼にクロワッサンとか」
――でも、ここのお店のパンおいしいんだよ。
ひなたは大らかな気性らしく、にこにこしながらそんなことを言った。
「…どう、おいしい?」
「え?ああ、うん……」
「なんか黙って食べてるんだもん、不安になるよぅ」
「あ、ごめ…うん、うまい、すげーうまいから」
「お世辞じゃなく?」
「うん、全然そんなことない……おいしい」
「よかったぁ!ね、じゃあいっぱい食べてね。おかわりもあるから」

再び、食べることに集中しだしたら、会話がぷつんと途切れてしまった。
「もしかして」
箸(スプーンも1本しかなく、ひなたに譲った)を動かしながら、カズナリは思い巡らす。
「こういう沈黙をどうにかすることが、頑張るってことなんだろうか」
対面のひなたを、そっと盗み見る。
彼女もまた、所在無さげに目を泳がせながら、パンをぱくついている。
……いかん、つまらなさそうだ。よし……

「ねえ、向坂さんって、N女子高だったんだよね」
急に話し掛けられ、目をぱちくりさせながら、ひなたはこちらを見る。
「うん、そうだよ。二宮くんはN高だったんでしょ?頭いいんだー」
「そんなことないよ…全然。頭良かったら、今ごろちゃんと大学行ってるし」
「確かに」
ひなたは、いたずらっぽく笑って、
「あたしの知り合いもN高だったんだ」と付け加えた。
知り合い?――カズナリの胸が、不意にびくんと鳴る。
多分、あの写真に一緒に写っていた彼のことだろう。
が、そのことをひなたに尋ねるのはさすがに気が咎めた。
カズナリが、あの定期入れを盗み見たことを、ひなたに知られたくなかったし、
なんとなく漂い始めたいい感じの空気を壊しそうで、それが怖かった。

カズナリが思い切って口火を切ったおかげで、
2人の会話はなんとなく噛み合いはじめた。
それぞれの高校時代、中学時代の他愛ない思い出話をとりとめなく語るだけで、
和やかで心地いい時間は瞬く間に過ぎていった

466<15>:2003/09/24(水) 20:41
「はぁぁ。おなかいっぱい」
目の前の皿をすっかり空にして、ひなたは膝を崩した。
「……あれ、二宮くん、それどうするの?」
「え?」
ひなたに問われ、カズナリは自分の前の皿を見た。
皿に一杯分のシチューが、手つかずで残っている。
「なんで?もう沢山なの?」
「ううん。ここ、庭に野良猫が来るからさ……ちょっと残しとこうかと思って」
「野良に餌付けすると叱られない?大家さんとかに」
「あ、うん、内緒でね」
「ふうん……」
ひなたは、納得したのかしないのか、要領を得ない返事をした。
あいつらの分も取っとかないと、あとでひと騒ぎありそうだからな……
心の中で呟き、カズナリは首を竦める。

「あれ?いつの間にこんなの……」
ひなたが声を上げ、カズナリはそちらに顔を向けた。
「すごーい、おはぎ!これ、どうしたの?」
いつの間に置いたものか、畳の上に例のおはぎが置かれている。
そういえば、ひなたは押入れ側に座っていたのだ。
カズナリは焦りを気取られないよう、目だけを素早く押入れに向ける。
押入れの戸が、さっきのように薄く開いていた。
わらし達が、そっと差し入れたものらしい。

「あ、それ?……実家の親がさ、作ってよこしたんだ」
カズナリは、慌てて言いつくろった。
「そう、すごいねえ。でも、なんか変わってるね、これ。
すごく小さい……おたふく豆みたい」
「ああ、なんかね、うちの親族の、独特の作り方らしい……
ほら、ご先祖が食べるのに、食べやすいようにって」
「へえ、面白い。それに、なんか盛り付けとか凝ってるよねー。
これ、朴の葉でしょ?」
「う、うん。うちのおかんが、結構凝り性で…わざわざ和菓子屋から
分けてもらって来たとかって……」
「そうなの、ふうん……あんこ好きなんだ、あたし」
改めて机の上に置かれたおはぎを、ひなたはつまんで口に入れると、
「あ、おいしい!すごく甘い」幸せそうに声を上げた。
「二宮くんは?食べない?」
「あ、俺、甘いの苦手だから……」
「でも、せっかくお母さんが持ってきてくれたんだもん、食べなきゃ悪いよ…
ほら、すっごくおいしいよ?」
「あ、じゃあ、1個」

カズナリは、しぶしぶ1個摘み上げると、口に放り込んだ。
昨日の朝作ったはずのそれは、不思議と今さっき作られたように柔らかく、
噛みしめるともちもちして口に快かった。
ふわん。もち米と、小豆の甘さが口いっぱいに広がる。
懐かしい、子どもの頃の、冬の朝の味がした。

「あ……うまいかも」
「ね。おいしいもの食べると、幸せになるねえ」
ひなたは相変わらず、にこにこと笑い続けている。
カズナリは、こんなによく笑う女のひとを見るのは初めてだと思った。
中学の担任のヒステリックな声や、母親の暗い表情が、脳裏をめまぐるしくよぎる。
カズナリの周りに、こんなふうに屈託なく笑えるひとは、今までいなかった。
目の前のひなたの笑顔は、だからそれだけでひどく眩しく、
素晴らしいものだと、カズナリには思えた。

467<16>:2003/09/24(水) 20:48
「はぁぁ……やっと帰った」
「ったく、最悪だな……暑いし、かびくせえし」
「いいじゃん、もう。しちゅーたべよ、しちゅー!!べそくん、おきて、ごはんだよ」
「……ふにゅ〜……」

ごそごそ……押入れの戸が開き、スーパーボールが弾むように、
4人のわらし達が飛び出してきた。
「そーれっと!」
掛け声もよろしく机に飛び乗り、リスが一番乗りで皿の縁に乗って、
人差し指に取ったシチューをひと舐めする。
「うん、うめえ。でも、冷めてるな」
「いいよいいよ。あ、ぱんもあるよ!」
ピカドンは、そう言うなり丼の縁に飛び乗ると、ふっくらと黄金色に光る
クロワッサンを一切れちぎって口に入れ、
「おいしー!」と目を輝かせた。

4人の、賑やかな晩餐が始まる。

ベソが、目の前に並べた食べ物を、目を細めて眺めながら、
さも旨そうにぐい飲みの酒を呷っている横で、
リスとピカドンが競い合うように、パンをむさぼっている。
オガミは、ベソの酒に付き合いながら、何処を見るでもない
遠い眼差しで、ゆっくりと回る酔いを楽しんでいた。

食後、4人は部屋の窓辺から夜空を見た。

「そら、くもってるね」
「この辺は人が多いからな。人の吐き出した息やら、
排気ガスやらの二酸化炭素が空に昇って、厚い雲になるんだ」
「へえぇ。つまんないね」
昔暮らしていた、遠い山の夜、星屑が零れ落ちてきそうな空を、
ピカドンは胸に描いている。

「はぁぁ、いいにおいだねえ」
夜の柔らかい風が、花の匂いを連れて吹き込む。
「ああ、きんもくせいだね」
「ほへぇ……」
ベソが、真っ赤な顔を風に晒して溜息をつく。
酔ってほてった頬に、冷たい夜風が心地よいのだ。

「いい夜だねえ」
「うん。おなかがいっぱいって、しあわせだねえ」

風が吹いて雲が途切れ、見上げる空にはかろうじて星が2つ3つと瞬いていた。
ほどほどに湿った夜風を受け、小さなわらし達は、良夜を満喫していた。

468<17>:2003/09/24(水) 20:53
「あー、なんか楽しかったよ、久しぶりに」
すっかり暗くなった夜道を、カズナリとひなたは肩を並べて歩く。
ひなたの乗る地下鉄の駅がある大通りに抜けるまでは、
街灯もまばらな、寂しい小道が続いている。

「ねえ、今度一緒に、中央通りの100円ショップに行こうか」
不意に、ひなたが言い出した。
「え?」
カズナリが聞き返すと、
「今って、可愛い食器いっぱいあるんだよ、100均にも」
「あ、そうなんだ……」
「だって、この次ご飯つくりに来るとき、あたしの食器があったほうがいいでしょ」
「あ、うん……ええっ?」
カズナリは思わず立ち止まり、ぽかんと口を開いたまま、ひなたをまじまじと見た。
「この次、って」
「うん。迷惑かなあ」
「う、ううん、全然そんなことない。あんなボロ家で良かったら」
「あはは、いい部屋だよ。あたし、気に入った」

ひたひたっ……ひなたのスニーカーが、思いのほか大きな足音を立てる。
「てかさ、あたし、二宮くんのことも気に入ってるよ」
ぼんやりと立ち止まったままのカズナリに先立ち、前を見て歩きながら、
ひなたははっきりと告げた。
「だからさ、あたし達、つきあってみない?」
大またで2歩、3歩と先を進み、はたと立ち止まって、ひなたは振り返る。
「……だめかな?」

街灯の薄明かりが、ひなたの綺麗な顔を闇に浮かび上がらせる。
口元に微笑を浮かべたまま、まっすぐな逃げない瞳で、
ひなたはカズナリを見据えていた。
2秒、3秒……一瞬止まったかのように思えた時が、再び流れ出す。
カズナリは、ごくんと息を飲んだ。胸の鼓動が、酷く速く鳴り出した。

「だめじゃない。だめじゃない……だから」

ああ、なんでこんなことしか言えないんだろう。カズナリは自分の
口下手を呪った。

「……ありがとう」

ようやくそれだけ言って、カズナリはふうっと息をついた。

「良かった!」
ひなたは、早足でカズナリに近づくと、
「よろしくっス」
おどけたように言って、カズナリの手を取った。

きんもくせいの夜風は、2人の周りにも絡まるようになびいていく。
繋いだ手があたたかいから、風の冷たさも気にならない。
暗い夜道も、もう寂しくはなかった。
むしろ、どこまでも道が途切れなければいいのにと、カズナリは思った。

家に帰ったら、リスに言ってやろう。
お前の夢は、役立たずなんかじゃない。この上ない吉兆夢だったよ。

目の前が、急に明るく開ける。
大通りに面したT字路。駅まではもうすぐだった。
きんもくせいの香りの風は、いつの間にか遠ざかっていた。
あとわずかばかり、2人に残された距離を惜しむように、
緩やかな足どりで、2人は夜の舗道を黙ったまま歩いていった。

〜第3話・おしまい〜

469ななし姉ちゃん:2003/09/25(木) 18:34
姉ちゃん!
ひなたちゃんと小僧の今後が気になる脳・・・
続き期待してるザ

470ななし姉ちゃん:2003/09/29(月) 01:54
職人姉ちゃんひさしぶりでつ。
久々にきてみたらざしきわらちが…!
小僧カバエエのう(*´∀`*)

471ななし姉ちゃん:2003/10/02(木) 14:13
職人姉ちゃん、お話ありがとん。
夢 聞きながら読ませて貰いました。
癒されたよ〜、小僧、姉ちゃん達がんがろうな!

472ななし姉ちゃん:2003/10/19(日) 23:24
久々に降りてきて、更新されてたこと今ごろ気付きますた・・・(汗
約一年ぶりに、かわいいわらちくんたちに会えて幸せでつ(*´∀`)
小僧とひなた・・・これからの進展、楽しみにしてます。

473ななし姉ちゃん:2003/11/04(火) 01:53
きゃー!久しぶりに来てみたら新作が!!
職人姉ちゃん(姉ちゃんじゃないんでしたよね?)ありがとうございます。
嬉しい〜!か○えぇ〜!

474ななし姉ちゃん:2003/11/16(日) 21:58
久しぶりに、わらち、最初から読んでまた癒された・・・
禿好きだ、このシリーズ。
ほんとに実写とか、無理なら漫画で見たいくらいだー。
なんか絵とか描きたくなってしまう(w
職人姉ちゃん、いつまでも待ってます、続き楽しみにしてます。

475</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/11/20(木) 21:57
姉ちゃん達、こんばんは〜。
またまたパソが変わったので、トリップ変わってますが、
お久しぶりの職人ですよ。
いつも、ごひいきにしてくださりありがとう。

476</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/11/20(木) 23:14
…と、このタイムラグは何かというと、
すみません、「マンハッタンラブストーリー」を見てました(゚Д゚,,)
今、自分空前の塚本ブームで…ってここは小僧板ですね。

>>469
ひなたちゃんとカズナリは、そろそろフツーに恋人同士っぽく
なる予定ですよー。

>>470
亀更新です。正直スマヌ。私も書けば書くほど、どんどん
小僧がかわいく思えてたまりません。

>>471
シバジュンいいですよね〜。私も、姉ちゃんたちのレスに
すっごい癒されてます(´ー` )

>>472
ほんとにもう1年越しのお付き合いで…
もう少しだけ続きます。またお付き合いくださいね。

>>473
んっとね、自分はがっつり姉ちゃんですよ〜。
でも、小僧以下ニオシ君は4人全員、という欲張り姉ちゃんです。

>>474
ありがとうございます。姉ちゃん、絵描くの?
自分の文が絵になるのって憧れるなあ……
どこか、いいうpろだ探してきやしょうか(コソ

477</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/11/20(木) 23:16
実は、お話の続きを保存してたPC本体が、
ただ今入院中なのです(バックアップ取っとけよ貴様……)
なので、来週戻ってき次第、
さくさくっと更新していきますね。
これからは、なるべく間を空けずに書けたらな、
と思ってます。
引き続き、姉ちゃん達よろしくね。

478ななし姉ちゃん:2003/11/21(金) 01:12
「とおくからみてたほうが、よくわかるときもあるだけだよ」
このセリフに禿励まされます。
ヒソーリ待ってます

479474:2003/11/21(金) 04:18
おお、嬉しい〜。
職人姉ちゃん、自分、絵は描けないんだよ・・・
それなのに絵を描いてみたくなるほどいいお話だなぁと思ったので。
なんか場面が浮かんでくるんだよね。
本当に職人姉ちゃんって才能豊かだね・・・(シミジミ
無理のない程度に更新よろしくおながいします。
心の底から楽しみにしてます。

480ななし姉ちゃん:2003/11/30(日) 20:49
自分も絵は描けない…_| ̄|○
誰か描けるヤシいないか脳。

481</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/12/03(水) 23:25
お邪魔します(コソーリ

えと、PCの修理、更に延期がケテーイしました……_| ̄|○ 
やっぱり、データはきっちりバックアップ取っとけよ貴様、
って感じです。全くもってすみません(´;ω;`)

現在、わらちシリーズ、ちょっと先の先を書いています。
なので、PCがフカーツしたら、怒涛の更新…をする予定。
たぶん、次の日テレちゃん特番くらいまでには更新できる
気持ちでいるのですが、修理屋さんしだいということで、
姉ちゃん達すみませんですだ。

わらち絵、ほんとに見てみたいですね。
私も描かないではないのですが、ちっと難しいです。

482</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/12/11(木) 11:52
昼間っからここ更新してるってのもどーよ>自分

姉ちゃん達こんにちは。第4話、一気にうpしていいですか?
PCは、なんか「初期化しないと 直 り ま せ ん」と
言われたのです……ガ━━━━(;゚д゚)━━━━━ン !!!
なので、話が繋がるところまで書き足してしまいました。
いやはや、再三繰り返しますが、バクアプは面倒がるなと
いう話ですねえ。

483</b><font color=#FF9999>(dTU/9jqY)</font><b>:2003/12/11(木) 11:58
では、第3話の過去ログです。

第3話「おはぎの朝・きんもくせいの夜」

<1>〜<6> >>409-414
<7>〜<10> >>418-421
<11>〜<17> >>462-468

484第4話「君から吹く風」:2003/12/11(木) 12:01
<1>

「ただいまー。あー、腹減った」
「おかえりー。かずくん、きょうはごちそうだよー。
くりごはんと、なめこのおろしあえと、やまめのでんがくー」
「おー、すげえな。早く食いたい」

鼻歌交じりで、機嫌よさげに部屋に入ったカズナリに、
「早く食いたい、じゃねえだろカズくん……」
リスが、口を尖らせて言う。
「おっせーよ!俺たち、食わないで待ってたんだからさー」
「あ、ごめんな。残って復習してたから……」
「ひなたちゃんとか?」
「……」
「ま、いいさ。お前らが上手く行ってるんなら。さ、飯食おうぜー」
カズナリがすんなり謝ったせいか、リスはすぐに機嫌を直して笑った。
「お前らも、待たせてごめんな」
カズナリは、リスの横で焼き味噌を肴にちびちび始まっていた
ベソとオガミにも、小さな声で詫びた。
「は、やっと来たか」
低く呟くオガミの向こうで、ベソはにこにこしていた。

この頃カズナリは、少しだけ帰りが遅くなった。
予備校の講義が終わったあと、ひなたと2人で自習室に残り、
その日の復習をしているのだ。
1時間ほど勉強した後、カズナリがひなたを地下鉄の駅まで送っていく。
受験を控えた2人の、貴重な時間だ。

「成績だけは、下げないようにしようね」
この頃の、ひなたの口癖だ。
「あいつら、付き合いだしてからダメダメじゃんとか、言われたくないし」
ひなたは、カズナリが思っていた以上にしっかり者だ。
どちらかというと暢気なカズナリは、感心しながら彼女に引っ張られている。
それでも、カズナリとてこれで成績を下げてしまったら、
かなりかっこ悪いなとは思う。
そのつもりで気を引き締めているせいか、最近模試の順位が少し上がった。
第一志望の合格ラインが、少しずつ見えてきた。
負けず嫌いの彼女に背中を押されながら、カズナリもまた、
自分の目標を見据え、それなりに努力をしているのだ。

485<2>:2003/12/11(木) 12:13
「ふぁぁぁ〜」
「きぃもちいぃぃぃ〜」
狭い風呂場に、腑抜けた声がこだまする。

昼間のうちに、わらしたちが掃除をしてくれていたとかで、
今どきシャワーもついていない小さな浴室は、
古びてはいるものの清潔で心地よい。
湯船も狭かったが、仕送りでかつかつの生活を送るカズナリには贅沢なくらいだ。

窮屈に膝を曲げ、ぬるめのお湯に浸かりながら、カズナリはふぅう〜、と息をつく。
湯船の中では、いったいどこから持ち込まれたものか、黄色いあひるのおもちゃの背中に、
ベソとピカドンが乗って浮かび、さっきからきゃっきゃとはしゃいでいる。

「なあ、カズくんたちは、デートとかしないの?」
風呂の蓋に乗せられた、小さなピンク色の洗面器に湯を張り浸かっていたリスが、
プラスチックの縁に凭れながら出し抜けに尋ねた。
「え、あ、はぁ?なに?」
いきなりの問いかけにカズナリは慌て、体をもじもじさせる。

「うぁーーーぁ」

と、一瞬お湯が波立ち、あひるが転覆した。

ベソとピカドンは、あっという間に湯船に投げ出され、ぶくぶくと沈む。

「おい、大丈夫かよ!」
カズナリがすかざず手を伸ばし、2人を水中でキャッチして、
風呂の縁に救い上げた。
「あー、びっくりしたあ」
ベソとピカドンは、それでも楽しそうに笑っている。
「まったく、……そんな危ないもんに乗ってるからだよ」
「へへ、かずくん、ありがと。……でもさぁ、あれだなぁ」

カズナリはふと、ピカドンの視線があらぬところにそそがれていることに気付いた。
「にんげんのおとこのちんこ、はじめてみたぁ。でっかいいわなみたいだぁ」
「……お前、また沈みたいのか?」

486<3>:2003/12/11(木) 12:17
「ま、それはそれとして、だ」
リスが、話を本筋に戻した。
「せっかく付き合ってるんだからさー、たまには一緒に出かけたりしないと、
彼女だってつまんないんじゃねーの?」
「…でも、向坂さん、なんだかんだで忙しそうだし、そんな余裕あるかな」
「そこを、1歩踏み出さなきゃだーめだって!」
ざばりと洗面器から立ち上がり、リスが声を張り上げる。
「あ、りすくんちんこまるみえだぁ」
「うっせーバカ!」
リスは、慌てて手で前を隠す。

「いいじゃん、かずくん。しなよー、でーと」
湯船の縁に腰掛け、脚をぶらぶらさせながら、ピカドンが屈託ない声で言う。
「ひなたちゃんも、たまにはかずくんとあそびたいんじゃない?」
「んなこと言ったってさぁ……」
「わかった!かずくん、でーととかいっても、なにしたらいいかわかんないんでしょ」
「…………」
「図星かよ」
リスは鼻を鳴らし、再び洗面器に体を沈めた。
「そんなのかんたんだよ。でーとなんてねえ、……んーと、えーっと」
「んー、なになに?恋愛セレブのピカドン先生は、どんなデートコースがお勧めなのかなぁ?」
すかさず、リスが突っ込む。
「……えっちなことするほてるにいくとか?」
「いきなりかよっ!」

カズナリは頬を真っ赤にして、鼻の下までお湯に浸かった。

487<4>:2003/12/11(木) 12:20
「はじめは無難に、映画とかだろうなあ」
リスは、さも訳知りな調子で言った。
「んで、飯食って、街ぶらぶらして」
「なるほどぉ〜」
ベソが横から、間の抜けた相槌を打つ。
「ま、さ。とっかかりは何でもいいんだよ。2人の仲がちょっとでも
近づくってところがキモなんだからさ」
「んー……」
「ひなたちゃんとは、まいにちいっしょにべんきょうしてるんでしょ?」
「ん、まあな」
「なら、ひなたちゃんだって、かずくんともっとなかよくなりたいんじゃない?」
「そうかなぁ……」
「何なんだよ。もっと自信持っていけよ、カズくん!」
リスは洗面器から、カズナリの肩にさっと飛び移って、首筋をぺしぺしと叩いた。
「カズくんはこう見えて、結構男前だし、気は優しいし、いいやつなんだからさぁ。
ひなたちゃんだって、たぶんカズくんのそういうとこが気に入ってんだろ?
たまにはこっちから攻めないと、どっちつかずで終わっちまうぜー?」

「……リス、ありがと。いい奴な、お前」
カズナリが突然、しみじみと言ったので、
「なんだよ…へへ」
リスは、急に落ち着きなく体をよじらせた。

「よーっし!」

何かがふっきれたように声を上げると、カズナリは勢いよく立ち上がった。
「ひゃぁぁ!」
リスは、振り落とされないよう、慌ててカズナリの首にしがみつき、

ベソは、しばらくカズナリを見据えていたが、
やがて一言呟いた。

「やっぱ岩魚だ……すげえ」

488<5>:2003/12/11(木) 12:22
よく晴れた日曜日の朝、カズナリとひなたは、地下鉄の駅で待ち合わせをした。

「おはよう。……眠くない?」
「ん、なんとか」

実はゆうべ、緊張してろくに眠れなかった。
かといって、卓の上に広げたままの問題集も、2ページとはかどらず、
ここに来るまで、カズナリは朦朧としていたのだ。

それでも、地下鉄の降り口の前でにっこりと手を振るひなたを見た途端、
カズナリの目はすっきりと覚めた。
いつもはジーンズばかり穿いているひなたが、
今日は青いデニムのスカートを穿いていた。
チョコレートのようなこげ茶のジャケットの上に、薄い水色のマフラーを
ぐるぐる巻きにして、いつも緩く纏めている長い髪も今日は下ろしている。
足元は紺のハイソックスと、空色のスニーカーだった。
なんだか普段よりも、ずっと女の子らしく見える。

すっかり目は覚めたものの、カズナリはまたそわそわと舞い上がり始めた。

「さ、行こう!」
ひなたは、カズナリの手を取って歩き出す。
女の子にしては上背のあるひなたは、カズナリとさほど身長が変わらない。
背筋がしゃんと伸びている分、下手をすると猫背のカズナリより背が高く見えるほどだ。
カズナリは、なるべく背中を丸めないよう努めながら、ひなたの横を歩いた。
地下鉄の降り口の屋根の隙間から、すっきりと晴れ渡った秋空が見える。

映画館に入る前、2人は通り沿いのコンビニで飲み物を買った。
ペットボトルのお茶を選んだカズナリは、肩にかけたナイロンバッグから
小銭入れを取り出そうとして中を覗き、

思わずぎくりと肩を撥ねさせた。

「どうしたの?」
振り返ると、すでにレジを済ませたひなたが、怪訝な顔をして見ている。
「え?あ、うん、そのー……」

ちょっとトイレ、と言おうとして、カズナリはつい言いよどむ。
初めてのデートで、朝一でトイレってアリなのか?

「あ、わかった。トイレ?」
ひなたが、にやりと笑いながら言う。
「え?あ、うん、ごめん……」
「いいよ、雑誌見て待ってる」

ひなたは、結構勘が鋭い。
救われたような情けないような、複雑な心境のまま、カズナリは個室に入っていった。

489<6>:2003/12/11(木) 12:27
トイレの個室に鍵を掛け、すーっと一つ深呼吸をしてから、
カズナリはおもむろにバッグを開けて、

「何やってんだよお前ら……」

なるべく外に漏れないように、低く囁いた。

バッグの中から、8つの小さな瞳が、カズナリをひっそりと見上げている。

「道理で、おかしいと思った。お前ら、出かけるときいなかったもんなあ、部屋に」
カズナリは、わざとらしく大きな溜息をついた。

「だってさぁ、心配だったんだもん、俺たち」
「おれらのだいじなやぬしの、はつでーとだもんねえ」
「だまって見ておれなかったんじゃよー」
各自、さもそれらしい言葉を並べ立てている側から、
「嘘だろ。面白がってついてきただけだろーが」
オガミがばっさりと切り捨て、
「ふーん。じゃあ、オガミくんだけ留守番してたら良かったのにねえ」
リスに痛いところを突っ込まれると、オガミはぷいっと顔を背けた。

「いいから、もう帰れよお前ら。向坂さんに見られたりしたら面倒だろ」
「それなら心配ないよ。俺たち、清らかな心の持ち主にしか姿が見えないんだ」
「ほんとか?」
「うっそぴょーん」
「つか、向坂さんは清らかじゃないのかよっ!
……頼むから、邪魔しないでくれよー。今日は大一番なんだよー」

「わかってるよ、そんなの」
リスが、したり顔で頷く。
「大一番だからこそ、だろ。……ピカちゃん、俺らの使命はなんだっけ?言ってみそ」
「やぬしのしあわせのためにー、はたらくことー」
「はいご名答。……俺たちはさ、言ってみればカズくんの、幸運のお守りだ。
何も手出ししなくたって、側にいるだけで幸運を運ぶかも、なんだぜ」
「そうかなあ……」
カズナリは眉を顰める。

「つーかさ、カズ。昨日あんだけみんなに手かけさせて、今日は邪険にするなんて、
それは都合良過ぎねえか?」
オガミが、じとっとした低音で囁き、で問い詰める。
「うっ」
カズナリは、言葉に詰まった。
昨夜、わらしたちはカズナリを取り囲み、カズナリの初デートに向けて、
さまざまな心得をレクチャーしていたのだった。

「みんな、あんだけお前のために心砕いてんだ。
行く末を見届けたいと思うのが、人情じゃないのか?」

オガミの言葉に、カズナリを除く全員が、うんうんと頷いている。

「っちくしょう、わかったよっ。ただし、頼むからお前ら、
ここから 顔 出 す な よ っ ! !」


カズナリが店内に戻ると、ひなたは言ったとおり、雑誌コーナーの前で、
ファッション誌を立ち読みしながら待っていた。
ひょっとして、トイレの長い男だと思われてるんじゃ……
カズナリは内心冷や汗ものだったが、ひなたは何事もなく雑誌を棚に戻すと、

「さ、行こっ」

目元をほころばせるように微笑んで言った。


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