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ここだけファンタジー世界世界長期スレpart1

1名無しさん:2011/10/18(火) 00:19:28 ID:gumubP4Q
あらゆる場面に使用できる汎用スレです。
時間の合わない人同士が、置きレスでゆっくりと進行させるためのスレです。
ただし、お互い短いレスポンスで返せそうなロールならなるべく汎用スレをご利用ください。

複数のロールが同時進行しても大丈夫ですが、どのロールへのレスを明確にするため
必ず安価をつけてください。

誰かの置きレスがあったら、最利用すべし。エターっても泣かない。

946リィリ@魔女:2013/09/01(日) 09:45:03 ID:CB1S2Qrc
>>945

ポカンと口を開ける。なにかイヤな予感はしたけれど、それは魔女だからって理由で無視していた。
我に返ったのは、すぐ横をそれが通り過ぎようとした瞬間に。
それが今からなにをしようとしているのか、そんなのはわかりきっていた。

確かに看守さんは、あたしにとってなにも関係ない。
関係ないけれど、きっと師匠ならば、あたしと同じことをするはず。

「やらせないっスよ!」

即座に小さな魔方陣を描いて、濃密な絡みつく霧を発生させる。
これである程度はあれと、死刑囚の動きも制限されるはず。その間にやることは、かなり多い。

リシャールの死体から、骨を拾わなければならない。そうじゃないと、リシャールの安息は得られない。
その前に、看守さんを保護しなければならない。ただの人間なのだから、これの相手をするのは辛い。
それよりも前に、逃げようとする死刑囚の動きを止めなければならない。簡単だけれど、数が多い。

優先すべきことを考える、よりも早く倒れた看守へと駆け寄る。
濃霧の中とは言え、これはあたしの作り出した魔法質の霧なのだから、どこに何があるのかは容易にわかる。
肩を回して、助け起こして、階段の方へと無理矢理にでも引きずり。

「誰かにこのことを知らせて来て欲しいっス! あっしは、これをここに閉じ込めておくっスから!」

看守だけを、まずは急いでここから脱出させる。
アレを外に出すわけにはいかない。あわよくば、この場で消滅させたいところ。
デカブツがいれば、勝機はあるものの。今はあたし一人だけか。

「……いつから、りしゃりんは死んでいたっスか?」

乳白色の濃霧の中で、それに語りかける。
これで幾分かの時間は稼げるはず。その間にりしゃりんの死体から骨をある程度だけでも回収しなければ。

「いや、そんなことはどうでも良いっス。りしゃりんは死んで貰った方が、あっしには都合が良いっスから。
 ……あっしと少しばかりお喋りする時間はあるっスか? 悪意の固まりめ」

なるべく相手の興味を引きつけるように言葉を選び、霧の中、りしゃりんの死体に走り寄る。
見るも無惨とは言え、死体を解体しなければ骨の入手はできなさそうか。後回しにせざるを得ないか。
でも、この死体をアレに奪われるわけにはいかない。ぶろりんが悲しんでしまう。

947     @呪<カース>:2013/09/01(日) 20:35:50 ID:OYqUroD.
>>946

脱獄囚の動きは思いの外遅い。劣悪な環境に居たからか当然か。
その代わりに死神の如きカースが動く、動く。
リィリが体を絡めとる霧を発生させなかったら看守はすぐにでも血祭にあげられていただろう。

「邪魔、するなぁあああああ!」

霧に動きを絡めとられてしまったカースは怒号をあげ、
全身から生えている鎌で霧を切り裂くかのように体をよじらせ、
看守への道をこじ開けようとする。

「無駄、無駄ァ!」

怯えきった表情を浮かべ、かろうじて正気を保っている看守が階段の上を登り始めるのと同時に
カースは奇声をあげ、体を一回転し周囲の霧をすべて払った。
だが階段への他の霧に塞がれている。そこでカースは天上を睨み、浮かび、すっとこの半透明の体が
壁の中を通り抜けた。

響く断末魔の声、沈黙。近づいてくる呻き声。
階段の方からカースが降りてきた。四肢切断された看守の腹を右手で貫通させ、無理やり掴んでいた。
胴を口に向けていて、カマキリのように口を横に広げその血肉を奪いながら。
さながら地獄のような光景に、つい最近まで花売りであったリィリの精神は耐えられるだろうか。

「いつから死んでいたと思っていた?」
看守の腸をスパゲティーのようにすするカース。
霧の中を悠然と進んでいた。

霧の中、牢獄を探してもリシャールの遺骨はそこには存在していなかった。
代わりに見つかるのは地面に染み付いていた多量の血痕。
そして、形が崩れ消えかけている陣も血痕の下で見つかるはずだ。

「おしゃべり、いいさァ。この男が命がつきるまで、な」

口元を赤に染めたカースはクチャクチャと咀嚼音を立てながら了承した。

948リィリ@魔女:2013/09/02(月) 05:26:59 ID:Gw.9aT.k
>>947

これは、看守から離れてしまったあたしのミスか。
この期を逃せばりしゃりんの死体から遺骨を手に入れるチャンスはないと思って、看守を蔑ろにしたあたしのミスか。
そもそも、あるかどうかさえわからない死体なんぞ、後回しにすれば良かった。

あれではもう助からない。助からないのならば、看守さんを気にしている余裕はない。
次はアレをこの監獄の中に捕らえておくこと。これ以上の失敗は、したくない。

「ずいぶん、ゴキゲンっスね」

霧の中、それの元へと歩み寄る。一度はアレをぶん殴らないと気が済まない。
りしゃりんの死をぶろりんに伝えなければならないと考えると、どうしても気分が沈んでしまう。
いっそのこと、この場で消滅させてやろうか。

「……人の気も知らずに……」

右手をギュッと握りしめて。

「看守さんが外部に助けを求めることができなかった以上、あっしがおまえと話す必要は失せたんっスよ。
 だからホントは、あっしも早くこの場から姿を消すべきっスけど――――……」

看守を喰らうそれのすぐ前まで歩み寄って、霧から姿を現わしたと同時に、右手を振り上げて。

「おまえ、気に入らない」

その顔に向けて、思いっきり殴りかかる。もちろん普通に殴ったわけではない。
霊的なものを殴れるように魔力を込めたし、しばらく動けなくなるようにおまじないも込めた。

早くこれを何とかしないと。
死体は見慣れていないってのに、こんな惨状を見せつけられては、どうしたって膝が震えてしまう。
胃液が逆流してくる。ガマンしきれなくなる前に、何とかしないと。

949クルーキー@喧嘩師:2013/09/02(月) 09:35:05 ID:TIRGjMj.
人間て馬鹿だね。
命なんてはらなくても喧嘩くらいできるだろうに、
す〜ぐにこれだ。毎回毎回殺しあうんだもんなぁ。

950     @呪<カース>:2013/09/02(月) 23:03:32 ID:Sg94cmmI
>>948

リィリは看守から離れてはいけなかった。しかし、カースは対象を滅ぼすまで
徹底的に追尾する。四六時中リィリは看守を守る事ができただろうか。

「当然だ。最大で最後の目的を達せるのだから」

腸の次には、手を腹の中に突っ込み入れ肝臓らしき内臓を
取り出して、口の中に詰め込み、虚空へ消滅させた。

看守は口から泡を吹き出し、いつ死んでもおかしくないというのに
言葉にならぬ呻き声が血とともに口から漏れている。

「そうか、それなら仕方ない」

儀式の如き食事を止めること無く、次の物を奪うべく
腹の中に骨の手を突っ込むカース。
そこでリィリが殴りかかり、カースの動きが止まった。

ただ、落ち窪んだ眼窩の中に光る赤き炎のごとき
瞳が揺れ動き、リィリを捉えた。
リィリのおまじないでさえ、カースの動きを遅延させることしかできなかった。

「気に入られるわけがない。私は呪の塊、呪そのもの。
呪を恐れぬ人がいるか?」

カースがはらわたの中で看守の重大な器官を掴み、ねじ切りゆっくりと引っ張りだす。
取り出されるのは弱々しく微動する心の臓。看守の呻き声が掠れていきやがて消える。

こうなればもはやカースの存在する意味は無く
心臓を喰らうのを最後にし、カースの周囲空間が歪んでいく。
カタカタと哄笑しながら、歪んでいく空間に吸い込まれるかのようにカースは消滅していく。
手にしている看守の体とともに。

…………もはやリィリはカースを止められないだろう。
カースが消えても一息つく暇はない。カースが消えたことによって
リィリを虎視眈々と狙い牢内に残っていた脱獄囚二人が、リィリを襲おうとすrのだから。

951リィリ@魔女:2013/09/06(金) 15:42:06 ID:IIgiZVQc
>>950

失敗ばかりで嫌気が差す。
看守さんは守れなかったし、アレは取り逃がすし、りしゃりんの死体も見つからずじまい。
むしろこの方があたしらしいか、なんて自嘲する暇さえ与えてくれない。

二人の獄囚が、そこの物陰であたしのことをじっと見ていたのは知っていた。
今はもう霧は晴れ、薄暗く不潔で陰気な地下牢をくまなく見渡すことができる。結局、何人かの獄囚も取り逃がしたらしい。
体内に霧を取り込み、地面に這いつくばって身動きができなくなっている獄囚も、明らかに人数が足りない。

「……ぶろりんに、怒られるっスね……」

折檻されるのは慣れている。だから、誰かに怒られるのは慣れている。
でも、こんな形で怒られるのはさすがにイヤだ。
それに昨日は初めて死体を見てその処理をしたってのに、今日はこんな地獄を見せつけられて。
いっそのこと、ここで辱めを受けた方が、気が楽になるのではないか。そう思ってしまう。

右手の、師匠から貰った練習用の短い杖を握っている手に力を入れる。
今までの、ついでに仕事上での鬱憤を晴す、絶好のチャンスじゃないか。
そのことが二人には無関係だとしても、知ったことではない。

「運が悪かったと思って、諦めりゃれ?」

杖を天井に向けて放り投げる。もちろん、ただ単に放り投げただけではない。
先端に触れたものを崩壊させるおまじないを、その杖に付与している。杖が天井に触れた瞬間、天井の一部が崩落する。
あたしには被害が及ばないように、その二人だけを押しつぶすように、器用に範囲を限定させている。

崩落した天井は瓦礫を伴い、二人の獄囚へと襲いかかる。。
これで初めて、あたしは人を殺すことになるのか。思った以上に呆気なくて、思った以上に悪い感触ではない。
なにより、妙にスッとした。
癖になりそう、そんな思いを今は否定する。人殺しだなんて、癖になってはいけないものなのだから。
食人癖を持ってしまった師匠のようには、なりたくない。

「……えっと……まずはぶろりんに謝って、ふぃあのすけに報告して……」

薄暗くてイヤな臭いのする牢獄の中で、一人だけ立ちすくみながら指折り数え。

「ギルドへの報告はふぃあのすけに頼むとしても、魔女らへの報告はあたしの役目、か……絶望する間も、与えてくれないんっスね」

ギュッと右手で握り拳を作り、額に押し当てる。
ホントならば、今すぐにでもこの場で胃の中をぶちまけ、涙を流したいってのに。
魔女である立場で、任務を受けた立場で、勝手に行動しようとした立場であるあたしには、そんなことも許されない。

ボッとしている暇はない。現在、地面に這いつくばり、動けなくなっている獄囚の心配はいらない。
このままでも、最低でも二日は身動きはできないようになっている。
二日もあれば誰かが気付き、何らかの対処はされるだろう。それよりもあたしが気にしなければならないのは、ぶろりんとデカブツ。
ふぃふぃと悪魔は、もう姿を消しただろう。デカブツも、今頃は森の中に姿を消したはず。そう命令している。
ならば、ぶろりんを回収しなければならない。まだその場にいれば、の話ではあるのだけれど。

考えることと、やらねばならぬことが多すぎる。
師匠のことについても考えなければならないってのに。ホムンクルスについての資料も集めなければならないってのに。
もう少し、この場で休んでから行動を起こそう。明日も華売りとしての仕事がある。

952ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/11/22(金) 00:47:27 ID:oJ9oTUZk
【宿屋 猫の目】
衣替えというには少々遅いような気もするが 冒険者の衣替えは現代人のそれに比べたら大掛かりなものだろう
薄手の外套を道具袋の奥底に押し込み 変わりに毛皮の外套を引っ張り出す

よく風を通す素材のテントを 風を通さない厚手なものに変えたり
靴の中に入れる唐辛子粉を用意したりと いろいろと大変なのだ

「♪〜」
そしてココにも 遅い冬支度に勤しむ道場主がいた
軍で使用していた厚手のトレンチコートのほつれを 慣れた手つきで治している

953イーリス@探検家:2013/11/22(金) 08:27:21 ID:rT8aT/zg
>>952

「……」

その近くの席に、同じく裁縫ごとをしている女性がいた。
何やら本をにらみつけるようにしながら、ちくちくと何物かを毛糸で編んでいる。
カリカリという歯車の音が目立つ、金髪の奇妙な女だった。
その女のテーブルの上では、彼女のペットらしい丸いこうもりが退屈そうにあくびなんかをしている。
こうもりは以前果物をくれたロイを見つけると、遠慮ない視線を投げかけた。
そっちにいきたいところだが、羽が飾りであるこのなまものは、一つ隣程度のテーブルにも移動できないのである。
しばらくじろじろと視線を投げていたこうもりだが、気づいてもらえないとわかると、ぴぃとかきぃとか騒ぎ始めるのであった。

954ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/11/22(金) 22:58:52 ID:oJ9oTUZk
>>953
裁縫に熱心な為 まんまるこうもりの視線に気がつくことなくチクチクと袖を補修している・・・が

「♪〜」

―――ピィキィ

「♪〜・・・」

―――ピィキィ

「・・・・」

―――ピィキィピィキィピィキィ

テーブルにコートを置き 颯爽と厨房に入ると

「あ〜っはっはぁ〜!!!!」
なうクッキング しばらくお待ちください

「これでも喰らいやがれナマモノ!!」
持ってきたのは大量のクッキーが入ったバスケットである それもまんまるこうもりの頭上でクルリと反転させ
バスケット中にこうもり君を閉じ込めようとする まぁクッキーがあるから文句はないよね★ミ

「YO イーリスちゃん 愛しのハズバンドにプレゼントか? うらやましいなぁ」
そしてここでようやっと隣にいたイーリスに声をかけたのであった

955イーリス@探検家:2013/11/23(土) 20:11:53 ID:wMPwQW..
>>954

こうもりの丸さが増大する瞬間であった。
クッキーのつまったバスケットが頭上から降ってきて閉じ込められたとわかるや否や、一心不乱にかじりだしたのだ。
もじょもじょもじょ……という音で激しく食っているのがわかる。

「……」

イーリスは話しかけられると、すこし作業を中断してロイの顔を見上げた。
それから、テーブルに視線を落とす。そこにはまさに太ろうとしているこうもり、正式名称まくすうぇる君が閉じ込められていた。
……が、無視した。彼が丸くなるのに気にならない。本物の動物なら病気とか心配になるのだが、あのこうもりは吸血鬼の左腕だったのですもの。

「彼、寒がってたから。マフラーを……と思って」

ちょっと目を伏せて、半ばまでできたマフラーを摘んで頬ずり。
肌の感覚はやや鈍感気味であり、特別な情報を入手できるものではない、が。

「きっと、喜んでくれる。想像しただけで、異常廃熱が……」

煙でも出るんじゃないか。この娘は。
なんというか、またまた仕草が人間じみてきたようである。

956 ◆oR45XRwhpI:2013/11/25(月) 10:34:00 ID:JyfcQ9Y2
>>955
特にリアクションもなくクッキーを齧りだしたマクスウェル君 なのでバスケットに重石を載せて出られないようにしてあげましょう
後でじたばたしても知りません

「ヤレヤレ後馳走様ってかんじ? 昔の感情なしのクールガールだった頃の面影がこれっぽっちも残っちゃいないw」
試しにイーリスちゃんの頭頂部にぬらした布巾を乗せてみようと手を伸ばす 果たして湯気が出てくるでしょうか?

「然しギアゴーレムとて万能ではないということか 参考書を睨みつつの作成なんてさ 流し読みで暗記して ソレを便りにとかってのを想像していたが」
マフラーの出来を拝見 アンティークギアゴーレムの手先の器用さは如何に?

957ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/11/25(月) 23:20:53 ID:JyfcQ9Y2
>>956
間違えた

958イーリス@探検家:2013/11/25(月) 23:47:04 ID:eu0GxZao
>>956

自分が出られない、ということに気がつくのはおなかいっぱいになってからである。
目先のエサに全速力なのが、このちいさななまものの限界といったところか。

「……なるほど」

なかなか熱いです。摂氏40℃弱程度?
まぁ、布巾がゆだるレベルではないようである。流石に。

「メモリに情報を保存するという初歩的なことを無視していた。異常廃熱による動作不良と分析する」

ぱたん、と本を閉じて編み物続行。
書いてある通りにやっているので、そりゃその通りに出来ているのです。
機械なので。この辺りは得意な作業であった。

959ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/11/27(水) 11:08:37 ID:.m6Kqux2
958
「ヲイ」
こうもり君のことは騒ぎ出すまでひとまず置いといて
イーリスちゃんの分析には思わずツッコミを入れざるを得ない

「どう見ても旦那への愛が爆走した結果だと思います
 完璧超人のギアゴーレムを天然娘にしてしまうとは・・・あのエルフ中々やりおる」

腕を組んでわけのわからないことをのたまっている さて イーリスちゃんの手元を見れば
ナルホド まさしく機械の如き手腕を発揮している

「どうせだったらさ セーターも作ってみたらどうだ? イーリスちゃんのスキルも十分にあるだろうしさ
 それで同じ柄のセーターを2つ作るわけよ んでソレを2人で着るんだ」

ここでちょっとした情報を吹き込んでみるテスト

「ペアルックって言ってな ギアゴーレムに防寒着は余り必要じゃないかもシレンが 男女が愛の印として着るというのも悪くないんじゃないか?」
さて 成功すれば バカップル度が右肩上がりになるでしょう

960イーリス@探検家:2013/11/29(金) 18:32:03 ID:KLS3/ty2
>>959

こうもりは暗いところが好きなので、そもそも出られない状況だから困るという思考に至らない可能性すらある。
まくすうぇる君にとって、この状況はまさしく天国です。
暗い、甘いご飯が盛りだくさん。あ、でもお水がない。

「ぺあるっく……」

がりがりと歯車の音を強めて情報を保存。
ペアルック。それは愛の印。……となれば、だ。

「現状の毛糸では衣服を二つ揃えるのは不可能と判断」

「後の機会に取り掛かる。情報の提供に感謝する」

マフラーもあと少しすれば完成しそう。
渡すときを考えると、顔が思わずにやついてしまう。
表情が豊かになったとはいっても、かなり人間らしい。
鉄面皮のギアとしてはかなり珍しいのだが、そもそもの設計として、柔軟な表情が出来る仕組みになっていることに驚くだろう。
彼らを作ったドワーフは、あるいは後の世にイーリスのような個体が出現することを望んだのかもしれない。

「あなたは、もらうような人は……」

いたような、いなかったような。
少なくともその人に会ったことは彼女は無い……はずである。

961ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/12/03(火) 23:14:41 ID:l7iV8GPc
>>960
oh...出られないとピィキィ騒ぐこうもり君を高笑いしつついぢめてやろうとしたのに 見当違いであったでござるの巻

「HAHAHA イーリスちゃんの為なら不肖ロイ・ゴールドマン 毛糸の一キロ二キロ程度進呈させていただく所存でござりまする!!」
デンともうひとつバスケットをテーブルに載せる そこにはペアルックするには十分な量の毛糸が!!

「さぁどうか!! どうか旦那への愛をここに ペアルックという究極の形で成就なさいまs 俺?」
なんか悪乗り暴走超特急やってたところに 突然の質問を投げかけられて悪乗り終了のお知らせ

「いるよ もうイーリスちゃんとタメをはれるほどの熱々撃ラブな関係のがね まぁ・・・」
フッ・・・と遠い目をする

「最近お互い忙しくてさ 中々会えないんだよね もうすぐクリスマスだってのにさ
 涙もチョチョ切れYO ・・・寂しいなぁ」
ダーっと滝のような涙を流し始める

中の人忙しいみたいだし 邪魔しちゃ悪いよNE

「イーリスちゃんはその点 中の人が一緒だから良いよねチクショー」
八つ当たりか チョップでこうもり君のバスケットをペシペシ叩く

962イーリス@探検家:2013/12/05(木) 17:44:17 ID:C0txDsb.
>>961
その内飽きて「だしてー」とじたばたするかもしれないが。
いや、寝てしまうかもしれない。

「何と。毛糸の供給に感謝する」

これは持ち帰って家で作る、とか。
ペアルック、やる気満々ですとも。
フォルカーの苦笑が今から見えるようだ。

「住居を同じくすれば、解決する問題だと推測する」

それがなかなかできないのも人間なのです。
そのあたりの機微はまだまだ人間には及ばぬメカ娘である。

「メタ発言は推奨しない……」

ちょっぷを受けてゆれるバスケット。
衝撃で転がったと推測されるマクスウェル君。ご機嫌でも損ねたのか、もぞもぞバスケットがゆれ始めた。
あ、出られないことに気がついたぞこいつ。

963ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/10(火) 02:29:44 ID:bLkeN1hA
―――海賊船・ヤロスラヴァの部屋

もう何度目かもわからない、ナスカンディアの授業。
いつもはくつろぐための部屋も、今は気を張り詰め、教えられる一言一言に集中する。
「これが、こう、で……」
しっかりとメモに記し、忘れないようにする。

彼女はそのまじめさで、知識を次々と自分のものにしていく。
おそらく最初のナスカンディアの予想をはるかに上回っていただろう。
それだけ意思が固いということの証明に他ならない、心なしか体調もよいようだ。

最近の彼女は、船員たちとコミュニケーションをとり、打ち解けるようにしている。
ナスカンディアとの最初の邂逅のときに船長が言った「信頼は能力以上に大事なもの」という、言葉を受けてのものだ。

しかし、ナスカンディアとはなんだかうまくいかない。
こうやって授業をしているが、どうにも壁のようなものがあると、ヤロスは感じていた。

「あ、あの、この後時間あります? よかったら、一緒に食事でも……」
授業も終わりに差し掛かったときに、何度目かのヤロスの誘い。今は授業中だが、ゆっくり二人きりで話してみたいのだ。

964ナスカンディア@翼人:2013/12/10(火) 03:26:00 ID:UM6ybRz.
>>963

授業と言っても、私が教えることはほとんどない。
縄の結び方は私の知っている分は全てマスターしてしまって、各種の地図の読み方も今や私よりも上手。
こんな天気の時はこんな風が吹いて、こんな海の動きになる。そんなことも全て飲み込んでしまった。
少し前まであんなに役立たずだったのに、だなんて自室で寝台に仰向けに寝そべりながら、思いに耽ることもある。
そのことを何もできなかった昔の自分に重ねてしまって、すぐにバカらしいと思って。でも悔しく感じて、目を閉じる。
いつからか、そんな日が続いていた。

その日は、輸送の依頼をされた海輸ルートの確認と、そこに希に現れる怪物の対処の方法。
海流の向き、当日の気流の予想。陸沿いの安全なルートを通りましょう。そんなことをヤロスさんに教えていた。
ヤロスさんにとっては、もはや何も難しいことはない。私よりも優秀になり始めたのだから。
そろそろ、ルート構築の相談をし初めても良いだろうか。授業も半ばの、そう思い始めたときだった。

「食事ですか?」

その何度目かの言葉に、キョトンとしてしまう。

「……でも、私はあまり食べることは――――……」

いつもはこんな感じで適当にはぐらかして、避けてきた。私よりも優秀になってしまって悔しいからって思いも、もちろんある。
でもほとんど食事を共にしない最大の原因は、種族の違い。
私たち純白の羽を持つ翼人は、やはりどうしても傲慢になってしまうのか。
どうして一緒に食事をしなければならないのか。おまえは、翼さえ持っていないではないか。
今までのように、単なる海賊仲間として付き合えば良いのではないか。どこかふんぞり返って、そう思っていた。

「……いえ」

だから今日は、はぐらかそうとした言葉を飲み込んで、左右に首を振る。
いつの日かあの方にしたように、一歩だけ歩み寄ってみよう。きっとそうした方が、今よりも居心地が良くなるはず。

「そうですね、たまには良いでしょう」

一度だけ、コクリと縦に首を振って。

「そう言えば、ヤロスさんの好物なんか聞いていませんでしたね。こんなにも長く、一緒に時間を過ぎしているってのに。
 甘いものとか、好きですか? 私は好きなんですよ! 特に――――……」

砂糖菓子って知ってますか? コンペイトウって! お星さまみたいな形で……あ、でもこれって食事ではないですね!
そんな会話をすすめる。少したどたどしいのは、思えばこうやって仲良く話すのは初めてだから。

965ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/10(火) 15:49:32 ID:8ZqNBoaI
>>964
教えられたことを忘れないように、ほとんど寝ずに復習をしていたこともある。
そうやって眠れないナスカンディアと、何回か鉢合わせしたことも。
役に立ちたい一心で、彼女はどんどんと成長している。ちょうど、昔のナスカンディアのように。

そうして、これも何度目かわからない誘い。いつものことで、どうせ断られる。
そう思っていたのが、今日は一緒に行こうという。

「そ、そうですか! ならすぐにでも!」
よほど嬉しいのか、まだ終わっていないのに机から立ち上がってしまう。
「あ、ご、ごめんなさい」
少し赤面しながら、再び席に着いた。

「そういえば、私もナスカンディアさんの好きなもの、あまり知りません。
 私は……ウンディーネですし、海のものが好きですよ。でも、ナスカンディアさんは……」
こんなに長くいるのに、お互いのことを知らなさ過ぎる。ならば、もっと歩み寄ろう。
海の恵みは大体好物である。しかし、ナスカンディアは食べることができない。
どうしたものかと思っていると、助け舟が。

「お菓子や甘いものですか、私それも大好きですよ。
 コンペイトウ……よくわからないですけど、きっとナスカンディアさんが好きなら、おいしいんでしょうね」
なにやら、今日は甘いものめぐりになりそうだ。

966ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/12/11(水) 00:18:53 ID:kNZwOMPQ
>>962
なにやらバスケットの中でもぞもぞと動く気配
とりあえずチョップを継続してみましょう  ほ〜れほれ出れないぞ〜

「いえいえどういたしまして 胸元に大きなハートマークとかお勧めだぜ?」

もうこれでもかというほどドギツイペアルックにしてもらいましょう
ソレを着てと懇願されるフォルカーの心境や如何に!?

「住居なら同じだも〜ん 宿ダケド」
同じ猫の目に住まうもの同士 これも立派な一つ屋根のしたというやつではなかろうか?

「所でこのナマモノどうしようか? いい加減直径がメートルを超えるんじゃないかと心配してきたんだけど」
そこまで大きくなったらイーリスちゃんの頭の上にも乗れなくなるでしょう というかこやつ飯を食わなくて餓死したりするのでしょうか?

967ナスカンディア@翼人:2013/12/11(水) 02:54:03 ID:i1KFafVM
>>965

でも、こうやって一緒に食事をするのは良いとしても、何を食べようか。
時間は、もうそろそろちょうどお昼時。コンペイトウの入った麻袋は、私の部屋に置いている。
今すぐに部屋に行って、その袋を取ってきて、あげることもできる。
でも食事前だから、甘いお菓子を食べるのは良くないだろうか。
私はそもそもあまり食べることができないから、別に食べてしまっても良いのだけれど。
むしろこうやって合間合間に食べないと、身体が持たない。

うん、決めた。今すぐに持ってこよう。食事前だけれど、食べることができなくなっても知るものか。

「オイシイですよ! オイシイというか、甘いというか……ん!」

ヤロスさんが座り直すのと同時に、今度は私が立ち上がる。

「少し待っていて下さい! 私の部屋に、少しぐらいならばありますから!」

それ、まとめておいて下さい。なんてヤロスさんの部屋を出る直前に、机の上に置かれている、今回のルートの記された海図を指差した。
どうせ行き先を確認するだけなのだから、一人でもできるだろう。
その間に、自分の部屋へと急ぐ。少しばかりのコンペイトウの入った袋が、どこかにあったはず。

自分の部屋に入って、小さな棚の中を探す。目的の物である、コンペイトウの入った麻袋はすぐに見つかった。
コンペイトウ、と言っても単なる砂糖菓子。かなり前に貿易船で購入して以来、いつも絶やさず持ち歩いている。
保存も利いて、収納しやすくて、なによりも軽くて小さくて甘いから、私にとって最適の食料である。
色鮮やかな小粒の砂糖菓子。白や黄色、赤や緑。瓶詰めにすると、お部屋に飾ることもできる。

その袋を片手に、ヤロスさんの部屋へと戻る。転けないように注意しながら、それでもできるだけ急ぎ足で。
そう言えば最近は、転けることもなくなったっけ。成長したのかも。

「ただいま!」

部屋に戻ったのは、ヤロスさんが海図をまとめ終えたぐらいだろうか。
出来映えを確認するのは後にして、持っていた麻袋を差し出す。それほど大きくはない。
私の握り拳よりも、もう少し小さいぐらいか。

「これです! お菓子なのですけれど……食事前だけど、良いですよね!」

ヤロスさんのすぐ隣に座って。

「ほら、こんなにも綺麗なんですよ?」

純白の翼は、知らず知らずヤロスさんを包み込むようなカタチに広げてしまいながら、袋を開けて、中身を見せる。
いくつもある、角張ったカタチの小さく色鮮やかな砂糖菓子。

「それに、甘いんですよ? 砂糖菓子ですから! ……お一つ、どうぞ?」

中から一つだけつまみ出して、ヤロスさんの手を取って、その上にのせる。
お口に合わない、なんてことはないと思う。甘いものが苦手ならば話は別なのだけれど。

968ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/11(水) 23:18:52 ID:Xy9L5Lcg
>>967
「えっと、は、はい! がんばります!」
これはナスカンディアなりの信頼なのだろう。
一人で海図、そして行き先とルートの確認。
もう、一人前の航海士というに相応しい実力を身につけたヤロスなら、できるはず。そう思ってのことに違いない。

そう思うと、俄然燃えてきた。
確認するだけでいいのに、ちょこっと提案じみたものを横に書いてみたり。
そうやってナスカンディアが戻ってきたときには、燃えているヤロスラヴァの姿が見えただろう。

「あ、ご、ごめんなさい。信頼してくれてるんだって思って、熱が入ってしまって」
メモ書きとともに、確認作業を終えた海図。
隣に座ったナスカンディアにもよく見えるように広げる。

しかし、本題は持って来てくれた袋。
中から出てきたものは、空の星を切り取ったような、不思議な砂糖菓子。
「いいんですか? では、いただきますね」
ウンディーネとは言え女の子、甘いものには目がないのだ。

「わぁ、かりかりってしてるのに、とろけるみたいで……」
硬いのに、舌の上で簡単に解けていく。
その矛盾した食感と、たまらない甘さ。
瞬く間にヤロスはとりこになっていった。

「そうだ、今日は甘いもの食べに行きませんか?」
それに影響されたか、そんな提案をしだす。
この世にはまだ、自分たちが知らない、甘いものが眠っているはずだ。

969ナスカンディア@翼人:2013/12/13(金) 00:21:52 ID:Fb.rmFVM
>>968

お話をするのに夢中で、海図の出来映えはまだ確認していない。
ホントは明日にでも船長に提出して、そこでも相談しなければならないのだけれど、今はこっち。
それに、大丈夫だろうって思ってる節もある。信頼している、と言っても良いのだろうか。

ヤロスさんに一つだけ手渡してから、私も一つだけ取り出して、口の中に入れる。
すぐにかみ砕いたりはしない。舌の上で転がしてみたり、舌の裏側に入れて感触を楽しんでみたり。
ゆっくりと広がる甘い味を楽しみながら、長い時間をかけてそのお菓子の味を楽しむ。
やがて小さくなってきたら、かみ砕いてしまう。途端に細かく砕け散った甘さが口の中に広がって、溶けていく。
この感覚が好きだから、このお菓子はいつも絶やさないようにしている。保存も利くし。

「甘いもの?」

もう一つ、袋の中からコンペイトウを取りだして口の中に入れようとしたら、甘いものを食べに行かないかって提案をされた。
昼食に甘いものか。それも良いかも。
少しだけ口元に丸めた手を添えて考えて、んっ、と頷く。
甘いものとすると、何があるだろうか。あのリンゴはまだどこかに残っているかな。
あっ、でもリンゴだなんていつも食べてるから、今日はもうちょっと特別なものなんか―――……

そうだ。

「そうしましょうか!」

了解するや否や立ち上がって、少しだけ乱れていた衣服を整えて。

「そうと決まれば、早く行きましょう! この港には色んな物が集められるんですから、きっとなにか見つかりますよ!」

手を差し出して。

「ほら、早く! 皆も誘いますか? それとも、皆に内緒で二人っきりだけで食事をする、ってのも良いかも知れませんね!
 ともかく、ぜんはいそげ? です! ほら!」

ついつい純白の翼を大きく広げてしまいながら、ヤロスさんをせかす。
今、この海賊船が停泊しているこの港町ならば、何かがあるはず。今日も貿易船がやってきていたのを確認したのだから。
どんなのがあるだろうか。なにか、甘いものがあったら良いのだけれど。

970ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/13(金) 23:16:56 ID:ODp0TGhg
>>969
「こうやって、皆さんと打ち解けたいなって。いいって言ってくれて、よかった」
どうやら決まりである。
ふたりして準備を整えるが、ナスカンディアのほうが早かった。

「わっ、わっ。そんなに急がないでください、転んじゃいます」
その手を引き、よたよたと立ち上がりながらそう言う。
純白の翼ほどではないが、白い肌。ただこちらはどちらかというと、不健康なイメージがついて回った。
まだまだ、完治には遠いのだろう。

「ケーキもありますし、シュークリーム……楽しみですね!」
そうして、貿易船から今まさに下りたばかりの荷物。
必需品や宝石などの貴重品、そして甘味をはじめとした嗜好品もある。
彼女たちのお目当てであった。

「さ、どれにします? いっぱいありますけど……」
自分よりはナスカンディアのほうが外の世界を知っている。
彼女が言うなら間違いはないはずだ。そう思って、彼女に託すことにした。

971ナスカンディア@翼人:2013/12/14(土) 05:01:42 ID:bkTicJFs
>>970

何を食べようか。港は色んな人で賑わい、貿易船から運ばれる数々の物資で溢れている。
ここには世界の全てがあるのだろう。そう思ってしまいそうになるほど、見たこともない色々な物が揃っていた。
そして交渉次第では、それらを譲ってくれるはず。
私を知っている人ならば、より良い条件で承諾してくれるはず。そんな確信があった。

どうしようか。ヤロスさんの手を引いて、キョロキョロと周りを見る。
果物はどうだろう。私は果物で十分だけれど、ヤロスさんがそれでは持たないのではないだろうか。
そもそも、果物だなんていつも食べてるから、面白くないし。
なんて思っていると、良いものを見つけた。そうだ、アレにしよう。ちょうどあの人は、顔見知りだ。

「そこで待っていて下さい! 少し交渉してきますから!」

ヤロスさんから手を離して、それを売っているその人の方へと走り寄る。
そこで少し会話して、冗談とほんの少しの脅迫も交えて、売り物を二つばかり拝借することに成功。
両手にそれを持って、意気揚々とヤロスさんの方へと戻って。

「はいっ! 向こうで食べましょう! ちょうど、私もこれを食べたかったんです!」

それを手渡して、あまり人の姿の見えない波止場の方へと向かう。
この辺りは船の数も少なく、ほとんど人は寄りつかない。背中に遠く、港の喧噪が聞こえていた。
目の前には青い海。今日は風も穏やかで、天気は晴れで、少し肌寒い。

ヤロスさんに手渡したのは、ようするにクレープ。
きつね色の薄く伸ばされて焼かれた生地が生クリームと色んな果物で包み込んでいるのは、普通のクレープと変わらない。
ただ普通と違う点は、そのクレープの皮が少し固いのだ。噛むと、パリパリと良い音がするぐらいにまで。
こうやって焼くのはコツがいるらしい。ただ正直、食べやすいとは言えないのだけれど。

「……正直、ね?」

そのクレープに口を付ける前に、遙か遠くの日の光に輝く水平線を見つめる。
この場所ならば、この告白を誰にも聞かれることはないだろう。するべきではないのかも知れないけれど。
でも、言わなければならない。それでヤロスさんがどう思うにしても。

「ヤロスさんのこと、キライでした」

言ってから、口をつぐみ、少し考えて。

「……キライって言うより、妬ましいというか、悔しいというか……」

どちらかと言うと、悔しいのか。私は二年の歳月をかけて航海士の技術を習得したってのに、ヤロスさんはわずか一年足らず。
それも、今や私よりも力量は上だろうか。
種族の差なのだろう。私は所詮、翼人。風を読むことは長けていても、その程度にしかならない。
でもヤロスさんは、海流を私以上に正確に捉えている。海の知識でも勝てっこない。
風の流れを捕らえることこそは私が勝っている物の、もはやそれだけか。

長く息を吐いて、ヤロスさんの方を見て。

「……けっこう、翼人ってプライドが高いんです……厄介なことに」

大きな純白の翼をいつもいつも時間をかけて丁寧に整えているのも、人に見せつけるためなのだから。
昔はこうじゃなかったのに。なんて思うときもある。

「だから、ウソを教えようかって思うときも何度かあったんですよ? ……何とか、ガマンしましたけれど」

もちろん、ウソは教えていませんよ? なんて冗談めかして、付け加える。
だからこそヤロスさんとは、微妙に距離を離していた。ヤロスさんだけではなく、海賊の仲間たちとさえも。

972イーリス@探検家:2013/12/14(土) 21:06:00 ID:9YpCdzoo
>>966
揺らされる度にもぞもぞ動く。
出られない、困ったという発想には至ったようである。

「……それは所謂”恥ずかしい”ビジュアルだと推測する」

意外と鋭いところを見せる。
状況をシュミレートした結果はじき出したものと思われる。

「仮暮らし……? なるほど」

変な納得をした様子。
街の名士の一人が宿暮らしというのも、なんだか複雑そうな話だ。

「普段はお菓子を食べないから……」

果物が普段の食事なので、極端に太るということはないのだが……。
今回のように、お菓子天国ともなると、確実に太っていく。

973ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/15(日) 22:59:17 ID:tH00Yyko
>>971
晴天ではあるが、時々雲が太陽を隠す。
まるでナスカの心のように……

そうしてやってきた、そのクレープを手に、ゆっくりと食べていく。
小食なほうだが、一気に入っていく。それくらい美味しいと感じた。

「わ、このクレープ、普通のと違うんですね。
 こう……ぱりぱりして、おいしいです」
見事に彼女は興味をひかれ、いい速度で食べ進める。

「きらい……ですか? 何か、しましたか?」
嫌い、という言葉に反応するが、どちらかと言うと嫉妬の感情だとわかってきた。
ナスカに顔を近づけ、微笑みかける。
「私がここまでできるようになったのは、ナスカさんのおかげですよ。
 すごくわかりやすくて、私すぐに覚えちゃいました。だから、ナスカさんなしでは私、もっともっと時間がかかってましたよ」
あくまで自分の手柄ではなく、教えのおかげだという。

「それに……私まだ、いろいろできないこともありますから。
 ひとりでするんじゃなくて、みんなでやるのが、いいと思うんです」
ヤロスの海を読む力、ナスカの風を読む力。
ふたつ合わさればどんな優秀な航海士にもかなわない力になるはずだと、励ます。

「プライドというのはよくわかりません。けど、ナスカさんはいつもこうして誘っても断ってたけど、今日は来てくれた。
 それだけでも、歩み寄れていると思いますよ」
この根っからの善人は、嘘を教えようとするのをとがめようともしなかった。
開いた距離があるなら、縮めればいい。そのためならいくらでも協力するとヤロスは言った。

974ナスカンディア@翼人:2013/12/16(月) 05:16:51 ID:7SUXnZOU
>>973

「そうですね、でも……」

すぐ目の前にあるヤロスさんの顔をまっすぐと見つめ、すぐに目をそらす。
まだ直視はできない。こんな顔で見られていると、申し訳なさで押しつぶされそうになる。
さっきの言葉は、本心か。ヤロスさんの言葉ではなく、私の言葉は。

この重苦しさは、まるで淀んだ風みたい。
一箇所に留まりすぎた風は、やがてイヤな重さを含んでいくのだから。今の私のように。
やはり風は吹かないと、風らしくない。
ヤロスさんならばもう、十分にあの海賊船の航海士となり得るだろうか。
きっと大丈夫のはず。私よりも優秀なのだから。だから、大丈夫。私がいなくなっても、あの船は生き残れる。

「……私は、船から離れようかって思うんです」

静かな波の打ち付ける波止場の方へと、一歩、二歩、と歩み出す。
そのまま空中へと足を放り投げて……でも海へは落ちる前に羽ばたき、空中へと浮かび上がった。
くるりと身体をひるがえして、ヤロスさんの方を見る。空中から少し見下げるカタチ。

「やっぱり、海よりも空の方が好きなんです、私」

苦く笑って。

「海も風は吹いていますけれど……でも、風は海だけじゃないんです。町の風も、山の風も……」

私は、そんな風になりたかった。旅人のように、色んなところに風を導きたかった。
そう言えば最初は、できたばかりの海賊船を監視するためだったっけ。その為に乗り込んだのだっけ。
そもそも、海賊船に乗ることが間違えていた。港町に居着くことが間違えていた。
船の中に閉じ込められていては、やがては風も淀んでしまうのは当たり前ではないか。

「だからこそ、ヤロスさんを遠ざけようとした……のかも知れませんね」

仲良くなりすぎると、きっと悲しくなってしまうのだから。
ついさっきの突き放すような言葉も、もしかしたらその為かも知れない。いっそのこと、嫌われれば良かった。

「……もう一度だけ言います、ヤロスさん……」

空中で身体を安定させるようにゆっくりと羽ばたきながら、少しの間の後で。

「やっぱり、嫌いです」

もしくは、私を嫌って下さい、か。
やがて離れ離れになることがわかっているのならば、お互いに嫌っていた方がきっと楽なのだから。

975ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/17(火) 02:25:36 ID:NxPbCNJk
>>974
重苦しく、淀んだ空気。なんだか言葉を失ってしまう。
そうしてナスカンディアが口を開く。船から降りようと。

「そう、ですか……それが本心なら、止めません。でも船長は……」
船長の性格上、おそらく止めに入るだろう。
そこまで決心しているのだろうか。

「予定はあるのですか? たとえば、どこかへ行くとか。
 そうでないなら、できてからでも遅くはないですよ」
あくまで引き止めようとはする。でもたぶん、自分には心を動かせない。
こちらもなんだか、重苦しい。引き止めたいのは本心なのに。
うまく言葉を紡げない。そうして、最後にナスカンディアが嫌いだと言う。

「嫌われ……ちゃいましたね」
苦笑しながら、ナスカンディアを見る。
「でも、嫌いでも最後に……」
せめて、思い切り抱きしめようと空中のナスカに向かって、手を伸ばす。
当然ヤロスに飛行能力などない。無理に手を伸ばし、体を傾ければ当然……

「あっ……!」
大きくバランスを崩してしまう、虚弱なヤロスには踏ん張りもきかない。
そのまま、吸い込まれるように傾き、海面へと落ちていってしまう……

976ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/12/19(木) 22:08:24 ID:a9nBCxNY
>>972
どうやらこうもり君がこちらの意図に気付いてくれたようで何よりです

「あ〜っはっは〜wwwwどうだ出られまいwwww」
なので当初の予定通り高笑いしながらバスケットにチョップを振り下ろしましょう

「確かに恥ずかしいビジュアルだといえよう だが考えてみて欲しい
 恥ずかしいビジュアルの衣服を合えて一緒に着てみることこそ最大の愛の試練であり ソレを乗り越えた者には無上の栄光が待ち受けているのだ
 そう これはイーリスちゃんと旦那との愛を図る愛の試練なのDA!!」

ババーンと意味のない効果音を流しつつ1人で力説してみせる そして仮暮らしの件を聞かれると ちょっと頬を染めつつ後頭部をポリポリ

「いやぁ確かにもう完全にヴェリアプルの住人ともいえるし 自前の住居をこしらえたほうがいいのかもしれないけどYO
 金を払えばベッドメイキングしてくれる宿ってラクなんだよね★」

つまり料理はよくても掃除洗濯がメンドくてしょうがないので宿暮らしを継続しているというのだ なんというものぐさ

「・・・あれ? イーリスちゃん夫婦って宿暮らしじゃなかったっけ?」
と一つ疑問が沸き起こったので質問してみましょう

977イーリス@探検家:2013/12/20(金) 08:30:15 ID:D79HEf9Q
>>976

じたばたあばれだすこうもり。
強くバスケットがゆれると、転がる音がする。多分こうもり君の音だろう。

「……嘘発見器に反応有り」

じとっ、とロイを見つめてみる。
なお、嘘発見器というものは搭載されてない。いわばかまかけである。

「貯金と借金で小規模ながら住居を購入している」

「最近の探検(梟の神殿)で得たお金で借金も返済している。順調」

ぶいさいん。
自分の城持ちはやっぱいいもんです。

978ナスカンディア@翼人:2013/12/21(土) 04:42:20 ID:Pn/r9fcw
>>975

どうしてそんなことを。考えるよりも早く、口からなにかを発するよりも早く、
海の中へと向けて傾斜しはじめたヤロスさんの身体を、無我夢中で抱きかかえた。
両腕をヤロスさんの背中に回し、力を込めて、決して落さないように。痛みを感じるぐらいまで。
羽ばたき、冷たい水しぶきが跳ねる海面から離れる。あんな中に落ちてしまえば、大事になる。

身体の均衡を保つために、二度か三度、大きく羽ばたいた。
もう大丈夫か。海水面は、足元のはるか下にある。長く大きな息を吐いて、顔を見て話せるように身体を反らす。

「バカじゃないんですか!?」

最初に出たのは、そんな罵倒の言葉だった。きっと、怖い顔をしてしまっているのだろう。

「落ちたらどうするつもりだったのですか!! せっかく今は容態も安定しているってのに!!
 またぶり返してしまうところだったんですよ!!」

いくら海の精霊とは言え、この低水温の海に落ちてしまえば、きっと何かしらの不調をきたす。
それも、ヤロスさんは身体が弱いのだから、なおさら。

「……もう!」

ともかく無事で良かった、とまた長い息を吐いて。

「船から降りると言っても、ヤロスさんを嫌ってしまったと言っても、また会わないってことではないんですよ?」

口調はどこか呆れたように。

「それに私がいないならば船の航行も勝手が違ってきますから、しばらくは付き添うつもりです。
 安定して航海をこなせるならば、また私は旅人になるカタチですね」

降りようかな、と迷いつつも、そう言えばとても軽いな、なんて思いつつ、その場で滞空し続ける。
このぐらいの体重の人ならば、ほとんど疲れもなく空中に留まり続けることができる。
ヤロスさんぐらいならば、二人は余裕かも知れない。

でも確かに、このままヤロスさんを嫌ったままならば、確かにすごく寂しいか。
どうしよう。少しだけ考えて、良いことを思いついた。

「……そうですね」

ヤロスさんの蒼い瞳を見つめて、薄い笑みを浮かべて。

「じゃあ、お互いにさん付けではなくって、愛称というか何というか……そう言うので、別れるまで、別れた後も、呼び合いませんか?」

私は鳥頭ですけれど、そう言うのは忘れないんですよ? なんて冗談も交えつつ。

「今から十秒で考えてください。あまりにもヒドイのはナシですよ?」

トリオンナ、なんて名付けたら海に突き落としますからね? と笑う。
しかしそう言ったものは良いものの、ヤロスさんの蔑称なんて、どうしようか。そんなの考えたこともなかったけれど。

979ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/21(土) 15:54:35 ID:OheK48qU
>>978
重力に身を任せ、そのまま極寒の海面へ……
落ちることなく、ナスカに救助される。
当然のことながら、飛んでくる怒声。

「……信じて、ましたから」
打算ではなく、抱きしめようとした。
落ちそうになったら、きっと助けてくれるという信頼もあった。
彼女の目論見通り? こうして救助されている。

「そうですか。ならば、ずっと付き合っていてほしいくらいです。
 風を読むことは、あなたのほうがずっと上手ですから」
波だけ読めても不十分。風を読むこともできなければと。
彼女にはそれはまだ不十分だった。

まるで中身がないみたいに軽いからだ。
片手でも持てそうだと思える。

「だって、嫌いなままさよならじゃ、悲しすぎます。
 せっかくこうして、出会えたんですから」
そうこうしてるうちに、アダ名をつけることになる。
といっても、彼女はこういうのは苦手。
しかたがないので耳元でこう言った。

「ナスカ、でどうです? かわいい名前なんですから、そのまま使ってみたいです」

980ナスカンディア@翼人:2013/12/24(火) 04:00:40 ID:JXUnpd5k
>>979

そのままか。少しだけガッカリしたと同時に、また少しだけ嬉しくもある。
自分でも気に入っている名前なのだから。導きの風、ナスカンディア。ママとパパが付けてくれた、素敵な名前。
ついつい表情が綻んでしまう。カワイイ名前と言われたことが、素直に嬉しかった。

「じゃあ、純粋に“さん”付けは禁止っ、ってことになりそうですね」

私もあだ名を付けるのは、それほど得意じゃなかったものですから。なんて笑って。

「次から“さん”を付けたら何か言うことを一つ聞きましょうか!
 私からも、これから破綻にヤロス、って言いますね!」

言いながら、ゆっくりと高度を降ろしていく。そろそろ整備が必要と思われる、古ぼけた桟橋には小さな穴が空いている。
ヤロスが足を突っ込んでしまわないように、その穴を避けるようにして少し離れた場所に降りたって、
抱き合っていたお互いの身体を離した。広がっていた翼を折りたたみ、ふぅ、と息を吐く。
何だろう、凄く緊張した。あまりにも力を入れすぎると、簡単に壊れてしまいそうだったのだから。

「でもね? ヤロス」

少しだけ目を伏せって。

「やっぱり、私は船を降ります。今度は嫌ってくれとは言わないから、また会いに来ますから。
 でも、この船にいると、濁ってしまうんです。風は風らしく、旅を続けないと」

この翼も、すぐにくすんでしまいますから。右の翼だけを大きく広げて、挙げた右の手の甲で内側を撫でる。
船旅ではダメなのだ。空を飛び、自由に各所を巡らなければ、また鬱憤が溜まってしまう。

「土産話も持ってきますよ! 色々な珍しい物も持ってきます!
 もしかしたら旅の途中で出会えるかも知れません! 何かあれば、文字通り飛んできます!」

だから。

「ですから、私はやっぱり、船を降りて旅に出ます。
 大丈夫ですよ! ヤロス“さん”は、もう私よりもずっと優秀な航海士なんですから!」

行く当てさえもない旅だけれど、帰る場所さえあるならば、どうとでもなる。
ついついいつもの勢いでさん付けしてしまったのは、まだ自分では気付いていないのだけれど。

981ヤロスラヴァ@海賊魔術師:2013/12/25(水) 11:07:31 ID:DdnFkWVc
>>980
「そうしましょう、ナスカ」
そうして、ふわりと桟橋へ降りる。
温かい体が、少しずつ離れる。そんな寂寞感があった。
でも、やはり船から降りるという。

「そうですか……」
今度は、もう止めなかった。
きっと、すぐに会えるから。
「生きていたら、また会えますよね」
にっこりと微笑む。
嫌いなまま別れるんじゃなくて、なんだかよかった。

日の光に照らされる翼が、なんだか幻想的で。
それに見とれていたが、ちょっと時間を置いて。
「でも、まだひとりじゃ自信が」
そう言おうとしたが、

「早速自分で言ったこと、忘れちゃダメですよ」
むにっ と指で頬をつまむ。
「ちゃんと決めたことは守ってもらいますよ。えーと……」
何を聞かせるか、迷っているようだ。

982ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2013/12/26(木) 01:04:01 ID:6NkwbFSA
>>977
「ッははは 本当のことを言っているのになぜ反応するんだい?」
ジト目のイーリスちゃんを笑い飛ばす だがイーリスの目は 道場主の目が一瞬だガ 確かにブレた事を見逃すことはないだろう

「いいなー 俺も家を買っちまうかなぁ〜 でもなぁ〜」

いろんな意味で少々特殊な軍に居た為に家事スキルは非常に高い
なので家を持つと自分でなんでもやってしまって 宿に来ることが少なくなりそうなので怖い ロール的な意味で

「さて こうもり君はちょっとは懲りてくれたかな?」
何せ裁縫TIMEを邪魔した罪は重い こうもり君が出られない程度にバスケットを持ち上げて こうもり君の様子を確認しようとする

983イーリス@探検家:2013/12/30(月) 11:08:50 ID:oNKsNDrY
>>982

「本当のことではないからでは?」

かまかけ成功と判断する。
彼女に設定されたタスクで、ハート柄ペアルックは取り消された。

「自宅があるのは、いいこと」

こうもりは隙間にその翼を挟み込んだ。
どうも、クッキーのクズだらけとなっているようだが。

「……」

ひょい、とイーリスがバスケットの隙間に手を差し込み、こうもり君を取り出した。
毛皮にまとわりつくようにクッキーが付着してしまったのに気がついたらしい。
どこからかブラシなんか取り出して、手元でこうもり君のぶらっしんぐを始めた。

984ロイ@元兵士 ◆mURoET.VKw:2014/01/07(火) 23:48:33 ID:D.PM8Pqc
>>983
「え〜 やだなぁ本当のことだってばよ〜」
外見上はおどけて見せても 内心はものすごい勢いで舌打ちしていた

(オノレ・・・対尋問の訓練は受けてるはずなのに・・・!!)
そもそも傭兵となって 冒険者となって尋問を受けるなんてことはほぼないので 習得したスキルはさび付いていたのだ
今度誰かに尋問の訓練でもしてもらおうかな などと考えつつもこうもり君をいぢめていたら イーリスちゃんの水入り入りました

「YO 特性のクッキーは美味しかったか?」
悪びれる様子なんて微塵もなく 指でクッキーの欠片を摘んでこうもり君から引っぺがす

「・・・・・」
今度新しく罠でも作り上げてみようかと画策中 すずめを捕まえるように つっかえ棒したカゴの中にクッキーを仕込んで
やってきたこうもり君を一網打尽ってぇ寸法YO!!

「そうだ 住所教えてよ 今度旦那からかいに逝くから」

985イーリス@探検家:2014/01/09(木) 20:03:00 ID:aZwZIbhE
>>984

無事に外に出られたこうもりはそりゃもう満足げであった。
ブラッシングもしてくれるし、甘いものもたくさんあったし。文句無い。

「……夕食は抜き」

が、飯抜きが決まった。
悲しいかな、人語を理解できぬまくすうぇる君がそれを知ることはなし。

「それは……彼も喜ぶ」

口頭で、適当に場所を伝える。
しかし、ロイは彼女のの家に行くということの意味をよく考えたほうがいいだろう。
工房云々、という意味ではない。単純に、フォルカーの歴史の授業に気づいたら付き合わされることになるということだ。

986ナスカンディア@翼人:2014/01/27(月) 03:52:20 ID:7cailYTg
>>981

いきなり指先で頬をつままれ、ムッと表情を歪ませる、のもホンの数秒だけ。
そう言えばついさっき、いつもの癖で“さん”を付けてしまったっけ、と思い出して、
申し訳ないような、恥ずかしいような、そんな複雑な表情を浮かべてしまう。
ついさっき自分で約束したことを、こんなにも早く破ってしまうだなんて。何というか。

「……とっ! 鳥頭ってわけじゃっ、ないんですよっ!」

確かに記憶力は悪いですけれどっ! とか、翼人だから頭も鳥並ってわけじゃなくって! とか。
そんな言い訳をしようとして、やっぱり口に出して言うことはできず、口をつぐむ。

それにしても、どんなことをしなければならないのか。
楽しみに思う半分、怖いってのも半分。船に残れ、って言われたらどうしよう。
少し待って、翼を羽ばたかせてみたりして。冷たい潮風は気持ち良くって、二人の頬を撫でる。

「じゃあ!」

迷っているのを、ずっと待っているのも良かったけれど。

「私はヤロスに一つ貸しを作った、ってことにしましょう! 今は何も思い浮かばなくっても、また後で何かあるかも知れませんから!」

それに、そろそろ寒くなってきましたから、戻りましょうか。
海図も完成させないとダメですし、ヤロスって“さん”を付けない練習もしたいですから!
なんて笑って、ヤロスの手を引っ張って、暖かな船の中へと急ぎ足。

この海輸を終えたら、もう船を降りてしまおう。船長も、エリクさんも許してくれるはず。
行きたい場所はある。帰ることができる場所もある。お土産は何にしよう。船の上じゃあ、決して手に入らないもの。
あの花が良いかな。ヤロスさんは、あの山にだけ咲く珍しい薄桃色の花を知っているだろうか。
花をそのまま持ってくるのは無理だから、押し花はどうだろう、喜んでくれるだろうか。
船長は何が良いだろう。エリクさんは? 船員のみんなは? 全員分持ってくるのは、少し無理かな。

まだ行きもしない旅先に向けて想像を膨らませつつ、きっと船室でお喋りは続く。

987リヒト@剣士:2014/05/27(火) 02:55:31 ID:zK2GQLFE
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/game/48625/1379772045/617 へのレス

「……なんでそこで疑問形だよ」

思わずツッコミを入れてしまう。違う、そこじゃない。
彼はかぶりを振り、再び少年を見やる。

「許す……だと?どうして。
俺は、お前の家族を……」

『おまえは、お姉ちゃんを……大切に思ってくれてたから』

その言葉を遮るように滑りこむ、少年の声。

「……大切に、か。そう、だな」

自分はシェルムの世話をしたし、あいつのことは相棒だと思っていた。
思い返せば、それは確かにあいつを大切に思っていたと言えるだろう。

気づけばいつしか少年は言葉をつまらせ、変わりとばかりに叫ぶ少女の言葉に彼は頷くと、

「……あぁ、わかってる。俺は絶対にシェルムを忘れなっ!?」

瞬間、胸に衝撃が走る。
視界が反転し、気づいた時には大地に仰向けになっていた。
にも関わらず、顔に雨粒が当たらないのは、胸上に大きな銀狼の姿があるからだ。
背中は泥水で酷いことになっているだろうが、それはまぁいい。
首筋には、荒く生暖かい吐息が容赦なく振りかかる。
ついでに両肩は爪のある足にホールドされていて、腕を上げることなどできはしなかった。

そこまで確認して、ようやく彼は気づいた。
自分は、彼女に押し倒されたのだと。
一瞬の緩みを突かれて、対処できなかったのだ。

やはり、納得出来ないかこの母親は。そりゃそうだ。
と言うか、さっきから彼女だけ人の姿にならない辺り、怒りのあまり我を忘れて?化できなくなってんじゃなかろうな。

だが、ここでは駄目だ。
なぜなら、

「シェルムの墓石が……それに、お前らだってッ……!」

殺されるのは構わない。
しかし、いくら雨で人通りが少ないとはいえ、こんな町中で殺人などすれば、
すぐさま憲兵がやってきて獰猛な動物だとして抹殺されてしまう。
そんなことは、自分だって望んじゃあいない。やるなら、街の外だ。

それに、もしそんなことになれば、

「それにっ……、そこのガキどもはどうなるんだ!
お前の怒りに任せた行動で、そいつらまで危険な目に遭うんだぞ……!」

そのようなことを、身動きできない身で訴える。
そんなことが出来たのは、彼女が彼を押し倒した時に何故か即殺せず、動きを止めたからだったのだが。

988全身を白色で覆われた少年@人獣:2014/05/31(土) 02:21:32 ID:28/o1OnM
>>987

ホントに些細なぐらいの、ほんの一瞬の油断だった。
この雨による水滴か、それともいつの間にか目頭に溜まっていた涙か。
どちらかが濡らした顔を拭おうと手を離した瞬間に、ママはあの男へと飛びかかった。
やってしまったと、瞬時に思った。ママがあの男を許せないことぐらい。
ママが、あの男を噛み殺したがっていることぐらい、わかりきっていることだったってのに。

思わず目を閉じる。茶色い妹の、いつの間にかボクのコートの裾を握っていた手にも、力が入った
頭が真っ白になる。オネガイだから、あの男を噛み殺しませんように。

でも、しばらくしても悲鳴は聞こえない。
むしろそのすぐ後に聞こえたのは、あの男の怒声にも似た大声。恐る恐る、目を開く。
ママが、あの男の首筋に牙を突き立てて、硬直していた。

「ママ!!」

急いで、慌てて、駆け寄る。コートの裾をつかんでいた妹の手は、いつの間にか離れていた。
気づけば、妹は既にママの隣で、うつむき、男とママを交互に見ている。
背中を向いているから、その表情を読み取ることはできない。ただ、その小さな背中は哀らしく思えた。

噛み殺さなくって良かった、そんな安心感はある。
でも同時に、この後のことを考えると怖くなってくる。ママになにを言おうか。
なにを言えば、ママは納得してくれるだろうか。

そう迷ってしまったから、妹のすぐ隣に立ち、ママと男を見下ろしても、なにも言えずに立ちすくむだけだった。
きっと、泣いていたと思う。

989全身を茶色で覆われた少女@人獣:2014/05/31(土) 02:21:54 ID:28/o1OnM
>>987

兄さんの手が、母さんから離れる。待っていましたと言わんばかりに、母が男へと迫る。
こうなることはわかっていたから、すぐに動けた。
兄さんはしっかりしているように見えて、どこか抜けているんだから。

母が走るのと同時に、兄さんのコートから手を離し、一気に足を速める。
できれば母がアイツに牙を立てる前に、その間に割り込みたかった、それはできなかった。
数倍も、母の方が早くアイツへと距離を縮め、押し倒していた。
さすがは魔獣、と言ったところか。ううん、感心している場合じゃない。

このままでは、良くないことが起きる。

「……」

でも、できることと言えば、こうしてすぐ傍で見守ることぐらい。
アイツの顔を見て、たぶん、睨み付けて。母の方を見て、やっぱり、睨み付けて。
ここで殺したって、何にもならないでしょ? だから、もう帰ろう? そう言いたかったけれど、なにも言えない。
ただ、二人の顔を交互に見るぐらいしか、できやしない。

母は、硬直していた。
迷っている、のだと思う。色々なことで。

「……たぶん、納得できないのは、もっとも憤っているのは、自分のこと……」

自分でも知らず知らず、口が開く。

「どうして自分がそこにいなかったのか、どうして自分が生きているのか。
 どうして、自分じゃなくって、あの子が……姉さんが、死んでしまったのか」

まるで自分自身に言い聞かせるような口調で、自分でも次第に納得していく。
きっと母は、そのことで怒っている。
その怒りは、誰にもぶつけることができやしないのだろう。ただこの人、一人だけを除いては。
そして、その人が目の前にいる。じゃあ、ぶつけないわけがないの。

「……どうして、姉さんが死ななければならなかったのか。どうして守ってくれなかったのか、って……」

きっと、母さんも泣き叫びたいのだと思う。
そうしないのは、なにを考えるよりも襲いかかってしまったのは、自分が魔獣だからか。
魔獣は、涙を流すことができないからか。

990シルバ@銀狼:2014/05/31(土) 02:22:25 ID:28/o1OnM
>>987

わかっている。ここで貴方を殺したら、あの子たちにも危険な目に遭うことぐらい、わかっている。
でも、じゃあ! このどうしようもない怒りは、どこにぶつければ良いのだろうか!
貴方にぶつけるしかないじゃない! 受け止めることができるのは、貴方ぐらいなのだから!

首筋を挟み込む牙が、ゆっくりと、しかし確実に閉じられていく。
緩慢な動きではあるが、鋭利な牙。触れるだけで皮膚は裂けて、容易に出血する。
挟み込まれたならば、簡単に首を噛み千切ってしまえるだろう。
本当は、その首筋に思いっきり噛みつきたい。でもそうしないのは、それは間違っているから。
貴方を殺しても、あたしの子は帰ってこないし、あの子たちにも危険が及ぶ。
わかっている。わかっているのだけれど、我慢できない。

この怒りを収めるには、あたしの不甲斐なさを慰めるには、あの子の安眠を願うには、
このまま一気に口を閉じて、その溢れる獲物の血によって喉を潤すしかない。そうとまで思っている。

首筋に牙を立てて、唸る。
どうしたら良いのだろう。あたしはどうするべきなの? 教えてよ。泣けないの。魔獣だから。
あたしは人になることができるけれど、本性は魔獣なの。魔獣なのよ、リヒト。
獲物を殺して、その血によって自らを律するのが、魔獣なの。涙なんて、そんな高尚な物は持っていない。

きっと、その唸り声は悲しそうに聞こえると思う。
実際に悲しいのだもの。どうすれば良いのかわからないのだもの。

教えてよ。オネガイだから。

991リヒト@剣士:2014/05/31(土) 22:33:49 ID:zCezxhNM
>>988-990

リヒトは聞いた。
いつの間にか傍らにいた、少女の訴えを。
この体勢では見えないが、そばには白い少年の姿もあるのだろう。
彼は顎を引き、自分にのしかかる銀狼に目をやった。

そして、リヒトは銀狼の目にあるものを見た。
それは、

(……涙……? いや……)

銀狼の目尻から流れる水。
それは、ただの雨水だ。
降りしきる小雨が獣の毛に溜まり、目の淵を伝って流れ落ちているだけのこと。
それが、彼に涙と誤認させたのだ。問題は、そこではない。

(……なんで、涙に見えたんだ……?)

疑問した直後、彼は気づいた。
ほとんど怒りに染まった、銀狼の瞳。
そこに、わずかに別の色があることに、だ。

(……!)

思わず彼女に腕を伸ばしかけ、押さえつけられているのを思い出す。

「っ……」

その時、首筋を微かな痛みと共に暑いものが流れ落ちた。
雨中にて、場違いなほどの熱さを持ったそれ。おそらくは、己の血液だ。
今しがた、銀狼の牙によって傷つけられたものだろう。

だが、彼は構わない。
代わりにというように、彼は口を開いた。

「なんで……だと?
そりゃあ、決まってらぁ」

今にも喉笛を噛み切られそうだというのに、その声色に焦燥の念はない。
あるのはただ、淡々とした語り口だけだった。

「俺が弱くて……、至らなかった。それだけだ」

彼は語る。
あの時のことを。

クィリィの精神汚染か何かによって、パーティー全体が攻撃された時のこと。
そのとき、自分はシェルムを気にかける余裕を持つことが出来なかったこと。
故に、彼女を死なせてしまったこと。

「だから……もし、許されるならよ……。
俺に、もう一度チャンスをくれ。もっと、強くなるための時間を。
もう二度と、俺の目の前でアイツみたいな犠牲を出さないためにも」

これは、シェルムの墓前で誓ったことでもある。
彼は一息をつき、

「だけど……、どうしても俺が憎くて、我慢ならねぇってなら……殺せ。
ただし、何度も言ってるようにここじゃねぇ。もっと別の場所で、だ。
そのくらいしか、俺にはわからねぇよ。お前らに報いる方法はな」

言って、彼は銀狼を見据えた。
これから何が起きても、決して目をそらさぬようにと。

992シルバ@銀狼:2014/07/03(木) 23:38:21 ID:NmaBDnNU
>>991

そんなことより、シェルムを返して! 貴方が強くなるより、私はシェルムの方が大事なのだから!
シェルムの方が大事だったのだから! あの子は幸せになるべきだったのだから!
貴方といれば、きっと幸せになるだろうってどこか思ってた! 実際に、貴方と一緒にいたあの子は幸せそうだった!

どうしてこんなことになってしまったの! どうして!

ここで、この男を殺すのは簡単だ。私の自慢のこの牙で、首に思いっきり噛みついてしまえば良い。
それだけで、きっと私の心は晴れるだろう。でも。

「……」

男の首の薄皮に、牙が触れる。少しの出血が、ほんの少しの血の香りが、
獲物を前にして過敏になっている鼻孔をくすぐる。そのまま、わずかな先端だけを首に食い込ませて……口を開いた。
ここでこの男を殺したって、シェルムは喜ばない。喜ばないどころか、悲しんでしまう。
それに、きっとこの男はシェルムのことを好ましく思ってくれていた。それに、名付けてもくれた。
……許せるかなって、思うことができた。

魔獣らしくはないと、雨に打たれて冷えた頭で自覚する。
まだ許したわけではない。許せるわけがない。だけれど、ここでこの男を殺してはならない。
シェルムが愛した男なのだから。

男を睨み付ける。獲物を前に、獲物を殺す目で、睨み付ける。
これ以上、この男の臭いを、血の臭いを嗅いでいると、それこそ取り返しのならない事態になってしまう。
だから、男の身体を蹴り、すぐに離れた。
今日のところは、それぐらいで勘弁してあげる。人間の言葉ではなく、一つ吠えることで男に伝えた。

自分でも思った以上に、優しく吠えたような気がした。

993全身を茶色で覆われた少女@人獣:2014/07/03(木) 23:38:57 ID:NmaBDnNU
>>991>>992

母がアイツの身体を蹴って離れて、少し離れた場所から一つ優しげに吠えて、やっと安心することができた。
でも、あの巨体に蹴られたんだ。骨の一つが折れていてもおかしくはない。
どうせ、思いっきり蹴ってしまったに違いがないのだから。だとすると、しなければならないことがある。
母のことは、兄さんに任せよう。

「……大丈夫?」

母に蹴られた男へと歩み寄り、すぐ傍で身をかがめる。

「楽にして」

母に蹴られた下腹部、ちょうどみぞおちの辺りに、手を触れる。衣服が邪魔だから、めくり挙げて直に触れる。
恥ずかしさはない、慣れている。

「でも、痛かったら言って」

ほんの少しだけ力を入れる。もしもあばら骨とかが折れていたら、コイツを運ぶのは兄さんの役目だ。
力仕事は兄の役目なのは、ずっと昔っから決まっていること。
母に蹴られた下腹部を押したり、さすったり、力を入れて見たり。外から触った感じでは、折れているような気配はない。
色は、少し赤くなってるって具合。蹴られたんだから、当たり前か。

「……痛い?」

でも、念のために聞いてみる。

「痛かったら、その痛みもずっとずっと覚えていて」

もっと、指先が食い込むぐらい、力を入れて。

「この痛みも覚えていて。姉さんのことも、ずっと覚えていて」

男を睨み付けて。

「忘れたら許さない。噛み殺すから」

強い言葉で、忠告する。
忘れることを、許せるものか。一生ものの傷にさせなければ、母も兄さんも、自分の気さえ晴れることはない。

994全身を白色で覆われた少年@人獣:2014/07/03(木) 23:39:43 ID:NmaBDnNU
>>991>>992>>993

あの男のことは、妹に任せよう。ボクは、ママをあの男から遠ざけるのが今の役目だ。
でも、もう心配がないかも知れない。思った以上に優しげに、ママが一つだけ吠えたのだから。

「ママ?」

ママの頭に、恐る恐る手を触れる。
ママも、その手に頭をこすりつけるような動きをしてくれた。どうやら、落ち着いてくれたみたい。
でも、まだその男を睨み付けてはいる。許したわけではない。ボクだって、許せるわけではない。

「帰ろう? ……風邪、引いちゃうから」

踵を返し、帰り道の方を見る。ママも大きな身体を翻し、ボクより先に歩み始めた。
一歩、二歩、歩いて立ち止まり、首だけで振り返る。妹がなにかを言っている、その男を見る。
ママに蹴られた腹は大丈夫だろうか。骨とか、折れていないだろうか。
首の傷は、深くないだろうか。

「……また来るね、来ても良いでしょ? シェルム、ここにいるんだもの」

やっと、少しだけ笑って。

「ダメって言っても、聞かないからね? ダメって言うことも許さないけれど。
 ほら、帰るよ? ……ママは、もう行っちゃったみたいだから」

男の傍で、何かをしていた妹を呼ぶ。
妹は、先に行っといてと言うかのように、手を振っていた。やっぱりいうことを聞かないのか、あの子は。
もっとも、ボクの言うことを聞くとは思ってなかったけれど。

「もう……ボクたちは先に帰るけれど、リヒトさんに迷惑をかけちゃダメだからね! わかった!?」

いつものように、放って先に帰ることにした。
言うことを聞かず、後々になって勝手に帰ってくるのは、妹にとってはいつものこと。心配することは、なにもない。

995リヒト@剣士:2014/07/06(日) 03:11:38 ID:hLbw/0ZY
>>992-994

「――― !?」

リヒトは、鳩尾を蹴りこまれて激しくむせた。吐き気もするが、それは普通に堪えられる。
鎧を着ていたし、狼の踏み込みの初動を感知した瞬間に腹筋に力を込めて衝撃を緩和したため、
その程度のダメージで済んだのだ。
無防備に受けていたら、アバラの一本ぐらい持って行かれただろう。

ともあれ、それで狼が離れた。どうやら命は奪われないらしい。
許されたのかどうかはわからない。だが、彼女の吠え声を聞く限りは、

「ぐっ……。
 いい、のか……? 俺を、殺さなくても……」

痛みにうめき、上体を起こす。
そこに、少女がやってきた。
彼女が、言葉をかけてくれながら鎧の蹴られた部分に触れる。
そして彼女はその爪を鎧に立て、

『この痛みも覚えていて。姉さんのことも、ずっと覚えていて。
 忘れたら許さない。噛み殺すから』

「――― っ」

その表情の変化にリヒトは息を詰め、しかし真顔で頷いて、

「あったりめーだ。忘れるもんか」

言って、首筋の傷を親指で拭いつつ立ち上がる。
指についた血は、すぐに雨で洗い流された。
首筋からはまだ血が滲んでいるようだが、すぐに塞がるだろう。
そこへ、少年の声がかかった。それは、

『……また来るね、来ても良いでしょ? シェルム、ここにいるんだもの』

「勿論だ。墓参する奴は多い方が、アイツにとってもいいだろうしな」

と言うか、

「俺に、いいも駄目も言う資格なんざねーよ。
 むしろそりゃあ、俺が言われたっておかしくねーんだ。
 だから、」

一息。
それで身体の力を抜く。正直まだ鳩尾は痛むが、だいぶ良くなった。
彼は口角を上げしかし眉は下げ気味の笑みで、

「――― サンキュ」

それは、今、墓参りを拒否されなかったことに対してだけではない。
シェルムを預けてくれた時から今までの日々。それら全てに対してだ。

銀狼と、少年の姿が遠ざかっていく。去ろうとしているのだ。
教会の建物に沿って曲がれば、その姿はすぐに見えなくなる。

「……ほら、二人共行っちまうぜ」

だというのに、傍らでは未だにこちらを睨みあげている存在があった。
茶色の少女だ。

「シェルムの事は忘れねぇよ。絶対だ。約束する」

リヒトは顔を彼女に向けた。
少女の頭に手を載せようと一瞬右腕を動かし、しかし思いとどまる。
彼は開いた右手を握り、

「もし、俺がアイツのことを忘れてるとお前らが判断したら、いつでも殺しに来い。
そんときゃ、大人しく殺される。文句は言わねぇ。

だから、今は行けよ」

言って、リヒトは二人の去っていった方を顎で示す。

「俺は……、もうちっと雨に打たれて行くさ」

曇天の空を見上げる。
自分の背面は泥だらけで、正直少し、否、かなり冷えてきた。
だけど、今はそんな気分だった。


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