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ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅢ Lv6

1ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:28:42 ID:1wMv/96g0
こちらはドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルを開催したら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。

参加資格は全員にあります。
初心者歓迎、SSは矛盾の無い展開である限りは原則として受け入れられます。
殺し合いがテーマである以上、それを許容できる方のみ参加してください。
好きなキャラが死んでも涙をぐっと堪えて、次の展開に期待しましょう。

まとめWiki
http://seesaawiki.jp/dragonquestbr3rd/

避難所
http://jbbs.shitaraba.net/game/30317/

前回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII
http://seesaawiki.jp/dqbr2/

前々回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアル
http://dqbr.rasny.net/wiki/wiki.cgi
http://seesaawiki.jp/dqbr1/

DQBR総合 お絵かき掲示板
http://w5.oekakibbs.com/bbs/dqbr2/oekakibbs.cgi

96ただ一匹の名無しだ:2016/09/08(木) 16:44:09 ID:h5DrRuaw0
リオウとの初対面時の会話もフランクな感じで可愛いよね

97 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:19:48 ID:K5hqCuOE0
投下します

98 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:25:16 ID:K5hqCuOE0


「ヒーロー……ヒーロー!!」


熱い叫びが平原に響く。
たなびくマフラー、それは吹きすさぶ風を全身に受けていることがはっきりと解る。
燃える魂を象徴するかのように流れる汗を、ぐいと拭いながら彼は叫んだ。
草むらを駆け巡りながら、必死に探し求めているのだ。
この地で出会った初めての同志である友の声を。


「どこへ行ってしまったんだ、ヒーロー!」

「おい、叫ぶなよ!!俺の声がかき消される!こっちだって!」

「ムッ、こっちか!?ワシの声が聞こえるか、ヒーロー!!」

「下!こっちだ……下だ!おい!待てモリー!踏みつぶされる!!」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



母なる大地を、自分の両足でしっかりと踏みしめて歩くのが性に合う。
そう主張したのはザンクローネだ。
しかし、悲しいかな長駆のモリーとは決定的な差が生じていた。
歩幅だ。


「ヒーロー!一旦停止だ!君は無敵だが、体力は無尽蔵ではない!」

「ふぅ……おいおい、見くびるなよ?まだ俺は走れるさ」


仲間たちの危機を案じ、モリーは北のトロデーンへ向けて一刻も早く向かいたかった。
しかし、常に自分の後ろを疾走する形となるザンクローネをちらと見て、踵を返して立ち止まる。
彼に深くは尋ねなかったものの、モリーは感じていた。
この小さな身体は『呪い』の類によるものではないかと。


「いや。思い出したのだ、ムッシュやプリンセスが、身体を魔物や動物へと変化させられていた事について」

「そいつらは、お仲間かい?」

「ああ、そうとも。呪いによる不自由を強いられていた。解呪の後に聞いた話では、その間の力はかなり削がれていたらしい」


ザンクローネも彼の言いたいことを確かに理解した。
モリーは彼を、呪いのような外法によりこんな身体に"させられた"と考えているのだ、と。
そして彼の身体は大変弱っているのではないか、とも。
ロクな身の上語りもしないうちから、その苦労を案じられていたことにザンクローネは苦笑しつつ頭を掻いた。


「ヒーローよ……ワシは君に無理をさせていたかもしれん」

99小さいからだに大きな望 2/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:26:38 ID:K5hqCuOE0


「まあ、このナリは呪いのようなモンてのは合ってるぜ。だが無理や負担は感じちゃいねえ」


謝ることはない、と胸をドンと一つ叩いたザンクローネは快活に笑う。
それだけを見れば、彼が少女の抱える人形のように小さな身体になっていることなど微塵も感じられない。
精霊としての身体は失われ、消失したザンクローネの体。
いまここに再び取り戻された肉体が、魔女に引き裂かれたときのものになっている理由は未だ不明だ。
それによって明らかに移動に時間を食われるというのは、確かに理不尽な仕打ちと言えるだろう。
だがこの心根だけは、邪悪な存在にも捻じ曲げることは不可能であった。


「こんな状況だ、甘えてる場合じゃない。足を引っ張るのはゴメンだしな」

「しかしだ、ヒーロー」

「どうした?」


ずい、と進み出て腕を組み、勢い良くしゃがみ込んで彼を覗き込む。
そしてその姿勢のままモリーは人差し指を垂直に立てた。
こういうオーバーアクションな所には驚かされるのか、思わず村の英雄は一歩後に退く。


「今後に備え体力は温存するべきであるともワシは思うのだ。心苦しいが、今後戦いが起こることは避けられんはず」

「ん……まあ、そりゃそうか」


そう言いつつ出会ったときのように肩に乗っての移動を提案するモリー。
急ぐ理由があるということは承知していたザンクローネも、この提案に同意した。


「すまねえなモリー、情けない身体なばっかりに」

「謝罪は不要だヒーロー。この行為は、さっき言っていた足を引っ張るということでは決して無い」


謝ることはない、とキラリと光るような笑みとともに親指をサムズアップ。
モリーを包む風が、強まったように感じられた。
周囲と比べ、ここだけ熱い。
そんな錯覚すら抱くほどに、彼は雰囲気を変えてしまう男であった。


「ワシはヒーローのような熱い魂を持つ人間の為とともに歩み、手を取り合う……それが自分の使命だと確信しているのだ」

「へへ……なら、ここで頭を下げたり、恩に着るのは逆に野暮ってもんか」

「そうだとも、共に邪悪を討つのみだ!では行くぞ、ヒーロー!」

「ああ、行こ─」


その発言を最後にザンクローネの声はモリーに届かなくなった。
加速に着いていけずに吹き飛ばされた彼は、後にこう語った。
すごい風とすごい爆炎を、熱く物語りつつ遠ざかっていく背に見た、と。

100小さいからだに大きな望 3/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:28:52 ID:K5hqCuOE0

─そうして、叫び、慌て、草根をかき分ける男と、懸命に声を挙げる小さな英雄。
両者の時は少しばかし捜索に費やされてしまい、結果として周囲の探索に移れずにいたというわけだ。
なんとも馬鹿馬鹿しいかと思う者も居るかもしれないが、生憎当人らは大真面目である。


「おお、ここに居たかヒーロー!まったく背の高い草だ、君のビッグな背中を覆い隠してしまうとは!」

「2、3度潰されるのを覚悟したぜ」


ややあって、ザンクローネを発見したモリーはようやく安堵の息を漏らす。
決して悪い男ではないが、過ぎた熱血漢であるなと今更ながら再認される形となった。


「俺の声が先に枯れちまうかと思ったぜ……」

「すまない!今後は黙々と君を探すと約束しよう!」

「いやもう探される立場は勘弁してくれ……しっかり捕まるか。おし、改めて」


改めてモリーの声のでかさとテンションに驚きを感じつつも、再びモリーの手を借り肩に乗る。
傍らの靡くスカーフを、決して離すまいと気をつけて。


「出発だ!」

「うむ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「トンネル内で鉢合わせることを警戒していたが……」

「待ち伏せの存在は無かったな。取り越し苦労で済んで幸いだ」


警戒の様子を見せつつ姿を表したのは壮年の男性と、坊主頭の青年。
パパス、そしてイザヤール。
彼らは正義の志を抱えて邪悪な存在を追い求め、南へ向かっていた。
聞けば、サヴィオの遭遇したと言うバルザックは、執念深く彼の持つカマエルを付け狙っていたと言うではないか。
ならば彼らを追い、すぐ側まで迫っている可能性すらあった。
暗闇での遭遇を考えた二人は、警戒を絶やすことなく真っ直ぐ南へ向かう。
そして、山岳地帯を越えるトンネルをまさにくぐり抜けようというところであった。


「……気がついたか、あの声に」

「ああ。かすかだが猛々しき叫び声のような物が微かにトンネル内にまで届いた」


その正体は、バルザックなのだろうか。
もしそうであれば、戦いは避けられないだろう。
パパスは背中から鋼鉄の剣を抜き、警戒を強める。
イザヤールも太刀をいつでも構えられる体勢を取り、外の様子を伺った。

101小さいからだに大きな望 4/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:35:15 ID:K5hqCuOE0

「……ぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」

(間違いなくこちらに来る)

「…だ!…の気配がした……ヒーローよ!」

(会話をしているようだ。複数か?)

(いや、影は一つしか見えん)


内容は多くは聞き取れないが、どうもこちらの存在には感づいていることが伺える。
ということは、多少なりとも腕の立つ人物なのは間違いない。
現状重要なのはただ一つ。
敵か味方か。
二人の間に緊張が走った。

(……どうやら人間なのは間違いないな)

(あの出で立ち……芸人か……?)

「確かに気配がこちらから!ミスターか!?ナイスガーイ!?」

「おい、トンネルの方から誰か出てきたぜ!」


剣を握る手はそのままに、姿を見せた。
あちらは武器を構えることは無い。
目についたのは、肩に乗る小さな人間のようなもの。


「あれは妖精か……?」

「妖精……息子に読み聞かせた話で見たことしか無いが」


どうやら話し声がした理由はこれらしい。
一人に見えたが二人連れ、という訳だ。


「俺はそんな可愛らしいモンじゃねえさ」

「どうやらヒーローの知る人物でもなさそうだな……」


ひとまず互いに敵意を持たないことはすぐに納得できた。
奇妙な二人連れ同士、向かう先の無い刃は下ろされる。


「私はパパスと言う者だ」

「我が名はイザヤール。名簿にあった以上ご存知かもしれぬが名乗らせてもらった」

「うむ、わしはモリー。……むっ、そういえば……」


荷物から名簿を取り出したモリーはパラパラと頁を確認する。
ザンクローネも覗きこむ形で目を動かした。

102小さいからだに大きな望 5/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:41:24 ID:K5hqCuOE0


「すまん。すべてを確認した訳ではない……これより読むので少し時間をくれんか」

「あー、俺もだ。お二人さんよ、急ぐなら別に放ってくれていいぜ?……そうそう、俺はザンクローネだ」


告げられた名は確かに彼らの調べたものと一致している。
肩の上に乗る小さな参加者に驚きつつも、二人は了承した。


「いや、我らとしても情報は欲しい。まずは君たちと話がしたい」

「探している魔物や人物が、君らの知る者かもしれんからな」


名簿を急ぎ読み返す二人を待つ間、一行はトンネルの出口に腰を下ろした。
互いの素性、知り得る情報を時間が許す限り公開し合う。
モリー達はどうやらここでパパス達と接触するまで、誰一人として見かけることもなかったとのことだ。


「たまたま西の岬にモリーが居たからよかったものの、俺一人だったらここまで日が暮れてたかもな」

「うむ……それは不幸中の幸いと言えるだろう」

「君は本当に妖精では無いのか?」

「まあ話すと長くなるが、今の俺は単なる小人みてえなモンだと思ってくれ」

「うむ、確認を終えたぞ!……すまない、ムッシュ・パパスにマスター・イザヤール」


ザンクローネと共に名簿の大方の概要を読みなおしたモリーは、頭を下げた。
唐突な謝罪を受け、二人は顔を見合わせる。


「どうしたのだ?」

「先に告げたように、わしらが会ったのは君たち二人が初めてだ、お役に立てそうもない」

「あんたらが言ってた、追いかけてるバケモンに関しても見知った間柄じゃねえ。時間を取らせて悪かったな」


呆れ返るほどの真摯な謝罪。
その態度は信頼に足る物と判断され、二人は顔を僅かに綻ばせた。


「なに、謝罪されるようなことではない」

「君たちは自分の知り合いを探すことが第一で構わない。我々は先を急がねば」

「どこへだ?」

剣を背負い直し、出立のため装備を整える二人の背にザンクローネが問う。
そこに存在する意志は堅い、なぜなら彼らはどちらも一度は死んだ身。
今を生きる者達の為、少しでも動くという心で満ちている。

103小さいからだに大きな望 5/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:44:05 ID:K5hqCuOE0

「既にあのエビルプリーストの手の者が各地で暗躍をしている……」

「我らが向かい、倒さねばなるまい」

「おいおい、それなら話しが早えよ」


ザンクローネは軽々とモリーの肩の上から飛び跳ね、パパスたちの目線にも近い岩肌に着地した。
体格の差を物ともせず、その膂力は本物に違いなかった。


「俺も付き合うぜ。こういうことには首を突っ込まずにゃいられねえのさ」

「わしも同行しよう!モンスターが相手となればきっと役に立てる」

「しかし……良いのか?」


彼らにも探すべき人物が居るはず、と言いかけたがその言葉は途中で制された。
それは彼らの笑顔が、有無を言わせぬ力強いものだったからに他ならない。


「義を見てせざるは勇無きなり!ってやつさ」

「その魔物とは、いずれ必ずぶつかる。それが早いか遅いかに過ぎん」

「お二方の助太刀、誠に感謝する」


今度は、パパスとイザヤールが頭を下げる手番となった。
ザンクローネは、モリーに何事かを頼みふくろを探る。
身の丈よりも大きな盾がそこから取り出され、代わりに受け取ったモリーがその手に掲げた。

104小さいからだに大きな望 7/8  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:45:36 ID:K5hqCuOE0


「こいつは共闘の証みてえなもんだ、受け取ってくれよ」

「これはありがたい。かなり有用な装備と見受けられるが……」


両手剣を持つイザヤールはパパスにその盾を譲る。
お役に立てたら何よりさ、とザンクローネは豪快に笑った。


「気にすんな。モリーが装備できねえし、俺も言わずもがなで持て余してるだけでよ」

「ヒーローに合う装備を用意しないとは、主催者側も不親切なものだ」


こんな状況を招いて親切も何もないだろうが、ともかく不満気なモリーをザンクローネはなだめる。
するとイザヤールが気づいた様子で、懐から何かを取り出す。


「いただくばかりでは申し訳がない、が……あまりに吊り合わんかもしれん」

「なんだいそいつは?」


取り出されたのは、白金の輝き。
まるで油を塗ったばかりのような光沢を放つそれは、値打ちのある金属に違いなかった。
もっともその長さは小さく、短い。
所謂、針仕事に用いる『縫い針』であった。


「……身を守る役くらいには立つかもしれん、受け取ってくれ」

「針を剣の代用に……これもまた、息子に読む絵物語にあったような」

「はは、絵物語か。奇妙な縁だなそいつは」


得意げに掲げたザンクローネは、歩みを同じくするためモリーの肩に着地した。
人影は3人、されど勇ある心は4つ。
荒野に足を進め、邪悪な魔物の影をひたすら追い続けるのであった。

105小さいからだに大きな望 8/8  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:47:01 ID:K5hqCuOE0


【C-6/トンネル出口/昼】
【モリー@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める

【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ふてぶてしく全てを救う



【パパス@DQ5】
[状態]健康
[装備]はがねの剣@DQ6 力の盾@DQ8
[道具] 支給品一式、支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]生死に執着はないが、思い残しはしたくない。
   イザヤールと共にバルザックを追う

【イザヤール@DQ9】
 [状態]:健康
 [装備]:斬夜の太刀@DQ10
 [道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1) 
 [思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。パパスと共にバルザックを追う
 [備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
     (「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)

106 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:47:26 ID:K5hqCuOE0
投下終了です 投下数ブレてすいません。

107ただ一匹の名無しだ:2016/09/11(日) 11:21:52 ID:iLFQscUQ0
投下乙です

積みフラグが積み重なっていくなか、いまだに気絶中のバルザック君の明日はどっちだ!

108 ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:00:43 ID:mUlq0LLo0
皆様、投下乙です!

>なんとレックたちの体力が全快した!!
引っ掻き回してくれそうなマーダー同盟に期待大です。
リーザスにいるアレフたちとどうなることか。

>小さいからだに大きな望
下手したら戦闘よりも移動の方が命取りになりそうなザンクローネさん、頑張れ。
なんとも渋くて頼りになりそうな人が集結しましたね。

では、私も投下します。

109ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:01:37 ID:mUlq0LLo0
透き通るような青空の下、ルーナは歩みを進めていた。
その脳裏にちらつくのは、最期までバカでお人好しだった、彼の笑顔。
似ていると思った。境遇がどこまでも似ていた。
ただそれだけの理由で命を捨てようとする自分を庇い、笑顔を求めて、笑顔で逝って。
あんなに鬱陶しくてたまらなかったのに、ルーナに何かを訴えかけるようにその存在は消えようとしない。

勇者の血筋というだけで故郷を失い。
大切な人も自分を庇って命を奪われ。
世界に平和を齎しても、その手には何も残らず。

一瞬見せた、眉ひとつ動かない彼の表情は、確かに自分と同じだったのに。
何故彼は、笑えたのだろう。
何故彼は、笑顔を作れるようになったのだろう。
ルーナにはそれが分からない。
類似と同一が違うように、歩んできた旅路に、ルーナにはなかった希望を見出だせるようなものでもあったのだろうか。
それとも彼の仲間が彼に笑顔を取り戻させたのだろうか。

――仲間?
――ああ、そういうことかもしれない。

共に旅をした王子達を思い浮かべ、ルーナはひとり頷いた。

武術において右に出るものはいないといわれた王子、ローレル。
魔法において右に出るものはいないといわれた王女、ルーナ。
剣を振るうことも、呪文を唱えることも許された王子、トンヌラ。
自分達は三人で互いをカバーしながら旅をしていた。

ローレルは武芸が、ルーナは魔法の才が、どちらも扱えるトンヌラは場を見極める判断力が、それぞれ優れている。
ローレルが負傷すれば、トンヌラが前線に出て、その隙にルーナがローレルを癒す。
ルーナが上級魔法を詠唱すれば、トンヌラの補助を受けながらローレルがルーナを庇う。

三人揃ってこそ最大以上の力を出せる。
三人揃ってこそ真の勇者。
それがルーナ達だ。

110ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:02:36 ID:mUlq0LLo0
つまり裏を返せば、一人では無力、という程ではないにしても、長所を活かすことは難しいということに他ならない。
自分達は、ロトの血筋とはいえ、3つに分かたれたそれを受け継いでいるのだから。

今自分は一人でいる。
一人では勇者と言えない存在なのだ。

犬の姿にされ、なんとか生きようと一人でもがいた日々を思い出す。
自分はとても弱かった。野良犬に追い回されて怪我を負ったこともあれば、犬を嫌う人間に箒で叩かれたこともあった。
自分はとても弱かった。地面に溜まった水を啜る度に水よりも酷く濁っていく自分の目を見て、このままどうしようもなく死んでしまうのかと怯え、心に少しずつ皹が入っていくのを感じていた。

ローレルとトンヌラによって元の姿には戻れたものの、あまりに一人の時は長すぎて。
心はとても弱っていた。
建物も、人々も、希望さえも打ち砕かれた故郷を見て強くあることなど、できるはずがなかった。

今のこの場でも。
自分はとても弱いではないか。
自殺することもできず、殺してもらうこともできず。
お人好しのバカに庇われて。



――きっと、あいつは一人でも強かったから。だから、笑えるようになったのだろう。

そう、ルーナは結論付けた。



だからといって、ローレルとトンヌラを探そうとは、あまり思わない。
特にローレルと出会えば、死ぬことを止められる可能性が高い。
彼らと合流する必要はないだろう。
安否が全く気にならないわけではないが、実直なローレルや気配りのできるトンヌラなら、仲間を見つけて信頼を得ることもできるはずだ。
それぞれ魔物を愛でる趣味や、時折心から笑ってないのだろうなと思う笑顔を見せることもあるが、それは理由が分からない部分だ、自分が気にすることでもないだろう。





――そういえば。
いつだったか、表情を失った自分を元気付けようとローレルが言っていたことがあった。
彼曰く、この世界には愛が溢れているらしい。

111ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:03:21 ID:mUlq0LLo0
 


(世界中に溢れ返ってるなら、愛なんて安っぽくなるんじゃないの?)
(安っぽくて何が悪いのだ。手を出せないほど高級でないといけないものでもないではないか。愛は探そうと思えば、いくらでも探せる。
 それがしは、ルーナに少しでも多くの愛を、暖かさを見つけて、元気になってほしいのだ)
(無理よ、そんなの。言うは易く行うは難いって言うでしょう)
(いいや、簡単だ。今それがしがルーナと話しているのだって、仲間を想う、友愛というひとつの愛だ。ほら、早速見つかったではないか)
(…………。
 貴方もムーンブルクの惨状を見たでしょう? あそこにも、愛が溢れてるだなんて言うの?)
(娘への愛で溢れたルーナのお父上がいたではないか)
(どんなに話しかけても、私達に気付かなかったじゃない)
(そうなってしまうまで魂が削れても、娘への愛は消えていないということだろう?)
(…………)
(暖かさに触れて元気になれば、前を向いて希望を探すことも、きっとできる!)



ああ言えばこう言ってくるローレルの言葉が、ルーナには理解できなかった。
その会話の直後に、襲ってきた魔物とコミュニケーションを取ろうとして手痛い一撃を貰ったローレルを、笑顔を引き攣らせたトンヌラと共に救助したことも拍車をかけている。
結局思い至った答えは、魔物にまで範囲が及ぶ(寧ろ魔物相手の時の方が強く表れる)ほど彼は愛情が深い人だからそんなことを言えるのだろう、というものだった。





(それがしは、信じているぞ。ルーナにもいつか、愛の歌が聞こえると)
(愛の歌? 何よ、それ……)
(暖かい愛は、きっと心地好い歌のように胸を震わせる。
 魔物達の鳴き声だって、よく聞いていれば歌のように美しいと……)
(……私、貴方のそういうところも理解できないわ)





歩きながら、耳をすませてみる。
聞こえてくるのは、冷たい風の音くらいのものだ。
やはり暖かいものなど、運ばれてこない。
そこにあるのは、ただ自分の青息吐息。

112ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:03:48 ID:mUlq0LLo0
――ローレル、やっぱり無理よ。
――こんなに弱い私には、愛なんて見えない、聞こえない。希望だって見つけられない。

小さく首を振って、そんなことを思う。
弱い自分には、あいつのように常にへらへらと笑うことはできないだろうけれど。
先の魔族が言っていたように、自分が成したいように進んでいけば。
ただの一度笑うくらいの強さは、得られるかもしれない。
勇者の血筋にあるまじき考えかもしれないけれど、自分は一人では勇者といえない存在なのだ、構いはしないだろう。

一度でいい、笑って、そして死ぬ。
お人好しには、どうかしてると言われるかもしれない。
それでも、構わない。







彼もまた、勇者としての自分を捨てて笑顔を張り付けていたことを、ルーナは知らない。
ロトの勇者の子孫は、どこまでも天空の勇者の子孫と似た道を進んでいた。

彼から、魔族から、目を逸らすように、逃げるように。
真っ直ぐ西へと歩んでいく。

113ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:05:14 ID:mUlq0LLo0
 


【G-7/草原/一日目 昼】

【ルーナ(ムーンブルク王女)@DQ2】
[状態]:健康、表情遺失、MP消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、不明支給品(1〜2)
[思考]:死にたい。だから誰かと戦う。お人よしは殺す。
[備考]:喜怒哀楽を表情で表せません。

114ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:06:01 ID:mUlq0LLo0
以上で投下終了です。
指摘や誤字などありましたらよろしくお願いします。

115ただ一匹の名無しだ:2016/09/13(火) 20:17:28 ID:oOeBjX..0
投下乙です!
趣味が特殊でもなんだかんだいい人だったんだなあ、ローレル
ルーナは果たして笑うことができるのか…

116ただ一匹の名無しだ:2016/09/13(火) 20:34:55 ID:r9Vvoh5I0
前話見る限り、ルーナはこのまま死んじゃうんじゃないかと思ったが多少は持ち直したようでよかった
イロモノ系かと思ってたローレルも割とまともなとこがあるんだね

117 ◆jHfQAXTcSo:2016/09/16(金) 12:13:46 ID:njnSklVg0
すみません、先日投下したラブ・ソングも探せないのルーナの現在位置ですが、表記を間違えてしまっていたので、まとめwikiにて訂正しておきました
正しくはG-7ではなくH-8になります

118 ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:38:56 ID:WBmjIT5E0
投下します

119NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:41:09 ID:WBmjIT5E0
―バルザックがやられたそうだ


うるさい


―それも人間の女二人にやられたそうだ
―魔族の恥め、所詮は元人間という事か


うるさいうるさい


―それに比べて、さすがはキングレオ様
―同じ元人間だというのに、どこで差がついたのか


うるさいうるさいうるさい


―聞いたか?バルザックの奴、サントハイムの城に左遷になったそうだ
―誰もいない廃墟の城の王様か、負け犬にはお似合いだな
―はははははははははははは!


黙れええええええええええええええええええええええええええええええええ!

120NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:41:38 ID:WBmjIT5E0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はっ!?」

サヴィオの攻撃を受け気絶したバルザック。
長い眠りについて…いや、実際は5時間程度だが、それでもこの殺し合いの舞台においては長い眠りに違いなかった。

「なんということだ…もう放送が近いではないか」

屈辱に顔を歪ませる。
サントハイムで勇者一行に倒されたあの頃より、今は更に力がみなぎっている。
にもかかわらず、あんな餓鬼一人に不覚を取ってしまった。
その事実に、先ほど夢にも見た魔族たちの嘲りを思い出してしまう、


―魔族の恥め、所詮は元人間という事か


「私は…魔族の恥でもなければ、人間などでもない!」

錬金術の師、エドガンを殺し人間の姿を捨てた彼は、キングレオ城を乗っ取り、その功績を聞きつけたピサロによって彼の軍の幹部にまで成り上がった。
しかし、元人間ということもあってか、他の魔族たちは彼の幹部入りを快く思わなかった。
それ故に、エドガンの娘と弟子に倒された後、バルザックは激しく嘲笑されることとなる。
なによりも耐え難かったのは、実験体として利用したキングレオの王子が、自分以上の力を引き出し、声望を高めることとなったことだった。
元々は自分と同じ元人間であるゆえに白眼視されていたというのに…!

「私は…負けない!この殺し合いにおいて、頂点に立つのだ!」

あの後、異動となったサントハイム城にてさらに秘宝の研究を続けた。
デスピサロすら超えた…というのはさすがに話を盛りすぎだったかもしれないが、少なくともキングレオは超えただろうという自負があった。
キングレオ城にて彼が倒されたという報を聞いた時は、ざまあみろと思ったものだ。
実験体の癖に分不相応な力を手に入れるからそうなるのだと。
しかしやがて、自分自身もまた、倒されてしまった。
勇者と、さらに力をつけたエドガンの娘によって。

121NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:42:39 ID:WBmjIT5E0
エドガンの娘、勇者一行、そして一人の糞餓鬼。
なるほど確かに今のままでは負け犬だ。
ああ、あの忌まわしい魔族共の言葉を認めてやろうではないか。
だが、このまま負け犬で終わるつもりなどない。
私は錬金術師、バルザック。
錬金術の力にて、誰にも負けない、馬鹿にされない、絶対的な力を手に入れてやる。

「その為にも、あの錬金釜を手に入れる必要があったのだが…」

しかし、あれからかなりの時間が経ってしまった。
サヴィオとカマエルがどこにいったのか分からない。

「ひとまず、城を目指すか」

キングレオ城、サントハイム城。
思えば彼のホームグラウンドは、いつでも城であった。
それゆえか、彼の足は自然とはるか北にあるトロデーン城へと向かっていた。

「誰が相手だろうと、敵が何人いようが関係ない。全て、叩き潰す」

過去の惨めさを、悔しさを力に変えて。
もうこれ以上誰にも負けないという決意を胸に。
成り上がりの負け犬は、殺戮の舞台に再び戻る。


【C-7/山岳地帯/昼】

【バルザック@JOKER】
 [状態]:HP7/8、火傷と打撲
 [装備]:大魔神の斧@DQMジョーカー
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:錬金釜を手に入れて新たなる進化の秘法を考え出し、エビルプリーストをも超越したい。
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※バルザックの姿はバルザックビースト形態(第一形態)です。

122 ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:43:13 ID:WBmjIT5E0
投下終了です

123ただ一匹の名無しだ:2016/10/09(日) 23:31:54 ID:2Ok8iQgk0
投下乙です。
ハングリーな精神面を見せてジョーカーのプライドを見せつけることができるのか、
がんばれバルザック。

124 ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:08:04 ID:gTFS1IKc0
投下します

125想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:09:02 ID:gTFS1IKc0
「チャモロさん、あそこに誰かいます」

アベルを撒くため、そしてアレフと合流するために東へ歩を進めているチャモロとローラ。
そんな二人の歩く先に、一つの人影が見えた。

「遠くてはっきりとは分かりませんが、足を引きずっているように見えますね。怪我をしているのかもしれません。こちらから接触しましょう」

そういってチャモロは走り出し、それに追従する形でローラも走っていった。
やがて人影の姿がはっきり見えてきた。
どうやらかなりの重傷を負っているようだ。
腹部や顔に傷があり、左腕が消失している。
足を引きずっているところを見ると、おそらく足にも怪我を負っているのだろう。
人影の方もこちらに気づいたらしく、足を引きずりながらもこちらに近づくと、言った。

「私を助けて!あの男を倒して!」

126想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:09:56 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

人影の女性―パトラは、チャモロの治療を受けながらことのあらましを語った。
まともな服がなく困っていたところ、一人の男が服を授けてくれた。
しかし、礼を言おうと近づくと、その男は突然剣を突きつけ、襲ってきたのだという。
パトラは手持ちの武器で応戦してどうにか敵をひるませ、その場から逃げて今に至るのだという。

「私を、これだけ傷だらけにしてくれたあの男…許せません」
「その気持ち、分かります」

憤りを見せるパトラに、ローラも同調する。
ローラも数時間前、とある男に自身の尊厳を踏みにじられるような行為をされた。
あのターバンの男―アベルのことを、許すことなどとてもできないだろう。

「なんじゃ、お主は」
「あ、私はロー…」
「お主と話す気はない!近寄るな!」
「は、はあ…」

パトラに怒られ、やむなくローラは距離を取る。
そういえば先ほどから、チャモロに向けて話してばかりで、こちらには目さえ合わせようとしていない気がする。

(特に不興を買うようなことをした覚えはないけれど…)



(忌々しい、気に入らない、妬ましい…)

パトラは苛立っていた。
先ほどまでは、自分をこんな目に遭わせた男に対して怒っていたが…今、その矛先は別の方を向いていた。

127想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:10:46 ID:gTFS1IKc0
(ローラ…あの女が、妬ましい)

その矛先の方向は、今そばにいるローラだった。
彼女は、美しかった。(自分には劣るが)
そして、彼女は自分が失いつつある瑞々しい若さを持っている。
そして、自分がこんなにも無惨な姿にされているというのに、彼女は未だ五対満足で美しさを保っているのだ。
もしも自分が今こんな惨めな姿でなければ、彼女のその美しさを認めつつも、自分の方が優位だと優越感に浸ることができただろう。
しかし現実はそんな都合よくできておらず、パトラにとって今のローラの姿は羨望・嫉妬といった醜い感情しか生み出すことはなかった。

ああ、あのきれいな肌を痛めつけてやりたい。
あの華奢で綺麗な腕を、もぎ取ってやりたい。
あのドレスを、グチャグチャに引き裂いてやりたい。

(…落ち着け、激情に身を任せてはならぬ)

今感情に任せてここでそんなことをしても、あのチャモロという男に取り押さえられ、最悪殺されてしまうのがオチだ。
今は、暴漢に襲われた哀れな犠牲者を演じなければ。

(だが、チャンスがあれば…この手で)



「それでパトラさん、その男はどんな奴ですか?この名簿の中にいますか?」

チャモロから受け取った名簿を、パトラは1ページずつ順に見ていく。
やがてレック、ハッサン、チャモロ、バーバラと名前が続いていく。

128想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:11:33 ID:gTFS1IKc0
(よくみるとこの名簿、知り合いで固められてるんですね)

名簿を見ながらそんなことを考えるチャモロだったが、

「あった!この男が私を!」
「え!?」

なんと、パトラがページを止めたのは、バーバラの次のページだった。
まさか、自分の知り合いなのか?
嫌な予感を感じつつ名簿の写真を見ると…

「アモス、さん…?」

そこに写っていたのは、とある村で出会った男の姿であった。

「あの人が…そんな、まさか」

驚愕で固まるチャモロ。
そんな彼を訝しげに見つめるローラとパトラ。
そしてそんな彼、彼女たちの前に…

「ト、トンヌラさん!誰かいます」
「!あの女性は…」

この場に更なる混沌をもたらす、二人の男が現れるのだった。

129想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:12:20 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「なるほど…つまり、そちらのパトラさんがアモスという男に襲われ、アモスはチャモロくんの知人であると」

チャモロとパトラから話を聞いたトンヌラは、二人の話の要点をまとめた。

「チャモロくん、君から見てアモスという人は、この殺し合いに乗るような人なのですか?」
「…少なくとも僕の知るアモスさんは、まず間違いなく乗るような人ではないです。ただ…乗った理由については、なんとなく推察できます」

トンヌラの問いに対するチャモロの返答は、あいまいなものだった。
間違いなく乗らない人間なのに乗った理由は分かるとは、これいかに。

「まあいいでしょう。ともかく、パトラさんが襲われたというのは間違いのない事実ですし、警戒するにこしたことはないでしょうね」

トンヌラの言葉に、チャモロ以外は頷いた。
チャモロはといえば、うつむいてなにか考え込んでいた。

(アモスさん…あなたは)

チャモロの知るアモスは、とても明るい男だった。
戦士らしい屈強なその身体といい、どことなくハッサンと似ていたかもしれない。
いつでも笑顔が絶えない人で、魔物化の真実を話してしまった時だって、笑っていた。
そんな彼だったからこそ、チャモロは思ってしまった。
あの人なら、例え村を離れたってきっと元気にやっているだろうと。
そう思ってしまった。
いや、思いたかったのかもしれない。

(そんなわけ、ないのに!)

夜になると理性を失い凶暴な魔物になる。
そんな呪いをかけられて、まともに人としての生活を送れるはずがない。
恩義があるからと黙殺していたモンストルが特別なだけで、きっとアモスはどこへいっても追い回されてきただろう。
そんな生活をして、明るく元気に笑って過ごせるとしたら、相当にタフな精神の持ち主か、狂人だ。

(ごめんなさい、アモスさん)

もしも今も、凶行を重ねているのなら。
苦しんでいるのなら。

(僕があなたを救います…今度こそ!)

チャモロが一つの決意を固めたその時、

「嘘だ!」

突然の叫び声。
驚いて顔を上げたチャモロの目に映ったのは、怒りの形相でローラを睨むリュビの姿だった。

130想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:13:38 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「お父さんがそんなことするわけ…」
「事実ですわ。あなたの父親、アベルはこの殺し合いに乗っている」

チャモロが一人で黙考していた頃、他の面々は情報交換をしていた。
そしてそこで…火種が爆発してしまったのだ。
『アベルがローラを襲った』という事実によって。

「あなたの父親は、2体の魔物をアレフ様に差し向けました」

「違う…」

「そしてアレフ様が魔物と戦っている隙をついて、私を人質に取りました」

「嘘だ…」

「何もできずに一方的にやられるアレフ様の姿を見るあなたの父親は、まさに邪悪そのものでしたわ」

「やめて…やめてよ」

次第にリュビの否定の言葉は弱弱しくなり、ついに涙を流して話を止めるよう懇願してきた。

「ローラさん!それ以上は…」

見かねたチャモロがローラにやめるよう呼びかけるが、彼女の言葉は止まらない。
彼女はアベルに対して憎しみともいっていい怒りを抱いていた。
そして今、目の前には彼の息子がいるという。
怒りのはけ口にせずには、いられなかった。

「そしてあなたの父親は、アレフ様の目の前で私の唇を…!」

「嘘だ嘘だ嘘だ!」

一度は意気消沈していたリュビが、キスの話を聞いた瞬間再び否定を口にした。

「お、お父さんはお母さんと愛し合ってるんです!そんなの嘘だ!」

「…奥方がいてあんなことをしたというんですの?最低ですわ」

「お父さんは、さ、最低なんかじゃない!強くて、優しくて…ぼくは、お父さんみたいな、立派な王様に、なるんです」

それは、気弱なリュビにとっての精一杯の勇気であり、父への愛だった。
父を尊敬し、愛すればこそ絞り出すことができた、勇気の言葉だった。

「王様、ですって?」

だが…彼の言葉は、ローラの怒りに更なる火をつける結果となってしまった。

「ふざけないで!あの人が王様ですって…そんなの、絶対に認めませんわ!」

彼女、ローラ姫もまた王族であり、王である父を誇りに思っている。
故に、今のリュビの言葉はローラにとって、憎むべきアベルと自分の父を同類扱いされたも同然だったのだ。

131想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:14:25 ID:gTFS1IKc0
「もしもあの男が王だというのなら、それはきっと…」

そしてローラは放つ。
とどめの『口撃』を。


「『魔王』、ですわ」



「ま…お……う…」

ローラの言葉に、リュビの中の何かが切れた。
何度も「まおう」「まおう」とぼそぼそと呟き、そして…



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



脱兎のごとく、逃げ出した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ローラさん!どうしてあんなことを!」
「……………」
「あなたの怒りはもっともです!だけど…あの子は関係ないじゃないですか!」
「……………」

チャモロの言葉に対しローラは、先ほどまでの勢いが嘘のように無言を貫いていた。
顔を伏せ、何も答えない。

「チャモロくん、とりあえず今はリュビくんを追わないと」
「…そうですね」
「僕はここでローラさんとパトラさんと共に残ります。リュビくんのことをお願いします」
「…分かりました」

トンヌラの意図を察したチャモロは、彼の言葉に了承した。
足を怪我しているパトラと、どう考えても今リュビと会わせるべきでないローラを連れていくことはできない。
そして非戦闘員である彼女たちに自衛などできない。
故に、トンヌラが共にこの場に残るのが得策ということだろう。

「二人の事、よろしくお願いします。リュビくんを連れ戻したら、すぐ戻りますので」

そういって、チャモロはリュビを追って走り出した。

132想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:15:12 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「さて…ローラ姫。あなたには聞きたいことがあります」
「……………」
「そう警戒しないでください。僕は別にリュビくんへの糾弾について責める気はありませんから」
「…いったい、なんですの?」

まだ少し警戒しつつも、用件を尋ねるローラ。

「まず、あなたは竜王を倒した勇者アレフ―その伴侶である、ラダトーム王女、ローラ姫で間違いありませんね?」
「え、ええ。アレフ様とはその…まだ正式に籍があるわけではないですが」
「…まだ籍を置いていない、ですか」

少し顔を赤らめながら答えるローラ姫に対し、トンヌラの表情は少し険しくなった。

「ではもう一つ聞きます。あなたと勇者アレフの間に、子供はいますか?」

トンヌラの問いに、ローラは驚きで目を見開く。
アベルに自身の妊娠を悟られた時のトラウマもあって、なんとなく答えづらい質問だった。

「大事なことなんです。どうか答えてください」
「子供は…いますわ。私の…お腹の中に」
「お腹の…!?」

さすがに予想外の返答だったのか、トンヌラの表情には少し驚きが見えた。
心なしか、少し動揺しているようにも見えた。

「…では、お腹の子の為にも、生きて帰らないといけませんね」
「当然ですわ。この子を守るためなら…私はなんだって……!」

そこまで言ったところで、ローラは言葉を止めた。
下手にしゃべって、殺し合いに乗っていることを悟られるのはまずいと感じたからだ。

133想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:16:01 ID:gTFS1IKc0
「し、質問は以上ですか?」
「ええ、ありがとうございました」



(…これはちょっと困ったことになったかもしれないですね)

ローラとの会話を終えたトンヌラは、内心焦っていた。
彼女はおそらく、ほぼ間違いなく100年前の自身の先祖にあたるローラ姫その人だろう。
そして、彼女のお腹には子供がいる。
もしも彼女がこの場で死んでしまったら、どうなる?
当然、ロトの血は絶え、次代にその爪痕が残ることはなくなる。
そうなると、自分達は…

(消えるかもしれない…!)

トンヌラは別にタイムパラドクスについて確かな知識などない。
しかし、昔読んだ小説の中には、過去に干渉することで未来が変わる話もあった。
もしも同じことが現実でも起こるとすれば、トンヌラ達次代のロト一族が消滅したっておかしくはない。
そしてそれを防ぐためには…ローラ姫をなんとしても守らなければならない。

(そうなると、あの女-パトラは邪魔ですね)

トンヌラは気づいていた。
彼女の敵意に。
しかも、理由は分からないが、どうにもその敵意はローラに向いているようなのだ。
先ほどローラと話していた時も、パトラがローラのことを敵意ある眼差しで睨んでいるのをトンヌラは見逃していなかった。
その上彼女はただでさえ非戦闘員でしかも怪我を負っているのだ。
足手まといであり、生かしておく理由などない。

(とはいえ、今殺せば姫やチャモロくん、リュビくんと余計な不和を生むことになる。とりあえず様子見に徹しましょうか)

リュビといえば、彼はローラへの反感を持って逃げ出した。
場合によっては彼も切り捨てる必要があるかもしれない。

(一気に考えなければならない事案が増えましたね…やれやれ)

134想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:17:14 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

リュビは走っていた。
一心不乱に走っていた。
先ほど聞かされたショッキングな話から、逃げるように。

嘘だと思いたかった。
何かの間違いだと思いたかった。
しかし、ローラのあの語り口は、とても嘘や冗談だとは思えなくて。
それでもやっぱり受け入れられなくて。
彼女の言葉が、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。

そうして走り続けて。
逃げ続けて。
その先に待っていたのは。

「がはっ!?」

胸に深々と刺さる、剣だった。

「悪く思うなよ、小僧」

(お…とう…さ……)

ぐちゃぐちゃの心の中で最期にリュビの脳裏に浮かんだのは。
優しく、愛すべき父の姿だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「リュビくん!」

チャモロが駈けつけた時には、すでに手遅れだった。
リュビの身体は、胸部を中心に真っ赤に染まっていた。
そして、そんなリュビの遺体のすぐそばに立っていたのは…


「次から次へと…アプローチなら女のほうが嬉しいんだがな」

「アモス、さん…!」

放送数分前。
二人の男が、モンストル以来の再会を果たした。


【リュビ@DQ5 死亡】

135想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:17:45 ID:gTFS1IKc0
【Hー4/平原/1日目 昼】

【アモス@DQ6】
[状態]:HP3/5 目の付近、腕に銃創
[装備]:バスタードソード
[道具]:支給品一式(水-1) 道具0〜4個(盗賊の分も合算、本人確認済)
[思考]:自分を見るものを全て殺す
    目の前の男(チャモロ)を殺す
[備考]:夜ごとに理性のない魔物へと変化する可能性があります

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP8/10 MP9/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
   アモスを救う
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。


【G-4/平原/昼】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う
   アレフに会いたい

【パトラ@DQ3イシス女王】
[状態]HP7/10 左腕切断 頬、腹部、足に裂傷(治療により軽減)
[装備]エッチな下着@DQ5 ガーターベルト@DQ3 あみタイツ@DQ8 まじょの服@DQ9
[道具]支給品一式 ベレッタM92@現実(残弾5) 幻魔のカード@DQ7
[思考]永遠の美しさを手に入れる
   1:男たちを篭絡し、反主催勢力を築く
   2:殺人者を一掃した後は自分を信用する者たちの隙をついて皆殺し
   3:ローラをめちゃくちゃに傷つけてやりたい

【トンヌラ@DQ2】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:SIG SG550 Sniper(アサルトライフル、残り弾10)
[道具]:支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:様子を見つつ、生き延びる。ローレルとルーナに殺し合いの中で死んでもらう為、危険人物として吹聴する。
    ローラを守る。その為にパトラは隙を見て排除したい

※トンヌラはローラの死による自分達の消滅を危惧していますが、その可能性はまずありません(メタ的に…というのもあるが、ユーリルが死んでもリュビ達が存在しているため)
※リュビの荷物『支給品一式、支給品(0〜1)、ソードブレイカー@DQ9、皮の盾@DQ2』は、リュビの遺体のそばに放置されています。

136 ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:18:35 ID:gTFS1IKc0
投下終了です

137ただ一匹の名無しだ:2016/11/07(月) 01:18:04 ID:aTepHbZ60
投下乙です
この辺りの人間を上手く因縁やフラグを絡めて纏めてくれた感じでGJ
放送後は血を見ることになりそう

意外なことにリュビ君が5勢初死者?
今回の5勢は2ndよりもボロボロなせいでそんな気がしないがw

138 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:03:20 ID:oO0J/cWw0
時間ギリギリですが投下します

139負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:07:58 ID:oO0J/cWw0
ああ、分かっているさ。
ここにいるターニアは、夢の世界のターニアなんかじゃないってことくらい。

ただそれでも、希望くらいは持ってもいいじゃないか。 レックはそう思っている。
実体を見つけられなかったが故に、レックの目の前で消失したバーバラだってこの世界にはいるのだ。
名簿で見ただけでは、このターニアはどちらの方なのか区別がつかない。
だから、もしかしてバーバラのように消えてしまった方の、より長い時間を共有してきたターニアかもしれないと期待するのも無理もない。

(――もう会えないかと思ってたから嬉しい反面……助けてやらなくちゃ、って)

妹がいるのかと聞かれた時、咄嗟にそう答えてしまった。
ここにいるのは現実世界の方の、順当に考えれば確率の高い方のターニアではなく、確率の低い夢の世界のターニアであると、決めつけた発言をした。
決めつけた、という言い方は語弊があるかもしれない。
悪意などもちろん一片たりとも込められてはいない。
ただ、レックの口からするりと無意識に出たのはその言葉だった。
夢の世界と現実の世界、デスタムーアを倒すための長い冒険の日々。
そういったレックの身の上を語る時、長々と語ってる暇はなかったという事情もあった。

ターニアと同じ声、同じ顔でお兄ちゃんと呼ばれると、レックは胸が痛くなる。
現実の世界にいたターニアが悪い訳ではない。
ただ、どうやっても目の前の人物が、同じだが厳密には同じ人物ではないと、割り切れることはなかった。
夢の世界で本物の兄妹だったレックとターニアは十数年もの日々を過ごしてきた。
レック自身が幼少の頃にライフコッドで過ごした記憶もある。
ターニアの世話をし、いつしか世話を焼かれる側になっていった記憶もある。

夢の世界から抜け出してきたレック。
現実世界のライフコッドで穏やかに過ごしていたレック。

実体を取り戻し、融合を果たしたレックの中をどちらがより多くの比重を占めるかと言えば、それは前者の方だ。
過ごした時間も、現実での時間と比べて負けていない。
偽りとは言え、生まれてから今までの記憶がすべてある。

この世界に秘められた謎を解き明かすため、外の世界へと飛び出し苦難の日々を乗り越えたレック。
刻みつけられた敗北の記憶に怯え、ライフコッドという狭い世界の中で生きることを選んだレック。
混ざり合った二つの魂の中で主と従、正と副があるのだとしたら、夢の世界のレックが主導権を握るのが当然だった。
本当の自分を取り戻した後も、レックはレイドックでの日々は断片的にしか思い出せなかった。
何より、血の繋がった本当の妹バネッサがどうやって死んだかも、未だにハッキリと思い出せない。
夢の世界で暮らしてきた年月が長過ぎるからだ。
父であることが判明したレイドック王にも、母のはずであるシェーラにも未だにぎこちなく接することしかできない。

融合を果たしたレックはレイドックの王子でありながら、旅立つ前とは文字通り別人になっていた。
貴方の故郷はどこですかと聞かれたら、レックは対外的にはレイドックと言うだろう。
しかし、本音を言えば、レックの生まれ育った故郷とは夢の世界にあったライフコッドなのだ。

ああ、分かっているとも。
今はそれどころではないことくらい。
そんなくだらない感傷に囚われている暇はないということも。
これから竜王と呼ばれる人物に戦いを挑むのだ。
余計な考えは捨てねばならない。

140負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:10:49 ID:oO0J/cWw0
ティアとフォズについては心配はしていない。
6人を二つに分割する際、女子チームのお守り役に任命されたアンルシアの実力を目の当たりにしたからだ。
とつげき丸とかいうふざけた名前の武器を振るって、岩石を砕いたシーンは今でもレックの脳裏に鮮明に焼き付いている。
ハッサンだって岩を砕くくらい朝飯前だ。
レックもテリーもハッサンほど見事にとはいかないだろうが、それくらいはやってのける。
しかし、女性の身でそれをやってのける人物はレック一行にもいなかった。
女性として規格外すぎるその腕力を見たレックの感想はこうだった。

ゴリラかよ……と。

たぶん、隣にいたキーファもそれに近い感想を抱いてただろうとレックは思った。
顔が驚愕に歪んでいたのはその証拠だろう。
華奢な体に秘められた圧倒的なパワーに、レックはそれ以外の比喩表現を思いつかない。
さすがに口にはしなかったが、あやうく口元まで出かかっていた。
しかしそれを見て、オルテガもキーファも保護者役として太鼓判を押したのだ。

色々考えた末にレックが思うのはただ一つ。
自分ははまだまだ死ぬ訳にはいかないということだ。
ま、ティアのお兄ちゃん役も買ってでたことだしな。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ああ、分かっていたとも。
ここに娘がいるかもしれないということに。

厳しい旅の最中に記憶を失ったオルテガは、それでも平和を取り戻さんと大魔王ゾーマの居城へとたどり着き、そこであの邪竜と出会った。
五つの首を持つ多頭竜、キングヒドラ。
大魔王ゾーマの居城だけあって、中にいた魔物は例外なく強敵だったが、この竜はその精鋭モンスターですら比べ物にならないほどの力を有していた。
おそらく、魔王軍の中でもトップクラスの実力の持ち主だと、すぐに予測も付いた。
心してかからねばならない。
ゾーマの待つ玉座の間へと続く道はここしかないのだ。 倒すしかない。
愛用していた斧を取り出し、オルテガは己を鼓舞した。
もう少し。 もう少しでゾーマの下へたどり着けるはずだと。
オルテガの存在に気付いたキングヒドラが十の瞳をすべてこちらへと向けた。
オルテガを敵と認めたキングヒドラは、地面を揺らしながら向かってくる。

戦いが始まった。
人間一人であの五つの首すべてを相手取るのは無謀過ぎた。
その首一つ一つが別個の意思を持っているがごとく、オルテガに襲い掛かる。
接近戦は危険すぎたため、呪文による攻撃が主体になってしまう。
バギクロスの竜巻もライデインの雷も決定打にはならない。
来たるゾーマとの決戦のために、温存しなければならない魔法力を使わされている。
キングヒドラの攻撃は熾烈を極めた。
城内の損壊など気にしないかの如く、大理石の床や壁、柱までもが破壊されていく。
そしてこれだけの騒音だ。
異変を察知した魔物たちが、次々とここに駆けつけてきた。
しかし、駆けつけた魔物たちがオルテガに襲い掛かることはなく、遠巻きに様子を伺うだけだ。
下手に加勢しようものなら、キングヒドラの攻撃の巻き添えを食うからだろう。
それ自体は僥倖だったが、オルテガの窮地は変わらない。

いよいよ万事休すということか。
仮にキングヒドラを打ち取ったとしても、背後に控える精鋭モンスターが襲い掛かってくる。
オルテガは残り少ない魔力をベホマに費やし、眼前に聳え立つ邪竜を睨みつける。
ならばせめて、この竜だけでもと相討ち覚悟で挑んだ。
何の為かも忘れ、ただ漠然とした使命感だけを胸に秘め、そしてオルテガはキングヒドラに負けた。
いよいよ視力すらも失われる。

141負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:13:01 ID:oO0J/cWw0
今思えば、それは当然の結果だったのだろう。
自身を構成する大切な要素が抜け落ちたまま戦っても、振るう剣に魂が篭められることはない。
全力のつもりで戦っていたはずだが、後から振り返るとまだまだ力を振り絞る余地は残されていたように感じる。
連続で浴びせられる火炎のブレスに身を焦がされながら、オルテガは気づく。

背後に控えていたはずのモンスターが、その気配の数を減らしている。
勝負ありと考え、それぞれの持ち場へと戻っていったのか。
つまりそれほどまでに、傍から見たオルテガという人間の命は風前の灯火ということなのか。
いや、違う。

減っているのは間違いない。
しかし、それは倒されているからだ。
大魔王直属の精強なモンスターが、ばったばったとなぎ倒されている音が聞こえる。
剣戟の音、呪文の爆音、援軍を求めるモンスターの悲鳴。
そして何者かの声が聞こえる。

(人間!? こんなところに!?)

オルテガが薄れかけていた意識を繋ぎ止める。
空耳ではない。
信じられないことに、人間の集団がこの大魔王の居城に乗り込んできてるのだ。
いったい何者なのか、少女の声がその答えをくれる。

「お父さんッ!!!!」

勇者オルテガはその記憶を取り戻した。
記憶を取り戻したオルテガは、同時に自身の旅立ちのルーツを思い出した。
アリアハンでの旅立ち、見送る妻と交わした約束、幼い我が子の寝顔に誓った決意。
それらはすべて大切なものであり、失くしてはならないものなのだ。
記憶を取り戻すことで、オルテガは自身の心の中にあった空洞を埋められたのだ。

オルテガの下へたどり着かせまいと、再び集まりだした魔物が幾重にも立ち塞がり壁を作る。
オルテガを父と呼んだ少女は魔物の軍団を切り裂いて先頭を走る。
勢いは止まることはなく、予言者の起こす海割りのようでもあった。
その姿はまさに、勇者と呼ぶにふさわしい。

ああそうだ。
この声を守りたいと思った。
この子の未来を作ると、心に決めた。
今、オルテガは自身の旅立ちの切っ掛けを思い出す。
自分一人の戦いなら、ここで負けるのも諦めがつくだろう。
だが、しかし。
全てを思い出した今なら、限界を超えた力を、限界の少し先にある力を捻りだせる。

腕よ動け、あと一振りするだけの力を私に。
足よ動け、ここが踏ん張りどころだ。
燃えよ魂、最後の輝きを見せる時だ
さあどこを見ているキングヒドラ。
私はまだ生きているぞ!

もはやオルテガのことなど路傍の石のように無視していたキングヒドラに、渾身の一撃をお見舞いする。
自身の最後の力を振り絞った斧が、キングヒドラの腹部に深く食い込むのを、オルテガは残った聴覚と触覚で感じ取る。
奇声を発しながら、キングヒドラが退散していくのがオルテガにも分かった。

勝つには勝ったが、どうやら最後の力を使い果たしたらしい。

直後、オルテガはその耳も機能を失い、倒れた。
残った触覚だけが、駆けつけてくれた人間の腕の中にいることを教えてくれた。
最後にオルテガは遺言を託す。
託された人間が了承したかも確認が取れないまま、オルテガは息を引き取った……はずだ。

142負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:15:08 ID:oO0J/cWw0
アスナ。
愛しき娘につけた名前と同じ少女が、名簿には掲載されていた。
最後に娘の顔を見たのは何年前だろうか、自分が旅立ってから何年経っただろうか。
アスナの名の横にあった顔写真は、遠い記憶の片隅に存在する幼い娘が成長した姿。
そう推測するのに十分なほど顔立ちが似ていた。
優しさと勇ましさを内包したその顔は、最愛の妻の面影もあった。
きっと娘は周囲の期待に応えるように、すくすくと育っていったのだろう。
一度でも家に戻れば、決心が鈍る。 そう思い、オルテガはついに一度も故郷へ帰ることはなかったのだ。
バラモスなどは地上侵略の為の尖兵に過ぎず、その奥に控える巨悪の存在を知った時の絶望感たるや想像を絶するものがあった。
それでも、オルテガは往かねばならなかった。
そして、それは今でも変わらない。

なあ、アスナよ。
あの時、駆けつけてくれたのはお前なのか。
お父さんと呼んでくれたあの声は、本当に我が子のものなのか。
それを確かめたい気持ちはもちろんある。

許せ娘よ、父はこんな生き方しかできない。
例え名簿に載ってる人物が本当に私の娘だとしても、竜王を野放しになどできんのだ。
ここで竜王を諦め、お前の捜索に回るのはたやすい。
だが、竜王がその牙を向ける相手がお前になる可能性もある以上、竜王を回避するという選択肢はあり得ないのだ。
お前が静かに眠れるその時まで、私は全てを賭けて戦う。 あの時そう誓ったのだから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ああ、分かっていたとも。
ここにアルス達がいることくらい。

愛する人がいるってのはいいことだ。 キーファはライラの顔を見る度にそう思う。
昨夜、どんなに遅くまで起きていたとしても、その声を聴くだけでぱっちりと目が覚める。
何時間見張りのために立っていようと、お疲れさまの一言で疲労が吹き飛ぶ。
どんなに強い魔物と戦っても、自分の後ろにいる人のことを思うと立ち上がる気力が湧いてくる。

アルス達と別れて数年、身も心もユバールの一族のものとなったキーファの人生はまさに順風満帆だった。
守り手として流浪を続けるユバールの民を守護する毎日。
任された仕事の内容は同胞を命がけで守ること。
その役目の負う責任はとてつもなく大きかった。
定住をせずに放浪を続けるユバールの民を守るのは容易ではない。
昨日は谷底の川の近くで、今日は山の頂上で、明日は見渡す限りの大平原で一夜を過ごす。
城の守りと違って、地の利というものが一切ないのだ。
土地勘が通じないため、守り手は常に敵の侵入経路や密集したテントのどこが守備が薄いか、それを見極めなければならない。
全てを完璧にこなせた訳ではない。
もう少しで死人が出る事態にまで発展したこともある。
それでも身を粉にして働き続けるキーファの姿を見て、もはや余所者などと言う者は一人もいなかった。

143負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:18:07 ID:oO0J/cWw0
無精髭は伸びたままだし、貴重な水を無駄遣いもできないので服の洗濯も数日から数週間に一度程度。
腹いっぱい食べられた日もあれば、保存食だけを口にする日が数日続くこともあったりと収穫は安定しない。
ここは不測の事態、予定外の事態のオンパレードだ。
何事もなく一日が過ぎていくことの方が遥かに少ない。
それでも全てが光り輝いていた。
安定はしてるがグランエスタードでの退屈な日々を捨てて、愛する人を守りながらその日の出来事に一喜一憂する生活を選んだことに後悔はない。
ようやく自分の意思で自分の人生を決めたのだと、今でもキーファは迷いなく言い切れる。

ついには族長にライラとの結婚も認めてもらい、正式に夫婦となることもできた。
やがて、そう時間がかかることもなく、ライラはお腹に子を宿した。
キーファの人生はまさに絶頂期と言っても過言ではない。
生まれてくる子は男の子なのか女の子なのか、名前はどうするか。
にやけた顔でキーファは我が子について想いを馳せる。
自分もついに父親になるのだ。
そう考えた時、キーファは父のことを思い出した。
ユバール族として生きていくことを決めた当初の日々こそ、毎日のようにアルス達や父バーンズ、妹リーサのことを思い出し、時には涙した。
しかし、駆け足で過ぎ行く日々の中で、キーファは過去を振り返る回数も自然と減っていった。
今では月に一度思い出す程度だ。

父はどんな思いでキーファのことを見守っていたのだろうか。
若かりし頃のキーファは、自身の冒険に理解を示してくれない父のことを疎んじていた。
王子という器に無理やり押し込めようとして、自分を支配しようとする悪人のように感じていた時期さえあった。
本当にそうだったのか?
親父は俺のことを嫌っていたのだろうか?
俺は、親父の息子として恥ずかしくない日々を送れていただろうか?

自分が父になる時に、キーファはようやく父の気持ちを知ることができた。
父は心の底からキーファの身を案じていたのだ。
誰が我が子を命の保証もない、未開の地へ送りたがろうか。
衣食住に困ることのない王子の立場を捨てて、明日をも知れない場所で生きていくことを許せるだろうか。
なのに、自分のしてきたことは何だ?
父の言うことには頑として耳を貸さず、融通の利かない頑固者扱いして。
挙句の果てに聞いたこともない地方の、聞いたこともない少数民族の一員になると言うのだ。
けれど、それがキーファの選んだ道だ。
何度言われようと、誰に言われようとも、キーファは愛する人のために、お城での日々を捨てて自分の足で歩く運命を選んだだろう。
そこはもう曲げられない。
しかし、思う。
もう少し父の気持ちに寄り添えなかったのかと。

ユバール族の守り手として生きていくことを決めた日。
アルス達と最後の別れをするとき、俺にはやるべきことがあったんじゃないか、キーファはそう思う。
要するに、一人の男として筋を通すべきだったのではないか、ということだ。
時間をかけていたら放浪を続けるユバール族はどこかへと行ってしまう。
そう考えたが故に、キーファはユバールの民との合流を優先し、旅の扉の前でアルス達と別れた。
だがしかし、それは都合のいい言い訳にしかすぎなかった。

(――泣いてる妹を放ったらかして何やってんだかまったく)

我ながら笑ってしまう。
それはまさに自分のことではないか、と。
父も妹も放り出して、もう二度と戻ることのできない世界へと飛び出したのは誰であろう、自分のこと。

144負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:21:58 ID:oO0J/cWw0
俺は自分の足でグランエスタード城に赴き、アルス達の言葉からではなく自分の言葉で、父と妹に別れの言葉を告げるべきだったのではないか?
それが今まで何不自由なく育ててくれた父への恩義と、慕ってくれた妹に対するケジメではないか?
バーンズ・グランの庇護を受ける息子ではなく、一人の男として生きていくことを選んだキーファ・グランの果たすべき責任ではないのか?

話し合えばきっと分かってくれるなどと、そんな甘い考えは持っていない。
父も妹もきっと分かってくれない。 それが当然の反応だ。 それでもやらねばならない。
きっと自分はライラという女性とユバールの民の生き方の素晴らしさを説き、全てを擲ってでも守りたい存在だと伝えるべきだった。
その時、父と殴り合う事態に発展しても、妹にすがりついて泣かれようと自分の本音をぶつけないといけなかった。

けれど現実の自分は泣く父とリーサの顔を見たくなかった。
自分の生き方を認めてもらえないことが怖かった。
だから逃げた。 アルス達に伝言を頼んで、これで良かったんだと自分に言い聞かせて。
父バーンズと妹リーサは何の非もないのに、一方的に絶縁状を叩きつけられたようなものだ。
その時の父の心境を、父親になる日が近づいたキーファはようやく汲み取ることができたのだ。

キーファだって、生まれてくる我が子が成長した時、ユバールを抜け出したいと言われたら理由の一つも聞きたくなる。
しょうもない理由だったら否定するし、ちゃんとした考えがあっての理由なら、できる限り認めてやりたい。
しかし、もしも理由も言うことなく黙って出ていかれたらどんな気持ちになるだろうか。
すべては仮定の上での話だ。
実際にどうなるかは、そういった事態に直面しない限りなんとも言えない。
認めるかどうかは分からないが、理由くらいは本人の口から聞きたいと思うのが親心ではないだろうか。
我が子にとって自分とは、そんなにも頼りない、または頼りたくない人物に見えていたのか。
そう憤りたくもなる。

結局、冒険の日々に憧れ胸を躍らせていた日々の自分は一人前の男でも何でもなく、甘ちゃんの鼻ったれ小僧だった、ということだ。
そのことにようやく気付き、同時にキーファは泣いた。
あまりにも親不孝だった自分の情けなさに、別れの時間すら作ることもしなかった不義理さに。

もう一度言おう。
キーファはユバールの民になったことに後悔はない。
しかし、そこに至るまでの過程があまりにも幼稚で、自分勝手で、自分でさえ怒りを覚えるレベルだった。
父親になるほんの少し前、ようやくキーファは己を見つめる機会ができたのだった。

ああ、知っているとも。
ここにアルス達がいることも。
自分と違って、その顔が月日の経過をまったく感じさせないことも。
遺跡で違う世界を巡る冒険は、グランエスタードとはまったく異なる時間の流れだった。
きっと自分もそういった事情で、自分だけが年を取り、アルスもマリベルもガボも思い出の中と変わらない顔立ちなのだろう。
いや、それならむしろ好都合だった。
別れてそれほど時間の経ってないアルス説が正しければ、今度こそキーファはアルスや父に言葉を伝えられる。
自分の都合だけを押し付けた無責任な絶縁状などではない。
親不孝をしてしまったことの謝罪、ようやく気付けた父の愛情、妹への感謝とこれからの幸せを願う言葉。
今の自分が伝えられる全てを、もう一度伝えるのだ。
そして必ず帰ってみせる。 愛する妻の下へ。 生まれてくる我が子のためにも。 

ま、ティアもいるしな。
天真爛漫な少女の笑顔を思い出しながら、キーファは少しだけ頬が緩んだ。

145負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:24:39 ID:oO0J/cWw0



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




三名それぞれ負けられない理由を胸に秘め、竜王の追跡は行われた。
荒涼たる大地に風が吹きすさぶ。
かつては深い海の底にあったとされるこの地帯も、今となっては遠い昔の話。
乾燥した砂地にその面影は残されていない。
竜王討伐を目指す勇者オルテガはレックとキーファを先導する形で前を歩く。
協力者を得られたとはいえ、これで勝てるなどと驕る気持ちはオルテガにはない。
竜王の強さをオルテガは自身の身を以て体験した。
人型のままでも負けたのに、竜王にはさらに真の姿を発揮した状態も残されているという。
二人の若者の助力を得られたとはいえ、無理はさせられない。
もしもの場合、作戦は捕らわれの姫の救出までに留めるのだ。

物陰に隠れつつ、オルテガは相手を覗き見る。
なんとか見つけ出した竜王は、ミーティア姫を連れて荒野を歩いていた。

「あれが竜王だ」
「へぇー、意外と普通の見た目じゃん。四つん這いで歩くとか、もっと竜とか爬虫類っぽいの想像してた」
「人型だからまだそういうのはないんじゃないか?
 ターニアとティアへの土産話になるといいよなあ。 お兄ちゃんこんなに大きな竜を倒したんだよってね」

軽口を叩くものの、遠目に見ても竜王の実力の高さは伝わってきた。
人数を揃えたからと言って、容易に勝てる相手ではなさそうだ。
今はまだ人間程度のサイズだが、その中にとてつもないほどの力が凝縮されてるのが分かる。
歩いていた竜王が、突如としてその足を止めた。
くんくんと匂いを嗅ぐ仕草を見せる竜王に対し、立ち止まってミーティアが尋ねる。

「匂うの……」
「? 何がでしょう?」
「なに、負け犬の匂いがするということよ」
「……?」

そんな匂いは存在しない。
厳密に言えば、知った気配を感じとったということだ。
物陰からこちらを窺う存在に、竜王はすでに気付いていた。

(気配は1……2……3……。 なるほど人数を集めれば勝てると思いあがったか)

その中にロトの剣を装備できるアレフがいるのなら言うことはない。
さあ、早朝のような醜態は晒してくれるな。
全身全霊をかけてこの王の首を取りに来い。
半端な覚悟で向かってきた無礼者には死を与えてくれる。

やがて、どこからともなく声が聞こえてくる。
時計の秒針が真上を示した時と合わせて、寸分も狂いなく。
これから始まるのは開始6時間の内に死んだ者の発表をする定時放送。
それが戦闘開始のゴングとなるか、水を差す要因となるか。
明かされるのはもう少し先のことである。

146負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:24:59 ID:oO0J/cWw0
【D-7/山地/昼】

【竜王@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:ガナンの王笏
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、人々を結集させ、誇り高き竜として討たれる。
    まずは各地で暴れる、殺人も已む無し
    ※オルテガ達の存在に気付いています。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:自分なりの誇りを見つける
    竜王が人を殺すのは、できるなら止めたい



【オルテガ@DQ3】
[状態]:HP3/5 MP消費 打撲痕
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式  不明支給品0〜2個
[思考]:竜王退治もしくはミーティアの奪還
※ティアから竜王の真の姿のことを聞いてます。

【キーファ@DQ7】
 [状態]:健康
 [装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
 [道具]:支給品一式 道具1〜2個
 [思考]:仲間たちと再会したい。ティアの仲間たちも探してやる。

【レック@DQ6(主人公)】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 道具1〜3個
 [思考]:仲間たちとターニアを探すため、荒野を脱出する。

147 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:25:15 ID:oO0J/cWw0
投下終了しました

148ただ一匹の名無しだ:2016/12/10(土) 05:04:35 ID:2QKom1Cw0
投下乙です
それぞれの想い…
特に父親になってようやく父親のことを理解したキーファが印象深い
てかこのキーファ、そういう歳なんだ…

149ただ一匹の名無しだ:2016/12/10(土) 06:39:27 ID:DbgMRe9Q0
投下乙
なるほど、三人とももう会えないはずの相手がこの場に呼ばれてるって共通点があったんだな
そこに注目してそれぞれの心情を描ききったのは見事

150ただ一匹の名無しだ:2016/12/11(日) 13:48:54 ID:.38FgOQw0
おお、気付けば新作投下されてた。乙です。
キーファってそんな年行ってる様な描写あったっけ?と思って登場回見直してきたが、
確かにアルス達と別れてから結構経ってると言う描写だった。少なくとも公式絵の赤い服は着とらんなw
とにかくレックがハッサン、キーファがマリベルが死んだことを放送で気付いた時はどうなることか
しかし、ここでもゴリラ姫扱いされるのかアンルシアはw

151ただ一匹の名無しだ:2016/12/11(日) 23:48:09 ID:GoplEZnU0
ところでそろそろ放送を考える時期だと思うんだけど、その前にここは動かしときたいってとこある?

152 ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:39:07 ID:hB.H5X8Q0
ちょっと時間オーバーしましたが投下します

153ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:43:01 ID:hB.H5X8Q0
規則的に光点が明滅を繰り返す。
元々、ヒストリカは暇ができたらワラタロー改に飛行機能を追加しようとしていたくらいには工学的な知識も揃えている。
専門職ではないが、人並みに毛が生えたくらいの知識はあるのだ。
このレーダーの持つ機能を理解した瞬間、ヒストリカは自身の生存の目が出てきたことを確信した。
ドルボードの機動力とレーダーの探知能力を駆使すれば、危険は簡単に回避できる。
唯一の難点は、探知しているのは生命反応ではなく、首輪であることだけだ。
レーダーに反応されている人物がどのような人物か、生きてるか死んでるかも分からない。
仮に光点が動いてなくても、死亡したのではなく寝ているだけという可能性もあるのだ。
必然、目視できる距離まで近づく必要はある。
それでも、そのデメリットを補って余りあるほどのメリットが得られるだろう。
ここに表示されている点が四つ、つまり今しがた埋葬したトロデ王の首輪も表示されている。
以上の点から、探知しているのは首輪説は極めて有力な仮説と言えよう。
しかし、問題なのはこれはヒストリカのアイテムではなく、セラフィの支給品だということ。

「おっと、ソーリー。 あまりにもエクセレントな機械だったからつい興奮してしまったよ」
「ふーん……すごく便利な道具なんだね」
「ピッキピキー」(セラフィちゃんの知り合いにも会えるよ!)

機械やカラクリに造詣が深い訳でもないセラフィとスライムは、ヒストリカの興奮具合でようやくこのアイテムの重要性を理解する。
興奮から落ち着いたヒストリカはレーダーをセラフィへと手渡した。

「セラフィ、これは大事に使うといい。 きっと生き抜く上で重要な役割を果たしてくれるよ」
「……ううん、それはヒストリカさんが使って」
「……はい?」
「私、そういうの詳しくないから壊してしまいそうだし、ヒストリカさんもこれが必要だよね?」
「いいやダメだセラフィ。 いいかい? これはとても重要なアイテムだ。
 それをみすみす……ああいや、私だってこれが欲しくない訳じゃないさ。むしろベリーベリー欲しい。
 しかしだな――」
「いいの。 使いこなせる人が持つのが一番だよ」
「ピィ……」(もったいないけどセラフィちゃんがそう言うなら……)
「そういう訳にも……」
「じゃあヒストリカさんの道具を何か一つ頂戴」
「ホワイ!? 何故そういう話になるというんだ」
「貰うだけだと申し訳ないんだよね。なら交換しよ? 私はヒストリカさんにこれを上げて、ヒストリカさんは私に何か上げる。 ほら、これで平等」
「私のアイテムにこれに吊り合う価値のあるアイテムなんて……ハッ、いや、待った。 ジャスタモーメンっ!!
 つまり、私とプレゼントの交換をすると……?」
「え? うんと……そうなるのかな?」

何でそう興奮しているのか分からないセラフィは首を傾げた。
ヒストリカの脳裏に浮かぶのは灰色の学園生活。
周りの同級生がキャッキャウフフと青春を送っていく中で、ヒストリカは来る日も来る日も一人で過ごしていた。
色気づいた異性がイチャイチャしたり、仲の良い級友が下校を一緒にしたり、共に昼食を食べたり部活動に励んだり。
長期休暇の際には友人同士で集まって、学園外でも遊ぶこともあった。
しかしヒストリカにはそんな思い出が全くないのだ。
少ないのではなくゼロなのだ。

154ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:45:20 ID:hB.H5X8Q0
灰色の青春生活を送るヒストリカは、バラ色の青春時代を送る同級生がそれはもう羨ましくて仕方なかった。

端的に言うならヒストリカ・イズ・ジェラシックパニックである。

イベントの前には誰か誘ってくれないかな〜(チラチラ)と他人の顔色を窺ったりもしたが、ヒストリカに声がかかることはなかった。
その度に嫉妬心からワラ人形で気軽に他人を呪ったり、友達ができるおまじないを試す。
いっそのこと生きてる人間じゃなくてもいいから友達ができないかと、交霊術の本を読み漁る。
と、その度に奇行に走り家族には呆れられたものだ。
もちろんそんなもので成果が上がることはなく、この年まで友人のいないという人生を送ってきた。
しかし、セラフィの言うプレゼントの交換とはまさに学生時代、ヒストリカが求めてやまなかったものではないか。
例えばバレンタインには異性に本命チョコを渡したり、同性の友達には友チョコを渡したり。
例えばクリスマスの日にはお互いにプレゼントを交換したり。
プレゼントとは金銭や価値の問題などではない。
必ずしも等価である必要もない。
相手を思う気持ちこそが大事なのだ。
そう、これはヒストリカの憧れていた青春の日々の再現。
そこにヒストリカが食いつかない訳がない。

「な、なら私からは……これだ! きっとキミにも似合う!」

いそいそと道具袋からヒストリカが取り出したのは祈りの指輪だ。
ドルボード、ドルセリンはセットで使わないことには意味がない。
どちらか片方だけをもらっても何の役にも立たないのだ。
必然と残ったこの指輪に決まるし、回復呪文を扱うというセラフィにもピッタリだ。

「ありがとう。 じゃあヒストリカさんにはこれね」

セラフィから差し出されたレーダーをひったくる様に受け取り、ヒストリカは大事に腕の中にしまい込む。
鼻息を荒くして、取り出した筆記用具でレーダーに文字を書き込んだ。

「も、もらったからな……もうダメだからなっ! 返さないからなっ! 『ヒストリカの』って名前も書いたからなっ!」
「うん、それはもうヒストリカさんのものね」

こうして、期せずしてヒストリカはレーダーを獲得したのである。
しかし、今のヒストリカは獲物を奪われてなるものかと威嚇する、猛獣のような目つきをしていた。
それに気づかないセラフィはいつものように笑う。

「ピッキ、ピキ。ピキー!」(セラフィちゃんから道具を交換してもらえるなんて羨ましい……。でもセラフィちゃんと一番仲が良いのはぼくだもんね!)

そしてスライムは、そんなヒストリカに対して可愛らしい対抗心を抱くのであった。
涙を乗り越えて、二人と一匹の心は少しだけ近づく。

「はて……? この新たな光は何者? ストレンジャー?」

そして、新たな来訪者もこのポルトリンクに近づいていた。

155ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:47:05 ID:hB.H5X8Q0



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




海を見たいと、生前に彼女はそう言った。
誰に命じられた訳でもなく、自分の意思で見渡すばかりの大海原を見たいと。
本来ならその場での土葬が一般的なのだろうが、アークは彼女をそんな暗くて狭い場所に閉じ込めたくはなかった。
約束をしたのだ。 彼女は海を見たいと言い、彼はエスコートを仰せつかった。
だから連れていく。 それだけのこと。
流れ出す血はアークの手を汚す。 
アークは構わずに、遺体を両手で抱えて歩く。
自らの意思で未来へ歩いていくと、与えられた使命を享受するのではなく自分で勝ち取ることを望んだ彼女は最期、救われていたのだろうか。
きっと救われていたと、そう思いたい。

ポルトリンクに足を踏み入れたアークをまず最初に出迎えたの焼け落ちた民家。
次に、まだ火が燻ってる木片から立ち込める煙。
静寂を取り戻したこの場の戦いはもう終わったのだろうが、それでも警戒するに越したことはない。
にも関わらず、臆することなく前進を続けるアーク。
倒壊した家屋の壁の破片や焦げたタル、争いの跡の証明である血痕を横目にただ真っすぐと。
もう少しで目的地へと到達するのだ。
腕に抱いてる女性を待たせたくはなかった。

波止場まで着いたところで、ようやく彼女の遺体をアークは横たえた。
名前からして如何にも港町だろうと予測をつけ、事実その推測は正解だったアークだが、一つだけ予想外のことがあった。
船舶が一隻もないのだ。
壊れたり燃やされた形跡、船舶の残骸というものは一切存在しない。
おそらく海上に逃れ、殺し合いを回避しようとする輩を想定したエビルプリーストの仕業なのだろう。
葬儀の方法には文化や地方によって様々な形態が存在するが、その中の一つに遺体を舟に乗せて川や海に流す、といった手法が存在する。
一種の水葬だ。 

何者にも縛られることなく、この大海原で抱かれて自然に還る。
海を見たいと言って死んでいった彼女には、きっとそれがふさわしいと思った。
しかし、それはもう叶わない。
ならばせめて、少しでも海に近い場所へ。
波止場の一番奥へと連れて行こう。

「回復呪文は結構ですよ」

その前に、背後にいる二人と一匹の方へ声をかける。

「もう亡くなってますから」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



二人分の光点が近づいている。
さすがに無警戒で接触を図る訳には行かない。
セラフィたちはヒストリカの提案で、まずは様子見に徹したのである。
しかし、その心配は杞憂だった。
動かない女性を運ぶ男性には、女性に対するいたわりが感じられた。
殺してしまった存在なら遺体は乱雑に扱うだろう。

156ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:50:08 ID:hB.H5X8Q0

「それにアークさん。 泣いているように見えたから……」
「はは、そう見えてしまいましたか。 涙など、もうとっくに枯れ果てたと思っているのですがねえ」
「うわぁああああああ! ヒ、ヒストリカ信じないぞ! 勇者姫アンルシアが死んだなんて。 勇者姫アンルシアがっ! 
 ううっ、もう終わりだぁ……世界は滅びるしかないんだぁ……!」

アークとセラフィのやり取りを尻目に、ヒストリカは絶叫する。
グランゼドーラ王国の勇者姫アンルシアが息を引き取っているのだ。
大魔王マデサゴーラを打ち取り、世界に平和をもたらした勇者が開始数時間で死んだ。
勇者アンルシアを知る者で、それを聞いて絶望しない者はいないだろう。

「いいえ、違います」
「は、はへ……?」

アークが強く否定する。
彼女は勇者姫アンルシアの紛い物ではなく、軛から解き放たれたこの世界で反抗の意志を固めた、一人の人間だった。
一人の人間として、その生命を燃やし尽くしたのだ。 そこに本物も偽物もなかった。

「彼女は、アンルシアです」

そしてアークの口からこれまでの経緯が語られる。
利用され捨てられ、絶望の淵に立っていた二人が戦いの意志を確認し合った出会いを。
出会った一人と戦い、相討ちの形で決着がついたことを。
約束を果たすために、ここまで遺体を運んできたことを。
彼女は、運命に翻弄されながらも精いっぱい抗ったことを。

「とまあ、そういった訳でここに来ました」

波止場の一番奥、海へと近い方へアンルシアの遺体を運んだアーク。
遺体の両手を胸の前で重ね、顔についた血を拭き取る。
何もしないよりはマシと言った程度だ。
それでも、元々アンルシア本人の顔立ちが整っていたので、その顔は安らかに眠っているようにも見える。

「遅くなって申し訳ありません」

アンルシアの遺体に祈りを捧げるアーク。
ヒストリカも、複雑な胸中で黙祷していた。
勇者姫アンルシアではなく、大魔王によって創り出された偽りの存在、魔勇者。
死んだのはそちらの方なのだと聞かされたとき、ヒストリカは喜べばいいのか悲しめばいいのか分からなかった。
滅んだのは邪悪な方。 だけどそれを喜ぶのはアークに失礼な気がして。
悲しむのもまた違う気がした。 それでも生前の悪行が消えた訳ではないのだから。
レンダーシアに住んでいたヒストリカにとっては、レンダーシアが滅びるかどうかは自身の生死にも直結してる訳だから。

(魔の存在だったのに友人ができたのが羨ましいから、とかそんなことないからな! と、友達とか興味ないし!)

結局、強がりを言うことで心を落ち着かせるヒストリカであった。
スライムはというと、魔勇者という肩書に興味を覚えていた。
勇者といえばスライムの世界ではアレフが有名だったが、他にも勇者がいるとは知らなかった。
しかも『魔』だ。
外見は人間と変わらないが、その中身は全く異質なものであろうか。
腕を組んで死者の冥福を祈るセラフィの道具袋からラーの鏡を取り出そうとする。
ラーの鏡を咥えると、いつの間にかセラフィがスライムの軟体に手を置いていた。
それはダメだと、セラフィは無言を首を振る。
死者の真の姿を暴いたところで、それは冒涜にしかならない。
とてもいけないことをしてしまったとスライムは悟った。

「プルプル」(ごめんセラフィちゃん……)
「いいよ、それよりも……何か光が」

157ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:52:21 ID:hB.H5X8Q0
アンルシアの遺体が発光している。
それどころか、彼女の体から気体のようなものが漏れ始めている。

「!?」

アークにははっきりと分かる。
これは彼女の体を構成していた魂のようなものだと。
濃紺の気体はついには魔勇者アンルシアの周囲を渦巻くほどの勢いを発した。
いつの間にかアンルシアの遺体さえも宙に浮かんでいる。
吹き出た気体は空へと昇って行き、アンルシアの体から出た分だけ、アンルシアの体も消えていく。
アンルシアの体が空中に溶けてなくなった瞬間、アークたちは空の彼方に魔勇者アンルシアの姿を幻視した。
魔勇者アンルシアは笑っているように見えた。

(感謝するよアーク)

最期に、そんな言葉が聞こえてきたような気がした。
それにアークは無言で頷く。
言葉はいらなかった。
彼女の願いを叶えてあげられた。 
それだけでアーク本人も少しだけ救われた。

「ぐすっ……良かったね魔ンちゃん……最期にアークみたいな人に出会えてよかったね……うっ、うえぇええええええええん!!!」

涙腺が決壊したヒストリカの嗚咽だけが、今ここに響いていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ピッキー……」(ところでどうしてあんなことが起こったんだろうね)
「ああ、えーと……彼女は創られた存在だからじゃないかな。
 そういえば、創世の渦から創世の魔力で作られた存在だとかジャンボが言ってたような……」
「え、ヒストリカさんジャンボさんと知り合いなの?」

スライムの通訳をしていたセラフィがジャンボの名前に反応を示す。
ちなみに、ここでようやく二人は共通の知り合いとしてジャンボがいることを知った。

「その血肉はすべて創世の魔力で創られていた訳だから、死んだらその肉体を構成していた魔力も消えるんだと思う。
 つまり今のように遺体が残ることもなく消滅していく訳だ」
「プルプル」(なら死んだ直後にそうなるんじゃないの?)
「それはきっと……」

ヒストリカは考古学者だ。
失われた歴史を明らかにしていく真実の探求者だ。
いい加減なことを言うべきではないし、推論だけで論文を書こうものなら学会で失笑を買うだけだ。
だけど、そうだとしてもだ。 
今、この時だけはこう言いたいと思う。

「奇跡が起こったんだよ」

ここで魔法や医学の第一人者を呼び寄せて、今の現象を解明する。
それはとても無粋なことくらい、ヒストリカは弁えている。
魔勇者アンルシアの海を見たいという想いが失われていく創世の魔力を繋ぎ止め、ここまで保った。
願いを叶えてくれたアークに対して、最期に魔勇者アンルシアは感謝の言葉を述べた。
そんなロマンチックな解釈があってもいいじゃないか。
新進気鋭の考古学者ヒストリカはそれ以上の詮索はしたりしない。
彼女の生き様は決して褒められるようなものではなかったが、人々の記憶には強く残った。
来世というものがあるのなら、そこでの幸せを願わずにはいられない人物だった。

158ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:55:35 ID:hB.H5X8Q0
「そう、だね……!」
「ピキ!」(だね!)

セラフィとスライムも力強く頷く。
人の意志というものは物理法則やこの世の理を凌駕することがある。
精神が体という枠を飛び越えて、奇跡を起こすことがある。
人の意志、それには無限の可能性があるのだ。
今はそれを信じて生きていたい。

図らずも、西から来た人と東から来た人がこうしてポルトリンクという港町に集うこととなった。
次に向かう場所を決めたいところだが、まずはもう少しでされるという定時放送。
それを聞いてから三人と一匹は今後の方針を決めることとなった。

「無駄にはしませんよ。 貴女の死は」

空へと還っていった彼女に別れの言葉を告げて、足元に転がった金属の輪を拾う。
魔勇者アンルシア本人の肉体でも衣服でもないため、肉体の消滅後も残った物体。
今となっては彼女が存在した唯一の証。
全参加者に嵌められ、そしてエビルプリーストの気分次第でいつでも起爆させられる恐怖の象徴。
アークは魔勇者アンルシアの首輪を手に入れた。
エビルプリースト打倒の前にクリアしておく条件、首輪の解除をする際にこの遺品は確実に役立つ。
アークは代わりの墓標として疾風のレイピアを地面に突き刺すと、セラフィたちのいる方向へと歩いていく。

短い間だったが、彼女とは驚くほど気が合った。
きっと、これほどまでに自分という存在を理解してくれた人はそうそういなかっただろう。
ポーラやスクルドとは違う対等の存在でいてくれたのが大きい。
彼女らはアークのことを半ば神格化してる。
確かにアークは天使であったから、神格化というのは実は正しい行為なのかもしれないが、それは対等の関係ではない。
憧れや畏敬の念が先にある以上、アークのすることは全部肯定してくれるし協力も惜しまない。
それは気持ちいいし、事実としてアークはポーラもスクルドのことも好きだ。
だが、それがアークという人格をすべて理解してくれているかと言うと別の問題だ。
時にキツい言葉を投げかけてくる、そう、例えばコニファーのように対等に接してくれる人もまたアークには大事な存在だったのだ。
自身の絶望と苦悩を知り、共に戦おうと誓ったアンルシアはすでに死んだ。
反抗すると決めた以上、他人やエビルプリーストとの戦いは避けられない。
いずれ自分もアンルシアと同じ場所へ逝くかもしれない。
それでも、今だけは。

「私は、もう少しだけあの人たちと生きてみることにします」

159ありがとうを言いたくて ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:56:03 ID:hB.H5X8Q0
【F-9/ポルトリンク/昼】

 【スライム@DQ1】
 [状態]:健康 戦闘時HP回復(装備効果)
 [装備]:毒針@DQ4 スライムメット@DQ6 オラクルやののれん@DQ5
 [道具]:支給品一式
 [思考]:セラフィと一緒がいい。竜王さまお許しください。

 【セラフィ@DQ10】
 [状態]:健康 歩くとHP回復(装備効果)
 [装備]:ホイミンのTシャツ@DQ8 祈りの指輪
 [道具]:支給品一式 ラーの鏡  ぎんがのつるぎ@DQ9 星降る腕輪@DQ3
 [思考]:主人公@DQXを探す。主人公@DQ6にはデュランのことを伝えてあげよう。
     トロデ@DQ8の知り合いにも会いたい。

 【ヒストリカ@DQ10】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 ドルボード@ドルバイクプリズム ドルセリン×8 レーダー探知機 
 [思考]:ジャンボに会いたい。仲間と友人を作りたい。デュランと友達になるためジャンボを紹介する。
 ※レーダー探知機で参加者の居場所を把握することができます。参加者の生死は判別できません。探知できる範囲は1エリアほどです。


【アーク(DQ9主人公)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:吹雪の剣@DQ5
[道具]:支給品一式×3、道具0〜2、魔勇者アンルシアの不明支給品(0〜2)アリーナの不明支給品(0〜1)
     太陽の扇@DQ6、フラワーパラソル@DQ5、炎竜の守り@DQ8 魔勇者アンルシアの首輪
[思考]:エビルプリーストが自分を呼んだ理由を知った上でそれを打ち砕く。その為に、まずは彼が仕組んだこの殺し合いを壊す。
    放送を聞いたら今後の方針を決める。
[備考]:職業は魔法戦士です。

※疾風のレイピア@DQ8 がポルトリンクの波止場付近の地面に突き刺さってます

160 ◆CASELIATiA:2016/12/20(火) 01:56:34 ID:hB.H5X8Q0
投下終了です
遅くなって申し訳ありませんでした

161:2016/12/20(火) 15:48:11 ID:ggP7V.IQ0
投下乙です
ヒストリカ可愛いぞ 憧れのプレゼント交換良かったね!
アークと闇ルシアコンビすごく好き……
すごく美しい展開で、カラクリに詳しいヒストリカが首輪を手に入れました

162 ◆OmtW54r7Tc:2016/12/20(火) 19:15:45 ID:S4wcbTVY0
投下乙です

戦力的に心もとなかったチームにやっと強いメンバーが加わって、どうなるか…
今回の話でアークの仲間への印象もだいぶ分かってきたけど、ポーラちゃん、サンディどころかコニファーにすら遅れとってる感w

これで昼到達してないのは勇者姫組だけで、ここは書かなくてもなんとかなりそうなパートだから放送そろそろいけそうだと思うけど、他の書き手さんはどうでしょうか
後、放送案考えてる人いますでしょうか?自分はいまんとこ特にないです

163ただ一匹の名無しだ:2016/12/20(火) 23:55:23 ID:hB.H5X8Q0
自分は特に書く予定はないので、書ける人がいたらお願いしたいです

164 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 22:57:39 ID:YlEgbTo.0
誰も書かないようですので自分が書いた者を投下します

165第一回放送 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 22:59:45 ID:YlEgbTo.0
その時間、誰もが空を見上げていた。
暗闇を凝縮させたような雲が集まり始めたかと思うと、それはうねうねと形を変えて何かを形成する。
目、耳、口、鼻……その全てが完成された時、そこには超魔力によって空中に大きく描き出された、憎きエビルプリーストの顔が出来上がっていた。

「諸君、ご機嫌は如何かな?
ルールブックに記されているとおり、この放送は今後も6時間ごとに必ず行われる。
知らなかった、聞いてなかった、では済まされないのでこの時間帯の戦闘行為は慎んでおくのが賢明だ。
おっと、世界を救ったこともある君らには余計なお世話だったかな?

まずは禁止エリアを伝えるとしよう。

二時間後に【G-4】
四時間後に【E-5】
そして六時間後に【E-8】だ。

指定の時間後に禁止エリアに侵入した者は例外なく首輪を爆破されると心得てもらいたい。
つまらない死に方はしてもらいたくないが、人数が減って誰にも会えなくなる状況は私としても望むところではない。
状況によっては追加する禁止エリアの数は増えることもあると注意しておく。

次はこの六時間で死んだ者の名前だ。

ホープ
ハッサン
竜王のひ孫
マルチェロ
トルネコ
アイラ
トロデ
アリーナ
魔勇者アンルシア
ユーリル
ネプリム
レミール
ドラゴン
エルギオス
ギガデーモン
ズーボー
クリフト
メルビン
ククール
マリベル
ハーゴン
リュビ

166第一回放送 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 23:00:57 ID:YlEgbTo.0
以上、22名だ。
予想を遥かに上回るペースで私も感心している。
太陽も昇り、一日目はこれからが本番だ。
各人の一層の奮起を期待するとしよう。
最後の一人になるまで、あと何日かかるかな? いや、あるいは今日明日にでも終わってしまうか……。
諸君らの大好きな、正義や愛のためといった言葉で自己弁護に勤しみ、殺人を肯定してしまうといい。
勝者には金も地位も名誉も、例え死した人間の蘇生でもだ……何でも叶えてやろう。
我が元の辿り着いた者への惜しみない称賛を私は約束しようではないか。ではさらばだ」

エビルプリーストは嗤う。
こんなにも早くユーリル達が脱落したことに愉悦を抑えきれない。
何が勇者だ。何が導かれし者たちだ。
若い者はすでに息絶え、残りは耄碌した爺のみ。
自らが手を下すまでもなく全滅は目前だ。
かつてはあれだけの権勢とカリスマを誇ったピサロでさえ、今はあの有様だ。

しかし、懸念すべきは自らが手先として放った五体の魔物たち。
戦果はあまり芳しいとは言えず、反抗的だったアンドレアルに関しては代わりの魔物を使うことすらした。
やはり女と出会って腑抜けになったピサロの配下など、所詮この程度の働きしかできないということか。
放送を担当させるはずだっただいまどうも忠誠を拒み、気分を害したエビルプリーストによって消滅させられた。
この先、死者の出るペースがあまりにも遅くなるようだと、別の手も考えるとしよう。
そう考えエビルプリーストは目を閉じ、自らの完全復活の時を今か今かと待ち焦がれるのであった。

残り、60人――。

167 ◆CASELIATiA:2016/12/25(日) 23:06:49 ID:YlEgbTo.0
投下終了しました

予約の解禁は26日0:00でしょうか?
個人的には仕事納めも近いので29日0:00もアリだと思ってますが

168ただ一匹の名無しだ:2016/12/25(日) 23:19:01 ID:zzbcs3vU0
投下乙
相変わらずエピプリ人望無くて笑える

予約解禁は26日だと急だし、29日でいいかと

169ただ一匹の名無しだ:2016/12/25(日) 23:21:16 ID:kciavzaE0
放送投下乙です! だいまどうに合掌
解禁日ですが、投下にすぐ気付けない人もいるでしょうし、個人的には間を空けてからの方がいいのではないかなと思います

170ただ一匹の名無しだ:2016/12/28(水) 19:19:00 ID:79DbNZs60
今夜0時から放送後の予約が解禁か
オラワクワクしてきたぞ!

171 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:41:11 ID:w1i/t2ZA0
投下します

172届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:42:49 ID:w1i/t2ZA0
耳鳴りがする。
ドォォォー……ン、ドォォォー……ンと音がする。
その度に、体が震える。
音と同時に熱気を孕んだ風が頬を打つ。
熱風と、止めどなく溢れる涙で顔が熱い。
耳をふさいでも音がする。何発も、何発も。
やめてと心が叫んでも、爆音は容赦なくバーバラを追い詰める。
やがてヘルバトラーがその場を去っても、バーバラの耳には死を運ぶあの音が残り続けた。



ドォォォー……ン
(やめて)

ドォォォー……ン
(やめて……!)

ドォォォー……ン
(ズーボーが死んじゃう……!)

ドォォォー……ン
(死んじゃう……? ううん、違う……)

ドォォォー……ン
(私が、私も、マダンテを……撃てていたら……)

ドォォォー……ン
(私の、せいで……)

――諸君、ご機嫌は如何かな?
(わたしが、ころした……?)

――まずは禁止エリアを伝えるとしよう。
(なかまを……ころした……?)

――次はこの六時間で死んだ者の名前だ。
(死んだ者の……っ、放送!? もう始まってたの!?)

――ハッサン
(……え?)

鳴り止まない爆音の合間に漸く届いた声にバーバラははっと顔を上げ、読み上げられた名前にその目を瞠った。
情に厚く、快活な仲間の名前。
また会えると思っていたのに。また会いたかったのに。
ハッサンはもう死んだのだと、おぞましい声が告げる。

(ハッサンが、死んだ……? 私が、馬鹿みたいに震えてる間に?)

173届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:43:47 ID:w1i/t2ZA0
――ズーボー

(…………ッ)

何の感傷もない羅列が続き、ズーボーの名前も挙げられた。
こんなにも近くにいながら、この場を切り抜けられたかもしれない力を持っていながら、彼を見殺しにしてしまったという罪悪感が大きくなる 。
いやというほどに実感してしまう。

(仲間に会いたいなんて言いながら……仲間を殺しちゃうなんて……)

ズーボーとは出会ってそれほど経っていない。
それでも、誰かを守る為に……出会って間もないバーバラたちの為に自身の全てを盾とする、誇り高いパラディンであり――信頼における仲間だった。
パラディンだということを聞き、ハッサンやチャモロに会わせてみたいな、などとこっそり考えてたりもしていた。
特に体格や性格に近しいものがあるハッサンとは、仲良くなりそうだと思っていた。
だが、もう叶わない。
ハッサンは自分の知らないどこかで死んでしまった。
ズーボーは、自分のせいで死んでしまった。
そう、自分のせいで……。



バーバラを襲う自責の念は、もうひとつあった。

――優秀な私がいます。ズーボーさんの命はきっと、きっと─助けますから。
――信じて、やってやりましょう。

フアナの言葉が甦る。
励まそうとかけてくれた言葉が、今はバーバラを傷付ける。

(あたし……信じきれなかったんだ……。
 仲間を、信じきれてなかったんだ……最低だ……!)

ズーボーが耐えきってみせると、フアナがズーボーの命を救ってみせると。
信じていたなら撃てたはずだ。
それなのに、ズーボーを巻き込むことを恐れて、最悪な結果を招いてしまった。
ズーボーは、ゼシカは、フアナは、バーバラを信じて全力を尽くしたというのに。

ゼシカたちは慰めてくれるかもしれない。
もしかしたらその逆に、何故マダンテを撃たなかったのだと責めるかもしれない。
だが、優しくされたら余計に自分を責めてしまいそうで。
かといって責められたら、立ち上がれないくらいくじけてしまいそうで。
どちらも恐ろしく感じてしまって。

気が付いた時には、バーバラは仲間たちから逃げるように走り出していた。

174届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:46:09 ID:w1i/t2ZA0
 






誰かの泣き声が聞こえる。
誰だろう。泣き虫のマルクだろうか。だが、マルクほど幼い声ではない。
先程まで聞いていた声。
それほど大きくはないけれど、耳の奥まで届いてくる。
いや、違う。耳には何の音も入ってきていない。
けれど、確かに誰かの泣き声が聞こえる気がする。
誰が泣いてるの?
どうして泣いてるの?
答える声はない。泣き声だけがそこにある。

ぽたり。

温かいものが頬に触れた。
小さな刺激は、沈んでいたゼシカの意識をゆっくりと呼び戻した。



「う、ん……私……気を失ってたの?
 ここは……そうだ、あの魔物は……ズーボーは……!?」

体を起こして2、3度頭を振って戦いの最中にあったことを思い出し、ゼシカは慌てて辺りを見回した。
地面が激しく隆起している荒れに荒れた景色とは裏腹に静寂に包まれていて、無音は戦闘が終わったことを告げていた。

「あいつは、いなくなってる……どうなったの? 上手くいった……の……?」

そう信じたいものの、心のどこかでそうではない、と訴えかける自分がいる。
姿が見えないのはヘルバトラーだけではなく、共に戦っていたはずの仲間たちも同様だったからだ。
ヘルバトラーを無事打ち倒したなら、ゼシカ一人をおいて出発してしまうことはないはずだ。
少なくとも、魔物を倒して大団円、というわけにはいかなかったのだろう。

早く状況を把握しなければと立ち上がり、そこで漸く視界の端に人影を捉えた。
ゼシカとよく似た赤毛を揺らし、だんだんと遠ざかっていく――

「バーバラ!」

その声に驚いたのだろう、一瞬びくりと立ち止まり、しかし振り返ることなくバーバラは走り去っていく。

「バーバラ……? 待って、バーバラ! どうしたの!?
 フアナ、ズーボー、バーバラが……え!?」

どんなに叫んでもバーバラの足は止まらない。
気を失っていた間に何があったか分からないゼシカは、後から合流した二人をあてに振り返り――岩壁に隠されていた光景に息を呑んだ。
僅かに体を起こしただけでは見えなかった激しい戦いの傷痕。
そこには誰もいなかった。
そこにいた……そこにあったのは、ズーボーの亡骸ただひとつ。
そのただひとつが示すのは、ヘルバトラーを倒し損ねた、ということだった。

175届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:47:12 ID:w1i/t2ZA0
(ごめんね、ズーボー……失敗、しちゃったんだ……)

全身が焼け爛れた亡骸に、目を閉じて追悼を送る。
持てる魔力の全てを注ぎ込んだ魔法を以てしてもヘルバトラーを倒せなかった。
それまでにも魔力を消費していたとはいえ、耐えられたのは自分の至らなさもあったからだろうか。
そう思うと、やりきれない。
ごめんね、ごめんねと何度も繰り返し、ズーボーの冥福を祈った。
 


追悼を終えると、ゼシカはフアナに宛てた書き置き(急いでいるため走り書きになってしまったが)をその場に残して、すぐさまバーバラを追って走り始めた。
胸の内までは分からないが、バーバラの行動にズーボーの死が関わっているのは間違いないだろう。
殺し合いに巻き込まれて、その上恐らく間近で仲間の死を感じ取って。
それで尚も強くいるのは難しいはずだ。
放送を聞けなかったため姿が見えないフアナの安否については分からないが、無事を信じて、また書き置きに気付いてくれると信じて、ひたすら足を動かす。

(私がついていてあげないと……バーバラが怯えてるなら、手を差し伸べないと。
 サーベルト兄さんは、私が辛い時、泣きたい時、いつでも手を差し伸べてくれた。
 その心強さを知ってる私が、バーバラを連れ戻さないと)

思い出すのは、優しくて大好きだった、兄の記憶。
喧嘩をしても、ゼシカが泣いてしまうとすぐに謝って、頭を撫でてくれた。
死別した後も、ゼシカに想いを伝える為、リーザス像の塔で待っていてくれた。
もう兄に会えないということを強く実感して、涙を一生分流したのではというほどに泣き続けたあの時も、ゼシカの背を押してくれたのは兄の残した言葉だった。

姉妹のように打ち解けたバーバラを放っておくことなど、ゼシカにはできない。
況してやこの殺し合いの場で、怯えた背中を見てしまったのだ。
兄のようにはいかないかもしれないけれど、兄が自分にそうしてくれたように。
傷付いているのであろうバーバラの心に、温もりを届けたいと。
その一心で、走り続ける。







ゼシカの声が聞こえて、自分で自分に驚くほどに、怯えてしまった。
仲間なのに。あれだけ打ち解けて、安心感を抱いていたはずなのに。
自分はどこまで、仲間を信じられないのだろう。
もう会えないはずだった仲間たちにも。
このゲームに巻き込まれてから出会った仲間たちにも。
会うのが、怖い。

176届かない、少女の声 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:48:13 ID:w1i/t2ZA0
ハッサンとズーボー。この六時間で殺されてしまった仲間たち。
パラディンとして、仲間を守ろうとあり続けた二人。
仲間を見殺しにした自分とは、あまりにも違いすぎる。
彼らに向ける顔など、ありはしないだろう。まだ生きている仲間にも、会うことなど許されないのではないか。
そんな考えばかりが浮かんでしまう。

優しくされることも、責められることも。
そして、また仲間を見殺しにしてしまうかもしれないことも。
全てが怖い。
怖い。

仲間が怖い。

(仲間といることが、こわい……)

涙を拭いすらせずに走るその姿は、大魔女などではなく、ただの小さな少女のものでしかなかった。



【D-4/平原/1日目 真昼】

【バーバラ@DQ6】
[状態]:HP4/5 MP2/5
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:自分の心の弱さに絶望
   仲間に会うのが怖い
[備考]:バーバラは少なくとも、僧侶、魔法使い、賢者はマスターしています。マダンテも習得済みです。
   途中で放送に気付いたため、禁止エリアについては把握していません。


【C-4/平原/1日目 真昼】

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:HP3/5 右肩に傷(治療済み) MP1/10(気絶中に僅かに回復)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:バーバラを追いかける
   フアナも心配
[備考]:第一放送を聞いていません。

※ゼシカとバーバラがいた場所に、瓦礫で重石をしたゼシカのメモが置かれています

177 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/01(日) 19:49:52 ID:w1i/t2ZA0
以上で投下終了です。
誤字脱字や指摘などあればよろしくお願いします。

そして遅くなりましたが、皆様明けましておめでとうございます。
今年もドラクエロワが盛り上がりますように!

178ただ一匹の名無しだ:2017/01/02(月) 08:13:55 ID:Q00xMLsQ0
投下乙…と言いたい所ですが、少し気になる点が
ゼシカがズーボーの遺体を見つけていますが、遺体のそばにいたフアナ達はどこにいったのでしょう
確かフアナが目を覚ました後埋葬しようとしていたと思うのですが
そしてそれ以前に、戦闘現場からバーバラによって移動させられたゼシカが遺体のそばにいるのはおかしいのではないでしょうか

179ただ一匹の名無しだ:2017/01/02(月) 08:22:42 ID:Q00xMLsQ0
読み返してみたら、バーバラは戦闘現場から移動したのではなく近くの岩壁に身を隠しただけだったんですね、自分の勘違いでした
ですがどちらにしてもフアナチームに関する言及はないと不自然だと思います

180 ◆jHfQAXTcSo:2017/01/02(月) 09:58:35 ID:9cSFybGU0
>>179
指摘ありがとうございます
フアナたちに関しては、前回の話でフアナを休ませる為に少し移動した描写を入れたので、ゼシカがいた場所から見えないかなと思い今回の運びになりました
フアナたちを見つけていた方が自然なようでしたら、修正してから投下し直そうと思います

181179:2017/01/02(月) 15:18:14 ID:F20AJU8Y0
>>180
なるほど、そういうことですか
それなら問題ないと思います

てなわけで改めて投下乙!
逃げたバーバラはどうなるのか…
近くにジャンボがいるってのも、ズーボーのこともあって色々不穏だ

182 ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:47:27 ID:Zmsw4x7s0
それではギリギリですが投下します

183シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:49:25 ID:Zmsw4x7s0
辺り一帯に重苦しい雰囲気が立ち込め、誰もが言葉を失った。
沈黙のしばらく後に、今度は嘆きの叫びが木霊し、悲しみが周りの者にも伝播する。
悲しみの度合いは人それぞれだった。
主だった知人が全て無事だったナブレットは泣いている人を慰めた。
事前にエルギオスの死を知っていたサンディはまだ傷が浅い方だった。
しかし、残りの人間は例外なく世界が崩壊したに等しい衝撃を受けていた。

勇者ユーリル、アリーナ、クリフト、トルネコ、導かれし者の内半分をたった6時間で失ったライアン。
アイラ、マリベル、メルビンといった最後まで冒険を共にした4人の内3人までもが、すでに死んでいたガボ。
それに加えてガボは、みんな友達大作戦を提案してくれた竜王のひ孫まで失っている。
この二人の憔悴の度合いが尋常ではなかった。

体に力が入らない。 息ができない。 現実味が湧かない。
つい昨日まで誰も失うことなく、前人未到の偉業を達成した猛者たちがこうもあっさり死んだ。
明日、天変地異で世界が崩壊する確率の方がまだ高いんじゃないのか、そんな気さえしてくる。
襲い掛かってくるのは凶悪なモンスターだけではない。
守るべき人間でさえ、悪意をむき出しにして襲ってくることがある。
ここにあるのは善と悪という単純な図式に収まらない、醜悪な儀式。
そして高みの見物をする主催者、エビルプリースト。

「信じない……オイラ信じないぞ……みんなが死んだなんて、そんなの信じないからな……!」

涙で顔をくしゃくしゃに歪めるガボ。
湧き起こるのは身を焦がすような怒りではなく、反発心。
きっとマリベルたちは死んでいるのではなく、どこかに捕らわれているか重傷で動けなくなってるだけだ。
ガボは知っているのだ。 
マリベルの内に秘められた優しさを。 
アイラの踊りの美しさを。 
メルビンが本気を出した時の圧倒的な強さを。
記憶を振り返れば振り返るほど、彼らが死ぬ要素など見つからない。
だって、彼らはいつも正しくて、こんな自分にも優しくしてくれて、どんな悪にも屈することのない鋼の精神を宿していたのだから。

でも、一方でガボは知っている。
善意を踏みにじる輩がいることを。
長い旅の最中でも、人としての道理にそぐわない行為をする者が山ほどいた。
人間というのは集団で行動しながらも決して一枚岩ではないということを、人間としての経験が浅いガボも知っている。
故に、有り得る。
マリベルたちが死ぬということはあり得るのだ。
泣いているということは、ガボはある程度その事実を認めているようなもの。
100%の生存を信じきれない自分がどこかにいる。
その点もガボは自覚を持っていた。

昔の習性が残っているガボが遠吠えを上げる。
オオカミでなくとも、悲しんでいることが伝わる。
身を切り裂かれるような悲鳴だった。
そこにいる誰もが、ガボの心の痛みが直に伝わる。
涙が収まりかけていたライアンなどは、新たな涙を流すほどであった。

(これはやべえぞ。 あまりにも早過ぎる)

184シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:51:17 ID:Zmsw4x7s0
知っている人間の中で死んだのは魔勇者アンルシアのみ。
その魔勇者も、危険人物として認識しているナブレットはおそらく、この中で最も冷静に物事を判断できる存在だった。
サンディとギガデーモンの口ぶりからしても、殺し合いを円滑に進めるために配置されたモンスターは確実にいる。
しかし、その可能性を加味したとしても死人の数があまりにも多過ぎた。

22人。
たった6時間でこの数だ。
一日が経過する頃にはどれくらいの死人が出るのか想像もしたくない。

それに人を集めるにしたって、ここは拠点としてはもはや不向きになってしまった。
ギガデーモンのおかげで半壊した街に、我らが寄る辺としての機能は望めそうもない。
そして超巨体のギガデーモンの死骸が今も残されているのだ。
解体、焼却するにしても圧倒的な労力が必要とされるし、そんな暇があったら誰かを捜索した方が良い。
しかし、放置すれば肉はいずれ腐り果て、街中に腐臭と病原菌をまき散らす温床となる。
街の半分近くを埋め尽くす死骸と共に過ごす、というのは心理的な嫌悪感も大きい。
死別したエルギオスとゴドラにしたって、エルギオスはまだ墓を作ることはできたが、ゴドラもドラゴンとしてはかなりの巨体だ。
瓦礫の下敷きになったのを救出して、新たに墓を作りなおすことを考えると手間がかかりすぎる。
考えれば考えるほど、トラペッタの街を放棄するしか選択肢がない。

拠り所というものは極めて大事な要素だ。
ナブナブ大サーカス団長にして、オルフェアの町の町長を兼任するナブレットは統治者や一国の王と同じくらいそれを重視する。
故郷に帰れば家族と、変わらない町の味が楽しめる。
旅先で得られなかったものが、地元にも必ずある。
ここに住んでてよかったと思える日が誰にでもきっとある。
生きていれば、の話ではあるが。

「……誰かこっち来てないかい?」

気配を察したゲルダが声を上げた。
ゲルダもトロデ王やククールを失ったが、元々が盗賊と言う稼業だったためか、人の死に関しては達観してる部分がある。
パルミドの町では、一人の生死に拘ってたらとてもじゃないが生きていけないのだ。
悲しいという気持ちはあるが、若い面々に比べたら感情を抑える手段には長けている。
よって、その気配に気づいたのもゲルダのみ。

(何だい……このどす黒い気配……?)

気配を隠そうともしないし、確実にこちらへ近づいてくる。
殺気でさえもダダ漏れだ。
ここまでに純粋な殺意を感じるのは、あの暗黒神ラプソーンと対峙した時以来ではないか。
全身が総毛立つのをゲルダは感じた。
毛穴の全てから汗がでるような感覚すら覚える。
姿を拝んでもないのにこれだ。
相当に強力な敵なのは間違いなかった。

こちらの戦力を考慮すると、まともに戦えるのはおそらくナブレットのみ。
自分はギガデーモン戦での怪我が癒えてない。
ナブレットにしたって、現役でバリバリ戦っている訳ではない。
ライアンは仲間を失った喪失感で、十全に戦えるか怪しい。
また、初期のゴドラとの出会いの怪我も完治してない。

185シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:53:11 ID:Zmsw4x7s0
ガボもライアンと同様の心神喪失、おまけにすばしっこさを身上とした戦いを得意とするのに、両足を骨折中。
ホイミンとサンディはやる気は評価できるが、単体としての戦力は期待できそうもない。
かつて、エイトを中心とした6名のパーティーでラプソーンを討伐した時に比べると、かなり心細い布陣。
それでも、負けるつもりはない。
襲ってきたからといって、正々堂々と勝負してやる理由もないのだ。
逃げるが勝ちという言葉もある。

「どこからでもかかってきな!」

見えざる敵に啖呵を切る。
その言葉に呼応するように、何者かは現れた。

「なっ……!?」

現れた敵の姿に、ゲルダをはじめとした誰もが驚愕せずにはいられない。
ホネだけで構成された大型のモンスター。
白骨ではなく、その骨は紫色をしている。
闇の力で動かされている証拠に、眼窩には暗闇の光が灯っている。
そして、極めつけは誰もその姿に見覚えが無いということ。
顔写真付きの名簿にすらだ。

変身機能を有するモンスターが極一部には存在する。
理由はカモフラージュだったり省エネの為だったりするが、最も危険なのは以下の点だ。
変身すれば、そのモンスターは例外なく変身前より強力になっている。

「ありゃバラモスゾンビじゃねえか! なんでこんなところにいやがる!」

ナブレットが叫ぶ。
伝説の三悪魔の一角、それが何故ここにいるのか考える暇はない。
バラモスゾンビを迎撃しようとする者、怯え立ちすくむ者、リアクションは様々だった。

「ガボを背負うんだ! ゲルダ、頼んだ!」
「待てよおっちゃん! オイラは……オイラは……!」
「アタシも行く!」

両足を動かせないガボがこの場に居ても、バラモスゾンビの餌食になるだけだ。
ガボは不満だろうが、それを尊重してる暇はない。

「あいよ、頼んだよナブレット! 首尾よくやりな!」

ガボを背負える人間はライアンかゲルダのみ。
体格の問題でそれ以外の人選は有り得なかった。
嫌がるガボを無理やり抱えて、南門へと走る。
それについていくサンディ。
ガボを安全圏まで送り届けたら必ず加勢に来るから、それまで耐えておいてくれ。ゲルダはそう願う。
ゲルダの言う首尾よく、というのは逃げ出すことも含んでの言い方だ。
ナブレットだって腕力自慢の猛者ではないから、それくらいは分かってくれるはず。

「くそう……くそう……オイラだって……オイラだって……」
「男がいつまでもメソメソ泣くんじゃないよ!! 今は耐える時なのさ!」

足手まといの自分の不甲斐なさを嘆いているのだろう。
自慢の健脚が完全に封じられている今、ガボの胸中は察するに余りある。
仇を討つどころか、満足に戦える機会すら奪われている。

しかし生きていれば、必ず反撃する機会はある。
人は死なない限り、逆転のチャンスはいくらでも残されている。
そうだ、ガボは逃げるのではない。
何時の日か勝つために、今は撤退をしているだけなのだ。

186シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:54:57 ID:Zmsw4x7s0
「よし、見えた。 サンディ、この子の面倒を見てやんな」
「ガボはアタシに任せて。 ゲルダはダンチョーさんのことよろしく!」

南門へとガボを背負ったゲルダが到達する。
閉ざされた南門が開いてるのは、きっとバラモスゾンビが開けたためだろう。
とりあえず街の外さえ脱出すれば、きっとガボを安全な場所へ置いて行ける。
それができたら、ゲルダはナブレットらライアンの加勢へ向かうつもりだった。
もしも敵がバラモスゾンビ一匹でなければ、それで万事上手く行ったかもしれない。
門を潜り抜けてトラペッタの街の外へ出たゲルダを迎え入れたのは、自身の体を包み込むほどの、特大の火球だった。

(あ……)

メラゾーマの火球。
これはマズイ。
ゲルダは完全に他の敵の存在を失念していた。
しかもあまりにもタイミングが出来すぎている。
ゲルダの視界にメラゾーマの火球が入った時にはすでに、メラゾーマは標的へと向かっている。
標的とは言うまでもない、ゲルダのこと。

(やっちまった……)

完全に安心したところが一番の狙い目だと、盗賊のゲルダは熟知していたはずなのにだ。
回避が今からでは間に合わない。
もう自分は死ぬんだ。
そう思った時、ゲルダの背中に強い衝撃が加わった。
ガボが押してくれたのだ。
ゲルダが振り返った時には、もうガボは天まで立ち昇ろうとする火柱のなかに飲み込まれていた。

「――」
「ちょ、ガボ!」

ガボの口が動くのがサンディにも分かった。
しかし、その口からどんな言葉が紡ぎだされたかは分からない。
最期の言葉は苦痛に呻く叫びだったのか、ゲルダを守れたことに対する安堵なのか、メラゾーマを放った者への怒りなのか。
それはもう誰にも分からない。

「ほーほっほっほっほ! やはり! 火はいつ見ても気持ちが良いわねェ!」
「デボラ様デボラ様、素が出てますよ」
「いいじゃない。 たまには息抜きも必要よ」
「はあ……そんなもんすか」

ゲルダとサンディの前に二人組が姿を現した。
派手な衣装に身を包んだ黒髪の女性、デボラ。
そして逞しい筋肉をおしゃれなスーツで飾り立てた男、カンダタ。
下僕と女王様といった関係だろうか、二人の間には明確な上下関係があることを匂わせる。

「なんなんだい、アンタら!」

怒髪天を突くといった形相でゲルダは睨む。
今にも斬りかかりたい衝動をなんとか抑え込んだ。

187シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:56:53 ID:Zmsw4x7s0
「今、あの街の中にとんでもない魔物がいるんだ! こんなことやってる場合じゃ――」
「知ってるわよ」
「何だって……?」
「ちょっと、それってどういうコト!?」

タイミングがあまりにも良すぎた。
ゲルダが門を抜けると同時にメラゾーマが飛んできたこと。
如何にも知能が低そうなバラモスゾンビが、閉められていた南門を開けてトラペッタ内に侵入できたこと。
その疑問をすべて解決する存在が、ゲルダとサンディの目の前にいる二人組だった。

「あんなのマトモに相手する方がバカでしょ? だったら閉じ込めたらいいじゃない。
 中に小魚が何匹いようと知ったこっちゃないわ。
 そうね……仮にあれを倒すことができたんなら、仲間にしてあげてもいいわ。 カンダタ!」
「おうさ!」

カンダタとしても、あんな化け物と戦うのは真っ平だ。
今回ばかりは中身はゲマ、外見はデボラの言うことに従う。
同時に、門が閉まったのを確認したゲマは、今度はメラゾ―マを南門へぶつける。
燃える門の完成だ。
北西門はすでに倒壊してることは判明している。
これでバラモスゾンビはトラペッタからの脱出は不可能だ。

「さあ、何もかも燃やしてしまいましょう。 火は全ての罪を清めてくれるわ。
 生き残った者にのみ、私の下僕となる資格が与えられるわ!
 再び光の教団を組織して、生きとし生けるものすべてにミルドラース様の御威光を示すのよ!!」

何なんだこの女は。
盗賊のゲルダが言うのもなんだが、これほどまでに人を人を思わない人間は見たことが無い。
その中身にはまったく別の生き物の臓腑が詰まっていたと言われても不思議ではないほどだ。
ゲルダはかつてないほどの怒りを見せ、まどろみの剣を構える。

「ざけんじゃないよ! アンタなんかに……アンタらなんかに構ってる暇なんてこれっぽっちもないってのにさ!!」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



南門の方から火の手が上がっている。
そのことに気付いたナブレットが足を止めた。
何故あっちが燃えている?
ゲルダが裏切って、南門へ火を着けた?
いや、そんなはずはない。
だとしたら、可能性はもう一つしかない。
バラモスゾンビ以外にも敵がいるのだ。

「ギィッ!!」
(やべっ……!)

気を取られたナブレットはバラモスゾンビの存在を意識から外してしまった。
客観的に見て、バラモスゾンビにそんな判断力が残されているとは到底思えない。
しかし、バラモスゾンビは的確にナブレットに生じた隙をついていた。
バラモスゾンビの大振りの一撃がナブレットにクリーンヒットする。
ボロ雑巾のように吹き飛ばされたナブレットは壁に激突して動かなくなる。

188シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/02(月) 23:59:32 ID:Zmsw4x7s0

「ナブレットさーん!」

ホイミンが近寄ってホイミをかけようとするが、バラモスゾンビが立ちはだかる。
今度はホイミンに狙いを定めたバラモスゾンビが腕を伸ばす。

「危ない、ホイミン!」

破邪の剣を横から叩きつけることによって、バラモスゾンビの腕は軌道を変更させられた。
バラモスゾンビの腕がぶつかった石畳は粉みじんに粉砕され、大きなクレーターを穿つ。
ホイミンによる支援もあるが、ライアンたちは確実に押されていた。
ギガデーモンと同等、あるいはギガデーモンにはあった慢心がない分、それ以上の脅威かもしれない。
言葉さえ失ったその声帯からは、本能のままに上げる叫び声しか聞こえてこない。
ライアンは意を決し、ホイミンに声をかける。

「ホイミン、あれをやるぞ」
「あれって……もしかして」

初めてホイミンとライアンが出会ったとき、二人で協力して攻撃ができないかと思案していた時期があった。
結局、その技は完成することなく、ライアンは誘拐事件を解決に導き旅に出たのだ。
このまま有効な手を打つこともできず負けるより、分の悪い賭けに出た方がまだ希望が持てるのかもしれない。
ライアンが横っ飛びで蹴りをバラモスゾンビに入れると、バラモスゾンビは転倒する。
転倒はする……が、ダメージを与えたという実感はまるでない。

「やるよライアンさん!」
「おう!」

勝負はバラモスゾンビが起き上がってこちらに来るまで。
気合の入った掛け声を上げて、二人が息を合わせる。
シュッシュッシュ、とホイミンが触手をつかってジャブを繰り返した。
ライアンがホイミンの頭部を片手で掴むと、上空に向かって放り投げる。
舞い上がったホイミンはしかし慌てることなく、その触手に力を込める。
細い触手の腕がいくつかが、まるで力こぶのように太く盛り上がった。
ホイミンの顔も、ライアンの行動は想定通りであるとして、顔面に気合を入れる。
やがて、宙に放り投げられたホイミンが地面に到達するその直前。
腰の高さまで落ちてきたところを、ライアンは見逃さない。 むしろこの高さを待っていた。

「むおおおおおりゃあああああああ!!!」

破邪の剣の腹の部分を使い、野球のフルスイングのモーションでホイミンの後頭部を殴り飛ばす。
軟体であるホイミン相手だからこそやれる芸当だ。
人間が相手では死んでしまう。
ライアンは一切の手加減をしていない。
撃ちだされたホイミンの速度はすさまじく、ついには音速の壁を突破する。
砲弾のように打ち出されたホイミンは、今がその時だと言わんばかりに風圧に負けず、9つの触手すべてを動かす。
人間の腕は2本。 しかしホイミスライムの触手は合計九つ。 人間の4.5倍。
そのすべての触手を使って、相手に突撃しながら殴りつける。
シュッシュッ。
シュッシュッシュッ。
シュッシュッシュッシュッ!

「これが、ボクの! ボクたちの!」

究極爆裂剣である!

あの時実現しなかったコンビネーションを、土壇場で成功させたのだ。
ライアンとホイミンだから、二人に間に確かな信頼関係があるからこそできた芸当。
この二人でなければ再現は不可能な技だ。
例えバラモスゾンビが相手だろうと、燃える正義の心が繰り出すマシンガンパンチには必ずダメージは入る。
この拳の弾幕に貫けぬものはない。

189シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:02:24 ID:SqThN0Bo0
……マトモに当たったらの話ではあるが。

「え」

ホイミンはあっという間に高度を上げて、トラペッタの外壁すら飛び越える。
そして、ライアンから見たホイミンは文字通り星になって、彼方へと飛んで行ったのだ。

(お前は生きろ)

そんな風に、ライアンの口が動くのをホイミンは見た。

「どうしてえええええええええええええええ!!!」

きっとみんなで力を合わせれば、アイツだって倒せるのに。
また置いてけぼりなんて、そんなの絶対嫌だったのに。
ホイミンの胸に灯った勇気は吹き飛び、代わりに悲しみの心が埋め尽くす。
しかし、もうホイミンにはどうしようもないのだ。
このまま勢いが殺されるまで、ホイミンは空を飛び続けるしかない。

「済まぬな……」

南門に異常が発生したことはライアンも感知していた。
その上で判断する。
きっとゲルダの援軍は来ない。
来ないというより、アテにしてはいけないだろう。
ナブレットの生死も不明だが、ホイミンのホイミでどうにかなる怪我とは思えない。
ホイミンは『ずっと友達大作戦』という壮大な目標があるのだ。
こんな死地に付き合わせる必要はない。

「ガアアアアアアアアアア!」

ライアンは並の剣士ではない。
たった一人でバドランドの誘拐事件を解決に導き、その後勇者探しを王に命じられるほどの英雄だ。
腕前に関してケチをつけられる人物など、いたとしても世界に数人だ。

「ギイイイイイイイイイイイイイ!!」

勇者ユーリルに出会うまでに要した時間は数年間。 様々な地方を巡りようやく出会えたのだ。
王の命とはいえ、並の精神力でこなせる任務ではない。
潜った修羅場の数もかなりのものだ。

「勇者殿……」

その世界でも有数の剣技を持つ、導かれし者ライアンは今バラモスゾンビと一人で対峙させられている。
門から放たれた火は、脱出が容易ではないことを教えてくれる。
加勢も期待できそうにない。
ナブレットも生きてるか分からないが、生きてたとしても重傷だろう。

「ブライ殿……」

彼の持っている剣は破邪の剣。
邪なる者を打ち払う、聖なる剣だ。
バラモスゾンビのようなゾンビ系統の敵にこそ効果を発揮する武器だ。
その剣の加護を以てしても、バラモスゾンビに通用するかは定かではない。

190シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:03:38 ID:SqThN0Bo0
「許せホイミン……」
「クワアアアアアアアアアアアアアア!!」

そんなライアンは現状を分析しただ一言、こう呟いたという。

「私は――たぶんここで死ぬ」


【ガボ@DQ7 死亡】
【残り59人】

【G-2/トラペッタ内部/真昼】
【ライアン@DQ4】
[状態]:全身の打ち身
[装備]:破邪の剣@DQ4
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1) 不明支給品0〜2個
[思考]:ユーリルたちを探す
    ホイミンたちを守る

【ナブレット@DQ10】
[状態]:不明(気絶or死亡)
[装備]:こおりのやいば、シルクハット
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ジャンボを探す
    みんな友達大作戦を手伝ってやる

※生死不明の状態です。どのような状態かは次の書き手さんに任せます。
※プラチナソードはギガデーモンに刺さったままです。
※ドラゴンとエルギオスのふくろは、それぞれ本人の遺体に残っています

【バラモスゾンビ@DQ3】
 [状態]:HP7/10 MP2/3
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]:殺戮と破壊

※付近に支給品一式や超万能ぐすり×9が落ちてます

191シン・バラモスゾンビ ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:04:56 ID:SqThN0Bo0
【G-3/トラペッタ南部/真昼】
【ゲマ@DQ5】
 [状態]:HP9/10 MP4/5 デボラの姿
 [装備]:てっかめん  グレイトアックス@ダイの大冒険
 [道具]:支給品一式 変化の杖  デボラの石像
 [思考]:この殺し合いをぶち壊す。バラモスゾンビを倒した人は仲間にしてあげてもいい

【カンダタ@DQ3】
 [状態]:HP1/2 素顔
 [装備]:おしゃれなスーツ、パパスのつるぎ 
 [道具]:支給品一式 こんぼう
 [思考]:ゲマに従いエビルプリーストを打倒する。あとデボラさまって呼ぶ。

【デボラ@DQ5】
 [状態]:石化(装備ごと石化しています)
 [装備]:奇跡の剣、ダイヤモンドネイル、水の羽衣 光竜の守り@DQ8
 [道具]:支給品一式
 [思考]:自分を貫き、エビルプリーストに反逆する

※石化の術はDQ5本編よりも弱体化しています。
 呪いの解呪方法や上位の状態異常解除方法ならば石化を解ける可能性があります。
 (シャナク、万能薬、月のめぐみ等)


【ゲルダ@DQ8】
[状態]:HP2/5 MP3/5, 全身に裂傷
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間(エイト他PTメンバー)を探す 
    ナブレットたちの応援に向かいたい。
    そのためにデボラ(ゲマ)たちをどうにかする。
[備考]:長剣装備可(短剣スキル59以上)
   アウトロースキル39以上

【サンディ@DQ9】
[状態]:健康 ラッキーガール
[装備]:きんのくちばし@DQ3 知識の帽子@DQ7
[道具]:支給品一式 オチェアーノの剣 白き導き手@DQ10 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2)
[思考]:第一方針 アークを探す
[備考]: ※知識の帽子の効果で賢くなっています。
    ※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
    ※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。




※トラペッタ南門は閉め切った状態で炎上中です。



【不明/トラペッタ周辺/真昼】
【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

※どちらの方向へ飛んだかは次の書き手さんに任せます。
※飛んで行ったとしてもトラペッタ周辺までです。
※ガボの所持品、支給品一式×2 道具1〜5個 カメラ@DQ8はメラゾーマの炎で焼失しました。

192 ◆CASELIATiA:2017/01/03(火) 00:05:17 ID:SqThN0Bo0
投下終了しました

193ただ一匹の名無しだ:2017/01/03(火) 04:21:35 ID:TAt8KEd60
投下乙です!
トラペッタ大戦再び…
この街まるで休む暇ねえ
ゲマの奴てめえ…余計なことしやがって
ガボに合掌
彼の分まで、ホイミン頑張れ

194 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:26:55 ID:.bLJuTO20
投下します

195考える者、立ち上がる者、折れる者 ◆OmtW54r7Tc:2017/01/09(月) 18:28:18 ID:.bLJuTO20
図書室にて本を漁っていたピサロとヤンガス。
放送の時間もあとわずかというなか、ピサロはヤンガスにある質問をした。

「ヤンガス、一つ聞きたいことがある」
「ん〜?なんでがすかピサロの旦那」
「お前は…この殺し合いが開かれる以前にエビルプリーストに会ったことがあるか?」
「あの野郎に?…いや、会ったことねえでがすよ」

ヤンガスの答えに、ピサロは腕を組んでなにかを考え込むような表情を見せる。
なにか、引っかかることがあるのだろうか。
やがて、ピサロが口を開いた。

「私とエビルプリーストの関係は説明したな?」
「ああ、確か元部下だとかなんとか…」

情報交換にて、ピサロが魔族の王でエビルプリーストが裏切り者の元部下であるという話は聞いている。
最初にその話を聞いた時は驚いたし警戒もしたが、こちらに敵意はなく話してみるとそんなに悪い奴だという印象もなかったので、今はもうあまり気にしてない。

「そうだ、そして私やエビルプリーストが住む世界は、お前の住んでいた世界とは別だろう」
「それがどうしたでやんすか?」
「…何故、エビルプリーストはお前達の世界の大陸の一部を、殺し合いの舞台に選んだ?殺し合いの会場にするのならば、見知った土地の方がなにかと管理しやすいはずだ」
「…作りやすかったからとかじゃねえでがすか?」
「疑問はまだある。奴はかつて、私と勇者達一行に倒された。当然、こちらへの恨みは強いはずだ。それなのに、全員をこの場に連れてきていない」

かつて、エビルプリーストはピサロと導かれし者達によって倒された。
その恨みを晴らす為、自分やユーリル達はこの殺し合いの舞台に呼ばれたのだとピサロは考えていた。
しかし、ふと考えてみるとこの考えには一つの疑問が残る。
この場には、モンバーバラの姉妹であるマーニャとミネアが呼ばれていないのだ。
恨みを晴らすにしては、不徹底すぎる。

「ちなみにヤンガス、お前の旅の仲間にはこの場での欠員はいるか?」
「い、いや…兄貴にゼシカ、ククールにモリーの旦那、ゲルダ…姫さまとトロデのおっさん、それにトーポも…全員そろってるでがすよ」
「そうか」
「…旦那、何を考えてる?もしかして…」
「ああ、この殺し合いの黒幕はエビルプリーストなどではなく別の誰か…それも、お前とお前の仲間達と因縁のある奴らではないかと疑っている。そのような存在に、なにか心当たりはあるか?」
「…ないこともないでげすよ」

ピサロの話を聞いて、ヤンガスの脳裏には一つの影が浮かび上がる。
あいつが生きているなど、考えたくないが…

『諸君、ご機嫌は如何かな?』

放送が始まり、浮かぶエビルプリーストの顔。
その顔にあの忌まわしき邪神の顔を幻視したヤンガスは、うすら寒さを感じながら放送に耳を傾けた。


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