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ドラゴンクエスト・バトルロワイアルⅢ Lv6

1ただ一匹の名無しだ:2016/08/23(火) 21:28:42 ID:1wMv/96g0
こちらはドラゴンクエストのキャラクターのみでバトルロワイアルを開催したら?
というテーマの参加型リレー小説スレッドです。

参加資格は全員にあります。
初心者歓迎、SSは矛盾の無い展開である限りは原則として受け入れられます。
殺し合いがテーマである以上、それを許容できる方のみ参加してください。
好きなキャラが死んでも涙をぐっと堪えて、次の展開に期待しましょう。

まとめWiki
http://seesaawiki.jp/dragonquestbr3rd/

避難所
http://jbbs.shitaraba.net/game/30317/

前回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアルII
http://seesaawiki.jp/dqbr2/

前々回企画

ドラゴンクエスト・バトルロワイアル
http://dqbr.rasny.net/wiki/wiki.cgi
http://seesaawiki.jp/dqbr1/

DQBR総合 お絵かき掲示板
http://w5.oekakibbs.com/bbs/dqbr2/oekakibbs.cgi

52孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:38:50 ID:OBqYEFU20
糸状の閃光が七度、ククールの体に走った。
両手を斬り落とし、足首を絶たれたその体は傾き、胴体が綺麗に切断される。
最後に首を斬り落とし、ククールの体が綺麗に分割された。
その切断面は滑らかだった。 いや、滑らか過ぎるというべきか。
これが達人の技かと思うくらいに平面であり、まったくと言っていいほど骨や筋肉の抵抗がなかった。
そして、一番の特徴はその切断面からは血が一切吹き出てないということだ。
あまりにもおかしすぎた。
その時、ククールの死体が霧散する。
文字通り、霧のように溶けてなくなったのだ。

(やべえ!)

幻惑呪文。
いつの間にかヒューザはマヌーサの呪文を受けていたのだ。
散々透明化したククールによって苦戦させられた意趣返しをしようと、ヒューザがククールに時間を与えたのがそもそもの失敗。
戦場でそんな未熟さ、心の贅肉は命取りという他なかった。
ヒューザの足元に、いつの間にか魔法陣が生み出されていた。

「これが、俺の切り札だ!」

聞こえてくるククールの声。
上空から何かが降り注ぐ。

「天国への階段!」

その正体は幾条もの光による絨毯爆撃。
魔法陣内にあるすべての者に、浄化の光は降り注ぐ。
ヒューザはその威力を存分に味わうこととなった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!!」

声にならない叫びがヒューザから漏れる。
直前にマヌーサの呪文を唱えておいて正解だった。
あの時、キャンセルショットによってジゴスパークが中断させられた後、ククールも甘んじて天下無双を受ける理由はなかった。
スクルトで防御力を高めるのと、どちらにするか迷ったのだがマヌーサで正解だったようだ。
当たらない攻撃など、脅威には値しない。
あと一つククールが警戒することがあるとすれば、ランドインパクトのような全方位への攻撃のみ。
ここまで来て油断などしない。
ククールは念を入れて、シャニングボウをヒューザに向けて放った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



(強ぇ……)

薄れ行く意識の中、ヒューザは思う。
こんな時まで切り札を残していたとは。
メルビンに助けられてさえ、このザマなのだ。
接近戦では勝てたかもしれないが、そんなことはifの話に過ぎない。
勝負では如何に自分の得意を押し付け、相手の不得意な部分を付けるかがカギなのだから。
覚悟が違った。 重みが違った。 この殺し合いに対する熱が違った。
考えてみれば、自分には何もない。
エビルプリーストと因縁が深い訳でもない。

53孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:39:45 ID:OBqYEFU20
帰りを待つ家族もいない。
フレンドを作らなかったが故に、親しい友もいない。
一匹狼を気取っていた自分の自己責任だった。
剣に重さがないのだ。
ヤンガスたちと決別して、一人生き残る道を選んだククールの方がまだそういう覚悟があった。
ここぞという時の覚悟と気迫がヒューザにはない。
その差が如実に表れた戦いだった。 負けるのも当然だったのだろう。
そしてヒューザは、増え続ける疲労と怪我の痛みに負け、意識を手放しそうになる。



                 ヒューザ兄ちゃん!!
                 ……兄ちゃんはやめろ




心臓が熱く鼓動を打つ。
体中に熱が灯る。

(クソッ、何でこんな時にあいつのことを……)

ジュレットの町にいるウェディの少女、ソーミャ。
彼女はヒューザと同じ天涯孤独だった。
しかも、ヒューザよりもはるかに幼い年齢だった。
優しい少女だ。
捨てられた巨猫族のジュニアを拾い、母親として育てようとしていた。
結局、ジュニアは本来の母親の下へ返され、ソーミャはまた一人になった。
健気な少女だった。
天涯孤独となった彼女を心配して、近所の住民は時折世話を焼いてくれるかもしれない。
周りの人間は可哀想だと同情してくれるかもしれない。

しかし、彼女は一人だ。

家に帰れば、一人で住むには不釣り合いな大きさの家の中、一人ぼっち。
一人で食事をして、一人でその日の糧を得て、一人で寝ないといけない。
同じ境遇のヒューザはソーミャと約束した。 一人でも生きていくと。
だからヒューザはそれを証明していかないといけない。

頼れる相手がいるヤツはそいつに頼ればいい。
だが、いないヤツは自分が強くなるしかないのだ。
誰にも頼らず生きていけるように。
いつか愛する人と出会い、一人じゃなくなるその日まで、ソーミャは一人で生きていかないといけないのだ。

(あったぜ。 俺にも負けられない理由が!)

一人でも生きていけると、ヒューザはソーミャに証明し続けねばならない。
だから、こんなところで死んでられないのだ。
ソーミャの存在が、ヒューザの命の灯を賦活化させた。

「うあああああああああああああああっっっ!!!」

瀕死のダメージを受けたヒューザが、新たな力に目覚める。
テンションのオーラがヒューザの全身を包んだ。
武闘家などがテンションを自在に操る代表的な職業だと思われているだろうが、バトルマスターの存在も忘れてはならない。
テンションを操ることには関しては、バトルマスターも一家言持っている。
例えばとうこん打ち、そして例えばテンションブースト。

54孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:40:49 ID:OBqYEFU20
ヒューザはジェイコフに教えを受けたことはない。
しかし、ヒューザは自らの力でバトルマスターの新たな力、必殺技に目覚めたのだ。
テンションブースト。 その効果はテンションの即時充填。 
それ即ち、瞬時にスーパーハイテンションになるということ。
そしてスーパーハイテンションの効果はもう一つ。
体に起こっている状態異常を、すべて治療してしまうということ。
ククールから受けたマヌーサも、もはや用をなさない。

光の矢がヒューザに直撃する。 
が、貫くことはできない。

「何なんだ……一体何なんだ、お前はッ!」」
「ヤバそうな攻撃にやいば受けは基本だ。 覚えとけ」

ヒューザが口の中から血と唾液を吐きだす。
天国への階段も、ヒューザは棒立ちで受けていた訳ではない。
やいばの防御で受けていた。
そして、今のシャイニングボウもスーパーハイテンションによる防御力の上昇と、やいば受けの相乗効果で耐えきって見せた。
基本、とは言ってるものの、やいばの防御受けは極めて高度なテクニックだ。
それを平然と使いこなせるヒューザもまた、超一流の剣士だった。
ヒューザは両手の中にある武器の感覚を確かめる。
あと少しだけ、保ってくれよと強く握りなおした。

メルビンにも二度も助けてもらったのだ。
自分自身の情けなさに腹が立つ思いだった。
けれどもう、終わったことを悔いるのはやめよう。
ヒューザはもう無駄にしない。
メルビンがやったこと、ヒューザを守ってくれたこと、すべて忘れずに生きていく。
だって、ここで死んだらすべて終わりだ。
メルビンのやったことは本当に、無駄死にになってしまう。
泣くな。 涙を流すな。
お前はそんなキャラじゃないだろう?
いつものようにクールに、そしてその胸に宿った闘志だけは忘れずに戦う。
メルビンは後は頼んだ、と最期に言った。
ならば、ヒューザがメルビンに対して言えることがあるとすればたった一つ。

「じーさん……後は、俺に任せろ!」

負けられない理由がある。
託された想いがある
ただその思いだけが、今のヒューザを動かしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



刀とレイピアの切っ先が交差する。
瞬きの回数すら勝負を左右するほどのしのぎを削る戦い。
苛立ちが収まらない。
何度死にかけても立ち上がってくるこの男が目障りだ。

55孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:42:16 ID:OBqYEFU20
きっとククールはマルチェロを殺してしまった時に、心のどこかが壊れてしまったのだ。
あれは本当に時間の巻き戻されたマルチェロだったのか?
ジャハガロスとの戦いで駆けつけてくれたマルチェロの言葉は真実だろう。
だが、それですべてのわだかまりが消えた訳ではない。
あの時のマルチェロの拒絶もまた真実なのではないかと、確認するのが怖かった。
実力に差ができた今のククールになら、マルチェロを取り抑えることもできたのにだ。
だから、殺した。 これ以上見ないで済むように、臭いものに蓋をするかのように。

そして、あのマルチェロが時間を巻き戻されたかどうか、それは些細なことに過ぎないのだ。
ククールは兄殺しをしたその時からずっと、己の内に問い続けていた。
あのマルチェロは時間を戻されたかもしれないだって?
仮にそれが真実だとしよう。 だが、だとしたらどうなのだ。



時間を巻き戻されたマルチェロは、俺にとっていらない存在なのか?



思い出なんてまた作ればいいだけ。
アンタが俺のことを嫌っていても構わない。
だけど覚えていてくれ。 それでもアンタは俺の兄貴なんだと。
どうしてその言葉が言えなかったのだ。
いつもそうだ、自分は肝心な時に肝心なセリフを言えない。
結局、ククールのやったことは勝手なマルチェロ像を作り上げて、そのイメージと違うマルチェロを否定しただけ。
思い通りにならなかった現実を認めることが出来なかったのだ。

誰か傍にいて欲しかった。
ククールの悲しみに寄り添ってくれとは言わない。
ただ、この島は一人で行動するには寂しすぎた。
今になって気付く。
エイトをあれほどまでに仲間を引き込もうとしていたのもそのためだ。
あの四人の中でクリフトに狙いをつけたのも偶然ではなかった。
愛するお姫様への変わらぬ忠誠を示すクリフトが羨ましかった。
想い人が生きている人間が妬ましかった。
だから、ぐちゃぐちゃに引き裂いてやろうと思った。

「何なんだ」

苛立ちは剣の乱れとなって現れる。

「何だってこんなことになってるんだよ!」

マルチェロを殺してしまったことに対してなのか。
こうしてヒューザと戦い続けていることへなのか。
それともエビルプリーストに殺し合いをさせられていることに対しての嘆きなのか、それすらも分からない。

「知るかよ!」

誰にともなく口にしていたククールの言葉をヒューザが受け取った。

「てめぇが選んだ道だろ!? 何もかもてめぇの自己責任だろうがッ!」

56孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:43:35 ID:OBqYEFU20



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



癒しの光を帯びた斬鉄丸と堕天使のレイピアがぶつかり合う。
勝負はミラクルソードの応酬に移り変わっていた。
回復に時間を取られている暇はないが、逐一ダメージは溜まっていく。
その問題を解決しつつ、相手にも攻撃する。
攻防一体の奥義があと何回使えるかが、この勝負を左右していた。

血だらけのヒューザは剣を振るいながら思う。
きっとククールは己の世界を閉ざしてしまったのだ。
今生きている仲間を捨てて、思い出の中に生きることを選んだのだ。

(たまにいるぜ。 アストルティアにもそういう奴がな)

自らの可能性を信じきれなくなった冒険者。
悲しみを正面から受け止められずに、心を閉ざしてしまった人。
その日々を完全なルーチンワークにして、冒険者としての歩みを止めた者。
そこには人それぞれの事情があった。

そして、ヒューザもそんな中の一人だった。
思考を停止させた冒険者の一人だった。

夕方、町に夜の帳が落ちる時間。
民家の窓からは様々なものが漏れてくる。
温かい光。
美味しそうな夕食の匂い。
心温まる家族の会話。
途切れることのない笑い声。
その全てが、ヒューザには無いものだ。
だから、眩しすぎて逃げた。
自分には一生関係ない、興味ないと、酸っぱいブドウ理論で誤魔化した。

違う。
認めてしまう。
自分はただ強がっていただけだと。
だから、自分はソロで冒険をしていた。
メルビンとの会話で、否応なくそれを自覚させられた。
本心は、誰よりも家族を求めていた。

「!?」

斬鉄丸から癒しの光が失われる。
ついにヒューザのMPが切れたのだ。
天下無双やランドインパクトなどの大技の連発。
そしてここに来てのミラクルソードの連続使用。
それが祟ったのだ。
ヒューザはもうミラクルソードも天下無双も使えない。
使えるようになるには、宿屋等での熟睡が必要だ。
そしてそれを待ってくれるククールではない。
俄然レイピアの鋭さが増した。
そして堕天使のレイピアには未だにミラクルソードの光が宿っている。

57孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:45:49 ID:OBqYEFU20
「ぐうっ!」

ヒューザが苦悶の声を上げる。
ククールの攻撃が一層苛烈さを増した。
しかしこれでいい。 
これこそがMPも消費し尽くしたヒューザの狙いなのだから。
斬鉄丸を掲げて精神を集中させる。

(何だ?)

ヒューザの行動があまりにも無防備過ぎた。
そのことにククールは違和感を覚える。
いや、しかしそんなことを気にしてる暇はない。
隙ができたのならそこをついていくしかない。
突きだしたレイピアはあまりにもすんなりとヒューザの防御を掻い潜る。

そして、堕天使のレイピアは吸い込まれるようにヒューザの心臓に突き刺さった。

刺さったままの堕天使のレイピアから血が滴り落ちる。
その質感は紛れもなく本物である。
マヌーサによる幻惑の線も疑ったが、そもそもヒューザは今に至るまで一度も呪文を使ってない。
そもそもヒューザの行動にブラフでもない限り、ミラクルソードの使用でガス欠を起こしてるはずなのだ。
ククールがレイピアを抜こうとしたその瞬間、ヒューザの瞳に力が宿る。

「もろば――」

肉を斬らせて骨を断つという言葉がある。
その特技は、そんな言葉を体現したかのような危険極まりない特技であった。
自らへのダメージも省みることなく、ただ敵への攻撃を優先させたその一撃。
天下無双と並んで、バトルマスターを代表する特技がある。
その名は――

「――斬りぃ!!」

もろば斬り。
その威力とは裏腹に、消費MPは0。
多大なるリスクを背負う代わりに、破格の威力を持つ特技である。
逆袈裟に振るわれた刃は、完全に油断しきっていたククールの体を深く切り裂いた。
そして忘れてはいけない。
ヒューザは二刀流だということを。
続いて左手のハンマーが、ククールの体の骨という骨を砕いた。

(こんなだから……俺……兄貴に……)

ククールの体から力が抜ける。
結局、最期まで己を貫くこともできず、途中に惨めに倒れて。
それでも、やっと終れるんだと思った瞬間。
何故か、ククールは笑った。
覚めない悪夢から今、解放されたかのように。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

58孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:46:18 ID:OBqYEFU20
ヒューザが自身の胸に刺さったレイピアを抜いた。
その体からは噴水のように血が吹き出ていた。
もろば斬りでククールを仕留めることができたものの、その代償はあまりにも大きい。

たった一度仕留めるのに、数回死にかけた。
実力の差はそれほどまでに開いていた。

(俺もまだまだってことか……)

メルビンを失ったこと。
自身の傷の事。
この後どう動くか。
ヤンガスにこのことをどう伝えるか。
考えることは山ほどあった。
それでも――

(眠ぃ……)

彼の体力もまた、限界を迎えていた。
心臓を串刺しにされた体はもはや、その生命活動を維持できなくなっている。
そして、ヒューザもまたククールと同様に、力尽き倒れた。

そして、その瞬間。

ヒューザの体から天使の羽根のようなものが生まれた。
天使の羽根から発せられた燐光が優しくヒューザを包み込み、傷口を塞ぐ。
止まっていた心臓も、再び規則正しくリズムを刻み始めた。

説明が最後になったが、ヒューザの持つハンマーについて語ろう。
そのハンマーはハンマーであるにも関わらず、パラディンには人気が出なかった。
軽すぎたのだ。
ハンマーとしての異例の軽量さに、重さを求めるパラディンは難色を示したという。
しかし、そのハンマーはバトルマスターと道具使いには人気が出た。
その威力と特殊効果が、この二つの職業には好評だったのだ。
ハンマーでありながらパラディンには売れることなく、そしてそれにも関わらず異例のロングヒットとなったその商品。

その名は、天使の鉄槌。

低確率で天使の守りを発動させる、天使の祝福を受けたハンマー。
この効果が発動しているが故に、ヒューザは最後もろば斬りに踏み込んだのかは定かではない。
ただ一つ確かなことは、ヒューザはソーミャとメルビンとの約束を破らずに済んだ、ということだ。

きっといつか、ヒューザは愛する者を見つけ家庭を持つのだろう。
そしてその時こそ、彼は本当の強さを手に入れるのであろう。
彼の剣技は未だ未完成なのだ。
忘れてはならない。
彼は愛するものを守る時にこそ全力を発揮する種族。
水の民ウェディ、なのだから。

【メルビン@DQ7 死亡】
【ククール@DQ8 死亡】
【残り63名】

59孤高の剣技、未だ道険し  ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:46:41 ID:OBqYEFU20
【E-4南/森林/1日目 昼】

【ヒューザ@DQ10】
[状態]:気絶 HP1/10 MP0
[装備]:名刀・斬鉄丸@DQ10 天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式 支給品0〜2
[思考]:仲間(特にジャンボ)を探す これからどうするか考える


※E-4街道付近に血まみれのぬいぐるみ(DQ3)が落ちてあります。
※メルビンの遺体付近にバニースーツ(DQ10) 支給品一式が落ちてあります。
※ククールの遺体付近に 堕天使のレイピア オーディンボウ@DQ10 矢×9 支給品一式×2が落ちてます

60 ◆CASELIATiA:2016/08/28(日) 18:47:59 ID:OBqYEFU20
投下終了しました
途中で気づきましたが

>ベギラゴンとバギクロスが互いに消え去ったあとに残っていたのは、エイト、アルス、ククール、ブライの四人のみ。
 
ここのククールはクリフトでした、すいません。
wiki収録時に修正しておきます

61ただ一匹の名無しだ:2016/08/28(日) 19:58:27 ID:AIxiMct.0
投下乙です!
クリフト、メルビン、そしてククールが逝ったか…
後を託そうとした若者のクリフトを失った老人ブライと、若者に後を託して死んだメルビン
二つの戦いの結果が、こうも真逆なことになるとは…

そしてヒューザとククールの戦いが凄かった
どっちも持てる力の全てを出しきって、最後までどっちが勝つのか読めない大激戦でした!

ククールは…やっぱあの時マルチェロを殺したのは不可抗力じゃなく逃避の部分が強かったんだなあって思った
その逃避のツケが、ここに来て回ってしまったというわけか…

大作の投下、改めて乙でした!

62 ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:02:21 ID:jF34svGc0
投下乙です
それぞれのキャラや関係、支給品までフル活用していただいて嬉しい限り
最期まで純粋に姫を想って逝ったクリフト、マルチェロを殺してそのまま殺しに生きたククール、二度ククールに立ちはだかり大往生を遂げたメルビン、1stと対になる部分が多くて面白さ二倍です

では私も投下しますね

63生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:03:50 ID:jF34svGc0
あたしにとっての世界は、いつだってアルスとキーファ、幼馴染三人でいるものだった。
ありがとうも楽しいも、いつも素直に言えなかったし、その頃から流されていただけかもしれないけれど。
グランエスタード島よりもずっとずっと小さくて、でも、あたしにとってはずっとずっと大きな世界が、そんなに嫌いじゃなかった。
封印されていた島が復活してグランエスタード中が大騒ぎになっても、“あたしの世界”は何も変わらなかった。
だって、あたしたち三人は、それでも一緒だったんだもの。

あたしの世界が急に壊れたのは、キーファがユバールの守り手になると言ってあたしたちと違う道を歩み始めた時。
今までずっと一緒だったのに、なんでそんなにあっさり別れを決意できるの?
あんたの家族は、あんたのパパや妹はどうするの?
もう二度と会えなくても平気なの? 家族とも、あたしたちとも。
言いたいことはたくさんあった。
その鼻先に指をびしっ!と突き付けて、ぶつけたい言葉がたくさんあった。
でも、あいつが――アルスがあまりにもいつもと変わらない調子で、なんでもないことみたいに頷いてて。
なんだか、わけが分からなくなって、あたしが冒険してる理由も、よく分からなくなって――

世界が崩れる音は、聞こえなかった。
だって、気付いた時にはその形を保っていなかったんだもの。





「何れ全ては滅ぶ? 当ったり前でしょ。そんなこと、偉そうに言われるまでもないわ」

でもね、とその目に、言葉に、怒りを込めて、マリベルは男を睨む。
面が取れてみれば、その顔は確かに名簿に載っていた気がする。
視界の隅に赤く汚れた刃が入り、眉間の皺は深くなる。

「だからこそ、人は精一杯生きるのよ!
 だからこそ、人の命を踏みにじって嗤うアンタが許せないのよ!」

アイラ。
ユバールの踊り手。
キーファの子孫。
マリベルにとって、ちょっとだけ特別な仲間。
唯一の同性の仲間で、数少ないキーファとの繋がり。
そして、マリベルの世界を繋ぎ止めてくれた人。

「そんなこと言ったら、みんな、みんな一緒じゃない。生まれて、生きて、死ぬんでしょ?
 あたしだってそう、生まれて、生きて、死んでいくわ。アンタだってそう、生まれて、生きて、死ぬんでしょ?」

アルスと共に様々な時間軸の様々な場所を訪れて、マリベルは様々な人と出会ってきた。
例えば、ウッドパルナで出会ったマチルダ。
例えば、グレンフリークから去っていったペペやリンダ。
誰しもが、それぞれの想いを胸に懸命に生きていた。

「そんな風に言うんじゃないわよ! 人の人生を、そんな風に要約するんじゃないわよ!
 誰かが生きた軌跡は、簡単に要約していいもんじゃないわ!」

兄を想う故に魔王と契約を交わし、しかし最後には抵抗することなく死んでいったマチルダ。
互いに想っていながらも結ばれることなく、命を落として漸く寄り添えたペペとリンダ。
何れ滅ぶべくして消えた命などと、そんな一言で簡単に終わらせろとでもいうのか。

64生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:04:23 ID:jF34svGc0
 
ユバールの踊り手だったアイラ。
オルゴデミーラを倒して、世界に平穏を齎して。
魔王復活の引き金を引くことになってしまったという事実から漸く解放されて。
これからアイラという女性の、本当の人生が始まるはずだったのに。
突然殺し合いに巻き込まれ、訳も分からないまま命を奪われ、挙げ句悼まれることすらなく、なんでもないことのようにあしらわれて。
そんな理不尽を許せとでもいうのか。



人は誰かになれると誰が言ったか。
みんなみんな、ただ生まれて、生きて、死んでいくだけの人生だというのなら、成程それは簡単なことだろう。
しかし、そうではない。人は誰かと同じ人生は歩めない。
同じ故郷に生まれ、冒険を共にしたアルスですら、マリベルと同じ人生ということはない。
未来には無限の可能性がある。もしかしたら、昔の自分とは違う、それこそ違う“誰か”のような生き方をするかもしれない。
それでも、歩んできた道は違うのだ。

何れ滅ぶ結末が同じというだけで一まとめにして、だからどうしたというハーゴンを、マリベルは許すことができなかった。



ギィン!と金属音が響く。
大鋏に受け止められた剣を素早く引いて、再び突き出すも、今度は切っ先を逸らされバランスを崩す。
慌てて振り返って横向きに剣を構え、背に致命傷を負わせようとしていた刃を弾き返した。

「ひ弱な小娘と思ったが、中々の反射神経ではないか」

焦りも同様も見せることなくその動きを評する様に、ますます苛立ちが募る。
しかし怒りに任せた攻撃は、混乱が解けて冷静な判断力を取り戻したハーゴンに通じることなく受け流される。
ギリ、と歯噛みするマリベルに、ハーゴンは余裕のある態度を崩さない。

冒険の中で人々の想いを見てきたマリベルと、破壊神の召喚を望むハーゴン。
全く違う世界を見て、全く違うことを感じてきた二人の対立は必然だったのかもしれない。
深い溝をなんとなく感じてか、マリベルの怒りは鎮まる気配を見せない。

65生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:04:58 ID:jF34svGc0
 
再び距離を詰め、剣を傾いた十字に振るう。
一撃目は大鋏で防がれ、肩を傷付けようとした二撃目は僅かに身を引く簡単な動作で避けられた。
標的を失い崩れかけた重心を強く足を踏み込むことで安定させ、振り向きざまに魔神の如き一撃を繰り出す。
ハーゴンの背に吸い込まれた攻撃は彼を前のめりに押しやったが、振り向いたその顔にマリベルは固まる。
強力な一撃を受けて少しばかり苦しそうな息は混じっているものの、その口は未だ弧を描いていた。
やや引いた血の気と共に、微かに頭が冷えるが、それに気付くのが遅かった。
魔力が練り上げられ、空気が震えている。
いつから詠唱していたのか分からないが、マリベルの振り向きざまの一撃が入ったのは、魔法の構築にも集中力が割かれていたからなのだろう。

「動きも一撃の重さも中々だ。だが……熱くなりすぎたようだな、娘」

更に口角を上げて、ハーゴンはイオナズンを唱える。
防御も回避も間に合わず、マリベルは真正面から爆発をその身に受け、屋敷の壁に叩きつけられた。

「っの、やろ……」

髪や服が所々焼け焦がれ、正面の熱と背の痛みに顔を歪めながらも、マリベルはハーゴンを睨み付ける。

「ふむ、まだ戦意は衰えぬか。そんなにあの女に思い入れがあるのか?
 所詮全てはいつか滅ぶ命、世界から見れば取るに足らない存在だというのに」
「そんなこと、知らないわよ! アンタから見える世界はそうだとしても、あたしにとっては大事な仲間なのよ!」

勢いよく立ち上がって剣を構え、ハーゴンに噛み付く。

かつてキーファと別れてから、マリベルは自分の世界が壊れたように感じていた。
それを思い直したのは、アイラと出会ってから。
アイラがキーファの子孫だと知って、もう会えなくなったけれど、それでも繋がりは残っているのだと分かって。
どこか懐かしい気配と共に歩んできた道を振り返ってみれば、アルスとキーファ、三人で過ごしたマリベルの世界は、確かに残って、今に続いていた。
世界が崩れる音は、聞こえなかった。
だって、世界はその形を変えただけで、今までのものがなくなったわけではなかったのだから。
ハーゴンの言うように、世界から見ればどうということでもないのかもしれない。
それでも、マリベルにとっては大切な存在だったのだ。
アイラに出会えたからこそ、変わっていく世界の中でも変わらないものを見つけられたから。

構えた剣を振りかぶり、再びハーゴンに斬りかかろうと駆け出していく。

「マリベルさん! 挑発に乗っては……!」
「口出ししないで、サフィール!」

勢いよく攻勢に出るマリベルを見ていられなくなったのか、サフィールが思わず声をあげるが、マリベルは見向きもせずに叫ぶ。
大鋏で弾かれようと幾度も剣を振るい、詠唱する隙を与えない。
ハーゴンもそれを悟ってか、先程よりも鋭い攻撃を繰り出す。
一方が武器を振るえばもう一方は防ぎ、若しくは受け流して反撃に転じ、その反撃を避けて更にカウンターを叩き込む。
その攻防は正に一進一退。拮抗した刃物と刃物のぶつかり合い。
決着がつくとしたら、体力や精神力、様々な要因で保たれたバランスが崩れた時だろう。

66生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:21:41 ID:jF34svGc0
 
どれだけ打ち合った頃か、肩で息をしながらマリベルは素早く斜めに剣を振り下ろす。
その軌道は先も見た隼と気付き、ハーゴンは難なく受け止める。

「二度目の技か。芸がない」
「そうね、二度目の技よ。でも、このマリベル様がバカの一つ覚えみたいな真似するわけないでしょ!」

防がれた一撃目から二撃目に移らず、一気に重心を落として足払いを仕掛ける。
剣撃にばかり備えていたハーゴンは咄嗟にそれを避けることができず、足を掬われた。
その隙を見逃さず、魔神斬りを食らった箇所目掛けて回し蹴りを放ち、その勢いのまま身体を回転させ正拳突きも見舞う。
傷に直接打撃を入れられ流石に堪えたのだろう、ハーゴンは呻き声を上げながら振り返る。
その目に映ったのは、既に剣を振りかぶっているマリベルだった。

みるみる剣が炎を纏っていく。
かつてキーファが幾度と放っていた火炎斬り。
その炎は剣の軌道を彩り、燃やし尽くさんと標的に迫る。

ダーマの危機を救って転職をできるようになってすぐの頃、マリベルはキーファの影を追うように彼が愛用していたその技を覚えにいった。
やがてただ追いかけるだけなんて自分らしくない、いっそキーファを追い越してやると思い直して、火炎斬りを覚えてすぐバトルマスターを目指したけれど。

キーファとの繋がりを、キーファの子孫を消し去った男に、キーファの技で天誅を下さんと剣を握る手にありったけの力を込める。

「でやあああぁぁぁぁぁ!!」
「――マリベルさんッ!!」

身体を呑み込み、燃え上がり、炎は全てを焦がしていく。
カランと音を立てて武器を取り落とし、次いでドサリと膝をつく。
まるで収まっていく炎に合わせるかのように……マリベルは地面に倒れ込んだ。

67生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:22:35 ID:jF34svGc0
 


「私は構いはしないが、横槍を入れるとは不躾なものだな」
「知ったことではないさ。ローラよりも優先するべきものなど、ありはしない。
 さて、これで一人か」
「イイエ、マダ彼女ノ生命カツドウハ停止シテイマセン」

突如として現れたのは、アベルに言われるままにリーザス村を訪れたアレフとジンガーだった。
ジンガーの冷静な分析にアレフは舌を打つも、立ち上がらない様子に時間の問題だろうと結論を下し、次に狙うべき標的を思案する。
ベギラマの炎で覆った少女の他には、黒い衣に風変わりな武器を手にする男と、ローラを人質に取ったあの男とそっくりな黒髪の少女。
合わせて丁度三人。アベルに突き出された数だ。

「どうして、こんなことを……!」

どちらから殺そうかと考え始めた時、黒髪の少女が口を開いた。
マリベルは止めてくれるなと、口を出すなと真剣な瞳で訴えていた。
それだけに、サフィールは突然の乱入に黙ってなどいられなかった。

「どうしてマリベルさんの想いを踏みにじるようなことを……!」
「誰がどんな想いを抱えてようと関係ない」

しかしアレフは冷たい目で、冷たい声で、ばっさりと斬り捨てる。

「ローラをあのターバンの男から取り戻す為だ。他の者は関係ない」
「え……?」

ターバンの男。サフィールは耳を疑った。
サフィールの家族の――父親の特徴と同じだったから。

「ターバンの男って……まさか」
「……あの男の知り合いなのか」

一層鋭くなった瞳で、アレフはサフィールが聞きたくなかった名前を紡ぐ。

「あの忌々しい……アベルという男の知り合いなのか!」
「ッ‼」

サフィールの脳裏に、かつての旅路の中で時折見せていた父の顔が浮かぶ。
何かに耐えるように、思い詰めるかのように、苦しんでいることがあることに、サフィールは気付いていた。
ミルドラースを倒して、世界に平穏を齎して。けれどアベルは父親と母親を、サフィールからすれば祖父と祖母を失うという、大きすぎる犠牲を払ったのだ。
両親も兄も無事に生きて、加えて自分は流されるように共にいただけという自覚も手伝って、下手に慰めることなどできなかったけれど。

もしかしたら父親は、このゲームに乗ってしまっているのだろうか。
サフィールも僅かに考えてしまったように、甘言に惑わされてしまったのだろうか。

「アベルというのは、私のおとうさんです。お願いです、聞かせて下さい! 一体、何があったんですか!?
 おとうさんは……あなたに何をしたんですか!?」

鎧の男は、目の前でマーサを殺された時の父親と似たような目をしている。
自分が彼の家族と聞いて、憎悪の色はより濃くなった。
もしも父親が自身と同じ苦しみを誰かにばらまいているのなら、家族として受け止めなければならない。
怒りに満ちた男の目は恐ろしいけれど、サフィールはまっすぐに視線を受け止めた。

68生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:23:04 ID:jF34svGc0
 
「そうか、あの男の娘か。なら……しっかり聞いてもらおうか。あの男が俺たちに……ローラに何をしたのか!」

足早にサフィールに歩み寄り、その髪を乱暴に掴んで、アレフは語り出す。
サフィールが痛みに涙を浮かべてもお構い無しに、アベルの凶行を並べ連ねる。
アレフとローラを手下に襲わせたこと。
ローラを人質に取り、一方的にアレフを痛め付けたこと。
アレフとローラの関係を見抜き、ローラの唇を奪い、助けたくば南で三人殺せと言われたこと。
アレフの語調が段々と強くなっていったことも相俟って、その事実の数々はサフィールに重くのしかかった。

(おとうさん……なんで、そんなことをするの……?
 おとうさんのおとうさんやサンチョに、良き人間であれと教わってきたって、私たちに教えてくれたのに……)

アレフが無造作にその手を離し、サフィールはその場に崩れ落ちた。
ぐるぐると回る頭を押さえて立ち上がろうとすると、喉元に剣を向けられ、慌てて動きを止める。

「恐らく、俺が焼き払った少女の仲間なんだろう。ジンガーが言うには、あの少女はまだ息があるらしい。
 お前が父親に代わって命を差し出すのなら、見逃してやってもいい」
「え?」
「但し、楽には死なせないがな」

突然の申し出にサフィールは目を丸くする。
大切な人の為に三人殺さねばならないと言っていたのに、何故見逃すなどと言うのだろうか。
アベルの娘というだけでそれすらも凌駕してしまうほど、父親を憎んでいるのだろうか。

「私が死ぬことで、あなたの、おとうさんへの憎しみは消えるんですか……?」
「ローラを取り戻すまで消えはしない。が、いくらか溜飲を下げるくらいにはなるだろう」
「マリベルさんの命は、保証してくれますか?」
「手練れではないが、回復呪文の心得もある。何なら、殺す前に目の前で治療してやるさ」
「なら……」
「サフィールッ!!」

アレフの提案を呑もうとしたサフィールに、気の強い声が飛んでくる。
はっとして振り向くと、全身をボロボロに焦がしながらも、辛うじて立ち上がったマリベルが二人を睨み付けていた。

「マリベルさん!」
「その状態でまだ立ち上がるか。とんだ執念だな」
「うるっさい、わね……簡単にやられて、たまる……もんですか……!」

先程よりも更に酷い火傷の跡や、ズタボロの衣服。
虚勢を張っていることは誰の目にも明らかではあるが、それでもマリベルはアレフに舌を突き出し、サフィールに向き直る。

「サフィール、こんな奴の言うことなんて……聞いちゃダメよ」
「で、でも、マリベルさんが……!」
「あたしのことはいいの!!」

一際大きい声を出して咳き込むマリベルに、サフィールはびくりと肩を震わせる。

「サフィール、正直に……答えなさい。アンタのパパが、酷いことを……したって、聞いた時、どう思った?」
「え、ど、どうして、そんな酷いことを……って」
「それだけ?」
「……」

霞んだ声とは裏腹に、その瞳は力強く見つめてくる。
マリベルに促されるままに、サフィールは口を開いた。

69生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:23:44 ID:jF34svGc0
 
「止めなきゃ、って……おとうさんが道を誤ったなら、家族である私たちが、止めないきゃいけないって……」
「なら、行って……やりなさい。アンタの、パパの……ところに」
「でも、マリベルさんを見捨てることもできません!」
「アンタがここで死んでも、同じに……決まってる、でしょ。その鎧男に、私を生かしておく……理由なんてないもの」
「でも……!」
「行きなさい、サフィール! 後悔……したくない、なら!」
「私だけここを逃れても、私きっと、後悔します……!」

マリベルが村の出口の方向を指さす。
同時にアレフが剣を引く。

「アンタ、あたしに、流されてみる……って、言ったでしょ!」
「!」
「逃がすものか!」

アレフが剣を突き出すよりも僅かに早く、サフィールが動いた。
涙を溢して、村の出口へと走る。
同時に動き出したマリベルは、残り少ない力を込めて、サフィールにふくろを投げ渡し、彼女を追いかけようとするアレフにかまいたちを放つ。
鋭い風がアレフの足を傷付けるのと同時に、立っていられる力すらも使い果たしたマリベルはその場に倒れ込んだ。

「悪あがきを……!」
「お生憎さま、あたしは諦め、悪いの……よ」

それでも尚減らず口を叩くマリベルに歯軋りするが、サフィールに向き直り魔力を練る。
傷付いた足では追うのは難しいが、魔法ならまだ届くはずだ。

「! サフィ、ル……! 」
「ベギラマ!」

先程放ったものと同じ魔法を放つ。
しかしマリベルの声がギリギリ届いたのかいち早く魔法の気配に気付いたのか、振り返ったサフィールは素早くマホカンタを唱えてベギラマを弾き返し、再び走り出す。
顔を歪めて自らの炎に呑まれるアレフと、振り向かないよう堪えて走るサフィールを見て、マリベルは笑みを溢した。



アイラ、ごめんね。敵、討てなかったわ。
もう、体が動かないもの。もう一度あの男と対峙するなんて、できっこないわ。
でもサフィールを送り出したのは、後悔してないわよ。
あたしだって、あの時パパを放って他のやりたいことに集中してたら、後悔してたかもしれないもの。
あの子だって、きっとそう。

あーあ、あたしも結局、生まれて、生きて、死んでいくのね。
ああ、でも、でも。
アルス、キーファ、サフィール。
あたしが死んでも、あたしのこと、覚えててくれる?
生まれて、生きて、死んでいく。 言ってしまえば、それだけだけど。
フィッシュベルで生まれて、流されるように生きて、サフィールを流して死んでいった、ひとりの女の子がいたって。
覚えてて、ほしいな。
だって、 あたしは、誰かの人生と一緒くたに要約されるのなんて、絶対に嫌だもの。
ねえ。

「お、ね……が……」

70生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:24:14 ID:jF34svGc0
 
命の火が尽きる瞬間に溢れた音は、誰にも届かなかった。
剣を携えて目の前に立つアレフの耳には届いたけれど。
ローラで埋まる彼の心には届くはずもなかった。
サフィールを取り逃がした怒りを込めてか、勢いよく剣を振り下ろすアレフの姿がマリベルが見た最後の光景だった。





密かにアルバート家の屋敷の前から移動し、ハーゴンは民家の裏に隠れ、背に受けた傷を治療していた。
殺しに躊躇いはないが、ハーゴンが目指すのはあくまでゲームからの脱出。
無論振りかかる火の粉は払うが、積極的に戦いに身を投じるのは避けるべきだろう。
それに何より、乱入してきた二人組。
かつて竜王をたった一人で退けた、ロトの血を引く勇者アレフ。
そしてハーゴンは見知らぬ個体だが、キラーマシンを思い起こす機械の敵。
人質を取られたと言っていたアレフのみなら、マリベルのように挑発することもできるだろうが、それを補うかのように感情を持たず常に冷静な判断をできる機械という隙のないバランス。
戦うことでは得策ではないと判断するには十分だった。
できることなら村の外まで逃げておきたかったが、傷がじわじわと痛みを訴え始め、一度足を止めざるを得なかった。
マリベルを侮り回避を疎かにしていた己を恥じる。
真っ直ぐな怒りをぶつけてくる彼女に、無意識に乗せられていたのだろうか。

「完治には程遠いが、動くにはこれくらいで十分か。後はここを離れてやれば……」
「ソノ必要ハアリマセン」
「!?」

背後から聞こえてきた無機質な声に、ぞわりと身の毛がよだつ。
機械を相手に目を盗んで隠密行動など、できるはずがない。
そんなことは分かっていた。だからこそ、治療も最低限にしてこの場を離れようとしたというのに。
もう見つかってしまうなど。

「コノ場カラ逃ゲル必要ハアリマセン。命尽キレバ、意味ノナイコトデス」
「く……!」

ハーゴンが大鋏を構えるよりも先にその懐に潜り込んだジンガーが、その片腕を斬り落とす。
苦悶にのたうつ間もなくメガトンハンマーを足に打ち付けられ、ひしゃげたそれでは体を支えられず尻餅をついてしまう。
この上ない程の隙である。にも関わらず、ジンガーはその剣をハーゴンに振り下ろさず、くるりと背を向けた。

「何故とどめを刺さない……見逃そうとでも言うのか」
「イイエ、アレフヲ呼ンデクルダケデス。私デハナク彼ガ三人、殺サナケレバナリマセンカラ」

一刻モ早クマスターノ元ニ戻リ仕エル為ニモ。
そう言い残して去っていくジンガーに、ハーゴンは顔を歪める。
片腕を失い、足を潰され、しかしどちらも致命傷にはなりえない程のもので、その意識ははっきりとしている。
ジンガーが意図してやったことかは定かではないが、ハーゴンに焦燥と恐怖、そして絶望を与えるには十分なものだった。

71生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:24:49 ID:jF34svGc0
 
――いっそ意識がなければ、僅かな時を永遠のように感じる苦痛もなかったのに。
――いっそ四肢を全部失っていれば、回復を間に合わせて逃げようという絶望的なまでに僅かな希望を見出だしたりはしなかったのに。
――いっそその場で殺されていれば、処刑を待つ罪人のように惨めな最期を想像しながら、残った時を惨めに生きたりしなかったのに。

ジンガーに連れられたアレフが現れてその剣を引くまで、ハーゴンは希望が残された絶望という苦痛の時を味わい続けた。
大神官ハーゴン。何れ全て滅ぶと言い切った彼もまた、生まれて、生きて、そして死んでいった。










走る。走る。
涙を拭うことなく、ふくろをぎゅっと抱き締め、サフィールは走る。
目の前で父を殺されたという父親も、かつてこのような気持ちだったのだろうか。
自分がもっと周囲を警戒していれば。
自分がもっと早く乱入者に気付いていれば。
自分にマリベルを守って彼らと戦えるほどの力があれば。
頭に浮かぶのは、そんなことばかりだ。

(マリベルさん、ごめんなさい……ごめんなさい……!)

それでも、北へ向かう足は止めない。
マリベルは命を懸けて自分を流してくれた。
ならばその想いを無駄にしないことが、自分がマリベルにできる唯一の手向けだ。

(絶対に、絶対におとうさんを止めてみせます……マリベルさんの行動を、決して無駄にはしませんから……!)

それは懺悔なのか、決意なのか。
振り返らないように、一心不乱に駆けていく。
流れ落ちる涙だけが、名残惜しそうにリーザス村の方へと消えていった。



【マリベル@DQ7 死亡】
【ハーゴン@DQ2 死亡】
【残り61名】

72生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:46:01 ID:jF34svGc0
 


【I-5/リーザス村/1日目・昼】

【アレフ@DQ1勇者】
[状態]:HP1/3、ショック
[装備]:光の剣
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考]:ローラを取り戻す為参加者をあと一人殺す

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:オールグリーン 人型(海底宝物庫の兵士風の姿)
[装備]:灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルの命によりアレフと共闘および監視


【I-6/平原/1日目・昼】

【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     ゲームに乗ったというおとうさんを止める

73生まれて、生きて、死んでいく  ◆jHfQAXTcSo:2016/08/28(日) 23:46:43 ID:jF34svGc0
以上で投下終了です
指摘、誤字脱字などありましたらよろしくお願いします

74 ◆jHfQAXTcSo:2016/08/29(月) 00:13:06 ID:wISB4Lcg0
すみません、MPと怪我の表記を忘れていました
 


【I-5/リーザス村/1日目・昼】

【アレフ@DQ1勇者】 
[状態]:HP1/3、MP4/5、足に裂傷、ショック
[装備]:光の剣 
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ローラを取り戻す為参加者をあと一人殺す

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】 
[状態]:オールグリーン 人型(海底宝物庫の兵士風の姿) 
[装備]:灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5 
[道具]:支給品一式 
[思考]:アベルの命によりアレフと共闘および監視


【I-6/平原/1日目・昼】

【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:MP微消費
 [装備]:
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、確認済み道具(1)、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     ゲームに乗ったのであろうおとうさんを止める

状態表はこちらになります

75ただ一匹の名無しだ:2016/08/30(火) 20:17:20 ID:PO7N6Zwg0
大作が一気に三つも!
皆様投下乙です

>『かつて』と『これから』
消え去り草を範囲呪文で攻略するという発想は成程と思わされました
一度は頭が冷えたブライも、放送後にはアリーナの死を知ることになるわけで、今後どう転ぶか見物ですね

>孤高の剣技、未だ道険し
まさかのククール連戦
二転三転する戦況は最後まで結末が読めずにハラハラしました

>生まれて、生きて、死んでいく
アベルの凶行を知ってしまったサフィール
果たして娘の説得は父の心を変えられるのか
…更なる悲劇フラグにしか見えないのは気のせいですね、はい


あと、二点程気になることが
「孤高の剣技、未だ道険し」にてメルビンが取りだした名刀・斬鉄丸と言うのはどこから出てきた物なのでしょうか?
前話を見てみると、メルビンは元々武器を持っていませんでしたし、
ヒューザの支給品も天使の鉄槌の分しか減ってないので、数が合わないようなのですが

もう一つ、同作品ラストにある、ククールの遺体付近の放置支給品から「道具0〜2個」という記述が消えてますが、
これは書き忘れ等ではなく、もう不明支給品は残っていなかったということでいいですか?

ざっと読み返してみましたがこれらに関する描写は見当たらなかったので指摘させて頂きました(見落としてたらすいません)
細かいことを聞くようで申し訳ないのですが、ご確認お願いします

76ただ一匹の名無しだ:2016/08/31(水) 02:09:10 ID:DelStbcg0
グランドクロスと天国への階段両方使えるククールはカリスマスキル120?

77 ◆CASELIATiA:2016/08/31(水) 18:35:30 ID:3ITG1Jk60
すいません回答が遅れました
昨夜の時点で問題は認識しておりましたが、したらばが不安定なため書き込みできなくてこの時間になってしまいました。

メルビンにはもう不明支給品なかったですね。こちらの確認不足です、すいません。
斬鉄丸はヒューザの支給品で、武器のなかったメルビンに渡した、ということにしたいと思います

ヒューザの不明支給品を0〜1に変更
斬鉄丸はヒューザから受け取った武器であることをwikiの作品内で追加しておきます。

>ククールの遺体付近の放置支給品から「道具0〜2個」が消えている
これは単純にコピペミスでした 
こちらもwiki上にて修正します


>グランドクロスと天国への階段両方使えるククールはカリスマスキル120?
こっちは指摘かどうか微妙なのですが、一応答えておきます。
海外版やリメイク版では使えてたor使えなかった、というのは大した問題ではないと思いましたので両方使えるようにしてます

78 ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:10:49 ID:1kcz4zfU0
投下します

79なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:12:06 ID:1kcz4zfU0
スクルドは思わず息をのみ、後ずさりした。
目の前にいる男は、一見人のように見える。
しかし、それは人にあらず。
赤い体色、人間離れした筋肉隆々とした体つき。
そしてなにより、全身から放たれる殺気と威圧感。
それらすべてが、目の前の人物が人間ではない、異形の存在だという事を主張していた。

(強い…)

一目見てすぐ、スクルドは理解した。
目の前の人物、いや魔人には勝てない。
アークやポーラ辺りならともかく、後方支援特化の自分がまともに戦える相手ではない。

「一つ聞く。お前は私を満足させることができるか?」
「ま、満足とは…?」
「私を満足させる戦いができる存在かと聞いている」
「わ、私は後方支援の僧侶です。あなたの期待には応えられないと思います」
「…そうか、それは残念だ」

スクルドの答えにデュランは無念そうな表情を見せた。
スクルドの佇まいを見て、素人ではないことは感じ取っていた。
しかし、その職業が僧侶となれば、確かに期待した戦いを望むことはできないだろう。
別に僧侶という職を軽視しているわけではない。
だが、スクルド自身がそういったように、僧侶とは後方で仲間を支援することで真価を発揮する。
他に誰か一緒にいるならともかく、単独の僧侶と戦ったところで面白味がない。

「では、レックにジャンボ、あるいはそれ以外に、強い者と出会いはしなかったか?」
「強い者、ですか…一つ心当たりが」

スクルドは、リーザス村で出会った仮面の化け物についてデュランに話した。
元々彼女がここまでやってきた目的は、あの化け物を倒せる者を探すためだ。
彼が倒してくれるというならば、ありがたい。

「仮面の化け物…なるほど、興味深い話だ」

スクルドの話に、デュランは興味を持ったようだった。
話を聞き終わると、再び歩き始めた。

「ではさらばだ、僧侶よ。次は誰か強いパートナーでも連れて、出会えることを望むぞ」

そういって、デュランはスクルドの横を通り過ぎて、リーザス村へ向けて歩きだした。

「ま、待ってください!」

だが、そんなデュランをスクルドは呼び止める。
呼び止められて振り向くデュランに対し、スクルドは言った。

「そのパートナー…あなたにお願いします!」
「なん…だと……?」

スクルドの言葉に、デュランは小さな驚きを漏らした。

80なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:12:45 ID:1kcz4zfU0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「先ほども言った通り私は後方支援の僧侶です。一人で勝ち抜くことなど厳しいですし、優勝する為には一時的にでも誰か強い人と手を組まなければいけません」
「それで私を、というわけか」
「はい!お願いします!」
「断る」

スクルドの懇願を、デュランはあっさりと拒否した。

「私は一人で戦うことを美徳としている。誰かと組むつもりなどない」
「そこをなんとか…お願いします!私には、どうしても叶えなければならない願いがあるんです!その為に、あなたの力が必要なんです!」
「しつこいぞ女。私は………いや、待てよ」

なおも食い下がるスクルドをうっとうしく感じながら断ろうとするデュラン。
しかし、そんなデュランの頭にある一つの考えが浮かんだ。

「…いいだろう、女。そんなに私と組みたいというのなら…この攻撃を受けてみろ!」

デュランは、持っていた鉈を構える。
そして、スクルドとの間合いを一気に詰めて、鉈を振り下ろした。
対するスクルドは、横っ飛びで鉈を回避する。
その後も、二撃目、三撃目と次々とデュランの鉈の攻撃が繰り出されるも、スクルドはそれを的確に回避していく。
やがて攻撃が十ほど続いたころ、デュランの鉈の動きは止まった。

「…合格だ。少なくとも足手まといになるようなヤワな鍛え方はしていないようだ」
「!それじゃあ…」
「待て、私と共に来るというのなら、いくつか従ってもらいたいことがある。この要求が飲めないならば、お前と組むつもりはない」
「要求…ですか?」

81なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:14:17 ID:1kcz4zfU0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「まず一つ。私が戦うのは強者のみだ。雑魚や非戦闘員とやり合うつもりはない」
「分かりました。そちらは私の方で対処しますが、よろしいですか?」
「好きにしろ」

一つ目の要求を、スクルドは快く承諾した。
強敵さえ引き受けてくれるのなら、こちらとしては困ることなどない。
自分だって数々の修羅場を潜ってきているのだから、弱い相手に遅れを取るつもりはない。

「二つ目。私の戦闘には一切手を出すな。回復はもとより、支援も禁止だ」
「え、それじゃあ共闘の意味が…」
「そちらが手を貸すのは、戦闘が終わった後の治療のみにしていただきたい。戦闘中は手を出すな」
「むう…ちょっと納得いきませんけど、了解です」

戦闘中の援護が禁止という、「共闘」という言葉の意味を疑いたくなるような要求。
釈然としないものを感じながらも、仕方なくスクルドは頷いた。
まあ、手を出せないということは、見方によってはこちらの消耗が減って大助かりだ。
支援ができなくともデュランが負けなければいいのだから、案外悪くないかもしれない。

「これが最後だ。もしも出会った敵が怪我を負い、満足に戦えない状態の時…その時は……」
「……その時は?」
「お前の回復術で治療をしてやれ」
「……はい?」

82なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:14:54 ID:1kcz4zfU0
一瞬、耳を疑った。
一体、目の前のこの魔人は、なにを言っているのだ。
敵を、治療しろ?
そんな、敵に塩を送るような真似を、何故しなければならないのだ。

「私は、対等な戦いを望む。手負いの獣を狩った所で、つまらないからな」

かつて、レックたちはデュランとの戦いを迎える前に、彼の部下であるキラーマジンガや闇に堕ちたテリーと戦った。
連戦の疲れが残る中、対峙したデュランはというと…


―弱っているお前達と戦っても 面白くないのでな


そういって、なんとレックたちの体力を全快させてしまったのだ。
そうして、両者万全の状態での戦いは、見事レックたちの勝利で幕を閉じたというわけだ。

しかし、当然のことながらこの殺し合いの場でそんなチートみたいなことができるはずもない。
戦うべき相手がダメージを負っていようと、その状態のまま戦わなければならない。
それが、デュランには不満であった。

「そこでお前の出番というわけだ、僧侶よ」

そう、デュランが一度は断りながら、思い直して同盟に応じた理由は、そこにあった。
回復術を使う僧侶がいれば、この不満をある程度は解消することができる。

「はあ…正直理解できない考え方です」
「不服だというなら、この話はなかったことにさせてもらう」
「う〜ん…まあいいですよ。分かりました、3つ目の要求にも従います」

若干投げやりな態度ながら、結局スクルドは折れた。
敵に塩を送るデメリット行動と、デュランという頼もしい協力者を得られるメリットを天秤にかけて、後者をとったのである。

「そうか、それでは同盟成立だ」
「よろしくお願いします」

83なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:15:50 ID:1kcz4zfU0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


「これは餞別だ、受け取るといい」

そういって、デュランは自分の荷物から一つの支給品を取り出した。

「これは…?」
「ふしぎなボレロ(ジパング製)というらしい。装備したもののMP消費を1/2にするそうだ」
「ジパングって…?」

ともかく、スクルドは装備してみた。
すると、心が落ち着くような不思議な感覚を感じた。
なるほど、確かにこれならMPの消費を抑えられるというのも頷ける。

「えっと…デュランさん?怪我を負ってますよね?術の調子を確かめるために、治療させてもらっていいですか?」
「ああ、頼む」

スクルドは、「ベホマ」と「べホイム」をデュランにかける。
すると、デュランの傷はわずかに癒されていく。

「うーん、やっぱり回復術には制限をかけられてますね。これはちょっと厄介かも…」
「べホイムか。初めて聞く名の術だ」
「ベホイミとベホマの間に位置する単体回復術なんですけど…体感としては、ベホマと比べてどんな感じですか?」
「あまり変わらんな、ベホマの方が多少治りが早いようには感じるが」
「そうですか…やっぱりこの世界でも、ベホマよりもべホイムの方がMP効率がよさそうですね」

スクルドたちの世界のベホマは、非常に燃費が悪い。
僧侶たちの間では「ベホマよりべホイム」が常識となっており、それは回復術が制限されたこの世界でも変わらないようだった。

「そろそろ行くぞ。随分と時間を使った」
「あ、待ってくださいよ〜」

人間と魔人。
聖職者と魔王。
種族も立場も全く異なる二人の同盟は、まだ始まったばかり。

84なんとレックたちの体力が全快した!! ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:16:26 ID:1kcz4zfU0
【I-7/平原/1日目・昼】

【デュラン@DQ6】
[状態]:HP4/5
[装備]:粉砕の大鉈@DQ8
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:強き者を探す。主人公@DQ6とその仲間とは決着を付けたい。
    リーザス村で仮面の化け物と戦う

【スクルド(僧侶♀)@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:ホーリーランス、不思議なボレロ@DQ3
[道具]:支給品一式 支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:アークを優勝させる
    リーザス村に戻り仮面の化け物をデュランに倒してもらう

85 ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:16:59 ID:1kcz4zfU0
投下終了です

86ただ一匹の名無しだ:2016/09/02(金) 23:23:34 ID:utIDd3AE0
投下乙です
デュランと僧侶スクルドの同盟、これは期待!
できる限り万全の敵と戦いたいというのもデュランらしい理由ですね

87 ◆OmtW54r7Tc:2016/09/02(金) 23:33:30 ID:1kcz4zfU0
あ、スクルドのMP微消費が抜けてました
wiki収録の時に書き足しときます

88ただ一匹の名無しだ:2016/09/03(土) 20:17:13 ID:JgH1Q.HE0
投下乙
ハーゴンは死んじゃったけど、リーザスにはまだデュラン好みの強者が何人もいるのでバトルがまたありそう

ていうかwikiの現在位置CGI見たら、リーザス村周辺にマーダーと危険人物集まり過ぎぃ!
西半分はヘルバトラーとバルザックと竜王くらいしか積極的に殺しに回るのいない気がするぞ
これはちょっとマーダー散らせないとやばいっすね……

89ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 07:19:42 ID:GRy0XXfI0
支給品一覧と本編を照らし合わせてて思ったんだけど、ヘルバトラーの支給品ってスレイプニール以外に世界樹の雫もあるはずなのでは

90ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 17:14:22 ID:HtyKROwA0
確かに世界樹の雫も使ってるね
でもそれだと不明支給品の残り0〜2ってのが合わなくなる
ジョーカーとしての優遇で一個多い可能性がありますとかそんな感じで補完しとけばいいかな

91ただ一匹の名無しだ:2016/09/04(日) 21:37:13 ID:GRy0XXfI0
それは普通に0〜1に修正すればいいんじゃないかね
単に世界樹の雫の存在忘却で0〜2になってただけだろうし

92ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 19:37:51 ID:dnuoDAl60
ハーゴンは死んじゃったけどキラーマジンガがいるんだよな、
デュランはどういう反応をするだろう?
そしてサフィールピンチじゃない?

93ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 19:40:40 ID:dnuoDAl60
あっサフィールは北に向かってるのか、間違えた

94ただ一匹の名無しだ:2016/09/07(水) 23:57:39 ID:DSKFApCI0
ジンガーが俺の中の萌えキャラになってきてる件
アレフにキルスコア稼がせるためにわざわざハーゴンのトドメを譲るとか可愛い

95ただ一匹の名無しだ:2016/09/08(木) 10:17:10 ID:LQgqyhmU0
ジンガー「あっちに一人足止めしておきましたで」
アレフ「よっしゃ殺しにいくわ」

96ただ一匹の名無しだ:2016/09/08(木) 16:44:09 ID:h5DrRuaw0
リオウとの初対面時の会話もフランクな感じで可愛いよね

97 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:19:48 ID:K5hqCuOE0
投下します

98 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:25:16 ID:K5hqCuOE0


「ヒーロー……ヒーロー!!」


熱い叫びが平原に響く。
たなびくマフラー、それは吹きすさぶ風を全身に受けていることがはっきりと解る。
燃える魂を象徴するかのように流れる汗を、ぐいと拭いながら彼は叫んだ。
草むらを駆け巡りながら、必死に探し求めているのだ。
この地で出会った初めての同志である友の声を。


「どこへ行ってしまったんだ、ヒーロー!」

「おい、叫ぶなよ!!俺の声がかき消される!こっちだって!」

「ムッ、こっちか!?ワシの声が聞こえるか、ヒーロー!!」

「下!こっちだ……下だ!おい!待てモリー!踏みつぶされる!!」




◆ ◆ ◆ ◆ ◆



母なる大地を、自分の両足でしっかりと踏みしめて歩くのが性に合う。
そう主張したのはザンクローネだ。
しかし、悲しいかな長駆のモリーとは決定的な差が生じていた。
歩幅だ。


「ヒーロー!一旦停止だ!君は無敵だが、体力は無尽蔵ではない!」

「ふぅ……おいおい、見くびるなよ?まだ俺は走れるさ」


仲間たちの危機を案じ、モリーは北のトロデーンへ向けて一刻も早く向かいたかった。
しかし、常に自分の後ろを疾走する形となるザンクローネをちらと見て、踵を返して立ち止まる。
彼に深くは尋ねなかったものの、モリーは感じていた。
この小さな身体は『呪い』の類によるものではないかと。


「いや。思い出したのだ、ムッシュやプリンセスが、身体を魔物や動物へと変化させられていた事について」

「そいつらは、お仲間かい?」

「ああ、そうとも。呪いによる不自由を強いられていた。解呪の後に聞いた話では、その間の力はかなり削がれていたらしい」


ザンクローネも彼の言いたいことを確かに理解した。
モリーは彼を、呪いのような外法によりこんな身体に"させられた"と考えているのだ、と。
そして彼の身体は大変弱っているのではないか、とも。
ロクな身の上語りもしないうちから、その苦労を案じられていたことにザンクローネは苦笑しつつ頭を掻いた。


「ヒーローよ……ワシは君に無理をさせていたかもしれん」

99小さいからだに大きな望 2/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:26:38 ID:K5hqCuOE0


「まあ、このナリは呪いのようなモンてのは合ってるぜ。だが無理や負担は感じちゃいねえ」


謝ることはない、と胸をドンと一つ叩いたザンクローネは快活に笑う。
それだけを見れば、彼が少女の抱える人形のように小さな身体になっていることなど微塵も感じられない。
精霊としての身体は失われ、消失したザンクローネの体。
いまここに再び取り戻された肉体が、魔女に引き裂かれたときのものになっている理由は未だ不明だ。
それによって明らかに移動に時間を食われるというのは、確かに理不尽な仕打ちと言えるだろう。
だがこの心根だけは、邪悪な存在にも捻じ曲げることは不可能であった。


「こんな状況だ、甘えてる場合じゃない。足を引っ張るのはゴメンだしな」

「しかしだ、ヒーロー」

「どうした?」


ずい、と進み出て腕を組み、勢い良くしゃがみ込んで彼を覗き込む。
そしてその姿勢のままモリーは人差し指を垂直に立てた。
こういうオーバーアクションな所には驚かされるのか、思わず村の英雄は一歩後に退く。


「今後に備え体力は温存するべきであるともワシは思うのだ。心苦しいが、今後戦いが起こることは避けられんはず」

「ん……まあ、そりゃそうか」


そう言いつつ出会ったときのように肩に乗っての移動を提案するモリー。
急ぐ理由があるということは承知していたザンクローネも、この提案に同意した。


「すまねえなモリー、情けない身体なばっかりに」

「謝罪は不要だヒーロー。この行為は、さっき言っていた足を引っ張るということでは決して無い」


謝ることはない、とキラリと光るような笑みとともに親指をサムズアップ。
モリーを包む風が、強まったように感じられた。
周囲と比べ、ここだけ熱い。
そんな錯覚すら抱くほどに、彼は雰囲気を変えてしまう男であった。


「ワシはヒーローのような熱い魂を持つ人間の為とともに歩み、手を取り合う……それが自分の使命だと確信しているのだ」

「へへ……なら、ここで頭を下げたり、恩に着るのは逆に野暮ってもんか」

「そうだとも、共に邪悪を討つのみだ!では行くぞ、ヒーロー!」

「ああ、行こ─」


その発言を最後にザンクローネの声はモリーに届かなくなった。
加速に着いていけずに吹き飛ばされた彼は、後にこう語った。
すごい風とすごい爆炎を、熱く物語りつつ遠ざかっていく背に見た、と。

100小さいからだに大きな望 3/5  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:28:52 ID:K5hqCuOE0

─そうして、叫び、慌て、草根をかき分ける男と、懸命に声を挙げる小さな英雄。
両者の時は少しばかし捜索に費やされてしまい、結果として周囲の探索に移れずにいたというわけだ。
なんとも馬鹿馬鹿しいかと思う者も居るかもしれないが、生憎当人らは大真面目である。


「おお、ここに居たかヒーロー!まったく背の高い草だ、君のビッグな背中を覆い隠してしまうとは!」

「2、3度潰されるのを覚悟したぜ」


ややあって、ザンクローネを発見したモリーはようやく安堵の息を漏らす。
決して悪い男ではないが、過ぎた熱血漢であるなと今更ながら再認される形となった。


「俺の声が先に枯れちまうかと思ったぜ……」

「すまない!今後は黙々と君を探すと約束しよう!」

「いやもう探される立場は勘弁してくれ……しっかり捕まるか。おし、改めて」


改めてモリーの声のでかさとテンションに驚きを感じつつも、再びモリーの手を借り肩に乗る。
傍らの靡くスカーフを、決して離すまいと気をつけて。


「出発だ!」

「うむ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「トンネル内で鉢合わせることを警戒していたが……」

「待ち伏せの存在は無かったな。取り越し苦労で済んで幸いだ」


警戒の様子を見せつつ姿を表したのは壮年の男性と、坊主頭の青年。
パパス、そしてイザヤール。
彼らは正義の志を抱えて邪悪な存在を追い求め、南へ向かっていた。
聞けば、サヴィオの遭遇したと言うバルザックは、執念深く彼の持つカマエルを付け狙っていたと言うではないか。
ならば彼らを追い、すぐ側まで迫っている可能性すらあった。
暗闇での遭遇を考えた二人は、警戒を絶やすことなく真っ直ぐ南へ向かう。
そして、山岳地帯を越えるトンネルをまさにくぐり抜けようというところであった。


「……気がついたか、あの声に」

「ああ。かすかだが猛々しき叫び声のような物が微かにトンネル内にまで届いた」


その正体は、バルザックなのだろうか。
もしそうであれば、戦いは避けられないだろう。
パパスは背中から鋼鉄の剣を抜き、警戒を強める。
イザヤールも太刀をいつでも構えられる体勢を取り、外の様子を伺った。

101小さいからだに大きな望 4/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:35:15 ID:K5hqCuOE0

「……ぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」

(間違いなくこちらに来る)

「…だ!…の気配がした……ヒーローよ!」

(会話をしているようだ。複数か?)

(いや、影は一つしか見えん)


内容は多くは聞き取れないが、どうもこちらの存在には感づいていることが伺える。
ということは、多少なりとも腕の立つ人物なのは間違いない。
現状重要なのはただ一つ。
敵か味方か。
二人の間に緊張が走った。

(……どうやら人間なのは間違いないな)

(あの出で立ち……芸人か……?)

「確かに気配がこちらから!ミスターか!?ナイスガーイ!?」

「おい、トンネルの方から誰か出てきたぜ!」


剣を握る手はそのままに、姿を見せた。
あちらは武器を構えることは無い。
目についたのは、肩に乗る小さな人間のようなもの。


「あれは妖精か……?」

「妖精……息子に読み聞かせた話で見たことしか無いが」


どうやら話し声がした理由はこれらしい。
一人に見えたが二人連れ、という訳だ。


「俺はそんな可愛らしいモンじゃねえさ」

「どうやらヒーローの知る人物でもなさそうだな……」


ひとまず互いに敵意を持たないことはすぐに納得できた。
奇妙な二人連れ同士、向かう先の無い刃は下ろされる。


「私はパパスと言う者だ」

「我が名はイザヤール。名簿にあった以上ご存知かもしれぬが名乗らせてもらった」

「うむ、わしはモリー。……むっ、そういえば……」


荷物から名簿を取り出したモリーはパラパラと頁を確認する。
ザンクローネも覗きこむ形で目を動かした。

102小さいからだに大きな望 5/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:41:24 ID:K5hqCuOE0


「すまん。すべてを確認した訳ではない……これより読むので少し時間をくれんか」

「あー、俺もだ。お二人さんよ、急ぐなら別に放ってくれていいぜ?……そうそう、俺はザンクローネだ」


告げられた名は確かに彼らの調べたものと一致している。
肩の上に乗る小さな参加者に驚きつつも、二人は了承した。


「いや、我らとしても情報は欲しい。まずは君たちと話がしたい」

「探している魔物や人物が、君らの知る者かもしれんからな」


名簿を急ぎ読み返す二人を待つ間、一行はトンネルの出口に腰を下ろした。
互いの素性、知り得る情報を時間が許す限り公開し合う。
モリー達はどうやらここでパパス達と接触するまで、誰一人として見かけることもなかったとのことだ。


「たまたま西の岬にモリーが居たからよかったものの、俺一人だったらここまで日が暮れてたかもな」

「うむ……それは不幸中の幸いと言えるだろう」

「君は本当に妖精では無いのか?」

「まあ話すと長くなるが、今の俺は単なる小人みてえなモンだと思ってくれ」

「うむ、確認を終えたぞ!……すまない、ムッシュ・パパスにマスター・イザヤール」


ザンクローネと共に名簿の大方の概要を読みなおしたモリーは、頭を下げた。
唐突な謝罪を受け、二人は顔を見合わせる。


「どうしたのだ?」

「先に告げたように、わしらが会ったのは君たち二人が初めてだ、お役に立てそうもない」

「あんたらが言ってた、追いかけてるバケモンに関しても見知った間柄じゃねえ。時間を取らせて悪かったな」


呆れ返るほどの真摯な謝罪。
その態度は信頼に足る物と判断され、二人は顔を僅かに綻ばせた。


「なに、謝罪されるようなことではない」

「君たちは自分の知り合いを探すことが第一で構わない。我々は先を急がねば」

「どこへだ?」

剣を背負い直し、出立のため装備を整える二人の背にザンクローネが問う。
そこに存在する意志は堅い、なぜなら彼らはどちらも一度は死んだ身。
今を生きる者達の為、少しでも動くという心で満ちている。

103小さいからだに大きな望 5/6  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:44:05 ID:K5hqCuOE0

「既にあのエビルプリーストの手の者が各地で暗躍をしている……」

「我らが向かい、倒さねばなるまい」

「おいおい、それなら話しが早えよ」


ザンクローネは軽々とモリーの肩の上から飛び跳ね、パパスたちの目線にも近い岩肌に着地した。
体格の差を物ともせず、その膂力は本物に違いなかった。


「俺も付き合うぜ。こういうことには首を突っ込まずにゃいられねえのさ」

「わしも同行しよう!モンスターが相手となればきっと役に立てる」

「しかし……良いのか?」


彼らにも探すべき人物が居るはず、と言いかけたがその言葉は途中で制された。
それは彼らの笑顔が、有無を言わせぬ力強いものだったからに他ならない。


「義を見てせざるは勇無きなり!ってやつさ」

「その魔物とは、いずれ必ずぶつかる。それが早いか遅いかに過ぎん」

「お二方の助太刀、誠に感謝する」


今度は、パパスとイザヤールが頭を下げる手番となった。
ザンクローネは、モリーに何事かを頼みふくろを探る。
身の丈よりも大きな盾がそこから取り出され、代わりに受け取ったモリーがその手に掲げた。

104小さいからだに大きな望 7/8  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:45:36 ID:K5hqCuOE0


「こいつは共闘の証みてえなもんだ、受け取ってくれよ」

「これはありがたい。かなり有用な装備と見受けられるが……」


両手剣を持つイザヤールはパパスにその盾を譲る。
お役に立てたら何よりさ、とザンクローネは豪快に笑った。


「気にすんな。モリーが装備できねえし、俺も言わずもがなで持て余してるだけでよ」

「ヒーローに合う装備を用意しないとは、主催者側も不親切なものだ」


こんな状況を招いて親切も何もないだろうが、ともかく不満気なモリーをザンクローネはなだめる。
するとイザヤールが気づいた様子で、懐から何かを取り出す。


「いただくばかりでは申し訳がない、が……あまりに吊り合わんかもしれん」

「なんだいそいつは?」


取り出されたのは、白金の輝き。
まるで油を塗ったばかりのような光沢を放つそれは、値打ちのある金属に違いなかった。
もっともその長さは小さく、短い。
所謂、針仕事に用いる『縫い針』であった。


「……身を守る役くらいには立つかもしれん、受け取ってくれ」

「針を剣の代用に……これもまた、息子に読む絵物語にあったような」

「はは、絵物語か。奇妙な縁だなそいつは」


得意げに掲げたザンクローネは、歩みを同じくするためモリーの肩に着地した。
人影は3人、されど勇ある心は4つ。
荒野に足を進め、邪悪な魔物の影をひたすら追い続けるのであった。

105小さいからだに大きな望 8/8  ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:47:01 ID:K5hqCuOE0


【C-6/トンネル出口/昼】
【モリー@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める

【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ふてぶてしく全てを救う



【パパス@DQ5】
[状態]健康
[装備]はがねの剣@DQ6 力の盾@DQ8
[道具] 支給品一式、支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]生死に執着はないが、思い残しはしたくない。
   イザヤールと共にバルザックを追う

【イザヤール@DQ9】
 [状態]:健康
 [装備]:斬夜の太刀@DQ10
 [道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1) 
 [思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。パパスと共にバルザックを追う
 [備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
     (「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)

106 ◆2UPLrrGWK6:2016/09/11(日) 00:47:26 ID:K5hqCuOE0
投下終了です 投下数ブレてすいません。

107ただ一匹の名無しだ:2016/09/11(日) 11:21:52 ID:iLFQscUQ0
投下乙です

積みフラグが積み重なっていくなか、いまだに気絶中のバルザック君の明日はどっちだ!

108 ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:00:43 ID:mUlq0LLo0
皆様、投下乙です!

>なんとレックたちの体力が全快した!!
引っ掻き回してくれそうなマーダー同盟に期待大です。
リーザスにいるアレフたちとどうなることか。

>小さいからだに大きな望
下手したら戦闘よりも移動の方が命取りになりそうなザンクローネさん、頑張れ。
なんとも渋くて頼りになりそうな人が集結しましたね。

では、私も投下します。

109ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:01:37 ID:mUlq0LLo0
透き通るような青空の下、ルーナは歩みを進めていた。
その脳裏にちらつくのは、最期までバカでお人好しだった、彼の笑顔。
似ていると思った。境遇がどこまでも似ていた。
ただそれだけの理由で命を捨てようとする自分を庇い、笑顔を求めて、笑顔で逝って。
あんなに鬱陶しくてたまらなかったのに、ルーナに何かを訴えかけるようにその存在は消えようとしない。

勇者の血筋というだけで故郷を失い。
大切な人も自分を庇って命を奪われ。
世界に平和を齎しても、その手には何も残らず。

一瞬見せた、眉ひとつ動かない彼の表情は、確かに自分と同じだったのに。
何故彼は、笑えたのだろう。
何故彼は、笑顔を作れるようになったのだろう。
ルーナにはそれが分からない。
類似と同一が違うように、歩んできた旅路に、ルーナにはなかった希望を見出だせるようなものでもあったのだろうか。
それとも彼の仲間が彼に笑顔を取り戻させたのだろうか。

――仲間?
――ああ、そういうことかもしれない。

共に旅をした王子達を思い浮かべ、ルーナはひとり頷いた。

武術において右に出るものはいないといわれた王子、ローレル。
魔法において右に出るものはいないといわれた王女、ルーナ。
剣を振るうことも、呪文を唱えることも許された王子、トンヌラ。
自分達は三人で互いをカバーしながら旅をしていた。

ローレルは武芸が、ルーナは魔法の才が、どちらも扱えるトンヌラは場を見極める判断力が、それぞれ優れている。
ローレルが負傷すれば、トンヌラが前線に出て、その隙にルーナがローレルを癒す。
ルーナが上級魔法を詠唱すれば、トンヌラの補助を受けながらローレルがルーナを庇う。

三人揃ってこそ最大以上の力を出せる。
三人揃ってこそ真の勇者。
それがルーナ達だ。

110ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:02:36 ID:mUlq0LLo0
つまり裏を返せば、一人では無力、という程ではないにしても、長所を活かすことは難しいということに他ならない。
自分達は、ロトの血筋とはいえ、3つに分かたれたそれを受け継いでいるのだから。

今自分は一人でいる。
一人では勇者と言えない存在なのだ。

犬の姿にされ、なんとか生きようと一人でもがいた日々を思い出す。
自分はとても弱かった。野良犬に追い回されて怪我を負ったこともあれば、犬を嫌う人間に箒で叩かれたこともあった。
自分はとても弱かった。地面に溜まった水を啜る度に水よりも酷く濁っていく自分の目を見て、このままどうしようもなく死んでしまうのかと怯え、心に少しずつ皹が入っていくのを感じていた。

ローレルとトンヌラによって元の姿には戻れたものの、あまりに一人の時は長すぎて。
心はとても弱っていた。
建物も、人々も、希望さえも打ち砕かれた故郷を見て強くあることなど、できるはずがなかった。

今のこの場でも。
自分はとても弱いではないか。
自殺することもできず、殺してもらうこともできず。
お人好しのバカに庇われて。



――きっと、あいつは一人でも強かったから。だから、笑えるようになったのだろう。

そう、ルーナは結論付けた。



だからといって、ローレルとトンヌラを探そうとは、あまり思わない。
特にローレルと出会えば、死ぬことを止められる可能性が高い。
彼らと合流する必要はないだろう。
安否が全く気にならないわけではないが、実直なローレルや気配りのできるトンヌラなら、仲間を見つけて信頼を得ることもできるはずだ。
それぞれ魔物を愛でる趣味や、時折心から笑ってないのだろうなと思う笑顔を見せることもあるが、それは理由が分からない部分だ、自分が気にすることでもないだろう。





――そういえば。
いつだったか、表情を失った自分を元気付けようとローレルが言っていたことがあった。
彼曰く、この世界には愛が溢れているらしい。

111ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:03:21 ID:mUlq0LLo0
 


(世界中に溢れ返ってるなら、愛なんて安っぽくなるんじゃないの?)
(安っぽくて何が悪いのだ。手を出せないほど高級でないといけないものでもないではないか。愛は探そうと思えば、いくらでも探せる。
 それがしは、ルーナに少しでも多くの愛を、暖かさを見つけて、元気になってほしいのだ)
(無理よ、そんなの。言うは易く行うは難いって言うでしょう)
(いいや、簡単だ。今それがしがルーナと話しているのだって、仲間を想う、友愛というひとつの愛だ。ほら、早速見つかったではないか)
(…………。
 貴方もムーンブルクの惨状を見たでしょう? あそこにも、愛が溢れてるだなんて言うの?)
(娘への愛で溢れたルーナのお父上がいたではないか)
(どんなに話しかけても、私達に気付かなかったじゃない)
(そうなってしまうまで魂が削れても、娘への愛は消えていないということだろう?)
(…………)
(暖かさに触れて元気になれば、前を向いて希望を探すことも、きっとできる!)



ああ言えばこう言ってくるローレルの言葉が、ルーナには理解できなかった。
その会話の直後に、襲ってきた魔物とコミュニケーションを取ろうとして手痛い一撃を貰ったローレルを、笑顔を引き攣らせたトンヌラと共に救助したことも拍車をかけている。
結局思い至った答えは、魔物にまで範囲が及ぶ(寧ろ魔物相手の時の方が強く表れる)ほど彼は愛情が深い人だからそんなことを言えるのだろう、というものだった。





(それがしは、信じているぞ。ルーナにもいつか、愛の歌が聞こえると)
(愛の歌? 何よ、それ……)
(暖かい愛は、きっと心地好い歌のように胸を震わせる。
 魔物達の鳴き声だって、よく聞いていれば歌のように美しいと……)
(……私、貴方のそういうところも理解できないわ)





歩きながら、耳をすませてみる。
聞こえてくるのは、冷たい風の音くらいのものだ。
やはり暖かいものなど、運ばれてこない。
そこにあるのは、ただ自分の青息吐息。

112ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:03:48 ID:mUlq0LLo0
――ローレル、やっぱり無理よ。
――こんなに弱い私には、愛なんて見えない、聞こえない。希望だって見つけられない。

小さく首を振って、そんなことを思う。
弱い自分には、あいつのように常にへらへらと笑うことはできないだろうけれど。
先の魔族が言っていたように、自分が成したいように進んでいけば。
ただの一度笑うくらいの強さは、得られるかもしれない。
勇者の血筋にあるまじき考えかもしれないけれど、自分は一人では勇者といえない存在なのだ、構いはしないだろう。

一度でいい、笑って、そして死ぬ。
お人好しには、どうかしてると言われるかもしれない。
それでも、構わない。







彼もまた、勇者としての自分を捨てて笑顔を張り付けていたことを、ルーナは知らない。
ロトの勇者の子孫は、どこまでも天空の勇者の子孫と似た道を進んでいた。

彼から、魔族から、目を逸らすように、逃げるように。
真っ直ぐ西へと歩んでいく。

113ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:05:14 ID:mUlq0LLo0
 


【G-7/草原/一日目 昼】

【ルーナ(ムーンブルク王女)@DQ2】
[状態]:健康、表情遺失、MP消費(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、不明支給品(1〜2)
[思考]:死にたい。だから誰かと戦う。お人よしは殺す。
[備考]:喜怒哀楽を表情で表せません。

114ラブ・ソングも探せない ◆jHfQAXTcSo:2016/09/13(火) 20:06:01 ID:mUlq0LLo0
以上で投下終了です。
指摘や誤字などありましたらよろしくお願いします。

115ただ一匹の名無しだ:2016/09/13(火) 20:17:28 ID:oOeBjX..0
投下乙です!
趣味が特殊でもなんだかんだいい人だったんだなあ、ローレル
ルーナは果たして笑うことができるのか…

116ただ一匹の名無しだ:2016/09/13(火) 20:34:55 ID:r9Vvoh5I0
前話見る限り、ルーナはこのまま死んじゃうんじゃないかと思ったが多少は持ち直したようでよかった
イロモノ系かと思ってたローレルも割とまともなとこがあるんだね

117 ◆jHfQAXTcSo:2016/09/16(金) 12:13:46 ID:njnSklVg0
すみません、先日投下したラブ・ソングも探せないのルーナの現在位置ですが、表記を間違えてしまっていたので、まとめwikiにて訂正しておきました
正しくはG-7ではなくH-8になります

118 ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:38:56 ID:WBmjIT5E0
投下します

119NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:41:09 ID:WBmjIT5E0
―バルザックがやられたそうだ


うるさい


―それも人間の女二人にやられたそうだ
―魔族の恥め、所詮は元人間という事か


うるさいうるさい


―それに比べて、さすがはキングレオ様
―同じ元人間だというのに、どこで差がついたのか


うるさいうるさいうるさい


―聞いたか?バルザックの奴、サントハイムの城に左遷になったそうだ
―誰もいない廃墟の城の王様か、負け犬にはお似合いだな
―はははははははははははは!


黙れええええええええええええええええええええええええええええええええ!

120NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:41:38 ID:WBmjIT5E0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「はっ!?」

サヴィオの攻撃を受け気絶したバルザック。
長い眠りについて…いや、実際は5時間程度だが、それでもこの殺し合いの舞台においては長い眠りに違いなかった。

「なんということだ…もう放送が近いではないか」

屈辱に顔を歪ませる。
サントハイムで勇者一行に倒されたあの頃より、今は更に力がみなぎっている。
にもかかわらず、あんな餓鬼一人に不覚を取ってしまった。
その事実に、先ほど夢にも見た魔族たちの嘲りを思い出してしまう、


―魔族の恥め、所詮は元人間という事か


「私は…魔族の恥でもなければ、人間などでもない!」

錬金術の師、エドガンを殺し人間の姿を捨てた彼は、キングレオ城を乗っ取り、その功績を聞きつけたピサロによって彼の軍の幹部にまで成り上がった。
しかし、元人間ということもあってか、他の魔族たちは彼の幹部入りを快く思わなかった。
それ故に、エドガンの娘と弟子に倒された後、バルザックは激しく嘲笑されることとなる。
なによりも耐え難かったのは、実験体として利用したキングレオの王子が、自分以上の力を引き出し、声望を高めることとなったことだった。
元々は自分と同じ元人間であるゆえに白眼視されていたというのに…!

「私は…負けない!この殺し合いにおいて、頂点に立つのだ!」

あの後、異動となったサントハイム城にてさらに秘宝の研究を続けた。
デスピサロすら超えた…というのはさすがに話を盛りすぎだったかもしれないが、少なくともキングレオは超えただろうという自負があった。
キングレオ城にて彼が倒されたという報を聞いた時は、ざまあみろと思ったものだ。
実験体の癖に分不相応な力を手に入れるからそうなるのだと。
しかしやがて、自分自身もまた、倒されてしまった。
勇者と、さらに力をつけたエドガンの娘によって。

121NEVER LOSE ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:42:39 ID:WBmjIT5E0
エドガンの娘、勇者一行、そして一人の糞餓鬼。
なるほど確かに今のままでは負け犬だ。
ああ、あの忌まわしい魔族共の言葉を認めてやろうではないか。
だが、このまま負け犬で終わるつもりなどない。
私は錬金術師、バルザック。
錬金術の力にて、誰にも負けない、馬鹿にされない、絶対的な力を手に入れてやる。

「その為にも、あの錬金釜を手に入れる必要があったのだが…」

しかし、あれからかなりの時間が経ってしまった。
サヴィオとカマエルがどこにいったのか分からない。

「ひとまず、城を目指すか」

キングレオ城、サントハイム城。
思えば彼のホームグラウンドは、いつでも城であった。
それゆえか、彼の足は自然とはるか北にあるトロデーン城へと向かっていた。

「誰が相手だろうと、敵が何人いようが関係ない。全て、叩き潰す」

過去の惨めさを、悔しさを力に変えて。
もうこれ以上誰にも負けないという決意を胸に。
成り上がりの負け犬は、殺戮の舞台に再び戻る。


【C-7/山岳地帯/昼】

【バルザック@JOKER】
 [状態]:HP7/8、火傷と打撲
 [装備]:大魔神の斧@DQMジョーカー
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:錬金釜を手に入れて新たなる進化の秘法を考え出し、エビルプリーストをも超越したい。
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※バルザックの姿はバルザックビースト形態(第一形態)です。

122 ◆OmtW54r7Tc:2016/10/09(日) 05:43:13 ID:WBmjIT5E0
投下終了です

123ただ一匹の名無しだ:2016/10/09(日) 23:31:54 ID:2Ok8iQgk0
投下乙です。
ハングリーな精神面を見せてジョーカーのプライドを見せつけることができるのか、
がんばれバルザック。

124 ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:08:04 ID:gTFS1IKc0
投下します

125想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:09:02 ID:gTFS1IKc0
「チャモロさん、あそこに誰かいます」

アベルを撒くため、そしてアレフと合流するために東へ歩を進めているチャモロとローラ。
そんな二人の歩く先に、一つの人影が見えた。

「遠くてはっきりとは分かりませんが、足を引きずっているように見えますね。怪我をしているのかもしれません。こちらから接触しましょう」

そういってチャモロは走り出し、それに追従する形でローラも走っていった。
やがて人影の姿がはっきり見えてきた。
どうやらかなりの重傷を負っているようだ。
腹部や顔に傷があり、左腕が消失している。
足を引きずっているところを見ると、おそらく足にも怪我を負っているのだろう。
人影の方もこちらに気づいたらしく、足を引きずりながらもこちらに近づくと、言った。

「私を助けて!あの男を倒して!」

126想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:09:56 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

人影の女性―パトラは、チャモロの治療を受けながらことのあらましを語った。
まともな服がなく困っていたところ、一人の男が服を授けてくれた。
しかし、礼を言おうと近づくと、その男は突然剣を突きつけ、襲ってきたのだという。
パトラは手持ちの武器で応戦してどうにか敵をひるませ、その場から逃げて今に至るのだという。

「私を、これだけ傷だらけにしてくれたあの男…許せません」
「その気持ち、分かります」

憤りを見せるパトラに、ローラも同調する。
ローラも数時間前、とある男に自身の尊厳を踏みにじられるような行為をされた。
あのターバンの男―アベルのことを、許すことなどとてもできないだろう。

「なんじゃ、お主は」
「あ、私はロー…」
「お主と話す気はない!近寄るな!」
「は、はあ…」

パトラに怒られ、やむなくローラは距離を取る。
そういえば先ほどから、チャモロに向けて話してばかりで、こちらには目さえ合わせようとしていない気がする。

(特に不興を買うようなことをした覚えはないけれど…)



(忌々しい、気に入らない、妬ましい…)

パトラは苛立っていた。
先ほどまでは、自分をこんな目に遭わせた男に対して怒っていたが…今、その矛先は別の方を向いていた。

127想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:10:46 ID:gTFS1IKc0
(ローラ…あの女が、妬ましい)

その矛先の方向は、今そばにいるローラだった。
彼女は、美しかった。(自分には劣るが)
そして、彼女は自分が失いつつある瑞々しい若さを持っている。
そして、自分がこんなにも無惨な姿にされているというのに、彼女は未だ五対満足で美しさを保っているのだ。
もしも自分が今こんな惨めな姿でなければ、彼女のその美しさを認めつつも、自分の方が優位だと優越感に浸ることができただろう。
しかし現実はそんな都合よくできておらず、パトラにとって今のローラの姿は羨望・嫉妬といった醜い感情しか生み出すことはなかった。

ああ、あのきれいな肌を痛めつけてやりたい。
あの華奢で綺麗な腕を、もぎ取ってやりたい。
あのドレスを、グチャグチャに引き裂いてやりたい。

(…落ち着け、激情に身を任せてはならぬ)

今感情に任せてここでそんなことをしても、あのチャモロという男に取り押さえられ、最悪殺されてしまうのがオチだ。
今は、暴漢に襲われた哀れな犠牲者を演じなければ。

(だが、チャンスがあれば…この手で)



「それでパトラさん、その男はどんな奴ですか?この名簿の中にいますか?」

チャモロから受け取った名簿を、パトラは1ページずつ順に見ていく。
やがてレック、ハッサン、チャモロ、バーバラと名前が続いていく。

128想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:11:33 ID:gTFS1IKc0
(よくみるとこの名簿、知り合いで固められてるんですね)

名簿を見ながらそんなことを考えるチャモロだったが、

「あった!この男が私を!」
「え!?」

なんと、パトラがページを止めたのは、バーバラの次のページだった。
まさか、自分の知り合いなのか?
嫌な予感を感じつつ名簿の写真を見ると…

「アモス、さん…?」

そこに写っていたのは、とある村で出会った男の姿であった。

「あの人が…そんな、まさか」

驚愕で固まるチャモロ。
そんな彼を訝しげに見つめるローラとパトラ。
そしてそんな彼、彼女たちの前に…

「ト、トンヌラさん!誰かいます」
「!あの女性は…」

この場に更なる混沌をもたらす、二人の男が現れるのだった。

129想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:12:20 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「なるほど…つまり、そちらのパトラさんがアモスという男に襲われ、アモスはチャモロくんの知人であると」

チャモロとパトラから話を聞いたトンヌラは、二人の話の要点をまとめた。

「チャモロくん、君から見てアモスという人は、この殺し合いに乗るような人なのですか?」
「…少なくとも僕の知るアモスさんは、まず間違いなく乗るような人ではないです。ただ…乗った理由については、なんとなく推察できます」

トンヌラの問いに対するチャモロの返答は、あいまいなものだった。
間違いなく乗らない人間なのに乗った理由は分かるとは、これいかに。

「まあいいでしょう。ともかく、パトラさんが襲われたというのは間違いのない事実ですし、警戒するにこしたことはないでしょうね」

トンヌラの言葉に、チャモロ以外は頷いた。
チャモロはといえば、うつむいてなにか考え込んでいた。

(アモスさん…あなたは)

チャモロの知るアモスは、とても明るい男だった。
戦士らしい屈強なその身体といい、どことなくハッサンと似ていたかもしれない。
いつでも笑顔が絶えない人で、魔物化の真実を話してしまった時だって、笑っていた。
そんな彼だったからこそ、チャモロは思ってしまった。
あの人なら、例え村を離れたってきっと元気にやっているだろうと。
そう思ってしまった。
いや、思いたかったのかもしれない。

(そんなわけ、ないのに!)

夜になると理性を失い凶暴な魔物になる。
そんな呪いをかけられて、まともに人としての生活を送れるはずがない。
恩義があるからと黙殺していたモンストルが特別なだけで、きっとアモスはどこへいっても追い回されてきただろう。
そんな生活をして、明るく元気に笑って過ごせるとしたら、相当にタフな精神の持ち主か、狂人だ。

(ごめんなさい、アモスさん)

もしも今も、凶行を重ねているのなら。
苦しんでいるのなら。

(僕があなたを救います…今度こそ!)

チャモロが一つの決意を固めたその時、

「嘘だ!」

突然の叫び声。
驚いて顔を上げたチャモロの目に映ったのは、怒りの形相でローラを睨むリュビの姿だった。

130想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:13:38 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「お父さんがそんなことするわけ…」
「事実ですわ。あなたの父親、アベルはこの殺し合いに乗っている」

チャモロが一人で黙考していた頃、他の面々は情報交換をしていた。
そしてそこで…火種が爆発してしまったのだ。
『アベルがローラを襲った』という事実によって。

「あなたの父親は、2体の魔物をアレフ様に差し向けました」

「違う…」

「そしてアレフ様が魔物と戦っている隙をついて、私を人質に取りました」

「嘘だ…」

「何もできずに一方的にやられるアレフ様の姿を見るあなたの父親は、まさに邪悪そのものでしたわ」

「やめて…やめてよ」

次第にリュビの否定の言葉は弱弱しくなり、ついに涙を流して話を止めるよう懇願してきた。

「ローラさん!それ以上は…」

見かねたチャモロがローラにやめるよう呼びかけるが、彼女の言葉は止まらない。
彼女はアベルに対して憎しみともいっていい怒りを抱いていた。
そして今、目の前には彼の息子がいるという。
怒りのはけ口にせずには、いられなかった。

「そしてあなたの父親は、アレフ様の目の前で私の唇を…!」

「嘘だ嘘だ嘘だ!」

一度は意気消沈していたリュビが、キスの話を聞いた瞬間再び否定を口にした。

「お、お父さんはお母さんと愛し合ってるんです!そんなの嘘だ!」

「…奥方がいてあんなことをしたというんですの?最低ですわ」

「お父さんは、さ、最低なんかじゃない!強くて、優しくて…ぼくは、お父さんみたいな、立派な王様に、なるんです」

それは、気弱なリュビにとっての精一杯の勇気であり、父への愛だった。
父を尊敬し、愛すればこそ絞り出すことができた、勇気の言葉だった。

「王様、ですって?」

だが…彼の言葉は、ローラの怒りに更なる火をつける結果となってしまった。

「ふざけないで!あの人が王様ですって…そんなの、絶対に認めませんわ!」

彼女、ローラ姫もまた王族であり、王である父を誇りに思っている。
故に、今のリュビの言葉はローラにとって、憎むべきアベルと自分の父を同類扱いされたも同然だったのだ。

131想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:14:25 ID:gTFS1IKc0
「もしもあの男が王だというのなら、それはきっと…」

そしてローラは放つ。
とどめの『口撃』を。


「『魔王』、ですわ」



「ま…お……う…」

ローラの言葉に、リュビの中の何かが切れた。
何度も「まおう」「まおう」とぼそぼそと呟き、そして…



「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



脱兎のごとく、逃げ出した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ローラさん!どうしてあんなことを!」
「……………」
「あなたの怒りはもっともです!だけど…あの子は関係ないじゃないですか!」
「……………」

チャモロの言葉に対しローラは、先ほどまでの勢いが嘘のように無言を貫いていた。
顔を伏せ、何も答えない。

「チャモロくん、とりあえず今はリュビくんを追わないと」
「…そうですね」
「僕はここでローラさんとパトラさんと共に残ります。リュビくんのことをお願いします」
「…分かりました」

トンヌラの意図を察したチャモロは、彼の言葉に了承した。
足を怪我しているパトラと、どう考えても今リュビと会わせるべきでないローラを連れていくことはできない。
そして非戦闘員である彼女たちに自衛などできない。
故に、トンヌラが共にこの場に残るのが得策ということだろう。

「二人の事、よろしくお願いします。リュビくんを連れ戻したら、すぐ戻りますので」

そういって、チャモロはリュビを追って走り出した。

132想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:15:12 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「さて…ローラ姫。あなたには聞きたいことがあります」
「……………」
「そう警戒しないでください。僕は別にリュビくんへの糾弾について責める気はありませんから」
「…いったい、なんですの?」

まだ少し警戒しつつも、用件を尋ねるローラ。

「まず、あなたは竜王を倒した勇者アレフ―その伴侶である、ラダトーム王女、ローラ姫で間違いありませんね?」
「え、ええ。アレフ様とはその…まだ正式に籍があるわけではないですが」
「…まだ籍を置いていない、ですか」

少し顔を赤らめながら答えるローラ姫に対し、トンヌラの表情は少し険しくなった。

「ではもう一つ聞きます。あなたと勇者アレフの間に、子供はいますか?」

トンヌラの問いに、ローラは驚きで目を見開く。
アベルに自身の妊娠を悟られた時のトラウマもあって、なんとなく答えづらい質問だった。

「大事なことなんです。どうか答えてください」
「子供は…いますわ。私の…お腹の中に」
「お腹の…!?」

さすがに予想外の返答だったのか、トンヌラの表情には少し驚きが見えた。
心なしか、少し動揺しているようにも見えた。

「…では、お腹の子の為にも、生きて帰らないといけませんね」
「当然ですわ。この子を守るためなら…私はなんだって……!」

そこまで言ったところで、ローラは言葉を止めた。
下手にしゃべって、殺し合いに乗っていることを悟られるのはまずいと感じたからだ。

133想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:16:01 ID:gTFS1IKc0
「し、質問は以上ですか?」
「ええ、ありがとうございました」



(…これはちょっと困ったことになったかもしれないですね)

ローラとの会話を終えたトンヌラは、内心焦っていた。
彼女はおそらく、ほぼ間違いなく100年前の自身の先祖にあたるローラ姫その人だろう。
そして、彼女のお腹には子供がいる。
もしも彼女がこの場で死んでしまったら、どうなる?
当然、ロトの血は絶え、次代にその爪痕が残ることはなくなる。
そうなると、自分達は…

(消えるかもしれない…!)

トンヌラは別にタイムパラドクスについて確かな知識などない。
しかし、昔読んだ小説の中には、過去に干渉することで未来が変わる話もあった。
もしも同じことが現実でも起こるとすれば、トンヌラ達次代のロト一族が消滅したっておかしくはない。
そしてそれを防ぐためには…ローラ姫をなんとしても守らなければならない。

(そうなると、あの女-パトラは邪魔ですね)

トンヌラは気づいていた。
彼女の敵意に。
しかも、理由は分からないが、どうにもその敵意はローラに向いているようなのだ。
先ほどローラと話していた時も、パトラがローラのことを敵意ある眼差しで睨んでいるのをトンヌラは見逃していなかった。
その上彼女はただでさえ非戦闘員でしかも怪我を負っているのだ。
足手まといであり、生かしておく理由などない。

(とはいえ、今殺せば姫やチャモロくん、リュビくんと余計な不和を生むことになる。とりあえず様子見に徹しましょうか)

リュビといえば、彼はローラへの反感を持って逃げ出した。
場合によっては彼も切り捨てる必要があるかもしれない。

(一気に考えなければならない事案が増えましたね…やれやれ)

134想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:17:14 ID:gTFS1IKc0
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

リュビは走っていた。
一心不乱に走っていた。
先ほど聞かされたショッキングな話から、逃げるように。

嘘だと思いたかった。
何かの間違いだと思いたかった。
しかし、ローラのあの語り口は、とても嘘や冗談だとは思えなくて。
それでもやっぱり受け入れられなくて。
彼女の言葉が、浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。

そうして走り続けて。
逃げ続けて。
その先に待っていたのは。

「がはっ!?」

胸に深々と刺さる、剣だった。

「悪く思うなよ、小僧」

(お…とう…さ……)

ぐちゃぐちゃの心の中で最期にリュビの脳裏に浮かんだのは。
優しく、愛すべき父の姿だった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「リュビくん!」

チャモロが駈けつけた時には、すでに手遅れだった。
リュビの身体は、胸部を中心に真っ赤に染まっていた。
そして、そんなリュビの遺体のすぐそばに立っていたのは…


「次から次へと…アプローチなら女のほうが嬉しいんだがな」

「アモス、さん…!」

放送数分前。
二人の男が、モンストル以来の再会を果たした。


【リュビ@DQ5 死亡】

135想いはぶつかり、交錯し… ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:17:45 ID:gTFS1IKc0
【Hー4/平原/1日目 昼】

【アモス@DQ6】
[状態]:HP3/5 目の付近、腕に銃創
[装備]:バスタードソード
[道具]:支給品一式(水-1) 道具0〜4個(盗賊の分も合算、本人確認済)
[思考]:自分を見るものを全て殺す
    目の前の男(チャモロ)を殺す
[備考]:夜ごとに理性のない魔物へと変化する可能性があります

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP8/10 MP9/10 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)
[装備]:ドラゴンの杖@DQ5
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める
   アモスを救う
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。


【G-4/平原/昼】

【ローラ姫@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:毒針
[道具]:支給品一式、銀のティーセット 草・粉セット
    ハッサンの支給品(飛びつきの杖 引き寄せの杖 場所替えの杖)
[思考]:愛する我が子の為、アレフとの愛を貫く為にに戦う
   アレフに会いたい

【パトラ@DQ3イシス女王】
[状態]HP7/10 左腕切断 頬、腹部、足に裂傷(治療により軽減)
[装備]エッチな下着@DQ5 ガーターベルト@DQ3 あみタイツ@DQ8 まじょの服@DQ9
[道具]支給品一式 ベレッタM92@現実(残弾5) 幻魔のカード@DQ7
[思考]永遠の美しさを手に入れる
   1:男たちを篭絡し、反主催勢力を築く
   2:殺人者を一掃した後は自分を信用する者たちの隙をついて皆殺し
   3:ローラをめちゃくちゃに傷つけてやりたい

【トンヌラ@DQ2】
[状態]:健康 MP微消費
[装備]:SIG SG550 Sniper(アサルトライフル、残り弾10)
[道具]:支給品一式 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]:様子を見つつ、生き延びる。ローレルとルーナに殺し合いの中で死んでもらう為、危険人物として吹聴する。
    ローラを守る。その為にパトラは隙を見て排除したい

※トンヌラはローラの死による自分達の消滅を危惧していますが、その可能性はまずありません(メタ的に…というのもあるが、ユーリルが死んでもリュビ達が存在しているため)
※リュビの荷物『支給品一式、支給品(0〜1)、ソードブレイカー@DQ9、皮の盾@DQ2』は、リュビの遺体のそばに放置されています。

136 ◆OmtW54r7Tc:2016/11/06(日) 21:18:35 ID:gTFS1IKc0
投下終了です

137ただ一匹の名無しだ:2016/11/07(月) 01:18:04 ID:aTepHbZ60
投下乙です
この辺りの人間を上手く因縁やフラグを絡めて纏めてくれた感じでGJ
放送後は血を見ることになりそう

意外なことにリュビ君が5勢初死者?
今回の5勢は2ndよりもボロボロなせいでそんな気がしないがw

138 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:03:20 ID:oO0J/cWw0
時間ギリギリですが投下します

139負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:07:58 ID:oO0J/cWw0
ああ、分かっているさ。
ここにいるターニアは、夢の世界のターニアなんかじゃないってことくらい。

ただそれでも、希望くらいは持ってもいいじゃないか。 レックはそう思っている。
実体を見つけられなかったが故に、レックの目の前で消失したバーバラだってこの世界にはいるのだ。
名簿で見ただけでは、このターニアはどちらの方なのか区別がつかない。
だから、もしかしてバーバラのように消えてしまった方の、より長い時間を共有してきたターニアかもしれないと期待するのも無理もない。

(――もう会えないかと思ってたから嬉しい反面……助けてやらなくちゃ、って)

妹がいるのかと聞かれた時、咄嗟にそう答えてしまった。
ここにいるのは現実世界の方の、順当に考えれば確率の高い方のターニアではなく、確率の低い夢の世界のターニアであると、決めつけた発言をした。
決めつけた、という言い方は語弊があるかもしれない。
悪意などもちろん一片たりとも込められてはいない。
ただ、レックの口からするりと無意識に出たのはその言葉だった。
夢の世界と現実の世界、デスタムーアを倒すための長い冒険の日々。
そういったレックの身の上を語る時、長々と語ってる暇はなかったという事情もあった。

ターニアと同じ声、同じ顔でお兄ちゃんと呼ばれると、レックは胸が痛くなる。
現実の世界にいたターニアが悪い訳ではない。
ただ、どうやっても目の前の人物が、同じだが厳密には同じ人物ではないと、割り切れることはなかった。
夢の世界で本物の兄妹だったレックとターニアは十数年もの日々を過ごしてきた。
レック自身が幼少の頃にライフコッドで過ごした記憶もある。
ターニアの世話をし、いつしか世話を焼かれる側になっていった記憶もある。

夢の世界から抜け出してきたレック。
現実世界のライフコッドで穏やかに過ごしていたレック。

実体を取り戻し、融合を果たしたレックの中をどちらがより多くの比重を占めるかと言えば、それは前者の方だ。
過ごした時間も、現実での時間と比べて負けていない。
偽りとは言え、生まれてから今までの記憶がすべてある。

この世界に秘められた謎を解き明かすため、外の世界へと飛び出し苦難の日々を乗り越えたレック。
刻みつけられた敗北の記憶に怯え、ライフコッドという狭い世界の中で生きることを選んだレック。
混ざり合った二つの魂の中で主と従、正と副があるのだとしたら、夢の世界のレックが主導権を握るのが当然だった。
本当の自分を取り戻した後も、レックはレイドックでの日々は断片的にしか思い出せなかった。
何より、血の繋がった本当の妹バネッサがどうやって死んだかも、未だにハッキリと思い出せない。
夢の世界で暮らしてきた年月が長過ぎるからだ。
父であることが判明したレイドック王にも、母のはずであるシェーラにも未だにぎこちなく接することしかできない。

融合を果たしたレックはレイドックの王子でありながら、旅立つ前とは文字通り別人になっていた。
貴方の故郷はどこですかと聞かれたら、レックは対外的にはレイドックと言うだろう。
しかし、本音を言えば、レックの生まれ育った故郷とは夢の世界にあったライフコッドなのだ。

ああ、分かっているとも。
今はそれどころではないことくらい。
そんなくだらない感傷に囚われている暇はないということも。
これから竜王と呼ばれる人物に戦いを挑むのだ。
余計な考えは捨てねばならない。

140負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:10:49 ID:oO0J/cWw0
ティアとフォズについては心配はしていない。
6人を二つに分割する際、女子チームのお守り役に任命されたアンルシアの実力を目の当たりにしたからだ。
とつげき丸とかいうふざけた名前の武器を振るって、岩石を砕いたシーンは今でもレックの脳裏に鮮明に焼き付いている。
ハッサンだって岩を砕くくらい朝飯前だ。
レックもテリーもハッサンほど見事にとはいかないだろうが、それくらいはやってのける。
しかし、女性の身でそれをやってのける人物はレック一行にもいなかった。
女性として規格外すぎるその腕力を見たレックの感想はこうだった。

ゴリラかよ……と。

たぶん、隣にいたキーファもそれに近い感想を抱いてただろうとレックは思った。
顔が驚愕に歪んでいたのはその証拠だろう。
華奢な体に秘められた圧倒的なパワーに、レックはそれ以外の比喩表現を思いつかない。
さすがに口にはしなかったが、あやうく口元まで出かかっていた。
しかしそれを見て、オルテガもキーファも保護者役として太鼓判を押したのだ。

色々考えた末にレックが思うのはただ一つ。
自分ははまだまだ死ぬ訳にはいかないということだ。
ま、ティアのお兄ちゃん役も買ってでたことだしな。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ああ、分かっていたとも。
ここに娘がいるかもしれないということに。

厳しい旅の最中に記憶を失ったオルテガは、それでも平和を取り戻さんと大魔王ゾーマの居城へとたどり着き、そこであの邪竜と出会った。
五つの首を持つ多頭竜、キングヒドラ。
大魔王ゾーマの居城だけあって、中にいた魔物は例外なく強敵だったが、この竜はその精鋭モンスターですら比べ物にならないほどの力を有していた。
おそらく、魔王軍の中でもトップクラスの実力の持ち主だと、すぐに予測も付いた。
心してかからねばならない。
ゾーマの待つ玉座の間へと続く道はここしかないのだ。 倒すしかない。
愛用していた斧を取り出し、オルテガは己を鼓舞した。
もう少し。 もう少しでゾーマの下へたどり着けるはずだと。
オルテガの存在に気付いたキングヒドラが十の瞳をすべてこちらへと向けた。
オルテガを敵と認めたキングヒドラは、地面を揺らしながら向かってくる。

戦いが始まった。
人間一人であの五つの首すべてを相手取るのは無謀過ぎた。
その首一つ一つが別個の意思を持っているがごとく、オルテガに襲い掛かる。
接近戦は危険すぎたため、呪文による攻撃が主体になってしまう。
バギクロスの竜巻もライデインの雷も決定打にはならない。
来たるゾーマとの決戦のために、温存しなければならない魔法力を使わされている。
キングヒドラの攻撃は熾烈を極めた。
城内の損壊など気にしないかの如く、大理石の床や壁、柱までもが破壊されていく。
そしてこれだけの騒音だ。
異変を察知した魔物たちが、次々とここに駆けつけてきた。
しかし、駆けつけた魔物たちがオルテガに襲い掛かることはなく、遠巻きに様子を伺うだけだ。
下手に加勢しようものなら、キングヒドラの攻撃の巻き添えを食うからだろう。
それ自体は僥倖だったが、オルテガの窮地は変わらない。

いよいよ万事休すということか。
仮にキングヒドラを打ち取ったとしても、背後に控える精鋭モンスターが襲い掛かってくる。
オルテガは残り少ない魔力をベホマに費やし、眼前に聳え立つ邪竜を睨みつける。
ならばせめて、この竜だけでもと相討ち覚悟で挑んだ。
何の為かも忘れ、ただ漠然とした使命感だけを胸に秘め、そしてオルテガはキングヒドラに負けた。
いよいよ視力すらも失われる。

141負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:13:01 ID:oO0J/cWw0
今思えば、それは当然の結果だったのだろう。
自身を構成する大切な要素が抜け落ちたまま戦っても、振るう剣に魂が篭められることはない。
全力のつもりで戦っていたはずだが、後から振り返るとまだまだ力を振り絞る余地は残されていたように感じる。
連続で浴びせられる火炎のブレスに身を焦がされながら、オルテガは気づく。

背後に控えていたはずのモンスターが、その気配の数を減らしている。
勝負ありと考え、それぞれの持ち場へと戻っていったのか。
つまりそれほどまでに、傍から見たオルテガという人間の命は風前の灯火ということなのか。
いや、違う。

減っているのは間違いない。
しかし、それは倒されているからだ。
大魔王直属の精強なモンスターが、ばったばったとなぎ倒されている音が聞こえる。
剣戟の音、呪文の爆音、援軍を求めるモンスターの悲鳴。
そして何者かの声が聞こえる。

(人間!? こんなところに!?)

オルテガが薄れかけていた意識を繋ぎ止める。
空耳ではない。
信じられないことに、人間の集団がこの大魔王の居城に乗り込んできてるのだ。
いったい何者なのか、少女の声がその答えをくれる。

「お父さんッ!!!!」

勇者オルテガはその記憶を取り戻した。
記憶を取り戻したオルテガは、同時に自身の旅立ちのルーツを思い出した。
アリアハンでの旅立ち、見送る妻と交わした約束、幼い我が子の寝顔に誓った決意。
それらはすべて大切なものであり、失くしてはならないものなのだ。
記憶を取り戻すことで、オルテガは自身の心の中にあった空洞を埋められたのだ。

オルテガの下へたどり着かせまいと、再び集まりだした魔物が幾重にも立ち塞がり壁を作る。
オルテガを父と呼んだ少女は魔物の軍団を切り裂いて先頭を走る。
勢いは止まることはなく、予言者の起こす海割りのようでもあった。
その姿はまさに、勇者と呼ぶにふさわしい。

ああそうだ。
この声を守りたいと思った。
この子の未来を作ると、心に決めた。
今、オルテガは自身の旅立ちの切っ掛けを思い出す。
自分一人の戦いなら、ここで負けるのも諦めがつくだろう。
だが、しかし。
全てを思い出した今なら、限界を超えた力を、限界の少し先にある力を捻りだせる。

腕よ動け、あと一振りするだけの力を私に。
足よ動け、ここが踏ん張りどころだ。
燃えよ魂、最後の輝きを見せる時だ
さあどこを見ているキングヒドラ。
私はまだ生きているぞ!

もはやオルテガのことなど路傍の石のように無視していたキングヒドラに、渾身の一撃をお見舞いする。
自身の最後の力を振り絞った斧が、キングヒドラの腹部に深く食い込むのを、オルテガは残った聴覚と触覚で感じ取る。
奇声を発しながら、キングヒドラが退散していくのがオルテガにも分かった。

勝つには勝ったが、どうやら最後の力を使い果たしたらしい。

直後、オルテガはその耳も機能を失い、倒れた。
残った触覚だけが、駆けつけてくれた人間の腕の中にいることを教えてくれた。
最後にオルテガは遺言を託す。
託された人間が了承したかも確認が取れないまま、オルテガは息を引き取った……はずだ。

142負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:15:08 ID:oO0J/cWw0
アスナ。
愛しき娘につけた名前と同じ少女が、名簿には掲載されていた。
最後に娘の顔を見たのは何年前だろうか、自分が旅立ってから何年経っただろうか。
アスナの名の横にあった顔写真は、遠い記憶の片隅に存在する幼い娘が成長した姿。
そう推測するのに十分なほど顔立ちが似ていた。
優しさと勇ましさを内包したその顔は、最愛の妻の面影もあった。
きっと娘は周囲の期待に応えるように、すくすくと育っていったのだろう。
一度でも家に戻れば、決心が鈍る。 そう思い、オルテガはついに一度も故郷へ帰ることはなかったのだ。
バラモスなどは地上侵略の為の尖兵に過ぎず、その奥に控える巨悪の存在を知った時の絶望感たるや想像を絶するものがあった。
それでも、オルテガは往かねばならなかった。
そして、それは今でも変わらない。

なあ、アスナよ。
あの時、駆けつけてくれたのはお前なのか。
お父さんと呼んでくれたあの声は、本当に我が子のものなのか。
それを確かめたい気持ちはもちろんある。

許せ娘よ、父はこんな生き方しかできない。
例え名簿に載ってる人物が本当に私の娘だとしても、竜王を野放しになどできんのだ。
ここで竜王を諦め、お前の捜索に回るのはたやすい。
だが、竜王がその牙を向ける相手がお前になる可能性もある以上、竜王を回避するという選択肢はあり得ないのだ。
お前が静かに眠れるその時まで、私は全てを賭けて戦う。 あの時そう誓ったのだから。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ああ、分かっていたとも。
ここにアルス達がいることくらい。

愛する人がいるってのはいいことだ。 キーファはライラの顔を見る度にそう思う。
昨夜、どんなに遅くまで起きていたとしても、その声を聴くだけでぱっちりと目が覚める。
何時間見張りのために立っていようと、お疲れさまの一言で疲労が吹き飛ぶ。
どんなに強い魔物と戦っても、自分の後ろにいる人のことを思うと立ち上がる気力が湧いてくる。

アルス達と別れて数年、身も心もユバールの一族のものとなったキーファの人生はまさに順風満帆だった。
守り手として流浪を続けるユバールの民を守護する毎日。
任された仕事の内容は同胞を命がけで守ること。
その役目の負う責任はとてつもなく大きかった。
定住をせずに放浪を続けるユバールの民を守るのは容易ではない。
昨日は谷底の川の近くで、今日は山の頂上で、明日は見渡す限りの大平原で一夜を過ごす。
城の守りと違って、地の利というものが一切ないのだ。
土地勘が通じないため、守り手は常に敵の侵入経路や密集したテントのどこが守備が薄いか、それを見極めなければならない。
全てを完璧にこなせた訳ではない。
もう少しで死人が出る事態にまで発展したこともある。
それでも身を粉にして働き続けるキーファの姿を見て、もはや余所者などと言う者は一人もいなかった。

143負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:18:07 ID:oO0J/cWw0
無精髭は伸びたままだし、貴重な水を無駄遣いもできないので服の洗濯も数日から数週間に一度程度。
腹いっぱい食べられた日もあれば、保存食だけを口にする日が数日続くこともあったりと収穫は安定しない。
ここは不測の事態、予定外の事態のオンパレードだ。
何事もなく一日が過ぎていくことの方が遥かに少ない。
それでも全てが光り輝いていた。
安定はしてるがグランエスタードでの退屈な日々を捨てて、愛する人を守りながらその日の出来事に一喜一憂する生活を選んだことに後悔はない。
ようやく自分の意思で自分の人生を決めたのだと、今でもキーファは迷いなく言い切れる。

ついには族長にライラとの結婚も認めてもらい、正式に夫婦となることもできた。
やがて、そう時間がかかることもなく、ライラはお腹に子を宿した。
キーファの人生はまさに絶頂期と言っても過言ではない。
生まれてくる子は男の子なのか女の子なのか、名前はどうするか。
にやけた顔でキーファは我が子について想いを馳せる。
自分もついに父親になるのだ。
そう考えた時、キーファは父のことを思い出した。
ユバール族として生きていくことを決めた当初の日々こそ、毎日のようにアルス達や父バーンズ、妹リーサのことを思い出し、時には涙した。
しかし、駆け足で過ぎ行く日々の中で、キーファは過去を振り返る回数も自然と減っていった。
今では月に一度思い出す程度だ。

父はどんな思いでキーファのことを見守っていたのだろうか。
若かりし頃のキーファは、自身の冒険に理解を示してくれない父のことを疎んじていた。
王子という器に無理やり押し込めようとして、自分を支配しようとする悪人のように感じていた時期さえあった。
本当にそうだったのか?
親父は俺のことを嫌っていたのだろうか?
俺は、親父の息子として恥ずかしくない日々を送れていただろうか?

自分が父になる時に、キーファはようやく父の気持ちを知ることができた。
父は心の底からキーファの身を案じていたのだ。
誰が我が子を命の保証もない、未開の地へ送りたがろうか。
衣食住に困ることのない王子の立場を捨てて、明日をも知れない場所で生きていくことを許せるだろうか。
なのに、自分のしてきたことは何だ?
父の言うことには頑として耳を貸さず、融通の利かない頑固者扱いして。
挙句の果てに聞いたこともない地方の、聞いたこともない少数民族の一員になると言うのだ。
けれど、それがキーファの選んだ道だ。
何度言われようと、誰に言われようとも、キーファは愛する人のために、お城での日々を捨てて自分の足で歩く運命を選んだだろう。
そこはもう曲げられない。
しかし、思う。
もう少し父の気持ちに寄り添えなかったのかと。

ユバール族の守り手として生きていくことを決めた日。
アルス達と最後の別れをするとき、俺にはやるべきことがあったんじゃないか、キーファはそう思う。
要するに、一人の男として筋を通すべきだったのではないか、ということだ。
時間をかけていたら放浪を続けるユバール族はどこかへと行ってしまう。
そう考えたが故に、キーファはユバールの民との合流を優先し、旅の扉の前でアルス達と別れた。
だがしかし、それは都合のいい言い訳にしかすぎなかった。

(――泣いてる妹を放ったらかして何やってんだかまったく)

我ながら笑ってしまう。
それはまさに自分のことではないか、と。
父も妹も放り出して、もう二度と戻ることのできない世界へと飛び出したのは誰であろう、自分のこと。

144負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:21:58 ID:oO0J/cWw0
俺は自分の足でグランエスタード城に赴き、アルス達の言葉からではなく自分の言葉で、父と妹に別れの言葉を告げるべきだったのではないか?
それが今まで何不自由なく育ててくれた父への恩義と、慕ってくれた妹に対するケジメではないか?
バーンズ・グランの庇護を受ける息子ではなく、一人の男として生きていくことを選んだキーファ・グランの果たすべき責任ではないのか?

話し合えばきっと分かってくれるなどと、そんな甘い考えは持っていない。
父も妹もきっと分かってくれない。 それが当然の反応だ。 それでもやらねばならない。
きっと自分はライラという女性とユバールの民の生き方の素晴らしさを説き、全てを擲ってでも守りたい存在だと伝えるべきだった。
その時、父と殴り合う事態に発展しても、妹にすがりついて泣かれようと自分の本音をぶつけないといけなかった。

けれど現実の自分は泣く父とリーサの顔を見たくなかった。
自分の生き方を認めてもらえないことが怖かった。
だから逃げた。 アルス達に伝言を頼んで、これで良かったんだと自分に言い聞かせて。
父バーンズと妹リーサは何の非もないのに、一方的に絶縁状を叩きつけられたようなものだ。
その時の父の心境を、父親になる日が近づいたキーファはようやく汲み取ることができたのだ。

キーファだって、生まれてくる我が子が成長した時、ユバールを抜け出したいと言われたら理由の一つも聞きたくなる。
しょうもない理由だったら否定するし、ちゃんとした考えがあっての理由なら、できる限り認めてやりたい。
しかし、もしも理由も言うことなく黙って出ていかれたらどんな気持ちになるだろうか。
すべては仮定の上での話だ。
実際にどうなるかは、そういった事態に直面しない限りなんとも言えない。
認めるかどうかは分からないが、理由くらいは本人の口から聞きたいと思うのが親心ではないだろうか。
我が子にとって自分とは、そんなにも頼りない、または頼りたくない人物に見えていたのか。
そう憤りたくもなる。

結局、冒険の日々に憧れ胸を躍らせていた日々の自分は一人前の男でも何でもなく、甘ちゃんの鼻ったれ小僧だった、ということだ。
そのことにようやく気付き、同時にキーファは泣いた。
あまりにも親不孝だった自分の情けなさに、別れの時間すら作ることもしなかった不義理さに。

もう一度言おう。
キーファはユバールの民になったことに後悔はない。
しかし、そこに至るまでの過程があまりにも幼稚で、自分勝手で、自分でさえ怒りを覚えるレベルだった。
父親になるほんの少し前、ようやくキーファは己を見つめる機会ができたのだった。

ああ、知っているとも。
ここにアルス達がいることも。
自分と違って、その顔が月日の経過をまったく感じさせないことも。
遺跡で違う世界を巡る冒険は、グランエスタードとはまったく異なる時間の流れだった。
きっと自分もそういった事情で、自分だけが年を取り、アルスもマリベルもガボも思い出の中と変わらない顔立ちなのだろう。
いや、それならむしろ好都合だった。
別れてそれほど時間の経ってないアルス説が正しければ、今度こそキーファはアルスや父に言葉を伝えられる。
自分の都合だけを押し付けた無責任な絶縁状などではない。
親不孝をしてしまったことの謝罪、ようやく気付けた父の愛情、妹への感謝とこれからの幸せを願う言葉。
今の自分が伝えられる全てを、もう一度伝えるのだ。
そして必ず帰ってみせる。 愛する妻の下へ。 生まれてくる我が子のためにも。 

ま、ティアもいるしな。
天真爛漫な少女の笑顔を思い出しながら、キーファは少しだけ頬が緩んだ。

145負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:24:39 ID:oO0J/cWw0



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




三名それぞれ負けられない理由を胸に秘め、竜王の追跡は行われた。
荒涼たる大地に風が吹きすさぶ。
かつては深い海の底にあったとされるこの地帯も、今となっては遠い昔の話。
乾燥した砂地にその面影は残されていない。
竜王討伐を目指す勇者オルテガはレックとキーファを先導する形で前を歩く。
協力者を得られたとはいえ、これで勝てるなどと驕る気持ちはオルテガにはない。
竜王の強さをオルテガは自身の身を以て体験した。
人型のままでも負けたのに、竜王にはさらに真の姿を発揮した状態も残されているという。
二人の若者の助力を得られたとはいえ、無理はさせられない。
もしもの場合、作戦は捕らわれの姫の救出までに留めるのだ。

物陰に隠れつつ、オルテガは相手を覗き見る。
なんとか見つけ出した竜王は、ミーティア姫を連れて荒野を歩いていた。

「あれが竜王だ」
「へぇー、意外と普通の見た目じゃん。四つん這いで歩くとか、もっと竜とか爬虫類っぽいの想像してた」
「人型だからまだそういうのはないんじゃないか?
 ターニアとティアへの土産話になるといいよなあ。 お兄ちゃんこんなに大きな竜を倒したんだよってね」

軽口を叩くものの、遠目に見ても竜王の実力の高さは伝わってきた。
人数を揃えたからと言って、容易に勝てる相手ではなさそうだ。
今はまだ人間程度のサイズだが、その中にとてつもないほどの力が凝縮されてるのが分かる。
歩いていた竜王が、突如としてその足を止めた。
くんくんと匂いを嗅ぐ仕草を見せる竜王に対し、立ち止まってミーティアが尋ねる。

「匂うの……」
「? 何がでしょう?」
「なに、負け犬の匂いがするということよ」
「……?」

そんな匂いは存在しない。
厳密に言えば、知った気配を感じとったということだ。
物陰からこちらを窺う存在に、竜王はすでに気付いていた。

(気配は1……2……3……。 なるほど人数を集めれば勝てると思いあがったか)

その中にロトの剣を装備できるアレフがいるのなら言うことはない。
さあ、早朝のような醜態は晒してくれるな。
全身全霊をかけてこの王の首を取りに来い。
半端な覚悟で向かってきた無礼者には死を与えてくれる。

やがて、どこからともなく声が聞こえてくる。
時計の秒針が真上を示した時と合わせて、寸分も狂いなく。
これから始まるのは開始6時間の内に死んだ者の発表をする定時放送。
それが戦闘開始のゴングとなるか、水を差す要因となるか。
明かされるのはもう少し先のことである。

146負けられない理由 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:24:59 ID:oO0J/cWw0
【D-7/山地/昼】

【竜王@DQ1】
[状態]:健康
[装備]:ガナンの王笏
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、人々を結集させ、誇り高き竜として討たれる。
    まずは各地で暴れる、殺人も已む無し
    ※オルテガ達の存在に気付いています。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:自分なりの誇りを見つける
    竜王が人を殺すのは、できるなら止めたい



【オルテガ@DQ3】
[状態]:HP3/5 MP消費 打撲痕
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式  不明支給品0〜2個
[思考]:竜王退治もしくはミーティアの奪還
※ティアから竜王の真の姿のことを聞いてます。

【キーファ@DQ7】
 [状態]:健康
 [装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
 [道具]:支給品一式 道具1〜2個
 [思考]:仲間たちと再会したい。ティアの仲間たちも探してやる。

【レック@DQ6(主人公)】
 [状態]:健康
 [装備]:
 [道具]:支給品一式 道具1〜3個
 [思考]:仲間たちとターニアを探すため、荒野を脱出する。

147 ◆CASELIATiA:2016/12/10(土) 01:25:15 ID:oO0J/cWw0
投下終了しました

148ただ一匹の名無しだ:2016/12/10(土) 05:04:35 ID:2QKom1Cw0
投下乙です
それぞれの想い…
特に父親になってようやく父親のことを理解したキーファが印象深い
てかこのキーファ、そういう歳なんだ…

149ただ一匹の名無しだ:2016/12/10(土) 06:39:27 ID:DbgMRe9Q0
投下乙
なるほど、三人とももう会えないはずの相手がこの場に呼ばれてるって共通点があったんだな
そこに注目してそれぞれの心情を描ききったのは見事

150ただ一匹の名無しだ:2016/12/11(日) 13:48:54 ID:.38FgOQw0
おお、気付けば新作投下されてた。乙です。
キーファってそんな年行ってる様な描写あったっけ?と思って登場回見直してきたが、
確かにアルス達と別れてから結構経ってると言う描写だった。少なくとも公式絵の赤い服は着とらんなw
とにかくレックがハッサン、キーファがマリベルが死んだことを放送で気付いた時はどうなることか
しかし、ここでもゴリラ姫扱いされるのかアンルシアはw

151ただ一匹の名無しだ:2016/12/11(日) 23:48:09 ID:GoplEZnU0
ところでそろそろ放送を考える時期だと思うんだけど、その前にここは動かしときたいってとこある?


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