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DQBR一時投下スレ

1ただ一匹の名無しだ:2012/05/01(火) 18:33:27 ID:???0
規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所です。

前スレ
投下用SS一時置き場
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1147272106/

619 ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:56:38 ID:hs45yPTo0
予約分を投下します

620ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:57:31 ID:hs45yPTo0
瓦礫の崩れる音が収まり、トラペッタには不気味なほどの静寂が訪れる。
皆の待つ門へと向かう足取りは重く、しかし小さな足音はやがて事実を伝えるだろう。
ギガデーモンを倒したこと。そして。

「エルギオスとドラゴンは、死んだ」

ナブレットが告げると一同はそれぞれに表情を歪ませた。
ぼろぼろと涙をこぼしていたサンディがナブレットに向き直る。
見ている方が苦しくなるような悲痛な表情で、悲しみと怒りの感情がないまぜになった瞳で、サンディはナブレットを睨む。


「……どうしてよ!」

  ――あァ、近しいヤツを喪うのはツライよな。


「みんなで戦えば何とかなったかもしれないのに、」

  ――決意を胸に秘めてこっちにゃ背中しか見せてくれなくってよお。


「この門が使えないことを知ってたら置いて行ったりなんてしなかったのに!」

  ――気付いた時には遅いんだ。だってそうだろ? もう会えなくなるなんてこっちは思いもしねえんだから。


「なのに! 自分だけ無傷で安全なところにいて! 見届けたなんてエラそうなこと言っちゃってさ! そんなの……」

  ――だから、サンディ、よしてくれよ。


「見届けた? 見殺しにした、の間違いでしょ!!? アタシはそんなヤツゼッタイに――」

  ――そうやって俺を責めるフリをして、


「――ゼッタイに許さない!! 一生、何があっても許したりしないんだから……!!!」

  自分自身を、責めるってのは、よ。



やり場のない喪失感に、誰も、何も応えられずにいた。
泣きじゃくりながら勢いのままに罵倒の言葉を吐き捨て、サンディはその場から逃げるように飛び去っていった。

621ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:58:19 ID:hs45yPTo0
「ゲルダ。お前も傷だらけのところ悪いが、ガボたちを休ませてやってくれるか」
「それは構わないけど……。あのコ、大丈夫なのかい」
「ああ、俺が探してくる。見捨てるわけにはいかねえだろう。……俺にも一つ、思うところがあってな。二人で話がしたい」

ナブレットは表情を隠すようにシルクハットをかぶりなおした。

「ただ、これだけドデカい戦闘をやってのけたんだ。
 乗じて新たな敵襲が来るかもしれない。その時は構わず逃げてくれ」
「……わかったよ。そこの宿屋の二階にベッドがいくつかあったはずだ。アタシたちは一旦そこで休むことにする」

ゲルダはサンディが脱ぎ捨てた知識の帽子を拾い上げた。
飛び去ったサンディを追うために、ナブレットはもう一度北の階段を駆け上がる。








……アタシはなんてバカなんだろう。
ぜんぶ、ぜんぶアタシのせいなのに。
皆で逃げようとしたときにダンチョーさんが何か言いかけてたことにも気づいていたのに。
賢くなったつもりで、舞い上がって、このまま何もかもウマくいくんだって信じ切って、思いこんで。
それを人のせいにして、喚いて、怒鳴り散らして。
逃げ出して、こんな路地裏の隅っこに引っ込んで、拗ねたり泣いたりして。
サイテーじゃん、アタシってば。


膝を抱えて座り込むアタシにふっと陰が差す。
シルクハットをかぶった黄緑色の小さな体。

「……妖精は井戸のそばにいるってのは本当なんだなあ」
「何よ、ソレ」
「メギストリスって都の噂話さ。井戸には話好きの妖精が住んでいるんだと」
「そんなの知らないし、キョーミない。っていうかコッチこないでほしいんですケド」


ホラ、こうやって心配かけて、悲劇のヒロインぶって。また当り散らしてる。
あれだけ酷いコト、言ったのに。
もー、ぐっちゃぐちゃで、ワケわかんない。

622ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 22:59:27 ID:hs45yPTo0
「――サンディ。俺が憎いか」

「…………」

「お前の言った通りだ。俺は何もできなかった。
 犠牲を出さずに……ってのはどのみち無理だったろう。それは退却を選んだお前さんの方がよく分かってるよな。
 けど他にやりようはあったかもしれない。少なくとも、お前に悔いが残らない道ってのはあったはずだ」

「分かったようなこと言わないで。……もういいでしょ、ほっといてよ。ヒトリになりたいの」

「いいや放っておけねえよ。遺されるヤツの辛さってのは俺も知ってるんだ。だからお前をこのままにしておきたくない」





――俺のわがままだがちょっとした”昔話”を聞いてくれるか、とナブレットは前置きをして話し出す。



ナブレットには年の離れた妹がいた。この話は二人が暮らしていたオルフェアの町で起こった話。
妹には生まれつき不思議な力があった。それは未来を見ることのできる予知能力。
だがプクランド大陸の破滅を目論む悪魔に目をつけられ、やがてあらわれるプクリポ族の救世主の存在を予知するよう強要をされた。

「予知をしなければ町中の子供を食い殺すと脅された。
 だが当時――十五年前にはまだ救世主は生まれていなかったんだ。それを知った妹は悪魔と契約を交わした。
 救世主が生まれるまでの十五年のあいだは、絶対に子供たちに手を出すなと。
 そのかわり、十五年経てば、救世主だろうがなんであろうが子供たちを好きにして構わないからと」

そして十五年後の約束の日。
悪魔の手の届かない場所に子供たちを隠してしまうこと。それが妹からナブレットに託された役割だった。
サーカスの特別講演と称して町中の住民を集め、イリュージョンを使い子供たちをさらった。
そして『異世界』の扉の中に隔離し、妹の予知の通りに現れた冒険者、ジャンボとともに悪魔を討伐したのだ。


「……ずいぶん勝手な妹サンね。
 子供たちを守るなんてゴリッパだけど、アンタに面倒事を押し付けて、そんな強引なことをさせるなんてさ」
「まあそりゃあな。その頃には妹はいなかったんだ。――なにせそれよりも五年ほど前に死んじまったからな」
「え……」

プクランドに迫る危機は、その悪魔だけではなかった。
そして妹はもう一つ不思議なチカラを持っていた。
『異世界』の中でとある者に授けられた「何でも願いがかなうノート」
ただし願いをかけるのは3つまで。そして最後の願いごとを書いたとき……ノートの持ち主は破滅し、無残な死を遂げるという。

「何ソレ……じゃあアンタの妹さんは……世界を救うためにそのアイテムを使って、自分を犠牲にしたとか……そういうコトなの?」
「…………。
 それが、わからねえのさ。知らねえんだ。
 アイツが最後に何を書いたのか。そもそもどんな願い事をしようとしていたのか。アイツは何も話しやしなかった……」

623ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:00:34 ID:hs45yPTo0
 
……。同じだ。
たった今、エルギオスたちも、逝ってしまった。アタシには何も言わずに。


「運命ってなんだ? 使命ってなんだ? 俺たちはごく普通のただの兄妹だった。
 少なくとも神サマや精霊サマからなにか大それたモンをたまわるなんて存在じゃあなかった。
 なのにどうしてアイツが命と引き換えにそんなことをしなくちゃならなかった? 俺にはずっとわからなかった」

「…………」

「アイツの予知どおりに悪魔を倒してやった時、俺は何とも言えない気持ちになってよお。
 だってもうアイツはこの世にいないんだぜ。
 それに、子供たちを守るためにやったことだなんて言やぁ聞こえはいいが、皆を傷つけたことに変わりはねえ。
 町中の住人から責められても仕方ないと思っていた。すべてが終わった後、俺は町を去ろうと決めていた。
 そうすることでケリをつけたかったんだ。
 いや、消えてしまいたかったのかもしれねえな。何も言わずにいっちまったアイツみてえによ……。けど……」

「……でも。そんなの、ダンチョーさんが悪いわけじゃないじゃん……」

「そう、そんな風にな。子供たちがよお、言ってくれたのさ……」

一人も犠牲にならぬよう、一時的にとはいえ無理やり親元から引き離し、『異世界』の扉の中という得体の知れない場所に閉じ込めた。
怖くなかったはずがないだろう。悲しくならなかったはずがないだろう。それでも子供たちは言ってくれたのだ。

 ――団長さんを信じてたよ。助けてくれてありがとう!――
 ――いなくなるなんて言わないで! ボクたちサーカスが大好きなんだ!――
 ――あんたは子供たちの命の恩人よ。これからも町にいてちょうだいよ!――


「……いやあ、参ったよな。不覚にも涙がこみ上げてきちまってよお。許してもらえたから……それもあるが、それだけじゃなくてよ、」

ナブレットはシルクハットのつばをグイと押さえる。

「アイツにも聞かせてやりたかった……。そして……それは俺からも伝えたかった思いだったと気が付いた。
 先に死なれて、俺には心のどこかで納得できずにアイツを許せないような気持ちがあったのかもしれない。
 けど子供たちの言葉でわだかまってたものが消えていった。アイツに、ありがとうって、伝えたかった……。だから、サンディ」

上擦った声でそこまで言うと、顔を上げた。


「お前を探しにきたのは同情したからでもただ慰めたいからだけでもない。
 伝えたくて来たんだ。――助けてくれてありがとよ。いま俺やガボたちが生きていられるのは、お前たちのおかげだ――」
 

また、ぼろぼろと涙の粒があふれ出る。
何もできなかったのに。この胸には後悔しか残っていないのに。
自分の思い上がりでみんなを傷つけたと思っていたのに、それすらも思い違いだったっていうの。

「バッカみたい……ホンット、サイテー……」

624ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:01:24 ID:hs45yPTo0
誰かを助けるために自分を犠牲にする。そのためにすべてを失ってしまう。それでも思い通りにいかなくて、また傷ついて。
思い浮かぶのはアークの姿だ。アイツ、今どこでどんな顔をしてるの。

ナブレットはぐしゃぐしゃの泣き顔を覆うように、シルクハットをかぶせてくれた。



「……話のオマケだ。俺はよ、昔、シルクハットじゃなくてコック帽をかぶってたんだ。本当はケーキ職人だったんだ」
「え、それがどうしてサーカスのダンチョーさんになっちゃったわけ?」
「妹が言ったんだよ。――子供を集めるのにはケーキもいいけどサーカスなのっ!ってな。
 おかげで、曲芸のきの字も知らなかった俺が今じゃアクロバットスターなんて呼ばれててよ。まったく無茶なこという妹だったぜ、はは」

人生なんてどうなるかわからねえよな、と困ったように笑う。
それは少し照れくさそうな笑顔でもあって。

「何よソレ。……あはは、ダンチョーさんの妹さんって、ソートーな変わり者だったのね……」

――アタシもこんな風に笑える時が来るのかな。今は全然できそうに思えないケド。



「昔話はここまでだ。他のやつらには話すなよ? おおっぴらに語るようなことじゃねえしな。さて、ちょっとは気が紛れたか?」
「うん……ゴメンナサイ……アタシ、謝んなきゃ。ダンチョーさんにも酷いコト言って、みんなにも……けど……」
「ん?」
「今よりも、もっと。グシャグシャな顔になっちゃうかもだけど。それでも行かなきゃ……南の広場に」

見に行かなきゃいけない。向き合わなきゃいけない。
エルギオスたちが遺してくれた思いを受け止めなきゃ。
でなきゃきっと、ずっと後悔したままでいることになる。それだけは絶対に、イヤだ。だから。

「そうか。辛くなったら、俺の胸でいいなら貸してやるぜ」
「や……それはエンリョしとくワ。そのかわりこの帽子はもうちょっと借りておくわね」
「ははっ、そうしろい。……ううっ、今自分でもガラじゃねえこと言っちまって鳥肌がたってらあ」

 

 
二人は路地裏から広場へと向かった。

崩れた瓦礫、焼け焦げた炎の跡、血飛沫。

段上から見える戦闘の痕跡はサンディの想像以上に酷いものだった。

サンディはシルクハットを握り締めてひとしきり泣いた。ナブレットは何も言わずただ寄り添った。

泣きじゃくる声の間から、感謝を告げる言葉が小さく聞こえた気がした。

625ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:02:48 ID:hs45yPTo0
どのくらいの時間、そうしていただろうか。近づく気配に気づきナブレットは振り返る。

「なんだ? お前ら宿にいるんじゃなかったのか?」
「この子たちがどうしてもって聞かなくてね」

ゲルダとともにホイミンと、ライアンに背負われたガボが広場へとやってきた。

「おっちゃんありがとう。ここで下ろしてくれ」
「ガボ、大丈夫なの? 足、ひどいケガしてるのに……」
「ああ、ホイミンもありがとうな。けど背負ってもらったままじゃカッコがつかねえから」

全員が弔いに来たのだ。エルギオスとゴドラ、自分たちを守ってくれた二人を。
頷いたライアンはガボを下ろす。
と、同時にサンディに向き直り頭を下げた。

「サンディどの、すまない。皆も、私を助けようとしてくれたばかりにこのようなことになってしまった!
 しかし、なんと詫びればよいのか見当もつかないのだ……」
「チョ……やめてよね。アンタに謝ってほしいなんて思っちゃいないわよ。そうじゃない、そうじゃなくて……。
 謝んなきゃいけないのはアタシのほうよ! ゴメン、みんな、みんな一緒に戦ってくれたのに、あんな取り乱して……アタシ……」

消沈してサンディが俯くと、今度はガボが声を張り上げた。

「サンディ、オイラもだぞ!
 オイラがちゃんとぼうぎょできてたらみんなに加勢できてたんだ。そしたらちゃんとやっつけられたかもしれない!」
「ぼ、ぼくも! ライアンさんを助けるのに必死で、もっとまわりに注意できてたら……」

さらにホイミンが弱々しくふるえた声で後悔を口にする。
やれやれ、とゲルダも頭を振った。

「……こういうたられば話ってのは性に合わないが、この際吐き出しちまうべきなのかもね。
 アタシも見通しが甘かったよ。
 この町を脱出するルートは限られてたんだ。一番知っていたのに、アンタに全部丸投げした。その責任は感じてる」

「な、なによソレ。やめてよ……みんな……一人で泣いてたアタシが、マジダサイじゃん……」

しゅんと落ち込むサンディの姿に困った笑みを浮かべるナブレット。

「顔を上げようぜ。おんなじなんだ。皆、こいつらにもらった命だ」

626ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:03:45 ID:hs45yPTo0
表情を引き締め彼は皆へと伝える。
エルギオスとゴドラの勇姿とその思い。
打ち明けた最期の決意を、全員が胸に深く刻み込み、彼らを追悼した。


 
***


「さて、これからどうしようか」

各々に共通する目的。
ライアンはユーリルを、ゲルダは元の世界の仲間たちを、ナブレットはジャンボを、そしてサンディはアークを探すために行動していた。
そしてガボとホイミンは『みんな友達大作戦』をかなえるためにできるだけ多くの参加者を集めたいと思っている。

トラペッタを拠点にできればと考えていたが、今の戦闘で半壊してしまった。
さらにこの惨状。ギガデーモンの巨大な死体が残るこの場所が目的に適しているとも言い難い。
一同は地図を眺めながら頭を悩ませる。

「ここを離れることも視野に入れた方が良さそうだ。
 だが今から拠点を移るにしても、どこも距離がある。ゲルダ、どうだ?」
「そうだね……南の洞窟の滝の上には粗末な小屋があるだけで、何より逃げ場がないから却下だ。
 リーザス村まで行くとなると、木の多い一本道を橋を渡って行かなきゃならない。
 着いたところで出入りは西か東かの二択。もしどちらかが塞がれれば、結局今回と同じことになっちまうだろう」
「なら、西にあるトロデーン城が一番いいのか。しかし、この場所もどん詰まりだな」
「だが人が集まりそうなトコロってんなら最有力候補だよ。だけど……」

ゲルダが言いよどむ。

「ナブレット。大事な事を言うよ。――アタシの地理感覚をあまり過信しない方がいいかもしれない」
「どういうことだ?」
「ここから城に繋がる橋。これは昔とあるバカがぶっ壊して無くなっちまったはずなのさ。だが地図には記されている……」

「それって、この地図がニセモノってこと?」
「エビルプリーストがオイラたちをだまそうとしてるのか?」
ホイミンとガボが率直な疑問を口にする。

「いいや、違うね。きっと橋は”存在してる”。……おかしいのさ。この町にはもともと火事で全焼した家があったんだ。
 宿からここに来る道の途中にね。だがその家は、今”存在してる”んだ……。さっきこの目で確認したよ」
「――やっぱりこの世界は作り物、エビルプリーストにとって都合のいい『異世界』ってわけか」
「……それについては、ギガデーモンにも同じことが言えよう。
 私はかつて勇者殿たちとともに奴を打ち倒した。
 もとより巨大なモンスターではあったが、これほどまでに規格外な大きさではなかったはずなのだ……」
「それじゃあいつ、エビルプリーストのチカラで本当より強くなってたってことか!? そんなのずりーぞ!」

627ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:04:39 ID:hs45yPTo0
「あーーーーもうっ!!! まどろっこしいったらありゃしないワ!!!」
「サンディ?」


黙って落ち込んでいたはずのサンディが急に叫んだ。
フワリと飛び上がりゲルダの元に近づく。

「……アリガト。アンタが拾ってくれたのネ。アタシもこれ返すから、ソレ、返してもらっていい?」

サンディはシルクハットを差し出し、かわりに知識の帽子を指さした。
ゲルダはサンディからシルクハットを受け取ると、そのままナブレットの頭に戻してやる。

「……わかったよ。約束通りだ。ちゃんと返してもらったからね」
「おいおい、俺は物じゃねえっつったし帽子が本体ってやつでもねえぞ……」

げんなりとするナブレットを尻目にサンディとゲルダはくすくすと笑い合った。



――大丈夫。もうヘコたれてなんていらんない。
勇気を振り絞ってサンディはもう一度、知識の帽子をそうびした。


「……今アレコレ細かいことをあげつらっても混乱するだけだわ。
 アタシたちはあいつ――エビルプリーストの都合のいい世界の中にいる。まず前提として考えるのはソレだけでいい」

ギガデーモンのような差し金や世界のこともそうだが、あいつにとって都合のいいルールは他にもある。
そう、それはこれから始まる定時放送。

「禁止エリアが発表されるわ。みんな、どう動くかを決めるのはそれからよ」






【G-2/トラペッタ中央広場/1日目 昼】

【サンディ@DQ9】
[状態]:健康 ラッキーガール
[装備]:きんのくちばし@DQ3 知識の帽子@DQ7
[道具]:支給品一式 オチェアーノの剣 白き導き手@DQ10 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給

品0〜2)
[思考]:第一方針 アークを探す
[備考]: ※知識の帽子の効果で賢くなっています。
      ※きんのくちばしの効果でラッキーガール状態になっています。
       ※ギガデーモンの支給品は主催者から優遇措置を受けている可能性があります。

628ともしびのあと  ◆HOdC4dGYwU:2016/07/18(月) 23:05:08 ID:hs45yPTo0
【ライアン@DQ4】
[状態]:全身の打ち身
[装備]:破邪の剣@DQ4
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1) 不明支給品0〜2個
[思考]:ユーリルたちを探す
    ホイミンたちを守る

【ガボ@DQ7】
[状態]:HP3/10 腕や背中にいくつか切り傷 全身打撲  両足骨折
[装備]:なし
[道具]:支給品一式×2 道具1〜5個 カメラ@DQ8
[思考]:ホイミンと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

【ホイミン@DQ4】
[状態]:MP1/8 健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個
[思考]:ガボと共に『みんな友達大作戦』を成功させる

【ゲルダ@DQ8】
[状態]:HP2/5 MP3/5, 全身に裂傷
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間(エイト他PTメンバー)を探す
[備考]:長剣装備可(短剣スキル59以上)
   アウトロースキル39以上

【ナブレット@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:こおりのやいば、シルクハット
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ジャンボを探す
    みんな友達大作戦を手伝ってやる

※プラチナソードはギガデーモンに刺さったままです。
※ドラゴンとエルギオスのふくろは、それぞれ本人の遺体に残っています。


---
以上で投下終了です。

629 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:04:26 ID:WY6/oKtc0
投下します

630魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:05:41 ID:WY6/oKtc0
突如として、空気が震えた。
それに続き、肌を叩き付ける膨大な魔力を感じた。
そして竜の咆哮を思い起こさせるような轟音と、脳髄まで刺すかのような凄まじい閃光。
何かがーー否、戦闘が起こっているのだとサヴィオとコニファーが判断するには、十分すぎる光景だった。
やがて元の通り静まり返り、何事もなかったかのように空気は落ち着き、澄ましている。

「今のは……まさか、マダンテか?」
「え、コニファー知ってるの? もしかして、仲間が……」
「いや、俺の仲間にはマダンテを使えるヤツはいなかった。でもよ、その魔法があるってことはよく知ってる」

サヴィオの問いに答えながら、堕天使エルギオスとの戦いの最中、マダンテに何度か痛め付けられたことを思い出す。
膨れ上がり暴走した魔力は叩き付けるように押し寄せ、肌を灼き、コニファーたちを呑み込んだ。
それほど魔力が高いわけでもなければ敏感なわけでもないコニファーでも、枷が外れ、意志もなく暴れ狂う魔力をはっきりと感じ取れた。
寧ろ魔力に敏感ではなかったからこそ、あの凄まじい魔力のうねりが脳裏に焼き付いて離れない。
今しがた目にしたものは、離れていたところで発動したからだろう傷付けられこそしなかったものの、確かにあの時と同じ魔法だった。

「マダンテってのは、使ったヤツの魔力を全部ぶっ放して暴れさせるものらしい。その威力は……言うまでもねぇな」
「そりゃ、あんな光景を見れば分かるさ……ん?」

まだ呪文の使用者は確認できない距離だが、地面が穿たれ、岩肌が抉れているのは微かに見える。
あれだけの広範囲にわたって地形を変えてしまっているのだ、どれほどの威力か説明されるまでもなかった。
顔を引きつらせていたサヴィオは、ふと気付く。

「魔力を全部……だとしたら、あれを放ったのが誰であれ、マズいことになってるかもしれないのか……」

冷や汗を流すサヴィオに、コニファーは黙って頷く。
ゲームに乗る気のない者が襲撃者をマダンテで撃退したというだけなら、問題はない。
しかし、撃退できていない場合、マダンテの使用者は魔力もなしに戦闘を続けることになる。
逆に襲撃者がマダンテを使ったのだとすると、生存者がいたとしてもかなりの重傷は免れない。
最悪のパターンは戦闘がゲームに乗った者同士で行われていた場合だ。

「でもよ……」

ぽつりと呟いて、コニファーは来た道を振り返る。
その向きは南。パパスとイザヤールが向かった方角だ。

「旦那たちに危険な役割を受け持ってもらってんだ。後戻りなんてしたら……示しがつかねぇさ」
「……ま、そうだよねぇ。どのみち前進しかないよね」
「なァに、まだ距離はあるんだ。警戒しときゃ、どのパターンでも手は打てるだろ」
「もっと近付く前に気付けて良かったね。はあ……ホント、運が良いのか悪いのか……」

ぼやきつつもいつでも詠唱に入れるように神経を集中させるサヴィオににやりと口角を上げ、コニファーは彼よりも少し前を歩き出す。
パーティを抜けた後のサバイバル生活経験を活かして警戒に当たるのは適材適所というものだ。
援護は頼んだぜ、と小声で呟くと、偵察は頼んだよと返ってきた。
誰かと共に生きようとするのは久し振りだなと、なんとなく思った。

631魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:07:46 ID:WY6/oKtc0
 


束の間の静けさの後、響いてきた爆音を耳にした二人は、姿勢を低くし、更に慎重に歩みを進めた。
コニファーは弓に矢を番えながら、サヴィオは魔力を練り上げながらマダンテが放たれたであろう場所に近付いたものの、既に再びの静寂に包まれ、戦闘は終わりを迎えていたようだ。
やや安堵して力を抜き、辺りを見回したサヴィオの目は、二人の人影を捉えた。
動く気配のない大きな体躯と……見覚えのある僧衣。
そこにいたのは間違いなく。

「フアナ!」
「あ……」
「サヴィオのお仲間さんか。だが……再会を祝福、というわけにもいかねぇようだな」

フアナを庇うような体勢で灼け爛れ、絶命している大男。
先程聞いたばかりの爆音もあり、何が起こっていたかは想像に難くない。
フアナは焦点の合わない目を見開き、そこに仲間がいると認識した途端涙を溢れさせた。
ふらふらとした足取りで歩み寄ろうとする彼女をサヴィオは慌てて抱き止め、幼子をあやすように頭を撫でてやる。
信頼できる仲間と会えた安心感と、生きた人の温もりを実感してか、ついにフアナは声を上げて泣き出した。

おろおろとするカマエルを抱え、コニファーは二人から少し離れて辺りを警戒し始める。
まだフアナのことを詳しく知らないため、下手に慰めるよりは共に旅をしていたサヴィオに任せた方が良いだろうという判断だった。





いくら経った頃か。漸く泣き声が落ち着き、フアナはぽつりと呟き始めた。

「わた、し……私……」
「うん」
「私……謝ら、なくちゃ……」
「謝る?」
「謝らなくちゃ……いけ、ないのに……いけなかった、のに……」

ズーボーさんに。
そう言って涙に濡れた顔を上げ、もう動かない彼を見る。
あれだけ大きく見えた背中が、連発されたイオナズンによって小さくくすんでしまっていた。
ちょっと大股で歩けば、それだけで乗り越えられそうで、居たたまれなくなる。

「ありがとうって、それしか……それしか言えなくて……」

632魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:08:47 ID:WY6/oKtc0
殺し合いに放り出されてから半日にも満たない時を振り返る。
モンスターと認識したズーボーに襲いかかり、しかしその不可解な行動に戦き逃げ出し、ゼシカやバーバラと出会い。
ヘルバトラーに襲いかかられ、そしてズーボーは何よりも仲間を守る為に戦った。
二人だけでなくフアナもズーボーに守られ、その結果、今こうして生きている。

「モンスターだと思って、信用ならないって突っぱねて、そのくせ、守って、もら……て……」

一旦落ち着いたはずの涙が、またボロボロと溢れ出す。
ゴシゴシと目を擦り、それでもフアナはズーボーをしっかりと見据えて。

「何よりも、謝ら、なきゃ……いけな、かった……のに……私、最低な、こと……」
「……フアナ」

しゃくりを上げ、止めどなく涙を流すフアナに、サヴィオはそっと囁く。

「フアナはさ、正義感が強くて、間違いを許せなくて。でも見栄っ張りだから、自分がちょっと間違えることすらも許そうとしなかったでしょ」

いつだったか、THE・ガマン大会8668で熱い正義の心を手にしたんだと、自慢げに語っていたことを思い出す。
しかし堂々とした態度のその反面、輝かしい数々の経歴をことあるごとに披露するも何故かオチに回ってしまうようなどこか抜けているところを気にしている部分もあった。

「だから、そのズーボーって人のことも、モンスターと思って襲いかかった自分が許せなくて、間違ってないんだって思い込もうとして、突っぱねちゃったんじゃないかな」

こうして再会するまでの様子は見ていないから、分からないけれど。
共に旅をしてきた仲間なのだ、ある程度は予想できる。

「でも、間違えない人間なんていないんだしさ。ありがとうった言えただけでも十分だよ。
 それでもフアナは納得いかなくて、謝りたいと思ってる。最低なんかじゃないよ」
「でも……いくら、謝りたい、って、思っても……もう、ズーボー、さんは……ズーボーさん、には……届かないのに……!」

最期まで、バーバラの、ゼシカの、フアナの命を守り続けて、ついには声も満足に出せないほど灼き尽くされて。
ありがとうの言葉すら、届いたかどうか判断できないというのに。

「届くよ、きっと」

フアナの悲痛な言葉にやんわりと返し、サヴィオもズーボーの亡骸を見遣る。
惨たらしく灼け爛れているけれど、微かに分かるその表情を見れば、誰でも思うだろう。
ありがとうは、きっと届いてる、と。

633魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:09:53 ID:WY6/oKtc0
ーーごめんなさいだって、きっと届く。

その言葉に後押しされるように、そっとサヴィオから離れ、ズーボーの傍にしゃがみ込む。
恐る恐る幅のある肩を起こして、改めてその顔を見つめる。
表情全てまでは分からないが、魔障や幾重の爆発に耐え続けた彼の口元はーーそれでもほんの少しだけ、弧を描いていた。

「ズーボーさん……」

ふと、抱き起こす両手がいっぱいに広げられていることに気付く。
彼の亡骸は今も小さくなんてなかった。くすんでなんていなかった。
ならば、小さくなっていたのは、くすんでいたのは。
自分の心、だったのだろうか。

「もう、遅いかも……いいえ、もう、遅いけど……ごめんなさい。
 そして、もう一度……本当に、ありがとう」

漸く素直に吐き出せた謝罪と、誰かを守る者への、一番の餞となる言葉を紡ぐ。

「こんな私を……守ってくれて、ありがとう……」

ズーボーをそっと横たえ、フアナは祈るようにその手を組む。
誇り高きパラディンへ黙祷を捧げる中、時折落ちるぽつりという音だけが響き渡った。





やがて手を解くと同時に、泣き疲れたのか精神的に限界だったのか、フアナはぱたりと気を失った。
支える力を欠いた体をサヴィオは慌てて受けとめ、落ち着いた呼吸に安心して息を吐く。

「……フアナ、だったか。そいつ、大丈夫なのかい?」

時折様子を見ていたコニファーが声をかける。
自身も打ちのめされた僧侶が仲間にいるからか、どこか気になるようだ。
やや心配そうな声色の言葉に、サヴィオは曖昧に微笑んでみせた。

「まあ……多分。謝れたことで、フアナなりにケジメは付けられただろうし、その内立ち直るとは思うよ。
 でも見栄っ張りでさ、すぐ強がるから。今はこのまま休ませてやっていいかな?」

旅の途中もそうだった。
引っ込み思案なアスナやパーティで一番年若いホープに心配かけまいと、その性格も手伝って、フアナは自分の弱い姿は見せようとはしなかった。
そんな彼女をすぐ起こしたら、また強がるだろうから、ゆっくり休ませてやりたいのだとサヴィオは言う。
コニファーも了承し、平原の端まで移動してから腰を落ち着かせることにした。
フアナを抱きかかえ歩き始める前に、サヴィオはズーボーの亡骸を振り返る。

634魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:12:09 ID:WY6/oKtc0
「貴方のおかげで仲間に会えたのに、ごめんね。フアナが目を覚ましたら、必ず埋葬するから……少しだけ、待っててね」

頭を下げて、今度こそ歩みを進める。
一時的とはいえ埋葬をしないことへの罪悪感と、必ず弔うからという想いを胸に秘めて。





岩壁の付近でフアナを下ろし、彼女のことはサヴィオに任せ、コニファーは再び周囲の警戒に当たっていた。
教会からここまで誰にも出会わず、更には北に城があるということもあって、人が来る可能性は低いだろうとは思うが、それでも念には念を入れておく。

(俺は……生きてるんだよな。こうして、確かに生きてる……)

ちらりと視線をズーボーがいる辺りに投げ掛ける。
コニファーは確かに生きている。こうして立っているのだから。
コニファーは確かに生きている。亡骸と違い、こうして動いているのだから。
コニファーは確かに生きている。
けれど。

(こんな形で生きてるって実感するなんて、な……)

誰かの死によって、生を実感するなんて。
皮肉にしては質が悪い。

(なあ、アーク、スクルド、ポーラ……お前らは、大丈夫か?)

僧侶である彼女の弱った姿を見て。
死を以て生を教えてくれた彼を見て。
コニファーは、かつての仲間たちを思い返す。
アークやポーラの腕っぷしの強さはよく知っているし、スクルドもよく回る頭でパーティをサポートしていた。
そう簡単に死んだりはしないだろうとは思うが、過った不安は消えようとしない。

(お前らの命を犠牲に生きてるって実感するなんて、俺はゴメンだ。
 どうか、生き延びててくれよ……)

とにかく生きて、感覚を保つ。その想いに変わりはないけれど。
こんな悲しい形で為し遂げるのは、もうしたくはない。
それも仲間の命で、など。
そんなことを許容できるほど、コニファーの感覚は狂ってはいない。

635魂へと馳せる想い ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:14:04 ID:WY6/oKtc0
(ああ、ほら、また。なんでこんな嫌なことを考えるほど、自分の感覚に安心するんだ……)

がしがしと頭を掻き、目を逸らす。
きっと亡骸を見たばかりだから、気が滅入っているのだろう。
ならば煩わしいことは考えないようにと、警戒に神経を集中させる。

別のことでも、感覚は保てるはずだ。
そう自分に言い聞かせ、コニファーは弓を強く握り締めた。



【C-4/平原/1日目 昼】

【コニファー(男レンジャー)@DQ9】
[状態]健康
[装備]かりうどの弓@DQ9、毒矢×30本
[道具]支給品一式 カマエル@DQ9 支給品0〜1(本人確認済み)
[思考]自分が生きているという感覚を保つため、とにかく生き抜く。
   サヴィオと仲間を探す。

【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。コニファーと仲間を探す。
   フアナを休ませる。フアナが目を覚ましたらズーボーを埋葬する。
[備考]:元遊び人です。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:3/5 MP1/10 気絶中
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:???

※バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 がズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8 の入ったふくろがズーボーの亡骸の周囲に落ちています
※バーバラとゼシカが付近にいることにはまだ気付いていません

636 ◆jHfQAXTcSo:2016/07/22(金) 23:14:44 ID:WY6/oKtc0
以上で投下終了です。
指摘などあればよろしくお願いします。

637ただ一匹の名無しだ:2016/07/24(日) 21:36:53 ID:xUlW7nbk0
投下乙です
フアナさんとサヴィオが合流したか
フアナさん立ち直れるだろうか…
他人の死を見て生を実感してしまうコニファー君も物悲しいねえ

64010の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 00:58:46 ID:/n5HYbQo0
青い空、白い雲、照りつける太陽。
本日は絶好の晴天なり。
そして同時に、絶好の殺し合い日和。

「いません!」
「うーん……」
「はてさて……」

フアナとサヴィオ、そしてカマエルは再びあの地へと戻ってきた。
フアナがズーボーを失い、気絶した場所。
地形を変化させるほどの大規模呪文が何度も爆発した激戦の地。

「僕もコニファーもいたけど、見落としはなかったと思うよ?」
「でも、死んでないんですよね?」
「それは僕も保証するけどさ」
「ワタクシも聞き間違いはないと思いました」
「けど、って何ですか?」
「いや、あの放送が真実とは限らない線もあって……ってそんなこと言いだした日にはキリが無いけど」

となると、バーバラとゼシカはサヴィオとコニファーが来る前にどこかへ移動した。
理由はすでにフアナとズーボーは死んだと勘違いしたため。
あるいは、生存が判明してるヘルバトラーか悪意を持った人間が二人を拉致した。
考えられるのはこのあたりか。

サヴィオが辺りをもう一度見回す。
魔の瘴気は緑豊かだったはずの場所を死の大地に変えていた。
急速に枯れた植物、紫に変色した土、あっという間に風化した岩石。
大自然の植物で満たされていた大地の中に円形に広がる、茶色の大地。
明らかに自然にできたものではない。
フアナが見た、ヘルバトラーの攻撃によるものだと推察される。
どれほど強大な敵と戦ったのかも自ずと知れる。

「そういえば……思い出してきました!」

円周率は軽く10万桁まで覚えてるほど記憶力の良いのがフアナという僧侶。
教会の教典の暗誦は4歳の頃にはすでにできていた。
あの時何が起こったのかを正確に思い出していく。
あの時、ゼシカとバーバラはとっておきの呪文を放とうとし、フアナはズーボーを死なせまいと前に出た。
そして、ヘルバトラーの魔の瘴気と二人の最強の呪文が激突し、フアナはズーボーに守られたのだ。
ゼシカ、バーバラとズーボー、フアナは離れた場所にいた。
そのことをフアナは思い出す。

「こっちです!」

フアナが記憶にある場所へと走り出す。
そこにはゼシカとバーバラこそいないものの、紙があった。
本来ならフアナの傍に置かれていたこの書置きが風で吹き飛ばされた結果、この場所に飛ばされたのは偶然なのか必然なのか。
ゼシカとバーバラの生存はこの時保証された。
同時に、ヘルバトラーや悪人に拉致されたという最悪の可能性も消えた。
しかしこんなものを残してフアナを置いて行く理由とはいったい何なのか。
期待と不安混じりに、フアナはその紙を手に取る。

64110の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:00:47 ID:/n5HYbQo0
『ごめん
 バーバラがどこか行った
 追いかける』

「これは……シンプルな文面からも、急いでることが滲み出てますねえ」

カマエルの言葉に二人も同意する。
文字はいかにも走り書きといった感じで雑で、大きさも統一が取れてない。
最低限の情報だけ書かれたメモは逆に不安を煽ることとなる。
どこかへ行ったとはどういうことなのか。

「目的地も告げず、ゼシカの同行も許さずに一人でってことみたいだね」
「はい。 けれどどうして……」
「ねえフアナ、バーバラって子は誰にも相談せずに突っ走るような性格だった?」
「いいえ。 私の目には元気な女の子という風にしか見えませんでした」

フアナの言を信じるなら、少なくとも正常な状態で下された判断ではないということか。
だとしたらそれは内的な要因なのか、外的な要因なのか。
例えば仲間の死で自暴自棄になったのか、それとも誰かにおびき寄せられたのか。
どちらにせよ、危険な状態にあることは確かだ。

「とりあえず探しに行こうか」
「はい、任せて下さい。 探偵事務所でアルバイトしてたこともありますから、人を探すのは得意です」
「あ、そう。 じゃあお任せするよ」
「タンテイ……とは何でしょうかご主人様」
「しっ、フアナの邪魔はしないで」

フアナがまず最初にしたことは自生している木に近寄ることだった。
その木を隅々と見渡す。
注目してるのは枝。 葉っぱではなく枝だ。
丁度良い枝を見つけると、フアナはバギでその枝を斬り落とす。
斬ったのは最も高い部分に近い細めの枝。
それを二つほど用意する。

「ダウジングマスターの称号を持ってますからね。 探し人から埋設された水道管まで、何でも見つけてみせます」

L字に近い枝を両の手に一本ずつ軽く握る。
あとはこの簡易L字ロッドが反応する方へ行けばいいだけだ。
これはフアナが土木工事に携わる際に習得した技術だ。

「スイドウカン、とは一体何なのですか?」
「聞かない方がいいと思う。 僕はもう突っ込むのは止めた」

アスナ一行はフアナに対して、事の真相を確かめないのが暗黙の了解になっている。

64210の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:02:41 ID:/n5HYbQo0
クイッ

「ふむ」

クイックイッ

「こっちです」

クイックイックイッ

「むむむ、近いですよ」

クイックイックイックイッ

「ズバリ、この近くです!」

グイーン

「見つけました! サヴィオ、ここを掘ってください」
「ええ? だってここは……」
「いいですから、早く!」
「はぁ……僕、肉体労働得意じゃないのに」

フアナの指示した場所を掘り返すサヴィオ。
スコップもないので時間がかかりそうだ。
毒々しい色をした大地を素手で触りたくはない。
途中からそう考えたサヴィオは手に持ってるろうがぼうで掘る。

(これ、地表の柔らかい部分はまだしも、固い土に当たったらどうしよう。
 ていうかそもそもゼシカとバーバラを探してるのに、何で土を掘ってるんだろう)

そんなことを考えていたら、固い感触にぶつかった。
石か何かと勘違いしそうになるが違う。
これはまさかゼシカとバーバラの装飾品か。
まさかこんなところにいたとは。
ろうがぼうの使用を止め、サヴィオは再び手での作業に戻す。
地中に埋まってた何かが出土された瞬間、地面が光る。

「こ、これはっ!」
「まさか!
「徳川家の埋蔵金!?」

テテレテテレテー テテテテー♪

なんと! サヴィオは バレットハンマーを みつけた!
なんと! サヴィオは オーガシールドを みつけた!
なんと! サヴィオは ウェディングドレスを みつけた!
なんと! サヴィオは アルゴンリングを みつけた!

「って、ちが〜〜〜〜〜〜〜う!!

フアナはダウジングロッドを地面に叩きつけた。

64310の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:04:23 ID:/n5HYbQo0
「こ、こんなはずじゃあ……!」
「いや〜、おかしいと思ったんだよね。 場所が場所だし」

サヴィオがチラリとある方向を見る。
そこには痛めつけられたズーボーの遺体があった。
そんなところに埋まってるはずがないだろう、常識的に考えて。

「き、きっと感度が高すぎたんです! 今度はちゃんと対象を生物に絞りますから!!」
「いや、久しぶりにポンコツな部分を見れて安心したけどね僕は」
「優秀な私がこんな屈辱……」

苦笑交じりにサヴィオはフアナの背中を見守る。
たぶんフアナは余計な技能や資格を取得せずに、僧侶一本だけに専念したら歴史に名を残すレベルの偉人になったんだろう。
それくらい優秀なのがフアナという人間だが、サヴィオはあえて口にしない。
フアナは今のままの方がきっと生き生きとしてて、サヴィオも見てて楽しい。
それ以上にフアナ本人が性格的に、僧侶というたった一つの道に縛られることを由とはしないだろう。
そこがまたフアナという人間の魅力だ。
完璧な人間よりは、完璧でない人間の方が見てて楽しい。
冗談、戯言、酔狂、与太、大いに結構だ。

「ねえフアナ。 どうしようか」
「何をですか……? あっ」

ズーボーの遺体の埋葬。
それは当初の二人の目的になってた。
しかし、状況は変わった、
ゼシカとバーバラが行方不明で、ゼシカの方はフアナ宛てに書置きを残す余裕がある。
一方、バーバラの方は良くない精神状態にあると推察される。
ゼシカ一人でバーバラを捕捉し、ここに連れて帰ることはできるのか。
ここでズーボーの埋葬を行い、二人を追いかけるのは後回しにするか。
ゼシカとバーバラの捜索を優先し、ズーボーの遺体は野晒しにしたままか。
きっと、それはどちらも正しいし、正しくもないのだ。
あちらを立てればこちらが立たず。
二兎を追う者は一兎も得ず。

「サヴィオ、お願い」

フアナの意図を察したサヴィオが地面に爆裂呪文を打ち込む。
空いた穴に二人がかりでズーボーを運び、今度は腐敗を遅らせるためにズーボーの遺体の周囲をヒャダルコで包み込む。
最後に土をかけるのだけは手作業だ。
棺桶も作る余裕がない今、これが二人にできる精いっぱいの葬儀だ。

「この気候だと痛みも早いだろうし、気休め程度だけどね」
「いいんです。 きっとズーボーさんも分かってくれる」
「キンキンに冷やしておいたからね。 天国で火傷が癒えてくれるといいね」
「うん……」

簡易的な埋葬を行い、全力でゼシカ、バーバラの捜索に当たる。
それがフアナの下した決断だった。

(ありがとう、ズーボーさん)

今は前だけを歩いて行こう。
そう決めたフアナは祈りを終わらせると、再び木の枝を握りしめた。
大きなオーガの、優しいパラディン。
フアナはズーボーの存在をいつまでも忘れない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

64410の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:06:27 ID:/n5HYbQo0

「ところでフアナ、もしかしてあれはゼシカかバーバラが肉体改造に成功した姿なのかい?」
「何を言ってるんですかサヴィオ」
「な、なんとも凶悪そうなモンスターですね……」

フアナとサヴィオが新たに発見したのは、よりにもよってヘルバトラーだった。
といっても、未だ気付かれてはいない。
かの魔物は巨木に背中を預け、休憩中のようである。
よく見れば体中が血まみれ、体の部位はところどころ欠損しており、生きてる方が不思議な状態だ。
さすがにあの超破壊呪文を受けて五体無事とはいかなかったようだ。

「これはチャンスです」
「かも」

長い期間を共に過ごしてきた二人。
そこには熟年の夫婦にも似た、阿吽の呼吸が生まれていた。
先手必勝、先んずれば人を制す。
あの魔物が完全回復すれば、また誰かが死ぬような死闘が発生するは必至。
亡きズーボーの仇を討つため、この殺し合いを終息させるため、今度はこちらが仕掛ける番だ。

「行くよフアナ。 魔法力は?」
「はい、なんとか。 呪文はもちろん」
「ああ、あれで行く」
「カマエルはお二人の成功を祈っております!」

紡がれる詠唱。
高まる魔力。
これまでの思い。
その全てをこの一撃に託す。

「「荒ぶる聖風」」

そう、二人で同じ呪文を唱えれば。
相乗効果でその威力は何倍にも増す。

「「神に捧ぐ十字をここに刻め!」」

ダブルバギクロス。
その威力はバギムーチョにも勝るとも劣らぬ。
荒ぶる竜巻は狙いをヘルバトラーに定め、進路上のものすべてを切り刻む。

「ッ! 何だと!?」

ようやくヘルバトラーが気付くが、遅い。
この怪我では思うように体が動かない。

「これで幕です。 ヘルバトラー!」

フアナが吠える。
ズーボーと、散っていった者たちの魂が安らぐことを祈って。

「貴様は!」

呪文を放った相手を確認するのと、バギクロスで全身を切り刻まれる。
ヘルバトラーはその二つを同時に味わった。
地面に伏したヘルバトラーの顔が屈辱で歪む。

「糞、くっそおおおおおおおおおおおお!!
 俺様が、この俺様がああああああああああ!」

64510の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:07:21 ID:/n5HYbQo0
まだ足りない。
人を殺し足りない。
恐怖の表情を見れてない。
戦闘の喜びを噛みしめ切れてない。
この力でもっともっと楽しみたいというのに、人間風情が何故邪魔をする。
ああ、ダメだ。
命が消えていく。
もっと血を、臓物を、悲鳴を寄越せ。
まだ死にたくない。

死 に た く な い!





                        何をしている





ヘルバトラーの命がまさに風前の灯火となった瞬間、神の名を僭称する悪逆の神官が囁いた。
エビルプリーストだ。
ヘルバトラーは藁にもすがる思いでその声に全力で耳を傾ける。





                  何のために貴様に10の世界すべての可能性を与えたと思っている
                  いや、つい最近新たな可能性が加わったのだが、まあいい





失望の声だけを浴びせに来るような男ではない。
この男がこうやって声をかけているということは、何らかの救済が見込めるはず。
それを期待するヘルバトラー。
せかいじゅのしずくや扱いやすい大剣を渡したりと、ジョーカーの中でも相性の良い道具を優遇されていた。
それは偏に、ヘルバトラーこそが最も戦果を期待できる存在だったからだ。

裏切りの恐れのあるアンドレアル。
知能が残念なギガデーモン。
所詮は元人間のバルザック。
弱肉強食の掟に忠実過ぎて、参加者の僕になってしまったキングレオ。

64610の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:08:57 ID:/n5HYbQo0
予見していたことだが、ヘルバトラーのみがエビルプリーストの任務に忠実なのだ。
ギガデーモンは支給していたインテリハットさえ装備すればもっと死人が出ただろうが、結果は街一つを滅ぼした程度。
純粋な魔物で知能も戦闘能力も高い、ピサロへの忠誠も薄く、己が欲求さえ満たせればそれで良い。
ヘルバトラー以上にジョーカーとしての適任はいない。





                  思い出すがいい
                  貴様の本当の力を
                  その魔瘴は何のためにあるのかをな
                  




魔瘴。
それはズーボーたちと戦った時に使用したような、単なる飛び道具ではない。
これは人を死に至らしめ、魔物の力を増幅させる気体。
そして10の世界すべての力を得たヘルバトラーが、こんなところで這いつくばっていていいはずがない。

(なるほど、そういうことか……)

潮の香りのする洞穴で、ドワーフの男と戦った記憶を思い出す。
あの時の自分も、こうして敗北してしまった。
だが、それで終わりはしなかった。
今までの自分の馬鹿さ加減に嗤ってしまう。
自分はこんなにも力の使い方を間違えていたのだ。

(感謝するぞ、エビルプリーストよ)

死んだかどうか確認するために近寄るフアナとサヴィオ。
ヘルバトラーにとってもはや二人は死を告げる死神ではなく、これから狩る絶好の獲物。

「っ! まだ生きて!」

立ち上がるヘルバトラーを見て、しかしサヴィオは動じない。
どう見ても死にかけ。
ここからの逆転の目など有り得ない。
そうだ、ついさっきまではそうだった。

「ククク、貴様らに見せてやろう」

魔瘴をその腕に集めるヘルバトラー。
いつの間にか、周囲には魔の霧が立ち込めていた。

「サヴィオ、あれを吸ったらダメ!」

フアナとサヴィオは後退を始めた、
わざわざ接近しなくても呪文がある。
それでなくても肉弾戦は得意ではない。

「魔瘴の、本当の使い方をなぁ!」

その魔瘴を、自分の体へと向けて開放する。
魔の霧がヘルバトラーを包む。

64710の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:10:26 ID:/n5HYbQo0
魔瘴とは非常に不安定で不定形であり、その形は千差万別だ。
多くの場合は無差別に死をまき散らすだけの毒でしかない。
だが、特に濃度の高い魔瘴は意思のようなものを持つことが観測されている。
例えば、邪悪なる存在が退治され、残った無念が残留思念となって魔瘴と混じり合う。
混ざった魔瘴は退治された魔物とまったく同じ形を取り、しかもさらに凶悪になって甦ることもある。
また、一つの大陸を外界から隔絶することもできたりと、人間にとっては危険極まりない代物だ。
だが、魔物にとってはあまりにも使い勝手の良い気体。

魔瘴と融合したヘルバトラーの傷が癒えていく。
ポーラにつけられた十字の傷が。
マダンテの力で消し飛ばされた腕と翼と角が。
バギクロスでついたいくつもの傷が。
その全てに魔瘴が入り込み、ヘルバトラーの新鮮な血肉となる。

「フアナ、これヤバいよ! 逃げた方がいい!」
「そんな……こんなのって……!」

魔瘴が晴れていく。
中心にいたはずのヘルバトラーが、その姿を現す。
その姿はフアナにとっては悪夢にも等しい。
みんなで頑張ってつけた傷が、余すところなく復元されている。
ヘルバトラーは例の不気味な笑みを浮かべ、こちらを見ている。

「では試しに」

指をクンッと上にあげる。
それだけで地面が割れ、激しく隆起する。
これはもはや地殻変動や局地的な地震にも等しい揺れだ。
大地の鳴動が魔瘴によって強化され、ここまでの威力になっているのだ。

「第二ラウンド開始といこうか。 今度こそあの……まあいい、忘れた。
 何とかという聖騎士と同じ目に合わせてやろう」

その魔物はもはやヘルバトラーであってヘルバトラーに非ず。
魔瘴によって大幅に力を増幅されたこの魔物はこう呼ばれるべき存在だった。

即ち、ヘルバトラー強。

64810の世界の可能性 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:10:53 ID:/n5HYbQo0

【C-4/平原/1日目 午後】
 【ヘルバトラー強@JOKER】
 [状態]:HP全快
 [装備]:
 [道具]:支給品一式、道具0〜2個
 [思考]:
基本方針:心のままに闘う。

 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※歴代のヘルバトラーに使える呪文・特技が使用出来るようになっています(DQ5での仲間になった時の特技、DQ10での特技など)。
※さらに強力な特技、呪文が使えるようになりました(イオグランデなど)

【サヴィオ(賢者)@DQ3】
[状態]:MP微消費
[装備]:ろうがぼう@DQ9
[道具]:支給品一式 道具0〜1個 カマエル@DQ9 バレットハンマー@DQ10 オーガシールド@DQ5 
     ウェディングドレス@DQ9 アルゴンリング@DQ8
[思考]:仲間たちと合流、バラモス@DQ3や危険な存在とはまともに戦わず脱出したい。仲間を探す。
   
[備考]:元遊び人です。

【フアナ(僧侶♀)@DQ3】
[状態]:HP3/5 MP1/20
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜3(本人確認済み)
[思考]:バーバラとゼシカと合流する

649 ◆CASELIATiA:2017/08/22(火) 01:12:25 ID:/n5HYbQo0
投下終了しました
判断してもらいたい点は

・また主催介入してるけどいいのか
・ヘルバトラー強ってアリなのか

に2点です。
忌憚のない意見をお待ちしてます

650ただ一匹の名無しだ:2017/08/22(火) 01:42:57 ID:yYm9hUxM0
・エビルプリーストの介入
バラモスゾンビの前例もありますし、優遇されている理由も充分納得できるものなので問題ないと思います。

・ヘルバトラー強
これからの展開を考えるにおいてトロデーン周辺の対主催とマーダーの戦力差は深刻だったのでむしろ妥当な強化だと思います。

個人的にCASELIATiAさんの作品はドラクエ10の設定が深く盛り込まれていて好きです。

651ただの一匹の名無しだ:2017/08/22(火) 09:54:43 ID:a638lkYU0
投下乙です。
エビルプリーストの介入はこれといって不自然ではないと思います。
元々この辺りには強力なマーダーが少ないことが問題視されていたし、全然問題ないと思います。

むしろ私としてはこの作品でDQ10名物の強ボスを見れた喜びの方が上でした。

652ただ一匹の名無しだ:2017/08/22(火) 14:00:52 ID:gyKMPWjo0
問題ないと思います。

私も10の描写が好きです。

653前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:20:14 ID:jV4HiEsM0
「サフィール。何してるんですか、こんな所で。」

それは、何気ない父親の声。
たまたま予想してもいないところで、見つけた娘に対して、投げかけた言葉だ。
だが、視線が、違った。
父親は、娘を、愛する存在を見る目で、見てなかった。
それに合わせて、周りの空気も、親子同士の会話とは思えないほど、殺伐としている。
たとえ親が子を叱っている時でさえ、こんなことはならないだろう。


「………やめてください。」
サフィールはアベルを諭そうとする。

「やめてください?何を、止めるというんですか?」
「この世界で人を傷つけて、殺すことです。」
「そうか、君は、知ってしまったんですね。」

アベルは、自分の行いを知られたからといって、特に悪びれる様子もなかった。
表情一つ、変えない。
だが、それが逆に、おぞましいものを潜ませていた。

「私は、知ってました。おとうさんが苦しんでいたことを。でも、自分がされたことを、この世界の人達にするのは間違ってます。」
「何を間違っているというんですか?私は愛を求めたから、幸せになれなかった。
だから、愛を壊すんですよ。そして、愛という物がどれほど価値のないものか、分からない奴らに、真実を教える。」
「そんなことをしても、誰も喜びません!!」
「あのローラとかいう女といい、おまえといい、本当に嫌な目をする。」

アベルの両目と、持っていた剣に一層邪悪な光が帯び、同時に剣をもってない方の手には、緑の光を帯び始めた。
「消えろ。」

アベルは自分の娘を、まるで邪魔な魔物を追い払うかのような目で、バギクロスを唱える。
「誰が喜ぼうと悲しもうと、私の知ったことではありませんね。」
十字の竜巻が、サフィールに襲い掛かる。
まともに受ければ、パトラの二の舞になっていただろう。


「爆ぜろ大気よ、イオナズン!!」
しかし、サフィールの放った大爆発は、その竜巻を吹き飛ばした。

「一皮、剥けましたね。この世界で、新しい友達でも出来たのですか?」
サフィールは、ただ一つ頷く。

サフィールにとって、友達、特に人間の友達は、あまり多くなかった。
オジロン前王の娘ドリスや、ラインハットのコリンズ王子など、いないわけではない。
だが、旅を続けるという以上、友達として交流する時間はほとんど用意されてなかった。


その点で、マリベルという人物はほんの僅かだけでも共に冒険をした友達だった。
彼女はサフィールにとってかけがえのない存在になった。
だからこそ、約束を守る。
マリベルという命が、消えてなくなってもその決意は変わらなかった。

654前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:21:00 ID:jV4HiEsM0
「アンタ、あたしに、流されてみる……って、言ったでしょ!」


マリベルに流されて、父親を止める。
彼女が殺された原因も、父親にあるのだから。

「だが、友情も、愛と同じで儚く崩れるだけですよ。」
アベルはサフィールの喉元めがけて、剣を振った。

だが、それは予想外の力によって止められる。
10歳の少女の力ではない。
アベル本人が使っていた、ドラゴンの杖の力だ。
ボブルの塔で見つけた時は、アベルしか受け付けなかったはずだが、どうしたことか。

「崩れる物ではありません!どんな時でも誰かの心の中に残っています!!」

そうですか、その杖まで、私を否定するのですね。
アベルの憎しみと破壊の剣の力は比例する。
拮抗していたドラゴンの杖ごと、サフィールを弾き飛ばす。

「きゃあ!!」
アベルの心の中の憎しみや怒りを吸い、ネプリムやパトラの命を吸い、地獄の悪魔が人間への憎しみを糧に作った剣は、更なる力を増す。

「主殿!!」
後ろにいたリオウが、アベルに声をかける。
「リオウ!手を出すな!!これは、私だけの問題だ!!」

そうだ、これは、私だけの問題だ。
家族でさえも殺すことで、私は愛を求めていた過去と決別できる。
私の幸せは、その先にある。
新しい何かを得るためには、古い何かを犠牲にしないといけない。


父親は、最早自分を寝食を共にした娘と見ていない。
何を言っても、止めることが出来ない。
ならば、覚悟はしていたが、こうして止めるしかない。

「凍てつけ!!マヒャド!!」
いくつもの白銀の刃が、アベルに襲い掛かる。これで凍り付かせて、動きを封じることが出来れば。


「無駄ですよ」
アベルは剣を振るい、大きい氷を次々に砕いていく。
直に当たっただけではなく、剣を振った時に起こる風圧に当たるだけでも砕けることが、どれほどの威力の斬撃か分かるだろう。

急激な温度低下は、アベルの肌に多少のダメージを与えることは出来たが、これでは全く進展がない。
マヒャドを連発していても、いずれ魔力が切れ、殺される。
イオナズンを使ったら、バギクロスで相殺されてしまう。


サフィールの魔力を最大限まで活用した攻撃呪文は、二つとも決定打にならなかった。
だが、まだ一つだけ試してないことがある。

655前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:22:09 ID:jV4HiEsM0
「あくまで、私を否定するのですね。私がどんな思いをしてきたか知っていて。」
再び、斬撃が来る。

「マヌーサ!!」
「なっ………」
だが、その斬撃に切り裂かれたのは、サフィールの幻影であった。


これで一瞬時間を稼ぎ、そのスキにドラゴンの杖の力を使って、竜に変身すれば………。



始めてドラゴンの杖の真の力が分かった時、それはサフィールの母親が囚われた大神殿での出来事。
四方八方から襲い来る手ごわい敵に、複雑に入り組んだ神殿。
戦いは、熾烈を極めた。
これまでの魔物の本拠地では、新たに仲間になってくれる者もいたが、この場にはそういった魔物さえいない。
魔物に囲まれ、万事休すと思われた際、アベルが持っていたドラゴンの杖の宝珠が光り、アベルを強大な力を持った竜に変身させ、危機から逃れたのだ。
あの時のように、ドラゴンの杖なら自分と父親を救ってくれるはずだ。



「竜の力よ、私を救いたまえ………」

「そうはさせません!!」
だが、幻影の中で、的確に狙いを定め、剣を振り下ろす。
幻影の中でも、宝珠の光が仇となり、サフィールの位置が分かってしまったのだ。
祈りをささげるのを破棄し、あわてて斬撃を止めるが、先ほどのように吹き飛ばされる。

やはりドラゴンの杖に関して、自分以上に知っている人物が敵である以上、頼りすぎるのは危険だ。
彼女にとって、ドラゴラムという、もう一つ竜に変身する方法があるが、これはイオナズンやマヒャドに比べても詠唱時間と使用魔力が多すぎるため、味方がいない時に使うのはリスクが高すぎる。

「否定しても構いません。ただ、私が破壊するだけですよ。」
「魔王」と化した父親は止まらない。これでサフィールにとって状況はますます絶望的になってしまった。


だが、運は彼女を見放していなかった。

656前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:22:51 ID:jV4HiEsM0
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

時は少し遡り、場所は滝の洞窟前。
“彼”はなおも佇んでいた。
死者の名が告げられ、彼女の死が改めて確認された後も。

だが、その硬直は、突然解かれることになる。
遠く風に乗ってかすかに聞こえた、イオナズンの爆音とサフィールの悲鳴に。

(爆音!?)
(彼女が、唱えた、魔法だ。)
(悲鳴!?)
(彼女に、似た、声だ。)

ゴーレムといえども、死の概念は分かっていた。
“彼”は街の守護者として、いくつもの魔物や人の死を見てきたから。

彼女は、死んだ。
自分の目の前で。
その死骸はここにある。
あのわけの分からない神官の男からも、名が告げられたではないか。

そこで、“彼”に一つ、疑問が生まれた。

だが、何らかの形で、彼女は生き返ったのかもしれない。
とある記憶の世界の、創造の力を持った若者のように。
そして、再び自分を必要としているのかもしれない。
それならば、今度こそ彼女を守らねば。

ただ、守るために戦うことしかなかったゴーレムに、疑問が生まれること自体おかしいことだ。
だが、“彼”は自分を守護者以上の存在として見てくれたネプリムに出会い、何かが変わっていた。
自分で作った墓を後にし、ダイナミックに歩き出す。


止まっていた守護者の時間が、再び動き出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「………………どうすればいいんだ。」
父と娘の戦いを、遠くから見ている者がいた。
獅子の王、キングレオ。
いや、今はリオウという名前だが。


何かやらなければならないはずなのに、何もするなと命令されるのは、窮屈だ。
目の前に現れたガキ。
あいつは、我が主の娘らしいな。
家族同士の戦いを見ると、我も父親を生贄にし、キングレオ城の王位と、デスピサロ様の幹部としての地位を手に入れたことを思い出す。

成り上がるためには、家族さえも犠牲にしなければならない。
当然の話だ。
愛だの恋だの、そんなものは魔族の世界に必要ない。
だから我は、エルフの娘との恋に現を抜かすピサロ様には完全に従えなかった。
最も、我の上司にして、同じようにそれを反対していたエビは、やることなすこと小物過ぎて今も昔も好かないが。
やはり、目的も方針も一致しているという点で、アベルは実力面でもカリスマ面でも本当の主なのだ。


弱肉強食、強い者に従って生きるキングレオにとって、弱肉強食の世界を肯定するアベルは理想の上司だったのだ。

657前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:23:24 ID:jV4HiEsM0
やはり本当の主のためにも、最低限出来ることはしておこう。
改めてアベルを主として認めたリオウは、ザックを開ける。
エビからの支給品というのがなんとも気に食わないが、アベル様のために使うのなら仕方ない。
入っていたのは、ツメと草。

ツメはオリハルコン製の物で、これは確かに武器として申し分なく強い。
しかし、問題はあとの一つ。
草はルーラ草という、その名の通り飲むかつぶして振りかければどこかへ飛べるというものらしい。
我の力が足りないというのか。
危なくなったら飲んで逃げろとでもいうのか。
そもそもアベル様のために使いたい道具なのに、自分が使ってもアベル様に使っても、離れ離れになってしまいこれ以上手伝うことが出来なくなるではないか。
エビが自分の力を甘く見ている、はたまた他人に付くことを恐れていると考えると、落胆してしまう。


だが、ゴーレムやジンガー、小僧の変身した竜など、自分と同じか、それ以上に力の強い者がこの世界にいるというのも事実。

草は使う気はないが、いざという時のために、ツメを付けておこう。
最も我が主が、あの小娘に負けるとは思わないが、契約には忠実に。




呪文と斬撃で、容赦なく殺そうとするアベル。
それに対し、マヌーサや爆発魔法、氷魔法などの絡め手や、ドラゴンの杖で攻撃から身を守るサフィール。
防戦一方になっている以上、アベルを止めるどころか、殺されないようにするだけで精いっぱいだった。

そもそも、父親と娘ということを除いても、コンディションの差が圧倒的だった。
アベルはサフィールを殺すつもりでいるが、サフィールは「止める」つもりでいる。
加えて、この世界でアベルは何の喪失感もなく、反面サフィールは兄と、友を失ったことで、精神的にも疲れている。

「私はね、幸せが欲しいんですよ。誰がどうなってもいい。
そのために、邪魔なものは全て破壊する。
サフィール、君もそろそろ、過去と決別すべきです。私を殺すか、殺されるか、選びなさい。」

斬撃が、来る。ドラゴンの杖で、守る。
破壊の剣の衝撃は、攻守ともに優れた杖を介してでも強力で、そろそろ手の
感覚がなくなってきた。
相手にかけたマヌーサも効果が切れる時間だ。
魔力もそろそろ限界を迎えるだろう。

「そんなの、おにいちゃんやおかあさんが喜ぶはずがありません!!」
だが、彼女はあきらめない。

(黙れ………いつまで家族のことなどを、気にかけている………!!)
(そもそも、おまえの兄が勇者として生まれなければ私は………!!)

アベルには分かっていた。
サフィールも、かつての自分と同じで、愛を求めているのだ。
ならば、かつての自分と同じ気持ちを味わせてやろう。
更に憎しみを帯びた剣が、振るわれる。
「きゃ!!」
だが、それは幸か不幸か、当たらなかった。

658前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:24:52 ID:jV4HiEsM0
サフィールが、何かに滑って転んだため。
だが、その拍子に、ドラゴンの杖も、落としてしまった。
足元を見ると、それはすでに醜悪な肉塊と化したパトラだった。
サフィールでも、アベルにより犠牲になった人だということが分かる。

彼女にとって、それは気持ち悪いというよりも、父親に対する恐怖の方が強く感じた。
かつての父親は、魔物と対峙した時でさえ、ここまで徹底的な攻撃をしなかった。
父親の苦しみと、幸せへの執着は、それほどまでなのか。
そして、自分は父親によって、同じような姿になるのか。


振り下ろされるはずだった剣を止め、アベルはこう問う。
「一つだけ聞きますよ。私と一緒に、参加者を殺し続けませんか?過去と決別し、全てを破壊すればもう死んだリュビや、友達のことを考える必要もなくなりますよ。」
「イヤです!!」
だが、それでもサフィールは頑なに拒否する
どうしてここまで自分の意思を貫けるのだろう。
だが、意志の強さのみでは、どうにもならないこともある。


ならば、と父親は怒りに任せてサフィールを殺そうとしたところ。


ズシン

ズシン ズシン
ズシン ズシン ズシン

地鳴り?
いや、これは………
アベルが後ろを振り向くと、一度戦ったゴーレムが走ってきていた。
既に、ゴーレムの長く太い腕が、伸ばせば当たるという距離だ。

まずい…………!!


「ぬおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
しかし、この場にいたもう一人の人物、リオウが4本の腕で、ゴーレムの攻撃を止める。
主殿の娘には手を出すなと言われていたが、因縁の相手の一人だし、こいつなら戦ってもいいだろう。
「主殿!!」
「リオウ、でかした。」


「もう、油断はせんぞ。」
力はゴーレムとリオウは同じか、ゴーレムの方がわずかに勝っているくらいだったが、今回は違う。
ゴーレムは、組み合ってすぐに、拳の先にツメが刺さっていることに気づいた。
しかもオリハルコンのツメはゴーレム以上に固く、かぎ状になっていて抜けない。
腕を振って抜こうとするも、リオウは残りの腕でがっちりと押さえる。

659前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:26:30 ID:jV4HiEsM0
「フフ、もう動けはせんぞ。」
続いて、リオウはゴーレムに向けて、高熱のガスを吐く。
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない。
「ならば、これでどうだ。」
更に、凍える吹雪を吐く。
「主殿!!」
長年守護者を続けていたゴーレムは、そんなものでは倒れない、が、低温と高温の差は、ゴーレムの頑強な体を脆くしていった。

「よし、あとは私が倒す。」
サフィールの魔力はもう切れかけている上に、杖も落とした。
ゴーレムを先に殺しても、問題はないだろう。

アベルは踵を返し、ゴーレムに突進する。

「爆ぜろ………イオラ!!」
「ぐっ!」
アベルの背中に、爆発が起こる。
「もう……これ以上、誰かを傷つけるのは…………。」
パトラの血を浴びて全身が血と泥で汚れ、息も絶え絶えになりながらも、抵抗を続ける。
アベルには、どうしてサフィールが自分を否定し続けようとするのか、分からなかった。

「うるさい!!」
怒りのままバギマを唱える。
あとで殺せばいいし、今は詠唱時間の短いバギマで十分だ。
竜巻は大きくはないが少女を吹き飛ばすほどの力はあり、ゴーレムの近くに飛ばされた。
まさか、ここまで抵抗してくるとは。
まあ、どのみち敵として、家族もゲレゲレもロッキーも、私の願いのために殺すつもりだったから私に従ってもあまり変わらないが。
仮に先ほど、サフィールが父親に従おうとしても、やがて殺すつもりだった。
リオウやジンガーだって、犠牲にする必要があるなら、いつかは殺さなければならない。
死ねば、全て無くなる。愛も、友情も、過去も、未来も。



そうだ。この戦いが終われば、王として思い切ってグランバニアの政治の形態を変え、世界中に戦争を仕掛けよう。
従う者は奴隷か兵士に、逆らう者は家族や友達ごと拷問するか皆殺しだ。
サンチョやピピン、中には他の住民やモンスターも止めるかもしれないが、その時はまた殺すだけだ。
そして、愛に執着する者たちに、それがどれほど脆いものなのか思い知らせよう。
力を持つ者だけが、幸せになれる。それを教えて、何が悪い。
少なくとも伝承にある、愛した者に裏切られ、英雄の自覚を捨てて凡庸な人間として生きた勇者ユーリルよりかは良い生き方のはずだ。


「死ね。」
無慈悲にも、アベルは横に闇を纏った剣を一閃。
少女の体は二つに切り裂かれ、守護者の体は砕かれた―――――――――――


【サフィール @DQ5 死亡】
【ゴーレム@DQ1 死亡】

【残り46人】

660前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:26:57 ID:jV4HiEsM0
















―――――――――――はずだった。


「!!」
「!!!」
「!!!!」
「!!!!!」
敵味方問わず驚く。
何しろ、赤い肌をした巨大な神官が、突然斬撃を長い4本腕で受け止めたからだ。

(……………!!)
(助けて、くれたのですか?)
(な、なんだ、こいつは!!)
(サフィールが呼び出したというのか?いや、我々の世界にいる者ではない………しかも、ライオウやバトラー以上の魔力を感じる……………。)


彼の名は、幻魔ドメディ。
パトラが持っていた幻魔のカードによって呼び出された者だ。
世界でも召喚者がわずかしかいない幻魔中でも、味方への攻撃を難なく仁王立ちで受け止め、攻撃面でも最強レベルの幻魔だ。



「オオオオオオオオオ!!!!」
ドメディは、雄たけびを上げ、4本のうちの上の2本の腕で、十字を描く。


彼がなぜこのタイミングで呼び出されたのか、サフィール達を守ったのかは、誰にもわからない。
死ぬ直前のパトラがカードに祈りをかけたことによるものなのか、
父親を止めたいという想いを抱いたサフィールが、一度パトラの死体に触れた際、無意識にカードに触れたことによるものなのか。
一つ言えるのは、決して諦めなかったサフィールの気持ちが、二人を救ったのだ。

「うわあああああああ!!!!!!」
「ぬぐおおおおおおおおお!!!!!!!」
光の十字が、二人を襲い、吹き飛ばした。


「おのれええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「待て、リオウ、迂闊に………」

アベルの指示も聞かず、目の前の敵に向かって突進する。
予想外の攻撃、しかも予想外の攻撃はアベルとジンガー、竜化したチャモロ、ドメディと三度目。
もはや我慢の限界だった。

661前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:27:18 ID:jV4HiEsM0
「がっ!!」
しかし、突進したところで、リオウの上から、ゴーレムの岩石がいくつも落ちてきた。
グランドクロスを放った後、既に4本の腕で岩石を掘り出し、待ち構えていたのだ。


「リオウ!!」
アベルもドメディに向かっていこうとするが、今度はリオウから解放され、自由になったゴーレムの殴打がアベルを襲った。


「ぐはっ!」

破壊の剣で受けたことで、ダメージはある程度抑えるが、それでも威力はかなりのものだった。

やはり、こいつは接近戦では勝てない。
アベルはサブウェポンである吹き飛ばしの杖を振り、ゴーレムと距離を取ろうとする。
だが、地面にどっしりと踏ん張ったゴーレムは、魔法弾程度で吹き飛ばない。




おかしい。何故だ。何故なのだ。
我は復活し、勇者たちにやられたときより、強くなったはずだ。
そして、アベル様という、理想の主を手に入れた。
今度こそ、我の未来は約束されたはずなのに。
アベル様に付き従ったことは、正しくなかったのか。
大人しくエビに従っておけばよかったのか。
それとも誰にも従わずに生きればよかったのか。


「くっそおおおおおおおおおおおおお!!!!」
だが、グランドクロスと岩石落としを受けても、まだ戦えることが、ジョーカーの力だろうか。それとも獅子の王としてのプライドだろうか。
再び立ち上がり、ドメディに飛び掛かる。
今度は、あの十字の構えはとってない。オリハルコンのツメで一撃でも当てれば………。


だが、今度は下側の腕の手刀により、オリハルコンのツメをはめた腕は切り落とされてしまった。
ドメディは攻撃力さえも他の幻魔や精霊とは一線を画していた。
「ぎゃおおおーっ!!」
痛みに、腕を抑える。
だが、それ以上に厄介なことがあった。


「「しまった!!!」」
二人がドメディに苦戦しているスキに、サフィールはドラゴンの杖を手に取り、竜に変身したのだ。

662前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:27:35 ID:jV4HiEsM0

(誰だかわかりませんが、ありがとうございます!!)
すでにリオウの方は手負いの状態だ。
竜は、そのままアベルの方に向かっていく。

おとうさんに分かってもらうには、これしかない!!
僅かだけ残っている体力を、全て竜の力に変え、突撃する。


既に死に体のリオウはアベルの方を見やる。
主でさえも、ゴーレムと竜に襲われ、危ない状態だ。
だが自分は腕の一本を武器ごと奪われ、反撃しようにも奴を倒せそうな技はない。残された道具もルーラ草のみ。
「エビめ、どうせ無様に這いつくばった我が姿を見て、せせら笑っているのだろう。」
リオウは、弱肉強食を貫く者は、いつかは喰われることを知っていた。
だが、何も出来ずにエビごときの作った世界で死にたくない。


ドメディからは新たな魔力を感じる。トドメを刺す気だろう。
だが、残った三本の腕でザックからルーラ草を取り出す。
どうせこれを飲んで逃げても、すでに負傷し、ベホマも効果が少ない状況では、一時しのぎにしかならない。
何より、「契約には忠実に」のモットーはどうなる。
獅子の王として、プライドを捨ててまで生きるつもりはない。

「タダでは、死なぬ………」

ボロボロの体に鞭打って、草を、主の下に投げる。


「全員、殺してやる………。」
吹き飛ばしの杖は通じず、ゴーレムの攻撃をまともに受け、頭から血を流し、アベルは怒りに燃えていた。
ゴーレムの攻撃を今度はかわし、竜の炎はバギクロスで弾く。
だが、状況は明らかに悪くなっていく。
このまま、アベルは負けてしまうだろう。


だが、リオウの方から飛んできた物。
そんなものに気づいてはいなかったが、突然体が浮かび上がる
「うわあああああああ!!!」
そのまま、どこかへ飛んで行ってしまった。

それを見届けたリオウは、ドメディの放った火柱に焼かれながら満足する。
「ざまあみろ、エビめ。」
「アベル様は、この場にいる奴らも、お前もきっと破壊するぞ………。」

663前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:30:35 ID:jV4HiEsM0
「消えてしまった………。」
竜の姿から戻り、体力を使い果たしたサフィールは、そのまま倒れる。
知らない世界に飛ばされ、殺し合いを命じられ、初めて一緒に冒険する友と出会い、友が自分をかばって殺され、父が持っていた杖を受け取り、父を止めようとする。
考えてみれば、10歳の少女には過酷すぎる半日だ。





「……………。」
近くで、その目を見ると、分かる。
彼女は、ネプリムではなかった。
ネプリムは、死んだままだ。
人間は、やはり子供さえ殺そうとする醜い生き物だった。
自分の闇の記憶の断片では、食料を無くした人間は、子供食べることさえあった。

この少女も、遠からず死ぬ。
やはり、闇の記憶の断片に従って、醜く争う人々を滅ぼしてしまおう。
だが、出来ない。


「!?」
暖かな光が二人を包み込む。
ボロボロになっていた二人の傷が癒えていく。
まだそこにいた幻魔が唱えたベホマズンだ。
それだけ唱えると、媒体となったカードごと消えてしまった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


夢とも現とも分からない、ぼんやりとした空間だ。
ここはどこだろう。
「サフィール!!」
殺されたはずの友の、赤毛の頭巾の少女が呼びかける。

「マリベル………さん?」
「お疲れ様、とでも言うと思ってるの?あたしが殺される原因を作ったあんたのお父さんを逃がしてさ、よくのうのうと会いに来れるわね!!」
「……………言われなくたって、やることは最後までやります。ただ、少しだけ…………。」
「まあ、がんばりなさい。」
さっきよりずっと小さい声で呟く。

「サ、サフィール!!」
今度は、自分の兄である、黒髪の勇者が涙目で少女を呼ぶ。
「ご、ごめんなさい。ぼく、何も出来ず、おとうさんが、あんなことを思っていたなんて………」
「何言っているんですか。私も知らなかったです。おかあさんも、気づかなかったと思います。」
「こ、こんど、は、サフィールみたいに、勇敢に………。」
「ありがとう。」

自分は、必要とされていないと思っていた。だが、必要とされていると思っていた兄に勇敢だと言われたのは嬉しかった。その兄は本物なのかどうかは分からないが。

「リュビ、終わったら、またいつか、一緒にハイキングへ行きましょう。」
「え?」
その「いつか」はいつになるのだろうか。

664前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:31:12 ID:jV4HiEsM0
「マリベルさん、友達になってくれて、ありがとうございました。」
「え?まあ、いいのよ。このあたしの、友達であることを、誇りに思いなさい。」


やはりこの世界でも、マリベルは高飛車で多弁のようだ。
「では、そろそろ行きます。」
「や〜ね。最後の別れみたいな顔しないで。」

「………あと、ありがとう。」
自分をかけがえのない存在として見てくれたことを感謝しているのは、実はマリベルの方だったが、それはまた別の話。
マリベルが消え、リュビが消える。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


目が覚めると、夕焼けがまぶしかった。
どうやら、時間はある程度経っていたらしい。
自分は、花と草でできたベッドに、寝かされていた。
辺りを見回すと、さっきのゴーレムが旗の横で佇んでいる。
どうやらここまで運んで、このベッドもゴーレムが作ったようだ。

傷は、ドメディのベホマズンであらかた癒えていた。
どうやら、ゴーレムは誰を守っているようだ。


ゴーレムは、静かに佇んでいる。


「誰か、そこにいるのですか?」
ゴーレムは静かに佇んでいる
かつて父が仲間にしたゴレムスは、言葉は通じたが、このゴーレムに言葉が通じるかはわからなかった。
そこにいるのは、もう物言わぬ神官だった少女。
ゴーレムがおとうさんに襲い掛かったことは、この人もおとうさんに殺された者だろうか。
サフィールは物言わぬ前に座り、祈りをささげる。
「必ず、おとうさんを止めます。だから、安心して、天国へ行ってください。」
何か備える物はないかと、ザックを探る。

それは、木の人形。
とある世界で、英雄が妹にあげた人形。
その妹は兄を見殺しされた憎しみのあまり、魔物となったが、わずかな人間らしさを繋ぎとめていた人形。
最も、そんなことを少女が知るはずもない。
昔は人形遊びが好きだった彼女だ。
新しい友達にと、石壁の中に置く。




再び、少女は歩き出す。まだ、自分のやることは、終わっていない。
歩き出して、すぐのことだった。
ゴーレムが、後ろからついてきた。
「一緒に、行ってくれるのですか?」
そのようだ。

665前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:32:46 ID:jV4HiEsM0
「あの、名前、なんていうのですか?」



(わたしのなまえをあげるわ)
(ずっと、いっしょね)


「……………………。」
こうやって、字を書くこと、出来ますか?
サフィールが支給品の紙とペンで、手本を見せた。

やはり、出来ないようだ。別のことを言おう。


「言い忘れていました。助けてくれて、ありがとうございます。」
少女は、小さい手を出す。


これは、なんなのだろうか。
守護者の巨大な手で、それに触れる。


巨人と、少女は共に歩き出す。それが、初めて心が通じた時だった。
そして、ゴーレムに温かいなにかが入ったような気がした。
そういえば、ネプリムから名前をもらった時も、こんな感覚だった。


それがアベルやネプリムの求めていた、「幸福」であることを、彼は気づくのだろうか。


“彼”は、守護者だ。
ネプリムを守らなければならない。
だが、一人であるサフィールも、守りたかった。
二人同時には守れない。
片方を、見捨てないといけない。
前へ進むためには、犠牲も必要だ。


だが、本当に見捨てられたわけではない。
二人の、心の中に残っている。
ネプリムは、しばらくはあの小さな守護者が守ってくれるはずだ。
そしてすべてが終われば、また戻ろう。

【リオウ @JOKER 死亡】
【残り47名】

【F-5/平原 /夕方】
【サフィール@DQ5娘】
 [状態]:HP: ほぼ全快MP 3/5(気絶中に回復)
 [装備]:ドラゴンの杖
 [道具]:支給品一式支給品一式×3、ショットガン、999999ゴールド
 [思考]:怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
     おとうさんを見つけて止める

666前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:33:02 ID:jV4HiEsM0
【ネプリム(ゴーレム)@DQ1】
[状態]:HPほぼ全快
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具0〜2個
[思考]:ネプリムとサフィール、そして彼女らがくれたものを守る


【????/夕方】
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/10 MP1/5
[装備]:破壊の剣
[道具]:支給品一式 ふきとばしの杖(3) 道具0〜1個(本人確認済)
[思考]:過去と決別するために戦う

※アベルがどこへ行ったかは、次の書き手さんにお任せします。
※【F-5/滝の洞窟手前】に、木の人形@DQ7 が置かれました。
※【F-5/平原】に、オリハルコンのツメ@DQ9が落ちてまいす。
※それ以外のリオウの一般支給品は全て燃え尽きました。

667前へ進むためには、何かを犠牲にしなければならないから ◆znvIEk8MsQ:2017/08/23(水) 09:42:26 ID:jV4HiEsM0
これにて全部です。私として疑問なのは、

・ゴーレムがサフィールの呪文と、悲鳴でネプリムと一瞬勘違いしてサフィールを助けるという流れ
・ドメディの召喚過程
・ゴーレムがサフィールを寝かして、起きたサフィールとその後共に行くという展開

これらの3つの展開がアリなのか
他にキャラクターの心情に矛盾点があれば、指摘お願いします。
実際に、書いてみて特にこのゴーレムというキャラ、設定や伏線が多くてかなり書きにくかったので、
どこかミスしている可能性があります。
今回のストーリーは、
「アベルサフィール合流→戦い→ゴーレム乱入→ドメディ乱入→リオウ死亡アベル逃走→ゴーレムとサフィール共に行く」
という大筋がありますが、それをひっくり返すような所でなければ変更しようと思います。

また、自分の話ですが、明後日からしばらくこのスレッドを使えないので、
明日の21:30までに意見をお願いします。
採用されれば、明日の22:00ごろに本投下します。

668ただ一匹の名無しだ:2017/08/23(水) 21:56:24 ID:U6ss6raw0
投下乙です
特に無理のある展開もないように思えますし、自分はいいのではと思います

669ただ一匹の名無しだ:2017/08/23(水) 23:37:40 ID:8aVUZ.vE0
自分も問題ないと思います

670 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:47:13 ID:TWSW542k0
一時投下します。

671 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:48:00 ID:TWSW542k0
第二回放送を控え、静寂に包まれた虹色と鈍色の世界でエビルプリーストだった者は玉座に佇んでいた。


わたしはこのバトルロワイヤルの全てを盗聴している。

"主人公"とでも呼ぶべき各世界の中心人物が次々と殺し合いの渦に巻き込まれ、心も身体も壊れていく様は何とも爽快なものだ。


そして戦場で散った命はわたしの魔力を確かに増幅させている。

このまま殺し合いが首尾よく進み、数多の世界の頂点に立った者の魂を喰らった時は、たかだか6時間を生き残れない弱者20人程度の魂などとは比べ物にならないほどのチカラを得られるのだろう。

672 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:48:45 ID:TWSW542k0


そう、全ては順調に進んでいるはずだ。

ジョーカーとして送り込んだ手駒たちも、なかなかによく戦ってくれる。特にヘルバトラーはわたしの期待以上の力を身につけた。


しかし多少引っかかることもある。
過去の因縁もあり、ピサロに付けた首輪を集中的に盗聴しているのだが、奴らにはどうもこの殺し合いにわたし以外の何者かの意図を感じられるとのことだ。
もちろんこの殺し合いはわたしの意思で始めたものであると自負しているが、自分が過去にロザリーを殺してデスピサロの暴走を誘発したのも確かだ。第三者の何かしらの誘導が無かったとも言いきれない。

もしかすると、何者かが私の持つ進化の秘法のチカラを利用しようとしているのではないか――――――



――――――突然、頭痛が走る。
脳を焼くような、あるいは抉るような。
いや、この痛みには覚えがある。
過去にも何度か、こんな痛みに襲われたことがあったような気がする。
そう、あれは確か、首輪の仕組みについて思案している時――――――
何故このような首輪にしたのか部下達に問い詰められた時――――――

そして、ロザリーを再び攫った時――――――む、ろざりー?
奴を攫ってきた?そのような記憶は――――――

673 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:49:34 ID:TWSW542k0






「ええと、何について考えていたのだっけか…?」

思い出した。
全ては順調に進んでいるのだ。
そして今、わたしは83の生贄と共にその神としての力を真に完全覚醒させようとしているのだ。


このまま殺し合いが続けば、たった一人の勝者を迎える時はやって来る。

その時、わたしはどのように勝者を迎えるべきなのか、何も考えていないことに気がついた。


荒廃した神殿で破壊の象徴として君臨し、破壊の宴を開こうか。または邪気の満ち溢れる山々で悲鳴を山彦として響かせようか。あるいは美しき水晶に彩られた宮殿で身体をドロドロに溶かしてやろうか。天に都市を創造しおおぞらに戦うというのも乙なものだ。時も空間も混沌もを操り様々な世界を移り変えながらいたぶるのも悪くない。



いくつもの"神"の逸話を思い返してわたしは考える。

674 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:50:48 ID:TWSW542k0



――――――いや、どれも数々の強者たちの殺し合いに勝ち抜いた真の勝者を迎えるには相応しくないだろう。

かつての神々は、どれも"勇者"なる者を下等生物として扱っていた。
だからこそ、神は"魔王"として、"勇者の挑戦"を、勇者を見下しながら迎える。
だが、私はまだ完全な神ではない。
この殺し合いの勝者を食らった時、わたしは神として完全覚醒する。
言い換えれば、勝者は神を生み出すのだ。
そう、わたしが真の神となるまでは勝者は神であるわたしと対等の存在であるべきだ。

勇者がいて、魔王がいる。
勇者が魔王を倒してもいずれ新たな魔王が産まれる。
勇者が天命を迎え死のうとも、いずれ新たな勇者が産まれる。
世界は光にも闇にも染まることはない。
この虹色と灰色がいつまでも斑に続いていく世界は、そんな勇者と魔王の宿命の連鎖を映し出しているようではないか。





――――――決めた。



このどこまでも続く斑模様の世界で死者どもの血を美酒に語り合おう。
勝者の願いを、その願いに至るまでの経緯の全てを聞き、その者の全てを理解した上で喰らってやろう。
わたしは勇者に、そして勇者はわたしになる。
終わらない宿命の果てに勇者と魔王は混じり合い、神となる。


その後に、わたしは名乗ろうではないか。
新たなる神の名を。
究極の神を産んだ神なる人の子に最大限の経緯を込めて。



――――――神の名は、勝者の名。

675 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:53:16 ID:TWSW542k0
わたしは目を閉じ、指を鳴らす。玉座の前に現れるもう一つの玉座と円卓。

パーティーの準備は整った。あとは殺し合いが進むのを待つのみ。
玉座に深く腰掛け、そっと目を閉じる。

次の瞬間――――――



「このような異世界に居たとはな…。探したぞ。」

誰もいないはずの世界に声が響き渡った。
次の瞬間、目の前の空間が縦にぷっつり切り裂かれ、中から1人の男が現れる。
胸に竜の様な紋章が象られた赤い装束に身を包んだ男。


「だ――――――誰だっ!」


「彼らや他の世界の者達が既に犠牲になっているのは残念なことよ…。償っても償いきれぬ…。」


男は確かにそう言った。
当然、わたしは興味が湧いた。
ずっと気になっていたわたしの復活の経緯の真相が暴かれるかもしれない。そう思い詳しく話を聞こうとした矢先だった。


「神聖なる竜紋よ…。汝を縛らん!」


「なっ…!」

突然の攻撃だった。
竜を模した紋章がわたしの動きを封じてしまった。

676 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 22:54:49 ID:TWSW542k0



「さて、色々と聞かせてもらおうか。何故お前たちは自我を持つ?」

「な、何のことだ?」

質問の意味が分からない。
自我などわたしが持っていない方がおかしいではないか。


「分からぬか…では、お前はどうやってここに来た?」

「知らぬ…!気付いたらここで蘇っていたのだ…!進化の秘法の最終形態とでも呼ぶべき、神たる力を身につけてな…!」

男は腕を組んだまま動こうとしない。
この男は、わたしの復活の謎についてわたしよりも多くを知っているのだろう。


「神たる力とは滑稽なものよ。どうやら何も知らないようだな。それは神の力などではない。」


「では――――――何故わたしは蘇った!何故わたしは――――――こんな殺し合いの儀式などやっておるのだ――――――」

677 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:01:36 ID:TWSW542k0


――――――キィィィィン。

頭痛が始まった。
その瞬間わたしは理解した。
また、わたしの記憶は改ざんされるのか、と。
悔しいがピサロたちの読みは正しかったようだ。
わたしを操る黒幕がいて、この殺し合いを始めさせた。
死者の魂はわたしを確実に強化している。
そうして強くなったわたしをまた利用するつもりなのだろうか。
そして頭痛は最高潮へと達していき――――――



「ぐあああああああぁ!」



「む…?」



一瞬飛んでいた意識が戻った。そしてわたしの記憶は――――――消えていない。
消えているのはわたしを縛っていた封印。
黒幕とやらはわたしに魔力を送り込み、封印を破るだけの力を手にいれた。
さしずめ頭痛はその反動だった、とでもいったところか。

678 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:04:23 ID:TWSW542k0



「まさか竜神の封印を打ち消すとは驚いた。どうやら今までの奴らとは違うらしい。」



「ふっ、ふっふっふっふ…。何という屈辱よ。ただの操り人形だったわたしが――――――神へと上り詰めたと思い上がっていたとはな…!」


記憶を消されないのは全てを知った上で目の前の男を殺せ、ということなのだろう。
もっとも男を殺した後は知りすぎたわたしをどう対処するのかは知らんがそんなことはどうでもいい。


「例え利用されていようとも…お前の魂も喰らってわたしの力の礎としてくれるわ…!」


「お前が喰らっているのは魂などではない。」


男の身体は光に包まれていき――――――



血に染まったような深紅の毛。
大自然さえも包み込むような深緑の翼。
白銀で彩られたような牙。
黄金のように光り輝く瞳。
黒鉄の如く硬い鱗。
聖なるオーラを全身に纏い――――――




「お前の喰らっているのは"追憶"の力よ。そして――――――お前自身もまた"追憶"なのだ。」





"永遠"を思わせるほど美しき巨竜がそこにいた。

679 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:10:18 ID:TWSW542k0
【???】

【エビルプリースト@DQ4】
[状態]:健康
[思考]:目の前の男を殺す。

【竜神王@DQ8】
[状態]:健康 永遠の巨竜
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明

【黒幕?】
[状態]:不明
[装備]:不明
[道具]:不明
[思考]:不明

680 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/15(金) 23:29:10 ID:TWSW542k0
一時投下終了しました。

元々はこの後の竜神王の回想まで書いている途中でしたが、リレー小説の個人の域を超えていると思ったためここまでとします。

審議してほしいのは

・この展開がアリなのか
現状「おわかれのつばさ」+「どうぐ範囲化術」が有力な脱出の手段として書かれていますが、これだと危険思想を持つジャンボと(あまり過去作を引っ張ってくるのは好きではありませんが)1stの最終生存メンバーでもあるフォズの生存が必須となってしまい、これから先の展開が制限されているような感覚を覚えたため、竜神王という「対主催サイドのイレギュラー」を用意することで他の脱出手段の当てになると思いました。
しかしその反面、エビルプリーストの正体に大きく踏み込んだため、他にも考えられる様々な展開の可能性を消してしまっています。

・投下時期
この仮投稿では第二回放送直前としていますが、その辺りの記述(必要に応じてヘルバトラーに関する記述など)を変えてもう少しピサロたちの考察が進んでからの投下も考えています。

・矛盾、誤字、不自然な表現、改善案など
これらがあればご指摘ください。
特に頭痛のシーンなどはあらかじめ書き進めていたものに後から付けたものなので少し不安に思っています。

・タイトル
正式な投下の際に付けようと思っていますが、現状何も思いついていないので案をいただければ。

681ただの一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 07:48:55 ID:7srRvJoc0
かなりの挑戦作、乙です。
私的に気になったことは、作中で竜神王がエビに「竜神の封印」らしき技を使いエビの動きを封じる描写がありますが、
この技はエイトのように、竜の加護を受けた者、或いは竜神族と関係の深い者にしか効かなかったはずです。
最もそれだけで投下を破棄しろというわけではないです。
実際に原作のDQ8でも、何故竜神の封印がエイトにしか効かないか、具体的な理由は不明だし、
原作の竜神の封印とは別物、エビも何らかの形で竜神族の加護を受けている、などの解釈の余地はいくらでもあります。
ただそこだけが気になりました。

それともう一つ、「おわかれのつばさ」と「道具範囲化術」がクリアのカギになっていると書いてましたが、
62話「書院、或いは〜」でヤンガスに仄めかされた月影の窓、105話、「箱のカギは〜」でアスナの開けた黒い穴など、脱出の手掛かりになりそうなものはまだありそうです。
仮に脱出手段がおわかれのつばさと道具範囲化術だけだとしても、必ずしも二人を生還させる必要はないと思います。
(過去作を引っ張り出すと、1stでは首輪解除のカギのアバカムを覚えているのがサマンサだけでしたが、サマンサが死んでも首輪解除に成功することが出来ました。)
もしジャンボとフォズを生還させるのが不満の場合は、二人を殺して、技のみを何らかの形で他人に使わせることも辻褄が合えば可能だと思います
(但し道具範囲化術を他の誰かに使わせるのは難しいと思いますが)

長々と書いてしまったので、一度まとめると、
・竜神の封印がエビに効くのはどういうことか。
・まだおわかれのつばさと道具範囲化術のみがクリアのカギと決まってではないか

この二点が気になりました。
本投下されるか没になるかは不明ですが、恐らく苦労して作ったのでしょう。実際に読んでて面白かったです。改めてお疲れさまでした。
採用されても没になっても、これからも頑張ってください。

682ただの一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 08:00:02 ID:7srRvJoc0
誤字失礼しました。
誤:まだおわかれのつばさと道具範囲化術のみがクリアのカギと決まってではないか
正:まだおわかれのつばさと道具範囲化術と、それを使えるジャンボとフォズの転職のみがクリアのカギと決まってないのではないか

683ただ一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 12:48:35 ID:Rk4Zkx6w0
投下乙です
自分も意見を

対主催サイドのイレギュラーということですが、その手段としていきなり主催者のとこへ正面から乗り込むというのはかなり直球すぎるように思います
襲撃成功で「バトルロワイアル完!」とするのもあれですし、またエビルプリーストが放送を行わなければならない都合上放送をまたいで決着を先延ばしにもしにくいですし、この展開だと放送前に無力化される未来しか見えないです
故に、イレギュラーとして機能しにくいのではと思います
もっとも、無力化された上で傷痕を残す展開を書ける方がいればその限りではありませんが

684ただ一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 15:08:57 ID:mE8X4tBk0
正直な感想を言うと破棄だ破棄!って騒ぐほど矛盾があるわけではないが修正無しで通すのも厳しいと思う。です
首輪解除要員に生存ロックがかかるのを危惧して出したということですが、それなら名簿外のキャラを出すのではなく参加者の知識や技術や支給品でどうにかできたと思います
例えばフアナさんに首輪解除選手権優勝!とかの設定を与えることもできますし
しかし竜神王は今回の話の根幹を担う役割ですので、修正はかなり大掛かりなものになるのでは?という懸念もあるため、気軽に修正要求も出しにくいと思いました
名簿外キャラの参戦は2ndでもしっかり前例がありますしキャラ追加、それ自体がダメではありません
なので、自分としてはもう少し他の人の意見も聞いてみたいかなと思います

685 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/16(土) 17:20:55 ID:6dMOhaf.0
ご提案・ご指摘ありがとうございます。

>>681 >>684
これは元々投下する予定だった竜神王がエビの元にやってきた経緯の方で触れていたのですが、後半を排除したことで矛盾として残ってました…
自分は強化されて復活したエビの力を「追憶の回廊」によるもの(黒幕が4の世界から持ち出した進化の秘法に刻まれた歴史を元に、追憶の回廊で追憶のエスタークやエビを創り出した。追憶のデスピサロは行方不明、役に立つか分からない追憶のバルザックは検討中。)という設定で作っていたため、竜神王の技術である追憶の回廊から生まれたエビにも封印は通用する、という設定です。
正直脱出の鍵については、「仮に黒幕がラプソーンならレティスに乗って脱出したい」という個人的な想いがかなり出ていました。他に代案も色々考えられそうですし、この話の意義として脱出の鍵となるという点は撤回ということでお願いします。

>>683
襲撃については、ちょうど最終生存メンバーが確定する辺りに黒幕やその思惑、さらにはエビ復活の謎辺りが解明出来ているくらいが物語の進行にちょうど良いと思い、黒幕を引っ張り出すために行いました。
仮にエビを倒しても黒幕の存在があるのでバトルロワイヤルの進行にはさして影響はないと思っていましたが、確かに第2回放送を行う必要はあるので放送直前である今は投下時期としては相応しくないですね…
仮に採用された場合でも放送後を目安にしたいと思います。

686ただ一匹の名無しだ:2017/09/16(土) 19:17:02 ID:8O236NkA0
>>685
返答ありがとうございます
追憶の方はよく知らないから答えられないので後者について
今回の話は終盤の展開として考えているのでしょうか?
それとも第二回放送前後の話として考えているのでしょうか?
>>683への返答はどっちとも取れる書き方でよく分からないです
仮に前者の場合、余計に先の展開への制限を促しそうな気がしますが

687 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/17(日) 15:15:52 ID:DNdEqB4s0
>>686
第二回放送前後のつもりです。
もうすぐ第二回放送が始まりそうなので、投下するなら第二回放送後を考えています。
追憶云々については3DS版ドラクエ8の隠しダンジョンにまつわるエピソードです。

脱出の糸口となる手段が「フォズの転職+ジャンボ道具広域化」のみしかフラグがないからそれらを殺せない、という状態だと思ったので竜神王という脱出のフラグを立たせることでそれらを殺すという選択肢を取れることがひとつの目的でした(もっともアスナの開けた穴など、見逃していたフラグがいくつかあったのでその必要はありませんでしたが。)

自分としてはそういったフラグの数が少ないことによる展開の制限は好ましくないと思っていますが、誰かの投下した作品で事実を確定させた場合に「その事実に基いて以降の作品を投下しなければならない」という制限はリレーの範囲内であり、どちらにせよいつかは必然的に起こることなので問題ないと考えています。

688ただ一匹の名無しだ:2017/09/17(日) 18:35:03 ID:G6s6Fvqs0
えっと、この話はいつ投下されようと「第○回放送前にこの戦いをなんとかしないといけない」問題は消えてないと思いますよ
そして誰がその続きを書くのかという問題もあります。

【主催側の舞台裏】は書きたいなら好きに書いていいと思います。
しかし、その場の空気や出すべき時期を読む力も要求されます。
例えば参加者の登場話も出そろわない内に、エビと外部からのイレギュラーがドンパチやってたらそりゃ怒られますよね?
また、エビを倒して脱出EDが確定路線ではないのに、まだ半分も減ってないのにこの話は早いのではないでしょうか。
リレーの結果であるならば、エビや黒幕の一人勝ちエンドでも問題はないというのがこの企画の主旨のはずです。

そして何より、【主催側の舞台裏】は他人にリレーを強要してはならないのです。
極論、主催側の話なんて、いよいよ決戦の時が来るまでは放送話以外書く必要は無いんですよ。
舞台裏の話をリレーするあまり、内部の話が疎かになるってのは本末転倒です。
この話をトリップを出して自分が書きます!という書き手が現れるか、大幅に加筆修正してリレーの必要のない一話完結の物語として完成させない限り、このまま通すのは色々と影響が大きいと思います。

最後に、氏は撤回はなされましたが生存補正がかかるということで出した竜神王自体も、原作で繋がりのあった8キャラとの生存補正をかけてしまうのではないか、という問題もあります。
※エビは投票で選ばれた主催なので4のキャラと因縁ができるのは仕方ないです。

まとめると
1:まだ第二回放送前なのに早過ぎるのではないか
2:舞台裏の話を他人のリレー前提で書くのはどうなのか(氏本人が自己リレーするから大丈夫!と言うのは通りません)
3:この時期に竜神王を出したらそれこそ8のキャラに生存補正がかかるのではないか

です

ただしトリップを出して自分が続きを書いてリレーの必要のない形に仕上げて繋ぎます!
という書き手が現れたのなら無条件で通してもいいと思います
※もちろんその書き手が仕上げた話に問題があればこの話含めて没になると思いますが

689 ◆2zEnKfaCDc:2017/09/17(日) 19:11:04 ID:DNdEqB4s0
>>687
なるほど、理解しました。
自分にはこれを一話完結に収められるだけの技量はありませんので、続きを書く、または一話完結で代筆してくださる書き手が現れない限りは没にしようと思います。

690ただ一匹の名無しだ:2017/09/17(日) 20:03:43 ID:G6s6Fvqs0
投下乙でした
この話、矛盾自体は無いと思いました
もっと状況が煮詰まってきた頃に投下されていたら、また違った結果になったと思います

691 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:19:02 ID:rAMbjtuw0
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
バルザックは雄たけびを上げ、三人に突進してくる。

「来るぞ!!」

イザヤールの警告と共に、それぞれ異なる方向に大斧を避ける。
外れた大魔神の斧は、地面に大きな穴を開けた。

「避けたか。だが、次こそ真っ二つにしてくれる!!」
バルザックは目標をイザヤールに定め、大斧を振り下ろす。

「ふんっ!!」
だが、それはイザヤールの大剣で受け止められる。

斧と剣がぶつかり合い、がちんと高い音が鳴った。
「やるな、だが、チャンスだ。モリー、ザンクローネ!!」

「うむ!!」
「おうよ!!」

イザヤールの声を受けて、蒼炎のツメとプラチナさいほう針がバルザックの背中に襲い掛かる。

「ぐうっ!!」
背中に幾筋の傷を入れられ、バルザックは呻く。

「ならば、まずは貴様達からだ!!」

禿げ頭の男に斧を受け止め、その間に奇抜な格好の男と小人が攻撃してくるようだ。
ならば、先に攻撃してくる方を仕留める。

「大した奴じゃねえな。」
モリーの頭から攻撃を仕掛け、今度は肩の上に乗ったザンクローネが笑う。


今度は同じように斧をモリー達の方に振り回す。
「その程度で、わしらを倒せるとでも思ったか!!」
ラプソーンを倒したメンバーの中でもかなりのスピードを持っていたモリーは、バルザックの攻撃を難なくかわす。

692 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:20:03 ID:rAMbjtuw0
「ならば、これでどうだ!!」
バルザックは大きく息を吸い込み、炎を吐きだす。
「斧が当たらないなら、丸焼きにしてくれるわ!!」

だが、モリーはそれを避けようとせず、何かのポーズをとる。
「なんだ!?その、馬鹿にしたようなポーズは!!」

「モリィィィィ!!!!バァァニングゥゥゥゥゥゥ!!」
「馬鹿な!!ぐあああ!!」
彼の熱血スキルの力で灼熱の炎を出す。
その熱さと勢いは、バルザックの吐いたものを優に上回っていた



「くそぉぉぉ!!ならば、これでどうだ!!」
体を焼かれ、三人から離れたバルザックは、魔法の詠唱に移る。

復活と共に、新たに身に付けた呪文を唱えようとする。
当たれば、三人ともそれなりなダメージを受けるだろう。
「焼き尽くせ!!ベギラゴ………ぐぅ!?」



だが、余程の達人でない限り、詠唱時間が長いのが欠点だ。

頭に、ゴツリと鈍い衝撃が走る。
「遅い」
素早く後ろに回り込んだイザヤールが斬夜の太刀で峰うちをしたのだ。



侮っていた奴らに情け容赦なく圧倒される。
これはキングレオ城とサントハイム城で以前2回も経験している。
しかもその度に上司から、部下から馬鹿にされてきた。



「なめやがってえええぇぇぇ!!」
怒りに任せて、大魔神の斧を振りかざす。
勿論、そんなザマでは三人を倒すことが出来ない。
地面がいたずらに耕されるのみである。

三人は斧の攻撃の間を縫って、攻撃を仕掛けていく。


(明らかに、武器に体が付いて行っていない…………)
イザヤールは、攻撃をしながらそう思い始めた。
これでは、武器を振り回すのではなく、武器に振り回されているようなものだ。

戦いは、武器の強さや個人のスキル以上に、武器とその使い手のシンクロ具合に左右されることを示す悪い例のようなものだ。

693誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:20:30 ID:rAMbjtuw0


「ハア………ハア………クソォ!!」
次第に、バルザックが息切れしてきた。

「マスター、ヒーロー、畳みかけるぞ!!」
「了解だ。」
「任せな!!」


「タイガークロー!!」
「ミラクルソード!!」
「超隼斬り!!」

「ぐあああああああああ!!!」

強力な技を3つ全身に受け、バルザックの体は地に伏す。
「こんな………はずでは…………。」




「バルザック………だったな。もうやめろ。」
「何だと?」

ここまで徹底的に攻撃して、何が言いたいのだ。

「貴様は、人間だろう?」
「黙れ!!」
「近づいてみて、分かった。姿こそ人間とかけ離れているが、何かの力を使って魔物になった人間だろう?」

かつてガナン帝国兵のような魔物になった人間によく近づいていたイザヤールだからこそわかることだ。




だが、その言葉は、バルザックの神経を逆なでするだけだった。
「黙れと言ってるだろ!!」


―魔族の恥め、所詮は元人間という事か
―人間のくせに威張り散らしやがって
―さすがはキングレオ様。同じ元人間だというのに、どこで差がついたのか


バルザックは何かをするたびに部下から、上司から、同僚から人間であったことをネタに蔑まれてきた。
とうとう怒りも限界に達したバルザックは、イザヤールを頭から真っ二つにしようと再び斧を振るう。
だが、これまで何度もやって悉く失敗に終わったやり方が、上手くいくはずがない。

イザヤールは紙一重で斬撃をかわし、後頭部に蹴りを入れる。
バルザックは前のめりに倒れた。

694誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:20:54 ID:rAMbjtuw0

「貴様を倒す必要はない。もう、止めにしないか?二人は、どう思う?」
「オレは別にいいけどよ、アンタはそれでいいのか?」
「人間を守り、正しい方向に導くのが、守護天使の役目だ。」
「うむ。ワシも鬼ではない。最初は許すつもりはなかったが、哀れなヤングにトドメを刺すようなことはせん。」



端から見て、降伏か死しかバルザックには残されていないようだった。

(こうなれば………どうなるか分からないが「アレ」を使うしかあるまい……!!)

「貴様等、それで、勝ったつもりか?」
「まだやるというのか?やめておけ。」

「私には、とっておきの奥の手があるのだよ!!」
バルザックはザックを開ける。




そこから出てきたのは、光る石。
なんの変哲もない鳥の卵のような形の石、のはずだった。


三人の顔色が突然変わる。
「やめろ!!」
イザヤールが怒鳴る。
本人以外の誰もが驚くほどの大声で。
「こいつが、そんなに怖いか?」
バルザックは得意げにそれを見せびらかす。

「違う!!それは、ヤングのような人間が使っていい物ではない!!」
モリーも、この感じは覚えている。
法王の館で戦った、杖の邪悪な力の操り人形にされている黒犬。
石から醸し出される気配は、邪悪さこそ感じないもののその杖から発せられる魔力に酷似していた。


「知っているのか?コイツは、進化の秘石。これで私は、誰よりも強い力を持つことが出来るのだ!!
 貴様等、私を侮ったこと、後悔するがよい!!」

バルザックはそれをそのまま飲み込む。

695誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:21:10 ID:rAMbjtuw0


「危ない!!止めるぞ!!」
イザヤールが、モリーが、ザンクローネが、バルザック目掛けて攻撃を仕掛ける。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




気が付くと、先ほど攻撃を仕掛けた3人が倒れていた。
「どうだ。これが進化の秘宝を使った、私だ!!」
声を上げたのは、バルザック。
それは獣人の姿ではなく、青い巨鬼の姿だった。

「凄いぞ!!かつて進化の秘宝を使った時より、力を感じる!!
感謝するぞ!!エビルプリースト!!」

尻尾一振りで3人をなぎ倒したバルザックは空に向けて、勝利の咆哮を上げる。
やはり、私を案じて、武器以外にとっておきの進化の媒体である、これを私に支給したのだろう。
だが、それでエビルプリーストよりも強くなってしまったのは、皮肉な話だが。






「私は、むて…………き………だ…………わ………………た……………し…………………」

(何だ?これは?)
突然、胸の中が焼けるように熱くなる。
「ぐあああああああああああ!!!!!」
痛みにこらえきれず、地面を爪で掻き毟る。

「な…………に………を、し……………た………き……さま…ら………」
消えていく。
記憶も、劣等感も、妬みも、憎しみも。
かつて私が進化の秘宝を使い、魔物になった時は、意識だけは保っていたはずだ。

(私は人間を棄て、力のある魔族になりたかった。
だが、望んでいたのはこんなものではない。こんなものでなかったはずだ。)

696誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:21:32 ID:rAMbjtuw0
そうだ、私が、本当に望んでいたのは……………)
最後に、エドガンに師事していた時から抱いていた錬金に対する想いも消えた。

「思い出せぬ………何も………。」

だが、破壊の意志だけは残っていた。
そして、より多く敵を破壊するための知恵と、より強い敵でも破壊できる力。
「滅びよ………すべての生きる者共よ………」


過去をすべて失ったバルザックは、今度は次第に巨大化していく。
トラペッタを襲ったギガデーモン、程大きくはないが、かつてのバルザックを優に3倍は凌ぐ大きさだ。


エビルプリーストが渡したのは、かつて自分が変身するために使っていた道具とは似て非なる物。
そして、エビルプリースト本人が更に研究を重ねて、使った物とも異なる物。





それは、強い武器や防具を錬金を通して更に強くさせる石だ。
ある星屑の力を持つ剣を、銀河の力を秘めた剣にさせ、
ある輪廻の蛇の力を持つ盾を、ウロボロスの力を持つ盾に進化させ、
またある鬼神の力を持つ槍に、地獄の力を与えた。


だが、それらの武具に進化の秘石を通して凄まじい力が備わった理由は、あまり知られていない。
答えは極めてシンプルである。
元々の武具が、かなりの力を持っているからだ。
力のない者は、力を手にした時、それを持て余し、自らの崩壊を招く。
それは、武器にも言えること。


ただの凡庸な武具に、進化の秘石を使っても、強くなることはない。
元々強力な武具に、それのみならず魔力を秘めたオーブや、太陽の石、氷の結晶などの中和剤を使って、その武器は進化するのである。

そんな道具を、錬金釜も、その力を中和するアイテムもなしに力のないものが使ったらどうなるか、火を見るより明らかである。



そして、許容しきれない力はとめどもない怒りに共鳴して、持ち手に理性の崩壊をもたらす。

697誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:21:51 ID:rAMbjtuw0


かつてのバルザックの上司であったピサロが、愛した者を殺された怒りによって、理性を失ったように。

バルザックの蔑まれ嬲られることで溜まり切った怒りと、強すぎる外部からの力は完全なる自我の崩壊をもたらした。


エビルプリーストは、これを予想し、バルザックに進化の秘石を渡したのだ。
元人間であることをコンプレックスにしているバルザックのことだ。
人間らしい感情に振り回され、碌なことにならないのではないかと。

最も、エビルプリーストはこの道具を知らなかったはず。
本当に渡したのは、誰だろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


場所はバルザック達がいる場所から少し東。
ここでも、人と竜の激しい戦いが繰り広げられていた。


「フ、いくら力を身に付けたと言っても、人の身では体力の限界があるぞ」
「はは、そっちこそ、魔族だからと言って、そんな大きな竜に長い間変身できないんじゃないか?」


どちらが言うことも当たっていた。
いくら強い力や技、魔法を身に付けていようとそれを使うための体力には限界がある。
また、竜王の方もこれほど長い時間変身していたことは、かつてアレフと戦った時でさえなかった。
だからと言って、迂闊に攻めの一手に出ると、その隙を突かれる可能性が高い。


一度目の放送が始まってから、4時間以上。
既に互いに消耗しながらも、先の全く見えない戦いであった。



だが、その戦いは急遽水を差される。



「な、なんだよ!?アレ!!」
いち早くレックが、それに気づく。
「なんじゃ!?」
「竜王、見ろよ…………」


遠くの方に、青い、巨大な、竜王よりも巨大な何かが暴れていた。
まだ距離はレック達とはかなり離れている。
逆に言うと、そこからでも見えるほどのメガサイズだということだ。


「気にすることはない。キサマはワシとの戦いにのみ集中すればよいのだ。」
竜王が爪を振るう。

698誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:22:16 ID:rAMbjtuw0
「そんなこと、言ってる場合か!!向こうで、誰かが襲われているかもしれないんだぞ!!」
レックは鋼の剣でそれを打ち払い、向こうへ行こうとする。
ひょっとしたら向こうに、ターニアや他の仲間、ティア達がいるかもしれない。

「ワシのことは恐れないのか?」
「あんたのことは知っているけど、向こうにいる奴は何なのか分からないんだ!!」
「小僧が、ワシをどこまでも愚弄しおって。これで片づけてくれるわ!!」
「竜王の口に闇の力が集まり、炎にして吐き出す。」


それが黒く輝く闇の炎となって、レックに襲い掛かる。
「マズいな………ならば……」
闇の力は、勇者の雷の力と同様、軽減させる方法が少ない。

「打ち返せえええ!!勇者の雷よ!!ギガディィィンン!!」


とっておきの魔法を打ち、闇の炎を弾き飛ばす。
やはり、闇の力に対応するのは、勇者の雷だ。


「まさか、闇の力を秘めた炎でも倒せぬとはな。」
「誰かを助けに行くところを邪魔するなんて、王の誇りとしてどうなの?」
「貴様………………。」

「それじゃあ、俺は向こうにいる人達を助けに行くよ。」
「待て!!」
「まだ何かあるの?」


「人間の脚ではあの魔獣がいる向こうに行くまで時間がかかるだろう。乗るがよい。」
「それは助かるけど、いいのか?」
「構わん。それともう一つ、そこの岩の上に、ワシのザックが掛かっている。中に回復の薬があるはずだ。ヤツを倒した後、それを使え。」
「どういう風の吹き回しだ?」

レックは流石に驚きながらも、そのザックを取る。中には言われた通り、クスリが入っていた。

竜王は背中を丸め、背に乗れというポーズをとっている。
どうやらレックを騙すつもりでもなさそうだ。


「人間に協力するなどと馬鹿げたことはできぬが、傷つき弱った敵を殺すことも、王の誇りに反するからな。」
「また、「誇り」ってやつか。アンタはなぜ、そこまで誇りにこだわるんだ?」
「黙れ。人間にそこまで話す必要などない。ヤツが倒れれば、すぐさま助けた者共々殺してくれるわ。」
「おおこわ。」


竜王は翼を広げ、夕日をバックにレックを乗せて飛んでいく。
「竜に乗るなんて、久しぶりだね……」
ムドーの城へ乗り込むときのことを思い出す。
最も、前は黄金竜で、今回は紫竜であるが。

699誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:23:00 ID:rAMbjtuw0



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「…………う………無事か?」
イザヤールが起き上がる。
「ああ、なんとかな。」
「マスターの悪い予想が、当たってしまったか。」


「まだ………生き残っているな………虫けらのように潰してくれるわ!!」


凄まじい力を得たバルザックは、虫でも潰すかのように平手で3人を潰そうとする。

「まだだ!!!」
しかし、イザヤールが斬夜の太刀でそれを受け止める。
「イザヤール!!」
「マスター!!それでは!!」


「人を守る。それが守護天使としての役目だ!!」
力ではかなわない、はずなのにそれでも必死でバルザックの手を受け止める。


「モリィィィィ!!バーニイイイング!!」
モリーもあきらめず抵抗を続ける。


「温い。」
だが、その炎は氷の息によって打ち消される。

「くそったれ!!」
ザンクローネが飛び出し、バルザックを斬りつける。
だが、巨大化したということはそれを守る脂肪の鎧も厚くなったということ。
その斬撃はバルザックの皮膚を薄く傷つけるだけだった。

「貴様等を破壊してくれる!!」
バルザックはぶおんと押さえられていない方の手を振るう。
なんとかザンクローネに当たらずに済んだが、次もかわせるという保証はない。
巨大になったということは、それ相応に攻撃範囲も広がっているからだ。そして………。

「ぐはっ!!」
ザンクローネに当たらないと思っていたその手は、イザヤールに当たった。
急に別の方向からの追撃に耐えられず、岩壁に叩きつけられる。

「イザヤール!!」
「マスター!!」

700誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:23:29 ID:rAMbjtuw0

「これで、貴様たちを守る者さえ、いなくなったな。」

(まずいぞ、ヒーローを狙うと見せかけて、守りの要であるマスターを攻撃するとは、戦略の質まで上がっている!!)


守りの要を失ってしまったことの危険さは、モリーが分かっていた。
かつてバトルロードでエイトのチームと戦っていた時と同じだ。
自分のチームのはぐれメタルが倒されてしまってから、戦況が極めて悪くなったからだ。

たとえ今の攻撃で死んでいなくても、これまで通り守りの要を勤めることは出来ないだろう。

先程までとは打って変わって、3人が圧倒的に不利だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「この辺りで良いか?」
「ああ、ありがとう。下ろしてくれ。」
レックはバルザックから少し離れたところで降りる。


幸いなことに、まだあの青いバケモノには気づかれていないはずだ。
だがこれは逆に言うと、誰かが奴に襲われている可能性が高い。


そこにいる人達を案じ、レックは走り出す。



レックの背中が遠くなると、竜王も変身を解き、元の姿に戻る。
そして、こう呟いた。
「必ず、戻って来い」


(ヤツめ、ここまで近づいても気づいてないとは、それほどでもない。
おそらく、エビなんとやらと同じ、力を何かの形で手にした力無き者だろうな。
だが、そういった者だからこそ、何をするか分からん。)


竜王が気になったことはもう二つ。
人間に協力するなど、馬鹿げたことは王の誇りが許さない。
だが、一度戦った相手が自分との戦いで消耗していたため、別の者に倒されるのはどうだろうか。


最後の一つは、レックが言ったこと。
(誇りでもなんでも、一つの物に固執していては、出来ないことも、手に入れられない物もあるよ。一度でも、考え直すことはなかったのかい。)

自分が誇りを貫くことで、誰かの誇りを壊してしまうことは、正しいことなのか。


自分が、何をしたいのかは分かっていた。
だが、それを、誇りが許さなかった

701誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:23:48 ID:rAMbjtuw0


【C-7/荒野/1日目 夕方】

【モリー@DQ8】
[状態]:HP1/3,MP微小費
[装備]:蒼炎のツメ@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(1〜3)
[思考]:ザンクローネと共にこの殺し合いを止める
    レックたちへの加勢
【ザンクローネ(小)@DQ10】
[状態]:HP1/3
[装備]:プラチナさいほう針@DQ10
[道具]:支給品一式、不明支給品(0〜2) 
[思考]:ふてぶてしく全てを救う


【イザヤール@DQ9】
 [状態]:気絶
 [装備]:斬夜の太刀@DQ10
 [道具]:支給品一式 不明支給品(0〜1) 
 [思考]:アーク(DQ9主人公)と再会し、謝罪したい。
 [備考]:死亡後、人間状態での参戦です。
     (「星のまたたき」イベントで運命が変わって生き返り、アークと再会する前です)

【バルザック@JOKER】
 [状態]:HP全快、メガボディ化
 [装備]: なし
 [道具]:支給品一式、道具0〜1個
 [思考]:全てを破壊する
 [備考]:
※主催からアイテムに優遇措置を受けている可能性があります。
※エビルプリーストによってヘルバトラーやギガデーモンに近い位階にまでパワーアップしています。
※過去の記憶を失い、ただ戦うための戦略と誰かを殺すことしか覚えていません(進化の秘宝を使ったデスピサロのように)
※バルザックの姿はバルザック+(第二形態)です。


【レック@DQ6】
[状態]:HP1/3 MP3/8
[装備]:鋼の剣
[道具]:支給品一式、エルフの飲み薬@DQ5確認済み支給品1~2個
[思考]:バルザックを倒す。ターニアを探す。
[備考]:竜王に好奇心を抱いています。

【竜王@DQ1】
[状態]:HP2/5 背中に傷
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品0〜1個
[思考]:悪を演じ、誇り高き竜として討たれる。
[備考]:レックを助けるか、自分の誇りを貫くか悩んでいます。


※D-7南/荒野にガナンのおうしゃく@DQ9が落ちています。
※バルザックの近くに、大魔神の斧@DQJが落ちています。
※バルザックの飲み込んだ進化の秘石@DQ9は溶けたか残っているかは、次の書き手にお任せします。

702誤った進化 ◆znvIEk8MsQ:2017/11/02(木) 21:29:12 ID:rAMbjtuw0
投下終了です。OKか破棄か気になった点は、言うまでもなくバルザックの変身過程です。
バルザックが進化の秘石を使って更なる強大な力を手に入れたが、その反動でデスピサロのようになってしまった、
という展開が、完全にオリジナル設定だからです。
他には、いくらバルザックが巨大だからと言って、戦いながらもそれに気づくレック、誇りを貫くか否かで悩んでいる竜王など、「これはないなあ」と思う点があるかもしれません

やり直すとしても、大筋が、「バルザックが進化の秘石を飲み込む」というものがあるので、破棄申請されても改定するのは難しいです。

もし破棄申請が出なければ、明後日の午後6時に本投下したいと思います。

703ただ一匹の名無しだ:2017/11/02(木) 23:12:38 ID:fxRXW1/U0
お疲れさまです
自分は問題ないと思いました

704 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:53:56 ID:tBv3.T9M0
一時投下します。

705踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:55:00 ID:tBv3.T9M0
また、守れなかった。
ひとり、ひとりと、隣からいなくなっていく。

微かに見えた黒い雷は、おそらくジゴスパークだろう。
レックやテリーが使っていたのを何度も見たことがあるし、はぐれメタルの職を経験している自分も使える技だ。

それでも、彼女の使う地獄の雷は自分のそれの比ではなかった。
そうさせたのは、彼女の実力か、それともそれほど強い想いなのか。
どちらにせよ、あの威力では先に行っていたローラとアレフはもちろん、後からついて行ったトンヌラもただでは済んでいないだろう。

ハッサンを殺した2人が死んで、ざまあみろと思う気持ちが心の片隅を支配して、聖職者でありながらそんな邪な気持ちを抱く自分にも嫌気が差して、スクルドを止められなかったことも自分を責める材料になって――――――

なぜ、こんなことになったのか。自分の中から原因を見出すのは簡単すぎるからこそ、他人の中から原因を見出したくもなる。

そしてその対象はキラーマジンガ。
あの機械兵が間違いなく原因のひとつだ。
あの時、橋の上で妨害を受けなければもっと早くリーザス村に到着して、また違う結末を迎えていただろう。

たらればの話をしても仕方がないなんて分かっている。
もはや八つ当たりにも近いことだと分かっている。

海底神殿で、デュランとの戦いの中でと、これまで幾度となく自分たちを苦しめてきたあの機械兵。こんな場所でも立ち塞がるのか、そう思えてさらに苛立ちを感じた。

「生命反応ヲ確認。」

機械兵と相対する。
橋の上で戦った時には折れていなかった剣が折れているのに気づく。あの後にまた誰かと戦ったのだろう。
じゃあ、それは誰と?

答えはすぐに思い浮かんだ。

おそらく、この辺りにいたはずのサフィールだろう。

そして機械兵がここにいるということは――――――



――――――ああ、また守れなかったのか。

サフィールが逃げ延びたのだとか、戦ったのは別の人物だったのだとか、そんな可能性はあったのかもしれないがそんなことを考慮する余裕はなかった。

憎い。
絶望が、憎悪が、溢れ出して止まらない。



あの機械兵が――――――憎い。

706踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:55:43 ID:tBv3.T9M0

「敵ト、認識。」

そうだ。
奴にとって僕が敵であるように、僕にとっても奴は敵なのだ。

人の心を弄ぶあの魔王の如き男の手先。
多くの命を奪っていった敵――――――

いや、本当の意味で皆の敵なのは僕なのかもしれない。
ハッサンも、もう少し早く動いていれば死なずに済んだのだろうか。
アモスとも最後の瞬間はきっと分かり合えていた。殺さなくても、何かしらの手段はあったはずだ。

トンヌラも、アレフも、ローラも、サフィールも――――――


一旦、考えるのをやめた。


せめて、今はこれ以上誰も失うことのないように。

「キラーマジンガ。貴方は、僕が倒す。」

「戦闘開始。あべる様ノタメニ、破壊ヲ。」

言うが早いか、ジンガーより早くチャモロは動く。
ドラゴンの杖をサフィールに渡したチャモロは今は何も武器を持っていない。
元より格闘技を特別好むチャモロではないが、キラーマジンガには呪文が通用しない。
また、威力の高い特技は発動までの隙が大きい。遠距離戦では弓矢を駆使して戦うキラーマジンガ相手に使う余地があるとは思えない。

ちまちまとした攻撃では鋼鉄の装甲を貫けるはずもなく、勝機があるとすれば接近戦での高威力の格闘技が最も有効だろうとチャモロは判断した。

チャモロが近づくと予定調和とでも言うが如く振り下ろされる槌。キラーマジンガにとっては牽制程度の攻撃なのだろう。
だがそんな簡単な攻撃でさえ、軽装備の人間相手には一撃必殺となり得る。
仮に死なずとも、これを受ければ剣による追撃を避けられない。

それでも、不思議と怖くはなかった。
何度も戦ったことのある相手だからだろうか、それとも多くの死を間近で経験し過ぎたからだろうか。槌による牽制を難なく躱す。

ただ、躱したからといって油断など出来ない。
槌により叩きつけられた地面から砂埃が巻き起こり、微かにチャモロの足を取る。
大局的に見るとただの砂埃でもコンマ1秒の動きの乱れが生死を分ける戦いの中では立派な障害物になりうるのだ。

だが、チャモロは次の一手を回避に回すために動いていなかった。
キラーマジンガの攻撃を2度受けきると隙が出来ると分析したが、相手の行動にパターンがあるとはいえ自分の行動までもをパターン化するのは危ないかもしれないからだ。

初撃を回避してすぐに動く。
砂埃で足が取られないよう、回避と同時に大地を踏みしめていた。そして敵が剣を振り下ろす直前、地面をバネに飛び上がり膝蹴りを入れる。

707踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:56:23 ID:tBv3.T9M0

ガシャリと鋼の音が鳴り響き、ジンガーは後退する。
折れた剣での第二撃はチャモロには届かない。



「ヤハリ、ソウカ。」

ジンガーは呟いた。
先程の戦いは殺し合いではなかった。だが、今は紛れもない、殺し合いをしている。
破壊し、破壊される――――――このために、自分は動いているのだと実感する。



中距離まで離れたジンガーはビッグボウガンを引く。
それに気づいたチャモロは1歩引き下がる。
矢を放たれて1番厄介なのは遠距離ではなく中距離である。
目視で回避出来るだけの距離があればこちらからの攻撃手段はなくともリスクを負うこともないのだ。

放たれたジンガーの矢を逸れて躱したチャモロは再び距離を詰めにかかる。槌にも剣にも対抗出来るよう両方に注意を払っていた。

来たのは横薙ぎの斬撃。
斬撃の軌道に合わせて身体を逸らして躱し、そのまま爆裂拳を叩き込む。
高速打から逃れるようにジンガーは引き下がった。

チャモロは攻撃を防いでいるのではなく、捌いている。
あくまで、相手の攻撃に対応する目的は自分の攻撃を一方的に通すことにあるのだ。

それでも、割に合わないとでも言うべきか。
1回相手を怯ませるのに2回の命の危険を潜らなくてはならない。どれだけ追い詰めても一瞬で形勢は逆転しうるのだ。
負けるビジョンはいくらでも見えるというのに、勝機は見えない。

でも、引くわけにはいかない。
ここで倒さなくては、直接的であれ間接的であれ、また誰かが犠牲になるかもしれない。

初撃。
ジンガーはチャモロに対し矢を連射する。
これまで回避を主とした戦術を取っていたためか、線状ではなく扇状の攻撃。

「はっ!」

真空刃でその全てを弾き飛ばして道を作り、前進する。

次は、打撃か斬撃か。
どちらが来ても反応出来るよう、ジンガーの両腕へと意識を集中する。

(!?)

しかし、ジンガーの取った行動はどちらでもなかったのだ。
第二撃は単純な体当たりだった。
衝撃がチャモロの身体を弾き飛ばし、草原の上に転がす。

708踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:57:09 ID:tBv3.T9M0
もしも初撃にこれを受けていればそのまま追撃の矢を心臓に受け、無事では済まなかっただろう。
だが、キラーマジンガは2回の攻撃行動の後は次の攻撃行動までにしばしのインターバルを必要とする。
よって攻撃行動の出来ないジンガーがとった行動は接近。
チャモロが立ち上がる瞬間を狙い、次の攻撃行動として槌を振り下ろす。

避けられない。
槌の一撃がチャモロに命中し、骨にヒビが入る音が響く。
だが、命までを奪うことは出来ない。

「大防御…!!」

チャモロは左腕で一撃を何とか受け止めていた。
体つきは華奢なチャモロだが、それでもパラディンの職を極めているのだ。並の戦士を優に凌駕する防御力を持っている。

だが、勝てるわけではない。
左腕をやられ、武闘を駆使しての戦いも半ば封じられてしまった。
何度も倒してきた相手だと言うのに、隣に誰もいない、ただそれだけのことで人はこんなにも弱くなってしまうのだろうか。

でも、諦めるわけにはいかない。

「僕は――――――最後まで戦う…!」

誓いを言葉にして吐き出す。
根性論で乗り切れる戦いではないと分かっていても、叫ばずにはいられなかった。



「―――そう、諦めちゃだめだ。」

「―――助太刀するでござる。」

その時、剣を振りかざすジンガーと素手で対抗せんとするチャモロの間に割って入る二人がいた。

その者の内の1人は炎を纏う赤剣と対をなすかのように青く美しい剣を構え、機械兵の斬撃を受け止める。
もう1人はその状態のキラーマジンガに体当たりをして怯ませる。

「間に合ってよかったでござる、チャモロ殿。お主のことはサフィール殿から聞いております。」

その者は図らずもサフィールが生きていることを伝えてくれた。

「…と、名乗るのが遅れたね。僕はアルスで、こっちはライアンさん。この殺し合いを終わらせるために仲間を集めてるんだ。」

そして孤立し弱っていたチャモロに、仲間がいることの安心感を思い出させてくれたのだった。

「アルス殿、一旦離れましょう。作戦についてチャモロ殿に。」

「分かった。」

アルスとライアンは予め何かしらの考えがあって挑んでいるらしい。
最低限の会話で行動方針を決めていく。

「魔神――斬り!」

アルスは攻撃の後の僅かなインターバルの時間を利用して渾身の一撃を叩き込み、ジンガーは数メートル吹き飛んでいく。

再び戦闘へと戻ろうとするも、既にアルスたちは逃走を成功させていた。

709踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:57:57 ID:tBv3.T9M0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「みんな友達大作戦…?」

ハッサンやアモスを想起させるような屈強な男の口から飛び出たのは、何とも可愛らしい作戦名だった。
人も魔物も、全員仲間にして主催を倒す。
確かに理想的ではあるだろうが、現実的に可能なのだろうか。

「しかし、相手はあのキラーマジンガです。仲間にすることは出来るのでしょうか?それに、この世界でも奴は破壊の限りを尽くしてきたはずです。やはり納得しない人だっているかもしれません。」

「そう…思うよ。」

サフィールの話では、マリベルの死には少なからずキラーマジンガが関わっていたそうだ。もちろん、憎いという心が全く無いといえば嘘になる。

「でも、それは機械兵が悪いんじゃない。裏にはいつも人間や魔物の悪意があるんだ。」

(――――――ぼくとしては戦いしか知らぬからくり兵に同情しているくらいだ。真に悪といえる存在がかれらではないということが人間たちにはわからんのさ。)

いつかゼボットが言っていた言葉。彼もかつてのアルスと同じように、自分の、そして他人の命に対して無頓着だった。
ただし彼は彼のやりたいことを見つけていた。だからこそエリーを作り上げられたのだろう。

それでも機械兵を憎まずにいられない人がいることも理解出来るが、アルスの意見がどうしてもゼボット側に傾くのは、長く命への関心を持っていなかったからかもしれない。

「…分かりました。ただ、どうやってあれを仲間にするのですか?」

「それには、考えがあるのでござる。」

「うん。サフィールによると、キラーマジンガは人間に従っているそうなんだ。」

「それは私も知っています。あのアベルという男の意思に従って破壊を繰り返しているそうです。」

「そう、奴はただ無差別に人を襲っているのではなく、人の命令に従っているのでござる。ならば、何かしらの方法でこちらから命令することも可能なのではなかろうか。」

「なるほど、命令を上書きするわけですね。」

「ふたつ、可能性がある。まず1つ目。過去に機械の兵団と戦った時に、エラーを引き起こす音波を発する装置を使ったことがあるんだ。さすがに同じものは支給されてないだろうけど、何かしらの音波を発するものがあれば回路を狂わせることが出来るかもしれない。」

ただ、残念なことに音に関する道具は誰も持っていなかった。
そもそも橋の上で銃を暴発させた時キラーマジンガの近くでかなり大きな爆音が響いたはずだが、それで何のエラーも起こっていないことを見るに音によるエラーは現実的ではないのかもしれない。

「そして2つ目。これは…成功するかどうかは実は僕次第だ。"魔物ならし"という技があってね。魔物を手懐ける特技なんだけど、それが機械相手にも通用することがあるんだ。それを使えば、破壊の命令を解除することも出来るかもしれない。」

「そんな技が…!アルスさんは使えるんですか?」

「それが、僕は使えないんだ。でも他に方法がないのなら試してみるよ。仲間が使っているのを見たことだけならあるからね。」

ガボはモンスターマスターを極めていた。
生きていれば、きっとみんな友達大作戦の立役者となってくれていたのだろうが、感慨にふけっている暇はない。

こちらを発見した機械兵が迫ってきているのだから。

「敵ヲ、確認。破壊シマス。」

「違うさ、僕らは敵なんかじゃない。」

作戦開始。
そして殺し合いとは呼べない何かが、始まる。

710踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:58:28 ID:tBv3.T9M0
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ジンガーがアルスを槌で殴り掛かる。
ライアンが割って入り受け止めるが、想像以上の重圧に氷の刃を弾かれる。

炎剣による第2撃を後続のアルスが弾き、ライアンは事なきを得た。

「助かったでござる…!そして気をつけてくだされ!心無しか斬撃の精度が上がっているでござるよ!」

ジンガーは戦った相手の行動パターンを分析している。
よって防御の手薄になりがちな部分を持ち前の正確さで確実に突くことが出来るのだ。

「ならば…真空刃!」

攻撃の軌道をずらすべく風の刃を放つ。
ジンガーの振るった剣は空を斬るに留まる。

正直に言うのなら、チャモロはキラーマジンガを仲間にするのにあまり乗り気ではない。
ただしそれは個人の感情によるものが大きい。
海底神殿での戦いはチャモロだけでなく、パーティー全員に大きなトラウマを与えた。
デュランとの戦いの前座として召喚されたキラーマジンガもレックのラミアスの剣を持ってしても苦戦を強いられた。
チャモロにはこれを仲間にするのは信じられないとさえ思える。

だが、仮に成功すればかなりの戦力となるのは間違いない。
ここで自分の感情を押し通して、そのせいで守れない命があればきっとまた後悔することになる。

だから出来る限りのことをしようと決めた。
元の世界に帰りたい、きっとその想い自体は誰もが同じはずだ。

チャモロの攻撃によって怯んだジンガーは後退しながら矢を連続で放つ。
接近攻撃を主とする3人を相手にするジンガーにとっては適度に距離を置く方が有利なのだ。

711踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 11:59:45 ID:tBv3.T9M0
だが、ジンガーはアルスの素早さを見誤っていた。
疾風突きの勢いに乗せてアルスは接近する。
灼熱剣エンマによる斬撃が放たれるも、アルスはオチェアーノの剣で押し返す。
ジンガーはまだアルスと戦ったことがなく、動きのパターンがインプット出来ていないのだ。

そしてアルスはジンガーの下へと辿り着く。
武器を納め、鋼鉄の身体に触れる。

「もう破壊をやめるんだ、キラーマジンガ。エビルプリーストを倒すため、君の力を貸してほしい。」

言葉を紡ぎ語りかける。
機械相手に、周りから見たら滑稽だと笑われるかもしれない。
でも、人間の愛に触れて育てば機械兵にも"心"が芽生えるのだとアルスは知っている。
現代のフォロッド城のエリーを巡る騒動。アルスが自分の心の問題について考え始めたのもこの出来事があってのことだった。

「誰も死ぬことがあってはいけないんだ。君も、君のマスターも、みんなでこの閉ざされた世界から脱出しよう。」

「ますたー…あべる様…?」

アルスの言葉にジンガーが反応を示す。
それは有効だったのか、それとも悪手だったのか。

「あべる様ハ、イナクナッタ。あべる様ノ指示ガ、必要ナノダ。」

「だったら僕たちも探すのに協力する。今は敵対しているかもしれないけれど、君のマスターも仲間にしてみせる。」

「ソウカ、分カッタ。」

言葉が届いた。
アベルと出会った時にどうなるかは分からないが一時的とはいえ成功したのだろうか。



「――――――オマエタチハ、今ハあべる様ノ敵ナノダナ。」

(…!)

一瞬抱いたそんな幻想は、すぐに打ち砕かれた。
ジンガーはメガトンハンマーで地面を思い切り叩きつけ、辺り一面を衝撃波で吹き飛ばす。

「ぐっ…!」

「駄目で…ござるか…!」

「やっぱり、アイツは…!」


言葉は届いた。
だが、ジンガーのアベルへの忠誠を読み違えていたらしい。もっと早くに心を取り戻し、魔物マスターに転職出来ていたら。
もっと早くにトラペッタに辿り着き、ガボを守れていたら。
心を取り戻したアルスに待っていたのは後悔の連続だった。

もう、後悔はしたくない。
だが実力が足りない。

衝撃波によりアルスは空へと放り出される。
最も近くで衝撃波を受けた分、他の2人よりも大きなダメージを負ってしまったのだ。

そして、ジンガーの追撃がアルスに迫る。

712踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:00:30 ID:tBv3.T9M0
「アルス殿!ぬおおおお!!」

ライアンがアルスの前に立ち塞がり、ジンガーの斬撃を氷の刃で受け止める。

想像以上の重圧に押し返されそうになる。
さらにその時、ジンガーの持つ灼熱剣エンマが更なる熱を放つ。

アルスを狙ったのは隙が出来たからでも近くにいたからでもない。
アベルと敵対しているとの言葉を吐いたアルスにジンガーは怒っていた。
それは天使の守る世界の人々やアストルティアに生きる人々には"怒り"と呼ばれている現象。

だが、この場の全員が知らない。知る由もない。
この状態の者の放つ一撃は、平常時よりも遥かに強力であるということを。

「ぐっ…ぬおおお…!」

灼熱剣の熱で氷の刃が溶け始める。
だが、即座に完全に溶けるには至らない。それは氷の刃が強力な武器であったからなのか、それとも剣の元々の持ち主である今は亡きナブレットの執念なのか。

どちらにせよ、ライアンの守りが崩れるのは遠くはない。
アルスはすぐに戦闘復帰するにはダメージが大きいだろう。
動けるのは自分だけだ。そして、動くとするならば今しかない。

「黒き雷よ――――――」

ごめんなさい。
心の中で呟いた。

魔物も機械も、全員が協力して戦えるのならそれは本当に夢のような話だと思える。

だけど、そんな夢に執着して目の前で消えるかもしれない命を見捨てることは出来なかった。

「我が敵を―――飲み込め。」

あの時のスクルドもきっと、守りたい何かがあったのだろう。
それは命かもしれないし、想いかもしれないし――――――何にせよ、許してはいけないのに許さなくてはならない気がした。

彼女も、方向性は違うのかもしれないけれど、今の僕のように苦しんでいたのだ。

713踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:01:57 ID:tBv3.T9M0
「ジゴスパーク――――――」

地獄の雷を呼び出す。だが打ち出すことはしない。
このまま放とうものならライアンもアルスも巻き添えにしてしまう。
チャモロは荒れ狂う力を右腕に込める。

(ハッサンさん…見守っていてくれていますか?今の僕はあなたに胸を張ることは出来ないけれど――――――)

ジンガーに近づくにつれて灼熱剣の熱気が伝わってくる。
裸出した顔を、腕を焦がすその熱がやけに冷たく感じられた。

(せめて、今はこの技で――――――)



「正拳――突き!!」



地獄の雷を纏った拳が、ジンガーの装甲を真っ直ぐに貫いた。
悲鳴をあげることもなく、機械兵はただただ砕けていく。

「あべる…様…オ役二立テズ…申シ訳アリマセン…。」

ただひとつ、機械兵が最期に発した言葉は、機械兵のものとはとても思えないくらいに、人間味に溢れていて。

この機械兵も苦しんでいたのか?
そんな疑問が、そんな迷いが頭の中を掠めた時には、全てが終わっていた。

作戦は失敗した。
キラーマジンガを破壊――――――いや、殺したこと自体は間違っていなかったはずだ。
ライアンとアルスの命を守れたことを誇りに思うべきなのに。

でもキラーマジンガをこの手で倒したことを、この作戦の失敗を、どこかで喜んでいる自分がいたのも確かだった。



その後は、どことなくいたたまれない空気が辺りを支配していた。

「僕たちはリーザス村へと向かう。チャモロ、君も仲間になって欲しいんだ。」

「…ごめんなさい。僕はトラペッタ方面に向かいます。」

サフィールが向かったらしい場所。
たった今、感情の枠にヒビが入って感情が零れ出して、そのままにキラーマジンガを殺した。
今リーザスに向かって、もしもハッサンの仇の2人が生きていたら、スクルドと再び出会ったら、その時自分がどうするのか、それを考えるのが怖かったのだ。

「サフィールさんは僕が守ります。彼女と共に仲間も集めます。だから、もう一度会えたらその時は――――――また僕を仲間と呼んでほしい。」

「うん、分かった。じゃあ行こうか、ライアン。」

「うむ…」

ナブレットの形見だった氷の刃は完全に溶けてなくなっていた。
物にそれほどの執着があるわけではなかった。大切なのは、あの時にナブレットが剣を渡してくれたから自分は今こうして生きているということ。

714踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:02:40 ID:tBv3.T9M0
「ナブレット殿…ありがとうでござる。」

小さく呟いて、アルスの渡してくれた新たな剣を装備する。
まどろみの剣。ラリホーの効力のあるこの剣は、きっとみんな友達大作戦に貢献してくれるだろう。
散っていった命に報いるため、せめて前を向いて、戦おう。

ある者は無力感を噛み締め、ある者は使命に燃えて、ある者は罪悪感に苛まれ――――――それぞれがそれぞれに思うところのあるこの戦い。
ただし、戦いはまだ終わっていない。
この戦いは始まりにしか過ぎないことを、この時はまだ誰も知らなかった。


【G-5/平原/真夜中】

【アルス@DQ7】
[状態]:HP1/5 MP微消費
[装備]:オチェアーノの剣@DQ7
[道具]:支給品一式 白き導き手@DQ10(エイトからミーティアへの遺言を録音済み) ドラゴンキラー@DQ3 トンヌラのメモ(トラペッタの簡易見取図) ギガデーモンのふくろ(不明支給品0〜2) ゲルダの不明支給品0〜1個 道具0〜2個(本人確認済み)
[思考]:この戦いを終わらせる。ミーティア、キーファ、フォズを探す。リーザス村でアイラとマリベルを弔う。
[備考]:戦いに対する「心」を得たことで下級職全てをマスターしました。
この小説内のアルスの習得技は3DS版DQ7に沿っているため職歴技は習得していません。

【ライアン@DQ4】
[状態]:HP1/4全身の打ち身、顔に傷、兜半壊、腹部に打撲、鎧半壊
[装備]:まどろみの剣
[道具]:支給品一式(パンと水がそれぞれ-1)
[思考]:ジャンボを探す。ホイミンのみんな友達大作戦も手伝う。

【F-4/平原 /真夜中】

【チャモロ@DQ6】
[状態]:HP3/10 MP1/5 左腕骨折 ※竜化した場合、片翼損傷(飛行不可能)喪失感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 支給品1〜2(本人確認済み)
[思考]:ハッサンの意思を継ぎ、ゲームを止める 近くにいる可能性のあるサフィールと合流する
※チャモロはローラが死んだと思っています。
[備考]:チャモロは少なくとも、僧侶、武闘家、パラディンをマスターしています。また、はぐれメタルの職業を少なくともLv7まで経験しています。魔法使い、魔法戦士、賢者、勇者は経験していません。

715踏み込んで、天と地まで ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:04:38 ID:tBv3.T9M0




★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「キラーマジンガ…恐ろしい奴よ。主への忠誠心から、自ら別の世界の可能性を掴み取るとは…!」

ジンガーの放ったグランドインパクトも怒りによる能力上昇も、彼のいた世界のキラーマジンガが使いこなせるものではない。

主催者、エビルプリーストは笑っていた。

「バラモスが死んで退屈しておったでな――――――救ってやろうとも考えていたが、どうやらその必要もないようだ。」

奴が他の世界の可能性を掴み取ったのなら、必ずや起こる現象があるはずだ。
そしてそれは何を生み出すのか、まだ予測もつかない。

「何とも面白い…面白いではないか…くはははははははははは!!!」

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

アルス、ライアン、チャモロの3人がジンガーの居た場所を離れてしばらくした後、1体の機械兵が天より舞い降りた。

その機械兵はキラーマジンガであり、ジンガーではない。
彼は地に伏し動かなくなったジンガーを見下ろしている。

「Code 87:Remote Repair 開始。」

そしてインプットされたデータの通りに、ジンガーに腕を宛てて壊れた部品を組み直していく。地獄の雷によって破壊された装甲が、アクセルが、修復されていった。

「完了。」

新たな機械兵の発したその言葉と共に、ジンガーは地の底より舞い戻った。

「助カッタ。宜シク頼厶、個体Bヨ。」

「…。」

心の宿った機械兵と、心無き機械兵。
2体はそれ以上言葉を交わすこともなく、アクセルを踏み込んだ。

【F-5/平原 /真夜中】

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/4 
[装備]:折れた灼熱剣エンマ@DQS メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[道具]:支給品一式
[思考]:アベルを探す、邪魔する者は破壊する。
[備考]:サフィール達に疑問を抱いています。
アルス達の向かった先を知りません。

【キラーマジンガB@DQ10】
[状態]:健康
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式
[思考]:無し
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
アベルと出会う前のジンガーのように、命令がインプットされていない状態です。

716 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/09(土) 12:22:24 ID:tBv3.T9M0
投下終了です。
気になる点は、キラーマジンガBの存在。
・参加者追加について
設定としてはバラモスゾンビやヘルバトラーの「その個体特有の形態変化」に近いもので、キラーマジンガのイメージからかけ離れたものでもないとは思いますが、リレー小説における扱いとしてはDQBR2ndのサイモンに近いものだと思います。
トラペッタ方面の人物の淘汰、みんな友達大作戦の成功、リーザス方面での戦闘など、ジンガーが行う可能性のあることを色々考えた結果、1体では荷が重いのではないかと考え、この話を書くに至りました。
一応、>>715の展開のみを没にしても話の大筋は通ると思うので、この設定が没になっても本投下はします。
とりあえず以下に挙げる点はこの点が受け入れられている前提のものとなります。

・マジンガBの支給品までもが追加されていること
近くにネプリムの不明支給品やリオウのオリハルコンの爪が落ちているはずなので、装備品の調達自体は難しくないのですが、マジンガ2匹で道具漁りをする図が場面に対して不格好だと思ったので追加キャラにも関わらず最初から装備品を持っている設定にしています。この点について意見を聞きたいです。

これらの点に反対意見がなければ、月曜日の夜に大体このまま本投下しようと思います。

717ただの一匹の名無しだ:2018/06/10(日) 13:16:55 ID:zEIRyHuU0
投下乙です。やはりマジンガは2体1セットか……。
10世界の技を使うバラモスゾンビや強ボスの形で復活したヘルバトラーのように、キラーマジンガも10世界の技を使うならこれもよいと思います。
新キャラではなく、2体1セットと解釈するならばこれでもよいと思います。
あとこれはどうでもよい話ですが、チャモロがキラーマジンガと闘った場所は海底神殿ではなく、海底宝物庫だと思います。
海底神殿は確かグラコスと闘った場所です。

718 ◆2zEnKfaCDc:2018/06/11(月) 22:40:28 ID:LjyLYJEw0
ご意見&ご指摘ありがとうございます。
特に反対意見もないようですので、指摘箇所修正の上投下したいと思います。


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