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DQBR一時投下スレ

1ただ一匹の名無しだ:2012/05/01(火) 18:33:27 ID:???0
規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所です。

前スレ
投下用SS一時置き場
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1147272106/

2Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:13:07 ID:???0
ターバンを巻いた男、すらっとした青髪の女性、同じく青髪の尖った髪の少年。
彼らと対峙しているのは、一匹の巨大な魔物。
その場にいる全ての人物をタバサは知っていたからこそ、彼女は今の状況が辛くて苦しくて仕方がなかった。
何故なら、今まさに両者の戦いの火蓋は切って落とされようとしているのだから。

先に動いたのは魔物だった。
三者を薙ぎ倒そうとその豪腕を振るうが、それは不発に終わる。
一番身軽な少年は豪腕を軽々と避け、その腕に乗って顔面へと駆け抜けていく。
魔物が防御態勢を取る前に、少年は魔物の顔面を切り裂いていく。
左目を重点的に切り裂かれた魔物が体勢を崩して後ろによろけたのを確認し、今度はターバンの男が正確に魔物の膝裏を杖で叩いて行く。
バランスを取ろうとしていた所に加えられた衝撃により、魔物は後ろへ大きくよろけた。
魔物が地面に倒れ込む寸前、女性の手から放たれた一発の火球が地面と魔物の間に滑り込む。
完全に虚を突いた攻撃になす術も無く、爆ぜ上がる火球に魔物は背中を焼かれることしか出来なかった。
「お願い! もうやめて!」
耐えられ無くなったタバサが、腹から空気を大きく振るわせながら叫ぶ。
だが、その場にいる四者にその声は届かない。
魔物が素早く起き上がり、トドメを刺さんと飛びかかっていた少年を蠅を追い払うように素早く叩く。
意識を全て攻撃に注いでいた少年は、横からの素早い攻撃をそのまま受け止めてしまい、地面を何回も転がり続けた。
即座に救援に向かった女性へ襲いかからんと、魔物は足を進めていく。
当然、ターバンの男が魔物の進路を塞がんと向かってくる。
が、魔物が吐き出した炎に遮られて思うように進めない。
男が炎にまごついている間にも、魔物は女性と少年に近づいていく。

「ゲロちゃんやめて! その人たちは私の家族なの!」
再びタバサは声を絞り出すが、魔物にも家族にもその声は届かない。
まるでそんな声など無かったかのように、彼らは振る舞っている。
タバサが叫んでいる間に、魔物は少年と女性の下にたどり着いた。
「どけ、天空の勇者は殺す。邪魔をするなら貴様諸共殺すぞ」
少年を庇うように立ちはだかる女性に向かい、魔物はまるで汚物を見るかのような目をしながら吐き捨てた。
「どきません。私はこの子の母親です。
 子を守るのが親の役目です」
「そうか、なら死ね」
手を広げて少年の前に立つ女性に対して、一切の躊躇いなくその爪を振るう。
女性は襲いかかる爪を真っ直ぐと見つめ、その場から動かない。
「やめてッ、やめてよぉぉぉぉ!」
泣きじゃくりながらタバサはひたすらに叫び続ける。
声が枯れそうになっても、ただひたすらに叫び続けた。
母へと迫る凶刃が止まることを、ただ祈りながら。

3Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:15:04 ID:???0
「がッ……はあっ」
祈りは、届かなかった。
純白の服を赤に染めるように、魔物の爪が胴体を貫いている。
同時に口からは大きな血塊が吐き出され、魔物の足を赤く染める。
「捕まえ、ましたよ」
血を吐きながらも、女性の目は真っ直ぐと魔物を見据えていた。
そしてゆっくり確実に呪文を紡ぎ、片手に巨大な火球作り出していく。
「食らい……なさッ」
振りかざした片手は上半身ごと宙を舞った。
一連の動作をつまらなそうに見つめていた魔物の片手が、胴を貫いている腕を軸にして女性の半身を吹き飛ばした。
ドサリ、と人であった肉塊が落ちる音が重く響く。
意識を取り戻した青髪の少年の目には、力なく倒れ込む母の半身の姿があった。
「ち、ちくしょおおお!!」
ろくに剣も構えず、少年は魔物へと飛びかかる。
魔物は片腕で少年を地面へと叩きつけ、そのまま頭を踏み潰す。
魔物に傷をつけるどころか、叫ぶことすら叶わずに少年は絶命した。
「なんで……なんで、どうしてそんなことするの!?」
タバサの叫ぶ声など全く気にしない様子で、魔物は手についた血を舐め続ける。
その頃、ようやくターバンの男が炎をかいくぐって現れた。
頭を潰されている息子と半身を失った妻の姿を見て、怒りに震えていた。
「天空の一族の血は美味だな……なぁ、伝説の魔物使いよ」
「……タバサも、そんな風に殺したのか」
怒りを押し殺しながら、男は魔物に問う。
タバサは自分がいることを必死に訴えるが、両者の耳には届かない。
男の問いに、魔物は大きな声で笑い出した。
ひとしきり笑った後に、まるで唾を吐くように何かを口から吐き出した。
瞬間、タバサの視界が暗転する。
「肉は食らった、残ったのはそれだけだ」
声と同時に、タバサの視界に光が戻る。
そこには自分を見下ろしている父の姿があった。

簡単な話だ、自分はすでに死んでいて、魔物の腹の中に頭だけ残っていたのだ。
声が届かないのも当然の話である。
首だけの彼女はそれでも、聞こえるはずのない声で叫び続ける。

ぐしゃり、という音と共にタバサの視界は再び闇に包まれた。

4Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:16:15 ID:???0
「うあああっ!!」
タバサの視界に再び光が灯る。
額からは汗がだくだくと流れ、手は小刻みに震えている。
「大丈夫か? ひどくうなされていたが……」
「えっ? えっえっ?」
耳に入ったのは先ほどまで居た人物の中の誰でもない別人の声。
目の前にいた声の正体を確認したと同時に、自分の首から下があることを確認する。
「……夢?」
「そのようだな。ゲロゲロが思わず足を止めてしまうほど叫んでいたぞ」
よく見れば話しかけているのは先ほどゲロゲロに襲いかかった男だった。
そして、周りを見れば奇抜な格好に身を包んだゲロゲロが心配そうな目で自分を見つめている。
「へ? あれ? ふえっ?」
先ほどの惨劇が夢であったと思ったら、今度は現状が理解できずに混乱してしまう。
自分がゲロゲロとエルギオスの戦いを止めるために飛び出し、ゲロゲロにその体を抱え込まれた所までは覚えている。
気を失って、嫌な夢から目が覚めたら妙な格好のゲロゲロが引く妙な乗り物に乗っていて、隣には襲いかかってきた男がいる。
「まあ、落ち着け。端折って話せば今の私はゲロゲロを襲うつもりはない」
頭に無数のクエスチョンマークを浮かべ続けるタバサに対し、エルギオスは初めから丁寧に話し始めた。

エルギオスは先ほどの戦いの後、ひとまずゲロゲロとしての記憶喪失を受け入れた。
しかしこれから先には、自分のようにムドーの姿を見るだけで襲いかかってしまう人間がいる可能性が高い。
ぱっと見は少女と男を引き連れている魔物だ、ムドーの事を知らない人間でも先入観で襲いかかってしまう可能性はある。
ましてや始まりの地でデスタムーアと問答していた人物やその仲間はムドーを知っていると推測できる。
ムドーという存在を知っている人間が、現状に対して記憶喪失という単語だけで簡単に引き下がるとは思えない。
これから起こる可能性のある無駄な戦いがもし起これば、ムドーは勿論自分やタバサの身にも危険が及ぶ可能性がある。
初見の人間は勿論のこと、ムドーを知る人間に対して彼が無害であることをアピールできるかが最大の課題であった。

5Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:17:16 ID:???0
「あははははは! それでそんな恰好してるんだ! でもゲロちゃん、すっごくかわいいよ!
 そうだ、私もそういう帽子持ってたからゲロちゃんにあげるね!」
「む、むぅ」
タバサが目覚めるまでの間に起こった事をエルギオスが説明した後、思い切り大きな声でタバサは笑っていた。
見えていた課題に対してエルギオスが取ったひとまずの手段。
それはムドーの見た目を可能な限りコミカルにする事だった。
この魔王を知る知らない問わずに笑いがこぼれてしまうくらい、おかしな恰好をさせる。
数分の説得の末、自分の持っていたスライムの服をムドーに着せることに成功した。
魔王というにはマヌケな服装なのだが、それに加えてタバサがスライムヘッドを装着させたため、より一層おかしな格好となった。
これで知らない人間はもちろん、知っている人間も彼が無害であるという事を信じやすいはずだ。
加えて自分に支給されていた乗り物を彼に引かせることで、安心感を盤石な物へと変えてゆく。
なによりムドーの事を見て笑い転げているタバサや、それを微笑みながら見つめているムドーの姿。
これを見てもなおムドーが危険な存在だと認識する人間は、この場には少ないはずだ。
「……ぷっくくく、ごめん! 我慢できない! ゲロちゃんの格好面白すぎるよ!
 早くお父さんやお母さん、お兄ちゃんにも見せてあげたいなぁ」
楽しい笑い声を響かせながら、スライムの服を身に纏ったムドーが引く人力車はゆっくりと進む。

ゲロゲロとエルギオスは知らない。
タバサが何気なく呟いた「家族に会いたい」という言葉に隠された意味を。
生々しすぎる夢の中で起きた惨劇、そしてそれは今現実に起こりうる話でもあった。
もし、ゲロゲロが記憶を取り戻したら?
夢の中の自分のように、ゲロゲロは自分に牙を向いてくるのだろうか?
そして自分を殺し、他の人をも殺して回るのだろうか?
それを考えないように、彼女は思い切り笑い飛ばす。
今のゲロゲロは心優しい魔物なのだから、そんなことはないと自分に言い聞かせながら笑い続けた。

夢が夢であることを、タバサは小さく祈り続ける。

6Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:18:10 ID:???0
【G-4/南部平原/午前】
【ゲロゲロ(ムドー)@DQ6】
[状態]:後頭部に裂傷あり(すでに塞がっている) 記憶喪失
[装備]:デーモンスピア@DQ6、スライムの服@DQ9、スライムヘッド@DQ9
[道具]:支給品一式、超万能薬@DQ8、トルナードの盾@DQ7、賢者の秘伝書@DQ9、人力車@現実
[思考]:タバサ・エルギオスと共に行く
[備考]:主催者がムドーをどう扱うかは未知数です。主催からアイテムに優遇措置を受けています。

【エルギオス@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:光の剣@DQ2
[道具]:支給品一式
[思考]:タバサ・ムドーと共に行く、贖罪として人間を守る
[備考]:シナリオED後の天使状態で参加しているので、堕天使形態にはなれません

【タバサ@DQ5王女】
[状態]:健康
[装備]:山彦の帽子@DQ5 復活の玉@DQ5PS2
[道具]:支給品一式
[思考]:リュカを探す、ゲロゲロ・エルギオスと共に行く

7Heart to Hearts ◆CruTUZYrlM:2012/05/09(水) 22:19:20 ID:???0
投下終了です。

8現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:07:08 ID:???0
吹く風に煽られ、さらさらと砕けた煉瓦が宙を舞う。
煉瓦の正体は、入り口に倒れ込んでいる巨人の頭部であった物。
「ゴレムス……?」
ぼそりと共に旅をしていた煉瓦の巨人の名を呟く。
魔物使いの夫ならともかく、残った体の姿形だけでは共に冒険した仲間なのかどうなのか判断することはできない。
しかし視界に入った忌々しい首輪から、この巨人が殺し合いの参加者だということだけは分かる。
そそくさと巨人の腰のあたりに向かい、携えていた袋を手に取ろうとしたときだった。
「姉、さん?」
見間違えるはずもない。
美しく纏め上げられていたはずの黒髪。
血に染まりながらも白く輝いているかように光る衣服。
赤く広がる血溜まりの中で、姉であった物の残骸が散乱していた。
あまりの惨状に声も出せず、その場に立ち尽くしながら吐き続けることしか出来なかった。
幼き頃から共に暮らしてきたかけがえのない家族。
その命が奪われていることを知ってしまった。
現状から嫌な思考へと連鎖し、純粋に胃液だけをただひたすらに吐き続けた。

少ししてからフローラは正気を取り戻した。
そこで先ほどのバラモスの言葉の意味を理解し、大きく歯軋りをする。
だが、悲しみに打ちひしがれ立ち止まっている場合ではない。
やるべき事がある、何もかもが手遅れになる前にそれを成さねばならない。
「姉さん……さようなら」
小さく別れを告げ、姉であった残骸の傍に落ちていた武具とふくろを回収し、前を向く。
そして一抹の不安を抱えながらも力強く足を進めて行った。

9現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:08:01 ID:???0

「給仕探偵ジェイドッ! ここに見ッ参ッ! さあ呪文怪盗アンバー、今日という今日こそはお前を犯人だ!」
突然始まった寸劇を、口をあんぐりと開けてハーゴンは見つめている。
「メイド服といえばこれしかないよな!
 ……ってあれ? ハーちゃんひょっとして給仕探偵ジェイド知らないのか?
 有名な本だと思ってたんだけどな」
「……お前が読書を嗜んでいたことが驚きだ」
「なんだとぅ? まっ、あたしも近所のおばさんに読んで貰ってただけだけどな……」
先ほどまで元気だったソフィアの声色が突然弱くなり、瞳には悲しみが宿っている。
異変に気がつき声をかけようとしたハーゴンを遮るように、ソフィアの口が開く。
「なっつかしいなあ、昔シンシアと毎日これの真似して遊んでたな。
 たまにはあたしにもジェイドやらせなさいよとか言われて、怒られたっけな」
取り繕うように笑いながら呟くも、その瞳は悲しみに包まれたままである。
出会ってから初めて見せる表情に、ハーゴンも驚きを隠せなかった。
「シンシアというのは、友の名か」
「ああ、あたしの最ッ高の親友だ」
ハーゴンの問いかけに対して、ソフィアは振り向かずに答える。
「そして、あたしが守れなかった大切な人だ」
次に続いた言葉には、後悔や怒りがはっきりと込められていた。
その一言を皮きりに、彼女は止まることなく話し始めた。
「あたしが弱かっただけなんだ。あたしにみんなを守れる力が無かっただけ。
 そんな弱いあたしがさ、世界を救う天空の勇者とかいう大層な人間らしくてさ。
 今まで普通に接してくれた近所の人とか、みんな血眼になってあたしを守ろうと魔族と戦ってたんだよ。
 魔族もあたしの命を狙ってるし、みんなはあたしを守ろうと必死になってる。
 天空の勇者を殺す、守るの両極端に立ってね」
歩きながら口を開き続けるソフィアの後ろを、ハーゴンは黙ってついていく。

10現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:08:58 ID:???0
「優しくて仲のよかったみんなが死を代償にするほど躍起になって守ろうとした力。
 みんなを狂わせて、みんなを殺したのは天空の勇者っていう力。
 最初は凄く恨んだよ。あたしがそんな力を持って生まれたことをね。
 そこから、あたしは真実を知りたくて力をつけながら冒険し始めた。
 天空の勇者が何者なのか、何故狙われていたのか、みんなが命を賭して救うべき存在だったのか。
 魔族が私を襲う理由や、みんなが命を賭して救おうとした理由や、いろんなことの真実が冒険していくうちに分かった。
 それができたのはあたししかいないってことも十分に分かった。
 納得もしたし、後悔もしてない。
 ただ……」
そこで、ぴたりとソフィアの足が止まる。
合わせるようにハーゴンもその場に立ち止まる。
「ただ、あたしじゃなきゃ良かったのになってのは何回も考えた。
 ま、それはあたしにゃどうしようもない事けどな」
今までより一層低い声でソフィアが呟いたあと、くるりと振向いてハーゴンへと頭を下げた。
「悪いな、ひとりでベラベラ喋っちまって」
バツが悪そうに頭をかくソフィアに対し、ハーゴンは小さく笑いながら答えた。
「人間からそんな話を聞いたのは初めてだ、面白かったぞ。
 どの世界でも勇者というのはただ持ち上げられ、言われるがままに世界を救おうと動いているもの。
 そう思っていたが……まさか勇者本人からそんなことを聞くとはな。
 ひょっとすれば、ロトの血族もそうだったのかもしれんな……」
宿敵であるロトの血族のことがハーゴンの頭に浮かぶ。
彼らも、ソフィアのように何かしら苦悩しながら冒険していたのだろうか?

足を進める先に一人の女性が現れたのは、そんなことを考えようと思ったときだった。

11現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:09:42 ID:???0

息を荒げながら走ってきた女性、フローラを落ち着けた後に、二人は事の顛末を聞いた。
南の町でまるで女神のような一人の王女に会ったこと。
間もなく魔王の襲撃を受け、魔王がローラ姫の愛という感情を試すために人質として監禁していること。
そして、ローラ姫は自分を逃がすために自ら人質となったこと。
自己紹介もそこそこに、フローラは起きた事実の一部を語り続けた。
「こうしちゃいられねえ、さっさとアレフってのを探しに行こうぜ」
フローラが口を閉ざした瞬間、連動するようにソフィアの口が開いた。
困惑するフローラをよそに、ソフィアは一人しゃべり続ける。
「ローラは証明したかったんだよ。だから、自分が自ら人質になることを選んだ。
 アレフってのにこの上ない信頼を抱いてるから、命を賭ける事も怖くなかった。
 愛も何もかも、証明できるって自信とそれを裏付ける理由があったんだ。
 それを思いから確信に変えるため、気持ちが本当であることを確かめるために勇者を探す必要がなんだよ。
 自分ひとりがそれを言ってても、証明と確信にはなんねーからな」
聞いた話から自らが考え、思うことを口に出す。
自分の実体験から来た経験、人の思い、行動理由。
それらとローラ姫という一人の人物を結びつけ、狙いを探り出していく。
「ただ人質となる以上、どっかの世話焼きに救われちまうかもしれない。
 命が助かっても魔王に自分の誇りを証明できなきゃ、それはローラにとっての敗北だ。
 だから、それを防ぐために一刻も早くアレフを探さなきゃいけねえ。
 命を賭してまで成し遂げたいことなんだ、へたすりゃ死んじまうかもしれねえ」
人の気持ちを察して自分の気持ちと照らし合わせ、一つの答えを導き出す力。
それはいつかの自分に足りなかった力。
ソフィアの話を聞いているうちに、気がつけば俯いてしまっていた。
そのフローラの様子を知ってか知らずか、ソフィアは話を続ける。
「だから早く探しに行こう、魔王にわからせてやろうぜ。
 きっと、勇者様と勇敢な姫様が全部やってくれっから。
 な、いいだろハーちゃん」
そこでソフィアは後ろで腕を組んで黙ったままだった男に問う。
男はソフィアを見つめたまま、ニヤリと笑ってから答えた。
「……まあ、脱出の鍵を探すのにこの場にある様々な知識も借りようと思っていた所だ。
 事のついでに探す人間が増えただけのこと、大した差ではない。
 だが、魔王討伐に荷担することだけはできん。
 消費する必要のない体力や魔力を削って、いざという時に支障がでると困るのでな」
「そりゃ大丈夫だ、魔王は勇者に任せりゃいい。
 第一ローラの証明を成立させるには、あたしたちは手出ししちゃいけねーからな。
 あくまであたしらは、アレフってのを見つけたら事情を伝えるだけだ」
瞬時に相手の考えを理解し、それに対してしっかりと正しい答えを作る。
答えと共に現れた質問にもしっかりと対応できる力。
人の心を理解するとはこういう事なのだろうか?
ソフィアの答えを聞き、ゆっくりと頷き了承の意を示したハーゴンを見てフローラはそう思った。

12現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:10:09 ID:???0

もし、かつて自分に人の気持ちを考えるソフィアのような力が備わっていれば。
もっと夫婦として話し合う力があれば。
あの人の心やその中の苦しみをもっと理解する事が出来たのではないか?
と、かつての自分の無力さと、今の自分があまり変わっていない事を噛み締める。
今の自分が夫に出会うことが出来たとしても、また気持ちの入れ違いから夫を苦しめるだけなのではないか?
小さな不安が山となって彼女の心に積もって行く。

「さ、行こうぜ!」
そんな考えすら見透かしているかのように、ソフィアは笑顔でフローラに手を伸ばす。
その笑顔はローラとどこか似ているようで、違う輝きを持っていた。
遅すぎることはない、と彼女を見てフローラは再び思う。
力がないなら身につければいい、理解できなくとも理解しようとする姿勢を見せればいい。
人の気持ちを考えると言うことを、ソフィアの言動から学べる。
アレフを探すという短い間でも、今の自分から変わることは出来る。
そう心に決め、フローラはソフィアに匹敵するくらいの笑顔を作り、差し伸べられた手を取った。
変化への大きな一歩を、彼女はゆっくりと踏み出した。

13現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:10:29 ID:???0

面白い。
ソフィアの話や現れた女性とのやりとりから、ハーゴンは正直にそう感じた。
長らく人と接することが無かった為に忘れていたこと、人間も何の考えも無く動いているわけではないと言うこと。
人間が行動する上で、何かしらの理由は必ずついて来る。
だが、そうなるに至った気持ちや感情は本人にしか知り得ないこと。
一時的とはいえ、人間と協力することでそういった内面を知ることが出来た。
勿論、人間に対する憎しみを忘れた訳ではない。
ただ、自分の世界の人間の多くがソフィアのように固い意志を持った人間だったならば。
口を開けば「勇者ロト」と、嘗ての英雄にすがりついて考えることを放棄した連中に考える力があったなら。
自分を含め、世界は変わっていたのかもしれない。
「まあ、今更どうしようもないがな……」
聞こえないようにハーゴンは一人呟く。
そう、自分の住む世界は既に手遅れ。
人々はロトを崇拝し、その血族にすがりついている。
信者たる彼らから受けた仕打ちを忘れることは出来ない。
復讐と再生の為に、破壊が必要。
腐った世界を元に戻すために、一刻も早く戻らなければいけない。
そのため自分の力を貸すことも、他者や宿敵の力も借りる覚悟は出来た。
目的を果たすために、ハーゴンもまた一歩を踏み出していった。

14現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:10:52 ID:???0

誰かが命を賭ける理由。
それはソフィアが真実を追い求める中で最も知ることが多かった理由。
何を感じ、何を思い、何をするために動くのか。
そして何か守りたい、残したいと思ったときに。
人は、命を賭けるのだ。
かつて守られる側に立たされ、ある意味では多数の命を賭けて守られた。
その後守る側に立った事もあるし、守る側に立っている者も知っている。
だから、フローラの話の中の人物の考えはすぐにわかった。
命を賭してまで動く人の願い。
ただ、それを叶えたい。
その気持ちを胸に、ソフィアは協力することにした。
その気持ちと覚悟に答えられる、たった一人の勇者を探すことに。
彼女もまた、新たな気持ちと共に一歩を踏み出した。

人の思いを気づけなかった者。
人の思いを忘れていた者。
人の思いを見続けた者。

それぞれもまた、思いを抱えている。
交錯していく思いと感情。
その先で彼らがどう変わっていくのか?

まだ、彼らすらも知らない。

15現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:12:01 ID:???0
【F-3/中央部/午前】
【ソフィア(女勇者)@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:斬魔刀@DQ8、メイド服@DQ9、ニーソックス@DQ9
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:主催の真意を探るために主催をぶっ飛ばす。
     アレフを探し、ローラの証明を手伝う。
[備考]:六章クリア、真ED後。

【ハーゴン@DQ2】
[状態]:健康
[装備]:オリハルこん@DQ9 
[道具]:不明支給品(0〜2)、基本支給品
[思考]:シドー復活の儀の為に一刻も早く「脱出」する。
     脱出の力となる人間との協力。
     ロトの血筋とは脱出の為なら協力する……?
[備考]:本編死亡前。具体的な時期はお任せします。ローレシア王子たちの存在は認識中?

【フローラ@DQ5】
[状態]:全身に打ち身(小)
[装備]:メガザルの腕輪
[道具]:支給品一式*3、ようせいの杖@DQ9、白のブーケ@DQ9、魔神のかなづち@DQ5、王者のマント@DQ5
     不明支給品(フローラ:確認済み1、デボラ:武器ではない物1、ゴーレム:3)
[思考]:リュカと家族を守る。
     ローラを助け、思いに答えるためにアレフを探す。

16現ナマの愛情に体を張れ ◆CruTUZYrlM:2012/05/15(火) 01:12:12 ID:???0
投下終了です。

17トライ・ディス・シュート  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:17:32 ID:???0
しゃらん♪
タンバリンをふりならすたび、ふしぎな音色がまたひとつ。
こちらは竜王の曾孫、ただいま傭兵募集中です。
今日も今日とて、魔王をたおす『ゆうしゃ』を求め、温泉のまわりを歩きます。

だがしかし、ひとえに彼が求める『ゆうしゃ』と申しましても、実にさまざまなものがいらっしゃいます。
たとえば彼が親しくしている(と、思っている)ゆうしゃたち、ロトの子孫三人勢。
彼は伝説などという大きな肩書きを背負うわりに、性格は少々ひっこみじあんであったご様子です。
竜王城に残された文献によれば、彼らの先祖である『ロトの勇者』とは、一部では『らんぼうもの』として名を馳せていたようですし、
その数代先の、彼の先祖である竜王を討ち取った勇者アレフもまた、女好きとして知られていたようです。
伝説にのみ名をのこす彼らのすがたに、竜王の曾孫は、とても興味がおありでした。
叶うものなら、会ってみたいとも。

さて、そんな彼が手にしているのは、先ほども申しましたこちら『ふしぎなタンバリン』でございます。
竜王の曾孫が、どの文献にも目にしたことのないような、文字通りふしぎな力を持った魔法の道具。
鳴らすたびに、素敵な音があたりいちめん響きわたり、人もまものも力がわいてくるという代物なのです。
いっぱんてきには「テンションが上がる」などと言われるようです。
彼は、支給されたこの道具の力が、いずれ勇者の手にわたることを信じていました。
そのため、施設の中を闊歩して、タンバリンを持ち歩き回っていたのです。

おや、噂をすれば、誰かが彼のそばに近づいてきた様子。

「これは、温泉ですの?」

ツインテールをゆらし、竜王の曾孫にあらわれたのは、淑女然とした雰囲気を身にまとった、一人の女の子でした。
だがしかし、長年ゆうしゃを求めていた曾孫はすぐにその姿に気付くのです。
文献に見まごうことのない少女の姿。この舞台にいると、頭では知っていたその存在。
ロトの始祖に名をつらねた、究極の女ぶとうか、リンリンであるということに。
彼は自分の存在に気付いた少女に対して、すぐに声をはり上げました。

「不思議なめぐり合わせもあるものだ。お前のようなものを待ち望んでいた」
「あなたは」
「竜王の曾孫、と呼ばれておる。勇者の子孫とは馴染み深いものよ」
「勇者の……?」
「とおい昔、勇者アレルとともに魔王ゾーマを見事打ち破り、アレフガルドに伝説を残した女ぶとうか、リンリンよ。わしはお前と会ってみたかった」
親しげな声をかけられて、少女は不思議そうな表情で首をかしげます。
「これも、夢なのでしょうか? 私たちのことを知っているなんて……それも、はるか未来の」
「夢? 勇者の一行ともあろうものが、可笑しなことを口にする。その強大な力を持って、魔王を倒そうと考えているのだろう? 伝説であったのと同じようにな」
「魔王? 伝説? ……」
考え込むような表情の少女に、竜王の曾孫は両手をひろげて、声たかだかと言いました。
「お前たちのような者にこそ、託したかった。このタンバリンは強大な力を秘めている。
 この力でいっこくも早くデスタムーアを倒してほしい。及ばずながら、力となろう」
夢にまで見た、こんなふうに勇者に依頼するあのシーンに出会えたように、少々こころおどる気持ちで。

18トライ・ディス・シュート  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:19:33 ID:???0
「お断りしますわ」

そんなわけで、まさか断られるだなんて、彼は夢にも思わなかったのです。

気付けば、彼の見たものはくるくると空をまわっていて、何が起きたのかよくわからないほどでした。

「魔王を倒す? どうして? そうなれば、この夢も消えてしまうかもしれないのに。
 そう……しいて言うなら、魔王は最後。きっと、他にも素晴らしい闘いをわたしにくれる方がいるはずです。
 例えば」

彼が叩きつけられた地面は、たった今の衝撃のせいか、地面に大穴があいています。
ゴーレムのような表情で、リンリンは冷たく言い放ちました。

「あなたとか」

その先はおそらく文献にも記されていないことでした。
目の前の少女を含め、彼がどうして勇者と呼ばれていたのかを。
それはひとえに、彼らが「たたかうこと」ただそれだけを望んでいたのに、他ならなかったから。
彼が思っていたゆうしゃとは、少しだけ違っていたのです。

「まったく、私の夢でしょうに、どうしてそんなことを言うのかしら。
 そんな、今更すぎることを……」

彼の手をはなれた、あのふしぎなタンバリンもまた、彼といっしょに地面に転がっていました。



「それにしても、ここって本当に温泉なのね……」
先の少女から身を隠れる場所を探すようにして、自然と訪れた施設を見渡しながら、マリベルはやや呆然としてつぶやいた。
同じように、こちらは見覚えのある風景を眺めつつ、テリーはともに行く少女の背に声をかける。
「普通の温泉じゃないけどな。うかつに触るなよ」
「入らないわよ。どう見たって混浴だし」
「そういうことじゃない、慎重に行けと言ってるんだ。中にいい隠れ場所がある」
「どういうこと?」
「行ってみればわかる」
そう言って、彼は広々とした浴場に目を向けた。
はたからはどう見てもただの温泉でしかなかったが、よく調べれば中に洞窟があって、かつてはそこから元の世界に脱出したことを、訪れたテリーは知っている。
相手が同じである上に今回は状況が違うため、同じ脱出口を使えるとは思っていなかったが、なんらかの手がかりは得られるかもしれない。
だが先を行こうとする彼に対して、説明の無いマリベルは、少々憮然とした表情になった。
また騒がれるのも面倒かと、テリーは付け足す。
「姉さんたちと行ったとき、この先に洞窟があったんだ」
「ああ、そういうこと」
そういえば相手はこの世界にいたことがあるのかと、マリベルもやや合点がいった。
それにしても。口数が少ないわけではないが、多くを語らない目の前の相手を、マリベルは振り返る。
「テリーって、お姉さんがいるのね」
「……どうだっていいだろ」
「別に。ちょっと意外なだけ」

19トライ・ディス・シュート  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:20:27 ID:???0
やや表情のにぶる青年に気付かず、マリベルはぽつりとこぼした。
「あたしもアルスに会いたいもん」
少女が普段言うのからすると、あまりに素直な一言に、テリーは思わずマリベルの方を見る。
少しはっとして、マリベルは我に返った。
「べ、別にそういう意味じゃないわよ。ただの幼馴染っていうか、こういうのも口癖で、こんな状況だし……」
「なにも言っていない」
冷静な態度をくずさないまま、温泉を検分しているテリーに、同じように座り込みながらマリベルは話しかける。
「どうしていちいちつれないのよ。テリーだってお姉さんに会いたいでしょう?」
「……俺は」
言われて、テリーの態度が瞬間とぎれた。
「俺自身はどうにかなるんだ。あの人は心配しすぎるから……」
「は? なに言ってるのあんた」
「早く行くぞ」
めずらしく明瞭にしないテリーの言葉に、マリベルは首をかしげながらも、結局それ以上の詮索は断言する。
彼の言葉から察するに、温泉に位置された岩場の裏に、おそらくその洞窟があるのだろう。
それにはどうしてもこの温泉に浸からなければならない。テリーが先言っていたことが思い返す。
一見ただの温泉だが、なにか危険があるのだろうか。
そうたずねようとした矢先だった。

響き渡ったのは、爆発音にも似た音だった。
衝撃が余波となって、二人が立っていた脱衣所にまでびりびりと空気を震わせていた。

「何? まさか、さっきのがもう」
「急いだ方がいいらしいな」
言うなり、テリーはマリベルを抱え上げて、そのまま温泉に飛び込んだ。
「きゃあ、ちょっと! いきなり何するのよっ」
「うるさい、いいから行くぞ!」
暴れるマリベルを無理やり連れながら、テリーは混浴の中へとそのまま足を進めていく。
「もう、なんでそうなるのよ! この自己完結男ーっ!」
なかば悲鳴を上げながら、マリベルは必死でテリーの肩にしがみついた。
マリベルはあずかり知らぬことだがこの温泉には特殊な成分があって、つかれば普通の人間は無気力になってしまう。
そのためテリーは自分の消耗もおしてマリベルを湯につからせぬよう抱えているのだが、彼女に言わせればそれも『自己完結』らしい。

(……会いたい、か)
さきの戦闘の疲労に加えてこの温泉で、身体は少しずつ重くなっていく。
流されないようふんばりながら足を進める中で、テリーの頭に浮かぶのはこの世界にいるであろう唯一の家族のことだ。
さきのマリベルのように、会いたいなどと口にする気にはあまりなれない。
むしろ彼女が自分を気にかけるあまり、この世界でよからぬことを考えてはしないか少し心配でもあった。
姉の強さはよくわかっているが、そういう意味で、できるだけ早く合流したいとも思う。

(俺ももう少し、伝える努力をするべきだろうか。姉さん)

なおもわめきつづけるマリベルをはじめ、他の人間がどうなろうと知ったことではなかったが、
姉ミレーユのことだけは、テリーはいくらでも頭を悩ませられた。
それでも、改めるだなんて今更すぎるように思え、踏み出すことができないでいる。

20トライ・ディス・シュート状態表  ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:21:43 ID:???0
【F-1/ヘルハーブ温泉外周/午前】

【リンリン@DQ3女武闘家】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 腹部に打撲(中)軽度の火傷
[装備]:星降る腕輪@DQ3
[道具]:場所替えの杖[8] 引き寄せの杖[9] 飛び付きの杖[9]
    支給品一式×2 (不明支給品0〜1個)
[思考]:竜王の曾孫の慟哭をつく
[備考]:性格はおじょうさま、現状を夢だと思っています。

【竜王の曾孫@DQ2】
[状態]:HP4/5 
[装備]:なし
[道具]:銀の竪琴、笛(効果不明)、基本支給品一式
[思考]:誰かにデスタムーアを倒させる リンリンの攻撃に混乱?

※ヘルハーブ温泉外周に、ふしぎなタンバリンが落ちています。

【F-1/ヘルハーブ温泉浴場/午前】

【テリー@DQ6】
[状態]:HP消費 ダメージ(中) 背中に打撲(中) MP消費少 温泉の成分で徐々に体力減少中
[装備]:ホワイトシールド@DQ8
[道具]:支給品一式(不明支給品0〜1)(武器ではない) 盗んだ不明支給品1つ
[思考]:ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。誰でもいいから合流する。剣が欲しい。
[備考]:職業ははぐれメタル(マスター)
    (経験職:バトルマスター・魔法戦士・商人・盗賊 追加)

【マリベル@DQ7】
[状態]:健康 MP微消費 テリーに抱えられている
[装備]:マジカルメイス@DQ8 
[道具]:支給品一式 (不明支給品0〜2)
[思考]:キーファに会って文句を言う。ホンダラは割とどうでもいい。 ヘルハーブ温泉内部の洞窟に避難&探索。

21 ◆acx9ZJs02Q:2012/05/25(金) 20:22:44 ID:???0
投下終了です。
本スレにどなたか代理投下していただけるとありがたいです。

22君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 22:57:47 ID:???0
生きることはつまらない。
彼女が常々口にしていた台詞だ。
食事をしようが睡眠をとろうが、生の実感さえ感じることができないと、いつも嘆いていたのを覚えている。
そして戦いに関しては、命をぶつけ合い削り合うその瞬間だけは、生き生きと笑っていたことも。
美麗な容貌でありながら、その生き様はまるで修羅のようだった。
戦い以外なにもいらない、だからこそ彼女の戦いはなによりも強く美しかった。
そんな彼女と背中合わせで戦う相棒であったこと、彼女と対等であったことを何よりも誇りに思っていた。
彼女が戦う己以外何も見ていないとしても構わなかった。共に戦えるならそれでよかった。
だから忘れられない。
勇者アレルがアレフガルドから行方をくらましたとき、彼女が震える声で呟いたことを。

「アレルは私を裏切った」

彼女が他人に執着するようなことを言うのを、そのとき初めて聞いた。
そして彼女がアレルと戦うことを渇望していたと知った。
だが、彼にはわからなかった。どうして彼女の望む相手が、アレルでなければならなかったのか。
慰めるような言葉が口をついて出たのも、その動揺のせいだったかもしれない。

「俺がいる。俺がお前と戦おう。何度でも、お前の気が済むまで……」

修羅の女は最強を自負する魔法使いに無機質なまなざしを向けた。
その言葉を検分でもするかのように、しばらくじっと見つめていた。だが、やがてゆるゆると首を振った。

「お前は弱い」

立ち尽くした魔法使いを、もう視界に入れることさえなく。
女は光を取り戻したアレフガルドの空を、空虚な面持ちで眺める。

「お前などでは、この渇きは満たされぬ……」

久方ぶりに訪れた、自分たちが戦いを求めた果てに手に入れたあの世界の太陽は、二人の全てを奪ったのだと思った。

23君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 22:59:32 ID:???0
「――これがさっき言ってたアルス。で、マリベル、キーファ、アイラと、ついでにホンダラのおっちゃんな」
「ほう、こいつもお前さんのお仲間かい?」
「ホンダラのおっちゃんはアルスのおじさんだぞ! 面白いもんいっぱい持ってるんだ」
森の中で、魔法使いはガボと情報を交換していた。
いずれ来る『間引き』のときに備えて、今知れる参加者のことだけでも把握したい。
今後どこに行くかについては、ハッサンの死骸がある南を避けて北方の牢獄の町へと向かうのが妥当と考えるが、
如何せん目的地にするにはやや遠い。
いくら鍛えているとはいえ、魔法使いの体力と寄る年波ではそう簡単にたどり着ける距離ではなかった。

「なあおっちゃん、オイラやっぱり腹減ったよ。おっちゃんもお腹空かないか?」
だからガボが、切なそうに腹をさすりながら彼を見上げてきたときに、ここで一度休息を取っても良いかと彼は考える。
しかし次に続く少年の言葉は、老魔法使いの予測とは少しだけ違っていた。
「せっかく森にいるのに、ふくろに入ったやつを食うのはもったいねえな。オイラが食べものを探してきてやるよ」
「お前さんが? そんなちっちゃいのに、森だの山だので食材を採ったことがあるってのかい」
「おう! オイラにはすみかみたいなもんさ」
その言葉の真意は不明だが、ガボの表情は自信と期待に満ち溢れて、まるで犬がそうするかのように彼の許しを待っていた。
老魔法使いの役に立ちたいという思いが、その言動から感じられる。
悪い話ではないが、一人行動では万一のこともあろう。この辺りに他の参加者が潜んでないとも限らない。
そして何より、森の中には先の戦いの痕が残されている。
見られれば人死にがあったと気付かれるだろう。そうなれば後々面倒なことになるのは予測がつく。
そんな少しの思慮の末、結局、男魔法使いはガボの提案を承諾することにした。
「わかった。わしはここで待っていよう。すぐに戻ってくるんじゃぞ、何が起きるかわからんからな」
「誰がいるかわかんないもんな! 気をつけてくるよ」
「ああ。なるべく山沿いのほうを探すといい。人も少ないだろうし、湧き水があるかもしれない」
「山沿いな。わかったぞ」
そう言うとガボは、遠い咆哮をあげながら、まるで獣のように森の中を疾走した。
リンリンなどとはまた別の意味で人間離れしたその動きに、前世は狼かなにかだろうかと呆れた眼差しを送る。
なんにせよ、この手駒が自分に向ける信頼は相当なものだ。途中襲われでもしない限りは戻ってくるだろう。
山沿いに進めばハッサンの死体を見つけてしまうこともない。
こんな枯れた森でまともな食料が手に入るかは怪しいところだが、確かに少年の言うとおり、調達できたら儲けものだ。
ガボという手駒に信頼という餌を与えながら、生き延びなければならないのだ。全てはあの女と、カーラと再戦するために。

あの時、カーラは老魔法使いを、躊躇い無く『弱い』と言い放った。
最強を自負する彼を、彼女と対等に戦えると思っていた、そのことを誇りにさえしていた彼を、カーラは見向きもせずに去って行った。
忌まわしい記憶だ。
彼女の言葉を理解なんてできなかった。この強さが認められないなどと、そんなことはあってはならない。
「……お前はなにもわかってないぜ。カーラ」
森の中で、生気の無い木々を聞き役にして、老魔法使いは独りごちる。

24君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:01:24 ID:???0
ガボは嬉しかった。
身動き取れなくてお腹も空いて、助けを呼んでも誰も来なくて、寂しさや不安に駆られたとき、
差し伸べられる手がどんなにありがたくてたまらないかを、ガボはよく知っていた。
遠い昔にも似たようなことがあった。ガボがこの姿になった切欠の事件、かつて白狼としてオルフィーの町を守っていたとき、
魔物の呪いによって姿を変えられたガボは、身動きも取れず助けも呼べず困窮していた。
あのとき手を差し伸べてくれ、白狼の誇りを取り戻してくれたアルスたちへの感謝を、ガボは今でも忘れていない。
かのデスタムーアとかいう奴が何を言っているのかガボにはよくわからなかったが、理不尽だということだけはわかるこの世界で、
かつての状況とは違っても同じように手を差し伸べてくれた老魔法使いを、ガボは守りたいと思った。
――というわけで手始めに彼のために食材を探そうと森を疾走しているのだが、目的のものはなかなか見つかりそうにない。

「山や森が死んじゃってるみてえだなぁ……」
獣どころか鳥やネズミさえ見当たらない景色に、ガボは深く落胆する。
かろうじて、虫のようなよくわからない生物が時折草むらでうごめいているが、当然老魔法使いへの土産にはできない。
他にも狼の一匹でもいたら仲間に加えたかったが、今朝助けを呼ぼうと遠吠えをしてみたときに誰も来てくれなかった時点で、
望みはかなり薄かった。
「なんかいやな世界だよなぁ。封印ともちがう。どこ行ってもいやな匂いしかしねぇや」
誰もいないのをいいことにぼやきながら、とぼとぼと老魔法使いの言うように山の際を歩いていると、
がさがさと森の方でなにものかが歩いている音が聞こえてきてはっとする。
すぐさま野生の勘を頼りに耳を済ませる。どうやら目的だった獣の類ではない、恐らく人間のものだった。
相手の足音もやがて止まる。すぐに戻ってくる、という老魔法使いとの約束が一瞬ガボの頭をかすめたが、
もしかしたらアルスたちのうちの誰かじゃないかという望みに、ガボは呼びかけを放った。
「誰かそこにいるのか?」
様子をうかがうかのように息を潜めていた相手が、やがて森の影から姿をあらわす。
背中まで伸ばした流れるような銀髪に、漆黒の衣装。どことなく禍々しさを漂わせる長身の男に、ガボの目付きが自然と厳しくなる。

銀髪の男――ピサロが、結局一人で北へ行く旨を告げたとき、ミーティアから激しい抗議を喰らう羽目になった。
北に行っては先のような戦闘があるかもしれない、せっかく仲間になれたというのに、あえて一人で危険を冒そうとはどういう了見か――
ヤンガスも、ピサロの戦闘力をあまり知らぬゆえか、やや渋い顔だった。
どうせ絶望の町に行くのは後でもいいし、ひとまず3人一緒に行ってはどうかと提案してきたが、ピサロは結局それら全てを断った。
ヤンガスがどれほど戦えるかはわからないが、彼がミーティアを連れて絶望の町へ向かうのと、
すでに戦闘が起きている北の森を三人で探索するのでは、リスクがあまりにも違いすぎる。
ミーティアを、無用な危険に晒したくはない。
そのためピサロは一人行動を取り、ヤンガスやミーティアが見たという戦いの痕を調べることにした。
いまだそこには死骸が残されているはずだ。今後のために、首輪を入手できる機会があるならばできる限り手に入れたかった。
だだるミーティアを言いくるめ、渋るヤンガスに支障ない範囲で説明し、絶望の町へ向かう二人と別れて北方へ足を運ぶ。
しかし目的地へとたどり着くより早く、ピサロは獲物に遭遇することとなる。

25君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:02:54 ID:???0
彼は杖を構えたまま、視界に現れたときから近づくことなく、一定の距離を保っていた。
背丈の低い、一見みすぼらしい姿の少年だったが、ソフィアらもあの子供のような姿で強烈な力を持っていたことを思うと、
油断するわけにはいかない。この森にいる時点で、かの戦闘に関わっている可能性があるのだ。
そうしてしばらく、ピサロは少年の様子を見つめていた。警戒されているのか、少年もまたピサロを睨んでいる。
少しの沈黙のあと、先に声を発したのは相手のほうだった。
「オイラは、ガボだぞ」
突然の自己紹介に、内心やや肩透かしを喰らう。それでピサロもようやく口を開いた。
「……この付近に男の死骸がある。やったのはお前か」
「シガイ!? 誰かもう死んじゃったのか」
驚く少年――ガボに、ピサロはやや考え込むような表情になった。ガボは距離を縮めることはせずに、声を張り上げる。
「オイラ、さっきまで全然動けなかったから周りのことはよくわからねえんだ。
 だからその人のこともよく知らない。おっちゃんだったら知ってるかもだけど」
「おっちゃん?」
「呪いで動けなくなってたオイラを助けてくれたんだ。すっごい魔法が使えるんだぞ」
その言葉に、ピサロははっとした。ガボが言う、恐らく壮年であろう魔法使いの男というのは、
ミーティアが言っていた話にほぼ一致する。炎が男を焼き尽くしたこと、それを成したのが老人だったということ。
ガボが何も知らないのは恐らく本当だろう。そうでなければ、こうぺらぺらと他人のことは話すまい。
そして彼が言う『おっちゃん』とは、――恐らく。
ピサロの決断に迷いは無かった。
「……ガボと言ったな。私はピサロだ。そちらに攻撃する意志がないなら、こちらも危害を加えるつもりはない。
 この件に関して情報がほしい。その男のところへ案内してはもらえぬか」
「ピサロか。なんかかっけえ名前だな」
どうでもいい返答に、一瞬ひざから崩れ落ちそうになる。
だが、ガボはすぐに、力強い眼差しで頷いた。
「わかったぞ。最初に見たときはちっと魔物の匂いがするからケイカイしたけど、
 ピサロは見た目ほど恐そうじゃないし。おっちゃんのとこに連れてってやるぞ」
「……そうか。では、頼む」
「おう、任せろ! ところでピサロ、なんか食べ物持ってないか?」
「……」
いまいち緊張感の無い案内役に、ピサロはなぜか、無性にかつての連れを思い出す羽目になった。

26君がそう言ったから  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:04:11 ID:???0



「――やっぱり、納得できませんわ」
平原を踏みしめる中、お供に山賊を連れた姫君は、そう零した。
隣を歩くお供、ヤンガスは困り顔になり、ぽりぽりと頬をかく。ミーティア姫が、ピサロの選んだ行動に納得できぬまま
別離となったことはわかっていた。だがピサロに彼女を任された身としてはどうしようもない。
「こうしてる今も、ピサロさんは一人で、危険な目に遭っているのかもしれないのに……」
「だからって、姫さんを一人にすることはできないでがすよ」
「でも、ミーティアは見たんです、男の人が大きな炎に包まれるのを! もしもピサロさんがそんなことになったら」
目に涙さえ浮かべている彼女に、ヤンガスは内心困惑するが、つとめて冷静になだめることにする。
「姫さん。さっきは三人で行くことも提案しましたが、あっしは正直、こうなって良かったと思ってるんです」
「ヤンガスは、ピサロさんを見捨てることが正しいと言うの?」
「もしも姫さんの身になにかあったら、兄貴やトロデのおっさんに申し訳が立たないでがすよ」
誠意に満ちたヤンガスの言葉に、ミーティアは口をつぐむ。
たしかに、ミーティアにとって一番大事なのはエイトと会うことだった。
絶望の町へ行くことに決めたヤンガスの選択は理にかなっているし、それがミーティアのためであることもわかっていた。
だけど――。
「……やっぱりダメです」
「姫さん」
「私が足手まといなばかりに、ピサロさんが危険な目に遭うのだとしたら、そんなのはダメです。
 私だってずっと、エイトやヤンガスたちと旅を続けてきました。自分の身を自分で守るくらいはできます」
「ですが……」
「ヤンガス。ぶしつけなお願いで申し訳ないですが、どうかピサロさんを助けに行ってはくれませんか。
 短い時間だったとはいえ、共に過ごした人を見捨てることなどできません。
 私がいて足手まといなら、私はここでヤンガスの帰りを待ちますわ」
先ほどまでとはちがう、強い決意が見てとれる瞳に、ヤンガスの心が今度こそ揺らいだ。
ミーティアが譲らぬその想いは、彼が兄貴と慕う青年が、かつて見も知らぬヤンガスの命を助けたときを彷彿とさせるのだ。
賊として襲いかかり、無様にも壊れた橋に落とされて谷底に呑み込まれようとした自分を、エイトは命からがら引っ張り上げた。
なぜ助けたのか。そんな恩知らずな質問に、トロデは無礼者と怒ったが、青年は静かに笑ってこう言った。
――君にだって、大切な人がいるだろう?

そんな兄貴だったら、こんなときどうするか。考えずともわかることだ。
あのときと同じことを言って、きっとピサロのことだって、助けに行こうとしただろう。
ミーティアの芯の強さは、同じ仲間としてもよく知っている。実父が危険に晒されたとき、彼女はいつも身体を張って立ち向かっていた。
「……わかりました。ミーティア姫、あっしと一緒に行きやしょう」
「ヤンガス!」
喜色満面のミーティアに、ヤンガスはしっかりと頷いた。
「姫さんのことはあっしが必ずお守りします。ピサロのことも探しに行きやしょう。
 森に用事があるだけと言っていたし、案外すぐ合流して戻ってこれるかもしれないでがすね」
「ありがとう……。ミーティアも、せいいっぱい戦うわ」
そう言って微笑む姫の姿が、あのときのエイトにひどく重なる。
――やはりお似合いだと思うでがす。
心の中で、ヤンガスはそっと呟いた。

27君がそう言ったから 状態表  ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:05:42 ID:???0




【E-4/森林 北部/昼】

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:健康 MP消費(小)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける そのためにガボを利用して生き延びる
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ガボ@DQ7】
[状態]:健康  空腹
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、他不明品0〜2
[思考]:仲間をさがす おっちゃん(男魔法使い)のために戦う
      食料を調達 ピサロをおっちゃんのところに連れて行く

【ピサロ@DQ4】
[状態]:健康
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない。
      ガボに男魔法使いのところへ連れて行ってもらう 戦いのあとを探索する。

【F-4/平原/昼】

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:エイトを探す  ピサロを助けに北の森林へ向かう
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ピサロを助けに北の森林へ向かう。ピサロとの合流を待って絶望の町へ向かう。戦うものは止め、説得する。
     仲間と同調者を探す。デスタムーアを倒す

28 ◆acx9ZJs02Q:2012/06/24(日) 23:11:07 ID:???0
雑談スレにもある通り、死体の描写について
気付く前に予約してしまいましたので、一時投下という形にします。
問題なくなり次第、どなたかに本投下お願いしたいです。

29 ◆acx9ZJs02Q:2012/06/25(月) 07:41:42 ID:???O
解決いたしました。
他に問題がなければ、代理投下お願いしたいです。自分は規制のため書き込みできず…

30 ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:25:02 ID:???0
カーラ、マーニャ投下します。

31ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:26:05 ID:???0
 
「あっちゃー……」
こりゃ完全に進路選択を間違えちゃったわねと、あたしは溜息をつく以外できなかった。
どうしてって? そりゃそうよ。
山岳地帯を越えてみるとそこには、火炎呪文で森を焼き払いまくっている異常な女がいたんだから。
 
 
***
 
 
数時間前。
あたしは迷っていた。
 
こういうのって何なのかしらね。
走馬灯の前触れ、みたいな? ……やだやだ、そんな不吉なワードは今は勘弁よ。
何でか無性に子供の頃のことに思いを馳せたくなっちゃったわけ。
あたしってば小さな頃は男の子顔負けにヤンチャだったのよ。
かくれんぼとか追いかけあいっこであたしの右に出る子はまあいなかったわ。
……それがどうかしたのかって? やぁね、話はここからよ。
かくれんぼの鉄則は、狭い場所から捜してエリアを潰していくこと。いわゆる消去法ってやつね。
ほらほら、意外と頭脳派なのよマーニャちゃんって。知ってた?
 
とにもかくにも、一刻も早くミネアを探したいあたしは、進路をどちらにとるべきか迷った。
このまま北に進むか、東へ迂回するか。
あたしは東に進むことにした。
西には協力を申し出てくれたルイーダとオルテガさんが向かっているし、
二人は仲間を募っていると言っていたから、やがて北の方にも協力者が流れていってくれるかもしれない。
なら狭い東の方からあたってみるべきじゃないかって。
淡い期待かもしれないけれど、信じられるものは信じなきゃやってらんないわ。
あと考えたのは、禁止エリアのこと。
時間がくれば否応なしに首輪が爆発して死んじゃうっていう、頭おっかしいルールのことよ。
もしミネアがどこかで身動きが取れなくなってこれに巻き込まれてしまったら……。
そう思ってあたしはね、足場も良くないし、越えた先は鬱蒼としてる森が続いているらしい、
あたし的には相当イケてないことばっかの東へ向かうことに決めたの。
 
で、その結果がコレ。
「ああ、ようやくあらわれてくれたか! 女よ、ここで私と戦ってもらおう!」
……あーあ、これ相当やばい、コイツ絶対やばいわ。だってなんかもう目がイっちゃってるんだもの……。

32ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:26:37 ID:???0
 
 
***
 
 
女が、無残に焼け落ちた木々を背景に近づいてくる。
(あたしやブライみたいな完全な魔法使いタイプ、ってわけでもないみたいね)
魔法を生業としているみたいだけれど、剣を持った姿はすらりとしていて様になっていた。
呪文を唱えながら剣を振るう、どちらかといえば、そう、それこそミネアに近いタイプのように見える。
ソフィアに出逢うまでの旅の道中、妹に前衛を任せて戦っていたことが思い出された。
「我が名はカーラ。お前の名を訊かせてもらおうか?」
……なんだろ。ここで名乗っちゃったら、その時点で負けってな気がするんだけど気のせい?
こんな開けっぴろげに清々しく(?)戦いを提案してくるなんて、かえって気味が悪い。
尋常ならない雰囲気に呑まれてしまいそう。
「お断りするわ」
「ほう?」
「悪いけど、あんたに付き合ってる暇なんて無いの。あたしは人を捜している。絶対会わなくちゃいけない人をね。
 だから、見逃してくれない?」
相手の手の内を見るためには、あえて自分のカードをいくらか見せることも必要。
そう、これはギャンブルの鉄則だ。
「それはできない相談というもの。行きたくば私を倒して行くことだ。戦いこそが我が望みなのだから」
「……だからこの有様ってわけね? 燻り出しってレベルじゃないわよ。それで、もう誰か――殺したの?」
「一人の少年と出逢った。キーファという名の、良き剣士だった」
(ゲスが……!)
この女はもうゲームに乗っている。そして、戦いに飢えた狼に違いなかった。
「ああ、そこらの殺戮者と同じと思ってくれるな。私は元より戦いに身を置きし者。
 己を満たすための舞台としてこのゲームを利用しているに過ぎない」
「そうかしら? あまり違わないように思えるんだけど」
「完全な理解を得ようとは思っていないが。――さて、そろそろ観念してもらおうか?」
さあ、どうしたものか……。
「女、もう一度だけだ。名を訊こう」
「……マーニャよ」
返答を聞き、女が笑んだ。
「改めて名乗ろう。カーラだ」
「そ。よろしくね……」

33ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:27:06 ID:???0
  
嬉々とした様相でカーラが剣を持つ手に力を込める。
こちらもルイーダに持たされた短剣・ソードブレイカーを構えた。
(相手はおそらく魔法と剣術の両方に長けている。こっちも貧弱な武器って訳じゃあないけど……)
少年といえど、すでに剣士を一人殺しているという。そんな相手の剣を自分が捌ききれるか?
答はノーだ。
(存外おしゃべりな女よね、けど嘘やハッタリを仕掛けてる風には見えない)
ならば。
(使えないカードは先に切るべき……!)
握った手をソードブレイカーの重心からずらす。
そして扇を投げつける要領でそのままカーラの足元に投擲した!
「愚かな、自ら武器を捨てるとは」
「そうでもないわよ――ベギラゴン!!」
「!!」
相手を一瞬怯ませられればそれで充分。その間に得意の呪文を唱え、放った。
最高クラスの火炎魔法。四方八方から巻き起こる炎の渦がカーラを飲み込んでいく。
(まだよ。これも二番目の足止めに過ぎない。いっちばんデカイのをお見舞いしてやらなきゃ!)
「唸れ轟音――」
狙うは魔法使いの至高の呪文イオナズン。
どれほどの手練れだろうと生身の人間、まともに食らえば一溜まりも無い、
はず――
「――バギクロス」
「ッ?!」
突如、強風が吹き荒れた。
集った火炎が、かき消されていく!
(最高位の風魔法……! 火炎系呪文だけじゃないっての? この女……!?)
 
「見事。呪文の精製速度、重量ともに申し分ない。だが、いささか事を急いたようだな」
涼しい顔でカーラが風の中心に直立している。
ベギラゴンの火炎も、そこらじゅうにカーラ自身が放っていた火炎の木々の燻ぶりさえも、全て消失した。
(けど、完全な相殺じゃない! ダメージは与えられてる! このまま呪文の連発で押し切れられれば……!)
「――ベホマ」
癒しの波動がカーラを包み込んだ。
「ふむ。やはり回復力は鈍いか……。
 さてもう終わりか? ならば私からいこう。――マヒャド!」
眼前に無数の氷の刃が迫り来る。
(はは、回復呪文に氷結呪文まで使いこなすっていうの? 常識破りもいいトコ、まるでどこぞの魔王様じゃない)
動揺を殺しきれないながらも詠唱を完成させたイオナズンでなんとか迎え撃つ。
辺りに衝撃波が走る中、窺い見るとすでにカーラは次の詠唱に入っていた。
赤い瞳を不気味に光らせ、こちらの一挙一動を凝視しながら……。

34ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:27:42 ID:???0
 
 
***
 
 
速さではあたしが勝っていたと思う。
けれど攻撃手段の多彩さに圧倒され、どうあがいても主導権を握ることができなかった。
深手をいくつか負い、回復手段もなく、あとはダメージが蓄積されていくジリ貧状態。
ついに体が地に付き、喉元に剣を向けられているっていう情けない有り様。
「命を懸けた勝負なんて、意外とあっさりしてるものね……」
「違いない。だが思えば、正面から魔法を打ち合うというのは――貴重な機会だったかもしれんな。
 なかなかに良い戦いだった。私の前に現れてくれたこと、感謝するぞ」
「そりゃぁどーも……」
 
首筋に、ピタリと剣の切っ先が触れた。
「そういえば捜し人がいると言っていたか? これも一つの縁、いずれ私の行く先で巡り会うかも知れぬ。
 遺言があれば聞いてやろう」
「そうね」
余裕綽々の表情。完全に詰みの状態。ぐうの音も出ないはずなんだけど。
「カーラ。あんた、つまらない女だわ」
カーラは訝しげに眉を上げた。
 
「ねえ、ポーカーはご存じ? あんたはね、まるで全部の手札がジョーカーなの。
 一人でなんでもこなせちゃう。どんな手でも負けない。これ以上なんてない最強さよね」
「…………」
「けど、あんたは――知らないのよ。
 クラブのジャックの頼もしさ……ダイヤのクイーンの華麗さ……ハートのキングの美しさ……
 スペードのエースの強さ……フラッシュや、ロイヤルストレートの輝きさえも」
「言いたいことはそれだけか?」
「……そうね。もう一つだけいいかしら? ギャンブルで”身を滅ぼさない”ための心構えを教えてあげる」
 
あたしは最後の賭けに出る。
(彼の者に宿りし魔力の源よ、我に集え)
「何ッ?」
 
「――どんなにツイてる時でも全額は注ぎ込んじゃいけない。勝負を”降りる”ためのBET(賭け金)は残しておくことよ」

35ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:28:27 ID:???0
  
魔力吸収呪文マホトラ。
なけなしの魔力があたしに流れ込んでくる。
森を焼き払うほどの消費、その後あたしに対しての最強クラス呪文の連発。
そう。この女がいかに化け物じみていても、必ず底はあるのだ。
 
「悪足掻きを……。”降りる”? この状態で逃れられると思っているのか?」
――はぁい、思ってるわよ。
そっちこそ、チェックメイトしたら終了だと思ってるの? ないない。そんなの盤をひっくり返しちゃえばいいんだから。
 
「ドラゴラム」
「なッ――!?」
 
巨竜変身呪文。これであたしは巨大な竜に姿を変える。
剣ではもう易々とは貫けないし、よしんばこの女が同じ呪文を唱えることができるとしても、
魔力はたった今あたしが奪いつくしてやった。これで対抗手段はナシ。
ふふ、呆気にとられた顔がその証拠かしら。意外とかわいい顔もするんじゃない。
 
(ほんとは……できることなら……このまま……焼き付けてやりたいんだけど……)
 
  
……体が言うことを聞かない。ダメージを受けすぎたか、竜化の影響で意識が朦朧としているのかもしれない。
なにせ今まで一人の時にこの呪文を唱えたことはなかったのだ。
どうにか力を振り絞り、翼を広げ、その場を飛び立つ。早く。一刻もはやくこの女からはなれないと――
 
 
 
(……ねぇミネア……一人ってこんなにも……心細いのね……あたし……)
 
 
 
 
 
……はやく……あいたい……
 
 
 
 
 
 
東へ――東へいってミネアをみつけなきゃ――

36ギャンブル サバイバル ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:28:51 ID:???0
 
 
【D-6/森林地帯(ほぼ焼失)/昼】
 
【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP3/4 頬に火傷、左手に凍傷 MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
 
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP1/8 MP1/4 竜化
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     カーラから逃げる、一刻も早くミネアと合流するため、東へ飛行
 
※カーラの火炎呪文によりD-6の森林一帯がほぼ焼け落ちています
※ソードブレイカー@DQ9がカーラの現在地付近に落ちています

37 ◆t1zr8vDCP6:2012/06/25(月) 23:29:23 ID:???0
仮投下終了です。
気掛かりな点があるのですが、ドラゴラムで飛行というのはアリでしょうか?
自分としては可能なものと思い込んで書いていたのですが、ふと心配になりました。
その他にも問題があればご指摘お願いします。

38 ◆t1zr8vDCP6:2012/06/26(火) 23:42:12 ID:???0
状態表を以下のものに修正します。
規制のため、どなたか代理投下をしてくださると有難いです。
 
 
【D-6/森林地帯(ほぼ焼失)/昼】
 
【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP3/4 頬に火傷、左手に凍傷 MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。
 
【マーニャ@DQ4】
[状態]:HP1/8 MP1/4 竜化
[装備]:なし
[道具]:不明(0〜1)、基本支給品一式
[思考]:ゲームには乗らないが、向かってくる相手には容赦しない。
     カーラから逃げる、一刻も早くミネアと合流するため、東へ飛行

※竜化マーニャ:長時間、高度の高い飛行はできません。竜化の継続時間はお任せします 
※カーラの火炎呪文によりD-6の森林一帯がほぼ焼け落ちています
※ソードブレイカー@DQ9がカーラの現在地付近に落ちています

39 ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:09:45 ID:???0
大変遅れて申し訳ありませんでした。
バーバラ、アレフ、ビアンカ、リッカ 投下します。

40天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:10:57 ID:???0



浮遊する。
空飛ぶ靴はまるで意思でも持つかのように、傷付いた足を上空へ運び、視界は地上から遠ざかっていく。
どこまで行くつもりなのか。
天馬の手綱を握らせたファルシオンほどの高度では無いにしても、支えの無い身体は不安定で、
行き先がどこなのか、そもそも着地できるのかどうかもわからない。
牢獄の町で負った傷が、それによる腰と足の痛みが、天へ近づくほど重くなっていく。
回復呪文の効果はあまりにも弱く、必死の逃亡の中では貫通した腿の傷を塞ぐのがやっとだった。
流した血を取り戻せたわけでもない。もともと一行の中でも飛び抜けて体力の無かった自分には、
それらのことでもひどく重傷に感じて、弱気にさえなってくる。
空飛ぶ靴の上昇はやがて下降に転じる。
と同時に、貧血でも起こしたのか、視界がにわかに霞んでいくのがわかる。
急激に高度を上げたことで、酸欠になっているのかもしれない。気付けば息も上がっていた。
遠のく意識を捕まえようという気力が、湧いてこない。現実を手放す感覚に甘えたくなってしまう。

(全部、夢だったらよかったのに)

墜ちていく。
さっき降りていった階段の先には、殺戮を望むばかりの大地があった。
救済を完遂すると決めた魔女も、この地上の牢獄に囚われているのなら、
天へと逃れたこの瞬間は、魔女は魔法が使えるだけの、ただの女の子に戻るのかもしれない。
閉じていく瞼の裏側で、幾度となく思い返す記憶があるのは、そのせいかもしれない。

――全部、夢だったんだな。

思い出す。
あの、未来が生まれるはずだったたまごに、かつて共に希望を祈っていた人のこと。
夢の世界で生きてきた記憶は、現実世界の自分と相容れることなく、その存在を失った。
現実世界に自分の居場所がないことを、誰よりも残酷な形で知ってしまった。
だからこそ、『彼』は祈っていた。
例えもう届かないとしても。自分にとっての愛する人が、相手にとっては見も知らぬ存在であったとしても。
彼らが幸せであるように、彼らの夢が守られるように。
誰よりも強く、誰よりも切実に、彼らと世界の愛と平和を、願い続けていたことを。

――だって、祈るだけならタダじゃん? ほら、バーバラも!
――どういうこと? ねえ、ロッシュってば!
――一度だけでいいから、祈ってみてくれないか? 僕と一緒にさ。

おもいだす。
地上の牢獄に再び降り立つそのときまで、魔女が少女に戻るその瞬間だけ、
バーバラは独り、記憶の回廊を巡っていた……

41天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:13:08 ID:???0


***


「リッカちゃん、見えてきたわよ。牢獄の町」
「あ、はい!」
ビアンカの言葉に、リッカは『あるくんです2』を操作する手を止める。
スライム型の小さなからくりは、画面(というらしい、説明書に書いてあった四角い部分)にスライムのような絵が表示されて、
しかも動くという、リッカには驚愕の代物だった。
これがどういう理由で支給されたのかはわからない。謎が多く、改めて調べる必要がありそうだ。
だが目下の問題は、視界の端っこで点のようにして見える目的地。
ここまでは特に誰かと遭遇することもなく、また後ろからあの恐ろしい道化師が追いかけてくることもなく
無事にたどり着けたが、町に入ればまた何が起こるかわからない。
アンジェやルイーダたちに会えるかもしれないし、逆に先のような存在にまた遭遇するのかもしれない。
戦えないリッカだからこそ、気を引き締める必要があった。
そしてもう一つ。リッカがこの世界で宿を提供できるとしたら、それは平野や森の中ではなく屋内だろう。
もしも戦いで傷付いている人がいたら、この手で安らぎを差し出そうと決めている。
この目的地で、自分の使命が果たせるかもしれないのだ。
勇むリッカは先の恐ろしい襲撃にも怯まず、しっかりと前を見据えていた。

「それにしても、大きいですね」
ぽつりとアレフがこぼす。ビアンカは前を行く男と遠い前方の景色を見比べ、首を傾げた。
「……そうかしら?」
「城塞と言っていいでしょう。どういった意図で作られたかはわかりませんが、町の外壁というには高すぎます」
その言葉に、ビアンカは目をみはる。
アレフが言っているのは恐らく目的地である牢獄の町のことだろうが、
どう見ても大きさを測れるほどの距離には思えなかった。大気の層からようやく抜け出たその姿は、
形など判然としない。
にも関わらず、今いる距離からそのことを測ったのだとしたら、やはり相当旅慣れているのだろう。
お出かけ程度にしか出歩かなかったビアンカには、途方もなかった。リュカだったら同じようにわかっただろうかと思う。
「……ああ、大丈夫ですお嬢さん方。いくら巨大な要塞が立ちふさがろうと、お二人は必ず私めがお護りします」
ビアンカの戸惑いをどう解釈したのか、そっと右手を胸に当て完璧するくらいの優しい微笑で横顔をのぞきこむアレフに、
思わず笑みがこぼれた。
「何度も聞いたわよ。頼りにしてるわ、アレフさん」
「私もです。本当にありがとうございます」
「私などには身に余るお言葉ですが、光栄です」
これも幾度聞かされたか知れない口上に、二人の顔は綻ぶ。
こんないつ襲撃があるかもわからない世界で、もとより戦闘力に自信のない二人に、アレフの申し出は非常にありがたかった。
少し極端ではあるが、女性としての丁重な扱いも、生まれくるいくつもの不安を紛らわせてくれる。

42天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:14:22 ID:???0
(リュカも、これくらいの気遣いができたらよかったのに)
本当に不器用だったから、と。ビアンカは目の前の男性に、なぜか似ても似つかない幼馴染を思って苦笑した。
最も、長いこと顔を合わせていない今となっては、きっと女性の扱いくらい会得しているだろうけれど。
なにせ、相手はあの清楚で可憐で、育ちもよく修道院で修行もしていたフローラだ。きっと学ぶことがたくさんあったはず。
ちくりと胸を刺す痛みも、今は振り切るだけだ。きっと、この同じ空の下にいるんだろう。一刻も早く彼に会わなければ。
そんな思いとともに、ビアンカは切なさを押し込めて、そっと空を仰いだ。

そして仰いだ空の先には、赤と黒の女の子がいた。

「なっ……!?」
ビアンカは思わず驚愕する。遅れてアレフとリッカも、ビアンカの見たものに気がついた。
遥か上空にいた少女は、三人の方に向かって急激な早さで降下しているのだ。
降下、とビアンカが思ったのは、少女が靴を地に向けて垂直に立ったまま降りているからで、
重力に逆らっているとは思えない降下の早さはむしろ落下に近いのかもしれない。
このまま墜落したら、お互い軽傷では済まない。
「危ないっ!!」
ビアンカとリッカを怪我の無いよう丁重に突き飛ばし、一人着地点から逃れられなかったアレフは、
そのまま少女を受け止めるべく身構える。
リッカは思わず目を塞ぎ、ビアンカは決死の眼差しで着地の瞬間を見つめていた。
しかし、アレフと少女が衝突することはなかった。
彼らの予想とは違って、少女はアレフのいる場所から外れ、
不思議な形状の靴をまるで地面に縫い止めるかのように、軽やかに地上へと降り立った。
ビアンカは息を呑み、リッカはそっと目を開ける。アレフが様子を伺うように凝視する中、少女は立ち尽くしたまま動きが無い。
その小さな身体が、やがて横倒しになる。
「……!」
アレフは即座に駆け寄り、その小さな身体を受け止めた。遅れてビアンカたちも歩み寄り、少女の姿を目におさめる。
黒と赤のドレスに身を包み、赤毛をうしろで結んだ少女は、弛緩した身体をアレフの腕に預けていた。どうやら意識はない。
そしてすぐに、足に怪我のあとがあることに気付く。
治療を施さなければ悪化する一方だろうことはわかっていたが、ビアンカは軽く混乱のさ中にあった。
(どういうことなの? キメラの翼ならこの世界では使えないはず……)
疑問は止まないが、とにかくビアンカは回復呪文が使えない。治療の手段をアレフに相談しようと、顔を上げたその瞬間。

「なんて愛らしいんだ……!!」

思わず荷物を取り落として叫んだアレフに、リッカはぽかんと口を開け、ビアンカはずっこけた。

43天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:16:20 ID:???0


アレフが、効き目の悪いベホイミを幾度となく施した末に、少女はようやく目を覚ました。
「う……」
「目が覚めましたか、お嬢さん」
少女が顔をしかめながら身を起こそうとするのを手助けしながら、アレフは優しく呼び掛ける。
「無事に目が覚めてよかった。覚えておいでですか?
お嬢さんは如何様なる魔法の力かはわかりませんが、遥か上空からこの地面へ降り立ったのですよ」
その言葉を、はじめ虚ろな眼差しで聴いていた少女だったが、やがて瞳に光を取り戻し、呟いた。
「そっか。あたし……」
夢見るような口調だった。
恐らく未だ意識がはっきりしていないのだろう。ビアンカは少女の肩に手を置いて、安心させるように微笑みかける。
「無理しないで。今は身体を休めるのが先よ」
本音は先に少女から話を聞き出したいところだが、負傷していた上、たった今目覚めたばかりの少女に無理はさせられない。
同じように考えたのだろう、アレフもまた少女を支え起こしながら、遠い目的地に視線を向けた。
「牢獄の町に急ぎましょうか。こんな平野にいるよりは安全でしょうし」
「そうですね。その方が、休む場所も見つかるかも」
リッカもそれに同意する。だが、当の少女は二人の言葉に目を丸くした。正面のビアンカをきっと見上げる。
「牢獄の町に行くつもりなの?」
「ええ、そうだけど」
「あそこは今危険だわ! 奴が……っ」
そう言って勢いよく立ち上がろうとし、ふらつく少女をアレフが支える。
息をつく少女に、ビアンカは眉をひそめた。
「……どういうこと?」
「魔物が、いるの……。奴が……キラーマジンガが……」
苦しげに告げられた言葉に含まれる、恐ろしげなその響きに、ビアンカの胸がどきりと鼓動を打ち鳴らす。


負傷と急激な高度の変化で、一時的に意識を失っていたらしい。
だが、目を覚まして起き上がってみても、思ったより辛くは無かった。
自分たちを見つけてくれた人々、主にアレフという名の男が、回復呪文を施してくれたようだ。
しかしそのことに感謝を抱く間もなく、バーバラは起きたばかりの頭を必死に回転させる。
つまりはどうやって、目の前の相手を『救済』したら良いのか。
さすがに三人相手にエイトと同じ手は使えない。
魔法をぶつけたとしても、三人相手に闘うというのはどうしても分が悪かった。
特に、このアレフという男には隙がない。負傷を追っていたバーバラが、真っ正面から戦って勝てる相手には思えなかった。

霞む目を、辺りに向ける。辛うじて牢獄の町が見えることから、思ったよりも遠ざかってはいなかったらしい。
キラーマジンガはあの場に留まっているのだろうか。こうしている間にも、あの殺戮マシンの犠牲者が出ているかもしれないのに。
己の手で参加者の救済を目指すバーバラにとって、かの存在は非常に悩ましかった。
できることなら破壊したい。だが、バーバラ一人ではどうすることもできないのもわかっている。
そして目の前の三人は、その牢獄の町に行こうと言うのだ。
(どうしよう。どうしたらいいの……)
ふらつく頭で必死に考えようとするバーバラに、目の前の女が呼び掛ける。

44天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:19:39 ID:???0


「キラーマジンガ……ですって?」
戸惑ってアレフらと視線を交わすビアンカに、バーバラは口を開いた。
「あたしは、奴から逃げてきたの。一人ではとても勝てなくて」
「そんな……」
「このままじゃ、みんな……」
リッカの顔に不安の色が浮かぶ中、思わず零れるようにして呟いたバーバラの言葉。
それを背後で聴いていたアレフは、他の女性たちの焦燥を振り切るようにして立ち上がる。
「ならば、私が倒しましょう」
「え……?」
バーバラは息を呑み、肩越しに彼を凝視した。
「当然のことです。お嬢さんをこんなにも傷付け苦しめたゴミカス……失礼、魔物を懲らしめないわけにはいきませんから」
「そうね。そんなに危険な魔物なら、なんとかしなくちゃ」
ビアンカも同意する。唯一リッカは戸惑う表情を見せたが、アレフが彼女を必ず守ると説得するのに首肯した。
一人だけ、話についてこれず呆けていたバーバラが、やっと事態を呑み込む。
(……そっか。その方がいいのか)
キラーマジンガが倒せない。そのことが彼女の目的を邪魔するのなら、先にそれを排除すればいいだけだ。
そのための手段は問わない。たとえ利用するようなことになっても、最後に皆を救えるのなら。
(また、四人がかりで倒せばいいんだね)
かつて海の深淵で、四人がかりでどうやって倒したのかはもうよく覚えていない。
深くおもいだすことなど出来そうもなくて、空で視た記憶だけが微かに、彼女の脳裏を掠めたけれど。

(あたしが全てを終わらせるんだ)

こころにきざみ込んだ言葉が、“誰か”の口癖であったことも、魔女である彼女は気付かない。
問うような視線を向ける三人へ、バーバラは手を伸ばした。
彼らの手を借り、障害を排除するために。そしてそれが終わったら、彼らをこの手で「救う」ために。


***


「……祈るって、あのたまごに?」

珍しく、神妙な面持ちでそう言う彼に、バーバラは首をかしげた。

45天空に視た夢  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:20:50 ID:???0

「そ。生まれてくる僕らの未来に、いいことがありますようにって」
「ふうん。ロッシュがそんなこと言うなんて」
「そお〜? 僕はけっこう神頼み、山の精霊さま頼みだよ。
 お祈りするだけで戦わなくて済むならそれに越したことはないしぃ。
 毎日いろいろ、例えば……今日もいい夢見れますようにとか、世界が平和になりますようにとか、
 新しい町でバーバラみたいな可愛い子に出会えますようにとか……」
「もう、またそんなこと言って!」
まじめな話だと思って聞いていたのに、気付けばまた茶化されて、少女はもう、と頬を膨らませた。
それはクセか習性か、あるいは自分のペースを崩すまいとするためなのかはわからない。
根が真摯である彼の性格を理解してからは、一見ふざけた態度にも怒りを覚えることはなくなったが、
だからと言って時折人を口説こうとするのはどうなのだろうと彼女は思う。
もっとも、彼がただの女好きなのはわかっているので、
「ミレーユにも同じこと言ってたよね」と軽くあしらってはいるけれど。
それでもなんとなく面白くなくて、ぷいっと彼女は顔をそむけた。

そんな様子に、ロッシュは慣れた様子でふふっと笑う。
笑みを深めた表情のまま、そっと目を伏せてささやいた。

「大魔王を無事に倒して、みんなで帰ってこれますように、とか」

バーバラが視線を戻すと、そこには見たことも無いような穏やかな表情の彼が居て。

「もしそうなったとしても、夢の世界が消えてしまわないように、とか。
 ……僕やバーバラが、いつかまた笑って会えるように。とかね」
「ロッシュ……?」
戸惑う少女を見つめる彼の眼は澄んでいて、茶化すような色は見受けられなかった。
そこに悲壮感は無い。なにもかもを見透かすような眼差しで、ロッシュは言葉を紡いだ。

「……すべて叶うと、僕は信じてる。だからこうして祈るんだよ。
 夢を、夢のまま終わらせないために――」


――それは夢。
過去の記憶を見せられるだけ、時が経てばわすれるだけの、少女が天空に視ていた夢。

(結局ぜんぶ、叶わなかったよ。ロッシュ)

時は来て。
天を飛翔した旅の終わり、砕けた希望の欠片たちを、魔女は空に遺していく。
この地上の牢獄で、夢はどこまでも夢のまま。

46天空に視た夢状態表  ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:22:06 ID:???0


【B-4/平原/昼】

【ビアンカ@DQ5】
[状態]:健康
[装備]:女帝の鞭@DQ9、エンプレスローブ@DQ9
[道具]:支給品一式、炎のリング@DQ5、カマエル@DQ9、さまよう鎧@DQ5
[思考]:リュカに会いたい、彼の為になることをしたい。牢獄の町に向かう。 キラーマジンガをどうにかしたい。
[備考]:カマエルによって錬金釜の使用方法を教わっています

【リッカ@DQ9】
[状態]:健康
[装備]:あるくんです2@現実
[道具]:復活の玉@DQ5、大量の食糧(回復アイテムはなし)、支給品一式
[思考]:宿屋を探す、そのために牢獄の町を目指す。
     あるくんです2について理解する。

【アレフ(主人公)@DQ1】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:ルカナンソード@トルネコ3
[道具]:支給品一式*2
[思考]:一刻も早くローラを保護する。そのためには剣を取ることも辞さない。
     とりあえず女性はすべて保護する。牢獄の町までビアンカ・リッカ・バーバラをエスコート。
     牢獄の町のキラーマジンガにお仕置きする。

【バーバラ@DQ6】
[状態]:ダメージ(小)、魔力消費(小)、太腿を負傷(傷口)はふさがっている
[装備]:空飛ぶ靴@DQ5、セティアドレス@DQ9
[道具]:基本支給品一式、ゆめみのはなセット(残り9個)、かわのムチ
[思考]:参加者を自分の手で「救う」、優勝してデスタムーアを倒す
     キラーマジンガを破壊する、その後ビアンカ・リッカ・アレフを殺す
[備考]:ED直後からの参戦です。武闘家と賢者を経験。

47 ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 20:23:32 ID:???0
投下終了です。
特に問題なければ、毎回申し訳ありませんが、代理投下お願いしたいです…。

48 ◆acx9ZJs02Q:2012/07/06(金) 22:12:06 ID:???0
仕事が早い…!投下ありがとうございました!

49 ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 01:55:04 ID:???0
投下します。
予約期限を超過してしまい、申し訳ございません。

50ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 01:58:30 ID:???0
無意識のうちに体は逃亡を選んでいた。
けたたましく鳴る鐘のように全身が危機を訴える。
後ずさろうにも、まるで蛇に睨まれた蛙のように足は動かず。
荒れ狂う稲光の如く現れた男に睨まれれば睨まれるほど、内から湧き上がる恐怖は勢いを増していく。

恐怖で心を満たされそうになりながらも、状況を冷静に分析する。
相手はドランゴやボストロールすら優に上回る力の持ち主。
かといって動きが鈍いのか、といった訳でもない。
あのキラーマジンガより鋭い目が灯っている内は、どうにも逃げられそうにない。
当然、あの力とまともにぶつかりあっても勝ち目はない。
よって腕力に頼らない戦いを強いられるのだが、手札の一つである竜の吐息のカードを切ることは出来そうにない。
男が持つオーガシールドの力、そして男の力を考慮すれば打ち払われてしまう可能性が高い。
そもそも迂闊に息を吐き出そうとすれば、その隙に取り返しのつかない一撃を叩き込まれてしまう。
息を吐き出せる程の大きな隙が生まれたとしても、竜の吐息が有効な一手になるとは考えにくい。
貴重な主戦力のうちの一つを封じられ、状況的には不利である。
残された手札で、この場から脱する最良の手を打たねばならない。
一手間違えば死を招きかねない状況を背負いながら、ミレーユは行動に出る。

ミレーユの全身から光が溢れ出す。
視界を覆わんとする輝きに、男は思わず光から目を反らしてしまう。
それを確認してから、ミレーユは爪先から地面を抉るように足を振り抜き、砂煙を起こした。
そして蹴り上げた勢いを生かして宙を舞い、距離を一気に離していく。
息をつく間も無く全身から猛毒を分泌させ、それを霧状に振りまいてゆく。
これで男の目がくらんでいるうちに、男の視界は砂煙に包まれている上、辺りには毒の霧が漂っている。
これだけの状況を揃えれば、逃げることもたやすいはず。
残された手札を順序よく組み立て、場に揃えることが出来た。
あとは、全力で逃げるだけ。

51ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 01:59:14 ID:???0
そう、それだけのはずだった。
大魔王を討伐する旅の途中、幾多もの敵をこの手で追い払ってきた。
相手がどれだけ強くても所詮は人間、念入りの策なら通じると思っていた。
が、相手は「まとも」ではなかった。
一度視界に捉えた敵を逃さず、徹底的に叩き潰す。
彼の天性の才能は、光や毒の霧などで止められるものではなかったのだ。
光から目を背け、砂煙が視界に満ちた時点でもょもとは無意識に走り出していた。
ミレーユが砂煙を巻き起こした際と着地したときの音に向かって。

そうして、逃げ出そうとしていたミレーユの目の前に。
無機質な表情と、力一杯の拳が突きつけられた。

痛恨の一撃。
身を守ろうとする動きさえ許されず、もょもとの稲妻の如き拳がミレーユの頬に深々と突き刺さる。
首から上が千切れ飛んでしまいそうな衝撃を受け、まず顔の側面から高速で着地する。
その着地点を軸にして体全体がふわりと浮き上がる。
浮き上がった体も勢いに飲まれ、吸い込まれるように地面へと打ち付けられる。
まるで蹴り飛ばされたボールのように、転がりながら何度も何度も地面を跳ねていった。
山肌に背中を打ち付け、ようやくミレーユは止まることが出来た。
短く断ち切られた金髪は血と泥によって無造作に荒らされ、白く美しかった肌も所々が裂けて赤い肉が露出している。
口に溜まりきってもなおこみ上げる血塊を吐き出し、ゆっくり起き上がりながら回復呪文を唱えようとする。
が、その時。
既にもょもとは目前に立っていた。
回復も、攻撃も、防御も、何も間に合わない。
ただ、振り抜かれる拳を黙って見ているしかできなかった。
「ごふっ……あ」
ミレーユの腹部に深々と拳が突き刺さる。
ぷちぷちと何かが裂けるような音と共に、吸い込んでいた息、胃の内容物、大量の血液が絞り出されるように吐き出される。
同時に、ミレーユの体全体が羽根のようにふわりと浮く。
もはや抵抗は愚か生命活動すら停止しようとしているミレーユの姿をじっと見据えながら拳を振り上げ。
重力に引かれて浮遊から落下に切り替わろうとするミレーユの背に、叩きつけるように風を切って振り下ろした。

52ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:00:03 ID:???0
冒険の途中、ハーゴンの手下である「人間」の敵と多数向き合うことがあった。
もょもとはそんな「人間」が相手でも一切容赦することはなく、ただ的確に急所を突いて攻撃する。
動かなくなった相手でも、もょもとの中で何かのスイッチが切れるまでは攻撃を加え続けることが普通だった。
その様子は正に「悪魔の子」の呼び名に相応しい程の「破壊」であった。
常人からすれば異常な光景も、彼にとっては「たたかう」ことをこなしているだけに過ぎないのだ。
父の名を受け、ハーゴンに従い自分達に立ちはだかる者と「たたかう」こと。
そうしていればよかったのだから、そうしていただけ。

この場に来てからは、その目的を失っていた。
始めの声に諭されるまま「たたかう」ことを選んでいたが、周りはそれを止めて来る。
「たたかう」ことが正解なのか? 「たたかう」ことはいけないことなのか?
それすらも分からない、だから「たたかう」しかない。
今まで「たたかう」ことで全て理解してきた、「たたかう」ことを終えた先に全ての答えはあった。
正解なのか、いけないことなのかは「たたかう」ことを続ければいずれ分かるのだから。

初撃で手痛いダメージを負い、腹部と背部に突き刺さった追い討ちでミレーユは既に瀕死の状態。
だというのにもょもとは未だにミレーユを見据え、一歩ずつ近づいていく。
ギリギリのラインで意識を手放さずにいたミレーユにとっては、大魔王に匹敵する恐怖だった。
一歩ずつ、一歩ずつ、確実に青い悪魔は自分の命を刈り取らんと進んでくる。
逃げようと体を動かそうとする、手の小指の一本すら動かない。
一刻も早くそこから逃げ出したいのに、全身が釘で固定されたかのように動かない。
まごついている間にも、悪魔は着実に近づいてくる。
一歩一歩の足音が、鼓膜を破るほどの大きな音に聞こえる。
せめて逃げ出す時間を稼ごうと、口から竜の吐息を吐き出そうとする。
しかし、口を開けど開けどあふれ出してくるのは血塊のみ。
輝く息や灼熱の炎は愚か、火種の一つも起きず、つめたい風すら出て気やしない。
全身を使って自然に訴えかけても、火柱は愚か地響きすら起きない。
もう、石つぶてを投げる力も、大声も張り上げる力も、何もない。
恐怖に打ち震えながら、ただ、ただ、ただ、男が迫るのを待つだけだった。
悪魔が、目の前に辿り着いた。
歯を震わせ、涙を浮かべ、血を流しながら、振り下ろされる拳を見つめることしか出来なかった。
ミレーユは迫り来る死という現実から逃れるように目を閉じ、全てを放り出した。

53ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:01:04 ID:???0



アイラの提案の後、二人は南に見える欲望の町を目指して歩いていた。
西には先ほどのターバンの男が向かっていると考えられる。
何よりも南の町の立地が最悪という大きな理由もあった。
比較的向かいやすい牢獄の町と絶望の町、ヘルハーブ温泉に比べて欲望の町へのアクセスは劣悪だった。
南から向かおうにも森林から山地、そして再び森林と来て最後には毒の沼である。
旋回するようなルートも作用し、他の町に比べて面倒くささがハンパではない。
北側から向かうのならば平地のみで足取りを邪魔する物は何もないが、北側から向かう途中に牢獄の町が見える。
普通の人間ならまずこの牢獄の町へ向かうだろう。
よっぽどの物好きでもない限り、この欲望の町を目指す者などいない。

では、初めから欲望の町に居た者はどうするか?
毒の沼が待ち構える通りにくい南側にわざわざ抜けるとも考えにくい。
人が居るとすれば北側に抜けて平地に沿い、牢獄の町や他の施設を目指すだろう。
今、絶好の位置に居る自分達と出くわす可能性が高い。
町から出た人間がまともならば、欲望の町の情報も手に入る。
もし途中で誰に会うことがなかったとしても、欲望の町を探索する程度のことはできる。

自分達の現在位置、この地の形状を考え、そしてカインの状況を察する能力から出た提案により、二人は南へと足を進めていた。
まともな人間、それかかつての仲間に出会えることを祈りつつ。
願わくば、妹に会えることを期待しつつ。

この世界に呼び出されてから、初めて触れ合った異世界の文化。
自分の住む世界とは違う人、文化、生活、風習、全てが未知の世界。
魔物と心を通わせる人間の存在もそうだが、ロトの血というものを知らない世界があることに驚きを隠せなかった。
冒険の中、どこに行ってもロトの末裔扱いだった自分にとっては夢のような環境だった。
もし、そんな世界に生まれていたら。
ロトの血族という存在に縋りつく、狂信者のいない世界だったなら。
自分がこんなに苦しむことも無かったし、いつかあきなが漏らした願望すらも現実になっていただろう。

本当は、ハーゴンに加担しても良かった。
腐った世界と狂信者どもをぶち壊すため、邪神官に下っても良かった。
きっと世の中の人間は大いに恐れ戦くことだろう。
「ロトの血筋が世界を崩壊させようとしている」だなんて、あの世界の狂信者からすれば死にも等しい一撃だ。
ただあのときの自分は、それを行うにはあまりにも非力すぎた。
人類全体を裏切ることになる上、いずれはもょもととあきなの二人と刃を交えることになる。
冒険していた自分だからこそ分かる、二人の強さ。
自分と、ハーゴンの力をあわせてようやく五分が取れるかどうか?
それほどもょもとの力は異常であったし、あきなの魔術の能力はまるで神の如き才能だった。
結局僕は人々に従い、強い方へと付き、生き延びることを選んだ。
ロトの末裔の中で一番使えない上、ハーゴンに付くことすら許されなかった僕が生き残るにはそれしかなかったから。

54ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:01:36 ID:???0

ふと、そこで嫌な予感が頭をよぎる。
もし、もょもとやあきなと刃を交えることになったら。
タダでさえ何を考えているか分からないもょもとがそもそも「殺し合い」を理解できるとも思えない。
辺りの人間を敵だと認識して襲い掛かってしまうだろう。
自身を追い詰めやすいあきなは、適当な輩の言葉に追い詰められているかもしれない。
この世界に来ても、元の世界のように誰かに操られるがまま、贖罪の言葉を呟きながらどこかをふらついているかもしれない。
もし、そんな二人と自分が出くわしたら?
「嘗ての仲間」として、話ぐらいは聞いてくれるだろうか? そうであればどれだけ良いか。
仮に戦闘になったとしても、自分ひとりで勝てる可能性は非常に薄い。
まだ、あきなの方が勝てる可能性は若干高い。
魔術がどれだけ強力でも、それを放つ為の呪文を唱える時間が必要だ。
その隙に一発蹴りでも入れてやれば、あの虚弱な体質のあきなを崩すことは容易である。
問題は彼女が殺し合いに乗っているならば、彼女を唆す第三者が居るということだ。
その第三者の介入を受けながら、その隙を突けるかというと怪しくなってくる。
あきなと戦うに当たっては未知の第三者の力次第となるだろう。
問題は、もょもとである。
攻撃の正確性、威力、そして魔物を優にしのぐ残虐性。
トドメに本人が無自覚である可能性が高いと来る。
彼が戦闘だと判断すればそこは戦場だ、もょもとは一切の容赦なく叩き潰しに来る。
自分の方が素早さが勝っていて呪文が扱えるとしても、正直あの戦闘魔神に打ち勝てる自信はない。
隣にいるアイラを犠牲にすれば、逃げる時間ぐらいは稼ぐことが出来るだろうか?
と、そんな発想に至ってしまった自分の思考を恨み、またもや溜息が漏れる。

どうやら、自分の人間不信はよっぽど深いところまで根を張っているらしい。
たった今、信用したいと思ったはずの人間をいとも容易く切ろうとしていた。
生き残るのが重要ならば、確かにアイラを切るのはもっとも確実だ。
だが、それでいいのだろうか?
自己の欲のためだけ、他の存在を切り捨てる。
自分がよければ、他人がどうなってもいい。
ロトの末裔が苦しんでいることも知らず、何もかもを押し付けていたあの世界の人間と同じではないか。
こんな自分を、アイラは信用してくれているというのに。
自分は全くもってそれに応えることが出来ていない。
かといってどうするのが正解なのか、全く分からない。
人を、他人を、仲間を信用し、共に戦うということ。
誰かを信用するということ。
こんなにも、難しいことだったのか。
忘れて久しい感覚に、頭を悩まされ続ける。
そうして具体的な行動や正解を頭の中で出せず、思考の輪廻に陥っているとき。
「カイン! あれ!!」

現実は、容赦なく殺しにきた。

55ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:02:48 ID:???0

アイラの指差す方向を向く。
目に映ったのは見飽きた服、見飽きた顔、見飽きた光景。
数秒前まで考えていたことが、現実として襲ってくる。
そして思考の中で勝てるわけがない、そう結論付けたはずなのに。
気がつけば剣の柄を握り締め、アイラの引き止める声を背にしながら駆け抜けていく。
その速度を保ったまま、勝てるはずのない怪物へと切り付けて行った。

ミレーユにとどめを刺すはずだった拳。
それは、若葉のような緑色の風に遮られた。
もょもとは瞬時に拳を引き、乱入者から距離を取る。
「……どいてくれ、カイン。俺はそいつと"たたかう"んだ」
乱入者、カインは俯きながら剣を構える。
「カイン、どいてくれ」
「お前、何やってんだよ」
突きつけられた二度目の願いを無視し、依然俯いたままカインは吐き捨てるように呟く。
「父親や周りの人々が言うように戦い続けていたらその先にハッピーエンドがありました。
 だから今回も戦い続けてみんな殺してしまえば、ハッピーエンドに辿り着けるとでも思ってるのか?」
カインは怒りでもなく悲しみでもない感情が籠もった声でもょもとに問う。
「……"たたかう"のは、いけないことなのか?」
まるで子供のように、無垢な声色で答えるもょもと。
それを皮切りに、もょもとの口から次々に言葉があふれ出していく。
「父上はハーゴンを倒すことを勧めてくれた。そうすれば、民も喜んでくれると言ってくれた。
 世界を壊そうとしているハーゴンを倒し、世界が平和になればこれ以上の喜びはないと言ってくれた。
 そのためには"たたかう"ことが必要だってことも教えてくれた。
 民のため、父上のため、おれは戦った。
 民が尊敬するような素晴らしき王になりたいから、おれは戦い続けた。
 いろんな国に行って、生き残って、戦い続けて。
 そうして、ハーゴンを倒した先に答えはしっかりあった。
 魔物は居なくなったし、民の顔は輝いていた。
 おれはあの時、戦い続けた先にあった答えを掴んだんだ」
そこで、もょもとは大きく息を吸い込んだ。
カインは未だに俯いたまま、剣を構えて黙り込んでいる。
「この場所に来てから、おれはどうすればいいか分からなかった。
 そこで真っ先に教えてくれた人が居た。
 武器を装備して、戦う。それがこの場所でやるべきことだって。
 だから、俺は戦わなくちゃいけない。
 でも、おかしなことに"たたかう"ことを止めようとする人も居る。
 力のない女や小さな子供まで、武器を抜いておれを止めようとしてくる。
 "たたかう"ことはいけないことだって。
 おれは、どっちが正しいのか分からなくなった。
 生き残って戦い続けて答えを見つけることにした、この場所でも戦い続ければ答えは見つかる。
 それに納得できるかどうかは、見てみなくちゃ分からない」
流れるように飛び出した言葉達が、そこで止まる。
長い旅の中、カインの目の前でこれほどまでもょもとが喋ったことなど一度もなかった。
そんな機会も無かったし、その必要もなかった。だから喋らなかった。
初めて語られたことと、ここに来てからのこと。
全てを包み隠さず、もょもとは言葉にして吐き出した。
「カイン、どいてくれ。おれは"たたかう"んだ」
戦いの構えを作り直し、もょもとは最後の警告を放つ。
カインはもょもとの話の間、ずっと剣を構えて俯いたまま。

56ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:03:48 ID:???0

「はは、はははは」

小刻みに震えながら。

「はははははははは!!」

ようやくカインに追いついたアイラが、一歩引き下がってしまう表情を浮かべて。

「あっはははあははははは!!」

張り裂けんばかりの大声で、笑い出した。

そして、ぴたりと笑いを止め。
冒険の間、一度も見せたことのない表情のままもょもとの方へ向き。
弾け飛んでいく果実のように言葉を放つために、口を開いた。

「世界が平和になれば民や父親が喜んでくれる? そう言われたからハーゴンを討伐しに行った?
 戦い続けて、ハーゴンとシドー倒して、本当に世界が平和になったのは事実だ。
 それで本当に民が喜んでたなんて本気で思ってたのか?」
剣を持ちながら挑発するような態度と構えで、カインは"真実"を口に出した。
この目の前のバケモノが知らなかった、知らされることもなかった真実。
隣国という非常に近い存在だからこそ、知っていることもある。
ローレシアの民は、王子を疎んでいると。
悪魔の力を持った子供に、恐怖を抱いていると。
噂程度の話だったが、カインには噂が現実であるということを裏付ける要因と実体験がある。
噂が時に牙を持ち人に襲い掛かることも、自分自身が一番良く知っていること。
だから、カインは"真実"になりえる牙を手札に取った。

なぜか?

もょもとの様子からしても、黙っていれば戦闘になることは間違いない。
無差別的に人間を襲っているということは、そばに横たわる金髪の女性から容易に察することが出来る。
ならば、彼の戦意を失わせることが最優先だ。
しかし、それはただのぬのきれだけでロンダルキアを駆け抜けろと言われるくらい難しいこと。
破壊神を目の前にしても涼しい顔をしていたもょもとを崩す手段、そんなものはなかった。
そう、さっきまでは。
幸運にも「父を尊敬している」というワードを聞きだすことが出来た。
カインの中ではキラーマシンよりも殺人機械のような人物像に、ヒビが入った。
もょもとの戦意を喪失させるには、このヒビを叩くしかない。
「……どういうことだ?」
案の定、もょもとはカインの"噂"に乗ってきた。
「簡単な話だ。お前が生きて喜んでたやつなんて、あの国には誰一人としていなかったんだよ」
決壊したダムのように、カインの態度は一転し攻勢に入る。

57ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:04:54 ID:???0
「そりゃ、世界が平和になったことは喜ばしいことさ。
 魔物は居ないし、世界を滅ぼす存在も居なくなった。
 そう、世間一般的に見ればな。だがローレシアという王国だけは違った。
 お前だよ、お前。
 小さい頃からバカみたいな力と、天性の才能を持った悪魔みたいなやつに、いつか滅ぼされるんじゃないかって不安があったんだよ。
 王国の未来のため、お前がどっかで死んでくれることを願ってローレシア王はお前にハーゴン討伐を命じたんだよ。
 まさか、破壊神をも破壊しつくして戻ってくるなんて、考えなかっただろうな。
 ローレシアはさぞ恐怖に打ち震えただろうな、ただでさえヤバい奴が、ヤバイ実績を引っさげて帰ってきたんだから」
カインの口から次々に飛び出していく言葉というナイフ。
その一本一本が丁寧にもょもと突き刺さり、傷となったヒビを抉っていく。
あれだけ長い間冒険していたときでも、一度も表情を崩さなかったもょもとの顔が崩れる。
「違う、そんなことはない。父上はおれを信頼して、ハーゴン討伐を命じてくれた」
「そりゃ、そう思ってもらわなきゃ動かないだろ?
 どこの世界に「死んで欲しいからちょっと悪退治して来いよ」って自分の息子に命じる父親が居るんだよ?」
ま、似たようなのを一人知ってるけどな。という言葉を飲み込むため、カインはそこで言葉を切る。
「……さて、だ。
 お前が何か答えを見つけたのかどうかはともかく、世界の平和と引き換えにお前の国は絶望に包まれた。
 もしお前の得た答えが民の喜びだったなら、それは偽りだった。
 お前の国で喜んでた奴なんて、父親を筆頭に誰もいなかったんだよ」
「嘘だ、違う。父上はおれを――――」
「まだわかんねえか?」
今にも泣き出しそうな顔をしているもょもとに、一本の剣となった言葉を突きつける。
「お前が、あの世界で見た物は偽りさ。
 ローレシアの悪魔の王子の噂は広まりきってる、殺されないように振る舞いながら破壊神討伐へ差し向けようとしてただけなんだよ」
カインの口から出る言葉という言葉が、まるで串刺しの刑のようにもょもとに突き刺さって行く。
「そして、今。ローレシアの王と民の予感は当たった。
 悪魔の王子は誰かに唆されるまま、破壊を生み出す現人神になった。
 当の本人は答えを見つけるとか言ってるが、周りからしたらキラーマシンと大差ないね」
とうとう頭を抱えてうずくまってしまったもょもとに、カインはとどめの刃を突き刺す。

58ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:05:13 ID:???0
「やめろよ、もょもと。何の意味もないから。
 お前が戦っても、あの時と同じで心から喜んでくれる人なんて誰もいない。
 それどころか、他人の喜びを奪ってる。
 お前はまた力を振るって、お前の得にしかならない答えに満足するのか?
 万が一元の国に戻っても、誰も喜ぶ奴なんていないんだよ。
 殺人を殺人、破壊を破壊として認識しない魔物よりも残忍な王だなんて、誰も望んじゃいない。
 ……なぁもょもと、今は"たたかう"べきじゃないんだ。
 あの時みたいに、向かってくる奴をとにかく倒していけば、終わるわけじゃない」
カインは口を閉じ、動かなくなったもょもとにゆっくりと手を差し伸べた。
「一緒に行こう、もょもと。
 今お前に必要なのは"たたかう"ことじゃない、人間を知ることだ」
本来の目的であるもょもとの戦意喪失、それを早期に達成したカインは彼を仲間に引き込もうと思った。
様々な要因と理由、そして今後を考えても彼をここに放置するのは悪手だと考えたからだ。
一方的に真実を突きつけたことと昔のよしみもある。
彼がまともになるまでは、共にいようと考えた。
そしてあの時とは違い、自分から仲間を提案した。

知識や経験と言う名の歯車を、自分という基盤にはめ込み運命の道を進む。
真実というナイフがもょもとの歯車を止め、やがてもょもと自身も止まってしまった。
新しい歯車を手に入れない事には、彼は動き出すことはできない。
そこにカインは時間と行動という歯車を与え、もょもとを動かそうとした。

59ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:05:51 ID:???0



何も聞こえない。
何も見えない。

初めにいた場所のように、暗く何もない場所に立たされている。

「行け、我が息子よ! 必ずやハーゴンの野望を打ち砕くのだ!」
「王子様、世界に光を!」
「ロトの末裔よ、悪しき者達を滅ぼすのだ!」
父の声、民の声、人の声。
今まで投げかけられた言葉たちが次々に頭の中で繰り返される。
だが、カインはそれは偽りだと言う。
本当にそうなのだろうか?
人々が求めていたのは戦いの日々を潜り抜けた先にあった平和ではなく、自分がどこかで死に絶える事だったのか?
わからない、わからない。
何が正しくて、何が間違っているのか。
どうすればいいのか――――?

「そーさ、人間だろうが魔物だろうが構うこたねえ。
 勝ち残っておまえさんの願いでもなんでも叶えちめえばいいのよ」

ふと、聞きなれない声が頭に響く。
初めの場所で、あの声はそう言っていた。
武器を持って、たたかう。
そして生き残って願いを叶えればいいと。
そう、この場では生き残れば願いが叶うのだ。

自ずと、体が動く。
標的は、もちろん。
目の前、すぐ傍に。

黒い影のような歯車が、笑う。

動き出した装置が歩む道は、先ほどと同じだ。
しかし、今の彼には覚悟がある。
真実を知るという、覚悟が。

60ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:06:09 ID:???0



「カイン!!」
一瞬だった。
痛覚と共に目に映ったのは、自分へ拳を伸ばしたまま横に大きく吹き飛ぶもょもとの姿だった。
至近距離の一撃、隣で舌戦を眺めていたアイラが居なければ死んでいたかもしれない。
理解できないことを理解する前に、起きてしまっていることに対処しなければいけない。
もょもとの戦意を失わせるのには失敗した、つまりあの破壊神と戦わなくてはいけない。
大きく吹き飛んだもょもとが起き上がり、襲いかかるまでに戦況を把握し戦術を立てる。
「アイラ、あいつはまだ生きてる。
 僕が前衛に出るから、銃の射程にあいつが入ったら僕に構わず迷わず撃て!
 じゃないと殺される!」
そう短く告げたあと、そばで横たわっていた女性に軽めの回復呪文をかけ、剣を突きつけながら選択を迫る。
「おいアンタ! 今死ぬか、あいつと戦うか三秒で選べ!」
まるで鬼のような形相でミレーユへと選択を迫る。
もょもとと戦うのだから今は僅かでも戦力が欲しい。
どうみてもボコボコにされている彼女でも、もょもとを破る鍵を見いだせるかもしれない。
なりふり構っている場合ではない。
「断れば死ぬ」という状況を突き付け、無理矢理協力させた。
同時に吹き飛んだもょもとが起き上がり、一言だけ呟く。
「カイン、おれは生き残る。たたかうことで生き残って願いを叶える。
 本当の……真実を知るという願いを!」
至近距離の銃撃を受けたにも関わらず、もょもとの傷は腹部に散見される程度にしか残っていない。
天武の才もここまでくると人外を疑わざるを得ない。
カインは苦虫を噛みしめながら、向かってくる"人間"を見据えた。

まるであの時と同じように、三人で一人に立ち向かって行く。

ああ、戦いが始まる。
真実を知らされなかったもの。
真実に辟易するもの。
"生きたい"という意志を抱えながら。
今、衝突する。

61ハッピーエンディングじゃ終わらない ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:06:57 ID:???0


【D-7/草原/昼】

【もょもと(ローレシア王子)@DQ2】
[状態]:HP13/20、全身打撲、軽度のやけど、腹部損傷(小)
[装備]:オーガシールド@DQ6 満月のリング@DQ9
[道具]:基本支給品一式
[思考]:たたかう 生き残って真実を知る願いを叶える

【カイン(サマルトリアの王子)@DQ2】
[状態]:ダメージ(微小)
[装備]:プラチナソード
[道具]:支給品一式 不明支給品×2(本人確認済み)
[思考]:妹と一緒に脱出優先という形で生き残る もょもとを倒す

【アイラ@DQ7】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグ M500(5/8 予備弾4発)@現実、ひかりのドレス@DQ3
[道具]:支給品一式、不明支給品×0〜1(本人未確認)
[思考]:ゲームを破壊する もよりの人里を目指す(よくぼうのまち) もょもとを倒す
[備考]:スーパースターを経験済み

【ミレーユ@DQ6】
[状態]:HP1/7、全身裂傷、内臓損壊、髪が半分ばっさり
[装備]:雷鳴の剣@DQ6 くじけぬこころ@DQ6
[道具]:毒入り紅茶 支給品一式×3 ピエールの支給品1〜3 ククールの支給品1〜3
[思考]:テリーを生き残らせるために殺す 死にたくないのでカインに協力

62 ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 02:10:28 ID:???0
以上で投下を終了します。何かありましたらどうぞ。
また、改めまして期限を超過してしまったことをお詫び申し上げます。

そして毎度ながらで申し訳ないのですが、どなたか代理投下もお願いいたします。

63ただ一匹の名無しだ:2012/07/07(土) 07:03:29 ID:???0
代理投下しようとしたら途中までしか出来ませんでした。
申し訳ありませんが、どなたか続きをお願いします。

64ただ一匹の名無しだ:2012/07/07(土) 08:59:19 ID:???0
代理投下します

6564:2012/07/07(土) 09:27:05 ID:???0
>>58 まで投下できましたが、さるさん食らいました

残りどなたかお願いします

66ただ一匹の名無しだ:2012/07/07(土) 09:48:40 ID:???0
ちょっと挑んでみます

67 ◆CruTUZYrlM:2012/07/07(土) 15:09:23 ID:???O
代理投下してくださったみなさん、有難うございます。

68ただ一匹の名無しだ:2012/08/09(木) 16:45:13 ID:???0
サルったんでこちらに続きを投下します。

69自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:45:28 ID:???0

ガボに斬撃を加えた両者は、その対象が違うということを認識し、驚きの表情で固まってしまう。
そして背と腹に大きな一文字を抱えながらも、立ったままその場を動かないガボは、奥歯を噛みしめながらある呪文を唱えていた。
もとより老人を守るために攻撃を食らうつもりで飛び出していた。
しかし攻撃を受け止めただけでは、物事は解決しない。
どんな手段を取ってでも戦闘を終わらせなければ、老人の安全は確保できない。
あの女性の戦闘意欲を失わせる、あるいは戦闘不能に追い込むことが必要だ。
そんな致命傷を一撃で与える手段、自分のことを全く省みないのならばガボには一つだけ心当たりがあった。
こみ上げる血を我慢しながら、素早く口を動かして呪文の詠唱を終えていく。
その一つ一つの言葉を紡いでいくうちに、目にはいろんな光景が広がっていた。
アルスに助けてもらったこと、これまでの冒険の日々、オルゴ・デミーラを倒したこと、殺し合いに巻き込まれたこと、妙な剣に悩まされていたところに老人に助けてもらったこと。
ありとあらゆる要素が頭の中でグルグルと周り続ける。
やがてガボを中心にゆっくりと閃光が生まれ、周囲を照らすように輝いていく。
そのとき、ようやくピサロがガボを助けようと傍へ接近することができた。
それをみたガボは、もう一度最後の力を振り絞ってピサロを突き飛ばす。
これから起きる、破壊の力に巻き込まれないように。
ピサロが突き飛ばされた意味を理解する前に、ガボの呪文が完成した。
ガボの体が徐々に光を帯びていく。
その光が何か、その場にいたすべての人間が理解した瞬間。
ガボの体を中心に、弾け飛ぶように爆発した。



自己犠牲呪文、メガンテ。
命の最後の輝きが、その場にある全てを等しく、飲み込んでいく。
破壊の力が全てを飲み込んで吹き飛ばした後、ガボはゆっくりとその場に倒れ込んだ。



その顔は、笑っていた。



「何故だ……」
ガボに突き飛ばされたお陰で致命傷を免れたピサロは、急いでガボの傍に近寄る。
当然脈などあるわけもなく、斬り裂かれた傷跡は焼け焦げていた。
それだけの傷を負っているのに、まるで一仕事を終えたような笑顔の前で、ピサロはただ立ち尽くすことしかできなかった。

70自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:46:04 ID:???0



少し離れた場所で全てを見ていたミーティアは、木陰に潜むことで負傷せずに済んだ。
しかし、この場にいる誰より落ち着いていても、目の前の状況を理解できずにいた。
飛び出した少年は男を焼き払った悪であるはずの老人を庇い、その命を使って爆発を起こした。
爆発に巻き込まれたヤンガスは何とか息をしているほどの傷を負った。
ピサロを助けに来たはずなのに、結果はピサロを救うどころか考える以上の最悪の事態になっている。
自分の行動が正義だったのか? 悪だったのか?
誰が悪くて、誰が正しかったのか?
少しの時間の間に起きた事柄と、その莫大な情報量に押しつぶされそうになる。
「姫さ……ん、大丈夫……でがすか?」
傷だらけで起き上がるヤンガス。
ありとあらゆるところに火傷を作り、呼吸の音が荒々しく聞こえる。
その姿を見て、ミーティアの中で全てが炸裂する。
現実に起こった出来事という要素が彼女に圧し掛かって行く。
認めたくない、無かったことにしたい。
考えという考えがなくなり、頭が恐怖に満ちる。
そして、傷だらけのヤンガスをその場に放置し。
薄暗い森の中へと、駆けだしていった。
「姫……さん!」
森の中へ溶けていくミーティアを見届けた後、ヤンガスはようやく起きあがった。
足の一歩一歩を進めるごとに、全身に激痛が走る。
それでも、ヤンガスは足を止めない。
今、この場でミーティアを守れるのは自分しかいないのだ。
痛みどころで立ち止まっている場合ではない。
思うように動かない体を、無理矢理動かし、ヤンガスはミーティアの後を追った。

71自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:46:20 ID:???0



「……ってぇ」
ガボの体当たりによって大きく吹き飛ばされた老人は、ゆっくりと体を起こした。
カーラの攻撃をその目にとらえることに必死だった彼は、受け身を取ることすらできなかった。
背中から受け身を取らずに着地したことによりダメージは少なくはなかったが、カーラの攻撃を受けるよりかはマシだったはずだ。
「余計なことしやがってッ……!」
しかし、彼自身は別にカーラの一撃を食らってもいいと思っていた。
斬撃を加えるという事はある程度密着をする必要がある。
そこにもう一度ありったけの魔力をぶち込めば、ダメージを与えることは出来たかもしれない。
痛み分けという形にはなるが、勝てる打算はあった。
それが全て台無しになってしまった今、もう一度戦術を立て直すことから始めなければいけない。
戦況を見直し、最適の策を立てようとしたその時。
大きな爆発音が耳に届き、同時に目の前にカーラが吹き飛んできた。
その姿は服の所々が裂け、所々からは焦げた煙を出している。
肩で息をしながら血を吐く彼女が瀕死であることは、誰が見ても分かる。
攻撃するなら、今しかない。
急いで呪文の詠唱に取りかかり、氷柱や火球を放つ。
しかし、傷だらけでまともに歩くことが出来ない彼女にすら、その攻撃の数々は届くことはない。
老人の攻撃を全て避けきった後、冷たい表情で一言を突き刺した。
「何故当たらない、そんな……顔をして、いるな?」
絶えず打ち出される攻撃を避けながら、本当につまらなそうな表情でカーラは告げる。
「あの、少年が。お前を……突き、飛ばし、自己犠牲呪文、を使った理由が分かる、か?」
傷だらけのカーラが、老人へと問う。
老人は答えず、黙ったままである。
「……それが、分からぬか。なら、私には、勝てぬ」
カーラが、にやりと笑う。
今にも死にそうな姿のカーラは、老人に対して余裕を見せている。
何故か? それが老人には分からない。
煽られているとしても、本当にカーラが余裕だったとしてもここで分からせておくしかない。
もう一度、老人は手に魔力を込め始める。
「カーラァ! てめぇは、てめぇだけは俺がぶっ殺す!!」
殺意をむき出しにして、傷だらけの女へと、彼は向かっていく。
女は、その老人の姿を。



笑って、見ていた。

72自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:46:42 ID:???0



【ガボ@DQ7 死亡確認】
※メガンテによるふくろの状況などは後続にお任せいたします。

【D-4/南部森林/昼(放送直前)】

【ピサロ@DQ4】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:杖(不明)
[道具]:ステテコパンツ、不明0〜1、基本支給品
[思考]:脱出。優勝するなり主催を倒すなり、手段は問わない。

【カーラ(女賢者)@DQ3】
[状態]:HP1/8、頬に火傷、左手に凍傷、MP0
[装備]:奇跡の剣@DQ7、ソードブレイカー@DQ9
[道具]:小さなメダル@歴代、不明支給品(カーラ・武器ではない物が0〜1、キーファ0〜2)、基本支給品*2
[思考]:より多くの強き者と戦い、再び出会ったときにデュランと決着をつける。見敵必殺、弱者とて容赦はしない。
[備考]:元戦士、キーファの火炎斬りから応用を学びました。

【男魔法使い@DQ3】
[状態]:MP消費(大)
[装備]:毒蛾のナイフ(DQ6)、杖
[道具]:支給品一式 不明支給品(確認済み×1〜3) 破壊の剣@DQ2
[思考]:女賢者と決着をつける
※名前、職歴、杖の種類は後続の書き手にお任せします。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:恐怖
[装備]:おなべのふた
[道具]:エッチな下着、他不明0〜1、基本支給品
[思考]:逃げる
[備考]:エイトの安否は知りません。エッチな下着(守備力+23)はできるだけ装備したくありません。

【ヤンガス@DQ8】
[状態]:HP1/7
[装備]:覇王の斧
[道具]:支給品一式(不明1〜2,本人確認済)
[思考]:ミーティアを追う。仲間と同調者を探し。戦うものは止め、説得する。デスタムーアを倒す。

73自己満足の善意たち ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 16:54:02 ID:???0
残りの投下終了です。
どなたか代理投下をお願いいたします

74 ◆CruTUZYrlM:2012/08/09(木) 17:10:55 ID:???0
サルが解けたので投下してきました。
お騒がせいたしました。

75狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:24:27 ID:fHcM7xTs0


ばしゃり、と跳ねた水音を兆しに、竜王の身体は開放された撥条の如く躍動した。
数瞬、遅れてゼシカが見上げた空に、黒く丸い陰。
それは月でも太陽でもない、海を脅かす魔王の姿だ。

「ごぁあぁーーーっ!!」

水中から飛び出した勢いを利用し、遥か頭上へと跳躍した魔王、グラコス。
憤怒の形相を浮かべ、断頭台の刃のように巨大な穂先を振りかざして竜王へと迫り来る。

「ぬるい喃」

彼の周囲に、影が指す。
そうだというのに、当の本人は涼しげな顔だ。
嘲りに似た笑みすら浮かべている。

「なに余裕かましてるの!?」

グラコスの攻撃範囲外から、ゼシカが叱咤を飛ばした。
なにしろ魔物としてはやや小柄な竜王に対し、グラコスはおおよそ倍以上はあろうかという巨体である。
圧倒的な質量差を以ってしての攻撃、さしもの彼も受け止めるのは至難だろう。
ただし、その気は全くもって無い。


「『当てる』つもりでやっておるのか?」

ひょい、と身軽に飛び退る。
ただそれだけの所作が、グラコスの攻撃を絶望的な物とする。
このままでは地へと墜ち、陸に打ち上げられた魚のようになるだけだろう。
そう、このままでは。

「愚か者め!!」


醜悪な唇を、グラコスはにやりと大きく歪めた。
その刹那、地面と巨体が接触する。
だがその身体は地に減り込むどころか、大きく飛び跳ねて竜王へと追撃を行ったのだ。

「むっ!?」
「『殺す』つもりで!!やっておる!!」

尾びれを地へと激しく叩きつけ、巨体を前へと跳ね飛ばしたグラコス。
宛ら飛行するかの如く、水平に跳んだ姿勢のまま構えられた槍は竜王の首を狙っていた。

「ぐっ……!!」

76狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:24:58 ID:???0
「ぐぬっ!?」
「今度はこちらが行こう」



拳を固めた竜王が、その揺らぎを突破して躍り出る。
魔王の膂力から放たれた拳が、鞠のように膨らむ腹部に突き刺さった。
ずぬりと、減り込んだ一撃にグラコスは顔を歪める。

「む」
「げばっ!!」

竜王の拳撃に吹き飛ばされ、グラコスは湖面に激突する。
激しい水柱が立ち上り、通り雨のように水滴が周囲に散った。

「ふむ……」

竜王は思案する。
たった今の一撃で、グラコスを相手にするという不利に感づいた。

(余裕をかましては見たが、ジリ貧かもしれん)

先ほどのベギラマは密着状態にあり通用した。
しかし、濡れた身体に加え奴は氷の息での相殺を図ることで、炎の直撃は避けている。
同じ手を何度も食うほど愚かでは無いだろうし、呪文は有効な攻撃手段にならない。
先ほどの攻防でこっそりとラリホーを唱えたものの、効力を発したようにも感じない、耐性があるのだろう。
故にこちらの手札が、今は相手の攻撃タイミングに合わせての打撃に限られている、しかし。

(打撃が通り辛いのは厄介じゃ)

弾力性に富む身体に弾き返されてしまう。
斬撃を食らわせてやりたいところだが手持ちの武器の剣は抜くことが叶わないし、あいにく手札が無い。
爪による刺突でどうにかなるか、と正拳から貫手にするかと思案したところ。
違和を感じ取った。

「逃げた、か……?」

グラコスが水面に顔を出さない。
まさか待てば水辺に近寄ると思っては待ちぼうけているまい。
いったい相手が何を狙っているかを考え、そして一つの結論に行き当たる。

「!しまった……!!」


竜王は自分の誤算に気がついた。
先程からの攻防で、距離が離れてしまっている。
この状況で奴が確実に狙うとすれば自分ではなく─

「離れよっ!!!」
「きゃぁっ!?」

竜王の言葉に、湖から退こうと踵を返した彼女の目の前。
まるで間欠泉のように水柱が吹き上がった。

77ミス こっちが↑より先  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:26:11 ID:???0
「ちいっ!!避けおったか!」

竜王が纏う衣の肩口が裂け、弾けるように鮮血が飛ぶ。
身を捩っての回避はタイミングも何もかも絶妙であり、褒める他は無いだろう。

「ぐぶぶっ…!」
「なっ……」

槍を構え直すと、飛び出していたグラコスは大きく息を吸い込んだ。
遠目でその光景を見ていたゼシカは、その変容に思わず息を呑む。
巨体はぷくーっと大きく膨れ、まるで河豚か針千本のように丸みを帯びる。
風船が弾むようにしてグラコスの身体は大きく跳ね上がり、その反動で再び湖へと舞い戻った。

「ぷふぅー……」

空気を吹き出してぷかりと水面に浮かび、取り戻した余裕を振り翳す。
海の魔王の名は決して伊達ではない、地上でもその脅威は失われないのだ。

「げはっ!げはははっ!驕りが過ぎるぞ、竜の王!!」
「……」
「竜王っ!」





動かぬ竜王にゼシカは不安を覚える。
傷は深かったのだろうかと。
だがすぐに言い知れぬ怖気に襲われ、全身が硬直する。
杞憂だった。
この考えは、あまりに杞憂に過ぎた。
グラコスは確かに恐ろしい。
だが、目の前の竜王もまた。

「あー、その鈍らで斬るのはよしてくれんか?」
「なっ!?」

ごきり、と首を傾け肩を回す。
その何気ない姿にすら、ゼシカは畏れを抱かずにいられない。
魔王の槍をも通し斬らぬ、強固な守備。
当然、彼もまた 魔の長なのだ。

「半端に痛がるのも、面倒くさい。かといって無下にするのも気の毒じゃ」
「こっ……」

グラコスの顔色が、みるみるうちに憤怒に染まる。
竜王の口元に、隠し切れない笑みが浮かんでいたからだ。

「─格上に気を使わせてくれるなよ?」
「こぉぉぉぉの!!!腐れドラゴンがーーーーッ!」

怒りに駆られたグラコスは凍りつく息を吐き出した。
幻想的な輝きを生み出すとともに、圧倒的な破壊力を孕んだブレスが竜王目掛け襲い来る。
が、翳した掌から迸る閃熱が炸裂した。
温度差により、景色は陽炎が生まれたかのように大きく揺らぐ。

78狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:28:48 ID:???0
*****


この陰鬱とした雰囲気を孕んだ世界の湖にしては、ひどく澄んだ水だ。
そういう印象を、水底から空を見上げたゼシカは抱いた。

「〜〜!」
「そう暴れるでない……悪いようにはせんぞ、ぐははっ」

グラコスの槍を握る手とは対の手。
ゼシカの華奢な腰が、拘束されていた。
湖に叩きこまれたグラコス、あの僅かな間に湿地を掘り進みゼシカの眼前までトンネルを突き掘ったのだ。
恐るべき泳ぎの速度と獲物があってのみ成し得た技。
さしもの竜王も読みきるのが遅れ、この結果を招いた。

(っ、この…!)

しかし、力を込めればくしゃりと折れてしまいそうな彼女の身体はその形を保っている。
女性に対し、存外グラコスは丁重に扱っているようだ。
もっとも、ゼシカはそんな感情を抱くより嫌悪が先立った。
恐らく世界中のどんな聖人君子たる女性であろうとも、そう思わずには居られないだろうとまでも思う。

「お前をダシに、あ奴を這いつくばらせた後……わしがたっぷりと可愛がってやろうぞ!!」
(離れなさいよ!へちゃむくれ!!)

なにせ、この巨大な顔面が接吻射程範囲とも言えよう目の前にあるのだから。
おまけにどういう理屈か、こちらは口一つ聞けないのに、あちらは水中で口を利くのだ、それもねちっこい口調で。
一刻も早く逃れたかったが、両手を身体ごと拘束され身動きが取れそうにない。

(……りゅう、おう…!)

助けてとは言えない。
なにせ先ほど、嫌というほど畏怖を感じた対象だ。
このグラコスの手の内から救い出されたとしても、それは魔王から魔王へのバトンパスにすぎない。
自分が闇を秘める存在の、掌の上から逃れられるわけではないのだから。

「ブクルル……!来おったな……!!」

79狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:29:35 ID:???0


だが。
竜王は、来た。
相も変わらず不敵なままに。

「ようこそ!!そして死ねぃ!!ここが貴様の墓場となろう!!」

槍を構えてグラコスが泳ぐ。
その動きは先程までの地上戦とは、比べ物にならないほどの速さだった。
空を飛翔するドラゴンに喩えるのが相応しいほどのそのスピードに、掴まれたままのゼシカは翻弄される。
そして凄まじい加速のその刺突を、身動きの取りづらい水中で竜王は─



『自分の土俵が恋しくなったか、ヒキガエル』
「!?」

受け止めた。
槍の刃先はその身体に喰らい込み、確かに血は流れている。
だが柄を抑えた姿勢のまま、負傷も感じさせない様子で、彼は告げるのだ。
目の前のグラコスに"忠告"を。
危険を察したグラコスは飛び退るように泳いで、距離を離した。


『いいか?一言だけ言っておく』


水中で深紫のローブがゆらゆらと揺れる。
こちらにぴたりと向けられた指先も、恐ろしい形相も相成り、まるで水辺の幽霊のようだ。
だが、こうも勇ましき幽霊が存在しまい。
それにこんなに自己主張の激しい幽霊も居まい。


『その娘はワシのじゃ。丁重に扱え、というか離せ』


(……魔族の喉と頭ってのはどうなってるのよもう)

ゼシカは苦笑した。
異性に取り合われてこんなに嬉しくない瞬間なんてあるのかしら、と。


*****

80狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:30:20 ID:???0
大見得を切って戦いに挑んだのは良いものの。
ここは水中、炎の呪文さえも縛られた状況は間違いなく劣勢だった。
槍が、そして泳ぎにより生まれる水流。
それらは竜王の体力をじわりじわりと奪いゆく。

「先ほどまでの大口はどうした!?げははっ!」
『!』

グラコスが持っている武器を激しく振り回す。
竜王が手練とて、防ぎきる事は叶わない。
手傷を負い、澄んだ水には竜の血が混ざる。
確かに攻撃は届いているがここはグラコスの支配する水中という名の領域。
攻撃の速度も鈍っている、決定打には程遠い。

「それそれそれいっ!!」
『ぐ……!』

グラコスが渦を描くように竜王の周囲を泳ぐ。
水の流れはうねりを描き、身の自由を封じていった。

「急がねばこの娘も!貴様も!仲良く水の底ぞ!!」
(う……っ!!)

加えて人質を取られている、おまけに息も限界が近い。
まさに絶体絶命であった。

(なんとかし、なきゃ……)

意識が遠のきそうな最中、ゼシカは身を捩る。
自分にできる精一杯の抵抗を行うため。
両手は封じられた。
呼吸もできない。
ならば最後の手段が一つだけ残されていた。

(〜〜〜っ!やるしか無い!!)
「ぐむっ!?」


グラコスの視界が突如塞がれる。
その顔は柔らかい感触で満たされた。
彼女の豊満な胸部を、隙を見て顔面に押し付けたのだ。
端的に言うとゼシカはグラコスにぱふぱふをしてあげたということである。
グラコスはきもちよさそうだ。

81狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:31:02 ID:???0

音も聞こえぬ水の中。
戦う両者の動きすら静止し、まさに時が止まったような状態となる。

(ゆるんだ!!)

傾いだグラコスの顔を力いっぱい蹴り、ゼシカは浮上する。
やっと自由になった両手で胸を隠して人生最大級のあかんべえをかましながら、彼女は自由を手にした。

「……ふがっ!?し、しまった!!」

もう彼女の姿が湖面から出ようか、というところでやっと意識を取り戻したグラコス。
慌てて追おうとして藻掻いた尾鰭が、突如尋常でない力で抑えつけられる。

「!?」

掴んでいたのは竜王。
ただ、先程までとは一瞬、別人と見紛うほどの変容を遂げていた。
額に青筋、形相は般若も真っ青になるほどの険しいもの。
子供どころか魔物が見ても泣きそうになるものだった。

『醜き化性が、水底に這い蹲っておればいいものを─』

メリメリと音を立て、竜王の存在が膨れ上がって行く。
ドラゴラムとはまた違う、その祖となった真の姿への形態変化だ。
この姿を出す、ということは本気も本気ということ。
魔の長がたった一人の人間の女のために何を、と笑うことなかれ。
竜王の『とある矜持』を、グラコスは十二分に傷つけていたのだから。
いわば、竜の逆鱗を揺り動かしてしまった。
その代償は大きい。


『グルァアアァァーーーーッ!』
「わっ!?」

地上で呼吸を整えていたゼシカは腰を抜かした。
湖から、深紫色の鱗を持った竜が上半身を現したのだ。
小規模な波に攫われそうになるも、なんとか荷物を抱えて近くの岩に身を隠す。
よく見れば、その手にはグラコスが逆さ吊りにされている。
巨竜は目の前にそれをぶら下げながら、睨みを効かせこう叫ぶ。




『あの胸はワシのものじゃあああああああっ!!!』
「ぎええええええっ!!」
『 弁 え よ ッ !!』
「ぐばっ!?」




非常に低俗な主張を声高に叫びながら、哀れな魔王を湖底に叩きつけ、踏みつけた。
ゼシカが言葉を失ったのは言うまでもない。

82狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:32:15 ID:???0
*****


グラコスを撃退し、早々に二人は湖から離れた。
負傷した状態での急な変身により竜化が早々に解けてしまったため、生死の確認がとれていないのは痛手だったが。
ともかくかなりの時間を費やしてしまったものの、ようやく当初の目的である地図上で言う絶望の町というところを目指し歩みだした。

「まったく、まだ腹の虫が収まらんわ。あの潰れた面を焼いて溶かしてしまいたいというに。湖ごと蒸発させれば良かったわい」
「この状況でケンカ吹っかけないでよね、実際少しピンチだったんでしょ?」
「ぬ……まぁ、の」

攻撃を一身に受け続け、いかに頑強な竜の身体も負傷は色濃かった。
ゼシカは支給品の中から上やくそうを取り出し、差し出しつつはにかんだ。

「理由はどうあれ、助けてくれたのはありがとう。傷、ちゃんと治してね」

確かに目の前の存在は恐ろしい、それは変わらない。
だが、先ほどのグラコスとは根底から違う、僅かながら感じたその思いを─
ゼシカは信じたかった。

「……ゼシカよ」

受け取った竜王の顔がほころんだ。
そしておもむろに両手を広げる。

「濡れた髪や張り付いた服というのもまた一興」
「シリアスを保ちなさいよ!!緊張感ふっ飛ばしすぎだってば!!……っくし!」
「いかん、寒かろうゼシカ」

彼女のむき出しの肩に、そっと竜王は手を添えた。

「服を脱いで乾かさなくてはな」

鼻の下を伸ばした竜王に、ゼシカは頭を抱える。
ああ、手を出すのも気が引ける、どんな言い訳とツッコミでこの場から逃れようか、と。
足取りが重たいのは、水を吸い込んだ服のせいばかりではなさそうだった。

83狙われた乳  ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:32:27 ID:???0

【E-3/湖岸南部/昼】

【ゼシカ@DQ8】
[状態]:健康 体力消耗 羞恥 ずぶ濡れ
[装備]:さざなみの杖@DQ7 
[道具]:草・粉セット(※上薬草・毒蛾の粉・火炎草・惑わし草は確定しています。残りの内容と容量は後続の書き手にお任せします。
     ※上やくそう1/2(残り1つ) 
     基本支給品
[思考]:仲間を探す過程でドルマゲスを倒す。最終的には首輪を外し世界を脱出する
     服を乾かしたい


【竜王@DQ1】
[状態]:HP3/10 MP8/10 竜化により疲労(大)ずぶ濡れ
[装備]:なし
[道具]:天空の剣@DQ4、キメラの翼@DQ3×5、基本支給品
[思考]:①ゼシカと同行する。最終的にはデスタムーアを倒し、世界を脱する。
 ②今のゼシカを目に焼き付けたい




【E-3/湖の底/昼】

【グラコス@J】
[状態]:???
[装備]:グラコスのヤリ@DQ6
[道具]:ヤリの秘伝書@DQ9 支給品一式
[思考]:ヘルハーブ温泉・湖周辺にて魔王としての本領を発揮していいところを見せる。
    デスタムーアの命令には従いつつも、蘇ったのでなるべく好き勝手に暴れたい。
[備考]:支給品没収を受けていません。水中以外でも移動・活動はできます。

84 ◆2UPLrrGWK6:2012/09/02(日) 13:33:42 ID:???0
投下完了です。
ご覧の方いらしましたら、どうか代理投下をお願いいたします。

85ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 20:22:41 ID:???0
代理投下やってみます

86ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 20:35:15 ID:???0
本当に申し訳ございません

>>76>>77より先に投下してしまった上、>>77を書き込めませんでした

87ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 23:44:59 ID:???0
これは最初から投下しなおしてみた方がいいかな? ちょっとやってみる

88ただ一匹の名無しだ:2012/09/02(日) 23:56:37 ID:???0
代理投下終了しました

89ただ一匹の名無しだ:2012/09/03(月) 00:16:03 ID:???0
乙です

90 ◆2UPLrrGWK6:2012/09/03(月) 01:03:13 ID:???0
代理投下ありがとうございました。
私のミスが混乱を招いたこと申し訳ありません。

91 ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:02:15 ID:???0
予約は破棄しましたが、書きあがりましたので今から投下させていただきます。

92零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:12:54 ID:???0



「英雄」というものは誰の記憶にも輝かしく映る。
その功績を称えられ、光り輝く戦士として後世にも語り継がれる。
やがて伝説となり、文面や伝聞のみの存在となってもその輝きは失われることはない。

「その淡い光を放つ存在が、ゴミだと分かる日がいつか来るさ」
そう言ったのは、どこの誰だったか。



轟音が、暗い空に響き渡る。
その音の正体は、たった一人の少女だ。
一歩踏み込み、腰を深く落として、片腕を真っ直ぐと突き出している。
普通の武闘家なら、なんてことはないただの一撃だ。
だが、この少女にとってはそんな「普通」さえも変貌する。
踏み出した右足の地面は大きくひび割れ、突き出した拳からはどういうわけか煙が立ち登っている。
そして、その一撃を食らって吹き飛んでいる者が誰かというと、かつて世界を支配しようとしていた竜族の子孫である。

たった一撃、されど一撃。
竜族の子孫の肉体があちらこちらから悲鳴を上げ、人のものではない肉が破裂して暗色の血を撒き散らす。
激痛に耐えるため、地面に這い蹲りながら全身を悶えさせる。
そんな竜族の様子を、少女は本当につまらなさそうに見つめる。
「はあ……まだ二撃しか加えていないというのに。
 あなたそれでも竜族ですの? 不甲斐ないにも程がありますわ」
腕を組み、溜息を一つ漏らす。
よろよろと起き上がる竜族に向ける視線は、極寒の大地よりも冷たい。
「何故だ、何故勇者の一行ともあろう者が。このような殺し合いに乗じているのだ」
「勇者? 何か勘違いしていますわね」
理解できないといった表情を浮かべる竜族に対し、少女はつらつらと語る。
「ゾーマを倒したのは世界救出でもなんでもなく、世界を掌握しようとするアレルにとっての障壁であり、私たちにとって力が試せる最大の敵だっただけ。
 そして、私は勇者でもなんでもなく、ただの一人の人間。闘争を楽しみたい一人のしがない武闘家ですわ」
口から零れだすのは、強烈な真実。
彼女の生きている世界の、遠い遠い遠い未来で描かれている史実とは全く違う事実。
それは、あまりにも残酷で。
竜族の知っていた事実、理想、全てをズタズタに引き裂いていった。
「伝説の勇者だとか、祭り上げるのは構いません。でも私たちにもやりたいことや、夢がある。
 それを邪魔する権利なんて、未来の存在であろうと誰であろうとありませんわ」
一口に言い切り、リンリンは大きく溜息をついて頭を抱える。
竜族は動かない。たったいま突きつけられた絶望が、強烈すぎた所為か。
「全く私の夢だというのに、なんでこんなことを……さぁ、立ちなさい。
 貴方は私の夢、私を満足させてくれる存在なのだから。立って戦いなさい」
真実を突きつけた少女の顔は変わらない。
その真っ直ぐな目が追い求める、闘争という目の前の快楽を掴むため。
拳を、構える。

93零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:13:49 ID:???0



「ちょっと、大丈夫!? ここであんたに死なれちゃいろいろと困るわよ!」
「ったく、少しくらい黙るとかできねえのかよ……お前が暴れてなきゃもうちょっと楽にここに来れたんだけどな」
ヘルハーブ温泉の中央に位置する洞窟に入り込んだ二人は、到着するや否や口喧嘩を始めた。
その原因は、内部に入った途端にテリーが倒れこんだことである。
ただでさえリンリンとの戦いで体力を消費しているのに、マリベルを抱きかかえながらこの温泉を移動したのだ。
連続する体力の消耗に、いくら歴戦の戦士といえど耐えられたものではなかった。
そうしてふらりと訪れた目眩に誘われるように、テリーは入り口で倒れこんでしまった。
それを切っ掛けとした口喧嘩を繰り広げながら、テリーは一人でゆっくりと起き上がる。
「ちょ、ちょっと。どこへ行くのよ!?」
「当たり前だろ、探索しに行くんだよ。この場所が安全とも限らない。
 いつまでもここでボーっとしてれば、アイツが来るかもしれないしな」
先ほどまで交戦していた女武闘家のことを思い出し、ふらつく体を無理やり働かせてテリーは内部の探索を始める。
体力を費やしてまで辿り着いた隠れ場所を自ら無駄にしないためにも、入り口からは早々に離れなくてはならないのだ。
「もう、待ちなさいよ! ちょっとは人の話聞きなさーい! このスカポンタン!!」
ロッシュ達と旅している間にはなかった騒がしさを背に受けながら、テリーは洞窟の内部へと足を勧めていく。
もし洞窟内部に人間が居れば、一段と響き渡るマリベルの声で自分達がこの場所に足を踏み入れていることを察しているだろう。
最悪中の最悪のケース、それを頭にしっかりと置きながらテリーは進む。
テリーに何を言っても無駄だと悟ったのか、ようやく静かになったマリベルも力強く足を進めていく。

94零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:14:02 ID:???0

「へいへいへ〜い、俺ァ英雄ホンダラだぁ〜。
 かーっ、もったいぶってねえでさっさと宝を寄越しやがれぇ〜、エック」
黙々と足を進めていくうちに見つけたのは、片手に酒瓶を持ち井戸の周りをふらふらと彷徨う酔っ払いだった。
僅かに生えた草を毟っては、酒を飲み。
何もない井戸の周りを調べては、酒を飲み。
井戸に向かって盛大に吐いては、酒を飲み。
洞窟に現れた二人の侵入者のことなど意にも介さず、井戸の周りを愉快な足取りでグルグルと回っている。
中に居る人間が殺人鬼であるという最悪のケースは免れた。
しかし殺し合いの最中で盛大に酔っ払う人間に出くわすとは、流石のテリーでも考えていなかった。
「最ッ悪……」
後ろからようやく合流したマリベルが、大きな溜息と共に頭を抱える。
「……知り合いか?」
「ま、そんなとこ」
マリベルにしては珍しく歯切れの悪い回答である。
どこかバツの悪そうなマリベルに問いかけるよりも早く、違う声がマリベルを捉える。
「おお〜っ、誰かと思えばマリベルじゃねーか!
 あのデスタムーアとか言うのも、またおめーらがビシッと一発シメてくれんだろ?」
こちらの存在にようやく気がついた酔っ払いが、テリーをグイっと押しのけてマリベルに近寄る。
何か期待するかのような眼差しを向けながら、マリベルに話し続ける。
「さっきも来たぜェ〜、魔王をぶっ飛ばすってヤツらがな!
 お前もあいつらと一緒に魔王をぶっ飛ばすんだろ?
 んなら俺ァここで酒でも飲みながら、それを待ってりゃ大英雄って訳だ!
 この手にゃ宝もあるし、一石二鳥どころか一石億鳥だぜぇ!」
「ちょっ、酒臭ッ! 一体どれだけ飲んでるって言うのよ!」
常人では考えられない量のアルコールを含んだ吐息に、思わずテリーとマリベルを鼻を覆ってしまう。
「そぉ〜だ、お前らなんかいいもん持ってねぇか?
 俺が英雄になった暁にゃあ、お前らも仲間として語り継いでやってもいいぞぉ〜」
「なっ、いい加減にしなさいよこの酔っ払い!」
迫りくる手をマリベルは少し強引に引き剥がす。
それでもホンダラはお構いなしといった表情で酒を一口グビりと飲みながら、マリベルに絡み続けていく。
「あんだよぉー、ツレねぇなぁ〜。ちょーっと高値で売れるモンをくれって言ってるだけじゃねえかよぉ〜」
「ったく相変わらずどうしようもない……ちょっと、テリー! 見てないで何とかしなさいよ!」
押しのけられたついでに、害の及ばない遠距離からその絡みを見ていたテリーに、マリベルは助けを請う。
「勝手にやってろ」
「ちょっとーっ!!」
だが、現実とは残酷なもので。
呆れ返ったように冷ややかな目線を向けたまま、テリーはマリベルから目を逸らした。
「いーやー!! 誰か助けてぇー!!」
温泉内部の洞窟に、乙女の叫びが響き渡って行った。

95零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:14:36 ID:???0

目覚まし時計に拡声器を添えたかのような騒音を背に、テリーはあることを調べていた。
酔っ払いが嘔吐する受け皿に使った井戸。
賢者たちが嘆きの牢獄に大穴を空けるまでの間、自分たちが狭間の世界から抜け出す際に用いていた井戸だ。
恐らくデスタムーアの手下が現世に舞い降りるのに用いられていた通用口だったのだろう。
あの世界を支配しようとするデスタムーアとしても必要な"裂け目"だったのだ。
絶望で心が満たされた人間が逃げ出さないように、体力を奪うあの温泉を回りに配備しておくことで、逃げ出そうとする人間を腑抜けにする。
デスタムーアの策としては完璧、これで絶望に満ちた人間達を自分の世界に閉じ込めておくことが出来る。
今……どう控えめに見ても体力も戦闘能力もなさそうで、酒を飲んでいるだけのグウタラオヤジがこの場にいることが引っかかるが、イレギュラーとして思考の外に置く。

この前提を踏まえたうえで、今回の場に置き換えて考えていく。
恐らく、この場には殺し合いの参加者達しかいない。
目の前のオヤジのような人間がいるにはいるものの、大体の参加者はロッシュやハッサンを筆頭に屈強な者たちがメインだ。
ある程度の体力さえあれば、ヘルハーブの温泉を乗り越えることは出来る。
「狭間の世界に到達するわけがない」「絶望に飲まれて死に絶えるに違いない」
などとタカを括っていた前のデスタムーアならともかく、一度倒された身の彼が、こんな簡単な場所に脱出経路を置いておくだろうか?
それこそデスタムーアを知っている人間なら、経験からこの場所に辿り着くのは簡単なことだ。
苦労する事といえば、ヘルハーブを乗り越えることぐらいか。

「待てよ……?」
その逆。
ヘルハーブの井戸が異世界と繋がっていることを知っている者を利用した、巧妙な罠だとしたら?
あえて次元の裂け目と思わしき物を残しておくことで、何かしらの罠へ誘っているとすれば?
可能性は0ではないどころか、グイグイと上がっていく。
「脱出が出来る!」と甘い考えを持つ者たちを、絶望の奥底へと叩き込んでいく。
デスタムーアがそれを目論んでいる可能性は十分にある。
甘い希望を抱いてこの井戸に飛び込むのは、向こうの思う壺かもしれない。

96零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:14:47 ID:???0

ここで落ち着いて考え直してみる。
一つ、この井戸がここではないどこかと繋がっている。
一つ、この井戸が始めの場所と繋がっている。
一つ、この井戸がなんらかの罠である。
一つ、ただの底の深い井戸である。

最初のケースならば、この井戸に飛び込めば殺し合いの場から脱出することはできる。
ただし魔王デスタムーアは存命しているし、首輪が爆発せずにその形を保っていられるとは限らない。
かなり危険な賭けだが、条件さえ整えば最高の逃走手段になるだろう。
二つ目のケースは最悪だ。
出現する場所はあの魔王の目前であることは確かであるし、脱出を目論んでいることもその場でバレてしまう。
まず、命は無いと思った方がいいだろう。
三つ目のケースは危険だ。
何が待ち受けているか全く読めない以上、危険性は二つ目のケースの次に高い。
だが罠を美味く掻い潜ることが出来れば、向こうの手段を何かしら利用することは可能かもしれない。
四つ目のケースはある意味一番のハズレだ。
ただの井戸、潜って身を隠すぐらいしか出来ない。
何もデメリットがない変わりに、メリットもない。

可能性を無限に孕んだ井戸を、ゆっくりと覗き込む。
見るだけで吸い込まれそうな漆黒が視界には広がるだけ。
酔っ払いのゲロも、一滴の水さえも自分の目には映らない。
やはり見るだけではこの井戸の正体など、掴むことは出来ない。
今この瞬間に飛び込んでいくのは、あまりにも危険すぎる。
そう結論付け、マリベルの方へ意識を向ける。
「なぁ〜マリベルよぉ〜、ケチケチしてんじゃねえよ〜。
 持ってんだろぉ〜、スッゲーお宝よぉ〜」
思考の網を張り巡らせているうちにも、酔っ払いはマリベルに絡み続けていた。
傍から見れば手つきは変態のそれそのものの、少女に執拗に迫る中年男である。
この光景が何時までも続いてマリベルの悲鳴をひたすら聞き続けるハメになる前に、手を打とうとテリーが足を踏み出していった時だった。
「い・い・か・げ・ん・に……しろっ!!」
なんとか手を上げずに堪え忍んでいたが、その声と共に堪忍袋の緒がブチっと切れる音がする。
もう一度体を大きく捻り、絡みつくホンダラの手を振り払い、大きくよろけたところを見逃さず。
一片の迷いもなく、握りしめた拳を突きだし、ホンダラの顎をめがけて振り抜く。
小気味のいい音と共に、ふわりとホンダラの体が浮き上がる。
そして綺麗な放物線を描き、受けた力に抗う事なくゆったりと落下し。
「あ」
二人の間抜けな声が重なりあった瞬間に、ホンダラは吸い込まれるように井戸の中へと落ちていった。

97零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:15:23 ID:???0



「真実とは、残酷なモノだな」
「は?」
リンリンが立てと命じたはずの竜族は、地に伏しながら小さくつぶやく。
その不可解な言葉に思わず声を漏らしてしまう。
「勇者も、救世主も、英雄も、そんなモノなど居はしなかった。
 自分たちの都合のいい存在に対し、その名を付けて持て囃しているだけではないか」
誰に命じられたわけでもない、自らの望みを叶える上で邪魔だったからその存在を打ち倒したまで。
周りの人物にとっては都合のいいその存在に対し、聞こえのいい言葉をつけて持ち上げているだけ。
いつしかそれは、綺麗な虚像へと変化し、人々の希望を一心に抱えた夢の英雄だと語り継がれていった。
そして虚像の追い求める人間に、人生すべてを奪われた数人の若者の存在を、この竜族は知っている。
「あやつらがこの事実を知ったら、耐えられんじゃろうな……じゃから」
もし、実像だと思いこまされてきた偉大なる先祖様が虚像だと判明したら?
実際にはこういう人間で、別に世界を救おうとは殆ど思って居なかったとしたら?
その虚像を現に落とし込むために、私情も何もかも捨てて生きてきた若者たちがどうなるか?
考えなくても、竜族には手に取るように分かる。
「ワシが止める!」
顔を上げ、リンリンを睨み返した後に大きく吠える。
体の細胞がうねり、その性質を変化させていきながら一つの形を作り上げる。
アレフガルドの地に伝わる、竜族の真の姿。
人の数倍にも及ぶ巨竜の姿は、全てを焼き尽くす炎と全てを掌握せんとする力を持つと言われている。
気迫溢れるその姿が、あたりの空気を振るわせていく。
「使うことはないと思っていたが、まさかこんなところで使うことになるとはな……。
 おまえとは違う、偉大なる先祖の兵法と戦の心得、その身に刻んで行けい!!」
巨竜の剛腕が、目の前の少女に向けて振り抜かれていく。
一般人からすれば即死は免れない勢いの腕を視界に捉えながらも。
リンリンの表情は、凍り付いていた。
「ヌルい」
巨竜の腕がはじき返される。
地面を抉り取るような大振りの一撃が、小蠅をあしらうかのような軽い動きに止められていた。

98零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:15:36 ID:???0
「あなた、戦いの場に立ったことがありませんわね?
 子供のような戦い方、力に腰が入ってませんわよ?」
一歩引き、拳を構える。
腕をはじかれたことを理解した巨竜が、炎を吐く構えに入る。
リンリンは動かず、巨竜の次の一手を待った。
「あなたこそ、目に焼き付けなさい。
 力とは、こう振るうものですわ」
全てを溶かし尽くすような炎が、巨竜の口から溢れだした時、リンリンはそうつぶやいた。
そして、炎はリンリンを包み込んでいく。
服は炭と化し、肉が焼け、やがてそこには骨が残る。
そう、普通ならば。
「未来に苦しんでいる人間が居る? 私たちのせいで?
 知ったことではありませんわ、いちいち自分の死に果てた後の未来のことまで考えられる訳がありませんわ。
 自分の人生、自分の好きなように生きて何か問題でもありますの?」
巨竜の耳に届いたのは、地面が大きく砕ける音と、聞こえるはずのない声。
炎の中を突き抜けながら、リンリンはまっすぐとその手を巨竜の腹部へと突きだしていった。
爆発的な加速力、まるで弾丸のような一撃を巨竜の腹部に叩き込んでいく。
「現状を打破するだけの力がなかった、その方たちが弱かっただけ。
 弱者というのは得てして何かのせいにしたがりますわ。
 わからないこともないですが、私を巻き込まないでくださります?」
よろける隙間すらを与えず、一撃の後に巨竜の頭へと飛びかかる。
ようやく痛みを認識し、身を悶えさせようとした巨竜の動きよりも早く、リンリンは全身を使って巨竜の首を捻らせる。
ゴキャリという骨が曲がるような音と共に、巨竜の顔は明後日の方向を向き、力なく倒れていった。
「全く、キテレツな夢ですわ。私の心が弱いのがいけないのかしら。
 もっと鍛練を重ねなければいけませんわね」
巨竜は力なく地に倒れ伏し、物言わぬ屍と化した。
その姿に一厘の興味も向けず、彼女は黙々と荷物だけ奪い去って行った。
その時だ、彼女の視界にあるものが映ったのは。
「おや……?」
何の変哲もない、ただの道具。
でも、巨竜の荷物を回収する彼女の意識に割り込むように映った道具。
光っていないはずなのに輝いて見えたそれを拾い上げ、彼女は小さく腕を振るった。



しゃらん。

99零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:15:57 ID:???0



沈黙。
吸引力が違うとでもいわんばかりに、一人の中年が井戸に誘われた。
偶然と偶然がかみ合い、とんでもない事態を引き起こした。
「……音は聞こえないな」
未だに固まって動かないマリベルをよそに、テリーは冷静に状況を判断する。
盗賊として鍛えた耳を澄ましても、何かの音は井戸からは聞こえなかった。
井戸の奥底がかなり深い、あるいは井戸の底にある程度広い空間が確保されているか。
"底がない"という可能性のケースだったときが若干厄介な程度か。
「イザと言う時の逃げ場くらいにはなる、か……?」
「ねえ、アンタ今の状況分かってんの!?」
冷静に場を判断し、イザと言う時の予定を立てていたテリー。
その様子が悠長に過ごす青年のように見えたのか、マリベルは若干声を荒げてテリーに歩み寄る。
「そりゃあ、いざって時に備えて逃げ道ぐらい調べとかなきゃマズいだろ」
「そうじゃなくって!」
思いっきり地面を踏みつけて怒りを露にするマリベル。
その口が開く前に人差し指を伸ばした手を添える。
「分かってる、分かった上でそうやってるんだよ」
何が? という声を出す前に、テリーが押さえ込むように言葉を続けていく。
「起こってしまったことは変えられない、それを受け止めた上でどう動くかが重要だ。
 やってしまったことはしょうがない、酔っ払って絡んでたアイツの自業自得だとは思うし、お前を責めるつもりもない。
 お前は自衛のためにぶっ飛ばした、そしてアイツは井戸に落ちた、それだけだ。
 だから、次に備えて動いていくことが大事に決まってるだろ?
 過ぎたことに一々ウジウジ悩んでたら、前には進めないからな。
 それとも何か? ぶっ飛ばされても文句は言えないレベルで絡みに来た奴をぶっ飛ばして起きた事故に、態々立ち止まって悔やむつもりか?」
マリベルに喋る隙間を与えないよう、畳み掛けるように口を開く。
思うところがあったのか、人を突き飛ばしてしまったという事実に怯えていたのか、なんにせよマリベルは平常ではなかった。
テリーに慰めの気持ちがあったかどうかはわからないが、テリーの言葉によってマリベルは落ち着きを少しずつ取り戻していく。
「……それもそう、ね」
止まっている時間などない、起きてしまったことは変えられない。
そう言い聞かせるように頬を叩いてから前を向き、テリーの手を取ろうとした時。
突き刺さるような闘いの気が彼女達を揺らした。
「なっ、なによコレ?!」
全身から汗が吹き出るプレッシャー、蛇に睨まれたかのように動けず、立ち止まる。
しかも、その気を放つ存在は着実にこの洞窟へと向かってきている。
この気を放つ存在に心当たりはあるものの、先ほどとは段違いの気にテリーですら足がすくみ始めている。
どの道、この場に留まれば「アレ」の餌食になるのは見え見えだ。
先ほどの状態でギリギリ五分、今の状況ならマリベルがいたとしても大幅に不利であることは分かる。
そもそも「闘う」という部隊に立たせてくれるかどうかすら分からない。
「袋の鼠かッ!」
外に出ればヘルハーブの湯が待っているし、この洞窟はここで終着点を迎えている。
「アレ」がこの洞窟に気がつかない訳もないだろう、あの戦闘力があればヘルハーブを突っ切ることも容易だろう。
ヘルハーブに浸かりながら戦闘が出来るとも思えないが、向こうにとって洞窟の中は最高の舞台。
ここで闘えば一瞬で決着がつくことすら考えられる。
「クソ……!」
ギリリ、と歯を軋ませる。
恐怖の瞬間は、確実に近づいていた。

100零の牙を衝き立てろ ◆CruTUZYrlM:2012/09/04(火) 00:16:16 ID:???0



しゃらん。
たのしいタンバリンの音が鳴り響く。
しゃらん。
その音は愉快な気分にさせてくれる。
しゃらん。
気持ちがいいからもう一度鳴らしたくなる。
しゃらん、しゃらん、しゃらん。
「不思議な感覚……でも、悪くない。むしろ開放感すらある……心地の良い夢ですわ」
人を殺す感覚とは違う、新しい快感に満足している。
その間も人間の潜在能力を引き出すタンバリンが、鳴り響いていく。
一音一音が人間の脳に作用し、精神的高揚をもたらして肉体的能力を引き出していく。
それを爆発させるその時を待ちながら、リンリンはタンバリンを鳴らしながら温泉内へと入っていった。
鳴り続けるタンバリンがまた一段、また一段とリンリンの心を高まらせ、快感を与えていく。
「おや?」
温泉に一歩足を踏み出したとき、僅かながらにリンリンの体勢が崩れた。
敵襲を受けたわけでもなく、先ほどまでの戦闘の余波が回ってきたわけでもない。
「なるほど、力を奪う魔の湯といったところかしら」
考えられるとすれば、足下の緑の湯だ。
タンバリンとは違う心地よさの反面、力がじわじわと抜けていく感覚もある。
普段のリンリンなら多少は危機感を抱いたかもしれない。
そう、普段の彼女なら。
「全く、どうしてこうも私の邪魔をする要因が多いのかしらね?」
タンバリンによる快感、それを邪魔するように力を奪う緑の湯。
リンリンにとって、それらは不快な存在でしかない。
愉快な夢を妨げる存在は、全てつぶすのみ。
緑の湯の中で深く深く息を吸い込む。
全身の意識と神経を一点に集中させる。
脳から流れ出た信号体中をかけ巡り、該当個所の筋肉を固める。
大きく緩やかに弧を描きながら、太股が振りあげられる。
頂点にさしかかった後、目にも留まらぬ早さで地面へと叩きつけていった。
一つの爆音と、はじけ飛ぶ湯。
何かが蒸発するような音と共に、姿を現したのは一つの大きなくぼみ。
片足によるたった一撃で、このヘルハーブを巡回していた湯をまとめあげるような大きなクレーターを作り上げて見せたのだ。
「これが私の力……ふふふ、いい、いいですわ! すべてが、すべてが素晴らしく心地の良い夢!」
もう、足を止めるモノは何もない。
この地に新しくできた緑色の湖を後目に、一歩ずつ一歩ずつ足を進めていく。
心地よく、気分をよくしてくれるタンバリンの音が鳴り響く。
それが鳴る度に、リンリンの足取りも軽くなっていく。
「あら?」
中央部にある巨岩、その中に入り込んでいった彼女。
「おかしいですわね、確かに何者かの気を感じたのに……」
牢獄の扉の先にあったのは、空の酒瓶が数本と、一つの井戸がぽつりと存在していただけだった。
人間の気を感じ、ここへ進んできた彼女は思わず首を傾げる。
「まあ、いいでしょう。それならそれで新しい人間を捜せば良いだけですわ」
井戸にも酒瓶にも微塵の興味を示さずに、彼女はその地を後にしていく。
今の彼女がこの"夢"で求めるのは無限の闘争、血沸き肉踊る争いの舞台。
そこで生命の断末魔を聞くことが目的なのだから、人間がいないのならば彼女が興味を引かれるはずもない。
タンバリンの音と共に、また別の戦の化身が足を進める。
西の地から、東へ東へ。
拳の魔神が、足を進めていく。
精神を高揚させる、タンバリンの音と共に。


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